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藍物語(投稿・感想・雑談専用=隔離)スレ

671 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/13(土) 21:26:36 ID:Q8MI0ezE0
テスト中です。

672新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/13(土) 21:29:01 ID:Q8MI0ezE0
 「なあ、Sちゃん。何とか子供を助ける術はないのかい?
勿論Sちゃんたちに障りがなくて、子供が成長したら問題が起きるとかでなければ、だけどさ。」
榊さんは自身の事情も有って、生まれた子に感情移入を。そしてそれは俺も同じ。
自分の子が生まれてくるタイミングで、他の子の命が尽きるのを見たくはない。
例えそれがどんな経緯で生じ、人の形をしているだけの、未完成の存在だとしても。
「そう、ですね。もしそんな術が有るとしたら、あの女性が生きた証を残せますから。」
「そんな術はない。と言うか、これ以上の術を使わなくても子供が助かる可能性は有る。」
「Sちゃん。それ、一体、どうすれば。」 「これ、です。」
Sさんが取り出したのは白い布袋。 藍の身代わりになった、人形。

673新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/13(土) 21:34:38 ID:Q8MI0ezE0
 「これは、桃花の方様にお願いして作って頂いたの。白の宝玉の力を借りて。」
白の、宝玉? その名を聞いた途端、心の芯に何か、電流のようなものが。
「その力は、魂を初期化する。穢れも悪意も全て浄化して。
積み重ねた、強い思い。想いに身を焦がし続けた、悲しい魂。その粋だけを残して。
もう1つの術がその魂の行方を示すから、これを使えば、もう道を間違うことはない。
勿論その魂がそれを望まなければ、この人形は何の力も持たないけれど。」
そうか、そうだったのか。だからあの時、2人は白の宝玉を。
「この人形の中に取り込まれた想いと魂を『贈り物』にするって事だな。
なら、この人形を子供の、あの病院に届ければ。」
「ちょっと待って、下さい。」 Sさんは俯いて眉をひそめた。
直後、ポケットのケイタイが震えた。慌てて画面を見る。姫だ。
「もしもし」 「お父さん、お姉ちゃんが、お腹痛いって、すぐ帰ってきて。お願い。」
まさか、Sさんの感覚でも、出産は未だ。
「榊さんなら、この人形を届けられますね。母親の形見として。」
「それは俺に任せて、早く病院へ。間に合わなかったら、きっと一生後悔するぞ。」
俺とSさんは駐車場へ走った。本気だと、Sさんは驚くほど走るのが速い。
「鍵、頂戴。」 「でも。」 「安全運転してる場合じゃ無い、ほら早く。」
確かに、そうだ。覚悟を決めた。

674新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/13(土) 21:36:35 ID:Q8MI0ezE0
 規則正しい、安らかな寝息。
少しハイになっていた姫も落ち着き、姫と赤子は並んだベッドで寝入っている。
それからたっぷり一時間、2人の寝顔を眺めてから、カーテンをくぐった。
「2人とも、もう寝たのね?」 「はい、ホントは朝まで。でも、ちょっとトイレに。」
トイレから出ると、Sさんが小さな机の前で背中を丸めているのが見えた。
翠は藍を抱いたまま、俺のベッドで寝入っている。
「これ、いままで見た事も無い材質だわ。赤珊瑚に似てるけど、もっとずっと硬度が高い。」
それは、赤子が右手に握り絞めて生まれてきた勾玉。鮮やかな赤、深い艶。
「今まで無いと言えば、色もそうですよね。今までは皆、寒色の系統だったのに。」
そう、水晶、白瑪瑙、翡翠。そして瑠璃。でもこの勾玉は深紅。
「そう。だけど、この気配。前にどこかでって思ってたの。もしかしたら。」

675新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/13(土) 21:43:01 ID:Q8MI0ezE0
 Sさんは黒革の鞄を探り、白木の小さな箱を取り出した。この箱は。
細く白い指が蓋をとり、それを取り出した。真珠のような光沢の、鱗。
机の上に置いた勾玉に、Sさんはその鱗を重ねた。
小さな、渇いた音が聞こえた。
七色の、光の粒子。まるで小さな蛍のように、勾玉と鱗の周りを飛び回る。
蛍光灯の光にも負けない、『光塵』よりも強く色鮮やかな。
「やっぱりね。この勾玉の基になった血と、この鱗の持ち主は同じ。」
「あの子も、『力』を持っているんですね?翠や藍と同じように。」
「そう、ね。不満?それとも不安?」
「いいえ。皆同じです。僕には過ぎた人が産んでくれた、力を持った子供たち。
その子達を大切に育てて、それぞれの資質を実現するために、僕は生きます。
Sさんも、きっとLさんも、同じ考えだと信じていますから。」
Sさんの頬を伝う涙。 「そうよ。何時だって何処だって、それが親の義務だもの。」
部屋の灯りを消して、姫のベッドを囲むカーテンを開けた。
翠と藍を長椅子に寝かせ、毛布を掛ける。

676新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/13(土) 21:45:03 ID:Q8MI0ezE0
 もう一度、姫と赤子の額ににキスをしてからベッドに入った。Sさんを抱き締める。
「予想もしない事が続いて、どうなる事かと思ったけど。これで一安心ね。」
「はい、今夜はしっかり寝て、また明日から頑張らないと。」
「愛してる。」 「僕も、です。」 「ちゃんと、言葉にして。」 『愛してます。』 「アリガト。」
姫が産んだ赤子の名は、丹(まこと)。

『新しい命・第参章』 完

677 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/13(土) 21:53:51 ID:Q8MI0ezE0
皆様今晩は、藍です。
ようやく投稿を終える事が出来ました。

今回個別の返信は禁止されていますが、
全て有り難く、興味深く、読ませて頂いております。

「次」の作品を既に受け取り、作業も進めておりますが、
諸事情で投稿は7月以降になりそうです。
体調を整え、投稿に備えます。

有り難う御座いました。きっと、また何時か此処で。

678名無しさん:2015/06/13(土) 22:13:54 ID:BI.5wI8gO
不思議なことばかりでしたね。赤い勾玉はちょうど興味も持ったばかりなので興味深いです。
貴重なお話をありがとうございます。

679名無しさん:2015/06/14(日) 00:34:06 ID:yLV3TlvkO
奇しき物語をありがとうございました。
翠、藍と来て、次は丹、赤色ですね。
幼な子たちがこれからの物語にあざやかな色を添えてくれることでしょう。
次の物語が紡がれるのを楽しみにしています。
なお、お体にはお気をつけ下さい。

680 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:25:24 ID:7Sc44gmA0
テスト中です。

681 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:30:44 ID:7Sc44gmA0
皆様今晩は、藍です。

なかなか苦労して、ようやく許可を頂いて投稿を終えたばかりですが、
7月に投稿予定だった作品を、突然の指示で投稿する事になりました。
投稿の時間が取れるのは今夜一杯ですが、体調が少し良いので
許可を頂いた御礼に、出来るだけ頑張ってみようと思います。では、後ほど。
(書き出しが6月なのが、突然の指示の理由かも知れません。)

682『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:33:23 ID:7Sc44gmA0
『遠雷』

 オレが学校へ行けなくなったのは、中学に入学した年の6月。
友だち付き合いとか、特に母親との関係とか、ホントにもう何もかも嫌になって、
どうなっても良いけど死ぬのは怖いから、ただ生きてる。そんな感じ。
平日は父親・母親・オレの3人で黙って朝食を食べた後、父親と一緒に家を出る。
父親を見送っても学校には行かず、父親が帰ってくる夕方まで時間を潰す。
目立つと補導されると思ったから、学校とは反対方向の郊外の駅で降りて、
人気の無い野池とか河岸の堤防で一日中ルアーを投げてた。
釣り具は近くの公園に隠してた。もちろん、釣れたバスやナマズはみんなリリース。
4時半になったらもとの駅に戻り、父親の帰りを待って一緒に家に帰った。
そんな生活が半月ほど続いたある土曜日、父親がオレを海釣りに連れ出した。

683『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:34:11 ID:7Sc44gmA0
 オレの父は離島(南の方)出身で、かなり釣りが上手い。
(ただオレは海釣りをしたことはあまりないし、得意じゃ無い。)
その離島では結構旧い家系の出身だという話も聞いたことがある。
釣り場に着いて1時間位、黙って釣りをしていた父親が突然口を開いた。
「ナオ、どうして学校へ行かないんだ?母さん心配してるぞ。」
まあ、ずっと学校を休めば家に連絡がいくのはあたりまえ。
だが、何て話せば良いのか。ここは出来るだけ上手く誤魔化して。
「何か友達とマズくなってさ、授業も全然面白くないし。」
「優しいな。だけど此処では2人きりだ。ホントの理由は、母さんだろう?」
ただでも父親は勘が鋭い。やっぱり、誤魔化すのは無理。
黙って頷いたら、涙が溢れて止まらなくなった。10分くらい、声を殺してオレは泣いた。
泣き止むまで、父親は黙ってオレの肩を抱いていてくれた。

684『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:35:31 ID:7Sc44gmA0
 「ごめんな。母さんに悪気は無いんだ。ただ。」 「分かってる!!分かってるよ。」
母親はオレを産んだ2年後に妊娠し、切望していた女の子を産んだが、死産だった。
しかもその時の後遺症(?)で子供を産めなくなって。きっとそれで、母親の心は少し壊れた。
その話は父親が教えてくれたし、だからオレはずっと我慢していたんだ。
小学3年生まで、まるで女の子のような服と長い髪でオレは育てられた。
さすがにスカートを穿かされることは無かったが、服も靴もユニセックスのものばかり。
成長するにつれ、周りに色々言われれば自分でも変だと意識する。でも。
4年生になって、オレが髪を短くしたいと言ったり男ものの服を着たいと言う度に母親は泣いた。
母親の気持ちは分かる。でも、オレは男だ。女の子じゃ無い。体の変化だって。
でもオレが男になる程、母親は心の支えを失っていく。どうして良いか分からなかった。

685『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:37:39 ID:7Sc44gmA0
 「夏休みには少し早いが、暫く父さんの生まれた島へ行け。
学校と、祖母さんには話をしておく。少し離れた方が、多分お前と母さんの、ためだ。」
それから父親は俯いて、涙を拭った。
「辛い思いをさせて、ホントにお前には悪いと思ってる。でも、同じ男として聞いてくれ。
父さんは今も母さんを愛してるんだ。だからもう少し、もう少しだけ我慢して...」
初めて父親の涙を見て、オレは少し楽になった。
父親だって苦しんでるんだし、オレを男として見てくれてる。
「分かった。行くよ。」 「そうか、ありがとう。その間に母さんと話してみるから。」 「うん。」
月末の土曜日、オレは父親の生まれた島行きの飛行機に乗った。
確か小学3年生頃までは毎年夏休みに家族でその島に旅行してたけど、
もう何年も経ってるし、その間ずっと祖母にも会ってない。正直かなり不安だった。

686『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:39:34 ID:7Sc44gmA0
 心配は全くの無駄で、祖母は何かと良くしてくれたし、細かい事情も聞かなかった。
何より、母親と顔を合わせなくて良い。 最初、この島は天国だと思った
でも、一週間もしないうちに飽きた。ゲームセンターもコンビニも無くて退屈だったし、
ちょっと遠出して島に1つだけらしいスーパー(自称)で漫画買って帰ったら、
帰り着く前にその情報が祖母に届いてたりとか、濃い人間関係もかなり息苦しい。
それからは出来るだけ外出もしないようにしてた。
持ってきた数冊の本は読み飽きて、表紙を見るのも嫌になるくらい。
昼前に起きてご飯食べて、ダラダラとTV見て、夕方まで昼寝。ご飯食べて風呂入って寝る。
すごく気楽だが、死ぬほど退屈。それがオレの日常。
『都会育ちのオレに島は無理、早く帰りたい。」って気持ちが強くなっていった。
でも、帰ればまた、もとの生活。いや、『もとの』じゃない。
きっと、あれより悪くなる。だって母親はオレがこの島に...やっぱり、無理だ。

687『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:40:31 ID:7Sc44gmA0
 そんなある日、いつもより早く昼寝から覚めたら、勝手口の方から物音が聞こえた。
てっきり祖母だと思って「祖母ちゃん、麦茶ある?」って声を掛けたら、
「え?ええと、サチさんはさっき出かけましたよ。」って可愛い声がした。
土間に歩いて行くと小学5〜6年生くらいの女の子が何かゴソゴソやってる。
「誰?」 「アキ、です。○△の。」 アキ? ○△の? 何のことだかさっぱり。
「何で此処に?祖母ちゃんは?」
「魚釣って来てって頼まれたましたから。サチさんは公民館に行くって言ってました。」
サチはオレの祖母の名前、それより魚釣って来てって、一体?
「ええと、ホントに頼まれたの?魚釣ってきてって?」
「はい。サチさんにはよく頼まれます。」
女の子は手慣れた様子でレジ袋やなんかを小さなバケツに入れた。
「じゃ、行ってきます。」 「ちょっと待って。」 「何ですか?」
「魚、釣ってきてどうするの?」 「...私は、お駄賃が貰えます。」
「お駄賃? お小遣いの事?」 「いいえ、お給料です。私、漁師ですから。」
『お給料』って、小学生の女の子が『漁師』って、意味が分からない。

688『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:41:39 ID:7Sc44gmA0
 女の子は勝手口をするりとくぐって裏庭に出た。
「だからちょっと待ってって。」 「私、忙しいんですけど。」 
「あ、大丈夫。一緒に行って、釣り、見るだけだから。邪魔はしないし。」
「ホントに?」 「うん。」 「それなら、まあ、良いです。」
勝手口に立てかけられていた古い釣り竿を持ち、女の子はすたすたと歩き出した。
慌てて玄関に回り、スニーカーを履いて後を追う。歩くのはかなり速い。
港まで5分くらいで着いたと思う。
女の子は錆びた大きな金具(船の太いロープを引っかけるやつ)にちょこんと腰を下ろした。
息を切らしているオレに構わず、手早く釣りの準備を調えていく。
あっという間に、サンマの切り身っぽい小さなエサを付けて仕掛けを投げ込んだ。
10秒ほど待って仕掛けを上げ、浮子の位置を変える。
また10秒ほど待って浮きの位置を変えた。真剣な表情、まさか漁師って話は。
そのすぐ後に浮子がストンと沈み、釣り上げたのは15cmくらいの銀ピカの魚。
女の子がニッコリ笑い、張り詰めていた雰囲気が緩んだので声をかけた。
「それ、狙ってた魚?」 「そうです。メッキ。」 「メッキって、銀ピカだから?」
「はい。綺麗だし、美味しいですよ。今夜はきっと、唐揚げですね。」
魚を針から外してバケツに入れ、そのまま仕掛けを投げ込んだ。
「あの、エサは変えなくて良いの?」 「まだ身が残ってますから。」
直ぐに2匹目を釣り上げた。針に残ってるのはサンマの皮だけ。

689『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:42:56 ID:7Sc44gmA0
 また、そのまま仕掛けを投げ込む。今度は細かく竿先を動かして、3匹目。
女の子はエサを変えるごとに2〜3匹のメッキを釣り上げ、小一時間で小さなバケツは一杯。
「...19、20、21、22、23、24。よし。」
バケツの中の魚を数えた後、女の子は浮子の位置を大きく変えた。
「違う魚を釣るの?」 「そう、ですけど。」
不思議そうな顔。 何か変な質問をしたのかと思い、耳が熱くなった。
竿を持ったまま海面を見つめる、日焼けした可愛い横顔。 何となく、気まずい時間。
突然、女の子がオレを振り返って微笑んだ。ドキッとする。

690『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:43:47 ID:7Sc44gmA0
 「あなた、ナオさんでしょ?」 「何で、それを?」 胸の動悸、声が擦れる。
「サチさんに言われたんです。孫のナオに食べさせたいから、スジフエも釣って頂戴って。
それに、初めて見る顔ですから、この島の人じゃないし...あ、きた。」
竿が大きく曲がり、釣れたのは黄色くて縞のある魚。30cmくらいありそうだ。
「この魚、美味しいんですよ。だからサチさんはナオさんに。」
その魚をバケツに入れると、女の子は釣り具を片付けて立ち上がった。
「あの、バケツ持つよ。オレが。」 「ありがとう、です。重いから、助かります。」
この女の子ともっと話がしたい。でも何て話しかければ良いか分からない。
ただ黙って、並んで歩く。女の子はオレの歩調に合わせて、少しゆっくり歩いてくれた。
バケツを持ってるから気を遣ってくれたんだろう。それが不思議に気持ち良い。
祖母の家の近くで、乱暴な運転のママチャリとぶつかりそうになったのも気にならなかった。

691『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:45:49 ID:7Sc44gmA0
 祖母の家に着くと、女の子は勝手口近くの井戸から水を汲み、魚を捌き始めた。
小さな手が手際よく魚を捌くのはまるで魔法のようで、オレは井戸にもたれてそれを見てた。
「ああ、頼んだ通りだ。やっぱりアキちゃんは釣りの上手だね。」 祖母が立っていた。
「いつもご苦労様。」祖母は二つ折りにした茶封筒を女の子のポケットにそっと押し込んだ。
「ありがとう、ございます。」 女の子は頭を下げた。 あれが、『お給料』なんだろうか?
「夕ご飯、ウチで食べていって。早速唐揚げ作るから。」 「でも。」
「大丈夫。時間になったら電話しておく。シゲ坊、今日も海に出てるんでしょ?」 「はい。」
特に話が弾むでもなく、3人で囲む食卓は静かだった。
祖母の前で女の子と話をするのは気恥ずかしいし、女の子はとても控え目で無口だった。
メッキの唐揚げはカラッと揚がっていて、でも中身は骨まで柔らかくて、凄く美味い。
その時、TVで海水浴で事故のニュース。いつの間にか、世の中も夏休みに入っているらしい。
食事を終えて数分後、3人で家を出た。祖母は小さな風呂敷包みを持っている。
アキちゃんの右手には古い釣り竿。これはアキちゃんの持ち物なんだろう。
10分くらい歩いただろうか、小さな家の前に着いた。かなり古い家に見える。
縋るような眼で祖母を見つめる女の子の頭を、祖母はそっと撫でた。
「此処で待っておいで。ちょっと○次兄さんに話があるから。」
祖母は一人で家の門をくぐった。小声で話す声が途切れ途切れに聞こえてくる。

692『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:46:46 ID:7Sc44gmA0
 「...だけでもお世話になりっぱなしで、この上そんな...」
「...事情が有って、...じゃないと駄目なんですよ。だから...」
暫くすると祖母が戻ってきて女の子を家の中に連れて行った。
「本当に...はい、アキには良く...ありがとうございます。」
嗄れた声を背に家から出てきた祖母は、黙って目でオレを促し、2人で家に向かった。
祖母は真っ直ぐ前を見て歩き続ける。オレも黙って歩き続けた。
頼みたいことがあったのだが、何と切り出せば良いか見当も付かなかったから。
祖母の家に着き、風呂に入った。虫の声を聞きながらオレは考え続けた。
着替えて風呂を出る。煎餅と冷たい麦茶を用意して、祖母はオレを待っていた。
頼むなら、きっと今しか無い。
「祖母ちゃん、あの。」 「ねぇナオ、お前。」
オレと祖母の言葉が重なって、祖母はオレをじっと見詰めた。
「じゃあ、ナオの話から。」 「でも。」 「ナオは、男の子だろ?さ、先に話して。」

693『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:48:10 ID:7Sc44gmA0
 「男の子だろ?」と言われたら、引くわけに行かない。オレは必死で話をした。
「さっきの女の子。アキちゃんはホントに漁師なの?小学生みたいなのに。」
「漁師って、あの子がそう言ったの?」 「うん。それでお駄賃を貰ってるって。」
「魚を釣ってお駄賃貰ってるのはホント。だから漁師と言えば漁師だね。それで?」
「あの、オレ、あの子に釣りを教えて貰おうと思って。お駄賃はオレの小遣いで。」
祖母は微笑んで麦茶を一口飲んだ。
「実はね。お前が此処に居る間、遊び相手になってくれるように頼んだんだよ。あの家で。」
「そう、だったんだ。それで、どうなったの?それでも良いって?」
「ナオ、あの子にはあの子の事情がある。これから話すこと良く聞いて。」
オレは黙って頷いた。あの女の子と一緒に居られるなら何だって。
「あの子はお前の又従姉妹。両親とも早くに亡くなったから、親戚に引き取られた。
だけど親戚の暮らしは楽じゃない。それで釣りをして、あの子なりに家計を助けてる。」
祖母はテープルに両肘をついて、オレにぐいっと顔を近づけた。
「絶対にあの子を傷つけるようなことしないって約束できる?両親や家族の話も駄目だよ?」
今思えば、オレには重すぎる話だったろう。でもオレはアキちゃんが好きになっていた。
「約束するよ。家族の話とかしなければ良いんでしょ?お金のことも。」
「そう、それなら大丈夫だね。ああ、お駄賃のことは心配要らないよ。これで、一安心。」

694『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:48:52 ID:7Sc44gmA0
 翌日から、オレはその女の子、アキちゃんから釣りを習った。
アキちゃんは決まって昼過ぎにやってきて、2人で出かける。
釣り場、潮廻り。それに色々なエサ。覚えることは沢山有った。
自分ではルアーの釣りしかやらないオレはエサ付けが特に下手で、
魚の切り身や小さなエビならともかく、ミミズみたいなエサは大の苦手だった。
でも、毎日アキちゃんと過ごす時間は何より大切だったし、とても充実していた。

695『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:50:17 ID:7Sc44gmA0
 それから5・6日、経った日だったと思う。
釣り場から歩いて帰る途中、港の出入り口近くにある東屋の前に差し掛かった時の事。
歩道に4台のママチャリが停まっていて、東屋の中から突然声を掛けられた。
「よう、アキ。今日も男と一緒か?母親の真似して妾になるなら、島の男の相手しろよ。」
アキちゃんは唇を噛んで俯いた。しかし、オレはその言葉の意味を知らなかった。妾?
「この馬鹿野郎ども!許さんぞ!!」 雷のような怒鳴り声。
振り向くと、大きな男が立っていた。
「おい、●太。お前いつからそんなに偉くなった?
両親を亡くしても、アキは○△の家の姫さんじゃ。まさかお前の親も、そんな了見か?」
ソイツらは、自転車に飛び乗って逃げた。皆オレより背が高い。高校生?
アキちゃんの頬を伝う涙。オレはどうしたら良いか分からずに立ち尽くしていた。
「坊ちゃん、あんたがナオさんか?◎野のサチさんとこの?」
オレが黙って頷くと、大男は深く頭を下げた。
「頼む。アキがこれ以上肩身の狭い思いをしなくて済むように。守ってやってくれ。
あんたが◎野の家の人間なら」 「ナオさんには関係ない!」
叫ぶような声を残して、アキちゃんは駆け去った。

696『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:56:30 ID:7Sc44gmA0
 「ねえ、祖母ちゃん。」 「何だい?」 「妾って、何?」
黙って針仕事をしていた祖母の表情が突然険しくなり、居間の空気が凍り付いた。
「ナオ、一体何処でそんな言葉を。まさかお前、アキちゃんに。」
「違うよ。釣りから帰る時、高校生みたいなヤツがそう言ったんだ。
アキちゃんは走って帰っちゃったし、泣いてた。オレ、どうすれば良いのか分からなくて。」
祖母は眼鏡を外して深呼吸をした。
「お前には未だ早いかも知れないけど、あの娘を守るためだから。
妾は、お金持ちの男に養って貰う女だよ。2番目・3番目の奥さん、だね。」
怒りが、腹の底から怒りが沸き上がって眼が眩んだ。アイツ等、そんなことをアキちゃんに。
「アキちゃんの母親は高校卒業したら島を出て、都会の男と結婚したんだ。
『島で育ったくせに』、『婿を取って○△の家を継ぐ立場なのに』、
そう言ってアキちゃんの母親を罵る人は多かった。『あれは裏切り者だ』と。
大学を出たら島に帰るって約束だったのは確かみたいだね、
○△の家も、アキちゃんの母親を不義理だからと勘当してしまった。
そういう古いしきたりが、まだこの島には、生きてるから。」
言葉を切ってオレを正面から見つめる祖母の顔は、とても悲しそうだった。

697『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 18:58:12 ID:7Sc44gmA0
 「アキちゃんの母親を罵る奴らが流した、根も葉もない噂さ。
『あの女は金持ちの妾になった』・『器量を鼻に掛けて』・『島に帰るのが嫌だから』ってね。
○△の家の人達は噂を否定しようとしたけれど、
アキちゃんの母親が島の外で結婚したのを咎めて勘当した手前、強くは出られない。
却って噂は広まり、その噂を信じる人の方が多くなってしまった。」
「逆効果、だったんだね。」
「そう。その後○△の家では悪いことが続いた。当主が急な病で亡くなって、
養子にして家を継がせた男は嫁も貰わず酒と博打で身を持ち崩した。たった3年の間に、
○△の家は土地と畑の殆どを売り払って、家の人たちも散り散り、島を出た人も多い。
今は、土地が少しと、代々の位牌を安置する無人の小屋が残ってるだけ。
しかも、その翌年、アキちゃんの両親が亡くなった。交通事故でね。
あっちの家も2人の結婚には反対で、アキちゃんの父親も勘当されてたらしい。
だから、折角助かったアキちゃんに行き場はなかった。それで。」
「だからこの島の親戚に引き取られたの?」
「前にアキちゃんを送っていった家、憶えてるだろ?」 「うん。」

698『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 19:00:05 ID:7Sc44gmA0
 「嘘ついて御免よ。アキちゃんの親戚じゃ無い。昔から○△の家に抱えられてた漁師の家だ。
アキちゃんを引き取る話が出た時、『先祖代々世話になったから』って、手を挙げてくれた。
○△の家が傾いて、自分たちの生活も苦しくなっただろうに。本当に、有り難かった。」
「そんなの、酷いよ。祖母ちゃんが引き取ってあげられなかったの?」
「古いしきたりだけど、勘当された娘は他人。
勘当された娘が産んだ子も親戚としては扱われない。だから。」
ふと、あの時祖母が風呂敷包みを持っていたことを思い出した。
それから、切れ切れに聞こえた「...だけでもお世話になりっぱなしで、」という言葉。
もしかしたら、祖母はアキちゃんを引き取れないから、代わりにあの家を助けて。
だからアキちゃんに魚釣りを頼んで、それでお駄賃を。きっと、そうだ。
オレは軽はずみに祖母を責めるような言葉を発した事を心から恥じた。
「ごめん。祖母ちゃんの気持ちも考えないで、オレ。」
「良いんだよ。私が古いしきたりに負けたのは確かだからね。
でも今まで何とかあの子を守ってきた。なあに、悪い事ばかりじゃ無い。
あの子の事考えてくれる人も、何人かはいるしね。」
「そういえば、その高校生達を怒鳴りつけた男の人がいたんだよ。すごく大きな人で。」
「シゲ坊、か。あの家の一人息子だよ。腕は良いけど、船や道具がね。
朝早くから夕方まで海に出てるから、あんまり家にはいないけど。」

699『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 19:25:11 ID:7Sc44gmA0
 翌日、昼ご飯を食べた後、オレは家を出た。行き先はあの家、祖母には話してある。
「御免下さい。」 門を入って声を掛けると、縁側に白髪の老婆が出てきた。
「僕、ナオです。◎野のサチの孫の。」
「わざわざこんなところに、ありがとうございます。アキのことでしょうか?」
「はい。アキちゃんに釣りを教えて貰う約束をしてるんですけど。」
「アキは昨夜から部屋に籠もって出てこんのです。一体何が有ったのか。」
「ええと、昨日、港からの帰りに。」 「ナオさん、止めて!お願い。」 悲鳴のような声。
老婆のすぐ後ろに、アキちゃんが立っていた。 頬を伝う涙、胸の奥が痛い。
「ごめん。でも、もう分かった。」
祖母が『シゲ坊』と呼んだ男の人が、昨日の事を話していないとしたら、それはこの老婆や
あの老人の体や心を心配したからだろう。それなのに。オレは、馬鹿だ。
「帰って、下さい。もうナオさんは1人でも、魚釣れるから。」
「オレ、友達はアキちゃんだけなんだ。本当に、アキちゃん1人だけ。
だから、どうしてもアキちゃんと一緒にいたい。駄目、かな?」
「駄目じゃ...ない、けど。」 アキちゃんは縁側に頽れて、泣き続けた。
オレは縁側に腰掛けて、その背中をそっと擦った。オレに出来る事は、それだけだったから。
家の中に戻ったのか、いつの間にか老婆の姿は見えなくなっていた。

700『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 19:26:25 ID:7Sc44gmA0
 どれ位経っただろう。やっと泣き止んだアキちゃんはオレの隣に座ってくれた。
「心配、かけて御免なさい。私。」 「もうその話は止めよう。それより。」
寝ないで、朝まで考えた、たった1つの言葉。
「外で釣りも良いけどさ、今日は仕掛けを教えてよ。糸の結び方とか。」
アキちゃんは黙って頷いたあと、また少しだけ泣いた。

701『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 19:27:16 ID:7Sc44gmA0
 翌日から、オレは毎日その家にアキちゃんを訪ねた。もちろん釣りの話もしたが、
そのうち二人で本を読んだり、アキちゃんの宿題を手伝ったりするようになった。
勉強(国語以外)が全く駄目で驚いたけど、それは学校が嫌いだからだと直ぐに分かった。
ポツポツと話してくれた学校での出来事は胸が痛くなるような事ばかりで、
オレはすぐにその話題を封印した。
「分かった!これ、分かりました。ありがとう、です。」
宿題が1つ終わる度に、アキちゃんは勉強にも自信を持つようになったから、
楽しい話題は幾らでもあった。例えば2人で読む本のこと。
オレが島に持って来てた数冊の本は一語一句暗唱できるほどで、父親に電話したら、
駅前のブック○フでまとめ買いしたっぽい文庫本が煎餅の箱一杯、翌々日に届いた。
親父の趣味で選んだものばかりだから心配したけれど、アキちゃんは夢中になった。
宿題を2ページ終わらせたら、後は2人縁側で本を読む。それがオレたちの日課。
日が経つにつれ、オレはますますアキちゃんが好きになった。
もういっそこのまま、この島で暮らすことは出来ないか。そしたらずっとアキちゃんと一緒に。
そんな事を考え始めたある日、父親から電話が掛かってきた。

702『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 19:28:59 ID:7Sc44gmA0
 「あれから母さんとも色々話をしたよ。それで、3人で話をしようって事になった。
家の事とか、将来の事とか。一週間、休みを貰ったし、
3年も帰ってなかったから、里帰りのついでだ。急だけど、明後日から、な。」
父親は努めて明るく話していたが、かなり深刻なのはオレにも分かった。
母親の問題が解決したなら、そう言ってオレを呼び戻せば済む話だ。
何もわざわざ急な休みを取ってまで、この島に来る必要はない。しかも、一週間。
その日数は、母親がこの島から帰った後、オレの事を祖母や親戚と相談するため?
つまり話し合いの後、両親は離婚する。そんな不安が胸をよぎった。

703『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 19:31:29 ID:7Sc44gmA0
 「ナオさん、どうして今日は元気がないんですか?」
朝から両親の事を考えていて、上の空だったかも知れない。
「ああ、ゴメン。昨夜、両親がこの島に来るって電話があって。それで。」
「ナオさんのご両親が。どうして?」 「『暫く里帰りしてないから』って言ってた。」
家の事情を話せば心配をかける。そう思ったから。
「それは、何時?」 「えっと、明日。最終便だって。急だけど。」
「あの、ご両親が島に来たら、もうナオさんはこの家には...」 寂しそうな、不安そうな顔。
胸の奥が苦しくなった。もしかしたら、アキちゃんも少しはオレのこと。
「アキちゃんのお陰で、オレは毎日楽しい。
オレがアキちゃんと一緒なのは父親も知ってるんだし、何も心配ない。」
「じゃあ、お迎えするために、私、大きな魚を釣ります。」
突然、東屋での出来事がフラッシュバックした。アキちゃんが釣りに出かけて、もしも。
「いや、いいよ。両親はあんまり魚好きじゃないし。」
「でも、私には魚しか。本のお礼が」
思わず、アキちゃんを抱き締めた。爽やかな、シャンプーの匂い。
「駄目だよ。あんなヤツらがいるのに、わざわざ嫌な思いしなくても。お願いだから。」
「ナオさん...」
その日、オレはシゲさんが漁から帰ってくるのを待って、それから帰った。
オレが帰った後、アキちゃんが釣りに行ったらマズいと思ったからだ。
しかし、オレの考えは浅かった。

704『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 19:33:46 ID:7Sc44gmA0
 翌日、その家にアキちゃんはいなかった。マツさん(縁側に出てきた老婆)に尋ねると、
帰ってきた答えは、『釣りに行くと言ってましたよ。何か、お祝い事があるとかで。』。
聞き終わる前に、走り出した。最初はあの港。一緒に釣りをした場所を順番に。
雷の音が聞こえた。急に強くなった風に混じる、雨の匂い。嫌な、予感。
漁協の建物の裏に数台のママチャリが見えた。心臓がバクバクする音が聞こえる。
アキちゃんが囲まれていた。怒りが、沸き上がる。足音を抑え、静かに歩み寄った。

 「毎日アイツと一緒らしいな。やりまくってんのか。この売女が。」
「2人で何してたって、あんた達に関係ない! 私、ナオさんが大好きなんだから。」
ソイツがアキちゃんに向かって伸ばした腕を、背後から掴んだ。
ソイツは一瞬ひるんだが、直ぐに凄い力でオレの手を振り解いた。
オレよりずっと背が高い。襟を掴まれて、腹を殴られた。2発・3発。
予想はしていたが、息が詰まって膝から力が抜けそうになる。
「余所者が良い気になりやがって。思い知らせてやる。アキはオレが。」
醜い薄笑いが目の前に。馬鹿め。力を抜くふりをして上体を後ろに反らせた。
「情けないな。折角来たのに、もう、終わりか?」
全力で右足を踏ん張り、額をソイツの鼻目掛けて。 鈍い、音がした。

705『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 19:35:14 ID:7Sc44gmA0
 桟橋に鮮血が滴る。ソイツは声も無く地面に膝を着いた。
アキちゃんを背後に庇う。でも、相手はまだ3人もいる。みんなオレより体がでかい。
桟橋の突端で背後は海、逃げ場はない。漁に出ている時間だから周りに人気も無い。
「ナオさん。御免なさい。私が。」 「アキちゃんは悪くない。でも、これはマズいね。」
ゆっくり近づいて来る3人。その背後に血塗れの顔。怒りに我を忘れている。
こんな奴らに捕まったら、アキちゃんが何をされるか分からない。
「飛び込もう。アキちゃんと一緒なら、オレどうなっても良い。」 「はい。」
ポツポツと雨が降り出した。でも、濡れる心配は要らない。それが何となく可笑しい。
しっかり手を繋いだまま、2人で桟橋の端を蹴った。
スローモーションのような景色、稲光、激しい水音。視界が白い泡で覆われた。
何か大声で叫ぶ声が聞こえる。ざまあみろ、ここまで追ってこれるなら。
でも、オレは泳げない。確かアキちゃんも。息をする度に海水を飲んでしまう。
咽せて息が詰まり、体が沈む。 途切れ途切れに、エンジンの音が聞こえた。漁船?
アキちゃんの手を握り締めたまま、オレの意識は途切れた。

706『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 19:35:50 ID:7Sc44gmA0
 『ナオさん、起きて下さい。ナオさん。』
耳元でオレを呼ぶ声。誰?
眼を開けると、見知らぬ男女がオレを見詰めていた。
『お陰でアキは汚されずに済みました。でも、ナオさんにはまだ頼みたいことが。』
「あの、あなたたちは?」 『私たちはアキの。』
不意に2人の姿は薄れた。待って、さっきの話が未だ。 左脇腹に鈍痛。

707『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 19:49:12 ID:7Sc44gmA0
 もう一度、今度こそ眼が覚めた。
オレの顔を見つめているのは父親、そして、母親。どうして? あ、アキちゃんは。
跳ね起きようとするのを父親に抑えられた。 「離して!アキちゃんが!」
「落ち着け。アキちゃんも此所にいる。怪我はしてないし、きっと大丈夫だ。」
「良かった。ナオはもう、大丈夫ね。」 感情の感じられない、冷たい声。
母親はすっと立ち上がり、オレに背を向けてアキちゃんのベッドの傍に座った。
「たまたまシゲさんの船が、でもどうして飛び込みなんか。お前、泳げないだろ?」
「飛び込み?」 ああ、そうだ。オレはアキちゃんと。
「釣りに来てた高校生たちが『ふざけて飛び込んだみたいだ』って。」
ギリ、と、自分の奥歯が軋む音を聞いた。
「堤防の端で、アキちゃんが、アイツ等に囲まれてた。
助けようとしたけど、腹を殴られて。他に、人もいなかった、から。」
父親の顔色が、変わった。 「それ、本当か?」
オレは黙って青っぽい着物をはだけた。 左脇腹の痣。 悔しくて、涙が零れた。
「額の傷もその時に?」 「頭突き、したから。」 「そう、か。」

708『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 19:50:33 ID:7Sc44gmA0
 父親は暫く黙っていたが、やがて口を開いた。
「腹が、立つだろうな。でも、小さな島の事だ。ややこしい事情がある。良く聞け。」
固く握りしめられた父親の右手は小刻みに震えていた。
「『ふざけて飛び込んだ』って話したのは、漁協の組合長の孫とその同級生らしい。
揉め事になると、シゲさんはまずいことになる。アキちゃんもだ。」
そうか、シゲさんは漁師だから、漁協とは。
「いいか、これから誰かに何か聞かれたら『覚えてない』って言え。シゲさんたちには
父さんから話す。アキちゃんがこの島で穏やかに暮らしていくためだ。分かるな?」
オレは黙って頷いた。オレの事はどうでも良い、アキちゃんさえ。
「...に、...のに。」
オレと父親は振り向いた。母親がアキちゃんの髪を撫でている。
「こんなに、可愛い娘なのに、可哀相に。早く、眼を覚まして。」
父親は小さく溜息をついた。やはり母親は。

709『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 19:51:54 ID:7Sc44gmA0
 翌日になってもアキちゃんは眼を覚まさず、看護師さんが左腕に点滴をした。
オレは昼前には祖母の家に戻ることになっていて、
父親が着替えを持ってきてくれるのを待っていた。しかし、予定の時間より随分遅い。
母親は朝からずっとアキちゃんの傍に座っていた。時々髪を撫で、優しく声を掛ける。
正午を知らせるサイレンが鳴った後、ようやく父親が来た。祖母も一緒だ、そして。
2人の後から、灰色っぽい着物を着た中年の女の人が入ってきた。知らない、人。
「偉い先生に来て頂いたんだよ。『魂呼』の御祈祷をしてもらおうと思ってね。
恭子さん、悪いけど外してくれるかい。弘もナオも、ね。」
祖母に促されるまま、オレたちは廊下に出た。
「『魂呼』の御祈祷って、一体何なの?」 母親は少し不満げな顔だ。
「事故や怪我で体から離れてしまった魂を呼び戻す儀式だよ。まあ、迷信だろうけど。
田舎はこういうのが未だ生きてるからね。でも、もしかしたら、御利益があるかも知れないし。」
数分後、病室のドアが開くと、母親は直ぐに病室の中に入った。
入れ違いに出てきた、祖母と着物の女性。

710『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 19:53:00 ID:7Sc44gmA0
 「アキちゃんは、どう、なんですか?」
祖母の問いかけに、着物の女性は小さく首を振った。
「アキちゃんは、何か強い力に囚われています。私の手には負えません。」
アキちゃんはもう目を覚まさない、そう言う意味なのか。膝から力が抜けそうになる。
「そんな、他に何か方法が。」 祖母の、縋るような声。
「ご希望なら、知り合いに連絡してみます。本来『上』を通した依頼しか受けませんが、
事情が事情です。とても稀なケースですし、興味を持って来てくれるかも知れません。」
「是非、お願いします。費用は全て私が。」
祖母の、腹の底から絞り出すような声。思わず、涙が出た。
「来てくれるなら、費用は要りませんよ。泊まる場所さえ、サチさんの家、大丈夫ですか?」
「はい。家は広いですから、何とでも。」
「これから直ぐに連絡を取ってみます。結果は分かり次第、電話しますから。」
「お願いします。」
夕方、4人で夕食を食べていると電話が鳴った。
電話を切って戻ってきた祖母の顔は少しだけ明るくなっていた。
「来てくれるそうだよ。先生の、『本家』の方が2人、明日の朝、空港でお迎えしてって。」
不思議な安心感がオレの心を満たした。 根拠は無い。でもきっと、大丈夫だ。

711『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:26:58 ID:7Sc44gmA0
 翌朝、オレと父親はタクシーで空港に向かった。
一便が到着するのは9時40分、『定刻』の表示が出ている。
9時50分過ぎには到着ロビーに客の姿が見え始め、すぐにその人達が現れた。
凄く綺麗な女の人と、その後ろに荷物を持った男の人、こちらは少し地味な顔。
2人の周りだけ、何だか空気が違う。この人達だ。間違いない。
父親も同じ事を感じたのだろう。戸惑うこと無く、2人に歩み寄った。
「あの、Sさんでしょうか?私、◎野です。電話で言われた通り息子のナオも。」
女の人はニッコリと笑った。本当に、今まで見た事も無いほど、綺麗な人。
「はい。私がSです。こちらは夫のR。宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくお願い致します。」 父親に続いて、オレも深く頭を下げた。
「大体の事は聞いています。あまり時間が取れないので、
これから早速病院に案内して頂けませんか?」
それなら直ぐにでもアキちゃんの眼が覚めるかも知れない、オレは嬉しかった。
待たせて置いたタクシーに乗り、病院へ向かった。

712『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:27:45 ID:7Sc44gmA0
 父親がドアをノックして、病室のドアを開けた。
青白い顔のアキちゃん、枕元の椅子に座るオレの、母親。
挨拶もそこそこにSさんはアキちゃんの手を握った。眼を閉じる。
暫くして、眼を開けた。アキちゃんの手をそっとベッドに戻す。
「分かりました。準備と、それから調べたい事もあるので、少し時間を下さい。」
「それなら、私の実家の方へ。申し訳ありませんが、今の時期ホテルは難しいので。」
「いいえ、有り難いお話です。ご実家は問題の起きた港に近いんですよね?この病院にも?」 「はい。どちらも歩いて10分以内です。」
「ならますます好都合。」 Sさんは一歩前に出て、オレの顔を覗き込んだ。
「ナオ君、後で港とか、案内してくれるかな?」
ふっ、と、一瞬目眩がした。思わず足に力を。
「あの、オレで良ければ。頑張りますから。」 「うん、良い返事。」
Sさんは微笑んでオレの肩に右手を添えた。 「お願いね。」 「はい。」
少しだけ、胸がドキドキした。

713『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:28:24 ID:7Sc44gmA0
 家に着くと、祖母が用意していた昼食をみんなで食べた。
SさんとRさんは細い体に似合わずよく食べるので、オレと父は驚き、祖母は上機嫌。
その後、少し休んでから港に出かける事になっていた。
SさんとRさんはオレが使っていた部屋に泊まって貰うことになっていて、2人は荷物を運んだ。
オレは昨夜からその隣、両親と同じ部屋で寝ている。
風呂に入って少し潮臭い髪と体を洗った。廊下を通る時、襖の向こうから話し声が聞こえた。
女性の声、Sさん?
「..そう、今夜。上手く行けば明日帰れる。翠をお願いね。大丈夫、少しややこしいけど...」
悪いことをしているような気分になって、思わず急ぎ足で居間に向かった
母親と一緒の部屋に戻るのは気まずい、出来ればその時間は最小限にしたかった。
居間では、普段着に着替えたRさんがお茶を飲んでいた。祖母は台所?。
「ああ、ナオ君。早速、案内を頼むよ。」 「あの、Sさんは。」
「あんまり時間が無いから、手分けしなきゃならないんだ。
港を見に行くのは僕でも出来るけど、他の調べ事や準備はSさんじゃないと。ゴメンね。」
Rさんが、心から謝ったのが分かった。この人は、良い人だ。
ただ、港へ向かう道の途中、Rさんはしきりに島で釣れる魚の事を尋ねた。
本当にやる気があるのか、良く分からなくなるくらい。大丈夫なんだろうか。

714『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:29:11 ID:7Sc44gmA0
 漁協の裏、あの桟橋が見えたとき、突然Rさんの雰囲気が変わった。
ホントにさっきまでと同じ人かと思うほど、その表情が引き締まっている。
綺麗な瞳で見詰められると、心臓が苦しくなった。
「成る程、あの桟橋だね?」 「はい、そうです。」 一体、どうしてこの人はそれを?
「アキちゃんは妖、ええと、妖怪に囚われてる。強い力というのはその妖怪の事だよ。」
妖怪?今の時代、本当にそんなものが、この港に?
「ナオ君、どうしてアキちゃんはこの港に?」 「魚を釣ろうとして、僕の両親のために。」
「それならアキちゃんは、釣りの名人でしょ?」 「そう、ですけど。どうして?」
「海に、愛される人が稀にいるんだ。極々稀に、ね。
アキちゃんが妖怪に囚われていることを、海が嘆いてる。
本当に、滅多に無い事なんだけれど。」

715『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:30:04 ID:7Sc44gmA0
 「どうして、アキちゃんはその妖に?」 「大丈夫?聞くのにはそれなりの覚悟が要るよ。」
オレが黙って頷くと、その人はゆっくりと口を開いた。
「アキちゃん自身の心に、この世界を去りたいという気持ちがあったんだと思う。
だからアキちゃんの願いが思いがけない力を持って、妖との契約が成立してしまった。」
「アキちゃんの、願いって。」
『私はどうなっても良い。私の命と引き替えに、ナオさんを助けて下さい。』
胸の、奥深くを貫かれたような気がした。言葉が出てこない。
「でも、アキちゃんが今も未だあの状態なのは、君がいたからだよ。分かる?
君がアキちゃんの手を離してしまっていたら、多分アキちゃんは体ごと取り込まれてた。」
身体ごと?アキちゃんが完全に消えてたかも知れないってこと?それならオレも少しは役に。

716『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:31:03 ID:7Sc44gmA0
 「さて、凄く強い妖。どうしたものか。まあ、Sさんなら、大丈夫だと思うけど。」
SさんとRさんは夫婦だと聞いた。なのに何故?
「あの?」 「何?」 「SさんとRさんは夫婦、なんですよね?」 「そうだけど。」
「どうしてRさんは『Sさん』って?」 「さん付けは、可笑しい?」
「いえ、でも僕の両親は。」
「僕はSさんが大好きだし、心から尊敬してる。夫婦って、それが当たり前じゃない?」
父親は『母さんを愛してる』とは言ったが、2人が互いを尊敬してるなんて、一度も。
「さあ、帰ろう。ところで、ナオ君。」 「はい。」
「君には、ホントの勇気がある。その勇気に報いるために、
僕達は何が何でもアキちゃんを助けるよ。アキちゃんが妖に囚われたまま、
2人の大切な未来が奪われるのを見過ごす訳にはいかない。
縁に導かれて出会った魂を結ぶ絆は、何よりも大切なものだからね。
きっと色々面倒な事が起きるだろうけれど。』
Rさんは言葉を切り、俯いた。聞き取りにくい、呟くような声。
「きっと、『◇』の加護は此方にある。」
それは『ひ、かり』? それとも『き、たり』? しかし、聞き直す雰囲気ではなかった。
出かける時とはまるで違い、その後Rさんは祖母の家に着くまで、一言も喋らなかった。

717『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:31:53 ID:7Sc44gmA0
 「只今、戻りました。」 玄関でRさんが声を駆けると、廊下を走る足音が聞こえた。
SさんがRさんに飛びつき、RさんもSさんの背中を優しく抱き締めた。
「お帰りなさい。心配だった。ホントに。」
眼を閉じたSさんの頬に、涙? 胸がドキンと高鳴る。 この感じ、何処かで。
「大丈夫です。それに、ナオ君はとても立派でしたよ。」
SさんはRさんの腕の中で、オレの顔を見詰めた。
「お手伝い、有り難う。今夜が本番なんだけど、今度は私の案内、お願い出来る?」
「はい。」 「うん、良い返事。」 そうか、そうだったのか。
魚を釣り上げた時のアキちゃんの笑顔に、Sさんの笑顔は良く似てる。その時、そう思った。

718『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:33:02 ID:7Sc44gmA0
 その日の夕食前、オレはSさんたちの部屋に呼ばれた。
「ナオ君、聞きたい事があるんだけど。」 「何ですか?」
Rさんは奥の長椅子で昼寝をしているようだった。
「色々調べて、事件の内容はほとんど分かった。ナオ君は少しも悪く無い。
でも、ナオ君がこの島に来なければ、きっとこの事件は起きなかった。
それについて、どう思う?正直な気持ちを、聞かせて。」
「分かりません。この島に来なかったらオレ、アキちゃんに会えなかったから。
でも、オレがこの島に来たのが原因なら、オレがアキちゃんを助けたいし、
そのためなら何でもします。でも一体どうしたら良いのか、全然分からなくて。」
「もし、君の大切なものと引き替えにアキちゃんが助かるとしたら、どうする?」
アキちゃんが助かるなら何だって...ふと、思い出した。花柄のTシャツ、ピンクの運動靴。
友達に冷やかされて、学校に行けなかった日のこと。元々オレには、大切なものなんて。
「オレは、要らない人間、です。だから、オレの命でも何でも。」
Sさんはオレの唇にそっと人差し指をあてた。
「そこまで。君の気持ちは分かった。だけど憶えて置いて。
自分を『要らない人間』なんて言っちゃ駄目。そういう言葉に『闇』が食い込んでくる。
それにもし君がいなくなったら、誰がアキちゃんを守るの?」

719『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:34:02 ID:7Sc44gmA0
 少し早めの夕食の後、母親が一足先にアキちゃんの病院へ出かけてから、
Sさんは皆を居間に集めた。重苦しい雰囲気。Sさんが話し始めるまで誰も喋らなかった。
「まずは状況を簡単に、その後今夜の予定を説明します。R君、お願い。」
「はい。今日ナオ君と一緒に港に行って、状況を確認しました。
アキちゃんは古くて力の強い妖怪に囚われています。
港で二人が溺れた時、『私の命と引き替えにナオ君を助けて下さい。』と願ったから、
その願いに妖怪が反応したんです。アキちゃんが特別な、妖怪や精霊に親和性の高い
魂を持っていたことも、この場合に限っては災いだったと言う事ですね。
アキちゃん自身が願ったことなので、基本的に変更は効きません。」
「ちょっと待って下さい。それじゃ、あの娘は。」 祖母は青ざめていた。
「『基本的に』です。1つだけ、方法がありますが、私たちだけではどうにもなりません。」
Sさんの声は力強かったが、何となく悲しげでもあった。
「私たちに出来る事があれば何でも。息子を助けるためにこうなったのなら、私たちは。」
「有り難う御座います。ナオ君には先に確認を取ってあるのですが。」
Sさんの視線、続いて父親と祖母も。オレは思いきり頷いた。

720『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:35:27 ID:7Sc44gmA0
 「簡単に言うと、『身代わり』にアキちゃんの名前をつけ、アキちゃんと入れ替えます。
妖は名前を無くした人間を認識できないので、
『身代わり』と引き替えにアキちゃんを妖から解放して、この世界に呼び戻す。
だからアキちゃんには、新しい名前が必要です。ただし、普通に名付けるのでは駄目。
直前まで誰かが使っていた『生きた名前』が必要なんです。
でないと、たとえ妖から解放しても、アキちゃんをこの世界に繋ぎ止められない。
妖に囚われていたアキちゃんは、この世界との繋がりがとても弱くなっていますから。」
「『生きた名前』って、一体どうすれば?」 父親の、怪訝そうな表情。
「ナオ君の名前を、アキちゃんに贈って下さい。勿論ナオ君にも新しい名前が必要ですね。
幸い、ナオ君はこの世界との結びつきが弱くなっている訳ではないので、
全く新しい名前を付けても大丈夫です。」
「ええと、『儀式の間そういうことに』ということですか?」 祖母が訊ねた。
「いいえ、出来るだけ早く正式な改名手続きを取って下さい。
改名手続きが成立しなければ、やがて術の効果は消えてしまいます。」
名前なんかどうなっても、オレはそう思ったが、父親と祖母は顔を見合わせた後、考え込んだ。
「それから、これはもっと重要です。7日の内に、アキちゃんをこの島から連れ出して下さい。
『本物』が近くに居れば、遅かれ早かれ妖は術を見破ります。
あの妖を欺いた報いは、アキちゃん1人の命だけでは済まないかも知れません。」

721『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:36:10 ID:7Sc44gmA0
 「御免なさい。その、お話があまりに常識とかけ離れていて、どう考えれば良いのか。」
父親の、躊躇いがちの言葉。 Sさんはニッコリ笑った。
「いきなりこんな事言われても信じられない、それは当然です。しかし信じてもらえなければ、
私たちに出来る事は殆どありません。信じてもらうために、こういうのはどうでしょう。」
Sさんはテープルの上の箱から取り出したティッシュを無造作に丸め、テーブルに置いた。
コップに残っていた氷水を、丸めた紙片に少したらして...まさか。
白い芽が出て、どんどん伸びていく。やがて数枚の白い葉が付き、白い花が1つ咲いた。
祖母も父親も、もちろんオレも、黙ってその光景を見ていた。
『パン!』 Sさんが手を叩いた瞬間、花と葉は散り、細かく千切れた紙切れだけが。
「陰陽師の術、信じて頂けましたか?」 父親と祖母は頷いた。もちろんオレも。
「それは何より。R君、お願い。」

722『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:37:51 ID:7Sc44gmA0
 Rさんは父親の目を真っ直ぐに見つめた。
「ごく単純に言い換えます。あなたが、アキちゃんを自宅に引き取って下さい。
2人の名前の件については、追加の説明は要らないと思いますが。」
「どうして、私たちが。」
「それが一番良いと思うからです。私たちが受けた依頼はアキちゃんを助けること。
助けたアキちゃんが幸せに暮らすにはナオ君が幸せでなければならない。
ナオ君が幸せでいるためには。」 Rさんは言葉を切り、深く息を吸った。
『ナオ君が幸せでいるためには、『ナオという名の女の子』が、あなたの家にいた方が良い。』
父親の体が固まった。呆然とRさんを見つめたまま、何秒経っただろう。
「恭子の、妻の事を、言っているのですか?」 父親の、消え入りそうな、言葉。
「そうか、これもあなたたちの力。あなたたちは術で、妻とナオの心を。」
「はい。すぐにでも手を打たないと、奥様の心は完全に壊れてしまいます。」
「あなたたちの言う通りにすれば、アキちゃんは助かり、妻の心も?」
「アキちゃんをこの島から連れ出して妖怪との繋がりを切り、
アキちゃんの、女の子の世話を任せる事で奥様の心の崩壊を止める。
どちらも裏技、対症療法ですが、まず症状の進行を止めないと回復は望めません。」

723『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:38:56 ID:7Sc44gmA0
 「分かりました。これから具体的にどうすれば良いのか、指示して下さい。」
父親は吹っ切れたような表情になり、祖母はそっと涙を拭った。
これで、やっとアキちゃんは。そう思うと嬉しくて、オレも涙が。
「ナオ君、本番はこれからだよ。油断しないでSさんの指示を良く聞いてね。」 「あ、はい。」
「これから二手に分かれます。お父さんとお祖母さんはR君と一緒に直接病院へ。
私とナオ君は港へ寄ってから病院へ。私とナオ君が病院へ着いたら術を完成させます。
それまでにナオ君の新しい名前を用意しておいて下さい。
仕事が済むまで、奥様には眠って貰いますが、体には影響有りません。何か質問は?」
誰も、手を挙げない。
「質問が無ければ早速出かけましょう。出来れば面会時間内に完成させたいので。」
オレたちは二手に分かれて家を出た。

724『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:39:52 ID:7Sc44gmA0
 一体、港に何の用があるんだろう。まさか、Sさんは妖怪と直接交渉するつもりなのか。
黙ったまま歩き続ける。港の入り口近く、東屋が見えた。
Sさんは先に立って東屋のベンチに座った。 「そこへ座って。」
ホントはあまり、この場所には。でもSさんたちを信じると決めたから。Sさんの隣に。
「君に術を掛ける前に、確かめたいことがあるの。
さっき君は、あの娘を助けるためなら何でもすると言ったわね。」 「はい。」
「大切な名前を無くしてまでも、あの娘を助けたいのは何故?」
「...好き、だからです。初めて、本気で好きになった女の子だから。」
「もし、全てが上手く行ってあの娘が戻ってきたら、一生かけてあの娘を守る?」
「はい。そのためになら、オレが生きていく理由もあると思いますから。」
「良く分かった。じゃ、これに君の名前を書いて。」 渡された紙切れ、小さな、人の形。筆ペン。
何だか、体が、思うように動かない。ノロノロと名前を書いた。ナオ、ああ、これがオレの。
「有り難う。丁度良いタイミング。『待ち人来たる』ね。」

725『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:40:57 ID:7Sc44gmA0
 近付いてきた、数台のママチャリ。
「私の使い魔に命じて、4人を此所に集めたの。直接、話を聞きたかったから。」
ママチャリをゆっくり降りた人影。コイツは、あの時の。
「あれが、漁協の偉い人の孫よね?この件の首謀者、●太。残りは取り巻き3人。
今日調べたら祖父には色々噂があったけど、本人はどうかしらね。」
薄暗くて見にくいが、間違いない。ソイツの鼻を覆う不格好な白いガーゼが何よりの証拠。
ソイツはベンチに近づき、Sさんの正面に座った。オレには全く反応しない。何故?
「今晩は、●太君。」 軽く手を叩くと、ソイツはSさんを見詰めた。
「君に、聞きたいことがあるの。」 「何、だ?」 やはり反応が遅い、多分、Sさんの術。
「アキちゃんのことよ。アキちゃんが海に飛び込んだ時のこと。」
ソイツの目がフラフラと泳いだ。怯えた表情。 「俺は関係ない。何も。」
「嘘は駄目。私見たの。君たちに追い詰められて、2人は海に飛び込んだ。」
「あれは、あれは2人が勝手に。そんなつもりじゃ無かった。」
「私が黙っていれば、騒ぎにはならない。安心して。」
父の話からすると、例えSさんが話をしたとしても、どうせ警察は。
ソイツの、疑わしそうな表情。 「じゃあ、一体どうしようって。」
「警察のお世話にならないとしても、君に責任があるのは間違いない。
もし、君の大切なものと引き替えにアキちゃんが助かるとしたら、どうする?」

726『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:42:29 ID:7Sc44gmA0
 「金なら、金で済むなら、祖父ちゃんが何とかしてくれる。」
「お金...君も、アキちゃんが好きだったんじゃないの?」
「どうせ、いつかアキは誰かに囲われる。それなら俺が、祖父ちゃんもそう言って。
○△の家に残った土地と、屋号を」
突然、冷たい風が吹いた。真夏なのに、腹の底から冷えて、体全体が凍えそうだ。
Sさんは微笑んでいた。でも、全く笑っていないその両目は、青く光っているように見える。
怖い。思わず立ち上がり、後退った。東屋を包む、この気配は一体?
「良く、分かったわ。それなら全て、君の望み通りに。」
Sさんはもう一度手を叩いた。
動きを止めたソイツの、胸ポケットに押し込んだ白い紙切れ。小さな、人の形?
Sさんは立ち上がり、オレの横をすり抜けて歩き出した。
「さあ、病院へ。ほら、急いで。」
促されるまま、ボンヤリした頭で、Sさんの後を追った。

727『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:46:03 ID:7Sc44gmA0
 病室の中に入ると、Sさんは何か小声で呟き、母親に歩み寄った。左手で額に触れる。
椅子の上で、母親の体からぐにゃりと力が抜けた。そういえば祖母の家で、Sさんは。
「では、始めます。」 父親と祖母は真剣な表情で頷いた。
Sさんは白い紙切れを取り出し、それをベッドの...
あ? この、オレの好きな女の子の、名前は。 そうか、オレたちの名前はもう。
白い紙切れを女の子の胸の上に置いて布団をかけ、耳元に口を近づけた。
やがて、Sさんは父親の方に向き直った。
「息子さんの、新しい名前は用意できましたか?」 オレの、新しい名前?
「はい。『ユウ』です。悠久の悠という字で。」 「良い名ですね。短い時間で、何故その名を?」
「息子が生まれる前、考えていた名前の1つです。母にも了解をもらいました。」
Rさんが父親に白い紙切れと筆ペンを差しだした。
「どうぞ、その名前をこの紙に。」 「はい...これで良いですか?」
白い紙切れを受け取ると、Sさんは振り向いてオレを見た。目の前に、白い紙切れ。
『これが、汝の名。『ユウ(悠)』、汝の分身。憂いを祓い、難を避く。』
目の前が真っ白になった。その中に浮かぶ、2つの顔。男の人と、女の人。
どちらも晴れやかな笑顔。 誰だろう?いつかこの2人には会ったことがある。
『これで思い残すことはありません。娘を宜しく頼みます。』 女性の、優しい声。

728『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:47:10 ID:7Sc44gmA0
 「ユウ、大丈夫か?しっかりしろ。」 目の前に、父親の顔。
「大丈夫、ちょっと目眩がしただけだから。」
「ユウ君、君の声で、あの娘の名前を呼んであげて。これは君の役目。」
Sさんに手を引かれ、オレはベッドに歩み寄った。膝を着き、そっと手を握る。温かい。
そう、そうだ。この子の名は。
「ナオちゃん、起きて。オレだよ、ユウ。お願いだから、起きて。ナオ、ちゃん」
空気が、変わった。軽い。何だか、厚い雨雲が晴れたような。
ナオちゃんは微かに身じろぎをして、ゆっくりと眼を開けた。
「ユウ、さん。」 ナオちゃんの眼から涙が零れた。オレも...良かった。これで、やっと。
「本来なら、お医者さんに連絡すべきだけど。」 「対応する時間は無くなるでしょうね。」
SさんとRさんは顔を見合わせて頷き合った。それは一体?
「どういう、ことですか?」 父親の問いにSさんが答えるより早く、不吉な音が聞こえた。
切れ切れの悲鳴、いや、救急車のサイレン。近づいてくる。辺りの雰囲気が慌ただしくなった。
「急患です。多分4人。ちょっと乱暴ですけど、タイミングを見て
ナオちゃんを連れて帰りましょう。お医者さんも看護師さんも、
今夜退院手続きをしている余裕はないでしょうから。」
Sさんは少し寂しそうに微笑んだ。

729『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:49:14 ID:7Sc44gmA0
 カーテンの向こうで、赤い光が明滅している。辺りがすごく騒がしい。
「そろそろですね。出発です。表玄関へ。R君、ナオちゃんをお願い。」 「了解。」
まだ少しボンヤリしている母親の手を引き、父親が部屋を出た。次に祖母、そしてオレ。
ナオちゃんを抱いたRさん、最後にSさん。閉めたドアに触れ、眼を閉じる。
「これで、良し。」
玄関を出ると、沢山の人々が駐車場に集まっていた。みんな緊急搬入口の方を見ている。
救急車、見えるだけで2台。オレたちを気に留める人はいない。黙ったまま、門を出る。
早足で近づいてきた数人の男と擦れ違った。

「●太たちだって、ホントか?」
「ああ、無灯火の自転車で、前から散々無茶しよったが。とうとう。」
「しかも轢いたのは●蔵だとよ。まさか自分の孫をな、いつもの店で酒飲んだ後らしい。」

父親がギョッとした顔で振り向いた。オレも思わずSさんを振り返る。
Sさんは人差し指を唇に当て、それから黙って前を指さした。

730『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 21:00:17 ID:7Sc44gmA0
 翌朝、いつもより早い朝食後、父はSさんとRさんを空港に送るためにタクシーを呼んだ。
本当は、もっと、ちゃんと御礼をしたかった。でも、2人が『時間が無い』と言ったから。
母は夜明けからずっと、つきっきりでナオちゃんの世話をしている。
昨日までとは別人のように明るくなり、オレへの接し方にも温もりが感じられた。
「Sさん。あの、聞きたいことが、昨夜の事故のことで。」
オレが声を掛けると、居間でお茶を飲んでいたSさんは微笑んだ。 「何?」
「昨夜アイツらが事故に遭ったのは、ナオちゃんの『身代わり』になったから、ですか。」
「いいえ。『身代わり』はただの、紙の人型。」 「でも、Sさんはアイツのポケットに。」
そう、確かに憶えてる。もしアイツを犠牲にしてナオちゃんが助かったとしたら。
「君がR君を港へ案内してる間に、私は病院に行ってあの娘の名前を預かってきたの。
だから妖はあの娘を見失った。昨夜、慌てた妖が港の周辺を探し回ってる所に、
君と、『身代わり』を持った私があの東屋へ。 当然、妖はすぐに『身代わり』を見つけた。」
何だか、凄く恐ろしい話を聞いている気がして、体中に鳥肌が立つ。

731『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 21:01:38 ID:7Sc44gmA0
 「そう、ね。あれが答えじゃなければ、事故は起きなかったかも知れない。
でもあれが、アイツが自分で出した答え。血眼になってあの娘を探していた妖の前で、
『あの娘はいつか誰かに囲われる』、『それなら俺があの娘を』と。
それでアイツの望みを叶えた。いいえ、そうするしかなかった。 あれ程に、怒り狂った妖。
『身代わり』を手放さなかったら、私と、そして君も無事には済まなかったもの。
だから君もナオちゃんも、気に病む事なんて何1つ無い。
アイツ自身が、そういう結末を選んだったって事。
結局、自分が犯した罪の報いからは誰も、逃れられない。
まあ、昨夜のお膳立てをしたのは私だから、あの事故の責任の一部は私にある。
それを後ろめたいなんて、これっぽっちも思わないけれど。」
少し悲しそうな、笑顔。
オレの脇をすり抜けたRさんが、Sさんの肩をそっと抱いた。何時、オレの後ろに?
「私は大丈夫よ。」 「はい。いつも通り、信じていました。」
何が大丈夫で、何を信じていたのか、オレには分からない。
きっとこの人たちは、オレと同じ世界に住みながら、オレとは違うものを見て、感じてる。
その人たちが『気に病むことはない』って。 オレはそれを信じて、ナオを守る。

732『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 21:02:30 ID:7Sc44gmA0
 「Sさん、Rさん、タクシーが来ました。」
2人を呼びに来た父の、穏やかな顔。 母親が元気になったからだろう。
夕方シゲさんに会い、事情を説明して今後の事を相談すると聞いていた。
「有り難う、御座います。」 SさんとRさんは荷物を持って立ち上がった。玄関へ。
Sさんは、折りたたんだ紙を父に手渡した。
「出来るだけ早く此処に電話を。面倒な手続きを助けてくれます。約束、どうかお忘れ無く。」
「はい、必ず。何から何まで本当にお世話に。ありがとうございました」
オレと父と祖母は、揃って頭を下げた。
「では、これで。」 手を振ってタクシーに乗り込んだ2人の笑顔は、とても温かかった。

733『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 21:10:17 ID:7Sc44gmA0
 「ナオ、早くユウを起こして!急がないと遅刻しちゃうわよ!!」
...微かに聞こえる。母の、声だ。今も未だ、少しだけ調子外れの。
階段を上る軽い足音、ドアが開いた。軽い音がしてベッドが揺れる。くすりと、小さな笑い声
「ユウさん、起きて。ほら、早く。」 ノロノロと上体を起こし眼をこする。眠。
細い腕が、オレを抱き締めた。シャンプーの香り。右頬に感じる、温もり。
「今日も、大好き。下で、待ってるから。」 走り去る足音。
いつもと同じ、朝の決まり事。よし、大丈夫、今日も頑張れる。ナオのために。
ナオとオレと父は3人一緒に家を出る。ナオの小学校までは歩いて5・6分。
ナオが大きく手を振って小学校の門をくぐるのを見届けてから、父と2人で駅に向かう。
「ユウ、どうだ?新しい中学校は?」 「また、その話?いい加減にしてよ。」
父は微笑んでオレの背中をポンと叩いた。以前よりもずっと、父との会話は増えた。

734『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 21:11:52 ID:7Sc44gmA0
 「しかし、あの2人、一体何者だったんだろうな。たった二ヶ月前なのに、何だか夢みたいだ。」
教えてもらった電話番号も、オレとナオの色々な手続きが済むと同時に繋がらなくなり、
今は連絡を取る方法が全く無いと聞いていた。確かに、あの島で起きたことは夢のようで。
例えば、あの丸めたティッシュから咲いた白い花。一体あれは、現実だったのだろうか。
微かに、雷鳴が聞こえた。 青い空には雲1つ見えないけど、何処か遠くで雷が。 そうだ。
稲光が見えなくても、微かな雷鳴が遠い遠い雷の存在を教えてくれるように、
オレの家族とオレ自身に起きた変化が、あの2人の実在を教えてくれる。
今もきっとこの国のどこかに、あの2人は、いる。
「夢じゃない。今はナオがいるし、母さんも毎日楽しそうにしてる。
ナオがいるから、みんなで幸せに暮らせる。全部あの2人のお陰でしょ?
きっと、神様の、御使いだったんじゃないかな。ナオと、母さんを助けるために来てくれた。」
「神様の御使いか...そうだな。でも、それだと俺が母さんを不幸にしたり、
お前がナオを不幸にしたら、罰が当たるぞ。それも、とんでもない天罰が。」
「オレは大丈夫だけど、父さんは地獄に落ちるかもね。」 「馬鹿言え!」
拳骨。その痛みも何だか嬉しい。オレはその人の笑顔を思い出していた。
ナオに少し似た、とても綺麗な人。

『遠雷』 完

735 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 21:18:19 ID:7Sc44gmA0
皆様今晩は、再び藍です。

何とか投稿を終えました。お付き合い頂いた皆様に、心からの感謝を。
考えて見れば、書き出しの時期が6月と言うことよりも、
許可を得る交渉を応援して頂いた皆様への、プレゼントなのかも知れませんね。

有り難うございました。

736名無しさん:2015/06/15(月) 21:23:17 ID:uWH9oUYoO
終わりまで一気に書き込みありがとうございます!
とりかへばやなど「交換」の話は昔多かったですが、そのリアルな経緯を知ることが出来て嬉しいです。ありがとうございます。

737名無しさん:2015/06/16(火) 00:22:28 ID:zVrsk1Hs0
名も知らぬ遠き島で起きた,不可思議で,人の心を温かくする物語。
幼き魂の清らかさ,純な思いがいつまでも心に残ります。
神に遣わされた術師たちに誉れあれ。

738名無しさん:2015/06/16(火) 00:26:10 ID:wvBszuOE0
7月と言われたのに次の日にチェックに来た私に隙は無かった

739けんぽん:2015/06/16(火) 00:59:42 ID:slaSi0nk0
藍様
知人様

お忙しいにもかかわらず、お話の続きと新しいお話を有り難うございました。

遠雷は全くの第三者目線でのSさん達の活躍のお話で、今までとは違った新鮮な印象でした。

次回のお話も楽しみにしております。

お忙しい事とは存じますが、ご自愛下さいませ。

740名無しさん:2015/06/16(火) 05:41:55 ID:qQFA9Eio0
お話に魂がこもっているようでとても感動する
今回もまた涙が・・ 
ありがとうございました

741名無しさん:2015/06/16(火) 12:49:53 ID:himkp/b.0
「新しい命」で亡くなった女性の子どもが気になるな。
次世代での重要登場人物になりそう。

742名無しさん:2015/06/17(水) 00:00:08 ID:i4fkaHVE0
圧巻の投稿量でした。どちらの物語も楽しく拝読させて頂きました。ありがとうございます。体調、お大事になさってください。

743ある寿札僧〜の作者:2015/06/18(木) 19:30:32 ID:tn9ddZDU0
すごいなぁ。
エネルギーを感じました。

744名無しさん:2015/06/19(金) 20:40:00 ID:BazbVQiIO
しかし…
小学生の女の子をレイプしようとする高校生に…
中学生学生と小学生の純愛ですとか…
ハードです(笑)
一昔前なら、よくて大学生(悪役)・高校生(主人公)・中学生(ヒロイン)でしょう♪〜θ(^0^ )♪〜θ)

もっと前なら、悪役は大人で、主人公は大学生・ヒロインは高校生くらいが…

考えたら、恐い話しだ…

745名無しさん:2015/06/20(土) 14:52:46 ID:n9upD6vk0
世界にわね、かけちゃいけない電話番号がいくつかあるんだって。090-4444-4444これ貞子につながるやつ。かけた人は1週間以内に死ぬってうわさだよ。ちなみにこの電話番号ってかけても電話代かからないらしいよ。

746名無しさん:2015/06/21(日) 02:04:07 ID:NOrVmZFQ0
R氏のご両親の馴れ初めのフェイクだったとしたら面白い

747 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/23(火) 15:36:25 ID:33TdJtHw0
皆様こんにちは、藍です。
沢山のコメント、有り難う御座います。
投稿を続ける、勇気の基ですね。

748名無しさん:2015/06/26(金) 01:20:39 ID:bZwIcVgw0
藍様、いつも投稿ありがとうございます。

749 ◆iF1EyBLnoU:2015/07/02(木) 21:25:42 ID:un9l2.EE0
皆様今晩は、藍です。

予告したスケジュールと全然違う投稿でしたのに、
早速多くのコメントを頂き感謝致します。
どうすれば皆様のご厚意に応える事が出来るか、知人と共に検討中です。
どうぞ気長にお待ち頂ければ嬉しく思います。
有り難う御座いました。

750名無しさん:2015/07/02(木) 23:26:44 ID:.71XmAtY0
藍さん知人さん
 ありがとうございます。
 楽しみにして待ってます〜。

751名無しさん:2015/07/03(金) 02:03:50 ID:Tu7k.JVc0
ナオ君の心理描写が想像ではなく、ある程度の取材を経たものだとしたら今後の展開が期待できるのかも新米

752名無しさん:2015/07/15(水) 17:04:12 ID:7z7tbw1c0
まとめで出会い、全て読ませて頂きました。
とても興味深く、続きを心待ちにしております。
ここまで投稿し続けるのにとても長い時間がかかった事、その裏にある様々な苦労をお察し致します。
作者様と、お身体にお気を付けて、これからも頑張って下さい。

753名無しさん:2015/08/23(日) 09:43:25 ID:bShbRdA.O
Sさんはダビデの血をひいているという夢など見ました。
いつも命懸けの家業、どうぞお気をつけ下さい。
新しいお話もいつか公開される日をお待ちしてます。藍様もどうぞご安全に。

754名無しさん:2015/08/24(月) 22:52:40 ID:3/CfCGCo0
フフ。9月まであともう少しですな。

755名無しさん:2015/09/07(月) 23:15:46 ID:ku4dNWbwO
しばらく藍さんが来ないので、また「出会い」から読み返しています。次はまだかな…。

756 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/08(火) 21:25:27 ID:vV6Wb0V60
皆様今晩は、藍です。

>>750 751 752 753 754 755

交渉を続けて来た結果、数日中に掌編を1つ投稿出来そうです。
それまで、どうかもう暫くお待ち下さい。

757名無しさん:2015/09/08(火) 23:07:24 ID:ri/kH.dMO
藍様、交渉ありがとうございます!
新しいお話を楽しみにお待ちしてます。

758名無しさん:2015/09/08(火) 23:48:34 ID:6KuYA5Pg0
知人さん藍さん,ありがとうございます。
楽しみにしています。

759 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:29:32 ID:8ZyP6UVg0
皆様、今晩は。藍です。

予想外の事態で投稿のための時間が取れず、投稿が遅れました。
作業が済んだ所まで投稿して、後は今後の状況に任せたいと存じます。

どうか『水に流すことの出来ない事情』を、お察し下さい。

760『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:30:46 ID:8ZyP6UVg0
『召喚』

 「ね、翠。やっぱり止めた方が良いんじゃない?今夜は2人だけだし、怖いかも。」
「お父さんが一緒だから大丈夫。それに、きっと色々面白いよ。」
 
 リビングの床に広げた新聞を読む翠の、小さな背中。
翠の精神的な成長が著しいのは、良いことなのだろう。
しかし、新聞のTV欄を不自由なく読めるようになってから、時々問題も起こる。
翠が見たいと望むTV番組が、俺たちの方針と異なることがあるからだ。
そんな時、Sさんは翠を甘やかさずピシリと言ってくれるし、
姫はTVを見るよりずっと魅力的なイベントを考えてくれる。 しかし今夜は違う。
丹の、ある儀式のためにSさんと姫は昼前からお屋敷を離れていて、明日まで戻ってこない。
藍も一緒に出かけたから、お屋敷には俺と翠が2人きり。
しかも翠は俺が翠に甘いのを理解している。結局2人でその番組を見ることになった。

761『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:31:57 ID:8ZyP6UVg0
 まあ、夏にはお決まりの企画。 『心霊●▲特集2時間スペシャル』
この手の企画には珍しく、何年か続いているらしい。局のやる気(?)は感じる。
しかし、本気でこの手の企画を実行したらそれはそれで...悪い予感しかしないが。

762『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:33:20 ID:8ZyP6UVg0
 翠がいつもより早く食べ終えた夕食の後、いよいよ番組が始まった。
最初は心霊写真のコーナーで、一枚映し出される度に出演者達が大げさに怖がる。
自称『専門家』が写真を解説して、また出演者達が怖がる。
お決まりの演出なんだろうが、当然、本物の心霊写真なんて滅多にない。
光の反射か何かでそれらしい影が映り込んだ写真や、あきらかに作為を感じる写真。
どちらかというと翠は心霊写真よりも出演者達の反応に興味が有るようだった。
「ホントに、怖いのかな?」 「え?」 「だから、あの写真見て怖いのかな?」
「う〜ん、本物かどうか分からない人は怖い、かもしれないね。
それにほら、『偽物だ』なんて言ったら、番組の雰囲気が壊れちゃうでしょ?」
「そっか、怖がって、楽しむんだね。」 『怖がって楽しむ』か、確かにそうなんだけれど。
「それで、今までので変な写真あった?本物っぽい写真とか。」
俺は気付かなかったが、俺より感覚の鋭い翠なら。
「え〜っと、2枚目の写真には写ってたよ。○印で囲んだところじゃなかったけど。」
「2枚目?公園の木が写ってた写真?」 「そう、端っこに『手』が写ってた。女の人の。」
ぞく、と背中が冷たくなる。○印をつけられて、他の部分には俺の感覚が向かなかったのか。
CMソングが何だか空々しく、不気味な響きに聞こえる。
「翠、あのさ、出てくる写真に何か変なのが写ってたら、教えてくれない?」
「うん、良いよ。」 あっさりと答え、翠はTVの画面に視線を戻した。

763『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:34:32 ID:8ZyP6UVg0
 写ってる人数より腕が多いという写真。 → 「みんなの後ろにかくれんぼした人の手。」 

 無数のオーブが映っているという写真。 → 「凄いホコリだね。マスクしないと。」

 翠は写っているものを淡々と語り続け、それは俺の感覚とも一致していた。 しかし。

764『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:36:18 ID:8ZyP6UVg0
 ビーチの写真が映し出された時、翠の表情が変わった。
曇り空の下、並んで座る親子連れ。男の子の右半身に赤い光が重なっていて、
自称専門家が『これは霊障が心配ですねぇ。右半身の怪我とか。』などと解説している。
俺は赤い光に嫌な気配を感じない。しかし、微かな違和感。
振り向いた翠の、キラキラ光る瞳。 「見つけたよ。お父さん、ほらここ。ね?」
指さしたのは家族連れから海側に少し離れた場所、若い男性の後ろ姿。
突然感覚が拡張し、首筋の毛が逆立った。確かに、これは生きた人間ではない。
生きている人間と寸分変わらぬ姿で、ハッキリと写っている霊。
あまりにハッキリと写っていて、写真を撮った人も、この写真を見た人も
それが霊だとは気付かなかったのだろう。
何より、この写真を撮った時、そこにいた人たちに男性の姿は見えていたのか。
どちらにしても、一見ごく普通に見える写真が実は心霊写真の場合もあると言うことだ。
そしてもしかしたら、街中の人混みに混じって...。
俺は幼い頃から写真と人混みが苦手だったが、こういう感覚が原因だったのかも知れない。
軽い気持ちで見ていた番組が、急に禍々しいものに思われた。
『本物』の心霊写真を不特定多数の人に見せて、どんな影響があるのか見当も付かない。

765『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:37:39 ID:8ZyP6UVg0
 「この女の人写してる間に、中に入ったの。」
投稿されたという動画のコーナーになっても、翠の解説は続いていた。
心霊スポットだという廃墟。一度開けたドアの中には誰もいなかったのに、
怖がる若い女性を写したあと、もう一度ドアを開けると白い服を着た人影。子供騙しだ。

 「階段が有るから、隠れて後ろから手を出せるんだよ。」
港の岸壁。海側から手が伸びてくるという動画も作り物。
作業用の階段に隠れている協力者が、岸壁の際に立つ女性の足に手を伸ばす。
良く考えられた構図で階段自体は写っていないし、中々の工夫と言えるだろう。
出演者達の表情は引きつっていた。泣きそうな女性タレントもいる。

766『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:39:47 ID:8ZyP6UVg0
 「ねぇ、お父さん。この人たち、怖くないのかな?」
「え?みんな怖がってるでしょ。階段が写らないようにしてるから騙されて」
「騙されてることじゃなくて。」 「え?」 翠は立ち上がり、俺の隣に座って体を寄せた。
その体は少し強張っている。一体何を感じているのか。
「どうしたの?」 「来てるよ。あの人たちの近くに。」
既に動画のスロー再生も終わり、若い芸人が自分の体験談を話している。
「来てるって、何が?」 「分からない。何か、怖いもの。前は、男の人だったもの、かな。」
『集まって怪談をしていると寄ってくる』と、何度か聞いたことがある。
編集済みの録画に、翠はそれを『見ている』のか。 TVの画面越しに?
突然、大きな音。スタジオで何か小道具か倒れたらしく、出演者達はパニック寸前だ。
「あんまり強くないと思うけど、大丈夫かな。」 翠の声は沈んでいる。
心なしかTVの画面が薄暗く見える。 悪意、だ。 今は確かに、俺も感じる。
もし出演者達の身に何か起こって、その場面が放映されたら、
感受性の高い人間が受ける悪影響は心霊写真とは比較に...しかしどうすれば良い?
局に電話したとしても、まともに取り合っては貰えないだろう。
何の証拠もない、イタズラか異常者かも知れない電話一本で放送を止める筈はない。

767『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:44:03 ID:8ZyP6UVg0
 「お父さん。」 我に返る。 俺を真っ直ぐに見上げている、真剣な瞳。
「何?」 「お友達に頼んじゃ駄目?」 お友達って...
そうか。 一瞬、一飛びで遠い距離を越える、『空を往く者』。 翠はこの放送が今。
次の瞬間、大きな音を立てて窓ガラスが震えた。 突然の、強い風。 そして、羽音?
リビングの窓ガラス越しに、黄色く光る瞳がこちらを覗き込んでいる。
ソフトボールほどの大きさ。濡れたような艶のある、嘴の一部も。
確かに...式の使役に限れば、翠はSさんの指導を仰いで基本的な修練を終え、
既に当主様の『裁許』を受けている。だが、どんな術者も『時間』だけは操作出来ない。
『戻れ。例え術者の誓いが有ろうとも、これは汝の仕事では無い。』
「お父さん、どうして?」
「あのね、翠。この番組は、ずっと前に撮影されたものを放送してるんだよ。」
「じゃあ、もう、間に合わないの?」 悲しそうな表情、胸が痛くなる。

768『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:46:08 ID:8ZyP6UVg0
 一瞬、TVの画面が明るくなった気がした。思わず視線をTVに移す。
俺には見えない何か、その『気配』は出演者の間を縫うように、画面左から右に動いていく。
『気配』が画面の右端に消えると、スタジオの雰囲気が変わった。
出演者達は相変わらず大げさに怖がったりしているが、先程までの緊張感はない。
「あれ、『式』だね。お母さんが、あれに似たのを作ったことがある。」
「式?」 「うん。トンボみたいな形、光ってた。ポワ〜ッて。」
ふと、思い出した。
怪談を基にした映画や心霊関係の番組を撮影する時は、
スタッフや出演者が揃ってお祓いを受けると聞いた事がある。
しかし、式だとすれば番組を収録した時スタジオに術者がいたか、
あるいは事前に式を仕込んだ代を配置して置いたのか。 2つに1つだ。
そうでなければ、何時寄ってくるか分からない相手に対応できた筈がない。
もし式を封じた代を配置したのなら、かなり力のある『式使い』ということになる。
Sさんの作る式に似ているとしたら一族の術者かもしれない。
TV局からの依頼があるルートで『上』に伝わって、それで。
しかし代に式を封じて配置する程、力のある『式使い』は数える程しかいないと。

769『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:47:45 ID:8ZyP6UVg0
 「どうしたの?まだ時間は残ってるのに。」
俯いた翠を抱き上げた。 左手でリモコンを操作してTVの電源を切る。
「お母さんとお姉さんの言ってた通りだった。怖いTVを面白半分で見ちゃいけないって。
お父さんなら駄目だって言わないと思って、お願いしたから。翠が悪いの。」
ふと、出かける前のSさんと姫の様子を思い出した。
家を空けるとき、気になる事があれば特にSさんは細かく指示をしてくれる。
しかし、今回は何も。当然新聞はチェックしたはずなのに...そうか。
『見せない』から、『見せて気付かせる』へ。 翠がその段階まで成長したと言う事だろう。
「今日、お母さんもお姉ちゃんも『翠にTV見せちゃ駄目』って言わなかったんだよ。」
「何故、かな?」
「翠を、信じていたんだと思う。『今の翠なら見せても大丈夫』って。」
「面白半分で見ちゃいけないわけが分かるってこと?」
「そう。駄目だと言わなければ、翠があの番組見るのは間違いないからね。
それに翠はもう分かったでしょ?面白半分で見ちゃ行けない理由。」
「うん、分かった。」 サラサラの髪をそっと撫でた。

770『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:52:11 ID:8ZyP6UVg0
 自らTVの電源を切って欲しいと言った翠。 その心は、きっと。

 「子供の頃、お父さんも好きだったよ。さっきみたいな番組。」 「ホントに?」
「うん。まだ『感覚』が働いてなかったから、怖がって、それを楽しんでいたんだね。
『感覚』が働いていたら、きっとお祖母ちゃんに怒られてたと思う。」
「『怖いTVを面白半分で見ちゃいけません』って?」 「そう。」 小さな、笑い声。
「じゃあ、TVの続き、どうする?」 「見ても大丈夫、かな?」
「『式』が配置されていたんだから、悪い事は起きなかった筈だよ。見たい?」
「うん。」 翠の顔に笑みが戻った。
その後は体験談の再現ドラマとUMAコーナー、式が発動する機会はなかった。

771 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:54:09 ID:8ZyP6UVg0
 藍です。

 今夜は此処まで。お付き合い頂いた皆様に感謝致します。
有り難う御座いました。

772名無しさん:2015/09/14(月) 23:45:07 ID:q0toJZE60
洪水とかだったら心配。御無事そうで何より

773名無しさん:2015/09/15(火) 00:09:52 ID:LqecAaiwO
投稿ありがとうございます!
心霊番組はやっぱりあんまり見ちゃ駄目なんですね。でもTV局で本格的な御祓いをしているなんて意外でした。
翠ちゃんの解説面白かったです。素敵な女の子に成長されてますね。
お父さんが娘に甘くて、娘がそれを見透かしてるって、リアルな関係に思わずにやついてしまいました。

774名無しさん:2015/09/16(水) 00:51:28 ID:RZ3OlA5.0
知人さん藍さん,投稿ありがとうございます!
それにしても翠ちゃん,可愛すぎてしっかりしすぎです・・・。
事情はわかりませんが,ご無事,ご健勝をお祈り致します。

775 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:44:40 ID:pyBusNHI0
皆様、今晩は。藍です。

以下、『召喚』の残りを投稿致します。
掌編の割に書き換えの指示が多かったので少し心配です。
大きな不都合無く、お楽しみ戴けると良いのですが。

776『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:48:54 ID:pyBusNHI0
 「実は、昨夜翠と2人で視たんですよ。『心霊●▲特集2時間スペシャル』
マズかったですかね?まだSさんには話していないんですけど。」
姫と2人で夕食の準備をしている。子供達とSさんはリビング。穏やかな夕方の一時。
「全然問題有りません。『見せなければ済むという時期じゃない。』って、Sさんも。」
やっぱり、事前の禁止が無かったのはそういうことだったのだ。
「それなら良かった。その番組を見てる時に、その何というか、変わったことが起きたので。」
「変わった、ことですか?」 姫の眼に宿る光が強くなった気がした。
「ソレ系の動画を紹介するコーナーの途中で、翠が『怖いものが来てる』って。
動画自体は作り物だと思ったんですけど、スタジオの雰囲気に惹かれて
『何か』が寄ってきてたんだと思います。」
「それで、術者が前もって配置していた式が発動したんですね?」
心臓が、止まるかと思った。
「あの、どうしてそれを?Lさんは、番組を視ていないのに。」
優しく笑って、姫は鍋を火に掛けた。

777『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:50:29 ID:pyBusNHI0
 「あのTV局には一族の人が働いていて、そういう番組や企画が有ると
『お祓い』を依頼されるんです。でも、実際には式を封じた代を配置して、
次の依頼が来た時にその状態を確認して対応する、そう聞きました。」
『お祓い』では、その後に起こる怪異には対応できないという予想は当たっていた訳だが、
まさか本当に一族の術者が関わっていたとは。
「それで、翠ちゃんには見えたんですか。式の、姿が。」
「見えていた、と思います。トンボみたいな形だと言ってましたから。」
「Rさんには?」 「見えませんでした。気配が移動するのは、分かったんですけど。」
姫は小さく溜息をついた。
「やっぱり適性の違い、なんでしょうね。それに翠ちゃんの感覚はかなり鋭いし。」
「ええと、『式』って写るんですか?ビデオとか、写真とかに。」
俺は気配を感じ、翠が姿を見たなら、収録した映像には『何か』が記録されている筈だ。
「私、実験した事が有るんです。昼寝してる管を、『●ルンです』とデジタルカメラで。」
「どうして、2種類?」 珍しく、姫は悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

778『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:54:37 ID:pyBusNHI0
 「『デジタルカメラが普及してから心霊写真』が減った』という話、聞いた事がありますか?」
「はい。『デジカメだと二重露光みたいなトリックが使いにくいから』だ、と。」
デジカメのついたケイタイやスマホを持ち歩く人が増え、
心霊写真が撮れる可能性はむしろ高くなっている筈なのに心霊写真は減っている。
とすれば、デジカメ普及以前の心霊写真はほとんど偽造という結論を導くのに無理はない。
「本当にデジタルカメラでは心霊写真が撮れないのか、それを確かめたかったんです。
全く同じ場面を2種類のカメラで撮影した管の写真を比べたら、手がかりになると思って。
式も幽霊も妖も、私たちとは『在り方』の違う存在だし、
実際に幽霊や妖を相手にする時に、写真を撮っている余裕は有りませんから。」
確かに、仕事中は一瞬の油断が命取りになりかねない。
悠長に写真の撮り比べ実験なんて。 その点管さんがモデルなら100%安全だし、
管さんはもともと独立した妖。 幽霊の代わりの実験台としても最適だろう。

779『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:55:55 ID:pyBusNHI0
 「それで結果は、どうだったんですか?その実験の。」
「10枚ずつ写真を撮りました。『●ルンです』で式の姿が撮れたのは2枚、
デジタルカメラで撮れたのも2枚。 4枚とも少し少しボケてました。
でも、デジタルカメラでも本物の心霊写真は撮れると思います。」
デジカメでも撮れる? じゃあトリックって話は...いや、それよりも。
「昼寝してたってことは、管さんが『見える』時に撮ったんですよね?」
「はい。いつものウッドデッキの端っこで。」
肉眼ではハッキリ見える管さんが、10枚中たった2枚ずつ?
「不思議、ですね。姿は見えるのに写真に写らないことの方が多いなんて。」
「以前は幽霊の数が少ないから本物の心霊写真も少ないんだと思ってましたけど、
そんな単純な話では無いみたいです。それに、もっと不思議なのは。」
姫はたっぷりのレタスとミニトマトを盛りつけたサラダボウルをテーブルに運んだ。

780『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:58:08 ID:pyBusNHI0
 「式の姿が映っていない写真でも、『気配』を感じるんです。
まるで、私には見えない何かが写真やデータに記録されているみたい。」
それがどういう理由なのか、俺には想像もつかない。しかし、それはまるで昨夜の。
「姿は見えないけど『気配』を感じるというのは、昨夜の僕と同じですね。あの番組の。」
「はい。管の姿は写っていなくても、その写真やデータには確かに『何か』が記録されていて、
私たちはそれを『気配』として感じるけれど、翠ちゃんなら多分映像として見ることが出来る。
ただ、術者でない人が写真に記録された『気配』を感じるのはごく希な事でしょうから、
そんな写真が心霊写真と言えるかどうかは分かりません。間違いなく『本物』だとしても。」
本物だが、心霊写真とは...ふと、思い出した。昨夜の番組、本物の心霊写真。
ビーチの家族連れの背景に立つ、若い男の後ろ姿。 髪型も、海パンの模様も。

781『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:59:49 ID:pyBusNHI0
 「昨夜の番組で紹介された中に、本物の心霊写真があったんです。
管さんを狙って撮っても、その姿が写る確率が2割(10枚の内2枚)位だとしたら、
心霊写真が偶然に撮れるなんて有り得ない気がするんですが。」
「偶然なら、本当に『有り得ない』くらい確率は低いでしょうね。
でも、偶然でないなら『有り得ない』から『たまには起こる』位の確率にはなるかも。」
「え?偶然でないならって、そんな事が。」
「結婚の時に撮った記念写真、憶えてますか?」 「はい、憶えてますけど。」
数枚の記念写真。家族全員で撮った一枚は引き延ばして、今も俺の背後の壁に。
「全部の写真に写っていましたよ。ほら、その写真にも。」
姫の視線を辿り、振り返る。 あ。

782『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:03:02 ID:pyBusNHI0
 姫の足下に蹲る、小さな白い影。まるでペットが家族と一緒に。そうだ、確かに5枚とも。
『管さんも家族ですから、全員集合ですね。』 俺自身がそう言って笑ったのを思い出した。

 「きっと、その気になれば写真に写ることが出来るんです。管さんも、妖も、幽霊も。
それがこの写真みたいに、良い事ばかりじゃ無いのが問題なんですけど。」
内容は別にして、心霊写真は此の世ならぬ存在からのメッセージ? それなら。
「Rさん。」 「あ、はい。」
「完成です。配膳は私が。皆に声を掛けて下さい。お喋りしてた割には時間通りですね。」

 ダイニングを出て、リビングに向かう。 Sさんと翠の気配。
藍と丹の気配はかなり薄い。 丹のミルクと藍の離乳食の世話を考えれば神展開。
さすがにSさんだ。 その直後。

783『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:12:53 ID:pyBusNHI0
 「ホントだ。TVで見たのと同じだね。すごく綺麗。」 これは、翠の声。
足が動かない。盗み聞きではなく、ただ、2人の会話を邪魔してはいけない。
何故だろう。 その時俺は、そう思った。
「でしょ? この式をTV局に配置したのは、一族で最高の術者の1人だった。」
「もう、その男の人はいないの?」 「そう。」 Sさんはそれが男だなんて一言も。
一瞬の間。 そうか、『上』を通してその依頼を受けていたのは、あの人。
初対面の日、あの人は俺の背中に式を貼り付けた。
通常ではあり得ない、幾つもの適性を併せ持つ、『最高傑作』。
まるで昨日の事のように目に浮かぶ。 端正な顔、長身の黒いスーツ。
「こんなに強い式を封じるには紙の代じゃ駄目。湿気も黴も平気な、例えばこれ。紫水晶。」
そう言えば、当主様の式は翡翠の代に。
「お母さん。その代、どうするの?」

784『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:17:39 ID:pyBusNHI0
 「炎の、この仕事を継いだのは私。だからこれを出来るだけ早くTV局に届けて。
でも、お母さんの式は翼を持ってないから...そうね、翠のお友達に頼むのはどう?
もし、炎の式が発動した後に入り込んだ悪いモノがいたら、それを片付けてからこれを。」
「良いのかな? 翠と、翠のお友達で?」

785『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:18:32 ID:pyBusNHI0

 『怒り故で無く、憎しみ故で無く。悲しみ故に。』

 Sさんの声。 まるで謡うような、不思議な調子。

 『ただ、はらから(同胞)の、あんねい(安寧)のために。』

786『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:28:41 ID:pyBusNHI0
 それは式を使役する術者の、『誓詞』だとSさんから聞いた事がある。

 翠の、鈴を振るような声が、Sさんの声を追いかける。

 「そう。これは遊びじゃない。面白半分でなく、真剣な仕事だと、誓える?」
「はい。誓い、ます。」 「良く、分かった。じゃ、お友達を呼んで。翠は、偉いね。」

 直後。 突然の強い風が、庭の木々とお屋敷の窓ガラスを揺らした。


 『召喚』 完

787 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:35:10 ID:pyBusNHI0
皆様今晩は。 再び藍です。

色々ありましたが、ようやく『召喚』の投稿を終えることが出来ました。
お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。有り難う存じます。

預かったお話がもう1つあるのですが、投稿の許可を頂けるか分かりません。
もし縁があるのなら、次のお話もきっと此処で。

788名無しさん:2015/09/16(水) 23:31:03 ID:RZ3OlA5.0
知人さん藍さん,ありがとうございました。
翠ちゃんのお友だち,ビッグバードさんのデビューですね!

789名無しさん:2015/09/17(木) 07:07:35 ID:oyuqQm8cO
続きの投稿、ありがとうございます!
翠ちゃんはもうお仕事を始めたんですね。お魚さんは喜んでいるのでしょうか。
Lさんはアナログとデジカメを10回ずつ試すなんて客観的ですね。検証面白かったです。

790名無しさん:2015/09/19(土) 01:17:49 ID:AcG3Mc7M0
己の持つ力に対する強い自制と恐れ。その積み重ねの業。
冷酷な計算と強い自制による冷徹な行動、本質的に自ら制限をかけるが故の・・・馬鹿正直さ
それを知事さんが変化球で描く。面白い。

791 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 22:49:48 ID:u7o6d5uw0
テスト中です。

792 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 22:59:37 ID:u7o6d5uw0
皆様今晩は、藍です。

以前『聖夜』というお話を投稿致しました。
その時点では非公開となっていた部分の許可を得ましたので、
指示された書き換えを終え、事情が変わらない内に投稿致します。

793『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:06:52 ID:u7o6d5uw0
『続・聖夜』

 チーム榊の忘年会の夜、恵子ちゃんと榊さんとの出逢い。
それから十日程経ったある日、Sさんと俺は榊さんから呼び出しを受けた。
あの少女は既に安全な場所で保護され無事に年を越したと聞いていたのだが、
それでは今日になってSさんと俺が呼び出しを受ける理由が分からない。
まさか、あの少女の身に何かあったのか? いや、それならそうと連絡が有った筈。
早々に『今夜はお酒を飲まない。』と宣言したSさんの運転で待ち合わせ場所に向かった。
それは郊外の寿司屋、『藤◇』。大事な会合で決まって使う、俺たちの隠れ家。

794『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:08:24 ID:u7o6d5uw0
 「もうあの娘は安全な場所で保護されていると聞いたんですが。」
「まあ、あの娘が母親の死や継父との生活を思い出す機会は少ないだろうから、
その意味では精神衛生上は確かに安全だよ。俺の家は。」
「へ? じゃあ、あの娘は今、榊さんの家に?」
「忘年会の後、二人で分署に戻る訳にもいかないだろ。だから、さ。」
確かに。それはそうだ。一人きりでホテルに宿泊させるのも心配だし。
「いきなり年寄りを驚かすとマズいから、勿論家に電話してから帰ったよ。そしたら。」
榊さんは大きな溜息をついた後、杯の日本酒を一息に飲み干した。
すかさずSさんが空の杯に日本酒を注ぐ。完璧なタイミング。少しだけ、嫉妬。
「手ぐすね引いてたらしいお袋は甲斐甲斐しく風呂やら着替えの世話を焼くし。
あの強面の親父まで、見てられないくらいに相好を崩して。全く、俺の立場がないっての。」
きっとそれは、年末で帰省した孫娘の世話をする感覚だったのだろうか。

795『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:10:08 ID:u7o6d5uw0
 「姉貴が使ってた部屋だ。着替えとかも。新学期の最初からは高校にも通ってる。」
ああ、それなら新しい落ち着き先が見つかるまで何の心配も。
「ただあの娘の引取先を探すのに二週間くらいかかって。それがマズかった。」
...たった二週間の内に何が?

 「姉貴の所はみんな男の子ばかりだったから、無理もないと言えばそうなんだが。
お袋と親父があの娘を文字通りの猫っ可愛がりなんだよ。
まずは毎日5時半に起床、5時半だぜ。それで親父と一緒に犬の散歩。
散歩から戻ったらお袋と一緒に朝食の準備。3人で朝食を食べたら高校へ。
高校から帰ってきたら、またお袋と一緒に準備して3人で晩飯。それが日課らしい。」
「あの、3人って?」
「だから親父とお袋、それとあの娘だよ。」
そうか。まあ、どう考えても榊さんの帰宅時間は当てにならないからね。

796『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:11:54 ID:u7o6d5uw0
 「でも、引き取ってくれる親戚がいるならそれが一番だろ?
『新年早々』って、親父とお袋には散々嫌な顔されたけどやっと見つけたよ。母方の祖父母。
乗り気と言うほどでもないが、引き取って面倒を見るのは構わないと言ってる。
それでその日は早く帰って、話を切り出したんだ。そしたら。」
榊さんは両掌で顔をゴシゴシと擦った。
「あの娘に、派手に泣かれちゃってさ。結果、お袋と親父も仏頂面。
『いきなりそんな事、無理強いするものじゃない。』って。まるで俺一人が悪者だ。」
ああ。普段から家庭内での空気が読めないと、それで色々有るのは仕方ないですよね。
「でも、あの娘の将来が一番大事なんだから。構わず言った訳。
『恵子ちゃんの将来が一番なんだから何時までもこのままじゃいけない。
恵子ちゃんはこれからどうするつもりなんだい?』って。そしたら。」
榊さんは杯の日本酒をくいっとあおった。

797『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:13:39 ID:u7o6d5uw0
 『私、健太郎さんのお嫁さんになりたいです。
それが駄目なら、このお家のお手伝いさんにして下さい。』

 俺と榊さんは盛大に日本酒を吹いた。この声はあの娘の...そうか、『声色』。Sさんだ。
「何だよ〜いきなり。Sちゃん、俺の心臓止める気かい?」
「いいえ、もうそろそろ本題に。依頼の内容を聞かせて戴こうかと思っただけです。」
「そうか。それはそう、だな。折角来て貰ったんだから。」
ウーロン茶のグラスを持った、Sさんの笑顔。しかし榊さんの表情、冷たい翳りは?

 「あの娘の、気持ちを変えて欲しい。俺に関する記憶を消せるならそれも。」
!? どうして...あの夜、榊さんもあんなに楽しそうに。
「とても辛い状況から助け出されたから、あの娘は思い違いをしてるんだ。
これから色々な人に出会うんだし、その中にはあの娘を待ってる運命の人もいる筈だ。
俺の事を好きだなんて思い違いは、あの娘の未来を狭めてしまう。」

798『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:15:52 ID:u7o6d5uw0
 違和感。

 本庁からも一目置かれる『チーム榊』のボス。その話術は筋金入りの犯罪者の心さえ。
それなら、何の問題も無くあの娘を説得出来る筈。なのに何故俺とSさんに?
掘り炬燵の中で、右の爪先が軽く踏まれた。Sさんだ。つまり、これは俺の役目。

 「榊さん。術者に仕事を依頼するのに、嘘はいけませんよ。基本中の基本でしょう?」
「嘘?」 一瞬、顔から肩に膨大な熱を感じた。 正面から押し寄せる激情。 熱い。
自分の歳の約半分しか生きていない若造相手。しかし、榊さんは見事に感情を抑え込んだ。
それとなく額の汗を拭い、心に鍵を掛ける。 そう、出来るだけ平静を装うために。
「榊さんなら説得は簡単でしょう?さっきの通り説明すればあの娘も理解する筈。
なのに何故わざわざ僕達に? 一体榊さんは何を、困っているんですか?」
「参ったな...分かった、正直に言おう。俺もあの娘が好きだから、困ってるんだよ。
いつも通りに話が出来れば説得は簡単だろうが、その間、自分を抑えてる自信が無い。」
「え〜っと。相思相愛なら、何の問題も無いんじゃ?」
あの娘は18歳。母親は既に亡く、継父とは法律上の親子関係が無いと聞いていた。
それならあの娘の意思だけで結婚を決めることだって出来る。
「歳の差だよ。 45-18=27 幾ら本人の希望でも、それは無理。だろ?」

799『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:17:47 ID:u7o6d5uw0
 「あの、榊さん。」 「何だい?」
「亡くなった奥さんと結婚した時は周りの反対を押し切ったって聞きました。なのに何故今回は?」
「反対、か。確かにあの人の御両親は俺たちの結婚に反対してた。
でもそれはあの人が中々結婚を承知してくれなかったからだ。
『1年も経たずにあなたをバツイチにするって分かってるのに、結婚なんて。』 そう、言ってな。
でも、俺はどうしてもあの人と結婚したかった。それに。」
榊さんは言葉を切り、窓の外を見詰めた。目尻にうっすらと、涙?
「もしあの人が妊娠したら、俺たちの子供が出来たら、一族の護りがあの人にも、そう思った。
結局それは、間に合わなかったけど。」

 「榊さん、あなたは『約束』を果たすべきです。未だ果たしていない『約束』を。」
Sさんの優しい、それでいて厳しい表情。
「Sちゃん、『約束』って。まさか。」 少し、榊さんの声が震えている。
「結婚を承知するのと引き替えに、あの人と交わした約束です。」
「それは。」
Sさんは眼を閉じ、ゆっくりと、深く息を吸った。

800『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:20:19 ID:u7o6d5uw0
 『もしもあなたが誰かを好きになって、
それが一族を護る力の仕業だと分かったら、その想いは冷めてしまうの?
もしもあなたの前に現れた女性が私の生まれ変わりだと分かったら、
今と同じように、どんな障害も乗り越えてその人を愛するの?』
違う、これはSさんの声じゃ無い。それに、あの娘の声でも無い。だとしたら。
「分からない。本当に分からないんだ。君を失ってから、俺は何も。」
『たとえ私が死んでも、きっとあなたは幸せになって。
素敵な人をお嫁さんにして子供を作って、お父様とお母様を安心させて。
あんなに約束したのに。』
「確かに約束したよ。でも君が俺を残して逝ってしまって、俺はどうしたら良いのか。」
『私も精一杯頑張る。約束、あれから一時だって、忘れてはいない。それは今も』
「俺は...」
榊さんはそれきり黙った。俯いたまま、テーブルの上で、きつく握りしめた両の拳。

801『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:21:43 ID:u7o6d5uw0
 Sさんが俺の右肩に触れた。小さな目配せ。
そうか。素早く立ち上がり、壁のハンガーからSさんのコートを取る。
「ご馳走様でした。依頼はキャンセル、車を呼んでおきます。落ち着いたらどうぞ。」
Sさんは俺が着せかけたコートに袖を通したあと、座敷の襖をそっと閉じた。
廊下を進むSさんの軽やかな足取り。後を追いながら声を掛ける。
「『武士の情』って事ですか?あとは榊さん自身が。」
「武士?良い歳して、まるで駄々っ子じゃないの。あれじゃ恵子ちゃんが可哀相。」
ふと、立ち止まったSさんが振り向いた。
「でも、あなたは違う。榊さんの半分しか生きてないけど、駄々っ子じゃ無い
何時だって真っ直ぐで、一生懸命で。私、あなたの事、大好き。」
熱く、長いキス。

802『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:24:32 ID:u7o6d5uw0
 運転席のドアを閉じ、助手席に乗り込むとSさんがケイタイを取り出していた。
「もしもし、そう、S。今『藤◇』を出る所。車出して貰うように話して頂戴。
ちょっとキツく言い過ぎたかもしれないから、しっかり慰めて上げてね。
依頼の件は多分成功。全部上手く行ったら報酬は約束通り、忘れないで。」
白く細い指がボタンを押し、ケイタイを仕舞う。続いてキーを捻った、低いエンジン音。
「今の電話の相手、もしかして。」 「そう、恵子ちゃんよ。」
「今夜の、本当の依頼主はあの娘だったんですね?」
「あなたの依頼主は榊さん、私の依頼主は恵子ちゃん。
あなたも私もそれぞれの仕事をしっかりこなした。そういう事。」
「でもこれは二重」 Sさんは人差し指で俺の唇を押さえた。
「細かい事は言いっこなし。最大多数の最大幸福、それはいつだって絶対の真理。」

803『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:42:34 ID:u7o6d5uw0
 「あの、もう、1つだけ。」 「なあに?」
「仕事の報酬って。あの娘はまだ高校生で...もしかして榊さんの御両親が?」
「いいえ、榊さんの御両親は無関係。」 「じゃあ、一体どんな報酬を?」
「折々の葉書。」 「葉書?」
「そう。まずは式と披露宴の招待状。それから近況報告を兼ねた年賀状とか暑中見舞い。
依頼への私たちの対応。それが本当に正しかったのか、確かめなきゃいけないでしょ?」

 その後、チーム榊の会合で、
水野という青年のモノマネに新たなネタが加わったと聞いた。
それは多分、犯罪かと見まごうほど若い夫人と、可愛い子供達にデレデレの榊さん。
なら、俺と女装の結びつきはとうに『過去』。 きっとそうだ。
暗い山道に響く、力強いエンジン音。 本当に気持ちが良い
待てよ、でも今夜は聖夜じゃ。 いや、俺はキリスト教徒じゃない。何の問題も。
とても綺麗な、Sさんの横顔。 自分の頬に笑みが浮かぶのを感じた。
そう、何の問題も無い。 明日からまた、一生懸命に生きるだけだ。

『続・聖夜』 完

804 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:47:55 ID:u7o6d5uw0
皆様今晩は、再び藍です。

お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
有り難う御座いました。

805名無しさん:2015/09/27(日) 08:03:13 ID:ZxypnuEYO
榊さんと恵子ちゃん、幸せになれますように。
RさんとSさんはラブラブ過ぎて、ごちそうさまですm(_ _)m

藍さん投稿ありがとうございました!

806名無しさん:2015/10/01(木) 00:39:18 ID:TAfSU6so0
聖夜の奇蹟,神の木に,恵みの子が来ませり。
今はやりの年の差婚もめでたきかな。
とってもいいお話を,ありがとうございました。

807 ◆iF1EyBLnoU:2015/10/08(木) 01:42:43 ID:RGITgbM60
皆様今晩は、藍です。

>>757
>>758
>>772
>>773
>>774
>>788
>>789
>>790
>>805
>>806

いつも通り、本当に温かく、とても深いコメントに感謝申し上げます。
未だ個別の返信は禁止されておりますが、禁を破りたい衝動に駆られる程です。
身内の事情、お仕事の都合、その他にも色々ありまして時期は明言出来ませんが、
もし縁が有りましたら次作も是非此処で。本当に有り難う御座いました。

808名無しさん:2015/10/09(金) 00:03:24 ID:1gLp.ps.0
一応、枯葉氏が作った板だからOKじゃね?なぜか粘着氏がここまで付いてきたのは誤算だったが

809 ◆iF1EyBLnoU:2015/10/16(金) 22:56:23 ID:NC7kAbkk0
皆様今晩は、藍です。

明日早朝からお仕事で暫く戻れません。
留守は頼んでありますが、コメント等への反応で失礼が有るかと存じます。
申し訳有りませんが、いつか新作を投稿出来る日を楽しみに。では、ご機嫌よう。

>>808
暖かいお心遣い、感謝致します。

810名無しさん:2015/10/18(日) 06:51:43 ID:OdcDjmMIO
藍さんお知らせありがとうございます。お仕事頑張って下さい。
新作も楽しみにしています(^o^)

811名無しさん:2015/10/22(木) 20:47:23 ID:TyU4/jCIO
一番あたたかいのは藍さん

812名無しさん:2015/11/10(火) 07:38:54 ID:JLcnug3M0
スレストッパーにやられなかった、よかった

813名無しさん:2015/11/20(金) 10:15:08 ID:4Ti0bvnk0
新作まだかなー楽しみだなー

814名無しさん:2015/11/21(土) 00:15:16 ID:EF3bi51U0
こんばんは、投稿追ってくと最近藍さんしきりに体調が良い時にって言いながら連発で作品アップしてたけど仕事も大変みたいだし、元気にしてるんだろうか。ただの通りすがりのROMだけどなんか気にはなっちまって、勝手な事書いてすいません

815名無しさん:2015/11/22(日) 00:04:23 ID:uX0mSdfo0
休暇と思ってよく休まれるべし。
もしかしたら1.5か月位忙しいかもね。

816 ◆iF1EyBLnoU:2015/11/22(日) 22:03:03 ID:4ZG7sau20
皆様今晩は、藍です。

一昨日の朝戻りました。
昼寝のつもりが丸一日以上経っていて、心配されたり怒られたり、色々と。
今はもう少し休んで、また仕事に出ます。新作の時期は明言出来ませんが、
お待ち下さる皆様のコメントは何よりの励みになります。
有り難う御座いました。

817名無しさん:2015/11/22(日) 22:20:02 ID:q/7ujS92O
藍さんお疲れですね。爆睡できて良かったです。
年末年始は特に忙しいと思います。お体にお気をつけて下さい。

818名無しさん:2015/11/22(日) 23:27:40 ID:HyehISCI0
藍さん,ご健勝をお祈り致します。
次の物語を楽しみに待っています。

819名無しさん:2015/11/24(火) 01:36:48 ID:Y/JSHITA0
知人さんのサポート、頑張って

820名無しさん:2015/11/24(火) 11:49:45 ID:srJPOBeY0
多分 このスレ見ている方々は 次作を急いで欲しいということではないと思いますので大丈夫かと思います。
良い物語をじっくり読むことができると信じてのんびりお待ちしています(^'^)

821 ◆iF1EyBLnoU:2015/11/24(火) 22:09:27 ID:kXF66t4A0
皆様今晩は、藍です。

暖かいコメント感謝致します。
充分お休みを頂きましたので、明日早朝から仕事に出ます。
また暫く留守、コメント返信等の失礼をお許し下さい。

『次作』について情報を得ましたら、留守番の者を通してお知らせ致します。
それでは皆様ご機嫌よう。 きっと何時か、また此処で。

822名無しさん:2015/11/27(金) 09:06:19 ID:brOEnfkYO
お知らせありがとうございます。
楽しみにしてます(^o^)/お仕事お気をつけて下さい。

823名無しさん:2015/12/11(金) 01:45:36 ID:dU3dWWfMO
д`)

824名無しさん:2015/12/16(水) 20:12:59 ID:3j4Nbj2sO
皆さん、オワコン社長さんを夜露死苦!!パズドラ動画いっぱいあるよ!男子も女子もバンバン見ってねー☆☆
http://m.youtube.com/channel/UCbc7XPBjep5i25QRnO0J5-A/videos?itct=CAAQhGciEwi3pKr6tN3JAhVMFlgKHYP-DQk%3D&hl=ja&gl=JP&client=mv-google

http://m.youtube.com/channel/UCkM7vL3osDR15f_jtlq94UQ/videos?itct=CAAQhGciEwi85dGItd3JAhWDe1gKHXlZCpc%3D&hl=ja&gl=JP&client=mv-google

825 ◆iF1EyBLnoU:2015/12/20(日) 20:47:10 ID:G5LmntdE0
皆様今晩は、お久しぶりです。藍です。

本日戻りました。良いお土産と悪いお土産があります。
良いお土産は2つ、新しいお話の作業が始まったこと。
悪いお土産はその2つとも完成・投稿の目処が未だ不明なこと。

早く仕上がる方を年内に投稿出来るよう、知人と相談中です。
頼りないお話ですが、楽しみにして下さる皆様に取り敢えずお知らせまで。
どうかもう暫く、気長にお待ち下さい。


追伸

近々投稿出来るとしたら、『聖夜』の中で記述のあった
『危険ではないが滅茶苦茶ややこしくて、どちらかというと救いの無い仕事』
に関わるお話です。榊さんと恵子ちゃんを引き合わせる直前のお話ですね。
Rさん単独でのお仕事。私自身、投稿出来る日がとても楽しみです。

826名無しさん:2015/12/21(月) 01:03:00 ID:mfROaJkQ0
原案はR氏の日記のような物があるのだろうか?
でないとしたら知人さんは結構行動を共にすることがあるのかもしれないな

827名無しさん:2015/12/21(月) 06:44:41 ID:kQBpo262O
知人さん=Rさん
という設定でいいのでは(笑)
違っていても、違和感ないし…

828名無しさん:2015/12/22(火) 00:53:03 ID:bZ2.eegA0
最初の通り取材と言う形式なら、密度が濃すぎてストーカー(笑)の様でもあり、とても仕事にならないと推論

829名無しさん:2015/12/23(水) 13:37:28 ID:PKPa1xqYO
楽しみ楽しみ

830 ◆06C70Y0X62:2015/12/28(月) 22:58:12 ID:0J.09yVw0
申し訳ありません。確認させてください。

831 ◆iF1EyBLnoU:2015/12/28(月) 23:50:19 ID:0J.09yVw0
再チャレンジ、これでどうか。

832 ◆iF1EyBLnoU:2015/12/29(火) 00:02:11 ID:kcZCIbZc0
皆様今晩は、藍です。

25日の投稿を目指して作業中にPCが壊れました。
PC本体だけでなく、復元用の記録部品も同時に壊れていたようで、
「こんなの、まるで呪いだよ。どうにもならない。」と言われてしまいました。
本日新しいPCを買ってきてもらったので取り敢えず復活です。

ただ、作業中の文書も消失してしまったので年内の投稿は微妙。
お年玉企画として投稿できれば御の字かもしれません。
(本当はクリスマスと絡めて投稿したかったのですが)

次作・掌編は、『異教徒』です。 どうかもう暫くお待ち下さい。

833名無しさん:2015/12/29(火) 04:12:17 ID:1PZRBfCw0
異教徒か・・・
ホアカリニギハヤヒ(徐福=物部)、ヒボコ、八咫烏、阿部
対になるのはオキナガタラシ、藤原であろうか?向、神門はどちらにせよ異教徒にはなり得ない。

834名無しさん:2015/12/29(火) 16:18:45 ID:GhvR.3KkO
新しいお話、楽しみにしています。ありがとうございます(^o^)/

835名無しさん:2016/01/04(月) 02:27:00 ID:5R06zDbw0
復元用の記録部品って何?
USBなどの外部メディアじゃなくて?
大切なデータのバックアップは外部HDD、BDディスク、USBなどに速攻でコピーしてるわ
それも定期的に更新しないと、今のメディアはすぐ消えるからなあ
数年前にDVDにバックアップした何割かは消えてたわ

836名無しさん:2016/01/04(月) 21:43:34 ID:TQ7rKrJM0
他山の石と思い、見ている人はバックアップとりましょう。こういうのは必ず続く。

837留守番:2016/01/04(月) 23:09:49 ID:6zhOcCEE0
 内蔵の復元専用HDDと外部USB接続のHDDも同時に壊れて
復元が出来ませんでした(デスクトップの背景は未だ不満があるようです)。
昨夜急に出かけましたが、「すぐに帰る。」と言っていたので、
投稿の準備はかなり進んでいると期待しています。

838名無しさん:2016/01/05(火) 10:40:21 ID:lxPHam8IO
お知らせありがとうございます(^o^)/電化製品系のトラブルはなかなか厄介で大変ですね。
納得のいく背景ができますように

839名無しさん:2016/01/05(火) 17:39:31 ID:hYtx5H360
HDDはいきなり壊れるからな
テキスト何だからUSBにもこまめにバックアップした方がいい
ミラーリングするフリーソフト使うとか。

840 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 00:30:39 ID:hNLskE2c0
皆様今晩は、藍です。

次作の掌編の公開に障害となりそうな事件が起きたため、
公開すべきかどうか再度話し合いがありました。
特に書き直しの指示も無く公開が決まりましたが、
あくまで架空の物語としてお楽しみ下さるよう、予めお願いしておきます。
これから最終チェック。知人の確認を経て、明日の夜投稿予定。
新しいPCはとても調子が良いので作業が進みそうで楽しみです。

では明晩。ごきげんよう。

841名無しさん:2016/01/06(水) 09:56:30 ID:dkiwtePwO
わーい(^O^)/~~楽しみです

842 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:30:44 ID:hNLskE2c0
テスト中です。

843 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:38:39 ID:hNLskE2c0
皆様今晩は、藍です。投稿の準備が整いました。

決して特定の宗教を誹謗中傷する意図は有りません。
海外の情勢等に関係なく、きっと皆様はこの作品を
一つの物語として楽しんで貰えると信じています。

では以下『異教徒』、ゆる〜い気持ちで、お楽しみ下さい。

844 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:39:58 ID:hNLskE2c0
 『異教徒』

 「申し訳有りません。折角来て頂いたのに、今日も義父は何も...」

 未だ二十歳を過ぎたばかりと見えるその人は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「『上』から指示された仕事ですからそれは構いません、ただ。」
そう、完全に拒絶されたのでは、俺に出来ることは無い。恐らくSさんにも、姫にも。
「お義父様の体に寄生した妖の様子から見て、ほとんど時間が無いんです。
年内にあと一度、多分それが最後のチャンス。その日付は、お義父様に。
それでも駄目なら、『上』に話をして手を引く以外に有りません。」
「...はい。」

845 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:40:58 ID:hNLskE2c0
 悲しそうに目を伏せたその人を見ると、何だか俺が悪い事をしているような気になる。
俺と同じ家系、『分家』の出。修行中、ある男性に見初められ相思相愛となり、
数々の困難を乗り越えて、その男性の嫁としてこの家に迎えられた女性。
その縁があったからこそ、この依頼を『上』が受理したのだし、俺を名指しで。
だが、これは初めから気乗りしない仕事だった。
依頼者の義父とは未だ一言も話すことが出来ていない。
依頼の対象であるその老人は、俺を異教徒として拒絶しているからだ。
自分の信仰に反し、怪しげな呪術に頼って生きるつもりはない。それが沈黙の意味。
これでは俺の言霊も力を発揮できない。
異教徒とも話が出来ると期待して、『上』は言霊使いを、つまり俺を指名した訳だが、
これほど頑なに拒絶されるとは予想もしていなかっただろう。

846 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:42:09 ID:hNLskE2c0
 「ホントに、手を引く以外になさそうですか?」
藍を抱いた姫の、心配そうな笑顔。 翠はSさんの寝室。
どういう組み合わせで寝るのか、毎晩一悶着起こる。今夜はこの状態に落ち着いた。
「昨日、一日がかりで車を走らせたのも、この依頼を完遂するためです。
準備は完璧だと思っていますし、最後まで、出来るだけの事はするつもりですが、
正直今回は自信がありません。
依頼の『対象』は、異教徒である僕に対して、とても頑なに心を閉ざしています。
あれでは『言霊』の響きも力を失うでしょう。」
その老人は一代で財をなした大変な資産家。
成功した後は慈善事業に力を尽くしてきたと聞いた。数年前、引退してからは特に熱心に。

847 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:43:50 ID:hNLskE2c0
 「その人の心の闇に寄生している妖は大した力を持っていないけれど、
心の闇が『不幸の輪廻』に繋がっているから難しいって事ですよね?」
「はい。その妖を祓えば『通い路』が開いて、もっと強大な悪霊が現れます。」
人の心の闇が濃度を増すと、そこに妖が寄生することがある。
当然、心の闇はやがて『不幸の輪廻』と繋がり、妖は次第に力を増す。
しかし通路が拡がりすぎれば、宿主の魂とともに
寄生していた妖も『不幸の輪廻』に呑み込まれる可能性がある。
だから寄生した妖は、通路を閉じないように拡げすぎないように宿主の心を操る。
『不幸の輪廻』に呑み込まれることなく、しかしそこから最大の力を得られるように。
そのために宿主を護ったり、その願いを叶えたりすることもあると聞いた。
寄生した妖と宿主の、奇妙な調和。おそらくそれが、この件の発端。
「でも、あの短剣があれば特に問題は。」

848 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:44:58 ID:hNLskE2c0
 確かに、あの短剣を使えば開いた通路を閉じて悪霊を押し戻すことも出来るだろう。だが。
「そうなんですけど、それでは、その人の心の有り様を変えることは出来ません。
もし、異教の術で助かったと知ったら、その人の心は支えを失ってしまうかも。
高齢だし、体も弱ってる。長年の信心、その根拠を失ったら、多分これからの人生は。」
「『出来るだけの事』ですか...やはりこれは、Rさんのお仕事なんですね。」
姫は優しい微笑を浮かべた。

 事態が一気に動いたのは3日後、『聖夜』。

849 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:46:23 ID:hNLskE2c0
 「瞳さん、外して下さい。」 「御父様、でも。」
「この人と二人だけで話したい。だから、お願いします。」
「はい。」 女性が部屋を出ると、その老人は一つ深呼吸をした。
「Rさん、でしたな。聡い人のようだから、私の言いたいことはお判りでしょう。
もう、これで最後にして下さい。義娘やあなたの気持ちはわかりますが、
異教の、それも妖しげな呪術に頼ってまで、生き延びるつもりはありませんから。」
やっと、口を開いてくれた。結果はどうあれ、これで言霊を使える。できるだけ単純に、簡潔に。
『御自身の心の闇に呑まれるのが、貴方の望みなのですか?』
数秒、言霊が届くと信じて返答を待つ。
「私自身の、心の闇?」 その老人の眼が光りを増した。
「自らの信仰に疑問を持つ、それを『心の闇』以外の言葉で言い表す事は出来ません。」
「...」
「ずっとお話をさせて頂けなかったので、その間に色々と調べさせてもらいました。」
「何をどう調べても、私自身がそれを話していないのなら、判るはずがない。一体何故?」

850 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:47:54 ID:hNLskE2c0
 「いいえ。術を使わずとも、予想するのは難しくありませんでした。
プロファイラーやセラピストでも、きっと同じ結論に達したでしょう。
貴方は世界の恵まれぬ子供たちを救う事業に力を尽くしてきた。
それならば遅かれ早かれ、『そういう子供たちを生み出すものが何なのか』そう、考えた筈。
『だれかがあなたの右の頬を打つなら』
異教徒の私でも、その例え話を知っています。しかし、その宗教を国是とする国々が、
例外なく自衛のための先制攻撃を認めているのは何故でしょう?
それらの国々が生産した兵器が、多くの子供たちを不幸にしているのは何故でしょう?」
「私は今、人を惑わす悪魔と話しているのか。」
「本当にそう思われるなら、どうぞ、一言『立ち去れ』と。
ただ私は、この国で生まれ育った貴方と私の感覚の根は同じで、
だからこそ貴方と私の心に同じ『違和感』が生じたのだと信じます。
その『違和感』が貴方の心に影を作り、その影は次第に濃度を増して闇となった。
そして、その闇に妖、つまり妖怪が入り込んだ。それが貴方の病の原因です。」

851 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:50:56 ID:hNLskE2c0
 「馬鹿げてる。妖怪なんて。」
「どんな医者にも、その病の原因は分からなかった。
既にご承知の通り、貴方の義娘さんは私と同じ一族の出身で、術の心得も有ります。
だから貴方の体に寄生している妖怪に気付いて、ある組織に依頼したんです。
貴方の寛容さは義娘さんを拒まず、むしろ大切にしておられる。なら、私の言うことも。」

 「どうやら私は、本物の悪魔と話しているらしい。だが、私は。」
ここが、勝負所。勿体をつけて十分に間を取り、挑戦的な笑顔を作る。
「そう、これは貴方にとって、またとないチャンスではありませんか?」
「チャンス?」 俺はポケットの中から琥珀の指輪を取り出した。
Sさんに作ってもらった代。強力な式を封じてある。
この依頼の対象は、異教徒である俺に心を許さない老人。
当然その手に触れることは難しいだろうと予測して、非接触系の術を選んだ。
老人に向けて、ゆっくりと掌を開く。
「この指輪を見つめて『現世の者は現世に、異界の者は異界に。』と。
それだけです。取り敢えずそれで貴方の体を蝕む病の原因を取り除けます。」
「そんなこと。」 「私が異教の悪魔で、貴方の信仰が確かなら何の問題も有りませんよね?」
「一体、あなたは何を?」

852 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:52:15 ID:hNLskE2c0
 「こんなもので貴方の体が癒える筈がない。それで、証明できます。
私は悪魔で、貴方の信仰こそ正義。堂々と私をこの家から追い払えるし、もう二度と。
そう『神の子』が聖地から偽の預言者たちや呪い師たちを追い払ったように。そうでしょう?」
この台詞を編むために、相当な時間をかけて『聖典』を調べた。
とんでもなく面倒で、その割に実りは少なく、救いの無い時間。
「どう、しますか?」 「やって、みましょう。私の、信仰を証明するために」
それは俺の努力がもたらした、極く僅かな救いだったかもしれない。
作りものでは無い微笑が、自分の顔に浮かぶのを感じる。
「では、この指輪を見つめて。私の言葉の後に。」

853 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:54:14 ID:hNLskE2c0
 「現世の者は現世に、異界の者は異界に。」

 その老人の言葉が終わると同時に、式の封印が解けたのを感じた。
「まさか、痛みが消えた。どうして?」
その老人の体に寄生している妖を祓う。これは大した仕事ではない。問題はこの後だ。
あの短剣は持参したアタッシュケースの中。前もって取り出しておくことも出来たが、
助力をお願いした以上、聞き届けて頂けると信じて証を立てなければ。
部屋の空気が低く、大きく震えた。不吉な、禍々しい気配。
一番大きな窓を覆ったレースのカーテンが大きく揺れ、その前に湧き出る黒い霧。
来る。『不幸の輪廻』へ繋がった通路を通って。予想通り、俺の術では対処出来ない悪霊。

 微かに、鈴を振るような音が響いた。直後、俺の目前に浮かぶ光。
ピンポン球程の大きさ。強い光を放った後、ゆっくりと舞い降りて、床の上で光り続ける。
次々と現れ、白銀の光を...そうか、これは『原型』だ。Sさんの使う、あの奥義の。
その証拠に、その光が数を増すにつれ、黒い霧は濃度を増すどころか、
むしろ力を失いつつあるように見える。
俺の願いは、聞き届けられた。良かった。思わず足から力が抜け、床に両膝をつく。

854 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:56:21 ID:hNLskE2c0
 『何故、帯剣していない?それを、私が咎めるとでも思ったか?』

 耳元で、いや、耳の奥深くで涼しい声が響いた。
咎められるなどとは一瞬も、しかし、お願いをしたからには証を。

 『証は要らない。それよりも万一に備え、その身の安全に心を配れ。
今回は特別。願いを叶える機会は、むしろ少ない。
もし御前の身に何かあれば、いくら悔やんでも間に合わないのだから。』

855 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:57:33 ID:hNLskE2c0
 俺の前、2m程先。姿を現しつつある悪霊と俺の丁度真ん中に女性が立っていた。
水色のパーカー、紺のジーンズ。見覚えのある後ろ姿。
そう、あの御方だ。 降りしきる雪のような、無数の白い光。 その中に佇む美しい御姿。
両膝をついたまま、深く頭を下げた。

 「愚かな...折角の信心が心の闇を増幅し、
終にはこんなモノまで呼び出す『通い路』を作ってしまうとは。」

 突然現れた御姿。その御方が人間でないことは直感で理解できた筈。

856 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:00:12 ID:hNLskE2c0
 「これが、あなたの言う異教の悪魔、なのか。」
その御方は振り返り、その老人に視線を移した。微かな笑み。
「私を、悪魔と...発した言葉は、どれ程後悔しても取り消すことは出来ないのに。」
その御方はパーカーのフードを脱ぎ、軽く束ねた長い髪を背中に垂らした。
その御方の全身を仄白い光がゆらゆらと包む。 そして何よりその両肩から天井へ。
「燃える、身体...光り輝く、6枚の翼。まさか、Seraph」
「お前達がそう呼ぶ者は私と同種の存在。」 小さな笑い声。
「つまり私が悪魔なら、お前は悪魔崇拝者と言う訳だ。」
古来から、仏像の光背や宗教画の光り輝く翼として表現されてきた『後光』。
両肩から3方向に枝分かれしたそれは、確かに6枚の翼のようにも見えた。

857 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:02:28 ID:hNLskE2c0
 『主は聖なる傷跡を示して言われた。
「おまえは見たから信じるのか。見ないのに信じる者たち、彼らは幸いである。」
その職にあるなら、当然諳んじているのだろう?』
「ヨハネによる福音書、第20章29節。何故、その御言葉を...悪魔では、ないのか?」
『不思議だが、異教徒は力を持つ者ほど、信じる根拠を、理由を欲しがると聞く。
この国に生きる人間は、己が生きていることだけで、私たちの力を信じてきたのに。』
そうだ、俺がSさんや姫を信じるのに根拠など要らない。もちろん当主様も、桃花の方様も。
会えたから信じたのではない。きっと、信じていたから会えた。
Sさんと姫に出会う前、俺は自分が生きている意味を理解出来なかった。
世界はまるでTV画面の向こうに広がっているように空虚で、
過ぎていく時と次々に起こる出来事は、いつもどこか他人事だった
でも俺はじっとTVの画面を見つめ続けた。そうしていれば、何時か、
こんな俺にも生きている理由があると、その理由が分かると信じていたから。

858 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:04:35 ID:hNLskE2c0
 「いや、悪魔は天使にすら擬態する。悪魔の王は堕天した天使の長だった。
それにこの国の神話においても、神と人の契約はありふれたものではないか。
信じるのに理由が必要なのはこの国の人間も同じ。」
『その通りだ。自分で言っていて気付かないのか?
お前にはお前の神との契約、異教徒には異教の神との契約があるのなら、
「唯一絶対の神」とは何だ?』
「それは...」
『唯一絶対であるが故に、異教徒の、当然同胞の偶像崇拝を認めない。
しかしお前の傍らにあるその書物は、お前の首にかかるその印は、お前の崇拝の対象。
しかし、それは神の姿そのものではない。つまり、偶像。』
「違う!偶像とは、例えば木像に金箔を貼った」

 ごう、と風の鳴る音を聞いた。続いて部屋のあちこちで倒れたり落ちたりするものの音を。
寒い。昔風の暖炉に似せたストーブはそのままなのに、部屋の中に満たす冷ややかな空気。
「お義父様!」 ドアの向こう、気配が駆け寄るより早く、ドアの鍵が掛かった。

859 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:06:40 ID:hNLskE2c0
 『古来、この国に生きる人々は世界のありとあらゆるものの中に高次の力を感知して
畏怖の対象とした。希な豊作や豊漁だけで無く、多くの犠牲を伴う天災にも。
時には人知れず咲く花や路傍の小さな石ころの中にさえ。
もちろん人々が関知した高次の力を擬人化した像も数知れず造られた。
しかし、森羅万象の『全て』が畏怖と崇拝の対象になるのなら、偶像など存在し得ない。』
その御方は、一瞬俺に視線を投げた。
『高次の力と人々の間を取り持つ者たちも存在するが、
それらの役割はあくまで道標。力を持たない者たちを光に導くだけ。
もし、自分の力を崇拝の対象にしようと望めば、それらも早晩自壊する。』

 突然、部屋に舞い続ける白銀の光が数と輝きを増した。その御方の、微笑。
『無駄だ。既に退路は断った。この部屋からは出られない。』
そう言えば、今にも圧倒的な質量を伴って物質化するかに思われた悪霊は。
『この傷跡を刻んだ鏃、それを作ったモノたちを唆した首謀者。』
その御方の姿はゆらりと薄れ、人の形を失いつつあった。
『千載一遇、術者の適性が現出した奇跡。長居し過ぎたようだし、そろそろ』

860 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:09:41 ID:hNLskE2c0
 「私は、間違っていたのだろうか。」 その老人は体を起こし、ベッドに腰掛けていた。
瞳という名の女性は、老人の傍らに跪いてその両手を握っている。
深呼吸、最後まで、俺に出来る限りのことをする。それが受けた依頼の『契約』。
「私は、間違った『信仰』があるとは思いません。
とんでもない教義を掲げる邪教でもなければ、
どんな宗教にも、人々の魂を導く役割がある筈です。」
「しかし、先ほどの、あの御方は私を『愚か』だと。」
「愚直という言葉があるように、愚かさそれ自体は間違いではありません。
『見ないのに信じる幸いな者たち』も、見方によっては愚かでしょう。しかし間違いではない。
信仰が間違いを生むとすれば、自分の信仰を唯一の正義とし、
異教徒を排斥しようとする衝動に囚われた時です。例えば、魔女狩りのように。」

861 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:12:24 ID:hNLskE2c0
 「『違和感』。Rさん、あなたは先刻そう言いましたね?」 「はい、確かに。」
「正直に告白すれば、『違和感』、その通りです。
世界に不幸をもたらす争いの根底に宗教対立があると、それを思い知る度に疑念が生じた。
私が信じているのは、本当に唯一無二の絶対神なのか。
異教徒は本当に、邪神に惑わされた罪人なのか。
でも私が関わってきた異教徒の子供たちの眼は...」
その老人の心が大きく揺れ動いている。それこそ自我の維持すら危うくなるほどに。
今なら、持続性の後催眠暗示も簡単。だが、それは決して『救い』ではない。
俺に出来ることは全てやった。願いは叶えられ、あの御方の助力を得る事も出来た。
しかし、この老人が自ら乗り越えなければ、また同じ事が繰り返される。
暗示がもたらす偽の幸福の彼方にあるものは、きっと魂の破滅。

862 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:24:09 ID:hNLskE2c0
 「依頼された仕事、私に出来る事は全てやりました。
これからは貴方自身の問題です。幸い、貴方の傍には義娘さんがおられる。
沢山、話をして下さい。きっと得られるものがあるでしょう。
ゆっくりと時間をかけて、より良い答えを見つけられるように、祈っています。」

 面倒でややこしくて、時間がかかり、どちらかというと救いの無い仕事。
しかし、その場で答えの出る仕事ばかりではない。それは重々承知している。
屋敷の門を出た。寒い。時計を見る。 予想はしていたが、どうやら遅刻だ。
今夜は『聖夜』。○△ホテルでチーム榊の忘年会、今頃、姫とSさんは翠と藍を連れて、もう。
きっと幹線道路は渋滞している。どうせ遅刻なら、バスやタクシーより、近道を歩こう。
そして○△ホテルについたら屈託無く笑えるように、心の整理をしよう。
肩に白いものが舞い降りて、消えた。 積もる事は無いだろうが、きっと聖夜にふさわしい。
賑やかな雑踏を抜け、川沿いの裏道に向かう。
吐く息が白い。頬を刺すような冷たい風が、不思議に気持ち良かった。


『異教徒』 完

863 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:31:28 ID:hNLskE2c0
皆様今晩は。再び藍です。

日付の変わらぬ内に『異教徒』の投稿を終える事が出来ました。
お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。

それぞれが信じる宗教を互いに尊重し、生きる事が出来たら良いですね。
この作品は公開されないと思っていたので少々複雑な気持ちです。
では、また。 きっと何時か此所で。 ご機嫌良う。

864名無しさん:2016/01/07(木) 04:42:27 ID:pPryZLNMO
藍さん、PCが壊れたり大変だったのに投稿ありがとうございます。とても面白かったです。
道具や手法に善悪はなく、それらを使う人の心が善悪の色付けをするんでしょうね。

865名無しさん:2016/01/07(木) 08:12:22 ID:0WnhUte.0
藍さんお疲れ様でした。
いつもありがとうございます。

今回の作品、なんだか難しかった…
もう一度時間をおいて熟読します。

866 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/07(木) 20:57:36 ID:LQnv805k0
皆様今晩は。藍です。
微妙な題材なのに早速のコメントを頂き感謝致します。

>>864
〜それらを使う人の心が善悪の色付けをする〜
『曲解』を恐れずに投稿して、本当に良かったと思いました。
まさにそのお言葉は、知人の思いに添うものだと存じます。
有り難う御座いました。

>>865
折角お読み頂いたのに申し訳有りません。
宗教対立という微妙な題材のため、
投稿前に行った書き換え等の作業が作品を読み難くしてしまったのでしょう。
事情をお察し頂き、再度お読み頂ければ嬉しいのですが、
どうぞ無理はなさらないように。有り難う御座いました。

867名無しさん:2016/01/07(木) 22:18:05 ID:2c7pTgEA0
 並大抵ではない,非常に深いお話だと思います。
 それだけに,「曲解」や反発という形で,人の心の闇があらわれることもあるでしょうね。それを恐れずに投稿していただき,本当にありがとうございました。
 自分がなぜこの藍物語に惹かれるのかがわかりました。読み続けてきて本当によかったと思います。

868名無しさん:2016/01/07(木) 22:59:15 ID:2H/pir4I0
人は一度高まると、ぶれてはいけない存在になるという事か・・
日本の神様や精霊にも反転があるという事は興味深かった・・
求る先は同じとて、また分たれたのも一つの試練。
全ての物に感謝するって深くて難しいものだな。

869名無しさん:2016/01/08(金) 06:07:40 ID:EaQ4h7N6O
神話は遡れば繋がる気がするので自分では分けて考えてないです。
日本の昔話の「隣のいじわるな老夫婦」は隣国を暗示しているのではないかと仮定したスケールで見ると、桃太郎の鬼が荒らす都は米大陸で、鬼ヶ島は…。とか妄想。
観測者の文化圏で見え方や受け取り方が変わり、同じものを見ているのに「表現」が違うということで摩擦が起きてるんじゃないかという気がずっとしてます。
負も極まれば正となるはずなので、どちらでも良い気がしていたけれど、どちらでも良いにしては地球のダメージが酷すぎて、どちらでも良いわけではなかったのか?と悶々してます。
感想から脱線してごめんなさい!

871 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/10(日) 08:39:14 ID:p5..m6qM0
皆様お早う御座います。藍です。
引き続き『異教徒』へのコメントを頂き感謝いたします。

>>867
『自分がなぜこの藍物語に惹かれるのかがわかりました。』
投稿する立場からすれば、最高の賛辞を頂いたと感じます。
知人にも伝え、次作の準備を進めます。有り難う御座いました。

>>868
本当に深いコメント、私がどれだけ理解できているか分かりませんが、
この国の神様や精霊には常に『両面』があり、それ故、人に近しいのだと思います。
不謹慎の誹りを覚悟の上で言えば『不完全』なのかも知れません。

>>869
この地上に最初の人が生まれたとき、『国』は有りませんでした。
ですから『神話は遡れば繋がる』という感覚は、まさにその通りだと思います。
では一体何が、文化や宗教、見え方や受け取り方の違いを生んだのでしょう?
嬉しい『感想』、有り難う御座いました。

872名無しさん:2016/01/10(日) 11:51:47 ID:qZQ.4lA6O
869です
日本みたいな狭い国土でも方言がたくさんあるように、「場」が人に影響を与え、その「場」から特有の文化が形成されるように思っていましたが、
藍さんから頂いたコメントを読ませて頂き、「文化の違い」は「場の違い」だけではないのかな?と視野が広がりました。
ありがとうございます。
次作も楽しみにしています(^o^)/

873:2016/01/10(日) 14:16:01 ID:CdyoHDR.0
実話です
夜寝ようとして廊下を歩いていたら
ガラス越しに黒髪に白いワンピースの女性が
普通だったら恐怖ではありませんがその窓の下は
ごつごつした石が並んでいて
その女は頭を全く動かさずに歩いて行ったんです無い足で
その場所は雑木林があって昔たくさんの人が首を吊ったとか吊ってないとか

874名無しさん:2016/01/10(日) 23:45:30 ID:KDuQVKyY0
寄生する妖の目的は何だろう?
力をためた後はその体から出て行き次の段階に進むのか?
いわゆる成りすましとは違う感じがするな

875名無しさん:2016/01/30(土) 23:05:55 ID:OHyr6PIYO
д`)チラッ

876名無しさん:2016/02/02(火) 10:50:23 ID:oxmL/bfEO
エミシはシュメール語のエンシ(王)で陰陽師はその血筋
ずっと求めてきた答えは合ってますか…卒業したいです

877名無しさん:2016/02/03(水) 23:45:59 ID:tZxAa8M60
忌部も高加茂(神門)・下加茂(磯城)も元を正せば出雲に当たる。その考え方によると、阿部(大彦)は東北〜青森にも存在する。

878 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:31:41 ID:w2AYPIJ.0
テスト中です。

879 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:46:28 ID:w2AYPIJ.0
皆様今晩は、藍です。

突然ですが、次作の冒頭部を投稿致します。中々込み入った事情がありまして、
お話の全部が仕上がった後では、投稿の許可を頂けるかどうか分かりません。
知人と相談の上、少々強引な策を取ることに致しました。

完成してからではなく、作業の進捗状況をそのまま読んで頂く形になります。
これで、知人と私は『確信犯』・『共犯者』。
どうか気長に、生温く、もし投稿が途中終了した場合は事情をお察し下さい。

では以下『契』、お楽しみ頂ければ幸いです。

880『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:48:14 ID:w2AYPIJ.0
『契(上)』

 皆で午後のお茶を飲んだ後、俺は庭の落ち葉を掃き集めた。
やや力を失った陽光に、秋の気配を感じる。もうすぐ、紅葉と落葉の季節。
出来ればこまめに庭の手入れをするのが理想。しかし。

 翠、藍、丹。

 小さな子が3人もいればさすがに忙しい、どうしても庭の手入れは後回しになりがち。
もちろんSさんの式に手伝ってもらう事もできるが、出来ればそれは避けたかった。
珍しく子供達3人が揃って機嫌が良い。一種奇跡的な、穏やかな、ある日の午後の事。

881『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:51:44 ID:w2AYPIJ.0
 突然の違和感。胸騒ぎのような、嫌な予感のような。何だろう、これは?
庭の掃除をしながら突然感じた理由のない焦燥、掃除を切り上げて玄関へ急いだ。
「Rさん!」 玄関のドアを開けた姫は丹を抱いていた。緊張した顔。まさか子供達に何か?
「Rさん、お母様から電話が有りました。成る可く早く電話して欲しいって。」
違和感と胸騒ぎの原因はこれか...ケイタイのボタンを押す間がもどかしい。

 「犬のことで大げさだけど、御免ね。雪が、もう長くないみたい。
でも、お前にはあんなに懐いていたから、せめて知らせるだけでもと思って。」
雪は俺の実家で飼っている雌の秋田犬、今年で15歳になる。
今年の正月、家族揃って実家を訪れた時、老いて衰えた様子を心配したのだが。
覚悟していた時期が、かなり近いらしい。
「大げさって、雪は俺を...知らせてくれて本当にありがとう。今仕事はそんなに忙しくないし、
多分時間は作れる。様子を見に行けるようにみんなと相談してから、また電話するよ。」
「ありがとう、お願いね。」

882『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:55:07 ID:w2AYPIJ.0
 「雪ちゃん、もう長くないかもって、どんな様子なんですか?」
丹を抱いた姫は、とても心配そうだ。
「エサをほとんど食べないって言ってましたから...あと数日、ですかね。」
俺が子供の頃に貰われてきた雪は、まだほんの小さな子犬で、とても寂しがり屋だった。
夜、勝手口の三和土で心細そうに鳴き続ける雪が可哀相で、
枕と毛布を持っていって勝手口で一緒に寝たことが何日もあった。
それからの色々な思い出が一気に蘇り、胸が詰まる。
「今急ぎの仕事はないし、一週間くらいなら何とでもなる。
家の事は私とLに任せて行ってらっしゃい。大事な、家族なんでしょ?」
「有り難う御座います。取り敢えず3日間の予定で行って来ます。その後は様子を見て。」
「みどりもいっしょに行く。お父さん、つれていって。」
ソファの上で翠が上体を起こしていた。さっきまで、藍の隣でぐっすり寝ていたのに。
「みどりも、ゆきちゃんに会いたい。」

883『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:56:58 ID:w2AYPIJ.0
 正月、翠はすぐに雪と仲良くなった。撫でてやったり、狭い庭を一緒にゆっくりと散歩したり。
雪も翠に良く懐き、お屋敷に戻る時には翠の後を付いてきて、俺たちの車を見送っていた。
話を聞かれてしまった以上、翠をお屋敷に残して出掛けるのは難しい。
Sさんは微笑んでソファに歩み寄り、翠を抱き上げた。

 「遊びに行くんじゃなくてお見舞いよ。御祖父様と御祖母様の御迷惑にならないように、
お父さんの言う事をちゃんと聞けるって、約束出来る?」
「うん、約束する。」
「お父さん、翠も一緒に連れて行って。お願い。ほら、翠も。」 「おねがい、します。」
父と母は翠を猫可愛がりだから問題は無いだろう。
それに翠がいれば、もし『その時』が来ても皆の気が紛れるかも知れない。父母も、勿論俺も。
「分かった。今夜準備して明日の朝早く出発するから、早起きしてね。」
「うん、早起きする。」 真剣な表情。思わず小さな肩を抱き締めた。

884『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:58:39 ID:w2AYPIJ.0
 翌朝、少し早起きをして軽い朝食を食べた。翠もしっかり起きている。
実家までは車で約半日。7時にお屋敷を出れば、昼過ぎには到着出来る筈。
Sさんが作ってくれたサンドイッチを持って、予定通り7時丁度に出発した。
途中で一度サンドイッチ休憩を挟み、実家に着いたのは1時半過ぎ。
車の音を聞きつけて母が玄関から顔を出した。翠が母に駆け寄る。
母は微笑んで翠を抱き上げた。
「いらっしゃい、翠ちゃん。雪のお見舞いに来てくれて、有難うね。」
「おばあさま、ゆきちゃんは?だいじょうぶ?」
「今、寝てるけど。やっぱりエサを食べなくて...。」 「そうなの。心配、だね。」
トランクから荷物を降ろし、2人に続いて玄関のドアをくぐる。
車はあとで移動するとして、取り敢えず雪の様子を。廊下から台所の勝手口に急ぐ。
...三和土にぐったりと横たわる雪の体。目を閉じて、寝ているようだ。
想像以上に痩せた姿に、言葉が出ない。これではあと数日どころか、今日明日も。
寝ているのを起こすのは可哀相なので、そっと居間へ移動した。
「今の内に車を移動してくるよ。いつもの所でしょ?」 「そう。今朝電話しておいたから。」

885『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:59:57 ID:w2AYPIJ.0
 馴染みの有料駐車場に車を移動して戻ってくると、雪は起きていた。
勝手口の床に頭をもたせかけ、翠が頭を撫でている。俺もそっと背中を撫でた。
雪は俺と翠の顔を交代で見つめていたが、暫くすると安心したのか、また寝てしまった。
「お医者さんは『老衰だから治療は出来ない。』って。
頭はしっかりしてるみたいだし、朝と夕方は自分でトイレに行って、水も、飲むんだけど。」
母はハンカチで目尻を押さえた。
「どこか痛がったり呼吸が苦しそうなら可哀相だし、こっちも辛い。
でも、そんなんじゃないから少し気が楽だね。でも、あの様子だと今夜を乗り切れるかどうか。」
「夜はみどりがゆきちゃんのおうえんするから大丈夫。」
「応援?」 「そう、ここでいっしょにねるの。ゆきちゃんも、みどりといっしょにいたいって。」
母は泣き笑いのような表情を浮かべた。
「お父さんもね、此処に寝て雪を応援したことがあるの。今度は翠ちゃんも、お願いね。」

886『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 23:01:23 ID:w2AYPIJ.0
 夕方6時前、母の言葉通り雪はふらふらと立ち上がった。
勝手口のドアに頭を擦りつけた後、俺たちの顔を見つめる。
見慣れた、『外へ出たい』という意思表示。翠を連れ、庭から勝手口へ廻った。
外からドアを開けると、雪は少しよろめきながらドアをくぐり、ゆっくりと歩き出す。
元気な時は外階段を上った屋上がトイレの場所だったが、もう階段は上れないと聞いていた。
庭の外れでオシッコをしたあと、自分用の水桶へ向かう。
専用の水桶に新しい水を入れると、少し多めに水を飲んだ。
その後暫く庭の方を見つめていたが、勝手口へ歩き出そうとしてよろめいた。力無く座り込む。
俺が手を出すより早く、翠がしゃがんで雪の頭を撫でた。
「大丈夫だよ、ゆきちゃん。ここで少し休んで、それからかえろう。
みどりが、ずっと一緒にいる。大丈夫だよ。おうえんも、たのむから。ね。」
まるで頷くように俯いた後、雪は暫く目を閉じた。

887『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 23:03:57 ID:w2AYPIJ.0
 「オシッコの量は普通、かな。でも、戻る途中でよろけて。体力がかなり消耗してる。」
「何か食べてくれたら良いのにね。一応エサは用意するけど。」
7時前に父が帰って来ると雪は目を開け、小さく尻尾を振った。しかしエサは食べず、
俺たちが夕食を食べている間も、目を閉じて三和土に横たわっていた。
三和土からじっと母を見つめる『ご飯頂戴』アピールはあんなに必死で可愛かったのに。
翠と母がお風呂に入っている間、俺は台所のテーブルと椅子を移動して布団を敷いた。
雪はじっと横になったままでピクリとも動かない。何度も呼吸を確かめる程だった。
翠が布団に入ったのは9時前。
『今夜はずっとおうえんしてるからね。』と声を掛けた後、10分もしないうちに寝息が聞こえた。
母は洗い物を終えて明日の準備をしている。俺は冷蔵庫から缶ビールを2本取り出した。
ナイトゲームの実況が、居間から微かに聞こえて来る。

888『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 23:06:12 ID:w2AYPIJ.0
 「何だ、巨●、負けてるじゃない。」
缶ビールを一本父の前に置き、もう一本のプルタブを開ける。
父は薄く笑った。「まあ見てろ、次の回に逆転する。△伸が、打つからな。」
表情と声がいつもより控えめなのは、やはり雪のことが気に掛かっているからだろう。
父の斜め向かい、一人がけのソファに腰を下ろした。缶ビールを半分程、一気に飲む。
「で、どうだ?何か、分かったか?」 「何かって、何?」
「雪の寿命とか、延命の方法とか。色々あるだろ。お前は陰陽師、なんだから。」
「人の寿命も分からないのに犬の寿命が分かる訳ないよ。
それに医者も老衰で手の打ちようが無いって言ってるんだから、延命なんて無理。」
父は俺の眼をじっと見つめた。TVの明るいCMソングは、場違いなBGM。
「それは、Sさんでも、Lさんでも同じか?」
「死期が予測できるのは特別な場合だけ。雪の正確な寿命は、多分2人にも予測出来ない。
それより今夜を乗り切れるかどうかが心配な位なんだけど。」
「そうだな。」 父は中継が再開された画面に視線を移した。
ポツリと呟く。 「もう15歳。仕方、ないか。」 寂しそうな、横顔。
雪の死、その実感がじわりと胸にのしかかってくる。

889『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 23:09:47 ID:w2AYPIJ.0
 「あ、でも、今夜は多分大丈夫だよ。」 「何故分かる?」
「翠がそう言ってたからね。あの子が鋭いのは特別だから、信じても良いと思う。」
半分は親父への、残り半分は俺自身への、気休め。
「そう願いたいな。今夜を乗り切ってくれたら、明日と明後日は俺も一日家にいられるし。」
沈黙。静かな居間に、歯切れの良い実況だけが小さく響いている。
突然、鋭い打球音が響いた。興奮したアナウンサーが叫ぶ。
「ほら。言った通りだろ?」
いつもなら派手なガッツポーズが出る場面だが、父は微笑んだだけだった。
空き缶を持って台所へ戻ると、母が翠の枕元に座り雪の頭を撫でていた。
「この頃、あんまり寝てないでしょ?今夜は翠と俺に任せてゆっくり寝てよ。」
いくら雪が俺に懐いていて、父には絶対服従だとしても、
一番長い時間を雪と共有したのは母だ。今の雪の姿を見て一番辛いのも母だろう。
「そうだね。そうさせて、もらおうかな。」 母は手を洗い、そっと翠の頬を撫でた。
「お休み。雪のこと、お願いね。」 「うん、お休みなさい。」
寝室に向かう母を見送った後、缶ビールをもう一本飲んだ。
やはり落ち着かないが、翠の言葉通り今夜を乗り切れば、『その時』は多分明日。
今は体を休めておいた方が良い。翠の隣、布団に入ったのは10時半を過ぎていた。
半日運転した疲れとビールの酔いのせいか、俺はすぐに眠りに落ちた。

890 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 23:15:02 ID:w2AYPIJ.0
皆様今晩は。再び、藍です。

今夜は此所まで。
お付き合い頂いた方々に心からの感謝を。
続きを投稿できる時期も、そもそも投稿ができるかどうかも分かりませんが、
気長にお待ち頂ければ幸いです。有り難う御座いました。

891名無しさん:2016/02/09(火) 00:44:30 ID:Eg5vyTH60
ああ、もう続きが気になって仕方がありませんよ(チラッ)
もう眠れそうにありませんよ(チラッ)

892名無しさん:2016/02/09(火) 02:04:58 ID:xvMf8f.EO
(;´д`)き、来てた!
覗いた私はラッキー〜

しかし…


この切り方は…

893名無しさん:2016/02/09(火) 05:43:33 ID:HdRzDYFg0
契、だから、雪が死んで、翠の使い魔?にでもなるのかな?
つづきが気になる。

894名無しさん:2016/02/09(火) 18:28:27 ID:MdLtaSwUO
大切な飼い犬の死に際に会いに行ける仕組みのあったことも凄いですが、Rさんのご家庭の温かさも凄いです。
投稿ありがとうございました。

895 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/09(火) 20:32:06 ID:KLqQfkWY0
皆様今晩は、藍です。

確信犯とはいえ、知人も私も出来れば円満な投稿を望む立場。
今夜中に禁止の通達がなければ、『契(上)』と『契(中)』までは
明晩以降、問題なく投稿できると思います(あとは私の作業次第ですね)。
藪蛇を避けるため、今回は投稿終了まで個別の返信は控えさせて頂きます。

では、明晩、此所でお合いできることを楽しみに。ご機嫌良う。

896名無しさん:2016/02/09(火) 22:58:03 ID:Eg5vyTH60
・・昨年はSさんと知人さんの文章表現には皆してやられましたね。
  ちょい悪のイメージが何と一目惚れに近かったとわ。
  これからもビックリ展開を希望いたしますね。

897名無しさん:2016/02/10(水) 08:56:46 ID:2jvkazs.0
去年12年一緒に暮らしたワンコ看取ったから
真面目に涙が出ちゃったよ。
序章でこんななら、本編はどうなっちゃうんだろう…

898 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:23:47 ID:C/Dvoyfo0
テスト中です。

899 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:31:52 ID:C/Dvoyfo0
皆様今晩は、藍です。

『契(上)』後半を投稿いたします。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

900『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:33:40 ID:C/Dvoyfo0
 全身に感じる、風の圧力。 体に粘り着く空気を力尽くで切り裂く。
これは、夢? はるか空の高みから見下ろす夜景が凄い勢いで後方へ流れ去っていく。
『もう目的地は目の前。一刻も早く姫君の下へ。』
その時、少し前方の夜景の中に徴が見えた。 『あれだ。』
気配を消しつつ、徴を目掛けて急降下。 夜景がどんどん大きくなる。
四角い屋根の縁に向けて着陸体勢。注意深く、速度を殺す。
梟や木菟たちとは違うし、翼の細かな制御は不得手。
抑え損ねた風が、庭の木々を揺らす音を聞いた。

901『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:34:56 ID:C/Dvoyfo0
 「お父さん。お父さん、おきて。外に、何かいる。」
...翠の声、これも夢? いや、違う。慌てて上体を起こした。
翠は布団から出て勝手口の三和土に足を下ろし、庇うように雪の背中を擦った。
ドアの向こう。憎悪に満ちた、低い唸り声。 全身が総毛立つ。 これは、何だ?
深呼吸、感覚を最大限に拡張する。激流のように流れ込む、激しい感情と映像。

 地面すれすれの視点。目の前に数頭の犬。その背後から此方を見下ろす男。
耐えがたい痛み、断末魔の苦しみ。 犬たちと男に対する激しい憎悪。
...狩りの情景?
男が携えた銃に見覚えがある。いつか読んだ本の旧い写真。確か、●田銃。
大きな破裂音と同時に、暗転。

902『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:37:03 ID:C/Dvoyfo0
 「ゆきちゃんはずっとこのうちでそだったから、動物たちをころしてない。
それに、ゆきちゃんが年をとってからこんなこと、ひきょうだよ。
ゆきちゃんが元気なあいだは何もしなかったのに。」
?? 翠がドアの向こうに語りかけている。 唸り声の意味を感知しているのか?
再び唸り声。苛立ったような調子が不吉だ。そっと翠の肩を抱いた。
翠は俺に頓着せず、ドアの外の気配に語りかける。
「それにね。くまさんだってほかの動物をたべるでしょ?
思い出して。たべられた動物たちはよろこんでいた?」
ドアの向こうの気配が大きく揺らいだ。しかし唸り声が含む憎悪は増している。

903『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:39:28 ID:C/Dvoyfo0
 言語を伴う思考が伝わってこないのだから、気配の主は人間ではない。
翠の言葉からすると、猟師に撃ち殺された熊の、幽霊?
いや、動物でも幽霊に成り得る霊質を持つのは稀な筈だし、
狩りで殺された動物たちが幽霊になって祟るなら、猟師や猟犬はとうに絶えている。
恐らく妖。狩りで殺された熊や、その他の動物たちの怒りや苦しみ。
山の妖の1つがそれらと共振し、強い憎しみと悪意を宿した存在へと変化したモノ。
父方の祖父は、若い頃猟師だったと聞いた。雪は祖父の飼っていた猟犬の子孫にあたる。
その体に流れる濃い猟犬の血が、血迷った妖を引きつけた。それが何時かは分からない。
雪が元気な間は何も起きなかったのだから、猟犬や猟師に対する恐怖は残っていたのか。
雪の寿命が尽きかけたのを察知して恐怖は薄れ、憎しみが恐怖に勝った。だから、今夜。
母が張った結界を越えられないようだが、結界越しの妖気でも弱った雪には毒だ。

904『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:41:25 ID:C/Dvoyfo0
 「お父さんがいってたよ。動物はほかの生きものの命をいただいて生きてるって。
動物はみんな同じことしてるのに、うらむのはおかしい。ずっとこのうちにいて、
動物たちをころしたことがないゆきちゃんをうらむのは、もっとおかしい。」
ドアの外の気配は益々濃く、既に実体を現出したのでは無いかと感じる程だ。
残念ながら翠の説得は効果を上げていない。というか、むしろ逆効果。
このままでは濃度を増す妖気が雪の体を更に弱らせる。
この執着の強さからして、結界越しに祓うのは難しい。
だからと言って、相手の正体や力が分からない状態で母の結界を解くのは危険過ぎる。
鎮魂の詞歌で慰める方法はあるが、相手を特定できなければ効果は薄い。
何種類もの動物の魂を引き寄せ混ざり合い、妖を芯として寄り集まった集合体。
1つ1つ特定するなんて、俺には無理...いや待て、さっき翠は『くまさん』と。それなら。
「翠、外の妖、どんな動物の魂を取り込んでるか分かる?くまさんの他に。」
「うん、分かる。どうして?」
「憎しみに狂った動物たちに普通の言葉は通じないから、『言霊』で慰めてみるよ。
でも相手がどんな動物か分からないと効き目がない。
お父さんの術が始まったら、どんな動物たちの魂を感じるか教えてくれる?」
「分かった。」

905『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:46:22 ID:C/Dvoyfo0
 深く息を吸い、下腹に力を入れた。心を込めて鎮魂の詞歌を詠唱する。
動物の姿を強く、鮮明に想い浮かべ、そのイメージを歌詞に織り込む。
最初は熊。ツキノワグマだ。大きく、力強い姿。その魂を慰め、憎しみと執着を解く。
植物から草食動物へ、さらに肉食動物へ。繋がる命の道理。
猟師達を始め、人間も動物の命を有り難く頂いて生きている。感謝と、鎮魂の祈り。
詠唱は一区切り、其処此処に浮かぶ色とりどりの花が見えた。次々に開いては散る。
散った花びらは光る軌跡を残して...大丈夫、『言霊』はちゃんと。
「しかさん。」 翠は俺の意図を理解していた。 詞歌の一区切り毎に動物を。
「きつねさん。」 「うさぎさん。」 「たぬきさん。」 「いのししさん...」
何度繰り返したか分からない。しかし確実に、ドアの外の悪意は薄れている。
? 翠はドアの向こうを凝視したまま、黙っている。
一区切りついたタイミングなのに?? 取り敢えず詠唱を中断する。
「お父さん、分からない。あれは、見たことない、から。」
見たことがない? そうか! これが最後。もう鎮魂でなく、祝詞を奉る時。
泣きそうな顔の翠をしっかり抱き締めた。
「翠のお陰で助かったよ。大丈夫。残ってるのはきっと、山の妖だから。」

906『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:48:00 ID:C/Dvoyfo0
 動物たちを愛するが故に、猟師に殺された動物たちの怒りと共振し、
我を忘れて同じような魂を次々に取り込んだ妖、外の気配の『芯』。
しかし、それは事故のようなもの。本来は人に災いをなす事を意図する存在ではない。
動物たちの憎しみが解けた今こそ、元の姿で野山に帰って頂くのが筋。
「其処に座って。これで最後だよ。」 ドアに正対し、翠と並んで座る。
眼を閉じて背筋を伸ばした。深呼吸。

 『詫びに1つ、礼にもう1つ。』

 澄んだ声に続いて、俺たちの目の前に青い小さな鬼火が2つ、並んで浮かんだ。
そうか、憎しみと悪意が消えたから結界を抜けて。 しかしそれなら何故家の中へ?

907『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:49:11 ID:C/Dvoyfo0
 『その名に縁ある季節を二度、迎えられるように。』
次の瞬間、気配が消えると同時に鬼火も消えた。 『雪』に縁の有る? 二度の、冬?
「お父さんすご〜い。あれも、ことだまの術なんだね?すごく、きれいだった。」
「そうだけど、翠だってあの妖と話をしてたでしょ。怖くなかったの?」
「ぜんぜんこわくなかったよ。だって、お父さんがいっしょだし。」
翠は目をぱちぱちと瞬いて、如何にも眠そうだ。
「それに、みどりのお友だちは、とっても、つよい、から。」
お友達???
「ちょっと翠、お友達って。」 翠の体から力が抜けた。完全に熟睡している。
直後。窓ガラスが大きく揺れた。 突然の強い風。 空気を震わせる、羽音?
そうか、鵬。 きっとSさんが。

908『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:53:44 ID:C/Dvoyfo0
 「お前が一人前の術者だなんて。SさんとLさんには本当に感謝しなきゃね。」
振り向くと台所の入り口に母が立っていた。
「私の力では、お前をそこまで導くなんて到底出来なかった。」
「もちろん2人には感謝してるよ。ただ俺なりに、長い間修行してきた。
でも、翠は修行する前から、俺には関知できない妖の気配を感知してた。どういうことかな?
翠はまだ5歳だし、得体の知れない人外との接触が多過ぎるのは、ちょっと心配なんだ。」
「『式使い』の適性を持っていれば、修行と関係なく、どうしても人外との接触は多くなる。
親がしっかりと見守れば良い。恐れず気を抜かず、親の義務を果たすだけ。
それより、きっとその子は並外れた術者になる。
あの妖が説得に応じなかった時に備えて、式をこの家の屋根に配置した。
妖が勝手口に近づく前にね。それからその子の『●識△』。
融合した多くの魂を1つ1つ見分ける力。そしてお前の『言霊』。
2人の力と術が補い合い高め合って『分業』の術が発動した。
未熟ではあるけれど、あれは紛れもなく『分業』の術。」

909『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:55:13 ID:C/Dvoyfo0
 『分業』? その術を使える術者は限られる。いわゆる、『奥義』の1つ。
恐らく現在は、当主様と桃花の方様のみ。Sさんでさえ。それを、俺と翠が??
「実際に見たのは初めて。『●識△』はその基になる力だけど、
お前の助けを借りたとは言え、あの歳で...本当に、驚いた。」
母はゆっくり、深く息を吸った。

 『R。』

 これは、言霊...そうか、俺の適性は母から。
「何だよ、急に改まって。わざわざ言霊を使わなくても俺は。」
『きっとこれが、私が今生で使う最後の術。心して、聞きなさい。』
今まで見た事のない、母の表情。台所の空気が凍った。
『遠からず、お前にこの子を支える資質が有るかどうかが問われる。
この子はお前の子であると同時に、優れた術者の命脈を繋ぐ一族の子。』
翠を支える資質を問われる? それは。

910『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:56:30 ID:C/Dvoyfo0
 「あら、雪、どうしたの?」
母の視線を辿り、勝手口を振り返る。雪がお座りをして母を見つめていた。
ついさっきまで、ぐったりと横になったままだったのに。
「もしかして、何か食べたいのかな?」 「そうね。雪、ちょっと待って。」
母は作り置きのお粥を冷蔵庫から取り出した。鍋に水を加えて少し温める。
母の作ったお粥に一握りの削り節、それは雪の大好物。
少しずつ、なめるようにお粥を食べる雪の背中をそっと撫でる。
俺の顔も母の顔も、涙でぐちゃぐちゃになっていた。

 翌朝、雪はしっかりとした足取りでトイレに行き、水を飲んだ。
それからまた少しエサを食べ、昼過ぎまで寝ると、見違えるように元気になった。
夕方前には翠と一緒に庭を歩き回り、エサもいつもの半分ほどの量を完食。
更に翌日、朝から近くの公園へ散歩が出来るまでに回復した。
俺と翠が実家を後にしたのはその日の昼過ぎ。雪は最後まで俺たちを見送っていた。

911『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:59:09 ID:C/Dvoyfo0
 深夜のリビングに涼しげな音が響く、Sさんが作ってくれたハイボール。

 Sさんが夕食の後片付けをしている間、Sさんの部屋で翠と藍を寝かしつけた。
その後、丹が熟睡するまで姫の部屋にいて、リビングに戻ったのが10時少し前。
今夜はどうしても、Sさんと話がしたかった。もちろん『分業』の術、そして母の言葉の意味。

 「美味しい。喉が渇いてると、気分良く話が出来ないし。」
ハイボールを一口、もう一口、Sさんは俺の隣で微笑んだ。
「『分業』の術の基本は寄り集まった『業』や『魂』を見分けること。
それをもとに『業』の一部を別人に分けたり、迷った『魂』を中有に誘導する。
だから、あなたと翠が使ったのは確かに『分業』の術の1つ。
ただ、術者2人の力と術を組み合わせてそれを発動するなんて、聞いたことも無い。
普通の父娘以上の絆で結ばれた2人だからこそ、よね。ちょっと、妬けちゃうかも。」
Sさんは悪戯っぽく笑って俺の肩に頭を預けた。
「冗談は止めて下さい。その絆を結び合わせたのはSさんの術なんですから。
それより、翠と僕が使ったのが本当に『分業』の術なら、
母の言葉はそれと関係してるのかも知れませんね。」

912『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 21:02:54 ID:C/Dvoyfo0
 「お母様は何て?」
「『僕に翠を支える資質が有るかどうかが問われる。』って。
「翠が最後まで式に指示を出さなかったのは、あなたへの信頼が深かったから。
『お父さんなら何とかしてくれる。』 『お父さんがどうしようもないって言うまでは。』
その抑制が効かず、一度でも力が暴走したら、翠は即『上』の監視対象になってしまう。
あの歳で式の使役を許されたのは、あの子が『私とあなたの子』だからよ。
私もあなたも、『上』から範士として認定されている。翠の教育を任せても良いって事。
ただ、その力が暴走するのを防ぎつつ、あの子の資質を全て実現するのは並大抵じゃ無い。」
Sさんは体を捻って俺の唇にキスをした。
「でも、それがあなたと私と、そしてLの望み。それで良い?」
僅か5歳の子。もし...いや、怖れることなどない。母はそう言った。

913『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 21:04:41 ID:C/Dvoyfo0
 「『子供を作ろう』って相談した時のこと、憶えてますか?」
Sさんは小さく頷いた。出会った時と変わらない、いや、もっと美しい横顔。
「あなたは『力があろうとなかろうと、持って生まれたものと向き合う人生以外有り得ない。
幸せになる方法を2人で教えてあげれば良い。』って。私、本当に泣きそうだった。」
「それは今も変わりません。ただ、変えなきゃいけないことがあって。」 「何?」
「『僕は少し頼りないかも知れないけど、Sさんが母親だから絶対に大丈夫。』そう言いました。
でもSさんに頼り切りじゃなく、僕も少しは父親らしい父親になりたいんです。
今なら少しは術者としても、そして父親としても。」
Sさんはハイボールのグラスをテーブルに置いて、俺の左隣に座った。
俺を見つめる、黒い双眸。
「あなたはもう一流の術者。名指しの仕事、増えてるでしょ?
それに、父親としては超一流。丹が生まれた時のことも式のことも、
翠があなたを信頼しきってるからこそ上手くいった。ただ...あの術だけは。」
突然、Sさんの眼から涙が零れた。俯いて、両手で顔を覆う。 ??? 一体これは。

914『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 21:13:02 ID:C/Dvoyfo0
 いつの間にか、姫がリビングの入り口に立っていた。雰囲気が、いつもとは全然違う。
「『奥義』を使う術者には、その結果に責任を負う覚悟と、ふさわしい『器』が求められます。
翠ちゃんは子供ですから、この場合は翠ちゃんを支え、その力を補う術者に。」
そういう、事か。
俺の評価が多少上がったとしても、当然Sさんや姫の評価には遠く及ばない。
俺と翠、二人でその『奥義』を使ったとして、その結果の責任を俺が負うのは当たり前。
「つまり、今後も翠を育てる資格があると、僕自身が証明しなければならない。」
「3日後、です。明日から食を絶って準備を整えた後、『上』が迎えが。
『五日行』。それを成就出来れば、Rさんは今まで通りに翠ちゃんと...」
その時、姫がお盆を持っていることに気が付いた。小さなガラスの御猪口が3つ。
「Rさんの五日行が成就する事を願って乾杯しましょう。どうぞ。」

 一口飲んだ後、俺は事態の重さを理解した。


『契(上)』 了

915 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 21:19:01 ID:C/Dvoyfo0
皆様今晩は、再び藍です。

『契(上)』は無事投稿終了出来ましたが、
(中)以降の投稿時期は明言出来なくなりました。
投稿に向け、出来るだけのことをするつもりですので、
事情をお察し頂き、気長にお待ち下さい。

此所までお付き合い頂いた皆様、有り難う御座いました。

916名無しさん:2016/02/10(水) 22:07:02 ID:zCrWz3h6O
続きの投稿をありがとうございました。
仕事もプライベートも厳しく大変ですね。尊敬します。
大きな力を持つと責任も大きくなるんですね。

917名無しさん:2016/02/11(木) 01:28:47 ID:4c2sqVSY0
・・やはり業は転嫁する術があるのか。
お母様の言ってた業の秘密とは。

918名無しさん:2016/02/11(木) 01:28:54 ID:x5E3YsCYO
投稿お疲れ様です


雪が式になって
その次に猿が式になって
翠ちゃんが
鬼退治に行くのかと

チョッとふざけた
妄想しました
申し訳

919名無しさん:2016/02/11(木) 12:17:23 ID:kTfGgKg20
五日行の成就を祈って,次を待ってます!

920名無しさん:2016/02/12(金) 23:53:29 ID:cAkdpj9A0
三七日ではなく5日か。神仏が出てくるレベルじゃないのコレ。

921 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 22:09:07 ID:IsAY9Ieo0
テスト中です。

922 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 22:20:48 ID:IsAY9Ieo0
皆様今晩は、藍です。

投稿には常に色々な事情が有るのですが、結局は皆様から頂くコメントが
知人と私の努力よりも大きな力を持っているのだと感じます。

お陰様で、『契(中)』、投稿の許可を頂きました。
たとえ大幅な書き換え等が有っても、物語の『芯』は変わっていません。
では、後ほど。お楽しみ頂けると良いのですが。

923『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 22:47:47 ID:IsAY9Ieo0
 『上』が用意した車がお屋敷に着いたのは、ピッタリ打ち合わせ通りの午前九時。
大きな黒塗りのワゴン。運転していたのはサングラスとマスクの男性。
術者なのだろうが、身振りで俺を促しただけ。何だか話しかけちゃいけない雰囲気。
ただ、行の内容についてはSさんや姫も知らないと言っていたから、この術者も多分知らない。
行を修めるのは山の中の小さな庵、そこに案内と指南の術者待っているらしい。
事前に知らされた情報はそれと、あの乾杯。
とんでもない重圧をひしひしと感じている状況で、あれこれ話す気にもなれなかった。
数時間の後、着いたのは寂れた登山口のような場所。濃い霧。重い湿気が辺りを覆っている。
県境を越えてからは俺の知らない道を通ってきたので、ここが何処なのか分からない。
車を降りて数歩。霧の向こうに人影が見えた。背後で、車が走り去る音。

924『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 22:49:50 ID:IsAY9Ieo0
 『久しいな。』 柔らかな声、いや、それより『久しい』って...
「R、です。宜しくお願いします。」 声を掛けてさらに数歩。その姿がハッキリと見えた。
アオザイ?に似た服。上着は漆黒の生地に、艶やかな、黒い絹糸の刺繍。
ズボンはネットとかTVで見るより細身で、活動的というか実用的。
それに何より、キリリと結い上げた髪が印象的な美形。
姫よりは年上で、Sさんより年下。なら多分、二十代後半。
これが、案内&指南役? まさか、女性とは思わなかった。
でも、何だか、懐かしい雰囲気。 『久しいな』という言葉通り、初めてという気がしない。
それはこの女性のまとうオーラなのか、それとも声の響き、か。

925『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 22:50:55 ID:IsAY9Ieo0
 「あの、以前何処かで。」
「御影、だ。この姿で会うのは初めてだから、分からなくても無理はないな。」
!? まさか...一族最強の式。それにどうして、人の姿?
「この場所は特級の霊域、今様に言えば最高のパワースポット。」
確かに。車を降りた瞬間から、この辺りに満ちる濃厚な気に圧倒されていた。
「しかし『聖域』とは違う。『聖域』を支配しているのは『秩序』だが、
この場所を支配しているのは『混沌』。だから正邪・陰陽を問わず、全ての怪異が力を増す。
ここでなら、我も人の姿に化生することが出来る。
ただ、もう二度と、人の姿を取る事など無いと思っていた。」
その女性、御影さんは少し寂しそうに見えた。
「さて、着いて参れ。」 「あ、はい。」

926『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 22:52:14 ID:IsAY9Ieo0
 濃い霧の中、御影さんの背中を追いかける。
細い砂利道は段々と傾斜がきつくなる。やはり登山道?
15分ほど歩いた所で、御影さんの足が止まった。 「あれ、だ。しかし、何故。」
白い手が指し示す先に小さな建物が見える。古い、庵? しかし、あの気配は。
さらに数分、その建物から20m程の距離。
やはり、そうだ。建物の周りにも中にも、かなりの数の気配を感じる。
これでは修行場と言うより、妖の巣窟。人はとても、こんな所に長くは居られない。
「あの年寄りは、何故管理を怠っているのだ。今回の話も通っている筈なのに。」
御影さんは薄く笑った。 「人の身では...面倒だな。」
面倒も何も、これだけの数を祓うには下手をすればそれだけでゆうに3日。
すい、と前へ踏み出した。2歩、3歩。其処此処で妖の気配がざわめく。

927『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 22:53:43 ID:IsAY9Ieo0
 御影さんは立ち止まり、そのまま右足を横に踏み出した。両足の幅は、肩幅くらい?
深く息を吸いながら右手が肩の高さに...天に向けた掌が反って地面に向かい、
右足は地面を掃きながら左足に揃った。御影さんの体が膨らんだように見える。
次の瞬間。重力に逆らうように軽々と、ゆっくりと、その右足が高く上がった。
ぴいんと伸びた右足のつま先はほぼ真上を、天を指している。
そして掴むようにしっかりと、地面を踏みしめた左足。
天と地から、『正気』が御影さんに集まるのを感じる...これは、四股。 
「... ..」 微かな呟きが聞こえた後、右足が落ちてきた。

928『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 22:55:03 ID:IsAY9Ieo0
 そう、切られた大木が倒れるような、圧倒的な迫力と重量感。
地面が揺れる。 Sさんより少し背が高い分体重は、しかし幾ら何でもこんな。
続いて左足。地面を踏みしめる地響きが、完全に空気を変えた。
まるで嘘のように庵の周りの霧が晴れ、妖の気配も一つ残らず消えている。
小さな庵はしん、と静まって、先程までとは全く違う建物のように見えた。
「5日は楽に保つだろう。何をボンヤリしてる。行くぞ。」
「あの、御影さん。今の四股は。」
「元々我は一族で武術を指南していた家の出。
だからこそ当主様は我に任せたのだ。5日間この庵を護り、お前の世話をし、
更に修行の相手をする。そんな事が出来る人間は、術者は、もう3人といないから。
荷物を解いたら直ぐに行を始める。5日はあっという間だ。」

929『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 22:56:42 ID:IsAY9Ieo0
 ...痛、息が出来ない。思わず膝をつく。
「我は武門の出と言った筈だ。こと武術に関して、他人に遅れを取ったことはない。
女子だと思って甘く見ていると、そのうち死ぬぞ。」
それは古武術で言う当て身の一種、左脇腹へのボディーブロー。
襟元で艶やかに光る瑪瑙の飾り細工。 「これを取れ。」と御影さんは言った。
「そのためなら何をしても良い」と。 ただし御影さんの反撃は投げと
腹への打撃だけと言われていて、当然警戒していたのに、為す術がない。
その動きはあまりに迅く、強かった。
これでは瑪瑙を取るどころか、触れる事すら出来る気がしない。
「御影さん、相手に、甘く見たりなんか。」
まだ、まともに息も...
「なら、少しは工夫する事だ。参れ。」 涼しい顔で、御影さんは構えを取った。

 裂帛の気合いと共に、御影さんが視界から消えた。
派手に視界が回転し、腰から床に叩き付けられる。まともに受け身も取れない。
もう何度目? 3日前から始めた絶食のせいにする気にもなれない程の、技量の差。
「今日はこれで終いだ。今夜まで食を絶って此所に体を慣らせば、
明日の朝からは食事を取れるだろう。それで少しは。風呂を沸かしておく。」
最初の修行は『体』。3段階の行の内、第1段階からこれでは、先が思いやられる。

930『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 22:58:55 ID:IsAY9Ieo0
 小さな湯船に浸かっていると、不思議な事に気付いた。
あれだけの打撃と投げ、でも体の何処にも痛みがないし、痣もない。
道着を着ていても、肘や膝に擦り傷の一つくらいは出来る筈なのに。
ふと、微かな声が聞こえた。 澄んだ、優しい声。 歌、だ。
風呂場を出る。声の聞こえる方へ、庵の奥へ進む。
台所らしい土間、障子を開け放った大きな窓に、御影さんが座っていた。
「何か、用か?」 「ああ、いや。あの、歌が。とても良い声だったので。」
少し照れたような微笑。何だか、可愛い。 「昔、習った。遠い、遠い昔に。」
しかし、御影さんの微笑みはすぐに陰った。
「今夜は早く休め。明日中に進展がなければ、行の完成自体が危うい。」
そうだ...『五日行』。既にその一日は過ぎてしまったし、未だ何の進歩も。
御影さんが用意してくれたのだろう。俺の部屋には布団が敷かれていて、
潜り込むと途端に眠くなった。やはり、疲れてる。布団の中は、少しだけ黴臭かった。

931『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 23:00:15 ID:IsAY9Ieo0
 2日目の行が終わっても目立った進歩は無かった。
自分なりに色々工夫しているつもりだが、伸ばした腕を取られて投げ飛ばされるか、
そうでなければ腕を弾かれて腹に打撃をくらう。これでは昨日と何も変わらない。
行を成就出来なければ、俺は『失格』だ。それでは今後、翠の...
暗い気持ちで夕食を食べ終わり、風呂に入った。やはり気持ちは晴れない。
風呂から出ると、歌が聞こえてきた。心を決めて台所へ向かう。
「何か、用か?」
「はい。助言をしてもらおうと思って。」 「助言?」
「どうしたら、御影さんの動きに対応できるのか。助言は、禁止されていませんよね?」
「助言、か...」 御影さんは窓の外の景色に視線を移した。遠い目。

 「お前の適性を活かす方法を考えろ。
前にも言ったように、此所では正邪・陰陽を問わず、全ての怪異が力を増す。
勿論お前の体も、その適性も。さて、明日も早い。もう休め。」

932『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 23:01:43 ID:IsAY9Ieo0
 そうは言われたものの、明日中に進展が無ければ行の完成が危うい状況。
到底寝付ける筈もない。布団の中で考えを巡らす。俺の適性を活かす方法とは。
どの位そうしていたのか。
自分の呼吸音がやけに大きく聞こえてきた。やがて、心臓の音も。
他にほとんど音がない場所、例えば砂漠の真ん中で野宿すると、
そんな風に感じると聞いたことがある。確かに此所は、いや、幾ら何でも音がデカい。
そうか。『此所では正邪・陰陽を問わず、全ての怪異が力を増す。』
此の場所の力を得て聴覚が力を増し、普段は聞こえない音を捉えているのか?それなら...
やはりそうだ。『気配』を探る時のように、チャンネルを合わせるイメージ。
まるで俺の聴覚が庵全体に拡大したように、注意を向けた場所の音を聞くことが出来る。
『言の葉』の適性を持つ術者が力を発揮できるのは『会話』が成り立つ場面。
だから『話す』前に『聞く』ことが不可欠。そして、それは俺の何よりの得意分野。
思わず上体を起こした。右手に注意を向ける。深呼吸、そっと眼を閉じた。

933『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 23:03:46 ID:IsAY9Ieo0
 拳を握る...聞こえた。種々の雑音に混じって、何かが軋むような、微かな音。
拳をゆっくりと正面に突き出す。雑音に続いて、今度はもっと低い、大きな、音。
もう一度、今度は思い切り拳を突き出そうとした時に、
『それ』が雑音の中からハッキリと聞こえた。
チューニングがズレたラジオのような音。 多分、これだ。 もう一度。
『それ』の後に、軋むような音や低い音が混じって聞こえてくる。
軋むような音や低い音は筋肉と関節が発する音。なら、『それ』は神経が発する音だ。
最初の行は『体』。御影さんが術を使うのでは『体』の行にならない。
それに化生している以上は、此所では御影さんも生身。
それなら幾ら技量の差が有っても、体を動かすしくみは俺と同じ。
つまり筋肉が動く前に...次の瞬間、俺は音の洪水に飲み込まれた。
神経を流れる電流、筋肉の動き。体中を巡る血液の音は、まるで滝の音のようだ。
体全体を震わせる心臓の拍動、それから嵐のような呼吸音。
信じられないほど多彩に、絶え間なく変化する音は『意識』そのものか。
体中の細胞が『生きている!!』と叫んでいる。
まるでそれらは、全ての生命活動が渾然一体となって織りなす、音の、極光。
『生きている』とはどういうことか、それをまた1つ体得したのかも知れない。
それだけで、此所に来た意味がある。

934『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 23:06:44 ID:IsAY9Ieo0
 構えを取った御影さんの体に、注意を向ける。深呼吸。
...聞こえた。音の高さは俺と違うが、組み合わせは大体同じだ。
そして『それ』が聞こえた直後。
「どうした。じっとしていては、進歩は無いぞ。」
間違いない。これが、鍵。
それからの約一時間、俺は繰り返し『チューニング』を続けた。
投げと打撃、左構えと右構え。注意深く、御影さんの音を俺の音からより分ける。
「駄目、だな。むしろ昨日より反応が遅い。昼食の後で休憩、続きはその後だ。」
「ちょっと、待って下さい。」 振り向いた御影さんは怪訝な顔をした。
「昼食の前に、あと1回だけ。やっと、分かった事があるんです。」
少し目を細めた後、御影さんの表情が引き締まった。
「良いだろう。参れ。」

935『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 23:08:50 ID:IsAY9Ieo0
 深呼吸、肩の力を抜いて右腕を軽く振る。
全速で右足を踏み込みながら右腕を伸ばした。勿論これはフェイント。
御影さんがフェイントに反応しないのを確かめてから左腕を。 『それ』に耳を澄ます。
聞こえた! この音は、俺の左腕を弾いて、右拳の打撃。思い切り体を左に捻った。
腹をかすめた右拳を、右手で。速い、僅かに上方にずらすのが精一杯。
ずらして出来た隙に左腕を伸ばす。しかし、瑪瑙の冷たい感触で無く、柔らかで温かな。
予想以上の力で左手が巻き取られ、跳ね上げられる。投げ。
堪えて距離を詰めれば背後から右手で。踏み込んだ分、投げの形が崩れた。
しかし、バランスが。まずい。

936『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 23:10:01 ID:IsAY9Ieo0
 右のこめかみと肩に鈍痛。少し、吐き気がする。

 「大事ないか!」 珍しく、御影さんの声が慌てていた。それが何だか可笑しい。
「大、丈夫です。でも、もう少し。」
「受け身も取らずに、敵を庇うなど...馬鹿か、お前は。」
「いや、御影さんは敵じゃ無いし。それに、御免なさい。あの、さっき、胸に。」
御影さんはそれを俺の右掌に握らせた。冷たく、硬い感触。瑪瑙の、飾り細工。
「適性を活かした、見事な工夫。第一段階は終了だな。今日は、もう休め。」
御影さんは軽々と俺を立たせ、肩を貸してくれた。

937『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 23:11:43 ID:IsAY9Ieo0
 夢を、見ていた。
旧いお屋敷の庭に咲き誇る赤い花。咽せるような、良い香り。
眼が、覚めた。枕元、すぐ傍に人影。 誰?
その人は俺の枕元に膝をついた。帯を解いて黒い着物をするすると脱ぐ。真っ白な素肌。
何の躊躇も無く、その人は布団の中に滑り込んできた。
滑らかな、暖かい感触が俺の頬を包む。大きな、黒い瞳が俺を見詰めていた。
...御影さん。
「あの、どうして?」
「健康な男子が此処にただ1人。過ごす内に肉欲が積もるのは当然。
そこにつけ込まれぬように。夜伽も、仕事の内だから。」
...ちょっと、待って。確かに、先刻胸に触れた時は少しだけ、でも。
「夜伽って、そんな。」 「気に病むことはない、何も。」
「いや、でも。」 「我では、不足か?」
「不足だなんて。御影さんはとっても綺麗だし魅力的です。
だけど、いくら仕事だからって、御影さんが望んでもいないことを。
御影さんにも、好きな人がいるかも知れないのに。」

938『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 23:12:57 ID:IsAY9Ieo0
 御影さんは動きを止めた。ホッと息をつく。ギリギリ、セーフ。
『ならば、今、我がそれを望んでいると言えば良いのか?』
...全然、セーフじゃない。
『望むとか望まないじゃなくて。仕事でも、こんなことしちゃ駄目なんです。
それに、御影さんは凄く綺麗だから、御影さんに恋人がいたら、
その人はそれをとても誇りに、幸せに思ってる筈です。なのに、こんな...』
『御前は真の、言霊遣いなのだな。
以前、お前と同じ適性を持つ術者に出会った時と同じだ。
その言葉を聞くと不思議に温かく、同時に不安な心持ち。』
褒められてるのか貶されてるのか、俺は。
『我は口下手だし、未だ旧い想いの熱も冷めぬ。
だから我の記憶を御前に見せる。お前と同じ適性を持つ術者に出会った時の記憶。
その上での判断は、御前に任せよう。』

939『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 23:18:04 ID:IsAY9Ieo0
 目の前の、澄んだ瞳。細い腕が俺の頭を抱く。
閉じた瞼にキスの感触を感じた後、意識が遠のいた。

 頭が、痛い...召喚?
随分と長い間、寝ていたような気がする。最後に働いたのは何時だったろう。

940 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/15(月) 23:19:55 ID:IsAY9Ieo0
皆様今晩は。再び、藍です。

今夜は此所まで、お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
有り難う御座いました。

941名無しさん:2016/02/16(火) 05:41:25 ID:nxJaLFJIO
投稿ありがとうございました!続きを読めると思ってなかったので嬉しいです^o^-
Rさんモテモテですね。認められなかったらRさん一家が可哀想だと心配になりましたが、大丈夫そうで良かったです。
続きありがとうございます。

942名無しさん:2016/02/16(火) 20:32:52 ID:O9neFNdMO
御影さんまでRさんに…うらやましい…。Rさんもある意味、一族最強ですね。

943 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 20:53:58 ID:scfGdIuY0
テスト中です。

944 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:01:20 ID:scfGdIuY0
皆様今晩は、藍です。

以下、『契(中)』の残りを投稿致します。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

945『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:02:17 ID:scfGdIuY0
 呪文は続いている。止めてくれ。頭が、割れるようだ。
正直、これなら死んだ方が余程...鬱陶しいが、『契約』は全てに優先する。

 「契約に基づき、汝に命ずる。」
見たことの無い顔。という事は、長の代替わりがあったのか。では、○明は。
「我が契約したのは●◇の家。お前と契約したのではない。」
「私は◆明、●◇の家の長だ。●◇の式を使役する正統な権限を継承している。」
やはり、○明は死んだのか。なかなかに力のある術者で、見所のある男だったが。
「話は聞くが、受けるかどうかは私が決める。」
「もしも、契約に基づく依頼を断ればどうなるか」
「何時でも消える覚悟はある。式となっても、我は殆ど一族の為に働いていないから。
契約に背いた罰則で我を縛れるなどと、思わない方が良い。」
男の右頬がピクリと動いた。伝わってくる、荒い波長。 こんな男が●◇の家の長とは。
暫く寝ている間に、一族には何が起こっていたのだろう。
「その、まさに一族の為の仕事だ。一族の命運を左右する、重要な任務。」
「他の式でなく、我を召喚したのだから、相応の覚悟があるのだろうな。」
「次の当主が決まった。しかしその男は、術者を軽んじ一族の未来を危うくする
危険な思想の持ち主だ。術者の誇りを、一族を守るために、その男を殺して欲しい。」

946『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:03:19 ID:scfGdIuY0
 「そんな思想を持つ者を、『上』と『眼』が次期当主として認証するとは思えないが。」
「術者の育成を巡る考えの違いで、●◇の家は一族を離れた。
その後、奴等の中で術者を軽んじ、力を持たぬ者を重視する輩が力を増した。
『新しい時代に対応した一族の在り方』などと詭弁を弄して、な。
私は、術者の力を尊重し、術者の力で一族の未来を開きたい。力を貸してくれ。」
「次の当主となれば相応の力、返り討ちになる可能性も有るだろう。
しかも式を使って一族の者を殺めれば、お前には血縁相克の大罪。
どちらにとっても割に合う仕事では無いな。」
「割に合う、報酬を約束しよう。成功すれば、契約を解く。つまりこれが、最後の仕事だ。」
「我自身が、報酬か。面白い。」
今更自由を得ても人の身には戻れない。だが、面白いのは、依頼の対象。
それがどんな人間なのか、何故術者を軽んじるのか、知りたい気もする。
そう、今のままではあまりに、退屈だから。
「依頼を受けよう。しかし勝負は時の運。成功の保証は出来ない。

947『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:04:38 ID:scfGdIuY0
 日が沈む。完全に夜の帳が下りるのを待って目的地に移動した。夜こそ、我の時間。
小さな、屋敷。2階建て、部屋の数はせいぜい8つ...本当に、次の当主が、此所に?
屋敷を護る結界はなく、護衛の姿もない。あまりに不用心ではないか。
罠? いや、我に罠など。 笑止...返してみせる。
灯りの点る窓は3つ、2階にはそのうちの1つ。あれが、仕事の舞台。
闇に融けて壁を抜け、家の中に入り込む。そして部屋へ。部屋の中にも護衛はいない。
大きな机、革張りの椅子に背中を預けた後ろ姿。この時間、護衛なしで暢気に本を?
気配を抑えたまま、ゆっくりと近付く。やはり罠ではない。
少なくとも、相応の警戒をするように『上』からの指示があった筈だ。何故、この男は?
じりじりと、距離が詰まる。もう、十分。万が一にも

948『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:05:29 ID:scfGdIuY0
 「少しだけ、待ってくれないかな。」
!? 今、我に、呼びかけたのか? この男は。
「そう、君だよ。どうして僕を殺すのか、理由を聞いてみたいと思ってね。」
その男は椅子ごと、くるりと体を回した。人の良さそうな顔に、悪戯っぽい笑顔。
その目はしっかりと我を見つめている。 閉じた本を机の上に。
『見えるのか、我が?』
「ああ、見えるよ。僕はそういうのが、ちょっと得意なんだ。だけど、『◇話』は苦手。
だから出来れば、声を出して話してくれると有り難い。このままだと、疲れる。」
夜、侵入してきた式と対峙して、それが自分を殺しに来たと知っていながら...『疲れる』?
「自分の置かれた状況は、理解している筈だが?」
「勿論理解してるさ。あっさり君の侵入を許し、その気になれば君は僕を殺せるかも。」
その男は笑った。押し殺した声で、如何にも可笑しそうに。
「これ、かなりマズいよね。」

949『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:06:22 ID:scfGdIuY0
 「何故、笑う?」 罠も、護衛もなし。この状況からどうやって我を。
「だって、僕が今夜あっさり殺されたら、僕を次の当主に選んだお偉い方々の間違いだろう?
だから、『なんであんなのを選んだ?』って大騒ぎになるよ。笑っちゃうね。」
「他人事だな、まるで。」 本当に、その神経は一体どんな。
「確かに、今でも他人事みたいだ。僕が次の当主だなんて。」
また、男は笑った。去勢を張っているようにも、自棄にも見えない。晴れやかな笑顔。
「あ、それで君も此所へ来たんだろう?
僕が次の当主に決まったから、僕を殺せと頼まれた。ね、君にそれを頼んだのは誰だい?」
「馬鹿げた質問だ。その質問には答えを得られないと、分かってるだろう。」
「そう、だね。まあ、大体予想は付いているし。ただ、確かにその人の指示なら、
おとなしく殺されても良いかなと思ってて、だから確かめたかった。」
この家に結界がなく、この部屋に護衛がいないのは。
「わざと、我を侵入させたのか?」
「わざとって言われると心外だな。かなりの手間をかけて君を止める結界を張っても、
ずっと結界に閉じこもる訳には行かない。そして僕が結界を出て襲われれば他人を巻き込む。
それに、無駄死にになるって分かってるのに護衛の術者を置くのは可哀相だろう?
あ、ちょっと失礼。」
ドアの外、廊下を近づいてくる気配...とうに気付いていた。恐らく高位の術者。
もしこの男がそれを隠していたら、術者が加勢に入った瞬間に、まとめて殺すつもりだった。

950『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:08:22 ID:scfGdIuY0
 「○さま、凪です。先程から微かに不審な気配が。念のためお部屋の警戒を。」
「ああ、来客だよ。心配要らない。下がって休みなさい。」 「しかし、今夜来客の予定は。」
男は我を横目で見て、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「妙齢の美しい御婦人でね。夜の密会という訳だ。後は察してくれ、朝まで。」
溜息、遠ざかる気配。我の気配に気付くなら相当な術者だが、それよりも。
「本当に、見えているのだな。我の姿が。『妙齢の』と『美しい』は余計だったが」
「見えるって、はじめにそう言ったろ。それに、僕は余計な事なんて言ってない。
僕たちとは年の取り方が違うから、見かけで判断するしかないんだけど。
そうだな、二十代前半、第一級の美人。まあ、勇ましすぎる服が玉に瑕かな。」
「...お前と話してると妙な気分だ。何だか自分の感覚に、自信が持てなくなる。」
「いや、君は自信を持って良い。僕は美人が大好きで、要求水準がかなり高いからね。
あ、そうだ。」 男はまた椅子ごと体を回して机の上から写真立てを取った。
「ほら、凄い美人だろう?これが僕の妻で、娘のSが3歳の時の...御免、脱線し過ぎた。」
「分かれば良い。それで、もう一度聞くが。」 「何、かな?」
「わざと、いや、分かっていて我を侵入させたのは、
本当に『おとなしく殺されても良い』と思ったからか?」
「そうだよ。今も、そう思ってる。」
「当主なら、一族の為に、自身の命を大切にするべきだろう。お前が死ねば、それは。」
駄目、だ。やっぱり感覚がおかしくなってる。我はこの男を殺しに来たのではなかったか。

951『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:10:10 ID:scfGdIuY0
 「僕はまだ当主じゃ無い。それに、君を寄越した人が僕の予想通りなら、
僕が殺される事でその人の憎しみが少しは緩むんじゃないかと思ってね。」
「本家と分家の争いは承知している。普通に考えて、分家に勝ち目はない。多勢に無勢。
戦いを長引かせるだけで、分家はやがて瓦解する。憎しみを緩める目的が分からない。」
「憎しみが緩み争いが終わるなら、それこそが望むべき結果。
一刻も早く争いを終わらせ犠牲者を減らす。それより優先すべきものが有るとは思わない。」

 ...『犠牲者を減らす。』 前に、同じ言葉を聞いた事がある。何時?

 「争いを終わらせるために、お前自身が最後の犠牲者に、なると言うのか?」
「僕たちがどんなに手を尽くしても争いを終わらせる事が出来ないのは、
あの人の憎しみが解けないことも大きな原因だろう、だから。
勿論死ぬのは怖いし、未練もある。特に妻と娘を残していくのは...娘は、まだ6歳だ。」
愛する妻と大切な娘を残して、それでも自らの命を捧げて、争いを終わらせると?

 頭が、痛い。心の底に沈んでいた記憶が浮かび上がり、心の旧い傷が。

952『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:11:14 ID:scfGdIuY0
 「何故だ?言っただろう。戦うなら夜を、我の帰りを待てと、あれ程。」
弱々しい咳。我の腕の中で、その人は真っ赤な血を吐いた。
「太陽が地平線に隠れた直後、敵襲...夜まで待てば、村に残った人達を、だから。」
黄昏時に力を発揮できる亡者が混じっていたのか。一体、どうやって?
「でも、村の人々に、被害は出なかった。力を持たぬ人々の、犠牲を増やしてはならない。
成る可く早く戦いを終わらせ、彼我の、力を持たぬ人々の犠牲を最小限に。
だから、俺と共に戦った術者達は納得してくれたと思う。だが。」
「だが、何だ?」
「お前は、褒めてくれるか?俺たちは村の人々を守ったと。」
「ああ、お前達は、お前は良くやった。お前の力も我が教えた術も、全て越えて。良くやった。」
「そうか、なら」
我の腕の中で、あっけなく、その人の体から力が抜けた。
何故だ? 何故だ...
村の人々を守っても、お前を失ってしまったら、我はどうすれば良い? これから。

953『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:12:16 ID:scfGdIuY0
 「今、一体何と?近しい者を奪われた憎しみに呑まれれば、結局お前も闇に。」
「いいえ。憎しみに呑まれてなどおりません。ただ、あの御方の言葉を実現するために。」
そう、あの人は言った。『成る可く早く戦いを終わらせ、彼我の犠牲を共に最小限に。』と。
「どうか『黒の宝玉』を我に。宝玉の力で変化し、成る可く早くこの戦を終わらせましょう。
敵味方に関わらず、力を持たぬ人々の犠牲を最小限に、それが、あの御方の願いでした。」
「いくら類い希な『適性』を持つとは言え、女子の身で、其処までせねばならぬとは。
それにもし失敗すれば其方は、それではあまりに、過酷な...」
「女も男も、問題ではありませぬ。当主様のお慈悲は、どうか、あの御方と我の菩提の為に。」
「承知した。戦が終わったら◎✕とお前を偉大な先達の列に。」
「有り難う、存じます。」

954『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:13:23 ID:scfGdIuY0
 遠い、記憶。あれから、どれだけの時が流れたのか。
まさか今また、同じ言葉を。ならば我は。
「家族の話を聞いたから言うのではないが、犠牲などという考えは止めた方が良い。
あの男の頭の中には争いを終わらせるなんて考えは全くない。
あの男は本家の人間を殲滅して争いに勝つ事しか考えていないから。
それはあの男が組織した戦闘集団の術者たちも同じ。完全に洗脳されている。」
「そうか、なら別の手を...あれ?
君は僕を殺しに来たんだろう?どうして僕にそんな事を。」
「お前を殺すのは、気が進まない。正直に言えば、お前を殺したくない。」
「でも、契約に基づく仕事だから、もし違反したら君は。」
「我が消えても大した影響はないが、お前が死ねば、一族は未来を失う。そんな気がする。」
そう、もう潮時かも知れない。あの戦いの為に変化したが、
戦いの後、人外と成り果てた我が身を式としたのは、偏に一族を守るため、それなのに。
我の力を恐れる術者は、我に任務を与えることをも恐れた。
大した仕事も出来ず、挙げ句の果てに、一族の者の暗殺を請け負うなど、本末転倒。
長い時間の内に、我の感覚は曇っていたのだろう。

955『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:14:34 ID:scfGdIuY0
 「『●△の大難』から一族を救った式を失うのは惜しい。君が美人だからと言う訳でなく。」
「お前は我を、知っているのか。」 背筋が冷える、それなら事前に対策することも。
「君を寄越した人の予想が付けば、寄越す式の予想も付く。分家、いや、一族最強の式。
一族の大難に際し、黒の宝玉を身に着けて変化となり、多くの敵を倒した。
敵の反撃で黒の宝玉が欠け、変化を解くことは出来なくなったが、
それでもなお一族を守護する誓いを立て、自ら式となった。真に偉大な術者。
その功績と名誉は今も大切に、確実に伝承されている。
だからこそ君に、一度会ってみたかった。君になら、殺されても良いと思った。」

956『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:15:24 ID:scfGdIuY0
 「昔の、話だ。今はこのような任務を請け負う程、堕落した影に過ぎない。」
「君が堕落したんじゃない。堕落したのは契約を引き継いだ術者達だ。
契約の効力を一族全体の為でなく、一部の者の偏狭な考えの為に利用した。」
「契約がある限り、従う。だが、お前を殺すくらいなら、契約ごと、我が消えよう。」
「今此所で、契約を解除する方法がある。」 「まさか、一体どうやって?」
契約の当事者双方が同意しない限り、契約を解く事など。
男は机の引き出しから白木の小さな箱を取り出した。幾重にも施された厳重な、『封』。
「僕たちは史実を伝承するだけでなく、何世代にも渡ってずっと探し続けて来た。
一族の大難を救ってくれた恩に報いるために。 そして去年、とうとう見つけた。
一度は確保しながら、戦いの後の混乱で行方知れずになっていたもの。
あの戦いに協力した土着の術者の家を経て、小さな資料館の収蔵庫に保管されていた。
それが此所にある。失われた、『黒の宝玉』の欠片。
これがあれば、君は契約当時の君ではなくなる。つまり、契約は自動的に失効する。」

957『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:16:15 ID:scfGdIuY0
 既に宝玉と融合した体の変化を解くことは出来ない。
だが、失われた欠片を補えば変化が完成し、変化に許された力を全て使う事が出来る。
確かに、契約も失効する。しかし。
「何故だ?何故最初からその話をしなかった?何故わざわざその命を危険に曝した?」
「...確かめたかった。」 「何を、だ?」
「自分に当主たる器が有るかどうかを。
もし君に殺されるなら、僕には器がないという事だから。」
「変化が完成すれば、お前は絶対に我を殺せない。それなのに。」
「だから言ってるだろ。殺されるのは僕に器がないからで、それは僕自身の責任だ。」
その御方は白木の箱に触れて一気に封を解いた。躊躇無く、その蓋を取る。
「さあ、取り給え。これは、君の物だ。」

958『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:17:12 ID:scfGdIuY0
 「それで、確かめた結果は?」
「...僕に、当主の器があるということなのかな。あまり、気は進まないけどね。」
「気が進まないのでは困る。お前が当主にならなければ、契約は発効しない。」
「え、契約って。それはさっき失効したから君は。」
「新しい、契約だ。お前は美人が好きだと、そして我を美人だと言ったな?」
「確かに、そう言ったけど。」
「ならば、よもや我の願いを断る事はあるまい。」
足下に膝を折り、その御方の左手に口づけた。
「尊き御方。我が名は◎✕◇。
貴方様に従い、貴方様を守るとお誓い申し上げる。どうか我を僕に。」
「ええと、その、気持ちは嬉しいんだけど。契約はちょっと。」
「何故?」
「だって、勝手に君の契約を解除して、おまけに君を僕の式にしたと知れたら、
あの人は怒り狂うに決まってる。戦いを終わらせるのがもっと難しくなるよ。
あっさり僕を殺して、少しは溜飲を下げるつもりだったろうから。」

959『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:18:37 ID:scfGdIuY0
 「貴方様の僕になれないなら、我の力は無用の長物。生きる意味も無い。
ならば、せめて戦いを早く終わらせるよう、あの男を」
「待った。契約していなければ僕は血縁相克の大罪を回避できるけど、
あの人を殺したら、君は一族全体の仇として報復の対象になってしまう。
契約した術者を殺すなんて、それは式として絶対に。」
「望むところ。それがどんな相手でも反撃はしない。心穏やかに、座して死ねる。」
そう、この御方が、我に対し反撃の手段を全く用意していなかったように。
「参ったな。正直、君の契約を解いて自由の身にする所までしか考えてなかった。
恐らく君は、愚かな人間達の無益な戦いに辟易しているだろうと思っていたからね。」
「人は愚かかもしれない。だが我はその愛しさに賭ける。我も、かつて、人であったから。」
重い沈黙の後、その御方は深呼吸をした。
「さっき話した問題点を解決して、君の希望を叶える方法は1つしかない。
君が僕の暗殺に失敗して死んだ事にする。『上』を通してそう発表するんだ。
『分家の式が次期当主を暗殺しようとしたが失敗した。式は死んだ。』と。
死ねば契約は解除されるし、契約が解除されればあの人は君の動向を把握出来ない。
暗殺失敗には怒るだろうけれど、それは当然想定すべき結果だ。
でも、君にとっては相当な不名誉だよ。君ほどの式が任務に失敗するなんて。」

960『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:19:32 ID:scfGdIuY0
 「貴方様に負けた。それで良い。名誉など要らぬ。」
「本音を言えば、君が助けてくれるなら本当に心強い。でも、契約するには条件がある。
君は当分対外的な任務には関わらない。出来る限り、君の存在を隠すためだ。どうかな?」
「御意。」
「では、君の新しい呼び名を。ええと。そうだ、
君は決して堕落した影なんかじゃない。だから、みかげ、御影はどうかな?」
「有り難う存じます。」
その御方の、照れたような笑顔が眩しい。
「それで...御影は、出来ればこれからずっとその服でいて欲しいな。凄く、綺麗だから。」
「御意。」 全てこの御方の、仰せの通りに。

961『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:20:55 ID:scfGdIuY0
 今日も水平線に陽が沈む。
夜の帳が下りれば、彼方此方の影に拡散していた我の感覚は1つに繋がり、
この場所を覆う大きな傘となる。この場所から少し離れて、あの御方のお社とお屋敷。
あの御方は本当に、敵対する術者の殺害を我に命じなかった。
あの御方の命を狙い、以前の私を差し向けた、あの狂った男の殺害さえも。
私に与えられた御役目は、『聖域』の境界の守護。
この場所を護り、この場所から『聖域』に侵入しようとするモノを排除する。
ふと、感覚の端に違和感。星影に紛れた、微かな、気配。
「秋津殿、戯れが過ぎると、今に間違いが起きよう。そうなっても、責任は取れない。」
「見破られたか。さすがは御影。これなら『聖域』は安泰。安心して隠居出来る。」
我の前任者、一族の黎明から今までを見守ってきた、最古の式。
「して、本日は何の御用かな?この所、穢らわしい船で近づく不心得者が増えて忙しい。
正直、暇な御老体の相手をしている暇は無いのだが。」
「綺麗な顔をして、相変わらず取り付く島も無い。せめてもう少し愛嬌があればの。」
「もし我に一片の美あれば、それはあの御方のため。他の誰のためでもない。」

962『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:23:13 ID:scfGdIuY0
 「...しかし其方がどれ程想いを掛けようと、あの御方は人の身。
その真心も、美しい漆黒の衣も、報われる事はあるまいに。」
「既に全てが、報われている。それにもし報われずとも、我の心は変わらぬ。」
「まあ良い。美味い酒が手に入った、夜光の杯もこの通り。付き合うてくれ。」
「肴を用意しよう、今の季節なら。」
「錆び鮎の塩焼きかな、茸の蒸し焼きもあれば猶良い。」 「贅沢な年寄りは嫌われる。」
「そう言わずに。ほれ、一献。見よ。望月が美しい。何度見ても、な。」
確かに、何度見ても美しい。これから何百年の後もずっと。だが、何時かあの御方は...
いや、今は考えない。ただ、日々心を込めて、あの御方に与えられた任務を果たす。それだけ。
そう今は、それだけで良い。

『契(中)』 了

963 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:26:40 ID:scfGdIuY0
皆様今晩は、再び藍です。

無事『契(中)』の投稿を終える事が出来ました。
(下)以降を投稿することが出来るかどうかは未だ分かりませんが、
此所までお付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
本当に有り難う御座いました。

964名無しさん:2016/02/16(火) 22:23:41 ID:nxJaLFJIO
投稿ありがとうございます!
Sさんのお父さんはとても魅力的な方ですね、覚悟や責任感や器など色々なものが偉大です。凄いです。
憎しみに憎しみを抱く未熟者なので、尊敬します。
「伝承」は本当に大切ですね。明治維新後の伝承の途絶え方に途方に暮れているところです。
それでも歌や昔話や遊びにヒントを残して下さったご先祖様方に感謝です。

本当に続きの投稿ありがとうございました。とても興味深かったです。

965 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 22:51:43 ID:scfGdIuY0
藍です。

早速のコメントを頂き、とても嬉しく思います。込み入った事情があり、
個別の返信は控えておりますが、全てを有り難く拝読しております。
多くのコメントを頂き、(下)以降を投稿する事が出来れば嬉しいです。
きっと皆様のコメントが、説得材料になると信じています。

では、今夜はこれにて。ご機嫌よう。

966名無しさん:2016/02/17(水) 00:21:00 ID:ZYr84F8s0
ご投稿に感謝致します。
美しき式,美しき魂,そして時代を超えて紡がれるその美しき物語。
今回の物語の行方がRさんの五日行にどうつながっていくか,本当に楽しみです。

967名無しさん:2016/02/17(水) 00:40:23 ID:dDULxibc0
ふむ。黒の宝玉は破壊されたのではなく憑代になっていて輪廻の円環から外れた術者を作り出した事
南の守護の為に北が役目を得ている構図と韻を踏んでいると思ったのだが。
黄龍に従うとは形式上のものであったのか。

壬申の乱だとしたら背景を今一度練り直さねば。

968名無しさん:2016/02/17(水) 20:41:21 ID:dDULxibc0
御影さん視点の物語ですか。コレイイ。川の神様とかのもあるのかな。
しかし・・恐れられていたという事は恐れられるような事をしたという事であって
一体何をやらかしたんでしょうなぁ。仕事の依頼が少なかったってことろは少し気になる

969名無しさん:2016/02/19(金) 01:49:06 ID:2WQC3Qw2O
(;´д`)みかげさんは
男性的なイメージでした

一新しました

970名無しさん:2016/02/23(火) 00:06:41 ID:BRsgbXo20
まだかなぁ〜

971名無しさん:2016/02/26(金) 14:26:22 ID:ab2duLI60
かなあ〜

972名無しさん:2016/02/26(金) 14:45:49 ID:JCzLFX5A0
まあ のんびりお待ちしましょう(^v^) 気持ちは分かりますが〜

973 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/26(金) 21:39:32 ID:/gDcHzP60
テスト中です。

974『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/26(金) 21:42:30 ID:/gDcHzP60
 眼が、覚めた。腕の中の、温かく滑らかな感触。
Sさんか姫、でなければ翠。 そっと抱き寄せて...いや、待て。そういえば昨夜。
一気に高まった鼓動に混じって聞こえてくる、これは、寝息?
その寝顔は何だか可愛くて、安らかで、見ているだけで胸の鼓動が静まっていく。
自分の事だけでいっぱいいっぱいだったから思いが至らなかったけれど、
ここへ来てから御影さんは何時、いや、そもそも寝ていたのか。
『特に寝る必要はない』と管さんから聞いた事がある。『必要ならずっと起きていられる」と。
でも管さんとは違う。『生身の体に化生したのは初めてだ』と御影さんは言った。
それなら、こんな風に眠るのは一体何年振りなのか。
あの四股の効果はまだ続いているから、何の問題も無いのだろうけれど、
それにしてもこんなに無防備な寝顔を。もう少しでも寝てもらった方が。
その時、微かに身じろぎをして御影さんが眼を開けた。
「朝か?」 「いいえ、まだ夜明けまではもう暫く。」
「とても、気持ちが良い。もう少し寝かせてくれ。」 「はい。でも、今日の行は。」
「今日の行は、問題なく」 言い終わらない内に、寝息が聞こえた。

975『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/26(金) 21:43:49 ID:/gDcHzP60
 「『寸鉄人を殺す』の例えはこの術が出所だという話がある。
初めは蝋燭の火を消す。かわらけを割れるまでになれば充分。
此所では力が増しているし、恐らくお前はこちらの方が得意だろう。半日もかかるまい。」
言霊に物理的な影響力を与え、必要なら弾や刃としても使えるようにする術。
御影さんの言葉通り、その日の行は滞りなく成就した。
此所を出て力が元に戻れば、多分蝋燭の火を消すのがせいぜい。
でもきっと、依頼人に見せる手品代わりにはなるだろう。
それよりも適性を自分で細かく制御できる技術を習得した事に重要な意味がある。
(もちろんこれも御影さんの受け売りなんだけれど)

 翌日は5日め、いよいよ最終日。
 『五日行』が成就するかどうかは、最終段階の行の成否による。
ただ、その行は夜が更けてから始まるのだそうで、
御影さんは朝食の後出かけたまま、夕方前まで帰ってこなかった。

976『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/26(金) 21:45:09 ID:/gDcHzP60
 夕食の後、風呂。暫く部屋でボンヤリしていると、御影さんに声を掛けられた。
予め指示されていた白い道着に着替え、昨日まで修行していた板の間に移動する。
俺と御影さんは正対する位置で胡座をかいていた。
蝋燭の明かりが、御影さんの端正な顔をゆらゆらと照らしている。
「簡単に説明すると、今からお前はこの庵を出て更に登り、山頂を目指す。
その途中で幾つかの試練が用意されている。
最後の試練は山頂近く、小さな祠の前。其処で夜明けを迎えられれば行は成就。
案内の者が現れる筈だから、その者に着いていけ。」
此所を出るって事は...。

977『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/26(金) 21:46:36 ID:/gDcHzP60
 「それだと、御影さんが張った結界を出ることになりますね。」
「当然だ。様々な怪異がお前の行く手を遮ろうとするだろう。
だが、決して振り向くな。そして、引き返すな。何としても最後の試練を乗り越えろ。
もしも、それが...」
「最悪の場合、僕を処理する。そこまでが、御影さんの仕事なんですね?」
あの夜、乾杯した時に俺なりの覚悟はしていた。あれは、水杯。
御影さんは立ち上がり、背後に廻って俺を抱き締めた。
「無事に戻れ、必ず。お前を、殺したくない。」
背中に感じる温もりが急速に薄れ、ぞっとするほど冷たく。
『行け、時間だ。』 太く、低い声が響くと同時に、背中の感触は消えた。

978『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 01:20:33 ID:ifWbxSHQ0
 庵を出て、山道を登る。思った程、妖の気配は強くない。
ただ、山道の斜度がきつくて、登り続けるのがかなり辛い。
次第に道も悪くなる。まさかこれが1つめの試練という事は無いだろうが。
暫く上ると道はやや平坦になった。額の汗を拭い、ペットボトルの水を飲む。
濃い霧の中、LEDの小さな懐中電灯が照らす範囲以外は、白い闇に閉ざされている。
一体、道を外れたらそこは。その時、それが聞こえた。俺の背後からやや離れて、足音?
思わず振り向こうとして、御影さんの言葉を思い出した。
『決して振り向くな、そして引き返すな。』
歩きながら耳を澄ます。気配は1つ。しかし、その足音。
少なくとも人ではない。絡まり合った足音に、何かを引き摺るような音が混じっている。
ゆっくりと、ゆっくりとそれは近づいて来た。 もうすぐ後ろ、何だか寒気がする。
ふと、笑みが浮かんだ。これでは、まるで同じだ。何も変わっていない。
子供の頃、夜道を通って家へ帰る途中、怖くて怖くて仕方なかった。
闇の中に、得体の知れない恐怖が潜んでいる気がして。しかし。

979『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 01:26:16 ID:ifWbxSHQ0
 『本当に怖いのは、人の心の闇。』
そう、今なら俺は知っている。救いの無い真の闇が現出し得るのは、人の心の中だ。
それに今俺の後ろに感じる気配は、子供の頃に想像した闇に潜む恐怖そのもの。
それに気が付いた時、背後の気配は消えた。
最初の試練は俺自身の弱さが生み出した幻、あるいは俺の弱さにつけ込もうとした妖か。
どちらでも構わない。今はただ、前へ。次の試練へ向かうだけ。
その後も幾つかの怪異が現れたが、俺は御影さんの言いつけを守った。
決して振り向かず、引き返さず、道とも言えぬ細い道をただひたすら前に。
気味の悪い呼び声。助けを乞う血まみれの女性。子供騙し、だと思った。
此の場所に満ちる気で怪異は力を増している筈なのに、こんな。
現れる妖たちが何故これ程見え透いた手を使い、いとも簡単に引き下がるのか。
そう、修行の効果で俺の力が増している。化生していたとはいえ一族最強の式に、
あの御影さんに修行の相手をして貰ったのだから、誰も俺の行く手を阻む事は出来ない。
自信の裏に生じた微かな慢心。思えばその時から、俺は危険な陥穽に踏み込んでいた。

980『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 01:30:12 ID:ifWbxSHQ0
 さらに歩き続け、11時を過ぎた頃、辺りの様子が変わった。
LEDライトで周りの様子を確かめる。草一本生えておらず、獣道のような痕跡も見えない。
ライトを右に向け、次に左。視界の端に何か見えた。小さな祠。
此所が、最後の試練の場。
歩み寄り、深く一礼。祠に背を向けて胡座を掻き、目を閉じて心を静める。
...ピチ...キン。冷えた岩が収縮する音。口笛のような高い音は岩の間を縫う風の声。
ゆっくりと、静かに時間が過ぎていく。一体どの位経ったろう。
このまま朝を迎えられればお屋敷へ帰れるし、今後もこの手で翠を育てる事が出来る。
そしてもし、藍や丹が優れた素質を現し始めたとしても、俺の資質が問われることは無い。
翠は、藍は、どうしているだろう。早く、一刻も早く帰りたい。その思いが隙を生んだ。

981『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 01:33:14 ID:ifWbxSHQ0
 目の前に並んだ、小さな背中が2つ。見覚えのある、懐かしい景色。
「お父さんがいなくて寂しいね。翠は、お父さんが大好きなのに。」
「あのね、あいも、おとうさんだいすきだよ。」
「藍は男の子でしょ。翠は女の子だから、藍の好きとは違うの。」 「ちがう、すき?」
「そう、翠は何時かお父さんのお嫁さんになる。そして可愛い赤ちゃんを産むんだから。」
酷い目眩。確か、前にもこの光景は。あれは何時だったろう?

 「お父さん。」

 女の子が立っていた。7・8歳くらい?初めて見る顔と姿。
でも、確かに残る面影。間違いない、翠が成長した姿。
『あの人』の生まれ変わり、しかし宿った肉体が違うのだから成長した姿も「あの人」とは違う。
「修行が上手くいって良かったね。一緒に帰ろう。お屋敷に。」
歩み寄り、話しながらその姿は成長していく。 15・6歳? 綺麗だ。
「お屋敷に帰ったら、私をお父さんのお嫁さんにして。」

982『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 01:35:43 ID:ifWbxSHQ0
 目の前に浮かぶ、美しい顔。潤んだ眼と、紅い唇が艶めかしい。
全身全霊をかけて育てる。そう誓った。では、育てた後は?
成長した後も、その願いが変わらないとしたら俺は...
いや、そもそも俺はその願いが変わることを願っているのか。もしも。
「今度こそ、きっと...R、さん。」
一瞬で、俺の心は覚めた。 『あの人』の記憶は完全に封じられたのだから、
翠が俺を『R』と呼ぶことはあり得ない。
御影さんの言った通り、これは俺の弱さと醜さ。
右掌に甦る、柔らかな温かい感触。心のずっと奥、未だ癒えぬ傷口。
分かってる。 助けたかった、叶えて上げたかった。 心残り。
弱く、醜い。 本当に俺が翠の父親としてふさわしいか、それは自分自身で判断すべき事。
もし俺が此所で死ぬのなら、俺には資格が無かったと言うだけ。
肩の力を抜き、深く息を吸う。

 『・・・ ・・・ ・・・・・』

 雷鳴を、聞いた気がした。 しかし雨の一粒も、黒雲が生む強風も、何一つ。
そして何時の間にか、暁の空が夜明けを告げている。

983『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 01:41:07 ID:ifWbxSHQ0
 「まさか今の世に、『五日行』に挑む者がいるとは。長生きはしてみるものよ。」
小さな笑い声。振り向くと、灰色の法衣を着た老人が立っていた。これが、案内の。
「あきづ、だ。おや?」 老人の右半身。輪郭がぼやけて、やがて戻った。
「やれやれ、化生も満足に、年は取りたくないのぉ。さ、ついて参れ。」
発言に矛盾がある気もするけど、『あきづ』って、確か昨夜の。
「既に儂の名を。ふむ...あの唐変木に気に入られたか。何と不思議な。」
やはり、御影さんの記憶にあった一族最古の式。
それからは2人、黙って、険しい斜面を登り続けた。道とも言えないガレ場が続く。
空は次第に明るさを増した。たどり着いたのは少し開けた場所。
相変わらずの濃い霧で様子は分からないが、視界全体がボンヤリと明るい。
周りに明るさを遮る影は見えないから、きっと此所が山頂。
そして、その場所の中央近くに小さな祠。
「千年あまり前、此所に術者を1人案内した。それが、お前達の一族の開祖。」
小さな祠の後ろには大きな岩があり、その脇に...泉?
1m四方ほどの深み。清らかな水を湛え、そこから一筋の水が流れ出している。
「近付いて水底を見よ。ただし、まだその水に触れてはならん。」

984 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 02:04:16 ID:ifWbxSHQ0
皆様今晩は、藍です。

少々トラブルも有ったのですが、本日予定の投稿を終える事が出来ました。
続きは明晩以降、成る可く早くにと考えております。ではまた。

985名無しさん:2016/02/27(土) 14:54:23 ID:YIuLBkikO
待ちに待った投稿、知人さん藍さん大変ありがとうございました。五日行の続きを心から楽しみにしています。

986 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:16:06 ID:ifWbxSHQ0
テスト中です。

987 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:18:26 ID:ifWbxSHQ0
皆様今晩は、藍です。

以下、『契(下)』以降を投稿いたします。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

988契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:20:01 ID:ifWbxSHQ0
 険しい山頂に湧く泉、それだけで既に俺の理解を超えている。一体、水脈は?重力は?
『触れてはならん』という言葉には、当然その理由があるのだろう。気を抜くことは出来ない。
慎重に、流れ出しの反対側から泉に近づく。深さも1mくらい?思っていたよりも深い。
水面の反射を避け、ほぼ真上に身を乗り出した時、『それ』は見えた。
水底、他の石とはまるで違う。透き通る濃い黄色という言葉でしか表現できない。
これに比べれば琥珀やトパーズは黄色ではなく、茶色。
今まで、こんな色の宝玉を見たことは無い。そして何より、この形。
「見えるか。」 「はい、今まで見たこともない...何て、言ったら良いのか。」
そう、言葉が無い。俺の適性こそ『言の葉』なのに。
左、右。老人は首を大きくぐるりとまわし、ため息をついた。
「この宝玉が開祖を所有者と認め、代々の世嗣がその力を継承する事を許した。
それがお前たち一族の始まり。以来、開祖を此所に案内した儂は『眼』と称された。
秋津という名とは別にな。それが、あの御方が儂に残してくれた、一番の名誉。」
『眼』、御影さんの記憶に、確かその言葉も。 あきづ=眼=この老人。

989契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:22:47 ID:ifWbxSHQ0
 何時の間にか、老人は小さな柄杓を手にしていた。泉の水を汲み、それを俺に。
きっとこれは『手水』の作法、正座をして深く一礼、右手で柄杓を受け取った。
今まで数えきれぬほど、体に染み込んだ所作。自然に、遅滞なく体が動く。
その水を口に含んだ時、俺は『五日行』の意味を理解したのだと思う。
そして恐らく、当主様の意図を。
「必要な修練を積まぬままでも、『力』を現し術を使う者は希におる。
術者を鍛え育てる手段を忘れた旧い家系、術者の家系以外でも変わり者は生まれるから。
大抵は極く簡単な術しか使えない、基本的な修練を積めば済む者たち。
しかし『奥義』に近づく事が出来る力となれば話は別。
これは、失われた時を埋めるための行。十数年を五日で、無理は承知の荒行。
例え試練を乗り越えても、宝玉に拒まれれば、灰も残らず焼き尽される。
さあ、戻ろう。既に使者が、いや、迎えの者が待っている筈だ。」
使者、か。この行を成就出来たかどうかを知るための。
それはそうだ。もし俺があの水で焼き尽くされたなら...自然に笑みが浮かぶ。
「まるで、他人事だな。ところで、聞きたいことがある。」 「はい、何でしょう?」
すいすいとガレ場を下るその老人を、遅れないように追いかけた。

990契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:23:56 ID:ifWbxSHQ0
 「妖が見せた夢だと見破りながら、あの答えを選んだのは何故だ?」
「選んだ訳じゃありません。僕の中の答えは、あれだけでした。」
「...成る程、あの唐変木がお前を。」 「唐変木で、悪かったな。」
俺の右隣を御影さんが歩いていた。下って行く道の先に、あの庵が見える。
「御影さん、有り難う御座いました。お陰様で。」 「うん。」 小さな声、前を見て歩き続ける。
しかし『一族最古』と『一族最強』。 何で俺が、こんな豪華なシチュエーションに。
庵を通り過ぎても老人と御影さんは歩みを止めない。2人の後を追う。
「まさか、御自ら?」 「五日前も、そうだった。そういう、御方だ。」
??? 何の、話?
5日前、此所に来た時車を降りた場所に出た。やはり、あの時と同じ車。
2人が立ち止まり、揃って片膝を着いた。深く頭を下げる。一体、何?

991契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:26:09 ID:ifWbxSHQ0
 運転席のドアが開き、男性が降りてきた。あの時の、でも今日はマスクとサングラスが。
!! あの時に気付いていた筈なのに、何故? 当主様なら、その気配だけでも俺は。
いや、今はそれどころじゃない。慌てて御影さんの右隣で片膝を着いた。
「まずは御影、Rの行が無事成就したのはお前の指導有っての事。礼を言う。」
「いいえ、私はただ。」 俯いた御影さんの頬が紅に染まっている。とても綺麗だ。
「それで、Rをどう見る?」
「その来歴故、最高位の術者としては未だ非力、心に巣くう虚も看過できません。」
「未だ荷が、重いかな。一族の希望を託すのは。」
「いいえ、時が経てば力は増し、想いが虚を満たしましょう。肝要なのは一途な情。
ならばこの者は一族の宝を託すに最適な術者。
一途な情の織りなす揺り籠、その強さと暖かさは余人を持って代え難し、と。」
「そうか、なら良い。Rにこの行を課した甲斐がある。」
当主様は微笑んで体の向きを変えた。

992契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:27:36 ID:ifWbxSHQ0
 「さて秋津、何を見た?我が一族の『眼』が見たものを教えてくれ。」
「来たるべき者。既に生まれ、目覚めを待つ者。」
「そう、か...今後私がこの任を担うべき時間は?」
「十二乃至十五年。それまでは、どうか。」
「長いな。それまで私は生きていられるか。」 「いざとなれば...」
御影さんと老人の姿がゆらりと薄れる。
老人の最後の言葉は聞き取れなかったが、当主様は微かに笑みを浮かべていた。
「さて、出発だ。皆も着いた頃だろう。」 当主様は踵を返した。慌てて後を追う。
『皆も着いた頃』って? 皆は今、何処に?
「もしお前を失えばSは正気を保てないかもしれないと、桃花の方が。
それで今朝、皆で私の館へ来るように伝えて置いた。
勿論お前ならきっと成し遂げると信じていたが、
最悪の事態に備えるのが私たちの仕事。気を悪くしないでくれ。」

993契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:28:31 ID:ifWbxSHQ0
 「気を悪くするなんてとんでもありません。それより運転は、どうか私に。」
「いや、それは危険だ。此所を出れば一気に疲れが出るし、死ぬほど、痛いぞ。」
イタズラっぽい笑顔。 俺は先回りして運転席のドアを開け、膝を着いた。
当主様が乗り込むのを待ってドアを閉め、後部座席に乗り込む。
「あの、当主様、質問があります。」 「御影のことか?」
「はい。御影さんは当主様のことが好きなのに、何故御影さんの気持ちを。」
「御影の心には今もある御方がいて、私にその面影を見ている。
未だ心の古傷が癒えていないなら、心残りに縛られるのも無理は無い。」
そうか、御影さんの記憶。 御影さんの腕の中で息を引き取った、若い男性。
「当主様なら、きっと御影さんの傷を癒やせると思います。」 そう、御影さんは確かに。
「御影に宝玉の欠片を返したのは私の独断、当然異論も有った。
だから万に一つも、誤解を生みたくない。」

994契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:30:08 ID:ifWbxSHQ0
 「誤解、ですか。」
「もし私が御影の想いを叶え此の場所に通っていたら、誤解する者が出ただろう。
『御影は好きな男のために寝返った。』と。今後も、それだけは避けたい。
私への想いとは関係なく、御影は一族に取って最良の選択をしようとしたのだ。
『●△の大難』を終わらせ、力を持たぬ人々を救うと心を決めた。
だから宝玉の器に変化して敵の主力を単騎で壊滅させ、
更に『●△の大難』の後は自身を式として一族を護ってきた。
その名誉を傷つけることは絶対に許されない。それに。」
一瞬、バックミラーの中から、当主様の視線を感じた。
「御影はお前にも、その御方の面影を見ている。そしておそらくお前の方がその御方に...
傷を癒やすのはお前の方が適任だし、お前が相手なら、要らぬ誤解をする者も出ない。
どうだ、時々は此所で御影と暮らしてみるか?それならあの庵をお前にやろう。」
「いや、でもそれは。あ、済みません。動転して失礼な物言いを。」
「冗談だ、気にするな。御影の傷が癒えれば良いとは思うが、互いの気持ちが最優先。
それに、『代役』が御影の心の傷を癒やせるかどうか、正直分からない。
ただ、癒えぬ傷の痛みに耐える強さを御影は持っている。そしてそれはお前も同じ。
傷の痛みに付け込まれても、闇に飲まれることは無いと自ら証明した。
そして、同じ傷の痛みに耐えている者だからこそ出来る心遣いがある。」

995契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:31:01 ID:ifWbxSHQ0
 「お前なら、『同情』でなく御影に『共感』できるだろう。
これからはどうか、御影の良き友となってくれ。それだけは、頼む。」
「身に余、あっ...」 全身に激痛、息をするのも辛い。これが。
「境界を越えて体の強化が解けた。打撲の痛み、筋肉痛。
あと疼痛というか神経痛も。暫くすれば薄れてくる、それまではひたすら我慢。」
当主様の口調はいかにも気の毒そうだが、それも、正直少し恨めしい。
それから一時間あまり、俺は後部座席でのたうちまわった。

『契(下)』 了

996『契(結)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:32:55 ID:ifWbxSHQ0
 「それで、『来たるべき者』と『目覚めを待つ者』については詳しく聞かなかったのね?」
「はい。話の感じと12〜15年っていう期間で、次の当主の事だと思ったんですけど。」
「ええと、翠ちゃんは女の子だから関係ない、と。」 「はい。」
Sさんと姫は黙って顔を見合わせた。 何となく気まずい、間。
「話してなかったから仕方ないけど、当主は男性って決まってる訳じゃ無い。
実際、今までに何度か女性が即位した例がある。
そういう場合は桃花の方を男性が務める。その女性の夫や兄弟、あるいは従兄弟。」
一気に血の気が引いた。 「じゃあ、もしかしてあの話は翠の?」
「それだけじゃない。藍にも、丹にも、可能性がある。」 「そんな、まさか。」
「可能性の話です。つまり、Rさんの行が成就した日にその質問をなさったのだから、
Rさんに関わりが有ると考える可能性が高い。そういう解釈も出来ますから。」
もし自分の子が...いや、慌てる必要は無い。当主様の代替わりは何時か必ず起こるのだし、
一族はそうやって千年余の命脈を繋いできた。それなら。

997『契(結)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:35:33 ID:ifWbxSHQ0
 「その可能性があるとしても、今までの生活を変える必要はありませんね。」
「...どういう、こと?」 呟くようなSさんの声。姫も黙って俺を見詰めている。
「子供たちを一生懸命育てて、その資質が開花すれば、当然術者への道が開ける。
術者として更に成長した結果がどうあれ、受け容れる覚悟は必要です。
もし『それ』が3人の内の誰かなら、僕たち3人が出来る限りのサポートをすれば良い。
SさんとLさんは、あの子たちを産む時に、その覚悟をしてたんでしょう?
お待たせしました。僕もようやく、その覚悟が出来ました。」
2人は代わる代わる俺を抱き締めてキスをしてくれた。
その涙の美しさを、俺は一生忘れない。
そう、必要ならこれからも、どんな行にだって挑むことが出来る。
「ところで、子供たちの教育のために、考えていた事があるんです。」
Sさんと姫は涙を拭って俺を見つめた。

998『契(結)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:36:23 ID:ifWbxSHQ0
 それから一週間程して、俺たちは雪をお屋敷に引き取った。
翠の仲介もあったのか、雪は管さんや鵬とも上手く馴染んだ。
晴れた日の午後、ウッドデッキで日向ぼっこをする狐と巨大な猛禽と秋田犬。
それぞれの大きさからして遠近感が滅茶苦茶な、不思議で心暖まる風景。
もちろん、家族皆が雪を愛し、あの妖が授けてくれた寿命が尽きるまでの2年間、
雪は俺たちに沢山の笑顔をくれた。 そして。

『契(結)』 完

999 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:39:47 ID:ifWbxSHQ0
皆様今晩は、再び藍です。

色々有りましたが、『契』の投稿を無事に終えることが出来ました。
大幅な書き換え等は有りましたが、投稿の許可を頂けて良かったです。
全て、皆様のコメントの御力故。有り難う御座います。

1000名無しさん:2016/02/27(土) 21:39:55 ID:EZqE5VDE0
面白かった

1001名無しさん:2016/02/27(土) 23:23:51 ID:I6EftpfQ0
藍さんの寝落ちに付いていけなかった・・
私の毎日のクリックを巧妙に避けられるとは
翠さんが誰かを好きになるときに封印は解かれるのかもね。
行はその前なのか、後なのか。

でもね、もういちどあの薄暮。あの草原をRさんが見れるといいね。

1002名無しさん:2016/02/27(土) 23:48:37 ID:I6EftpfQ0
大難の設定だが、前九年の役であれば符合するかもしれませんね。
狼の生息する標高の地形がある(アカメの生息域の北端とは違ってしまうが)
上流にダムもあるしX田物部氏とも思ったが名前の上の字が「長」だと代が昔過ぎる。
戦乱の有った地のひとつに玉造の地名がある。

1003名無しさん:2016/02/28(日) 06:43:27 ID:4yHxEX.EO
投稿ありがとうございます。最後まで読めて嬉しいです。
5日行が無事に済んで、みなさん良かったです。黄色い泉はヨミと文字が合いますね。
有名な修験場とは違いそうですが、そういう神秘が幾つかあるようで興味深いです。
雪ちゃんと式さん方のアンバランスな情景、見てみたいです^^
トラブルの中、投稿を続行して下さってありがとうございました。お疲れ様です。

1004名無しさん:2016/02/28(日) 12:59:06 ID:AhhnqWXUO
五日行は予想を遥かに超えた意味深いものでした。幼な児たちと一族の未来に幸あれ。この物語はいつも想定外の展開を見せながら、他では知ることのできない秘儀を垣間見せてくれます。
なお、管さんと鳥さんと雪ちゃんの姿が目に浮かぶようでとても微笑ましいです。

1005名無しさん:2016/02/29(月) 10:01:18 ID:lC4sOFw60
原本と違ってこの物語は藍さんに元気になって欲しくて続いてきた気がするね
公開の順番にも意味があるのかもしれない
それゆえに厳しくも前を向けと声なき声が横たわっている気がする

1006 ◆iF1EyBLnoU:2016/03/04(金) 00:09:46 ID:zuKQ9dF60
皆様今晩は、藍です。

早速沢山のコメントを頂き感謝いたします。
心の底から共感できるコメント、博識に感心する深いコメント。
個別の返信は遠慮させて頂いておりますが、全て有り難く拝読しております。
ただ、自身の体調の問題もあり、暫く留守に致します。

急ぎの対応は留守の者に任せておりますが、少々頼りないのが心配の種です。
それでは、『次』を投稿できる日を信じて、御機嫌よう。有り難う御座いました。

1007名無しさん:2016/03/04(金) 07:20:08 ID:fQ91Vmg.O
具合が良くなかったんですね、いつもトラブルを乗り越えての投稿ありがとうございました。
どうぞご自愛下さい。

1008名無しさん:2016/03/06(日) 02:14:49 ID:oJl43hAM0
インフルエンザで5日間隔離・・
枯れ木さんが次に罹患のパターンかも

1009名無しさん:2016/03/11(金) 00:07:59 ID:31X2bu6M0
また来ましたね。この日が。
みんな生きててくださって有難う。
神様、お役目や誓いが必ず果たされますよう、我が祈り、人々の気持ちがカタチになります様よろしくお願い申し上げ奉ります。

1010名無しさん:2016/04/05(火) 12:52:08 ID:Fvkzn0NIO
次スレ立てなくても良いのかな…

1011名無しさん:2016/04/05(火) 23:38:17 ID:tYD9igYM0
スレ建てするんなら弟氏の出番と言えるが

もしかしたら藍さんのお加減思わしくなくて、付き添いしてるかもね。気長に待つべしだな。

1012上下段のベッドの人:2016/04/07(木) 20:01:39 ID:SSw4OEjA0
受験生の頃、兄弟でベッドを使っていたときに上段で寝ていた私は奇妙な夢を見た。

女が自分に覆い被さって覗き込む夢だ。
長髪で服を着ていたかまではわからないが、とにかく怖かったのを覚えている。

しかし朝には無論そんなものはいなくて、そのときの私はただ「変なものをみたな」
くらいにしか思っていなかった。

ただ、その次の日の深夜のこと。
私が机に向かって受験勉強をしていたときに弟がふいに起きてこちらに来た。

弟は半分寝ぼけながらもむにゃむにゃと何事か寝言を言うと(当時の弟は小学生だったが、
ふいに起き上がっては一人で寝言とか言ったりするタイプだった。)
ふらふらと兄弟で使っている部屋から出て行ってしまった。

聞けば、その晩は母親の部屋に行き、そのまま母の布団で一夜を明かしたらしい。
私は甘ったれた小僧だと思っていたが、そのときに母親の言った一言が少し怖かった。

「なんでもね、髪の長いお姉さんが自分を覗き込んでて、怖かったんだって…。」

私と弟は、いったい何をみていたんだろうか…?

1013上下段のベッドの人:2016/04/07(木) 20:15:26 ID:SSw4OEjA0
すみません。書き込む場所を間違えました。
駄文失礼いたしました。

1014名無しさん:2016/04/13(水) 23:56:46 ID:jV787j360
もしかして・・二人になって帰ってくるのかもしれないな

1015 ◆iF1EyBLnoU:2016/04/18(月) 23:51:59 ID:Wozqtx6c0
皆様、今晩は。藍です。

先程帰りました。ただ、諸事情により、明朝直ぐ仕事に出ます。
何時仕事の区切りが付くか分かりませんが、精一杯頑張るつもりです。
そんな訳で「次作」の投稿は明言できません。御免なさい。

1016名無しさん:2016/04/19(火) 13:35:31 ID:J0JtEnAUO
藍さんお疲れ様です。
慌ただしい中、お知らせありがとうございます。
どうぞお気をつけて下さいm(_ _)m

1017名無しさん:2016/04/20(水) 00:58:53 ID:Rqkw8ito0
藍さん、のんびりとお待ちしてます^^
ご自愛くださいね。

1018名無しさん:2016/04/21(木) 00:10:49 ID:34OtVijI0
まずは無事に辿り着くことを祈念して。

1019名無しさん:2016/04/30(土) 17:52:40 ID:g3ooVi.6O
藍さんのご健勝をお祈りいたします。また発表済みの作品を読み返しながら「次回作」を待ってます。

1020枯れ木:2016/05/10(火) 21:03:26 ID:xYPvV/xQ0
 本日昼過ぎ、姉が家に戻りました。
暫く仕事の予定はないと確認済みです。

 ただ、かなり消耗が激しいらしく、暫くは目を覚まさないでしょう。
正直、物語の行方を尋ねる気にもなれない様子でした。

 まとめのコメント返信等、引き続き失礼を致しておりますが、
姉自身からのコメントを落ち頂ければと存じます。

1021名無しさん:2016/05/10(火) 23:20:31 ID:Nw1Oe/jg0
さてはて列島は守られるのかどうか。

阿蘇神社見たけど胸が痛むね。どうか一柱でも災いから免れていただきたいものだ

1022名無しさん:2016/05/11(水) 08:39:37 ID:d238ZcF.O
枯れ木さん、お知らせありがとうございます。
藍さん、お疲れ様です。ゆっくりお体を癒されて下さい。

1023 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/14(土) 18:45:02 ID:tjlBh92o0
皆様今晩は、お久しぶり。藍です。
先程までダラダラして体調も少し回復しました。

『新作』と言えるかどうか判りませんが、今度の仕事の終わりに
掌編を1つ、知人から預かってきました。
以前非公開となった作品なので、これから原稿を精査して
指示された条件で明日から書き直し作業に入ります。

期待して下さる方がまだおられるなら、
どうかゆっくり、気長にお待ち頂ければと存じます。
ではまた、いつかきっと、此所で。

1024名無しさん:2016/05/15(日) 02:04:22 ID:btCfCW/sO
お待ちしてます♪

1025名無しさん:2016/05/15(日) 18:33:24 ID:hPxyDJWQ0
嬉しいなぁ♪新作が読めるこの幸せ!
藍さん、どうも有難うございます!!
でも、くれぐれも無理はなさらないでくださいm(__)m

1026名無しさん:2016/05/15(日) 21:29:22 ID:54qwGcvQO
ありがとうございます。待ちに待った新作,とても楽しみです。

1027名無しさん:2016/05/17(火) 00:18:39 ID:q3bILnNU0
おかえりなさい。

1028名無しさん:2016/05/18(水) 12:34:45 ID:neESg9fY0
Rさんご夫妻に会う夢を見た‥
他心通を使える人を前にして、Sさんの、子供を作ろうと思うのやり取りを思い出してしまい、笑が込み上げてしまうのだが、当たり障りのないのだから言葉の最中に「ぶふぉ」と息がもれてしまい、そこで目が覚めた
世の中には遭遇してはならない怪異が存在する事を思い知った

1029名無しさん:2016/05/18(水) 12:45:03 ID:neESg9fY0
当たり障りのないのだから→当たり障りのない、に訂正。予測変換誤字スマソ

1030 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:30:12 ID:zCg44kbM0
テスト中です。

1031 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:32:02 ID:zCg44kbM0
皆様今晩は、藍です。
以下、新作『護符』の前半を投稿いたします。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

1032 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:32:34 ID:zCg44kbM0
 『護符』

 柔らかい午後の日差しの中、心地よいエンジン音が山道に響いている。
「ずっとこんな道なら、この車も最高に気持ち良いのに。」
姫は窓から吹き込む風に眼を細めた。
残念ながらあと1・2分で山道を抜け、幹線道路に入る。依頼の場所は市街地の一角。
「本当にずっとこんな道を走り続けられたら気持ちいいでしょうね。
その、何時でも僕たち二人一緒なら。」
姫は少しだけ驚いた顔をした後、微笑んで俺の右肩に頭をもたせかける。
「嬉しい、です。」 最後の連続コーナーに向け、少しだけアクセルを踏み込んだ。

1033 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:33:21 ID:zCg44kbM0
 その依頼を受けたのは3日前、いつも通り『上』からのFAX。
特に指名は無かったのだが、是非にとSさんに頼んで俺がその依頼を受けた。
依頼主はあるレストランの店長。俺が大学を休学→中退する前にバイトしていた店で、
明るく和やかな雰囲気と美味しい料理が評判だった。同じ大学の学生も良く来てたっけ。
季節毎の洒落た飾り付けや楽しいイベントは今でも続いているだろうか。
古い知人達がそうであるように、修行で面変わりした俺に、きっと店長は気付かない。
それでも、バイト中は何かと良くしてくれたからこの機会に恩返しが出来れば。
その思いにはきっと、過ぎ去った時への感傷も混じっていただろう。
感傷的になり過ぎたが故の事故を心配したSさんが、姫に俺の後方支援を命じた。

1034 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:34:13 ID:zCg44kbM0
 市街地、繁華街の一角にその店はある。狭い駐車場は店の裏手。
駐車場の雰囲気はあの頃のまま。駐車場奥のフェンスが俺の駐輪場所だった。
2時までのランチが終わって一旦閉店、ディナーの開店は6時から。それも変わっていない。
客足の途絶える時間帯に、依頼された仕事を片付ける事が出来れば良いのだが。
ドアを開けるとカウベルが鳴った。重く、乾いた音。これもあの頃と同じ。
ただ、不思議な程に俺の心は平静だった。もちろん懐かしい気持ちは有る。
だが、何処か現実感が無いような、まるで他人事のような感覚。
もう、あの頃の俺とは違うという事なのだろうか。何より今日は『仕事』なのだ。
「こんにちは、昨夜電話したRです。依頼の件で参りました。」

1035 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:35:04 ID:zCg44kbM0
 「はい、ただいま。」
奥から出てきた初老の男性。間違いない、あの店長だ。
「私がこの件を担当するRです。こちらはLさん。」
「Rさんだけでも大丈夫ですが、万一に備えての助っ人です。今日は宜しくお願いします。」
爽やかな笑顔で姫が差し出した右手を、店長は躊躇いがちに握り返した。
「此方こそ、どうぞ宜しくお願い致します。」
一礼した後、店長は俺の顔を見つめて怪訝そうな表情を浮かべた。
...まさか、俺の顔を。いや、Sさんは『心配要らない』と。
実際、偶々数年ぶりに会った親戚や旧友の誰にも俺だと気付かれたことはない。
「あの、どうかしましたか?」
姫が声を掛けると店長は気まずそうに頭を掻いた。
「あ、いや。Rさんが、何だか初対面じゃ無いような気がしたので。」
「どなたかお知り合いに似た方が?」
「はい。もう何年も前、この店でバイトしてた子に。名前も確かRと、それで。」

1036 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:36:03 ID:zCg44kbM0
 どうやら店長には少し『力』があるようだ。あまり深入りしない方が良い。
「興味深い偶然ですが、依頼の話を。出来れば今日で始末をつけたいので。」
「そうですね。ではこちらの席に。今、営業日誌を持ってきます。」
勧められたテーブルの椅子を引く。「どうぞ。」
「ありがとうございます。」 腰掛けた姫の、悪戯っぽい笑顔。
「折角、昔のRさんの事、聞くことが出来そうだったのに。」
「その話は後です。僕が感傷的になり過ぎないように監視するのがLさんのお仕事ですよ。」
「でもお仕事は。」
店長がホットコーヒーの用意をして戻ってきたので姫は続く言葉を飲み込んだ。
コーヒーの香りが店の空気に溶けていく。ふと、店の片隅に小さな気配。
店の壁際、大きな窓を背にして立つ。多分小さな男の子のシルエット。
「ああ、なるほど。確かに一体、いるようですね。」
俺が呟くと、テーブルに日誌を並べていた店長の左頬がピクリと動いた。
「本当に分かるんですか?この店に入ってからずっと?」
「いいえ。今コーヒーを淹れて貰ってるうちに。何処からか突然現れた感じです。」
「コーヒーを淹れたから...やはりお客さんに反応するのでしょうか?」
まるで独り言のように、店長は小さな声で呟いた。

1037 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:36:58 ID:zCg44kbM0
 店長は分厚い営業日誌をめくりながらポツリポツリと事情を説明してくれた。
開店後暫くして、時折店の中に不思議な気配を感じるようになったこと。
当初は営業に支障が無かったので放置していたが、
3年ほど前から希に支障が出るようになったこと。
「家族連れのお客様でした。お子様が突然泣き出したと思ったら、
過呼吸のような感じでそのまま意識が無くなって、それで救急車を呼びました。
病院ではすぐに回復されたようですし、この店に原因があるかどうかも...。
ただ、その後も、同じようなことが二度起きています。」
「計三度、お客さんの子供に障りが出たということですね?」
「はい。開店から11年、開店当初大学生だった常連さんが家庭を持って
ご家族と一緒に御来店下さることも多くなってます。
今後も同じような支障が出るのでは安心できません。それで今回の依頼を。」

1038 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:38:27 ID:zCg44kbM0
 この件と俺、いや、店長と俺に何かの縁があるのだろう。
この店の常連に一族の者がいて、たまたま『事件』に出くわした。
それでその人が『上』への依頼を取り持ったのがこの仕事の発端。
その人と俺たちの面識はないから、特に俺たちが推薦された訳では無い。
たまたま近場で手の空いている術者が俺たちで、だからこれは本当の偶然。
そうでなければ店長の依頼を俺が受けることは無かった筈だから。
「まあ私としては、以前のように、営業に支障が出なくなればそれで良いんですけど。」
相変わらず心の広い人だ。胸の奥から、温かな感情が込み上げる。
多くの人は事情も分からぬまま、そのような存在を忌み嫌う。
それに、『上』からの指示とは言え、無理矢理に始末を付けるのが哀しい事例も有る。
「営業に支障が出ないなら、共存しても構わない。そう解釈して良いですか?」
店長は暫く俺の顔を見つめ、やがて溜息をついた。
「私にはそれが何なのか分かりません。だから少し、怖いような気もします。
でもそれが今までずっとこの店にいたものなら、お客様に悪い影響が出ないのなら、
このままこれからも此所にいてくれて良い。そんな気がするんですよ。
客商売をする人間としては、失格なのかも知れませんが。」

1039 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:39:57 ID:zCg44kbM0
 開店して暫くしてから、それが店長の記憶違いでないのなら、
俺がバイトをしていた頃には既に、それはこの店にいたことになる。
小さな男の子の姿がハッキリしてくるほど、人間離れした特徴も目に付く。
体全体がゆらゆらと波打つように動き、顔の造作が絶え間なく変化する。
もし、当時の俺がそれを見たら間違いなくパニックになって腰を抜かしただろう。
俺の仕事は主に皿洗いだったから、11時頃まで厨房に一人でいることも多かった。
もしもそんな時にこの姿を見ていたら...
思わず、笑顔が浮かぶ。あの頃とは、随分違った自分を俺は生きている。
「男の子です。5〜6歳位の。だから希に小さな子供に反応・干渉して、
加減を忘れてしまう事がある。そんな感じでしょうね。
この店から祓うとしたら、その由来を調べて入念に準備をする必要がありますが、
あなたが共存しても良いと仰るので有れば、お祀りするだけで十分です。」
「お祀り?」
「はい、あなたやお客さんに対する悪意を持った存在ではないのですから、
しっかりお祀りしてこちらの好意と願いを示せば、きっと応えてくれると思います。」
一体、見えないということは、不幸なのか幸福なのか。
俺の正面に座った店長の背後、すぐ右側に、小さな男の子の姿をしたそれが立っている。
俺と姫を交互に見つめる、不安そうな表情。その眼には悪意も悲しみも感じられない。

1040 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:42:33 ID:zCg44kbM0
「先ほど『小さな男の子』と言いましたが、所謂幽霊では有りません。
どちらかというと妖精に近いもので、それが男の子の姿をとっています。
ハッキリした意思を感じませんから、おそらく記憶を封じているのでしょう。
それが何かの拍子にあなたか、それとも店のお客さんに憑いてきて、ここに落ち着いた。」
「それなら、何処かに本当の居場所があるということですか?」
その優しさに少し、胸が詰まる。
「大昔ならともかく、近代以降は妖精の住める場所はどんどん減っています。
それに、詳しく事情を調べたら却ってマズい事になるかも知れません。
例えば住処を人間に破壊されて、それを思い出したら怒りと悲しみに囚われるとか。」
調べたとしてそれの正体が判明するか分からない。ただ、人の姿を取っているのだから
もともと人に親しみを感じていた存在なのだろう。もしも、人に住みかを破壊されてもなお、
『人を恨みたくない』『人を憎みたくない』 そんな気持ち故に記憶を封じたのなら、哀しい。

1041 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:45:12 ID:zCg44kbM0
 「確固とした意思を感じないので、おそらく自我も姿の通り幼い子供のレベルでしょうね。
退行した原因は分かりませんし、結局あなたや此所との相性が良いとしか。」
「そう、ですか。なら結構です。此所に居た方が良いというなら、ずっと居てもらっても。」
「分かりました。では早速用意をします。暫く、そうですね。30分程時間を下さい。」
茶色い皮の鞄、My『お出かけセット』から必要な道具を取り出す。
この子への親しみを編み込み、同時に、この店とお客さんを護ってくれように願を編み込む。
ホームセンターで調達し、白い封筒に小分けした結束バンド。今回使うのは赤・白・緑・青。
俺はSさんと違い、紙を使うのが得意ではない。
加工する必要がなく、容易に結び目を作れる結束バンドは本当に役に立つ。
「あの、それは?」 「特別に、僕の師匠に清めて貰った、護符の材料です。」 「へぇ。」
すい、と姫が視線を逸らして窓の外を見た。 笑いを堪える、可愛い表情。
まあ、時には嘘というか方便も必要だ。
ただの結束バンドだと言ったら、信じる気持ちは薄れ、護符の効果も弱くなる。
「一目一目、想いを込めて編みます。その子のために、このお店とお客さんのために。」
「ありがとう、ございます。」

1042 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:49:16 ID:zCg44kbM0
皆様今晩は、再び藍です。

無事、作業が終了した部分の投稿を終える事ができました。
残りの部分もきっと近いうちに。
お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
有り難う御座いました。

1043名無しさん:2016/05/18(水) 20:17:13 ID:mCRDBLr.O
ありがとうございました!続きがとても楽しみです。待ってます!

1044名無しさん:2016/05/18(水) 22:56:29 ID:NCgnzTsg0
文面も懐かしい。読み始めた時みたいだ。

1045名無しさん:2016/05/19(木) 02:14:32 ID:P3iy3Ff.O
投稿ありがとうございます。マスターさんのお人柄が素敵です。
居場所を失った妖精さん、ごめんなさい。

1046 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/19(木) 02:48:50 ID:aKJo2V6w0
>>1043
>>1044
>>1045

今晩は、藍です。

残りの作業が一段落したところで覗いてみたら驚きました。
何というか、地味なお話なので反応が無いのも覚悟していたのですが。
早速のコメント、感謝いたします。

作業はほぼ終了、知人のチェックが済み次第、続きを投稿できると思います。
どうかもう暫く、お待ち下さい。有り難う御座いました。

1047 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/19(木) 23:20:28 ID:aKJo2V6w0
テスト中です。

1048 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/19(木) 23:22:12 ID:aKJo2V6w0
皆様今晩は、藍です。

以下、『護符』の残りを投稿いたします。お楽しみ頂ければ良いのですが。

1049 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/19(木) 23:26:48 ID:aKJo2V6w0
 「ところで店長さん。」 突然姫が口を開いた。 店長の戸惑った顔、「はい?」
「さっきの話が気になっているんですが。Rさんと同じ名前の、アルバイトの方の。」
「ああ、あの子は...もう5年前ですね。」
店長は再び営業日誌をめくった。目配せしようとしたが、姫は知らん顔だ。
事情は聞いたし、既に護符作成にかかっている。
『後の話』をしても問題はない。俺はただ、護符作成に集中すれば良いのだから。
「とても真面目に働いてくれて、卒業したら正式に採用したいと思っていたんですよ。
でも、急に辞めてしまって。残念でした。故郷に帰ると言ってましたね。」
その話なら既に姫も知っている。『田舎に帰って見合いをする』というのが筋書きだった。
「その人、Rさんはどんなお仕事をなさっていたんですか?」
「食器洗いと、時々は食材の下ごしらえの手伝いも。
そうそう、季節ごとの飾り付けも任せてました。何時も見事な出来でしたよ、とても器用な子で。」
二人の話を聞いても、心は不思議な程平静で、特別な感傷は湧かなかった。
もう、あの頃の俺とは違う。新しい家族と新しい人生を歩んでいる。
昔の話を聞くほど、その感覚が強くなり、むしろ気持は静まっていく。
それもあって、護符の作成は思っていたより順調に進んだ。

1050 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/19(木) 23:27:47 ID:aKJo2V6w0
 重要なのは、結び目の数と、それをまとめる色の意味。
次第に形を取る、大きな花弁と、それを取り巻く艶やかな葉。
『命の喜び』、そして『心からの願い』を意味する護符。
一目毎、結び目に俺の『力』を編み込んでいく。確か3年の修行の成果。
いつの間にか、全ての音も情景も、俺の心から消え去っていた。
それからどれ程の、いや、多分予定通り。30分前後の時間。

1051 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/19(木) 23:28:31 ID:aKJo2V6w0
 これで良い。額の汗を拭い、ふう、と息をつく。 「出来ました。」
「これは...綺麗だ。何というか、如何にも御利益が有りそうですね。」
Sさんから習った護符の1つ。赤・白の花弁と緑・青の葉を象った意匠。
「これをどこか、店の中に置いて下さい。引き出しの中とかで構わないので。」
「いや、それでは勿体ない。これは是非、ああそうだ、飾り棚に。」
店長は受け取った護符を手に、壁の飾り棚に向かった。
ガラス戸を開け、棚の上段にそっと護符を置く。もう一度護符に触れてからガラス戸を閉めた。
ふわりと浮き上がり、店長の背後からそれを見つめる男の子。嬉しそうな、笑顔。
もう、大丈夫だ。

1052 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/19(木) 23:29:55 ID:aKJo2V6w0
 「お礼にディナーをご馳走したいので、このままもう少し。」
俺がテーブルの片付けを終えたタイミング、間髪を入れず姫が頭を下げた。
「申し訳ありません。店長さんのお気持ちは嬉しいのですが、
既に料金の精算は済んでいると聞いています。
それなら、仕事以外の理由で長居するのは禁忌なんです。」
失礼無く、依頼主の申し出を断るとしたらこれ以上の方便はない。流石に姫だ。
「そう、ですか。それなら。」 店長は足早に店の奥に入り、暫くして出てきた。
「せめてこれをお持ち下さい。」 綺麗な紙に包まれた、洋酒の瓶?
「ありがとう御座います。頂きます。では、私たちはこれで。」
店長に見送られて店を出る。男の子の姿はない。
飾り棚に両手をついて、あの護符を見つめる姿が目に浮かぶ。
無事に仕事をやり遂げた充実感。それこそが術者にとって、何よりの幸福だと思う。
今度俺がこの店を訪れるとしたら、それはかなり先のことになるだろう。

1053 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/19(木) 23:30:50 ID:aKJo2V6w0
 車の窓からじっと景色を眺めていた姫が、不意に口を開いた。
「何だか、とても嬉しいです。私、信じていましたから。」
信じていた? 俺が護符を作ったのは初めてじゃない。護符の事でないとしたら。
「信じていたって、何を、ですか?」
「昔の話をしてもRさんはもう感傷的になったりしないって。」
「そりゃ僕はもう昔の自分とはかなり変わりましたから。あまり感傷的には。
でも、感傷的にならない方が良いのなら、あの時わざわざ昔の話をしなくても。」
「Rさんが『昔の自分じゃ無い』って自覚することが必要だったんです。お仕事、ですから。」
??? 自覚? 仕事? でも姫の仕事は。

1054 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/19(木) 23:32:10 ID:aKJo2V6w0
 「あの、御免なさい。話の内容が理解出来ないんですが。」
「あの子をあの店に連れてきたのはRさんです。何時何処から、それはもう分かりませんけど。」
「へ?僕が?」
「はい。Rさんに憑いてきて、偶々あの店と店長さんの気配に馴染んだ。
だからあの子があの店で安定した状態を保つには、店長さんとRさんの気配が必要なんです。」
いや、しかし俺があの店でのバイトを辞めたのはもう5年も前だ。
その後あの店でバイトした人間は沢山いた筈だし、既に俺の気配など。それなのに。
「店長さんのことは分かります。でも、僕の気配が今もあの店に?
もう5年も前ですよ?幾ら何でもそんなに長くは。」
「だってあのお店には『身代わり』が。忘れちゃったんですか?」
「あ。」
そうだ、姫に仕込まれた術の件。『分家』の術者を攪乱するために、
姫が作ってくれた身代わりをあの店にも隠した。確か更衣室とトイレ、厨房の戸棚の奥。

1055 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/19(木) 23:34:33 ID:aKJo2V6w0
 「いくら身代わりでも、本物がすぐ傍にいたら効果がありません。
そしたらあの子はまた、Rさんに憑いてきてしまうかもしれないと思ったんです。」
「だから昔の話をして、僕が昔の自分とは違うとハッキリ自覚するように?」
「はい。もしかしたらSさんはRさんがこの依頼を受けると決めた時に
何か予感していたのかも知れませんね。だからきっと今日私を一緒に。
でもSさん自身で無く私を。それならSさんも信じていたんです。
Rさんはきっと大丈夫。絶対に過去に囚われる事は無いって。」
...姫も、Sさんも、一体どれ程の。
術者としての時間を積み重ね、自分が力を付けるほどに、二人の力の凄さを思い知る。
でもそれは何だか小気味よく、そして嬉しい。笑いが込み上げた。
「どうしたんですか?何だか楽しそう。」
「楽しいです。だって二人の凄さが分かる度、『僕にはやるべき事が沢山ある』って
自覚できますから。そう、明日からまた、頑張りますよ。」
黙って微笑みを浮かべた姫の横顔は、とても美しかった。

1056 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/19(木) 23:36:44 ID:aKJo2V6w0
 「お礼がこのシャンパン?しかもロゼ。こんな高価なお酒を普通に在庫してるなんて、
そのレストランかなり繁盛してるのね。妙な事があったのに、お客は減らなかったのかしら。」
「子供たちの事例は食中毒とかが原因じゃないのが明らかで、それについて
店の責任を問う声は無かったようです。店長の対応にも問題は無かった訳ですし。
むしろそれ以外の妙な事、不思議な気配や何かが話題になって、
口コミでお客は少しずつ増えていたようですね。
『その店で食事すると恋が叶う』とか、『大きな商談にはその店が絶対』って。」
それは多分、座敷童の出没する宿に宿泊したがる人々に似た心理なのだろう。
「Rさんが作った護符が有りますから、今後は稀な障りもなくなる筈。
これからはお客さんに、もっともっと良い影響が出ると思います。」
「それならこれ飲んでも罰は当たらないわね。早速冷やして夕食に。楽しみ〜。」
Sさんはそのお酒を持ってリビングを出て行った。軽やかな足音。

1057 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/19(木) 23:41:52 ID:aKJo2V6w0
 姫の言葉通り、その店は大いに繁盛し、今では地元でも評判の名店に数えられている。
未だ不思議な噂も絶えないらしいが、それがまたオカルト好きの大学生たちや
小さな子供のいる家族連れには大評判だと聞いた。
もちろん料理も美味しいし、何より店長の度量が有ってこそ実現した一種の奇蹟。
100年程前なら、そんな場所が普通に存在していたと聞いた。
人と人ならぬモノが自然に交流する不思議な場所。 『交差点』。
きっと現代にも一軒くらい、そんなレストランが有っても良い。
Sさんも姫も、同じ意見だ。
ただ、万一の事を考えると俺はその店に行かない方が良い訳で。
それだけが少し残念なのだけれど。
その店の名は『◎×◆』。


 『護符』 完

1058 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/19(木) 23:44:32 ID:aKJo2V6w0
皆様今晩は、再び藍です。

無事『護符』の投稿を終える事が出来ましたが、少々疲れました。
また暫く、お休みを頂きます。お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
有り難う御座いました。御機嫌よう。

1059名無しさん:2016/05/20(金) 00:32:11 ID:a4wElfi.0
 時は流れ,世は移り,人は変わり,季節はうつろう。されどくすしき物語は,代々に受け継がれて色褪せず,人の心を惹きつけてやむことなし。
 地味だなんてとんでもない,滋味溢れ味わい深き物語を,ありがとうございました。

1060名無しさん:2016/05/20(金) 02:20:46 ID:fKh73vsY0
投稿お疲れ様です。いつも楽しく読ませて頂いています。愛情と信頼関係が描かれている美しい作品ばかりですね。心の中のかさぶたがすうっと消えていくような暖かい気持ちになりました。

1061名無しさん:2016/05/20(金) 07:53:08 ID:KLrF6jKQO
続きの投稿ありがとうございました。楽しみにしてましたが、その期待が藍さんに無理をさせてしまいすみませんでした。お疲れ様です。
ゆっくりお休み下さい。

北越奇談など割りと近しい昔話でも不思議が溢れていて、その不思議を当たり前に受け入れて生活している人々の姿があって、なぜ今こんなに不自然な世界になったのかとても不思議です。
探せば現代でもRさん方のような不思議なお話はみつかりますが、それを当たり前に受け入れて生活できる人々はなかなかおられないようです。

過去の自分とは違う、という冷静沈着な感覚は凄いです。それを促す姫方もさすがです。

とても面白かったです。
投稿ありがとうございました。

1062名無しさん:2016/05/20(金) 21:08:39 ID:92HvdI9o0
ああ・・変わった素材で作られた身代わり・・
食べ物のお話であまり思い出したくはなかった////
Rさんは幼少や学生の頃のお友達とか殆ど振り切ってしまったのだろうか。

1063名無しさん:2016/05/21(土) 01:17:55 ID:tA8dIADcO
(・ω・)楽しく拝読しましたん

1064名無しさん:2016/06/02(木) 01:35:37 ID:Dp0YMRgY0
去年の冬から拝読しているものです。投稿誠に感謝致します。情景が浮かぶ美しい言葉を綴った素敵なお話を読ませていただくことを日々の楽しみにしております。藍さんご自身のことを第一にお考えください。
それでも、多少の余暇がお出来になった際には、また新しいお話を拝見できればとお待ちしております。

1065枯れ木:2016/06/06(月) 20:30:23 ID:KAP.Er8c0
 「暫く戻れない。」と、昨夜連絡がありました。
『護符』に関しては、代理でのコメントを命じられましたが、
まとめでのコメントは許可されていないので代理はこちらだけで。

>>1059
 地味→滋味。座布団3枚、姉も同意してくれると思います。

>>1060
 男女と親子の「愛情」はこの物語の核心でしょうね。
読者様のお心を暖められたなら、姉も本望かと。

>>1061
 まさか、
「北越奇談」をご存じの方がこれらの物語をお読み下さっていると知ったら、
姉もきっと気を引き締めざるを得ないでしょう。あはは。ちょっと爽快、です。

>>1062
 身代わりに使われたのが「髪の毛ではない」という記述からして、
使われたのは「血」。多分、Rさんの寝ている内に。出血の次第は『追憶』で。

>>1063
 有り難う御座います。きっと姉と知人さんには、それが何よりの褒め言葉です。

>>1064
 有り難う御座います。
姉は我が儘ですから、綺麗事で無く、全て自己満足のための投稿です。
放っておいても、何時かきっと新作を投稿するでしょう。
どうかそれまでは、気長にお待ち下されば、と。

 まとめでの返信は姉の帰還をお待ち下さい。有り難う御座いました。

1066名無しさん:2016/06/07(火) 02:54:39 ID:6.kSWej.O
枯れ木さん、ご報告とレスポンスありがとうございます。
藍さん、どうぞお大事に。ゆっくりご自愛下さいm(_ _)m

1067 ◆iF1EyBLnoU:2016/06/20(月) 22:03:12 ID:sRxNzSvc0
皆様今晩は、藍です。

昨夜戻りましたが、明日また仕事に出ます。
次作の準備も進めていますが、投稿の時期は明言出来ません。

それまでお待ち下さる方がおられるなら
いつかきっと此所で、有り難う御座いました。

1068名無しさん:2016/06/20(月) 22:11:34 ID:OHledwhEO
藍さん,大変お忙しいところありがとうございます。楽しみにして待っています。なお,ご無理をなさいませんように。

1069名無しさん:2016/06/21(火) 11:23:55 ID:p0TVb3OYO
藍さんご報告ありがとうございます。
藍物語が好きなのでいつでもお待ちしてます。
昨日、愛染明王を初めてお参りしたら、藍色でした。愛は藍色なのだとなんだか納得しました(^o^)/

1070流れ者、流れる:2016/06/26(日) 08:29:03 ID:tJGudKPw0
>>1067
お元気そうで何よりです。
物語は、マイペースで続けて下さい。
呪札僧スレは落ちちゃいました。さらに削除されたかな?もと板に戻れ、しがらみもファン(粘着さん)もあまりなくなりました。何とか生きています。
では、お元気で!

1071 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/11(月) 22:05:35 ID:5JFQwWiM0
皆様今晩は、藍です。先程仕事から戻りました。
お土産のお話が1つ、少し休んで、投稿の準備を致します。
まだお待ち下さる方がおられるなら、近いうちに此所で。

1072名無しさん:2016/07/11(月) 23:31:18 ID:ca4ZU0Pw0
お帰りなさい。良く休んでください。起きる時は弟さんに寝過ぎで怒られて下さいね〜

1073名無しさん:2016/07/12(火) 01:55:21 ID:3z9x5B5YO
(´Д`)お待ちしてます♪

1074名無しさん:2016/07/13(水) 00:47:17 ID:VhYqD3jMO
ありがとうございます!楽しみにしてます!

1075 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/14(木) 22:43:37 ID:sdlCPg8I0
テスト中です。

1076 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/14(木) 22:49:53 ID:sdlCPg8I0
皆様今晩は、藍です。

以前、非公開とされた掌編を公開する許可を頂きました。
温暖化や地震、水害等、相次ぐ天災の中で
この作品の公開許可を頂いた意味を今も考え続けています。
知人もその意図を測りかねると言った作品ですが。
以下、『啓示』。曲解無くお楽しみ頂ければ有り難く存じます。

1077『啓示』 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/14(木) 22:52:30 ID:sdlCPg8I0
『啓示』

 山々の緑に微かな錦が混じっている。きっと、もう、秋が近い。
川の神様の神社、境内の掃除を終えたところ。
ここ暫く、川の神様はご不在。お社はガラ〜ンとして、なんだか寂しい雰囲気。
掃除道具を片付けたとき、視界の端に人影が見えた。
足音も無く近づいてくる黒い着物。 膝を着いて頭を下げた。川の神様、だ。 
「久し振りだな。早速だが、お前に会いたいと仰るお方がおられる。付いて参れ。」 「はい。」
今日はSさんも姫もいないが、護り神様の仰せで有れば是非も無い。
聞き慣れた話し方と調子。しかし、何と無い違和感。 川の神様は既に歩き始めている。
川の神様の後を追い数歩踏み出した時、地面がぐらりと揺れた気がした。

1078『啓示』 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/14(木) 22:53:35 ID:sdlCPg8I0
 ここは、二週間後に訪れる予定の...では俺に会いたいというのは。
「そう、御陰神様だ。此度の大災害の対応から昨日お戻りになった。
お前の、人の気持ちが知りたいと仰っておられる。」
やはり、その御声に感じる違和感は消えない。一体これは?
本殿、階段を上り川の神様は廊下に膝を着いた。俺は階段の前に正座をする。
「御陰神様、Rが参りました。」 声を掛けて障子を開く。
数m奧に御簾、その向こうから淡い光が洩れていた。

1079『啓示』 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/14(木) 22:54:31 ID:sdlCPg8I0
 『良く来たな。お前たちの仕事も一段落と聞いた。
大儀であった。術者たちは皆、見事な働きだったと聞いている。』
この御声、以前聞いた響きではない。あれは、姫の声帯を使って発せられた声だったからか。
川の神様の表情を伺う。川の神様は黙って頷いた。
「術者の本分を尽くしただけでございますが、勿体ないお言葉。痛み入ります。」
『さて、此度の大災害、お前はどう思う?』
「多くの命が失われ、とても、とても悲しく恐ろしい出来事でした。
一族の者に犠牲者は出ませんでしたが、到底、それを喜ぶ気にはなれません。」

1080『啓示』 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/14(木) 22:56:33 ID:sdlCPg8I0
 『吾を...吾等を恨むか?何故この国の民を助けてくれなかったのか、と。』
その御言葉で、俺の心の中の何かが崩れて、涙が溢れた。
大切な人を失った人々の涙、俺の心に流れ込んだ悲しみ。
災害のあとの仕事の数々、その記憶が甦る。 息が、詰まった。
心の奥深く。間違いなく『何故?』という気持ちは有る。そしてそれはきっとSさんも姫も、
いや、この大災害に関わる仕事をした術者全員が同じだったろう。ただ。
『正直に申せ。吾等を、恨むか?』
必死で呼吸を整え、心を静める。やっとの思いで言葉を絞り出した。
『いいえ、神々の御加護が無ければもっと酷いことになっていたと、
私たちは、それだけを、信じて...』

1081『啓示』 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/14(木) 22:57:27 ID:sdlCPg8I0
 これ以上は、無理だ。言葉が続かない。重い沈黙。
『遠い昔、お前たちの時間で数十億年の彼方。
吾等はこの星の活動の源となる力によって生じた。今も、その力によって此処に在る。
この国は星の活動が激しい場所にあり、それ故吾等の数も多い。』
涼やかな御声は辺りの空気を震わせ、俺の心に染みこんでくる。以前聞いた時とは違うが、
これこそが御陰神様の、本来の御声なのだろう。気品も御力も、間違いない
『その後、星の活動によって険しい大地と深い海が生じ、
そこに数知れぬ命が満ちるのを吾等は見てきた。
吾等全てがそうだとは言わぬ。だが吾は、この地に満ちる命を愛しく思った。
この地と、そこに住む全ての命を護りたいと思っている。それだけは信じて欲しい。』
疑う事など出来ない。悠久の時を超えて、この地を守護してこられた御陰神様の、御言葉。
『ただ、吾等は抗えぬ、その力に。吾等には止められぬ、その力が起こす災いを。』
その力によって神々が生じたのなら...そしてこの国はその力が特に強い場所の1つだと。
『そして吾等の、何よりも深い業が、これだ。』

1082『啓示』 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/14(木) 22:58:36 ID:sdlCPg8I0
 洩れてくる光が明るさを増し、するすると御簾が開いた。
眼を伏せるか閉じるか思案する間もなく、これは...もう、眼を逸らせない。
12・13歳?五色の薄衣を纏った御陰神様は可憐な少女のように見えた。
以前聞いた御声と違っていたのはこのためだ。むしろ、あの時の姫よりも。
でも、御陰神様はこの辺りの神々を束ねる主神で、もう何千年も前から。
『この星が活動し大きな力が働くと、吾等もその力を得て時を遡る。
だから、この星の力が尽きぬ限り、吾等は不死。だが...』
御陰神様の右頬に一筋の涙。 胸の奥に響く、深い悲しみ。
『吾は見たくない。星の力で引き起こされた大災害で失われる、数知れぬ命を。
不死の代償がそれらの命だとしたら、むしろ吾は。』
『御陰神様、怖れながら、どうかそれ以上の御言葉は。』

1083『啓示』 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/14(木) 22:59:30 ID:sdlCPg8I0
 川の神様の、切羽詰まった御声。確かに、川の神様も以前より若返って見える。
それが俺たち人間や他の生物の命と引き替えに...いや、違う。
『原因』となるのがこの星の力という点は同じだが、それがもたらす『結果』は別だ。
その力は一方で神々を不死とし、他方では大災害を引き起こし多くの命を奪う。
大災害で失われる生物たちの命と引き替えに神々が不死なのではない。
当然、神々が不死と引き替えに大災害を防ぐこともできない。
何より、悪意を持って我々を殺すために地震や津波が起こるなど絶対に...
それはこの星に生まれたものの宿命。生まれたのだから、何時かは死ぬ。
産み出し、飲み込む。 遠い時の彼方、この星の力が尽きれば神々の存在さえも。ならば。
下腹に力を入れ、深く息を吸った。

1084『啓示』 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/14(木) 23:00:38 ID:sdlCPg8I0
 『此の度の大災害では、亡くなった人々の魂を救うために、
各地から多くの神々が被災地に集い、心を砕いて下さったと聞いています。』
大災害に関わる仕事の前に、当主様は術者を集めてそう仰った。
『亡くなった者の魂は神々に委ねよう。きっと見落とすことなく、救い導いて下さる。
そして我々は、残された者が生きていくための仕事をするのだ。』と。
御陰神様は真っ直ぐに俺を見つめた。その瞳以外、全てが視界から消えていく。
綺麗だ。俺は知っている、この感覚は。
『確かに、自らの業の重みで沈んだ者を除いて、吾等は全ての魂を掬い上げた。
少し時間がかかって苦しませたが、それらの魂は今、この上なく安らかにある。』

1085『啓示』 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/14(木) 23:02:56 ID:sdlCPg8I0
 暗く、冷たい川の中に跪いている。俯いて水面を見つめた。
上流から、薄紅色の光がゆっくりと流れてきた。右手がひとりでに動いてそれを掬い上げる。
そうか、この情景は御陰神様の記憶。
『済まぬ。長く待たせて、苦しませて、本当に悪かった。
だが、安堵せよ。苦しみも、痛みも既に、無い。』
右手の下にそっと左手が。右掌にぽたぽたと落ちる滴は...涙?
薄紅色の光は明るさを増し、掌から飛び立つ。まるで、蛍。 これで、良い。
『御陰神様、救うことの出来る魂は、もう。』
『そう、だな。だが、本当に見落としはないか?あの忌まわしき者共の始末は?』
『それはこれを。結界に近付いた者はこのように。』 捧げ持つ槍に貫かれた、浅ましい姿。
『皆様方、御仕事を終えて御陰神様を待っておられます。どうか。』
本当か、本当に見落としは無いか。もう一度心を尽くして上流と、水底に注意を向ける。
大丈夫。悪しき業深く自らの光を失った者以外の気配はない。
ゆっくりと立ち上がる。衣から滴る水の音。辺りを飛び交う無数の光。
おそらく他の区画でも...他の神々が既にこの仕事を終えた頃。

1086『啓示』 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/14(木) 23:04:03 ID:sdlCPg8I0
 『明日、夜明け前に皆で沢へ参れ。我等が生物の間に結んだ約束の証を見せよう。』

 何時の間にか、俺は川の神様の社、境内に立っていた。
『あの、沢だ。忘れてはおるまいな。』 「それは、勿論。」
「宜しい。では、細君お二人と姫と若たち三人も。きっと、だぞ。」 「はい、必ず。」

 厳密には定員オーバーなのだろうが、細い山道の入り口で軽の4駆を降りた。
俺は藍を、姫は丹を抱き、Sさんは翠の手を引いて歩く。
「ちょっと待って下さい。今、この藪を。」
この藪を抜けて斜面を降りればすぐ下に沢。藪の草を踏み分け、道をつける。
「あれは...」 Sさんの声。 続いて姫の溜息。
振り向いて皆の顔を見て、その視線を辿る。斜面の先、沢の方向に視線を移した。

1087『啓示』 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/14(木) 23:07:45 ID:sdlCPg8I0
 数知れぬ、色とりどりの光。
夜明け前の薄闇を照らす、まるで季節外れの蛍、しかしこの色と数は。
そして辺りに漂う芳香、微かに鈴を振るような音。
この世ならぬ景色、まるで、秋の蛍祭り。
それらは次第に高く舞い、天上を目指すように見える。救われた魂が、きっと。

 『然るべき季節、この沢に蛍が舞う限り、約束は守られる。
それを確かめるために、その季節に御前たちは毎年、此所へ参れ。忘れるな。』

 黙ったまま、藍も丹も、飛び交う光を見つめていた。
Sさんは微笑んで翠の涙を拭き、その体を抱き上げる。
俺たちは膝を着き、黙って深く頭を下げた。明るく、静かだ、
恐らく、この景色こそ、涅槃。日々を懸命に生きる命に約束された場所。

『啓示』 完

1088 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/14(木) 23:12:31 ID:sdlCPg8I0
皆様今晩は。再び、藍です。

お陰様で無事『啓示』の投稿を終える事が出来ました。
この作品については否定的な反応が有ることも覚悟しておりますが、
出来れば曲解無く、公開された意味を汲み取って下さる事を願っています。

ここまでお付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
本当に、有り難う御座いました。

1089 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/14(木) 23:22:52 ID:sdlCPg8I0
追伸

昨夜、次作の原稿の一部を受け取りました。
「開祖」の御方に関わるお話のようです。今のところは
公開の時期も、そもそも公開できる作品なのかも不明ですが、
公開できるなら何時かきっと此所で、御機嫌よう。

1090名無しさん:2016/07/15(金) 00:42:22 ID:lWAmY10cO
新話投稿、おつかれさまです

1091名無しさん:2016/07/15(金) 02:12:51 ID:EeW0cPpU0
ひとつの事をずっと集中して想ってください。
かならずその理由は後からでも見えてきます。それが信解、さんげ。
それが身に付くと、後が解るになります。それが「解悔」

業を積まぬためにどれだけの努力が要るのか。生まれ変わっても受け継ぐ業があるとするのなら
術者の方々の生き方には頭が下がります。

流れゆく名もなき雨粒一つに気配り目配りがあるとするのならこれほどの果報も無いかと。
声なき声に耳を傾け、感謝の気持ちさえあれば、人の想いを力に変えてくださる存在は不滅と言う事と理解いたします。

1092名無しさん:2016/07/15(金) 02:18:53 ID:EeW0cPpU0
追伸

今なら聞けるかと。木蘇の御嶽で何があったのかと。啓示を読んで思いました。
忌まわしき者、でしょうか?

1093名無しさん:2016/07/15(金) 17:26:37 ID:u/ak1vBAO
藍さん、投稿ありがとうございました。神々しい雰囲気が伝わってきました。

311の数日前に魂の集団が球のようにやってきて、「今までありがとう」と礼を言われた方がいらっしゃいました。
その方は多忙で軽く受け流したそうですが、311が来て、魂の集団の「ありがとう」の意味がわかったそうです。
人は無意識では自分がいつどのように死ぬかわかっているのかもしれませんね。

震災の救援お疲れ様でした。ありがとうございます。

1094 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/15(金) 19:37:54 ID:OjcoZCJY0
皆様今晩は、藍です。

否定的な反応も覚悟していたところ、とても興味深く、
数々の真摯なコメントを頂き感謝致します。

実はこの作品について、コメントへの返信は禁止されているのですが、
皆様方の誠意に答えずにいられません。きっと後の許しが頂けるでしょう。

>>1090
有り難う御座います。皆様のコメントが投稿の原動力です。

>>1091
名も無き雨粒に心を配り見つめ続ける存在、
日々を懸命に生きる人は果報者です。今は辛くても、
いつかきっと果報者になれます。私も、そう信じます。
有り難う御座いました。

>>1092
申し訳ありません、お答えすることは叶いません。
御岳だけでなく...胸が痛み、口をつぐまざるを得ない事例が多すぎて。
しかし『忌まわしき者』などとは思いません。
むしろ澄んだ眼をお持ちなのだと。有り難う御座いました。

>>1093
受け流すのは、日々を生きるのに必死な人の身の限界でしょうね。
しかし、『今までありがとう』と語る小さき声の1つ1つに、
聞き落とすこと無く、受け流すことも無く、心を配って下さる御方はきっと。
すてきなコメント、本当に有り難う御座いました。

1095名無しさん:2016/07/15(金) 23:45:32 ID:HEEYW78.0
万物の始まりからの,神と人との約束,命の光の絆。 
起きることは避けられなかったけれども,神々の奇跡によって破滅が避けられたことに感謝します。
とても深い物語を投稿していただき,ありがとうございました。

1096名無しさん:2016/07/16(土) 00:58:40 ID:QstgHmCs0
神様にも方針の違いがあるという事か‥
穂高は動かなかったと思われる。あそこは異質で人とは近く無いらしく、動くときは他も一緒に動くみたいだから。
義憤に駆られて愛し子を自らの手でとまで思いつめたお方も居るらしい。
大難が小難に、小難が無難に。我々ができる事はまだある。それを今やってる人が居る。だから私も祈ろう。自分以外の事を。

1097名無しさん:2016/07/16(土) 11:54:16 ID:XV1UJ8Jo0
小さき人が地に満てるまでは地上は混沌としており、動物みたいな虚ろな魂で溢れていた事だろう
ほんの泡沫の夢だ、今後も人が日の本土の上に留まれている時間は。やがて切断された地殻が大量に地の底に落ち、地表に再び浮かんでくる
神様が愛しているのは人間だけではない
人が、宗教が生まれ、言葉が出来、意識が継承、束ねられる様になる頃には誰かが神様を見つけたのだろう
人と一緒にあり、人の集落にて生活をした事などほんの僅かな時間だ

信仰心によって存在を維持する必要のない存在が何故こうまで人間のことを気にかけてくれるのか
そっちの方が不思議 昔人との間に何かあったのかもな 人は基本、神様が好きだからな

1098名無しさん:2016/07/17(日) 22:08:57 ID:uOb7l4T6O
純粋にこの物語を楽しみたいと思います。もう二度と藍さんに悲しい思いをさせたくない。

1099 ◆iF1EyBLnoU:2016/07/19(火) 21:34:40 ID:pOTtD0qc0
皆様今晩は、藍です。
皆様のコメントのお陰で、『後の許し』を頂きました。

>>1095
『啓示』を投稿した意味を真っ直ぐに理解して頂き、感謝致します。
本当に、有り難う御座いました。

>>1096
その御方が今回動いて下さったのかどうか、私に知る術は有りません。
しかし、私も自分に出来る事をします。祈ります。
私と、近しい人々と、全ての人々のために。

>>1097
その疑問は至極当然で、私たちの中では、その答えが
『神々の姿が貴人と同じだから』、と理解されています。
この答えで納得頂けるなら幸いです。

>>1098
有り難う御座います。
今、『次作』の投稿準備を進めていますが、私と知人は『執行猶予』の身。
どれ程悲しくても、此所から『消去』される覚悟はあのときのままです。
だからこそ、頂いたお言葉が胸に沁みます。有り難う御座いました。

1100名無しさん:2016/07/20(水) 00:25:33 ID:38vHPjcw0
人の子が受け止めるにはまだ早いと、指摘されないようにしたつもりです。
やることやったら、その後のほんの少しの後押しを下さると信じています

奇跡を起こすのは自分なんですって♪

1101名無しさん:2016/08/23(火) 03:35:17 ID:ZBfmhtkAO
д`)

1102名無しさん:2016/08/23(火) 11:48:29 ID:A0Xo6LiQ0

我慢が足りんぞ、が、ガガガガ・・

1103名無しさん:2016/08/23(火) 20:02:40 ID:d1sMdsMo0
藍さん,待ってま〜す

1104名無しさん:2016/08/30(火) 13:04:17 ID:4nEfHRso0
最近、夜にサーバーがダウンしてる?

1105名無しさん:2016/09/12(月) 01:11:24 ID:xEJyVwSI0
お祭りの季節だな。
稲刈りも無事終わったであろうか。忙しい時期、ご自愛くださいませ。

1106名無しさん:2016/09/16(金) 22:45:22 ID:EbdftncgO
藍さん、寂しいよ〜

1107名無しさん:2016/09/17(土) 19:51:28 ID:9QFO1YY20
待っとるよー

1108 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/19(月) 18:53:16 ID:sS/3CPJ20
皆様今晩は、藍です。本当に、お久しぶり。

季節柄、仕事が忙しかった事や、その他にも色々とありまして。
原稿は幾つか預かっていますが、諸事情で投稿は難しいものばかり。

現時点で唯一投稿可能なのは、『遠雷』の続編でしょうか。
もし、ナオちゃんとユウ君の現在をお知らせ出来れば、本当に嬉しく思います。

頑張ります。どうかもう少し、お待ち下さい。

1109名無しさん:2016/09/19(月) 20:44:54 ID:FXS5Zfa6O
待ちに待った新作,藍さん,ありがとうございます!!

1110名無しさん:2016/09/20(火) 00:32:27 ID:QN96aiWkO
お久しぶりです。相変わらずお忙しいんですね、
続編を読めたら嬉しいです。お体ご自愛ください。

1111名無しさん:2016/09/20(火) 17:19:10 ID:ee4.a5Dc0
いつ終わりが来ても、と覚悟を決めてたが、やはり嬉しいものだな。

1112 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/25(日) 00:38:13 ID:8e5wXIW60
皆様今晩は、藍です。

私なりに頑張ってきた作業もようやく一区切り。
先程、新作の原稿を知人に送信しました。
チェックの後、投稿の許可が出るのを待っている状態です。
どうかもう暫く、お待ち下さい。

1113名無しさん:2016/09/25(日) 07:18:39 ID:1v9PWSzoO
わーい、ありがとうございます!
お疲れ様でした。楽しみにしてます(^o^)/

1114名無しさん:2016/09/25(日) 09:22:47 ID:GjVgqID6O
楽しみ楽しみ

1115 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/27(火) 18:40:59 ID:k1R.ouCE0
テスト中です。

1116名無しさん:2016/09/27(火) 21:59:46 ID:TX.JClK2O
わ〜い♪

1117名無しさん:2016/09/27(火) 23:41:44 ID:2wC1GTxQ0
ドキドキ

1118名無しさん:2016/09/28(水) 00:38:38 ID:HHeR4Qqg0
o(^o^)oワクワク

1119 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 01:24:07 ID:x/yro2X20
皆様今晩は、藍です。

投稿直前に問題発生、対処に時間がかかりました。
以下『霧』、本日投稿分、お楽しみ頂ければ嬉しいです。

1120 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 01:26:04 ID:x/yro2X20
 「ん〜、やっば外で食べるお弁当は美味。
たとえそれがコンビニの買い弁であってもね。し・あ・わ・せ。」
「でも漁協の見学とか正直退屈だよ。普通に楽しく遠足で良いのに。」
「そう、かな。私は好きだけど。海とか、漁港とか。」
「ナオってさ、何時も少しズレてるよね。女子高生が漁港好き、とか。」
「いいじゃん、人それぞれ。それよりナオの弁当、今日もカワイイ。」
「ホント美味しそうだよね。毎日自分で作ってるの?」
「お母さんと一緒に。2人で色々献立を考えるのが楽しいから。」
「...あのさ、前から思ってたんだけど。」 「何?」
「ナオは今、親戚の家にいるんでしょ?下宿っていうか。」
「そう、だけど。その、生まれた島から、進学のために。」
「じゃあ親戚の叔母さんを『お母さん』って呼んでるの?」
「あ...ずっと、小学生の時からで、いつの間にか。」

1121 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 01:32:06 ID:x/yro2X20
 「だ・か・ら、人それぞれ。ナオの事より自分の成績心配しなよ。
推薦で○大狙うなら2年生の成績が大事だって、先生言ってたじゃん。」
「あ〜ヤダヤダ。折角の遠足なのにイヤな事思い出しちゃった。
ナオはやっぱ◇大?成績良いし、推薦楽勝でしょ?」
「大学は...勉強するのは好きだけど。」
「え〜?わざわざ進学のために親戚の家にいるのに、大学行かないの?イタっ!」
「だからいらん詮索はやめれ。ほら、ナオが困ってる。」
「詮索って、ナオが大学行かないで島に帰っちゃったら会えなくなっちゃう。」
「何で島に帰るって決めつけるの? 専門学校も、就職だって。
それにまだ1年半も先の事でしょ。ね、ナオ...どした?」
「ほら、アンタが変な事ばっか言うから。あ〜もう。」
「ゴメン。そんなつもりじゃ。」
「ううん。ちょっと、島の事思い出して。私こそ、御免なさい。」
「それなら、あれ?」 「何だか急に、風強くなったね。それに、これ、霧?」
「やな感じ。バスに戻ろ。めっちゃ寒い。」

1122 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 01:41:16 ID:x/yro2X20
 「なあ、最近、ナオと何かあったのか?」
ナオの乗った電車を見送った後、父親が突然口を開いた。
「いや、別に。何で?」
「何でって...2学期が始まった頃からあんまり喋らないだろ。2人。」
やっぱり、父は勘が鋭い。なら相談するのも気が楽だ。
「喧嘩じゃない、だけどちょっと心配な事が。」 「心配な事?」
「時々ボーッとしてるんだよ。オレが声かけても気がつかない位に。」
「何か、思い当たる事は?」 「校外学習かな。それ以外には何も。」
「ナオの高校の校外学習...先週の?」
「そう、先週の木曜。○町の海浜公園で弁当を食べたって。」
父は目を閉じて、深呼吸をした。
「海、もしかしてあの島での事と関係が。」
「分からない。一度だけ『久しぶりに海を見た。』って言ってただけで、
その後は海の事は何も。でもナオの様子が変わったのは、その後のような気がする。」
あの島での事、ナオの魂は海の妖に囚われていたと聞いた。
ナオを助けてくれた、あの2人。Sさん、Rさん。長い間、忘れていた名前。

1123 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 01:45:57 ID:x/yro2X20
 「実は、父さんも、ずっと気になってる事があるんだ。」 「何?」
「あの人、Sさんが言った言葉だよ。『対症療法』、憶えてるか?」
「憶えてるけど、それが何で。」
「『対症療法』って、症状を抑えるだけで病気の原因は消えてないって意味だぞ。」
「あ...じゃあナオは。」
「思い過ごしかもしれない。でも何となく気になって、
だからナオを海へ連れて行くのを避けてきたし、島にも帰ってない。
ユウ、これからも注意しててくれ。ナオに何かあったら母さんも。」
そうだ、あの晩Sさんは『どちらも対症療法ですが』と言った。
文字通り、ナオは母の心の支え。
切望したが産むことの出来なかった女の子の『身代わり』。
もしかしたらそれが、ナオの負担になっているのかも知れない。
だけどオレはナオが好きだし、ナオがいてくれるからこそ家族が楽しく暮らせる。
ナオにも幸せに暮らして欲しい。オレは一生ナオを守ると決めたから。
「分かった。思い過ごしだと良いけどね。」 「そうだな。」

 思い過ごしでは、無かった。
それからもナオの口数は減り、オレたちの言葉には反応するものの、
感情を表すことが無い。心配した父と母が暫く高校を休ませると決めたので、
ナオは一日中部屋の中で窓の外を眺めて過ごすようになっていた。

1124 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 01:49:47 ID:x/yro2X20
 「駄目だ。祖母さんに頼んで置いたんだが、例の『先生』と連絡が付かないらしい。
丁度一月くらい前から『修行で暫く留守にする』って島を出たまま。間が、悪いな。」
夕食後、電話を切った父親の表情は暗かった。ナオは既に部屋に戻っている。
「あなた、ユウにも、ちょっと聞いてもらいたいことがあるの。」
洗い物の手を止めて、母親はオレ達に声をかけた。
「聞いてもらいたいことって、ナオの事か?」
「ナオの事っていうか、ナオを助けてくれた人たちに関係があるかも知れない。」
「でも、その人たちとも、紹介してくれた人にも連絡が付かないって、父さんが。」
「前に母から聞いた事がある。昔話だと思っていたんだけど。
陰陽師。事故や怪我で体から離れてしまった魂を、呼び戻す儀式をする人たち。」
オレと父は顔を見合わせた。 「詳しく、聞かせてくれ。」
「母が未だ若い頃、知り合いの奥さんに頼まれて運転手をしたの。
事故で抜け殻みたいになってしまった旦那さんを、ある場所に連れて行くために。
奥さんの方は運転免許を持ってなかったから。」
「それで?」 父とオレは固唾をのんで母の話に耳を澄ませた。

1125 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 01:51:28 ID:x/yro2X20
 「その儀式が済むと、旦那さんは少しずつ元気になって、
帰りの車の中では話もできるようになったみたい。」
「お義母さんは、実際にその儀式を見たのかな?」
「そう、人の形に切った紙を使う儀式だったって。」
もう一度、オレと父は顔を見合わせた。父の表情に明るさが戻っている。
オレも同じだ。母はあの島でSさんがオレとナオに何をしたのか見ていない。
なのに『人の形をした紙を使う儀式』と。これはオレ達に残された、ただ一つの希望。
「その場所って、何処だ?」
「母から聞いたのは、○県の県境に近い山の中。それだけ。
でももし母が今もその場所を憶えているなら。」
「恭子、すぐにお義母さんに連絡を取ってくれ。
明後日、土曜日は仕事が休みだから、一緒にその場所を探して欲しい。
もし見つかったら、何とかナオの事を頼んでみる。」
「分かった。私も一緒に行く。ユウはその間ナオの事お願い。」
「大丈夫、任せて。」

1126 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 01:55:59 ID:x/yro2X20
 昼前に出発した父と母が帰って来たのは夕方近く、2人とも表情は暗い。
母は台所に引っ込んでしまい、父はリビングのソファにぐったりと座り込んだ。
察しはついたが、やはり気になる。
「駄目、だったの?」
「ああ、お義母さんは結構細かく憶えてて...
その場所の、かなり近くまでは行った筈なんだ。
でも何故か同じ所をぐるぐる回ってたり、どうしても見つからない。
通りかかった車を止めて聞いたりもしたんだが。
お義母さんの年齢と体調考えると、あれ以上探すのは無理だった。」
父は胸ポケットから折り曲げた白紙を取り出し、テーブルの上に置いた。
「もう50年近く前の事だし、道がすっかり変わってしまったのか、
もしかしたらもう、その場所自体が無いのか。どっちかだろう。」

1127 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 02:00:34 ID:x/yro2X20
 「この、紙は?」
「ああ、お義母さんの話を聞いて描いたメモだよ。
目印にしたコンビニと、そこかに山道に入って調べた脇道とか。」
「これ、借りても良い?」 「勿論、でも何で。」
「明日、オレが探しに行ってみる。父さんと母さんは無理でしょ。」
翌日、父と母は母方の親戚の結婚式と披露宴に出席する事になっていた。
渋っていたが、父は結局新婦の親戚代表挨拶を引き受けた。欠席は無理。
休日だし、一日ナオの様子を見ているのなら、いっその事。
「ナオも一緒に連れて行く。もし見つかったら、直接ナオを診てもらえるかも。」
「分かった。ただし、バイクは駄目だぞ。父さん達は送迎してもらえるから車を使え。」
ナオの事になると、父と母は眼の色が変わる。
「ありがとう。」 「父さんこそ、ナオを頼む。でも絶対に無理はするな。」
「分かってる。」

1128 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 02:03:10 ID:x/yro2X20
 その夜、父のメモをもとにPCで検索すると、目印のコンビニはすぐに見つかった。
しかし航空写真に切り替えても、そこから伸びる山道沿いにそれらしい場所はない。
父の言った通り、もうその場所がないのかも。
だが、父の言葉がオレの心に引っかかっていた。

1129 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 02:06:41 ID:x/yro2X20
 翌日、朝早く家を出た。
ナオはもう2時間近く、黙ったまま助手席で窓の外を眺めている。
いや、その眼は外に向けられているが、多分焦点は合っていない。
目印のコンビニに着いたのは9時前。入り口近くのポスト、集配時間を確かめる。
1回目が11時、2回目が17時30分。
昨日父たちが来た時間は1回目の後、2回目の集配の前に帰った。
このポストを調べても手がかりにはならなかっただろう。
此処から△県に通じる山道に入り、父のメモにある脇道を調べて、
空振りなら11時前に此処に戻って郵便配達の人に聞いてみよう。
今もその場所に人が住んでいるなら、手紙や荷物が配達している筈だ。
ナオを促して、コンビニで買ったおにぎりとサンドイッチで簡単な朝食。
コンビニの駐車場を出たのは9時20分頃。やはりナオは一言も喋らない。

1130 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 02:09:05 ID:x/yro2X20
 父のメモを見ながら1つ1つ脇道を調べる。
1時間ほど経った時、妙な事に気づいた。
父のメモに描かれていない脇道。絶対この道を見た筈なのに、何故?
心に引っかかっていた父の言葉が、急に大きな意味を持った気がした。
『何故か同じ所をぐるぐる回ってたり...』父は昨日そう言った。
もしその場所に住んでいるのが陰陽師、
不思議な術を使い、魂を呼び戻す儀式を行う人たちだとしたら。
不意の訪問者を近づけない術を使っていてもおかしくない。
右折してその脇道に入る。
舗装はそれ程荒れていない、間違いなく今も使われている道だ。
心臓がバクバクして、耳がきーんとなる。もしかしたら。

1131 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 02:11:07 ID:x/yro2X20
 「だめ。」 ナオがオレの左腿に右手を置いた...冷たい。
ゆっくりと車を路肩に寄せて、止めた。
「ナオちゃん、駄目って、一体何が?」 ナオは真っ直ぐ前を見詰めている。
「こわ い。」 全身の毛が逆立つ気がした。
助手席の窓の外、煙のような濃い霧が渦を巻いて流れていくのが見える。
車の前方から後方へ、もう車の数m先も見えない。慌てて車の窓を全部閉めた。
まさか、だってさっきまであんなに良い天気で。
ナオは両手でオレの右手を握り、肩に頭を預けた。
俯いたナオの背中を左手で抱き寄せる。やはり、その身体は、冷たい。

1132 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 02:15:42 ID:x/yro2X20
皆様今晩は、再び藍です。

今夜投稿の許可を頂いたのはここまで。
書き直しの作業を続け、許可を頂き次第続きを投稿致します。
お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。

1133名無しさん:2016/09/28(水) 05:16:27 ID:pOsqXtwoO
新作の投稿ありがとうございます!お疲れ様でした。
車で同じ道をぐるぐる回る経験あります。田舎道で狐か狸に化かされたかな、と思いつつ、車の前を黄色いイタチみたいのが横ぎったら目的地に行けました。
運転中の濃い霧は怖いですね、書き直しや内容確認など大変な作業をありがとうございました。
ナオさんが大事にされて暮らしてることがわかって良かったです。

1134名無しさん:2016/09/28(水) 08:34:34 ID:jI1hivoIO
まだこの先は霧の中,ユウとナオの物語の続きがとても楽しみです。

1135 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 20:30:44 ID:x/yro2X20
テスト中です。

1136 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 20:33:06 ID:x/yro2X20
 どれくらい経ったのか。オレの右手を握るナオの力が緩んだ。
「コンコン」 運転席の窓を叩く音。
ビクッとして顔を上げると、窓の外に男性?の姿。そして、自転車。
いつの間にか、白く濃い霧は消えていた。
『成る程、君たちだったのか。それなら、納得だ。』
窓を閉めたままなのに、その声はハッキリと聞こえる。暖かく、懐かしい響き。
『ユウ君、久し振り。窓を開けて。』 何故、オレの名前を。
窓を開けると、その男性は車内を覗き込み、厳しい表情になった。
「ああ、これでは。随分心配したね。」 !! 思い出した。この人は、Rさん。
Sさんと2人でナオを助けてくれた。じゃあ、その場所に住んでいるのは。
「先導するから、着いてきて。まあ、この道に入れたんだから迷う筈もないけれど。」

1137 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 20:35:00 ID:x/yro2X20
 自転車の後を追って暫く走ると、立派な門。扉は開いている。
自転車を降りたRさんの指示通り、門を入ってすぐの広場に車を停めた。
車を降り、Rさんが差し出した右手をしっかりと握り返す。温かい。
「御免よ。今日はガレージが満車なんだ。家族が皆、家にいるからね。」
すうっと、肩の力が抜けた気がした。涙が出そうになる。
「いいえ。僕たちこそ突然来てしまって。」
助手席のドアを開けると、ナオは思いの外すんなりと車を降りた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」 背後から可愛い声。
振り向くと小さな女の子が立っていた。
肩にとまった鳥。足下の白い、小さな、これは?

1138 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 20:42:30 ID:x/yro2X20
 「娘の翠。僕とSさんがあの島に行った時は、2歳になる少し前だったかな。」
「あれ?このお客様方には、お名前が2つずつ。どうして?」
「駄目だよ、翠。このお兄ちゃんの名前はユウ、お姉ちゃんの名前はナオ。
それ以外の名前について話しちゃいけない。分かった?」
優しい声。でもその言葉の向こうに、とんでもないものが隠されて。
女の子は小さく頷いた。 「はい。分かりました。では。」
あの声を聞いて、隠されているものに何の反応も...一体?
女の子はちょこんとお辞儀をした。
「どうぞウッドデッキへ。お茶の準備が出来ました。ご案内いたします。」
くるりと背を向けて歩き出す。小さな白い影もその後を追った。
「あの、ありがとう。」 声を掛けると女の子は振り向いた。
眩しい、笑顔。 あの日のSさんの笑顔を思い出す。

1139 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 20:45:47 ID:x/yro2X20
 「そうだったの、昨日も此所に。
御免なさい。きっとお祖母さんを憶えていたのね。」
4人で紅茶を飲んだ後、オレの話を聞いてSさんはそう言った。
小さな女の子はオレ達をウッドデッキに案内した後、お屋敷に戻ったらしい。
「祖母を憶えていたって、誰が、ですか?」
SさんもRさんも、祖母に会ったとは考えられない。
祖母がこの場所を訪れたのは、もう50年も前の事だから。
「このお屋敷。このお屋敷は自身の意思を持ってるの。
普通、術者が依頼者をこのお屋敷に招く事はない。
その後突然訪ねて来られたり、このお屋敷の場所を口外されたら困るから、ね。」
自分の意思を持つ、お屋敷?じゃあ、このお屋敷は、生きてる? まさか。

1140 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 20:47:57 ID:x/yro2X20
 「だからお祖母さんが関わったのはよっぽど特殊な事情で、
問題が解決した後で依頼者とお祖母さんが『リスト』に載ったんだと思う。
このお屋敷の住人に招待されない限り、近づけてはいけない人物として。」
「じゃあどうしてオレとナオは。あの、濃い霧は一体。」
「ああ、あれは僕も初めて見た。この辺りの妖や精霊が覗いてたんだよ。
開いてる窓があると中を見たくなるのは人も人ならぬ者達も同じ。」
窓? のぞき込む? 車の、窓の事? 確かに車の窓は開けていたけど。
「悪しきものではないにしろ、君たちがこの辺りを走り回ってる間に
かなりの数が集まって来たから、それらの姿が君にも見えた。白い、霧として。
『今日は朝から山がとても騒がしい』と翠が言ってね。
それで様子を見に行ったら君たちに会ったと言う訳。」

1141 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 20:51:33 ID:x/yro2X20
 「それで、今日2人で此処に来たのは何故?」
あの時と同じ。とても綺麗で、少しだけ寂しそうなSさんの笑顔。
「先月位からナオの様子が少し変...口数が減って、いつもボンヤリしてるし。
この何日かはほとんど喋らなくなりました。」
「それだけでわざわざ私たちを探したの?心療内科のクリニックとかに相談は?
最近、研究が進んで良い病院があるもたいよ。ね、R君。」
Rさんは苦笑して軽く首を振った。
「ナオの様子が変わったのは、校外学習の後からだった気がします。
そのコースに漁港が入っていたのが関係あるのかと思いました。
それを父に話したら、Sさんが『対症療法』って言ってたのが気になるって、それで。」
「ナオちゃんが海に行ったから、またあの妖との繋がりが、と?」
「はい、もしそうならSさんやRさんみたいな人でないと対処出来ないし。」
SさんとRさんは顔を見合わせた。Rさんは笑いをかみ殺している。
「確かに『対症療法』、そう言ったわ。でもあの術はそんな簡単には破れない。
海どころか、今ならナオちゃんが4・5日あの島に戻っても、何の障りもない。」
「でも、ナオは。」
思わずナオの顔を見た。黙ったまま、焦点の合わない眼。胸が、詰まる。

1142 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 20:54:23 ID:x/yro2X20
 Rさんは立ち上がり、ナオの椅子の傍に片膝をついた。
「ちょっと失礼。」ナオの左手を取り、正面から瞳を覗き込む。
数秒間の、重い沈黙。
「やっぱり。こちら側の窓は少しだけ、あちら側の窓が大きく開いてる。」
Rさんはナオの左手を戻し、自分の椅子に座った。
「こちら側の窓が完全に閉じて、あちら側の窓が完全に開くと
心はこちら側との繋がりを失う。あの時、ナオちゃんはそう言う状態だった。」
「そしてもし」 Rさんは言葉を切ってSさんを見つめた。
Sさんは小さく頷いた。穏やかな、笑顔。
「そしてもし、こちら側の窓に鍵が掛かると、もうその心を呼び戻す術はない。
そう、防音仕様のアルミサッシ。イメージはそんな感じかな。
姿は見えるけれど、こちら側からの呼びかけは届かない。
かといって無理矢理に窓を破れば、相手の心が大きく壊れてしまう。」

1143 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 20:57:46 ID:x/yro2X20
 「『対症療法』と言ったのは、こうなる原因がナオちゃん自身の心に有るから。
普通の人は、生まれつきあちら側の窓は完全に閉じているし、鍵も掛かってる。
ただ、希に鍵が掛かってない人や、鍵自体がない人がいるの。
そういう人の心はあちら側と繋がりやすい。妖や精霊、時には悪霊とも。」
確かにあの時Rさんは言った『妖や精霊と親和性の高い魂』と。
そして『ナオちゃんは海に愛されている』とも。
「ナオちゃんの場合、あちら側の窓に鍵がない。
釣りの名人だってことは、それが生まれつきなのかも知れないし、
辛い境遇に耐えかねて、心を守るために自分で鍵を壊して、
何時でもあちら側に逃げられるように退路を用意したのかも知れない。
あ、ありがと。」 RさんがSさんのカップに紅茶を注いだ。

1144 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 21:03:59 ID:x/yro2X20
 「妖との繋がりを切るためにあちら側の窓を閉じた後、
ナオちゃんに呼びかけて、その心をこちら側に向ける。あの島で言う『魂呼』。
だからナオちゃんの心に呼びかけるのは絶対にユウ君の役目だった。
今回もあの時と同じ。君が『手』を離さずにいたからこそ、
ナオちゃんはこちら側の窓に鍵をかけなかったんだし。」
手を、離さずに?...!! そう言えば、不思議な霧の中でナオはオレの手を。
「このお屋敷に通じる道に入った時、車が突然濃い霧に包まれて。
その間、ナオはオレの手をずっと握っていたんです。あれが。」
「そう、今も2人の『手』が離れていないから、こちら側の窓が少し開いてる。
それに、あの時ほど深刻な状況じゃない。
Sさんならもう一度、あちら側の窓を閉じることが出来る。その後で君が。」

1145 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 21:06:29 ID:x/yro2X20
 「気に、入らない。」 Sさんの声、Rさんの表情が曇った。
「それじゃまた『対症療法』よね。『対症療法』と分かってて
繰り返し同じ術を使うのは不調法だし、正直気が進まない。
だからといって両方の窓を自在に開閉できる天性を封じるのは論外。
そんな適性を持った人間はとても貴重だから。
ねぇ、そろそろ根本的な策を講じるべきだと思わない?」

 「Sさん、ユウ君はただ。それにこの状況でスカウトなんて、幾ら何でも」
SさんはRさんの唇に人差し指を当てて悪戯っぽく笑った。
「あなたには聞いてない。もちろんユウ君も答える立場にない。
Sさんは少し椅子の位置をずらして座り直した。ナオの、真正面。

1146 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/28(水) 21:12:09 ID:x/yro2X20
皆様今晩は、藍です。

無事、準備が済んだ分を投稿出来ました。
少々疲れているので、頂いたコメントへの返信は後日。
出来るだけ早く、残りを投稿できる事を願っています。

お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
有り難う御座いました。

1147名無しさん:2016/09/28(水) 21:41:07 ID:pOsqXtwoO
お疲れの中、続けての投稿をありがとうございました。
向こうを覗くものは等しく向こうから覗かれている、というようなフレーズを聞いたことがありましたが、ゾクリとします。
意志のあるお屋敷も凄いです。大変な世界ですね。

1148名無しさん:2016/09/29(木) 21:46:54 ID:gESgpGBMO
幸と不幸はあざなえる縄のごとし。災いを介して,縁ある魂がまた集い来たるか。
Windows画面のこちら側で,物語の今後の展開を楽しみに待っています。

1149名無しさん:2016/09/30(金) 00:37:37 ID:YtghXU8Q0
今もユウ君は今のナオさんの近くにいるのか。そんな気配。

1150 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 20:58:14 ID:UfcnNssk0
テスト中です。

1151 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:02:28 ID:UfcnNssk0
 「ナオちゃん、聞こえてるんでしょ?喋れるなら、あの時よりずっと軽症。
さあ、返事をして。あなたはナオ君が好き?」
胸の、奥深くを抉られた気がした。それは、オレが聞かなければならなかった、問い。
いや、むしろその問いの前に、オレは自分の気持ちを伝えるべきだったのに。
微かに、ナオの唇が動いた。
「聞こえない。もっと大きな声で...あなたは、ナオ君を愛してる?」
「は、い。」 微かに、でも確かに聞こえた。
「それなら何故、あちら側の窓を開いたの?」
「...怖かった、から。」

1152 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:04:58 ID:UfcnNssk0
済みません、発生した問題を解決できないままの投稿を。
知人に、怒られます。どうか、1151は無視して下さい。
気合いを入れて、やり直しです。

1153 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:06:25 ID:UfcnNssk0
 「ナオちゃん、聞こえてるんでしょ?喋れるなら、あの時よりずっと軽症。
さあ、返事をして。あなたはユウ君が好き?」
胸の、奥深くを抉られた気がした。それは、オレが聞かなければならなかった、問い。
いや、むしろその問いの前に、オレは自分の気持ちを伝えるべきだったのに。
微かに、ナオの唇が動いた。
「聞こえない。もっと大きな声で...あなたは、ユウ君を愛してる?」
「は、い。」 微かに、でも確かに聞こえた。
「それなら何故、あちら側の窓を開いたの?」
「...怖かった、から。」

1154 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:09:42 ID:UfcnNssk0
 怖いって、一体何が?
あちら側の窓を開いて見えるよりも怖いものが、こちら側にあるのか。
ナオ自身があの霧の中で『怖い』と言っていたのに、それよりも?
「ユウ君、考えた事はない?『失う位なら手に入らない方が良い』って。」
!!何故それを? 耳の中で響く心臓の音。少し息が、苦しい。
「あります。ていうか、いつもそう思ってました。あの島でナオに会うまでは。」
「嘘は駄目。今はもっと強く、そう考えてる。」
「嘘じゃ、ありません。」 やっぱり息が苦しくて、口の中が乾く。
「それなら何故、自分の言葉で伝えなかったの?」 「それは。」
「分からないなら、教えてあげる。伝えて、拒まれるのが怖かったのよ。
『恋人ではなく、妹でいたい。』という答を、何よりも君は怖れた。」
いくら陰陽師でも、こんな...一体この人は。

1155 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:11:56 ID:UfcnNssk0
 「責めてる訳じゃない。あなたもナオちゃんも以前辛い境遇にあった。
ただ、幸せは絶対に手に入らないと諦めている人に、幸せを失う恐怖はない。
辛い境遇にいた人ほど、幸せを手に入れて、それを失うことを怖れるものだわ。
でも、あなたの恐れが、臆病さが、この娘をこんな風にしてしまった。」
「ちがい ます。私。」
「いいえ、違わない。」Sさんはナオを見詰めたあと、オレに視線を戻した。
「ユウ君は男の子で、あなたより年上。何より自分の言葉に責任を持つべきだから。」
そう、オレは男で、ナオより年上。でもオレの言葉の責任って。
「もう一度言うけど、君を責めてる訳じゃ無い。
自分からは指一本触れず、この娘を大切にしてきた不器用さは、むしろ好ましい。
実際、最初の内は問題なかった。でも、この娘が成長すれば問題が起こる。
当然よね。大人になれば誰でも、『自分は何故此処にいるのか』と考えるものだわ。
『妹』でも『娘』でもない人間が、何時までも此処にいて良いのかって。
それに辛い境遇から助けてもらって、大切に育ててもらってる。
この娘の立場からしたら、自分の望みを口にするなんて、出来る筈がない。」

1156 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:13:42 ID:UfcnNssk0
 突然、ナオの頬を涙が伝った。
何でオレは、それを考えてあげられなかったんだろう。
ナオが大好きで、ナオの事を一番に考えているつもりだったのに。
「あの日『一生この娘を守る』そう、言ったわね。今も答えは同じ?」 「はい。」
「なら伝えるべきよ。どんな立場で守るのか。
何故傍にいてほしいのか。それを、自分の言葉で。」
Sさんは立ち上がり、ふわりとテーブルを回り込んでナオの背後に。
かがみ込み、耳許に何か囁くと、ナオはゆっくり立ち上がった。
これは、Sさんの術? オレは何を。

1157 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:18:33 ID:UfcnNssk0
 『君の望みを言葉にすれば良い』

 空気が大きく揺れて、眼が眩む。振り向くと、Rさんの笑顔が目の前にあった。
右肩に添えられた手が、じんわりと熱い。
「失って悲しいなら、その望みが本当に大切な証。悲しみが深い程、ね。
でも、真に君たちが怖れるべきなのは、魂の絆を失うことをこそ、だ。さあ。」
のろのろと、オレの身体が動いた。数歩、ナオの顔が、身体が目の前にある。
そっと、抱きしめた。柔らかくて、でも氷のように、冷たい身体。
オレの望み、それは。
「ずっと一緒にいたい。恋人になりたいけど、なれなくても良い。
ナオちゃんが一緒に暮らしてくれるだけで、オレも父さんも母さんも幸せだから。」
腕の中で、ナオの身体が弾けた気がした。

1158 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:20:16 ID:UfcnNssk0
 我に返る、腕の中の温もり。その身体はもう、冷たくない。
オレ達は山道の路肩に停めた車の中にいた。
「夢?」 「夢じゃ、ないです。」 
そうか、車は脇道の入り口を向いて止まっている。
あの霧に包まれた時とは逆。それなら多分、夢じゃ無い。
ふと、背後に感じる気配。そっとバックミラーを見た。
車の後、十数m。濃い、白い霧が蟠っている。
「ナオちゃん、あれ、見える?」
「はい。色々なものがボンヤリと。」 「怖くないの?」
「悪いものじゃないって。それに、ユウさんが、ずっと守ってくれるから。」
「そうだね。ずっと、ね。」 「はい。」

1159 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:22:09 ID:UfcnNssk0
 「ナオを引き取る時、養子にしなかったのは、
何時か2人がこうなってくれることを願っていたからだ。
でも、それがナオを不安にさせていたとしたら、本当に申し訳ない。」
「いいえ。お父さんの気持ちを理解できなかった私が、悪いんです。」
「それで、ナオは本当に良いの、相手がユウで?
育てて貰った事に負い目を感じて、無理する必要はないのよ。
もちろんユウは私たちの自慢の息子だし、2人が婚約すれば
ナオは本当に私の娘になるんだから、こんなに嬉しい事は無いけど。」
母の声はもう調子外れではない。その言葉の、温もり。
...そうか、『対症療法』でなく『根本的な策』。Sさんの言葉の、もう1つの意味。
過ごした時間の中で、母はナオをもう『身代わり』でなく、自分の『娘』として。
不器用で臆病なオレ達が、本当の絆を結ぶまでの『対症療法』。

1160 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:24:37 ID:UfcnNssk0
 一緒に暮らし始めてから、母と父はナオに幸せな『幻影』を見ていた。
それは心を病むほどに切望した、娘。それは妻と息子の心を癒してくれる、魔法。
何よりオレ自身が、母の歪んだ愛情を引き受けてくれるナオに、頼り切っていた。
それらの幻想が、ナオを追い込んでしまったのか。

1161 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:26:34 ID:UfcnNssk0
 「私、この家に来た時、とても嬉しかったです。初めて、幸せだと、思いました。
お父さんもお母さんもユウさんも、みんな本当に優しくて。でも、暫くしたら、
どうしてこんな私を大事にしてくれるのか分からなくなったんです。
ユウさんが大好きで、ずっと一緒にいたい。でも、言えなかった。
私は何も持ってないし、お金や時間の事でどれだけ負担に。そう、思って。
でも、間違ってた。お父さんもお母さんもユウさんも、
私を本当に。それを、疑うなんて。」
母は立ち上がった。ナオの隣に座り、肩を抱く。
「間違ってたのは私の方。女の子が、欲しかったの。
ユウを愛していたけど、どうしても女の子が。でも、無理だった。
だから、ナオがこの家に来てくれなかったら。私、本当に狂っていたと思う。
今も私がユウの母親でいられるのは、ナオのお陰なのよ。」

1162 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:27:27 ID:UfcnNssk0
 きっとSさんとRさんには分かっていたんだろう。
オレ達が『根本的な策』に耐えられるほど強くはないと。
でも今は違う。一緒に過ごした時間が、みんなの心を結び合わせた。
きっとそれが、Rさんが言った『魂の絆』。

1163 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:29:15 ID:UfcnNssk0
 「本人達の提案に、保護者2人も同意してる。婚約は成立、だよね?」
「あなた、ユウは勘違いしてるみたいよ。」 「勘違いって。」
「ユウ、将来の、仕事の事をどう考えてる? まさか、経済的な基盤もなしに
父さんと母さんの宝物を自分に任せろと言うつもりじゃないだろうな?」
「...今は婚約。大学を卒業したら就職して、
それからちゃんと結婚を申し込む。それなら良い?」
「まあ一応婚約には同意しよう。でも、もし卒業後もフラフラしてたら
即婚約破棄。ナオの結婚相手は父さんと母さんが探す。良いな。」
「そんな。だって」 「大丈夫。私、信じてます。ずっと。」
「ナオ、これからもユウのこと、お願いね。」
「はい。ありがとう御座います。」
ナオは微笑んだ。島で2人きりで魚を釣った、あの時のまま。

1164 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:32:18 ID:UfcnNssk0
 「ナオ、ホントに行くの?さっきの港で、あの銀ピカの魚沢山釣ったんだから
もう十分じゃない?みんなでお茶してさ、色々話そうよ。久し振りなんだし。」
「私は見たいな〜、今度の場所で釣れる魚はもっと大きいんでしょ?」
「うん、スズキはタチウオよりずっと重いから、迫力あるよ。」
「じゃあ決まり。釣りしながらでも話は出来るし。
嫌なら久美は車で待ってればいいじゃん。」
「ユキ、真理子。車出してるの私だよ。この、恩知らずどもが。」
「恩知らずって...私たちみんなナオに勉強教えて貰ったでしょ。
ええっと、一番世話になったのは誰だっけ。こんな時こそ、恩返しよね。久美?」
「ぐぬぬ。」 「ケンカ、しないで。釣れなかったら、お茶しよ。」

1165 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:34:00 ID:UfcnNssk0
 「川沿いに並ぶ、オレンジ色の街灯が川面に反射して。
そこに浮かぶシルエット。ナオはスタイル良いから、絵になるな〜。」
「そうね、持ってるのが釣り竿じゃなければ、もっとね。」
「ま〜だ言ってる。あきらめが悪くて、しつっこいのも相変わらず。」
「投げて、巻いて。投げて、巻いて。ず〜っと繰り返し。何が楽しいんだか。」
「それが、良いんだと思うよ。何も考えずに、頭真っ白にボーッとしてさ。」
「ユウさんが、同じ事言ってた。」 「何?ナオは違うの?」
「ずっと考えてるから。どうしたら魚が釣れるかって。漁師はそれが仕事だし、
ボーッとなんかしてられない。ホントにボーッとしてたら、危ないよ。」
「は?漁師?」 「そう、私、島では漁師だったの。物心着いたときから、ずっと。」
「あの、ね。無茶振りやめてよ。漁師だなんて、どんなリアクションしたら。」
「あ、来た!」

1166 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:35:59 ID:UfcnNssk0
「嘘、もう5分過ぎたよ。一体、どんな魚?」
「しっ、気が散るでしょ。黙って。」 「そ。」 「でも、こんなの。」
「大丈夫。真理ちゃん、タモ。あの、その網取って頂戴。」 「はい、今すぐ。」
「うわ!何この魚。メッチャでか。」 「ナオ...凄い血。グロいよ。」
「こうした方が美味しいの。命を頂くんだから、美味しく食べないとね。」
「あんた何者? もしかして、ホントに、漁師?」
「そう言ったでしょ。お祝い事があるから魚が必要だったの。
自分のお祝いは、自分で。このお魚たちのお陰で、きっと美味しい料理が作れる。
きっとユウさんも、喜んでくれる。」
「ユウさんって、あの人だよね?ユウが下宿してる親戚の、年上で。」 「そう。」
「じゃあ『お祝い事』って、何?」 「結婚するの。」
「???」 「結婚?」 「ユウさんが?誰、と?」 「私と。」

1167 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:40:53 ID:UfcnNssk0
 「詳しく、聞かせなさいよ。何でそんな大事な事、今まで黙ってたの?」
「だって、みんなに会えなかったから。ずっと前に婚約はしてたんだけど、
ユウさんが大学卒業して就職したから、お父さんとお母さんが許してくれたの。」
「アンタね...私たち、どうしたら良いのよ。
それがホントなら、何を置いてもお祝いしたかったのに。」 「そうだよ。」
「ホントに?」 「え?」
「お祝いに出席して欲しいって言ったら、みんなで来てくれる?」
「当たり前でしょ。」 「絶対行く。」
「私たちみんなナオにどれだけ助けられて、なのにこんな...。」
「ううん、みんなに助けられたのは私。
みんなが友達にしてくれたから、今の私がある。ホントに、ありがとう。」
「馬鹿馬鹿馬鹿。何でアンタは、いっつもそうなの?」
「久美、泣きすぎ。メイク流れてるよ。」 「どうでも良い。真理もユキも同じじゃん。」
「これじゃ、お茶するの無理だね。きっとお店の人もお客さんもドン引き。」
「ナオ、あんた。」 「...ええと、あの、冗談だから。」
「うんうん、ナオは冗談なんて、言った事なかったね。さ〜て。」


『霧』 完

1168 ◆iF1EyBLnoU:2016/09/30(金) 21:45:22 ID:UfcnNssk0
皆様今晩は。再び、藍です。

色々ありまして、やらかして、少々鬱です。
しかし、何とか『霧』の投稿を終える事ができました。
怒られるのに備えて、元気を出すために、寝ます。
頂いたコメントへの返信はまた今度。
それではお付き合い頂いた方々に心からの感謝を、
本当に有り難う御座いました。

1169名無しさん:2016/09/30(金) 21:48:13 ID:Pz2aOi2sO
藍さん続きをありがとうございました。リアルタイムで読めて光栄です。
ハッピーエンドで嬉しいです。藍さん正直過ぎて萌えます。お疲れ様でした。おやすみなさい。

1170名無しさん:2016/09/30(金) 23:58:31 ID:YtghXU8Q0
何だろう、霧の出だしって3人というか・・なんだか幻惑されるような出だしで何故か読み返してしまう。
何だろ、この違和感。

1171名無しさん:2016/10/24(月) 18:49:04 ID:pzT1zOIwO
謎の部分も霧の中。

1172 ◆iF1EyBLnoU:2016/10/25(火) 20:39:03 ID:RAx5GQ6s0
>>1100
『奇跡を起こすのは自分』、本当に、有り難いご指摘です。

1173 ◆iF1EyBLnoU:2016/10/25(火) 20:40:53 ID:RAx5GQ6s0
>>1101
>>1102
お待ち頂き感謝致します。有り難う御座いました。

1174 ◆iF1EyBLnoU:2016/10/25(火) 20:50:05 ID:RAx5GQ6s0
>>1103
お待ち頂き、有り難う御座いました。

>>1104
管理者様方の御努力により、既に復旧したようですね。

>>1105
稲に関するお祭りは、とても大切です。有り難う御座いました。

>>1106
お待たせしました。コメント、感謝致します。

>>1107
お待ち頂き、本当に有り難う御座いました。

1175 ◆iF1EyBLnoU:2016/10/25(火) 20:56:47 ID:RAx5GQ6s0
>>1109
お待たせして申し訳有りません。有り難う御座いました。

>>1100
色々やらかしましたが、続編を投稿できたのは皆様のお陰です。

1176 ◆iF1EyBLnoU:2016/10/25(火) 21:08:02 ID:RAx5GQ6s0
>>1111
全く同感です。有り難う御座いました。

>>1113
>>1114
>>1116
>>1117
>>1118
新作をお待ち頂き、感謝致します。有り難う御座いました。

1177 ◆iF1EyBLnoU:2016/10/25(火) 21:13:51 ID:RAx5GQ6s0
>>1133
似た体験、興味深いですね。有り難う存じます。

>>1134
ご期待頂き感謝致します。

>>1147
このお屋敷の凄さについては、私もチェックしてます。
有り難う御座いました。

>>1148
本当に深いコメント、感謝致します。

>>1149
ご明察、すばらしいです。

1178 ◆iF1EyBLnoU:2016/10/25(火) 21:26:12 ID:RAx5GQ6s0
>>1169
リアルタイムでお読み下さったのですね。
投稿の励みになります。有り難う存じます。

>>1170
むしろ私は4人か5人と感じました。
敢えて名前が省略されているのも面白いと。

>>1171
『霧の中』
クリスティ、それとも芥川を踏まえたコメントでしょうか。
もしかしたらさださんかも。本当に、有り難う存じます。

1179 ◆iF1EyBLnoU:2016/10/25(火) 21:31:07 ID:RAx5GQ6s0
皆様今晩は、藍です。

昨日仕事から戻り、弟の指示も仰いでできる限りの返信を致しました。
もし返信漏れがありましたらご容赦下さい。

明後日からまた仕事に出ますが、
何時か次作を投稿出来る事を祈って頑張ります。
『霧』をお読み頂き、本当に有り難う御座いました。

1180名無しさん:2016/10/25(火) 22:39:25 ID:n.yNXTW20
やっぱり知人氏って術者なのかな。文章に何かが籠る様な気がする。
そしてそれはフェイクを入れたくらいじゃ収まらない。

原本って漢字沢山の墨書きみたいなやつなのかなぁ

1181名無しさん:2016/10/26(水) 22:25:47 ID:aOb4ZQc2O
藍さん、お忙しい中ひとつ一つご丁寧な返信をありがとうございます。
恐れ入ります、神話系に詳しかったら教えて頂きたいのですが、天香香背男命と天香具山命は同じ存在でしょうか。親子?昨年から倭文神社に近い所が揺れてて気になってます。
返信NGでしたら華麗にスルーでお願いします。
起きたのかなと思いました。
千人引きの岩繋がりのあるイザナキ命と天手力男命とタケミナカタ命の関係も気になっていて、話の共通性からタケミナカタ命と天香香背男命は同じ存在か三つ子とかかなと妄想してます。
オリオン座流星群の時期に揺れたのも因縁深いように思って。
ただの好奇心です。スレチすみません。

1182名無しさん:2016/10/27(木) 01:18:51 ID:nvrI/R2g0
御一族の神名帳の事がばれると忌部(出雲)系、海部(尾張)系、物部系、もしくは出羽系なのかがバレちゃうんじゃないかと

1183 ◆iF1EyBLnoU:2016/10/27(木) 04:08:21 ID:krcMdxl60
>>1180
確かに、漢字は沢山です。が、『鉛筆書き』です。

>>1181
神性は無限、ヒトの表現力は有限。故に、どうしても
複数の神様を賛美するのに、似た(同一の)エピソードを使う例は数知れず。
それをもって同一か否かを判断する事は適当ではないと存じます。
ただ、知人に問い合わせたところ、
「とても興味深い考察が含まれるコメント」とのことでした。
有り難う御座います。

>>1182
深いお心遣い、感謝致します。

さて、これから仕事に出ます。何時戻れるかは明言できませんが、
何時の日か皆様に再会出来る事を祈念して、御機嫌よう。

11841181:2016/10/27(木) 06:00:52 ID:ugTMYNmgO
藍さん、スレチなのにお答え頂きありがとうございました。
深夜とも早朝ともいえる時間にお手数おかけしました。
似たエピソードだからといって単純に同じ神様とは言えないんですね、複雑です。
教えて下さってありがとうございました。
お仕事お気をつけてください。行ってらっしゃいませ/~~

11851181:2016/10/27(木) 06:06:38 ID:ugTMYNmgO
1182さん、ご忠告ありがとうございます。軽率でしたm(_ _)m

1186名無しさん:2016/10/28(金) 01:42:38 ID:vlx/ORVY0
>>1185

知人さんや藍さんがこぼす「ついうっかり★」をみんなで注意深く見守りましょう。
忘れたころに突っ込むときっと良い汗をかいてくださいます。

1187名無しさん:2016/10/28(金) 02:07:08 ID:vlx/ORVY0
>>1186
一般的なお話をしませう。

海部氏(海=天)は国宝の家系図があります。ここにちょっと出雲補正をかけます。

徐福(徐猛)=素戔嗚=五十猛のお父さん、五十猛が改名して天之香久山。そしてその子供が天之村雲
村雲は剣の神格化したものではなく神武
出雲の姫様をめとった神武氏は、天之「御影さん」を生みます。

あくまで一般的な話で偶然と思われますが。

1188枯れ木:2016/10/28(金) 19:09:03 ID:8P3fWbAQ0
>>1187
 そうですね。あくまで一般的なお話を。

 天之御影命 は 鋼の武具を鍛える鍛冶の神とされています。
一方、作中の『御影さん』は一族を代表する『武門』の出。

 共通する点がありますし、すると、Sさんの『S』にあたる字の察しも。
ただどちらも性別の問題があるのですが、この一族には
『赤の宝玉』とそれに類する神器があります。実に、興味深いですねぇ。

1189名無しさん:2016/10/31(月) 00:32:30 ID:bYnJKN8.0
シャーペンじゃなくて鉛筆かぁ。

じわじわ来るな。何故か。

1190名無しさん:2016/10/31(月) 12:50:14 ID:4E7NateU0
賀茂の一族。三輪氏族に属する地祇系氏族。陰陽寮を掌握した賀茂忠行一門は弟子筋の安倍氏と陰陽道を独占した。
しかし、陰陽道宗家を安倍氏に奪われた。明治維新後は政府から冷遇されている。

1191名無しさん:2016/10/31(月) 23:43:04 ID:bYnJKN8.0
陰陽頭は物部氏もなったことがありますよ
それどころか昔は同族こそが最強の敵になり得たので大事な事は一部の人間が継承する事が多く
下手すれば誰が一番力を持った人間かを解らなくしてたくらいです

安倍家は父系で言えば天孫。母系で言えば出雲。葛城王朝は圧倒的に出雲の血が濃くなった王朝
その関係で8代目の事代主を祀る一族になった。その後も言い出したらきりがないほどに血が混じっています。
母系の実家がカモ家(神門家と磯城トビ家)

1192名無しさん:2016/11/01(火) 14:03:05 ID:03srRn/o0
だから、宇摩志麻遅命に陥れられた。

1193名無しさん:2016/11/01(火) 17:09:51 ID:/vay6VTw0
佐伯氏

1194名無し:2016/11/01(火) 19:43:10 ID:NKY.ToVE0
S=忍 かな?

だとすると L は。 もう少し調べて、それから。

1195名無しさん:2016/11/01(火) 22:45:12 ID:hM3xBdAYO
言霊使いの語る物語が言霊でないはずがあろうか。
私たちも既に術にかかってる。いくら跡をたどってもきっと霧の中,です。

1196名無しさん:2016/11/02(水) 01:44:32 ID:EZfZjx6U0
佐伯部だったら舞台を茨城に持ってこれるな
国譲りの最後の土地、千葉も近いし狼の埼玉もそばなのだが、それだと土御門であまりにもベタ過ぎるし、開祖さんは1,000年前だからもっと新しい歴史になるだろう
物部だったら宝は10になるから枯れ木氏のフェイクは面白い

神社に行く時に「Rさん男前」「Sさん美人」って頭の中で念じながら回る方が早いな。ついうっかり誰か振り返るだろうから。

1197枯れ木:2016/11/09(水) 19:24:47 ID:qBOWA0KA0
 皆様今晩は。枯れ木、です。

 このような例はこれまで記憶に無いのですが、
本日姉から新作の連絡がありました。題は『舞姫』。
『仕事から帰り次第、投稿の準備をする。』と伝えて下さいとのこと。

 その身体能力の描写と、それから想像し得る舞の才能から考えれば、
それは、Lさんに関連するお話なのでしょうか。
どうか、共に新作をお待ち頂ければ。

 これまで頂いたコメントへの返信は委任されていないので、
そちらは姉の帰還をお待ち下さい。

1198名無しさん:2016/11/09(水) 22:00:59 ID:wUmUTNaUO
枯れ木さん,朗報をありがとうございます。姉様の御戻りを心待ちに致しております。

1199名無しさん:2016/11/10(木) 06:34:40 ID:hjq7a0EkO
楽しみです。お知らせありがとうございます(^o^)/

1200名無しさん:2016/11/10(木) 18:01:28 ID:JimeDo5Q0
党首様のお話はまた今度なのですね。
補正が厳しくて企画流れになったのかなぁ。

1201 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/15(火) 21:19:33 ID:GWbV0acg0
 皆様、今晩は。 藍です。

 本日仕事から戻りました。
約束通り、早速、『舞姫』の投稿準備を始めます。
楽しみにして下さる方がもし1人でもおられるなら、それが知人の意志。
どうかもう暫く、お待ち下さい。 約束は必ず、守るために。

1202名無しさん:2016/11/15(火) 22:04:04 ID:e46/HYzsO
おかえりなさい.+゚
ありがとうございます。楽しみにお待ちしてます(^o^)/
でも無理はなさらず休暇をおとり下さい。

1203名無しさん:2016/11/15(火) 23:30:25 ID:buoV37Vg0
帰宅後にテンションMAX

1204名無しさん:2016/11/16(水) 12:27:03 ID:li0KiR7QO
期待してます!

1205名無しさん:2016/11/19(土) 00:29:52 ID:3yqXhACs0
そういや、忌部氏って斎部とも書くんだったな。古語拾遺のこと調べてたら
ここでもSにたどり着いた。
なんだか解らん。

1206 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 20:27:21 ID:y7CKWZdQ0
テスト中です。

1207 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 20:28:05 ID:y7CKWZdQ0
テスト中です。

1208 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 20:46:40 ID:y7CKWZdQ0
少々、困った事態です。

書き込みをしても「最新50」では反映されません。弟によると、アドレスを
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/study/9405/1395845351/l50
の最後を、「l25」や「l100」に変えると反映されるようですが、
それでは書き込みに気が付く方がおられるかどうか。
暫く、様子を見ます。

同様な事態が起こっているという方がおられましたらお知らせ下さい。

1209 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 21:21:11 ID:y7CKWZdQ0
「ブラウザの問題らしい」と言われましたが、何の事やら。
新しいブラウザを入れてもらったのでもう一度テストします。
これでいけるかどうか。では。

1210 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 21:25:37 ID:y7CKWZdQ0
取り敢えず、問題は解決したようです。
ブラウザを『蒼月』から『火狐』に変えたと聞きました。

それはそれで別の不具合が起きないかが心配ですが、投稿優先。
それでは以下『舞姫』を投稿致します。お楽しみ頂ければ良いのですが。

1211『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 21:38:21 ID:y7CKWZdQ0
『舞姫』

 それは、一族の『開祖』が生を受けた地。
険しい山々に囲まれた、とても広大とは言えぬ山間の平地。
しかし周りの山々から流れ込む数多の細い河川、その水は清冽で豊富。
美しい稲穂の海は、毎年のように、一族を支える恵みをもたらしていた。
しかし。 ある年の夏の終わり、不意に現れた妖が何もかもを変えた。
その妖は巨大な蛇の姿をしており、細い河川に入り込んではその流路を変えた。
里に流れ込む河川のあるものは干上がり、あるものは氾濫を繰り返す。
当然、その年の稲はかつてない凶作。当主を含め、一族の者は皆将来を憂えた。
そんな、初冬のある日。

1212『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 21:40:07 ID:y7CKWZdQ0
 一族の少年が一人、剣の修行を終えて家路を急いでいた。
その途中、畦道で泣いている少女に出逢う。 一族の、里の子なら見覚えがある筈。
しかしその少女に見覚えは無く、何より、その身に纏う衣の美しさは。
純白の絹地。同じく純白の絹糸と、金糸銀糸の刺繍。
到底常人とは思われない。少年は思わず声を掛けた。
すると少女は驚くべき事情を語る。
『吾はこの地の草木を司る神である。しかし侵入してきた妖に力を封じられ、
このような姿に成り果てた。このままではこの地を去るより他無い。』と。

1213『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 21:43:42 ID:y7CKWZdQ0
 少年は、その妖を退けるために何か、自分に出来る事はないかと申し出る。
すると少女は少年に、更に酷な事情を告げた。
『生まれ育ったこの地を去らねばならぬのなら、生きていても仕方が無い。
吾を生け贄として里の外れの大木に縛り、現れる妖を斬ってくれ。』
少年は少女を連れ帰り、里の長に事情を説明した。
少女は大木に繋がる道の全てに酒樽を置いてくれるように頼む。
『したたかに酔わせるのでもなければ、とても人の身に斬れる妖ではない。』
それを聞いた里の長は、少女の言葉を信じて提案をした。
『陰神様の顕現たる少女の衣を少年に着せ、少年を少女の身代わりにする。
一族に伝わる『赤の宝玉』は少年の性別を覆い隠して敵を欺く。
それなら、もし少年が為損じても、陰神様を護り捲土重来を期す事が出来るから。』と。

1214『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 21:47:41 ID:y7CKWZdQ0
 少女と少年はその提案に同意し、女装した少年は首尾良く妖を討ち果たした。
翌朝、少女は少年に一振りの剣を授けて里を去る。
その剣は一族の神器として現在まで祀られることになるのだが、
伝承は、少年と少女の再会にも言及している。
翌年、里は以前通りの豊作に恵まれた。
豊年祭りに向け、里の長は、神事に用いる米の警護を件の少年に命じた。
祭りの前夜、夜警を勤める少年の前に現れた、怪しい人影。
少年はその人影を追い、問い詰める。
斬りかかった少年の剣を悠々と躱し、人影は少女の姿に変じた。
少女は少年の剣技と里の人々の勤勉実直を言祝ぎ、永年の豊作を約束する。
その後少女は少年と共に暮らし、数年の後二人は夫婦となった。
二人の間に生まれた3人の子は、一族の新たな時代を拓く。
第一子は女子で術を、第二子も女子で剣技を。どちらも長じて後は『当代随一』と称された。
しかし、第三子についての記述は唯一『尊き御方』と。それだけ。
未だ、その性別も適性も不明。

1215『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 21:51:21 ID:y7CKWZdQ0
 高まる篳篥と鼓の音が、この神事のクライマックスを告げる。
いよいよ、私とLの出番。稽古とはいえ、気合いが入る。

 いつもと少し違う感覚。共に舞うLの表情をそっと伺う。
『特に剣舞では、決して対手を疑ってはいけないよ。
もしどちらかが躊躇えば、それは思わぬ事態を招くから。』
ふと、兄様の言葉を思い出す。そうだ、今この時、一瞬に集中する。
左からの袈裟懸け、一歩踏み込んで右からの袈裟懸け。
穏やかな笑みを浮かべたLは、ゆらりと身体を翻して鮮やかに剣を躱した。
一瞬の、違和感。これは? でも、ここで止めたら、きっと。 だから。
更に大きく一歩飛び込んで右膝を付き、左下から右手で切り上げる。 『烈風』の型。

 ふわ、と。 Lの身体が浮いた。 剣筋の遙か上を越え、米俵に。
剣を置き、膝を付く。 澄んだ声はLの名告り。続く謡いの声が、舞と神事を閉じる。

1216『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 21:53:43 ID:y7CKWZdQ0
 それは、一族に伝わる舞の中で最も古いものの1つだと聞かされていた。
その剣の腕前故に、収穫した米を守るため夜警を任された少年と、
勤勉実直な里人達を祝福するために顕現した稲の神様の物語。
少年は米倉に現れた人影を米盗人だと誤解し、斬りかかる。
しかし稲の神様は軽々と少年の剣を躱し、自分が稲の神だと名告る。
この舞の、最大の見せ場。 少年は斬りかかった相手が神だと悟り、剣を置く。
神様は少年の無礼を許し、その腕前と心がけを言祝いで、里の未来を祝福する。
そして大団円。 以来、一族は食料に窮する事は無くなったという。
遥か古からの伝承に題を取った、舞。

 「紫、今までで最高の出来だった。これなら本番が楽しみね。」

1217『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 21:55:21 ID:y7CKWZdQ0
 Sさんに褒められるのは素直に嬉しい。
私より、いいえ、私と共に稽古をしているLよりも、更に年若くして
『一族の歴史上、類い希な舞姫』と称された人。そう聞いていた。
Sさんは私の頭を撫でたあと、心配そうにLの肩を抱いた。
「Lも良かった。でも、正直少し心配だな。最後、何か考えてたの?」
「あ、あの。いいえ、何も。紫さんの、剣筋が本当に綺麗だと思っただけで。」
「そう...本番で使うのは真剣。一族に伝わる神器の1つ、もしも。」
Sさんの目尻に光るものが見えた。
黒い呪いを仕込まれたLの身体を神器が傷つけたなら、恐らくそれは。
でも、LがSさんに隠し事なんて。今まで唯の一度も。

1218『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 21:57:04 ID:y7CKWZdQ0
 「不思議、ね。LがSさんに隠し事なんて。一体何を?」
「そうなんです。本当に、不思議ですよね。」 「え?」
「だって、稲の神様が。どうして米俵の上に。」 「何の、話?」
「稲の神様なら、お米の神様です。それなのに米俵を踏みつけるなんて。」
「...それは。」 Lの横顔を見詰めていると、何故か心がざわめく。。
「L、支度できた?帰るわよ。」 Sさんだ。 「はい。ただいま。すぐに。」
Lは荷物を詰めた鞄を持って立ち上がった。 ああ、私も着替えたのだし、もう。
「紫、駐車場の車で炎が待ってた。早く、行って上げて。」 Sさんのイタズラっぽい笑顔。
「え? はい、有り難う御座います。」
どうして、兄様が。小走りで駐車場を目指した。見慣れた、黒い車。本当に。

1219『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 21:59:00 ID:y7CKWZdQ0
 「見事な舞だった。心から、誇らしい。」
夢中で気が付かなかったけれど、稽古を見ていて下さったのだ。
どうしようもなく、胸が高鳴る。
運転席の、端正な横顔。恋焦がれても恋焦がれても、届かない。近くて、遠い人。
「有り難う御座います。本番でもLが、でも。」 「でも、何だ?」
そうだ、兄様なら、Lの言っていた事の意味が分かるかも。
「舞の筋書きが少しおかしいと。稽古の後で、Lが。」
「あの娘が...それは、どんな?」
「舞の最後です。稲の神様が剣を躱した後、米俵に立つのはおかしい。
稲の神様が、米俵を踏みつける筈はないからって。」
「そうか、面白い事を。まさか本当に『現人神』の...」
多分、数十秒の沈黙。兄様の端正な横顔の向こうを、華やかな夜景が流れていく。
「紫。」 「はい。」
「舞にしろ術にしろ、我等はまず『型』を習得しなければならない。それは何故だ?」
心臓の鼓動が...深呼吸。必ず、兄様の期待する答えを。
「偉大なる先達が積み重ねてきた成果を、成る可く短期間で自らのものにするために。」

1220『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:01:42 ID:y7CKWZdQ0
 「そう、だ。凡そ術者なら『型』を習得すれば、必要最小限の成果を得られる。
だからこそ『型』は、多くの術者が努力次第で習得出来るものとされている。
言い換えれば、そのレベルに難易度が調整された養成のプログラム。
極く限られた術者しか辿り着けないのでは、それは『型』になり得ない。」
「はい。だから『型』は出発点であって終着点ではないと、Sさんも。」
「そう。『奥義』を手にするなら、『型』を越え、その彼方に踏み込まなければならない。
そして稀に、『型』の習得で安堵せず、それを疑い、越えていく者が現れる。」
そうか、兄様やSさんはそうして『奥義』に。でも、Lならともかく。
「私には、とても。私の舞などLには到底。」
「あの娘が一族史上稀な天才なのは明らか。
しかし、如何な天才と言えど、あの舞を1人で舞う事は出来ない。
もしあの娘が『奥義』を現出するなら、その舞にお前の才が不可欠という事。」
「そんな。私は『出来損ない』で。今までずっと兄様達や姉様達に。」
「舞において、あの娘に比肩し得るのはお前だけだ。そして術においても。」
兄様は優しい笑顔を浮かべた。
「紫、恐らく、お前に取って、これは好機。この神事で、その才を皆に示せ。」
「私の、才?」

1221『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:05:21 ID:y7CKWZdQ0
 「術においても、俺を殺せる術者になり得るのは、恐らくお前だけ。」
心臓が、止まりそう。私が兄様を殺すなんて。どうして?
「あのSさんでさえ、兄様を殺す事は。なのに。」
「お前より先に造られた者がお前より長く生き、お前の先にいるのは当然。
だが、あの計画が進むにつれて蓄積された知見、その集大成としてお前は造られた。」
兄様はゆっくりと路肩に車を止めた。
「決して卑下するな。そして思い上がるな。お前の成長が遅いのは、
その才の大きさ故だ。成長を待たずに発現すれば、身体が耐えられない。
だからこれまで、時を待つ他無かった。だが、その時が近付いている。
遠からずお前は、あの計画の正当性と俺達の存在意義を証明するだろう。
お前こそ、真の『最高傑作』。俺達の希望。」 「まさか、そんな。」
「さて、そうなればこの度の神事、見逃す訳にはいかない。
『公務』の日程を考えて、どうするか迷っていたが。必ず見に行く。皆にも伝えて置こう。
今後もSの助言とあの娘の言動に心を配り、稽古に励め。」
「はい。」 兄様が見に来て下さる。それは本当に嬉しいけれど、
同時にそれはとんでもない重圧。膝の上で、手が震える。

1222『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:10:35 ID:y7CKWZdQ0
 翌朝、稽古場に着くと、ドアの向こうから囁くような声が聞こえた。
『話してやっても良いが、それを聞いたとて人には。神懸からねば...』
嗄れた、微かな声。 思わず、耳を澄ます。
「どれだけ考えても、辿り着く事は出来ないと?」 「人に、神の御技が予想出来ると思うか?」
「いいえ。」 稽古場に、Sさん以外の誰が? そっと、ドアを開く。
Lは床に胡座をかいていた。 稽古前の瞑想をしていたのか、穏やかな顔で振り返る。
??? L以外に人影はない。 でも、確かに声が。
「お早う御座います。」 「あ、お早う。1人、なの?」
「はい。少し考えたい事があったので、いつもより早くSさんに送ってもらいました。」
「...話し声が、聞こえた気がしたんだけど。」
「ええと、考え事に夢中で、無意識に台詞を口にしたかも知れません。」
いや、あれは男の人の。でもそれ以上どう聞けば良かったのだろう。
そしてLの笑顔を見る時。胸の奥、得体の知れない感覚。
少し、いや、とても怖い。でも、どうしようもなく惹きつけられる。

1223『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:12:28 ID:y7CKWZdQ0
 その日の稽古の後も、Sさんは褒めてくれた。
でも、少し不安。稽古の間、ずっと感じていた微かな視線。
シャワーの後、着替えているLに問いかける。
「L、今日、稽古の時に変な感じがしなかった?」 振り向いたLは首を傾げた。
「ずっと、誰かに見られてる感じがしましたね。多分、稽古を始める前から。」
やはり、Lも感じていたのだ。 「何、だと思う?」
「舞が随分と仕上がって来たので、見物の御方が増えているんでしょう。」
「『見物の御方』?それに、『増えた』って、最初から誰かが?」
「はい。きっと、悪い事ではないと思いますよ。」 Lは微笑んでいた。背筋が、冷える。
一体、この娘は何を見、何を感じているのだろう? 私と同じ稽古の間に。
稽古で『見物の御方』、それなら神事では一体何が。
心臓が、ドキドキする。本当に怖いけど、その日が待ち遠しい。

1224『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:16:34 ID:y7CKWZdQ0
 半月後、いよいよ神事の日。秋の豊年祭り。
一連の神事の最後を飾るのが、私とLの舞。着替えて、段取りと道具を確認する。
何より、今日使うのは真剣。事故があれば一大事。一つ一つ、丁寧に。
真剣を使う事以外、全ては今までの稽古通り。そう、思っていた。
「紫さん。」 「何?」 あの笑顔。 まただ、もしかしてLは。
「斬りかかる時、もう少しだけ踏み込めませんか?左右、半歩ずつでも。
その分、剣の振りも速くできますよね?」
...やはり、そうだ。Lは呼びかけている。 『一緒に行こう』と。でも、何処に?
「あれ以上剣を速く振ったら、躱すのが。今日は真剣なのに、大丈夫?」
「少年は、本気で米盗人を斬るつもりです。加減する筈がありません。」
「そう、だけど。左右半歩ずつなら、米俵まで丸々一歩近い所で『烈風』を。
剣筋を飛び越える時、米俵までの距離が近すぎて危ないと思うけど。」
「少年はそんな事に頓着しないんです。それに相手は神様。だから、大丈夫です。」

1225『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:18:25 ID:y7CKWZdQ0
 滞りなく神事は進み、私とLの出番も近い。
控えの間から客席が見える。ゆらゆらと客席を照らす篝火。 兄様と、Sさんの御顔も。
Lが大きく、深く息を吸った。ゆっくりと吐く。 「緊張、しますね。」
「そうね。頑張らないと。」 「はい、打ち合わせ通り。思い切り、私を斬って下さい。」
私が、Lに斬りかかる。いや夜警の少年が、神様に。 そう。手加減など無く、本気で。
ふと、夜警を命じられた少年の気持ちを思う。
夜警に任命された少年は、自分の使命を果たす事だけを考えていただろう。
米盗人を斬り捨て、村人の命を繋ぐ米を守り、
自分の取り柄である剣の腕前を証明するために。
私は今夜、自分の取り柄を証明し、兄様の期待に応えられるだろうか。
自分の、取り柄。 深呼吸。 じわり、と神器の剣が重くなる。
稽古で使っていた木剣には鉛が仕込まれていて、
重さやバランスは、神器の剣と、寸分の違いも無い筈なのに。

1226『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:20:19 ID:y7CKWZdQ0
 物心着いてから、自信を持てるものなど1つもなかった。
兄様達も姉様達も、本当に気を遣って、優しく接して下さったけれど。
その度に、自分が『出来損ない』なのだと意識させられる日々。
厳しい修行に耐える兄様、姉様。でも私にはそんな行が課された事さえない。
そんな中、初めて褒められたのが「舞」。やっと見つけた居場所、必死に稽古をした。
そして今年、Lの対手を任されて。嬉しかったけれど、本当に、驚いた。
Lは分家の『過激派』から救い出された不幸な娘。そう聞いていた。でも、違う。
その身体に仕込まれた黒い呪いと正面から向き合って一歩も退かず、
何よりその舞と謡の才。
正直これでは私のどんな努力も届かない、そう思った。
でも兄様は、『舞において、あの娘に比肩し得る者はお前だけ。』と。

1227『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:23:01 ID:y7CKWZdQ0
 背中の、温かな感触。Lの、右掌。 「さあ、出番です。」
頷いて深呼吸。 不思議な程スムーズに、最初の一歩を踏み出した。
舞台を歩き回り、独白が続く。 ここは場違いな程コミカルに。 客席から聞こえる笑い声。
墨染めの衣に身を包み、大役に気負う少年の心を、やがて。
静かに米俵の前で胡座をかいた。 舞台の照明が更に暗くなる。
風が、吹いた気がした。 いや、本当に蝋燭が揺れて。 客席がしん、と静まる。
何時の間にか、白い衣が目の前に。飛び起きて神器の剣を抜いた。
客席のどよめき。 そう、この剣は神器。 今夜だけ授けられた、私の誇り。
白い人影を追い、問い詰める。 始めは軽妙な台詞のやりとり。
人影は面白がるかのように曖昧に答え、舞台狭しと逃げ回る。
しかし、次第に高まる緊張。 遂に人影を追い詰めた。
背後は積み上げられた米俵、逃げ場はない。 ゆっくりと、剣の切っ先を正面に。
人影は、Lは、微笑んでいた。 その直後、胸の中で何かが弾けた。
ああ、自分の頬に笑顔が浮かんでいる。身体が、剣が軽い。まるで羽根のように。
怖い、怖くてたまらない。でも、今こそ踏み込もう、Lが待つ場所へ。

1228『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:24:47 ID:y7CKWZdQ0
 逃がさない、決して。 踏み込んで左からの袈裟懸け。そして。
一瞬の目眩。体勢を立て直し、薄闇に煌めく白刃を躱す。
右、そして左。 まるで風に舞う落ち葉のように身体が動く。
刃の向こうに少年の顔...いや、これは私の。何故?

 激しい気合いと共に右下段からの刃。 速い。 また、ひとりでに笑みが浮かぶ。
右足。力をこめると、まるで嘘のように身体が浮いた。

 左足を前、前後に揃えた両足。 足袋を通して伝わる、冷たい感触。
刃の向こう。 眼を大きく見開いた、自分の顔が見える。 どうして?

1229『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:29:54 ID:y7CKWZdQ0
 「吾はこの地の草木を司る○△◆の命。かつて、其方の剣技に救われた。」
Lの声が、空気を震わせる。 稲の神様がその正体を。
それは、この舞の最後を飾る、古から伝えられた謡。 でも今までこんな声は一度も。
私は、一体何を... !? まさか。
斬り上げた剣の上に立つ、L。 穏やかな、笑顔。
『吾が与えた恵みを護らんとする、その意気や良し。』
違う。これは、稽古してきた台詞ではない。目眩、吐き気を堪える。
直後、目の前に稲田が見えた。黄金の穂波を揺らす、爽やかな風。
『今、吾が立っているのは、其方と稲を、つまり一族と米を繋ぐ橋の上。』
ああ、そうか。それでこの剣の、神器の号は。
『一族の者の心に、この橋が架かる限り、吾も誓いを守ろう。』
そうか、これが。 恐らくこれがこの舞の、真の姿。 ここで、御礼の口上を。
それでLと私のお役目は...急に、剣を握る右手から力が抜けて、気が、遠くなる。
嫌な、感触。 眼の前で、Lの身体が舞台に頽れ落ちるのが見えた。
神器、この剣だけは何に代えても。身体を丸める。 左の肩に衝撃。
どこか遠くで、誰かの、叫ぶ声。

1230『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:31:29 ID:y7CKWZdQ0
 「頑張ったんですが...やっばり、分かりませんでした。」
「いや。全ては、あの晩に起こった通り。見事。
我と共に来い。お前達ほどの舞姫なら、あの御方のお側でも十分に。」

 夢? Lと、もう1人。 それは最初から稽古を見ていたという、視線の主?

 「もし我と共に来るなら、おまえの身に仕込まれた黒い呪いも力を失う。」
「そうすれば、もう、私のせいで誰も。」 「そう。決して悪い話ではない。」
眼の前に、俯いたLが立っている。右足の足袋は紅く染まり、その前に蟠る、白い靄。
「でも、紫さんにはお兄さん、炎さんが。私、1人でも。」 「それも、良かろう。あの御方は」
『L、駄目!』 自分の大声に驚いた。
『SさんがどれだけLのこと。それなのに。お願い、絶対に行っちゃ駄目。』

1231『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:33:04 ID:y7CKWZdQ0
 ずっと、話し声が聞こえている。 聞き慣れた、懐かしい声。 夢の、続き?
「許してくれ。この神事を、紫が自立するきっかけにして欲しくて、だから。」
「あなたたちの事情、それは分かるし、指導していた私も気付かなかったのだから。
あなたを、いいえ誰も責める事は出来ない。勿論、Lも紫も。」
「しかし、あの娘は。もし足の傷が。」
「依り代になっている間は影響が小さいと分かったし、紫も自分の一歩を踏み出した。
それで良いでしょ?終わり良ければ、よ。正直、少し悔しいけど。」
「もし対手が俺でなく紫だったなら、あの晩に同じ事が起きて
新たな契約が成されていただろう。つまり、俺の力不足。
舞において紫は俺を越えたが、今夜の事はあの娘と紫の相性が生んだ奇跡。
未だあの娘が単独でお前の舞を越えたとは言えない。」
「有り難う、と言った方が良いのかしらね...あ!L、あなた。また血が。」
「大丈夫、です。」 「何言ってるの。その傷は。」

1232『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:36:29 ID:y7CKWZdQ0
 傷? Lは、足に怪我をしたの? そう言えばLは剣の上に、それから...?
体に力が、戻ってくる。眼を開けた。見覚えのある天井、舞台傍の控え室。
「紫!」 のぞき込む兄様の御顔。 Sさんと、Lも。 夢じゃ、なかった。
ゆっくりと、上体を起こす。私の両手を包む、温かな感触。 「紫さん、良かった。」
大きな眼、屈託の無い笑顔。胸が、詰まる。
L...
「御免、ね。私がもっとしっかりしていれば剣は、きっとその足の怪我も。
もしLの命に関わるなら、償いは必ず、私の命で。だから、許して頂戴。」
「傷は大したことありません。それに紫さんはとてもしっかりしてましたよ。
私を呼び止めてくれたのは、紫さんでしょ?声が、聞こえました。」
「2人共に神懸かるなんて、私も炎も予測出来なかった。
紫の『烈風』は奥義の域に達していたし、Lの、『あの声』は...」

1233『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:40:14 ID:y7CKWZdQ0
 「あれは間違いなく◎韻×。俺にも、Sにも使いこなせない、遠い古の奥義。」
「炎、その術の名を。」
「貴方の名はL。その名の由来を御存知か?」
「はい、私の母が。Sさんから聞いています。」

1234『舞姫』 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:41:55 ID:y7CKWZdQ0
 「正直、私は『現人神』を信じてはいなかった。しかし、間違っていたようだ。
兄姉皆が力を尽くし、引き出してやれなかった紫の才を、貴方は。」
床に片膝を着く姿が、涙で霞む。 兄様。
「どうか今後も、紫と親しくしてほしい。真の、友として。」
「あの、今も紫さんは大事な友達です。
それに、一族でも忌み嫌う人の多い、こんな私を普通に友達にしてくれたのは紫さんで。」
「私たちが作り出された経緯も御承知の上で、既に望みは叶っていると?」
「はい。」
「それなら、約束を。私と紫は、何時か必ず、貴方の恩に報いよう。
この命と引き替えにしても貴方を助ける。
そう、貴方か、あるいは、貴方の所縁の者を。必ず。」

『舞姫』 完

1235 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/21(月) 22:49:51 ID:y7CKWZdQ0
前述の通り、色々ありました。
私の対応できる問題では無かったので弟に感謝。ですね。

さて、『舞姫。』私自身は大好きで、中々興味深い作品だと思っています。
皆様のご感想を聞かせて頂ければ、これ以上の幸せはありません。

今夜もお付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
本当に有り難う御座いました。それでは、御機嫌よう。

1236名無しさん:2016/11/22(火) 00:00:34 ID:4VzX6um20
弓(もしくは扇)が、無い。梓の弓。役割が違うのか・・
お子は三人ではなくもう一人?武の守護者は剣より生まれたのかな。

1237名無しさん:2016/11/22(火) 05:14:02 ID:PWBLuiBwO
息をのんで読ませて頂きました。投稿をありがとうございます。とても面白かったです。
新潟の地元の伝承で舞台になったという場所を想像しながら読ませて頂きました。
舞を代々継承されている、大変な責任や約束事を守られていくのは本当に命懸けで大変そうです。凄いです。
トラブルを乗り越えての投稿、ありがとうございました。

1238名無しさん:2016/11/23(水) 15:55:34 ID:toWqA5Z.O
遠き古から今の世への掛け橋。織り紡がれた物語,綾なす縁と約束の糸。Lさんが大怪我をしないか,ドキドキしました。それにしても,紫さんとLさんの関わりが意外でした。いつもながら心に残る昔語り,ありがとうございました。

1239名無しさん:2016/11/24(木) 21:35:55 ID:1Ogq0Kmg0
前回のお話は名前の交換をした応神天皇と、神降ろしをしてた神功皇后のお話しみたいで実に引き込まれますな。
今回は和みを寄せ付けぬ厳しさ。Rさんの、自分と向き合う人生という言葉が思い出されます

1240名無しさん:2016/11/28(月) 12:36:17 ID:iiCWCPZs0
このお話の原案って紫さんの日記とかなのかな
一から作ったのなら知人氏の才能すごいでしゅ

川の神様の御眷属となられたお二人から聞いたのなら、子供の外観から随分大人びたやりとりがあったはずだから、かなりシュールな光景が思い浮かぶ

1241 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/28(月) 21:53:18 ID:mq8UyDiA0
皆様今晩は、藍です。

>>1184
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>>1198
>>1199

返信が遅れましたが、新作をお待ち下さるお気持ちは素直に嬉しいです。
本当に、有り難う御座いました。

>>1200
ご推察の通り、その作品は現在袋小路にあります。
ただ、公開に向けた努力を続けておりますので、気長にお待ち下さい。


>>1202
>>1203
>>1204
>>1205

『舞姫』に、ご期待頂き感謝致します。
ご期待に応える事が出来ていれば良いのですが。

1242 ◆iF1EyBLnoU:2016/11/28(月) 22:02:19 ID:mq8UyDiA0
皆様今晩は、引き続き藍です。

>>1236
>>1237
>>1238
>>1239
>>1240

驚くほど深いコメントに感服ですが、立ち入った返信は禁止されております。
ただ、このようなコメントを頂ける間は、投稿を続けられると信じます。
急な仕事から帰ったばかりですが、次の投稿の事を考えています。
お互い身体に気を付けて、また会える日を楽しみに。では、御機嫌よう。

1243名無しさん:2016/11/30(水) 01:44:09 ID:/7Edle260
次は、御影さん視点の物語が聴けたらと思う
知人さんのフェイクが「やっぱり御影さん男でした」って事ならショックでかすぎるので夢は壊さないでほしいがw

1244枯れ木:2016/12/02(金) 20:18:57 ID:sIlosXxk0
 一昨日、姉は仕事に出て、留守を任されました。

 正直どうかと思いますが、クリスマス(?)企画での新作。
または年明け企画での新作投稿に向け準備をしているようです。

 私自身は、年明け企画にするべきだろうと思いますが、
皆様方の御意向は如何に? 意見が御有りの方は書きこみを。
どちらにしても姉に伝えて、投稿の準備を促します。

1245名無しさん:2016/12/02(金) 22:11:28 ID:jnUkwUlIO
お知らせありがとうございます。
投稿を楽しみにしてる立場から願望をいえば早く読めるクリスマスの方が嬉しいですが、お仕事に加え年末年始で忙しいでしょうから、藍さんの都合のいい無理のない投稿を気長にお待ちしてます。

1246名無しさん:2016/12/04(日) 00:19:57 ID:oEfu9eHs0
だ・断腸の思いで正月とクリスマスには一緒に来ていただこうか
誰かが(私の代わりに)「両方」って書く前に

1247名無しさん:2016/12/04(日) 01:08:48 ID:mbspvhxUO
クリスマスプレゼントとお年玉,どちらも大歓迎です!

1248 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/05(月) 21:49:06 ID:JAJsL2Qk0
皆様今晩は、藍です。
今朝仕事から戻りましたが、明日朝にはまた仕事に出ます。

>>1243
知人に確認しましたが、フェイクではなく御影さんは女性とのこと。ご安心下さい。
ただ御影さん視点の物語は現在の予定にありません。悪しからず。

>>1245
>>1246
>>1247
新作へのご期待、心より感謝致します。
弟の余計な書き込み(キリスト教徒じゃないんだから)で、ご迷惑を。
急ですが、お詫びに新作の冒頭部を投稿致します。

では、皆様のコメントにお応えして、
以下、『制服の君』。今夜投稿分の続きは多分お年玉企画で。

1249 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/05(月) 21:54:55 ID:JAJsL2Qk0
どうも「最新50」では書き込みが反映されないようですね。
何故『火狐』でも同じ減少が、少々お待ち下さい。

1250 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/05(月) 21:57:44 ID:JAJsL2Qk0
どういう訳か、「次100」で書き込みが反映されるようです。
折角の投稿をお楽しみ頂けるかどうか本当に不安ですが。
今夜投稿予定の原稿を投稿してみます。

1251 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/05(月) 22:05:24 ID:JAJsL2Qk0
弟によると、「最新50」のアドレスの末尾を
/l50 から /l51 に変更した方が速く読めるようです。
どちらか良い方法でお読み下さい。

1252『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/05(月) 22:08:54 ID:JAJsL2Qk0
『制服の君』

 「只今、帰りました。」 「お帰りなさい。コーヒー、入ってるわよ。」

 Sさんを抱き締め、額にキスをした。Sさんは不満そうな顔で、俺の唇にキスをした。
「それで、『制服の君』はどうだったの?未だ、変化はなし?」
「う〜ん、何となく雰囲気が変わったような気はするんですが、もう少し、かかりそうです。」
「そう...ま、良いじゃない。早朝サイクリングとウォーキング、健康維持には最高。」
「確かに、修行の準備運動だと思えば...でも、暑くなってくるとキツいかもしれませんね。」
毎朝、少しずつ設定を変えて繰り返される遣り取り。キスと同じ、2人のルーティーン。
俺もSさんも、重々承知している。実際はそんな軽い内容ではない。
もし春の終わりまでに解決出来なければ、恐らく1つの命が尽きることになる。

1253『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/05(月) 22:10:45 ID:JAJsL2Qk0
 高校、多分3年生。その女生徒を初めて見かけたのは今年の1月末。
ある仕事のため、未明の街を歩いている時で、全くの偶然だった。
仕事の場所に向かって長い上り坂を歩いていて、下りてくる彼女と擦れ違った。
薄明るい歩道に殆ど人影は無く、200mも前からその気配を感じていた。
姫が通っていた高校の制服。坂を下りきった所は電車の駅で、
そこからの時間を考えてもかなり早い登校。 部活、いや、鞄だけだから早朝講座か。
きちんと着こなした制服、綺麗に結い上げた髪。 少し薄い唇をきりりと結び、硬い表情。
隙のない美貌は、朝焼けに染まり始めた街の中で異彩を放っていた。
だが、それよりも。

1254『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/05(月) 22:12:30 ID:JAJsL2Qk0
 ハッキリと見える。というか、あまりに強く感じるから、自然に視覚化してしまう。
綺麗な着物を着た若い女性、どこか『制服の君』に似た美貌。
その姿がかなりハッキリしているから、強い『心残り』があるのだろう。
しかしその表情からは、憎しみや苦しみが伝わってこない。
憎しみや苦しみに囚われ、不幸の輪廻と繋がっている霊であれば、
この世界でその存在を維持する為のエネルギーを宿主に依存しない。
不幸の輪廻との繋がりがないからこその、深刻な事例。
その存在を維持するために宿主の、『制服の君』の生命力を少しずつ消費する。
かなり長い期間憑依しているようだし、日々の積み重ねは無視できるものではない。
実際、初めて見かけた時よりも、『制服の君』は痩せていた。
このままでは保ってあと一ヶ月。
生命力があるレベルを下回れば突然に、そして確実に『終わり』がやってくる。
それまでに何とかしなければ、俺とSさんは下見をしてから相談を重ねた。

1255『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/05(月) 22:15:53 ID:JAJsL2Qk0
 「すごく頑なで、働きかけても反応なし。幾ら早朝で人通りが少ないとは言っても、
街中で大がかりな術は使えない。家族に話してと言う訳にもいかないし。」
普通に登校しているのだから『制服の君』には自覚がないだろう。まして家族には。
家族に連絡を取ったところで胡散臭い詐欺師か何かだと思われるのが関の山。
一族には医者もいるが、検診を受けてもらう口実がない。病気という設定にも無理が有る。
「でもこのままでは、何とか。あ、いや、彼女が綺麗な娘だからと言う訳じゃないですよ。」
「馬鹿ね。そんなの言わなくても分かってる。でも。」 「でも?」
「この件に関しては、あなたが彼女に好意を持った方が楽だったかも。」
「どういう、事ですか?」
「あんな状態で、一番伝わりやすいのは好意だからよ。半端な興味や同情よりも、ね。
悪意や憎しみをはねつけて来たからこそ、不幸の輪廻との繋がりは出来なかった。」
「言霊で、告白しろって事じゃないですよね?本気じゃ無いと言霊の効果は。」
「まさか、突然そんなことしたら即『声かけ事案』で通報される。運が悪ければ逮捕&連行。
榊さんは極上のネタを手に入れて大喜びするでしょうけど。」
少し、目眩がした。

1256『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/05(月) 22:18:21 ID:JAJsL2Qk0
 「じゃあ、どうすれば。」
「これから毎朝、あの娘と擦れ違って。」 「へ?毎朝、擦れ違うって...」
「別に難しくないでしょ。『制服の君』の登校時間に合わせてあの坂を上るだけだもの。
擦れ違いながら、念を送る。『あなたと話したい』って。勿論相手は着物の女性の方よ。」
「冗談、なんですか?」 毎日となれば毎度Sさんに送って貰う訳にはいかない。
当然、姫と子ども達は深い眠りの中にいる時間。自転車と徒歩だとしたら、修行は。
「冗談なんかじゃない。正直一番リスクが少ない方法がそれ。
積み重ねた念が彼女に届いたら、何か変化が起こる筈。
それを見逃さず、あなたが言霊を使う。後の始末は私が、問題はそれまでの時間だけ。」
「毎日積み重ねても、間に合わないかも知れないって事、ですね?」 「そう。」
Sさんの横顔。微笑に潜む、深い憂い。
「やります。これも縁なら、僕の念が彼女に伝わると、信じるしかありませんよね。」
「うん、良い返事。」 Sさんの笑顔は優しく、温かかった。

1257『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/05(月) 22:19:53 ID:JAJsL2Qk0
 長い上り坂。彼方に『制服の君』の姿を認めたら、陸橋を降り坂道を上る。
視線を散らすことなく、一定のペース。健康志向のサラリーマンの徒歩出勤風に。
勿論それっぽいナップザックを背負い、目立たない服と靴。
彼女以外の興味を引くのは極力避けるべきだ。
かなりのペースで『制服の君』の姿が大きくなる。
ぴいんと伸びた背筋。すらりと長い足と大きな歩幅。そしてその姿に重なる、美しい人。
擦れ違う瞬間、念を送る。
『あなたと話したい。』 勿論視線は真っ直ぐ前方、他の人に怪しまれてはならない。。
少し遅れて、微かに良い香り。香水ではない。石鹸、だろうか。
残念だが今朝も変化はない。そのまま歩き続け、坂の頂点で横断歩道を渡る。
行きと反対の歩道を下るのは万一に備えて。
もし忘れ物か何かで『制服の君』が引き返して来て、同じ男と擦れ違ったら不審に思うだろう。
ストーカーか何かと勘違いされ、登校方法を変えられたら元も子もない。
坂を下りきったらもう一度横断歩道を渡り、陸橋下の駐輪スペースに停めた自転車で帰宅。
そんな生活が半月ほど続いた、朝。

1258『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/05(月) 22:21:11 ID:JAJsL2Qk0
 擦れ違う少し前、『制服の君』の気配が揺れた。
僅かに動いた視線が俺を捉える。間違いない。もう一度、遠ざかっていく気配に念を送る。
『そう、私です。あなたと話したい。』
お屋敷への帰り道、自然と自転車の速度が上がった。

 「間違いない、のね?」 「はい。確かに、僕の方を見ました。そう、思います。」
「明日からは私も一緒に行く。多分あと数日はかかると思うけど、念のため。」

 Sさんがスタンバイするのは俺と『制服の君』が擦れ違う地点から十数m。
駅に近接したバス停のベンチで新聞を読んでいる。暖かそうなスポーツウェアにサングラス。
怪しいと言えば怪しいが、見事に気配を消しているから訝しむ人はいないだろう。
それは、Sさんがバス停でのスタンバイを始めて3日目の事だった。

1259『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/05(月) 22:24:02 ID:JAJsL2Qk0
 いつものように擦れ違う。 『制服の君』の視線が、今朝も俺を捉えた。
擦れ違って2歩目。背後から、鈴を振るような声。
『あの、どうしてですか?』 来た。心の動きを抑え、振り返る。
近くに通行人はいない。視界の端、ベンチに座るSさんの姿。
「ええと。僕ですか?何か?」
「とぼけないで。いつも擦れ違うとき私の顔見てますよね。どうして、ですか?」
俺は深く頭を下げた。
「御免なさい。毎朝美しい人に会える事を楽しみにしていました。
今朝もその幸運を喜んだだけで、決して悪気は有りません。」
「美しい?」
声の調子が、変わっている。俺を呼び止めた時の声ではない。
「はい。貴方は美しい。嘘をついても、私には何の得もありません。お判りでしょう。」
着物の女性は目を閉じて俯いた。何かを、思い出そうとするように。
俺は深く息を吸い、下腹に力を入れた。
『お助けしたいのです。貴方と、貴方の魂が依代とした、その娘さんを。』
『助ける?』 『はい。死後、その故郷へ旅立てぬ魂を、私は不幸だと思いますから。』
着物の女性はゆっくりと辺りの景色を見渡した。

1260『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/05(月) 22:26:00 ID:JAJsL2Qk0
 青いジャージを着た高校生らしい男子が一人、通り過ぎた。
一瞬感じた視線、立ち話をしているように見えるだろうか。
『では私は、既に死んで。ならどうして、今までこの世に留まっているのでしょうか。』
『時を待っておられたのでしょう。魂の故郷への道を示す者が現れる時を。』
『あなたが、案内してくれるのですか?私を?』
『正直に言えば、未だそのための手がかりがありません。
しかし、私にお任せ下さるなら、必ず魂の故郷への道を。陰陽師の名に賭けて、』
『陰陽師。そして、魂の、故郷...あなたは。』
『制服の君』が目を閉じる。崩れ落ちる身体を、Sさんが背後から抱きとめた。

1261『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/05(月) 22:27:55 ID:JAJsL2Qk0
 「この子、急にどうしたんですか!?。」 Sさんが声を張り上げる。
打ち合わせの通り。
「気分が悪そうだったので声を掛けて、連絡先を聞こうとしたら。貧血かも。」
俺も切羽詰まった大声を張り上げる。大芝居、榊さんを喜ばせる訳にはいかない。
歩道に面した家の窓が開いた。中年の女性。
他にも、立ち止まってこちらを見ている通行人が数名。
「その角を曲がってすぐに交番が有ります。取り敢えずそこに連絡して、早く、」
俺は走った。Sさんは騒ぎを聞きつけた人々の目の前で電話を掛けるが、怪しまれない。
「もしもし、私Sといいます。はい、急病人で。○◇駅の北口です。そう...」
勿論、Sさんの電話を受けるのは榊さん。
特別に用意された救急車は、一族の者が運営に関わっている病院に『制服の君』を運ぶ。
完璧、だ。

1262 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/05(月) 22:31:36 ID:JAJsL2Qk0
皆様今晩は、再び藍です。

取り敢えず、許可を得た部分の投稿を終える事が出来ました。
色々と不安ですが、お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。

お話の続きは年明け、お年玉企画で。それでは御機嫌よう。

1263名無しさん:2016/12/06(火) 00:16:28 ID:hpxjyRwU0
念を飛ばす、ですか。
生きている人間の念ほど怖いものは無い。だからこそ念を残してはならぬ。
それこそが「残念」
本日も教訓を頂きました。
本日の投稿、我が念が飛んだようで。反省はしても後悔は無し。

>知人に確認しましたが、フェイクではなく御影さんは女性とのこと。ご安心下さい。

わっひょい。何よりのクリスマスプレゼントぉ

ハッ?

1264名無しさん:2016/12/06(火) 06:26:29 ID:PoQDoa5AO
投稿ありがとうございました。「声かけ事案」に笑いました^^
お仕事も奉仕もされて有難い限りです。藍さんの投稿も奉仕ですね、ありがとうございます。
表舞台から排除された方々がどこかで皆さんのように技を継承し磨かれてることを信じる希望になります。
制服の君が段取り通り救急車で運ばれて続きが楽しみです。

1265名無しさん:2016/12/06(火) 22:25:12 ID:hpxjyRwU0
>>1264

汝歴史を知っとうや?なぜか有り難きことと思う
出雲も、磯城(海辺→吉備)も、物部も、平群も、渡来系と誤解されて尚の藤原も
世の中に無駄な事無きと、Kさんの辛き過去にも感謝せねばならぬ世の理も
なればこそ、古き神々も、新しき神々も互いに手を取り合って欲しいと思わされるし、我々小さき人々もそうありたいと願う物也

良き理、党首様、死してなお、先達の良きものを継承するを喜ぶ御影様、そしてRご家族。並びに知人さん、藍さん、枯れ木さん。

有難うね。

1266枯れ木:2016/12/06(火) 23:37:15 ID:O8ayjhJU0
>>1265

 もしや。酔って、おられましたか?

 「知っとうや?」という問いかけは、誤解されかねません。その、豊富な知識故に尚更。
「知識のあるなしに関わらず、真っ直ぐな心は同じ心持ちに辿り着く不思議。」
そう書き込んで頂ければ、要らぬ誤解は避けられるかと。有り難う御座いました。

12671264:2016/12/07(水) 07:00:10 ID:gdrYYFLIO
歴史を読み解きたい思いはあります
聖書、ギリシャ神話エジプト神話インド神話日本神話キリスト仏陀聖徳太子
金太郎と桃太郎の関係、浦島太郎、さるかに合戦かちかち山三枚のお札だいだらぼっち
吸血鬼、ハロウィンの起源、バレンタインデーの起源
かぐや姫とうばすて山を合わせたような昔話、姥は乳母?
全てが二組の家族の物語に繋がっているようで妄想だけは止まりません
お侍様の戦いの本当の真意も妄想中
トイレの花子さんは便所の神様?
本当の歴史を知るのは死んでからのお預けです
もしご存知なら羨ましいです。
日本には日の出づる処として渡来系は多いですね。多分ケツアルコアトルも来てると思いますが、確認はできません。
義経の血脈がロシアにありそうな気もしてます。こちらは姿を明らかにしてくれたらと期待してます。
聖徳太子は推古天皇のように幼子ではなかったでしょうか、教えて欲しいです。

12681264・追伸:2016/12/07(水) 07:55:13 ID:gdrYYFLIO
西遊記の孫悟空は海を渡って中国へ行ってるので、日本出身ですよね?
帰ってきた孫悟空を追ってきたのが天日槍、だと推測してますがいかがでしょうか。
というか荒らした自戒にROM専になります。
1265さん、この機会をありがとうございます。
藍さん枯れ木さん、これからも楽しみにしています。いつもトラブルも対処しての投稿をありがとうございます。

1269名無しさん:2016/12/07(水) 18:00:15 ID:DXB2toLQ0
Rさんまた責任問題フラグ?が立ったのにみんなそれはスルーとは

1270名無しさん:2016/12/07(水) 21:08:48 ID:ej4sIB060
>>1266
申し訳ありません。
そこにスポットの当たるレスポンスは想定しておりませんでしたという答えに留まる事をお許し頂きたい
看過できない事情が発生したとしたら申し訳ありません。心に刻みます

1271枯れ木:2016/12/07(水) 21:43:36 ID:mgez9mHk0
 ああ、申し訳有りません。文字通りの老婆心。
思わず、また、余計な事を。姉が帰ってきたら、きっと、怒られますねぇ。

>>1264
 大変興味深い考察を含むコメントかと思われます。
どうぞROM専などと仰らず、今後も書き込みを続けて下さい。
きっと姉もそれを望むと思います。

>>1269
 今作の題名から考えて、Rさんの責任問題にはなりますまい。
「好意」の描写と、「制服の君」の御名前が、伏せ字ですら示されない状況が
それを示唆しています。きっと沖縄の姫君とは事情が違うのでしょう。

>>1270
 悪夢のような状況を踏まえて、今、留守を預かる条件。
最悪の状況に繋がりかねないと感じたら即対応を、と命じられています。
少々神経質な対応だとしても、以前のような事態を招く事だけは。
迅速に御対応頂き、お陰様で事態の悪化は免れましょう。
姉に代わって、寛容な御心遣いに、本当に感謝致します。
有り難う御座いました。

1272名無しさん:2016/12/11(日) 13:00:31 ID:n2dy5lWo0
>>1271

何と言いますか、ちゃんと観てもらって頂けている様で安心な気持ちです。
水曜の出来事ですが、昼間に別件で「言葉には魂がこもります」って教えられえまして二重に凹んでます

枯れ木さんも最早主役のおひとり。どうか居なくなったりしないでくださいね。

1273名無しさん:2016/12/11(日) 22:23:47 ID:bVm4rzJU0
1272さんのおっしゃるように是非お願いいたしますm(uu)m
私は藍さんも枯れ木さんの事も大好きですから。

1274枯れ木:2016/12/12(月) 21:32:58 ID:JGZxM6G60
>>1272
>>1273

 励まして頂いて、嬉しい思いと、
私の真意を上手くお伝えできなかった忸怩たる思いの板挟みです。

 1265様には、いきなり失礼な問いかけを。

 1264様には、以前からお伽話系統の深い知識をお持ちと知りながら
『知識のあるなしに関わらず』と、これも大変失礼な書き込みを。

 きっと皆それぞれ、得意分野と不得意な分野があります。
お互い敬意と思いやりを持って知識を出し合い、
実りある雑談が出来たら良いな、と。

 どうか、数少ない肉親である姉を思う愚弟の戯言とお許し下さい。それでは。

1275 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/19(月) 19:45:21 ID:Fwgnk6wk0
皆様今晩は、藍です。 先程仕事から戻りました。

年末年始は仕事の予定が無いので、お年玉企画に集中できそうです。
『制服の君』の行く末を案じながら、知人の原稿を精査・修正して。
その後許可を得られたなら、続きを投稿し、此所で皆様と再会できる日を楽しみに。
それでは、御機嫌よう。さようなら。

1276名無しさん:2016/12/19(月) 22:45:16 ID:qcQX0co.0
よかった、待ってます。

1277 ◆iF1EyBLnoU:2016/12/26(月) 23:46:06 ID:WZd.7OQk0
皆様今晩は、藍です。

投稿へ向けた作業は随分捗りました。ただ、同時に予想外の事態も。
これを解決するための相談をしている状態。未だ今後の展開は読めません。
ただ、知人は『制服の君』の完結はお年玉企画ではなく是非年内にと。
お年玉企画はその後で。以上、未だ物語の続きをご期待下さる皆様にお知らせを。

それでは御機嫌よう。きっと、30日か、31日にきっと、此所で。

1278名無しさん:2016/12/27(火) 12:14:05 ID:6gh.bwks0
お待ちしております〜

1279名無しさん:2016/12/29(木) 12:03:14 ID:bbpHFjU6O
ワクワク

1280名無しさん:2016/12/30(金) 00:51:41 ID:Gr3cexW20
枯れ木さんとRさんってキャラ的に似てる処ある様な気がしますね
思考の回転が速い処
言うべき点を逃さない処はいいのだが、時々言うのが早すぎる処

元気なお姿、お待ちしております。どうか、よき方向に

1281 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 03:20:53 ID:oApGFCxM0
テスト中です。

1282 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 03:34:01 ID:oApGFCxM0
皆様今晩は、藍です。

暢気に投稿の準備中、想定外の事態が。先程戻った所です。
弟が暫く家を空けている最中だったのも不運でした。

ただ、標準時とは関係なく、初日の出まで年は明けません。
(正直無理筋と承知していますが御容赦を)

それでは以下、『制服の君』完結まで。では。

1283『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 03:39:00 ID:oApGFCxM0
 病院のロビーに面した問診室の1つ。この部屋も打ち合わせていた通り。
入り口のカーテンは水色。11時半を過ぎた頃、警察官に付き添われた女性が入ってきた。
落ち着いた、優しそうな雰囲気の女性。 『制服の君』の面影も見える。
「この方が交番に連絡して下さって、救急車も。」 年配の警察官。
俺が声を掛けた、あの交番の。あれからずっと、きっと、面倒見の良い人なのだろう。
警察官が一礼して立ち去ると、その女性は改めて、深く頭を下げた。
「有り難う御座います。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。あの、お仕事は?」
「ああ、僕は自営業なので時間の都合は幾らでも。それより、娘さんは大丈夫ですか?
すごく気分が悪そうでしたが、どうして二人ともあんな風に?」
「お陰様で娘には怪我も無く、今のところ検査でも異常は無いそうです。
ただ最近、随分痩せてきて、心配はしていました。
あなたがいて下さって本当に良かった、娘は...あ。」
その女性の表情が突然曇った。やはり『制服の君』の母上。きっと気丈で、聡明な。
「あの。あなた、今。」 「はい?」
「あなたは今、『どうして二人とも』と?」 「はい、確かにそう申し上げました。」 
「どういう意味、ですか?『二人とも』って。」

1284『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 03:48:03 ID:oApGFCxM0
 「制服の娘さんに重なるように、綺麗な着物を着た若い女性が見えるんです。
既にお亡くなりになった方のようですが、その方もあなたの娘さんなのかと思いまして。」
「...あなたは、一体?」
「信じてもらえるかどうか。僕は、陰陽師の末裔。この地の伝承はご存じでしょう?
天と地の精霊の力を借り、生と死の媒を生業とする者たち。
実は、初めて娘さんを見かけたのは今年の1月です。ある仕事に向かう途中、偶然に。
出来れば助けてあげたいと思って、それからずっと、気に掛けていました。」
「じゃあ、もしかして...今日のことも。」
「はい。今日、着物の女性がやっと僕に気付いて、応えてくれたんです。
その時に備えて前から手配をしていたこの病院に娘さんを運びました。
僕の親戚がこの病院の運営に関わっているので、娘さんは特別な手当を受けられます。
しかしこのままでは...それ程長くは保たないでしょう。
体は1つ。2つの魂を支えられる期間には、限界がありますから。」
「その限界を超えたら、娘の命も尽きる、と?」 その女性は真っ直ぐに俺の眼を見詰めた。

1285『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:00:58 ID:oApGFCxM0
 「はい。無条件に信じてもらえるとは思っていませんし、脅迫するつもりも有りません。
ただ、僕を信じて下さるなら、お手伝いが出来ると思います。
娘さんと、もう1人、既に無くなった女性を助けるために。
それに、これは『縁』に導かれた仕事ですから、報酬も経費も、一切頂きません。」
その女性は黙って俯いた。重い、沈黙。 焦る必要はない、当然の決断を、待てば良い。
やがて、その女性は顔を上げた。
「私が産んだ娘は、あの子1人だけです。
あなたが見た『既に亡くなった女性』と、娘にはどんな関係が?」
やはり、俺を試すつもりなのだ。
直ぐにこんな話を信じることなどあり得ない。疑うのが当然だろう。
しかし、信じてもらうのに術で小細工をする手間を省けるなら、こちらとしても好都合。

1286『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:03:23 ID:oApGFCxM0
 「悪意は全く感じません。だから娘さんへの影響がとても小さかったんですね、
そういう場合、命に関わる状態になるのにはかなり時間がかかります。10年か、20年か。
だから姉妹かと思っていました。でも、あなたが産んだ娘さんは1人。
稀な例ですが、娘さんの体内に取りこまれ成長できなかった双子という可能性も。
しかし、それなら今日の検査で判明した筈だし、何より着物という点で決定的に違う。
体内に縛られていれば、娘さんの感覚と記憶をなぞるだけですから。
つまりその女性も着物ではなく、あなたの娘さんと同じ制服の筈。
残る答は1つ。あなたの、ごく近い御身内に、若くして亡くなった女性がおられる。
その方の魂が娘さんに宿った。それがこの件の原因です。」
その女性は息を呑んだ。握りしめた両の手が、膝の上で小さく震えている。
「何か、強い心残りがその人の魂を繋ぎ止めていて、そこにあなたの娘さんが生まれた。
娘さんと波長が合っていたために、その人の魂が娘さんの身体に宿ったのでしょう。
多分偶然。悪意などなく無意識に、だからこれほどの時間を共存できた。
しかし、日々の負担は小さくとも、長い期間積み重なれば影響は深刻。
今まさに、それは限界を迎えつつあります。」

1287『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:07:13 ID:oApGFCxM0
 その人の両手、もう、震えは止まっている。
「21歳で亡くなった従姉妹がいます。私が、9歳の時に。」
「従姉妹ですか...それでは、ごく近いとまでは。」
「だからこそ、あなたの話を信じるべきだと、分かりました。
父が従姉妹を引き取って、私と兄は従姉妹と2年間一緒に暮らしたんです。
まるで本当の姉弟のように。私も兄も姉さんが大好きで、とても仲が良かった。
父が姉さんを引き取る前の年、私たちは母を亡くしていたので、
歳の離れた従姉妹を実の姉のように...。」 そっと涙を拭う仕草に、胸が詰まる。
「あなたに任せれば、娘を救い、姉さんを然るべき場所へ送る事が出来る。そうですね?」
「そうしたい、と心から願っています。ただ、まずは手がかりが必要。
娘さんが生まれるまでの間、亡くなった女性の魂を繋ぎ止めていた物がある筈です。
多分、その女性の遺品の中に。それらを調べる許可を頂きたい。
それから貴女の従姉妹、亡くなった女性の実家を教えて欲しいんです。
実家が判れば、必要な調査は僕の仲間がやります。その家に一切ご迷惑は掛けません。」
「私が、責任を持って兄を説得します。それまで、お待ち頂けますか?」
「はい、勿論。ただ、娘さんに残された時間はそれ程長くはありません。」
「分かっています。説得は今日明日の内に、必ず。」
「それではもう一つ、許可を頂けますか?」 「はい。どうか娘と話を。」

1288『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:12:05 ID:oApGFCxM0
 ゆっくりと、ドアが開く。母親に手招きされて、ドアを潜った。
ベッドの上で上半身を起こした『制服の君』。 美しい、本当に綺麗な娘だ。
「あの、有り難う御座います。今朝は、助けて、もらったみたいで。」
「僕の名前はR。今年の一月中旬から、毎朝君のストーカーをしてました。」
『制服の君』は息を呑み、その後で微かに笑った。
「そんなに長い間、毎朝私の事を心配して?」
「そうですね。君と、もう一人。とても綺麗な、着物の女性の事を。」
「その人は、誰なんですか?」 「君の、お母さんの従姉妹。そう聞きました。」
「そう、ですか。」 窓の外、傾き始めた陽光を見詰める。
「初対面で、こんな話を信じるなんて。母も私もどうかしてる。それが普通ですよね?」
「はい。小さな子ども相手なら『僕は魔法使いだから。』と、それで。でも、あなたには。」
「『魔法』?それは、その人が『着物』だと分かる、見えるいうこと?」
「はい。僕達に取ってはそれが当たり前なので『魔法』はまあ、方便ですが。」

1289『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:13:19 ID:oApGFCxM0
 「どんな、着物ですか?」 「極く薄い水色、手鞠のような白い模様です。」
『制服の君』の母親が息を呑む。 『制服の君』は小さく溜息をついた。
「本当にそれが、『見える』んですね?」 「はい。」
「私にも見えます。ただ、夢の中でだけですけど」 「◎、あなた。」
「御免なさい。心配、掛けたくなかったから。」 『制服の君』は真っ直ぐに俺を見詰めた。
「夢の中で綺麗な人が泣いていて、私はその人を一生懸命励ましているんです。
その人の着物が、薄い水色に白い柄。手鞠といえば、確かにそんな風にも。」
??? 泣いている女性、その人を励ます。 一体 ???
「その夢で、何か言葉を。憶えていますか?」
「はい。ハッキリと。」

1290『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:15:43 ID:oApGFCxM0
 『お父様とお母様の思し召しだから、きっと、間違いない。でも、怖いの。』
『あの人は良い人よ。私にも、凄く優しくしてくれるし。私、あの人大好き。』
『そう。生まれる順番が逆なら良かったのかな。私と☆の。』
『私が、代わりにお嫁に行けば良いんじゃない?それなら。』
『ふふ。そう、ね。ありがと。☆はまだお嫁さんにはなれないけれど、
もし私が病気になったら、私の代わりになってくれる?』
『うん。何時かそうなったら、必ず。約束ね。』 『有り難う、私、これで大丈夫。』

 「僕には今、その夢の意味が分かりません。だから僕の師匠に話しておきます。
もし何か大きな問題が有ったらもう一度あなたに話して、作戦を考える。それで、良いですか?」
「はい。お願いします。

1291『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:17:04 ID:oApGFCxM0
 「これ、です。姉さんの遺品は全部この箱の中に。」
低く、通りの良い声。その男性は『制服の君』の叔父、ということになる。
倉庫の一角にまとめられた2つの木箱。それがあの女性の遺品。
間違いない。その箱に手を添える、あの女性の姿が眼に浮かぶ。
それ程に強い気配が、その箱の中身に残っている。
「姉さんは、幼い頃から音楽が好きだったと聞きました。でも病で身体が。
田舎では良い医者に診てもらうのが難しかったから、父が引き取って。
これらの品を買い与えて、少しでも慰めようとしたんでしょうね。
幾ら何でも贅沢だろうと笑う者も多かったようです。
でも私も今は、父の気持ちが少し分かる気がしますよ。きっと父も寂しくて、姉さんを。」
「箱の中を調べても?」 「はい、どうぞ。」
古びた紐の結び目を解き、箱の蓋を開けた。
箱の中に、びっしりと詰まった、レコード? 大小2種、綺麗に整理されて収められている。
聖域。以前、遍さんの執務室で聞かせてもらったのと同じ規格、多分。
『制服の君』の母親は40代半ば、ならその従姉妹が亡くなったのは多分30数年前、だ。

1292『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:19:12 ID:oApGFCxM0
 次の箱の蓋を取ると、透明な白熱電球のようなものが見えた。
これは真空管?のアンプ。やっぱりそれも、遍さんの部屋にあったものに似ている。
アンティークの調度品といっても良いような風格のある、綺麗なアンプ。
当時生産された名機、状態の良いオリジナルには、とんでもない値段がついている。
遍さんはそう言って微笑んでいたっけ。
「レコードに残る気配が濃いです。その人は本当に音楽が好きだったんですね。
「はい、一日中レコードを聴いている日も。そう、最後の半年程は、毎日のように。
もう、庭に出る事も、難しかったですから。
とても丁寧な手つきでレコードを掛けて、嬉しそうに。良く憶えています。
でもこのレコードやアンプに姉さんの心残りが...何だか複雑な気持ちですよ。」
その男性は少し寂しそうに微笑んだ。

1293『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:20:45 ID:oApGFCxM0
 愛用の品に、想いを残す死者は珍しくない。
その想いがある程度強くなると、その品を錨として死者の魂がこの世に留まり続ける事がある。
勿論それが可能は限られた霊質の魂に限られるのだけれど。
取るに足らない小さな心残りから、ほとんど妄執と言う他ないドロドロしたものまで。
そして、想いの籠もった品々が生者に影響する事例も珍しくない。
その品々に罪はなく、生者を利するか害するかも、以前の持ち主の想い次第。
そしてそれらの品を上手く利用できれば、残した想いを昇華させることも出来る。
錨を上げ、死者の魂が新しい航路へ旅立つ。手助けが。
そのためには、『全て』の準備を調えなければならない。
今を生きている我々の努力で、調えられるすべての準備を。
「遺品はこれだけ、レコードとアンプだけなんですか?
レコードのプレーヤーとスピーカーもあった筈だと思いますが。」

1294『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:21:41 ID:oApGFCxM0
 「姉さんの一周忌が過ぎた頃、父が処分したんです。
『これを見ると思い出すから。』と、そう言って。
母と姉さんを同じ病気で亡くして、父も本当に辛かったんだと思います。
ただ、レコードとそのアンプだけは残して此処に、遺品として。」
「成る程。でも、貴方は憶えていませんか?処分した品々の大きさやデザイン。
それらがどのメーカーの、どの機種だったかが判れば、多分同じ物を手配出来ますから。」
「私は機械音痴で...でも正月に3人で撮った写真に写っている筈です。」
それなら、大丈夫だ。

1295『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:23:27 ID:oApGFCxM0
 「これらの品々と写真を使えば、何とかなりそうです。
でも、電気を使うものですから安全第一。暫く預からせて下さい。
知り合いに調べてもらって、もし壊れている所があれば直します。」
「はい。それは勿論。でも、そんな物を使って...」
戸惑ったような表情。まあ、無理もない。 多分、映画やTVの影響だ。
「護符や人型を使う方法もありますが、これほど強い想いが残った品々があるのなら、
護符や人型よりもずっと成功の確率は高いです。護符や人型はレディメイドの既製品。
こういった形見の品々はオーダーメイドの特注品、そんな感じですね。」
「はあ、成る程。何となく、分かりました。」
言葉とは裏腹に、未だ納得していない表情の男性を残し、
アンプとレコードを運び出した。どちらもかなり重い。後部座席に並ぶ2つの木箱。
アンプの修理、それにプレーヤーとスピーカーの手配。心当たりがあった。

1296『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:24:26 ID:oApGFCxM0
 「いや、これは...驚いたね。多分レプリカだろうと思っていたし、
強い想いの残った品を『聖域』に持ち込むのはまずいから、このお屋敷でと。
でも電話で聞いた型番の通りだ、◎社の初期モデル。それも完全なオリジナル。
来て良かったよ。これほど状態の良いものは初めて見る。」
「そんなに、貴重なものなんですか?」
「私の執務室にあるのは、この一つ下のクラスのもので、
それでも状態の良い完動品を探すのに2年かかった。
これはさらに生産数が少ない当時の最上位モデル。
愛好者にとっての価値は推して知るべし、だ。
真空管や配線の状態をチェックして、完全に動作する状態にして。
それなら...いや勿論、お金を出せば買えるという品ではない。けれど。」
遍さんは銀縁の眼鏡を外し、ハンカチで丁寧にレンズを拭った。
「もし壊れていたら、修理にもかなり費用がかかる、という事ですね?」
「そう。君の考えからすると、修理には出来る限り当時の部品を使うべきだろう。
愛好者の立場からしても、是非そうしてもらいたいところだが。」

1297『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:25:44 ID:oApGFCxM0
 「もともと今回の件は『仕事』ではなく、僕たちが勝手に関わった事です。
報酬をもらうつもりはありませんし、修理の費用も僕が持ちます。」
「成る程、そういう事か。それなら知り合いの技術者に連絡してみよう。
オーディオショップを経営していて腕は確かだし、間違いなく、喜んで引き受けてくれる。」
「有り難う御座います。ただ、言いにくいのですが...。」
「こんな品に触れる機会は滅多にない。黙っていても、何よりこれを最優先するだろう。
だから納期は最短でいけると思うよ。部品が入手不能とか、何か問題があれば連絡する。」
遍さんの言葉通り、完成して調整も完璧だと連絡が来たのは3日後だった。
修理が必要な部分はほとんどなく、木箱の中には交換用の真空管なども入っていたらしい。
件の女性と、その養父がそれらをかなり大事にしていたのは間違いない。
しかしそれだけじゃない。嘘のように物事が上手くいくのは大抵『時が熟した』から。
それを確信したのは、あっけなくプレーヤーとスピーカーが見つかったからだ。
あの男性から借用した写真に写っていたのと同型。やはり、どちらも当時の上位モデル。
アンプとプレーヤーを修理してくれた人の経営するオーディオショップ。
そこの試聴室に両方が揃っていると教えてくれたのも遍さんだった。

1298『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:27:01 ID:oApGFCxM0
 ただ、プレーヤーもスピーカーも、特にスピーカーは半端じゃなく大きくて重い。
『制服の君』の家は勿論、母親の実家に運んだとしても、
既にそれをセッティングできる場所がない。だからその店の試聴室にアンプを設置した。
当時の名機たちが奏でる、当時のレコードの音。
それを媒にして亡くなった女性の心残りを解く。
それは3日後、土曜日。制服の君とその母親、それから叔父を招待した。
遺品のレコードも店に運び、全ての準備が調った。
いくつもの魂。結ばれた縁が、きっと事態を良い方向に導く。
その女性の実家についての情報はまだだが、調査を担当しているのはSさんで
榊さんのネットワークを使わせてもらっている。まあ、何があっても大丈夫。
俺は心安らかに、その日を待った。

1299『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:28:19 ID:oApGFCxM0
 当日。その店に着くと、既に音楽が流れていた。ジャズ?
午後2時開店のショップなので、それまでの間試聴室と機器を使わせてもらう事になっていた。
「真空管のアンプには、ウォーミングアップが必要でね。」 遍さんの笑顔。
「でも、良い音だろう?本当に、良い音だ。
レコードのコレクションも、なかなかのものだよ。クラシックから歌謡曲まで。
これだけの機器とレコードだ、想いを残すのも無理はない。
持ち主は一体、どんな人だったんだろう?」
「若くして亡くなった女性ですよ。とても音楽が好きで。ただ、ずっと病気だったから、
その女性の養父が買い与えたものだと聞きました。せめて音楽で心が晴れれば、と。」
「亡くなったのもその病気で?」 「はい。」
「悲しい話だね。それなら益々分かる気がする。この音が供養に、なると良いが。」
「はい。近しい人たちを呼んでレコードをかけ、亡くなった女性の魂に働きかけます。」
「その後、君が『言霊』で語りかける。それが伝わるのは亡くなった女性だけ。
まわりの人たちは君が術を使ったことに気づかない。考えたね。」
遍さんは眼鏡を外し、丁寧にレンズを拭いた。 「確かに良い案、だ。」

1300『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:29:29 ID:oApGFCxM0
 「有り難う御座います。『制服の君』の事だけが、少し心配ですが。」
「『制服の君』?亡くなった女性の、宿主のことかい?」
「はい、高校3年生。美形なのでSさんが『制服の君』と。亡くなった女性はその母の従姉妹。
その女性の魂の活動があるレベルを超えると、『制服の君』の意識は途絶えます。
ただ試聴室のソファに座っていれば、そうなっても怪我の心配はないだろうと。」
「成る程。どうやら君はもう一人前の、それもかなり高位の術者なんだね。」
遍さんの微笑みは暖かく、とても優しかった。
突然、ポケットのケイタイが震えた。画面の表示は、Sさん?
Sさんは、亡くなった女性の調査で今日も朝早くから外出していた。
「今そっちへ向かってる。大丈夫だと思うけど、もし間に合わなかったら少し待ってもらって。」
「分かりました。でも何で。」 「追加の作業、タイミングが...後で話すから。」
切れた。 Sさんは運転中、ケイタイには触らない。
運転してないのに話を、それに『追加の作業』・『タイミング』?
もしかして調査で何か? 微かな、胸騒ぎ。

1301『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:32:26 ID:oApGFCxM0
 「間に、合ったわね。良かった。」 小さく溜息をつく。
...違和感。 「Sさん、あの」
「榊さんに送ってもらったんだけど、○号線が事故で渋滞してて。ちょっと焦ったわ。」
やはり違和感。 もしや調査で何か。 「あ、いらっしゃったようだね。」 遍さんの声。
店の入り口に人影が3つ。約束の時間より少しだけ早い。 早速試聴室に案内する。
ソファの左端に『制服の君』、真ん中に母親、そして右端に叔父。
『制服の君』は硬い表情。また少し、痩せたように見えた。
「あの、その方々は?」 制服の君の母親。少し戸惑った、曖昧な笑顔。
「はい。こちらは遍さん。アンプの修理やこの場所の手配をお願いしました。
今日は再生機器の操作を全て任せています。
そして、こちらはSさん。とても位の高い陰陽師で、僕の師匠。
今回の件はかなり難しい事例なので、手伝ってもらっています。」

1302『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:33:27 ID:oApGFCxM0
 遍さんは神妙な表情で、Sさんは微笑んで、3人に一礼。
軽い挨拶を終え、本題に入る。俺はテーブルの上に数枚のレコードを並べた。
「特に強い気配を感じたものを選んであります。主に当時の歌謡曲ですね。
2枚〜3枚、選んで頂いて、それをかけてもらいましょう。」
「それで、姉さんの供養を?」 「はい。」
「...正直、100%信じていた訳ではありませんが、驚きました。
これはどれも、姉さんが好きだったレコードばかり。あなたは本当に。」
男性の眼を、正面から見詰める。 「信じて頂けて何よりです。では、最初の一枚を。」
男性は少し考えて最初の一枚を選んだ。それを遍さんが受け取り、プレーヤーに。
そっと、丁寧に針を下ろす。微かなノイズに続く前奏。
そして鮮烈な声が試聴室の空気を震わせた。

1303『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:35:19 ID:oApGFCxM0
 聞けばすぐに分かる、特徴的のある声。その歌手の名を、俺も知っていた。
鮮やかな言の葉が紡ぐ、切ない歌詞。 心の奥深く染みこむ、美しい旋律。
その歌声は、ハッとするほど艶やかで、息継ぎの音に温もりを感じる程に生々しい。
それが、TVで聞くよりもずっと美しい音なのは、再生機器の性能なのだろうか。
皆、黙ってその歌声に聴き入っていた。 『制服の君』の表情も、心なしか緩んでいる。
曲が終わると遍さんがプレーヤーの針を上げた。
「素晴らしい。理に適っています。これらの機器を揃えたのは『分かった』お方だ。
歌謡曲に高価な再生機器を用意するのを嗤う人もいますが、私はそうは思いません。
聞き慣れた『人の声』こそ、最高の機器で再生すべきで、
特に1980年以前のこの人の録音は...失礼、次はどのレコードを?」

1304『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:39:35 ID:oApGFCxM0
 異変を感じたのは2枚目のレコード、終わり頃。
前のめりになって歌声に聴き入っている『制服の君』。
唇が小さく動いていた。そしてその動きは明らかに、曲の歌詞をなぞっている。
遍さんが2枚目のレコードをテーブルに戻した後、澄んだ声が響いた。
「次はこれを、お願いします。」 『制服の君』の、笑顔。
遍さんが振り返って俺を見た。問いかけるような視線、黙って頷く。
レコードを手渡した後、『制服の君』は力なくソファにもたれかかって眼を閉じた。
予め、その時がくれば『制服の君』は眠り込むと説明してあるので母親も叔父も動じない。
今、だ。 入れ替わりに活動する、亡くなった女性の魂に『言霊』で語りかける。
深呼吸、腹の底に。いや待て、これは。

1305『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:40:59 ID:oApGFCxM0
 前奏に続いて流れてきた声に、俺は息を呑んだ。 いや、俺だけじゃない。
皆、互いに顔を見合わせている。力なくソファに体を預けた『制服の君』以外は。
少し細いが、瑞々しい声。 吹き抜ける風のように軽やかで、透明な。
あの歌手の声ではない、『制服の君』の声でもない。
「まさか...これって」 「間違いない、姉さんの。」
レコードが再生されていて、それは眼前のスピーカーから聞こえている筈なのに。
俺達の眼の前。其処に立つ、誰かが歌っているようだ。 そして、この声の主は。
曲が終わり、呆然とレコードを見詰めていた遍さんが、立ち上がった。
『待って下さい。そのままもう少し。』 驚いたように、遍さんは手を引っ込める。
皆の、視線を感じる。真意を測りかねているのだろう。 だが、俺には聞こえる。
微かなノイズの奧、確かに。 予想していた手順とは違うが、好機。
『素晴らしい歌声でした。後は貴方のお気持ちを、どうか。』
ジジ、ジッ...高まるノイズ。 よし。
『...御免なさい。私の、みんな私のせいだった...』

1306『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:44:21 ID:oApGFCxM0
 眠り続ける『制服の君』、その母親と叔父は顔を見合わせている。
当然だ。 『御免なさい』 『みんな私のせい』 それは一体どういう?
その時、『制服の君』が小さく呻いた。何時の間にか、額に汗が浮かんでいる。
ジッ、ザザザ、バチッ。 スピーカーから聞こえるノイズは、次第に大きくなった。
試聴室の中に、不吉な空気が満ちてきている。 何だ、これは?
その時、俺の背後で気配が動いた。

 「遍さん。レコードを止めてください。早く。」 Sさんの声、だ。
遍さんは弾けるように動き、レコードの針を上げた。
アンプのボリュームを絞る、試聴室に戻る静寂。
続いてすい、と、Sさんは『制服の君』が眠るソファの背後に回り込んだ。
微かに、聞こえる詠唱。人型を持つ左手がボンヤリと光っている。
「失礼します。」 Sさんは一礼し、人型で『制服の君』の額と頬を拭った。
「これは...」 『制服の君』の母と叔父は、呆然とSさんの手元を見詰めている。
みるみる赤黒く染まった人型を、Sさんは小さな白い紙袋に納めた。
それを胸の内ポケットへ。 『制服の君』は安らかな寝息を立てている。もう、大丈夫。

1307『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:45:45 ID:oApGFCxM0
 「あの、今のは?」
「許可を得たとRから聞いたので、すぐに調べさせて頂きました。
あなた方の『従姉妹』だという、その女性の出自や、あなた方の父上との関わりも。」
そうか、調査で何か思わぬ事が。だから急にSさんが。
「それで何が分かったのか、それに基づいて何をしたのか、説明させて下さい。」
『制服の君』の母と叔父は顔を見合わせたあと、しっかり頷いた。
「是非お願いします。」
「成る程。ただ、このままでは話がしにくいだろう。R君、少し座席の配置を変えてくれ。
その娘さんはそこで横になってもらって、それ以外の席を。私はコーヒーを淹れる。」
遍さんは優しく微笑んだ。

1308『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:48:28 ID:oApGFCxM0
 ゆったりとソファに座り、コーヒーを一口飲んで、Sさんは口を開いた。
「まず、最初にあなた方の『従姉妹』という女性の件です。」
『制服の君』の母と叔父は息を詰め、Sさんを見詰めている。
「その女性はあなた方の従姉妹ではなく、血縁的には叔母にあたります。
あなた方の、母上の妹で5人姉弟の末娘。そしてその人は、あなた方の、継母。」
「継母って、一体どういうことですか?」
「既に父上が亡くなっておられるので真相は分かりません。
ここから先は私の推測です。それだけはご承知置き下さい。」
Sさんはまた一口、コーヒーを飲んだ。箱の中から大型のレコードを一枚取り出す。
「遍さん、このレコードを掛けて下さい。『鎮魂歌』、聞こえるかどうかの、小さな音で。」
「大丈夫なんですか?先刻は。」
「もう、大丈夫です。きっとその女性への、良い供養になりますから。」
やがて、厳かな響きが試聴室に満ちた。

1309『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:50:02 ID:oApGFCxM0
 「結婚が、家と家との契約だった時代があったと聞いています。
昭和の中頃までは、特に都会から離れた地方では珍しくなかったと。
あなた方の母上が病で亡くなったので、
契約を維持するためにその妹さんが嫁いだという事でしょう。
5人兄弟の末っ子、その女性が姉の代わりに、これも珍しくは無かったようですね。」
「でも、それなら戸籍に。私たちの戸籍には。」
「はい。それで私も疑問を持ちました。
幼かったあなた方に無用な心配をさせないため、そうも考えましたが、やはり不自然。
後妻として入籍した事や、従姉妹と説明した事情は後々話せば良いのですから。
それで、気になったのが病気です。2人とも同じ病気で亡くなったんですよね?」
「はい、心臓の病気だったと。でも、それが。」
「いくら契約でも、命に関わるような心臓の病気を持った娘を嫁入りさせるものだろうか、と。
あなた方の母上は嫁入り当初から病気だったのでしょうか?」
「いいえ、確か母が伏せったのは亡くなる半年程前からで、それ以前は全く。
地域の運動会で一緒に走ったこともありますし、とても心臓の病気とは思えませんでした。」

1310『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:52:11 ID:oApGFCxM0
 「どう考えても、それが、当然です。家の跡取りや何かの都合を考えれば。
しかし、その後妻に入った女性は最初から病気だった。変、じゃありませんか?」
「確かに。」 『制服の君』の母親とその兄は顔を見合わせた。
「恐らく、どちらも強い『呪い』の結果です。あなたたちや父上には影響がなかったのに、
後妻に入った女性が同じ病気になった。ということは。」
Sさんは窓の外に視線を移し、深呼吸をした。すぐに視線を戻す。
「ということは、呪いの対象は父上の『妻』。父上に想いを掛けていた女性か、
あるいは両家の契約を快く思わない人々が呪いの主でしょうね。」
「呪いって、本当にそんなものが。」
「ちょっと待って下さい。母さんは1年足らずで、姉さんは2年。
もしそれが同じ呪いなら、どうして期間が違うんですか。」
「父上は、恐らく母上のご実家と相談の上で、陰陽師に助力を請うたのです。」
「え?」
「その呪いの対象は父上の『妻』。呪いを回避する策は予想出来ます。」
「あ。」 『制服の君』の母親は、ぽかんと口を開けた。
「戸籍を入れない。子ども達には後妻でなく、従姉妹だと説明する。
表向きはあくまで後妻でなく養女、それで呪いを回避出来るかも知れない。
依頼された陰陽師はそう助言し、両家は勿論父上もその女性も助言に従った。」
「でも、そんな。幾ら何でも。」

1311『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:53:36 ID:oApGFCxM0
 Sさんはコーヒーを一口飲んで、哀しそうに微笑んだ。
「はい。そんな事情を知った上でなお、表沙汰にも出来ない縁組みを承知するなんて
普通では考えられません。その女性は、ずっと長い間、父上を慕っておられたのでしょうね。
ただ、助言に基づく策に多少の効果は有ったにしろ、
結局呪いは回避できず、病はその女性を蝕んだ。
発病後に御自宅に迎えたのだから、父上もその女性を心から愛しておられた筈。
だからこそ、せめて残された期間を共に暮らそうと。それに、これらの高価な機器も。」
「姉さんに強い心残りが有ったのは納得できます。でもそれなら母も同じように。」
「体が滅びてもこの世に留まり続ける、そういう性質の魂の持ち主はごく僅かです。
姉妹がともにそういう性質の魂を持つことはまずあり得ない。私たちはそう考えます。」
「そうだとして...姉さんは何故私の娘に?」

1312『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:58:32 ID:oApGFCxM0
「恐らく、あなたの出産が転機になったのでしょう。」 「私の、出産?」
「はい。短い間とはいえ、その女性は妻として父上と一緒に暮らしたのだし、
心の中ではあなたたちを実の子同然に愛していた筈。
それなら唯一叶わなかった望みは妊娠と出産。愛する人の子を産みたいという望み。
妊娠から出産までのあなたの心の動き、それが女性の魂に共振してその活動を誘発した。
だから娘さんの体に。恐らく何か思惑が有ったのではなく、無意識だと思いますが。」
「今になって、姪の体に異変が出たのはどういう。」
「積み重なった影響が限界に達したから、始めはそう考えていました。
でも、もっと単純な原因だったのかもしれません。」
「単純?」
「はい。娘さんは18歳、その女性が後妻に入ったのと同じ歳です。」
想い沈黙。 静かな試聴室に響くレクイエム。微かな、鎮魂の調べ。

1313『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 04:59:50 ID:oApGFCxM0
 「娘さんが18歳になり、その『呪い』は娘さんを標的だと誤認した。
その女性の魂が宿る体、その女性が後妻に入った時と同じ歳。条件が揃ってしまったから。
そういう状態で女性の魂を更に活動させたら何が起こるか、予想がつきます。」
そうか。だからSさんは人型を使って。
「じゃあ、さっき。」 「はい。」 Sさんはまた、寂しそうな笑顔を無浮かべた。 違和感。
「呪いを、封じました。発動した直後が唯一のチャンスなんです。
その女性の魂は旅立ち、呪いは消滅する。その娘さんへの障りもありません。さて。」
Sさんは持参した紙袋からレコードを取り出した。
大きなジャケットの写真には、あの女性歌手。
「遍さん。このレコードの最後の曲を、掛けられますか?」
「それは勿論。でも、これは当時は未だ。」
「送別の曲です。辛い思いをしたその女性を、励ましてあげたいと思って。」
「分かりました。皆さんも、それで宜しいですか?」
『制服の君』の母親と叔父は黙って頷いた。遍さんはレコードを替え、背中を丸めた。
そっと、丁寧に針を下ろす。レコードの中心に近い、場所へ。
微かなノイズの後、テンポの良い、鮮やかな音が響いた。

1314『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 05:03:31 ID:oApGFCxM0
 「本当に、良い音です。何時も聴いているのとは違うCDみたいですね。」
深夜のリビングに響く澄んだ音。確かに以前とは比較にならない。
小さな音量の童謡を聴きながら、子ども達はとうに寝入っていた。 穏やかな寝顔。
『制服の君』の母親と叔父は、『あのアンプとレコードはもう不要だ。』と言った。
『姉さんの魂が旅立ったのなら、遺品を保管する理由が有りませんから。』
『姉さんの事を忘れないために、今日聴いたレコードを3枚残して置けば十分だ。』とも。
遍さんはそのアンプがとても高価な品だと説明し、持ち帰るように進めたのだが、
それならせめてもの御礼にと、2人はそれを俺に託して帰って行った。
勿論俺には豚に真珠。それを遍さんに譲ったら、執務室で使っていたアンプに
その他の再生機器を新調して届けてくれたという訳だ。

1315『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 05:06:07 ID:oApGFCxM0
 「特に人の声は温かみがあって素敵です。でも不思議ですね。
レコードから別人の声が聞こえるなんて。初めて聴きました。」
「稀な現象には違いないけど、調べてみたら、似た事例の記録が幾つかあった。
それらは全てレコードでの記録。CDやDVDでの記録はない。それも、不思議。
レコードの特性なのか、この、真空管?それとも両方の組み合わせかしらね。
その女性が歌手を夢見ていたというのも関係あるのかも知れない。」
俺は思いきってこの件についての疑問を口にした。
「不思議と言えば、封じた呪いの件なんですけど。」 「何?」
「どうして返さなかったんですか?例え呪いをかけた相手が亡くなっていても」
Sさんは人差し指で俺の唇を抑えた。
「自身の呪いで亡くなった人。その人にこれ以上、罪を問う気にはなれない。」
「え?」 一体、それは。 自身の呪いで、ということは。
「『制服の君』に憑依していた女性、それが呪いの出所。
ううん、呪いを掛けたというより、無意識に作り出してしまったんだわ。
姉を羨む想いが何年もの間積み重なって、最後はとても力の強い呪いを。」
それをSさんは口にしなかった。 ああ、これが。 違和感の原因。

1316『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 05:07:32 ID:oApGFCxM0
 「じゃあ、その人は最初から男性の事を。でも、だからって自分の姉を、まさか。」
「そこが、一番の問題。その人は勿論姉を慕っていた筈。
だから、呪いの対象は『姉』でなく、自分の恋い焦がれる男性の『妻』。
自分の想いが作り出した怪物と、それが引き起こすだろう結果。
無意識とは言え、強い罪悪感から逃れるために、自分を瞞した。」
そうか、だから自分が男性の妻になった時、今度はその呪いが...。
姫は小さく溜息をついた。そっと藍の頬を撫でる。
「術者が策を立てたのに呪いを回避出来なかったのは、そのためなんですね。」
そう、だ。 策の意図を知っている以上、自身から生じた呪いを欺くことは出来ない。
「とても哀しい。それだけね。その女性が稀な霊質を持っていなかったら、起きなかった悲劇。
後味の悪い話だったけど、その女性が自分の罪を受け止めて、
その罪を償う覚悟が出来たことだけが救い。
だから『不幸の輪廻』に取り込まれずに旅立てた。勿論その行き先は...」

1317『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 05:09:46 ID:oApGFCxM0
 「それで、最後にあの曲を?」
そう、あれは葬送や惜別の曲と言うより、哀しい魂に向けた応援歌。
Sさんは小さく頷いて、薬指で目尻を拭った。
「覚悟して踏み出した茨の道。遠い遠いその果てに、許しが待っていると伝えたかった。」
その呪いの出所も告げず、あの場で全て解決したとSさんが宣言したのは、
残された人たちに辛い真実を知らせる必要は無いと判断したからだ。
何よりあの女性自身が、真実を知られることを望んではいなかったろう。
俺はSさんの判断を信じる。つまり今夜、もうこの話題は終わりだ。
多生の縁に導かれて出会った『制服の君』を救い、古い呪いを封じることが出来た。
あの女性の魂も、不幸の輪廻に取り込まれることだけは避けられた、だから。
照明を絞ったリビングの壁際。真空管のほんのりとした灯りは、とても暖かく見えた。

1318『制服の君』 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 05:10:30 ID:oApGFCxM0
『制服の君』 完

1319 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/01(日) 05:14:33 ID:oApGFCxM0
皆様今晩は、再び藍です。

何とか『制服の君』、投稿完了しました。
夜明けまでに投稿できたか確かめる力も残っていません。
これから、仮眠します。

お読み下さる皆様に心からの感謝を。有り難う御座いました。
では、お休みなさい。

1320名無しさん:2017/01/01(日) 10:48:26 ID:CVzJ3vnIO
藍さん、真夜中の執筆、本当にお疲れさまでした。
一年ほど前からこっそり読ませていただいてます。

今回、幸運にもリアルタイムで読ませていただくことができました。
何が何でも約束を守る、との藍さんの律儀な思いに感動した一方、いきなり「呪い」が出てきた時点でちょっと違和感を感じていたのですが…。
先ほどあらためてこちらを覗いて、後日談を読んで納得した次第です。

今回もありがとうございました。
まずはゆっくりお休みできますように…お体、ご自愛ください。

1321名無しさん:2017/01/01(日) 12:33:38 ID:yMWG46wQ0
今、お姉さんの分まで枯れ木さんが手伝いやってる気がする・・

皆様、あけましておめでとうございます。

1322名無しさん:2017/01/01(日) 18:35:53 ID:qz2IYQ8A0
藍さん,素晴らしいお年玉をありがとうございます。
今年も,「機が熟した」ときの投稿を楽しみにしています。

1323 ◆iF1EyBLnoU:2017/01/02(月) 22:50:29 ID:HV7rXb4c0
皆様今晩は、藍です。

仮眠のつもりが...どれだけ寝ていたかを書くと多分怒られるので。
眼が覚めたら、早速『制服の君』へのコメントを頂いており、感謝致します。

>>1320
呪いが『唐突』に、それは私にとっても違和感。
ただ、後日談を読んで得心したのも同じ感覚なので、安心しました。
あんな時間にリアルタイムで読んで頂き、嬉しく思います。
本当に、有り難う御座いました。

>>1321
新年、明けましてお目出度う御座います。今年も宜しくお願い致します。
弟は手伝いでなく修行、今日あたりは多分『滝』。頑張って欲しいですねぇ。

>>1322
『素晴らしいお年玉』との評価、大変嬉しく思います。
また、個人的には『機が熟した』という言葉に反応して頂いた事が嬉しいです。
なかなか知人のOKが貰えずに苦労した表現でしたので。

さて、昨年中に『制服の君』を完結。出来ればその後で『お年玉企画』。
その流れは既に瓦解してしまった訳ですが、
折角知人が考えた企画を無駄にしたくありません。
知人と相談中です。どうか気長に、お待ち下さい。

1324名無しさん:2017/01/03(火) 22:01:38 ID:55SmklAQ0
あーうー、図らずも弟さんの背景が出てしまいましたが、怒られませんか?
ある程度年齢行くと浴びても、行だか験だかは身に付かないんじゃなかったでしたっけ
今はご兄弟でお手伝いの方向なんですな

呪いの自己判断ってドローンと言うかAI的ですな。これはRさんの男子出産の時の呪いの話とだぶる。
結構テキトーな感じがしてきた。

1325名無しさん:2017/02/12(日) 21:30:27 ID:WmQuHWQA0
テスト

1326枯れ木:2017/02/21(火) 01:20:16 ID:U60N1X7o0
 前作の投稿期間中、姉の仕事の予定は無いと聞いていました。
しかし、私が南の島で暢気に過ごしている間に事情が変わったようで、
姉は不在。直接連絡を取る手段がない状況です。
当然、頂いたコメントへの代理返信も不可、
姉に代わって、失礼をお詫びします。申し訳有りません。

1327名無しさん:2017/02/23(木) 05:09:14 ID:17ECGOHcC
暫く音沙汰がなかったから心配してみたり。
良かった良かった。

1328名無しさん:2017/04/22(土) 16:57:23 ID:qyf.TFI60
みんな作品ごとの感想を書いていってくれんかな(まとめの方のコメント欄に)

1329名無しさん:2017/04/24(月) 21:24:22 ID:dQF1pEsEO
アメノウズメ?

1330名無しさん:2017/04/25(火) 21:48:31 ID:5JVWHc1s0
アメノウズメ...

そうか、そうかもね。
それが、隠れてしまったお人を呼び出すためなら。
なら、どの作品に感想を書こうか?

1331名無しさん:2017/05/18(木) 01:09:01 ID:.8MBQdpI0
(´Д`)ハァ…

1332名無しさん:2017/05/23(火) 07:30:57 ID:UlIh15/A0
次作待ち遠しいですね。ミズキちゃんのその後も気になります。

1333名無しさん:2017/05/23(火) 07:51:10 ID:UlIh15/A0
次作待ち遠しいですね。ミズキちゃんのその後も気になります。

1334枯れ木:2017/05/30(火) 22:03:59 ID:KtE.X1Gs0
『制服の君』、作中に登場する女性歌手は一体誰?
南の島から帰って以来、一生懸命捜索中でした。
ほぼ特定できた所で、姉が帰ってきました。随分と久しぶりです。
疲れ果てているようで、なかなか目覚めないでしょうが、
次作の原稿は預かってきたようです。未だ、ご期待下さる方がおられるなら、
明日朝は、好物のオムライスを作って姉をたたき起こします。

1335名無しさん:2017/06/01(木) 01:30:26 ID:MXgTb/CA0
(´Д` )叩き起こさなかったのね

1336ナイト:2017/06/01(木) 07:31:53 ID:MKjQ381.0
待ってました。やっと次作が読めると思うととても待ち遠しいです。投稿お待ちします。

1337名無しさん:2017/06/01(木) 12:38:13 ID:VZ94T68.O
o(^o^)o ワクワク

1338枯れ木:2017/06/01(木) 23:29:47 ID:4RDTWr7w0
 申し訳有りません。未だ目覚めておりませんが、
経験上、3日目には何か動きが有る筈かと。
姉の体調自体は問題無いようですので、どうかもう暫くお待ち下さい。

1339 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/02(金) 23:54:15 ID:ha9b4vJw0
皆様今晩は、藍です。
未だ睡眠と休息が必要です。御免なさい。

1340名無しさん:2017/06/03(土) 02:26:10 ID:TrCQMKOsC
体調が第一ですm(__)m
無理をなさらず、ゆっくり待ってますので(^-^)

1341名無しさん:2017/06/04(日) 13:25:12 ID:X.mYLO02O
藍さんありがとうございます。ごゆっくりお休みください。楽しみにして待ってます。

1342名無しさん:2017/06/08(木) 21:01:10 ID:wttDJz9U0
待ってる人点呼しちゃう?番号!!いーち

1343あるくむ:2017/06/08(木) 22:18:37 ID:alos5XQ20
にー!

1344名無しさん:2017/06/08(木) 23:50:17 ID:aKdxOLIE0
さん

1345名無しさん:2017/06/09(金) 00:36:22 ID:kXiAsXJw0
ふぉー!

1346名無しさん:2017/06/09(金) 12:57:13 ID:nkXl4t.YO
お休み中の藍さんへの無用のプレッシャーになると思うので私はやめておきます。

1347 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/09(金) 19:43:28 ID:R3wv7VFA0
皆様今晩は、藍です。

新作へのご期待も、私の体への御心遣いも、全て有り難く思います。
新作の原稿は一部手元に有り、これから投稿に向けた作業。
毎朝オムライスを食べて、随分元気になりましたから、
成る可く速く新作の冒頭部を投稿できるよう頑張ります。

有り難う御座いました。では、御機嫌よう。

1348名無しさん:2017/06/10(土) 13:13:45 ID:iaKivNx6O
藍さん,ありがとうございます!
楽しみにして,ゆっくり待ってます。

1349 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/13(火) 22:10:57 ID:E2wnYQ8U0
皆様今晩は、藍です。

新作の前に投稿を指示された作品の準備が調いました。
以前投稿した『舞姫』の補遺。
まとめへの掲載は管理人様の判断にお任せで、一切の異義は有りません。
楽しんで頂ける方がおられるなら、作者である知人も私も本望です。
それでは、御機嫌よう。

1350舞姫・補遺:2017/06/13(火) 22:14:45 ID:E2wnYQ8U0
『舞姫・補遺』

 やっぱり、声が出ない。 全然駄目...これでは、今までと同じ。思わず、涙が。

 「紫、泣くな。ようやく自分で見つけた居場所を捨てる気か?」
肩を抱く温かい感触。今まで、私は何度も、この温もりに救われてきたのに。

 「でも。どうしても謡のタイミングが。」
「舞と謡を同時に仕上げる必要は無い。まずは、舞を仕上げよう。
舞を完全に体が憶えれば、謡のタイミングは自然に体得できる筈。心配ない。」

1351舞姫・補遺:2017/06/13(火) 22:28:59 ID:E2wnYQ8U0
 私を見詰める澄んだ瞳。 すっ、と心が静まる。
そうか。まずは舞、謡はその後で。それならどんなにか気が楽に。
心の中で拍子を取り、舞に集中する。ああ、これなら私でも。

 舞い終えた時、大きな拍手が聞こえた。 兄様は拍手など、一体?
振り返ると、入り口近くにSさん。そして、その傍らに立つ、背の高い少女。
「紫、随分上達したのね。本当に稽古を初めて1週間なら、素晴らしいわ。」
かつて、一族史上最高の舞姫と称された人。賛辞は、素直に嬉しい。

 しかし、兄様の表情は冷たかった。
「それが『現人神』の娘か? 豊年祭で紫の対手を勤めると聞いたが。
しかし、如何な天才でも、今日が初めての稽古では、荷が重過ぎる。」
「そうかしら?私は『進境著しい紫が、Lの対手を勤める』と聞いたけど。」
張り詰める空気。肌がヒリヒリと痛い。

1352舞姫・補遺:2017/06/13(火) 22:32:24 ID:E2wnYQ8U0
 「その娘は、先刻から紫の稽古を見ていた。少なくとも『写』は。」
「当然。」 Sさんは、ふわりと笑った。
それと同時か、それより早く稽古場の空気を震わせた、澄んだ声。
「いち、に、さんし。にいに、さんし。」 細い体が鮮やかに舞う。
これは!?
信じられない。私の稽古を見ていたとしても、初めてでこの舞いを。まさか。
「成る程、確かに。」 兄様が薄く笑った。「これは面白い。では、是非『鏡』も。」
Sさんが、少女の肩を抱いた。
「L、出来る?」 「はい、多分。」 「うん、良い返事。」
「当然、紫は先刻と同じに勤められるのよね?」 「当たり前だ。」

1353舞姫・補遺:2017/06/13(火) 22:34:36 ID:E2wnYQ8U0
 「いち、に、さんし。 にいに、さんし」
少女が刻む拍子に合わせて舞う。左構えと右構え。
私と、完全に反転した動き。全く破綻が無い。一体、この娘は?
「ふふ、ははは。其処までだ、もう良い。面白過ぎる。」
兄様?Sさんも微笑んでいる。 今まで、兄様と一緒の時には、こんな表情を。
「あの、兄様、私。何か粗相を?」
「いや、そうではない。その娘が...」 兄様は本当に、楽しそうだ。
「紫の舞には未だ仕上がってない部分がある。それを手本にしたから、Lも。」
Sさんの声。初見で、私の舞の『写』と、『鏡』まで。 そして、私の欠点もそのままに?
「この2人なら、今年の豊年祭りの舞いは『約束』の出来だろう。間違いない。」
「2人は、私たちよりも上を行くと?」
「そうなれば良い、と思う。『後生畏るべし』だ。」
兄様の、晴れやかな、笑い声。

1354舞姫・補遺:2017/06/13(火) 22:38:42 ID:E2wnYQ8U0
 どういう、事? 私の、これまでの稽古は?
必死で、丸々一週間をかけて、ようやくここまで辿り着いたのに。

 「あの、紫さん。」 耳元で囁く声。我に返る。
眼の前に、大きな茶色の瞳。 何故か、胸が詰まる。
「何?」 慌てて、息を整える。そして、心も。
「紫さんの舞を見せて頂いたので、Sさんが喜んでくれました。本当に、有り難う御座います。」
「そんな、ことない。あなたが、頑張っただけで、私は何も...」
「いいえ、紫さんの舞、ホントに美しかったです。それに。」
「それに?」 「紫さんのお兄様。炎さんって、凄く強くて、優しい人なんですね。」
え? 今まで私たちは、一族でも。
「紫さんも、炎さんも。Sさんから聞いていたのと全然違ってて、びっくりしました。」
邪気のない、吹き抜ける風のような微笑。
すっ、と、心が静まる。 たった一度、一緒に稽古しただけでこの娘は、私たちの心を。

1355舞姫・補遺:2017/06/13(火) 22:40:31 ID:E2wnYQ8U0
 思い切り大きく、息を吸う。 隠す必要がない。この娘には、何も。
「そうよ。だから私、兄様が大好きなの。」
「ですよね〜。私もSさんが大好きだから、同じです。」
同じ?ううん、違う。 でも、今どう答えれば良いかは私にも判る。
「ホント、に、同じね。あなたと一緒なら、豊年祭りの舞いもきっと上手くいく。そんな気がする。」
「はい、きっと。紫さんとなら。だからこれからは『L』と呼んで下さい。私、年下ですから。」
年下、その意味を理解して? ううん、真っ直ぐに聞いて、答えれば良い。
「じゃあ、L。これから宜しくね。」 「はい、宜しくお願いします。」

『舞姫・補遺』 完

1356 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/13(火) 22:44:57 ID:E2wnYQ8U0
 皆様、今晩は。再び、藍です。

 『舞姫』の投稿時には省略された部分ですが、
『次作』に不可欠という事で、投稿の指示を受けました。

 これから『新作』の準備を調えます。
その時は是非皆様と此所で。有り難う御座いました。

1357あるくむ:2017/06/15(木) 05:33:37 ID:imwjK3u.0
新作楽しみです。気長にお待ちしてます。

1358名無しさん:2017/06/15(木) 19:14:58 ID:9oFuexIoO
「舞姫」補遺、大変ありがとうございました。新作のご発表を心よりお待ち申し上げております。

1359 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/25(日) 20:53:08 ID:WipkcX960
皆様、今晩は。お久しぶりです。
色々と事情があり、新作の投稿に時間がかかりました。

短いですが、この時点で準備の出来た分の投稿を。
では以下『鬼』、お楽しみ頂ければ有り難く存じます。

1360 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/25(日) 20:55:00 ID:WipkcX960
 これで、終わりだ。そう、何もかも、終わり。
大学の仲間と、初めて登った山。登山道から少し外れた所に洞窟がある。秘密の、隠れ家。
雨を避ける間タバコを吸い、他愛も無い話を。 そうだ、亜△に告ったのも此処だった。
もうケチる必要は無い。残っていた○×を全部掌に、思い切り鼻から吸い込む。
はじめは割の良いバイトだと思ったし、半年位は最高だった。
来た...手足の先端からビリビリと、神経を流れる電気が体を突き抜けて、空気に溶ける。
この感覚はあの時と変わらないのに、何で俺はこんな。俺だけが。
そう。アイツ等だ。
仲間に引き込んで、ヤバくなったら、全部俺に押っ被せて。
タカシからの電話。『追われてる。』って。 アイツ、やっぱり馬鹿だ。
もし『販売網』が潰れたら、当然△◆会は。いや、何で俺が...そうか。
いい気になって、全然気付かなかった。 亜△との別れ話も。
そりゃ、俺が売った○×で何人も、破滅した奴が何人も...それは仕方ない、自業自得だ。
なのに、何でアイツ等はのうのうと。全部俺に、本当にこのままで。
くそ、心臓が。こめかみの血管が膨らんで、眼が眩む。 痛ぇ。
このまま、俺は死ぬのか。 せめて、アイツ等だけは。この手で。

1361 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/25(日) 20:56:49 ID:WipkcX960
 『永かった、本当に。待ちくたびれたぞ。ようやく、贄が。』
耳の奥に響く声。 「に、え?」
『そう、贄。その憎しみこそが、操者の資格。
その命と引き替えに、敵を殲滅出来る。さあ最初は誰だ?』
嘘のように、気分が良い。眼を開けると、薄暗い天井が見えた。
不思議だ。体に、力が漲っている。上体を起こし、立ち上がった。
トンネル? 遠くに灯りが見える、非常灯か。
少し歩くと、出口を塞ぐ鉄条網。 こんなもので俺を? 何故か、確信があった。
右手を伸ばし、手をかける。 力を込めると、鉄条網はあっけなく倒れた。
俺は自由、そう、自由だ。 自然に、笑みが浮かぶ。
この体、この力があればアイツ等を。

1362 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/25(日) 20:58:45 ID:WipkcX960
 「榊さん、これ...。」
『分署』の窓から吹き込む乾いた風が梅雨明けを告げている。
しかし、この写真は。爽やかな風にふさわしいとは、とても。

 「今朝発見された遺体だ。死亡推定時刻は昨夜遅くから今日の未明。
急に来てもらって申し訳ないが、それを見れば納得してくれるだろ?」
そう、これまで幾度も、榊さんの仕事を手伝ってきた。
公にはなっていないが、いわゆる猟奇殺人者が関わった事件もあった。
しかし、この遺体の惨状は、幾ら何でも。
「傷口から見て、凶器は刃物じゃない。獣、例えば羆が食い千切ったとしても、
断端はこうならない。それに、決定的なのは、この写真。これは、R君たちの領分だ。」
千切れた、右の二の腕。肩の付け根に残る、赤黒い痣。それは...指の、跡?
「素手で引きちぎればこうなるかも、鑑識はそう言ってる。
まあ実際、爪の痕も牙の痕もない訳だが。しかし、信じられん。」
一切の道具を使わず、素手で人の体をここまで?
「被害者の、身元は?」
「大学生、○△大の。部下達が被害者の身辺調査をしてる。」
榊さんの横顔、その表情が事件の重大性を告げていた。

1363 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/25(日) 21:00:34 ID:WipkcX960
 分署から帰ると姫が身支度をして俺を待っていた。
「招集です。『上』から。さっき遍さんから電話がありました。大至急との事で。」
嫌な、予感。何故姫が?俺と姫が招集されたのは、『分家』の始末に関わる件だけだ。
「じゃあ、出ましょう。これ、Sさんが作ってくれたサンドイッチです。車で食べてくださいね。」
透き通る笑顔、姫の横顔は本当に美しかった。

 薄暗い中、フェンスで閉鎖されたトンネルの入り口のようなものが見える。
映像がかなり荒いのは監視カメラの映像だからだろう。
「此所からです。」 遍さんの声。 突然、フェンスが揺れた。 内側、から?
その後フェンスはトンネルの中に引き込まれるように大きく歪み、呆気なく壊れた。
開いた入り口に現れたのは、黒い着物。
これは人? いや、薄闇に光る両眼は、まるで夜行性の獣ではないか。
それがゆっくりと、カメラに近付いてくる。 その表情は、笑って。
え...? その頭。 次の瞬間、それは身を屈め、画面から消えた。

1364 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/25(日) 21:02:58 ID:WipkcX960
皆様今晩は、再び、藍です。
此処までお付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
作業が進み次第、成る可く早く続きを投稿致します。
有り難う御座いました。

1365名無しさん:2017/06/28(水) 21:54:42 ID:8d8FTJOYO
藍さん,ありがとうございます!続きを楽しみにして待ってま〜す。

1366あるくむ:2017/06/29(木) 22:35:25 ID:1hnjQ6Xw0
入り方がいつになく戦慄的ですね、、、続き楽しみです。気長にお待ちしてますよー。

1367 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/30(金) 01:23:43 ID:oVExluKs0
>>1365
現在準備が調った『続き』を投稿致します。ご期待に、心からの感謝を。

>>1366
ご慧眼、恐れ入ります。
冒頭部が他の作品とかなり違う事が投稿の準備を困難にしています。
しかし気長に今後も頑張るつもりです。有り難う御座いました。

1368『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/30(金) 01:25:07 ID:oVExluKs0
 「今の、一体何ですか?」
映像が再生された後の重い沈黙に耐えられず、俺は口を開いた。
「ある場所の、トンネル工事現場で撮影されたものです。
記録を基に以前から警戒していましたし、情報も直ぐに入ったのですが...」
遍さんは言葉を切り、外した眼鏡をハンカチで拭いた。
「間に、合いませんでした。まさか、その夜の内に活動を始めるとは。」
「あれが活動を始めたら術者でも対処出来ない筈、責任は誰にも。」
姫の声が緊張している。 遍さんは小さく溜め息をついた。
「Rさん、あれは古の術で作り出された怪物てす。一般的には『鬼』と呼ばれていました。」
鬼? では、あの映像で見えたような気がしたのは、やはり角? まさか。

1369『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/30(金) 01:26:43 ID:oVExluKs0
 「鬼って。本当にそんなものが。どうして。」
「一種の生体兵器、対術者用の兵器だと、聞いた事があります。
ほとんどの術に耐性を持ち、有力な式の力もこれには届かないのだと。」
「そう、Lさまの仰る通り。『刀や弓矢、種子島でも滅することかなわず。』という記録も。
人外の力と速度。術者でも武人でも、それに対処することは極めて困難。
ただ、消費するエネルギーが半端でないので、活動できる期間はせいぜい合計一週間。
故に現存するものは乾涸らびてミイラ化したものか、その断片だけ。
しかし稀に、特殊な維持装置と共に封じられたものが完全な状態で見つかることがあります。
それ等が封じられたという記録の有る場所については厳重な監視の対象とし、
探索して見つけたものも、偶然見つかったものも処理して来ました。しかし、今回は。」
遍さんの、暗い表情。
突然、思い出した。榊さんに見せてもらったあの写真。

1370『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/30(金) 01:28:24 ID:oVExluKs0
 「あの、今日僕が受けた依頼の件で、もしかしたらそれが。」
「今朝発見された遺体の件ですね?既に情報は入っています。
遺体の状況からして、あれが関わった...いや、殺したのは間違いないでしょう。」
「術でも、式でも、武器でも駄目なら、一体どうやってそれを滅すれば?」
「それにダメージを与えられるのは、唯一、神器による物理的な攻撃だけです。ただ。」
「ただ?」 何だろう、この感覚は。 あの短剣なら? でも、そんな怪物を、俺では。
遍さんは眼鏡を外して、丁寧にハンカチで拭った。溜め息。 嫌な、予感。
「委任されたとしても、梓の弓と破魔の矢を扱えるのは『武』の特性を持つ術者だけ。
しかし現在、条件に見合う術者がいません。既に『武』で身を立てる時代が終わって久しく、
神器を扱えるまでに『武』の修行をする術者は、さすがに...。」

1371『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/30(金) 01:31:04 ID:oVExluKs0
 首筋から背中に、鳥肌が立つ。
神器の主、当主様と桃花の方様なら、当然扱える。
しかし、一族の祭主たる御二人が直接事にあたることはない。万が一御二人の身に。
なら今日、姫と俺が招集されたのは? 他の術者では無く、俺たち二人が。
「そろそろ本題に入りましょう。先刻の会議で、『上』は対応策を決定しました。」
部屋の温度が一気に、下がったような気がする。
「御影を憑依させ、『武』の適性を持つ術者を化生させます。
ただし、並外れた身体能力を持つ術者でなければ、御影の武を活かせない。」
「まさか...。」
「まさか、ではありません。身体能力、性別、L様以上の適任者はいませんから。
それに、御影が心を許しているRさんは、御影の補佐として最適。」
しかし、それで、もし姫の身に。
待て、確か遍さんは言った。『鬼が活動できる期間には限りがある』と。
それなら、その期限を待てば...いや駄目だ、活動する期間の分だけ、命が。

1372『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/30(金) 01:33:17 ID:oVExluKs0
 「分かりました。私の身体、御影さんとRさんに委ねます。」

 涼やかな声が部屋の空気を震わせた。
そうだ、姫ならきっと同意する。 『上』はそれを分かっていて。
「数多の命を犠牲にして、『期限』を待つわけにはいかない。そうですね?」
「はい、初めのうちは操者の意思に従い敵を攻撃しますが、
やがて操者の心は鬼に呑まれ、見境無く殺すようになる。
そうなれば、『期限』までにどれだけの犠牲が出るか見当もつきません。
更にそれが『不幸の輪廻』と繋がれば、『期限』すら無効になる可能性すら。」
「際限なく、敵でない人たちまで殺すということですか?どうして、そんな。」
「...あれが、『殺すために作られたもの』だからです。」
「まるで、術者の影、のような存在ですね。」 姫は、微笑んでいた。
「そうです。術者がいなければ、おそらく、あれが作り出されることも無かった。」
矛盾、か。 文字通りの矛と盾、人を襲う怪異と、怪異から人を護る術者は、
言わば果てのない軍拡競争を繰り広げてきたのだろう。 哀しい。
すい、と、遍さんは立ち上がった。ゆっくりと眼を閉じる。

1373『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/30(金) 01:35:47 ID:oVExluKs0
 「聞いていたな、御影。」 部屋の中に冷たい風が吹いた。
『応。』 低く太い、声。 最初から、この部屋の中に。
「それで、御前の意見は?」
『それ以外に策はない。しかし、神器だけでは不足。』
「『梓の弓』と『破魔の矢』でも不足とは?」
『マタギだけで熊は狩れぬ。少なくとも勢子が要る。鬼が相手なら尚更。』 「勢子?」
『弓矢に必要なのは距離。構え、射るまでの時を稼ぐ者が要る。
術の心得は必要ない。『武』の適性を持つ者ならば役に立つ。』
「Rさんが?そうか、あの短剣を使うのなら。」
『...いや。Rに、そこまで『武』の適性はない。』
あの霊域で直接指導を受けた時に、それは理解していた。 俺は不肖の弟子。
しかし、答の前の間。その言葉に籠もる気遣いが、胸に痛い。
「しかし、それ以外の適任者は。」 『案ずるな。心当たりがある。』
その声を最後に、御影さんの気配は消えた。

1374 ◆iF1EyBLnoU:2017/06/30(金) 01:37:32 ID:oVExluKs0
皆様今晩は、藍です。
準備が調ったのは此処まで、お付き合い頂いた皆様に
心からの感謝を。有り難う御座いました。

1375あるくむ:2017/06/30(金) 20:38:07 ID:f6olEm220
続きが気になるーーー!気長にお待ちすると言いつつ毎晩更新チェックしてしまいます^^;

1376名無しさん:2017/06/30(金) 20:59:39 ID:cNnSS.YgO
こんなに早く「続き」を載せていただけるとは。藍さん,本当にありがとうございます。「次」を心から楽しみにしてお待ち申し上げております。

1377枯れ木:2017/07/14(金) 04:26:54 ID:xUoHLao60
 枯れ木です。

 姉は、体調を崩して入院していたのですが、本日退院。
少しお粥を食べて、今は爆睡中。
その寝顔を見ていると、正直、色々と思う事はあります。
でも姉は、近々『鬼』の投稿を再開するでしょう。

 仕方、ないのでしょうね。私自身、続きが気になりますし。
どうかもう暫く、お待ち下さい。

1378名無しさん:2017/07/15(土) 11:00:28 ID:Y9IIWi.o0
藍さん入院なさってたんですね。。ご無理をならさらずにゆっくり御療養下さい。
お元気になってまた掲示板を覗きに来て頂けるのをのんびりと待っていますね

1379名無しさん:2017/07/20(木) 18:59:34 ID:NwGkfT7wO
藍さんお大事になさってください。くれぐれもご無理をなさいませんように。

1380 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 22:48:33 ID:grC2im..0
皆様今晩は、藍です。

色々ありまして投稿が遅れておりますが、
以下、『鬼』の続きを投稿致します。
お楽しみ頂ければ嬉しく、幸せに存じます。

1381『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 22:53:37 ID:grC2im..0
 「これで良いと、思うけど。私も、この術は初めてだから。」
Sさんが立ち上がる。図書室の奥、板張りの床に正座した姫は、眼を閉じたまま。
「ただ、期限は最大でも十日。相性が良いからかなり長いとも言える。
でもそれ以上は、Lの体が負荷に耐えられるか分からない。
耐えられなくなったらどうなるのか、それも前例の記録が無い。」
姫の体が? それだけは絶対に、避けねばならない。 しかし、たった十日?
「じゃ、R君。お願い。Lに、いいえ、御影に呼びかけて。君の『言霊』が、この術を全うする。」
少しだけ、Sさんの声が震えていた。無理も無い、俺だって。だが、これは、俺の役目。
呼吸を整え、心を静める。 深く息を吸い、下腹に力を込めた。
『眼を、開けて下さい。御影、さん。』
静かに時が過ぎていく。もし、『言霊』が届かなければ、それは。
何秒経ったろう、いや何分か? 穏やかな声が重い空気を吹き払う。

1382『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 22:55:32 ID:grC2im..0
 『見事な術。流石は氷の姫君。』 ゆっくりと姫は、いや、御影さんが眼を開いた。
見慣れた、美しい顔。でも、姫とは違う微笑。 安堵と不安が同居する、この感覚は一体?

 「久しいな。R。」

 ああ、そうか。 透明な笑顔と柔らかな声の、奥にあるものは同じ、なのだ。
自ら望んだ訳でなく、しかし『持って生まれたもの』に対峙する、覚悟。
だからこそ姫はこの役目を。
『御前は本当に、良い妻を持った。少々、気に触る程に。』 立ち上がる。
だって、それは俺が望んだ訳では...いや。
『はい。ですから決して、この件でSさんとLさんに障りが出る事だけは。どうか。』
『承知している。我に、任せろ。』

1383『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 22:57:20 ID:grC2im..0
 ドアを開けて、御影さんが帰ってきた。
被害者が通っていた大学の近く。地方都市のホテル。
事は一刻を争う。だから昨日、御影さんが目覚めた後、すぐに移動した。
遺体の発見現場と大学の両方からそう遠くない場所に、それは潜んでいる。
それが榊さんの見立てで、御影さんも同意した。
今日は朝から、榊さんと一緒にあちこち調べていた筈だ。
「御影さん...それ。」 口元に、白く細い棒、ペロペロキャンディー?
きっと小脇に抱えた紙袋の中身も、大人買いか。
「今日は、あちこち調べるって、まさかそんな物食べながら。もっと真面」
次の瞬間、キャンディーは俺の口に押し込まれていた。手品?
「五月蠅い。朝から気を張っていたのだ。菓子くらいで罰が当たる訳ありません。」
??? そう言えば姫はお菓子、甘いものが。しかし。
ある程度の『共振』があるのか、それとも姫の記憶に接触できるのか。
話し方や行動に少々混濁があるようだ。

1384『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 22:59:18 ID:grC2im..0
 御影さんはソファに腰掛け、地図を広げた。
「面倒だな。あれが相手でなければ、こんなものに頼らずとも...」
市内の地図、しかしこの縮尺? ああ、榊さんが拡大コピーを。
赤い丸印が4つ見える。1つは被害者の大学、もう一つは遺体の発見場所。
なら、あとの2つは?
「二人目の被害者です。昨夜見つかったのだと、榊が。」
榊? 呼び捨ては、いや御影さんの方がずっと年上か。榊さん、どんな顔してたんだろう?
「それと、興味深い話を聞いた。」 「興味深い、話?」
「大学の、茶屋で話しかけてきた男から。」 「大学の茶屋って、被害者の大学ですか?」
「そう。『黙ってお茶を飲んでいれば話しかけてくる男がいる』と榊が。
その通りだったから驚いたぞ。ああ見えて、榊は中々切れる男だな。」

1385『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 23:01:18 ID:grC2im..0
 少し、目眩がした。まさか被害者の大学、ナンパさせて情報を?
「適当に相手をしていたら、はぁぶの話になって。」
はぁぶ? って、ハーブ...ドラッグか?
「阿片か、その類いだろう。大学にも使ってる奴がいるから気をつけろ、と。」
御影さんは小さな声で笑った。
「初見で馴れ馴れしく話しかけてくる男を避けていれば、そんな災いには縁が無いだろうに。」
「榊さんが、その件を調べてるんですね?」 「そうだ。思い当たる節があるらしい。」
「しかし喋り方ひとつにも気を...とても疲れました。少し寝る」
ああ、その話し方はそれで。

 1時間程すると御影さんは眼を覚ました。
シャワーに入り、身支度を調えるのを待って、遅い昼食に出かけた。
『どうも、今の世の味には馴染めぬ。』 大儀そうな表情。
和食だから洋食よりはましだろうが、あの時御影さんが作ってくれた料理とはかなり...。
しかし、食べてくれないと姫の身体に障るし、結果、御影さんの能力にも影響が出る。
「さて、部屋で少し休んだら夜は街へ出よう。場所は調べてある。」
「街へ出るって、何しに。」 「勢子、だ。使い物になるかまだ分かりませんが。」

1386『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 23:04:35 ID:grC2im..0
 夜9時前、とあるビルに着いた。
その場所は、あの地図に記されていた赤い丸印の1つ。
大きな自動ドアを潜り、御影さんは廊下を奥に進む。慌てて後を追った。
エレベーターのボタンは3F、エクササイズジムの表示がある。受付は若い女性。
「あの、電話で見学と体験をお願いしたRです。彼女が、その、体験希望者で。」
打ち合わせ通り。 御影さんの妙な喋り方で不審に思われるのはマズい。
真新しいジャージと運動靴の御影さんをちらりと見て、受付の女性はにこやかな笑顔。
「はい、あと5分程で通常のレッスンが終わります。中のベンチでお待ち下さい。」
ドアを開け、エクササイズルームに入った。 軽く頭を下げる。
涼しくて快適、軽快な音楽。 ボクシング? 思っていたより女性が多い。
上級者クラスなのか、皆、中々の動きだ。やがてゴングが鳴り、音楽が止まった。
「OK、皆さんお疲れさま〜。」 「ありがとうございました!」 「あざっした!」
生徒達の前で見本を見せながら、時折熱心な個別指導をしていた青年。
二十歳そこそこに見えるが、爽やかな営業スマイル。さすがにプロ。
突然、耳元の囁き。 『R、あの男の声を聞け。心の声を。』 「心の、声?」
生徒達は談笑しながら次々にエクササイズルームを出て行く。
あの男って、トレーナーっぽい笑顔の青年? あ
全く息が弾んでいない、汗も...一気に集中力が高まり、チャンネルが同調する。

1387『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 23:25:44 ID:grC2im..0
 最後の生徒がエクササイズルームを出た直後。
『これで良いのか、オレは。』 『いくらジムが繁盛しても...』
溜め息。暗い、自虐的な笑顔。それは術者でなければ気づかぬほどに微かな。
ゆっくりと後退る。ガラス張りの壁に近付いて護符を貼り付けた。
これで、今後エクササイズルームの中に注意を向ける者はない。
後は御影さんに任せるだけ。

1388『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 23:32:11 ID:grC2im..0
 「溜め息なら、未だ希みはある。」
青年は驚いたように振り返った。 御影さんも立ち上がる。
「ああ、体験の方ですか。」
「体験...そうだ。◎の家が継承してきた武を貴様に。それが、◆秀の遺志だから。」
青年の顔色が変わった。
「祖父の名を...成る程、アンタ達は一族の術者か。噂は聞いてるよ。
だが、オレなりに頑張って一族に貢献してる。咎められる筋合いはない筈だ。」
「なら何故、溜め息を?」 「それは...」
「分からないなら教えてやる。『つまらない』からだ。その生き方が。」
「つまらないって、オレは毎日。」
「武門に生まれた者が満足できる訳が無かろう。毎日が体育の指導では。』
「体、育?」 「見学した限りでは、体育。それ以外に言葉がない。」

1389『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 23:33:26 ID:grC2im..0
 すい。御影さんは屈んで運動靴を脱いだ。姫と寸分違わぬ優雅な仕草、なのに。
一歩、踏み出した素足が柔らかなマットを掴む音に、腹の底が冷える。
「最初はこう。」
両の拳を顔の前に。左足が一歩前。 「そして、こう。」
きゅ、と、床を蹴る破裂音が聞こえた。
拳が小気味よく風を切る、左・左・右。右・左・右。すっ、と体が沈み、弾ける体。
ごう、と右拳が天を突く。 アッパーカット?
「左右入れ替えれば、こう。」 さっきとは完全に反転して、そして更に速く。
「アンタ、どこでボクシングを?」 「此所で。先刻、見学したから。」
「そんな、幾ら何でも...たった数分で?」
「疑うなら、自分で確かめろ。立ち会えば、直ぐに分かる。」
「馬鹿言うな。何でオレが女と。」

1390『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 23:36:47 ID:grC2im..0
 『○雷』

 その名に籠もる力が、エクササイズルームの空気を震わせた。
「本来、それは貴様が継ぐ筈だった。一族最強の武を背負う号。◆秀の孫、◆成。
時代が変わったとは言え、その号が絶えてしまう事を、
◆秀は心の底から悔いていた。先達に申し訳ない、と。」
「アンタ、一体?」
「我が名は御影。当主様の命を受け、この体を借りて化生した。」
「『御影』って、まさか。」
「借りた身体の能力は極上、我が人であったときと遜色ない。
つまり貴様は運が良い。今、貴様の眼の前にいるのは、紛れもない『○雷』。
勿論尻尾を巻いて逃げるなら好きにしろ。止めはしない。」
意地の悪い、笑顔。 何故そんな挑発を、もし事故があれば姫の体が。

1391『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 23:40:05 ID:grC2im..0
 「良いだろう。ただし、女の子相手。俺は『当てない』。大人気ないからな。
当たった、と、アンタが納得すれば終わり。それが条件だ。」
「構わん。それで、我は当てても良いのか?」 「好きにしろ。出来るなら。」
青年は浅く息を吸った。
そのまま左足を一歩踏み出そうとした瞬間、御影さんの身体がゆらりと。
直後、青年は右足を前、両拳を顔の前に。
「おや、女子相手に本気とは。確か先刻大人気ない、と。」
「馬鹿言え。『△歩』を使う相手、女の子だろうが此処からは全力。悪く、思うな。」
「それでこそ、だ。」 御影さんは微笑んだ。空気がぴいんと張り詰める。

1392『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 23:49:10 ID:grC2im..0
 ペタ、と、青年は尻餅をついた。
御影さんは右掌を前に...近い、青年の胸を?
多分、そうだ。ハッキリとは見えなかったが。そうとしか。
「ぼくしんぐ。それが長い時をかけて練られた体系なのは知っている。
しかし、あくまで規則の下で『競い合う』ためのもの。『武』とは違う。
『武』の目標は必勝、競い合いではない。故に、打たせてはならぬ。
力や体格で上回る相手なら、まぐれ当たりでも、当たれば敗ける。」
「...でも、あんな、体重移動。化け物め。」
御影さんは微笑った。姫と同じ顔、でも姫とは違う、笑み。
「利き足と利き手に切り換えたのは中々の嗅覚だし、
初見で体重移動の違いを見抜いたなら、褒めてやろう。」
「初見じゃない、思い出したんだ。
全く同じだよ。一度だけ、祖父さんに稽古をつけて貰った、あの時と。」
「長い長い時を費やして先達が積み上げた技術を基に、
辿り着いた極致。その速さ故に継承者は『○雷』と号される。
だがこれは『出発点』。貴様が望むなら、立て。我が◆秀の遺志を継ごう。」

1393『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 23:53:35 ID:grC2im..0
 数分後、青年は仰向けに倒れていた。 マットに力なく伸びた手足、息も荒い。
「くそ、こんなにも差が...オレは一体今まで何を。」
俺自身、あの『霊域』で経験した感覚。 きっとそれは、心の底から絞り出した、言葉。
「貴様、笑ってるぞ。」
「そうさ。女の子に、良いようにあしらわれて、悔しくて堪らない。なのに。」
青年はゆっくりと上体を起こし、胡座をかいた。
「ゾクゾクする。心底、楽しい。何で?」
「貴様の体に流れる血故。それはかつて◆秀の、そして我の体に流れていた血だから。」
「ならオレはもっと強く、なりたい。俺の身体に流れる血の限界まで。」
「その言葉に、偽りはないか?」

1394『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 23:55:46 ID:grC2im..0
 「ない。」 一瞬の躊躇もなく青年は答えた。心地よい言霊。
「身体能力は申し分ない。ただ、稽古だけで『武』は身につかぬ。」
「それなら、どうすれば良い?教えてくれ。」
「我等は明日にでも『鬼』を狩る。我も1人では手に余る、羆並みの怪物。」
「いきなり羆...オレが、その怪物を相手に?」
「限界を知りたいなら、望外の相手だろう。勿論、無理強いはしない。」
「祖父さんが悔いていた、アンタはさっきそう言ったな?」
「ああ、我は其所にいて、その声を聴いた。」
御影さん自身が望んで、血縁の武人の臨終を看取ったのか。
それとも今際の際、その武人が御影さんに呼びかけたのか。
「アンタでも手に余る相手。もしオレが生き残ったら、祖父さんの心残りは消えるかな?」
「『○雷』の号を志す者が現れるなら、それこそが〇秀の望み。」
「なら、オレを使ってくれ。頼む。」 青年は居住まいを正し、深く頭を下げた。
「良い、心がけだ。」 御影さんの声は優しかったが、その眼は笑っていなかった。

1395 ◆iF1EyBLnoU:2017/07/31(月) 23:59:13 ID:grC2im..0
皆様今晩は、再び藍です。どうやら今夜はここまで。

お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
体調と相談しながら出来るだけ早く続きを投稿したいです。

それでは、御機嫌よう。有り難う御座いました。

1396あるくむ:2017/08/01(火) 22:29:52 ID:suGMNDJk0
ボクサーが鬼退治参戦ですか〜。続きがますます気になりますが、気長にお待ちしてますので体調優先でお願いしますね。

1397名無しさん:2017/08/02(水) 10:57:45 ID:MRU06KTMO
若き武人,拳闘士登場。「鬼」との闘いがどうなるか,ぞくぞくします。

1398名無しさん:2017/08/16(水) 22:46:14 ID:jRDVmqig0
投稿お疲れ様です。いつも楽しく拝読させて頂いております。有難い事です。今回の御影さんがまた少し型破りで痛快なお話ですね。色々とお忙しい様ですが、暑さ寒さが不規則な日が続いております故、藍さん、優しい弟さん共々何卒ご自愛下さい。

1399名無しさん:2017/08/25(金) 20:02:51 ID:21H3fWng0
なぜ物語通して準備が出来てから投稿しないのだろうか…と思う。

1400枯れ木:2017/08/25(金) 23:44:04 ID:uAvcD1N.0
>>1399

 続きを期待してのコメントと判断して返信致します。
『以前の返信を全てお読み頂くようお願いするのは心苦しい。』
既に姉が何度か返信しておりますが、もしお読み頂いて
そのような疑問が生じなければ良いなと、正直思います。例えば

>>363
>>879

 未だ姉の体調は思わしくなく、続きの投稿が何時になるかは
分かりません。姉に代わってお詫び致します。

1401名無しさん:2017/09/05(火) 13:45:42 ID:A1XjfPZA0
>>1400
ご報告ありがとうございました。
藍さまの体調が思わしくないとの事、僭越ながら心配しております。
早く良くなられますよう、微力ながら祈念させていただきたく存じますm(_)m

1402名無しさん:2017/09/05(火) 18:11:55 ID:t40wqM6EO
川の神様に,藍さんのご回復をお祈りしましょう!

1403名無しさん:2017/09/14(木) 12:35:16 ID:QzsR2wcI0
藍さん元気かな。。

1404名無しさん:2017/09/15(金) 02:19:49 ID:xrJzZQDEO
藍さん、元気になぁれ

1405 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 02:04:29 ID:YUVTruAU0
皆様今晩は、藍です。

本当にお久しぶり。約束を果たすために参りました。
既に原稿は仕上がっていましたので、
代理投稿を頼もうかと考えていたのですが、
『それだけは許可が下りない』と知人に怒られたので。

実はとてもドキドキしています。15日に一時帰宅を許されたものの、
監視(?)がかなりきつくて、ずっと機会を窺っておりました。
卵雑炊を作ってくれた後、監視役が寝ている内に投稿を。

では、以下『鬼』の続き、出来れば最後まで。
お楽しみ頂ければ幸いです。

1406『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 02:20:54 ID:YUVTruAU0
 幾ら何でも、心が折れてしまうのではないか。
その青年が『武人』の血を継いでいるのであれば尚更、
あの時の俺とは比較にならない程の屈辱だろうに。
それ程、容赦のない稽古が続いていた。営業前のエクササイズルーム。
だが青年はその度に立ち上がり、構えを取った。
十何回目、いや何十回目だったろう。
すい、と一歩踏み出して、御影さんは青年の右手を取った。
両手で青年の右掌を広げる。無言のまま、手の甲をそっと撫でた。
「あの、師匠?」 戸惑ったような、青年の表情。
「右拳だけで、何人倒せる?相手が普通のぼくさーだとして。」
「...アマチュアで階級が同じなら、まあ、5人は。」
「なら左拳だけで2人、両拳を使えるとして5+2の倍、14人。」
くるりと踵を返し、一歩二歩。御影さんはもう一度振り向いて胡座をかいた。
つられるように、青年もその場で胡座をかく。 正対した2人は師匠と弟子そのもの。

1407『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 02:24:40 ID:YUVTruAU0
 「確かに貴様の身体能力は別格。しかし実際には10人でも無理だろう。」
「そんな、どうして。」 「右掌に、骨折の痕がある。」 「え?」
少しだけ黙った後、御影さんは奥の壁を指さした。
壁には高名なボクサーの写真。サイン入りのグローブ。
「あの大仰な籠手を使っても拳を壊すことがあるのだろう?
もし3人目で右拳を壊したら、残りは利き手ではない左拳だ。ならせいぜい2人、計5人。
しかも『実戦』であんな籠手を使う訳にはいかぬ。」
「だから師匠は拳を握るな、と?」
「そう。打撃で使うのは掌底、そして手刀、2つだけで良い。
掌底は顎や水月への打撃、手刀はこめかみや首、肋への打撃。」
「首、って。反則じゃ」 「実戦に規則はない、当然、反則も。」
「じゃあ、眼は。」 「的は小さく、指を痛める危険もある。狙う意味はないが、もっとも。」
「はい?」
「抵抗できなくなった相手や死体の眼を抉り出すのを好む奴等なら幾らも見た。」
「死体の眼って...」 「敵に敬意を持たぬ外道も確かにいる。始末する他ない。」
「殺す覚悟が要る、って事ですか。」 「そうだ。」 御影さんは静かに息を吐いた。
「オレ、人を殺せるかどうか。」
「外道を見つけたら必ず始末する。放っておけば『鬼』にされかねん。」

1408『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 02:27:06 ID:YUVTruAU0
 「これが、破魔の矢。我も、手にするのは初めてだ。」
あの時、その鞘が取られることはなく、幸運にもその鏃を見ずに済んだ。
やはり、御影さんも鞘を取らない。 それが許されるのは、使う理由がある時だけ。
「日月一対。我が知る限り、神器の中でも最強の武器。」
「ええと師匠、オレでもその矢がとんでもない武器だってのは分かります。
でもオレが相手にしてる間に、それで鬼を射るって言ってましたよね。
一対ってことは2本ある筈なのに、何故1本?動いてる的をたった一本の矢で。
いや、師匠を信用してますが、相手は『鬼』ですよ?1本より2本の方が絶対。」
この青年の言うとおりだ。それに。
「確かにこれを委任されたが、人の身では一射が限界。身体も心も。』
「それなら鬼が近づいてくる所を遠くから、で。本当にオレ、必要なんですか?」

1409『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 02:32:39 ID:YUVTruAU0
 「鬼の頭にある角は、知っているのだろう?」 「え?もちろん。それが鬼の。」
「あれは鬼と操者を結ぶ通い路であり、優れた感覚器。」
噛んで含める。そんな言葉が浮かんだ。
微笑む御影さんはまるで、弟を優しく諭す姉のように見えた。
「はぁぶを売り捌いていた者共は、黒幕の手の者に追われ姿を隠していた。
しかし黒幕の手の者も、榊でさえその行方を辿れぬうちに、鬼は4人を殺した。何故だ?」
「角を使えば、殺したい相手の居場所が分かる?」
「恐らく、造作も無い。そんな感覚を持つ相手に。」
「分かりました。その弓矢を準備して待っていたら、感付かれる。」
「弓の心得はあるが、正当な所持者でない我に、神器の力の全ては引き出せぬ。
そうだな、射程は十間。それより遠ければ望みは無いだろう。」
「じゅっけん、って?」 御影さんは困った顔で俺を見た。
ああ、以前は俺も知らなかった。この青年には、出来るだけ直感的に。
「野球の、マウンドからホームまでと大体同じだよ。18mと少し。」
青年は御影さんと俺の顔を交互に見詰めた。

1410『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 02:35:45 ID:YUVTruAU0
 「師匠と2人で鬼を待つ、現れたらそこでオレが。」
「そう、君が時間を稼ぐ間に御影さんが神器の封を解く。
その準備が整うまで時間を稼ぐ、それが君の役目。倒すのは無理、何とか逃げ回って。」
「人と同じ体重の羆が相手だとして、1ラウンド。3分逃げ切れば合格かな?」
「あの鐘、『始め』から『止め』までの間か...
その半分で良い。今、貴様に死なれては◆秀に申し訳が立たん。」
青年の、不満そうな表情。1ラウンドも持たないと言われれば当然プライドが傷つく。
浅はかと言えばそれまでだが、無理も無い。この青年はまだ『人外』を知らないのだ。
「羆並みって言っても、体格も体重も人と大して変わらない。だったら。」
「確かに羆並みとは言ったが、ただの獣ではない。人の智恵を持つ羆。
だからこそ貴様が必要なのだ。並の武人なら一撃で殺される。」
「人の智恵を持つ...でもオレが。師匠、分かりました。全力で1分半、稼ぎます。」
あーあ、どん底から天国まで。 それはそうと。
「師匠、段取りは分かりました。ただ本当に鬼が来るかどうか。」
まさに其処だ。俺も青年と全く同じ疑念を。もし鬼が来なかったら。
「来る、榊の言うとおりなら。」
胸の奥に燻る疑問を、俺はどうしても振り払えなかった。

1411『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 02:42:01 ID:YUVTruAU0
 夢を、見ていた。
古いお屋敷の庭、緑濃い生け垣全体を彩る紅い花々。咽せるような香り。
どこか懐かしい、既視感。
するり、と、腕の中に潜り込んできた温もり。これは。
「御影さん、何、してるんですか?」 「この方が良く眠れるから。」
「いや、マズいですよ。」 まあ、パジャマ着てるからあの時より、いや、そんな問題じゃない。
「妻と同衾するのに不都合があるのか?」 「いや、だって今は。」
「何にしろ。」
漆黒の、大きな双眸。見詰められると吸い込まれそうな。
「我に、聞きたいことがあるのだろう?」 どうして、それを。
「正直に、顔に出る。好もしいが、術者としては。
まあ良い。大事を前にして、味方の不信は命取り。聞こう。」
「ええと、あの人、◆成さんを巻き込む必要が本当にあったのかな、と思って。」
「やはり、そうか。御前の剣を借り受ければ、我1人でも鬼を狩れるのでは、と?」
「はい。◆成さんも言ってた通り、チャンスがたった一度きりでは、心許ないですから。」

1412『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 02:44:40 ID:YUVTruAU0
 御影さんは寂しそうに微笑んだ。
「『上』でもその策を推す声が多かった。最強の神器を委任するのを躊躇うのは当然。」
「ひっくり返した、ということですね。当主様が。御影さんが当主様に進言して。」
「そうだ。」 「何故、ですか?」
「鬼は一体一体異なる。それ自体の資質、そして操者の能力。
この身体に何の不足もないが、それでも勝てるとは限らない。
そもそも、神器の剣を委任されたとして、鬼を倒すまで、その剣を扱えぬなら意味が無い。」
「だからって、◆成さんを囮にしなくても。僕は喜んで。」
「未熟だが、『○雷』の血を継ぐ者。それでなければ鬼を欺けぬ。」
ふう、と御影さんは、溜息をついた。自分の血に連なる青年を、一体どんな気持ちで。
御影さんも、あの青年も。その『武人』としての覚悟。俺には到底理解できない次元。
もう良い、話題を変えよう。
「あと一つだけ、質問を。」 「何だ?もう、眠いのだが。」
「一体誰が、何のために『鬼』を?術者でなければそれは不可能ですよね?」
「ああ、かつて『力』でこの国を我が物にしようとした、馬鹿者共がいた。
もう、600年程も前の事だと、聞いている。」

1413『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 02:49:24 ID:YUVTruAU0
 「『力』でこの国を?」
「そう。幾度も我等に挑み、その度に敗れた旧い一族。
しかしその結果、奴らは、あのおぞましい手段を産み出した。」
「おぞましいって、どういう?」
「術も、式も、通常の武器も通じない化物、それを産み出すとしたら、必要なのは?」
「まさか、そんな。」 御影さんは俺の胸に顔を埋めた。
「人は愛しい。しかし時折、絶対に許せぬ者共がいる。何故だ?」
俺の寝間着。胸を濡らしていくのは、涙? 姫と同じ、綺麗な顔で。 胸の奥が、痛い。
「あの化物を作るのに必要なのは数多の体と魂。人と、必要なら各種の獣も使う。
優れた資質を持つものたちを材料とする。文字通りの、外道。
しかも奴らはその術の一部を公開し、在野の術者も数多の『亜作』を作り出した。」
「でも、一族はそれに対処出来たんですよね?だから。」
「そう。ただ、数が多過ぎて、『首謀者』を取り逃がした。それは仕方ない。」
「それで、残された『鬼』を見つけ次第処理してきた、と。」
「『首謀者』を...」 そのまま御影さんは翌朝まで、眼を覚まさなかった。

1414『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 02:52:36 ID:YUVTruAU0
 「今、奴がアパートを出た。バイクだ。
灰色のスウェット、角はニット帽で隠してる。じゃあ、後は任せたよ。」
榊さんから電話があったのは夜10時過ぎ。移動の時間を考えれば、約30分後か。
件の大学が所有するセミナーハウス。
榊さんが予め調べて手を回してくれた。今夜宿泊する団体はないし、管理人も不在。
いや、この事件の当事者たちが所属していた登山サークル。
親睦会を兼ねて、次の登山予定を話し合う会議が今夜此処で開かれる。
一昨日、そういう筋書きのメールが会員全員に配信された。
勿論、当事者以外のメンバーには事情を説明するメールも。

1415『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 02:55:07 ID:YUVTruAU0
 人目を避け、鬼を滅する。
セミナーハウスの広い中庭は、これ以上無い舞台。しかし。
「師匠、ホントに欺せるんですか?もし見破られたら。」
そう、今夜逃げられたら、『期限』まで無差別な殺戮を止める方法はない。
「そういえば、鬼には殆どの術が効かないって。それなのに、どうやって。」
あの時、確かに姫はそう言った。鬼は術者に対抗するために造られたから、と。
「効くさ。これは鬼でなく、人の心に掛ける術だから。」
御影さんは寂しそうに微笑み、左手首に視線を落とした。
巻き付けた白い紙縒り。中にはある女性の髪が縒り込んである。
「でも師匠、もう人の心が消えてしまってる可能性もある訳でしょう?」
「いや未だ、操者は未だ人だ。」 「でも、それには何の保障も。」
その青年が饒舌なのは、実戦を目前にした心の高ぶり故だろう。

1416『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 02:57:43 ID:YUVTruAU0
 「既に4人殺されたが、全て男。つまり女が『最後』。
例え裏切られたと思っても、愛する者を殺すのを躊躇う。それが人の心。」
「なるほど、確かに。」
その、亜△という女性はセミナーハウスの中。厳重な結界を張った部屋で保護されている。
「分かったら無駄なお喋りは止めろ。為損ずれば、死ぬぞ。」
 
 その時。遠くからバイクのエンジン音が近付いてきて、消えた。

 「来たな。」
中庭を挟んで反対側、閉じた門の外に異様な気配。
高さ2m近い鉄の扉は施錠されている。しかし、鬼なら錠前を破壊するのに十分な、力が。
しかし、それは門扉の上端に手を掛け、軽々と飛び越えた。

1417『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 03:00:01 ID:YUVTruAU0
 「師匠、あれ、ヤバいですね。」
そうだ。鬼であろうと、操者はただの人間。短時間なら対応可能。
それが作戦の前提条件。しかし、あの身のこなしは明らかにただの人間ではない。
そう、かなりのアスリートか武術家でもなければ。
しかし最初の被害者、その遺体は子どもがいたぶり殺した虫のようだった。
武術家なら、あんな風には。一体、鬼にどんな変化が起きたのか。
「実戦に、多少の見込み違いはつきものだ。
作戦変更、先手を打つ。全力、殺すつもりでやれ。」
「殺すって、人は鬼を。」
「あれは貴様が武人だと知らぬ。悟られるな。機会は一瞬、一度きり。
貴様の先手で人の心は絶える。その後の相手は、正真正銘の鬼。」

 それはゆっくりと中庭を横切り、2人の座るベンチに歩み寄る。
「怖いなぁ。」 「貴様、笑ってるぞ。」 始まる。

1418『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 03:06:20 ID:YUVTruAU0
 「...亜△。」

 ベンチから少し離れた植え込みの陰で、俺はその声を聞いた。
底知れぬ威圧感。不吉な、調子。
「あんた誰?○樹に、頼まれたのね?」 「...」
「警察から聞いたわ。あんたがやったんでしょ?
ホント卑怯者よね、自分のしたことは棚に上げて復讐なんて。
それで、最後は捨てた女の所まで。最っ低。」
鬼は、ゆっくりと息を吸った。
「亜△、熱くなるなって。コイツ呼び出したらオレたちの役目は終了。
あとは警察に任せろ。卑怯者の元カレのせいで怪我なんて馬鹿馬鹿しい。
さ、もう行けよ。ほら、刑事さん達が来る。おっと。」
青年は立ち上がった。御影さんを追おうとした鬼の正面。
「どけ。」 「ムリ。元カレと違って、オレは卑怯者じゃないから。」

1419『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 03:16:12 ID:YUVTruAU0
 御影さんが植え込みの陰に駆け込んで来た。
「油断するな、必要なら剣を。」 「はい。」
手早く弓の弦を張る、手筈通りに肩を貸した。見事な手際。
いや、一瞬たりとも無駄に出来ない。 矢を取り、鏃の鞘を払うのを確認して走る。
所定の位置で短剣の柄を握った。もし青年が為損じても、御影さんが矢を射るまでは俺が。
背後で、御影さんの気が満ちていくのを感じる。もう少しで。
その気配に気付いたのか、鬼の注意が逸れた。その刹那。
鬼の顎に、青年の一撃。 嫌な、音。 続いてこめかみ、そして首。
鬼の体からがくんと力が抜け、両膝を付いた。
人間なら間違いなく致命傷、しかし青年は数歩離れて構えを取る...やはり。
数秒後。軽く首を振り、鬼は立ち上がった。回復している。もう、奇襲は通じない。

1420『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 03:20:07 ID:YUVTruAU0
 流星を、見たと思った。

 スローモーションのように、一筋の青白い光が鬼へ向かっていく。
色とりどりの、数知れぬ光の粒子がそれを追いかける。
ああ、この矢は『月』だ。御影さんはあの時破魔の矢は『日月一対』だと。だから。

 ぞっとする、うめき声。
鬼の胸に刺さった矢が、青い炎を吹いていた。思わず膝から力が抜ける。これで。
「おかしい。耐性、『真作』か?」 背後から御影さんの呟きが聞こえた。
「真、作?」 鬼が右手で矢を握った。微かな煙、肉の焦げる臭い。
そのまま、傷口近くから矢を折る。掌に焦げ付いた矢軸を振り捨てた。
青い炎が、消えかかっている。痛みを堪えるように、鬼は背中を丸めた。
まさか...矢は一本だけ。これで滅せないのなら、もう。
構えたまま、青年が後退る。目の前、俺を庇うように。
「Rさん。師匠を。」

1421『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 03:22:58 ID:YUVTruAU0
 鬼が、地面すれすれを跳んだ。
躱しきれず、青年の体が浮く。そのまま俺もまとめて、弾き飛ばされた。
途轍もない力と速度。受け身を取る間もなく、背中から地面に。
隣に、青年が倒れている。動かない、あのタックルをまともに受けたら...
そう言えば、鬼は? 3m程先に、倒れていた。ダメージはあるのだろうが。もし。
温かな手が、俺の頬に。覗き込む冷ややかな表情。御影、さん?
「緊急事態です。剣の委任を、△木野之主様に。」
「ああ、御影さんがこの短剣で...」 後頭部を打ったせいか、意識が。
「Rさん、早く。もう、鬼が。」 !! そうだ。委任の申告。
差し出した短剣を、柔らかな手が取った。 「有り難う、御座います。」
鞘が俺の手に、え? 視界の端、後ろ姿と、長剣。 ああ、神器に決まった形は無い。
御影さんが必要だと想えば...待て、さっき『Rさん』と、ならあれは。
何とか体をひねる。既に鬼は、立ち上がっていた。

1422『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 03:26:16 ID:YUVTruAU0
 あの構えは、確か『烈風』の型。 一度だけ、見た事がある。 まさか?
怯んだ鬼に向け、一直線。速い。
右からの袈裟懸け、間髪を入れず左下段から斬り上げる。
鈍い音がして、腕が地面に落ちた。鬼の、右腕。
タイミングからして、斬り上げた剣。斬れるなら、未だ望みがある。
しかし、御影さんは片膝を付いた。息が荒いし、動かない。
そうか、神器。一射で限界の矢、その後であの剣を。これ以上は、もう。
鬼が、右腕を拾い上げた。そのまま体を低く、攻撃態勢。
まずい。膝を付いた状態であのタックルを受けたら、いくら御影さんでも。
第一、体は生身。そしてその身体は姫の。

1423『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 03:28:21 ID:YUVTruAU0
 「間に合いましたね。御英断でした。」
「何年ぶりかな、貴方の運転は。速いが、目が回る。」
「今更そんな弱音を。さあ、御役目を。」

 場違いな、穏やかな会話。夢か、しかしこの声は。

1424『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 03:29:21 ID:YUVTruAU0
 「相手が違うぞ、狙うべきは私だろう?」
夢ではない。明るい声。空気が軽く、乾いていく。
攻撃態勢の鬼へ、軽やかに歩み寄る後ろ姿。 !! 当主様、どうして!?
「やはり『真作』。よくもまあ、こんなおぞましいモノを。」
「当主、か。」
「そうだ。当代随一の武人。最高位の術者と式。桃花の方も。指揮は私。
旧い敵に、最大限の敬意を表した。これ程の布陣なら、思い残す事もあるまい。
『真作』も『亜作』も纏めて、哀しい因縁は今夜限り。」
鬼が攻撃態勢を解いた。真っ直ぐに当主様を見詰める。
「力が、欲しくはないか?」

1425『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 03:31:38 ID:YUVTruAU0
 滑らかな口調。これが、真の操者。そして、鬼を作った。
「ありふれた『亜作』などとは比較にならぬ、真の鬼。
破魔の矢一対でようやく。それ以外、どんな術者も武器も、式ですら無力。」
それは、低く湿った声で笑った。
「全てを水に流し、手を組もうぞ。御前達の術に、これが加われば文字通りの無敵。
楽々と天下を取れる、富も栄華も思いのまま。」
「何人必要だった?」 「何、だと?」
「その化物を作るために、何人殺してその体と命を使った?
あえて半端な術を広め、作らせた数多の『亜作』にも。一体どれだけの人と獣が。」
「性懲りも無く綺麗事を。力こそ、勝者こそ正義。正直になれ。
これを手に入れれば、身内の術者を敢えて危険に晒す必要もない。
さあ、その手でこの矢を抜け、それを契約の証としよう。」

1426『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 03:37:37 ID:YUVTruAU0
 「虐げ、奪い、殺す。本当に、それが楽しいか...
当時の当主に代わり、心から謝罪する。
魂が化物に逃げ込むのを防げなかったばかりか、化物の行方をも見失った。
そして終に、腐った性根を叩き直せなかった事を。」

 「愚か者。この『力』を、我等の術の粋、これを無に帰すなど。」
「術の粋...なら、おぞましい化物を始末するのが我等の術」
「この矢、『月』でさえ始末出来ぬものをどうやって。」
「喋り過ぎだ。」 「何?」
「『破魔の矢一対でようやく』、予想通り。あれから我等は探し続け、手に入れた。
当時我等の一族が所有していなかった、『陽』を。」
鬼が攻撃態勢を取る前に、当主様は軽く右手を挙げた。
深い深い憂いを含んだ、寂しい微笑。

1427『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 03:39:11 ID:YUVTruAU0
 雷のような、閃光と轟音が俺の上を奔った。

 それは当主様の右肩をかすめて鬼へ。
数秒後、それが立っていた場所に残ったのは、小さな灰の山。
歩み寄り、当主様が拾い上げた2つの鏃。それは恐らく、破魔の矢の本体。
「『真作』と分かっていればこれ程の...酷い事をした。」
「責めてはなりません。御自分も、周りも。皆、できる限りの事をしたのです。」
「しかし...いや、皆の手当を頼む。特にLは。」 「御意。」
『特にLは』って。じゃあ、あれはやはり御影さんでなく。

1428『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 03:43:57 ID:YUVTruAU0
 夢を、見ていた。
古い、大きなお屋敷の庭。俺の手に一本だけ、大きな、紅い花。
その花々が生け垣全体を彩っていた時には気が付かなかった、控えめで清らかな香り。
既視感。腕の中の温もり。深い光を湛えた双眸が、真っ直ぐに俺を見詰めている。
「どっちなんですか?今、あなたは。」 その美貌は微かに笑った。
「御影、だ。」 「じゃあ、あの時、剣を取ったのは。」
「本当に御前は良い嫁を持った。嫉妬で、この身が焼かれる程に。」
「冗談は止めて下さい。御影さん程の、なのに嫉妬だなんて。」
「この術に体を委ねている間も、周りの事情を把握できる。それは知っていた。
しかし、術の力を越えて体の制御を取り戻すなど、出来る筈がない。
なのにあの時、術も我も全くの無力だった。御前への、想いの前で。」

1429『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 03:50:28 ID:YUVTruAU0
 ああ、恐らく『禁呪』。しかも飛び切りの。
嬉しくないと言えば嘘になる。しかし反面、それで姫の寿命は縮んでしまうのだ。
「Lさんは『あの人』の娘です。少し位、他の術者と違っていても。」
「少し位?それがどういう事か、男には分からぬか。我がどれ程...」
「教えて下さい。どうすれば、御影さんの心が安らぐのか。
今回は、Lさんの力、御影さんの力、どちらが欠けても解決出来なかった。
当主様と桃花の方様が間に合ったのは、2人の力があったからです。」
数秒。唇を噛んで、ようやくその表情が緩んだ。

 「朝まで、このまま寝かせてくれ。術が解けるまで。」
「分かりました。つまりLさんもそれを許して」 「黙れ。」

1430『鬼』 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 03:53:36 ID:YUVTruAU0
 それからは時折、不思議な事が起きた。

 例えばSさんが仕事に出て、姫と2人で子守をしている時。
丹を抱いて、姫はその寝顔を見詰めていると思ったのに。
「愛しいもの、なのだな。幼子とは。」 穏やかな呟き。 何時の、間に。
姫と遊んでいた翠が、呼びかける声に驚くこともある。
「みーちゃん、それ、違うよ。ほら、こうやって。」
どうやら2人は、もう術とは関係なく入れ替わる事が出来るらしい。
もちろん2人の同意が必要なのは自明だが、それがどんなタイミングで成立するのか、
そもそも2人がどうやってコミュニケーションを取っているのか、俺には分からない。
「相性からして『生まれ変わり』と言って良い程に他生の縁が深く、
あの術が2つの魂の垣根の一部を取り払った。そう考えるしかない。」
そう言ってSさんは笑った。「別に良いでしょ。特に困ることもないんだし。」と。
確かに、2人の感情表現は以前より豊かになったように感じる。
時を越え、それぞれに別々の旅路を生きる魂が成長できるなら、それは『良縁』。
しかし、俺が知らない内に2人が入れ替わるのは...
いや、俺の懸念など、『良縁』の前では取るに足らない事なのだ。

『鬼』 完

1431 ◆iF1EyBLnoU:2017/09/20(水) 04:01:41 ID:YUVTruAU0
皆様お早う御座います。再び藍です。

何とか最後まで、投稿する事が出来ました。
お付き合い頂いた皆様に、心からの感謝を。

準備中の作品が2つありますが、それはまた暫くお休みを頂いてから。
(コメントを頂いても返信できないと存じます。御免なさい。)
御縁がありましたら、何時かきっと此処で。それでは御機嫌よう。

1432名無しさん:2017/09/22(金) 23:43:26 ID:nUOo9lBg0
 藍さん,お加減のお悪いなか,本当にありがとうございました。
 今度も,奇しき物語を堪能させていただきました。
 本当に凄まじい強敵で,ハラハラしました。
 それにしても,御影さんとLさんがフュージョンって,とても意外なラストです。今後のLさん=御影さんがどんな活躍をするか,とても楽しみです。
あ,それと◆成さんも。

1433 ◆iF1EyBLnoU:2017/10/17(火) 23:10:05 ID:IMfjClF20
皆様今晩は、藍です。

本日退院し、自宅に戻りました。入院している間に体力が落ちたのか、
近くの青いコンビニに出かけたら帰れなくなって。
弟に電話したら怒られました。ホント、笑っちゃいますね。
原因は巫病。当たりが強くて、身体に重い影響が出たのだと聞きました。

少しずつ体力を戻して、『次』の作品の投稿準備を進めます。
『聖夜』と『続・聖夜』を別のお話として計算すると、次回作は多分40作目となります。
本当に長い間、お付き合い頂き、皆様に心からの感謝を。

次回作の投稿は、遅くとも11月末の予定です。
未だ御期待頂ける方がおられるなら、きっと此処で。御機嫌よう。

1434 ◆iF1EyBLnoU:2017/10/17(火) 23:17:05 ID:IMfjClF20
>>1432
返信は不可能と書いておりましたのに、わざわざのコメント。
本当に嬉しく、有り難く存じます。

御影さんとLさんは決して融合した訳では無く、
1つの身体をシェアする約束が出来たのだと思います。
しかし、Lさんと御影さんの今後の活躍、御影さんの一番弟子◆成さんの活躍。
楽しみが沢山有る事は完全に同意します。有り難う御座いました。

1435名無しさん:2017/10/21(土) 00:26:44 ID:z/LbJM4c0
藍さん、退院おめでとうございます!
無理をなさらず、お体ご大切に。
「未だ御期待頂ける方」、たくさんいると思います。
次のお話を心から期待しています。

1436枯れ木:2017/10/23(月) 23:08:32 ID:Bzj8QXww0
 本日姉を知人さんの家に送り届けました。伝言が
『暫く次作の投稿に向け作業に集中するので、皆様に宜しく。』と。

 何時も通り、まとめでの返信は許可されておりません。
もし『鬼』以前の作品にコメントを頂けるなら、メールで転送
可能なら返信を投稿致します。

1437 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/29(水) 21:40:49 ID:BzBKrAYE0
皆様今晩は、藍です。 本当に、お久しぶり。

色々ありまして準備が遅れておりましたが、
現在、初回・次回投稿分が知人の承認待ちです。
順調なら、明日の夜から新作の投稿を開始致します。
未だお待ち頂ける方がおられると期待して。

では明晩、此処で。御機嫌よう。

1438名無しさん:2017/11/30(木) 12:29:16 ID:heKf14gY0
藍さん
ありがとうございます。
とっても楽しみです。

1439 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:14:18 ID:G0n00Y.g0
皆様今晩は、藍です。

予定通り今夜から新作の投稿を開始致します。
以下『風の花』、お楽しみ頂ければ良いのですが。

1440『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:16:55 ID:G0n00Y.g0
『風の花』

 「もうすぐ霜月が終わる。なのに何故、今年は未だ雪が降らぬ?」
「雪だけではありません。湖の御神渡りも。このような年はかつて無く。」
「冬が来ないまま新しき年を迎える事など、決してあってはならぬ。」
「左様、かくなる上はあの者達に、依頼する他ありますまい。」
「...一族の陰陽師、か。」
「はい。その神器、『青の宝玉』は天候を自在に操ると。ならばあるいは。」
「致し方ない、すぐに連絡を取れ。報酬も十分に用意せよ。」 「御意。」

 『上』からのFAXに眼を通したSさんが、それを俺の手に。
「どう考えても、これはR君の領分だわ。」 そっと重ねた温もり。
「何故、僕の?」 「だって、『釣り』と関わりがある依頼だもの。」
...そうか。『釣り』なら、確かにそれは、俺の領分だ。

1441『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:18:00 ID:G0n00Y.g0
 その依頼は、遍さん経由だと聞いていた。
それなら、納得出来る。普通の人が術者に依頼する経路は無い。
一族内部の問題か、あるいは古くからの『貴客』。
その依頼を『上』が受理すれば、然るべき術者が指名される。
ただ、内部の問題ならSさんが既に把握していた筈。
つまりこれは『貴客』からの依頼なのだろう。
しかも、それは遍さんに所縁の。絶対に失礼は許されない、という訳だ。
数日後、とあるホテルで依頼人に会う事になった。
Sさんも姫もいないが、遍さんが立ち会って、依頼の内容を確認する。
依頼人に会う時、スーツを着たのは、初めてかも知れない。
自然と気が引き締まる。

1442『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:19:07 ID:G0n00Y.g0
 思わず眼を、疑った。依頼人は少女、16〜18歳位?
美形という訳ではないが、不思議な気品。
年齢に見合わぬ落ち着きというか、どっしりと揺るがぬ存在感。
それより、こんな年端もいかぬ少女の依頼が『上』に? この少女が、『貴客』?
「これが、この件を担当する予定の術者、Rです。
一族最高位の術者の一人であり、何より『海』と『釣り』に縁があります。
きっと、貴方のご期待に添えるものと。」
遍さんの口調はまるで、当主様や桃花の方様に謁見する時のようだ。
『上』の主要なメンバーが依頼の場に同席するだけでも異例なのに。
続いてありきたりの自己紹介。その間中、心の奥で鳴り続く、警報。
危うい。遍さん経由の依頼なら尚更、これは。
俺の懸念を拭うかのように、遍さんは穏やかな表情で言葉を紡ぐ。
「父親の死にともなって、彼女は相当な遺産を相続した。
だから、報酬の用意について問題はない。身元も、依頼人として十分。
そして依頼の内容は、御本人から説明して頂く。」

1443『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:21:16 ID:G0n00Y.g0
 「父を、成仏させて欲しいんです。その、迷ってしまったみたいなので。」
??? 『迷ってしまったみたいなので』 どういう、意味だ。
「あの、御父上が、何か障りの原因になっているという訳ではないのですか?
正直な所『迷ってしまったみたい』と言うのは、今まで聞いた事がありません。」
死者が迷う事も、それが原因で生者に障りが出る事も珍しくは無い。だが。
「先日、使用人達とともに実家の整理をしておりました。
夕刻になり、作業に区切りを付けようとした時です。
父の書斎に灯りが点いていると、使用人が。
その日は一番に父の書斎を掃除しました。窓を開けて風を通しながら。
その部屋は東向きで、日中に灯りを点ける必要などありません。
窓の閉め忘れとかならともかく、何故灯りが?」
違和感、それとも既視感。その感覚を、何と表現すれば良いのだろう。
たかだか高校生の、この少女の物言いは。
余計な言葉も感情も挟まず、単純に的確に。それは御影さんの話し方に似ていた。
「それで御父上の、書斎に入ったのですね?」 「はい。」 「それで?」
「父が、いたのです。いいえ、父だと、思いました。
私の記憶の中で一番若い父よりも更に若く、まるで少年のようでした。」

1444『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:23:23 ID:G0n00Y.g0
 「此の世に留まる死者が、自ら望む姿で現れるのは珍しくありません。
しかし、2つ疑問があります。どうして貴女はそれが御父上だと。
そして、その御姿を見て『迷ってしまったみたいだ』と仰ったのも。」
「古いアルパムに、父の写真が残っています。それで。
思わず声をかけましたが、父は怪訝な表情で。私が誰か分からないようでした。
そして『君は誰?』と。父が私を憶えていないのなら、それは...」
その時初めて依頼人は、その少女は感情を露わにした。
零れる涙。嗚咽を堪えて震える、小さな肩。

 「先程の話の通り、私は多分、海と釣りには幾許かの縁があります。
しかし、本来の適性は『言霊』。大変失礼な質問かも知れませんが。」
少女は握り締めていたハンカチで涙を拭き、顔を上げた。
俺を真っ直ぐに見詰める。灰緑色の瞳。
「何でも、お答え致します。それが必要な問いであるのならば。」
「生前、御父上は記憶を蝕まれるような病を?
それなら、貴女の事を憶えていないのもあり得ると思うのですが。」
「父の死因は○だと聞きましたから、脳の障害があったとは思えません。
それ以前にも、認知症を疑うような言動はありませんでした。」

1445『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:25:02 ID:G0n00Y.g0
 「それでは御父上が、迷われたとして、その原因は一体何でしょう?
色々な前例がありますが、この件については、それが御母様だとしか。」
「何故、ですか?」
首筋に、刃を感じた。ヒンヤリと冷たい感触。もちろんそれは幻覚。
だが此処で躊躇えば、この依頼に応える事は出来ない。
静かに息を吐き、心を調える。その後で深く、息を吸った。
「此処まで聞いた内容と関係なく、本来の依頼主は御母様で有るべきでしょう。
しかし、依頼主は貴方。今の今まで、御母様についての言及がない。
それに御父上の霊が貴方を知らないのだとすれば、原因は貴方が生まれる前。
つまり御父上と御母様の関係にこそ、解決の鍵が有る。
一体、御母様は?それが分からないと、依頼を受けるべきかどうか判断出来ません。」

1446『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:26:09 ID:G0n00Y.g0
 「本物、なのですね。正直私は信じていませんでした。
周りの者の勧めもあり、もしもそれで父を然るべき場所へ。そう思っただけで。」
やはり...息を吐き、そっと額の汗を拭う。
「母は、私を産んだ直後、行方知れずになったと聞いています。
遺書なども見つからず、事故や事件の可能性も無いらしいと。」
「やはり貴女には、御母様に関わる記憶が。」 「はい、全く。」
「それでは何の手がかりも。」 そうだ、この件で俺が選ばれた理由。
『海』と『釣り』に縁がある術者として、俺が指名された。
ならば、ある筈だ。未だ語られていない『海』と『釣り』、そしてこの件の関わり。

 「これを、持ってきました。父の書斎で見つけたものです。」
少女がバッグからとりだしたのは、黒い革表紙の古いノート。
「日記、とは違いますが、父と母の関係が書かれています。
どれも釣りと関わる内容なので、釣りに詳しい方なら手がかりが、と。」
そのノートから滲む、濃厚な気配。前にもこんな、しかしあれとは全く違う。
その気配には一切の邪気がない。それは多分、愛情や憧憬に近い、強い想いだ。
「読ませて頂いても?」 「はい。必要な期間、お持ち頂いて結構です。」
そのノートを開く。丁寧に書かれた、几帳面な文字が並んでいた。

1447『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:27:05 ID:G0n00Y.g0
 『陽光』

 冬はタチウオ釣りの季節。
北東の冷たい風に震えながら、未明の波止に立つことも多くなる。
日の出を見る機会が一番多いのは、だから冬。

 光を受容する細胞に2種類あると知ったのは高校生の頃。
弱い光の下で「明るさ」に反応する細胞と、
強い光の下で「色彩(光の波長)」に反応する細胞。
だから月明かりや星明かりに照らされる世界には色がない。
太陽の明るい光があってこそ、世界は様々な色彩を纏う。

1448『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:27:47 ID:G0n00Y.g0
 未明の波止には微かな影の輪郭だけ。
モノトーンの世界は夜明けが近づくに釣れて色彩を取り戻す。
始め、その色彩は古いセピア色の写真のように頼りないが
やがて朝日を受け、驚くほど色鮮やかに、世界は輝く。

 逆に夕方の釣りでは、色彩の終焉を見送る。
残照の中で世界はゆっくりと色を失い、セピア色からモノトーンへ。
全ての色は眠りにつき、明日の再生を夢見る。

1449『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:28:42 ID:G0n00Y.g0
 仕事を終えて釣りに出かける途中、初めて妻をみかけた。
部屋へ帰る途中だったのか、買いものに出かける途中だったのだろうか。
遠目にも、あまりに鮮やかな彼女の美しさ。一目で恋に落ちた。
たまたま彼女が仕事の都合で私の職場を訪れるようになり、
彼女を見かける機会が増えるにつれ、片思いは募っていった。

1450『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:29:36 ID:G0n00Y.g0
 そしてある日、世界が違っていることに気づいた。
通勤の道程も、いつもの波止も、住み慣れた寮の部屋までもが
なぜか生き生きと鮮やかに息づいている。
彼女の放つ光によって、私の世界が新たな色彩を帯びていた。
その時、私は理解した。あの古い歌の歌詞、その真の意味。

 You are my sunshine. My only sunshine.

 彼女が話を聴いて笑ってくれるとき、私の言葉は意味を持ち
釣ってきた魚を褒めてくれるとき、私の釣技が価値を持つ。
今まで知らず長い夜の中にいたこと、その夜が明けたことを、私は理解した。
私は出会った。空でなく、この心に輝く、真実の太陽に。
二人で重ねた時間は2年。幸運にも、私は今も変わらぬ眩い光の中にいる。

1451『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:30:27 ID:G0n00Y.g0
 確かにその文章は、釣り人にしか書けないもの、そう感じた。
そして、1つ1つの言葉は、その女性に対する愛情と憧憬に満ちている。
職業作家の文章かどうかは分からない。しかしその言葉は瑞々しく鮮やかだ。
「確かに、これは日記と言うよりエッセイです。
御父上はこれらの文章を公表されたのでしょうか、例えば釣りの雑誌とか。」
「いいえ、そのような話は聞いておりません。
父は医者で、作家ではありませんでしたし。」
「なら好都合です。御父上の想いが発散していないなら、
このノートに、きっと手がかりを探せるでしょう。この依頼、承ります。」

1452『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:31:07 ID:G0n00Y.g0
 「それで、何か手がかりはあった?」
Sさんのキス。少しだけ、ハイボールの香り。
「いいえ。お話は40話以上あって、全部読んでみない事には何とも。」
「そんなに沢山、『釣り』と『奥様』に関するお話が?」
「そうなんです。例えばこれ、最初に書かれていた『陽光』という作品で。

 暫く、そのノートに集中していたSさんが顔を上げた。
「素敵なお話ね。文体とか色々、思う事はあるけれど。
女として、妻として、こんなお話の主人公になれたら、正直嬉しい。」
Sさんなら、もちろん姫も、きっとそう言うと思っていた。
「でも。」 ああ、やはりそうだ。これも、予想通り。
「視点も言葉も本当に鮮やか。でも、これだけじゃ手がかりがない、何一つ。」
「はい。僕もそう思います。でも多分見つかると、いえ、きっと見つけます。」
「そうね、期待してるわ。」 Sさんは今までで一番優しく、微笑んだ。

1453『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:31:57 ID:G0n00Y.g0
 『出逢い』

 思い切りロッドを振り、びゅーんとキャスト。
眩しいラインの軌跡を残して、ルアーは彼方へと飛んでいく。
ラインに右の人差し指で軽く触れ、糸ふけを最小限に。
ルアーが着水したら素早く糸ふけをとってリールを巻く。くるくる、くるくる。
リズム良くルアーを泳がせる、時折の破調を交えるのが効果的。
くるくる、ぴ、ぴ、くるくる...

 一投目。アタリがなくても、何らかの兆しを感じる確率は高い。
運が良ければ、魚がルアーを文字通り引ったくっていく。
ガツン! というアタリの後、強烈な引き込み。
予期せぬ大物のアタリなら体ごと持って行かれそう。
思わずよろめいて頭の中は真っ白。
「よっしゃ!!来たーっ。」
なんて叫んで、悩みだろうがストレスだろうが吹っ飛んでしまう。

1454『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:32:33 ID:G0n00Y.g0
 静止している(潮で多少は動くだろうが)エサと違い、ルアーは泳いでいる。
つまりラインには常にある程度のテンションがかかっていて、
だから魚がルアーを襲うとき、その衝撃はカウンターパンチのように強烈なのだ。
多分魚を掛けてしまえば、後のやりとりは他の釣りと変わらない。

 延々と繰り返される単調な動作の後に、突然やってくる衝撃的な出逢い。
ルアー釣りの魅力はとにかく、その一瞬に凝縮されている。
波止でも、磯でも、パヤオでも。いつも、あの衝撃的な出逢いを求めている。

 とはいえ、釣れないのが何倍も何十倍も多いのもルアー釣り、だ。
スレた釣り場で強い北風に震えながら、
「なんで俺、こんなことやってんだろ?」と考え込むこともある。
びゅーん、くるくる、くるくる。びゅーん、くるくる、くるくる。..
うーんキビシイ。

1455『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:33:14 ID:G0n00Y.g0
 もしかしたら平凡な日常生活の中でも、
人は大切な誰かとの衝撃的な出会いを夢見て
毎日毎日、人はそれぞれのルアーをキャストしているのではないか。
ふと、そう思うことがある。
職場で、街中で、時には見知らぬ土地へ出かけて。
びゅーん、くるくる、びゅーん、くるくる...。

 強引に誘われ、初めて行った女の子のいる酒場は、
スレ切った、ゴミまみれの釣り場のようだった。
世間話をし、カラオケを歌い、なんとか女の子の気をひこうとみんな必死。
びゅーん、くるくる。びゅーん、くるくる...
(阿呆か?金払ってるのはこっちだぞ)

1456『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:33:54 ID:G0n00Y.g0
 それから、そんな酒場で飲んだ事はない。凍える波止の方がどれだけましか。
気心の知れた仲間と居酒屋、それで十分じゃないか。
不相応な金を使うなら、酒を飲むよりも良い竿が欲しい。良いリールを買いたい。
そんな風にルアーにのめり込んでいる頃、彼女と出会った。

 彼女と出会ったときの衝撃を、うまく言葉にすることはできない。
当然私は今よりも若く、未だ『女性』を知らなかった。
キレイな女の子にはドキドキ、水着のポスターにも自然に目がいく。
しかし彼女と結ばれてから、なにもかもがすっかり変わってしまった。

1457『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:34:38 ID:G0n00Y.g0
 彼女以外の女の子はどこかボンヤリとして影法師のように見える。
TVで好みの女優を見かけると、彼女の面影が思い出されて仕方ない。
顔も体も、もちろん心も、世界一美しい女性に、私は出会ってしまった。

 その確信は今も全く変わらない。変わるはずがない。
私の周りの、影法師のような女の子。TVの画面には、彼女に少し似た女優。

 最初で最後、ただ一度だけ。それが妻との出会い。
どんな出会いも、もう私には必要ない。

1458『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:36:18 ID:G0n00Y.g0
 「これが、何なの?普通に、良いお話じゃない。」 Sさんは悪戯っぽく微笑んだ。
「はい。良い話だとは思いますよ、僕も。ただ、何だか違和感が。」
「だから、その違和感の原因は何?」
「ええと、あの。同意出来る部分と出来ない部分があって。
例えば、僕もSさんとLさんは世界一綺麗な女性だと思います。」
「あら、ありがと。世界一が二人って矛盾には突っ込まなくて良いの?」
「そうじゃなくて、Sさんが世界一なのは、Sさんがダイヤだからで。」
「ダイヤ?」
「この世で最高の宝石がダイヤなら、Sさんは間違いなく。Lさんも、翠も。」
「なるほど、そういう意味なら確かに、瑞樹ちゃんもダイヤだわ。」
「そう、だから『影法師』という表現には同意出来ません。
自ら望んで汚したのでもなければ、どんな女性も宝石や原石である筈です。
何より『どんな出会いも、もう私には必要ない。』という表現は。」

1459『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:36:48 ID:G0n00Y.g0
 「世界一美しい女性と結ばれたなら、その娘にも逢いたくなる筈ってことね?」
「はい。」 Sさんは微笑んだ。「とても、興味深い。次の報告に、期待してる。」

 そうは言っても、技巧を越え『魂』が編んだ文章を読み、
その真意を理解するにはかなり時間がかかる。勿論えらく疲れる。
しかも抱えている依頼が他にも複数有るし、作業はなかなか進まない。
しかし、やっと見つけた。2人の『馴れ初め』が記された文章。

1460 ◆iF1EyBLnoU:2017/11/30(木) 22:38:33 ID:G0n00Y.g0
皆様今晩は、再び藍です。

現在知人のOKを貰っている所までを投稿致しました。
順調なら続きは明晩、此処で。それでは御機嫌よう。

1461 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 01:15:41 ID:/8UbntgU0
皆様今晩は、藍です。

『風の花』続きを投稿致します。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

1462『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 01:22:09 ID:/8UbntgU0
『第一印象』と『第一投』

 例えば、初めての釣り場に立つ。
『第一印象』とは地形や風向き、陽光の方向と角度...
それだけでなく、例えば大量のゴミが捨てられていたら、
その場所での釣果など、普通は期待しない。
しかし、釣り人は業の深い人種だから、それでもルアーを投げる。
「折角、来たんだし。」 その結果が、『第一投』。
ただ、釣り場の『第一印象』と『第一投』は全く違う事があるから厄介だ。

1463『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 01:24:28 ID:/8UbntgU0
 竿を継ぎ、用意してきたルアーを投げる。
それが『第一投』。でも『第一印象』と同じとは限らない。
『第一印象』は最高なのに、全く釣れない事もある。
逆に『第一印象』は最悪でも、思わぬ好釣果があり得る。
他の釣りは殆どしないから、例えば浮子釣りでも同じなのかは知らない。
しかし、ルアー釣りの『第一投』は特別な意味を持つ。
何故なら、一投目にヒットする可能性がかなり高いからだ。
ヒットに至らなくても、一投目で重要な情報が得られることは多い。
ルアーが着水した辺りに不自然な波紋が浮かんだり、
時にはルアーを追ってくる魚の姿が見えたりする。
それらの情報をもとに戦略を練り、しばらくしてからキャスト
狙い通りに即ヒット、というのは良くあるパターン。

1464『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 01:26:34 ID:/8UbntgU0
 逆に数投して何の情報も得られないときはかなりキビシイ状況。
手を変え品を変え探るとは言っても、一日中釣りばかりできる身分ではない。
1日にせいぜい正味一時間ほどの釣りでは、だから
釣り人のテクニックや根気よりも、ポイントの状況や魚の活性が釣果を決める。
いかにも良さそうなポイントで苦戦しているベテランに遠慮して、
少し離れたポイントに立ったビギナーにあっさり良型がヒット、というのも日常茶飯事。
どうしても釣果が欲しいなら、移動しながらいくつかのポイントを手早く探る、
いわゆるランガンスタイルの方が効率が良い、と思っている。
(活性の低い魚を誘って食わす技量がない下手の意見だが)

1465『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 01:28:14 ID:/8UbntgU0
釣りだけではない。人間関係を築くときにも、
『第一印象』よりも『第一投』の方が大事ではないかと思う。
往々にして視覚的な情報に基づく『第一印象』の後、
その後の人間関係を左右する『第一投』」が必ずある。
休憩時の何気ない世間話だったり、一緒に仕事をしながらのふとした仕草だったり。
将来深い人間関係を築く二人は、たとえ第一印象が最悪であっても
それを覆すような決定的な何かを『第一投』で伝えあい、互いの存在感を増す。
その何かを伝えあえない二人は、どんなに『第一印象』が良くても
次第に互いの存在感が希薄になり、互いがその他大勢の中のひとりになってしまう。

1466『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 01:29:33 ID:/8UbntgU0
 妻と出会った後しばらく、まともに彼女の顔を見ることができなかった。
気軽に話しかけることがためらわれるほど、彼女は美しかったから。
だから当然、彼女から話しかけられても、緊張して無愛想な返事になってしまう。
きっと本来なら、二人の時間が重なることはなかっただろう。
ところが突然やってきたのだ、幸運な『第一投』が。

 ある日、無性にインスタント焼きそばとカップラーメンを両方食べたくなった。
買い物袋を抱えて給湯室に入ると、彼女が一人で座っていた。
(二人きりになるのはそれが初めてだった)
ドキドキして食事どころではないが、不自然に部屋を出るわけにもいかぬ。
多目に沸かした湯を、焼きそばとラーメンの容器に注いだまでは良かったが、
やはり動転していたのだろう、湯切りの時に焼きそばの麺を流し台に零してしまった。

1467『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 01:31:10 ID:/8UbntgU0
 思わず「あ〜っ!」と声を上げたのが面白かったのか、
彼女は悪戯っぽく「それ、食べられるんじゃないですか?」と笑った。
咄嗟に「空腹は一時、でも、落とした麺を食ったという評判は一生ですから。」
とかなんとか答えたと思う。
この場合、落とした麺を食べたとしても、それを彼女以外見てはいない。
今思えば、それはかなり失礼な物言いだったかも知れぬ。
しかし、それがなぜか大いにウケた。
彼女がこんな、まるで少女のように瑞々しい笑顔で笑うのかと意外だったが、
その煌めく笑顔をできるだけ長く見ていたくて、
残ったラーメンを食べながら懸命に言葉を継いだ。

 その事件以降、彼女は何かと笑顔で話しかけてくれるようになった。
零した焼きそばの麺が『第一投』というのはいかにも間の抜けた話で、
その時一体何が彼女に伝わったのか私には知る由もない。
しかしその事件は、私にとって空前絶後の『第一投』になった。

1468『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 01:32:30 ID:/8UbntgU0
 「これなら、私にも分かるわ。あなたの違和感の原因。
本当に世界一の美女だったなら何故?ってことね?」
「はい。でもどうしてそれが?」
「だってホントに『世界一』美しい女性なら何故、その時まで?」
そう。それ程美しい女性なら既に相手がいても不思議じゃ無い。
第一、昼ご飯時にただ一人、給湯室にいた事自体が不自然ではないか。
その女性と誰かが一緒にご飯を食べていたというなら分かるが。
「その、『隠されていた』と考えるしか。」
「『隠していた』のかも知れないわね。もしそうなら...」
残っていたハイボールを飲み干したSさんは、少し緊張した表情。
「今夜この件の話はお終い。」

1469『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 01:37:48 ID:/8UbntgU0
『天津風』

 春も夏も秋も冬も、一年中飽きもせず釣りに出かける。
遠近の磯や、いつもの波止を歩いていると、
心の奥から、かつて口ずさんだ和歌が零れて来る事がある。

 何となく理系の大学に進学したものの、高校生の頃はどちらかというと
現代文や古典の成績が良かったし、何より和歌の授業を聞くのが好きだった。
しかし父のたっての希望もあり、そのまま理系の大学院を出て就職。
暫くは仕事に追われ、雅な和歌などは縁遠いものになっていた。

 しかし。やがて仕事に慣れると、まるで血に導かれるように海岸に立った。
釣りを再開。季節の移り変わりを肌で感じ、美しい景色を眼にして、
心の片隅に仕舞い込んでいた文学青年気取りの気質が蘇ったのかも知れない。

1470『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 01:38:48 ID:/8UbntgU0
 島の職場に赴任した直後、初めて出かけた磯の、何となく心細い夜釣り。
「和田の原 八十嶋かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ あまの釣り舟」

 夜明け前の河口。仕掛けられたカニ網の浮子がボンヤリ見えてくる。
「朝ぼらけ 宇治の川霧 たへだへに あらはれ渡る 瀬々の網代木」
 
 暑い暑い夏の、青く眩しい水平線に海鳥が飛んでいる。
「白鳥は 哀しからずや 空の青 海の青にも 染まずただよふ」

1471『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 01:39:53 ID:/8UbntgU0
 職場の同僚になった妻を、初めて見た時に零れてきた和歌がある。
あまりに美しく、まともに声もかけられないが、勤務時間中なら彼女に会える。
終業時刻が来なければ良いと、願い続ける自分の姿を予知していたのか。

 「天津風 雲の通い路 吹き閉じよ 乙女の姿 しばしとどめむ」

 この歌を知ったのは高校2年の初夏。古典の授業中、突然歌の意味を問われ、
「天女のように美しい恋人を帰したくないという歌だと思います。」と答えた。
普段は厳しい先生が困ったように微笑んで、それでも何故か大いに褒めてくれた。
本当は、大切な儀式で踊る舞姫を讃えて詠んだ歌だと、知ったのはずっと後のことだ。

1472『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 01:41:18 ID:/8UbntgU0
 妻と逢瀬を重ねるようになってからも時折この歌は心に響き、
少年の日の夢、天女のように美しい恋人をこの腕に抱く幸運を実感させてくれた。
ただあまりに面映ゆくて、この歌のことは妻に話せなかったし、
仕事の都合で暫く釣りから離れている間に、そんな記憶もすっかり薄れていた。

 ところが、である。
今年の正月3日、里帰りしていた妻から写真を添付したメールが届いた。
妻は家の事情で毎年11月の半ばから正月にかけて長い里帰りをする。
私の仕事では連続した休みは取れないから一緒には行けない。
電話やメールで『寂しい』と嘆く私を哀れんで、時折写真を送ってくれるのだ。
写真の中の妻は晴れ着を着て、透き通るように笑っている。
何年ぶりだったか、その澄み切った笑顔の向こうから、突然響いてきた。

 「天津風 雲の通い路 吹き閉じよ 乙女の姿 しばしとどめむ」

 何と美しいのだろう。本当に、これが私の妻なのか。
一瞬でも長く生きて、いや、できれば死んだ後でも、ずっと見ていたい。
そんな自分が可笑しくて、その日は返事のメールを書けなかった。
これ以上の幸せなど、あり得ない。あり得る筈がない。

1473『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 02:02:24 ID:/8UbntgU0
 やっと見つけた糸口。そう思った。
どう考えても、これは普通じゃ無い。
『天津風』。この和歌は特別。作中の言葉通り、あの儀式の舞姫を讃える和歌。
和歌の素養がある人なら、舞姫の美しさを感得出来る人なら尚更、
生身の女性をこの和歌の舞姫になぞらえるのを、本能的に避ける筈なのだ。
(それは畏怖。娘を美神になぞらえて、不幸を招いた王の轍を踏まぬように。)
しかし、この男性は躊躇う事無く、妻を舞姫に重ねた。
この男性の妻とは一体? 心の奥で、Sさんの言葉が響いた。
『隠していた、のかも知れないわね。もしそうなら、その女性は...』
多分、辿り着くべき答への道まで、もう一歩。

1474『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 02:04:56 ID:/8UbntgU0
『3000回』

 ヒマを見つけて毎日毎日波止に通っていると
「よくもまあ飽きずに。」という人がある。
「釣りをしなければ飢えて死ぬわけでもあるまい。」
「第一、魚なんぞスーパーで買った方がずっと安い。」
と続く。まあ、色んな考えがあるわけで、反論しても仕方ない。
しかし、少なくとも「飽きる」ことはない。
釣りを始めて何年になるか、私は未だ釣りに飽きてはいない。

 例えば昨夜のタチウオと、今夜のタチウオは違う。
さっき釣ったカマスと、今掛かっているカマスも違う。
別の魚だというのではない、感動が違うのだ。
毎回毎回新しい感動があり、次への期待がある。
そしてごく稀に、期待をはるかに超える大物に出会う事もある。
それなのに、毎日波止へ通う事を、苦労だと感じる訳があろうか。
まして、飽きることなどあろうはずもない。

1475『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 02:05:42 ID:/8UbntgU0
 妻と出会って、驚いた事がある。
毎朝出会うたびにどこか昨日の彼女と違っているのだ。
気があるから、つい視線の端で彼女の姿を追っている。
姿も顔も、全部憶えているはずなのに、次の日はやはりどこか違う。
つきあい始めてからもそれは変わらなかった。
逢う度に彼女の新しい魅力に気づき、想いは募る。
逢う度に彼女に恋をした。もちろん今も。

 妻と出会って2年と少し。1日に4回彼女に恋をしたなら、
既に3000回の恋をした計算になる。

1476『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 02:06:46 ID:/8UbntgU0
 やはり、そうだ。その女性はただの人間ではない。
際だって魅力的な人間は確かにいる。並外れた美貌や才能。
しかし、毎日毎日どこか違う、そんな事があり得るだろうか。
まして1日に4回もなんて。『その度に恋をした』というのだから、
仕事の疲れでやつれたと言うような類いの変化ではない。
例えば、朝の出勤時と夕方の退勤時はどこか違っている。違う魅力の一面が見える。
同じ服なのに? 同じ人間なのに? 同じ魂なのに?
...「あの人」、姫の母親に近い事例だったとしたら。

 その人はとても美しくて快活で、魅力的だったと聞いた。
原因は分からないが、神に近い魂が人の肉体に宿り、その結果途轍もない力を持つ。
それならあるいは、万華鏡のように変化する無数の魅力を纏っていたのではないか。
しかしその力が生み出す負荷に、人の体では長く耐えられない。
姫の母親はそれを承知で姫を産み、暫くして亡くなった。
今回の件がそれに酷似した事例だとすれば、ある程度理解出来る。
『行方知れず』だと説明したのは、依頼人を気遣っての事だろう。
自分を産むために、母親が亡くなったと知ったら。
しかし俺の予想は、最後に見つけた作品によって覆された。

1477『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 02:09:47 ID:/8UbntgU0
『海の蛍(仮)』

 その光景を見たのは、仲間達と夜釣りに興じていた新月の晩。

 漆黒の水面下に伸びている道糸が、淡い光の筋になって見えるのに気づいた。
何かと思って手元の小さな懐中電灯を消した。ゆっくりと、闇に眼が慣れてくる。
闇の中に、ボンヤリと浮かぶ緑色の輪郭が見えた。大きさは10cm位。
細長い輪郭の中に、ときどき強い光がチラチラと明滅する。
それが幾つか、ゆっくりと動いている。気付いた時、思わず息を呑んだ。
魚だ。無数の、小さな光が魚を象って瞬いている。
小さい頃に見た星座の絵のような、それはあまりにも美しい光景だった。

1478『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 02:10:53 ID:/8UbntgU0
 海蛍の光自体は、特に珍しいものではない。
しかし道糸や魚の姿が光って見えるほど、たくさんの海蛍を見たことはなかった。
夜の打ち込み釣りだから、確か夏の最中のことだったと思うが、
たまたま海蛍たちのランデブーの晩だったのか。
あれほどの光景を見たのはその一度きり。

 いや、その後一度だけ、似た光景を自分の部屋で見たことがある。
それは妻と正式に付き合い始めて2回目の、正月が開けた夜。
その日恒例の長い里帰りから戻った彼女は夕方から私の部屋を訪れ、
一緒に食事をし、餅を食べながらTVを見て、そして身体を重ねた。
終始にこやかで優しかったが、今思えば、いつもより口数が少なかったと思う。
迷っていたのかも知れない、打ち明けるかどうか。
あの夜、ゆっくりと時間をかけて、話してくれた秘密。

1479『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 02:15:40 ID:/8UbntgU0
 その夜、彼女が私の部屋を出たのは、何時もより随分遅い時間。
秘密を打ち明けた妻にも、それを受け容れる私にも、時間が必要だったから。
深夜、玄関で彼女を見送った後、部屋の灯りを消した。
暫く視界は闇に覆われたが、次第に眼が慣れてくる。

 その時だ。

 玄関から台所へ、床を彩る微かな光に気付いた。水色の、小さな光。
眼が慣れるにつれ、その数は増えた。椅子の上に、台所のシンクに。
そして手を繋ぎ並んでTVを見た、大きな座椅子とクッションに。
小さな光に導かれるように、寝室へ。眼を、疑った。
ベッドには、無数の小さな光。まるで彼女の面影をなぞるように瞬いている。
あの夜彼女と話した事は  (未完)

1480 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/02(土) 02:23:33 ID:/8UbntgU0
皆様今晩は、再び藍です。

今夜は此処まで。
修正作業後、許可が下り次第、結末までの投稿予定です。
(随分と毛色の変わった作品なので、お楽しみ頂けるか心配ですが。)
それでは御機嫌よう。

1481名無しさん:2017/12/03(日) 15:26:45 ID:b7hdtI7M0
藍さん,久々の投稿,ありがとうございます。
とても不思議なお話ですね。
美しき君への恋の歌が紡ぐこの物語が,これからどう展開するのか,楽しみにしています。

1482名無しさん:2017/12/08(金) 22:11:04 ID:jEgnuPd.0
今晩は、投稿有難う御座います。年末に繁雑になってきた仕事の合間に波止で釣りを楽しみながらふと藍さんの掲示板を覗いたらとても素敵なお話が始まっていて夢中で読んでしまいました。潮の匂い、冷たい、湿った風を感じながらも暖かい気持ちになりました。のんびりと続きをお待ちしております。

1483名無しさん:2017/12/13(水) 20:24:51 ID:dSfgpx6.O
次はクリスマスプレゼントかお年玉か

1484 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/14(木) 21:28:50 ID:kdIO4oK20
皆様今晩は、藍です。

少々問題がありまして投稿の許可が下りず、難儀しております。
しかし投稿を始めた以上、あまりお待たせするのも失礼。
修正して、許可が下りた分を今夜投稿致します。
では後ほど。御機嫌よう。

1485『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/15(金) 07:09:33 ID:PuR4QIfQ0
 この描写...これはまるで、『光塵』ではないか。
言わばそれは、残り香のようなもの。
神や高位の精霊と接触した人の体に、接触した場所に、残される光の粒子。
本体の近くでは本体の強い光に紛れて見えない。
本体が去った後で初めて見えるものなのだ。
このお話でも同じ、その女性が部屋を去った後で...いや、待て。
術者で無ければ『光塵』は見えない。この男性に能力があったとしたなら、
その女性を部屋から送り出した夜は毎回それが見えた筈なのだ。
なのに何故、その夜だけそれが見えたのか。一体、その女性は何者なのか。
まさか本当に、化生した高位の精霊がその男性の妻に?

1486『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/15(金) 07:10:41 ID:PuR4QIfQ0
 以前『神婚説話』の実例に関わったことがある。
その件の後、俺は一族に残されている記録を出来る限り調べた。
記録によれば、それらの事例は2つに大別できる。
人が異界へ入る場合と、逆に神や精霊がこの世界に入る場合だ。
今回の事例は後者、いわゆる『天女女房系』。
その場合、ほとんどの事例では、婚姻関係は短期間、数年しか持続しない。
人が約束を破ったために破綻する、という伝承が最も多いだろうか。
そして残された子が国の(一族の)始祖となったという記述も一般的だ。
今回の事例でも、その関係が続いた期間は約3年と考えて良い。
(エッセイの記述では2年+妊娠・出産で1年、計3年。)
今回の事例でも、依頼人の父親が原因で婚姻関係が終わったのか。
しかし、一般的な伝承とは異なる記録を、俺は読んだ事が有った。
不思議な婚姻関係が終わった後、相手の女性と再会したという、記録。

1487『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/15(金) 07:15:27 ID:PuR4QIfQ0
 その女性が生まれ育った里の寺、過去帳の写し。
それによれば、その女性はある日故郷の里から忽然と消えた。
4年後にひょっこり戻ってきたが、その間の記憶は全くなかった。
(もちろん不思議な婚姻関係のことも、生まれた子供のことも。)
夫であった男性は漁師で、急な嵐に流され偶々辿り着いた里でその女性に再会。
驚いた男性は女性や里人に事情を尋ね、神隠しの件を知る。
その男性はあらためてその女性を嫁に貰ったという。
つまり化生ではなく『憑依』。これこそが、物語の実情に近いのではないか。
想いを遂げるため、ある女性に憑依し、意中の男性と結ばれ妻となる。
憑依される女性の側からすれば酷い話だが、高位の精霊の倫理観は人と違う。
そしてある期間が過ぎると憑依が解け、婚姻関係は終わる。とすれば。
依頼人を産んだ女性は何処かで生きている。憑依されていた期間の記憶を無くして。
それなら、探し出す事も不可能ではない。あの人の力を借りれば。
俺は翌朝一番で榊さんに電話を掛けた。

1488『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/15(金) 07:21:01 ID:PuR4QIfQ0
 「その女性の死亡届は出ていないし、捜索願も出ていない。
それについてはR君の予想通り。『憑依』の実例、と考えるのが妥当だろう...」
珍しく語尾をぼかして、榊さんは言葉を切った。受話器の向こう、考え込む気配。
『妥当だろう』とは。何か予想と違う点があるのか。
「ただ、その女性の元の戸籍が見つからない。当然、元の本籍地も分からない。
力業というか、君たちが使う偽装工作の方が丁寧だね。
それで、夫の当時の職場で働いていた女性を全て調べたよ。死亡届や捜索願は皆無。
製薬会社から出向していた職員が2人いるが、どちらも男性。
依頼人の戸籍と出生届には、確かにその女性の名前が記されている。
なのに、その女性が実際に存在していた事を示す書類が他に無い。
調べれば調べるほど、『その女性には辿り着けない』って気がしてくるんだ。
こんなのは、正直、初めてだよ。」

1489『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/15(金) 07:21:56 ID:PuR4QIfQ0
 そんな...予想通りどころか、俺の予想を遥かに超えているではないか。
もちろん榊さんの調査結果は信頼できる。
つまり、『天津風の乙女』は娘を産んで亡くなったのではない。
しかし、元の戸籍が辿れないのなら、高位の精霊の憑依という推理も崩れる。
それなら一体、依頼人を、あの少女を産んだ女性とは。
「ああ、そうだ。依頼人の父親が山で遭難したという新聞記事なら見つけたよ。」
??? 依頼人の父親が遭難? 何故。 「新聞って、当時のですか?」 
「ああ、2☓年前の記事。秋の★山で天候が急変、季節外れの大雪。
捜索隊も出せないような雪だったから、多分駄目だと皆思ってたらしい。
だが怪我一つ無く、2日後に自力で下山してきたそうだ。
これはまあ、参考にならないだろうな。悔しいが、今回はどうやら此処までだ。」
「いいえ、お忙しいのに無理を言って。本当に有り難う御座いました。」
礼を言って受話器を置いた直後。

1490『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/15(金) 07:23:50 ID:PuR4QIfQ0
 「探してる女性は見つかった?」
振り向くと、Sさんが立っていた。 優しい微笑。
「いいえ、記録が残っていないそうです。元の戸籍も職場の資料も。」
「依頼人の、父親の幽霊が出るというお屋敷の住所は?」
「○×市です。◎県の。」
「そう、なら一石二鳥ね。間違いなく、私が受けた依頼と関係がある。」
「どういう、事ですか?」
「依頼人と、いいえ、遍さんと連絡を取って頂戴。私が、その依頼人に会うわ。
場所は依頼人の父親の幽霊が現れるという、そのお屋敷。」
別々の、二つの依頼。その垣根をSさんが自ら越えるとしたら、只事では無い。
「Sさんの受けた依頼って。」
「◎県の古い神社から『雪乞い』の依頼、いいえ、『冬乞い』かしらね。」
「どういう、事ですか?」
「初雪が遅れてるのは知ってるでしょ?」 「はい、でもそれは温暖化の。」
「年神様の到着が遅れていて、冬が来ない。その神社ではそう考えてる。」

1491『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/15(金) 07:25:07 ID:PuR4QIfQ0
 「年神様?本当に?」
「彼の地の伝承では、そうね。
秋の終わり、年神様の御役目を果たすために★山から◇★神社へ御渡りになる。
そして◇★湖を御通りになる時『御神渡り』が起こる。」
何かが、心の隅に引っかかっている。だが、それが何なのか、もう少しで...
「R君、どうかした?」
「あ、いえ。つまりSさんの受けた依頼は、年神様に早く来て頂くように、と。」
「そう。でも代々彼の地で祀りをしてきた宮司達の声も届かない。
そんな状況で何が出来るか。Lと一緒に、ずっとそれを調べてた。」
Sさんだけでなく、姫も一緒に、それなら。
「『青の宝玉』で?」 Sさんは優しく微笑んだ。
「冴えてるわね。確かにそれで、多分雪は降らせる。
でも年神様に来て頂けなければ失敗。例え雪が降ったとしても。
何とか★山の御社から出ていただかないと。」
!!そうだ、★山。心の隅に引っかかっていた名前。 「あの、Sさん。」 「何?」
「依頼人の父親が★山で遭難したという記事を見つけたんですよ。榊さんが。」
Sさんの瞳が、青白く光ったように見えた。 「それ、何時頃の話?」
「2☓年前です。まず助からないだろうって位の大雪だったそうですけど、
2日後に自力で下山してきたらしいです。それも、全くの無傷で。」
「それで繋がったわ、全部。」 「どういう、ことですか?」

1492『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/15(金) 07:26:13 ID:PuR4QIfQ0
 「何処で何を調べれば良いのか分かったの。
あなたのお陰で、とても重要な『鍵』を手に入れたから。」
「『鍵』?」 「あなたの依頼人、正確にはあなたの依頼人の母親。」
「あの、あの娘の母親と年神様に関わりが?」
「勿論。だって『憑依』じゃないなら、それは『化身』って事でしょ。」
「あ...まさか。」 「その、まさかよ。」 Sさんは悪戯っぽく微笑んだ。
「年神様は陰神、つまり女性。年神として冬を統べる期間以外は、
化身してその男性の妻として過ごしてた。そう考えるしか説明がつかない。」
!? そう言えば、あのエッセイ『天津風』の中に。
「その女性は毎年11月半ばから正月明けまで長い里帰りをしたと、お話の中に。」
「やっぱり、間違いない。」 Sさんは上機嫌でハイボールの残りを飲み干した。
「さ、もう寝ましょ。明日朝早く、Lと一緒に出かける。子ども達をお願いね。」

1493名無しさん:2017/12/15(金) 08:00:55 ID:UuOl1ZqcO
藍さん投稿ありがとうございます。
とても好きな内容のお話です(^O^)
依頼解決の兆しができて良かった

1494 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/21(木) 22:21:36 ID:ck6/EN9.0
皆様今晩は、藍です。

お待たせして申し訳有りません。
『風の花』の続き。現在、許可を頂いた部分までを投稿致します。
結末までの投稿を目指して鋭意努力しておりますので
気長にお待ち頂ければ有り難いです。

1495『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/21(木) 22:24:23 ID:ck6/EN9.0
 Sさんと姫が二人で出かけた日から3日目の午後。
俺たちは家族全員揃って○×市を訪れた。
数ヶ月前、Sさんが購入した7人乗りの大型ワゴン。多分初めての、日本車。
これなら何かの機会(例えば今回のような)に家族全員が乗れる。
ただSさんは自分で運転する気はないようで、姫と俺が運転の担当。
気持ちよい秋風(季節外れ?)の中、2時間程で○×市に到着した。
ただ、そのお屋敷で依頼人に面会するのはSさんと俺。姫と子供達は車の中。
車を出て歩く。Sさんに指示された手順を何度も、心の中で確かめながら。

1496『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/21(木) 22:25:13 ID:ck6/EN9.0
 「わざわざこの家で、私に聞きたい事とは何ですか?」
応接間のテーブルを挟んで向かい合う、依頼人とSさん。
落ち着いた雰囲気の応接間はしかし、怖いほどの緊張感に満ちていた。
「父上がこの世に留まり、探しておられるものについて。
あなたの心当たりを伺いに参りました。」
Sさんの口調も、年下の依頼人に対するものとは違う。
「父が探しているもの...一体何故、父が何かを探していると。」
「父上が迷っておられるのは、この場所に心残りがあるからでしょう。
そしてその心残りはおそらく地図か手紙。それを探しておられる。」
「父が自身の持ち物の在処を知らないなんて。そんな事が。」

1497『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/21(木) 22:25:54 ID:ck6/EN9.0
 「死者は自ら望む姿で現れます。確か父上は若い頃の姿で?」 「はい。」
「そういう変化にともなって、記憶が一部欠けてしまうことがあるようです。
いわゆる『幽霊』が自分が死んだのを理解していない事が多いのも同じ理由。」
「それで父は私の事を?」
「はい。おそらく父上の記憶は貴女が生まれる前までで途切れているのでしょう。
だから父上はその在処を知らない。それで。」
「では、その手紙は、一体誰から。」
チリ...視界の端で、銀色の火花が散った。
Sさんは確かに『地図か手紙』と。しかし今、依頼人は確かに。
「当然、母上でしょう。来たるべき時、お二人が再会するために。」
Sさんの集中力が高まっていく。空気は益々緊張感を増した。

1498『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/21(木) 22:26:38 ID:ck6/EN9.0
 「再会、では既に母も...」
Sさんは真っ直ぐに依頼人を見詰めた。
「心中、お察し致します。しかし今は父上の迷いを解き、
お二人の再会を実現するのが一番の大事。」
「でも、その手紙は一体何処に?」
「ですから貴女の心当たりを伺いたいのです。父上から何か。」
「いいえ、私は」 何かを思い出そうとするような、表情。
依頼人は言葉を切って俯いた。 「私は、何も。」
Sさんの目配せ。 俺は立ち上がり、依頼人の傍らに膝を付いた。
深く息を吸い、下腹に力を込める。
『忘れてしまったのです。もう随分と、昔の事ですから。』
依頼人はハッとしたように顔を上げた。 「忘れて?」
『でも大丈夫。すぐに、思い出します。』
依頼人の目から涙が零れた。成功だ。
「怖かったのです。私は。」 「どうして、怖かったのですか。」
注意深く、依頼人の心から流れ込むイメージに同調する。

1499『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/21(木) 22:27:50 ID:ck6/EN9.0
 「◇、これを読んでみて。」 「これ、なあに?」
「お母さんからもらった手紙だよ。読める?」
「うん、読める。え〜と、・・・・・」
「本当に、読めるんだね。」 「だって。」
「ね、◇。約束しておくれ。私が死んだら、この手紙を読んで聞かせるって。」

 突然イメージが乱れ、やがて途切れた。
その記憶を、心の奥に封じてしまったのも無理は無い。
愛する父が何時か死ぬ。そして死んだ父にその手紙を読み聞かせる。
母を知らぬ子に、それはどれほど恐ろしいイメージだったろう。
そして同時に、無垢な心は感じ取っていたのだ。
『読めるんだね』 父の、その言葉に潜む意味。

1500『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/21(木) 22:28:45 ID:ck6/EN9.0
 「父が死んでしまう。私、それが怖くて。」
それは無意識の仕草、だったろう。 依頼人は胸の真ん中辺りに右手で触れた。
間髪を入れずSさんが問いかける。
「今、右手で触れたのは?」 「え?」 「その、右手の下にあるもの、です。」
「これは、御守りで。」 「父上から?」
「はい、幼い頃からずっと...あ。」

 依頼人は御守りの袋を開き、折りたたまれた紙片を取り出した。
ゆっくりと紙片を広げる指先が、微かに震えている。
広げ終えると、依頼人は紙片を持ち替えて半回転させた。
「読めますか?」 「はい。」
「父上から託された時と同じ、ですね?」 「そう、思います。」
やはり何か、とんでもないものに関わっている。背筋が冷えて、震えが来た。
その紙片、父親から託されたという手紙は、白紙だった。

1501『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2017/12/21(木) 22:29:28 ID:ck6/EN9.0
 「父上の迷いを解く方法が分かりました。」 「それは、どんな?」
「7時55分、此処でその手紙を読んで下さい。
一言一言しっかりと声に出して、父上に聞かせるおつもりで。
同時に、私たちはある場所で儀式を行います。
タイミングが重要ですから、7時55分ぴったりにお願いします。」
「本当に、それで父の迷いは...私は未だ。」
Sさんは立ち上がり、テーブルを回り込んだ。依頼人の傍らに片膝を着く。
「我らが一族と、私自身の名に賭けて。ですから、どうか。」
「分かりました。あなた方を信じます。」

1502名無しさん:2017/12/22(金) 01:57:24 ID:KoVGbPSAO
藍さんありがとうございます
Sさんの心情を察する配慮と観察力が凄いです

1503あるくむ:2018/01/18(木) 19:07:15 ID:GA7rWdf20
しばらく待機と諦めて、過去エピソードを最初から読み直したら、3日かかりました。通勤の合間だから仕方ないですけど。いつの間にか壮大な話になってたんだと気付かされます。
そして結局、さらに続きが気になるというね。

1504名無しさん:2018/01/19(金) 21:33:51 ID:Y0iFIYOQ0
気長に待つわん

1505 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 22:53:19 ID:Q1cky6XA0
皆様今晩は、本当にお久しぶり。藍です。

『風の花』の投稿を始めて早2ヶ月。
前回の投稿終了後にストップがかかり、
思わぬ長期間が過ぎてしまいました。

知人と私が問題ないと感じても、決して確認を怠ってはならない。
皆様の御期待を裏切り続けてしまったことは心からお詫び致しますが、
それは今後も投稿を続けるために不可欠だったと思っています。

さて、ようやく結末まで投稿する許可を得ました。
不自然に思われる部分は以上のような事情によるものと御理解下さい。
では『風の花』結末まで、お楽しみ頂けると良いのですが。

1506『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 22:55:12 ID:Q1cky6XA0
 約束の7時55分まであと1時間、ワゴンは姫の運転で山道に入った。
子供達の寝息を包み込むように、力強いエンジン音が響いている。
「何故、母親の事を教えて上げなかったんですか?
いや、むしろ彼女も一緒に来て貰った方が良かったんじゃ。」 
Sさんは少し困ったように微笑んだ。
「神の子、と言えば聞こえは良い。天女女房系の神婚説話なら、
残された『神の子』は大人物になるのがお決まりだし。」
「それだけじゃない、って事ですか?」
「神の子は、重要な『使命』を帯びて生まれる。そういう意味で伝承は正しい。」
「使命...天命とは違うんですね。」
「私たちが力を持って生まれ、術者になったのは天命。
でもどんな依頼を受け、どんな風に仕事をするかまで決められている訳じゃ無い。
使命はもっと詳細で具体的だとされてるの。
何々の国の王になる。あるいは何々の一族の始祖になる。」
「選択の、余地がないって事ですか?」 「ご名答。相変わらず、冴えてる。」
Sさんはコンビニで買ったコーヒーを一口飲んだ。

1507『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 22:56:09 ID:Q1cky6XA0
 「神々の世界と私たちの世界は、重なって存在してる。
神々の世界の一部として私たちの世界が存在する。そんな感じかしらね。
ただ神々と私たちの在り方は違うから、2つの世界の間に時々歪みが生じる。」
「神の子は、その歪みを解消する使命を帯びて生まてくれる、と。」
「そう。生じる歪みを予知し、破綻を防ぐために挿入される、因子。」
世界の歪み。その予知と対策。それは確かに、神々でなければ不可能な、御業。
「だから神の子は王や始祖として人々を導く。」
「そう、あるいはその命を贄として、世界と時の流路を変える。」
「贄?」 「誰にも知られずに、ね。そういう使命も、あると聞いたわ。」
神々の血に連なる命、それを贄として。誰にも知られずに?
Sさんが依頼人に母親の正体を話さなかった理由が分かった気がした。
そして不自然とも思えるほど、礼を尽くして依頼人に接した理由。

1508『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 22:56:58 ID:Q1cky6XA0
 Sさん自身が幼くして、両親との別離を体験した。だから。
逃れられぬ『使命』を背負う少女に、心の奥深くで共鳴しているのだろう。
「彼女も薄々気付いている。自分が他人と『違っている』事に。
だけど使命を知るのは、その時で良い。知らなくてもその時は来るのだし、
例え本人が知らないままでも、使命は必ず果たされる。」
世界に生じる歪みを解消するためと知れば、自分の死を受け入れられるだろうか。
しかし『本人が知らないままでも使命は必ず』って...。
神の子の光と影。影も、光と同じだけ存在してきたのだろうか。

1509『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 22:57:53 ID:Q1cky6XA0
 「もう1つ、質問があります。」 「何?」
「質問の前に確認を。神の子を産むために神が人と結婚するのだとしたら、
神の子が生まれた時点でその目的は果たされる。だからほとんどの場合、
その関係は短期間しか続かない。そういう理解で良いですか?」
「それで良い、と、思う。」
「それなら妊娠までの期間は、短ければ短い程良い筈ですよね。
何故、この件では妊娠まで2年もの月日が?」
神の化生なら当然、望む結果を実現させるのに十分な力を持っているだろう。
妊娠するのに、2年もの期間など必要ない筈なのに。

1510『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 22:58:55 ID:Q1cky6XA0
 子供達は皆寝ている。Sさんは黙って丹の頭を撫でた。
不意に、運転席から姫の声。
「神の子を産むための出逢いじゃなかったから。私は、そう思います。」
「それは、どういう?」 
「年神様はその男の人を本当に愛しておられたのでしょう。
だからこそ今、哀しみに心を閉ざしておられる。
死後の再会を誓っていたけれど、何か重大な手違いが起きた。
それでその男の人の魂が迷い、未だ再会出来ないんです。」
「手違い?」
確かに、今までの経験からして、神々と言えど全能ではない。しかし。

1511『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:00:22 ID:Q1cky6XA0
「多分、Lの言う通りだと思う。」 「どういう、事ですか?」
「その男の人は昔、★山で遭難したってお話でしたよね?」
「はい。誰もがあきらめていたけれど、全くの無傷で...そうか。」
季節外れの、とんでもない大雪。真冬の重装備でも助かるかどうかの。
しかし、依頼人の父親は助かった。怪我1つなく。それが神様の御加護だとすれば。
しかも年神として冬を統べる期間以外、その神様は★山に祀られている。
おそらく2☓年前、その大雪の夜に出逢ったのだ。
「その日、連れて行く事も出来たのに、そうしなかった。
人の世で、その男の人の妻として暮らすことを望んだから。」
バックミラーに写る姫は微笑み、Sさんは小さく頷いた。

1512『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:01:25 ID:Q1cky6XA0
 「きっと、何か事情が変わったのね。
突然『神の子』が必要になって、その御役目が陰神さまに託された。
既に私たちの世界に降りている神様なら、新たに派遣するよりずっと早いから。」
「そんな事情でも、子供と離れなければいけないんでしょうか。」
だって、今の今まで、俺はただの1つも知らない。
『母親』が最後まで夫や子と一緒に暮らしたという天女女房系の伝承を。何故?
「その男性を愛していたから、当然、生まれた子は愛しい。
でも、むしろそれは稀なケースでしょう。
ほとんどは、神の子を生むための関係ですから。それでも。」
不意に黙った姫に替わり、Sさんが言葉を継いだ。

1513『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:03:10 ID:Q1cky6XA0
 「どんな、どんな事情があれ自分が産んだ子は、愛しい。」
そうだ、以前も聞いた事がある。神や高位の精霊と、人の倫理感の乖離。
「だからこそ、その愛情が子供の運命に干渉し、『使命』を妨げてはならない。
愛しいからこそ、子供と離れる。そういう、定めなんでしょうね。」
ならば、あの少女も母親に愛されていた、いや、愛されている。そう信じたい。
母親と別離れた定めは、愛されていたから、と。

1514『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:03:59 ID:Q1cky6XA0
 「あの少女を1人で、一生掛けて育てるために男性は人の世に残った。
そして神様は少女のために、男性が人生を全うするまで待っていた...」
「そうとしか、考えられない。今回の件は、そのために起きた手違い。」
「きっとその男の人は誓いを立てたんだと思います。」 「誓い?」
「その子が一人前になるか、自分の命が尽きるまでは、必ず傍にいる、と。」
「それなら何故、こんな手違いが。」
「幸いにして、愛する『半身』を失う辛さを私たちは知らない。
でもそうなったら、1人で耐えられるかしら。日々の生活に、子育ての重圧に。
子を残して、『半身』の後を追った例は少なくない...もし私が」

1515『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:05:03 ID:Q1cky6XA0
 確かに。 今、Sさんと姫を失ったとして。それでも俺は子供たちを?
そうか。その男性は自ら退路を絶ったのだ。愛する妻と、娘のために。
「だから『手紙』を娘に託したんですね。再会の方法か、場所が記された手紙。
その指示に従うのは必ず、自分の役目が終わってから、と。」
「そう、その男性は自分の、人間の弱さを良く知っていたから。
でも陰神様は違う。どれだけその男の人を、娘を愛しても、
人間の弱さを正確には予測出来なかった。
弱さを克服するために、人が一体何をするかということも、ね。
間違いなくそれが、手違いの原因。」

1516『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:06:33 ID:Q1cky6XA0
 その時、俺は理解した。
天女女房系の神婚説話が必ず、人間の『狡さ』や『裏切り』に言及する理由。
倫理の基準は違っても、愛した人間を神々が疑う事はないし、迷う事もない。
しかし、人の心はそこまで強くはない。伝承はおそらく、それを暗示している。
この件も同じ。人の心の弱さゆえに、男性は娘に手紙を託し、娘はその記憶を封じた。
心の弱さは人の欠点。しかしそれが『覚悟』を生むのなら、美点であるとも言える。
その時、滑らかだが無機質な電子音声が響いた。GPSと連動した、最新鋭のナビ。
『次ノ交差点ヲ左折、目的地マデ約2km、デス。』
「さて、いよいよね。翠を起こして。儀式の前に最終確認。」
斜陽に染まる山道の奥、目的地の御社が見えた。
6時半。約束の時間まで、あと25分。

1517『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:07:38 ID:Q1cky6XA0
 6時45分に姫が『青の宝玉』の力を借りる。それが、儀式の始まり。
御社の周りに雪が降り出したところでSさんと翠が謡で陰神さまの注意を引く。
それから少し遅れて、あのお屋敷では依頼人が手紙を読み上げる。
俺たちには読めない、白紙の、手紙。
それがSさんが指示した段取り。今回、俺は藍と丹の子守担当。
『陰神様が御心を閉ざしたままでは話にならない。』
以前そう言ったのは他ならぬSさん。
宮司たちの声も届かないのにと訝しむ俺に、Sさんは微笑んだ。
『御心を閉ざした神様に振り向いて頂くなら、特に陰神様なら策はただ1つ。』と。

1518『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:08:58 ID:Q1cky6XA0
 「そろそろ時間。L、お願い。翠も、準備良いわね?」
最終確認の後、Sさんは胸の前で柏手を1つ。それが『始まり』の合図。
首に掛けていた『青の宝玉』を、姫は両掌で捧げた。古い言葉が空に溶けていく。
しん、と、空気が冷えた。
宝玉が漆黒から深い青に色を変え、柔らかな光に包まれる。
何時の間にか、辺り一面を綿雪が舞っていた。 何と不思議な光景だろう。
数多の星が瞬き始めた雲一つない蒼空。そこから舞い降りる風の花。
それらは地面に降りると幻のように消える。
地面の温度が零下でないから融けるのか、あるいは現実の雪ではないのか。
その光景はまるで、御社の周りを祓い清めるかのようだ。
「お父さん。ホントに、雪がふったよ。すごい。」 藍が小声で囁いた。
「そうだね。でも今は黙って、お母さんとお姉さんたちをしっかり見ているんだよ。」

1519『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:09:46 ID:Q1cky6XA0
 藍が小さく、しっかりと頷いた直後。

 『目出度い、今夜は本当に目出度い。』
しっとりと柔らかな、落ち着いた声。Sさんの謡。

 『もし、そこな巫女。一体、何がそんなに目出度いと言うのか?』
鈴を振るような声がそれを追いかける。これは翠の謡。

 術者に成り立ての頃、古の言葉を聞き取れず、当然その意味も分からなかった。
だが俺の適性と修行の成果か、今はその意味をほぼ理解できる。
ただ、これでは役割が逆ではないか? 本来なら、翠が巫女の役を。
年齢や役割の設定からしても、その方が自然なのに。
俺の些細な疑念をよそに、二人の謡は淀みなく続く。

 『その眼は節穴か。この雪を見よ。ようやく年神様が御渡りになり、冬が来る。』
『何を言う。年神様は未だこの御社にお籠もりの筈であろう。』

1520『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:10:39 ID:Q1cky6XA0
 『天岩戸』の故事をなぞる。 新たな年神様が現れたと偽って、陰神様の気を。
しかしこれは、危うい。確かに、Sさんと翠の2人なら◎命の役を。
だが、僅かに開いた岩戸を押し開く●の命。
もし、Sさんの見込みと違ったら、一体誰がその役を務めれば良いのか。
姫の『声』や俺の言霊はもちろんだが、Sさんですら、そんな力を持ってはいない。
いや何よりも。偽りで神を騙れば、相応のリスクを背負うことになる。
おそらくSさんの策以外に方法はない。それは確かだ。
しかし、神々と人の倫理観は異なる。
再会を媒することが出来ても、それでリスクを避けられるとは限らない。
もしその方便を咎められるとしたら...
!? そうか。だからSさんが新たな神の出現を騙る巫女の役を。
もしもの時は自分一人がその責を負う気で。そんな。

1521『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:11:28 ID:Q1cky6XA0
 『新たなる神。年神様が、この地に冬をお恵み下さる。』
『新たな年神様とな。ならばそれは、一体どのような神であるか。』
Sさんは右手で大きく撫でるように地を掃き、次いで静かに天を指した。
『その御威光もて冬を統べる、青き龍の神。目出度い目出たい。』

 微かに、地面が揺れた。何か途方もない気配が御社の地下から。
姫は微笑んで、宝玉を首にかけた。その色は元の漆黒に戻っている。
それなら今、此処に降っている雪は...
気配は湧き上がるように地下から御社へ。
今、その注意は確実に俺たちに、いや、Sさんに向けられている。
思わずSさんの顔を見た、もしもこの後の筋書きが狂ったら。
「大丈夫、●の命のお出ましだわ。ほら。」
Sさんの視線を辿る。御社の正面に、初老の男性が立っていた。 
夜目にも鮮やかな、銀白色に光る髪。

1522『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:12:08 ID:Q1cky6XA0
 『・・り・・・約束・・・・は・・の・まえ・・・・・・・て・・』

 間違いない。男性の声、だ。
気配は今、その男性に注意を向けている。思わず溜め息。これで多分、大丈夫。

 『・・・玻璃・・・約束の言葉は君の名前・・・・待たせて・・』

 突然流れ込んだ映像と会話が、俺の意識を埋め尽くす。酷い目眩。
足下の地面が消え、地中深く落ちていくような。藍と丹を、強く抱き締めた。

1523『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:12:43 ID:Q1cky6XA0
 「あの、ね...あ、そうだ。10時からTVで。」
「ふふ。もう5回目だよ。そろそろ話してくれても良いんじゃない?
別れ話だとしても、驚かない。最初から君と僕とでは到底釣り合わないと思ってた。
...もし今度の里帰りで君の御両親から。」
「違う。そんなんじゃない。」 「それなら一応安心。それなら何を?」
「出逢った日の事、憶えてる?」
「初めて君が職場に来た時なら...でもわざわざそんな事、もしかして。」
「もしかしてって、何?」
「職場で出逢う前から、君によく似た人の夢を、見てた。」
「どんな、夢?」 」 「笑わない?」 「笑ったり、しないわ。」
「何だか柔らかくて暖かくて、眠い。その時、眼の前に、女性の顔が。
『寝てはいけない。』って。その女性が君にとても似てて。え、待って、何?」

1524『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:13:33 ID:Q1cky6XA0
 「3年前、大雪の中であなたを助けた。憶えててくれたのね。」
「あの大雪の...助けたって、どういう事?どうして君が。」
「笑わない?」 「笑わないよ。」
「きっと、信じてくれる?」 「信じる。多分、いや、絶対信じる。」
「私の実家での仕事。少しだけ、話した事があったでしょ?」
「新しい年を統べる神様をお祀りするために、だから毎年秋の終わりから。」
「本当は、私が祀られる立場。」 「...?」
「あの日の大雪は、私が降らせたの。『侵入者』を退けるためには、仕方がなかった。
当然、山の者達は予め察知して難を逃れた筈だったけれど、
どうにも胸騒ぎがして見回りに出た。それで、見つけた。
急拵えの雪洞。その中で雪に埋まっていたあなたを。
私、どれだけ驚いて、どれだけ嬉しかったか...」

1525『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:14:16 ID:Q1cky6XA0
 「僕は...変、なのかな?」 「どうして?」
「あの大雪を降らせたのも、凍死していた筈の僕を助けてくれたのも、君。
それに、『祀られる立場』って。そのまま受け取るなら、君は神様、だ。」
「その通りよ。私は。」
「そんな突飛な話を、何故か嘘だとは思えない。むしろ、それでやっと納得できる。
あの日すっかり雪に埋まっていた僕が普通に目を覚まし、
凍傷の1つさえ負わなかった訳が。だけど。」
「だけど?」
「何故君みたいに素敵な女性、いや、神様が僕を助けたのか。
助けただけじゃなく、その、こんな風に一緒にいてくれるのか。それが分からない。
僕が、そんな価値のある人間だとは、とても思えないのに。」

1526『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:14:56 ID:Q1cky6XA0
 「ずっと、ず〜っと昔。私とあなたは一つだった。
もうそれが何時だったのか分からない位、昔に。
私とあなたは分離した時に約束した。必ずもう一度、と。」
「僕は君の、欠片ってこと?小さな、小さな。」
「力の大小と、魂の価値は関係ない。旅立ち、成長し、何時の日か還る。
あなたを見つけて、『その時』が近いと分かったけれど、
あの晩は未だ、『その時』じゃなかった。
だから出来るだけ一緒に暮らして、待つつもりだったわ。」

 「『だった』って事は何か、事情が変わったんだね。一体何?」
「子供が必要になったの。使命を託すために。」
「君と僕の、子供?」 「そう。」
「一緒に暮らして、子供が生まれるのは自然な事だよ。何故わざわざそれを。」
「...子供に使命を託したら、私は此処にいられなくなる。」
「まるで、天女伝説みたいだ。でも、君を失ってまで、子供を。」

1527『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:15:35 ID:Q1cky6XA0
 唐突に、目眩と耳鳴りが治まった。
戻ってくる。膝をついた地面の感触と、抱きしめた藍と丹の体温。
「Rさん、最後の仕上げです。」 姫の声に促されて立ち上がる。
既に御社の中の気配はなく、男性の姿も見えない。
雪は降る勢いを増し、白い闇となって御社と俺たちを包んでいた。
片膝を付き、Sさんは小声で何事か呟く。恐らくは『再会』を言祝ぐ言葉。
そのこめかみを伝う、この寒さの中で、冷や汗?
「これで冬が、新しい年がやってくる。」
ゆっくりと立ち上がり、ようやくSさんの表情が緩んだ。
当然だろう。さっきの儀式のリスクは『禁呪』をはるかに上回って。
今更に、Sさんの覚悟を知る。

1528『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:16:29 ID:Q1cky6XA0
 「さあ、帰りましょう。急がないと私たちが凍えちゃうわ。」
そうだ、この調子で降り続いたら...
ランタンモードにして床に置いていた大型のLEDライト。
そのスイッチを前照灯モードに切り替えた。
俺が藍を、姫が丹を抱く。車を停めた場所までは多分200mと少し。
一歩踏み出した。ライトに照らされて浮かび上がるSさんと翠の後ろ姿。
立ち止まり手をつないだままで、2人は正面を見詰めている。
さらに一歩。横に立って、2人の視線をライトで辿った。

1529『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:17:22 ID:Q1cky6XA0
 小さな階段。その先の地面には雪が積もっていない。
この雪の勢いで、まさか。
ゆっくりとライトを左右に動かし、辺りの様子を探る。
露出したままの地面は幅10m位。
御社の正面から前方へ、まるで緩やかにうねる道のように。
このまま車まで続いているとしたら長さは200mを越える。
この御社は、数十kmを隔てた◇★神社に正対していると聞いた。
そして、二つの御社を結ぶ線上に◇★湖。
ならばこの『道』は。上空で雪を遮っている『存在』とは。
『みんな、上を見ては駄目よ。さあ、前へ。』
振り向いたSさんは、唇に人差し指を当てて微笑んだ。
それは、雪を遮っている『存在』への敬意。
方便を咎められなかったし、『再会』を媒することも出来た。
そして今、俺たちの帰り道が雪から守られている。
それなら多分、その御姿を見ても咎められる事は無いのだろうけれど。
俺たちは眼を伏せたまま、不思議な道を歩いた。

1530『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:18:00 ID:Q1cky6XA0
 ◇★湖で『御神渡り』が起きたのは、その日の深夜だったと聞いた。
一般に、『御神渡り』が知られている湖はわずか。
ネットの情報では「日本では諏訪湖だけ」というものさえある。
だがこれは正確ではない。氷の体積変化によって起こる現象とするなら、
湖面が全氷結する湖の全てで、それは起こり得る。
ただ、それが『御神渡り』かどうかを神官が認定し、
結果を公表するのが諏訪湖だけ。だから諏訪湖以外で同じ現象が起きても、
本来の意味での『御神渡り』ではない。何よりも。
古い伝承が息づく地域では重要な神事を公開しない場合も多い。
つまり神官が『御神渡り』と認定しても、公表しない事例がある。◇★湖もその例。
諏訪湖より南に位置するが、標高が高いので全氷結する期間がある。
しかし、その現象が起きる事は公にされていない。
かなり人里から離れていて、その痕跡はすぐに消える。
まれにその湖を訪れる旅人がそれを偶然眼にする機会も皆無と言って良い。
多分、◇★湖の他にも

1531『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:19:25 ID:Q1cky6XA0
 「お父さん。」
心臓が、止まるかと思った。つい、画面に集中してて。
「そろそろ夕ご飯の準備って、お姉ちゃんが。」
するりと、翠は俺の膝の上に座った。
「あ、これ...」 画面右下の写真に見入っている。
『御神渡り』で画像検索して表示された数々の写真。
「お父さん、これ、神様の通った跡でしょ?」 指さしたのはやはり右下の一枚。
「そう、『御神渡り』。でも、他のは違うの?」 「違う。」 「どうして?」
「だってほら、これには神様の色が残ってる。他のはそうじゃない。」
色? 例えばオーラのような?

1532『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:20:05 ID:Q1cky6XA0
 どの写真の氷も俺には白一色。しかし、翠はその中の一枚に。
「お父さん。お父さんてば。」 「あ、ゴメン。何?」
「通った跡なのに、こう、なってるのは何故?」
翠は両手で大きく山の形を描いてみせた。
「足跡ならへこむはずだよ。なんでかな?」
理由は分からないけど、足跡とは違うと思う。」 「足跡じゃないの?」
「昨日の神様が通った後も、氷がこうなったって、お母さんが言ってたから。」
「...そっか、空を飛んだら、足跡つかないね...」
一瞬で、深い思考に入る。
空気の動きまでも止めるような、翠の集中力はSさん譲り。

1533『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:21:28 ID:Q1cky6XA0
 突然、空気が動いた。 「分かった!」
するりと俺の膝から床へ。一歩踏み出してから、翠は振り返った。
「行こう、お父さん。遅れたら怒られるよ。」
「翠、ちょっと待って。分かったって、何が?」
「え?」 「神様の通った跡が、こう、なってる理由。」
「翠が思ってるだけで、間違ってるかも知れないし。お父さんも自分で考えて。」
「そんな、意地悪しないで教えてよ。ね、お願い。」
「翠は、お父さんに意地悪、なんか...」 翠の眼がじわりと潤む。
マズい。慌てて抱き上げた。

1534『風の花』 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:22:26 ID:Q1cky6XA0
 「ゴメン、言い方が悪かった。翠はお父さんより『見える』からさ。」
俺を見詰める、綺麗な瞳。何とか最悪の事態は免れそうだ。」
翠を抱いたまま、廊下に出る。キッチンへ。
「翠が考えた理由を教えてよ、間違ってても良いから。
もちろんお父さんも自分で考える。それで、どっちが正解に近いか
一緒にお母さんにも聞いてみよう。」
「うん。じゃあ今はお母さんには内緒。」 翠は俺の耳に口を寄せた

 「あのね、神様が通るときに、湖から...」
夕食の後でそれを聞いたSさんは、「ほとんど正解」、そう言って翠を抱き締めた。

〜風の花〜 完

1535 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/22(月) 23:26:10 ID:Q1cky6XA0
皆様今晩は。再び、藍です。

もうストップがかけられないよう、全速で投稿しました。←馬鹿、ですね。
少々疲れたので今夜は此処で。
お付き合い下さった皆様に心からの感謝を。それでは御機嫌よう。

1536名無しさん:2018/01/23(火) 10:53:19 ID:sd2Cpl8UO
藍さんありがとうございます。
翠ちゃん可愛い。

1537あるくむ:2018/01/24(水) 07:35:37 ID:sQroarP20
なるほどそういう事情でしたか。時間がかかるのも納得。
ところで、娘さん側のエンディングがなかったのは何故でしょう。いずれ別のエピソードへの布石と、勝手に期待。

1538名無しさん:2018/01/28(日) 21:48:51 ID:YTkhnChoO
藍さん,ありがとうございました。今回も,とても面白かったです。説話と神事が,時代を超えて今交錯する,興味の尽きない物語でした。

1539 ◆iF1EyBLnoU:2018/01/29(月) 22:33:50 ID:LQUrpNg60
皆様今晩は、藍です。

>>1481
>>1483
>>1493
>>1502
>>1503
>>1504
>>1536
>>1537
>>1538

何時もながら、皆様の暖かいコメントに心からの感謝を。
今回は特別な事情がありまして個別の返信は遠慮しておりますが、
コメントは全て有り難く拝読し、日々の励みにしております。
また知人にも伝え、ともに喜びたいと存じます。
本当に、有り難う御座いました。

1540名無しさん:2018/04/03(火) 09:14:21 ID:qERA8PnsO
時は春。
新作の予感…だったらいいな。

1541匿名希望:2018/04/04(水) 10:34:26 ID:tTv6S6Ws0
裏返しの話。

裏返しになって死んだ人を見た事ありますか❓
まるで洋服や靴下をひっくり返したようになって死んだ人を見た事はありますか❓

この話を聞いて二時間以内に同じ話をしないと同じ目にあって死んでしまうそうです。

よくある都市伝説です。

1542匿名希望:2018/04/04(水) 10:38:16 ID:tTv6S6Ws0
裏返しの話。
裏返しになって死んだ人を
見た事はありますか?
まるで洋服や靴下をひっくり返したように
死んだ人を見た事はありますか❓

この話を聞いて二時間以内に同じ話をしないと裏返しになって死んでしまうそうです。

よくある都市伝説です。

1543 ◆iF1EyBLnoU:2018/05/11(金) 22:29:09 ID:pkVwNHPA0
テスト

1544 ◆iF1EyBLnoU:2018/05/11(金) 22:58:46 ID:pkVwNHPA0
 皆様今晩は、藍です。

 振り返れば、こちらの掲示板に初めて投稿したのは 2012/12/06 です。
もう5年以上が過ぎたのですね。本当に長い間、お世話になりました。
投稿したお話も40話を数え、これまでの投稿で、
知人と私の役目は十分に果たしたかと存じます。また、これ以上
こちらの管理人様にまとめの作業をお願いするのも心苦しく。

 突然ではありますが、知人とも相談し、私なりに色々考えて、
こちらでの投稿を終了することに決めました。
現在のところ、他の掲示板への投稿や自費出版等は考えておりませんし、
今後のコメントへの返信も致しません。

 これまで有難う御座いました。それでは、御機嫌よう。

1545名無しさん:2018/05/11(金) 23:00:48 ID:RP/GLObsO
長らく貴重なお話を投稿して下さりありがとうございました
お疲れ様です

1546名無しさん:2018/05/12(土) 00:09:55 ID:oQpHG34MO
長い間、素敵な話を読ませて頂き有難うございました。

1547名無しさん:2018/05/13(日) 14:42:09 ID:r4/lWx1c0
ありがとう

1548名無しさん:2018/05/14(月) 18:53:15 ID:YdJU/5goO
泣きたいほど残念です…でも本当にありがとうございました。ごきげんよう。

1549名無しさん:2018/05/20(日) 13:27:36 ID:z.Wy3vwA0
キモイ言われたから?

1550名無しさん:2018/05/20(日) 14:29:59 ID:uj9R52UYO
どういう経緯であれ、何度も読み返そうと思える文章で、楽しく読ませていただきました。
ありがとうございました。
ゆっくりしてくださいね。

1551名無しさん:2018/05/21(月) 14:53:16 ID:t1ZztIr.O
初めて書き込みます。とても残念ですが素晴らしい作品をありがとうございました。藍さんのこれからのご活躍とまた何処かで素晴らしい作品を拝見する奇跡を祈っております。貴方の作品を愛する一読者より。

1552名無しさん:2018/05/22(火) 23:59:05 ID:EQT7HDEs0
まとめサイト表示されないんだけど俺だけ?

1553名無しさん:2018/05/25(金) 01:13:22 ID:yqIZd7Yk0
まとめトップから入れない

1554名無しさん:2018/05/25(金) 20:17:29 ID:IWlOmg8M0
終了宣言が出た後、何故かトップのアドレスが変更された。
今までのアドレス末尾に /top.html を付ければ入れるが。
最終話の結末がまとめられないことを考えると、何か事情があるのかも。

1555名無しさん:2018/05/28(月) 03:20:59 ID:VHolo57w0
どういうこと

1556名無しさん:2018/05/28(月) 15:03:09 ID:LaT7ygCE0
目次 /menu.html

1557浩太郎:2018/05/28(月) 21:32:32 ID:II4FCd4U0
藍さんの投稿の初期に何回かコメント入れさせて頂いてから随分経ちました。
今回のコメントを契機にまた最初から読み直しさせて頂き 改めて素晴らしい、美しい物語だったなと感慨深いものがあります。
いつかどこかでまた作品が読めることを心待ちしています。
素晴らしい5年間 ありがとうございました

1558名無しさん:2018/05/29(火) 16:37:42 ID:DJAlFiBA0
>>1554
まとめサイトの管理人と藍さんは別人だろ。
なんで愛さんがまとめサイトを操作できると思ってんだ

1559名無し:2018/05/29(火) 23:33:54 ID:WLurBXGk0
終了宣言が出た後、何故かトップのアドレスが変更された。

これをどうすれば
「愛(藍)さんがまとめサイトを操作できる」と読めるのか分からない。
たまたまタイミングが一致してるって指摘しただけ。

実際一月末には完結した物語がまだまとめられてないんだから、
そのあたりに何か事情があるって考えるのも無理はないでしょ。

例えば管理人さんがプライベートで多忙とか、
もしかして物語の結末にパクリ疑惑があってまとめをためらってるとか、ね。

あと、せめて「愛さん」なのか「藍さん」なのかは統一した方が良い。
作者の名前を間違えるなんて、とんでもなく失礼だし。
何の事情か、それ位1558氏が慌ててるって感じる人もいると思うから。

1560名無しさん:2018/07/01(日) 22:31:38 ID:aDc9OM160
>>1551
そう、私も奇跡を祈っています。
この美しい物語が再び紡がれる日を待ちながら。

1561名無しさん:2018/07/11(水) 17:11:14 ID:zRBX0p4Q0
宮大工シリーズを書かれた方と藍さんは同一人物?何か雰囲気が似てるような…

1562名無しさん:2018/07/12(木) 18:15:18 ID:haJDJquE0
登場人物の名前に共通点が多い「祟られ屋シリーズ」も同作者ですかね?

1563名無しさん:2018/07/21(土) 03:32:24 ID:ruxsBado0
全く違うだろう

1564名無しさん:2018/07/21(土) 23:12:38 ID:Piggv95M0
『宮大工』とも『祟られ屋』とも無関係。
以前、藍さん自身が明言してる。

第一、言葉の選び方や文章の綴り方が全く違う。
感じ方は色々あるんだろうけれど、正直、不思議。

1565名無しさん:2018/08/18(土) 13:15:27 ID:XmpGGHvE0
とんちんかんな書き込みしている人も、みんなファンなんだよなあ。
ほほえましい。

1566名無しさん:2018/08/24(金) 10:05:36 ID:5LRWwbU20
作品見れなくなりましたね。
本当に残念です。
これまで、誠に有り難うございましたm(__)m

1567名無しさん:2018/08/26(日) 14:24:53 ID:ZfQxaBn20
みんなウニに憧れて、結局ウニになれないんだよなぁ・・・

1568名無しさん:2018/08/27(月) 22:46:02 ID:fHjOX0s.0
藍さんだけでなく、読めなくなったシリーズが他にも多数。
管理人さんから説明があって然るべきって気もするけど、
師匠シリーズはまだ読めるから、
1565・1567の書き込みの事情も何となく...まあ良いや。
この様子だと掲示板が何時までもつかも分からないし、
どこかで残す方法があればと思う。

1569名無しさん:2018/09/13(木) 02:50:40 ID:sG6bd8bE0
もう完全に消えたようだ

1570名無しさん:2018/09/27(木) 12:06:31 ID:AoM5i7hY0
menu.htmlと各シリーズの目次はまだ生きてるけど各話のファイルが消えた
藍さんのシリーズは保存済みだったが、祟られ屋シリーズを保存してなかったから
Internet Archiveから掘り起こしてきた
これでいつでも読める

1571名無しさん:2018/10/01(月) 05:25:24 ID:vvJuFVmU0
どうすればいいんですか

1572名無しさん:2018/10/01(月) 05:56:33 ID:vvJuFVmU0
ページ保存でなくコピペしたということ?

1573名無しさん:2018/10/03(水) 17:07:47 ID:pEQ17fss0
「山怖」系はInternetArchivesにもなく本当に失われてしまった
どうなってるんだ?

1574名無しさん:2018/10/04(木) 01:31:39 ID:OydgY.Ys0
藍氏が消えたからさっさとサイト撤退したの?

1575名無しさん:2018/10/04(木) 01:33:18 ID:OydgY.Ys0
InternetArchives
他にもいろいろ抜けて消えている

1576名無しさん:2018/10/05(金) 04:27:21 ID:DxYZJHaoO
やはり批評といえどもマイナス評価は書かないほうがいい
藍氏が消えてしまった

1577名無しさん:2018/10/05(金) 17:24:57 ID:8pgWFP.k0
2000年から15年間にわたって1万を超える怪談を保存し整理して公開してきた歴史的価値のあるサイトだったんだがな
そこらのいい加減なまとめサイトと違って話の出典がハッキリしてるし、これ程の規模の纏まったアーカイブは世界でも稀だったろう
願わくは再公開してほしいが…

1578名無しさん:2018/10/06(土) 00:36:49 ID:cadA2Hy.0
藍氏が止めてからそうなったが
続ける義務もなくなったと?

1579名無しさん:2018/10/06(土) 01:47:26 ID:cadA2Hy.0
放置でいいから残しておいてほしい

1580名無しさん:2018/10/06(土) 13:38:23 ID:SXBH2bFEO
藍物語
漫画化すればよかった

1581名無しさん:2018/10/07(日) 12:31:40 ID:yHmPuIDs0
それにしても隠されたのは川の神様のご指示?
だったらこれがほんとの神隠し。

1582名無しさん:2018/10/09(火) 20:58:03 ID:iEbss6m60
藍さんの投稿のためだけにこのサイトが運営されていたって解釈は
あまりに管理人さん(たち?)に失礼だろう。

他にも、美しく、不思議な話がたくさんまとめられていたのだからね。
だからこそ一体何があったのかと、納得できないんだ。今でも。

1583名無しさん:2018/10/10(水) 09:30:48 ID:YK3CZSFsO
本サイトから切り離してこの掲示板だけでは成立しない
本サイトの稼働が停止しても入り口として置いておく必要があった

1584名無しさん:2018/12/02(日) 20:17:56 ID:97Y3Bu2s0
再開、又は後日談でもいい。もっと読みたい。また読みたい。
でも、この物語も、一期一会なのだろうか。

1585名無しさん:2018/12/03(月) 17:28:35 ID:RmDKPPZ.O
このシリーズが終了宣言したから
まとめサイトのほうも終わった

1586名無しさん:2018/12/03(月) 22:32:45 ID:4.TVKQlE0
今更って気もするけど...

何故か掲示板まとめの作業が滞ったのは1月末。
さらに、4月に入ると、まとめサイトの作品まで読めなくなり始めた。
で、このシリーズの終了宣言が5月。
「終了宣言でまとめサイトが終わった」というのは時系列が矛盾する。
まとめサイトの削除は別の原因だと考えるべき、と思う。

1587名無しさん:2018/12/04(火) 04:02:52 ID:lAVshfjk0
前も1585みたいな事書いてる人いたよね。
何か意図でもあるのかな?

1588名無しさん:2018/12/19(水) 21:59:20 ID:3WkxN10w0
実話って設定…ちょっと無理があったね
しかし長い間お疲れ様でした。

1589名無しさん:2018/12/21(金) 14:11:14 ID:zWN3RZEQO
サイトが消えたのが問題

1590名無しさん:2018/12/28(金) 08:07:40 ID:NAbUHoWg0
消えたのは転載禁止関連じゃないの?
だとしたら利権絡んでるだろうから望みは薄いでしょ

でも、続き読みたいね

1591名無しさん:2019/03/31(日) 15:26:21 ID:u71Ee58o0
どうだろう。洒落怖まとめが読めなくなり、
このすばらしい作品がまとめられた場所が無く、人に紹介しようにも難しい現状を感じる。

差し支えなければ当方ログで保存しているので、
投稿時系列にて再掲する形の専用スレッド(当板)にて、その目的が果たせたらと思ってます。

とりあえず準備をはじめますが、異存のある方がおられたら考え直したいと思います。
特に作者様関連の方のご異存がある場合は、理由の有無に関わらず中止します。

ご意見無ければ準備が整い次第、投稿を開始したいと思います。
といってもおそらくは順調でも1週間以上はかかると思います。その間お待ちします。

皆様いかがでしょうか。

1592名無しさん:2019/04/01(月) 04:02:01 ID:Vr6yMiT6O
まとめアーカイブほしい

1593 ◆iF1EyBLnoU:2019/04/02(火) 23:58:21 ID:iy6zGABA0
テスト中

1594 ◆iF1EyBLnoU:2019/04/03(水) 19:26:00 ID:.OZRE.w.0
皆様、本当にお久しぶり、藍です。

1591様の提案について弟から知らせがありました。
こちらでのまとめが消えてしまった状況ですので、
私たちの作品をまとめる選択肢が他にあるとすれば有難く思います。

今のところ、作者である知人に確認を取る術はありません。
しかし私は、営利目的でなく善意の提案と信じます。ですから
かつて知人が私に与えた権限に基づき、1591様の提案に同意。

『この掲示板に投稿された作品の著作権は作者に帰属する。』
私たちが投稿を始めたときには、そう明記されていました。
ですから、1591様の掲示板への転載に問題は無いと存じます。

1591様の作業を知人も認めてくれたなら、
私たちから1591様へ感謝の証として、
新しいまとめの場所に新作を1つ投稿させて頂きます。

投稿予定時期は今年8月。未だタイトルも未定ですが、
今回のご提案を励みにして、久しぶりに自分を追い込んでみます。
それでは皆様、ごきげんよう。8月に再開できますことを。

15951591:2019/04/03(水) 20:26:31 ID:MhxFyDXA0
藍さんはじめまして。
ご確認いただきましてありがとうございます。

当方としての目的は他者への紹介のしやすさではありますが、
ご懸念ごもっともと考え、この掲示板での転載が良かろうと考えました。

再転載に対する懸念はありますが、
ちゃんとまとめられていれば広告が多々表示される画面より、
よりシンプルに表示されるであろう当板の方が読みやすいであろうと思われ、
機能として勝れると考えられる事より、転載禁止を謳えば事足りるかと思います。

したがいまして、再投稿時の名前欄を『転載禁止』とし、スレッドの1に
『この掲示板に投稿された作品の著作権は作者に帰属する。』
を明記した上で投稿を開始したいと思います。

また、新作が読めるのであれば無上の喜び、現在準備中ですが気合が入ります。
投稿開始まで今しばらくお待ちいただけますよう、よろしくお願いいたします。

1596名無しさん:2019/04/04(木) 04:48:23 ID:xSm9kVmUO
まとめサイトがいきなり消えたからまずい

1597名無しさん:2019/04/09(火) 03:26:46 ID:H8dq.A360
 何だか気になったから調べてみたよ、この掲示板の利用規約。

 今でも「したらばヘルプ」には藍さんの書いた通り、

基本的に投稿された記事に関しては投稿した本人に著作権が存在します
(が、レンタル掲示板のシステム上、掲示板内の著作の管理は
掲示板管理者の判断に一任されている為、掲示板の利用に
「著作権の相乗り、著作者人格権の不行使」が含まれる事も多々あります)。

 とある。ただこの掲示板のローカルルールに、管理者の判断は示されていない。

 さて、ここからが本題。2019年3月26日付で、
「したらば掲示板利用規約」が変更されてるよ〜。そこには例えば

1598名無しさん:2019/04/09(火) 03:28:47 ID:H8dq.A360
利用者は、掲示板への書き込みを行った時点で、当該書き込みに関する一切の著作権
(著作権法第27条および第28条に規定される権利も含みます。)
が運営者に譲渡されることを承諾するものとし、
かつ、運営者および運営者の指定する者に対し著作者人格権を行使しないものとします。

 という記載があるのだな。つまり2019年3月26日以降に投稿された作品の著作権は
この掲示板サービスの運営者に無条件で譲渡されることになる。
(まさか、この変更が過去に遡及して適応されることは無いと思うけど。)

 これを知った掲示板管理者が、投稿者の著作権を守るために掲示板まとめを消した?
今後「この掲示板」に再度投稿される藍さんの作品、それらの著作権はどうなるの?
藍さんたちが不利益を被る事が無いよう、考慮してほしい。

15991591:2019/04/09(火) 07:24:27 ID:oiGj1wCo0
一旦凍結します。

1600名無しさん:2019/04/09(火) 17:10:02 ID:wQlcYHCsO
まじで

16011598:2019/04/09(火) 20:57:27 ID:H8dq.A360
>>1591
>>1599

 藍さんの書いた通り、あなたは信ずるに足る人だと分かった。
『一旦凍結します。』という言葉はきっと、『よりよい道を探る』という意味。
そう信じて、あなたの出す『解答』を、期待して待ちます。本当に、ありがとう。

16021591:2019/04/09(火) 22:40:33 ID:oiGj1wCo0
>>1601
お気持ちはありがたいのですが、今の処妙案もなく、
私一人で出す解答が果たして『より良い』かも疑問でもあります。
皆様のお力もお借りできたら、大変助かるのですが。

16031598:2019/04/10(水) 21:13:44 ID:rPaO/QKM0
>>1602

あなたは『提案』し、私は懸念される事項を調べた。
今後新たな協力者が現れなければ、この状況のままでも仕方ありません。
当然、あなたが気に病むことなどありませんよ。

1604名無しさん:2019/04/11(木) 12:59:42 ID:nUVWKfQ2O
まとめサイトをもとに戻すのが一番よい

1605名無しさん:2019/04/27(土) 22:34:12 ID:VXBkkxXAO
久々にのぞきました
藍さんが来てくれて嬉しい、新作読みたいです
移設が上手くいきますように

16061591:2019/05/05(日) 12:42:08 ID:gBlZVKd.0
どうやら掲示板はどこも同じ問題を抱えそうです。
いっそレンタルスペースで…
 ってそれではまんままとめサイトみたいになってしまいます。その上

問題① 2019年3月26日以降ここに投稿された作品はまとめられない。
      つまり新作はまとめられない事になります。

懸念① syarecowa.moo.jp と同じなんらかの問題を抱えると思われる事。
      その問題点が不明である事。
懸念② そのような許可は作者様サイドからは得られていない事。
懸念③ 当方処置済みのまとめは掲示板投稿用。サイトアップなら多分全てやり直し。
      それは良いとしてhtml化作業等まで考慮すると、結構な時間を頂かないと…。

急がず焦らず、より良い道を探りましょうか。

1607情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 02:06:55 ID:qMdNSK4g0
こき垂れし 大便の香の 激しければ ズボンのすそに つきたると思ふ

1608情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 02:14:02 ID:DjAP10yQ0
夏草や オワコンどもが 夢の跡

1609情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 02:16:13 ID:DjAP10yQ0
大便を 食せと言ひし 面影を 胸に抱きて 三年過ぎぬ

1610情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 02:17:12 ID:DjAP10yQ0
金ためて やっと買いたる コートかな 小学校前で チンコを出しぬ

1611情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 02:18:23 ID:DjAP10yQ0
オナニーを せしところをば 妹に見られ そのままパイルドライバー してしまひけり

1612情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 02:19:06 ID:DjAP10yQ0
銀行の 防犯カメラの 真ん前で ちらりと出ししわがチンコかな

1613情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 02:20:02 ID:DjAP10yQ0
肛門に 挿したる鮒の びんびんと 跳ぬればチンコ いきり立ちおり

1614情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 02:20:56 ID:DjAP10yQ0
盆なれば 死者が還ると 言ひし婆に お前が死者に なれよと嗤ふ

1615情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 02:21:43 ID:DjAP10yQ0
痔のために 排便二時間 かかりおり 便座エースと われをこそ呼べ

1616情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 02:25:16 ID:DjAP10yQ0
過疎スレや チンコギンギン和歌集に なりにける 夏の夜

1617情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 02:39:17 ID:DjAP10yQ0
オワコンスレ救済のため、古巣である山怖スレから名作を抜粋して再放送します。


病院いてきた
俺「流し切れなかったウンコの横にお上人さまがいたんです」
医者「そのお上人さま、持ってきました?」
俺「気持ち悪いから流しちゃいました」
医者「あーん、・・・今度出たら捕まえて持ってきてください。
   それからお上人さまの卵がいるかも知れないから、検便していってください」

二時間後 ───────

医者「検査の結果、陰性でした」
俺「あ、じゃあ?」
医者「うーん、一回の検便じゃ分からない事が多いんですよ。
   最低あと二回、一週間後と二週間後に検便持ってきてください」
俺「あの、お上人さまが仮に居て、変な所に潜り込むとどうなるんですか?」
医者「あんまり無いことだけど、肝臓に寄生してたりとかすると厄介・・・」
俺「脳とかは?」
医者「脳にはいると日蓮宗になっちゃうから」
俺「戻れないんですか?」
医者「戻れない・・・」
俺「じゃ、検便持ってきます」
医者「はい、それじゃあ一週間後直接採尿室に持って行ってね」
俺「お世話になりましたあ」

1618情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 02:40:30 ID:DjAP10yQ0
続けていきます


中学卒業の頃、クラスの友人と僕は奥多摩の六ッ石山に登ろうという話になりました
朝早く立川から青梅線に乗り、奥多摩駅からバスに乗り換え、ダムから徒歩で水根という
山の中腹の集落まで、僕と友人は舗装路を歩きました

そこから先はいよいよ山に入ります
熊注意の看板を見ながら産土神社を過ぎ、細い灌木の中の傾斜を歩いて行きました
すると防火帯と呼ばれる山火事の延焼を防ぐために切り開かれた場所に出ました
体力のない僕は、もうへばって来ており、ここで休憩しようと友人に告げました

友人は体力を持て余してるのか、辺りをほっつき歩いていましたが、突然小走りに戻って来ました
「おい、あれあれ!」

友人が指す方をみると、おかしな事にこんな山に洗濯機が棄てられていました
「誰か棄てに来たんだよ、不法投棄・・・」
「でも中に何か入ってるぜ?」
「なにが?」「・・・・・」
「死体じゃないよね?」「見てみろよ」
「やだよお前が見つけたんじゃねーか」「いーから来いよ!」

友人は僕を呼びつけ、僕も嫌々ながら洗濯機の所へ行ってみることにしました
「おま開けて見ろよ」「おめーが開けろよー」

そして恐る恐る、友人が洗濯機の上蓋に手をやり、そぉーっと開けて見てみました、その時でした
「なっ・・・むっ・・・みょぉぉぉ・・・・ 」

友人はバダンと急に蓋を閉じました
いえ、ボクの耳にもそれはハッキリ聞こえました
「野良お上人を捨てるにしても手が込みすぎている!」

その日から友人の彼は日蓮憑きとして知られるようになりました

1619情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 02:43:16 ID:DjAP10yQ0
2013年の夏頃でしょうか
山怖スレにてお上人様が大ブームとなりました
あれから早6年・・・



先輩の話。

その昔、盆で東京から田舎者が消えた時のこと。
まだ幼かった先輩は、兄と二人で実家の裏手にある崖で遊んでいた。
と、いきなり兄が上を見上げたまま、口をポカンと開けて動かなくなる。
何を見ているのかと、同じように顔を崖の上へと向けた。

お上人さまが、崖の中腹に張り付いていた。

七つに割れた頭に妙の字入りの袈裟、ご丁寧なことに褌まで妙だった。
裾から覗く白い腿が、妙〜!に強く記憶に残っているという。
その他の特徴はあまり憶えていない。

お上人さまはスルスルと滑らかな動きで崖を登り続け、一番上まで達すると、
そのまま流れるように山奥へ姿を消した。

我に返った兄と一緒に、実家の祖父へ報告しに行く。
「お上人さまが崖を登っていったよ、変なの」

そう話した次の瞬間、祖父は妙な顔になり大声で詰問してきた。
「褌は、そのお上人さまの褌は見ていないだろうな!?」

祖父の妙な顔に驚きながらも、「見てないよ」と返事をする。
すると祖父は心底ホッとした風になり、
「今日と明日はもう裏で遊んじゃいかんぞ、目が合うといかんけん」
と妙な表情で言った。

その年から結局、家で褌を愛用する事になったのだという。

1620情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 02:47:12 ID:DjAP10yQ0
私が初めてコテを付けたのもその頃の事です。
それはさておき、お上人様シリーズは今は亡き洒落怖まとめには未収録となっております。





SGIルーマニア支部の知人の話。

ドナウ河畔に今では誰も近寄らない古城が立っているそうだ。
そこにはかつてお上人さまがドラキュラを退治したという伝説があるそうだ。

知人が子供の頃数人で肝試しに行ったらしい。
崩れかけた城門を潜るとすぐに広間中央に安置された棺桶が目に入ったらしいが、
そこには紛れもなくお上人さま直筆の御本尊の封印があったそうだ。
知人の制止にもかかわらず一人が封印を取り払うと、
突如「聞いた話ー!」と雷鳥が復活し襲いかかってきたそうだ。
知人が無我夢中で御題目を唱えると、封印を解いた仲間が苦しみだし、
やがて頭が7つに割れるとそこからは白馬にまたがった池田先生の姿が現れたらしい。
先生は「破あ〜!いざなぎ流奥義、仏敵折伏大行進!」
と叫びながら雷鳥に突進したそうだ。
次の瞬間、そこには雷鳥も先生の姿もなく、ただ頭の7つに割れた仲間の死体が代わりに棺桶に入っていたらしい。

知人たちは恐怖のあまり一目散に逃走したものの、
なぜかその後のことは一切思い出せないそうだ。
当時の新聞などを見ても一切記録は残っておらず、
仲間の誰一人連絡が取れないらしい。

1621情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 02:49:49 ID:DjAP10yQ0
6年前というと、まだまだ改元前ですので、令和歌人ではなく平成歌人と名乗っておりました。



痴人の話。

子供の頃、信濃町のルーマニア大使館のパーティーに招かれたらしい。
池田先生も同席していて、なんみょーほーれんげーきょーを唱えていたそうだ。
するとところ構わず雷鳥が闖入しては「いよっ、雷鳥さん、待ってました!」
とセルフ大向こうを続け、
しまいには警備員と銃撃戦になり多数の死傷者が出たらしい。

池田先生は少しも動じずにゆっくりと雷鳥の前に立ちはだかると、大音声に呼ばわったそうだ。
「破ああああ〜!いざなぎ流奥義、破門返しの風!お上人さまの名の元に、ライチョスよ汝を破門する!」
雷鳥はギョエーと悲鳴を上げるなりピクリとも動かなくなり、
そのまま石像と化したそうだ。

今でも事前に予約して3万ほど包めば見せてもらえるらしい。

1622情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 03:04:17 ID:DjAP10yQ0
・日蓮宗は不思議な術を使ってお金集めをするという
 その家には子を抱いた鬼神が祀られ、ナムミョウホウレンゲキョウと唱えている

・日蓮宗と付き合うと尻の毛まで毟られる

・昔関東征伐の時、鉢形城の黒澤氏が普門寺の僧を頼り、日蓮宗の瓶を借りてきた
 前田家の手勢が城に火をかけた時、瓶が勝手にくるくると中空を舞い敵兵に向かって飛び、
 中から日蓮が妙ーと言いながら長い頭をぬーと出した
 皆、それを見た者は発狂したり高熱を出して死んだという

・日蓮宗は侮れない
 死んだ母から聞いた

・雪隠の下に日蓮宗が口を開けて上を向いていた
 娘が怖がって外の庭で用を足すことになった


武州東秩父村折原の民俗より

1623情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 03:05:18 ID:DjAP10yQ0
藩政時代の末、この村に日蓮宗がやってきた
御上人様を信じないと地獄へ堕ちる、法華経を侮ると頭が七つに裂けると教えていた
大内沢の上に草庵を建てて暮らし始めたのだが誰も行こうとしなかった
托鉢にやってきたときに丼を持って来たので嫌になったある嬶が藁たたき槌で殴りつけた
がしゃんと音がして、見てみると足下に御上人さまの像が置いてあり、頭が七つに割れていた

1624情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 03:06:29 ID:DjAP10yQ0
かったい峠の傍に無明岩がある
俣尾集落では五社神社大祭の夜に、この大岩から日蓮さんが現れて
祭で賑わっていた神社で暴れまわった
神占の人に訊ねたら、全村民日蓮宗になるしか手立てがないという
怒った村の総代が鉄砲打ちをかき集め、翌年の大祭に日蓮さんが現れると
八名の鉄砲の名手が一斉に火蓋を切って日蓮さんを砲撃した
日蓮さんは南無妙、南無妙とふた声上げながら大杉を引き千切って斃れた
日蓮さんの死体は三丈ほどもあり、つるっぱげの頭は七つに割れていたという

1625情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 03:07:57 ID:DjAP10yQ0
痴人の話。

子供の頃、信濃町のルーマニア大使館のパーティーに招かれたらしい。
池田先生も同席していて、なんみょーほーれんげーきょーを唱えていたそうだ。
するとところ構わず雷鳥が闖入しては「いよっ、雷鳥さん、待ってました!」
とセルフ大向こうを続け、
しまいには警備員と銃撃戦になり多数の死傷者が出たらしい。

池田先生は少しも動じずにゆっくりと雷鳥の前に立ちはだかると、大音声に呼ばわったそうだ。
「破ああああ〜!いざなぎ流奥義、破門返しの風!お上人さまの名の元に、ライチョスよ汝を破門する!」
雷鳥はギョエーと悲鳴を上げるなりピクリとも動かなくなり、
そのまま石像と化したそうだ。

今でも事前に予約して3万ほど包めば見せてもらえるらしい。

1626情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/15(木) 03:11:06 ID:DjAP10yQ0
富士宮ルーマニア領事館の知り合いの話。

子供の頃、家族と富士登山をしたことがあるらしい。
運悪く雷鳥の発情期で、登山客に手当たり次第に
「俺のこと好きだろー?」と絡んできたそうだ。
しかし誰にも相手にされないことを知った雷鳥は子供のようにわめき散らし、
しまいには火口に身を投げる素振りを見せ
「お前らも道連れだー!噴火させてやるー!」と死ぬ死ぬ詐欺を続けたらしい。
呆れた登山客を尻目につかつかと雷鳥に迫ったのは何と池田先生で、
怯んだ雷鳥を軽々とつまみ上げると、
「おのれ日顕の傀儡ライチョス!畏れ多くもお上人さま所縁の霊峰を汚すとは!謗法許すまじ!
破ああああ〜!いざなぎ流奥義!フジヤマタイガー原爆頭突き!」
とパチキ一発で雷鳥を駿河湾まで放擲したそうだ。
池田先生恐るべし。

1627雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/15(木) 13:33:58 ID:DjAP10yQ0
tst

1628雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/15(木) 13:36:36 ID:DjAP10yQ0
知り合いの話

彼は登山が好きな男だった。いろいろな食材を持っていって山で料理して食べるのを楽しみにしていた。
山で飲む食後のコーヒーも大好きであった。そしていつものように山でキャンプをした。
三日目に入り食料も残り少なくなってきた。しかしまだ下山しないで山での
時間を楽しみたかった彼はその場で食料を調達することにした。
そして彼はある道具を取り出した。クロスボウである。
早朝テントの近くを見回すと雷鳥がいた。狙いを定めて引き金を引いた。
グサッ
完全な違法行為であったが気にしなかった。
彼は仕留めた雷鳥を丸焼きにして食べた。

1629雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/15(木) 13:37:57 ID:DjAP10yQ0
知り合いの話。

彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。

「私の旧い知己にですね、変わった研究をしている者がいました。
 彼曰く、とある山奥に大きな河があってですね、そこに鮫がいるというのですよ。
 人を襲うほど大きくはないらしいですが、肉食で鮫そっくりの姿形なのだとか。
 彼は便宜上“河鮫”と呼んでいました。
 体色がほとんど白に見える灰色で、微かに桃色がかっていたそうで。
 最初に聞いた時は淡水イルカじゃないかとも思ったのですが、彼は生物学の先生でも
 ありまして『いや絶対にイルカではない』と断言していました。
 ……小さな声で『厳密には鮫でもないかもしれないが』と付け加えてましたけどね」

「非常に臆病な性質らしく、発見することさえ大変な生き物だったというのですが、
 この鮫に噛まれたという漁師の話が、彼の興味を引いたそうで。
 それがどんなに酷い咬傷であったとしても、短期間で綺麗に治るらしいのですよ。
 傷跡も残すことなく、それどころか噛まれた周辺の皮膚がまるで赤児のそれのように
 ピチピチに若返って見えたそうで」

「彼は、この鮫が特殊な物質や酵素などを分泌しているのではないかと考えていました。
 『その内に大発見をして、自分の名前を後世に残してやるぞ』と笑っていましたよ」

1630雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/15(木) 13:38:42 ID:DjAP10yQ0
友人の話。

キャンプ場で一緒になった登山者から、こんな話を聞いたという。
「その昔、ここいらの山には化け物が出たって言われてたんだ。
 山道を歩いていると、いきなり足が地面に縫い付けられたようになって、
 もんどり打って転けてしまう。
 何だ何だ?と足下を確認すると、いつの間にか草履に太い釘が打ち込まれていて、
 しっかりと大地に固定されているんだと」

「『槌お化け』と呼ばれたその化け物は、誰にも姿を見せたことがないんだって。
 今は出たっていう話なんか聞かないけどね。
 昔の草履と、最新の登山靴とじゃ、勝手が違うんだろうさ」

そう聞かされて、一緒になって笑ったが、ちょっとだけ気になることがあった。

「そこのキャンプ場でテントを張るとね、ペグが何本か、がっつりと頭まで
 土の中に埋まっていることが時々あるんだ。
 誰かの悪戯だと思ってたんだけど、この話を聞いてから、嬉しそうに槌を振るって
 ペグを打ち込んでいるお化けの姿を想像しちゃって……」
彼はそう言って苦笑した。

1631雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/15(木) 13:39:52 ID:DjAP10yQ0
先輩の話。


秋口の山に、単独で入っていた時のこと。
そろそろ寝ようかと、まだ新品だった一人用テントの中でシュラフを広げていると、
背後で聞き慣れた音がした。


放屁の音だった。
しかしその時、先輩は屁などしていない。
仰天している内に、やがてゆっくりと、しかし確実に、厭な臭いが迫ってきた。

「どこのどいつだ、俺のテントで屁をこきやがったのはっ!?」
我に返ると逆上してしまい、テントから勢いよく飛び出すと、中に風を送り込んだり、
周りの闇に向かって威嚇の声を上げたり、地面を転げ回ったりしたという。

「それ以上、変なことは起こらなかったけどな。
 でもあの時の犯人、絶対に芋か牛蒡食ってたぜ、腹立つわ〜!」
一発でいいから殴ってやりたかったと言う先輩の目は、正直怖かった。

1632雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/15(木) 13:42:53 ID:DjAP10yQ0
>>1さん、乙であります。
このスレでもポツリポツリ書き込みしますので、暇でしたら見てやって下さい。

それではまた、別の夜に。
雷鳥でした。

1633雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/15(木) 20:08:02 ID:DjAP10yQ0
誰もいないようなので、私の過去作専門スレッドということで異議はありませんね。


\イギナシ!/ \イギナシ!/ \イギナシ!/

それでは気が向いた時にぼちぼちと書き込みます。
それではまた、別の夜に。
雷鳥でした。

1634雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/15(木) 20:20:30 ID:O4Gufmnk0
「おっ!雷鳥さん来てたのか、乙!」
そんな素っ頓狂な声が創価学会幡ヶ谷支部に響き渡った
それは先程から講話の最中でもタブレットをひーこひーこ弄ってる、
始終口のポカンと開いた五分刈頭の18〜9くらいの青年、ライチョス君(仮名)だった
その目は焦点があまり合ってない
彼はまだ入信して日が浅かった

そんな彼の前にぬっと立ちはだかった男が居た
学会渋谷学区男子部副部長牛窪叉裂(うしくぼまたさけ)君だ

牛窪君「君は、お上人さまの凄いお話に集中できないようかい?」
ライチョス君「フゥ!雷鳥さん、乙!」
牛窪君「僕は雷鳥さんとかじゃないよ、君はお上人さまの話が嫌いかい?」
ライチョス君「オッ!ウッ!雷鳥さん乙!てってーてきに乙!」
牛窪君「あのさあ、ライチョスくん、タブレットはよそうよ。君がお上人さまの話を聞くことによって」
ライチョス君「雷鳥さん!知り合いの話ーっ!知り合いの話ーっ!フゥー!」

牛窪君「うっせえーーっ!!」

今度は牛窪君の怒号が館内に響き渡った
ライチョス君は牛窪君の繰り出す分身八肘拳で頭部を嫌と言うほど肘打ち攻撃されたが、
ど突かれる度に「フゥ!」「乙!」「ライチョス!」「ゆーじんの話!」と叫び
時には身体をスウィングさせながら、酔ったようにかわしていたそうだ

1635情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/17(土) 21:18:49 ID:vGaGNBtg0
無残やな オワコンスレの 末路とは 住民同士で 足を引っ張る

1636情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/08/17(土) 21:22:40 ID:vGaGNBtg0
汗かきて 陰嚢にハッカを 塗りたれば 痛みに狂いし 晩夏の宵

1637雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/17(土) 22:40:59 ID:qNyJ3PAo0
後輩の話。

彼は林道をバイクで走破するのを趣味にしている。
とある山奥の廃道を走っていると、行く手に太い木が倒れているのが見えた。
「やれやれ、スピードを出していたら転倒するところだった」
バイクから降りると、障害物を片すため手を掛ける。

彼の手が木肌に触れるや否や、倒木はビュッと飛ぶように移動した。
そのまま下生えの中に突っ込み、あっという間に見えなくなった。
低木がガサガサと揺れ、何か長い物がその下を移動していくのを教えていたが、
それもすぐに静まった。

呆気にとられたが、我に返るとバイクに飛び乗り、全速力でそこから逃げ出した。

「どう見ても木だったんですけどね。枝も伸びてたし。
 アレって何だったんでしょう?」
本当に驚いたという顔で、彼は首を傾げていた。

1638雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/17(土) 22:42:34 ID:qNyJ3PAo0
昔馴染みの話。

彼の母君は幼い頃、実家のある山奥で光る倒木を見たのだという。
何だろうと近よってみると、それは倒木ではなく大きな白い蛇だった。
大人がやっと跨げるほどの胴太で、全長はどれ位あるのか見当も付かない。
蛇体の端は、両方とも茂みの中へ消えている。

何故か怖いとは思えなかった。
しばらくズルズルと這う、白く明滅する蛇腹を眺めていたが、それ以上何の変化が
ある訳でもなく、そのうち飽きて帰宅したそうだ。

困ったのがその後で、母君は口がきけなくなっていたという。
何か話そうとすると急に喉に物がつかえたようになり、言葉が出なくなるのだ。
家族らが焦っていると、様子を見ていた祖母が言った。

「主様を見たんだね、しばらくは口が使えないよ。
 我慢していい子にしていれば、また元に戻るから」

それから二週間ほどして、やっと普通に喋れるように回復したという。

「あの時は本当に焦ったわ。
 でも神様クラスの存在と行き逢って、障りがそれだけで済んだっていうのは、
 凄く有り難いことだったのかもね」

おっとりとした顔で、母君はそう仰った。

1639雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/17(土) 22:43:25 ID:qNyJ3PAo0
知り合いの話。

夏祭りが終わった夜、村外れの山裾を一人歩いていた。
行く手の方角から、ズルズルと何かが擦れるような音が聞こえてくる。

やがて月明かりの下、音の主が眼に入ってきた。
道を横切って塞いでいる、黒光りする長い生き物。
蛇のように見えた。太さは彼が一抱えするほどもあったらしい。
尾の先の方は繁みの中に潜っていて、一体どれほどの体長なのかもわからない。
それが延々と山手の方に向かって這い進んでいる。

山肌を見やると、途中に穴が開いているようで、蛇はそこに這い込んでいく。
「この斜面、こんな太い蛇が潜れる穴なんてあったっけ?」
凝視していると穴の縁が見て取れるようになってきた。

小さく古びていたが、間違いなく鳥居だった。

「あ、これ、主様かも知れん」
確かここの主は大蛇だったと年寄りに聞いたことがある。
行き逢えば祟ることもあるという話だったので、慌てて踵を返すと別の道を辿って
家に帰ることにした。

翌日日が高くなってからもう一度そこに訪れ、例の鳥居を探ってみた。
鳥居の周りは何処にも穴など無く、とてもあの蛇が潜り込めるような隙間も無い。

「鳥居を抜けて通るってことは、神様の類なのかなぁ。
 でもあまり厳かな感じは受けなかったなぁ。
 何にせよ、祟られなくて良かったよ」
そう苦笑しながら、彼はこの話をしてくれた。

1640雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/17(土) 22:45:45 ID:qNyJ3PAo0
遅ればせながら、>>1さんスレ立て乙でした。
今後ともよろしくお願いいたします。

それではまた、別の夜に。

1641雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/19(月) 20:11:13 ID:pZfvPRZY0
知り合いの話。

盆で田舎に帰った折、家族で川遊びに出かけたのだという。
河原にシートを拡げており、年長者はそこで食事を摂ったり休んだりしていた。
小さな従姉妹の面倒を見るのは彼の役目だったらしい。

水に浸かって遊び相手になっていると、突然、身体から力が抜けた。
全身がひどく疲れた感じになり、立っているのも辛いほどだ。
動けなくなる前に、従姉妹の手を引いて、一緒に川から上がることにした。
シートまで辿り着くと、大きな息を吐いて倒れ込んだ。
家族が口々に「どうした、顔色が悪いぞ」と話し掛けてくる。

答えるのも億劫になっていると、従姉妹がこちらを見つめながら、妙なことを言い出した。
「お兄ちゃん、なんでそんなお婆ちゃんを背負っているの?」

何でも彼の背中に、見覚えのない皺だらけの老婆がしがみついているのだと言う。
ギョッとして背後を確認したが、誰も背中には乗っていない。

1642雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/20(火) 15:02:14 ID:XIJkA0/20
今日は朝顔の観察日記をつけました
市民プールにも行きました

1643雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/20(火) 15:02:59 ID:XIJkA0/20
あへへへへへっへ
ううううううわああああああああ

1644雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/20(火) 15:03:51 ID:XIJkA0/20
お前らは俺のおもちゃでいいんだ上等だろ

1645雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/20(火) 19:37:17 ID:RAeLyG3Y0
ぶりぶり〜

1646雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/20(火) 19:39:31 ID:RAeLyG3Y0
ぶりぶり〜

1647雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/20(火) 19:40:37 ID:nEEsBJNY0
大腸菌一号

1648雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/21(水) 14:19:54 ID:R8yfmkeg0
せっかく話進んでたのに、足引っ張るやつがいたからな〜
もう藍とかいうやつは、来ないよ
代わりに、雷鳥一号が話を提供してやる

1649雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/21(水) 18:41:10 ID:UJan4.Pk0
知り合いの話。

手近な山で、一人ハイキングを楽しんでいる途中、首吊り死体を見つけてしまった。
慌てて下山して警察に通報し、警官や地元青年団の者と共に発見場所へ向かった。

戻ってみると、覚えのない首吊り死体が一体増えていた。

想像していなかった事態に彼は腰を抜かしかけたという。
二人分の身体を麓に下ろすのは、結構大変だったらしい。
下ろした後の事情徴収が、これまた大変だったと彼は言う。

後日聞かされた話によると、その二人はまったく面識のない赤の他人だということで、
何故あの日同じ場所で首を吊ったのかは、皆目見当も付かなかったそうだ。

1650雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/21(水) 18:41:55 ID:LOiN/E/w0
知り合いの話。

手近な山で、一人ハイキングを楽しんでいる途中、首吊り死体を見つけてしまった。
慌てて下山して警察に通報し、警官や地元青年団の者と共に発見場所へ向かった。

戻ってみると、覚えのない首吊り死体が一体増えていた。

想像していなかった事態に彼は腰を抜かしかけたという。
二人分の身体を麓に下ろすのは、結構大変だったらしい。
下ろした後の事情徴収が、これまた大変だったと彼は言う。

後日聞かされた話によると、その二人はまったく面識のない赤の他人だということで、
何故あの日同じ場所で首を吊ったのかは、皆目見当も付かなかったそうだ。

1651雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/21(水) 18:44:12 ID:UJan4.Pk0
知り合いの話。

手近な山で、一人ハイキングを楽しんでいる途中、首吊り死体を見つけてしまった。
慌てて下山して警察に通報し、警官や地元青年団の者と共に発見場所へ向かった。

戻ってみると、覚えのない首吊り死体が一体増えていた。

想像していなかった事態に彼は腰を抜かしかけたという。
二人分の身体を麓に下ろすのは、結構大変だったらしい。
下ろした後の事情徴収が、これまた大変だったと彼は言う。

後日聞かされた話によると、その二人はまったく面識のない赤の他人だということで、
何故あの日同じ場所で首を吊ったのかは、皆目見当も付かなかったそうだ。

1652名無しさん:2019/08/28(水) 21:50:32 ID:V.4Rmno60
一体何が起きているのか分からず戸惑っていたが、
この騒ぎもどうやら落ち着いたのかな?
ネットの掲示板1つとはいえ、裏には色々事情がありそう。
どっちにしても、今後本家の話を読むのは難しそう。

1653雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/31(土) 15:35:25 ID:uPWiAMgQ0
山仲間の話。

とある山に一緒に入っている時、その山に伝わる四方山話をしてくれた。
「ここの奥の森でさ、ブツブツと呟く声が聞こえてくることがあるんだって。
 誰か居るのかと踏み込んでみると、ボロボロのシャレコウベが落ちているんだと。
 そしてその髑髏の内側で、紫の蛇みたいな物がのたうっているとか」

「更に近よってみると、それって実は蛇じゃなく、太くヌラヌラした舌なんだと。
 で、それほど側によると髑髏が何をくっちゃべっているのか聞き取れるとか。
 何でも、これから起こる色々な悪い出来事を予言しているっていう話だ。
 爺様連中はカタリって呼んでるらしい。
 とんだ語り部が居たモンだ」

「上手く使えば、これからの災難を避けて通ることが出来るそうなんだが、これが
 聞き続けていると、最後にあることを述べてから押し黙っちゃうんだとか。
 そうなると、もう髑髏は何も喋らない。
 あっという間に崩れて失くなる。
 見掛けたら避けろ関わるなって、散々そう聞かされたモンだよ」

カタリが最後に述べる事柄って一体何なんだい? 気になって聞いてみた。

「運悪くそこに居合わせた奴の、命日だってさ」

辟易とした顔でそう教えてくれた。

1654雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/31(土) 15:36:37 ID:uPWiAMgQ0
知り合いの話。

彼は仕事柄、山に籠もることが多いそうだ。
祖父が色々と教えてくれたのだが、その中に一つ変わった注意があったらしい。

「日付が切り替わる頃合にゃ、山ン中をうろつくんじゃないぞ。
 この山ン中じゃ、時間ってのは連続して流れてないんだ。
 昨日が終わって新しい日が始まる時に切り替わるのよ。
 これが円滑に替わりゃ問題ないんだが・・・時折な、ズレが生じてる」

「そんな場面に出会すとな、ズレた所から妙なモンが見えちまうんだ。
 この世の理の外にいるっていう外道がよ。
 うっかり見つかって、引き摺り込まれたら帰って来れねえぞ」

この山じゃ百鬼夜行でも見えるのかいな。
そんなことを考えたが、言い付け自体はしっかりと守っているのだという。

1655雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/31(土) 15:37:10 ID:uPWiAMgQ0
知り合いの話。

彼の親戚に、拝み屋の真似事をしていたお爺さんがいたらしい。
困ったことが起こると呼ばれて、的確な助言をしてこれを助けていたのだと。
当事者ですら知らない事を明らかにすることもあったそうで、近在では非常に有名な
存在だったという。
かなり離れた村からも、請われて足を運んでいたそうだ。

お爺さんのやり方は独特で、手にした竹筒に問題事を詳しく説明することから始まる。
しばらくするとその筒を耳に当て、誰かと相談でもしているかのように相槌を打ち、
やおら解決方法を説明するといった具合だった。

「その竹筒がすべて答えを教えてくれるのかい?」
そう誰かに尋ねられた折、次のように返したらしい。

「タケイヅナといってな、稀に竹の節の中に小さな獣が生まれることがある。
 それの入った節ごと切り出してな、酒や米をやって世話をしていると、人のために
 働いてくれるようになるんだ。こいつがそれよ」

竹筒をポンと叩き、呵々と笑う。
「外に抜けるのは自由自在、人の目に写らぬほどはしっこい。
 物事の通りを教えときさえすりゃあ、失せ物揉め事たちどころに解決って訳だ」

お爺さんが亡くなった折、この竹筒を貰い受けた親族は、何を思ったか鉈でスッパリ
半分に割ってしまったらしい。
居合わせた者の話では、中には何も入っていなかったといわれている。
ただ、獣臭が混じった酒の香りが、色濃く立ち上っていたそうだ。

1656雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/31(土) 15:38:48 ID:uPWiAMgQ0
スレの皆様方、今後とももよろしくお願いいたしますデス。
>>1652には薮蛇という言葉を送りますデスヨ

1657雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/31(土) 15:42:38 ID:uPWiAMgQ0
はぁ〜ヨイショ。
やっとな。やっとな。

1658雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/31(土) 15:58:58 ID:l6y/snEg0
このスレは俺ら山怖同盟が乗っ取った!

1659雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/08/31(土) 22:26:16 ID:hI0OajCQ0
卍天上天下唯我独尊無敵最強卍
我等山怖同盟特攻隊

1660雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/01(日) 23:48:16 ID:stvEPff20
知り合いの話。

彼女の田舎の山村には、ゴンボスジと呼ばれる家があったのだという。
その家系は呪詛をよくしていたと言われ、恐れられていた。
ゴンボスジは畑に呪いを掛ける。
呪われた畑の根菜類を引き抜くと、藪睨みの目玉が幾つか付いていて、抜いた者を
睨み付けてから消える。睨まれた者は、程なくして死んでしまうのだそうだ。

ゴンボ(牛蒡)がよく呪われたそうで、故にゴンボスジ(牛蒡筋)と呼ばれるようになった、
そう伝えられている。
大層恐れられたが、何故か避けられてはいなかったようで、村はよくゴンボスジの
娘を嫁に迎え入れていたと聞く。
そしていつの間にか村の中に溶け込んでしまい、ゴンボスジは途絶えたという。

今でも村では「嫁を取ったら、絶対怒らせるな」と伝えられているそうだ。
嫁がゴンボスジの血を引いていれば、相手にその意志が無くとも呪われるからだと。
ゴンボスジというのは女系の家で、まず女しか産まれなかったとも伝わる。

「・・・という、まぁ言い伝えレベルの話だけどねー」
そう言って彼女はカラカラと笑った。
相槌を打ちながら「この人は怒らせないようにしよう」と思う私だった。

1661雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/02(月) 22:06:44 ID:1Qb1W0oE0
おばんです

1662名無しさん:2019/09/03(火) 19:53:11 ID:SrEEVp8Q0
>>1656

 成る程、『薮蛇』ですか。新たにスレ立てするでなく(?)、
数多あるオワコンスレの中からわざわざ『このスレ』を選んで、ねぇ。
ま、もう本家は来ないでしょうし、『どうぞお好きなように』と思います。
本家の遺産、このスレなら、表立った書き込みはなくても、
あなたの投稿に注目する人は相当数いるでしょう。

1663雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/03(火) 21:03:53 ID:bX7Bcb.I0
山仲間の話。

シーズンオフに、一人キャンプ場で設備メンテナンスをしていた。
片付けが終わる頃には暗くなっていた。
続きは明日にしようと一人用テントに向かう。
中に入ろうと、入り口の幕に手を伸ばしたその時。

サァーッという軽い音と共に、内側に垂れていたネットが真横に裂けた。
裂かれた幅は三十センチほど。
鋭利な刃物で切ったかのように、切断面は非常に滑らかで綺麗だった。
幸い、それ以上テントが破壊されることはなかったという。

「あそこのキャンプ場、網切りがいるぜ。信じる信じないは勝手だけどな」
久方振りに会った飲み会で、彼はこんな話をしてくれた。

1664雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/03(火) 21:04:58 ID:bX7Bcb.I0
知り合いの話。

運悪く、雪崩に巻き込まれた登山者がいると連絡が入った。
山小屋に詰めていた彼も捜索に加わったという。
雪中にゾンデ棒を突き刺して探っていると、突然ゾンデが固まって動かなくなった。
押しても引いてもびくともしない。

驚いていると、何かに掴まれたみたいにゾンデが引っ張られる。
慌てて手を構え直した次の瞬間、手の中の感触は通常のものに戻っていた。

何となく予感がして、その下を掘ってみた。
果たして、探していた遭難者の遺体が出てきたそうだ。

しかし、遭難者が埋まっていたのは4m以上も下の雪中だった。
その時使用していたゾンデ棒の長さは精々3m程度。
一体何がゾンデを引っ張っていたのか。

「俺はここにいるぞって、気が付いてほしかったんだろうな」

どこか寂しそうに彼はそう口にした。

1665雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/03(火) 21:06:05 ID:bX7Bcb.I0
知り合いの話。

彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。

「随分と奥方の、山岳地帯を巡っていた時なんですけどね。
 変わった山村がありました。
 直接訪れてはいないのですが、住人皆が身体の何処かに、同じ紋様の刺青を
 入れてるらしいんですよ」

「そこの人たち、他の村の人間からえらく嫌われていまして。
 いや嫌われるというよりも、あれははっきりと怖れられていましたね。
 私がそこの村民を目撃したのは、ある山裾の市場でだったのですが、どの人も
 腫れ物を扱うような感じで接していました」

「その時の案内人に、どんな人たちなのですか、と尋ねてみたんですよ。
 するともう真っ青な顔をしましてね。
 絶対に彼らと関わってはいけないと言う。
 あの刺青に咬まれたら、あっという間に身体が腐って死んでしまう・・・って」

「昔は結構トラブルがあったみたいで、その度に諍いが合ったらしいのですが、
 その中で明らかになったというのですよ。
 あの刺青者に咬まれると、その夜から熱が出て、手足の先から壊死が始まり、
 三日と持たず死んでしまうってことが」

1666雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/03(火) 21:07:04 ID:bX7Bcb.I0
(続き)
「何となく、症状の説明を聞いた感じでは、溶連菌によるモノじゃないかとも
 思ったんですが。
 はい、俗に言う人食いバクテリアって類いですね。
 しかし、そんなに劇症性の菌が、人の口腔内に潜んでいるものなのかどうか、
 私は専門外なのでよくわからないのですけど」

「現在は争うこともなく、それなりに共存しているそうで。
 やはり平和が一番ですよねぇ」

最後に彼は、日本人らしいこんな一言を漏らした。

1667名無しさん:2019/09/03(火) 21:07:55 ID:bX7Bcb.I0
おっ、雷鳥さん来てたのか!乙!
アンチに負けずに頑張れ!

1668雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/03(火) 21:09:03 ID:bX7Bcb.I0
知り合いの話。

彼の親戚に、拝み屋の真似事をしていたお爺さんがいたらしい。
困ったことが起こると呼ばれて、的確な助言をしてこれを助けていたのだと。
当事者ですら知らない事を明らかにすることもあったそうで、近在では非常に有名な
存在だったという。
かなり離れた村からも、請われて足を運んでいたそうだ。

お爺さんのやり方は独特で、手にした竹筒に問題事を詳しく説明することから始まる。
しばらくするとその筒を耳に当て、誰かと相談でもしているかのように相槌を打ち、
やおら解決方法を説明するといった具合だった。

「その竹筒がすべて答えを教えてくれるのかい?」
そう誰かに尋ねられた折、次のように返したらしい。

「タケイヅナといってな、稀に竹の節の中に小さな獣が生まれることがある。
 それの入った節ごと切り出してな、酒や米をやって世話をしていると、人のために
 働いてくれるようになるんだ。こいつがそれよ」

竹筒をポンと叩き、呵々と笑う。
「外に抜けるのは自由自在、人の目に写らぬほどはしっこい。
 物事の通りを教えときさえすりゃあ、失せ物揉め事たちどころに解決って訳だ」

お爺さんが亡くなった折、この竹筒を貰い受けた親族は、何を思ったか鉈でスッパリ
半分に割ってしまったらしい。
居合わせた者の話では、中には何も入っていなかったといわれている。
ただ、獣臭が混じった酒の香りが、色濃く立ち上っていたそうだ。

1669雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/03(火) 21:10:18 ID:bX7Bcb.I0
昔馴染の話。

山麓にある実家へ帰っていた時のことだ。
縁側に寝転がって映画雑誌を眺めていたところ、祖母がやって来た。
古い映画特集のページを開いていたのだが、覗き込んだ祖母がこんなことを言う。

「あぁコレ知ってるよ。ヤマガロって呼ばれてたの。
 私がまだ小さな頃は、この辺りにもちょくちょく出ていたものよ。
 身体が大きい癖に根が臆病みたいでね、逃げ出すのは決まってあっち側だったわ。
 あ、でももう少し毛深かったし、首にもそんな釘なんて無かったかしら」

祖母が指差したのは白黒の、フランケンシュタインのスチール写真だった。

「そう言えば最近見ないねぇ。もう山の奥方で死んじゃったのかねぇ」
それだけ言うと、祖母はサッサと離れていった。

1670雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/03(火) 21:10:58 ID:bX7Bcb.I0
知り合いの話。

彼の祖父はかつて猟師をしていたという。
遊びに行った折に、色々と興味深い話を聞かせてくれた。

「知り合いの猟師が、大きな山鳥を撃ったんだと。
 梢から飛び立ったところを、こうパン!ってな。
 首尾よく命中、ホクホクしながら落っこちた獲物に駆けよったんだが・・・」

「そこでおっちんで(死んで)いたのは、狸が一匹だけだったんだとサ。
 どこにも鳥なんか落ちてねえ。
 よく見りゃ、確かに狸の身体には真新しい銃創がある。
 どんだけ考えても腑に落ちなかったが、まぁ肉が捕れたんで良しとするかってんで、
 それを持って帰ったんだと」

「まぁ山の深い奥底ってのは、えてして変なことが起こるモンよ」
そう言って祖父さんは頭を振った。

1671雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/03(火) 21:12:33 ID:bX7Bcb.I0
知り合いの話。

彼が幼い頃から出入りしている山は、昔から物の怪が出るのだと言われる。
それは尾根筋や森の際といった、いわゆる境界線上に好んで現れる。
異形の形を取る訳ではなく、単に浅い穴が開いているだけの姿形なので、一見それと
判別し辛い。
気が付かずに手足を差し込んでしまうと、穴の縁に鋭い歯が生じて、中に入った物を
囓り取ってしまうのだと。

歯の生えた穴の怪は、地の者からガツと呼ばれていた。

彼はまだガツに見えたことはないが、足元には常に注意を払っているのだという。
「昔から言い継がれてきたってことは、何かしら理由がある筈だから」
それが彼の信条だからそうだ。

1672雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/07(土) 01:41:49 ID:SNovKjuQ0
お久しぶりデス
ただいま新作執筆中でありますデス

1673雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/08(日) 22:28:37 ID:7mrn.V2c0
知り合いの話。

夏祭りが終わった夜、村外れの山裾を一人歩いていた。
行く手の方角から、ズルズルと何かが擦れるような音が聞こえてくる。

やがて月明かりの下、音の主が眼に入ってきた。
道を横切って塞いでいる、黒光りする長い生き物。
蛇のように見えた。太さは彼が一抱えするほどもあったらしい。
尾の先の方は繁みの中に潜っていて、一体どれほどの体長なのかもわからない。
それが延々と山手の方に向かって這い進んでいる。

山肌を見やると、途中に穴が開いているようで、蛇はそこに這い込んでいく。
「この斜面、こんな太い蛇が潜れる穴なんてあったっけ?」
凝視していると穴の縁が見て取れるようになってきた。

小さく古びていたが、間違いなく鳥居だった。

「あ、これ、主様かも知れん」
確かここの主は大蛇だったと年寄りに聞いたことがある。
行き逢えば祟ることもあるという話だったので、慌てて踵を返すと別の道を辿って
家に帰ることにした。

翌日日が高くなってからもう一度そこに訪れ、例の鳥居を探ってみた。
鳥居の周りは何処にも穴など無く、とてもあの蛇が潜り込めるような隙間も無い。

「鳥居を抜けて通るってことは、神様の類なのかなぁ。
 でもあまり厳かな感じは受けなかったなぁ。
 何にせよ、祟られなくて良かったよ」
そう苦笑しながら、彼はこの話をしてくれた。

1674雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/08(日) 22:30:49 ID:7mrn.V2c0
知り合いの話。

夏祭りが終わった夜、村外れの山裾を一人歩いていた。
行く手の方角から、ズルズルと何かが擦れるような音が聞こえてくる。

やがて月明かりの下、音の主が眼に入ってきた。
道を横切って塞いでいる、黒光りする長い生き物。
蛇のように見えた。太さは彼が一抱えするほどもあったらしい。
尾の先の方は繁みの中に潜っていて、一体どれほどの体長なのかもわからない。
それが延々と山手の方に向かって這い進んでいる。

山肌を見やると、途中に穴が開いているようで、蛇はそこに這い込んでいく。
「この斜面、こんな太い蛇が潜れる穴なんてあったっけ?」
凝視していると穴の縁が見て取れるようになってきた。

小さく古びていたが、間違いなく鳥居だった。

「あ、これ、主様かも知れん」
確かここの主は大蛇だったと年寄りに聞いたことがある。
行き逢えば祟ることもあるという話だったので、慌てて踵を返すと別の道を辿って
家に帰ることにした。

翌日日が高くなってからもう一度そこに訪れ、例の鳥居を探ってみた。
鳥居の周りは何処にも穴など無く、とてもあの蛇が潜り込めるような隙間も無い。

「鳥居を抜けて通るってことは、神様の類なのかなぁ。
 でもあまり厳かな感じは受けなかったなぁ。
 何にせよ、祟られなくて良かったよ」
そう苦笑しながら、彼はこの話をしてくれた。

1675雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/11(水) 07:25:37 ID:woI7DuLw0
山っていいなぁ

1676雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/16(月) 01:18:50 ID:TNB0bYL60
どうも

1677名無しさん:2019/09/20(金) 19:38:51 ID:74ViH4eU0
おやおや...
まさか、ネタやモチベーションが尽きた筈はないと思いますが。
今後も「薮蛇」期待してますから、どんどん書き込みお願いします。

1678雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:28:54 ID:BTPn.xng0
そんなに見たいのですか!
仕方ないですねぇ...

1679雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:34:25 ID:BTPn.xng0
友人の話。

一人で山奥を縦走している時、廃火葬場を見つけた。
火葬場にしては妙に大きくて屋根が高く、細長い建物だった。
近くに集落もない山奥なので怪訝に思い、中を覗いて見たそうだ。
土間に遺体を焼くための溝が掘られていた。

巾2m、長さ6mほどのとても大きな溝だった。

ここでいったい、誰がどんな人を焼いていたんだろう?
そう考えると急に恐くなり、飛び出して逃げたそうだ。

1680雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:34:57 ID:BTPn.xng0
先輩の話。

下山中に道に迷った時のこと。
藪漕ぎをしていると、小さな集落跡に出くわした。
木は全て朽ち果て、石垣造りの火葬場らしきものだけが辛うじて形を
保っていたのだそうだ。
中を突っ切って下山を続けた。
しばらくすると開けた場所に出た。
ついさっき通り抜けたはずの集落跡だった。

下りる場所を変えて下山を続けたが、また同じ集落跡に戻ってしまう。
4度目に見覚えのある廃屋が見えた時、叢に埋もれた道祖神に気がついた。
とりあえず、非常食用の乾パンを捧げて手を合わせてみた。

その後20分も歩かないうちに里へ出られたということだ。

1681雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:35:57 ID:BTPn.xng0
私の体験した話。

大学生の時、夏のオートキャンプ場でキャンプをした。
夜になっても暑かったので、皆でランタンを囲み歓談していた。
そのうちに誰かが怪談をしようと言い出した。
よくある山の怪談が何度か語られた後、地元の男子学生が語り始めた。
そのキャンプ場で自殺した男性の話だった。
話が終わったその時、いきなり皆の前で乾いた破裂音がした。

置いてあった二つのランタンが同時に割れていた。
歓談はその場でお開きとなった。

1682雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:36:32 ID:BTPn.xng0
両親から聞いた話。

私がまだ幼い頃、家族で山菜採りに出かけたそうだ。
そこで私だけはぐれて迷子になった。
半日近く捜しても見つからず、警察に届けようかと思っていた矢先。
目の前の繁みが分かれて私が出てきたのだという。
どこ行ってたんだと父が怒って聞くと、私は不可解な返事をしたらしい。

すごく背の高い、一つ目のおじちゃんに連れて帰ってもらった。
お前はそう言ってたぞ、と父は奇妙な顔をして教えてくれた。

私自身は、まったくそのことを憶えていない。
この話を聞いた後、自分が見つかったという場所にお酒を置いてきた。
お礼になっていればいいなと思う。

1683雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:37:02 ID:BTPn.xng0
知り合いの話。

山奥の渓流で鮎釣りをしていた時のこと。
川原の砂地を歩いていると、いきなり片足がめり込んだ。
まるで流砂にでも飲み込まれたみたいで、なかなか抜くことができない。
同行している友人に頼んで、引っ張ってもらうことにした。

力を入れて引っ張るうちに、ずるっという感じで足が抜けた。
砂場から、彼の足と一緒に引きずり出されたものがあった。
砂でできた人型の上半身が、両手で彼の足をしっかりとつかんでいた。
二人が仰天していると、すぐに人型は崩れてただの砂山になったそうだ。

以来、彼らは砂地では絶対に足を止めないことにしたのだという。

1684雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:38:58 ID:BTPn.xng0
まさに、「藪蛇」デスネ
よほどこの言葉が効いてしまったようで‥‥

ここは私の自由帳みたいなものですので、これからもボチボチ書き込みしていきます
どうぞよろしく

1685雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:42:20 ID:BTPn.xng0
やっぱりせっかくストックがあるのでもう少し書き込みますネ

文句なら>>1677にお願いしますデス

1686雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:43:58 ID:BTPn.xng0
友人の話。

登山口に小さな神社があったので、おみくじを引いてみた。

凶が出た。

意地になってもう一度引いてみた。
これもまた凶だった。
気味が悪くなったが、おみくじを投げ捨てて山に登ったのだという。
翌朝目を覚ましてみると、テントのロープに何かが三つ結わえてあった。
そのうちの二つは、彼が前日捨てたらしい凶のおみくじだった。
残りの一つは、誰が引いたか分からないボロボロに古びた大吉だった。

友人の身には、今まで特にこれといった凶事は起こっていないそうだ。

1687雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:44:37 ID:BTPn.xng0
私の体験した話。

山登りの仲間たちで、ある大きな孤島へキャンプに行った。
恵まれた島で、海辺では魚が釣れ、少し山に入れば茸が取れた。
砂浜でキャンプしたのだが、真夜中にテントの周りで音がする。
何か重たいものが歩き回っているようだ。
意を決してテントの外を見ると、大きな黒い猪が残飯を漁っていた。
山から下りてきたのかと驚き、刺激しないように静かにした。

翌朝確認すると、残飯はすっかり食い尽くされていた。
しかし砂浜に残されていた足跡は、私たちのものだけだった。
キャンプはその日で切り上げることにした。

1688雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:45:09 ID:BTPn.xng0
知り合いの話。

奥さんの実家に行った時のこと。
子供を連れて裏山を散策していると、寂れた神社があった。
何となく見てまわり、その帰りに子供が言ったのだという。

鳥居の上に、お父さんよりも大きい黒犬がいたね。

その人には何も見えなかったそうだ。

1689雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:46:14 ID:BTPn.xng0
両親から聞いた話。

私がまだ幼い頃、家族で山菜採りに出かけたそうだ。
そこで私だけはぐれて迷子になった。
半日近く捜しても見つからず、警察に届けようかと思っていた矢先。
目の前の繁みが分かれて私が出てきたのだという。
どこ行ってたんだと父が怒って聞くと、私は不可解な返事をしたらしい。

すごく背の高い、一つ目のおじちゃんに連れて帰ってもらった。
お前はそう言ってたぞ、と父は奇妙な顔をして教えてくれた。

私自身は、まったくそのことを憶えていない。
この話を聞いた後、自分が見つかったという場所にお酒を置いてきた。
お礼になっていればいいなと思う。

1690雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:47:19 ID:BTPn.xng0
友人の話。

サークル活動に参加して、山中で野営していた時のこと。
先輩から、その山には手癖の悪い動物が出るので、気をつけろと言われていた。
皆で注意していると、夜中に外のザックを引っ掻き回す音がした。
そら来たと思って、テントの外に飛び出したのだが。

毛むくじゃらの黒い手が二本、ザックの中をごそごそと漁っていた。
その手は十メートル以上向こうの、雑木林の中から伸びてきていたという。
皆、テントの中に逃げ帰ったそうだ。

1691雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:47:54 ID:BTPn.xng0
知り合いの話。

山林の中で友人と野営していた時のこと。
雨が降ってきたので早目に休むことにしたのだという。
まどろんでいるとどこからか尋ねる声がした。

行ってもいいか。行ってもいいか。

何度もしつこく聞かれたので、自分たちに害がなければいいと答えた。
すると轟音が響き、野営地のすぐそばを土石流が滑り落ちていった。
朝日が昇るやいなやその場から退散したそうだ。

1692雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:48:39 ID:BTPn.xng0
私の体験した話。

山奥の集落にある、知り合いの家を訪ねた時のこと。
家の中には気配があるのに、呼び鈴を鳴らしても誰も出てこない。
声を掛けても反応が無く、裏口に回ろうかと思っていると。

家屋が大きな音を立てて、まるで地震のように揺れ始めた。
不思議なことに地面は微動さえしておらず、家だけが激しく揺れていた。
お邪魔しました、と慌てて挨拶すると、家の揺れは即座に治まった。
そそくさと退散した。

後で知ったのだが、当時知り合いは入院していて、家は無人状態だったそうだ。
何かが間借りしていたのかもしれない。

1693雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:49:26 ID:BTPn.xng0
知り合いの話。

戦争が終わってすぐ後の頃だ。
その小父さんは仲間と二人で闇市の仕入れをしていた。
毎朝早くにリヤカーで峠を越えていたのだが、ある朝狐と出くわした。
相棒が石を投げて追い払ったのを見て、小父さんは化かされるぞと注意した。

昼時に相棒が弁当を食べようとすると、弁当箱の中は空になっていた。
ほら見ろ、化かされた。
そう言って小父さんは、半分だけ分けてやろうと自分の弁当を広げたそうだ。

小父さんの弁当箱の中身は、きれいに半分だけ食われていた。

1694雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:49:58 ID:BTPn.xng0
友人の話。

彼が道路工事でバイトをしている時のこと。
そこの現場は、作業車の他は何も通らないような山奥だった。
ある日の昼下がり、乗用車が一台、現場に侵入してきたのだという。
出て行けという注意も聞こえないようで、車は現場の中で止まった。
運転席から降りた男は、トランクから大きな麻袋を担ぎ出してきた。
麻袋からは女性の腕が突き出していた。

その異様な光景に、誰もが近寄るのを躊躇したそうだ。
男は地面に掘られていた穴の中に袋を投げ込み、土をかけて埋めてしまった。
袋が見えなくなると男はほっと息をつき、車に乗り込んで帰っていった。
誰かが警察を呼べと叫んでいた。

白昼の大胆な死体遺棄犯は、目撃者が多いせいもあってすぐに捕まった。
警察の取り調べで犯人が語ったところによると、殺した女性を埋めようと山に入ったが、出くわした工事現場に誰もおらず、ちょうどいい穴まであったので、これ幸いと埋めてきたということだった。

なぜか犯人には、殺した女性以外の存在は見えていなかった。
当時、現場には作業員が十人以上いたと聞かされても、信用しなかったという。
その全員が目撃者だと聞いた時は、唖然としていたそうだ。

1695雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:51:28 ID:BTPn.xng0
とりあえず生存報告がてら投稿してみました
それではまた別の夜に

雷鳥でした

1696名無しさん:2019/09/26(木) 19:52:46 ID:BTPn.xng0
オワコンスレの何も生み出せないオワコン民がネタを提供してる奴を煽るとか笑わせんなやクソが

1697雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 19:55:02 ID:BTPn.xng0
暴言は、いけません
この方はきっと賑わっていたころが恋しいだけなのデス‥‥

何やらID被りしているようですが偶然‥‥ですよね?

1698情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/09/26(木) 19:56:24 ID:BTPn.xng0
うっせー黙れカス

1699刑事クロンボ:2019/09/26(木) 19:56:59 ID:xGJFlCcs0
喧嘩よくない👨🏿

1700情念の令和歌人 綿木穀物麿:2019/09/26(木) 19:57:50 ID:BTPn.xng0
>>1699
やっちゃうよ?

1701刑事クロンボ:2019/09/26(木) 19:58:39 ID:xGJFlCcs0
>>1700
差別する気か?👨🏿

1702刑事クロンボ:2019/09/26(木) 20:01:58 ID:xGJFlCcs0
あーあ、せっかく動いてたのに盛り下げる真似した空気読めないゴミカスがいたからな〜👨🏿

1703雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 20:10:47 ID:BTPn.xng0
私の自由帳を荒らすのはご遠慮いただければと‥‥

1704雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 20:36:05 ID:RedRLHkw0
おっ雷鳥さん来てたのか乙!

1705雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 20:40:56 ID:fpb2.Ud20
ははは

1706雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 20:41:26 ID:fpb2.Ud20
このスレおもしれー

1707雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 20:43:42 ID:fpb2.Ud20
【雷鳥一号】ウオオオオオオオオオオオオオ

1708雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 22:12:02 ID:RedRLHkw0
ヒョオオオオオオオオオオオオオオオオオ

1709雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:00:47 ID:XW1hP7ck0
やっぱ山の怖い話はいいデスネ
メンヘラの空想とは違いますよー

1710雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:01:39 ID:XW1hP7ck0
いえええええええええええええええええええい

1711雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:03:14 ID:XW1hP7ck0
おうコラ
オワコン野郎が誰に楯突いてんじゃ

1712雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:03:53 ID:XW1hP7ck0
ハッ

1713雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:04:26 ID:XW1hP7ck0


1714雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:04:57 ID:XW1hP7ck0


1715雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:05:37 ID:XW1hP7ck0


1716雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:06:22 ID:XW1hP7ck0


1717雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:06:56 ID:XW1hP7ck0


1718雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:07:28 ID:XW1hP7ck0


1719雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:08:06 ID:XW1hP7ck0
万歳だー
はははっはははっ

1720雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:19:20 ID:yqG/vgJU0
藪蛇一号でえええええええっす
よろちくねーー

1721雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:20:24 ID:yqG/vgJU0
ひっひっひっひ
おまんらしごうしちゃるけんのぉ

1722雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:22:52 ID:yqG/vgJU0
らいちょおおおおおおおおおおおおう
いちごおおおおおおおおおおおおおう

1723雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:23:41 ID:yqG/vgJU0
草団子

1724雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:24:37 ID:yqG/vgJU0
チクショー!

1725雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:25:25 ID:yqG/vgJU0
何だ何だ

1726雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:28:36 ID:yqG/vgJU0
謝れよ

1727雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:30:31 ID:yqG/vgJU0
謝れよクソ野郎

1728雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:31:01 ID:yqG/vgJU0
なぁあああああああああ
謝れよったらあああああああああ

1729雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:32:29 ID:yqG/vgJU0
謝れよ

1730雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:33:02 ID:yqG/vgJU0
謝れよ

1731雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:33:41 ID:yqG/vgJU0
謝れよ

1732雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:34:25 ID:yqG/vgJU0
謝れよ

1733雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:34:55 ID:yqG/vgJU0
謝れよ

1734雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:35:37 ID:yqG/vgJU0
謝れよ

1735雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:36:11 ID:yqG/vgJU0
謝れよ

1736雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:36:41 ID:yqG/vgJU0
謝れよ

1737雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:37:40 ID:yqG/vgJU0
謝れよ

1738雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:38:27 ID:yqG/vgJU0
謝れよ

1739雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:39:12 ID:yqG/vgJU0
はいジャンガジャンガジャンガジャンガジャンガジャンガジャンガジャンガ〜

1740雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:44:43 ID:yqG/vgJU0
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          : ./   i./ ,,..、    ヽ
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           (´゛ ,/ llヽ            |
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        : /.._ /    ヽ \\.`゙~''''''"./
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       . | ./ l      ”'、 .゙ゝ........ん
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    : v'" .!    |'i .ヽ,    ./ :!  .ヽ
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1741雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:45:40 ID:yqG/vgJU0
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1742雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:46:43 ID:yqG/vgJU0
何だこりゃあ

1743雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:47:18 ID:yqG/vgJU0

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            ヽ -./ ., lliヽ       .|
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1744雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:49:29 ID:yqG/vgJU0

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1745雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:50:01 ID:yqG/vgJU0

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      :! !    │        │
      :!:|               ,! i ,!
      :! ,    .l,      / .l゙ !
      :! |    , l.     | .|  :,
    : v'" .!    |'i .ヽ,    ./ :!  .ヽ
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1746雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:50:31 ID:yqG/vgJU0

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    : v'" .!    |'i .ヽ,    ./ :!  .ヽ
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1747雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:51:09 ID:yqG/vgJU0

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          : ./   i./ ,,..、    ヽ
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           (´゛ ,/ llヽ            |
            ヽ -./ ., lliヽ       .|
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    : v'" .!    |'i .ヽ,    ./ :!  .ヽ
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1748雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/26(木) 23:51:57 ID:yqG/vgJU0
藍物語っていうか陰茎物語じゃん
ほ〜れ


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      l":|    .〜'''      ,. │
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1757雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 00:00:34 ID:1mKNK.gc0
陰茎物語

1758雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 00:02:33 ID:1mKNK.gc0
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どっちがいい?

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藪蛇一号、見参!

1762雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:32:11 ID:KeoCasxc0
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1763雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:32:49 ID:KeoCasxc0
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1764雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:33:21 ID:KeoCasxc0
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1765雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:34:06 ID:KeoCasxc0
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1766雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:34:38 ID:KeoCasxc0
陰茎物語の始まりだああああああああ

1767雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:35:40 ID:KeoCasxc0
知り合いの話。

親類と一緒に茸狩りに行った時のこと。
途中で、木の幹に鎌の刃が刺さっているのに気がついた。
山に詳しい親類に聞くと、鎌の刃には魔を払う力があると信じられていて、それを木に刺すのは一種の魔除けみたいなものだと教えてくれたらしい。

ルートを離れ別の谷に向かっていると、親類が彼を押し止めた。
行く手の両脇の木の幹に、赤錆びた鎌の刃がびっしりと隙間なく埋まっていた。
彼らはそこを避けて、別の獣道を通ったそうだ。

1768雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:36:29 ID:KeoCasxc0
知り合いの話。

親類と一緒に茸狩りに行った時のこと。
途中で、木の幹に鎌の刃が刺さっているのに気がついた。
山に詳しい親類に聞くと、鎌の刃には魔を払う力があると信じられていて、それを木に刺すのは一種の魔除けみたいなものだと教えてくれたらしい。

ルートを離れ別の谷に向かっていると、親類が彼を押し止めた。
行く手の両脇の木の幹に、赤錆びた鎌の刃がびっしりと隙間なく埋まっていた。
彼らはそこを避けて、別の獣道を通ったそうだ。

1769雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:37:09 ID:KeoCasxc0
後輩の話。

真夜中の長い峠道を、バイクで上っていた時のこと。
麓から走ってきた後続車に強引に追い抜かれた。
車内で女の子が四人、可愛らしく手を振って前方の山中に消えていった。

しばらく後にまったく同じ車種の後続車に追い抜かれた。
さっきとまるで同じナンバーだった。
中で手を振っているメンバーもまったく同じ顔形をしていた。
峠を上りきるまでに四回、その同じ車に追い抜かれたそうだ。

1770雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:37:50 ID:KeoCasxc0
知り合いの話。

彼女は毎夕、飼い犬を連れて散歩をするのが日課になっていた。
ある日、犬が何も無い空間に向かってひどく吠え立てた。
山と村との境にある橋の上だったらしい。
家に帰って家族にそのことを話すと、祖母にこう言われた。

変なものが下りて来たんじゃないといいけどねえ。

その直後、村では七軒立て続けに葬式が出たそうだ。

1771雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:38:23 ID:KeoCasxc0

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1772雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:39:17 ID:KeoCasxc0

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1773雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:40:01 ID:KeoCasxc0
くだらねえオワコンスレにはチンポがよく似合うぜ

1774雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:40:58 ID:KeoCasxc0
今は俺の自由帳ですがね

1775雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:41:32 ID:KeoCasxc0
ふひひ

1776雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:42:31 ID:KeoCasxc0

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1777雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:43:05 ID:KeoCasxc0

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1778雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:43:53 ID:KeoCasxc0

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1779雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:44:49 ID:KeoCasxc0
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。∵: .>、/ヽ.      i ,ィ ∵ 。|        | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄l
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1780雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:46:36 ID:KeoCasxc0
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1781雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:47:37 ID:KeoCasxc0

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1782雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:48:27 ID:KeoCasxc0

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1783雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:49:11 ID:KeoCasxc0

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1784雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:49:45 ID:KeoCasxc0

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1785雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:50:52 ID:KeoCasxc0

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      /;;::       ::;ヽ
      |;;:: ィ●ァ  ィ●ァ::;;|
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      |;;::   c{ っ  ::;;|
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       ヽ;;::  ー  ::;;/
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1786雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:52:05 ID:KeoCasxc0
AAは楽だね

1787雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:56:21 ID:KeoCasxc0
上、      /⌒ヽ, ,/⌒丶、       ,エ
       `,ヾ   /    ,;;iiiiiiiiiii;、   \   _ノソ´
        iキ /    ,;;´  ;lllllllllllllii、    \ iF
        iキ'     ,;´  ,;;llllllllllllllllllllii、    ナf
         !キ、._  ,=ゞiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!! __fサヘ.
       /  `ヾ=;三ミミミミヾ仄彡彡ミミヾ=`´  'i、
       i'   ,._Ξミミミミミヾ巛彡////iii_    |
       |  ;if≡|ヾヾヾミミミミヾヾ、//巛iiリ≡キi  |
        |  if!  |l lヾヾシヾミミミ川|ii//三iリ `キi  |
      |  ,if ,f=|l l lヾリリリリリ川川|爪ミミiリ=t、キi  |
        |  ;iナ,サ |l l l リリ川川川川|爪ミミiiリ キi キi  |
        |   iナ ;サ |l l リリリリ川川川川l爪ミミilリ キi キi  |
       |  iサ ;サ, |リ リリ川川川川川l爪ミミiリ ,キi キi  |
       |  iサ ;サ, | リ彡彡川川川川|爪ミミiリ ,キi :キ、  |
        ,i厂 iサ, |彡彡彡彡ノ|川川|爪ミミリ ,キi `ヘ、
      ,√  ;サ, |彡彡彡彡ノ川川|ゞミミミリ ,キi   `ヾ
     ´    ;サ,  |彡彡彡彡川川リゞミミリ  ,キi
         ;サ,  |彡彡彡彡リリリミミミシ   ,キi
         ,;#,    |彡彡ノリリリリミミミシ    ,キi
        ;メ'´    !彡ノリリリリリゞミミシ     `ヘ、
       ;メ      ヾリリリリノ巛ゞシ       `ヘ、
      ;メ        ``十≡=十´         `ヘ、
                 ノ    ゞ

1788雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:56:52 ID:KeoCasxc0

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            ヽ -./ ., lliヽ       .|
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1789雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:57:23 ID:KeoCasxc0

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1790雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:58:01 ID:KeoCasxc0

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1791雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:58:44 ID:KeoCasxc0

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1792雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 17:59:15 ID:KeoCasxc0

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1793雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 18:00:09 ID:KeoCasxc0
これでこのスレの悪霊を祓えたかな?
オワコンの死臭が無くなった

1794名無しさん:2019/09/27(金) 18:01:05 ID:D7gUH0Wk0
おっ雷鳥さん来てたのか乙!

1795雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 18:12:22 ID:KeoCasxc0
はははは〜ははっは〜

1796雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 18:13:20 ID:KeoCasxc0
 Λ_Λ  
(ノ `・∀・)  
 (   )
  U`U  

ぜつりんちゅん
わ森をよく散歩している住人。
とても礼儀が正しいが、言ってることはとても乱暴であり毒舌。
わるりんと共にわろりんを表向き責めてはいるものの、実はわるりんちゅんに酷い虐めを受けているというわろりんちゅんからの証言が度々見聞きされている。
口癖は「〜ですよ」

1797雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 18:14:00 ID:KeoCasxc0
  Λ_Λ    
  (`▽´)   
  (   )  
   U`U

わるりんちゅん
わ森のあばら家に棲む住人。
わろりんちゅんのことを虐めるのが趣味であり、特技にして生き甲斐。
わろりんちゅんが印税を得たことを知るや、その全額を奪う目的で崖から突き落とそうとしたり、アメリカの砂漠に連れ出して酷い目にあわせようと企んだ。
普段はわろりんをコテンパンに虐め倒すが、わろりんが風邪で寝込んだり、規制がかかった(肥溜めに落ちる=どぶりんちゅんという)りして書き込めなくなった際

誰よりもわろりんを按じるという一面も度々見せることから、実はこの森で一番の善人なのではないかとも噂されている。
口癖は「へへっ」

1798雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 18:14:43 ID:KeoCasxc0
うるせええええええんだよおおおおおおおおお

1799雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 18:16:00 ID:KeoCasxc0
バカどもがなめてんじゃねえぞ

1800雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 18:28:36 ID:KeoCasxc0
コラ

1801雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/27(金) 21:58:33 ID:twdfOlGM0
誰だお前
偽物め

1802雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 00:03:38 ID:cEJoZu/c0
おうおうクソッタレが

1803雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 00:05:20 ID:cEJoZu/c0
                 __,,,,、 .,、
            /'゙´,_/'″  . `\
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          l゙ /.   cis.゙ヒ, .ヽ,   ゙̄|
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1804雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 00:06:09 ID:cEJoZu/c0
山の怖い話よりちんこAAの方がお好みとか変態揃いですネ〜このスレ

1805雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 00:40:42 ID:0wS9nZOE0
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1806雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 00:42:22 ID:0wS9nZOE0
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1807雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 00:43:00 ID:0wS9nZOE0
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1808雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 00:44:12 ID:0wS9nZOE0
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1809雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 00:49:18 ID:0wS9nZOE0
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1810雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 00:49:53 ID:0wS9nZOE0
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1811雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 01:41:49 ID:ZH607a.60
雷鳥一号、歌います!

1812雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 01:48:15 ID:ZH607a.60
登山仲間の話。

高校生の時分、部活で山寺に合宿した。
その日は彼女の班が夕食当番で、同級生三人が並んで食器や鍋を洗っていた。
いきなり、一番右端の者が「うひゃっ」と奇声を上げる。
続いて真中の娘も「ひっ」と首を竦めて皿を落とす。
どうしたの、と尋ねようとした途端。

ペタリと、生暖かい濡れた物が首筋に貼り付いた。

似たような悲鳴を上げて背後を振り向くと、そこに紫色の口があった。
何もない空間に、だらしなく半開きの口だけが浮いていたのだ。
唇を割って、青黒い舌が揺れながら垂れている。

三人揃って、皆の元へ逃げ戻ったという。
居合わせた者を引き連れて洗い場へ返したが、既にそこには何も見えなかった。

顧問の先生が言うには、この山には昔から青舌と呼ばれる何かがいるのだと。
「以前にも先輩や卒業生が、何人か出会っているよ。
 ベロリと舐めるだけで他に害はないみたいだから、心配するな」

「舐められるってこと自体が、もう堪らなく嫌なんじゃないの。
 先生その辺わかってないよねぇ」
そう彼女たちは愚痴をこぼしていた。

1813雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 01:52:17 ID:ZH607a.60
同級生の話。

山奥でキャンプしていたある朝、外に出ようと山靴を手にして驚いた。
内部がグッショリと濡れていたのだ。
雨も降っていないし、近くに水が湧いている様子もない。

取りあえず、出来るだけ水を拭き取ってから、そこを発つことにする。
しかしそれから山を下りるまでの間、靴は水を噴いているかのように濡れ続けた。

「ミズチに魅入られたな。この奥の沢に棲んでいるらしいから。
 あれに憑かれている間は身に付けている物が何か一つ、必ず水浸しになるんだ。
 こっから下りてもしばらくは泳いだりしなさんなよ。
 まず溺れてしまうぞ」

麓の無人駅で出会った地の人が、そう忠告してくれたそうだ。

1814雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 01:53:08 ID:ZH607a.60
どうよ?
ここの駄文と違って機能的デスよね

1815雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 17:49:14 ID:o2gHNmfw0
知り合いの話。

誰も居ない夜の公園で、一人花見を楽しむことにした。
そこは山奥にある城跡を利用した公園で、日が落ちると誰も来ない穴場だという。
バイクで乗り入れると、思った通り人の姿はない。
園内に進み、桜が集まっている横手に腰を下ろす。
曲がりなりにも施設なので、それなりに外灯が点いており、夜桜を見るには十分だ。

淡い桜色を堪能していると、何処からかボソボソと人の声が聞こえた。
複数の気配が湧いた。会話を交わしているように思える。

声のする方へ目をやると、すっと気配は消えて何も聞こえなくなる。
しかし今度は別の場所からまたボソボソと聞こえてくる。
段々と薄気味悪くなり、後ろ髪を引かれながらもそこを後にした。

「走りながらつらつら考えたんだけど。
 あそこ、あれだけ見事な桜だもの、誰も見ないのも勿体ないよなぁ。
 人か人外か知らないけど、やっぱり同じこと考えて見に来たんだろうなぁ」
彼はそう一人で納得していた。

1816雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 17:50:05 ID:o2gHNmfw0
杣人の話。

彼はよく山奥の炭焼き場に一人滞在して、炭焼きをしているという。
「大変ですね、一人で山に籠もっているのは寂しいでしょう」
私がそう言うと、彼は笑った。

「いや、時々はお客さんもあるから、そうは寂しくもない。
 まぁ訛りが酷くて、意思疎通するのが大変だけどな。
 酒がかなり好きなようで、一緒に飲むと結構楽しいぞ」

そう言うと、指先ほどの大きさをした物を懐中から取り出した。
薄い乳白色で、虹色に鈍く光っている。

「綺麗ですね、それって一体何です?」
「彼女の身体の一部だよ。この前くれたんだ」
「彼女? ははぁ、付け爪か何かですか」
「いや、鱗」

思わず、マジマジと顔を見てしまう。
彼はニヤニヤ笑うと「嘘だよ」と続け、あっという間にそれを仕舞った。
詳しく見せてくれと頼んだが、丁寧に断られてしまった。

果たして担がれたのかどうか、それ以上私も殊更に確認はしなかった。
今でも彼は炭焼きを続けている。
そして山に入る時は、酒を必ず多目に携えていくそうだ。

1817雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/28(土) 17:50:36 ID:o2gHNmfw0
仕事仲間の話。

急な現地調査の仕事が入り、山奥の町まで出掛けた。
無事に業務を終えた彼は、町外れの川辺を散策していた。
季節は春。
川岸には桜が多く植えられていて、非常に美しい風景を現出させている。
平日の昼前ということもあってか、彼の他は誰もいない。

その時、誰かが鼻歌を歌っているのが聞こえた。声のする方に目を凝らす。
向こう岸の背高い繁みの中から、女の頭が覗いていた。
桜を見上げる髪の長い横顔が、歌の調子に合わせて、軽く左右に揺れている。

呆っとそちらを眺めていると、女の頭が繁みよりズルッと抜け出た。
しかし首の下に続く身体が見当たらない。
ただ、細長い首だけが葦の中から伸び出して、先の頭を支えている。
首の色も肌色でなく黒っぽい。
よくよく見ると、蒼黒い首の背が光を反射しているような・・・え、鱗?

それ以上まじまじと見るような失礼はせず、気取られないようにその場から
立ち去ったそうだ。

1818名無しさん:2019/09/30(月) 19:14:10 ID:0qwR8lYs0
...で...もうお終いなんですか?

1819雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:11:45 ID:BK.4cjck0
山仲間の話。

山中の寂れたキャンプ場に、一人で宿泊した時のこと。
夜中、テントの周りでごそごそと動く音がする。
猿でも来たかと、外に出てライトで照らしてみた。

黒光りするモノが、夕食後のゴミを漁っていた。
彼曰く「一瞬、巨大な鯉が歩いているのかと思った」という。
そいつの背中には、魚のような黒い鱗がびっしりと生えていたのだ。

振り向いた姿は、不気味なことに人型だった。
前面腹部にかけて体色が白く変化していて、背とは違って柔らかそう。
股間はよくわからないが、胸が二箇所で膨らんでいる。雌?

やはり鱗で覆われた頸から上は、強そうな黒い髪の毛で覆われていた。
それを掻き分けるようにピンクの長い蛭みたいな物が飛び出していて、
手にした空き缶を頻りに突いている。舌だろうか。

しゃがみ込んでいる状態から立ち上がると、その背丈は彼より頭一つ分
低かった。しかし、腕や足は丸太のようで、力で勝てるとは思えない。
そいつは物怖じする様子もなく、彼の傍へするすると寄ってきた。
ムッとする生臭さが鼻を突く。再度魚を連想してしまった。

真正面から顔を付き合わせたが、黒い毛の向こうにある表情はまったく
何も伺えない。
頭をゆっくり回している姿は、じっくりと彼のことを観察している風に
感じられた。

1820雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:16:57 ID:BK.4cjck0
友人の話。

彼女ら姉妹の部屋であれだけ頻繁に起こっていた怪事が、サッと鳴りを潜めた。
丁度夏に入る頃だったという。
世間話がてらご近所に聞いたところ、彼らの家でも静まったらしい。
「誰かお払いでもしたのかな?」
何にせよ、騒ぎが起こらないに越したことはない。
それから少しの間は、ごく平穏な日常を過ごせたのだそうだ。

暑さが日に日に辛くなってきた頃。
夜中にふと目が覚めた。何か物音が聞こえたような・・・。
手元灯を点けてみたが、部屋にいるのは自分と姉だけだ。
ぐっすり眠っている姉を確認し、明かりを消そうとした時。

部屋の隅から何か出てきて、目の前を横切った。
白い足型の物体。草履の底みたいに見えるもの。
それがトストスと軽い音を立てて、壁の中へ消えていった。

見なかったことにして明かりを消し、眠りについたのだという。

1821雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:20:42 ID:BK.4cjck0
その夜から、毎日のようにそれが枕元を通り抜けるようになった。
決まっているかのように、現れるのはいつも深夜一時過ぎ。
日に一度だけ枕元を通り過ぎる。

それが出るようになって五日目、渋る姉を何とか説得して、一緒に目撃してもらう
ことにした。息を殺して時間を待つ。

時間通り、その日もそれは現れた。
壁に溶けて消えた時点で、姉に「見たでしょ!アレ一体何だろ?」と話を向ける。
しかし姉は奇妙な顔をしてこう答えた。
「音は確かに聞こえたけど、私には何も見えなかったよー?」

「どういうことなんだろねー?」
これまでは同じモノが見えていた筈なのに。
二人で首を傾げたそうだ。

この話を聞かされて、私は嫌な感じを覚えた。
マンションに出る何かが、ターゲットを友人一人に絞ったかのような、そんな気が
して仕方なかった。口に出しては言わなかったが。

1822雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:24:53 ID:BK.4cjck0
雷鳥一号です。
季節が変わるという事で続き物にチャレンジしてみようかと
せっかくの自由帳ですし

1823名無しさん:2019/09/30(月) 20:37:51 ID:0qwR8lYs0
息切れするのが早いようですが、どうぞ、これからもその調子で。
何でしたら、同じAAの連貼りでも構いませんよ。
「機能的な文章」で出来るだけ数を稼いで下さるとありがたいです。

1824雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:40:09 ID:25g5rlu.0
>>1818
いつもありがとうございます。
どうでしょう。山に行かれてみては
そのまま遭難して動物や虫の餌になるのも素敵なことかと思いますが

1825雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:41:03 ID:25g5rlu.0
ひどい.....

1826名無しさん:2019/09/30(月) 20:42:32 ID:Xc5KjnM.0
雷鳥さん乙っす

なんか変なの沸いてますが無視しましょう
こういう輩は構うと喜びますので

1827雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:45:20 ID:25g5rlu.0
>>1826
コメントありがとうございます
せっかく話を読んでいただいたのに、無視するのはどうかと思いましたが、そうした方がいいかもしれませんね
わざわざ遅筆の駄文を覗きに来てくれていますので、心苦しいのですが

1828雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:48:19 ID:25g5rlu.0
皆さんもネタがあったらどんどん投稿してください
ここは私の自由帳ですので全く構いませんよ

1829雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:49:28 ID:25g5rlu.0
ないなら、黙っとけ
私の作品への苦情、非難はチラ裏にでも書いてろ
カス

1830雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:50:57 ID:25g5rlu.0
雷鳥一号

いきます!

1831雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:52:00 ID:25g5rlu.0
薮蛇一号です

うそうそ

雷鳥一号です

1832雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:52:35 ID:25g5rlu.0
「「「「「機能的な文章」」」」」の雷鳥一号です

1833雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:54:01 ID:25g5rlu.0
あんの〜

1834雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:55:02 ID:25g5rlu.0
怒った?

1835雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:55:40 ID:25g5rlu.0
オラオラ雷鳥様に挨拶せんかい

1836雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:57:06 ID:25g5rlu.0
雷鳥一号万歳!

1837雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:58:19 ID:25g5rlu.0
無視無視無視

蒸し蒸しといえばミストサウナ入ったけど

ミストの方がいいね
いいんですよ、冨樫先生

1838雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:58:58 ID:25g5rlu.0
って私はキユじゃなーい!笑

1839雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 20:59:34 ID:25g5rlu.0
雷鳥一号〜ファイッ!

1840雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 21:00:06 ID:25g5rlu.0
1840ゲットオオオオオオオオオオオオオオオ!

1841雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 21:00:40 ID:25g5rlu.0
いえええええええええええええええええええええい

1842雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 21:04:06 ID:25g5rlu.0
私の過去作面白いでしょう

1843雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 22:41:35 ID:vMxKiBJg0
アンンッチイイイイイイイイイイイ
どぅぅぅこいったあああああああああああ!?!!!???

1844雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 23:07:58 ID:ijL6Uvio0
無視してやる!
やる!無視すっぞてめええええええええ
ちくしょうが

1845雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 23:08:31 ID:ijL6Uvio0
ひゃははは
逃げた逃げた腰抜けがあああああああああ

1846雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/09/30(月) 23:14:43 ID:BUoPaObE0
コンパス!

1847雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/01(火) 19:27:26 ID:sa0HOkBM0
毎日監視して

レスが途切れたときだけ

煽る

卑怯者

おる?

1848雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/01(火) 19:28:21 ID:sa0HOkBM0
いたら無視するぞ
覚悟しとけ

なぁ

1849雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/01(火) 21:10:46 ID:/2zxeBLg0
にょほほほほほ

1850雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/01(火) 21:17:25 ID:/2zxeBLg0
おう

1851雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/01(火) 21:25:13 ID:/2zxeBLg0
知り合いの話。

仕事で仲間と二人、山に入っていた夜のことだ。
焚き火を挟んで座り談笑していたのだが、不意に相手が黙り込んだ。
「おい、どうした?」
尋ねてみても、連れは上の方を見上げたまま返事をしない。

何だよ感じ悪いなぁと思いながら、煙草に火を点けて深く吸い込んだ。
自分も顔を上げ、紫煙を勢いよく吹き上げる。

煙の行方をぼんやり追っていると、頭上の梢の中で小さく咳き込む声がした。
「ケホン、ケホン!」
続いてガサガサと葉っぱが揺れる。
何かが木々の上を移動して、ここから去って行ったらしい。

1852雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/01(火) 21:25:58 ID:/2zxeBLg0
(続き)
驚いて腰を浮かす横で、連れが大きく息を吐き、緊張を緩めるのがわかった。

そして言うには、
「いや、ふと上を見るとな、誰かと目があったんだ。
 葉の向こう側、暗闇の中に二つの黄色い目玉だけが浮かんでた。
 ビビって動けなくなっていたんだが、お前が煙草を吹き付けたら、
 咳き込んでどっか行っちまった。助かったよ」

「後にも先にも、喫煙を感謝されたのはあの時だけだな」
彼はそう言って頭を掻いていた。

1853雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/01(火) 21:27:21 ID:/2zxeBLg0
どうよ?
「「機能的」」だろぉ?

1854名無しさん:2019/10/01(火) 21:53:57 ID:YHn.FM4s0
???レスが途切れたときだけ 煽る 卑怯者???

なら、オワコンスレで好き勝手に...ああ、済みません。

何にしろ、レスが途切れないよう、努力されることを期待しています。

1855雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 06:48:18 ID:qEzAQqaI0
臆病者が

1856雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 06:49:48 ID:qEzAQqaI0
オワコンスレじゃなくて私の自由帳ですが?

1857雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 06:50:54 ID:qEzAQqaI0
友人の話。

アメリカへ留学していた時のことだ。
ホストファミリーは皆揃って絵画が好きだったそうで、家族の描いた絵が
山のように屋根裏部屋に収められていたらしい。
彼も好きな口なので、よくそれを眺めさせてもらっていた。

そんなある日、これまでにない変わった一枚を見つけた。
コンテのみで描かれたモノトーンの絵だ。
画の中心には全壊した丸太小屋がある。
屋根はすべて剥がされて、壁も僅かばかりに残っているだけ。
周りに残骸が散らかっており、その間に人が二人ばかり倒れている。

1858雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 06:51:25 ID:qEzAQqaI0
(続き)
そして、その壊れた小屋の横に腹這いになっている、黒い大きな獣が一匹。

デザインとしては犬か狼に見えた。
頭から尾の先まで、優に小屋の倍はあった。

家人にその絵のことを尋ねると、
「詳しいことはわからないが、開拓時代に描かれた絵を、数代前の家長が
 模写したものらしいよ。よほど印象的だったんだろう。
 元絵?いやどこで見たのかとかは伝わってないな」
との答えがあった。

今でもふと、あの絵のことを思い出すことがあるのだという。

1859雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 06:52:16 ID:qEzAQqaI0
自由だ〜!

1860雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 06:54:04 ID:qEzAQqaI0
変なの沸いてるナ〜
見ないフリ見ないフリ

1861雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 06:56:03 ID:qEzAQqaI0
どうも「「「薮蛇」」」一号デス

1862雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 19:01:24 ID:5VvHgx.Y0
江戸っ子でい!

1863雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 19:01:58 ID:5VvHgx.Y0
線路内には立ちいらないでください

1864雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 19:02:57 ID:5VvHgx.Y0
ジャポニカ学習帳〜

1865雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 19:06:34 ID:Q1q56OPo0
友人の話。

幼い頃、山中の実家へ遊びに行った時のこと。
祖父と一緒に庭で竹馬に挑戦していると、不意に背後で異音がした。

 べしゃりっ

振り向いてみたが、何も黒土の上には確認できなかった。
気を取り直して竹馬に取り組み直したが、しばらくするとまた同じ音が聞こえた。
何度も聞こえると流石に無視出来なくなり、祖父に「変な音がする」と訴えた。

「ありゃよく熟れた柿が落ちる音だ。心配要らん。
 お前は聞いたことがないから知らんだろうが、儂には懐かしい音でな」

祖父はあっさりとそう答えた。

1866雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 19:07:06 ID:Q1q56OPo0
(続き)
そして庭の一角を指し示す。

「ほら、あすこに切り株があるだろう。
 昔はでかい柿の木が生えていたんだ。
 虫や病でボロボロになったんでな、何年か前に切り倒したんだよ。
 でも何故かそれからも、柿の実が落ちる音だけは聞こえ続けてる。
 柿の季節でもないのに音がするところを見ると、柿も迷っているのかもな」

迷っているって?

「成仏できてないってことだ。
 耳がないから、ありがたい御経も届かんのかもしれん」

成人した今でも時々、べしゃりっという音を聞くと彼は言っていた。

1867雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 19:07:50 ID:Q1q56OPo0
友人の話。

山奥の温泉旅館に泊まった時のことだ。
真夜中、尿意で目が覚めたのでトイレに行くことにした。
用を済ませて廊下を歩いていると、『関係者以外立ち入らないで下さい』と
書かれた札のある一角を通り過ぎた。
奥の方で明かりが灯っており、そちらから食欲をそそる良い匂いが漂ってくる。

「厨房かな?」
半分寝惚けた頭をその通路に突っ込んでいると、後から肩を叩かれた。
「駄目ですよ、そちらは従業員専用です」
柔らかい声でそう注意される。

「あ、こりゃどうもすいません!」と慌てて振り向くと、女性が一人立っていた。
服装は間違いなくその旅館の仲居さんのものだったが、その首から上、こちらを
見つめるその顔だけが、狐だった。

唖然としている彼の前で仲居さんは頭を下げた。
金色の毛皮の後頭部が見えた。
そしてパッと掻き消すように消えてしまったという。

翌朝、部屋を訪れた女将にこの話をしてみた。
笑われるかと思ったが、まだ若い女将さんはニッコリと笑って
「レアですよ、運が良かったですね」とだけ答えてくれたそうだ。

1868雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 19:10:10 ID:Q1q56OPo0
ドウモ雷鳥デス

1869雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 19:46:13 ID:HXiU6kuY0
山の話面白いネ

1870雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/02(水) 23:49:13 ID:lgg866YQ0
おる?

1871雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/03(木) 20:25:58 ID:G/ausz0M0
友人の話。

一人で山奥を縦走している時、廃火葬場を見つけた。
火葬場にしては妙に大きくて屋根が高く、細長い建物だった。
近くに集落もない山奥なので怪訝に思い、中を覗いて見たそうだ。
土間に遺体を焼くための溝が掘られていた。

巾2m、長さ6mほどのとても大きな溝だった。

ここでいったい、誰がどんな人を焼いていたんだろう?
そう考えると急に恐くなり、飛び出して逃げたそうだ。

1872雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/03(木) 20:26:35 ID:G/ausz0M0
先輩の話。

下山中に道に迷った時のこと。
藪漕ぎをしていると、小さな集落跡に出くわした。
木は全て朽ち果て、石垣造りの火葬場らしきものだけが辛うじて形を
保っていたのだそうだ。
中を突っ切って下山を続けた。
しばらくすると開けた場所に出た。
ついさっき通り抜けたはずの集落跡だった。

下りる場所を変えて下山を続けたが、また同じ集落跡に戻ってしまう。
4度目に見覚えのある廃屋が見えた時、叢に埋もれた道祖神に気がついた。
とりあえず、非常食用の乾パンを捧げて手を合わせてみた。

その後20分も歩かないうちに里へ出られたということだ。

1873雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/05(土) 02:51:12 ID:Q14gbMNY0
友人の話。

私たちがよく縦走していた山道で、廃火葬場が見える所があった。
谷を挟んで向こう側の尾根に、朽ち果てたそれがぽつんと佇んでいた。
仲間内ではそこにあって当たり前の光景になっており、恐い思いを
したことは無かった。

ある夕刻、友人が一人でその山道を通った時のこと。
ふと目をやると、火葬場に灯りがともり煙がたなびいていたのだという。
朽ちたはずの小屋が、まるで建て直したかのようにしっかりしていた。
翌日そこを通って帰る時には、元の廃屋に戻っていたそうだ。

その後、誰が取り壊したのか廃火葬場はきれいさっぱりとなくなって、
今はその痕跡すら見当たらなくなっている。

1874雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/05(土) 02:54:00 ID:Q14gbMNY0
知り合いの話。

部活でいつもの山を縦走している時のこと。
五人いたのだが、たまには違う道を開拓しようということになった。
友人が先頭に立って進んでいたのだが、麓近くで廃火葬場を見つけた。
多人数だったので、強気に中を覗き込んだらしい。

真新しい日本酒の瓶と、酒が注がれたお猪口が三つ、土間に並んでいた。
まるで今まさに飲んでいるような雰囲気だったという。
他にビーナッツと柿の種、そして頭を落とされた蛇が置いてあった。

慌ててその場から立ち去ったそうだ。

1875雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/06(日) 01:23:02 ID:9.cA2/RQ0
同僚の話。

消防団で大規模な山火事の鎮火活動をしている時のこと。
ホースを手繰っていると、燃え尽きて灰に覆われた斜面に何か見えた。
小さな水色の花が一輪、真っ直ぐに立っていた。

それを見た年配の団員がぽつりと言った。
ヒドメが出たな、この火事は大事にはならないよ。
山火事はその日の夕方までには無事に治まったということだ。

1876雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/06(日) 01:23:34 ID:9.cA2/RQ0
知り合いの話。

人里よりかなり離れた、山奥の獣道を歩いている時のことだ。
少し先の地面に、いきなり空から勢いよく突っ込んできた物がある。
どすっという重い音が響いた。
驚いて駆けよると、野球で使う硬球であった。
手に取って空を仰いだが、わずかばかりの雲が流れているだけだった。

1877雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/07(月) 20:56:48 ID:2s.oHMvU0
どうも雷鳥一号です
今宵もやってきました

1878雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/07(月) 20:57:43 ID:2s.oHMvU0
友人の話。

彼が道路工事でバイトをしている時のこと。
そこの現場は、作業車の他は何も通らないような山奥だった。
ある日の昼下がり、乗用車が一台、現場に侵入してきたのだという。
出て行けという注意も聞こえないようで、車は現場の中で止まった。
運転席から降りた男は、トランクから大きな麻袋を担ぎ出してきた。
麻袋からは女性の腕が突き出していた。

その異様な光景に、誰もが近寄るのを躊躇したそうだ。
男は地面に掘られていた穴の中に袋を投げ込み、土をかけて埋めてしまった。
袋が見えなくなると男はほっと息をつき、車に乗り込んで帰っていった。
誰かが警察を呼べと叫んでいた。

白昼の大胆な死体遺棄犯は、目撃者が多いせいもあってすぐに捕まった。
警察の取り調べで犯人が語ったところによると、殺した女性を埋めようと山に
入ったが、出くわした工事現場に誰もおらず、ちょうどいい穴まであったので、
これ幸いと埋めてきたということだった。

なぜか犯人には、殺した女性以外の存在は見えていなかった。
当時、現場には作業員が十人以上いたと聞かされても、信用しなかったという。
その全員が目撃者だと聞いた時は、唖然としていたそうだ。

1879雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/07(月) 22:23:09 ID:t47GqKMo0
ちんぽこちん

1880雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/10(木) 22:53:26 ID:5iYBKyus0
後輩の話。

彼は林道をバイクで走破するのを趣味にしている。
とある山奥の廃道を走っていると、行く手に太い木が倒れているのが見えた。
「やれやれ、スピードを出していたら転倒するところだった」
バイクから降りると、障害物を片すため手を掛ける。

彼の手が木肌に触れるや否や、倒木はビュッと飛ぶように移動した。
そのまま下生えの中に突っ込み、あっという間に見えなくなった。
低木がガサガサと揺れ、何か長い物がその下を移動していくのを教えていたが、
それもすぐに静まった。

呆気にとられたが、我に返るとバイクに飛び乗り、全速力でそこから逃げ出した。

「どう見ても木だったんですけどね。枝も伸びてたし。
 アレって何だったんでしょう?」
本当に驚いたという顔で、彼は首を傾げていた。

1881雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/10(木) 22:54:03 ID:5iYBKyus0
自由帳の面白い使い方ないかな〜

1882雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/12(土) 22:10:28 ID:HJuffYIw0
台風すごいデスネ
いつ停電になるか

1883雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/12(土) 22:11:52 ID:HJuffYIw0
友人の話。

渓流釣りに行き、山中の河原に野営していた夜のこと。
竿の手入れをしていると、焚き火の向こう側に何かがいるのに気がついた。
姿形はおぼろ気ではっきりと見えないが、不思議にも恐いとは思わなかった。
それはじっとこちらを見ていたが、やがてその竿をくれと言ってきた。

彼は少し考えて、恋人と引き換えならあげてもいいと答えた。
するとそれはついて来いと言い、立ち上がって歩き出した。
素直についていくと、しばらくして崖がオーバーハングしている場所に出た。
娘が一人、遺書と書かれた封筒と薬の瓶を持って倒れていた。
慌てて道具を投げ出し、介抱したそうだ。

気がつくとそれは姿を消してしまっていた。
いつの間にか、釣竿が二本と魚篭が一つ失くなっていたという。
一本は鮎竿でかなり高価だったらしく、かなり落ち込んだそうだ。
その時助けた娘さんは、現在彼の奥さんになっている。

1884雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/14(月) 01:06:07 ID:qZ3g01h20
いやあ繋がらなくてビックリデス

1885雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/15(火) 22:31:23 ID:Z9Z3EN7.0
知り合いの話。

人里よりかなり離れた、山奥の獣道を歩いている時のことだ。
少し先の地面に、いきなり空から勢いよく突っ込んできた物がある。
どすっという重い音が響いた。
驚いて駆けよると、野球で使う硬球であった。
手に取って空を仰いだが、わずかばかりの雲が流れているだけだった。

1886雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/15(火) 22:31:57 ID:Z9Z3EN7.0
知り合いの話。

シーズン外れの山歩きで、キャンプ場に一人だけで宿泊したそうだ。
水場ときれいなトイレが設置してあるのがありがたかった。

夜中に我慢ができず用を足しに行った時のこと。
しゃがんでいるとドアがいきなりノックされた。
恐る恐る外に出たが、人っ子一人いなかった。
彼は夜明けまで一睡もできなかったという。

1887雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/15(火) 22:32:58 ID:Z9Z3EN7.0
私の好きな時に好きな事を書き込まれて…
オワコンスレも本望でしょうネ

1888雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/17(木) 00:11:39 ID:hmk9JJm.0
くふふ

1889雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/19(土) 15:19:17 ID:yFsfOQ9U0
先輩の話。

連休を利用して山歩きしていた時のこと。
無人の山小屋に泊まったのだが、奇妙な夢を見たという。

足先まで髭を伸ばしたお爺さんが、挨拶が無いと言って怒っていた。
先輩はなぜか恐れ入ってしまい、わけも分からず謝ったのだという。
そのうち怒りも薄れたのか、お爺さんは許してくれたそうだ。
許すから酒を出せ、と言われたところで目が覚めた。

妙な夢だったが、内容はしっかりと憶えていた。
確かめようと、最後の夜の楽しみに取っておいた酒の携帯容器を出してみた。
容器は空になっており、一滴の酒も残っていなかったそうだ。

1890雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/19(土) 15:19:50 ID:yFsfOQ9U0
知り合いの話。

冬山登山に出かけ、大きな山小屋に泊まった時のこと。
団体用の広い部屋に三人で雑魚寝したそうだ。

夜中に、仲間の苦しそうな声で目が覚めた。
隣を見やると、彼の身体の上に黒い影が乗っているのが見えた。
影は仲間を両手で抱きかかえ、どうやら接吻しているようだった。
慌てて身を起こすと、たちまち影はかすんで消えてしまったという。

仲間の生命に障りは無かったが、その身体は冷え切っていたらしい。
計画を切り上げ、次の日に山を下りたのだそうだ。

1891雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/19(土) 15:21:08 ID:yFsfOQ9U0
たまには投下してみますネ

1892雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/10/27(日) 23:55:04 ID:eeYjafyQ0
ハロー

1893雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/11/02(土) 00:45:03 ID:Yns2/MTI0
生主富士山滑落事故...
恐ろしい映像でしたネ

1894雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/11/10(日) 14:47:32 ID:4ddRcasE0
私の自由帳が復活してる

1895雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/11/16(土) 14:25:25 ID:M1h3MXT60
ふひゃ

1896雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/11/16(土) 14:26:00 ID:M1h3MXT60
週一しか来れないです...

1897名無しさん:2019/11/18(月) 06:43:35 ID:EFXlox1c0
ここは藍スレ

1898雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2019/12/04(水) 21:52:00 ID:kTXcge3M0
私の自由帳デスよ?

1899雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2020/03/24(火) 23:57:00 ID:G9JpchVA0
忙しくて存在を忘れていました。雷鳥です

1900ねここ:2020/05/27(水) 09:40:39 ID:9vu4Gn6k0
自由帳に書き込みされているところ申し訳ないのですが、藍さんに依頼とかすることは可能なのでしょうか?
個別対応はされていないようなので、ないのかもしれませんが本当に困っているので書き込みしてみました。
ご迷惑であるようならこの書き込みを削除することも考えているのですが、なにぶん初心者なのでうまくでき
るかはわからないです。依頼内容は式神関係で、連絡の取れない知人によって取り付けられた式神を取り外してほしい
というものです。取り付けられてから約8年、悪化してからかぞえると約3年位になります。Rさんに依頼と書くべきか
迷ったのですが、藍さんに、の方が良いような気がしたので書き出し以上のようにしています。このスレにおられる人
どなたでも構いません。外せるよ、またはそういった人に心当たりのある方おられましたら嬉しいです。一週間に一回
くらいの頻度で来るようにしていますので何か新たな進展等あると、それも嬉しいです。どうかよろしくお願いいたします。

1901張子の寅 ◆1U4O8MKpUI:2020/06/03(水) 11:50:05 ID:YiR37EIg0
>>1900 ねここさん

ウチのコ達に訊いたら対応可能とのコトだったのでお声掛けしました。


・式神を付けられた経緯
・ねここさんの認識の程度(その式神が視えて聴けるのか、存在を感じるだけか…等)
・具体的にどういうふうに困ってるのか

以上の3点を以下のスレに書き込んで下さい。

【霊障】結界・ヒーリングお試しスレ06【気のせい】
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/occult/1548760109/

その際、「したらばの怖い話板の〜」と言わないで貰った方が助かります^^;

1902雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2020/06/24(水) 10:54:27 ID:Lf7uc/YU0
式神?
狂ってマスネ

1903名無しさん:2020/08/19(水) 14:26:37 ID:JOwv075.0
藍さん戻ってきて~!

1904雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2020/09/03(木) 06:44:13 ID:2Ne7.t7E0
>>1903
ご無沙汰してますどうも雷鳥です

1905名無しさん:2020/09/08(火) 07:05:09 ID:rx3fJFAg0
雷鳥スレ往け

1906名無しさん:2020/09/10(木) 10:51:02 ID:9U3oWUnc0
トリップが古いままじゃん。
本物の雷鳥は、流出発覚後にトリ変えてんぞ。
成りすましも程々にしときなよ。

1907名無しさん:2021/07/05(月) 23:04:34 ID:QyboSZ0U0
新作発見。嘘じゃないぞ。
キーワード工夫してググってみ。

19081591:2021/07/06(火) 00:55:32 ID:EnUzm5.I0
ありがとう

1909名無しさん:2021/07/06(火) 12:31:57 ID:NqaICFgI0
ありがとうございます
最近ずっと読み返していたところなのですごく嬉しいです

1910名無しさん:2021/07/12(月) 20:11:51 ID:APehzHVg0
どこどこ?

1911名無しさん:2021/08/02(月) 00:47:53 ID:UYwt.D960
リンク貼って

1912名無しさん:2021/08/03(火) 22:36:50 ID:fXRPRlCc0
探せない

1913名無しさん:2021/08/05(木) 20:59:33 ID:XJ60N6xI0
何故か知らんが、前と同じキーワードじゃ出てこない。
tag 藍物語 でググれ。第一話目が新作。これも期間限定かもな。

1914名無しさん:2021/08/06(金) 05:34:33 ID:KtxjMNbo0
見つかった

1915名無しさん:2021/08/06(金) 22:59:10 ID:vm7wMnpI0
良かったね

1916名無しさん:2021/08/09(月) 21:59:06 ID:A0WIqfUg0
転載禁止だから前以上に広く読まれることはない

1917名無しさん:2021/08/11(水) 21:08:32 ID:.bp8KY820
これって原作?

1918名無しさん:2021/08/12(木) 19:05:53 ID:rGXsGctw0
?

1919名無しさん:2021/08/15(日) 23:43:56 ID:Ac2CuSfQ0
原作というか
題名と前書きを信じるなら「知人さん=作者本人」の投稿
内容も投稿順も大幅に修正されてるから前書きの通りなんだろう

1920神林ケンジ:2021/08/28(土) 18:48:37 ID:Xi8KzmTU0
私の家の隣にある家が気持ち悪いです。
庭からは竹藪?がぼうぼうに生えていて、夜中になると何故か二階の電気が点滅しています。

最初は変だなぁ、程度にしか思っていなかったのですが、先日その家に1人で住んでいるおばさん(40代後半くらい)から急に「あの家(おばさんが住んでる家)の土地で昔、神隠しとか、そういう事って起きてたんですか?」と怒鳴られるような勢で尋ねられました。

意味がわからず、気持ち悪かったのでその場では適当に返答しました。その後、一緒に暮らしている祖母に話を聞いたところ、そんな神隠しとか変な事件があったなんて聞いた事がない、と言われました。そもそも私の家や、隣家のあるエリアは昔は田んぼだったので、神隠しなんて事とは無縁だと思うのですが……

ただ隣の家なのですが、元々は祖母のお知り合いの老人(おじいちゃん)が一人暮らししていたのですが、10年程前に家の中でお亡くなりになっていたそうです。多分事故か病気だと思うのですが、一人暮らしだった為、発見が大分遅れたそうです。

私は3年前に引っ越してきて祖母と今の家で一緒に暮らす事になったので、今の今まで知らなかったのですが、何となくおばさんの話や、祖母の話を聞いてから隣家が気味悪く感じられます……気持ちが悪くて、ここ最近落ち着かず、ここに書き込みさせて頂きました。

1921メカコアラ軍曹:2021/08/28(土) 18:52:50 ID:frR1rBP20
わいは15歳の頃定時制高校通ってたのね でも半年ほど立ってから駅の椅子に座ってた時な 禁煙のマークが描いてあるのに隣で煙草すうやつが居たんよ わいがちょっちゅ舌打ちしたら何舌打ちしてんだよゴラァ!って胸捕まれた訳 それがきっかけで対人恐怖症言うか、人の事嫌いになって引きこもる様になってしまったのね
ほんでそっからネトゲ生活の始まりね。わいがやってたゲームは巨商伝 引きこもる様になってから中学の友達とも遊ばなくなって(迷惑掛けたくないし) そっから1年位時間たって2010年かなわいは携帯使って一人友達にあけおめメール打ったのよ そいつは学校行ってたけど昼は暇みたいで昼からわいと遊び始めるようになった 夜はオンゲ、昼はカードゲームやそいつの家でプレステその友人Nにはとてもお世話になったわ そんなこんなで2011年も2012年も遊びほうけてた訳親から学校行きなおして見ないか?とか言われてたな

1922名無しさん:2021/10/04(月) 00:58:59 ID:uHCfjArw0
https://ncode.syosetu.com/n2472hb/

1923名無しさん:2021/11/20(土) 22:25:10 ID:rB1BG3/w0
新作きたー!

1924名無しさん:2021/11/30(火) 18:43:39 ID:rHug8gPc0
ほんとの書下ろし?

1925名無しさん:2021/11/30(火) 22:38:44 ID:wP5wMmE60
>>767の8行目が気になってたけど、その経緯の話だね

1926名無しさん:2021/12/18(土) 00:35:11 ID:K3jGOflE0
告知、また新作来るかも。

1927名無しさん:2022/01/12(水) 05:46:08 ID:/qMz9Ad20
はよ

1928名無しさん:2022/03/06(日) 22:29:06 ID:wFrxLAsA0
新作北

1929twinkle:2022/07/02(土) 05:31:04 ID:u7JsPRvo0
>>1904もしよければ私の書いたものお読みください。不思議な話など書いています。自分の体験のみなのでたかがしれていますが。gooブログなどで書いています。

1930名無しさん:2022/07/05(火) 22:20:34 ID:Or7jwmDs0
最初PRだったのに何故ERに変わったのだろう?

1931名無しさん:2022/08/30(火) 03:28:31 ID:Ok89k1n.0
twinkle ?

1932名無しさん:2023/04/18(火) 02:28:27 ID:261pEf3I0
どういうこと


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