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怖い話Part2
1101
:
【おぞましい えほん】
:2016/04/14(木) 00:03:40 ID:H6tpPnUc0
一軒家というものに手を出しておよそ2年、ローンを除けば俺は不満のない生活を送っていると思う。
嫁は持っていないが、別に構わない。元来俺は一人でいることが好きだったからむしろ幸運だ。
子供はうるさい。隣の家が好例だ、子供を3人も抱えたせいで四六時中喧噪と怒号が絶えない。静謐な我が家がユートピアのように思えた。
一昨日だったか、ポストを開けると本のような物が入っていた。
ホチキスで中綴じしてあるが、表紙の字は子供のものだった。『おぞましい えほん』。ひっくり返すと、『おしまい!』と書いてある。どうやらこちらから読んではいけないらしい。
「全く、誰の仕業だよ……」
体の奥底から盛大な溜め息が漏れる。言葉とは裏腹に、犯人の目星はついている。十中八九、隣だ。
とりあえず一通り読んで捨てよう、と心に決め、表紙をめくった。
左側のページには赤い屋根の家が色鉛筆で描かれている。何故か2階建てだ。ちょっとした建築的センスを感じつつ右に視線を送る。
『おとこの人と、おんなの人が、すんでいました。ふたりは、いぬを飼っていました。大きないぬ。2』
なんで「犬」が書けなくて「飼」が書けるんだよ、と心の中で突っ込みを入れる。このページの感想は、多分最後の『大きないぬ』は最後に付け加えたんだろうなぁ、だった。
ページをめくった。
左のページは相変わらず絵が描かれている。若い男女と犬が笑っている絵だ。素通りして右のページ。
『おとこの人と、おんなの人と、いぬは、とってもなかよし。4』
読点が多すぎる文章は読みづらい。このページ、解読に30秒を要した。そしてこのページを読んだとき、ある重大な発見をした。
「一番下の数字は、ページ番号だったのか……、ってことは表紙はページに入れてないのか」
……誰か「どこが重大なんだよ!」と突っ込んでくれないか?
ページをめくった。
男女ともに怒ったような表情をしている。その右に、
『けれどある日、ふたりはおもちゃのとりあいでおおげんかをして、6』。
噴いた。この2人何歳なんだよ、『おもちゃのとりあい』って……。と、小さく『←ハリ出てるからきをつけて!』とあるのを発見。ちょっと感動。
ページをめくる。
また怒ったような表情。2人の間のピンク色の四角はおそらく『おもちゃ』だろう。
『それから、1じかんたってもふたりはけんかをつづけ、8』
テンションが上がっているのか、全体的に字が大きくなっている。だが、
「しっかし、おもちゃのとりあいに1時間、か……」
読んでいるこちらのテンションは下がる一方だった。
ページをめくる。
左側のページが赤の色鉛筆で力強く塗りつぶされている。さらに、テンションがピークに達したのか、文字も赤で書いている。
『おとこのひとが、おんなのひとを、ころしてしまいます。10』
『ころしてしまいました。』と書いたほうが自然だろうが、これが子供の限界ということで妥協する。それにしても、おもちゃで殺人に至るとは、最近の子供の思考は恐ろしいものだ。
ページをめくる。
黒く塗りつぶされた背景に、山芋に顔がついたようなものが浮いている。右に目を移すと、
『おんなの人は、おばけになってしまいました。12』
字は黒に戻っているが、『おばけ』だけやたら大きく書かれている。あの山芋みたいな奴はどうやら女の亡霊らしい。そしてテンションは下がりきっていないらしい。
最後の1枚をめくった。
『おしまい!13』
最初に見たときには、下の数字に気が付いていなかったようだ。
と、その時だった。
俺は何故かこの本が途端に恐ろしくなった。『おぞましい えほん』という表題の意味が分かった気がした。
そして、隣の家の噪音がピタリと止んだ。
そして、今日、隣の家が空き家になった。
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