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連作 蓬這い

15蓬這い</b><font color=#FF0000>(8urSf0IY)</font><b>:2002/10/28(月) 19:07
引きずられそうになるくらいの速度だった。Kは小柄の、中肉中背のたいした特徴が
見受けられない体格なのだが、そんな体の何処にこんな力があるのかと思えるほどの、
言いようのしれない感があった。こちらも大して体格に自信のある方ではなかったが、
長年の肉体労働の賜物と言える体力は備わっているつもりだった。Kも、そうしたい
わゆるブルーカラーと言われるような仕事にでも従事していた事があるのだろうか。
長年の付き合いだったが、そのような素振りや発言を、彼から聞いたことはなかった。

16蓬這い</b><font color=#FF0000>(8urSf0IY)</font><b>:2002/12/20(金) 19:18
そんなことに多少戸惑いながらも、風を頬に軽く受けているのを感じつつ、相手に
合わせて歩幅を速めながらついていった。駅前の景色が流れるように線を引いていた。
方向は新大塚の方へ向かっていた。都電の停留所あたりから254、つまり川越街道に
合流するだだっ広い道を、その方向に向かって小走りとも言えるような速さでKはこち
らを引きずりながら歩く。睨みつけるような視線だった。先程の

17蓬這い</b><font color=#FF0000>(8urSf0IY)</font><b>:2002/12/20(金) 19:21
そんなことに多少戸惑いながらも、風を頬に軽く受けているのを感じつつ、相手に
合わせて歩幅を速めながらついていった。駅前の景色が流れるように線を引いていた。
方向は新大塚の方へ向かっていた。都電の停留所あたりから254、つまり川越街道に
合流するだだっ広い道を、その方向に向かって小走りとも言えるような速さでKはこち
らを引きずりながら歩く。横顔を見ると睨みつけるような視線だった。先程のやりとり
で焦れたような、いらついた心持なのだろう。

18蓬這い</b><font color=#FF0000>(sxulpdxs)</font><b>:2003/05/03(土) 03:05
その態度が、捕まれている手を通して小刻みな震えとなって伝わっていた。もっとも、
怒りだけで震えているのかどうかは表情からは今一つ察知し切れなかった。確かに
いらついた表情ではあったが、先ほどまで空間感覚における共有性を持って接していた
はずだったから、Kにもこちらの在りようは理解できるに違いないのだ。それとも、そ
うした何ともいえない感触に捕らわれていた事が、かえって彼本来の有する精神とあま
りにも懸け離れていたので、それに言いようのない怒りもしくは恐怖を覚えたのかも
知れなかった。未知の事物には、人間は本能的に畏怖を抱くものだ。現に自身も、こう
した得体の知れない思いが身体に纏いついていた。

19蓬這い</b><font color=#FF0000>(8urSf0IY)</font><b>:2003/07/19(土) 20:22
 がかいを幾分縮めながら力強く歩いていたKをやっと止めさせたのは、一軒
の、今ではこの辺りでは数少なくなった、木の香りのする珈琲屋だった。通り
道にはそれとなくラーメン屋や定食屋も見えたのだったが、腹が減るような時
間帯であるはずなのにもかかわらず、見事なほど迷いのない歩調で乱暴にドア
を開けるとそのまま入っていった。店は、もう数十年も前に建てられたのでは
ないかと思われる高層アパートの一階部分の、商店街の並びにあった。その重
みにふさわしく、多少補修されてはいるものの、店内のあちこちになんとも言
いようのない疲弊が漂っていた。客層も若者など一人も居ず、全身に疲弊の証
を顕わにするような人達が二、三人程、よく手入れされた感じのする木製の椅
子に佇んでいた。

20蓬這い</b><font color=#FF0000>(8urSf0IY)</font><b>:2003/07/19(土) 20:23
 アイスコーヒーでいいか、とKがぶっきらぼうにつぶやくと即座に、主人と
思しき初老の、白髪混じりの口髭を蓄えたひょろっとした男に注文を、憤懣を
ぶつけるように叫んだ。周りの客があまりの大きな声に多少驚いた様子で振り
返っていたが、Kは特別気にも止めなかった。堂々と窓側の空いている席へず
んと進んで迷いなく座ると、おまえも早く座ったらどうだ、とトーンは低いが
通る声で言い放った。仕方なく言われるままにおずおず座ると、自然と下を向
いた。多少居たたまれなくなりかけたが、彼の胸中を察するとそうしてばかり
もしていられなかった。
 Kはおもむろにタバコとライターをズボンのポケットから焦れったそうに取
り出すと丸太で作ったと思しき古びたテーブルの上に放り投げ、その際にポケ
ットから飛び出した布を手で突っ込み押し込んでしまうと乱暴にタバコの箱か
ら一本取り出して火をつけた。深々と吸い込み声を気持ち出しながら吐き出す
と人心地ついた様子になったようで、表情から苛立たしさがほんの少し消えた
ように感じられた。と同時に口髭の男が冷をいかにも恭しそうに持ってきて、
アイスコーヒーお二つですね、と、にこやかに言うが早いか足早に仕事場に戻
って行った。思わず冷が旨そうに見えてすぐ口に含む。心地よい冷たさが脳天
にまで染みわたるような感触をひとしきり楽しむとKにならってタバコに火を
つけた。

21蓬這い</b><font color=#FF0000>(CW4whlvM)</font><b>:2003/09/08(月) 02:02
とりあえず、ひとしきり落ち着いた格好にはなったのだが、和らいだとはい
えKの表情は険しさを消してはいなかった。なにしろ先程の不可解な現象を不意
に体験した上に、呼び出した当の本人であるこちらが、待ち合わせの理由を一
向に思い出せないときている。Kが怒りを顕わにしたところでやむを得ない部
分があると、納得せざるを得なかった。このまま下を向き続けるのもよくない
ことだろうと思いはするのだが、機がなかなかつかめないでいた。彼を不愉快
な気持ちにさせた責任は多分にこちらにあるので、こうした一種、閉塞した状
況を打開する意思は大いにあるのだが、待ち合わせの理由を少しも思い出せな
いのでは、どうしていいのかわからなかった。いっそのことでっち上げられれ
ばよかったのだが、Kとの、普段からの近しい付き合いを考えるとこれも今ひ
とつ不調のままだった。


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