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台車は虚空の死体を運ぶ

38以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:31:35

飛びかかってくる教授の腕を潜り抜け身を翻し脇腹をひと衝き。
普通の人ならきっと倒れるが、アザラシめいた教授の腹は中途半端にダメージを削ぐ。

( <○><○>)「いってえ、いてえ。痛いです。ならなぜここに来たですか」

川 ゚ -゚)「お荷物を預かりにでございます、とう!」

ぽよぽよの腕をソファで払い、ついでにソファを投げつけて、イカ型宇宙人の血液みたいな染みの広がるカーペットを引き抜いた。予想通り教授が転ける。そのすきに私も逃げていく。

川 ゚ -゚)「もうこんな部屋からも、実験からもおさらばです。あ、これはちょうだい」

食器棚に立てかけてあった血まみれの台車を手に取り広げる。
四つのタイヤが歴戦の勇者のごとくフローリングの床に立つ。血まみれの台座に私は片足を乗り、もう片方の脚で蹴る。

::(#<○><○>)::「ちくしょおあああああああああああああああああああああ!!」

39以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:32:28

教授は最後のあがきを見せた。

 転がりくるアザラシに、食器棚から拝借した皿やらコップやらスプーンやらフォーク、ナイフ、その他多くのきらきらしたものを投げつける。
粉砕して欠片となってアザラシに突き刺さる。ほとばしる教授の血は、驚くことに赤かった。

川 ゚ -゚)「わお、あんた人類だったんですね」

(#<○><○>)「イエス イエス オフコース!」

 喋る度に吐血している。アザラシ型のマーライオンだ。シンガポール警察に捕まってしまえ。

(#<○><○>)9m「当たり前だぞう、クーにゃん! 哺乳類サル目ヒト科の選ばれし者だけが死をいじくれるんだ! 宇宙にゴミをばらまく権利は我々のみにあるんだよ!」

 なるほど、それは納得だ。満足感を得ながら部屋を去り、台車を駆って階段を下りる。
 途中からはさすがにエレベーターに乗った。

40以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:33:01

 血まみれの台車に、忙しい他の教授どもは目もくれない。暇な大学生はそもそもいない。
熱心な警備員が憐れみを込めた視線で見送ってくれた。もしかしたら研究に足しげく通う私とは顔なじみだったのかもしれない。
申し訳ない。大学で過ごした血みどろの毎日の記憶をせっせと消していた私の脳は、もう君も、何も思い出したくない。

 以上をもって、私は社会に出ることとなった。

 青い空には月がある。人間に土足で踏みいられて地球みたいに搾り取られつつある哀れな衛星だ。
その向こうに広がっているあるはずの星々も、まもなく人類の毒牙に捉えられる。終わることはない。
そして人類が届かなかった星々も、やがてはどこかのイカ型宇宙人にちゅうちゅう吸われる運命にある。

 いつまでたっても同じことの繰り返し。知的生命体とはそういう奴らだ。知性がなければ馬鹿はできない。

川 ゚ -゚)「悲しいなあ」

目に見えない一陣の風は、目に見えないが故に美しいまま頬を撫でてくれた。
何万回撫でられてもちっとも飽きない。私は風が好きだ。どんなに粘っこい血も、やがては風によって乾くのだ。

41以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:34:00

7.


おかげさまで私には夢ができた。
決して破れない唯一の夢。

――前職は。

川 ゚ -゚)「大学で研究の手伝いをしていました」

――どのような研究ですか。

川 ゚ -゚)「宇宙にて命を落とした遺体を再利用する研究です」

――その研究をとおして何を学びましたか。

川 ゚ -゚)「命の尊さを学びました」

42以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:34:45

――命の尊さ、とのことですが、何か具体的なエピソードはありますか。

川 ゚ -゚)「はい、私がR国での事故現場に赴いたときに、死体の中にまだ生きている人がいたんです。
     なんとか助けようとしたのですが、どうしても間に合わず、しかしその生命力の強さに感服いたしました」

面接はおおむね30分ほどであらかた片が付いた。
面接官の顔には眠気が浮かんでいた。朝から続いていた採用試験もこれにて最後。外ではすでに日が暮れている。星が、頑張ればうっすらと見えた。

――最後になります。教えてください。あなたはこの仕事をとおして何を達成したいと思っていますか。

 ここまで来るのは長い道だった。

 庁での事故から丸一年。あれた町も再生し、テロリストはますます活発に宇宙開発に唾をはいている。

 宇宙開発とはすなわちテロリストに目を付けられるということ。よほどの力がない限り、あるいは防衛能力がない限り、彼らを抑えることはできない。

43以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:36:25

川 ゚ -゚)「私はずっと、宇宙が好きでした。幼少の頃から空を眺めるのが好きで、その場所で働きたいとずっと思っていました」

 宇宙が好きだったのは、人が嫌いだったからだ。
人から離れたくて、地上にはどこもかしこも人が要るとわかって、海とか空とかもだめで、あと残された無人は宇宙しかない、と思っていた。

川 ゚ -゚)「だから人が宇宙空間に飛び立つのは有意義なことだと思います。そして、その夢がむざむざつぶされてしまうのはしのびありません」

 目算ははずれた。人はどこにでもいる。火星もいるし、金星もいる。小惑星帯にも手を伸ばしている。

 どこへいっても逃れられない。どこにでも人類はいて、どこでも馬鹿をやっている。

 こんな世界の中で生きていくためには、しっかりと自分の目標を立てることが重要だ。自分を見失わないために。

44以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:37:32

 私の目標。私のたどり着きたいもの。それはただ一つ。

川 ゚ -゚)「だから私は人を守りたいんです。テロリストや、そのほかあまたある宇宙航空関係の事故から、彼らの命を守れたら、これ以上うれしいことはありません」

 警察になる、と決めてからの行動は早かった。
 筆記試験、口頭試験をパスし、地球にある警察本部での面接までこぎつけた。

――お疲れさまでした。面接の結果は追って連絡いたします。

川 ゚ -゚)「よろしくお願いします」

 頭を下げて、私が部屋から去っていく。
面接官がささやいている。好悪というよりは、単純な感想だろう。ささやかな言葉の陳列。

川 ゚ -゚)「失礼いたします」

 たとえこの面接がだめでも、次の仕事の候補はある。民間の警備会社や、反テロ活動のNPOなど。
 いずれにしろ、この国の脅威と戦う仕事であればなんでもいい。

45以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:38:23

 私が会いたいのはただ一人。

 虚空を漂う、あの死なない男。

 空には星が輝くころ、私は久しぶりに彼の住んでいたアパートへと向かった。
無骨な白い壁は、今やすっかり剥がれ落ちている。テロリストの一味だったドクオが逮捕されてから、入居者がどんどん少なくなっている。

 いっそのこと入居してやろうかと大家に声をかけたが、断られた。

 大家としても、もうこのアパートは諦めてしまっているらしい。あと二、三人人が出ていけば、潔く経営を捨てる方針だという。

 ドクオがここにいた記録はもうすぐなくなる。

46以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:39:08
 覚えているのは私だけ。その点、警察からも何度も事情聴取をされた。どんな暮らしをしていたか、そもそもどうして会いに行ったか。
泣きにいっていた、と答えたら、人の好さそうな警察官は同情の目を送ってくれた。堅物の警察官は首をかしげて次の質問に移った。

 アパートに入ることはできた。
大家に礼を言って、廊下を進む。

ドクオの部屋にはもう扉もない。昔はKEEP OUTのロープがあったが、今はその残滓しか残されていない。
殺風景な中身は焼けただれている。ドクオが庁を襲撃した日に爆破されたという。
私がそこにいた痕跡もろとも、すべては焦げ跡になってしまった。

 溜息が自然と洩れた。
ここにいたって、何ができるわけでもない。



 振り向こうとした後頭部が、何かに当たった。

47以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:40:12

( A )「動くな」

 彼の声がした。

 振り向けば頭が砕け散るのだろう。

川 ゚ -゚)「懐かしいね」

( A )「悪いが、感傷に浸る時間はあまりない」

川 ゚ -゚)「振り向いちゃダメか?」

( A )「やめておけ」

川 ゚ -゚)「もう顔知ってるのに?」

( A )「俺はわかっていても、俺を見張っているやつらはわかっていない」

48以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:41:42

川 ゚ -゚)、「ああ、ひどいなあ」

 溜息が途中で途切れる。
どうしたって呼吸は浅くなった。

( A )「どういうつもりだ」

川;゚ -゚)「ええ、そっちが訊くか」

( A )「俺は俺の邪魔をするやつを殺すつもりでいる」

川 ゚ -゚)「私は邪魔?」

( A )「返答次第」

 金属質のそれがいっそう強めに押し当てられた。

( A )「どうして俺は指名手配されていないんだ。
   どうしてお前は、俺がテロリストだとわかっていながら、俺のことを警察に告げないんだ」

49以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:42:43

 テロリストが庁を襲撃した事件。
 ドクオのアパートが爆破された事件。
 警察たちはいまのところこの二つの出来事をまったく別のものとして処理している。
 あくまでも今のうちは、何の共通点も見逃せずにいた。それだけうまくドクオは身分を隠していたわけだ。

川 ゚ -゚)「君を捕まえるのは私だからだ」

 思っていることをそのまま伝えた。
警察に入った理由もそれ。大学を飛び出した私は、その夢だけを追いかけている。

 私の頭に、ドクオの笑いが微かに届いた。

( A )「そんなこと、頼んでないぜ」

川 ゚ -゚)「私がそうしたいと思っただけだよ」

50以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:43:58

( A )「今捕まえるか?」

川 ゚ -゚)「君のお仲間さんが許さないだろう」

( A )「それじゃ、これからかなり骨を折ることになるぞ。いいのか、俺なんか追いかけて」

川 ゚ -゚)「構わない」

( A )「もったいないな」

川 ゚ -゚)「ありがとうさん」

 いつかこんなやりとりをした。
 脳裏にかすめる記憶を今はそっとしまい込む。

51以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:44:42

 ドクオの吐息が聞こえた。

 後頭部に当たっていた感触が一瞬遠のく。
 銃口の角が、小さくこつんと頭を押した。

 振り向こうとしたその瞬間に声が掛かる。




('A`)「だったら、なるべく早く楽にしてくれよな」



川 ゚ -゚)「・・・・・・え?」

 閃光が視界いっぱいにはじけた。

52以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:45:42

 ドクオの放った閃光弾だとわかったのは、光が落ち着いてからだった。
 うすぼんやりとする景色の中に、すでにドクオの姿はいなかった。

川;- --)「今のは……」

 本音だったのだろうか。
 もしかして、彼は今でも被験者なのか。





 この仕事はやめられない。

 この夢を諦めることはできそうもない。

53以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 01:46:35

川;- -゚)「……待ってろ」

 いつか必ず、お前を台車に載せてやる。

 ようやく光も煙も消える。
 もともと見えていた、夕闇の住宅街。気配なんてどこにもなくて、後ろの焼け跡だけ妙に生々しい。




 通り抜けた風が、頬を伝った。
 虚空を渡る冷たい風に、いつしか涙も乾いていた。



――了

54以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 07:40:12


55以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/13(日) 12:00:41
絵のモチーフが出るたび主人公の心情や環境が変わっていく所とか、絵の使い方が上手くて尊敬する
どのキャラクターも愛せるやつらで良かった


56以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/14(月) 09:22:33
乙。クーとドクオの関係がいいな
面白かった

57以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/15(火) 02:15:27
乙。うまく言えないけどめちゃくちゃ雰囲気とか好きだ。

58以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/15(火) 08:57:42
地の文めちゃくちゃ上手い
面白かった、乙

59以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/11/21(月) 17:11:44
愛のある話だな 乙

60以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします:2016/12/04(日) 14:54:52
>>47
http://i.imgur.com/JmPC45u.jpg

遅くなりましたが素晴らしい作品をありがとうございました。
惹き込まれたし希望のある終わり方でよかった、乙


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