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(,,゚Д゚)学校の怪談のようです

1以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:14:46 ID:6BjiICac0

川 ゚ -゚)<……私はただ、この教室が自分には少し窮屈だと感じていただけなんだ

夕日の差し込む学校の教室。
学校指定のブレザーを着込んだ彼女は、机に突っ伏したままそう呟いた。

周りに人の姿はなく、ゆえにそれは彼女の独り言のように思えるが、
実際は彼女の足元で彼女の言葉にずっと聞き耳を立てているものがあった。
真っ青な毛並みが特徴的な、小さな生き物。
それは、一匹の猫だった。

(,,゚Д゚)<……しかし、あなたは出会ってしまった

彼女の話を聞いていた彼――青い毛並みの猫――は、
机の上にぴょんと飛び乗ると、人間の言葉でそう言った。
猫は、下から覗き込むように、机に突っ伏した少女の目を見つめてくる。
月のようなまんまるな目と、瞳。
ずっと見つめていると、自分の全てを見透かされそうな気がして、少女は思わず目をそらした。

川 ゚ -゚)<私は……一体どうしたかったのだろうか?

夕日に染まる窓の外を見ながら、彼女はぼそりとそう呟く。

川 ゚ -゚)<この窮屈な教室から逃げ出したかったのか……あるいは……

彼女は窓から視線を猫に戻す。
猫は、さっきと変わらず彼女のことをじっと見ていた。
まるで、"ずっと昔からそうしていたというような"、そんな目で。

2以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:17:14 ID:6BjiICac0

川 ゚ -゚)<キミはどう思う?

この猫なら、あるいは自分も知らないこの問いの答えを知っているのではないか?
そんな期待をこめて彼女が机の上の猫にそう訊ねると、猫は淡々とした口調で答えた。

(,,゚Д゚)<さあ、わたしにはとんとわかりかねますね。わたしはヒトではなく、ネコですから

猫の言葉に「それもそうか」と自嘲ぎみに彼女は笑った。

川 ゚ -゚)<私は……わからないんだ。
     自分がいったいどうしたかったのか、自分は一体どうするべきだったのか

ため息を吐き、彼女は俯く。
その様子を、猫はその透き通った目でじっと見ていた。

(,,゚Д゚)<……ただ、ネコのわたしにも分かることはあります

川 ゚ -゚) ?

ふいに口を開く猫に、彼女が顔を上げる。
猫は、まるで全てを見透かしているかのような透き通った目で、じっとこちらを見ていた。

(,,゚Д゚)<あなたが”それ”と出会ったのは、決して偶然ではない

3以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:18:42 ID:6BjiICac0

川 ゚ -゚)<……偶然でなければ、一体なんだというんだ?

彼女は真っ直ぐ猫の目を見つめ返して言う。
それは責めるようで、攻撃的な、いや、あるいはとても防御的な口調だった。

(,,゚Д゚)<あなたは出会わなければならなかった

川 ゚ -゚)<……なんだと?

(,,゚Д゚)<出会わなければ、気付くことさえできなかったから

それだけ言うと、猫はぴょんと机の上から飛び降り、教室の出口に向かって歩き出す。

川 ゚ -゚)<<まて! 私が、いったい何に気付けなかったというんだ?

ふいに立ち上がり、手を猫に伸ばして叫ぶ彼女に、猫は顔だけをそちらへ向け、淡々と言い放った。



(,,゚Д゚)<そうですね、しいて言うなら、"あなたがそれに気付けなかったという事実"にです



そう言った猫の顔は、なぜだか少女にはとても悲しそうな、寂しそうな表情をしているように見えた。

4以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:20:12 ID:6BjiICac0





     川 ゚ -゚)学校の怪談のようです【初夜】

          「圧迫する教室」

5以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:21:14 ID:6BjiICac0
昼時の、高校の教室。
温かい日光が差し込むその中では、お弁当を囲む集団がちらほらと見られる。

川 ゚ -゚)(楽しそうだな……みんな)

笑い声とか、愚痴とか、「あの授業はつまらない」、とかいうどうでもいいような話とか。
大体私が友達と一緒に話しているような内容が周りの集団からも聞こえてくる。

川 ゚ -゚)(……)

明るく楽しそうな雰囲気の中で、
明るく楽しそうに振る舞っている人々を、私はぼーっと見ている。
とくに文句があるわけでも、周りがうるさいから鬱陶しいとか思っているわけでもない。
ただ、とくに何も考えずに、私は彼らを見ている。

そう、私はこういう風景を見るとき、大抵なにも"考えていない"。
ただ、"感じて"はいる。
正体不明の、もやもやとした、整理のつかない、何かを。

川 ゚ -゚)(一体なんだというのだ……?)

胸のあたりがもやもやとして、気持ちが悪い。
私は、はっきりとしないことが大嫌いな人間である。
よって、私はいつもこのはっきりとしない『もやもや』の正体に迫ろうとするのであるが―――

o川*゚ー゚)o<<わッ!!

川;゚ -゚)<<ひゃぅ!!?

―――それは決まって、うまくいったためしがない。

6以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:21:47 ID:6BjiICac0

川;゚ -゚)<きゅ、キュートか、びっくりさせるな!

ばくばくと脈打つ心臓を服の上から抑えながら、
私は突然後ろからふい打ちをしかけてきた友人に文句を言った。
それに対し友人は悪びれもせず、片手に持ったあんパンの袋をひらひらとさせながら、
私の向かい側の席に陣取る。

o川*゚ー゚)o<だってクーたんってば、
      たのしーお昼休みに難しい顔してうんうん唸ってるんだもんさー

川;゚ -゚)<む……? 私はそんなことをしていたのか?

なるべくバレないように周囲の様子を窺っていたつもりだったが、
もしそうなら周りから変な目で見られているかもしれない。
不安になった私が、辺りをきょろきょろと見回していると、

('、`*川<だいじょーぶだってば。
     クーの表情の変化なんて、あたしらでもなきゃわかりゃしないよ

川;゚ -゚)て<<うお、ペニサス! お前いつからそこに居た!!

('、`*#川<最初っからいたわ! ……ったく、地味に傷つくからやめてよね、そーいうの

ぷりぷりと怒りながら私と向かいあっている友人、素直キュートの隣に座る彼女の名前はペニサス伊藤。
見た目が地味であることを地味に気にしているという、なんだか地味な少女である。

('、`*#川<……なんかムカつくこと考えてない?

川;゚ -゚)て<い、いや、別に?

7以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:23:00 ID:6BjiICac0

o川*^ー^)o<あははは! うそうそ〜、クーってばちゃんと表情に出てるよー

川;゚ -゚)<そ、そんなことはないぞ! ……ない、はずだ

('、`*#川<遠まわしに「ムカつくこと考えてました」って自白しましたね、クーさん?

川;゚ -゚)<<しっ、しまった!

('、`*#川<<よし、キュート! そいつを抑えろ!!

o川*゚ー゚)o<<あいさ合点!!

川;゚ -゚)<<くっ、くそ! やめろ! はなせえええええええ!!!

8以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:23:37 ID:6BjiICac0

キュートに後ろからがっちりと抑え込まれ、抵抗する私に、
手を「わきわき」と気持ち悪く動かすペニサスが、
ゆっくりと、その顔に怪しい笑みを浮かべながら迫ってくる。
いや、待てキュート。お前、私よりちっこいのになんでこんなに力が強いんだ!

('ー`*#川<目にもの見せてくれるわ! この巨乳美少女がああああああああ!!

川;゚ -゚)<<うっわあああああああああああああああ!!!!

叫ぶ私と、言うにおぞましい行為をしてくるペニサス。
そしてそれを見ながら後ろで絶賛大笑い中のキュート。
気付けばクラス中の視線を浴びている、私たち。
うんうん唸っているのを変に見られるなんて次元ではないほど、
周りに醜態をさらしている少女たちの姿が、ここにはあった。

9以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:24:30 ID:6BjiICac0

川; - )<お嫁に……行けなくなるところだった……

o川*゚ー゚)o<だいじょーぶだって。いざとなったら、わたしらのどっちかがもらってあげるよ!

川;゚ -゚)<<丁重にお断りさせていただく!

お昼休みもそろそろ中ごろ。
購買で買ってきたパンを食べる少女二名と、
若干、というかかなりへばっているお弁当少女(私)が一名。

ツヤツヤ('ー`。0川<いやあ、ええもん触らせてもらいました

間違った。              プラス
購買で買ってきたパンを食べている少女一名+少女の皮をかぶった変態オヤジが一名。
会社に帰れ! むしろ掴まれ!
お金でたたかう正義の味方さんに捕まって臭い飯を食べればいい!

o川*゚ー゚)o<ペニちゃんいーなー。わたしもさわりたかったー

('、`。0川<うん、今度二人で一緒に襲おうね

川; - )ガクッ

もうやだ。

机に突っ伏した私の頭ごしに、二人が仲良く笑い合っているのが聞こえた。
これが私、素直クールのいつものポジションだ。
世に言う『いじられキャラ』。自覚はしてるぞ、どうにもできないけどな。
ちなみにキュートとは名字が同じだが、血縁関係はない。

10以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:24:44 ID:dmvZXbg6O
(@`@`゚Д゚)学校の怪談のようです

相変わらずこの板は専ブラ通すと?スレタイのギコが変になるな

11以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:25:06 ID:6BjiICac0

川#゚ -゚)<っていうか、胸のサイズならお前とそう変わらないではないか

恨みがましげに私はペニサスの胸元に目を向ける。
むしろお前のほうがでかくないか? なら自分のを揉んでおけ。

('、`*川<まーね、でも、あたしはこのとーりのルックスですしー?
      知ってる? 男って胸が大きくても顔が悪いとだめなんだってさ

┐川*゚ー゚)┌ =3<やれやれ。まったくこれだからオトコって奴ァ

('、`*川<しかも手のひらサイズが調度いいとかいいやがるしー?
     まあCカップくらいが調度いいとかいいつつ、Dカップも射程圏内に収めとくのが
     オトコって生き物なのですよ。そのクセFだと射程外とか

┐川*゚ー゚)┌ =3<まったく女をなんだと思ってんだろーねー?

ぶつくさという自称Fカップの友人と、それに適当に合いの手を入れる友人その2。
いや、何やら詳しそうに語ってるけどお前らって……

川 ゚ -゚)<彼氏いたことあったのか?
     っていうか、私の記憶違いでなければ、お前らって男友達もそんなに……

川;゚ -゚)ハッ

('、`*川

o川*゚ー゚)o

あ、やばい。ひょっとして私地雷踏んだか?

12以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:26:12 ID:6BjiICac0

('、`*川<キュー

o川*゚ー゚)o<はいな

やばいやばい、二人ともなんていうか、目がやばい。
ってか声が低い! 怖い! 怖いって!!

('、`*#川<やっておしまい

o川#*゚ー゚)o<<ぃぇす! まむ!!

川; - )<<いやあああああああああああああ!!!

がっちりと掴まれる腕と、わきわきと私の胸部に迫るペニサスの両手。
わりと本気でお嫁に行けなくなりそうな、今日この頃。

―――これが、私たちのいつもの風景だ。

ペニサスやキュートと戯れるこんな時間が、私は別に嫌いじゃない。
ときどき、これでいいのかなと疑問に思うこともなくはないけど、
でも、友人たちと馬鹿なことをやって過ごす時間を、私は何よりも大切にしていた。

川; - )(……ん?)

ふと、そのとき、私の目に一人のクラスメートの姿が映った。

从∀ 从

13以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:26:53 ID:6BjiICac0
染め上げた真っ赤な髪に、左の前髪を伸ばして顔の半分を隠している少女。
たしか……ハインリッヒ高岡だったか。
こんな目立つ外見をしていたら、普段話すことがなくても名前は記憶に残る。

クラスメートの殆どが、この馬鹿騒ぎに目をやっているなかで、
その少女だけはご飯を食べるでもなく、ただぼーっと窓の外を眺めている。
それにしてもいつもは視界の隅に彼女がいてもまったく気に留めないのに、
なぜ今日に限って私は、彼女から目が離せないのだろうか?

……いや、あるいは、私は前から彼女のことが気になっていたのか?

―――とくん。

川;゚ -゚)?

何か、胸の奥の方でうずくものを感じた。
それは、なんだか私がずっと"感じていた"正体不明の何かにそっくりで……

('、`*川<……クー?

川;゚ -゚)ハッ<うん?

14以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:27:22 ID:6BjiICac0
気がつけば、ペニサスが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
キュートもいつの間にか私を拘束する手を緩めており、
私は、なんだか力の抜けた、
まぬけとしか言いようのないような格好で椅子に腰掛けていた。

('、`*川<どした?

o川;゚ー゚)o<ご、ごめん。ちょっちやりすぎちゃったかな?

川;゚ -゚)<え、あ……

こちらを覗きこんでくる友人たちの顔には、心底心配そうな表情が浮かんでいる。
しかし、それに対し私はとっさに言葉が出てこない。
「あ」とか、「う」とか、自分でもよく分からない反応しかできない私に、
友人たちの表情はさらに深刻なものへと変わってしまう。

('、`*川<さっきも、なんか難しそうな顔してたけど、ひょっとしてなんか悩みでもあるの?

o川;゚ー゚)o<<え!? そうだったの?

川;゚ -゚)て<あ、いや……そういうわけじゃ……

先ほどまでのテンションが嘘のように、シリアスな声色で聞いてくるペニサスと、
机から身を乗り出して、こちらに顔を近づけてくるキュート。
しかし、やはり私は何も言うことができない。

「言うことができない」……?

自分の頭に浮かんだ言葉に、私はなぜか違和感を覚える。

15以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:29:00 ID:6BjiICac0

川;゚ -゚)(なんだ……私は今、何を考えた……?)

―――とくん。

从∀ 从

気付けば、無意識のうちに私の目線は窓の外を見ている高岡のほうに移っていた。
そしてそれとほぼ同時に、脳裏に不思議な実感をともなった、奇妙な言葉がよぎる。

「"言うことができない"のではない。"言ってはいけない"のだ」

('、`*川<クー?

川;゚ -゚)<あ……いや、その、すまない。実は朝から、少し調子が悪くてな

自分の口から思わず出てきた嘘に、私自身が一番驚いていた。
しかし、私はなぜか確信していたのだ。
友人たちに今の私の悩みを話すことは、絶対に"許されない"と。

o川;゚ー゚)o<そうなの? だいじょぶ? 保健室いく?

本当に心配そうなキュートの言葉が、私の胸に深く刺さる。

―――でもだめだ。

このことは彼女たちに言うべきではないし、言ってはならない。
なぜか、それだけは分かった。

16以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:29:41 ID:6BjiICac0

川;゚ -゚)<あ、いや、平気だ。そこまでじゃない

ふるふると首を振る私に、キュートはさらに首をつきだし、顔を覗き込んでくる。

o川;゚ー゚)o<え、でも、よく見たら顔色わるいよ?
      やっぱ保健室に……

なおも心配そうにそう言ってくれる友人を、横からすっと入ってきた腕が制した。
ペニサスだ。

('、`*川<……ほんとに、平気なんだね?

まっすぐにこちらの目を覗き込んでくる彼女。
私は、それに対し、わずかに目を逸らしながら答えた。

川;゚ -゚)<あ、ああ……大丈夫だ

('、`*川<そか。ならいいけど

その顔にどこかやさしい笑みを浮かべながら「でもね」とペニサスは続ける。

('ー`*川<もしも悩みがあるんだったら、いつでも言ってよね。
     ……相談くらい、あたしらでも乗れると思うからさ

温かい彼女の言葉に、私は胸の奥の方がずきりと痛むのを感じた。
私だって、できればそうしたいと思う。でも、だめなのだ。
自分に悩みがあるのは知っている。正体のわからない、でも『悩み』と呼べる"何か"を私は確かに抱えている。
そして奇妙なことに、そのことについて私は確信してしまっているのだ。
何があってもこの『悩み』だけは、友人たちに打ち明けてはならないと。

17以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:31:09 ID:6BjiICac0

川  - )(なぜだ……? 私は、一体何を考えている……?)

自分自身が何を考えているのか分からない。
いや、正確には"中途半端に分かっている"。だからもやもやとしてはっきりしないのだ。
はっきりとしていないことが大嫌いな私にとって、それは何よりの苦痛だった。

うなだれ、黙りこくる私を見て、「さて」とペニサスは小さくのびをした。
私のせいで重くなってしまった空気を変えたいのだろう。
ふだん明るい友人に、そんな風に気を使わせてしまったという事実に、
私の胸の奥の痛みがさらに強いものに―――

+('ー`*川<元気だっていうなら、気にせずもう一揉みいっときますか!

川 ゚ -゚)

―――あれ? ならない?

18以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:31:58 ID:6BjiICac0
……気のせいだろうか? 今目の前の友人がひどく不吉なことを言った気が……
いやいや、待てペニサス、そのわきわきと気持ち悪く動かしている指は一体……

('ー`*川<キュー

o川*゚ー゚)o+<合点承知!

ペニサスの言葉に、すばやく反応したキュートが、
本日三回目となる後ろからの、やたらと強い力での拘束を完了する。

川;゚ -゚)<<な、なんでそうなるんだ!! やめろおおおおおおおおおおおおお!!!

叫ぶ私を、どこか安心したような目で見ているクラスメートたち。
たぶん先ほどのやり取りで、私たちがどこか重い空気を発しているのを察していたのだろう。

いや、っていうか温かい目で見てないで助けてくださいよ。マジで。

迫りくる魔の手、悲鳴をあげる私。

そんな状況の中、私はふと、目線を高岡の方に向けてみた。

从∀ 从

目に映った彼女は、相変わらず窓の外を眺めていた。
まるで、こちらのことに興味なんてない、というように。

私の胸の『もやもや』が、さらに大きくなった。

19以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:33:00 ID:6BjiICac0

   *****

太陽がオレンジ色になり、その光が学校の玄関を照らしていた。
いつも通り、私は友人たちと下校しようとして、
そして、ふと大事なことを忘れていたことを思い出した。

川 ゚ -゚)<あ……

o川*゚ー゚)o<ん? なになに?

川;゚ -゚)<いやその……宿題のプリントを教室に忘れてきた

('、`*川<宿題? あったっけそんなの

川;゚ -゚)<ああ、忘れたのか? ミセリ先生の授業の

('、`*川<あー、そういやそんなのあったっけ……

友人はわりとどうでもよさそうだが、私はそうも言ってられない。
自分で言うのもなんだが、私はかなりまじめな性分の人間なのだ。
自慢じゃないが宿題を忘れたことなんて、これまでの人生で一度もない。
それに、国語の担当のミセリ先生は、私もよく利用する、この学校の図書室の司書教員でもある。
あまり悪い印象を持たれたくないというのも、正直なところだった。

o川*゚ー゚)o<んじゃ取りにいってきなよー、待っててあげるからさ

川;゚ -゚)<す、すまん。すぐ戻る

友人たちをあまり長く待たせては悪い、と私は駆け足で教室へと向かった。

20以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:34:02 ID:6BjiICac0

川 ゚ -゚)(あ……)

茜色に染まる教室。
授業が終了し、ほとんどの生徒は部活に行くか家に帰るかしている。

从∀ 从

そんな場所の隅っこの席で、真っ赤な髪の少女が頬杖をついて外を眺めていた。

川 ゚ -゚)<……なにを見ているんだ?

言ったあとで、私は「しまった」と思った。
ハインリッヒ高岡という名前のこの少女は、見た目通りの札付きの不良なのだ。
危ない薬を売買しているとか、性的な違法行為で設けているとか、
そんな噂のつきない少女なのである。

自分とは違う世界の人間。

そんな風に思っていたはずなのに、なのに、なぜ私は……

从゚∀ 从ジロ

外を見ていた少女の顔が、こちらに向く。
赤く染め上げた髪に隠されていないほうの右目が、鋭い眼光を放ちながら私に向けられた。

一瞬、私は自分が取り返しのつかないことをしてしまったのでは、と怖くなった。

川 ゚ -゚)<……昼間も、ずっと外を見ていただろう?

21以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:35:22 ID:6BjiICac0
気がつくと、口が勝手に開いていた。
やはり、何かがおかしい。私は普段から、他人とそんなに積極的に話をするタイプではないのだ。
むしろ人見知りと言っていい。
なのに私は今、まったく話したことのない相手と、
……それどころか、自分とは住む世界が違うとさえ思っていた人間と話をしようとしている。

一体、私にこんなことをさせているのはなんなのだ?

从゚∀ 从<……けっ、覗きかよ。いい趣味してんな、おい

明らかに敵意のこもった声色でそう言うと、
高岡は私から目を逸らし、再び外の風景に目を移した。

川 ゚ -゚) ……。

从∀ 从 ……。

私は、その場に立ったまま、外の風景を見ている彼女を見た状態のまま、ずっと黙っていた。
高岡は、そんな私を無視するつもりらしく、じっと外を見ている。
お互いに黙ったまま微動だにしない。
そんな状況が、少しの間続いた。

从∀ #从ムッ ……!!

先に動いたのは、高岡のほうだった。

从#゚∀ 从<<いつまでそうやってるつもりだよ!

ドスのきいた声ですごむ高岡。
これはマジで、結構怖いな、うん。

22以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:36:34 ID:6BjiICac0

川 ゚ -゚)<質問に答えてもらってないからな

内心、不良少女のすごみにビビりながらも、淡々と私は言葉を返す。
こういうときだけは、表情が顔に出にくい自分の顔が便利だと思う。

从#゚∀ 从<<はぁ!? なんであたしがお前にそんなこと答えなくちゃいけねーんだよ!

川 ゚ -゚)<いや、いけないわけではない。
     話したくないなら、『話したくない』と答えてくれればいいだけだ

それを聞いて、高岡は深々とため息をついた。

从∀ #从<わかったよ、じゃあ答えてやる。
     あたしはお前と話をするつもりはないし、だからお前の質問にも答えねえ。
     これでいいだろ? わかったら話しかけんな

軽く舌打ちをして、高岡は不機嫌そうに窓の外に目を戻した。
私は、それに対し「そうか」と小さく答えて、自分の机に向かう。
忘れ物の宿題のプリントを鞄につめると、
私は再び高岡の窓の外を見ている高岡に近づく。
彼女の見ている視線の先、夕陽に照らされた運動場では、
野球部の男子たちが、大きな声をあげながら、今日も部活に精を出していた。

川 ゚ -゚)<……野球、好きなのか?

高岡が大きく舌打ちをするのが聞こえた。
ばん、と机を両手で叩き、彼女は立ち上がるとこちらに向き直る。
顔と顔が触れ合うぎりぎりの距離で、下から睨みつけてくる彼女。
おお、これが不良の『ガン飛ばし』というやつか、怖いな、マジで。

23以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:37:28 ID:6BjiICac0

从#゚∀ 从<なんなんだよ、お前。あたしのことを探ってどーするつもりだ?

川 ゚ -゚)<別に探ってるわけじゃない。なんとなく、聞きたかっただけだ

从#゚∀ 从<あ? なめてんのか?

斜め45度下から、自分の目が調度三白眼に見えるように睨みあげてくる彼女。
それに対し、本心ではビビりながらも、顔は無表情なままそれを見返す私。
再び、両者沈黙。

川 ゚ -゚) 。……。 从 ∀ #从

表情に出さなくとも、内心ビビっている私には、
お互いの間に張りつめた空気が流れるその時間は30分にも、一時間にも感じられた。
なんでこんなことになったのだろうか、と、そんなことを私は思い始め、そして―――

从∀ 从=3<……らいだよ

―――そして、やはり先に沈黙を破ったのは高岡だった。

川 ゚ -゚) ?

ぼそりと何か呟く高岡。それを聞き取れず、私が首をかしげていると

从#゚∀ 从<<嫌いだ、っつってんだよ!

24以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:38:27 ID:6BjiICac0
また、ドスのきいた声が聞こえてきた。
数秒、私は彼女の言葉の意味について考え、そしてぽんと手を打った。

川 ゚ -゚)<ああ、野球のことか

それを聞いた高岡は、本日最大のため息をつくと、机に突っ伏してしまった。

从 ∀ 从<ったく、なんなんだよ、お前から訊いてきたんじゃねえか

川 ゚ -゚)<いや、すまない。……それで、野球の何が嫌いなんだ?

けっ、と小さく彼女は呟いた。
私は、また彼女が沈黙し私が待つという、
なんだかよく分からない緊迫した状況がはじまるのでは、と不安になったが、
彼女のほうも私のしつこさに辟易していたらしく、今度は素直に答えてくれた。

从∀ 从<……野球ってーか、野球部のやつらが嫌いなんだよ。
     どいつもこいつも、群れなきゃなんにもできねー貧弱野郎ばっかだ。
     見てて胸糞悪ぃったらねえぜ

なぜか小さく、かすれた声でそう話す彼女に、私は首をかしげる。

川 ゚ -゚)?<貧弱……? 野球部の人たちの体格は、結構筋肉質だとおもうが

がく、と目の前の少女が再び顔をうなだれる。
しばらくそうしていた彼女は、やがてばっ、とこちらの方を睨みつけ、

从#゚∀ 从<<もーいい!! ったく、お前と話してると調子狂うぜ!

なにやら肩を怒らせ、そう吐き捨てながら教室を出て行ってしまった。

25以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:39:33 ID:6BjiICac0
一人残された教室で、私はぼーっと突っ立っていた。
一体、今の出来事はなんだったのか。
なぜ、私は彼女に話かけたりしたのだろうか?
そして、なぜ―――

川 ゚ -゚)(なんで高岡さんは、怒ったんだろう……?)

自分は何か悪いことを言っただろうか?
そんなことを考えながら首をひねっていると、
廊下の向こうから、どたどたと騒がしい足音が教室に近づいてきた。

('、`;川<<クー!!

o川;゚ー゚)o<<クー!!?

ばんという派手な音を立てて開いたドアから、
血相を変えた友人たちが飛び込んできた。

川;゚ -゚)<む、すまない。待たせてしまったか?

ふたりの顔を見て、私はようやく友人たちを外に待たせていたことを思い出した。
思えば高岡さんとの会話に長く時間を割いてしまったように思えるし、悪いことをしたなと謝る私に、
しかし友人たちは「そんなことはどうでもいい」と言った様子で

('、`;川<いや、っていうか、あんた大丈夫なの!?

o川;゚ー゚)o<怪我とかしてない!?
     むしろ女の子として一番大事なものを奪われちゃったりしてない!!?

26以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:40:40 ID:6BjiICac0

川 ゚ -゚)

明らかに焦っている様子の友人たち。
それに対して私は、一瞬何を言われているのかわからず、ぽかんとしていた。

川 ゚ -゚)(―――あ)

が、しばらくして、私はなぜ友人たちがこんなにも焦っているのかというその理由に行きあたる。

放課後の教室。自分たちの友人がいるはずのそこから出てきたのは、札付きの不良と噂される少女。
それもなんだか怒っている。
そして、自分たちの友人はまだ教室にいるはずであるという事実。
なるほど、彼女たちが焦るのも無理はない。

川 ゚ -゚)<あー、うん。大丈夫だ

('、`;川<ほ、ほんとに大丈夫?
     二千人の暴走族相手に、あんたひとりで立ち向かうみたいな無茶な喧嘩の引き金ひいたりしてない?

o川;゚ー゚)o<南アフリカとかに売り飛ばされる予定とかできてない?
      もしくは行方不明になった十年後に、外国の見世物小屋で見つかる予定とかできてない?

―――いや、待て、想像力豊かすぎるだろお前ら。

川 ゚ -゚)<いや、うん。大丈夫だ。……っていうか

('、`;川 ? o川;゚ー゚)o

川 ゚ -゚)<……高岡さんは、たぶん、そんなに悪い人じゃない……気がする

27以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:41:53 ID:6BjiICac0

     *****

川 ゚ -゚)<ただいまー

心配する友人たちを適当にごまかして、なんとか家路についた私は、
玄関で靴を脱ぎながら、結局今日のことはなんだったんだろうと考えていた。

本当に思い返せばなんでこんなことをしたのか、自分でも分からない。

川 ゚ -゚)(全ては、この『もやもや』のせいだな)

友人たちと別れたあとの帰路で、私はこの『もやもや』について必死に考えていた。
しかし、やはりこれの正体については、さっぱり見当がつかない。
しいて分かったと言えることをあげるとするなら、
それは正体はさっぱり分からないのに、それに迫るためのヒントだけはたくさんあるということだけだった。

・ヒント1:『もやもや』は友人たちに話してはいけないことである。
・ヒント2:『もやもや』は一人で窓の外を見ている不良少女を見るとき、とくに強く感じられる。
・ヒント3:『もやもや』の正体を、私は確かに知っている。

川 ゚ -゚)(なんとなく輪郭はつかめているのに、その名前は出てこない)

一体これは何なのか、と、私はまた終わりのない、自問自答の無限ループに足を踏み入れていく。
それが何なのか、私はたしかに知っている。
しかし、それを言葉にすることは、なぜかうまくいかない。

―――それどころか、それを言葉にすることを、私は心の奥底で拒絶しているようにも思える。

28以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:43:02 ID:6BjiICac0
フローリングの短い廊下を歩きキッチンに近づくにつれ、
何かを焼いているじゅーじゅーという音が大きくなってくる。
曇りガラスの窓がついた木製のドアを開いて、
私はようやくその音が、一つ年下の妹が夕飯を作っている音だということに気がついた。

ノパ⊿゚)<<おう、ねーちゃんおっかえりいいいい!!

川 ゚ -゚)<ああ、ただいま

とても大きな声が、キッチンから私の入ったリビングまで届く。
うん、本日もまことに元気でよろしい。

ノパ⊿゚)<<今日は帰りが遅かったな! さては道草だな!!

川 ゚ -゚)<む、まあそんなところだ

手元のフライパンから発せられる音に負けるまいとするがごとく、
大声を張り上げているのは妹の素直ヒート。
姉である私に似ず、表情豊かで元気な妹は、
仕事のせいで帰りのおそい両親のかわりに、いつも夕食を作ってくれている。
部活動も忙しいだろうから私が代わってやるといつも言っているのだが、
「ねーちゃんの料理はわりとマジで命にかかわる」と、そんな風に断られてしまう。
毒を入れているわけではないのだから死んだりはしないぞ。
っていうか、お姉さんはわりとマジで傷ついているぞ。

ノパ⊿゚)<<おう、道草を素直にみとめるなんて、さすがねーちゃんだ!

普段はこんな風に、意味もなく私をほめてくれる妹。
……私の料理は、そんなにひどいということだろうか?

29以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:44:18 ID:6BjiICac0
しばらくして料理が出来上がり、私とヒートは向かいあってご飯を食べていた。

ノパ⊿゚)<でな! パスがわたしに回ってきて、その瞬間ボールをぽーんと!

川 ゚ -゚)<ふむ、今日も大活躍、といったところか

ノパ⊿゚)<ところがどっこい! これが思いっきりゴールポストにがっしゃーん!

川 ゚ -゚)<ん? なんだ、得点にはならなかったのか?

ノパ⊿゚)<いや、そこですかさず入ってきたメタルのフォローで見事とくてんだ!
    近年まれに見るナイスフォローだったな! ねーちゃんにも見せたかったぞ!!

川 ゚ -゚)<ほお

いつも通り、元気なヒートがダイナミックな身振り手振りで今日会ったことをいきいきと語る。
妹の話はいつも聞いていて飽きない。っていうか、見てて楽しい。

川 ゚ -゚)(ん?)

ふと、そういえばと私は思った。

川 ゚ -゚)(今日はやけに、心の中で『いつも』のことを意識してないか?)

ペニサスたちにセクハラされていたときにしても、
高岡さんに話しかけてしまったときにしても、
そういえば、私は『もやもや』を感じる直前に、必ず『いつも』のことを意識している気がする。

・ヒント4:『もやもや』が意識されるのは、『いつも』のことを考えたあとである

30以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:45:04 ID:6BjiICac0

川 ゚ -゚)(私の『いつも』が、なにかの引き金になっているのか?)

では、なぜ『いつも』のことを考えると『もやもや』を感じてしまうのだろう?
そもそも、私の『いつも』とはどのようなものだったか?

川 ゚ -゚)(私の、『いつも』。
     ペニサスがいて、キュートがいて、ヒートがいる……私の日常)

―――私はそれに『もやもや』を感じている。

川 ゚ -゚)(何か、不満でもあるのか? 私は、この日常に)

そんなはずはない、と私は頭に浮かんだ言葉を否定しようとするが

とくん

川 ゚ -゚)(……!)

―――どうしようもない胸のうずきが、それが事実であると私に確信させてしまう。

・ヒント4':私は、自分自身の『いつも』に不満を感じている。

川;゚ -゚)(なんだ、私は一体……)

ノパ⊿゚)<ねーちゃん?

川;゚ -゚)<え? あ……

31以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:45:38 ID:6BjiICac0

川 ゚ -゚)<すまん、ちょっとぼーっとしてた

ノパ⊿゚)<おう? 大丈夫か? ……なんか顔色悪いぞ?

心配そうに私の顔を覗き込んでくるヒート。
いつもなら、ここで私は妹に対して申し訳なさを感じるところであるが、
しかしそのとき私が感じていたのは、あの奇妙な『もやもや』だった。

川 ゚ -゚)<大丈夫だ、問題ない

そう言って私は、目の前の茶碗からご飯をかき込む。

―――これ以上、この『もやもや』について考えてはいけない。

なぜか、そんな気がした。

32以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:46:40 ID:6BjiICac0

     *****

川 ゚ -゚)<……また、外を見ているのか

次の日のお昼休み。
友人が購買にパンを買いに行っている間に、私はまた、窓の外を見ている少女に話しかけていた。
クラス中の視線が、私に注がれる。
空気が、一瞬にして凍りつくのを感じた。

从∀ 从<んだよ、またてめーか

無視されるかもしれない、という私の不安に反して、鬱陶しそうに不良少女は答える。

川 ゚ -゚)<野球部はいないようだな、何を見ていたんだ?

从∀ 从<……あたしに構うんじゃねえよ

彼女の視線の先を、それとなく追ってみる。
高岡さんは、どうやら校庭で遊ぶ生徒たちを見ているようだった。

川 ゚ -゚)<高岡さんは、だれかと一緒にご飯を食べたりしないのか?

最初の質問にはまったく答える気がなかったようなので、
私はそれとなく話題を変えようと、そんなことを言った。

しかし、それと同時に彼女の態度は一変する。

33以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:47:37 ID:6BjiICac0

从∀ #从バンッ

彼女は、いきなりその両手で机を叩くと、私の方を睨みつけ、

从#゚∀ 从<……聞こえなかったのか? あたしに構うなって言ってるんだ!

低い声でそう言うと、私の肩を小突き、大きな足音を立てながら教室を出て行ってしまった。

川 ゚ -゚) ……。

しばらく私は、茫然とその場で立ち尽くしていた。
また、彼女を怒らせてしまったか、そんなことを考えていると

「なに、あいつ」

「怖ええ」

「せっかく素直さんが話しかけてあげてたのに」

「素直もバカだよな、ほっときゃいいのに」

そんな言葉が、私の耳に入ってきた。
いろいろな言葉があった。
私に同情するもの、私をさげすむもの、ただの高岡さんへの悪口……
普通ならここで、なにか感じるものがあるような気がするのだが、
なぜだろう? 私はとくに何も感じなかった。

―――どれも的外れで、なんだかひどく、どうでもいいことのような気がして

34以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:48:33 ID:6BjiICac0

('、`;川<<ちょ、ちょっとクー!!?

気がつけば、血相を変えたペニサスが私の両肩を掴んでいた。

川 ゚ -゚)<おう、帰ってきてたか

自分の口から出てきた言葉が、あまりにも平静そのものだったので、私は少しびっくりした。

('、`;川<<「帰ってきてたか」じゃないよ!
     どうしたの? 昨日からなんかおかしいよ!!?

川 ゚ -゚)<……そうか?

たしかに私は、昨日からなんだかおかしいのかもしれない。
いつも感じていたはずの『もやもや』から目をそらせなくなったし、
今もずっとそれを感じている。

しかし、と、私は考える。

―――私がおかしかったのは、はたして昨日からなのか、どうか

('、`;川<<おかしいって! なんで高岡さんに話しかけたりするの!?

川 ゚ -゚)<……だめなのか?

少なくとも、なぜか昨日から"意識するようになった"だけで、
この『もやもや』自体は、ずっと私の胸の内にあったもののはずだ。

ならば、私はもともとおかしかったのではないか?

35以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:49:24 ID:6BjiICac0

('、`;川<<だめ……っていうか、危ないって!
     どう見たって普通じゃないじゃん、あの人!

川 ゚ -゚)<危ない、か。……ペニサスは、高岡さんと話したことがあるのか?

言われて、ペニサスが絶句する。
私は自分自身の言葉に、なぜか棘があるのを感じて内心驚いていた。
ここらで抑えなければ、歯止めが利かなくなる。そんな気がした。

自分がこれまで大事にしていたものが、これ以上言ったら全て壊れてしまうような……

とくん。

川 ゚ -゚) !!

違和感。
それと同時に、私は気付く。

川 ゚ -゚)<……なあ、ペニサス

('、`;川<な……なによ?

自分の声に、感情がこもっていない。
それを感じながらも、私はそれがなぜなのか理解できない。
まるで自分自身が空洞になって、その中を通って空気が動くときの音のような。
そんな無機質な声色で、私は言葉を紡いでいた。

36以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:49:54 ID:6BjiICac0










川 ゚ -゚)<この教室は……こんなに狭かったか?

37以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:51:00 ID:6BjiICac0

('、`;川<へ?

友人が、ぽかん、とした顔で私を見ている。
何を言われたのか分からない、そんな顔。

川 ゚ -゚)<壁と……床が、動いてないか?

ぼうっとした。気持ちのこもらない声で、私はそんなことを言った。
それを聞いた友人の顔が、一気に青ざめていく。

('、`;川<<ちょっと待って、なに言ってんのクー! しっかりして!!

私の両肩を掴んで、がくがくと揺さぶるペニサス。
おそらく私がおかしくなったと思っているのだろう。
しかし、私の目にはたしかに見えていた。

教室の壁が、黒板が、床が、天井が、
私に向かって、ぐんぐん近づいてくるのが、見えていた。

川 ゚ -゚)<なんだこれは……おい、ちょっと待て

('、`;川<<クー!!? クー!!!!

せまってくる壁が、遠巻きにこちらを見ている男子生徒に近づいていき、
そして、あっさりと彼は壁に飲み込まれた。
まるで、壁そのものがどろどろとした液体で、それがただ男子生徒にぶつかっただけだというような。
そんな風に。

38以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:51:45 ID:6BjiICac0
誰かの泣く声が聞こえる。

o川*;ー;)o

見れば、キュートが震えながらこちらを見ていた。
私とペニサスが言い争っている空気に耐えられなかったのだろう。
悪いことをしてしまった。

しかし、罪悪感を感じる前に、私は驚愕した。
私の目に映っている彼女の足が、半分上昇した床に呑み込まれてしまっていたからだ。

(;、;*川<<クー!! しっかりしてよ!! クー!!!

ペニサスが私の肩を揺さぶっている。
がくがく、がくがくと、何度も、何度も。

揺れる頭に、揺れる思考。

そんな中でも、私の目はやけに冷静に、目の前の異常事態を捉えていた。

39以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:52:19 ID:6BjiICac0
迫ってくる壁、床、天井。
まるで液体のようなそれに、どんどん呑まれていく、生徒たち。

あまりに早く、全てを呑みこみ続ける教室。
しかし、唯一例外として飲み込まれていないものがあった。
揺さぶられている私と、

(;、;*川

―――目の前で私を揺さぶっている、友人。

40以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:52:57 ID:6BjiICac0

「おい、どうしたんだよ、素直のやつ」

「まさか高岡にへんな薬でももらってたとか?」

「え、嘘。素直さんが?」

教室に呑まれたクラスメートの声が聞こえる。

o川*;ー;)o<<クー、クー!!

もうすでに教室にのまれて姿の見えない、キュートの声も聞こえる。

教室に呑まれた面々は、とくになんともないようだ。
しかし、教室に呑まれることができない私たちは違う。

(;、;*川<ねぇ、悪い冗談ならもうやめてよ……クー

壁が、黒板が、床が、天井が、
私たちを押しつぶそうとどんどん迫ってくる。

―――このままでは、ふたりとも潰されてしまう。

川 ゚ -゚)(どうすればいい? いや、そもそもこの状況は……)

考えている時間は、私にはなかった。
気がつけば、私は目の前の友人を突き飛ばしていた。

41以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:57:14 ID:6BjiICac0
私から離れたペニサスはいとも簡単に迫ってきた壁に呑まれる。

泣きながら壁の向こうに消えていく友人の姿を見送ると、私はそのままその場に座り込んだ。

とっさの判断がたまたまうまくいっただけだったが、しかし思った通りだった。
どうやらこの教室は、自分が飲み込めない私だけを押しつぶそうとしているらしい。

川 ゚ -゚)(この場に……)

膝を抱え、身を小さくしながら私は考えた。
この場にもしも高岡さんがいたとするなら、彼女は自分と一緒に教室に潰されてくれただろうか、と。

川 ゚ -゚)(潰されなかっただろうな、たぶん)

そんなことを考えながら、私はなんとなく分かってしまった。
あの『もやもや』は、こうなることへの『予感』だったんだろう、と。

だから私は、高岡さんに話しかけたりしたのだ。
彼女なら、自分と一緒にこの教室に潰されてくれるのではないか。
無意識のうちに、そんな期待を彼女に持ってしまっていたのだろう。

川 ゚ -゚)(やれやれ、結局私は道連れが欲しかっただけだった、ということか。
     そんなことを考えてしまったから、バチがあたったんだろうな)

教室の壁や、黒板や、天井や、床が身体と密着するほど近い位置にある。
気がつけば教室は、私ひとりがぎりぎりおさまる程度のサイズにまで縮んでいた。

42以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:58:42 ID:6BjiICac0

「クー!!」

「クー!」

狭く私を圧迫する教室の外から、教室に飲み込まれた友人たちの声がする。

川  - )(ああ、そうか)

教室が、私を破壊する。
その瞬間、私はやっとそのことに気付いたのだった。

川  - )(私は……守られていたんだな)

おそらく、今まで私が気付かなかっただけで、
私はずっとこの教室に潰されそうになっていたのだ。
だからずっと私は『違和感』を感じていた。

それは、ずっと彼女たちが『壁』になって、私を教室から守ってくれていたからなのだ。

頭蓋骨が、筋肉が、心臓が、教室に潰されてぐちゃぐちゃになる。
最期に、私は、かろうじて存在している口で一言、こう呟いた。

43以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:59:16 ID:6BjiICac0








「ペニサス、キュート、ありがとう。ごめんな」









,

44以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/31(日) 23:59:57 ID:6BjiICac0
沈みかけた夕陽が、リノリウムの廊下を、かすかに赤く染めている。
誰もいない学校の廊下を四本足で歩くのは、青い毛並みの猫だ。

(,,゚Д゚)<わたしが彼女から聴いたのはここまでです

ふいに猫はぴたりと立ち止まり、そう言った。

(,,゚Д゚)<彼女がその後どうなったのか、ですか。
     はて、とんと存じませんね。そこまでは興味がなかったので

猫は、夕闇に染まった窓の外を見上げる。

(,,゚Д゚)<彼女が出会ったものは、何だったのか、ですか?

猫は、その顔に奇妙な表情を浮かべた。
それはなんとも形容しがたく、しかし、初めてみる人でもそれとわかってしまう、そんな表情。

(,,゚Д゚)<はて、何だったのでしょうねえ。ネコの私には分かりかねますが、しかし―――

とぼけているような、何かを思い出しているような、
あやふやなその表情は、この猫の『笑顔』なのだった。

(,,゚Д゚)<あなたがもしも、『それ』を"知っている気がする"のなら

45以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/01(月) 00:00:26 ID:uPlJBkfg0

(,,゚Д゚)<あなたは、すでに『それ』と出会っているのか
     もしくは、近いうちに『それ』と出会うことになるのでしょう

顔に『笑顔』を浮かべた猫は、しかしそれに反して、どこか寂しげな声色で、続けた。




(,,゚Д゚)<出会わなければ、気付くことさえできないから




,

46以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/01(月) 00:00:59 ID:uPlJBkfg0





     川 ゚ -゚)学校の怪談のようです【初夜】

          「圧迫する教室」
            おわり




,

47訂正>>4:2011/08/01(月) 00:02:38 ID:uPlJBkfg0





     川 ゚ -゚)学校の怪談のようです【初夜】

          「圧迫する教室」




,

48訂正>>36:2011/08/01(月) 00:03:53 ID:uPlJBkfg0










川 ゚ -゚)<この教室は……こんなに狭かったか?








,

49 ◆6ZgdRxmC/6:2011/08/01(月) 00:07:22 ID:uPlJBkfg0
そんなわけで、学校の怪談のようです【初夜】でした。
あれか、行間あけるときはひょっとしてスペースとかでもいいのかな。

読んでくれたやつらありがとうでした。じゃ、またな

50以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/01(月) 00:13:34 ID:bw36PcUw0
乙だよ

51以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/01(月) 00:23:06 ID:g12/Wgh20
おつおつ。

52以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/01(月) 02:07:24 ID:qZeHgl6QO
乙です

なんかこう、頭の中にある音楽がずっと流れてるわ

♪てれれれれっ
  てれれれれっ

53以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/01(月) 02:38:09 ID:eITE/N9wO
クーは生きてるのかな、クラスの他の人は? 
それとも、クーの頭の中での現実逃避の妄想?

54以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/01(月) 03:57:54 ID:gTzaQBwcO
メタルって メタ*' -')ル これ?

55以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/01(月) 05:10:46 ID:2gsOSjsIO
解説が欲しいな

56以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/01(月) 10:33:42 ID:6BgLaYn20
乙です

57以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/01(月) 11:16:19 ID:lSilyRg6O
ω・`全く意味がわからない…

58以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/02(火) 23:02:04 ID:zQskeEqU0
話すときに「」じゃなくて<なのは何かしらの意味があるの?
なんか見づらいんだが

59以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/04(木) 23:08:08 ID:KjQ6rfnA0
薄暗くて、じめじめしていて、とても嫌な臭いがする。
狭く圧迫感のある室内を見渡すと、所狭しと並んでいる個室の扉が目に映った。
そこは、学校の女子トイレだった。

*(‘‘)*<なんで、みんなこんな場所を、好き好んでたまり場にしたがるんでしょうね?

右側の壁にずらりと並ぶトイレの扉。
それらを背にして、小さな少女は誰もいないその空間にぽつりと呟いた。

(,,゚Д゚)<はて……そう言われてもわたしには分かりかねますが

ふ、とあたりに少年のような声が響く。
しかし、その風景のどこにも人間の姿はない。
少女以外でその空間にいるのは、四本の足でタイル張りの床を歩く、
一匹の、青い毛並みをした猫だけだった。

*(‘‘)*<トイレって汚くて臭いし……
     掃除当番を割り当てられたくない場所第一位みたいなところじゃないですか?
     でも、女の子はわりと休み時間にここに来たがるんですよね。
     それもだれかと一緒に。
     恋の話とか、だれかの陰口とか……そんなもの教室でもできるはずなのに

そんなことを目の前の猫に言いながら、少女はときおり、ちらちらを上を見上げている。
まるで何かを探しているように、頻繁に天井を見上げては視線を下ろす、それを繰り返している。
そして顔を下げるたび、少女はなぜかほっとしたような表情をするのだった。

(,,゚Д゚)<べつにそんなことをどこで話そうが、本人たちの勝手ではありませんか?

*(‘‘)*<それは……たしかにそうですけど

60以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/04(木) 23:08:54 ID:KjQ6rfnA0

(,,゚Д゚)<なぜ、あなたはそんなことを疑問に思うのでしょう?

首をかしげながら、青い猫は、目の前の少女を見上げる。

*(‘‘)*<それは……誰だって一度は疑問に思ったりするでしょう?

自分を見つめてくる、猫の目。
まんまるな金色に、真っ黒な瞳。
小さな少女は、その真っ黒な瞳が、
なぜか底の見えない深淵へとつながっているような気がして、思わず目を逸らした。

(,,゚Д゚)<「誰だって一度は」ですか……それはなぜです?

*(;‘‘)*<え、いや、なぜって……

少女が猫へ目を戻すと、先ほどまで無表情だった猫は、
打って変ってその顔に表情らしきものを浮かべていた。

(,,゚Д゚)<だって、それはあなたがたにとって、
     疑問にするのもばかばかしいくらい当たり前のことなのでしょう?
     そんなことを気にせざるを得ない状況、というのはどういったものなのです?

こちらを馬鹿にしているような、どこか羨ましがってもいるような、
そんなあやふやな表情。
「笑っているのか?」なぜか少女はそんな風に思った。

61以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/04(木) 23:09:57 ID:KjQ6rfnA0

*(‘‘)*<「気にせざるを得ない」って、
     べつにそんな、強制的に考えさせられてるとかじゃないと思いますよ?

(,,゚Д゚)<ならなぜ、あなたはそんなことを考えてしまうのです?

*(;‘‘)*<だ、だから理由とかとくに無いですって。
     ほんとになんとなく、そんなことを考えちゃうときがあるってくらいで

再び天井に視線をやりながら答える少女。
それを見ていた猫は、ふいに二本の後ろ足で立ち上がると、そのまま二足歩行で歩き始めた。

(,,゚Д゚)<「理由がない」……ですか、さて、理由がないことなど、本当に存在するのか否か

猫は壁際に設置されたトイレのドアの一番右端に歩み寄ると、
灰色であるとも、そうでないとも言えるような、なんだかパッとしない色のそれを
右の方の前足でぽんぽんぽん、と三回叩いた。
―――返事はない。

*(;‘‘)*<あるでしょう、それくらい。
     っていうか、全てのことに理由があるとしたら、そんなこと……
     そんなどうでもいいことの原因をいちいち探してたらキリがないですよ

少女が天井に目をやる頻度が高くなる。
猫はそんな少女に見向きもせず、
無言で右から二番目のドアに歩み寄ると、再びぽんぽんぽん、と三回叩く。
―――やはり、返事はない。
それを確認し終わって、猫は少女の方に振り向いた。

(,,゚Д゚)<だから、あなたは出会ってしまった

62以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/04(木) 23:10:39 ID:KjQ6rfnA0

*(;‘‘)*<へ?

猫の顔には、相変わらずあのなんとも言いようのない笑顔が張り付いている。

(,,゚Д゚)<少なくとも、あなたが"こうなってしまった"ことに理由があることくらい、
     ネコのわたしでもわかりますよ

*(;‘‘)*<<なッ……!?

猫の言葉に、少女は一瞬硬直し、顔を下に向けぶんぶんと左右に振って、
なんとか意識を落ち着かせると、猫に問いかけた。

*(;‘‘)*<<どういうことです? わたしは……わたしはどうして……ッ!!

戸惑っているようでもあり、あるいは憤っているようでもある
とにかく明らかに動揺している声で言う少女。
それに対し、しかし猫は淡々と答えた。

(,,゚Д゚)<出会わなければ、気付くことさえできなかったから

*(;‘‘)* ?

何を言われているのか分からない。そんな表情の少女に背を向け、
猫は右から三番目のドアに、肉球のついた前足を伸ばした。

(,,゚Д゚)<べつに分かる必要なんてないのです―――

63以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/04(木) 23:11:11 ID:KjQ6rfnA0




―――どうせ、それもあなたとっては、
    『どうでもいいこと』の一つでしかないのでしょうから

ぽんぽんぽん、と三回扉をノックすると、猫は少女のほうを振り返ってそんなことを言った。



                .

64以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/04(木) 23:11:36 ID:KjQ6rfnA0





     *(‘‘)*学校の怪談のようです【二夜】

          「トイレの花子さん」




               .

65以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/04(木) 23:13:36 ID:KjQ6rfnA0

*(‘‘)*

放課後の教室で、今年小学6年生になったわたし、ヘリカル沢近は、
頬杖をついたまま、ぼーっと外の風景を眺めていました。
夕陽に照らされた校庭には、ボール遊びをする生徒の姿がちらほらと見られます。
別に見ていて、特に楽しいってわけでもないんですけどね。
でも、やっぱりわたしは座っている席を離れず、ぼーっと外の風景を眺めていました。

ちなみに今、わたしが座っているのは自分の席ではないのです。
ここは、ほんの二ヶ月前までクラスメートの席だった場所。

―――いや、厳密にいえば、ここはまだ彼女の席なんですけど。

ここに座っていた人の名前は、ハインリッヒ高岡さん。
ぶっちゃけ、わたしはとくに彼女と親しかったわけではないです。
それでもわたしは、彼女が学校にこなくなって以来、なぜかよくこの席に座ってしまうのです。

*(‘‘)*(べつに、とくに座り心地がいいとか、そういうのでもないんですけどね)

つ、とわたしは机に大きくつけられた傷跡を指でなぞりました。
サインペンで黒く塗られた、傷跡。
たぶん彫刻刀で削ったあとから、その跡に入念に色をつけたんでしょう。
よくやるよ、とわたしはため息を吐きました。

傷跡から指を離し、わたしは改めて机全体を見渡してみました。
机に彫刻刀で彫り込まれ、黒く塗りつぶされた線の集合。
それは結構前に必死で覚えた漢字一文字と、ずいぶん前に必死で覚えたひらがな一文字からなる語。
『死ね』
机には、でかでかとそんな言葉が彫り込まれていました。

66以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/04(木) 23:14:10 ID:KjQ6rfnA0
高岡さんへのいじめが始まったのは、たしか今年の5月ごろ。
新しくなったクラスに、新しくなった人間関係。
調度みんなの心が不安定だった時期に、高岡さんの家庭の不和が噂になり、
あとは、よくあるいじめの筋書き通りにことが進みました。

*(‘‘)*(高岡さんが学校に来なくなってから、もう二ヶ月も経つのに……)

『死ね』と書かれた机に置かれている、白い花瓶が目に映ります。
飾られているのは、キクの花。
毎週誰かが取り替えているらしく、この花が枯れたところをわたしは見たことがありません。
つ、とわたしは人差し指で花をなでてみました。
黄色いキクの花の一部が、ぽろりと落ちて、
机に書かれた真っ黒な『死ね』の二文字を、少しだけ黄色く染めます。

ぱたり、とわたしは机に突っ伏しました。
ため息と共に、吐き出された言葉は―――

*(‘‘)*<退屈ですねえ……

―――おおよそ、先ほどまで感傷に浸っていた少女のものとは思えないものでした。

67以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/04(木) 23:14:41 ID:KjQ6rfnA0
小学6年生になって、数ヶ月経った今日この頃。
わたしはなんとなく『人間』という生き物が分かってきたような気がしています。

学校というこの空間は、人間の姿を見学するには最高の場所です。
考えてみれば入学してから6年間、色々なことを通してわたしは、様々な人間の姿を見てきました。

授業、休み時間、レクリエーション。

従属、敵対、反抗。

集団、孤立、またまた敵対。

環境破壊、正しい性行為、憲法第九条。

……最後はちょっと違いますね。
まあいいでしょう。どっちにしろそれだって授業中に習っただけの、
つまらなくてくだらないものの一部にすぎませんし。

結論から言えば、わたしがこの6年を通して知ったことといえば、
人間というのは、いつだってだれだって似たようなことしかせず、
いつだってだれだって、そんなに変わらないまま大人になるらしいということだけでした。

別に、社会の時間で習った戦争問題のことで思うところがあったとかではなく、
そんな大きすぎて遠すぎる、実感のわかない問題より、
ずっと身近なところに、わたしをそんな結論に導かせる材料はあったのです。

それは、いじめという小規模な戦争。

68以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/04(木) 23:16:27 ID:KjQ6rfnA0
小さな戦争の小さな参加者は、皆さまざまな面を持っている個性ある人々でした。

おおざっぱに分ければ、いじめ反対派といじめ賛成派。あと教師。
この三勢力に分かれて、三者は互いに互いの心を削り合っていました。

反対派は正義の味方ぶって、相手に理解されない正しいだけの理屈を賛成派へ叩きつけ、
賛成派はただ自分たちが対象を気に食わないという、どうでもいい感情論を武器にそれに対抗する。
本来ここで仲裁役を務めるはずの担任は、まったくかやの外。
いじめがあるという事実も子どもたちに隠ぺいされたまま、
彼が何もしないうちに、ハインリッヒ高岡という人間は、この教室から消えました。

―――まったく、なんて退屈なんでしょう。

高岡さんの机に突っ伏したまま、わたしは再びため息を吐きます。

なんで、わたしの周りはこんなに退屈なんでしょう?
ドラマや漫画なんかでは、ここでいじめられ役を肩代わりする生徒やら、
なんかやたらと暑っ苦しい熱血教師がでてきて、
見事いじめを解決、みんな仲良くなってめでたしめでたし、となるところではないのでしょうか?

*(  )*(なんで『現実』ってこんなにつまんないのかなあ……)

気がつけば、小さなころ夢にみていた白馬の王子様やら魔法のステッキやらは、
いつの間にか跡かたもなく消え去ってしまっていました。
代わりに訪れたのは、月に一回来る、腹の奥で重い鉛がぐらぐらとうごめいているような、
いやな感じのする例のアレと、性に目覚めた男子がときおり教室に持ち込む、汚らわしい本です。

まったく、子どもたちに夢を、とか言ってるやつらを残らず張り倒したい気分です。
子どもたちに夢を見せたなら、
少しはそれに近いと言えるような現実を用意して待ってろっていう話ですよ。

69以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/04(木) 23:17:28 ID:KjQ6rfnA0

*(‘‘)*(さんざん期待させといたわりには……今もつまんないし、
     大人たちを見る限り、未来にもとくに希望とか無さそうですよねえ)

わたしは、再び机の上にでかでかと書かれた『死ね』の文字をなぞります。

―――いっそ死んでしまいましょうか?

そんな言葉が頭に浮かびました。どうせ生きてたってどうせ面白いこともないのだし、
新聞の一面を堂々と飾って目立てるし、なかなかいいアイデアではないでしょうか?

しかし、それもバカバカしいとわたしは首を振ります。

妄想の中の新聞の見出しに、でかでかと『小学生自殺、原因はクラスメートのいじめか』
と、見出しがついているのが見えたからです。

なんだって大人というやつは、こうも子どもをバカにしきっているのでしょうか?
子どもが何かすれば、大人はなんだって『いじめ』とか『学校教育』とかに重ねたがりますよね。
とりあえずそういうことにしとけば、自分たちは安心できるという下心が丸見えなんですよ。

つまり子どもが自分たちにも理解できないことをするのは、
子どもを取り巻く環境のせいで、『子ども』そのものに罪はないとか信じ切っているんです。
子どもが悩むのは、自分たちにとってとるに足りないことであって、
子どもは自分たちの理解の及ぶことしか考えないし、行動にも移さないと信じ切っていやがるんです。

わたしがこんな『退屈』に辟易していることなんて、そんな大人たちには理解できるはずもないでしょう。

死んでまで逃れたいと思うこの苦しみを、
馬鹿な大人たちに安っぽく解釈されることは、わたしには耐えられませんでした。

70以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/04(木) 23:18:11 ID:KjQ6rfnA0

*(‘‘)*<何かないかなあ……
     この退屈を跡かたもなく吹き飛ばしてくれるような、面白い何か

ぼやきながら、わたしはまた、『死ね』の文字を何度となく指でなぞります。

わたしのなかで、高岡さんへのいじめはかなりエキサイティングな記憶として残っていました。
あの張りつめた空気と、クラスのみんなが、
大人に張り付けられた『子ども』という仮面を脱いで、
ぴりぴりといがみ合うさまは見ていて飽きなかったし、楽しかったのです。
高岡さんが学校にこなくなった今、そういう緊張感みたいなものは、ある程度緩和されてきています。
でもまあ、これもそう長くは続かないでしょう。
高岡さんの机への八つ当たりでことがすんでるうちはいいですけど、
でも、ため込まれたフラストレーションはいずれまた必ず、
生きた生身の人間へ向かうことになるでしょうから。

*(‘‘)*<わたしが次の標的になってみたりしたら面白いでしょうか?

小さな声でぽつりとつぶやき、わたしはくすくすと笑います。
さすがに、それはごめんこうむりたいです。
ああいったものは第三者の目線で、
賛成派に組みしながら反対派の的にもならないベストポジションで傍観しているから楽しいのですから。
自分があの空気の中心になるなど、それは確かに楽しいかもしれないけど……

*(‘‘)*<……あれ?

とくん
胸の奥で、何かが疼きました。

71以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/04(木) 23:18:58 ID:KjQ6rfnA0

*(‘‘)* ?

いったいこれはなんだろう、とわたしは首を傾げます。

そのとき胸に生じていたのは、
違和感とも、恐怖ともとれるような、奇妙な感覚。
意味不明で正体不明なその感覚を、
しかしわたしは"確かに知っている"ような気がしました。

*(‘‘)*<ぁ……あ?

とくん
胸の疼きがさらに大きくなります。
なぜでしょう? これ以上この"疼き"が大きくなるのはまずい気がします。
これ以上、この疼きが大きくなれば、わたしは"それがなんなのか"に気付いてしまう。

*(‘‘)*(え、いや、なんです? ……なんですか、これは)

頭の中でそんな言葉を繰り返しながらも、わたしはどこかそんな自分にしらじらしさを感じていました。
まるで、それはすでに分かりきっていることを、ただ分からないふりをしているだけのような……

いけない。わたしはぶんぶんと首を振り、頭のなかに浮かびかけていた何かを振り払いました。
いったい何を考えているのでしょうわたしは。
余計なことは考えるべきじゃない。
違う、こんなことを考えてしまうのは退屈のせいです。
そうに決まっています。すべては、この『退屈』が悪いのです。


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