レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。
('A`)ドクオと飛竜と時々オトモのようです
-
避難所の皆様、初めまして。このスレッドは元々vipに投下していたのですが、設定ミスや誤変換を修正するために
こちらで改正版を投下させていただくことに決めました。
各まとめ様には大変ご迷惑をお掛けする事になりましたがよろしくお願いします。
また今回の東日本大震災で被災された全ての方々に、心から御見舞い申し上げます。
今回、改訂ということでまとめ様に影響があるため、早めに投下させてもらいますが
2話までの投下が終わりましたら、次話の投下はしばらく自粛させていただきます。
----俺の財布から飛び立った番いの鶴が少しでも皆様のお役に立ちますように----
-
人間(にんげん)ヒト科サピエンス種サピエンス亜種――学術名:Homo sapiens
特筆すべき身体的特徴を持たず、純粋な自然界では淘汰されるべき存在。
体長は、性差によって僅かな差異があるが 凡そ160cm。
馬や豹のように強靭な脚を持つわけでもなく 全速力で駆けたところで時速30km程度。
敵を噛み砕く顎や、切り裂く爪、刺し貫く牙も持たない。
空を飛ぶことも出来ず、海に潜ることも出来ない。
そんな抹消たる存在が
そんな生態系の台座を担うべき存在が
如何にピラミッドの頂点に君臨する“彼ら”に抗うのか。
いや、その“彼ら”を淘汰し得る存在となるのかを―――皆はご存じだろうか。
-
如何に我らが鉄を打ち どれ程迄に鍛え上げようとも
彼等にとってそれを折ることは 絶望的な迄に容易い
―――伝説の鍛冶職人 竜人キバリオン―――
-
渓流。山に生い茂る木々を縫うように、非常に透明度の高い湧水が流れている。
比較的標高の高いこの場所では、まだ湧水となっているが、この水が下っていくにつれて集まりだし小川となり、川となり、海へと流れていく。
そんな山間部の、比較的なだらかな部分を最低限削り取った道とも言えぬ道に一台の車が走っていた。
その車を引いているのは、『ガーグァ』と呼ばれる鳥竜種である。
ガーグァは、この地方で独自の生態系を築いてきた
鳥竜種の中でも特に大人しいモンスターである。
そんな大人しい性格から、人間の生活にも大いに重宝され
秋には収穫物を運ぶ台車を引く動力として使われたり、クエストに向かうアイルー達の移動の足となったりと
特に人と関係を持つモンスターでもある。
-
時折ガーグァは逃げだそうと特徴的な冠羽を震わせるのだが、その度にドクオはガーグァを宥め
車は、ゆっくりと目的地である『ユクモ村』を目指していた。
ガーグァを器用に扱うその男。
覇気のない目、幸薄そうな人相。
('A`)「……今日の晩までには着きそうだな」
身体のラインにフィットするように作られたインナー。
厚手ながらも柔軟性を失わず、保温性には優れないが運動性に優れた物で作られている。
それはこの地方で取れない素材で作られており、それから分かるように彼は元々この地方の出身ではない。
-
('A`)「ドンドルマから、えらい遠くまで来ちまったな」
時折聞こえる獣の鳴き声も、聞き慣れないモノばかりである。
だからそれは事故である。
彼がこの地方に詳しく無かった事。
聞いた事のない鳴き声に、警戒心を抱かなかった事。
彼のいる今この場所こそがユクモ村ギルドが管理する『渓流エリア』である事を知らなかった事。
そういう不幸が重なった結果が
この地方での“彼ら”との初めての出会いとなったのだ。
('A`)ドクオと飛竜と時々オトモのようです
-
何かがおかしい、ドクオは車を引くガーグァの異変を的確に感じ取っていた。
小刻みに揺らされるガーグァの特徴的な冠羽。
今までコイツが怯えているのは、ドクオに対してだった。
しかし、この怯え方は何かが違う。
自分ではない何かに怯えている。
“何か”が自分達に迫っている。 ドクオはそう確信した。
それでも彼は慌てない。
(-A-)「………」
一度目を瞑り、心を落ち着け周囲の気配を探る。
ザワザワ、と草村から異質な音が聞こえるのに気付く。
('A`)「……なにかがいるな」
段々と近づいてくるその気配に、ドクオは警戒のレベルを一つ上げる。
周囲に人の気配は無く、十中八九これは人以外の物だ。
-
('A`)「……それにしては」
小さい、気配は感じるのだが大きくないのだ。
野うさぎ程度の大きさしかないかもしれない。
('A`)「まぁいいか。丁度腹も減ってたし」
そう呟くと、ドクオは余計な思考を全て端に蹴り飛ばし背後に差していた二対の刀を構えた。
ザワザワ……ザワザワ……と草の揺れが近付いてくる。
やはり大きくない。
ファンゴ程の大きさもない。
しかし早い。凄まじいスピードだ。
一瞬頭の端に『迅龍』の姿が過るが、考えすぎだと頭を振る。
-
影が飛び掛かってきたのは、その瞬間だった。
視界の隅にソレを捉えると、反射的に構えていた双剣を平に返す。
ゴン、とほどよい感触が双剣を通して掌に伝わってきた。
突っ込んで来た何かがぶつかったのだと分かった。
『いったぁいニャアァァァアアア!!!』
('A`)「………」
頭を押さえながら目に涙を一杯溜めているアイルーがそこにいた。
(*;∀;)「痛いニャー、痛いニャー!!」
('A`)「なんだ、メラルーか」
痛いという割りには、耳をヒクヒクと揺らしている。
(*ノ∀;)「メラルーじゃにゃいニャ!アイルーだニャ!」
アイルーかメラルーか、限りなく微妙な毛色の存在を見てドクオは構えていた双剣を隠すように横に置いていたカバンの中にしまう。
-
('A`)「そうか。それは済まなかったな。 ところでそんなに急いでどうした?」
アイルーやメラルーは、食物連鎖の外に存在する珍しいモンスターだ。
肉食獣に縄張りを荒らされたり、居住を追いやられる事はあっても
捕食されたりする事は無いのだ。
そんなアイルーが慌てている理由に純粋に興味を持った。
『チリン』
('A`)「ん、お前野良アイルーじゃないのか」
アイルーの首元に付いている鈴に気付く。
これは、このアイルーが誰かに飼われているという証だ。
ひょい、とアイルーの首を掴んで出来るだけ優しく持ち上げる。
(*゚∀゚)「おー、オレっちはギルド所属のアイルーだニャ!」
ほー、っとドクオは思わず感嘆の声をあげた。
ギルド所属と聞くと真っ先にギルドナイトが思い浮かぶが、ギルドナイトに誰もがなれるわけでもない。
それはアイルーでも同じだ。
何かしらの実績を重ねた上で、ギルドから依頼される特別なクエストをこなす。
その結果を踏まえ、適正と判断されて初めてギルドに飼われる事なる。
-
('A`)「そうか、それでギルド所属のアイルー様がどうかしたのか?」
(;*゚∀゚)「そうだったニャ!あんた様は商人かなんかかニャ!? ここはユクモギルド直轄の狩猟区域『渓流』だニャ!!凶暴なモンスターだって一杯いるニャ!! そんな中を、どっかの間抜けが荷台を引いてるって聞いたから飛んで来たんだニャ!!」
('A`)「ほー、ここはもうユクモ村に近いんだな」
なるほど、とドクオは納得したように手を打った。
(;*゚∀゚)「にゃにを悠長に構えてるニャ!!大型モンスターの発見情報はにゃかったけど、この時期は青熊獣“アオアシラ”が繁殖期に入っているんだニャ!!! 面倒な事ににゃる前にここから離れるニャ!」
('A`)「せいゆうじゅう?なんだそりゃ」
ドクオは聞き慣れぬ言葉に、首を傾げた。
それもそのはずだ。
ドクオが今まで暮していたドンドルマ近辺ではアオアシラなんてモンスターは居なかったのだから。
(*゚―゚)「……あんた様、アオアシラを知らないのかにゃ?」
('A`)「残念ながら聞き覚えがないな。俺は元々この辺りの出身じゃないんだ。だからここがギルド直轄地の狩場だとも知らなかったし、この地方独特のモンスターにも詳しくない」
(*゚∀゚)「……なるほどにゃ。事情は大体把握したにゃ。しかし、もしあんた様が商人だったとしても、この地方の事を知らないただの一般人だったとしても
あんた様は……」
-
『命を粗末にする大馬鹿野郎だニャ』
-
なるほど、とドクオは頷いた。 確かにギルド所属のアイルーだけある。
元々アイルーは知能の高い生き物だ。 いや、知性においては人間と同等と言って良い。
ある文献によれば、アイルーは人間と同等以上の知性を持っており
進化の過程もヒトと似通っている事から、ヒトの亜種だと主張する学者もいると聞いた。
確かにこのアイルーは、ヒトと同等の知性と感性、そして経験を持ち合わせているようだ。
('A`)(……伊達にギルドのオトモをしている訳ではない、か)
(*゚∀゚)「まぁ、反省は何時でも出来るニャ!とりあえずはまず、このエリアから出来るだけ離れるニャ!!」
('A`)「……分かった。従おう」
かくして、一人の人間と一匹のオトモの脱出ミッションが始まる。
AM10:00 MISSION Start
-
(*゚∀゚)「ところで、あんた様は旅の人かにゃ?」
('A`)「そうだな。ユクモ村を目指していた。」
(*゚∀゚)「おぉ!湯治目的かにゃ!?ユクモの湯は確かに危険を犯してまで浸かる価値のある物だニャ!!」
ユクモ村という言葉を出した途端に目を輝かせるアイルー。
そんな様子に若干気圧されながらドクオは答える。
('A`)「そうだな、是非一度浴びてみたいもんだ」
(*゚∀゚)「ニャハハー、きっとクセになるニャ!! そういえば、結局あんた様はどこから来たのかにゃ?」
('A`)「ん、俺か?俺は……そうだな。ドンドルマ、で通じるか?」
(;*゚∀゚)「ニャ!?それはまた長旅だったニャ! よく生きてここまでこれたものだニャ!」
ドンドルマとユクモには、計り知れない距離がある。これは形容ではなく、本当に分かっていないのだ。
お互いの存在は本や伝書で知っていたものの、気軽に交流を深められるような距離ではない、というのが第一の理由である。
乗り物と言えば、この辺りではガーグァしかない。
人間の何倍ものスピードで走り、人間の何十倍もの体力を有するガーグァ。
しかし、そのガーグァでさえ単独でドンドルマとユクモの距離を移動できるか、と聞かれれば答えは間違いなく『NO』であろう。
-
単純に距離だけの問題では無いのだ。
行く手には様々なモンスターが生息している。
牙獣種や鳥竜種、万が一運が悪ければあの恐ろしい、この星の生態系の頂点に君臨する『飛竜種』に遭遇する可能性すら孕んでいる。
そんな過酷な旅をドクオはただ一人でしていたと言うのだ。
そしてもうゴールの目前まで迫っているのだ。
その事実はギルド所属のアイルーを驚かせた。
(*゚∀゚)「幸薄そうな顔をしているクセに、運の良い奴だニャ……」
('A`)「いや、いろいろ運の悪い事はあったぞ。 例えば、寝床に使っていた場所が轟竜の住みかだった事があった。
それに気付いて全力で洞窟まで避難したら、そこがフルフルの縄張りでな………」
(;*゚∀゚)「考えうる最悪の状況だニャー」
轟竜、又の名をティガレックス。
飛竜種に分類され性格は凶暴そのもの。純粋な攻撃性だけならば飛竜の中でもトップクラスだろう。
鋭い爪と牙を持ち、“人間程度”なら撫でるかの如く斬り殺す最凶の飛竜。
-
('A`)「まぁ、それでも俺は生きてる。それで良い」
その時の瞳を、件のオトモアイルーは忘れられないと言う。
濁ったような目をしていた彼が、その一時だけ見せた輝き。
それこそが本質。
理性という名の仮面に隠された彼の本質なのだと、オトモは思った。
-
(*゚∀゚)「それならこんなところで死んでられないニャ。オレっちが絶対にユクモの村にまで案内してみせるニャ」
('A`)「あぁ、よろしく頼むよ」
二人の、いや一人と一匹な手が重なる。
主人である狩人の為に、身を粉にして働くオトモだが、その関係は常に対等ではない。
ハンターはオトモの事をオトモとしか見ない。
それは常識であり、オトモに感情移入して冷静で無くなってはいけない、という先達からの教訓でもある。
しかし、ドクオはハンターには見えない。
だからこそオトモは、差し出された手を握る事に躊躇いは無かった。
初めての握手。
初めての対等。
不思議と自分の心が高揚していくのを感じていた。
-
その様子を草葉の影から見つめる青い影に
二人が気付く事は、終ぞ無かった。
-
以上1―1です。続けて1―2を投下します。
-
一番重要なのは武器を鍛える事ではない。 真に必要なのは心を鍛える事。
それは狩人だけでなく、人間の終着点であり原点でもあるのだ。 鍛冶職人も例外ではない。
―――伝説の鍛冶職人 竜人キバリオン―――
-
AM11:30
複雑に入り組んだ渓流を、オトモは的確な道運びでドクオを案内した。
出来るだけ目立たず、出来るだけ短距離で。 ギルドからの依頼を受け幾年もこの渓流を歩き続けたオトモにとって、それは簡単な事だった。
現在目下の問題となっている青熊獣【アオアシラ】は、繁殖期に入っている。
繁殖期というのは、どのモンスターも凶暴になる傾向がある。
その理由に挙げられるに、まず一つ目は巣、及び卵の死守である。
野生のモンスター達は、日々生存競争の中で生きている。 しかし、こと繁殖期においては一日とて身が休まる日がないのだ。
卵の破壊、子孫の死亡は即種の存亡に関わってくる問題なのだから。
-
アオアシラは、二足歩行する生き物であるが
知識は持たない。
だが本能が、それを覚えているのだ。
飛竜等、圧倒的存在がいるこの世界で未だに淘汰されずに生き残ってきたモンスター達には
子孫を残す事こそが、生きる理由と言っても過言ではない。
そしてもう一つの理由として挙げられるのが、食料の確保だ。
子供達の分まで、食料を揃えるのは幾ら青熊獣【アオアシラ】と言えども容易い事ではない。
だからこそ、別の種と縄張りを争ってでも彼らは、食べ物を採りに行く。
その事を、このアイルーは誰よりも熟知していた。
だからこそ出来る限りハチの巣が出来やすいエリアを避けているのだ。
(*゚∀゚)「順調だニャ。やっとギルド規定の範囲内に入ったニャ。 ほれ、地図だニャ!」
('A`)「今は、この最北エリアか。この調子だと夜には支部のキャンプに入れそうだな」
(*゚∀゚)「ニャ!しかしここからがちと難解だニャ!アオアシラの巣がありそうなエリアがこの近くに二つあるニャ。 特に地図中央に示されたこのエリア。 ここが一番厄介だニャ」
('A`)「……なるほど。巣、か」
-
オトモが示す地図。そのど真ん中にある“5”と割り振られたエリア。
ここがアオアシラの巣。
(*゚∀゚)「ここからは慎重に行くニャ。少しでも逸れて進めば大変な事になるニャ」
('A`)「あいよ、分かった」
草影に身を隠し、ゆっくりと進む。
本来狩人の移動は、このようにコソコソしたものではない。
彼らは常に準備が出来ている。
どこから飛竜が現われようとも、迎え撃つ心構えがあるのだ。
それが一流。
しかし、戦闘経験の無い人間ならば話は違う。
草食獣ならば、避けて通れば襲われる事はまずない。 しかし、それ以外の――例を挙げるならばランポス等
小型のモンスターの一撃でも、生命の危機に陥るのだ。
それ程までに非力、それ程までに脆弱。
いかな知恵を付けた人間とて、残酷すぎるほどに矮小な存在なのだ。
-
それに先に気が付いたのは、ドクオだった。
('A`)「なぁ、アレが見えるか?」
(*゚∀゚)「なんにゃ?何にも見えないニャ」
('A`)「何匹かいるな。恐らく形からして小型の鳥竜種だろう。 まだこちらには気付いてないな、日光浴でもしてるのか?」
(;*゚∀゚)「ニャ!?それはきっとジャギィだニャ!!何匹いるニャ!?」
('A`)「もう少し近づいてみないと正確さに欠けるが恐らく6匹だな。形状の違う、若干大きな奴も混じってる」
(*゚∀゚)「それはジャギノスだニャ。その群れを統率している大型はいないかにゃ?」
('A`)「居ないな。小物ばかりだ」
群れのボスであるドスジャギィは居ない、という事実にまずオトモは安堵した。
そして考える。どうすればいい、この旅人をユクモ村に安全に届ける為には。
今は戦える。昔の、ご主人について甘えていた頃の自分ではない。
やるしかない。
了解だニャ、と呟いてオトモは背中に据え付けた秘密のポーチから一振りの剣斧と一対の防具を取り出した。
-
('A`)「その秘密のポーチは、相変わらず出鱈目だな」
(*゚∀゚)「アイルー達の秘密が詰まってるニャ」
('A`)「それにその剣斧……ただの旗に見せ掛けた物ではないんだろ? その兜や胴具だって、一目で分かる」
(*゚∀゚)「昔オトモをしていたご主人から賜わった物ニャ。 オレっちの唯一の戟であり、唯一の盾だニャ」
ドンドルマ地方では見た事のない形状のオトモ装備だ。
しかしこれほど迄に無骨に、それでいて洗練されたオトモ装備をドクオは見たことが無かった。
(*゚∀゚)「あんた様は、ここで待ってるニャ。 オレっちがジャギィの群れを撹乱させるから、その間にこのエリアを抜けるニャ。 道は真っ直ぐニャ。絶対に間違えないでニャ」
ドクオは『お前だけで大丈夫か?』 と聞こうとした。これは、ドクオがオトモの能力を疑っているから出た言葉ではない。
しかし、小型とはいえ鳥竜種の群れ。
そこに一匹で突っ込むなど、無謀の極みだと感じてしまう。
しかし、件のオトモの目を見て漠然と感じてしまった。
この言葉を吐くのは野暮だ、と。
だからこそ彼は飲み込んだ。
-
(*゚∀゚)「大丈夫ニャ。トカゲ如きにやられるようなオレっちではないニャ。 あんた様はあんた様の事だけを考えていれば良いのニャ」
('A`)「……そうか。済まないな」
(*゚∀゚)「これも仕事のうちだニャ」
それだけ言うと、オトモは凄まじいスピードで飛び出していく。
ドクオは、それを見送りまた草影に隠れて機を待った。
-
ジャギィ達は休んでいた。なにせアオアシラが、繁殖期に入ってから自分達の住みかは荒れ放題。食料であるはずの草食獣は、アオアシラを恐がってなかなか姿を見せなくなっていた。
しかし、今日は良い獲物が手に入った。
少しばかりの余裕も出来たし、草食獣を探さなくても住む。
身体を丸め、陽の光を浴びる。
久しぶりの休息だった。
そんな彼らの心に“油断”が無い訳がなかった。
まずソレの接近に気が付いたのは、一匹のジャギノスだった。
さざめく草に混じって、何かが近づいてくる。
そう思った途端に、身体は宙に浮いていた。
何が起きたのかを確認する前に、そのジャギノスは喉元に突き立てられた旗によって絶命する。
そこにいたのは一匹のアイルー。
突如現れた乱入者に、周りにいたジャギィ達は嘶き声をあげる。
『なんだお前は』と。
しかしオトモは止まらない。ジャギィ達の間を縫う様にして撹乱する。
敏捷性に優れた小型鳥竜種といえども、自分達の視界を瞬きの間に過ぎていくオトモを捉えるのは至難の技だった。
-
スピードというのは、狩りにおいて重要なファクターとなる。
そして、このジャギィ達はそれをいつも自分達が掌握してきた。
飛竜と相対した時だって、奴らの様に鋭い爪も、ブレスを吐く器官も備わっては居なかったが
スピードにおいては、負ける事はなかった。
しかしそれが今回では致命的。
彼らは知らなかったのだ。自分達よりも一回り身体が小さく、何倍も素早く動く存在を。
彼らはこの戦いにおいて弱者だった。
そして、生存競争の中で“弱者”というのは余りに罪深い事なのだ。
-
最初は6匹いたジャギィの群れも気が付けば2匹のジャギノスを残すばかりとなった。
オトモは静かに間合いを取る。
峯山竜の貴重な端材を使い作られた、この【旗本】ネコ合戦旗は絶大な威力を誇る。
一度掲げれば、竜ですら屈服するという逸話がある程に。
しかし、ジャギノス達は退かない。
この場で彼等を動かしているのは本能なのだ。
『アイルーなどという、自分より下等な生物に負けてはならない』という。
だからジャギノスは吠えた。
飛竜種の叫びと比べれば、まるで大した事のない雄叫びだが、それには重さがあった。
だからこそ、オトモも応えたのだ。
(*゚∀゚)「この兜は忠義の証!! 命を賭して主人を護る、その証!!! 」
己が仕える主人の為に、命を賭して奮闘する“忠義の証”。
不動の心と忠義の元、敵を払う“オトモの誇り”。
-
ジャギノスが鋭く尾を振ってきた。
地面を回転してこれを回避するオトモ。
これは長年見てきた色々な狩人から培った動きである。
即座にもう一方のジャギノスがオトモの右半身に鋭く爪を差し向けてきた。
オトモは、それを持っていた旗でいなす。
大きな音が鳴った。
ジャギノスが尻尾を、再び鋭く見舞ったのと同時だった。
オトモはそれでも焦らない。
隙だらけになっている左半身に目がけての尻尾攻撃を、地面に潜ることで回避した。
地面から顔を出すと、二匹のジャギノスは顔を合わせていた。
『勝てない、このままでは勝てない』
そう悟ったのだ。
-
バックステップで、一度距離を取ったジャギノス。
様子を伺いながら、油断なく剣斧を構えるオトモ。
ハァハァ、と乱れる息を整える。
元々、アイルーは戦う事に特化した種族ではないのだ。
また長期戦になる時は、度々地面に潜り休息を取る。
つまり体力の面では圧倒的に不利なのだ。
いくら身体を鍛えても、全力で振るえなければ意味が無い。
オトモはしまった、と思った。
気付かれてしまったか、自分の弱点に。
ジャギノスは動かない、不気味にこちらを観察し機を待っていた。
-
(;*゚∀゚)(……こうなったらやるしなにゃいニャ。長期戦に持ち込まれればこちらが不利ニャ!)
だからこそ猪突猛進にオトモは突っ込んだ。
何かがある事など、百も承知。 それでも活路がそこにしかないのならば往かねばならぬ。
(#*゚∀゚)「ニャアアアァァァアアアアア!!!!!!!!!!」
身体を出来る限り捻り、遠心力を加えて繰り出したこの凪ぎ払い。
耐えられるものならば耐えてみろ、と。
(#*゚∀゚)「捉えたニャ!!!!」
手応えがあった。目の前のジャギノスの首元に、合戦旗が突き刺さった。
流石にプロのハンターのように、首を捻斬る事は出来ないが
確かにジャギノスを捉えた。
(;*゚∀゚)「ニャッ!?」
しかしジャギノスは嗤っていた。
首に剣を突き立てられ、絶命寸前の身体で嗤っていた。
『“オレ達”の勝ちだ』と。
-
頭で認識するより前に、身体が反応していた。
もう一匹のジャギノスの鋭すぎる一撃が自分に迫っている事を。
これは躱せない。
頼みの綱の合戦旗も、ジャギノスの太い首に刺さったまま簡単には抜けそうにない。
もう終わりか、そうオトモは思った。
『残念、最後に勝つのは俺達だ』
(;*゚∀゚)「ニャッ!?」
-
それはなんて事のない、ただの体当たりだった。
しかし、オトモに向けて勝利を確信した一撃を繰り出そうとしているジャギノスにとって
それは痛恨の一撃と言える。
それだけでジャギノスの身体はよろけさせられた。
不意討ち中の不意討ちだった。
オトモが素早く突き刺さっていた合戦旗を引き抜いてジャギノスに突き立てた。
-
('A`)「ふぅー、危ない所だったな」
(#*゚∀゚)「危ないのはどっちだニャ!一般人が装備も無しにジャギノスに突っ込むだなんて正気の沙汰とは思えないニャ!!! それにオレっちは装備もしてるし一発殴られた所でどうにもならなかったニャ!!!!」
結果的にオトモは大変ご立腹だった。
確かに、この男に助けられはしたがやはり生身の人間がモンスターに突っ込むなんで頭がおかしい。
それに絶妙なタイミングで、ジャギノスの死角となる角度から。
一歩間違えれば死に繋がる危険な行動だったが
結果を見れば最良の判断だった。
それはオトモ自身も解っている。
だが、何故か釈然としない。
心がムズムズするのを感じていた。
('A`)「まぁいいさ。とりあえず俺達は無事だったんだから。 もうすぐこのエリアも出られる。説教はその時にでも聞くよ」
そう事もなげに言うドクオに対し、やはりオトモは心中穏やかではなかった。
-
自分の力だけで勝ちたかった。
いや、あの一撃を食らっていたとしても勝てたと思う。
(*゚∀゚)「にゃー、まぁ良いニャ。ユクモ村についたら温泉に入りながら説教だニャ」
場の空気が弛緩した。 一応オトモも納得したらしい。
余りに早すぎる緩み、二人は気付いていない。
ずっと二人を見つめていた青い影に。
それが今、自分達に迫っている事に。
大型モンスターの存在に気付くのは簡単だ。
彼らには隠そうとしても隠せない、圧倒的な威圧感があるのだから。
しかし、彼らにとって気配を気取られる事は、さして大きな問題ではない。
悟られたところで、そんな物は踏み潰せば良い。
それだけの力が、彼らにはあるのだから。
だから今、一人と一匹は気が付いた。
自分達に向けて飛び掛かってくる青い影。
青熊獣【アオアシラ】の存在に。
-
嘶き声が、渓流に響き渡る。
アオアシラが、ただ吠えたのだ。
低く野太い声だった。
(;*゚∀゚)「さっ、さいあくだニャ……」
呆然としているオトモを抱き抱え、迅速に行動を取ったのはドクオだった。
腰に提げていたポーチから先日採集していたハチミツのビンを蓋を上げて、あらぬ方向に放った。
アオアシラが、そのハチミツに気を取られた間にドクオはオトモを抱え走った。
-
半時間ほど走った所で、先程の
エリアを抜けると、小さな掘っ建て小屋があり、そこで一息付いた。
('A`)「なるほどね、あれがアオアシラか」
(*゚∀゚)「弱ったニャ。もう少しでベースキャンブに着くのに」
('A`)「ベースキャンブまで走ったらどうだ?」
(*゚∀゚)「それは無理だニャ。アオアシラが走れば時速60km。人間のおまえ様ではどうしても追い付かれてしまうのニャ。 それにオレっちだってスピードには自信があるけど、体力はからっきしなのニャ」
アオアシラとの邂逅を避ける事は絶望的だった。
何故ならアオアシラは知ってしまったからだ。
あの人間はハチミツを持っていると。
まだ隠し持っているかもしれない。
だから奴は追い掛けてくるのだ。
(*゚∀゚)「……やっぱりオレっちが奴を引き付けるしかないのニャ」
提案したのはオトモだった。
|
|
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板