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仮投下スレpart2
1
:
ネコミミの名無しさん
:2008/04/12(土) 21:27:39 ID:UaSBv.dg0
OP案、その他何らかの事情で本スレ投下の前に作品を出しておくためのスレです。
前スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9783/1189603404/
2
:
THE KING OF FIGHTERS
:2008/04/13(日) 01:47:32 ID:w3fU1Ss.0
「それで、なんなんだオマエは?」
まだ深い夜。
一面に広がる真っ暗闇の中を走りぬけてゆく真っ赤な消防車。
その助手席から後部座席に向けて、当然の疑問が投げかけられた。
「ほう、我が拝顔の栄誉に預かりながら我の名を問うか?
本来ならばその不敬。懲罰に値するのだが、現在が特例的事態故、特別に許そう。感謝するがよい」
当たり前のように踏ん反り返りながら、答える態度は傲岸不遜。
そもそも答えになってないという横暴っぷリに加え、何故か感謝を求められる始末である。
助手席の男もさすがにこの事態には困り果て、運転席に座りハンドルを握っている少年に助けを求めるような視線を向けた。
「おいジン。なんなんだこいつは?」
「いや。そこでオレにフラれても困るんだけど。
ねえ黒猫の人。とりあえず、オレも名前くらいは聞いておきたいんだけど?」
運転手の問いかけに、黒猫姿の客人は仕方ないといった態度ながらも、おずおずと口を開いた。
「我の名はギルガメッシュ。人類最古の英雄王である」
「へえ王(キング)か。そいつは奇遇だ、たしかドモンもキングだったよね?」
「ん? ああ確かにそうだな」
「なに?」
述べられたある単語に反応し、ギルガメッシュの端整なまつげがピクリと動いた。
それに二人は気付かず、そのまま自己紹介は続けられた。
「俺はネオジャパンのガンダムファイター、”キングオブハート”ドモン・カッシュだ」
「そしてオレは”王ドロボウ”ジン。よろしく英雄王さん」
堂々としたドモンの声とおどけた風なジンの声。
比較的交友的に返された名乗り、だったのだが、とたんに消防車内の温度が氷点下まで落ちた。
冷源は語るまでもなく後部座席。
そこに鎮座する男の、冷たく燃える真紅の眼から発せられていた。
「……この我を前にして自ら王を名乗る不埒者が二人、か。
まったく、ここは礼も弁えぬ愚か者が多くて困るな?」
英雄王の漏らした呟きは誰に向けた物でも無い。
ただ、猛毒にもにた冷気が、静かに狭い消防署内に蔓延していく。
どうにもこうにも、後の男には”王”と言う単語は禁句だったらしいい。
そのことに、いち早く気付いたジンが先手を取ってやうやうしくも口を開いた。
「いやいや、王さま。私めは王と行っても輝くものなら星さえ盗む、下賎な賊の王に御座います」
「ふむ? なるほど。王は王でも卑しき賊の王であったか。
ならば、王を名乗るはおこがましくもあるが。わざわざこの我が自ら歯牙にかけるまでもないか」
述べられたその弁に、ギルガメッシュは一つ頷く。
ジン関してはそれで納得したのか、ギルガメッシュは運転席から助手席へと視線を移した。
当然ながら向けられた視線の先にいるのはキングオブハート、ドモンカッシュ。
「では、そちらの小僧はなんだ?
力量はともかく、その品のなさはどう見ても王の器ではないが?」
「王じゃなくキングオブハートだ。
師より受け継ぎしシャッフル同盟の証である称号だ!」
言って、ドモンは右腕に光輝くキングオブハートを見せつける。
「称号か。まあ、よかろう。カードの王に憤慨するのもバカらしい」
その印を確認して、ギルガメッシュは不満気ながら殺意を収めた。
3
:
THE KING OF FIGHTERS
:2008/04/13(日) 01:48:03 ID:w3fU1Ss.0
ひとまずそれに胸をなでおろしながら、ジンが後部座席に向かって問いかけた。
「それで、ギルガメッシュは刑務所にいったいなんのようなの? 自首でもするつもり」
「我は今、頭のキレる家臣を求めていてな。
刑務所にはアケチとかいう雑種がいるらしいので使えるかどうかをこの我自ら見定めてやろうというわけだ。
それに、あの人形との件もある、下らぬ形とはいえ英雄王たるこの我が約束を違える訳にもいくまい?」
「へぇ」
この状況で武力でなく知力を集めようとしている。
その言葉を聞いて、ジンはギルガメッシュが対螺旋王を目指していることを察した。
つまり、一応の目指すところは同じという事だ。
とはいえ信頼に足るかはまた別の話だ。
頭のキレる参加者と聞いて脳裏に浮かぶのは清麿だったが、今は彼に関しては黙っておくことにする。
「ってことは、ギルガメッシュも螺旋王に一泡食わせようって口なわけだ?」
「まあ、そんなところだ。だが今は情報が足りぬ。
モノのついでだ雑種ども、貴様等の持っている情報を我に献上せよ」
「情報交換ってこと? それなら、」
こちらにとっても都合がいいと、ジンはその提案に応じようとした。
だが、応じる意志を告げ切る前に酷く不満気な声がその言葉を断絶した。
「交換だと? 何を言うかたわけ。貴様等の持っている情報を我に献上せよと言っている。
貴様衆愚が王たる我に献上するは道理としても、我が貴様にくれてやる道理はなかろう。
情報とて我が財の一欠片。その恩恵を受けてよいのは我の家臣と民だけだ」
余りにも理不尽、余りにも身勝手な物言いだった。
交換などという行為は互いの立場ば平等である場合に行われるものだ。
そして、この王に己と他者が平等などという価値観はありえない。
英雄王が行おうとしているのは一方的な搾取である。
そんな英雄王の態度に対して王ドロボウは憤慨するでもなく、先ほどと同じく軽い口調で頭を垂れた。
「それでは英雄王。これより我等が情報を献上致しますので、その見返りに卑しき私めに褒美を頂戴致したいしだいで御座います」
「ふむ?」
ギルガメッシュはジンの言葉を噛み締めた後、声も高らかに笑い始めた。
「ハッハッハッ! なるほど、そうか!
賢王として足らしめるのらば、いくら相手が衆愚とて供物を捧げた者を無下にするわけにも行くまいな!?
なかなかよいぞ盗賊王。献上した情報の内容如何では貴様の望む褒美もくれてやろってもよい」
ジンの言い分が甚く気に入ったのか、英雄王は上機嫌な声でそう告げた。
交換ではなく献上と褒美と形は変わったものの、とうもあれ情報のやり取りが成立した。
それを確認し、ハンドルを片手で握りながらジンは懐からメモとペンを取り出した。
4
:
THE KING OF FIGHTERS
:2008/04/13(日) 01:48:27 ID:w3fU1Ss.0
「何をしている?」
その動作を訝しむ様な声がかかる。
盗聴を警戒するのならば当然の用心といえる行為である。
疑問を持たれるような行為ではないはずなのだが。
「ふん。盗み聞きへの配慮ならば不要だ。
だいたい記述するための道具が支給されている時点でそんなものは無意味だ」
「ま、たしかに、ドロボウがいるってわかってて監視カメラを付けない家はないだろうけどね」
たしかに筆談してくださいと言わんばかりの筆記用具を渡しておきながら監視してない、なんてこともありえない話である。
とは言え、もっと念のためという価値観というか、慎重さをもってほしいものだが。
「おいおい、じゃあどうするんだ。どうやっても筒抜けになるってんじゃ情報のやり取りなんて出来ないんじゃないか?」
会話に割り込んできたドモンは言う。
なるべく、そいうことも口にしない方がいいんじゃないかな、と思いつつもジンもその言葉に心中で同意する。
だが、ギルガメッシュはまったく焦った風でもなく、堂々とした態度のまま口を開く。
「問題なかろう。ロージェノムに直接この会話が伝わることはないし、伝わったところで何があろうと奴は爆破などはせぬ」
「直接的に伝わらないっていうのは?」
「監視などという下らん作業は雑兵に一任するが常であろう。間違っても王の任ではない」
「じゃあ、その部下が爆破を行う可能性は?」
「それこそありえん。首輪の爆破などという直接的な殺生与奪の権利は王のみが持つことを許される王の権利だ。
故に、王以外の人間がこれを爆破する権限を持っている事などありえない」
繰り返される問答に一切の迷いはない。
それはあくまで、王としての観点による王としての意見だった。
信頼に足るかと言えばそうではない。
納得できないかと言えばそうでもない。
だが、明確に反旗を翻しているジン自身の首が繋がっていること。
そして、今それ以上に危ない橋を渡っているはずの清麿の名が今だ呼ばれていないことを含めれば爆破されないという一点は信用できる。
なにより、この程度の橋を渡れないようじゃ、これから先やって行けないだろう。
そう心を決めたジンは、情報をハッキリと口にし始めた。
■
5
:
THE KING OF FIGHTERS
:2008/04/13(日) 01:48:56 ID:w3fU1Ss.0
「ふむ。なるほど、大体わかった」
ジンとドモンより献上された情報を聞き終え、英雄王はそう頷いた。
「ま、これを見る限り、首輪(それ)に関してはそいつに任せてよいだろう」
言って、ギルガメッシュは受け取ったメモを指先で弾いて捨てた。
提示情報として最大のカードであると思われた首輪メモはその一言で切り捨てられた。
それよりも英雄王の眼がねに適ったのはジンの提示した情報ではなく、ドモンの提示した二つの情報だった。
それは、奇妙な神父との遭遇、ではなく。
一つは会場がループしていると言う話。
そしてもう一つは。
「貴様がその師匠とやらに感じた違和感とはなんだ?」
ドモンとその師匠の食い違いについてだった。
「違和感というわけじゃないが。
改められたはずの人間抹殺という考え今だ師匠は持ち続けていらっしゃった。
この場で何があったかはわからないが、嘆かわしいことだ…………ッ!」
「だが、かつてもその考えを持っていたと?」
「ああ、その通りだ。
だが師匠は確かに人間も自然の一部であると考えを改められて――――」
「ああ、もうよい」
握りこぶしで熱弁するドモンを、ギルガメッシュは心底どうでもよいといった風にあしらう。
「やはり、同一世界から集められた相手も違っているようだな」
「違ってるって何がだ?」
「単純に召還された時間軸か、もしくは召還された並行世界だな」
「いや、正直よく分からん」
説明に理解を示さないドモンに、ギルガメッシュは呆れたように溜息を漏らした。
そして、面倒くさそうながらも説明を続ける。
「ようするにだ、同一人物だからと行って同一存在であるとは限らないという事だ。
貴様の師匠とやらは心変えした後ではなく、妄執にとりかれた時間軸からここに来たのか。
妄執に取り付かれたままの世界からここに連れてこられたか、だ」
ギルガメッシュからすれば最大限わかりやすくいってやったつもりなのだろうが、ドモンの頭の疑問符はまだ取れない。
「……わかるか、ジン?」
「ま、なんとなくはね」
隣のジンに同意を求めて見たものの、置いてきぼりは自分だけだったことを知らされ、そのうちドモンはこの件に関して考えるのをやめた。
とりあえず、そうか、とだけ相槌をうってドモンは押し黙った。
■
6
:
THE KING OF FIGHTERS
:2008/04/13(日) 01:49:30 ID:w3fU1Ss.0
「さて、情報献上大儀であった。褒美を取らす。
我への問いかけを許すぞ。何なりと聞くがよい」
ひとまず二人の献上した情報は英雄王を満足させたのか、ギルガメッシュは二人に問いかけを許した。
「じゃあ、とりあえず、最初に聞いてきた渦巻く『螺旋の力』ってなに?」
それに対してジンが始めに問いかけたのは螺旋の力について。
彼の記憶が確かならば、始まりの時や放送の時に螺旋王がたびたび口にしていた言葉だ。
「なんだ、そんな事すら知らぬのか。
その螺旋の力の覚醒こそ、この殺し合いにおけるロージェノムの目的だ」
「なに!? どういう事だ!?」
聞き捨てならない言葉に弾かれるよに、ドモンは助手席から後部座席に身を乗り出した。
掴みかかる勢いで迫る赤鉢巻を見て、ギルガメッシュは怪訝そうに眉をひそめる。
「寄るな暑苦しい、死にたくなくばそれ以上我にそのむさ苦しい顔を近づけるな。
ついでに、耳障りだからその口も開くな、癪に障る」
「なんだと、この野郎……っ!」
「あー。はいはい。続きをどうぞ英雄王」
今にも喧嘩を始めそうな二人をなだめながらジンが話の続きを促す。
促された英雄王はドモンに対して不満気な感情をひとまず仕舞い込み話の続きを口にする。
「螺旋の力を目覚めさせるのがこの遊戯の目的だ。
それは恐らく拮抗した戦いの中で生まれるモノだ、まあ条件はそれだけではないのだろうが」
「拮抗した戦いだと?」
「そうだ、貴様等にも下らん能力制限がかけられているだろう? それは弱者と強者の間に拮抗した戦いを生み出すための処置だ。
拮抗し命がけの戦いの果てに目覚める力。それが恐らく奴の求める螺旋の力だ」
堂々と情報をひけらかすギルガメッシュだったが、その説明に疑問を感じたのか、ジンが少しだけ不満気に唸りをあげた。
「うーん。けど、それもおかしくない?
ドモンとか清麿とか、ここにくるまでに結構命がけの戦いをしてきてる人もいるはずなんだけど。
拮抗した戦いでその力が目覚めるんなら、わざわざこんなことしなくてもとっくに目覚めてるんじゃないの?」
ジンの知りうるだけでも、この場には死線を越えてきた人間は往々にして存在する。
かく言うジンも第七監獄、面武闘会とそれなりの修羅場は潜ってきていた。
だが、そのギルガメッシュの語るような螺旋の力になどジン自身覚えがない。
「そうだ、それが一番おかしな点だ」
ジンの疑問をギルガメッシュは否定するでもなく肯定した。
「ならば考えてみろ。これまでと、これからのいったい何が違うのか?
なぜこれまでそれが起りえなかったのか?
なぜ今それが起こりうるのか?」
そして問いかけ。
その問いに暫し思考を巡らせたジンは、至った結論を口にする。
「つまり、役者は同じでも踊る舞台が違えば演目も違うってこと?」
「そうだな。恐らく違うのは”ここ”だ」
ジンの回答にギルガメッシュは満足げに然りと頷きながら地面を指差す。
「じゃあ、アイツの言ってた実験ってのは」
「参加者だけの実験ではなく、この会場の実験という事なのだろう」
「なら僕等はまさしくモルモットってことか。いやぁ。舐められたもんだねホント」
英雄王の叩きつけた真実に、王ドロボウはその顔に皮肉げな笑みを貼り付けた。
「まあ、人選もまったく無作為というわけでもあるまい。
恐らくは多種多様のサンプルを試しめみたかったのだろうが、」
7
:
THE KING OF FIGHTERS
:2008/04/13(日) 01:50:00 ID:w3fU1Ss.0
「フザケるなッ!!」
バコン、という鈍い音。
唐突に英雄王の言葉を遮って消防車が大きく跳ねた。
「うわ、ちょっと車壊さないでよドモン!?」
傾きかけた消防車のバランスを取るため、慌ててハンドルを切る王ドロボウ。
その抗議の視線の先には拳大に陥没した消防車の扉があった。
その陥没にピタリとハマる拳を持った男、ドモン・カッシュは醒めやらぬ怒りに震えながら叫んだ。
「サンプルだと? モルモットだと? フザケやがって!
俺や師匠はそんな事のために撒きこまれたっていうのか?
そんな事のために多くの人たちが死んでいったっていうのか?
そんな事のためにアレンビーは死んだって言うのか!?」
何十人という人間を動物実験扱いして、死に至らしめるなどと言う理不尽、到底許せるものではない。
まして、その結果、彼の兄と戦友は死んだのだ。
己が掌が破れる勢いで拳を握り、怒りをあらわにするドモン。
その様子を、ギルガメッシュは興味深そうに見つめていた。
「ふむ。見たところ貴様も目覚めているようだな」
「目覚めてる? なんの事だ?」
感情を高ぶらせ叫ぶドモンから、僅かに漏れた緑の螺旋。
その輝きを見逃すほど英雄王の眼力は節穴ではない。
「目覚めてるって、さっきから言ってた螺旋の力ってやつ?」
「そうだ。だが、このような雑種まで目覚めるとはもはや見境なしだな。
いささかハードルが下がりすぎだ。この調子なら畜生でも覚醒しかねんな」
「いわゆるバーゲンセールってやつ?」
「……よく分からんが、なんか酷い言われようだな」
なぜか二人に好き勝手言われるドモン。
一人力に目覚めたはずなのに、なんだろうこの敗北感。
「それも長時間この空間に居た弊害だな。なるほど実験は大成功と見える」
「ってことは、ここにはホントに螺旋の力の覚醒を促進する要素があるってことか」
「そうだな、だがそれだけではあるまい。
この会場を覆う結界の効果は螺旋の力覚醒の促進に加え、空間内の戦闘能力制限といったところか。
その他外世界からの探知及び接触遮断などもあるかもしれんが今のところハッキリといえたところではないな。
上空を調査したが、恐らく形状はドーム型、端に行くほど天井は低い。
会場のループは結界に触れさせぬための処置だろうな。
外枠を禁止エリアにしてもよいのだろうが、その場合は首輪が無力化された場合に対処できぬからな。
いや、まったく、よく出来た箱庭だ、やつもさぞ満足だろうよ」
この会場の状態を次々と看破しながら、本当に感心した声で英雄王はそうごちた。
8
:
THE KING OF FIGHTERS
:2008/04/13(日) 01:50:25 ID:w3fU1Ss.0
そして、暫しの思案の後、ジンに向かって切り出した。
「ふむ、そうだな。運転手、行き先を変えるぞ」
「いいけど、お客さんどかに寄り道で?」
「ああ、博物館にな。
丁度力に目覚めたこいつがいるのだ。奴が何をそんなに見せたがっているのこいつを使って見てやろう」
「見せたがってるもの?」
「うむ。あれを見よ」
そう言ってギルガメッシュが彼方を指差す。
その夜の先、目を凝らさねば見えない程の距離に映るのは螺旋状の建物。
「うわぁ、ド派手だねまさしく天を突く螺旋城って感じ?」
「なんであれを螺旋王が見せたがっているモノってわかるんだ?」
「わからぬか? 明らかにあの施設は概観からして他の施設と乖離しているだろう」
「いや。さすがにそれは見ればわかるが」
「ではそれは何故だ?」
「何故ってそりゃあ、造った人間が違うからじゃないか?」
一見当たり前過ぎるようなドモンの返答だが、その答えにジンはハッとしたように何かに気付いた。
「いや、ちょっと待ってドモン」
たしかに螺旋状の建物を建築したのは螺旋王だろう。
施設の形状、螺旋王という名からしてそれは間違えない。
なら、当然の疑問として浮かぶのは。
「……じゃあ、他の建物はいったい誰が造ったんだ?」
「その答えは先ほどの会場がループしている話と照らし合わせてればそうすれば自ずと見えてくる。
本当に会場がループしているなら明らかにおかしな点ががあるだろう」
幾度めかの試すような英雄王の問いかけ。
このマップの違和感に。
それは薄々ジンも感じていたことだ。
「そうだね、ハッキリ言って、このマップは余りにもループを想定していない。
特に横、山腹の先がいきなり湖だなんて、手抜き工事にもほどがあるよ。
概観の乖離した施設といい、ここは見るからにツギハギだらけだ。
これはもう設計士を捕まえて告訴したほうがいいね」
「そうだ、恐らくここは奴が全てを一から設計して創り上げたのではい。
造ったというよりどこか適当な地形をそっくりそのまま複製したのだろう。生物を除いてな。
そして、そこに必要最低限の施設を立て手を加えた。といったところか。
ふん。いくら実験に関わりのない所とは言え、後付けだらけのやっつけ仕事にも程がある」
かぶりを振って呆れたようにそう呟くギルガメッシュ。
だが、ドモンはどうしても納得できないのか、ギルガメッシュに向けて問いを投げた。
「いや、やっつけ仕事って、なんでそんな適当なことをしたんだ?」
そのドモンの疑問も当然といえば当然だ。
これ程の計画を成しとげた螺旋王が、そんな不完全なことをする理由などあるとは思えない。
9
:
THE KING OF FIGHTERS
:2008/04/13(日) 01:51:03 ID:w3fU1Ss.0
「じゃあドモン逆に聞くけど、温めてた計画を不完全なまま実行しなければならない理由ってなにがあると思う?」
そのドモンの疑問に答える声は後部座席ではなく、すぐ右手の運転席から。
ジンは既にその理由に察しがついているようだ。
ドモンを導くように問いかける。
「それは……そうだな」
万全とはいえない状況で作戦を決行する理由とは何か?
その問いにドモンは自身の経験に照らし合わせて考えを巡らす。
新宿でのデスアーミー撃退作戦。
ギアナ高地からの脱出作戦。
共通するのは一つ。
デビルガンダム。迫り来る敵対者の存在だ。
「なら、螺旋王は敵に攻め込まれているっていうのか!?」
「そ。半端な用意でオレ達をもてなしてるのは他にお客さんがいるからさ。
そのお客さんがアポもなしに訪ねてきたんで慌てて用意したのがこの舞台ってとこかな?」
「ま、それが妥当な結論だな。
もしくは何らかの形で攻めてくることが知れての対応策やもしれんが、どちらにせよ第三勢力の存在はあるとみていいだろう」
「なるほど……それはわかったが、それと博物館を見せたがってるって話とどう繋がる」
「わからぬか? わざわざ急を要する事態の中、違和感を残してまで追加した建造物だぞ。
それ相応のモノを用意してあるのだろうよ。おそら貴様が地下に見つけた施設もその類だろう。まあ、十中八九脱出ようの施設だろうがな。
この我に対する度重なる無礼。本来なら問答無用で殺すところだが。
博物館にある内容如何では、言い分を聞いてから殺してやってもよい」
結局殺すのかと言う突っ込みは置いておいても。
流石に今吐かれたセリフは捨て置けない。
「脱出用の施設だと? まさか」
「別に驚く程のことではなかろう? 先も述べた通り、奴は殺し合いの完遂ではないのだからな。
その証拠に、ここには殺し合いには何の役も立たぬ、脱出の為に用意された施設や支給品があるはずだ。
そして、それに対して正規の手順を踏めば脱出が可能となるように出来ているのだろう」
「なるほどね、目的を達成してくれたよい子にご褒美ってことか」
本当に、舐められているのだと実感しジンは皮肉げに肩をすくめる。
それに答えるように、ギルガメッシュは赤い宝石のような瞳を見開き殺意と愉悦の入り混じった笑みを浮べた。
「だがな、奴の定めた道順など知った事か。そんなものは壊してしまえ、だ。
徹底的に根本的に壊滅的に、奴の計画と目的と、命ごと何もかもぶち壊してしまえ」
螺旋王の計画を握りつぶすように拳を固めるギルガメッシュ。
与えられた方法などまったく魅力を感じないのはジンも同じだ。
盗んでこその王ドロボウである。
踊る場所も踊りの内容も自分で選ぶ。
相手の掌で踊らされているのなんて真っ平ごめんだ。
だが、それ以上にジンの不安を煽る、英雄王の笑み。
この男は敵か味方か、今だジンはその真意を測りかねていた。
10
:
THE KING OF FIGHTERS
:2008/04/13(日) 01:51:44 ID:w3fU1Ss.0
「だが、脱出方法を破壊したら、ここから出られなくなるんじゃないか?」
相手の手の内で踊るのが嫌でも、脱出できなければ意味がない。
そう考えるドモンも憂鬱を、英雄王は鼻で笑った。
「ふん。問題ない。我の剣があれば、こんな空間跡形もなく破壊して外にでることくらいは造作ない」
堂々と告げる英雄王。
正確にはエアならばこの会場を破壊出来る、ではなく。
エア出なくとも同レベルの衝撃ならばこの会場を破壊することは可能であると英雄王は考えている。
まあ、エアと同レベルの兵器が存在するなど露ほども思わぬ英雄王は、間違ってもそんなことは口にしないが。
「オレの剣? なんだそれは、それがあれば脱出できるのか?」
「無論だ。我にしか扱えぬ唯一無二の英雄王の剣だ。
形状は、そうだな、赤い円柱状の剣なのだが。知らぬか?」
抽象的な説明だがドモンとジン、両名はその奇妙な剣に心当たりがあった。
先刻、ジンが拾い上げた荷物の中にそれに該当するモノがあったはずだ。
「赤い円柱状? それな―――」
「―――ちょっとストップドモン。ギルガメッシュちょっとタンマ」
「うむ。タンマを許す」
すんなりタンマを許されたので、遠慮なくジンとドモンはその場で顔を突き合わせてひそひそ話を始める。
「どうしたんだジン? 赤い円柱状の剣なら、確かオマエの荷物にあっただろ?
それを渡せばアイツに脱出できるっていうんなら渡せばいいじゃないか?」
「いやいや、美味しい話には裏があるってね。どもう話が美味すぎる」
偶然拾い上げた、会場を破壊出来るという剣に。
これまた偶然拾い上げた、螺旋王の計画を破壊出来ると言う男。
これが偶然揃うだなどという、余りにも出来すぎた状況に、ジンは言いようのない不安を覚えた。
「ねえギルガメッシュ、一つ聞いていい?」
ひとまずタンマを終了し、ジンはギルガメッシュに問いかける。
「うむ。問いを許すぞ盗賊王」
「この会場が崩壊したら具体的にどうなるの? 例えば残った人とかさ?」
ジンの質問に、そんなことかとギルガメッシュは平然とした顔で答えた。
「その後、どこかの空間に繋がるはずだ、まあ十中八九螺旋王の世界だろうな。奴を殺すには丁度いい。
あとは我の知った事ではないが。脱出できず崩壊に撒きこまれた奴等は全滅だろうな。まぁ死んだら死んだでそれはそいつの運だろう」
「なっ……!?」
目茶苦茶な事を当然のことのように言ってのけるその様にドモンは言葉を詰まらせる。
その発言が、冗談でも牽制でもなんでもないことが、嫌というほど理解できてしまったからだ。
ギルガメッシュは本気でここにいる人間全てを見捨てることになんの躊躇も感じていない。
言葉を詰まらすその様を見て、ギルガメッシュは二人を安心させるように、まったく安心できない言葉を口にする。
「なに安心しろ、我の身ならば心配入らん。撒きこまれるようなヘマはせん」
他者のことなどまったく眼中にない、どこまでも傲慢な言葉。
その言葉にドモンは、溜まりにまたったギルガメッシュに対する怒りを爆発させ、沸きあがる感情にまかせて叫んだ。
秩序の守り手シャッフル同盟の一人として、否、一人の人間として、断じてその傲慢さを許すわけには行かない。
「駄目だ! 貴様のような他者を顧みる事の出来ない輩に、断じてあの剣は渡すわけにはいかん!」
堂々と啖呵を切るドモンだったが。
それと対象的に運転席のジンは思わず頭を抱え。
後部座席のギルガメシュはその赤い双眸を細めた。
11
:
THE KING OF FIGHTERS
:2008/04/13(日) 01:52:09 ID:w3fU1Ss.0
「ほぅ。渡すわけにはいかぬときたか。
それはつまり、今、我の剣――エアは貴様等の手にあると?」
予想通りの展開にジンは大きく溜息を吐いた。
背中には氷でも刺したような冷たい感覚。
ごまかしきれないと悟り、ジンはひとまず偽らず告げる。
「確かに僕等はさっきギルガメッシュが言ってた剣を持ってる」
回答一つ誤れば即ゲームオーバーだ。
エンドはもちろんデットエンド。
なんせ、運転席と後部座席という時点で既に後を取られてる。
座席越しに一突きされればお終いだ。
「流石だな賊の王。我の財にまで手を付けたか。
その罪は万死に値するが異論はあるまいな?」
「もちろんあるよ。別にその剣は盗んだわけじゃない、拾っただけだ。
ギルガメッシュだってこのゲームのシステムくらいわかってるでしょ?」
「ならば返せ。それは我にしか扱えぬ我の剣だ。
貴様等雑種が手にしたところで正しく扱える代物でもない」
最後通知だとばかりに王ドロボウに英雄王が決断を迫る。
選択肢は渡すか渡さないかの単純な二者択一。
だが、素直に渡せば参加者が全滅。
かといって渡さなければ自分が死ぬ。
となると、選択肢は一つ。
「わかった渡す」
ここでNoといえば即死亡だ。
渡さないという選択肢はないだろう。
「ただし、条件つきだ。
その会場の破壊を行うのは、殺人者を除く生存者全員が集まった時にすること。
これを約束してくれるんなら剣をそっちにわたすけど、どう?」
渡すのも駄目。
渡さないのも駄目。
ならば、条件付で渡すってのが最大限の譲歩だろう。
相手にとっても待つだけで労せず己の剣を取り戻せる、悪くない条件のはずである。
「条件? 何を勘違いしているのだ? 我がよこせと言っている。
渡さぬというのならば力付くで略奪するまでだ、命があるうちにさっさとよこせ」
だが、交渉するにも相手が余りにも悪かった。
なにせ、まるで交渉が成立していない。
状況は二対一。
ドモンもかなりの手練である。
戦況は悪くないはずだと、ジンが冷静に戦力を分析し戦うという選択肢を視野に入れ始めた、その時だった。
「ほらよ」
ドモンが後部座席に赤い円柱を放り投げたのは。
12
:
THE KING OF FIGHTERS
:2008/04/13(日) 01:52:47 ID:w3fU1Ss.0
ギルガメッシュは投げられたそれを片手で掴みとる。
投げ渡されたそれは見紛うことなき乖離剣。
「ちょ、ドモン!?」
突然のドモンの暴走にジンは驚きと戸惑いの声をあげた。
狼狽するジンの様子を意に介さず、ドモンは助手席から立ち上がりギルガメッシュを睨みつけてこう告げた。
「ただし、ギルガメッシュ、貴様にこの場でガンダムファイトを申し込む!!」
英雄王ギルガメッシュに対し、ドモン・カッシュは乖離剣と共に宣戦布告を叩きつけた。
「断る」
「オレが勝ったら先ほどジンが言った条件を、って、なにぃ!?」
にべもなく、申し出は却下された。
一秒にも見たぬ早業であった。
「何故だ!?」
「何故もクソもあるか。世迷言も大概にせよ。
何故この我がそんな訳のわからぬ事に付き合わねばならぬのだ?」
「ぐっ!」
「……ドモン。そう言うことは渡す前に言おうよ」
「うっ!」
追い討ちをかけるギルガメッシュの言葉に、呆れたようなジンの声。
責める様な視線が実に痛い。
「ええい! とにかくファイトだ! 貴様とは一度ファイトをせねば気がすまん!」
もうこうなったら自棄である。
というより、これまで溜まりに溜まった鬱憤の清算を含めて、渡しちゃった以上ファイトしなければ収まりがつかないのである。
「たわけ。貴様の気など我が知るか」
「なんだとッ!」
13
:
THE KING OF FIGHTERS
:2008/04/13(日) 01:53:06 ID:w3fU1Ss.0
ファイト以前に喧嘩を始めそうな二人のやり取りはさておき、ジンは一人頭を悩ませる。
議題は以下にしてあの剣を使用される前に取り返すか。
王ドロボウとして盗むのは専門分野だが、この相手に真正面からではかなり厳しい。
となると一瞬の隙を狙うしかないのだが、この状況で隙を見せる相手だろうか。
バックミラー越しに注意深く相手を観察し、ジンはギルガメッシュの出方を伺う。
その気配を察してか英雄王は口を開く。
「ふん。心配せずともすぐさまこの会場を破壊を行うわけではない。
我とてまだやる事があるのでな。それが済むまで会場の破壊は行わぬ」
「やることって?」
「ここにある我の財を取り返すことだ。そのついでにあの男に借りを返さばならんか。
そうだな、あとは確実を期するならば結界に近づくため飛行する手段があったほうがよいな。まあそれはよかろう。
実行はそれらが終わった後だな。
それまで貴様等雑種どもが何をしようと我の知ったことではない。
参加者を集めたければその間に勝手に集めろ。
平穏無事に脱出したいやつは、奴の定めた手順でも構わぬというのならば勝手に脱出すればよい。
我は奴の首を取りに行く。そうだな、奴の首を取りたいと志願するものがあれば同行を許すもいいだろう」
要するに螺旋王の首を取りたいやつだけ残ればいい、という事らしい。
その言葉を聞いて、やっとジンは目の前の男の気質をおぼろげながらに理解した。
この男に他者を害する意図はない。
かといて他者を救う意志もない。
好き勝手に動き、その結果誰かを救うこともあれば殺すこともある、
恵みの雨で人を救う事もあれば、洪水によって人を殺すこともある、いわば天災のようなものだ。
天災は人の力じゃ止められない。
だが、止められなくとも、ハリケーンだってミサイル一つ打ち込めば少し軌道を変えることくらいはできるのだ。
損にも得にもなる存在ならば、特になる方向に誘導してやればいい。
そこはこちらの腕の見せどころである。
「OKOK そうさせてもらうよ。
ドモンもそろそろ席に座って、もうすぐ付くよ、博物館!」
眼前に迫る螺旋の城。
その中にあるのは希望か、絶望か、はたまたお宝か。
それを確かめるべく聳え立つ螺旋の城に、三人の王は辿りついた。
14
:
THE KING OF FIGHTERS
:2008/04/13(日) 01:54:11 ID:w3fU1Ss.0
【D-4/博物館/深夜】
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:消防車の運転席。全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING×2(1個は刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式
予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、カリバーン@Fate/stay night、ゲイボルク@Fate/stay night、短剣 、瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
1:博物館に向かう、中にある物がお宝なら盗む。
2:カミナを探し、仲間を集めつつ左回りで映画館、あるいは卸売り市場に向かう。スパイク達と合流した後に図書館を目指す。
3:ラッド、ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
4:ニアに疑心暗鬼。
5:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
6:マタタビ殺害事件の真相について考える。
7:時間に余裕が出来たらデパートの地下空間を調べる。
8:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※スパイクからルルーシュの能力に関する仮説を聞きました。何か起こるまで他言するつもりはありません。
※スパイクからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。今の所、他言するつもりはありません。
※ルルーシュがマタタビ殺害事件の黒幕かどうかについては、あくまで可能性の一つだというスタンスです。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に中ダメージ、すり傷無数、疲労(中)、明鏡止水の境地
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
0:博物館に向かう
1:カミナたちを探しながら、映画館または卸売り市場に向かう。
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:傷の男(スカー)を止める。
5:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する。
6:言峰に武道家として親近感。しかし、人間としては警戒。
7:東方不敗を説得する。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュのこれまでの経緯を把握しました。
※第三放送があった事に気が付いていません。
※清麿メモについて把握しました。
※螺旋力覚醒
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、 慢心・油断はない
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、クロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃん
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん、偽・螺旋剣@Fate/stay night
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
1:ドモンの螺旋力を利用して博物館の中身を確認する。
2:その後、刑務所へ向かう
3:“螺旋王へ至る道”を模索。最終的にはアルベルトに逆襲を果たす。
4:北部へ向かい、頭脳派の生存者を配下に加える。
5:異世界の情報、宝具、またはそれに順ずる道具を集める(エレメントに興味)。
6:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
7:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
8:全ての財を手に入れた後会場をエアで破壊する。
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですがエアを手に入れたので、もう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留の所有品について把握しています。それらから何かのアイデアを思いつく可能性があります。
※ヴァッシュたちと情報交換しました。
※ジンたちと情報交換しました。
【会場に対するギルガメッシュの考察】
・会場は何処かの土地の複製
・全体を結界に覆われている
・結界の形はドーム状
・結界の効果は螺旋力覚醒の促進及び能力制限
・外部との遮断(推察の域を出ない)
・結界はエア、もしくはそれと同レベルの衝撃で破壊できる
15
:
螺旋のはじまり
◆10fcvoEbko
:2008/04/13(日) 21:45:08 ID:bOFCzp7w0
全て遠き理想郷、その名を冠すべきが場所が現実に存在するとしたらその世界こそがそうなのかも知れない。
無生物を生物へと変え、自然の猛威の象徴たる台風ですら意のままに消し去る驚天の技術。
因果率さえも気ままに操り、平行世界はおろか鏡面世界やワームホール内すら自由に行き来する時空間支配。
それらをたやすく可能とする道具が実に気軽に市販されているにも関わらず、社会のバランスを崩すことなく平均以上の治安を保つ成熟した住民達。
衣料品などの販売店はほぼ完全に無人化され、街を駆け巡る道路はどれ程の高さから飛び降りようと無傷の着地を可能にする。
完全な球状に整えられた家屋の中で人々は現実と変わらぬ景色を楽しみ、無重力の中で眠る。
気象庁とは気象を予報する庁ではない、気象を決定する庁である。
時に22世紀のトーキョー。人類には最早不可能など残されてはいないかに思われた。
が、解決すべき課題がなくなった訳ではない。
例えば環境問題。許容量を超えたモノ達の氾濫は今なお大きな問題として社会に居座り続けている。
例えば科学への依存。科学は人間の生活を豊かにしたが同時に心を貧しくしたのではあるまいか、等の言説はいつの世でも同じように叫ばれている。
そして例えば……時間犯罪者。
16
:
螺旋のはじまり
◆10fcvoEbko
:2008/04/13(日) 21:46:04 ID:bOFCzp7w0
◇
22世紀のトーキョーシティはその日も変わらず平和そのものだった。
無機質でありながら丸みのある柔らかさを失わない建物達が林立し、クルマは地はもとより空にも飛び交う。
雑然とした印象を与えかねないそれらを補うかのように、公園では余暇を楽しむ人々が暖かな時を過ごしていた。
この世界の都市の典型とも言うべき街。トーキョーシティネリマブロックススキガハラストリート。
高水準の治安が約束された街の平穏はそう簡単に破られることはない。
並大抵の犯罪者ではタイムパトロールの手を逃れて事件を起こすことなどできないと皆知っているのだ。
だから、自分達の上空に突如として円形の空間が開き、そこから翼竜を模したデザインの大型の機動船が脱兎のような勢いで飛び出したとしても……この街の平穏が乱れることはなかった。
当事者達がどうであるかはともかくとして。
◇
「ワープ終わったぞっ!どうだ!?」
「まただ!外壁に取り付いていやがった!」
「畜生っ!化け物かよあいつは!?」
船の中、それほど広くない複座式の操縦席には真っ青になって悲鳴を挙げる二人の男がいた。
富豪然とした肥えた体格の赤ら顔の男、ドルマンスタインと目出し帽のように顔の僅かな部分のみを露出させた黒服の男。
恐竜ハンターとして数多くの恐竜を追い立ててきた彼等が、今は逆の立場へと追いやられている。
計器類はさすがにまだ危険域を示してこそいないが、外壁は姿の見えない襲撃者から執拗に加えられてる攻撃で既にぼろぼろだ。
もう一撃くらえば、航行不能になることは確実だろう。
いたぶるのを楽しんでいるとしか思えない“そいつ”は外壁からは何とか振り落としたものの、さらに追いすがってくることは間違いない。
仮にこの船が落とされたしたら、自分達は一体どうなるのか。具体的な想像はできないがろくでもない目に合わされるだろうことは不思議と自然に想像できた。
船全体が大きく揺れる。単純な操縦ミスだ。敵の姿はまだ見えない。
恐慌が深まりつつある操縦席の中、このような事態に陥るハメになった原因が大きな後悔を伴って二人の脳裏に思い返されて行った。
17
:
螺旋のはじまり
◆10fcvoEbko
:2008/04/13(日) 21:47:35 ID:bOFCzp7w0
今になって思えばそもそもの発端はあのときの映像ディスクだったのだろう。
立体映像での再生が当たり前となった現代で、再生装置を別に必要とする旧世代型のディスクだったのが印象に残っている。
奇妙に古ぼけた汚れのついたそのディスクとは、仕事の後立ち寄ったうらびれた雰囲気の酒場で出会った。
「姿が見えんぞ。撒いたのか!?」
「良く見ろ!真下から上がってきてやがる!」
恐竜ハンターとは過去で捕獲した恐竜を物好きな好事家達に高値で売りさばく密輸業の一種であり、歴史に重大な影響を与えるとして捕まれば厳罰に処される時間犯罪でもある。
世間で広く知られているように、れっきとした犯罪行為だ。
そんな仕事を二人はもう何年も続けている。手痛い目を見たこともあるが、その筋ではかなり知られたいわゆるベテランだという自負もある。
その日の仕事もそれを裏付けるかのように順調に進み、二人は見事望外の大金をせしめることに成功した。
祝杯としゃれこむべく、そのまま適当に選んだ時代と場所で見つけた酒場へと足を運び。
それが、転落の始まりとなった。
「おい、また撃ってきたぞ!」
「くそ、見たこともない道具を使いやがってぇ!」
どことも知れない薄暗い酒場には、やはりと言うか客は少なかった。
気にすることもなくカウンターに座り、普段より数ランク上の酒を注文する。
二人の他に目立った客といえば、偉そうにするのが当たり前と言わんばかりにどっかりと葉巻を加えた中年の客と、皮肉がそのまま素の表情になってしまったように口を歪ませる優男風の客の二人くらいだ。
他にもブルドックのような姿の客や全身金色のロボットの客など色々いたようにも思うが、暗い店内のさらに暗い一角に陣取っていたため確かなことは分からなかった。
しばらくは仕事の武勇伝を肴に気持ちよく酒を進めていた。
高揚した気分での酒は面白いように進み、すぐにほろ酔いとなる。そのままいけば記憶が残らないような状態になっていただろう。
そんなときに声を掛けてきたのが、にやにやとした笑みを浮かべた中年の男の客だった
馴れ馴れしい態度の男は意外と甲高い声でこう切り出した。
――おめぇさんたち、大分羽振りがよさそうじゃあねぇか。
「ぐぅ!掠めたぞ、揺らすな!」
「じゃあお前がやれってんだ!」
18
:
螺旋のはじまり
◆10fcvoEbko
:2008/04/13(日) 21:48:40 ID:bOFCzp7w0
おだてに乗って嬉々として自慢話を始める、などという無様な真似は酔っていてもさすがにしなかった。
適当にあしらおうと手を振ってあっちへ行けと示した。だがその仕草があからさま過ぎたのか、中年は構わずひっと笑うとカウンターの隣の席にどかっと腰を下ろしてしまった。
──まぁ、そう邪険にするなぁ。今はこんななりでも昔は社長って呼ばれたこともあったんだぜぇ。
続いて告げられた企業名はガルタイト、とか言ったか。
興味が無かったので良く覚えていない。トカイがどうのと言っていた気もする。
ともかく、二人に件のディスクの買い取りを持ちかけたのがその自称元社長の男だった。
「狙い撃ちだ!もう一度ワープは!?」
「まだ時間がかかる!!」
――モノが古いせいでまだ中を見れちゃあいないんだが、こいつはとびっきりだ。何せ……。
とある時間犯罪者が起こした数十人もの人間の殺人ショーを収録したディスク。
噂だけは聞いたことがあった。数年程前からちらほらと耳にするようになった噂だ。
作成者は捕まり既に死んでいるだのいないのと、いかにもな尾ひれがついた賞味期限の短い噂でしかなかったが、思えば意外と長い間囁かれていた気もする。
それもある時期を境にぱったりと聞かなくなったのだが。
――これがその最後の一つってやつだ
全く取り合わず一笑に付した。
そんな二人を嘲笑う新たな声が、背後から聞こえた。
「このままじゃ埒があかん!街に入れ!」
「ビルを盾にか!さっすが悪党ぉ!」
ドラコルルと、どこか人の神経に障る口調でその男は名乗った。そしてこれでもある惑星で結構な立場にいたこともある、と自称元社長と似たようなことを言った。
試しにじゃあなぜ今はこんなところにいるのだと聞いてみたが、ドラコルルは悔しげにガキどもが、と呟くだけで多くを語らなかった。
子供という言葉には二人にも苦い思い出がある。それ以上は触れなかった。
隣を見ると、自称元社長も何故か顔を伏せていた。
ドラコルルが顔を上げるまでには多少の時間を必要としたが、開かれたその唇には元通りの皮肉げな歪みが取り戻されていた。
──そいつは本物だよ。俺の昔の上司も持ってた。
かなりの高額で仕入れたにも関わらず、それを見る直前に消息不明になったという。
「いなくなったぞ!今度こそ引き離したか!」
「このままワープだ!!」
19
:
螺旋のはじまり
◆10fcvoEbko
:2008/04/13(日) 21:49:11 ID:bOFCzp7w0
ドラコルルがそれ以上を語らず席に戻ってしまったので真偽の程は分からなかった。人を騙しなれている口調からしてかなり誇張が含まれているように感じたのを覚えている。
が、ディスクの中身はともかく高額でという部分には惹かれるものがあった。
すぐに転売してしまえばいい。そう思い、ディスクを引き取ることにした。
自称元社長は売りたいと言うより厄介を押し付けたいとい気持ちが強かったのか、かなり足元を見た金額にも関わらず金を受け取ると安心したように元いた席へと消えて行った。
二人の手元には虚実不明の因縁が付けられたディスクだけが残った。
「あ……」
「あ……」
気が付くとそれなりに賑わっていた店内にはほとんど客がいなくなっていた。
まるで、ここでの出会いは一夜限りの幻だったとでも言うように。
気温まで低くなったように感じられた。
明け方が近くなっていたのかも知れない。
二人の恐竜ハンターは顔を見合せ、一つ身震いをすると河岸を変えるべく立ち上がった。
言葉少なに勘定を済ませ、店を後にしようとして。
──ああ、ところで……
──ああ、そうそう……
どこか早足になっていたその背中に、最後の客となった二人の男達の声が投げ掛けられた。
二人の足が吸い付けられたようにぴたりと止まった。震えてはいなかったように思う。
──言い忘れてことなんだが。
──これは聞いた話なんだが。
言われたことの意味が良く分からなかった。その時はまだ。
二人が告げてきたのは同一の内容の、ディスクに纏わるもう一つの噂だった。
「はぁ〜い。チンピラの小悪党さん達、そろそろ観念してもらえるかしら?」
曰く、そのディスクを持つもののところにはあかいあくまがやってくる、と。
◇
20
:
螺旋のはじまり
◆10fcvoEbko
:2008/04/13(日) 21:50:46 ID:bOFCzp7w0
右手に魔術杖。身に纏う衣装は見る者の目を引く真っ赤な色。
ツインテールにしてもなお余る質感たっぷりの髪を風になびかせる妙齢の女性、遠坂凛は穏やかに笑みで脅しをかけながら内心物凄く焦っていた。
今やっていることは凛の本来の仕事とは全く関係がない。
第2魔法についての研究や、着々と押し付けられる科目数が増えてきている時計塔の講師としての仕事が本職顔負けの追走劇に関係あるはずがない。
確かに、複数の次元世界に影響を与える事態全般を取り締まる時空管理局の魔導士としての自分なら多少は関係があると言っても良いかも知れない。
だがそれも凛が手を出すことを許される範囲でならのことである。
今いる世界はまずい。というか、少々面倒くさい。
第一特例管理外世界。
忘れようにも忘れられない、そして同時に忘れたくないあの事件をきっかけに初めて時空管理局がその存在を知ることとなった次元世界。
大抵の次元世界よりは優れた技術を持ち、それ故に自らそれらを管理するという職務を負った時空管理局が、唯一その責務を放棄し存在すら秘匿としたいわくつきの世界である。
理由は、ひとえに圧倒的な技術力の差という語につきた。
管理局の数段、もしかしたら数十段先を行く次元管理能力に加え、時間すら掌握するその超技術。
魔法と見紛うばかりの、凛の世界では逆に技術が進むほど魔法は減っていくのだが、奇跡の数々に触れついに管理局はこの次元世界への一切の干渉を行わないとする決定を下した。
管理局の力が無くても十分に自衛は可能、というのが表向きの理由だ。
それはまあその通りなのだろうけど、喧嘩になったらどう頑張っても勝てない相手のご機嫌を損ないたくないというのが本当のところだろう。
少々ひねた解釈だが、凛はそう思っている。
それだけに、先方にご迷惑をお掛けした組織の下っ端にどのようなくだらないお咎めがなされるかと思うと実に面倒くさい。
(時間移動される前にちゃちゃっと済ませるつもりだったのに……はぁ、戻ったらまたリインの説教ね、これじゃ)
もはや自分に厳しくするのが意地なってきた感さえある相棒の眉がつり上がる様を想像し、心中で溜め息をつく。
どうあれ、余りことを大きくしすぎるのはまずいのだ。
時計塔とも管理局とも関係ない。凛がここにいる理由は彼女とその周囲のほんの数人しか関わらない、非常に個人的なものなのだから。
『何なんだよてめぇは!?タイムパトロールでもねぇ癖になんで俺達を狙う!』
外部スピーカーから流れる無個性な叫びを耳に素通りさせる。
別にお前達が持っているディスクがどんなえげつない経緯で作られた物で、存在を知ってからこっちそれを消滅させるためにただでさえ希少ななオフの時間をどれだけ犠牲にしてきたかくどくどと説明するつもりはない。
ついでに言えばお前達の持っているそれが確認されている最後の一枚であるため、万感の思いを込めていっちょ派手にぶっ飛ばしてやろうなどとは思っていても言わない。
21
:
螺旋のはじまり
◆10fcvoEbko
:2008/04/13(日) 21:52:08 ID:bOFCzp7w0
凛は内心の感情などおくびにも出さず、肝の小さい男なら心の底から震え上がると経験上知っている笑みをにっこりと浮かべて言った。
「運が悪かったわね。一応死なないくらいに加減してあげるけど、もしものときはごめんなさい」
『な・っ・と・くできるか〜〜っ!!』
切れたのかやけくそになったのか、プテラノドンのような外観の機体で突撃を敢行してくる。分かりやすい連中だ。
バリアジャケットを風に踊らせ軽く回避し背後に回った。
乗ってる奴等は雑魚でも機体の性能は十分驚異だ。何よりどんな能力を持つか知れない道具を持ち出されるのは避けたい。
一撃で落とし、戦意を喪失させる。凛は綺麗に整えられた指をすっと構えた。
「ガンド!」
声とともに、指先から光球を撃ち出す。高速で発射されたそれは桃色を基調にしながらも、どこか灰色がかったくすみを持ち合わせていた。
北欧に伝わる呪いを魔力スフィアと融合させた、凛オリジナルの魔術。
本来の呪いの効果に加え魔力ダメージを与えることができ、さらに物理破壊も行えるとあって実戦でもそれ以外の場面でも非常に重宝している技だ。
光球はそのまま確実に翼竜の急所を撃ち抜くと思われたが、そこまで狙い通りにはいかずすんでのところで旋回されかわされてしまった。
全速で逃げようとする敵に慌てることなく、凛はその場から次々と次弾を浴びせかける。大きく弧を描く機械の竜はその殆どを生意気な高機動で回避したが、命中した分には確実にダメージを与えているという手応えがあった。
(よし、ちょろい!)
煙を上げゆっくりと高度を下げる機体に凛が心中で快哉を叫ぶ。視界の中で小さくなる翼竜の顔が焦っているようにさえ見えた。
なので、さらにだめ押しの一撃を加えることにする。
「スターライトブレイカー!一応死なない程度に行くわよ!」
『All right, my second master』
髪をかき揚げ威勢良く声を上げる凛に呼応して、右手のデバイスが形を変える。
馴染み過ぎるくらいに馴染んだ魔術杖の長距離砲撃形態。周囲に展開される円環状の魔方陣が心地よい集中をもたらしてくれる。
「カウントお願い。……これで最後なんだもの、派手にいこうじゃない」
『Yes.10……9……8……』
本来この程度の戦闘には必要のない手順を敢えて踏み、凛は何かを噛み締めるような仕草で静かに照準を定める。
おあつらえ向きに下は大きな池を湛えた公園だ。多少盛大にやっても、まぁ何とかなる。
既に親指ほどの大きさになっている小悪党どもの船を見据えながら、しかし凛は瞳の奥で別の物を見ていた。
それは思いだしたくないもない最悪の記憶だったり、今も心の奥で淡い光を放つ記憶だったりした。正負に突き出た極上の思い出は人によっては忘れてしまいたいと思うかもしれない。
だがどんな種類の記憶でも、凛にとっては等しく価値のあるもの。現在を形作る大切な自分の一部だ。決して無くしたいなんて思わない。
いくつもの出会いと別れの末に託された無限の思いの先に、今の凛はあるのだから。
『5……4……3……』
思考をクリアにする。
遮るものは、何もない。
呼吸が、清清しいほど静かに通った。
『2……1……』
錐もみに落ちていく悪夢の残り香を完全に消し去るために、凛は真っ直ぐな意思を込めて言葉を放った。
『0』
22
:
螺旋のはじまり
◆10fcvoEbko
:2008/04/13(日) 21:53:10 ID:bOFCzp7w0
「スターライト!!ブレってえええ!?」
放ちはしたが直後に目標の機体に起きた爆発はそれとは何の関わりもなかった。
プテラノドンは形を失い残骸をまき散らしながら一気に落っこちていく。どうやらさっきの魔力弾が思った以上に良いところに入っていたらしい。
しかも間の悪いことに敵は最後のあがきにワープを試みたのか、連鎖的に爆発する機体は無理やりこじ開けられた空間の中に落ち込みあっという間に消えてしまった。
「……」
後には、無駄に蓄積された魔力と行き場の失った凛の決意だけが残された。
「ねぇ……あれ帰ってこれると思う?もしくは追えると思う……?」
青筋を立てるのも何か違う気がして、実に中途半端な表情のまま馴染みのデバイスの意見を聞く。
帰ってきたのはもちろん絶望的だという内容の言葉。よしんばパイロットが助かっても機体の破損状況からして帰還は不可能。手段がない以上当然追跡もまた不可能とのことだった。
複雑、消化不良、憮然。大体そのような感情の真ん中くらいを表情に浮かべる。
いつの間にか、凛の周囲を数台のタイムマリンが取り囲んでいた。
「貴方は完全に包囲されている!速やかに武器を捨てて投降しなさい!」
いつの時代も変わらない赤色のサイレンと呼び掛けの声を聞きながら。
とりあえず凛は終わったのだと思うことにし、何故だかがっくりと肩を落とした。
その後、遠坂凛が元いた次元世界に戻るためどれ程の苦労を必要としたかは定かではない。
たとえ、あわや犯罪者の烙印を押される寸前の事態になったとしても。
たとえ、その過程で22世紀の技術に間近に触れる機会を得た彼女が結果として自身の第2魔法に関する研究を飛躍的に進めることになったとしても。
それらはみんな、全く別の話である。
◇
23
:
螺旋のはじまり
◆10fcvoEbko
:2008/04/13(日) 21:53:56 ID:bOFCzp7w0
その日、王都テッペリンの北方1600キロの地点に突如として虚空から奇妙な物体が出現した。
最初に発見したのはその地方で人間狩りの任についていた名もなき獣人。報告が速やかに行われたこともあり、それに対する調査は迅速かつ的確に行われた。
どこか異質さを感じさせるガンメン似の機体の破損状況は酷いもので、当初は屑鉄ぐらいしか出ないのではと思われたものの、どうにか形を残していた物とその機体自身を回収し調査は終了。
その結果、それは彼等が用いるガンメンに見ためこそ似ている部分もあったが様々な部分が決定的に異なることが判明した。
他に具体的な収穫としてもたらされたのは、用途不明の道具数点と奇妙な格好をした二人のニンゲン。
地下に潜っているはずのニンゲンがそのようなところから現われた事実は驚愕をもって迎えられたと思われるが、詳細については不明。
記録にはただ、二人が訳のわからないことを叫び続け、やがて尋問に耐えられず死亡したという事実が残されているのみである。
死体は一切省みられることなくどことも知れぬ場所に放棄されたようだ。
一方、尋問で得られた言葉と回収された用途不明の道具達は打ち捨てられることもなく彼等の組織の仕組みに従い上へまた上へと回されて行った。
様々な土地で少しずつ位の高いものへと渡されていき、渡されたものもやはりそれが何なのか分からず次の者へと引き渡す。そうしたことが幾度か繰り返された。
くるくるとした連鎖の先で、やがてそれらは全ての獣人の始祖たる存在へと辿り着く。
そしてついに、未来世界の技術が螺旋の頂点に立つ王の下へと引き渡された。
「ロージェノムよ、面白い報告が上がってきておるぞ?」
「ほう……」
献上された品は数点の道具と無限の容量を持つ袋、それに古ぼけた一枚のディスク。
もしもボックス
シズメバチの巣
タイムマシン
グッスリ枕
四次元ポケット
そして精霊王ギガゾンビによって起こされたバトルロワイヤル、そのほぼ全てを記録した映像ディスク。
それらが全て螺旋王の手の中へと収められそして――。
全ての悲劇が、ここから始まる。
24
:
螺旋のはじまり
◆10fcvoEbko
:2008/04/13(日) 21:54:43 ID:bOFCzp7w0
【多元世界の発見について】
ギガゾンビが発信していた映像を収めたディスクからバトルロワイヤル(アニ1st)及び多元世界の存在を知り、改修したもしもボックスの多元世界に関する機能を解析することで移動・干渉する技術を手に入れました。
バトルロワイヤルのルールについても前回のバトルロワイヤルを参考にしています。
【多元世界を行き来する方法について】
回収した恐竜ハンターのタイムマシンを修理し、多元世界を移動する機能を組み込んで移動手段としています。一台きりか、量産に成功しているかは不明です。
恐竜ハンターのタイムマシンのビジュアルについては
http://jp.youtube.com/watch?v=3XfmivNLRzU
の1:38あたりから。
【移動可能な多元世界の範囲について】
参加者達がいた次元・時間にはどこも問題なく移動可能と思われます。新しい世界を発見するために必要な時間は不明です。
【参加者を集めた方法について】
カネバチの巣とぐっすり枕の機能を参考にした捕獲装置を使用。捕獲された者は強力な催眠装置で眠り、無抵抗になります。
また、デイパックには四次元ポケットの機能が使われています。
【シズメバチの巣】
風船を割るように人の怒りをしぼませるシズメバチという機械の蜂の巣。これの巣をぽんと一度叩くと解き放ち、もう一度ぽんと叩くと中に吸い込むことができる。原作では普通の蜂も吸い込んでいた。
原作コミックスでは第8巻に登場。
【グッスリまくら】
催眠装置を搭載し手にしたものを容赦なく眠らせる枕。眠らせる強さは調節が可能。
原作コミックスでは第22巻に登場。
※上記以外のドラえもん世界の道具・技術については完全に破壊されたため存在していません。
25
:
童話『森のくまさん』
◆10fcvoEbko
:2008/04/19(土) 01:17:38 ID:/ovXct/o0
あるところに一人の王女さまがいました。
王女さまといっても、偉そうにしたりわがままをいったりはする悪い王女さまではありません。
彼女はまだほんの小さな子供でしたが、そんなことをしたら大切な人たちがいやな思いをしてしまうことをちゃんと知っていました。
優しい王女さまは、同じように優しい沢山の人からとても大切にされました。
人を殺しなさいといわれたときにきちんと反対できたのも、心の中で彼女の大切な人達が支えてくれたからでした。
けれども、彼女の大切な人たちは彼女の知らないところで死んでしまいました。
力強く手を引っ張ってくれた少年にも、暖かく彼女を包んでくれたおばあさんにも永遠に会うことができなくなってしまったのです。
王女さまは胸が潰れるような悲しみを感じました。そのまま本当にからだが潰れてしまうかと思いました。
王女さまにまた大切な人ができました。とても背の高い神父さまです。
神父さまは悲しみに沈む王女さまにありがたいお話を聞かせてくださいました。
低い声で仰るそのお話はとてもむずかしく、初めは理解できませんでした。
でも彼女は優しさと一緒にかしこさも持っていましたから、すぐに神父さまのいうことが正しいのだと気付きました。
かしこい王女さまはみんなを殺します。そうすれば大切な人達にまた会えるからです。
神父さまが授けてくださった魔法の槍で、彼女はみんなを殺します。
それが正しいのだと、神父さまが教えてくれました。
神父さまの教えに従い、王女さまは色んな人達をおそいました。
まだ誰も殺してあげられていないけれど、王女さまは負けずにがんばるつもりでした。
そんな王女さまに大変なことがおきました。
魔法の槍が動かなくなったのです。
26
:
童話『森のくまさん』
◆10fcvoEbko
:2008/04/19(土) 01:18:13 ID:/ovXct/o0
世界の上半分は月のきれいな夜空でした。下半分は捨てられたごみ達でした。その真ん中で、王女さまはひとりぼっちでした。
みんなを殺してあげるために使うはずだった魔法の槍は、少し前から何をいっても応えてくれなくなってしまいました。それどころか形も槍ではなく、時計のようなものに変わってしまったのです。
実は王女さまが神父さまからいただいたのは槍だけではありません。それを動かすための特別な力も一緒に分けてもらっていたのです。
でもそれはいつまでも使えるものではなく、ついさっき時間切れになってしまいました。
王女さまはさっきまでの素敵な笑顔はどこへやら、たいへん困ったという顔できょろきょろと細い首をふります。
それはそうでしょう。王女さまはいま砂漠のように広いごみの海にぽつんと取り残されてしまっているのですから。
魔法の槍に頼りきりだった王女さまは自分の足で帰ることもできません。
魔法で作ったとても頑丈な服も消えてなくなってしまいました。今の王女さまの格好は汚れていてとてもみすぼらしいものです。
王女さまは急に周りが怖いものばかりのように思えてきました。
さっきまでは何とも思わなかったじゅうたんの染みやランプの破片が、みんな自分を狙っているように思えてきます。
一人ぼっちになった王女さまはとても弱くなってしまいました。
早く神父さまに会わないと。会ってもう一度魔法の力を分けてもらわないと。
そう思うのですが、体は前みたいに速く動いてくれません。
とうとう王女さまは転んでしまいました。きれいな顔にきずがついてりんごのように真っ赤な血が流れます。
王女さまは痛いのとつらいのとでまた涙が出そうになりました。
もし王女様がただのかよわい女の子だったとしたら、そのままわんわん泣いていたかもしれません。
王女さまはりっぱでした。涙をぐっとこらえて立ち上がると、危ないものをさけながらそろそろと歩き始めます。
他に頼る人もいない場所でそんなことができるのも、王女さまが立ち直る強さを持っているからです。
ここで倒れてしまったら王女さまの大切な人も死んだままです。会ってお話しすることも、一緒にお茶を飲むこともできません。
きらいだった人たちを王女さまと同じ考えにして生き返らせてあげることもできなくなってしまいます。
あなたはムカつきます、そういって王女さまをぺちんとたたいた女の子のことを思い出しました。
殺したと思ったのに、放送で名前をよばれなかったとてもいやな女の子です。
こっちこそ、ムカつきます。
27
:
童話『森のくまさん』
◆10fcvoEbko
:2008/04/19(土) 01:19:36 ID:/ovXct/o0
王女さまは、いじわるな女の子になんか負けません。彼女はみんなのお手本になるのにふさわしい、強くて凛々しい王女さまです。
けれども、その体はやっぱりとても疲れていたので少しすると足が少しも前に進まなくなってしまいました。王女さまの気持ちは前に進むことでいっぱいなのにです。
どうしようもなくなった王女さまは小さくうずくまります。
いまにもくじけてしまいそうですが、ここまでとってもとってもがんばってきた王女さまを責めるなんて誰にもできません。
それどころか、よくがんばったねとご褒美をあげてもいいくらいです。
そうです。みんなのためにこんなにがんばっている王女さまが悲しんでいるのに、そのままになんてしておけるはずがありません。
精いっぱい働いた王女さまを助けようと、勇敢な兵隊が救いの手を差し伸べました。
顔を伏せていた王女さまはすぐには気付きませんでしたが、そこにいたのは確かに彼女だけの兵隊でした。
粘土のような金属のような不思議な体で王女さまを見守るロボットの兵隊です。
王女さまは少しだけびっくりしていましたが、すぐに顔をほころばせました。
その兵隊がとても優しく、そして自分をいつも一番に考えてくれていることを彼女は知っていたからです。
兵隊は王女さまの前に静かに歩みよると、うやうやしくお辞儀をします。
よく見るとその体にはたくさんのごみがついていました。
実は兵隊はとても疲れていたので、いままでごみの中で眠っていたのです。王女さまが悲しんでいることに気付き、慌てて励ましにきたのでした。
王女さまがいまいるごみ捨て場にはただのごみでいっぱいでしたが、そうでないものもたくさんあるのです。
このごみ捨て場は、そういう場所なのです。
王女さまが悪い王様に誘拐されたとき、王女さまの世界の道具たちも一緒に誘拐されました。王女さまとは違う世界でも同じことが行われました。
そうして集められた道具たちはいるものといらないものに分けられ、いらないものは捨てられてしまいました。
そんな道具たちと本当にいらないごみ達ががたくさん集まってできたのが、このごみ捨て場なのでした。
28
:
童話『森のくまさん』
◆10fcvoEbko
:2008/04/19(土) 01:20:22 ID:/ovXct/o0
もちろん王女さまはそんなことは知りません。ただごみがついていてはかわいそうと、兵隊をきれいに掃除してあげます。
すっかりきれいになった兵隊はさっきまでと同じ表情のはずなのに、どこか嬉しそうに見えました。
そんな兵隊の様子がほほえましくて、彼女もにっこりと笑いました。
まだ大切な人たちが元気だったころを思い出させるような、素敵な笑顔でした。
元どおり元気になった王女さまは彼女の、彼女のためだけの兵隊に向かっていいました。
「あなたは私のいうことを聞いてください。他のみんなを殺してください」
兵隊は素直なしぐさでこくりとうなずきました。
兵隊は王女さまを優しく抱き寄せると、彼女が愛しくて仕方がないといった様子で肩に乗せました。
王女さまの命令するとおりに、ゆっくりと空に顔を向けます。そうして両腕を大きく広げると空を飛ぶための羽をだしました。
生き物のようでありながら自然のどの生き物にもにていない、不思議な羽でした。
それを両腕ぜんぶに広げて王女さまを乗せた兵隊は飛び立ちます。
それは魔法の槍なんかよりもずっと速く、飛び出した二人の姿はあっという間に汚いごみ捨て場からは見えなくなってしまいました。
元気よく空を飛ぶ兵隊の姿は、王女さまのために働けることをこころの底から喜んでいるようにも見えました。
こうして王女さまは、今のところはとても幸せになりました。
――おしまい。
29
:
童話『森のくまさん』
◆10fcvoEbko
:2008/04/19(土) 01:20:45 ID:/ovXct/o0
【E-4/ゴミ処分場上空/2日目/深夜】
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労(大)、倫理観及び道徳観念の崩壊、右肩に痺れる様な痛み(動かす分には問題無し)、頬に切り傷、おさげ喪失、右頬にモミジ
[装備]:ラピュタのロボット兵@天空の城ラピュタ
機体状況:無傷、多少の汚れ
[道具]:支給品一式 (食糧:食パン六枚切り三斤、ミネラルウォーター500ml 2本)、ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(待機状態)、びしょ濡れのかがみの制服、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガン、暗視スコープ、音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)、士郎となつきと千里の支給品一式
[思考]
基本:自分の外見を利用して、邪魔者は手段を念入りに選んだ上で始末する。優勝して自分の大切な人たちを、自分の価値観に合わせて生き返らせる。
1:北に向かい、卸売り市場付近で言峰を捜索。保護してもらうと同時に新たに令呪を貰う。
2:途中見かけた人間はロボット兵に殺させる。
3:気に入った人間はとりあえず生かす。ゲームの最後に殺した上で、生き返らせる。
4:恩人の言峰は一番最後に殺してあげる。
5:使えそうな人間は抱きこむ。その際には口でも体でも何でも用いて篭絡する。
[備考]
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※バリアジャケットは現状解除されています。但し、防御力皆無のバリアジャケットなら令呪が無くても展開できるかもしれません。
※バリアジャケットのモデルはカリオスト○の城のク○リスの白いドレスです。 夜間迷彩モードを作成しました。モデルは魔○の宅○便のキ○の服です。
※言峰から言伝でストラーダの性能の説明を受けています。ストラーダ使用による体への負担は少しはあるようですが、今のところは大丈夫のようです。
※エドがパソコンで何をやっていたのかは正確には把握してません。
※第三回放送を聞き逃しました。
※価値観が崩壊しましたが、判断力は失っていません。
※かがみを殺したと思っていますが、当人の顔は確認していません。
※会場のループを認識しました。
【ごみ処理場について】
大量のごみの中には参加者を誘拐するさいに持ち出された各世界の道具が埋もれています。支給品の選別からもれたものと思われますが、その量や支給品との質の違いについては不明。
【ラピュタのロボット兵@天空の城ラピュタ】
ラピュタ王国が使う自律稼動式ロボット兵器。頭部に付けられた大小二つのビームが主な武装。本編の描写を見る限りビームは誘爆性のものと思われる。胸部のジェットと両腕の羽で飛行も可能。優秀な人工知能が搭載されており、シータの命令に従い彼女を守ることを第一に考えている。
30
:
Shining days after
◆ZJTBOvEGT.
:2008/04/24(木) 02:22:29 ID:1APxGToc0
「ほほう…」
モニターから一連の戦闘を見ていた螺旋王が、にやりと笑った。
まさか、このようなことになろうとは。
まるで、藤乃静留に関する何から何まで、この光景のためにお膳立てされたかのようだった。
今、モニターに映っているのは、黒い液状の液体とも気体ともつかないものをもくもく吐き出し続ける清姫の姿。
地に落ちたそれは強い粘性を示しながら拡がりゆく。
際限なく垂れ流されるタールが悪臭を放ちながら押し寄せるがごとく。
螺旋王は知っている。吐き出されているそれが、聖杯の泥と呼ばれるものであることを。
『この世全ての悪』を内包した、あの空間とも物体とも言える塊は、
螺旋王にとってはアンチスパイラルが用いたデススパイラルフィールドを彷彿とさせるもの。
あれは螺旋力そのものを空間に取り込み超高密度で物質化するものであったが、
今、目にしている聖杯の泥は、螺旋力ではなく悪意そのものの物質化と言うべき。
そして悪意は決して、螺旋力と無縁のものではない。
清姫に喰われたイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが秘めていた聖杯は、
ランサーのみを贄として発動できるものではなかったが、
そこへ螺旋力覚醒者…加えて、いつか英霊となる可能性を持っていた男、衛宮士郎も呑み込まれ、
さらに、自らを人身御供にただ一筋の強き想い、高純度高密度の螺旋力を捧げた藤乃静留によって、
目覚めがついに始まった、という筋書きのようだ。
そして聖杯とは、他を破壊することによって使用者の願いを叶える呪いの器。
あの藤乃静留の想い、すなわち清姫の想いが『なつきさえいれば、後は何もいらない』であるならば、
今や清姫そのものとなった聖杯は、なつきだけの世界を創り出すために他のあらゆるものを滅ぼし尽くすであろう。
「新世界創造…果たして、貴様に届くかな」
場合によっては、ラゼンガンで戦闘の渦中に降り立つも一興か。
螺旋王は肘をつき、引き続き観戦の構えに入る。
あの清姫が吐き出した泥の中に突っ込んだカグツチは、
清姫と同じように力が抜けて静止していた。
頭上にいる鴇羽舞衣も、またしかり。
************************************
「あ、あ、あ」
牢の中から引っ張り上げられた鴇羽舞衣は、気がつけば呪いの中にいた。
真っ黒い泥のような空間に、無数の顔が浮かび上がる。
恨みの形相で睨む詩帆。
不愉快そうに眉を寄せる祐一。
冷笑する黎人さん。
嘲笑する会長さん。
よそよそしい目で見てくる千絵とあおい。
泣きわめく命(みこと)。
無関心な、他人を見る目のなつき。
「…いや、嫌ぁ」
のけぞっても、見える景色は変わらない。
全てがこちらに回り込んでくるようだ。
こちらを見ながら震える雪乃が。
その隣で軽蔑と憤怒を瞳に込める執行部部長が。
冷たく見放す父と母が。
「やめて、見ないで、そんな目で…見ないでよ」
31
:
Shining days after
◆ZJTBOvEGT.
:2008/04/24(木) 02:25:14 ID:1APxGToc0
上から見下す碧先生。
小馬鹿にするようににやける奈緒。
アリッサを抱きしめ、無感情の目に敵意を込める深優。
我慢など、できない。
一瞬たりとも、できるものか。
「やだ、助けてよ…誰か、助けて。
助けてよ、巧海、巧海ぃぃぃっ」
走り出そうとしたところで、足元に妙な感触。
下を見下ろす。そこにあったのは。
「助けて、助けてよ、お姉ちゃぁぁぁん」
「い、いやぁぁぁぁ――――っ、巧海ぃぃぃっ?」
「重いよぉ、お姉ちゃんが重いよぉぉ。
なのに、お姉ちゃんが、いつまでたっても重いんだよぉぉ」
「ご、ごめんね、ごめんね、巧海…ゆるして、巧海」
踏みつけていた巧海の顔から、あわくって足を放す。
だが、その先でも、その先でも、そのさらに先でも。
「重いよぉぉー」
「重いよぉぉー」
「お姉ちゃんが重いよぉぉぉお」
「重いよぉぉぉぉぉぉぉ」
「嫌ぁぁぁ―――っ! 嫌、嫌、嫌ぁぁぁぁぁ」
踏みつけているのは全て、巧海の顔だった。
いつまでもいつまでも聞こえ続ける悲鳴。
自分が重たいばっかりに。
つまづいて、転げる。もちろん、巧海の顔につまづいて。
倒れた先も、巧海の顔。
すがりつくように、抱きしめた。
「ごめんね、巧海、あたし、あなたを守るから」
「近寄るなぁ!」
「ひぃぃっ?」
斬りつけてきたのは苦無(くない)。
舞衣の右手をすぱりと飛ばしたのは、巧海の男友達。
…いや、違う。HiMEの一人だった子だ。
「お前がいるから、お前がいるから巧海は苦しんだんだろ!」
「そんな、あたしは、ただ」
「黙れ! 少しでも悪いと思っているのなら、巧海の目の前から永遠に消えろ!」
「た、たくみ…そうなの…違うでしょう?
違うって言ってよぉぉ、助けてよぉぉ」
「重いよぉぉ、お姉ちゃんが、重いぃぃ」
「…あ…たく、み…う…」
足から、一気に力が抜けた。
もう走らなくてもいいという安心感を得てしまった。
そこへのしかかってくる、顔、顔、顔。
32
:
Shining days after
◆ZJTBOvEGT.
:2008/04/24(木) 02:27:27 ID:1APxGToc0
「へぇぇー、嫌がられてたんだねー」
「なのに気づかないで、あたしエライエライ、だってー」
「あなたが巧海をちゃんと見てれば、あなたなんかに任せなかったのに」
「情けないな、こんな風に育つとは…」
「舞衣なんかに聞いたのがバカだった。
お前なんかに兄上への気持ちがわかるわけなかったぞ」
「結局、私を見逃したのも、可哀想な自分を汚したくなかったからなんですね」
「ふん、自分可愛さか。よくも被害者面ができたものだ」
「…わっかんねぇよ、お前」
「あなたの身勝手さで、お兄ちゃんを汚さないで」
「ばぁーっかみたぁい、偽善者、いい気味」
「底が割れましたね、舞衣さん。あなたはチンケすぎる」
「ほんま、呆れたわあ」
「風華学園から、不穏分子は排除、排除よ」
「あ、う、やめ、やめてよぉ…みんな、やめてぇ」
頭を抱える。ぶんぶん振る。
もう逃げられない。走れない。
そこへさらに顔、顔、顔。
「何が信じてもいい、だ! アニキじゃないくせに。
俺は死んだ、もういない!」
「キミは調子に乗りすぎたねぇ〜、もうダメだと思うよ」
「カワイソーなあたしは死なない、いつか誰か助けてくれる。
そぅお〜思ってたろぉ? 甘いぜぇ、甘いよなぁ〜?」
「だからお前はアホなのだぁ」
殺し合いの中でも、罪は重なり続けていた。
あたしなんかに、この男が責められるものだったのか。
「…Dボゥイ」
その後ろにいた気難しい顔に、声をかける。
助けを求める。
「Dボゥイ、助けてよ。
やり直したいよ、こんなの嫌だよ」
「っはぁーい、そこまでー!」
突如として舞衣の目の前に、陽気な声と顔が立ち塞がった。
全員の罵声が止まる。
見上げた先の、その顔は。
「み、碧先生!」
「みんな、よってたかってカッコ悪いよぉ?
この子にはさぁ、たった一言だけ言ってあげればいいじゃない」
「…先生ぇ」
「辛かったよね、舞衣ちゃん。もう、いいんだよ」
「うん…うんっ」
思わず涙がにじむ。
ぽろぽろとこぼれ落ちた雫が、心を洗う。
とにかくめげるということのない、
一時は同僚、今は先生、そして仲間の一言は。
「 死 ね 」
33
:
Shining days after
◆ZJTBOvEGT.
:2008/04/24(木) 02:28:06 ID:1APxGToc0
舞衣の涙を、干からびさせた。
「あのさぁ舞衣ちゃん、じゅうななさい的にスッゴイ不思議なんだけどさぁー。
どうしてそんなになってまで生きてられるのかなぁーって」
「碧先生、そんなことをこの子にわからせるのは酷ですよー。
酷なだけに、こうー、頭がコックリコックリ…なんつってー」
「笑えないなぁ迫水センセ…ま、この子の勘違いっぷりほどじゃないけどさ。
恥っずっかっしいよねぇー、死ねば助かるのにぃ」
アッハハハハハハハハ…
杉浦碧が大爆笑を始めると、波を打つように哄笑の渦が広がっていく。
誰もが、舞衣を指さして笑っている。
その中には罵声も混じった。怒声も、泣き声も混じっていた。
だが、一様に聞こえてくる声はひとつ。
「
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
」
舞衣は、倒れ伏した。
その眼は光を失い、何一つ見ることはない。
もう、何も聞きたくない。感じたくない。
願うことは、もはや、ひとつ。
「殺して…
お願い、殺して…
誰か、殺してぇ」
「ふん、それでいいのか、お前は」
嘲笑の中、傍らに立った誰かが聞く。
もう、誰でもいい。
「いいから、殺して」
「言いたいことのひとつくらいあるだろう。
お前らしくもない」
「もういいのよ、殺してよ。
みんなの言う通り、あたしは、自分可愛さで誰かを踏み台にして、不幸にして…
死んだ方がいい奴なんだから」
ぱんっ
…何も感じたくなかった頬に、しびれる痛みが走った。
胸ぐらをつかみ上げられて気づく。
その誰かが、誰なのか。
「ふざけるな!」
「…なつ、き?」
「ふざけるな…ふざけるなよ?
お前は今、泣いているだろうがっ…
心にもないことを、ほざくな!」
34
:
Shining days after
◆ZJTBOvEGT.
:2008/04/24(木) 02:29:27 ID:1APxGToc0
さらなる平手で吹っ飛ばされる。
尻餅をついた舞衣は顔に手をやり、気づく。
手をべったりと濡らす、透明な雫。
涙が再び、瞳の奥から湧き出し始めたことに。
周りからは相変わらずの嘲笑と、死ね、死ねの連呼。
涙が、さらに溢れ出す。
「悔しいだろう?…わかるか?
お前は今、悔しいんだ!
こんなくだらんことを言われて、ハイそうですかと納得する奴なのか、お前は!」
「あたしは、巧海を…」
「違う! 私の知っているお前は、違う!
お前が心の奥底でどう思っていたかなど、知ったことじゃない。
だがお前の自分可愛さからだったとしても、お前は弟を守っていたじゃないか!
母さんを守れなかった私より、ずっとすごいことをお前はやってきたじゃないか!
それをバカにされて、お前が悔しくないわけが、ないっ!」
「でも、あたし、守れなくて…」
「何よりっ!」
なつきが、舞衣の周囲を示す。
降り注ぐ下品な笑い声と罵声とを。
「よく見ろ!
お前が守りたかった奴等は、こいつらなのか?
こんなつまらん奴等を守るために、お前は戦ってきたのか?
お前の目には、私が、命(みこと)が、みんながこんな風に映っていたとでもいうのか?
応えろっ、舞衣っ!」
「…っ、う…」
喉が、引っ張られる。
罪悪感に引っ張られる。
舌がつりそうで、動かない。
なつきが声を荒げた。
「応えろ!」
「……違うっ」
舞衣は、手をつく。膝をつく。
重たい。重たくてたまらない。
だが、立ち上がる。
立ち上がる力を、見つけた!
「違うっ!
あたしが、あたしが守りたかったのは…あの、まぶしかった毎日!
こんな奴等じゃ、ない!」
「だったら呼べ、お前の想いの力を、ここに!」
胸の前に腕を組む。
そうだ、守りたいものは、最初からここにあったじゃないか。
こんなにも熱く燃え盛っていたのに、気づいていなかっただけだった。
ここで見させられたまやかしとは似ても似つかない、尊いものに。
今まで忘れていた想いを、呼ぼう。
「カグツチィィィィ―――――ッッッ!!」
35
:
Shining days after
◆ZJTBOvEGT.
:2008/04/24(木) 02:30:19 ID:1APxGToc0
光の渦が闇を裂く。薄紙のように燃やし尽くしていく。
できの悪い偽物どもも、笑い声と一緒に焼け死んでいく。
その中でなつきはやさしく微笑むと、霞のように消えた。
「舞衣、頼む。静留を…」
―――ふと気がつくと、船だった。
鴇羽舞衣は、大型船から夕焼け沈む海に臨んでいた。
何ごとかと思い周囲を見回す背後から聞こえてきた声は。
「覚えてる? お姉ちゃん」
「…た、巧海?」
「僕とお姉ちゃんで、風華にやってきたフェリー。まっぷたつになった船だよ。
すごい騒ぎだったのに、お姉ちゃん、僕の薬を取りに行ってくれてたんだよね」
「巧海ぃっ…」
抱きしめる。
首から肩に両腕を回して、思いきり。
思考が行動に、感情に追いつかなかった。
「…苦しいよ、お姉ちゃん」
「巧海、ごめんね、巧海ぃぃっ…」
「どうして謝るの」
「だって、だってぇ…あたし、巧海を守れなくて…
…違うっ、あたしのせいでお父さんとお母さんが死んでなかったら、巧海だって」
泣きじゃくる舞衣を、巧海はしばらく黙って受け止めていた。
少しして、口を開く。ぽつりと漏らすように。
「じゃあさ、お姉ちゃん」
「え?」
「もしお姉ちゃんが、僕の面倒を見なくてもよかったら…
お父さんとお母さんが無事だったら、僕のことはどうでもよかった?」
「…………」
絶句する。思考停止に陥りかける。
予想外すぎる切り返しであったから。
だが、数秒もしないうちにこみ上げてきたのは、やはり涙。
罪悪感ではない…むしろ怒り。そして愛しさ。
「そんなわけないじゃない、馬鹿ぁっ」
今まで以上に思いきり抱きしめた。
巧海の身になって考えるのを忘れかかっていたくらいに。
「あんたは巧海でしょ。あたしの弟でしょ。
代わりなんかいない…たったひとりの、あたしの大好きな巧海でしょ?
そんな気持ちに理由なんかいるの? ないわよ、そんなの!」
36
:
Shining days after
◆ZJTBOvEGT.
:2008/04/24(木) 02:31:09 ID:1APxGToc0
言葉と一緒に、堰を切ったように流れる涙。
今まで必死になってきた過去の全てが、
その涙を目蓋に留めることを許さなかった。
ああ、こんな涙を流せなくなったのは、いつからだっただろう。
つらい現実の中、罪という名のおためごかしで顔面を塗り固めてきたのは誰だったのか。
そんな自分の背中に、今度は弟が手を回した。
「お姉ちゃん」
確かめるように背をさする手は、やがて交差し。
そして、力強く抱きしめ返す。
病弱の細腕には信じられない力。知らなかった力。
力に込められて紡がれる思いに。
「僕も、お姉ちゃんが大好きだから」
「たく、み…」
「苦しまないでよ…悲しまないでよっ。
つらいときは、つらいって言ってよ。愚痴ってよ。僕にお姉ちゃんを助けさせてよ。
僕はお姉ちゃんに、幸せになってほしかったんだから!」
…舞衣は、泣いた。
その場に崩れ落ち、大声を上げて泣き続けた。
抱きしめて支えてくれる巧海も、大粒の涙を隠そうともしなかった。
思い重なって、ひとつになる。
痛みではない。重荷などでは、もっと、ない。
この、壊れそうなほどの切なさは…炎だ。
今までも、そしてこれからも自分を突き動かし続ける、炎だ。
「…行ってくるね」
やがて、舞衣の方から、手を放した。
立ち上がって、行かねばならない場所がある。
「頼まれたんだ、なつきに…
それだけじゃなくて、守りたい人もいるから」
「一人で大丈夫? 僕も、一緒に行く?」
冗談めかした口調で笑う巧海の頭を、
舞衣は軽くこつんと叩いた。
「バカ。あんたは重たいのよ」
「ふふ、そうだね」
「こんなに大きくなっちゃって、もう」
もしかしたら、自分の背を追い抜くのもそう遠くなかったかもしれない。
そんなことを思い、やはり笑う。巧海も笑った。
「じゃあ…お別れだね」
「……うん。バイバイ、巧海」
水面下からカグツチが顔を出した。
躊躇なく飛び降りた舞衣を背に、空へ飛び上がる。
「あ、お姉ちゃん、最後に!」
「なぁに、巧海?」
「空高くまで上がったら、一度だけ振り向いてみて。
一度だけ、だよ」
「…うん!」
37
:
Shining days after
◆ZJTBOvEGT.
:2008/04/24(木) 02:31:59 ID:1APxGToc0
カグツチが姿を変える。
シアーズの衛星を叩き落とす際に使われた、ジェット形態だ。
これならば、宇宙にまで到達するのも誇張なしに一瞬である。
だから、加速をかけ始めた瞬間に舞衣は振り向き、見た。
「みんな…」
巧海の後ろに父母がいた。
父母の後ろに命(みこと)がいた。
その隣になつきがいて、楯がいて、詩帆がいて。
千絵がいて、あおいがいて、あかねがいて、碧先生がいて…
今までに出会った思い出の全てが、船上から舞衣を見守っている!
またも涙がこぼれるが、振り向くのは一度だけと約束した。
見据えるべきは、進む先のみ。
「ありがとう、みんな…行くわよ、カグツチ!」
ありったけの思いを胸に、悪意の泥の中へ、再び。
雲を切り裂いたカグツチは、あっという間に闇に包まれていった…
【鴇羽舞衣@舞‐HiME 螺旋力覚醒】
38
:
小さな星が降りるとき
◆ZJTBOvEGT.
:2008/04/24(木) 02:33:15 ID:1APxGToc0
清姫の意志は、藤乃静留の意志である。
そして清姫自体が聖杯そのものとなって泥を吐き出し続ける以上、
当の静留もまた無事でいられる道理はなかった。
鴇羽舞衣と同様に、精神界の地獄に堕ちることとなる。
「邪魔っ…邪魔、邪魔や、あっち行き、あっち行きよし」
手中にエレメントを発現させた静留は、出くわすもの全てを切り刻みながら走り回っていた。
家族だろうが友人だろうが、五体を切り分けて飛ばすのに躊躇はない。
父もいたし、母もいた。先生方もいたし、同級生は当然のこと…同一人物に出くわすのも数多い。
珠洲城遥などはすでに百回以上斬っている気がする。死ね死ね言われるのも聞き飽きた。
あそこにいる、顔に入れ墨を彫った男は、えぇと…ああ、ジャグジーか。
走り抜けざまに首を飛ばす。
さっきから出てくるたび、泣きそうな顔で何かを言いかけるのだが…どうせ口を開けば、死ね死ね、だろう。
そんなものに関わっている時間はない。
直感的にわかるのだ。ここにはなつきがいるはずだと…
周囲にはすでに、屍の山が積み上がっている。
斬った相手は一顧だにせず走ってきたが、同じようなところをぐるぐると回り続けているらしい。
同じ死体を一カ所に集めて目印にしてみて、ようやくはっきりしたことだった。
だから今のように、山から離れたところにジャグジーが出ると面倒くさい。また現在地を見失ってしまうではないか。
…静留は気づいていない。今の地獄をルーチンワーク化することで自らの正気を保っていることに。
現れる父も母も、遥も雪乃も黎人も、ジャグジーも、ヴァッシュ・ザ・スタンピードも、まな板の上の大根か何かだとしか考えないようにしていた。
だが、確実に蝕まれる。彼女とて、別に人を殺したり苦しめたりするのが好きだというわけではない。
野に咲く花が引きちぎられれば心を痛める、やわらな優しい心の持ち主である。
ただ、なつきという愛しい人の存在が大きすぎるがゆえに、手の中に守りたいものが収まりきらない。それだけだ。
そして、それ以外を簡単に切り捨てることで、なつきへの愛を証明しようとする。
そう、自分はこんなにもなつきを愛している、と。
『私はお前に対して、お前が抱いているような気持ちを持つことはできない』
なつきの応えは、これだった。ならば、それでも良かった。
清姫とデュランが相打ちになったとき、互いに同時に消えていくことができたのだから。
なつきは、デュランに自分への想いを乗せていてくれたのだから。
だから今も、全ての想いを賭け続ける。なつきのためになら、全てを捨てられる。
なつきへの愛が満ちていることを実感し続けるために、戦う。
すなわち、満ちていないことが、怖い。それは、なつきへの裏切りに他ならないから。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードのように、ラブ・アンド・ピースを唱えて生きるのも素敵かもしれない。
あの男は率直に言ってアホだが、敬意は払うに足る人間だと思う。
だが、自分にはあのような生き方は許されない。
いや…あるいは、あの男のラブ・アンド・ピースも、自分にとってのなつきと同じものではないか。
何より大切に思うがゆえに、守り抜くことがつらく、かなしくもなる…
そして、つらく、かなしく思うことそれ自体が、なつきへの裏切りで。
なつきを愛することがつらいとは何ごとだ。心からそう思う。
だから、今もこうして自分の前になつきが現れてくれないのだ。
もし、なつきに見放されてしまったら、自分は…
「なつき…うちの大好きな、なつき。なつきっ」
四方八方から現れる人影を切り崩しながら、走る。
誰が現れようが、どうでもいい。
自分はなつきしか探してはいない。
邪魔だ、そこをどけ。二度と出てくるな。
「なつ…くぅぅっ」
斬った死体に足を取られ、倒れる。
その眼前に現れた、足二本…見間違えるはずがない!
39
:
小さな星が降りるとき
◆ZJTBOvEGT.
:2008/04/24(木) 02:33:49 ID:1APxGToc0
「なつ…!」
ついに現れた玖我なつきは、静留の頭をふみつけた。
そのままごりごりと力をこめて、頬から顎を潰しにかかる。
「なつ…なっ…」
愛しい人の名前を呼ぼうとするも、かなわない。
ふみつけた足が止まると同時に、眼を上にやる。
冷たい目をしたなつきが、エレメントの銃口をこちらに向けていた。
「私の名を、なれなれしく…呼ぶな、人殺し!」
「…な、つ」
「呼ぶなと言った!」
顎を蹴り飛ばされながら、諦観の境地に達する静留だった。
最初からわかっていたはずだ。なつきが人殺しなどを喜ぶはずがないと。
それを承知でここまで来たのだ。なつきを生き返す、それだけのために。
だから。
「ここで、死ね、人殺し」
こうなることが、むしろ望みだった。
喜びの涙が、あふれる。
「あんたの手で死ねるんなら、本望やわ」
引き金を握り締める音が聞こえる。
最後に愛しい人の名を呼ぶと同時に、この意識は途絶えるだろう。
それでいい。この人が、自分の目の前に残ってさえいてくれれば。
「なつ…」
全ての静寂が訪れるであろうその瞬間。
頭上を通り抜けたのは熱風。閃光。そして。
「会長さんから、離れなさいっ!」
巨大な破裂音にも似た、打撃音だった。
足が離れるのに従うように後ろを向くと、
頬から顎まで大きく裂けたなつきが甲高い悲鳴を上げて消滅する真っ最中。
「なつき…なつきぃぃぃぃぃっ!」
すぐ助け起こしに向かうも、間に合わない。
静留の手の中で、なつきは真っ黒な泥になって消えていった。
幽鬼のように顔を上げたその先には、
構えた右手の拳を降ろす鴇羽舞衣の姿。
両手両足にエレメントを発現している。
あれを使って、気づかないほどの遠くから加速して殴りに来たのか…なつきを!
「鴇羽はん」
「…会長さん。間に合った」
「あんた、なつきに何の恨みがあるんえ」
「会長さん、あれがなつきだとでも思ってるの?
…そっか、そうだよね。認めたくないよね」
あまつさえ、この哀れむような眼は何だ…
静留の激情は、静かに頂点を振り切った。
40
:
小さな星が降りるとき
◆ZJTBOvEGT.
:2008/04/24(木) 02:35:25 ID:1APxGToc0
「逝きよし、骨も残しませんえ」
「目を、覚ましてあげる…!」
闇の中、清姫が目覚める。
************************************
(これが、会長さんの想い…なつきへの想い、なの?)
天の闇は全て蛇。
襲い来る物量の濁流を言い表すならば、その一言に尽きた。
黒い泥で出来た超巨大な蛇…カグツチなど分子ひとつ分に満たない…の口から
さらに無数の巨大な蛇が飛び出し、その口からさらに無数の巨大な蛇が押し寄せる。
その数は、億、兆、京、垓…那由他、不可思議、無量大数…だか何だか知りはしないが、端から数というレベルの話ではない。
今、舞衣がカグツチと共に飛んでいるのも、どこかの蛇の口の中の中の中の中の…で、
その中からさらに飛びかかってくる、ぎっしり詰まった大量の蛇を焼き払ってこじ開けた空間の中である。
少しでも火勢が弱まれば、またたく間にカグツチもろとも呑み込まれ巻き付かれ破砕されることだろう。
だが舞衣は、なにひとつ脅威を感じない。何故ならば。
(…違う。
この蛇は会長さんのチャイルドじゃない。会長さんの想いに寄生しているだけの、ただの悪意の塊!)
胸の中に燃え盛る、この想いの灯火をなめるな。
たとえこの世全てが相手だろうが、この世を終わらせる存在が相手だろうが、
この温もりさえそばにあれば、怖いものなどあるものか。
同じHiMEである藤乃静留にもわかるはずだ。
同じように、人を愛して、守りたくて…戦っているんだから!
その思い自体が人を傷つけることもあるだろう。哀しい結果に終わることも。
だが、誰かが誰かを幸せにしたいと願うことに、間違いなどひとつもない。
誰かを好きになった気持ちに、嘘も本当もないように。
だから、戦う。藤乃静留を救うために。Dボゥイを守るために。
巧海のときのように、シモンのときのように、自身の無力を呪わないために。
そして何よりも…この胸に息づいた、自分自身の想いを燃やし続けるために。
物量に負けかかる。舞衣の全身にも蛇が這い始める…が!
「んん…はぁぁぁぁ!
カァグツチィィィィィィ―――――ッッッ!!」
一呼吸溜めた裂帛の気合いと同時に、カグツチから吐き出された炎。
舞衣とカグツチとにまとわりつき牙を立てた蛇どもが瞬時に燃え尽き、
光に照らされるあらゆる存在が溶けるように消滅していく。
最初から何もなかったように暗黒の世界に戻ったが、
また十数秒もしないうちに、あの彼方から今のような蛇が再び押し寄せるだろう。
「…何度でも来なさいよ」
舞衣は、吼えた。
41
:
小さな星が降りるとき
◆ZJTBOvEGT.
:2008/04/24(木) 02:36:40 ID:1APxGToc0
「何度でも来なさいよ!
その都度その都度、何回でも、何十回でも、何百回でも打ち破ってみせるから!
最後には会長さん、あなたが出て来ざるを得ないようにしてあげる!
さあ、早く、次っ!」
「見え透いた強がりを言わはりますなあ」
応えるように、泥の底から這い出してきた清姫。
その頭上に乗っているのは、静留と、なつき…もどき。
「なして、そんなに吼えられますのん」
「そんなの当然じゃない。絶対に負けないからよ」
「ほなら、その身で知っておくれやす」
静留が、エレメントを引き抜いた。
自ら決着をつける気になったのだろう。
舞衣もまた、身構える。望むところだ。
「うちの想いを前に、立ってられるかどうか…」
「そのなつき、偽物じゃない」
「黙りよし!」
両者、跳躍は同時。切り結ぶ。
得物のリーチで断然、静留が有利だった。
舞衣は刃をエレメントで止め、防御する側の体勢に押し込まれる。
「…もう、わかってるんでしょ?
なつきが今のあなたを見て、どう思うのかって」
「知った風な口、叩かんとき」
「じゃあ、なつきはあなたに死ねって言うの?
会長さんの好きななつきは、そんなに苦しんでるあなたを見て、
殴ったり蹴ったりするみたいなロクでなしってわけ?
女の子として見る目なさすぎるわよ、それ」
無言で薙刀を叩きつけてくる静留。
素人の舞衣の目から見ても読みやすい攻撃。
明らかに動揺している。彼女らしくない。
「あたし、会長さんのことはよく知らないけど…
無理してきたんでしょ。なつきのために、ずっと」
「黙れと…言うてます!」
「そこのなつきは、あなたの罪悪感につけ込んで出てきた偽物よ。
なつきのこと、本当に好きだったら…あなた、わかってるはず!」
大上段から振りかぶられた一撃をしのいで、膝で蹴りつけ吹っ飛ばす。
清姫の頭上に落着した静留が、確かめるように隣を見ると…
そこにいたはずのなつきが、いつの間にか消え去っていた。
「…そう、どすなあ」
寂しく笑った静留はふたりと立ち、またエレメントを構える。
「もう、なつきは、死にましたさかいになぁ」
「会長さん…」
「せやから、うちは…なつきを生き返します」
「どうやって?」
「この黒い泥の力、全部清姫のものになれば、できます。
それで、全部…なんもかも全部、呑み込みつくせば…」
「そんなことっ」
42
:
小さな星が降りるとき
◆ZJTBOvEGT.
:2008/04/24(木) 02:38:17 ID:1APxGToc0
無理だ、ありえない。
こんな悪意の塊で、一体、なつきの何を蘇えそうというのか。
それに、だ。
「そんなことしたら、なつき、絶対に悲しむ」
「ええどすか、鴇羽はん…
なつきはなぁ、死んでるんどす。
悲しむことも、怒ることも、このまんまじゃ二度とない」
「嘘だっ!!」
「何が嘘なんやっ!!」
即刻、怒鳴り返されるが、舞衣は知っている。
今さっき、知ったばかりだ。
それを知らない藤乃静留にこれ以上、なつきを苦しめさせるわけには、いかない。
「なつきは今も悲しんでる、怒ってるわよ!」
「何を言…」
「あなたの胸に聞いてみてよ!
今、あなたの中のなつきは笑っているの?
あなたに向かって、笑いかけてくれているの?
あなたのこと、誇りに思ってくれているの?」
「……あ、う…」
「あたしの中のなつきは、あなたを見て泣いてる。
やりきれない顔で、うつむいてる。
誰が、なつきの涙を止めてあげるの? 誰なの?」
「ぐ、ううっ…」
「そんなことして、なつきを生き返して…
そんな風に大勢殺された上に生き返ったなつきは、死ぬまで救われない!
自分のことと、大好きなあなたのことを、永遠に、呪って、嘆いて、ただ苦しみながら生きていく!
あなたの勝手で、そんな生命を与えたいっていうの?
…ねぇ、応えて。今、あなたの中で、なつきの思いはどこにあるの? ねぇ!」
舞衣の声だけが、こだまして響き渡った。
数秒、時間が停止する。
二人はただ、立ち尽くして対峙し続け…
やがて藤乃静留は、エレメントをとり落とした。
「う、あ、あ……
なつき…うち、は…なつきぃ…なつきぃぃぃぃ〜〜〜〜〜ッ!!」
全ての泥が、静留に向かって一斉に押し寄せた。
否、静留自身の目から、耳から、鼻から、口から、泥が噴出する。
もはや完全にコントロールを失ったらしい。
つまり…静留自身が、この力を手放したということ。
だったら、あとは。
「怖いよね、苦しいよね。
でも、それがあなたの、たったひとつの真実だから。
抱いたまま、手放さないで…
今、伝えるから。あたしの中の、なつきの想いを!」
巡る、巡る、想いの螺旋。
それはモザイクのカケラのように繋ぎ合わさって。
43
:
小さな星が降りるとき
◆ZJTBOvEGT.
:2008/04/24(木) 02:39:01 ID:1APxGToc0
「 カァァグツチィィィィィィ―――――――ッッッ!! 」
この世全てを焼き払う開闢の炎が、天地を覆った。
************************************
「うちの…負け、どすな」
気がつけば二人、全壊した路上に横たわっていた。
もはや疲労しきって指一本動かせない舞衣は、
そばにいる静留の様子を確認することさえままならない。
が、話し声の雰囲気から察するに、彼女の死期は動かしがたいようだ。
うすうす、そんなことを感じ取る。
やるだけやったし、なつきとの約束もなんとか果たせたとはいえ、
じわじわとくやしさがこみ上げてきてならない。
自分の暴走が、もう少し早く収まっていたならば、あるいは…
「勝ちとか負けとか、そんなんじゃなくて。
会長さんが本当の想いに気づけたのなら、
なつきは、あなたに笑ってくれるから…それだけよ」
想いの具現たるチャイルドは、互いに消え去ってしまった。
精神世界での戦いの最中、あの泥と一緒に、この世から無くなり果てたらしい。
「ほんま、ええ子や…なつきは。
こんな…こんなうちに、笑ってくれてる」
「でしょ? なつき、ね…あたしに、お願いしてきたのよ。
『静留を一人にしないでくれ』って。ホントに…いい子でしょ」
くすくすくす。
かすれたような笑い声で、二人、笑う。
空が、丁度明るくなり始めた頃合いだった。
そして。
「舞衣はん」
「…な、何?」
「おおきにな」
静留はこれっきり、何も喋らなくなった。
しばらく話しかけてはみるも、正真正銘のこれっきりであった。
意識が薄れていく舞衣の瞳に、わずかな涙が光る。
(これで良かったのかな、なつき…)
【藤乃静留@舞‐HiME 死亡】
44
:
小さな星が降りるとき
◆ZJTBOvEGT.
:2008/04/24(木) 02:39:40 ID:1APxGToc0
【D-4南部/モノレール線路沿い/二日目/黎明】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、着衣及び首輪なし、気絶
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:
1:静留の死を悼む。
2:Dボゥイに会いたい。
[備考]
※HiMEの能力の一切を失いました。現状ただの女の子です。
※静留がHiMEだったと知っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※小早川ゆたかについては、“ゆたか”という名前と、“自分より年下である”という認識しかもっていません。
※思考力の復活に伴い、ギアスの影響が復活する可能性があります。
※聖杯は完全に破壊されました。
※ビシャスが所持していたパニッシャー@トライガンは、清姫と共に消滅しました。
※ぶっ飛ばされた清姫が突っ込んだため、D-4南部でモノレールの線路が一部破壊されています。
※カグツチと清姫の戦闘により、D-4南東部は建物の倒壊が目立ちます。
45
:
盟友
◆1sC7CjNPu2
:2008/04/25(金) 01:49:58 ID:j4HHE1Tc0
着替えと食事を終え、かがみはシガレットケースから葉巻を一つ取り出した。
ランタンで葉巻に火をつけ、口に咥える。
――未成年の喫煙は体に悪いって言うけど、私にはもう関係ないわよね。
自嘲し、静かに紫煙を吸い込む。
初めての喫煙だが、咽ることもなく吸うことが出来た。
ラッド・ルッソの記憶の恩恵だと、かがみは誰に言われずとも理解していた。
――最悪な気分。でも、アンタが言ったのはこういうことよね。
ラッド・ルッソの記憶を使っていることを考えると、かがみの体に震えが走る。
無意識の内に、かがみにはラッド・ルッソの力を使うことへの忌避が植え込まれていた。
それでも、かがみはあえてラッド・ルッソの記憶を引き出す。
『力に二度と飲み込まれるな、みごとあの力を制した姿をワシに見せつけてみせろ』
自虐的な笑みを浮かべ、かがみは顔をうつむける。
力に対する恐怖がある。友を失った悲しみがある。それでも、かがみは立ち止まれない。
それはとっくの前に、覚悟していたことだ。
――大丈夫、絶対に取り戻すから。
この別離とて、かがみが螺旋王を『食う』までのしばしのお別れでしかない。
柊かがみは、いずれ全てを取り戻す。
それは、絶対的な約束だ。
――でも、少し疲れてるんだから休憩ぐらいさせなさいよね。
傷の痛みには既に慣れ、すぐに完治する。
それでも、まだこの喪失感だけは慣れることが出来ない。
――この痛みに慣れたら、私はもっと成長したってことでいいのかな?
問いかけるように、覇気のない目でかがみは顔を上げる。
視線の先には、威風堂々とした男がまるで彫像のように立ち尽くしていた。
葉巻が全部灰になるまで、ずっとその男を目に焼き付けておこう。
そう決め、かがみは改めて葉巻を口にした。
傷つくごとに、かがみはそれを強さに換えて生き残ってきた。
そして目の前の男のことも、かがみは己の強さへと換えて行くだろう。
けれども、今は疲れきった少女に安らぎの一時を――
46
:
盟友
◆1sC7CjNPu2
:2008/04/25(金) 01:50:48 ID:j4HHE1Tc0
■
決着から言ってしまうと、ダブルノックアウトだった。
ウルフウッドの渾身のストレートに対し、ヴァッシュが反撃のクロスカウンター。
しかしそれまでに何度も拳を交わしていたこともあり、両者共に疲労が蓄積していた。
よって互いに碌な反応が出来ず、互いの拳は互いの顔面に食い込むことになったのである。
「……おのれ、トンガリ」
「……痛いぞ、ウルフウッド」
怨嗟の言葉を吐き、共に崩れ落ちるようにアスファルトの上に仰向けで寝転がる。
殴り合いながらも落ちてきたアスファルトの上に移動するあたり、二人にはまだ余裕が伺えた。
とはいえ疲労していのは事実のようで、底の抜けた天井から星空を仰ぎながら二人は息を整える。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………ぐぅ」
「寝んな!」
安らかそうな寝息に、ウルフウッドは即座に突っ込みを入れた。
突込みを入れられた方のヴァッシュは、片手を上げて起きていることを主張する。
「まったく、本当に相変わらずな奴やな」
「そういう君は、なんだかピリピリしすぎじゃないか」
核心に触れる言葉に、ウルフウッドは沈黙で答える。
苛立ちの原因を話したところで、ウルフウッドには何のプラスにもならない。
それどころか目の前の男に知られた場合、それこそマイナスが大盤振る舞いでやってくることをよく知っている。
「……まあいいけどさ、ところでウルフウッド」
「なんや、言っとくが話題によっては黙秘権使わせてもらうからな」
「それは困るな……ええと、ちょっとした確認なんだけど」
ヴァッシュは一度言葉を止め、目を細める。
なんとなく、ウルフウッドには確認の内容が予想できた。
「生きてるんだよな」
「……?見ての通りや。それともワイが偽者かなんかに見えるんか」
なぜ殺し合いに乗ったかを問いただしてくると思っていたウルフウッドは、肩透かしをもらった気分になった。
ウルフウッドの答えに、いいやと呟き少し嬉しそうにヴァッシュは笑った。
死人が生き返ったことを、きっと本心から喜んでいるのだろう。
そして当の生き返った死人は、ヴァッシュとは正反対の感情を抱いていた。
――阿呆、お前が嬉しくてもワイは嬉しくなんかないわ。
――死んだっちゅうのに、殺し合いのために無理やり働かされとるんやぞ。
――ワイがどんだけイラついて、惨めな気分になったのか分かっとんのか。
47
:
盟友
◆1sC7CjNPu2
:2008/04/25(金) 01:52:31 ID:j4HHE1Tc0
下火になった怒りが、また燻り出してきたのをウルフッドは自覚した。
そんなウルフウッドの感情を知ってか知らずか、ヴァッシュは身体を起こして近くの壁に近寄る。
「なんや、もう行くんか」
「ああ、静留さんのことも気になるしね」
「……ワイ、肋骨折とるし誰かさんのおかげでボロボロなんやけど」
「奇遇だね、僕も誰かさんのおかげでボロボロさ」
ヴァッシュは皮肉を皮肉で返し、瓦礫とむき出しの配管をつたって手早く壁を登り始めた。
このまま下水に留まってもしかたないため、ウルフウッドもヴァッシュに続くために立ち上がる。
――本当に相変わらずやな。
――今日も明日も、人のためってか。
――勘弁してや。
――ワイが、ホンマに惨めやないか。
ヴァッシュは死別する以前と同じように、ウルフウッドと接する。
そのことが、ウルフウッドにはたまらなく苦しかった。
――ワイは、お前が大嫌いな殺し合いに乗っとるんやぞ。
――お前と旅してた男の本性なんぞ、所詮はこんなもんなんや。
ヴァッシュと共にいると、どうしても共に旅をしていた時を思い出す。
死の危険があったし、騙しているという葛藤もあった。
それでも、あの旅はとても楽しいものだった。
――ハンッ!何を、今更!
どこからか、死ねと囁かれ気がした。
48
:
盟友
◆1sC7CjNPu2
:2008/04/25(金) 01:53:25 ID:j4HHE1Tc0
■
拾った日本刀を持ち主の頭上に突き立て、簡易の墓標とした。
駄賃代わりの防弾ジャケットとデイパックは既に徴収済み。
それで、了承のない一方的なビジネスは終了した。
「俺が着たら呪われそうだし、ルルーシュにでも着せてやるかね」
血がべったりと付着した防弾ジャケットをデイパックに納め、スパイクは改めて周囲を見渡す。
一言で言うなら、瓦礫だらけの荒野だった。
映画館を含め周囲の建物は全て倒壊しており、アスファルトの一部には大きな穴が空いている。
「……鉄板が怪獣、大穴で人間台風って所か」
宇宙船サイズの爬虫類が暴れまわれば、当然こうなるのだろう。
そして、それに人間台風というエッセンスが加わってさらに被害が拡大したのか。
「さて、まずは生存者の確認で……この場合は、卸売り市場に行った方がいいのか?」
スパイクがジン達との合流地点としたのは、目の前の倒壊した映画館だ。
そして映画館に何らかの理由で近づけない場合、合流地点は卸売り市場へと変更するという話になっている。
だが映画館は既に目印としては機能しておらず、加えて――
「怪獣の進行方向って、思いっきりあいつらの通るルートだよな……」
怪獣が過ぎ去った方向を眺めながら、スパイクはジン達の無事を軽く祈った。
ジンはかなり機転が利くし、ドモンの身体能力もあって深刻な事態ではないだろう。
しかし、合流が遅れるのは間違いあるまい。
「まあ、まずは生存者の確認か」
問題を先送りにし、スパイクは声を張り上げるために大きく息を吸い込む。
さてなんと言おうかと考えたところで、スパイクの耳に声が届いた。
「ところでトンガリ、お前の決着はついたんか?」
「うっ!」
「なんやその返事は、まだついてへんのか」
「いや、ついたにはついたんだけど……」
「だけど?」
「気絶させて捕まえた直後になぜか『ココ』にいて……もうけっこう経つから、たぶん、逃げられた」
「同情したる、この阿呆」
「あ、いやええと、あ、そうだ!」
「今度はなんやねん」
「メリルとミリィたちがさ、地下水掘ってるんだ」
「……何やっとんねん、ホンマに」
「ひょっとしたら、もう掘り当ててるかもね」
「でもお前がアイツを取り逃がしたせいで、うかうか安心できへんな」
「…………」
「すまん、ちっと言いすぎた。謝るからそのなんとも言えん顔やめろや」
その楽しげな会話は、大穴の方から聞こえた。
大きく吸い込んだ息を、スパイクはそのまま吐き出す。
今度はなんと声をかけるか考えながら、思わず呟いた。
「……うまいこと言ったつもりは無かったんだけどな」
49
:
盟友
◆1sC7CjNPu2
:2008/04/25(金) 01:54:36 ID:j4HHE1Tc0
■
ヴァッシュとウルフウッドがちょうど大穴から這い上がったところに、コートを着た男が近寄って来る。
見知らぬ男の接近にウルフウッドは警戒を強めたが、すぐに緩めることになった。
「や、スパイクさん。さっきぶり」
「スパイクでいいぜ、賞金首。ブルース・リーの名言は役に立ったか?」
「お前か!このド阿呆にいらんこと吹き込んでくれたのは!」
ヴァッシュが銃をぶん投げて清姫に特攻をかけることになった原因に、ウルフウッドは思わず突っ込みを入れる。
「酷い言われようだなおい。ところで、お前さんは?」
「……ニコラス・D・ウルフウッド、牧師や」
「牧師ね……俺はスパイク・スティーゲル、賞金稼ぎだ」
一瞬の間は、おそらく牧師らしくない格好に戸惑ったのだろう。
ウルフウッドはこれまでの経験からそう判断し、特に気にも留めなかった。
これで一通り自己紹介が終わったと判断し、スパイクが口を開く。
「さてと。ちょいと殺風景だが座る場所には困らないし、軽く情報交換としようか」
同意するように軽く頷き――ウルフウッドは、心の中で頭を抱えた。
スパイクがこの殺し合いに乗っていないのは明白であり、ウルフウッドの嗅覚がこの賞金稼ぎが相当な腕前だと知らせている。
さらに自身の怪我の状況と装備を考えると、圧倒的に不利なのは間違いない。
――さらに言うなら、ワイが殺し合いに乗っとるのを知っとる奴がおるし!
スパイクに悟られぬように、チラリと横目でヴァッシュを見る。
視線に気がついたヴァッシュは、予想外にも安心しろといった感じのジェスチャーを返した。
――……何考えとんねん、コイツは。
■
そしてウルフウッドの不安をよそに、情報交換が始まった。
とはいえ何時誰が来るとも分からない場所のため、『軽く』の言葉通りにそれぞれが持っている有力な情報を交換し合うだけだ。
それぞれの目的と、知りうる限りの危険人物。その他に気をつけること。
まずは発案者のスパイク。
仲間を集めているという目的を話し、ヴァッシュの人柄を信じてか最終的な合流場所が図書館であることも明かした。
危険人物については赤目に褐色肌で額に×字の傷がある男、東方不敗という老人という二名。
前者はウルフウッドが、後者はヴァッシュがそれぞれ遭遇していた。
50
:
盟友
◆1sC7CjNPu2
:2008/04/25(金) 01:55:29 ID:j4HHE1Tc0
次にヴァッシュ。
ヴァッシュは戦いを止めるということは決めていたが、具体的な考えはなかった。
危険人物については現在も清姫に乗って暴れているだろう藤野静留、自分勝手でどう動くか分からないギルガメッシュの二名。
ビシャスの名前も出したが、スパイクが既にビシャスが死亡していることを話したため除外。
二回目の放送を聞き逃したと言ったときは笑ってやろうかと思ったが、自分も聞き逃していたことを思い出し止めておいた。
結局、ウルフウッドの名前は出さなかった。
最後にウルフウッド。
目的は適当にでっち上げ、殺し合いには乗っていないが襲われたら容赦する気はないということにした。
危険人物については恨みを込めて柊かがみ、衝撃のアルベルトの名を挙げる。
最後に危険人物ではないが、要注意人物として言峰綺麗。こちらも若干の恨みを込めている。
以上で、ウルフウッドが肝を冷やした情報交換は終了となった。
■
これまでの情報を交換し合った後は、これからどうするかである。
ウルフウッドとしては出来るだけ早くこの場を離れたかっが、適当な理由を口にする前にスパイクが口を開いた。
「ああすまん。さっき聞き忘れたんだが、鴇羽舞衣と小早川ゆたか、あとテッククリスタルっていうのに聞き覚えはあるか?」
「いや、ワイは知らんな」
「残念ながら僕も……けど」
ヴァッシュは自信がなさそうに頬を掻きながら、続けた。
「けど、なんだ?」
「下水道に落ちる時にチラッと見ただけなんだけど……後から来た怪獣の方に、女の子が乗ってた」
よくあのタイミングで見ることが出来たなと思いつつ、ウルフウッドは二人の会話を聞いていた。
要約するとスパイクが探している女の子の特徴が、ヴァッシュの見た女の子と酷似しているという話である。
話が終わるとスパイクは片手を顔に当て、天を仰いだ。
「……これはまたきついな」
「どんな関係なんや」
「いや、頼まれただけさ。煙草と交換でな」
スパイクは姿勢を元に戻すと、おもむろに複数のデイパックから荷物を取り出し整理を始める。
話の流れから、おそらく怪獣のところに行く準備なのだろう。
――煙草と交換で命を張るっちゅうのは、割に合ってないんとちゃうか?
「とこで、お前さんたちはどうする?出来れば手伝って欲しいんだが」
「悪いがパスさせてもらうわ。今の状態やと足手まといやからな」
「僕は……」
51
:
盟友
◆1sC7CjNPu2
:2008/04/25(金) 01:56:26 ID:j4HHE1Tc0
キッパリと断るウルフウッドに対し、ヴァッシュは煮え切らない返事を返す。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードらしくない言動に、ウルフウッドは眉をひそめた。
ヴァッシュとの付き合いの短いスパイクはそんな差異になど気づかず、話を続ける。
「まあ、ほとんど自殺行為な訳だしな。俺も確認を取るだけにするつもりだ」
特に二人を責めることもなく、スパイクはデイパックをそれぞれ二人に渡した。
ウルフウッドが渡されたデイパックを検めると、食料などの一式と短剣と拳銃が入っていた。
ヴァッシュの方のデイパックも同じようなもので、さっそく銃を取り出し調子を確かめている。
「ええんか?」
「ああ。その代わりと言ったらなんだが、先に卸売り市場か図書館に行って待っててくれないか」
「……なんや、番人代わりかい」
「どのみち、アンタは身体を休ませなきゃいけないだろ?」
そのついでで構わないと、スパイクは続ける。
体調不良を理由にした身としては、ぐうの音もでなかった。
さてお人よしはどう出るかと考え――ヴァッシュが銃を見つめながら考え込んでいることに気がついた。
「どうした、トンガリ」
「……いや」
歯切れの悪い声に、とうとうスパイクまで眉根をよせる。
ウルフウッドは目の前の男が何を悩んでいるかと考え、すぐに思い至った。
そして思い至った瞬間に――ウルフウッドはヴァッシュのこめかみに銃口を突きつけていた。
「なっ、おい!」
「動くんやない、間違って引き金を引いてしまうかもしれんで!」
突然の事態にスパイクは反応が遅れ、ウルフウッドの恫喝により身動きが取れなくなった。
銃口を突きつけられている方のヴァッシュは、無言。
ただ少し寂しそうな顔を浮かべていた。
「なあ、トンガリ。お前、ワイとシズルって嬢ちゃんを天秤にかけとったな」
「……」
「今更、お前の生き方に何を言ってもしゃあないちゅうことは分かり切っとる。
どうせ、どっちを選ぶなんて出来へんかったんやろ」
「……」
「そんでどっちも上手いことする方法が思いつかんくて、ウジウジ悩んどった」
「……」
「違うか、腰抜け」
「……違う」
ようやく、ヴァッシュが口を開いた。
悲しいような、苦しいような、その他に色々と混ざった表情を浮かべ、口を開く。
「また、お前と一緒に共戦(たたか)いたいと思ったんだ」
馬鹿にするように口を歪めたつもりだが、うまくやれた自信はなかった。
正直に言うと、嬉しかった。また一緒に馬鹿な旅が出来ると思うと、心が躍る。
そして――また、どこかから死ねと聞こえた。
まったくその通りだ、こんな救いようのない自分はさっさと死んだほうがいい。
「キモいわ、ボケ」
ウルフウッドの拳が、ヴァッシュの顔面に突き刺さった。
52
:
盟友
◆1sC7CjNPu2
:2008/04/25(金) 01:57:52 ID:j4HHE1Tc0
■
ひょっとしたらと、夢想する。
この馬鹿げたゲームが始まった時に、あの人よしのように行動していれば心の底から笑い合えたかもしれない。
メリルやミリィのいる、あの砂だらけの星に帰る気になっていたかもしれない。
「……都合よすぎやな」
自嘲し、ウルフウッドは瓦礫の中を歩く。
もう既に、ウルフウッドは選んでしまったのだ。
女子供だろうと容赦はしない、自分の手でこのゲームを終わらせるのだと。
――じゃあ、なんでワイはトンガリを撃たんかった?
自問し、月を見上げる。
そもそも、ヴァッシュに銃を突きつけたのが不可解だ。
あのまま円満に終わるとは思えなかったが、もう少しタイミングというものがあるだろうに。
ヴァッシュを殴り飛ばした後は、一目散にその場を逃げ出した。
追っ手は、今のところない。来るとしたら、ヴァッシュかスパイクか、もしくはその両方か。
無性に、煙草が欲しくなった。
――結局、ワイの決意はあの馬鹿を撃てんぐらい弱いもんなんか。
答えは、出ない。
そしてまた、今度はあざ笑うように死ねと聞こえた。
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、
しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、
シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、
「やかましいわボケ!!」
間断なく聞こえる声に、ウルフウッドは思わず叫んでいた。
――疲れが溜まってんのか、幻聴が激しくなってきたわ。
一先ず、ウルフウッドは休める場所を探すことにした。
こんな状態では、ある程度以上の実力を持つ者と出会った場合に勝つことは難しい。
追っ手のことも考えウルフウッドは歩みを速めようとし――いい加減、聞きなれた声が掛けられた。
「急に大声を出さないでよ、ビックリしたじゃない」
「………………迂闊やぞ、ウルフウッド」
ウルフウッドは声がかけられるまで気配に気づかなかった自分に舌打ちし、ため息をつきながら声を掛けられた方を向く。
予想通りに、柊かがみがそこにいた。
今度の装いは見覚えのある眼帯に、黒を基調としたゴシックロリータ風の衣裳だ。
ウルフウッドの正直な今の気分を一言で表すと、いい加減にウザイ。
「……見なかったことにして行ってええか?」
「あら、さっきと違って落ち着いてるわね。何かいい事でもあったの?」
53
:
盟友
◆1sC7CjNPu2
:2008/04/25(金) 01:58:41 ID:j4HHE1Tc0
いいえ最悪です、化け物の相手をしているとお人よしが追いかけてきそうなんではよ行かせろやボケ。
心中で罵詈雑言を吐きながら、ウルフウッドは顔をフレンドリーに保つ。
近くに禁止エリアがないことは、先ほどの情報交換のついでに確認してある。
つまり目の前の少女を殺す手段がウルフウッドにはなく、交戦するだけ弾と労力の無駄だと判断したのだ。
「顔が引きつってて、キモいわよ」
「あーはいはい、学習能力のないお子様はこれやから」
「……アンタ、別に衝撃に釣られてって訳じゃなさそうね。そっちの怪獣の方でも何かあったの?」
尋ねながら、かがみはてじっくりと間合いを詰めてくる。
ウルフウッドはかがみの言葉の意味が分からず、首を傾げる。
「……そっか、そっちでもこっちの衝撃に匹敵する何かがあったっていうなら辻褄は合うわね」
「脳内解決はやめれ、嫌われるぞ」
――それにしても、動きが随分前とは違う。
――素人臭さが抜けとる……何があった?
ウルフウッドの疑問を他所に、かがみはまたじりじりと間合いを詰める。
かがみは頭部へのダメージを警戒してか、剣を取り出して顔面の前方にかざし盾代わりとした。
その姿を見て、ウルフウッドは先ほどの思考を振り払う。
――心臓とか足とか、まるで無防備やんけ。
相手の力量を見誤るほど疲れているのだと考え、ウルフウッドは早々に終わらせることにした。
即興でプランを練る。弾を一発足に撃ち込み、体勢が崩れたところで延髄に短剣を突き刺す。
いくら化け物であろうと、人の形をしている以上神経の伝達系は同じであろうと考えてのことだ。
「なあ、嬢ちゃん」
「何、今更命乞い?」
「その眼帯を嬢ちゃんがつけとるってことは、あの髭オヤジはくたばったんか?」
ウルフウッドの言葉に、一瞬かがみが硬直する。
その隙をウルフウッドが逃すはずもなく、即座に拳銃を発砲。
銃弾は正確にかがみの膝の皿に向けて突き進み――見えない壁に、弾かれた。
54
:
盟友
◆1sC7CjNPu2
:2008/04/25(金) 01:59:24 ID:j4HHE1Tc0
「っ!こいつは!」
その光景に、ウルフウッドは見覚えがあった。
シータという少女を狙い撃った時と、まったく同じ現象。
驚愕するウフルウッドに対し、かがみがうっすらと笑う。
――初めっからこれが狙いか!
自身の考えた通り、ウルフウッドは相手の力量を見誤るほど疲れていたのだ。
即座にウルフウッドは短剣を取り出したが、その瞬間に驚くほどの速さでかがみが間合いを詰めてきた。
……だが、速いといっても以前と比べてのことだ。
既にシータによる高速攻撃を食らっていたウルフウッドにしてみれば、まだ遅い。
少なくともかがみの剣がウルフウッドの身体に食い込むまでには、銃口をかがみに密着させて撃つことができる。
――ああ糞!この餓鬼が!
これでも銃弾が弾かれたら、絶対に拳銃暴発するなと考えながらウルフウッドはかがみの顎の下に銃口を引っ付ける。
かがみが驚きの顔を浮かべたが、どうやらこのまま剣を振り切るつもりのようだ。
引き金を引くのと、剣を振り下ろすのではどちらが早いか。答えは決まっている。
ウルフウッドは躊躇なく引き金を引こうとし――
なぜか、よく知っているお人よしの姿が脳裏に走った。
そしてそれはウルフウッドに引き金を引かせるのを遅らせ、致命的な隙となった。
かがみの剣が、ウルフウッドの頭部に迫る。
そして――銃声。
かがみの持つ剣が、手のひらから零れ――ウルフウッドの持つ銃が、音を立てて転がった。
「……、誰!仲間!」
かがみが穴の空いた手を庇いながら、反対の手で剣を拾い大きく距離を取る。
視線は、第三者が撃ったと思わしき銃弾が飛んできた方向。
ウルフウッドはそこにいるのが誰なのか、予想がついた。
これほどの精密射撃、ウルフウッドが知る限り一人しかいない。
「いや」
闇夜から、赤いコートを着た金髪の男が現れる。
正確にかがみの手とウルフウッドの銃を打ち抜いた証拠に、手に持った銃からは硝煙が立ち上っていた。
男――ヴァッシュ・ザ・スタンピードは万感の思いを込め、言った。
「友達さ」
55
:
盟友
◆1sC7CjNPu2
:2008/04/25(金) 02:00:08 ID:j4HHE1Tc0
■
スパイク・スティーゲルは、無性に煙草が吸いたかった。
ウルフウッドというチンピラ風の男が、ただの牧師ではないことは一目で分かっていた。
それでも、ヴァッシュと自然に掛け合う姿を見て信用できると思ったのだ。
「……もうちょいと、慎重になるべきだったな」
ある決着がついたことで気が抜けていたのか、ひょっとしたら浮かれていたのかと自問する。
スパイクはウルフウッドに、図書館で仲間と合流すると話してしまった。
もしウルフウッドにその気があれば、次に襲撃先に図書館を選ぶ可能性がある。
――カレンを守れず、この上ルルーシュを守れなかったら本当に呪われるな。
ウルフウッドの追跡は、ヴァッシュに任せた。
やり取りを見た限り、ヴァッシュが説得すればウルフウッドは応じそうな雰囲気があったからだ。
ヴァッシュを送り出すときに一悶着があったが、どうにか出発させ――
「それで、俺はついでにシズルって奴も確保しないといけなくなった訳だ」
鴇羽舞衣のついでに、とするには些か規模がでかいような気がする。
しかしヴァッシュを安心させるため、他に手が思いつかなかった以上はしかたがなかった。
進行方向にはジンとドモンもいるし、手伝ってもらってもいいかもしれない。
――まあ、危険が超危険になっただけだ。
考えて見れば、簡単だ。
いつもの賞金稼ぎと同じように、殺さないように捕まえればいい。
賞金首は鴇羽舞衣と藤野静留、賞金は煙草と……
「これが終わったら、ちゃんと酒の一杯ぐらい奢れよ」
交わした約束を思い出し、スパイクは賞金首を追って駆け出した。
56
:
盟友
◆1sC7CjNPu2
:2008/04/25(金) 02:00:42 ID:j4HHE1Tc0
■
『それ』がウルフウッドに感染したのは、本当に偶然だった。
清姫が聖杯を飲み込んだ時点から、『それ』の侵食は始まっていた。
HiMEという想いを物質化する能力の影響か、それとも螺旋力の影響か、微小ながらも『それ』と繋がる門が開いたのだ。
少しずつ、深く、静かに『それ』は清姫の体内を巡った。
そして『それ』が巡る清姫の身体の上を駆け回っていたのが、ウルフウッドだ。
もちろん、それだけで『それ』がウルフウッドに入り込む訳がない。
しかし、ウルフウッドはかのアーサー王の剣を清姫の外皮に打ち込んでいた。
その一撃は清姫の外皮に確かに傷を作り――その傷から、『それ』は溢れて出していた。
そしてそれは、誰に気づかれることもなくウルフウッドに触れた。
即座に『それ』の影響が出なかったのは、おそらく螺旋王の設けた制限のおかげだろう。
だが、時間をかけて『それ』はゆっくりとウルフッドを蝕む。
ゆっくりと、ゆっくりと。
ウルフウッドに、けっして消えない汚れを塗りつけている。
57
:
盟友
◆1sC7CjNPu2
:2008/04/25(金) 02:01:45 ID:j4HHE1Tc0
【B-5南部/瓦礫の山/2日目/深夜――黎明直前】
【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、黒を基調としてゴスロリ服、髪留め無し、やや自暴自棄
[装備]:衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル
ぼろぼろのつかさのスカーフ@らき☆すた、穴の開いたシルバーケープ(使用できるか不明)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
[道具]:デイバッグ×14(支給品一式×14[うち一つ食料なし、食料×5 消費/水入りペットボトル×2消費])、
【武器】
超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING
包丁、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、王の財宝@Fate/stay night、ミロク@舞-HiME
【特殊な道具】
フラップター@天空の城ラピュタ、雷泥のローラースケート@トライガン、
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、オドラデクエンジン@王ドロボウJING
緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、サングラス@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ
ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル、赤絵の具@王ドロボウJING、
黄金の鎧@Fate/stay night(半壊)、シェスカの全蔵書(数冊程度)@鋼の錬金術師、
首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)、首輪(クアットロ)
【通常の道具】
シガレットケースと葉巻(葉巻-1本)、ボイスレコーダー、大量の貴金属アクセサリ、防水性の紙×10、暗視双眼鏡、
【その他】
奈緒が集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』)
がらくた×3、柊かがみの靴、破れたチャイナ服、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)、ガンメンの設計図まとめ、
壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[思考]
基本−1:アルベルトの言葉通りに二度と力に呑まれず、己の道を違えない。
基本−2:螺旋王を『喰って』願いを叶えた後、BF団員となるためにアルベルトの世界に向かう。
0:……仲間、こいつに?
1:螺旋王を『食って』、全てを取り戻す。
2:ウルフウッドを倒して、千里の敵を討つ。
3:ヴァッシュを警戒。
4:ラッド・ルッソの知識を小出しにし、慣れる。
[備考]:
※ボイスレコーダーには、なつきによるドモン(チェス)への伝言が記録されています。
※会場端のワープを認識。
※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました。
※繰り返しのフルボッコで心身ともに、大分慣れました。
※ラッド・ルッソを喰って、彼の知識、経験、その他全てを吸収しました。
フラップターの操縦も可能です。
※ラッドが螺旋力に覚醒していた為、今のところ螺旋力が増大しています。
※ラッドの知識により、不死者の再生力への制限に思い当たりました。
※本人の意思とは無関係にギルガメッシュ、Dボゥイ、舞衣に強い殺意を抱いています。
※『自分が死なない』に類する台詞を聞いたとき、非常に強い殺意が湧き上がります。抑え切れない可能性があります。
※小早川ゆたかとの再会に不安を抱いています。
※ヴァルセーレの剣にはガッシュ本編までの魔物の力に加え、奈緒のエレメントの力、アルベルトの衝撃の力が蓄えられています。
※かがみのバリアジャケットは『ラッドのアルカトラズスタイル(青い囚人服+義手状の鋼鉄製左篭手)』です。
2ndフォームは『黒を基調としたゴシックロリータ風の衣裳』です、その下に最後の予備の服を着用しています。
※ラッドの力を使用することにトラウマを感じています。
※螺旋力覚醒
58
:
盟友
◆1sC7CjNPu2
:2008/04/25(金) 02:02:21 ID:j4HHE1Tc0
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン】
[状態]:疲労(大)、全身打撲
[装備]:ワルサーP99(残弾11/16)@カウボーイビバップ、軍用ナイフ@現実
[道具]:支給品一式×2
[思考]
基本方針:殺し合いを止める。
1:ウルフウッドを説得する。
2:目の前の少女も説得する。
3:1〜2が終わったら、スパイクの応援に行く。
4:スパイクたちとチームを組む。
5:全部が終わったら、スパイクに酒を奢る。
[備考]
※隠し銃に弾丸は入っていません。どこかで補充しない限り使用不能です。
※ギルガメッシュと情報を交換。衝撃のアルベルトとその連れを警戒しています。
※スパイクと情報交換を行いました。ブルース・リーの魂が胸に刻まれています。
※第二放送を聞き逃しました。が、情報交換で補完したため備考欄から外します。
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:疲れによる認識力判断力の欠如、情緒不安定、全身に浅い裂傷(治療済み)、肋骨骨折、全身打撲、頭部裂傷、貧血気味
聖杯の泥に感染
[装備]:コルトガバメント(残弾:3/7発)、アゾット剣@Fate/stay night
[道具]:支給品一式
[思考]
基本思考:ゲームに乗る……?
1:ほれ見い、追いつかれた。
2:売られた喧嘩は買う。
3:ヴァッシュに関した鬱屈した感情
4:自分の手でゲームを終わらせる。 女子供にも容赦はしない。迷いも……ない。
5:タバコが欲しい。
6:言峰に対して――――?
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。ゆえに、ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの鬱屈した感情が強まっています。
が、ヴァッシュ・ザ・スタンピードに出会って――
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー )、高速移動の使い手と認識しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
※第三回放送を聞き逃しました。が、情報交換により補完しました。備考欄から外します。
【聖杯の泥@Fate/stay night】
この世全て悪。……詳細は後ほど投下します。
とりあえず、ずっと死ね死ね死ねと囁きが聞こえる程度のものです。
59
:
盟友
◆1sC7CjNPu2
:2008/04/25(金) 02:03:10 ID:j4HHE1Tc0
【C-5南西/道路/二日目/深夜――黎明直前】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(小)、心労(中)、全身打撲、胸部打撲、右手打撲(全て治療済)、左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし)
[装備]:デザートイーグル(残弾3/8、予備マガジン×2)、ジェリコ941改(残弾7/16)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×2欠損)ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)、スコップ、ライター、
ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、太陽石&風水羅盤@カウボーイビバップ、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、防弾チョッキ(耐久力減少)@現実
日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実
レーダー(破損)@アニロワオリジナル、 ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム、
高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿、水上オートバイ、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
[思考]
1:さーて、ジン達は無事かね……
2:うまくやってくれよ、ヴァッシュ……
3:カミナを探しつつ、映画館及び卸売り市場付近でジン達と合流。その後、図書館を目指す。
4:ルルーシュと合流した場合、警戒しつつも守りきる。
5:小早川ゆたか・鴇羽舞衣を探す。テッククリスタルの入手。対処法は状況次第。
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※Dボゥイと出会った参加者の情報、Dボゥイのこれまでの顛末、ラダムについての情報を入手しました。
※ヴァッシュと情報交換を行いました。
※ウルフウッドと情報交換を行いました。
【その他】
※C-5にビシャスの日本刀@カウボーイビバップを墓標とした墓があります。
埋めていません。
※ヴァッシュが所持していたナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)、
ウルフウッドが所持していたエクスカリバー@Fate/stay night、
デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7、
ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!、はC-3の大穴付近に放置(潰された可能性アリ)。
60
:
邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ−
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:02:33 ID:hmy7UzJE0
天から星が降りそうな夜の下に一つの邂逅がある。
ただしそこには人間は一人としていない。
ヒトでないものとヒトでないもの、そしてヒトだったものしかそこには存在しないのだ。
細波が聞こえてくるほどに海は近く、しかしそれ以外に一切音はない。
――――風は、冷たく吹き荒ぶ。
夜の海風というのは強くまた寒いものだ。
この場に相応しい空気をもたらすかのように、ただただ立ち竦む二者を打ち付け続けている。
不意に今までのものより強いものが、一迅。
波の音が、掻き消された。
無数の木の葉がさざめき、舞い散る。
少年の姿をした彼は、その一枚を頬に貼り付けたまま呆然と呟いた。
「ビクト、リーム……」
相対する異形は、
「おぬしが、おぬしが……、このような事をやったというのか?」
――――驚愕に染まったままだ。
ただ。ただただ、うわごとの様に少年の名を呟くのみ。
「ガッシュ……、こ、こいつは無関係なのだぁああああぁぁああ! これは、わたしとはッ、」
少年の耳にその言葉は届かない。
いや、届く届かない以前に、それどころではないのだ。
何故ならば、
「……違うのだろう? 違うといってくれビクトリーム!
おぬしはこのような事をする男ではない! そうだろう!?」
ガッシュの知るビクトリームは、人殺しをするような性格はしていなかった。
押し付けがましく人の話を聴かないとはいえ、どこか愛嬌のある憎めない存在。
それがビクトリームだ。
彼はそれを“信じた”。そして、“信じたかった”。
それだけで今は精一杯だったのだ。
王の風格を持ち合わせるとはいえ、ガッシュは良くも悪くもあまりに純粋すぎる。
子供というイメージを具現化した存在であることは、否定しようのない事実なのだ。
「そうだ、ちッ、違うッ! わたしではない! わたしなはずがない!
このわたしがこのような事をするはずがねぇだろうがぁッ……!
何故にそんな事をしなくちゃならんのだボケェェェェェエエェエエェエエエッ!」
だから、その思いを迷う事無くぶつけることが出来る。
……泣きそうな顔で、躊躇いもなく。
ビクトリームの肩を掴んで、揺すりながら。
「……それは、キャンチョメの魔本、なのだ……。
だとしたら、そこに倒れているのはきっとフォルゴレなのだ。
フォルゴレはとっくに死んでしまったのだから、おぬしが殺せたはずはないのだ。
今ここにおぬしがいたとしても、おかしくなんてないのだ。
そうなのだろう、たまたま居ただけなのだろう、ビクトリーム!!」
「…………!」
真っ直ぐな、愚直とさえ言える信頼。
ビクトリームはそれを受けて得た感情は、
――――居心地の悪さだった。
61
:
邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ−
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:03:25 ID:hmy7UzJE0
元々の性格に加えて、コミュニケーションのなかった千年間。
ビクトリームにとって、これほどまでに信頼をぶつけられるのはほぼ初めての事。
それも理由さえ分からずに、ただただ『こんなことをするはずがない』とぶつけてこられる。
それこそがガッシュ・ベルの持つ王の気質であり、在り方なのではあるのだが……、当然ビクトリームには理解できるはずもない。
そもそもが敵対関係だったのだ。ガッシュ個人は嫌いではないとはいえ、しかしそこまで深い付き合いではない。
にもかかわらずここまで信頼されるというのは不気味ですらあった。
加えて間の悪いことに、ビクトリームはこの会場に来て信頼という言葉の意味を理解しつつあった。
それ故にその言葉が真実であるというのは何となく分かってしまう。
半端に分かる分、それは理解できないものよりなお強く心に食い込んでくるのだ。
もちろん嫌な気分ではないのだが、地に足が着かないような不安定な気持ち悪さが湧き上がるのは止めようもない。
それでも振りほどこうにも振りほどけないのは、相手が信頼しているゆえに、だ。
結果として。
ビクトリームは、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。
そして、ガッシュはただ問うことしか出来なかった。
――――どれだけその均衡が続いただろうか。
シーソーが傾くのは、一瞬である。
「……おいガッシュー! どこに居やがるんだテメエはよ!!」
どこからともなく響く声。
聞き覚えのあるその声が、ビクトリームに一つの行動をもたらした。
「……グラサン・ジャック……!」
驚愕でも悲哀でもない曖昧な表情を浮かべた直後、
「ブルワァァアアアアァアアアアァ! スーパー・V・大回転ンンンンンンン!!」
「ビクトリーム!?」
一回転するほどに思い切り体を捻り、ガッシュを振りほどく。
逃走、その一言で表せる行動をビクトリームは選ばざるを得なかった。
――――背中にかかるガッシュの声も無視してただひたすら駆ける。駆ける。駆ける。
「ビクトリーム! ど、どこへ行くのだ!?」
振り返って、ガッシュに何か言ってやりたかった。
グラサン・ジャックにも同じくだ。
……だが、それ以上にここに居るのが怖かった。
62
:
邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ−
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:04:25 ID:hmy7UzJE0
只でさえ居づらいこの場に、罪悪感で顔を合わせたくない男が訪れた。
それだけで、ビクトリームがその選択を選ぶには十分過ぎたのだ。
声の聞こえる方向ではないどこかへ。
無意識のうちに元来た方向へ。
とにかくここを離れる為に。
――――それが最適解でないことを知る機会すらなかった彼にとっては、それ以外に取りうる手段など無かったのである。
「……オイ、お前、ガンメンモドキ……?」
「ビクトリームさん!?」
背中にかかる声はどちらも見知った人間の声だ。
だが、それでも。いや、それ故に一刻も早くここから離れたい。
……たとえ、そのどちらもが自分が探していたはずの存在だとしても。
月の下、彼はどこまでも駆けて行く。逃げていく。戻っていく。
誰一人居ない町の中を通って。
ドーム球場の傍らを通り過ぎ、海に飛び込み、泳いで。
潮に流されながらも、行く先がどこかも定めないまま。
「……何故だぁぁぁああああああ! 何故このわたしが逃げなくてはならんのだ!
くぉぉおおぉお、止まれ止まるのだマイフット!
道無き道を踵を鳴らしていくでないわぁぁぁああああああ!」
――――いつしか深い森の中を走っていることに気付いても、ビクトリームはその足を止めなかった。
◇ ◇ ◇
「クソッタレ、何処に行きやがったガンメンモドキ!」
「……ビクトリームさんは悪いヒトじゃないはずです。
多分、いいえ、絶対にあそこにいらっしゃった方を殺してなんていないです」
「ウヌゥ……、わたしのせいなのか? 何故。何故逃げたのだビクトリーム!」
『……おそらく後ろめたさによるものと思われます。
カミナとの別離は決裂のような形だったと聞き及んでいましたし、
ガッシュの無条件の信頼も、時としてかえって重荷になることもありうるでしょうから』
――――四者四様の言葉を交わす一つの集団。
……その話題の内容はたった一人の魔物についてのものだった。
探してかれこれどれほど経ったろうか。
その間に出会ったものは一人としていない。
当然だ。
この辺りは戦線から遠く、また、彼らの探し人も海を渡って反対の地図の端にいるのだから。
ループの知識はあるとはいえ、そこまで思い当たらなくとも仕方ないと言えるだろう。
それ以上に、カミナが泳げないという理由も大きかったのだが。
では、探し始めた時の事をカミナの視点で思い返してみよう。
彼が見た光景は実に単純なものだ。
死体のそばで呆然と立ち竦むガッシュと、西に向かって闇に溶け消えゆくV字の後姿。
それだけだ。
63
:
邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ−
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:05:10 ID:hmy7UzJE0
そこからどうすべきかはまさしく即断。
探して一発ぶん殴ったあとにぶん殴らせる。それでおあいこにするために、とにかく探すことを決めた。
その意見はニアもガッシュも一致しており、ニアとの詳細な情報交換を行ないながらも辺りを調べてみることにしたのである。
ビクトリームが殺人をしたかどうかは誰も言い出す事はなかった。
それぞれがそれぞれの理由で、ビクトリームはそんな事をしないと思っていたからだ。
ついでに言うなら、死体の硬直などからクロスミラージュが死亡時間は随分前だと保証したのも根拠になっただろう。
たまたま死体を見つけたビクトリームにガッシュが鉢合わせた。それが当然のように彼らの間での結論となった。
まずはビクトリームが向かった方角である西に向かったが、しかし見つからない。
まさか泳いでまで逃げるとは想定していなかった為、行き違いになったかもしれないと辺りを虱潰しに探すことにしたが、いつまで経っても梨のつぶてだ。
果たして、いつしか彼らは水族館の近くまでやって来る次第となった。
「……こんだけ探していねえってことは、もしかしたら全然違う方向に行っちまったのかもしれねぇな……」
『その可能性は高いですね。考えられる可能性としては、海を泳いで渡ったか、あるいは北の方角に向かったかですが……』
長時間の捜索のためにイライラ気味ではあるが、カミナのそれはむしろ気遣うような声色でのものだった。
理由は単純。
先刻からずっと鳴り響く轟音である。
遠くとは分かっていながらも戦慄せざるを得ないそれに、ビクトリームが巻き込まれてはいないだろうか。
それをカミナは心配しているのだ。
更に言うなら、ここから見えるほどの巨大な炎と、時折それに照らし出される何かが余計に不安を煽っていた。
……ここは、港湾。
遮るものがない為に、対岸の光景も丸見えなのである。
そんな現実味の無い争いを前に、クロスミラージュは一つ諦めの念を吐く。
『……おそらくあの辺りはほぼ廃墟と化しているでしょう。それは線路も例外なくです。
これでモノレールによる移動はほぼ不可能になりました。
元々F-5の駅でMr.ドモンと再開する事は難しいと考えていましたが、デパートに向かうには再度移動手段を考えなくてはいけないですね』
そんな嘆息にしかし、カミナは平然と思いついたままのことを言う。
「あん? あのガンメンモドキを見つけた後の事か?」
『……はい。ここは3方を海に囲まれた場所ですし、カミナは泳ぐことが出来ません。
デパートに向かうためには、まずは北部に向かって観覧車の側を迂回し……』
「だぁーッ、面倒くせぇないちいち! 素直にエキから延びるあの道を通っちまえばいいだろうが!」
そう言ってカミナが指差した先にある物は、モノレールの線路だった。
なるほど、確かにモノレールが来なければ通る事はできるだろう。
この状況でモノレールが動いているとは考えづらいし、よしんば動いていたとしてもダイヤグラムでいつどの辺りを通るのかを把握していれば問題ないだろう。
……だが。
『モノレールの高架は確かに通路になりますが……、
しかし、あの破壊規模ではD-4駅にも被害が及んでいる可能性があります。
その場合は我々が高架から降りる手段が無い為、引き返すことになるでしょう。
ここからでは博物館に隠れて確認できないために断言は出来ませんが……」
見たところ、一見博物館までは被害が出ていないように見えるので一応破壊はされていないとはクロスミラージュも思う。
だがしかし、それはあくまで『今のところ』でしかない。
あの付近でずっと交戦を続けている未確認巨大生命体がいつ巻き込んでもおかしくはないのだ。
できる限りあの近辺には近づきたくない所である。
特に高架で近づいた場合は逃げ場がない。
途中に降りる場所もないため、そうなった場合は引き返す以外に手段はないのだ。
その旨をカミナに伝えると、しかし彼はニヤリと笑って受け流した。
64
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邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ−
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:05:57 ID:hmy7UzJE0
「ヘ、だったらエキで降りずに途中で降りちまえばいいじゃねえかよ」
『そんな無茶な、高架から飛び降りても無意味に怪我をするだけです。
……遠回りでも今後を考えるとよりリスクの低い、』
「だったらどうしたよ、無理を通して道理を蹴っ飛ばしちまえばいい!
おいクロミラ、あそこの下を見てみろよ。丁度いい足場があるじゃねえか」
カミナが指差したその先にある建物。
それは地図にある施設の一つ――――、
『……発電所、ですか』
「おうよ! あそこの近くまで行って、あそこに飛び移っちまえばすむだろ。
ガッシュ、ニア! お前らもそのくらい平気でできんだろ?」
「ウヌ!」
「はい!」
魔物の子であるガッシュ。見た目に反し運動神経のいいニア。
そしてカミナ自身も生身でガンメンに立ち向かえる程の強さを持つ男である。
山登りしたくらいでヒィヒィいうようなもやしっ子とは縁遠い面子である以上、行軍に問題は全く無い。
「よぅしいい返事だ! 後はさっさとガンメンモドキを探し出して、全員でドモンのところに向かっちまえばいい!
そんじゃあ行くぜ!」
そう言いきり背中を翻すカミナ。
何度見ても変わらないいつも通りのその態度を見て、何とも彼らしい、とクロスミラージュは思う。
彼の荒っぽさは、時として人を惹きつける魅力があるのだろう。
……考えてみれば、彼にだいぶ感化されてきたように思う。
これほどまでに自分が喋るなどとはティアナと居た時にはあまり無かったことだ。
彼女の運命を思い出し、少し複雑な気分になったが――――、
しかし、クロスミラージュは思考を切り替え、ビクトリームらしき反応を探すことにした。
同時、カミナの声が響き渡る。
「……さっさと出て来いガンメンモドキィィィイイイイイィィィ!!
テメェの食いたがってるメロンがここにあんだからよぉッ!!」
――――返答は、対岸から響く轟音しか存在しなかった。
まあ要するに、ここにはビクトリームは居ない。
ただその事実を確認することになっただけだ。
さすがに探し疲れてきたのか、カミナすらガクリと肩を落とす。
「……ビクトリームは、私たちを信頼してはくれなかったのだろうか……」
ぽつりと、ガッシュが呟きをもらす。
それが真実ならば彼にとってショックは大きいだろう。
……いい加減、夜も遅い。
だいぶ疲れがたまっているためか、それはガッシュらしくはない諦め混じりの言葉だった。
「――――違います!」
……それを否定する声は、女のもの。
ニアは自分がビクトリームから聞いたカミナへの感情を根拠に全員を叱咤激励する。
……彼を信じ続けよう、と。
65
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邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ−
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:07:08 ID:hmy7UzJE0
「ビクトリームさんは、私がお父様……、螺旋王の娘だということを知った後も変わらず接してくれました。
……ですから、絶対にこちらへ戻ってきます。
あの方は心根は優しい方です。必ず戻ってきて、アニキさんと仲直りしてくれます!」
「……そうだな。テメェが信じてやらなきゃ戻ってくるものも戻らねぇ」
パン、とカミナは両手で頬を打ち、落としていた肩をいからせながらぐっと拳を握り締めた。
そのままニアの背中を思い切り叩いて告げる。
「いい心意気だぞニア! さすがシモンが見込んだことだけはある!
いいぜ、お前も大グレン団の一員としてこのカミナ様が認めてやる!」
その言葉に何を見出したのか。
痛がりながらもニアは満面の笑みを浮かばせて、得心したとばかりに力強く頷いた。
「……はいっ!」
直後。
カミナたちの背後から、誰もいなかったはずの場所から。
聞いただけで萎縮するような声色の言葉が放たれた。
「……確かにいい心意気ではないか。螺旋の王女というのも満更ではない」
……カミナ。ガッシュ。ニア。
三者全員が戦慄を覚え、ゆっくりと同時に振り向いていく。
「好奇心に従って来てみれば。
……ワシもたまには童心に帰ってみるものだな。
貴様らにはもっと情報を吐いてもらうこととしよう」
――――そこに居たのは、絶望の象徴。
全身から覇気を漂わせながら、その怪物はただ告げる。
「……なあ、青二才?」
◇ ◇ ◇
――――きっかけは実に些細なものだった。
怒涛のチミルフと名乗った獣との戦い。
それを終えて東方不敗が気づいた時には、すでにシャマルという癒しの術の使い手は姿を晦ましていた。
結果、新たな回復手段を模索しなければならなくなった訳だが、しかし闇雲に探し回っても効率は悪い。
ならば、どうすべきか。
66
:
邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ−
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:08:15 ID:hmy7UzJE0
治療を急かしたせいかどうかは分からないが、東方不敗は自身の体調が存外優れていないことを理解している。
……特に腹の傷が、だ。
痛みこそ殆ど感じないものの、呼吸の乱れなどからして感じている以上に厄介な傷のようだ。
放置しておけばまずい事は重々理解している。
……それがシャマルの意図的なものであるかどうかは分からない。
治療を中断させたのは自分であるのだし、先に痛みだけを取り除いて後から全体を持ち直させる算段だったかもしれないからだ。
だが、何にせよ自分の傷は未だに内出血が続いていないであろう事と、その割に痛みは感じていないことは事実である。
これは好機でもあり、また、まずい状況であるとも言えよう。
戦闘に痛みを感じずに臨める事は有りがたいが、さりとて放っておく訳にもいかないのだから。
あまりに激しい動きをした場合、更に悪化することも考えうる。
と、そこで思い当たったのが各所施設の存在だ。
先程は煮え切らない感情に任せてぶん投げてしまったが、思うにあの顔面機械は何かの利用価値があったかもしれない。
そもそもあんなものが消防署にあること事態が不自然というものだろう。
だとすれば、あれは支給品同様螺旋王が殺し合いの為に用意した道具と考えればしっくり来る。
要するに、他の参加者の誰かの持ち物ということだ。
ならば。
あのような機械も存在するならば。
もしかしたら自分の機体――――、マスターガンダムがどこかに隠されていてもおかしくはない。
そして、マスターガンダムはDG細胞の産物である。
……つまり、だ。
マスターガンダムを構成するDG細胞を利用すれば、傷の修復も行なえるかもしれない。
一度は感染を跳ね除けた体、DG細胞の修復力を制御することとて不可能ではないと考える。
では、どこに向かうか。
どこにならば、マスターガンダムを隠し得るか。
それを考慮した時、最初に目指したのは――――古墳だった。
施設巡りをすると決めた後、消防署の近隣に存在するものを確かめると、映画館、病院、刑務所、古墳、学校が考えられた。
――――まずその中から選択肢で消去されたのは病院。
あまりにも向かう人物が多いだろうと予測される施設である為、もう碌なものは残っていないだろう。
次いで、映画館。
あそこはおそらくまだ激戦区。今から向かっても再度争いに巻き込まれることだろう。
一応以前訪れた時は大して調べては居ないのだが、衛宮士郎という若造の仲間が陣取っていたということを考えると望みは薄い。
学校も以前訪れたことがあるため割愛。
……となると、選択肢は刑務所と古墳の二つ。
この時点で消去法は使えなくなった。
だとすれば、行き先を決定するのは積極的な理由だ。
東方不敗が古墳を選んだ理由は非常にシンプル。
……単に、禁止エリアに囲まれることが確定したからというだけだ。
いずれ進入が難しくなる地点を先に調べておこうと思い、古墳を選んだのである。
――――そして、古墳の近くまでたどり着いた時。
彼は目を疑う光景を見ることとなる。
それは、Vだった。
Vの字だった。
……いや、それだけならばいい。
もちろん気になるといえば気になるが、この会場では何が起こってもおかしくないのだし気にした方が時間の無駄だ。
問題は、Vの字が突如空中から出現したということなのだ。
67
:
邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ−
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:08:55 ID:hmy7UzJE0
さしもの東方不敗もこれには驚いた。
その隙にVの字はどこかに姿を消してしまっていたが、Vそのものは特に重要だとも思えなかったので捨て置く。
とりあえずVが現れた付近を調べてみることにし、接近した。
近づいてみて手を伸ばした時、東方不敗の予想通りちょうどVの字が現れた辺りで自分の手が消えるという現象が起こった。
だが、手の感覚がなくなったわけではない。
そこでその現象が何か、東方不敗は得心する。
更にそれを確かめるべく首ごと前へ踏み込んだとき、想定通りの事実が彼を出迎えた。
――――海が、そこにあったのだ。
森の中に居たはずなのに、どこかに転送されたかのように。
今の今まで、周囲は一面の森でしかなかったのに。
会場がループしている。
東方不敗はそれを直感的に理解した。
……だが、実際にはループではなく単に見知らぬどこかに飛ばされただけかもしれない。
それを確かめる必要があるだろう。
方法は簡単だ、地図を見れば古墳の反対側付近には水族館などの施設がある。
それがあることを確認すればいい。
その通りにした。
結果。
東方不敗の予測は証明された。
見事その先には水族館があり、そしておまけというには豪華すぎる副賞までついてさえくれたのだ。
「……さっさと出て来いガンメンモドキィィィイイイイイィィィ!!
テメェの食いたがってるメロンがここにあんだからよぉッ!!」
……若々しい男の尋ね人の声が響いてくる。
気配を消して接近し、話を聞けばなんと。
「ビクトリームさんは、私がお父様……、螺旋王の娘だということを知った後も変わらず接してくれました」
……そう、螺旋王の娘を名乗る少女がいるではないか。
自称とはいえ、放って置くにはあまりにも惜しい。
螺旋王とののつながりに何か期待できるかもしれず、また、何らかの情報を握っている可能性もある。
故に東方不敗は歩み出ることにした。
これは儲けものだ。
少女を確保すれば、螺旋王に近づく為に何か収穫を得ることが出来るかもしれないと。
邪魔になるようなら始末するが、とりあえずはやはり情報だ。
東方不敗は問いかける。
――――ニヤリと笑いを浮かべ、威風堂々と。
「……確かにいい心意気ではないか。螺旋の王女というのも満更ではない。
好奇心に従って来てみれば。……ワシもたまには童心に帰ってみるものだな。
貴様らにはもっと情報を吐いてもらうこととしよう。
……なあ、青二才?」
68
:
邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ−
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:09:51 ID:hmy7UzJE0
全員が即座に身構える中、不意に一番背の高い男と、彼の持つ板から声が響いた。
「やいやいやいやい誰だよジジイ、何のつもりだ、あん?」
『……何者です? 目的は?』
トランシーバーのようなものだろうか?
少し奇妙に思うも、あまり興味はない。
必要なものを得る為に、さっさと話を進めることにする。
「フン、……東方不敗マスターアジアというしがない武術家よ。
貴様らこそ礼儀がなっていないな、人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのが道理だろう」
皮肉で返す。……と、思いもよらない反応が男から返ってきた。
「……トウホウフハイ? まさか、ドモンの師匠か!?」
「む……、ドモンの知り合いか?」
おうよと答える男。思ったよりスムーズに交渉できそうだ。
それを証明するかのように各々の自己紹介が始まる。
……存外単純な集団のようだ。手玉に取りやすいかもしれない。
「ウヌ……、ガッシュ・ベルなのだ」
「ニア・テッペリンです」
「覚えとけ、生まれと育ちはジーハ村、グレン団がリーダーカミナ様たぁ俺の事だ!」
三者三様の挨拶を耳に入れながらも東方不敗の笑みは崩れない。
そんな彼に、カミナと名乗った男の持つ板が問いかける。
『……クロスミラージュです。Mr.東方不敗。……急に接触してくるとは、貴方の目的はなんですか?
そして、貴方はゲームに乗っているのですか?』
その口ぶりから、この板切れが交渉相手であると東方不敗は即座に理解する。
……他の人間は大して頭が良さそうには思えない。
さて、どう出るべきか。
ここで喧嘩腰になるならば、得られる情報も得られなくなる。
……多少は下手に出るべきだろう。
知るべき情報を握られたまま殺してしまっては元も子もないのだから。
答えるべき情報と答えざるべき情報を即座に整理し、口に出していく。
「……情報が欲しくてな。貴様らの持つ情報をワシにも分けてもらいたい。
何、ドモンの師であるワシならば有効利用できるだろう。
知っている事はあるか?」
口ぶりとは裏腹に東方不敗は大して期待はしていない。
今までのやり取りからして判断した結果だ。
念のため聞いておくことに越したことはないというのと、ニアが螺旋王の娘ということから何か得られるかもしれないと思っての駄目元程度のものだ。
『……我々の知っていることは多くありません。この会場が実はループしているということ。そして……』
……そんな事か、と落胆する。
つい先刻であれば有用な情報であったろうが、今となっては既知の事でしかない。
情報が得られないならば、螺旋王との繋がりにニア以外を皆殺しに――――、
『…………螺旋王の力の一端。この会場に我々を集めた方法に関する考察くらいのものです』
「……なに」
69
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邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ−
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:10:40 ID:hmy7UzJE0
……自分の『異なる星の人々を集めた』という仮説。
それには色々と無理がある上に、自分自身でも半信半疑な代物だ。
考察とはいえこの交渉の場で切ったカードという事は、少なくともそれなりの根拠があることだろう。
……ならば、ある一面では螺旋王に通ずる真実である可能性は高い。
聞く価値はある、と判断する。
「ふむ。……それはどのような物か言ってみるといい。
ワシとしても是非聞いておきたいところだ」
しかし、そうは問屋が卸さない。
『……でしたら、そちらの握っている情報も開示してください。
我々がそれを聞いた後でしたらこちらの考察をお伝えします』
……当然といえば当然だ。
何しろ、情報だけ搾り出されてとんずらされたのではたまらない。
こちらから申し出た交渉でもあるため、先に情報を開示するのも筋というものだろう。
どうせニア以外は殺すのだ、喋っても大して影響はあるまい。
現に、カミナもガッシュもニアも、全員が既に頭に疑問符を浮かべている。
それなりに話の通じるのは板切れを通じて話している人間くらいのものだろう。
上手く考えたものだ、と思う。
この方法ならば自分の身を安全な所においたままで他の参加者と交流できる。
「ふむ、……道理だな。あいわかった」
……とりあえず、敵意を持たれずに情報交換できる空気は作り出せた。
後はこちらの情報を話した後、情報を引き出してニア以外を始末すればいい。
一応は、、話す情報は真実を話しておく。
下手に即席の偽の情報を流して気付かれるよりは、真実味のあるそちらの方が信憑性が増すだろう。
故に、開示する。
自身の持つ螺旋遺伝子の実験に関する考察を。
何らかの要因で覚醒するであろう、その力について。
「……このような所だな。他に何かあるか?」
『……成程。確かに、螺旋王の言葉を考えれば充分ありえますが……』
好感触と判断。
……ならば、後一押しだ。
何か与えられる情報はあっただろうか。
考え――――、一つ思い当たる。
大したものではないとは思うが、それでも単純に数は武器になる。
情報であっても同じくだ。
……一押し、それさえあればいい。
70
:
邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ−
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:11:34 ID:hmy7UzJE0
「……ならば、おまけ程度にもう一つの情報を教えてやろう。
地図上にある消防署にな、赤い不細工なカラクリ人形が鎮座していたぞ。
役に立つかどうかは分からんが、螺旋王の置いたものに違いなかろう。
詳しく調べれば何かの意味が……、」
と、唐突にその言葉は遮られる。
「おいジジイ! も、もしかしてその人形ってよ、このくらいの大きさで、顔に手足の生えた奴か!?」
――――焦ったような、喜んだようなカミナの言葉。
それまでやることを持て余して貧乏ゆすりをしていた姿との豹変振りはおかしいくらいである。
当たりを引いた。
……何でも言ってみるものだ。何が役に立つのかは分からない。
東方不敗はこの齢になってもなお新鮮に実感するその事実に、苦笑しながらも肯定の言葉を告げる。
……敢えて、自分が投げ飛ばしたということは口にせずに。
「その通りよ。……まあ、消防署の北の方のどこかに吹き飛ばされてしまっておったがな。
役に立つならばそれにこしたことはなかろう」
ラガン。
そんな名前を呟いて明後日の方向――――消防署とは全く関係ない方向を向くカミナ。
次いでその名詞の意味を理解し、花開くように期待の表情を浮かべるニア。
それを感じたからかどうなのか、クロスミラージュは前置きなしに話し始める。
……一押しが、効いた様である。
『……分かりました。では、こちらもお伝えしましょう。
文明レベルの問題で、考察を伝えられる相手が居なかったのも事実ですからいい機会ではあるでしょう』
……そしてクロスミラージュは話し出す。
多元世界の概念を。
時間軸の異なる参加者たちの境遇を。
知り合い同士とはいえ、違う世界から招かれた可能性を。
「…………」
東方不敗は、ただ無言で返す。
その沈黙の内にどれだけの思考が展開されているのかは本人以外には分かる由もない。
『荒唐無稽ではあるでしょうが、現状を考慮すると矛盾を解消するにはこれが最適な能力と考えられます。
可能性としても、わたしの世界では平行世界観の移動方法は確立されている事を考慮すれば0ではないかと』
「……いや、そうか。……むぅ、……確かに」
……確かに、荒唐無稽ではある。
だが東方不敗は十分ありうると判断した。
相羽シンヤやDボゥイの様な、能力は図抜けているのに技術がそこそこどまりなアンバランスな人間。
衛宮士郎やシャマルの持つ魔法としか呼べない能力。
ヴィラルやチミルフと言った異形。
71
:
邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ−
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:12:27 ID:hmy7UzJE0
そのどれもが、自分の知る世界とは違う――――、違和感としか呼べない何かを持ち合わせていた。
自分の考えた宇宙人仮説。
それで納得できる点も多くあるが、しかし宇宙人とは自分と同じ世界に存在するものである。
物理法則まで異なるわけではないのだ。
……ならば、自分の世界の物理法則で説明できない事象はむしろ他の世界の法則によるものと考えた方が自然かもしれない。
どちらにせよ荒唐無稽なことは変わらないのだから、より矛盾の少ない説のほうが信憑性はあるだろう。
……そして何より、一番の証拠はドモンの取った言動の不可解さだった。
自分を師として敬愛するあの態度。
しこりのように残っていたその奇妙さは、しかし多元世界という解を代入すればすんなり溶けるのだ。
要するに、あのドモンは自分と対立する前か、……その後か。
いつか和解するという可能性を実現させた世界のドモンであるならば、矛盾はない。
……ならば、あのドモンは何処から来たドモンなのだろう。
あの戦いは茶番だったのだろうか。流派東方不敗の奥義を継承したというあの喜びは何の意味があったのか。
……分からない。全てが螺旋王の手の上なのだろうか。
だが、ただ一ついえるのは――――、少なくともドモンが、石破天驚拳を修める世界もあるということだ。
……つまり、あのドモンは自分の知らぬ先を行くドモンであるのかもしれない。
……ならば。
それを見極められるのは、ある意味喜ばしいことではないだろうか。
病に侵された自分が決して見極めることが出来なかったはずの弟子の大成した姿。
考えてみれば、それは叶わぬ望みが叶うということだ。
そして、そもそもの多元世界を渡るという螺旋王の力。
……このことがどういうことを意味するかはおいおい考えるとしても、しかし有益な事は間違いないだろう。
多元世界。ありとあらゆる可能性。
それを自由に使う事ができるなら――――、
それを思い浮かべようとして、しかし東方不敗は頭を振った。
「……しばし、考える必要がある、か」
あくまで可能性の域だ。
これを確定させるには情報が足りなさ過ぎる。
無論、十分すぎる収穫ではあるのだが。
「……さて、と」
これはどう考えても相手の取って置きの情報だ。
ならば、これ以上の情報は粘っても得られないことだろう。
要するに。
要するに、だ。
「……そうそう、最期に一つ貴様らに伝えておくべき情報があってな」
ラガンとやらの話題で盛り上がり、ガッシュも交えて和やかに談笑するニアとカミナに、東方不敗もゆっくりと笑みを向ける。
……ただのそれだけで空気が一変した。
何処までも冷たく。
何処までも鋭利に。
「……ワシは殺し合いに乗っている。まあ、取るに足りない情報だろう?
これから死に行く貴様らにとってはな」
72
:
邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ−
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:13:27 ID:hmy7UzJE0
「……ジジイ……っ!」
切り替えはその場の誰よりも早く。
――――カミナは、即座に立ち塞がった。
……ニアの前に。
いい目ではあるな、と東方不敗は思う。
自分が何をしたいのか、その為に何をすべきか。
それを直感的に理解し、躊躇いなく行動に移すことが出来る。
だがそれは若さによる強さだ。
真っ直ぐで硬いが――――、折れるときはあっけなく、そして脆い。
そんな代物で出来た楯で少女を守ろうとするならば、対策はただ一つ。
「フン……。安心せい、螺旋王の娘ならば利用価値はある。
貴様らを殺そうともこの娘だけは生かしてやろう」
挑発し――――、正面から叩き潰す。
「……ざけんなよオイ! んな事させるかよ……ッ!!
俺を誰だと思ってやがる!
このカミナ様を甘く見るんじゃねえ!」
……よもや、力の差を弁えていない訳ではないだろう。
それでもただひたすら愚直にぶつかろうとしている理由は単純だ。
勇気でもない。
無謀でもない。
――――青さだ。
故に、それをあらゆる方向から打ち据える。
自分自身がいかに強大かをアピールし、その殻を叩き割ってしまえば済むことだ。
「クク、……楯になろうとは愚かなことだな。
実に都合がいい、ワシもこの場に来てから赤い髪の小娘一人しか殺しておらんでな。
……そろそろ本気で動きたいと思っていたところだ青二才。
貴様が肩慣らしの相手になってくれるのか?」
挑発に加え、具体的な殺人の示唆。
これはカミナを萎縮させる為だ。
どんなに鍛えようとも、偶然殺してしまう場合にはともかく、人が誰かを殺そうと思って殺すには覚悟がいる。
……その覚悟を、空気のようにこなせる事を見せつける。
そして、肩慣らしの言葉。
その程度に扱ってやれば、青二才の若造ならまず憤る。
たとえ表面上変わっておらずとも、確実に心の中に波紋ができているはずだ。
後は生かすも殺すも思いのまま。
殺すとは言ったが、生かしておいてもニアへの脅迫に使えるだろう。
怒りに身を任せ、まともな判断力を失うがいい。
……それが東方不敗の見通しだった、のだが。
「……赤い髪の、女?」
73
:
邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ−
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:14:15 ID:hmy7UzJE0
――――想定外ではあった。
カミナの反応は予想外のものだった。東方不敗にとってよい意味での。
驚愕。
その一文字で表せるその表情は、東方不敗にとっては意味する所を読み取るのは容易いことだった。
見れば、ニアの顔も似たような色に染まっている。
単純にして明確な縁故だ。
――――なんという偶然。なんという好機。
口の端を歪に。これ以上ない程、歪に。
「……赤く、長い髪を束ねた小娘よ」
「……やめろ」
――――その声は、どこまでも弱々しく。
「あちこちを露出させた服と髑髏の髪飾りをつけていてな、こいつ――――この布で腹を刺し貫いてくれたわ」」
「やめろ……!」
その声は、何処までも悲壮に溢れ。
「名前はそう、何と呼ばれていたか――――」
「やめろっつってんだろ……ッ!」
その声はどこまでも怒りに満ち。
「ヨーコ、……だったか。なあ、聞き覚えはあるか? 青二才」
「やめろぉおぉぉおぉおおおおおおおぉおおおおおぉおおおおぉおおッ!!」
何より、無力な自分への後悔が止め処なく湧き続けていた。
自身の怪我も忘れ。
ニアの事すら忘れ。
カミナは吠え――――、剣を手にとって一直線に東方不敗に向かって斬りかかる。
『カミ……、』
自分を制止する声すらどうでもいい。
――――ただ、カミナは目の前の男を叩き切りたかった。
74
:
邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ−
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:14:48 ID:hmy7UzJE0
それが男の思う壺だと、分かりすぎるほど分かりながらも、なお。
しかし、カミナの動きよりなお早く東方不敗の手が動く。
カミナの全身に衝撃が走った。
――――天の光は全て星と言ったのは誰だったか。
……仰向けで飛んでいるのかもしれない。
それだけを理解して、カミナはもう一人怒りに打ち震える必要はなくなった。
75
:
あばよ、ダチ公(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:15:44 ID:hmy7UzJE0
◇ ◇ ◇
「カミナ、何を一人で先走っているのだ!
勝てるものも勝てなくなるぞ!!」
……何故ならば、彼には仲間が居るのだから。
「……ガッシュ?」
気付けばそこはガッシュの腕の中だった。
仰向けに飛んでいるのではなく、小脇に抱えて横から掻っ攫われたのだ、
見れば東方不敗は先ほどから全く動いていない。
一人突進したカミナを無理矢理静止させる為にそんな行為に及んだのだろう。
『カミナ、ここは一人でどうにかできる局面ではありません!』
懐から響くクロスミラージュの声。
「ヨーコさんは、私にとっても仲間です……。
私だって、大グレン団の一員です!」
ぐっと拳を握り、力強く頷くニア。
呆けた様な顔でそれを見回した後、顔を一瞬くしゃくしゃに歪める。
――――誰もが気のせいかと思うような間に表情を元に戻し、カミナは苦笑をあらためて作り出す。
「……ああ、そうだよな。
俺にはお前達がいる。そして、ヨーコだって俺の大切な仲間だ。
行くぜ野郎ども! 大グレン団、目の前のジジイをぶっ倒すぞ!!」
鬨の声が上がる。
ガッシュから飛び降りたカミナは剣を抜き放ち、背に皆の声を受けながら口上を張り上げる。
「行くぜジジイ……。
いざここで会ったからにゃあ、俺は逃げねぇ、退かねぇ、振り向かねぇ!
テメエがヨーコの仇だって言うなら尚更だ、覚悟しやがれ!
あいつが生きていても、……本当に死んじまったとしても、それを語ったテメエを許す道理なんてどこにもねぇんだ!」
相対する東方不敗はただ悠然と。
流水よりなお緩やかな動きで構えを作る。
「ほう、ワシを殺せるものならやってみるがいい青二才が。
敵討ちを諦め尻尾を振って逃げ帰るなら見逃してやってもいいのだぞ?
ワシが興味あるのはそこの娘のみ。貴様など路傍の石ころほどの価値もないわッ!!」
カミナはしかし一歩も退かない。
――――己が信念を、吠える。叫ぶ。轟かせる。
76
:
あばよ、ダチ公(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:16:45 ID:hmy7UzJE0
「殺しゃしねぇ……、殺しゃしねえよ。
俺はこの殺し合いなんざに乗らねえと決めた、だったらそれを貫き通す!
それが俺の意地だ!
テメェがヨーコを本当に殺したんだってんなら、アイツの墓の前で100万回土下座させてやらぁ!」
「青い、青いぞ若造がぁッ!!
さあ、来てみせるがいい己が憎悪を剣に乗せて!」
――――戦いの始まりを告げるベルが鳴る。
カミナは既に手に慣れてしまった魔本を取り出しながら、一つの考えを展開させる。
自分らしくないとは分かっていながらも。
――――ヨーコの事は本当かどうかは分からない。
だが、少なくとも目の前の男が彼女に相対したのは事実だろう。
そして、その実力の桁外れさも、痛いほどに分かる。
目的はニアだ。
……たとえ自分の無力さゆえにこぼした人が居たとしても、彼女だけは、守り抜かなくてはならない。
絶対に、絶対にだ。
頭のどこかがそれを強く強く告げている。
カミナの信条はとても青いものだ。
仲間を絶対に信頼し、自分自身が信じたことも貫き通す。
だがしかし、傍らに居るニアは自らもまた力になろうとしているのだ。
……そこに矛盾が生じる。
彼女が戦いを望むなら、自分もそれを信じるべきではないのか。
彼女の戦う意思を無視してでも、逃げろと言うべきではないのか。
絶対に守り抜くためには、ニアに逃げて欲しい。
だが、ただ逃げろと言ってもニアはまず逃げないだろう。
これまでの会話で充分分かっていたし、自分の弟分の大切な人間なら、そうであるのがむしろ当然だ。
……その心意気はカミナにとって嬉しいことでもあり、同時に辛いことでもある。
東方不敗ほどの実力者と相対するならば、彼女の存在はむしろ逃げて欲しいのだから。
故に、カミナは悩む。
不得手と分かっていながらも脳髄を働かせて。
……その果てに、解決の為の一手として、一つの案をカミナは告げる。
「……ニア! お前は早くあのガンメンモドキを探して来い!」
「あ、アニキさん!?」
戸惑うニアを尻目に、魔本を捲りながらカミナは彼女にどうすべきかを伝えていく。
「お前もアイツの本が読めたんだろ?
だったらさっさと探して来い、四人で戦ったほうが勝ちやすいだろうがよ!」
……もちろん、ビクトリームとの合流などは期待していない。
あくまでもここからニアを逃がす為の方便だ。
負けるつもりはないがとにかく自分たちで時間を稼ぎ、彼女を遠くに逃がせればそれでいい。
77
:
あばよ、ダチ公(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:17:36 ID:hmy7UzJE0
「で、でも……!」
それに感づいているのか、純粋に戦力が心配なのか。
当然のようにニアは不安げな目でカミナを見つめる。
……その時間さえ惜しいと言うのに。
だから、カミナは思い切り怒鳴る。
「俺を誰だと思ってやがる! 泣く子が余計に喚く大グレン団の鬼リーダー、カミナ様だろが!
余計な心配してんじゃねえ、
さっさと行けぇえええええぇぇええぇぇぇぇえぇえッ!!」
「――――!」
……今にも泣きそうな表情をわずかに見せた後、俯いたニアは……、
即座に後ろを向いて脱兎のごとくあらぬ方向へと駆け出していく。
振り向きもせず音だけで確認するカミナ。
ガッシュと目を合わせてニヤリと笑い会った後、いまだ構えを崩さない東方不敗にようやく向き直る。
自信の表れか舐められているのか、今のやり取りの間にも彼は全く攻撃を加えようとはしていなかった。
『……見逃してしまっていいのですか』
クロスミラージュの問い掛けに、しかし東方不敗は嗤ってそれを一蹴する。
「このワシが小娘一人見つけられんと思うのか?
いまあ奴を捕らえるより優先すべき事は、その近くに飛び回る羽虫どもを駆除することよ。
さあ、茶番は終わりだ。
……来るがいい青二才ッ!!」
……ベルは鳴り終わり、幕が開く。
戦いの舞台はこうして整った。
これより始まるのは――――、男が己の意地をかけた死合である。
「……ラウザルク!!」
カミナが手にした本に浮かび上がった呪文を口にした瞬間、ガッシュの体が光を纏う。
最早字が読めることにカミナが驚くことはない。
そういうものだと理解しているからだ。
そのままガッシュは一息に東方不敗に接近。
左右のラッシュを繰り出しながら、必殺の時を作ろうとする。
「ムゥ!?」
――――東方不敗が顔を歪める。
焦りや苦渋というほどではないが、確実に厄介だとは思っているのだろう。
技は未熟。間合いの読み方や位置取りも良いとは言えない。
……だが、単純に速い。力強い。
それもそのはずだ。ラウザルクは身体強化呪文。
只でさえ人より強靭な魔物の体を更に数段押し上げる効果を持つ。
たとえ技術が未熟でも、そのパワーとスピードは人の及ぶ範疇にない。
78
:
あばよ、ダチ公(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:18:23 ID:hmy7UzJE0
……しかし、それを乗り越えるのが人間だ。
たとえ体躯に及ばぬ熊であろうと獅子であろうと、技を以って仕留める存在こそが人間だ。
交差の一瞬で無数の連撃を打ち合い離脱。
「くぅ……っ」
「せぁあああぁああああっ!!」
単純極まりない左右の連打を繰り出したガッシュに対し、
東方不敗はフェイントと力の強弱、放つタイミングの緩急などを芸術的なまでに調節した舞踊を披露。
流れるようにガッシュの攻撃を全て受け流しながら、確実に自身の一撃を入れていく。
結果として現れる光景は、一方的に弾き飛ばされるガッシュの姿だ。
……しかし、そこで終わるならば一流の武術止まりでしかない。
自身の攻撃で吹き飛ばされるガッシュに更に追いつき追い越し、
「シィィィイイイイイイィイィイッ!」
――――流派東方不敗、背転脚。
金色の矮躯を一撃で粉砕する。
……いや、しようとした。
「らぁぁああああぁ、俺を忘れてんじゃねえソードぉ!」
「ちぃっ……」
カミナの剣による一撃。
片手に本を、片手に剣をという魔物のパートナーの戦法としては型破りすぎる代物だが、それをこなしてしまうのがカミナという男。
それを防ぐ為に蹴撃を中断せざるを得なかったのだ。
指の二本で刃を受け止め、思い切り引く。
「……っとぉ!」
だがそれでもカミナは剣を掴み続ける。結果、バランスを崩して前のめりになった。
……好機とみて東方不敗は距離を詰めようとした。
が、ふと背中に手を回し、握る。
「な、背中に目が生えておるのか!?」
掴んだものは、ガッシュ・ベルの腕。
吹き飛ばされた後、建物を蹴った反動を利用して背後に迫ったそれを気配と空気の流れから読み取り、対処したまでだ。
……やはり存外、厄介だ。
東方不敗はそう分析する。
身体能力だけが取り得なガッシュ。
心意気や躊躇いのなさ、即座の判断力は買うが、常人の域を出ていないカミナ。
片方だけなら全く問題はないが、連携されるとなると制限がかかった上に疲弊したこの身では反応が遅れる。
79
:
あばよ、ダチ公(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:19:23 ID:hmy7UzJE0
……故に、勝負は長引かせない。
これからの一連の攻防で決着をつけることを確定させ、その為に行動する。
掴んだままのガッシュの腕。それに力を込め、
「ウヌ!? ぬうぅぅぁああぁぁあああああああぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁ……」
――――思い切り上空へと放り投げる。
何をするのだぁぁあぁぁ……、と、残響音のような声と共に、遥か上空へ。
ここから確認すれば、ガッシュは豆粒のような大きさにしか見えていない。
つまり、わずかな時間とはいえ1対1の状況になったわけだ。
こうなれば後は単純。
すぐ側で体勢を立て直した小煩い青二才をどうにかすればいい。
「おらおらおらおらぁ、アトミックファイヤーブレードッ!!」
――――その場のインスピレーションですよと言わんばかりの適当な技名を、カミナは突きと共に繰り出すものの。
「ふ……ッ!」
「オイ、マジかよ!」
その刃をスウェーバックだけでやり過ごし、容易く体に手刀を叩き込む。
「ぐぅっ……」
どうにか刀身で受け止めるカミナ。
しかし、その一撃はあっさりとなんでも切れる剣を二つに叩き折り止まらない。
減衰した一撃はカミナの胴体に到達すると肋骨2本を二つに割り、その勢いのままカミナをまっすぐ突き飛ばした。
――――十数メートルほど飛ばされた先、いつしか辿り着いていた砂浜に幾度かバウンドしてようやくカミナは静止する。
「……フン。ようやく力量の差を思い知ったか? 青二才」
――――東方不敗は、無傷。
あれだけの交戦を、二人がかりで行なってさえこの様だ。
……むしろよくやったと言えるだろう。
カミナは口端に笑みを浮かべるのを東方不敗は見届けた。
……やり遂げた、と言う笑みを。
それを、東方不敗はニアを逃がしきれたことへの安堵だと推察する。
――――事実、それは成し遂げられた。
少なくともこれから自分はニアを探す必要があるだろう。
時間稼ぎの目論見はまんまと成功された。
敵対するとはいえ、殺すのは惜しいと東方不敗は思う。
真っ直ぐな気性とそれを貫き通せる意地。
青いところはあるが、ドモンに通ずる所も感じられた。
――――流派東方不敗を伝授してやりたいとすら思わされる。
まあ、現状と恨まれた事実を考えればそんなのは夢物語だ。
80
:
あばよ、ダチ公(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:20:33 ID:hmy7UzJE0
月明かりの下、尻餅をついて倒れたままのカミナの体を見据えつつ東方不敗は悠然と立つ。
最初はニアへの脅迫に生かしておこうかとも思ったが、しかし情が移ればそれだけ面倒なことになるだろう。
……ここは、殺しておいた方が後腐れがなくて良い。
だから、その通りにする。……ほんの少しの情けも込めて。
「さて、遺言くらいは聞いてやろう。何か伝えたいことはあるか?
このワシに啖呵を吐いたその度胸に免じてひとつくらいはいうことを聞いてやらんでもないぞ?」
その言葉を受けて、果たしてカミナは何事かを呟いた。
「――――」
「む? 何と?」
……小さくて聞こえなかった。
何を言ったのかと再度問い、耳を澄ましてみればようやくその言葉が耳に届く。
「……テメエが倒れてろ、クソジジイ」
「――――な、」
気付く。
……カミナの手にある奇妙な本、その輝きに。
先ほどの身体強化呪文とは比べ物にならない力の密度に。
天を仰ぐ。
「ガッシュ、お前の出番だ!
お前ならこのクソジジイをぶちのめせる。お前ならできる、俺はそう信じた!
お前を信じる俺を信じろ、そしてお前を信じるお前を信じろ!
いくぜダチ公……!」
――――そこには、強大な緑色の光を迸らせる魔物の子供が居た。
星々が散りばめられた夜の空。
そこから悠然と降臨するは王者の威風。
風が、強く強く吹き荒れた。
全ては布石。
ガッシュが飛び道具をこれまで使わなかったのも、カミナが自ら立ち回って注意を引かせたのもこの瞬間に通じている。
……尤も、特に考えずに直感にしたがってそうしていたのは事実ではあるが。
81
:
あばよ、ダチ公(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:21:38 ID:hmy7UzJE0
――――カミナの声が、亡びの時を呼び寄せる。
「……バオウ、」
東方不敗は直感する。
何もかもをも食らい尽くす雷の竜の姿を幻視することで。
この技は食らってはいけないと。
絶対に出させてはいけないと。
それを全身が告げている。
防ぐに能わず。
もたらす破壊は甚大に過ぎ、ヒトの身にて耐える術はなし。
避けるに能わず。
如何なる場所に逃げようと、その竜は何処までも追い続け、巨体を以ってヒトを磨り潰す。
壊すに能わず。
立ち向かうは愚かとしか呼べず、ヒトはただただ蹂躙されるのみ。
……その元凶は遠く。
当然だ。
遠距離攻撃手段の可能性を見損じ、遠くに投げ放ったのは誰でもない自分なのだから。
今から流派東方不敗のいかなる技を繰り出そうとも届くには時間がなさ過ぎる。
――――そして、ソレは告げられた。
「ザケルガァァァアアアァァァアァアアアアァアアアッ!!」
――――風が、吹き止んだ。
何もない。
たったの一つを除いて、そこにはもう存在しない。
82
:
あばよ、ダチ公(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:22:57 ID:hmy7UzJE0
……何がないのか? 存在しないのか?
答えは単純。たったの一語。
『変わったもの』は、何もない。
……カミナの肩に刺さった、奇妙な短剣を別として。
カミナは倒れたままで。
ガッシュは宙に居たままで。
東方不敗は、そこに威風堂々と立ったままで。
状況は、何一つ変わっていない。
「……嘘だろ、オイ」
――――ただ呆然とカミナが呟くと同時。
ガッシュは術の反動で気を失ったまま、あっけなく地面に落下した。
◇ ◇ ◇
『契約――――、魔法そのものをキャンセルするデバイス!?
そんな、こんなものがあるなんて――――』
地面に尻餅をついたままのカミナの方から声が聞こえてくる。
だが、東方不敗にとっては些事に過ぎない。
今はとりあえず危機を脱出したことを喜び、しかしそれに溺れず次にするべきことを考えねばならない。
世の中は結果で動く。
過程を考えても意味のないことに捕らわれても仕方ない。
……そう。何故自分が全くの無事なのかは、東方不敗には分からない。
ただ、彼は自分の直感を信じて行動し、結果として生き延びた。それだけだ。
――――まさに死の呪文が告げられようとしたその瞬間東方不敗が取ったのは、カミナへの対処だった。
今までの戦法を推察するに、カミナの持つ本が何らかの影響をガッシュに与えている事は確実と推測。
故に、届かないガッシュをどうにかして呪文を防ぐより、カミナさえ何とかすればいいと考えた。
確実ではないが、それしかあれを放たせないための術がないのならば全力で事を成すまでである。
判断は刹那、行動は瞬間。
わずか一言が告げられるまでの間に、カミナに対してできる事を直感から導き出す。
83
:
あばよ、ダチ公(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:23:46 ID:hmy7UzJE0
――――そう、それは直感だった。
東方不敗という武術を極めた人間の頂点が、数多の戦闘の経験から導き出した現状を打破する術。
それを成す為に必要な道具を彼は手に取っていた。
何故それを選んだのか、考えはない。理由もない。
……ただ、『それ』ならば現状を打破できると戦士の勘が告げていた。
たとえその仕組みが理解できなくとも、あの呪文を無と化せるのだと。
だから、東方不敗はソレに賭けた。
摩訶不思議なその道具に。何より、自分自身の勘に、命の全てを。
彼が自らを託したその道具は、こう謳われた神秘の結晶。
破戒すべき全ての符、と。
ルールブレイカー。
ありとあらゆる契約を、魔術的な強化や生命を破戒し無と化す宝具である。
それは異なる世界のものとて例外ではない。
一瞬で手に取ったそれを、東方不敗は即座にカミナに投げつける。
……とにかく刺さればいいと、狙いを定めはしなかった為に刺さった場所は肩になったが、効果は即座に現れた。
カミナからガッシュに流れ込む心の力。
それが一瞬にて断ち切られ、結果、バオウ・ザケルガも形を保てず霧散した。
破戒すべき全ての符は、ガッシュとカミナの契約を強制破棄したのである。
当然、東方不敗はそれを知る由もない。
考えることすらしない。
何故ならば、今すべき事は他にある。
落下し、うずくまるガッシュに近寄っていく。
既に術の弊害による気絶からは冷めているのか、東方不敗の接近に慌て、何かないかとデイパックに手を突っ込んだ所を捕縛する。
下手な支給品でまた厄介なことになられてはたまらない。
「……そのまま動くでないぞ。
鞄から手を抜いた時点で、何を持っていようが、何も持っていなかろうがあそこの青二才が死に至る事になる」
口元を歪めながらそう告げてみせれば、ガッシュはウヌ、と呟き泣きそうな顔で動きを止めた。
何が起こったかも理解できない状況で、いきなり窮地に立たされたにもかかわらず反応がそれだけなら大したものだ。
今の自分の立場を知っているが故に、危険な行動を取らない賢さは持っているようである。
――――実に人質にはもってこいだ。
言葉通りに置物のように動かないガッシュを脇に抱え、あらためてカミナに向き直る。
「……理解できたか? 青二才。
まずはその本を捨ててこちらに来るのだ。さもないとどうなるかは……分かっているな?」
……殺すにせよ殺さないにせよ、とにかくは本からカミナを引き剥がす。
「クソ……ッ」
84
:
あばよ、ダチ公(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:24:58 ID:hmy7UzJE0
悪態を突き、憤りながらもカミナは言うとおりにすることしか出来ない。
……それが、彼の青さだ。
良くも悪くも一直線にしか進めない。
だからこそ皆の上に立ち導く時は強く輝き皆を惹きつけるが、逆に守勢に立たされれば脆いのだ。
これまでの彼の人生の殆どはジーハ村という狭い交友関係の場所にあり、故にこういう駆け引きは殆ど縁がなかった。
何かあっても、全て彼自身の責任となったからだ。
だから、仲間が窮地に立たされ、それが自分の行動一つで左右される場合、彼の取れることなど――――言いなりになるしかない。
たとえそれが自身の気持ちに反することになってもだ。
あまりにも危うい生き方。それをここに来てカミナは実感せざるを得なかった。
悔しく、また、情けない。
けれど、ガッシュの命を考えればこうするしか道はない。
魔本をその場に捨て、両手を挙げながら一歩、二歩。
砂浜の上を無防備に進んでいく。
10mほどで歩くのを止め、東方不敗と向かい合う。
「……これでいいだろ、ガッシュを離しやがれ」
東方不敗がクックと笑いを漏らす。
……癇に障る。それ以上に悔しくてたまらない。
目の前にいるのはヨーコの仇かもしれないのだから。
しかし、その感情を泣きそうな顔をしたガッシュを見て押さえつける。
後悔はない。これでいいのだ。
仲間を守る。カミナは皆の兄貴分でありリーダーなのだから。
……だから、カミナは絶望する。
「……成程、確かにこれでいい。
人質は一人で充分だ。あの小娘の思い入れが強いのは貴様の方だろう、青二才。
……もう、この子供は用済みという訳だ」
「……っ! カミ、ナ……」
東方不敗の浮かべた悦の表情は、その自負すら叩き潰したのだから。
――――ガッシュを、殺す。
危険性を利便性を考慮し、躊躇いなく東方不敗はその決断を下した。
「テメェ……ッ!! くそ……くそぉ……っ」
無力。無力。無力。無力。無力。
理不尽にも敵のなすがままにされ、反撃すら出来ない。
何が俺を誰だと思ってやがる、だろう。
結局何も出来はしない。
いつしか、カミナは泣いていた。
東方不敗への憤怒を露にしながらも、何も出来ない自身があまりにも悔しかった。
ここまでの挫折感を味わったのは初めてだった。
85
:
あばよ、ダチ公(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:26:17 ID:hmy7UzJE0
「フン、貴様にはまだ生きていてもらうぞ。
ワシの走狗として情報を集めてもらうとしようか」
がくり、とその言葉を聞いて地面に膝をつく。
ただただ、悔しかった。
悔しいの一文字しか心になかった。
カミナ一人ではガッシュを救う事は出来はしない。
仲間を守ることすら貫けない。
――――そう、だからこそ、仲間がいる。
「――――アニキさん! ガッシュさん……!」
「……な、」
背後から聞こえた声に、カミナは驚きを隠せなかった。
◇ ◇ ◇
――――嘘だと分かっていた。
いや、嘘というより方便だろう。自分をここから逃がす為の。
嫌だった。
何も出来ないのは。そして、むざむざ退くのは。
逃げない、退かない、振り返らない。
それこそが大グレン団の心意気だ。
シモンが受け継いでいたそれを、カミナは強く見せ付けてくれた。
カミナは自分を認めてくれた。
ならば自分も大グレン団だ。
そして、それを誇りたかった。
だから、最初こそ言うことを聞こうと思ったけど、引き返す。
……自分も力になりたいと、その想いだけを心に宿して。
「――――アニキさん! ガッシュさん……!」
「……ニア?」
見ればガッシュが東方不敗の脇に抱えられ、カミナは涙に濡れて膝をついている。
何とかしなければならない。
自分にできる事は何か、それを即座に見つけ出す。
86
:
あばよ、ダチ公(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:27:08 ID:hmy7UzJE0
カミナの背後に落ちている本。
一度ビクトリームのときに経験がある。
あれを使いたい。
使って、皆を救い出す!
絶対にこの場を切り抜けてみせる!
……自分も意地を貫ける、大グレン団の一員なのだから――――!
その想いが迸る。
ニアの全身から光が漏れ出し、緑に染まる。
体躯は一瞬で活性化し、ニアの走りを加速させた。
運動を止めずに地面から本を掻っ攫い、開く。
求めるはこの場を切り抜ける方法。
想いの力は確かにそれを導き、答えた。
本に浮かび上がるその呪文の名前を強く強く口にする。
必要なのは強力な一撃ではない。
ガッシュが東方不敗を振りほどくことさえできればいい。
シンプルイズベスト。
単純ゆえに出が早く、体勢を崩さざるをえない攻撃を解き放つ――――!
「ザケ――――、」
――――暗転。
最後に見た光景は、東方不敗の片腕から延びる布切れが自分の手を打ち据え、体ごと吹き飛ばす光景だった。
本が、手から零れ落ちてゆく。
87
:
あばよ、ダチ公(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:28:23 ID:hmy7UzJE0
◇ ◇ ◇
「……甘いわ。この東方不敗が貴様が素直に逃げ出したと思い込んだとでも考えたか?
青二才、貴様に似てよい気質はしておるが――――、意地だけでは何も得られんということがこれでよく分かったろう?」
希望は蹂躙される。
たった一人の手によって。
東方不敗は布切れ――――、マスタークロスを翻す。
東方不敗がマスタークロスを今まで使わなかったのはこの為だ。
まさしく先ほどのカミナとガッシュがラウザルクで戦ったのと同じ理由。
飛び道具がないと思い込ませ、ニアの油断を誘う。
本当に逃げたなら探せばよし、隠れて機を窺うのならその瞬間に打ち据えればよし。
殺してはいない。怪我も手が痺れるくらいの者だ。
色々と利用価値があるのだ、気絶させるに留めてある。
……全ての手は潰えた。
カミナの表情は雄弁にそれを物語っている。
……泣き笑いだった。
逃がしたかった。それも叶わない。
逃げずに立ち向かった。それは嬉しい。
……カミナには、もうその二つの感情しか残っていなかった。
故に、隠すものは何もなく素直にそれが出てきていた。
他の感情は何もかも、深い深い挫折に落ち込み奈落へと消えていった。
「……フン」
こうなってはもう用はない。
中々の骨を持つ男だっただけに惜しいとは思うが、必要なのはニアだけだ。
辺りを見渡す。
倒れ、動かないニア。
体を震わせながらも言いつけを守って固まったままのガッシュ。
泣き笑いのまま、地面に手をついてこちらを見上げるだけのカミナ。
最早この三人の誰もが戦いの意思を放棄した。
――――そして立ち続けるのは東方不敗ただ一人。
これが結末だ。
それを認め、東方不敗は笑った。
高々と、高々と。
「ク、クク、ワハハハハハハハハ……!!
中々に面白かったぞ貴様ら!
しかしこれで仕舞いだ、敬意を表してこのワシの最大の技で葬ってやろう!」
88
:
あばよ、ダチ公(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:29:49 ID:hmy7UzJE0
ガッシュを小脇に抱えたまま、東方不敗はゆらりと体を動かし一つの構えを形作っていく。
当る先は勿論カミナ。
無防備なその体を見据え、己が精神を集中させていく。
「……東方不敗が最終奥義」
これぞ狼の群をただ一撃で薙ぎ払ったとされる究極の一撃なり。
「……石破ぁっ!」
眼前の敵に全てを注ぎ込む。
もたらされる結果は実に単純。
「天……ッ! 驚……ッ!」
「グラサン・ジャックになぁにさらしてくれとるのだこのおさげマニアがぁあぁああぁあああぁあああああ!」
「――――!」
あまりにもらしくない、第三者の割り込みへの不注意。
中途半端に気に入ったカミナに意識を向けるあまり後方への警戒を怠ったが故に、既にソレに背後数メートルまで接近することを許していた。
「ブルァァアアアァアアァァアアッ!!」
……そう、まさしく――――東方不敗の間合いに。
錐揉みを加えながら体ごと東方不敗にぶつかろうと勢いを減じさせないビクトリームの突撃。
東方不敗は即座に判断を下す。
戦う意思を失ったカミナよりも、この邪魔者を排除する方が優先事項であると。
腕に溜めたその一撃をスライドさせ、そのままビクトリームの方へと突き出してゆく。
――――カミナは、これから起こることを理解し、それを防ごうと大声を出す。
……せめて、自分に東方不敗の注意を向かせようと。
ビクトリームだけでも助かって欲しいと。
「逃げろッ、ガンメンモド、」
無駄。
「拳――――――――――――――――!!」
ビクトリームの首から下が全て破砕した。
89
:
あばよ、ダチ公(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:30:43 ID:hmy7UzJE0
否、それは粉砕。
わずか数瞬前にビクトリームだったものが、微塵よりなお小さく細かい単位まで分解されていく。
何が起こったか理解できないという表情のビクトリームの頭部の真下から、ゆっくりと首輪が地面に落ちていった。
「――――ビクトリー、」
……名前を呼んで、理解した。
ああ、俺はコイツの事は……ちったぁ気に入ってたのかもな、と。
そして、……もう下らねえド付き合いもできねぇんだな、と。
「ビクトリィィィィィイィイイィィイィィムッ!!」
ガッシュの絶叫がカミナを現実に引き戻す。
見れば、東方不敗がビクトリームのにじり寄ってきた背後を向いている隙に、ガッシュはデイパックの中で握り続けていたそれを東方不敗に突き刺していた。
「……何故だぁぁぁぁぁぁぁああぁあああ!!」
「ク……!」」
――――巨大なドリルを、自分を掴む腕に。
力が緩み、ガッシュは東方不敗を振りほどく。
地面に転げ落ちながらも、しかしガッシュは吠えるのをやめようとしない。
優しい王として。
仲間を殺した理由を、問うために。
「何故だ! 何故、ビクトリームを殺したのだ!! 答えろ、答えるのだッ!!」
……その事実が、ようやくカミナの頭の中に浸透していく。
乖離していた現実が。
ごとりとビクトリームの頭だけが地面に落ちる光景が。
腕から開放された瞬間、反撃を防ぐ為にマスタークロスでガッシュが吹き飛ばされる瞬間が。
ビクトリームのデイパックからこぼれた本が、ゆっくりと燃えていく様が。
「テメェェエェエエエェエエエエエェッ!!」
――――その一瞬で、カミナの全身が緑の光に包まれる。
それはその場にいた全員が目を疑うほどの煌きとなり、力を堂々と誇示していた。
ガッシュを打ち据える東方不敗も。
布の一撃を耐え、しかし押し切られるガッシュも。
いつしか気絶から醒め、ビクトリームの体が消滅しているのを目の当たりにしたニアも。
何より、カミナの懐で直にその光に触れたクロスミラージュも。
『カミナ――――』
……クロスミラージュのボディに螺旋の力が充満していく。
そして理解。
これならば、自分を動かせるに違いないと。
90
:
あばよ、ダチ公(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:31:29 ID:hmy7UzJE0
「いくぜ……ダチ公! あのジジイをぶちのめしてやる!!
なあクロスミラージュ! ここで退いたら男じゃねえ!」
肩のルールブレイカーを引き抜き叫ぶ。
クロスミラージュを手に取った瞬間、カミナの体に幾つもの赤いくろがねが浮かび上がり、装着されていく。
バリアジャケット。
それによって顕現するは紅蓮羅顔。
彼が相棒と認めた男との合体によって生まれ出でる巨人、その写し身である。
その手にあるは二丁の拳銃、しかして拳銃でないものだ。
クロスミラージュのダガーモード。
通常ならそこから生成されるはずの刃は、今は螺旋の形状を為していた。
天をも突くドリルの形へと、螺旋の力は刃を進化させたのだ。
『「ギガ……」』
カミナとクロスミラージュは同時に叫び、射線を東方不敗へ。
カートリッジロード。
最後に一つだけ残っていた薬莢が排出され、宙に舞う。
左の銃口から、まるでブーメランのような光弾が射出され、東方不敗を縫い止めんとする。
『「ドリル……ッ!!」』
――――だが、それは無意味と化す。
遅い。
ただ単純に遅い。
初動が遅い、溜めが遅い、狙いが遅い、呼吸が遅い。
ありとあらゆる動作が遅すぎる。
「流派東方不敗が奥義……!」
東方不敗マスターアジア。
彼にとって、彼らが児戯を繰り出すまでの間などまさしく遊ぶ暇さえあるものだ。
初撃のブーメランが彼のその身に弾かれた。
何故ならば既に東方不敗は行動を終えている。
「超級覇王ッ……」
肩に腕に巨大なドリルを刺したままでありながら、全身から迸る衝撃が近づくもの全てを無力化する。
「電影弾――――!」
突撃。
あらゆるものを弾き飛ばしながら、今だ初撃の体勢から動かないカミナを蹂躙し、駆逐する――――。
そのはず、だった。
91
:
あばよ、ダチ公(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:32:25 ID:hmy7UzJE0
「…………ッ!!」
意に反して体が急に停止する。
それも、銃口をこちらに向けたカミナの直前で。
……見れば、全身にいつしか鎖が絡みついていた。
黄金の輝きを持つ鎖が。
全身に力を込めてさえびくともしない。
超級覇王電影弾を持ってしてさえ、東方不敗の鍛え抜かれた肉体を以ってさえ傷一つ付けられない。
その鎖の名は天の鎖、エルキドゥ。
かの英雄王ギルガメッシュが乖離剣以上に信頼する、神をも縛る宝具である。
振り向く。
最早意識も定かでない頭だけのVの字が東方不敗に密着。
そこから延びる天の鎖は、東方不敗の全身に絡み付いて完全なる拘束を果たしていた。
◇ ◇ ◇
――――何故か、そうしなければいけない気がしたのだ。
ただ、会って謝りたかったのかもしれない。
一度は逃げ出したとはいえ、それでも帰ってきたのはそのためだった。
理由も分からない感情で退いた彼は、しかし。
――――絶対に退かない男の顔を思い出した。
理由の分からない感情で、その男に向かい合うことを選び直したのだ。
……結局まともに会話をする事は叶わなかったが、しかし選んだ行動に後悔はない。
だが、ただ一言、その男に言ってやりたいことが残っていた。
「…………………、」
――――――――伝わっただろうか。
最早自身の耳には何一つ聞こえない。
口を動かしたと、その筋肉の動きが分かるだけだ。
それでもいい、と思った。
目の前の男は、泣きながら。
それでも歯を食いしばって、力強く頷いたのだから。
……自分たちに向けられたドリルに自ら体を突っ込ませる。
この男を失わせたくない、そう思ってしまったのだ。
――――それを最後に、ビクトリームの視界は緑の光に染まる。
92
:
あばよ、ダチ公(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:33:05 ID:hmy7UzJE0
永遠に。
◇ ◇ ◇
最後の瞬間に、Vの字は口をわずかに動かした。
声は聞こえない。
おそらくその余力さえなかったのだろう。
……だが、カミナには伝わった。
読唇術の心得など当然なかったが、それでも何と言っているのかは充分すぎるほどに。
「パートナーとは――――」
こういうものなのだろう? と。
それきり、ビクトリームは東方不敗ごと自身の体を前に突き出した。
何のためにそんな事をしたのか、理由は痛いほどに分かる。
更に言うなら、これは最後の足掻きだ。
ここでそれをしなくても、ビクトリームは助からない。
それでも、しかしそれでもカミナはそれを叶えたくなかった。
道理など、蹴っ飛ばしてやりたかった。
キャッカンテキな判断などごめんだった。
だが、そうしなければビクトリームの意気に答えてやることなど出来はしない。
ガッシュやニアを守りきることも出来はしない。
だから。
カミナは泣き叫びながら、それでも全力でクロスミラージュの引き鉄を押し込んだ。
『「ファイヤー……ッ、」』
クロスミラージュに込められた最後のカートリッジ3つが全て排出される。
周囲に無数に光球が浮いたと同時、それら全てがクロスミラージュ先端に集い巨大なドリルを形成した。
高町なのはがティアナに撃ち込んだ収束クロスファイヤーシュート。
その応用を、ポイントブランクショットで叩き込む。
かつてない高出力を由来とし、クロスミラージュはまるでレイジングハートの様に極太の光の柱を射出した。
『「シュート――――――――」』
消えていく。消えていく。
天まで届くドリルが、その先にあるもの全てを掻き消していく。
東方不敗も、天の鎖も、ビクトリームの頭も何もかも。
93
:
あばよ、ダチ公(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:34:17 ID:hmy7UzJE0
今だ放出され続け、天まで届く螺旋の柱。
ふと、クロスミラージュはカミナが何かを呟いたことに気付いたが、しかしその記録を抹消することにした。
その言葉は自分が受け取るべきものではないのだから。
「……あばよ、ダチ公」
【ニア@天元突破グレンラガン 螺旋力覚醒】
【ビクトリーム@金色のガッシュベル!! 螺旋力覚醒】
【ビクトリーム@金色のガッシュベル!! 死亡】
◇ ◇ ◇
――――以上、一連の事象及び自分の得た情報、特に東方不敗より情報交換で得た彼の考察と、
カミナが自分を使用可能だったという事実を元に、ある仮説を提示する。
すなわち、螺旋力とは何か、という事だ。
まず第一に言えるのは、魔力とは螺旋力の関係についてである。
魔力によって運用される自分が魔力を持たないカミナによって使用可能であった以上、少なくとも相互に関連性がある事は間違いないだろう。
さて、魔力が螺旋力によって代用可能なら、それらの関係性は何だろう?
魔力が螺旋力を生み出しているか、螺旋力が魔力を生み出しているか、
その2パターンが考えられる。
ここで、自分は後者を推したい。
魔力とは、螺旋力が何らかの変質を遂げたものである、ということだ。
この事は、魔力をもつ人間はごく限られた存在でしかないという事実に対し、
螺旋力はカミナや東方不敗を含め、本来魔力を持たない人間にも発現しうる遍在性からの推測である。
……東方不敗によるならば、たとえ誰であろうとも螺旋力は窮地に立たされれば発揮しうるものという考察がある。
以下、螺旋力は誰もが本来持ちうるが、発揮される機会はそれこそ殺し合いのような特殊な状況下のみという前提で話を進めよう。
カミナが螺旋力を用いて自身を使った際、その体力の消費は魔力使用時よりも遥かに大きいものだった。
ここから、螺旋力と魔力の関係は、原油とガソリンの様なものではないかと考えたのだ。
螺旋力を持っていたとしても、不純物が多すぎて魔法を運用するには効率が悪すぎる。
そこで、何かしらの変質作用を施すことで精製し、魔法を使うのに最適化されたのが魔力という訳である。
この『何かしらの変質作用』を生まれつき持つ人間こそが、魔法使いとなり得るのである。
つまり、魔法使いや魔術師の素質とは、その作用をもたらす回路――――“魔術回路”とでも言うべきものが生来どれだけ備わっているかによって決定されるのだ。
これを踏まえて、螺旋力とは何か、を考えてみよう。
94
:
あばよ、ダチ公(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:35:04 ID:hmy7UzJE0
まず、魔力とは精神力、あるいはそれに順ずるものである。
その上で、ガッシュ・ベルのような魔物を考慮すると、その正体が見えてくる。
彼らは魔力を持っているが、単体ではその力を発動させることは叶わない。
術を発動させるのには、『心の力』こそが必要なのである。
心の力が彼らを経由することで術という形になるのだ。
まさしく、螺旋力が魔術回路を通ることで魔法や魔術になるのと同じ様にである。
……つまり、螺旋力とは心――――、意思を動かす原動力そのものではないだろうか?
生命が生き延びようとする本能そのものと言えるかもしれない。
生命体の定義とは、自己保存と自己複製の2つを持ち合わせている事だ。
加えて、重要になる要素がもう一つ。
――――進化、である。
自己保存にしても自己複製にしても、それらは生命が自身の要素をできる限り長く保たせる為の指向性である。
だがこれだけでは、いずれ来るかもしれない環境の激変に耐えられないならば、滅んでしまうのは必定といえるだろう。
その為に、生命は進化するのだ。
いかなる壁が目の前に迫ろうとも、それを穿ち突き破るために。
生き延びようとする意思は、進化を求めることに他ならない。
即ち螺旋力とは進化を求め、進化を促し、進化に導かれる力であり、
またその意思によって生み出され、意思を生み出している力でもある。
生き延びようとするための意思そのものこそ――――螺旋力だというのが自分の結論である。
これを拡大解釈するならば、更にいくつかの仮説が提示できる。
まず、生命の存在する環境内のネットワークそのものが螺旋力を持ちうる可能性についてである。
一部の魔導士の使う合体魔法。
これらは、異なる個体の魔力であっても、意思を同調させれば一つの力になり得ることの証となる。
ここで、あらゆる生命に共通する自己保存と自己複製の本能を思い出してみよう。
即ち、意思の根底にある本能が全ての生命に共通な以上、魔力、ひいては螺旋力は一つの指向性を持って環境上に展開されている可能性があるのだ。
つまり、――――同じ世界に存在するありとあらゆる生命体の生み出した、潜在的な螺旋力の奔流。
世界に散らばる生命種そのものによって生み出される、惑星規模のエネルギー。
――――“地脈”とでも呼称できるだろうか。
そのようなものが存在する可能性がある。
この“地脈”を用いた魔法形態も、多元世界のどこかにあるかもしれない。
第二の仮説としては、自分のような機械やプログラム生命体、人造生命体が螺旋力を持ちうる可能性についてである。
これらに関しては、限りなくノーに近いということが出来るだろう。
そもそも螺旋力の由来からして生命活動が必須なのであるのだから。
……だが、しかし可能性は0ではない。
自己保存と自己複製。
これらを備え、更に進化し向上しようとする意思を持ち得るほどに高度な技術で生み出された存在ならば、螺旋力は備わりうるだろう。
――――現在、機動六課で唯一生き残っているはずのシャマル女史を想定。
彼女ほど高度に組み上げられたプログラムなら、螺旋力を発現する事は可能と判断する。
現状がどうであるかは別としても、もし彼女が覚醒したならば仮説を補強する材料となるだろう。
――――以上が、自分自身が現状のデータから導き出した考察である。
荒唐無稽とはいえ、これらが内包する可能性は非常に多様であると言えるだろう。
……明智健悟の様な、考察を最大限に運用可能な参加者との接触を望む次第である。
95
:
あばよ、ダチ公(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:35:44 ID:hmy7UzJE0
◇ ◇ ◇
静寂が訪れるまでどれだけ立ったろうか。
――――カミナは地面に手を着いて、子供の様に泣いていた。
小さな村に押し込められて、世界を知ることのなかった彼にとっては初めてに近い挫折。
そして、ビクトリームを死なせてしまったことへの後悔と悲しみ。
ヨーコが死んだと聞かされた事への絶望。
東方不敗への激しい怒り。
それらを一度に味わわされ、ただ慟哭するしかできなかった。
友を失ったガッシュも手を握り締め、海の方を向いて動かない。
クロスミラージュも、早く移動すべきと分かっていながら敢えて声をかけることはしなかった。
夜明けは遠く、月と星は煌々と。
位置を変えながらも今だ輝き続けている。
いつか目指すと誓ったそれを見ようともせず、風に打ち付けられるまま。
――――ただ、カミナは哭く。
その光景はいつか見た誰かに重なるようで、ニアは傍らに寄り続け、カミナの体にゆっくりと手を添える。
ぴくりと震えるも、しかしカミナは動かない。
――――そのまま、たった一言だけをニアに伝えた。
「……ありがとうな」
いずれ彼は立ち上がる。
信じようとも信じなくとも、それは確かな事実だ。
何故なら、彼はリーダーなのだから。
……だから誰しもそれを待つ。
待って、彼が自分たちを導いてくれるその時までただ耐え忍ぶのだ。
――――夜明けは遠く、しかし確かに近づいている。
【E-1南部/海岸付近/二日目/黎明】
96
:
あばよ、ダチ公(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:36:29 ID:hmy7UzJE0
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(中)、疲労(特大)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(激しく動かすと激痛が走る)、
頭にタンコブ、ずぶ濡れ、激しい慟哭、強い決意、螺旋力増大中
[装備]:クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ0/4:0/4)
折れたなんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
バリアジャケット
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式(食料なし)、ベリーなメロン1個(ビクトリームへの手土産)@金色のガッシュベル!!
ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!、ルールブレイカー@Fate/stay night
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:畜生……っ!!
1:ビクトリーム……。
2:ニアは……なぜだか嘘を言ってるとは思えねぇ! コイツは俺が守ってみせる!
3:チミルフだと? 丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
4:ショウボウショの北にラガンがあるんだな……? シャクだが、行かねぇワケにはな……。
5:グレン……もしかしたら、あそこ(E-6)に?
6:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
7:ドモンはどこに居やがるんだよ。
8:……線路からハツデンショに飛び降りちまえば、ぶっ壊れた駅になんざ行く必要はねえ!
[備考]
※E-6にグレンがあるのではと思っています。
※ビクトリームへの怒りは色んな意味で冷めました。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。死を受け入れられる状態です。
※ヨーコの死に対しては、死亡の可能性をうっすら信じています。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
禁止エリアに反応していませんが、本人は気付いていません。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※ガッシュの本を読むことが出来ました。
しかし、ルールブレイカーの効果で契約が破棄されています。再契約できるかは不明です。
※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※東方不敗に対する激しい怒りを覚えました。
※螺旋力覚醒
97
:
あばよ、ダチ公(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:37:05 ID:hmy7UzJE0
【クロスミラージュの思考】
0:カミナを気遣ってしばし黙っている。
1:東方不敗が再度こちらに来ないうちに早めに移動する。彼の吹き飛ばされた南部には行きたくない。
2:ドモンはとっくに移動したと判断。モノレールの線路でD-4駅方面(発電所)に行き、北部からデパート方面に向かいつつ捜索。
3:明智と合流してカートリッジの補給や情報交換をしたい。
4:東方不敗を最優先で警戒する。
※ルールブレイカーの効果に気付きました。
※『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。
※各放送内容を記録しています。
※シモンについて多数の情報を得ました。
※カミナの首輪が禁止エリアに反応していないことを記録しています。
※東方不敗から螺旋力に関する考察を聞きました。
※螺旋力が『生命に進化を促し、また、生命が進化を求める意思によって発生する力』であると考察しました。
【ニア@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神的疲労(大)、全身打撲(中)、両手に痺れ、ギアス?、右頬にモミジ、
下着姿にルルーシュの学生服の上着、ずぶ濡れ、強い悲しみ、螺旋力覚醒
[装備]:釘バット
[道具]:支給品一式
[思考]基本:シモンのアニキさんについていき、お父様を止める。
0:……アニキさん。
1:ビクトリームさん、私は……。
2:カミナを元気付けたい。
3:出来ればシータを止めたい。
4:ルルーシュと一緒に脱出に向けて動く。
5:ルルーシュを探す。
6:マタタビを殺してしまった事に対する強烈な自己嫌悪。
7:東方不敗を最優先で警戒する。
[備考]
※テッペリン攻略前から呼ばれています。髪はショート。ダイグレンの調理主任の時期です。
※カミナに関して、だいぶ曲解した知識を与えられています。しかし本人に会ったので知識と現実の乖離に気付きました。
※ギアス『毒についての記憶を全て忘れろ』のせいで、ありとあらゆる毒物に対する知識・概念が欠損しています。有効期間は未定。
気絶中に解除された可能性があります。
※ルルーシュは完全に信頼。スパイク、ジンにもそこそこ。カレンには若干苦手な感情。
※ビクトリームの魔本を読めましたが、シータへの苛立ちが共通した思いとなったためです。
今後も読めるかは不明です。
※会場のループを認識しました。
※ロニーの夢は見ていません。
※ガッシュの魔本に反応しました。
※カミナ、クロスミラージュと詳細な情報を交換しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒
98
:
あばよ、ダチ公(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:37:41 ID:hmy7UzJE0
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(大)、精神疲労(中)、頭にタンコブ、ずぶ濡れ、強い決意 深い後悔、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:すまないのだ、ビクトリーム……。
1:カミナ達と戦う。
2:ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
3:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
4:ジンとドモンと明智を捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
5:東方不敗を最優先で警戒する。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。
いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒
[持ち物]:支給品一式×8
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒)
※カミナ達のすぐそばにビクトリームのデイパック
(支給品一式、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)、ランダム不明支給品x1、 キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!)
が落ちています。
※ビクトリームの魔本@金色のガッシュベル!!は焼失しました。
【ロージェノムのコアドリル@天元突破グレンラガン】
ロージェノムが周囲に従える6人の女性の本当の姿。最初からドリル形態で6つ全てを支給。
これら6つがスピンオンすることで、彼専用ガンメンのラゼンガンを起動させることが出来る。
ちなみにこれは多元宇宙のどこかのロージェノムのもので、主催者のロージェノムの持ち物ではない。
奪われた側のロージェノムはラゼンガンを起動させることは出来ないが、
そもそも素で強いし体一つでグレンラガンと殴り合っても無問題だろう、多分。
99
:
あばよ、ダチ公(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:38:35 ID:hmy7UzJE0
◇ ◇ ◇
「――――ク、ハハハハハハハハハハハ……!」
高笑いが鳴り響く。
――――東方不敗のそれに間違いない。
ここはテーマパークのすぐ側の海岸。
ずぶ濡れなのは、どうにかそこまで泳ぎついた事の証だ。
「ワッハッハッハッハッハッハッハ!! あの青二才、いや、カミナめ、やりおるわ!
ハッハハハハハハハハハハ! ハハハハハハハハ!!」
愉快だった。
実に愉快だった。
何せ、あの男は宣言通り敢えて自分を殺さなかったのだから。
殺し合いなど乗らないと言い切った意地。
伴侶を殺され、友を失ってもなお貫き通すその気質。
青さもここまでくれば実に面白いというものだ。
「――――気に入った! 気に入ったぞカミナよ!
機会さえあるならば流派東方不敗を伝授してやりたいくらいだ!
ワハハハハハハハハハハハハハハ!!」
ドリルを放たれたあの瞬間、東方不敗は死さえも覚悟した。
それほどの一撃をこの身に浴びて怪我一つ負っていないとは、意図してそうした以外に考えられない。
クロスミラージュの非殺傷設定。
カミナは己の意地にかけて、東方不敗を仇と分かっていてもそれを解除しなかったのである。
もちろん東方不敗にそんな事は分からない。
分からないが――――、
「……愛用の布やワシの服を消し飛ばしておいて、ワシだけを生かすとは奇妙な技だが――――、な」
……その事実は雄弁にカミナの意思を物語っていた。
舐められた訳でないのはこれまでのやり取りで十分分かっている。
それ故に、カミナの気性はとてつもなく心地よいものに感じられた。
あれほどの一撃ならば、鎖に捕らわれて無防備になった自分自身を殺すことさえできたかもしれないのに、だ。
……尤も、実際にはいくら非殺傷設定とはいえ東方不敗がこれほどまでに平然としていられるのは普通には考えられない。
気絶一つすらせずにここまで辿り着いたのは、東方不敗の運と、何より力量によるものに他ならないだろう。
東方不敗は月の下、その身一つで高々と笑う。
手には、金色に光る鎖をぶら下げて。
――――今にも目の前にドリルが迫るその瞬間、東方不敗は己を絡め取る鎖を握り、抗いの意思を発揮した。
その直後のことだ。
自身の体が緑の光に包まれたかと思うと鎖が東方不敗の意思のままに動き、Vの字をした異形の頭をドリルに対する盾にしたのである。
100
:
あばよ、ダチ公(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:39:43 ID:hmy7UzJE0
……東方不敗は覚えている。
Dボゥイの体に浮かび上がった螺旋の力と、それを注ぐことで光を放った剣の事を。
その時と同じことが起こったのだ。
既に生命活動を停止し消え去ろうとしているビクトリームに天の鎖を制する力はなく、支配権を奪い取った。
そこに螺旋の力を流し込み、ビクトリームの頭が完全にこの世界から消失するまでの間、直撃を防ぎきったのである。
理解する。
自分自身も、螺旋の力に目覚めたことを。
そして、この鎖はとても強力な武器なのであると。
意のままに動き、そしてまた、あの一撃で傷一つ負わないほどに頑強なのだから。
また、もう一つ。
東方不敗の肩に刺さったままのドリルも、あの攻撃に耐え抜いた。
丈夫な武器を持っておくに越したことはない。
愛用の布を失って、途轍もない疲労を背負ったとはいえ収穫は豊作だった。
――――故に、笑う。
自身の手にした力を喜び、その心地よさに浸るために。
……とはいえ、流石にしばらくはまともに動けないだろう。
体を回復させ、治療する必要がある。
これからどこに向かえばそれは成し遂げられるだろうか。
失ってしまったとはいえ、地図は大体を記憶している。
考え、思い当たった所は――――、
「フム、空港に向かうか」
空港とは、多くの人が出入りするが故にそれなりの設備が整っている。
もちろんその中には薬や医療器具も含まれているだろう。
これから旅立とうとする人への商品もあるし、気分を悪くした人のために簡易な病室もある。
休憩場所としても薬の補給にももってこいだろう。
薬は空輸されることも多いため、コンテナなどに収められている可能性もある。
また、移動手段の確保にも役立つだろう。
東方不敗はこの辺りが戦場からだいぶ離れていることをその鍛え抜かれた感覚で察知していた。
体を休めるには非常に都合がいいが、その分戦線に向かうのは手間になるはずだ。
空港という性質上、様々な乗り物が置かれていると推測。
それこそラッドに与えたようなフラップターも手に入るかもしれない。
他にも何かが隠されている可能性も、十分あるのだ。
……そこまで考え、近場が禁止エリアになることを思い出す。
早めに向かったほうがいいだろう。
「クク。実に面白いな、螺旋王。貴様が求めるこの力――――悪くはない」
101
:
あばよ、ダチ公(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/04/25(金) 23:40:16 ID:hmy7UzJE0
呟き、そしてまた別の誰かに告げる。
「……さて、ワシはしばし体を癒す。
しばし戦線から離れるが――――、その間に殺されるでないぞ?
貴様はワシが見込んだ男なのだからな」
どこまでも、どこまでも。
人間の頂点に位置する男の高笑いは響き渡っていく。
【F-1/テーマパーク付近/二日目/黎明】
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:疲労(特大)全身にダメージと火傷(大)、右肩に貫通傷、両腕に多少の痺れ(戦闘に支障なし)、ずぶ濡れ、螺旋力覚醒
腹部に無視できぬ大ダメージ(皮膚の傷は塞ってますが、内出血しています。放置すると危険です) 、裸一貫
[装備]:天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night
[道具]:ロージェノムのコアドリル×1@天元突破グレンラガン
[思考]:
基本方針:ゲームに乗り、優勝して現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。
0:……しばし、体を休めるとしよう。
1:F-2が禁止エリアになる前に早めに空港に向かい、休憩場所や衣服、各種治療薬、移動手段を探す。
2:その後、ゆっくり傷を癒す (シャマルの捜索も含む)。
3:マスターガンダムを探し、可能ならDG細胞により治療を行なう。
4:優勝の邪魔になるものは排除する。
5:ロージェノムと接触し、その力を見極める(その足がかりとしてチミルフ、ヴィラル、ニアの捜索) 。
6:いずれ衝撃のアルベルト、チミルフと決着をつける。
7:ドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。
8:しかし、ここに居るドモンが本当に自分の知るドモンか疑問。
9:休息などを終えたら、古墳もしくは会場の真ん中へ向かう。
[備考]
※螺旋王は宇宙人で、このフィールドに集められているの異なる星々の人間という仮説を立てました。本人も半信半疑。
※クロスミラージュの多元宇宙説を知りました。ドモンが別世界の住人である可能性を懸念しています。
※ニアが螺旋王に通じていると思っています。
※クロスミラージュがトランシーバーのようなもので、遠隔地から声を飛ばしているものと思っています。
※会場のループを認識しました。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。 『なんらかの要因』は火事場の馬鹿力であると推測しました。
Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※自分自身が螺旋力に覚醒したこと、及び、魔力の代用としての螺旋力の運用に気付きました。
※マスターガンダムがどこかに隠されているのではないかと考えています。
※カミナを非常に気に入ったようです。
※東方不敗の衣服、支給品一式、及びマスタークロス@機動武闘伝Gガンダムはギガドリルファイヤーシュートにより消滅しました。
※レガートの金属糸@トライガンは破れたデイパックから海に落下して流されました。
102
:
本スレ>>156差し替え
◆wYjszMXgAo
:2008/04/26(土) 19:13:36 ID:L8FSoIsE0
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(中)、疲労(特大)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(激しく動かすと激痛が走る)、
頭にタンコブ、ずぶ濡れ、激しい慟哭、強い決意、螺旋力増大中
[装備]:クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ0/4:0/4)
折れたなんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
バリアジャケット
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式(食料なし)、ベリーなメロン1個(ビクトリームへの手土産)@金色のガッシュベル!!
ルールブレイカー@Fate/stay night
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:畜生……っ!!
1:ビクトリーム……。
2:ニアは……なぜだか嘘を言ってるとは思えねぇ! コイツは俺が守ってみせる!
3:チミルフだと? 丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
4:ショウボウショの北にラガンがあるんだな……? シャクだが、行かねぇワケにはな……。
5:グレン……もしかしたら、あそこ(E-6)に?
6:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
7:ドモンはどこに居やがるんだよ。
8:……線路からハツデンショに飛び降りちまえば、ぶっ壊れた駅になんざ行く必要はねえ!
[備考]
※E-6にグレンがあるのではと思っています。
※ビクトリームへの怒りは色んな意味で冷めました。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。死を受け入れられる状態です。
※ヨーコの死に対しては、死亡の可能性をうっすら信じています。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
禁止エリアに反応していませんが、本人は気付いていません。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※ガッシュの本を読むことが出来ました。
しかし、ルールブレイカーの効果で契約が破棄されています。再契約できるかは不明です。
※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※東方不敗に対する激しい怒りを覚えました。
※螺旋力覚醒
103
:
本スレ>>158差し替え
◆wYjszMXgAo
:2008/04/26(土) 19:14:26 ID:L8FSoIsE0
【クロスミラージュの思考】
0:カミナを気遣ってしばし黙っている。
1:東方不敗が再度こちらに来ないうちに早めに移動する。彼の吹き飛ばされた南部には行きたくない。
2:ドモンはとっくに移動したと判断。モノレールの線路でD-4駅方面(発電所)に行き、北部からデパート方面に向かいつつ捜索。
3:明智と合流してカートリッジの補給や情報交換をしたい。
4:東方不敗を最優先で警戒する。
※ルールブレイカーの効果に気付きました。
※『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。
※各放送内容を記録しています。
※シモンについて多数の情報を得ました。
※カミナの首輪が禁止エリアに反応していないことを記録しています。
※東方不敗から螺旋力に関する考察を聞きました。
※螺旋力が『生命に進化を促し、また、生命が進化を求める意思によって発生する力』であると考察しました。
【ニア@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神的疲労(大)、全身打撲(中)、両手に痺れ、ギアス?、右頬にモミジ、
下着姿にルルーシュの学生服の上着、ずぶ濡れ、強い悲しみ、螺旋力覚醒
[装備]:釘バット、ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!
[道具]:支給品一式
[思考]基本:シモンのアニキさんについていき、お父様を止める。
0:……アニキさん。
1:ビクトリームさん、私は……。
2:カミナを元気付けたい。
3:出来ればシータを止めたい。
4:ルルーシュと一緒に脱出に向けて動く。
5:ルルーシュを探す。
6:マタタビを殺してしまった事に対する強烈な自己嫌悪。
7:東方不敗を最優先で警戒する。
[備考]
※テッペリン攻略前から呼ばれています。髪はショート。ダイグレンの調理主任の時期です。
※カミナに関して、だいぶ曲解した知識を与えられています。しかし本人に会ったので知識と現実の乖離に気付きはじめました。
※ギアス『毒についての記憶を全て忘れろ』のせいで、ありとあらゆる毒物に対する知識・概念が欠損しています。有効期間は未定。
気絶中に解除された可能性があります。
※ルルーシュは完全に信頼。スパイク、ジンにもそこそこ。カレンには若干苦手な感情。
※ビクトリームの魔本を読めましたが、シータへの苛立ちが共通した思いとなったためです。
今後も読めるかは不明です。
※会場のループを認識しました。
※ロニーの夢は見ていません。
※ガッシュの魔本に反応しました。
※カミナ、クロスミラージュと詳細な情報を交換しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒
104
:
本スレ>>159差し替え
◆wYjszMXgAo
:2008/04/26(土) 19:15:09 ID:L8FSoIsE0
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(大)、精神疲労(中)、頭にタンコブ、ずぶ濡れ、強い決意 深い後悔、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:すまないのだ、ビクトリーム……。
1:カミナ達と戦う。
2:ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
3:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
4:ジンとドモンと明智を捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
5:東方不敗を最優先で警戒する。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。
いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒
[持ち物]:支給品一式×8
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒)
※カミナ達のすぐそばにビクトリームのデイパック
(支給品一式、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)、ランダム不明支給品x1、 キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!)
が落ちています。
※ビクトリームの魔本@金色のガッシュベル!!は焼失しました。
※ビクトリームの死体は会場から消失しました。魔界へ送還された可能性があります。
【ロージェノムのコアドリル@天元突破グレンラガン】
ロージェノムが周囲に従える6人の女性の本当の姿。最初からドリル形態で6つ全てを支給。
これら6つがスピンオンすることで、彼専用ガンメンのラゼンガンを起動させることが出来る。
ちなみにこれは多元宇宙のどこかのロージェノムのもので、主催者のロージェノムの持ち物ではない。
奪われた側のロージェノムはラゼンガンを起動させることは出来ないが、
そもそも素で強いし体一つでグレンラガンと殴り合っても無問題だろう、多分。
105
:
王たちの狂宴(前編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 04:52:26 ID:IueVMib20
モノレールのD4駅から少し歩いたところにその建物はあった。
高さは2階建て程度。内部には各種螺旋に関する多彩な資料が詰め込まれている。
そして高所――丁度モノレールの駅から見下ろせば“渦巻き”としか形容しようの無い珍妙な建物。
そう、この舞台の中でも一際異彩を放つ建物、螺旋博物館の2階には“開かずの扉”がある。
さて、開かずの扉の先にあるのは何か?
それに関しては遥か昔から現代のコンピュータ・ゲームに至るまで変わらぬ鉄則がある。
奴隷アリババが岩戸の先に見つけたもの……すなわちお宝である。
だがだれも肝心要の『開けゴマ』という呪文の存在を知らなかった。
最初に訪れた明智健悟も、2番目に訪れたジェット・ブラックとチェスワフ・メイエルもだ。
そして閉じられていた扉は、今まさに『呪文』を手にした者たちによって開かれようとしている。
この場に集った3人の王の手によって。
「さてさて……それじゃお宝と御対面と行きますか? ギルガメッシュ?」
そう言ったのは輝くものなら星さえ盗むドロボウの王、王ドロボウ・ジン。
「分かっている。我が財を一時的にとはいえ渡すのだぞ? 丁重に扱うがいい雑種」
ディパックから捻子くれた剣を取り出したのは人類最古の英雄。
かつてこの世全ての富を手に入れた黄金王ギルガメッシュ。
「……フン」
それを不機嫌な顔で受け取るのは未来世紀と呼ばれる世界で人類を救った英雄。
第13代目キング・オブ・ハートにしてコロニー格闘技の王者、ドモン・カッシュ。
三者三様の視線が集中する中、ドモンはゆっくりと鍵穴に螺旋剣を刺していく。
『――螺旋力を確認しました』
電子音声と共に重い音を立てて、ついに開かずの扉が開き始めた。
奥から漏れ出してくるどこか冷えた空気に、知らず息を呑むドモン。
ジンも、ギルガメッシュも一見いつもと変わらぬ様子で扉の向こうにあるであろうお宝へと意識を向ける。
そして扉の音が止み、ついに扉の向こう側が彼らの前に姿を現す。
――開かれたそこは2階の最奥であるにもかかわらず、何故か広大な空間が広がっていた。
そして部屋の中に足を踏み入れた彼らを待ち受けていたのは、耳が痛くなるほどの沈黙と部屋の中央部に鎮座するのは巨大な像。
かつて人間は神々を称えるために巨大な像を作ったという。
まるでその一種であるかのように、ある種の荘厳さをもって、機械仕掛けの神像はそこに鎮座していた。
“それ”を見た3人は三者三様の反応を示す。
ジンは口笛を吹く。あまりにも予想外なお宝である“それ”を見て。
ギルガメッシュは愉悦に笑みを浮かせる。自分の財に加わる資格のある“それ”を見て。
ドモンは驚愕に目を見開いている。あまりにも見覚えのある“それ”を見て。
そう、その神像の名は『ガンダム』。多くの多元世界で“戦うための力”とされた白き魔神の名前。
そしてここに存在する“ガンダム”とドモンは只ならぬ因縁があるのだ。
「ドモン、この神様とお知り合い?」
「ああ……だがコイツは神様なんかじゃない……悪魔だ!」
博物館に鎮座していたのは彼の運命を、いやあまりにも多くの人の運命を狂わせた“悪魔”のガンダム。
ドモン達のいた次元世界で大災害を巻き起こしたデビルガンダム――その姿をしていたのだから。
「何故ここにあるかは知らないが……破壊させてもらうぞ、デビルガンダム!!!」
106
:
王たちの狂宴(前編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 04:53:04 ID:IueVMib20
* * *
「……」
「ドモン、心配しなくてもこの眠り姫は中々強力な魔法がかかってるみたいだよ。
少し手に触れたぐらいじゃ瞼一つ動かさないみたいだ」
それから数分後、そこにはガンダムを調べるジンの姿があった。
折角見つけたお宝を問答無用で破壊しようとするドモンを必死で説得した。
とにかく頭に血が上ったドモンの話を聞き、落ち着かせることに終始した。
その時、ドモンの口から語られたのは未来世紀のある御伽噺だった。
ドモンは語る。一年間に渡るデビルガンダムとの戦いの歴史を。
ある男の野望に利用され幼馴染と共に地球の覇権をめぐる闘いに巻き込まれたこと。
闘いを通じて築いた各国のガンダムファイター達との友情。
悲しい決意に翻弄された師との対決。そして掛け替えの無い友たち、そして愛する女と共に悪魔を倒した最後。
だがその話を聞いたジンはじっくりと、ゆっくりと、懇切丁寧に説得を開始した。
ドモン説得の決定打となったのはやはり現在のガンダムの様子であった。
沈黙を続けるその姿は自己増殖による変異を繰り返すあの悪魔とは似ても似つかない。
それに何よりドモンの右手が、シャッフルの紋章が何の反応も示さないのだ。
そして未だ今一納得できないドモンと完全に我関せずを決め込んでいたギルガメッシュを床上に残し、
軽業師もかくやという動きでコックピットに乗り込んだジンが見つけたのは一冊のマニュアルだった。
マニュアルに書かれていたのは“モビルトレースシステム”による操縦方法と“ガンダム”に課せられた制限について、だった。
まず、制限であるが、通常状態では2時間程度しか活動できないほどのエネルギーしか持ち合わせていないらしい。
自己再生によって永久装置とでも言うべき動力を有しているはずだが、一体どのような仕組みかエネルギーに制限を設けたらしい。
だが……
「最初に入っているエネルギーがそれだけであった……唯それだけの話だろう?
膨大な螺旋力か……それとも別のエネルギー源を手に入れれば良い。
ただ、それだけのことよ」
と、ギルガメッシュの言う通り、何処かからエネルギーを調達してくれれば再起動できるらしい。
その横でマニュアルをじっと眺めていたジンが顔を上げる。
「ねぇドモン。さっき言ってた名前とコレに書かれてる名前が違うんだけど」
デビルガンダム……マニュアルに書かれた名前は“アルティメットガンダム”。
それは暴走する前の、正しい悪魔の名前だった。
そして事実、マニュアルにも全身の構成組織がDG細胞ではなく、アルティメット細胞と表記されている。
つまりここにあるガンダムは本来あるべき……いわば完成品としてのデビルガンダムだというのだ。
「馬鹿な……父さんでも完成できなかった代物だぞ!」
「馬鹿は貴様だ雑種。今更何を騒ぐことがある。
この我を浚う時点で貴様の父などよりよっぽどましな力を持っていることは明白だろう」
「なんだと……!」
「まぁまぁ落ち着きなよドモン。
コレはドモンの父ちゃんが“完成させた世界”から持ってきたものかもしれないだろ?
それにしても……コレだけを見ていると恐ろしい神様だとは思えないね」
107
:
王たちの狂宴(前編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 04:53:27 ID:IueVMib20
見上げるその先には一切の感情を見せないデュアルアイ。
だがジンとてドモンの話を聞いた後ではその無機質な視線の先に空恐ろしいものを感じざるを得ない。
だがもう一人、話を聞いていたはずのギルガメッシュは不遜な表情を浮かべたまま、ガンダムを見据えている。
その表情には恐れも何もなく、ドモンには危険性を理解しているように思えない。
「おい、さっきから聞いているのか貴様!」
「わざわざ耳障りな声で確認するな雑種よ。つまりはこういうことであろう?
暴走した場合贄を差し出せば意のままに操れる、それが女ならばなお良い、と」
だがギルガメッシュとドモンの認識には大きなズレが存在した。
絶句するドモンを前にギルガメッシュの口は止まらない。
「しかし、増えすぎた人類の粛清か……ふむ、実に我好みの道具よ。
螺旋王を断罪した後、我が財に加えるとしよう」
無神経な言葉は唯でさえ苛立っていたドモンの神経を容赦なく逆なでする。
悪魔を人類を間引くだけの道具としてしか見ないその言葉は
地球環境再生の願いを込めた父の、兄の、そして師の思いを辱めるものに他ならない。
「貴様……人の命を何だと思っている!」
「我のものをどう使おうが我の勝手だろう?
雑種風情の指図を何故我が受けねばならんのだ?」
心底不思議そうな表情で尋ねるギルガメッシュの様子を見てジンは思う。
――あ、これはヤバいかもね。
そしてジンの危惧は現実のものとなりつつあった。
若き武闘家は誰が見ても分かるほどの怒気を滾らせ、ギルガメッシュを睨みつけている。
「あのさ……ドモン、一応聞いておくけどさ……穏便に済ませる気はあるかい?」
「断る。キング・オブ・ハートとして……いや、この男には人として灸を据えてやらねば気がすまん!」
「……ギルガメッシュ?」
「所詮は札遊びの王と見逃してきたが度重なる非礼……躾が必要なようだな」
ジンを押しのけて、2人は真正面から睨み合う。
ギルガメッシュは鍵穴に突き刺さりっぱなしだった螺旋の剣を引き抜き、ドモンに突きつける。
108
:
王たちの狂宴(前編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 04:53:48 ID:IueVMib20
「剣を取るがいい雑種。雑種ごときにエアは使う価値も無い。戯れ代りに付き合ってやろう」
「いいだろう……ジン、さっき拾った剣をよこせ。剣においても我が流派が無敵なことを叩き込んでやる」
「……オーケイ。ただしお互い怪我しないようにね……無駄かもしれないけど」
2人の間には漂う濃密な殺気を見てジンは大きくため息をつく。
ジンはディパックから勝利すべき黄金の剣を取り出すと投げてよこすが、その剣を見たギルガメッシュの表情が変わる。
怒り、苛立ちといった表情に。
「その剣……雑種程度が触れていい剣ではないぞ。我が后となるべき女のものだ」
「この剣からは気高さが見て取れる。この剣の使い手が貴様を愛するとは思えんな」
「愛? ハッ、その必要など無い。女にとって我が奪い、犯し、我が寵愛を受ける――それ以上の幸せがあるとでも?」
「……やはり貴様と俺は相容れんな。俺のこの手でその腐った性根を叩き直してやる!」
闘気で世界が塗り変わる。
ドモンは怒りを灯した瞳で、ギルガメッシュは絶対的支配者の瞳で睨みあう。
「その傲慢さ、暴虐ぶり、他人を省みない身勝手さ……全てが俺の癇に障る」
「王に対する礼節の無さ、無恥さ、自身の身の丈を弁えぬ愚かさ……全てが許し難い」
互いに一歩踏み出し、
「それに――」
「何よりも――」
互いの剣が振りかざされ、
「「――貴様の声が、気に食わん!」」
そして2つの刃がぶつかり合う。
重なり合う声と刃同士がぶつかり合う音をゴングに、王の戦闘は開始された。
109
:
王たちの狂宴(前編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 04:54:20 ID:IueVMib20
「はああああああっ!」
気合と共に先制するのはドモン。
ガンダムファイターの身体能力はサーヴァントと比べても決して劣るものではない。
ビルからビルへと飛び回る脚力が地面をしっかりと踏みしめ、爆発的な加速を生み出す。
更に弛まぬ修練がその加速を無駄なく攻撃力に変換し、剣が振るわれる。
対するギルガメッシュは螺旋の剣でそれを受け止める。
だが押される。サーヴァントに匹敵する身体能力と鍛えられた技能は英雄王の才を上回った。
「う……おおおおおおおおおおおっ!!」
気合一閃。
振りぬかれた黄金の剣はギルガメッシュの頬を浅くだが切り裂いた。
雑種の剣に傷つけられた、その事実がギルガメッシュの怒りを一気にリミットまで引き上げる。
「この……雑種風情がっ!」
ギルガメッシュは財によってその実力を発揮するサーヴァントだ。
だがそれは決して財の力だけに頼った雑魚ということを意味しない。
第5次聖杯戦争においては自ら剣を取り、最高位の剣の英霊の猛攻をしのいだことすらあるのだ。
螺旋剣をひねり、黄金の剣を溝に流すようにして突きをドモンへと突き出す。
その一手は攻防一体の妙技。狙われた側が脳髄を撒き散らすのは必定の未来。
だがドモンは雷光のごとき突きを蹴り飛ばし、その必定を書き換える。
常人ならば無理な体勢――だが流派東方不敗にとってその程度の道理は軽く反転する。
ここで激昂し、踏み込めば更なる猛攻がギルガメッシュを襲っただろう。
だがギルガメッシュは愚直な突撃を回避、一旦距離をとる。
彼の本来のクラスはアーチャー。
宝具による絨毯爆撃を得意とするとはいえ、距離をとってのアウトレンジバトルがその本質だ。
そして今のギルガメッシュは慢心しているとはいえ油断は無い。
油断なく互いの出方を伺う英雄王と武闘家。
対峙する2人は共に優れた眼力を持っているが故に、たった一合で互いの実力を見極めた。
「ほう……雑種にしてはやるではないか」
「当然だ。流派東方不敗は王者の風――貴様如きに負けるものか」
「フン、我を差し置いて二度も王を名乗るとは恥を知るがいい雑種。
しかし東方不敗か……あの老人の同類ならば尚更生かしておくわけにはいかんな!」
「!? 師匠を知っているのか!?」
「フン、雑種同士で殺し合いをしておったわ。その後も姑息に潰し合わせるのを狙っていた小物よ」
「!! ……師匠……!!」
知ってはいた。分かってもいた。
だが何度告げられようと、敬愛する師匠が殺し合いを促していると言う事実にドモンの心は軋みを上げる。
しかし蛇の瞳がその隙を見逃すはずは無い。
「ほう雑種、我を目の前に遊ぶ余裕があるのか?」
「――!」
再び放たれる刺突。だがそれは一度で終わらない。
ギルガメッシュの右手から時雨のように放たれる乱れ突き。
攻め手に転じたギルガメッシュは水を得た魚のように攻撃を加える。
それも道理。ギルガメッシュは神話の時代、
キシュを初めとした幾多の都市国家を征服した征服王としての側面を持ち合わせるのだから。
110
:
王たちの狂宴(前編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 04:54:44 ID:IueVMib20
「しかし奇妙な話よな、王者を名乗りながら成す事があのような事とは」
そう言いながら叩き込むのは首を狙う突きの一撃――横に軸をずらし回避。
「うるさいっ! 貴様に師匠の何がわかる!」
返す刃で放たれた斬撃は胴を狙う――スウェーバックで回避。
「いや、分かるとも。あの男、初めて会った時は贋作者や駄犬を甚振っておったな。
弱者を力の限り陵辱する……なるほど、王を名乗る流派とはそういう意味であったのか?」
更に踏み込んで行われる短いスパンでの連続突き――ギリギリのところで剣で受け流し回避。
「貴様ぁあああああっ!」
脳天から振り下ろされる剣の一撃――余裕を持って回避。
「しかしこの程度で揺れるとは!」
額・喉・心臓を狙った三連続打突――軸をずらしカウンターに移――
「だから貴様は――」
だが三連撃の最後の一撃は英霊の腕力によって強引に止められる。
単純、だがサーヴァントのスペックを持って行われたそれは、ドモンに決定的な隙を作り出す。
「雑種だというのだ!」
そして唸りを上げて本命たる左のストレートが振るわれる。
その一撃は武術と呼ばれるほど洗練されてもいない。
だが英霊の膂力で放たれたそれはヘビー級ボクサーのそれに匹敵する。
まるでドモンの盟友、チボデー・クロケットのように鮮烈な一撃を受け、コロニーの格闘王は無残に壁に叩きつけられた。
「王とは即ちすべてにおいて完全なるもの――つまりは我はすべてにおいて頂点に立つ男だ。
それは無手においても決して変わらぬ事実であると知るがいい」
その姿、威風堂々。珍妙な格好さえ除けばまさに人類最古の英雄という名に相応しい。
だがここで最古の英霊に対するは、未来世紀と呼ばれるいつかの未来で世界を救った人類最新の英雄であった。
「――礼を言うぞ。貴様の一撃で頭が冷えた」
ドモンは両の足でしっかりと立ち上がると不敵な笑みを浮かべる。
「師匠がそういう行動に出ていることは分かりきっていたことだ。
もう迷うことは無い。ああ、例え違う世界の師匠だろうと、もう一度拳をあわせ、その目を覚まさせる!
一度出来たことだ……二度できぬ道理など、どこにもないッ!」
その両目には――燦然と輝く螺旋の光。
ギルガメッシュはその光を苦々しい表情で睨みつける。
111
:
王たちの狂宴(前編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 04:55:07 ID:IueVMib20
「我が一撃を受けて立ち上がるか。それもまた螺旋の力の恩恵か?」
「違うな……貴様の軽い拳など、いくら受けたところで俺を倒すことなど出来ん。
ただ、それだけのことだ!」
「……何だと?」
それは以前、衝撃のアルベルトにも言われた言葉。
「貴様は何も背負っていない……そんな軽い拳など俺には効かんと言ったのだ!
そう、共に生き続ける人々を見下しての理想郷など愚の骨頂!
自分を中心に世界が回っていると考えるような、未熟な自分を見せられているようで腹が立つ!」
幾多の友と悪魔の名を冠するガンダムに立ち向かった彼にしてみれば、孤高の王道を行くギルガメッシュの言葉など井の中の蛙の戯言同然。
だがそんなドモンの怒号を軽く受け流し、ギルガメッシュは大げさに肩をすくめる。
「やれやれ……衝撃といい貴様といい、雑種どもの目はとんだ節穴よな」
「何だと? ならば貴様が何を背負っているというのだ!」
「当然のこと――この世のすべてに他ならん」
リンゴが上から下の落ちるより当然のこと、という風に話すギルガメッシュ。
呆気に取られるドモンを無視して、言葉を続ける。
「アレンビーという女のことにしても同様よ。あれは中々見所のある奴だった」
「!? アレンビーを知っているのか」
「道中、我に幾つかのものを献上していった。
その後、船に向かうと言っていたが……“高遠”とやらの名が呼ばれたと言うことはそこで何者かに襲われたのだろう」
「……!」
ドモンの脳裏に甦るのは未だ黒煙を上げる豪華客船の姿。
あの場所でアレンビーは命を落としたのか……!
「さて、雑種の相手をするのも飽きたな。次の一撃で屠ってやることとしよう。
我が手にかかる事を無上の喜びとするがいい」
あくまでも傲慢に振舞うギルガメッシュ。
だがドモンの内部で怒りが高まるほどにドモンの心は静かに落ち着いていく。
112
:
王たちの狂宴(前編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 04:55:25 ID:IueVMib20
息を吸い、吐く。たったそれだけで心は平静を取り戻し、研ぎ澄まされていく。
極意、明鏡止水の心。
心を研ぎ澄まし、無我の境地へと辿り着く。
だが、誰もいないはずのその湖面に誰かが居る。それは見たこともない鎧姿の少女。
その姿は気高く、知らず知らずのうちに同調していた。
――剣は力を持っている。
そして今の自分ならばその力の解き放ち方がわかる。
ドモンは当然のことのようにそれを受け入れた。
湖面の底に渦巻くは静かな螺旋の姿。
知らず知らずのうちに剣を握る手に力が籠もる。
そして剣に宿るは黄金の輝き。その光にギルガメッシュは表情を驚きに変える。
湖面に波紋が広がるように、剣の声が自らの中に響き渡る。
剣が囁くのは唯一つ、我が名を呼べというその一言。
ドモンはその囁きに導かれるままに、唇を動かし、剣を振りかぶる
「勝利すべき(カリ)――」
彼の口から解き放たれるは剣の真名。
ドモンは導かれるままに大きく剣を振りかぶる。
だがその瞬間、赤の弾丸が横からドモンを襲う。
今の今まで事態を傍観していたジンがゲイボルグを投擲したのだ。
とっさになぎ払い事なきを得るが、一歩間違えば……
「ジン、何をする!」
だが目を向けた先のジンはいつも通り飄々とした笑みを浮かべたまま。
「いやいや、ちょっと頭を冷やした方がいいんじゃないかと思って、横槍を入れさせてもらったよ。
ドモン、いくらなんでも灸をすえる――ってレベルを超えてるよ、それ」
「む……」
罰の悪そうな顔になるドモン。
先ほどの一撃をかませば灸を据えるどころか、建物ごと吹き飛ばしていた可能性も否めない。
ドモンは一流の武闘家として、ジンはドロボウとしての直感でそれ感じ取っていた。
さらに先ほどの放送ではジンと行動を共にしていたカレンの死をドモンも聞いている。
どれほどの付き合いかは知らないが、目の前の少年がカレンの死に何も思わないわけが無いのだ。
年下の少年に諌められた、という情けなさも手伝いその矛先を治める。
だが対する黄金の王にはそんな自重する心など欠片もありはしない。
「ほう……我にも指図するか、コソドロの王よ?」
「いえいえ、オウサマに指図だ何てとんでもない。ただ、流麗に振舞うのも王のあり方だと思ってね」
「盗賊風情が我に王のあり方を説くというのか? 身の程を知れ、俗物。
そこの雑種といい……やはり王を偽る愚物には裁きが必要なようだな」
蛇のような粘性の赤い視線と風のような爽やかな黒い視線が交差する。
「――よかろう。なれば王らしく決着を付けるか」
そしてジンに視線を向けると、一言。
「さて盗賊王よ、杯と酒を探してこい。この場所ならばその程度あるだろう」
「おや、パーティーでも開く気かい?」
「馬鹿め。ここから始まるのは宴などではない――戦いよ。
貴様らも王を名乗るのならば、己の格を我に精々示して見せるがいい」
ギルガメッシュは挑戦的な瞳で二人を睨みつけた。
* * *
113
:
王たちの狂宴(後編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 04:56:17 ID:IueVMib20
酒。杯を酌み交わすことで互いの格を競い合う王の戦い。
それは第4次聖杯戦争にて行われた聖杯問答とでも言うべきもの。
だがここに願望機たる聖杯はない。あるのは展示されていた奇妙なデザインの捻子くれた杯だけであるし、
杯に注がれるべき神代の美酒も土産コーナーに鎮座していた安酒だ。
ガンダムの前で名立たる英雄王に対峙するはドロボウの王“王ドロボウ”、ジン。
そして拳の王“キング・オブ・ハート”、ドモン・カッシュ。
「我が杯を受けれぬなどと抜かすなよ。その時点で底が知れるぞ」
「じゃあ御相伴に預かろうかな?」
「……いいだろう」
杯に注がれる酒。
かつてその場を仕切った征服王はここにはいない。
なれば王を名乗る愚か者達の前に、この場を仕切るべきは自分以外にいないのだろう。
王の手を煩わせるとは、まったく愚かしいことだ。
「王は至高にして唯一たる存在……即ち我に他ならん。
螺旋王などという愚物が“王”を名乗るだけで万死に値する」
杯に注がれた酒を一気に飲み干す。
が、酒の味が気に食わなかったのか、眉間に皺を寄せ、杯を握りつぶす。
「――それは貴様らも同じだ。コソドロの王に札遊びの王ということで見逃してきたが……無礼が過ぎる。
故に問い殺す。この聖杯問答でな」
当然の如く殺意を視線に乗せ、そのまま目の前の2人に向ける。
その致死の視線をジンは受け流し、ドモンは真っ向から受け止める。
「――では訊こう。この闘争における貴様らの願いを」
開始宣言代わりの問いかけと共にその視線をドモンへと移す。
「貴様はどうだトランプの王よ」
「決まっている。拳による会話で信頼できる仲間を集め、螺旋王を倒し平和を取り戻す。
それこそが人類の守護者たるシャッフル同盟の、そして俺の使命だ」
人類の守護者……その単語はギルガメッシュにとってそれは比喩でも何でもない。
彼の世界にはそういうシステムがある。だがそれは人の身で為せるものではない。
故に目の前の男は身の程を知らない馬鹿者にしか見えなかった。
「霊長の守護者だと? 人の身でそれを成すだと?
ハッ、笑う価値も無い世迷いごとを……気でも狂ったか貴様」
「俺たちは狂ってもいないし、事実それを為してきた。
人類のが間違った方向に進めばそれを正し、正しい方向へと進むならそれを静かに守り続ける……
それこそが人の歴史と共に歩んできたシャッフル同盟のあり方だ」
当然のことのようにそう答えるドモン。
その顔に溢れるのは先代達への敬意とそれを成したという自信。
だがその答えが本気だと知るや、ギルガメッシュの表情が渋面に変わる。
「……成る程な。我の知る“守護者”とは随分意味合いが違うようだ。
だが貴様のいた世界はよほどの愚か者の集まりだったのであろうな。
人間とは犠牲がなくては生を謳歌できぬ獣の名だということを知らんと見える」
「人の歴史は戦いの歴史……それはシャッフル同盟が誰よりも知っている。
だが人の歴史はそれでも進む。ならば俺たちは人を信じ、その手助けをするまでだ」
それを聞いたギルガメッシュの両の目に浮かぶのは冷徹で冷酷な視線。
即ち、殺意を宿した排除の視線であった。
「世界はすでに我のものなのだぞ? それこそ美しさも醜さもそのすべてが、だ。
それを貴様程度の雑種風情が勝手に物言いをつけるなど……戯言は程々にしておけ」
「その台詞そのままそっくり返すぞギルガメッシュ。
貴様の道が正しいと言うのならばシャッフル同盟が力を貸そう。
だがな……俺の右手が光って唸るのさ。貴様の治世に正義はない、とな」
英雄王の考える完全な統治に影たる守護者は不要。
何故ならば法を定めるのも守るのも、王たる自分自身に他ならない。
またその王が完全であれば、道を正す存在など不要なのだから。
一方でドモンの考える統治に王は無用。
人が手を取り合い、進むべき世界に独裁者など必要が無い。
否、世界を独占しようとする者こそシャッフル同盟が倒すべき敵なのだから。
つまる所、ドモン・カッシュとギルガメッシュの両名は
互いに王の称号を持つもの同士でありながら、世界のレベルで決して相容れることがない存在だった。
114
:
王たちの狂宴(後編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 04:56:34 ID:IueVMib20
「――決めたぞ貴様。光栄に思うがいい、貴様は我が手で惨たらしく殺してやろう」
「ならばこの紋章にかけて迎え撃つまでだ……何なら今すぐにでも構わんぞ」
闘気を高めるドモン。
だが対するギルガメッシュは大きく息を吐く。馬鹿を相手にするのは疲れる、とでもいう風に。
「フン、どうやら貴様は宴の空気も読めぬ真の愚物らしい。まぁ、王ですらないのだから当然といえば当然か。
さて――貴様はどうだ王ドロボウとやら。貴様も我を失望させるか?」
「俺の目的は、この殺し合いを楽しいパーティにすりかえることさ」
そういうジンは殺意の視線を受けてもなお涼風のような表情のまま。
ギルガメッシュはそんなジンの答えに興味深げに頷く。
「ほう……」
「今のままじゃ誰だってきっと楽しく無いだろ? やっぱりパーティは楽しくなくっちゃね」
「当然だ。宴と言うものは快楽の極みでなければならぬ」
大きく同意するギルガメッシュ。
「では、もう一つ聞くとしよう。ジンよ、そのために貴様は何をしてきた?」
言葉が途切れる。それはこれまで自分を貫いてきた言葉。
今まで行ってきた具体的な方策は清麿のために仲間を集めると言う一点のみ。
そしてその結果は結ばれているとは言い難い。
その間、過ぎ去った時間に沢山のものを取りこぼしてきた。
ヨーコ、マタタビ、キール、カレン、ラッド……
沈黙する王ドロボウを前に真紅の双眸が王を名乗る少年の器を見極めんと冷たく見下ろす。
「もう一度問うぞ盗賊王よ……貴様は何をしてきた?
この殺し合いの中でこれだけの時間が経っておきながら、何も出来ていないなどとは申すまいな?」
「……所がどっこい、大掛かりなパーティには入念な下準備が必要でね。今はまだ、仕込みの時期なのさ」
「ふむ、結果が出ていないのも当然とでも?」
「ああ、この仕込みはとてつもなくデカいからね」
「では、そうまでして何を盗む。貴様は盗賊であろう?
料理人には料理人の――盗賊には盗賊の役割というものがある。
それは王も然り。我は英雄王――英雄の王たるものだ。故に英雄らしく振舞う王である。
であれば――コソドロの王である貴様が出来るのは“盗むこと”、それ以外の返答は許されぬと知れ」
その顔に浮かぶのは笑み。
王を名乗る少年を前に、一切の容赦もなく攻め立てる。
だがそれだけの責め立てる意志を受けて――王ドロボウは、笑っていた。
「その通り。ワタクシは所詮しがないドロボウ……盗むことしかできない下賎の者でございます。
だから盗ませてもらうのさ、螺旋王から“このパーティの主催役”をね!」
115
:
王たちの狂宴(後編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 04:56:52 ID:IueVMib20
『悪夢のようなパーティーの主催役
盗ませていただきます
HO! HO! HO!
居眠り中の王ドロボウ』
それは丁度1日前、開始された時に彼が告げた開幕のファンファーレ。
ジンは凪のような少年だ。
ヨーコやカレンが死んだときも、復讐心に身を焦がすことはなかった
ドモンがヨーコを殺した東方不敗の弟子だと知ってもそれは同様。
ドモンに対して憎しみも悲しみも心の中からわいてこない。
長年付き合ってきた相棒のキールが死んだと聞かされた時でさえ、
深い悲しみや喪失感を持ったが、それが他者に対する憎しみに向くことはなかった。
彼とて人の子。他人を信じきれず疑うこともあれば、少し悪趣味なジョークを話すこともある。
だがその芯は恐らく何があろうと揺らぐことは無い。
それは悲しいぐらいに。それこそ見る人が見れば無情だと思えてしまうぐらいに。
だが、揺るがないということは決して諦めないと言うこと。
例えどんなどん底になったって、自分の無力を思い知ったとしても、王ドロボウはあの言葉を覆すことは無いだろう。
それは不屈と言うほど泥臭くなく、しかし確かな光をもってそこにあり続ける。
そして人々はそこに王の資質を見る。
『王ならば不可能を可能にするのではないか?』
そう民衆に思わせる才能――人はそれをカリスマと呼ぶのだ。
かつての騎士王は清廉さを、征服王は豪放さを、そしてこの英雄王は絶対的な自信を持って人々を惹きつけた。
そしてその力を間違いなくこの少年も持ち合わせているのだ。
「……では、これが最後の問いだ。貴様に何が盗める?」
「それこそ愚問って奴だよギルガメッシュ。
何てったって俺は王ドロボウだからね、輝くものなら何だって盗ませてもらうよ。
星だって、月だって……太陽だって盗んでみせるさ」
不敵な笑みを浮かべつつ答えるジン。
その答えを聞いたギルガメッシュは、手のひらに残る杯の欠片を払い、そして――
「クックック……ハッハッハーッ!」
笑った。愉快な見世物を見た子供のように無邪気に笑った。
それも当然か。古代において英雄王ギルガメッシュは太陽神の息子であった。
本人が神を嫌っているとはいえ、天に輝く太陽と同一視されるのはギルガメッシュとしてもやぶさかではない。
つまり太陽を盗むとは言い換えれば太陽の化身であるその自分を盗むと同義。
自らの財を盗もうとした愚か者は山のようにいたが、ギルガメッシュ自身を盗もうとしたものなどいるはずも無かった。
此処までのうつけ者は幾多の記憶を探れども、終ぞ目にしたことがない。
ああ、まったくあの赤外套といい、この世は我を飽きさせることが無い。
「――いいだろう、認めよう盗賊王……否、“王ドロボウ”よ。
蛮勇なる征服の王道とも、あの愚かな滅私の王道とも異なる貴様の異端の王道を」
ここに奈緒……いやギルガメッシュを知るものがいれば驚きに目を見開いたであろう。
彼が他人を認める――それがどれだけ珍しいことであるかを。
だがそこで言葉を切ると獰猛な笑みが浮かばせる。
「だが王道はこの世に一つで良い。時が来れば我が王道にて誅すとしよう」
「じゃあその前にあんたの財宝を盗んで、眼の前からオサラバさせてもらおうかな」
「クックックッ、まったく口の減らん小僧よ。
だが許そう。やれるものならやってみるがいい、王ドロボウよ」
ギルガメッシュの中で結論は出た。
判決は共に死罪。ただし抱いた感情はまったくの正反対だったが。
視線を再度ドモンに向ける。
「故にそこな狗、刑務所までひとっ走り伝令をこなすが良い」
「誰が狗だ!」
「貴様など雑種以下の狗で十分だ。だが狗畜生でも伝令を伝えるぐらいは出来よう?
『聖杯の遺言ゆえ協力はしてやろう。だが我を縛れると思うな。我らは施設を探る。
変わりに我が臣下たるナオを置いていく。丁重に扱うがいい』、とな」
あまりにも身勝手な物言いに、再び臨界点まで上がりかけるドモン。
だがジンがいつもの笑みを浮かべ、2人の間に入る。
「ドモン、行ってきなって。こっちはこっちで何とかするからさ。
あ、できればスパイクたちにもそう言っておいてくれないかな?」
つまりジンは『この王様は自分が抑えておくから、後を頼む』と言っているのだ。
――確かに、それが得策か。
目の前の金ぴかに掲示板代わりに使われるのに思うところが無いわけではないが、
ドモンとて数時間前に別れたカミナの様子も気になるし、新たな仲間と会うのはドモンとしても願ったり叶ったりだ。
116
:
王たちの狂宴(後編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 04:58:37 ID:IueVMib20
「……分かった」
ドモンはそれだけ言い残し、弾丸のように飛び出していった。
そして機械仕掛けの神の膝元には黄金王と王ドロボウの2人が残される。
「さて……あの狗はここから出るまで気付きはせんだろうが、貴様はそうではあるまい?」
失望させるなよ? と言った顔つきで少年の顔を見るギルガメッシュ。
ジンも答えるように薄い笑みを浮かべ、その疑問に答える。
「まぁ、ね。クジラの体よりも大きい腹の中ってのもおかしいし、
そこで波音一つ、心臓の音一つ聞こえないってのもおかしな話だよね?」
それが確信に変わったのは、ギルガメッシュに言われるままに杯と酒を探しにこの部屋を出た時。
部屋を出た途端いきなり響く大騒音と震動に窓に駆け寄ったジンが目撃したのは、
町を、建物を破壊しながら巨大な蛇と龍が争う姿だった。
紫の蛇は見たことがある。この博物館に入る時に遠目に目撃したからだ。
だがその時ギルガメッシュは2人に向けて、
『何、蛇曰く“愛の境地”だそうだ。気にすることは無い』と視線を向けることすらせず博物館の中へと進んでいったのだ。
(ちなみに“蛇曰く”の部分は『黒猫だから動物とでも話せるのかな?』とジンは割り切った)
だが、紅蓮を纏う龍は初見だ。その力はあまりにも圧倒的。
吐き出される炎弾はビルを溶かし、その巨体を紫の蛇とぶつかり合わせている。
それは先程よりも近く、下手すればこの博物館にも当たってしまいそうだ。
だが思い出す。
街がここまで壊されていると言うのに、自分たちは先程までそれを感じていたか?
――答えはNO。
あの2人の戦いは剣戟と2人の問答以外の音は一切聞こえていなかった。
さらにその前まで思い起こせば、博物館に入った後に感じていた蛇の暴れる音は?
思い起こせばあの部屋に入った瞬間に音も振動も、その全てが消えている。
そしてジンは一つの推測を立てた。
先程のギルガメッシュの落ち着き払った態度。隠し部屋に入った途端消え去った物音と震動。
つまり、この博物館――いや、この部屋には特殊な仕掛けがしてあるのではないか、と。
そしてそれは事実その通りであったらしい。
ギルガメッシュはディパックを手に取り、講釈を始める。
「この部屋は空間がずれている。この袋の技術の応用といったところか。
例え外へ何があろうとここには物音一つすらすまいよ」
空間がずれる。ジンにはそれが想像も出来ないものの、ただ不思議なものとして受け入れる。
「ねぇ、このアルティメットガンダムを起動させたらここはどうなると思う?」
「当然結界は破れ、サイズから言ってその瞬間この建物ごと崩落するであろうな」
つまり防御が欲しければこの機械を起動することはかなわず、逆にこの力が欲しければこの安全地帯を破壊するしかない。
完全なる二者択一、というわけだ。
「やれやれ、なんとも意地悪な送り主だね。
センスのいい包装紙を破らないととびっきりのプレゼントを手に入れられないと来たもんだ。
あ、そういえばナオって誰だい? お友達かい?」
「ナオはここに来て我が配下に加わった新たな臣下よ。今は別行動を取っているが、中々優秀な臣下よ」
だとしても先程のドモンへの伝言といい、目の前の王様はよほど“ナオ”に信頼を置いているらしい。
(一体どんな奴なんだろうね、こんなつつくと暴発しそうなポルヴォーラみたいに危険な王さまに信頼されるなんて。
……機会があれば一度会ってみたいかな?)
そんなジンの感想などそ知らぬこと。
黒猫の王様はガンダムへの興味をなくしたように視線を外す。
「さて行くか王ドロボウ。時間が惜しい、貴様の“仕込み”とやらも時間が残されているわけではあるまい」
「そうだね……ってあれ? コイツはどうするんだい?」
「これほどの大きさ、この袋に入るわけもあるまい。
更に数時間程度で木偶の坊になるようなものなど今は足枷にしかなりはすまい。
それとも王ドロボウ……この場で瞬時に盗んで見せるとでも言うのか?」
117
:
王たちの狂宴(後編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 05:00:37 ID:IueVMib20
ジンもお宝ならば盗もうと思っていたが、このお宝はあまりにも巨大すぎる。
王ドロボウとて盗むには、それなりの準備が必要なようだ。
だが、ジンは思う。
もしかしてこの空間はお宝を守るための罠ではなく、封印するための檻ではないのかと。
ドモンは言っていた。この機械は天から地に落ちたショックによって悪魔に狂ってしまった、と。
ならばこの会場において変質しないという保証など何処にも無いのではないか?
「……ねぇギルガメッシュ。こいつがドモンの言うとおり、とんでもない悪魔だとしたらどうするつもりだい?
あと放っておく間に誰かに取られる可能性も高いと思うんだけど?」
「その時は我がエアで断罪するまでだが、何か問題はあるか?」
誰がどう聞いても慢心そのものの台詞を吐いて踵を返す王様の後を、ため息をつきながら追うジン。
王様の最後は足元を掬われるものと相場が決まっているのだ。
「……そういえば施設を回るって言ってたけど、何処へ向かうか決まっているのかい?」
「ほう、そう言うからには貴様にはいい案があるようだな」
「まぁね。そこにもコイツに負けず劣らずのお宝が隠されてるかもしれないしね」
「よかろう。ではそこに向かうとしよう。案内するがいい」
ギルガメッシュは一度も振り返ることなく部屋を出て行った。
だがジンはこの場所を去る前にもう一度、頭上に陣取る無機質な顔を見上げる。
見上げるそれは邪神の像か? それとも救いをもたらす機械仕掛けの神様か?
だがそれは如何な王であってもきっと分からぬことなのだ。
民に王の心が分からぬように、王にもまた神の心など分かりはしないのだから。
118
:
王たちの狂宴(後編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 05:01:19 ID:IueVMib20
【D-4/博物館/黎明】
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING×2(1個は刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式
予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿
、ゲイボルク@Fate/stay night、短剣 、瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
1:ギルガメッシュに付き合って施設を回る。とりあえずはデパートの地下空間。
2:ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
3:ニアに疑心暗鬼。
4:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
5:マタタビ殺害事件の真相について考える。
6:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※スパイクからルルーシュの能力に関する仮説を聞きました。何か起こるまで他言するつもりはありません。
※スパイクからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。今の所、他言するつもりはありません。
※ルルーシュがマタタビ殺害事件の黒幕かどうかについては、あくまで可能性の一つだというスタンスです。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、 慢心、ただし油断はない
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、クロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃん
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん、偽・螺旋剣@Fate/stay night
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
1:デパートの地下にあるという“お宝”を財に加える。
2:その後、刑務所へ向かう。
3:“螺旋王へ至る道”を模索。最終的にはアルベルトに逆襲を果たす。
4:北部へ向かい、頭脳派の生存者を配下に加える。
5:異世界の情報、宝具、またはそれに順ずる道具を集める(エレメントに興味)。
6:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
7:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
8:全ての財を手に入れた後、会場をエアで破壊する。
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですがエアを手に入れたので、もう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留の所有品について把握しています。それらから何かのアイデアを思いつく可能性があります。
※ヴァッシュたちと情報交換しました。
※ジンたちと情報交換しました。
【アルティメットガンダム@機動武闘伝Gガンダム】
暴走する前のデビルガンダム。地球再生を目的に作られた巨大ロボ。
ただし螺旋王による改造により、エネルギーに制限が加えられている
初期状態からの活動限界は2時間程度。
(戦闘などによるエネルギー消費が増えると活動時間が短縮される可能性アリ)
今のところU細胞によって『再生するガンダム』以外の意味を持ちません。
なお外見はデビルガンダム第1形態に準拠。
119
:
王たちの狂宴(後編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 05:02:17 ID:IueVMib20
* * *
ドモンは走る。
ただひたすらに、北東の方向へ。
建物を出たドモンがまず驚いたのは入る前と一変した周囲の様子だった
博物館の前あたり、多くの建物が倒潰し、炎上している。
博物館に被害こそないものの、周囲のビルが溶け崩れる様は異様の一言。
それほどの騒ぎがあったにしては物音も震動もしなかった気がするが……そんなことはどうでもいい。
彼の胸中にあるのはジンから託された自分の使命のみ。
北東の卸売り市場を目指し、最短距離――屋根の上を一直線に邁進する。
だが目的地――卸売り市場に近づいてきたところでドモンの足が止まる。
「何だコレは……!」
ドモンの目の前に広がるのは“全てが吹き飛ばされた”としか言えない光景。
大爆発が起ったのか? 竜巻が発生したのか?
そこは卸売り市場の殆どを巻き込み、一切合財が破壊されていた。
その中心部に男の影を見たドモンは、拳に力を込める。
「おい、そこのお前! ここで一体何が――」
だが、その言葉は途中で途切れた。
何故ならばその男は何処からどう見ても死んでいたからだ。
左手に葉巻を持ち、髪をボロボロにしながらスーツ姿の男はすべての生命活動を停止していた。
だがその表情は安らぎ、誇り高い。
この男は全てを出し切り、そして散ったのだ――恐らくは一人の戦士として。
ドモンはその姿に敬意を払い、わずかに黙祷を捧げると先を急ぐために踵を返す。
が、そこで視界の隅に赤い色が入る。
瓦礫の中、一際異彩を放つ赤い髪。
そこには瓦礫に包まれるように一人の少女が倒れていた。
「くっ……おい、無事か!」
瓦礫の奥底から引っ張り出せば、その体には生命の熱があり、息のある証拠として薄く胸も上下している。
だが何とも酷い怪我だ。
全身に執拗に加えられた打撲――特に顔の怪我は一際酷く、鼻と頬骨が折れている。
まるで数十人に囲まれて私刑を受けたかのようだ。
この少女が暴行を受ける様を想像してしまい、不愉快な想像に苦虫を噛み潰したような表情になる。
何にせよ、とりあえず意識を取り戻させないことには……
呼びかけながら軽くゆする……と、少女はうっすらと瞼を開けた。
「金……ぴ……か?」
だがそう呟くと、安心したように微笑み、再び気を失った。
「お、おい!」
だが何度呼びかけても目を覚ます気配は無い。
とにかく、このままではまずい。どこかで安全なところで傷の治療を――
「なっ……!」
だがその瞬間、大地が低く静かに震動した。
そしてドモンは目撃した。目指す刑務所の方から一つ目を持った巨大な球体が浮かび上がってくる様を。
ゆっくりと浮上するその様は夜明けの太陽を髣髴とさせる。
だがその色は闇よりも深い黒。即ちすべてを滅ぼす破壊の色。
徐々にせり上がってくる球体からドモン達を見下ろすのは一つ目。
どこかあの悪魔のガンダムを思わせるような、邪悪な意思が籠められた何か。
少女をこのまま放置すると言う選択肢は存在しない。
だが、刑務所にいるという面々を放っておくことも出来ない。
(――どうする? どうすれば、いい?)
2日目に突入した悪夢。各地で巻き起こる数々の戦乱。
そして浮かび上がるのは黒い太陽。
事態は、風雲急を告げていた。
120
:
王たちの狂宴(後編)
◆DNdG5hiFT6
:2008/04/27(日) 05:02:37 ID:IueVMib20
【B-5南部/道端/2日目/黎明】
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に中ダメージ、すり傷無数、疲労(中)、明鏡止水の境地
[装備]:カリバーン@Fate/stay night
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
0:少女を治療する……だが何だあの物体は!
1:カミナたちを探しながら、刑務所に向かう。
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:傷の男(スカー)を止める。
5:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する。
6:言峰に武道家として親近感。しかし、人間としては警戒。
7:東方不敗を説得する。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュのこれまでの経緯を把握しました。
※第三放送があった事に気が付いていません。
※清麿メモについて把握しました。
※螺旋力覚醒
【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:気絶、疲労(特大)、右手打撲、左手に亀裂骨折、力が入らない、
全身に打撲、顔面が腫れ上がっている、左頬骨骨折、鼻骨骨折、更に更にかがみにトラウマ
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考]
基本方針:とりあえず死なないように行動。
0:…………。
1:ギルガメッシュに言われたとおり、刑務所へ向かう。
2:柊かがみ(inラッド)に非常に恐怖。
3:静留の動きには警戒しておく。
4:何故、自分はチャイルドが使えないのか疑問。
[備考]:
※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
※ドモンの発した"ガンダム"という単語と本で読んだガンダムの関連が頭の中で引っ掛かっています。
※博物館に隠されているものが『使い方次第で強者を倒せるもの』と推測しました。
※第2、4回放送を聞き逃しました。
※奈緒のバリアジャケットは《破絃の尖晶石》ジュリエット・ナオ・チャン@舞-乙HiME。飛行可能。
※不死者についての知識を得ています。
※ヴァルセーレの剣で攻撃を受けたため、両手の利きが悪くなっています。回復時期は未定です。
121
:
寄せ集めブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:20:53 ID:im2jZJf20
『C-5-南部-ヒューマノイド・ホーセス』
あらゆる物を疑ってかかること、それが重要だ。
情報なんてしょせんは情報。自分の目を見開いて、耳をかっぽじって聞き、そして自分の脳を使って考えること。
すべてを疑いつくした後に、やっと何かを信じられるんだ。そう、信じるために疑うんだ。
俺はそーゆーのが好きなんだよ……しかし、しかしだ。
これは一体何の冗談だ? これって前にもあったよな?
急に周りの世界がパーっと変わっちまって、気がついたら見たことも無い光景が広がってる。
いわゆる神隠しってヤツを俺はすでに一回やってるんだ。
昨日は、確かリードマンに付き合わされて、川沿いを歩いたんだよな。
で、ラーメン屋に行って温泉入って襲われてチャーシュー食って、ようやく事の重大さに気がついたんだったな。
じゃあそれからの俺は、どうだった?
消防車でぶらりと散策して、焼肉食って……いやいや、もっと大事なことがあっただろ。
仲間の死を乗り越えながらも、昔の因縁にケリをつけたじゃねえか。
そいで腕利きの奴らと取引して、この異世界から脱出する算段を立てているはずだったんだ。
「――GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNNNNNNNNNNNNNNN!!! 」
だったよな?
あそこで大暴れしてるドラゴンと八岐大蛇は、一種のアトラクションだよな?
ようやくこの状況に順応し始めたってのに、今度はあれを相手にしろってのか。
あんなの最初はいなかったよな。あんな馬鹿でかい物を見逃すはずがない。
なぁ誰か教えてくれ。こいつはまさか――また別の世界に飛ばされたってことなのか?
違うよな? 俺の脳みそはまだヨーグルトになっちゃいないよな?
周りの景色が全く変わっちゃいない。これはまやかしだ。落ち着け。
さぁ目を閉じろ。瞑想するんだ。今、リーの概念で動かなくてどうする。
丹田に気を集め腹式呼吸によって雑念を吐き出せ。
俺はスパイク・スピーゲル、心の師はブルース・リー、嫌いなものはガキと動物と跳ねっ返りの女。
考えるな、感じろ。あらゆる物を柔軟に取り入れる『水』になるんだ。
よし、さぁ目を開けるんだスパイク。大丈夫。今度こそお前の目には、真実が映っているはずだ。
「――ふぅ、危なかった。ありがとう兵隊さん。ここまで来れば大丈夫……あれ? 」
……大丈夫じゃ、ねぇ。
不思議な不思議な妖精さんがもう2匹増えちまった。
こりゃなんだ。目を一回閉じるごとに2匹プラスされるってのか。笑えない手品だぜ。とんだパレードだ。
どっからどうやって現れたんだ?
それに首輪をつけたこの女(同属か? )はともかく、後ろのオモチャはなんだ。
モノシステムを使った最新機器にも、時代遅れの骨董品にも見えねぇ。
こいつはいわゆる『異世界モノ』ってやつなのか?
「始めまして、シータといいます。こっちは私の兵隊さん。空も飛べるんですよ」
……最近のガキは大層なオモチャを持ってんだな。つまりそいつに乗ってここまで来たと。
へぇ、中々どうして不公平じゃねぇか。
か弱い少女にはお抱え運転手つきで、貧乏賞金稼ぎにはシケモクの恵みすらくれないのかい。
っつーことはあのファンタスティックな怪物たちは、俺と同じ立場か、それとも誰かの用心棒か。
あの名簿の82名は、全員が人とは限らないってことか? まぁ……猫もいたしな。
そういやヴァッシュ・ザ・スタンピードが言ってた藤乃静留の蛇ってのはまさかあれの事か?
話に聞いていたよりずっとデカイんだが……まさか、な。
■ ■ ■
122
:
寄せ集めブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:21:17 ID:im2jZJf20
『B-5-南部-タイフーン・ファンク』
薄々はわかってたさ。
それほど長い付き合いではないけれど、僕は僕なりにアイツのことを知っている。
馴れ馴れしいほど親しみを押し付けてくるくせに、一瞬でドライになる。
だけどアイツがドライに入る時。それはアイツが自分に目を背ける時。
本音を押し殺して、勝手に限界を作って、現実主義を気取ってこっちに見せつけてくる。
こっちが悲しくなるくらい、アイツは虚ろなフリをするんだ。
「友達? あんたコイツの仲間ってこと? ……へぇ〜なんか意外」
「コラぁトンガリぃ! なんやその『助けに来たよ』的な顔は! 救いのヒーローにでもなったつもりかい、こんアホンダラァ! 」
HAHAHA怒ってる怒ってる。でもそれでいいんだぜウルフウッド。それが本来のお前だ。
ガサツに振舞って罵声を浴びせて激昂するほうがよく似合ってる。やっぱり熱い男なんだよ。
嬉しいな。
またこうして馬鹿騒ぎができることが、僕には夢のようだ。
これまで100年間、やれるだけのことをやってきた。
それでも救えなかった時の悔しさを、僕は全部覚えている。お前が死んでしまった時の僕は、本当に項垂れていたよ。
神様。ああ神様。お願いです。
僕の知ってるアイツが一度死んでいることを、今だけ忘れさせてください。
僕はニコラス・D・ウルフウッドと――共闘(たたか)いたいんだ!!
「おいトンガリ。コイツの相手な、お前に任せるわ」
……あれ?
「コイツん名は柊かがみ。ただのイモくっさいガキしか見えへんけどな、騙されんな。
どんだけ銃弾食らわせても刀でぶった切ってやっても死なん"不死身人間"やで。
それもグレイ……GUN−HOーGUNSのナインライブズみたく種も仕掛けもあらへん。
何をやっても体が再生してまうんや。正直、ロストジュライの力を使ても始末できるかどうかもわからん。
雷泥……あの侍と遣り合った時にかました大砲ならヤれるかもしれんが、お前はあれ使いとぉないんやろ?
結論。俺にはとても始末に負えんからパスさせてもらうわ」
え、え、え。
「信じられへん、と言いたそうな顔しとるな。せやけどホンマや。
おそらくコイツを殺す手立ては2つ。1つは完膚無きままに完全消滅させること。頭部も心臓もまとめて全部な。
もう1つは禁止エリアや。螺旋王が言うっとったの覚えとるか? 禁止エリアに入ると俺らは粛清を受ける。
つまりこの"実験〟のルールに当てはめてヤれっちゅうことやな……が、今の状況では厳しい」
いや、そうじゃなくて。
「禁止エリアはこっから大分離れとる。おまけに今のこいつには銃弾はまるっきし効かん。さっき見とったやろ?
こっちは一応種も仕掛けもあるんやろけど、原理がわからん。とにかくタマを文字通り弾いてしまうねん」
「どう考えてもこの関西弁男のほうが不利ってわけ。ってか普通にそれぐらい見てるでしょ常考」
「茶々入れんなやアホ。誰が好んで"解説君〟するか。こっちはもうボロボロやぞ。
え〜バッター、ニコラス・D・ウルフウッドに代わりましてぇ〜人間台風〜ヴァッシュ・ザ・スタンピードぉ〜〜」
あ、右手を挙げてこっちに近づいてくる。タッチしろっていう選手交代のサインかな。
いや頼ってくれるのは嬉しいけどさ。でもちょっとそれはないんじゃない?
あのさ、僕さ、すごく期待してたんだよね。ニコラス・D・ウルフウッドくぅーん。
君と僕の絶妙なコンビネーションでさぁーあの女の子をさぁー説得するっていう作戦がさぁー。
ぜーーーーーーーーーーーんぶパーじゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
「……トンガリ? 」
やっぱりだめだ。
ああ神様。どうやらコイツには説教が必要みたいです。
■ ■ ■
123
:
寄せ集めブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:21:36 ID:im2jZJf20
『B-5-南部→北部-Black Egg And I』
……ハァ、ハァ……きっつー。
ちょっと走ったくらいでこんなに息があがるなんて冗談じゃないわよ。
不死者になっても疲れるってのが理解できない。
だってそうでしょ。世の不死身キャラはたいてい完璧超人ばっかじゃない。
そりゃ油断して死ぬオチが多いけどさ、基本はHurry!hurry!叫んで暴れまくる無敵キャラなわけで。
『不死身なはずのあいつがまさかの死亡確認!』ってのが言わば最高の見せ場なのよね。
その名場面はさ、そいつがチートキャラであればあるほど良いに決まってる。
――不死身キャラクターが息切れってダサくない?
そんな事を話したら、アイツらはこぞって言い返してくるんだろうなぁ。
『わかってないなぁかがみん、だがそれがいいんじゃないか』とか『でもあたしは息切れもアリだと思う〜』とか。
……友達、ねぇ。
あのツンツン頭と関西弁男が何をどうやったら知り合いになれるのかしら。
『説教だ! 』とかわめきながら、ツンツン頭が関西弁男の手を引っ張って逃げ出したときは驚いたわね。
ツンツンどころかデレデレじゃん。その手の話にもってくつもりはないけどさー……ぶっちゃけキモい。
ああ問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。あんたら国籍すら違うんじゃないんかと。
そんなに仲良くなれるシチュエーションでもあったんかと。杯でも交わしてんのかと。
「止まれ! 不死身の柊かがみ!! 」
!? え? 今、あたしのこと呼んだのは……え、あれ?
あの男、よね? 見るからに暑苦しそう。なんかわけのわからないこと叫んでるわね。
多分、後ろでこそこそしてる――結城奈緒ちゃんに色々吹き込まれたんだろうけど。
でも変ね。あの男の声、なんか微妙に聞き覚えが有るような無いような。
ま、いっか。
あんた達を相手にしてる暇はないの。アタシはあのツンツン頭と関西弁男を逃すわけにはいかない。
さっき2人が卸売り市場の中に入っていったのはわかってる。でもここからじゃ中は見えないのよね。
「お前はあの謎のガンダムについて何か知っていることはないか! もしそうなら話だけでも聞いてくれ! 」
うるさいわねぇ。ガンダムって何のこ……ってちょ!?
黒っ! デカっ! この世界にはあんな物まで用意されてるっていうの?
あれ誰か乗ってるの!? 不死の酒といい次から次へと何でも出てくるわよねー。
「や、やめなよ。こんな奴に構ってる時間はあたしたちには無いんだし、関わらない方がアンタのためだよ」
はいはいどうせ私は空気の読めない人間ですよっと。
あんなに酷い目に合わせたのに、減らず口は相変わらず天下一品ねぇ。
「どうしても“あれ”の事が知りたい? でもアンタたちには教えてあーげない」
なーんてね。あたし実は知ってるんだ。あの黒い大きな球が何のために存在する物なのか。
あの黒い球体は、おそらくその作戦に使われる予定だった“大怪球フォーグラー”ね。
アルベルトが私に話してくれた地球静止作戦。幻夜というエージェントが考えた、大規模なテロ行為。
その作戦の中核を成すのが、あのロボットなのよね。
でも、どうしてここにあるんだろ。っていうかあれ本物なのかしら……あたしも直接見たわけではないし。確証はない。
そもそも螺旋王はあたしたちにあれをどうしろっていうのよ。
壊せっていうのなら流石にカンベンしてほしい。あれが壊れたら我らがBF団が困っちゃうんだからさ。
どうせ壊されるくらいなら、むしろ持って帰りたいんだけどね。
ま、子猫はとっとと尻尾巻いて逃げなさい。どのみち最初からアンタたちの話なんて聞くつもりはないから。
「お前はこの状況に何とも思っていないのか!! 今は己の私利私欲のためだけに動くべきではない。
貴様も螺旋王を討伐が目的ならば、俺たちは私怨を捨てて互いに協力すべきだ!」
ま、いっか。地球静止作戦はアルベルトもあんまり乗り気じゃなかったみたいだし、本物かどうかもわからないし。
しばらくしたら、もう一回見に行って、様子を調べてみようかな。
最終的に螺旋王を食べてしまえば、あの大怪球のシステムの制御方法も得られそうだからなー。
どうせもっといい作戦思いつくでしょ。後回し後回し。
「お前のことは奈緒から全て聞いている! だからこそあえて問いているのだぞ!?
仲間の死を越えてなお、お前が優先するものはなんだ!奴――衝撃のアルベルトの仇討ちか! 」
――――半分、当たり。
124
:
寄せ集めブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:21:53 ID:im2jZJf20
『C-5→B-5-上空-ラピュタ・ジャズ』
良いことの後には必ず悪いことがきます。世の中ってバランスが取れてますよね。
最初は兵隊さんに乗って、卸売り市場へひとっ飛びするつもりだったんです。
兵隊さんの飛行スピードなら、禁止エリアだって突っ切ることも可能ですから。
でも、まさかあんな近くで巨大な怪獣さんたちが暴れているなんて……。
もう少しで兵隊さんが破壊されてしまうところでした。すっごく危なかったです。
このままだと禁止エリアに停滞せざるをえなかったので、海沿いを遠回りをして進みました。
「言峰綺麗……お前の言う神父には、まだ会っちゃいねえな」
でも今度は着陸の瞬間をスパイクさんに見られてしまって……これじゃ奇襲どころではありません。
ストラーダのように一瞬で近づくことが出来ない『兵隊さんならではの作戦』を立てないといけませんね。
そしてこれからは誰かと遭遇してしまった時のために、もう少しよく考えるべき、と考えました。
例えばスパイクさん。
まだ色々とお話していないのですけれど、私の目標を話したとして、あの方は協力してくれるでしょうか?
ルルーシュさんたちのように価値観の不一致で済ませれる程度の問題なのですが、あの人はとっても強い人です。
充分に利用価値があります。私のために動いてくれるのなら実に頼もしい。
みすみす手放すのも勿体無い話です。
海に突き落としてあげたはずのニアが生きている以上、私と仲が悪い人をこれ以上増やすのは大変です。
だって彼女が誰かと徒党を組んで、よってたかって私をいじめてきたら。
それこそ『数の暴力』で責められたとしたら、余計な気苦労も増えてしまいます。
一応、言峰神父からもう一度令呪をいただいて全員殺せば済む話なんですけれど。みなさん意外と強いんですよね。
「だがアジア系で妙な訛りの牧師なら知ってるぜ。おそらくエドを殺したのはそいつ、ニコラス・D・ウルフウッドだ」
だから、私以外の人にも協力してもらって、憎むべき相手を殺してもらおうと思うんです!
何という偶然。何という幸運。やっぱり神様はいるんだわ。
ロボットの兵隊さんに、カウボーイのおじさま!
どうして神様はこんなにも私に優しくしてくれるのでしょう。
そうです。これは天罰なんです。
神様の名の下に使えるはずの牧師が人を殺してしまったら、報いを受けるのは当たり前です。
――え? 怪獣の側に人がいないか聞かれなかったっかって?
さぁ、どうでしょうか。見ていたとしても、スパイクさんには話しませんよ。
彼には一刻も早く、私のために動いてもらいたかったから。
「シータ、このまま卸売り市場に乗りこんじまおう。ウルフウッドは北へ向かった。ここで休んでるかもしれない」
くすくす。ようやくエドの敵を討てるかもしれません。
ごめんねエド。待っててね。今、兵隊さんに乗った私たちがそっちに向かって飛んでるから。
着いたら必ずお参りしてあげるね。ウルフウッド牧師がいたら、一緒に謝らせて、エドの目の前で復讐するからね。
くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす。
ウルフウッド牧師、出ておいで〜♪ 出ないと目玉をほじくるぞ〜……♪
■ ■ ■
125
:
寄せ集めブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:22:12 ID:im2jZJf20
『“B-5-卸売り市場”-①-Waltz for Wolfwood』
「ウルフウッド、君ちょっとここに正座! さぁ言いなさい、何があったんだ」
なんやかんやでまたここかい。3歩進んで4歩下がるって感じやな。
あーキモいキモい。今更ここで何を聞くっちゅうねん。
愛と平和についてか? 主義の違いについてか? 俺が生きとる理由か? 知るかボケ。
いきなりここに呼ばれて人殺しただけや。どうせ聞いてもいつもと全く変わらんぞ。
大体な、こんなやりとり今まで何べんお前と繰り返したかちゃんと覚えとるんか?
ワイが誰かを屠ってお前がケチつけて水掛け論して喧嘩して飲んで笑って……もうオチまで見えてもうたぞ。
「少なくともあの女の子の恨みを買うような事は、したんだな? 」
はい正解よくできました。わかっとるやないけトンガリ。
俺の目をじっと見てみ。お前と俺の付き合いや。察しれるよな?
……やっぱこの世界でも変わらんのやなぁ。相変わらず人の心に土足で上がりこんでずけずけ抜かしよるか。
ま、伊達に長く生きとらんわな。あがいてあがいてあがき続けることが、お前の戦いやもんなぁ。
何があっても綺麗ごとしか言わん。綺麗ごとで生き抜こうとしとる。
お前が何年生きとるか知らんけど、信念をずっと貫いとるスタンスには呆れの言葉しか出てきぃへん。
うらやましいでホンマに。
師匠を殺さずに倒したあの時、忘れたくても忘れれんわ。
確かに、俺は満足しとった。
人は人を殺さずに争いを終わらせることができるんだ。こんな俺でもやればできるやないけ! ってな。
でも、後悔もしとった。
勇気を振り絞った代償が命やなんてあんまりやないか。あいつらが帰りを待っとる。俺はまだ死にとない! ってな。
俺の人生はあの時、終わってもうたんや。
簡単には死ねんお前には、この気持ちは一生わからんやろな。
それでもお前は言い返すんやろ。『でも君は生き返った! またやり直せばいいじゃないか! 』とか。
「――その通りよツンツン頭。そいつはね、アタシの友達の頭を撃ち殺したの。アタシ“も”めちゃくちゃフルボッコにされたわ」
アホ。だったら俺はなんやねん。ポーカーの手札かい。
『ブタだから捨ててやり直しだ。なに、次はきっといい手札がくるさ! 』か?
ええ加減にせぇよ! ゲームと一緒にすなホンマに!
俺のあの1回目の人生は、2回目を差し出されるくらい安っぽい人生だったんか!
毎日毎日葛藤し続けて生きてきた俺の生き様は、やり直しのチャンスを与えられてしまうくらい格下かい!
主よ! 神は人の前では皆平等やろが! こんなサービスを期待して俺は不殺を貫いたんやないぞ!
確かに俺は死にとぉなかった! 体中の力が抜けていくあの時、悔しくて悔しくてしょうがなかった!
もし今度生き返ったら、トンガリやあの保険屋の娘たちとのどかな暮らしを……とも思っとった!
けどそれは全部不可能な話やと思っとったからや! 最後の最後にちょっとばかし覚めない夢、見とっただけやぞ!
「――そして俺と彼女の仲間をこの場所で惨殺したそうだ。おそらく他にもやってるんじゃないか? 」
「スパイクさん! 」
「事情が変わった。今の俺は賞金稼ぎじゃないぜ。ウルフウッド・被害者友の会のメンバーだ」
「ウルフウッド! 逃げ……おい! 」
人は必ず最後に死ぬ。
その終わりを知ってるからこそ、人は頑張れる。
1回こっきりの人生とわかっとったから、俺はあん時全てを覚悟して腹をくくれたんや。
ありえへん妄想を描いて現実を認めたくない自分が、俺の中にはおった。
だから、志半ばで死んだ事を受けられる自分も、俺の中にはおった。
自分の本音を何にするのかは本人の問題。ウルフウッドの気持ちはウルフウッドが決めなあかん。
突き立てた牙も突き立てれへんかった牙も自分のうちや。
「何ボーっとしてるんだウルフウッド! しっかりしろこの野郎ぉ! 」
だから、俺はここで見境なく暴れまくった。
やり場のない怒りに、身を任せた。その結果がこれや。
冷めた目をして見下す男と女と何かよくわからんデカ物が合計4人、仇討ち目的で俺らを取り囲んどる。
主よ。
どや? 2回目もつまらん人生送ってるで? スマンがもう1回手札切りなおしてくれるか。
……なんてな。言ってみただけや。
今さらそんなサービスくれるんやったら、休むことなく俺に『死ね死ね』言わんわな。
ホンマさっきから何回言うねん。もうええ加減慣れたぞ。
■ ■ ■
126
:
寄せ集めブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:22:54 ID:im2jZJf20
『“B-5-卸売り市場”-②- LIVE in Blackmarket』
両手を思いっきり広げて、地面にくっつける。おでこは擦り付けるように下げるのがコツだ。
猫背にしてお尻を高くあげればもう最高。体を震わせるとなおいいぞ!
強烈な視線を感じるけど気づかないフリ気づかないフリ。とにかく全力で頭を下げるんだ。
スパイクさんは悪い人じゃない。ああは言ってるけど、良識のある人だ。
「……土下座して何になる、ヴァッシュ・ザ・スタンピード」
「そやでトンガリ。らしくない真似はやめろや」
ひいいトーンが低いよスパイクさん。やっぱり怒ってる。顔は見えないけど怒ってる。
ウルフウッドめ、お前のためを思ってやってるんじゃないか!
まさかよりによってスパイクさんの仲間を殺しちゃってたなんて。なんて運が悪いんだよお前は!
いや、殺したことを正当化しているわけじゃないぞ。僕だって本当はお前を叱りたくてしょうがないんだ。
でもさ、ここで僕が相手をしないとあの人たちマジでお前を殺しにかかるのかもしれないんだぞ!?
この世がラブ・アンド・ピースなら、みんな手を取り合うべきだ。誰も死ぬべきじゃない。
それ以前に争いなんてするべきじゃないんだよ!
「俺はお前たちに全部情報を話しちまった。だからこれ以上他の仲間を危険に晒すわけにはいかないんだ」
「スパイクさん、こちらの眼鏡の方も黒ずくめの方の仲間なんですか? 」
「……こっちはヴァッシュ・ザ・スタンピード。ただの人間じゃない。元賞金600億の男だ」
やめてやめてスパイクさんやめて。そこの女の子、怖がってるじゃナイデスカ。
そりゃ懸賞金は事実だけど、僕はいたってどこにでもいる普通の男なんです。
「で、よってたかって俺らを殺すっちゅうんか? 両手に花こさえてのぉ。いい気なもんや」
「まずはお前が先だウルフウッド。殺したことに対して自責の念は、無いんだよな」
「フン。おどれは害虫始末するときに一々あやまっとんのかい」
「そうさ、俺は優しい男なんだ。だからごめんな害虫くん」
127
:
寄せ集めブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:23:23 ID:im2jZJf20
やめてやめてスパイクさんやめて。らしくないよあなたのキャラじゃないよ。ウルフウッドキレかかってるよ。
あなたはもうちょっとクールで渋い方がイイデス。っていうかお願いします。
どうしよう。何とかしなきゃ。何とか時間をかけてゆっくりと皆と和解を……そうだ!
「スパイクさん、僕と勝負していただけませんかっ!? 」
「勝負して何になる。お前の賞金になんざ、興味はないぜ」
「お金じゃありません。賭ける物は、ここにいるお馬鹿なウルフウッドの命です!!
知っての通り、僕は誰にも死んでほしくありません! ウルフウッドを含め、ここにいる全員にです!
どんな事情があれ、この場に僕がいる限り、僕はあなた達を止めます! この程度の修羅場なら慣れていますから!」
「……お前を殺せば、誰も俺たちを止めるやつがいなくなるから、か。割りに合わないんじゃねぇのか? 」
……スパイクさんから殺気が消えた? 困惑しているのかな? でもいいや。迷ってくれているのなら、狙い通り!
少しでも彼らが悩んで時間を稼いでくれるのなら、どんな下手な言い訳だってついてやるさ!
さて、今のうちに何か上手い妥協案を探し――
「良いわよ。アタシは賛成。さっさとアンタを殺して、あのウルフウッドに目に物見せてやりたいし」
「このロボットの兵隊さん、私が命令すれば容赦なくあなたに襲い掛かりますよ? 」
「……と、いうわけだヴァッシュ。慣れてんだろ、せいぜい頑張れよ」
あ、あれ?
やるの? マジで?
「良かったなぁトンガリ〜ほんなら俺は遠くで見守っとるでぇ〜」
「待てよウルフウッド。賞品を逃がすわけないだろ。こっちで大人しくしてろ。
妙な素振りを見せたらヴァッシュの頭が吹き飛ぶことになるぜ」
「別にええでぇ〜せやけどあんまりトンガリにかまけとるとなぁ〜害虫がこの娘を食ってまうぞぉ〜」
え、え、ちょっと。
ウルフウッド、お前いつの間にシータちゃんの喉下に剣突き立てちゃってんの!
わわわスパイクさん、落ち着いて落ち着いて!
「ウルフウッド、その剣を降ろしてもらおうか」
「どうせ死ぬんなら、ここらでもう1人くらい殺っとかんと死ぬに死ねんなぁ。
ハッ! しれっとしとるけどよう言うわ……もう一丁持っとるくせに。さっさと俺とトンガリの両方に銃向けんかい」
どうなっちゃってるの?
えと、ウルフウッドはシータちゃんを人質に取ってるから動けない。
で、シータちゃんは剣を喉下に押し付けられて喋れないから、ロボットは動かない。
スパイクさんはウルフウッドと僕に2重の威嚇をしてるわけだから、勿論動けるはずがない。ってことは――
「一番手はアタシってことか。いいでしょ。3対1ってのもこっちが悪者みたいだし。さっきの続きって考えれば妥当な選択だわー」
……不死身の柊かがみ、か。
ウルフウッドが言っていたタチの悪い相手だ。
どこまで不死身なのか、その定義はなんなのかはわからない。銃弾も効かないんだっけ。
よっぽどのことが無いと戦闘不能にはならないだろうなぁ。
「あんたの勝ちはどうするの?」
「君を100回ダウンさせたら、でどうかな?」
「ダメ、200回」
本当のところはすっごく好都合なんだけどね!
■ ■ ■
128
:
寄せ集めブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:24:06 ID:im2jZJf20
『“B-5-卸売り市場”-③-N.L.(Norman's Land) Rush-』
というわけで、ゲームの始まりだ。
ここからは俺、スパイク・スピーゲルがなるべく俺なりの解説を加えて、状況を説明させてもらおう。
いずれあいつ等と対峙する事を考えると、思わぬ収穫があるかもしれないからな。
左、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
身長はおよそ180cm、体重は40……いや、軽すぎるな。筋肉のつき方が尋常じゃない。
上半身も下半身も締まりに締まって、余分なところが全てそぎ落とされている。
相当の鍛錬と修行を積んできた証拠だ。
小刻みに踏むステップ、リラックスしたような構えを見る限り、我流のようだが隙が見当たらない。
相当の場数と経験を積んでいる証拠だ。
これほど完成された腕利きを、俺は見たことがない。
それなのにどうしたものか、奴の体からはステロイド系の人工的な香りが全くしない。
右、不死身の柊かがみ(自称)。
身長は約160cm、体重は……野暮だな。
見たところ服装以外は特に目立った特徴は見られず、その辺にいる少女と変わらない。
構えは悪くないが、素人臭さが抜けていないな。戦闘に入れば、否応なしに我流で戦わざるえないだろう。
問題は、“不死身”という事実か。
俺は不死身じゃないから、アイツの手の内が全くわからないが、フカシでは無さそうだ。
あの自信にあふれた両目を見ればわかる。『絶対に自分が負けるはずが無い』という意思がはっきり読み取れる。
ま、ヴァッシュが年月を重ねて醸造されたウィスキーだとすると、かがみは差し詰め何種類もの安酒を混ぜに混ぜたカクテルだな。
――お手並み拝見といこうか。
「私はね! この場所に! 呼ばれてから! 不死身になったの! それまでは! ただの! 女の子だった!
……ハァ、最初にここで出会った人、誰かわかる? このスカーフの持ち主なんだけど!
双子の妹よ。殺されてた! あたし、その時『不死の酒』を見つけたのよ。無我夢中で飲んだわ」
「妹さんのお墓は立ててあげたのかい」
「後で! 戻ったら! グチャグチャに! されてたわ! 首だけ持ってったけど! それも! 失くしちゃった! 」
「短い間にズイブンと穏やかじゃない人生を送ってきたんだね」
「どう!? 少しは! 同情してくれるかしら! でもね、そんなアタシにも! できたのよ! 友達が!
きっちりしててね! 不死身になった! あたしの事を! 受け止めて! くれる子だった! 」
「その子を殺したのがウルフウッドか」
「ええ。ゴキブリを始末するように、アタシ達に一発づつ。でも、アタシは死ななかった。
そしたらね、ウルフウッドはあたしが不死身と知ったせいか、見境なしに乱暴してきたの。何度も何度も叩き潰された。
不死身とはいえ女の子なのよ? 女の子にとって顔と体がどんなに大切かわかるでしょ! 」
129
:
寄せ集めブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:24:23 ID:im2jZJf20
……こりゃ予想以上の泥試合になりそうだ。
人間台風はひたすら不死身の攻撃をかわしてすたこら逃げるだけ。
駄目だな。拉致があかない。北風と太陽の童話を思い出すぜ。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードは少しでもウルフウッドの寿命が長引かせるのが狙いだからな。
このままだと、82人中、俺たちだけが生き残るまで続くぞ。やっぱり意地でも一番手を譲るべきじゃなかったか。
だが俺が今すぐヴァッシュとウルフウッドの頭を打ち抜く、ってわけにもいかないんだよなぁ。
さすが600億$$だぜ。『俺とシータとウルフウッドの素振りも同時に』気にしてやがる。
妙な真似をしちまったら、それこそ弾丸の無駄になるな。
「あたしが! こんな思いをしてるのに! あんな! 人間のクズが! 何とも! ないなんて!不公平じゃない!
放っておけば! 犠牲者は! もっと増える! あたしのように! 傷つく子は! もっと出てくる! 結論→殺す! 」
「……だからさぁ」
不死身も不死身だぜ。
攻撃の手こそ休めないが、荒削りすぎる。剣術は完全に素人の振り方だ。
だが、何よりも引っかかかるのは奴自身も手加減をしているという点だ。
一体全体どういうつもりだ? 本気を出さなければ勝てない相手だってのはわかってるはずなのにな。
だが出さない。本気を出そうとしない。ギリギリのところで力をセーブしている。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの殺意はあるのに、あと一歩踏み出そうとしない。
ヴァッシュの奥の手を警戒しているというより、『自分が本気を出すこと』を恐れている。
何故だ? 不死身人間が持つ、不死身以上の切り札ってなんだ?
「きゃあっ!? 」
「そうゆー生きていい奴とかそうでない奴とか、そうゆーのを勝手に決めつけちゃだめだ。ハタクぞ」
おっ、1ダウン。
いや、向こうがヴァッシュの銃撃をガードして勝手に尻餅ついただけか。
……あの女、銃弾通じないのか? 不死身ってそういう意味なのか?
■ ■ ■
130
:
寄せ集めブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:24:45 ID:im2jZJf20
『C-5-中央部-The BLack EGG and YOU-』
「大丈夫か! 傷は浅いぞ!」
あたしが目を覚ましたとき、あいつがいた。
赤いハチマキなびかせて、熱風とともにやってきた。
金ぴかと声が似てるようで微妙に違う男、ドモン・カッシュ。
凄く、暑苦しくて、正直住む世界が違う気がする。最初はそう思っていた。
金ぴかの仲間ってことで事情を説明して、刑務所に向かう途中まではね。
偶然にもあの不死身の柊かがみに遭遇したときのことよ。
かなりビビッたわ。
だってアイツの相棒である衝撃のアルベルトが死んだってのにさ。澄ました顔してんだもん。
泣いた感じもなかったしさ、なんつーか薄情ってやつ?
あ、いやいやアイツのことなんてどうでもいいんだ。
今は別のことを話したかったのよ。
『お前はあの謎のガンダムについて何か知っていることはないか! 』
そうそう、ガンダム。ドモン・カッシュが学校でも叫んでた謎のフレーズ。
そりゃ聞きたくもなるわよ。そう連呼されたら気になってしょうがないじゃない。
……聞くべきじゃなかったのかもしれない、と後悔したのはその15分後だ。
「ガンダムは、正真正銘俺たちの世界では無くてはならないものだ。良くも悪くも、な」
信じられない。金ぴかの言ってたことがマジで現実味を帯びてきた。
昨日何の気なしに学校で読んだ本に書かれていたこと――ガンダム。
あんな御伽噺のような話が存在していたのだ。それも、別の世界で。
本当の意味でアタシとドモンは住む世界が違っていたのだ。
しかも、ドモンは既に金ぴかたちと博物館で別のガンダムを見つけてしまったらしい。
マジで!? あんなのがあと何体この場所に隠されているっていうの?
もうチャイルドとかオーファンで太刀打ちできるレベルじゃないんじゃ……なんとかしなきゃマズイ。
「おそらくはあの黒い球体もガンダムの一種。誰かが俺たちより一足先に、見つけてしまったんだろう。
今すぐにでも搭乗者と接触を図るべきだ。俺たちのように正しき心を持つ者が乗っていなかったとしたらだ。
――ガンダムはただの兵器と何ら変わりはない! その時はキング・オブ・ハートの名にかけて、破壊させてもらう! 」
でももっとなんとかしなきゃマズイのはこの男だ。
金ぴかと正反対の熱血一直線。あの金ぴかが良く一緒にいられたもんだ、と感心したくなるくらいの正反対ぶり。
そもそも破壊するとかどうやって? 他のガンダムは博物館にあるんでしょ? 生身でやれるわけないし。
でもこいつはこのままだと間違いなく刑務所へ行く。そして多分アタシも連れてかれる。
『お前と合流し刑務所に向かうと伝えた』とかすごい勢いで語ってきてる。正直しんどい。
第一、アタシまだアンタから完全に治療をしてもらってないんですけど……最初に言ってたこと忘れてない?
■ ■ ■
131
:
寄せ集めブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:25:12 ID:im2jZJf20
『“B-5-卸売り市場”-④-コメンタリィ・ブレイン・スクラッチ-』
試合ってのは実に奥が深い。
体、リーチ、筋肉のつき方、性格、リング、天候。あらゆる要素が折り合わさって勝敗がつく。
かつて俺の心の師は言った。
『私は格闘技をやっているのではない。私が私自身を表現するための手段として修練をつんでいるのだ』
彼にとっては、それはあくまで物事の本質をつかむ為の手がかりに過ぎなかったのだ。
自分の行動がジークンドーと呼ばれることすら手放しで喜ばなかったという。
俺は今、師の言葉をつくづく痛感している。
数分前に俺が泥試合と切り捨てたこのカードが、いよいよ現実味を帯びてきたからだ。
「まだ続けるのかい。この程度じゃ僕は死なないぜ」
「ならアンタが死ぬまで続けるわよ」
そもそもきっかけは些末なことだった。
剣を振り回していた不死身が、バッグに剣を入れて、代わりにコルトガバメントを取り出し2発撃った。
ウルフウッド曰く、自分が落とした物らしい。つまり奥の手として隠し持っていたわけだ。
だが拳銃使いに素人が拳銃で戦おうなんざ、10年早い。
その場にいる誰もが、そう思っていただろう。
しかし奴だけは事情が違った。
撃った弾をよければ、その弾が後ろにいる『俺たち』に当たってしまうから、と奴は言った。
銃弾で弾くこともできるけど、ここで弾を無駄遣いすれば『俺』との対戦時に困るから、と言った。
早い話――ヴァッシュ・ザ・スタンピードはあえてガバメントの銃弾を受けた。
誰も殺させない、という答えを聞いたとき、俺は間違った解釈をしていた。
あの恐ろしい視線は、俺たちを威嚇するための物ではなかった。
やつにとっては、俺もシータも不死身の柊かがみも救いの対象だった。
2、3度話を聞いていたものだから、俺はすっかり奴のことを知ったつもりでいた。
しかしこいつは、本物だ……本物なんだが。
「トンガリ、何をちんたらやっとんねん! 適当にボコッてさっさと199回ダウンさせろや! 」
「わかってるさ。でも銃が効かないんだからね。殴ってもあんまり意味がないんじゃない?
足止めにはなるけど、ノックアウトして始めて1カウントなんだろ? これは骨が折れるなぁ〜♪ 」
「……やっぱお前最初っから時間稼ぎしか頭にないんかいアホ! ホンマ相変わらずカラッポな頭しとるなぁ!! 」
「君がいいアイディア思いつかないのに僕が思いつくわけないでしょアホ! 誰も死なないようにするにはこれしかないよ。
スパイクさん、シータちゃん、君に気を配りながら、逃げまくるのすっごく難しいんだよ! ……あー喋ちゃった」
「とっくにバレとるわ! ほんなら俺とお前の2on3でやったほうがよっぽどマシやったないけ! 」
「スパイクさん僕たちより銃持ってるし、お前もボロボロでパニッシャーもないんだからどうせ役に立たないよ!」
「なんや、俺はパニッシャーがなかったらただの牧師かい! ほんならお前は賞金稼ぎよりも弱い人外やな! 」
「ああそうですよ。どうせ僕は賞金稼ぎに背後を取られる、女の子もやっつけられないヘボ台風ですよーだ! 」
なんだか話がこんがらがってきた。
一応、無効試合として状況を整理してみよう。
ウルフウッドがシータに剣を突きつけている。その相殺として俺がウルフウッドに銃を突きつけている。
その前方でヴァッシュが陣取り、俺たちに危害が及ばないようにしている。銃の弾は充分にあるが温存中。ただし誰も殺さない。
その更に前方で不死身の柊かがみがヴァッシュに銃を突きつけている。
ウルフウッド曰く銃弾はおそらく残りはゼロ。不死身の柊かがみにヴァッシュを殺せるはずもない。
三竦みとはちょっと違うが、これ以上の進展は望めないだろう。
俺が非情になってヴァッシュとウルフウッドを撃つのが一番いいんだろうが、シータを巻き込みかねないしな。
ガキと動物と跳ねっ返りの女は嫌いだが、何の罪もない奴を殺すのは、俺の性に合わない。
「おお? なんやねん嬢ちゃ……!? 」
とか何とか考えていたらシータが右手で不死身の方を指しだした。
言葉を話せないようにされてるから、俺は指された方向を見るしか手が無いん、
「ハハ、ハ……これ、は、キツイ、ね」
!?
なんだ。何があった。
ま、さか、まさか……冗談だろ?
俺がシータとウルフウッドを見ている隙に、決定的な一瞬があったっていうのか。
この観客2人はそれほど信じられないものを見たっていうのか!?
……何がなんだかわからないが、全ては終わっちまったらしい。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードが、ダウンした。
■ ■ ■
132
:
寄せ集めブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:26:10 ID:im2jZJf20
『B-5-卸売り市場→上空-ハード・ラック・スター・ウーマン-』
最初は気のせいだと思っていた。
アルベルトが死んだ後、憂鬱な気分で葉巻を吸った後。
私は、たまりにたまったディバッグの中身を全部整理し直した。
大事なもの、武器になるもの、使えないもの、なんだかよくわからないもの。
次々と出てくる道具の山は、おもちゃ箱をひっくり返しているような気分だった。
その時だった。
私がディバッグから取り出していないものが、いつの間にか自分の足元にあったことに気がついたのだ。
取り出すには重すぎる、“あの”英雄王ギルガメッシュの黄金の鎧。
別に必要ってわけでもなかったけど、捨てる理由も見つからなかったから、とっておいた無用の長物。
それがいつの間にか外に出ていた。
拾おうとしてもやっぱり重い。取り出すことに気づかないはずがなかった。
その謎の答え。あたしにはもうわかっている。
念じると現れる謎の穴。その穴からは、ディバッグに入ってるものが任意で射出される。
物が空間から弾丸のように自在に飛び出す、不思議な現象だった。
(衝撃の……この力、あんたが貸してくれたの? )
原理はまったくわからなかったが、そう思うようにした。
ギルガメッシュもこの力を使っていたのを、私は覚えている。
つまり、彼に勝利したアルベルト。アルベルトを倒してしまった私、という風に受け継がれていく力だと納得した。
空間とバッグの間を繋ぐ門(ゲート)のようなもの。
この世界には、アタシの知らない魔法やシステムが沢山存在しているから。
深く考えたってわかるはずもないのだから。
「その娘を離してやれウルフウッド。この場で今すぐお前の命を奪おうとするやつなんざ、そこの女以外にいないさ」
もじゃもじゃ頭と連れの女の子がヴァッシュ・ザ・スタンピードにかけよって心配している。
ウルフウッドは、呆然として立ち尽くしていた。
少女を解放したということは、人質がいてもアタシが容赦なく襲い掛かることをわかっているようね。
それとも、友達がアタシなんかに敗北するはずがないと、よっぽど信じ込んでいたのかしら。
でも、おそらくソイツ助からないわよ? アタシが持ちうる限りの刀剣を全部飛ばしてコイツにブッ刺してやったんだから。
でも馬鹿な男よね。拳銃で防ぐなり避けるなりすれば良かったのに、後ろのアイツらのために盾になったんだから。
「酷い怪我!! スパイクさん! 」
「いや、意識はある。問題は胸と腹部に突き刺さった刃物の束だ。」
「なんとかならないんですか!? 」
「……“これぐらい”じゃ死なない自信があったんだろう。傷だらけの体がそれを物語っている。
拳銃を使わなかったのも、こいつが今までに潜り抜けた“修羅場”とやらで培ってきた……勝負勘のせいだろうな」
……ちょ、生きてんの?
こんだけ叩き込んでやったのに!? まさかこいつも不死者……は、無いか。出血が戻ってない。
でもあの体中の傷は何なのだろう。ダブダブの赤いコートを着込んでいた理由は、その傷を隠すためだったのね。
誰も死なせないとか訳のわからない事を叫んでいたけど、口だけじゃないってことか。
でもコイツはしばらく戦えないわね。
もじゃもじゃと女の子がロボットに乗せようとしてるけど、果たして何分もつのやら。
……ちょっと何あのロボット、空も飛べるなんて聞いてないわよ? あたしにはフラップターがあるけど、便利そうね。
133
:
寄せ集めブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:26:28 ID:im2jZJf20
「シータ、とりあえず安全なところまで運んでやってくれ!」
「わかりました! お願い兵隊さん! 」
ま、これで不死身の柊かがみは晴れて賭けに勝ちましたので、ブツを戴かせてもらいます。
ざまあみろニコラス・D・ウルフウッド。少しは思い知った?
アンタの自称お友達が、アタシの手によって無残にも戦闘不能にされた今のお気持ちは?
アンタがアタシにやったことを、そっくりそのままやり返された心境は?
「……お前の勝ちだ、不死身の柊かがみ。良かったな」
もじゃもじゃ頭が相変わらずの寝ぼけ顔でアタシに近づいてくる。
何よ? もしかして加勢させてくれってこと? でも駄目よ。
この賭けはアタシとヴァッシュ・ザ・スタンピードの勝負なんだから。
アンタがアタシと一緒に戦わなかった時点で優先権は私にあるんだからね?
「ええ、ウルフウッド復讐の権利はアタシがGET。文句無いわよね? 」
「ああ。いや、今日は実にいい日だ」
「……アンタの出番は無いわ。そこで黙って見てなさいよ」
「いや、それがそうもいかないんだ。アイツも賭けに勝っちまったんでね」
「だから黙って見てろって言ってん……アイツ? 」
「ニコラス・D・ウルフウッドもヴァッシュ・ザ・スタンピードが負けるほうに賭けてたんだそうだ。
ところがBETを出しすぎたんで配当金が足りないんだよ。
ディーラーの俺としては、どうにかして、アイツに全額分のもうけを支払ってやりたい」
はぁ……アンタがディーラー? いつからそんな決まりになったの?
どうして? ウルフウッドも勝ち? BET? 配当金? 不足分?
言ってる意味がわからない。ウルフウッドは賭けなんてしてないじゃない。それってどういう――
「だから不足分の金額を、お前の命で埋めさせてくれ」
もじゃもじゃ頭の顔つきが、変わった。
自分の拳銃をアタシの額に押し付けている。
ええと……つまりこういう事よね?
――こいつは寝返った、と。
■ ■ ■
134
:
寄せ集めブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:26:45 ID:im2jZJf20
『???-???-Digging My Geranium-』
…………何処だ……ここは……?
何も見えないし、真っ暗だ。
いや違う。
見えているけど、周りが暗い。
暗いのに見えてるんだ。どうし――
『まだ、夢を見ているのか』
君は! どうして!!
『言ったはずだ。君の信念は立派だが幼稚で傲慢だと。
本当にギリギリの場所では、そんなものなぞクソの役にも立たない。世界はそれ以外のもので動いている。
あれほど思い知らせてやったというのに、君はまるでわかっていない。
僕を殺しておきながら、君は相変わらず馬鹿なことをやっている。反省の色がない』
やめてくれ。
『だが、それでいい。そのままそうやって偽善を振りまき続けてくれ。
君が自分の主義を貫けば貫くほど、“僕を殺した事実に見て見ぬフリをして聖者を気取る”、という矛盾が大きくなる。
君はあの時、選んで折れたんだ。折れてしまった以上、もう主義を語る資格なんざ存在しないんだ』
わかってる……わかってるんだ。
『いいやわかってない。わかったと言い聞かせているだけなのさ。
今のヴァッシュ・ザ・スタンピードは我々と同類。“殺し”で解決させてしまう男だったんだよ。
哀れだね。綺麗事と痩せ我慢で己を蝕み続けるなんて。
君が長い間作り上げてきた愚かな幻想に巻き込まれ死んでいった者たちは、今の君を真っ直ぐに見ているのかな?
君の愛と平和がどれだけ欺瞞だったかを知らずに、“この地”で死んだ者たちは、昔の君を知ったらどう思うかな? 』
……あ、あ、あああぁ……!?
レム! ウルフウッド! 先生! ランサーさん! クロ! クアットロさん!
戴宗さん、ドーラさん、シロウ君、イリヤちゃん……みんな………………!!
『君が悪いんだぞ?』
やめてくれ! わかってるんだ、それでも……
『続けるのか』
違う! 続けなきゃいけないんだ。
約束したんだ。命の灯を1つでも多く助けるって。
絶対に立ち止まらないって俺は誓ったんだ。
救えなかったとしても、救うことを諦めてはいけないんだ!
『それでも、何一つ終わりにしないと足掻き続けるのか。みっともないほど』
ああ、そうさ! それでも、それでも僕は諦めきれないんだ!
だって……だってあの時も、あの時もあの時もあの時も!
死んでいったみんなは……
僕の目の前で……生きていたみんなは……
優しかったんだ……
135
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:28:35 ID:im2jZJf20
『“B-5-卸売り市場”-⑤-Rush-』
「冗談キツイわよ。何なのアンタたち」
率直な意見を1つ、言ってやった。
人をのけ者にしておきながら、勝手に盛り上がっているコイツらに。
やれ自分が守る、やれ自分が殺す、やれ自分が守る、やれ自分が殺す。
「事情が変わった。今の俺はウルフウッド・被害者友の会のメンバーじゃない。
ウルフウッド・被害者友の会メンバー兼、不死身の柊かがみ被害者友の会メンバーだ」
全く意味がわからない。
こいつらはどこまであたしの同志で、どこまで敵なのか。
でも、さっきよりは話はよりシンプルだ。
ウルフウッドは私とこのアフロに狙われていて、私はアフロに狙われている。
つまりアタシは、アフロを気にしながらウルフウッドを殺すだけ。
別段難しい話じゃない。BF団がこのくらいの危機を、乗り越えられないでどうする。
「そのまま一発撃ったところで、アタシは殺せないわよ」
「やめとけよ。ガキは妙な自信を一回つけちまうと、周りが見えなくなるもんだ」
「あんまりアタシを甘く見ないほうが身のためって言ってるの」
「お前はただのガキじゃないって言うのか?」
「不死者よ!! 」
アタシはヴァッシュを仕留めた『門』の力を使って、所持していた大量の貴金属アクセサリを撒き散らす。
擦れあう金属音とひしめきあう金属の破片がアフロとウルフウッドの視界を奪っていくはずだ。
案の定2人は腕を交差し、目を隠す。アタシはその隙を突き、シルバーケープで闇に紛れた。
穴が開いた時はどうしたかと思ったけど、特に異常なく使えるみたい。
あの2人はアタシを完全に見失っているみたいだから。
フフフ、しばらくは身を隠して、じわりじわりと追い詰めてやろうかし――なっ!?
「おぉぉうらったあぁあ!!」
……ウルフウッドが持ってた剣でケープを大きく切り裂いた。
当然、アタシの姿は完全にあらわになり、完全に無防備。
隙だらけは現在も進行中。でも、アタシには銃弾は効かな――ちょっ!?
「短い隠れん坊だったな」
信じられない。てっきり銃を使うものだとばかり思っていたのに。
アフロは一気にアタシとの距離をつめて……えと、これなんだっけ。
確か、香港映画なんかでよく見る、合気道みたいなヤツ。名前は忘れちゃったけど、とにかくの腕をつかんで投げ飛ばす技。
無意識な状態でやられると、この手の技は簡単に視界がひっくり返る。
当然、アタシには受身を取れる技術もなく、しこたま頭を地面に打ち付けられた。
でも何で居場所がこうも簡単に……あ。
しまった。アタシとしたことが、うっかりし過ぎだ。
あの2人はアタシがばら撒いた貴金属を撒き餌代わりにしたのか。
自分たちはアクセを踏まないようにしておいて、アタシが勝手に踏んで自爆するのを待ってたわけね。
いきなり動いたから、最初からわかってたと勘違いしちゃったわ。失敗失敗。
「おう、“不死身”で良かったなぁ」
「“甘く見ないほうがいい”だって? ――ガキはみんなそう言うんだよ」
136
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:29:02 ID:im2jZJf20
何よ、アタシだって本気を出せば戦闘力3倍4倍は当たり前なんだからね!
そりゃ、『ラッド』に自分を染め上げるのは怖いから……まだ、フルには使えないけど。
けどこれではっきりした。
こいつらに小細工は通用しない。下手に誤魔化しても時間の無駄。
この均衡は、アタシの不死と魔法の障壁があってこそ。
経験も慣れも何もかも向こうが上。『ラッド』を使わない限り、とても対等には戦えない。
「……けったいなイメチェンやのぉ」
「お色直しとは余裕だな」
うっさい。
アンタ達だって喋ってる暇があったらとっととかかってきなさいよ。
変身シーン待ちのヒーローアニメじゃないんだからさ。
ま、それが出来ないからこうして手をこまねいているんだろうけどね〜……はぁっ!?
「1人は休憩だそうだ!」
「なら俺らは本番と行くか!」
? ? ?
どういうこと!? あの2人、アタシをほったらかして勝手に始めちゃった。
な、何よあの動き。怪我でフラフラだったんじゃないの!?
べ、別に大したことないんだから……ごめん、やっぱすごい。
アフロはウルフウッドに紙一重で正拳をかすらせてるし、ウルフウッドはアフロの体すれすれのところに切りかかってる。
パッと見だれでもできそうな動きなんだけど、『ラッド』の“経験”がそう言ってる。
こいつらアタシが全力を出さないと遣り合えるレベルじゃない、『ラッド』を使え……って。
考えてみれば、アフロは拳銃を一回もウルフウッドに抜いてないし、ウルフウッドは拳銃を持ってない。
この時点ですら、まだ2人は全力全開ではないのだ。
「こんダボ!カス!モジャモジャ!! 一体おどれはどっちの味方やねん!」
「言ったはずだぜ。俺はどっちの味方でもあり敵でもある……あとは成り行きだ」
……闘りたい。やってみたい。
こいつらに問答無用で襲い掛かってみた――いやいや、何を考えてるんだアタシは!
ここで『ラッド』の力を易々に出せば、また私は私でなくなる!
まず、アタシとしての力を使いきろう。
落ち着いて2人の隙を狙い、ローラーブレードで高速移動、そしてアタシの左籠手を叩き込む!
目標はどっち“も”! アフロはアタシがウルフウッドしか狙っていないと考えている可能性は高い。
正直、それすらも読まれているような気もするけど……えーいままよ!
「あのトンガリに義理でも感じとるんか!」
「アイツのような男の代理人も、たまには悪くない。お前を許すつもりは全くないがな! 」
「――――(今だ! 開け、門!)」
私の合図で、バッグにまだ入っていた残り全てのアクセサリーが飛ばされる。
アフロとウルフウッドの間を割り込むように進む金属のミルキーウェイが、アタシのカタパルトだ。
今、履いているこのローラーブレードはとってもタフでどんなオフロードでも走行が可能なのだ。
だから私は、あえて貴金属を飛ばした後を追うように、進む。
不死身の柊かがみは、貴金属の音を出さないように警戒している、という心理の逆をつかせるのだ。
(いける! もう少しで奴らの懐に飛び込――あれ? )
やっぱり駄目でした。
アフロにあっさり足払いをされ、アタシはみっともなく転び顔面をうちつけてしまった。
「どうして……あたしの襲撃が? 」
「いや、高速で近づいてきたんだから、足を止めればいいだけだろ」
「難しく考えすぎや。脳みそが足らんのにええ加減気づけ」
……納得いかねえ!
137
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:32:40 ID:im2jZJf20
「ん?そこに落ちてる赤いの……もしかして、“テッククリスタル”なんじゃないか? 」
「なんや、恋人の落し物かい」
「今のアクセサリーの山のドサクサで一緒に出てきたんだろうがな……どうしてお前がこれを持ってるんだ? 」
「さあね、女の子には秘密がいっぱいなのよ。それよりアンタたち、一体何者――」
「ま、これは慰謝料ってことで俺が預かる」
いやいやいやいや納得いかないんだってば! さらっと流さないでよ!
腹が減ったから食事したみたいな扱いされたら、こっちがあまりにも惨めじゃない!
そんな真っ赤なクリスタル、欲しけりゃくれてやるわよ。
えーと確かそれって、『ラッド』が調子に乗ってた人外を仕留めた時の戦利品よね。
「……赤いな」
「……真っ赤っ赤や」
「そんなの見なくてもわかるわよ。ま、アタシは使わないから別にいいけどアンタそんな物どうするつもり? 」
「「いや、そうじゃなくて」」
アフロとウルフウッドがあたしの後方を指差す。
2人ともキツネに摘まれたような顔をして、なんなのよ。
まるで空からお姫様でも降ってきたっていうんじゃないでしょうねー、
いや赤っ!?
赤い。
赤が、刺さってる。
真っ直ぐで細い赤の線が、あたし達から少し離れたところで天井から床に伸びている。
セキュリティでよくありそうな、赤外線センサーみたいな奴かし――な、な、な、天井が崩れた!?
よ、よく見ると地面も結構破壊されてるじゃない!
え、え、じゃ、じゃあ、あの赤い線はこの建物内に延びている物じゃなくて、空から差し込んでいる破壊光線ってこと!?
「……こいつはヤバイ」
アフロかウルフウッドのどっちかが呟いた気がするけど、あたしはあいつ等を無視してディバッグを漁る。
取り出すものはラッドが操縦していたという飛行船、フラップター。
こんなこともあろうかと、ちゃんとディバッグに回収しておいて良かった!
「あ、おどれ卑怯やぞォ! 待てやこんボケぇ……!」
ウルフウッドの罵声も無視して、フラップターは猛スピードで卸売り市場を翔る。
ここを突っ切れば入り口を抜ける。天井の瓦礫からは、逃れられるわ。
ともかくこのビームの雨から一刻も早く脱出しないと、アタシも無事ですまない!
銃弾と比べるまでもないが、この破壊力はヤバイ。
地面が抉り削られ、天井が穴ぼこチーズのように瓦解し始めている。
もし魔力の防護服も、通用するような威力だったとしたら!
――兵隊さん見て、人がゴミのようだわ。
……アタシは、その声を聞いた気がした。
周りには誰もいなかったけど、アタシには確かに“あの女”の言葉を聞こえたのだ。
もしあれが事実だったとしたら、アタシはなんて馬鹿なことをしてしまったんだろうと後悔したい。
あんな事をこっそり耳打ちして、煽らなければこんな目に合わずにすんだのだ。
でももう遅い。アタシの体を覆っていた魔力の服も、フラップターもこの赤い雨の餌食になってしまった。
意識も途切れる寸前だ。
このままじゃ、“もしかしたら”が起こるかもしれない。
体が、吹き飛ばされてゆく。
アタシ、どうなっちゃうんだろう。
(アルベルト……助……け…………)
138
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:33:16 ID:im2jZJf20
【B-5/卸売り市場内?/2日目/早朝】
【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、裸、髪留め無し、やや自暴自棄 、螺旋力覚醒(ラッドの分もプラス)
[装備]:衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、ぼろぼろのつかさのスカーフ@らき☆すた、
雷泥のローラースケート@トライガン
[道具]: デイバッグ×14(支給品一式×14[うち一つ食料なし、食料×5 消費/水入りペットボトル×2消費])、
【武器】
超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)、
王の財宝@Fate/stay night、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、
【特殊な道具】
オドラデクエンジン@王ドロボウJING、緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、
サングラス@カウボーイビバップ、アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION
マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル
赤絵の具@王ドロボウJING、黄金の鎧@Fate/stay night(半壊)、シェスカの全蔵書(数冊程度)@鋼の錬金術師、
首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)、首輪(クアットロ)
【通常の道具】
シガレットケースと葉巻(葉巻-1本)、ボイスレコーダー、、防水性の紙×10、暗視双眼鏡、
【その他】
奈緒が集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』)
がらくた×3、柊かがみの靴、破れたチャイナ服、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)、ガンメンの設計図まとめ、
壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[思考]
基本−1:アルベルトの言葉通りに二度と力に呑まれず、己の道を違えない。
基本−2:螺旋王を『喰って』願いを叶えた後、BF団員となるためにアルベルトの世界に向かう。
1:…………。(気絶)
2:螺旋王を『食って』、全てを取り戻す。
3:ウルフウッドを倒して、千里の敵を討つ。
4:ヴァッシュ、スパイク、シータに敵対意識。
5:ラッド・ルッソの知識を小出しにし、慣れる。
[備考]:
※ボイスレコーダーには、なつきによるドモン(チェス)への伝言が記録されています。
※会場端のワープを認識。
※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました。
※ラッド・ルッソを喰って、彼の知識、フラップターの操縦、経験、その他全てを吸収しましたが、
使用することにトラウマを感じています。(痛覚は繰り返しのフルボッコで心身ともに、大分慣れました)。
※ラッドの知識により、不死者の再生力への制限に思い当たりました。
※本人の意思とは無関係にギルガメッシュ、Dボゥイ、舞衣に強い殺意を抱いています。
※『自分が死なない』に類する台詞を聞いたとき、非常に強い殺意が湧き上がります。抑え切れない可能性があります。
※小早川ゆたかとの再会に不安を抱いています。
※かがみのバリアジャケットは『ラッドのアルカトラズスタイル(青い囚人服+義手状の鋼鉄製左篭手)』です。
2ndフォームは『黒を基調としたゴシックロリータ風の衣裳です』 その下に最後の予備の服を着用しています。
※王の財宝@Fate/stay nightは、空間からバッグの中身を飛び出させる能力(ギルとアルベルトに関係あり?)、と認識。
※今回は刃物系の道具を全てヴァッシュに射出してしまったようです。
※シータのロボットは飛行機能持ちであることを確認(レーザービーム機能については不明)。
※バリアジャケットとフラップター@天空の城ラピュタはレーザービームを受けました。破損度は不明。
■ ■ ■
139
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:33:32 ID:im2jZJf20
■ ■ ■
『C-5-中央部-You Make Me Cool』
あの黒い球体は依然その不気味な雰囲気を漂わせて、未だ東に鎮座している。
距離が離れすぎているために、あそこで何をしているのかがわからない。
今すぐこの足で現地に向かい、調べてやりたい。なんなら手合わせしてみたい。
しかし、時には自重しなければならないことを、俺は思い出させられた。
言峰綺麗の言葉は、この地に立っている俺に冷静さを保たせてくれる。
俺の最終目的はみなで螺旋王をヒートエンドすること。
そのために、俺は自分とソリの合わない奴にも呼びかけて同盟を結んだ。
その1人が英雄王ギルガメッシュ。思い出すだけでも腹立たしい。
ジンの気遣いで別行動をとることにはなったが、実はまだ奴の呪縛に悩まされている。
「ドモン・カッシュ、アタシのこと忘れてないわよね。もうちょっとスピード落としてよ! 」
俺の背中に乗っかって注文をつけている女、ナオ。
ギルガメッシュが臣下と謳った人物なので、彼女も有能なのだろう。
しかし……王が王なら家臣も家臣か。
気絶していたところを助けるまではよかったが、俺がギルガメッシュの仲間と知ると、いきなり態度が大きくなった。
やれ面倒くさいだの、危険は避けろだの、もっと優しく扱えだの、後ろ向きな発言が目立つ。
それなりに負傷をしているとはいえ、その不遜っぷりには少々辟易する。
だが皮肉にも、こいつの存在は俺の無鉄砲な行動を諌める鞘になっている。
怪我をしている彼女に無理強いをして、危険な目に合わせてしまったら、ジンたちに申し訳が立たなくなる。
特にギルガメッシュとの戦闘は避けられないだろう。
本音を言えば願ったり叶ったりなのだが、そこを奴に付込まれて見下されるのは癪だ。
今の俺ならばこの程度の試練は、耐えられる。
周りの状況を汲み取らず、一方的な振る舞いをすれば、どうなるかを俺は知っていた。
俺がパートナーのレイン・ミカムラに引き起こさせてしまったすれ違い。
あのような悲劇を、俺がもう一度繰り返してはいけない。
俺はいつの間にか言峰の言葉で、あの事件を思い出すようになっていたのだ。
だから不死身の柊かがみが逃げたあとも、俺は追いかけてガンダム・ファイト申し込まなかった。
「今から刑務所に行くって言ったって、刑務所は跡形もないんだよ!? 」
「だからこそ助けを求めているやもしれんだろう!! 」
「どうみても手遅れだよ! つか刑務所にいた奴らが、あの球体の乗ってるかもしんないじゃん! 」
「ガンダムは基本1人乗りだ! 」
「あれがガンダムじゃないって可能性は!? 」
「わからん!! 」
「じゃあ博物館に戻って金ぴかと合流したら!? 」
「今から向かっても入り違いになるだろう! 」
「わかんないじゃん! じゃ、あんた1人で行って。犬死はゴメンだよ」
「それはできん!! 」
しかし、今度は一歩も動けなくなってしまった。
当然行動的な問題ではなく、指針的な問題でだ。
あっちが立てば、こっちが立たず。
いたずらに時間が過ぎていくのを、黙って見ている自分に、イラついていた。
――その時だった。
「……何よあれ」
何気なく辺りを見渡していた結城奈緒の声が上擦った。
俺もつられて同じ方角に首を向ける。
地獄絵図という表現がぴったりだった。
飛来する戦闘機が真下の建物に、無差別にレーザービームを射出している。
赤い光が闇の中で際どく輝き、破壊音のオーケストラを喧しく奏でている。
このままでは、いずれあの建物は崩壊するだろう。
「…………決まりだな」
「え、ちょっと!? 」
自然と、足が動いた。
わかってはいた。
自分がどれほどらしくない決断をしたことは。
俺は遠くの火事より近くの焚火を選んだのだ。
しかし原因不明で完全に崩壊した施設と、明らかに何者かから襲撃を受けて崩壊しつつある施設。
より人を多く救えるとしたら、どちらだろうか。
ひたすらそう言い聞かせる自分がいた。
冷徹な判断を下せるようになった事に目を瞑る自分がいた。
『――だからお前はアホなのだァァァァァァ!!!』
師匠に笑われたような、気がした。
140
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:33:50 ID:im2jZJf20
【C-5中央部/道端/2日目/早朝】
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に中ダメージ、すり傷無数、疲労(中)、明鏡止水の境地
[装備]:カリバーン@Fate/stay night
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
0:目の前で崩壊寸前の卸売り市場へ、人命救助に行く。
1:カミナたちを探しながら、刑務所に向かう……だが何だあの物体は!
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:傷の男(スカー)を止める。
5:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する。
6:言峰に武道家として親近感。しかし、人間としては警戒。
7:東方不敗を説得する。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュ、奈緒のこれまでの経緯を把握しました。
※第三放送は奈緒と情報交換したので知っています。
※清麿メモについて把握しました。
※螺旋力覚醒
【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:気絶、疲労(特大)、右手打撲、左手に亀裂骨折、力が入らない、全身に打撲、顔面が腫れ上がっている、
左頬骨骨折、鼻骨骨折、更に更にかがみにトラウマ 、ドモンにおんぶされている
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考]
基本方針:とりあえず死なないように行動。
0:半ば強引にドモンと行動を共にさせられているので、やな感じ。
1:刑務所へ向かう予定だが、黒い球体の正体がわからないので、いつ行こうかちょっと迷ってる。
2:柊かがみ(inラッド)に非常に恐怖。
3:静留の動きには警戒しておく。
4:何故、自分はチャイルドが使えないのか疑問。
[備考]:
※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
※ドモンと情報交換済み。ガンダムについての情報をドモンから得ました。
※第2、4回放送はドモンと情報交換したので知っています。
※奈緒のバリアジャケットは《破絃の尖晶石》ジュリエット・ナオ・チャン@舞-乙HiME。飛行可能。
※不死者についての知識を得ています。
※ヴァルセーレの剣で攻撃を受けたため、両手の利きが悪くなっています。回復時期は未定です。
■ ■ ■
141
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:35:56 ID:im2jZJf20
■ ■ ■
『“B-5-卸売り市場”-⑥-Forever Broke−』
右に首を傾けてみる。瓦礫の山。
180度反転させて左をみる。瓦礫の山。
首を少しあげて前方を見てみる。瓦礫の山。
もう少し上げて、自分の体を見てみる。五体満足。
力を抜いて大の字の状態に体を戻す。
深呼吸をしてみる。肺はやられてないようだ。
右手を見る。愛銃の所持を確認。左手を見る……あ。
「さっきの赤い襲撃で、カートリッジごとどっかで落っことしまったか……」
嵐のような、出来事だった。
次から次へとわけもわからず降り注ぐ赤い光線のスコール。
俺もウルフウッドも不死身の柊かがみも、即座に逃げることを選んだ。
逃げるほど、恐怖していたわけでもないのに。
レーザーの雨なら、俺はエドの一件で経験済みだ。
あの2人も、レーザーとまではいかなくても似たような襲撃なら慣れっこ。特に片方は不死身だ。
しかし体が動いたということは、俺たちは鼻が利いたんだろう。
これからもっと恐ろしい災害がここに降ってくるのだ、と。
人間台風を目の当たりにした警報機も、計測不能を起こすような天変地異が。
もっとも、この市場はじきに崩壊しそうだから、非難することには変わらないんだがな。
問題は人名救助だ。
不死身の柊かがみが生死不明である今、俺が気にかける行方不明者はただ一人。
ニコラス・D・ウルフウッド。
正直、助ける義理は無い。図らずとも俺の仲間を殺した男だ。
だが――ヴァッシュ・ザ・スタンピードの顔が、俺の心を鈍らせる。
実に変な話だ。
たった数時間しか共にしていない男に、この俺の心を絆されかけているのだから。
なぜだろうな。
宿敵・ビシャスという因縁に決着をつけたからか?
奴が死んだ以上、俺の中の覚めない夢は、あいつ――ジュリアだけのはずだった。
だがそこにちゃっかり入り込んで、空いた席にヴァッシュ・ザ・スタンピードがどかっと座ってきた。
まだ組織に殺される前の、足を洗ってジュリア生きると羨望していたころの俺に、目覚まし時計を鳴らしやがったんだ。
奴のラブアンドピースに少しづつ浸っていく自分がいる。
ニコラス・D・ウルフウッドを救出してみないか、と。
この瓦礫の山から奴を見つけようとする時点で、お手上げなんだがな……ん?
「救急車のおでましだ」
ぽっかり開いた天井の穴を、目を細めてみる。
土色にまぶされた鳥のようなフォルムを、俺はよく覚えている。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードを搬送するために、その場を去ったはずのロボットだ。
戻ってきたということは、あのナイチンゲールは俺の仲間と遭遇して上手くやってくれたのだろう。
彼女がここに戻ってきたということは、とりあえずヴァッシュの命の保証は大丈夫、ということだ。
彼女は最初に聞くところによれば、ウルフウッドに出会うまではエドたちといたらしい。
その後、逃亡の果てにロボットと出会ったらしい。よくここまで生きていたものだ。
……本当のことを言えば、ウルフウッドの前例もあるので、警戒を完全に怠るのはどうかとも思った。
しかし事態が事態だったので顔見知りの名前を挙げるくらいは、と妥協した。
「スパイクさん! 大丈夫ですか」
「感謝するぜシータ、こっちは無事だ。それより頼みがある。ウルフウッドを探してほしい」
「……ウルフウッド牧師をですか」
「別に奴を助けるためじゃない。助けた後どうするかは、それからじっくり考えればいいさ」
「あの……もう一人の方は」
「あいつは不死身だ。ここが禁止エリアにならない限りしばらくは死なないさ」
142
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:36:27 ID:im2jZJf20
俺はシータに背を向けると、近場にあった瓦礫を適当にどかし始めた。
セメントで固められた建造物の破片は、持ちどころこそ多いが、うっかり手を滑らせて怪我をしやすい。
剥き出しになったボルトや針金も厄介で、素手で運ぶには余りにも危険だ。
そして、意外と重い。
持ち上げようにも、足腰の疲労も相まって、バランスが上手く取れない。
耐え切れなくなった俺は、声を上げながら、障害物を明後日の方向へ投げ飛ばした。
「…………は? 」
俺は、テレビにはそれほど興味が無い。
だから何万人という観客のいるステージで起こる大魔術の中継番組を見ても、鵜呑みにはしない。
どちらかといえば、ギャンブル寄りな思考だが、イカサマを見破るのは得意だ。
しかし、それでもわからない。
何をどうやったら、俺の投げた障害物がそのまま俺の右腕を持っていくんだ?
この右腕から噴出す赤い血糊は、モノホンなのか?
なぁ誰か種と仕掛け教えてくれよ。このままじゃ俺は一生勘違いしたままだ。
目の前にいるお姫様のお供が、殺すつもりで俺にレーザービームを放ったってよ。
「くすくす。もうちょっとだったのに」
右腕を失ったことは、おそらく偶然だ。
体の疲れで頭がフラフラしてなかったら、あの瓦礫を投げ飛ばす時にバランスを崩していなかった。
上半身をひねりながら、無理な体勢で投げた拍子に転んでいなかったら、問答無用でお陀仏になっていただろう。
また、らしくないヘマを俺はしちまったのか。
スパイに情報を送るなんざやってはいけないタブーの、初歩中の初歩だぜ。
いつからだ。いつからこんな腑抜けになった。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードに会ってからか……いや、ここに来てからだな。明らかに出遅れてた。
「ヴァッシュ・ザ・スタンピードはどうした」
「“これ”と“これ”を見ても、わかりませんか? 」
シータが勿体ぶった口調で、ディバッグからブツを2つ取り出して見せびらかす。
わからないはずがない。それを“持ってこれた”ということは、“そういうこと”だ。
――だからガキと女と動物は嫌いなんだよ。
■ ■ ■
『B-5-道端-Adieu』
……主よ、あなたには冗談が通じないのですね。
やられたわ。やられてもうた。俺というブタ、ホンマに捨て札されてしもた!
やるなぁ〜あんの絶妙なタイミングで天の雷降らせるか。
ビックリしたわ〜今の俺、めっちゃオイシイやん。
不死身の柊かがみはどっかに吹き飛ばされて、ほなさいなら。
モジャモジャはロボットに乗ってきた嬢ちゃんとイザコザ起こして腕吹っ飛ばされおった。
嬢ちゃんもモジャモジャのことで頭が一杯やし。
みんな、俺が隠れとることには気づいとらん。つまり、俺は晴れて自由の身。
しかもな、俺こっそりモジャモジャの落としよった拳銃拾ってもうたんや。
いやーついとるなー……ケッ。
「じゃ、俺はここらでお暇させてもらうわ」
体についた汚れを払いながら、俺はこっそりと歩を進める。
どうせこの施設は間も無く崩壊するし、あの2人に肩入れするような義理もないのだから。
行き先はもう決まっている。
親切な賞金稼ぎが教えてくれた“仲間”の拠点、図書館だ。
あそこにいけば、ひとまず休息はできるし、自分を介抱してくれるお人好しがいるかもしれない。
事情を問いただされたら『わからない、忘れた、思い出せない』を連呼すればいい。
他人のフリ三拍子を並べて適当に言い繕えば、相手は疑いこそすれ敵意は出すまい。
143
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:36:50 ID:im2jZJf20
『――“これ”と“これ”を見ても、わかりませんか? 』
……確かに意外やった。
何をどうしたんかはわからんが、意表をつかされた。
嬢ちゃんが、あのトンガリを誑し込んだとは。
思えば最初に再開したときから、何かが変わっていた。
相変わらず誰かに守られとるか弱いウサギのような目をしていた。
しかし何故最初に俺と遭遇したときに使ったカマイタチを全く使わなかったのか。
ロボットという更に上物の力を手に入れたから?
いや、それは無い。ロボットは操縦者さえ黙らせてしまえばお釈迦。
昔から巨大ロボットの弱点は、それを操縦するリモコンと相場は決まっている。
リモコンに厳重な装備をつけることに、不必要という概念は入らないはずだ。
使えなくなったのか、それとも使わなくてもいい事情があったのか。
だが、それらは所詮“経験不足”という言葉で片付けられる。
「……なぁ。ホンマに死ぬまで言い続けるんか」
『死ね死ね』と響く体のノイズに、俺は独り言を吐く。
ここまで連続で言われ続けると、意外と慣れてくるものだ。
最初は誰かが自分にこっそり陰口を叩いてるものだと思っていた。
しかし、こうして1人になった今でも、所構わず聞こえてくるのだ。
俺はこれを主が与えた奇跡――いわば“聖痕”と解釈した。
つまり、主は俺に死んでほしいのだ。
単なる思いつきかどうかはさておいて、主は敬愛なる信仰者ニコラス・D・ウルフウッドを甦らせた。
しかし、それは間違っていた。
聖職者は単なる暴徒と化し、怒りに任せて残虐の限りを尽くしてしまったからだ。
せっかくやり直しのチャンスを与えたのに、結果は主の裏目に出てしまったのだ。
困った主は、やむ終えず自分の過ちを“無かったこと”にしようとした。
しかし直接この手で下してしまえば、それは自分の非を認めることになる。
悩んだ末に主が選んだ手段とは――
「俺が自殺するように仕向けるってとこか」
何度も何度も窮地に追い詰めるが、決して直接死には繋がらない。
ニコラス・D・ウルフウッドが少しでも不快に思うことをひたすら与え続ける。
実に強引なやり方だ。
そのためには、誰がどうなってもいいというのか。
「やれるもんならやってみぃ」
どう考えても不可思議。どう考えてもこじつけ。
しかし、そうでなければこの”声”に説明がつかない。
苦楽を共にした盟友への思いを、消化しきれない。
ひたすら怒りが募るこの現状に納得がいかない。
(トンガリィ……お前はなぁ……やっぱり、笑顔のほうが……似合っとったでぇ! )
いつの間にか、俺はみっともなく泣いていた。
前歯で下唇を噛み閉め、声は押し殺す。
出してしまえば、誰かに自分の居場所を気づかせてしまう。
そして、こんな姿を誰にも見せたくはなかった。
あのトンチンカンな男のために、泣いている自分など、見られたくはなかった。
でも泣かないわけにはいかなかった。
これも主が自分に差し向けた嫌がらせだとすれば、泣ける余裕なんて、これがおそらく最後だろう。
(カラッポなんて言うて……悪かった)
スマンなトンガリ。けど絶対に死なんぞ俺は。
何が何でも生き残ったる。どんな手を使っても生き残ったる。
このまま無かったことにされてたまるかい。
主よ、おどれはこっからもっと思い知ることになるんや。
俺を甦らせたっちゅーことが、どれほど過失やったかをな。
どんだけ卑怯なこともやる。殺れるチャンスでは容赦なく殺るで。仲間なんぞ利用してポイや。
お前が少しでも不快に感じて俺を殺したら、そこで俺の勝ち。
外道はくたばるまで外道味やで。分かっとるんかクソが。
せやけど怖がることないで?
俺は、何一つ見限らんっちゅう男やないんやから。
144
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:37:09 ID:im2jZJf20
【B-5/道端/2日目/早朝】
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:疲れによる認識力判断力の欠如、情緒不安定、全身に浅い裂傷(治療済み)、肋骨骨折、全身打撲、頭部裂傷、貧血気味
軽いイライラ、聖杯の泥
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night、デザートイーグル(残弾:8/8発)@現実(予備マガジン×1)
[道具]:支給品一式
[思考]
基本思考:自分を甦らせたことを“無し”にしようとする神に復讐する。(①絶対に死なない②外道の道をあえて進む)
1:どこかに移動して休息をしたい(図書館も視野に入っている)。タバコが欲しい。
2:売られた喧嘩は買うが、自分の生存を最優先。他者は適当に利用して適当に裏切る。
3:神への復讐の一環として、殺人も続行。女子供にも容赦はしない。迷いもない。
4:自分の手でゲームを終わらせるのは、
5:ヴァッシュに対して深い悲しみ
6:言峰に対して――――?
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの思いは――――
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー )、高速移動、ロボットの使い手と認識しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
※シータのロボットは飛行、レーザービーム機能持ちであることを確認。
145
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:38:20 ID:im2jZJf20
■ ■ ■
『???-???-ヘブンズ・ゲイトウェイ・シャッフル』
…………何処なんだ……ここは……?
進めない。行く先に、何があるのか……くそっ。
何も見えないし、真っ暗だ。
いや違う。
今度ははっきりと見えているけど、視界がぼやけているんだ。
一体ここはどこなんだろうう――
「あ! ヴァッシュさん、目が覚めましたか? 」
……シータちゃん?
どうして君が? ウルフウッドは? スパイクさんは? 不死身の柊かがみは?
みんなはどうし……そうだ。
僕は不死身の柊かがみからすたこら逃げて時間を稼いでいたんだ。
でも彼女がみんなを狙おうとしたから、慌てて僕が盾になったんだっけ。
やっぱり銃で弾いておけば良かったかなぁ。すっげぇ痛いのなんの。
でもスパイクさんもマジだったし、せっかくもらった銃だったから弾は大事にしたかったんだよね。
あの銃の弾丸なら、なんとか急所を外せば我慢できると思ってたからさ。
……と、待てよ。
じゃあなんで他にも痛い箇所があるんだ?
「良かった。そんなに剣が刺さってたから、もう駄目だと思ってました」
剣……ああそうか! 思い出したよ。
それからが大変だったんだ。不死身の柊かがみはその後、今度は刃物を飛ばしてきたんだよ
あれはビックリしたなぁ。何も無いところからいきなり刃物が飛び出すんだもの。
一番重そうな刀から、何発か撃って優先して弾いたけど、距離が近すぎたせいか全部刺さっちゃったんだよね。
でも変だな。刺さったとはいえ、銃弾の時よりも急所は外れていたはずなんだけど……気絶しちゃってたのか?
「やっぱりアナタも不死身ですね。私の予想通りです」
いやいやそんな照れるなぁ。
だがごめんよ。僕のタフネスは誰にも知られてはいけないトップ・シークレットなのさ。
それに話したところできっと君は信じないだろう。僕がプラントの自立種なんてことは、ね。
「せっかくで悪いんですが、もう1仕事してもらいますから」
フフ、しょうがないなぁ。そんなにカワイイお顔でおねだりされたら……あれー?
そういえばシータちゃんはどこ?
声はするんだけど、姿が見えない。
ちょっと目を擦って……やっぱりいない。
僕はシータちゃんのロボットに担がれているけど、シータちゃんはロボットに搭乗していない。
僕たちよりちょっと離れた場所で手を振っている。
うーん、どうして――――
“この界隈は現在、進入禁止エリアと定められている。速やかに移動を開始し、当該エリア外へと退避せよ”
■ ■ ■
『A-3←→A-4-禁止エリアの境目-スピーク・ライク・ア・プリンセス』
“ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー”
くすくす。私、考えちゃいました。
『兵隊さんならではの作戦』。
用意するもの、私の言うことを聞くロボットさんと禁止エリア。
まず、殺したい人をロボットさんに禁止エリアまで運ばせます。
あとは簡単。ロボットさんが殺したい人を押さえつけて1分間待つだけで出来上がり!
手間もかからず、手も汚れません。ニシンのパイ包みよりも簡単ですよ。
唯一問題があるとしたら、準備でしょうか。
ロボットさんより強い人は、ほどほどに痛めて下ごしらえをしないといけません。
記念すべき一回目はヴァッシュ・ザ・スタンピードさんにやってもらうことにしました。
体中に疲労がたまっていそうで、剣が沢山突き刺さっています。死に体です。うってつけです。
146
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:39:29 ID:im2jZJf20
「シータちゃーーーーーーーーーーん、離してーーーーーーーーーー!! 話せばわかるーーーーーーーー!!」
くすくす。ごめんなさいヴァッシュさん。あなたには恨みはありませんし、むしろ感謝しています。
あなたが1人で奮闘してくれたからこそ、私はこうして無事でいられるんです。
でも、ごめんなさい。
だって、思いついちゃったんですもの。不死身の人間でも殺せるかもしれない方法。
螺旋王のおじ様は、禁止エリアを設けました。でもそれが本物かどうかは私には半信半疑でした。
でも、これが本当のことだったら、あの人も同じ手で殺すことができます。
不死身の柊かがみ。
私、最初に卸売り市場で彼女と遭遇したとき、どこかでお会いしたような気がしてたんです。
でも、思い出したのは彼女が先でした。彼女、最初に私たちがウルフウッドさんとあなたを取り囲むんでいる時に耳打ちしたんです。
『この切り裂き魔。忘れたとは言わせないわよ? あとで思い知らせてやるわ』
彼女は私がうっかりストラーダで殺してしまった女の子だったんです。
その時は顔を見てなかったのですが、柊かがみは忘れていなかったのです。私の顔は無事だったんですから。
私は目の前が真っ青になりました。いつ皆さんの前で全てを暴露されるのか怖くて震えていました。
せっかくあなた達に矛先が向かっていたはずなのに……何も出来ない無力な女の子のフリをしていたのに!
「ダメだよーーーーーーーーーーーーこんなことしちゃダメだーーーーーーーーーーーーーー!!」
『残り10秒だ』
「アッー!! やめてとめてぇーーーーーーーヘルプミーーーーーーーーヘルプミーーーーーーーーーーー!!」
『9、8、7、6、5、……』
だから私は逃げました。うまい口実をつけて、ヴァッシュさんを連れて逃げました。
でも私が逃げたところで、柊かがみがスパイクさんとウルフウッド牧師に私の素性を話していたとしたら、結局お終いです。
その時……偶然この“殺し方”を思いつきました。
この殺し方が上手くいけば、柊かがみは始末できる!
他の2人も、ロボットさんが痛めつけたあと運べば、出来るはず。
だからヴァッシュさん。あなたは実験台になってもらいます。
私の優勝のために死んでくださ…………
『4…………………………………………』
……何ですって!
そんな、どうして!? 確かに禁止エリアに入ってるはず。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの首輪は間違いなくカウントをしていたはずなのに!
一体何が起こってるというの!?
■ ■ ■
『A-4-禁止エリア-終わらない唄』
いよお……兄弟……つながれ……そして決めてくれ。
おたくのご主人様が、俺を殺そうとしている。
いや、それは別にいいんだ。
だけどよ、お姫様が殺し合いってのもシュールだぜ。民衆には見せられない。
俺は信じてる。
そっちは何年歩いてる? 俺は150年歩いた。
頼むぜ……もう一度、チャンスをくれないか。
言いつけを破れ、とまでは言わないさ。
全身の力を込めて僕を地面に押さえつけている、君の両腕を離してくれるだけでいい。
俺がおかしな事を始めたら、容赦なく殺していい。
話がしたいんだ。君のお姫様と。
「…………そんな! どうしたの兵隊さん!? 」
「君の兵隊とコンタクトをとってみた。何を考えているのかは、よくわからなかったけど。僕に猶予をくれたよ」
「あなたも不死身だというの? 」
「さあね」
……要領は同じだった。
自立型のプラントである僕が、同胞とコンタクトを取る方法。
仮死状態にはなるけど、4分はいける。動けないんだけどね。
完全にバクチだったけど、禁止エリアってのは死者を殺さないらしい。
これを使えば、僕にとって禁止エリアはチェックメイトに成り得ないわけだ。
もっとも、いざ外に出るとなると誰かに助けてもらわないといけないんだが……だから、伝える限りのことをしよう。
やれるだけのことをするんだ。
そうさ。僕はいつだって、ラブ・アンドピース。彼女の心を解きほぐしてやるんだ!!
147
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:39:58 ID:im2jZJf20
「シータちゃん。僕を殺さなければならない理由があるんだね。
でも、それは間違ってる。そうまでして何の為に生きるっていうんだ」
「あなたに何がわかるって言うんですか! 私は、例えどんなことをしてでもやらなければいけないことが……」
「じゃあ仕切り直せよ。死なせるな裏切るな幸せをつかめ、夢を語れ!! 未来への切符は……いつも、白紙なんだ」
「……ヴァッシュさん、私にも仕切り直せるんですか? 」
「ああ、その通りだ。君には殺しは似合わないよ」
……どうやら話してもわからない相手じゃなさそうだ。
良かった。こうやって少しづつ少しづつ時間をかけて説得していけば、いけそうだ
そろそろ一分だから、またここで仮死状態にならなきゃいけない。
でもこれあんまりやりすぎると、体力の消耗で僕のほうがへばっちまいそうだ。
あと2、3回の説得で済ませるには、ロボット君に眠ってもらうしかないか。
「…………くすくす」
痛。なんか投げつけられたぞ? これは……?
弾は入ってない。シータちゃん、どうしてこれを――
「でもね、あなたは色々と期待し過ぎなんですよヴァッシュさん! 何も持たずにこの世に生まれてきたくせに! 」
……まだ10秒前じゃないよね。
これはひょっとするとひょっとしたら……
「どうして禁止エリアでも死なないのかはわからないけど、その傷だらけの体を見れば、あなたは所詮凡人。
そこに転がってる玉無しの銃がお似合いなんですよ。
私のようにラピュタの血統なんて高潔なもの、あなたは持っていないでしょう!?
けど安心してください。私がみんなを殺して優勝すれば、螺旋王のおじ様の力でみんなを生き返らせれるんですから! 」
いつかわかってくれるなんて、悠長にはできなさそうだ。
君が僕を助けてくれなかったら、僕は消される側にいた。だから望みはあると思ってたんだけどね。
「ヴァッシュさん! そう考えればあなたの言うとおりですね! 未来の切符はいつも白紙です!
だって私が全部消去するんですから! みんなまとめて白紙に戻してあげますよアハハハハハハハハ……ハ? 」
148
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:40:36 ID:im2jZJf20
……お腹を押さえて大笑いするシータちゃんを尻目に、僕は足元にある“僕の銃”を拾った。
そしてまた仮死状態。ロボットくんとの共鳴だ。ごめんな。ちょっと我慢してもらうぜ
おそらくシータちゃんが僕に投げつけたものだろう。置き土産のつもりだったのだろうか。
どうして彼女がこれを持っていたのかはわからない。でも、彼女の目を覚ますのにはちょうどいいかな。
「……きゃああ!? ヴァッシュさんの、う、腕が!? 」
「シータちゃん! いや、シータ! ありがとう! 君が投げてくれた銃は、僕にとっちゃ最高の切符だ!」
「何よ! その大砲であたしを殺そうって言うの!? やれるものならやってみなさいな! 」
「僕だって本気を出せばシータなんか全く相手にならないんだよ!
ロボットくんから逃げて、君の鳩尾に一発かますくらい、10秒もいらないんだ!
でも僕は君を殺さない! どうしてかわかるかい! 」
「私のことなんか、いつでも殺せるからでしょう! もういいです。兵隊さん、お願い! 」
もう遅いよシータ。わずかだけどエネルギーはたまった。
時間もまだ50秒以上ある。
ロボットくんにAAを一発お見舞いしたら、すかさず君の所まで踏み込んで、しばらく寝てもら――
――うぐっ!?
こ、この感覚は……まるで全身の力が……抜けていく……
なんだ!? 何が……起こったん、だ? 急激に多量の力を、使った、から……制御が……?
こんな……ときに……どうし、て……まるで……僕のエネルギーが……吸い取られ……る……ような……
動…………けない……おいこら……ヴァッシュ・ザ・スタンピード……寝てる場合じゃないぞ…………
ロボット……くんと……シータ……を……なんと……か……しないと……もう、一度……もう一度だ…………立ち……上が……
くそ…………駄目…………か……
「ヴァッシュ・ザ・スタンピードを焼き払えぇぇーーーーーーー!! 」
(情け無……え……)
■ ■ ■
149
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:41:09 ID:im2jZJf20
【“B-5-卸売り市場”-⑦- Spokey Dokey】
どっかのブルースマンが、ブルースの定義を聞かれてこう言ったそうだ。
“ブルースってのは、どうにもならない困り事を言うのさ”、と。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの愛と平和は、リュシータ・トエル・ウル・ラピュタの心には届かなかった。
彼女の兵隊はレーザービームで奴の体を肩から又にかけて真っ二つにし、また同時に奴の首輪も爆発したらしい。
首輪の爆発がタイムオーバーのせいなのか、レーザーのせいなのかはわからないが、彼女が殺したことには変わりない。
シータは相変わらず自慢げに戦利品、ヴァッシュの生首と奴の体に刺さっていた剣の一本を持ってこっちを見下している。
「何が望みだ」
「あなたはさっさと死んだほうがいいですよ。どうせ私の望むものは、あなたには出せません」
「そんなにベラベラ喋って、後で泣きをみても知らないぜ」
「ご心配なく、なぜなら」
「「どうせ、あなたはここで死ぬんですから」って言いたいのか? ボキャブラリーのない台詞だぜ」
あららタイミングまでぴったりハモっちまった。
顔を真っ赤にしてる内は、まだ垢抜けたとは言えねぇな。
「ふ、不死身の柊かがみは、私のことで何か言ってましたか? ……聞いたところで、教えてくれるわけないですよね」
とはいえ、あの厄介なロボットの戦闘能力を俺は直接見たわけじゃない。
うかうかしてっと、今度は右腕を持ってかれちまうだろう。
鋼鉄の義手をつけていたジェットを笑ってた俺が、いざジェットの立場になってみると……それなりに思うところがある。
目の前のじゃじゃ馬を黙らせたら、今後の生活を考えないとな。
義手をつけるのも、意外と悪くないかもしれない
ま、なるようになるか。
「――“腐るには早過ぎた”とさ! 」
150
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:42:03 ID:im2jZJf20
3:気に入った人間はとりあえず生かす。ゲームの最後に殺した上で、生き返らせる。
4:恩人の言峰は一番最後に殺してあげる。
5:使えそうな人間は抱きこむ。その際には口でも体でも何でも用いて篭絡する。
[備考]
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※バリアジャケットは現状解除されています。防御力皆無のバリアジャケットなら令呪が無くても展開できるかもしれません。
※バリアジャケットのモデルはカリオスト○の城のク○リスの白いドレスです。
夜間迷彩モードを作成しました。モデルは魔○の宅○便のキ○の服です。
※言峰から言伝でストラーダの性能の説明を受けています。
ストラーダ使用による体への負担は少しはあるようですが、今のところは大丈夫のようです。
※エドがパソコンで何をやっていたのかは正確には把握してません。
※かがみを一度殺してしまった事実を、スパイクとウルフウッドが知っていると誤解しています。
※会場のループを認識しました。
※シータがごみ屋敷から北上中に静留と舞衣の姿を確認したかどうかはわかりません。
※ヴァルセーレの剣にはガッシュ本編までの魔物の力、奈緒のエレメントの力、アルベルトの衝撃の力、
ヴァッシュのAA(もしくはプラントとしての)エネルギーが蓄えられています。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガンはヴァッシュの遺体(A-3とA-4の境目)の側に放置されています。
※大量の貴金属アクセサリ、コルトガバメント(残弾:0/7発)、真っ二つのシルバーケープが近くに放置されています。
※卸売り市場は時間が立てば完全に崩壊するようです。
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン 死亡】
151
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:42:41 ID:im2jZJf20
【B-5南西/卸売り市場/二日目/早朝】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(大)、心労(大)、左腕から手の先が欠損(止血の応急手当はしましたが、再び出血する可能性があります)
左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし)
[装備]:ジェリコ941改(残弾7/16)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×2欠損)ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)
スコップ、ライター、ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、太陽石&風水羅盤@カウボーイビバップ、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、防弾チョッキ(耐久力減少、血糊付着)@現実
日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、レーダー(破損)@アニロワオリジナル
ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム、高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿、
水上オートバイ、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
1:シータに対処
2:ウルフウッドを探す(見つけたあとどうするかは保留)
3:カミナを探しつつ、映画館及び卸売り市場付近でジン達と合流。その後、図書館を目指す。
4:ルルーシュと合流した場合、警戒しつつも守りきる。
5:小早川ゆたか・鴇羽舞衣を探す。テッククリスタルは入手したが、かがみが持ってたことに疑問。対処法は状況次第。
6:全部が終わったら死んだ仲間たちの墓を立てて、そこに酒をかける。
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。 会場のループについても認識しています。
※ドモン、Dボゥイ(これまでの顛末とラダムも含む)、ヴァッシュ、ウルフウッドと情報交換を行いました。
※カグツチと清姫は見ていますが、静留が近くにいるかどうかについては半信半疑です。
※シータの情報は『ウルフウッドに襲われるまで』と『ロボットに出会ってから』の間が抜けています。
※シータのロボットは飛行、レーザービーム機能持ちであることを確認。
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労(大)、倫理観及び道徳観念の崩壊(判断力は失わず)、右肩に痺れ(動かす分には問題無し)
頬に切り傷、おさげ喪失、右頬にモミジ
[装備]:ラピュタのロボット兵@天空の城ラピュタ、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル、ヴァッシュの生首
機体状況:無傷、多少の汚れ、※ヴァッシュとのコンタクトで影響があるのかは不明
[道具]:支給品一式 ×6(食糧:食パン六枚切り三斤、ミネラルウォーター500ml2本)、
ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(待機状態)、びしょ濡れのかがみの制服、暗視スコープ、
音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ミロク@舞-HiME、
ワルサーP99(残弾8/16)@カウボーイビバップ、軍用ナイフ@現実、包丁@現実
[思考]
基本:自分の外見を利用して、邪魔者は手段を念入りに選んだ上で始末する。優勝して自分の大切な人たちを、自分の価値観に合わせて生き返らせる。
0:スパイク、ウルフウッド、かがみの始末。禁止エリア殺法も視野に入れる。
152
:
ろくでなしとブルース
◆hNG3vL8qjA
:2008/05/10(土) 09:43:06 ID:im2jZJf20
1:言峰を捜索。保護してもらうと同時に新たに令呪を貰う。
2:途中見かけた人間はロボット兵に殺させる。
3:気に入った人間はとりあえず生かす。ゲームの最後に殺した上で、生き返らせる。
4:恩人の言峰は一番最後に殺してあげる。
5:使えそうな人間は抱きこむ。その際には口でも体でも何でも用いて篭絡する。
[備考]
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※バリアジャケットは現状解除されています。防御力皆無のバリアジャケットなら令呪が無くても展開できるかもしれません。
※バリアジャケットのモデルはカリオスト○の城のク○リスの白いドレスです。
夜間迷彩モードを作成しました。モデルは魔○の宅○便のキ○の服です。
※言峰から言伝でストラーダの性能の説明を受けています。
ストラーダ使用による体への負担は少しはあるようですが、今のところは大丈夫のようです。
※エドがパソコンで何をやっていたのかは正確には把握してません。
※かがみを一度殺してしまった事実を、スパイクとウルフウッドが知っていると誤解しています。
※会場のループを認識しました。
※シータがごみ屋敷から北上中に静留と舞衣の姿を確認したかどうかはわかりません。
※ヴァルセーレの剣にはガッシュ本編までの魔物の力、奈緒のエレメントの力、アルベルトの衝撃の力、
ヴァッシュのAA(もしくはプラントとしての)エネルギーが蓄えられています。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガンはヴァッシュの遺体(A-3とA-4の境目)の側に放置されています。
※大量の貴金属アクセサリ、コルトガバメント(残弾:0/7発)、真っ二つのシルバーケープが近くに放置されています。
※卸売り市場は時間が立てば完全に崩壊するようです。
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン 死亡】
153
:
Dボゥイのやさぐれ珍道中(仮)
◆1sC7CjNPu2
:2008/05/10(土) 14:27:26 ID:hmeJad120
「ふんもっ、ふ!」
気合の言葉と共に、Dボゥイは瓦礫を畳替えしの要領でひっくり返す。
瓦礫はバタンと大きく倒れ、人の気配のない瓦礫の山に音を響かせた。
「……当たり、だな」
確認するように呟いたDボゥイの視線の先には、まだ所々に細かい瓦礫が残っている一枚のシャッターがあった。
重厚な金属で出来たそれは、シャッターというよりは隔壁と呼んだ方が適切かもしれない。
シャッターはその先が地下へと続くかのように横倒しに設けられており、その大きさは大柄な成人男性が入るに十分なものだ。
シェルターか、もしくは地下施設への昇降口と見て間違いないだろう。
――問題は、この先に何があるかだ。
これが何の変哲もないシェルターの入り口などではないという確信が、Dボゥイにはあった。
Dボゥイの見た限り、会場の町並みは西暦2000年初頭辺りの造りになっている。
だというのに目の前のシャッターは町並みから推測できる技術より、数世代先の造りになっているのだ。
つまりは、後付で設置されたもの。
――普通に考えるなら、螺旋王が何らかの理由で取り付けたものということだ。
――だとしたら、いったい何のために?
――何かがある、それは間違いないのだが……
想像だけなら、いくつもの可能性がある。
例えば、この先に螺旋王にとって見られてはマズイもの――この会場の、不可思議な仕掛けに関わるものがある可能性だ。
もしもこれがそうならば、螺旋王に対して痛烈なカウンターになる。
――だがその場合、通路の奥に入っただけで首輪を爆破される可能性もある。
歯噛みし、Dボゥイは少なからぬ焦燥を自覚する。
時刻は既に黎明、ブラッディアイの効果もとうに尽きていた。
現在DボゥイがいるのはE-6エリア、ちょうどデパートがあった付近だ。
スパイクの助言により病院を裏口から出たDボゥイは、次にスパイクの助言に従わず南の方向へ向かった。
以前に舞衣から聞いた話で、彼女が映画館付近には近寄らないだろうと予測が出来からだ。
だとしたら、スパイクの言う危険人物と鉢合わせする可能性も十分にある。
舞衣のエレメントに、危険人物の持つ銃機関銃。
どちらが勝るかは分からないが、舞衣の生命が危険なことに変わりはない。
――結局誰にも出くわさず、杞憂で終わったがな。
154
:
Dボゥイのやさぐれ珍道中(仮)
◆1sC7CjNPu2
:2008/05/10(土) 14:28:30 ID:hmeJad120
しばらくして無駄足を踏んだことを薄々と察し始めた時に、四回目となる放送が流れた。
舞衣やゆたかの名前が呼ばれなかったことに安堵し――ラッド・ルッソの名が挙がり、Dボゥイは胸にポッカリと穴が空いた感じがした。
シンヤの時と同じような感覚か、それ以上か。
憎しみの対象がこうもあっさりと消え去った事に、納得できるわけがない。
だが放送に偽りがないであろうことは間違いなく、ただ虚しさが残る。
「……何をやっているんだ、俺は」
シンヤとの決着も付けれず、仇も取れず、守りたいものは彼の手から離れていく。
テッカマンとなってしまってからも経験したことのない無力感が、Dボゥイを襲った。
――それでも俺は、膝を折るわけにはいかなかった。
だから歩き続けた。そして偶然に、このシャッターを見つけた。
瓦礫の隙間から見えたシャッターの違和感に気づき、夢中になって瓦礫をどかしたのはある種の現実逃避だったかもしれない。
藁にもすがる人間の気持ちはこんなものなのだろうかと、Dボゥイは自嘲する。
――さて、そろそろ行くか。
これ以上の逡巡は、本当に時間の無駄となる。
最悪の想像も、あくまで想像でしかない。
安易だとは知りつつもDボゥイはそう結論付け、シャッターを開けるため細かい瓦礫を除去しようと一歩目を踏み出し――。
ガシュンと、『まるでシャッターの操作パネルを踏み潰したような音』が聞こえた。
「………………………………………………む」
155
:
Dボゥイのやさぐれ珍道中(仮)
◆1sC7CjNPu2
:2008/05/10(土) 14:29:27 ID:hmeJad120
彼にしては珍しく、分かっているが認めたくないといった感じの空気が流れた。
恐る恐る足元を見てみると、Dボゥイの足が瓦礫の破片を踏んでいる。
それはいい、足が接地する時に感触があったことで知っている。
問題はDボゥイの体重で押された瓦礫の破片が、さらにその下の『なんらかの操作パネル』にめり込んでいたことだ。
段々と、Dボゥイの額に脂汗が浮かぶ。
『ガー……ラ…ンリョ…ク……ガーガー……かくに……』
「む?」
不意にパネルから途切れ途切れに電子音声が発せられ、Dボゥイは『操作パネルらしきもの』から足を離す。
……やはり壊れたか。そうDボゥイが今更考えたところで、『操作パネルらしきもの』がバチバチと音を立てボンと爆発した。
同時に、シャッターが静かにその口を開く。
「むぅ」
困り顔で、Dボゥイは開いたシャッターの奥を覗き込む。
その先には地下深くに続くであろう螺旋階段が設置されており、その終着は月明かりでも照らすことは出来ていない。
「……まあいい」
結果オーライだということにした。
Dボゥイはデイパックからランタンを取り出し、釈然としない顔で螺旋階段を下る。
全身がシャッター奥に入ったところで、首輪が何の反応もしないことを確認する。
安堵のため息をつき、Dボゥイは暗闇の奥へと足を進めた。
156
:
Dボゥイのやさぐれ珍道中(仮)
◆1sC7CjNPu2
:2008/05/10(土) 14:30:17 ID:hmeJad120
■
起こるべくして起きた偶然を、必然と呼ぶ。
機械仕掛けの神、デウス・エクス・マキナは二度目の降臨を果たしていた。
……あるいはスバル・ナカジマの誰かを救いたいという願いに、Dボゥイはまた助けられたと言うべきか。
かつてと呼べるほど過去ではない時間に、デパート周辺では災害級の破壊が起きた。
その威力は螺旋王の想定したもの以上で――シャッターが、耐え切れるはずのものではなかったのだ。
辛うじて概観は正常のものであったが、その内部のシステムには様々な障害が起きていた。
例えば、螺旋状の鍵と螺旋力がなければ開かないシャッターにそれらを誤認させるほどに。
ひょっとしたら、スバル・ナカジマの乖離剣・エアと螺旋力にシャッターは反応していたかもしれない。
そしてDボゥイの行いがトドメとなり、扉は開いた。
言ってしまえば、誰かがシャッターに触れた時点でシャッターはすぐに開くような状態だったのだ。
誰かがシャッターを見つけた時点で、shut――閉じるを意味するシャッターの役目は終わっていた。
ただ、それだけのこと。
157
:
Dボゥイのやさぐれ珍道中(仮)
◆1sC7CjNPu2
:2008/05/10(土) 14:31:06 ID:hmeJad120
■
もう随分と長い間、彼は暗闇の中で慟哭していた。
目が覚めた当初は、いつの間にか見知らぬケージの中に連れさらわれたことに動揺していただけだった。
だが小一時間もしない内に、彼は怒り狂うことになる。
彼に外界の状況を知るすべはない――だが、彼の生来の野生が告げてきたのだ。
キャロ・ル・ルシエ――彼が生まれる前から傍にいた、大切な主が死んだと。
――憎い!
彼――キャロ・ル・ルシエの使役竜である『白銀の飛竜』フリードリヒは、激しい怒りと憎しみに吼えた。
まだ短い生涯に覚えがないほどの、憎悪。
それは主を殺した下手人に対し、主を守れなかった仲間たちに対し――何も出来ずにいる、自分自身に向けられた。
――憎い!憎い!憎い!
フリードリヒはケージを開けようと火を吐き、爪や牙を突き立てた。
だが当然のように抵抗は予想されており、フリードリヒを閉じ込めるケージには引っかき傷おろか焼け跡すら残らない。
それでも、フリードは内から引き起こされる衝動に押され愚行を止めない。
――憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!
度重なる行為で、彼の体はボロボロになっていった。
また身体が疲労すると同時に、フリードリヒの精神も疲労していく。
時が経つごとに、一度は憎しみを向けた仲間たちが消えていくのをフリードリヒは感じていた。
無力。その事実が、フリードリヒの心を削る。
――憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!
そして、ついに彼の身体は意思に反して動かなくなった。
それでも最後の抵抗とばかりに、フリードリヒは慟哭を響かせる。
慟哭し、慟哭し、慟哭し――唐突に、暗闇は光にかき消された。
「……誰かいるのか!」
久方ぶりの、人の声。
何者かと確認しようと、フリードリヒは光に目が慣れてきたところでその赤い目をゆっくりと開く。
憎しみに彩られた目と、同じく憎しみに彩られた目が交錯した。
158
:
Dボゥイのやさぐれ珍道中(仮)
◆1sC7CjNPu2
:2008/05/10(土) 14:31:48 ID:hmeJad120
■
「……まさか、コイツがここにあるとはな」
Dボゥイは宇宙開発機構・スペースナイツの保有する宇宙船、ブルーアース号のメインパイロット席でため息をついた。
地下へと続く螺旋階段の先にあったものは、ブルーアース号は始めとする起動兵器群の格納庫だった。
もっとも機動兵器群とは言ったものの、その内訳はカオスだったが。
バイクや小型の戦闘機、果てにはカエルの頭を模したロボットまで置いてあり思わず呆れたものだ。
――極めつけは、生きたドラゴンといった所か。
チラリと、Dボゥイはメインパイロット席の前方にあるナビゲーター席を見る。
そこには起動兵器群の中、異彩を放っていたケージの中にいた子竜がうずくまっていた。
ケージに掛かっていたネームプレートを信じるなら、フリードリヒという名前らしい。
――まったく、俺はどうかしてる。
――いくら俺やバルザックと同じような目をしていたからって、連れまわす理由にはならないだろうに。
連れて行けとすがるような瞳に負け、外からは簡単に開く仕組みのケージを空けたのが間違いだったか。
今のところ妙に懐いてくるおかげで害にはなっていないが、変に動かれてはたまったものではない。
もっとも怪我が痛むせいがあまり動けないのは、フリードリヒを治療したDボゥイがよく知っている。
そこでフリードはDボゥイの視線に気づいたのか、どうかしたかと尋ねるような瞳を向けてくる。
なんでもないと軽く首を振り、Dボゥイは視線をメインパイロット席のパネルに移す。
――しかし、改めてここが常識の範囲外の世界だと実感するな。
ゆたかが持っていたコアドリルのようなアイテム、素晴らしきヒィッツカラルドや東方不敗のような見知らぬ体術。
舞衣のエレメントや、スパイクから渡されたブラッディアイという薬品。
――どれもこれも、俺の理解の範疇を超えている。
ではこれらを集め、戦わせている螺旋王は何者かと考え――Dボゥイは、考えるのを止めた。
決定的な情報がない今、螺旋王のことは考えるだけ無駄だ。
圧倒的な力を持つこと。そして、いずれくびり殺すこと。
少なくとも螺旋王より優先すべきことがあるDボゥイにとって、螺旋王に対する認識はその程度のもので問題はなかった。
――とにかく、今は舞衣とゆたかのことだ。
ブルーアース号は大気圏内外での活動が可能――つまり、航空機としての側面も持つ。
さらに垂直離着陸も可能で、簡易のベース基地としては最適とも言える。
燃料が約二時間程に限られてはいるが、ブルーアース号の速力を考えればこの会場は十分に狭い。
――後は、目的地だ。
159
:
Dボゥイのやさぐれ珍道中(仮)
◆1sC7CjNPu2
:2008/05/10(土) 14:32:44 ID:hmeJad120
少しの熟考の後、Dボゥイは通信機能を立ち上げる。
既にスペースナイツへの通信は試し、失敗に終わっていた。
しかし、この会場内にはこの格納庫と同じような施設が複数存在する可能性がると考えたのだ。
――もし他に同じような施設がなかったとしたら、それはこの施設を見つけた者の独壇場を許すことになる。
――螺旋王がそれこそを見たいという事は、おそらくない
放送の内容もそうだが、もし虐殺を見たいというなら配下の人間を送り込んだことに疑問が生じる。
……もっとも、そのチミルフとかいう配下を殺すために送り込んだとしたら話は違ってくるのだが。
チラリと浮かんだ考えを隅に除け、Dボゥイは通信を試みる。
そして幸運というべきか、そう時間も立たないうちに手ごたえがあった。
「聞こえているか、応答を頼む」
モニターの向こうの相手が殺し合いに乗っていないことを祈りつつ、Dボゥイはまだ不鮮明な通信に向けて言葉を発する。
応答は、すぐに返ってきた。
『Dボゥイ、さん』
■
小早川ゆたかは、柔らかな革張りの椅子の上で満天の星空を見上げていた。
前面の四つのモニター全てに夜空を映し、ちょっとしたプラネタリウム気分を味わっていたのだ。
――なんでだろう。
――こんなに綺麗なのに、ぜんぜん綺麗じゃない。
矛盾した感想を述べ、ゆたかは煌びやかに映る星座や星々に興味を失い適当にパネルを操作してモニターを暗闇に戻した。
アンチシズマ管はストロベリージュースからまたメロンジュースに変わり、淡い光でゆたかを照らしている。
――みんな、死んじゃったかな。
朦朧とした頭で、ゆたかは刑務所にいた面々を思い浮かべる。
いくらゆたかとて、大怪球が浮上すれば刑務所がどうなったかなど想像がつく。
いまいち実感が湧かないが、おそらく間違いはないだろう。
160
:
Dボゥイのやさぐれ珍道中(仮)
◆1sC7CjNPu2
:2008/05/10(土) 14:33:30 ID:hmeJad120
――ああ、でも、どうでもいいか。
何もかもが、どうでもよかった。
生きるのが辛い、死ぬのが怖い、人に干渉されるのが辛い。
だから、小早川ゆたかは考えることを止めることにした。
――私は何もしない、この子と一緒にただプカプカ浮かんでいるだけ……
そこまで考えて、不意にゆたかの口から欠伸が出てきた。
同時に、眠気がゆたかを襲う。
特に抵抗する理由もないためあっさりと白旗を挙げ、ゆたかは眠りの国に赴こうとした。
『ピピッ!ピピッ!』
「……むぅ」
今まさに瞳を閉じようとした時に響いた電子音に、ゆたかは思わず頬を膨らませる。
ふとパネルの一つを見ると、ボタンの一つが赤く点滅していた。
少しの沈黙のあと、ゆたかはあっさりとボタンを押す。
何が起ころうが、どうでもいい。そんな破滅的な思考だった。
『――聞こえて――応と――頼む――』
「……え?」
聞こえてきた声に、一瞬でゆたかの眠気が吹き飛んだ。
暖かく、懐かしい声。間違えようなどあるはずがなかった。
それだけに嬉しくて――怖い。
「Dボゥイ、さん……」
『――ゆたか!ゆたかなのか!』
途切れ途切れだった音声が明瞭になるのと同時に、正面のモニターにDボゥイの姿が映った。
Dボゥイの方にも映像が行っているようで、ゆたかの姿を認めてホッとしたような表情を浮かべている。
鼓動が早鐘のように、ドグンと鳴った。
『無事でよかった、君は今どこに――』
「――――嫌!」
161
:
Dボゥイのやさぐれ珍道中(仮)
◆1sC7CjNPu2
:2008/05/10(土) 14:34:48 ID:hmeJad120
半ばパニックになって、ゆたかは叫んでいた。
圧倒的な恐怖が、あっという間にゆたかの心を支配する。
ゆたかは普段からでは想像出来ない速さでパネルに齧りつき、通信をシャットアウトしようと試す。
『ゆたか!?いったいどうしたんだ!』
「……ごめんなさい、私のことは放っておいて下さい!」
『ゆた――』
声が途絶え、程なくしてモニターが再び暗闇に戻る。
完全に通信が遮断されたことを確認すると、ゆたかは震える手足を押さえるように丸まって椅子に横になる。
いつの間にか、冷や汗がびっしょりと溢れていた。
――『私には信じるコトが出来ます! 何も力がなくてもDボゥイさんを信じるコトは出来る!』
「嫌ぁ!」
かつてシンヤを目の前にして放った言葉が耳元でリフレインし、ゆたかは思わず耳を塞ぐ。
Dボゥイを前にして、ゆたかが覚えた圧倒的な恐怖――それには、羞恥心が混じっていた。
彼の姿を見れば分かる。いくらボロボロになろうと、DボゥイはDボゥイのままゆたかを助けようと奮起していたのだろう。
だが――自分は、いったい何をしている?
Dボゥイを目の前にしただけで、自分の矮小さを思い知らされるような気がした。
「……やだ……見ないで……」
本当に、何もかもがどうでもよかったはずだった。
しかし、気がついてしまった。
今のゆたかを知れば、Dボゥイはゆたかのことをどう思う?
優しい彼のことだ、責めることはしないだろう。
だがきっと心のどこかで落胆し、それでもゆたかを守ろうとする。
――そんなの、耐えられない!
それは明智にブチ撒けた、誰にも必要とされずただ無力な存在そのものだ。
ゆたかは、恐怖した。
Dボゥイはきっと、ゆたかを助けにくる。
ゆたかを誰にも必要とされず、ただ無力な存在にするために。
――Dボゥイさん、お願いです。どうか私に構わないで下さい。
――私は一人でいいですから……一人が、いいんですから。
寒気がして、頭痛がする。
寝てしまいたいのに、眠気が訪れる気配はない。
凍える身体を強く抱きしめ、ゆたかは恐怖におびえ続けていた。
162
:
Dボゥイのやさぐれ珍道中(仮)
◆1sC7CjNPu2
:2008/05/10(土) 14:35:41 ID:hmeJad120
【???/大怪球フォーグラー メインルーム・上空/二日目/黎明】
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:発熱(中)、寒気、頭痛、疲労(大)、心労(極大)、絶望、恐怖、螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:何をすればいいのか、何をしてはいけないのか分からない
1:Dボゥイが助けにくること(誰にも必要とされずただ無力な存在になること)への恐怖
2:Dボゥイを目の前にしての羞恥(劣等感、コンプレックスなど)
3:できるだけ何も考えないようにする
4:みんなに優しくされるのが辛い
5:自分が無力なことが辛い
6:生きているのが辛い
7:死ぬのは怖い
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※精神状態が著しく鬱屈した方向に向かったため、螺旋力を発揮することが出来ません。
※状況を理解していなかったため、明智を殺してしまったことは気付いていません。よく状況を考えれば思い出す可能性も……?
→刑務所にいた面々(明智、清麿、ねねね)は死亡したと考えています。ただし朦朧とした頭で考えただけので実感がありません。
※刑務所を中心とした半径数百メートルは崩壊。
※フォーグラーがどの方向へ飛んでいったのかは次の書き手の方にお任せします。
【大怪球フォーグラー@ジャイアントロボ-地球が静止した日-】
全長300m、総重量500万tにも及ぶ、超巨大ロボット。
重力場を制御し飛行する事によって移動する。
武装は中央の赤い眼から発射される重力レンズ砲と表面から発射される各種レーザーアームとアンチ・シズマ・フィールド。
アンチシズマフィールドは操縦者がONとOFFを切り替える事が可能。
が、このフォーグラーにはアンチ・シズマ管が一本も装填されていないため、エネルギー静止現象を起こす事は出来ない。
今回の起動は事前に十分なエネルギーが供給されていたため。
巨大ロボットの例に漏れず大幅なオートメーションが進んでいるため、簡単な手順で操作可能。
163
:
Dボゥイのやさぐれ珍道中(仮)
◆1sC7CjNPu2
:2008/05/10(土) 14:36:29 ID:hmeJad120
■
「ゆたか!答えてくれゆたか!……くそっ!」
いくら呼びかけても反応しないモニターに対し、Dボゥイは思わず舌打ちする。
モニター越しとはいえ、五体満足な彼女の姿を認めたときは心の底から嬉しいと思えた。
だが、彼女はまるで拒絶するように通信を打ち切ってしまった。
――何があったんだ、ゆたか……
即座に浮かぶ可能性は、やはりラッド・ルッソだ。
純真な彼女が狂人のすぐそばにいてどんな影響を受けてしまったのか、想像も出来ない。
ひょっとしたら、性的な暴行を加えられた可能性もある。
「くそっ!……いや、だがまだゆたかは生きている」
ありとあらゆる可能性がDボゥイの脳裏を飛び交ったが、その全てを頭から消す。
少なくとも、ゆたかは今も確かに生きている。それは間違いない。
――場所は……あれは、発電所か?
それほど注視はしていなかったが、Dボゥイはゆたかの後方に緑に光る幾つもの円柱状のカプセルがあったのを覚えている。
それがいったい何なのかは確証が持てなかったが、何らかのエネルギー装置だとは推測が出来た。
もしも本当にエネルギー装置だとしたら、あれだけ大量にあるのは発電所だと見て間違いないだろう。
――となれば、急がなくては。
ブルーアース号を発進させるため、Dボゥイは操縦席を立ち後方の出入り口へと向かう。
格納庫は様々なメカを置くために広大な広さを誇っていたが、肝心の発進口は一つしか用意されていなかった。
その発進口は隔壁に閉鎖されており、一度ブルーアース号から降りて手動で隔壁を空ける必要があるのだ。
「キュル!」
「む?」
164
:
Dボゥイのやさぐれ珍道中(仮)
◆1sC7CjNPu2
:2008/05/10(土) 14:37:22 ID:hmeJad120
振り向くと、フリードリヒが連れて行けと言わんばかりに翼を広げていた。
Dボゥイは少し考え、おもむろにジャンパーの胸元を軽く開く。
そのまま子竜に近づき、開いたジャンパーの中にフリードリヒを収める。
「大人しくしていろよ」
「キュクルー!」
ガッテンだ!といった感じで答えるフリードリヒの頭を軽く撫で、Dボゥイは改めて船外に出ようとする。
そして――唐突に、立ちくらみが起きた。
「キュウ!」
「…………っ!」
続いて襲ってきた頭痛に思わず膝を突き、前のめりに倒れそうになる。
だが胸元にフリードリヒがいることを思い出し、手を突っ張って四つんばいの体勢で耐えた。
視界が、ぼやける。
――……ブラディアイの副作用か。まさか、こんなに遅く現れるとはな。
数十秒か、それとも数分か。しばらくして、頭痛は鳴りを潜めた。
Dボゥイはゆっくりと立ち上がり、手を握ったり開いたりして調子を確かめる。
「キュクルー?」
「……大丈夫だ、問題ない」
心配そうに見上げるフリードに、安心させるように呟く。
深呼吸し、Dボゥイは今度こそ船外へと向かった。
■
ダンッ、と壁を拳で叩いた音が格納庫に響く。
格納庫の唯一の発射口のすぐ横で、Dボゥイが隔壁操作用のパネルに拳を叩きつけたのだ。
「螺旋王……じわじわと嬲り殺しにしてくれる!」
165
:
Dボゥイのやさぐれ珍道中(仮)
◆1sC7CjNPu2
:2008/05/10(土) 14:38:27 ID:hmeJad120
Dボゥイが怒り狂っている理由は、いざ隔壁を空けようとした時に表示された情報が原因だ。
発射口から出た先の滑走路の見取り図が表示され、その出口はD-5エリアのど真ん中となっていた。
そこは、既に禁止エリアに指定されたエリアだ。
さらに見取り図を見ると初めは平行だった滑走路は段々と垂直に近づき、滑走路を出る時は垂直に飛び出すしかなくなっている。
急激な加速で禁止エリアを飛び出すことは、ほぼ困難と言っていい。
――さらに滑走路はリニアカタパルトに設定することが可能……螺旋王は、俺たちを宇宙に放り出す気か!
リニアカタパルトとは本来、電圧により速度の調整を行えるものだ。
だが目の前のそれは、ブルーアース号を宇宙に押し出すのに十分すぎる設定で固定されていた。
宇宙に飛び出すのが早いか、首輪が爆破するのが早いか。どちらかは予想も出来ないが、Dボゥイにはどちらも願い下げであった。
「キュル!」
「……そうだな、ぬか喜びに嘆いている暇はない」
胸元で聞こえたフリードリヒの渇を入れるように鳴き声に、Dボゥイは気を取り直す。
少なくとも、目的地は決まった。
そして、この格納庫にはまだ代用品がいくらでもある。
■
爆心地のすぐそばに空いた穴から、ブルンブルンと排気音が聞こえ始める。
次第にその音は大きななり、ピークを迎えると同時に穴からバイクが飛び出してきた。
バイクの上に跨るのは、Dボゥイだ。
――ゆたか、いったい何があったんだ。
Dボゥイはバイクを巧みに操り、瓦礫の山を駆け抜ける。
そして、その場には静寂とぽっかりと空いた穴だけが残された。
166
:
Dボゥイのやさぐれ珍道中(仮)
◆1sC7CjNPu2
:2008/05/10(土) 14:39:08 ID:hmeJad120
【E-6/デパート跡近く/二日目/黎明】
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:一部内臓損傷、背中に傷(炎による止血済み・応急処置済)、激しい怒り
左肩から背中の中心までに裂傷・右肩に刺し傷・背中一面に深い擦り傷(全て傷跡のみ)
ブラッディアイ(両目)、ブラッディアイ使用による副作用?(詳しい症状は不明)
[装備]:フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、バイク(ドゥカティ)@舞-HiME
[道具]:デイバック、支給品一式、ブラッディアイ(残量90%)@カウボーイビバップ
[思考]
基本:小早川ゆたかを保護する。
1-A:舞衣が過ちを犯す前に止める。だが……
1-B:ゆたかと合流し、守る。
2:ゆたかを保護するため、発電所に急ぐ。
3:テッククリスタルをなんとしても手に入れる。
4:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない。
5:煙草を探す
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています。
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました。
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能です。またその事を認識しています。
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※包帯を使って応急処置を施しました。
※ラッドに対する深い憎しみが刻まれました。
※螺旋力覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
※ラダムに対する憎しみを再認識しました
※スパイクと出会った参加者の情報を交換しました。会場のループについても認識しています。
※ブラッディアイは使えば使うほど効果時間が減少し、中毒症状も進行します。
【デパート付近、地下の施設】
人型の機動兵器以外の機動兵器が収納されている。
ブルーアース号、ドゥカティ以外にも沢山あります。
また出入り口はDボゥイが入ってきた一つだけです。
機体によっては、リニアカタパルトで宇宙にまで飛び出る加速度を得ることが可能です。
【フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
キャロ・ル・ルシエの使役竜。『白銀の飛竜』の異名を持つ。
知能は高いですが、自傷行為のため現在自立行動は不可能。
また現在の小竜の姿は仮のもので、本来は人を一人二人乗せて飛べるほどの大きさです。
ただしそれにはキャロの「竜魂召喚」の魔法が必要です。
【ブルーアース号@宇宙の騎士テッカマンブレード】
大気圏内外活動可能、垂直離着陸可能なスペーツナイツの宇宙船。
番組当初は非武装だったが、中盤でレーザー・カノン、終盤でフェルミオン砲をそれぞれ追加された。
格納庫にあるのはレーザー・カノンを追加されたタイプ。
また、燃料は二時間程に抑えられています。
167
:
空の上のおもちゃ(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:03:07 ID:f6f1.LN60
悠然と夜闇の中でもなお真黒く強く輝く陽の巨星。
其の威光は星々の煌きを掻き消し地の上に等しく圧を遣わす。
この閉ざされた箱庭に於いて、それを目にせぬ者は無し。
ヒトであろうとも、ヒトでなかろうとも。
「何だ……、何だというのだ、あれは……!」
黒金が鎚にて数多が塵芥を葬りし猛き英士は、地にて遥か天蓋を仰ぎ見る。
「あのような物までも……ニンゲンが使いこなすというのか!?
ならば、この俺の体一つではどうしようもないではないか……!」
悟るは己が力の限りと宿業と。
はたまた――――、
「……何故、我らを造り出したのだ、螺旋王……ッ!」
咆える。吠える。吼える。
何処までも何処までも響く声に応える者はおらず、誰よりも逞しき矮躯にて憤りを隠しもせずに。
然して、其の矛先を決して違えずに。
「……ならば、御覧に入れて見せようぞ……!
この俺の……、否、獣人全ての誇りに賭けて!」
叫ぶ。疾駆する。跳躍する。
闇を穿ち突き進む。
其の足に迷いは無く、嘆きもなく。
「……王よッ!! 今此処に怒涛のチミルフは宣言する!
これまで俺は確かにニンゲンどもを舐めていた!
この場に来る前に聞かせて頂いた『あれら』の所在、わざわざ使うまでも無いとタカを括っていた!
だが――――、」
最早彼の者に油断は無く、慢心も無し。
ニンゲンを、その力を認め、然しなお己の誇りを知らしめる為に。
自らの生全てへの感謝を、造物主に伝える為に。
「俺は、貴方から賜った全てを振るう事を此処に誓おう!
そしてこの怒涛のチミルフは、今こそ貴様らニンゲンを敵と認める!
これより俺は、俺の得て来た力を惜しげもなく貴様らを叩き潰す為に用いよう!
覚悟し、剋目するがいいッ!! そして抗い立ち向かえ!
俺がこの手でその悉くを蹂躙してみせるのだから!」
黒き暗き陽光の中、武人は只唯弛まない。
道程の行き着く先は故に一所。
己が全てを捧ぐに足る王より耳に伝えられし、彼がチカラの眠りし其の墓地へ。
◇ ◇ ◇
「……フン、螺旋王の用意した箱舟といった所か」
ギルガメッシュは誰もいない瓦礫の中で一人呟いた。
そう、そこにいるのは彼だけだ。
遥か天に揺蕩う黒の太陽を、王の王は見定めるように睨み続けている。
168
:
空の上のおもちゃ(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:03:57 ID:f6f1.LN60
「蛇。一時なりとはいえ我が臣下だった貴様の殉じた道、成程、それなりのものだったと見える」
それだけを口にしながら足下に転がる死体を一瞥だけした後、再度彼は空を仰ぎ見る。
「……だが、彼の王の居地まで至らねば貴様は所詮そこまでの存在だ。
これから我の進む先にある天を貫く道から振り落とされるとは、見据える先を誤ったな」
死体の握っていた宝石を弄びながら呟き、それきり彼は死体に関する興味を一切失った。
彼の関心のあるのは常に未来であり、自分の進むべき先のみである。
それこそが王の在り様であり、既に物言わぬ抜け殻に感慨を持つなど全くの無駄でしかない。
黒い太陽の闊歩する天蓋に向かい合いながら、ギルガメッシュは考える。
……アレには、何の意味があるのかと。
殺し合いをするにはあまりに過ぎるその力。
たとえ今だ目立った動きを見せていなかろうと、あらゆる財を集めし王の眼力はそこに秘められた真実を見抜くことを容易く可能とする。
「……雑種共に無限の動力を供給する源泉。そしてそれを封ずる為の栓、か。
全くけしからんな。
……力とは、王のみが自在に使うに能うモノだ。ならばアレは我の物であるに相違無いというのに。
雑種如きが振り回すには過ぎた玩具よ、早々に取り戻さねばなるまい」
あまりにも傲慢ながら、しかし彼はそれを当然の判断として気にも留めない。
空に浮かぶ大怪球は幸か不幸か彼の持つべき財として認められ、ひとまずの破壊を逃れたと言える。
己が財に対しては、英雄王はいきなり乖離剣を持ち出し叩き潰すなどという蛮行はまず行なうまい。
むしろ、同じ潰すにしてもいかに上手く使い潰すかを考えるのがこの男であろう。
……そう、黒い太陽の意義を考えねばなるまい。
殺し合いに使うのではないならば何が目的なのか。
それこそ、螺旋王の目的たる螺旋の力に何か関係するに違いない。
だが、現状アレは螺旋の力の覚醒そのものには関与はしていないのだ。
ならば回答は一つ。
「……この世界を発ち、彼の男の居城に至る術。
その手段でありながら、同時に螺旋の力の選別に用いる、と見るべきか」
あの黒い太陽はこの世界を抜け得る手段の一つであり、それを行なう過程において螺旋の力の成長を促しつつ、不要な者を切り捨てる算段なのだろう。
いずれにせよ、まずは黒い太陽を手中に収めねば検討はできないのであるが。
と、そこまで考えた時。
「戻ったよ、ギルガメッシュ。いやいや、辺りがぼろぼろだったから中々まともなのが見つからなくてね。
さて、とりあえずこっちの用事は終わったけど、すぐにあっちに向かうかい?
それともやっぱりデパートに向かうかな?」
両腕に簡素な衣服を着た少女を抱えながら、王ドロボウが帰還した。
◇ ◇ ◇
しばし時間は遡る。
博物館から出た彼らを出迎えたのは黒い太陽の闊歩する凍てついた廃墟だった。
刑務所のあった辺りが崩壊してまともな形状をとどめていないその光景は、デパートに向かわんとするジンとギルガメッシュに行く先を再考させるには充分だったのだ。
169
:
空の上のおもちゃ(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:05:24 ID:f6f1.LN60
刑務所にいたはずの人間や奈緒、ドモンはどうなったのか。
それを見極める必要があるだろうし、彼らの持つ情報を失うには惜しい。
施設の道具はなくならなくても、人間の命はそうではないのだ。
あれだけの規模の破壊、自分たち以外にも確実にそれを目の当たりにした参加者がいるはずである。
仮に刑務所の人間が生き延びたとして、目ざとく集まって来る殺し合いに乗った参加者に殺されては元も子もない。
そもそも、助かったとしても怪我で長くないという可能性もある。
ならば、そちらに向かって情報だけでも搾り取った方が有益というものだ。
そしてもう一つの違和感が、彼らの目にする景色の中に確かに存在していた。
正確に言うならば『しなかった』が正しくはあるのだが。
二匹の怪獣による破壊の爪痕、それは確かに其処此処に刻まれているにもかかわらず最早轟音や炎の一つすら見えはしない。
戦いの終結をこれ以上なく明確にしながら、静寂はただただ彼らの周りに満ちていた。
そんな最中、ジンが見つけたのが二人の少女だった。
一人は気絶、一人は死体。
どちらにせよ動かぬ彼女たちを目の当たりにするだけで、王達は即座に事態を理解する。
そして決断も速やかに。
あれだけの破壊をもたらす竜使いたち。
加えて、己が首輪を燃やし完全に束縛より解き放たれたその姿。
二人の王は、単純な興味とそれ以上の打算で以って生き延びた少女を確保することを合意した。
とはいえ両者の意見の一致はそこで一時終了となる。
さっさとその場を去ろうとする英雄王に対し、王ドロボウが物申す。
紳士で気障なジンとしては、生まれたままの姿になっていた少女に着せる服くらいは与えてあげるべきではないかと告げるのは当然のことだろう。
寛大な心を見せるのが王だと言われれば、ギルガメッシュもそれに頷かざるを得なかった。
ついでに周囲の探索も兼ねて、ジンは少女の目覚めを待ちつつ服を探しに行く。
――――尤も、破壊されつくした周囲でまともな服が見つかるはずもなく。
映画館の方まで足を伸ばしたものの、見つかったのはでっかい大穴、そして簡単な墓と幾つかのアイテムだけ。
待ち合わせたスパイクもいないので卸売り市場のほうに行ったと判断するも、あまりギルガメッシュを待たせれば碌な事にはならないだろうとその場でターン。
墓に刺さっていた剣を除いてドロボウらしくそれらを頂いた後、しばし探し回れど着せられそうなものは無しのつぶて。
仕方ないのでようやく見つけた1枚のシーツを服らしい形に纏わせて、帰還した次第という訳である。
◇ ◇ ◇
遠く遠く、戦の足音はただ遠く。
昏き闇と緑の織り成す深層の奥に在る物は、生きとし生けるものに眠ること許さぬ寝所。
断ち割られ、斬り割られ、分かち割られ。
十の傑が一人に頭を蓋を崩落されしその場は月の光に照らされる。
旧き墳墓。
はやヒトは近づかず、不敗の名を持つヒトの極みも立ち去り久しい。
170
:
空の上のおもちゃ(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:06:11 ID:f6f1.LN60
煌々たる天の光の一つも届かぬ闇の奥に辿り着きしは獣の勇士。
彼の者は己が座に舞い戻り、地の底よりニンゲンに威足る巨躯の封を解いて同胞の誇りを知らしめる。
黒き太陽が地の底に眠るならば。
ソレを穿つ勇士の化身も地に眠る。
「……螺旋王ッ! 俺に力を与えてくれたことを感謝しよう!
そして、その力を更なる高みに引き上げてくれたこともだ!
見るがいい、……ニンゲンども!」
“入れ”た。
「……これが、我ら獣人の力だッ!!」
瞬間、眩き光が辺りを満たす。
地の底に封ぜられし鉄の覇者。
強く剛く、力の限りに振るうは豪拳。
眠りから醒めたからには寝所の役目は既に失せ、在りし建物は其処に無い。
墳墓の全ては只の一撃で破砕。
舞い散る欠片は一つ一つで建物にも等しく、伴う風は嵐も越える。
赤き巨神が舞い降りる。
地が割れ、森が割れ、山が割れ。
家が割れ、道が割れ、空を突く。
嗚呼、その名は大紅蓮。
大顔山を制して自らの信ずる道を進み作り出す、男達の集いし夢の跡。
山を越えて雲を衝く。
偉大なりし雄姿は黒き太陽に勝るとも劣らない。
然してその先端に起つは彼らに非ず。
白き虎、猛き虎。
嘗て異なる世界にて、月を目指すと語った男を屠りしその姿は実に威風堂々と。
輝く槍をその手に掴み、黒き太陽に刃を向ける。
「……さあ、ここからが本番だニンゲン!
このビャコウとダイガンザンが、貴様らの死を以って我らの生きる意味を証明してくれよう!!」
遠吠えは、何処までも。
箱庭にいる生者全てに確たる存在を刻み込む。
全ての蹂躙される者に哀れみを。
――――成す術など、在りはしないのだから。
◇ ◇ ◇
171
:
空の上のおもちゃ(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:07:23 ID:f6f1.LN60
「……何だか凄いことになってるね。怪獣達の宴の後は太陽と巨人の争いか」
――――星をも盗む流石の王ドロボウも、そう呟くだけでやっとだった。
真東より立ち上がる赤い巨人。
その大きさは大怪球にも匹敵し、ただ立ち上がるだけで周囲のあらゆるものを破壊する始末だ。
もはや人間が一人でどうこうできるレベルではない。
刑務所に向かうのには危険すぎる。
しばし刑務所方面からは手を引き、当初の予定通り施設を巡るべきだと考える。
それも東側ではない方角だ。あれだけの大きさ、怪獣同士の殴り合いよりひどいことになるのは明々白々。
何処まで被害が及ぶか分からず、万一巻き込まれてはたまったものではない。
お姫様抱っこの態勢で抱きかかえている少女の話も聞きたいし、安全な場所へ行きたいものである。
とりあえず、西へ。
どんな施設があるか考えると発電所の辺りがいいだろうか。
即座に思考を展開させ、少女を座席に横たわらせながらジン自身も消防車に乗り込む。
後は気難しい同行者の機嫌を取って、兎にも角にも逃げ出すだけだ。
「ギルガ――――、」
しかしその算段は破綻する。
当然だ。
英雄王に退くという選択などありえない。
言葉を途中を止め、ジンは彼の姿を見る。
黒猫姿がいまいち場にそぐわないとはいえ、その背中から王気は迸り、止まらない。
右手にあるのは乖離剣。
赤い光を満たしたまま、螺旋はゆっくりと蠢き続けている。
ぐるぐると、ぐるぐると。
「――――王ドロボウ、それが貴様の王道か?」
黄金の王は振り向かず、問う。
「そうだね、欲しい物は盗みつつ、逃げるべき時にはとんずらさ。
何事も引き際が肝心。特に今は仕込みの時期で、あまり表立って動く訳には行かないのさ。
輝くものは目立つんだし、人目につかないうちにドロボウらしくこそこそと、ね」
返答に王はどちらもにやりと口端を歪める。
自身の王道を告げる言葉に迷いは無く、応えるまでのタイムラグも無に等しい。
故に際立つのはジンのその在り様だ。
それに満足しつつ、しかしギルガメッシュは決してソレを認めない。
「フン、……ならば見るがいい。貴様の進む道は、真の王者の通る道に塗り潰されるものでしかないと」
そう、王の道はただ一つ。
王の王が、自身以外の王道を許すことはないのだから。
だからこそ彼は見せ付ける。
彼の選んだ、在り様を。
王が王であるというその証拠を。
172
:
空の上のおもちゃ(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:07:59 ID:f6f1.LN60
「ク、ハハ、ハハハハハハハハハ……ッ!」
轟、と風が集い始めた。
螺旋の剣が光を放つ。
赤く、紅く。
周囲の空間そのものが歪むように。
ジンは本能と直感と理性と体と、ありとあらゆるもので理解する。
……ギルガメッシュが何をやろうとしているのかを。
「ちょっと待ったギルガメッシュ、会場を破壊するのは――――、」
それだけは止めねばならない。
会場にはまだ大量の人間がいる以上、ここでその崩壊に彼らを巻き込むわけにはいかないのだ。
うっすら冷や汗をかくジンに、しかし英雄王は彼の言葉を否定する。
「心配する必要はなかろう王ドロボウ。
忌々しいことに、この場でエアを使おうとまだ会場を破壊する事は出来ん」
どういうことだろうか。
疑問に思い、言動の裏について思索する。
考えてみれば、そも先刻の『財を集めてから会場を破壊する』という言葉に反しているのだ。
もしや何らかの考えがあるのかもしれないと思い至り、ジンはそれを口にする。
「どういうことかな? 詳しく説明してくれると助かるけど」
今だ赤光を、風を集め続け、静かに唸りを上げる乖離剣。
既に二者も担い手を葬った死神を平然と操りながら、ギルガメッシュは兼ねてよりの考察を根拠に一切合財を切り捨てる。
「貴様とあの走狗が言っていたろう? 会場はループしていると。
あの時も言ったがな、会場のループという措置は周囲の結界に触れさせないためのものだ。
同時におそらくその結界は、内部からの脱出を防ぐ為にそれなりの防御力を持っていることだろう。
この実験場はな、
参加者を地図の対面に転送する『転移結界』、
螺旋力覚醒の促進や外部からの遮断を行い、参加者の力を制限しつつ脱出を防ぐ『防護結界』、
そして、それらの外側――――、この箱庭そのものの外枠、実験場という名の『世界の殻』。
これら3つの壁を破壊し初めて脱出できるように出来ている。そこまでは分かるな?」
ここまでは博物館に入る前に告げた考えだ。
しかしよくよく吟味すれば、この世界に崩壊をもたらす要素は一つしかない。
「……成程ね。つまり、『世界の殻』を砕きさえしなければこの会場は壊れないということか」
納得とばかりにジンが頷いて見せれば、相変わらず赤の巨人を見据えたままのギルガメッシュが苦笑するのが背中越しに感じられる。
それが、自身が認めるに相応しい切れる男に出会えたことの喜びと、それすらも敵視しようとする己の性癖に向けたものなのか。
はたまた別のものなのかは、本人以外には分からない。
尤も、たとえどのような感情を抱いていたとしても英雄王のなすべき事は動きはしないのだが。
173
:
空の上のおもちゃ(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:08:48 ID:f6f1.LN60
「その通りだ。
我の目的は、あの木偶に加えて『転移結界』と『防護結界』の破壊でな。
貴様が心配するまでもなく、いかにエアでも力を制限された状況では『防護結界』を貫くのがせいぜいといったところだろう。
少なくとも空間を制するエアならば転移結界を破壊するのは容易い事だ。
……さて、これ以上の御託は必要か?」
「ノープロブレム。
……制限を無くせるのならそれに越したことはないしね。お手並み拝見といくよ。
ギルガメッシュの王道とはどんなものか、この目にとどめておく事にしよう」
「――――フン」
王ドロボウの見届けを背に、ギルガメッシュは掌の中の存在に力を込める。
「クク、出番だエア。……見るがいい、都合のいい事に的が出ているぞ。
あの様な不細工な木偶人形に存在を許可した覚えはあるまい?
なに、不満はあろうがお前を振るう理由は充分だ」
夜の闇に生まれ出でた赤の巨人。
ギルガメッシュたちなど虫ケラ同然と、こちらなど全く意識していないソレにあからさまな怒りを示しながら。
そして、どれだけ体躯の差があろうと、平伏すべきは彼奴であると傲岸不遜な態度はそのままに。
全てを掻き消すべく更なる紅の光が一点に集い凝集していく。
「今宵お前を使うのは的を薙ぎ払う為ではなく、王を名乗る者に王とは何かを知らしめる為なのだから。
……そして、身の程知らずに教えてやるとしよう」
周囲の景色が歪んでいく。
眼前にあるモノ全てを切り裂かんとする、空間を統べかつて天と地を分かったノウブル・ファンタズム。
知識と魔法と水を象徴する神、エア。その力は豊穣と死をも司る。
今こそその化身は正しき担い手に渡り、ようやく歓喜の表情を露にしつつあった。
「この世に獣が闊歩できる余地は無し、全ては等しく我の玩具であると――――」
174
:
空の上のおもちゃ(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:09:35 ID:f6f1.LN60
空間そのものが震え、軋んだ。
余波を浴びただけで人ならば動くことも能わない。
ぎしぎしと、ぎしぎしと。
存在する万のモノが悲鳴を挙げている。
「…………天地乖離す、」
告げる。
終末を。
三つの円柱が吼えるのは、原初の記憶。
命が生れ落ちることすら許さないハジマリの世界。
「開闢の星――――――――!」
紅の光が“居る”事をひとしなみに禁じていく。
◇ ◇ ◇
始まるは滅びの宴。
新世界の創造とは旧世界の破壊に他ならない。
博物館の南東から放たれた一閃は、まず眼前のモノレールの線路を紙きれよりなお容易く消し飛ばした。
大地を割りながら突き進み、海に触れた途端、水蒸気爆発が発生。
上空数百メートルまで舞い上がる勢いの大量の水塊はしかし、わずか数十cm動いただけで完全に『無くなった』。
蒸発したのではなく、分子原子、素粒子のレベルで世界から消え失せる。
それも瞬くよりなお短い時間のこと。
陸に舞い戻った極光は、ロムスカ・パロ・ウルラピュタの名残を粉微塵よりなお細かく砕き割った。
『幼き戦士エリオ・モンディアルと義手義足の少年を殺した外道、ここに討つ』
――――二人の戦士が仇を討ち、悲しみとともに記した言葉も。
『最後の瞬間まで戦い続けた、幼き戦士エリオ・モンディアルに勝利の栄光を』
砂上の楼閣のように崩れ去る。
消えていく。消えていく。
想いも勇気も嘆きも悲哀も悔しさも、全て、全て。
総合病院を構築する全ての要素が剥離し、光の中に溶けていく。
奇しくも同じ力によって命を落としたアニタ・キングは、完全なる“乖離剣”によって今度こそページ一枚、一行、一文字たりとも痕跡を残しはしなかった。
エドワード・エルリックは分解されたまま、二度と再構築されることはない。
勇者エリオ・モンディアルであろうと、彼を殺したムスカと同じ命運を辿るのは等しく同じ。
相羽シンヤの死体も無念と兄への想いを道連れに、この世にいたという証拠を全て抹消されていく。
175
:
空の上のおもちゃ(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:10:41 ID:f6f1.LN60
――――まだまだ終わるものかよ。
この程度で終わるものか。
創造の、螺旋の剣の力は止まる事はない。
数多の人の想いの残滓如きで止まりは、しない。
◇ ◇ ◇
「……病院が、光っ――――!?」
素晴らしき屍をも喪わせながら。
今まさに飛び発たんとする紅蓮の巨人が光に飲み込まれ、掻き消える。
旧き墳墓など当に跡形もなし。
夜の闇に、僅かに染み渡った声は誰のものだったか。
二つ名の通りまさしく怒涛の勢いで蹂躙されるが彼の定め。
星の記憶、死の国の原点は獣人であろうが生命の終わりを告げるに躊躇いはない。
◇ ◇ ◇
高笑いが響き渡る。
紅蓮の巨人はもういない。
立ち続けるはただ一人。
王はただただ、笑う。嗤う。
「ワハハハハハハハハハハハハハハハッ! ハ、この程度か獣、なんとも手応えがないではないか!
ハァハハハハハハハハハハハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
夜の闇に風が吹く。
威風と暴風の螺旋は、今だ留まり止まない。
ひとしきり哂い続け――――、そして終わればすぐにまた哂う。
と、不意に耳に届く声がする。
176
:
空の上のおもちゃ(前編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:11:38 ID:f6f1.LN60
「――――」
この音は誰のモノだったろうか。
彼が王として対するに相応しい、盗人の王のものだったろうか。
告げられた内容を嚥下し、咀嚼。
……如何なる意味か、状況にそぐわない。
言葉の意味を問いただそうと振り向き、その光景を見る。
既にそこには誰もおらず、目に入るは一つの色のみ。
紅の幕が眼前に。
迫る。迫る。見慣れた光が自身を包む。
紛う事なき己が剣のその力に。
その光景の中に英雄王は、一つの事実を確信しながら染まっていった。
螺旋の王の力の一端に。
「――――貴様、よもやそこま、ガ――――!!!???」
◇ ◇ ◇
――――何の事はない。
ダイグレンを掻き消した後、地図の端にあたる場所に触れた瞬間に、天地乖離す開闢の星が対面に転移しただけだ。
エアの空間介入の力は『転移結界』を容易く破った後、『防護結界』まで突き進むはず。
ギルガメッシュの見積もりならばそうなる筈だっただけで、事はそう単純に行かなかったというだけの話。
まあ、伝聞情報のみに頼って実際どういう現象が起こっているかを確認しなかったギルがメッシュの油断が招いた事態と言えるだろう。
神の視点を持つものならば、二度に渡る乖離剣の暴発を持ってさえ会場の結界を破ることが適わなかったことは知っている。
ならば、そこに何らかの仕掛け――――、高出力攻撃への対策が施されている事に思い当たるのは難しいことではない。
それだけだ。
地図の端に至った後、亡びの具現は会場を一周せんと目先のモノレール駅を抹消する。
流石に二つの建物を葬り減衰したとはいえ、世界を切り裂く一撃に矮小な小屋を砕くなど造作もないことだ。
指向性に些かの揺るぎもなく禁止エリアに突っ込み、今度は灯台にぶち当たってその機能を停止させる。
消滅させるには至らなかったものの建材の悉くを露出させ、なおその力は前へ前へ。
ゆっくりとぐらりと倒壊する灯台を尻目に、紅の光は英雄王の下へと帰還する。
そして主を呑み込んだ。
177
:
空の上のおもちゃ(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:12:51 ID:f6f1.LN60
◇ ◇ ◇
がたごとがたごと、滅びを尻目に消防車は行くよ。
行くはひとまず賑やか市場。
催し物は殺し愛。
仲間がお待ちのお祭り知らず、王ドロボウは道を往く。
「……D、ボゥイ……」
どうにかこうにか亡びから逃げ出し一息つく頃、ようやくにして見知らぬ少女が目を覚ます。
ゆっくりと瞼を開け、体を起こしてしばし呆けたまま動かない彼女に向かい、ジンはとりあえずの口上を告げることにした。
「ようやくお姫様のお目覚めみたいだね。恋する乙女は王子様のキスがなくても彼を想うだけで夢の世界にサヨナラできる。
さて、物語の結末はハッピーエンドかな?」
びくりと震え、ようやく辺りを見回す余裕を得る少女。
それでも事態を把握できていないのか多少間の抜けた口調ではあったが、どうにかこうにか現状への疑問を搾り出す。
「ここは……。あなた、誰?」
「俺はジン。このパーティの主催役を盗もうと企むしがないドロボウでございます。
……と、話をする前に一ついいかな?」
飄々とした、今までに会った事のないタイプの少年だ。
よく分からないままペースに乗せられてしまい、少女はただただ頷くだけしかできない。
少なくとも敵意は見られないし、悪い人間ではないのだろう。
「……? う、うん」
「とりあえずコイツを握ってくれるかな、あ、あまり力は込めない様に」
言われるままに手渡された剣を握ってみる。
と、その豪奢な剣が不意に輝いた。
まるで少女の持つ何かに反応したかのように。
「あ……え?」
螺旋力の有無。
ドモンに感じたそれを少女から嗅ぎ取って、試しにギルガメッシュの言う『宝具』を持たせてみればまさしくビンゴ。
今はドモンがいない以上、たとえ施設に隠された何かを見つけても螺旋の力を未だ持たないジンにはどうしようもなく、その意味で彼女は役に立ちそうだ。
尤も、それ以上に興味深い情報を彼女は握っている可能性があるのだが。
178
:
空の上のおもちゃ(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:14:55 ID:f6f1.LN60
「……やっぱりね。君もドモンと同じで螺旋の力の持ち主という訳か。
ちょうど良かった、他の施設にもに博物館と同じ鍵がかけられていたなら俺には開ける事が出来ないし。
さてさて、積もる話もあるだろうけどひとまずすべきは自己紹介からだね。
……それじゃあご拝聴を。そして、君の方も知っていることを話してくれたらありがたいかな。
その、首輪のこととかね」
そして少女は思い出す。思い出していく。
記憶の靄の向こうから、彼女の出会ってきた全てが蘇ってくる。
何を思い出せばいいのか。
何をこれから成せばいいのか。
気がつけば、いつの間にか頭の中に響くラダムの声はなく、燃やせという脅迫じみた衝動も沸いてこない。
だからこそ――――、少女はただ迷う。
ずっと自分でないものに押し潰されそうだった心の重石がなくなったためか妙な浮遊感があり、行く先が見えてこない。
確かなものはただ一つ、大切だと気付いた一人の男の姿のみ。
ただ会いたいという想いを込めて、少女はドロボウに自らを綴る。
力になってくれるのではないかという淡い期待を込めて。
「……あたしは――――」
【C-5西部/路上(消防車内)/二日目/早朝】
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING×2(1個は刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式
予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、
ゲイボルク@Fate/stay night、短剣 、瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4
ナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)、
デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7、ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!、
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
0:さてさて、首輪についても怪獣についても、色々面白そうな話が聞けそうだね。
1:とりあえず卸売り市場に向かってスパイクを捜索、騒ぎが収まったらのデパートの方へ。
2:ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
3:ニアに疑心暗鬼。
4:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
5:マタタビ殺害事件の真相について考える。
6:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
179
:
空の上のおもちゃ(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:15:55 ID:f6f1.LN60
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※スパイクからルルーシュの能力に関する仮説を聞きました。何か起こるまで他言するつもりはありません。
※スパイクからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。今の所、他言するつもりはありません。
※ルルーシュがマタタビ殺害事件の黒幕かどうかについては、あくまで可能性の一つだというスタンスです。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、シーツを体に巻きつけただけの服、首輪なし
[装備]:薄手のシーツ、 エクスカリバー@Fate/stay night
[道具]:なし
[思考]:
0:……Dボゥイ、会長さん……。
1:静留の死を悼む。
2:Dボゥイに会いたい。
[備考]
※HiMEの能力の一切を失いました。現状ただの女の子です。
※静留がHiMEだったと知っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※小早川ゆたかについては、“ゆたか”という名前と、“自分より年下である”という認識しかもっていません。
※ギアスの効果は切れた模様です。
※螺旋力覚醒
◇ ◇ ◇
月明かりの下。
最早ヒトガタ足り得ぬ巨躯の残骸の上で獣の雄姿が哭き叫ぶ。
「――――螺旋王ッ! これが、……これほどの力を持つものがニンゲンだというのか!?」
胸から下を全て喪いし大紅蓮は最早がらくたに過ぎず、無残に無様に崩れ続ける。
あっさりと、実にあっさりと。
咄嗟の勘にて高く高く跳躍してみれば命ばかりは永らえたものの、然して事実は彼がチカラを奪い去り往く。
最早残るは踏み躙られし夢の跡。
「ならば! ……我等とは、獣人とはまさしく彼奴らの奴隷なのか!?
答えてもらいたい! この怒涛のチミルフは、何故ここに居るのだ……ッ!!」
返答は無く、ただ木霊が彼が身を慰め包むのみ。
己と主との絆たる巨大なチカラを零した勇士は、只唯天を見つめ成す術も無く時の移ろいに身を委ねる。
【D-8/古墳跡、ダイグレン残骸の甲板上/二日目/早朝】
180
:
空の上のおもちゃ(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:16:39 ID:f6f1.LN60
【怒涛のチミルフ@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に肉体的疲労とダメージ(小)、激しい驚愕、自身の存在価値への疑問、ビャコウ搭乗中
[装備]:愛用の巨大ハンマー@天元突破グレンラガン(支給品扱い)、ビャコウ@天元突破グレンラガン
[道具]:デイパック、支給品一式、(未確認の支給品が0〜2個ありますが、まだ調べてません)
[思考]
基本:獣人以外は全員皆殺し。
0:……ニンゲンとは、一体何なのだ……ッ!
1:黒い太陽の方へ向かう。
2:次の放送後にもう一度ヴィラルと接触する。
3:ヴィラルが1人も人間の討ち首を持ってこれなかったら、シャマルの首を差し出させるかもしれない。
4:夜なのに行動が出来ることについては余り考えていない(夜行性の獣人もいるため)。
5:ニンゲンの力について考え直す。
[備考]
※ヴィラルには違う世界の存在について話していません。同じ世界のチミルフのフリをしています。
※シャマルがヴィラルを手玉に取っていないか疑っています。
※チミルフがヴィラルと同じように螺旋王から改造(人間に近い状態や、識字能力)を受けているのかはわかりません。
※ダイグレンを螺旋王の手によって改修されたダイガンザンだと思っています。
※螺旋王から、会場にある施設の幾つかについて知識を得ているようです。
【ダイグレン@天元突破グレンラガン】
チミルフの旗艦であるダイガンザンを奪取したグレン団が、自分達用にカスタムした移動要塞型ガンメン。
旗艦というだけあってとにかく大きく、ガンメン数十体は軽く収容可能。
また、ただでさえ火力や耐久力にも優れる上に、リーロンの手によって耐水加工やダイガンテンのトビダマを搭載などの改造が加えられており、水陸空のあらゆる環境で運用可能になっている。
……のだが、天地乖離す開闢の星によって艦橋を除く殆どの部位が消滅。大破と呼ぶのすら生温い。
もうまともに動かすことは叶わないだろう。
【ビャコウ@天元突破グレンラガン】
チミルフ専用カスタムガンメンで、本編ではカミナの死因となる一撃を放ったという曰くつきの機体。
名前の由来は白虎。
主な武装はビーム刃を放つ槍で、
ビーム刃による貫通突撃アルカイドグレイヴと、ビームを刃から直接打ち出すコンデムブレイズという
近距離遠距離それぞれに対応した必殺技を併せ持つ。
必殺技を披露する機会すら与えられなかったシトマンドラwithシュザックに比べて随分優遇されている気がする。
◇ ◇ ◇
181
:
空の上のおもちゃ(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:17:33 ID:f6f1.LN60
「……ふむ、中々に良い仕事だぞ具足。我の財とするには如何せん地味に過ぎるが、心掛けは悪くない。
たまには貴様のような変り種を宝物庫に加えてみるのも風流というものか」
『……貴方はマスターが命を張って交渉した方ですから。
マスターの仲間と会ってもらうまでは死んでもらうわけには参りません』
――――黄金色に染まる天。
雲がまるで収穫期の麦畑の様に明々と染まる夜明けの中、遥か地上を見下ろしながら黄金の王は誰かへと呟く。
その身に纏っていた黒い衣装は既にない。
暁の光とともに、夜の闇へと千切れ消えた。
上半身のみ己が肉体を全天全地に曝し、腰より下には黄金の鎧を。
御足に具現するは、昴の名を冠した少女の忘れ形見だ。
天地乖離す開闢の星、減衰しながら帰還したその一撃を前にして、ギルガメッシュが取った行動は実に単純。
再度乖離剣の一撃を放つ事で相殺を狙ったのである。
目論見通りにある程度までは上手くいったのだが、衝撃まで消えた訳ではない。
遥か上空に吹っ飛ばされ、尚且つ黒猫スーツを失ってしまうという痛手を被った。
彼方まで飛ばされて更なる余波の斬撃で傷つくかと考えたその瞬間、彼の体を魔力の衣が包み込み、エアの残滓を防ぎぎった。
その正体こそがマッハキャリバーだったという訳だ。
「戯けが。この我が誓いを違えると思うか?
……しかし、成程な。ようやく螺旋の王の脚本が見えてきたぞ」
――――黄金色の草原に浮かぶ黒の太陽と同じ目線を飛びながら、ギルガメッシュは世界を見渡す。
ようやく彼の目に、この殺し合いの全貌が見えてきた。
会場を包む転移の結界。
その理屈の正体は、初めは空間転移かと思っていたがそうではない。
「……確率変動、か」
触れた物や現象の『そこにある』確率を変動させる。
それがギルガメッシュの考えた『転移結界』の正体だ。
単なる空間転移では空間を統べるエアの一撃に耐えられるはずがない。
ならば、一見転移のように見える現象の内実は、まったく別のものだろう。
地図の端と端で起こった現象は、
片方の地図の端に参加者や高出力の攻撃が触れたとき、
『触れた存在の、今いる場所での存在確率を0にする』
『触れた存在の、地図の対面における存在確率を100にする』
を同時に行なうことで、擬似的に転移を発生させているとギルガメッシュは考える。
また、上空の高度制限も、
『触れた物体や現象が、それ以上の位置まで上昇する確率を0にする』
事で行われているならば彼自身が今まで観測した現象に矛盾が発生しない。
182
:
空の上のおもちゃ(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:18:29 ID:f6f1.LN60
更に言うなら、彼自身の観測していない二度のエアの攻撃で会場そのものに影響が出ていないのも、確率変動結界が会場の四方だけでなく上空にも展開されている証拠だろう。
それを鑑みて天を見る。
ギルガメッシュが見据えるのは、今まさに地平の彼方へ消えようとする月だ。
奇しくも傷の男が抱いた疑問と同様のものをギルガメッシュは内心抱く。
今まさに入れ替わろうとし、同時に天に居ることを認めようとしない太陽と月。
その不自然さに気付き、ギルガメッシュは兼ねてより箱庭と見ていた会場の構造に確信を抱いた。
「天を衝く、地より突き立ったドリル。……まさしくこの箱庭はその形状をしている」
ドリル状の世界の内部に、ドーム型の防護結界が張り巡らされ、更にその内側に直方体状の転移結界が存在する。
そうまでして念入りに参加者を逃がさないように囲った上で、殺し合いによって螺旋力を促進。
その後、参加者をどう扱うか。
その答えにつながる光景がギルガメッシュの目の前にある。
「……おそらく今晩か。あの月がドリルの先端に触れた瞬間に、この世界は消滅。
それまで生き延び、螺旋の力を蓄えたものたちを回収するのが貴様の目論見か、螺旋王」
――――太陽が、透けていた。
それだけではない、天の星々もよくよく見れば光の向こうに暗闇が見えている。
殺し合いの開始当初に比べ、少しずつ確実に、誰にも気付かれず進行していた世界の崩壊は、ここに来てようやく目に見える形になり始めていた。
しかし、月だけは未だその光に衰えが見られない。
ギルガメッシュは考える。
この世界を構築する柱が、あの月にあるのではないかと。
そして、月がこの世界の先端、天元に到達し、世界の外に抜け出すことで箱庭の消滅がもたらされるのではないかと。
「……陳腐な脚本よな。趣向を凝らす余地というものが全く無い。
螺旋王の感性、その低さが伺えるというものだ。だが――――、」
それだけでは説明がつかないのが、黒い太陽の存在だ。
あれは明らかに『結界を越える為』の乗り物である。
……そう、エネルギーの停止をもたらす炉心であるあれならば、たとえ確率変動結界であろうと越え、防護結界に一撃を入れるために近づくことも可能だろう。
大人しく世界の消滅を待つにはどう考えてもそぐわない。
……ならば、そんなモノが存在する意図は一つしかない。
「物を語るのは王ではない。詩人であり、綴り手であり、語り手である者達だ。
王自らが綴る物語など駄作としかならん。螺旋王、貴様の脚本はあくまで次善のものでしかないのだろう?
王とは人の上に立ち人を使う者であり、旗下の優れた能を持つ輩を適所に送るもの」
そう、ならば。
183
:
空の上のおもちゃ(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:19:32 ID:f6f1.LN60
「……ならば、居るはずだ。
螺旋の物語を任せるに足る、螺旋王の思惑すらも超えうる綴り手が。
貴様の想定通り、『想定という名の天蓋すら貫く』物語の、な」
螺旋の王は、決して時間切れによる殺し合いの終了を求めているわけではない。
欲しているのはただ一つ。
彼の思惑すらも超えて、螺旋の力を開花させ天元すら突破しうる者だ。
おそらく会場に隠されている様々な財はその為にあるもの。
もしかしたら、あの黒い太陽が破壊されたときに備えての代用品も、発電所などに偽装されて存在しているのかもしれない。
……そこまで思い至った時、不意に彼の耳に一つの名詞が飛び込んできた。
『……菫川ねねね女史』
――――物語の綴り手たる者の名前が。
この場において呟かれるは間違いなく螺旋王の所在に至る鍵となり得るもの。
英雄王の眼力はそれを逃すはずもない。
「ほう、心当たりがあるか具足。成程、刑務所に居た者達の仲間と見える。
……なれば、早々に会う必要があるか。
我の物語を綴らせるに相応か否か、見極めてやるとしよう」
呟き、ギルガメッシュは右手に抱く螺旋の剣を振りかざす。
見据えるは天元。
それに届かせるかのように、しかし尚且つ無造作に赤い光を集わせ、チカラを放つ真名を口にする。
「……エア、穿て」
天地乖離す開闢の星には至らずとも、しかし充分すぎるほどに強い光が天を衝く。
……しかし。
「フン……」
予測通りにその光は途中で掻き消える。
確率そのものを0にされているからか、制限を加えられているからか。
月に届くどころか空を越えることすら出来はしない。
黄金色の草原の中でそれを見届けたのち、ゆっくりとゆっくりと、ギルガメッシュの体が落ちていく。
同じ高さに居た黒い太陽が次第に視界の上へと消えていく。
「デパートで待つ、か。王ドロボウ」
これから成すべきことを考えながら、ギルガメッシュは重力に身を任せて空に一時の別れを躊躇いなく告げた。
落ちた先に何があろうと心配はしない。
バリアジャケットとサーヴァントの技能があれば落下の衝撃など大した問題ではなく、誰が待ち受けようと切り捨てればいいだけなのだから。
184
:
空の上のおもちゃ(後編)
◆wYjszMXgAo
:2008/05/12(月) 03:20:18 ID:f6f1.LN60
月と、太陽と、雲と、黒い太陽と。
天の光はすべて敵。
そんな事を呟いて、ギルガメッシュは戦場へと帰還していく。
と、忘れていた事を思い出すように、不意に黄金の王は自らの財に当然の如く要求する。
「……ああ、それと具足。
貴様が魔力から編み出したこの衣装ではあるが、この服は然るべき時のみ用いると決めていてな。
我が先刻まで着ていた独創性溢れる猫の意匠の服、あの似姿に切り替えよ」
『…………Yes』
【D-5東部/上空/二日目/早朝】
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、 慢心、ただし油断はない、落下中
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒猫型バリアジャケット
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん、偽・螺旋剣@Fate/stay night
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
0:……綴り手、ねねね、か。果たして我の眼に適うか?
1:菫川ねねねを捜索、『王の物語』を綴らせる。
2:デパートでジンと待ち合わせる。
3:“螺旋王へ至る道”を模索。最終的にはアルベルトに逆襲を果たす。
4:北部へ向かい、頭脳派の生存者を配下に加える。
5:異世界の情報、宝具、またはそれに順ずる道具を集める(エレメントに興味)。
6:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
7:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
8:全ての財を手に入れた後、会場をエアの接触射撃で破壊する。
【備考】
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですが、エアを手に入れたのでもう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留の所有品について把握しています。それらから何かのアイデアを思いつく可能性があります。
※ヴァッシュたちと情報交換しました。
※ジンたちと情報交換しました。会場のループについて認識済み。
※クロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃんは引き裂かれて消滅しました。
※ギルガメッシュのバリアジャケットは、1stがネイキッドギル状態、2ndがクロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃんです。強敵に会った時にのみネイキッドのバリアジャケットを展開しようと考えています。
※会場は『世界の殻』『防護結界』『転移結界』の三層構造になっていると推測しました。
※『転移結界』の正体は確率変動を発生させる結界であると推測しました。
※会場の形状は天の方向に伸びるドリル状であり、ドーム状の防護結界がその内部を覆っていると推測しました。
※ギルガメッシュが吹き飛ばされている方向は東部です。
※会場端のワープは、人間以外にも大出力攻撃を転移させる模様です。
※D-6総合病院は天地乖離す開闢の星により跡形もなく消滅しました。
※D-8古墳はダイグレン起動により崩壊後、天地乖離す開闢の星により跡形もなく消滅しました。
※ダイグレン@天元突破グレンラガンは甲板上部及び艦橋部を除いて天地乖離す開闢の星により殆どが消滅しました。
※D-1モノレール駅は天地乖離す開闢の星により大部分が消滅、原形を留めていません。
※D-2灯台は天地乖離す開闢の星により一部が消滅、その後崩落した模様です。
※エリオ、エド、アニタ、シンヤ、ムスカ、ヒィッツカラルドの死体は消滅しました。
185
:
happily ever after
◆10fcvoEbko
:2008/05/18(日) 02:23:57 ID:BSRvK8Qk0
――これは、運命という濁流に飲み込まれ、それでも尚立ち続ける男達の物語である。
潮の香り混じりに吹いていた風はいつの間にか止んでいた。
すぐ近くに海岸を望むその場には大きな喧騒もなく、それが逆に夜明け前の薄明かりにそよぐ風の流れを強く意識させる。
小さく、しかし強く響いていた男達の慟哭の声も今はもう聞こえてこない。
風が運び去ったか草花が受け止め土へと還したか。どれだけ耳をそば立てたところでうちひしがれた敗者の嘆きは存在しなかった。
代わりに響くのは、それとは全く別の異質な音。
極上の果汁をすすり上げ。
瑞々しい果肉に歯を突き立てる。
野性動物が立てるようなその音は、敢えて文字にするならばがつがつと聞こえた。
クロスミラージュはカミナがメロンを貪り食らうのをただ黙って見守ることしかできなかった。
少し前までのうなだれた態度はかなぐり捨て、どっかとあぐらをかいた姿勢でひたすらにメロンを咀嚼し続けている。
あまりにも突然に起こった行動の変化にクロスミラージュは混乱し、下手なことも言えず沈黙する。
表情から感情を窺うことはできない。顔を丸ごと球体の中に突っ込んで食べているからだ。
乱暴に撒き散らされた汁が飛び、その内のいくらかが自分の身に降りかかる。土臭い地面に転げ落ちたままそのような扱いを受けても、クロスミラージュは文句一つ言うことができなかった。
皮も実も種もお構いなしに口にしているせいか、時々カミナが苦しそうにむせる。
注意しようにも不純物を吐き出してすぐにメロンの蹂躙へと戻ってしまうためクロスミラージュやはり沈黙を続けるしかない。
侵攻は決して速いとは言えない。カミナの姿は自棄になっているようにも、全てを忘れようとしているようにも見える。
人ならぬ身のクロスミラージュはこのような理屈の見えない行動に掛ける言葉を持ち合わせていなかった。
とはいえ仮に自分が人間であったとしても今は黙っておくべかも知れないと思い、同時にそのような発想に至った自分に驚いた。
仲間の追悼のため別行動中のガッシュ達が戻ってくる気配はない。故に戸惑いを隠すためには思索を続けるしかなかった。
そのような感情の動き自体が今までの自分にはないものだと、クロスミラージュは気が付かない。
カミナの行動を説明しようとするならばいくつかの言葉を並べれば事足りるだろう。
追悼。逃避。ヤケ。そんなところになるか。
それほど的を外れた分析ではないはずだ。それはそう思うのだが。
そんな単純な言葉で表せてしまう程度のものなのだろうか。カミナの行いの意味は。
自分自身納得していないことをクロスミラージュは認識する。だからと言って他に適切な解説ができるわけではないのだが。
幾つかの感情の複合。あるいは全く別の――。どれも程ほどに合っているように思え、等しく説得力を持たない。
沈黙を――続けるしかない。
クロスミラージュは理屈ばかりで肝心なときに力になれない己の無力さを嘆いたが、そのような複雑な感情を抱くようになったのがつい最近のことだとまでは認識しなかった。
進化とも言うべきAIの発達にクロスミラージュは未だ気が付つくことはない。
自身の成長に無自覚なこともまた、あるいは人間らしさなのかも知れなかった。
やがて、顔中が口だと言うかのようだったカミナの激しい動きが止まる。
揺れ動いていたカミナの全身がピタリと静まり、つられるようにクロスミラージュも機械の体を強張らせる。
ほぼ薄皮だけとなったメロンの残り滓からカミナがゆっくりと顔を上げる。露になった顔が予想外の感情を見せていたら、果たして自分は――。
「ベリーメロン……つったか」
誇り高いVの魔物が愛した果実の中から舞い戻った汁まみれのカミナの顔は。
「うめぇじゃねぇか」
クロスミラージュの懸念をよそに、嫌なことをすべて洗い流したかのようにとてもさっぱりと前だけを見ていた。
◇
186
:
happily ever after
◆10fcvoEbko
:2008/05/18(日) 02:24:24 ID:BSRvK8Qk0
友人だという金髪の男の死体を前にガッシュが何故泣かずにいられるのか、ニアは不思議で仕方がなかった。
泣いてしまえばいいのに、と思う。
悲しくない筈がない。背中越しとはいえガッシュの固く握り締められた拳を見れば、幾ら鈍いニアにでもそれくらいは分かる。
なのに何故、涙を流すことも肩を震わせることもしないのだろう。
静かにたたずむガッシュに合わせるかのように周囲は無音である。自然が立てる音に限れば、の話ではあるが。
ニアとガッシュ、それに男の死体が存在する空間一帯を満たしていたのは一曲の歌だった。
ガッシュの足元に置かれたラジカセから流れてくるものだ。ニア達を守って死んでいったビクトリームの遺品であり、そこから流れ出る歌を歌っているのがもう動くことのない金髪の男だという。鉄のフォルゴレ、という名前を教えてもらった。
ニアは歌についてどうこう言えるような知識も経験もない。歌われている歌詞の意味も良く分からない。
それでも、フォルゴレなる人物がこの歌を本当に楽しんで作り歌ったのだろうということは感じ取ることが出来た。
聞く人を楽しませ、そして歌っている本人もが誰より楽しんでいる。肩の力を抜いて笑える歌。漠然とそんな感想を持った。
ビクトリームが死に、さらにこれ程の歌を歌える人物までもが死んでしまったということを想うだけで、ニアはこんなにも胸が苦しい。
なのに、何故ガッシュは泣かずにいられるのだろうか。
不思議でたまらないが、巨木のように真っ直ぐ伸ばされたガッシュの背中を見るとただ黙ることしかできない。
もし悲しみを堪えているというのなら遠慮なく叩きつけてくれればいいのに。
かつて自分がシモンにされたように。
この場にきてドーラにされたように。
辛さを乗り越えるための協力ならいくらでも頑張るのに。
どうしてガッシュは一人で立っているのだろう。
やがて、歌が終わった。足元の機械がカチリと無機質な音を立てる。
暗かった道路はいつの間にか明るく照らされていた。
「フォルゴレ」
再び光を取り戻した世界の中、陽光を浴びるガッシュが小さく呟いた。
「行ってくるのだ」
分厚い黄色の本を抱え振り返った少年の瞳には、やはり太陽のように強い輝きしか見ることはできなかった。
◇
187
:
happily ever after
◆10fcvoEbko
:2008/05/18(日) 02:26:04 ID:BSRvK8Qk0
「ヌオオオオオォォォ!落ちるっ!落ちるのだ!!」
「諦めんじゃねぇ、ガッシュ!男ならたとえつま先一本でもしがみついて見せろ!ってうおお俺も!?」
モノレールの線路上を怪我の治療もそこそこにわあわあと騒ぎながら進んでいく二人の男。その後を少し遅れて歩きながら、ニアは不思議ですねと呟いた。
「男って一体なんですか?」
『はい?』
唐突に発せられた疑問の文脈を把握しきれずクロスミラージュはニアの白い手の中で頓狂な音を発した。
「どうしてあんなに辛いことがあったのにお二人は何も言わないんでしょうか?
私が辛いときにはドーラおばさまにいっぱい慰めていただきました。なのにあの人たちは……」
『ああ……そういうことですか』
ニアは顔を上げて前を歩くガッシュとカミナを見る。大手を振って歩く二人は少し前のことなど忘れてしまったかのように楽しげだ。
「ガッシュさんは勝手に一人になったのに、カミナさんは全然気にしていないみたいです。
……まるで喋らなくてもお互いの考えてることが分かるみたい。
クロスミラージュさんにはどういうことか分かりますか?」
『私にも説明できるほどはっきりしたことは分かりません』
申し訳なさげに明滅するクロスーミラージュ。答えの得られないニアは落胆と不思議さが入り混じった表情で首を傾げた。
「やっぱり直接聞いた方がいいのかしら」
『それに関してはあまり意味のない行動かと思います』
「どうしてですか?」
強風に煽られる髪を押さえながらニアが再び疑問を向ける。クロスミラージュは迷いのないはっきりした声で答えた。
『答えが容易に想像可能だからです。例えばカミナならその疑問にこう答えるでしょう。「それが男だ!」と』
「答えになっていません」
はぐらかされたような気分になってニアが不満げに頬を膨らませる。男だから大丈夫、ではどういう理屈なのかさっぱり分からない。
『私もそう思います。ですが、彼らにとってはその答えで十分なようです。
理屈など、まるで存在しないにも関わらず』
答えるクロスミラージュの声には若干苦笑が混じっているように思えた。疑問の多い性質のニアは納得しない。トコトコと危なげない足取りで線路の上を歩きながら続ける。
「それで納得できるものなんですか?」
『無理を通して道理を蹴っ飛ばす、とよくカミナは言います。
思うに、カミナ達にとって男とは日常の行動、考え方から生き方まで人生のあらゆる場面に影響を与える非常に範囲の広い意味を持つ言葉でありながら、それ以上細分化して説明する必要のない言葉なのでしょう。
あるいは、説明しようとするその行為事態が非常に無粋なものとして映るのかも知れません』
「つまり、どういうことですか?」
クロスミラージュの言葉は難解すぎるためニアは困惑顔になる。
188
:
happily ever after
◆10fcvoEbko
:2008/05/18(日) 02:26:33 ID:BSRvK8Qk0
『つまりカミナ達ではあなたの満足するような答えを返せないということです』
身もふたもない言葉にニアの肩が落ちる。問題が解決しないのであれば次に同じようなことが起こっても自分は役に立たないままだ。
ニアの落胆ぶりを心配してか、続いてあげられたクロスミラージュの言葉はどこか気遣うような柔らかさが込められていた。
『そう悲観したものではありません』
「ですが……私では皆さんを励ますこともできません」
『焦ってはいけません、ニア。
カミナ達の生き方は男という言葉に強く規定されていると私は言いました。
ならば逆に彼らの行動をつぶさに観察すれば、男というものがどいういうことか自ずと分かってくるでしょう』
「アニキさんたちを……見守るのですか」
前を向くと自然とカミナ達の背中が目に入る。シモンが言っていた。シモンがとてもとても尊敬していた人物の背中。
『彼らの生き様の一つ一つを目に焼き付けて……私が言えたことではありませんが』
シモンが追い、そして追いきれなかった男の背中。本当ならいる筈のない人。
それが目の前にあり、これからも一緒にいることができる。
『いかがですか、ニア?』
「それは……とても楽しいことのような気がします!」
クロスミラージュの声に、ニアは爛漫とした笑顔でそう答えた。
「おい何やってンだお前ら!くっちゃべってねぇで早くしろ!」
「おおおおお!思った以上に高いのだ!」
気が付けば目当ての発電所の上にまできていた。声を荒げるカミナに謝りながら小走りに追いつく。
晴れ渡った空の下、変わらない獰猛な笑顔がそこにあった。
「へっ!びびったかぁ、ガッシュ?だがなぁ、退かねぇ逃げねぇ止まらねぇ!それが俺たちグレン団だ!お前もここまで来ちまったからにはしっかり腹ァくくってもらうぜ」
「ウ、ウヌゥ。分かっているのだ」
それでも怯え気味のガッシュと、それを小突いて遊ぶカミナ。
二人はこれまであったことを決して忘れず、その上でひたすらに前進を続けようとしている。
大きく腕を広げるカミナを見ながら、ニアはもう一度小さく笑顔を作った。
「見ろよあのでっけぇ建てモン、今から何が待ってるかワクワクすっだろうが?きっとそこいらのガンメンじゃ及びもしねぇようなすっげぇもんが――」
189
:
happily ever after
◆10fcvoEbko
:2008/05/18(日) 02:27:07 ID:BSRvK8Qk0
「――何にもありゃしねぇなぁ」
空振りに終わった部屋の探索を終え、カミナがもう何度目になるか分からないセリフをため息混じり漏らす。
発電所の中にあるものはニアにとっては珍しい物ばかりなのだが、カミナの気に入るものはないようだ。
クロスミラージュの説明によるとこの建物は色々な機械やらを動かすためのエネルギーを作るところで、それはそれは凄いシステムらしい。そう言われてもニアには何が凄いのかもう一つ理解できなかったのだが。
「……これは、一体なんですか?」
「あぁ?ガラクタだろんなもん。とっとと捨てちまえよ、ったく」
期待の分だけ落胆も大きいのか、カミナが投げやりな声をよこす。
少し迷ったが、ニアは好奇心に従い今出た部屋で見つけたそれを持っていくことに決めた。
「カミナ、凄いモンとはいつ見つかるのだ」
「うるせぇよ!すぐだすぐ!」
キラキラと目を輝かせるガッシュに乱暴な声を返す。どうしてか、ばつが悪そうに足を速めた。
あれ程期待させるような言い方をしたのだ。ニアにとっても凄いものとやらがどんなものなのかは非常に気になるところである。
「アニキさん、私も早く知りたいです。凄いモンって何ですか?」
「何だよおめぇもか……。まぁ待ってな。気合がありゃなんとかならぁ。時には耐えることだって――」
『待ってくださいカミナ!異常な魔力反応を感知しました!』
カミナの元に戻されていたクロスミラージュが不意に大声を挙げた。
今までにない緊迫した声にニア達の間に緊張が走る。
190
:
happily ever after
◆10fcvoEbko
:2008/05/18(日) 02:27:30 ID:BSRvK8Qk0
「あぁ!?どういこったクロミラ!分かるように言え!」
『南東の方角にかつてない程の魔力量を感知しました……!これ程離れていても検知できるというの異常という他ありません』
「そいつは危ねぇのか!?」
『直接の危険はないと思われます。ですが何が起こるか分かりません、警戒してください!』
警戒と言われてもどうして良いか分からず、それはガッシュも同様のようだった。ただ不安気にキョロキョロと首を振っている。一方カミナは――。
カミナは取り乱すことも慌てることもなく、ただじっと窓の外を見ていた。
しばらくして、クロスミラージュの言う危険が顕になる。
それは窓から臨める静かな市街地を徹底的に破壊する暴力の波が降り注ぐ。
真っ赤で、とても嫌な感じのするその光はかすかに見える灯台を丸ごと飲み込み、さらに眼前に果てしなく続いていく。
吸い込まれそうになるその蠱惑的な光は、そのまま消えることなくそこに居座るかのように思えた。
「アニキさん」
今にも消えそうな声しか出せない。小さな体が震えるのを感じた。
「ん?」
「不安ではないのですか?」
「クロミラが直接の危険はねぇって言ってんだ。なら、それを信じろ」
揺らぎのない真っ直ぐな目でそう言われ、ニアは不思議なくらいすっと気持ちが軽くなるのを感じた。
言うとおり、ニア達にとっては何事もなく赤い光は消えていく。
ずん、と灯台が倒壊する音を最後に発電所に静寂が戻った。
「ウヌゥ……凄まじいのだ。あんな凄い技は見たことがないのだ」
『常識外れの魔力量です。
それこそカミナの言うガンメンクラスの機動兵器でもないと対処は不可能かと……』
ガッシュが冷や汗を流しクロスミラージュが声を落とす。圧倒的な力を見せられて一同の士気が下がるのは避けられないかに思えた。
しかし、グレン団の鬼リーダーにとってはそんなものは威嚇にもならない。
「へ、面白れぇじゃねぇか。ジジイやヴィラルをとっちめるにはちょうどいいぜ」
怖気づくことも強がることもなく、心の底からの言葉を光が消えた方向にぶつけるカミナ。
ガッシュの尊敬の眼差しもクロスミラージュの呆れる声もどこ吹く風と言わんばかりだ。
空を貫かんばかりにそそり立つカミナの背中に視線を注ぎながらニアは、ニアは――。
「敵が凄ぇもん持ってるってんなら奪っちまえばいい。それだけだ、行こうぜ」
ああ、男とはこういう人のことを言うのですね。そう思った。
191
:
happily ever after
◆10fcvoEbko
:2008/05/18(日) 02:28:00 ID:BSRvK8Qk0
【C-2/発電所内/二日目/早朝】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(小)、疲労(特大)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(簡単な処置済み)、
頭にタンコブ、、強い決意、螺旋力増大中
[装備]:クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ0/4:0/4)
折れたなんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
バリアジャケット
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式(食料なし)、ルールブレイカー@Fate/stay night
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
1:さぁて、どこに行こうかねっと。
2:ニアは……なぜだか嘘を言ってるとは思えねぇ! コイツは俺が守ってみせる!
3:チミルフだと? 丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
4:ショウボウショの北にラガンがあるんだな……? シャクだが、行かねぇワケにはな……。
5:グレン……もしかしたら、あそこ(E-6)に?
6:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
7:ドモンはどこに居やがるんだよ。
[備考]
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。
※ヨーコの死に対しては、死亡の可能性をうっすら信じています。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
禁止エリアに反応していませんが、本人は気付いていません。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※ガッシュの本を読むことが出来ました。
しかし、ルールブレイカーの効果で契約が破棄されています。再契約できるかは不明です。
※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
【クロスミラージュの思考】
1:ドモンはとっくに移動したと判断。北部からデパート方面に向かいつつ捜索。
3:明智と合流してカートリッジの補給や情報交換をしたい。
4:東方不敗を最優先で警戒する。
※ルールブレイカーの効果に気付きました。
※『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。
※各放送内容を記録しています。
※シモンについて多数の情報を得ました。
※カミナの首輪が禁止エリアに反応していないことを記録しています。
※東方不敗から螺旋力に関する考察を聞きました。
※螺旋力が『生命に進化を促し、また、生命が進化を求める意思によって発生する力』であると考察しました。
192
:
happily ever after
◆10fcvoEbko
:2008/05/18(日) 02:28:21 ID:BSRvK8Qk0
【ニア@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神的疲労(中)、全身打撲(中)、両手に痺れ、ギアス?、 下着姿にルルーシュの学生服の上着、螺旋力覚醒 、自己嫌悪(マタタビに関して)
[装備]:釘バット、ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!
[道具]:支給品一式
[思考]基本:シモンのアニキさんについていき、お父様を止める。
1:出来ればシータを止めたい。
2:ルルーシュを探す。
3:ルルーシュと一緒に脱出に向けて動く。
4:東方不敗を警戒。
[備考]
※テッペリン攻略前から呼ばれています。髪はショート。ダイグレンの調理主任の時期です。
※ギアス『毒についての記憶を全て忘れろ』のせいで、ありとあらゆる毒物に対する知識・概念が欠損しています。有効期間は未定。 気絶中に解除された可能性があります。
※ルルーシュは完全に信頼。スパイク、ジンにもそこそこ。カレンには若干苦手な感情。
※会場のループを認識しました。
※ロニーの夢は見ていません。
※ガッシュの魔本に反応しました。
※カミナ、クロスミラージュと詳細な情報を交換しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(大)、精神疲労(小)、頭にタンコブ、強い決意 深い後悔、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!! キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
1:カミナ達とともに戦う。
2:ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
3:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
4:ジンとドモンと明智を捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
5:東方不敗を警戒。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。
いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒
[持ち物]:支給品一式×9
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒) 、ランダム不明支給品x1(ガッシュ確認済み)
◇
193
:
happily ever after
◆10fcvoEbko
:2008/05/18(日) 02:28:55 ID:BSRvK8Qk0
休息と怪我の治療を終えた東方不敗がいかにも怪しげに鍵のかけられた扉をぶち抜いたのはある意味では当然のことと言えた。
幾つか似たような扉があったが皆同じ場所に続いていたらしい。入った先の部屋には大きめのモニターとそれを操作する装置のようなものが置かれていた。
『螺旋力を確認しました。システムを起動します』
囁くような低いトーンの女の音声とともにモニターに明かりが灯る。
音声と文字とで説明されたところに拠るとその部屋はつまり武器を授けてくれると言うらしい。
来るときに見かけたコンテナ。何事かと思ったがあれの中に入っている様々な物を与えてくれると、この機械はそう言っているのだ。
但し、選べるコンテナは一つだけ。一つ選んだら、それ以外のコンテナの中身は灰燼と化すという。
何たる遊戯。何たる場違いか。東方不敗が最初に思ったのはそのようなことだった。
先着の一名だけに圧倒的な力をわざわざ選択肢を用意してまで与えるというのはいかにもゲームのようで、生存者も残り僅かとなった現状には相応しくない。
相応しくない。そう、まさにその言葉の通りなのだろう。
機械は来訪者の不服をあらかじめ予想するかのようにデパート、刑務所、古墳、ショッピングモールといった施設の名を挙げ、そこならもっと良いものが手に入るかも知れないなどと煽動的なことを言った。
狙いは他の人間との接触率の増加。武装の奪い合い。あるいはそれを用いたさらなる闘争、と言ったところか。
例えるならこの場所は時間に取り残された空間。今はもうその価値を失った部屋。もっと早くに来訪者が現われることを想定し用意されたのだろう。
デパートが消滅するほどの闘いが巻き起こされている今となってはただただ空気の違う悪趣味なセットでしかない。
親切なことにコンテナの中身の一覧が表示された。東方不敗はつまらなそうな瞳でそれに目をと通す。
194
:
happily ever after
◆10fcvoEbko
:2008/05/18(日) 02:29:44 ID:BSRvK8Qk0
ガンダムシュピーゲル
ノーベルガンダム
マンダラガンダム
マーメイドガンダムプロトタイプ
デスバーディ
東方不敗の知った名もいくつか混じっている。マスターガンダムの名があれば迷わず選んでいたものを。
ブラックオックス
モンスター
オーサムコサム
ヘビビンガー
ランスロット
紅蓮二式
様々な名前が次々とランダムに表示されていく。
ジークフリート
ハンマーヘッド
エンキ
キングキタン
コーラルP
メカアーチャー
Gin・Rei
維新竜・暁
ウラエヌス
表示されるどの名前にも興味を引くものはない。
しかし、そのまま捨て置こうかと歩き出したとき遂に東方不敗の眼力に適うに値する名前がモニターに表示された。
ギラリと目を輝かせ、お下げの一振りで迷うことなくそれを選択する。
そのコンテナが解放されたことを確認し東方不敗は一目散に部屋を飛び出した。
かくして、最強の人類の手に最強の武装がもたらされた。
朝焼けにけぶる町を走駆する一つの影があった。
圧倒的な速度で走るそれは人間のものとは思えない程に早い。
適当に調達した衣装を身に纏っただけの老人がそれをしていると言われても信じるものはいないだろう。
事実、そうではない。まともな人間が数十キロの速度で移動できる道理などない。
それを可能にするのは自然界では人間以外の動物。
例えば馬。鍛えに鍛え上げられた駿馬だけが目にも留まらぬ疾走を可能にするのだ。
そう――東方不敗の唯一にして最強の愛馬、風雲再起であればこそ可能な技なのである。
「はぁぁははは!!良くぞ現われた風雲再起!我が足となって戦えぇえええ!!」
愛馬の上に直立不動。東方不敗の気勢と風雲再起の嘶きが止むことはない。
195
:
happily ever after
◆10fcvoEbko
:2008/05/18(日) 02:30:10 ID:BSRvK8Qk0
【F-3/道路/二日目/早朝】
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージと火傷(処置済み)、右肩に貫通傷、螺旋力覚醒
腹部に無視できぬ大ダメージ(皮膚の傷は塞ってますが、内出血しています。簡単な処置しかされていません) 、適当に調達した衣装(詳細は不明)
[装備]:風雲再起(健康)
天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night
[道具]:ロージェノムのコアドリル×1@天元突破グレンラガン
[思考]:
基本方針:ゲームに乗り、優勝して現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。
1:会場の真ん中へ向かう。
2:優勝の邪魔になるものは排除する
3:マスターガンダムを探し、可能ならDG細胞により治療を行なう。
4:シャマルを捜索し根本的な治療を行う
5:ロージェノムと接触し、その力を見極める(その足がかりとしてチミルフ、ヴィラル、ニアの捜索) 。
6:いずれ衝撃のアルベルト、チミルフと決着をつける。
7:ドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。
8:しかし、ここに居るドモンが本当に自分の知るドモンか疑問。
[備考]
※螺旋王は宇宙人で、このフィールドに集められているの異なる星々の人間という仮説を立てました。本人も半信半疑。
※クロスミラージュの多元宇宙説を知りました。ドモンが別世界の住人である可能性を懸念しています。
※ニアが螺旋王に通じていると思っています。
※クロスミラージュがトランシーバーのようなもので、遠隔地から声を飛ばしているものと思っています。
※会場のループを認識しました。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。 『なんらかの要因』は火事場の馬鹿力であると推測しました。
Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※自分自身が螺旋力に覚醒したこと、及び、魔力の代用としての螺旋力の運用に気付きました。
※マスターガンダムがどこかに隠されているのではないかと考えています。
※カミナを非常に気に入ったようです。
196
:
◆10fcvoEbko
:2008/05/18(日) 15:23:18 ID:BSRvK8Qk0
状態表にミスが……。ニアの持ち物にX装置を追加するのを忘れていました。
>>192
は以下のものに差し替えるよう、よろしくおねがいします。
【ニア@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神的疲労(中)、全身打撲(中)、両手に痺れ、ギアス?、 下着姿にルルーシュの学生服の上着、螺旋力覚醒 、自己嫌悪(マタタビに関して)
[装備]:釘バット、ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!
[道具]:支給品一式 、X装置
[思考]基本:シモンのアニキさんについていき、お父様を止める。
1:出来ればシータを止めたい。
2:ルルーシュを探す。
3:ルルーシュと一緒に脱出に向けて動く。
4:東方不敗を警戒。
[備考]
※テッペリン攻略前から呼ばれています。髪はショート。ダイグレンの調理主任の時期です。
※ギアス『毒についての記憶を全て忘れろ』のせいで、ありとあらゆる毒物に対する知識・概念が欠損しています。有効期間は未定。 気絶中に解除された可能性があります。
※ルルーシュは完全に信頼。スパイク、ジンにもそこそこ。カレンには若干苦手な感情。
※会場のループを認識しました。
※ロニーの夢は見ていません。
※ガッシュの魔本に反応しました。
※カミナ、クロスミラージュと詳細な情報を交換しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(大)、精神疲労(小)、頭にタンコブ、強い決意 深い後悔、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!! キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
1:カミナ達とともに戦う。
2:ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
3:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
4:ジンとドモンと明智を捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
5:東方不敗を警戒。
197
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:14:18 ID:MKN2H3TA0
これは誰も救われない救いのお話。
■
朽ち果てた荒野を一陣の風が直奔る。
エンジン音を響かせながら、人間の足では決して追いつけぬ速度を持って駆け抜ける鋼鉄の馬。
それを駆る疾風の名はDボゥイ。
デパート地下に広がる奇妙な格納庫から地上へと飛び出し、戦利品であるバイクを操り荒野を直奔る。
彼を導くのは、もう一つの戦利品である胸元の小竜である。
胸元の戦利品、フリードリヒはただひたすらに北を示していた。
真摯さすら感じさせるその態度に感じるものがあったのかDボゥイは彼の導きに従い進路を一路北へ。
だが、その疾走は静止を余儀なくされることとなる。
「……なんだ、あれは?」
進行方向に目を疑いたくなるような怪異を認め、思わずDボゥイはバイクを静止させ地に足をつけた。
夜にしてなお暗い漆黒の体躯。
凹凸のない完全なる球体。
その中央に存在する赤い不気味な単眼。
そして何より、十分な距離をおいても威圧感すら感じさせるその巨大さ。
恒星ともいえる超重量が宙を飛ぶ様はまさしく怪異である。
Dボゥイの視線に、嫌がうえにも飛び込んできたのは、怪球と呼ぶに相応しい巨大な黒い太陽だった。
これほどの存在感を誇る怪異を見なかったことにできるはずもなく。
見つけてしまった以上、彼に選べる選択肢は二つ。
近づくか/近づかないか。
関わるか/関わらないか。
触らぬ神に祟りなし。
明確な目的のあるDボゥイとしては出来れば避けて通りたい。
だが、ふと見れば、彼の胸元に陣取る小竜、フリードリヒは相変わらず北方にDボゥイを誘導しようと必死である。
その先に存在するのは病院と、あの大怪球。
突き進めば接触はさけられない。
フリードリヒとて、それがわからないわけではないだろう。
それでもなお、彼をそこに導こうというのはつまり、あの大怪球の驚異を差し引いても、大事な物そこにあるという事なのだろうか。
「信じるぞクソッ」
小さな相棒に悪態を突きながらもDボゥイはスロットルを切る。
彼には明確な目的はあっても明確な目的地はない。
となると、なにか確信のありそうなフリードリヒを導きを信じるしかないだろう。
エンジン音を響かせ、排気ガスを吹き出しながら、鋼鉄の馬は加速する。
導かれるように黒い太陽に向かって、Dボゥイは大地を奔った。
■
198
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:15:01 ID:MKN2H3TA0
緑色の淡い光のなか、小早川ゆたかはゆりかごにも似た穏やかな振動に包まれていた。
どこをどう辿ったのか、それは彼女にもわからない。
何もない彼女に居場所なんてない。
行くべき場所もない。
どこに行きたいのかもわからない彼女は、ただ動けと命じただけだ。
そんな漠然とした命令でも、フォーグラーは彼女の意を汲み取り忠実に実行する。
彼女を乗せて無軌道に大怪球は動く。
重力制御を持って地に触れず進行するため、内部に伝わる振動は非常に少ない。
その進路では重力に押しつぶされた木々たちの悲鳴が響いているが、それはそれ。
そんなことは彼女の知ったことではないし、知らない以上それはなかったことと同義である。
ここはひどく静かだ。
ここには誰もいない。
誰も彼女に関わらない。
誰も彼女の行為を咎めない。
誰も彼女を惨めにしない。
これまでのことも、
これからのことも、
先ほどモニターに映った光景も。
何も考えない。
思考を破棄し、何も考えず、すべてに対して目を閉じる。
そうすれば、いろんな恐怖はおさまり震え止まってゆく。
誰とも関わらず、何も考えない。
それが、彼女に残された唯一救いだった。
だが、その安息も打ち破られることとなる。
前方を映すモニターがこちらに向かい直奔る赤いジャンパーの青年を進とらえたことによって。
迫りくる青年。
それを見たゆたかの体が総毛立つ。
なぜこちらに向かってくるのか。
心当たりならある、先ほどの通信だ。
彼女はただ単純に、先の通信により自分の居場所がばれたのだと思った。
実際はそんな事実はない。
正確には彼が目指しているのは彼と彼女の間に位置する病院である。
だが、そんなことは彼女は知らない。
知らない以上それは真実と同義である。
だから、彼はやってくる。
少なくとも彼女の中では。
彼が来る。
彼女に向かって。
彼が来る。
彼女を救いに。
彼が来る。
彼女を追い詰めるために。
いやだ。いやだ。いやだ。
今の自分を彼に見られるのはいやだ。
これ以上惨めな思いをするのはいやだ。
助けなんていらない。
優しさなんていらない。
どうか私を、これ以上追い詰めないでほしい。
独りがいいんだ。
独りなら、私は何も考えず穏やかでいられる。
だから、放っておいてほしい。
どうかここには、来ないでほしい。
かぶりを振って鬱屈とした心で、ただひたすらに少女はそう願った。
その願いに答えるように、
――――――シャガ。
眠たげだった大怪球の目が見開かれた。
199
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:15:38 ID:MKN2H3TA0
「え?」
それは彼女にとっても予期せぬ動きだったのか。
思わず少女は疑問の声を漏らした。
だがそれはおかしい。
この大怪球フォーグラーを操っているのは彼女である。
いかに巨大な破壊兵器であろうとも所詮は機械。
操者の望まぬ行動を行えるはずがない。
彼女の予期せぬ動きなど起こりえるはずがない。
だが、はたして、本当にそうなのだろうか?
これは世界征服を企む悪の秘密社BF団が来るべき地球静止作戦のために製造した大怪球である。
いくらオートメーションされているとはいえ、はたしてそれは一介の女子高生などに操りきれる代物なのか?
まして、精密な動作など可能なのだろうか?
答えは否。否である。
確かにこの大怪球フォーグラーを動かしているのは彼女である。
だからと言って、それが扱えるとは限らない。
これは、父の無念と悲願を取り違えたエマニュエル・フォン・フォーグラー、妄執の化身だ。
ただの女子高生に操れるほどこの大怪球フォーグラーは易くない。
彼女はただこのフォーグラーを動かしているだけだ。
出来ることといったら、行動の指針を与えることくらいだろう。
まして、精密な動作などとても。
だが、なまじオートメーションされているが故にフォーグラーは彼女の意志を忠実に汲み取り実行する。
与えられた指針は拒絶。
故に、フォーグラーは実行する。
より確実で強力な、Dボゥイをこちらに近づけぬ方法を。
その手段を彼女は知らない。
この大怪球は何をしようとしているのかを彼女は知らない。
自棄になって思考を破棄し、ただ流されるままここにいる彼女はこの大怪球のことを何ひとつ知らない。
理解できない彼女の心は、ただ不安と恐怖ばかりが高まってゆく。
自分はいったい、何をしようとしているのか。
耐え切れず、彼女はフォーグラーに静止を命じようとした。
だがもう遅い。
彼女の意思を無視して高まってゆく重力場。
最高潮に達したエネルギーはもう後戻りできない領域に達している。
動き出した大怪球はもう止まらない。
絶望に取り残された少女を乗せた大怪球。
この大怪球が動いたとき、彼女は認められたような気がした。
この大怪球こそが、彼女が唯一安らげる場所だったはずなのに。
嗚呼、ここに来て、この大怪球までもが彼女を裏切るのか。
200
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:16:05 ID:MKN2H3TA0
「やめ…………ッ」
静止の声も遅く、無機質な瞳から一陣の閃光が奔る。
瞬間、世界から音が消滅した。
波のように大地が沸き立ち崩壊してゆく。
触れる全てが蒸発するように消えてゆく。
草原を薙ぎ払う。
平原を撃破する。
街道を粉砕する。
大地を蹂躙する。
大気を蹂躙する。
蹂躙する。蹂躙する。蹂躙する。蹂躙する。
抗いようのない破壊という名の理不尽が世界に振りまかれる。
この地上全てを薙ぎ払うかに思われた破壊の嵐。
それはしかし。
これを上回る理不尽に、完全なまでに飲み込まれた。
唐突に、横合いから飛び込んだのは紅。赤。朱。
理不尽はより大きな理不尽に飲み込まれる。
訪れしは破壊の化身にして創造の権化。
螺旋を描く圧倒的なまでの暴力の渦。
赤き螺旋は黒い太陽が放った重力塊を飲み込んでもなお止まらず。
様々な思いとともに病院を跡形もなく消滅させ、彼方の巨人を壊滅させ、ようやくその姿を隠した。
この後、とある事情により彼の王が宙に舞うという事態が起こるのだが、それはまた別の話である。
そんなどうでもいい話に、彼女の興味は移らない。
過ぎ去った破壊の結果などに興味はない。
今、彼女の脳裏を支配しているのはそんなことではない。
彼女の脳裏に焼き突いて離れない光景は自らが生み出した破壊の末路。
放たれた怪光線は周囲を吹き飛ばし、あっけなくそれは吹き飛んだ。
それこそ、飛び回る虫を潰す手軽さで、本当にあっけなく光の中に溶けていった。
「……ぁあ………ぁぁああ……」
自分は今、何をしてしまったのか。
自分はいったい、何を潰したのか。
虫のように潰れたそれはなんだったか。
彼女には理解できない。
いや。理解してはいけなかった。
だって、理解してしまったら、もう完全に戻れなくなってしまう。
考えるな。
考えるな。
考えるな。
これまでどおり思考を破棄すればいい。
理解しなければ、それはなかったことと同義だ。
脳が否定する。
全身が理解を否定する。
理解したくない。
理解してはいけない。
理解してしまったら、これまで目をそむけていたものが一斉に襲いかかって来る。
理解したくない。
理解したくない、のに。
「…………D、ボゥイ……さん」
その言葉は勝手に口から零れていた。
潰してしまった虫の名前。
潰れてしまった虫の名前。
彼女が潰した虫の名前。
彼女の大事な人の名前。
■
201
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:16:38 ID:MKN2H3TA0
口にしてやっと頭が理解できた。
言葉と共に現実が彼女に染み渡る。
とたん、体がガタガタと震えだした。
「…………わたし……わた、し」
人は脆く。
心は脆く。
彼女は脆い。
優しい他人が怖かった。
不出来な自分を写す鏡の様で。
無力な自分が怖かった。
世界中の誰にも必要とされない様で。
諦めに身を任せ、目をそむけることで、すべての恐怖から少女は逃げていた。
だが、少女は捕えられた。
自覚してしまった以上、もう知らぬ振りは赦されない。
目を背けていた罪。
耳を塞いでいた罪。
知らなかった罪。
知らぬ振りをしていた罪。
なにも出来なかった罪。
なにもしなかった罪。
誰かの命を奪った罪。
それらが実感と共に一斉に彼女に襲いかかる。
言い逃れは出来ない。
いかに思考を放棄したとは言え、その選択を選んだのは彼女であり。
罪を犯したのは紛れもなく彼女自身なのだから。
広がる絶望は深く。
圧し掛かる罪は重く。
こころが自責に潰れてゆく。
呼吸ができない。
肺が潰れてしまったように息が苦しい。
体は燃えるように熱いというのに凍えるように寒い。
ギシギシと音を立てて胸が軋む。
胸が痛い。
胸が痛い。
現実が胸を抉る。
どうしようもない程、胸が痛い。
余りの痛みに、胸元を抱き占め彼女はうずくまる。
「うぅ……うっ……」
気づけば涙腺が決壊していた。
虚しくて、悲しくて、情けなくて、どうしようもなくて涙が止まらなかった。
202
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:16:56 ID:MKN2H3TA0
自分は、いったいなんなのだろうか?
何の役にも立たず
何一つ満足に出来ず。
出来る事といえば、誰かの足を引っ張だけ。
こんなものに乗って、いったい何がしたかったのか。
こんなものに乗って、いったい何処に行きたかったのか。
彼女にはそんなことすらわからない。
ただ、わかった事は唯一つ。
こんなものに乗った所で、不出来な自分はなにも出来ず、どこにも行けやしない。
同じところをぐるぐる廻ることしかできない、無価値な人間であるということ。
これほど無価値ならば、いっそ、死んでしまえばいいのに。
それでもまだ、死を恐れ、生にしがみついている。
そんな自分が、どうしようもなく醜かった。
こんなにも汚い自分であることがどうしようもなく耐え切れず。
余りの醜さに吐き気がした。
「ごめん、なさい……私が…………私なんかが……」
慟哭に喉を詰まらせながらも、彼女は懺悔する。
醜悪な己を嘆きながら。
罪の痛みに苦しみながら。
赦しを請うため、息も絶え絶えに贖罪の言葉を紡ぐ。
だが、ここにいるのは彼女一人。
いくら謝罪を積み重ねても。いくら懺悔を並べても。
その声を聞く者はなく。その罪を許す者もない。
故に、彼女の罪は赦されることはない。
「……ごめんなさい……ごめんなさい」
それでも少女は懺悔を続ける。
償い方を知らない少女に出来ることはそれしかない。
赦されぬ罪に押しつぶされながら。
凍えてしまいそうな孤独の中で。
誰もいない、黒い太陽の中で。
「生まれてきてごめんなさい――――」
その生を、懺悔した。
■
203
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:17:21 ID:MKN2H3TA0
――――Dボゥイ。
彼は非常に強運な男である。
「…………ぐ……ぁっ」
破壊と惨劇の跡。
全ての生けしモノの朽ち果てた荒野に呻きが漏れた。
地面に転がるそれの名はDボゥイ。
先ほど消滅したはずの男である。
操り手である彼女が精密射撃など不可能な所業であったが故か。
それとも、発射直前になって彼女の意志が反映されたのか、原因は定かではない。
撃ち放たれたレンズ砲は彼の近辺を薙ぎ払いはしたものの、それに留まり、彼に直撃などしなかった。
とは言えその余波凄まじく、湧き上がる大地、爆風と衝撃に吹き飛ばされその体は大きく宙を舞った。
そして、天地乖離す開闢の星が通過したのはその直後。
もし、あのまま病院近くにいたならば、おそらくDボゥイという存在は病院と共に跡形すら残らず消滅していたのだろうから。
着地もままならず背中から地面に叩き付けられはしたものの、あの馬鹿げた破壊の規模を考えれば、その結果は十分に僥倖だと言える。
Dボゥイ。
彼は強運な男である。
悪運、不運も運のうちとするならば、彼の運は相当のものと言えるだろう。
だが、その悪運もここまでか。
地面に叩き付けられたダメージは彼の意識を蝕むには十分であった。
そもそも、叩き付けられたダメージ以前に、重度の裂傷、出血多量、内臓破裂、この状態で生きていること自体が奇跡だ。
蓄積されたダメージは常人ならばすでに幾度か致死にまで至っている。
彼を生かしていたのは一重に忌むべきラダムによる肉体改造。
その産物である常軌を超える超回復の賜物である。
とはいえ、痛みを感じないスーパーマンになったわけではない。
当然、受けたダメージに対する痛みもあるし苦しみもある。
積み重ねられた肉体の損傷は、燃え上がり、擦り切れそうな精神力を上回ろうとしていた。
精神が限界に達し、その意識を手放しかけた、その時。
――――劈くような爆音が大地に轟いた。
世界を震撼させる轟音と爆音。
豪快すぎる目覚まし時計の音に、Dボゥイの意識は無理矢理叩き起こされる。
そして、慌てたように空を見上げた彼の視界に入ったのは降り注ぐ鉄クズの雨。
そして、堕ちて行く、黒い太陽の姿だった。
■
204
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:17:43 ID:MKN2H3TA0
時は少々遡り。舞台は遥か上空へ移る。
天上より舞い落ちるは英雄王。
気の遠くなるような高所からの落下に対する恐怖はなく。
高見より見渡す激しい戦場跡にも何の恐れも抱かない。
その態度は相も変わらずの傲岸不遜。
口元に張り付くは愉悦の微笑。
これより先、地上に降り立ちいかな障壁が立ち塞がろうとも、いかな困難が待ちうけようとも、例外なく打ち砕くのみ。
己が力量に基づく確信にも似た慢心が英雄王の心を支配していた。
―――――ピー、ピー、ピー。
だが、難敵は予想外のところから現れる。
響いたのは耳障りな機械音だった。
舞台はいまだ高く上空。
発信源は他ならぬ英雄王の首元からである。
「む? むむむ?
具足よ、なんだこの耳障りな音は?」
『これは首輪の警告音です。キング』
「警告音? ハハハ、なんかそれ死亡フラグっぽいぞ具足」
『どうやら落下地点は禁止エリアに面しているようです。
このままではフラグどころか、デットエンド直行かと』
『30秒前、29……』
そんな、心底くだらないやり取りをしている間にも、もちろん死の宣告を告げるカウントダウンは続いていた。
だが、一分にも満たぬ余命を宣告されながらも英雄王の余裕は崩れない。
飛行能力のない身とはいえ、そこは借りにもこの世全ての財を集めた人類最古の英雄王である。
この程度の窮地よりの脱出手段など、それこそ山のように所持している。
『天の鎖』があれば周囲の建造物に巻きつけ脱出することは可能だろうし。
黄金の船『ヴィマーナ』をはじめとした、飛行手段の一つや二つ持っていないこともない。
その他、空間転送、時空転移、多次元転移、瞬間移動...ets...ets
無限と言える財を持ってすれば、それこそ手段は雨霰である。
だが、生憎とそれら全ての財は宝物庫の中である。
鍵たる宝具『王の財宝』なしでは取り出すこともできず、第一宝物庫へのアクセスは制限ではなく『防護結界』によって完全に禁止されている。
それらを頼ることは叶わない。
『20、19……』
だが、それらの要素を差し引いても、現状においてなんの問題も見当たらない。
なぜなら、それらを上回る至高の財が彼の王の手中にはあるのだから。
「つまらぬ出番で、お前とて不満もあろうが許せ、エア」
言って、落下する英雄王が振り上げたるは乖離剣エア。
主の声に応えるように、乖離剣が不満など感じさせぬ速やかな動きで赤い魔力を胎動させる。
『10、9……』
生憎と、タメている時間の余裕は存在しない。
発動最小限の魔力を持ってして、英雄王はその真名を解き放った。
「――――天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)――――」
振り下ろされた剣から迸る、ビックバン染みた天地創造の爆発力。
それを推進力へと変換して、英雄王は空を舞った。
205
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:18:04 ID:MKN2H3TA0
【???/???/二日目/早朝】
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、 慢心、ただし油断はない、ブッ飛び中
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒猫型バリアジャケット
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。月を目指す。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
0:む? ところで具足よ、我はどこに向かって飛んでいるのだ?
1:菫川ねねねを捜索、『王の物語』を綴らせる。
2:デパートでジンと待ち合わせる。
3:“螺旋王へ至る道”を模索。最終的にはアルベルトに逆襲を果たす。
4:頭脳派の生存者を配下に加える。
5:異世界の情報、宝具、またはそれに順ずる道具を集める(エレメントに興味)。
6:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
7:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
8:全ての財を手に入れた後、会場をエアの接触射撃で破壊する。
9:次に月が昇った時、そこに辿り着くべく動く。
【備考】
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですが、エアを手に入れたのでもう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留の所有品について把握しています。それらから何かのアイデアを思いつく可能性があります。
※ヴァッシュたちと情報交換しました。
※ジンたちと情報交換しました。会場のループについて認識済み。
※ギルガメッシュのバリアジャケットは、1stがネイキッドギル状態、2ndがクロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃんです。強敵に会った時にのみネイキッドのバリアジャケットを展開しようと考えています。
※会場は『世界の殻』『防護結界』『転移結界』の三層構造になっていると推測しました。
※『転移結界』の正体は確率変動を発生させる結界であると推測しました。
※会場の形状は天の方向に伸びるドリル状であり、ドーム状の防護結界がその内部を覆っていると推測しました。
※月に何かがあると推測しました。
※会場端のワープは、人間以外にも大出力攻撃を転移させる模様です。
※超高速でお空をブッ飛んでます。どこに向かっているのかは不明です。本人もわかってません。
勢いからしてD-5から周囲1〜3エリアくらいならどこに現れても不思議ではありません。
■
206
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:18:32 ID:MKN2H3TA0
遡った時は今へと追いつき。舞台は混沌めいた地上へと戻る。
大怪球を切り崩した一撃の正体は語るまでもなく、英雄王が禁止エリアより離脱するために放った天地乖離す開闢の星である。
だが、当然ながら地上の民はそんなことは知る由もない。
彼らができることと言えば、ただ前触れもなく訪れた厄災がごとき破壊を見守ることしかない。
先の一撃に及ばずとも、その威力は十分に規格外。
巨大なフォーグラーを覆う超重力のエネルギーフィールドを容易く突破し、苦もなくその衝撃は核たる黒い太陽へと至る。
かつてないほどの大打撃を受けた大怪球が轟音と共に震撼する。
侵すように。貪るように。その破壊は太陽を侵食してゆく。
赤い暴力が紙屑のように黒い装甲を引き剥がし次々と内部を蹂躙する。
その牙は大怪球を中程まで喰らい尽くし、その中央部に破壊の手をかけんとした辺りで、ようやくその勢いを止めた。
偽りの太陽が堕ちる。
衝撃に重力の制御を失った大怪球がついには地上へと沈んでゆく。
今や、完全なる球体であった太陽は欠落し、三日月のように不完全な姿を晒していた。
「なっ…………!?」
呆然とその破壊を見守っていたDボゥイだったが、
その剥き出しになった中心部にあり得ないものを見て、思わず声を上げた。
「ゆたか!?」
それは大怪球に似つかわない小さく震える少女の姿。
その少女こそ紛れもなくDボゥイの探していた小早川ゆたかである。
なぜ彼女があんなところにいるのか。
いったい彼女になにがあったというのか。
次々と沸きあがる疑問は尽きない。
だが、それを知る術は今の彼の手元には存在しない。
ならば、今すべきことは無駄な考えを巡らせることではなく行動することである。
目的は決まっている。
目的地も決まった。
ならば、何を迷うことがある。
限界を超えた体に更に鞭を打って立ち上がる。
彼の強さで筆頭すべきは、その肉体強度よりも、それを突き動かす精神力である。
これはラダムの肉体改造とは関わりのない、人間、相場タカヤの強さだ。
まだ、立てる。
まだ、動く。
精神は肉体を凌駕し、その体は突き動く。
目指すは空。
あの黒い太陽へ。
207
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:18:53 ID:MKN2H3TA0
ふと、思い出したように空から視線を戻し胸元の相棒を気にかける。
胸元を覗いてみれば、フリードリヒはぐったりとし意識を失っているようだが、命に別状はなさそうだ。
悪いが今は、このまま眠っていてもらおう。
次いで、彼と共に飛ばされ、傍らに転がるバイクに手をかける。
外装はボロボロだったが原形はとどめている。
幾度か試しにスロットル捻ってみればエンジンも確かに生きているようだ。
そして斜めに倒壊したビルを近場に見つける。
条件は最高と行かずとも上々。なかなかに御誂え向きだ。
これならいけると確信し、バイクを倒壊したビルに向かってエンジンを動かしハンドルを切る。
そしてそのまま斜めに傾くビルの斜面、窓の間を猛スピードで直奔る。
進む路面は夜に沈んだ太陽へ向かうカタパルト。
その先に聳える大怪球へ。
奔る。
奔る。
空へと向かう滑走路を奔る。
エンジンはフルスロットル。
焼き切れる勢いで空へ向かって加速する。
頂点が見える。
その先に道はなく、見えるの広がる空と沈んだ黒い太陽。
ブレーキは握らず、フルスロットルのまま駆け抜けたDボゥイの体は弾丸の如くカタパルトから射出された。
夜空に向かうその様はまるで流星。
流星は落ちず、昇るように空へ。
「くっ…………!」
だが足りない。
沈んでもなお太陽は高く。
その高みまで彼の手は届かない。
届かないその距離は僅か。
だが、それでも決して埋まらない距離。
上昇のエネルギーが重力に奪われてゆく。
後はただ世の理に従い、地に沈むのみ。
だが、次の瞬間、後方より爆発音が響いた。
Dボゥイと共に投げ出されたバイクが限界を超えたエンジンに火がつき爆発したのだ。
爆発の熱は皮膚を焼き。
飛ばされた破片が彼の背に突き刺さる。
それと共に、爆風は追い風となり彼の体を押し上げる。
「うおおぉぉぉぉお!!」
届かないはず距離が埋まる。
空へ。
空へ。
遥か高い太陽へ向かって、Dボゥイは空を舞った。
■
208
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:19:37 ID:MKN2H3TA0
罪を赦されるには罰が必要である。
これすなわち、罰は赦しであるということ。
ならば、死は限りのない罰であり、同時に限りのない赦しである。
突如襲いかかった断罪の一撃。
罪に怯える少女はこれが天罰であると受け入れた。
だが、赦しは訪れず。
震えは止まらず、罪悪感は微塵も消えない。
ただ恐怖が際限なく増してゆくばかり。
赦しであるはずの罰が恐ろしい。
赦しであるはずの死が恐ろしい。
あれほど求めていた赦しが、今は何よりも恐ろしい。
ああ、なんて醜いのだろうか。
罪は恐ろしく。
罰は恐ろしく。
死は恐ろしい。
もう、ぐちゃぐちゃになった頭は目に映るすべてが恐ろしかった。
全てに怯えながら少女は目を落とし、大地を見下ろした。
そしてそこで、少女はなによりも恐ろしいモノを見た。
「なんで…………?」
その瞳に映るのは、彼女が吹き飛ばしてしまったはずのDボゥイの姿だった。
それだけならばいい。
生きていたのは素直に嬉しい。
問題なのは、彼がこちらに向かっていることだ。
必死にフォーグラーの破壊され外壁に捕まり、こちらに向かって這い上がろうとしていることだ。
遠くからでもわかる程、その姿は見るからにボロボロだった。
背は血にまみれ、全身は無傷な場所を探すほうが難しいくらいだ。
それだけじゃない。フォーグラーが伝えた彼の肉体崩壊。
誰の目から見ても、外部も内部も彼の体は限界だった。
そんな状態で何故他人を気にかけることができるのか。
そんな状態で何故そうも強くあれるのか。
何故諦めないのか。
何故放っておいてくれないのか。
何故私なんかを救おうとするのか。
何故、そこまで私を追い詰めるのか。
悩みがぐるぐると廻っているうちに、そのまま彼は外壁を登りきり、コクピットまで這い上がる。
そして、息を切らして肩を揺らしながら、彼女に向かって対峙した。
「来ないで下さい!」
踏み出そうとする彼に向けて、あらん限りの声で叫んだ。
見ないでほしい。
こんな醜く穢れた自分を見ないでほしい。
こんな姿を、彼に見られてしまうのだけは耐えられなかった。
彼は強く。
彼女は弱い。
彼の強さは、彼女の弱さ引き立てる。
だというのに、彼は彼女の声など聞きやしない。
そのまま止まらず、真っ直ぐに足を踏み出してきた。
209
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:20:06 ID:MKN2H3TA0
「いやっ! 来ないで。
ダ……ダメ、なんです。
わた、わたしのせいで、いっぱい……いっぱい死んじゃて。
わたしも……いっぱい殺して」
搾り出すような声は悲鳴のようだ。
震える喉で、己の醜さを曝け出すように、彼女は自らの罪を吐きだした。
彼女にかかわった故に死んでいったモノたち。
彼女の無力が殺したモノたち。
彼女がその手で殺したモノたち。
刑務所の彼等はどうなったのだろうか。
諦めに心を支配され、脱出を目指す者たちの希望の芽を摘み取った。
それは、脱出を目指す者たち全員殺したのと同義だ。
「だから、だから……ッ!
お願いだから……来ないでぇ…………っ」
掠れて声にならない声で懇願する。
奥底から吐き出すような彼女の苦悩を聞いても、彼は何も言わない。
ただ無言のまま彼女を見つめ、一歩一歩彼女へと近づいてゆく。
彼と別れたあと、彼女に何があったのかを彼は知らない。
なぜそこまで頑なに助けの手を拒むのか。
なぜそこまで頑なに自らを責めるのか。
今、彼女が抱えている闇を、彼は何一つ理解できない。
推察することもできないし、想像でその心情を推し量るなどしてはいけない。
だから、説得の言葉なんてもたないし、言葉でどうこうできるほど器用でもない。
ただ、今の彼に出来ることは一つだけだ。
彼女を囲う大怪球フォーグラー。
ここはひどく寂しく、ひどく冷たく寒い。
それは父の残した意志を取り違え、ありもしない妄執に囚われ、ついには実の妹までも手にかけた、エマニュエル・フォン・フォーグラーを閉じ込めた孤独の檻だ。
この檻に囚われた少女を外へ連れ出さなければ。
彼にわかるのはただそれだけ。
「行こう、ゆたか。こんな寂しいところに君を一人にしておけない」
その為に彼は彼女に手を差し伸べる。
この檻から外へ連れ出すように。
その手を呆然と彼女は見つめていた。
差し伸べられた手は優しかった。
差しのべられた手は暖かだった。
差しのべられた手は眩しかった。
だから、なおのこと惨めだった。
彼の声は届かない。
彼の手は届かない。
他者の優しさでは彼女は救えない。
彼の光が強いほど、彼女の闇が引き立つだけだ。
彼女にその手を取る資格はない。
醜く穢れた彼女はその手を取るに値しない。
彼女の手は彼女にしか見えない血で汚れきっていた。
差し出される手は、もう彼女を追い詰めることしかできない。
「いや……いや! いやッ!
もういい! もういいから、私のことは放っておいてください!」
半狂乱になって彼女は拒絶の声と共に彼の体を押しのける。
そして、押しのけられたDボゥイがバランスを崩した。
もともと立っているどころか、生きていることすら奇跡のような肉体だ。
思わぬ強い拒絶にその体は耐え切れず、足下はたららを踏んでふらついた。
踏み外したその先に、待っているのは何も無い空。
黒い太陽から拒絶され、Dボゥイの体は空を舞った。
■
210
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:20:51 ID:MKN2H3TA0
空に向かって投げ出されるその様を、彼女は呆然と見送っていた。
遥か彼方、何も無い空虚に彼の体が向かってゆく。
それはスローモーションのようにだんだん小さくなっていった。
助けを求めるように伸ばされた手が虚しく空を切る。
何もつかめなかった以上、後は落ち行くだけ。
落ちてゆく体は離れ、決して近づく事はない。
だが、不思議な現象が起きた。
空へ向かって遠ざかってゆくはずの彼の体が僅かだが近づいてきたのだ。
その身は迫り、互いの距離が縮まってゆく。
いや違う。
彼は変わらず慣性に従い空に放り出されている。
彼が近づいているのではない。
近づいているのは彼女自身だった。
その瞬間、あれほど深かった絶望も忘れ、気付けば駆け出していた。
彼女も知らぬ無意識のうちに、勝手に足が動いていた。
自分で拒絶し、自分で突き落した彼に向って駆け出している。
訳が分からない。
行動が支離滅裂だった。
まともな思考など望むべくもないのか、訳もわからない頭のままつき動く体に身を任し、彼に向けて手を伸ばした。
その足取りは疾風と呼ぶにはあまりにも遅く。
その救いの手は震えてあまりにも頼りない。
それでも、彼女は今にも空へ投げ出されようとしているDボゥイへと小さな手を差し伸べた。
他者の手では彼女には届かない。
他者の優しさでは彼女は救えない。
だから、彼女を救えるのは彼女だけだ。
自らを立ちあがらせることができるのは自らの足だけだ。
自らを前に進ませることができるのは、自分の足だけだ。
自らを引き上げることができるのは、自分の手だけだ。
彼女は自らの意志で前へと踏み出た。
彼女は前へと手を差し伸べた。
そうだ。
彼女が求めるのは差し出される手ではなく差し出す手。
駆け出した理由はそれだけだった。
無力な少女は、ただ、誰かのためになりたかったんだ。
伸ばされる小さな救いの手。
投げ出されるDボゥイは応えるように、自らの手を伸ばす。
そして、その手と手は確かに繋がれた。
だが、悲しいかな。
成人男性一人分の体重を支えるには、彼女の力は余りにも弱い。
繋がれた手に引きずられるように彼女の小さな体も大怪球の外へと放り出される。
自らの足で孤独の檻から踏み出して、小早川ゆたかは空を舞った。
■
211
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:21:25 ID:MKN2H3TA0
二人の体はもつれ合い、重力に従い落下する。
落ちて行く。
落ちて行く。
世界は急速に加速し風景が高速で流れてゆく。
放り出されたのは太陽の中ほどからとはいえ、人が死ぬには十分な高さだ。
だというのに、少女の心には不思議と落下による恐怖はなかった。
今、彼女の体はそれよりも優しい、暖かな温もりに包まれている。
身を包む暖かさは少しだけくすぐったかった。
あれほど恐ろしかった優しさだが、包まれて見れば思いのほかその心地は悪くない。
別に、彼女の中で何が変わったわけじゃない。
心には深い絶望がある。
忘れられない後悔がある。
忘れてはならない罪がある。
無力な自分は変わらないし。
犯した罪も消えたわけじゃない。
世界はなに一つ変わらない。
世界は醜く、現実は冷たい。
だからせめて、今だけはこの温もりに身を委ねていたかった。
せめて、今だけは。
落ちて行く。
落ちて行く。
昇るように落ちてゆく。
なんだか、少し疲れてしまった。
ほんの少しだけ眠るとしよう。
目を覚ました後。
少しでも前に踏み出せるように願いながら。
少しでもマシな自分になれるように願いながら。
少しでも現実を受け入れられる強さを持てるよう願いながら。
儚く消える泡沫の夢を見ながら、彼女は眠るようにその意識を手放した。
その前に一つ。
抱えられた隙間から空が見えた。
視界に広がるのは、明るみ始めた黄金の空。
偽りの太陽は消え、凍っていた夜空が氷解する。
温もりから見上げた世界は、少しだけキレイに見えた。
■
212
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:21:52 ID:MKN2H3TA0
落ちて行く。
落ちて行く。
抗いようのない重力に従い彼らの体は落ちて行く。
遥か天空は遠ざかり。
引き寄せられるように大地が迫る。
翼のない彼らにはこの呪縛から逃れられない。
彼は大事なものを壊さぬよう、彼女を包む。
せめて彼女だけでも守らねば。
自らの身を投げ出す覚悟を決めて迫りくる地面を見据える。
だが、次の瞬間、見下ろしたDボゥイの胸元から白銀の両翼がはためいた。
それは、使役竜フリードリヒ。
いつの間に目を覚ましたのかフリードリヒは胸元から勢いよく、飛び出した。
そして、舞い上がった白銀の飛竜は、前足でDボゥイの襟元をつかみ上げ空に向かって抵抗を試みる。
だが、フリードリヒの助力もむなしく、落下は一向に止まらない。
加速するばかりだった落下エネルギーが、わずかながらに減速しただけだ。
いかに天空の支配者竜族といえど、自律行動すら不可能なほど傷ついた翼ではそれが限界である。
まして、主による「竜魂召喚」も行われていない仮の姿では、人間二人を支えるのは不可能に近い。
だが、それで十分だ。
後はこちらの役割だろう。
少しだけ落下の速度が緩まった隙に、懐からブラッディアイを取り出した。
そしてそのまま、落下しながらではうまく狙いが定まらないので、手当たり次第に眼球に噴出した。
次の瞬間、加速していた世界がゆっくりと怠慢な動きに変化した。
この速度ならば、この傷ついた体でも十分対処できるはずだ。
大地はついに目前まで迫り。
パラシュートで降下する感覚でそのまま大地を見据える。
迫る地表に確かめるように片足をつく。
そして、倒れ込みながら体を捻った。
爪先、膝、腰、肘、肩。
落下の衝撃を五点に分散させる。
五等分したとはいえ墜落の衝撃は凄まじい。
永遠のような一瞬を堪えながら、地面を転がる。
もちろん手の内の彼女を傷つけぬよう慎重に。
感覚が加速しているが故に、一瞬で過ぎ去るはずの激痛はゆっくりと確かめるように染渡った。
それでも、なんとか五点着地を成功させ、仰向けになって息を吐く。
そして、無事を確かめるように手の内には眠るように肩を揺らす少女を見つめた。
彼女の闇は祓われたわけではない。
彼女の闇を彼は知らない。
知ったところで彼には理解できないことなのかもしれない。
いや、彼だけじゃない。
彼女の苦悩は彼女だけのものだ。
その悩みはきっと誰にも理解できないのかもしれない。
だが分かり合えなくても、人は手を取り合える。
人は誰かに手を差し伸べることが出来る。
それが孤独に闘ってきた彼がスペースナイツで学んだことだ。
自分の出来るのは、ほんの少しだけ彼女の踏み出す手助けするくらいだ。
これから先は彼女自身の問題だ。
だからきっと大丈夫だ。
213
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:22:19 ID:MKN2H3TA0
人は強く。
心は強く。
彼女は強い。
彼女に押し出されたあの瞬間。
バランスを崩したのは事実だが、所詮は弱弱しい少女の力だ。
少なくとも落下しない程度の抵抗をすることは可能だった。
だが、Dボゥイはあえてそれをせず、流されるまま黒い太陽からその身を投げ出した。
かつて彼女がそうしたように、彼女を信じて。
彼女の昨日を彼は知らない。
彼女の明日など誰にもわからない。
これから先にはこれ以上の絶望や不安が待っているのかもしない。
それでもまだ、その手を誰かに差し伸べられるならば、そのうち何か救えるモノもあるだろう。
今は小さく、頼りなくとも。
生きていれば、いつか、必ず。
だから彼女は大丈夫だ。
繋がれた手の温もりがそう伝えていた。
……とはいえ、本来の予定ならば落下しないよう、あのまま彼女を抱えて留まるつもりだったのだが。
思った以上に肉体は限界だったらしく、落ちてしまったのは失策だが、結果として互いに無事だったのでそれはよしとしておこう。
少しだけ気が抜けたのか、自然と瞼が落ちてきた。
流石にこんどこそ肉体は限界のようだ。
少しの間眠ることにしよう。
グズリと、己の内部で何かが壊れてゆく感覚も今は考えない。
生きている。
今はそれでいい。
今は、それで。
■
これは誰も救われない救いのお話。
夢を見ている。
凍えそうな世界の中で、寄り添いながら、手を取りながら。
目を覚ましても世界はなに一つ変わらない。
彼女の無力は変わらないし、彼女の犯した罪は消えない。
彼の宿命は変わらないし、始まった崩壊は止められない。
世界は醜くも絶望に彩られ、現実は冷たくも胸を抉る。
目を覚ませば待っているのはそんな世界だ。
世界は相変わらず誰の運命も気にせず回り続ける。
だから、せめて今だけは、一時の夢を。
214
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/22(木) 23:22:43 ID:MKN2H3TA0
【大怪球フォーグラー 沈黙】
半壊してコクピットが剥き出しになっています。
しかし、動力系に問題はないため誰かがコクピットに乗り込めば再起動は可能です。
【E-6/デパート跡近く/二日目/黎明】
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:気絶、発熱(中)、頭痛、疲労(大)、心労(極大)、罪悪感、螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
1:少し眠る
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※精神状態が著しく鬱屈した方向に向かったため、螺旋力を発揮することが出来ません。
※状況を理解していなかったため、明智を殺してしまったことは気付いていません。よく状況を考えれば思い出す可能性も……?
→刑務所にいた面々(明智、清麿、ねねね)を自分が殺してしまったと考えています。
※刑務所を中心とした半径数百メートルは崩壊。
※Dボゥイの肉体崩壊の可能性に気がつきました。
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:気絶、一部内臓損傷、背中に傷(炎による止血済み・応急処置済、火傷とバイクの破片が突き刺さっている)
左肩から背中の中心までに裂傷・右肩に刺し傷・背中一面に深い擦り傷(全て傷跡のみ)
ブラッディアイ使用による副作用(詳しい症状は不明)肉体崩壊(進行率13%)
[装備]:フリードリヒリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:デイバック、支給品一式、ブラッディアイ(残量60%)@カウボーイビバップ
[思考]
0:今は眠る
1:舞衣が過ちを犯す前に止める。だが……
2:テッククリスタルをなんとしても手に入れる。
3:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない。
4:煙草を探す
5:首輪を外す手段を模索する
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています。
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました。
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能です。またその事を認識しています。
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※包帯を使って応急処置を施しました。
※ラッドに対する深い憎しみが刻まれました。
※螺旋力覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
※ラダムに対する憎しみを再認識しました
※スパイクと出会った参加者の情報を交換しました。会場のループについても認識しています。
※ブラッディアイは使えば使うほど効果時間が減少し、中毒症状も進行します。
※肉体崩壊が始まりました、本人も少しだけ違和感を感じました※フリードリヒリヒに対して同属意識。
【フリードリヒリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
キャロ・ル・ルシエの使役竜。『白銀の飛竜』の異名を持つ。
知能は高いですが、自傷行為のため現在自立行動は不可能。
また会場の制限を受けているため、火炎は本来のものより抑えられています
現在の小竜の姿は仮のもので、本来は人を一人二人乗せて飛べるほどの大きさです。
ただしそれにはキャロの「竜魂召喚」の魔法が必要です。
215
:
I can fly
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/23(金) 06:30:46 ID:m6pY/17c0
>>197
>大事な物そこにあるという事なのだろうか。
をを以下に修正
>大事な物がそこにあるという事なのだろうか。
そして
>>214
位置情報以下を修正
いじり忘れてました。
【D-6/北寄り/二日目/早朝】
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:気絶、発熱(中)、頭痛、疲労(大)、心労(極大)、罪悪感
、螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
1:少し眠る
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※精神状態が著しく鬱屈した方向に向かったため、螺旋力を発
揮することが出来ません。
※状況を理解していなかったため、明智を殺してしまったことは
気付いていません。よく状況を考えれば思い出す可能性も……
?
→刑務所にいた面々(明智、清麿、ねねね)を自分が殺してしま
ったと考えています。
※刑務所を中心とした半径数百メートルは崩壊。
※Dボゥイの肉体崩壊の可能性に気がつきました。
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:気絶、一部内臓損傷、背中に傷(炎による止血済み・応急
処置済、火傷とバイクの破片が突き刺さっている)
左肩から背中の中心までに裂傷・右肩に刺し傷・背中一面
に深い擦り傷(全て傷跡のみ)
ブラッディアイ使用による副作用(詳しい症状は不明)肉体
崩壊(進行率13%)
[装備]:フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:デイバック、支給品一式、ブラッディアイ(残量60%)@カ
ウボーイビバップ
[思考]
0:今は眠る
1:舞衣が過ちを犯す前に止める。だが……
2:テッククリスタルをなんとしても手に入れる。
3:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容
赦しない。
4:煙草を探す
5:首輪を外す手段を模索する
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています。
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を
得ました。
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めてい
る極悪な殺人鬼と認識しています。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能で
す。またその事を認識しています。
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※包帯を使って応急処置を施しました。
※ラッドに対する深い憎しみが刻まれました。
※螺旋力覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいてい
ません。
※ラダムに対する憎しみを再認識しました
※スパイクと出会った参加者の情報を交換しました。会場のルー
プについても認識しています。
※ブラッディアイは使えば使うほど効果時間が減少し、中毒症状
も進行します。
※肉体崩壊が始まりました、本人も少しだけ違和感を感じました
※フリードリヒリヒに対して同属意識。
【フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
キャロ・ル・ルシエの使役竜。『白銀の飛竜』の異名を持つ。
知能は高いですが、自傷行為のため現在自立行動は不可能。
また会場の制限を受けているため、火炎は本来のものより抑えら
れています
現在の小竜の姿は仮のもので、本来は人を一人二人乗せて飛
べるほどの大きさです。
ただしそれにはキャロの「竜魂召喚」の魔法が必要です。
216
:
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/23(金) 06:34:19 ID:m6pY/17c0
改行がおかしい……
こっちでお願いします
【D-6/北寄り/二日目/早朝】
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:気絶、発熱(中)、頭痛、疲労(大)、心労(極大)、罪悪感、螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
1:少し眠る
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※精神状態が著しく鬱屈した方向に向かったため、螺旋力を発揮することが出来ません。
※状況を理解していなかったため、明智を殺してしまったことは気付いていません。よく状況を考えれば思い出す可能性も……?
→刑務所にいた面々(明智、清麿、ねねね)を自分が殺してしまったと考えています。
※刑務所を中心とした半径数百メートルは崩壊。
※Dボゥイの肉体崩壊の可能性に気がつきました。
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:気絶、一部内臓損傷、背中に傷(炎による止血済み・応急処置済、火傷とバイクの破片が突き刺さっている)
左肩から背中の中心までに裂傷・右肩に刺し傷・背中一面に深い擦り傷(全て傷跡のみ)
ブラッディアイ使用による副作用(詳しい症状は不明)肉体崩壊(進行率13%)
[装備]:フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:デイバック、支給品一式、ブラッディアイ(残量60%)@カウボーイビバップ
[思考]
0:今は眠る
1:舞衣が過ちを犯す前に止める。だが……
2:テッククリスタルをなんとしても手に入れる。
3:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない。
4:煙草を探す
5:首輪を外す手段を模索する
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています。
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました。
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能です。またその事を認識しています。
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※包帯を使って応急処置を施しました。
※ラッドに対する深い憎しみが刻まれました。
※螺旋力覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
※ラダムに対する憎しみを再認識しました
※スパイクと出会った参加者の情報を交換しました。会場のループについても認識しています。
※ブラッディアイは使えば使うほど効果時間が減少し、中毒症状も進行します。
※肉体崩壊が始まりました、本人も少しだけ違和感を感じました※フリードリヒリヒに対して同属意識。
【フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
キャロ・ル・ルシエの使役竜。『白銀の飛竜』の異名を持つ。
知能は高いですが、自傷行為のため現在自立行動は不可能。
また会場の制限を受けているため、火炎は本来のものより抑えられています
現在の小竜の姿は仮のもので、本来は人を一人二人乗せて飛べるほどの大きさです。
ただしそれにはキャロの「竜魂召喚」の魔法が必要です。
217
:
SPIRAL ALIVE
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:01:20 ID:uq7yFk4g0
何処とも知れぬ暗闇がある。
――――星々の大海。
無数の煌きが闇を彩り、闇の中にもまた明暗が存在している。
決して瞬かない星の群れは、その空間を中心としてゆっくりと全天を回り続けていた。
幾つも幾つも偏在する銀河。
融合や離散を繰り返し、時には縮合して黒い空間、特異点となるのも眼に見える光景となって蠢き続ける。
単に作り物というだけなのか、時間の進みが異常なのか。
それすらも判然としない光と闇の中。
その中に、彼は浮かんでいた。
いや、彼だけではない。周囲には幾つもの人影がある。
彼と同様に、“呼ばれた”者達だろう。
思い思いの時間を過ごす彼らではあるが、しかし誰もが着目しているモノがある。
――――彼らが望めば眼前に展開されるウィンドウの内部。
表示される映像は、螺旋の王の推し進める実験の光景だ。
その一部始終を見終えて、彼は誰にともなく――――、いや、此処にも何処にもいない誰かに向かって話しかける。
「――――君が死んだとは、なあ。いや、ある意味当然といえば当然か……」
呆れるような、哀しむような、怒りを滾らせるような。
そのいずれでもありそれ以外の何かでさえもある表情を浮かべ、刃物の様な目をした青年は、虚空を見続ける。
「……最初から最期まで人間を守るなんて下らないことを言い続けた、その結末がこれか。
……なあおい、馬鹿だろう君は。それもあんな糞餓鬼に舐められたままでだ。
ああ、……つくづく救えない奴だよ」
目を細め、忌々しげに。
呟く言葉からは余計な力は感じられず、それ故にあまりに自然な殺気に満ち満ちていた。
「だから言ったんだ、人間なんかに入れ込みやがって。
だがな、……それでも僕は君の兄だ。
――――弟を殺した連中を潰すのに躊躇いはない」
それきり彼は黙り込み、しばし沈黙が辺りを支配する。
長いような短いような静寂はしかし、誰もがそろそろ始まるだろうと認めたまさにその瞬間に破られた。
「どうやら皆さんお集まりのようですな。
今回の事の次第も御覧頂いたようですし、それでは始める事と致しましょう」
不意に、天元が割れて光が差す。
白一色のその狭間からゆっくりと降りてくるのは、羽付きの扇を手にべージュのスーツを着こなす中年男性。
口髭を歪め、彼は見下ろすようにその場にいた全員を睥睨する。
……と。
「……ああ、それはいいがね。一つ訊いておこう」
一呼吸するなり、顔の半分を仮面で隠した男が口端を歪め続けるベージュスーツに割り込んだ。
筋骨隆々としたその体躯に似合わず、落ち着いた声色で男は問う。
218
:
SPIRAL ALIVE
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:02:13 ID:uq7yFk4g0
「――――ここにいる連中。その誰もが、確かに強者と言うのは分かる。
それはいいだろう。私とてかつては一国の代表としてファイトに身を投げ込んだ人間だ。
だが……、」
「……何故、僕たちを選んだ? これほどの力を持つお前……いや、その後ろにいる奴が、だ」
割り込む“彼”――――、短髪の青年に僅かに眉をしかめ、男は冷静に、しかしその感情を隠す事無く吐き捨てる。
「……ッ、若造が」
……尤も、この部屋に皆が呼ばれてからの僅かな間に、この程度の諍いは何度も起きている。
そして誰も彼もがその全ては取るに足りないことでしかないという認識らしく、それ故に争いは起こっていない。
「若造は貴様だろ。高々生まれてから3、40年程度しか生きていない人間如きがほざくなよ」
睨みつける男の殺気を他所に、短髪の青年は明らかな侮蔑を含んだ目線で一蹴した後、さっさと本題に戻ることにする。
「――――そもそも、だ。これ程までにその実験とやらの情報を掴んでいるのなら、何故にすぐにでも潰さないんだ?」
それが気に食わなかったか、仮面の男は何かを告げようと口を開き――――、
「お静かに」
ベージュのスーツの男に止められた。
「宜しい、お答えしましょう」
話をさっさと進めたいのか、芝居がかった動作で扇を開き、周囲の注目を集める髭男。
こうなっては仕方ない。
仮面の男は渋々といった感じに開きかけた口を閉じて言葉を飲み込み、スーツ男の言葉を待つ。
「我々の意思は、偏に螺旋の力を持つ者達に完全なる絶望を与える所なり。
即ち、希望を与え、しかしそれに届かんと手を伸ばしたまさにその時に目の前で砕くのです。
……彼らより、僅かに上回る力を持ってして、ですな」
どういうことか、と問うまでもなく、人の輪の一角から声がする。
厚い本を手にした無表情な青年と、年齢に似合わず威風堂々としたマントを羽織る少年という異色の組み合わせだ。
「……アンサー・トーカーを使うまでもない。
希望が大きければ大きいほど、その達成に近いほど、それが潰えた時の絶望が大きいということか」
その言葉にスーツの男は扇で口元を隠すもしかし、彼の目は雄弁に物語る。
――――明らかな笑身の表情が、そこにある。
「左様。なればこそ、そこに疑いの余地はなかろうというものです。
ジワジワと少しずつ螺旋の王を追い詰めた上で、彼の箱庭の中の種が芽吹いたまさにその時!
希望の象徴たるそれを、我らの盟主は彼の目の前で砕き崩して下さることでしょう」
僅かなざわめきが広がった。
勿論そこに会話はない。
各々が各々の為に、独り言を呟く程度のものだ。
「フン……」
219
:
SPIRAL ALIVE
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:03:12 ID:uq7yFk4g0
青年もそれに殉じながら、しかし続けるのは明確な宣言だ。
「まあ、貴様らの真の狙いが何かなんてのはどうでもいいさ。
僕の目的である人間どもの絶滅。
それを完全に、完膚なきまでに行なうには――――、僕の力はまだまだ足りないからな。
せいぜいが小さな星ひとつをどうにかすることしかできない。
宇宙に蔓延しカビのようにどこからでも湧いてくるこいつらを滅ぼし尽くす為ならば――――、」
一息。
「……ああ、貸してやろう。僕の集めたよく切れるタフなナイフをだ。
代わりに貴様らを利用させてもらう、それで構わないだろう」
――――扇に隠された髭男の表情が、いっそう彫りを増した。
短髪の青年が一度告げれば、後に続くものはやはり出てくるものだろう。
流れとはそういうものだ。
その予想に従って、今度は白衣が翻る。
言葉の中に明確な協力の意思と、同時に叛意を同居させながら。
「――――私は一介の研究者としてデータを集められればそれでいい。
あのタイプゼロでも持ちえた螺旋の力を戦闘機人に応用可能ならば……、価値はあるだろうな」
……明らかにこの場においては最終的な目的に反するその言葉。
螺旋の力を持つものの粛清に協力することで、それを手に入れようと目論む事を隠しもしない言葉はしかし、いとも簡単に受け入れられる。
いや、誰もがそれを気にしようとしない。
当然だ。
この場にいる誰もの関係は利用だけで成り立っている。
相手の言葉から誰彼を利用しようと企むものはあれど、それを否定するような者などここにいるはずもない。
――――そう、誰も彼もが自分だけのためにここにいる。
故に、中にはこんな者も居るのは道理だろう。
「……さぁて、と」
「おやおや、何処に行かれるのですかな?」
不意に場にそぐわない気楽な声を出したのは、目を前髪で覆う、顔の印象が薄い男だった。
その瞳を誰にも見せないながらも、彼が何を感じているかは非常に分かりやすい。
「いやぁ、僕の目的はとっくに終わっちゃってるからねえ。
特にここにはもう目的がないんだよ」
詰まらなそうな台詞の割に、そこに込められているのは紛れもない喜色。
この場に居る誰もに興味を示さず、しかし、たった一人の人間に歪な感情を向けながら。
「……可愛くてとても賢いあの子が脱落しちゃった以上、もう見るべきものはないかなあ、と思ったのさ。
ああ、でも……」
……男は誰かを思い出しながら、その愛らしさに浸りつつ彼の最期を思い出す。
「――――最高だった、最高だったよ! ああ、ぞくぞくするねぇ、あの表情。
あの船で苦楽をともにした仲間たちがばたばた倒れていくのを目の当たりにした絶望。
心を許したあの女不死者の首を目の前に投げられた時の真っ白な感情が!」
誰にも憚る事無く男はそんな事を、それだけが関心だと言ってのけた。
220
:
SPIRAL ALIVE
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:04:28 ID:uq7yFk4g0
「……うん、いつかは僕もやりたいねぇ、こういうイベントを。
ああ、それを思い浮かべるだけで楽しみになってきたよ。
わくわく、わくわく、わくわくわくわくわくわくわくわく……」
高く高く、何処までも。
笑い声を届かせるように、信念すらない犯罪者は己の愉悦に酔い、笑う。
「ハハ……ッ、ハハハハッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
そしてそのまま、男の姿は薄れていく。
何処に消えたかも分からないが、高笑いは姿を見失ってもただ続く。
不意に笑いが途切れた時、沈黙は再度辺りを支配した。
それを見届ければ、ベージュスーツは然りとばかりに頷き、確認するかのように告げる。
「……ふむ、それもまた流れの通り。構わないでしょう。
では、残りの方は我々の同志となることを了承頂いた、と?」
どっしりと構え続けていたロール髪の壮齢の男性も。
何の変哲もなさそうな、薬剤師にして錬金術師の老婦人も。
仮面の男も。
少年と青年のコンビも。
意思表明をしていなかった者たちに動きはない。
しかし、それ故にこの意味は肯定である。
皆が皆、瞳を髪で隠した男を除いて今後の行動に参加するということだ。
「成程、ならば……」
パチンと扇を開き、ベージュ服の男は告げる。
「役者は着々と揃いつつあり、我々の出番も近づいたようですな。
それでは舞台の袖にて座して待ち、準備すると致しましょうか」
いかなる仕組みか扇の上に炎を灯し、その先にて各人を指し示しながら、告げていく。
何もかもを見下ろすように、しかし声色だけは敬意を表現しようとしながら。
「――――そして、準備の間に前座を用意することも忘れてはなりません。
勿体渋る悪役兼演出家が宝石箱に仕舞い込んだ小道具たち。
それらが蓋を開け放つまで、主賓にして主役であらせられるお方をお暇にさせないのもお仕事なのですからな」
「おや、どうなさいましたかな?」
――――宇宙をそっくり写し取った部屋の中。
自分とスーツの男が二人になる頃合を見計らい、短髪の青年は鋭い眼光にて男を見据え、己が疑問を口にする。
「……何処までだ?」
「……はて、何を仰りますやら。なにが何処まで……なのでしょう?」
相変わらずの飄々としたその態度。
それがどれほど怖ろしいものかは青年には計りかねている。
……だが。
221
:
SPIRAL ALIVE
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:05:19 ID:uq7yFk4g0
「全て、だ。ああそうだ、全てだ。
この一件、偶然の要素があまりにも大きすぎる。その何処までに貴様らは関与している?」
力を見極めたいと思い、青年は告げる。
どうにかできるなら力だけはなんとしても奪い取り、他の人間ごとこの男を始末すればいい。
そんな考えを持ってはいたのだが。
「……黙らっしゃい!」
あっさりとその目論見は打ち砕かれる。
「…………」
――――付け入る隙もなく、淡々と。
スーツの男は、脅迫すら交えて青年を脅す。
150年近く生きてきた青年すらなお怯ませるその底知れなさを存分に醸し出しながら。
「それは知る必要のないことでしょう、肝要なのは貴方が成すべきことを成すことなのですぞ?
貴方はそれによって我々の盟主の協力を得、我々は彼らに対する算段を進められる。
互いに利用しあうこと前提のこの関係に不服とあらば、我々を敵に回すことにも等しいとお分かりですかな?」
男は一瞬、口元を更に歪めながら力強く吠える。吼えあげる。
あまりにも演技くさく、だからこそ信じざるをえない言葉を。
「これ即ち、我らのアンチ=スパイラルの御意思なり!」
……故に。
短髪の青年は害虫を見る目でベージュのスーツの男を見ながらも、背後に振り向きながら吐き捨てるように呟いた。
「……僕を飼い慣らせると思うなよ、人間が」
◇ ◇ ◇
海と空の狭間を、巨大な影が行く。
水面にその姿を映しながら悠然と佇むそれは、しかしその巨体に反して高速で航行をしていつつもそれを感じる事は難しい。
周囲に比較対象がないこともさながら、滑るように一切の無駄なく進み続けるのがその原因だろう。
蝦や蟹などの甲殻類を思わせるそのフォルムそのままに、あたかも生きているように太陽の登る方向へと。
――――ダイガンカイは、止まることを知らない。
その先端の一室、艦橋にて。
流麗のアディーネはふと自分が何をしているのかについて考え込む。
理由は特にない。
強いて言えば――――、自分はこのままでいいのかと疑問に思ったからだろう。
彼女の同僚にしてそれ以上の関係である怒涛のチミルフ。
彼が望んで戦場に向かったのは何のためだったか。
222
:
SPIRAL ALIVE
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:06:29 ID:uq7yFk4g0
それは、全てが自分達獣人の誇りを、価値を証明するため。
ならば自分も彼と同様に戦いに臨むべきではなかったか。
螺旋王の言葉に迷いを感じたあの時、何故それを口にしなかったのか。
考えても過ぎた事はどうしようもなく、せめて自分にできる事はないかと――――、
彼女はチミルフの任地だった場所へと向かっている。
せめて、彼がいない間は自分が彼の仕事を全うしようと。
……しかし、それでも。
何かが足りない、とアディーネは思う。
自分にできる事は、本当に成すべき事は何なのか。
堂々巡りの思考の輪の中、彼女はただ問い続ける。
尤も、視線の先の海面の如く特に変化もあるはずがない。
時折力なく漂う海草やら板切れやらをぼうっと見つめるも、時間は無為に過ぎていく。
「……このまま、待っているだけでいいのかねぇ」
返事はない。
艦内の誰もが彼女の悩みを知る由もないし、上官である彼女にかける言葉もないからだ。
だが。
返事はなくとも、応えるモノは存在した。
――――獣人でさえほんの一瞬でも立てなくなるほどの振動とともに。
轟音が、鳴り響く。
それこそ耳を劈く、といって差し支えないくらいに、だ。
「な……、何が起こったッ!!」
見れば一目瞭然だ。
艦の後方からもくもくと、黙々と、煙が立ち昇り続けている。
それを何かと考えるまでもなく、オペレーターの獣人が声を張り上げた。
「艦内右舷後方より爆発! 侵入者を確認しました!」
「侵入者!? 馬鹿な、何処から入り込んだって言うのさ!
この艦は航行中じゃないかい!」
ヒステリックに叫ぶアディーネに怯えながら、しかしオペレーターは速やかに確実に職務をこなす。
まさしくプロフェッショナルの仕事は、アディーネにも事態を把握させるのには充分だ。
「敵影確保! モニター、出ます!」
途端に艦橋内の大画面に一つの影が映し出される。
果たしてそれは誰か。
「……ニンゲン!? それにしては……、不気味すぎる! 何なんだいアイツはッ!」
223
:
SPIRAL ALIVE
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:07:08 ID:uq7yFk4g0
赤い仮面に兜にマント。
『ソレ』を評するならそれだけで充分だろう。
まるで滑るように艦内を移動する『ソレ』は、しかしあっという間に獣人の群に取り囲まれた。
当然だ、ここは四天王が一人流麗のアディーネの居城。
たとえ事態を告げられなくとも即座に判断を下し戦い抜ける歴戦の勇士の集う都だ。
並みのニンゲンなら一人で充分、徒党を組もうがガンメン一騎で蹴散らせる。
まあ、並みのニンゲンが相手ではない時点で無力同然なのだが。
一瞬で数十人が吹き飛ばされ、倒れ伏す。
幾つもの赤い水溜りが床を埋める光景の中。痙攣し、動かない猛者たちの中。
無表情な仮面は生気を感じさせない動きで再度道を流れ行く。
「……ッ!!」
驚愕に染まるアディーネの顔はしかし、更なる混沌に塗れ動かない。
否、動けない。
嗚呼、見よ獣ども。
大空駆ける殲滅者が来るぞ、来るぞ。
逃げ惑いただ蹂躙されよ。
汝らの死は此処に在る。
確たるイマとして未来より出でる。
既に異常を察知したガンメン部隊が、『彼女』を歓迎する為に甲板上に現れ始めた。
瞬く間に数を増やしていく巨人相手に、しかし『彼女』は眉一つ動かさない。
空を、我が物と飛びながら。
「…………」
桃色の髪の『彼女』は、何一つ告げる事無く絶望を力強く投擲した。
それは、ブーメランと呼ばれるものだ。
円の起動を描き、その道程に位置する全ての巨人は為す術なくただ捻じ伏せられるのみ。
……否。
『その道程』だけではない。
一振り、たったの、ただの一振りで全て潰された。
ある者は脚を。
ある者は動力を。
ある者は操縦者を。
ありえない軌道を持って、殲滅者は何の感慨もなくただ、遂行する。
己が使命を遂行し続ける。
「――――!」
アディーネには見覚えがある。
この光景は、この世界では断じてありえない。
ありえるとするならば――――、
224
:
SPIRAL ALIVE
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:08:00 ID:uq7yFk4g0
「違う世界の、ニンゲン……!?」
しかし、何故。
まず考えられるのは、報復だ。
殺し合いを強制する為の自分達に対し、殺し合わされているニンゲン達の仲間が復讐に来たのだ、と。
……しかし、それにしてもおかしい。
どのようにしてここまで来たのか、それが分からない。
螺旋王曰く、偶然入手したどこかの世界の道具を以って初めて参加者を集めることが可能だったとの事だ。
逆に言うなら、螺旋王でさえようやく手に入れられた技術のある者が、
殺し合いも終盤に差し掛かろうとする『今頃になって』何故動き始めたのか。
それ以上に、あんな無感動に淡々と破壊と殺戮を繰り返す存在が、本当に復讐を求めるニンゲンなのか。
……矛盾は止め処なく湧き出てくる。
ならば、連中は何が目的なのだろう。
考えようとし――――、しかしアディーネは即座に立ち上がり走り出す。
今、そんな事はどうでもいい。
とにかく敵に対処しなければいけないだろう。
ならば、事は単純だ。
彼女の持つ『力』。
それを以って連中を迎撃するまでである。
急いで格納庫に向かい、扉を開ける。
視界が広がったその先、そこに鎮座しているのは彼女の愛機、セイルーン。
水を己が力とするカスタムガンメンである。
一歩、二歩、三歩。
息をやや乱したアディーネは、セイルーンに乗ろうと歩みを止めない。
戦いの前の緊張感ゆえか、集中力が高まっているのが分かる。
……だから、すぐに気付く。
扉を開ける音が。
自らの歩みに続く足音が。
――――外から響くはずの剣戟の音が。
ありとあらゆる音が、聞こえない。
ぞくりという戦慄とともに、ゆっくりと背後を振り向く。
次第に回転する視界の端から、ゆらりと迷い込むように目に止まる影が一つ。
見覚えのない、ニンゲンの男がそこにいた。
「何モンだい、あんたは……ッ!」
――――叫ぶ。
自らを鼓舞するように。
己が中の戦慄を、怯えをを振るい払う為と気付かずに。
225
:
SPIRAL ALIVE
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:09:04 ID:uq7yFk4g0
スーツを着た男はしかし、何もせずただアディーネを見ているだけだ。
手に持った木管楽器の真鍮色の輝きが、妖しく鈍く存在感を示している。
悠然としたその態度こそが男の自信の表れなのだろう。
「どうやってここまで来た! なにが目的だい!」
激昂するアディーネの問いに、初めて男は口を開きだした。
アディーネの聞いたことのない、しかし即座に心胆を震わせるに値する、魔人達の軍団の名を。
「――――GUNG-HO-GUNSの11」
伊達男は、告げる。
単騎で千騎に匹敵するヒトの極限。
その一柱たるカレの得意とするは大気の振動を制すること。
およそ万を越える音色を奏で、分子の一つ一つを凶器としながら五感を奪い、その衝撃は銃弾にすら匹敵する。
まさしく魔技と呼べる域に達した芸術と天賦の才の織り成すハーモニィにかかれば、あらゆる音を聞き分け、
その逆の位相の波をぶつける事で完全なる無音を創り出すことすら可能なのだ。
ヒトは、彼をこう呼ぶ。
「“音界の覇者”、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク」
律儀に、答えられる質問だけを答えながら覇者は、しかし宣告を下す。
座して待つ時間は終わったという、その宣告を。
「……恨みはないが上の命令でな。お前達の実験、ここで墜ちてもらおうか」
空気が一瞬で冷え切った。
――――アディーネは、理屈も過程も無視して直感のみで理解する。
彼らこそが螺旋王を敗残兵へと堕とした存在の尖兵だと。
故に実験の停止を求めているのだと。
そして、同時に決意する。
チミルフが自らの誇りを持ってニンゲンと相対し、獣人の価値を証明するのなら。
自分自身の成すべきは、螺旋の王を守り抜き、主の望みを手助けすることで獣人の存在を肯定することであると。
そう、たとえどれ程絶望的な状況だとしても。
勝ち目がどれだけ少なくても。
もしかしたらテッペリンに他の尖兵が向かったのだとしても。
ここでカレらを食い止めねば、まさしく螺旋王が自分を創った意味などないのだから――――。
「……舐めんじゃないよ! この流麗のアディーネが貴様ら全員、ここで叩き潰すッ!!」
226
:
SPIRAL ALIVE
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:10:14 ID:uq7yFk4g0
対する男はそれを無視して、掻き鳴らす。
楽器の音は戦場を拓く喇叭となりて転地に満つる。
「……さあ、第二幕の開演の時間だ。
どんな曲目かは俺にも分からんが、な」
――――じわじわと、じわじわと。
少しずつ、絶望が世界を侵食し始める。
敢えて絶対的な力量差を見せ付けないことで、希望の欠片をちらつかせる事で。
……どうにもならない事態であることすら気付かれることもないまま、ひっそりとそれは浸透していく。
Alea Jacta Est.
崩壊が、足音を立てて近づきつつある。
【テッペリン極東/ダイガンカイ格納庫/???/???】
【流麗のアディーネ@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、決意
[装備]:ダイガンカイ@天元突破グレンラガン
[道具]:セイルーン@天元突破グレンラガン
[思考]:
基本:螺旋王を守る。
0:チミルフ、あたしは……ッ!
1:謎の集団に対処、テッペリンに進む前に食い止める。
[備考]
※螺旋王の実験への迷いは晴れました。
※セイルーンに搭乗はしていません。
※ミッドバレイ達をアンチスパイラルの部下だと確信しました。
【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン】
[状態]:健康
[装備]:サクソフォン“シルヴィア”@トライガン
[道具]:なし
[思考]:
基本:とりあえず、命令通りに行動。テッペリン攻略。
0:……悪いな、そこの姉さん。
1:アディーネに対処。
2:ダイガンカイの撃沈。
[備考]
※ノイズキャンセリングを発動しています。格納庫の周囲は無音状態です。
227
:
SPIRAL ALIVE
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:10:55 ID:uq7yFk4g0
【テッペリン極東/ダイガンカイ右舷通路/???/???】
【呼炎灼(コ・エンシャク)@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
[状態]:???
[装備]:???
[道具]:???
[思考]:
基本:???
1:ダイガンカイの撃沈。
【テッペリン極東/ダイガンカイ左翼甲板上空/???/???】
【セッテ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:健康
[装備]:ブーメランブレード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]:
基本:命令の遂行。
1:敵の殲滅。
2:ダイガンカイの撃沈。
※ダイガンカイの侵入者はミッドバレイ、エンシャク、セッテのみとは限りません。
近隣に彼らの拠点となる『何か』が存在する可能性があります。
◇ ◇ ◇
「……螺旋王ッ! だ、ダイガンカイからの通信です!
謎のニンゲンの群と接敵、どの相手も間違いなく異世界の存在と……ッ!」
天をも衝く螺旋の塔。
――――首都、テッペリン。
その最上部、暗闇に包まれた空間の中で一人の男が座している。
禿頭の彼は頬杖をつき、目を閉じて緑の羽根をはやした男の言葉を無言で聞き続ける。
その内に如何程の心算が渦巻いているのかは、本人以外に知る由はない。
――――ただ、彼は一人、ポツリと呟いた。
「……やはり目をつけられぬ筈はないか。
ならば、今度こそ私は抗い続けよう、アンチ=スパイラル」
感情を押し殺したその声は、かえって雄弁すぎるほどに彼の心の内を現しており。
「――――今回は、貴様を倒す必要はない。
この箱庭を守りきりさえすればいいのだ。……だからこそ、」
手を伸ばし、ぎゅう、と握り拳を作る。
228
:
SPIRAL ALIVE
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:11:48 ID:uq7yFk4g0
「……だからこそ、奮起してみせろ人間たちよ。
口惜しいが、最早時間はさして残っていない。
どうやら二度目の実験を行なう暇すら奴等は与えるつもりはない様だからな」
考えてみれば当然だろう。
世界の創造を行ない得るほどの螺旋の力。
人口が100万人を越えただけで粛清を始めるほどにスパイラル=ネメシスを恐れる反螺旋族が、そんな不安要素を見過ごせるだろうか。
全ては希望を見せた後に絶望に叩き落す為に。
終わりが見え始めた今になり、少しづつ少しづつ、彼の存在は表に出始めてきたということだ。
「――――残り、18時間か。どうにか凌ぎきってみせるとしよう。
お前たちが真に覚醒せし螺旋の力に目覚めることを期待してな。
それだけの時間が過ぎたとき、果たしてどうなっていることかは……私にも分からぬ。
ただ――――、」
それでも、たった一つの希望に全てを託す為に。
螺旋の王は、誰か達に希う様に呼び掛ける。
「お前達が望む世界、それを創り出せるのはやはりお前達自身なのだ」
【テッペリン/最上部/???/???】
【螺旋王ロージェノム@天元突破グレンラガン】
[状態]:???
[装備]:???
[道具]:???
[思考]:
基本:アンチ=スパイラルが介入できない新世界を創造する。
1:放送の準備をする。
2:アンチ=スパイラルとの交戦手段を考える。
3〜:???
【神速のシトマンドラ@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康
[装備]:???
[道具]:???
[思考]:
基本:螺旋王の意のままに。
1:自分の成すべき事は何かを考える。
229
:
SPIRAL ALIVE
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:12:56 ID:uq7yFk4g0
◇ ◇ ◇
――――まあ、なんにせよだ。
目指すはハッピーエンドさ! スマイルだよみんな!
……気楽なものだな。
我々は多元世界の観測で精一杯、箱庭どころか未だ向こうの世界に乗り込む段階にすらないというのに。
……やはり、私の能力を使うべき時ではないか?
一度きりとはいえ世界に穴を明け、次元と空間を穿つことすら可能かもしれないのだぞ。
駄目だよ長官、あなたの命は出来るかも分からないことに使うべきじゃない。
剛博士だってその為に寝る間も惜しんで頑張ってる、きっと私たちはどうにかできる。
その時まで力を蓄えて、最善を尽くそうよ。……ね?
フン。……よくもまあ見も知りもしない世界の人間たちに入れ込めるな。
正義の味方気取りか? 同一人物とはいえ、お前達の世界の人間という保証はないんだぞ?
なら問うとしようか。お前は何故ここにいる?
その言い分だとさっさと逃げたがっているように聞こえるぞ?
うちの童貞坊やすら無様に藻掻いているのにな。
私はこれでも人類の守護者だからな。
望もうが望まなかろうが、ヒトという種が滅びに際するなら呼び出される便利な掃除屋でしかない。
……それは詭弁だろう?
今ここにいるお前は一つの意思を持つ受肉した存在だ。
少なくともある程度はお前自身の考えでここに来なければおかしいんだが……、まあいい。
だ、そうだ。なあ英霊、お前はどういう心積もりでここに来た?
――――螺旋王の手に渡った、あのディスク。原因の一端は知らない人間ではないからな。
それに、もしかしたらの話ではあるが、何故あんな偶然が起こったのかにも心当たりがある。
何、あれにはやはり何かの作為があったというのかね?
……聖杯とは無職の力の塊ではあるが、本来は世界に穴を穿ち、世界の外、根源に到達するためのものでな。
ならば平行世界のどこかに聖杯によって根源に到達した者がいてもおかしくはない。
そこで問題となるのが、聖杯に溜まった力の行く先だ。
……世界の外側。そこに溜まりに溜まった願望の力があるって言うことかな。
その通りだ。そして次元の狭間に落ち込んだあのディスク。
……あれに残る戦いの記憶が求めるのは、次なる戦いであるのは人間の必然だろう。
世界の外にてあのディスクと聖杯の力の渦が触れ合ったならば――――、
戦いを引き起こす力も、目的もある存在の元へ。
その手段を与えてもおかしくない、とでも言うつもりか?
可能性はゼロではないにしても、その保証はないだろう。
お前の本意はそんなところにないんじゃないか?
230
:
SPIRAL ALIVE
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:13:44 ID:uq7yFk4g0
…………。ああ、そうだな。
あの小僧が選んだ、正義の味方でなくイリヤノミカタという道。
オレにもそんな事ができたから……かも、しれんな。
……いや、世迷言だ。
私はただの掃除屋、それで構わない。貴様らが私の力を欲するなら手を貸そう。
それで構わんのだろう?
……宜しく頼むとしよう。我々にはまだまだ……力が足りないのだから。
一段落ついたようだな。
さて、お前たちはこれからどうするつもりだ?
どうやら参加者だけでなく、螺旋王たちにも新たな動きが出ているようだがな。
……彼らに加勢し、反螺旋族に立ち向かうか?
それとも参加者の救出だけを優先し、反螺旋族と一時なりとも共闘するか?
そんなの、最初から決まってるよ。
くく……、どうするんだ?
……喧嘩両成敗!
力づくでもお話を聞いてもらって、そして全てを清算してもらうの。
私たちから奪っていったヒトも、これから奪おうとするヒトにも、どっちにもね!
ああ、そして全部終わったらみんなで笑おう!
俺はその時の笑顔が見たい。参加者も、主催も、はたまた他の誰かでもいい。
とにかく笑おうよ。俺の目的はそれだけさ。
……カミナといい、ガッシュといい。
全く、どいつもこいつも人間というのは見ていて飽きないな。
――――まあいい。
231
:
SPIRAL ALIVE
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:14:27 ID:uq7yFk4g0
◇ ◇ ◇
独り。
全てを睥睨し、策士は扇を振るう。
「……かの愚かなる咎人が殺し合いを始めたという、全ての発端も。
魔なる力を抱く赤き少女が、持ち前の迂闊さにより世界の狭間に『鍵』を失ったのも。
螺旋の王が心の内にて切望していた反螺旋族に抗う術を手に入れたのも――――」
指し示すは無数の枠。
内に映るはカコとイマ。
ミライがあるは彼の脳髄。
「全ての『偶然』が私の掌の上ということにも気付かず、踊り続け、踊らされ続ける役者達。
ですが、せっかく敗残兵がようやくようやく掴んだ希望に追い落とされてここまで来たんです、もう少し頑張って欲しいものですな。
そして見事に天元の突破を果たし、螺旋の王に今一度相見える時こそ、この作戦の本当の目的が達成されるのです。
……これ、何もかも人の心を流し動かす策士の技なり……」
然り。
扇の上に焔を灯せば、全てが全てが意のままに。
「……ありとあらゆる流れがこの私の策通りとはいえ、壮観なものですな。
――――そうは思いませんか、アンチ=スパイラルどの?」
見据えるは遥かな天元。
何処までも何処までも高らかに高らかに。
嗤いと哂いと嘲いは響く。
世界の縁を越え、隅々まで響き渡ってゆく。
「はははははははは……、そうだ、これで良い!
まさしく役者が揃うのだ。そう、何もかも私の思うがままだ!
うわははははははははははは……!」
【???/???/???/???】
【策士・諸葛亮孔明@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
[状態]:健康
[装備]:孔明の羽付き扇@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-
[道具]:???
[思考]:
基本:???
1〜:???
[備考] :
※全ては孔明の罠だと語っています。信憑性は不明です。
※様々な人物と協定を結んでいるようです。
232
:
第五回放送
◆wYjszMXgAo
:2008/05/25(日) 18:15:11 ID:uq7yFk4g0
――――生き延びた者達よ、聞くといい。
ようやく前の放送から六時間――――。
たったこれだけの間にどれ程の波乱と万丈が満ち溢れていたか、その全貌を知るものは少ないだろう。
戦いの最中、この狭い箱庭にどれ程の傷跡が残ったか。
私の用意したものであろうとなかろうと、いずれも私の予想を超える力をお前たちは身に抱いていたようだな。
だが、お前たちの力はここで打ち止めになるのか?
私に更なる驚きを与えてくれるのか?
それを私は誰よりも期して待つこととしようか。
最早準備は整った。
今よりこの実験場は、本格的に螺旋の力同士が鬩ぎ合う混沌の坩堝と化す。
その最中に遥か天元に届く者が現れるか否か。
――――それが、全ての明暗を分けることとなるだろう。
それでは死者の発表に移る。
流石この激戦を生き延びたものたちだ、その最期はいずれも華々しいものだったぞ。
各々の命の輝きを目の当たりにしたものは、それを心に秘めて更に自らを切磋琢磨させ彼方へと邁進するがいい。
(死者発表)
続いて禁止エリアを発表しよう。
(禁止エリア発表)
以上だ。
……さて、次の放送までお前達は互いを競い、磨き上げるといい。
私達も無為に時間を過ごすわけではない。成すべきことを成さねばならないのだから。
生命の歴史とは闘争の歴史であり、その全てが己を進化させ、より高みへと高みへと――――、
そう、時として階段を降りようとも、星々を越えてなお歩み続ける指向性を抱いている。
それは私であろうと等しく同じだ。
お前たちと同じく……、私は私の戦いを果たすこととしよう。
そして、その為に。
……お前たちが真なる螺旋力に目覚めることを、私は切望する。
さあ、己が生命を賭けて血潮を滾らせ、闘争に身を躍らせろ。
生きることこそ、生き延びることこそ即ち戦いなのだから。
233
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 02:45:12 ID:KKW2jCg.0
菫川ねねね。
高嶺清麿。
ヴィラル。
ルルーシュ・ランペルージ。
図らずも作り上げられた四竦みの構図。誰もが予想だにしない遭遇を迎えたことに呆気
に取られる中、最速で行動を起こしたのは鮫の牙を持つ獣人だった。
ヴィラルは己を騎士と誇る武人である。
この殺し合いのゲームに放り込まれてからの戦績こそ芳しくないが、駆け抜けた戦場の
数で言えば参加者の中でも決して見劣りする側ではない。
人類掃討軍の幹部に名を連ねる実力には咄嗟の戦況判断の妙も含まれる。
その体に染み付いた実力が、突発的な事態において最善と判断される行動を選んだ。
即ち――頭を垂れていた身を起こし、手にした鉈を振り上げて、招かれざる乱入者に襲
い掛かったのだ。
この瞬間のヴィラルの動きに、清麿とねねねの二人が反応することは叶わなかった。
それほどまでに迷いのない身のこなし、直接戦闘力に劣る人間では太刀打ちできない。
峰を返した鉈の一撃が咄嗟に頭を庇った清麿の肩を打ち据えてラガンから叩き落し、同
時に鋭い獣爪がねねねの首を押さえてシートに組み伏せる。
男を打ち倒し、女を人質にすることに躊躇いはなかった。
元よりヴィラルの美学に、”人間”の女を利用することを卑怯と断じる考えはない。
一瞬、脳裏に浮かんだシャマルのことで胸中に軋む思いを得たが、瞬き一つで躊躇を殺
し、鉈を握り直すとねねねの首にそれを宛がう。
「――動くな! この女の命が惜しければ、武器を捨てて床に伏せていろ!」
獣人の咆哮に肩を抑えた清麿が口惜しげに顔を歪め、両手を掲げると無手であることを
示してから床に伏せる。もっとも、その眼光は痛みさえ感じさせないほどに鋭く、一分
の隙を見出そうとでもいうように油断なく光を放っている。
それは女の同じことで、左手で髪を掴まれた女はシートに顔を押し付けられながらも、
心は屈するまいと誇示するように首を傾け、半眼でヴィラルを睨み付けていた。
234
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 02:45:41 ID:KKW2jCg.0
気骨のある連中だ、と内心で感心しながら、しかし表出した感情は獰猛な猛り。
このゲームの参加者は、武器を失わせれば安心などというレベルの連中ではない。それ
こそあの老人のように素手でこちらを圧倒。あるいは藤野静流のように何もない空間か
ら武器を呼び出すことも念頭に入れなくてはならない。
「ふ……ふはははははははは! よくやったぞ、ヴィラル! 見事な状況判断だ。咄嗟
の状況で事実上、二人を無力化したことは賞賛に値する」
警戒心を新たにするヴィラルの前、この場で最も反応の遅れた男が笑声を挙げる。誰で
あろう、ルルーシュ・ランペルージである。
痩身を揺らすルルーシュは床に伏せた清麿から安全な距離を保ちつつ、ラガンに搭乗し
ているヴィラルに歩み寄る。
「こちらは女、か。人質選択に躊躇がなかったのも高評価だ」
「支給品はまとめてこっちにあるもののようだ。検めてくれ」
「任せておけ」
嬉々としてデイパックの中身を確認し始めるルルーシュ。その脳裏には重要な物が入っ
ているかもしれない荷物をあっさりと明け渡すヴィラルへの侮蔑と、扱い易い駒を手に
入れたことへの優越感が垣間見えた。
その一方で、ルルーシュの抱く黒い思惑を欠片も察せぬほどヴィラルも愚かではない。
清麿とねねねの行動に注意を払いつつ、彼の内心を支配しているのは思わぬところから
転がり込んだ、幸運に対する歓喜である。
(少々小ぶりだが、このコックピットといい、間違いない。この機体はガンメン! 機
体認証を必要としない旧式のようだが、すでに鍵も納まっている)
巡り巡ってこの機体が、自分の下を訪れたことは天啓に他ならない。
小型故にマシンパワーに不安が残るものの、ガンメンを入手すれば都の騎士たる自分の
戦略は圧倒的な広がりをみせる。
それこそ、如何な実力を持つ人間相手でも遅れを取りはしない。
ルルーシュ・ランペルージの協力を得ても、あの傷の男に勝てるかどうかわからないと
いう不安感が、ラガンを入手したことで排斥されていく。代わりに湧き上がるのは今も
窮地に追いやられている愛しい女――シャマルを救い出すことができるという歓喜に似
た激情だった。
▽
235
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 02:46:31 ID:KKW2jCg.0
すいません、切るとこおかしいので再度投下し直したいと思います。
236
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 03:01:31 ID:KKW2jCg.0
最初から再開します。
―――――――――――――――――――
菫川ねねね。
高嶺清麿。
ヴィラル。
ルルーシュ・ランペルージ。
図らずも作り上げられた四竦みの構図。誰もが予想だにしない遭遇を迎えたことに呆気に取られる中、最速で行動を起こしたのは鮫の牙を持つ獣人だった。
ヴィラルは己を騎士と誇る武人である。
この殺し合いのゲームに放り込まれてからの戦績こそ芳しくないが、駆け抜けた戦場の数で言えば参加者の中でも決して見劣りする側ではない。
人類掃討軍の幹部に名を連ねる実力には咄嗟の戦況判断の妙も含まれる。
その体に染み付いた実力が、突発的な事態において最善と判断される行動を選んだ。
即ち――頭を垂れていた身を起こし、手にした鉈を振り上げて、招かれざる乱入者に襲い掛かったのだ。
この瞬間のヴィラルの動きに、清麿とねねねの二人が反応することは叶わなかった。
それほどまでに迷いのない身のこなし、直接戦闘力に劣る人間では太刀打ちできない。
峰を返した鉈の一撃が咄嗟に頭を庇った清麿の肩を打ち据えてラガンから叩き落し、同時に鋭い獣爪がねねねの首を押さえてシートに組み伏せる。
男を打ち倒し、女を人質にすることに躊躇いはなかった。
元よりヴィラルの美学に、”人間”の女を利用することを卑怯と断じる考えはない。
一瞬、脳裏に浮かんだシャマルのことで胸中に軋む思いを得たが、瞬き一つで躊躇を殺し、鉈を握り直すとねねねの首にそれを宛がう。
「――動くな! この女の命が惜しければ、武器を捨てて床に伏せていろ!」
獣人の咆哮に肩を抑えた清麿が口惜しげに顔を歪め、両手を掲げると無手であることを示してから床に伏せる。もっとも、その眼光は痛みさえ感じさせないほどに鋭く、一分の隙を見出そうとでもいうように油断なく光を放っている。
それは女の同じことで、左手で髪を掴まれた女はシートに顔を押し付けられながらも、心は屈するまいと誇示するように首を傾け、半眼でヴィラルを睨み付けていた。
237
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 03:02:01 ID:KKW2jCg.0
気骨のある連中だ、と内心で感心しながら、しかし表出した感情は獰猛な猛り。
このゲームの参加者は、武器を失わせれば安心などというレベルの連中ではない。それこそあの老人のように素手でこちらを圧倒。あるいは藤野静流のように何もない空間から武器を呼び出すことも念頭に入れなくてはならない。
「ふ……ふはははははははは! よくやったぞ、ヴィラル! 見事な状況判断だ。咄嗟の状況で事実上、二人を無力化したことは賞賛に値する」
警戒心を新たにするヴィラルの前、この場で最も反応の遅れた男が笑声を挙げる。誰であろう、ルルーシュ・ランペルージである。
痩身を揺らすルルーシュは床に伏せた清麿から安全な距離を保ちつつ、ラガンに搭乗しているヴィラルに歩み寄る。
「こちらは女、か。人質選択に躊躇がなかったのも高評価だ」
「支給品はまとめてこっちにあるもののようだ。検めてくれ」
「任せておけ」
嬉々としてデイパックの中身を確認し始めるルルーシュ。その脳裏には重要な物が入っているかもしれない荷物をあっさりと明け渡すヴィラルへの侮蔑と、扱い易い駒を手に入れたことへの優越感が垣間見えた。
その一方で、ルルーシュの抱く黒い思惑を欠片も察せぬほどヴィラルも愚かではない。
清麿とねねねの行動に注意を払いつつ、彼の内心を支配しているのは思わぬところから転がり込んだ、幸運に対する歓喜である。
(少々小ぶりだが、このコックピットといい、間違いない。この機体はガンメン! 機体認証を必要としない旧式のようだが、すでに鍵も納まっている)
巡り巡ってこの機体が、自分の下を訪れたことは天啓に他ならない。
小型故にマシンパワーに不安が残るものの、ガンメンを入手すれば都の騎士たる自分の戦略は圧倒的な広がりをみせる。
それこそ、如何な実力を持つ人間相手でも遅れを取りはしない。
ルルーシュ・ランペルージの協力を得ても、あの傷の男に勝てるかどうかわからないという不安感が、ラガンを入手したことで排斥されていく。代わりに湧き上がるのは今も窮地に追いやられている愛しい女――シャマルを救い出すことができるという歓喜に似た激情だった。
▽
238
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 03:02:29 ID:KKW2jCg.0
さて、そうした思惑を抱くヴィラルの背後で臨検作業に従事するルルーシュだが、こちらもヴィラルが考えるほど浅はかな思考で動いてはいない。
無論、ヴィラルを賞賛した行為に嘘はない。突然に飛び込んできた武装していると思しき二人に対し、先制攻撃でこれを打破した彼の行動は実に正しい。
交渉の余地さえ見せずに武力でもってこれを制圧するという行為は、自身がこれまで幾度となく晒されてきた窮地を思い出されて胸が痛む思いもあったのだが。
(この場において白カブトのことを思い出すなどと、つまらないことを。だが、こうしている間にも黒の騎士団の状況が危ぶまれる。主催者がゼロの正体を知っているとすれば、守ろうと必死になっている仮面の正体すら、滑稽なものでしかないのか?)
漏れそうになる弱音を噛み殺しながら、ルルーシュは探索の手を緩めない。
デイパックの中から銃や食料といった見慣れた支給品を確認しつつ、その彼が最も目を惹かれたのは、シート上に落ちていた小型の機械だった。
拾い上げ、その機械の意味するところを掴んだ瞬間、ルルーシュの表情が喜悦に歪む。
「なるほど、そういうことか。これでお前達は我々の動向を掴んでいたというわけだ」
「ルルーシュ、それは?」
「レーダーだ。どうやら参加者の名前と、現在位置が表示されるらしい。範囲からして同エリアということのようだが……お前が菫川ねねね。そしてそちらの男が高嶺清麿というわけだ。――どちらも日本人のようだな」
ならば使い道もあるかもしれない、とルルーシュは考える。
日本人である以上、ゼロの名前は大なり小なり効果を発揮するはずだ。黒の騎士団の名に好感を覚えないイレヴンは、エリア11にはほぼ存在しない。
問題は素性すら明らかでない二人に対し、ゼロの名を利用してまでの交渉価値があるかどうか。この場まで生き残ってきた以上、この二人がレーダーを友好的に利用しつつ、激戦区から距離をおいて行動してきたことは間違いない。
また、このレーダーの存在により、この二人と傷の男との繋がりも明らかだ。ヴィラルとシャマルの二人を尾行していた際、視界に入っていなかったはずのルルーシュの位置を的確に掴んでいたのは、まさしくこのレーダーの恩恵だろう。
ともなれば、この二人がここを訪れた理由は――。
239
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 03:02:53 ID:KKW2jCg.0
「メッセンジャーの可能性もある、か」
「……? どういうことだ?」
「簡単なことだよ、ヴィラル。そして君は君にとってもいい判断をしたかもしれない。そこの高嶺清麿、幾つかこちらの質問に答えてもらおう」
黙ってルルーシュに発言権を譲るヴィラル。その傍らで悠然と清麿を見下ろし、ルルーシュは高慢さを隠さずに提案という名の脅迫を執行する。
清麿は悔しげに喉を鳴らしてから、
「……くそっ、断れるはずないんだろ。好きにしろよ」
「――っ!? スザ……いや、何でもない。では聞こう。お前達がここへ訪れた理由はなんだ。武装した機体があれば、俺達程度ならどうにでもなると思ったか?」
一瞬、口ごもるルルーシュに訝しげな視線を向けて、清麿は違うと首を振る。
「この場所に突っ込んだのははっきり言って偶然だ。俺もねねね先生も、このロボットの操縦に慣れてなかった。奇跡的に着陸した場所にあんたらがいた……それだけだ」
「――どうやら嘘ではないようだな。では、続けて聞こう。お前達のこれまでの動向と、今後の指標だ。これまで生存してきた以上、何らかの目的意識があるはずだ。虚言は許されない。嘘と判断した場合、こちらの女性がどうなるか――聡明そうな君ならば、わかるはずだ」
憤怒を露にしながらも、根底にあるのは理知的な輝きだ。そういう目をする人間は、土壇場においても冷静な思考が働いている。そういう意味では自分と同じタイプの人間だ。当然、人質の意味も価値も、同類であることも理解しているはず。
必要以上の言葉を用いずとも、清麿は口を開くのにかかる時間は長くはなかった。
清麿から語られた情報は大きく分類すれば以下の通り。
――主催者がこの殺し合いを開催した目論見。
――螺旋力という未知なる力の存在。
――参加者達は異世界から集められた存在であるということ。
――対主催として活動する清麿達が、脱出に関する幾つかの布石を持つこと。
荒唐無稽な仮説の展開に冗句の可能性さえ疑ったが、語る清麿の双眸は真剣なまま。組み伏せられたねねねも一切の口を挟まず、この件に関しての二人の見解は少なくとも一致を見ているということだ。
ともなれば、混乱目的を念頭に入れつつも考察しなければならない。あらゆる可能性を模索することが、最善の手を打つために必要な思考実験であるからだ。
240
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 03:03:17 ID:KKW2jCg.0
まず、主催者がこの殺し合いを開催した目論見。これは螺旋力という未知の力が関与しているという話だ。そもそも、この螺旋力というものの定義が曖昧だ。彼らの語る内容からすれば、生きるや守るといった火事場の馬鹿力的なものが物理的に干渉するエネルギーのことらしい。――馬鹿げている。これこそ、一考の価値にすら価しまい。しかし、特殊な能力でいえば自身の持つギアスがある。他者に命令を遵守させるこの異能も、もとを正せば螺旋力に連なるびっくり能力にカテゴライズされて然るべきものだ。故に、可能性の段階として脳裏に留めておくことは必要だろう。
第一、それが目的として集められたというのならば、よほど自分には縁のなさそうな能力だ。火事場の馬鹿力が必要とされる場面に陥ることなど、ルルーシュにとってはその時点で敗北に近い。自分のキャラではないのだ。そういう窮地で目覚める真の力というようなものは、肉体派のスザクにこそ相応しい。――しんみりしてしまう。
続いて議題に上がるのが、参加者達がどこから集められたのか、ということだ。
これも一笑に付しておしまいとしておきたい内容だった。異世界? パラレルワールド? 地球と異なるファンタジー世界? そんなものの存在は有史以来、小説家や空想家の脳内以外で確認された例がない。却下だ。それも大却下。考慮にすら値しない。
と、バトルロワイアルの開始直後のルルーシュならば考えただろうが、今のルルーシュには幾つかの疑問点から、それを笑い飛ばすことができないのだった。
まず、異世界からの参戦者という内容の生き証人として、眼前にいるヴィラルという存在がある。彼は顔や体形こそ人間と大差ないが、巨大な口に並ぶのは鮫に似た鋭さを持つ牙の群れであるし、暴力的に発達した腕には獣爪と獣の体毛が生えている。思えばルルーシュはこれまでにも喋る猫であったり、アルファベットの形をした謎の生命体にも存在していた。
猫はあまりにもナチュラルに存在していたことや、ゼロの正体を隠匿しなければなどと気を回していたことが理由で失念していた。Vの形をした生き物に関しては、その姿形よりも忌まわしい声が先立ち、まるで考慮の外であった。
(なるほど。今にして思えば、彼らの考察に辿り着く情報は俺にももたらされていたか。その場しのぎに焦るあまり、違和感を無視するとは何たる未熟! だが、懺悔など後で幾らでもできる。大事なのはこの情報を得て、未来にどうするかだ!)
異世界から集められた存在、その可能性を心に留めた時点で、ルルーシュは先ほどまで思考していたゼロの名を利用した交渉が使えぬ可能性に思い至る。
そもそも、傷の男がギアスについて何らかの情報を得ていた時点で、彼と繋がりのあるこの二人が自分に関する情報を持っていることは間違いない。
その証拠として、先ほどからこちらを睨み付ける清麿という少年は、ヴィラルの動向に気を払う一方で、ルルーシュと決して目を合わせないのだ。
241
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 03:03:55 ID:KKW2jCg.0
(ギアスの情報が漏れている……か。必殺にも確実な交渉にも用いれる手段だからこそ、警戒されるのは当然だが、こうも手当たり次第に知られているとなると事だ。有害な可能性があるというだけで敵対視されかねない。少なくとも、俺ならば不穏分子は躊躇わず処分するからな)
自分の立場の悪さを把握し、うんざりしながらため息を漏らす。
もっとも、能力を知られれば致命的というのは、正体を知られれば致命的であったランペルージとして人生とそう大差があるわけでもない。分の悪い生き方は慣れている。
それらの思考に区切りをつけて、最後にルルーシュが考えるのは脱出の可能性。
具体的な方法論には触れなかったものの、清麿達の対主催グループがこの会場を突破する幾つかの可能性を保持していることは事実のようだ。
ルルーシュの目的としては、生きてナナリーの下へ帰ることが大原則。
そのために現実的な方策として、参加者を謀略で葬り、優勝を狙うという考えがあった。だが、一方で確実に脱出できるのであれば、そちらに乗るのも吝かではない。もともと、ここでの戦いで得られるものはルルーシュにはほとんどない。あるのは失ったものばかりで、大切な親友をすでに失っている。四回目の放送を聞き流した彼は知らないが、従順な手駒であったカレンさえすでにいないのだ。
もっと余裕のある状況であれば、めぼしい支給品を持ち帰り、自身の能力を発揮すべき本来の戦場を優位に進めるという考えも芽生えたかもしれない。それこそ『約束された勝利の剣』を持ち帰り、自分の国を手に入れるENDもありだったろう。
しかし、この場のルルーシュはそれなりにこの戦場の恐ろしさを体感してきた。そして、余裕をもって自身の未来を選択できる状況でないことは理解している。
その上、彼は彼なりの方法で主催者に対抗できるかもしれないグループを形成しつつあったのだ。こちらの情報と合わせて大軍団を結成し、主催者に挑む剣となるか。
――必要あるまい、というのがルルーシュの結論であった。
高嶺清麿――名前に聞き覚えのある人物だと思えば、それは中途で遭遇していたジンの口から語られた彼の仲間の名だ。荒唐無稽な説も序説に近いものを山荘で聞いていた。おそらくはその発展形が、先の説に繋がったのだろう。
して問題となるのは、彼とジンとの関係性だ。ジンと清麿は継続的に連絡を取り合えていた仲か――NO。ならば山荘を出発した後、ジンは清麿と遭遇しているか――NO。そしてこの後、清麿と手を組むのような状況があったとして、清麿とジンを遭遇させるべきだろうか――NOだ。
(何故なら――どういう理由か、この二人はギアスの力を知っている。おそらくだがジンは知らない。もしもジンが俺と出会った時点でギアスの効果を知っていたのなら、ニアによるマタタビの殺害、その時点で何らかの言及があったはずだからだ)
逆を言えば、清麿とジンが再び合流した段階で、ニアの信用と間引きのためのマタタビの殺害の容疑者に、ルルーシュの名が刻まれることになる。
それはあの場にいたスパイクをも敵に回すことになる見逃せぬ汚点――ならば。
(ここで始末すべき、か。少なくとも男は必要ない。しかし……)
「ルルーシュ、先ほどからどうして黙っている! 時間がないんだぞ! こうしている間にもシャマルが……!」
思考を最終段階に持ち込んだルルーシュの横、我に走り空気の読めない獣人が焦燥感も露に怒鳴っている。無能な愚物は人も獣も変わらない、などと考えながら、ルルーシュは首を振った。
「なに。今、大体の考えをまとめたところだ。とりあえず、この二人を拘束することにする。手伝ってもらうぞ、ヴィラル」
▽
242
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 03:04:20 ID:KKW2jCg.0
手早くねねねを拘束するヴィラルに対し、ルルーシュによる清麿の拘束はやや時間を要した。単純に腕力と、拘束するための道具が本来の用途から外れていたため。
なお、拘束にはデイパック内にあったマフラーを利用している。
デイパックの中身も簡易に改め、四つの一塊を中心に置き、ルルーシュは勿体ぶった態度でヴィラルに向き直った。
「さて、まず最初に話しておくべきは、この二人があの傷の男の仲間であるという点だ」
「なに!?」
拘束に一段落がつき、肩で息をするルルーシュは髪をかき上げると、怪訝な表情のヴィラルにそう告げる。その効果たるや劇的で、一抹の疑惑など一瞬の内に消え去り、ヴィラルの視線に残るのは激しい憎悪と憤怒の感情のみだ。
「つまり彼らには人質として価値があるということになる、わかるな?」
「しかし、奴が素直にこちらに従うかどうか……」
「人質というのは、二人以上いる場合には見せしめという特典が発生するんだよ。傷の男がただの殺し屋ではなく、脱出あるいは別の目的を彼らに見出している以上、効果は確実に望めるはずだ」
さらに付け加えるように、ルルーシュはデイパックからそれを取り出す。
「まさか、これは?」
「そう、解体された首輪だ。我々の首に嵌まっているものと相違ないらしい。ということは、彼らは首輪の解除を可能とする情報を持っているということだ。一つならば破損を疑うが、複数となれば確実。だが、未だに彼らの首には首輪が残っている。――これらがおそらく、首輪を外せる別の協力者の存在。あるいは外すのに必要な要員が別に存在していることの証拠。可能性としては後者、首輪はおそらく死者のものだろう」
語りながら相手の表情を窺う。歪む形相は図星を突かれている証拠か。女の方は完璧な無表情を保っているものの、少年の方はまだ若い。隠そう、という意思が見え隠れする表情では、交渉術の鍛錬不足が感じ取れた。
おおよそ、その悔恨が覗ける表情から確信が得られた。
「首輪の解除方法について、彼らから聞き出せる確証が足りない。もっとも、構造自体はこの解除された首輪があればようと知れる。首輪に限っては彼らと俺達の情報の差はなくなったと考えていい。ならば、我々がすべきことは簡単だ」
「――それは?」
「決まっているだろう? ヴィラル、君との契約を果たすことだ。君の望み、君が取り返したいと心から望む、彼女の奪還だよ」
獣人の瞳が見開かれ、それから広がる好意的な感情の波を見て、ルルーシュもまた友好的な微笑を浮かべてみせる。
「安心しろ。現状、俺達は運命共同体だ。うまくやってみせるさ」
(堕ちたな。これで今後、こいつは俺に逆らえまい。もちろん、あのシャマルとかいう女を取り戻すまでの制限つきだが……それならばギアスをかけるチャンスなど幾らでもある。付き合ってもらうぞ、俺の目的――ナナリーの下へ帰るために)
(散々使い倒して、ボロ雑巾のように捨ててやる――!)
▽
243
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 03:04:53 ID:KKW2jCg.0
やはり、ルルーシュという男に協力を仰いだのは正解だった。
シャマルを救い出すことを最優先するという言葉に、ヴィラルは己の幸運を誇る。
小型とはいえガンメンの入手、付け加えて優秀なブレーン。さらには傷の男との交渉材料として使える人質二名。
(やれるぞ、シャマル! 待っていろ。今すぐ、お前の明日がお前を迎えに行く!)
そうとなれば一秒でも時間が惜しい。こうしている間にも、彼女がどんな苦行に晒されているかわかったものではない。傷の男はその行動に反して思慮深い面も持ち合わせていたため、仲間が見当たらないとなれば早まった行為は留まる可能性が高い。
だとしても、安心などできるはずもない状況だった。
(待っていろ。俺は力を手に入れた。お前を守り、お前と共に勝ち抜くための力を。このガンメンで、すぐにお前の下へ――)
「ならばすぐに移動だ。早急にシャマルを――」
「ああ、そのためにも拘束した二人をその機体に……なんだ!?」
方針は決定。互いの意思を確認し、まとめたデイパックを二つ、適当にラガンのシートに放り込んで、さあこれからというところで襲いくる振動。
デジャヴな展開に顔を青くするルルーシュは、まさかまた地割れが起きるのではと冷や汗を掻きながら地面を見回す。
「まさか、また割れるのか!? くそ、あんな無様な真似は二度と……!」
「違うぞ……これは、外だ!」
後ずさり、尻餅をつくルルーシュを尻目に、ラガンを操作したヴィラルが廃屋の外に出る。その際、捻った鍵から螺旋状のエネルギーゲージが溜まるのを、シートに拘束されていたねねねだけが目にしていた。
荒れ狂う暴風の余波を受けながら外に出たヴィラルは、その眼前で起きた光景に言葉を完全に喪失する。
それははるか見上げるほどに巨大な威容――その名も誉れ高きダイガンザン!
螺旋王四天王である、怒涛のチミルフが螺旋王より賜った、人類掃討のための旗印、移動する要塞、獣人達の誇る圧倒的な力の具現――!
そのダイガンザンが、見るも無残により暴力的な赤き螺旋の前に消失していく。
圧倒的な暴風の威力たるや、咄嗟の跳躍を見せたダイガンザンの外郭を一瞬の内に剥ぎ取り、破壊の余波を内部にまで浸透、巨大な体内を食い破るように蹂躙した。
突然の出現を見せた獣人達の最大の力が、一瞬の内に葬られるのは出来の悪い悪夢だ。
操縦していたのはダイガンザンの持ち主だるチミルフだろうか。人間の抹殺という、自分と同じくする指令を螺旋王から言い渡された彼は、その本気を見せ付けんとダイガンザンを起動し――暴威の前に崩落したというのか。
あの様子では、如何にチミルフとて無事には済むまい。
共に幾度も戦場を駆けた、頼りになる上官――その実力と強靭さを知っていてなお、その無事を信じることができないほどに圧倒的な力だった。
「あの、黒い太陽がそれをしたのか……?」
振動に誘き出されたヴィラルは、その本質を誤った。
彼の目に映ったのは、ダイガンザンと距離を開けて、正面から向き合っていた強大な漆黒の球体。ダイガンザンをも一撃で屠った、究極の武装のみ。
故にダイガンザンを打ち破った真の暴威の持ち主には欠片も気を払われず、その人物がループしてきた暴威に翻弄されて宙を舞ったことなど思考の埒外。
――ただ、ヴィラルの心を捉えて放さなかったのは、その球体の威容。
――漆黒の太陽に確かに存在する、巨大な目の存在。
244
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 03:05:26 ID:KKW2jCg.0
――あれは、ガンメンだ。それも、今の自分が乗っているちんけなものではなく、圧倒的で強大で、それこそシャマルを奪った憎き男など容易く葬れる力を持つガンメン。
そう思った瞬間、ラガンのブーストが起動していた。
高速で宙を舞う機体、一瞬の間に頭部ハッチがコックピットを覆い隠し、搭乗者を衝撃とダメージから守るための盾となる。
「おい、何を! ――ヴィラル!?」
背後で誰かが名を呼んだことさえ、今のヴィラルには些事でしかない。
悩んでいた時間の何と馬鹿らしい。心を砕いた時間の何と無駄なことか。
――アレだ。あの力さえあれば、シャマルを救うことも、参加者を皆殺しにすることも、どちらも容易に実行することができる。
チミルフの配下についた獣人は、誰もがダイガンザンの力に憧れを抱く。
それはある意味、少年が巨大なロボットなどに抱く無条件の憧憬のようなものに近い。
ダイガンザンの威容を知る獣人は、悉くがその力の前にひれ伏す他にない。
ヴィラルすら、その例外ではなかった。
そのダイガンザンを、あの黒い太陽は一撃の下に葬ったのだ。
ダイガンザンへの憧憬は、そのままそれを打ち破った力への崇拝に変わる。
力への信仰は最も単純で、最もこの場に適した、彼にとって最も必要なもの。
黒い太陽をこの手に、そして、シャマルの下へ――!
あの黒球を入手することこそ、この場において全てを打開する鍵。
ガンメンを操縦するパイロットを八つ裂きにし、チミルフの仇も同様に討つ。
(行くぞ、シャマル! お前の明日が、黒き太陽の力を借りて! お前の下に、俺の手で夜明けをもたらしてやる! 待っていろ! 待っていろ!!)
▽
我を忘れ、牙を剥き出し、凶悪な形相の一片に子供のような無邪気ささえ貼り付けた不思議な獣人。――菫川ねねねはそんなヴィラルの傍らで、拘束されたまま思考を巡らせていた。
(さて。あたしはどーするべきなのかねえ)
ルルーシュ・ランペルージとの交渉という名の情報搾取は清麿が担当。そのため、あの場でねねねが言葉を発した機会は一度としてない。
状況は最悪。未だ明智を失った傷の癒えない清麿を残し(自分も多少そうだが)、人質にとされた自分の無力さも苛立たしい。
だが、この場で彼女が一番憤りを覚えていたのは、まだ書き途中の読者未定の作品を、あの廃屋に残してきてしまったことだ。
書きたい文字、想い、物語が湯水のように湧いてくる。
だというのに、文字を綴る手は拘束されている。語る口は開かぬが吉。
清麿との距離もどんどん開き、立場はさしずめ囚われのお姫様か。
まったく、らしくない。
そんな役回りは高校生だった頃に、置き忘れてきたものだと思っていたのだが。
(あー、くそ、最悪だ。まるであの頃から、一歩も進んじゃいないみたいじゃないか)
躍起になって隣の男が目指しているのは、どうやら刑務所を粉砕したフォーグラーらしい。あの破壊力を目にして、挑むというのはあまりにも考えなし。だが、打倒するのが目的というわけでもなさそうだ。
(横の奴がうまくやる、あるいはチャンスを窺うしかないのか。くそ、ここまで安穏としてきたツケが一気に回ってきてる気分。さて、どうなる――?)
身を縮め、さらにヴィラルの意識から遠ざかる微かな努力をしつつ、菫川ねねねは考える。多少イレギュラーの加わったプロットを変更しつつ、物語をハッピーエンドへ導くための伏線と、その解消法を――。
245
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 03:05:56 ID:KKW2jCg.0
【C-7/消防署付近/二日目/早朝】
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に中ダメージ、疲労(大)、肋骨一本骨折、背中に打撲、
激しい歓喜(我を忘れています)、左肩・脇腹・額に傷跡(ほぼ完治)、螺旋力覚醒(本人は半信半疑)
[装備]:大鉈@現実、短剣×2 コアドリル@天元突破グレンラガン、ラガン@天元突破グレンラガン
[道具]:支給品一式、モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと4秒連射可能、ロケット弾は一発)、鉄の手枷@現実 S&W M38(弾数5/5)、S&W M38の予備弾15発、短剣×4本、水鉄砲、エンフィールドNO.2(弾数0/6)、銀玉鉄砲(玉無し)、
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、タロットカード@金田一少年の事件簿、USBフラッシュメモリ@現実 イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)@現実 支給品一式x2(水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)、殺し合いについての考察をまとめたメモ、 イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル!!、 無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん、清麿の右耳
首輪(エド/解体済み)、首輪(エリオ/解体済み)、首輪(アニタ)、首輪(キャロ)、清麿のネームシール、各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mmNATO弾)M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
参加者詳細名簿、詳細名簿+、 支給品リスト、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
[思考]
基本:シャマルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝する。
0:あの黒い太陽のガンメンを入手! パイロットを引きずり出し、この手に!
1:シャマルを傷の男の手から救い出す。そのためにルルーシュから協力を得る(ほぼ協力は取り付けたが、失念しています)
2:次回の放送までに、参加者を最低1人討ち取り、チミルフに献上する。(ヴィラルの希望はスカー)
3:クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
4:蛇女(静留)、クルクル(スザク)、ケンモチ(剣持)に味わわされた屈辱を晴らしたい。
5:スカーへの怒り
※なのは世界の魔法、機動六課メンバーについて正確な情報を簡単に理解しました。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。
※本来は覚醒しないはずの螺旋力が覚醒しました。他参加者の覚醒とは様々な部分で異なる可能性があります。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。螺旋王への感情が変化している可能性があります。
※チミルフが夜でも活動していることに疑問を持っています。
※とりあえず、今はルルーシュを殺すつもりはありません。
[備考]
螺旋王による改造を受けています。
①睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
②身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。 単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。
【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:本を書きたいという欲求、疲労(大)、手足の拘束中(猿轡は嵌められていません)、螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:
基本-1:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
基本-2:バシュタールの惨劇を起し、首輪や空間隠蔽を含む会場の全ての機能を停止させて脱出する。
1:ヴィラルの目的はわからないが……人質なんてゴメンだ。どうにか逃げないと。
2:清麿、あるいはスカーなどの対主催陣営と合流。
3:アンチシズマ管の持ち主、それとそれを改造できる能力者を探す。
4:センセーに会いに行きたい……けど、我慢する。
5:本が書きたい! 本を読んで貰いたい!
[備考]:
※読子を殺害したスカーの罪を許しました。が、わだかまりが全く無い訳でもありません。
※ラガンをフル稼働させたため、しばらく螺旋力が発揮できません
246
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 03:07:14 ID:KKW2jCg.0
▽
「あ、あの馬鹿――っ!!」
こちらの呼びかけの一切を無視し、止める間もなく遠ざかっていくラガンを見ながら、ルルーシュは湧き上がる激情のままに罵倒する。
「ふざけるな! まだ何の指示も出していない段階で勝手な真似を! そもそも、俺の協力を仰いだのは貴様の方だろう!」
肺活量のままに感情を吐露しても、急速に遠ざかる存在にはもはや届かない。
何より、ヴィラルを乗せた機体の進行先にあるのは、途方もなく巨大な球体だ。あれが先ほどの地震、付け加えて位置関係から地割れの原因に違いあるまい。
あれほど強大なものを使いこなす存在がいるとなれば、ますますルルーシュの単独での優勝は難しいものとなる。そのための手駒が何としても必要だというのに……。
「それを、あの獣は……! 所詮は獣人。人と交わっていても、本能という野卑な感情に従って動く下劣な存在に過ぎないということか」
指示に従わないのであれば、それは無能にも劣る足手纏いだ。
もともと螺旋王と繋がりがある、そして弱味に付け込めるという点を見込んでの協力関係――ここでそれを断ったとして、どんな影響が出るか。
(そもそも、すでに参加者の大半が失われた状況で、俺の手駒に加えられる人材が多くない。螺旋王に近付くための繋がり、何よりシャマルという女の有する回復能力も魅力的だ。ここで切るのはあまりにも惜しい)
かといって、物惜しさに飛び出して黒い太陽の射程に入るのは願い下げだ。
ここでヴィラルの帰還を待つか――しかし、本当に奴が生還する可能性をどれほど信じられる? 何より、ここを今、傷の男に襲撃されでもしたら。
(ならば、俺に選べる手段はさして多くない)
振り向き、その左目に手を翳す。
遮られた視界の中、赤い鳥が羽ばたいている――。
(ギアス。高嶺清麿――せいぜい、俺の友好的な駒になってもらうぞ!)
▽
一方で、唐突な状況の変化についていけないのは清麿も一緒であった。
ねねねが連れ去られた状況は痛恨に等しい。だが、それがイレギュラーなのはどうやらルルーシュにとっても同じことのようだ。ならばそこに付け入る隙がある。
ラガンとねねねが連れ去られたものの、デイパックは放置されたままだ。あるいは口八丁手八丁で眼前の魔人と交渉し、二人を追うこともできるかもしれない。
何より、拘束され、自由と命を握られた状況で清麿に希望を失わせないのは、事実上、彼の未来すら縛っているこの拘束なのだ。
汗水を垂らして、懸命に手足を縛りつけたルルーシュ・ランペルージの功績。
――それが、どうにか頑張れば解けそうに、緩い。
どうやら握力が足りていなかったらしい。その疲労の発露が、清麿に希望を抱かせる。
魔人の目を見ず、交渉に持ち込む。
あるいは時間を稼いで拘束を外し、実力行使に出る。
(こんなところで終わるわけにはいかない。俺に後を託してくれた、明智さんのためにも――!)
悄然と肩を落とし、しかし妙に自信ありげな笑みを作ったルルーシュが向かってくる。
――さあ、ここがいわゆる、正念場。
247
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 03:08:26 ID:KKW2jCg.0
【C-6/民家/二日目/早朝】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:肉体的疲労(大)、心労(中)、軽度の頭痛 、後頭部にたんこぶ
[装備]:ベレッタM92(残弾13/15)@カウボーイビバップ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服 予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ 支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
[思考]
基本:何を代償にしても生き残る。
1:清麿にギアスをかけ、生き残るための駒とする。
2:清麿から情報を入手し、脱出に向けた方策を練る。
3:適当な相手に対してギアスの実験を試みる。
4:以下の実行。
「情報を収集し、掌握」「戦力の拡充」「敵戦力の削減、削除」「参加者自体の間引き」
5:余裕があればショッピングモールかモノレールを調べる。
[備考]
※首輪は電波を遮断すれば機能しないと考えています。
※清麿メモの内容を把握しました。
※会場のループについて把握しました。
※第四回放送は聞き逃しました。
※ヴィラルが螺旋王の部下であることとシャマルが治癒能力者であることを知りました。
その他の素性についてどこまで把握しているのかはわかりません。
※スカーの仲間に何かしらの情報収集方法と、広域索敵能力者がいるという仮説を立てました。
※ギアスの制限は主に一度に使用する人数が問題なのではないか、と想像しています。
※ルルーシュが民家で何を見たのかは次の書き手の方、または皆さんの想像力にお任せします。
※ヴィラルとシャマルを救うまでの協力関係を結びました。が、それも悩み中です。
※清麿から主催者の目的、参加者が異世界から集められた、螺旋力の存在などの重要事項を聞き出しました。ほぼ、考察が清麿と同程度に到達しています。
【高嶺清麿@金色のガッシュベル!!】
[状態]:右耳欠損(ガーゼで処置済)、手足を拘束中(猿轡は嵌まっていません)強い決意
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本-1:ゆたかを救い、螺旋王を打倒してゲームから脱出する
基本-2:戦術交渉部隊の新リーダーとして、あらゆる視野から問題の解決に当たる。
0:眼前のルルーシュに、交渉か実力で対処。
1:連れ去られたねねね、スカートの合流。
2:大怪球及び、シズマシステムに関する調査、考察。
3:脱出方法の研究をする。(螺旋力、首輪、螺旋王、空間そのものについてなど包括的に)
4:周辺で起こっている殺し合いには、極力、関わらない。(有用な情報が得られそうな場合は例外)
5:研究に必要な情報収集。とくに螺旋力について知りたい。
6:螺旋王に挑むための仲間(ガッシュ等)を集める。その過程で出る犠牲者は極力減らしたい。
[備考]
※首輪のネジを隠していたネームシールが剥がされ、またほんの少しだけネジが回っています。
※ラッドの言った『人間』というキーワードに何か引っかかるものがあるようです。
※明智の死体、及び荷物は刑務所の瓦礫の下。
※携帯電話のテキストメモ内に、二日目・黎明時点で明智が行った全考察がメモされています。
248
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 03:09:07 ID:KKW2jCg.0
[清麿の考察]
※監視について
監視されていることは確実。方法は監視カメラのような原始的なものではなく、螺旋王の能力かオーバーテクノロジーによるもの。
参加者が監視に気づくかどうかは螺旋王にとって大事ではない。むしろそれを含め試されている可能性アリ。
※螺旋王の真の目的について
螺旋王の目的は、道楽ではない。趣旨は殺し合いではなく実験、もしくは別のなにか(各種仮説を参考)。
ゆえに、参加者の無為な死を望みはしない。首輪による爆破や、反抗分子への粛清も、よほどのことがない限りありえない。
【仮説①】【仮説②】【仮説③】をメモにまとめています。
※首輪について
螺旋状に編まれたケーブルは導火線。三つの謎の黒球は、どれか一つが爆弾。
また、清麿の理解が追いつく機械ではなくオーバーテクノロジーによるもの。
ネジを回すと、螺旋王のメッセージ付きで電流が流れる。しかし、死に至るレベルではない。
上記のことから、螺旋王にとって首輪は単なる拘束器具ではなく、参加者を試す道具の一つであると推測。
螺旋王からの遠隔爆破の危険性は(たとえこちらが大々的に反逆を企てたとしても)限りなく低い。
※螺旋力について
………………………アルェー?
▽
「ふむ……どうやら、誰もいないか」
高空の風をその身に受けながら、周囲を見回し呟いたのは傷の男――スカーだった。
今、彼の姿は墜落したフォーグラーの中にある。
刑務所を破壊して飛び立ったフォーグラー。存在だけは聞いていたスカーは、その強大な機体の搭乗者が組したものの誰かである可能性に賭け、移動スピードが圧倒的に異なるそれを追ってきたのだ。
もっとも、その移動にかかる時間の差が、彼の命を救ったといってもいい。
フォーグラーの正面に唐突に出現した、巨大な船のような機体。あわや正面衝突になるかと思いきや、その機体を真横からの真紅の暴風が打ち滅ぼしたのだ。
その後にはフォーグラーが足元を砲撃し、さらには船を撃墜したのより小規模な紅の螺旋がフォーグラーに直撃――外壁を破壊し、その身を地へと叩き落した。
再びの浮上を懸念しながらも、外壁を伝って内部に侵入したスカー。
見上げるほどの巨体を誇るフォーグラーであったが、その内側は意外なほどの簡素な造りだ。おおよそ必要最小限の移動を目的とした通路。それ以外は駆動と制御系の機械が大部分を占めているらしく、最も重要と思われる場所に到達するのにそう時間はかからなかった。
「侵入されることを考えていないのか。設計者は相当な粗忽者か、あるいは自信家といったところだな」
見てきたような見解を述べ、スカーは最も破壊の酷い壁を見る。赤の破壊が衝突したのはまさしくここだったのだろう。分厚いはずの障壁は見るも無残に砕き引き裂かれ、数十メートルもの高さから眼下を覗くことができる。
万が一踏み外せば、人間の矮躯などとても無事では済むまい。
もしもこの時、スカーがフォーグラーへの侵入より、フォーグラー周囲の探索を優先していれば、球体の傍らで安らかに眠る男と少女を見つけることができただろう。
しかし、彼にとって重要なのはフォーグラーの内部であり、その中に目的としていた存在が見つからなかった時点で、その重要性も大分薄れている。
(どうするべきか……この球体から離れ、明智達との合流を目指すか。しかし、これが刑務所より飛び出したことは間違いない。ならば、奴らが目的とするのもまたここかもしれん)
安易にこの場を離れるという選択も選べない。もとより、再びこの球体が起動することも念頭に入れておかなければならない。
だとすれば、先ほどまでこのフォーグラーを操縦していた存在、あるいはその存在が操縦に利用していた空間があるはずだが――。
見晴らしのよい風景を眼下に納めたまま、スカーは静かに黙考する。
やるべきこと。採るべき選択。時間と目的、それらの狭間に揺れながら。
遠く、東の空から偽りの太陽ではない、本物の太陽が昇ってきている。
放送が――近い。
249
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 03:09:38 ID:KKW2jCg.0
▽
スカーが冷たい早朝の風を浴びる傍ら、彼女の意識は静かに覚醒していた。
目覚めて最初に彼女を襲ったのは、腹部を中心とした鈍痛だ。
思わず声も出ぬほどの痛みが、結果的に彼女の隠密行動に一役を買っていた。
薄目を開け、自分を抱え込んでいる男の姿を確認する。
腕の太さや硬さ。色合いや肌触りから予想がついていたものの、そこにいたのは共に優勝を誓い合った大切な存在ではなかった。
はっきりと、シャマルは自分が落胆しているのを自覚する。
目覚めた瞬間、傍らにいるのはこれまでずっとヴィラルだった。
思えば、チミルフと東方不敗の戦闘時を除けば、それこそ片時も離れなかった相手である。彼の目覚めの傍にいるのは、そして自分の目覚めの傍にいるのは、互いの存在であるとどこかしらで思い込んでいたのかもしれない。
だとすれば、たった二日間で何という体たらくだろう。
そのことを不快にも情けないとも思っていない自分が、一番の人でなしだと思う。
そう思ってしまえば、続いて彼女の脳裏を支配したのは愛しい男のことである。
ヴィラルは――?
少なくとも、肩にシャマルを担ぐ男の反対の肩に担がれていないのは確かだ。
そしてあの戦闘の最中、地割れによって生じた隙の中で当身を受け、失神した自分の醜態を思い出す。だが、状況を鑑みればあのままヴィラルとこの傷の男が再戦を果たしたとは考え難い。
おそらくは傷の男はシャマルを人質に取り、ヴィラルとは逸れている。
なればこそ、未だシャマルにも利用価値を見出し、こうして同道させているのだろう。
次なる遭遇があった時、あの心優しく誇り高い獣人を殺害するために。
あっさりと人質に下っただけでなく、この身はさらに男の足手纏いになろうというのか
。――すでに嫌っていたはずの自分に、さらに嫌える部分があることに驚きだ。
自嘲的な感情の芽生えを実感しながら、しかしシャマルの胸中を支配したのは悪感情を上回るほどの決意。
――ならば、ヴィラルと傷の男が出会う前に、傷の男は私が殺す。
自分は彼に助けられてばかりいる。そう真正面から言えば、優しい彼は穏やかに、あるいは激しく否定してくれるだろう。救われているのは俺も同じだ、と。
違うのだ。彼と自分とでは、全然まるで少しも同じでないのだ。
確かにシャマルには、傷を癒すことのできる力がある。
それによって、ヴィラルの負傷を幾らか軽減してあげることはできた。
だが、ヴィラルがシャマルにしてくれたのは、魔法という便利な力さえ届かないはずの心の傷のケアだ。それは誰にでもできることではなく、少なくともシャマルには到底及びつかない奇跡――ヴィラルはそれを、何度自分に見せてくれたことだろうか。
――守る。救う。助けになる。目の前の男を殺すことで、それが叶うのだ。
体中の力を抜き、未だ気絶したままを装うシャマル。
担ぐ男はその様子に気付かないらしく、しかし恐ろしいほどの急勾配を女性一人を抱えたままの身で踏破。
瞼の裏に暗闇が差したのは、どうやら建物の中に入ったからか。
金属の床を叩く靴音と、稼動する機械の作動音――それらは妙に懐かしい。
薄く狭い視界の中、映し出される空間は懐かしき機動六課の母艦にも似ている。
とはいえ技術も歴史も圧倒的に異なるそれを見間違えたのは、郷愁という名の名残が最後に発した断末魔だったのかもしれない。
シャマルを担いだまま、スカーは遂に最上階の最深部へと到達する。
風が吹き込んでくるのを感じる中、シャマルの身は床の上にゆっくりと横たえられた。
どうやら意識の喪失を疑っていないスカーは、しばし周囲を検分するつもりらしい。
朱と青の二色が混ざり合う空、外壁に開いた大穴からは世界を見渡すことができる。
――スカーは気付かない。機械文明に疎い生活をしてきた彼は、この複雑怪奇な黒い太陽のコックピット。操縦桿の役割をするのが、この空間だと気付けない。
――シャマルは気付いている。医療班の人員とはいえ、十年近いキャリアで幾つもの艦を、世界を、文明を渡り歩いてきた。ここが、この機械の要であるとわかる。
――スカーは気付けない。間近に迫った放送に意識を集中し、思索の海に沈む状況下で、背後で遅々として活動を再開している彼女の存在に気付けない。
――シャマルは気付かない。間近に迫った放送も、この場を目指して飛んできている愛しい男のことも、黒い太陽の核に触れることに手一杯で気付かない。
震える白い手が、かつて絶望の底に沈んだ少女の意を汲んだ装置に触れる。
かくて黒い太陽は再び稼動する。
その中心に絶望ではなく、狂えるほどの恋情を据えて――。
250
:
愛ある暴走
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 03:10:05 ID:KKW2jCg.0
【???/大怪球フォーグラー メインルーム・上空/二日目/早朝】
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、空腹、強い覚悟、螺旋力覚醒
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night(回復に使用中)
[道具]:支給品一式x4(メモ一式使用、地図一枚損失)、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
ワルサーWA2000用箱型弾倉x2、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、
ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、魔鏡のかけら@金色のガッシュベル!!
暗視スコープ、首輪(クロ)、単眼鏡、マース・ヒューズの肉片サンプル、シアン化ナトリウム
ワルサーWA2000(4/6)@現実 、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[思考]
基本-1:明智達と協力して実験から脱出し、元の世界でまた国家錬金術師と戦う。
基本-2:螺旋力保有者の保護、その敵となりうる存在の抹殺。
0:フォーグラー内で清麿達の合流を待つか、探しに出るか……。
1:螺旋力保有者を守護する。
2:各施設にある『お宝』の調査と回収。
3:ギアスを使用したヴィラル、チミルフへの尋問について考える
4:螺旋王に対する見極め。これの如何によっては方針を優勝狙いに変える場合も……。
5:シャマルを拘束するロープか何かが欲しい
[備考]:
※言峰の言葉を受け入れ、覚悟を決めました。
※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。
※会場端のワープを認識。螺旋力についての知識、この世界の『空、星、太陽、月』に対して何らかの確証を持っています。
※清麿達がラガンで刑務所から飛び出したのを見ていません。
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:疲労(中)、腹部にダメージ(中)、螺旋力覚醒(本人は半信半疑)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本1:守護騎士でもない、機動六課でもない、ただのシャマルとして生きる道を探す
基本2:1のための道が分かるまで、ヴィラルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝することを目指す。
1:フォーグラーを操作し、眼前のスカーを排除する。
2:ヴィラルと合流、協力して参加者を排除する。
3:クラールヴィントと魔鏡のかけらを手に入れたい。
4:優勝した後に螺旋王を殺す?
5:他者を殺害する決意はある。しかし――――。
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。また、宝具という名称を知りません。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。必ずしも他者を殺す必要がない可能性に思うことがあるようですが、優先順位はヴィラルが勝っています。
251
:
愛ある暴走(修正)
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 19:23:18 ID:KKW2jCg.0
>>237
差し替え
気骨のある連中だ、と内心で感心しながら、しかし表出した感情は獰猛な猛り。
このゲームの参加者は、武器を失わせれば安心などというレベルの連中ではない。それこそあの老人のように素手でこちらを圧倒。あるいは忌まわしき蛇女のように何もない空間から武器を呼び出すことも念頭に入れなくてはならない。
「ふ……ふはははははははは! よくやったぞ、ヴィラル! 見事な状況判断だ。咄嗟の状況で事実上、二人を無力化したことは賞賛に値する」
警戒心を新たにするヴィラルの前、この場で最も反応の遅れた男が笑声を挙げる。誰であろう、ルルーシュ・ランペルージである。
痩身を揺らすルルーシュは床に伏せた清麿から安全な距離を保ちつつ、ラガンに搭乗しているヴィラルに歩み寄る。
「こちらは女、か。人質選択に躊躇がなかったのも高評価だ」
「支給品はまとめてこっちにあるもののようだ。検めてくれ」
「任せておけ」
嬉々としてデイパックの中身を確認し始めるルルーシュ。その脳裏には重要な物が入っているかもしれない荷物をあっさりと明け渡すヴィラルへの侮蔑と、扱い易い駒を手に入れたことへの優越感が垣間見えた。
その一方で、ルルーシュの抱く黒い思惑を欠片も察せぬほどヴィラルも愚かではない。
清麿とねねねの行動に注意を払いつつ、彼の内心を支配しているのは思わぬところから転がり込んだ、幸運に対する歓喜である。
(少々小ぶりだが、このコックピットといい、間違いない。この機体はガンメン! 機体認証を必要としない旧式のようだが、すでに鍵も納まっている)
巡り巡ってこの機体が、自分の下を訪れたことは天啓に他ならない。
小型故にマシンパワーに不安が残るものの、ガンメンを入手すれば都の騎士たる自分の戦略は圧倒的な広がりをみせる。
それこそ、如何な実力を持つ人間相手でも遅れを取りはしない。
ルルーシュ・ランペルージの協力を得ても、あの傷の男に勝てるかどうかわからないという不安感が、ラガンを入手したことで排斥されていく。代わりに湧き上がるのは今も窮地に追いやられている愛しい女――シャマルを救い出すことができるという歓喜に似た激情だった。
▽
252
:
愛ある暴走(修正)
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 19:24:48 ID:KKW2jCg.0
>>242
差し替え
手早くねねねを拘束するヴィラルに対し、ルルーシュによる清麿の拘束はやや時間を要した。単純に腕力と、拘束するための道具が本来の用途から外れていたため。
なお、拘束にはデイパック内にあったマフラーを利用している。
デイパックの中身も簡易に改め、四つの一塊を中心に置き、ルルーシュは勿体ぶった態度でヴィラルに向き直った。
「さて、まず最初に話しておくべきは、この二人があの傷の男の仲間であるという点だ」
「なに!?」
拘束に一段落がつき、肩で息をするルルーシュは髪をかき上げると、怪訝な表情のヴィラルにそう告げる。その効果たるや劇的で、一抹の疑惑など一瞬の内に消え去り、ヴィラルの視線に残るのは激しい憎悪と憤怒の感情のみだ。
「つまり彼らには人質として価値があるということになる、わかるな?」
「しかし、奴が素直にこちらに従うかどうか……」
「人質というのは、二人以上いる場合には見せしめという特典が発生するんだよ。傷の男がただの殺し屋ではなく、脱出あるいは別の目的を彼らに見出している以上、効果は確実に望めるはずだ」
さらに付け加えるように、ルルーシュはデイパックからそれを取り出す。
「まさか、これは?」
「そう、解体された首輪だ。我々の首に嵌まっているものと相違ないらしい。ということは、彼らは首輪の解除を可能とする情報を持っているということだ。一つならば破損を疑うが、複数となれば確実。だが、未だに彼らの首には首輪が残っている。――これらがおそらく、首輪を外せる別の協力者の存在。あるいは外すのに必要な要因が別に存在していることの証拠。可能性としては後者、首輪はおそらく死者のものだろう」
語りながら相手の表情を窺う。歪む形相は図星を突かれている証拠か。女の方は完璧な無表情を保っているものの、少年の方はまだ若い。隠そう、という意思が見え隠れする表情では、交渉術の鍛錬不足が感じ取れた。
おおよそ、その悔恨が覗ける表情から確信が得られた。
「首輪の解除方法について、彼らから聞き出せる確証が足りない。もっとも、構造自体はこの解除された首輪があればようと知れる。首輪に限っては彼らと俺達の情報の差はなくなったと考えていい。ならば、我々がすべきことは簡単だ」
「――それは?」
「決まっているだろう? ヴィラル、君との契約を果たすことだ。君の望み、君が取り返したいと心から望む、彼女の奪還だよ」
獣人の瞳が見開かれ、それから広がる好意的な感情の波を見て、ルルーシュもまた友好的な微笑を浮かべてみせる。
「安心しろ。現状、俺達は運命共同体だ。うまくやってみせるさ」
(堕ちたな。これで今後、こいつは俺に逆らえまい。もちろん、あのシャマルとかいう女を取り戻すまでの制限つきだが……それならばギアスをかけるチャンスなど幾らでもある。付き合ってもらうぞ、俺の目的――ナナリーの下へ帰るために)
情報戦、白兵戦、そして総力戦――ありとあらゆる分野において、強力無比な支給品がここに集っている。もはやこれは、天がルルーシュ・ランペルージに王座を奪えと断言しているに等しい状況。
消防署で確認した無骨なナイトメアも掌握。本心をいえば黒の騎士団の旗印に相応しい、もっと優雅で、ボタン一つで雑兵を蹴散らせるような機体が望ましかったが致し方ない。
今の自分には、巡りすぎるほどの天運が味方しているのだから。
(散々使い倒して、ボロ雑巾のように捨ててやる――!)
253
:
愛ある暴走(修正)
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 19:26:08 ID:KKW2jCg.0
>>243
差し替え
やはり、ルルーシュという男に協力を仰いだのは正解だった。
シャマルを救い出すことを最優先するという言葉に、ヴィラルは己の幸運を誇る。
小型とはいえガンメンの入手、付け加えて優秀なブレーン。さらには傷の男との交渉材料として使える人質二名。
(やれるぞ、シャマル! 待っていろ。今すぐ、お前の明日がお前を迎えに行く!)
そうとなれば一秒でも時間が惜しい。こうしている間にも、彼女がどんな苦行に晒されているかわかったものではない。傷の男はその行動に反して思慮深い面も持ち合わせていたため、仲間が見当たらないとなれば早まった行為は留まる可能性が高い。
だとしても、安心などできるはずもない状況だった。
気付けばすでに時刻はとうに夜明けを迎えている。
人間の首を一つ持ち帰るというチミルフとの約束も果たせていない。望ましきはスカーだが、最悪、横の女か不屈を双眸に宿す少年の首を落とすことになるだろう。
もはやヴィラルにとって、姑息などという言葉で己の道を穢すことに躊躇いはない。
天秤の片側に乗るのがシャマルであるという点だけで、比肩するものは螺旋王の勅命以外には存在しえなかった。
(待っていろ。俺は力を手に入れた。お前を守り、お前と共に勝ち抜くための力を。このガンメンで、すぐにお前の下へ――)
「ならばすぐに移動だ。早急にシャマルを――」
「ああ、そのためにも拘束した二人をその機体に……なんだ!?」
方針は決定。互いの意思を確認し、まとめたデイパックを二つ、適当にラガンのシートに放り込んで、さあこれからというところで襲いくる振動。
デジャヴな展開に顔を青くするルルーシュは、まさかまた地割れが起きるのではと冷や汗を掻きながら地面を見回す。
「まさか、また割れるのか!? くそ、あんな無様な真似は二度と……!」
「違うぞ……これは、外だ!」
後ずさり、尻餅をつくルルーシュを尻目に、ラガンを操作したヴィラルが廃屋の外に出る。その際、捻った鍵から螺旋状のエネルギーゲージが溜まるのを、シートに拘束されていたねねねだけが目にしていた。
荒れ狂う暴風の余波を受けながら外に出たヴィラルは、その眼前で起きた光景に言葉を完全に喪失する。
それははるか見上げるほどに巨大な威容――その名も誉れ高きダイガンザン!
螺旋王四天王である、怒涛のチミルフが螺旋王より賜った、人類掃討のための旗印、移動する要塞、獣人達の誇る圧倒的な力の具現――!
そのダイガンザンが、見るも無残により暴力的な赤き螺旋の前に消失していく。
圧倒的な暴風の威力たるや、咄嗟の跳躍を見せたダイガンザンの外郭を一瞬の内に剥ぎ取り、破壊の余波を内部にまで浸透、巨大な体内を食い破るように蹂躙した。
突然の出現を見せた獣人達の最大の力が、一瞬の内に葬られるのは出来の悪い悪夢だ。
操縦していたのはダイガンザンの持ち主だるチミルフだろうか。人間の抹殺という、自分と同じくする指令を螺旋王から言い渡された彼は、その本気を見せ付けんとダイガンザンを起動し――暴威の前に崩落したというのか。
あの様子では、如何にチミルフとて無事には済むまい。
共に幾度も戦場を駆けた、頼りになる上官――その実力と強靭さを知っていてなお、その無事を信じることができないほどに圧倒的な力だった。
「あの、黒い太陽がそれをしたのか……?」
振動に誘き出されたヴィラルは、その本質を誤った。
彼の目に映ったのは、ダイガンザンと距離を開けて、正面から向き合っていた強大な漆黒の球体。ダイガンザンをも一撃で屠った、究極の武装のみ。
故にダイガンザンを打ち破った真の暴威の持ち主には欠片も気を払われず、その人物がループしてきた暴威に翻弄されて宙を舞ったことなど思考の埒外。
――ただ、ヴィラルの心を捉えて放さなかったのは、その球体の威容。
――漆黒の太陽に確かに存在する、巨大な目の存在。
――あれは、ガンメンだ。それも、今の自分が乗っているちんけなものではなく、圧倒的で強大で、それこそシャマルを奪った憎き男など容易く葬れる力を持つガンメン。
――あれこそが、ガンメンだ!
254
:
愛ある暴走(修正)
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 19:28:13 ID:KKW2jCg.0
>>245
【C-7/消防署付近/二日目/早朝】
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に中ダメージ、疲労(大)、肋骨一本骨折、背中に打撲、
激しい歓喜(我と痛みを忘れています)、左肩・脇腹・額に傷跡(ほぼ完治)、螺旋力覚醒(本人は半信半疑)
[装備]:大鉈@現実、短剣×2 コアドリル@天元突破グレンラガン、ラガン@天元突破グレンラガン
[道具]:支給品一式、モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと4秒連射可能、ロケット弾は一発)、鉄の手枷@現実 S&W M38(弾数5/5)、S&W M38の予備弾15発、短剣×4本、水鉄砲、エンフィールドNO.2(弾数0/6)、銀玉鉄砲(玉無し)、
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、タロットカード@金田一少年の事件簿、USBフラッシュメモリ@現実 イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)@現実 支給品一式x2(水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)、殺し合いについての考察をまとめたメモ、 イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル!!、 無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん、清麿の右耳
首輪(エド/解体済み)、首輪(エリオ/解体済み)、首輪(アニタ)、首輪(キャロ)、清麿のネームシール、各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mmNATO弾)M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
[思考]
基本:シャマルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝する。
0:あの黒い太陽のガンメンを入手! パイロットを引きずり出し、この手に!
1:シャマルを傷の男の手から救い出す。そのためにルルーシュから協力を得る(ほぼ協力は取り付けたが、失念しています)
2:チミルフ様の仇! 全ての獣人達の夢の城の破壊は許されない蛮行だ! ダイガンザン大好きだったのに!
3:クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
4:蛇女(静留)、クルクル(スザク)、ケンモチ(剣持)に味わわされた屈辱を晴らしたい。
5:スカーへの怒り
※なのは世界の魔法、機動六課メンバーについて正確な情報を簡単に理解しました。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。
※本来は覚醒しないはずの螺旋力が覚醒しました。他参加者の覚醒とは様々な部分で異なる可能性があります。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。螺旋王への感情が変化している可能性があります。
※チミルフが夜でも活動していることに疑問を持っています。
※フォーグラーをガンメンだと思い、入手するために操縦者を殺すつもりです。
※ダイガンザン(ダイグレン)を落としたのがフォーグラーだと思っています。相殺したエアについては目に入っていません。
※チミルフが死亡したと思っています。万が一、生きていたとしてもすぐに献上する首は用意できると考えているようです。(人質のねねねや清麿等)
[備考]
螺旋王による改造を受けています。
①睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
②身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。 単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。
【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:本を書きたいという欲求、疲労(大)、手足の拘束中(猿轡は嵌められていません)、螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:
基本-1:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
基本-2:バシュタールの惨劇を起し、首輪や空間隠蔽を含む会場の全ての機能を停止させて脱出する。
1:ヴィラルの目的はわからないが……人質なんてゴメンだ。どうにか逃げないと。
2:清麿、あるいはスカーなどの対主催陣営と合流。
3:アンチシズマ管の持ち主、それとそれを改造できる能力者を探す。
4:センセーに会いに行きたい……けど、我慢する。
5:本が書きたい! 本を読んで貰いたい!
[備考]:
※読子を殺害したスカーの罪を許しました。が、わだかまりが全く無い訳でもありません。
※ラガンをフル稼働させたため、しばらく螺旋力が発揮できません
255
:
愛ある暴走(修正)
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 19:29:09 ID:KKW2jCg.0
>>246
差し替え
「あ、あの馬鹿――っ!!」
こちらの呼びかけの一切を無視し、止める間もなく遠ざかっていくラガンを見ながら、ルルーシュは湧き上がる激情のままに罵倒する。
「ふざけるな! まだ何の指示も出していない段階で勝手な真似を! そもそも、俺の協力を仰いだのは貴様の方だろう!」
肺活量のままに感情を吐露しても、急速に遠ざかる存在にはもはや届かない。
何より、ヴィラルを乗せた機体の進行先にあるのは、途方もなく巨大な球体だ。あれが先ほどの地震、付け加えて位置関係から地割れの原因に違いあるまい。
あれほど強大なものを使いこなす存在がいるとなれば、ますますルルーシュの単独での優勝は難しいものとなる。そのための手駒が何としても必要だというのに……。
「それを、あの獣は……! 所詮は獣人。人と交わっていても、本能という野卑な感情に従って動く下劣な存在に過ぎないということか」
指示に従わないのであれば、それは無能にも劣る足手纏いだ。
もともと螺旋王と繋がりがある、そして弱味に付け込めるという点を見込んでの協力関係――ここでそれを断ったとして、どんな影響が出るか。
(そもそも、すでに参加者の大半が失われた状況で、俺の手駒に加えられる人材が多くない。螺旋王に近付くための繋がり、何よりシャマルという女の有する回復能力も魅力的だ。ここで切るのはあまりにも惜しい)
最悪なのは飛び立ったナイトメアに持たせた支給品の数々だ。わざわざ強力な武装やらといった自衛の手段に長けたものばかり満載したバックを持ち去られてしまった。無限の容量を持つデイパックの重さが変わらないとわかっていながら、気持ち重そうなのを体力のある内にと優先したのが裏目に出た。
手元に残ったのはヴィラルに見せるのが惜しいと密かに回収した、各種データ類の書き込まれた名簿やレーダーの役割を果たす携帯電話――逃げの一手しか決められない。
かといって、物惜しさに飛び出して黒い太陽の射程に入るのは願い下げだ。
ここでヴィラルの帰還を待つか――しかし、本当に奴が生還する可能性をどれほど信じられる? 何より、ここを今、傷の男に襲撃されでもしたら。
(ならば、俺に選べる手段はさして多くない)
振り向き、その左目に手を翳す。
遮られた視界の中、赤い鳥が羽ばたいている――。
(ギアス。高嶺清麿――せいぜい、俺の有効的な駒になってもらうぞ!)
▽
一方で、唐突な状況の変化についていけないのは清麿も一緒であった。
ねねねが連れ去られた状況は痛恨に等しい。だが、それがイレギュラーなのはどうやらルルーシュにとっても同じことのようだ。ならばそこに付け入る隙がある。
ラガンとねねねが連れ去られたものの、デイパックは放置されたままだ。あるいは口八丁手八丁で眼前の魔人と交渉し、二人を追うこともできるかもしれない。
何より、拘束され、自由と命を握られた状況で清麿に希望を失わせないのは、事実上、彼の未来すら縛っているこの拘束なのだ。
汗水を垂らして、懸命に手足を縛りつけたルルーシュ・ランペルージの功績。
――それが、どうにか頑張れば解けそうに、緩い。
最初は何かの罠かと疑ったが、リスキーな引っ掛けの割に狙いが読めない。
どうやら握力が足りていなかったらしい。その疲労の発露が、清麿に希望を抱かせる。
魔人の目を見ず、交渉に持ち込む。
あるいは時間を稼いで拘束を外し、実力行使に出る。
(こんなところで終わるわけにはいかない。俺に後を託してくれた、明智さんのためにも――!)
悄然と肩を落とし、しかし妙に自信ありげな笑みを作ったルルーシュが向かってくる。
――さあ、ここがいわゆる、正念場。
256
:
愛ある暴走(修正)
◆2PGjCBHFlk
:2008/05/26(月) 19:29:58 ID:KKW2jCg.0
>>247
差し替え
【C-6/民家/二日目/早朝】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:肉体的疲労(大)、心労(中)、軽度の頭痛 、後頭部にたんこぶ
[装備]:ベレッタM92(残弾13/15)@カウボーイビバップ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服 予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ 支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
参加者詳細名簿、詳細名簿+、 支給品リスト、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
[思考]
基本:何を代償にしても生き残る。
1:清麿にギアスをかけ、生き残るための駒とする。
2:清麿から情報を入手し、脱出に向けた方策を練る。
3:適当な相手に対してギアスの実験を試みる。
4:以下の実行。
「情報を収集し、掌握」「戦力の拡充」「敵戦力の削減、削除」「参加者自体の間引き」
5:余裕があればショッピングモールかモノレールを調べる。
[備考]
※首輪は電波を遮断すれば機能しないと考えています。
※清麿メモの内容を把握しました。
※会場のループについて把握しました。
※第四回放送は聞き逃しました。
※ヴィラルが螺旋王の部下であることとシャマルが治癒能力者であることを知りました。
その他の素性についてどこまで把握しているのかはわかりません。
※ギアスの制限は主に一度に使用する人数が問題なのではないか、と想像しています。
※ルルーシュが民家で何を見たのかは次の書き手の方、または皆さんの想像力にお任せします。
※ヴィラルとシャマルを救うまでの協力関係を結びました。が、それも悩み中です。
※清麿から主催者の目的、参加者が異世界から集められた、螺旋力の存在などの重要事項を聞き出しました。ほぼ、考察が清麿と同程度に到達しています。
※回収した参加者詳細名簿、詳細名簿+、支給品リスト、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピーなど、自身にとって不利益な情報が記されたものは内容を把握次第、焼き捨てるつもりでいます。
【高嶺清麿@金色のガッシュベル!!】
[状態]:右耳欠損(ガーゼで処置済)、手足を拘束中(猿轡は嵌まっていません、おまけにやや緩いです、気合いで抜けられる?)強い決意
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本-1:ゆたかを救い、螺旋王を打倒してゲームから脱出する
基本-2:戦術交渉部隊の新リーダーとして、あらゆる視野から問題の解決に当たる。
0:眼前のルルーシュに、交渉か実力で対処。
1:連れ去られたねねね、スカーとの合流。
2:大怪球及び、シズマシステムに関する調査、考察。
3:脱出方法の研究をする。(螺旋力、首輪、螺旋王、空間そのものについてなど包括的に)
4:周辺で起こっている殺し合いには、極力、関わらない。(有用な情報が得られそうな場合は例外)
5:研究に必要な情報収集。とくに螺旋力について知りたい。
6:螺旋王に挑むための仲間(ガッシュ等)を集める。その過程で出る犠牲者は極力減らしたい。
[備考]
※首輪のネジを隠していたネームシールが剥がされ、またほんの少しだけネジが回っています。
※ラッドの言った『人間』というキーワードに何か引っかかるものがあるようです。
※明智の死体、及び荷物は刑務所の瓦礫の下。
※携帯電話のテキストメモ内に、二日目・黎明時点で明智が行った全考察がメモされています。
257
:
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/29(木) 01:05:54 ID:pkUJPQlk0
>>204
時は少々遡り。舞台は遥か上空へ移る。
天上より舞い落ちるは金色の英雄王。
ギルガメッシュは落下に備えるでもなく、月に向けてエアを穿った体勢のまま空を落ちていた。
その態度は相も変わらずの傲岸不遜である。
これより先、地上にいかな障壁が立ち塞がろうとも、いかな困難が待ちうけようとも、例外なく打ち砕くのみ。
己が力量に基づく確信にも似た慢心が英雄王の心を支配していた。
慢心した心地のまま、黄金色に明るみ始めた、否、溶けるように透け始めた空を仰向けのまま睨みつけた。
睨みつけるは消えゆく世界で唯一その存在を損なわぬ異なる光。
空を穿つように、遥か天上に輝く月の光。
果たしてそこには何が待ち受けるのか。
果たしてあれはこの英雄王の敵となりえるのか。
衝撃のアルベルト、螺旋王ロージェノム、そしてあの月。
果たして、この遊戯にはこの英雄王を興じさせる難敵がどれほどいるか。
これより待ち受ける血色の愉悦を想い、英雄王は亀裂のようにその口元を歪ませる。
―――――この界隈は現在、進入禁止エリアと定められている。速やかに移動を開始し―――――。
だが、難敵は予想外のところから現れる。
難敵の姿はなく聞こえるのは声ばかり。
加えて、発信源は他ならぬ英雄王の首元からである。
告げる内容は警告及び撤去命令。
王たるこの身に命令するなど何事かと、ギルガメッシュは不快感を露わにした。
とはいえ火急の事態であるのもまた事実である。
早急にこの場を離脱しなければならないのだが、舞台はいまだ高く上空。
速やかに移動と言われても飛行能力のない身ではそれも叶わぬ話である。
あるいは『天の鎖』があれば周囲の建造物に巻きつけ脱出することは可能だっただろう。
黄金の船『ヴィマーナ』をはじめとした、飛行宝具も両手でも足りないほど所持している。
その他、空間転送、時空転移、多次元転移、瞬間移動...ets...ets
無限と言える財さえ手元にあれば、脱出手段など雨霰であったのだが、生憎とそれら全ての財は宝物庫の中である。
黄金の都に通じる鍵である『王の財宝』なしでは取り出すこともできず、第一宝物庫へのアクセスは制限ではなく『防護結界』によって完全に禁止されているためそれらを頼ることは叶わない。
それらの事実に忌々しげに眉を顰めながらも英雄王は手中の剣を振りかぶる。
それは、このような事態に使うのももったいない、この世全ての財を収集した英雄王の財の中でも秘中の秘。
「つまらぬ出番でお前とて不満もあろうが、許せエア」
甚く不満気な主の声とは対照的に、乖離剣エアは不満など感じさせぬ速やかな動きで赤い魔力を胎動させた。
互い違いの方向に回転を始めた赤い碾き臼より、暴風が巻き起こる。
煌めく赤い極光。
荒れ狂う嵐の中、ギルがメッシュは上体を起こし前方に向かって魔力を解き放った。
ビックバン染みた天地創造の爆発力が迸る。
それに伴いジェットを超える推進力が生まれた。
英雄王にしか許されぬ贅沢の極みともいえる方法を持ってその場を脱するギルガメッシュ。
だが、はたして彼は気づいているのだろうか。
エアが生み出した暴風により、自身の体は空中にてどのように乱されたか。
その極光のたどりつく先に何があったか。
その結末を見届ける前に、彼方へ向って英雄王は空を舞った。
258
:
◆Wf0eUCE.vg
:2008/05/29(木) 01:06:19 ID:pkUJPQlk0
>>206
遡った時は今へと追いつき。舞台は混沌めいた地上へと戻る。
大怪球へと到達した一撃の正体は語るまでもなく、禁止エリアより離脱するため英雄王が放った乖離剣の一撃である。
もっとも、そんなことは地上の民は知る由もないのだが。
フォーグラーを覆うエネルギーフィールドとエアより放たれた赤い魔力が衝突する。
世界を切り裂く対界宝具の一撃はエネルギーフィールドを切り裂きながら、その衝撃を核たる黒い太陽へ至らせた。
真名解放に至らずとも、真なる使い手である英雄王より放たれた一撃の威力は十分に規格外である。
それに対する大怪球フォーグラーだが、その繰り手は茫然自失、適切な対応などとりようもない。
加えて動力たるは本来予定されていたアンチシズマではなくノーマルシズマ。
前提からして勝負にすらならない。
かつてないほどの大打撃を受けた大怪球が轟音と共に震撼する。
侵すように。貪るように。破壊の渦は太陽を侵食してゆく。
赤い暴力が紙屑のように黒い装甲を引き剥がし次々と内部を蹂躙する。
制御を失った大怪球が地上へと沈んでゆく。
偽りの太陽が堕ちる。
今や、完全なる球体であった太陽は欠落し、三日月のように不完全な姿を晒していた。
「なっ…………!?」
地上にて、前触れもなく訪れたその厄災を呆然と見守っていたDボゥイが思わず驚愕の声を上げた。
大怪球が堕ちたことに対してではない。
その剥き出しになった大怪球の中心部にありえないものを見たからだ。
「ゆたか!?」
大怪球に似つかわないく震える小さい少女。
それは紛れもなくDボゥイの探していた小早川ゆたかである。
なぜ彼女があんなところにいるのか。
いったい彼女になにがあったというのか。
次々と沸きあがる疑問は尽きない。
だが、それを知る術は今の彼の手元には存在しない。
ならば、今すべきことは無駄な考えを巡らせることではなく行動することである。
目的は決まっている。
目的地も決まった。
ならば、何を迷うことがある。
限界を超えた体に更に鞭を打って立ち上がる。
彼の強さで筆頭すべきは、その肉体強度よりも、それを突き動かす精神力である。
これはラダムの肉体改造とは関わりのない、人間、相場タカヤの強さだ。
まだ、立てる。
まだ、動く。
精神は肉体を凌駕し、その体は突き動く。
目指すは空。
あの黒い太陽へ。
259
:
ネコミミの名無しさん
:2008/05/31(土) 23:43:19 ID:2WF5jF0w0
age
261
:
たたかう十六歳(^^;)
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/10(火) 23:53:54 ID:IFnjEAfU0
(気持ちいい……)
小早川ゆたかが最初に感じたのは温もりだった。
小さいころ、熱を出したとき、姉がずっと手を握ってくれてたような安心できる暖かさ。
でもお姉ちゃんほどやわらかくなくて、ゴツゴツしてる。
その感触に違和感を覚え、ゆっくりと小さな瞼が開けられる。
そしてその両目が見たのは、至近距離にあるDボゥイの顔だった。
「え、えええええええ!!?」
ゆたかの顔は一瞬で沸点まで上昇し、突き飛ばすように離れてしまう。
ちょっと離れた所で息を整えて周囲を見回し――そして、全てを思い出した。
「ひっ……!」
その瞬間、思わずDボゥイから距離をとってしまう。
この人にだけは汚れた自分を見られたくなかったのに。
よく見れば全身は傷だらけで、前に別れた時にはなかった傷をたくさん負っている。
恐らくは自分を助けるために負った傷もその中にはあるのだろう。
そして、さっき自分のせいで受けた傷も。
その姿を見て、ゆたかの中に住み着いた弱音の虫が騒ぎ出す。
先ほどまであれほど心地よかった温もりも、今や彼女を責め苛むものでしかなかった。
「う……ああ……ごめんなさい……ごめんなさい……!」
そしてやっぱり彼女は弱いままで、罪を真正面から受け止め切れなかった。
自己嫌悪に陥ることがわかっているのに、言い訳をして彼の元から逃げ出した。
――人間、いきなりは変われない。
ここに残ったのは一つの結果だけ。
小早川ゆたかは確かに外に向かって一歩を踏み出した。
だが少女の闇はそれでも晴れず、男の強さでは少女の弱さを救いきれなかった。
ただ、それだけのことだった。
* * *
262
:
たたかう十六歳(^^;)
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/10(火) 23:54:52 ID:IFnjEAfU0
少女は歩く。
目的地も何もなく。もくもくと、ふらふらと。
ただ、背後から迫ってくる罪に追い立てられるように。
最初は走っていたが、その内疲労で足が高く上がらなくなった。
それでも歩みは止めない――止まらない。
迫ってくる罪から一刻も早く離れようとする。
少なくとも今のゆたかには、そう、感じられたから。
……だがそんな彼女を追ってくる音があった。
――ペタペタ
振り返った背後にいるのは、傷だらけの小さな白い龍。
彼女の世界にそれに該当する生物はいなかったが、以前マタタビという喋るネコを目撃しているのでさほど驚きは無い。
ここは漫画やゲームみたいな世界なのだから。
「……ついてこないで」
フリードリヒを冷たい目で見て、ゆたかは再び歩き出す。
――テクテク
――ペタペタ
――ピトッ
――ピトッ
だが、こちらが止まるとあちらも停止し、こちらが歩き出せばあちらも飛ぶ。
こちらにあわせるように一定の距離をとって、フリードリヒはゆたかの後を付いてくる。
「ついてこないでって言ってるのに!」
ゆたかは声を荒げるものの、フリードリヒはつぶらな瞳で見返すだけ。
何回それを繰り返しただろう。
その内言葉の通じない動物に怒っても無駄だと思い、ゆたかは無視を決め込むことにした。
だが小さな使役竜は、少女が拒否の言葉を口にしたことを理解していた。
それでもフリードリヒは付いて行く。彼女を傷つけないように、見守るように。
何故ならばその少女は泣いていた。
涙は流さずに、しかし確かに泣いていた。
まるでフェイト・テスタロッサに引き取られる以前のキャロ・ル・ルシエのように。
そうでなくとも何故か目の前の少女は亡き主を思い出させる。
だから例え全身の傷が痛んでも、彼女を放っておけるはずなどなかった。
そんな奇妙な距離を保ったまま、1人と1匹は北上する。
どこか目的地があったわけじゃない。
ただがむしゃらに逃げ出した先が北だったというだけ。
だがある場所に着いたとき、ゆたかは思わずその足を止めた。
263
:
たたかう十六歳(^^;)
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/10(火) 23:56:17 ID:IFnjEAfU0
「あ……」
一面に抉り取られた剥き出しの大地。
そこはかつて総合病院があった場所だった。
だが今や赤い暴力に吹き飛ばされ、瓦礫の一片すら存在していない。
最早そこには跡形もなく吹き飛んだ傷跡が残るのみ。
常人ならばそれを引き起こした“何か”に恐怖することだろう。
だがゆたかの心に恐怖はなく、ただ深い悲しみがあるだけだった。
「シンヤさん……」
相羽シンヤの墓を作る……それはかつて抱いた望み。
かつて人質になった、でもどこかで互いに信用しあっていた気もする不思議な関係。
そして、自分が気を失っている間に殺されてしまった人。
だからせめてお墓だけでも作ろうと思ったのに――。
だが最早すべては吹き飛ばされて、もう2度とその望みは叶わない。
そしてそれは『いっしょに作ろう』と約束してくれた少女、
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとの約束も永遠に果たせなくなってしまったことを意味していた。
そして視線を少し上へ上げれば大きく抉れ、三日月になった黒い太陽の姿。
Dボゥイから逃げることに腐心するあまり、再び近づいてしまったのだ。
ゆたかにとってはそれが、“罪”が追いついてきたように感じられた。
……どんなに逃げても、結局は逃げ切れない。
そう悟った瞬間、全身の力が抜け、むき出しの大地にそのまま倒れこんだ。
何をやっても無駄に終わるのなら、いっそこのまま、私だけ消えればいい。
そうすれば誰も傷つけなくてすむ。傷つかなくてすむ。
――ああ、夜露に冷えた地面が冷たくて気持ちいい。
追いついたフリードリヒがこちらを心配しているのかキュイキュイと鳴いて服を引っ張っている。
だが今のゆたかにはそれが邪魔で邪魔で仕方が無い。
うるさいなぁ、放っておいてよ、もう。
だから意識を閉じる。
目も、耳も、五感をすべて消し去ろうともくろむ。
だがその全てが消え去る前に、ゆたかの耳と頬で地面から響く足音を聞いた。
最初は気のせいだと思ったが、足音は少女の近くでピタリと止まる。
確かな人の気配を感じとったゆたかは、仕方なしにうっすらと目を開ける。
「やぁ、こんな所で寝てると風邪を引くぜ?」
その先で、黒髪の少年が笑みを浮かべていた。
* * *
264
:
たたかう十六歳(^^;)
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/10(火) 23:56:59 ID:IFnjEAfU0
ジンは最初、卸売り市場に向かうはずだった
だが舞衣と情報交換を行っている最中、真紅の暴風を目撃した。
そしてそれがギルガメッシュの赤い螺旋剣の力なのだと理解した。
先程の口ぶり、そして慈悲も容赦も無いその一撃はあまりにも彼らしい。
……ループを破りきれず、迂回してしまった嵐の直撃を受けたであろうことも含めて。
油断と慢心で死ぬのが十分ありえるだけに心配するものの、
その後に重ねて一撃放ち、黒い太陽を落としたという事実を鑑みる限り、無事どころか元気な様である。
黒い太陽が落ちた――それは十分驚くべきことなのだろうが、
とりあえずはジンにとって、大した問題ではない。
それよりも彼にとって問題なのは初撃の軌道であった。
(あの光は……病院を貫いた?)
総合病院、それは今から約14時間前、ジンが清麿と別れた場所。
清麿と分かれて半日以上、いつまでもそこにいるとは思っていないが、それでも可能性はゼロではない。
清麿はこの狂った宴を楽しいパーティに変えるには必要不可欠の人材だ。
それに……何より信頼できるパートナーでもある。
だから彼の元へ向かった。彼の無事を確かめるために。
だが……病院跡に到着したジンは理解した。
例え清麿がこの場所にいたとしても、自分はそれを確認できないだろうと言うことを。
そこにあったのは半壊全壊なんていうレベルじゃない……消えて滅する“消滅”、そのものだった。
だから物音を聞きつけた先で女の子が倒れていることに驚いた。
彼女も病院を目指していたのなら、自分の知らない何かを知っているかもしれない。
例えば――自分が別れてからの清麿の動向なんかを。
そう決意した後のジンの行動は迅速だった。
少女を守るように威嚇するドラゴンの子供に敵意が無いことを何とか伝え、
ドラゴンを肩に、少女を抱えて消防車まで連れて行き、
驚く舞衣にゆたかを介抱させ、自分は龍の傷を治療する。
そして今現在、少女は濡れた布切れを額に当てて、後部座席にもたれかかっている。
(さて、何でもいいから情報が欲しいところだけど……)
だが少女は明らかに疲労困憊。
濡れたタオルを額に当てているとはいえ、無理をさせるわけにもいかない。
だからとりあえず気になっていることを訊くとしよう。
それ以外は一休みしてからでも構わない。
265
:
たたかう十六歳(^^;)
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/10(火) 23:58:47 ID:IFnjEAfU0
「俺はジン。まぁ、ケチなドロボウって奴さ。
なぁ、君は清麿――高嶺清麿ってやつを知らないかい?」
その名前をジンが口にした瞬間、少女の体がビクリ、と動く。
ビンゴだ。どうやら何かを知っているらしい。
「清麿のことを何か知っているのかい? だったら――」
「清麿君は――私が殺しました」
だが帰って来た答えはジンの予想を遥かに超えるものだった。
衝撃的な一言で車内の空気は一気に凍りつく。
――その結果にゆたかは暗い悦びを見出す。
それでいい。もっと蔑んで欲しい。私は汚いものなのだから。
「あの黒い機械を動かして、それで一緒にいた清麿君を殺しました」
自分でもぞっとするほどの暗い声だった。
続けるようにゆたかは自身の中の闇を吐き出すように淡々と語る。
「みんないい人たちだったのに。ねねね先生も、明智さんも、私が、全部……」
その最後は見ていないが、あんな巨大なものが浮上したのだ。生きてはいまい。
そんな都合のいい事なんて、この世界には存在し無いのだから。
「……何で、私だけが生きてるの?」
少女の絶望は疑問の形を取って現れた。
だってシンヤさんが死んだのは私が眠っていたから。
だってイリヤさんが死んだのは自分が応援なんてしたから。
だってDボゥイさんが傷ついたのは自分を助けようとしたから。
そして明智さんを、ねねね先生を、清麿君を殺したのは――他でもないこの私。
それだけ他の人を傷つけてるのに、それでもまだ生きている。
そんなのまるで疫病神そのものじゃないか。
何て――気持ち悪い。
私って、何て醜くて気持ちの悪い生き物なのだろう。
ああ、生きていることが気持ち悪いことなんだって、知りたくなんて無かったのに。
「私が、死ねばよかった……!」
その言葉もまた、口だけの癖に。
死ぬ勇気も無い癖に。
自分の弱さが同情を引くものだと理解していて、それでこんな行動を取る。
ああ、神様教えてください。
どこまで『小早川ゆたか』は、汚いものになればいいんですか?
思考の悪循環は止まらずに、少女は更に沈み込む。
善意が追い詰め、青年でも救いきれなかった泥沼は重く、深い。
泥沼は少女の耳を閉じ、目を塞ぎ、全ての感覚から彼女を遠ざける。
まるで失ってしまった黒いゆりかごを、自ら作り出そうとするかのように。
266
:
たたかう十六歳(^^;)
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:00:24 ID:Jb.F0qXc0
――パァン
「え……」
そんな彼女の耳に届いたのは音と熱。
ゆたかは体が弱い。また両親も、姉も、友人も優しい世界に生きてきた。
だから最初、ゆたかにはその熱が痛みだとは気付かなかった。
その音が自分がぶたれた音だと気付けなかった。
そのことを理解したのは、自分と同じ後部座席にいる少女の視線を受けてからだった。
こちらを見る目に宿るのは炎のような怒り。
直裁で不躾で、遠慮も何も無い真っ直ぐな、ゆたかだけを責め立てる怒り。
ずっと“いい子”で過ごして来たゆたかにとって、それだけの敵意をぶつけられたのは初めてのことだった。
「――ふざけないで」
低い、舞衣の声が車内に響く。
「死ねばよかった? だったら死んで見なさいよ。
死ぬ覚悟も無いくせにそんなことを言わないでよ!
悲劇のヒロインぶってたら、さぞかし楽でしょうね!」
舞衣は怒っていた。これ以上無いぐらいに怒っていた。
目の前の少女は勝手に塞ぎこんで、勝手に自己完結している。
その姿は舞衣の脳裏に否応無しに思い出させる。
絶望し、目に映るものすべてを破壊しようとしていたあの時の自分を。
それは舞衣が最も後悔し、思い出したくも無い恥部。
それを客観的に見せ付けられ、今まで何処か心ここにあらずといった状態だった舞衣の中で怒りのスイッチが入る。
自分でも止められないほどの怒りの衝動が舞衣の中で渦巻いている。
端的に言うなら、そう――鴇羽舞衣は小早川ゆたかにムカついていた。
「何? ダンマリ? ……何とか言ったらどうなのよ!」
怒りの衝動をゆたかに叩きつける舞衣。
それは“理解”という最も重要なプロセスを抜きにした、幼稚で乱暴なコミュニケーション。
言うだけ言って自身の感情をぶつける、言葉の暴力。
そしてその暴力に晒された結果、弱いゆたかは――
267
:
たたかう十六歳(^^;)
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:01:27 ID:Jb.F0qXc0
「私のこと何も知らないくせに……勝手なこと、言わないで!!」
――キレた。
目には目を。稚拙なコミュニケーションには稚拙なコミュニケーションを。
あふれ出たその怒りが小さな体に収まりきらなかったのか、気付けば舞衣に飛び掛っていた。
ゆたかがいくら小柄とはいえ、全力で飛び掛ればそれなりの衝撃になる。
体にあまり良くなさそうな音を立てて、舞衣の体が後部座席に押し倒される。
「あなたみたいに強い人なんかに、私の気持ちなんて――!」
自分は弱い。
肉体的にも、精神的にも。
こんな自分の気持ちなんて、誰にもわかってもらえないし、もらえるはずが無い。
でも理解して欲しい。理解して、優しくして欲しい。
矛盾でしか無いその気持ちは、どうしようもなく自分勝手で醜い。
……でもそれはきっと大なり小なり、誰もが心のどこかに持っている弱い本音の姿。
そしてそれは小早川ゆたかという少女が、初めて他人にぶつけた我侭だった。
「……! ホンキであったまきた!!」
だが我侭だけで通るなら、世に会話というものは必要ない。
因果応報。我侭には我侭を返されるが世の定め。
舞衣は衝動に従うままに両手をのばし、2つにまとめられた髪を引っ張る。
ゆたかは乱暴に髪を引っ張られてきた経験など無い。
プチプチと何本か髪が抜け、激痛が走る。
「あんただって……私の何が分かるのよ!」
そのまま小柄な体を引き倒され、立ち位置が逆転し、舞衣は上から鬼のような形相でゆたかを睨みつける。
268
:
たたかう十六歳(^^;)
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:02:31 ID:Jb.F0qXc0
「弟が死んで、この世界に呼ばれて! 目の前でシモンが殺されて!
奪う側に回って! たくさんの命を奪ってきた!
話しかけてきた名前も知らない男の子! ロイドさん! パズーって男の子!
さっきだって、ああするしかなかったとしても会長さんの命を奪ってしまった!!
どう? 不幸比べがしたいんならいくらでも相手になってあげるわよ?」
目の前の少女がどれだけ罪深いのか知らないが、自分の手も相当に汚れている。
いや、意図的に引き金を引いた分、自分の方がきっと罪深い。
生きている価値が無いというのなら、自分の方がそうだろう。
「私、だってぇっ!」
だがゆたかも負けてはいない。
頭を思いっきり突き出し、額同士を激しくぶつけ合う。
人体で最も硬い部分のぶつかり合いに互いの脳裏に星が飛ぶが、覚悟していた分ゆたかの方が回復が早く、マウントポジションを取り返す。
「私もだって明智さんも、ねねね先生も、清麿君も殺してしまった!
優しくしてくれたのに! 私のことを思ってくれたのに!
それにみなみちゃんが、友達が、この世界にこれなかったのを喜ぶべきなのに、何でいないのって思っちゃったし!
何も出来ない、自分が嫌いで!
消えてなくなっちゃえばいいって思ったのに、それも出来ない!
私がっ! 私なんてっ!」
告白される罪。
支離滅裂に、無茶苦茶に、少女は誰にも話したことのなかった心の闇をぶちまけていく。
その言葉を聞いて舞衣は思う。
ああ、本当に目の前の少女と自分は似ている、と。
だからわかる。その闇の辛さが。その闇の苦しさが。
だから決意する。
――容赦なんてしてあげない、と。
269
:
たたかう十六歳(^^;)
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:03:24 ID:Jb.F0qXc0
「そう……そんなに言って欲しいなら言ってあげるわよ!
アンタは最低よ! 逃げ回ってて、ずるがしこい最低の人間よ!」
その罵声にゆたかの心は切り裂かれんばかりの痛みを訴える。
いや、傷つくというのならさっきから傷つきっぱなしだ。
だって目の前の少女が自分と似ていることは、ゆたかだって気付いていたのだから。
舞衣に向けられた敵意は跳ね返って、自分を際限なく傷つけていく。
「私だってそう! 誰かを傷つけて、手を汚して、どうしようもないぐらい人間よ!
でも……でもね!」
ゆたかの目を真正面から睨みつける。
「どんなに嫌いでも! どんなに醜くても! そんな自分を好きでいてくれた人がいるのよ!
だから私はもう死ぬなんて言わない、言えるはずが無い!」
――かつて、知り合いの知り合いというだけで、見ず知らずの自分を救ってくれようとした少年がいた。
終わりの無い悪夢で闇を払い、2度も進むべき道を指し示してくれた親友がいた。
そして……“あの人”は、血まみれの自分を否定も肯定もせずにただいてもいいと認めてくれた。
そう、それは炎の中で思い出した、自分を支えてくれていた人たちの姿。
どんなに自分自身を否定できても、あの輝く日々を否定できはしない。
それが炎の中で見つけた、鴇羽舞衣という少女の真実。
「そんなのって!」
その考えにゆたかは反発する。
そんなの最低だ。それじゃあ殺された人たちの無念はどこへ行けばいいというのだろう。
それにあなたと私は違う。私みたいな人を好きでいてくれる人なんて――!
『ゆたか〜! 高校合格おっめでとぉ〜う!』
『大丈夫、ゆたか……? 気分が悪いなら保健室に……』
『小早川さんは優しいッスね〜……こう、創作意欲がムクムクと……』
『ユタカ is very prettyネ! moeデス!』
だが記憶の中から出てくるのは優しい、懐かしい声だけだった。
元の世界にいる優しい姉。
高校で出会った、頼りになる大好きな親友。
自分に知らないことをたくさん教えてくれる、気のいい友達たち。
そして――
270
:
たたかう十六歳(^^;)
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:04:17 ID:Jb.F0qXc0
『ホントに……ホントのホントに大好きだよ。私の……自慢の従妹で、素敵な友達で、かわいい妹だったよ』
この場所では再会できなかった大好きな従姉。
『うん。ありがと、ユタカ。あなたも探してる人と出会えようお祈りしてあげる。
だから大丈夫きっと会えるわあなたも、こう見えても、わたし奇跡を起こせるんだから』
自分を励ましてくれた雪の少女。
『行こう、ゆたか。こんな寂しいところに君を一人にしておけない』
そして――傷つくことも恐れずに自分を助けてくれた青年。
自分を愛してくれた、支えてくれた人たちの言葉が心の中から溢れていた。
……小早川ゆたかは本来他人を想いやることの出来る優しい少女だ。
故に無力を嘆き、その心を闇に染めた。
その闇は深く、明智健悟の説得もDボゥイの救いの手も届かなかった。
だがそれは当然のことだろう。
何故ならば彼らは強い。例えるなら光のように、正しく、真っ直ぐだ。
だが光が強ければ強いほど影が濃くなるように、彼らの強さは少女の弱さを明るみにしてしまう。
だから届かない。
声を張り上げても、手を伸ばしても、少女の闇は濃くなるばかり。
だが鴇羽舞衣は違う。
彼女は弱い。挫け、迷い、縋り、その手を血に染めた……ゆたかと同じ弱い少女である。
だが、だからこそ、この世界で唯一声が届く。その闇を焼き尽くすことが出来る。
なぜならその闇は彼女がすでに知り、乗り越えたものなのだから。
そして闇を払われ、剥き出しになったゆたかには否定できない。
弱い……だが優しい少女には大好きな人たちを否定することは、例え天地がひっくり返っても出来なかった。
でも、だからこそ誰かの血で汚れた手を見て心は痛む。
その人たちに顔向けできない自分になってしまったから。
271
:
たたかう十六歳(^^;)
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:05:34 ID:Jb.F0qXc0
「でも……でも、じゃあどうやって償えばいいんですか!
清麿君も、明智さんも、ねねね先生も、全部あたしがこの手で……!」
「償えるわけ無いでしょう!」
死者はもうしゃべらない。笑わない。泣かない。怒らない。
だからこそ人の命は、重い。
それを奪ったと言うことは逃げることも許されない罪なのだ。
そして舞衣は剥き出しになった弱い少女にも容赦はしない。
「だから背負って生きるしかないじゃない!
死ぬほど悔やんで、背負って、最後の最後の瞬間まで後悔して!
それでも全力で生きるしかないのよ!!」
それはきっとつらいことだ。
人と触れ合った時。誰かの死を聞いたとき。眠る直前。
ふとした時にそれは思い出され、心を際限なく苛むだろう。
想像するだけで――恐ろしい。
そんなの弱いゆたかには背負えない。
だが目の前の少女は視線で突きつける。
無理でもやれ。ボロボロになっても、その重みで潰れきるまで背負い続けろと突きつけ続ける。
手は差し伸べず、ただ突き放すだけ。
その態度は甘くない。優しくない。泣いても決して許さないだろう。
……けれどそれは彼女が何時しか望んでいたものではなかったか?
「だからそれまであたしは精一杯背負って生きる!
いつか、あっちに行った時になつきたちに胸を張れるように!」
正しく、もう2度と弱い自分に負けないように。
誰かに手を差し伸べ、誰かを守り、ただ誇れる自分でありたい。
なつきに託された想いに、それに――“あの人”に救われた命の価値を高めるように。
たとえ、どんな苦しい最後を迎えるとしたって、後悔なんてしない。
幾つもの罪にまみれ、それでも光を選んだ少女は、そう、言い切った。
その少女を睨みつけて、ゆたかは口を開く。
「……そんなの、言い訳です」
「そうよ、言い訳よ。……でも何もしないよりはよっぽどマシよ」
せめて心の中に燃やし尽くすものがある限りは死ねるものか。
その意思だけを武器に舞衣は生きている。
だから強く、一片の迷いもなく、ゆたかの目を見ることが出来る。
だがゆたかも負けん気だけで、真正面から睨み返す。
272
:
たたかう十六歳(^^;)
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:08:04 ID:Jb.F0qXc0
――そして、そのまま一分もしないうちだったろうか。
「――ぷっ」
「――くすっ」
少女達はどちらからでもなく吹き出した。
そして互いにぼさぼさの髪と傷だらけの顔が酷くおかしく見えて、互いに腹を抱えて笑い出した。
「酷い顔……!」
「そ、そっちこそ……!」
笑う。
思いっきり笑って体中が痛いけど、それもまた生きている証。
そして小早川ゆたかは実感する。自分の生を。罪深い自分の生を。
汚れながらも確かに生きているのだと、全身の痛みが主張していた。
その痛みもまたおかしくて、2人して馬鹿みたいに笑い合っていた。
そしてひとしきり笑いあった後、目じりに浮かんだ涙を拭いながら、舞衣がふと口を開く。
「……ねぇ、あなたは家族と喧嘩したことある?」
父も、母も、姉も、叔父さんも、従妹も優しかった。
だからゆたかは首を横に振る。
それを見て、舞衣は寂しそうに笑う。
「私もね……なかったんだ。
巧海っていう弟がいたんだけど、病弱だからって遠慮して……逆に傷つけて。
最後には許してくれたけど……もっと……喧嘩すればよかったなぁ」
その姿が寂しげに見えて、ゆたかは舞衣の手をぎゅっと握る。
繋がれた手は柔らかくて、確かな温もりがあった。
互いの鼓動を感じて、安心すると同時に実感する。
幾つもの、このぬくもりを私は消してしまったのだ。
ああ、私の、私たちの罪はなんて重いのだろう。
目と目が合う。そして理解する。
……ああ、私たちは本当に似ている。
だから互いの気持ちが分かる。だから互いの痛みが分かる。だから互いに思っていることが分かる。
温もりは罪の重さとなって、2人の少女を責め立てる。
だから弱い少女たちは互いに庇いあうように、互いを支えあうように、互いの体を抱き寄せる。
「ごめんなさい、ごめんなさい……明智さん、ねねね先生、清麿君、ごめん……ごめん、なさい……!」
ああ、あの人たちなら手を振り払っても、笑顔でいてくれたはずなのに。
どうして逃げ出してしまったんだろう。
何で何も言えなかったんだろう。
今なら出来るのに。とても簡単なことなのに。
たら、ればを繰り返しても意味が無いと知っていても後悔は止まらない。
優しい笑顔だけが思い返されて涙が止まらない。
「ごめんなさい……ロイドさん……パズーくん……あの子も……」
舞衣も自分の奪った命たちを想って泣いた。
あまりに理不尽な暴力となって、殺してしまった罪なき命。
手を取り合って進む道もあったはずなのに、自分の弱さが彼らを殺した。
ごめんなさい、ごめんなさい。
涙が枯れるまで泣いたら、また背負うから。一生背負っていくから。
だから今はどうか、泣かせてください。
痛みから逃げるためじゃなく、あなた達のことを想って、どうか涙を流させて。
閉じられた箱の中で彼女達はぶつかり、互いに傷つきあう。
そして弱い少女達は初めて真正面から自分達の罪と向きあった。
* * *
273
:
たたかう十六歳(^^;)
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:10:04 ID:Jb.F0qXc0
……それからどれだけ時間が経ったのだろう。
泣き終えた2人は互いに頬を赤く染め、車内には気まずい空気が充満している
互いに情けないところを見せたせいか、どうにも照れくさい。
「ありがとう、ええと……」
そこで気付く。
さっきまで引っつかみ合いのけんかをしておいて、互いに名前すら知らないのだ。
そんな事実に今更気付き、2人して苦笑する。
「私は鴇羽舞衣。舞衣でいいよ」
「じゃあ、私もゆたかでいいですよ、舞衣ちゃん」
「ちゃ、ちゃん付けか……」
年下の少女からの“ちゃん”付けは流石に予想外で面食らう。
でも最大級の親愛を受けて悪い気はしない。
ただ、気になるのは――
「? どうかしたんですか?」
「あ、ううん、何でもないよ!」
“ゆたか”という名前が頭のどこかに引っかかるのだ。
焼け焦げた記憶の中でちらつく影があるような……。
だがそんな舞衣を見て、ゆたかはボソリとつぶやく。
「……やっぱり舞衣ちゃんは強いよね。
私は言われなきゃ気が付かなかったけど、舞衣ちゃんは自分で気付けたんだもん」
それはさっきまでの僻みの感情なんかじゃない。
ただ、そう思ったから言っただけの言葉。
だから舞衣も苦笑で答えることが出来る。
「ううん、私は強くない。強いとしたらそれはきっとあの人の強さ。
あの人がボロボロだった私を叱ってくれたから気付けただけ」
“あの人”と言った舞衣は少し誇らしげで、でも何処か照れくさそうで。
それでゆたかは“あの人”の言葉に隠された感情を理解する。
「……どんな人、なんですか?」
「強い人……かな。
私なんかよりも辛いことがあったのに、それでも絶対に道を間違えない強い人」
でもそこで、舞衣は少し寂しげな表情になる。
「でも多分その人は私を女の子としては見てないと思うけど……」
「そんな! 舞衣ちゃん可愛いのに!」
ゆたかの周りにも美少女と言える人物は多いが舞衣もそれに負けていない。
それにさっき抱きしめあった時に感じた2つの膨らみ。
高良先輩やパトリシアさんぐらいあるんじゃないだろうか。
それだけじゃなく全体的なプロポーションもすごくいい。うらやましいぐらいに。
ふと、何気なく自分の体を見下ろす。
つるーん。ぺたーん。すとーん。
「……ううっ」
従姉のように自身のスタイルをステータスや希少価値と割り切れるほど、ゆたかは達観してはいない。
だが、そんなそんな様子に気付かず、褒められてちょっと顔を赤くしながらも話を続ける。
274
:
たたかう十六歳(^^;)
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:11:00 ID:Jb.F0qXc0
「なんて言うのかな……あの人には夢って言うにはあんまりにも悲しい使命があって、
そのために自分の身が傷つくのも構わずに飛ぼうとしている。
だから今はそんなことに構ってるヒマは無い……って感じなのかな」
でもね、と区切って笑みを浮かべる。
笑顔は恋する乙女の強さだ。
「でもね、私はそれでも構わない。
ただあの人を支えてあげたい……少しでも背負ってるその荷物を軽くしてあげたい。
今は、そう思う」
『迷惑かけっぱなしだけどね』、と困ったように笑う舞衣。
ゆたかはそんな表情を見て、とても魅力的に感じた。
そして思う。ああ、やっぱり自分と彼女は似ているのだと。
ゆたかの脳裏に浮かぶ青年も強く、激しい人だった。
絶対諦めない強い瞳。分かりにくいけど、他人が傷つくことを嫌う、誰よりも深い優しさ。
あの目が、温もりがさっきまではあんなに恐ろしかったのに、今はもう――こんなにも愛しい。
そう、今なら素直に認められる。
私は、小早川ゆたかは、Dボゥイさんのことが好きなんだ、と。
それはゆたかにとってはじめての恋だった。
こんな場所で出会ったから、もしかしたら刷り込みみたいな物かもしれないけど。
憧れ交じりのしっかりしたものじゃないのかもしれないけれど。
でも、それでも、この気持ちを否定したくないという気持ちはきっと本当だから。
「あなたもいるんでしょ、そういう人? そういう顔……してるもの」
「……はい」
だからそう聞かれても、素直に肯定できた。
その答えを聞いて舞衣も微笑む。
「じゃあ、もうちょっと……がんばろっか」
「……はい」
「卑怯者だね、私たち」
「……はい!」
また、笑い会う。
それは照れくさいような、何処か嬉しいような共犯者の心境。
でもそこでゆたかは思い出す。
自分にはまだやるべきことがあるじゃないか、と。
だからゆたかは立ち上がり、車のドアを開けた。
「ちょっと、ゆたか、何処に行くの!?」
「私、その人に助けられたのに逃げ出してきちゃったんです。
だから、戻って謝らないと」
だが少女は目に見えて疲労しているし、一人で行かせる訳には行かない。
そうだ。ジンに頼んで車を出してもらえば……
だが振り返った先、運転手席にジンの姿はなく、そこにあったのは
助手席にちょこんと座ったフリードリヒの姿と、ハンドルの所に残されていた一つのメモだけであった。
『お姫様のお相手は任せます。ドロボウは少し出稼ぎにいってきます 王ドロボウ』
……要するに“ゆたかのことは全部任せた。自分はちょっと出てくる”ということなのだろう。
案外、責任感の無いやつなのかと思ったが、今の自分たちの格好を見て赤面すると同時、納得する。
シーツや制服は乱れ、結構危いところまで見えている。
(ジンには裸を見られているがそれは別カウントである)
それにさっきの言い争いはお世辞にも見れたものではなかった。
自分達でもそう思うのだから、男の目から見れば幻滅ものだったに違いない。
それはともかくとして、マニュアルは置きっ放しだが、自分が運転できるとは思わない。
その代わりとでも言うように、フリードリヒが『クエ!』と鳴き声を上げる。
その姿がまるで『自分に任せろ』と言っているかのようで、小さな騎士の姿に2人して苦笑する。
「うん、わかった。その人に謝ってきたら、その人とここに戻ってきて。そしたら……一緒に行こう」
「はい、じゃあまた! すぐに戻ってきますから!」
かつてのひまわりのような、無邪気な笑みはそこには無い。
でもしっかりとした笑みを浮かべて、確かな足取りで南へと戻っていく。
少女らしい、みにまむてんぽ、で。
275
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:12:58 ID:Jb.F0qXc0
「舞衣おねーさんは上手くやってるかな、ま、大丈夫だとは思うけど」
……その頃、ジンはついさっき来た道を走って戻っていた。
目の前にあるのは川にかかった少し大きな橋。
そのプレートには『シーゴ橋』と書かれている。
先程、ジンが当初の思惑通り卸売り市場に向かわず、総合病院に進路を向けた理由は二つある。
一つ目は前述どおり清麿のことが気になったから。
そしてもう一つは市場の方で起こった爆発を遠目に見たから、である。
かなり大きな爆発だったが、さっきまでどこか心ここにあらずといった舞衣は気付いていないようだった。
その様子を見て、ジンは決めた。
病院跡に危険がなさそうなら、舞衣をそこに置いて、1人でスパイクの元へ向かおう、と。
舞衣も螺旋の力に目覚めているとはいえ、身のこなしを見る限り戦闘能力はおそらく人並み。
火を出せるというエレメントも出せなくなったというし、忌憚無い意見を述べさせてもらえば、足手まといにしかならないだろう。
「……これ以上、誰にも死んで欲しくは無いからね」
それはジンの偽らざる本音だ。
舞衣もさっきまでは心配だったが、あの様子を見る限り大丈夫だろう。
やっぱ女性は強いね、と知り合いの少女達の顔を思い浮かべながら呟く。
消防車のマニュアルも残してきたし、いざとなったら舞衣とゆたかの2人でも逃げ出せるはずだ。
清麿のことも気になるが、まずはあの騒ぎに巻き込まれているであろうスパイクの元へ向かわないと。
そんなことを考えながら橋を渡りきる。
そして軽快な足取りでまた歩みを進め、視界に映画館が入ろうとしたその時、道の向こうから一人の少女が歩いてきた。
その姿はジンには馴染みの薄い……水兵が良く着ている様な服であった。
身長は普通ぐらい……ちょうど舞衣と同じぐらいか、僅かに高いぐらい。
どちらにしろ初見の少女のはずだ。少なくともジンには見覚えが無い。
だが、少女はまるで数年来の友人のように気さくに話しかけてきた。
「ねぇ、ジン。……ちょっと頼みがあるんだけどいい?」
少女はポニーテールを揺らして、そう問いかける。
* * *
276
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:14:13 ID:Jb.F0qXc0
――十数分前、卸売り市場跡。
「……ったく、ほんと、どうしよう……」
端的に言って柊かがみは困っていた。
少女の目の前には瓦礫の山……というか首から下が瓦礫の中に埋まっている。
だが瓦礫は絶妙なバランスで支えあい、少女の体は潰されていない。
まぁ今の少女なら潰されても死ぬことは無いのだろうが。
暫くは足掻いていたが、どうしようもないと悟り、今は力を抜いている。
そして“不死身の柊かがみ”は考える。
これから自分がなすべきことを。
今のかがみにはやるべきことが2つある。
一つは“仲間”であり“師”でもあった、衝撃のアルベルトの遺志を継ぐということ。
一つは“友達”――今なら素直にそう思える――であった木津千里と“私自身”の敵討ちのため、ウルフウッドを倒すということ。
だがそれらは突き詰めれば一つの願望へと集約する。
――力が欲しい。誰にも負けない力が。
そして自分はそれを手に入れたはずだった。
……殺人鬼、ラッド・ルッソの記憶。
結城奈緒を完膚なきまでに叩きのめし……あの衝撃のアルベルトをも苦しめた力だ。
だが私は負けた。あっさりと。
視界の隅でレーザーから逃げ続けるスパイク・スピーゲルに。
それだけじゃない。
3度目の正直じゃないけれど、ウルフウッドも今度こそ倒せると思った。
でも結果はこの通り。
さらに喧嘩しながらでもこっちを狙うその殺意に私は恐怖を覚えた。
だが恐ろしさで言うならラッドも負けてはいない。
仮にラッドがこの場所にいたなら、いい勝負が出来ていたはずだ。
例えば『ラッド』を開放してしまうなどすれば、勝負に持ち込めたはずだ……少なくとも自分はそう思う。
じゃあ何で自分は敵わなかったのか。
ラッド・ルッソの記憶を手に入れた自分は何故勝てなかったのか。
そう、強くなるためには後一枚、パズルのピースが足りない。
でもそのピースが何なのか……かがみには良くわからない。
だがその思考を中断するかのように近くで爆発音が近くで起こる。
そして視界の隅に映る赤いレーザー。
SFには詳しくないが、アレだけの攻撃力……首から上に直撃すればマズ間違いなく即死。
体のどこかに当たっても回復に相当の時間がかかるのは間違いない。
これはまずい。
ダメモトでも足掻こう。そう、今より悪いことにはならないはず――
「……ってどわあっ!」
ジュウ、という音をたて、顔から数メートルしか離れていない場所に赤黒い穴が開く。
……正直今のは危なかった。少しでも角度がずれてたら即死だったに違いない。
でも災い転じて福となす……というのもおかしいがすぐそばに着弾したせいで瓦礫が少し崩れた。
今ならまた動くことが出来るかもしれない。
腕はかなり動くようになっているし、これなら何とかなるかも……
だがそう思い腕を動かした瞬間、
「―――――え?」
かがみの世界は閃光と衝撃に包まれた。
277
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:15:20 ID:Jb.F0qXc0
……彼女は知らなかった。
彼女の上に降り注いだ瓦礫はその多くが料理店のもので、それなりの数のガスボンベが彼女のいる瓦礫の下に集まっていたことに。
そして先ほどの一撃は、そのうちの一つに火をつけたということに。
連鎖反応によって、ガスボンベは連鎖爆発を起し、その結果―――――彼女は宙を舞った。
高く、高く、偶然にも同時刻、かの英雄王が宙を舞っていたのと同じように。
だが人が空を飛ぶようには出来ていない以上、重力に引かれ放物線を描きつつ地に落ちるのは必定の理。
それは四苦の理を外れた不死者といえど逃れることは出来ない。
とっさにラッドの知識を使って受身を取ろうとするが、体は上手く動いてくれず、不恰好な形でむき出しの大地に叩きつけられる。
「ぐえっ!?」
バリアジャケットを展開していても衝撃までは殺しきれない。
地面にしたたかに打ち付けられ、蛙が潰れたような声を出してしまう。
体中に満遍なく浸透する痛みに暫く悶絶するかがみ。
だが何がきっかけになるか分からない。
今のことでかがみはさっきのパズルのピースを手に入れていた。
「そっか……私には“経験”が足りないんだ」
柊かがみとラッド・ルッソは性別も、性格も、趣味も、嗜好も、その殆どが違う。
下手をすると共通項が『人間である』という一点に絞れてしまいそうなほどに。
そんな2つを無理にくっつけようとすれば、糊がはがれてしまうように“柊かがみ”と“力”が乖離してしまう。
――先ほど、受身の取り方を知っていても取れなかったように。
だから必要なのだ。
暴力の世界に生きてきたラッド・ルッソと普通の女子高生である柊かがみを繋ぎ合せるだけの“経験”という名の接着剤が。
そのために必要なのは復習――それも実践という名の、だ。
理想的なのはあの男たちほど強敵ではなく、だが確かな実力を持ったものとの戦い。
そしてかがみはその可能性に思い当たる。
さっき空を飛んでいたとき、視界の隅、ちらりと遠目に見えた消防車。
ラッドの記憶を検索し、運転しているであろう少年を“思い出す”。
その名はジン。
それなりの実力者でありながら、こちらを殺すことを良しとしないであろう人物。
正直、相手としては申し分ない。
278
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:16:36 ID:Jb.F0qXc0
だが18年間培ってきた倫理感がそれに歯止めをかける。
もともとかがみという少女は真面目で、強い正義感を持つ少女だ。
誰かが犯罪に手を染めればそれを糾弾するし、礼儀知らずには怒りをもって接する。
だがそれが正当防衛ならともかく、ただ経験を積むためという理由で戦いを仕掛ける?
そんなの八つ当たりで殺し合いに乗ったウルフウッドといい勝負だ。
だが螺旋王への道を進むためにはラッドの力は必要不可欠なものだ。
そしてそのための時間は名簿に引かれた線の数を見る限り、さほど残されているように思えない。
自身の目的と、論理感を秤にかけて少女は決断を迫られる。
「……大丈夫よアルベルト。私はもう迷わない」
そして少女は選択する。
目的のためなら、正義感など捨て去ろう。
新世界の神となり、全てをなかったことにするために。
力を抑えるため、バリアジャケットを解除する。
そこに現れたのは目に鮮やかなライトブルーと白を基調としたセーラー服。
そしてその左腕には大きく“団長”と書かれた腕章が光る。
そう、それはかがみの愛読するラノベに出てくる登場人物、“涼宮ハルヒ”の制服。
それ自身は何の変哲も無いコスプレ衣装だが、だがそれはかがみにとって別の意味も持ち合わせていた。
友達が――こなたがバイト先で着ていたコスプレ衣装なのだ。
今から自分が取る行動のことを思えば着たくはなかった。
“不死身の柊かがみ”がこれから取るのは、血にまみれた戦いの道だから。
その行為が友達を汚すような気がして、結局最後まで取っておくことになってしまった。
でも、背に腹は変えられない。
だから過去との決別の意味もこめて、この衣装に柊かがみは袖を通した。
すべてを取り戻すために、少女は過去すら食いつぶして、ただ前に進む。
そして追いつくまでには回復するだろうと踏んで、視界から遠ざかっていく赤い車を追いかけ始めた。
* * *
279
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:18:15 ID:Jb.F0qXc0
――そして、今に至るのだった。
かがみの事情を知る由も無いジンは、困惑と緊張を隠せない様子で問いかける。
「……誰だい? 人の顔を覚えるのには自信があるんだけど」
職業柄、記憶力には自身のあるほうだ。
だから目の前の少女とは会ったことが無い、と断言できる。
だが、
「オイオイオイオイ、つれねえなジン!! たった半日会ってないだけで俺のことを忘れるなんざよぉ!」
一変する表情。
禍々しいその顔は紛れもなくテンションが高い時の――
「ラッド!?」
これは物真似とかそんな次元じゃない。
ラッドの表情が少女の顔に張り付いた。そうとしか表現しようが無い。
驚きを隠せないジン。
だが次の瞬間には狂ったような笑みは鳴りを潜め、普通の少女がそこにいた。
「……これで、わかってもらえた?
私はラッド・ルッソを“喰った”、だからあなたのことも知っている。
高嶺清麿のことも、ヨーコって娘のことも……あなたが昨日、ラッドに朝ごはんを作る約束をしていたことも知っている」
清麿やヨーコのことならともかく、朝食のことなんかをあのラッドが他人に話すとは思えない。
だったら少女の言うことはある程度真実なのだろう、とジンは受け入れた。
想像力が無いとドロボウは勤まらない。
彼の世界では不思議なことがいくらでもあるのだ。
だから――ここで重要なのは何故呼びかけたか、ということだ。
「……それで何の用だい?」
そう言いながらも何時でも行動に移れるように全身の緊張は解かない。
何故ならば少女の全身から、ビリビリとした殺気がジンの肌を突き刺しているからだ。
「――悪いけど戦ってくれない?」
だからその答えも想定の範囲内。
「それは……殺し合いってことかい?」
「違うわ。戦ってほしい、ただそれだけよ。
その結果、互いに死ぬことはあるかもしれないけれどね」
280
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:19:32 ID:Jb.F0qXc0
柊かがみは殺し合いを肯定してはいない。
だが結果としての殺害ならば覚悟の上である。
……それは考えようによっては殺意よりも性質が悪い。
他人の命を道具として換算し、踏み台にする行為も許容するということだから。
そしてそれは当たり前のように、ジンに何のメリットも無い。
だが、吹き付けるような殺気は“お願い”を“脅迫”へと変える。
「……残念だけど御希望には添えないな」
だがそれでも王ドロボウは曲がらない。
だから断る。戦うことは何一つ生み出さないと知っているから。
しかしそれはかがみにとっても予想済みのこと。
何故ならば“不死身の柊かがみ”はラッドの知識を持っているのだから。
「へぇ、女の子からの誘いを断るって失礼とは思わないの?
……まぁ、答えは聞いて無いけどね!」
左手の指輪が輝き、全身が変質する。
ゴシックロリータのバリアジャケットがかがみの全身を包み、瞬時に戦闘準備が完了する。
「ヒュウ、見事な早着替えだね。コツを教えてもらいたいぐらいだ!」
「その軽口、直にきけないようにしてあげるわ!」
かがみは初撃から全力で行くために、強く足を踏みしめる。
だが踏み出したその足元が弾け飛ぶ。
地面に刻まれたのは――銃痕。
「そこまでだ。“不死身の柊かがみ”」
そして道の向こうからやってきたのは、ボサボサ髪の賞金稼ぎとその陰に隠れる少女。
ジンが助けに行こうと思っていたその男。
「スパイク!」
ボロボロになったカウボーイは右手に銃を構えたままで、消えた左手を掲げて笑う。
「よぉ、ジン。無事で何よりだ」
* * *
281
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:21:26 ID:Jb.F0qXc0
――再び十数分前、卸売り市場跡。
「くすくす、足が止まってますよ?」
一瞬前までスパイクがいた場所を熱線が通り過ぎる。
それは戦闘とも呼べないような一方的な光景だった。
撒き散らされるレーザーの雨。
それは嬲るように、甚振る様にスパイクを追い詰めていく。
「くそっ! ソードフィッシュでもありゃあ……!」
無いものねだりだとは知りつつも、ついつい愚痴が口を突く。
目の前の存在は予想以上に厄介だった。
シータが素人だから、また自立行動である故にタイムラグが存在するから助かっているようなものの状況は最悪だ。
まず、目の前の存在には銃がろくに効かない。
反撃にジェリコの引き金を引いてみたものの、レトロな外見に反して装甲は厚く、微かに凹ませるだけという結果に終わった。
次にレーザーの威力が半端無い。
体か頭に当たれば一発でアウト。
足をやられたとしても、次の瞬間にバーベキューにもならない消し炭が一個出来上がるだけだろう。
だから勝つには少女を殺すしかないが……少女はロボットの背後に器用に隠れてしまっている。
体が小さい故に完全に隠れてしまっている。
このままではどうやっても倒すことは不可能だ。
だから僅かなチャンスに懸けて、今は逃げ続けるしかない。
どれだけその望みを懸けて、鬼ごっこを続けていただろうか。
「そろそろ終わりにしましょうか……兵隊さん!」
シータの呼びかけに応えるようにロボット兵の眉間がより赤く煌き、より高出力のレーザーがスパイクの隠れていた瓦礫を吹き飛ばした。
「なっ!」
スパイクは咄嗟に衝撃に構えた。
だがそれは失策だった。
次の瞬間スパイクが目にしたのは、宙を舞う瓦礫の中、確実にこちらに狙いを定めるロボット兵の“目”だったのだから。
(チッ……ここまでか)
賞金稼ぎである以上、死ぬ覚悟というものはしている。
そうでなくても自分は一度死んだ男なのだ。
数奇な運命の果てに宿敵との決着も付けた。
2度目の生の終わりが馴染みの無い場所というのも後腐れが無くてそれはそれでいいものかもしれない。
そうやってスパイクが人生を締めくくろうとした、その瞬間、
282
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:22:29 ID:Jb.F0qXc0
「さようならおじさ――きゃあっ!!」
空気を文字通り切り裂いて、横合いから飛んできた豪奢な剣がロボット兵の頭部に突き刺さった。
あれだけ強固だった装甲に剣は深々と突き刺さっている。
銃弾が効かない装甲を剣でこじ開けるようなバカができるのは――
「無事か、スパイク!」
そう、同じバカしかいない。
瓦礫を飛び越えてやってきたのは十字傷を負ったハチマキの男。
数時間前、デパートで遭遇したドモン・カッシュである。
何故か見知らぬ少女を背負っているが、それ以外は前と何も変わっていない。
一方でドモンはスパイクの体に起こった異常に目を見張る。
「! その左腕は……!」
「ああ、ちょっとドジっちまった。やっこさんの視線が強烈過ぎて、な」
その視線の先にいるのは先程、自分が剣を投げつけた物体。
茶色い、錆付いたロボとその背中から顔を出したあどけない少女。
ロボットは辛うじて人型をしているものの、どちらかといえば卵に手足をつけたというほうが近い。
そのロボットを見て、奈緒が眉を寄せる。
「ちょっと……こいつも『“ガンダム”だ!』 なんて言うんじゃないでしょうね」
「違うな。ガンダムではない」
そう、これはガンダムなどではない。
人よりも少し大きい――ざっと見てネオギリシャのファイター・マーキロットぐらいだろうか。
流石にこのサイズでは中に乗り込めないだろう。
それに、どちらかといえばこの禍々しい気配はデスアーミーに近い。
破壊のために生まれた悪魔の尖兵、デスアーミーと。
ドモンはこちらを見下ろす少女から視線をそらさないまま、2人を庇うように前に出る。
「……スパイク、奈緒を連れてジンの元へ向かえ。こいつらは俺が相手をする」
そして前を向いたまま先程、自分が来た方角――南を指差す。
「さっき遠目に南のほうへ向かう赤い消防車が見えた。恐らくはまだジンが乗っているのだろう」
「遠目にって……そんなもん走ってたっけ?」
首をかしげる奈緒。
彼女の記憶ではドモンは確かに一度振り返ったが、その先には何も見えなかったような……
283
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:23:37 ID:Jb.F0qXc0
「ああ、確かに橋のあたりを南下していた」
「橋って……アンタどれだけ目がいいのよ……」
「まぁそんなことはどうでもいい。
それよりも……奈緒、だったな。お前に言っておくことがある」
唐突に名指しされ、動揺する奈緒。
「……な、何よ」
「貴様はあの柊かがみとか言う少女に恐怖しているな」
「!!」
図星を指された奈緒は罰が悪そうな顔になる。
だが生来の意地っ張りな性格が反発を示す。
「……あんたには関係ないでしょ」
「確かに関係は無いな。だが、一つ忠告しておいてやる。
恐怖は己の中にある。一度でも逃げ出せば癖になり、二度と勝利できん
だが乗り越えればそれは確かな自信となり、新たな力を呼ぶこともあるやもしれん」
そう、チボデーが過去のトラウマを乗り越えたときのように。
「思い出すがいい、今の貴様を支えているものを。誇りを。
それこそが恐怖を乗り越える唯一つの術なのだからな」
この小娘は主人同様気に食わないが、みすみす死なせるのは忍びない。
先輩として、忠告をするぐらいはいいだろう。
それを聞いた奈緒は複雑そうな表情を浮かべている。
そして2人が会話している間にも、スパイクは決断を迫られていた。
目の前の男は馬鹿だが、戦闘に関してはプロフェッショナルだ。
それにあのロボットと銃の相性が悪いというのも事実だし、長い長いマラソンを続け自分の体力も限界が近い。
だからこの場をこの男に任せるのが最適な判断だと、冷静な頭は告げている。
だが……ちょっとやそっとで倒せる相手でもない。
例えどんなに強かろうと、目の前のロボット相手では死ぬ確立が跳ね上がるだろう。
それならばいっそ自分も残って少女を狙った方が勝率は上がるのではないか?
「……心配するなスパイク。キング・オブ・ハートに敗北は無い」
だが、スパイクの心を読んだかのようにドモンは応える。
それだけでその背中が広くなったように思える。
それは見るものを安心させる、王者のみが出せる風格であった。
――流石は、格闘技世界チャンプか。
武術を修めたもの同士が感じるという言葉ではない真実の言葉。
普段ならオカルトと一蹴するそれを、今のスパイクは確かに感じ取る。
だから……スパイクは決断を下した。
「……そのデカブツは空も飛べる……油断するなよ」
「その忠告、ありがたく受け取らせてもらおう。
……行け、スパイク!!」
その声に応える様にスパイクは走り出す。
また奈緒も少し迷って、スパイクの跡を追う。
そして卸売り市場には、拳の王と狂った王女とその兵隊だけが残された。
うめき声を上げるように鳴動する大地。
どうやら卸売り市場そのものの崩壊が始まったらしい。
「……遺言は済ませましたか?」
「残念だが俺は死ぬつもりは無い。この右腕が正義を告げる限りな!!」
さぁ、戦いだ。
とりあえずスパイクたちから引き離さねば話にならない。
飛行能力も考慮すれば少しの距離など無いも同然だ。
「こいっ!」
故に目指すは北。
ドモンは不安定な足場で攻撃をかわしながら、スパイクたちとは逆へと走り出した。
284
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:24:36 ID:Jb.F0qXc0
【B-5/卸売り市場/二日目/早朝】
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に中ダメージ、すり傷無数、疲労(中)、明鏡止水の境地
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
0:スパイクからロボットと少女(シータ)を引き離すため北に向かう
1:カミナたちを探しながら、刑務所に向かう……だが何だあの物体は!
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:傷の男(スカー)を止める。
5:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する。
6:言峰に武道家として親近感。しかし、人間としては警戒。
7:東方不敗を説得する。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュ、奈緒のこれまでの経緯を把握しました。
※第三放送は奈緒と情報交換したので知っています。
※清麿メモについて把握しました。
※螺旋力覚醒
※シータのロボットのレーザービーム機能と飛行機能についてスパイクから聞きました。
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労(大)、倫理観及び道徳観念の崩壊(判断力は失わず)、右肩に痺れ(動かす分には問題無し)
頬に切り傷、おさげ喪失、右頬にモミジ
[装備]:ラピュタのロボット兵@天空の城ラピュタ、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル、ヴァッシュの生首
機体状況:無傷、多少の汚れ、※ヴァッシュとのコンタクトで影響があるのかは不明
[道具]:支給品一式 ×6(食糧:食パン六枚切り三斤、ミネラルウォーター500ml2本)、
ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(待機状態)、びしょ濡れのかがみの制服、暗視スコープ、
音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ミロク@舞-HiME、
ワルサーP99(残弾4/16)@カウボーイビバップ、軍用ナイフ@現実、包丁@現実
[思考]
基本:自分の外見を利用して、邪魔者は手段を念入りに選んだ上で始末する。優勝して自分の大切な人たちを、自分の価値観に合わせて生き返らせる。
0:まずは目の前のドモンを始末する。
1:スパイク、ウルフウッド、かがみの始末。禁止エリア殺法も視野に入れる。
2:言峰を捜索。保護してもらうと同時に新たに令呪を貰う。
3:途中見かけた人間はロボット兵に殺させる。
4:気に入った人間はとりあえず生かす。ゲームの最後に殺した上で、生き返らせる。
5:恩人の言峰は一番最後に殺してあげる。
6:使えそうな人間は抱きこむ。その際には口でも体でも何でも用いて篭絡する。
[備考]
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※バリアジャケットは現状解除されています。防御力皆無のバリアジャケットなら令呪が無くても展開できるかもしれません。
※バリアジャケットのモデルはカリオスト○の城のク○リスの白いドレスです。
夜間迷彩モードを作成しました。モデルは魔○の宅○便のキ○の服です。
※言峰から言伝でストラーダの性能の説明を受けています。
ストラーダ使用による体への負担は少しはあるようですが、今のところは大丈夫のようです。
※エドがパソコンで何をやっていたのかは正確には把握してません。
※かがみを一度殺してしまった事実を、スパイクとウルフウッドが知っていると誤解しています。
※会場のループを認識しました。
※シータがごみ屋敷から北上中に静留と舞衣の姿を確認したかどうかはわかりません。
※ヴァルセーレの剣にはガッシュ本編までの魔物の力、奈緒のエレメントの力、アルベルトの衝撃の力、
ヴァッシュのAA(もしくはプラントとしての)エネルギーが蓄えられています。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガンはヴァッシュの遺体(A-3とA-4の境目)の側に放置されています。
※大量の貴金属アクセサリ、コルトガバメント(残弾:0/7発)、真っ二つのシルバーケープが近くに放置されています。
※シルバーケープが使い物にならなくなったかどうかは不明です。
※卸売り市場が崩壊を始めました。
※ロボット兵の頭にはカリバーン@Fate/stay nightが突き刺さっています
285
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:26:39 ID:Jb.F0qXc0
* * *
そして奈緒を連れ、スパイクは南下した。
ドモンと違って背負うまで面倒を見ないが、さり気無くペースをあわせるぐらいのことはしつつ。
そして予想よりも案外早く、目的の人物とは遭遇することが出来たのだ。
……余計な物までそこにいたのは流石に予想外だったが。
「へぇ……案外、早い再会だったわね。スパイク・スピーゲル」
だが、目の前の少女はさっきの少女と本当に同一人物なのだろうか。
その顔に、先程まであった少女としての面影は無い。
スパイクは知っている。それは覚悟を決めたものの顔だ、と。
……そう、スパイクの考えるとおり、かがみは覚悟を決めていた。
切り札はお守りじゃない。
イザという時使えなかったら、待っているのは確実な死だ。
そして新たに現れたのはスパイク・スピーゲル。
ただの“柊かがみ”では突破できなかった難敵だ……試すなら、これ以上のタイミングは無い。
唾を飲み込み、左目を覆う眼帯に手をかける。
だがそれだけでアルベルトを失った時の恐怖が手を止める。
いや、それだけではない。
全身から脂汗が吹き出て、胸の奥から吐き気が込み上げてくる。
『二度と己が力に飲み込まれるな。みごとあの力を制した姿をワシに見せつけてみせろ』
「わかってる……わかってる、アルベルト」
だが頼りにしていた男の姿を思い浮かべることで、込み上げる恐怖を嚥下する。
そうだ、こんな所で足踏みをしているヒマは無い。
少しでもスピードを緩めれば、きっと坂道を転げ落ちてしまう……自分の選んだ道はそういうものだ。
だからもう止まることはありえない。
(私は……やってみせる!!)
そして柊かがみは意を決し、アイパッチを――外した。
286
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:28:40 ID:Jb.F0qXc0
その瞬間――あたり一面の空気が変質した。
まるで異世界がいきなり顕現したかのように、世界が――変貌する。
スパイクも、ジンも、奈緒も、その場にいる全員が否応無しに異常を感じ取る。
「何!? 何!? 何なのよコレ!!?」
奈緒は訳も分からず震える体を必死に抱きとめている。
「……これは、マズいね」
人間の欲をコントロールできるジンが冷や汗を流す。
「何だと……!」
そしてスパイクは思い出す。
レッドドラゴンで散々嗅いできた、暴力の匂いを。
そしてその中心、渦巻く異常な殺気の中心で少女は、
「ヒャ、ハ、ハ……ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!
天を仰いで――笑っていた。
その哄笑は、まるでこの世に生まれ出でたことを喜ぶ産声のよう。
3人の目の前で禍々しい産声を受け、バリアジャケットの姿が変わる。
少女らしいゴスロリから、無骨なブルーの囚人服へ。
左手には童話の悪役船長の様な鍵爪を携えて。
そして魔人は再誕を完了する。
その両目に緑の二重螺旋を宿らせて。
「ッあ―――イイねイイねイイね! サイッコーの気分だ!!」
かがみは口の端を限界まで吊り上げ、悦びを表現する。
「そこのボサボサ頭の賞金稼ぎは“さっきあしらったから何とかなる”って温いこと考えてやがるし!
ジンは言わずもがな! 奈緒ちゃんは怯えまくってるが……まぁいいや、今日の俺は気分がいい!
ついでに殺してやるよ!
さぁ、どうやって殺されるのがお望みだ!?
切り殺されるか撃ち殺されるか殴り殺されるか轢き殺されるか磨り潰されるか、何でもいい!!
望みどおりの方法で殺してやるよ!!」
287
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:30:21 ID:Jb.F0qXc0
いきなりゲージを振り切らんばかりのテンションになったかがみ。
だがその中でスパイクは冷静に、迅速に動き出していた。
僅かに残っていた慈悲を振り払い、脳天に狙いを定める。
そう、先の対峙時にかがみの動きから弱点の予想はついていた。
この引き金を引けば全てが終わる。
「おもしれぇ! 早撃ち勝負か……カウボーイッ!!」
だがその瞬間、かがみの背後の空間が波打ち、波紋が浮かび上がる。
開かれる砲門の名は≪王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)≫。
そして打ち出される弾丸は回収された数々の本。
たかが本といえど相当の速度で打ち出されれば、それは凶器と化す。
ましてや大小さまざまな本は瞬く間にスパイクの視界を埋め尽くし、かがみの姿を紙の中へとかき消してしまう。
「くそっ!」
攻防一体の妙手だ。
舌打ち一つして、距離をとるためにバックステップで回避するスパイク。
それはベストな選択だった。
「イヤッホゥーイ!!」
陽気な掛け声と共にかがみが飛び出す。
本の嵐を掻き分けて、距離をとろうとしたスパイクに向けて、一直線に。
それは宛ら、ホッキョクグマを襲うシャチの如く。
獰猛に、ただ殺意を持って、スパイクの命へ手を伸ばす。
「この野郎っ!!」
さりとてスパイクの習得しているのはジークンドー。
その極意は水。螺旋力に後押しされた比喩抜きの殺人フックを殆ど力を使わずに受け流し、そのまま投げの態勢に入る。
だが――
「いいねぇいいねぇ、噂に聞いたことのあるトーヨーのクンフーってやつか……だがなぁ!」
投げられたかがみは体をひねると、床に叩きつけられることなく体勢を立て直す。
なぜならばその“投げ”はもうすでに“かがみ”が一度受けている。
受けきれ無い道理は無い――ましてや疲労でキレの鈍っているスパイクの技を、だ。
「もう一度行くぜ、スパイク・スピーゲルッ!」
瞬間、再び空間が波打つ。
だがあの空間兵器はただ射出するだけらしい、とスパイクは見抜いていた。
つまり軌道が曲がったりすることはないのだ。
だったら――スパイクにはある程度は弾道も予測できる。
しかも本を撃ち出したってことは、最初、ヴァッシュに向けたときで刃物は打ち止めのはず。
なら数発もらう覚悟で懐に入り込めさえすれば、こちらにも十分勝機が見え――
「お前……刃物はさっき出したし、安全だなんて思ってんじゃないよなぁ?
いや、思ってるだろ? なぁ、おい、スパイクさんよぉ!」
砲門が開かれ、飛び出してきたのは金色の何か。
――それはかつてアルベルトが奪い取った英雄王の鎧。
だがすでに半壊した鎧は発射時の衝撃と風圧で更に壊れ行き、最早無数の金属片と言ったほうがいい状態にまで破壊される。
そして≪王の財宝≫はその全てを財として、射出する。
無数の金属片がスパイクにその矛先を向け、牙を剥いた。
「チッ!」
軌道の予測どころの話ではない。
まるで黄金の散弾銃だ。
破片の数は多く、直撃どころか掠るだけでも致命傷になりかねない。
すんでの所でスパイクは大きく体制を崩しながらも回避に成功する。
だが、その隙を見逃す殺人鬼ではなかった。
回避先に先回りし、ボクシングスタイルをとっている。。
そして放たれるは全力を込めた右ストレート。
「か……は……っ」
ハンマーのような強い衝撃を腹部に叩き込まれ、賞金稼ぎは大地に沈んだ。
288
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:31:37 ID:Jb.F0qXc0
「スパイクッ!」
「オイオイオイ、人の心配してる場合かよ、ジン?」
一足でジンの目の前まで歩みを進めたかがみは体を大きくひねり、ボクシングスタイルから一転、蹴りを放つ。
側面から胴回し気味に放たれた蹴りはジンの体を捕らえ、容易く吹き飛ばす。
だがその様子を見たかがみは不機嫌そうに眉を寄せる。
「――気付いてるぜ? あん時みたいにわざとぶっ飛んでるだろ?」
「……やっぱり同じ人間にタネの割れた手品は通用しない、か」
服を払い立ち上がるジン。
その動作は軽やかで、やはり殆ど先程の蹴りによるダメージを受けていないようだ。
その姿を見てかがみは舌打ちする。
ジンはドロボウを名乗るだけあって身軽で、落ち葉を相手にしているかのようだ。
砕く方法もあるにはあるが、どうにもめんどくさい。
「あーやっぱテメェ相手にするとめんどくせえな。
つかえそうなもんも中々ねえし、さて、どうするか……」
その発言にジンは内心一息ついた。
現在のところ逃げに徹する限り、勝負は互角。
ならば問題は逃げ続けられる間に逆転の一手を思いつくことが出来るか、だ。
だがその時、予想外の乱入者が現れる。
「ジンから……離れなさい!」
そこにいたのは剣を構えた鴇羽舞衣の姿だった。
あの後、一人になった舞衣はジンを探して結局ここまでやってきてしまったのだった。
その姿を確認したかがみは喜びにその笑みをより一層深くする。
「オイオイオイオイオイ、舞衣ちゃんまでいるのかよ!
やっべ、うれしくってったまらねえ!!!」
その瞳に睨まれて、舞衣は体をすくませる。
前だ。前にもこの瞳に私は襲われた。
ありえない。その名は放送で呼ばれたはずだし、何より目の前にいるのはガタイのいい男ではなく自分と同い年ぐらいの女子高生だ。
だが、奴が纏うこの空気は、こちらを挑発するあの口調は、そして何より獰猛なその目は、焼きついた記憶から恐怖を引きずり出す。
「ラッド……ルッソ……?」
その呟きを肯定するように、かがみは口の端を吊り上げる。
あの時の殺意も、憎しみもすべてが焼き尽くされたがそれでもDボゥイに害をなす存在であることは間違いない。
そしてその手に握られた剣はただの剣ではない。
心の中に自身の名を告げてくる。
使い方が分かる。そう、これさえ振るうことが出来れば――!
「ヤバい!! おねーさん、逃げろ!!」
え、と顔を上げた先にいたのは至近距離まで接近したラッドの姿だった。
「オイオイオイ、感動の再会だってのに何ボーっとしてやがるんだ、テメェはよ!」
剣を振るう暇も無かった。
脇腹に膝を叩き込まれ、その場に崩れ落ちる。
「こんなもん使うって事は炎が出せなくなったのか?
ま、どうでもいいけどよ……お!」
その脳裏に閃いたのは悪魔の妙手。
かがみは邪悪な笑みを浮かべると、舞衣の体を抱え――そのままその体を放り投げた。
「!?!?」
高速で投げ飛ばされた舞衣の体。
そしてその先には民家の窓ガラスが陣取っていた。
ここまま窓ガラスに突っ込めば、シーツ一枚しか羽織ってない舞衣は大怪我を負うだろう。
だからジンは舞衣を受け止めるほか選択肢が無い。
「やっぱそう来るよなぁ?」
――例えそれが、動きを封じるための罠だと分かっていても。
無防備な2人に向けて加速に上乗せされるように、かがみの右ストレートが炸裂する。
強烈な一撃を受けた2人はそのままガラスを突き破り――沈黙した。
289
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:34:14 ID:Jb.F0qXc0
スパイク、ジン、舞衣をあっという間に片付けてしまったかがみ。
だが殺人鬼の思考は止まらない。
そう、まだだ。まだお楽しみはこれからだ。
これからスパイクを、ジンを、舞衣ちゃんを殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺しまくって――うっさい!!
「ぐっ……あっ……!」
苦悶の声をあげ、左目を押さえる。
それと同時にスカートのポケットからアイパッチを取り出し、素早く取り付ける。
そしてそのままの体勢で数秒間、停止していただろうか。
再び顔を上げたその瞳に、最早狂気の色は無かった。
――良かった。どうやら使いこなせたみたい。
上がる息を抑え、満足感に浸るかがみ。
ラッドという闇に飲み込まれる恐怖があった。
また誰かを殺してしまうかもしれないという恐怖があった。
だが自分はそれを乗り越えた。
自分でも分かるぐらい“手加減”が出来ていた。
本気だったのなら、3人とも鍵爪で切り裂いたはずだ。
だがそうはしなかった。
そう、“柊かがみ”は――ギリギリのところだったものの――あのラッドを制御することが出来たのだ。
それは確かな自信となって、かがみを安心させる。
そして彼女が得たのはそれだけではない。
ラッドの中からあふれ出た新たな殺人技巧の数々。
それらは数こなせば自分のものになってくれるだろう。
これならウルフウッドを倒せる。千里の仇を討てる。
そして螺旋王への道を今度こそ……!
と、そこまで考えたところで、物陰に隠れていた奈緒の姿を発見する。
スパイクと共に到着したものの、戦闘が始まるなり物陰に隠れてしまったのだ。
少女の意思とは関係なく、ただ、恐怖に押されるままに。
かがみは奈緒へ向け、口を開く。
「それで残ったのはアンタだけだけど……どうする? バトる?」
あえて最初に会った時の奈緒の口調を真似てみる。
分かりやすい挑発……だが恐怖に飲まれた奈緒にとってはそれすらも
“ラッド”の記憶では逆らった光景も確かにあるが、目の前の少女は分かりやすいぐらいに怯えている。
コレぐらい怯えられると、哀れみすら向けたくなってしまう。
290
:
小娘オーバードライブ
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:35:16 ID:Jb.F0qXc0
「ま、いいわ。大人しくしてなさいよ」
正直な所、さっきから奈緒を見ているだけで『ラッド』が暴れだしそうなのだ。
怯え、震え、何も出来ない……ラッドにとっては慢心したヤツの次に殺したいやつだ。
更にあのギルガメッシュを挑発できるというのなら、なおのこと、である。
だから正直隠れていてくれたのはありがたかった。
他の誰に手加減が出来ても今の奈緒にだけは手加減が出来そうに無かったから。
そんなことを考えながら、奈緒の隣を通り過ぎようとするかがみ。
近づかれるだけで奈緒は言いようの無い恐怖に蝕まれ、思わず目を閉じようとする。
だがその瞬間、彼女は見覚えのある黄金の輝きを目にする。
「!!?」
あまりに見慣れた輝き……それは先程射出された黄金の鎧の欠片であった。
思わず駆け寄り、拾い上げる。
そして思い出す。ドモン・カッシュが預かっていたという伝言の内容を。
――代わりに我が臣下たるナオを置いていく。丁重に扱うがいい
そう、代わり。
今の自分はギルガメッシュの代理なのだ。
それはつまりここで自分が退けば、それはギルガメッシュが退いたという事。
そう考えた瞬間、頭が灼熱する。
何故だろう――他の何が許せたとしても、それだけは許せなかった。
『恐怖は己の中にある。一度でも逃げ出せば癖になり、二度と勝利できん。
だが乗り越えればそれは確かな自信となり、新たな力を呼ぶ』
脳裏に響くのはさっき言われたドモンの言葉。
そう、ここで逃げればきっと一生逃げ続ける。
そうなればアイツの隣には決して、辿り着くことはできない。
「ちょっと……待ちなさいよ!」
気付けば呼び止めていた。
「何? 私も暇じゃないんだけど」
振り向いたかがみに睨み返される。
ただそれだけで全身から脂汗がにじみ出て、恐怖がぶり返してくる。
自分の意志とは関係なく、手を握りしめてしまう。
「あ……ぐ……!」
だがその手に痛みが走る。
痛みの原因は、掌に握り締めた黄金の鎧の欠片。
そしてその痛みが、結城奈緒の覚悟を決める。
『思い出すがいい、今の貴様を支えているものを。誇りを。
それこそが恐怖を乗り越える唯一つの術なのだからな』
結城奈緒の誇り。今の彼女を支えているもの。
あのバカ騒ぎみたいな殺し合いの中で結城奈緒は、
アイツに依存したくない、ギルガメッシュと平等でありたい、と吼えて殺人鬼に立ち向かおうとした。
そんな自分に呆れながらも、決して嫌じゃなかった。
今までの人生で奈緒が感じたことの無いそれは――きっと“誇り”と呼ばれるものじゃないのだろうか。
ならば思い出せ、正面切ってラッド・ルッソに逆らったあの時の力を。想いを。
そう、今こそここが結城奈緒の……正念場!!
「舐めてんじゃ……ないわよっ!!」
――ドクン。
その時、奈緒の中で何かが変わった。
心に浮かぶのは螺旋。
そしてその螺旋はゆっくりと回転を始め、速度を上げていく。
螺旋はプロテクトを突破し、元から持っていた確固たるイメージを作り上げる。
そして奈緒は確信した。呼べる、と。
「――来いっ!! ジュリアアアアッ!!」
緑の光が大地に走る。
その光に包まれるようにして、地面から生まれ出でるのは8本の緑柱。
そして続いてその柱を繋げるのは女性の体を持った趣味の悪いモンスター。
人の上半身と蜘蛛の下半身を持ったチャイルド、緑晶の女郎蜘蛛・ジュリアが降臨した。
「ふぅん……逆らうんだ」
だがそれを目の前にしても柊かがみは余裕の態度を崩さない。
その目に宿るのは殺意。
もう止まらない。終わらない。
結城奈緒を殺さなければ、きっとこの衝動は消えやしない。
かがみの服が再び変化し、再度バリアジャケットが展開する。
「遊んであげるわ……来なさい、蜘蛛女!」
「ざけんなっ! 倒れるのはアンタよっ!」
第二幕の開始を告げる勝鬨の声を互いに上げ、柊かがみと結城奈緒は通算4度目の激突を開始した。
291
:
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◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:36:56 ID:Jb.F0qXc0
地に落ちたフォーグラーの瞳が見つめる前、大きな道から離れたところにある住宅街で
民家を飛び移りながら戦場を移動するのは、ジュリアに乗った奈緒の姿。
同じチャイルドとはいえ、ジュリアにはデュランのような攻める為の力があるわけでも、清姫のような全てを圧倒するパワーがあるわけでも無い。
また、それ単体で戦局を一変させることのできるカグヅチらとは違い、あくまで高機動性とサポート能力に秀でたチャイルドなのである。
更に不安条件を加えるなら、奈緒の体は他ならぬかがみによってすでに満身創痍。
特に攻撃の起点となるべきエレメントはヴァルセーレの剣によっていつもほどの切れが期待できない。
更に相対するのは常識を逸脱した存在だ。
不死身の体に殺人狂の技を持った不死身の柊かがみが、異世界の殺人集団・GUN−HO−GUNSの雷泥のローラーブレードで加速して追って来る。
しかも今のかがみはラッドの分も上乗せされた螺旋力によって、ビルをも砕く馬鹿力を手に入れている。
今の奈緒が勝てているのは小回りのみという情け無い状況だ。
だが接近戦はどう考えても不利。
とりあえずは距離をとって相手の出方を――
「ねぇ奈緒ちゃん、コレ、なんだと思う?」
かがみが微笑みながらディパックから取り出したのは、ヨーコの超電導ライフル。
慣れた手突きでマガジンをセットするとあまりに気楽に引き金を引いた。
何気なく放たれたそれは数メートル先を通り過ぎたにもかかわらず、空気を震わせ、流れ弾で電信柱を木っ端微塵に破砕した。
奈緒はその威力に冷や汗を流す。
あんなもの人体に当たればあっという間に肉片の出来上がりだ。
「あー、やっぱ遠近感無いときついか。ま、そのうち慣れるでしょ」
「……冗談ッ!?」
ビルすら砕く左腕と凄まじい威力の銃。
近距離では危険すぎ、遠距離ではかがみが銃に慣れた瞬間死亡が決定する。
こんなもの、手詰まりにも程がある。
「だったら……これでもくらえぇぇっ!!」
エレメントで電信柱を切り裂き、そのまま絡めとる。
さらにジュリアの体重と力を利用して、滑車の原理で高速で投げ飛ばす。
チャイルドの力を上乗せさせて放たれたそれは最早砲弾だ。
だが――
「十傑集候補を……舐めんなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
かがみは高速で迫り来る電信柱を足場にして空中で再加速した。
……とある多重世界のラッドは、暗殺者の投擲したナイフを足で踏んでかわしたことがある。
一流の暗殺者の投げナイフ――それに比べればさっきの電信柱は止まって見えるも同然。
再度加速したかがみはジュリアに肉薄し、いつの間に持ち替えたのか、奪い取った聖剣を振り下ろす。
咄嗟にしゃがんで迫り来る白刃をかかわすが、薄皮一枚と髪の毛を数本持っていかれる。
「こんの……化け物ッ!!」
「ありがと、褒め言葉として受け取っておくわね」
嫌味すらも通じない。
互角どころか、一方的なワンサイドゲーム。
それが現在のかがみと奈緒の力の差であった。
「くっそっ!」
糸を張り巡らせて独特の軌道を取りながら急いで物影へ身を隠す。
だがガンメンすら打ち抜く超電導ライフルの前では家屋など紙同然だ。
どうする? どうする?
焦りだけが加速して、思考能力を奪っていく。
だが――
292
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◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:37:30 ID:Jb.F0qXc0
「さて、そろそろ終わりにしましょっか。
結構いい復習になったし、一気に片付けてあげるわ」
かがみの勝ち誇った声が耳に届いた瞬間、その焦りは消え去った。
あの女はこっちを向いていない。
あたしを脅威としてではなく、数学の問題程度にしか考えていない。
――ふざけんな。
奈緒の中に生まれたのは怒り。
だがそれは生まれてこの方初めて感じた、冷え切った鋭いナイフのような怒り。
その怒りは奈緒の中から焦りを消し、冷静さを呼び戻す。
あの女は誰の目から見ても慢心している。
だが慢心すれば足元を掬われる。
慢心の塊を誰よりも隣で見てきた自分は、この場にいる誰よりもそれを理解している自信がある。
「目に物見せてやる……!」
奈緒は獰猛な決意を込めて、物影からかがみを睨みつける。
* * *
さっきの言葉は半分挑発、半分事実だ。
かがみにとってこの戦いは“復習”である。
己が内から溢れ出た殺人技巧をこの身に定着させるための。
そして復習は、授業の直後が一番効率的なのだ。
もう8割がた復習は完了した。
残るのは内部に渦巻く、凄まじい殺人衝動だけ。
だから戦いを終わらせるために挑発を仕掛けた。
そしてかがみの予想通り、巨大な影が上空から襲ってきた。
一瞬戸惑うものの殆ど反射的に引き金を引き、蜘蛛の上の影を粉々に打ち砕く。
だが――音を立てて砕け散ったのは、蜘蛛の上に載った看板であった。
「なぁ!?」
驚くかがみ。その瞬間、横合いから伸びてきた糸がかがみの腕を切り裂き、超電導ライフルが宙を舞う。
更に呆然とするかがみに向かって、ジュリアの“糸”が直撃し、かがみは地面に縫い付けられる。
そう、これこそが奈緒の策。
ジュリアの上におとりを配置し、自身は周囲の建物の影へ。
かがみがおとりを撃ち、驚いた瞬間にあの厄介な銃を奪う。
それは策としては単純極まりないものであったが、その目論見は見事成功した。
そして、これで終わりではない。
相方と違ってハナから結城奈緒に慢心は無い。さらに追撃をかける。
だが斬撃は散々切り裂いた。恐らくは凄まじいスピードで再生していくだろう。
だとすればこの場で最も効率的な攻撃方法とは何か。
293
:
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◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:38:39 ID:Jb.F0qXc0
「来いっ、ジュリアッ!!!」
それは――圧殺。
身動きの取れないかがみに対し、ジュリアの重さを利用して全身の骨を砕く。
清姫ほど出ないにしろ、ジュリアとて軽自動車並みの重量がある。
全身を一気に潰す圧殺は、かつてラッドの行った殴殺ともまた違うダメージのはずだ。
少なくとも斬撃よりは効果があるはず。
僅かだけでも威力を上げるため、ジュリアの上に載り、天高く飛び上がる。
「潰れろっ! 柊かがみぃぃぃぃっ!!」
だがその瞬間、目標としていた白い繭は弾けて散った。
そして現れたのはライトブルーを基調としたセーラー服姿の少女。
――リアクティブ・パージ。
バリアジャケットを強制解除する反動を利用して攻撃を無効化する最後の切り札。
かがみはそれを応用し、解除時の衝撃で“糸”を弾いたのだ。
そして彼女の手に握られているのは聖剣。
魔力と引き換えに奇跡を起こす魔法の道具――宝具(ノウブルファンタズム)。
螺旋力は魔力に変換され、剣に光を宿していく。
それに対する奈緒達は天高く跳び上がったせいで、その破壊力と引き換えに機動性を失っている。
糸を吐こうにも届く範囲に建物が無い。
住宅街であるが故の敗因だった。
そしてそれが意味するのは逃れられない、ということ。
柊かがみの手に握られた剣は、文字通り少女に約束された勝利をもたらすだろう。
だがそれを前にしても恐ろしくはなかった。
それどころか“そういえばあの剣は金ぴかの彼女のモノだっけ”とか暢気なことを考えていた
思えばここの世界に召喚されてから、最初から最後まであの男に関連しっぱなしだったということになる。
でも、それは案外悪くないことのように思えた。
まぁ、不満なのは目の前の女に一度も勝てなかったことか。
だから最後の意地とばかりに真正面から睨みつけ、呟く。
「――地獄へ落ちろ、クソ女」
その呟きは誰の耳にも届くことなく、黄金の閃光にかき消された。
* * *
294
:
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◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:41:00 ID:Jb.F0qXc0
* * *
かがみの視線の先にあるのは大地に崩れ落ちたジュリアと奈緒の姿。
だがジュリアも足を数本寸断されただけで本体そのものはダメージがない。
奈緒本人にいたっては新たについた傷は無い。
そう、最後の瞬間、全てを切り裂くかに見えた極光は僅かにそれて、ジュリアの足を数本切断するだけに終わった。
その結果ジュリアそのものは無事だし、結城奈緒には怪我一つ無い。
その原因はかがみの姿を見れば明らかだ。
かがみの左肘から先が吹き飛んでいるのだから。
つまらなそうに腕を見ると、その傷をつけた相手を睨み返す。
「そっか、最初の場所に戻ってきたんだ……それに暫く起きれないと思ってたんだけど。
細く見えるのに案外丈夫なのね」
「……鍛えてるからな。それに、賞金稼ぎは体が資本なのさ」
その視線の先には超電導ライフルを片手で構えるスパイクの姿があった。
彼が目覚めたのはなんて事は無い偶然。
2人の少女の戦いのフィールドが一周して最初の場所に戻っていたことと、
少女の叫んだチャイルドの名が、決して忘れることの出来ない名前と同じだったというだけのこと。
「ねぇ、あなた自殺志願者? 手出ししなかったら見逃してあげてもよかったのに」
獲物を横取りされた形になったかがみのイラつきはレッドゾーンだ。
殺人衝動は限界を超え、誰かを殺さねば収まりそうに無いまでに膨れ上がっている。
スパイクの手にした銃は弾切れで、残りのマガジンは未だかがみのディパックの中。
得意のジークンドーも片腕が無い状態では目の前の化物には分が悪い。
容赦なく自分は殺され、その後に奈緒も殺される。
死体が一つ増えるだけの無駄な行為。そしてそれはスパイクにも分かっていたはずだ。
「……大人には責任って奴がある。
見捨てるわけにも、いかんだろ」
撃たれた左手を見下ろして、ため息をつく。
銃で撃たれたことは少ないとはいえ、もう既に再生は始まっている。
「それにしても……ワザと? だとしたら大バカ野郎よ?」
それなりの反動があるとはいえ、スパイクの腕ならばヘッドショットなど容易いはず。
そうだったとしてもバリアジャケットを解除している今のかがみなら、わざわざ手を撃たなくとも、大きい的である胴体を狙えばいい。
超電導ライフルの威力ならば、当たり所次第で頭部までダメージが行っていたはずだ。
それをしなかったのは一体――
295
:
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◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:42:32 ID:Jb.F0qXc0
「……ラブ&ピース、だとよ」
「はぁ?」
呆れるかがみを目の前にして、スパイクは大真面目にそんなことを呟く。
「あいつが……ヴァッシュが言ってたろ。そんなことをよ。
誰だって大人になるにつれて嫌なもんを見る。
そりゃそうだ。世の中は汚いモンだらけだ」
だがあの馬鹿は、人間台風は笑いながら向かった。
みんな笑おう、と。みんな助かろう、と。
いい年した大人が、大声で愛と平和を叫ぶ。
馬鹿だ。だがそれは心の隅でみんなが憧れたかっこいい馬鹿(ヒーロー)だ。
「あいつはそれを知ってて、それでも大声で“ラブ&ピース!!”って叫んでた。
だから、俺はこう考えちまったのさ。
あいつは世界が汚くても、それに何か匹敵するぐらい美しいものを見たんじゃねえか……ってな」
それは案外正解に近いんじゃないかと思えた。
うらぶれた汚いバーでスゲェイカすジャズを聴いたときのような、そんな感覚。
それがあれば、美しいものを信じれるような、何か。
「……でも、そのせいであんたは死ぬ。とんだ疫病神ね」
「そう言ってやるなよ。もしかしたらあいつは天使だったのかもしれないぜ」
スパイクはそう言って笑う。
皮肉げに、でも何処か満足そうに。
その顔を見てかがみはため息をつく。
「……冥土の土産に一つだけ教えてあげる。
この会場にもう一人、ヴァッシュ・ザ・スタンピードに負けず劣らずのバカがいたらしいわ。
もう死んだけど、誰かを救うことが正義と信じて貫こうとした男の子が、ね」
何だ、あのバカみたいなのがもう一人いたのか。
驚きとともに浮かぶのは笑い。
「ああ……そりゃあほんとに悪くねえな」
心の底から、そう思う。
さて、おしゃべりの時間はおしまいだ。
吹き飛ばされた左腕も何時の間にやら回復した。
さぁ、さっさと2人を始末して、ウルフウッドを探さないと。
――ザワリ
だがそのとき総毛立つ。背中に悪寒が走った。
反射的に振り向いたその先、ゆっくりと立ち上がる奈緒の姿があった。
* * *
296
:
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◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:43:20 ID:Jb.F0qXc0
……ざーざーと音がする。
壊れたテレビの音のようなそれが風の音だって気付いたのは偶然。
気付けばあたしは凄い嵐の中にいて
吹き飛ばされないように地面にしがみつくしかなかった。
存在すら消し飛ばれそうなその風の中で壁を見つけ、やっとの思いで後ろに回りこむ。
『なっさけないねぇ。こんぐらいの風で音を上げるなんてさ』
そう言って誰かが背後で笑う。
仕方ないじゃん。もともとそんなキャラじゃないし。
あたしさ、勝てない算段はしないの。
フツーそうでしょ? 頭使っても何してもダメなら逃げるしかないってば。
『ふーん、じゃ、あれ見てもそういえる訳?』
見上げればそこにあったのは2本の足。
そう、壁だと思っていたのは金ぴかの背中だったのだ。
逆風をものともせず、迷いの無い足取りで一歩、また一歩と足を進めていく。
その背中は広くて、あいつのアホみたいな性格を知っていたとしても魅せられることに納得してしまう。
あいつの言う臣下だったらそれで十分だったのかもしれない。
でも、あたしは不満だった。
その背中に邪魔されて、その先が見えないのだ。
金ぴかの見ている光景が今のあたしには見えない。
アイツが見ているものが、あたしには何も見えない。
アイツの隣に立たないと、あたしはアイツと対等になれない。
それは今のあたしにとってスゴい悔しいことだった。
『へー、じゃ、どうすんの?』
決まってる。さっさと立ち上がって、アイツの隣にさっさと並ぶ。
重い体を引き上げて、ゆっくりと立ち上がる。
ただそれだけで吹き飛ばされそうになるが、足を踏ん張って何とかこらえる。
背中に隠れた状態でこれだ。あの中へ踏み出したら一体どうなってしまうのか。
『何? ビビってんの?』
――まさか。ビビってるヒマなんてない。
あの王様は傲慢で我侭だから、こっちを振り返りもしない。
だから隣に立とうと思ったらもっと速く進まないと。もっと強くならないと。
そのためにはこんなところで足踏みしているヒマなんて……あるはずがない!
だから意を決して、嵐の中へ一歩踏み出した。
『そうそう、そのぐらいの方がいい女になれるもんさ……アタシみたいにさ』
おせっかいなその声は聴き覚えがあるような、聞き覚えが無いような不思議な声。
視界の隅にあのダサいバリアジャケットを着た少し年上の自分が笑っていたような気がしたけれど、それも風にかき消される。
声だけじゃない、姿も、痛みも、結城奈緒という存在が砕かれ、消えていく。
自分自身が粉々になりそうなほどの衝撃の果て。
僅かに開けた瞳が見たものは――二重の螺旋。
* * *
297
:
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◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:44:33 ID:Jb.F0qXc0
「……まだやる気? これ以上やるなら命の保障は出来ないわよ?」
それは脅しでも何でもない。純然たる事実だ。
さっきから殺人衝動は加速し、イラつきは限界を突破してしまいそうだ。
「……あの、隣に……」
だが奈緒の耳にその声は届いていない。
意識も朦朧としているのか意味の分からない言葉を呟いている。
どう見ても立っているだけで精一杯だ。
だが、だというのに背筋に走るこの悪寒は何だ。
うっすらと開かれた奈緒の両目に光る螺旋はより強く瞬き、螺旋の力は増大していく。
それこそ限界という名の天元を突破せんほどに。
ジュリアの姿が掻き消える。
だがそれは消滅ではない。
それは言うなれば命の脈打つ蛹への進化。更なる飛躍のための助走だ。
悪寒がする。二人分の力を併せ持つかがみですら恐怖する何かが起ころうとしている。
だが螺旋の力の恩恵を受けているかがみだからこそ、行動は迅速だった。
≪約束された勝利の剣≫に魔力を籠め、水平に構える。
自身を中心に放たれる円の一撃は確実に2人まとめて切り裂ける。
それを察したスパイクが動き始めるが距離的に間に合わない。
「“約束された(エクス)”――って、なっ!!?」
だが、横会から飛んできた火の弾が邪魔をした。
斬殺、撲殺、圧殺、射殺……いろいろな“殺され方”をしてきたが焼殺だけは未経験だ。
いつか何かのラノベで読んだ『焼け死ぬ苦しさ』という“知識”が、かがみを回避へと導いた。
その視界の隅で奈緒が膝から崩れ落ちた。
後一歩の処で体力の限界がきたのだろう。
だが今はそれに安堵するよりも、新しい“敵”に備えなければ。
炎、ということは舞衣が能力を取り戻したかと思ったが位置関係からしてありえない。
炎の着た方向に視線を走らせるとそこにいたのは口元から火をちらつかせる小さな生き物。
そして――
「かがみ……せんぱい……」
柊かがみの記憶に残る、か弱い少女の姿だった。
298
:
太陽がまた輝くとき
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:47:53 ID:Jb.F0qXc0
ゆたかが引き返したのは、歩き出した直後、北の方で大きな音がしたからだ。。
舞衣のことがどうしても心配になり、迷った末にUターンしたが消防車はもぬけの殻。
その直後、更に北で大きな物音がする。
それがあのDボゥイとシンヤの戦いを見ていたゆたかは悟る。
それが戦いの音である、と。
だが意を決してゆたかは戦いの最中へ足を進める。
もう二度とイリヤの時のようなことはイヤだったから。
最初はシンヤや最初に会った指を鳴らす人みたいに怖いくて強い人が暴れているのだろうとおもっていた。
だが遠目に見えたのは、探していた、結局最後まで残った知り合いの姿が暴れる姿だった。
そしてその場に辿り着いた先で見たのは倒れている女の子に向かって、光る剣を構える柊かがみの姿だった。
それが誤解であればかがみが何か申し開きをしてくれるはずだ。
だがかがみは気まずそうに視線を伏せただけ。
それでゆたかはかがみが何をしていたのか理解した。
だが何故、何で、どうして? その心は激しく動揺する。
「ゆたかちゃん……久しぶりね」
一方でかがみの心は落ち着きを取り戻していた。
その事実に自分でちょっとがっかりした。
“柊かがみ”はもう少し動揺するものだと思ってたから。
“不死身の柊かがみ”はどうやら心も化物に成り果てたらしい。
ゆたかちゃんはいま、どんな顔をしているのだろう。
やっぱり泣きそうな顔をしているのだろうか?
つかさに負けず劣らずの怖がりだもんね。
「……はい、お久しぶりです」
でも、帰ってきたのはしっかりとした返事。
思わず上げた顔に映ったのは強い意志を秘めた、顔。
そこで気付く。
驚きのせいか、いつの間にか殺人衝動は鳴りを潜めている。
ああ、都合がいい。
ゆたかちゃんを傷つけないうちにさっさとこの場を立ち去ろう。
299
:
太陽がまた輝くとき
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:48:22 ID:Jb.F0qXc0
「ど、どこへ行くんですか、かがみ先輩!」
慌てて止めようとするゆたかちゃん。
ああ、やっぱり理由を見せないと納得してくれないよね。
「ゆたかちゃん、私……こんなになっちゃった」
剣を振るい、ゆたかの目の前で腕を切り落としてみせる。
あまりの行動に目を見開くゆたかの前で、切り落とされた手はビデオの逆再生のように撒き戻されていく。
脅かすのはコレぐらいで十分か。あんまり怖がらせるのもいけないしディパックに剣をしまってしまおう。
「……わかったでしょ? もう私は化物で……元の世界に戻れないの。
でも安心して、ゆたかちゃんは何としても返してあげるから」
コレで終わり。
これだけやればゆたかちゃんだって納得して、怖がってくれるだろう。
だって誰だって化物には近づきたくないもの。
だがそんなかがみの思惑に反して、ゆたかはかがみに向かって一歩踏み出した。
そして、信じられないことを口にする。
「かがみ先輩――私、人を殺しました」
「え……」
一瞬、ゆたかが何を言ったのか理解できなかった。
それも当然だろう。
かがみの知るゆたかは人殺しとは一番遠い彼方にいるような娘なのだから。
先ほどとは比べ物にならないぐらい動揺するかがみを前に、ゆたかはまた一歩踏み出す。
「いろいろあって、全部がイヤになって……優しくしてくれた人を殺してしまいました」
そして一歩。
「そんな自分がイヤになってイヤになって……でも、そんな私を助けてくれた人がいるんです」
また一歩。
「だから……私決めたんです。罪を背負いながら、胸を張って生きようって」
言葉を発しながら、かがみに向かって歩みを進める。
「私の罪は絶対許されないけれど、それでも前に進もうって」
そして互いの手が届きあう距離で、なおもゆたかは言葉を紡ぐ。
「だから……帰ろう、かがみ先輩。あの世界に……あの場所に」
そしてゆたかはかがみに向かって小さなその手を差し出した。
その瞬間、かがみの両目から涙が溢れ出した。
ああ、ゆたかちゃんは本当に優しい子だ。
あの化物みたいな私を見ても、この娘はまだ私を“柊かがみ”だと言ってくれる。
知り合いの“柊かがみ”だと認めてくれている。
それは今のかがみにとって何よりも嬉しいことだった。
そしてその優しさは少女の決意を揺らしてしまう。
すべてを終わらせたあとはアルベルトの世界に行って、その遺志を継いでBF団に加入し、終わりの無い戦いに身を任せるつもりだった。
でも、元の世界に、あの優しい世界に帰れるとしたら?
こんなになってしまった自分を受け入れてくれるとしたら?
それは柊かがみが心のどこかで常に望んでいたこと。
弱い少女の心は、かすかに見えた希望に揺れる。
300
:
太陽がまた輝くとき
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:49:46 ID:Jb.F0qXc0
だが――
『そうそう都合のイイことがあるなんてよぉ……思って無いよなぁ?』
「え――」
その時、自分の中からあの声が響いてきた。
そういえば、さっきから妙に視界が広い。
ふと見下ろした足元に落ちているのは……衝撃のアルベルトのアイパッチ。
もしかして度重なる戦いの衝撃で落ちてしまったのか。
でも私は確かに制御できて――
『オイオイオイあんまりお兄さんを舐めちゃいけねぇなぁ……かがみちゃんよぉ!?』
その言葉どおり、さっきとは比べ物にならない殺意があふれ出す。
キャンバスに黒い絵の具をぶちまけたかのように、心が闇色へと一気に染め上げられていく。
「かがみ、せんぱい?」
心配そうな顔をしたゆたかが近づいてくる。
――ダメ、逃げて。
だが想いはむなしく、柊かがみの意思とは関係なく手が伸び、その白く細い首に手をかけた。
「かが……み……せんぱい……!?」
驚く少女を片手で吊り上げ、かがみは笑う。
「お前、死なないって思ったろ? 思ってたよなぁ?
知り合いに殺されるなんて……ちっとも考えてなかっただろ? なぁ、ゆたかちゃんよぉ?」
301
:
太陽がまた輝くとき
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:50:42 ID:Jb.F0qXc0
その時、少女の危機を察したフリードリヒが反射的にかがみに飛び掛る。
だがゆたかを盾代わりにするとその突撃が弱まる。
その隙にストレートを叩き込むと白い龍の小さな体は民家へと吸い込まれて行った。
「テメェっ!!」
スパイクも飛び掛る。
だがその体には確実に先程まで受け続けたダメージが蓄積され、精彩を欠いている。
そんな動きが殺人狂に通用するはずも無く、蹴り一つで吹き飛ばされてしまう。
そしてかがみはなおもその首を締め上げ続けながら、哂う。
「そうそう、そう言えば、お前タカヤくんの知り合いだったよな!
お前が死んだらタカヤくんはなんて思うだろーなぁ?
あ、やっべ! それすげぇ楽しそうじゃんかよ!」
ゆたかは朦朧とする意識の中でその声を聞き、一つの確信を得る。
――この人はかがみ先輩なんかじゃない。
確かに姿は同じだし、さっきまでは確かに柊かがみ先輩だった。
でも今は違う。
笑いながら、私の首を絞めているこの人はかがみ先輩なんかじゃない。
だってゆたかの知る柊かがみは優しくて頼りがいのある先輩だ。
笑いながら人を傷つける――そんな人を柊かがみと認めたくない、認めちゃいけない。
優しかった先輩は、お姉ちゃんが好きだったかがみ先輩は……そんな人じゃない!
「あな……た……は……ちが……う……。あな……たは、だ……れ?
かが……みせ……んぱいの……中に……いる……あな……た……は……だあ……れ……?」
だがその息も絶え絶えの問いかけに“かがみ”は不機嫌そうな表情を返す。
「オイオイ、問いかけだけで抵抗しねえのかよ?
じゃあ死ぬか? 悔やみながら! 絶望しながら! あのシンヤくんみたいによぉ!?」
「!!」
その名前に朦朧としていた意識が覚醒する。
『……すまない。本当に、すまない。
あの時俺がもっとうまく立ち回っていれば、彼を殺させずに済んだのかもしれない』
いつかの清麿の言葉がリフレインする。
そう、少女は知っている。あの人を。相羽シンヤを殺した人間の名を。
故に理解する。柊かがみの中にいるヒトの正体を。
302
:
太陽がまた輝くとき
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:54:35 ID:Jb.F0qXc0
「あ……あな……たが……ラッド……さん?」
やはり応えるように口の端を吊り上げる。
何故かは知らない。でも、かがみの中にラッドという殺人鬼がいるのだとゆたかは確信した。
怖い。怖い、怖い。首にかけられた手にゆっくりと力が加わって、迫り来る死を否応なく実感させる。
死ぬのは怖い。いつだって、どんな時だって。
でも、それでも……今、私には言わなきゃいけないことがある。
「ま……せ……」
「ん?」
何を言っているのか、と不思議そうに見上げた“かがみ”の瞳をしっかりと睨みつけ、
彼女は普段出さない大声を腹の底から張り上げる。
「あなたに……なんか……負けません! 私も……かがみ先輩も!」
それは、宣戦布告。
殺人狂を前にして、優しい彼女が今までもち得なかった獰猛な意志を用いて。
少女はラッドを“敵”として睨み付けた。
……少女はかつて求めた。
差し伸べた手を、振り払えるだけの強さを。
自分の力で立ち上がって、笑い返せるような強さを。
そうありたいと願ったから。そうありたいと誓ったから。
そして今、小早川ゆたかはもう一度立ち上がる。
差し伸べられた手を取らず、自分自身の2本の足だけで。
その両の瞳に燈るのは、今までよりも輝きを増す螺旋の光。
だが今の少女には力が無い。
スパイクやジンのような体術に優れているわけでも、奈緒のようにチャイルドを呼べるわけでもない。
そしてかつて素晴らしきヒィッツカラルドの腕を貫いたコアドリルもない。
だったら彼女の武器は何?
首に手をかけられて、それでも自分が出来ることは何?
そんなの、たった一つしかないじゃないか。
「負けないで、かがみ先輩……!」
そうだ。
何を迷っていたんだろう。
何を悲しんでいたんだろう。
前に自分でも言っていたじゃないか。
弱くて小さい“小早川ゆたか”が出来るのはたった一つ。
誰かを信じること、ただそれだけしか出来ないのだ。
それが私の持つ唯一の武器だったんじゃないのか。
少女が絶望の果てに得たのは、ただ、それだけだった。
303
:
太陽がまた輝くとき
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:56:21 ID:Jb.F0qXc0
「あーあ、つまんねえな、オイ」
そう言うかがみの目からは、表情とは無関係に涙が流れ出している。
それは柊かがみの必死の抵抗の証。
だがそれでもラッド・ルッソの狂った意志は強い。
殺人欲とでもいうべき嵐の前に小娘一人の意思は容赦なく叩き潰される。
「あぐっ……!?」
力が篭り、強く頚部を圧迫する。
今までゆたかの息が続いていたのは、“ラッド”が少女の抵抗を望み手加減をしていたからに他ならない。
それでも少女は生を諦めない。
かがみを信じると言った、その言葉に嘘にしたくないから。
でもスパイクも、ジンも、舞衣も、奈緒も倒れている。
その場の誰も動けない。だからここにあるのは一つの悲しい結末。
骨がミシリと音を立てて、無力で愚かな少女はその命を終える。
それは覆らない、誰も救えない悲しい結末
304
:
太陽がまた輝くとき
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:57:38 ID:Jb.F0qXc0
――はずだった。
「クエエエエエッ!!」
瓦礫の中から白い龍が弾丸のように飛び出さなければ、それは現実となっていただろう。
そうあの時の少女の声は瓦礫の中で気絶していた竜にも届いていたのだ。
そして目を覚ました竜が見たのは吊り上げられた少女の姿。
あの幼き主もこのような理不尽な暴力に晒され、死んだのか。
それはわからない。だが主の死を知り、檻の中で延々と暴れまわっていた時とは違う。
今は抗えば届くのだ。そのことを思えば――これしきの痛みなど何するものか!!
飛び出したフリードリヒは左腕に噛み付き、そのまま全力を持って噛み千切る。
すぐに再生されるとはいえ、腕は落ち、少女は暴力から解放された。
「ガフッ、ゲホッ、エホッ……」
開放されたゆたかは激しくえづく。
だがその苦しさも、痛みも、すべては生きているから。
すんでの所で一命を取り留めたゆたかを守るように、小さな使役竜は翼を広げ、最大級の威嚇を行う。
もう二度と失いたくないと願うが故に、小さな龍は怒りを露にする!
だがその抵抗こそかがみの中の“ラッド”の望むもの。
千切れた腕がくっついたのを確認しながら、白い龍を敵と認めて一歩前に踏み出した。
「――刺し穿つ(ゲイ)」
だが更に響いた声は民家から。
赤い槍を携えて飛び出した少女は一直線に殺人鬼を狙う!
「死棘の槍(ボルグ)!!」
それは英雄クー・フーリンの宝具である因果逆転の槍。
制限下のここでは精々たった一回、槍の軌道を変化させる程度の力しか持たない。
でも、それで十分。このタイミングなら確実に心臓を貫ける。
だが不死者は心臓を貫かれても――死ねない。
「オイオイオイ、この程度で“殺った!”なんて自惚れてんじゃ――」
どすりと言う肉を突き破る感触が、かがみの体と舞衣の両手に伝わる。
一瞬かがみの目から光が消える。
だがそんなことは舞衣にだって分かっている。
だからこそ舞衣も思いきり真名を叫ぶことが出来たのだ。
そして身長157cmの鴇羽舞衣の体重をかけた一突きは、163cmと大して体格の変わらない柊かがみの体を吹き飛ばす。
吹き飛ばされたかがみの体は地面を無様に転がっていく。
だが――それでもかがみは笑っていた。
ああ、テンションがイイ感じに上がってきた。
思い上がったやつを殺すのもいいが、必死に抵抗するやつを殺すのもそれはそれで趣がある。
瞬時に甦り、再び意識が戻る。
再生と共に体外に排出されていく槍を掴み、なおもかがみは笑い声を上げる。
305
:
太陽がまた輝くとき
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 00:59:07 ID:Jb.F0qXc0
「おもしれえ! やっぱ面白れえよお前ら!
だからよ、全員徹底的に殺して――」
「悪いけど、そうはさせないよ」
だが、赤い槍は誰の持ち物だったか。
それを知っていれば自然とあの男も意識を取り戻しているということに思い当たれただろう。
舞衣は役目を果たした。注意をそらすための囮という役目を。
赤い魔槍は確実に心臓を貫いた。
その瞬間、一瞬といえど、確かにかがみは死んでいた。
不死者といえど、即死すれば復活するまでに僅かなタイムラグが存在する。
それは本当に僅かな時間だが、……回避の時間を奪うには十分な時間であった。
「さぁもう朝だ! 悪霊はお休みの時間だぜ、ラッド!」
不意を突いて放たれた夜刀神。
それは如何に殺人狂と言えどかわしきれず、あっさりとかがみの右目に付き刺さる。
しかし柊かがみは刃物による瞳への攻撃などもう何回も受けた。
ダメージもほとんどなく瞬時に再生される。
だが、
「あ―――」
かがみの動きが止まる。
片目を潰された状態は、言い換えるなら視界を半分ふさがれた状態。
そう、それは眼帯をつけたのと同じ視界になることを意味する。
ジンはさっきの行動だけで。眼帯の付けはずしがスイッチになっていることを見破った。
故にその目を狙った。ゆたかの言うとおり“かがみ”という少女の意思にかけて。
そして必死で抵抗していたかがみは一瞬だけ表に出れる。
だが一瞬で十分。落ちていたアイパッチを拾い、慌てて片目に取り付ける。
だが正気に戻ろうとしたことは、罪を突きつけられることと同義。
その手に残るのは守るべきはずの少女の命を奪おうとした最悪の、感触。
「い……やあああああああああああああああっ!!?」
そしてかがみは絶叫を残し、後にした。
少し前のゆたかのように、罪から逃げるようにして。
「まっ…エホッ…て、かが……み…ケホッ…せんぱ……」
咳き込みながら手を伸ばすが届かない。
ローラーブーツをはいた少女はスピードを上げて視界から消えていく。
ただ、それでも、叫ばなければいけない言葉があった。
「かがみ先輩、必ず、助けます! だから……待ってて! 一緒に……一緒に帰ろう!」
方法も、何も分からないけれど。助けるって、そう決めたから。
その声が届いたかはわからない。それでもゆたかは確かに叫んだ。
そしてなけなしの酸素を吐き出した小さな体は崩れ落ち、だが、やさしく受け止められる。
306
:
太陽がまた輝くとき
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 01:00:04 ID:Jb.F0qXc0
「ゆたか、大丈夫!?」
覗き込むのは新しい友達である鴇羽舞衣。
心配そうな顔に、精一杯の笑顔で無事を伝える。
「どうやら……そっちも大丈夫みたいだね。こっちの彼女も大丈夫みたいだ」
気絶した奈緒を抱えてジンがやってくる。
だが抱えられた少女を見て、舞衣は驚きを隠せない。
「結城さん!」
「舞衣おねーさんの知り合い?
ああ、大丈夫だよ。ボロボロだけど命に別状は無いみたいだ。
それにしてもタフだね」
「タフなのはお前も一緒だろうが、ジン。
ったくどいつもこいつもガキの癖して……ダメージ慣れしてやがるぜ、ホント」
地面に倒れていたスパイクも腹を押さえながら、やってくる。
舞衣が、スパイクが、ジンが、ゆたかの元へと集う。
抱えられた奈緒を含めて、全員がボロボロで、でも確かに生きている。
「さて、これからどうする?」
「とりあえず休憩を取らんといかんだろ。
そこのガキも、全員細かい傷があるみたいだしな。色々考えることはあるが……全部はそれからだ」
そしてこんな状況でも動こうとしている。
ここから脱出するために。
そう、まるであの人たちみたいに。
「皆さん……お願いがあるんです」
全員の視線がゆたかに集う。
明智さん、ねねね先生、清麿君、私は償う方法を知りません。
だから――
「私は弱くて、何の力もありません。何も出来ません」
受け継ぎます。その戦い方を。
「でも、この戦いを止めたい。みんなで帰りたい……」
受け継ぎます。その強い心を。
「だから力を……貸してください。お願いします」
弱い私はこんな方法でしか、返せそうにないです。
だから見ていてください。
わたしが地獄に落ちちゃうその時まで。
307
:
太陽がまた輝くとき
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 01:01:55 ID:Jb.F0qXc0
だからゆたかは頭を下げる。
他に方法を知らないから。
そしてそのまま数秒がたって答えが無いのを不安に思ったゆたかは頭を上げる。
そこにあったのは三者三様の、笑顔。
「そんなの、当然でしょ?
言ったでしょ、私たちは生きるって決めたんだから」
舞衣が満面の笑みで応える。
「螺旋王御退位記念パーティーの参加者は随時受付中さ」
ジンがおどけたような笑顔で応える。
「そうだな、螺旋王様にはジェットの分とエドの分、リードマンの分、カレンの分……
何より俺の腕のツケを纏めて払ってもらわなけりゃいけないからな」
スパイクが落ち着いた笑みで応える。
「クェ!」
最後にフリードリヒが存在を主張するように声を上げる。
その優しさにゆたかの心は満たされ、涙が溢れそうになる。
でも少し涙をこらえて、ちょっとわがままを言うことにした。
そして今から付け足すのは、ゆたかにとって大事なわがまま。
「それと……わたしはかがみ先輩を助けたいんです。
あつかましいお願いだってことは分かってます
でも……」
ゆたかは知っている。
ここにいる全員がボロボロなのはさっき、かがみ先輩にやられたから。
だから本来なら頼めた義理じゃないことも分かっている。
でも、それでも、
――みんなで、帰りたい
それがゆたかが手に入れた、たった一つの確かな願いだから。
そのために柊かがみは外すことの出来ないピースだから。
だからまた頭を下げようとして、優しい手に、邪魔される。
「わかってる――かがみさんを、助けましょ?」
「俺としちゃ、色々複雑なんだがな……」
「そう言うなってスパイク。“ラブ&ピース”の言葉が泣くぜ?」
308
:
太陽がまた輝くとき
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 01:02:45 ID:Jb.F0qXc0
ラブ&ピース。愛と平和。
この血なまぐさい場所ではきっと横滑りしてしまうもの。
でも私はそれを信じたい。
それはきっとこの人たちも――
「あ……」
そして舞衣ちゃんが声を上げる。
その目が向かう先にあったのは朝日の姿。東の地平線から朝日が昇る。
ああ、人の心と同じだ。
どれだけ暗い闇だって、きっと朝は来る。
今ならそう信じることが出来る。
だから私たちは誰も何も言わずにその光景を見ていた。
その光がとても得がたい物だって、みんな知っていたから。
……そのままどれだけの時間そうしていただろう。
実際は数分も無かったに違いないけれど、スパイクさんが思い出したように『あ』と声を上げた。
「? どうしたんですかスパイクさん」
「いや、ちょっと頼まれごとをしていたのを思い出してな。
誰かDボゥイってヤツの居場所を知らないか?」
「「Dボゥイ(さん)!?」」
自分と同時に声を上げたのはさっき出来たばかりの新しい友達。
もう一人の恋する乙女。
「「え……?」」
互いに絡み合う視線。
そして瞬時に2人の乙女は理解する。
自分と、想い人と、新しく出来た友人の立ち位置を。
三角関係(エターナル・トライアングル)。
嗚呼、それは乙女の、一大事。
309
:
太陽がまた輝くとき
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 01:03:30 ID:Jb.F0qXc0
【C-5/住宅街/二日目/早朝】
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:発熱(中)、疲労(大)、心労(中)、罪悪感、螺旋力覚醒
[装備]:フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]
基本-みんなで帰る
0:舞衣ちゃん、もしかして……
1:Dボゥイのところへ戻る
2:かがみをラッドから助け出す
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※再び螺旋力が表に出てきました。
※刑務所にいた面々(明智、清麿、ねねね)を自分が殺してしまったと考えています。
※Dボゥイの肉体崩壊の可能性に気がつきました。
※舞衣との会話を通じて、少し罪悪感が晴れました。
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)、全身に切り傷
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING(刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式
予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、
短剣 、瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4
ナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)、偽・螺旋剣@Fate/stay night
デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7、ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
0:とりあえずこの場にいる全員と情報交換(特にゆたかと)
1:ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
2:ニアに疑心暗鬼。
3:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
4:マタタビ殺害事件の真相について考える。
5:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※スパイクからルルーシュの能力に関する仮説を聞きました。何か起こるまで他言するつもりはありません。
※スパイクからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。今の所、他言するつもりはありません。
※ルルーシュがマタタビ殺害事件の黒幕かどうかについては、あくまで可能性の一つだというスタンスです。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※舞衣と情報交換を行いました
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、シーツを体に巻きつけただけの服、引っ張られた頬、首輪なし、全身に軽い切り傷
[装備]:薄手のシーツ、 ゲイボルク@Fate/stay night
[道具]:なし
[思考]:
0:ゆたかってもしかして……
1:Dボゥイに会いたい。
[備考]
※HiMEの能力の一切を失いました。現状ただの女の子です。
※静留がHiMEだったと知っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※ギアスの効果は切れた模様です。
※螺旋力覚醒
※ジンと情報交換を行いました
310
:
太陽がまた輝くとき
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 01:04:01 ID:Jb.F0qXc0
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(大)、心労(大)、左腕から手の先が欠損(止血の応急手当はしましたが、再び出血する可能性があります)
左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし) 、腹部に未だ激しい痛み
[装備]:ジェリコ941改(残弾3/16)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×2欠損)ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)
スコップ、ライター、ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、太陽石&風水羅盤@カウボーイビバップ、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、防弾チョッキ(耐久力減少、血糊付着)@現実
日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、レーダー(破損)@アニロワオリジナル
ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム、高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿、
水上オートバイ、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)
[思考]
0:……何やってんだ、あいつは
1:とりあえず情報交換を行う。
2:ウルフウッドを探す(見つけたあとどうするかは保留)
3:カミナを探し、その後、図書館を目指す。
4:ルルーシュと合流した場合、警戒しつつも守りきる。
5:テッククリスタルは入手したが、かがみが持ってたことに疑問。対処法は状況次第。
6:全部が終わったら死んだ仲間たちの墓を立てて、そこに酒をかける。
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。 会場のループについても認識しています。
※ドモン、Dボゥイ(これまでの顛末とラダムも含む)、ヴァッシュ、ウルフウッドと情報交換を行いました。
※カグツチと清姫は見ていますが、静留が近くにいるかどうかについては半信半疑です。
※シータの情報は『ウルフウッドに襲われるまで』と『ロボットに出会ってから』の間が抜けています。
※シータのロボットは飛行、レーザービーム機能持ちであることを確認。
【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:気絶、疲労(特大)、右手打撲、左手に亀裂骨折、力が入らない、全身に打撲、顔面が腫れ上がっている、
左頬骨骨折、鼻骨骨折、更に更にかがみにトラウマ (少し乗り越えた)
[装備]:無し
[道具]:黄金の鎧の欠片@Fate/stay night
[思考]
基本方針:とりあえず死なないように行動。
0:……
1:刑務所へ向かう予定だが、黒い球体の正体がわからないので、いつ行こうかちょっと迷ってる。
2:かがみを乗り越える
3:静留の動きには警戒しておく。
[備考]:
※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
※ドモンと情報交換済み。ガンダムについての情報をドモンから得ました。
※第2、4回放送はドモンと情報交換したので知っています。
※奈緒のバリアジャケットは《破絃の尖晶石》ジュリエット・ナオ・チャン@舞-乙HiME。飛行可能。
※不死者についての知識を得ています。
※ヴァルセーレの剣で攻撃を受けたため、両手の利きが悪くなっています。回復時期は未定です。
※かがみへのトラウマをわずかに乗り越えました
シェスカの全蔵書(数冊程度)@鋼の錬金術師、 奈緒が集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』
、『君は僕を知っている』) 、黄金の鎧の欠片@Fate/stay nightが【C-5】のどこかに撒き散らされています。
311
:
アンラッキー・スター
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 01:07:00 ID:Jb.F0qXc0
「はぁ、はぁ……はぁ!」
全力で突っ走ったせいで息が切れている。
でもそんなのは関係ない。今は少しでも遠くへ逃げたかった。
少しでも止まれば、恐怖に、罪に押しつぶされてしまうような気がして。
今の彼女の心の中にあるのは唯一つ――恐怖のみであった。
かつて少女は“不死身の柊かがみ”というという名の仮面をかぶることで己の弱さを覆い隠していた。
“柊かがみ”には出来なくとも“不死身の柊かがみ”にはできる、という風に。
そしてすぐ傍にはいつだってその“不死身の柊かがみ”を肯定してくれる男の姿があった。
だけど仮面はいつの間にか、外れなくなっていて顔そのものになっていた。
『貴様はもはや人間ではない』
いつぞやのアルベルトの言葉が真実味を持って襲い掛かる。
人を殺す……アルベルトを手にかけた今のかがみは知っている。
それは辛く、悲しいことだ。
『だから……帰ろうかがみ先輩。あの世界に……あの場所に』
優しいゆたかが何故、どのようにして人を殺してしまったのか。
かがみにはその光景が想像できないが、その目は決して嘘を言っているようには思えなかった。
そう、それでもそれでも少女は変わっていなかった……いや、むしろ強くさえなっていた。
だというのに私はどうだ?
力を制御し切れず、あまつさえ手にかけようとした。
最後に残った“柊かがみ”の知り合いを――
「いやああああああっ!!」
目の前に現れた川で手の皮がむけるほどに洗うが、人の首を絞めた感触は消えてくれない。
そして水面に映るのは髪を一つに纏めた少女の姿。
トレードマークだった二つ結びはなく、眼帯をつけたその姿はまるで別人みたい。
肉体は死ぬに死ねない不死身に成り果てて、目的のために人としての正義にも目を瞑り、そして守るべき少女も手にかけそうになった。
そんな存在は“柊かがみ”であるはずもなく、かと言って“ラッド・ルッソ”では足り得ない。
だったら“私”は何処にいるの? 『不死身の柊かがみ』は一体何なのだろう?
そしてそれより恐ろしいのは……あの殺意は、知り合いの少女に向けたあの殺意は一体誰のものだろう?
……1930年代のアメリカを血と暴力に塗れて生きた男と、2000年代の日本を平穏に生きた少女の世界は違いすぎる。
それらはそれらと絡み合う感情も同等だ。
だから乗っ取られることはあっても、滅多なことでは混じりえない。
だが皮肉にもそれは“不死身の柊かがみ”という中間点を見つけることで、その境目を曖昧にした。
水と油に石鹸水をたらせば混ざり合ってしまうように、2つの異なる精神はゆっくりと混ざり合っていった。
だから“不死身の柊かがみ”にはわからない。
あの時ゆたかに向けた殺意がラッドのものなのか、それとも自分のものなのか、が。
以前の私なら『違う!』と言えた筈なのに、確固たる自信がもてない。
わからない。わからない。“私”と“俺”の微妙なラインがわからない。
泥沼の上に浮かべた板の上に立っているかのように、なんて不安定で無様な自分。
312
:
アンラッキー・スター
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 01:07:53 ID:Jb.F0qXc0
そして分けられていたはずの記憶も感情に引き摺られ、どんどん混ざり合っていく。
血と暴力に溺れた記憶がある。平穏に満ちた記憶がある。
分解狂の弟分がいた気がする。何でも知っている眼鏡の友人がいた気がする。
愛する死にたがりの婚約者がいた気がする。ちょっとおかしなオタクの友人がいた気がする。
人間の小さい叔父がいた気がする。優しい父と母と姉と、大切な妹がいた気がする。
あのスーツの男は敵だったか? 師と呼んでもいい男だったか?
そのどちらもが本当で、そのどちらもが違う気がする。
大丈夫だと思ったはずなのに、もう大丈夫だと思ったはずなのに。
ああ、“柊かがみ”が消えていく。
そしてもう確固たる“不死身の柊かがみ”という仮面を肯定してくれる、厳しく優しい男もいないのだ。
――かがみは想像する。
螺旋王を喰らい、全てが元に戻った世界。
殺し合いも無い、平和な日常がただ過ぎ行くだけの世界。
だがその光景を見て“不死身の柊かがみ”は殺意を抱くのではないだろうか?
誰しもが、自分の死を想像していない。
誰しもが、平和な日常が続くと思っている。
それがきっと“不死身の柊かがみ”には許せなくなる。
だから殺す。
父も。母も。2人の姉も大事な妹も。
あれだけ死を嘆いた友人も。
元の世界にいる友人たちも。
クラスメイトも。先生も。見知らぬ通りすがりの人々も。
男も。女も。子供も。老人も。
殺す。
殺す。殺す。
殺す。殺す。殺す。
殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。
殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。
殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。
殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。
殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。
そして無数の死体の頂に立つのは、血塗れで笑う、自分。
「う……えええええええええ」
最悪の想像に胃の中のものを戻してしまう。
そして制御できない衝動は暴発する銃と同じ。
それは組織には不要な力。
BF団だって、それはきっと同じこと。
313
:
アンラッキー・スター
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 01:08:20 ID:Jb.F0qXc0
元の世界にも戻れない。
新しい神にもなれはしない。
アルベルトの遺志すら――継ぐことも出来ない。
“不死身の柊かがみ”にはもうどこにも行く場所が――ない。
「う……う……あああああ……」
少女は絶望に膝をつき、その場に泣き崩れた。
――ごめんなさい、ゆたかちゃん
――あなたは信じてくれると言ったけれど
――“柊かがみ”はこんなにも弱かった。
……そしてそのまま、かがみはただひたすらに泣いた。
子供のように。恥も外聞もなく。
無駄だと分かっていても、体中のラッドが流れ出せばいいと願って。
――だから気付かない。自分に接近してくる影があることに。
「おい、大丈夫か!」
振り返った先にいたのは全身傷だらけの赤いジャンパーの男。
その男を“私”は知らない。でも確かに識っている。
だって俺(わたし)が殺したのだから、彼の弟を。
「相羽……タカヤ……」
行き場を失った感情は思わずその名を口にする。
だがDボゥイは呼ばれた名前に身を硬くする。
誰も知らないはずのその名を呼ばれたことに驚き、そして同時に警戒の色を露にする。
「何故……俺の名前を知っている!」
頭の中はぐしゃぐしゃで、口を開けば何を言い出すか、自分でもわからない。
それでもかがみは口を開く。
そして、その口から放たれた言葉は――
314
:
アンラッキー・スター
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/11(水) 01:08:39 ID:Jb.F0qXc0
【D-6/河原/二日目/早朝】
【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、髪留め無し、混乱中、螺旋力覚醒(ラッドの分もプラス)
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、コスプレ衣装(涼宮ハルヒ)@らき☆すた
衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、ぼろぼろのつかさのスカーフ@らき☆すた、
雷泥のローラースケート@トライガン、バリアジャケット
[道具]:デイバッグ×14(支給品一式×14[うち一つ食料なし、食料×5 消費/水入りペットボトル×2消費])、
【武器】
王の財宝@Fate/stay night、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、
【特殊な道具】
オドラデクエンジン@王ドロボウJING、緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、
サングラス@カウボーイビバップ、アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、赤絵の具@王ドロボウJING
マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル
首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)、首輪(クアットロ)
【通常の道具】
シガレットケースと葉巻(葉巻-1本)、ボイスレコーダー、防水性の紙×10、暗視双眼鏡、
【その他】
がらくた×3、柊かがみの靴、破れたチャイナ服、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)、ガンメンの設計図まとめ、
壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[思考]
0:混乱中
[備考]:
※ボイスレコーダーには、なつきによるドモン(チェス)への伝言が記録されています。
※会場端のワープを認識。
※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました。
※ラッド・ルッソの力を開放することに恐怖を覚えました。
※ラッドの知識により、不死者の再生力への制限に思い当たりました。
※本人の意思とは無関係にギルガメッシュ、Dボゥイ、舞衣に強い殺意を抱いています。
※『自分が死なない』に類する台詞を聞いたとき、非常に強い殺意が湧き上がります。抑え切れない可能性があります。
※かがみのバリアジャケットは『ラッドのアルカトラズスタイル(青い囚人服+義手状の鋼鉄製左篭手)』です。
2ndフォームは『黒を基調としたゴシックロリータ風の衣裳です』 その下に最後の予備の服を着用しています。
※王の財宝@Fate/stay nightは、空間からバッグの中身を飛び出させる能力(ギルとアルベルトに関係あり?)、と認識。
※シータのロボットは飛行機能持ちであることを確認。またレーザービーム機能についても目視したようです。
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:一部内臓損傷、背中に傷(炎による止血済み・応急処置済、火傷とバイクの破片は抜いた。)
左肩から背中の中心までに裂傷・右肩に刺し傷・背中一面に深い擦り傷(全て傷跡のみ)
ブラッディアイ使用による副作用(詳しい症状は不明)肉体崩壊(進行率13%)
[装備]:なし
[道具]:デイバック、支給品一式、ブラッディアイ(残量60%)@カウボーイビバップ
[思考]
0:目の前の少女(かがみ)に対処する
1:舞衣が過ちを犯す前に止める。だが……
2:テッククリスタルをなんとしても手に入れる。
3:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない。
4:煙草を探す
5:首輪を外す手段を模索する
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています。
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました。
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能です。またその事を認識しています。
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※包帯を使って応急処置を施しました。
※ラッドに対する深い憎しみが刻まれました。
※螺旋力覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
※ラダムに対する憎しみを再認識しました
※スパイクと出会った参加者の情報を交換しました。会場のループについても認識しています。
※ブラッディアイは使えば使うほど効果時間が減少し、中毒症状も進行します。
※肉体崩壊が始まりました、本人も少しだけ違和感を感じました
※フリードリヒに対して同属意識。
315
:
たたかう十六歳(^^;) 修正
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/12(木) 07:26:20 ID:mbroZ4es0
>>264
と差し替え
本来ならばジンはスパイクの待つ卸売り市場に向かうつもりであった。
その決断を変えたのは目の前でギルガメッシュが放った赤い閃光。
容赦も何も無い赤い嵐は全てを砕き、破砕した。
それはいい。そのあり方ががギルガメッシュの王道だというのなら、ジンには止める理由も何も無い。
だが、その矛先にあったものが問題だったのである。
(あの光は……病院を貫いた?)
総合病院、それは今から約14時間前、ジンが清麿と別れた場所。
清麿と分かれて半日以上、いつまでもそこにいるとは思っていないが、それでも可能性はゼロではない。
清麿はこの狂った宴を楽しいパーティに変えるには必要不可欠の人材だ。
それに……何より信頼できるパートナーでもある。
だから彼の元へ向かった。彼の無事を確かめるために。
だが……病院跡に到着したジンは理解した。
例え清麿がこの場所にいたとしても、自分はそれを確認できないだろうと言うことを。
そこにあったのは半壊全壊なんていうレベルじゃない……消えて滅する“消滅”、そのものだった。
だから物音を聞きつけた先で女の子が倒れていることに驚いた。
彼女も病院を目指していたのなら、自分の知らない何かを知っているかもしれない。
例えば――自分が別れてからの清麿の動向なんかを。
そう決意した後のジンの行動は迅速だった。
少女を守るように威嚇するドラゴンの子供に敵意が無いことを何とか伝え、
ドラゴンを肩に、少女を抱えて消防車まで連れて行き、
驚く舞衣にゆたかを介抱させ、自分は龍の傷を治療する。
そして今現在、少女は濡れた布切れを額に当てて、後部座席にもたれかかっている。
(さて、何でもいいから情報が欲しいところだけど……)
だが少女は明らかに疲労困憊。
濡れたタオルを額に当てているとはいえ、無理をさせるわけにもいかない。
だからとりあえず気になっていることを訊くとしよう。
それ以外は一休みしてからでも構わない。
316
:
太陽がまた輝くとき 修正
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/12(木) 07:26:58 ID:mbroZ4es0
>>304
差し替え
――そのはずだった。
「クエエエエエッ!!」
瓦礫の中から白い龍が弾丸のように飛び出さなければ、それは現実となっていただろう。
そう、あの時の少女の声は瓦礫の中で気絶していた竜にも届いていたのだ。
そして目を覚ました竜が見たのは吊り上げられた少女の姿。
あの幼き主もこのような理不尽な暴力に晒され、死んだのか。
それはわからない。だが主の死を知り、檻の中で延々と暴れまわっていた時とは違う。
今は抗えば届くのだ。そのことを思えば――これしきの痛みなど何するものか!!
飛び出したフリードリヒは左腕に噛み付き、そのまま全力を持って噛み千切る。
すぐに再生されるとはいえ、腕は落ち、少女は暴力から解放された。
「ガフッ、ゲホッ、エホッ……」
開放されたゆたかは激しくえづく。
だがその苦しさも、痛みも、すべては生きているから。
竜は守った。今度こそ、小早川ゆたかという命を。
そしてその命を守るように、小さな使役竜は翼を広げ、最大級の威嚇を行う。
もう二度と失いたくないと願うが故に、小さな龍は怒りを露にする!
だがその抵抗こそかがみの中の“ラッド”の望むもの。
千切れた腕がくっついたのを確認しながら、白い龍を敵と認めて一歩前に踏み出した。
「うああああああああっ!!」
だが更に響いた声は民家の中から。
シーツを巻き直した少女が槍を携え、殺人鬼に向けて一直線に飛び出す!
舞衣が持つのは英雄クー・フーリンの宝具である因果逆転の槍。
だが制限下のここでは精々たった一回、槍の軌道を変化させる程度の力しか持たない。
故にそれでは届かない。
螺旋力で向上した身体能力と殺人狂の技を併せ持つ、“不死身の柊かがみ”には届かない。
だが、
「――刺し穿つ(ゲイ)」
その殺意をすべて目の前のフリードリヒに注いでいる今ならば話は別だ。
制限がかかっているとはいえ、槍の力は呪いの領域にまで達している自動追尾!
「死棘の槍(ボルグ)!!」
真名開放と共に放たれる突きは、直角の起動を持ってその肉体に突き刺さる。
どすりと言う肉を突き破る感触が、かがみの体と舞衣の両手に伝わる。
真紅の槍は深々とその腹部に突き刺さり、どう見ても重傷だ。
だが――その一撃を見て、“不死身の柊かがみ”は哂う。
「オイオイオイ、この程度で“殺った!”なんて自惚れてんじゃねえだろうな――舞衣ちゃんよぉ!?」
そう、普通の人間なら重症――だが不死者は制限下においても驚異的な再生力を持つ
即死でなければ傷は巻き戻る。
不死者を殺すには頭か心臓かを破壊するしかない。
「思ってるわけ、無いでしょ!!」
だが、そんなことは舞衣にだって分かっている。
身長157cmの鴇羽舞衣の体重をかけた一突きは、163cmと大して体格の変わらない柊かがみの体を宙に浮かせる。
そして吹き飛ばされたかがみの体は地面を無様に転がっていく。
だが――それでもかがみは笑っていた。
ああ、テンションがイイ感じに上がってきた。
思い上がったやつを殺すのもいいが、必死に抵抗するやつを殺すのもそれはそれで趣がある。
瞬時に甦り、再び意識が戻る。
再生と共に体外に排出されていく槍を掴み、なおも“かがみ”は笑い声を上げる。
317
:
太陽がまた輝くとき 修正
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/12(木) 07:27:25 ID:mbroZ4es0
>>305
差し替え
「おもしれえ! やっぱ面白れえよお前ら!
だからよ、全員徹底的に殺して――」
「悪いけど、そうはさせないよ」
だが、赤い槍は誰の持ち物だったか。
それを知っていれば自然とあの男も意識を取り戻しているということに思い当たれただろう。
舞衣は役目を果たした。注意をそらすための囮の役目、そして体勢を崩すと先駆けの役目を。
「さぁもう朝だ! 悪霊はお休みの時間だぜ、ラッド!」
不意を突いて放たれた夜刀神。
舞衣の一撃で体勢を崩した状態ではいかな殺人狂と言えどかわしきれるものではない。
黒い刃は吸い込まれるように、あっさりとかがみの右目に付き刺さる。
しかし柊かがみは刃物による瞳への攻撃などもう何回も受けた。
ダメージもほとんどなく瞬時に再生される。
だが、
「あ―――」
かがみの動きが止まる。
片目を潰された状態は、言い換えるなら視界を半分ふさがれた状態。
そう、それは眼帯をつけたのと同じ視界になることを意味する。
ジンはさっきの行動だけで。眼帯の付けはずしがスイッチになっていることを見破った。
故にその目を狙った。ゆたかの言うとおり“かがみ”という少女の意思にかけて。
そして必死で抵抗していたかがみは一瞬だけ表に出れる。
だが一瞬で十分。落ちていたアイパッチを拾い、慌てて片目に取り付ける。
だが正気に戻ろうとしたことは、罪を突きつけられることと同義。
その手に残るのは守るべきはずの少女の命を奪おうとした最悪の、感触。
「い……やあああああああああああああああっ!!?」
そしてかがみは絶叫を残し、後にした。
少し前のゆたかのように、罪から逃げるようにして。
「まっ…エホッ…て、かが……み…ケホッ…せんぱ……」
咳き込みながら手を伸ばすが届かない。
ローラーブーツをはいた少女はスピードを上げて視界から消えていく。
ただ、それでも、叫ばなければいけない言葉があった。
「かがみ先輩、必ず、助けます! だから……待ってて! 一緒に……一緒に帰ろう!」
方法も、何も分からないけれど。助けるって、そう決めたから。
その声が届いたかはわからない。それでもゆたかは確かに叫んだ。
そしてなけなしの酸素を吐き出した小さな体は崩れ落ち、だが、やさしく受け止められる。
318
:
SPIRAL ALIVE 修正版>>217差し替え
◆wYjszMXgAo
:2008/06/12(木) 21:04:41 ID:3qKIkKPo0
――――これは、箱庭の中には決して知らされぬ者たちの物語である。
何処とも知れぬ暗闇がある。
――――星々の大海。
無数の煌きが闇を彩り、闇の中にもまた明暗が存在している。
決して瞬かない星の群れは、その空間を中心としてゆっくりと全天を回り続けていた。
幾つも幾つも偏在する銀河。
融合や離散を繰り返し、時には縮合して黒い空間、特異点となるのも眼に見える光景となって蠢き続ける。
単に作り物というだけなのか、時間の進みが異常なのか。
それすらも判然としない光と闇の中。
その中に、彼は浮かんでいた。
いや、彼だけではない。周囲には幾つもの人影がある。
彼と同様に、“呼ばれた”者達だろう。
思い思いの時間を過ごす彼らではあるが、しかし誰もが着目しているモノがある。
――――彼らが望めば眼前に展開されるウィンドウの内部。
表示される映像は、螺旋の王の推し進める実験の光景だ。
その一部始終を見終えて、彼は誰にともなく――――、いや、此処にも何処にもいない誰かに向かって話しかける。
「――――君が死んだとは、なあ。いや、ある意味当然といえば当然か……」
呆れるような、哀しむような、怒りを滾らせるような。
そのいずれでもありそれ以外の何かでさえもある表情を浮かべ、刃物の様な目をした青年は、虚空を見続ける。
「……最初から最期まで人間を守るなんて下らないことを言い続けた、その結末がこれか。
……なあおい、馬鹿だろう君は。それもあんな糞餓鬼に舐められたままでだ。
ああ、……つくづく救えない奴だよ」
目を細め、忌々しげに。
呟く言葉からは余計な力は感じられず、それ故にあまりに自然な殺気に満ち満ちていた。
「だから言ったんだ、人間なんかに入れ込みやがって。
だがな、……それでも僕は君の兄だ。
――――弟を殺した連中を潰すのに躊躇いはない」
それきり彼は黙り込み、しばし沈黙が辺りを支配する。
長いような短いような静寂はしかし、誰もがそろそろ始まるだろうと認めたまさにその瞬間に破られた。
「どうやら皆さんお集まりのようですな。
今回の事の次第も御覧頂いたようですし、それでは始める事と致しましょう」
不意に、天元が割れて光が差す。
白一色のその狭間からゆっくりと降りてくるのは、羽付きの扇を手にべージュのスーツを着こなす中年男性。
口髭を歪め、彼は見下ろすようにその場にいた全員を睥睨する。
……と。
「……ああ、それはいいがね。一つ訊いておこう」
一呼吸するなり、顔の半分を仮面で隠した男が口端を歪め続けるベージュスーツに割り込んだ。
筋骨隆々としたその体躯に似合わず、落ち着いた声色で男は問う。
319
:
SPIRAL ALIVE 修正版>>218差し替え
◆wYjszMXgAo
:2008/06/12(木) 21:05:58 ID:3qKIkKPo0
「――――ここにいる連中。その誰もが、確かに強者と言うのは分かる。
それはいいだろう。私とてかつては一国の代表としてファイトに身を投げ込んだ人間だ。
だが……、」
「……何故、僕たちを選んだ? これほどの力を持つお前……いや、その後ろにいる奴が、だ」
割り込む“彼”――――、短髪の青年に僅かに眉をしかめ、男は冷静に、しかしその感情を隠す事無く吐き捨てる。
「……ッ、若造が」
……尤も、この部屋に皆が呼ばれてからの僅かな間に、この程度の諍いは何度も起きている。
そして誰も彼もがその全ては取るに足りないことでしかないという認識らしく、それ故に争いは起こっていない。
「若造は貴様だろ。高々生まれてから3、40年程度しか生きていない人間如きがほざくなよ」
睨みつける男の殺気を他所に、短髪の青年は明らかな侮蔑を含んだ目線で一蹴した後、さっさと本題に戻ることにする。
「――――そもそも、だ。これ程までにその実験とやらの情報を掴んでいるのなら、何故にすぐにでも潰さないんだ?」
それが気に食わなかったか、仮面の男は何かを告げようと口を開き――――、
「お静かに」
ベージュのスーツの男に止められた。
「宜しい、お答えしましょう」
話をさっさと進めたいのか、芝居がかった動作で扇を開き、周囲の注目を集める髭男。
こうなっては仕方ない。
仮面の男は渋々といった感じに開きかけた口を閉じて言葉を飲み込み、スーツ男の言葉を待つ。
「我々の意思は、偏に螺旋の力を持つ者達に完全なる絶望を与える所なり。
即ち、希望を与え、しかしそれに届かんと手を伸ばしたまさにその時に目の前で砕くのです。
……彼らより、僅かに上回る力を持ってして、ですな」
どういうことか、と問うまでもなく、人の輪の一角から声がする。
厚い本を手にした無表情な青年と、年齢に似合わず威風堂々としたマントを羽織る少年という異色の組み合わせだ。
「……敢えて知ろうとするまでもない。
希望が大きければ大きいほど、その達成に近いほど、それが潰えた時の絶望が大きいということか」
その言葉にスーツの男は扇で口元を隠すもしかし、彼の目は雄弁に物語る。
――――明らかな笑身の表情が、そこにある。
「左様。なればこそ、そこに疑いの余地はなかろうというものです。
ジワジワと少しずつ螺旋の王を追い詰めた上で、彼の箱庭の中の種が芽吹いたまさにその時!
希望の象徴たるそれを、我らの盟主は彼の目の前で砕き崩して下さることでしょう」
僅かなざわめきが広がった。
勿論そこに会話はない。
各々が各々の為に、独り言を呟く程度のものだ。
「フン……」
320
:
SPIRAL ALIVE 修正版>>219差し替え
◆wYjszMXgAo
:2008/06/12(木) 21:07:05 ID:3qKIkKPo0
青年もそれに殉じながら、しかし続けるのは明確な宣言だ。
「まあ、貴様らの真の狙いが何かなんてのはどうでもいいさ。
僕の目的である人間どもの絶滅。
それを完全に、完膚なきまでに行なうには――――、僕の力はまだまだ足りないからな。
せいぜいが小さな星ひとつをどうにかすることしかできない。
宇宙に蔓延しカビのようにどこからでも湧いてくるこいつらを滅ぼし尽くす為ならば――――、」
一息。
「……ああ、貸してやろう。僕の集めたよく切れるタフなナイフをだ。
代わりに貴様らを利用させてもらう、それで構わないだろう」
――――扇に隠された髭男の表情が、いっそう彫りを増した。
短髪の青年が一度告げれば、後に続くものはやはり出てくるものだろう。
流れとはそういうものだ。
その予想に従って、今度は白衣が翻る。
言葉の中に明確な協力の意思と、同時に叛意を同居させながら。
「――――私は一介の研究者としてデータを集められればそれでいい。
あのタイプゼロでも持ちえた螺旋の力を戦闘機人に応用可能ならば……、価値はあるだろうな」
……明らかにこの場においては最終的な目的に反するその言葉。
螺旋の力を持つものの粛清に協力することで、それを手に入れようと目論む事を隠しもしない言葉はしかし、いとも簡単に受け入れられる。
いや、誰もがそれを気にしようとしない。
「……ふむ、それならそれでお構いなく。
この私めとて、偉大なるビッグ・ファイアの為にここに居るという点で貴方がたと大差はありませんな。
そう……、盟主たる存在に力を貸せばこそ、ビッグ・ファイアも彼の存在の助力を得られるというものです」
髭男の言葉に異論を挟むまでもなく、全ては盟主の力を得ん為が助力という事を理解しないものは居ない。
当然だ。
この場にいる誰もの関係は利用だけで成り立っている。
相手の言葉から誰彼を利用しようと企むものはあれど、それを否定するような者などここにいるはずもないだろう。
――――そう、誰も彼もが自分だけのためにここにいる。
故に、中にはこんな者も居るのは道理だろう。
「……さぁて、と」
「おやおや、何処に行かれるのですかな?」
不意に場にそぐわない気楽な声を出したのは、目を前髪で覆う、顔の印象が薄い男だった。
その瞳を誰にも見せないながらも、彼が何を感じているかは非常に分かりやすい。
「いやぁ、僕の目的はとっくに終わっちゃってるからねえ。
特にここにはもう目的がないんだよ」
詰まらなそうな台詞の割に、そこに込められているのは紛れもない喜色。
この場に居る誰もに興味を示さず、しかし、たった一人の人間に歪な感情を向けながら。
「……可愛くてとても賢いあの子が脱落しちゃった以上、もう見るべきものはないかなあ、と思ったのさ。
ああ、でも……」
……男は誰かを思い出しながら、その愛らしさに浸りつつ彼の最期を思い出す。
「――――最高だった、最高だったよ! ああ、ぞくぞくするねぇ、あの表情。
あの船で苦楽をともにした仲間たちがばたばた倒れていくのを目の当たりにした絶望。
心を許したあの女不死者の首を目の前に投げられた時の真っ白な感情が!」
誰にも憚る事無く男はそんな事を、それだけが関心だと言ってのけた。
321
:
SPIRAL ALIVE 修正版>>220差し替え
◆wYjszMXgAo
:2008/06/12(木) 21:08:35 ID:3qKIkKPo0
「……うん、いつかは僕もやりたいねぇ、こういうイベントを。
ああ、それを思い浮かべるだけで楽しみになってきたよ。
わくわく、わくわく、わくわくわくわくわくわくわくわく……」
高く高く、何処までも。
笑い声を届かせるように、信念すらない犯罪者は己の愉悦に酔い、笑う。
「ハハ……ッ、ハハハハッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
そしてそのまま、男の姿は薄れていく。
何処に消えたかも分からないが、高笑いは姿を見失ってもただ続く。
不意に笑いが途切れた時、沈黙は再度辺りを支配した。
それを見届ければ、ベージュスーツは然りとばかりに頷き、確認するかのように告げる。
「……ふむ、それもまた流れの通り。構わないでしょう。
では、残りの方は我々の同志となることを了承頂いた、と?」
どっしりと構え続けていたロール髪の壮齢の男性も。
何の変哲もなさそうな、薬剤師にして錬金術師の老婦人も。
仮面の男も。
少年と青年のコンビも。
意思表明をしていなかった者たちに動きはない。
しかし、それ故にこの意味は肯定である。
皆が皆、瞳を髪で隠した男を除いて今後の行動に参加するということだ。
「成程、ならば……」
パチンと扇を開き、ベージュ服の男は告げる。
「役者は着々と揃いつつあり、我々の出番も近づいたようですな。
それでは舞台の袖にて座して待ち、準備すると致しましょうか」
いかなる仕組みか扇の上に炎を灯し、その先にて各人を指し示しながら、告げていく。
何もかもを見下ろすように、しかし声色だけは敬意を表現しようとしながら。
「――――そして、準備の間に前座を用意することも忘れてはなりません。
勿体渋る悪役兼演出家が宝石箱に仕舞い込んだ小道具たち。
それらが蓋を開け放つまで、主賓にして主役であらせられるお方をお暇にさせないのもお仕事なのですからな」
一息。
「……そうそう、箱庭の小道具に手を出してはなりませんぞ?
小さな小さな輝きとはいえ、彼らの力を欲したならば――――、」
侮蔑と優越のみで創られた、歪んだ笑みを浮かべて策士は未来を“示唆”し続ける。
「……我ら全てを敵に回すと同義とお知りなさい」
「おや、どうなさいましたかな?」
――――宇宙をそっくり写し取った部屋の中。
自分とスーツの男が二人になる頃合を見計らい、短髪の青年は鋭い眼光にて男を見据え、己が疑問を口にする。
「……何処までだ?」
「……はて、何を仰りますやら。なにが何処まで……なのでしょう?」
相変わらずの飄々としたその態度。
それがどれほど怖ろしいものかは青年には計りかねている。
……だが。
322
:
SPIRAL ALIVE 修正版>>225差し替え
◆wYjszMXgAo
:2008/06/12(木) 21:09:58 ID:3qKIkKPo0
スーツを着た男はしかし、何もせずただアディーネを見ているだけだ。
手に持った木管楽器の真鍮色の輝きが、妖しく鈍く存在感を示している。
悠然としたその態度こそが男の自信の表れなのだろう。
「どうやってここまで来た! なにが目的だい!」
激昂するアディーネの問いに、初めて男は口を開きだした。
アディーネの聞いたことのない、しかし即座に心胆を震わせるに値する、魔人達の軍団の名を。
「――――GUNG-HO-GUNSの11」
伊達男は、告げる。
単騎で千騎に匹敵するヒトの極限。
その一柱たるカレの得意とするは大気の振動を制すること。
およそ万を越える音色を奏で、分子の一つ一つを凶器としながら五感を奪い、その衝撃は銃弾にすら匹敵する。
まさしく魔技と呼べる域に達した芸術と天賦の才の織り成すハーモニィにかかれば、あらゆる音を聞き分け、
その逆の位相の波をぶつける事で完全なる無音を創り出すことすら可能なのだ。
ヒトは、彼をこう呼ぶ。
「“音界の覇者”、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク」
律儀に、答えられる質問だけを答えながら覇者は、しかし穏やかに冷酷に宣告を下す。
「……警告だ、上からのな」
座して待つ時間は終わったという、その宣告を。
「お前達の実験……、これ以上続けるのならば、堕ちる事になるぞ。何処までもな」
空気が一瞬で冷え切った。
――――アディーネは、理屈も過程も無視して直感のみで理解する。
彼らこそが螺旋王を敗残兵へと堕とした存在の尖兵だと。
故に実験の停止を求めているのだと。
だがそれ故に疑問は残る。
……何故、力で押し潰さずにここまで回りくどい手を使うのか、と。
実験を砕き壊すならば全力を以って蹂躙すべきだろうに。
その裏に如何なる策士の意が渦巻くのか、それは彼女には知る由もない。
ならば。
ならば、と、流麗のアディーネは同時に決意する。
チミルフが自らの誇りを持ってニンゲンと相対し、獣人の価値を証明するのなら。
自分自身の成すべきは、螺旋の王を守り抜き、主の望みを手助けすることで獣人の存在を肯定することであると。
そう、たとえどれ程絶望的な状況だとしても。
自らの知識に存在しないセカイのニンゲンが、如何なる技にてここまで誰にも知られず辿り着いたのか理解せずとも。
もしかしたらテッペリンに他の尖兵が向かったのだとしても。
ここでカレらの真意を、目的を求めねば、まさしく螺旋王が自分を創った意味などないのだから――――。
「教えろ……、貴様は、貴様らは一体、何をするつもりなんだいッ!?」
323
:
SPIRAL ALIVE 修正版>>231差し替え
◆wYjszMXgAo
:2008/06/12(木) 21:11:23 ID:3qKIkKPo0
◇ ◇ ◇
独り。
全てを睥睨し、策士は扇を振るう。
「……かの愚かなる咎人が殺し合いを始めたという、全ての発端も。
魔なる力を抱く赤き少女が、持ち前の迂闊さにより世界の狭間に『鍵』を失ったのも。
螺旋の王が心の内にて切望していた反螺旋族に抗う術を手に入れたのも――――」
指し示すは無数の枠。
内に映るはカコとイマ。
ミライがあるは彼の脳髄。
「全ての『偶然』が私の掌の上ということにも気付かず、踊り続け、踊らされ続ける役者達。
ですが、せっかく敗残兵がようやくようやく掴んだ希望に追い落とされてここまで来たんです、もう少し頑張って欲しいものですな。
そして見事に天元の突破を果たし、螺旋の王に今一度相見える時こそ、この作戦の本当の目的が達成されるのです。
……これ、何もかも人の心を流し動かす策士の技なり……」
然り。
扇の上に焔を灯せば、全てが全てが意のままに。
「……ありとあらゆる流れがこの私の策通りとはいえ、壮観なものですな。
――――そうは思いませんか、アンチ=スパイラルどの?」
見据えるは遥かな天元。
何処までも何処までも高らかに高らかに。
嗤いと哂いと嘲いは響く。
世界の縁を越え、隅々まで響き渡ってゆく。
「はははははははは……、そうだ、これで良い!
まさしく役者が揃うのだ。そう、何もかも私の思うがままだ!
うわははははははははははは……!」
※孔明達は実験場には干渉するつもりは無い様です。理由は不明です。
324
:
◆wYjszMXgAo
:2008/06/12(木) 21:12:39 ID:3qKIkKPo0
以上で終了ですが、
>>226-228
の状態表は全て削除することを明記しておきます。
325
:
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/14(土) 13:33:11 ID:5ocIp9Es0
>>291
差し替え
地に落ちたフォーグラーの瞳が見つめる前、大きな道から離れたところにある住宅街で
民家を飛び移りながら戦場を移動するのは、ジュリアに乗った奈緒の姿。
同じチャイルドとはいえ、ジュリアにはデュランのような攻める為の力があるわけでも、清姫のような全てを圧倒するパワーがあるわけでも無い。
また、それ単体で戦局を一変させることのできるカグヅチらとは違い、あくまで高機動性とサポート能力に秀でたチャイルドなのである。
更に不安条件を加えるなら、奈緒の体は他ならぬかがみによってすでに満身創痍。
特に攻撃の起点となるべきエレメントはヴァルセーレの剣によっていつもほどの切れが期待できない。
更に相対するのは常識を逸脱した存在だ。
不死身の体に殺人狂の技を持った不死身の柊かがみが、異世界の殺人集団・GUN−HO−GUNSの雷泥のローラーブレードで加速して追って来る。
しかも今のかがみはラッドの分も上乗せされた螺旋力によって、ビルをも砕く馬鹿力を手に入れている。
今の奈緒が勝てているのは小回りのみという情け無い状況だ。
だが接近戦はどう考えても不利。
とりあえずは距離をとって相手の出方を――
「ねぇ奈緒ちゃん、コレ、なんだと思う?」
かがみが微笑みながら右手に翳したのは見覚えのある鍵剣。
確か金ぴかの持ち物だというそれは、砲弾のように巳六を撃ち出し、さっきは本や金ぴかの鎧を射出していた。
だが裏を返せばそれは碌な弾丸がないということ。
いつかは弾切れを起こす――そこまで逃げ切れば勝機が……ある!
だが、その思考を遮るように大きな音が響き渡る。
奈緒の視線の先には、ブロックで民家の窓ガラスを叩き割るかがみの姿。
「この道具ってさ、面白いよねー」
友達に話しかけるような気軽さで話しかける。
呆気に取られる奈緒を目の前にして、血が流れ出すのもかかわらずその破片を乱暴に拾い上げる。
「ただディパックの中身を射出するだけじゃなく“刃物だけ”とか“本だけ”とか限定できるのね。
だからできる――こんなことが」
そのまま大小様々な破片を自らのディパックに放り込み、そして鍵剣を掲げる。
「開け――≪王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)≫」
そして空間が歪み、波紋と共に透明な刃が奈緒へとその矛先を向ける。
かつて機械人形の少女が小石を弾丸としたように、そして先程、かがみの中の殺人鬼が金属片を黄金の散弾銃と化したように。
硝子の剣は空気を切り裂いて、少女を肉片へと変えようと迫る。
「ジュリアッ!」
だがそれを目の前にしても奈緒は冷静であった。
ジュリアを前に出し、自分は大きく後ろへと下がる。
高速で射出されるとはいえ、所詮は硝子。
ジュリアの硬質の肌に砕かれ、粉々に砕け散る。
だが――
≪王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)≫の攻撃は“点”ではなく“面”。
瞬時のことだったので、ジュリアの反応が僅かに遅れ、その一欠片が奈緒の頬を切り裂く。
血の滲む頬を押さえ、舌打ちをする。
見かけよりも広い効果範囲。
距離と射角次第ではジュリアを盾にしても防ぎきれまい。
その上周囲を見渡せば民家、民家、民家。
そしてその窓には必ずといっていいほど硝子が敷き詰められている。
そう、いまや柊かがみは無限の弾丸を手に入れたと同義なのだ。
「運が良かったわね。ガラスって体内に残ると悲惨らしいわよ?」
「……冗談ッ!?」
326
:
NEXTLEVEL 修正
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/14(土) 13:33:39 ID:5ocIp9Es0
ビルすら砕く左腕と、尽きることの無い弾丸を吐き出す砲門。
遠近共に隙の無い絶対攻撃。
こんなもの、手詰まりにも程がある。
「だったら……これでもくらえぇぇっ!!」
エレメントで電信柱を切り裂き、そのまま絡めとる。
さらにジュリアの体重と力を利用して、滑車の原理で高速で投げ飛ばす。
チャイルドの力を上乗せさせて放たれたそれは最早砲弾に等しい。
だが――
「十傑集候補を……舐めんなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
かがみは高速で迫り来る電信柱を足場にして空中で再加速した。
……とある多重世界のラッドは、暗殺者の投擲したナイフを足で踏んでかわしたことがある。
一流の暗殺者の投げナイフ――それに比べればさっきの電信柱は止まって見えるも同然。
再度加速したかがみはジュリアに肉薄し、いつの間に持ち替えたのか、奪い取った聖剣を振り下ろす。
咄嗟にしゃがんで迫り来る白刃をかわすが、薄皮一枚と髪の毛を数本持っていかれる。
「こんの……化け物ッ!!」
「ありがと、褒め言葉として受け取っておくわね」
嫌味すらも通じない。
互角どころか、一方的なワンサイドゲーム。
それが現在のかがみと奈緒の力の差であった。
「くっそっ!」
糸を張り巡らせて独特の軌道を取りながら急いで物影へ身を隠す。
ディパックの中身を打ち出す≪王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)≫
金ぴか曰く正確な射撃が出来なくなっているらしいが、“面”の攻撃の前ではそんな誤差は塵に等しい。
また硝子を回収する隙も怪我を気にしなくていいせいで異常に早い。
どうする? どうする?
焦りだけが加速して、思考能力を奪っていく。
だが――
327
:
NEXTLEVEL 修正
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/14(土) 13:45:27 ID:5ocIp9Es0
>>292
「さて、そろそろ終わりにしましょっか。
結構いい復習になったし、一気に片付けてあげるわ」
かがみの勝ち誇った声が耳に届いた瞬間、その焦りは消え去った。
あの女はこっちを向いていない。
あたしを脅威としてではなく、数学の問題程度にしか考えていない。
――ふざけんな。
奈緒の中に生まれたのは怒り。
だがそれは生まれてこの方初めて感じた、冷え切った鋭いナイフのような怒り。
その怒りは奈緒の中から焦りを消し、冷静さを呼び戻す。
あの女は誰の目から見ても慢心している。
だが慢心すれば足元を掬われる。
慢心の塊を誰よりも隣で見てきた自分は、この場にいる誰よりもそれを理解している自信がある。
「目に物見せてやる……!」
奈緒は獰猛な決意を込めて、物影からかがみを睨みつける。
* * *
さっきの言葉は半分挑発、半分事実だ。
かがみにとってこの戦いは“復習”である。
己が内から溢れ出た殺人技巧をこの身に定着させるための。
そして復習は、授業の直後が一番効率的なのだ。
もう8割がた復習は完了した。
残るのは内部に渦巻く、凄まじい殺人衝動だけ。
だからかがみは戦いを終わらせるために挑発を仕掛けた。
そしてかがみの予想通り、巨大な影が上空から襲ってきた。
一瞬戸惑うものの殆ど反射的に引き金を引き、蜘蛛の上の影を粉々に打ち砕く。
だが――音を立てて引き裂かれたのは、蜘蛛の上に載った看板であった。
「なぁ!?」
驚くかがみ。その瞬間、横合いから伸びてきた糸がかがみの腕を切り裂き、腕ごと鍵剣が宙を舞う。
更に呆然とするかがみに向かって、ジュリアの“糸”が直撃し、かがみは地面に縫い付けられる。
そう、これこそが奈緒の策。
ジュリアの上におとりを配置し、自身は周囲の建物の影へ。
かがみがおとりを撃ち、驚いた瞬間にあの鍵剣を引き離す。
それは策としては単純極まりないものであったが、その目論見は見事成功した。
そして、これで終わりではない。
相方と違ってハナから結城奈緒に慢心は無い。さらに追撃をかける。
だが以前散々切り裂いたことからも、恐らくは凄まじいスピードで再生していくだろう。
だとすればこの場で最も効率的な攻撃方法とは何か。
328
:
NEXTLEVEL 修正
◆DNdG5hiFT6
:2008/06/14(土) 13:46:37 ID:5ocIp9Es0
>>294
かがみの視線の先にあるのは大地に崩れ落ちたジュリアと奈緒の姿。
だがジュリアも足を数本寸断されただけで本体そのものはダメージがない。
奈緒本人にいたっては新たについた傷は無い。
そう、最後の瞬間、全てを切り裂くかに見えた極光は僅かにそれて、ジュリアの足を数本切断するだけに終わった。
その原因はかがみの姿を見れば明らかだ。
かがみの左肘から先が吹き飛んでいるのだから。
つまらなそうに腕を見ると、その傷をつけた相手を睨み返す。
「そっか、最初の場所に戻ってきたんだ……それに暫く起きれないと思ってたんだけど。
細く見えるのに案外丈夫なのね」
「……鍛えてるからな。それに、賞金稼ぎは体が資本なのさ」
その視線の先には、銃を構えるスパイクの姿があった。
彼が目覚めたのはなんて事は無い偶然。
2人の少女の戦いのフィールドが一周して最初の場所に戻っていたことと、
そして少女の叫んだチャイルドの名が、決して忘れることの出来ない名前と同じだったというだけのこと。
「ねぇ、あなた自殺志願者? 手出ししなかったら見逃してあげてもよかったのに」
獲物を横取りされた形になったかがみのイラつきはレッドゾーンだ。
殺人衝動は限界を超え、誰かを殺さねば収まりそうに無いまでに膨れ上がっている。
さらにさっきの挙動を見る限り、一対一、その上真正面から相対した状態では、いかにスパイクといえども頭部を狙い打つのは至難の業。
得意のジークンドーも片腕が無い状態では目の前の化物には分が悪い。
結局は容赦なく自分は殺され、その後に奈緒も殺される。
死体が一つ増えるだけの無駄な行為。そしてそれはスパイクにも分かっていたはずだ。
「……大人には責任って奴がある。 見捨てるわけにも、いかんだろ」
だがその言葉に、かがみは撃たれた左手を見下ろして、ため息をつく。
他の傷に比べ銃で撃たれたことは少ないとはいえ、もう既に再生は始まっている。
飛び散った血や肉がゆっくりと巻き戻され、白い手を形作っていく。
「それにしても……ワザと? だとしたら大バカ野郎よ?」
スパイクの手に握られたのはジェリコ941改、彼が長年使ってきた愛銃である。
いくらダメージを受けているとはいえ、この距離ならば外すことはありえない。
だが彼が狙ったのは手――最も早く動く小さな的だ。
そんなものを狙うぐらいならば効果が無いと知りつつも体を狙ったほうがまだ効果的だし確実だ。
それをしなかったのは一体――
329
:
アイが呼ぶほうへ
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:10:56 ID:n306w3HA0
真紅の螺旋を発電所から確認したカミナ組一行が選んだ道筋はシンプルなものだった。
――宣言通り、凄ぇもんを頂きに一路南東を目指しているのだ。
「あの、海ってでかい水たまりを越えられりゃぁ、一気に行けたんだがな」
『全員の消耗具合から、泳いで渡ることは推奨できません。何よりカミナは泳げませんから』
「んなことわかってらぁ! 気が逸る、そういう話じゃねえか」
口角泡を飛ばすカミナの気持ちは大いにわかる。懐のクロスミラージュはその思いを口に出さないまま、普段通りの冷静な返答を心掛けていた。
先の膨大な魔力を伴う螺旋の暴悪――その恐るべき威力をこの四人の中で最も理解しているのは、魔力に関して一日の長があるクロスミラージュだろう。
あの紅の暴威はまさしく異常。はっきり言ってしまえば、あの攻撃を前に防御など紙の盾ほどの意味でしかなく、ましてやあの規模では回避すら望むべくもない。
(あれだけの力を持つ参加者がいる。あるいはあれだけの力を持つ支給品が巡りめぐって、ようやく力を揮うに相応しい存在の下で力を発揮したということでしょうか)
どちらかと言えば後者だろうか。この殺戮ゲームが始まってからすでに一日が経過している。この二十四時間の間に失われた命の数を思えば、繰り広げられた死闘の数は人間の両手の指の数では足りないだろう。
――その激闘の中で、ティアナ・ランスターはその儚き命を散らしたはずなのだから。
そんな戦いが繰り広げられていた一日の間、あの暴虐の持ち主が一度もその力を揮う機会がなかったとは思えない。あるいは丸一日ならば隠れ潜みながら、参加者が減るのを待つことも可能だったかもしれないが……そんなまだるっこしい方法を好む輩が持つには、少々不相応なほどの力と考えざるをえない。
となれば、力の持ち主はこの戦場を戦いながら潜り抜けてきたものであると考えられる。
そしてそんな人物がゲーム開始からこれだけの時間が経ってようやく本領を発揮したのだとすれば――自らの手に、自らの力の全てを発揮できる武器を取り戻した時。
クロスミラージュは戦慄の境地でこの想像に至った。
何故ならば、あの力を持つ存在が無尽蔵に紅の螺旋を放出し続ければ、それだけのこのゲームは終焉を迎えるはずだからだ。
簡単な話、地図上を縦に移動しながら、手当たり次第に横薙ぎすれば事足りる。
それだけの力が、魔力が、あの攻撃には込められていたのだ。
その絶望的な想定を、クロスミラージュは誰にも打ち明けていない。
そもそもこの想像が当たっていたとすれば、話したところでどうにもならないのだ。
暴力的な審判の下る時、前もって心の準備をする猶予が残される――その程度でしか。
だからクロスミラージュはこのことを敢えて話そうとは思わなかった。
逆を言えばそれは祈り――機械の身でこの境地に到達する存在が果たして過去にいたものか。仲間に打ち明け、その心が負の感情に彩られることよりも、自身の最悪の想定が外れているようにとの祈りの気持ちが勝っていたのかもしれない。
結果としてはクロスミラージュの想定は杞憂に過ぎなかった。
紅の暴波は一度の蹂躙の後、連続して繰り出されるような悲劇は起こりはしなかった。
単純な話、あれだけの魔力量を必要とする攻撃だ。ひょっとすれば自分の考えの前提が間違っており、武器は一度限りの使用が想定されたものだったのかもしれない。あるいは使用者に参加者殲滅の意思はなく、必要に迫られての決断だった可能性もある。
不必要なまでの最悪の想定は、悲観的な思考と何も変わらない。
もしもこの想像を口にしていれば、仲間達にこぞって叱り飛ばされたことは容易に知れる。
――なんでぇなんでぇなんでぇ! てめぇ、クロミラ! そんなつまんねぇこと考えていやがったのか! どうにもなんねぇなんてつまんねぇこと考えてる暇があったら、腹抱えて笑っちまうようなことでも考えてやがれ!
――考えすぎて悪い方向に行くのは良くないことなのだ。頭のいい清麿もそういう風に考えることはよくあったのだ。頭のいいものはもう少し、頭の悪いものを見習うといいのだ!
――心配ばかりでは前に進めなくなってしまいます。クロスミラージュさんが私達を心配してくれるのはとても良いことですけど……アニキさんもガッシュさんも私も、クロスミラージュさんが暗い顔をしているのを見たいとは思いません。
そう言われたわけではないのに、そう言われるような気がして、クロスミラージュは言葉を失ってしまっていた。
どれもこれも、機械の身には過ぎた信頼の証だった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
330
:
アイが呼ぶほうへ
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:12:39 ID:n306w3HA0
「それでカミナ、これからどうするつもりなのだ?」
「決まってんだろ! あのさっきの凄ぇ必殺技をぶっ放した野郎のとこを目指す! ぐるーっと会場を移動しなきゃなんねぇのが面倒くせぇが、その代わりに途中にある家とかも全部見て回れるってことになる! 一石二鳥じゃねぇか!」
「おぉ! なるほど! すごいのだ!」
「本当です! そうしたらもっと凄いモンも見つかるかもしれません」
カミナの口上に手を叩いて喜ぶガッシュとニア。結局のところ方針は何も変わらず、それどころかやや遠回りの兆しを見せているのだが、その点を考慮させない辺りは流石だった。
仲間からの賛同も得て、意気揚々と先導するカミナに続く一行。
その面々が南東を目指す過程で辿り着いたのは、B−4図書館であった。
「誰かがいる気配も感じられないのだ」
「たくさん本がありますけど……どれもガッシュさんの本とは違うもののようですね」
相変わらず凄ぇもんが見つかると意気揚々と飛び込んだカミナに続き、立ち並ぶ本棚から次々と本を確認するガッシュとニアがそう零す。
ニアの手は代わる代わる抜き出す本のページを捲り、その度に読めないと残念そうに首を傾げては元の場所に戻していく。
「ちっ。こんだけありゃぁ、ガッシュに凄ぇ力がぶわーっと出るんじゃねぇかと思ったが、そういうわけにもいかねぇみたいだな」
『元々期待薄でした。あの魔本が特殊な構造をしているのは解析済みですが、この建物の中にある本はほとんどが市販の製品です』
「小難しいこと言われてもわかんねぇ。そして本の中身も、俺にはさっぱりわからねぇ!」
一方でカミナは本を乱暴に投げ出し、散らばる本の海に身を投げ出して大の字に寝転がる。
辺りを見回せば本の山、山、山、海。紙製品の大自然だ。
識字できないカミナにしてみれば、図書館という叡智の結晶も無用の長物でしかない。
初めは勢いよく検分していたガッシュとニアの二人も、度重なる期待の裏切りによってその表情は明るくない。もはや図書館に長居すること自体、マイナスにしかならないだろう。
とクロスミラージュが思い、再出発を提案しようとした瞬間だった。
「――そうか! 間違いねぇ! そういうことに違いねぇぞ!」
ガバと勢いよく身を起こしたカミナの絶叫に、クロスミラージュは存在しない全身が震えるほどに驚く。当然、体が存在するニアとガッシュの驚きは歴然だ。
持っていた本を取りこぼして、拾おうと慌てて屈めた二人の額がぶつかり合ったのだ。
「ウ、ウヌゥ、痛いのだ……」
「い、痛いです……」
「馬鹿野郎! 痛ぇとか辛ぇとか言ってる場合じゃねぇぞ! いいかおめぇら……この本の山が入っているこの壁!」
『本棚と呼ばれるものです』
「そのホンダナだ! こいつを全部取っ払っちまえ!」
ぶつかって赤くなる額を擦る二人の肩を、カミナがこれ以上ないほど景気のいい顔で引っ叩く。クロスミラージュの冷静な突っ込みもどこ吹く風だ。
発言の意味がわからないと首を傾げる三者を置き去りに、手近な部屋に入ったカミナが早速手前の本棚に手を掛け、重量のあるそれを傾かせて強引に引き倒す。
ずしん、と重みのある振動と共に本がさらにばらばらと散らばるが、司書もいないこの場で咎める良心の持ち主はどこにもいない。
すでに退場してしまった、生粋のビブリオマニアなら悲鳴を上げたかもしれないが。
331
:
アイが呼ぶほうへ
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:13:05 ID:n306w3HA0
本棚の倒れる衝撃に再び驚く三人。カミナはその眼前で引き倒した本棚――ではなく、その本棚の後ろの壁を睨みつけると「違ぇな」と呟いて、すぐその横の本棚に手を伸ばした。
『ちょ、ちょっと待ってください、カミナ』
「あぁ? なんでぇ、クロミラ。おめぇは手がねぇから仕方ねぇが、ガッシュとニアは何してやがる。とっととこっちきて手伝いやがれ」
『それ以前の問題です。カミナ、あなたは一体、何をしているのですか?』
「あぁ!? おめぇ、俺の話を聞いてなかったのか!?」
「カミナ! 私もニアも、何も聞かされていないのだ! クロスミラージュは悪くないぞ!」
柳眉を逆立てるカミナにガッシュの弁護が入り、カミナは自身の青い頭髪に指を入れて頭を掻きながら「そうだったか?」と首を捻り、ニアの首肯をもって悪戯を詫びるような表情で頭を下げた。それから、
「悪ぃ悪ぃ。ちょっと閃いたもんだから思わず先走っちまった」
『それはもう構いません。それで、何を閃いたというのですか?』
「そうです、アニキさん。それにホンダナってなんですか?」
『本の山が入っている棚です』
「話がちっとも進まないのだ」
話をちっとも聞いていなかったらしきニアが倒れた本棚を覗き込み、「まあ、これがホンダナなのですね」と嬉しげに手を叩く傍ら、カミナが満足そうに頷くと、
「そうだ! これがホンダナ! そしてこのホンダナが凄ぇたくさんあるここは、ホンダナの家に違いねぇ!」
ここはおそらく図書館である、という発言は場を停滞させるだけだとクロスミラージュはその言葉を飲み込んだ。
「見やがれ! 右見ても本! 左見ても本! 上には流石にねぇが、下見りゃ本ばっかりじゃねぇか! どうでぇガッシュ、これがどういうことかわかるか?」
「ここがホンダナの家であり、本の家でもあるということではないか!?」
「そういうことだ! いや、そういうことか!?」
「違うのであるか?」
「……いや! 違わねぇ! 今日からここは本とホンダナの家だ!」
「まあ、すごい。本とホンダナにもお家があったのですね」
意気投合する三人に、クロスミラージュは自分が口を挟まなくても話が進まないことを悟る。
そうして一頻り騒いだ後、全員の前で倒れた本棚に足を乗せたカミナが隣の本棚を叩き、
「そしてこっから本題だ! この家が本とホンダナの家ってこたぁ、この家の中には本がはちゃめちゃたくさんあるってことだ。そうだな!」
「そうなのだ! もう目が回りそうなのだ」
「そうだな。俺も読めねぇ食えねぇ枕にもならねぇ。そんなもんをずっと見てるのも願い下げだ。だが、こんだけ本があるってことは逆に怪しいと思わねぇか?」
「……何がですか?」
「決まってんだろ! こんだけ本がバァーッとありゃぁ、誰でもここには本しかねぇんだなって思うだろうぜ! だからこそ、実はここには本じゃねぇ何かがあるんじゃねぇのか!?」
そう言ってさらに力を込め、カミナは隣の本棚をも引きずり倒す。そうして現れた白い壁には何の痕跡もなく、カミナの想像が裏づけられることはなかった。
しかし、クロスミラージュは驚愕の中でその考えが否定できないことを認識していた。
木を隠すなら森の中――という諺がある。一本の木を隠すために、木の群れの中にその存在を紛れ込ませてしまうという諺だ。同じような考えで、この図書館という場所に本という存在を紛れ込ませることは容易だろう。
その本を求める来訪者からすれば、まさしく本の海の中から一冊の本を選び出すのはどれほどの苦難になるだろうか。
そして来訪者に、この山の中から一冊の本を探し出す意図がなければどうなるか。
当然、来訪者は本の山を確認して、すぐにこの場を立ち去るだろう。
図書館という名称と、その施設の持つ意味合いを知っている人間ならば尚更だ。
図書館を知っているからこそ、本の重要性を問えたとしても、図書館の本以外のものの重要性を考えることができないのだ。
これは即ち、本という文明を知らないが故に行われた蛮行。
カミナという存在は識字していない。それが故に本に重要性を見出さない。
情報を完全に埒外としているからこその、思考の裏を突いた考えであった。
「ウヌヌゥ、この本棚はかなり重たいのだ!」
「ガッシュさん。反対を私が持ちますから、せーので動かしましょう」
「わかったのだ!」
332
:
アイが呼ぶほうへ
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:13:32 ID:n306w3HA0
クロスミラージュの驚愕を余所に、すでに三人は本棚を引っ張り倒す作業に従事している。カミナは言うまでもなく、ガッシュとニアは単純にカミナの考えに賛同してのことのようだ。
思えばカミナは、あの紅の暴虐を見た時から恐れの感情の一切を抱いていなかった。
それは魔力という概念に触れたことがなく、それ故の無知からくる勇猛さだったと定義づけていたような気がする。しかし、そうではなかったのだ。
あの暴力の威力を最も理解していたのがクロスミラージュならば、その本質を最も理解していたのはカミナだったのかもしれない。
だからこそカミナは、あの恐るべき力を前に怖じることなく、この場においても立ち遅れることのない思考に至ることができるのではないのか。
これがカミナの力――いや、人間が持つ力なのだろうか。
これこそが、この飽くなき精神こそが、螺旋王の求める螺旋の力の本質なのか。
――躊躇わず前に進み続ける意思、『進化』の力の一端なのか。
一度考察に至ったクロスミラージュは、再度その衝撃に存在しない身を打ち震わせる。
クロスミラージュがその常識を外れた発想と行動力の前に沈黙を選び、カミナ達三人は額に汗しながら部屋中の本棚を次々と横倒しにしていった。
――そして、最奥の本棚が引き倒された時、その漆黒の扉は四人の前に姿を現したのだ。
本棚の面積をいっぱいに使った黒の大扉は、その素材がようと知れずひっそり静寂を保っている。鉄のように見えるが、それ以外の鉱物といわれれば納得してしまいそうな異様さ。
そのドアを前にカミナは腕を組み、堂々と胸を張ると盛大に身を反らせて、
「ほれ見ろい! いかにもってぇ感じのドアのご登場とくらぁ!」
「すごいのだ、カミナ! 本当に、本当に見つけてしまったのだ!」
はしゃぐガッシュとニアがハイタッチ。
それを見届けたカミナが意気揚々と、大扉の中央に設置されたバルブに手を伸ばす。どうやら気密室のような厳重さを誇る部屋らしく、カミナの胴体より円周のあるハンドルは見るものに頑強さを誇示するような造りになっていた。
「こいつを……どうすんだ?」
『時計回りに回せば開くものかと思われます』
「時計回りってなぁ、どっちに回るんだ?」
『そうでした。上の部分を握り、右に回せば開くものかと思われます』
「了解了解っと」
口笛混じりの気軽さでハンドルを握り、カミナが右回りに力を込める。が、ハンドルはどういうわけかピクリとも動かない。手軽に回るものと予想していたカミナは深く息を吐き、それから全体重をかけてハンドルを回しにかかるが、
「〜〜〜〜〜〜〜ッ! だぁーっ! 固ぇ! 固すぎるぞ、どうなってやがる!」
顔が真っ赤になるほどの力を込めた結果、ハンドルは回る気配すら見せなかった。
カミナに続いてガッシュ、ニアと同じように続いたが、この中で最も膂力のあるカミナの手で回らないのだ。二人に動かせるはずもなく、全員で赤くなった手を振りながら首を傾げる。
「せっかくドアを見つけたのに、開けられないのでしょうか」
「ひょっとしたら鍵が必要なのかもしれないのだ。私達は鍵は持っていないのだ」
『いえ、鍵穴らしきものは見つかりません。あるいは何かに反応する扉なのかもしれませんが……その場合はハンドルは何のために』
代わる代わるの攻撃にびくともしない大扉。秘匿性の高さに中に収められているものの重要性が期待されるが、開かないのでは意味がない。
破壊を提案しようにも、扉から漂う得体の知れない雰囲気がそれを躊躇わせた。
――単純な威力では、決して開かないギミックが用いられている扉?
「おぉーーっし! わかった! 今度こそわかった!」
今度の叫びにもまた全員が驚く。
当然、高らかに声を上げたのはカミナ。だが、今度の驚きには三人の期待が続いた。
先ほどのように正解を導き出したカミナならば、また妙案を出してくれるのではと。ガッシュとニアは信頼から。クロスミラージュは独創的な発想力に期待して。
期待の視線に対し、カミナは堂々と頷いて、鼻の穴を広げると大声で言う。
「いいか、てめぇら! こういう考え方がある! 一つの凄ぇでかい岩がある。とても一人じゃ持ち上げられねぇ。さぁどうする」
「どうするんですか?」
「簡単な話だ。一人で持ち上がらねぇなら、二人で持ち上げんだよ。二人で足りなきゃ三人だ。三人もいりゃぁ、見上げるほどでっけぇ岩でも持ち上がらぁ!」
「おお、その通りなのだ!」
『そ、そんな単純な話でしょうか!?』
333
:
アイが呼ぶほうへ
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:14:42 ID:n306w3HA0
予想以上にシンプルな答え――動揺するクロスミラージュに、カミナは己の懐を叩くと、
「馬鹿野郎! 何でもかんでも難しいばっかが正解じゃねぇぞ。男は度胸! 何でも試してみるもんなんだよ!」
『しかし……』
「ぐだぐだうるせぇ! 全員、男ならちゃちゃっと覚悟を決めやがれ!」
「すみません、アニキさん。私は女なのですけれど……」
「女もそうだ! 見てるだけじゃ始まらねぇ!」
強引な理屈で全員の意思を纏め上げるカミナ。
クロスミラージュからすれば、成功の見込みが低いだけで特別反対する理由はない。ガッシュは再び感銘を受けているようだが、クロスミラージュが気になったのはニアの反応だった。
彼女は花模様の浮かぶ双眸を瞬かせ、それから何度か確かめるように頷く。
「女も……そう」
『ニア? どうかされましたか?』
クロスミラージュの問いに、ニアは首を横に振ると、晴れやかな表情で笑った。
「いえ、何となく……自分のやるべきことがわかったような気がしただけです」
『そう、ですか?』
「はい」
「おう、ニア! とっととこっちこい! おめぇは左、ガッシュは右。俺が上だ」
「はい! 任せてください!」
「おぉ、いい返事じゃねぇか。負けんじゃねぇぞ、ガッシュ!」
「わかっているのだ!」
カミナがハンドルの上部を、ガッシュが右を。ニアが左を握り、三人が深く息を吸う。
そして幾度かの深呼吸の後、合図もないのに全員の声が揃った。
『「「「せーーーーーーーーーーーーーーーのぉっ!!!!」」」』
掛け声と共に三人の腕に力がこもり、それに比例して力む表情に赤みが増していく。この時ばかりは体を持たないクロスミラージュは、三人を応援することしかできない。
「ウヌヌゥ……動かないのだぁ!」
「動いて……動いてください……!」
「諦めんな! 一人より二人! 二人より三人だ! そんでもってこっちにゃ四人もいるんだぜ! これで動かねぇもんがあるわけねぇ!」
『私は一人分には計算できないと思われますが』
「気合いだ気合い! おめぇの気合いが俺達を伝って、このクソ輪っかを回す力になるんだろうが! そら、うおりゃぁぁぁぁぁ!」
論理性に欠ける根性論でしかない言葉――それがどうして、これほど回路に響いたのか。
クロスミラージュにはそれがわからない。
だが、カミナの声に触発されるようにガッシュとニアもまた雄叫びを上げ、気づけばクロスミラージュ自身もその『気合い』の一陣に身を置いていた。
それはこの場の四人の気合いという名の信頼が呼び起こした当然の結末。
『――複数の螺旋力を確認しました』
電子音声――クロスミラージュに似た、しかしそれよりはるかに無感情な音声に全員が肩を震わせた。そして、
「お、お、お……動く! 回るのだ!」
「きたきたきたぜぇ! ほれ見ろ! やっぱり四人もいりゃぁ回るんだ」
「はい! 四人揃っていて、できました!」
喜ぶ三人の手元、あれほど強固な頑なさを見せたハンドルがくるくると回っている。
難敵を打倒した喜びか、カミナとガッシュはそのハンドルを勢いよく回し続け、軽々回るハンドルの回転が限界に達して急に止まり、止め損ねた腕を金具にぶつけて盛大に痛がる。
その微笑ましいとさえいえる状況の中、三人が聞き逃したらしい扉からの電子音声をクロスミラージュは反芻していた。
『――複数の螺旋力を認識しました』
その言葉は単純なようで重い。言葉の示す意味は、この扉を開くために必要な『鍵』が螺旋力であったということだ。そしてカミナ、ガッシュ、ニアの三人がその螺旋力に目覚めていることはすでに周知の事実。
一人では足りず、複数名の螺旋力を利用することで初めて開く扉――つまり、クロスミラージュの存在は、この扉を開くために何の役にも立たなかった。
その自分の無力さを痛感する一方で、先ほどの電子音声の無感情さに驚いた自分がいた。そしてそのことに驚いたという事実が再び、クロスミラージュ自身を驚かせる。
同系統の存在であるはずの機械。その機械的な音声に対し、自分はあまりに無感情であると感想を抱いた。つい十数時間前まで、その機械音声と何ら変わらない存在であったと自覚できる自分が、だ。
334
:
アイが呼ぶほうへ
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:15:05 ID:n306w3HA0
これは正直なところ、とても恐ろしいと思えることだった。
本来機械に要求されるのは、人間が持つ感情による誤差などの補助だ。機械的にプログラミングされた行動に従事するのは、不満や感情を持たない機械の最高の美点だ。
今の自分には明らかにそれが欠けている。思えば、先ほどの紅の螺旋の危険性について、仲間達に打ち明けなかったのはどういう合理的な思考からだったといえるのか。あそこは仲間達に危険性を冷静に告げ、話し合った上で今後の方針を左右するだろう重大な情報だ。
その開示を拒み、あまつさえ胸の内に仕舞い込んだ自分の本音はどこにあったのか。
クロスミラージュは、その自分に訪れている“変化”がたまらなく恐ろしい。
自分が自分でなくなっていく。そんなことに恐れを抱くことなど、考えたこともなかった。考える必要もなかったのだ。
これもカミナという存在、そしてその仲間達。これまでこのゲームの中で次々と出会ってきた参加者達――その一つ一つの出会い。螺旋のような繰り返し巡り合わされる運命に翻弄されたことの結果なのだろうか。
「なんでぇ、クロミラ。おめぇもちっとは嬉しそうな声を出してみたりだなぁ……」
『カミナ。この扉は螺旋力を認識して開く扉だったようです』
声を止められ、カミナが息を詰める。ガッシュとニアがその様子を心配そうに見つめる傍らで、クロスミラージュは静かな声で続ける。
『つまり、あなた達三人の気合いがあれば開く扉だった。私の力は必要なかったものと……』
「おめぇ……そういう話じゃ」
「そんなことはないのだ!」
口の端を歪めたカミナに先んじて、ガッシュが叫んでいた。
もしもクロスミラージュに体があったなら、その横っ面を殴りつけていただろう勢いで駆け寄り、そのカード型の本体に目掛けてガッシュは続ける。
「カミナは言ったのだ。一人より二人、二人より三人。そして三人より四人だと! 私もそう思うのだ。四人よりもっと……五人も六人も七人も十人もいればきっともっといいのだ。ドアが何人いれば開いたかなんてそんなことはどうでもいいのだ。全員が協力して、ウオーッと叫んだから開いたのだ。誰が欠けても、開かなかったと思うのだ。だから、そんな悲しいこと……言わないでほしいのだ」
勢いは後半に行くにつれて下火になり、ガッシュは唇を噛み締めてクロスミラージュを見る。
その表情は決して悲しんでいない。泣いていない。怒ってもいない。
ただ、決して曲がることのない何かを、熱い何かと温かい何かを秘めた表情だった。
「あの、クロスミラージュさんって何ですか?」
唐突に場に割り込む声はニアのものだった。彼女はいつも質問する時と変わらぬ態度で小さく手を上げ、軽く小首を傾げながら愛らしい瞳を光らせる。
カミナとガッシュは無言。だから応じるのはクロスミラージュだけだ。
『私は……デバイスです』
「デバイス……ですね。わかりました」
唇に指を当て、うんと頷くとニアはガッシュの隣に並んだ。そして、
「無理を通して道理を蹴っ飛ばす。アニキさんはそう仰いました。それが男、ですよね?」
「あぁ、そうだぜ」
「それでは女は? 女は無理を通して道理を蹴っ飛ばしてはいけませんか?」
「へっ、そんなわけがねぇ。男だろうが女だろうが、大グレン団は全員が無理を通して道理を蹴っ飛ばす! そうやって、前へ前へかっ飛ばしていくんだよ!」
拳を握り締め、グレン団の在り方を語ったカミナにニアは満足げに頷いた。それから彼女は口元の笑みを消し、真っ直ぐに真剣な眼差しでクロスミラージュを見つめ、
「男も、女も……です。それなら、きっとデバイスも同じですよ」
『……ニア』
「螺旋の力……難しいことは私にもわかりません。ですけれど、気合いは今はちょっとだけわかりました。その気合いでこの扉が開いたのも、全員で気合いをしていた時に、クロスミラージュさんが一緒に声を出して気合いしてくれていたことも」
確かに声が出ていた。何かに背中を押されるように、導かれるように、内側から膨れ上がる衝動に突き動かされるままに。
「全員で気合いしたんです。男も女もデバイスも全員で。だから扉が開きました。ガッシュさんと同じで、私が言いたいのはそれだけです」
ぺこりと頭を下げて、ニアはカミナに顔を向ける。ガッシュ、自分とクロスミラージュに声をかけたからだろう。最後の順番を譲って微笑む。
そしてバトンを渡されたカミナは頭を掻き、あーともうーともつかない呻きを漏らすと、
「俺の言いてぇことは全部、二人に先に言われちまった。だから、あー、くそ。何てぇんだかわかんねぇけどよ」
335
:
アイが呼ぶほうへ
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:15:29 ID:n306w3HA0
とん、とクロスミラージュを入れている懐をカミナが軽く叩く。
「つまんねぇこと気にしてんじゃねぇ。ここじゃ、俺達が揃って大グレン団なんだからよ」
ガッシュとニアが互いに嬉しそうに頷き合い、カミナが照れたように鼻を擦って顔を背ける。
その三人からの思いやりに触れ、クロスミラージュは、
『……はい。ありがとうございます、カミナ。ガッシュ。ニア』
悟られまいと無感情に告げようとして、その声が失敗していたのは全員がわかっていた。
クロスミラージュは自分に訪れた変化が恐ろしくてたまらなかった。
だが何より、その変化を恐ろしいと思うより、悪くないと思う気持ちが勝っているのもまた、変えようのない事実になっている。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
四人が自分達の団結を新たにしたところで、放置されていた扉の部屋はようやく日の目を見ることができた。
光の差し込まない暗い部屋の中に足を踏み入れ、カミナは僅かに息を呑む。
真夜中さながらの暗室ぶりは、故郷の夜を思い出させる。ジーハ村では電力の消費を抑えろと、躍起になって怒鳴りつけた村長の存在も今では少し懐かしい。
(へっ。過ぎた昨日に気を向けるなんて、らしくねぇことしちまった。一度故郷を飛び出したからには、退かねぇ媚びねぇ顧みねぇ――ちょっと違うか?)
首を傾げるカミナの左右、挟むように立つ二人が不安にしているのを肌で感じる。暗闇を恐れるのは人の本質で、そのことで怒鳴りつけるなんて狭量さは持ち合わせていない。
故にここでカミナが取るべき行動は、誰よりも先に暗闇の中で前に進むことだった。
何故なら、リーダーが動かなければ後ろはついてこれないのだから。
「しみったれた場所じゃねぇか。薄暗くって何も見えやしねぇ!」
大声を上げて堂々と踏み出すカミナに、ガッシュとニアの足音が続く。そのことに小さな感謝をした眼前――暗闇は唐突にもたらされた輝きに消し飛ばされる。
「――何なのだ!?」
「ニア、ガッシュ! 下がってろ!」
咄嗟の事態に悲鳴を上げる二人を背後に庇い、白光に覆われた瞳を無理にこじ開ける。その目の前に何が出現していようと、最初の壁となるのは自分でなければならないのだから。
もっとも、その心意気も杞憂に終わった。
光の灯った室内、三人の目が光度の変化に対応し始めると、そこに危険がないことが知れる。
そう、その一室には敵対者は一人もおらず、あるのは広大な空間だけ。
カミナにとっては見たこともないような機械だらけの一室、ど真ん中にででんと縦長の筒が伸びているのと、壁際に配置されているのが椅子によく似ている程度しか認識できない。
駆け回ってなお手に余る空間の出現に、カミナ達三人は声も出ない。
機械だらけの空間というのは、この三人にとってあまりにも馴染みのない空間なのだ。
だからこそ、この場の重要性について理解の呟きが漏れたことを誰も聞き逃さなかった。
『この場所は……』
「わかんのか、クロミラ」
『はっきりとはわかりません。ただ……この高度な文明は飛躍的に私のいた世界のものに似通っています。細部に至っては違いますが、文明レベルにおいて』
「俺にはさっぱりわからねぇ。噛み砕いてくれ」
『……つまり、この場所がどういう目的に使われる場所なのか、私にはわかるかもしれないということです』
「すごいです! クロスミラージュさん!」
336
:
アイが呼ぶほうへ
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:15:50 ID:n306w3HA0
賛辞の言葉もそこそこに辞したクロスミラージュに従い、カミナは空間の中央にある腰ほどの高さのパネルを見る。これだけならばグレンのコックピット内にも似たようなものがあったような気もするが、如何せん規模が違う。
握れば動かせるだろうという操縦桿を見つからず、カミナは手をこまねく他にない。
『やはり、この機械の文明の設計思想はかなり私の文明のレベルに近いものです。次元間移動に即した私達の世界のものに比べ、おそらくこちらの場合はあくまで一世界の中の理に従ったもののようですが……』
淡々と自身の考察を述べるクロスミラージュの背後、聞いている三人が煙を上げている。
カミナは真っ赤になった顔、耳や鼻から蒸気が漏れる。
ガッシュは理解しようと頭を抱え、その場で唸りながらぐるぐる回っている状態だ。
ニアに至っては指折り数えていることから、いつもの調子で質問する数をストックしている様子が窺えた。
これ以上の説明は無駄になる、とクロスミラージュが諦めたかは定かではない。
だが事実として彼は説明の口を止めると、
『とにかく、起動させることは可能だということです。カミナ、そちらにある赤いボタンを押していただけますか?』
「ぷすー。――っと、おぉ? わかった。この情熱的に赤ぇイカしたボタンだな?」
煙の噴出を止めたカミナが、促されるままに席上のボタンをゆっくり押す。
それだけで、光がかすかに灯るだけだった室内に機械の駆動音が満ち溢れた。四方八方から鳴り響く稼動音にガッシュとニアが驚く顔をするが、カミナはこの鼓膜を撫ぜる無数の音に聞き覚えがあるのに気づいていた。
この音は、そう――ガンメンが、グレンが起動する時に鳴り響く目覚めの音。
手足に活力が漲り、大きな顔で前を見据えるために、エネルギーが満ち満ちていく音だ。
「なんてこった……つまりこいつぁ、ガンメンだったのか!?」
『いえ、違うようです。機動兵器というわけではないようですが……』
「違うのかよ!」
意気込みを塞き止められて唾を飛ばすカミナ。その懐でクロスミラージュが起動し始めた周囲の機械の検分を進める――その時だ。
『――螺旋界認識転移システム起動』
その電子音声を聞くのは二度目だが、その言葉の意味する内容は理解不能だった。
螺旋の冠がつく名前にカミナは振り向くが、ニアもガッシュもわからないと首を振る。改めて何を言われたのか思い出そうにも、難しい名前すぎて螺旋何ちゃらとしか思い出せない。
「一体、どういう意味なのだ」
「待ってください。まだ、さっきの方のお話は途中のようです」
『――螺旋力保持者の存在を確認。システム起動。螺旋界認識転移システムはこれより、対象者を望むものの場所へと転送します』
それきり静まり返る室内、相変わらず周囲の機械は騒がしいが、聞こえた声以上の変化は訪れる気配がない。
三人は互いに顔を見合わせると、同時に肩を竦めて無理解をアピール。
「クロミラ」
『はい。どうやらこの装置の名称は螺旋界認識転移システム。おそらくはその名称の通り、認識した物体の場所へ転移させるという装置のようです。認識したものを呼び出すのではなく、こちらから移動するという形式のもののようですが』
クロスミラージュは説明を述べながら、自身の考察が正しかったことを悟る。
機動六課などの存在のある本来の彼の次元に対し、こちらの装置は単一世界の移動を目的としたものだ。流石に多次元間を移動するまでの文明はないらしいが、目的意識の違いがあるだけでその差異はかなり小規模なものだろう。
多数の世界から参加者を集った手口や、このような施設を用意するだけの技術力。圧倒的な螺旋王の持つ力に、クロスミラージュは分の悪さを意識する他ない。
もっとも、そのクロスミラージュの抱く懸念の領域に、今の説明でカミナ達三人が至ることができるわけもなく――、
「ぷすー」
「ほわーん」
「きらきらー」
三人の意識が現実からかなり距離が開いている。
クロスミラージュが必死に呼びかけて三人を呼び戻し、その効力をしっかりと説明し終えたのはおおよそ五分後のことだった。
337
:
アイが呼ぶほうへ
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:16:24 ID:n306w3HA0
「まったく、凄いものがあるものなのだ」
「あ、これがアニキさんの仰っていた凄いモンなのですか?」
「違ぇ違ぇ! 俺の言う凄ぇもんはもっともぉっと凄ぇもんだ。こんな意味もわからねぇ役立たずな代物のことじゃねぇよ」
『まだ意味がわかっていないのですか!?』
クロスミラージュの絶叫にカミナは「仕方ねぇだろ」と手刀でパネルを思い切り叩く。その固さに思わず叩いた手を抑えながら、
「小難しい理屈はわからねぇんだよ。というか、俺の生き様には必要ねぇんだ」
『ええっと、つまり、こういう言い方はあまり得意ではないのですが……』
「想った場所、想った相手、そこに飛ぶことができる――ですよね?」
クロスミラージュの言葉を引き取り、微笑むニアがそう繋ぐ。クロスミラージュが『感謝します』と返答すると、ようやくカミナも理解に行き届いた。
「なるほど、そりゃ便利じゃねぇか。つまり、欲しいもんとか」
『あるいは捜し人の下へ移動することが――』
そう、二人が納得の言葉を交換した瞬間だった。
先ほどのカミナの一撃が理由か、または別の要因が作用したのかはわからない。かなりの確率で前者を起因とするだろう中、再び電子音声が告げる。
『――螺旋界認識転移システム起動、転移開始』
『しまった、これは――!?』
同時に重なる二つの機械音声、その片方が紛れもなく焦燥感に彩られていたのを三人は聞いていた。
その瞬間に三人が何を思っていたのか、クロスミラージュにはわからない。ただ、その結果だけはすぐにわかった。
――誰もいなくなった一室で、機械の作動音だけが虚しく響き続けている。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
338
:
アイが呼ぶほうへ
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:17:53 ID:n306w3HA0
大地は揺れている。
すでに度重なる破壊に蹂躙された後だ。激戦の余波は一撃ごとに確実に地表の寿命を縮め、遂には崩壊を免れない領域にまでその身を追い込んだ。
不確かな足場の感覚にその悲鳴を感じ取り、ドモンは一瞬だけ瞑目する。
次の瞬間にはその身が、相対していたロボット兵の眼前にまで飛び込んできていた。
「兵隊さん!」
ドモンの圧倒的な白兵戦能力に戦慄を隠せぬシータの叫び。主の命令に呼応して、鈍色の巨体が近接するドモンに対して豪腕を振るう。
鋼の腕はその強度に見合わぬ柔軟さでもって、接近する影を殴殺しにかかった。
大木をも一振りで粉砕する一撃――その暴威を前に静止した男の姿に、シータは白い手を握って必殺を確信。
その確信が裏切られたと知ったのは、横殴りの腕がまるで男をすり抜けるように通り抜けたのを視認――脳に伝達され、驚愕を咀嚼してからのことだった。
一方で悪夢のような回避をしてのけたドモンだが、その彼にとって今の攻防は驚きに値するものではない。
ドモンは繰り出される攻撃に対し、屈むでも飛び退くでもない選択肢を選んだ。即ち、鼻先を掠めるほどの近距離、その僅かな空間だけ身を引くことでシータを錯覚させたのだ。
達人だけが到達することのできる見切りの境地――それがシータには理解できない。
「そんな……兵隊さん、どうして!?」
驚愕を孕んだままの悲鳴に、背中を押されるようにロボット兵は動く。
鞭のような変則的な軌道を描く腕が空気を殴り裂き、接近戦に挑むドモンの翻る体に追い縋る。前髪を薙いでいく打撃の強力さに、ドモンはその脅威を推し量る。
鈍重そうな見た目に反し、ロボット兵の動きは機敏な部類に入る。もちろん巨体の行動力は小回りの利く人間とは比べるべくもないが、それを補うに足る破壊力も持ち合わせている。
加えて恐るべきは機械故の無尽蔵の体力。生身同士の打ち合いであれば、長期戦は疲労を招き、疲労は動きに停滞を生み、停滞は敗北を呼び寄せる。
その生物特有のハンディキャップを、ロボット兵は持ち合わせていないのだ。その動力源を外側から窺うことはできず、持久戦に持ち込むのは愚の骨頂と結論づける。
また、ドモンは近接戦を挑んだ自身の判断の正しさを確信。
ロボット兵は先ほどから腕力に任せた隙の大きな攻撃を繰り返すばかりで、スパイクの腕を奪い、そして卸売り場をここまで大火で覆ったはずの熱線を一発も放っていない。
レーザーの威力が強すぎるのだ。その威力が至近距離になれば自分を、ひいては主人をも巻き込むために使用することができない。
その脅威の一端を担う兵器を使用することができない理由。
従者が両腕で健気な格闘戦を強いられるのを、当の主人は気づきもせずに勝手な命令を口にし続けている。
「早く殺して! 何をしてるの、兵隊さん! 役立たず!」
「勝ちたいではなく、倒そう殺そう。その意思が拳を鈍らせる。このロボットの動きは貴様の憎悪で曇っている!」
「何を……何を言っているの? くすくす……おかしい人!」
一喝に対し、少女が返したのは見下すような嘲笑。だが、引き攣る口元がその内心の焦燥感を如実に示している。
一方でこの状況下で笑うことのできる少女、その存在がドモンにはあまりにも哀れだった。
339
:
愛をとりもどせ!
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:18:39 ID:n306w3HA0
主人の命に逆らわず、ロボット兵の攻撃は続いている。
暴風じみた連撃を前に身を捌きながら、生じた隙の合間にドモンの拳が打ち込まれていく。
ロボット兵の防御力は、あのスパイクをして愚痴を零させた代物だ。貴重な銃弾を消費した攻撃を装甲が凹む程度で済まし、その後の行動に支障すら生じさせない超金属。
その鋼を越える超鋼に、銃弾と遜色のない凹みが幾つも穿たれる。
しかもそのサイズは銃弾と比較してはるかに大きく、何より数に限りがない。
――キング・オブ・ハートの情熱の拳に、打ち止めの言葉は存在しないのだから。
「うおおおおおおお――!」
機関銃じみた衝突音が連発し、衝撃に打ちのめされる巨体が大地を抉りながら後ずさる。
その間も無痛の利に勝るロボット兵の己を顧みない攻撃は続いていたが、懐に飛び込んだドモンはロボット兵の打撃をいなし躱し、攻撃の手を緩めない。
まさしく攻防一体の猛襲が、そのロボット兵をして窮地に追いやらせていた。
「しぃ――っ!」
一際強力な拳――右の正拳がロボット兵の胴体の中心を打ち抜き、ドモンは一度身を離す。とはいえレーザーを懸念し、超近距離から近距離程度の移動でしかないが。
連撃を叩き込んだ拳を握る。その拳に残るのは微かな痺れだ。
装甲の分厚さはドモンの想像をもう一つ上回っていた。連撃によって生じた凹みの数は三桁に近いが、いずれも行動不能に追い込むにはあまりにも致命打に遠い。
拳によって致命打を引き寄せようと思えば、必要になるのは拳が千単位になるか。
なれば、ただの打撃をもってこれを打破せんとするのは、己の自惚れに他ならない。
拳を固め、意志を新たにするドモン。
その頭上を豪腕が裏拳気味に通り過ぎ、次いでロボット兵の両腕がドモンを挟み込むように左右から接近。地を這うような低姿勢でこれを回避。打ち合わされる腕の間の大気が爆発し、銃声を上回る爆音が鼓膜を振動させる。
纏う衣の裾を翻らせる長身の胸中、ドモンがさらに思うのは眼前の哀れなロボット兵に対する同情であった。
歴史も文明も大きく違えば、そのロボットの設計思想さえドモンの知る全てと異なる。
だが、それをして彼の存在がその真価を発揮できていないことは手を合わせればはっきり伝わる。
武の道に足を踏み入れるものとして、その実力を出し切ることのできない戦いが如何ほど無念なものかは胸が痛いほどにわかる。
ガンダムファイターとして各国の代表と武勇を争い、覇を競った経験。
キング・オブ・ハートを真の称号へと昇華したドモンにとっては、敵であったとしても、ましてそこに生物か無生物かの隔たりなどなく、その事実は等しく苦痛の一言であった。
単なる実力差であるというならば構わない。ドモンはたとえ相手が圧倒的な弱者であったとしても、その全力で挑んでくるのであればファイトに価値はあると考える。
だからこそ、相手がその真価を発揮することのできないファイトは辛い。
その理由が戦いに身を置く本人ではなく、扱う側にあるとすれば尚更のことだ。
「兵隊さん、何してるの! 私の声が聞こえないんですか! 早く、殺して――!」
身勝手な主の紛糾にロボット兵の機動が上がる。その長い両腕が高々と空に向かって伸ばされ、その直後に正面にある全てを粉砕せんと振り下ろされた。
刹那の破壊はまさしく爆斧の炸裂だ。
もともと脆くなっていた地面に縦横無尽の罅割れが走り、抉られた大地の土塊を散らせる。
鳴動は大地が上げた断末魔の悲鳴だったろうか。脅威でいえばレーザーに勝るとも劣らぬ破壊の威力は、そこに生物の存在を許さない理不尽な鉄槌。
「未熟――!」
だがその暴威の前にドモンは無傷を保っていた。
打ち下ろしがくる一瞬の隙間を体捌きのみで潜り抜け、ロボット兵の脇をすり抜ける。そして背面を合わせる形になった両雄――ドモンの体が捻られた。
流派東方不敗――背転脚!
340
:
愛をとりもどせ!
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:19:03 ID:n306w3HA0
繰り出された蹴撃がロボット兵の背中の中心を穿ち貫き、数百キロにも及ぶ重量を軽々と中空へと吹き飛ばす。
十メートル以上に渡って滑空した巨躯はそのまま勢いを殺せずに地面を転がり、土煙に翻弄されながら瓦礫の山へと激突――衝撃に続いて崩落する土砂に巻き込まれ、粉塵を巻き上げる砂塵の中にその身を埋もれさせる。
蹴りは拳の三倍以上の威力を持つ。ましてやその蹴撃は流派東方不敗の一技。
直撃を受けたものは如何に超鋼の装甲を持つとはいえ、無事に済むはずもない。
「え……嘘……兵隊、さん?」
呟きは信じられないものを目にし、呆気に取られた響きを伴う。
少女はロボット兵を下敷きにした土砂の山を眺め、唇を震わせて、
「嘘……そんなはずありません。だって、兵隊さんは固くて強くて……神様は私に優しくしてくれるはずで……くす、くすくす。だって、そうじゃなきゃ、くす」
「貴様を守ろうとしたロボットが負けたのが何故だかわかるか? それはな、それを扱う人間があまりにもその存在を蔑ろにしたからだ!」
「――ひっ!」
呆然と棒立ちになるシータの前に立ち、ドモンが見下ろす矮躯に怒声を投げ掛ける。
ロボット兵を失えば、先ほどまでの濃霧のような殺意はどこへやら。消え去らぬ敵意と悪意を双眸に宿しながらも、少女は宿り木を失ったように足元をふらつかせる。
「あのロボットの力がどれほどのものだろうと、それを扱う貴様自身が見合った力を持たなければ勝てないのは道理。弱いのが悪いことなんじゃない。弱さを盾に、与えられただけの力に寄りかかることが悪いんだ!」
それはドモンの自論でもある。
強くなろうとする意思。それが人の強さを生む。
流派東方不敗は肉体の強さだけではなく、精神の強さによって肉体に作用するもの。
己を高めるという気高き意思なきものに、真の武が宿ることなどない。
「借り物の力でファイトに挑むなど、自分と相手に対する侮辱だ!」
「あなたなんかに、何が……!」
シータに残っている感情は悪意の奔流。それは戦意とは似て異なるものだ。
戦意を宿すものとはファイトできる。だが、悪意しかないものと何を競えるというのか。
形勢不利の状況において身構えの一つも取れないシータは、完全に武芸の心得がないらしい。その華奢な身はこのゲームの中で巡り合ったいずれの参加者にも劣るだろう。
侮るつもりは毛頭ないが、体つきと纏う雰囲気がそれを示している。
ならばドモンの一撃を防ぐ術も、耐え得る術も持ち合わせてはいまい。
(当身か何かで気絶させるか……)
この期に及んでドモンは、この危険な少女の命を奪うつもりはなかった。
彼女の歪みがゲーム以前のものか、あるいはゲームの中で歪まされてしまったものか。それはドモンには知る由もないことであったが、元よりドモンは女子供に甘い男だ。
彼女の実力が圧倒的にドモンに及ばないことも含め、動きを封じることは容易いと考えた。
そのドモンの心算を察したように、シータの表情が歪む。
微笑めば可憐な花のような愛らしさは、血と泥と恐怖に塗れ醜い食虫花の様相。
いやいやと首を振って後ずさるシータは、
「こ、こないでください……! わ、私はここで死んでしまうわけにはいかないんです。だって、私が死んでしまったら……誰が、誰が……」
「殺しはしない。俺はそんなことのためには戦わない」
「嘘です! だって、それだけ強かったら、そんなに力があるなら、あなただって優勝したいに決まっているじゃないですか!」
「そんなことはない! ガンダムファイターは! キング・オブ・ハートは! 流派東方不敗は、相手を殺すために戦うことは絶対にない!」
戦いの果てに死という結果があることをドモンは身に沁みて知っている。
その一方で、ドモンは殺すための戦いをしたことはない。いや、かつてはあった。だがその憎悪に満ちていた弱い己の心は兄との、そして師との戦いの果てに乗り越えたのだ。
キング・オブ・ハート――ドモン・カッシュは殺すための戦いになど断固参加しない。
341
:
愛をとりもどせ!
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:19:27 ID:n306w3HA0
「くす……くすくす。それじゃ、どうするつもりなんですか? 戦わなきゃ、殺さなきゃこのゲームは終わらないんです。殺さなきゃいつか終わってしまう。そうでしょう?」
「そのゲームを殺し合わずに終わらせようとしている。そのための仲間もいる。気に食わない奴もいることはいるが、それでも全員がこのゲームの無意味さに辟易とした連中だ。頭のいい奴も腕の立つ奴も、鋼の意思を持つ奴も。だから、こんなゲームは俺達が壊してみせる!」
握る拳に闘気が満ち、炎のような灼熱が掌に宿った。
非道を躊躇なく実行し、数多の命を死に追いやった螺旋王。その野望を、悪道を、確実にこの手で打ち砕くための義憤からなる情熱。
力強い猛りを前に、しかしシータはさらに怯えるように首を横に振り、
「い、や……」
「なに?」
「いやです。だってそんなことしたら……誰も、誰も生き返れない。エドも、ドーラおばさまも……パズーも!」
なくなってしまったおさげ髪の余韻を掻き乱し、シータは正気の失われた瞳で叫ぶ。
「褒めてもらいたい! よくやったね。生き返らせてくれてありがとうって! パズーに! また一緒にゴハンを食べたい! パズーと! 悲しい時は傍にいてほしい! パズーに! 一人で寒くて寂しい時は、肩を寄せて一つの毛布に包まって温かさを感じていたいんです! イヤ……嫌ァ……パズー……パズゥ……」
その場で蹲り、両の目から零れ落ちる涙を手の甲で拭い続けるシータ。流れる涙は止まる勢いを知らず、血塗れた彼女の着衣に涙の足跡をつけていく。
それを見下ろすドモンの胸中を、やり切れぬ想いだけが吹き荒れていた。
少女が狂気に走った理由の一端が、今の絶叫から読み取れたからだ。幾度も呼ばれたパズーという名は、何度目かの放送で呼ばれた名前だ。
シータにとって、きっと大切だったに違いない名前。
大切な人を失った悲しみは簡単には癒えない。かくいうドモンも、未だに胸が痛む。
大切な人を生き返らせたいという気持ちもわからなくはない。ドモンすら、この殺し合いが始まった当初、師であるマスター・アジアの生存に希望を見出した。
また師匠に会えると、失ってしまった絆に出会えると、そう思ったのだ。
時間と強さが必要だ。
殺し合いとは何の縁もない平和な世界から呼び出されたとして、大事な人を失った。
そしてそれからまだ半日程度しか経っていない。
立ち止まり、声嗄れるまで泣き喚き、自暴自棄になるのを誰が責められるだろうか。
やはり、殺すわけにはいかない。
それがドモンの結論だった。気絶した彼女を連れて行けば、おそらくは危険性から始末するべきだと主張するものは少なくないはずだ。
ギルガメッシュなど、その最たる候補といえるだろう。ジンも人情味に溢れるようで、その実は合理的な思考をする男だ。感情ではなく理性によって、無情な判断を下しかねない。
その全員を説き伏せ、助命を請うのはあまりにも苦難の道だ。
だが、険しい山を歩くことを怖じる気持ちはドモンにはない。
シータを救い、師匠の心を再び改心させ、螺旋王の企みをも打倒する。全部やらなければならないのが、キング・オブ・ハートの辛いところだ。
「無理を通して道理を蹴っ飛ばす……だったな。覚悟はあるか? 俺は、できている」
泣きじゃくる気力があるのなら、涙を流しきってしまう方がいい。
涙は悲しみを押し流し、その衝動を軽減する効果がある。一頻り泣き終わるのを待ち、できるだけ優しい当身で意識を奪おう。
悲しみに沈む少女に対する、少し歪んだ思いやりを覗かせるドモン。
戦闘は静かな膠着状態を迎え、沈静化の方向に向かう――そのはずだった。
――その気配の出現はあまりにも唐突で、ドモンですら予期することのできないものだった。
腕を組み、シータを見下ろしていたドモンは、突如として背後に出現した他者の気配に戦慄、風を切る速度で振り返り、その拳を構えたのは流石は歴戦の勇者。
そうして戦闘態勢を取ったドモンの眼前、そこに立っていたのは――、
「あの、ここはどこでしょうか?」
水色の髪に花模様の瞳、今のシータとあまりにも対照的な一人の少女だった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
342
:
アイの呼ぶほうへ side I
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:20:15 ID:n306w3HA0
それは突然のことだった。
機械だらけの一室は、懐かしいテッペリンをどこか思い出させるものだった。
もちろんあの空に浮かぶ宮殿よりもずっと機械的な場所であったのだけれど、彼女はそこにどこか懐かしい父親の面影を感じ取っていた。
カミナとクロスミラージュ、それにガッシュが目の前の機械について話し合っている間、ニアは自分が少し夢現としていたことを自覚している。
ここはおそらく、お父様との関係が決して薄くない場所であると。
その間にクロスミラージュが機械の解析を終え、その結論を三人に説明した。
難しい途中途中は理解できなかったが、思った相手のところへ移動できるというものは便利な上、素敵なもののように感じる。
(これがアニキさんの仰っていたような、凄いモンなのですね)
そう納得したのも束の間のことだった。
部屋全体が細かく振動し、何度か繰り返された電子音声の再生。クロスミラージュに比べて温かみのまるでないそれを聞きながら、ニアは思っていたのだ。
――もしも願う誰かの下へ飛べるなら、私はシータさんを止めたい。
願いは叶った。
螺旋界認識転移システムはその力を遺憾なく発揮し、ニアの細身を空間を捻じ曲げて対象の下へ転移させる。時間はかからない。ほんの一瞬、瞬きの間の出来事だった。
ぱちくりと大きな瞳が開閉された一瞬の間、そして彼女は大グレン団の仲間と逸れていた。
目を開けて見回す周囲、そこには見覚えのない荒地が広がっている。
四方八方のどこもかしこにも破壊の痕跡が刻まれ、踏み締める大地さえ確かではない。
咄嗟の事態に対し動揺しないのは彼女の美徳だ。
穏和な性格、あるいは世間知らずが故の心の強さ。それが仲間を見失い、見覚えのない破壊だらけの場所に置き去りにされるという状況ですら、取り乱すことを未然に防いだ。
だから彼女はいつものように小首を傾げ、一番身近に見えた男に声をかける。
「あの、ここはどこでしょうか?」
無防備な彼女の問い掛けに、身構えていた男は危険はないと思ったのか拳を引く。それから周囲の惨状を見渡すと十字傷のある頬に触れて、
「ここは……その、卸売り場だった……はずだ。確かに少し面影はなくなってしまったが」
「はぁ……それで私、どうしてここにいるんでしょうか?」
「それは俺が聞きたいぐらいだ。君は気配もなく、急にそこに現れたんだぞ」
毒気を抜かれたような返答に微笑みながら、ニアはふと目の前の人物の容姿に引っかかりを覚える。
黒髪に巻いたハチマキ。ほっぺたにある十字の傷――聞いていた誰かの容姿に、とても似ている気がする。
「あの、あなたはひょっとして……」
一歩踏み出し、その男性にニアは駆け寄ろうとする。
そうして最初の位置から動いたから、ニアはようやくその存在に気づいた。
長身の男の影になる位置で、蹲って泣きじゃくるシータの姿に。
「――シータさん?」
花模様の双眸が初めて驚きに揺れ、しくしくと断続していた涙声が停止する。
そして涙の雫を湛えた双眸で上目に睨み、幽鬼めいた仕草で少女が顔を上げた。
その姿は紛れもなく、捜し求めていたシータ。しかし数時間前に別れた時よりも、その服装は血と泥によって際限なく汚れ、双眸に宿る感情の迷走は色濃くなっていた。
343
:
アイの呼ぶほうへ side I
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:20:41 ID:n306w3HA0
その変わり様に思わず息を呑むニアに、その姿を視認したシータが告げる。
「なぁんだ……本当に、生きてたんですか」
殺意というものには色も熱もある。
東方不敗に襲われた時、かの達人がニアに向けた殺意は熱く、炎のように赤かった。
かつて遭遇した時、シータの抱く殺意は青白く、身を凍らせる永久凍土であった。
しかし今の彼女は違う。
今の彼女が抱く殺意は、これまでのどの殺意ともあまりにも違う。
黒かった。
どす黒かった。
どこまでも色は暗黒で、その性質は粘着質な汚泥じみている。
熱い冷たいでそれを図ることはできない。黒く、深い、澱みだ。
「すみません。わぁわぁ子どもみたいに泣いてしまって。くすくす、シータちょっぴり反省です。でも、そのおかげでとってもすっきりしました」
涙の跡の残る顔を袖で乱暴に拭い、シータは晴れやかな表情で笑顔を作った。
そうして見れば愛らしい笑顔だ。その内心を狂気が渦巻いていることを知らなければ、きっと見るものも笑顔を返す気になることだろう。
だが彼女の狂気を知るこの場の二人にとって、その笑顔はあまりにも歪んだものだった。
「お前は……いや、シータだったな。シータ、お前は一体……」
「あ、お待たせしてしまったすみませんでした。でも、泣き止むのを待ってくれるなんて優しいんですね。それにとってもお強いし……くすくす、理想的です」
すぐ傍に立つシータの変貌が理解できず、ドモンは眉根を寄せる。
その少女の白い手が真っ直ぐにドモンに伸びてくる。ただの華奢な細い手だ。何が握られているわけでもなく、全くの敵意も感じられない。
だからその手が胸に伸びてくるのを放置し、ドモンは彼女の行動を待つ。
そして人差し指でいじらしく、妖しげにドモンの胸をなぞり、彼女は言った。
「今度はあなたが、私を守ってくれる兵隊さんなんですね」
「……貴様、何を言っている?」
「ロボットの兵隊さんは負けてしまいました。でも、代わりに現れたのがあなたです。私の新しい兵隊さん。神様が古い役立たずの代わりにくださった新しい私の武器。前よりずっとずっと強くて、ああ――コレならきっと優勝できます、神様!」
歓喜の表情で両手を天に伸ばすシータの声に、一心の疑念も存在していなかった。
だからこそその根底に根付いた狂気の深さに、ドモンは本能的な嫌悪感を感じる。
たった一人の少女をたった一日の間に、これだけ破壊しきるゲームの腐り加減に。
「――断る」
「何が欲しいんですか? あげられるものはあまりなくて……私の体でよければ使ってください。くすくす、意外と恥ずかしがらずに言えました。あ、でも、明るいところは少し嫌です。汚くてもいいので建物の中が……」
「――何を代価にされようと、俺は頷かない」
自身の解れた衣服に触れ、白い足を見せつけるように覗かせる姿を見ていられなかった。
瞑目し、唇を噛み締めて無常さに身を震わせるドモン。そんな彼の様子を不思議そうに眺め、シータは唇に指を当てて、
「くすくす、おかしな兵隊さん。新しい兵隊さんは少しわがままなんですね。でも大丈夫です。私は王族ですから、臣下を従える資質はあります。ちょっとくらい不忠者でも、甘い飴をあげれば大人しくついてきてくれますよね?」
湧き上がる自信はどこから出てくるものなのか。
シータの言動と行動は、眼前のドモンを篭絡することができると信じて疑っていない。
「さあ、従ってください、兵隊さん。私を好きにしてくれていいですから。王族に触れることができるんですよ? とてもとても名誉なことじゃありませんか? 本当はパズーだけなのに、とてもとても凄いことですよ? 早く皆さんを皆殺しにして、生き返らせてあげましょう」
344
:
アイの呼ぶほうへ side I
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:21:07 ID:n306w3HA0
論理は破綻している。言動は支離滅裂だ。
なのにドモンには、その少女を真っ向から破壊する言葉をうまく選ぶことができない。
拳を培ってきた日々が、ガンダムファイターとしてキング・オブ・ハートの称号を得て尚、この手が届かない領域があることを思い知らされていた。
だから聞くに堪えない妄念を口にするシータの、その頬を張ったのはドモンではない。
それはこれまでずっと黙って静観していた少女――ニアの掌だった。
ドモンは知らないが、ニアの掌がシータの頬を叩くのはこれが初めてではない。
そのためか、結構な勢いの平手にも関わらず、シータは痛がる素振りを見せなかった。ただ叩かれて横を向いた顔を正面に戻し、異様に冷たい眼差しでニアをちらと見て、
「まだ、いたんですか。そうだ、兵隊さん。手始めに、このニアさんを殺してください。殺したはずなのに死なないんです、ニアさん。卑怯ですよね、ズルイですよね。死なない人なんてこの場所にいちゃいけないのに。とりあえず手足を折るか千切ってください。そうすれば動けないニアさんを、禁止エリアに放り込めます。あとは何回でも首が爆発するのを見ましょう。わあ、ちょっと楽しいかもしれませんね」
「――あなたは、とても悲しい方です」
手を叩き、自分の考えがさも名案だと言いたげなシータに対し、ニアは悲しみに満ちた瞳でそう投げ掛けた。
「なん、ですか?」
「あれからずっと、今までずっとその考えに囚われてきたのですね。それはとても、残念なことです」
ニアは自分が悲しみを覚えた時、自分の傍にいてくれた人々を思い出す。
――ドーラおばさまは優しかった。彼女がいなければ、シモンを亡くした悲しみに自分が耐え切れたかどうかわからない。
――ビクトリームは勇気のある人だった。最初の出会いは突然で、逸れた時もあったけど、最後の最後に彼は自分達を信じてくれた。
――マタタビさんをもっと知りたかった。傷だらけの出会い。言葉を交わす余裕もなく、失ってしまったありえたかもしれない絆。
――ルルーシュさんは味方になってくれた。皆に行動を疑われ、心細く反論もできない自分を庇ってくれた。
――ガッシュさんは大事な大事な大グレン団の仲間。小さいのに、勇気がある、王様を目指す勇敢なお友達。
――クロスミラージュさんは頭のいいデバイスさん。こんがらがってしまった思考の糸を解いて、道を示してくれる立派な方。
――そして、シモンが信じたアニキさん。でっかいシモンが信じた通り、でっかい背中の凄い人。無理を通して、道理を蹴っ飛ばす。大グレン団、不撓不屈の鬼リーダー。
もう死んでしまった人もいるけれど、全ては掛け替えのない出会いだった。
ニアはこの時間の中でたくさんの人に巡り合い、話し合い、時には戦い合いながら、心の芽に水を与えてきた。
蕾がどんな花をつけるかはまだわからない。咲けるかどうかも確信はない。
それでも綺麗な花をつけるのではと、花模様の双眸は信じて疑っていない。
「誰も、シータさんを救ってはくださらなかったのですか?」
「そんなこと、ありませんよ。マオさんがいました。エドがいました。言峰神父も優しい言葉をかけてくれましたから。だから私、幸せです」
語るシータはにこにこと微笑み、その黒い眼は相変わらずの漆黒を描いていた。
出会い全てが悪かったわけではない。
シータにだって、このゲームの中で大切だと思える出会いがあった。
大切だと思える人々もいた。
だから――シータはもう一人のニアなのだ。
ニアがこれまでの出会いで救われてこなければ、シータと同じ道を歩いたかもしれない。
彼女はIFの自分。このゲームの中で大切な人を得て、失った、もう一人の私。
345
:
アイの呼ぶほうへ side I
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:21:33 ID:n306w3HA0
「失ってしまった大切な人は、もう戻ってきません」
「戻ってきますよ。私が優勝して、全員を生き返らせますから。ニアさんも安心してください」
「いいえ、安心しません。私は生き返りたいと思わないし、生き返らせたいとも思わないです」
「生き返った人に責められるからですか? 大丈夫です。私と同じ価値観になって生き返ってきてもらいます。そうすれば生き返ったことを誰も不思議にもおかしいとも思いません。あぁ、なんて素敵な世界でしょう」
「そんな風に生き返ってしまった人は、たとえ大切だった人でも、もう違う人になってしまいます」
ぴた、とシータの動きが止まった。
口元からは笑みが消失し、見開かれた目がニアを睨む。怖じず、彼女は続けた。
「私が大好きだった人達。私が大好きになった人達。もう会えない人もたくさんいて、そのことは悲しいです。辛いです。ずっと、心に傷を残すかもしれません」
「だから……!」
「でも、生き返らせて怒られないために考えを変えてしまうなら、それはもう同じ形をした別の存在――大好きだったその人じゃ、きっとないんです」
「うるさい! 黙って! 兵隊さん、この人を殺して! 早く!」
「大好きだった人達も、出会うまでは知らない人達でした。私もお城を出るまで、シモンのことは全然知らない人だったんですよ」
あの天空の宮殿の中で、たった一人だけニンゲンとして育てられていた自分。
何も知らずに捨てられて、シモンやヨーコ。大グレン団のみんなに助けられた自分。
彼らを好きになっていった。話せば話すほど、助け合えば助け合うほど。
そうして好きになった彼らは、その瞬間に作られた彼らだったろうか。
違う、とニアは思う。
彼女が愛した人々は、赤子として生まれ、名前を貰って成長し、自分を作り上げた。
一から積み上げられた全てと付き合って、ニアは彼らを愛したのだ。
「仮初めのシモンに、私は会いたいと思いません。私の知っているシモンは、この場所で懸命に生きるために戦いました。――それが、私の大好きなシモンの全て」
「泣き喚いて……無様に足掻いて、命乞いをしながら死んだかもしれませんよ……?」
「いいえ、シモンは最期まで戦いました。だってシモンのドリルは、天を突くドリル! シモンは、『男』なんですからっ!」
ニアの信じる心、強い眼差しに気圧されるように、シータの上体が背後に揺らぐ。
シータにとって、ニアの発言は一から十まで聞く価値のない戯言だ。
そうに決まっている。そんなもの、心に留めておく価値などどこにあるものか。
――パズーの形をしただけの、違うモノ。
目覚めた朝、鳥達とトランペットを吹いていた彼。
追われているとわかった自分を、懸命に助けてくれた彼。
魔法の鞄からたくさんの宝物を取り出し、笑わせてくれた彼。
ドーラおばさまの力を借りて、軍の駐留する場へ助けにきてくれた彼。
一緒にラピュタへ向かう道筋、慣れぬ飛行船作業で顔を黒く汚していた彼。
ラピュタを捜す見張り場で、一緒の毛布に包まって、互いに笑い合っていた彼。
――蘇るのは、その愛しいパズーとは違うモノ?
そんなはずはない。そんなことがあっていいはずがない。
だって生き返るパズーはシータと同じ価値観なのだ。シータと同じものを見て笑い、シータと同じものに対し怒り、シータと同じ場面で悲しみ、シータと同じことに愛おしさを感じ、シータと同じことに同じことに同じことに同じことに同じことにオナジコトニ……。
「全てが自分と同じになることを、愛と呼ぶのとは違うと思うんです」
「うるさいです。静かにして……これ以上、困らせないでください」
「シモンと私は違う人間ですから、一緒になることはできません。でも、違うから、違っているから、違っていてもいいと思えるから――それを、嬉しいと思います」
「聞こえない聞こえません。あーあーあーあーあー! うるさいんです! 兵隊さんは何をしてるの! 早く、早く殺してください!」
346
:
アイの呼ぶほうへ side I
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:21:59 ID:n306w3HA0
耳を塞ぎ、声を出し、ニアの言葉から遠ざかる。
あの声は、言葉は、仕草は、存在は、全てがシータにとって猛毒だ。
「私はラピュタの王族、リュシータ・トエル・ウル・ラピュタなのに!」
「私だって螺旋王の娘、ニア・テッペリンです!」
絶叫に応じた大声の内容に、傍らで二人のやり取りを見守るドモンすら驚愕する。
そのドモンの動揺が可愛くなるほどの衝撃に、シータの思考は激しく揺さぶられた。
螺旋『王』の娘――つまり、彼女もまた、王族。
シータがこの場で唯一無二であると信じる優秀な血に、匹敵する存在。
足場が瓦解する。もはやまともに立っていることすら困難だ。
シータは足がなくなったように腰から崩れ落ち、すぐ近くのデイパックに手を入れる。その中身を乱暴に漁りながら、必死の形相で取り出したのはストラーダ。
自暴自棄で何を取り出すと警戒していたドモンの前で、彼女は掌の上の腕時計になってしまっているストラーダに懸命に呼びかける。
「動いて! 動いてください、ストラーダ! この人を、ニア・テッペリンを殺して! お願いします、お願いします! あなたは私の道具でしょう!?」
魔力を失った仮初めの主に、ストラーダは応じる気配もない。
腕時計の針は静かに時を刻み、虚しい絶叫に淡々と時間の経過を伝えるのみだ。
何も告げないストラーダを、癇癪を起こした子どものように放り捨てる。
それから何も応じないデイパックをごそごそと漁り、何も状況を打開する術が出てこない。
「どうして……どうして、私は神様に……神様……そう、神父様! 言峰神父! どこですか! 出てきてください、言峰神父! 私、神父様のお言葉がやっと理解できたんです! もう馬鹿で神父様を困らせる私はいません! だから助けて!」
支給品のデイパックを投げ出し、シータはここにいない長身の神父の名前を叫ぶ。
呼べばその存在が正義の味方の如く現れるというように。
シータは狂笑を浮かべながら、ニアとドモンの二人を指差して、
「ニア・テッペリンも! 命令を聞かない兵隊さんも! みんなみんな神父様がやっつけてくださいます! わぁ、やっぱり私は神様に愛されている!」
的外れな愛を高らかに叫ぶシータ。その姿を痛ましげに見ていたドモンの表情が変わる。
ふと空を見上げるその動作にニアが続くと、その声は聞こえてきた。
――――生き延びた者達よ、聞くといい。
朝焼けの空に木霊するのは、重々しさと威厳を備えた王たる器を秘めた声。
「螺旋、王……!」
「……お父様」
ドモンが義憤を、ニアが複雑な悲哀を呟きに込める。
シータは天から届く放送など完全に無視した様子で、けたけたと子どものように笑う。
347
:
アイの呼ぶほうへ side I
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:22:24 ID:n306w3HA0
螺旋王の前置き、そして死者発表を始める報。
ドモンも、そしてニアも、今は離れた仲間達の安否に心で身構える。
――言峰綺礼
故に最初にその名前が呼ばれた時、何の心構えもしていなかったのはシータだけだった。
口元を押さえて上品に笑うことも忘れ、そこだけ見れば空族の風習に染まった野蛮な笑い。
それが告げられた名前を耳が捉え、鼓膜を叩き、脳に伝達した瞬間にぴたりと止む。
よく、意味がわからない。
今、言峰の名前が呼ばれたのはどういう意味があったのだろう。
ひょっとして、高いところに突如として現れた言峰神父が、自分の名前を高らかに叫んで、救いのヒーローの如く飛び出してきてくれるのだろうか。
そんな期待感があって、思わずシータは辺りの高台の上に長身の影がないか探してしまう。
どこにも神父様は見当たらない。そもそも、言峰神父はそういう目立つことをしたがるような人ではなかったような気がする。
言峰はどんな人だっただろうか。あまりよく思い出せない。自分を助けてくれる、とっても強くていい人だったことだけは覚えている。
それだけ覚えていれば、まあいいか。どうせ同じ価値観で蘇るのだし。
シータがそんな結論に辿り着いた頃、すでに放送は終わりを迎えていた。
小首を傾げているシータに再び目を向ける、ニアと役立たずの二人。
その目つきが気に入らない。なんて目をしているのだろう。それが王族に向ける目か。
「あなた達は今、ラピュタの女王の前にいるんですよ?」
ひれ伏せ、頭を垂れろ。這い蹲って慈悲を乞い、ブタの真似をして楽しませればいい。
そうすれば遠慮なく、ブタを殺すことができるから。
「言峰神父、まだでしょうか。早くきてくださらないでしょうか。もう目の前のブタが目障りで目障りで……」
「言峰は、死んだ」
「は?」
声を発したのは役立たずの方だ。臣下に加えてやると言ったのに、何度言っても素直に頷かなかった無礼者。
それが今、何を言った?
「言峰神父が、どうしましたって?」
「言峰が死んだ。これは俺にとっても、残念でならない。あれほどの使い手が命を落としたのは無念の一言だ。――だが、事実だ」
冷酷に告げること、それがドモンの選んだ答えだった。
彼女の心の負った傷の深さは、果たしてどれほどの時間をかけて癒せるものだろう。
少なくともこの場ですぐにどうにかしてやることはできない。なればこそその歪んだ信念の拠り所を砕ききれば、再生への第一歩になるのではあるまいか。
「くす、くすくすくす……そんな、おかしいわ。だって、くすくす。くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす! くす! くすくす!!」
348
:
アイの呼ぶほうへ side I
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:22:47 ID:n306w3HA0
心の砕ける音を、その場にいた二人は確かに聞いた。
それは軽やかで、儚く、場違いにもどこか美しい、ガラス細工の砕け散る音に似ていた。
少女が膝から崩れ落ちる。蹲り、焦点の合わない瞳で、地面に着いた両手を眺めながら、
「言峰、神父も。ストラーダも。兵隊さんも。エドも。ドーラおばさまも。パズーも……」
もう、何もこの手には残されていない。
どうして――私は、神様に愛されていたはずだったのに!
「シータさん……」
哀切に震えた声がシータの顔を上げさせた。
その眼前に立っている少女を黒瞳が捉え、瞳孔が集中によって開く。
――ニア・テッペリンか。
――色白の肌。空色の髪。柔らかそうな体。美しい顔立ち。愛される人柄。王族の血。
――神はリュシータ・トエル・ウル・ラピュタを見捨て、幸せな姫を選ぶのか。
「殺してしまえぇぇぇぇぇ! 兵隊ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
血の噴き出すような憎悪の絶叫――その声に、神すら見限る主君を見捨てぬ忠義が応えた。
遠距離、主から全力の命令――およそ、全力を発揮するにこれ以上の場面はない。
うず高く積まれた瓦礫の山を融解させ、一閃のレーザーが真っ直ぐに少女の背を狙った。
レーザーの威力、速度、全ては宇宙の賞金稼ぎのお墨付きだ。
彼の男の片腕を奪い去った一撃は、華奢な少女を一瞬でこの世から蒸発させるだろう。
その死の熱線からニアを守ったのは、傍らに寄り添うように立っていた王者の勲功だった。
シータの血を吐く命令が発された瞬間、ドモンの研ぎ澄まされた聴覚ははるか離れた土砂の山の中、ロボット兵の埋まる場所にエネルギーの収束音を聞いた。
次いで、熱線がロボット兵の額から放射され、瓦礫の悉くを焼き、溶かし、消し去る音。
全ては一瞬の判断。
音の正体は何か。狙いは誰なのか。そして、この場にいるのがキング・オブ・ハートか。
この全ての条件がクリアされなければ、熱線はニアの体をこの世から消失させたはずだ。
故に見事、ドモン・カッシュはニア・テッペリンを熱線の魔の手から救い出した。
単なる熱線の猛威からだけではなく、その後に地面に着火しての誘爆からさえも。
「きゃあ――!」
「歯を噛んでいろ! 舌を噛むぞ!」
大地に斜めに入った朱色の線が、次の瞬間に高熱を発して爆発する。
さしものドモンもこれを立ちはだかり止める術はない。
吹き荒れる熱風に全身を翻弄され、衝撃の余波にその身を宙に投げ出される。だが、最も強い最初の爆風さえしのげば、その後の行動は流石は誉れも高きガンダムファイター。
振り回される中空でいち早く上下左右を見極め、地面と壁の位置を割り出して着地点を探る。
庇ったニアは胸の内だ。高速移動に三半規管が揺れるくらいの弊害はあるかもしれないが、ダメージからは完全に守っている。
そのことさえ確認できれば、今のドモンに他の気にかける要素はない。
背面のほとんど全体に及んだ重度の火傷の激痛も、失う痛みに比べればどれほどのものか。
地面との激突の瞬間にドモンは身を回し、抱え込んでいるニアを痛みから遠ざける。火傷を負っていた背中側から落下することに、一切の躊躇いはない。
瓦礫の破片が大量に散らばる地面を転がり、慣性を殺し切ってからドモンは身を止めた。
熱波によって焼き払われた卸売り場を見回し、ドモンは抱いていたニアを開放する。
「目が……回りました……」
「無理に立とうとしなくていい。それにおそらく、ここはもう駄目だ」
349
:
アイの呼ぶほうへ side I
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:23:45 ID:n306w3HA0
地表を薙ぎ払うレーザーの一閃が崩落の引き金を引いたのだろう。あるいは最期の背中を押してしまったというべきか。
煮え滾るような鳴動を奏でる足元は、崩れ落ちる寸前に等しい。あと一押し、それだけで歯止めを失ったようにフロアごと地下に沈むだろう。
熱線の余波は狙いであったニアを外れ、着火地点となった地面を中心に火の手を上げている。瓦礫の山も元々は建造物だったものの成れの果てだ。
度を越えた高熱に炙られ、燃え上がるのを妨げるものは存在しない。
一面が火の海と化した、赤色の死の世界だった。
――その死が満ちる世界の中心で、少女は泣いていた。
「痛い……痛い……痛いぃぃぃぃ」
火の手の上がる中央で、シータはその小柄な体をロボット兵に預けていた。
立ち上がる動作だけで軋みを上げる巨躯、その胴体には確かに流派東方不敗の技の真価が刻まれている。
蹴り足を中心に抉られた装甲、その内に駆動する機械が覗く空洞が穿たれていた。
一目で半壊、まともに動くことなどありえない致命的な損傷のはずだ。
「そんな傷を負っていても、お前は主を守るというのか……!」
ドモンの声の震えは、その滅ぶことのない忠義への敬意を表すものだった。
ロボット兵は鈍い動作で首を動かし、ドモンに視線と思しきものを向けると、目を模した機関の光点を明滅させる。
それは無言の内に交わされた、機械と人間の一瞬の心の交流だったのかもしれない。
そのやり取りを無粋に切り裂いたのは、甲高い少女の絶叫だ。
「痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い! どうして、どうして私がこんな目に――!」
叫ぶシータはロボット兵の肩の上に座り、天を仰いで滂沱と涙を流している。
その上向きの顔、はっきりと確認したドモンがその目を痛ましさに細めた。
熱波の余波がその身を襲ったのだろう。
血と泥と狂気に塗れていたとはいえ、愛らしかったはずの顔立ちは、顔の左側を火傷によって醜く爛れさせていたのだ。
顔の左半面は火傷で全滅。右側も焼けた掌を押しつけられたように火傷の線が伸び、無事であるとは言い難い。むしろ残されたパーツが整っていることが窺えるだけに、その爛れた顔の凄惨さが際立ってしまう。
衣服もあちこちが炎によって炙られ、露出した肌には水膨れが幾つも生じている。
半身を炎によって焼かれる――それが暴君に対し、天が下した審判なのか。
「どうして、私を助けてくれないくせに、ニア・テッペリンは助けるんですか!?」
痛みを紛らわせるために無関係の思考に走る。それは人間の防衛本能として当然の機能だ。痛みを忘れるために彼女は恨み言を吐き、理不尽を糾弾し、己を助けろと喚き散らす。
「確かに俺にこの少女とは初対面だ。そして、螺旋王の娘とも聞かされた」
「だったら! どうしてぇ!」
「その志を見たからだ」
一息を置いて、ドモンは告げる。
「その志に戦士の光を見たからだ。自分で立ち上がる。己を高める。守るべき信念のために立ち、決して悪道に屈せぬ覚悟――それを持つ人間は、無条件で俺は認められる!」
その叫びに、ようやく揺れる意識から舞い戻るニアが隣に並んだ。
僅かな時間、横目で互いの視線が交差する。そこにあったのは、確かな信頼だ。
「もう、いいです……」
焼けてさらに短くなった頭髪に触れ、それから左手で爛れた顔の半面を覆い隠す。
口が引き攣り、うまく笑うことができない。
「くひっ。くふひっ。くひひ……」
全てを失ったのだ。もはやまともに機能すらしない顔。
だからこんなものは存在しない。引き攣る右の頬を伝った一滴は、シータが持ち合わせていた最後の最後の持ち物だった。
350
:
アイの呼ぶほうへ side I
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:24:08 ID:n306w3HA0
「飛んで! 兵隊さん――ッ!!」
主人の命令を待ち望んでいたかのように、鈍重な動きに甘んじていたロボット兵が動く。
両腕が左右に真っ直ぐ伸ばされ、直後に炎を噴射して上昇――その場を離脱する。
「――しまった!」
一心不乱に遠ざかる影に手を伸ばし、ドモンは己の不徳を恥じる。
あのロボット兵が飛行するということはスパイクから忠告されていたのだ。にも関わらずすでに戦力を失っていると油断し、結果が逃亡を許すことになるという醜態。
唯一、運がいいと思えるのは彼女の向かう先がスパイク達の向かった南ではなく、西側の方に飛び去っていくことだ。
――どうする。
ドモンは僅かに足を止め、これからどうするかを考える。
シータの動向は最優先に掴まなければならないことだが、傍らのニアの存在も気がかりだ。
唐突に彼女が出現した理由すらわかっていないし、何より彼女は自分を螺旋王の娘だと名乗った。
裂帛の気合い、そして迷わぬ信念を感じたことによって悪意を持つ輩ではないと確信している。一方で、その彼女が悪意ある輩に対する危機対処能力に欠けているのもまた事実。
ニアを置き去りにするわけにはいかない。かといって、仲間に合流するのを優先しようにも、あの状態に陥ったシータはあまりにも行動が予想できない。
ドモンであればさほどの脅威でなくとも、彼女の力が脅威になるものは少なくない。その中の命がシータによって奪われることがあれば、それはここで逃がしたドモンの責任だ。
「君は……」
「――追いましょう!」
どうする? という問い掛けを出す暇さえ与えられなかった。
気持ちがいいほどに我が身を省みず、逃げ去るシータを追おうという態度に迷いはない。
「追って、どうする?」
「追って、もう一度話して、何度でも話して、説得します!」
「彼女はもう戻れないかもしれないんだぞ」
「それでも――無理を通して、道理を蹴っ飛ばすんです!」
その一言が聞けただけで、もはやドモンに彼女を疑う余地は欠片も存在しない。
そしてその言葉を発する人間が、掛け値なしの頑固者であるということもわかっている。
「俺の名はドモン・カッシュ。ネオジャパンのガンダムファイターだ」
「私の名前はニア・テッペリン。大グレン団の料理長を務めています」
互いの自己紹介はそれだけでよかった。
西の空、すでに見えなくなったシータを追わなくてはならない。
先ほどまで奈緒を背負っていたのと同じように、ニアに背中に乗れと提案しようとする。その一瞬の間に彼女は少し離れた場所に移動し、そこで地面に膝を折っていた。
「どうした? どこか怪我でも……」
「いえ、違います。ここに落ちていたこれが、少し気になったのです」
屈んだニアが拾ったのは、シータが役立たずと放り出した腕時計だった。どれほどの強度かあの猛威に巻き込まれながらも、煤に汚れるだけで機能を損なっていない。
「ストラーダ……と呼んでいたな」
「はい。ひょっとしたらこれは、ストラーダさんなのかもしれません」
「ストラーダさん?」
無機物を敬称付けで呼ぶニアにおかしなものを感じながら、屈託ない笑みを向けられて、ドモンも思わず口の端を綻ばせていた。
殺し合いを強要されるゲームの中、かすかに笑い合う時間も二人には与えられていた。
351
:
アイの呼ぶほうへ side I
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:25:52 ID:n306w3HA0
――それを遠い西の空の上から、リュシータ・トエル・ウル・ラピュタは見ていた。
正確には彼女には見えていない。
かなりの距離が開いた上に、彼女は半眼を失った身だ。
故にその場所に二人の気配が残っているのを確信できるのは、飛行する忠実な僕がそう忠言したからに他ならない。
二人の間に交わされる言葉はない。シータはこの痛みの原因たるロボット兵を許すつもりはないし、兵には言語を発する機能が持たされていない。
ただ忠実に機械の光点を明滅させ、敵性存在の位置を主に報せるだけだった。
どうやら虎の子のレーザーは照射することができないらしい。
あのドモンによってもたらされたダメージの深さか、卸売り場を焼き払った出力が最後の一撃。再度の発射に時間がかかるのか、もう不可能なのかもわからない。
ただこの瞬間に遠い二人をレーザーで攻撃することはできない。
――シータにとって重要なのはそれだけで、決断に至るのに必要な時間はそうなかった。
「――ヴァルセーレの剣に吸い込みしよろず魔物の魔力を放ち、万物を砂塵へと変える千手剛剣とならん」
必要とされるだろう前口上は、何故か使う段階になってすらすらと頭に思い浮かんだ。
それ故に彼女は慣れた口調で呪文を呟き、振り上げた剣を敵陣目掛けて振り下ろす。
「――ヴァルセレ・オズ・マール・ソルドン」
カタカタと手に握る剣が震え、次の瞬間にその刀身のぼやけるようにダブる。
否、刀身がダブったのではなく、刀身と重なるように半透明の刃が出現したのだ。
そしてそれは留まる勢いを知らず、彼女の命令通りに千の刃となって放出――敵を狙う。
「さあ、行ってらっしゃい。――千人の兵隊さん」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
352
:
愛を止めないで
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:26:37 ID:n306w3HA0
ドモンがその異常を察した時、すでに千の刃は彼らの逃げ場を塞ぐように空を覆っていた。
さしものドモンも無数の刃の群れに言葉を失い、またその剣の一つ一つの抱く力が看過できないものであると一瞬の内に見抜く。
が、ドモンであってもできたのはそれまでだ。
圧倒的な戦力差の前に、図らずも最後の瞬間を意識してしまう。
これはかの英雄王ギルガメッシュが本領を発揮した時、その際に展開される無数の宝具を雨あられと打ち出す前段階、それに触れた瞬間の絶望感にも似ていた。
一撃の威力は英雄王が上とはいえ、その数は流石にこちらが圧倒する。
無論、英雄王が千の財宝を一人の敵に振舞うという機会自体が存在しないのだが。
――くる!
刃がぴくりと動いた瞬間、ドモンはニアを抱き込むように守っていた。
振り下ろされる千の刃の、幾つまでにこの肉体が耐えられるかはわからない。だが、たとえこの身が細切れにされ、肉片一つになろうとも、この少女を守るのだ。
それが一瞬の間に固まったドモンの覚悟――その自らを厭わぬ精神が、奇跡を起こした。
ドモンに庇われたことで身を丸めたニアが、状況を認識できなくとも危険を察知。ぎゅっと目を瞑り、薄汚れた腕時計を大事なもののように抱き締める。
――そのほんの僅かばかりの思い遣りが、沈黙を尊ぶものをして奮起を促した。
幼い騎士を主としていた忠実な武装は、回り回る魔力と別系統の力を燃料に、その体を本来の機能を発揮する形状へと変化――危険域より離脱する。
暴風に近い初速をもって、射出されるように二人の体が移動する。その二人の命を担って低空を飛行するのは、腕時計から本来の槍の形状を取り戻したストラーダだ。
秒に満たぬ刹那の後、ドモン達のいた空間が振り下ろされた刃によって蹂躙される。
だが、後続の剣は逃走を図る二人をみすみす逃すつもりはない。
追い縋る刃の連続は着実に二人の身に迫り、単純な直線移動だけのストラーダの移動速度に追い縋ってくる。
「――ならば、それを俺が補う! しっかり掴まっていろ、ニア!」
「――はい!」
背後のドモンにニアは全幅の信頼と共に、その命運の全てを預けた。
真っ直ぐに飛行するストラーダの柄に手を掛けて、ドモンはその身を傾ける。噴射による移動速度は変わらぬまま、左に曲がることができた。――問題ない。
「あとは俺のこの目が、戦いの日々が、襲ってくる刃を教えてくれる!」
――追い縋る千の刃との、気の遠くなるほど長いデッドレース。
――説明するまでもなく、勝利したのは天下無敵のキング・オブ・ハートだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
353
:
愛を止めないで
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:27:11 ID:n306w3HA0
「凄まじい……攻撃だったな」
「はい。無事だったのは全部、ドモンさんのおかげです」
瓦礫の一つに座り込み、流石に両肩を荒く上下させるドモン。
その全身には躱し切れなかった刃の裂傷が無数にあり、背中は大きく破れ火傷が覗く。
まず間違いなく満身創痍。ドモンほど鍛えられた人間でなければ、ベッドの上で丸半年は安静にすることを言い渡されるような重傷だった。
ドモンの対面に座る形でいるニア。その手元には槍の形のままのストラーダが握られ、勲章ものの働きを見せた機体の汚れを丁寧に拭われている。
穏やかな微笑みでストラーダを綺麗にする彼女、その格好は――、
「しかし、どうしてウエディングドレスになっているんだ?」
「ウエディングドレスってなんですか?」
「そこから説明するのか……いや、その格好の話だ」
彼女が纏うのは華やかな印象を目に焼き付ける純白のウエディングドレスだ。
美しい容姿の彼女にはよく似合っているが、まだそれを着るのは年代的に少々尚早であると思わざるをえない。その割にサイズはぴったりのようだが。
ふとニアから視線を外せば、目に映るのは卸売り場の惨状――いや、もはや旧卸売り場跡というべきほどの損壊状態だ。
破壊の連続に遂に限界を迎え、刃の蹂躙によってその大地は深々と抉られた空洞が覗く。
薄暗い地面の下は断じて整備された地下空間ではなく、土砂と瓦礫の大群に支配された暴虐の名残だ。
単純な移動も危険視されるため、今後はこのエリアは迂回せざるをえまい。
一頻りの感想、思考を終えると、荒れていた呼吸も通常のものに戻っている。
全身の傷は深いものも浅いものも限りなく、特に背中の火傷はかなり行動に支障をきたす。未だ出血の止まらぬ傷口の存在すらあるが、それを黙殺してドモンは立ち上がった。
「すまない。俺の所為で時間をとらせた。もう行こう」
「大丈夫、なんですか?」
「当然だ。キング・オブ・ハートはこのぐらいでは止まらない。それに俺は男の子だからな」
「はぁ……ここでも男なんですね」
この様子を見ると、ずいぶんと長くカミナと一緒に行動していたのかもしれない。
『男』という単語一つを根拠として信じられる。これは男同士にしかわからない感情だと思っていたのだが、どうやら偏見だったようだ。
益体もない思考を捨て、ドモンは改めて西の空を見る。
彼方、消え去ったはずの少女の存在を追わなければならない。
ロボット兵士だけが彼女の武装と思えば、放置の選択肢も僅かにあった。だが、あれほどの隠し玉が用意されていたのだ。
シータの武装解除は、対主催にとって最優先すべき事項となっていた。
「ニア、俺はシータを追いかける。南に向かえば俺の仲間と合流できるはずだが……」
「いえ、私もシータさんを追いかけます」
「そうか……危険だぞ」
「ドモンさんは男だから行くのでしょう? 女もそうです。見てるだけじゃ、始まらないですから!」
威勢よく言い放つニアに対し、ドモンは思わず痛みを忘れて笑みを浮かべる。
そしてはっきりと頷き、
「――行こう。無理を通して、道理を蹴っ飛ばしてやりにな」
354
:
愛を止めないで
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:27:35 ID:n306w3HA0
【B-5/卸売り市場(崩壊)/二日目/朝】
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に重度の火傷、全身に軽度から重度まで無数の裂傷、疲労(大)、明鏡止水の境地
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
0:西へ逃走したシータを追う。(武装解除が目的だが、最悪の場合は……)
1:カミナたちを探しながら、刑務所に向かう……だが何だあの物体は!
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:傷の男(スカー)を止める。
5:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する。
6:東方不敗を説得する。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュ、奈緒のこれまでの経緯を把握しました。
※第三放送は奈緒と情報交換したので知っています。
※清麿メモについて把握しました。
※螺旋力覚醒
※シータのロボットのレーザービーム機能と飛行機能についてスパイクから聞きました。
※シータの持つヴァルセーレの剣の危険性を認識しました。
※ニアとは詳しく話していませんが、カミナの関係者だとは通じ合っています。
【ニア@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神的疲労(中)、全身打撲(中)、両手に痺れ、ギアス?、 下着姿にルルーシュの学生服の上着、螺旋力覚醒 、自己嫌悪(マタタビに関して)
[装備]:ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、釘バット、ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!
[道具]:支給品一式、X装置
[思考]基本:シモンのアニキさんについていき、お父様を止める。
0:ドモンと共に、シータを追いかける。
1:逸れたカミナやガッシュを探す。
2:ルルーシュを探す。
3:ルルーシュと一緒に脱出に向けて動く。
4:東方不敗を警戒。
[備考]
※テッペリン攻略前から呼ばれています。髪はショート。ダイグレンの調理主任の時期です。
※ギアス『毒についての記憶を全て忘れろ』のせいで、ありとあらゆる毒物に対する知識・概念が欠損しています。有効期間は未定。 気絶中に解除された可能性があります。
※ルルーシュは完全に信頼。スパイク、ジンにもそこそこ。カレンには若干苦手な感情。
※会場のループを認識しました。
※ロニーの夢は見ていません。
※ガッシュの魔本に反応しました。
※カミナ、クロスミラージュと詳細な情報を交換しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※ニアのバリアジャケットはグレンラガン最終話、シモンとの結婚式で着ていたウエディングドレス(十四歳仕様)です。
※螺旋力覚醒
※B−5の卸売り場は完全に崩落しました。地下には危険物やその他が放置され、とても普通に通行できる状況ではありません。飛行か迂回を推奨。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
355
:
愛を止めないで
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:28:58 ID:n306w3HA0
「ニア……ニア・テッペリン……!!」
憎悪に満ちた声を吐き出しながら、シータはロボット兵の上で悔しさを噛み締める。
火傷の傷跡が引き攣って痛むが、そんなことを気にかけている心の余裕さえない。
ヴァルセーレの剣の力の解放により、放出された千の刃の攻撃は圧倒的だった。
卸売り場が完全に崩壊するのを遠目に確認し、全ての憎しみから解き放たれたような歓喜の感情が湧き上がった。
――直後にロボット兵が、相変わらず二人の生体反応を示さなければだ。
あれほどの威力を前に大人しく死なないとは、何と生き汚い奴らなのだろう。
細切れの細切れの細切れになって、ブタの餌になってしまえばいいのだ。ブーブー。
だが、何より腹立たしいのはその後のことだ。
一撃で足りぬならばと、シータはヴァルセーレの剣をもう一度振り上げた。しかし、今度は同じ呪文を口にしても、何度振り下ろそうとも、先ほどの力を発現しなかったのだ。
剣の力を出し切ってしまったのか。
違う、未だこの刀身の中に恐るべき力が取り込まれているのを掌から感じる。
あのヴァッシュ・ザ・スタンピードの全てを飲み込んだ剣の力に衰えはない。あれだけの威力を放出し、それでもってほんの力の一端に過ぎないというわけだ。
ならば、どうしてこの剣は自分に従おうとしないのか。
「誰も彼も、私のことを馬鹿にして! 言峰神父も! ストラーダも! 役立たずのブタ兵隊も! 私を見捨てた神様も――!」
何度も何度も、手にしたヴァルセーレの剣の柄を手近な場所に叩き付ける。
もっとも今の彼女の体は空の上にある。殴りつけるものは辺りになく、当然のようにただ一人だけ未だ彼女に従う忠臣の頭に、繰り返し繰り返し剣を打ち付けていた。
「みんな全て、全部滅んでしまえ。バルス! バルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルス! 壊れてよ! 崩壊してよ! バルスバルス! バルスゥッ!」
ラピュタ王家に伝わる滅びの呪文。
優しかった祖母から教わった多くの呪文の一つ、その祖母の優しさを裏切りながら、裏切りに気づかないままシータは叫び続ける。
「役立たず! 役立たず! どうして弱いの! こんなんじゃ……こんなんじゃ……」
優勝することなんてできるはずもない。
その言葉が喉から出てこなくて、シータ自身が一番驚いてしまった。
だって、それは今の彼女にとって唯一の寄る辺。それをなくしてシータは生きる理由を失い、これまで戦い続けた意義さえ喪失してしまうのだから。
「そう、優勝しなきゃ。優勝して、パズーを……パズーを……」
――パズーに似たモノですよ?
嘲笑交じりのニアの声が聞こえて、咄嗟にシータは振り向いた。
誰もいるはずがない。でも確かに耳元で声が聞こえた。間違いない。確かに。
――あらあら、ラピュタの王族ってくだらない。シータさんって本当に哀れ。
また聞こえた。今度こそ間違いない。シータにはわかる。
この場所にいなかったとしても、この言葉は今この瞬間にあの女が言ったに違いない。
「殺して……やる……」
――やれるものならやってみてください。独りぼっちの、弱虫女王様?
「必ず……必ず、あなたを……貴様を……殺してやります……!」
「――ニア・テッペリン!!!」
356
:
愛を止めないで
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:29:22 ID:n306w3HA0
【C-4/上空/二日目/朝】
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労(大)、倫理観及び道徳観念の崩壊(判断力は失われていません)、右肩に痺れ(動かす分には問題無し)、全身に火傷による負傷(体は軽度)、顔の左半面が火傷で爛れています(右側にも火傷が及び、もはや面影なし)、おさげ喪失
[装備]:ラピュタのロボット兵@天空の城ラピュタ、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル、ヴァッシュの生首
機体状況:無傷、多少の汚れ、※ヴァッシュとのコンタクトで影響があるのかは不明
[道具]:なし
[思考]
基本:自分の外見を利用して、邪魔者は手段を念入りに選んだ上で始末する。優勝して自分の大切な人たちを、自分の価値観に合わせて生き返らせる?
0:何を差し置いてもニアの殺害。
1:ニアにたぶらかされたドモンの殺害。
2:途中見かけた人間はロボット兵に殺させる。
3:気に入った人間はとりあえず生かす。ゲームの最後に殺した上で、生き返らせる。
4:使えそうな人間は抱きこむ。その際には口でも体でも何でも用いて篭絡する。
[備考]
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※バリアジャケットは現状解除されています。防御力皆無のバリアジャケットなら令呪が無くても展開できるかもしれません。
※バリアジャケットのモデルはカリオスト○の城のク○リスの白いドレスです。
夜間迷彩モードを作成しました。モデルは魔○の宅○便のキ○の服です。
※言峰から言伝でストラーダの性能の説明を受けています。
ストラーダ使用による体への負担は少しはあるようですが、今のところは大丈夫のようです。
※エドがパソコンで何をやっていたのかは正確には把握してません。
※かがみを一度殺してしまった事実を、スパイクとウルフウッドが知っていると誤解しています。
※会場のループを認識しました。
※シータがごみ屋敷から北上中に静留と舞衣の姿を確認したかどうかはわかりません。
※ヴァルセーレの剣には奈緒のエレメントの力、アルベルトの衝撃の力、
ヴァッシュのAA(もしくはプラントとしての)エネルギーが蓄えられています。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガンはヴァッシュの遺体(A-3とA-4の境目)の側に放置されています。
※大量の貴金属アクセサリ、コルトガバメント(残弾:0/7発)、真っ二つのシルバーケープが近くに放置されています。
※シルバーケープが使い物にならなくなったかどうかは不明です。
※ロボット兵の頭にはカリバーン@Fate/stay nightが突き刺さっています
※ヴァルセーレの剣から本編までに溜め込まれた『魔物』の力が失われました。奈緒のエレメント、アルベルトの衝撃、ヴァッシュのAAの力は健在です。ただし、通常の呪文では開放することができないようです。
※ニアという存在に対する激しい憎悪が刻まれました。自分にないものも持っていたものも全て持っている存在で、許し難いという認識です。
※ニアを憎悪するあまり、聞こえるはずのないニアの声が聞こえます(全てシータを嘲る内容)
※デイパックを投げ捨てたため、下記の支給品はB-5の卸売り場に放置されています。
支給品一式 ×6(食糧:食パン六枚切り三斤、ミネラルウォーター500ml2本)、
びしょ濡れのかがみの制服、暗視スコープ、
音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ミロク@舞-HiME、
ワルサーP99(残弾4/16)@カウボーイビバップ、軍用ナイフ@現実、包丁@現実
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
357
:
アイの呼ぶほうへ side 愛機
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:30:22 ID:n306w3HA0
「こいつぁちっとばかし、やべぇことになったんじゃねぇか?」
『――はい、迂闊でした。まさかこれほど転移を簡単に行えるものだとまでは……』
薄暗い空間に突如として投げ出されたカミナとクロスミラージュの二人は、互いに(片方はないが意識としては)深い息を吐いてから歯噛みする。
螺旋界認識転移システムによって転移が行われ、カミナが運ばれたのはこの場所だった。
最初は唐突に灯りが消えただけかと思ったカミナも、周囲から機械の作動音が消えたことや、先ほどまでと部屋の気温があまりに違うことから違和感に気づき、自分より早く状況を察していたクロスミラージュの助言によって真相に辿り着いていた。
しかし現状を正しく認識できたところで、置かれた苦難が軽減されるわけもない。
カミナ、ガッシュ、ニアとこれまで行動を共にしてきた大グレン団の面々は、全員が全員願うものやら思い人やらが違う所為でこの様だ。
クロスミラージュはカミナの持ち物扱いだったのだろう、一緒に飛ぶことができたが、あの二人が揃って独りぼっちな状況に投げ出されたとすればあまりに心許ない。
「しかし、暗ぇとこだな」
『カミナ、私を照明代わりに使用してください。多少は光を放てますので、手元を見るぐらいの役には立てるかと』
「それで十分だ。なに、俺は実は穴倉育ちでな。地元じゃこんぐれぇ暗いのは当たり前なのよ」
嘯くとカミナはクロスミラージュを取り出し、前に差し出して灯り代わりとする。と、踏み出そうとした正面はいきなり壁だ。助言がなければ一歩、二歩目で大激突だったろう。
「この感じからして、場所はそれなりに広いな。結構、地面の下にあるみてぇだが……」
『何故、そうわかるのですか?』
「穴倉育ちだって言ったろうが。声がどれぐらい響くかでどんだけでかい穴なのか。空気がどんだけ湿ってて冷たいかで、床下か地上かぐらいの判断はつくぜ」
しばらくそのままカミナの独壇場が続く。
時折口元に手を当てて声を出しては、前の壁との距離を測っているのだろう。歩き方にさえ整備されていない地面を進む慎重さが見え、なるほど本当にカミナが地下育ちなのだろうとクロスミラージュの納得を誘う。
「早く、見つけてやらねぇといけねぇよな」
『はい』
「時間的にあのクソ放送が入るのがもうすぐのはずだ。こんな凡ミスで全員ばらばらになって、その後すぐの放送で二人の名前が出てみやがれ……目も当てられねぇぜ」
しばらくの間、彼が決して覗かせることのなかった弱音のようなものが僅かに滲み出た。
それはクロスミラージュがカミナと遭遇したばかりの頃、ドモンによってその性根を拳で矯正されるまでの期間、その時の語り口にどこか似ている。
『私のミスです。どのような装置なのかはっきりとわかっていないにも関わらず、安易な起動を求めました』
「違ぇよ。大グレン団が固まってて、そんでリーダーの俺が動いたんだ。全部まとめてひっくるめた上で、その責任は全部俺のモンなんだよ」
『しかし……』
「しかしもカカシもギャラクシーもねぇ! リーダーってのぁそういうもんだ。そういう奴がリーダーやるから、後ろの奴はこいつについてかなきゃなんねぇ! そうやって気持ちを、生き方を預けられるんだろうが」
そう言ってからまた黙々と、カミナの暗闇探索が始まる。
今の彼はらしくもなく慎重だ。そしてそれは、今、ここで彼が何らかのアクシデントに見舞われてしまって身動きが取れなくなれば、ガッシュやニアを探しに行けなくなると理解しているからなのだろう。
カミナという男はどこまでも、どこまでも不器用な男だった。
358
:
アイの呼ぶほうへ side 愛機
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:30:44 ID:n306w3HA0
普段は己の道を行く無頼のようなものを気取っている癖に、その実で彼の本質は守ることを自分に任じている。それがどのような人生経験によって培われたものなのかはわからないが、守るものを失って一人になった時、彼は一度弱くなった。
そして再び守るものを得て立ち上がった今だからこそ、守るために立ち止まらない。
――不撓不屈の精神が、彼の胸の内でメラメラと燃え上がっているのだ。
『カミナ――今、少し考えていたのですが』
「おぉ、なんだ」
『あの螺旋界認識転移システムという装置のことです』
「あんなくだらねぇクソ機械、二度と使ってたまるかよ」
『そういうわけにもいきません。あれはこのゲームを終わらせる鍵なのかもしれません』
「何ぃ……?」
表情は驚き、しかし足は探索を緩めないカミナに対し、ゆっくりとクロスミラージュは語る。
『あの装置は願ったもの、願った人の場所へそのものを転移させるという装置です。その効果は……裏目に出ましたが私達が実証した通りのものです。あの力があればおそらく会場のどこへでも、理論上は移動できることになります』
「リロンって言われると俺の仲間のオカマしか出てこねぇんだが……続けてくれ」
『続けます。あの装置による会場の中の移動は試すことができました。ですが次に疑問となるのは別の部分――あの装置によって、外の世界へ移動することは可能なのか、です』
「外……っつーと」
『このゲームの外の世界。それぞれの生きてきた世界ということになります。ただ、これは想像にすぎませんがおそらくこの試みは成功しません。理由の一つとして会場のループがあります。会場の端と端を繋ぐ、空間操作の一種ですが、あれが外と内を完全に隔離しているものと考えられます。また、あの装置を設置した螺旋王が参加者の無条件脱出を許すとはとても考えられません。相応の制限を用意しているものと考えられます』
会場の端と端が繋がるループは、本来の外と内の空間を分断するための措置の副産物に過ぎない。あのバリアーによって螺旋王は己の居城とこの殺し合いの空間を隔絶している、クロスミラージュはそう考察している。
そのバリアーの存在が残っている以上、螺旋界認識転移システムはあくまで会場内を便利に移動するだけの装置の域を超えることはない。
『ですがもし、このループを引き起こすバリアーが解除された後ならばどうでしょう?』
「外と中を塞ぐ壁がなくなんだから、丸見えになった敵の根城は……」
『螺旋界認識転移システムの移動範囲なのではないかと』
それがクロスミラージュが考察の末に導き出した一つの希望。
希望的観測による部分があまりにも多い不確定な情報だが、頼りにする価値はある。
クロスミラージュの再三の説明により理解力の高まっていたカミナは、今回は奇跡的に一度の説明で内容を理解したらしい。
暗闇の中で大きく手を叩き、「そいつぁ凄ぇことじゃねぇか!」と喝采を上げる。
『そしてこの作戦において欠かせない存在がいます』
「……持ち上げて急に静かな声になんなよ。で?」
『我々が螺旋王の居城を白日の下に引き出せたとしても、その居城に確実に転移できる算段がありません。今回のように、一瞬の間に抱いた思いが別々であれば転移する先は違う場所になってしまう』
「途中が長ぇんだよ、おめぇは! それで、誰だ!」
逸るカミナの言葉に一拍遅れて、クロスミラージュが答える。
『螺旋王の居城、その内部や螺旋王その人自身をよく知る人物――』
「――ニア、ってわけか」
『はい。彼女の協力なくして、この作戦はおそらく成功しません。彼女から螺旋王に関する全ての情報を語ってもらい、転移する全員がそれを刻み込む必要があります。また、螺旋王に反目することを目的としている対主催、このメンバーの意思の統合もまた必要でしょう』
そしてその役目の一端を担えるのは、この大グレン団のリーダーを除いて他にはいないだろう。そうクロスミラージュは確信している。
互いに一つの結論を共有したところで、「よっしゃ!」とカミナが唐突に叫び、それから自身の両の頬を平手で打って顔を振る。
359
:
アイの呼ぶほうへ side 愛機
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:31:05 ID:n306w3HA0
『な、なんですか?』
「気合いだ、気合い! やんなきゃなんねぇことはめちゃくちゃある。そんな時に気合いがなけりゃ何もうまくいかねぇ。な、そうだろ?」
『そうかも、しれません』
「それからな、クロミラ。おめぇ、やっぱ大グレン団にゃ大事なメンバーだぜ」
『……は?』
またもや唐突な発言に思考が止まる。
カミナは照れ臭そうに鼻の頭を掻き、それから噛み砕くようにゆっくりと、
「俺は体には自信がある。生まれてこのかた病気の一つもしたことねぇし、怪我も痛みも何のそのだ。けどよ、正直なところ頭がいいぜ! と自信を持ったことはねぇ!」
『…………』
「しかもグレン団って奴ぁ、俺と同じで頭の悪い馬鹿野郎ばかり集まりやがる。いや、馬鹿野郎は嫌いじゃねぇんだぜ? むしろ大好きだけどよ、頭の悪い連中だけでうじゃうじゃとやってるとやっぱ困ったことになることも多かったわけよ。そこで、頭のいい奴の登場だ」
カミナはすでに合図になってしまったように、この数時間の間に何度も何度もしたように、クロスミラージュに思いを伝えるようにその本体を軽く叩く。
「クロミラ、おめぇは体はねぇが頭はいい。俺は頭は悪いが体は丈夫だ。ならよ、俺とおめぇで弱点を塞ぎ合っちまえば、もう最強なんじゃねぇか?」
言った後でカミナは顔を背け、青色の髪を掻き毟りながら、
「なんか妙なこと言っちまったなぁ。悪ぃ、やっぱ忘れてくれ」
『――いえ、記憶回路に保存されました。おそらく、半永久的に忘れません』
「……そうかよ。んじゃま、大事に大事に取っといてくんな」
互いに穏やかな何かを交換し合い、どこかむず痒い空気が蔓延する。
こんな雰囲気はご免だ、と勢いも新たにカミナは歩き出した。が、
「――痛ぇっ!」
『大丈夫ですか?』
「当然だ! 穴倉暮らしにゃ天井と頭突きなんざ朝飯前だ。って、天井じゃねぇが」
そう言って手を伸ばすカミナの正面、そこにあるのはどうやら真っ直ぐに伸びた柱のようだ。
注意不足が仇になり、目の前の障害を避けきれなかったらしい。
その冷たい金属質の柱にぺたぺたと触れながら、
「お、よく見りゃこいつぁイカした情熱の赤色じゃねぇか。しかもこの太さ……この感じからしてこの掘っ立て小屋の大黒柱に違いねぇ!」
『大黒柱……ですか』
「おうよ! 大黒柱ってのはな、一家に一人のでけぇ親父。あとは家を支える一番どでかく太ぇ柱。それのことを意味すんのさ。ま、これは黒じゃなく赤いけどよ」
上機嫌に赤い柱を殴り付け、しかしその後で辿ってきた道筋を振り返ると、
「しっかしよ……もうこの暗がりの中、多分ほとんど見ちまったぞ」
『確かにまずい状況です。まさか出口のない場所に閉じ込められたとは思いたくありませんが……』
あるいは螺旋王の罠だったのだろうか。螺旋界認識転移システムといういかにもな罠で獲物を誘い、まんまと引っかかったものを鳥篭の中に閉じ込める。
――しかし、あの部屋に通じる扉は隠されていたし、開くのに複数名の螺旋力を必要とするような場所だ。そこまでの手の込んだ罠を作って、かからなければどうするのだろう。
「くそ、おちおち足止めも食ってらんねぇってのによ。いっそ、この柱をよじ登って天井をぶち破ってやろうか」
『崩落の可能性もあり危険です』
「へっ、ジーハ村の連中を思い出させること言うんじゃねぇよ。その時は俺はこう答えたぜ。ここで一生穴倉生活なんてくだらねぇ、地上にゃ天井はねぇんだぞってな」
己を誇るように言い、それから止める暇もなくカミナは赤い柱をよじ登り始める。その動きはまるで小動物のように俊敏で、この手の行動に彼が慣れ親しんでいるのを感じさせた。
『するすると登れるものなのですね、流石はカミナです』
「……いや、違ぇ。おいおい、こりゃ俺はとんでもねぇ思い違いをしてたのかもしれねぇぞ」
『――?』
360
:
アイの呼ぶほうへ side 愛機
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:31:30 ID:n306w3HA0
疑問の声に応じることもなく、カミナはさらに手を伸ばす速度を速めながら上を目指す。
そして十メートルほどの高さにまできただろうか。
やや起伏の増えた場所にまで到達したカミナの動きが止まり、それから深い息を吐いた。
「本当に、ほんっっっのたまにだが! 俺は俺の馬鹿さ加減にうんざりすることがあるぜ」
『カミナ?』
「そもそも俺達はどうしてここに飛ばされてきたんだ? でかい落とし穴にはまったからか? 殴り飛ばされてお星様になっちまったからか? 違ぇ、みょうちくりんな機械の力で、欲しいもんのところに吹っ飛ばされたからよ! ――なら、おめぇがここにいるのは当然の話ってわけだ」
「――なぁ、そうだろ、グレン!!」
カミナがその名を高らかに叫んだ瞬間、その巨体の前面が光り輝く。
それが取り付けられたサングラスの輝きであると、初見のクロスミラージュは遅れて認識。
その常識違いの設計思想――巨大な顔に手足をつけた、ガンメンという名の機体の威容を!
口を模している部分のシャッターが開き、到着した男を歓迎するように薄暗い空間が顔を覗かせる。まるで化け物の口の中に飛び込めといわれるような威圧感があったが、その口内に向かって躊躇うことなくカミナは突入した。
身を回してシートに背中を預ければ、その感触は慣れたものなのにどこか懐かしい。
「たったの一日程度しか離れ離れになってねぇってのに、ずいぶんとおめぇにべた惚れだったみてぇだな、俺は」
――シモンでも、ヨーコでも、ヴィラルでも、ジジイですらない。
――俺があの瞬間に欲しかったのは、どうやらこの座り慣れた愛機の感触だったらしい。
「許せよ、てめぇら。代わりと言っちゃなんだが、今すぐにこいつで探しに出るからよ!」
口上と共に両側に設置されたトリガーを握る。
力と気合を込めて思い切り押し込めば、ただそれだけでグレンは主に答えた。
コックピット内のモニターに搭乗者の生体データが認識される。螺旋王がこの地に呼び出すにあたって一度はリセットされたはずのそれは、しかし見慣れた男のマークを再びその無数のモニターに描き出した。
『カミナ、この機体の燃料などは?』
「気合いだ」
『……カミナ、この機体の操縦法などは?』
「気合いだ」
『――カミナ、この空間からの脱出方法は?』
「気ぃぃぃぃぃぃ合ぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃだーーーーーーーーっ!!!!」
パイロットの気性を受け継いだようにグレンの四足が起動。立ち上がるのと同時に強大な両腕が振り上げられ、それが天井だったらしき岩盤を打ち砕く。
崩落に瓦礫の粉塵が舞い落ちてくる中を、グレンの巨体がものともせずにその場で跳ねる。何度も何度も飛び上がりながら、その都度、砕かれる天井の位置が高くなっていく。
そして――、
「見ろ。お久しぶりのおてんと様だぜ」
『望外の結果です。――お見事、というべきでしょうか』
カミナの自慢げな、そしてクロスミラージュの賛辞が結果を示している。
何度もの跳躍と万歳アタック(意味は違うが)によって打ち砕かれた結果、この封印していた空間の天井を完全に破壊。崩落によって地下全体が埋もれる結果も運よく避け、割れた天井に空いた丸い穴から青い空を見上げることができた。
『ですが、あそこまでは跳躍では無理なのでは?』
「ジャンプして淵掴んで、わたわたしながら上りゃぁいいだろ」
『そこまで人間的な稼動を実現しているのですか、このガンメンは』
「ああ、そうだ」
361
:
アイの呼ぶほうへ side 愛機
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:31:55 ID:n306w3HA0
当然のように首肯するカミナだが、その驚くべき性能を理解しきれていないのだろう。
人間が乗り込んで操作する巨大ロボット。この鈍重そうな見た目を誇る機体が、おおよそ五指に至るまで人間の体の仕組みを模造し、動作するようにできている技術力の高さは目を見張る。
何故、設計者はこれほどの技術を持ちながら、人型ではなくガンメン型にしたのかさっぱりわからないほどに。
(人型ではこの四肢を支えるには強度的に不足。ガンメンという丸く分厚い形態に手足をつけることで初めて可能となる機動――ということにしておきましょう)
なんだかもう気合いで動くというならそれでいいんじゃないかと思い始めている。
最近のクロスミラージュのカミナ感化率は危険度に達していた。このままでは遠からず、大グレン団はカミナコピーの集まりになってしまう。
「んじゃま、とりあえず飛び上がっとするか……」
『待ってください、カミナ。静かに……放送が聞こえます』
その重要性を悟り、カミナもまた勢いに乗っていた瞳の色を落とす。
もしかしたらこの放送の内容如何では、このタイムラグが致命的になるかもしれないのだ。
そう祈るような境地にあった二人の期待を、この放送は裏切ることはなかった。
呼ばれた名前の中にガッシュもニアも含まれておらず、カミナは一安心だ。
ただ、クロスミラージュには思うところがある。
(Mr.明智……あなたがここで消えてしまったのですか)
思い浮かぶのは銀髪の聡明な男。この殺し合いの場で最初にクロスミラージュを手にした人物であり、警察官という立場と有能な頭脳から今までずっと信頼してきた人物だ。
直接戦闘力に自信がないと言っていた彼のこと。これまで期間、その明晰な頭脳と他者を理路整然と協力に導く弁術でもって、ずっと行動していたのだろう。
その芽は完全に潰えてしまったのだろうか。
――否、だろう。
クロスミラージュの知る明智という男は抜け目のない男だ。彼はその正義を曇らせることなく仲間を集い、対主催としてのグループを構築していったはずだ。
あるいは自分などに先駆けて、とっくに脱出の糸口を掴み取っている可能性もある。
ならば彼の意思を継ぐ仲間達に、自分達の持つ情報を与えるために合流しなくては。
「――行くぜ、クロミラ。よくよく考えりゃ、まだここがどこの地面の下だったのかもわからねぇんだからよ」
『はい、カミナ。必ず、やり遂げましょう』
「――おうよ」
深く聞き入ってはこないが、クロスミラージュの返答に何かを感じ取ったのだろう。
静かな肯定であったからこそ、カミナという男の誠意がそこには隠されていた。
何度かの腕振りの後で、グレンが高々と跳躍する。
本当に人体と同じ動きで跳躍する機体は頭の先を地表に出し、その両手を穴の淵に引っ掛けることに成功した。
「あとは気合い、気合いだぁぁぁぁぁ!」
哮りながらトリガーを押し引きするカミナ。ロボットの操縦としてはそれでは問題なのではとクロスミラージュは感じるが、ガンメンに関しては彼に一日の長がある。
唸るカミナに呼応するようにグレンがその上体を持ち上げ、コックピットから上までを地表に出すと後は勢いのままに転がり出る。
大地の上に前回りして脱出したグレンは、その日の光を全身に浴びながら大の字だ。
「よっしゃ、脱出完了――さて、ここは」
『すぐ近くに見える施設……あれは学校でしょうか。だとすればここはおそらく校庭になります。学校の校庭の地下に、このグレンは封印されていたようですね』
「けっ、面倒な真似してくれやがるぜ、螺旋王。ラガンはショウボウショ。そんでもってグレンはガッコーかよ。何の意味があるってんだ」
地図を参照すれば、現在位置は転移システムのあった図書館から二つ隣なだけのエリアだ。それを僥倖に思う一方で、ニアとガッシュの二人の移動先が遠ければ意味がないと考え直す。
362
:
アイの呼ぶほうへ side 愛機
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:32:24 ID:n306w3HA0
「とにかくグレンがありゃぁ、走るスピードが百倍違うぜ。ニアとガッシュを探して、この辺りを走り回ってみるか?」
『効率的ではありません。できるだけ……そう、騒ぎになっている場所を探しましょう。そこには人がいる可能性があり、人がいるということは二人が転移する際に思い浮かべた人物がいる可能性が高いということですから』
「ほーほー、なるほどな。了解……って、なんじゃこりゃああああっ!?」
操縦桿を握り、方針を決定した矢先の叫び。
ちらと振り向いた眼前にあったのは、見上げるほどに巨大な黒い球体だった。
単なる前衛的な芸術品であると言い切れないのは、その球体の放つ異様なまでの暴力的な意思――そして何より、地図の位置を反芻すればわかるのだが。
『カミナ……あの巨大な球体が、先の凄まじい魔力量の正体かもしれません』
「ずばっと会場を切り裂いてったやつか?」
『はい――どうしましょうか』
漆黒の球体はその身を大地に置き、今は静謐の中に佇んでいる。
だが再びそれが起動した時、もたらされる破壊はどれほどのものになるのか。
また紅の螺旋が発射された時、蹂躙されるエリアにニアが、ガッシュが、明智がバトンを繋いだ者達がいないとも限らない。
「あれがさっきの凄ぇもんだってんなら、奪っちまうってのも一つの手だよな」
『はい。幸い、今は活動を休止しています。グレンのある状況なら、攻めるにせよ守るにせよ、一瞬で敗北に追い込まれることはないと思われます』
「けど、ニアとガッシュを先に探しに行きてぇって気持ちもあるわけだ」
『はい。――どちらにするかは、カミナにお任せします』
「ちっ、リーダーってのは辛いぜ」
舌打ち、それからグレンの中から空を仰いで、カミナは述懐する。
――せっかくグレンを取り戻したってのに、やることなすこと増えていきやがる。
――あぁ、負けられねぇぜ、クソッタレ!
【B-6/学校校庭/二日目/朝】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(小)、疲労(特大)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(簡単な処置済み)、
頭にタンコブ、、強い決意、螺旋力増大中
[装備]:グレン@天元突破グレンラガン、クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ0/4)
折れたなんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
バリアジャケット
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式(食料なし)、ルールブレイカー@Fate/stay night
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:ニアとガッシュを探しに行くか、目の前の黒い太陽を奪っちまうか。
1:ニアとガッシュは大グレン団の兄弟だ。俺が必ず守ってみせらぁ!
2:チミルフだと? 丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
3:ショウボウショの北にラガンがあるんだな……? シャクだが、行かねぇワケにはな……。
4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
5:ドモンはどこに居やがるんだよ。
363
:
アイの呼ぶほうへ side 愛機
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:32:50 ID:n306w3HA0
[備考]
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。
※ヨーコの死に対しては、死亡の可能性をうっすら信じています。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
禁止エリアに反応していませんが、本人は気付いていません。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※ガッシュの本を読むことが出来ました。
しかし、ルールブレイカーの効果で契約が破棄されています。再契約できるかは不明です。
※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※グレンを入手しました。エネルギーなどが螺旋力なのはアニメ通り。機体の損傷はラガンとの合体以外では自己修復はしません。
【クロスミラージュの思考】
1:カミナの方針に従い、助言を行う。
2:明智が死亡するまでに集ったはずの仲間達と合流したい。
3:東方不敗を最優先で警戒する。
[備考]
※ルールブレイカーの効果に気付きました。
※『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。
※各放送内容を記録しています。
※シモンについて多数の情報を得ました。
※カミナの首輪が禁止エリアに反応していないことを記録しています。
※東方不敗から螺旋力に関する考察を聞きました。
※螺旋力が『生命に進化を促し、また、生命が進化を求める意思によって発生する力』であると考察しました。
※螺旋界認識転移システムの機能と、その有用性を考察しました。
○螺旋界認識転移システムは、螺旋力覚醒者のみを対象とし、その対象者が強く願うものや人の場所に移動させる装置です。ただし会場の外や、禁止エリアには転移できません。
○会場を囲っているバリアが失われた場合、転移システムによって螺旋王の下へ向かえるかもしれません。
※転移システムを利用した作戦のために、ニアの存在が必要不可欠と認識しています。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
364
:
アイの呼ぶほうへ side 相方
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:33:25 ID:n306w3HA0
「ウヌゥ……カミナもニアもクロスミラージュも、三人ともどこへ行ってしまったのだ」
一人きりになったと気づいてからの時間、ガッシュは仲間の三人の姿を求めて方々を走り回っていた。
何故か部屋の中にいたはずなのに、いつの間にやら山の中に立っていたのだ。
螺旋界認識転移システムというものの効果はわかっている。求めたものの場所に飛ぶことができる――そういう便利なものであると。しかし、
「私は山登りがしたいとは思っていなかったはずなのだ。いや、山登りが嫌いなわけではないのだが、少なくともあまり今はしたいと思っていなかったのだ」
飛ばされる理由はわかっても、ここに飛ばされてきた理由に見当がつかない。
とりあえずカミナ達も同じ場所に飛ばされていないものかと周囲を駆け回ったのだが、収穫はまるで見つからなかった。
あったのは大地が罅割れ、崩落した大きな建物の跡地などのみ。
さしたる収穫も得られず、消沈しながら僅かな望みをかけて最初の場所に戻れば、
「あ、放送が始まってしまったのだ」
会場全域に届く声で、厳かに螺旋王が前口上を始める。
その余裕の態度に義憤を感じながら、ガッシュはそこで初めて恐い想像に至った。
「ひょっとしたら、カミナとニアの名前が呼ばれてしまうかもしれないのだ……?」
それはあまりにも恐ろしすぎる想像だった。
二人と逸れたのはついさっき、それまではずっとクロスミラージュを交えた四人で頑張ろうと、自分達は大グレン団だと認め合ってやってきていた。
船での争いで一人生き残ったことがあってから、それはガッシュの心の底にずっと根付いていたかすかな不安の種だった。
もしもまた一人になってしまうようなことがあれば、どうしようという。
フォルゴレの死も、ヴィクトリームの死も悲しかった。
悲しかったけれど、カミナ達が一緒にいてくれたから、乗り越えることができた。
もしもそのカミナ達の名前が呼ばれてしまえば――自分はどうしてしまうだろう。
不安がるガッシュを余所に、螺旋王は淡々と死者の名前を連ねていく。
そして、その人数が七名――ガッシュの知らぬところで大グレン団の二人や清麿が命を落としているという不安は排除された。
「そうだ、当然なのだ。何を恐がる必要がある。私も、カミナも、ニアも、クロスミラージュも、清麿も、全員で死なないで再び会うのだ。それは決まっているのだ!」
自らを奮い立たせるように声を上げ、ガッシュは怖気づいた心を鼓舞する。
不安は一掃されている。一人になってしまったことも、足を止める理由にはならない。
「ならば、私のやることは決まっているのだ」
仲間との合流――逸れたのならば、また再会するために歩き出せばいい。
「さしあたって目指すのは……アレにするのだ」
ガッシュの指示語の示す先、そこにあるのは山の上にあってなお見上げるほどに巨大な黒い球体。まるで、真っ黒い太陽のようなものだ。
「カミナとニアなら、きっと目立つあそこに向かうのだ。うむ、間違いないのだ!」
流石に付き合いももう短くない。
的を射ている結論を出すと、ガッシュは勢いよく短い足で走り出した。
目指す先、走り抜けた先に、捜し求めている仲間がいると信じて――ただ、
「清麿の臭いがしたような気がするけど、見つからなかったのだ」
――転移した場所の背後にある、民家の存在には気づかずに。
365
:
アイの呼ぶほうへ side 相方
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:33:55 ID:n306w3HA0
【C-6/民家前/二日目/朝】
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(大)、精神疲労(小)、頭にタンコブ、強い決意 深い後悔、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!! キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
1:黒い太陽を目指し、目立ちたがりのカミナ達と合流するのだ。
2:清麿の臭いがしような気がするけど、見つからないのだ。
3:ドモンを探しつつデパート跡を調べに行くのだ。
4:なんとしてでも高嶺清麿と再会するのだ。
5:ジンとドモンを捜すのだ。銀髪の男(ビシャス)は警戒なのだ。
6:東方不敗を警戒なのだ。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。
いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
※大グレン団の所持していた複数のアイテムは、ガッシュの手元にあります。
[持ち物]:支給品一式×9
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒) 、ランダム不明支給品x1(ガッシュ確認済み)
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
366
:
俺達が愛したタフな日々
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:34:32 ID:n306w3HA0
卸売り場での戦闘から離脱したウルフウッドが求めたのは、まず何よりも休養。そのために身近なところにあった図書館を選び、荒らされた様子もないそこを根城にしばしの仮眠を取ろうとしたのは正しい判断だったはずだ。
頭の中では相変わらず「死ねコール」が絶え間なく続いており、いい加減に慣れてくると意識しなくても無視することができるようになる。人間の体は偉大だ。
血止めなどの簡易的な応急処置を済ませ、最上階の一室を陣取ると遠慮なく長机に横になる。本だらけの空間は静けさに満ちており、今の心境にはありがたかった。
「タバコ……タバコ吸いたいわ。あかん、ほんまに頭ボーっとしてきた」
眠るつもりでやってきて、昏睡したら洒落にならんなぁと思いながら、意識が暗闇の中に飲み込まれていく。
まぁ、眠っただけなら危険を察知すれば勝手に体が起きるはずだ。もしも昏睡ならば、その時に危険人物を送り込んだ酷薄な神の御許に殴りこみ、偉そうな髭面を粉砕してやる。
(なんや、案外まだまだワイも余裕あるやんか……)
死ねコールは鳴り止まないし、節々は痛むで碌なことがない。
それでも眠りにつくその内心は、どこか穏やかなものを保っていられた。
――のも束の間、ほんの十分程度のことではあるまいか。
「――そうか! 間違いねぇ! そういうことに違いねぇぞ!」
唐突に張り上げられた階下からの大声に、寝入っていた体がびくりと震える。
ぼさぼさに乱れた頭を掻き、寝惚け眼を擦り、懐にいつもの癖で手を入れて、望みのものがそこにないのを確認して、怒りが頂点に達した。
(なんやなんや、どこのイカレポンチやねん。ワイの聖域に断りもなく入り込んで、じたばたじたばた騒ぎ立ておって。ドコノクミノモンジャワレスマキニシテシズメタルカコラ)
凄まじい怒気が吹き上がり、無粋な連中に対する殺意へと昇華されていく。
さらには侵入者達は怒るウルフウッドをおちょくるかのように、次々と重いものを地面に叩き落している。音からして、本棚か何かだろうか。
(その行為にワイをムカつかせる他の何の意味があるんや)
もはや収まりがつかない。急襲し、階下の馬鹿どもを殲滅する。
サーチ・アンド・デストロイ。サーチ・アンド・デストロイ。
YES、ワイのマスターワイ。ハリー、ハリー、もひとつおまけにハリーやで。
残弾八発に予備マガジン。階下の馬鹿が油断して阿呆面を並べたボケナス共なら、十分にやれるはずの武装であるはずだ。
階下に感じる気配は三人。聞こえる声の様子からして、男が三人と女が一人。
あかんやん、計算がいきなり合っとらんやんけ。
この距離で声は聞こえるのに気配は断ってるって、どんな達人君がおるねん。
はい、終了。突撃急襲作戦は未然に防がれました万歳。
声の感じからして三人はガキ。子ども殺すのは胸糞悪いが、正直なところこの場に足を踏み入れてから子どもばっかり殺してて感覚が麻痺してきよる。
まぁ、賢そうな声の奴の気配がどこにも感じられんから、そんな手練れと一戦交えるつもりなんて毛ほども出てこうへんのやけど。
367
:
俺達が愛したタフな日々
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:34:55 ID:n306w3HA0
ドッスン、バッタン、ドッスン、バッタン。
皆さんどうぞお好きにどうぞ。北側は制覇したから、次は西側なんていかがでしょう。
頭おかしくなった四人組とかだったらどうしようか。そもそもこの場に安穏と留まるべきかどうかも問題だ。奴らの目的がこの図書館の全本棚を足蹴にするという部分にあるのであれば、いずれはこの最上階の一室にも足を運ぶ計算になる。
となるとここでイヤンバカン好きにして状態で転がる自分との遭遇は必至なわけで。
(なんや一秒たりともこんな場所に長居する必要ないやんか)
結論に至れば動きは早い。枕にしていたデイパックを回収し、ほんの数分だが寝転がるのに利用させてもらった長机に触れて別れを惜しむ。
悲しいけれどこれでお別れや。ワイは西から東へ、あてもなくさ迷う流浪のコメディアン。
ああ、行かないで。ここに残って。もっと私の固さを味わって。
そうは言ってくれるんやないで。別れが泣き顔になるんは、趣味やないんや。
手紙書くわ、だから手紙……きっときっと書いてね。
おおきに、任せとき。われも風邪ひかんよう、元気に伸び伸びとやれや。
さようなら、初めて私に寝そべった人。
脳内会話終了。
自分で自分がかなりヤバイ状態になっていることが理解できる。しかし本気で頭駄目な人は自分が駄目なことに気づかないらしい。となればヤバイことになってると理解しているワイはヤバイことにはなっとらんのとちゃうんか?
ガシガシと頭を掻き、結局、自分は何をしなければならなかったのかを思い出す。
えーっと、そもそもここには何をしにきたんだったか。
脳内ウルフウッドさん、お答えをどうぞ。
(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね)
そやったそやった。もうこんだけ言われてるんやから大人しく死のう。
わー、死のう。さようなら人生、ありがとう毎日。ビバ・涅槃。
「んなわけあるかい。と、遂に一人突っ込みの領域やでこれ」
疲労の極致が認識と判断力の齟齬を生み、中途半端な仮眠が眠気を増大させて耳鳴りがする。右からは耳鳴り、左からは死ねコール。真ん中にいるのはウルフウッド君でーす、いえー。
何しにここへきたんだったか。
そうだ思い出した。
「ワイ、一眠りしにきたんやないか」
ならばまだるっこしいことは忘れて、とっとと寝よう。
目の前にはおあつらえ向きに寝転がれる長机があるし、枕代わりのデイパック。
なんや寝る準備万端やないけ、知らんふりして、ネンネのふりしおってなぁ。
あかん、ほんまにもう限界や、寝るで。たとえ一秒後に世界が滅んでも。
あら、いらっしゃい。またきたのね。
阿呆か、初対面やろが。ええからちゃっちゃと体貸せ。
悪態をついて長机に横たわり、頭の下にデイパックを置いて準備完了。
ではさようなら現実。目が覚めたらタバコ屋が目の前にありますように。
――ドッスン、バッタン。
はい現実逃避終了。今度こそきりきり戻ってきて、きっちり動かんかい。
あまりの間抜けさにほんま頭が下がるで。呆れました。ぶっちゃけ愛想も尽きました。
愛想も尽きたし正直ネタも尽きました。これ以上は間が持たへん。
さっきまでドタバタ騒がしかったはずの階下が急に静まり返っている。かといって侵入者が出て行ったようにも感じられず、ウルフウッドは首を傾げて階段を下る。
(ほんま嫌やでこれ。実はワイを誘き出すための陽動作戦とかやったらどないやねん。ガキが騒いでその間に気配のない奴が上階に潜入。一人ボケ一人突っ込みに夢中のウルフウッド君、スッパリやられて地獄行き――阿呆か)
階下の様子はひどい有様だ。盗賊紛いの連中でもここまで入念に荒らすまい。
次々と引き倒されている本棚の山。一室一室が丁寧に丁寧に作業されているのを確認し、ウルフウッドは侵入者が完全に病気であることを確信。
もしくは床本棚フェチや。本棚が床に倒れているという光景に性的興奮を覚える輩の犯行や。
ギラリと冴え渡る名推理。灰色の脳細胞が唸りを上げて、とっとと眠れと直訴している。
368
:
俺達が愛したタフな日々
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:35:20 ID:n306w3HA0
いやワイもそうしたいのは山々やねんけど、おちおち居眠りもできひんのやここ。
脳内助手に適当に応じて、階下最奥の部屋に向かう。
侵入者達の気配はどうやらその部屋の中らしい。不思議なことに四人もいて話し声の一つも聞こえないのだが、まさか倒れた本棚を見つめてうっとりしているのだろうか。
想像しただけでげんなりやでほんま。
「あー、こういうことかこういうことか。なんや、変なフェチなんやないかと疑って悪かったわ。むしろものごっつい賢いやん。ワイ、なんかかなり阿呆やん」
部屋の様子を入り口から窺い、室内の誰の存在も見当たらないのと、部屋の奥に漆黒の扉が存在感を主張しているのを見て納得する。
扉は位置からして本棚の裏。つまり侵入者は性癖ではなく、本棚の裏の扉を求めて次々と本棚を陵辱していったわけである。丸。
「ほんならわざわざ隠してあるぐらいや。中にあるんは何なんやろなぁ」
まさか貸し出し禁止の貴重な本、なんてオチは待っていないだろう。
鉄の扉の厳重さからいって、中に封印されているのはそれなりの代物。
「ひょっとして武器庫かなにか? いやいや、タバコ屋という線も捨てきれんで」
小声で益体もない戯言を漏らしながら、ウルフウッドは装弾された銃を握る。
姿勢は低く、扉の陰に身を潜め、中の連中に見つからないように内側を覗き――期待がどっちも完璧に裏切られたことを知る。
(なんやプラントの工場みたいなもんやんけ。似ても焼いても食えるもんちゃうで)
落胆も露に額に手を当てるウルフウッドの気持ちも知らず、中にいる少年達はがやがやと嬉しげに手を叩きあっている。
というかなんやねんそのアットホームな感じは。ここが今、何をする場所でどんだけ人が死んでるのかわかってるっちゅーんか。
人死にがわんさか出て、それでも笑える心が残っとるなんてトンガリみたいな連中やんけ。
うわぁ、そう考えれば考えるほどに腹立ってきた。
殺したろかな。隙だらけやんか、あいつら。あの水色の髪の嬢ちゃんなんか、多分、自分が死んだかどうかわからないぐらいアッサリいけるで。
三人合わせてものの数秒――あかんて、だから声が四人分聞こえるねんて。
というかこの場においてもまだ四人目の声が聞こえて姿が見えないってどないなことやねん。
透明か。透明人間なんか。あかん、透明人間を倒すのはワイには無理や。
だって透明人間は血も透明やから死んだかどうかが確認できんもん。透明人間はごっついキツイわ〜。あ、でもアレやな。透明人間もずっと裸でおるんは寒くて無理やろうから、夜になって寒なってきたら服を置いといたらどうやろ。そんでもって透明人間がまんまと服に袖を通して、服だけが浮いてるのを確認すればばっちり殺せるやんけ。
あ、ダメや。透明人間が子どもやったら、ちょっと子供服は用意できへんからな。参った。これさえなけりゃ完璧な作戦やったのに。
ウルフウッドが脳内で対透明人間戦のシミュレーションを余念なく行っていた時だ。
室内で騒いでいた面々に、新たな変化の兆しが訪れたのは。
『――螺旋界認識転移システム起動、転移開始』
妙に無機質な声が聞こえたと思った瞬間、部屋の中から白光が溢れ出しウルフウッドの目を焼いた。
一瞬、視界が奪われる不徳に全身が臨戦態勢を取って身構えるが、攻撃はない。
何度かの瞬きで視界を取り戻したウルフウッドは、先ほどまで目の前にいたはずのガキ連中が見当たらないことに気づき、
「なんや最近のガキは逃げ足速いんやな。こんだけ速いけりゃ世界が狙えるで世界が。何の世界かは知らんけど」
呟きながら室内に入り込み、目新しいものはないかと物色する。
プラントよりさらに小難しそうな機械が群れているだけで収穫なし。
「螺旋界認識転移システム……やったか?」
先ほどのガキ共の交わしていた内容が正しければ、求めるもののある場所へ一瞬で飛ばしてくれる装置らしい。
それを利用してガキ共は会場の中をメルヘンヤッホーしているわけだ。あるいはウルフウッドに気づき、慌てて逃げ出したのかもしれない。
まあどちらにせよ何たる便利機能、完璧にゴチになります。
確か青髪の刺青青年がごちゃごちゃ押したのがこの赤いスイッチやったはず。
ほな、ポチッといきまーす。
「あー、そやな。とりあえずあれや、パニッシャーんとこに飛ばしてくれんかな」
『――螺旋力が確認できません』
いやそんな一見さんはお断りですーみたいな感じでこられても困る話やから。
なんや客を選ぶんかい。お客様は神様ですー言うやん、ちゃうんかい。
369
:
俺達が愛したタフな日々
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:35:45 ID:n306w3HA0
「そんなつれんこと言わんと、ワイのパニッシャー返したってくれや」
『――螺旋力が確認できません』
「なんちゅー頑固さ。こうなりゃワイもそっちがYESと首を縦に振るまで、断固として同じ要求を繰り返す。我々は暴力には屈さへんで」
――パニッシャー。
――螺旋力が確認できません。
――パニッシャー。
――螺旋力が確認できません。
――あかん、もう飽きた。
「そもそも螺旋力ってなんやねん。なんや、グルグル回ります的な力のことかい。ほんならこれでどないやねん。ワイは死ぬ前は血塗れの人生を撃ったり撃たれたりしながらぐるぐる回ってきました。でもって最終的にそこで死んで、死んだと思いきやこのゲームや。生きてても死んでても殺し殺し殺しの螺旋。どや、これは螺旋力にならんか?」
『――螺旋力が確認できません』
「なんやシビアやねんな。ほんならこれはどないや? 実は結構前から頭の中でずーっと誰かが『死ね死ね死ね死ね』繰り返しとんねん。ちょっと気の弱い奴やったら自殺に追い込まれそうな負の連鎖。右から左へ流れるように、ぐるぐる終わらないこの死ねコール。これは螺旋力にならんのか?」
『――螺旋力が確認できません』
あまりの頑なさに完全にお手上げ、白旗状態。
意地の張りすぎはよくない。負けるが勝ち、引くのが大人。
「あれか? アレなんか? なんや思いの力が足りませんよー的な? 本当にあなたが欲しいと思っているものはそんなものではありませんよー的な?」
誰にともなく虚空に呼びかけ、それからウルフウッドは仕方ないと舌打ちして、
「そやねん。ほんまはな、ワイは今はパニッシャーなんて欲しないねん。ほんまのほんま、ここだけの話、ワイが欲しいんわな……タバコやねん。どないやこの本音」
『――螺旋力が確認できません』
「どーいうこっちゃねん!」
けたけた笑う。自分の道化ぶりが自分でおかしく、しかも板についてきた気がする。
今後はコメディアンやなくて、ピエロで売っていったろか。
いやそもそも、ワイってコメディアンだったことあったっけ?
「こりゃ傑作やないか! わっは、わっはっはっはっは!」
肩を大いに震わせ、口を大いに開けて、顔を大いにくしゃくしゃにし、大声を上げて大いに笑う。
そうして一頻り笑いの衝動が収まったところで、ウルフウッドは黙り込む。
沈黙し、赤いスイッチの手前の椅子に腰掛ける。
それからボーっと装置を眺め、何気なくその赤いボタンにもう一度触れた。
「――ヴァッシュ・ザ・スタンピードや。ワイが、もう一度会いたいんわ。ヴァッシュ・ザ・スタンピードや。これでどないや」
応答までの無言はこれまでで最も長かったような気がする。
だからひょっとしたらと、期待させられてしまった。
運命を定める神はウルフウッドを嫌っていて、そんなこと承知だったというのに。
『――螺旋力が確認できません』
無機質な声に「は」と最初に乾いた音が漏れ、後に投げ遣りな笑声が続いた。
まぁ、無理だろうと思っていた。トンガリが死んだのは知っているわけだし。そもそも実際のところ、これで飛ばされていたとして自分は何がしたかったのか。
――千切れた首か、残った胴体。どっちかのところに飛び出すわけや。そんなもん目の前にしても正味、ワイが出来んのは十字切る程度のもんやで。
370
:
俺達が愛したタフな日々
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:36:12 ID:n306w3HA0
ああ、でも、それも良かったかもしれない。
胴体はともかく首のところに出れば、あの小憎たらしい嬢ちゃんに会えたかもしれない。そうしたらよっぽど苦しめて苦しめて苦しめ抜いて殺してやって、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの弔い合戦もできたかもしれないのに。
「弔いとか、阿呆やんなぁ、ワイ。そんなこと別に考えてへんねんで」
『――螺旋力が確認できません』
「なんやねん、その返答。それじゃまるでワイが、まだトンガリに会いたがってるみたいやんけ」
『――螺旋力が確認できません』
「ちょっとぉ、勘弁したってぇな。死ぬ前は散々突き放してたくせに、いざ死んでもうたら実はもっと一緒にいたかったんですぅなんてやっすい芝居でも流行らんぞ」
『――螺旋力が確認できません』
「困ったわ。これもう人格攻撃の域やで、ほんま。われがその言葉を言うたんびに、ワイの中の高潔なウルフウッド像的なもんが削り取られていくんや。訴訟問題起こしたら、これちょっと完全にワイが勝訴やで」
『――螺旋力が確認できません』
「やめえ、ゆうとるやないかぁ――ッ!」
機械の計器を怒りのままに思い切り蹴りつけ、ウルフウッドは吠える。
頑強な造りの機器には何の影響もなく、ウルフウッドの爪先が痛くなっただけの結果だ。
おまけに――、
『――螺旋力が確認できません』
「そうか。そんなにまで、ワイが間違ってるいうんか」
『――螺旋力が確認できません』
「違うで、トンガリ。これはな、ちゃうんや。ワイはな、あくまでタバコが欲しいだけやねん。だからこうして、プライドも捨てて何度も何度も頼み込めるわけや。タバコはワイの命の糧。流石に命とは引き換えにできんからなぁ」
『――螺旋力が確認できません』
「われが死んで悲しいなんて、これっぽっちも思っとらんのや。だって、そやろ? ワシらの関係ってのはいつ死ぬかもわからんような戦場で、そんな関係やったやん。互いに憎まれ口叩いて、ヘマしてるの見たら腹抱えて笑って。な? せやからわれが死んだら笑うのが筋で、これで寂しがるなんてのはワシらと違うんや」
371
:
俺達が愛したタフな日々
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 11:36:41 ID:n306w3HA0
『――螺旋力が確認できません』
「だからな、違てるんや。違てるんやで。トンガリ、ワイはお前が死んだことなんかちっとも悲しないで。なんや死んだワイと会ってわれはずいぶん喜んどったけど、ワイは正直サブイモもんや。二十歳越えた大人が……っていうかわれの場合はそういう規模やないやんけ」
『――螺旋力が確認できません』
「確かにな、なんやかんやで楽しい日々やったのは事実やで。われと背中合わせで戦った日々は悪ぅなかった。けどな、戻る言うたわれの手をワイは振り払ったやんか。友達やー言うて出てきたわれを見捨てたやんか。な? ワイのどこに、われの死を悲しむ理由がある?」
『――螺旋力が確認できません』
「せやから、タバコや。ほんまに早う、タバコのとこに飛ばしたってくれ」
『――螺旋力が確認できません』
「ワイがこれでタバコのとこに飛んでいけるなら――」
『――螺旋力が確認できません』
――ワイはトンガリが死んだことなんか悲しないって、開き直れるんや。
繰り返し繰り返し、その問答は続けられる。
笑い混じりの涙声と、無機質な言葉の繰り返しのやり取りが。
会場の全域に響き渡る放送も、完全に意識の外側に置いたままウルフウッドは呟く。
機械によって構築された室内で――自分に何もしてくれない部屋の片隅で。
『――螺旋力が確認できません』
【B-4/螺旋界認識転移装置室/2日目/朝】
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:疲れによる認識力判断力の欠如、情緒不安定、全身に浅い裂傷(治療済み)、肋骨骨折、全身打撲、頭部裂傷、貧血気味 寝不足による思考の混乱
軽いイライラ、聖杯の泥
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night、デザートイーグル(残弾:8/8発)@現実(予備マガジン×1)
[道具]:支給品一式
[思考]
基本思考:自分を甦らせたことを“無し”にしようとする神に復讐する。(①絶対に死なない②外道の道をあえて進む)
0:ワイはトンガリのことなんてどうでもいい。タバコが欲しいだけなんや。
1:とにかく休憩したい。図書館は誰もいないから、丁度いいはず。
2:売られた喧嘩は買うが、自分の生存を最優先。他者は適当に利用して適当に裏切る。
3:神への復讐の一環として、殺人も続行。女子供にも容赦はしない。迷いもない。
4:自分の手でゲームを終わらせたいが、無謀なことはしない。
5:ヴァッシュに対して深い■■■
6:言峰に対して――――?
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの思いは――。
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー )、高速移動、ロボットの使い手と認識しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
※シータのロボットは飛行、レーザービーム機能持ちであることを確認。
※螺旋界認識転移システムの場所と効果を理解しましたが、未覚醒のため使用できません。
※五回目の放送を聞き逃しました。
372
:
アイが呼ぶほうへ(修正)>>330差し替え
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 23:58:13 ID:n306w3HA0
「それでカミナ、これからどうするつもりなのだ?」
「決まってんだろ! あのさっきの凄ぇ必殺技をぶっ放した野郎のとこを目指す! ぐるーっと会場を移動しなきゃなんねぇのが面倒くせぇが、その代わりに途中にある家とかも全部見て回れるってことになる! 一石二鳥じゃねぇか!」
「おぉ! なるほど! すごいのだ!」
「本当です! そうしたらもっと凄いモンも見つかるかもしれません」
カミナの口上に手を叩いて喜ぶガッシュとニア。結局のところ方針は何も変わらず、それどころかやや遠回りの兆しを見せているのだが、その点を考慮させない辺りは流石だった。
仲間からの賛同を得て、意気揚々と先導するカミナに続く一行。
その面々が南東を目指す過程で辿り着いたのは、B−4図書館。
かつて十傑衆が一人、衝撃のアルベルト。
不死の体を得たとはいえ、心根は未だ女子高校生であった柊かがみ。
二人が打算含みの同盟を――最終的に掛け替えのない絆を結んだ最初の地であった。
「誰かがいる気配もないし、そもそも気持ち悪い見た目の場所なのだ」
「たくさん本がありますけど……どれもガッシュさんの本とは違うもののようですね」
相変わらず凄ぇもんが見つかる、と根拠のない自信を打ち立てて飛び込んだカミナに続き、ぐるりと螺旋状を描く階段の途中、書架から次々と本を確認する二人がそう零す。
ニアの手は代わる代わる抜き出す本のページを捲り、その度に読めないと残念そうに首を傾げては元の場所に戻していた。
「ちっ。こんだけありゃぁ、ガッシュに凄ぇ力がぶわーっと出るんじゃねぇかと思ったが、そういうわけにもいかねぇみたいだな」
『元々期待薄でした。あの魔本が特殊な構造をしているのは解析済みですが、この建物の中にある本はほとんどが市販の製品です』
「小難しいこと言われてもわかんねぇ。そして本の中身も、俺にはさっぱりわからねぇ!」
一方でカミナは本を乱暴に投げ出し、階下へとぽんぽん放り出してしまう。
物を扱う態度としては甚だ不適切だが、辺りを見回せば立ち並ぶ書架にぎっしり埋まる本の海。それは知識という名の防壁に等しい理論武装。
さるビブリオマニアなら涎を垂らしただろう至れり尽くせりな空間も、識字できないカミナにしてみれば無用の長物でしかない。
初めこそ勢いよく一冊一冊を検分していたガッシュとニアの二人も、度重なる期待の裏切りによってその表情は明るくない。ましてやこれだけの量の本だ。何かしら重要な内容の記された本はあるかもしれないが、見つけ出すのにかかる時間と労力はあまりに惜しい。
一刻も早く、他の対主催と合流すべき状況ではあまり望ましくない寄り道といわざるをえない。
とクロスミラージュが思い、再出発を提案しようとした瞬間だった。
「――そうか! 間違いねぇ! そういうことに違いねぇぞ!」
不貞腐れたように座り込んでいたカミナの急な絶叫に、クロスミラージュは存在しない全身が震えるほどに驚く。当然、体が存在するニアとガッシュの驚きは歴然だ。
持っていた本を取りこぼして、拾おうと慌てて屈めた二人の額がぶつかり合ったのだ。
「ウ、ウヌゥ、痛いのだ……」
「い、痛いです……」
「馬鹿野郎! 痛ぇとか辛ぇとか言ってる場合じゃねぇぞ! いいかおめぇら……この本の山が入っているこの壁!」
『本棚と呼ばれるものです』
「そのホンダナだ! こいつの中に入ってる本を、全部みんな取っ払っちまえ!」
ぶつかって赤くなる額を擦る二人の肩を、カミナがこれ以上ないほど景気のいい顔で引っ叩く。クロスミラージュの冷静な突っ込みもどこ吹く風だ。
発言の意味がわからないと首を傾げる三者を置き去りに、手近な書架に歩み寄ったカミナは、早速本棚にぎっしり詰まった本を掴むと、十冊近くまとめて引き抜き――中身を検めることもなく、躊躇なく階下へ投げ捨てた。
373
:
アイが呼ぶほうへ(修正)>>330差し替え
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/25(水) 23:59:33 ID:n306w3HA0
分厚い本が地面に叩き付けられる空気の破裂音が聞こえ、経年劣化を迎えていた古書が高高度落下の衝撃に耐え兼ねてページを辺りに散らばせる。
司書のいない貸し出しカウンターから咎める声は聞こえないが、心なしかどこからか黒縁眼鏡の女性の悲鳴が聞こえたような気がした。
その暴挙を声もなく見守る三人。カミナはその眼前で本を抜き出した書架の空っぽになった棚――ではなく、空いたスペースの奥にある壁を睨み付けて「違ぇな」と呟き、そのまま手当たり次第に目に映る本を投げ捨てていく。
『ちょ、ちょっと待ってください、カミナ』
「あぁ? なんでぇ、クロミラ。おめぇは手がねぇから仕方ねぇが、ガッシュとニアは何してやがる。とっととこっちきて手伝いやがれ」
『それ以前の問題です。カミナ、あなたは一体、何をしているのですか?』
「あぁ!? おめぇ、俺の話を聞いてなかったのか!?」
「カミナ! 私もニアも、何も聞かされていないのだ! クロスミラージュは悪くないぞ!」
柳眉を逆立てるカミナにガッシュの弁護が入り、カミナは自身の青い頭髪に指を入れて頭を掻きながら「そうだったか?」と首を捻り、ニアの首肯をもって悪戯を詫びるような表情で頭を下げた。それから、
「悪ぃ悪ぃ。ちょっと閃いたもんだから思わず先走っちまった」
『それはもう構いません。それで、何を閃いたというのですか?』
「そうです、アニキさん。それにホンダナってなんですか?」
『本の山が入っている棚です』
「話がちっとも進まないのだ」
話をちっとも聞いていなかったらしきニアが嬉しそうに手を叩き、「まぁ、これがホンダナだったのですね」と華やかに微笑んでいる。
「そうだ! これがホンダナ! そしてこのホンダナが凄ぇたくさんあるここは、ホンダナの家に違いねぇ! いや、ホンダナの家どころか城かもしれねぇぞ!」
ここは地図上の図書館であり、入り口には私立図書館『超螺旋図書城』と記されていたという事実は、場を停滞させるだけだとクロスミラージュは言葉を飲み込んだ。
「見やがれ! 右見ても本! 左見ても本! 上にまでびっしりありやがって、おまけに下にも本ばっかりじゃねぇか!」
『下の本はカミナが投げ捨てた結果ですが……』
「聞こえねぇ! どうでぇ、ガッシュ、この本だらけがどういうことかわかるか!?」
「ここがホンダナの城であり、本の城でもあるということではないか!?」
「そういうことだ! いや、そういうことか!?」
「違うのであるか?」
「……いや! 違わねぇ! 今日からここは本とホンダナの城だ!」
「まあ、すごい。本とホンダナにもお城があったのですね」
意気投合する三人に、クロスミラージュは自分が口を挟まなくても話が進まないことを悟る。
そうして一頻り騒いだ後、全員の前で空っぽになった書棚をばしばしとカミナが叩き、
「そしてこっから本題だ! この城が本とホンダナの城ってこたぁ、この城の中には本がはちゃめちゃたくさんあるってことだ。そうだな!」
「そうなのだ! もう目が回りそうなのだ」
「そうだな。俺も読めねぇ食えねぇ枕にもならねぇ。そんなもんをずっと見てるのも願い下げだ。だが、こんだけ本があるってことは逆に怪しいと思わねぇか?」
「……何がですか?」
「決まってんだろ! こんだけ本がバァーッとありゃぁ、誰でもここには本しかねぇんだなって思うだろうぜ! だからこそ、実はここには本じゃねぇ何かがあるんじゃねぇのか!?」
そう言ってカミナはさらに一列、横並びの本を乱暴な腕振りで払い落とす。
そうして出現する空洞の奥に目ぼしい痕跡は見当たらず、カミナの想像が裏づけられるようなものは出てこなかった。
しかし、クロスミラージュは驚愕の中でその考えが否定できないことを認識していた。
木を隠すなら森の中――という諺がある。一本の木を隠すために、木の群れの中にその存在を紛れ込ませてしまうという諺だ。同じような考えで、この図書館という場所に本という存在を紛れ込ませることは容易だろう。
その本を求める来訪者からすれば、まさしく本の海の中から一冊の本を選び出すのはどれほどの苦難になるだろうか。
そして来訪者に、この山の中から一冊の本を探し出す意図がなければどうなるか。
当然、来訪者は本の山を確認して、すぐにこの場を立ち去るだろう。
図書館という名称と、その施設の持つ意味合いを知っている人間ならば尚更だ。
図書館を知っているからこそ、本の重要性を問えたとしても、図書館の本以外のものの重要性を考えることができないのだ。
374
:
アイが呼ぶほうへ(修正)>>332差し替え
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/26(木) 00:02:15 ID:RbCV8LNA0
>>373
は
>>331
の差し替えです、すみませんorz
これは即ち、本という文明を知らないが故に行われた蛮行。
カミナという存在は識字していない。それが故に本に重要性を見出さない。
情報を完全に埒外としているからこその、思考の裏を突いた考えであった。
「ウヌヌゥ、高いところにある本には手が届かないのだ!」
「ガッシュさん、下から一つずつやっていきましょう。アニキさんも」
「わかったのだ!」
「おうよ!」
クロスミラージュの驚愕を余所に、三人は最下層へと駆け下りて、順番に書架を空にする作業に従事している。カミナは言うまでもなく、ガッシュとニアは単純にカミナの考えに賛同してのことのようだ。
思えばカミナは、あの紅の暴虐を見た時から恐れの感情の一切を抱いていなかった。
それは魔力という概念に触れたことがなく、それ故の無知からくる勇猛さだったと定義づけていたような気がする。しかし、そうではなかったのだ。
あの暴力の威力を最も理解していたのがクロスミラージュならば、その本質を最も理解していたのはカミナだったのかもしれない。
だからこそカミナは、あの恐るべき力を前に怖じることなく、この場においても立ち遅れることのない思考に至ることができるのではないのか。
これがカミナの力――いや、人間が持つ力なのだろうか。
これこそが、この飽くなき精神こそが、螺旋王の求める螺旋の力の本質なのか。
――躊躇わず前に進み続ける意思、『進化』の力の一端なのか。
「カミナ、カミナ! ふと思ったのだが、この奥には何があるのだ?」
「なにぃ、ってぇ、こんなとこに道がありやがったのかよ」
考察を進めるクロスミラージュを置き去りに、カミナとガッシュが声を上げる。
それは入り口を入ってすぐのところにある貸し出しカウンター。その奥にある従業員用の関係者通路の入り口だった。
「この奥にもホンダナがあるのですか?」
「いや、わからねぇ。わからねぇが、俺はわかったぜ!」
「何がなのだ? 何がわかったのだ?」
期待の視線を二人から向けられ、カミナは「へっ」と笑って親指で己の顎をひと撫ですると、
「何か凄ぇもんを隠すなら、でけぇ建物の一番上か! 一番奥って相場が決まってんだよ! この建物の一番上は右と左のでっけぇ捩れた塔が二つだが、一番奥は一つっきゃねぇ! つまり! 何か凄ぇもんを隠すなら当然、一つしかねぇとこに決まってらぁ!」
「そういうものなのですか?」
「それが男の心理ってもんよ! なぁ、ガッシュ」
「そうなのだ。私もきっと、二つと一つなら一つにお宝を隠してしまうのだ」
『男』の理論が炸裂し、貸し出しカウンターを乗り越えると暗い通路へ身を躍らせる。そのまま通路を進む三人は、通路の途中途中にあった『更衣室』や『会議室』といったプレートの下がった部屋を素通り。
目指すは一番奥にあり、それ以外は箸にもかけねぇという一本気ぶりだ。
最奥にあったのは『書庫』というプレートの下がる一室。
鉄扉の向こうには窓のない閉め切った空間が広がっており、埃臭さと古書特有の臭いが立ち込めている。
鼻のいいカミナとガッシュは顔を顰めながら足を踏み入れ、中を見渡すニアが、
「ここにも本がありますね。小さい部屋ですけれど、ここもホンダナの城なのですか?」
「こじんまりとしていやがるから、多分、本とホンダナの子どもの部屋だな! だが、一番奥にあるからには怪しいのはここだ。っつーわけで、とりあえずここのホンダナを空にしちまうぞ!」
「「おーーーっ!」」
『大丈夫……なのでしょうか』
375
:
アイが呼ぶほうへ(修正)>>332差し替え
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/26(木) 00:04:37 ID:RbCV8LNA0
クロスミラージュの心配を余所に、三人は黙々と本を取り出す作業を開始する。
この作業が徒労に終わるとすれば、彼らの行動は単純に本を陰干ししたというだけになるのだが、燃える意思を瞳に宿す三人を止める言葉をクロスミラージュは持たなかった。
ただ気になるのは、この書庫にのみ明確に誰かが足を踏み入れた痕跡があったことだ。
書棚の一つ、真ん中がぽっかり開いているのは、そこにあった本を誰かが持ち出した証拠だろう。塔の中に山と積まれた書架の全てに本が並べられていたのだ。ここだけずぼらな状況であったとは考え難い。
――あるいはその一冊こそが、何かしらの重要な文献であったとも考えられるが。
「ムムッ? ニア、この奥にある変なものに手は届くであるか?」
「えっと、これですか? これ、なんなんでしょう。――あ、倒れました」
丁度その真ん中の書棚の下の段を空白にしていた二人が、小さく驚きの声を上げた。
カミナと共に意識を向けるのと同時、書庫内の空気に変化が訪れる。
――かすかな機械音が生じ、件の書棚が小刻みに揺れる。
さりげなくカミナがニアとガッシュを背後に庇いながら距離を開けると、それを待っていたように書棚は内開きの扉のように位置を変え、
――最奥の本棚の奥、隠されていた漆黒の扉が四人の前に姿を現していた。
本棚の面積をいっぱいに使った黒の大扉は、その素材がようと知れずひっそり静寂を保っている。鉄のように見えるが、それ以外の鉱物といわれれば納得してしまいそうな異様さ。
そのドアを前にカミナは腕を組み、堂々と胸を張ると盛大に身を反らせて、
「ほれ見ろい! いかにもってぇ感じのドアのご登場とくらぁ!」
「すごいのだ、カミナ! 本当に、本当に見つけてしまったのだ!」
はしゃぐガッシュとニアがハイタッチ。
それを見届けたカミナが意気揚々と、大扉の中央に設置されたバルブに手を伸ばす。どうやら気密室のような厳重さを誇る部屋らしく、カミナの胴体より円周のあるハンドルは見るものに頑強さを誇示するような造りになっていた。
「こいつを……どうすんだ?」
『時計回りに回せば開くものかと思われます』
「時計回りってなぁ、どっちに回るんだ?」
『そうでした。上の部分を握り、右に回せば開くものかと思われます』
「了解了解っと」
口笛混じりの気軽さでハンドルを握り、カミナが右回りに力を込める。が、ハンドルはどういうわけかピクリとも動かない。手軽に回るものと予想していたカミナは深く息を吐き、それから全体重をかけてハンドルを回しにかかるが、
「〜〜〜〜〜〜〜ッ! だぁーっ! 固ぇ! 固すぎるぞ、どうなってやがる!」
顔が真っ赤になるほどの力を込めた結果、ハンドルは回る気配すら見せなかった。
カミナに続いてガッシュ、ニアと同じように続いたが、この中で最も膂力のあるカミナの手で回らないのだ。二人に動かせるはずもなく、全員で赤くなった手を振りながら首を傾げる。
「せっかくドアを見つけたのに、開けられないのでしょうか」
「ひょっとしたら鍵が必要なのかもしれないのだ。私達は鍵は持っていないのだ」
『いえ、鍵穴らしきものは見つかりません。あるいは何かに反応する扉なのかもしれませんが……その場合はハンドルは何のために』
代わる代わるの攻撃にびくともしない大扉。秘匿性の高さに中に収められているものの重要性が期待されるが、開かないのでは意味がない。
破壊を提案しようにも、扉から漂う得体の知れない雰囲気がそれを躊躇わせた。
――単純な威力では、決して開かないギミックが用いられている扉?
「おぉーーっし! わかった! 今度こそわかった!」
376
:
アイが呼ぶほうへ(修正)>>332差し替え
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/26(木) 00:06:10 ID:RbCV8LNA0
今度の叫びにもまた全員が驚く。
当然、高らかに声を上げたのはカミナ。だが、今度の驚きには三人の期待が続いた。
先ほどのように正解を導き出したカミナならば、また妙案を出してくれるのではと。ガッシュとニアは信頼から。クロスミラージュは独創的な発想力に期待して。
期待の視線に対し、カミナは堂々と頷いて、鼻の穴を広げると大声で言う。
「いいか、てめぇら! こういう考え方がある! 一つの凄ぇでかい岩がある。とても一人じゃ持ち上げられねぇ。さぁどうする」
「どうするんですか?」
「簡単な話だ。一人で持ち上がらねぇなら、二人で持ち上げんだよ。二人で足りなきゃ三人だ。三人もいりゃぁ、見上げるほどでっけぇ岩でも持ち上がらぁ!」
「おお、その通りなのだ!」
『そ、そんな単純な話でしょうか!?』
377
:
俺達が愛したタフな日々(修正)>>366差し替え
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/26(木) 00:07:54 ID:RbCV8LNA0
卸売り場での戦闘から離脱したウルフウッドが求めたのは、まず何よりも休養。そのために身近なところにあった図書館を選び、荒らされた様子もないそこを根城にしばしの仮眠を取ろうとしたのは正しい判断だったはずだ。
正直なところ選んだ避難所は外見も中身も設計者の頭の中身を疑いたくなるような代物であったが、無駄な設計思想が幸いして隠れる場所は多かった。
頭の中では相変わらず「死ねコール」が絶え間なく続いており、いい加減に慣れてくると意識しなくても無視することができるようになる。人間の体は偉大だ。
カウンターを乗り越えて奥の通路を通り抜け、階段を上がって『更衣室』というプレートのかけられた部屋に乱暴に押し入る。
血止めなどの簡易的な応急処置を済ませ、置いてあった長椅子に陣取ると、遠慮なくその場に横たわる。
最初に入った時、館内に誰もいない様子なのは確認済みだ。本に支配された図書城は戦いの喧騒もどこか遠く、静寂に満ちた空間が今の軋む体と心にありがたかった。
「タバコ……タバコ吸いたいわ。あかん、ほんまに頭ボーっとしてきた」
眠るつもりでやってきて、昏睡したら洒落にならんなぁと思いながら、意識が暗闇の中に飲み込まれていく。
まぁ、眠っただけなら危険を察知すれば勝手に体が起きるはずだ。もしも昏睡ならば、その時に危険人物を送り込んだ酷薄な神の御許に殴りこみ、偉そうな髭面を粉砕してやる。
(なんや、案外まだまだワイも余裕あるやんか……)
死ねコールは鳴り止まないし、節々は痛むで碌なことがない。
それでも眠りにつくその内心は、どこか穏やかなものを保っていられた。
――のも束の間、ほんの十分程度のことではあるまいか。
「――そうか! 間違いねぇ! そういうことに違いねぇぞ!」
唐突に張り上げられた書架の塔からの大声に、寝入っていた体がびくりと震える。
ぼさぼさに乱れた頭を掻き、寝惚け眼を擦り、懐にいつもの癖で手を入れて、望みのものがそこにないのを確認して、怒りが頂点に達した。
(なんやなんや、どこのイカレポンチやねん。ワイの聖域に断りもなく入り込んで、じたばたじたばた騒ぎ立ておって。ドコノクミノモンジャワレスマキニシテシズメタルカコラ)
凄まじい怒気が吹き上がり、無粋な連中に対する殺意へと昇華されていく。
さらには侵入者達は怒るウルフウッドをおちょくるかのように、次々と重いものを地面に叩き落している。音とこの場所にあったものからして、本だろう。しかも一冊とかではなく数十冊単位で次々と。
(その行為にワイをムカつかせる他の何の意味があるんや)
もはや収まりがつかない。急襲し、螺旋塔の馬鹿どもを殲滅する。
サーチ・アンド・デストロイ。サーチ・アンド・デストロイ。
YES、ワイのマスターワイ。ハリー、ハリー、もひとつおまけにハリーやで。
残弾八発に予備マガジン。件の馬鹿が油断して阿呆面を並べたボケナス共なら、十分にやれるはずの武装であるはずだ。
移動した先に感じる気配は三人。聞こえる声の様子からして、男が三人と女が一人。
あかんやん、計算がいきなり合っとらんやんけ。
この距離で声は聞こえるのに気配は断ってるって、どんな達人君がおるねん。
はい、終了。突撃急襲作戦は未然に防がれました万歳。
声の感じからして三人はガキ。子ども殺すのは胸糞悪いが、正直なところこの場に足を踏み入れてから子どもばっかり殺してて感覚が麻痺してきよる。
まぁ、賢そうな声の奴の気配がどこにも感じられんから、そんな手練れと一戦交えるつもりなんて毛ほども出てこうへんのやけど。
378
:
俺達が愛したタフな日々(修正)>>367差し替え
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/26(木) 00:08:59 ID:RbCV8LNA0
ドッスン、バッタン、ドッスン、バッタン。
皆さんどうぞお好きにどうぞ。効率が悪いので、二組に分かれて左右同時攻略推奨。
頭おかしくなった四人組とかだったらどうしようか。そもそもこの場に安穏と留まるべきかどうかも問題だ。奴らの目的がこの図書館中の本に地べたを舐めさせるという部分にあるのであれば、いずれはこの場所にも「本はどぉこだぁ〜」と現れる可能性がある。
となるとここでイヤンバカン好きにして状態で転がる自分との遭遇は必至なわけで。
(なんや一秒たりともこんな場所に長居する必要ないやんか)
結論に至れば動きは早い。枕にしていたデイパックを回収し、ほんの数分だが寝転がるのに利用させてもらった長椅子に触れて別れを惜しむ。
悲しいけれどこれでお別れや。ワイは西から東へ、あてもなくさ迷う流浪のコメディアン。
ああ、行かないで。ここに残って。もっと私の固さを味わって。
そうは言ってくれるんやないで。別れが泣き顔になるんは、趣味やないんや。
手紙書くわ、だから手紙……きっときっと書いてね。
おおきに、任せとき。われも風邪ひかんよう、元気に伸び伸びとやれや。
さようなら、初めて私に寝そべった人。
脳内会話終了。
自分で自分がかなりヤバイ状態になっていることが理解できる。しかし本気で頭駄目な人は自分が駄目なことに気づかないらしい。となればヤバイことになってると理解しているワイはヤバイことにはなっとらんのとちゃうんか?
ガシガシと頭を掻き、結局、自分は何をしなければならなかったのかを思い出す。
えーっと、そもそもここには何をしにきたんだったか。
脳内ウルフウッドさん、お答えをどうぞ。
(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね)
そやったそやった。もうこんだけ言われてるんやから大人しく死のう。
わー、死のう。さようなら人生、ありがとう毎日。ビバ・涅槃。
「んなわけあるかい。と、遂に一人突っ込みの領域やでこれ」
疲労の極致が認識と判断力の齟齬を生み、中途半端な仮眠が眠気を増大させて耳鳴りがする。右からは耳鳴り、左からは死ねコール。真ん中にいるのはウルフウッド君でーす、いえー。
何しにここへきたんだったか。
そうだ思い出した。
「ワイ、一眠りしにきたんやないか」
ならばまだるっこしいことは忘れて、とっとと寝よう。
目の前にはおあつらえ向きに寝転がれる長椅子があるし、枕代わりのデイパック。
なんや寝る準備万端やないけ、知らんふりして、ネンネのふりしおってなぁ。
あかん、ほんまにもう限界や、寝るで。たとえ一秒後に世界が滅んでも。
あら、いらっしゃい。またきたのね。
阿呆か、初対面やろが。ええからちゃっちゃと体貸せ。
悪態をついて長椅子に横たわり、頭の下にデイパックを置いて準備完了。
ではさようなら現実。目が覚めたらタバコ屋が目の前にありますように。
――ドッスン、バッタン。
はい現実逃避終了。今度こそきりきり戻ってきて、きっちり動かんかい。
あまりの間抜けさにほんま頭が下がるで。呆れました。ぶっちゃけ愛想も尽きました。
愛想も尽きたし正直ネタも尽きました。これ以上は間が持たへん。
さっきまでドタバタ騒がしかったはずの館内が急に静まり返っている。かといって侵入者が出て行ったようにも感じられず、ウルフウッドは首を傾げて階段を下る。
(ほんま嫌やでこれ。実はワイを誘き出すための陽動作戦とかやったらどないやねん。ガキが騒いでその間に気配のない奴が上階に潜入。一人ボケ一人突っ込みに夢中のウルフウッド君、スッパリやられて地獄行き――阿呆か)
ちらと確認した書架の塔の一階はひどい有様だ。階段上の本棚から次々と投げ出された本がうず高く積まれ、識者達の嘆きを誘う。関係ないけど。
見上げた本棚の一割程度に過ぎないが、綺麗な仕事ぶりにウルフウッドは感嘆。
完全に侵入者が病気であることを確信。
もしくは猟奇的なフェチや。本が床の上でだらしなく寝そべっている光景に性的興奮を覚える輩の犯行や。
ギラリと冴え渡る名推理。灰色の脳細胞が唸りを上げて、とっとと眠れと直訴している。
いやワイもそうしたいのは山々やねんけど、おちおち居眠りもできひんのやここ。
379
:
俺達が愛したタフな日々(修正)>>368差し替え
◆2PGjCBHFlk
:2008/06/26(木) 00:10:14 ID:RbCV8LNA0
いやワイもそうしたいのは山々やねんけど、おちおち居眠りもできひんのやここ。
脳内助手に適当に応じて、関係者通路の最奥を目指す。
侵入者達の気配はどうやらその部屋の中らしい。不思議なことに四人もいて話し声の一つも聞こえないのだが、まさかあられもない本の姿にうっとりしているのだろうか。
想像しただけでげんなりやでほんま。
「あー、こういうことかこういうことか。なんや、変なフェチなんやないかと疑って悪かったわ。むしろものごっつい賢いやん。ワイ、なんかかなり阿呆やん」
部屋の様子を入り口から窺い、室内の誰の存在も見当たらないのと、部屋の奥に漆黒の扉が存在感を主張しているのを見て納得する。
扉は位置からして、一つだけ存在感を主張する移動したと思しき書棚の裏。
つまり侵入者は性癖ではなく、本棚の裏の扉を求めて次々と書架を陵辱していったわけである。丸。
「ほんならわざわざ隠してあるぐらいや。中にあるんは何なんやろなぁ」
まさか貸し出し禁止の貴重な本、なんてオチは待っていないだろう。
鉄の扉の厳重さからいって、中に封印されているのはそれなりの代物。
「ひょっとして武器庫かなにか? いやいや、タバコ屋という線も捨てきれんで」
小声で益体もない戯言を漏らしながら、ウルフウッドは装弾された銃を握る。
姿勢は低く、扉の陰に身を潜め、中の連中に見つからないように内側を覗き――期待がどっちも完璧に裏切られたことを知る。
(なんやプラントの工場みたいなもんやんけ。似ても焼いても食えるもんちゃうで)
落胆も露に額に手を当てるウルフウッドの気持ちも知らず、中にいる少年達はがやがやと嬉しげに手を叩きあっている。
というかなんやねんそのアットホームな感じは。ここが今、何をする場所でどんだけ人が死んでるのかわかってるっちゅーんか。
人死にがわんさか出て、それでも笑える心が残っとるなんてトンガリみたいな連中やんけ。
うわぁ、そう考えれば考えるほどに腹立ってきた。
殺したろかな。隙だらけやんか、あいつら。あの水色の髪の嬢ちゃんなんか、多分、自分が死んだかどうかわからないぐらいアッサリいけるで。
三人合わせてものの数秒――あかんて、だから声が四人分聞こえるねんて。
というかこの場においてもまだ四人目の声が聞こえて姿が見えないってどないなことやねん。
透明か。透明人間なんか。あかん、透明人間を倒すのはワイには無理や。
だって透明人間は血も透明やから死んだかどうかが確認できんもん。透明人間はごっついキツイわ〜。あ、でもアレやな。透明人間もずっと裸でおるんは寒くて無理やろうから、夜になって寒なってきたら服を置いといたらどうやろ。そんでもって透明人間がまんまと服に袖を通して、服だけが浮いてるのを確認すればばっちり殺せるやんけ。
あ、ダメや。透明人間が子どもやったら、ちょっと子供服は用意できへんからな。参った。これさえなけりゃ完璧な作戦やったのに。
ウルフウッドが脳内で対透明人間戦のシミュレーションを余念なく行っていた時だ。
室内で騒いでいた面々に、新たな変化の兆しが訪れたのは。
『――螺旋界認識転移システム起動、転移開始』
妙に無機質な声が聞こえたと思った瞬間、部屋の中から白光が溢れ出しウルフウッドの目を焼いた。
一瞬、視界が奪われる不徳に全身が臨戦態勢を取って身構えるが、攻撃はない。
何度かの瞬きで視界を取り戻したウルフウッドは、先ほどまで目の前にいたはずのガキ連中が見当たらないことに気づき、
「なんや最近のガキは逃げ足速いんやな。こんだけ速いけりゃ世界が狙えるで世界が。何の世界かは知らんけど」
呟きながら室内に入り込み、目新しいものはないかと物色する。
プラントよりさらに小難しそうな機械が群れているだけで収穫なし。
「螺旋界認識転移システム……やったか?」
先ほどのガキ共の交わしていた内容が正しければ、求めるもののある場所へ一瞬で飛ばしてくれる装置らしい。
それを利用してガキ共は会場の中をメルヘンヤッホーしているわけだ。あるいはウルフウッドに気づき、慌てて逃げ出したのかもしれない。
まあどちらにせよ何たる便利機能、完璧にゴチになります。
確か青髪の刺青青年がごちゃごちゃ押したのがこの赤いスイッチやったはず。
ほな、ポチッといきまーす。
「あー、そやな。とりあえずあれや、パニッシャーんとこに飛ばしてくれんかな」
『――螺旋力が確認できません』
いやそんな一見さんはお断りですーみたいな感じでこられても困る話やから。
なんや客を選ぶんかい。お客様は神様ですー言うやん、ちゃうんかい。
380
:
運命の選択肢
◆VR4DExX8uA
:2008/07/02(水) 16:31:42 ID:JJ2f7aVs0
――――ここに2人の知略に秀でた者がいる。
一方は 手段を選ばず自分だけ生き残る事を考えゲームに挑む者
一方は 他者と協力し全員で脱出する方法を考えゲームに挑む者
似て非違なる2人は今ここで衝突する。
清麿は考えていた目の前の男にどう対処するか。
選択肢は2つ。
A 縄を解き目の前の男と戦うかこの場から脱出する
B 目の前の男と交渉し協力を得る
(どうする…………どちらを選んでもリスクはついてくる)
Aを選び縄解きに成功した場合、さらに選択肢が分かれる。
戦う事を選べば清麿に分があるだろう、それくらいの修羅場を清麿はくぐり抜けて来ている。
だが相手にはあの目がある。いくら清麿の方が強いといえどかけられた瞬間に勝敗は決するだろう。
逃げる方を選ぶ場合はそれほど難しくはない。身体能力が上回ってる自分が逃げ切るだけならそう難しくはないだろう。
だがこれを選べばこの危険人物をこのまま放置する事になる。
(駄目だ…………リスクが大きすぎる)
清麿は逃走の選択肢を切り捨てる。
Bを選び交渉し目の前の男に協力を得られた場合、しばらくは安全になる。
しかしこの男を連れていき仲間にすれば他の仲間に危険が及ぶ可能性も高くなる。
これは下手をすると逃走より危険を伴う。
自分の安全の為に仲間を危険な目にあわせる?
――――――――――――――――否だ
(そうだな…………選択肢なんて最初から1つだった…………)
そう決意した瞬間だった。民家のすぐ近くで轟音が響く。
「なんだ!今の音は!」
足が止まる、ルルーシュがほんの少しだけ視線を逸らす。
この隙を使い清麿は縄をギリギリまで解いた、だが飛び掛らなかった。
いや飛び掛れなかった清麿自身もさきほどの音のせいで警戒せざるをえない状況になってしまっからだ。
(さっきのでかい音はなんだ!早く状況を確認したいところだが…………だが今はこちらを片付ける)
視線を戻しルルーシュは再び歩き出す。さきほどの音の確認よりも先にこちらを優先すべきと判断したからだ。
清麿は身構える。ルルーシュが音の確認に行く事を願っていたのだがどうやらこちらを先に片付けるつもりらしい。
清麿は突然口を開いた。少しでも隙を作るために、できるとは思わないがやらないよりはマシだ。
「おい……ルルーシュとか言ったな俺をどうするつもりだ……」
またもや足を止めルルーシュの口が斜めに薄笑いを作る。
「貴様の頭ならそれくらい分かっているはずだろう?」
清麿は心の中でああと心の中で呟く。
「悪いが無駄な話をしてる暇はないんでな、さっさと済ませてもらう」
再びルルーシュは足を進める、清麿が覚悟を決め飛びかかろうとしたその時だった。
清麿は気づかなかったルルーシュのギアスを警戒しすぎるあまりに。
ルルーシュは見ていなかった清麿にギアスをかけようとしている自分の背後を。
「雑種共が何をこそこそとやっている」
381
:
運命の選択肢
◆VR4DExX8uA
:2008/07/02(水) 16:32:35 ID:JJ2f7aVs0
―――少し時は遡る
空を1人の男が飛んでいる。
いや落ちているという表現の方が正しいであろう。
落ちている主の名は英雄王ギルガメッシュ。
禁止エリアから脱出するためにエアを使ったはいいものの、ギルガメッシュ自身どこに向かっているかは定かではなかった。
しかし、そんな空の旅も終わりを告げようとしていた。ギルガメッシュは地面を視認し着地の姿勢を取る。
地面が迫ってくる。
――――――15メートル
――――――10メートル
――――――5メートル
…………4
…………3
…………2
…………1
…………0
ギルガメッシュは地面に着地した。いや衝突という方が近いかもしれない。
その落下の衝撃により辺りに轟音を撒き散らしていた。
「…………ふむ」
ギルガメッシュは辺りを見回す。状況判断が最優先だと考えたからだ。
空から見た時点でここが山なのは把握している。
飛んだ距離から考えて先程の禁止エリアから2つ3つ離れた場所であろうか。
山を降りてあの黒い球体を調べるのが妥当か。
そう考え動き出そうと立ち上がる。だがそこでギルガメッシュの視点は一点の民家に注目する。
「雑種が潜んでいるようだな…………」
少し思考した後すぐに歩き出す。
どのような輩が潜んでいようと己が道を阻む者などいないという絶対の自信を秘めて。
ルルーシュは清麿を手駒にしてすぐにでも行動するつもりだった。
清麿はルルーシュの隙を狙い戦うつもりだった。
だがしかし事態は思わぬ乱入者によって一転する。
ルルーシュは振り向いた、自分の背後に一体誰がいるのか確認するために。
振り向いた先にいる人物は一言でいえば異様だった、服装もたしかに異様ではあった。だが異様だと思ったのはそんな事ではない。
どのようにしてそう思ったかはルルーシュ本人も定かではない。だが本能が告げている"こいつ"は危険だと。
そう感じている視線のその先に英雄王ギルガメッシュが立っていた。
「なんだ、貴様は!」
少し大きな声でルルーシュが叫ぶ。この状況での乱入者など想定すらしてなかったからだ。
この男の出方によってこの後の行動は大きく違ってくる。
「口を慎めよ雑種、我は英雄王なるぞ」
その一言を聴いただけでルルーシュは理解してしまった。
こいつがどんな奴かは詳しくは知らない、殺し合いに乗っているのかも分からない。
だが1つだけ理解した事がある、こいつは同じだあの男と俺の母を殺したあの男と同じ人種。
自分とは絶対に相容れない存在。
人を見下す事しか知らず、他者の事など考えもしない自分勝手な生き物だと。
ならばどうする?決まっているこのような奴を放置などしない、するつもりもない。
ならばやる事はもう決まっている。
「そうか…………もういい黙れ」
英雄王を睨みつけ片目の赤い鳥が羽ばたく――。 そしてルルーシュは告げる。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる!俺に従え!」
ルルーシュは冷静だった、このような輩をルルーシュは一秒たりとも生かしておく気はなかった。
本来ならば死ぬように命じる、だが今この状況でそれは最悪の一手に繋がる事を理解していた。
目の前の男は命じれば死ぬだろう、いつもなら男が死んだ後に行動すればいい。
だがこの世界でギアスには制限がかかっている。
下手をすれば自分は倒れこの場で身動きがとれなくなり、清麿も逃がしてしまうだろう。
それは余りにも危険すぎる、ゆえに目の前の男を支配し自分を護衛させ清麿を見張らせる。
今はこれが最善の一手、目の前の男は用がすめば死ぬように命じればいい。
頭痛が襲ってきた、清麿の方にふらつきながら向き直る。
(今は………………これが最善だ!)
382
:
運命の選択肢
◆VR4DExX8uA
:2008/07/02(水) 16:33:30 ID:JJ2f7aVs0
そんな時だった
――――生き延びた者達よ、聞くといい。
「放送……もうそんな時間かよし貴様メモを………………は?」
それはルルーシュの胸にあった、だがルルーシュはそれがなにか理解できなかった。
当然である、それは一瞬の間に自分の胸に出現した。
いや出現したという表現は正しくはない正しくは一瞬にして貫いた。
それは…………尖った木材、崩れた民家の物だ。
「ばか…………な…………な……………………に………が」
ルルーシュは考える間もなく絶命した、それを冷たい眼で見下ろす男が1人。
英雄王ギルガメッシュである。ルルーシュの胸を貫いた張本人。
ギアスによって支配されたはずの男がなぜ?
「この俺に従えだと?この英雄王に?その程度の魔眼で?」
その答えは単純明解だった、神秘はより強い神秘によって無効化される。
ギアスという神秘が英雄王という神秘に届かなかったそれだけの事である。
ギルガメッシュは殺し合いに乗るつもりはない。
だが、自分に暴言を吐きあまつさえ操ろうとするような輩を生かしておくほど彼は甘くはない。
このような輩にエアを使用する気はさらさらなかった。
だからその辺に落ちていた木材で突き刺した、本来ならば木材など武器にすらならないだろう。
だが使い手はギルガメッシュ、受けた相手はルルーシュである。2人の強さの間は存在する次元が違うほど開いている。
ゆえにそれだけで十分だった。
「俺を従える?俺を染めたければその3倍………………いや、我を従える者などこの世にありはしない。
我は唯一無二の王だからな」
もはや聞こえない肉の塊に語る。
ギルガメッシュにおいて雑種だった"者"は最早まったく興味の無い"物"になっていた。
「なあ………あんた」
視線を向ける、黄金の王はその存在自体を声をかけられるまで忘れていた。
この状況において清麿が選んだ選択肢は静観だった。
――――――――――2人には選択肢があった。数限りなくあった選択肢の中から1つを選びお互いこれまで行動し生き延びてきた。この状況でもそれは変わらなかった。
ルルーシュの間違った選択肢はただ1つ音を確認しに行かなかった事。
清麿の正しかった選択肢はただ1つ静観し状況判断を優先した事。
ルルーシュが清麿を後回しにしてギルガメッシュの存在を確認していればこんな事にはならなかっただろう。
清麿が静観せずギルガメッシュが入って来た時になんらかのアクションを起こせば清麿はどうなっていたか分からない。
もしそうなっていたら、そこに転がっているのは逆だったかもしれない。
――――ここに2人の知略に秀でた者がいた。
一方は ここにて幕を閉じる
一方は 演劇を演じ続ける
似て非違なる2人の対決はこれにて終わる。選択肢という運命の名の下に。
383
:
運命の選択肢
◆VR4DExX8uA
:2008/07/02(水) 16:34:58 ID:JJ2f7aVs0
既に放送も終わっている。
「そういえばもう1匹雑種がいたのであったな」
ギルガメッシュが清麿を睨み付け、問う。
「貴様は………」
「おヌシなにをしておるのだ」
ギルガメッシュが言葉を言い終わる前に更なる乱入者が現れた。
―――また少し時は遡る
「ウヌなんなのだ……この穴は……」
黒い球体を目指して走るつもりだったガッシュは少し走った所で足を止めた。
そこに不自然な穴が空いていた。周りが崩壊してるのは分かる、だがこの穴は不自然だった。
「誰かの匂いが残っておる……………………あの家に続いているのだ」
ガッシュは考える、そして走り出す。
一人ぼっちになってしまったガッシュは一緒に行動できる仲間が欲しかったからだ。
そこに待っているのは再会、そして新しい出会い
【C-6/民家/二日目/朝】
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(中)、精神疲労(小)、頭にタンコブ、強い決意 深い後悔、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!! キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[持ち物]:支給品一式×9
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒) 、ランダム不明支給品x1(ガッシュ確認済み)
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:目の前の男に着いて来てもらうように頼む
1:黒い太陽を目指し、目立ちたがりのカミナ達と合流する。
2:清麿の臭いがしような気がするけど、見つからない。
3:ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
4:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
5:ジンとドモンを捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
6:東方不敗を警戒。
384
:
運命の選択肢
◆VR4DExX8uA
:2008/07/02(水) 16:36:32 ID:JJ2f7aVs0
【高嶺清麿@金色のガッシュベル!!】
[状態]:右耳欠損(ガーゼで処置済)、強い決意
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本-1:ゆたかを救い、螺旋王を打倒してゲームから脱出する
基本-2:戦術交渉部隊の新リーダーとして、あらゆる視野から問題の解決に当たる。
0:まさか……………この声は……………
1:連れ去られたねねね、スカーとの合流。
2:大怪球及び、シズマシステムに関する調査、考察。
3:脱出方法の研究をする。(螺旋力、首輪、螺旋王、空間そのものについてなど包括的に)
4:周辺で起こっている殺し合いには、極力、関わらない。(有用な情報が得られそうな場合は例外)
5:研究に必要な情報収集。とくに螺旋力について知りたい。
6:螺旋王に挑むための仲間(ガッシュ等)を集める。その過程で出る犠牲者は極力減らしたい。
[備考]
※首輪のネジを隠していたネームシールが剥がされ、またほんの少しだけネジが回っています。
※ラッドの言った『人間』というキーワードに何か引っかかるものがあるようです。
※明智の死体、及び荷物は刑務所の瓦礫の下。
※携帯電話のテキストメモ内に、二日目・黎明時点で明智が行った全考察がメモされています。
※縄は解けています。
[清麿の考察]
※監視について
監視されていることは確実。方法は監視カメラのような原始的なものではなく、螺旋王の能力かオーバーテクノロジーによるもの。
参加者が監視に気づくかどうかは螺旋王にとって大事ではない。むしろそれを含め試されている可能性アリ。
※螺旋王の真の目的について
螺旋王の目的は、道楽ではない。趣旨は殺し合いではなく実験、もしくは別のなにか(各種仮説を参考)。
ゆえに、参加者の無為な死を望みはしない。首輪による爆破や、反抗分子への粛清も、よほどのことがない限りありえない。
【仮説①】【仮説②】【仮説③】をメモにまとめています。
※首輪について
螺旋状に編まれたケーブルは導火線。三つの謎の黒球は、どれか一つが爆弾。
また、清麿の理解が追いつく機械ではなくオーバーテクノロジーによるもの。
ネジを回すと、螺旋王のメッセージ付きで電流が流れる。しかし、死に至るレベルではない。
上記のことから、螺旋王にとって首輪は単なる拘束器具ではなく、参加者を試す道具の一つであると推測。
螺旋王からの遠隔爆破の危険性は(たとえこちらが大々的に反逆を企てたとしても)限りなく低い。
※螺旋力について
………………………アルェー?
385
:
運命の選択肢
◆VR4DExX8uA
:2008/07/02(水) 16:37:09 ID:JJ2f7aVs0
[清麿の考察]
※監視について
監視されていることは確実。方法は監視カメラのような原始的なものではなく、螺旋王の能力かオーバーテクノロジーによるもの。
参加者が監視に気づくかどうかは螺旋王にとって大事ではない。むしろそれを含め試されている可能性アリ。
※螺旋王の真の目的について
螺旋王の目的は、道楽ではない。趣旨は殺し合いではなく実験、もしくは別のなにか(各種仮説を参考)。
ゆえに、参加者の無為な死を望みはしない。首輪による爆破や、反抗分子への粛清も、よほどのことがない限りありえない。
【仮説①】【仮説②】【仮説③】をメモにまとめています。
※首輪について
螺旋状に編まれたケーブルは導火線。三つの謎の黒球は、どれか一つが爆弾。
また、清麿の理解が追いつく機械ではなくオーバーテクノロジーによるもの。
ネジを回すと、螺旋王のメッセージ付きで電流が流れる。しかし、死に至るレベルではない。
上記のことから、螺旋王にとって首輪は単なる拘束器具ではなく、参加者を試す道具の一つであると推測。
螺旋王からの遠隔爆破の危険性は(たとえこちらが大々的に反逆を企てたとしても)限りなく低い。
※螺旋力について
………………………アルェー?
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(中)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、 慢心、ただし油断はない
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒猫型バリアジャケット
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。月を目指す。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
0:なんだ…………この雑種は
1:菫川ねねねを捜索、『王の物語』を綴らせる。
2:デパートでジンと待ち合わせる。
3:“螺旋王へ至る道”を模索。最終的にはアルベルトに逆襲を果たす。
4:頭脳派の生存者を配下に加える。
5:異世界の情報、宝具、またはそれに順ずる道具を集める(エレメントに興味)。
6:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
7:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
8:全ての財を手に入れた後、会場をエアの接触射撃で破壊する。
9:次に月が昇った時、そこに辿り着くべく動く。
【備考】
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですが、エアを手に入れたのでもう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留の所有品について把握しています。それらから何かのアイデアを思いつく可能性があります。
※ヴァッシュたちと情報交換しました。
※ジンたちと情報交換しました。会場のループについて認識済み。
※ギルガメッシュのバリアジャケットは、1stがネイキッドギル状態、2ndがクロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃんです。強敵に会った時にのみネイキッドのバリアジャケットを展開しようと考えています。
※会場は『世界の殻』『防護結界』『転移結界』の三層構造になっていると推測しました。
※『転移結界』の正体は確率変動を発生させる結界であると推測しました。
※会場の形状は天の方向に伸びるドリル状であり、ドーム状の防護結界がその内部を覆っていると推測しました。
※月に何かがあると推測しました。
※会場端のワープは、人間以外にも大出力攻撃を転移させる模様です。
※ギルガメッシュの落下音は周囲200メートルほどまで響きました。
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】
386
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/03(木) 20:40:27 ID:xpZyDCvE0
2ch規制されましたのでこちらに投下させていただきます。
空を1人の男が飛んでいる。
いや落ちているという表現の方が正しいであろう。
落ちている主の名は英雄王ギルガメッシュ。
禁止エリアから脱出するためにエアを使ったはいいものの、ギルガメッシュ自身どこに向かっているかは定かではなかった。
現在は速度も落ち、ほぼ垂直落下に近くなってきている。
「ふむ、そろそろか」
ギルガメッシュが着地の目測を立てる。だが、ここでギルガメッシュは予想外の声を聞く。
―――――この界隈は現在、進入禁止エリアと定められている。速やかに移動を開始し…………。
「なんだと!」
またも告げられる警告及び撤去命令。
脱出にエアまでも使用した状況で再度の自分に対する命令、ギルガメッシュは憤慨する。
だがこの怒りをぶつける事もできない、さらに事態はまた一刻を争う。
「おのれ!我に二度もこのような事でエアを使わせるとは螺旋王この屈辱忘れはせんぞ!」
その怒りをここにいない相手にぶつける。完璧な八つ当たりではあるのだが。
素早い動作で再び乖離剣に赤い魔力を込める。さきほどよりも強く怒りの分も込めて全力で突き出す。
そして巻き起こる暴風は再び爆発的な推進力を生み出した。
その推進力で英雄王は再び空を飛ぶ、その勢いはさきほどよりも強く速い。
だが、それは単純な怒りからではない、ギルガメッシュは理解している。
もうエアは撃てない、もはや魔力が足りない。
ここで中途半端なエアを撃てば飛ぶ方向によっては海に落ちる可能性がある。
さらに例え加減して撃ったとしても三発目を撃つほどの魔力は残らない。
中途半端な魔力を残して海に落ちるより、マシだと考えたからだ。
当然だがバリアジャケットと行動の為の最低限の魔力は残している。
だがもし――――――またもや禁止エリアに落ちたら?
「ふん、考えるまでもない。我は英雄王、そのような天命ありはしない。」
根拠もなく自信だけで確信する慢心王であった。
387
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/03(木) 20:40:45 ID:xpZyDCvE0
――――ここに2人の知略に秀でた者がいる。
一方は 手段を選ばず自分だけ生き残る事を考えゲームに挑む者
一方は 他者と協力し全員で脱出する方法を考えゲームに挑む者
似て非違なる2人は今ここで衝突する。
清麿は自分の頭脳をフルに回転させ思考する。着々と迫る足音。
焦りそんな感情が清麿の顔に冷たい汗を流す。
選択肢は2つ。
・縄を解き、目の前の男と戦うもしくは場から脱出する
・目の前の男と交渉し協力を得る
(どうする…………どちらを選んでもリスクはついてくる)
前者を選んだ場合、さらに選択肢が分かれる。
戦う事を選べば清麿に分があるだろう。それくらいの修羅場を清麿はくぐり抜けて来ている。
だが相手にはあの目がある。いくら清麿の方が強いといえどかけられた瞬間に勝敗は決する。
逃げる方を選ぶ場合はそれほど難しくはない。身体能力が上回っている自分が逃げ切るだけならそう難しくはないだろう。
だがこれを選べばこの危険人物をこのまま放置する事になる。
(駄目だ…………リスクが大きすぎる)
清麿は逃走の選択肢を切り捨てる。
後者を選び交渉し目の前の男に協力を得られた場合、しばらくは安全になる。
しかしこの男を連れていき仲間にすれば他の仲間に危険が及ぶ可能性も高くなる。
これは下手をすると逃走より危険を伴う。
自分の安全の為に仲間を危険な目にあわせる?
――――――――――――――――否だ
388
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/03(木) 20:41:06 ID:xpZyDCvE0
(そうだな…………選択肢なんて最初から1つだった…………)
もはや迷わないそう決意した瞬間だった。民家のすぐ近くで轟音が響く。
「なんだ!今の音は!」
足が止まる、ルルーシュがほんの少しだけ視線を逸らす。
この隙を衝き清麿は縄をギリギリまで解いた。
飛び掛らなかった、いや飛び掛れなかった清麿自身もさきほどの音のせいで警戒せざるをえない状況になってしまっからだ。
(さっきの音はなんだ!早く状況を確認したいところだが…………だが今はこちらを片付ける)
視線を戻しルルーシュは再び歩き出す。さきほどの音の確認よりも先にこちらを優先すべきと判断したからだ。
清麿は身構える。ルルーシュが音の確認に行く事を願っていたのだがどうやらこちらを先に片付けるつもりらしい。
清麿は突然口を開いた。少しでも隙を作るために、できるとは思わないがやらないよりはマシだ。
「おい……ルルーシュとか言ったな俺をどうするつもりだ……」
またもや足を止めルルーシュの口が斜めに薄笑いを作る。
それは悪魔にも似た笑み。
「貴様の頭ならそれくらい分かっているはずだろう?」
清麿は心の中でああと心の中で呟く。
「悪いが無駄な話をしてる暇はないんでな、さっさと済ませてもらう」
再びルルーシュは足を進める。それは清麿にとってのカウントダウン。
もう考える時間も余裕もないだろう。覚悟を決め飛びかかろうとしたその時だった。
清麿は気づかなかった、ルルーシュのギアスを警戒しすぎるあまりに。
ルルーシュは見ていなかった、清麿にギアスをかけようとしている自分の背後を。
389
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/03(木) 20:41:23 ID:xpZyDCvE0
「雑種共が何をこそこそとやっている」
―――少し時は遡る
空を飛び続けてきた英雄王。
しかし、そんな空の旅も終わりを告げようとしていた。ギルガメッシュは地面を視認し着地の姿勢を取る。
地面が迫ってくる。
――――――15メートル
――――――10メートル
――――――5メートル
…………4
…………3
…………2
…………1
…………0
ギルガメッシュは地面に着地した。いや衝突という方が近いかもしれない。
その落下の衝撃により辺りに轟音を撒き散らしていた。
「…………ふむ」
390
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/03(木) 20:41:35 ID:xpZyDCvE0
ギルガメッシュは辺りを見回す。状況判断が最優先だと考えたからだ。
空から見た時点でここが山なのは把握している。
飛んだ距離から考えて先程の禁止エリアから2つ3つ離れた場所であろうか。
山を降りてあの黒い球体を調べるのが妥当か。
そう考え動き出そうと立ち上がる。だがそこでギルガメッシュの視点は一点の民家に注目する。
「雑種が潜んでいるようだな…………」
少し思考した後、すぐに歩き出す。黒い球体に向かう前に情報収集と雑種の値踏みも悪くはないだろう。
どのような輩が潜んでいようと、己が道を阻む者などいないという絶対の自信を秘めて。
ルルーシュは手駒を作りすぐにでも行動するつもりだった。
清麿は隙を狙い戦うつもりだった。
しかし事態は思わぬ乱入者によって一転する。
ルルーシュは振り向いた。自分の背後に一体誰がいるのか確認するために。
振り向いた先にいる人物は一言でいえば異様だった。
どのようにしてそう思ったかはルルーシュ本人も定かではない。だが本能が告げている"こいつ"は危険だと。
そう感じている視線の先に英雄王ギルガメッシュが立っていた。
「なんだ、貴様は!」
焦りから少し大きな声でルルーシュが問う。この状況での乱入者など想定していない。
この男の出方によってこの後の行動は大きく違ってくる。
「口を慎めよ雑種、我は英雄王なるぞ」
391
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/03(木) 20:41:50 ID:xpZyDCvE0
その一言を聴いただけでルルーシュは理解してしまった。
こいつがどんな奴かは詳しくは知らない。殺し合いに乗っているのかも分からない。
しかし1つだけ理解した事がある、こいつは同じだあの男と俺の母を殺したあの男と同じ人種。
自分とは絶対に相容れない存在。
人を見下す事しか知らず、他者の事など考えもしない自分勝手な生き物だと。
ならばどうする?決まっているこのような奴を放置などしない、するつもりもない。
ならばやる事はもう決まっている。
「そうか…………もういい黙れ」
英雄王を睨みつけ片目の赤い鳥が羽ばたく――。 そしてルルーシュは告げる。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる!俺に従え!」
ルルーシュは冷静だった、このような輩をルルーシュは一秒たりとも生かしておく気はなかった。
本来ならば死ぬように命じる。だが今この状況で、それは最悪の一手に繋がる事を理解していた。
目の前の男は命じれば死ぬだろう、いつもなら男が死んだ後に行動すればいい。
だがこの世界ではギアスに制限がかかっている。
下手をすれば自分はこの場で倒れ身動きがとれなくなり、清麿も逃がしてしまうだろう。
それは余りにも危険すぎる、ゆえに目の前の男を支配し自分を護衛させ清麿を見張らせる。
この行動はルルーシュらしくないだろう。感情に任せた行動など愚か者がする事だ。
だが目の前の男だけは放ってはおけない。それは賢いとか愚かなどという問題ではない。
ルルーシュの生き方としての問題だった。
頭痛が襲ってきた、清麿の方にふらつきながら向き直る。
(今は………………これが最善だ!)
そんな時だった
――――生き延びた者達よ、聞くといい。
「放送……もうそんな時間かよし貴様メモを………………は?」
392
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/03(木) 20:42:09 ID:xpZyDCvE0
それはルルーシュの胸にあった。だがルルーシュはそれがなにか理解できなかった。
当然である、それは一瞬の間に自分の胸に出現した。
いや出現したという表現は正しくはない、正しくは一瞬にして貫いた。
それは…………尖った木材、崩れた民家の物だ。
「ばか…………な…………な……………………に………が」
ルルーシュは考える間もなく絶命した、それを冷たい眼で見下ろす男が1人。
英雄王ギルガメッシュである。ルルーシュの胸を貫いた張本人。
ギアスによって支配されたはずの男がなぜ?
「この俺に従えだと?この英雄王に?その程度の魔眼で?」
強固な意思それはギアスに抗う力となる。ギアスに抗い続けたユーフェミアのように。
だが意思だけでギアスを完全に無効にできる?
―――否だ
ではなぜ?答えはギルガメッシュだけが知っていた、神秘はより強い神秘によって無効化される。
それはギアスという能力においても例外ではない。
さらにもう1つ、このゲームにおけるギアスには制限がかかっている。
英雄王の強固な意志 神秘による無効化 ギアスの制限
この3つの条件下において、ギルガメッシュはギアスを無効化する事ができたのである。
393
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/03(木) 20:42:35 ID:xpZyDCvE0
ギルガメッシュは殺し合いに乗るつもりはない。
だが、自分に暴言を吐きあまつさえ操ろうとするような輩を生かしておくほど彼は甘くはない。
本来ならばこの状況でこれは悪手であろう。ゲームを壊すのであればこの男をここで殺すのはありえない。
だがゲームを壊すために王を侮辱した輩を放置する?答えは天秤に賭けるまでもない。
そう決めた王の判断は一瞬、このような輩にエアを使用する気はない。
ゆえに落ちていた木材を拾い突き刺した。本来ならば木材など武器にすらならないだろう。
だが使い手はギルガメッシュ、受けた相手はルルーシュである。2人の強さの間は存在する次元が違うほど開いている。
それだけで十分だった。
「俺を従える?俺を染めたければその3倍………………いや、我を従える者などこの世にありはしない。
我は唯一無二の王だからな」
もはや聞こえない肉の塊に語る。
ギルガメッシュにおいて雑種だった"者"は最早まったく興味の無い"物"になっていた。
「なあ………あんた」
視線を向ける、黄金の王はその存在自体を声をかけられるまで忘れていた。
この状況において清麿が選んだ選択肢は静観だった。
状況を判断し何かあればすぐにでも行動できるように。
だが何もできなかった。
ルルーシュの行動、ギルガメッシュの行動、お互い一瞬と言っていいほどの行動そして結果。
後悔もある。だが後悔は後でもできる。だから今自分にできる事をやるだけだ。
394
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/03(木) 20:42:51 ID:xpZyDCvE0
――――――――――2人には選択肢があった。数限りなくあった選択肢の中から1つを選びお互いこれまで行動し生き延びてきた。この状況でもそれは変わらなかった。
ルルーシュの間違った選択肢はただ1つ、音を確認しに行かなかった事。
清麿の正しかった選択肢はただ1つ、静観し状況判断を優先した事。
ルルーシュが清麿を後回しにして、ギルガメッシュの存在を確認していればこんな事にはならなかっただろう。
清麿が静観せず、ギルガメッシュが入って来た時になんらかのアクションを起こせば清麿はどうなっていたか分からない。
もしそうなっていたら、そこに転がっているのは逆だったかもしれない。
――――ここに2人の知略に秀でた者がいた。
一方は ここにて幕を閉じる
一方は 演劇を演じ続ける
似て非違なる2人の対決はこれにて終わる。選択肢という運命の名の下に。
既に放送も終わっている。
「そういえばもう1匹雑種がいたのであったな」
ギルガメッシュが睨み付け、問う。その眼は殺気に満ちていった。
「貴様は………」
「おヌシなにをしておるのだ」
ギルガメッシュが言葉を言い終わる前に更なる乱入者が現れた。
―――また少し時は遡る
「ウヌなんなのだ……この穴は……」
黒い球体を目指して走るつもりだったガッシュは少し走った所で足を止めた。
そこに不自然な穴が空いていた。周りが崩壊してるのは分かる、だがこの穴は不自然だった。
「誰かの匂いが残っておる……………………あの家に続いているのだ」
ガッシュは考える、そして走り出す。
一人ぼっちになってしまったガッシュは一緒に行動できる仲間が欲しかったからだ。
そこに待っているのは再会、そして新しい出会い
395
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/03(木) 20:43:16 ID:xpZyDCvE0
【C-6/民家/二日目/朝】
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(中)、精神疲労(小)、頭にタンコブ、強い決意 深い後悔、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!! キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[持ち物]:支給品一式×9
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒) 、ランダム不明支給品x1(ガッシュ確認済み)
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:目の前の男に着いて来てもらうように頼む
1:黒い太陽を目指し、目立ちたがりのカミナ達と合流する。
2:清麿の臭いがしような気がするけど、見つからない。
3:ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
4:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
5:ジンとドモンを捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
6:東方不敗を警戒。
396
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/03(木) 20:43:47 ID:xpZyDCvE0
【高嶺清麿@金色のガッシュベル!!】
[状態]:右耳欠損(ガーゼで処置済)、強い決意
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本-1:ゆたかを救い、螺旋王を打倒してゲームから脱出する
基本-2:戦術交渉部隊の新リーダーとして、あらゆる視野から問題の解決に当たる。
0:まさか……………この声は……………
1:連れ去られたねねね、スカーとの合流。
2:大怪球及び、シズマシステムに関する調査、考察。
3:脱出方法の研究をする。(螺旋力、首輪、螺旋王、空間そのものについてなど包括的に)
4:周辺で起こっている殺し合いには、極力、関わらない。(有用な情報が得られそうな場合は例外)
5:研究に必要な情報収集。とくに螺旋力について知りたい。
6:螺旋王に挑むための仲間(ガッシュ等)を集める。その過程で出る犠牲者は極力減らしたい。
[備考]
※首輪のネジを隠していたネームシールが剥がされ、またほんの少しだけネジが回っています。
※ラッドの言った『人間』というキーワードに何か引っかかるものがあるようです。
※明智の死体、及び荷物は刑務所の瓦礫の下。
※携帯電話のテキストメモ内に、二日目・黎明時点で明智が行った全考察がメモされています。
※縄は解けています。
[清麿の考察]
※監視について
監視されていることは確実。方法は監視カメラのような原始的なものではなく、螺旋王の能力かオーバーテクノロジーによるもの。
参加者が監視に気づくかどうかは螺旋王にとって大事ではない。むしろそれを含め試されている可能性アリ。
※螺旋王の真の目的について
螺旋王の目的は、道楽ではない。趣旨は殺し合いではなく実験、もしくは別のなにか(各種仮説を参考)。
ゆえに、参加者の無為な死を望みはしない。首輪による爆破や、反抗分子への粛清も、よほどのことがない限りありえない。
【仮説①】【仮説②】【仮説③】をメモにまとめています。
※首輪について
螺旋状に編まれたケーブルは導火線。三つの謎の黒球は、どれか一つが爆弾。
また、清麿の理解が追いつく機械ではなくオーバーテクノロジーによるもの。
ネジを回すと、螺旋王のメッセージ付きで電流が流れる。しかし、死に至るレベルではない。
上記のことから、螺旋王にとって首輪は単なる拘束器具ではなく、参加者を試す道具の一つであると推測。
螺旋王からの遠隔爆破の危険性は(たとえこちらが大々的に反逆を企てたとしても)限りなく低い。
※螺旋力について
………………………アルェー?
397
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/03(木) 20:44:00 ID:xpZyDCvE0
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(中)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、 慢心、ただし油断はない
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒猫型バリアジャケット
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。月を目指す。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
0:なんだ…………この雑種は
1:菫川ねねねを捜索、『王の物語』を綴らせる。
2:デパートでジンと待ち合わせる。
3:“螺旋王へ至る道”を模索。最終的にはアルベルトに逆襲を果たす。
4:頭脳派の生存者を配下に加える。
5:異世界の情報、宝具、またはそれに順ずる道具を集める(エレメントに興味)。
6:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
7:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
8:全ての財を手に入れた後、会場をエアの接触射撃で破壊する。
9:次に月が昇った時、そこに辿り着くべく動く。
【備考】
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですが、エアを手に入れたのでもう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留の所有品について把握しています。それらから何かのアイデアを思いつく可能性があります。
※ヴァッシュたちと情報交換しました。
※ジンたちと情報交換しました。会場のループについて認識済み。
※ギルガメッシュのバリアジャケットは、1stがネイキッドギル状態、2ndがクロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃんです。強敵に会った時にのみネイキッドのバリアジャケットを展開しようと考えています。
※会場は『世界の殻』『防護結界』『転移結界』の三層構造になっていると推測しました。
※『転移結界』の正体は確率変動を発生させる結界であると推測しました。
※会場の形状は天の方向に伸びるドリル状であり、ドーム状の防護結界がその内部を覆っていると推測しました。
※月に何かがあると推測しました。
※会場端のワープは、人間以外にも大出力攻撃を転移させる模様です。
※ギルガメッシュの落下音は周囲200メートルほどまで響きました。
※現在エアは撃てません。撃つには休憩をとる必要があります。
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】
398
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/04(金) 20:44:11 ID:ajnZWwus0
空を1人の男が飛んでいる。
いや、落ちているという表現の方が正しいであろう。
落ちている主の名は、英雄王ギルガメッシュ。
禁止エリアから脱出するためにエアを使ったはいいものの、ギルガメッシュ自身、どこに向かっているかは定かではなかった。
現在は速度も落ち、ほぼ垂直落下に近くなってきている。
「ふむ、そろそろか」
ギルガメッシュが着地の目測を立てる。だが、ギルガメッシュは予想外の声を聞く。
―――――この界隈は現在、進入禁止エリアと定められている。速やかに移動を開始し…………。
「なんだと!」
またも告げられる、警告及び撤退命令。
脱出にエアまでも使用した状況で再度の自分に対する命令、ギルガメッシュは憤慨する。
だが、この怒りをぶつける事もできない。事態はまた一刻を争う。
「おのれ!我に二度もこのような侮辱!螺旋王この屈辱忘れはせんぞ!」
その怒りをここにいない相手にぶつける。完璧な八つ当たりではあるのだが。
素早い動作で再び乖離剣に赤い魔力を込める。魔力を込めながらも、ギルガメッシュは思考を止めない。
さきほどの禁止エリアの位置、飛んだ距離を考えてもここはD−2。
もう一度エアを放つなら、ある程度の目標は定めておくべきだろう。
「ふむ………書物もよいが、王が約束を履き違える分けにもいくまい。」
それはジンとの約束
デパートを目標と決めれば、あとは方向のみ。
出力を抑えたエアで、禁止エリアを抜けるだけでもよいが、移動距離から考えてそれでは恐らく間に合うまい。
ならば、会場のループを利用してやれば移動は早く済むだろう。
空中で方向転換はできない、大雑把ではあるが飛んできた方向にもう一度放つ。多少の誤差は仕方あるまい。
「許せエア、よもや二度もこのような手間をかけさせるとは。」
乖離剣の魔力は、すでに暴風に近いほどの軋みをあげている。
全力ではなくとも、ここからデパートまでの距離を考え魔力を込め、それを突き出した。
その光は空を赤で染める。
巻き起こる暴風は、再び爆発的な推進力を生み出した。
その推進力で、英雄王は再び空を飛ぶ、その勢いはさきほどよりも強く速い。
だが本来、エアは飛ぶための宝具ではない。距離は稼げても正確な方向までは定める事はできない。
ギルガメッシュの空の旅は続く
399
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/04(金) 20:44:34 ID:ajnZWwus0
――――ここに2人の知略に秀でた者がいる。
一方は 手段を選ばず自分だけ生き残る事を考えゲームに挑む者
一方は 他者と協力し全員で脱出する方法を考えゲームに挑む者
似て非違なる2人は今ここで衝突する。
清麿は、自分の頭脳をフルに回転させ思考する。着々と迫る足音。
焦り、そんな感情が清麿の顔に冷たい汗を流す。
選択肢は2つ。
・縄を解き、目の前の男と戦うもしくは場から脱出する
・目の前の男と交渉し協力を得る
(どうする…………どちらを選んでもリスクはついてくる)
前者を選んだ場合、さらに選択肢が分かれる。
戦う事を選べば清麿に分があるだろう。それくらいの修羅場を、清麿はくぐり抜けて来ている。
だが、相手にはあの目がある。いくら清麿の方が強いといえど、かけられた瞬間に勝敗は決する。
逃げる方を選ぶ場合はそれほど難しくはない。身体能力が上回っている自分が、逃げ切るだけならそう難しくはないだろう。
だが、これを選べばこの危険人物をこのまま放置する事になる。
(駄目だ…………リスクが大きすぎる)
清麿は、逃走の選択肢を切り捨てる。
後者を選び、交渉し、目の前の男に協力を得られた場合、しばらくは安全になる。
しかし、この男を連れていき仲間にすれば、他の仲間に危険が及ぶ可能性も高くなる。
これは下手をすると逃走より危険を伴う。
自分の安全の為に仲間を危険な目にあわせる?
――――――――――――――――否だ
400
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/04(金) 20:44:53 ID:ajnZWwus0
(そうだな…………選択肢なんて最初から1つだった…………)
もはや迷わない、そう決意した瞬間だった。民家のすぐ近くで轟音が響く。
「なんだ!今の音は!」
足が止まる、ルルーシュがほんの少しだけ視線を逸らす。
この隙を衝き、清麿は縄をギリギリまで解いた。
飛び掛らなかった、いや飛び掛れなかった。
清麿自身もさきほどの音のせいで、警戒せざるをえない状況になってしまっからだ。
(さっきの音はなんだ!状況を確認したいところだが…………今はこちらを片付ける)
視線を戻し、ルルーシュは再び歩き出す。さきほどの音の確認よりも、先にこちらを優先すべきと判断したからだ。
清麿は身構える。ルルーシュが音の確認に行く事を願っていたのだが、こちらを先に片付けるつもりらしい。
清麿は突然口を開いた。少しでも隙を作るために、できるとは思わないがやらないよりはマシだ。
「おい……ルルーシュとか言ったな、俺をどうするつもりだ……」
またもや足を止め、ルルーシュの口が斜めに薄笑いを作る。
それは悪魔にも似た笑み。
「貴様の頭なら、それくらい分かっているはずだろう?」
清麿は心の中で、ああと呟く。
「悪いが無駄な話をしてる暇はないんでな、さっさと済ませてもらう」
再びルルーシュは足を進める。それは、清麿にとってのカウントダウン。
もう考える時間も余裕もないだろう。覚悟を決め、飛びかかろうとしたその時だった。
清麿は気づかなかった、ルルーシュのギアスを警戒しすぎるあまりに。
ルルーシュは見ていなかった、清麿にギアスをかけようとしている自分の背後を。
「雑種共が何をこそこそとやっている」
401
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/04(金) 20:45:14 ID:ajnZWwus0
―――少し時は遡る
空を飛び続けてきた英雄王。
しかし、そんな空の旅も終わりを告げようとしていた。ギルガメッシュは、地面を視認し着地の姿勢を取る。
地面が迫ってくる。
――――――15メートル
――――――10メートル
――――――5メートル
…………4
…………3
…………2
…………1
…………0
ギルガメッシュは地面に着地した。いや衝突という方が近いかもしれない。
その落下の衝撃により、轟音を撒き散らしていた。
「チッ…………予想以上にずれたようだな」
ギルガメッシュは辺りを見回す。
空から見た時点で、ここが山なのは把握している。
飛んだ距離から考えて、先程の禁止エリアから3つ4つ離れた場所であろうか。
とりあえず、ここからデパートを目指すべきであろう。
そう考え動き出そうと立ち上がる。だが、ギルガメッシュの視点は一点の民家に注目する。
「雑種が潜んでいるようだな…………」
少し思考した後、すぐに歩き出す。デパートに向かう前に情報収集と雑種の値踏みも悪くはないだろう。
どのような輩が潜んでいようと、己が道を阻む者などいないという、絶対の自信も秘めて。
ルルーシュは手駒を作り、すぐにでも行動するつもりだった。
清麿は隙を狙い戦うつもりだった。
しかし、事態は思わぬ乱入者によって一転する。
ルルーシュは振り向いた。背後に誰がいるのか確認するために。
振り向いた先にいる人物は、一言でいえば異様だった。
どのようにしてそう思ったかは、ルルーシュ本人も定かではない。だが本能が告げている"こいつ"は危険だと。
そう感じている視線の先に、英雄王ギルガメッシュが立っていた。
「なんだ、貴様は!」
焦りから少し大きな声でルルーシュが問う。この状況での乱入者など想定していない。
この男の出方によって、この後の行動は大きく違ってくる。
「口を慎めよ雑種、我は英雄王なるぞ」
乱入者のせいで一瞬われを忘れたが、すぐに冷静になる。
(一体なんなんだ………こいつは。)
402
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/04(金) 20:45:48 ID:ajnZWwus0
ルルーシュは英雄王を見ていた。いや、目が離せなかった。
拘束している清麿は、大きな動きはできない。だが、この男は別だ。
もしゲームに乗っているのであれば、自分は危機的状況に置かれていると言っていいだろう。
(ゲームに乗っているならば、声などかけるは必要ない。
しかし俺の様な例もある、ここは慎重に対応すべきだな。状況によってはギアスを使うのもやむえまい)
「申し訳ございません。少々驚いてしまいまして、このような状況ですし、あなたはゲームに乗っておられるのですか?」
「我がこのようなつまらぬゲームに乗る?ふざけた事を言うなよ雑種。」
予想道理の反応が返ってくる。
声をかけながら、清麿にも目をくれる。こちらを見ているようだが、行動を起こす気はないようだ。
(ふむ………この男にギアスの事などを吹き込むか、何か動きがあると思っていたが)
そうなった場合、その時の手も既に考えてある。
ルルーシュは目線をギルガメッシュの方に戻す。
(行動を起こす気がないならば好都合。あとは目の前の男をどうするかだけだが……)
言動から考えて、だいたいの性格は分かった。恐らく自分の力に酔っている愚か者だろう。
交渉は比較的容易い。男は後ろを見ている。
「すいません、実は後ろの男はゲームに乗っていて………………」
「もうよい」
突然の言葉にルルーシュは戸惑う。
「茶番はもうよいと言ったのだ。貴様は我を欺き利用する気であろう?」
ギルガメッシュが笑いながら告げる。その言葉を聴きルルーシュは驚きを隠せない。
「この英雄王を欺こうなどと、無礼にもほどがあるぞ?雑種。」
(最初から分かっていたのか!くそこいつとんだ食わせ物だ!)
もちろんギルガメッシュが、そんな事を知っていたはずもない。だが、ギルガメッシュは己の圧倒的な観察眼でそう判断した。
そのような事がルルーシュに分かるはずもなかった。
(くそっ!どうする………………決まっている。このような状況になってしまっては使わざる得ない)
「…………もういい黙れ」
英雄王を睨みつけ片目の赤い鳥が羽ばたく――。 そしてルルーシュは告げる。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる!ここから立ち去れ!」
403
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/04(金) 20:46:05 ID:ajnZWwus0
ルルーシュは冷静だった、
本来ならば駒になるような命令をする。だが今この状況で、それは最悪の一手に繋がる事を理解していた。
この世界ではギアスに制限がかかっている。複雑な命令を下す事は、それ相応のリスクを背負う。
下手をすれば、自分はこの場で倒れ身動きがとれなくなり、清麿も逃がしてしまう。
それは余りにも危険すぎる。ゆえに今回は簡単な命令で済ませる。
頭痛が襲ってきた、清麿の方にふらつきながら向き直る。
(今は………………これが最善だ!)
そんな時だった
――――生き延びた者達よ、聞くといい。
「こんな時に放送か……くそっ!メモを………………は?」
それは、ルルーシュの胸にあった。だが、ルルーシュはそれがなにか理解できなかった。
当然である。それは一瞬の間に自分の胸に出現した。
いや、出現したという表現は正しくはない。正しくは、一瞬にして貫いた。
それは…………尖った木材、崩れた民家の物だ。
「ばか…………な…………な……………………に………が」
ルルーシュは考える間もなく絶命した、それを冷たい眼で見下ろす男が1人。
英雄王ギルガメッシュである。ルルーシュの胸を貫いた張本人。
ギアスによって支配されたはずの男がなぜ?
「この俺に命令だと?この英雄王に?その程度の魔眼で?」
強固な意思、それはギアスに抗う力となる。ギアスに抗い続けたユーフェミアのように。
だが、意思だけでギアスを完全に無効にできる?
―――否だ
ではなぜ?答えはギルガメッシュだけが知っていた。神秘はより強い神秘によって無効化される。
それは、ギアスという能力においても例外ではない。
さらにもう1つ、このゲームにおけるギアスには制限がかかっている。
英雄王の強固な意志 神秘による無効化 ギアスの制限
この3つの条件下において、ギルガメッシュは、ギアスを無効化する事ができたのである。
ギルガメッシュは殺し合いに乗るつもりはない。
だが、自分に暴言を吐き、あまつさえ操ろうとするような輩を生かしておくほど、彼は甘くはない。
本来ならば、この状況でこれは悪手であろう。
だがゲームを壊すために、王を侮辱した輩を放置する?答えは天秤に賭けるまでもない。
しかし、それだけではない。この男を放っておけば、後々障害になりうるだろう。
そう決めた王の判断は一瞬、このような輩にエアを使用する気はない。
ゆえに、落ちていた木材を拾い、突き刺した。本来ならば木材など武器にすらならないだろう。
だが使い手はギルガメッシュ、受けた相手はルルーシュである。2人の強さの間は、存在する次元が違うほど開いている。
それだけで十分だった。
404
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/04(金) 20:46:23 ID:ajnZWwus0
「我を従える?我を染めたければその3倍………………いや、我を従える者などこの世にありはしない。
我は唯一無二の王だからな」
もはや聞こえない肉の塊に語る。
ギルガメッシュにおいて、雑種だった"者"は最早まったく興味の無い"物"になっていた。
「なあ………あんた」
視線を向ける。黄金の王は、その存在自体を、声をかけられるまで忘れていた。
この状況において、清麿が選んだ選択肢は静観だった。
ギルガメッシュの性格は理解している。危険性も強さも、ゆえに清麿は静観した。
いや、動けなかったと言う方が近いであろう。
それでも状況を判断し、何かあればすぐにでも行動するつもりだった。
だが、何もできなかった。
ルルーシュの行動、ギルガメッシュの行動、お互い一瞬と言っていいほどの行動、そして結果。
後悔もある。だが後悔は後でもできる。だから今自分にできる事をやるだけだ。
――――――――――2人には選択肢があった。数限りなくあった選択肢の中から、1つを選びお互いこれまで行動し生き延びてきた。この状況でもそれは変わらなかった。
ルルーシュの間違った選択肢はただ1つ、音を確認しに行かなかった事。
清麿の正しかった選択肢はただ1つ、静観し状況判断を優先した事。
ルルーシュが清麿を後回しにして、ギルガメッシュの存在を確認していれば、こんな事にはならなかっただろう。
清麿が静観せず、ギルガメッシュが入って来た時になんらかのアクションを起こせば、清麿はどうなっていたか分からない。
もしそうなっていたら、そこに転がっているのは逆だったかもしれない。
――――ここに2人の知略に秀でた者がいた。
一方は ここにて幕を閉じる
一方は 演劇を演じ続ける
似て非違なる2人の対決はこれにて終わる。選択肢という、運命の名の下に。
既に放送も終わっている。
「そういえば、もう1匹雑種がいたのであったな」
ギルガメッシュが睨み付け、問う。その眼は殺気に満ちていった。
「貴様は………」
「おヌシなにをしておるのだ」
ギルガメッシュが言葉を言い終わる前に、更なる乱入者が現れた。
405
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/04(金) 20:46:40 ID:ajnZWwus0
―――また少し時は遡る
「ウヌなんなのだ……この穴は……」
放送が終わり、黒い球体を目指して走るつもりだったガッシュは、少し走った所で足を止めた。
そこに、不自然な穴が空いていた。周りが崩壊してるのは分かる、だがこの穴は不自然だった。
「誰かの匂いが残っておる……………………あの家に続いているのだ」
ガッシュは考える、そして走り出す。
一人ぼっちになってしまったガッシュは、一緒に行動できる仲間が欲しかったからだ。
そこに待っているのは再会、そして新しい出会い
【C-6/民家/二日目/朝】
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(中)、精神疲労(小)、頭にタンコブ、強い決意 深い後悔、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!! キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[持ち物]:支給品一式×9
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒) 、ランダム不明支給品x1(ガッシュ確認済み)
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:目の前の男に着いて来てもらうように頼む
1:黒い太陽を目指し、目立ちたがりのカミナ達と合流する。
2:清麿の臭いがしような気がするけど、見つからない。
3:ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
4:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
5:ジンとドモンを捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
6:東方不敗を警戒。
【高嶺清麿@金色のガッシュベル!!】
[状態]:右耳欠損(ガーゼで処置済)、強い決意
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本-1:ゆたかを救い、螺旋王を打倒してゲームから脱出する
基本-2:戦術交渉部隊の新リーダーとして、あらゆる視野から問題の解決に当たる。
0:まさか……………この声は……………
1:連れ去られたねねね、スカーとの合流。
2:大怪球及び、シズマシステムに関する調査、考察。
3:脱出方法の研究をする。(螺旋力、首輪、螺旋王、空間そのものについてなど包括的に)
4:周辺で起こっている殺し合いには、極力、関わらない。(有用な情報が得られそうな場合は例外)
5:研究に必要な情報収集。とくに螺旋力について知りたい。
6:螺旋王に挑むための仲間(ガッシュ等)を集める。その過程で出る犠牲者は極力減らしたい。
[備考]
※首輪のネジを隠していたネームシールが剥がされ、またほんの少しだけネジが回っています。
※ラッドの言った『人間』というキーワードに何か引っかかるものがあるようです。
※明智の死体、及び荷物は刑務所の瓦礫の下。
※携帯電話のテキストメモ内に、二日目・黎明時点で明智が行った全考察がメモされています。
※縄は解けています。
406
:
◆VR4DExX8uA
:2008/07/04(金) 20:46:53 ID:ajnZWwus0
[清麿の考察]
※監視について
監視されていることは確実。方法は監視カメラのような原始的なものではなく、螺旋王の能力かオーバーテクノロジーによるもの。
参加者が監視に気づくかどうかは螺旋王にとって大事ではない。むしろそれを含め試されている可能性アリ。
※螺旋王の真の目的について
螺旋王の目的は、道楽ではない。趣旨は殺し合いではなく実験、もしくは別のなにか(各種仮説を参考)。
ゆえに、参加者の無為な死を望みはしない。首輪による爆破や、反抗分子への粛清も、よほどのことがない限りありえない。
【仮説①】【仮説②】【仮説③】をメモにまとめています。
※首輪について
螺旋状に編まれたケーブルは導火線。三つの謎の黒球は、どれか一つが爆弾。
また、清麿の理解が追いつく機械ではなくオーバーテクノロジーによるもの。
ネジを回すと、螺旋王のメッセージ付きで電流が流れる。しかし、死に至るレベルではない。
上記のことから、螺旋王にとって首輪は単なる拘束器具ではなく、参加者を試す道具の一つであると推測。
螺旋王からの遠隔爆破の危険性は(たとえこちらが大々的に反逆を企てたとしても)限りなく低い。
※螺旋力について
………………………アルェー?
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(中)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、 慢心、ただし油断はない
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒猫型バリアジャケット
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。月を目指す。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
0:なんだ…………この雑種は
1:菫川ねねねを捜索、『王の物語』を綴らせる。
2:デパートでジンと待ち合わせる。
3:“螺旋王へ至る道”を模索。最終的にはアルベルトに逆襲を果たす。
4:頭脳派の生存者を配下に加える。
5:異世界の情報、宝具、またはそれに順ずる道具を集める(エレメントに興味)。
6:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
7:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
8:全ての財を手に入れた後、会場をエアの接触射撃で破壊する。
9:次に月が昇った時、そこに辿り着くべく動く。
【備考】
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですが、エアを手に入れたのでもう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留の所有品について把握しています。それらから何かのアイデアを思いつく可能性があります。
※ヴァッシュたちと情報交換しました。
※ジンたちと情報交換しました。会場のループについて認識済み。
※ギルガメッシュのバリアジャケットは、1stがネイキッドギル状態、2ndがクロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃんです。強敵に会った時にのみネイキッドのバリアジャケットを展開しようと考えています。
※会場は『世界の殻』『防護結界』『転移結界』の三層構造になっていると推測しました。
※『転移結界』の正体は確率変動を発生させる結界であると推測しました。
※会場の形状は天の方向に伸びるドリル状であり、ドーム状の防護結界がその内部を覆っていると推測しました。
※月に何かがあると推測しました。
※会場端のワープは、人間以外にも大出力攻撃を転移させる模様です。
※ギルガメッシュの落下音は周囲200メートルほどまで響きました。
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】
407
:
GOOD BYE MIRROR DAYS
◆3XMYeTbSoM
:2008/07/06(日) 12:07:34 ID:iSG5XFM20
夢を見ていた。
それはとても、幸せな夢で。
柊かがみが、友と明るく笑い合う夢。
ラッド・ルッソが、弟子と殺人と解体にいそしむ夢。
柊かがみが、家族と幸せな日々を過ごす夢。
ラッド・ルッソが、婚約者と未来を語る夢。
混ざり合うことのない二つの幸せが、混ざり合う。
どちらが現実で、どちらが『鏡』の中の世界なのか、分からない。
『かがみん、それは、愛だよ』
『楽しい、楽しい話をしよう!』
『お姉ちゃん!』
『ラッド!』
『かがみ先輩』
『ラッド、ルッソ……!』
―――あれ、私は、いったい『どっち』だったっけ?
ぐるぐると。くるくると。ぐるぐるぐるぐるくるくると。
思考が回転し、そこで、少女の姿をした『化け物』は―――
408
:
GOOD BYE MIRROR DAYS
◆3XMYeTbSoM
:2008/07/06(日) 12:09:16 ID:iSG5XFM20
*
「……どういうことだ」
総合病院がかつてあった場所。そこで、Dボゥイはただ呆然としていた。
かつてはゆたかと訪れ、そして舞衣に救われ、救えなかった場所。そして何より、シンヤが息を引き取った場所。離れてそう時間はたっていないというのに、また戻ってくるとは何の因果だろうか。そして何より、何故ここが野ざらしになっているのか。
彼が目を覚ました時には既にゆたかはそこにいなかった。それでも何とか探さなければ、と思い彼女がいるかもしれないと考えられる方へと向かっていた矢先、彼はこの少女に出会ったのである。
少女は、Dボゥイと出くわしてすぐ、ふっと何かが切れたように意識を失った。人形のように唐突に崩れ落ちたため、はじめは最悪の事態を想定したのだが、どうやら脈はあるようだった。
せめて手当はしてやらねばなるまい。気絶した少女を置き去りになどできない。
Dボゥイははじめから病院に戻ろうと思ったわけではない。ゆたかがいるのがどこか分からなかったので、それならとりあえず映画館に向かってみようと考えたのだ。
そして舞衣が自分の手当をしてくれたことを思い出し、まだ何か薬が残っているかもしれない、そう考えて立ち寄ってみたら―――これである。見事に草一本残っていないのだ。
破壊主がどのような意図でこんな行為に及んだのか見当もつかないが、崩壊しているものはどうしようもない。……運が悪かった、そう思うしかないのだろうか。
だが、それでもそう簡単に割り切れるはずがない。
なぜならあそこには、シンヤがいた。……建物がこの状態ならば、おそらく人の死体などひとたまりもないだろう。
「……くそ……!」
唇を血が出るほど噛み締める。少女を背負ってさえいなければ、地面に拳を叩きつけていたかもしれない。
「……すまない、シンヤ……」
兄である自分が埋葬してやればよかった。弟には自分も複雑な思いを抱いてはいたし、善人とは到底言えないが、―――死んでからも尚木端微塵にされなければならないほどのものなのか?そんな馬鹿なこと、ありえない。
「……後でいくらでも償う……すまない」
何の気配もない虚空に向かってDボゥイはぽつりと呟き、そして背中の少女に視線を向ける。
もうそろそろ疲弊した肉体の限界が近い。ひとまず少女を背中からおろす。そして柔らかい草地に寝かせた。
瞬間突き刺すような激痛が走る。……満身創痍の状態で人間を一人おぶったのだから無理もない。一般人なら到底耐えられないはずだが、そこは彼のこと、絶対にまだ死ねないという思いで何とか持ち直す。
「……っ、く……」
彼女の容態を見る。服はぼろぼろだが、不自然なくらい体に外傷が見当たらない。突然襲われて逃げてきたのだろうか―――それにしても違和感がある。
「……この女……」
少女は何かにうなされているらしく、寝汗をびっしょりとかいている。とりあえず自分にできる範囲で拭ってやりはしたが、さすがに女性の服を脱がせるわけにもいかない。
恐怖で暴れ出さないかが不安だったが、そしてそれ以上に、引っかかることが一つある。
「……どうして、俺の本名を知っているんだ?」
まぎれもなく、Dボゥイとこの少女は初対面のはずだ。なのにどうして、この妙な格好以外は普通に見える少女が、そんなことを知っている?
そう考えて、嫌な考えが頭をよぎる。
ラッド・ルッソ。
弟を殺し、自分と舞衣に襲いかかったあの男。先ほどこの少女に名前を呼ばれた時の感覚は、あの男と対峙した時とよく似ていた。
全身が総毛立つような、悪寒と憎悪。
―――馬鹿な。この女はラッドじゃない。
それは至極当然の答えだった。ラッドの外見はしっかり覚えている。いくらなんでも変装には無理がありすぎる。この少女はラッド・ルッソとは無関係なのは明らかだ。
409
:
GOOD BYE MIRROR DAYS
◆3XMYeTbSoM
:2008/07/06(日) 12:11:11 ID:iSG5XFM20
なのに。
どうしてか、Dボゥイにはひっかかる。
本来なら、わざわざここに連れてくるより、ゆたかの保護を優先するはずなのだが―――そのことが引っ掛かり、気付けばこんな行動をとっていた。
奇妙な服装といい、ラッドとのデジャ・ビュといい、何か釈然としないものが残るのだ。
しかし、いまいち考えに集中できない。先ほどからする頭痛が原因だろう。……寧ろ、頭痛程度で済んでいるだけましな方だと言っていい。
Dボゥイも周囲に誰もいないことを確認し、その隣に座り込む。さすがに、疲れた。休みをとらないと、このままではろくに行動もできない。
『――――生き延びた者達よ、聞くといい。』
腰を落ち着けたのとほぼ同時に、螺旋王の定時放送が聞こえてきた。ゆたかと舞衣の名前がないことを知り、思わず安堵の息を漏らす。
ゆたかがどこに行ったのか気になるが、今はこの少女だ。少女の無事を確認してから、すぐにゆたかを探しに行こう。
……大丈夫。ゆたかなら。きっと、大切なものを掴めるはずだ。
複雑な思いでDボゥイが少女の顔を覗き込んでいると、少女は、眠りから―――覚めた。
*
「……!」
かがみが目覚めたあと、すぐに目に飛び込んできたのは、ほのかな明かりと、赤ジャンパーの男の姿だった。
心臓を貫くような衝撃が走る。
「おい、大丈夫か?」
男の言葉も耳にはいるが、すぐに抜けていく。
自分は今河原ではない別の場所にいる。この男と。理由はおそらく一つだろう。この男が―――自分をここまで運んでくれたのだ。
「……あ、あ……」
それを残った理性で把握した後、―――一分と経たないうちに、かがみはがたがたと震えだした。
殺した。
殺した殺した。殺した。殺した殺した。殺した。私が。
ラッドが私がラッドが私が、彼の弟を殺した。
初対面の人間について、どうしてこうまで自分は知っているのか―――それが自分がラッドだからだと理解して、かがみは再び混乱する。
「……い、いや……」
「落ち着いてくれ。俺はお前を殺すつもりはない、ただ―――」
男の声も、柊かがみの肉体をもつ『それ』には聞こえない。
「わ、わ、私は……お、れは……」
「……お前が、何故俺の名前を知っているのか、知りたいんだ」
どうしてこの人は、自分をここまで運んでくれたりしたんだろう。
―――おうおうタカヤ君久し振りだねえ、で、お前は今でも自分は死なねえと思ってやがるのか?
この人は、『ラッド』によればゆたかちゃんの知り合いで……。
―――そういやタカヤ君と一緒に行動してた嬢ちゃん、死なないって思ってたみてえだから殺そうとしちまったぜ。まあ邪魔が入って寸止めになっちまったがなあ!ちっ、邪魔しやがって。
私がこの人を殺せば、ゆたかちゃんが悲しむ……!
―――まあいいぜ。次会った時もまだ同じ考えだったら、そん時は何回も何回もぶっ殺せばいいんだからな!ひゃははははははははははは!
だから、絶対に殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して―――
410
:
GOOD BYE MIRROR DAYS
◆3XMYeTbSoM
:2008/07/06(日) 12:12:25 ID:iSG5XFM20
噛み合わない。
『柊かがみ』は、心の奥で後輩を思っているはずなのに。
『ラッド』が殺しを主張し、表に出てくる。
「い、いや……やめて……私は……」
柊かがみは―――ゆたかを傷つけたくないのに!
「……ゆた、かちゃん」
だから、その名前が思わず口からこぼれたのは、『柊かがみ』のわずかな抵抗。
「ゆたか、ちゃ……、ごめ、私……が……」
しかしその言葉は、目の前の男に火をつけるには十分だった。
「……お前……、ゆたかを知っているのか!?」
すごい勢いでかがみに問うてくる。ああ、愛されているんだな―――そう実感すると同時に、胸の奥の殺意が湧き起こる。
こんなにいい人に出会えるなんて、ゆたかちゃんは幸せ者殺せ殺せ殺せ殺せ今すぐ殺せすぐに殺せずっとずっとずっと何度も何度も何度も殺せ殺せ殺せ!
「……あ、」
膨れ上がる。この男の前では、ラッドの殺意が抑えきれない。
騒ぐ。叫ぶ。喚く。この『自分は死なないと思っている男』を、殺せと。
駄目だ、もう、これ以上、は。
「教えてくれ!ゆたかに会わなかったか!?俺はあいつを探してるんだ!このままじゃ……」
大丈夫だ、とかがみは思う。
ゆたかは私よりもずっと強い。現実と向き合う覚悟を持っていたよ、そう目の前の青年に伝えてやりたいが、もう限界。
自分の中のラッドが喚く。
早く殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい―――
「ゆたかが」
ゆたかへの思いの丈を語る青年のジャケットの肩に手をかける。
青年の顔が、明らかに驚愕へと変化した。
「……!?」
「……タカヤ君よお。今お前はこう思ったはずだ」
ゆらり、ラッドの感情に天秤が傾く。止まらない。
ラッドは求めている。この男を、殺すことを!
「……っな……!」
「俺の前にいるのは、すっかりおびえきった顔の普通の女の子。だから自分よりきっと弱いはず。そんな子に、自分が殺されるはずがないってな!」
そしてにやり、と唇を歪ませる。
「そして今!お前はこうも思っているはずだ!俺の弟の敵であるラッド・ルッソは死んだはずだ!だからこんな小娘がラッドである訳がない!ってな!いいねいいねえ、宇宙人様には敵なしって奴ですかあ?……殺したくて殺したくてたまらないねえ!」
狂った笑い声を上げた『不死身の柊かがみ』は―――ラッドは、未だ理解が追いついていない青年の腹部に、一撃の拳を叩き込んだ。
*
少女がゆたかの名前を出した瞬間、Dボゥイは恥も体面も捨てて少女に詰め寄っていた。
彼が目覚めたときには、すでにゆたかの姿はなかった。
結果的に、もしかしたら彼女は自分のことを理解してくれなかったのかもしれない、それでも、ただゆたかを救いたい。
あの『黒い太陽』から落下するとき、彼の手を取ってくれたゆたかの想いは、決して嘘ではないと信じている。
彼女は生きている。そして、自分には彼女を信じる義務がある。
Dボゥイは何があってもゆたかを守り抜かなければならない。
薬物に体が侵されつつある、今であっても。
「教えてくれ!ゆたかに会わなかったか!?俺はあいつを探してるんだ!このままじゃ……ゆたかが」
だから、彼は考えもしなかった。
目の前の無力で、弱弱しくて、今にも壊れてしまいそうな少女が突然自分の肩を強い力で掴むなんて。
411
:
GOOD BYE MIRROR DAYS
◆3XMYeTbSoM
:2008/07/06(日) 12:13:34 ID:iSG5XFM20
「……!?」
「……タカヤ君よお。今お前はこう思ったはずだ」
そして少女の紡いだ言葉は、彼に更なる衝撃を与えた。
―――ラッド―――!!
違う。どう見ても違う。彼女はラッド・ルッソではない。目を凝らす。違う。
だというのに、彼女はどこから見ても、ラッド・ルッソなのだ。
感覚が覚えている。別人など、ありえない。
「な……!」
「俺の前にいるのは、すっかりおびえきった顔の普通の女の子。そんな子に、自分が殺されるはずがないってな!」
その文句は聞いたことがある。憎しみの対象。
弟を殺し、舞衣を襲撃した、あの男以外の何者でもなかった。
―――どういうことだ!あいつは、あいつは死んだはずだ!放送で、名前を……!
しかし状況を呑みこめていないDボゥイを嘲笑うように、少女は―――ラッドは言葉を続ける。
「そして今!お前はこうも思っているはずだ!俺の弟の敵であるラッド・ルッソは死んだはずだ!だからこんな小娘がラッドである訳がない!ってな!いいねいいねえ、殺したくて殺したくてたまらなくなりましたねえ!」
図星だった。理解できるはずが、ない。
「……!」
どうして彼女がラッドでラッドが彼女なのか?Dボゥイの頭は混乱を極めていく。
「……本当にお前は……ラッド・ルッソなのか」
答えが返ってくる前に、男の右ストレートが直撃した。
「ぐあああっ!」
そのまま不可抗力で吹き飛び、地面に頭を強い力で打ち付ける。
意識が朦朧とする。が、それでも立ち上がる。
「……おいおいおいおい!どれだけタフなんだよ君ら兄弟はさあ!すっげえ傷じゃん?今にも死にそうじゃん?さすが宇宙人は体の作りが違うねえ!」
―――どういう、ことだ。
痛みが激しい。炎で無理やり治療した傷が開いたのかもしれない。
―――どうして、この少女は『ラッド』なんだ。
視界がぶれ、目的が定まらない。眩暈がする。ラッドに言われずとも、自分が死にかけであることは理解している。
「……まあ……それでも殺すけどな」
ラッドはDボゥイの前に立っている。
その顔に浮かぶのは、享楽的な笑い。殺人に喜びを見出す狂気。
―――何、だ?
しかし、その中に、Dボゥイは見出してしまった。
少しの間だけ行動をともにし、別れた、少女の姿を。
だから、その名前が浮かんできたのは、ある意味必然で。
―――「舞、衣?」
412
:
GOOD BYE MIRROR DAYS
◆3XMYeTbSoM
:2008/07/06(日) 12:14:29 ID:iSG5XFM20
*
柊かがみは、基本的にしっかりした少女である。
妹や親友の天然極まりない言葉にはすぐさま突っ込みを入れ、彼女たちの暴挙に呆れながらも大人な対応を取りついていく。
他人の目からみて、かがみはどのような少女に映っていただろう。
真面目な努力家?苦労人?それは間違った評価ではない。
しかし、かがみの本質は、プライドの高い寂しがり屋だ。
本当は、一人は嫌で。本当は、一人は辛くて。本当は、一人は苦しかった。しかし、それを口にすることができなかったのだ。
それが爆発しなかったのは、彼女の住んでいる世界が平和そのものだったから。
クラスが離れても、もう二度と会えない訳じゃない。かがみのことをからかいながら、それでもこなたは、つかさは、みゆきは、迎え入れてくれる。
それを知っていたから、怖くなかった。
だが―――今は違う。
かがみは独りだった。いや、本当は、独りではなかったはずだ。
衝撃のアルベルト。小早川ゆたか。
まだ、自分を支えてくれた人がいた。顔見知りの少女がいた。それは、『柊かがみ』の心を安心させた。
しかしあろうことか、自分は、アルベルトを殺し、あまつさえその少女さえ殺そうとした。
分かっていたのに。ここで彼女が死んでしまえば、自分が本当の意味で一人になってしまうことは、分かっていたはずなのに。
『ラッド』は、『かがみ』の意志とは正反対に蠢き出す。
独りになりたくない『かがみ』を、さらに独りにしようと―――意思を呑みこんでいく。
怖かった。
認めるのが怖かった。
傷つくのが怖かった。
自分が元は誰だったのか、理解するのが怖かった。
自分が孤独だと、理解するのが怖かった。
螺旋王を食う。BF団に入る。それらはすべて、独りでなかったから思えたことで。
全てを無くした自分は、いったい何なのか。
自分はどうせ、『ラッド』でもなく『柊かがみ』でもない存在。
それなのに自分にはまだ『柊かがみ』が確実に残っていて。
かがみではラッドは止められない。
止めようとした。挑戦した。制御しようと決意した。……アルベルトと、そう誓った。
なのに、結果は―――後輩を殺そうとしてしまった。
そして『ラッド』は……今度はこの青年まで殺そうとしている。ゆたかの知り合いである彼を。―――また、ゆたかを傷つけてしまうと分かっていながら。
ゆたかの比ではない数の殺意が、かがみの意識を相殺していく。
少し前までは、ラッドはかがみの『鏡』にすぎなかった。
使い方さえ間違えなければ、彼はもう一人の自分になっていただろう。
しかし、今の『ラッド・ルッソ』は、違う。
ゆたかを殺しかけて絶望する『かがみ』のほんのわずかな理性にも侵入し、殺せと怒鳴り続ける。殺意のスイッチを、パチリパチリと押し続ける。
彼はもはや『鏡』ではない。ラッドは『かがみ』から出てきて、さらに『かがみ』を閉じ込める。
兄貴。ラッド。兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴ラッドラッドラッドラッドラッド―――
見知らぬ男が『不死身の柊かがみ』を呼ぶ。
ああ、これが私か。
これが、私なんだ。
私は柊―――ラッド。ラッド・ルッソ。
そう、だから殺そう。この青年を今すぐ殺そう。何度も何度も何度も殺そう。
そう、だって俺は―――ラッドだから。
だから殺さないと。自分は死なないなんて思っている奴を、殺して殺して殺して殺すんだ。
「……ま、い……?」
何を言ってるんだ?タカヤ君よお。
俺はラッド・ルッソだ。それ以外の何者でもないぜ。舞衣ちゃんと一緒にしないでくれよ。
413
:
GOOD BYE MIRROR DAYS
◆3XMYeTbSoM
:2008/07/06(日) 12:15:12 ID:iSG5XFM20
『かがみ』は―――面倒になった。
忘れたかった。逃避したかった。
自分が後輩を殺そうとしたという事実。
自分には既に戻る場所はないという絶望。
全て―――ラッドのせいにしてしまえば楽になる。
そう、そうだ。もう抵抗などやめてしまえばいい。
だって自分のはじめの目的は、優勝だったではないか。
つかさのために皆を殺す。そのためには、余計な感情などいらないはずだ。
完全にラッドに身をゆだねたら、もう自分は『かがみ』に戻らなくていい。人を傷つけることに抵抗を覚える高校生でなくて済む。
『かがみ』でいようとするから、自分はこんなに辛くて、悲しくて、泣きたい気持ちになるのだ。
『ラッド』なら、こんな風に苦しむ必要も、ないのだから。
「……な、どうして泣いているんだ……?」
「い、や……は、はは、……ひゃ、はは……」
忘れてしまえばいい。
自分が柊かがみであることを、忘れてしまえばいい。
何があっても、決して戻ることなく、制御しようなどと考えず、―――ただ、マフィア抗争の時代に生きる一人の殺人鬼になってしまえば。
「あは、はははは……ひゃは……ひゃ、はははは……」
そうすれば、こんなにも、痛くない。
さよなら、柊かがみ。
私は―――もう楽になりたいよ。
「ひゃははははははははははははははははははははははあ!」
―――アルベルト、……ごめんね。
そう決意した瞬間、ようやくかがみは思い出した。
自分は不死身である前に、化け物である前に、本当は人間だったということを。
*
『もう一度会った時、私が私じゃなくなってたら……殺して。
もう私は……誰からも奪いたくなんて……ない……』
舞衣はそう言って、自分の前から姿を消した。
ラダムに寄生され、我を失いかけながらも、そうやって自分を労わり傷つけまいとしてくれた、彼女。
あの時は―――止められなかった。
Dボゥイが手を伸ばしたときには、舞衣はすでにその場から逃げ出していて。
怒り狂った。憎らしかった。悲しかった。そして何より、悔やんだ。
俺があの時満身創痍でなければ!もっと早く舞衣の異常に気づいていれば!そして!
反省しようと思えばいくらでもできる。しかしそれだけでは、進めない。だからDボゥイは、スパイクからブラッディアイを受け取ったのだ。
どうして少女がラッドそのものと化しているのかは理解できない。ラダムに人の精神を『他人とすり返る』ことはできないはずだから別物だろうが、それでも、よく似ている。
目の前の少女の瞳の色は、舞衣と同じだった。
淀んでいながら歪な緑色をたたえており、それでいて―――本当は泣き叫んでいる。
殺したくない。まだ死にたくない。何より、怖い、と。
その証拠に、少女は泣いていた。
涙は流していない。表情も口調もラッドそのものだ。しかし、確かに泣いていた。
「……どうしたよ?何で反撃しねえの?なんで何も言わねえのよお?……まさかあれか?タカヤ君さぁ、この場に及んでまだ俺の方がこのラッドさんよりつよーいとか……ふざけたこと思ってるんじゃねえだろうなあ!?」
「……ラッド……!」
欠けた内臓のあたりが再び痛み出す。背中の傷もどこか疼くし、何より視界が朧げで、あとどれくらい歩けるのかも危うい。クリスタルもない。何より、自分の体のどこかが壊れていくのがはっきりと分かる。着実に、確実に。
確かに自分は、紛れもないデンジャラスだ。
それでもDボゥイは、この男と決着をつけねばならない。
シンヤの仇であるこの男を、自分が止める。
例え外見が見知らぬ少女のものであろうとも、ラッドとしての意識がある限りは。
もう二度と、舞衣のような悲しい女の子を見たくない。
「……お前は……俺が今度こそ殺す!」
だから、もう二度と逃がさない。
少女の中の『ラッド』を、殺す。殺す。殺す。殺して、やる。
414
:
GOOD BYE MIRROR DAYS
◆3XMYeTbSoM
:2008/07/06(日) 12:16:30 ID:iSG5XFM20
今の彼に、ゆたかと舞衣、救いたいのはどちらだと尋ねれば、Dボゥイはおそらく言葉に迷ってしまうだろう。
もしかしていずれ、二人のどちらかを選ばねばならない、そんな窮地に陥ったら?
そんなことは、今考えるには値しない。
彼に今できることは―――仇を倒すことだけなのだから。
「……はっ?…………ひゃはははははははははは!!最高じゃねえの!さすがタカヤ君!本当に俺の想いを裏切らないねえ!…………ぶち殺す!」
この少女は、やり直せる。
暗黒色の世界に堕ちていたゆたかが、彼の手を取ってくれたように。
彼女も、舞衣もきっと、戻れるはずだと。
そう、信じて。
だからDボゥイは知らない。
この少女が、小早川ゆたかの、元の世界の知り合いだということを。
柊かがみの外見をしたラッド・ルッソは知らない。
小早川ゆたかが、かがみをラッドから解放しようと動き出していることを。
まだ、知らない。
【D-6/総合病院跡地/二日目/朝】
【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、髪留め無し、螺旋力覚醒(ラッドの分もプラス) 、疲労(大) 、ラッドモード
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、コスプレ衣装(涼宮ハルヒ)@らき☆すた
衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、ぼろぼろのつかさのスカーフ@らき☆すた、
雷泥のローラースケート@トライガン、バリアジャケット
[道具]:デイバッグ×14(支給品一式×14[うち一つ食料なし、食料×5 消費/水入りペットボトル×2消費])、
【武器】
超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)、
王の財宝@Fate/stay night、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、
【特殊な道具】
オドラデクエンジン@王ドロボウJING、緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、
サングラス@カウボーイビバップ、アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、赤絵の具@王ドロボウJING
マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル
首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)、首輪(クアットロ)
【通常の道具】
シガレットケースと葉巻(葉巻-1本)、ボイスレコーダー、防水性の紙×10、暗視双眼鏡、
【その他】
がらくた×3、柊かがみの靴、破れたチャイナ服、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)、ガンメンの設計図まとめ、
壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[思考]
0:ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
1:Dボゥイを殺す。舞衣も殺す。ゆたかも殺す。自分は死なないと思っている人間を全員殺す。
[備考]:
※ボイスレコーダーには、なつきによるドモン(チェス)への伝言が記録されています。
※会場端のワープを認識。
※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました。
※ラッド・ルッソの力を開放することに恐怖を覚えました。
※ラッドの知識により、不死者の再生力への制限に思い当たりました。
※本人の意思とは無関係にギルガメッシュ、Dボゥイ、舞衣に強い殺意を抱いています。
※『自分が死なない』に類する台詞を聞いたとき、非常に強い殺意が湧き上がります。抑え切れない可能性があります。
※かがみのバリアジャケットは『ラッドのアルカトラズスタイル(青い囚人服+義手状の鋼鉄製左篭手)』です。
2ndフォームは『黒を基調としたゴシックロリータ風の衣裳です』 その下に最後の予備の服を着用しています。
※王の財宝@Fate/stay nightは、空間からバッグの中身を飛び出させる能力(ギルとアルベルトに関係あり?)、と認識。
※シータのロボットは飛行機能持ちであることを確認。またレーザービーム機能についても目視したようです。
※第五回放送を聞き逃しました。
※『かがみ』の人格を手放すことを選びました。少なくとも自分では完全に『ラッド』になったと思っています。本当にそうなったかは次の書き手にお任せします。
415
:
GOOD BYE MIRROR DAYS
◆3XMYeTbSoM
:2008/07/06(日) 12:16:59 ID:iSG5XFM20
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:一部内臓損傷、背中に傷(炎による止血済み・応急処置済、火傷とバイクの破片は抜いた。)
左肩から背中の中心までに裂傷・右肩に刺し傷・背中一面に深い擦り傷(全て傷跡のみ)
ブラッディアイ使用による副作用(詳しい症状は不明)肉体崩壊(進行率16%)
激しい頭痛と眩暈
[装備]:なし
[道具]:デイバック、支給品一式、ブラッディアイ(残量60%)@カウボーイビバップ
[思考]
0:『ラッド』を殺し、この少女(かがみ)を救いだす。
1: ゆたかを探す。
2:舞衣が過ちを犯す前に止める。だが……
3:テッククリスタルをなんとしても手に入れる。
4:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない。
5:煙草を探す
6:首輪を外す手段を模索する
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています。
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました。
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能です。またその事を認識しています。
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※包帯を使って応急処置を施しました。
※ラッドに対する深い憎しみが刻まれました。
※螺旋力覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
※ラダムに対する憎しみを再認識しました
※スパイクと出会った参加者の情報を交換しました。会場のループについても認識しています。
※ブラッディアイは使えば使うほど効果時間が減少し、中毒症状も進行します。
※肉体崩壊が始まりました、本人も少しだけ違和感を感じました
※フリードリヒに対して同属意識。
※かがみがラダムに寄生された時の舞衣と同じような状態にあると考えています。しかし具体的な原因はよく分かっていません。
417
:
TRIP OF 『D』/死を運ぶ黒き風
◆japrki1LkU
:2008/07/10(木) 20:06:03 ID:FeLj/JQM0
――何なんや、このドグサレマシーンは?
牧師・ウルフウッドは、苛立ちに沸騰する頭で考える。
目の前には延々と同じ言葉を輪唱する、訳の分からない機械。
『――螺旋力が確認できません』
また聞こえた。
何や、銃弾でもくれてやろうか?綺麗な螺旋描いてくれるで?
最早言い返す気力も湧かなかった。
休憩を求めて立ち寄った筈なのに逆効果、苛立ちと精神的疲労が募っていくだけだ。
例の死ね死ねコールも変わらず聞こえる。
一時期の苛立ちに比べたらまだマシだが、それでもヤバい。
今にも堪忍袋が弾け飛びそうだ。
「なぁ、いい加減にせぇへんか? ワイ、マジでキツいんやけど?そろそろ止めて
くれへんか?」
『――螺旋力が確認できません』
(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね)
「なぁ頼むわ。なんぼでも懺悔するから、な」
『――螺旋力が確認できません』
(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね)
「フフッ……OK、OKや。おんどれらは余程ワイの事が嫌いみたいやな」
『――螺旋力が確認できません』
(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね)
――頭の中で何かが切れる音がした。
これが俗に言う堪忍袋の尾が切れる、というものなのだろう。
「――黙れぇ、言うとるやろ! このボケがッ!」
銃声は二つ。
懐から抜き出した拳銃から、二発の弾丸が放たれた。
それら弾丸は、空中に不可視の螺旋を刻み込み、狙い通りにワープ装置へと命中。
配線やら部品を貫きつつ、弾丸が機械に支配された内部へと侵入する。
ワープ装置が変な音と共に火花を散らした。
「どうや、クソったれ……!」
『――螺旋力、確認』
「まだ言うか、このボケ! ええで全身全霊でブッ壊した…………チョイ待ち、何て言うた?」
『――螺旋力、確認』
また、聞こえた。
空耳じゃあらへん。
確かに言った、『螺旋力、確認』と。
「てことは、何か? 求めるものに飛ばしてくれんのか?」
『――螺旋力、確認』
先程までは糞ウザかったリピート機能も、今では可愛く思えてくる。
今なら久し振りに、心の底から笑える気がした。
「よし、タバコや! タバコのある所に飛ばしてくれ!」
『――螺旋力、確認』
長い長い戦いだった。
これだけ辛い戦いには後にも先にも出会う事はないだろう。
ありがとう、神様。
後でブチのめすけど、今だけは感謝してやるわ。
あぁ立っているだけで、タバコの味を思い出してくる。
早く飛ばしてくれ。
焦らす、なんて演出必要無いから、早く――。
「…………おい、聞いとるんか?」
『――螺旋力、確認』
「タバコやで。タ・バ・コ。こないな暑っ苦しい部屋やない、タバコがある場所に飛ばせぇ言うとるんや」
『――螺旋力、確認』
「だから、飛ばせっちゅーねん! アレか、悪の心が無い純粋な人間しか飛ばせないとかか!?」
『――螺旋力、確認』
分かった、分かった。
やっぱ心の底から会いたいものじゃなきゃ、駄目なんだろ?
耳かっぽじって良く聞け。
「――ヴァッシュ・ザ・スタンピードや。ヴァッシュ・ザ・スタンピードに会わせてくれ」
『――――螺旋力、確認』
瞬間、世界が暗転。
何処かに引っ張られていく感覚の後、浮遊感が体を包んだ。
418
:
TRIP OF 『D』/死を運ぶ黒き風
◆japrki1LkU
:2008/07/10(木) 20:07:12 ID:FeLj/JQM0
□
「……何処やねん、ココ」
牧師・ウルフウッドは断続的に痛みを訴える頭を抑え、立ち上がった。
右に左に首を回すと、先程の機械だらけの部屋とは打って変わり、鬱蒼と茂る木々が目に映る。
「何や、マジで飛んだんか……」
僅かな警戒と共に、ウルフウッドが歩き出す。
自分は確かに口にした。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの元に飛ばしてくれ、と。
そして気が付けば森の中。
まさか、本当に?
「いやいや、有り得へんやろ。だってワイ見たやん、トンガリの生首」
自嘲気味な笑みを浮かべ、首を振るウルフウッド。
まぁ、あのムサい部屋から抜け出せただけでも良しとするか。
「さて、どないするかな。不思議と頭ん中スッキリしとるし、お仕事でも始めるか?」
二発ほど無駄弾を撃ってしまったが、まだ十発以上の弾丸はある。
当分は何とかなるだろう。
懐にある銃を確認し、ウルフウッドの顔に獰猛な野獣の笑みが浮かぶ。
殺る気に満ちている。
気分も爽快。
仕事をするには充分なコンディションだ。
「さて行きますか――」
「おい、ウルフウッド」
そして、歩き始めたと同時に後ろから声が掛かる。
その声はどこかで聞いた事のあるような気がした。
「…………いやナイ。ナイな、これはナイ」
軽く首を振り自身に言い聞かせるかのように、ウルフウッドが呟く。
「……何言ってんだ、ウルフウッド?」
「ないないないない。だってアレやん。アイツ首ポォーンなってたやん。有り得へんって」
大きく首を振り自身に言い聞かせるかのように、ウルフウッドが呟く。
決して声のした方見ようとはしない。
「もしも〜し、聞こえてる?」
「ナイナイナイナイナイ!! だって有り得へんもん! ワイだってなんだかんだ言って生き返ったけど、流石にナイ! これはナイって!!」
千切れんばかりに首を振り自身に言い聞かせるかのように、ウルフウッドが叫ぶ。
三度声を掛けられたにも関わらず、絶対に声を掛けられた方を見ようとはしない。
「オイ、テロ牧師!」
「だぁから……!」
――そして、ウルフウッドは遂に振り向いた。
そこには此処に居る筈の無い男――死んだ筈の男の姿。
「よう、ウルフウッド」
「トンガリ……!」
生首ではなく、ちゃんと胴体のある金髪のトンガリ頭、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの姿がそこには居た。
□
山の中にポツリと建っていた家の中。
二人の男達が机を挟み、向かい会わせに座っていた。
机の上には一本のお酒、安物だろうがこの殺し合いの中、酒が見つかっただけでも幸運だろう。
「――って、なんで呑気に酒飲みになっとんねん!」
「まあまあ落ち着いて。たまには良いだろ、こーゆーのも」
彼等がこの場所を訪れたのには理由がある。
有り得ない再開に驚愕していたウルフウッドに、ヴァッシュが酒を飲みたいと言い始めたのだ。
419
:
TRIP OF 『D』/死を運ぶ黒き風
◆japrki1LkU
:2008/07/10(木) 20:10:09 ID:FeLj/JQM0
そして、まるで計ったかのように建っていた民家の中にお邪魔し、計ったかのように置いてあった酒を頂戴し、今に至る。
「今は殺し合いの真っ最中やで? 生き返ったか何やか知らんけど、平和を愛するガンマン様がそんな呑気でええんか?」
「大丈夫、大丈夫。ここでぐらいゆっくりした方が良いよ」
憮然とした顔で文句を言うウルフウッドに、ヴァッシュが微笑みながら答える。
「はぁ、まぁええわ。そんで、や。なんでオンドレはピンピンしとんねん。ワイは確かに見たで生首状態のお前を」
「……いやー僕も訳分かんないんだけど、気付いたら森の中歩いててさ。確か向こうで遊んでた気がしたんだけどな……」
「なんや、向こうって? 天国か?」
「みたいな所かもね……」
そう言いながら、ヴァッシュは二つのコップに並々と酒を注いでいく。
――なんやねん、コイツ?
そんなヴァッシュに、ウルフウッドは違和感を感じずには居られなかった。
此処は殺し合いの場だ。
普段のトンガリだったら、自分が生き返った事すら歯牙に掛けず、戦闘を止める為、人を救う為に駆けずり回っている筈だ。
なのに目の前の男は、間抜けそうな笑みを浮かべ酒を注いでいる。
「おい、ウルフウッド。乾杯だ」
「……おう」
中身の酒を揺らしつつ二つのコップが触れ合い、甲高い音を鳴らした。
互いに無言のまま、酒に口をつける。
アルコールの苦味が口内を占領し喉に抜けていく。
ウルフウッドにとって久し振りの酒は、この世の物とは思えない程、美味く感じた。
「……なぁ、ウルフウッド」
場を支配する沈黙を打ち破ったのは、ヴァッシュの小さな呟きであった。
「……何や?」
酒を喉へと流し込み、無愛想にウルフウッドが答えた。
「……お前は考えを変える気は無いのか?」
「なんや説教かいな。生き返ってまでご苦労さんなこって」
やれやれと首を振り、ヴァッシュに顔を寄せるウルフウッド。
その表情には、この一日半で溜まりに溜まった鬱憤が苛立ちとして映っていた。
「……お前が何と言おうと、ワイはこの道を突き進む。殺して、殺して、殺しまくってやる。オンドレを殺したシータっちゅうクソガキも、あの不死身の化け物も、あのスパイクっちゅうモッサリヘアーも、や」
「ウルフウッド……」
悲しげな顔で見詰めてくるヴァッシュへと、ウルフウッドは人差し指を突き付け、言い切った。
対するヴァッシュは何も言わない。
ただ無言で、そしてやっぱり悲しげな表情でウルフウッドを見詰めていた。
睨み合う二人。
再び沈黙が場を支配する。
「そや、どうしてもワイを止めたいんやったら一つだけ方法があるで?」
二度目の沈黙を破ったのは、ヴァッシュでは無くウルフウッドであった。
挑発的な笑みを浮かべヴァッシュを睨む。
「方法……?」
「コレや」
そう言いウルフウッドが取り出した物は、拳銃。
それは、引き金を引く握力さえあれば、誰でも殺人鬼になれる悪魔の道具。
ウルフウッドはそれを机へと置き、持ち手をヴァッシュが座っている方へと向け
た。
「ワイを止めたいんやったら、この場で殺せ。
その銃でワイの脳天に風穴開けてみろや」
「…………」
「出来へんよな。……だからお前はヘタレなんや。そんなんだからあんなクソガ
キに殺されるんや、どアホ」
口は三日月を描き、だがその瞳は虚無感に包まれていた。
泣いているような、笑っているような、複雑な表情を見せ、ウルフウッドは語り続ける。
「ワイは行く……オンドレと呑気に酒飲んどる暇なんてあらへん。
クソったれの神様に抗って、抗って、抗いまくってやらなアカンのや」
そう言いウルフウッドは、ヴァッシュへと背中を向け、右手をヒラヒラと振った。
420
:
TRIP OF 『D』/死を運ぶ黒き風
◆japrki1LkU
:2008/07/10(木) 20:11:17 ID:FeLj/JQM0
立ち止まる暇なんて無い。
トンガリが生き返ろうと、するべき事は変わらない。
血塗られた地獄で抗い続けて、あの世とやらで高笑いしてるであろう神様に吠え面かかせてやる。
牧師の胸に宿った真っ黒な誓いは誰にも、盟友ですら揺るがす事は叶わない。
牧師は断罪者として歩き始め――
「……死ぬなよ、ウルフウッド」
――その時、小さな呟きが牧師の鼓膜を叩いた。
「……なに、言うとんのや? ワイが生き延びれば生き延びるほど、人は死ぬで?」
「うん、そうだろうね。俺が何を言っても君は止まらない。多分、沢山の人を殺す。でもさ、ウルフウッド――」
暖かい、本当に暖かい微笑みが、振り向いたウルフウッドの眼に映った。
それは自分を、自分の罪を許してくれるかの様な微笑み。
「――お前には死んで欲しくないんだよ」
「…………アホか」
その微笑みを見ていられなかった。
俯き、心とは裏腹の皮肉を言う事しか出来なかった。
ああ、何でコイツは笑っていられるのだろう?
百年以上の因縁に決着をつけ、平穏な生活が始まろうとした矢先に、こんな地獄に巻き込まれたというのに。
再び出会った仲間が殺し合いに乗っている事を知ったのに。
――最後まで信じた人間に裏切られ、願いが通じる事なく殺されたくせに。
自分には理解できない。
「……ウルフウッド、そろそろお別れだ」
俯き、思考の渦に呑まれていたウルフウッドに、不意に声が掛かる。
その言葉の意味をウルフウッドには理解できなかった。
「は? なに言うとんねん? 生き返ったんじゃないんか?」
「いや〜、どっかの誰かさんと違って、そこまでラッキーな男じゃないよ、僕は」
陽気に男は笑っていた。
「おい、洒落ならへんぞ! ワイはタバコ諦めてまでオンドレん所に来たんや! それが、説教されるだけされてほなサイナラか!? そんなん許せるか、ボケ!」
「死ぬなよ、ウルフウッド……そして、出来たら誰も殺さないでくれ」
「シカトか!? こないなタイミングでそんな高等技術を使うか、この糞ガキ!」
「生きてくれ。そして俺の代わりに平和な生活を満喫してくれ、ミリィやメリルとさ」
「ちょい待て、トンガ――」
「じゃあな、ウルフウッド」
二度目の暗転。
闇が世界を支配し、意識がブツリと途切れた。
□
(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね)
覚醒の手助けは、聞き飽きた呪怨の大合唱であった。
瞼を開けば、訳の分からない機材やコードが見える。
どうやら仰向けに倒れているらしい。
上半身を起こし周りに首を回し、状況を確認。
そこは、何とも見飽きた部屋。
目の前には熾烈な押し問答を繰り広げた好敵手――ワープ装置。
「……なんや戻ってきたんか?」
首を捻りながらいつもの癖でポケットを漁る。
残念ながらタバコのタの字も無かった。
「訳わからんわ。まったく、どーなっとんねん……」
『――螺旋力、確認できません』
好敵手が律儀に返答してくれる。
うん、素直なもんだ。
ここまでやってくれると愛着すら湧いてくる。
――ん?
「おい、お前何て言うた?」
『――螺旋力、確認できません』
あれ?なんかおかしくないか?
さっきは確か――。
「ちょい、もう一回言ってみ」
『――螺旋力、確認できません』
螺旋力、確認できません?
あれ? さっきと言ってる事違ってないか?
さっきまでは螺旋力、確認しました、とか言ってた筈だろ?
「……おいおい、まさか――」
何かに気が付いたのか、ウルフウッドは懐の銃から弾倉を取り出し、調べ始める。
421
:
TRIP OF 『D』/死を運ぶ黒き風
◆japrki1LkU
:2008/07/10(木) 20:12:47 ID:FeLj/JQM0
――あの時、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの元へ飛ばされる直前、自分は目の
前の機械に向けて二回引き金を引いた。
つまり、最初に詰められていた八発の弾丸から、二発の弾丸が消費された訳だ。
ならば、今現在、弾倉には六発の弾丸が存在しなくてはいけない筈だ。
なのに――
「……マジか」
――どうして八発もの弾丸が入っているのだ。
疑問の呟きとは裏腹に、ウルフウッドは一つの可能性に気付いていた。
「…………ハッ、ハハッ、夢っちゅー訳か……この機械が動いたのも、トンガリに会ったのも、全て……」
言うなれば白昼夢。
大方、疲労とストレスに意識を飛ばし、あの夢を見たのだろう。
「プッ……ダッハッハッハ!」
大爆笑。
吹き出すと共に、ウルフウッドが腹を抱えて笑い始めた。
「ハッハッハッ! 何や夢かいな! 何時の間に寝取ったんや! ヤバい、面白すぎるでマジ!」
腹を抱えるだけでは飽きたらず、遂には床で暴れながら笑い声を上げ続けるウル
フウッド。
あれだけ頑なに返答をし続けていた螺旋界認識転移装置でさえ、その姿に閉口する。
「ハハハハハハ! ホンマにやってられへん! あの滅茶苦茶美味かった酒も、ウザったい説教かましてくれたトンガリも、死なないでくれって言葉も、全部ワイの脳内で作った幻想かいな!ワイの脳みそはドンだけ想像力豊かなんや!」
ドンドンと床を叩き、狂ったかの様に男は笑い転げる。
止めない者は誰も居ない、孤独で滑稽なバカ騒ぎ。
あまりに滑稽な自分が、愉快で仕方がない。
機械との押し問答の次は、盟友と酒を酌み交わす夢。
その女々しさが、その情けなさが、面白すぎて。そして――
「ホンマ――ふざけんなぁッ!!」
――そんな夢を見た自分が、そんな夢を見せた神様が、許せなかった。
ドンッと、男の拳が床に突き刺さる。
悲哀と憤怒が入り混じった、不思議で複雑な表情が男の顔には張り付いていた。
「おちょくるのもいい加減にしてくれ……何でこないな夢見せるんや、神様よ?」
『ウルフウッド、お前には死んでほしくない』
あの言葉を言われた時、ただ単純に嬉しかった。
生き返ってから、初めて自分の存在を受け入れられた気がしたから。
心の底から喜びが湧き出た。
――だが、その言葉の正体は、ただの夢。
自分の脳内で再生された虚像。
「そこまでして追い詰めてどないするつもりやねん……」
虚空に呟かれた疑問。
答えは分かっていた。
神様――主は無かったことにしたいのだ。
自分の過ちを――ウルフウッドという存在を生き返らせてしまった、その過ちを。
だから、追い詰める。
頭の中に『死ね』という言葉を流し続け、死んだ男の夢を見せ、ほんの少しの希望を与え、そして絶望させる。
「……ワイは死なへんぞ。オンドレがどんな嫌がらせをしようと、死なへん。生き抜いてやる」
主に反抗する為に、ウルフウッドは立ち上がる。
休憩はすんだ。
多少の睡眠を取ったおかげか、頭はスッキリしている。
先程に比べ体も軽い。
殺し合いに臨むには充分すぎる状態だ。
「さぁいくで、皆殺しや」
422
:
TRIP OF 『D』/死を運ぶ黒き風
◆japrki1LkU
:2008/07/10(木) 20:13:40 ID:FeLj/JQM0
懐にある銃を確認。
今の自分が持つ唯一の武器にして命綱。
ウルフウッドは好敵手に背を向け、自らが入室してきた扉の方へと歩き出し――
「…………なんや、コレ?」
――そして彼は気が付いた。
ある一点を見つめたまま、ウルフウッドの足が止まる。
『ソレら』は最初から――カミナ達が扉を開いた時からそこに存在していた。
勿論、後にウルフウッドが侵入してきた時も変わらずに、だ。
だが、『ソレら』の存在に気付く者は誰も居ない。
何故なら、扉を開くと同時に、不可思議な機械が彼等を待ち受けていたからだ。
当然侵入者達の注意はその機械へと向けられ、扉の影に置いてある『ソレら』に気付く事は無い。
そして、この部屋への侵入を許されし者――螺旋力覚醒者は、部屋に設置された螺旋界認識転移装置により別の場所に飛ばされる。
だから、気付けない。
扉の影に置かれた『ソレら』に。
「……何で、ココにコレがあるんや」
だが、螺旋力未覚醒者――ニコラス・D・ウルフウッドは、螺旋界認識転移装置により別の場所に飛ばされることなく『ソレら』に気が付く事が出来た。
『ソレら』――扉を囲うように設置されている三つの巨大な十字架に。
長年、ウルフウッドの相棒とも言える最強の個人兵装に。
「最後の慈悲って訳か……」
大蛇に呑み込まれた筈のパニッシャーが、何故この部屋にあるのか、何故三つに増えているのか、ウルフウッドには分からなかった。
ほんの数秒、困惑の表情で考え込むウルフウッドであったが、直ぐにその疑問を思考の隅に切り捨てた。
そんな事どうでも良い。
先程のような夢では無い。
この手の中に、愛銃にして最強の個人兵装が握られている。
その事実こそが大事であった。
ウルフウッドの顔が猛獣のソレの様に歪み、その手がバックルの一つを外した。
現れるは、見慣れた十字架――相棒パニッシャー。
だが、そのパニッシャーの姿は自分の知っている物と異なる箇所があった。
漆黒。
自分が知る白銀のパニッシャーと違い、手元にあるパニッシャーは闇に紛れるかのような漆黒に染められていた。
423
:
TRIP OF 『D』/死を運ぶ黒き風
◆japrki1LkU
:2008/07/10(木) 20:14:21 ID:FeLj/JQM0
「なんや、趣味悪いのぉ……」
悪態をつきつつ、ウルフウッドはその十字架をデイバックへと詰め込み、もう一つの十字架に手を伸ばす。
そして手に取ったもう一つの十字架もデイバックへと詰め、最後に残った十字架
をデイバックと共に背負った。
この会場には、最強のガンマンすら唸らせる化け物までいるのだ。
武器が多いに越したことは無い。
「神様よ……指くわえて見とれ。ワイが、オンドレが生き返らせた愚者が、全てを殺すところを……絶対にワイは負けへんぞ……!」
その背中に断罪を意味する兵器を背負い、罪人は歩き出す。
反逆の牙は手に入れた。
あとは、いつも通りに殺していくだけ。
そこに祈りは必要ない。
背信者に祈るべき神など存在しないのだから。
生き抜く為だけに、全てを殺す為だけに、主に復讐を果たす為だけに、血塗られた地獄を進む。
「じゃあな、トンガリ」
居るはずの無い盟友へと言葉を残し、復讐者は地獄へと舞い戻った。
□
男――ウルフウッドが背負う十字架が持って来られた世界。
それは、彼の住む世界と酷似し、だが何処か違う世界――言うなれば多元宇宙に浮かぶもう一つの砂の惑星。
その世界の『彼』は今の彼以上に過酷な道を歩まされ、そして全てを守り通し、満足げに逝った。
それは今の男には許されない、有り得ることのない死に方。
自らの背負っている十字架が、その『彼』の命を奪う一因となったことを知らず、男は進む。
――全ての命を奪う為に。
【B-4/螺旋界認識転移装置室/2日目/朝】
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:疲れによる認識力判断力の欠如(睡眠により軽減)、情緒不安定、全身
に浅い裂傷(治療済み)、肋骨骨折、全身打撲、頭部裂傷、貧血気味
軽いイライラ、聖杯の泥
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night、デザートイーグル(残弾:8/8発)@現
実(予備マガジン×1)、ラズロのパニッシャー(マシンガン)@トライガン
[道具]:支給品一式、ラズロのパニッシャー@トライガン×2
[思考]
基本思考:自分を甦らせたことを“無し”にしようとする神に復讐する。(①
絶対に死なない②外道の道をあえて進む)
1:売られた喧嘩は買うが、自分の生存を最優先。他者は適当に利用して適当に
裏切る。
2:神への復讐の一環として、殺人も続行。女子供にも容赦はしない。迷いもな
い。
3:自分の手でゲームを終わらせたいが、無謀なことはしない。
4:ヴァッシュに対して深い■■■
5:言峰に対して――――?
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。
※ヴッシュ・ザ・スタンピードへの思いは――。
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー)、高速移動、ロボットの使い手と認識しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
※シータのロボットは飛行、レーザー機能持ちであることを確認。
※螺旋界認識転移システムの場所と効果を理解しましたが、未覚醒のため使用できません。
※五回目の放送を聞き逃しました。
※『疲れによる認識判断力の欠如』は睡眠により軽減、『寝不足による思考の混
乱』は解消されました。
424
:
◆japrki1LkU
:2008/07/12(土) 20:37:09 ID:wXIi0Bbg0
>>422
の『ソレら』は最初〜からの差し替えです。
『ソレ』は最初から――カミナ達が扉を開いた時からそこに存在していた。
勿論、後にウルフウッドが侵入してきた時も変わらずに、だ。
だが、『ソレ』の存在に気付く者は誰も居ない。
何故なら、扉を開くと同時に、不可思議な機械が彼等を待ち受けていたからだ。
当然侵入者達の注意はその機械へと向けられ、死角に置かれた『ソレ』に気付く事は無い。
そして、この部屋への侵入を許されし者――螺旋力覚醒者は、部屋に設置された螺旋界認識転移装置により別の場所に飛ばされた。
だから、気付かない。
扉の上に設置された『ソレ』に。
「……何で、ココにコレがあるんや」
だが、螺旋力未覚醒者――ニコラス・D・ウルフウッドは、『ソレ』に気が付く
事が出来た。
『ソレ』――扉の上部に、まるで見下ろすかの様に鎮座した巨大な十字架に。
長年、ウルフウッドの相棒とも言える最強の個人兵装に。
「最後の慈悲って訳か……」
大蛇に呑み込まれた筈のパニッシャーが、何故この部屋にあるのか、ウルフウッドには分からない。
ほんの数秒、困惑の表情で考え込むウルフウッドであったが、直ぐにその疑問を思考の隅に切り捨てた。
そんな事どうでも良い。
先程のような夢では無い。
この手の中に、愛銃にして最強の個人兵装が握られている。
その事実こそが大事であった。
ウルフウッドの顔が猛獣のソレの様に歪み、その手がバックルの一つを外した。
現れるは、見慣れた十字架――相棒パニッシャー。
様々な機械が織り成す部屋に於いて、十字架は何時も通りの白銀を見せ付け、自らの存在を誇示していた。
「またよろしく頼むで、相棒……」
優しい語り掛けと共に、ウルフウッドはデイバックと十字架を背負った。
そして何も存在しない虚空を睨み、口を開く。
「神様よ……指くわえて見とれ。ワイが、オンドレが生き返らせた愚者が、全てを殺すところを……絶対にワイは負けへんぞ……!」
その背中に断罪を意味する兵器を背負い、罪人は歩き出す。
425
:
◆japrki1LkU
:2008/07/12(土) 20:37:47 ID:wXIi0Bbg0
反逆の牙は手に入れた。
あとは、いつも通りに殺していくだけ。
そこに祈りは必要ない。
背信者に祈るべき神など存在しないのだから。
生き抜く為だけに、全てを殺す為だけに、主に復讐を果たす為だけに、血塗られ
た地獄を進む。
「じゃあな、トンガリ」
居るはずの無い盟友へと言葉を残し、復讐者は地獄へと舞い戻った。
□
男が背負う十字架が持って来られた世界。
それは、男の住む世界とほとんど同様の、だが何処か違う世界――言うなれば多元宇宙に浮かぶもう一つの砂の惑星。
男は知らない。
その十字架が砂の惑星に住む数千万の命を、盟友――ヴァッシュ・ザ・スタンピードの命を、救った事を。
何も知らない男は全ての命を奪う為、目の前の道を歩き続ける。
世界を救った十字架が――血に、染まる。
【B-4/螺旋界認識転移装置室/2日目/朝】
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:疲れによる認識力判断力の欠如(睡眠により軽減)、情緒不安定、全身に浅い裂傷(治療済み)、肋骨骨折、全身打撲、頭部裂傷、貧血気味
軽いイライラ、聖杯の泥
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night、デザートイーグル(残弾:8/8発)@現実(予備マガジン×1)、パニッシャー(重機関銃残弾100%/ロケットランチャー100%)@トライガン
[道具]:支給品一式
[思考]
基本思考:自分を甦らせたことを“無し”にしようとする神に復讐する。(①絶対に死なない②外道の道をあえて進む)
1:売られた喧嘩は買うが、自分の生存を最優先。他者は適当に利用して適当に裏切る。
2:神への復讐の一環として、殺人も続行。女子供にも容赦はしない。迷いもない。
3:自分の手でゲームを終わらせたいが、無謀なことはしない。
4:ヴァッシュに対して深い■■■
5:言峰に対して――――?
[備考]
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。
※ヴッシュ・ザ・スタンピードへの思いは――。
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー)、高速移動、ロボットの使い手と認識しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
※シータのロボットは飛行、レーザー機能持ちであることを確認。
※螺旋界認識転移システムの場所と効果を理解しましたが、未覚醒のため使用できません。
※五回目の放送を聞き逃しました。
※『疲れによる認識判断力の欠如』は睡眠により軽減、『寝不足による思考の混乱』は解消されました。
426
:
かしまし〜ラブ&ピース・ミーツ・ガール〜
◆IaXd.lUSFI
:2008/07/13(日) 11:17:16 ID:g8kzJsow0
穏やかな風が流れる。
5人―――正確には4人―――は体を休めながら、話をした。
ゆたかは全てを皆に打ち明ける。Dボゥイに助けられたこと。途中でシンヤに捕まって、しかし彼もラッドに殺されてしまったこと。そしてそのあと明智やねねね達に救われたにも関わらず、自分が三人を殺してしまったことを。
スパイクが一言そうか、と呟いただけで、誰も口を開かずゆたかの話を黙って聞いている。
しかしその静寂から、ゆたかを責める響きはなかった。
そしてゆたかが話し終わると、次に舞衣が、ジンが、スパイクが、これまで経験してきたことを話し出した。
二人の人間を殺し、そしてつい数時間前に知り合いにも手を下した舞衣。
同行者をことごとく失いながらも因縁に決着をつけたスパイク。
最後まで生き延び、この場を楽しいゲームに差し替えようと奮闘しているジン。
皆形は違うが、苦労を重ねてきている。
それに、ゆたかは改めて恥ずかしくなった。
誰もが、辛い思いをしてきた。時に人を殺め、時に仲間を失い、時に自らの無力に絶望してきた。
そんなのは―――当たり前なのに。
建物を崩壊させたり吹きとばしたりできる強い力の持ち主でもない限り、誰だって一度は挫折しかけてもおかしくないのだ。
なのに自分ときたら―――そこまで考えて、ゆたかは首を小さく横に振った。
「……ゆたか? どうしたの?」
「ううん、何でもない」
やめた。
そうやってまた負の連鎖に陥っても、何も始まらない。
今のゆたかは、さっきまでの小早川ゆたかではない。
自分のやりたいことを見つけたから。そして、自分にできることが分かったから。
「……大丈夫、だよ」
「うん」舞衣の言葉が、すごく力強い。
「……六時だ」
微笑みかわすゆたかと舞衣の動きを止めたのは、スパイクの短い声だった。
瞬間、静寂が落ちる。時計の秒針が動いていくのを見る。
そしてかちり、と長針が12に移動し―――
放送が、始まった。
427
:
かしまし〜ラブ&ピース・ミーツ・ガール〜
◆IaXd.lUSFI
:2008/07/13(日) 11:18:21 ID:g8kzJsow0
*
『さあ、己が生命を賭けて血潮を滾らせ、闘争に身を躍らせろ。
生きることこそ、生き延びることこそ即ち戦いなのだから。 』
その言葉を最後に、放送はぷつりと途絶えた。
ゆたかを除いた3人に特に動揺は見られなかった。知り合いで死んだ人間のことはほぼ把握していたからだ。
スパイクがビシャスとヴァッシュの名前が呼ばれた時にわずかに眉を上げ、舞衣が静流が呼ばれる瞬間黙祷を捧げるように瞳を閉じたくらいで、誰も声を発しない。
しかし、ゆたかは違っていた。
―――あれ?
「え?」
ぽかんと首を傾げる。どういうことなのだろう。
「え、私は……ねねね先生と清麿君は……」
自分が『殺した』二人が呼ばれていない。
明智の名前はあったのに……ゆたかの聞き間違いだろうか?
なぜなら自分が―――
「まあ……俺にはその時の状況が分からんから何とも言えないが……そういうことだろ」
スパイクのはっきりしない発言に、ゆたかは更に疑問を深める。
いや、本当は分かっているのだ。ただ予想もしなかったため、理解が追い付かない。
「あれ、だって、私が……」
―――皆を殺したんじゃなかったの?
自問するゆたかの頭に、優しく手が置かれる。
「大丈夫、呼ばれなかったんだから、二人はまだ生きてるわ」
舞衣が、姉のようにゆたかに微笑みかける。
「……ほんとう、に?」
「何回も放送を聞いたけど、残念ながら今までは本当みたいだよ?」
ジンもひょうひょうとした口調ではあるが、優しいまなざしをゆたかに向けている。
ゆたかは、そこでようやく理解した。
まだ二人が、生きているのだということを。
―――ゆたかの背中から、すっと力が抜けた。
良かった。
二人はまだ、生きてる。
私は、二人を殺してなかった!
もちろん、それで許されるなんて思っていない。明智を殺したのは間違いなく自分だ。
それは背負わなければならない、それでも。
「良かっ、た……」
それでも。
生きていてくれたこと、それだけで嬉しい。
小早川ゆたかを救ってくれた人が、一人でも多く無事でいてくれるだけで、救われる気がした。
―――明智さん、私は悪い子ですが……
せめて、せめて私に、二人の生存を喜ばせてください。
罪深い私にできることなら、何だってやってみせますから。
「良かった……本当に良かった……」
だから、
「……皆さん、本当に、ここから脱出しましょう」
「あはは、ゆたかちゃんそれ二回目」
舞衣が茶化すように笑う。
分かってる。ちゃんと小早川ゆたかは分かっている、それでも。
「……うん」
もう逃げない。もう絶望しない。
そして、かがみを救い出すと、決めたから。
「……やっぱり女の子は強いよね。そう思わない? スパイクも」
「ああ……こいつら見てると、そうとしか思えないな」
暖かな感情に見守られながら、
こうして小早川ゆたかは―――完全に現実を受け止めたのだった。
428
:
かしまし〜ラブ&ピース・ミーツ・ガール〜
◆IaXd.lUSFI
:2008/07/13(日) 11:19:36 ID:g8kzJsow0
放送後、四人はこれからどこに向かうかを考え始めていた。
途中でスパイクに『ロボット兵に乗った少女』について教わった。何でも、彼の腕を切り落としたのは彼女らしい。……絶対に会いたくない。
「かがみさんは、どっちに向かったんだっけ?」
「えっと……」
首を絞められた痛みとショックで、かがみがどちらに逃げ出したのかは見ていない。スパイクとジンが南ではないか、と言ったが、やはり確証はない。
「それでも、まだ遠くには行っていないと思う」
「私もそう思う。相当パニックを起こしていたみたいだったし―――誰かに保護されてる可能性もあると思う」
それが一番最良な結果だった。
人助けをするような人間なら、このゲームに乗ってはいないだろう。その人物と協力することができる上に、かがみに会うこともできる。
「だが、無闇に探し回るとニアミスするぞ?」
スパイクの至極まともな指摘に、ゆたかはそうですよね、と小さく呟く。
間違った方向に進んでうろうろし、殺し合いに乗った人間に出会ってしまったら、自分たちには勝ち目がない。
(今は)ごく普通の少女であるゆたかと舞衣、ある程度は戦えるが全身ぼろぼろのスパイクとジンである。
「……分かります。けど……ここで待っていてもかがみ先輩は戻ってきません」
それならば、少しでも動いた方がいい。
すぐにでも救いださないと。ラッドから、かがみを。
「……分かった、じゃあとりあえず南の方に向かってみよう。それでいいな?」
「はい、舞衣ちゃんとジンさんは?」
「私は皆がいいのならどこでも」
「オレも特に反対はしないよ」
こうして方針は決定した。しかし、まだ四人はこの場から動けない。
「決まりね。……あとは、結城さんが目を覚ましてくれるといいんだけど」
舞衣が、うなされているらしい元の世界からの知り合いを不安そうに見つめる。
「さすがにこのままの状態で運ぶ訳にもいかないし……結城さんが目覚めるまでは保留ね。それまで傷を癒すってことで」
「あ、あの舞衣ちゃん、それなら、ちょっと出てきていいかな?」
そこで、先ほどからあることを考えていたゆたかが手を上げる。
「え? 一人で?」
「あ、うん。ちょっと……色々あって」
―――水、浴びたいな。
そんな場合ではないと分かってはいるのだが、汗で体がぐちょぐちょで正直気持ち悪い。
つい数時間前まではこんなことすら考える余裕がなかったのだから、精神が落ち着いた証拠とも言える。
それに、冷たい水に触れれば心もすっきりするだろう。
「すぐ、戻りますから」
「おい、危ないぞ、一人は。俺かジンがついていった方が―――」
「分かってないのね、女の子の行くとこくらい察しなさいよ」
呆れ顔の舞衣。
「……しかしだな、」
「まあまあいいじゃんスパイク。二人ともただじゃ引かないよ?」
スパイクは複雑な顔をしながらも、仕方ねえな、とそれ以上言うのをやめた。何か舞衣に誤解されている気がするが。
舞衣は、ゆたかににこりと微笑みかけ、言葉を続ける。
「私がついていくわ。それでいいでしょ?」
「ま、舞衣ちゃんいいよ! そんな大したことじゃないし!」
それはジンやスパイクよりも困るかもしれない。……あらゆる意味で。
「今の私には何もできないけど、たぶんゆたかちゃん一人よりはいいと思うな……私も少し行きたかったしね」
最後の言葉は耳打ちで。舞衣は分かっている、と言わんばかりにゆたかに笑顔を見せた。
「ね、どう?」
429
:
かしまし〜ラブ&ピース・ミーツ・ガール〜
◆IaXd.lUSFI
:2008/07/13(日) 11:20:13 ID:g8kzJsow0
―――敵わないな、舞衣ちゃんには。
決して彼女に引け目を感じている訳ではないつもりなのだが、先ほど諭されたためか、意見を言われると彼女の方が正しく思えてくる。
「……うん、分かった、ありがとう」
だから最終的に、ゆたかは舞衣の言葉に素直に頷いたのだった。
*
C-5、商店街。
二人の雰囲気の異なる少女が、共に連れだって歩いている。
ゆたかは舞衣に水浴びをしたいと言ったところ、彼女も喜んで同意してくれた。
やはりどんなところにいようと女の子は女の子、せめて体くらいは流したいのは共通だ。
「こ、ここに来てから、お風呂にも入ってないし……まあ、仕方ないんだけどね」
「私も少し体を拭いたくらいかな。……だ、だから水に入れるなら是非入りたい! 結城さんもまだ眠ってるみたいだし、早めに戻れば大丈夫だよね」
ゆたかと舞衣は、和やかに談笑しながら歩く。
一見、仲の良い友人二人の会話に見える。その評価は間違っていないし、そこにとってつけたような違和感はない。しかし。
「うん、三人には悪いけど、少しだけ、ね」
―――気になる。
二人揃って、心の奥に不安と好奇心を抱えていた。
―――どうしよう。
ゆたかは考える。気まずい。
舞衣と二人きりだなんて、何を言えばいい?
今は何気ない世間話でごまかしているが、もし話題が尽きたら?沈黙に耐えられるだろうか。
聞いて、みようかな。
何を?決まっている。『彼』のことだ。
―――ななな、何て聞くの? ま、舞衣ちゃんはDボゥイさんのことす、好きなのって?
名前を聞いた時の舞衣の反応。そして『あの人』と言った時の幸せそうな、恋する瞳。
あれは、もしかしなくても、『彼』のことではないのか?
はじめ聞いた時に似ているとは思ったが、その張本人だったとしたら?
……無理だ。聞けない。
もし、聞いて頷かれたらどうする?そして本当に、Dボゥイのことだったら?
自分は何の力もないし弱虫で胸もない。同性のゆたかから見ても、美人で大人っぽい舞衣の方が魅力的だ。
―――勝ち目、ないよね。
せっかく友達になったのに、余計なことを聞いて空気を悪くするのは嫌だ。でも、気になる。気になって仕方ない。
―――どうしよう。
舞衣は考える。気まずい。
ゆたかと二人きりだなんて、何を言えばいい?
今は何気ない世間話でごまかしているが、もし話題が尽きたら?沈黙に耐えられるだろうか。
聞いて、みる?
何を?決まっている。『彼』のことだ。
―――な、何て聞けばいいのよ? ゆたかちゃんはDボゥイのこと好きなの、って?
名前を聞いた時のゆたかの反応。そして『そういう人がいる』と言った時の幸せそうな、恋する笑顔。
あれは、もしかしなくても、『彼』のことではないのか?
どことなく彼女と似たものは感じていたが、まさか恋する相手まで同じだったとしたら?
……無理だ。聞けない。
もし、聞いて頷かれたらどうする?そして本当に、Dボゥイのことだったら?
自分は素直になれない可愛げのない女だ。同性の舞衣から見ても、女らしく清楚な雰囲気のゆたかの方が魅力的だ。
―――勝ち目、ないよね。
せっかく友達になったのに、余計なことを聞いて空気を悪くするのは嫌だ。でも、気になる。気になって仕方ない。
430
:
かしまし〜ラブ&ピース・ミーツ・ガール〜
◆IaXd.lUSFI
:2008/07/13(日) 11:21:24 ID:g8kzJsow0
「……」
「……」
悶々と悩む二人からは、やはり次第に会話が失われていく。
時折どちらかが思い出したように話を振るが、二三度の会話のキャッチボールですぐに終わってしまう。
嫌いな相手や苦手な相手ではない分、余計に沈黙が辛い。
―――何か、言わないと。
「「あの……」」
そして二人は、ほぼ同じ思考を巡らせた後口を開いた。……これまた同時に。
「あ……」
「……えっと」
「ま、舞衣ちゃん先話していいよ」
「え、い、いいよ、ゆたかちゃんからどうぞ」
沈黙。
……さわさわと風が流れる音が聞こえる。
隣には川が流れており、自然に囲まれている、という訳でもないのにやけに静かだ。
この状況をもしゆたかの従姉が見ていたら、『タイプの違う女の子二人に愛される一人の少年! さあ恋の天秤はどちらに傾くのか!? ……ってそれ何てギャルゲ?』と突っ込みをいれそうだが、残念ながらその手のことに疎いゆたかにはそんな冗談も思いつかない。
―――えっと、あの、どどどどどうしよう!? こういう時は何を言えばいいの!? 教えてみなみちゃん!
―――な、何を言えばいいの? 自然な形でそう言えばDボゥイって〜とか振る? そんなの無理! ああああもう助けてよ! 命でもいいから!
心の中で顔を真っ赤にして転げまわる二人。
「……あ、あの、ね」
そして動いたのは、ゆたか。
―――少し怖い。でも、やっぱり聞いておきたい。
恋する乙女として、そして何より友達として。
「ま、舞衣ちゃん、一つ聞いてもいいかな?」
「あ……う、うん」
舞衣が何故少し焦った顔をしているのかゆたかには分からないが、ここまで来たら聞くしかない。
「えっと……えっとね……舞衣ちゃんって……」
心臓が激しく脈打つ。緊張が走る。
―――頑張れ、ゆたか。頑張れ!
「あの、舞衣ちゃんは、あの、D―――」
そこまで言いかけたゆたかの耳に飛び込んで来たのは、少女の泣き声だった。
*
「……大丈夫か?あいつら」
「女の子はタフだから平気でしょ。それよりまずはこの子をどうにかしないとね」
女性二人が遠ざかり、不安そうなスパイクに、ジンがいつもの調子で答え、隣に寝かされている少女に視線を滑らせた。
放送が終わった今も尚、目覚める様子はない。
「さすがにこの子抱えたまま、『ラッド』のとこ向かうわけには行かないよね。早く目覚めてくれるといいけど」
「まあな……ったく、でかい荷物を持たされたもんだな」
溜め息を吐くスパイク。
「どうして、ここで俺が知り合う女は皆こう姦しいんだ」
431
:
かしまし〜ラブ&ピース・ミーツ・ガール〜
◆IaXd.lUSFI
:2008/07/13(日) 11:22:27 ID:g8kzJsow0
読子といいカレンといいシータといい。タイプこそ違うが、誰も大人しくしてくれない点だけは共通している。
舞衣もかなり気が強いようだし、ゆたかは大人しそうに見えたが実際は強情だった。
「……だから女とガキは苦手なんだっての」
「まあまあ、そう言って結構慣れてきたんじゃないの?」
ジンの言葉に、まあな、と小さく答える。
そして無意識にポケットに手を伸ばし、タバコはなかったことを思い出し腕を引っ込めた。
―――はあ……Dボゥイが持ってきてくれればいいが。……さすがにこの中に来たら気まずくなるだろうな。
二人の微妙な雰囲気で、スパイクは彼ら三人の関係性が何となく読めていたが、
大人が口を挟むべきでないだろうと触れていない。
「それにしても、そのDボゥイ?だっけ、彼は随分と女性にもてるんだねえ」
……やはり、ジンも気付いていたようだ。
おそらく当人たちは知られているなど夢にも思っていないだろうが、自分がDボゥイの名前を出した瞬間顔を赤くしたりうろたえ出したりと、端から見ているともろ分かりもいいところだ。
「多分あれだろうな。男は命知らずな奴ほどもてるんだろう。きっと戦場に向かう男なんてモテモテに違いない」
「……なんだかそのDボゥイって奴に会ってみたい気もするけど、会わない方がいい気もするね」
複雑そうな顔をするジン。
「まあ、恋愛ってのもいいかもね。こんな時だからこそ、何か心休まるものがあるってのも」
「必ず休まるとは限らんぞ……」
女性二人がいない間に、男同士恋愛の話で盛り上がる―――とはさすがにいかない。第一年齢が違い過ぎる。
―――それにしても、ジュリア、ねえ。
絶賛気絶中の少女が召喚していた蜘蛛の名前を思い出し、何とも言えない気持ちになる。
無論無関係なのは分かっているのだが、ジンが余計なことを言ったせいで頭に残ってしまった。
「……ん」
「お、お目覚めかな?」
その時、少女が小さく声を漏らす。
ジンが手を叩き、少女の脇に腰かけ明るく笑った。
「……な……ここは……」
「お疲れ様。君は戦って負けて気絶。オレはジン、こっちはスパイク。分かった?思い出したかい?」
ジンの軽い口調にも奈緒は何ら反応を示さず―――1つの名前を口にした。
「……かがみ」
「ん?」
「スパイク……柊かがみは……? あいつは、どこに行ったの……?」
そう叫ぶ奈緒の顔にあったのは、困惑。そして何よりも、怒り。
「あいつは……あいつはどうなったの?」
「柊かがみは逃走したよ」
スパイクの言葉に、ぴくりと奈緒の肩が揺れる。
「逃げたあ? あいつが? 死なないのにどうして?」
奈緒の口調から滲み出ている苛立ちから理解する。彼女は、おそらく自分でかがみを倒したかったのだと。
「……さあ? お前に恐れをなしたんじゃないか?」
理由はアイパッチで正気に戻ったからだと分かっていたが、あえてはぐらかす。
「ふざけないで! 私はあいつを克服して―――」
「分かったよ、ちゃんと話すから。だから落ち着いて、話でもしないかい?」
怒りで立ち上がったジンが奈緒をなだめ、座らせる。
そして、奈緒を無条件で黙らせる一言を、紡いだ。
「いろいろと君には聞きたいことがあってさ。柊かがみとのこととか、―――ギルガメッシュのこととかね、『ナオ』さん?」
432
:
かしまし〜ラブ&ピース・ミーツ・ガール〜
◆IaXd.lUSFI
:2008/07/13(日) 11:23:51 ID:g8kzJsow0
【C-5/住宅街/二日目/早朝〜朝】
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)、全身に切り傷
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING(刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式
予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、
短剣 、瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4
ナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)、偽・螺旋剣@Fate/stay night
デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7、ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
0:とりあえず奈緒から話を聞く
1:柊かがみを助け出す
2:ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
3:ニアに疑心暗鬼。
4:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
5:マタタビ殺害事件の真相について考える。
6:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※スパイクからルルーシュの能力に関する仮説を聞きました。何か起こるまで他言するつもりはありません。
※スパイクからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。今の所、他言するつもりはありません。
※ルルーシュがマタタビ殺害事件の黒幕かどうかについては、あくまで可能性の一つだというスタンスです。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※舞衣、ゆたかと情報交換を行いました。
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(大)、心労(大)、左腕から手の先が欠損(止血の応急手当はしましたが、再び出血する可能性があります)
左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし) 、腹部に未だ激しい痛み
[装備]:ジェリコ941改(残弾3/16)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×2欠損)ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)
スコップ、ライター、ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、太陽石&風水羅盤@カウボーイビバップ、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、防弾チョッキ(耐久力減少、血糊付着)@現実
日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、レーダー(破損)@アニロワオリジナル
ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム、高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿、
水上オートバイ、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
1:とりあえず、奈緒と話す。
2:十分に休息を取ったあと、柊かがみのところへ行く。
3:ウルフウッドを探す(見つけたあとどうするかは保留)
4:カミナを探し、その後、図書館を目指す。
5:ルルーシュと合流した場合、警戒しつつも守りきる。
6:テッククリスタルは入手したが、かがみが持ってたことに疑問。対処法は状況次第。
7:全部が終わったら死んだ仲間たちの墓を立てて、そこに酒をかける。
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。 会場のループについても認識しています。
※ドモン、Dボゥイ(これまでの顛末とラダムも含む)、ヴァッシュ、ウルフウッドと情報交換を行いました。
※シータの情報は『ウルフウッドに襲われるまで』と『ロボットに出会ってから』の間が抜けています。
※シータのロボットは飛行、レーザービーム機能持ちであることを確認。
433
:
かしまし〜ラブ&ピース・ミーツ・ガール〜
◆IaXd.lUSFI
:2008/07/13(日) 11:25:40 ID:g8kzJsow0
【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:疲労(特大)、右手打撲、左手に亀裂骨折、力が入らない、全身に打撲、顔面が腫れ上がっている、
左頬骨骨折、鼻骨骨折、更に更にかがみにトラウマ (少し乗り越えた)、螺旋力覚醒
[装備]:無し
[道具]:黄金の鎧の欠片@Fate/stay night
[思考]
基本方針:とりあえず死なないように行動。
0:金ぴか……!?
1:刑務所へ向かう予定だが、黒い球体の正体がわからないので、いつ行こうかちょっと迷ってる。
2:かがみを乗り越える。そして自分の手で倒す。
3:静留の動きには警戒しておく。
[備考]:
※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
※ドモンと情報交換済み。ガンダムについての情報をドモンから得ました。
※第2、4回放送はドモンと情報交換したので知っています。
※奈緒のバリアジャケットは《破絃の尖晶石》ジュリエット・ナオ・チャン@舞-乙HiME。飛行可能。
※不死者についての知識を得ています。
※ヴァルセーレの剣で攻撃を受けたため、両手の利きが悪くなっています。回復時期は未定です。
※かがみへのトラウマをわずかに乗り越えました
※第5回放送を聞き逃しました。
シェスカの全蔵書(数冊程度)@鋼の錬金術師、
奈緒が集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』) 、
黄金の鎧の欠片@Fate/stay nightが【C-5】のどこかに撒き散らされています。
434
:
かしまし〜ラブ&ピース・ミーツ・ガール〜
◆IaXd.lUSFI
:2008/07/13(日) 11:27:39 ID:g8kzJsow0
*
ニア。
ニア。ニア。ニア。ニア。ニア。ニア。ニア―――!
「許しません」
シータの頭で、その名前が何度も何度も繰り返される。
「絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に許しません……!」
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。早く早く早く早く、あの自らを侮辱した女・ニアを。
―――あらあら、負け犬のシータさんはまだ抵抗なさっているのですか?
聞こえてくるニアの声。自分を蔑み、見下している。
―――そんなので私に勝てるとでも? 貴方の兵隊さんとやらはとんだポンコツ。それに比べて私には、ドモンさんという素晴らしい武器があります。
「うるさい……うるさい……うるさい……!」
―――分かりますか? シータさん。これが私と貴方の格の違いというものです。螺旋王の娘である私に、ラピュタなんかの王族が勝てるはずありませんよ。
「……うるさいうるさいうるさい!」
―――それに……貴方はドモンさんを味方につけることができませんでしたから。……王族としてだけでなく、女としても私が勝っているようですね。
「黙れ、黙れこの雌豚がっ!」
―――……ではシータさん、またいずれ会いましょう。今以上に醜い姿にならないでくださいね? ……くすくすくす
それを最後に、ニアの声は聞こえなくなった。
シータが想像力を失ったからなのか、それとも特に理由などないのか。
一つだけ確かなのは、シータはニアの言葉に憎しみを募らせているということだけだ。
もはや焼けるような痛みはない。怒りと殺意の前には、全てが吹き飛んだ。
「……許せない……あんなことを言って私を侮辱して……許さない、許さない……!」
彼女は倫理感こそ失ったが、思考はまだ失ってはいない。
だからこれでも理解はしていた。……このままニアのところに向かっても、あのドモンというニアが籠絡した男―――とシータは信じ込んでいる―――に勝てないだろうと。
―――やはり、誰かに私の家来になって貰いましょう。
シータは考える。その家来があの男を倒してくれたら、自分はニアを思う存分殺すことができる。
―――いいえ、ただ殺すだけでは足りません。あの女は王族たる私・リュシータ・トエル・ウル・ラピュタを馬鹿にしたのです。拷問して、あの美しい髪を引き裂いてやりましょう。
肌を釘で引っ掻いて爪を剥いで内臓を引きずり出して瞳を抉りだして耳を切り落として、自分がいかに愚かで無礼で下品で醜い雌豚なのか分からせてあげましょう。
そして命乞いするニアを、私の呪文で粉微塵にしてあげます。ニアだけは、私と同じ価値観にもしてあげたくありません。……くす、くすくすくすくすくすくす……
まだまともな精神―――だと自分では思っている―――を保ちながら、シータはロボット兵に乗り空を舞う。
もっともその姿は、華麗とは到底言えようもなく、すさまじい憎悪に満ち溢れていたのだが。
「兵隊さん、降りて」
ロボット兵は、主人の命令に従って下降し始める。王女様の新たなる『兵隊』を見つけるために。
そして地面に降り立つと、シータはロボット兵を巨大な木の裏に動かし、そこに大人しく座らせた。
「貴方はここにいてください。私がピンチになったらちゃんと助けに来てくださいね?」
役に立つ兵隊を見つけるためには、このロボットを連れて歩いていると疑われる。完全に無力なふりをするには、手ぶらが一番だろう。
そして絶好のタイミングでロボット兵を呼び出し―――油断している背中にレーザーを浴びせるだけだ。簡単簡単。
自らの容姿が強者とは思われないというのは既にヴァッシュやスパイクで実践済み。更に今は火傷を負っている。まさか、大怪我をした少女がゲームに乗っているなどと考える奴はいないだろう。
「……では……」
少女は―――くすくすと歪に唇を歪ませた。
435
:
かしまし〜ラブ&ピース・ミーツ・ガール〜
◆IaXd.lUSFI
:2008/07/13(日) 11:28:14 ID:g8kzJsow0
*
「うっ…………あ……うくっ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
その泣き声の主に、ゆたかは駆け寄る。
それは小柄なゆたかと変わらないくらい小さな少女で、地面に座り込んでしゃくり上げている。
「……どうしたの? 何かあったの?」
どう考えても尋常ではなさそうな少女の態度に、ゆたかも舞衣も困惑の色を隠せない。
「……二……アが……」
そして、少女は荒く息を吐きながら顔を上げ、
「ニアが……ニアって子が、私の顔をこんな風に……!」
その、もはや面影のかけらもない顔を二人にさらした。
「……っう、……ひ、酷い……」
ゆたかが口元を押さえて蹲る。少女の顔には生々しいいやけどの跡が今も癒えずに残っている。少々火に巻き込まれたくらいではこうはならない。
思春期の女の子にとっては―――致命的なまでの大火傷。
「ニア? その子が貴方をこんなことに!? ……ゆたか、服緩めて!」
舞衣のてきぱきとした対応に、ゆたかはあ、うん、と慌てながらも頷いて少女のぼろぼろの衣服をただれた皮膚から剥がしていく。
「大丈夫だからね、落ち着いて」
「う……こ、怖かった……すごく怖かったんです……」
ずきり、と少女の心が痛む。
助けてあげないといけない。
この子は、私より弱い。こんな酷い目に遭わされて、もしかしたら死んだ方がましだと思っているかもしれない。
私だったら、どうだろう。
もしこんな大火傷を負ったら?泣くどころではすまないかもしれない。
だから、私が。
「大丈夫だよ」
「……う、……ぐす……でも……」
ゆたかは笑いかける。
そして、そっと手を差しのべた。
舞衣が、ジンが、スパイクがそうしてくれたように。
明智が、ねねねが、イリヤが、清麿がそうしてくれたように。
そして何より―――『好きな人』が、そうしてくれたように。
Dボゥイ、さん。
その名前を呟く。すると自然に勇気が湧いてきた。
傷ついた少女を救うための力。
自分のような、力無い存在を守りたいと願う力が。
―――ありがとう。
「私が……貴方を助けてあげるから」
皆の力によって救われた少女は、願う。
自分も―――誰かを助けたい、と。
「だから―――泣かないで」
*
くすくす。くすくすくすくすくす。
この子、すごく弱そうですけれど―――とても役に立ちそうですね。
二人の姿が見えたから咄嗟に泣き真似をしたら、すぐに信じてしまうんですもの。
ニアのように私に生意気な口を聞いたりしませんし……。もし敵が襲ってきたら、このリュシータ王女の盾として使ってあげてもよろしいですよ?
さあ、ゆたかさん、貴方も私の命を守る兵隊さんになってくれますよね?私のために死んでくれますよね?
そして、この私を侮辱した最低の屑・ニアとすべての人間を殺してやりましょう!
くす。くすくすくす。
くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす―――
一人の少女の優しさと。
一人の少女の強さと。
一人の少女の憎しみを乗せて―――彼らの行方はどこへ向かうのだろうか。
436
:
かしまし〜ラブ&ピース・ミーツ・ガール〜
◆IaXd.lUSFI
:2008/07/13(日) 11:28:43 ID:g8kzJsow0
【C-4/川辺/二日目/早朝〜朝】
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:発熱(中)、疲労(大)、心労(中)、罪悪感、螺旋力覚醒
[装備]:フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]
基本-みんなで帰る
0:目の前の女の子を助ける
1:Dボゥイのところへ戻る
2:かがみをラッドから助け出す
3:舞衣がDボゥイを好きなのかどうか気になる
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※再び螺旋力が表に出てきました。
※ねねねと清麿が生きていることに気がつきました。明智の死を乗り越えました。
※Dボゥイの肉体崩壊の可能性に気がつきました。
※舞衣との会話を通じて、少し罪悪感が晴れました。
※シータがスパイクの話していた『ロボット兵に乗った少女』 とは気づいていません。
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労(大)、倫理観及び道徳観念の崩壊(判断力は失われていません)、右肩に痺れ(動かす分には問題無し)、全身に火傷による負傷(体は軽度)、顔の左半面が火傷で爛れています(右側にも火傷が及び、もはや面影なし)、おさげ喪失
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:自分の外見を利用して、邪魔者は手段を念入りに選んだ上で始末する。優勝して自分の大切な人たちを、自分の価値観に合わせて生き返らせる?
0:何を差し置いてもニアの殺害。
1:目の前の少女に助けてもらい、油断したところをロボット兵で殺す。使えそうなら盾になってもらう。
2:ニアにたぶらかされたドモンの殺害。
3:気に入った人間はとりあえず生かす。ゲームの最後に殺した上で、生き返らせる。
4:使えそうな人間は抱きこむ。その際には口でも体でも何でも用いて篭絡する。
[備考]
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※バリアジャケットは現状解除されています。防御力皆無のバリアジャケットなら令呪が無くても展開できるかもしれません。
※バリアジャケットのモデルはカリオスト○の城のク○リスの白いドレスです。
夜間迷彩モードを作成しました。モデルは魔○の宅○便のキ○の服です。
※言峰から言伝でストラーダの性能の説明を受けています。
ストラーダ使用による体への負担は少しはあるようですが、今のところは大丈夫のようです。
※エドがパソコンで何をやっていたのかは正確には把握してません。
※かがみを一度殺してしまった事実を、スパイクとウルフウッドが知っていると誤解しています。
※会場のループを認識しました。
※シータがごみ屋敷から北上中に静留と舞衣の姿を確認したかどうかはわかりません。
※ヴァルセーレの剣には奈緒のエレメントの力、アルベルトの衝撃の力、
ヴァッシュのAA(もしくはプラントとしての)エネルギーが蓄えられています。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガンはヴァッシュの遺体(A-3とA-4の境目)の側に放置されています。
※シルバーケープが使い物にならなくなったかどうかは不明です。
※ロボット兵の頭にはカリバーン@Fate/stay nightが突き刺さっています
※ヴァルセーレの剣から本編までに溜め込まれた『魔物』の力が失われました。奈緒のエレメント、アルベルトの衝撃、ヴァッシュのAAの力は健在です。ただし、通常の呪文では開放することができないようです。
※ニアという存在に対する激しい憎悪が刻まれました。自分にないものも持っていたものも全て持っている存在で、許し難いという認識です。
※ニアを憎悪するあまり、聞こえるはずのないニアの声が聞こえます(全てシータを嘲る内容)
※ロボット兵はドモンの一撃によって半壊、胴体に穴が開いています。レーザー機能に支障をきたしています(故障か、チャージに時間がかかるのかは未定)
※デイパックを投げ捨てたため、下記の支給品はB-5の卸売り場に放置されています。
支給品一式 ×6(食糧:食パン六枚切り三斤、ミネラルウォーター500ml2本)、
びしょ濡れのかがみの制服、暗視スコープ、
音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ミロク@舞-HiME、
ワルサーP99(残弾4/16)@カウボーイビバップ、軍用ナイフ@現実、包丁@現実
※ラピュタのロボット兵@天空の城ラピュタ、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル、ヴァッシュの生首はC-4のエリアのどこかに置かれています。
機体状況:中破(レーザー機能に不備発生)、多少の汚れ、※ヴァッシュとのコンタクトで影響があるのかは不明
437
:
かしまし〜ラブ&ピース・ミーツ・ガール〜
◆IaXd.lUSFI
:2008/07/13(日) 11:29:36 ID:g8kzJsow0
*
―――この子、どうやってこんな火傷を負ったのかしら?
舞衣は少女の服を脱がせながらも、そう考える。
他人を意図的に燃やそうとしてここまでできるだろうか。
案外、火をつけるというのは難しい。自分が放火を行っていたからこそ分かるのだが、一つのものを狙っての点火、ことに動くものにはそう簡単にできるものではない。
少女からはガソリン類の匂いもしないことだし。
……まるで、自ら炎を被りにいったかのような惨状なのだ。
それに。
少女は『ニア』という名前をまず出した。
舞衣は知らない名前だが、本当にパニックに陥っているなら名前など出すだろうか?
これも経験。全身を焼かれるような凶行を体験すれば、ごく普通の人間なら恐怖のあまり声も出なくなるのではないか?
スパイクが言っていた。ロボットに乗った、小さな少女。『無害な一般人を装って』、彼の腕を切り落とし、一人を殺めた殺人者。
小さな、女の子―――
―――まさか、ね?
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、シーツを体に巻きつけただけの服、引っ張られた頬、首輪なし、全身に軽い切り傷
[装備]:薄手のシーツ、 ゲイボルク@Fate/stay night
[道具]:なし
[思考]: 皆でここから脱出
0:目の前の少女の保護(しかし、少しひっかかる)
1:Dボゥイに会いたい。
2:ゆたかがDボゥイを好きなのかどうか気になる
[備考]
※HiMEの能力の一切を失いました。現状ただの女の子です。
※静留がHiMEだったと知っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※ギアスの効果は切れた模様です。
※螺旋力覚醒
※ジン、スパイク、ゆたかと情報交換を行いました
※シータがスパイクの言っていた少女かもしれない、と少しだけ疑っています。
438
:
かしまし〜ラブ&ピース・ミーツ・ガール〜
◆IaXd.lUSFI
:2008/07/14(月) 01:20:42 ID:gRp6JIBI0
>>435
差し替え
*
「うっ…………あ……うくっ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
その泣き声の主に、ゆたかは駆け寄る。
それは小柄なゆたかと変わらないくらい小さな少女で、地面に座り込んでしゃくり上げている。
「……どうしたの? 何かあったの?」
どう考えても尋常ではなさそうな少女の態度に、ゆたかも舞衣も困惑の色を隠せない。
「……二……アが……」
そして、少女は荒く息を吐きながら顔を上げ、
「ニアが……ニアって子が、私の顔をこんな風に……!」
その、もはや面影のかけらもない顔を二人にさらした。
「……っう、……ひ、酷い……」
ゆたかが口元を押さえて蹲る。少女の顔には生々しいいやけどの跡が今も癒えずに残っている。少々火に巻き込まれたくらいではこうはならない。
思春期の女の子にとっては―――致命的なまでの大火傷。
「ニア? その子が貴方をこんなことに!? ……ゆたか、服緩めて!」
舞衣のてきぱきとした対応に、ゆたかはあ、うん、と慌てながらも頷いて少女のぼろぼろの衣服をただれた皮膚から剥がしていく。
ニア、という名前は聞いた覚えがある。確かスパイクとジンが道中で会い、わずかな間行動を共にしたという少女だ。二人の話からは危険人物だという情報はなかったが―――。
「い、いや、いやあああああ……に、ニアは……いい子だと思ってたのに……お友達になれると思ったのに……なのに、あんなに酷いことを……!」
錯乱した彼女の言葉から事実をつなぎ合わせると、そのニアは善良な人間を装い、彼女に攻撃してきたらしい。
「大丈夫だからね、だから落ち着いて……貴方の名前は?」
「シ、シー……シャマルです。……う……こ、怖かった……すごく怖かったんです……」
ずきり、とゆたかの心が痛む。
―――助けてあげないといけない。
この子は、私より弱い。こんな酷い目に遭わされて、もしかしたら死んだ方がましだと思っているかもしれない。
私だったら、どうだろう。
もしこんな大火傷を負ったら?泣くどころではすまないかもしれない。
だから、私が。
「大丈夫だよ」
「……う、……ぐす……でも……」
ゆたかは笑いかける。
そして、そっと手を差しのべた。
舞衣が、ジンが、スパイクがそうしてくれたように。
明智が、ねねねが、イリヤが、清麿がそうしてくれたように。
そして何より―――『好きな人』が、そうしてくれたように。
「私は、小早川ゆたかって言います」
Dボゥイ、さん。
その名前を呟く。すると自然に勇気が湧いてきた。
傷ついた少女を救うための力。
自分のような、力無い存在を守りたいと願う力が。
―――ありがとう。
「私が……貴方を助けてあげるから」
皆の力によって救われた少女は、願う。
自分も―――誰かを助けたい、と。
「だから―――泣かないで」
*
くすくす。くすくすくすくすくす。
この子、すごく弱そうですけれど―――とても役に立ちそうですね。
二人の姿が見えたから咄嗟に泣き真似をしたら、すぐに信じてしまうんですもの。
それに名前だって。名簿で自分の名前と少し似ていたものを適当に言っても、少しも疑いもしません。
本当は気高い私が他の女の名前を名乗るなど嫌なのですが―――私のことを知っている人もいるかもしれません。
ああ、私はなんて気の付く姫様なのでしょう!
ニアのように私に生意気な口を聞いたりしませんし……。もし敵が襲ってきたら、このリュシータ王女の盾として使ってあげてもよろしいですよ?
さあ、ゆたかさん、でしたかしら?
貴方も私の命を守る兵隊さんになってくれますよね?私のために死んでくれますよね?
そして、この私を侮辱した最低の屑・ニアとすべての人間を殺してやりましょう!
くす。くすくすくす。
くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす―――
一人の少女の優しさと。
一人の少女の強さと。
一人の少女の憎しみを乗せて―――彼らの行方はどこへ向かうのだろうか。
439
:
かしまし〜ラブ&ピース・ミーツ・ガール〜
◆IaXd.lUSFI
:2008/07/14(月) 01:23:30 ID:gRp6JIBI0
【C-4/川辺/二日目/早朝〜朝】
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:発熱(中)、疲労(大)、心労(中)、罪悪感、螺旋力覚醒
[装備]:フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]
基本-みんなで帰る
0:目の前の女の子を助ける
1:Dボゥイのところへ戻る
2:かがみをラッドから助け出す
3:舞衣がDボゥイを好きなのかどうか気になる
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※再び螺旋力が表に出てきました。
※ねねねと清麿が生きていることに気がつきました。明智の死を乗り越えました。
※Dボゥイの肉体崩壊の可能性に気がつきました。
※舞衣との会話を通じて、少し罪悪感が晴れました。
※シータがスパイクの話していた『ロボット兵に乗った少女』とは気づいていません。
※シータの名前をシャマルだと思っています。
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労(大)、倫理観及び道徳観念の崩壊(判断力は失われていません)、右肩に痺れ(動かす分には問題無し)、全身に火傷による負傷(体は軽度)、顔の左半面が火傷で爛れています(右側にも火傷が及び、もはや面影なし)、おさげ喪失
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:自分の外見を利用して、邪魔者は手段を念入りに選んだ上で始末する。優勝して自分の大切な人たちを、自分の価値観に合わせて生き返らせる?
0:何を差し置いてもニアの殺害。
1:目の前の少女(ゆたか)に助けてもらい、油断したところをロボット兵で殺す。使えそうなら盾になってもらう。
2:ニアにたぶらかされたドモンの殺害。
3:気に入った人間はとりあえず生かす。ゲームの最後に殺した上で、生き返らせる。
4:使えそうな人間は抱きこむ。その際には口でも体でも何でも用いて篭絡する。
[備考]
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※バリアジャケットは現状解除されています。防御力皆無のバリアジャケットなら令呪が無くても展開できるかもしれません。
※バリアジャケットのモデルはカリオスト○の城のク○リスの白いドレスです。
夜間迷彩モードを作成しました。モデルは魔○の宅○便のキ○の服です。
※言峰から言伝でストラーダの性能の説明を受けています。
ストラーダ使用による体への負担は少しはあるようですが、今のところは大丈夫のようです。
※エドがパソコンで何をやっていたのかは正確には把握してません。
※かがみを一度殺してしまった事実を、スパイクとウルフウッドが知っていると誤解しています。
※会場のループを認識しました。
※シータがごみ屋敷から北上中に静留と舞衣の姿を確認したかどうかはわかりません。
※ヴァルセーレの剣には奈緒のエレメントの力、アルベルトの衝撃の力、
ヴァッシュのAA(もしくはプラントとしての)エネルギーが蓄えられています。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガンはヴァッシュの遺体(A-3とA-4の境目)の側に放置されています。
※シルバーケープが使い物にならなくなったかどうかは不明です。
※ロボット兵の頭にはカリバーン@Fate/stay nightが突き刺さっています
※ヴァルセーレの剣から本編までに溜め込まれた『魔物』の力が失われました。奈緒のエレメント、アルベルトの衝撃、ヴァッシュのAAの力は健在です。ただし、通常の呪文では開放することができないようです。
※ニアという存在に対する激しい憎悪が刻まれました。自分にないものも持っていたものも全て持っている存在で、許し難いという認識です。
※ニアを憎悪するあまり、聞こえるはずのないニアの声が聞こえます(全てシータを嘲る内容)
※ロボット兵はドモンの一撃によって半壊、胴体に穴が開いています。レーザー機能に支障をきたしています(故障か、チャージに時間がかかるのかは未定)
※デイパックを投げ捨てたため、下記の支給品はB-5の卸売り場に放置されています。
支給品一式 ×6(食糧:食パン六枚切り三斤、ミネラルウォーター500ml2本)、
びしょ濡れのかがみの制服、暗視スコープ、
音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ミロク@舞-HiME、
ワルサーP99(残弾4/16)@カウボーイビバップ、軍用ナイフ@現実、包丁@現実
※ラピュタのロボット兵@天空の城ラピュタ、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル、ヴァッシュの生首はC-4のエリアのどこかに置かれています。
機体状況:中破(レーザー機能に不備発生)、多少の汚れ、※ヴァッシュとのコンタクトで影響があるのかは不明
440
:
かしまし〜ラブ&ピース・ミーツ・ガール〜
◆IaXd.lUSFI
:2008/07/14(月) 01:24:59 ID:gRp6JIBI0
*
―――この子、どうやってこんな火傷を負ったのかしら?
舞衣は少女の服を脱がせながらも、そう考える。
他人を意図的に燃やそうとしてここまでできるだろうか。
案外、火をつけるというのは難しい。自分が放火を行っていたからこそ分かるのだが、一つのものを狙っての点火、ことに動くものにはそう簡単にできるものではない。
少女からはガソリン類の匂いもしないことだし。
……まるで、自ら炎を被りにいったかのような惨状なのだ。
それに。
少女は『ニア』という名前を出した。
シャマルと名乗った彼女の言葉を信じるなら、そのニアは実は殺し合いに乗っているということだ。
しかし、何か引っかかる。
これも経験。全身を焼かれるような凶行を体験すれば、ごく普通の人間なら恐怖のあまり声も出なくなるのではないか?
ましてや、友と慕い拠り所にしていた存在ならば、尚更。
スパイクが言っていた。ロボットに乗った、小さな少女。『無害な一般人を装って』、彼の腕を切り落とし、一人を殺めた殺人者。
小さな、女の子―――
―――まさか、ね?
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、シーツを体に巻きつけただけの服、引っ張られた頬、首輪なし、全身に軽い切り傷
[装備]:薄手のシーツ、 ゲイボルク@Fate/stay night
[道具]:なし
[思考]: 皆でここから脱出
0:目の前の少女の保護(しかし、少しひっかかる)
1:Dボゥイに会いたい。
2:ゆたかがDボゥイを好きなのかどうか気になる
[備考]
※HiMEの能力の一切を失いました。現状ただの女の子です。
※静留がHiMEだったと知っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※ギアスの効果は切れた模様です。
※螺旋力覚醒
※ジン、スパイク、ゆたかと情報交換を行いました
※シャマル(シータ)がスパイクの言っていた少女かもしれない、と少しだけ疑っています。
441
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 00:58:50 ID:94YoDRbk0
――これは、全ての始まりよりも後の、しかし正式な始まりよりは前の、小規模な座談会。
その日の王は、いよいよ始動する壮大な計画を前にして、気持ちが高ぶっていた。
青さを露呈したまま、君臨者として頂点に立つのは危険だ。
「ようこそ、我が居城へ」
そう判断した王は、『旅人』を二人、『客人』として王都に招いた。
客人の来訪を知る者は、王しかいない。配下の者たちには秘密とした、王と客人だけの密会だ。
このとき、旅人であった客人は、王の強引な招待についてどう思っただろうか?
光栄と思ったか、迷惑と思ったか、帰りたいというのが本音だったかもしれない。
そもそもこの客人は、本当に『人』であっただろうか。定かではない。
また、ここで語る分においては、客人の詳細などまったく不要でもあった。
故に、客人は王に招かれた単なる二人の旅人として、王の話を拝聴する。
◇ ◇ ◇
442
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 00:59:44 ID:94YoDRbk0
一室に、王と、客人と、客人の相棒が集っていた。
部屋の間取りは広かったかもしれないし、狭かったかもしれない。
部屋には茶会を気取ったように飲食物が置かれていたかもしれないし、置かれていなかったかもしれない。
客人は束縛された状態で嫌々話を聞いていたかもしれないし、むしろ喜々として耳を傾けていたかもしれない。
不要な情報は一切省く。そこには、話を切り出さんとする王と、聞き手である客人、同じく聞き手を務める客人の相棒がいた。
「諸君らを招いたのは、私がこれから始める計画について、意見を貰いたかったからだ」
王は、第三者の客観的な意見を求めた。
ひょっとしたら、自分の見通しは甘いかもしれない。そんな人間らしい恐れから来る、王らしくもない切望だった。
王の申し出に、客人がどのような感情を抱いたかはわからない。ただ、こくり、と頷いて席についた。それだけで十分だった。
王は語る。これから、『実験』を始める……と。
それはどのような実験ですか、と客人が訪ねると、王は、螺旋力による新世界の創世は可能か否かを見極める実験だ、と返した。
客人は、ふむ、と曖昧に返事をし、客人の相棒は、あはは、と軽く笑い飛ばした。
普段なら無礼にあたる対応だろうが、客人の率直な反応を咎める意志は、王にはない。
王が求めているのは、計画の外面に対する意見ではなく、あくまでも中身に対する意見だ。
王とて人間であるからして、この計画が非人道的な方法を持ってして進められることも、多くの者が同感を覚えることも、理解しているつもりだった。
そうなのである――この王は、自身が愚か者であることを自覚していた。
民を思わず、国を思わず、縋っているのは過去の栄光、見据えているのはありえなかったもう一人の自分。
それら、詩のように己の志を謳ったとしても、部外者である客人は首を傾げるだけだった。
誰にも理解などしてもらえない、意地……だが、一人の男として貫かなければならない。
だからこそ、実験をするのだ。
443
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:00:34 ID:94YoDRbk0
王は、客人に説明する。
実験の趣旨、実験の方法、実験の危険性、実験の問題性、実験をする上での懸念事項、実験成功の確率など……科学者としての一面を饒舌な口に乗せた。
客人は居眠りをすることもなく――客人の相棒は若干うわの空だったが――王の計画を聞いていく。
その途中、客人が王に一つの質問をする。
――実験には、どのような方々が参加なされるのですか?
客人の発した、初めての言葉らしい言葉だった。
相手に会話をする意志がある、と改めて認識し、王は満悦になった。
客人の疑問に答えるべく、王は映像による回答を用意した。
部屋の壁、あるいは天井、あるいは床に、無数のモニターが現れる。
映し出された映像の中には、実験参加者たちの顔ぶれや、彼らが住んでいる世界の情景が納まっていた。
感嘆の息を漏らす客人に、王はやや上ずった声で解説を始める。
◇ ◇ ◇
候補に挙がった『世界』は『20』。
実験を効率よく行うのに最適な人数は、シミュレートしてみたところ『82』。
この20の候補は、無限大に存在する多元宇宙を拙い技術で廻り、干渉が容易であると絞られた世界を指す。
82という数は、運営上の都合もあるが、実際は『とある王が行った前例』による影響が強い。
では、これより順々に、20の世界と82名の参加者について語っていこう。
◇ ◇ ◇
444
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:01:45 ID:94YoDRbk0
まず――シモン、カミナ、ヨーコ、ニア、ヴィラル
彼らは、螺旋王が実験を計画する発端ともなった『羨望の対象たる世界』に在住している。
王の宿敵を、王の存在しない世界で撃破してみせたシモン。彼に成長を促した仲間たち。
実験の目的の一つたる『真なる覚醒者』……その最有力候補が、彼らだった。
次に――スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、エリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエ、八神はやて、シャマル、クアットロ
一定数の並行世界を統制する組織に属す、魔法という概念を抱えた人間たち。
件の、『とある王が行った前例』にも参加していた、貴重な役柄を担う存在だった。
世界の広さを知り、しかし多元宇宙の存在までは知らぬ不完全なる開拓者たちは、自らの掌ではどう踊るだろうか?
次に――Dボゥイ、相羽シンヤ
ラダム、という宇宙の中でも異種な生命体を発端とした、肉親たちの殺し合い……。
地球の平和を懸けたその戦いの規模よりも、戦乱の渦中に置かれた兄弟の感情に着目した。
運命が操作する、憎悪を越えた憎悪……負の力は、螺旋遺伝子にどう作用するだろうか。
次に――パズー、リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ、ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ、ドーラ
まるで、御伽話のような世界だった。
法則を無視した天空の城、それを廻る子供の夢、大人の野望。
偉業を成し遂げる意志の強さには、どこか可能性を感じさせる部分があった。
次に――ヴァッシュ・ザ・スタンピード、ニコラス・D・ウルフウッド
二人の男が掲げる、人間の生死に関する解釈の違い。
共感は覚えずとも、戯言と無碍にするには情熱的すぎる、誇りのようなものを垣間見た。
信念は……遺伝子が生み出す芯は、下卑た戦いの場でも枉げられないのだろうか。
445
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:02:08 ID:94YoDRbk0
次に――糸色望、風浦可符香、木津千里
彼らの世界は、他の世界に比べ、空気が違いすぎた。
現実がまるで虚構であるように、誰もが誰も、本気ではいない。住まう者全てが、第三者であるように思えたほどだ。
螺旋の片鱗は窺えなかったが、彼らが『他』と交わりあうところを、少し見てみたかったのかもしれない。
次に――アニタ・キング、読子・リードマン、菫川ねねね
紙使いを始めとする、奇異な現象や能力の発現、それらの根幹には、この世界が独自に築いた文化の影があった。
魔法ともまた違ったシステムを組む事象の数々は、螺旋の力となにかしらの関係があるのだろうか。
候補者として選ばれた三人に共通する、本という娯楽は……ニンゲンたちが持たぬ文化だ。
次に――アイザック・ディアン、ミリア・ハーヴェント、ジャグジー・スプロット、ラッド・ルッソ、チェスワフ・メイエル、クレア・スタンフィールド
生命の法則の破綻、崩壊、もしくは進化なのか。
不死者、そして多元宇宙の存在すら知り得る悪魔の存在を知ったときは、あの宿敵を前にしたときのような畏怖に襲われた。
彼らはいったい何者なのか、彼らと舞台を同じくする人間も何者なのか、悪魔は……王の抱える悪夢をどう思うだろうか。
次に――ドモン・カッシュ、東方不敗、シュバルツ・ブルーダー、アレンビー・ビアズリー
人と科学の最終形、その一つのパターンが、ガンダムファイトにはあった。
偶然から入手した未来の技術までには至らずとも、超発達した文明はどう機能するのか。
そんな高度な社会に住まいながら、『闘志』という生命としての捨てられない性を実行する彼らに、惹かれた部分もある。
次に――神行太保・戴宗、衝撃のアルベルト、素晴らしきヒィッツカラルド
BF団という、覗いてみただけでは全容の知れない謎の組織……そしてそれらと対立する国際警察機構。
なんとも単純明快な正義対悪の構図が、逆に違和感を与えた。
双方に組する者は、皆それぞれ異なる信念を掲げているというのに……。
446
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:02:57 ID:94YoDRbk0
次に――ジン、キール
複雑に入り乱れた世界体系の中で、輝くものは星さえも盗むと言われた王ドロボウの逸話。
一人の少年と一羽の鳥が織り成す物語は、傍観しているだけでも心に響くものがあった。
彼らを実験に加えたとして、王ドロボウはいったいなにを盗み出すのか……そんな好奇心が湧いた。
次に――ルルーシュ・ランペルージ、枢木スザク、カレン・シュタットフェルト、ジェレミア・ゴットバルト、ロイド・アスプルンド、マオ
ギアス――他者を従える絶対遵守の力。王の証。BF団同様、覗いてみただけでは全容が知れない。
その、人間の持つ遺伝子に作用するらしい謎の能力に対して、科学者としての探究心が疼いたのもまた事実だ。
この世界で魔女と呼ばれた存在は、王の旅立ちをどう解釈し、どう対処するものか……。
次に――泉こなた、柊かがみ、柊つかさ、小早川ゆたか
なんの変哲もない世界、なんの変哲もない日常、なんの変哲もない平和。
彼女らを招く意味は……取ってつけるとしたら、アクセントだろうか。
螺旋の意志となんら関わりのない場に立つ彼女らこそ、あるいは……。
次に――金田一一、剣持勇、明智健悟、高遠遙一
彼らもまた、螺旋の片鱗など感じさせぬ世を生きる者たちだ。
しかしその中で、だからこその知恵を働かせる姿は……他の者たちにはない、碧の輝きを予感させた。
比較対象としての意味合いも強く、またステージを演出するエンターテイナーとしての活躍も期待した。
次に――エドワード・エルリック、アルフォンス・エルリック、ロイ・マスタング、リザ・ホークアイ、スカー(傷の男)、マース・ヒューズ
この世界が築き上げた錬金術という法は、他の世界で知られる錬金術とはまったく違ったものだった。
法則性を探れば、罷り通っているように思える。しかし他の世界と比べれば、それは矛盾を成す法則だ。
そもそも、王が創り出す実験場の理は不条理……等価交換の原則も、絶対ではない。
447
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:03:20 ID:94YoDRbk0
次に――クロ、ミー、マタタビ
彼らはまず、人ではない。獣人にも劣る獣と、獣ですらなくなったモノだ。
しかしその一方で、彼らは獣でありながら、誰よりも人間らしい一面を持っている。
この世界の獣とは、王の知識の中にある『遺伝子を持たぬ者』ではないのか……確かめてみる必要があった。
次に――スパイク・スピーゲル、ジェット・ブラック、エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世、ビシャス
多元宇宙の存在を知るに、最も相応しい発達をした文明……でありながら、生き方を変えなかった男たち。
世の中は移り変わろうとも、人としての本質は変わらないのではないか。
そんなことを考えさせられた、故の招待だ。
次に――衛宮士郎、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、ランサー、間桐慎二、ギルガメッシュ、言峰綺礼
――実験を計画する上で、参考とした三つの戦いがある。
その一つが、聖杯戦争……『とある王が行った前例』にも参加していた、魔術師たちの戦いだ。
歴史ある闘争への介入は、功を成すか。
次に――ガッシュ・ベル、高嶺清麿、パルコ・フォルゴレ、ビクトリーム
魔界の王を決める戦い……百組による乱戦を破綻させず進行する、統制されたシステムには、見習うべき部分が多々あった。
魔物と人間、異なる種を組ませ、感情の操作や本のルール、成長による力の発現など、そのまま流用したいほどの完璧さだ。
この仕組みを築き上げた存在に興味を募らせながら、王位争奪戦への介入も決めた。
次に――鴇羽舞衣、玖我なつき、藤乃静留、結城奈緒
蝕の祭……戦姫の神事と謳われたこの戦いも、螺旋遺伝子に大いに関わる要素を含んでいた。
他者を触媒としての、力の発現。愛情による遺伝子の加速を元にした、言わば想いの力。
螺旋力の覚醒とは似て非なる現象に、探求を切望し、そして役者は集った。
――以上、この82名が此度の実験対象となる。
◇ ◇ ◇
448
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:04:19 ID:94YoDRbk0
「――どうだろうか。私が選りすぐった82名の実験体……いや、可能性の生き様は?」
王、客人、客人の相棒が集う部屋を埋め尽くす、無数の声。
数を数えるのも億劫なモニターには、いくつもの多元宇宙の映像が絶えることなく映し出されている。
計画のメインである82人の紹介が終わっても、客人は移り変わる映像を目で追い続けた。
『オレたち年寄りが世の中に撒いたクソは、オレたちで片づける。おまえらガキは安心して先へ進め』
『私はこれと共に生き、これと共に死す! 今更なんの躊躇いがあろうかぁ!』
『格式だの家柄だのってやつは、わたしゃあ胸がムカつくんでね! そいつァ人間の一番愚劣な病気みたいなもんだ!』
『あたしは、もうここにはいない。でも、この日のあたしは、ずっとここからあなたを応援している。たったひとりの、あたしへ』
『悲嘆する事はない。おまえの望みは、私が代わりに果たすだけだ』
『俺は犬好きだぞ。炒めて食うと美味いらしい』
『ねぇ、あなたの夢を聞かせて?』
『わたくし、ある方をお待ちしておりますの。そして、ダンスはその方と、と心に決めておりますの』
『あああああああ憎い! あのサルが憎い! 憎い、憎い、ジェララララララララララ!!』
『百万匹の猿の手よ。祈れ、三つの願いを。繁栄と享楽と――いや、今はただ生存を。生き残るんだ、どんな手段を使っても』
『もぉ〜だめだよ勝手に入ってきたらぁ! いま表面処理中なんだから! 一本の毛埃が無限の絶望を……』
『さぁ、そのお買い得超レア廃盤DVDを俺の下に持ってくるんだッ』
『現実を凝視しろ。おまえは矛盾だらけだ。綺麗事と痩せ我慢の生き方がおまえの心を蝕んでるんじゃないか?』
『小鬼だ。小鬼がおる……』
『大儀を失ったDCは、今日ここで我が斬艦刀の前に……潰えるのだァァ!!』
『やっちゃったよあの娘たち。とうとうやっちゃった。こうならないように段取ってきたっていうのに、もー!』
『天に竹林! 地に少林寺! 目に物見せよう最終秘伝!!』
『ずっと考えてたことの答えが……やっと出たよ……消えてしまういつか、なんて、どうでもよかったんだ……今いる僕がなにをするか、だったんだ』
『All right. Barrier Jacket standing up. Active Guard with Holding Net.』
『男は床で寝ろ』
『やっぱり嘘だったんですね。……中に誰もいませんよ?』
『告訴します。これは完全なるセクハラです。あなたを告訴します! 嘆いても無駄です!』
『気づいたら、お風呂からこの部屋にいたの。このベッドの上で馬乗りになって首を絞めてるの、確かに見たわ!』
『あなたはもうすぐ、人類を束ねる偉人に生まれ変わるわ。そのとき、記憶の片隅にでも私を覚えていたら……好きなように復讐して』
『僕の意識が戻った時、先生は言ってたじゃない。あの人達を殺したいほど憎んでたじゃない。先生の望む通りにしてあげたんだよ』
『前の人の血も油も落としてないんです。だから、ものすごぉく痛いと思います。ごめんなさぁい』
『忘却を、苦しみから逃れる手段に使ってはならない。だが、彼だけにはそれが許される。いや、許されるような気がする。もし、神が居るのなら、それは彼に与えたものだ。救いなのだ』
449
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:05:03 ID:94YoDRbk0
――…………。
無限に存在する宇宙、その一つ一つは、旅人などやっていては一生拝めない奇観だ。
それらを目にし、客人はなにを感じているだろうか。
無言の瞳は一切の主張をせず、しばしの時が流れた。
王は客人の返答を、ただじっと待つ。視線にあからさまな期待を込め、客人の無垢な双眸と衝突した。
客人は尊大な眼差しを受けてもなお自我を崩さず、淡々とした口調で感想を言う。
――そうですね。特にボクから言うことはないです。まぁ、たぶん上手くいくんじゃないでしょうか?
客人の口から漏れたのは、王が望んだものとは違う、なんとも軽薄な言葉だった。
王は吐息に落胆の色を混ぜ、客人の相棒にも同じ質問をしてみる。
客人の相棒は、よくわかんないや、とより適当な言葉を返すだけだった。
――『彼ら』は、別に問題ないと思いますよ。それよりも、焦点は『その他』じゃないんでしょうか?
淡白な顔つきはそのままに、客人が意見を述べる。
王は愚か者ではあったが、自ら招いた客人を無碍に扱うほど傲岸ではなく、これを素直に傾聴し始める。
――思うんですが……どうしてあなたは、こんな無謀なことをするんですか?
心臓を、鷲掴みにされたような気分になった。
ああ……この客人は、実に聡明な聞き手だ。
王が気にしていた、第三者に指摘されたいと思っていたところを、抉るように突いてくる。
王は耳を背けなかった。苦い顔一つせず、客人が遠慮なく話せるよう、座して待った。
――あなたはこの世の誰よりも、あなたが宿敵と憎む相手を知っている。
――なのにあなたは、宿敵の望まない結果を望んでいる。宿敵が怖いはずなのに。
――宿敵が怖いから、正攻法じゃなくて、こんな『逃げ』みたいな方法を取るんでしょうが……。
450
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:06:02 ID:94YoDRbk0
宿敵……そうだ。王には、絶対に相容れない宿敵がいた。
その存在は全ての宇宙を統べる者にして、宇宙そのもの。
その存在は人間を恐れる者にして、人類全ての敵。
彼らは人類進化の抑制剤にして、歯止め。
かつての王とは、真逆にいた者。
……一時期は、それもやむなし、と諦めた。
王は宿敵との死闘の末、敗れた。敗れてなお、敗残兵として人間を統治する任についている。
それが、宿敵の矛を受けず、人類が危難なしに存続できる唯一の道だったからだ。
だが。
知ってしまった。人類の持つ術では、見ることもできなかったもう一つの宇宙――。
手にしてしまった。宿敵の持つ技術をも越えたかもしれない、天からの恩恵によって得た力――。
羨み、憧れてしまった。自身では成し遂げられなかった偉業を果たす、ドリルを掲げた一人の男の姿に――。
――矛盾してますよね。あなたは、この実験の弱所を見極めている。はずなのに。
客人の言うとおり、これは正攻法ではなく、『逃げ』の一手による決死の抵抗だ。
正面から倒すことはできなくとも、裏技のような方法で、宿敵を出し抜くことができるかもしれない。
そして、数多の多元宇宙に存在する王が、誰一人として到達できなかった領域へと上り詰められるかもしれない。
――……宿敵に滅ぼされる可能性を知りつつも、計画を強行しようとするのは、せめてもの闘志ですか?
かといって、確実な勝算があるわけでもない。
王が敵対する相手は、あまりにも強大だ。苦肉の策である『実験』も、容易く看破される危険性を孕んでいる。
宿敵は、王にまだ戦意が残っていると知ったらどうするだろうか。……今度こそ、滅ぼしに来るだろうか。
「……悪夢と、悲願。捻れた欲望が、今の私を支配している。利を通されようと、今さら戻れはせん」
君って臆病者の割に頑固だね、と客人の相棒が嘲笑混じりに言った。
客人は無礼な相棒に注意程度の叱責を浴びせ、王に謝る。
王は怒りはしなかった。相棒の言葉を、図星と受けていたからだ。
451
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:06:40 ID:94YoDRbk0
――では、もし計画が途中で頓挫しそうになったら……あなたは、どうしますか?
客人のふとした問いに、王は答えることができなかった。
想定は、している。もしものときのための処置も、考えてはいる。
ただ、口にすることだけができなかった。
――ねぇ、そろそろ行こうよ。
――ああ、そうだね。
王が口を噤んでは、語り相手の客人も暇を持て余すばかりだ。
もう、第三者として述べる意見もないだろう。王が口を噤んでしまったのだから。
客人は旅支度を済ませ、王の居城から出立する。
王は、止めなかった。
胸に一抹の不安を与えられたことが、ただ悔しく。
去りゆく客人――いや、今となっては旅人――に、餞別代わりの勧誘をかける。
「どうだろうか。君たちさえ望むなら、我が実験に――」
――お断りします。
王が最後まで言い終わるのも待たず、旅人は旅立ってしまった。
それ以降、王が旅人と再会することは永遠になく、縁はそこで切れた。
結局、特になにかが変わったわけでもない、無意味にも思えた座談会。
王は意志を枉げず、自らが望む悲願のために、悪夢を見続ける。
終わることのない、悪夢を――。
◇ ◇ ◇
452
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:07:57 ID:94YoDRbk0
――悪夢からは、未だ覚めず。
人払いを済ませた王の間で、禿頭の老年は佇んでいた。
悪夢の終を待つように、瞑想をしながら、ただずっと……。
遠い声が、聞こえてきた。
時折雑音混じりになる、性急さを告げる音は、無機質な通信機から発せられている。
『――螺旋王、ダ――謎の勢力によ――撃、ニンゲン!? ガッ――』
途切れ途切れの声は、言葉と化さずとも伝言としての役目を十分に果たしていた。
先ほどから、このような伝令が相次いでいる。そのどれもが、異世界に派遣した精鋭たちからだ。
時空管理局でもなく、反螺旋族に近しい能力を持つ悪魔でもなく、まったく別の、様々な勢力によって。
――潰されている。螺旋王ロージェノムの手駒たる、獣人の軍勢が。
「……随分と、回りくどい真似をする」
呟くと、螺旋王は耳障りな音を奏でる機械の全てを停止した。
螺旋王が座に就く間を、静寂が埋め尽くす。
軽い嘆息の後、螺旋王は気だるい所作で玉座につき、いつものように頬杖をついた。
「反螺旋族との戦いを想定して造られたガンメンも、未知の敵が相手とあっては脆いものだな。
別宇宙からの襲来者たる彼らが、さらに異なる宇宙の存在を手勢に加えるとは……。
よほど、『実験』が気にかかると見える。なぁ――アンチ=スパイラル」
耳を持たぬ虚空へと、声を投げかける螺旋王。
その口元、その頬、その瞳、その拳には、余裕のない怒りが滲み出ていた。
――数時間前、アディーネ駆るダイガンカイより、螺旋王の下に伝令が果たされた。
伝令の主こそ配下の獣人であったが、その者も伝言を受け取っただけにすぎない。
真なる伝令の主は、単身ダイガンカイへの潜入を遂げ、四天王である流麗のアディーネに直接言付けた、人間。
名を、〝音界の覇者〟ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードやニコラス・D・ウルフウッドと出身を同じくする者であり、本来ならば実験には無関係の存在だった。
453
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:08:20 ID:94YoDRbk0
しかし、彼とてただ『上』からの伝言を届けただけにすぎない。
見るべきはGUNG-HO-GUNSの11ではなく、彼を寄越した存在の正体について。
……考えるまでもない。それこそ、螺旋王が長年の間宿敵と定めてきた相手。
螺旋族、いや人類最大の敵――反螺旋族ことアンチ=スパイラルである。
――『お前達の実験……、これ以上続けるのならば、堕ちる事になるぞ。何処までもな』
ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークは、『警告』としてこの言葉を届けに来た。
真正直に警告として受け止めたとして、そんなご丁寧な真似をする者が、アンチ=スパイラルの他に存在するだろうか。
答えは否だ。彼らに匹敵する、宇宙を廻る技術を手に入れた今だからこそ、その力の強大さを改めて思い知らされる。
永遠の宿敵にして仇敵は――螺旋王の企みを察知し、仕掛けてきた。
「……いや、違うな」
螺旋王が、自嘲気味に笑う。
自らの認識を改めるように、くっくっと笑いを零す。
それは、自身の愚かさを悔いての嘆きの笑いか、裏返しの余裕か。
後者であったらどれだけ気が楽か、螺旋王は狼狽するように溜め息をついた。
一つだけ、決定的なことがある。
アンチ=スパイラルは、螺旋王の『真なる螺旋力の覚醒を促し、その力を元に、反螺旋族にも踏み込めぬ絶対の新世界を創造する』という企みに、気づいている。
アンチ=スパイラルとは、数多の多元宇宙に存在し、それらを統べる者……宇宙そのものと言えるほどの強大な存在だ。
そんなアンチ=スパイラルが恐れたものが、一つだけある。
それこそが、スパイラル=ネメシスという名で畏怖された螺旋力――人間の進化の源流にして、アンチ=スパイラルが『どこまでも昇り続ける限りの無い欲望』と評した力である。
アンチ=スパイラルは、人間の飽くなき進化の果てにある暴走と、それによる宇宙の崩壊を恐れた。
故に先手を打ち、繁栄の過渡にあった螺旋族を衰退させ、自らが統治・監視することで、均衡を保ってきた。
彼は、今回もそれを実行しようとしているのだ。
アンチ=スパイラルがなぜあのような警告を寄越したのか。それは、実験の成功を恐れてだ。
実験が成功した暁には、アンチ=スパイラルも干渉できない隔離された宇宙にて、螺旋族の再興が成される。
隔離された宇宙で螺旋族がどれだけ進化しようと、他の宇宙には不干渉であるのだから、アンチ=スパイラルにとっても害あるものではない。
なのになぜ、アンチ=スパイラルは執拗に牽制を続けてくるのか。
螺旋王個人を追って――ではない。螺旋王など、奴らにとっては『あえて放し飼いにした螺旋族の生き残り』の一人にすぎないからだ。
アンチ=スパイラルが恐れているのは、やはりスパイラル=ネメシス。実験の成果としての、真なる螺旋力の発揮なのである。
たとえそれが、アンチ=スパイラルとは無関係の野望に活用されようと、彼らは見過ごすことができないのだろう。
スパイラル=ネメシスを越えたスパイラル=ネメシス、アンチ=スパイラルの力が届かぬほどの力など、やはり畏怖の対象でしかない。
454
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:08:50 ID:94YoDRbk0
アンチ=スパイラルとしては、是が非でも潰したいはずなのだ。その真なる覚醒者を。
……いやむしろ、こうやって着々と螺旋力が紡がれつつある現場ごと、壊滅したとしてもおかしくはない。
どころか、不可解ですらある。アンチ=スパイラルは、なぜ実験場に直接介入しようとしないのか……。
実験場となっている世界など、所詮は螺旋王の力と、未来の道具から得た技術によって作り出した、不完全品だ。
アンチ=スパイラルがその気になれば、干渉など容易い。無論、破壊もだ。
例の警告は、脅迫であって懇願ではない。脅迫だとしても、強行に及ばずまず警告に留めたのはどういうわけか。
アンチ=スパイラルにとっては、宇宙を滅ぼす起爆剤が詰め込まれた火薬庫だというのに……いったい、なぜ。
「……解は得ている、か」
長年の宿敵にして、打倒したいとは願いつつも諦めざるを得なかった相手、だからこそ、手に取るようにわかってしまう。
アンチ=スパイラルは、『監視』しているのだ。以前とまるで変わらず、ただ任を実行しているのみ。
繁栄を遂げる人間たちの死闘の場を、『進化』の予兆が現れる、そのときまで――。
「クックック……変わらん。これでは、まるで変わらんではないか。
一つの惑星に押し込まれ、月から監視され、脅威の影に怯えながら人口をコントロールしていた、あの頃と」
螺旋王は盛大に声を漏らし、狼狽するばかりの顔面を掌で覆う。
おそらくアンチ=スパイラルは、ただ黙認しているだけなのだ。
自らが倒した螺旋族、自らが恐れた螺旋力、その新たなる可能性を、『観察』しながら。
いざ、脅威が発現――真なる螺旋力覚醒者が出たときのために、準備を進めながら。
そう、『羨望の対象たる世界』で人口が百万人を突破した、あの瞬間のように。
会場内で真なる螺旋力覚醒者が現れたとき、アンチ=スパイラルは攻め込んでくる。
ムガンを放ち、施設各所を破壊し、その時点での生存者たちを蹂躙し、覚醒者も殺す――。
……ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークや、各地で自軍を潰している輩たちは、月に代わる人類殲滅システムなのか。
仮にそうだとして、今の螺旋王が持てる戦力でそれを押さえ、背後に控えた因縁の相手を黙らせることが……できるはずなどない。
「ああ、そうだ。結局、なにも変わらん。全て、あのときと一緒だ。守りきればいい、か――楽観だな。
アンチ=スパイラルを理解すればするほど、絶望せざるを得ないのか。
この実験、奴らに気づかれた時点で『詰み』なのだと――逃げの一手すら、諦め蹂躙されるしかないのか」
前提が甘かった。と、認める他ない。
螺旋王一人の螺旋力を媒体として創り出した箱庭など、所詮は卵の殻ほどの防御力しか持たない。
それでいてビッグサイズ。隠蔽能力など欠片もなく、多元宇宙を統べるアンチ=スパイラルの目は欺けなかったというわけだ。
螺旋王は、顔面を覆っていた掌を取り払い、項垂れる。
序幕の際に見せた尊気はなく、落ち目と思わせるほどの寂れた老いが窺えた。
455
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:09:48 ID:94YoDRbk0
悪夢と、悲願を孕んだ、実験。
それを取り巻く環境は、この数時間で慌しいほどに変化し、錯綜していった。
感情にぶれを作らぬためにも――冷静に、今一度、見極めてみる必要がある。
――アンチ=スパイラルは、実験の趣旨を見抜いている。
――アンチ=スパイラルの力ならば、いつでも実験への介入は可能だ。
――アンチ=スパイラルの手勢は、螺旋王が発見した世界に住む者たちを集めた、混成部隊だ。
――アンチ=スパイラルは、実験によって真なる螺旋力覚醒者が誕生することを恐れている。
――ただし、成果が実るまでは傍観を徹底、高みに位置する者として観察に勤しむ所存でいる。
――アンチ=スパイラルが敵視しているのはスパイラル=ネメシスの発揮であり、螺旋王個人ではない。
――仮に実験が成功したとして、その瞬間、アンチ=スパイラルは実験場を襲撃するだろうことは間違いない。
――アンチ=スパイラルと奴らの手勢、それに抗えるほどの戦力は、螺旋王の手元にはない。
――実験場は所詮は不完全品であり、消耗も早ければ、アンチ=スパイラルに対しての隠蔽効果も薄い。
――実験場は、あと十数時間を持って消滅、現在進行形で崩壊が進んでいる。
――螺旋王の目的である真なる螺旋力覚醒者は、未だ現れず。
――予兆すら、確認できない。
――それも踏まえた上での実験だ、と改めて自覚する。
「想定はしていたことだ。が、いざ退路を断たれるとなると……怖いものだな」
この実験の弱所、アンチ=スパイラルという克服できない弱点、懸念を抱えた上での計画実行。
こうなることは、あらかじめ予測していた。そしてそれに対する対策も、一応は用意していた。
ご丁寧にも警告という前段階を踏んでくれた宿敵に対し、螺旋王は最後の選択肢を取る。
即ち、実験の『破棄』を――思考の端に、据える。
「やはり、上手くはいかぬ。あの宇宙のシモンとは……肩を並べることもできんのか。
諦めるのには慣れているが、些か残念だ。いや、惜しい。惜しくもあり、悔しいのが本音だ。
あの宇宙のシモン、ましてやかつての螺旋族にすら、遠くは及ばんが……それでも、
今も渦中を生きている彼らの瞳には、純然たる碧の輝きが灯っているというのに」
女々しいな、と螺旋王は自らを叱咤した。
暗闇に支配された広間の中に佇み、おもむろに天井を見上げる。
濁った闇は宇宙の色にも思え、そこに突き破るべき天井は本当にあるのか、疑問を抱く。
無理を通して道理を蹴っ飛ばす。
そんな生き方が罷り通るなら、始めからアンチ=スパイラルなどには屈しない。
456
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:10:12 ID:94YoDRbk0
「……前例の中でも、このような展開があったな」
螺旋王は、自身が参考としたとある王の生き様を思い出し、映像に灯す。
それは、此度の実験を行う発端ともなった、精霊王の行いし前例――もう一つのバトルロワイアルの、実録された映像だった。
遥か未来の技術が使われた記録媒体から呼びこしたのは、ちょうどバトルロワイアルの佳境ともいえる頃に起こった、大事件。
ある一人の参加者の造反によって、殺し合いを中断するか否かの選択を、精霊王が強いられることとなった。
――『ここまで……やっとここまできたのだ! 完結を目前にして……諦めることなどできるかッ!!』
選択肢を突きつけられ、精霊王は逡巡もなく、続行を選び取った。
崇高な使命があったわけでもない、単に復讐と享楽のために殺し合いを企てた精霊王が、なぜあの場で奮起できたのか。
今ならわかる。彼は愚か者ゆえに事態を見極めることができず、結果タイムパトロールという団体に逮捕されてしまったが……結果は残した。
精霊王は、ただバトルロワイアルを完結させたかった。原動力は、終わりを目指す情熱だ。
だが螺旋王は、バトルロワイアルの先にあるものを目指している。ただ完結させるだけでは、意味がないのだ。
「かの精霊王は、それでも退きはしなかった。その判断を愚と罵るつもりは、私にはない。
……だが、模範として受け取ることはできん。私が目指す終点は、彼が夢見たものよりも、遥か高みに位置するのだからな」
だからこその、悪夢。
だからこその、悲願。
歪み、捻れ、それでも回転を続ける螺旋は――動きを止めてはならぬのだ。
螺旋は、歪み、捻れるからこそ、ただ突き進むだけが道ではないとも言える。
精霊王が愚者とするならば、螺旋王は高尚な愚者として、その道を極めればいい。
故に――実験の『破棄』は、選択肢から省く。
螺旋王が選び取ったのは、しかし『続行』ではない。
新たに用意した、第三の選択肢だ。
「敗北を認めよう、アンチ=スパイラル。私の実験は失敗した。だが――やまず、成功を追い続けるからこその、実験なのだ!」
何者も存在しない空間の中で、螺旋王は宇宙に向かって吼えた。
完結を目前にして、しかし成功は目前にはないと見極め、彼は選択をする。
覚めることのない悪夢、終着することのない悲願。
それらの終わりが訪れ、また始まる――。
◇ ◇ ◇
457
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:11:24 ID:94YoDRbk0
広大な地表に発つ建物としては世界一大きく、人間など眺めるのもおこがましい、王の居城があった。
その城の姿は、まるで巨大なドリルを地面に突き刺したような奇観だった。
逆さまの螺旋を、世は王都テッペリンと呼称し、世界の中心に置いた。
力に恵まれなかった下等生物――ニンゲンは地中に追いやられ、地上唯一の都には、獣人という名の種が繁栄していた。
しかし、獣人の王は獣人ではない。
通称は螺旋王。真名はロージェノム。
瞳に灯した螺旋の模様以外は、人間の容姿をしている男。
宇宙を舞台にした戦争の敗残兵が、獣人の親としてこの地の頂点についた。
今はただ、螺旋族の生き残りとして、この惑星を統括している。
「怒涛のチミルフ、参上仕る」
「流麗のアディーネ、ここに」
「神速のシトマンドラ、命により推参いたしました」
「不動のグアーム、おるぞい」
王都テッペリンの中でも、一際神聖な領域に、四人の獣人が集っていた。
チミルフ、アディーネ、シトマンドラ、グアームと名乗る面々こそ、螺旋四天王。
この惑星において優れた種とされる獣人の中でも、最高峰の地位につく四名の戦士だった。
そんな四人をわざわざ自室に呼びつける者など、一人しかいない。
世界を統べる王にして、権力者……そう、螺旋王ロージェノムだ。
「揃ったか、螺旋四天王よ」
四天王が見上げる先、高位を意味する玉座から、螺旋王が睥睨する。
尊大な貴風は、王としての器を納得させ、四天王に己の立ち位置を認識させた。
「我らを一斉招集するなど、随分と久しぶりではないか? また妙な企てでも考えたのかのぉ」
「グアーム、螺旋王の御前だ。旧知の仲とはいえ、発言は自粛しろ」
「そう言うでないよシトマンドラ。四天王が揃うなんて、そうないんだからさ」
「確かに、アディーネの言うとおりだな。逆に言えば、それだけの事態が起こったとも窺える」
458
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:11:46 ID:94YoDRbk0
召集の意図を知らされていない四天王は、各々のやり方で王に謁見する。
戦好きの武人、凶暴なサディスト、信奉深いナルシスト、狡猾な策士と、面子も様々だ。
彼らは獣人ゆえ『可能性』を内包していないのが残念だが、獣人には獣人の、成すべき役柄がある。
そう――『今回』は、彼らの使い方を変えてみよう。
「諸君らを呼んだのは他でもない――私が予てから計画していた実験について、意見を聞きたいのだ」
実験――もう何度も口ずさんできたその単語を、この新たな地でも口にする。
悪夢は、あのときから覚めてはいない。悲願もまた、潰えたわけではない。
だから、繰り返す。過去の失敗を反復し、改良を加えた上で、研磨する。
失敗に失敗を重ね、しかし諦めずに探求を貫くのが――実験というものだ。
「実験……? やはり、なにか謀かの」
「このような若輩者でよければ、ぜひ拝聴させていただきたい」
「よかろう。まず――」
世界を、宇宙を変えて――螺旋はまた、廻る。
◇ ◇ ◇
459
:
螺旋の国 -Spiral straggler-
◆LXe12sNRSs
:2008/07/20(日) 01:12:39 ID:94YoDRbk0
そして、王の間には誰もいなくなった。
悪夢に浸っていた敗残兵は、一人新天地へと赴き、一切をその場に残した。
――螺旋王は『破棄』でも『続行』でもなく、『放棄』を選び取った。次に、繋ぐため。
螺旋の王。彼が目指したものは、精霊の王が目指したものとは似て非なる境地だ。
ゲームでもなく、享楽でもない、実験だからこそ、次への挑戦権がある。
それをむざむざ手放すことこそ、失敗して当然の愚者なのだから。
『――螺旋王――応答してくだ――旋王! ら――』
取り残された者たちは、制約の下でどう足掻くだろうか。
王の配下たちは、宿敵は、宿敵に与していた者は、宿敵と敵対していた者は、当事者たちは、いったい――。
――全て、終わったことだった。
次の実験へと進んだ探求者、螺旋王ロージェノムにとっては、全て。
【螺旋王ロージェノム 実験放棄】
※螺旋王は今回の実験を放棄し、逃亡しました。以後、放棄した実験に干渉するつもりはありません。
※螺旋王が逃亡した先は、獣人が支配する多元宇宙のどこか。その世界の螺旋王と挿げ変わり、次なる実験の準備を進めています。
※実験を行うのに必要な道具は、オリジナルと量産品含め、全て持ち去りました。消失の痕跡も残していません。
※螺旋王が残した推測
・アンチ=スパイラルは実験に介入できないのではなく、しないだけ。観察が目的と考えられる。
・実験の成果が現れたとき、アンチ=スパイラルは実験場に踏み込み、人類殲滅システムを発動する。
460
:
本スレ17>>475差し替え
◆jIHhwnBJfg
:2008/07/23(水) 14:15:28 ID:hXEBh2XY0
そう言えば、あの時殺し損ねたのはマイ、だったか。
名前が呼ばれていない以上は、きっと生き足掻いているのだろう。
あの時は生返事したが、そう言えばスパイクの探している人間がナントカ舞衣だったような気もする。
……怪獣に乗っているとヴァッシュが言っていた女ときっと同一人物だろう。
ああ、本当に面倒臭い。
恨みを買うのは当然で、あの時の目線も自分に向けられたものだというのに。
……いつも通りのその風景が、実に胸糞悪かった。
怪獣に奇襲される危険を考えると余計にそれは増加してしまう。
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
まあ、その後に出会った女は殺せたのでよしとする。
奇妙な銃を使う上に訳の分からない犬コロがけったいとしか言いようがなかったが、あんなお人好しなら死んで当然だ。
……相方の正義の味方気取りの糞餓鬼も、どうせどこかで野垂れ死んでいるに違いない。
巡り巡って後々デカブツを操る蛇使いを相手取る事になったのは面倒極まりなく、シズルとかいうけったいな蛇女をこれからどういなすかという事を考えるだけで頭が痛い。
これ以上は連中の関係者に目を付けられたくはない、流石にあんなの相手は疲れてしまう。
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
……で、問題なのがその直後。
くたばったらしいとは言えアルベルトとかいうおっさんと、因縁というにもいささか気の乗らない不死身の柊かがみに出会ってしまったのは本当に不幸だった。
不死身な以上また出会う可能性は低くはなく、どうしたものかと素直に思う。
いやまあ、死ななくても殺すに違いはないのだが。
あの時――――、柊かがみの友達とやらを殺しておいたのは失敗だったのかもしれない。
七面倒臭い事を背負い込むきっかけになったのも、あのやけにきっちりした少女を殺して目をつけられたからだろう。
やれやれ、と、牧師は眉間に皺を寄せるも即座に表情を切り替える。
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
そして思い出したくもないのは神父の一団だ。
恐らく全ての原因はあの男に違いない。
『……成程、君がそう思うのも仕方ないようだ。
――――君は、自身の行動で自分が“彼”ではない事を証明し続けているのだから』
『君は二度目の生を下らないと考えているようで、その実死にたくないと思っている。
その歪さは、間違いなく劣等感から来るものだ。
自身が憧れた在り方がありながら、しかし君はその人物と同じ事を為すことが叶わない。
それを認めたくないからこそ、自身の命の価値を――――』
じゃかましいわ。
……そう思えど、いまだその言葉は碇のように心の奥底に沈み込んで捨て去る事も出来はしない。
だからその上に蓋をして、しかし今もなお碇は心に食い込み続けている。
461
:
本スレ17>>480差し替え
◆jIHhwnBJfg
:2008/07/23(水) 14:16:30 ID:hXEBh2XY0
その、綺麗な未来に自分は手は届かない。届かせられない。
それを悟っているからこそ見据えられず、そしてまた手放せない。
かつて傍らにいた女性の虚像を振り返らず、ただただ心の中にしっかりと留め置く。
過去に縛られても何の意味もない。
思考を向けるはただ一つ、未来の為だけだ。
その為にも――――、彼は今までの道すがらの全てを振り返っていく。
とは言え、これから警戒すべき連中、思い返すべきその情報ももう残り少ない。
直接面識がある中で恨みを買っているのは舞衣、不死身の柊かがみ、スパイク、シータ、藤乃静留。
……目視しただけとはいえ危険人物らしいのは、あの傷の男もそうか。
そして、自分の殺したシモン、なつき、きっちり女、エドの関係者。
……シズルとかスパイク以外にそんな連中がいない事を祈る。
伝聞情報で伝わっている限りで危険なのは、ギルガメッシュと東方不敗。
図書館で見かけてすぐ消えたあの能天気な3人組は放っておいてもいいだろう。
いずれにせよ、こんな所だろうか。
皆殺しが最終目的とはいえ、危険な人物は潰し合わせた方が後々楽な事を考えると、情報を得ることが無意味という訳ではないのだ。
先に考えた連中と接触するのは後々でいいだろう。
出会ってしまった場合は別としても。
……当然と言えば当然だが、どうせ自分に仲間はいない。後はない。頼れるものは己が体一つのみ。
そう、故に狙うのは自分を警戒している顔の知れた人間ではなく――――、
「On your mark……」
例えば、市場の近くを悠々と闊歩しているあの巨人のような、実に都合のいい的なんかが相応しい。
大きさはシズルとやらの乗っていた蛇に比べれば可愛い物だ。
パニッシャーもようやく戻ってきた以上、もはや臆する必要はない。
あのグレイ・ザ・ナインライブズも仕留めた相棒にかかれば、大きさなど些細な要素だ。
「――――Get set」
手に馴染む心強い感触。
嗚呼、なんて頼もしいのだろうか。
こいつとならば、いける。どんな敵でも斃してみせる。
此処であのロボットを仕留める。
……何があろうとも、問答無用だ。
殺し尽くすと決意した。ならば、相手がどれだけ強大だろうとただ道を進むだけ。
462
:
本スレ17>>526差し替え
◆jIHhwnBJfg
:2008/07/23(水) 14:17:19 ID:hXEBh2XY0
「どんな理由があったかなんてどうでもええわ、……何故ワイだったんや、何故このワイを生き返らせて、そしてまた殺そうとするッ!」
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
「ならば我らの取るべき道は一つしかない! 我々獣人がニンゲンより優れた種であることを、示すのだッ!」
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
「そしてな……何故、あの阿呆を巻き込んだぁッ!」
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
「……どうして貴様は戦う! どうしてニンゲンは抗う! どうしてニンゲンは、壁を貫こうとする……!」
「どうして、どうして外道が外道なりに見出した救いまでも、あのトンガリまでもおちょくってくれたんや……!」
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
鉄槌と十字架とが、互いを掻い潜り揺れ荒れる。
戦いは、時として舞踊に例えられる。
……だが、今この時に在る戦火をその様な児戯で喩えられようか……!
掲げ構え、踏み込み、振り下ろす。
身を沈め、脚を抜き、突き付ける。
それぞれの挙動に要する時間は完全に一致している訳ではなく。
だからこそ、今この時に互いの獲物はようやく噛み合った。
金属の重奏音が、鳴り渡る。
――――鉄槌と、十字架とが、交錯する――――!
463
:
本スレ18>>12差し替え1
◆jIHhwnBJfg
:2008/07/23(水) 14:18:34 ID:hXEBh2XY0
◇ ◇ ◇
――――時は、しばし遡る。
「……ふむ、成程。
先程来た時には気付かなんだわ、よもやこんな場所にこれだけの代物が隠されていたとはな」
やけに体にフィットした、青をベースに過多な金の装飾を施された服――――、
知る人が見れば『ゼロ』の衣装と分かる服を着た壮年の男、東方不敗はデパートの地下に一つの巨大な物体を見出しニヤリと笑う。
かつて絶望の名を持つ男に支給されたのは仮面とマントだけであり、衣装はその場にはなかった。
余った衣装は偶々空港に配置されていたのだが、そんな事は東方不敗は知る由もない。
まあ今はそんな服の事などどうでもいい。
見上げる先に存在を誇示するは白馬。
彼の傍らに寄り添うも白馬。
……だが、両者には決定的に違う点が一つある。
言うまでもない、サイズだ。
要するに。
前者は機械仕掛けの巨馬であり、後者は生きた駿馬であるという話である。
風雲再起――――、至高にして究極の名馬。
その力を最大に生かしうる、同じ名を持つモビルホース。
その二つが今ここに揃ったのだ。
あの、空港のコンテナで得た情報によれば、デパート、刑務所、古墳、ショッピングモールなどに、似たようなシステムが存在するという。
ならば話は単純だ、会場の中央に向かい接敵しながらそれぞれの施設を虱潰しに向かえばいい。
その経路上最も近い位置に存在していたのがこのデパート跡であり、ここの地下には無数の見慣れない機械が鎮座していたという訳である。
メカジキを思い浮かばせるような明らかな戦闘機なども存在したが、今見るべきはそこではない。
その中から心強い愛馬の似姿を見つけ出し、どうすべきか思案に至るという次第だ。
勿論持ち出せるものなら持ち出したい。
だが、それには一つの問題が生じたのだ。
……これはモビルホース風雲再起に限った話ではないのだが。
どうやら、宇宙に出ることの出来る機体は全て禁止エリアであるD-5に発射口が設けられているらしい。
……どういうつもりなのだろうか、と考えれば答えは明白。
これが『実験』だというのならば、ありとあらゆる事態を想定するのは当然だ。
464
:
本スレ18>>12差し替え2
◆jIHhwnBJfg
:2008/07/23(水) 14:19:25 ID:hXEBh2XY0
螺旋王は、参加者の脱出すらも可能性の一つとして考えている。
その為の手段として、首輪を外した後にこれらを用いて会場を抜け出すというのがあるのだろう。
「何処までも我らは彼の男の掌の上、か。くく……」
螺旋王の持つ力に実に興味が涌く。
それを得られれば人類掃討にどれほど貢献してくれるのだろうか、それが心の底より楽しみだ。
……まあ、脱出などという七面倒臭いことなどに手を貸すつもりも無い。
皆殺しにするという方針は一切合財揺るぎはしない。
とは言え、それはまた別の問題だと考えを切り替える。
今思うべきはこのモビルホースをいかに扱うか、だ。
持ち出せるものならすぐに持ち出したい。
……が、それをするには障害が具体的な形になって立ち塞がっている。
――――首輪。
参加者達と同じ類の首輪が風雲再起にもしっかと嵌め込まれていたのだ。
この状態でモビルトレースシステムに入ったとしても、出口に至る時にはいかなこの名馬といえど首を吹っ飛ばされている事だろう。
……ある意味、当然の措置だろう。
人にも迫る知性とそれ以上の身体能力。
何より強い強い意思の持ち主である之程の駿馬もまた一介の生命。
それは、螺旋王に反逆を企てるに充分足る。
自立行動可能な存在に易々自由を許すほど、あの男が見通しが甘いはずもない。
――――何より。
ヒトに生み出された存在ではない風雲再起も、螺旋の力を持ち得る存在なのだ。
この時の東方不敗はまだ知らず、しかしこのすぐ後の邂逅でそれを知ることになる。
何にせよ、正規の方法では現状これを使うのは難しいようだ。
ならばとデパート側の出口を破壊して拡張、そこから取り出せばいいという逆転の方法も思い浮かんだがそれもすぐに不可能と判明した。
妙な力が仕掛けられているようで、それ以上の物理的な破壊は一切受け付けなかったのだ。
東方不敗には知る由も無い。
それが、博物館の一室を包み込む力場と同一の性質を持つ事などは。
とりあえず東方不敗の知り得る目ぼしいものは他になく、他の参加者を警戒して施設ごと破壊してしまおうかと思ったが――――、
「……これを砕くは流石に惜しい。しばし捨て置くとしようか」
……東方不敗は、空港のコンテナやここに集められた機材の意味を薄々と理解し始めている。
カミナという男も持っていた板切れ――――、恐らくは何らかの通信装置の向こうにいた存在から聞いた情報がその答えに関与している。
465
:
本スレ18>>19差し替え
◆jIHhwnBJfg
:2008/07/23(水) 14:20:08 ID:hXEBh2XY0
「……やはり、我がマスターガンダムを手中に収めるに越した事はないか」
あれさえあれば確実に戦力の増強になる。
自分の消耗や怪我を鑑みて、DG細胞による治療の可能性を得られるのも魅力的だ。
故に、向かうべきはあの時告げられた施設を順繰りに。
風雲再起は既に似姿を見つめる事を止め、明るい陽光の世界へと体を向けて主を待っている。
主の望むに先んじるが従が定め。
ならば、従が勤めに応えるこそが主が定め。
タン、と、軽い音と共に地面を跳べば、そこは即座に風雲再起の鞍の上。
「……では向かうとしよう、風雲再起ッ!
お前に乗るに相応しい我が愛機を探しになぁッ!!」
◇ ◇ ◇
その、道中に見止めたのが――――、牧師と獣闘士の戦闘だった。
古墳に向かってみたものの、残っているのは崩れ去った廃墟と砕けた妙なオブジェだけ。
そんな期待外れを味わわされて、次なる目的地と見定めたショッピングモールに向かう最中でのことだった。
何かが存在すると目された刑務所は既に禁止エリアに指定されていた為、残ったのはショッピングモールのみ。
そこに向かうにはC-6を通る必要があり、通過の際に何気なく響いてきた爆発音こそが、東方不敗をその戦闘に呼び寄せた原因だ。
その音がロケットランチャーの弾丸が二つ、同時爆発した際に生じたものである事は神のみぞ知る。
そして東方不敗は観測する。
……見れば、実力は伯仲だ。
特に牧師は銃の扱いにおいて、あのヴァッシュ・ザ・スタンピードに並び立つことだろう。
チミルフもチミルフで健闘しており、この戦闘の後に確保は容易だと判断。
故に、決着がつかんとするまさにその瞬間に介入する。
放っておけばチミルフは死に、情報は得られなくなる。
牧師も牧師で殺し合いに乗っているようである為、使い道はあることだろう。
だから、使うは右手の鎖。
神をも縛る天の鎖にて、死を告げる牧師を拘束する――――!
「な……ッ!」
……そんな驚愕の声と共に黒衣の牧師を引き寄せ、とん、と首を手刀で打つ。
どさり、と。
消耗が故にあっさりと、怪我一つする事無く崩れる牧師。
それを暗がりに――――、映画館の暗がりに捨て置いて、東方不敗は進み出る。
466
:
本スレ18>>38差し替え
◆jIHhwnBJfg
:2008/07/23(水) 14:20:44 ID:hXEBh2XY0
――――斯くして。
武人と武人の邂逅の一時は終わりを告げる。
この再訪が、殺戮を望む者たちの手と手の取り合いが、如何なる綻びを導くのか。
今はまだ誰もそれを知る事はない。
【C-5/映画館周辺/二日目/朝〜午前】
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージと火傷(処置済み)、右肩に貫通傷、螺旋力覚醒
腹部に無視できぬ大ダメージ(皮膚の傷は塞ってますが、内出血しています。簡単な処置しかされていません)
[装備]:ゼロの衣装(仮面とマントなし)@コードギアス 反逆のルルーシュ、
風雲再起(健康)@機動武闘伝Gガンダム、
天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night
[道具]:ロージェノムのコアドリル×1@天元突破グレンラガン、
ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!
[思考]:
基本方針:ゲームに乗り、優勝して現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。アンチ=スパイラルと接触、力を貸す。
0:アンチ=スパイラルの力を得たい。
1:ショッピングモールへ向かい、隠された何かを調べる。
2:優勝の邪魔になるものは排除する
3:マスターガンダムを探し、可能ならDG細胞により治療を行なう。
4:シャマルを捜索し根本的な治療を行う
5:ロージェノムと接触し、その力を見極める(その足がかりとしてヴィラル、ニアの捜索) 。
6:チミルフとの協定を最大限に利用する。
7:ドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。
8:しかし、ここに居るドモンが本当に自分の知るドモンか疑問。
9:機会があれば、デパート地下のロボット群の詳細を知るものを探したい。
10:ジン、ギルガメッシュ、カミナ、ガッシュを特に危険視。
467
:
本スレ18>>41差し替え
◆jIHhwnBJfg
:2008/07/23(水) 14:21:22 ID:hXEBh2XY0
[備考]
※螺旋王は宇宙人で、このフィールドに集められているの異なる星々の人間という仮説を立てました。本人も半信半疑。
※クロスミラージュの多元宇宙説を知りました。ドモンが別世界の住人である可能性を懸念しています。
※ニアが螺旋王に通じていると思っています。
※クロスミラージュがトランシーバーのようなもので、遠隔地から声を飛ばしているものと思っています。
※会場のループを認識しました。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。 『なんらかの要因』は火事場の馬鹿力であると推測しました。
Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※自分自身が螺旋力に覚醒したこと、及び、魔力の代用としての螺旋力の運用に気付きました。
※マスターガンダムがどこかに隠されているのではないかと考えています。
※カミナを非常に気に入ったようです。
※空港で調達したのはゼロの衣装でした。
※デパート地下のロボット群の存在を知りました。
※風雲再起には首輪がつけられています。。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルについての情報を入手しました。
※チミルフと一時休戦、次に出会った時は共闘することを決めました。
実験の最後に全力で決闘することを誓いました。
【MH風雲再起@機動武闘伝Gガンダム】
モビルホース風雲再起。主に違わず、パイロットは馬なのに異常なほどの高スペックを誇る機体。
MFを乗せての飛行どころか大気圏突破も可能な機体だが、禁止エリアをどうにかしない限り運用は不可能なようだ。
戦闘能力もウォルターガンダムを蹴り沈めるくらいに優秀。
468
:
◆RwRVJyFBpg
:2008/08/01(金) 20:32:52 ID:JXRUTWqc0
本スレ54の
「この考察メモも素晴らしい。
首輪や螺旋王、この殺し合い自体の構造について、極めて的確かつ分かりやすい分析がなされている。
これを書いた君や明智健吾が優秀な人間であることが一目で分かるいいメモだ。
まったく、明智氏の死が残念でならないよ」
というルルの台詞を
「この考察メモも素晴らしい。
首輪や螺旋王、この殺し合い自体の構造について、極めて的確かつ分かりやすい分析がなされている。
これを書いた君や明智健吾が優秀な人間であることが一目で分かるいいメモだ。
放送で明智氏が呼ばれたのが残念でならないよ」
に修正します。
さりげない描写ですが、一応、一連のやりとりが放送後であることを表示しました。
469
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:20:46 ID:anr0GJLw0
目の前の少女の凶行を止める――Dボゥイの決意も虚しく、その戦力差は圧倒的だった。
崩壊した病院跡を舞台に、戦闘は始まり、そして継続している。
だが、それは戦闘と呼べたものか――ただ一方的に繰り出される攻撃を、
ただ一方的に喰らい続ける光景は戦闘というより、ただただ暴力的なだけの出来レースだった。
「オイオイオイオイ! なんだよなんだよ何事だよ! お前は俺が今度こそ殺す!
そう言ったじゃねえかよ! 聞き間違いかよ! でなきゃ、どうしてこんな弱いんだよ、タカヤ君よぉ!!」
叫ぶ少女はその可憐な見た目に似合わぬ凄絶な笑みを浮かべ、返り血の跳ねる衣服を翻らせて拳を繰り出す。
その身はこれもまた少女には見合わぬ白い男物のスーツに包まれている。
サイズだけは彼女に合わせて作られているが、男装の麗人と呼ぶには凛々しさより華やかさが目立つ顔立ちだった。
その少女の纏う白服に、拳が一度振るわれるたびに返り血が跳ね、スーツをキャンパスに暴力の宴を描き出していた。
その光景を視界に収めながら、Dボゥイは言うことを聞かない自分の体の状態に歯噛みする。
激しい頭痛が頭蓋を締め付けている。眩暈によって世界はおぼつかない。
外傷も内臓の損傷も、拳が体にめり込むたびに悲鳴を上げる。
口から漏れる血の量は、内臓が破裂したのが原因か。
冷静に被害状況を検分しているのは、痛みと疲労の極致が現実逃避を推奨しているからだ。
限度を超えたダメージを受けると、人間の意識は容易く現実から逃げることを選択する。
Dボゥイの意識もまた、壮絶な衝撃の前に足場を失い、浮遊感に包まれて消えていこうとしていた。
その遠ざかる意識の首根っこを引っ掴まえ、強引に振り向かせて現実に舞い戻る。
と、同時に鼻面に右の拳が叩き付けられ、鼻骨のひしゃげる音と共に顔面が仰け反った。
そこへ――、
「シンヤ君の時はよぉ、こいつで足元グラグラになってたぜ?」
左のアッパーカートが仰け反る顎に突き刺さり、長身を軽々と宙に舞い上がらせた。
為す術もなく翻弄される体は木の葉のように無防備に、しかし確かな重量のある響きを持って大地にその身を墜落させる。
もんどりうって崩壊した地面を転がり、仰向けに倒れるDボゥイは身動きが取れない。
手足が痙攣している。鼻は潰され、呼吸音はまるで死に絶える寸前のようにか細く弱々しい。
頭痛は間断なく脳を打撃し、込み上げる吐気は臓腑全てを搾り出してもまだ足りぬと訴えている。
まさに満身創痍、常人ならばすでに棺桶に全身が入り、蓋まで閉じているだろう状況下。
そんな中にありながらも命があるのは、紛れもなくDボゥイの肉体と精神の強さが理由に他ならない。
だがそれでも。
どんなにダメージを受けても朽ち果てぬ体があっても。
どんなに絶望に直面しても砕かれぬ精神があっても――届かない領域は存在する。
今まさに、Dボゥイの目の前に、その手の届かない領域は依然として存在しているのだ。
「ターカーヤーくーん。頼むぜ、おい。まさかこれで終わりってんじゃねえだろうな?
全然全然全ッ然! すっげーとこ見せてもらってないぜ、俺は!
お前はこんなもんじゃねえだろ! お前の本気を見せてみろよ! 俺は知ってる! 知ってるぜ!
お前がどんなに強い奴か! どんなに辛い状況でも、どんなに痛い思いをしても!
それでも立ち上がる男だって知ってるぜ俺は!
だから立てよ! まだまだまだまだこっからじゃねえか!
立ち上がって、しっかり前を向いて、血を吐いてもそれでも戦うんだって目を光らせて
――それで俺に殺されようぜ! な!?」
けたけたと狂笑を振りまきながら全身を揺する少女――いや、ラッド・ルッソか。
短期間の戦闘で、Dボゥイはすでに相手の少女が、あのラッドとほぼ同一の存在であることを認めざるをえなくなっている。
その喋り方、態度もさながら、戦闘スタイルまでもが完全に一致している。
ともなれば、彼女の中にラッド・ルッソが巣食っていることは疑いようもない。
次に問題となるのは、それがいったいどういうことなのか、だ。
少女の中にラッド・ルッソがいるのは事実――だが、人間は人間の中に潜んだりはできない。
となればラッド・ルッソもまた、ラダムのように他者の体に寄生して、その意識を乗っ取るような存在ということだろうか。
だとすればDボゥイが遭遇したラッド・ルッソという名の白服の男も、その寄生体か何かの犠牲者でしかなかったのかもしれない。
470
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:21:11 ID:anr0GJLw0
ラダムのように、他者の意識を奪い、その人間の意に沿わぬ行為を平然と行わせる。
自然、舞衣とシンヤのことが脳裏に思い浮かび、Dボゥイの心の炎が激しく揺れる。
「おっとぉ?
そういや、ここはひょっとしてあのシンヤ君が辛くて悲しくて冷たくて素晴らしい最期の瞬間を迎えた場所じゃねえのか?
兄弟が揃いも揃って巡りも巡って、同じ場所で死線をくぐろうとしている……。
うぉ、今、俺のこの胸に去来する気持ちは何なんだ!?
どこか甘く、どこか切なく、どこか――あああああ! 面倒くせぇ! よし、忘れろ!」
許せなかった。憎むべきラダム――そして、そのラダムと同じような存在があるという世界が。
その憎むべき存在が、目の前の少女の体を奪い取り、その心を薄汚い手で汚そうとすることを。
目の前のラッドを内包する、名も知らぬ少女――彼女は救いを求めていた。
意識を失う寸前、彼女は泣いていたのだ。助けを求めていたのだ。
今も拳を振るって、返り血に濡れる表情は笑顔を作っているが――その内面には拭い去れない悲しみがあった。
ゆたかも、舞衣も、そして眼前の少女も――このゲームの中にいる少女達は、泣いてばかりだ。
それこそこの憎たらしい惨状の、本当の意味で残酷で醜悪な罪悪!
燻る炎が、萎えかけた心が、朽ちゆく肉体が――魂が、Dボゥイの戦意を鼓舞した。
「そうそう、そうこなくっちゃぁいけねえよ。流石だ、信じてたぜ。信じてるし愛してるぜ、ターカーヤー君よぉ。
さあ、宇宙人らしいとこを見せろよ! 手足を八本に増やして、巨大化でもなんでもいい!
超絶変身してみせて、俺は絶対に負けないんだ!って最終形態をさらしてくれ!
そうすれば、バシッと素敵に俺のゲージも振り切っちまうからなぁ!」
立ち上がったDボゥイを見て、少女が歓喜の表情で空を仰ぐ。
その勘違いの内容もまた、ラッド・ルッソそのものだ。弟を殺した憎き仇、そのものだ。
だが、その憎悪を一度置き去りに、Dボゥイは少女に掌を向ける。
少女はその掌から何か飛び出すのを期待するように身を縮めたが、その期待には添えない。
「――黙れ」
「アァ?」
「口を閉じろと言ったんだ。それ以上、口汚い言葉でその少女を汚すのはやめろ。
お前の言葉は一から十まで、聞くに耐えないんだよ」
呆気にとられたような表情で少女が固まる。
場違いな発言だとでも思っているのだろう。Dボゥイ自身、何て安い言葉だと自分でも思う。
だが、告げておく必要があったのだ。
この後に自分が取る手段の反動を考えれば、告げる口が残っているかどうかも定かではないのだから。
懐より取り出したのは、すでに二度の使用を経験したブラッディアイだ。
鳴り響く頭痛は失血やダメージだけが理由ではなく、この薬の禁断症状に関係もあるのだろう。
ともすれば頭蓋の割れそうなほどの痛みに対し、しかしDボゥイは躊躇わなかった。
胡乱げに注視する少女の前で、ブラッディアイを双眸に吹きかける。
沁みるような感覚が視神経を侵してゆく――そして、世界が不意に赤く染まった。
大気の流れが、そして時間の流れが、あまりにもゆっくりに流れていく。
朽ち果てる寸前の肉体でも、これならば少しは戦えるだろう――そう、少女を救うぐらいには。
「へっ、なんだってんだよ! ――やれば、できるんじゃねえか」
身に纏う雰囲気の変化を、殺人鬼の嗅覚で如実に感じ取ったのか、少女が凶悪に嗤う。
だらりと下げていた両手がファイティングスタイルを構え、足が小刻みにステップを踏み始めた。
その動きが、あまりにも遅い。
対人戦において使用するのはこれが初めてだった。だが、その効果は絶大だ。
刻むステップは体重移動の瞬間さえ見え、揺れる拳のタイミングを計るのはあまりにも容易。
瞬きの間隔さえはっきりと窺える薬の魔力は、一対一の戦場において圧倒的な効果を発揮していた。
「なるほど……こいつぁ、殺しがいがありそうだ」
そう言って踏み込んでくる瞬間、Dボゥイもまた相手との間合いを詰めていた。
471
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:21:46 ID:anr0GJLw0
異常な動体視力は反射神経の増大に等しいが、勘違いしてはならないのは自分の体の機能だ。
あくまで相手の動きが鮮明に見えるだけで、自分の体が早く動けるようになったと勘違いしてはならない。
逸る視界に引きずられるように意識は動くことを要求するが、Dボゥイの肉体が相変わらずの満身創痍。
次なる一撃をまともに受ければ、それだけで崩壊するかもしれないことを忘れてはならない。
故に高速を見切る視界の中で優先されるのは、先手を取っての攻撃ではない。
――相手の攻撃を確実に躱し、隙間に攻撃を差し込む、後の先の戦いだ。
繰り出される左のジャブ、連続する拳はその威力こそ低いものの、鋭く視界を潰す槍の穂先だ。
空気を穿つような打撃を首を捻ることで回避、軽く引いた右の大砲が飛んでくるのに備える。が、
「ジャブがきた後はストレートってのはボクシングの基本だが、ここがリングの上に見えるかよ?」
「――くっ!」
小馬鹿にするような声に続いて、刈り上げるような右足が顔面を狙って跳ね上がった。
迫る一撃を頬に掠めながら間一髪で避け、生じた隙を縫ってその懐に飛び込もうと――
するのを空気を薙ぐ音を聴覚が捉えたことで中断、身を捻って打ち下ろされる踵の軌道から何とか逃れた。
「おぉ! よく避けたじゃねえか! 今のは日本の格闘ゲームってやつである技らしいぜ?
できるかもと思ってやったらできたもんだから、逆に俺がワクワクしちまったよ!」
地面を穿った踵の土を払いながら、少女は言葉に違わぬ笑みのままステップを再開する。
一度、その殺人鬼との間合いを空け、荒い息を吐くDボゥイは戦慄を隠せないでいた。
真上に蹴り上げた足を、寸分の停滞もなく真下に振り下ろす。行為を言葉にすればただそれだけのこと。
それを為す相手の身体能力に驚く部分もあるが、何よりも問題なのは自身の体の激しい消耗だ。
痛みを堪え、不調を無視すれば戦えるものと思っていたが、それでも尚、敵は遠い。
それこそ薬の力を借りている現在でも、戦力は拮抗どころか相手の方が上だというのだ。
テッククリスタルがあれば、とまで贅沢なことは言わない。
せめて満身創痍のこの身が万全であれば、奴の口撃に惑わされぬと誓える今なら引けを取らないというのに。
唯一持ち合わせているこの体が、激戦を潜り抜けてきた肉体が、その意思を阻んでいる。
この体たらくで、目の前の少女を救うことなどできるのか。
いや、それこそ問題は眼前の少女に対処することだけではなく、
ゆたかや舞衣を救うことができるのかという根本にも通じる。
その身をラダムに侵された舞衣は、目前の少女より尚手強かろう。
拳に手心が加わるのは避けようがないし、何より彼女自身の能力もまた脅威。
救うために滅ぼされてはならない――本当に救いたい彼女達を救うために、
この場で足踏みをしている余裕など、一片たりとも存在しないのだ。
「いいねいいね、ぶるってきたぜ! 最高だ!
小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて、命乞いする心の準備はOK?」
「女の子がそんなことを口にするべきじゃないし、祈るべき神はいない。
ここは屋外で、震えるための部屋の隅がそもそも存在しないな」
「雰囲気だよ雰囲気! 空気読めってんだ! ……まあ、覚悟決まったみてぇだからいいけどよ」
「ああ、決まったよ」
そこだけ可愛らしく首を傾げる少女に、Dボゥイははっきりと告げる。
勝利するために、意思を貫くために、言霊に己の思いを乗せて。
「覚悟は――決まった」
「いいねぇ、お前の意思って奴がビンビンくるぜ。その状況にありながらも!
まだ! お前は自分が死ぬとは思ってねえ! 死なずにやり通さなきゃいけない目的は持っているのに!
その目的を達成できずに死ぬかもとはちっとも思ってねえ! ああ、その思い上がりを殺して思い知らせてやる!」
「お前は――」
472
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:22:10 ID:anr0GJLw0
「OK、黙っとけ! もうこれ以上は言葉はいらねえ。俺とお前の間に、もう必要な言葉は何一つねえよ、そうだろ!?
もう分かり合った、互いの目的も意思も。ならもうこれ以上は言葉じゃなくて行動でだけ示されるべきってもんだ。
口先だけなら何とでも言える!
殺す殺されるの状況の前にそう言った奴を俺は何人も知ってるぜ! その全員を俺は殺してやったがね」
口を封じられ、あまりにも理不尽な言葉を叩き付けられ、しかしDボゥイの口元は初めて緩んだ。
何もかもに賛同できない存在であるラッド・ルッソ――その相手と、初めて意見が合ったからだ。
――そう。確かにもう、言葉はいらなかった。
先ほどとは違い、今度はDボゥイの方から先手を切った。
動きの鈍さは歴然だ。先に動いたとしても、相手の攻撃の方が鋭く早いのは目に見えている。
連続する攻撃を前に避けるのに必死になり、反撃を入れる隙間を見つけることなどできずに翻弄される。
さっきまでの展開をなぞるのは火を見るより明らかだ。
だからDボゥイは今は方針を変えている。
――無血での勝利を得ることはできないのだと、そう自身を戒めることで。
Dボゥイの矢のような前進が届く前に、やはり少女の拳の方が早く打ち出される。
先制のジャブは最初の邂逅よりもさらに速い。
――弾丸の速度で撃ち出される拳を交差する腕でブロックし、駆け抜けるままに間合いを詰める。
「ならァ! これで……どぉぉだァァァッ!」
雄叫びに呼応して突き出される右のストレートがガードのど真ん中に直撃し、威力のままにDボゥイの上体を弾いた。
華奢な体格から放たれたとは思えぬ拳の威力は、まるで人体の枷を外しているかのような破壊力。
――ここにもまた、宿主の体を無視した邪悪な寄生体の意思が見え隠れする。
怒りのままに弾かれる体で踏み止まり、再度の吶喊を試みる。
両腕を交差したままに、打ち込まれる拳の打突点を僅かにだけ外しながら、
損傷を軽微にすることにのみ意識を傾け、相手の間合いに踏み込んでいく。
――ここに、一つの真実を語ろう。
己の覚悟を明確に示すDボゥイの、強い意思を込めた前進は本来ならばラッド・ルッソには通用しない。
いかに強靭な肉体であろうとも、ブラッディアイの力を借りていようとも、
満身創痍の今の状態でラッド・ルッソを相手にしていたのならば、最初の接触の段階でDボゥイの命運は尽きていたのだ。
そのDボゥイが何故、敗戦の運命を塗り替えて善戦することができているのか。
それはDボゥイの飽くなき戦意も影響しているが、最大の理由は彼の覚悟にあるのではない。
最大の理由は相手がラッド・ルッソであって、ラッド・ルッソではないという点にあるのだ。
狂気の笑みを浮かべるラッド・ルッソ――その体の本来の持ち主の名を柊かがみという。
平和な日本で平凡な女子高生として生活をしてきた彼女は、
この殺伐とした殺し合いの中で不死の肉体を手に入れ、幾つもの修羅場を潜り抜けてきた。
参加者は異世界より召喚されし、いずれ劣らぬ猛者ばかり。
その戦いの申し子達と轡を並べながら激闘を生き抜くには、不死の体というだけでは足りなかった。
だが、鍛えるという行為から遠かった肉体での戦闘は、人体のリミッターを外すという不死者ならではの特性によって、無理矢理に条件をクリアしている。
この戦場において、柊かがみの戦闘力は本来のラッド・ルッソに比肩するといっていい。
にも関わらず、今の柊かがみとラッド・ルッソの共生している狂人は、本来のラッド・ルッソよりも。
そしてラッド・ルッソの経験を自らの肥やしとした柊かがみよりも弱い。
何故ならば、ラッド・ルッソの記憶と意識に肉体の全てを明け渡した現状、
柊かがみの肉体を操っているのはラッド・ルッソであって柊かがみではないからだ。
はっきり言ってしまえば、ラッド・ルッソの経験が真の意味で発揮できるのはラッド・ルッソの体でしかない。
その経験を馴染ませる時間があれば話は別だったが、共生が始まってからまだほんの数時間しか経過していない現状ではおよそ不可能。
ラッド・ルッソがこの少女の体を扱いきるには、まだ時間が足りていない。
腕が短い。足が短い。体が小さい。体重が軽い。
その全てが、ラッド・ルッソ本来の実力を発揮しきることに齟齬を生じさせている。
473
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:22:31 ID:anr0GJLw0
故にジャブもストレートも、威力が完璧に通る距離より僅かに遠い。
振り上げる蹴りもまた、本来ならば顎を削ぐような一撃にも関わらず、鼻先にも届かない。
柊かがみはラッド・ルッソの経験を生かすための努力をした。
だが、このラッド・ルッソは柊かがみの肉体を生かすための努力を積んでいない。
ラッド・ルッソであり、柊かがみでもあり、
柊かがみではなく、ラッド・ルッソですらない――狂人の戦闘力はそれ止まりであった。
――戦力の拮抗はこうして、Dボゥイの覚悟と肉体と精神の齟齬によって作り上げられていた。
「上を守れば、腹ががら空きになんだよッ!」
「ぐぶっ」
拳の雨が防御する腕を掻い潜り、剥き出しの胴体を直撃する。
フック気味の一撃が肋骨に直撃し、固い手応えでもって三本持っていったのがわかった。
内臓が折れた骨に傷つけられ、口の端からの血流が再び流れ出す。だが、
「また一歩、近付いたぞ」
「――――ッ! やっべえ! 最高だ! テンションだだ上がりしてきた!
こんだけ殴っても! そんだけ血を吐いても! 俺の拳が折れるぐらい肋骨をへし折ってやってるのに!
まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ!!
そんっっっっっっっっな強気に吠えられるのかよ! 最ッッッ高に素敵じゃねえかァ!」
狂笑を上げ、再び振り上げられる狂人の拳の速度が加速する。
繰り出される拳はもはやジャブでもストレートでもなく、ひたすらに打ち込まれる乱打に過ぎない。
その無鉄砲なまでの打撃が確実に前進を阻んでいるのが、逆にDボゥイにはありがたかった。
接近して、何を狙っているのかまで狂人は気づいていないはずだ。
だが、接近して何かを狙っていることにまでは、確実に気づいているはずなのだ。
狂人が履いているスケート靴が飾りでないのなら、その接近した距離を再び一気に開くことも一瞬で可能なはずだ。
いやむしろ、平凡な靴であったとしても、近付いた分だけ下がるのは容易なことなのだ。
なのに、ラッド・ルッソを宿した少女は下がらない。その場から動かず、拳を出し続ける。
接近して、Dボゥイが何を狙っているのかはわからなくとも、一体何をしてくれるのかと楽しみにしているのだ。
それは正しく驕りに他ならないが、今の全精力を一瞬の隙間に懸けるしかないDボゥイにはありがたい。
「最ッ高だ! 殴り終わってボコボコの顔に、キスしてやりたいぐらいだぜ!」
――ああ、同感だ。俺も今、お前にキスしてやりたい気分だとも。
めり込む拳が先ほどと反対側の肋骨に皹を入れる。だが、歯を噛んで苦鳴を殺した。
胴体を狙った一発はダメージを確実に蓄積する代わりに、一歩さらに踏み出すチャンス。
顔面狙いの拳は全て、下ろさぬ覚悟で掲げた両腕が防ぎ切る。
もはやブラッディアイの力を借りても回避運動すらまともにとれない体にとって、
僅かに打点を外すだけでいい上半身への殴打はいっそ気が楽だ。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ、何をしたって無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」
打ち付けられる拳、振り上げられるたびに血が飛び散っている。
見れば掲げられる狂人の拳は、すでにまともに拳の形をしていない。
当然だ。ただの人間の拳の骨が、これほどの暴力的な連撃の前に耐えられるわけがない。
それでも痛みなどまるでないかのように振る舞いながら、砕けた拳を振るう姿はあまりに異質。
それは、その意識は、その姿は――、
「醜悪、そのものだ!」
「――っとぉ」
痺れを切らしたように繰り出された大振りの一撃、ガードを外して身を屈め、
頭頂部に掠らせながら相手の懐に飛び込む――遂に、目的とした到達点に至った。
見下ろす狂人の視線が、どんな色を浮かべているのか確認している余裕はない。
おそらくは内なるラッド・ルッソが、ずたぼろの体でどんな風に足掻くのかを期待しているに違いないとは思う。
そのことに煮え滾るような怒りを感じながらも、Dボゥイは震える足を叱咤した。
突き刺すように踏み出した足を大地に固定、その場で身を回し、
通り過ぎていったはずの腕を緩やかに流れる視界の中で追い――その白い袖口を両手で掴み取った。
――シンヤ、力を借りるぞ!
474
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:22:56 ID:anr0GJLw0
Dボゥイ自身には武術の心得はない。
故に、その投げは彼が弟によって叩き込まれた、体に刻み込まれた傷跡の一つだった。
ラッド・ルッソに奪われた弟の技を借りて、ラッド・ルッソに操られし少女を打倒する――。
掴んだ相手の腕を巻き込みながら、想像よりはるかに軽い体を背中に担ぎ上げる。
そのまま勢いのままに回転し、地面に相手を叩き付けようと――、
「甘ェ――ッ!」
浮き上がる小柄な体躯に、地面と水平になった背中を踏まれる感触。
慣性のままに振り回されるはずの狂人の体が、Dボゥイの体を踏み台に飛び上がる。
それこそ、Dボゥイが意図したものよりはるかに勢いの乗った速度で。
その超反射神経による行動は、ただ投げられるだけの体を危機から回避させる。
背中から叩き付けられるはずの投げに対し、さらに前に飛ぶ体は滞空時間にコンマ数秒の猶予を生む。その間に――、
「あら、よっと!」
自分から跳ぶことで踏み足に捻りを加え、狂人の体が空中で身を捻る。
背面から為す術もなく地面に叩き付けられるはずの体が正しく地面を視界の収め、両の足からの着地をその身にやってのけさせた。
「残念無念、また来週ってなぁ!」
掴まれた右腕以外の四肢を地に着いたまま、低い位置から見上げる狂人が邪悪に嗤う。
その表情が、次なるDボゥイの動きで驚愕に歪んだ。
投げが失敗に終わると悟った瞬間――
Dボゥイは四肢を着く狂人よりさらに身を低くして足元に滑り込み、半ば地面に半身をつけたまま超低空の投げに移行したのだ。
さしもの狂人もこの投げには度肝を抜かれた。
何より、体勢が悪すぎる。先ほどと同じ回避を行うには、どちらの足もあまりに中途半端だ。
――故に、二度目の投げは見事に成立した。
もしもこの場が柔道の会場で、床を畳とした武道の戦いならば、軍配はDボゥイに上がっていたといえるだろう。
「けどなァ、ここは遊び場じゃなく殺し合いの場所なんだよッ!」
「ああ……その通りだ」
低い位置からの背負い投げは見事に決まったが、その威力はあまりに微々たるものだ。
投げ付けられるまでに描いた弧の小ささといい、技としての不細工さといい目も当てられない。
当然、戦場において相手を打倒するという意味での威力は無きに等しく、
狂人に与えたダメージなどDボゥイが受けたボディへの一撃一発分にも届くまい。
だから、それを理解していながらDボゥイが笑ったのは、投げ技が布石に過ぎず、その布石が完璧に決まったからに他ならない。
仰向けに転がった狂人に対し、膝立ちのDボゥイの方がほんの僅かに早く立ち上がれた。
後は、頭の中に思い描ける弟の動きと同じように動き、赤い世界を信じるままに巡ればいい。
右腕を掴んだまま、立ち上がったDボゥイは少女の体を跨ぐ。
咄嗟に立ち上がろうとしていた狂人はその行為に牙を剥いたが、その凶悪な表情が一瞬でくるりと引っくり返る。
身を回し、うつ伏せにされ、そのまま逃れようと身を捻るたびに、Dボゥイはそれに先んじた。
「なん……だ、こりゃ。テメェ、いったい……!」
「これは柔術の類だ。貴様の大好きなボクシングの中には存在しないだろう」
もちろん、見よう見まねでしかない。だが、傷跡の経験は確かにDボゥイの中で生きている。
たとえそれが実の弟の手によって、憎しみの果てに受けた経験だとしても。
「この子自身には罪はない。必ず謝るから……今は多少、乱暴なことも我慢してくれ」
贖罪を誓った言葉を告げて、反論も許さずに容赦なく――肩の関節を外した。
骨と骨の接触が強引に外される鈍い音と、狂人の微かな苦鳴が続く。
その痛みに歪む表情に心を軋ませながら、反対側の腕を、足を、同じように外した。
「が……があああああああああああああ!!!」
手の中に残る嫌な感触を実感しながら、Dボゥイは大仕事を終えたように息を吐く。
475
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愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:23:28 ID:anr0GJLw0
水が引くように、体内のブラッディアイの効果が失われていくのがわかった。
同時に耳鳴りと頭痛がさらに勢力を増したのをみると、どうやら紙一重のタイミングだったらしい。
四肢を外し、その危険な力を剥ぐ――それが、今のDボゥイにできた狂人の無力化。
この場で即座に、少女をラッド・ルッソの悪夢から解放してやることはできない。
その方法もわからないまま、少女を殺してしまうという選択肢だけは選びたくなかった。
それができたと、今は心から安堵している。
先のことを考えれば頭は重いが、今、この最悪の状況を潜り抜けただけで十分だ。
やり遂げられた、その感慨に比べれば、体の痛みや失われてゆくような心の軋みなど、何ほどのことでもないはず。
まだ何も状況が変えられたわけじゃない。
それでも、その一歩を踏み出せたはずなのだから――、
「今、こう思っただろ? 手足の関節は外したし、これでこいつは身動きとれねえ。
後は煮るなり焼くなり何もかもが思う通りで、やっぱり自分に比べれば人間なんて虫みてえなもんだ。
どんだけでかい口を叩こうが、俺が負けるはずがない! 絶対に、自分は殺されるはずがない! ってなァ!」
関節が外れるのによく似た鈍い音が響き、次の瞬間――拳がDボゥイの顔面を直撃していた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
人形のように吹き飛び、壁に激突して四肢を投げ出すDボゥイを見下ろし、狂人は嗤っている。
「ヒャハハハハ! いやいやいやいや狙いはよかったんだぜ、タカヤ君よぉ。
もしも俺の体がめちゃくちゃ治るのが速い体質じゃなかったら、今ので完全にチェックだったぜ?」
関節が嵌め直った肩を回して調子を確かめつつ、俯く青年を賞賛する。
まさに、狙いは素晴らしかった。
打撃や斬撃が通用しないという部分を見抜いていたわけではないだろうが、
この肉体でも通用する関節技に持ち込まれた時には柄にもなく焦ったのは事実。
柔術の経験値はラッド・ルッソにも柊かがみにもないものだ。
対処法はどこにもなく、もしもDボゥイが選んだのがサブミッションではなく、締め技ならば勝敗は違っただろう。
流石に酸素が欠乏すれば不死者であっても意識は喪失する。
ひょっとすると、制限下にあって不完全な状態の今ならば、窒息死は免れないかもしれない。
――おっと、またまた新しい、自分の死ぬ可能性を見つけちまったかな?
頭部を吹き飛ばされる、首を跳ねられる、後は全身を粉々にされるとか、窒息死も候補の一つ。
いやいやダメだ。よくよく考えれば溺死は一度試した後だ。あれじゃ死ねなかった。
こうして殺される可能性を連ねていないと、やや不安定になる部分を狂人は自覚していた。
――死なねえ奴が、死ぬ人間に殺すとか殺されるとか、言うわけにはいかねえからなぁ。
逆を言えば、死ぬ可能性が残っている自分ならば人を殺す資格を持ち続けているというわけだ。
わお、殺人許可証万歳。許されなくても殺せるけど。
「お、前は……」
「おっとぉ? すっげぇなぁ、本当に尊敬するぜ。
コンクリの壁もぶち砕くような一発だったってのに、生きてるどころか顔面も潰れてねえ。
ハンサム顔が残ってラッキーだったなぁ、土葬の際には故人の顔をみんなで拝むことができますってぇことだ」
折れ砕けた鼻から、口から、血を滴らせながらも息のあるDボゥイの生命力に感嘆。
本当にすごい。殺しても殺しても死なない奴には本当に頭が下がる。
それが人間を侮ってる宇宙人というのだから、まさに彼の存在は――、
「天使か何かかよ、タカヤ君は! この俺の、飽くなき殺人欲を満たすために天が使わしたまさに天使なのか!?
だとしたら、今まで俺は神の存在を軽んじてきたことを本気で神に謝りたい! ごめん、神様!
あんた、意外にいい奴だったんだな! あれ、でもひょっとして神様、
あんたって自分が全知全能だとか気取って死なないとか思ってねえ? うわ、やっぱダメだ、死ねよ神様!」
「お前は……やっぱり、ラダムの……」
476
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:23:51 ID:anr0GJLw0
「ああ? あー、再生力の話か。ハッ、俺はタカヤ君とかシンヤ君とかと同じもんじゃねえよ。
ま、死に難くなったって点においちゃぁ似たようなもんだがね。
それでも多分、首が飛んだり頭が潰れたりしたら死ぬぜ俺。今回の場合はあれだ!
ちょいとばかし運がなかったんだよ。巡り合わせだな、巡り合わせ。回り回る螺旋の意思、なんつってな」
茶化すように嗤いかけながら、狂人は打ち倒されているDボゥイの全身を改めて見て、その損傷の酷さに唇を曲げる。
刻まれた裂傷、全身特に背中の火傷、肩には刺し傷と傷のない部分の方が少ない有様だ。
素直にあれだけの動き、戦いができたことは賞賛に値する。やっぱり宇宙人だからか?
「さてさてさてさて、そんなタカヤ君ですが、遂に年貢の納め時かねえ。
今度こそ完全に、手も足も舌もビームもレーザーも出ねえ状況だろ?
シンヤ君と同じく、頭ふっ飛ばせば殺せるのはわかってんだよなぁ」
言って、デイパックから取り出したエクスカリバーの切っ先を動かない首に軽く当てる。
銃があれば頭部を吹っ飛ばしてやるのが簡単だが、剣で首を落とすだけで死ぬのだろうか。
ひょっとしたら脳を粉々にとかの殺し方が必要なのかもしれないが、正直なところ首チョンパで終わってほしい。
何せ、脳をぐちゃぐちゃにとか死体を痛め付けるのは頭のおかしい人間のやることだ。
殺す方法、殺し方に手は加えるものの、必要以上に生を冒涜するのは殺人鬼としてのポリシーに反する。
殺害、死――それらはあくまで、生の素晴らしさを実感するさせるための行為なのだから。
生首とか潰すのはあんまし気が乗らないねえ、などと思いながら、首に当てた剣に力を込めようとした時だ。
かすかに、Dボゥイの口から音が漏れ聞こえた。
死ぬ寸前に相手が零す、負け惜しみでも泣き言でも、そういうのを聞くのは好きじゃない。
それでも、宇宙人が最期に何を言うのかはちょっと興味があった。
「なになに? 遺言ってやつか? それなら聞いてやるぜ、冥土の土産にな。って使い方違ぇけど」
「……たか、舞衣……すま、ない……」
「〜〜〜んだよ、ただの泣き言かよ。興味が削げたぜ、つまらねえ。死ね、死んで口を閉じろ」
黄金の剣に力が込められ、その首に切っ先が侵入していく。
冷たい刃に死の予感を感じたのか、Dボゥイの虚ろになりかけた瞳が静かに狂人を見上げた。
そして――、
「助けてやれなくて……すま、ない……」
「――――っ」
瞳は真っ直ぐに、少女の姿を映していた。
その瞳の中に映る自分の姿を見て、狂人の心が確かに一度凍り付く。
そしてその硬直が解けた時、静寂の中に納得を得て、頷いていた。
――ああ、なるほど。だからこの男は、最後までこちらを殺そうとしていなかったわけだ。
救えなくてすまないと、Dボゥイは言った。
彼の行動は全て、この肉体の本来の持ち主である柊かがみの心を救うためのものだった。
そこに込められた意思の何と眩く、何と神々しく、何と気高いことか。
震える胸に微かに、しかし少しずつ強まっていく、湧き上がる衝動は感激によるものだ。
「タカヤ君……お前って奴ぁ、そこまで……」
どこまでも、どこまでも、敵対する相手を、救いたいと願ってしまう。
相手は自分を殺そうとしていて、しかも圧倒的に相手の方が有利な状況にあったというのに、
次の瞬間には死んでもおかしくないような負傷をしているのに、ああ、それでも――。
自分の力の限界を知って、肉体の崩壊を予期していながら、それでも尚、誰かを救いたいと。
――そう信じて願い続けられるというほどに、
「人間って存在を……侮ってやがるのかァ!!」
目の前の、こちらを矮小と嘲り続ける存在に対して、怒りと憎悪が噴き上がった。
突き付けていた剣の切っ先を外し、力なく下を向いていた顔を前髪を掴んで持ち上げる。
その虚ろな双眸をしかと睨み付け、歯を剥き出して狂人は猛る。
「救えなくてごめんなさい? 守れなくてすいません? 俺がしくじらなければ、みんなみんな死なないで助かってHAPPYENDで笑顔でバイナラだったのに、俺がしくじった所為で誰も彼もみんな困ったことになりましたってか? 俺にはそれだけの力があったんですってか? ふざけてんじゃねえぞ! この状況も、このゲームの参加者も、この俺も! テメェに可哀想がられる理由なんか存在しねぇ! 思い上がるとも大概にしとけ、大ッッッッッッッッ概によぉ!」
「違……」
477
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:24:37 ID:anr0GJLw0
「いいや! 違わないね! テメェはこの場で見つけたゆたかちゃんや舞衣ちゃん、果てはこの目の前にいる俺……ってよりは、この女か。これを保護者面して、守護者的な考えで、手厚く守っておくださりになろうってんだろ? その弱者は俺が守らなきゃってぇ、自分は強ェんだぞって考えが気に入らねえ。男と女は好き合うか、さもなきゃ対等な仲間でなきゃいけねえよ。テメェの考えにはそれが抜けてやがんのさ。全部全て何もかも、テメェでおっ被っちまえば丸く収まる……その考えは傲慢だぜ、傲慢。仲間でありたいって人間を、そのご自慢の強さってやつでどんだけ傷つけてきたのか、目に浮かぶようだぜ!」
言葉を聞き、愕然と目を見張るDボゥイ。思い当たる節でもあったのか、はたまた図星か。
その仕草に、ゆったりとではあるが回復が行われているのを見取って、狂人は目を細める。
朦朧とした意識が少しずつ復調しているのならば、それはそれで喜ばしいことだ。
このどす黒く体の内側に吹き溜まる怒りの捌け口とできるのだから。
「なぁ、タカヤ君。今、俺が決めたことを教えてやろうか?」
「…………」
「それはな、俺が、この俺が、タカヤ君の大事で大事な大切で大切なゆたかちゃんと舞衣ちゃんを殺してやろうってことだ!」
「……ッ! バ……カな……」
激しく動揺する姿に、やはりシンヤの兄弟だなと納得する。
舞衣はどうせ、もう一度会えば殺そうと思っていた相手だ。躊躇などあるはずもない。
約束したエミヤはどうやら死んだらしいし……約束っていつしたんだったか。
問題はゆたかの方だ。シンヤと一緒にいた小柄な少女。そして、よく知っている少女でもある。
それを殺そうと考えると、どうにも心の内側が軋む音を立てるのが避けられない。
自分の体が、自分の意思に反旗を翻すというのは全く面倒な話だ。
だが、逆にそれがいい。殺し難い殺したい相手を殺すというのは、とてもいい。
「そんなわけで、だ。弱者の勝手な保護者さんよぉ、残念だったなぁ。まぁ、人生ってのは運命の無常と人の世の無情と色んなしがらみに囚われつつ、辛いこと悲しいこと悔しいこと痛いこと泣きたくなるようなことと毎日毎晩毎分毎秒顔を突き合わせて、その中から自分にとって嬉しいこと楽しいこと満足できること気持ちいいこと笑っちまうようなことを見つけ出していくプラマイゲームだ。最後の最後でマイナスに傾いちまうテメェのことは同情しつつ不憫に思いつつ、しかしながら俺の人生にとってはプラスの方向に傾いてくれるという実績を誇りつつ爽やかに星空の一つになってくれや」
「待……て、ゆたかや舞衣には何の罪も、ない。殺す理由なんて……」
「どこにもない、ってか? いいや、あるね! 何故なら俺は殺人鬼だからだ。殺人鬼の俺にとっちゃ正直なところ何をもってしても殺す理由にはなる。それこそ殺すって結果が先に出来上がってて、殺す理由って過程は死んだ後に何となく俺の心の回想シーンの中でさりげなく思い起こすでもいい。まぁ、そもそも俺が他人に殺しの話をするなんて、それこそルーアぐらいにしかしねえわけだから尚のこと問題はないくらいに問題なしじゃねえか。……おいおい、そういえば今思ったけどこの格好で帰ってルーアは俺ってわかるのか? まぁ、最悪わからなくても俺がわかっときゃOKか。俺がルーアを殺す、ルーアは俺に殺されたい。その関係がしっかりかっきりちゃっかりと維持されてりゃぁ、とりあえず見た目の問題なんてのはオールOKだ。つまりは俺が殺す役、お前が殺される役、それもまたここではOKだ、OKだな? OKじゃなくてもOKすぎるがね、ハッ」
テンションが上がってきた、すごくいい。楽しい、心地いい、ゲージの最大だ。
掴んでいたDボゥイの頭を背後の壁に叩き付け、血が零れるのを見届けながら、
軽くステップを踏んで距離を開け、クルクルクルクルと踊るように回る。
「さあさあさあ、どうやって殺してやろうかねえ。今やまさにそれだけで俺のこの胸は、今や小さなこの胸はそれだけで高鳴ることを堪えきれねえ! この状況をどうすればいい! どうすればこのトキメキは解消される? わかってる、そりゃもう大胆に鮮烈に美しく蠱惑的なほどにゆたかちゃんと舞衣ちゃんを愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛で殺せばいいんだろうなぁ!」
自らの体を抱き締め、いずれきたる瞬間を思い描きながら、恍惚の笑みを浮かべる狂人。
眼下のDボゥイはその狂態にして嬌態を見上げ、理解できないものを見る目で愕然としている。
そしてその顔が俯き、堪え切れない感情に耐えるように小刻みに震えていた。
478
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:25:17 ID:anr0GJLw0
「おやおやおやおや、まさか泣いてるんじゃねえだろうな? そりゃ参ったぜ、流石に俺も泣き喚く大の男を殺した経験ってのは……あー、意外と結構あったわ。じゃ、躊躇いもないな。でも人生の最期って瞬間を泣き喚きながら終えるってのは自分としてはどうなのかね。タカヤ君はどう思う? 夜に布団の中でふと自分はどうやって死ぬんだろうと思ったことはないかい? そう考えた時に自分が死ぬならってベスト死因とワースト死因を三つずつぐらい並べなかったか? その中に泣き喚きながら死ぬってのはランクインしてないもんかね。ベストの方ならいいが、ワーストの方ならそりゃ悲しいことだ。まさか一度もそんな想像したことないってんなら、それこそ俺にとっちゃ嬉しい誤算だがな、ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「…………ろす」
「うん?」
踊るように破壊の跡でステップを踏んでいた狂人の耳に、微かな声が届いた。
その声に期待を募らせながら、狂人はスキップしながら歩み寄り、無防備にDボゥイの口元に顔を寄せる。そして、
「貴様の……思い通りになんて、させるか――ッ」
――刹那、人体を軽々と貫くだろう、一片の曇りもない殺意だけが込められた手刀が、
――倒れるDボゥイの体から、柊かがみの姿をした狂人に放たれていた。
繰り出された貫手は人体を紙のようにあっさりと破り、侵入路と対面に出口を作って突き抜ける。
文字通り、全精力を込めた一撃だったのだろう。
短時間での回復によって得た全ての力を総動員した手刀の威力は直撃した頭部を爆砕し、
制限下の不死者を死に導くことさえ容易なほどの破壊力を秘めていた。
頭部に、直撃さえしていれば――。
「痛ェ……がああ! マッジで痛ェ! うぉわ、流石は宇宙人、すげえ威力だ」
痛みを訴える狂人、その視線は掲げた左腕の掌を貫く手刀に向けられている。
顔面を狙った貫手を咄嗟に左手でガードしたのだが、
手刀は掌を貫通し、さらに伸び上がった先で仰け反り気味の額を浅く切っていた。
ずるりと手刀を引き抜くと、吹き出した血が震えて傷口に戻り、掌の穴もまた即座に塞がる。
それを確認して、
「しかし、まぁ……よかったぜ、本当に。やっぱ、やり難いわけよ。
圧倒的に優位に立った状態で、殺される心配なんてまるでない状況で、
神様気取りで殺そうなんて俺の主義に反するわけだ。だからよ、本当に助かったぜ」
「…………」
「最期の最期で、本気で俺を殺しにきてくれてよ」
突き出された手刀――それと交差するように突き出された黄金の剣の切っ先が、Dボゥイの喉を真っ直ぐに貫いて、背後の壁にその身を縫い付けている。
その双眸に光はなく、その体に生命の兆しはなく、その命運に未来はない。
「まぁ、あれだ。救いたいとか助けたいとか口にしてても、やっぱ最期の最期にゃぁ自分の憎悪を優先しちまう。そこに地球人も宇宙人も関係ないってわけだな! 安心したぜ、いやホント。タカヤ君も所詮は激怒の中では目的なんか見失っちまう普通の奴ってことよ! ま、ゆたかちゃんや舞衣ちゃんの今後は俺に任せておけってな。ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
耐え難い憎悪の前に、救いたいと願った少女を殺そうと攻撃し、反撃の前に倒れた。
他人の分まで傷付き続け、その果てに理想を抱き続けた男の――それが最期の姿だった。
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード 死亡】
479
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:25:43 ID:anr0GJLw0
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
昇り始めたばかりだった朝日はいつの間にか頂点までの道筋を半分にまでしている。
熱い日差しが降り注ぐ中を、黒衣の青年は悠然と――ではなく、肩を揺らして歩いていた。
高嶺清麿を殺害し、民家を後にしたルルーシュ・ランペルージは思考している。
まず、具体的に考えなければならないのは今後の方針だ。
最終的な目的は入手した小説を偽装した暗号文の内容に従う、これが最善だと考えられる。
ナイトメアに近い機体などが多く転がっている戦場、尚且つ単身でも恐るべき戦闘力を発揮する参加者達。
ギアスの力を用いても、優勝できる概算は低いと見積もらざるをえない。
ならば、やはり方針は脱出に寄っておくべきだろう。
対主催、などと気取って螺旋王とやらを打倒するまでのつもりはない。
生きて、帰る。自分にとって重要なのはその一点。
それ以上を望むのは達成すべき最終目標への成功率を下げるだけの余計なものに過ぎない。
「もちろん、カレンを失った痛手の分、螺旋王の技術が持ち帰れれば御の字ではあるがな」
黒の騎士団のエースにして、ゼロに向けるカレンの信頼は失い難い大事な駒だった。
失いっ放しで帰るというのは、如何にも敗北者の姿――怒りの気持ちが湧き上がる。
「全ては脱出の算段が整ってからだ。感傷に浸る思い出も思い残しも、今は必要ないのだから」
そのためにも、今は最大の対主催勢力を作りつつあるジンやスパイクとの合流を急ぎたい。
幸い、固まっているグループは情報交換中、あるいは何らかの作業中なのか移動する気配を見せない。
メンバーも、ジンやスパイクといった面識のある面々がいるのは上出来だ。
付け加えれば、ギアスについて知るスカーや菫川ねねねといった人材がいないことも。
懸念されるのは小早川ゆたかという少女か。これは高嶺清麿や菫川ねねねと行動と共にしていたらしき少女。
離反したと聞いていたが、このグループに紛れていることは非常に厄介だ。
もしもギアスのことが知られているようならば、最初に消えてもらわなければならなくなる可能性も高い。
高嶺清麿さえ懐柔できていれば、このような苦労をしなくても済んだものを。
「やれやれ、次々と問題は生じるものだな。俺はただ、ナナリーの下に帰りたいだけだというのに」
他者が聞けばあまりに利己的で自己中心的な愚痴を零しながら、さらに考察は進む。
このゲームの会場において、どうやら自分の顔はそれなりに広い方に入るようだ。
様々なグループに参加、離脱を繰り返してきた経験がここで役に立っている。
何が王の力はお前を孤独にする、だ。それどころか、これほどの実績を得ているではないか。
詳細名簿や考察メモの内容と照らし合わせ、現在も生存しているわかりやすい敵性存在は、
東方不敗、ニコラス・D・ウルフウッド、シータといったところか。
ルルーシュ個人として危険視しなければならないのは、目指すグループ内にいる前述の小早川ゆたかに加え、スカーと菫川ねねねの二人。
特に後者の二人はギアスの特性を知り、尚且つ敵対に近い間柄になってしまっている。
早急に意識の塗り替えをしてもらうか、消さなければならない。
また、ルルーシュ個人として危険視する必要がないのがヴィラルとシャマルの二人だ。
今や紙切れほどの価値しかない同盟の約束だが、あれを結ぶ過程であの二人がどういう人材なのかは知れている。
ギアスを使うまでもなく、丸め込むことは造作もあるまい。
「やはり、優先すべきはジン達のグループ内でどう立ち回るか、だ。
実利のわかるジンやスパイクならば俺の持つ情報を無碍には扱うまい。
小早川ゆたかも、名簿の限りでは平凡な学生。接し方次第で篭絡はできるだろう。しかしやはり問題は――」
ルルーシュの言葉はそこで途切れた。いや、断ち切られたというべきだろうか。
熱い日差しの中、ゼロのコスチュームで歩き回るのは非常に体力を奪われる。
それが不意に影が世界を覆ったことで涼しさが差し込み、救われたように空を仰いだ瞬間だった。
――機械仕掛けの白銀が、猛々しい重低音を上げて、ルルーシュの眼前に着陸したのだ。
――馬鹿な!?
内心を驚愕の一言が埋め尽くす中で、ルルーシュは手の中のレーダーに視線を送る。
このレーダーを入手して以来、自身の安全のために常に周囲の警戒は怠っていなかった。
如何な高機動兵器の速度とはいえ、気づかないなどありえない。
ならばどうして、見上げるほどの巨躯に接近を許してしまったというのか――。
その疑問は、その白銀の巨体の次なるアクションによって解消された。
480
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:26:09 ID:anr0GJLw0
「俺の名はチミルフ!
螺旋王の忠実なる臣下にして、貴様らニンゲンを殲滅する役目を負った一介の武人だ! 名乗れ、ニンゲンよ!」
そう堂々たる名乗りを上げたのは、機体の中央に設置されたコックピット
――ハッチを失ったその場に立ち上がり、真っ向からルルーシュを見下ろす偉丈夫だ。
その姿形は人型であるものの、肉厚の巨体を覆う体毛など、はっきりとした違いがある。
何よりはっきりと名乗ったではないか――螺旋王の部下、チミルフと。
それは螺旋王が殺し合いのゲームに投下した、新たな獣人の名に他ならない。
そしてそのジョーカーとも言うべき札の首に、従属を強いる首輪はどこにも見当たらなかった。
つまり、唯一、この場においてレーダーに反応しない存在がチミルフ!
この出会いの運のなさを呪う気持ちが胸中に湧き上がる。
その怒りに唇を噛み締めるルルーシュに対し、チミルフは再度高らかに呼びかけた。
「どうした、ニンゲン! このビャコウの威容の前に慄いたのか、己の名も発せぬほどに!」
その言葉に込められた危うさに、ルルーシュは即座の返答を強要された。
武人と己を称したチミルフの態度は、戦うことに享楽を感じる理解し難い類のものだ。
そういう輩は往々にして、慎重な判断よりも、蛮勇に対して敬意を感じるものらしい。
「失礼した、武人チミルフ殿。俺の名はルルーシュ・ランペルージ。返答が遅れた非礼を詫びたい」
偽名は使わなかった。
首輪がされていない時点で、チミルフが他の参加者よりも優遇される立場にあることは確実。
そこには参加者の情報も含まれている可能性がある。
名乗りを求めたのはこの場で真実を語るか偽るかによって、ルルーシュの見極めを行おうとしたからかもしれない。
武人――日本解放戦線の連中が好んで使用しそうな名称だ。ともなれば、相対する態度もまたそれに近いものになる。
偽れば死――その可能性と天秤にかけて、偽名を名乗るメリットはなかった。
そしてその読みが通じたように、威勢を上げていたチミルフは重々しく頷き、
「うむ。怯えと嘲ったこちらの非礼も詫びよう。ルルーシュ・ランペルージよ」
そこに確かな謝罪の念を込めて、そう口にしたのだ。
その態度を前に、ルルーシュはこの出会いを単なる不運と嘆くのは惜しいと考える。
螺旋王直属の部下である男、四天王の一人であるチミルフ。
この男より、引き出すべき情報は湯水のように溢れている。
――ならば、ここが俺の覚悟の決めどころというわけだ。
――スザク、ナナリー、俺に力を貸してくれ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
481
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:26:35 ID:anr0GJLw0
その出会いは連鎖する不幸な出来事の、一つに過ぎない。
コックピットハッチを全損し、外気を身に浴びたままチミルフは愛機を駆っていた。
この哨戒行動と呼べる行動には、特別な目的があったわけではない。
ただ、映画館に隠された施設の中で、未だ人間をやめるか否かの選択肢の間に揺れている男。
その決断を逸らせることも、邪魔をするということもしたくなかったというだけのこと。
ウルフウッドがいずれの決断を下すにしても、チミルフはそれを賞賛を持って迎えるだろう。
だが、その決断に無粋にも自分が介在するという野暮はしたくなかった。
故に短時間傍を離れる決断を下し、こうして映画館の周囲を損傷した愛機の調子を確かめていたところだったのだ。
その過程で別の参加者に巡り合う――これもまた、一つの巡り合せであった。
名前を交換したところで、チミルフは改めて眼下に立つルルーシュの全身を検める。
その体格やその他を検分したところで最初に浮かんだ感想は、僅かな落胆であった。
ひょろりとした細身は実世界で戦ってきたニンゲン達の体格にすら遠く及ばない。
もちろん、このゲームの中で見た目で相手を測るのは愚行の極みだ。
だが、どう贔屓目で見ても、その立ち振る舞いには武芸に通じるものが一切感じ取れないのだ。
名乗り、そして敬意を向けるその所作には誇りに通ずるものがある。
武人に対して敬意を払えるその態度には確かな好感を抱けるが、残念ながらそれだけだ。
東方不敗と、そしてウルフウッドと交わした血沸き肉踊るような戦闘は望めまい。
とあれば、求めるのは情報と、そしてこの男にはニンゲンの、螺旋の強さがあるのかということ。
「問うぞ、ルルーシュ・ランペルージよ。お前はこの戦場において、何を望む?」
「答えよう、武人チミルフ。俺が望むのは、勝ち取ることだ。この戦場において、俺の戦いで」
澱みのない返答が真っ直ぐに戻ってきて、答えを返されたチミルフの方が僅かに驚く。
正直なところ、力のある答えが返ってくることを期待してはいなかった。
見るからに弱者たる男が、この場でチミルフに返す刃のような意思は持たぬものと軽んじていた。
そのチミルフの軽率な思考を殴りつけるようにこの矮躯のニンゲンは、非力で無力であるに違いないニンゲンは、あろうことか言ったのだ。
――ルルーシュ・ランペルージは、戦いによって戦場を勝ち抜くと。
向う見ずな弱者と嘲るような気持ちはすでにない。
どれほど非力な存在でも、誇りを持って戦いに挑めるのならば戦士としての資格はある。
それは正しく、チミルフの胸の内に、快い感慨をもたらした。
「問うぞ、ルルーシュ・ランペルージよ。お前は螺旋の力、その力の本質を知っているか?」
「答えよう、武人チミルフ。俺自身はその力には届いていない。
しかし、仮説は持っている。これもまた、俺が戦いの中で勝ち得てきたものの一つだ」
482
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:27:01 ID:anr0GJLw0
「問うぞ、ルルーシュ・ランペルージよ。参加者である、ニアという少女については知っているか?」
「答えよう、武人チミルフ。ニアとは友好的な関係にある。
彼女とは図書館へ向かう道筋で別れ別れになったが、あの場で落ち合えることは間違いない」
僥倖。この出会いはまさしく、僥倖だ。
求めてやまない螺旋の力の糸口を、ルルーシュ・ランペルージは持っている。
そして、この戦場で拝謁したいと願っていたニア王女の情報も。
東方不敗の口から、ニア王女の人となりについては聞いていた。
彼女もまた圧倒的に力の差がある東方不敗を前に、一歩も退かぬ誇り高さを抱いた存在であるらしい。
共にいたカミナという男を東方不敗が気に入っていたことも含め、王女は気高き意思と、そして武人と共に戦場を生き抜いている。
その存在の一端に今、手が届こうとしているのだ。
「ルルーシュ・ランペルージ。
今、俺がここでお前の知る螺旋の力の秘密を求めれば、お前はそれを語るつもりはあるか?」
その申し出に対し、しかしルルーシュはチミルフを見下すような笑みを象り、
「馬鹿な。戦いの果てに得た情報を、軽々しく漏らすと思うのか?
もしそう思っているのだとすれば、武人という名は返上すべきだぞ、チミルフ」
「だろうな」
その返答もまた快い。全ては戦いの果てに得るからこそ価値がある。
ここで目に見える武力でもって脅しをかけ、吐き出させることに何の意義があろうか。
「だが、戦えばおそらく俺はお前を圧倒する。それでも尚、挑むというのかルルーシュ・ランペルージ」
「当然だ。生きるということは戦う、そういうことだろう!」
「――然り!」
ここへきて、両者の意向は通じ合ったとチミルフは考える。
故にビャコウの操縦桿を握り、眼下の矮躯を槍の穂先によって粉砕しにかかることに躊躇はない。
戦いとなれば、手を抜くことなどできるはずもない。
結果としてもしもルルーシュが死んでしまい、螺旋の力を聞き出せずとも仕方がない。
戦士たる男に対し、斯様な手心こそ最大の侮辱に他ならないのだから。
――しかし、
「何故、動かぬ――!」
焼け付くようなビーム刃を振りかざすビャコウの前で、ルルーシュはその場を微動だにしない。
それどころか両手を広げ、まるで攻撃を甘んじて受けようとでもいう構えだ。
何らかの攻撃意思のある行動ではない。
伸びきった両手両足で、如何な挙動による回避運動が取れようか。それとも、
「耐えられるとでも思っているのか? このアルカイドグレイブを!
だとすれば、それは思い上がりに他ならんぞ、ルルーシュ・ランペルージ!」
「言ったはずだ、勝つためだと! 俺は生き抜き、勝ち取るために行動する。
その目的の前に、お前と武力によって競うことは無謀に他ならない!」
「馬鹿な! それこそ妄言だ。武で争わねば何をもって争う!」
「――それは誇りだ!」
叩きつけるような雄叫び、そして大仰な身振りで両手をかざし、ルルーシュはチミルフを示しながら叫び続ける。
「力を持たない弱者に対し、武力でもって蹂躙するのが武人のやることか!」
「ふざけるな、それこそが戦いだろう! 互いを戦士として認めれば、それ以外の何がある!」
「ならば、これは、お前のまだ知らぬ戦場だ、チミルフ!」
臨戦態勢にあるビャコウを前に、痩身は一歩前に出た。
そして、牙を剥くチミルフを一片の恐れも抱かぬ眼光で射抜く。
「再度問うぞ、チミルフ。無力な弱者を、武力で蹂躙するのが武人のやることなのか!」
「俺に……この俺に、武人の道を説こうというのか!」
483
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:27:27 ID:anr0GJLw0
「違うな、間違っているぞ、チミルフ。武人とは何か、俺は問うたのだ。
説くのはチミルフ、お前だ。説かれるのは俺に他ならない! さあ、示せ、武人の道を!」
操縦桿を握る手が、激情のあまりに小刻みに震えている。
口八丁手八丁で丸め込もうとしている、そう断じてルルーシュを貫くことはあまりにも容易い。
そう、容易いからこそ、チミルフは迷う。
相変わらずこちらを睨むルルーシュの目に、怯えや打算の光は一切差し込んでいない。
それは正しく、この状況に、奴の言う、奴の戦場での戦いに命を懸けているということだ。
武力でもって、槍の穂先でもって答えるしか知らない自分は、どうすればいい。
「王の命により、俺には参加者を皆殺しにする必要がある。その俺に、自らのために忠義を穢せというのか?」
「武人たる男に道を曲げさせるんだ。当然、タダでとは言わない。見返りは用意する」
「この俺に戦いの戦果ではなく、物の譲渡で命を拾おうと言うのか!?」
だとすれば、それはあまりにも戦いを安く見すぎている。
ルルーシュの語る未だ知らぬ戦場――。
その戦いが如何なものかはわからないが、そのような汚辱の積み重ねで生き抜く戦いならばあまりに下らない。
そしてその考えは、チミルフが誇りに思う、チミルフの戦いに対する侮辱に他ならない。
憤怒のままに喉を震わせ、その思い上がりを打ち砕いてやろうと口を開き――、
「その考えは俺への侮辱とみなすぞ、武人チミルフ!!」
「何だと!?」
先んじてその言葉を発したのは、誰であろうルルーシュであった。
彼はそのまま、チミルフの言葉が耐え難い屈辱であったとばかりに痩身を激情に揺らし、
「ただ己の武によって争うことのみが戦いではない。俺は俺の持てる武器を使い、命懸けで常に戦っている。
その俺の戦いを単なる命乞いと侮るなら、それこそ俺の戦いへの侮辱だ!」
その覚悟の前に、決意の前に、存在の前に、チミルフは確かに圧倒された。
それはチミルフが知らない戦場、世界にはまた、誇りを武力以外に乗せる戦場もまたあるのだ。
無力で貧弱な体しか持たない存在が、己の全てを懸けて戦う戦場が。
どれほど言われようと、チミルフには決して歩くことができないだろう戦場だ。
元より武力によって戦うことしか知らず、できぬ身だ。
だが、そんな身であっても、その戦いの苛烈さの一端を感じ取ることはできた。
「そうまでして生き抜き、為し得たい目的があるのか」
静かな問いかけに対し、ルルーシュは厳かに頷いた。
「そうだ。俺には俺が守るべき、達成すべき目的がある。
たとえ命懸けの戦場で志半ばにして倒れることがあろうとも、最後の最後まで生き足掻くに足る理由が!」
戦いの果てに散ることへの覚悟を、ルルーシュは持っているのだ。
ならばそれは武人ではなかったとしても、正しく戦士としてのあり方だろう。
それを理解して、痛感してしまえば、チミルフが下せる決断は一つしかありえなかった。
「ここで貴様の命を奪えば、誇りを失うのは俺の方だな」
構えたビャコウの槍を下ろし、ルルーシュの戦いに懸ける覚悟を賞賛する。
その行動にルルーシュは深い礼を見せ、そして懐から一つの機械を取り出して、
「その誇りに感謝する。俺が見返りに出すのは、参加者の居場所を知れるレーダーだ」
手の中で操作し、小さな画面をチミルフに見えるように向ける。
それによれば確かに、小さな画面の中を幾つかの光点が点滅しているのがわかった。
なるほど、それがあればこの戦場での行動はぐっと優位になろう。
求める相手の場所に到達することも造作もあるまい。だが、
「それがあれば、俺はお前の場所を知ることができる。今はお前に敬意を表するが、二度目はないぞ」
「わかっている。当然、いつまでも見逃せとは言わない。一時間、その間だけ俺の存在を忘れてくれ。
二度目の遭遇があれば、その時は俺もまたお前と同じ戦いに赴こう」
「ふむ……わかった」
提案は妥当なものだ。そして、覚悟は揺るぎない。
次なる邂逅で戦いとなれば、今のままなら数秒で決着がついてしまう戦い。
484
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愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:27:54 ID:anr0GJLw0
だが、その戦いえさえ心待ちに思えるほど、戦士としての格のある相手だ。
「レーダーだが、使い方はわかるか?」
「不用意に近付くな、ルルーシュ・ランペルージよ。心を許したわけではない」
レーダーを手にしたまま歩み寄るルルーシュを、ビャコウの掌が押し留める。
その行為をチミルフはかすかに恥じた。
戦士としての格を認めておきながら、相手が凶行に出ることを懸念した行為だからだ。
だが、その非礼に対しルルーシュは苦笑して、
「用心深いな。ではこうしたらいい。その機体の掌で、レーダーを持つ右手以外の四肢を封じるように握ればいい。
何かおかしな行動をとれば、遠慮なく握りつぶしてくれ」
その提案はまさしく、チミルフが心変わりしないことを信頼しての言葉だ。
自分の矮小さと比較し、その寛容さには頭が下がる。
提案を跳ね除けることなど考える必要もなく、その体を言葉通りに白銀の掌で掴み上げた。
「操作はこのロボットに比べればずっと簡単なはずだ。まず――」
露出したコックピットの眼前にルルーシュを持ち上げ、宣言通りに右手でレーダーの操作を見せ付けるルルーシュ。
怪しい挙動など見せる素振りもない。丁寧に説明しつつ、最後にはそのレーダーをチミルフの懐に投げ渡した。
レーダーを受け取り、太い指には操作の難しいそれに四苦八苦しつつ、説明の正しさを確認。
頷きをもって、互いの契約が成立したことを示す。
「確かに確認した。それと同時にルルーシュ・ランペルージ、お前の覚悟もだ。
武人ではないが、お前は確かに戦士だった。非礼の数々を詫びよう、すぐに解放する」
「いや、気にする必要はない。それにだ。俺を戦士と呼ぶのは、少々間違っているぞ」
「む?」
「俺は戦士ではない。指導者だよ」
掴んだ腕から解放しようと操縦桿を握ったが、不意に変わった声色に眉を寄せる。
そのチミルフの眼前で、真っ直ぐにこちらを見ているルルーシュの左目が紅く輝き――、
「お前の主君は螺旋王ではない、この私だ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
485
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愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:28:25 ID:anr0GJLw0
かしずくチミルフを前に、ルルーシュは高笑いしたい衝動を必死で堪えていた。
何が戦士だ。何が武人だ。笑わせてくれる。
過剰な演技は体のあちこちが痒いくらいだったが、頭が空っぽの戦闘狂には程よいらしい。
まんまとこちらを信用し、不用意な接近を許すほどに。
「――以上が、此度の実験により螺旋王が得たいと思っている内容です」
「ふむ、上出来だ。その情報は私の今後において多大なプラスになるだろう。よくやった」
「ははっ」
己の知るところを語り終えたチミルフは、王の労いに対して畏敬の念を声音に込める。
この男が忠義に溢れ、存在の根元から創造主に忠誠を誓っていたことはルルーシュにとって幸運だった。
ただギアスをかけるだけならば、最初の邂逅の瞬間にもそれはできた。
にも関わらず茶番に付き合い、時間をかけて慎重な対話を選んだのは、高嶺清麿との会談の失敗による学習からに他ならない。
『銃を寄越せ』と勢いに任せて命令を下したことは、ルルーシュにとって痛恨の極みだった。
その二の舞にならないよう、どんなギアスをかけるのが一番効果的かを会話の中で探っていたのだ。
その結論が――忠誠を誓うべき相手を書き換える、というギアス。
先に遭遇していたヴィラルもそうだが、獣人というのはどうやら骨の髄まで螺旋王を崇めてやまないらしい。
チミルフもどうやら例外ではないらしく、その忠誠の矛先が変わった結果が今の状況だ。
――この制限下において、使用するギアスは入念に吟味すべきだ。
一度にかける人数、ギアスの内容がどれほどその対象の行動を縛ってしまうか。
それらを吟味すれば『俺に従え』などの対象の思考を完全に束縛してしまうギアスは、払うべき対価が大きすぎるだろうと選択肢から排除していた。
だが、別のかけ方によって、同じ効果を発揮できるのならばどうだ?
結果は眼前の忠実なる僕となったチミルフが証明している。
その効果と引き換えの代償はあまりに軽微。
偏頭痛のように絶え間なく響く頭痛も、この駒の入手と比べれば対価と呼ぶほどでもない。
――意思を縛るギアスではない。チミルフが勝手に、俺を信頼しているだけのこと。
そう、結果的に同じになっただけのことだ。まったく、螺旋王は素晴らしい部下を持ったものだよ。
内心でそう述懐するルルーシュは気づいていないが、ここに二つの偶然があったことを記しておこう。
それはルルーシュ・ランペルージが自分に運が向いていると、そう自覚している以上の幸運に恵まれていたということだ。
本来、このゲームの参加者達の能力は首輪によって制限されている。
それは他の参加者に比べてあまりにも強大な力であったり、万能の魔法であったり、絶対遵守の命令である。
この制限下におけるルルーシュ・ランペルージに与えられた枷は、彼の自己認識がかなり正解に近い。
だがそのルールに乗っ取って考えれば、此度の『主君を書き換える』というギアスは成立する可能性が低く、大きな対価を要求されて然るべき命令なのだ。
にも関わらずそれが成立したのは、これもまた首輪の力の影響が関係している。
首輪の機能の制限についてのみ限定した話になるが、首輪の制限には外側からの力と内側からの力、両方に対する制限の機能が搭載されている。
例を挙げれば、補助魔法というものがある。
この魔法の効果を対象の身体能力を強化するものと過程して話せば、首輪をつけたAという人物が同じく首輪をつけたBという人物に補助魔法を使用する場合、それはAの内側からの魔法に対する制限と、Bの外側からの魔法の制限が働き、二重の制限を受けることになる。
無論、内と外では内側からの力に対する制限の方が強力で、外側からの力に対する制限は大分緩和されている。
それでも、Aという人物の首輪が外れた状態で、首輪の外れていないBへの補助魔法が十全の効果を発揮することはできない。
486
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愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:28:49 ID:anr0GJLw0
本来の効果を発揮しきるためには、AとBの両者の首輪が解除されていることが肝要なのだ。
この制限は本来、前述の補助魔法や治癒魔法。そして、ルルーシュの持つギアスなどに対する保険の意味を持っていた。
ゲームが首輪の頸木が外れた者達の独壇場になることを防ぐための、安全措置といえよう。
故にルルーシュの首輪が外れたとしても、首輪がかかっている参加者に対するギアスには条件の軽微な制限が加わることは避けられないのだ。
だが、その保険としての首輪の認識が、今回の運命の偶然を引き起こした。
そう――首輪のない状態のチミルフに対してのギアスは、首輪をつけたルルーシュが首輪をつけた他の参加者にギアスをかけるより制限が弱体化していたのだ。
もちろん、本来はそれでも、内側からの力を制限するギアスによって此度の命令はキャンセルされてもおかしくない。
その制限があって尚、チミルフの思考を書き換えることができたのは、皮肉にもこの戦場に参加することで得た彼の思考の変化が原因に他ならない。
この戦場に降り立つ以前、ひいてはこのゲームの開催に携わる以前のチミルフは、今とは比較にならないほど視野が狭かった。
与えられた任務を達成することに満足し、ただ妄信的に創造主である螺旋王に従い続けるだけの日々。
その卑小だったチミルフはこの戦いを、そして王の目的を知ることで変わった。
戦場に降り立つことでこれまで侮っていた人間の力を知り、己の思い上がりを恥じて武人として一皮剥けたのだ。
だがその一方で彼の心の奥底に微かに巣食ったのは、拭い去れない王への疑念――。
この実験の本来の目的――それが達成された時、王は自分達獣人をその世界でどう扱うのか。
面と向かっての問いかけに、明確な答えはもらうことはできなかった。
それでも、それでもだ。チミルフは武人たる己を、忠誠を誓うべき王に見せつけようとしたのだ。
王の御心が変わることを願って、獣人達の礎にならんと決意を秘めて。
だがその考えは見方を変えれば、道を示した王への造反の感情に他ならない。
王の考えは間違っている――それが真実だとわからせたいがために、チミルフはこの作り物の世界の土を踏んだのだ。
それは何も知らず、己では何も考えず、王の心だけを一心不乱に信じていられた彼を変えていた。
本来ならば制限に抵触するはずの、王への忠誠というアイデンティティを書き換えられるほどに。
チミルフが成長したこと、首輪がなかったこと。
そして首輪に対する考察がいまひとつ真実に辿り着いていないこと。
これら偶然的な積み重ねがあったことで初めて、この状況は作り上げられている。
チミルフの忠道を捻じ曲げ、そのために払った対価もあまりにも軽い。
まさしく、誇りを重んじる武人という存在を嘲弄する、ルルーシュ・ランペルージの認識のままに。
「ふはははははははははは――!」
「失礼ながら、王よ」
自身に降りかかる幸運の前に衝動を堪え切れず笑う。
そのルルーシュに畏まった態度で歩み寄るチミルフは、怪訝な顔をするルルーシュの前にレーダーを差し出した。
そこに描き出された光点の中――こちらに接近してくる光が一つある。それは、
「柊かがみ、か――」
「どうされますか。邪魔な相手であれば……」
言外に消すという意思を乗せるチミルフに、ルルーシュは黙して指示を考える。
柊かがみ――詳細名簿から入手している彼女のデータを頭の中に思い浮かべるが、これといった目につく情報のない少女のはずだ。
平凡な、エリア11となっていない日本からの参加者で学生。
双子の妹が参加していたらしいが、最初の放送で落命しているあたりから特殊な能力は持っていまい。
ここまで生き残っていること自体、奇跡的なタイプの少女のはずだが、気になるのは、
「明智が残している考察メモの内容、だな」
487
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:29:12 ID:anr0GJLw0
それによれば、柊かがみはこのゲームの序盤からずっと衝撃のアルベルトという男と行動を共にしていたらしい。
このアルベルトという男の経歴がまた異様で、細かいことを省けば戦闘力やその他の面から見ても危険人物であることは間違いない。
――世界征服を狙うテロリストなどと、あまりに美しくない肩書きの持ち主だ。
そんな男が柊かがみと行動を共にしていた。こういった輩が実利を度外視して保護に回るとは考え難い。ならば――、
「柊かがみはこのゲームの中で、保護するに足るような何かを手に入れている、か?」
それが最も妥当な可能性だろう。
アルベルトが彼女を殺してそれを奪っていない以上、殺せない理由がある何か。
――それは体に埋め込まれるものや、あるいは植えつけられる知識などだろうか。
「どちらにせよ、接触するだけの価値はあるな。チミルフ」
「はっ、いかがいたしましょう」
「交渉は私が自らする。お前はビャコウに乗り込み、有事に備えろ。
もしも相手が敵対行動に及び、私が危険だと見れば、即座に殺せ」
「御意に」
差し出されるレーダーを受け取り、ガンメンに乗り込むチミルフを尻目に、周囲のエリアの警戒を怠らない。
どうやら柊かがみは単独行動のようだ。
移動の速度も軌道兵器に頼っている様子はなく、人間の移動速度の範疇に過ぎない。
ビャコウの準備が整い、自分の背後に控えるのを震動で感じ取りながら、ルルーシュは悠然と接近する光点を待つ。
と、どうやら相手もこちらに気づいたらしく、その動きが目に見えて遅くなり、停止した。
場所はどうやら正面にある木々の陰。そこから狙撃でもされてはたまらないと、ルルーシュはあちらの行動に先んじて、
「待て、柊かがみ。こちらにはレーダーがあり、お前の動向は見えている。
こちらに敵対する意思はない。大人しく出てきてくれないか?」
「――――」
「事実だ。俺はレーダー以外は無手だし、荷物は足元に置いてある」
「お生憎様。そんなこと言われても、後ろにあるロボットが危なっかしくてとても説得力がないわ」
「なるほど……それは当然だ。だが、背後にいるのは俺の協力者となったチミルフだ。
螺旋王の直属の部下だった男。それが俺を殺そうとしていない。その情報は使えないか?」
露出したコックピットからは、その言葉が真実であることを示すようにチミルフの姿が覗く。
獣人であること、そして首輪が嵌められていないこと、それらは十分にルルーシュの言葉を肯定する材料になるだろう。
相手も同じ結論に達したらしく、僅かな逡巡の後でゆったりと姿を見せた。
詳細名簿に記された平凡な内容、その情報と今の彼女の姿は乖離していない。
身に纏うセーラー服といい、華奢な体つきといい、全てはルルーシュの知る学生と同じものだ。
肩口にある団長と書かれた腕章の意味はわからないが。
「柊かがみ……で間違いないな」
「そうよ。……そのレーダー、私が知ってるとは違うものなのね」
「ああ、君に支給されていたという本物のレーダーの話か」
歩みが止まり、少女の顔が怪訝の感情によって埋め尽くされる。
軽い先制のジャブのつもりだったのだが、掴みはOKだろう。
「どうしてそれを、という顔だな。簡単なことだ。情報だよ。
このゲームにおいて、情報は力だ。俺は少々それに恵まれているというだけのこと」
「人の心でも読めるって言うの?」
「それができれば素晴らしいが、そうではない。支給品リスト、というものがあってね。
これを見ればどんな支給品があり、それが参加者の誰に配られたものなのか一目でわかるというわけだ」
「ふうん。そんなものまであって、レーダーまで持ってて……ずいぶんと恵まれてるんだ」
「幸いにな。ちなみに詳細名簿というものも持っている。
これには参加者のかなりパーソナルなデータが記されている。君のことも、初対面よりはずっと知っているはずだ」
多少ぶっきらぼうな態度なのは、不信感を拭い去れていないからだろう。
その反応から頭の悪い少女ではないことを感じ取り、交渉の場に望めるだろうことを確信する。
案の定、かがみは細めた目に疑念を込めながら、
488
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:29:37 ID:anr0GJLw0
「そんなにぺらぺらと手の内を明かして、いったい何を企んでるの?」
「相手の信用を得るために、自分のカードを見せるのは当然のことだ。
たとえ殺伐とした殺し合いの場所だとしても、俺は人として最低限の信念を曲げたくはない」
「信頼を得るため、ね。詳細名簿を見たなら、あなたは私にその価値がないことを知ってるんじゃないの?」
それは言外に自分には戦闘力がなく、特殊な能力もないことを、無価値であることを示唆している。
自分の価値を正しく評価し、その上でこちらの意図を質問してきているのだ。
内心でカレンに似たタイプだと判断し、幾つかの答えの中から相応しそうなものを選んでいく。
「人の価値、なんてものを俺は考えたくない。命は命、それ一つだ。
こんなふざけたゲームに投げ込まれ、そこから脱出するために協力できる人間は一人でも多い方がいいに決まっている」
「……かっこいい考え方するのね」
「理想論かもしれない。だが、俺はその青臭い正義を貫きたい。
後ろにいる獣人のチミルフも、俺のそんな考えに賛同してくれた一人だ」
二人の見上げる視線の前に、チミルフは意を察したように重々しく頷く。
上出来だ。その態度に幾許かの納得を得たように、かがみはわかったと笑みを見せた。
「疑ってばかりでごめんなさい。ちょっと……色々とあったから」
「妹さんを亡くしていることは知っている。その……俺にも妹がいるから、君の心痛は痛いほどわかるよ」
そこだけは心から、嘘偽りない言葉。
もしもナナリーがこのゲームに投げ込まれ、彼女の妹と同じ運命を辿っていれば、もはや自分は生きてはいられないだろうから。
だからこそ、何を犠牲にしてでも必ず生還してみせる。
そのために、この女の握っている何らかの重要な情報も必ず手に入れる――!
「こちらに敵対する意思はないんだ。それに、ここから脱出できるかもしれない方法もある」
「――! 本当なの?」
「ああ。そのためにはあの、遠くに見える黒い球体――フォーグラーの力が必要だが」
流石に、脱出する方法があるという情報を出せば食いつきがいい。
当然の反応に気を良くしつつ、それを悟られないようにレーダーを突き出した。
そこに描き出される光点を前にかがみが目をぱちくりさせる。
「色々と話したい情報は多いが、俺の知り得る情報は参加者の参加前のものでしかない。
君はこのゲームの中で、どれぐらいの人に会っている? この中にはどうだ?」
光点の示しているエリアは隣のC−6だ。
そこにいるジン達とかがみの間に面識があれば、同行者がいる状況は尚のことうまく事態を転がすだろう。
その打算を肯定するようにかがみは頷いて、
「この、ここに名前がある人だったら全員知ってるわ。特にジンやゆたかちゃんは」
「そうか。ジンは俺も知っている。その彼と知り合いなら、彼らとの合流に問題はないな」
「ええ」
489
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:30:01 ID:anr0GJLw0
――よし、条件はクリア。
忠実な部下となったチミルフをジン達にどう説明すべきかがネックだったのだが、彼らと友好的な関係にある柊かがみの証言もあれば集団にチミルフを混ぜることも容易だろう。
最悪、彼らとの関係に亀裂を入れかねないチミルフには自害を命じるか、レーダーを持たせて禁止エリアにでも隠しておこうと思っていたところだ。
ここぞという相手以外、ギアスの使用は控えた方が賢明だろう。
あまりに皆が皆、自分に友好的すぎるとそれは不必要な疑念を招くことにもなりかねない。
柊かがみはギアスではなく、弁論によって信用を勝ち得るべきだ。
「脱出するためにフォーグラーが必要だが、それには多くの人間の協力が必要だ。
俺は今から彼らに協力を要請しに行くところなんだが……」
「その前に、フォーグラーを利用してどうやって脱出するのか知りたいんだけど」
「む……そうだな。希望だけ煽られて、具体的な方法について言及しないのは卑怯だった。
仲間となるなら、大事な情報は開示すべきだ」
そう言ってルルーシュはデイパックから、菫川ねねねの小説を取り出してかがみに見せる。
彼女は一瞥し、その内容が状況に無関係なことに眉を寄せた。
「これに何の関係があるの?」
「一見しただけじゃわからないが、この作品は巧妙な暗号文になっている。
単純に物語として読んでも面白いのは素晴らしいが、さらに素晴らしいのはその考察」
そうしてルルーシュは簡易的にだが、脱出までの必要な道のりについて説明を始めた。
かがみはその間ほとんど口を挟まず、しかし重要な箇所には質問を欠かさないなど優秀な生徒だった。
そして、
「そういうわけで、アンチ・シズマ管を集め、試作型に改造して人為的にエネルギー中和現象を引き起こす。
それがこの作戦の肝になる部分だ。シズマ管の改造については、できるかわからないが俺が挑戦してみよう。少しは機械いじりの知識はあるつもりだからな」
「ふうん。……ね、ひょっとして、アンチ・シズマ管ってこれじゃないかしら?」
「なに?」
そう言ってかがみがデイパックから取り出したのは、緑色の液体のようなものが入ったエネルギーアンプルだった。
そしてそれは――支給品リストに載っている、アンチ・シズマ管そのものだ。
「そうだ! これだよ、これだ。素晴らしい!」
差し出されるままにアンチ・シズマ管を受け取り、その表面を撫でながら物質を検分する。
なるほど、設計思想などは完全に自分の世界のものとは違うが、その作りの部分に限っては文化的な差異はほとんどないようだ。
首輪の解放のためのネジ穴といい、多種多様な世界の根本にまで違いが生じることはそうないらしい。
「役に立った?」
「役に立ったどころじゃないぞ、柊。これはまさしく大金星だ!
できる、できるぞ。やはり俺達には運が向いてきている!」
チミルフという手駒といい、脱出するためのアンチ・シズマ管といい、
まるで天がルルーシュ・ランペルージに使命を果たせといわんばかりではないか。
歓喜に全身を震わせるルルーシュを見ながら、かがみもまたその口元を緩める。
それが不思議と今までの彼女の印象と乖離する、奇妙な笑みに見えたのは見間違いだろうか。
「それで、そのエネルギー中和現象についてなんだけど……」
「あ、ああ。すまない、少しはしゃいでしまった。つまり、このエネルギー中和現象を引き起こすことによって、会場中の機械の機能が停止することになる――そう、首輪もだ」
490
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:30:51 ID:anr0GJLw0
かがみの丸い目がさらに大きく見開かれ、そこに納得の輝きが広がっていくのをルルーシュは見ていた。
そう。それによって首輪が機能を失えば、ギアスの制限もまた失われることになる。
最悪、ギアスの制限さえ外れれば参加者を皆殺しにすることも、あるいは脱出を妨げるものがなくなれば安全な脱出路を探ることも可能になるはずだ。
参加者達の頸木が外れれば、状況悪しと見た螺旋王が直接やってくることも考えられる。
もしもそんな軽挙妄動を螺旋王が起こし、眼前にその憎き姿を晒そうというのなら――スザクの仇を討ってやる。
静かな決意を固めるルルーシュ。不意にその前で、かがみがごそごそと懐を探っている。
どうした、と視線で問いかけると、彼女はううんと首を横に振って、
「ちょっと、驚いたからか目にゴミが入っちゃったみたい。目薬差すから」
「目薬なんてものがあるのか……気づかなかったな」
脱出の明確な方法を聞けたことで、緊張感の糸が切れたのだろう。
かがみは安堵感の生まれた微笑のまま、懐から取り出した『目薬』を目に吹きかけた。
――吹きかけるタイプの目薬とは珍しい。そういえば、俺もこのゲームに参加して以来、睡眠もまともに取れていないから目が疲れているな。ちょっと貸してほしいくらいだ。
疲れ目を感じてぎゅっと目を瞑り、それから眉間を揉み解して疲労を実感する。
かがみはそんなルルーシュの挙動に気づかないまま、目薬を差した両目をぱちぱちと瞬きさせていた。そして、
「そういえばルルーシュ、ちょっといい? 聞きたいことがあるんだけど」
「うん? なんだ?」
「ううん、全然大したことじゃないんだけど」
妙に人懐っこい笑顔になったかがみは、後ろで手を組みながら、愛らしい顔で問いかけてくる。
「人生って、落差がすごいものだと思わない? それはなんていうか、神様なんて存在のことを私は信じてないんだけど、運命ってものにはそういう人の意思みたいなものが混ざってるんじゃないかって思うことが私にはあるの」
「……? わからなくもないが……」
「でしょ? それで、落差が云々って話に戻るんだけど、ルルーシュはさっきこう言ってたわよね。自分達には運が向いてきてるって。それは正しいことだと思うの。だってルルーシュは脱出するために色々と頑張って、それで脱出するための方法も見つけて、そのために必要な道具も、協力してくれる仲間も見つけたんだもん。これが幸運じゃなきゃ、何が幸運よって話だものね」
取り留めのないことを急に語り出すかがみに、ルルーシュは頷きながらも得体の知れないものを感じる。
緊張の糸が切れて、友人に接するような態度になっているのか?
奇妙なほど早口になる姿、まるで徐々に徐々にテンションが際限なく上がり続けるような――、
「つまり何が言いたいのかっていうと、今、運が無敵に素敵に完璧のぺきぺきに向いてきてるルルーシュは言葉で言えば上向き状態。人生の上下の中でも上の位置にいると思うわけ。それはもう何でもかんでもまるで天が自分を生かそうとしてるんじゃない? ってちょっと思えてくるぐらいにいい状況だと思うの。それはとても楽しいし嬉しいことよ」
「待て、かがみ。少し落ち着こう、急にどうした?」
「急にも何も全然大丈夫。落ち着いてないわけじゃないわよ。そろそろ落ち着かなきゃいけない年頃だなぁなんて思いつつ毎日を過ごしている私に対して落ち着けなんて言葉はちょっと違うと思うわ。そうそう、それでルルーシュのことばっかり話してるのもよくないわよね。で、そんな上向き状態のルルーシュもそうだけど、それに出会えた私もかなりラッキーだと思う。ラッキーが二人揃ってすごい状態。これが本当のラッキースターなんてね」
――なんだ、この女は?
壊滅的に感情表現が過剰で問題のあるだけなのか?
言いたいことはあくまで、この出会いは素晴らしいものだというそれだけなのか?
普段の態度がいっそ扱いやすかっただけに、今の状況は非常に難解だ。
同行者に選ぶには非常に疲れる相手だと思わざるをえないが。
491
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:31:18 ID:anr0GJLw0
「ごめんなさい、ちょっと自分で話をずらしちゃった。それでまたまた最初の話題に戻るわけなんだけど、人生の落差ってやつね。これは言葉で話すのは簡単だけど、実際にはかなり意識し辛いことだと思うの。後になって思い返してみて、そういえばあの時は人生の絶頂期だったけど、今にしてみればその時は調子に乗ってたなぁなんて感じでね。やっぱり今、自分が高いところにいるのがわかってる人間に足元を見るようにって忠告は届き難いし言い難いものなのよ。それでもやっぱり人生ってのはいつだってずっと真っ直ぐに同じ高さをいけるわけじゃないから、今が高いところにいるのなら低いところに落ちるかもしれないことを意識してなきゃいけないと思うのよね」
そこまで聞いて、ようやくルルーシュはかがみの意図するところを理解した。
つまり彼女は、準備が整い始めてきた今だからこそ気を引き締めて、失敗しないようにと発破をかけているのだ。
何とも遠回しで、しかもわかり難い応援だろうか。そのことに苦笑が浮かぶのを堪え切れない。
「ああ、わかったよ、柊。でも大丈夫だ。ここから失敗するようなヘマはしない。今が絶頂な状態だというなら、この状況を維持してやろうじゃないか。それぐらいの能力はあるつもりだ」
「なるほどなるほど、つまり、完全に完璧に一分の隙もなく全ッッッッッッッッッ然問題なしな感じでいけると、そう思ってるってぇわけだ?」
「ああ、そういうことだ。――ここまできて、死んだりなんかするものか」
「もう一声」
「……? とにかく、俺は絶対に死んだりしない」
「ハハァ。つまり、人生の絶頂からまっさかさまに堕落墜落崩落しちまって、自分が死ぬかもなんてことは一切合切考えちゃぁいねェわけだ」
その声が鼓膜を叩いた時、ルルーシュは自分の耳がおかしくなったのかと本気で思った。
何故ならその声は、つい今までずっと話していたかがみと同じものなのに、全くの別のもののように感じられたからだ。
目の前のかがみは相変わらず、愛らしい顔を笑みの形にしている。
だが、何故だろうか。その笑みが急に、ひどく歪んだ狂ったものに見えてきたのは。
「――そうだって、言えよ」
まるで男になったような口調で吐き捨てて、かがみは線にしていた目を剥いてルルーシュを見た。
――その双眸が、まるで悪魔のように赤くて。
「――王っ!!」
怒号と共に、乱暴な衝撃がルルーシュの全身を包み込んでいた。
それがチミルフの駆るビャコウの左手に握られたのが原因だと、全身を濡らす冷や汗が風に扇がれたことで初めて気づく。
「ご無事ですか、王!」
「も、問題ない――。よくやった、チミルフ」
こちらの身を案じるチミルフに震えを隠した声で応じるが、実際に紙一重のタイミングであったことには戦慄を隠せない。
死線をほんの僅かな間隙によって救われたルルーシュ、その震える痩身に、
「んだよ。やっぱそっちが先に動いちまったか。
せっかくか弱くて可愛らしい女の子を演じてみたってのに、油断してくれないなんて悲しいぜぇ?」
はっきりと別人に代わったようなかがみが――その全身をいつの間にか白いスーツに覆いながら、黄金の剣を振り切った体勢で嗤っていた。
その変貌に、あまりの異質な変化に、ルルーシュは二の句を告げないほどに驚愕している。
その姿すら物笑いの種なのか、かがみはケタケタとした嗤いをやめない。
その狂人と化した少女を前に、しかし戦場に身を置く武人は一切の動揺のない声で、
492
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:31:49 ID:anr0GJLw0
「たとえ相手が少女の形をしていようと、油断などしないのが武人の心得だ。色仕掛けなら相手を間違ったと思うがいい」
「ハッ、いいねえいいねえ。お前は死ぬってのをちゃんと意識してやがる。
武人ってなぁ、つまりはサムライだな? ともなりゃ傭兵とかと同じ覚悟は当然ってわけだ。
自分が死ぬなんてちっとも考えてねえ、主とは全然違うじゃねえの」
「黙れ。それ以上、王を侮辱することは臣下の俺が許さん」
「ハッ、許さねえってのはアレだぜ。
つまりは俺がさらにさらにルルーシュきゅんを小馬鹿にしてやったら怒ってくれちまうわけだ。
あんたみたいな奴が忠誠を誓う価値があるかよ、そいつに。
そいつは安全圏で、殺し合いする奴らを高笑いで見下す醜悪な臭いがするぜ。
他人を動かして命の取り合いはさせるくせに、自分はその戦場を遠巻きに見てるってぇ感じのゲスっぽい――」
「――アルカイドグレイブ!!」
決着は一瞬の間についた。
それは蹂躙とも虐殺とも呼ぶことのできない、暴虐が通り過ぎただけの惨劇だ。
主君の侮辱に並々ならぬ忠義が、宣言通りに無礼者を手討ちにしただけのことに過ぎない。
一瞬の間に振り上げられたビーム刃は、秒の停滞もなくその焼け付く刃で柊かがみの小柄な体格を撫で切っていった。
斬撃の威力はそこで留まらず、突き立った地面を爆砕して、土砂の爆裂によって死に体を追撃する。
ビャコウの手の中のルルーシュも、その流れるような攻撃を最初から最後まで完全に見届けた。
ビーム刃の滑らかな斬撃は傷口を焼き、出血すら生むことはない。
左肩から右腰までをばっさりと切られたかがみの体は、そのビームの高熱によって炙られて燃え上がった。
そこをトドメとばかりに降り注ぐ岩石と土砂の雨――助かるはずもない。
有用なはずの手駒がこの手を離れて敵対し、一瞬の攻防の間にその命を散らせていく。
それは正しく、このゲームの残酷な無常観の体現に他ならなかった。
「チミルフ」
「王の意向に背き、出過ぎた真似をしました。処分は如何様にも受け入れるつもりです」
呼びかけに忠臣は頭を垂れ、沙汰が下るのを待つ構えでいる。
主君のためという大義名分すら、その気高い忠義の前には独断専行の言い訳にならないらしい。
――騎士を持つ、ということはこういうことだろうか。
早くにその資格を失っていたルルーシュにとって、その感慨は物珍しいものだった。
「問題はない。奴は危険人物だった。排除して正解だ。よくやったぞ、チミルフ」
「勿体なき言葉です、王」
そうしてコックピットにて跪き続けるチミルフを見て、ルルーシュは思う。
このビャコウという機体のスペックの高さ、そしてそれを扱うチミルフの技量の高さを。
――無理をして、ジン達と合流する必要はないかもしれない。
安全であると睨んでいたはずの柊かがみとの接触がこの様だ。仲間を増やすということは、危険を増やすことにも繋がる。
それよりもこのチミルフをうまく扱いながら、フォーグラーを起動させても問題はないか?
幸いにも柊かがみからアンチ・シズマ管だけは入手することに成功した。
これを入手せずに今の争乱となっていれば、計画は瓦解するところだったのだが。
493
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:32:20 ID:anr0GJLw0
「どちらにせよ、入手した情報をまとめる時間は必要だな」
短慮はそのまま失敗を招く。
柊かがみの件は一つの結果にすぎない。別の人間までそうであると断じるのはそれこそ短慮の極み。
「チミルフ、とにかく今はこの場を移動する。
この攻撃の音を聞きつけて誰かが集まってこないとも限らない。考える時間が必要だ」
「了解しました。ならば、映画館はどうでしょうか?」
「そこには確か……お前の協力者であるニコラス・D・ウルフウッドがいるんだったな」
「はい。かの男は目的こそ王と違いますが、その力には個人としての俺を上回るものがあります。協力を持ちかけることも不可能ではないかと」
チミルフの言葉に熟考する素振りを見せながら、その考えの甘さを心中で罵倒する。
戦って分かり合った、などと馬鹿げたことを信じる理由になると思っているのだろうか。
そのウルフウッドの目的はチミルフに聞く限り、会場にいる参加者の皆殺しに他ならない。
危険人物中の危険人物だ。東方不敗という老人と大差あるまい。
チミルフはその両者と共闘、あるいは最後に決着をつける約束をしているらしいが、武人という生き物は馬鹿の集まりなのか。
それこそ力こそ正義だと、正しいと考えているのならそれは――、
――それはルルーシュ・ヴィ・ブリタニアにとって、最も唾棄すべき男と同じ考えだ。
「チミルフ、とにかく今はここを離脱しろ。時間が惜しい」
「わかりました。では王、そちらではなくコックピットの方へ」
狭苦しいコックピットに獣人と一緒に入るというのはあまりにも魅力に欠ける提案だが、仕方ないとその誘いに乗ることにする。
掌の上の移動というのは如何にも安定感に欠ける上に、見栄えがよくない。
それにこれだけ目立つ兵器での移動に同乗しているのを他者に見られるのは得策ではない。
チミルフという存在を、友好的な参加者にどう説明すべきか定まっていない今では尚更だ。
「できるだけ他の参加者に見つからないよう、レーダーに注意しながら低空飛行しろ」
「御意に」
素直に従うチミルフの操縦で、ビャコウが静かに、しかし風のような移動を開始する。
それを風の吹き込むコックピット内で、髪を押さえながら悠々と見据えるルルーシュ。
その内心をふと、思い出したように湧き上がった思考があった。
――そういえば結局、柊かがみがどうして特別扱いされていたのかはわからなかったな。
494
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:33:03 ID:anr0GJLw0
【C-6/西側川付近上空/二日目/午前】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:肉体的疲労(中)、中度の頭痛、後頭部にたんこぶ、胸に打撲、ビャコウ搭乗中(乗ってるだけ)
[装備]:ベレッタM92(残弾11/15)@カウボーイビバップ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服 、アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION
予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ
支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
参加者詳細名簿(ルルのページ欠損)、詳細名簿+(読子、アニタ、ルルのページ欠損)
支給品リスト(ゼロの仮面とマント欠損)、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
[思考]
基本:何を代償にしても生き残る。
1:チミルフを従えつつ、最善の行動を選ぶ。
1:ジンの集団を目指すか、あるいは単独で優勝を狙うか。
2:清麿との険悪な関係を知る菫川ねねねに対処する
3:適当な相手に対してギアスの実験を試みる。
4:以下の実行。
「情報を収集し、掌握」「敵戦力の削減、削除」「参加者自体の間引き」
5:余裕があればショッピングモールかモノレールを調べる。
[備考]
※首輪は電波を遮断すれば機能しないと考えています。
※明智組の得た情報について把握しました。
※会場のループについて把握しました。
※ギアスの制限は主に一度に使用する人数が問題なのではないか、と想像しています。
※名簿は生存者と異世界についての情報把握に的を絞って見たため、スザク他との時間軸の矛盾に気づいていません。
※清麿殺しの罪はヴィラル、シャマルのどちらかに擦り付けるつもりです。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルについての情報を入手しました。
495
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:33:28 ID:anr0GJLw0
【怒涛のチミルフ@天元突破グレンラガン】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(小)、頭部に軽い裂傷、左頬が腫れあがっている、敗北感の克服による強い使命感、ギアス(忠誠を誓う相手の書き換え)
[装備]:愛用の巨大ハンマー@天元突破グレンラガン(支給品扱い)、
ビャコウ(右脚部小破、コクピットハッチ全損、稼動には支障なし@天元突破グレンラガン)
[道具]:デイパック、支給品一式、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本A:獣人以外を最終的には皆殺しにする上で、ニンゲンの持つ強さの本質を理解する。
B:王であるルルーシュの命に従い、ルルーシュの願いを叶える。
0:ルルーシュと同行し、臣下としての務めを果たす。
1:ウルフウッドと合流し、ニンゲンとは何か見極める。
2:ヴィラルと接触したい。
3:螺旋王の第一王女、ニアに対する強い興味。
4:強者との戦いの渇望(東方不敗、ギルガメッシュ(未確認)は特に優先したい)。
5:ヴィラルが首を一つも用意できなければ、シャマルの首を差し出させるかもしれない。
6:夜なのに行動が出来ることについては余り考えていない(夜行性の獣人もいるため)。
7:ニンゲンに創られたニンゲン以上の存在として、ヴァッシュに強い興味。彼の知人に話を聞きたい。
[備考]
※ヴィラルには違う世界の存在について話していません。同じ世界のチミルフのフリをしています。
※シャマルがヴィラルを手玉に取っていないか疑っています。
※チミルフがヴィラルと同じように螺旋王から改造(人間に近い状態や、識字能力)を受けているのかはわかりません。
※ダイグレンを螺旋王の手によって改修されたダイガンザンだと思っています。
※螺旋王から、会場にある施設の幾つかについて知識を得ているようです。
※『怒涛』の二つ名とニンゲンを侮る慢心を捨て、NEWチミルフ気分です。
※自分なりの解釈で、ニンゲンの持つ螺旋の力への関心を抱きました。ニンゲンへの積極的交戦より接触、力の本質を見定めたがっています。(ただし手段は問わない)
※ビャコウ及び愛用のハンマーはウルフウッドの気絶中に回収しました。
※ビャコウは起動には問題ありませんが、コクピット内部が剥き出しになっています。
※東方不敗と一時休戦、次に出会った時は共闘することを決めました。
実験の最後に全力で決闘することを誓いました。
※東方不敗の知る参加者についての情報を入手しました。
※『忠誠を誓うべき相手は螺旋王ではなく、ルルーシュである』という認識の書き換えをギアスで受けました。
螺旋王に対して抱いていた忠誠が全てルルーシュに向きます。武人たる彼は自害しろとルルーシュにいわれればするでしょう。獣人としての誇りは持っていますが、螺旋王に対する忠誠心は失っています。
496
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:33:50 ID:anr0GJLw0
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「いやいやいやいや、まったく痛いねぇ辛いねぇ。うまくいかねえもんだよ、なぁ」
ルルーシュとチミルフの両名が立ち去ってから数分、
うず高く積まれた土砂を黄金の剣で掘り返して、少女はしばし別れを告げていた空を仰ぐ。
「おおう、やっぱ青空はいいな。普段はいつも頭の上にあるもんだから気にしちゃいねえが、
土の下に埋まって真っ暗闇に周りを囲まれてみると、改めてその蒼さが目に沁みてくるぜ」
――それにしても、タカヤ君の目薬があって本当に助かったぜ。
砂埃をふんだんに浴びた目を擦りながら感嘆し、狂人は裸体を晒したまま述懐する。
殺害したDボゥイはその満身創痍の肉体の悲痛さもさながら、持ち合わせた荷物の貧相さにも涙が出そうになった。
荷物としては支給品を除けばまともな道具は赤い目薬しかなかったのだ。
Dボゥイを殺害した後の戦利品の検めということで、狂人は一度この目薬を使用している。
実際のところ、戦っている最中にこの目薬を打ってDボゥイの動きが変わったことには気づいていたので、回収して使ってみることに躊躇はなかった。
それにより、効果が動体視力の異常な強化だということはわかっていた。
効果時間が短すぎるのが不満だが、パフォーマンスを考えれば文句は言えまい。
ここへきて彼女は気づいていないが、ブラッディアイの本来の効果時間は彼女の自覚よりもう少し長い。そして、その副作用も。
それに彼女が気づかない理由は明白――副作用を感じていないのだ。
ブラッディアイはその使用者の視神経を侵す代わりに、莫大な力を与えることになる薬だ。
そのブラッディアイを使用するものとしての資格のほとんどを、不死者となった彼女は失っている。
不死者として酒を飲んだ状態で肉体が固定されている彼女、その肉体が薬の侵食を受け入れないのだ。
侵される視神経は即座に修復し、ブラッディアイの異常な効果を数十秒で打ち消してしまう。
さらに付け加えれば、不死者の肉体は同じダメージに対して耐性を作るようになる。
つまり、今は六十秒ほど持つブラッディアイの効果は徐々に短くなり、最終的には何の効果も発揮しなくなるということだ。
それでも、副作用なくこの薬を使うことができるという彼女とブラッディアイの相性は、抜群に良いといわざるをえないが。
とにかく、その薬の効果によって彼女が命を拾ったことは間違いないのだ。タカヤ君様々である。
チミルフのビャコウによる一撃の瞬間、狂人の世界は赤く停滞していた。
その攻撃の速度を回避しきることはできずとも、頭部と心臓の致命傷を庇うことができる程度には。
その後に土砂に巻き込まれたのは、脱出に手間がかかりはしたが僥倖だった。
もしもあれがなければ二人の前で再生し、戦いは長引いていたことだろう。
「ま、やり合ってたら負けてたかもわかんねえしな。チミルフ……だったか。
あいつはいい目ぇしてやがった。主君のために命を懸けて、死ぬかもしれない戦場に臨むってなぁ。
ああいう奴は殺したくねえや。代わりにルルーシュ君が俺的に最高に殺したい温さだったがね!」
Dボゥイを殺害し、薬の効果を確かめた後で、狂人が選んだのは周囲の散策だった。
おそらくは付近にいるだろう、先ほどまで戦い合っていた面々。
――スパイク・シュピーゲルや奈緒ちゃんといった奴らを殺しに行くのはとても楽しそうなことだ。
ただ、ジンは仲間だから殺せないやな。適当に誰かに殺されてくれれば楽なんだが。
497
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:34:16 ID:anr0GJLw0
何より――小早川ゆたか。彼女を殺そうと思い切ることができなかった。
この気持ちは非常に厄介なものだ。殺したいんだが、殺したくない。
殺したくない子を殺すのはすごくいいことのようで悪いことのようで結局どうすればいいんだか――、
「わからなくなってわからなくなって、ああ考えるの面倒くせぇってなったから、とりあえず散歩することにしたんだったな」
特別な理由もなく、鼻歌交じりで川に沿って歩いていたら、ちょうどよく獲物を見つけたのだ。
ただ、獲物はおっかないペットと一緒で、しかもこっちの位置をレーダーで確認していた。
位置がばれているとなれば、開き直って飛び出すしかない。それでも、なるたけ利用できるものは利用しておきたい。
だから、せっかく女の子の格好してんだし、女の子のふりとかすればいけるんじゃね?
という狡猾とも悪ふざけともいえるような理由で、柊かがみを演じながら近付いたのだ。
我ながらうまくやれていたものだと、自画自賛してもいいぐらいだったと思う。
聞き出せた情報も有用なものばかりだったし、ジンや清麿に聞かせたら大喜びしそうだ。
ただ、目の前に美味しそうな餌がずーーーーーーーーっとぶら下げられているのに、それを我慢するのは苦痛だった。
ルルーシュ・ランペルージ――その態度、物腰、仕草、喋り方、表情、性格からスタンスに至るまで、それは正しく今の彼女にとって生唾ものの極上な温さだった。
命懸けの行動を、命を懸けずにやってのけたいというような、温い甘い青い願望。
我慢しなければならなかったのだ。一応、我慢しようという努力はしてみた。
ルルーシュの背後に立つチミルフはずっと、自分の動向に目を光らせていたのだ。まともな戦いになれば戦力差から勝てるはずもない。
それが分かっていたからこそ、この場で手を出すのは我慢して、タイミングを見計らうつもりだったのだ。だったのに――、
「エネルギー中和現象とか、そんなこと言うんだもんなぁ」
フォーグラーを利用し、エネルギー中和現象を起こす――それがルルーシュの考える、脱出のための方策だったらしい。
それによれば首輪の制限は失われ、そして会場中の機械が停止するという。
なるほど確かに会場の端のバリアがなくなれば、あるいは制限がなくなれば会場を脱出するための力を持っている奴ぐらいいるのかもしれない。
宇宙人が参加しているぐらいだ。宇宙船ぐらいどっかに埋めてある可能性もある。
「でもよぉ、そんなことされっと俺が困るんだよなァ」
そう、困るのだ。脱出できるというのは非常にありがたいことだ。
自分もいい加減、この会場でなくてもいいから適当に温い連中をぶっ殺して回りたい。
だが、制限が外れてしまうというのは困るのだ。だって――、
「制限が外れたら、俺は死なねぇ体になっちまう。
完全な不死者になっちまったらよ、俺のこの大事なアイデンティティが崩壊しちまわぁ」
死ぬなんて考えから縁遠く、今生きていることの素晴らしさを理解していない連中に生きることをレクチャーする。
それが自分の持つ、他者殺害への信念だ。
そんな信念を持つ自分が、死ねる可能性さえ完全に失って、死なない体になってみろ。
――死なない奴が、そんな説教なんてちゃんちゃらおかしくなっちまう。
故に狂人としては、脱出できるに越したことはない。
ただし、その場合は制限は持ち越したままの脱出でなければ意味がないのだ。
会場中の誰もが窮屈で邪魔だと思っているだろう首輪が、彼女には必要だった。
「ま、結果的に死んだふりみたいになったし。レーダー持ってるルルーシュ君はそう遠くない内に俺に気づくだろうけどな。目的地はわかってるわけだから、先回りでもしといてやろうかねぇ」
Dボゥイとの約束は後回しだ。ゆたかちゃんと舞衣ちゃんを殺してる間に、首輪の制限を外されでもしたら困ったことになってしまう。
となれば、狂人が次に目指すべき場所は――、
「あのでっかい黒いボールは、フォーグラーだったか? あれを壊すかどうかしないといけねえよなぁ。清麿とかジンは怒っかもしんねえけど、あれがあったら俺が困るわけだから、俺が困るから壊したって謝っときゃぁいいだろ」
498
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:34:44 ID:anr0GJLw0
身勝手な方針を打ち立てると、狂人は気合いを入れるように「よしっ」と牙を剥いて嗤う。
手にした黄金の剣をスコップ代わりに地面を掘り進め、埋もれていたデイパックも回収した。
あれだけの被害があったものだから喪失も覚悟していたが、丈夫な素材で何よりだ。
「さて……んじゃま、とりあえず黒い太陽を壊しに行きますかね。
壊すのは俺じゃなく、グラハムの奴の専売特許だってのによ。うぉ、そう思うとあいつならスゲェ嬉しそうに壊しそうだなアレ」
そんな感慨を漏らしてから歩き出そうとして、ふと全身がすーすーすることを思い出した。
そうだ。チミルフの攻撃のせいで、遂に最後の衣服まで失っていたんだった。
これは困ったことになった。いくら女の子でも、素っ裸で近寄ってきたら油断はさせられないんじゃないか?
「となると、やっぱり便利なこいつに頼るっきゃねえか」
呟き、緑の光が全身を包み込んだ。次の瞬間にはその全身を白のスーツが覆っている。
その衣装を満足げに見ていた狂人だったが、不意にその表情が歪む。と、
「うおおい、何だよ! 一回解除すると、もう一回着た時はクリーニング済みになっちまうのか!
せっかくタカヤ君の返り血でいい感じだったってのに、まっさらじゃねえかよぉ」
綺麗になった白服は卸し立ての華やかさだ。そこにはあの楽しかった惨劇の、一片たりとも残っていない。
歪み切った悲しみの声を上げて一頻り騒ぐと、狂人はゆっくり歩き出した。
「ま、なくなったもんはしゃーない。お星様になったタカヤ君のことは忘れるとして、俺は次なる出会いを求めようじゃねえの。おっと、出会いとか言ってるとルーアに誤解されちまうな。大丈夫、問題なし! 俺はお前一筋だからよ! 愛して愛して最後に殺すのはお前だけだ! とりあえず、ルルーシュ君とかぶち殺して、この白い布地の最初の斑点になってほしいもんだねぇ。ハハ、ハハハ、ヒャハハハハハハハハハハハハハ!!」
歪んで歪んで歪み切った狂笑を浮かべながら、狂人は弾むようなステップで道を急ぐ。
その道筋の先に、新たな血の臭いを感じさせながら――。
499
:
愛のままにわがままに僕は君達を傷つけたい
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/02(土) 04:35:09 ID:anr0GJLw0
【C-6/川沿いの道/二日目/午前】
【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、髪留め無し、螺旋力覚醒(ラッドの分もプラス) 、疲労(大) 、ラッドモード
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、 ブラッディアイ(残量40%)@カウボーイビバップ
クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、バリアジャケット
[道具]:デイバッグ×14(支給品一式×14[うち一つ食料なし、食料×5 消費/水入りペットボトル×2消費])、
【武器】
超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)、
王の財宝@Fate/stay night、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、
【特殊な道具】
オドラデクエンジン@王ドロボウJING、緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
サングラス@カウボーイビバップ、赤絵の具@王ドロボウJING
マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル
首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)、首輪(クアットロ)
【通常の道具】
シガレットケースと葉巻(葉巻-1本)、ボイスレコーダー、防水性の紙×10、暗視双眼鏡、
【その他】
がらくた×3、柊かがみの靴、破れたチャイナ服、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)、ガンメンの設計図まとめ、
壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[思考]
基本:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
0:フォーグラーを破壊して、エネルギー中和現象計画を頓挫させる。
1:Dボゥイとの約束通り、舞衣とゆたかを殺したい(ゆたか殺害には精神的苦痛を感じます)
2:ルルーシュをとてもとても殺したい。
3:とりあえず服が白いと寂しいので、誰かを殺したい。
[備考]:
※ボイスレコーダーには、なつきによるドモン(チェス)への伝言が記録されています。
※会場端のワープを認識。
※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました。
※ラッド・ルッソの力を開放することに恐怖を覚えました。
※ラッドの知識により、不死者の再生力への制限に思い当たりました。
※本人の意思とは無関係にギルガメッシュ、Dボゥイ、舞衣に強い殺意を抱いています。
※『自分が死なない』に類する台詞を聞いたとき、非常に強い殺意が湧き上がります。抑え切れない可能性があります。
※かがみのバリアジャケットは『ラッドのアルカトラズスタイル(青い囚人服+義手状の鋼鉄製左篭手)』です。
2ndフォームは『黒を基調としたゴシックロリータ風の衣裳です』 その下に最後の予備の服を着用しています。
※王の財宝@Fate/stay nightは、空間からバッグの中身を飛び出させる能力(ギルとアルベルトに関係あり?)、と認識。
※シータのロボットは飛行機能持ちであることを確認。またレーザービーム機能についても目視したようです。
※第五回放送を聞き逃しました。
※『かがみ』の人格を手放すことを選びました。
※かがみの3rdフォームは『列車時のラッドの白服』です。下は裸なので、擦れて痛いかもしれません。
※ルルーシュから『フォーグラーを利用した脱出法』の情報を得ました。成功すると困るので、何とか止めたいと思っています。
500
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:39:23 ID:y3.LW1gA0
手の中で操作し、小さな画面をチミルフに見えるように向ける。
それによれば確かに、小さな画面の中を幾つかの光点が点滅しているのがわかった。
なるほど、それがあればこの戦場での行動はぐっと優位になろう。
求める相手の場所に到達することも造作もあるまい。だが、
「それがあれば、俺はお前の場所を知ることができる。今はお前に敬意を表するが、二度目はないぞ」
「わかっている。当然、いつまでも見逃せとは言わない。一時間、その間だけ俺の存在を忘れてくれ。
二度目の遭遇があれば、その時は俺もまたお前と同じ戦いに赴こう」
「ふむ……わかった」
提案は妥当なものだ。そして、覚悟は揺るぎない。
次なる邂逅で戦いとなれば、今のままなら数秒で決着がついてしまう戦い。
だが、その戦いえさえ心待ちに思えるほど、戦士としての格のある相手だ。
「レーダーだが、使い方はわかるか?」
「不用意に近付くな、ルルーシュ・ランペルージよ。心を許したわけではない」
レーダーを手にしたまま歩み寄るルルーシュを、ビャコウの掌が押し留める。
その行為をチミルフはかすかに恥じた。
戦士としての格を認めておきながら、相手が凶行に出ることを懸念した行為だからだ。
だが、その非礼に対しルルーシュは苦笑して、
「用心深いな。ではこうしたらいい。その機体の掌で、レーダーを持つ右手以外の四肢を封じるように握ればいい。
何かおかしな行動をとれば、遠慮なく握りつぶしてくれ」
その提案はまさしく、チミルフが心変わりしないことを信頼しての言葉だ。
自分の矮小さと比較し、その寛容さには頭が下がる。
提案を跳ね除けることなど考える必要もなく、その体を言葉通りに白銀の掌で掴み上げた。
「操作はこのロボットに比べればずっと簡単なはずだ。まず――」
露出したコックピットの眼前にルルーシュを持ち上げ、宣言通りに右手でレーダーの操作を見せ付けるルルーシュ。
怪しい挙動など見せる素振りもない。丁寧に説明しつつ、最後にはそのレーダーをチミルフの懐に投げ渡した。
レーダーを受け取り、太い指には操作の難しいそれに四苦八苦しつつ、説明の正しさを確認。
頷きをもって、互いの契約が成立したことを示す。
「確かに確認した。それと同時にルルーシュ・ランペルージ、お前の覚悟もだ。
武人ではないが、お前は確かに戦士だった。非礼の数々を詫びよう、すぐに解放する」
「いや、気にする必要はない。それにだ。俺を戦士と呼ぶのは、少々間違っているぞ」
「む?」
「俺は戦士ではない。指導者だよ」
掴んだ腕から解放しようと操縦桿を握ったが、不意に変わった声色に眉を寄せる。
そのチミルフの眼前で、真っ直ぐにこちらを見ているルルーシュの左目が紅く輝き――、
「お前の主君は螺旋王ではない、この私だ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
501
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:40:14 ID:y3.LW1gA0
かしずくチミルフを前に、ルルーシュは高笑いしたい衝動を必死で堪えていた。
何が戦士だ。何が武人だ。笑わせてくれる。
過剰な演技は体のあちこちが痒いくらいだったが、頭が空っぽの戦闘狂には程よいらしい。
まんまとこちらを信用し、不用意な接近を許すほどに。
「――以上が、此度の実験により螺旋王が得たいと思っている内容です」
「ふむ、上出来だ。その情報は私の今後において多大なプラスになるだろう。よくやった」
「ははっ」
己の知るところを語り終えたチミルフは、王の労いに対して畏敬の念を声音に込める。
この男が忠義に溢れ、存在の根元から創造主に忠誠を誓っていたことはルルーシュにとって幸運だった。
ただギアスをかけるだけならば、最初の邂逅の瞬間にもそれはできた。
にも関わらず茶番に付き合い、時間をかけて慎重な対話を選んだのは、高嶺清麿との会談の失敗による学習からに他ならない。
『銃を寄越せ』と勢いに任せて命令を下したことは、ルルーシュにとって痛恨の極みだった。
その二の舞にならないよう、どんなギアスをかけるのが一番効果的かを会話の中で探っていたのだ。
その結論が――忠誠を誓うべき相手を書き換える、というギアス。
先に遭遇していたヴィラルもそうだが、獣人というのはどうやら骨の髄まで螺旋王を崇めてやまないらしい。
チミルフもどうやら例外ではないらしく、その忠誠の矛先が変わった結果が今の状況だ。
――この制限下において、使用するギアスは入念に吟味すべきだ。
一度にかける人数、ギアスの内容がどれほどその対象の行動を縛ってしまうか。
それらを吟味すれば『俺に従え』などの対象の思考を完全に束縛してしまう類のギアスは、
払うべき対価と成立しない場合のリスクが大きすぎるだろうと選択肢から排除していた。
だが、別のかけ方によって、同じ効果を発揮できるのならばどうだ?
結果は眼前の忠実なる僕となったチミルフが証明している。
その効果と引き換えの代償はあまりに軽微。
偏頭痛のように絶え間なく響く頭痛も、この駒の入手と比べれば対価と呼ぶほどでもない。
――意思を縛るギアスではない。チミルフが勝手に、俺を信頼しているだけのこと。
そう、結果的に同じになっただけのことだ。まったく、螺旋王は素晴らしい部下を持ったものだよ。
内心でそう述懐するルルーシュは気付いていないが、ここに二つの偶然があったことを記しておこう。
それはルルーシュ・ランペルージが自分に運が向いていると、そう自覚している以上の幸運に恵まれていたという真実だ。
本来、このゲームの参加者達の能力は会場の周囲に張られた結界によって制限されている。
それは他の参加者に比べあまりにも強大な力であり、万能の魔法であり、絶対遵守の命令をだ。
この制限下におけるルルーシュ・ランペルージに与えられた枷は、彼の考察がかなり正解に近い。
だがそのルールに乗っ取って考えれば、『主君を書き換える』という此度のギアス。
そのギアスは成立する可能性が低く、大きな対価を要求されて然るべき命令であっただろう。
にも関わらずそれが成立したのは、皮肉にも首輪の機能とその認識の齟齬が関係している。
502
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:41:02 ID:y3.LW1gA0
制限、従属、支配――それらの言葉の具現として最もわかりやすい見た目の首輪。
しかし制限に関して限定すれば、能力者の力を制御しているのは結界であり、首輪自体には参加者を縛る能力はない。
ならば首輪と制限の間には一切の関係性はないのか――それは否、である。
確かに首輪自体には装着者の能力を縛る機能はない。
首輪に搭載されているのは、参加者を制限する結界の効果を最大限に発揮するための補助装置である。
その装置により首輪は結界の能力制限の命令を受け取り、装着者に二重の制限を設けるのだ。
二重の制限――それは装着者に対し、内側からの力と外側からの力、両方を制限するというものだ。
例を挙げれば、補助魔法というものがある。
この魔法の効果を対象の身体能力を強化するものと仮定して話を進めよう。
首輪をつけたAという参加者が、同じく首輪をつけたBという参加者に補助魔法を使用する場合、
結界制限の命令を受けた首輪によって、Aの内側からの魔法に対する制限と、Bの外側からの魔法の制限が二重に働くことになる。
無論、内と外では内側からの力に対する制限、つまり装着者自身の能力を縛る制限の方が強力だ。
しかし、比較すれば内側の制限に劣る外側からの力に対する制限もまた、そこに厳然と存在している。
それは首輪の外れたAの補助魔法であっても、首輪の外れていないBに対しては効果を制限させるのだ。
さらに付け加えれば、首輪はあくまで防護結界の補助装置に過ぎない。
本当の意味で制限を解除したければ、やはり結界自体を消滅させる他にないのだ。
首輪の解除はあくまで制限の緩和であり、真に解放されるためには結界の破壊が肝要なのである。
この首輪の内外二重制限は本来、前述の補助魔法や治癒魔法。そしてルルーシュの持つギアスに対する保険の意味を持っていた。
ゲームが首輪の頸木が外れた者達の独壇場になることを防ぐための、安全措置といえよう。
故にルルーシュの首輪が外れたとしても、結界の影響下にある状態ではギアスの本領は発揮されない。
ルルーシュと相手、両者の首輪が外れている場合ならば、その制限はほんの僅かなものになるだろう。
だが対象の首輪が外れていない場合、やはり制限の呪縛から逃れることは叶わないのだ。
しかし、その保険としての首輪の認識が、今回の運命の偶然を引き起こした。
そう――首輪のない状態のチミルフは、首輪による外側からの力への制限を持っていない。
彼に対するギアスのみ、ルルーシュは他の参加者に比べ、弱体化した制限、軽減されたリスクしか負わなくて済むのだ。
もちろんそれでも本来は、内側からの力を制限するギアスによって此度の命令はキャンセルされてもおかしくない。
その制限があって尚、チミルフの思考を書き換えることができたのは、皮肉にもこの戦場に参加することで得た彼の思考の変化が原因に他ならない。
この戦場に降り立つ以前、ひいてはこのゲームの開催に携わる以前のチミルフは、今とは比較にならないほど視野が狭かった。
与えられた任務を達成することに満足し、ただ妄信的に創造主である螺旋王に従い続けるだけの日々。
その卑小だったチミルフはこの戦いを、そして王の目的を知ることで変わった。
戦場に降り立つことでこれまで侮っていた人間の力を知り、己の思い上がりを恥じて武人として一皮剥けたのだ。
だがその一方で彼の心の奥底に微かに巣食ったのは、拭い去れない王への疑念――。
この実験の本来の目的――それが達成された時、王は自分達獣人をその世界でどう扱うのか。
面と向かっての問いかけに、明確な答えはもらうことはできなかった。
それでも、それでもだ。チミルフは武人たる己を、忠誠を誓うべき王に見せつけようとしたのだ。
王の御心が変わることを願って、獣人達の礎にならんと決意を秘めて。
だがその考えは見方を変えれば、道を示した王への造反の感情に他ならない。
王の考えは間違っている――それが真実だとわからせたいがために、チミルフはこの作り物の世界の土を踏んだのだ。
それは何も知らず、己では何も考えず、王の心だけを一心不乱に信じていられた彼を変えていた。
本来ならば制限に抵触するはずの、王への忠誠というアイデンティティを書き換えられるほどに。
503
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:41:47 ID:y3.LW1gA0
チミルフが成長したこと、首輪がなかったこと。
そして首輪に対する考察がいまひとつ真実に辿り着いていないこと。
これら偶然的な積み重ねがあったことで初めて、この状況は作り上げられている。
チミルフの忠道を捻じ曲げ、そのために払った対価もあまりにも軽い。
まさしく、誇りを重んじる武人という存在を嘲弄する、ルルーシュ・ランペルージの認識のままに。
「ふはははははははははは――!」
「失礼ながら、王よ」
自身に降りかかる幸運の前に衝動を堪え切れず笑う。
そのルルーシュに畏まった態度で歩み寄るチミルフは、怪訝な顔をするルルーシュの前にレーダーを差し出した。
そこに描き出された光点の中――こちらに接近してくる光が一つある。それは、
「柊かがみ、か――」
「どうされますか。邪魔な相手であれば……」
言外に消すという意思を乗せるチミルフに、ルルーシュは黙して指示を考える。
柊かがみ――詳細名簿から入手している彼女のデータを頭の中に思い浮かべるが、これといった目につく情報のない少女のはずだ。
平凡な、エリア11となっていない日本からの参加者で学生。
双子の妹が参加していたらしいが、最初の放送で落命しているあたりから特殊な能力は持っていまい。
ここまで生き残っていること自体、奇跡的なタイプの少女のはずだが、気になるのは、
「明智が残している考察メモの内容、だな」
それによれば、柊かがみはこのゲームの序盤からずっと衝撃のアルベルトという男と行動を共にしていたらしい。
このアルベルトという男の経歴がまた異様で、細かいことを省けば戦闘力やその他の面から見ても危険人物であることは間違いない。
――世界征服を狙うテロリストなどと、あまりに美しくない肩書きの持ち主だ。
そんな男が柊かがみと行動を共にしていた。こういった輩が実利を度外視して保護に回るとは考え難い。ならば――、
「柊かがみはこのゲームの中で、保護するに足るような何かを手に入れている、か?」
それが最も妥当な可能性だろう。
アルベルトが彼女を殺してそれを奪っていない以上、殺せない理由がある何か。
――それは体に埋め込まれるものや、あるいは植えつけられる知識などだろうか。
「どちらにせよ、接触するだけの価値はあるな。チミルフ」
「はっ、いかがいたしましょう」
「交渉は私が自らする。お前はビャコウに乗り込み、有事に備えろ。
もしも相手が敵対行動に及び、私が危険だと見れば、即座に殺せ」
「御意に」
504
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:42:23 ID:y3.LW1gA0
差し出されるレーダーを受け取り、ガンメンに乗り込むチミルフを尻目に、周囲のエリアの警戒を怠らない。
どうやら柊かがみは単独行動のようだ。
移動の速度も機動兵器に頼っている様子はなく、人間の移動速度の範疇に過ぎない。
ビャコウの準備が整い、自分の背後に控えるのを震動で感じ取りながら、ルルーシュは悠然と接近する光点を待つ。
と、どうやら相手もこちらに気付いたらしく、その動きが目に見えて遅くなり、停止した。
場所はどうやら正面にある木々の陰。そこから狙撃でもされてはたまらないと、ルルーシュはあちらの行動に先んじて、
「待て、柊かがみ。こちらにはレーダーがあり、お前の動向は見えている。
こちらに敵対する意思はない。大人しく出てきてくれないか?」
「――――」
「事実だ。俺はレーダー以外は無手だし、荷物は足元に置いてある」
「お生憎様。そんなこと言われても、後ろにあるロボットが危なっかしくてとても説得力がないわ」
「なるほど……それは当然だ。だが、背後にいるのは俺の協力者となったチミルフだ。
螺旋王の直属の部下だった男。それが俺を殺そうとしていない。その情報は使えないか?」
露出したコックピットからは、その言葉が真実であることを示すようにチミルフの姿が覗く。
獣人であること、そして首輪が嵌められていないこと、それらは十分にルルーシュの言葉を肯定する材料になるだろう。
相手も同じ結論に達したらしく、僅かな逡巡の後でゆったりと姿を見せた。
詳細名簿に記された平凡な内容、その情報と今の彼女の姿は乖離していない。
身に纏うセーラー服といい、華奢な体つきといい、全てはルルーシュの知る学生と同じものだ。
肩口にある団長と書かれた腕章の意味はわからないが。
「柊かがみ……で間違いないな」
「そうよ。……そのレーダー、私が知ってるとは違うものなのね」
「ああ、君に支給されていたという本物のレーダーの話か」
歩みが止まり、少女の顔が怪訝の感情によって埋め尽くされる。
軽い先制のジャブのつもりだったのだが、掴みはOKだろう。
「どうしてそれを、という顔だな。簡単なことだ。情報だよ。
このゲームにおいて、情報は力だ。俺は少々それに恵まれているというだけのこと」
「人の心でも読めるって言うの?」
「それができれば素晴らしいが、そうではない。支給品リスト、というものがあってね。
これを見ればどんな支給品があり、それが参加者の誰に配られたものなのか一目でわかるというわけだ」
「ふうん。そんなものまであって、レーダーまで持ってて……ずいぶんと恵まれてるんだ」
「幸いにな。ちなみに詳細名簿というものも持っている。
これには参加者のかなりパーソナルなデータが記されている。君のことも、初対面よりはずっと知っているはずだ」
多少ぶっきらぼうな態度なのは、不信感を拭い去れていないからだろう。
その反応から頭の悪い少女ではないことを感じ取り、交渉の場に臨めるだろうことを確信する。
案の定、かがみは細めた目に疑念を込めながら、
「そんなにぺらぺらと手の内を明かして、いったい何を企んでるの?」
「相手の信用を得るために、自分のカードを見せるのは当然のことだ。
たとえ殺伐とした殺し合いの場所だとしても、俺は人として最低限の信念を曲げたくはない」
「信頼を得るため、ね。詳細名簿を見たなら、あなたは私にその価値がないことを知ってるんじゃないの?」
それは言外に自分には戦闘力がなく、特殊な能力もないことを、無価値であることを示唆している。
自分の価値を正しく評価し、その上でこちらの意図を質問してきているのだ。
内心でカレンに似たタイプだと判断し、幾つかの答えの中から相応しそうなものを選んでいく。
505
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:43:08 ID:y3.LW1gA0
「人の価値、なんてものを俺は考えたくない。命は命、それ一つだ。
こんなふざけたゲームに投げ込まれ、そこから脱出するために協力できる人間は一人でも多い方がいいに決まっている」
「……かっこいい考え方するのね」
「理想論かもしれない。だが、俺はその青臭い正義を貫きたい。
後ろにいる獣人のチミルフも、俺のそんな考えに賛同してくれた一人だ」
二人の見上げる視線の前に、チミルフは意を察したように重々しく頷く。
上出来だ。その態度に幾許かの納得を得たように、かがみはわかったと笑みを見せた。
「疑ってばかりでごめんなさい。ちょっと……色々とあったから」
「妹さんを亡くしていることは知っている。その……俺にも妹がいるから、君の心痛は痛いほどわかるよ」
そこだけは心から、嘘偽りない言葉。
もしもナナリーがこのゲームに投げ込まれ、彼女の妹と同じ運命を辿っていれば、もはや自分は生きてはいられないだろうから。
だからこそ、何を犠牲にしてでも必ず生還してみせる。
そのために、この女の握っている何らかの重要な情報も必ず手に入れる――!
「誓って言うが、こちらに敵対する意思はない。それにだ――」
勿体ぶった仕草で前置きし、ルルーシュはそこで一度言葉を区切る。
ここから先の内容を口頭で説明するのは軽率だ。首輪に盗聴の機能があると考えられる以上、重要な内容は筆談でこそ行うべき。
黙り込むルルーシュにかがみは眉を寄せるが、ルルーシュが指で首輪を示すと納得の頷きを見せた。
意図が通じる――つまりは首輪の盗聴機能については既知であり、尚且つこちらの意を察せぬほどに頭は鈍くないらしい。
「俺は今、脱出するための対主催グループを作り上げようとしている。その仲間との合流を急いでいるところだ」
『脱出できるかもしれない方法がある。協力してくれないか?』
唐突に沈黙が落ちれば盗聴の向こう側で邪推も働こう。
それ故に口頭と筆談の同時進行を選んだのだが、よくよく考えれば、平凡な女学生には難易度の高い要求だったか。
「確実に信用できる相手なの? 悪戯に数を増やすのは危険だと思うけど……私が言えた話じゃないけどね」
『脱出法? それとも首輪の解除? どちらにせよ、信憑性のある話と思っても?』
そのルルーシュの懸念は、地面に書いた文面に即座に返答してきた彼女の対応で霧散する。
会話、筆談共に違和感のない返事はまさしく、彼女の対応力が一定の水準を超えていることの証。
頭の悪い相手との会話を嫌うルルーシュにとって、幸いなほどに優れた交渉相手だ。一介の女学生とは思えない。
――あまり、察しが良すぎないことを祈るばかりだが。
場が停滞しないように留意しながら、次に取り出して見せるのはレーダーだ。
幾つかの光点の集中するそちらを提示しながら、同時に地面へと筆の跡を残していく。
「参加者については詳細名簿で、相手を選んでいるつもりだ。
ただ、君の懸念ももっともな話ではある。俺の知り得る情報は参加者の参加前のものでしかないからな。
君はこのゲームの中でどれぐらいの人に会っている? この中にはどうだ?」
『理論的に辻褄は合っている。俺の持つ情報によれば、どちらかといえば首輪の解除、及び脱出の前準備の確立といったところだ』
筆談で情報を開示しつつ、レーダーの光点の示しているエリアは隣のC−5だ。
そこにいるジン達とかがみの間に面識があれば、同行者がいる状況は尚のことうまく事態を転がすだろう。
その打算を肯定するようにかがみは頷いて、
「この、ここに名前がある人だったら全員知ってるわ。特にジンやゆたかちゃんは」
『具体的に必要なものや、人員。その他を聞いてもいいかしら?』
明確な返事、そして示される聡明さと協力意思――まさに、得難い駒が現れたものだ。
ほくそ笑みたい気持ちを堪えつつ、ルルーシュはかがみに頷き返す。
「そうか。ジンは俺も知っている。その彼と知り合いなら、彼らとの合流に問題はないな」
「ええ」
506
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:43:47 ID:y3.LW1gA0
――よし、条件はクリア。
忠実な部下となったチミルフをジン達にどう説明すべきかがネックだったのだが、彼らと友好的な関係にある柊かがみの証言もあれば集団にチミルフを混ぜることも容易だろう。
最悪、彼らとの関係に亀裂を入れかねないチミルフには自害を命じるか、レーダーを持たせて禁止エリアにでも隠しておこうと思っていたところだ。
ここぞという相手以外、ギアスの使用は控えた方が賢明だろう。
あまりに皆が皆、自分に友好的すぎるとそれは不必要な疑念を招くことにもなりかねない。
柊かがみはギアスではなく、弁論によって信用を勝ち得るべきだ。
「光点を見る限り、集まっている面々に危険な印象はない。脱出する意思は、そのために協力する仲間は一人でも多く必要だ」
『必要なのはフォーグラー……あの、遠くに見える黒い球体だ。あれのある機能を利用する必要がある』
「優しいのね。人がいいのかも。私は嫌いじゃないけど、ここでは危うい考えじゃないかしら?」
『あれを押さえるのは結構な難題ね。誰が乗ってるのか、どう動くかも予想できないし。他は?』
「ご忠告、痛み入るよ。だが、それでも俺は人の心の強さを信じていたい。それだけさ」
『ここからは少し説明が面倒になる。長い話だが、順序立てて話そう。まずは――』
そうしてルルーシュは簡易的に、脱出までの必要な道のりについて筆談を始める。
その間も取り留めのない、言ってしまえばむず痒くなるような青臭さを演じながら、だ。
説明に対してかがみは高い理解力を発揮し、ほとんど口(筆)を挟まなかった。
しかし重要な箇所には質問を欠かさないなど、優秀な生徒であると感心させられたほどだ。
「……以上が俺のここまでの道のりだ。合流、離散を繰り返したが、その芽が今になって開花しているのは皮肉な幸いだな」
『アンチ・シズマ管を集め、試作型へ改造。そして人為的にエネルギー中和現象を引き起こす。
それがこの作戦の肝になる、中核を担う重要な部分だ。
シズマ管の改造は俺が挑戦するつもりだ。少しは機械いじりの知識はあるつもりだからな』
脱出方法の説明と、ルルーシュ個人のゲーム内での動向を一通り話し終える。
もちろん、後者に関しては『情に厚いルルーシュ君』らしく脚色させてもらったが。
「やっぱりみんな……大変な目に遭ってるのね。自分ばっかり不幸だって、自惚れてたかも」
『ひょっとしたら私、アンチ・シズマ管を持ってるかもしれないわ』
「なに?」
かがみの最後の筆談で示された情報に驚き、会話と筆談のリズムを崩して思わず言ってしまった。
その失言にかがみは少し白けた顔をした後で「だから、私ばっかり不幸なわけじゃないわよねって話」とフォローを入れる。
「あ、ああ……すまない。疲れているのかもしれない」
「無理もないわね。私もずっと動いてて、ほとんど眠ったりしてないし」
そう言いながらかがみがデイパックから取り出したのは、緑色の液体のようなものが入ったエネルギーアンプルだった。
そしてそれは――支給品リストに載っている、アンチ・シズマ管そのものだ。
「そうだな。眠っていないのはよくない。睡眠は重要だ。睡眠による疲労の回復が行われなければ、頭の回転も鈍くなる!」
『そうだ! これだよ、これだ。素晴らしい!』
差し出されるままにアンチ・シズマ管を受け取り、興奮を隠せないのが筆談にも声にも出た。
その状況を度外視して、ルルーシュはアンチ・シズマ管の検分を始める。
なるほど、設計思想などは完全に自分の世界のものとは違うが、その作りの部分に限っては文化的な差異はほとんどないようだ。
首輪の解放のためのネジ穴といい、多種多様な世界の根本にまで違いが生じることはそうないらしい。
『役に立った?』
『役に立ったどころじゃないぞ、柊。これはまさしく大金星だ!
できる、できるぞ。やはり俺達には運が向いてきている!』
チミルフという手駒といい、脱出するためのアンチ・シズマ管といい、さらには聡明な協力者。
まるで天がルルーシュ・ランペルージに使命を果たせといわんばかりではないか。
歓喜に全身を震わせるルルーシュを見ながら、かがみもまたその口元を緩める。
それが不思議と今までの彼女の印象と乖離する、奇妙な笑みに見えたのは見間違いだろうか。
507
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:44:30 ID:y3.LW1gA0
「それで、仲間との合流は今すぐに?」
『エネルギー中和現象について、詳しく聞いてもいい? そこが肝心なんでしょ?』
「あ、ああ。すまない、少し興奮してしまった。寝不足も罪なことだな」
『つまり、このエネルギー中和現象を引き起こすことによって、会場中の機械の機能が停止することになる――そう、首輪もだ』
かがみの丸い目がさらに大きく見開かれ、そこに納得の輝きが広がっていくのをルルーシュは見ていた。
そう。それによって首輪が機能を失えば、ギアスの制限もまた失われるに違いない。
最悪、ギアスの制限さえ外れれば参加者を皆殺しにすることも、あるいは脱出を妨げるものがなくなれば安全な脱出路を探ることも可能になるはずだ。
参加者達の頸木が外れれば、状況悪しと見た螺旋王が直接やってくることも考えられる。
もしもそんな軽挙妄動を螺旋王が起こし、眼前にその憎き姿を晒そうというのなら――スザクの仇を討ってやる。
静かな決意を固めるルルーシュ。不意にその前で、かがみがごそごそと懐を探っている。
どうした、と視線で問いかけると、彼女はううんと首を横に振って、
「ちょっと、驚いたからか目にゴミが入っちゃったみたい。今、目薬さすから」
「目薬なんてものがあるのか……気付かなかったな」
脱出の明確な方法を聞けたことで、緊張感の糸が切れたのだろう。
筆談もこれ以上は必要がないはずだ。筆代わりの枝と石を互いに放り捨て、一息をつく。
かがみは安堵感の生まれた微笑のまま、懐から取り出した『目薬』を目に吹きかけているところだ。
――吹きかけるタイプの目薬とは珍しい。そういえば、俺もこのゲームに参加して以来、睡眠もまともに取れていないから目が疲れているな。ちょっと貸してほしいくらいだ。
疲れ目を感じてぎゅっと目を瞑り、それから眉間を揉み解して疲労を実感する。
かがみはそんなルルーシュの挙動に気付かないまま、目薬を差した両目をぱちぱちと瞬きさせていた。そして、
「そういえばルルーシュ、ちょっといい? 聞きたいことがあるんだけど」
「うん? なんだ?」
「ううん、全然大したことじゃないんだけど」
妙に人懐っこい笑顔になったかがみは、後ろで手を組みながら、愛らしい顔で問いかけてくる。
「人生って、落差がすごいものだと思わない?
上がったと思ったら下がって、下がったと思ったらそんなに捨てたものでもない。
それはなんていうか、神様なんて存在のことを私は全然信じてたりはしてないんだけどね。
でも、運命ってものにはそういう人の意思みたいなものが混ざってるんじゃないかって思うことが私にはあるの」
「……? わからなくもないが……」
「でしょ? それで、落差が云々って話に戻るんだけど、ルルーシュはさっきこう言ってたわよね。
こんな殺し合いの場所でも人を信じたい。そして行動に結果はついてきている。自分達には運が向いてきてるって。
それは正しいことだわ。だってルルーシュは螺旋王に反逆しようと頑張って、それで敵の幹部まで味方につけちゃったものね。
ノリにノッてる状態で、これが幸運じゃなきゃ何が幸運よって話だもの」
取り留めのないことを急に語り出すかがみに、ルルーシュは頷きながらも得体の知れないものを感じる。
緊張の糸が切れて、友人に接するような態度になっているのか?
奇妙なほど早口になる姿、まるで徐々に徐々にテンションが際限なく上がり続けるような――、
「つまり何が言いたいのかっていうと、今、運が無敵に素敵に完璧のぺきぺきに向いてきてるルルーシュは言葉で言えば上向き状態。
人生の上下の中でも上の位置にいると思うわけ。それはもう何でもかんでもまるで天が自分を生かそうとしてるんじゃない?
ってちょっと思えてくるぐらいにいい状況だと思うの。それはとても楽しいし嬉しいことよ」
「待て、かがみ。少し落ち着こう、急にどうした?」
「急にも何も全然大丈夫。落ち着いてないわけじゃないわよ。
そろそろ落ち着かなきゃいけない年頃だなぁなんて思いつつ毎日を過ごしている私に対して落ち着けなんて言葉はちょっと違うと思うわ。
そうそう、それでルルーシュのことばっかり話してるのもよくないわよね。で、そんな上向き状態のルルーシュもそうだけど、
それに出会えた私もかなりラッキーだと思う。ラッキーが二人揃ってすごい状態。これが本当のラッキースターなんてね」
508
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:45:11 ID:y3.LW1gA0
――なんだ、この女は?
壊滅的に感情表現が過剰で問題のあるだけなのか?
言いたいことはあくまで、この出会いは素晴らしいものだというそれだけなのか?
普段の態度がいっそ扱いやすかっただけに、今の状況は非常に難解だ。
同行者に選ぶには非常に疲れる相手だと思わざるをえないが。
「ごめんなさい、ちょっと自分で話をずらしちゃった。それでまたまた最初の話題に戻るわけなんだけど、人生の落差ってやつね。
これは言葉で話すのは簡単だけど、実際にはかなり意識し辛いことだと思うの。後になって思い返してみて、
そういえばあの時は人生の絶頂期だったけど、今にしてみればその時は調子に乗ってたなぁなんて感じでね。
やっぱり今、自分が高いところにいるのがわかってる人間に足元を見るようにって忠告は届き難いし言い難いものなのよ。
それでもやっぱり人生ってのはいつだってずっと真っ直ぐに同じ高さをいけるわけじゃないから、
今が高いところにいるのなら低いところに落ちるかもしれないことを意識してなきゃいけないと思うのよね」
そこまで聞いて、ようやくルルーシュはかがみの意図するところを理解した。
つまり彼女は、準備が整い始めてきた今だからこそ気を引き締めて、失敗しないようにと発破をかけているのだ。
何とも遠回しで、しかもわかり難い応援だろうか。そのことに苦笑が浮かぶのを堪え切れない。
「ああ、わかったよ、柊。でも大丈夫だ。ここから失敗するようなヘマはしない。
今が絶頂な状態だというなら、この状況を維持してやろうじゃないか。それぐらいの能力はあるつもりだ」
「なるほどなるほど、つまり、完全に完璧に一分の隙もなく全ッッッッッ然問題なしな感じでいけると、そう思ってるってぇわけだ?」
「ああ、そういうことだ。――ここまできて、死んだりなんかするものか」
「もう一声」
「……? とにかく、俺は絶対に死んだりしない」
「ハハァ。つまり、人生の絶頂からまっさかさまに堕落墜落崩落しちまって、
自分がいともあっさりと無残に残酷に酷薄に薄命に死ぬかもなんてことは一切合切考えちゃぁいねェわけだ」
その声が鼓膜を叩いた時、ルルーシュは自分の耳がおかしくなったのかと本気で思った。
何故ならその声は、つい今までずっと話していたかがみと同じものなのに、全くの別のもののように感じられたからだ。
目の前のかがみは相変わらず、愛らしい顔を笑みの形にしている。
だが、何故だろうか。その笑みが急に、ひどく歪んだ狂ったものに見えてきたのは。
「――そうだって、言えよ」
まるで男になったような口調で吐き捨てて、かがみは線にしていた目を剥いてルルーシュを見た。
――その双眸が、まるで悪魔のように赤くて。
「――王っ!!」
怒号と共に、乱暴な衝撃がルルーシュの全身を包み込んでいた。
それがチミルフの駆るビャコウの左手に握られたのが原因だと、全身を濡らす冷や汗が風に扇がれたことで初めて気付く。
「ご無事ですか、王!」
「も、問題ない――。よくやった、チミルフ」
こちらの身を案じるチミルフに震えを隠した声で応じるが、実際に紙一重のタイミングであったことには戦慄を隠せない。
死線をほんの僅かな間隙によって救われたルルーシュ、その震える痩身に、
「んだよ。やっぱそっちが先に動いちまったか。
せっかくか弱くて可愛らしい女の子を演じてみたってのに、油断してくれないなんて悲しいぜぇ?」
はっきりと別人に代わったようなかがみが――その全身をいつの間にか白いスーツに覆いながら、黄金の剣を振り切った体勢で嗤っていた。
その変貌に、あまりの異質な変化に、ルルーシュは二の句を告げないほどに驚愕している。
その姿すら物笑いの種なのか、かがみはケタケタとした嗤いをやめない。
その狂人と化した少女を前に、しかし戦場に身を置く武人は一切の動揺のない声で、
509
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:46:01 ID:y3.LW1gA0
「たとえ相手が少女の形をしていようと、油断などしないのが武人の心得だ。色仕掛けなら相手を間違ったと思うがいい」
「ハッ、いいねえいいねえ。お前は死ぬってのをちゃんと意識してやがる。
武人ってなぁ、つまりはサムライだな? ともなりゃ傭兵とかと同じ覚悟は当然ってわけだ。
自分が死ぬなんてちっとも考えてねえ、主とは全然違うじゃねえの」
「黙れ。それ以上、王を侮辱することは臣下の俺が許さん」
「ハッ、許さねえってのはアレだぜ。
つまりは俺がさらにさらにルルーシュきゅんを小馬鹿にしてやったら怒ってくれちまうわけだ。
あんたみたいな奴が忠誠を誓う価値があるかよ、そいつに。
そいつは安全圏で、殺し合いする奴らを高笑いで見下す醜悪な臭いがするぜ。
他人を動かして命の取り合いはさせるくせに、自分はその戦場を遠巻きに見てるってぇ感じのゲスっぽい――」
「――アルカイドグレイブ!!」
決着は一瞬の間についた。
それは蹂躙とも虐殺とも呼ぶことのできない、暴虐が通り過ぎただけの惨劇だ。
主君の侮辱に並々ならぬ忠義が、宣言通りに無礼者を手討ちにしただけのことに過ぎない。
一瞬の間に振り上げられたビーム刃は、秒の停滞もなくその焼け付く刃で柊かがみの小柄な体格を撫で切っていった。
斬撃の威力はそこで留まらず、突き立った地面を爆砕して、土砂の爆裂によって死に体を追撃する。
ビャコウの手の中のルルーシュも、その流れるような攻撃を最初から最後まで完全に見届けた。
ビーム刃の滑らかな斬撃は傷口を焼き、出血すら生むことはない。
左肩から右腰までをばっさりと切られたかがみの体は、そのビームの高熱によって炙られて燃え上がった。
そこをトドメとばかりに降り注ぐ岩石と土砂の雨――助かるはずもない。
有用なはずの手駒がこの手を離れて敵対し、一瞬の攻防の間にその命を散らせていく。
それは正しく、このゲームの残酷な無常観の体現に他ならなかった。
「チミルフ」
「王の意向に背き、出過ぎた真似をしました。処分は如何様にも受け入れるつもりです」
呼びかけに忠臣は頭を垂れ、沙汰が下るのを待つ構えでいる。
主君のためという大義名分すら、その気高い忠義の前には独断専行の言い訳にならないらしい。
――騎士を持つ、ということはこういうことだろうか。
早くにその資格を失っていたルルーシュにとって、その感慨は物珍しいものだった。
「問題はない。奴は危険人物だった。排除して正解だ。よくやったぞ、チミルフ」
「勿体なき言葉です、王」
そうしてコックピットにて跪き続けるチミルフを見て、ルルーシュは思う。
このビャコウという機体のスペックの高さ、そしてそれを扱うチミルフの技量の高さを。
――無理をして、ジン達と合流する必要はないかもしれない。
安全であると睨んでいたはずの柊かがみとの接触がこの様だ。仲間を増やすということは、危険を増やすことにも繋がる。
それよりもこのチミルフをうまく扱いながら、フォーグラーを起動させても問題はないか?
幸いにも柊かがみからアンチ・シズマ管だけは入手することに成功した。
これを入手せずに今の争乱となっていれば、計画は瓦解するところだったのだが。
「どちらにせよ、入手した情報をまとめる時間は必要だな」
短慮はそのまま失敗を招く。
柊かがみの件は一つの結果にすぎない。別の人間までそうであると断じるのはそれこそ短慮の極み。
「チミルフ、とにかく今はこの場を移動する。
この攻撃の音を聞きつけて誰かが集まってこないとも限らない。考える時間が必要だ」
「了解しました。ならば、映画館はどうでしょうか?」
「そこには確か……お前の協力者であるニコラス・D・ウルフウッドがいるんだったな」
「はい。かの男は目的こそ王と違いますが、その力には個人としての俺を上回るものがあります。協力を持ちかけることも不可能ではないかと」
チミルフの言葉に熟考する素振りを見せながら、その考えの甘さを心中で罵倒する。
戦って分かり合った、などと馬鹿げたことを信じる理由になると思っているのだろうか。
510
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:46:49 ID:y3.LW1gA0
そのウルフウッドの目的はチミルフに聞く限り、会場にいる参加者の皆殺しに他ならない。
危険人物中の危険人物だ。東方不敗という老人と大差あるまい。
チミルフはその両者と共闘、あるいは最後に決着をつける約束をしているらしいが、武人という生き物は馬鹿の集まりなのか。
それこそ力こそ正義だと、正しいと考えているのならそれは――、
――それはルルーシュ・ヴィ・ブリタニアにとって、最も唾棄すべき男と同じ考えだ。
「チミルフ、とにかく今はここを離脱しろ。時間が惜しい」
「わかりました。では王、そちらではなくコックピットの方へ」
狭苦しいコックピットに獣人と一緒に入るというのはあまりにも魅力に欠ける提案だが、仕方ないとその誘いに乗ることにする。
掌の上の移動というのは如何にも安定感に欠ける上に、見栄えがよくない。
それにこれだけ目立つ兵器での移動に同乗しているのを他者に見られるのは得策ではない。
チミルフという存在を、友好的な参加者にどう説明すべきか定まっていない今では尚更だ。
「できるだけ他の参加者に見つからないよう、レーダーに注意しながら低空飛行しろ」
「御意に」
素直に従うチミルフの操縦で、ビャコウが静かに、しかし風のような移動を開始する。
それを風の吹き込むコックピット内で、髪を押さえながら悠々と見据えるルルーシュ。
その内心をふと、思い出したように湧き上がった思考があった。
――そういえば結局、柊かがみがどうして特別扱いされていたのかはわからなかったな。
【C-6/西側川付近上空/二日目/午前】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:肉体的疲労(中)、中度の頭痛、後頭部にたんこぶ、胸に打撲、ビャコウ搭乗中(乗ってるだけ)
[装備]:ベレッタM92(残弾11/15)@カウボーイビバップ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服 、アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION
予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ
支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
参加者詳細名簿(ルルのページ欠損)、詳細名簿+(読子、アニタ、ルルのページ欠損)
支給品リスト(ゼロの仮面とマント欠損)、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
[思考]
基本:何を代償にしても生き残る。
1:チミルフを従えつつ、最善の行動を選ぶ。
1:ジンの集団を目指すか、あるいは単独で優勝を狙うか。
2:清麿との険悪な関係を知る菫川ねねねに対処する
3:適当な相手に対してギアスの実験を試みる。
4:以下の実行。
「情報を収集し、掌握」「敵戦力の削減、削除」「参加者自体の間引き」
5:余裕があればショッピングモールかモノレールを調べる。
[備考]
※首輪は電波を遮断すれば機能しないと考えています。
※明智組の得た情報について把握しました。
※会場のループについて把握しました。
※ギアスの制限は主に一度に使用する人数が問題なのではないか、と想像しています。
※名簿は生存者と異世界についての情報把握に的を絞って見たため、スザク他との時間軸の矛盾に気付いていません。
※清麿殺しの罪はヴィラル、シャマルのどちらかに擦り付けるつもりです。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルについての情報を入手しました。
511
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:47:19 ID:y3.LW1gA0
【怒涛のチミルフ@天元突破グレンラガン】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(小)、頭部に軽い裂傷、左頬が腫れあがっている、敗北感の克服による強い使命感、ギアス(忠誠を誓う相手の書き換え)
[装備]:愛用の巨大ハンマー@天元突破グレンラガン(支給品扱い)、
ビャコウ(右脚部小破、コクピットハッチ全損、稼動には支障なし@天元突破グレンラガン)
[道具]:デイパック、支給品一式、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本A:獣人以外を最終的には皆殺しにする上で、ニンゲンの持つ強さの本質を理解する。
B:王であるルルーシュの命に従い、ルルーシュの願いを叶える。
0:ルルーシュと同行し、臣下としての務めを果たす。
1:ウルフウッドと合流し、ニンゲンとは何か見極める。
2:ヴィラルと接触したい。
3:螺旋王の第一王女、ニアに対する強い興味。
4:強者との戦いの渇望(東方不敗、ギルガメッシュ(未確認)は特に優先したい)。
5:ヴィラルが首を一つも用意できなければ、シャマルの首を差し出させるかもしれない。
6:夜なのに行動が出来ることについては余り考えていない(夜行性の獣人もいるため)。
7:ニンゲンに創られたニンゲン以上の存在として、ヴァッシュに強い興味。彼の知人に話を聞きたい。
[備考]
※ヴィラルには違う世界の存在について話していません。同じ世界のチミルフのフリをしています。
※シャマルがヴィラルを手玉に取っていないか疑っています。
※チミルフがヴィラルと同じように螺旋王から改造(人間に近い状態や、識字能力)を受けているのかはわかりません。
※ダイグレンを螺旋王の手によって改修されたダイガンザンだと思っています。
※螺旋王から、会場にある施設の幾つかについて知識を得ているようです。
※『怒涛』の二つ名とニンゲンを侮る慢心を捨て、NEWチミルフ気分です。
※自分なりの解釈で、ニンゲンの持つ螺旋の力への関心を抱きました。ニンゲンへの積極的交戦より接触、力の本質を見定めたがっています。(ただし手段は問わない)
※ビャコウ及び愛用のハンマーはウルフウッドの気絶中に回収しました。
※ビャコウは起動には問題ありませんが、コクピット内部が剥き出しになっています。
※東方不敗と一時休戦、次に出会った時は共闘することを決めました。
実験の最後に全力で決闘することを誓いました。
※東方不敗の知る参加者についての情報を入手しました。
※『忠誠を誓うべき相手は螺旋王ではなく、ルルーシュである』という認識の書き換えをギアスで受けました。
螺旋王に対して抱いていた忠誠が全てルルーシュに向きます。武人たる彼は自害しろとルルーシュにいわれればするでしょう。獣人としての誇りは持っていますが、螺旋王に対する忠誠心は失っています。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
512
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:48:06 ID:y3.LW1gA0
「いやいやいやいや、まったく痛いねぇ辛いねぇ。うまくいかねえもんだよ、なぁ」
ルルーシュとチミルフの両名が立ち去ってから数分、
うず高く積まれた土砂を黄金の剣で掘り返して、少女はしばし別れを告げていた空を仰ぐ。
「おおう、やっぱ青空はいいな。普段はいつも頭の上にあるもんだから気にしちゃいねえが、
土の下に埋まって真っ暗闇に周りを囲まれてみると、改めてその蒼さが目に沁みてくるぜ」
――それにしても、タカヤ君の目薬があって本当に助かったぜ。
砂埃をふんだんに浴びた目を擦りながら感嘆し、狂人は裸体を晒したまま述懐する。
殺害したDボゥイはその満身創痍の肉体の悲痛さもさながら、持ち合わせた荷物の貧相さにも涙が出そうになった。
荷物としては支給品を除けばまともな道具は赤い目薬しかなかったのだ。
Dボゥイを殺害した後の戦利品の検めということで、狂人は一度この目薬を使用している。
実際のところ、戦っている最中にこの目薬を打ってDボゥイの動きが変わったことには気付いていたので、回収して使ってみることに躊躇はなかった。
それにより、効果が動体視力の異常な強化だということはわかっていた。
効果時間が短すぎるのが不満だが、パフォーマンスを考えれば文句は言えまい。
ここへきて彼女は気付いていないが、ブラッディアイの本来の効果時間は彼女の自覚よりもう少し長い。そして、その副作用も。
それに彼女が気付かない理由は明白――副作用を感じていないのだ。
ブラッディアイはその使用者の視神経を侵す代わりに、莫大な力を与えることになる薬だ。
そのブラッディアイを使用するものとしての資格のほとんどを、不死者となった彼女は失っている。
不死者として酒を飲んだ状態で肉体が固定されている彼女、その肉体が薬の侵食を受け入れないのだ。
侵される視神経は即座に修復し、ブラッディアイの異常な効果を数十秒で打ち消してしまう。
さらに付け加えれば、不死者の肉体は同じダメージに対して耐性を作るようになる。
つまり、今は六十秒ほど持つブラッディアイの効果は徐々に短くなり、最終的には何の効果も発揮しなくなるということだ。
それでも、副作用なくこの薬を使うことができるという彼女とブラッディアイの相性は、抜群に良いといわざるをえないが。
とにかく、その薬の効果によって彼女が命を拾ったことは間違いないのだ。タカヤ君様々である。
チミルフのビャコウによる一撃の瞬間、狂人の世界は赤く停滞していた。
その攻撃の速度を回避しきることはできずとも、頭部と心臓の致命傷を庇うことができる程度には。
その後に土砂に巻き込まれたのは、脱出に手間がかかりはしたが僥倖だった。
もしもあれがなければ二人の前で再生し、戦いは長引いていたことだろう。
「ま、やり合ってたら負けてたかもわかんねえしな。チミルフ……だったか。
あいつはいい目ぇしてやがった。主君のために命を懸けて、死ぬかもしれない戦場に臨むってなぁ。
ああいう奴は殺したくねえや。代わりにルルーシュ君が俺的に最高に殺したい温さだったがね!」
Dボゥイを殺害し、薬の効果を確かめた後で、狂人が選んだのは周囲の散策だった。
おそらくは付近にいるだろう、先ほどまで戦い合っていた面々。
――スパイク・スピーゲルや奈緒ちゃんといった奴らを殺しに行くのはとても楽しそうなことだ。
ただ、ジンは仲間だから殺せないやな。適当に誰かに殺されてくれれば楽なんだが。
何より――小早川ゆたか。彼女を殺そうと思い切ることができなかった。
この気持ちは非常に厄介なものだ。殺したいんだが、殺したくない。
殺したくない子を殺すのはすごくいいことのようで悪いことのようで結局どうすればいいんだか――、
「わからなくなってわからなくなって、ああ考えるの面倒くせぇってなったから、とりあえず散歩することにしたんだったな」
特別な理由もなく、鼻歌交じりで川に沿って歩いていたら、ちょうどよく獲物を見つけたのだ。
ただ、獲物はおっかないペットと一緒で、しかもこっちの位置をレーダーで確認していた。
位置がばれているとなれば、開き直って飛び出すしかない。それでも、なるたけ利用できるものは利用しておきたい。
513
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:49:13 ID:y3.LW1gA0
だから、せっかく女の子の格好してんだし、女の子のふりとかすればいけるんじゃね?
という狡猾とも悪ふざけともいえるような理由で、柊かがみを演じながら近付いたのだ。
我ながらうまくやれていたものだと、自画自賛してもいいぐらいだったと思う。
聞き出せた情報も有用なものばかりだったし、ジンにでも聞かせたら大喜びしそうだ。
ただし脱出方法や首輪の考察以外は眉唾と思っていいだろう。
こっちの『演技』に向こうが気付いていなかったのは確かだが、向こうが空寒い演技をしていたのは事実。
見覚えのある携帯電話に詳細名簿――それらの入手に明智達の名前が出なかったことも含めて。
「あー、清麿も死んでんのかねぇ。悲しいねぇ辛いねぇ、仲間が死ぬってのはよぉ。殺したのはルルーシュ君だろうしなぁ。
でもせっかく目ぇ合わせてたってのに、必殺催眠術は使ってこなかったけどよぉ」
しかし、目の前に美味しそうな餌がずーーーーーーーーっとぶら下げられているのに、それを我慢するのは苦痛だった。
ルルーシュ・ランペルージ――その態度、物腰、仕草、喋り方、表情、性格からスタンスに至るまで、それは正しく今の彼女にとって生唾ものの極上な温さだった。
命懸けの行動を、命を懸けずにやってのけたいというような、温い甘い青い願望。
我慢しなければならなかったのだ。一応、我慢しようという努力はしてみた。
ルルーシュの背後に立つチミルフはずっと、自分の動向に目を光らせていたのだ。
まともな戦いになれば戦力差からして勝てるはずもない。無謀もいいところだ。
それが分かっていたからこそ、この場で手を出すのは我慢して、タイミングを見計らうつもりだったのだ。だったのに――、
「エネルギー中和現象とか、そんなこと言うんだもんなぁ」
フォーグラーを利用し、エネルギー中和現象を起こす――それがルルーシュの考える、脱出のための方策だったらしい。
それによれば首輪の制限は失われ、そして会場中の機械が停止するという。
なるほど確かに会場の端のバリアがなくなれば、あるいは制限がなくなれば会場を脱出するための力を持っている奴ぐらいいるのかもしれない。
宇宙人が参加しているぐらいだ。宇宙船ぐらいどっかに埋めてある可能性もある。
「でもよぉ、そんなことされっと俺が困るんだよなァ」
そう、困るのだ。脱出できるというのは非常にありがたいことだ。
自分もいい加減、この会場でなくてもいいから適当に温い連中をぶっ殺して回りたい。
だが、制限が外れてしまうというのは困るのだ。だって――、
「制限が外れたら、俺は死なねぇ体になっちまう。
完全な不死者になっちまったらよ、俺のこの大事なアイデンティティが崩壊しちまわぁ」
死ぬなんて考えから縁遠く、今生きていることの素晴らしさを理解していない連中に生きることをレクチャーする。
それが自分の持つ、他者殺害への信念だ。
そんな信念を持つ自分が、死ねる可能性さえ完全に失って、死なない体になってみろ。
――死なない奴が、そんな説教なんてちゃんちゃらおかしくなっちまう。
故に狂人としては、脱出できるに越したことはない。
ただし、その場合は制限は持ち越したままの脱出でなければ意味がないのだ。
会場中の誰もが窮屈で邪魔だと思っているだろう首輪が、彼女には必要だった。
「ま、結果的に死んだふりみたいになったし。
レーダー持ってるルルーシュ君はそう遠くない内に俺に気付くだろうけどな。
目的地はわかってるわけだから、先回りでもしといてやろうかねぇ」
Dボゥイとの約束は後回しだ。ゆたかちゃんと舞衣ちゃんを殺してる間に、首輪の制限を外されでもしたら困ったことになってしまう。
となれば、狂人が次に目指すべき場所は――、
「あのでっかい黒いボールは、フォーグラーだったか? あれを壊すかどうかしないといけねえよなぁ。
清麿は草葉の陰から怒っかもしんねえけど、あれがあったら俺が困るわけだから、俺が困るから壊したって謝っときゃぁいいだろ」
514
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:50:11 ID:y3.LW1gA0
身勝手な方針を打ち立てると、狂人は気合いを入れるように「よしっ」と牙を剥いて嗤う。
手にした黄金の剣をスコップ代わりに地面を掘り進め、埋もれていたデイパックも回収した。
あれだけの被害があったものだから喪失も覚悟していたが、丈夫な素材で何よりだ。
「さて……んじゃま、とりあえず黒い太陽を壊しに行きますかね。
壊すのは俺じゃなく、グラハムの奴の専売特許だってのによ。うぉ、そう思うとあいつならスゲェ嬉しそうに壊しそうだなアレ」
そんな感慨を漏らしてから歩き出そうとして、ふと全身がすーすーすることを思い出した。
そうだ。チミルフの攻撃のせいで、遂に最後の衣服まで失っていたんだった。
これは困ったことになった。いくら女の子でも、素っ裸で近寄ってきたら油断はさせられないんじゃないか?
「となると、やっぱり便利なこいつに頼るっきゃねえか」
呟き、緑の光が全身を包み込んだ。次の瞬間にはその全身を白のスーツが覆っている。
その衣装を満足げに見ていた狂人だったが、不意にその表情が歪む。と、
「うおおい、何だよ! 一回解除すると、もう一回着た時はクリーニング済みになっちまうのか!
せっかくタカヤ君の返り血でいい感じだったってのに、まっさらじゃねえかよぉ」
綺麗になった白服は卸し立ての華やかさだ。そこにはあの楽しかった惨劇の、一片たりとも残っていない。
歪み切った悲しみの声を上げて一頻り騒ぐと、狂人はゆっくり歩き出した。
「ま、なくなったもんはしゃーない。お星様になったタカヤ君のことは忘れるとして、俺は次なる出会いを求めようじゃねえの。
おっと、出会いとか言ってるとルーアに誤解されちまうな。大丈夫、問題なし! 俺はお前一筋だからよ!
愛して愛して最後に殺すのはお前だけだ! とりあえず、ルルーシュ君とかぶち殺して、この白い布地の最初の斑点になってほしいもんだねぇ。
ハハ、ハハハ、ヒャハハハハハハッハッハッハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
歪んで歪んで歪み切った狂笑を浮かべながら、狂人は弾むようなステップで道を急ぐ。
その道筋の先に、新たな血の臭いを感じさせながら――。
515
:
最愛ナル魔王サマ(本スレ>>104続き)
◆2PGjCBHFlk
:2008/08/03(日) 10:50:46 ID:y3.LW1gA0
【C-6/川沿いの道/二日目/午前】
【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、髪留め無し、螺旋力覚醒(ラッドの分もプラス) 、疲労(大) 、ラッドモード
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、 ブラッディアイ(残量40%)@カウボーイビバップ
クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、バリアジャケット
[道具]:デイバッグ×14(支給品一式×14[うち一つ食料なし、食料×5 消費/水入りペットボトル×2消費])、
【武器】
超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)、
王の財宝@Fate/stay night、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、
【特殊な道具】
オドラデクエンジン@王ドロボウJING、緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
サングラス@カウボーイビバップ、赤絵の具@王ドロボウJING
マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ、ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル
首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)、首輪(クアットロ)
【通常の道具】
シガレットケースと葉巻(葉巻-1本)、ボイスレコーダー、防水性の紙×10、暗視双眼鏡、
【その他】
がらくた×3、柊かがみの靴、破れたチャイナ服、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)、ガンメンの設計図まとめ、
壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[思考]
基本:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
0:フォーグラーを破壊して、エネルギー中和現象計画を頓挫させる。
1:Dボゥイとの約束通り、舞衣とゆたかを殺したい(ゆたか殺害には精神的苦痛を感じます)
2:ルルーシュをとてもとても殺したい。
3:とりあえず服が白いと寂しいので、誰かを殺したい。
[備考]:
※ボイスレコーダーには、なつきによるドモン(チェス)への伝言が記録されています。
※会場端のワープを認識。
※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました。
※ラッド・ルッソの力を開放することに恐怖を覚えました。
※ラッドの知識により、不死者の再生力への制限に思い当たりました。
※本人の意思とは無関係にギルガメッシュ、舞衣に強い殺意を抱いています。
※『自分が死なない』に類する台詞を聞いたとき、非常に強い殺意が湧き上がります。抑え切れない可能性があります。
※かがみのバリアジャケットは『ラッドのアルカトラズスタイル(青い囚人服+義手状の鋼鉄製左篭手)』です。
2ndフォームは『黒を基調としたゴシックロリータ風の衣裳です』 その下に最後の予備の服を着用しています。
※王の財宝@Fate/stay nightは、空間からバッグの中身を飛び出させる能力(ギルとアルベルトに関係あり?)、と認識。
※シータのロボットは飛行機能持ちであることを確認。またレーザービーム機能についても目視したようです。
※第五回放送を聞き逃しました。
※『かがみ』の人格を手放すことを選びました。
※かがみの3rdフォームは『列車時のラッドの白服』です。下は裸なので、擦れて痛いかもしれません。
※ルルーシュから『フォーグラーを利用した脱出法』の情報を得ました。成功すると困るので、何とか止めたいと思っています。
※ルルーシュが『チーム戦術交渉部隊』の道具を持っていたことで、明智達を殺害したのはルルーシュだと思っています。
516
:
◆EA1tgeYbP.
:2008/08/07(木) 15:04:16 ID:ZV/CTkDk0
―――道は二つ。今すぐに大事な仲間二人を探しに行くのか。それとも、あの黒くでっかい太陽を奪いにいくか。
カミナが答えを選ぶのにそれほど時間はかからなかった。
「行くぜ、クロミラ。まずはガッシュとニアを探す!」
『わかりました、カミナ。しかしどちらの方向へ?』
「おう、まずはこっちに向かう!」
そう言うとカミナはグレンを南へと向けた。
……カミナが選んだ選択肢、それはまず仲間の二人を探しにいくというものだった。
その選択肢はクロスミラージュにとって十分に予測できるものだ。カミナという男の行動理念の基本は誰かを守ることにこそあるといって良い。
そして選んだ方向は南。
あの黒い物体がある方角でもある。
あの物体にどれほどの能力があるのかまでは予想できないが、この殺し合いに乗った人物、殺し合いを止めようとする人物がその力を手に入れようと考える、それぐらいの威圧感はある。
その集まってくる人物の中にニアとガッシュ、今ははぐれてしまっている大グレン団の仲間たちが探している人物、最低でもその仲間が含まれていれば、カミナが彼ら二人と再会するのもそう遠いことではないのかもしれない。
――――――だが
『カミナ、これからのことについて少し話があるのですが』
「―――ん? 何だ、クロミラ」
グレンが動き始めてからほどなく、クロスミラージュはカミナに声をかけた。
―――そう、これから向かう先には自分達の探し人がいるかどうかは別として、ほぼ確実に他の参加者がいるだろう。
―――しかし、殺し合いに乗っている、乗っていないに関わらずそれが自分達の知り合いである可能性はとてつもなく低い。
現状、殺し合いを否定する参加者の中ではおそらく、カミナはもっとも人脈がない。
現在生き残っている参加者の内、カミナを除いた二十名の中、直接の面識がある参加者はニア、ガッシュ、ドモン、ヴィラル、シャマル、東方不敗の六名。
しかも、そのうちヴィラル、シャマル、東方不敗の三名は殺し合いに乗っている。ニアとガッシュがどこに飛ばされたのかわからない以上、まともな知り合いはドモン・カッシュただ一人きりといっていい。
カミナのもとの世界の仲間であるシモン・ヨーコの両名は早期に死亡していることから、そちらの方面からの他の参加者へのアプローチというのも難しい。
―――また仮にどちらかの仲間が生存していたとしてもだ。
ニアの存在を考えればシモンやヨーコがカミナの死後の時間軸から呼ばれている可能性のほうが高い。
話を聞くに、シモンにとってもヨーコにとってもカミナという男の存在は極めて大きいものだと推測される。殺し合いの舞台に参加しているそんな男と同じ名前の参加者―――それを好意的に語っていた可能性は低い。
517
:
◆EA1tgeYbP.
:2008/08/07(木) 15:05:25 ID:ZV/CTkDk0
『つまり、結論だけ述べますと、ドモンとその知り合いを除く参加者からは、私たちが殺し合いに乗っていると判断されるかもしれないということです』
ぷすー、と理解を放棄しているようなぼけっとしたカミナに、いいかげんクロスミラージュも慣れたのか、早々に結論を告げる。
「あ? この俺が殺し合いに? ざっけんな! ジーハ村に悪名轟くグレン団 男の魂背中に背負い 不撓不屈の鬼リーダーカミナ様がこんなくっだらねえ殺し合いに乗るような人間に見えるってのか!」
『落ち着いてくださいカミナ。あなたが殺し合いに乗るような人間ではないということは私達が一番よくわかっています』
「あ、ああ。わかってるじゃねえか、クロミラ」
『ですが、他の参加者達にとっては私達の知り合いの少なさは、私達を疑うには十分なものです』
……あえてクロスミラージュは声に出さなかったが、その疑いにグレンという起動兵器が拍車をかける可能性は高い。
対主催を志すメンバーの横のつながりがどれほどのものかはわからないが、そのほとんどと面識を持たず、機動兵器に乗っている男、客観的に見れば参加者を殺しまわっている側に判断されるのは仕方がないとさえ思える。
「……じゃあ、どうしろってんだ? クロミラ」
『はい。まず、確認しておきますが第一目標がニアとガッシュを探すこと。それで間違いありませんね?』
「あったりまえだ! あの二人をとっとと見つけてやる! それが大グレン団のリーダーってもんだろ!」
『ではまず脱出を目指す他の参加者、とりわけ高峰清麿、明智健悟この二人の知り合いを探しましょう』
クロスミラージュの言葉にカミナは不思議そうな顔をする。
「……? どうゆうことだ、クロミラ? なんでニアやガッシュを探さないんだ?」
『はい、どうしてこの二人の知り合いを探すのかといいますと、まず、ガッシュが転移の際に思い浮かべた人物はガッシュのパートナーである高峰清麿である可能性が非常に高いからです。 そして、説明された彼の人柄から判断すると脱出を目指す参加者の中心的立場にいる可能性は大きいと思われます。つまり、彼を知る対主催の参加者はかなりいることでしょう』
「……なるほど」
『Mr.明智の知り合いを探すのも同様です。私の知る限り彼は抜け目のないひとでした。 おそらく彼はその正義を曇らせることなく仲間を集い、対主催としてのグループを構築していったものと思われます。 さらにMr.明智は私と、高峰清麿はガッシュと知り合いであることからも両者の知り合いとは比較的簡単に信頼を築くことが期待できます』
「なるほど……ってちょっと待て、クロミラ! ガッシュはそれでいいとしてもニアのほうはどうするってんだ!」
『はい、ニアに関してなのですが……彼女がどこに転移したのか今は判断できません』
高峰清麿が生きているガッシュと違い、ニアの元々の知り合いは二人ともすでに死亡している。
シモンやヨーコの元に飛んだのか、それとも彼女がこの舞台で最初に出会ったというドーラという女性のもとか、はたまた今は亡きシモンの愛機であったというラガンという機体の元か。
予想するのは難しい。
「じゃあ……」
『ですから今は知り合いを増やすことが重要なのです。先ほども説明した通りニアは今後必要となる存在です。そのことが伝われば、いたずらに彼女を傷つけようとするものはいないでしょう』
「……とりあえず、他の奴らにであわねえ事にはどうしようもねえってことか! よし、急ぐぞクロミラ!」
518
:
◆EA1tgeYbP.
:2008/08/07(木) 15:07:31 ID:ZV/CTkDk0
クロスミラージュにはもう一つカミナに告げることがあった。それはカミナが出会った参加者が殺し合いに乗っていた場合の注意である。
つい先ほどまでなら殺し合いに乗った参加者がカミナに出会えば、あの東方不敗のように襲い掛かってくるだけだろう。
しかし今のカミナにはグレンがある。
ならば、どうにかして奪おうと言葉巧みにカミナに近づく者もいるかもしれないのだ。
そしてカミナの性格からしてその手の搦め手に対する耐性は低い。
注意しておくにこしたことはない。
『カミナそれと……』
「うおおおおお! っとなんだありゃ?」
だが、クロスミラージュがカミナにそのことを注意しようとした時、唐突にカミナはグレンを停止させた。
『カミナ、どうしたのですか?』
カミナの視線は川の向こうに延びている。
さらにその視線を追っていけば、その先には一軒の民家があった。無論、一軒だけぽつん、と民家があるといったわけではない。その周りにも民家はある。
だが、その民家は明らかに他の民家とは様子が違っていた。
何かそこそこの大きさの鉄球でも直撃したかのように屋根が破壊されているのだ。
―――付近の民家などにはさして影響がないところを見ると、その民家に潜んでいた何者かに別の参加者が襲撃を仕掛けた、といったところだろか。
『あの建物が何か? おそらくは何者かの襲撃があった後のようですが』
「おうよ! 確かにあそこはボッロボロだ。だがなクロミラ、だからこそ誰かが隠れるのにはちょうどいいんじゃねえか?」
……それは先ほどの図書館の一件と同じ発想の転換だった。
確かに一度襲撃があったところを隠れ家にするといった発想は、自らの命がかかっているこの場ではなかなか出てこないものである。
もし仮に、あそこに隠れている参加者がいて、信頼関係を結ぶことができたなら後々他の対主催のグループに接触する際にこちらを信じてもらう有用な手札ともなる。
位置的にもそれほど遠回りにはならない以上、調べておくにこしたことはない。
『あちらでした調べるのにもそれほど時間はかからないでしょう、行きますか、カミナ?』
「おうともよ!」
宣言するとともにカミナは進行方向を南東へと変化させる。
それほど大きくないとはいえ橋はグレンの巨体をしっかりと受け止めた。
(……これなら全速力の移動でも橋が落ちるということはなさそうですね)
クロスミラージュはそんなことを考える。
さすがにグレンの機動力は徒歩とは比べ物にならない。
十分とかからず、破壊された民家の前までたどり着く。
「おーい、誰かいねえのか!」
『……カミナそれでは隠れているものが出てこようとは思わないのでは』
クロスミラージュは、いきなり大声で呼びかけるカミナを止める。
もちろん、民家の中から反応はない。
『……誰もいないのかもしれませんね』
「……ち、はずれか。けど、まあ一応調べてみっか!」
『……え? あ、か、カミナ?』
いうが否やカミナはグレンのコックピットから飛び降りると、壊れた屋根から民家へと侵入する。
519
:
◆EA1tgeYbP.
:2008/08/07(木) 15:08:27 ID:ZV/CTkDk0
……果たしてそこに参加者はいた。
いや、参加者だったものがいたというべきだろうか?
屋根からとびおりたカミナが見たものは、部屋に転がっている腹と頭の二箇所に穴をあけ床を真っ赤な血で汚す一人の少年の遺体だった。
「……ち、胸糞わりいもん見つけちまった」
ぽつり、とカミナはつぶやいた。
こんなものが転がったままにしてある以上この民家にはおそらく人はいない。
埋葬してやりたいのはやまやまだったが、今はそれほど時間があるわけでもない。
カミナが死体を背に民家を出ようとした時だった。
『……待ってくださいカミナ』
クロスミラージュがカミナを止める。
「何だ? クロミラ」
カミナにすぐに返答せずに、クロスミラージュは今一度すぐ傍にある死体を観察する。
……部屋は荒れていてデイパックなどはない。
……銃創は腹部と頭部に一発ずつ。
……死因は頭部への一発。
……左手はその頭をかばおうとしたのか顔の横で力なくたれ、右手は胸を抑えている。
……他に目立った外傷は右耳の破損。ただしこれは処置済みであり、かなり前に受けたものと判断。
……そして。
「おい、どうしたっていうんだよ?」
なかなか返事をしないクロスミラージュにカミナはもう一度声をかけた。
『……カミナ』
「おい! 一体なんだっていうんだよ、クロミラ!」
そうしてカミナにクロスミラージュは告げる。
―――機械として、冷酷な事実だけを。
『……カミナ、この少年の名前はおそらく高峰清麿だと思われます』
「……おい」
『血の固まり具合から判断して彼が撃たれてからそれほど時間はたっていません。また、彼の服装などから彼が日本の学生であることなどもすい……』
「クロミラ!」
カミナの声を無視してクロスミラージュは言葉を続ける。
……これは言っておかなくてはならないことだから。
520
:
◆EA1tgeYbP.
:2008/08/07(木) 15:09:28 ID:ZV/CTkDk0
『そして何より彼の顔立ちです。ガッシュから説明を受けた高峰清麿の特徴とほぼ一致します』
「クロミラぁ!」
カミナはクロスミラージュを床に叩きつけた。
(……これもなんだか久しぶりですね)
「わかってる、わかったんだよ! こいつがガッシュの探していた奴だって事は! でもよ、俺はガッシュと約束したんだ! 高峰清麿とガッシュを再会させてやるってな! それなのに、くそっ! 俺はどんな顔をしてガッシュに会えばいいんだよ!」
これでカミナは二度約束を守れなかった。
一度目はほかならぬクロスミラージュとの約束、結局あの時も彼はティアナ・ランスターとクロスミラージュを生きて再会させることはできなかった。
(……情けねえ、俺は自分が情けねえ!)
『……カミナ』
「……行くぞ、クロミラ。他の奴を探さないといけねえ」
力なく、カミナはクロスミラージュを拾い上げる。
「悪いな、後でもっかいここに……」
『……? カミナもう少し待ってください』
「クロミラ? まだなんかあるってのか?」
民家から出て行こうとしたカミナを再びクロスミラージュは止めた。
もう一度高峰清麿の死体を観察する。
(……なんでしょうか? 何か大きな違和感が)
自分でもカミナを止めたのはとっさのことだった。
カミナが出て行こうとした瞬間、なんだかわからないが大きな違和感に突き動かされカミナを止めていた。
改めて見直しても死体に変なところは見当たらない。
耳の外傷は清麿がそれなりの修羅場を潜り抜けてきた証であろうし、腹部と頭部への銃創は腹部を撃って動きを止めてから、頭部へとどめの一撃を加えたということだろう。
おかしなところは何も……
(……待て! 腹部と頭部への銃創? なら何故?)
はっと、クロスミラージュは気がついた。
そう、清麿は腹部と頭部の二箇所を撃たれているのだ。
ならばどうして彼は 胸 を お さ え て い る ?
『カミナ! 清麿の胸のあたりをよく調べてみてください!』
「ど、どうしたんだよクロミラ?」
『いいから早く、お願いします!』
521
:
◆EA1tgeYbP.
:2008/08/07(木) 15:10:50 ID:ZV/CTkDk0
クロスミラージュの言葉にカミナは慌てて清麿の胸のあたりを調べる。
……ポケットには
―――なにもなし
……彼が押さえていた手の下には
―――血でかかれていた文字があった。
『……これは、カタカナのニでしょうか。それともル? あるいはノと続きを書こうとしたところで力尽きた?』
クロスミラージュはつぶやいた。
おそらくは清麿が腹部を撃たれてから頭部を撃たれるまでの短い時間に、必死になって彼が残したメッセージだ。
意味のない言葉を残すはずがない。
『おそらくは自分を襲撃したものの名前なのでしょうが……』
「……なあ、クロミラ」
『何でしょう、カミナ』
考え込むクロスミラージュにカミナは声をかけた。
カミナにとっては清麿の残したダイイングメッセージはまるでわけがわからないものだった。
「……なんでこいつはこんな、えーっとダイニング? なんちゃらなんてもんを残したんだ?」
『ダイニングではなくダイイングです、カミナ。それはともかくどうしてとは?』
「だってよ、クロミラがいうとおりこいつを襲ったやつの名前がわかったからって何の意味があるっていうんだ? こいつがここで突然襲われたってことはだ、襲ってきた奴も問答無用な奴って事だろ?」
カミナの言葉でクロスミラージュは気がついた。
ここは推理小説の舞台ではない。
ダイイングメッセージで犯人の名前がわかったところで警察が犯人を捕まえてくれるということはない。
ならば何故、清麿はそんな意味のないことをしたのだろうか?
『……カミナ。可能性は二つあります』
「お、なんかわかったのか?」
『ええ、おそらく清麿の残したダイイングメッセージは犯人の名前を告発したもので間違いはないでしょう。ではどうして彼はそんなメッセージを残したのでしょうか? 可能性の一つは奪われるであろう自分の支給品がどのようなものか他者に知らせることが目的であるというものです』
「……どういうことだ?」
頭に?マークでも浮かべていそうなカミナにクロスミラージュは言葉を続ける。
『彼が問答無用に襲われた場合。どうして彼は犯人の名前がわかったのでしょうか? 襲撃犯が親切にも教えてくれた? そんな可能性よりも清麿が持っていた支給品が私達が持っているものとは比べ物にならないくらい精度の高い顔写真やプロフィールなども記されたアイテムであった、と考えるのが自然です」
「なるほどな」
『そしてもう一つの可能性……それは』
ここで少しだけクロスミラージュは言い淀んだ。
この可能性が正しい場合、彼の発言は大グレン団の仲間を疑っていると受け取られてもおかしくない。
522
:
◆EA1tgeYbP.
:2008/08/07(木) 15:12:04 ID:ZV/CTkDk0
「……それは? ってクロミラ、もったいぶるなよ」
カミナの促しにクロスミラージュは言葉を続ける。
『……はい、もう一つの可能性それは清麿を殺害した犯人が集団に潜み、油断したところで気付かれないように殺害していく、そんな暗殺者じみた参加者である可能性です』
そしてカミナにクロスミラージュは続ける。
『そして、彼の残したダイイングメッセージから判断して高峰清麿を殺害した犯人として可能性が高いのは
ニコラス・D・ウルフウッド
あるいは
ルルーシュ・ランペルージのどちらかです』
「……クロミラ」
クロスミラージュが言い切った瞬間、カミナはこの男には似つかわしくないくらい冷たく低い声を出した。
「……クロミラ、てめえわかっているのか?」
『わかっています、カミナ。ルルーシュ・ランペルージはニアの話の中に出てきた彼女の仲間だと』
「いいか! ニアは俺達大グレン団の大事な仲間だ! そのニアが仲間だって言ってる以上、ルル―シュってやつも仲間なんだよ! クロミラぁ! てめえは仲間を疑うって言うのか!?」
そんな怒りをあらわにするカミナにクロスミラージュは言葉を続ける。
『……カミナ。かつてあなたは私に言いました。自分の目で確かめたことしか信じない、と』
「……ああ」
『確かにニアはあなたが信じたあなたの仲間だ。しかし、ルル―シュという人物をあなたが確認してはいない。
さらにはルルーシュがニアにとって仲間であるように、ガッシュにとって清麿は仲間だったのです。その仲間が死ぬ間際に、必死になって残した言葉をあなたはそんな決め付けで無意味なものにしようと言うのですか?』
クロスミラージュの言葉にカミナは押し黙った。
先ほどの反発にせよ、カミナの反論は感情的なものだ。自分の大事な仲間が別の仲間を疑う。
仲間の裏切りは人一倍仲間思いであるカミナには許せない。
だが、どうすればいいのだろうか。どちらも間違ったこと言っている様には思えない以上、リーダーたる自分が何とかしなくてはならないのに。
『……カミナ』
「…………ああ」
『今のは少し言い過ぎました。まだ、ニコラス・D・ウルフウッドが犯人である可能性もあります』
「……クロミラ」
『ですが、ルルーシュが犯人である可能性も同じくらいあるのです。この先両者に出会った際、その事を忘れないように行動してください』
「あ、ああ……よし! ルルーシュがどんな奴なのかこのカミナさまがこの目で見極めてやらあ! 行くぞ、クロミラ! ガッシュの奴にはつらい……ってあああああ!」
唐突にカミナがあげた大声にクロスミラージュは反応しなかった。
何せ彼もつい今しがたまで忘れていたのだ。
おそらくは高峰清麿の元へと転移したであろう彼らの仲間ガッシュのことを。
523
:
◆EA1tgeYbP.
:2008/08/07(木) 15:13:20 ID:ZV/CTkDk0
「お、おいクロミラ! ガッシュの奴はどこ行ったんだ!』
『……お、おそらくは清麿の死体をみつけ、いえ、私達が転移したのが放送直前だったことからも殺害直前にここへ来て……そのまま犯人を追いかけた?』
「ってそれはやばいんじゃねえのか!」
『犯人はどちらのタイプにせよ躊躇することなくガッシュへと襲い掛かるかと!」
慌てて民家から飛び出すとカミナはグレンへと飛び乗った。
「行くぜ、クロミラ! 急いでガッシュを追いかける!」
『カミナ、行く先に検討はついているのですか?』
「あったりまえだ! 殺し合いに乗ろうなんて心の弱い野郎があんなでっかいもんに向かっていけるわけがねえ! って事はその逆! こっちに向かっていったに違いない!」
そういうや否やカミナはグレンをこれまでの進行方向とは真逆の方向、北へと向ける。
「いくぞ! うおおおおおおおおっ!」
……彼は知らない。探し人も下手人もこれまでどおり南へ向かっていればもうじき出会っていたということを。
……彼は知らない。1エリア東には彼の想い人、その死体が眠っていることを。
……彼は知らない。やはり南のほうに進めば彼とその相棒の思いの結晶、グレンラガンの頭部たるラガンに乗った彼の宿敵がいることを。
……かくして彼は走り出す。
仲間の姿を求めて、彼のことを最後まで思い浮かべたであろう死者の最後の想いを胸に
524
:
◆EA1tgeYbP.
:2008/08/07(木) 15:13:50 ID:ZV/CTkDk0
【C-6/民家前/二日目/午前】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(小)、疲労(中)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(簡単な処置済み)、
頭にタンコブ、強い決意、螺旋力増大中
[装備]:グレン@天元突破グレンラガン、クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ0/4)
折れたなんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
バリアジャケット
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式(食料なし)、ルールブレイカー@Fate/stay night
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:ニアとガッシュを探しに行く
1:ニアとガッシュは大グレン団の兄弟だ。俺が必ず守ってみせらぁ!
2:チミルフだと? 丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
3:ショウボウショの北にラガンがあるんだな……? ガッシュを見つけたらよってみっか……。
4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
5:ドモンはどこに居やがるんだよ。
[備考]
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。
※ヨーコの死に対しては、死亡の可能性をうっすら信じています。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
禁止エリアに反応していませんが、本人は気付いていません。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※ガッシュの本を読むことが出来ました。
しかし、ルールブレイカーの効果で契約が破棄されています。再契約できるかは不明です。
※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※グレンを入手しました。エネルギーなどが螺旋力なのはアニメ通り。機体の損傷はラガンとの合体以外では自己修復はしません。
※ニコラス・D・ウルフウッドこそが高峰清麿殺害犯だと考えています。ただしルルーシュ・ランペルージに関しても多少の疑いは持っています。
【クロスミラージュの思考】
1:カミナの方針に従い、助言を行う。
2:明智が死亡するまでに集ったはずの仲間達と合流したい。
3:東方不敗を最優先で警戒する。
[備考]
※ルールブレイカーの効果に気付きました。
※『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。
※各放送内容を記録しています。
※シモンについて多数の情報を得ました。
※カミナの首輪が禁止エリアに反応していないことを記録しています。
※東方不敗から螺旋力に関する考察を聞きました。
※螺旋力が『生命に進化を促し、また、生命が進化を求める意思によって発生する力』であると考察しました。
※螺旋界認識転移システムの機能と、その有用性を考察しました。
○螺旋界認識転移システムは、螺旋力覚醒者のみを対象とし、その対象者が強く願うものや人の場所に移動させる装置です。ただし会場の外や、禁止エリアには転移できません。
○会場を囲っているバリアが失われた場合、転移システムによって螺旋王の下へ向かえるかもしれません。
※転移システムを利用した作戦のために、ニアの存在が必要不可欠と認識しています。
※他の参加者に出会ったときの交渉はまず自分が行おうかと考えています。
525
:
◆hNG3vL8qjA
:2008/08/14(木) 12:31:29 ID:Zx1gm8vw0
「――まだだッ!!! そうだろうシャマルっ! 」
ヴィラルは目にも止まらぬスピードで体を起こしてラガンに飛び乗った。
そして側で上体を起こしていたシャマルをラガンで掬い上げ、そのまま空へと飛び出した。
――あ、待つのだお主たち! 傷の手当を……
――放っておけ。あの出来損ない共は自ら手当てができる。それにな……
襲来者たちの言葉に振り切り、ヴィラルはフルスロットルでラガンを飛ばす。
黒い太陽から遠く、遠く、離れていくヴィラルたち。
もう二度と手に入らないような悪い予感も、押し殺す。
「ヴィラルさん、ごめんなさい。あたしのせいで……」
「気にするな! お前のお陰で後一歩まで追い詰めたんだ。勝てない相手ではない!
……ルルーシュ・ランペルージの根城に戻るぞ。奴の所にはもう1人、あいつらの仲間が幽閉されている! 」
だが、それを含めても、戦力と戦況は間違いなく悪化していた。
あるのは1人の女と1人の参謀と1人の人質と1機のガンメンとわずかな武器だけ。
(それで大丈夫なのか? 俺たちの勝機は……ん? 馬鹿な!!)
ふと下界に目をやると、そこには悠然と佇む機神の姿。
怒涛のチミルフの愛用ガンメン、ビャコウだった。
しかし、ビャコウは少したつとそっぽを向き、西に進行を始めた。
死んだはずのチミルフ、その愛機のビャコウがなぜいたのかはわからない。
ビャコウは何を思って、このラガンに接触しなかったのか。
このガンメンに乗っているのがヴィラルだとわかっててあえて見逃したのか。
それとも、黒い太陽からこの機体が飛び出したことで、逃亡、事態の終局、といった何らかの見切りをつけたのか。
そもそもただの気まぐれだったのかもしれない。
「ヴィラルさん?」
「そうか、そうかぁ……ビャコウよ、お前は無事だったのか! 」
だが、ビャコウの威厳は相も変わらずそこにあった。
誇りと武人の気概に満ちたその姿。
(搭乗者は誰だ? 同胞か? それともどこかのハダカザルか? 本来の主を探しているのか? ハハハ、気にするな。
お前がこの世にいる限り、それはチミルフ様がこの世に生きていた証なんだ!
あの方の武勲と誇りと魂は、例え誰が乗っていようとお前に残っているんだぞ?
……そうだ、そうだった。例えどんなに戦力差があろうと、どんなに戦況が悪かろうと、最後に勝つのは強者ではない)
そのルーツは誇り、そして不退転。
「忘れていたよ。最後に勝つのは……勇気ある者だけだ! 」
526
:
フォーグラー決死圏、心打つ者
◆hNG3vL8qjA
:2008/08/14(木) 12:32:04 ID:Zx1gm8vw0
【C-6中央北部/上空/二日目/午前】
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に中ダメージ、疲労(大)、肋骨一本骨折、背中に打撲、
激しい歓喜(我と痛みを忘れています)、左肩・脇腹・額に傷跡(ほぼ完治)、螺旋力覚醒(本人は半信半疑)
[装備]:大鉈@現実、短剣×2 コアドリル@天元突破グレンラガン、ラガン@天元突破グレンラガン
[道具]:無し
[思考]
基本:シャマルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝する。
0:俺もビャコウのように最後の最後まで諦めんぞ!
1:あの黒い太陽のガンメンはいずれ必ず入手する!
2:ルルーシュから協力を得る(一旦やつのいた家まで戻ろう、高嶺清麿を人質として利用してやる) 。
3:チミルフ様の仇! 全ての獣人達の夢の城の破壊は許されない蛮行だ! ビャコウ生きててよかった! 破壊されるなよ!
4:クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
5:クルクル(スザク)を始め、これまでの奴ら全員に味わわされた屈辱を晴らしたい。
※なのは世界の魔法、機動六課メンバーについて正確な情報を簡単に理解しました。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。
※本来は覚醒しないはずの螺旋力が覚醒しました。他参加者の覚醒とは様々な部分で異なる可能性があります。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。螺旋王への感情が変化している可能性があります。
※チミルフが夜でも活動していることに疑問を持っています。
※とりあえず、今はルルーシュを殺すつもりはありません。
※フォーグラーをガンメンだと思い、入手するために操縦者を殺すつもりです。
※ダイガンザン(ダイグレン)を落としたのがフォーグラーだと思っています。相殺したエアについては目に入っていません。
※チミルフが死亡したと思っています。ノルマの件は一応覚えています。
※ビャコウの運転手が誰なのか気にはなってはいますが、今はルルーシュへの帰還優先。
※ビャコウを発見した時間軸はチミルフ&ルルーシュと不死身の柊かがみを始末したと勘違いして退却していた時です。
[備考]
螺旋王による改造を受けています。
①睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
②身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。 単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:疲労(中)、腹部にダメージ(中)、螺旋力覚醒(本人は半信半疑)
[装備]:ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]
基本1:守護騎士でもない、機動六課でもない、ただのシャマルとして生きる道を探す
基本2:1のための道が分かるまで、ヴィラルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝することを目指す。
1:気絶中?(ヴィラルはまだ確認していません)
2:ヴィラルと協力して参加者を排除する。
3:邪魔するもの、攻撃するものは フォーグラーを操作し躊躇なく殲滅したいが……。
4:クラールヴィントと魔鏡のかけらを手に入れたい。
5:優勝した後に螺旋王を殺す?
6:他者を殺害する決意はある。しかし――――。
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。また、宝具という名称を知りません。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。必ずしも他者を殺す必要がない可能性に思うことがあるようですが、優先順位はヴィラルが勝っています。
※ギルガメッシュがマッハキャリバーを履いていたことに気づいていたのかはわかりません。
527
:
負の連鎖と正の一石、ねねねの涙
◆hNG3vL8qjA
:2008/08/14(木) 12:32:53 ID:Zx1gm8vw0
■ ■ ■
「――それじゃあたしとヴィラルがラガンに乗っているのを見たのか? 」
『YES、最初はteacherたちがあの方と協力関係を結んだ上での同行、の可能性も考えました。
行き先がこの黒玉……大怪球フォーグラーでしたし、そこにはシャマル女史が既にいましたので』
「わかりっこないよ。アンタ、あの後あたし達がどうなったかまるで知らないからね。
だけど……この高さを跳んできたって、あいつらあたしの常識越えてるよ。もう慣れたけどさ」
ギルガメッシュのフォーグラー上陸作戦。
それはウイングロードの応用を基に行われた、多段ジャンプだった。
先述のカタパルトで飛び上がった彼は、跳躍によるエネルギーが重力によって消費され切る瞬間を待った。
即ち、自分のスピードが地面垂直方向に対し0になる時。
彼はこの瞬間、再びウイングロードをその場で召喚し、しがみ付いたのだ。
そして今度はそこを新たな地面として、再び跳び上がる。
跳んで止まって跳んで止まって……これを繰り返せば、彼はどこまでも跳べる。
彼がフォーグラーの外壁まで届くのに、長い時間はかからなかった。
『teacher、私はあなたに謝らなければなりません』
「“すぐ”に助けにこなかったこと? それとも……“あの人”のことか」
一連の流れから、ねねねは理解していた。
ギルガメッシュが迷うことなくガッシュをシャマル達に投げたこと。
ねねねを拘束していたシャマルだけでなく、ヴィラルにもガッシュが襲撃したこと。
そしてスカーには襲撃せず、その場で救助を試みたこと。
マッハキャリバーがシャマルには触れず、状況説明をしていること。
即ち敵味方の関係、どちらに付くべきか、この2つの把握が可能となる答えはただ一つ。
『……申し訳ありません。私が、Kingに様子を見てほしいと頼んだのです』
「勘繰りたくなる気持ちはわかるさ。“あいつら”が同じ事やってたら……あたしも同じことしてたと思う。
まぁさ、色々話し合いたいことはあるけど、今は逃げたあの2人を追わないとダメだ。清麿が危ない。」
ねねねはため息をつくと、大きく開いた穴の側で向かい合っている2人に近づいた。
さっきはあれほど息のあったコンビネーションを見せていたのに、どうやらそのシンクロは常時ではないようだ。
「……それは一体どういう意味なのだ」
「聞こえなかったのか? あの2人には、もはや破滅の道しか残されていない。
ただの雑種まがいが私利私欲で動こうなど笑止千万。それは王たる格を得たものにこそ、相応しい」
「だからといって見捨てるというのか!? 」
「我の背中に乗っておいて、まさか奴らの言葉を聞き逃してはいまいな。
奴らはお前たちの歯牙にすらかからない、哀れな仔山羊よ。
具足から聞いていた話とはまるで違う――これではどっちがマシなのかわからんな」
「ギルガメッシュ、お主、それは幾らなんでもあんまりではないか!! 」
「やはり童だな。王の何たるかをわかっていないとは拍子抜けだぞガッシュ・ベル」
「ちょっと取り込み中の所悪いんだけどさ、言い争う暇なんてないぞ。
あいつらは、自分の親玉の所に逃げたんだ。しかもそこには、清麿もいるんだ! 」
528
:
負の連鎖と正の一石、ねねねの涙
◆hNG3vL8qjA
:2008/08/14(木) 12:33:23 ID:Zx1gm8vw0
ねねねはクイ、と眼鏡を直し2人の王に叫ぶ。
喧嘩腰だった彼らの目の色も、本来の目的を一時的に失念していたことに気づいたのか、我に返ったようだ。
「教えてほしいのだ! 清麿は、どこに!? 」
「あそこに見える……あの天井がぶち抜かれた家に、私はいたんだ。
今はもぬけの空かもしれないけれど、奴にとってもヴィラルがここに移動することは予想外だったはず。
おそらく、そいつはヴィラルの帰りを待っているはずだ。まだそう遠くには逃げちゃいない」
「ヌオオオオオオオオオオ清麿ォォオォォ……え? 」
「ちょい待ち。あんたはどうやってここまで来れたんだ? こっから飛び降りたら、多分死ぬぞ――な? ギルガメッシュ」
「……綴り手、貴様はこの我を使い走りをせよと申すか」
「あんたとは、道中で気の済むまで話をしようじゃないか。マッハキャリバーから事情は聞いた。
あんたあたしの『話』に興味があるんだろう? でも。その『話』を知るためには、悪の親玉が持ってるものが必要なんだよ。
お願い、あんたは私たちにとって必要なんだ。この状況を打開するのはあんたしか出来ない」
『King、私からもお願いします。菫川女史はこれまで拘束されていたので、まだ精神状態が安定していません。
本格的な話し合いは、もう少し時間をかける必要があります。
それに、Kingがここまで使った移動手段は、他の方々には無理です。時間と労力に多大な浪費が生じます。
彼女の言葉が真実ならば、我々はみすみす目の前で機運を逃すことになります』
「………………………………………………………………………………」
ねねねはギルガメッシュの沈黙に唾を飲む。
だが、彼もまた、ヴァシュタールの惨劇を再現する上では、欠くことのできない戦力になりえる。
当の本人から自分に白羽の矢を立てられるという絶好のチャンスを、彼女は捨てられなかった。
「………………………………………………………………………………く、
―――ふ、はは、はははははははは……! はぁぁぁぁぁぁぁーっはっはっはっはっはっはっ!
……この箱庭で出会う輩は揃いも揃って……実に、実に…………………………はっはっはっ………………
――――――――――――身の程を弁えていないとみえる」
王の答えは、否。
ねねね達の希望は、打ち砕かれた。
この男を懐柔するのは明智健悟が想定していた以上に、難しかった。
衛宮士郎が英雄王について語っていた談は、思っていた以上に正しかったのかもしれない。
「ギルガメッシュ!? 」
「勘違いするな。我が動くのはあくまで我のため。我が守る義理はあくまで我のための義理。
例え我が見込んだ者の頼みであろうと、我にとって完全なる利でない限り、承るに値せん」
「その完全なる利が、目の前にあるって言ってるんだぞ!? 」
「ほう、ならば今すぐここで出してみよ。出せぬというのなら、話してみよ。
――まさか言葉で表しにくいから、直接見せようとしているのではあるまいな? 」
「そ……それは……」
529
:
負の連鎖と正の一石、ねねねの涙
◆hNG3vL8qjA
:2008/08/14(木) 12:33:59 ID:Zx1gm8vw0
話したい。しかし話せない。
螺旋王がこちらの情報をいかなる手段で把握しているかわからない以上、“自分の計画”を漏らすわけにはいかなかった。
「“何か”を献上して、この我に一仕事させようという度胸は買っている。
貴様の文筆も、是非我の勅令の下に綴らせてみたいものだ。
この箱庭を破壊しようと目論む算段も、貴様なりに考えているのだろう。
だが此処を滅ぼす手段、そしてその厄介さは、我なりに考察しているつもりだ……。
――雑種ごときに、我の頭脳を超えた草案があるとは度し難いな」
『King、ならばせめて私だけでも彼女たちに同行します! 』
「お前も身を弁えろ具足よ。1度でも我に身を捧げた、その重みをわかっていないようだな」
恐れていた事態が、“ギルガメッシュの気まぐれ”という形で最悪の方向へ進んでいく。
最初から彼の言いなりになってしまえば、全ての主導権を握らせかねない。
その果てに待つものはハッピーエンドではないと、覚悟の上で交渉したというのに。
「その現物の素性がわからぬ限り、“現物そのもの”の為に我は動かん」
ギルガメッシュは颯爽と胸を返し、黒い太陽のコクピットに座る。
道理のようで理不尽なギルガメッシュの理由。
今、この時点で彼の心は完全に否に働いたらしい。
ねねねの手には、拭いきれないほどの汗が染み出していた。
「ならば、その現物とやらを貴様に持ってこよう」
その汗を全て吹き飛ばすような声が、フォーグラーに流れた。
「スカー!?、ぐ、ふっ……」
菫川ねねねの背後から声明を被せたのは、彼女に悟られないためだ。
拳を下に向け、第二間接が天を向くように左の五指を硬く締める。
そして、手加減と全力の間の更に頃合の程度を意識し、腕を素早く突き出す。
並の一般人ならば、気絶とまではいかないが、しばらくはまともに動けなくなる。
スカーは不意打ちで跪いたねねねに同情しつつ、彼女の身体を担ぎ上げた。
「急に静かになったと思っていたら、貴様が黙らせたのか」
ギルガメッシュの嘲笑を無視して、スカーは床に転がっていたガッシュを、口の開いたディバッグの中へ入れる。
ねねねとギルガメッシュの交渉の間に、彼もスカーによって気絶させられていたのだ。
スカーはそのまま荷物を整理し、ガッシュの上半身がはみ出しているディバッグを含めて2つにまとめる。
そして右肩に2つのバッグを掛け、ねねねは左腕のわき腹にしっかりと挟んだ。
「身投げか。無謀だな――そうまでして持ってくるだけの価値は、本当にあるんだろうな?
それに堕ちるのなら1人で堕ちろ。綴り手を犬死にさせることは許さん」
「お前にこいつは任せられない。こいつを貴様の気まぐれで失うわけにはいかない。
例え眠らせても、目を覚ませばこいつは必ずここを出ようとするだろう。
仲間のために、貴様に渡そうとしている“何か”を持ってくるために」
530
:
負の連鎖と正の一石、ねねねの涙
◆hNG3vL8qjA
:2008/08/14(木) 12:34:22 ID:Zx1gm8vw0
「……笑い種だな。貴様もその“何か”を知らぬと申すか」
「無策ではない……1度はここまで登ってこれたのだ。降りることも不可能ではない!」
スカーは左腕に瘤と血管が浮き出るほど、しっかり力を入れる。
力を込められた腕は輪となり、ねねねの身体の安全をより高める。
空いた右手は、フォーグラーの外壁に預けた。
慎重に慎重に身を運び、彼はフォーグラーの外へ出る。
そしてカッと両目を大きく見開き、臍に力を込め、スカーは右手を離した。
『King、お願いします! どうか彼らの救助を……』
「綴り手だけなら、考えてやってもいい」
『King! 』
「絆された雑種が本当に違う道を選べるのか、突き進めるのか」
ギルガメッシュは椅子から立ち上がり、フォーグラーの深部へと繋がる階段へと進む。
「まぁ見届けてやろう。余興には到底成りえぬと思うがな」
【D-6/墜落したフォーグラー/二日目/午前】
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、 慢心、ただし油断はない、
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒猫型バリアジャケット
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。月を目指す。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
0:綴り手ねねね、そしてその一派ども。我の眼に適う物、もしくはそれに準ずる物(計画)を持ってこれるか?
その如何によっては大いに協力してやってもよい。
1:菫川ねねねに『王の物語』を綴らせる。 フォーグラー内を散歩。
2:デパートでジンと待ち合わせる(最優先のねねねが見つかったので清麿、ゆたか捜索は忘れました)。
3:“螺旋王へ至る道”を模索。
4:頭脳派の生存者、 異世界の情報、宝具、それらに順ずる道具を集める(エレメント、フォーグラーに興味)。
5:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
6:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
7:全ての財を手に入れた後、会場をエアの接触射撃で破壊する。
8:月に何かがあると推測。次に月が昇った時、そこに辿り着くべく動く。
【備考】
※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですが、エアを手に入れたのでもう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留、ジンたちと情報交換しました。
※ギルガメッシュのバリアジャケットは、1stがネイキッドギル状態、2ndがクロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃんです。強敵に会った時にのみネイキッドのバリアジャケットを展開しようと考えています。
※会場は『世界の殻』『防護結界』『転移結界(確率変動を発生させる結界)』の三層構造になっていると推測しました。
※会場の形状は天の方向に伸びるドリル状であり、ドーム状の防護結界がその内部を覆っていると推測しました。
※会場のループについて認識済み。 会場端のワープは、人間以外にも大出力攻撃を転移させる模様です。
※マッハキャリバーによるウイングロード展開を習得。カタパルト代わりに使用可能(ちょっと飽きた)。
※マッハキャリバーから詳細名簿の情報を少し聞いたようです
(少なくともガッシュ、ヴィラル、シャマル、スカー、ねねねについて大まかに知ってます)。
531
:
負の連鎖と正の一石、ねねねの涙
◆hNG3vL8qjA
:2008/08/14(木) 12:36:19 ID:Zx1gm8vw0
■ ■ ■
「――は!? 」
漫然と漂う気配と圧迫感にあてられて、菫川ねねねが目を覚ます。
目を擦り、頭を急いでかき回す行為は、記憶の回復を促しているのだろうか。
「起きたか」
呼びかけた声に彼女は振り向き、彼女は目を丸くしていた。
第一声は容易に想像できた。
なぜここにいるのか、どうしてここにいるのだろう、ガッシュが隣で気絶しているのはなぜだろう、何がどうなっているんだろう。
おそらくはこの辺りか。
「己れ達はあそこから、これで降りてきた」
「……ガジェットドローンか。ハハ……すっかり忘れてた」
「己れは黒い太陽もお前の鍵の存在も正確には知らされていなかった。
頼ることができたのは、明智健悟にしっかりと使用方法を教えられていた、こいつだけだ」
己れの一言で菫川ねねねは事を完全に飲み込んだらしい。
己れは、2人の人間と荷物を持ってフォーグラーから降りた。
明智の置き土産、ガジェットドローンにぶら下がって。
ガジェットドローンは運搬用兵器ではない。3人分の体重が掛かれば、序々に重みで沈んでゆく。
リモコンによる操作も加えれば、大袈裟に言えば簡易式の滑車代わりになる。
「本当にアイツはいつもいきなり現れるんだよな……また、アイツに助けられちまった」
ねねねの表情が曇る。常に機転を利かせる節のあった明智とは、固い結束があったのだろう。
奴がなぜ死んだのか、それはわからない(おそらくは刑務所の崩壊が起因しているのだろうが)。
ただアイツが仲間のために足を走らせたのは、最期の時でも変わらなかったに違いない。
532
:
負の連鎖と正の一石、ねねねの涙
◆hNG3vL8qjA
:2008/08/14(木) 12:36:51 ID:Zx1gm8vw0
「なぁスカー……どうしてセンセーを、殺したんだ」
「何を言っても言い訳にしかならない」
……ねねねが仲間の死から、自分の師の死を思い出すのはわかっていたことだ。
己れがあの紙使いを殺したのは、紛れもない事実なのだから。
“剣”として己れを引き抜いた男は死に、“剣”として引き抜かれた己れは生きている。
彼女にとって本当に生きていて欲しい者が、果てていく。
そして、生き残った男はここにきて、極端に旗色を変え始めている。
「じゃ、何でさっきはあんなこと言った」
「己れに何かを言う資格はない」
それ以上の言葉は出なかった。
己れの決意は、足元で気絶している少年とあの不遜な男の救援で有耶無耶になってしまった。
つまりは――己れに「許す」機運を、ねねねのように背負えた、とは言えない。
むしろその機運は、より己れの手から離れていったように思えたからだ。
「…………行くよ、北へ。清麿を助けに行くぞ」
ねねねは立ち上がり、気絶した少年と荷物を抱えて北に向かった。
俯いているせいか、顔は前髪に隠れて見えない。
「明智だったら……センセーだったら、多分、迷わずこうしてただろうから」
毅然と進む彼女の背中が暗い。
人は超然と動くことはできない。一日二日で整理できるはずがない。
見誤っていたか。
彼女は己れ「許し」ても、その理不尽までは「許し」ていないのだ。
その理不尽を「堪えて」、前を進むいくつもりなのだろう。
憎しみの連鎖を断ち切り、怒りに流されず。
「もう、あん時みたいに泣いてらんないよ」
――それならば一つ忠告しといてやる……復讐は何も生みはせん。
それどころか貴様のその怒りと悲しみは誰かに利用され、更なる悲劇を引き起こすだろう。
あの赤い鉢巻きの男は、己れにそう説いた。
負の感情は新たなる負を呼び、飲み込み、周りを巻き込んでいく。
負の感情を集め続ければ、最後には世界そのものが負へと傾く、と。
「あたし決めたんだ。次に泣く時は全部終わった時。で、そん時に思いっきり嬉し泣きしようって」
つまり、逆に正の感情を集めれば、世界を正へ流すこともできる。
――あれはそういう意味だったのか?
奴が復讐の道を棄てることができたのは、正へと進む自分の姿で世界を接すること得られる物に、光明を見出したからなのか。
そして、この女も。
“堪える”ことで、この世界を崩そうと考えているのか。
負に溢れる世界を作り出し、己れたちを巻き込んだ螺旋王に真っ向から対峙する力。
「貴様のような奴がいてくれてよかった」
ふいに、謝辞が口からでた。
この世界で、己れの進むべき道は決まった。
“堪える”ことのできる者のために、この身を使う。
“堪える”ことのできる者が、先へ進められるために、負を食い止める。
本当の意味で、この者達のために剣となる。
罪深き男には、相応の道だろう。
「……ばか。もう……泣かないっ……て、言ってんだろ……! 」
それで彼らの領域を垣間見ることができるのなら、本望だ。
533
:
負の連鎖と正の一石、ねねねの涙
◆hNG3vL8qjA
:2008/08/14(木) 12:37:15 ID:Zx1gm8vw0
【D-6/墜落したフォーグラーに開いた大穴の付近/二日目/午前】
【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:本を書きたいという欲求、疲労(大)、螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:
基本-1:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
基本-2:バシュタールの惨劇を起し、首輪や空間隠蔽を含む会場の全ての機能を停止させて脱出する。
1:清麿などの対主催陣営と合流。(C-6のルルーシュがいた家へ戻る)
2:ギルガメッシュに自分の計画に必要なもの(小説・イリヤスフィール(ry)を渡し、協力を促す。
3:アンチシズマ管の持ち主、それとそれを改造できる能力者を探す。
4:センセーに会いに行きたい……けど、我慢する。
5:本が書きたい! 本を読んで貰いたい!
[備考]:
※読子を殺害したスカーの罪を許し、堪えることを選びました。理不尽は許していません。
※ラガンをフル稼働させたため、しばらく螺旋力が発揮できません
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、空腹、強い覚悟、螺旋力覚醒
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night(回復に使用中) 、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式x7(メモ一式使用、地図一枚損失水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)、
ワルサーWA2000用箱型弾倉x2、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、
ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、魔鏡のかけら@金色のガッシュベル!!
暗視スコープ、首輪(クロ)、単眼鏡、マース・ヒューズの肉片サンプル、シアン化ナトリウム
ワルサーWA2000(4/6)@現実、モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと4秒連射可能、ロケット弾は一発)、
鉄の手枷@現実 S&W M38(弾数5/5)、S&W M38の予備弾15発、短剣×4本、水鉄砲、エンフィールドNO.2(弾数0/6)、
銀玉鉄砲(玉無し)、アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、タロットカード@金田一少年の事件簿
USBフラッシュメモリ@現実、イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)@現実、殺し合いについての考察をまとめたメモ、
イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル!!、
無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん、清麿の右耳、清麿のネームシール、COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)
首輪(エド/解体済み)、首輪(エリオ/解体済み)、首輪(アニタ)、首輪(キャロ)、
各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mmNATO弾)
M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
[思考]
基本-1:ねねね達と協力して実験から脱出し、この世界では「堪える」を選んだ者の行く末を見届けたい。
自分は彼らから負を追い払う剣となる。(元の世界でまた国家錬金術師と戦うかどうかは保留)。
基本-2:螺旋力保有者の保護、その敵となりうる存在の抹殺。
0:ねねねと共に清麿の捜索し、合流する。
1:各施設にある『お宝』の調査と回収。 及び螺旋力保有者の守護。
2:ギアスを使用したヴィラル、チミルフへの尋問について考える
3:螺旋王に対する見極め。これの如何によっては方針を変える場合も……。
[備考]:
※言峰の言葉を受け入れ、覚悟を決めました。
※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。
※会場端のワープを認識。螺旋力についての知識、この世界の『空、星、太陽、月』に対して何らかの確証を持っています。
※清麿達がラガンで刑務所から飛び出したのを見ていません。
※ねねね、ドモンの生き方に光明を見ました(真似するわけではありません。自分の罪が消えないことはわかっています)。
534
:
負の連鎖と正の一石、ねねねの涙
◆hNG3vL8qjA
:2008/08/14(木) 12:37:36 ID:Zx1gm8vw0
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(大)、精神疲労(小)、頭にタンコブ、強い決意 深い後悔、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!! キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[持ち物]:支給品一式×9
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒) 、ランダム不明支給品x1(ガッシュ確認済み)
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
1:気絶中
2:ねねね達と共に清麿を捜索(ねねねが言っていたエリアC-6の民家周辺)。なんとしてでも清麿と再会する。
3:ジンとドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
4:銀髪の男(ビシャス)、東方不敗を警戒。 ギルガメッシュに少し警戒。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。
いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
※大グレン団の所持していた複数のアイテムは、ガッシュの手元にあります。
※ギルガメッシュとはまだ情報交換をしていません。
535
:
不死者を殺せるのは右手のみ
◆GeIkJF80vY
:2008/08/24(日) 10:25:38 ID:mvYwPHvc0
空では太陽が着々と空の頂点を目指していた。
幾度も紅く血に染められた青いそら。
しかし、未だ変わらずあり続ける青いそら。
まるで、その姿はまるで、すべての惨劇を飲み込もうとしているようだった。
#
536
:
不死者を殺せるのは右手のみ
◆GeIkJF80vY
:2008/08/24(日) 10:27:27 ID:mvYwPHvc0
フォーグラーから離れたスカー達は、清麿
「それでも、清麿を助けにいく途中でお前が倒れてしまっては意味がない」
「そんなことある訳が…」
そう言いつつもその顔には濃い疲労の色が見えた。いかに彼女が強い人間であろうとイシュヴァールの武僧である自分と違い、身体は一般人と同じなのだから。本来なら自分が抱えればいいのだが、自分も大分疲弊しているうえガッシュを抱えているためそれは無理そうだった。
「清麿と一緒にいるはずのルルーシュ・ランペルージは、少なくとも無差別に人を殺すような奴では無いはずだ。しばらくは大丈夫だろう。だから、お前は少し休め」
「…分ったよ。休むよ」
スカーが有無を言わせずにそう言うと、渋々とだがねねねは従う。自分でも身体の限界を感じていたのだろう、それでも渋々とだが。
537
:
不死者を殺せるのは右手のみ
◆GeIkJF80vY
:2008/08/24(日) 10:27:58 ID:mvYwPHvc0
で、休むのはいいけど、どこで休むんだ?」
「あの家でいいだろう。」
そう言ってスカーとねねねは気絶しているガッシュと共に適当に選らんだ民家で休むことにした。
幸いベッドは二つあったので、ガッシュとねねねをそれぞれを寝かせ、スカーが自分も少し休もうとした時、人の足音が聞こえてきた。
警戒しながら外を見ると一人の少女が先程まで自分たちのいた大怪球に向かっているのが見えた。
無視するべきか迷ったが、剣を持っているが、どこか身体の動かし方がぎこちないことと外見がただの少女だったためそれ程危険ではないだろうと考え、スカーは外に出て声をかけて見ることにした。
ただ、気になったのは少女が真っ白なスーツを着ていたことだった。
538
:
不死者を殺せるのは右手のみ
◆GeIkJF80vY
:2008/08/24(日) 10:28:37 ID:mvYwPHvc0
#
柊かがみ、という少女の名を聞いてスカーは警戒を解いた。
明智達の話によれば彼女はあの場にいた小早川ゆたかという少女の友達だったはずだ。
自分が敵意がないということを示すと、彼女も警戒を解いてくれた。
しかし、自分と共の行かないかと誘った所、きっぱりと辞退した。
「何故だ?悪い話ではないと思うが…」
「だって、あなたたちは北に行くんでしょ?私はあの大きな球を目指しているから、方向が逆だわ。」
その返答を聞いて彼はいぶかしむ。
(何故、ここまであの大怪球にこだわる?)
「どうしてそこまでして、あの場に行こうとする?」
「……んー、ちょっと私にはあそこでやらなければならないことがあるんだ…」
「何だ?それは絶対なのか?」
539
:
不死者を殺せるのは右手のみ
◆GeIkJF80vY
:2008/08/24(日) 10:29:18 ID:mvYwPHvc0
そういうと彼女はやはりきっぱりと
「うん。ちょっとあの場所でやらなきゃいけないことがあってね。それをしないと私のアイデンティティーに関わるというか…んーまぁとにかく私は絶対あそこにいかなきゃならないの」
そこまでいうということはよほど大切なことなのだろう。
「…そうか、ならば止めはするまい…」
一応彼女も武装しているが、それでも強力な殺人者に襲撃されればひとたまりもないだろう。
その思考が表情にでたらしく、彼女は不敵に笑い、
「あら、私こう見えて結構強いのよ。」
と自信満々にいってきた。
しかし、筋肉のつき方を見るに彼女は所詮素人だろう。
ならば、なにかあの紙使いのような特別な力でもあるのか?
「わかった。お前が一人で行けると思うのなら行け。」
540
:
不死者を殺せるのは右手のみ
◆GeIkJF80vY
:2008/08/24(日) 10:30:05 ID:mvYwPHvc0
そういうと、彼女はふふっと笑い
「あなたさぁ、自分が私より強いって思ってない?」
ゾクッ
得体の知れない悪寒が走った
確かにそう思っていたが…
「自分は今『この女には殺されない』、『自分は今安全』ってなぁ!」
どんどん語尾が強くなっていく。
そして、スカーは気づいた。
少女の瞳に緑の螺旋が渦巻いていることを。
ぐるぐる ぐるぐる
「何を言って……」
「そうだって言えよ」
次の瞬間、少女が金色の剣でいきなり斬りかかってきた。
「ぐっ!」
とっさに身をよじり避けようとするが、避けきれずスカーの腹部をエクスカリバーがえぐる。
血と肉片が飛び散り狂人の白いスーツを汚す。
「おいおい。避けちまったのか。まぁいいや殺すから。
頭つぶして、両手引きちぎって、内臓を踏み潰して」
541
:
不死者を殺せるのは右手のみ
◆GeIkJF80vY
:2008/08/24(日) 10:31:34 ID:mvYwPHvc0
そういいながら赤斑色のスーツを着た狂人は笑う。高らかに、高らかに。
「『死』というものを、たっぷりと実感させてやるよ」
そこにいたのはもはや柊かがみとは到底よべない存在だった。
(どういうことだ?今の一撃は完全に急所を捉えていた。確実に場数踏んだ人間の一撃だった…だが、何か違和感がある)
スカーは腹部を押さえながら間合いをとる。
柊かがみの動きは確かに強者の動きだった。しかし、彼女が戦闘経験豊富と問われれば、肯定できない何かがあった。
それに見たところ彼女は螺旋力を保持しいている。それもかなり強いものを。
(……脅威だが、殺すわけには行くまい。)
そう判断し、スカーは銃ではなく、念のため家から持ち出しておいたナイフを彼女に向かって投げる。
柊かがみはナイフを蹴りおとそうとするが失敗し、右肩にささる。
血が吹き出、さらにスーツをよごす。
「あぁ、痛えっ!やっぱこの身体じゃタイミングがあわねぇな」
そうはいいながらも、彼女は全くどうじず、右肩のナイフを引き抜く。
すると、傷口がみるみる治っていく。
似たような現象をスカーは知っていた。
(…これはホムンクルスか?)
―ホムンクルス 賢者の石により再生するヒトならざるもの。
その中には姿を自在に変えられるものもいた
もしかしたら、この『柊かがみ』も似たような存在なのかもしれない。
再生するさまをみたスカーは柊かがみをホムンクルスだと認識する。
(ならば、打撃による攻撃よりも破壊の右手による攻撃をするべきか)
そう思いスカーはかがみにいっきに接近し、破壊の右手を相手に繰り出す。
突然の接近に虚を突かれたのか、若干遅れて防御に移る。
それでも、いつものラッドであれば防御は間にあっていた。
542
:
不死者を殺せるのは右手のみ
◆GeIkJF80vY
:2008/08/24(日) 10:32:53 ID:mvYwPHvc0
しかし…彼女はラッド・ルッソではなく、かといって柊かがみともいえない実に中途半端な存在に過ぎなかった。
そして、かがみの身体をスカーの右手が捉え―――――
しかし、『分解』は起きず、次の瞬間にはスカーにかがみの強烈な右ストレートが炸裂しスカーは意識を失った。
543
:
不死者を殺せるのは右手のみ
◆GeIkJF80vY
:2008/08/24(日) 10:33:25 ID:mvYwPHvc0
#
柊かがみの身体が分解できなかったのは彼女の『不死』の本質にある。
彼女の飲んだ『不死の酒』は、かつてとある錬金術師が研鑽の末『悪魔』と呼ばれる存在をも利用して手に入れた錬金術のひとつの完成形だ。
体系は違えど同じ錬金術では『分解』できなかったのだ。
しかし、この事実はある人物による介入を引き起こすこととなる。
#
そこは闇だった。
そこには光がなかった。
しかし
(……己れは、生きているのか?)
スカーの意識はあった。
そして、自分の肉体が存在しないことに気づき驚愕する。
……やはりその反応が普通だな
前にこのような形で会話した者たちより、大分常識人だな。
まぁいい。
(……己れは死んだのか?)
いや、お前は死んでいない
ただ意識を隔離しただけだ
544
:
不死者を殺せるのは右手のみ
◆GeIkJF80vY
:2008/08/24(日) 10:33:55 ID:mvYwPHvc0
とはいえ、もうすぐ死ぬかもしれんが
まぁいい
(何故、このようなことをした?)
……そうだな
半分は偶然だ。偶然、お前の右腕が『錬金術の力』に値するものであり、やはり偶然『意識も失った』
少しその偶然に興味を持った。
もう半分は負い目だな。
お前が今死にかけている原因は俺にもなくはない。
とはいえ、ファミリーでないものを救うことはあまりないのだがな。
思っていた以上にあの二人は、俺に影響を及ぼしていたらしい。
まぁいい。
(何を…する?)
お前の右手を創りかえる。
『不死の酒』の力に対抗できるようにな
以前はこんな介入はできなかったのだが
もうすぐこの会場も崩壊するらしい
…螺旋王が逃亡したのが一番の原因か
どうやら今主催をしている小僧は俺のことを知らないらしいな
まぁいい
(なっ…螺旋王が…逃亡?)
ああ奴は逃げ出した
賢明ではあったかもしれないな
まぁいい
俺は今お前の右手に手を加えた
これであの少女を殺せるだろう
545
:
不死者を殺せるのは右手のみ
◆GeIkJF80vY
:2008/08/24(日) 10:34:55 ID:mvYwPHvc0
(…殺すつもりはない)
いや、殺してやれ
それが最後の慈悲だ
いまやあの少女は完全に『混ざり合って』しまった。
もうどうしようもないな
混ぜた酒と蜂蜜は、もうもとには戻せない
――その言葉には奇妙な説得感があった。
だから、殺してやれ
その右手で
――――ただし……
#
傷の男が完全に動かなくなったのをみてラッドは一瞬死んだかと思ったたが気絶しているだけだった。
「HA!何かしようしたみたいだが、残念だったなぁ?」
こいつの名はなんだったか?
明智たちによればこの男は危険人物らしい。
「だったら、キヨマロも文句言わないよなぁ?」
そういいながら黄金の剣で傷の男にとどめさそう剣を振り上げ…
「破!」
突如起き上がったスカーに反応できず、ラッドは頭部を右手でつかまれる。
(なっ!まさか、こIjヴぁ)
そして、頭部を粉砕された。
こうして、今度こそラッド・ルッソの意識は完全に消えた
【柊かがみ@らき☆すた 死亡】
546
:
不死者を殺せるのは右手のみ
◆GeIkJF80vY
:2008/08/24(日) 10:35:36 ID:mvYwPHvc0
彼女が完全にラッド・ルッソであれば、相手が気絶しているという圧倒的優位な状態でも油断はしなかっただろう。
しかし、不死になっていたことや柊かがみの記憶により、彼はその瞬間『自分は今絶対に死なない』と思ってしまった。Dボゥイの最後の一撃をよけたことも影響していたのかもしれない。
何もかもな中途半端だった哀れな少女は、その中途半端さゆえに慢心し、そして死んだ。
#
柊かがみの身体が崩れゆく。
それをみて
(あの男の言うことは正しかったのだろうか?)
そう疑問を持ったとき、スカーは自分が誰を疑っているのか分らないことに気づいて呆然とする。
そして、自分の右手を見て何かが変わってしまったことに気づいた。
(まるで、悪魔と契約したようだ。)
#
ロニーは最後、スカーにこう言っていた。
――――ただし、お前の右手にはこの空間への接続のため負荷をかけたうえ、同じ錬金術とはいえ別体系のものを無理やり上書きする。
確実に何らかの影響を及ぼすだろう。
547
:
不死者を殺せるのは右手のみ
◆GeIkJF80vY
:2008/08/24(日) 10:36:22 ID:mvYwPHvc0
【C―6とD―6の境/民家とその近辺/二日目/昼】
【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:本を書きたいという欲求、疲労(大)、螺旋力覚醒 休憩中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:
基本-1:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
基本-2:バシュタールの惨劇を起し、首輪や空間隠蔽を含む会場の全ての機能を停止させて脱出する。
1:とりあえず休憩し、体力を回復
2:清麿などの対主催陣営と合流。(C-6のルルーシュがいた家へ戻る)
3:ギルガメッシュに自分の計画に必要なもの(小説・イリヤスフィール(ry)を渡し、協力を促す。
4:アンチシズマ管の持ち主、それとそれを改造できる能力者を探す。
5:センセーに会いに行きたい……けど、我慢する。
6:本が書きたい! 本を読んで貰いたい!
[備考]:
※読子を殺害したスカーを許し堪えることを選びました。スカーの罪、その理不尽は許していません。
※ラガンをフル稼働させたため、しばらく螺旋力が発揮できません
※今は渋々休憩してますが、自分が大丈夫だと思えば清麿のもとに向かうでしょう。
548
:
不死者を殺せるのは右手のみ
◆GeIkJF80vY
:2008/08/24(日) 10:36:58 ID:mvYwPHvc0
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(大)、空腹、強い覚悟、螺旋力覚醒 腹部に裂傷 右手に変化
[装備]: アヴァロン@Fate/stay night(回復に使用中) 、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式x7(メモ一式使用、地図一枚損失水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)
【武器】
イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)@現実、イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、
ワルサーWA2000(4/6)@現実、ワルサーWA2000用箱型弾倉x2、S&W M38(弾数5/5)、S&W M38の予備弾15発、
COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mmNATO弾)
M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと4秒連射可能、ロケット弾は一発)、
エンフィールドNO.2(弾数0/6)、銀玉鉄砲(玉無し)、水鉄砲、短剣×4本
【特殊な道具】
ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、魔鏡の欠片x2(3つで揃う)@金色のガッシュベル!!
アンチ・シズマ管(3つで揃う)@ジャイアントロボ THE ANIMATION、
無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん
【通常の道具】
USBフラッシュメモリ@現実、タロットカード@金田一少年の事件簿、暗視スコープ、単眼鏡、鉄の手枷@現実、
糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、シアン化ナトリウム
各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
【その他】
マース・ヒューズの肉片サンプル、清麿の右耳、殺し合いについての考察をまとめたメモ、
首輪×3(クロ、アニタ、キャロ)、解体済みの首輪×2(エド、エリオ)、首輪のネームシール(清麿)
[思考]
基本-1:ねねね達と協力して実験から脱出し、この世界では「堪える」を選んだ者の行く末を見届けたい。
自分は彼らから負を追い払う剣となる。(元の世界でまた国家錬金術師と戦うかどうかは保留)。
基本-2:螺旋力保有者の保護、その敵となりうる存在の抹殺。
0:ねねねと共に清麿の捜索し、合流する。
1:各施設にある『お宝』の調査と回収。 及び螺旋力保有者の守護。
2:ギアスを使用したヴィラル、チミルフへの尋問について考える
3:螺旋王に対する見極め。これの如何によっては方針を変える場合も……。
備考]:
※言峰の言葉を受け入れ、覚悟を決めました。
※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。
※会場端のワープを認識。螺旋力についての知識、この世界の『空、星、太陽、月』に対して何らかの確証を持っています。
※清麿達がラガンで刑務所から飛び出したのを見ていません。
※ねねね、ドモンの生き方に光明を見ました(真似するわけではありません。自分の罪が消えないことはわかっています)。
※ ロニーから螺旋王が逃亡したと聞きましたが、覚えているかは定かではありません。
※ スカーの右手の変化は次の書き手さんに任せます。(変化は自覚しています。)
※ 近くに柊かがみの死体と荷物が転がっています。
549
:
不死者を殺せるのは右手のみ
◆GeIkJF80vY
:2008/08/24(日) 10:37:39 ID:mvYwPHvc0
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(大)、精神疲労(小)、頭にタンコブ、強い決意 深い後悔、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!! キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[持ち物]:支給品一式×9
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管(3つで揃う)@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒) 、ランダム不明支給品x1(ガッシュ確認済み)
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
1:気絶中
2:ねねね達と共に清麿を捜索(ねねねが言っていたエリアC-6の民家周辺)。なんとしてでも清麿と再会する。
3:ジンとドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
4:銀髪の男(ビシャス)、東方不敗を警戒。 ギルガメッシュに少し警戒。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。
いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
※大グレン団の所持していた複数のアイテムは、ガッシュの手元にあります。
※ギルガメッシュとはまだ情報交換をしていません。
550
:
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:07:41 ID:HanxSGOQ0
規制のため一時こちらに投下します。
551
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:08:40 ID:HanxSGOQ0
やはり空を飛んで逃げた相手を走って追いかけるというのは難しいな、とドモンは思った。
飛び去ったシータを追うためにおおよその逃走先と定めた西へと進んでいるが、未だ影を踏むことさえできてはいない。不意打ちを警戒しつつの移動のためさらに速度は遅くなる。
加えてドモンは今ニアを抱えた状態でである。ただでさえ背中に傷を負った状態で楽な移動とは言えなかったが、一刻を争う状況である以上文句を言ってはいられなかった。
ときどき周囲を見渡しながらひたすら地を駆ける。時には壁を蹴って建物の上へ、上へ。高い視点からの捜索を行う。
条件が不利だからといって諦めるつもりは欠片もなかった。
傷を負おうと相手が空を飛ぼうと、そのような無理を蹴飛ばしてやらねばならないことが二人にはあるのだから。
「川か……。西側はこのあたりが限界のようだな」
眼下に臨む水流を、一際高いビルの屋上で眺めながらドモンは呟いた。
「シータさん……どこにいったのでしょうか」
ニアも抱えられるのを止め自らの足で立ちながらキョロキョロと首を降る。
あれほどの勢いで飛ぶ力があるなら飛行機雲の一つでも残っていてもよさそうなものであるが、追跡の手掛かりとなるようなものは何も見えなかった。
川がゆらゆらと流れていく音だけが二人の耳に届く。だらだらと響くそれは、今の二人にはあまり気持ちの良い音とは言えなかった。
「川を渡られたとすると厄介だな。
これ以上闇雲に探し回って見つかるものとも思えん……さてどうするか」
まさか途中で方向を変え仲間たちを襲っているのでは、と悪い想像が頭をよぎる。こうも見つからないとなると、その可能性は低くなさそうだった。
「コアランダーでもあれば楽なんだがな」
「コアランダーって何ですか?」
手をかざし、真剣な表情で四方を探っていたニアにキョトンとした表情で聞かれた。
真剣であることは分かっているのだが、その無邪気な振る舞いにドモンはフッと頬が緩んで仕舞う。
「ガンダムのコックピットブロック、と言っても分からんか……まぁ車のようなものだ」
「クルマって何ですか?」
「何と言われても困るが……速く移動するための乗り物、と言えば分かるか?」
素朴すぎる質問にドモンは少しばかり困惑の表情を浮かべる。
自分も世間知らずな方だとは思うが、螺旋王の娘というのはそれに輪をかけた箱入りらしい。
「速く動ける……ぱっと移動できればいいんですね」
「できるなら、な。だがそんな都合の良いものがあるわけ……」
一笑に付して歩き出そうとする、そのドモンの動きをニアの鋭い声が遮った。
「できます!」
細い声であるにも関わらず、そこには力強い確信の響きがあった。足を止めたドモンは思わずニアの顔を見る。
その視線を正面から見返し、ニアはきっぱりと宣言した。
「私知ってます!すごいもんのあるところ。ドモンさん、ここは一体どこですか?」
552
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:09:28 ID:HanxSGOQ0
ニアの話によると、凄いもんとやらはどうやら図書館にあるらしかった。
直線距離にしてみればさほどの距離ではないが、間に川が横たわっているため引き返し迂回する道を選ぶしかない。地を這う者の悲しさだ。
万全の状態であれば川を泳いで、あるいは走って渡ることもできたかも知れないが現状でそれは難しかった。
図書館には自分が望む場所へ移動するための装置があるという。眉唾物の話だが、本当だとすれば乗らない手はない。ニアが嘘をついてる可能性など考えるのも馬鹿らしい。
ともあれ、多少の時間は食ったが図書館への移動は特に危険もなく完了した。
「巡りめぐってまた図書館、か」
「ドモンさんはここに来たことがあるんですか?」
僅かな感慨をもって吐き出された言葉にニアが反応した。
「最初に気がついたとき俺はここにいたのさ。エドという子供と一緒にな」
随分と昔のことのようだと思う。
一日二日休まず走り回ったことなら修行時代にもあるが、ここにきてからの時間はそれとはまた違った意味で濃密だ。
「エドさん、ですか……。確かシータさんもその名前を……」
「……ああ、言っていたな。どうやら俺とはぐれた後一緒に行動していたらしい」
こちらを気遣ってか口調を落とすニアに、ドモンの返事も自然と言葉少なになった。
勢いに任せてエドを置き去りにしそのまま合流することなく死なせてしまったことは、未熟という言葉では言い表せない程の後悔となってドモンを締め付けている。
「やっぱり……みなさん大切な人を亡くされているのですね……おばさま……」
胸元をぎゅっと握り締めて暗く顔を伏せる。嫌な記憶を思い出させてしまったらしい。
自分ばかりが辛い経験をしてきた訳ではない、この場でまともに生きようとしている者は特にそうだろう。
徒にニアに悲しい思いをさせてしまったことを反省しつつ、できるだけ暗くならないように注意して口を開いた。
「話しぶりからして酷い扱いを受けたようではなかったし、クヨクヨしても始まらんさ。
……ここか」
553
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:10:14 ID:HanxSGOQ0
辿り着いた場所には、聞いた通りの黒く大きな扉が口を開けて待っていた。
気遣いがあまり上手くいったとも思えなかったので話題を変えるきっかけができたのはありがたい。中を窺おうと暗がりに顔を除き込ませる。
ほぼ間をおかず、ドモンの耳に無機質な電子音声が届けられた。
『――――螺旋力、確認』
「っと、どうやら本当にここからワープが可能らしいな」
音声に続いて部屋に明かりが灯る。見慣れない機械の中に二人は並んで足を踏み入れた。
「ワープ、ですか?」
ニアは何度かその言葉を口の中で繰り返している。響きが気に入ったらしい。
「お前は俺の前に一瞬で現れただろう?そのことを言うのさ。さて、どう使えばいい?」
「あ、え〜と。この機械に向かって会いたい人のことを思い浮かべれば、その人のところに連れていってくれるそうです」
「大雑把だが……実際に見せられているからな。念じでもすればいいのか?」
「はい!難しいことは分かりませんが要は気合い、だそうです」
「うむ……」
小難しいことを言われるより返って分かりやすい。さぁ、と促すニアに合わせてドモンも静かに瞳を閉じた。
会いたい人、この場合はシータということになるだろう。
だがドモンはその言葉からはどうしても別の人物のことを連想してしまう。言うまでもなく、未だ人類抹殺の妄執に囚われたままの師匠、東方不敗のことである。
一刻も早く自分の拳で目を覚まさせなければならないのだが。
(今頃どこでどうしていらっしゃるのか。例えこの身が朽ちようとも……と、いかんな。
この装置があれば師匠とはすぐに会える、それよりも今は……)
『――螺旋界認識転移システム起動、転移開始』
「む……!」
予想よりもはるかに簡単には作動した機械の発する音声に、何故だかドモンはとても嫌な予感を覚えた。
「くっ……何と言うことだ……!」
案の定というか、ドモンが次に意識を結んだ先はまったく見知らぬ場所であり、そこにはシータもニアもいなかった。
自分がどこにいるのかも分からぬまま、ドモンは幾つもの店舗が集合した建物の中を駆ける。
誤って師匠である東方不敗のもとに飛ばされてしまったのだろうが――。
「師匠はおろか人の気配すらしないのはどういう訳だ……?くっとにかく急がねば」
ドモンが目を覚ました場所は不自然なコンテナが置かれるばかりのがらんとした空間で、人の気配はもとより鼠一匹いる様子もなかった。
転移装置の不調を思わせるそれが余計にドモンの焦りを募らせる。不自然なコンテナも気にはなるが今は構っている場合ではなかった。
傷の痛みをまるで感じさせない人間離れした跳躍を幾度も繰り返し、ドモンは一歩でも多く前へと進んでいく。
速く、少しでも速く。
ぐずくずしている間にニアにどんな危険が迫っているか知れない。
こうしている間にもニアは。
ニアは。
そのころ、ニアは――。
554
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:10:41 ID:HanxSGOQ0
【A-7/ショッピングモール/二日目/午前】
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に重度の火傷、全身に軽度から重度まで無数の裂傷、疲労(大)、明鏡止水の境地
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
1:一刻も早くニアと合流する
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:傷の男(スカー)を止める。
5:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する。
6:東方不敗を説得する。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュ、奈緒のこれまでの経緯を把握しました。
※第三放送は奈緒と情報交換したので知っています。
※清麿メモについて把握しました。
※螺旋力覚醒
※シータのロボットのレーザービーム機能と飛行機能についてスパイクから聞きました。
※シータの持つヴァルセーレの剣の危険性を認識しました。
※ニアとは詳しく話していませんが、カミナの関係者だとは通じ合っています。
555
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:11:20 ID:HanxSGOQ0
◇
まさかとは思う。まさかとは。
でも幾らなんでも条件が揃い過ぎてる。想像することを止めるのは無理だ。
本当のところは分からない、けど。
あたしの心臓はどんどんと早くなり、肺が縮まっていくのを感じる。
そうすると悪い想像も止めどなく広がっていきそうになり、思考は現実から逃げ出し始める。
大丈夫、きっと大丈夫のはずだ。何だったらそれとなく確かめて見ればいい。
そうすれば全てはっきりする。
でも──。
彼女がほんとうに「そう」だったとしたら、あたし達は?
ゆたかは心の奥底で少女に対し何か引っ掛かるものを感じていた。
どこがとう、という訳ではない。少女を助けたいという気持ちにも嘘はない。
ニアという人はスパイクやジンの話に出てきた子で、そんな酷いことをする人のようには思えなかった。
ただマタタビという喋る猫、というのも良くわからない話だが、に過失とはいえ毒を盛ってしまったとも聞いた。
ニアを直接見知っているわけではないゆたかには、少女の話が妖しいのかどうかの判別がつかない。元々意見を決めるのは苦手だ。
どうやらゆたかの記憶の片隅をじんわりと刺激しているものの正体はニアという少女ではない。
「どちらへ向かっているんですか?」
「えっと……私達の仲間のところよ。ス、スパイクって言うんだけ、ど……」
「スパイクさん、ですか。楽しみです……くすくす」
ゆたかと手を繋いで歩く少女は大分落ち着いたようで、数歩先行する舞衣に笑いかける余裕も出てきたようだ。
舞衣の持っていた大きな槍に少し怯えていたようだが、護身用だと優しく説明したら納得して貰えた。
抱えることのできなくなった小竜は後ろをトコトコと付いてきている。水浴びは中止になってしまったけど仕方ない。
舞衣の背中が妙にそわそわして見える。気のせいだろうか。
記憶を刺激するもの正体はまだ見えなかった。
「ゆたかさん、でしたかしら?」
「あ、うん。ゆたかでいいよ」
ぼんやりと記憶を辿ろうとしていたゆたかは反射的に答えた。そうしてから気付く。まだ名前を聞いていない。
さっきの話でも危険な人は一杯いるようだし、いくら自分が頼りないからと言ってもそのくらいの用心はしないといけないと思う。
正直、この子の背格好はその話に出てきた子に似ているような気がする。自分よりもよっぽどしっかりしている舞衣が気にしていないようなので多分大丈夫だろうとは思うが。
それに、もう人を疑うのはいやだ
背格好?
何かを閃きそうな気がした。
556
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:11:56 ID:HanxSGOQ0
「ではゆたか。よろしくお願いしますね、くすくす」
「う、うん。ねぇところで……」
「ね、ねぇ!」
前方の舞衣が不意に挙げた大声にゆたかの心臓はびくんと跳ね上がった。余りの驚きように思わず握っていた手に力を込めてしまう。
少女も同じだったのか、ぎゅっと力を込めて握り返してきた。
「聞き忘れてたことがあるんだけど……」
背を向けたまま、首だけをこちらに回して舞衣が語りかけてくる。ゆっくりと、何かを恐れるように。
答えを聞くのが怖いとでも言うかのように。
「あなたのお名前って……何?」
振り向いた舞衣の顔は、泣き笑いのように歪んで見えた。
ゆたかにはその表情の意味が理解できない。
どうしてそんな怯えた子供みたいな目をしているの。優しく語りかけてくれた笑顔はどこに行ったの。
それじゃあまるで。
「シータです」
彼女がとても危険な人のよう。
「え……?」
隣の少女がさらりとした声で嬉しそうに告げた名前は確かにゆたかの下腹をきゅうと締め付けた。
シータ、それはスパイクの話しに出てきた恐ろしい理解不能の殺人者の名前だ。
でもそれだけじゃない。シータという名前にはそれ以上の何かがある。笑いながら人を殺す以外の彼女の姿を、自分は知っている。
「シータ、って。やっぱり……!」
「くすくす。スパイクさんから何か聞いていました?もうあんまり生きている人もいませんし、隠れるのって難しいですね」
それを聞いたのはスパイクの話よりもずっと前。その後に起きた色んなことのせいで、頭の中で埋もれてしまうくらいのささいな出来事。
その話をしてくれた子は美人で強そうなお姉さんと一緒だった。とっても元気な子で、でもとても心配そうだった。
「あなた……パズーくんが言ってた……?」
「できるだけ利用するつもりでしたが、仕方ないのでもうころ……え?」
じりじりと不穏な空気を滲ませ舞衣に迫っていたシータがゆたかの呟きにふっと
動きを止めた。
くるりと振り返りゆたかをまっすぐ見据えてくる。一瞬ごとにころころと変わる雰囲気にゆたかは付いていけない。
557
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:12:40 ID:HanxSGOQ0
「あなた……パズーを知っているの?」
「う、うん……知ってるっていうか、ちょっとだけ会っただけだけど……」
「ゆたかちゃん!離れて!」
舞衣が叫ぶ。だが不思議とゆたかは今のシータからは恐怖を感じなかった。
でもそんな彼女の仕種は一瞬前までは見えなかったもので、その豹変ぶりは怖いと言えば怖い。
「教えて!パズーは何を話したの!どんな様子だった!?楽しそうだった?嬉しそうだった?
ああ、それとも私がとっても心配をかけてしまっていたのかしら。ねぇ、どうなの?」
「えと、ちょっと話しただけで……そのときにあなたの話を聞いて、すぐお別れしちゃったんだ、けど……」
シータの剣幕に押される形でゆたかはおずおずと喋る。舞衣の言う通り離れるべきなのだろうが、必死で仲間のことを聞き出そうとする姿はやはり危険なようには見えない。
「それはいつ!?どこで!?その後はとうなったの!?ねぇ、教えて!」
「えと、昨日の、大分前で、ここからはちょっと遠いの……かな。でもその後は……」
その後?
それからのことを考えようとした瞬間、とある記憶がフラッシュバックした。
──たくさんの命を奪ってきた!
あれ?
──名前も知らない男の子!ロイドさん!
舞衣ちゃん。
──パズーって男の子!
ゆたかは心の中でばらばらになっていた断片が一本につながるのを感じた。
「その後は……。舞衣ちゃんが……?」
ゆたかは自分の中でひとつの形を示した情報を持て余すかのように、理解の追い付かない顔で舞衣の方を見る。
その動きに会わせてシータも顔をそちらに向けた。焦点がぶれつつあるゆたかの
瞳とは対照的に、彼女の目はきらきらと輝きを放つかのようだった。
「あなたもパズーと会ったのですか?教えて下さい!パズーはどうしていました?
私、とっても知りたいんです!」
「その子は……その……」
先程までとは全く違った種類の怯えを滲ませながら、舞衣が掠れきった声を絞る。
シータは続きが気になって堪らないという様子で舞衣に歩み寄った。逃げるように舞衣が数歩あとずさる。
壊れる瞬間のガラスみたいに顔を歪ませ大粒の汗をいくつも浮かべる舞衣の姿を見て何か言わなくてはと思うのだが、ゆたかはこんなドラマ見たいな状況でとっさにかけるべき言葉を覚えていない。
そういうのはお姉ちゃんがよく知っていそうだと思い、あぁ私現実逃避しようとしてると妙に冷静な思考でそんなことを考えた。
「パズー、は……」
「パズーは?」
舞衣が口を開き告げる。決定的な言葉を。
決定的で、どこまで行こうと絶対に逃げることのできない言葉を。
「殺し、ちゃった。あたしが」
ぎしりと、何かが壊れる音が聞こえたような気がした。
◇
558
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:13:19 ID:HanxSGOQ0
数奇な運命、というものはある。
特に自分が何をしたと言うわけでもないのに厄介事の方から次から次へとやってくる、そんな気の休まらない人生のことだ。
どうもここにいる人間はそんな星の下に生まれた連中ばかりらしい。自分も含めて。
奈緒という女が不機嫌そうに語った話を聞いたスパイクが思ったのはまず思ったのは、そんなことだった。
「なるほどねぇ。『食った』とは聞かされてたけど、文字通り人を食った話だったって訳だ」
ジンが笑えない冗談を言った。
いかにも跳ねっ返りですというこの女にとってのキーワードらしいギルガメッシュという名前を餌に話を引き出してみたが、得られる情報は盛りだくさんという訳ではなかった。
スパイクが読子と最初に出会ったように奈緒は早々にギルガメッシュとやらと出会い、それ以後長い間行動を共にしていたらしい。
最終的に別行動となったらしいが、ほぼ間をおかず今度はジンがギルガメッシュと出会っている。
ギルガメッシュと暫しの間行動をともにし、意見も交わしたらしいジンがいる以上新しい情報というのはそんなにないという訳だ。だが、全く無意味という訳でもなかった。
ちなみに、ジンと別れて以後のギルガメッシュの行方は杳として知れない。
「不死者、か。ガキには重すぎる荷物だ。歪みもするぜ」
奈緒は、あの柊かがみと何度か会っていた。
結構な痛い目を見せられたようだが、そこはまぁ正直どうでもいい。
重要なのは、かがみが何故ああなったかについての発端の一部を奈緒が目撃していたことだ。
「もういいかしら?あたしは思い出したくもないことべらべら喋らされてもううんざりなんだけど」
ぼろぼろになった体にそれでも必死で怒りを浮かべようとする姿はまぁ気丈と言ってやってもいいだろう。
喋らされたという表現は実に的確である。へそを曲げようとする度にジンにいいようにあしらわれ、結局は口を開かざるを得ないように仕向けられていたからだ。
かがみについての得られた情報をまとめると次のようになる。
ゆたかと同じく極普通の少女であり、恐らくここにきてから「不死の酒」なるアイテムを飲み不死者となった。
不死者とは、曰く何をしても死なない、同じ不死者を食うことができる、食った相手の記憶と経験を引き継ぐことができる。
かくして柊かがみにまつわる様々な謎は、複数のブラックボックスを残しながらも余すところ無く解決される運びとなった。
559
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:13:49 ID:HanxSGOQ0
(まぁ、だからどうすりゃいいってのがさっぱり分からんのが一番の問題なんだが)
いつぞやのように弾丸を一発ぶちこんで仕舞い、とは行かないようだ。
とりあえず本人の意志が健在なら友人であるゆたかに賭けるしかないのだろう。そんな甘甘なストーリーがどこまで通じるかは疑問だが。
どうしようもないことはどこまでいってもどうしようもない。ラブ&ピースを貫くにはのは飛びっきりの馬鹿になる必要がある。
奈緒が少し離れたところで黙り込み、小休止の空気となった中で僅かに空腹を感じたスパイクはデイパックを漁った。
片手では上手く目当てのものを引き出せず、代わりにけったいな紋様が幾重にも刻まれた羅針盤が出てきた。
「へぇ、良いもん持ってんじゃん。ちょっと失礼」
手を伸ばしたジンが中心に設えられた石を手に取った。空中にかざしてまじまじと眺める。
「さすがに目が高いな。そいつは太陽石とかいう結構な値打ちもんらしい。
気を付けろよ、見た目はただの石ころだがエネルギーを浴びせりゃドカンといくヤバイ代物だ」
「俺の知ってる太陽石とは随分違うねぇ……それならあんまり熱い視線を浴びせるのもまずいかな?」
「ああ。王ドロボウの視線にさらされたんじゃ、瞬く間にドカンだ」
スパイクの軽口にジンがニヤッと笑い、太陽石を投げて寄越す。
どうにかチョコレートを取り出したところだったスパイクには受けとる用意がなかったのだが、それを見越していたのか石はスパイクのポケットにすぽりと収まった。
一欠片齧る。意外と旨い。
「……何も聞かなくていいのか?」
「……カレンのことかな」
「そうだ」
交わされた言葉は短かった。
情報交換の際に必然的に触れざるを得なかったカレンの死。それを耳にしてなおジンは平然とした態度を崩さなかった。
事前に放送も行われたし、何も感じないのかと疑うほど察しの悪いつもりもないが、やはり気になる。
「というとあれかな。
実はさっき言ったことは全部嘘で本当は私が殺しましたごめんなさい、ってことなのかな?正当防衛も含めて」
「んなわけあるか!何で俺があんなレジスタンス気取りのガキに出し抜かれなくちゃならない」
思わずムキになって返してしまい、そう言えば久しくこんな声は出していなかったと思った。
どうも好まぬ立場に知らず知らずのうちに無理をしてしまっていたらしい。
560
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:14:51 ID:HanxSGOQ0
「だろ?だったら俺からできるのは生き残ったスパイクにおめでとうを送るだけさ。
……さっきはまぁ、あんまり空気を悪くしても悪いしね」
「そう、か」
淀みのない黒い瞳に見つめられ、スパイクは内心に持っていた様々な感情を見透かされたような気になった。
疑われるのでは、という思いが先のような発言に繋がったことは自分でも否定できない。
「……ったく。ほらよ」
何故だかくやしさのようなものを覚え、スパイクは負け惜しみじみた仕種でジンにチョコレートを投げる。
サンキュ、と上機嫌に呟いた王ドロボウはくるくるとと包みを剥がしてパキリと甘いお菓子を齧った。
「おい、お前も食うか?意外といけるぞ」
「いらない」
わざわざ声をかけてやったというのに奈緒の返答はにべもない。
「無理すんなよ。ぼろぼろなんだろ?」
「いらないってんでしょ!」
「……へいへい」
予想していなくもなかったリアクションにスパイクは苦笑し、残りをデイパックに戻す。
ふん、と顔を背ける様子はジンなどとは比べものに成らないくらい年相応で分かりやすい。
「……それで、いつまでこんなとこいんのよ」
視線は反対方向に向けたままぼそりとした声で奈緒が言った。ぐずぐずしていたくはないが先に進むには恐怖もある、そんな感情が滲んだ声色だ。
「ま、二人が帰ってこないことにはね。そろそろだとは思うけど。何だったら迎えに行ってみる?」
「ばっ!?何であたしが――」
「きゃあああああああ!」
奈緒の台詞を遮るかのように悲鳴が聞こえた。絹を裂くような女の悲鳴、というやつだ。
「どうやら」
「まずいみたいね」
一瞬だけ、スパイクはジンと顔を見合せると次の一瞬には二人してその場を飛び出していた。
561
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:15:21 ID:HanxSGOQ0
声の聞こえ具合からしてそれ程離れてはいないと思ったが、実際その通りだった。
悪い予感を形にする間もなく、スパイクとジンはこちらに向けて全力で走る二人の少女を見つけ合流する。
「スパイクさん!」
「無事か!」
「は、はい……あ、あの……」
「ゆっくりでいい、何があった?」
必死で逃げてきたのだろう、怪我こそしてないようだが二人の疲労の色が明らかに濃い。そしてそれ意外にも何か違和感がある。
「スパイクさ、んの……話してた……うっく……えっと……」
原因はすぐに分かった。二人で逃げてきたらしいが、今はゆたかが舞衣の手を引っ張っている。どうやらゆたかが先導する形だったらしい。
行きとはまるで人間関係が逆転したその構図がスパイクの目に奇妙に映ったのだ。
「俺の?っておい、ほんとに大丈夫か」
とうとう餌付き始めたゆたかにペットボトルを渡してやりながら、スパイクは舞衣の方にも視線をやる。
単純に体力の限界らしいゆたかよりも心配なのはむしろ舞衣の方だ。目が完全に死んでいる。
表情も虚ろであり、スパイク達に気付いているかどうかも分からない。シーツ一枚というあられもない姿でそんな目をされては、洒落にならない。
一体何があったのかは、まぁ想像できなくもなかった。
「どうやら、二人をこんなにした悪いオオカミのご登場みたいだぜ」
「なに?……やっぱりかよ、ちくしょう……!」
ジンの声につられその視線の指す方向を見てみれば、やはりというか想通りの結果が待ち受けていた。
状態は大分酷くなっているがそれでもまだ健在のロボットの兵隊とそれに守られるように抱えられた狂喜の少女は、余裕のつもりか空中を静かに旋回すると馬鹿馬鹿しい程にゆっくりスパイク達の前に舞い降りる。
自称王族だという少女は、その名に似合った優雅な振る舞いで、その名に似合わぬ爛れた面相を下げた。
562
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:16:05 ID:HanxSGOQ0
「皆さん、こんばんは。始めまして、シータといいます。そのまま、シータと呼んでください」
「知ってるよ……」
「あらスパイクさん、お久しぶりです。素敵なお姿ですね、くすくす」
そこで初めているスパイクの存在に気付いたとでも言うように、シータは視線をやって笑う。
子供だましの挑発に付き合うつもりはないが、彼女の健在ぶりにスパイクはあることを連想せざるを得ない。
「お陰さまでな。ドモンはどうしたっ!」
「私が殺しました」
「あぁっ!?」
「って言ったらどうします?ふふ、うふふ」
「ち、ガキがあんま調子乗ってんじゃねぇぞ!」
年に似合わぬ振る舞いを見せるガキばかり見た反動か、思った以上に面倒くさい片腕生活の恨みか、シータの言動が以前よりやたらと勘に障る。
だが、頭の芯は務めて冷静に。できるカウボーイの鉄則だ。
「珍しいね、スパイクがそんな熱くなるなんて」
「俺のどこが熱くなってるよっ!?」
「……それともそっちが素なのかな。よぉ、お姫さん!俺はジン、アンタの猛牛並の暴れっぷりは聞いてるぜ。よけりゃもう一つ武勇伝を聞かせてもらいたいんだけどな」
ジト目で睨むスパイクに苦笑いしつつ、ジンが声を張ってシータに問いかけた。
「ジンさん、ですね。覚えておきます。すぐに死にますけど。
その人、舞衣さんは私に酷いことしたんです、くすくす」
「私に?私がじゃなくて?」
「ええ、違います。全然違う。大間違いです。
舞衣さんはなんと、こともあろうに、私の大事な、大切なパズーを殺したって言うんです。
ううんと酷い目に会って死んでもらうのが当然でしょう?」
「なるほどねぇ……」
舞衣が何をしてきたかは聞いている。大方の事情は飲み込めた。
過去はいつだってついて回るものだ。決して逃げることはできない。こんな狭っ苦しい
場所にいるなら尚更だ。
「不思議ですね、最後には生き返るって分かってるのに……どうしてこんなにその女が憎いんでしょうねぇ!」
シータの声にジンに支えられている舞衣がびくんと震える。側のゆたかも疲労困憊を絵に描いたような様子であり、すぐに休ませないとまずいだろう。
「どうするスパイク?彼女、自分の怒りだけでどんどん火傷を広げていっちまう
ぜ。俺達までまきこまれかねない」
逃げるにせよ、戦うにせよ非常に困難な状況であるのは間違いない。
そしてラブ&ピースを持って接するにはスパイクは余裕とか、情愛とかとにかく色々なものが足りなかった。
「決まってんだろ……いけ好かねえガキをぶん殴るのは大人の仕事だ」
「こっちも沸騰寸前だったか、こりゃ」
呆れ顔で口笛を一吹きするジンにそれ以上答えず、スパイクは一歩足を踏み出す。
ロボットが警戒するようにカガ、と音を立てた。近くで見ると破損状況の酷さが良く分かる。キングオブハートの名は伊達ではなかったらしい。
563
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:16:34 ID:HanxSGOQ0
「何のつもりです?くすくす、どいてくれません?私はもうその女を殺したくて殺したくて仕方がないんですけど!!」
笑ったかと思えばいきなり怒鳴りちらす。いかれちまった奴が見せる典型的な症状だ。
「……生き返んねぇからだよ」
「はい!?」
どうせなら一服付けたいところだった。無いので仕方なしにそのまま続ける。
いい加減にタバコが恋しい。
「お前の言ってた、なんでこんなに憎いのか、てのの答えだよ。死んだ奴は生き返
らん。
それが分かってるから悲しくて、どうしようもなく憎くも思えるんだよ」
即座に雨のようにビームが飛んでくるかと思ったが、シータは顔を真っ赤にするばかりで何もしてこなかった。
肺をぱんぱんにしているところを見ると怒りが限界を越えたのかも知れない。
「そんなことはありません!!螺旋王のおじ様は何でもしてくれると仰いました。
神父様だって……!し、死んだ人がそれを望まないと言うならそう望むようにしてから生き返らせます!!
それのどこに問題があるっていうんですか!?」
似たようなことを言われたことがあるのか回答はこちらの返事を先回りしたものだった。
そりゃそうか、子供にだって分かる当然の理屈だ。まともなら。
「仮に生き返ったとしたってそいつは偽もんだ。お前の知ってる奴らとは全然別の、な」
「あなたもあいつと同じことを……!!」
「分かんねぇか。分かりたくねぇんだろうな」
シータが金切り声で指示をだし、それを受けたロボットが動き出す。
それを見越していたスパイクはとりあえずジン達から引き離そうと少しずつ横へとステップを踏み始め――。
「スパイクさんの言う通りですっ!!」
予期せぬ方向から聞こえてきた予想外の声に、シータ共々その動きを止められた。
ジン達がいるのとは反対方向から聞こえてきた、その声には聞き覚えがあるもので――。
「……ニア?」
「はい!!」
怒り心頭といった様子で腕を組み、小さな体から精一杯の覇気を出すニアがいつの間にかそこに立っていた。
564
:
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:26:25 ID:HanxSGOQ0
※このレスは本分ではありません。
※「NGワードがあります」というエラーに対処するため以下に極端に短いレスが続く可能性があります。
565
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:27:16 ID:HanxSGOQ0
「ニ……ア?っておい……なんでそこに?いつから?」
「ワープです!!」
「ワープってお前な……」
きっぱりとした口調で無茶くちゃを告げられ、スパイクは僅かにと肩を落とした。
本人が真面目なのは分かるがどうにも毒気を抜かれてしまう。
566
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:27:31 ID:HanxSGOQ0
見るとジンもニアがいつ現れたのか気付かなかったようで、やるじゃんなどと呟きながら笑っている。直接の面識のない二人はあまり余裕はないにせよぽかんとした表情だ。
当のニアはと言えば、そんなスパイク達を無視するようにつかつかと眼前を通りすぎそのまま真っ直ぐシータの目の前へと――。
567
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:29:52 ID:HanxSGOQ0
「っておい!危ねぇぞ、離れろ、ニア!」
「大丈夫です!!」
根拠不明の迫力を感じスパイクは僅かに気圧される。山小屋での時とは随分と印象が違う。
568
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:34:24 ID:HanxSGOQ0
どう考えても大丈夫な筈はないのだが、不思議とシータが攻撃を行う様子はなかった。
その代わりか、彼女は顔を伏せ何やらをぶつぶつと呟いている。
569
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:35:37 ID:HanxSGOQ0
※このレスは本文ではありません。
※該当部分を抜けたようなので、以下通常の仮投下に戻ります。
570
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:35:54 ID:HanxSGOQ0
「ニア……ニア……よくも……」
「私は、あなたを助けにきました」
「よくも……そうやって私の前に顔を出せますねっ!ニア・テッペリィン!!」
「私はあなたを助けます!!」
シータの口から漏れた怨嗟の声からすると、どうやら二人には因縁があるようだ。出会ったとすれば山小屋での別れの後か。
変化した状況に囚われながら、シータが直接的な手段に出ようとしたらいつでも飛び出せるようスパイクは慎重に目を細める。
「あなたは!!本当は良い人です!!酷いことができる人じゃありません!!」
「あなたに何が分かるって言うの!!ぬくぬくと!!幸せで!!暖かいところで私のことを笑っているくせに!!」
「ドーラおばさまから聞きました!!とても楽しそうに!!あなたがどれだけ素敵な方か、話してくださいました!!」
「おばさまの名前を出すのは止めなさい!!それは私のものなの!!おば様に優しくされるのも、暖かい仲間に囲まれるのも、全部私のものなのぉっ!!」
「優しさも!!仲間も!!誰のものでもありません!!」
やばいな、とスパイクは思いジンと視線を交わす。
これがただの喧嘩で、取っ組み合いでもして終わりとなるならそれでいい。
だがこの場合単純な戦闘力に差がありすぎる。今は憎しみで頭が一杯のようだがシータがその気になれば次の瞬間にでもニアを殺せるだろう。
ただでさえ切れていたところにもう一つ特大の火種がやってきて、シータの苛立ちはかつてないレベルだ。そういう状態を何と呼び表せばいいのか、スパイクにも分からない。
そして予想通り、シータは攻撃の手段をより直接的な方法に切り替えた。
「本当に口の減らない嫌な女……!!良いです、どうせ焼いてしまえばおしまいだもの。兵隊さん!こいつを……」
「言わんこっちゃねぇ……!」
間に合うか、と瞬時にニアの距離を計算したスパイクは飛び出そうとする。ロボットの挙動を考えるとタイミング的にはかなり際どい。
が、そんなスパイク達の挙動をまとめて押し止めたのはまたしてもニアの甲高い一声だった。
「やれるものなら、やってごらんなさい!!!」
571
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:36:15 ID:HanxSGOQ0
「な……!」
息を飲んだの音は誰のものか。あるいはその場にいた全員かも知れない。
ニアはビームの照準を定めたロボット前に一歩も退かず、それどころか組んでいた腕を大きく広げいつでも撃てと言わんばかりの構えを見せていた。
「そん、な……強がったて無駄ですよ!」
強がりでもはったりでもない。間違いなくニアは本気だ。
音が聞こえるくらいに噛み締められた口許が、ぴんと張り詰められた指先が、彼女の小さな体のあらゆる部分がそれを物語っている。
シータにもそれは分かっているのだろう。口ではもごもごと言い訳めいたことを呟いているが、明らかに気圧されている。
「あ、あなたは……どこまで……」
「あなたには、私は撃てません!!」
「何を……」
「私には、みんながくれたドリルがあるから!!」
ニアは親指でドン、と自分の胸を一突きする。
彼女のその仕草には重苦しいまでの力強さと天元へと気高く伸びる揺るぎなさが確かに示されていた。
「もうジモンだけじゃありません!!ドーラおばさまが!!ビクトリームさんが!!アニキさんが!!ドモンさんが!!ガッシュさんが!!クロスミラージュさんが!!
みんながくれたドリルです!!
無理を通して道理を蹴っ飛ばす、力を持つものです!!」
分かる奴には分かるだろう。彼女の持つ意思の力の、宝石の如き貴重さと得難さを。それを失わずにいるものがどれ程の輝かんばかりの力を持つのかを。
空を跳び跳ねるのがせいぜいの子供が勝てる道理など、ない。
「あなただって!!!間違いなく持っているものです!!!」
決まったか、とスパイクは思った。
ニアの言葉は正確にシータ心のねじくれた壁を叩き壊し、その核心を貫いた。
あらゆる感情が抜け落ちた空虚な表情となった少女は呆けたままに黙りこくる。
沈黙が降りた。だが状況は動き続ける。シータの心の中で何かが劇的に書き変わって行く。
ニアが真っ向から叩きつけた心底の言葉がシータを力ずくで奈落から引き戻した、と言ったところか。
シータの眼差しに涙が宿る。恐らくは、あと数秒。それでこの場は決する。
しかし。
「ごめん……なさい……」
溢れる直前の水瓶に落とされるのもまた、真心からの言葉。
「私が……パズーって子を殺し……ちゃった、から……シモンも守れなかったから……」
憐れな王女を再び奈落の底に舞い戻らせるのもまた、少女が心からの謝罪を込めた言葉だった。
「こ」
572
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:36:58 ID:HanxSGOQ0
涙が弾き飛ぶ程の勢いシータの瞳孔が収縮し、顔面が変形したと思える程の憎しみに表情が歪む。
まずいと感じスパイクが駆け出す。だが間に合わない。
「殺せぇ!!殺して、殺してしまってえぇぇつ!!パズウウウウ!!!」
ロボット兵から放たれた光がニアの胸を貫くきっかけになったのもまた、想い人
へのどうしようもない純粋な感情だった。
「ニアッ!!」
背中から倒れ込むニアを、地面に激突する寸前で抱き止める。
「あははは!やった!やりました!やっぱりあなたの言うことなんて全部嘘っぱ
ち!あははははっ!!」
「おい、ニア!大丈夫か。くそっ」
傷は明らかに急所を貫いている。手の施しようがあるのかどうかも分からない。まずい。
「スパ……イクさん……」
「喋れるならいい。黙ってろ」
「うふふふ!!ほんとに、もっと早くこうすれば良かった!!良い気持ち、ああなんて良い気持ち!!」
「おね……がいです……」
「なに……?」
白い肌をより一層蒼白に染めてニアが言葉を告げる。ほんの小さな呟きは、それでも耳障りな哄笑にかき消されることなくスパイクの耳を打った。
言われることは分かっている。誰よりも強いこの少女が死に際に思うことなど、一つしかない。
「シータさんを……助けてください」
「……」
あらかじめ決められていたかのように、ニアの言葉はスパイクの予想と同じだった。
それでもスパイクはすぐに返事をしない。静かに首を降り、追撃も忘れて笑いこけるもう一人の少女を見る。
「死んで当然!そんな女は死んで当然よ!!みんな死んでしまって!!待っていてね、パズー!!」
ぴくりと一瞬だけ瞼を振るわせ、そのまま何も言わずに視線を戻す。
そして口を開いた。静かに、口調だけはとても静かに告げる。
「……悪いが、そのお願いは聞けない」
「スパ、イクさん……?」
ニアが声を振るわせスパイク服を掴んだ。力は殆ど感じられない。
「俺はあの女を殺す。生かしておけない」
一瞬だけ浮かんだヴァッシュの姿に手を上げて別れを告げた。
お前の理想を貫けるのは、やっぱりお前だけだったよ。
「そん、な……」
「文句は後でいくらでも聞いてやる。今は傷を治せ……おいジン!」
抱え上げ、何も言わずすぐ後ろに立っていたジンにニアを慎重に渡した。
それだけで何も言わず、スパイクはくるりと背を向ける。
ジンは了承してくれたようだ。
「ああ……分かった。その子もこの子達もまとめてきっちりエスコートさせてもらうよ。
もちろん、出迎えの準備も含めてね」
「……悪ぃな、面倒を押し付ける」
背中越しに、ジンが肩を竦める気配がした。
「あの二人を守るのに気を取られて何もできなかったつけさ。
それに、文句は後で聞いてくれるんだろ?言っとくけど俺の文句は長いぜ?」
「そいつは楽しみだ……なっと!」
会話を切り裂くように打ち込まれたビームを合図にスパイクとジン達は正反対の
方向へ走り出した。
「じゃあな、ジン!さっきのところで落ち合おうぜ!」
「了解!さぁお嬢さん方もう一踏ん張りだ、気合いのいれどころだぜっ!」
「くすくすくす!!逃がしませんよ!もう絶対、一人も逃がしませんから!!」
573
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:37:29 ID:HanxSGOQ0
再び攻撃体勢に入ったシータとロボット兵にスパイクはステップを流し突っ込ん
で行く。
片腕でのバランスの崩れなど無理やり勘で補正した。
「パズーのために死になさいっ!うふふ!」
ロボットは動かないままビームを放ち、その隙にシータを引き寄せる。
ビームは正確にスパイクを狙うが貫く場所は一瞬前までスパイクがいた場所でしかない。
三発目をかわすと同時にスパイクが地を蹴った。全身の回転力を加え鞭のようにしなった回し蹴りがロボットの顔面を蹴り飛ばす。
「ビームに頼りすぎなんだよっ!こちとら馬鹿じゃねぇんだ!」
発射方向を定めるための首の動き。照準を絞るための僅かな機械の挙動。射出寸
前の一瞬のシークエンス。
相棒に「良すぎる」と評されたスパイクの目はその全てを余すところなく捉えていた。
着地した瞬間の力の方向を流しもう一発胴体部分を蹴り込む。
体がT字型になった瞬間を狙い連続して二発のビームが放たれた。軸足はずらさ
ず捻りだけで両方の射線から体を外す。
「てめぇみたいなやつを救おうとしてニアは撃たれた!ヴァッシュも死んだっ!」
発生した力をそのまま更に連続した数発の蹴りに変える。刃物でも振っているか
のような鋭い風切り音が胴体の同じ箇所を打ち、頑強なロボットの体をぐらりと
揺るがした。
「救われねぇ!全く救われねぇよっ!」
だめ押しの一撃として放たれたスパイクの全霊の跳び蹴りが倒れ様に放たれた光
線と交差する。
光線は大きくのけ反ったスパイクの前髪を焦がし、蹴りはロボットの巨体を轟音とともに地面叩き伏せた。背中が地面に着くよりも早く、スパイクはジェリコ941改を抜き放ち瞬時に身を起こしてシータへと狙いを定める。
ロボットの肩口で何が起きたかも分からぬように驚いた顔を見せるシータに即座に照準を合わせ、同時にほぼ無意識に指先に力を込めて――。
「ぐぅっ!?」
発射されればシータの眉間を穿っていただろう一撃はぐるりと体勢を変えジェット噴射で突っ込んできたロボットによって妨害された。
「くそっ、しまった!」
シータを肩に乗せたままがっちりと体を締め付けるロボットの両腕に成す術もなく、スパイクは苦痛に顔を歪ませる。
初めは地面と平行だった飛行はやがて上空へとその進路を変えた。
勢いを増したロボット兵はジェット噴射の軌跡も美しくそのままひたすら空へ、
空へと――。
574
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:37:51 ID:HanxSGOQ0
◇
空へと伸びる一条の光は虫の息の少女を抱え走るジンの目にも鮮やかに映った。
「あ、あのあれってもしかして……」
ゆたかも気付いたのか袖を引く。とうに気付いていたがだからと言って止まれない。止まる訳にはいかない。
「大丈夫。スパイクなら特大の花火に詰められたってひょっこり帰ってくるよ」
どんなときでも人の心を掴み輝かせる王ドロボウの笑みも今回ばかりはいつもの
切れがなかった。
状況は非常に切迫している。抱えながらでもニアから生気がどんどん抜けて行くのが分かる。
あの場から動いてないようだった奈緒と合流したとして、果してどれほどの処置ができる
か。
「…………」
汗を浮かべながらもジンは、ニアの唇が微かに動いたことに気付いた。
腕の中の少女が呟こうとした言葉は掠れて聞こえなかったが、唇の動きから言おうとしたことは分かる。
虚ろな光で空を見上げる少女が言ったのは次のような言葉だった。
「スパイクさん」
◇
575
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:38:25 ID:HanxSGOQ0
ほんの一区切りとはいえ意識を失ったのは蓄積された疲労が故か。
「ふふ、お目覚めですか?スパイクさん」
短時間の気絶から舞い戻ったスパイクを覗き込んで、亡国の少女が愉快そうに笑っていた。
体は未だロボットにがっちりと固定されている。空中では逃げることもできない。
「くすくす、とってもいい眺めですね。どうしますスパイクさん?まだ抵抗しますか?」
「……いや。打つ手なしだ」
いつでも発射できるようにぴたりと照準を合わせているロボットのビーム砲を見ながらスパイクは言う。
何と言うことのない口調だったのだが、シータはその返事がえらくお気に召したようだ。
「くすくすくす!ですよね、えぇそうですよね。あれだけ偉そうなことを言っても結局は何もできませんよね!私がどうしてあなたをすぐ殺さなかった分かりますか!ねぇ分かりますか!?」
けたけたと笑いながらスパイクに捻りのない問いかけを投げ掛けてくる。
それを言うためだけに生かしておいたと言うのだろうか。
だとしたら滑稽だとスパイクは思う。本当に、滑稽だ。
「それはあなたにうんと怖がってもらうため!あなたにはここから墜落死してもらいます!怖いですか?でもだめ。パズーはもっと怖かったに違いないんですから!」
どうだ、とばかりにスパイクにぐいと顔を近づけてくる。
怯えて命乞いでもしたら満足なのだろうか、この少女は。
「……っとにどうしようもねぇガキだな。まったく」
「負け惜しみですか?ふふふ、もっと泣いて謝ってみたらどうです?止めませんけど」
「それで。俺を殺して、他のやつも皆殺して、晴れて好きな男とご対面、か?」
顔を上げ、やけに低くなった空を見る。
雲が近い。ロボットが照準を合わせ直す音が聞こえた。
「ええそうですその通り!もう何を言っても無駄ですよ!あの女は死んだんですから!うふふ!」
「いや、もう何も言わねぇよ。好きにするといい」
「え?」
シータのがたがたとした動きがぴたっと止まった。
何も言われなくなったのが逆に不安とでも言うのだろうか。そういうところがガキだと言うのだ。
「夢は一人で見るもんだ。せいぜい良い夢見ろよ。……覚めない夢を、な」
「お、脅しだと思ってるんですね!私は本気ですよ!本当にやりますよ!!」
「……やれよ」
命乞いどころか怯えの色さえ全く見せないスパイクに逆にうながされシータは。
シータは。
576
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:38:50 ID:HanxSGOQ0
「う……」
シータは何が何だか分からなくなった。
何故スパイクが少しも怖がらないのかが分からない。何故急に怒らなくなったの
かが分からない。かけられる言葉の意味が分からない。
結局、彼女にできるのは泣いて喚いて従順な従者に命令することだけ。
「やって!!もうこいつを殺して!!兵隊さん!!」
ロボットの手から解き放たれ、スパイクの体が静かに落下を始める。
シータにはそれが愉快な程にゆっくりに見え、ぐにぐにに歪んだ顔をさらに歪ま
せた。
少しずつ、スパイクの体が落ちていく。速度も僅かずつだが確実に上がって行く。
落下中のスパイクが銃をむけ、こちらに狙いを定めるのが見える この瞬間、シータの表情は正に泣き笑いそのものになった。
やっぱり死ぬのはいやだったんだ。さっきのは全部負け惜しみだったんだ。
スパイクが引き金を引く。
一発目。さっとふられた兵隊の腕が銃弾を弾く。
二発目。良いことを思い付いた。最早命令せずともシータの意を汲んだ兵隊が、彼女の思惑通りビームで銃弾を丁寧に溶かす。
三発目。今度は銃弾ではなく小汚ない石ころを投げつけてきた。
完全にやけになったと見たシータは愉悦の極みとなり、兵隊に命令を下す。
放たれたビームは狙いたがわず黒く汚い石くれに命中し、瞬間許容量以上のエネルギーを受けた太陽石は眩い輝きを放ち――。
そして、彼女の世界は終了した。
577
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:39:11 ID:HanxSGOQ0
◇
みんながみんな、疲れきっていました。
私達の不注意のせいでシータさんが危険だってことに気付かなかった、その結果です。
「う、あぅ……うっく」
舞衣ちゃんはずっと泣いています。顔を両手に埋めて、ずっと。
やっぱり私には何て言えば良いのか分かりません。舞衣ちゃんの気持ちは分かる
はずなのに、どうしてか体が冷えてたまりません。
「ちょっと鴇羽、いい加減にしてくんない?あんまりめそめそされるとこっちまで気が滅入るんだけど!」
「だって……だって……うああああ!」
「ったく……!」
とっても怖い声で怒っているのが奈緒さんです。
年下のはずなのに私よりとてもしっかりしてそうで、体中傷だらけなのに私よりずっと頼りになりそうです。
でも、怒ったその声はとても怖くて……臆病な私はその度に体が震え助けを求めるように小さな友達を抱きしめます。
「よしなよ」
この場で一人だけ立っていたジンさんが言いました。
誰よりも疲れているはずのジンさんは全然そんな様子もなくまるで運動の得意な子がマラソンをした後みたいに元気です。
私は、視界がぐるぐる回るような変な感じが治りません。とても疲れました。
すぐに暗くなっちゃう私と違って、ジンさんは凄いと思います。
でも分かりません。何故そんなに平気そうにしていられるんですか?
だってあの女の人。ニアさん。ニアさんが――
「ニアに笑われちまうぜ」
ニアさんはもう、どこにもいません。
578
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:39:44 ID:HanxSGOQ0
◇
歌は、聞こえなかった。
「……さん……!……イク、さん……」
代わりに聞こえるのはか細い、それでいて必死の呼び声だ。
スパイクは目を開け、色の違う一対の瞳に遠くなった空を映す。
いつかと同じようなぽっかりとした歪みが広がっているのが見えた。
「スパイクさん……良かった……!」
「ニア……?」
そこでスパイクは誰に、何を言われていたのかようやく気付いた。
どうじにおぼろ気だった記憶を覚醒させたスパイクはやわらかな植え込みに横たえられていた体を起こす。
「ニア……!お前どうして……」
「良かった……。軟らかい場所を選んだつもりだったけれど……やっぱり心配で……」
「そんなことを聞いてるんじゃない!お前怪我は……」
そこまで言ってスパイクは気付く。ニアの両の瞳に爛々と光渦巻く緑色の輝きに。
その光はこれまで見せた彼女の笑顔と同じく、とても輝いて見えた。
同時に、それが彼女の命の最後に煌めきであることも自然と分かった。
「スパイクさんまで死ぬのは嫌ですから……ストラーダさんに必死でお願いしました……ジンさん達にも一杯無理を言って……ふふ」
「ああ……お陰で助かった」
槍のようなものを構えて弱々しく微笑むニアにスパイクは言う。
良くみるとニアの片腕は完全に肩から外れていた。
スパイクには、傷一つない。
「良かった……」
「ニア……おい、ニア!」
ニアの目から緑色の輝きがふっと消え、スパイクの横手に倒れ込む。
抱き抱える。最後の一瞬までしてやれることは多くない。
「山、小屋……ありがとう、ござい、ました……私、とっても、不安で……」
「礼を言われる程のことじゃない。飯も食ってやれなかった」
「ルルーシュ、さんにも……お礼を……」
「……そうだな。必ず伝えてやる」
「あり、がとう……」
「……」
それきり、人のことばかり気にかける純粋の少女は喋らなくなった。
スパイクは抱き抱えたままだった小さな体をそっと横たえる。
そうして、スパイクもまた横になりぼぅっと空を見上げた。
空に浮かんだ歪みは大分小さくなっている。
しばらくそのまま何もせず、やがてかつかつとした足音が聞こえてくるまでそうしていた。
視線をやる。一見するとただの無表情に、しかし無言の気遣いを浮かべて、変わらぬコート姿のジンが立っていた。
「よぉ、スパイク。無事かい」
「ああ……無事だ」
空は完全に元通りとなり、穴が空いていた場所は何事もなかったかのような青さを取り戻している。
横で眠る少女は、もう目を覚ますことはない。
体はぼろぼろになる一方で、やることばかりが増える。
それでも。
「生きてるよ」
SEE YOU SPACE COWBOY
579
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:40:08 ID:HanxSGOQ0
【C-5/住宅街/二日目/午前】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(大)、心労、左腕から手の先が欠損(止血の応急手当はしましたが、再び出血する可能性があります)
左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし) 、腹部に痛み
[装備]:ジェリコ941改(残弾1/16)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×2欠損)ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)
スコップ、ライター、ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、風水羅盤@カウボーイビバップ、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、防弾チョッキ(耐久力減少、血糊付着)@現実
日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、レーダー(破損)@アニロワオリジナル
ウォンのチョコ詰め合わせ(半分消費)@機動武闘伝Gガンダム、高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿、
水上オートバイ、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
1:……
2:柊かがみのところへ行く。
3:ウルフウッドを探す(見つけたあとどうするかは保留)
4:カミナを探し、その後、図書館を目指す。
5:ルルーシュにニアの伝言を伝える。
6:テッククリスタルは入手したが、かがみが持ってたことに疑問。対処法は状況次第。
7:全部が終わったら死んだ仲間たちの墓を立てて、そこに酒をかける。
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。 会場のループについても認識しています。
※ドモン、Dボゥイ(これまでの顛末とラダムも含む)、ヴァッシュ、ウルフウッドと情報交換を行いました。
※シータの情報は『ウルフウッドに襲われるまで』と『ロボットに出会ってから』の間が抜けています。
※シータのロボットは飛行、レーザービーム機能持ちであることを確認。
580
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:40:24 ID:HanxSGOQ0
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)、全身に切り傷
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING(刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式
予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、
短剣 、瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4
ナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)、偽・螺旋剣@Fate/stay night
デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7、ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
1:柊かがみを助け出す
2:ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
3:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
4:マタタビ殺害事件の真相について考える。
5:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※スパイクからルルーシュの能力に関する仮説を聞きました。何か起こるまで他言するつもりはありません。
※スパイクからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。今の所、他言するつもりはありません。
※ルルーシュがマタタビ殺害事件の黒幕かどうかについては、あくまで可能性の一つだというスタンスです。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※舞衣、ゆたかと情報交換を行いました。
581
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:40:35 ID:HanxSGOQ0
【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:疲労(大)、右手打撲、左手に亀裂骨折、力が入らない、全身に打撲、顔面が腫れ上がっている、
左頬骨骨折、鼻骨骨折、更に更にかがみにトラウマ (少し乗り越えた)、螺旋力覚醒
[装備]:無し
[道具]:黄金の鎧の欠片@Fate/stay night
[思考]
基本方針:とりあえず死なないように行動。
1:とりあえずはジン達と行動。
2:かがみを乗り越える。そして自分の手で倒す。
3:静留の動きには警戒しておく。
[備考]:
※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
※ドモンと情報交換済み。ガンダムについての情報をドモンから得ました。
※第2、4回放送はドモンと情報交換したので知っています。
※奈緒のバリアジャケットは《破絃の尖晶石》ジュリエット・ナオ・チャン@舞-乙HiME。飛行可能。
※不死者についての知識を得ています。
※ヴァルセーレの剣で攻撃を受けたため、両手の利きが悪くなっています。回復時期は未定です。
※かがみへのトラウマをわずかに乗り越えました
※第5回放送を聞き逃しました。
シェスカの全蔵書(数冊程度)@鋼の錬金術師、
奈緒が集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』) 、
黄金の鎧の欠片@Fate/stay nightが【C-5】のどこかに撒き散らされています。
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:発熱(中)、疲労(極大)、心労(中)、罪悪感、螺旋力覚醒
[装備]:フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]
基本-みんなで帰る
1:Dボゥイのところへ戻る
2:かがみをラッドから助け出す
3:舞衣がDボゥイを好きなのかどうか気になる
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※再び螺旋力が表に出てきました。
※ねねねと清麿が生きていることに気がつきました。明智の死を乗り越えました。
※Dボゥイの肉体崩壊の可能性に気がつきました。
※舞衣との会話を通じて、少し罪悪感が晴れました。
582
:
亡き王女のためのバラッド
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:40:45 ID:HanxSGOQ0
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、シーツを体に巻きつけただけの服、引っ張られた頬、首輪なし、全身に軽い切り傷
深い罪悪感と絶望
[装備]:薄手のシーツ、 ゲイボルク@Fate/stay night
[道具]:なし
[思考]: 皆でここから脱出
1:Dボゥイに会いたい。
2:ゆたかがDボゥイを好きなのかどうか気になる
[備考]
※HiMEの能力の一切を失いました。現状ただの女の子です。
※静留がHiMEだったと知っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※ギアスの効果は切れた模様です。
※螺旋力覚醒
※ジン、スパイク、ゆたかと情報交換を行いました
※ 会場の上空で太陽石エネルギーが解放されました。会場への影響があるのか、あるとすればどのようなものなのかは不明です。
【ニア・テッペリン@天元突破グレンラガン 死亡】
583
:
眠れ、地の底に
◆10fcvoEbko
:2008/08/25(月) 20:41:48 ID:HanxSGOQ0
◇
――ここはどこかしら?私は?
――ふむ。またしても「ここ」に現われることになろうとはな。
――あなたは?
――見覚えはないかね?
――神父さま……言峰神父さまですか?
――なるほど。君がそう認識する限りに置いて私は「言峰綺礼」の形を取るのだろうな。シータよ。
――シータ……そう、私はシータ。
――思い出してきたかね?君という存在ガが一体何者であり、これまで何をなしてきたのか。
――ええ……思い出しました。くすくす。ねぇ神父さま、私とっても頑張ったんですよ。
――そのようだな。見る手段はおろか道理すらない筈の私もそれを知っている。
――これも些事という訳か。
――些事?
――いや、気にせずともよかろう。
――くすくす。神父さま、私あなたとお話がしたいとずっと思っていました。
――そうか。私も気味の結果を見届けられなかったのは心残りではあった。
――くすくす。神父様は何があったかはご存知なのではないのですか?
――君の口から聞きたいのだよ。私というほんの僅かな因が君にどのような果をもた
らしたのか。
――それらは君の口から聞いてこそ意味のあるモノだ。
――君の言葉で。君の感情でね。リュシータ・トエル・ウル・ラピュタよ。
――分かりました。それじゃあお話をしましょう、神父さま。
――この計らいが、一体いつまで許されたものか。それは分からないがな。
――我々という存在がここにある間は、ゆるりと楽しむとしよう。
――くすくす。
――ふむ。
――くすくすくす。
――存外に、面白い話が聞けるかも知れんな。
【リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ@天空の城ラピュタ 死亡】
584
:
宿命の対決!グレン V.S ラガン(後編)
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:32:15 ID:WEb3o3Uo0
キュゥン、キュゥン、キュゥン。
土煙が辺り一面を覆っている。
ヴィラルの放った渾身の一撃は凄まじいまでの爆風を生み、それがこの塵を舞い上げたのだ。
空気に占める砂の濃度は高い。
入り込んだ人間がいれば、ここを砂嵐の中だと錯覚するだろう。
風はなく、塵はただゆらゆらとたゆたっている。
キュゥン、キュゥン、キュゥン。
だが、視界を塞ぐそんな砂霧も時間が経てば少しづつ晴れてくる。
いかに風がなかろうと、空に舞った塵は重力に従って順々に落ちてくる。
カーキ色一色に沈んでいた風景が徐々に精彩を取り戻す。
キュゥン、キュゥン、キュゥン。
色を取り戻してみれば、そこは川辺の住宅街。
低いマンションや一戸建ての住宅がごちゃごちゃと立ち並ぶごく普通の街。
戦う二人はいつの間にか崩落のステージを抜け出し、今では随分遠くまで来てしまったのだろう。
その街は破壊のあとが薄く、建物は比較的原型を留めていた。
キュゥン、キュゥン、キュゥン。
しかし、そんな一見平和に見える場所もこの凄惨な殺し合いの舞台である以上、その影を拭い去ることはできない。
空を覆っていた砂がほとんど晴れ、見通しがきくようになってみると、それがよく分かる。
この住宅街の東。グレンが降り立った場所からほんの200mほどの地点にその異常はあった。
街が唐突に途切れ、底の見えない断崖が左右に果てしなく続いている。
その端を目で追えば、この断崖がただの崖ではなく、ぽっかりと空いた巨大な穴だと気づく。
キュゥン、キュゥン、キュゥン。
そう、ここはB−6。B−7とのエリア境界線付近。
かつて黒い太陽による災禍が巻き起こった刑務所、その隣のエリア。
大地に空いた巨大な穴は大怪球が齎した破壊の爪痕だ。
この街はそのおぞましき大崩壊からかろうじて難を逃れた幸運の地なのである。
キュゥン、キュゥン、キュゥン。
そしてその幸運の地が、男達の戦い、その第二ラウンドの舞台となる!
「おい、キュンキュンキュンキュンうるせえぞ!
それとも何かぁ?テメエのドリルは犬コロみてえにきゃんきゃん唸るしか能がねえのかぁ?」
カミナの悪態が聞こえる。
刑務所瓦解の難を避け、わずかに残った民家、その一つを足の下に敷きながらグレンに乗った男が喋る。
「グッ、貴ッ様ァァァァァァァァ〜〜〜〜〜〜」
グレンを貫き、真っ二つにするはずだったラガンは道半ばで止められたのだ。
確かにラガンのドリルはグレンの頭頂部を破壊し、グレンの機体にめり込んではいる。
さらにその破壊を進め、予定通り機体を引き裂こうとキュゥン、キュゥンとドリルを回し続けてもいる。
しかし、グレンの赤い腕と黒い掌にガッチリと押さえられ、そこから先にはどうしても進むことができない。
「どぉでぇ!カミナ流、真ドリル白刃取りだぜ!
恐れ入ったか!」
「カミナ……流石にそのネーミングは無理矢理すぎませんか……」
「おぉのれええええええええええええ!!!!」
585
:
宿命の対決!グレン V.S ラガン(後編)
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:33:23 ID:WEb3o3Uo0
確信した勝利に傷をつけられ、ヴィラルの手に怒りが篭る。
バーニアを再び吹かし、押し通ろうと力を篭める。
しかしカミナも負けてはいない、暴れるラガンを押さえつけ、通られまいと押し戻す。
操縦桿に気合を篭めて、腕に力を送り込む。
「シャマル!もう一度あの魔法を……」
力ずくでダメならと、ヴィラルはパートナーの絡め手に頼る。
「……ダメよヴィラルさん。ここで鋼の軛を使えば、私たちも巻き込まれるわ」
しかし、その返事は期待には到底、そぐわないものだった。
鋼の軛、それは十メートル弱にも及ぶ光の刃を地上から発生させ
それによって相手を撃破したり、動きを封じたりする魔法だ。
この密着した状態で無理に使えば、敵ごとこちらのラガンも貫きかねない。
「クッ……そうか……」
あてがはずれ、ヴィラルの表情が歪む。
あの魔法が使えないとすると、ここからは単純な力比べだ。
ヴィラルが押し、カミナが押し返す。
事態は膠着し、戦いは五分の状態に戻される。
(五分だと?いや、違うな。
今までこちらが押していたのを、受け止めて膠着に持ち込んだんだ。
戦いの流れは今、確実に向こうにある。
それに……)
ガリッ。
ヴィラルがその懸念を抱くのとほぼ同時、天井からひっかくような不穏な音が響いた。
「……さぁてヴィラル、そろそろお遊びはおしまいだ。
シモンのラガンを返してもらうぜぇ?
テメエらが大人しく出てきて負けを認めんならそれでよし。
人を殺そうとしたおしおきはきっちり受けてもらうが、命まで取るたぁ言わねぇ。
だが、もし、テメエらがあくまでまだやるってんなら……腕ずくで行かせてもらうぜッ!」
ガリッガリッ。
その宣言と同調するように、天井からはまたも不気味なひっかき音。
ここに至ってヴィラルは自らの懸念が現実のものとなったことを知る。
(……やはり俺達をガンメンから下ろしにかかったか。
まずいな。瞬間的な爆発力ならこのガンメンは奴のガンメンに勝る。
しかし、持続的なパワーならあちらの方が明らかに上だ。
せめて離脱できれば戦局を仕切りなおすこともできるが、奴とてそれを許すほど馬鹿ではあるまい。
……クソッ!どうすればいい!?)
足掻くように機体をばたつかせ、暴れるようにバーニアを吹かす。
「おおっと!逃げようったってそうはいかねぇぜ!」
しかし、グレンの五指はラガンをしっかと掴み、揺るぐ様子はまるでない。
形勢逆転。
そんな言葉が頭の中にちらついた。
ガリッガリッガリッ。
先ほどよりも強い衝撃がラガンの機体を大きく揺する。
巨大な指の一本がコクピットの風防を激しく擦る。
シャマルがこっちを見ている。
口を真一文字に結び、しかし瞳には不安を湛えて。
その儚げな顔がヴィラルの焦りを加速する。
586
:
宿命の対決!グレン V.S ラガン(後編)
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:34:05 ID:WEb3o3Uo0
(……どうする?ここは一旦、大人しく降参するか?
そうすれば少なくともシャマルの命は……
いや、ダメだ!奴が約束を守る保障などどこにある!?
……だが、それ以外にどんな選択が……
クソッ、考えろ、考えればきっと何か……
………………うっ、クソッ、こんなときにルルーシュがいてくれれば……)
頭を絞る。
手持ちの支給品を再検討する。
今まで聞いたシャマルの魔法に使えそうなものはないか思い出す。
しかし、そのどれもが徒労に終わる。
現状を打開できそうなものはその中にはない。
希望の光を見出すことはできない。
ゆっくりと、ゆっくりと絶望の影がヴィラルの心に忍び寄る。
ガリッガリッガリッガツッ。
そうこうしている間にも、コクピットへのアタックは続く。
風防パーツのうち一つが、グレンの指によってわずかにこじ開けられ、隙間から太陽の光が覗く。
装甲を完全に剥がされるのも時間の問題だ。
(……ちくしょう!
ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!
ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!
俺は!俺達はこんなところで終わるわけにはいかない!
……俺は誓ったんだ!俺があいつの道標になると!
俺があいつを守ってやると!
二人でこの殺し合いを生き抜くと!
それが、それがこんなところで終わってたまるかッ!)
ガリッガリッガリッガツッガツッ。
次々に風防が破られる。
もうすぐ、グレンの指がここまで入り込んでくる。
しかし、決定的な状況が迫る中、ヴィラルの体に入り込んできたのは絶望ではなく、他の、もっと熱い何か。
(……そうだ。俺は忘れないぞ。
ビャコウが俺に見せてくれた姿の意味をッ!
胸の誇りに懸けて、立てた心の剣をッ!
そうだッ!俺は忘れないッ!
最後に勝つのは……勇気ある者だけだッッッッッ!)
デイパックに手をいれ、しまってあった大鉈を引っ掴む。
尖った歯をもう一度かみ締め、迫り来るグレンの腕を睨みつける。
空いている方の手でシャマルを自分の後ろに抱き寄せると、心の中で戦う覚悟が燃え上がるのを感じた。
そうだとも。ガンメンを失おうとも、自分にはこの鍛え上げられた戦士としての体がある。
「来るなら来いッ!!返り討ちだッッ!!」
奇跡が起きたのはヴィラルがそう吼えた、まさにその瞬間だった。
◆
「くっ!何だこりゃ!?どうなってんだ!!?」
突然の出来事にカミナは動揺を隠せない。
それもそのはず。
今までは何の変哲もなかった手の中のラガンが、突如、全身から目も眩まんばかりの激しい緑光を放ち始めたのだから。
緑の光はラガンから空へ、螺旋を描くように伸びている。
その様はさながら、ドリルが天に突き刺さり、穴を穿とうとしているかのよう。
「ま、まさか、こいつぁ!?」
587
:
宿命の対決!グレン V.S ラガン(後編)
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:35:11 ID:WEb3o3Uo0
カミナはその光に見覚えがあった。
いや、見覚えがあるどころの話ではない。
その光は彼にとって忘れたくても忘れられないものだった。
それは屈することなく敵と戦ってきたグレン団の勇気の輝き。
それは彼と仲間の危機を幾度も救ってきた希望の輝き。
そしてそれは、カミナとシモンの間に交わされた絆の輝き。
それが、どうして。
カミナの顔色から血の気が引いていく。
「カミナ!これはどういう……?この光は一体何なのですか!?」
「………………グレン、ラガンだ」
「は?」
「分かんねぇのか!?合体だよ!合体ッ!!
奴のラガンがこっちのグレンを乗っ取って、合体しようとしてやがるんだッ!!」
「の、乗っ取るですって!?そんな!どうしてそんなことが!」
「分かんねぇ!分かんねぇが!
とにかくラガンってのはそういう力を持ってやがるんだよッッ!!」
接触した機体に接続し、そのコントロールを奪う。
これは悠久の昔、螺旋族が怨敵と戦いを繰り広げていたころからラガンに搭載されていた特徴的な機能である。
搭乗者の螺旋力を相手の機体に流し込み、そのボディを自らの血肉にしてしまう。
流し込む螺旋力が大きければ大きいほど、巨大な機体を乗っ取ることが可能になる。
乗っ取られた機体は完全にラガンの支配下に置かれ、その形状は螺旋力の作用により思うがまま。
大グレン団の旗印的ガンメン、グレンラガンの成立メカニズムであり
カミナがこちらの世界に来る直前、決行しようとしていたダイガンザン奪取計画のキーとなる機能。
「これは……何だ?何が起こった!?」
無論、発動させたヴィラルとて、こんな能力については知る由もない。
決死、いや、決生の戦いを心に決めた直後の突然のできごとは、搭乗者である彼をもまた混乱させていた。
「ヴィラルさん!これ見て」
「何?」
傍らのシャマルが前方のモニターを指差す。
そこにはグレンとラガンを模した人型と、ラガンから血管のように伸びる緑の曲線が映し出されていた。
「まさか、これって」
「………………!」
シャマルと目を見合わせたヴィラルにある種の直感が走る。
シートの外から内へと体を向けなおし、再び操縦桿を握る。
その瞬間、全ての事実が彼の中に流れ込んだ。
「これはッ……」
「ヴィラル……さん?」
「そんな心配そうな顔をするなシャマル!
勝てる!この戦い、勝てるぞッ!!
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!」
588
:
宿命の対決!グレン V.S ラガン(後編)
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:36:02 ID:WEb3o3Uo0
渾身の気合を篭め、ヴィラルは叫ぶ。
すると、それと呼応するように緑の螺旋が巻き起こる。
操縦桿を通り、ドリルを通り、ヴィラルの螺旋力がグレンに流れ込む。
モニターの血管がググッと、押し込むように伸びた。
「こ、これは……」
「…………………………」
グレンのコクピットでは早くもその影響が現れ始めていた。
側面のモニター一面に映し出された緑のカミナマーク。
グレンの主を示すそれが徐々に上からやってきた赤のマークに侵食されていく。
赤のマークの中心には片目を隠し、牙をむき出した男――ヴィラルの顔。
「コントロールシステムを奪われているというのですか……こんなことが……」
ヴィラルのマークはあっという間にカミナのマークを食いつぶし
早くも全体の半分を占めるまでに広がっていた。
その影響を受けたのだろうか、これまでラガンのコクピットを引っ掻いていたグレンの指が、止まった。
「…………………………なめんじゃねえ」
そのとき、カミナが不意に口を開く。
グレンに起こる異常を静観し、沈黙を守っていた男がぽつりと呟く。
「……テメエが俺のラガンを奪う?
……シモンの魂だけじゃ飽き足らず、俺の魂までも?
なめんじゃねえッッッ!!
俺の、大グレン団の魂は、そんなに安いモンじゃねえんだよおおおおおおおおおおおッッッッ!!」
静かに燻っていた怒りが臨界を超えて破裂する。
叫びの声に導かれ、カミナの体にも緑の螺旋が立ち昇る。
光の奔流が溢れ出し、そのままカミナの体を包む。
荒ぶる螺旋に沈むコクピットで、赤の氾濫がピタリと止んだ。
「おッれッをッ!だぁれだと!思ってェ……やがるゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!!!」
全身に思い切り力を込め、まるで魂を吐き出すかのように、カミナは腕に気合を篭める。
螺旋の渦をその肉体から捻り出す。
そうして生まれたパワーは、グレンの体を通し、敵の元へと逆流する。
寄せた波が引くように、赤いマークが消えていく。
「グ……何だと……」
一転して、焦るはヴィラル。
一度は奪いかけたはずのコントロールが再びその手を離れていく。
グレンの全身に伸びかけた緑の血管は、エネルギーの逆流に耐え切れず、元の短さに戻ってしまった。
「おのれ……まだ足りないというのかッ!
俺の力が奴に劣っていると……」
操縦桿を握る手がわなわなと震える。
牙を剥き出し、目を血走らせ、ラガンに螺旋のエネルギーを注ぎ込む。
しかし、彼の奮闘も虚しく、彼の侵略はカミナの圧倒的パワーによってすぐに押し戻される。
589
:
宿命の対決!グレン V.S ラガン(後編)
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:36:53 ID:WEb3o3Uo0
決してヴィラルの螺旋力が弱いわけではない。
だが、今回は相手が悪い。
カミナはシモンと共にその螺旋の力でガンメンを駆り、ずっと戦ってきた男。
ヴィラルよりもこの力の扱いにはずっと慣れている。
経験の差が結果に現れてしまうのはある意味で仕方のないことだ。
だが、仕方ないで済ませてしまえるほど、ヴィラルが背負っているものは軽くない。
今の彼に必要なのは、埋めがたい経験の差を埋める力をひねり出すこと。
無理を通して道理を蹴っ飛ばす男に対し、無理を通して道理を蹴っ飛ばすこと。
そう、無理でもやらねばならないのだ。
ここを生き残り、勝利の栄光を掴むためには、何としても、何としても……
握りすぎた手から血が垂れる、全身に脂汗が浮かぶ。
ヴィラルが気合の咆哮をあげ、再び無謀な戦いへと身を投じようとしたそのとき
「ヴィラルさん」
反射的に顔をあげると、そこには決意の眼差しを宿した女の顔があった。
シャマルの手がヴィラルのそれに、重なる。
◆
「俺の……気合が……負ける?」
信じられない。
カミナの表情にはそんな感情がアリアリと浮かんでいた。
操縦桿を掴んだまま、ただ呆然と見開いた目には有り得ない光景ばかりが映されている。
赤いマークの侵略。
カミナが渾身の気合で打ち払ったはずのその脅威はほとんど間をおかず、再度グレンを冒していた。
「クソッ……何でだ!何でだよ!」
しかも、今度の侵攻はさっきのものとは一味違う。
いくら気力を振り絞り、螺旋の力を注ぎ込んでも、今度は赤マークの侵攻を止めることができない。
力を篭めるたび、相手のスピードは確実に遅くなるものの、どうしてもそこから先へ進めない。
押し戻すことができないのだ。
「……ちくしょう……いきなり圧力が強くなりやがった!
どうしてだ?ヴィラルは何をやりやがった……?」
「!!……カミナ、マークを見てください」
「あぁ!?マークが一体、どうしたって……!!」
必死で打開策を考えるカミナへ横槍を入れるようにクロスミラージュの声が飛ぶ。
苛立ち紛れに振り向いた彼はそれを見た。
侵攻してくる赤のマーク。
そのデザインが先ほどとは微妙に異なっている。
さっきは赤い枠に簡単なヴィラルの顔が模られていただけだった。
しかし、今は赤い枠の中にもう一つ、ハートを模したような図形があり
その左右に、ヴィラルと……シャマルの顔があった。
「……そういうことかよッ!!」
螺旋力の圧力が強くなった理由。
考えてみればその答えは実に簡単。
590
:
宿命の対決!グレン V.S ラガン(後編)
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:37:32 ID:WEb3o3Uo0
「野郎……二人で押してやがるなッ!」
ラガンのコクピットの中では二人の男女が折り重なるようにして座していた。
ヴィラルの背中にシャマルが優しく覆いかぶさるような姿勢。
まるで二人羽織りのような密着した姿勢で二人はグレンと戦っていた。
それぞれの手は同じ操縦桿へと伸び、強く、しっかりとそれを握っている。
二人の体からは輝く燐光を放つ緑の奔流が立ち上り、ゆらゆらと狭い空間を照らしている。
一人でダメなら二人でやってみる。
このときヴィラルとシャマルがとった戦法は実に単純明快なものだった。
だが、単純ゆえに穴がなく、カミナにとっては脅威以外の何者でもない。
「こんぉんのぉおおおおおおおおおおお!!!!!!
負けてェたまるかぁああああああああああああああ!!!!!」
カミナも気勢をあげて押し返すが、如何せんパワーが足りない。
一人で二人分の螺旋力に対抗するのは、いかなカミナといえども難しい。
じりじりと緑のマークが喰われていくのを、ただ指をくわえて見ているしかない。
数の差。
それは戦場においてはあまりに決定的なものだった。
特に、このような単純な力比べにおいてはなおさら。
「ハアッ……ハアッ……ハアッ……」
有効な手を打つことができぬまま、ただ、時間だけが過ぎていく。
はじめは声を絞って叫びをあげていたカミナももう随分と大人しくなってしまった。
もう、だめか。
そんならしからぬ弱気がカミナの心を濡らし始める。
「……カミナ、作戦があります」
クロスミラージュが唐突に声をあげたのはそんなときだった。
「……作戦ん?」
疲労に塗れた声でカミナが問い返す。
そのあと、彼は一瞬だけ虚空を見つめ、考えるそぶりを見せると、訊いた。
「勝てんのか?」
「……ええ、多分」
その答えにカミナは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「多分もありゃあ十分。
……どうせこのままじゃジリ貧だ。
よぉ〜し、この喧嘩、テメエに任せるぜ、クロミラァ」
そう言って目を輝かせるカミナの心から弱気の影は早くも消えていた。
◆
「いけるわ……確実にこっちが押してる……このまま行けば……」
「油断するなシャマル。奴は腕のいい戦士だ。何を仕掛けてくるか分からん」
591
:
宿命の対決!グレン V.S ラガン(後編)
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:38:06 ID:WEb3o3Uo0
ラガンのコクピット。
ヴィラルはこの戦い二度目となる勝利の予感に身を震わせながらも
最後まで油断せぬよう、己の気を引き締めていた。
(ラガンインパクトのときはまんまと受け止められ、逆にピンチを招いてしまった。
もしかしたら、あのときの俺には僅かな慢心が遭ったのかもしれん。
それが技に隙を生み、つけ込まれる元になってしまったということも十分にあり得る。
……だが、二度はないぞカミナ!
今度こそこのガンメン乗っ取りを成功させ、完成した合体ガンメンで仲間もろともあの世へおくってやる!)
螺旋力の注入に集中しながらも、ヴィラルはカミナの不穏な動きを警戒していた。
だから、それが始まったときもすぐ、異変に気がつくことができた。
「何?」
きっかけはラガンに伝わってきた振動だった。
上下に何かを揺さぶるようなごくごく軽い振動。
不審に思ったヴィラルがその原因を探る。
出所を見つけるのは実に簡単だった。
ラガンを頭の上に戴いたグレンが少しずつ少しずつ、移動を始めていたのである。
「何のマネだ?」
「………………」
問いかけるが答えは返ってこない。
何かおかしい。
雰囲気に不気味なものを感じ、ヴィラルはグレンの歩みを止めようとする。
しかし、まだ支配率からすれば相手のほうが上なのか、思うように機動を操れない。
フラフラと歩くコースを乱れさせることはできたものの、歩みを止めるまでには至らない。
「くっ、こいつ、一体、何を狙って……」
「ヴィラルさん、見て!」
カミナの目的が分からず、苛立ちを募らせていると、シャマルからほとんど悲鳴のような叫びが聞こえる。
そちらを見ると、思わず目を見開いた。
グレンの進行方向、これから歩いていこうとしている道路の先に、信じられないほど幅の広い断崖が広がっていたのだ。
地図にはなかった地形に頭を混乱させながらしかし、ヴィラルはある事実に思い当たる。
この場所にかつてあったものを想像してみれば簡単なことだ。
「刑務所跡だと!?こんなことになっていたのか!?
……まさか、貴様ッ!?」
広がる崖の雄大さに心を震わせるのも早々、ヴィラルの頭にある悪い予感が閃く。
カミナは答えず、グレンは歩みを止めない。
「やはりそうかッ!貴様、俺達ごと、あの谷に身を投げるつもりだなッ!」
「何ですって!?」
提示された恐怖の未来予想に、シャマルが思わず焦りの声を上げる。
確かに、冷静に考えてみればカミナにとって、身投げというのは十分にあり得る選択肢だ。
このまま、第三者の介入がなければ、カミナがグレンを乗っ取られるのはほぼ必然。
そうなれば、お互いの戦力比は合体ロボット対生身。
決闘はたちまち虐殺へと早変わりし、カミナが生き延びられる道は万に一つもない。
しかし、まだグレンを動かせるうちにその足を動かし、あの巨大な奈落に身を投げれば、おそらくは相打ち。
運がよければ、自分だけが生き延びるという未来もあり得る。
ここで身投げを選ぶというのは確かに合理的。利のある選択。
だが。
592
:
宿命の対決!グレン V.S ラガン(後編)
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:38:42 ID:WEb3o3Uo0
「バカ野郎!何でこのカミナ様がそんな自殺みたいなことしなくちゃなんねえんだ!!
見損なうんじゃあねえ!」
「嘘をつけッ!では何故崖の方に向かうッ!他に考えられる理由などあるものかッ!」
「……ヘヘッ!そいつぁ、どうかな?」
人を食ったようなカミナの答えにヴィラルは激昂する。
いきり立ち、更なる叫びをぶつけようとした、そのとき
『この界隈は現在、進入禁止エリアと定められている。速やかに移動を開始し、当該エリア外へと退避せよ』
突如警告音が鳴り響き、螺旋王の声が耳朶を打った。
「何イッ!?」
そう、この奈落がある刑務所跡、即ちエリアB−7は現在、禁止エリアに指定されている。
当然、そこに入ったものには螺旋王から警告が与えられ、一分以内に従わぬ場合には……首輪が爆発する。
もちろん、それは現在、乗っ取り作業を続けている二人にとっても例外ではない。
「……随分、見通しの甘い作戦を立てたものね。
もうすぐ、あなた達の機体の機能のうち、50%がこちらのものになるわ。
そうすれば、主導権はこっち。
その後で、ゆっくり禁止エリアから外に出れば何の問題も……」
「本当にそうでしょうか。ミスシャマル」
今度はクロスミラージュが口を開く。
「分からないならば、現在、私達のいる場所をよく確認してみることをお勧めします」
「場所……?
ッッ!!」
言葉の意味を量りかね、何の気なしに外を見たシャマルは思わず息を呑んだ。
気がつけば、そこは断崖の端も端。あと一歩でも踏み出せば一挙に落下してしまいそうな、ギリギリの場所だった。
「先ほどあなた方が私達の操作を妨害し、歩く軌道を変えたように
主導権がなくとも機動に介入することはできます。
こんな危なっかしい場所でさっきのような千鳥足をしたら……どうなるかはお分かりでしょう?」
「一分経てば貴様も死ぬんだぞ!?これも自殺のようなものじゃないのか!?」
「本当にそうかどうか、テメェのその汚い耳でよく聞いてみるんだなッ!」
言われてヴィラルは耳をそばだてる。
次の瞬間、彼の顔は驚愕に塗りつぶされた。
「……警告音がしないだとッッ!! どういうことだッ!?」
「テメエの上司が作った首輪はとんだポンコツだったってことさッ!」
カミナの首輪はもはや作動していない。
クロスミラージュの作戦の肝はここにあった。
彼はカミナがトリップしながらブリに引かれていたとき
禁止エリアを通っても首輪が反応していなかったことを目ざとく確認していた。
もちろん、聴覚素子の不調である可能性もあったし、作動していないのは警告機能だけである可能性もあった。
しかし、その程度のリスクを恐れるカミナではない。
「さぁて、もう一度言うぜぇ?
テメエらが大人しく出てくるんならそれでよし。
だが、もし、テメエらがあくまでまだやるってんなら……」
先ほど述べた降伏勧告を、カミナはもう一度繰り返す。
彼の目的はあくまでもラガンを取り返すこと。
ヴィラルたちの命を奪うことは本意ではない。
593
:
宿命の対決!グレン V.S ラガン(後編)
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:39:28 ID:WEb3o3Uo0
「ふざけるな!ここまできて降伏だと!?
そんなものが受け入れられるわけがないッ!
主導権がなくとも機動に介入できると言ったな?
そのセリフ、機能の70%、80%を獲られても、まだ吐いていられるかな?」
だが、ヴィラルにとて意地がある。
新たなガンメンを手に入れ、参加者の一人を殺害する絶好のチャンス。
しかも、これは自らの運命に立ちふさがった戦いだ。
最後の最後まで、退くわけにはいかない。
「テメェならそう来ると思ったぜヴィラルッ!
ならどうする!?降伏しないテメェはどうするんだッ!!」
「知れたことだッ!戦い、勝つッッッ!!!」
「来いッ!テメエの気合とクロミラの作戦とォッ!どっちが上か勝負だッ!!!」
「行くぞッ!!」
「「最後の決戦だッッッッッ!!!」」
二人の咆哮が空に響き渡ると同時、その決戦は幕を開けた。
グレンとラガンを中心に、今まで最大級の螺旋力が爆発する。
ラガンからグレンに向かう下向きの力、緑のドリルが猛回転する。
カミナから命とグレンを奪うべく、爆音を上げる。
対するはグレンからラガンに向かう上向きの力、こちらも掲げるは緑のドリル。
獣人の刃を砕き、友の魂を取り戻すため、火花を散らす。
その威力はほぼ互角。
押しては戻し、戻しては押す、魂と魂の鍔迫り合いが昼の世界をさらに明るく眩ます。
ドリルがぶつかり合う激しい閃光に街が沈みゆく。
しかし、時の神は無情にも、命に期限を課している。
『残り10秒だ』
決着まであと十秒。
長かった対決の結末を前にして、舞台の全てはついに緑の光へと消えた。
594
:
宴のあと
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:41:42 ID:WEb3o3Uo0
疲労。
それが決戦を終えた彼が最初に抱いた感覚だった。
思えばこの殺し合いが始まってからもう丸一日。
その間にどれだけの戦いを越えてきたことだろう。
特にこの数時間は慌しかった。
色々なもの、色々なできごとが目の前を通っては過ぎ去っていった。
彼はそのひとつひとつに一々目の色を変え、常に全力で事態に対処した。
だが、それももう限界だ。
今回は何とか勝つことができた。
しかし、今すぐ次があれば、なすすべもなく敗北するだろう。
それほどまでに、彼は疲れていた。
彼には休息が必要だ。
しばし体を休め、英気を養い、この後に備えることが必要だ。
だから、彼はこの地にやってきた。
おそらくはもう人の寄りつかぬ、この辺境の地に。
「そうだ……俺には休息が必要だ。
この後も参加者を『殺し』、『二人』で『生き延びる』ためには」
じっとりと湿った空気が空間を満たしている。
広葉樹に囲まれた森の中、石が埋め込まれた道が続く。
その雑草に覆われたか細い道を辿っていけば、間もなく、派手な電光掲示板を見つけることができるだろう。
ろくに整備もされていない剥き出し木造の建物の上に大きく
『新装開店(仮)記念! 熱烈歓迎!! ようこそ、エイチロク温泉へ!!!』 の文字。
全くこの場の雰囲気にそぐわない、ずれた宣伝文句だ。
「『会場の端と端が繋がっている』……か。
ルルーシュが聞き出した情報は本当だったようだな」
ヴィラルはB−7での決戦に勝利した後、北へと抜けてこの温泉に来た。
前述の通り、一刻も早く休息が欲しかったからだ。
ルルーシュと合流する、という目的を忘れたわけではない。
……いや、訂正しよう。
記憶としては残っているが、今のヴィラルにその気はない。
確かにルルーシュは優れた策士だ。
シャマルを取り戻すため、協力を約束してくれたというのも事実。
しかしながら残念なことに、奴はどこまでいっても人間だ。
獣人でも、シャマルのような人でなき何かでもない。
ならば、いくら協力関係を築こうと、いつかは殺さなければならない人間。
そんな男をあまり信頼し、下手に気を許すのも問題だと考えたのだ。
(それに、奴はまだ傷の男を恫喝した能力のことを俺達に明かしていない。
それが何なのか分からん以上、寝首をかかれる可能性はゼロじゃないからな。
……奴の頭脳は惜しいが、まあ、よしとするしかあるまい。
それと釣り合うくらいのモノはさっき手に入ったしな)
ヴィラルはふっと庭の方を向き、先ほどの戦いでの戦利品を改めて確かめる。
そこには、ラガンと並んで、汚れ、傷ついてボロボロになったグレンが安置されていた。
グレンのほうは、遠くから見つからないよう、寝かして停めてある。
(やれやれ、さっき合体していたときはすっかり傷が直っていたのに
分離したらすっかりもとの木阿弥だな。
もう一度合体すれば直るかもしれんが……いや、やめておこう。
今の俺にそんな体力はない)
595
:
宴のあと
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:42:50 ID:WEb3o3Uo0
気力を振り絞って何とか移動してきたが、ここに着いて以降
ラガンはヴィラルがどれだけ唸っても動かなくなってしまった。
緊張の糸が切れたことと、極度の体力消耗により、ヴィラルは現在、螺旋力を発揮できない状態になっているのだ。
とにかく休息をとりたいというネガティブな思考もまた、関係しているのかもしれない。
しかし、今回の戦いは有益だった、とヴィラルは考える。
この会場においては貴重なガンメンをもう一機鹵獲できたことはもちろんだが
その他にも、喜ぶべきことが二つある。
一つはラガンのガンメン奪取能力が判明したこと。
この機能は今までヴィラルが持っていたガンメンの常識を打ち破る画期的なものだった。
接触したガンメンのコントロールを奪取する。
それは言い換えれば、ラガンの一撃さえ決めることができれば、それだけで敵の戦力を大きく殺げるということだ。
自分達の常の戦闘を思い出してみれば、その恐ろしさは一目瞭然。
何せ、接触さえできれば、ダイガンザンだろうがダイガンカイだろうが、たちまちのうちに鹵獲してしまえるのだ。
敵に回ればこれほど恐ろしいものはない。
だが、幸運なことに今、その鬼子はヴィラルの手の中にある。
(今に見ていろ、ニンゲンめ。
体力が回復し次第、あのラガンを使って黒い大型ガンメンを我が物とし、貴様らに地獄を見せてやる!)
二つ目はシャマルのことだ。
まさか、シャマルの魔法がガンメン同士の戦闘であれほどの威力を発揮するものだとは思わなかった。
前半の一方的な有利などはまさにあれがあったからこそ成し得たことだし
最後の決戦も、あの魔法がなかったら、正直勝てていたか自信がない。
あの戦力は今後の戦いを勝ち抜いていく際にも、有用なものとなるだろう。
596
:
宴のあと
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:44:12 ID:WEb3o3Uo0
(だが、俺が嬉しいのは戦力のことよりも、あいつの目に戦士としての光が戻ったことだ。
はやてとかいう仲間が死んでからこっちのあいつは、少し弱弱しいところがあったからな。
あの黒いガンメンの中でのことといい、前の強いシャマルに戻ってくれて、俺は本当に嬉しい。
……この後のことをどう考えているかは判らないが……
……いや、厭なことを考えるのはよそう。
今は目の前のことを……
それに、どうするかはあいつが決めることだ。
……………………………………だが、もしも、あいつがいなくなったら俺は…………zzz...ZZZ...)
戦い疲れた獣人が意識を手放す間際に考えたことが一体、何だったのか。
それは誰にも分からない。
【H-6/温泉/二日目/昼】
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に中ダメージ、疲労(極大)、肋骨一本骨折、背中に打撲、睡眠中
螺旋力覚醒(本人は半信半疑)
[装備]:大鉈@現実、短剣×2 コアドリル@天元突破グレンラガン
[道具]:グレン@天元突破グレンラガン、ラガン@天元突破グレンラガン
[思考]
基本:シャマルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝する。
1:しばしの休息をとり、体力を回復する
2:体力が回復したら、ラガンで黒い太陽のガンメンを奪い、人間どもに目にもの見せる
3:チミルフ様の仇! 全ての獣人達の夢の城の破壊は許されない蛮行だ! ビャコウ生きててよかった! 破壊されるなよ!
4:クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
5:クルクル(スザク)を始め、これまでの奴ら全員に味わわされた屈辱を晴らしたい。
※なのは世界の魔法、機動六課メンバーについて正確な情報を簡単に理解しました。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。
※本来は覚醒しないはずの螺旋力が覚醒しました。他参加者の覚醒とは様々な部分で異なる可能性があります。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。螺旋王への感情が変化している可能性があります。
※チミルフが夜でも活動していることに疑問を持っています。
※ダイガンザン(ダイグレン)を落としたのがフォーグラーだと思っています。相殺したエアについては目に入っていません。
※チミルフが死亡したと思っています。ノルマの件は一応覚えています。
※ビャコウの運転手が誰なのか気にはなってはいます。
※グレンを入手しました。エネルギーなどが螺旋力なのはアニメ通り。機体の損傷はラガンとの合体以外では自己修復はしません。
※螺旋力枯渇中。今はラガンを動かせません。
※会場のループを認識しました。
[備考]
螺旋王による改造を受けています。
①睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
②身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。 単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。
◆
瓦屋根の天井に腰掛け、シャマルは一人溜め息をついた。
その横顔はどこか物憂げで、儚い。
戦いに勝利し、愛しい相手と無事に生き延びたというのに、彼女は何をそんなに憂いているのか。
597
:
宴のあと
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:45:07 ID:WEb3o3Uo0
少し前から悩んでいた『自分はあまりヴィラルの力になれていないのではないか』という件だろうか。
いや、そんな筈はない。
実際、先ほどの戦闘で、シャマルは彼の勝利に大きな貢献をしたではないか。
彼女が序盤の戦闘で使った鋼の軛(くびき)はカミナを大いに苦しめ、ろくな反撃を許さなかった。
ラガンでグレンを乗っ取ることに成功したこととて、シャマルの螺旋力抜きでは不可能だったことだ。
それに、極めつけは最後の魔法だ。
カミナとヴィラルの最後の決戦。
お互いの能力がまたも拮抗し、このままでは首輪の爆発で二人ともが死んでしまうというあのシチュエーション。
あのときヴィラルの命を救い、勝利を齎したのはシャマルの強制転移魔法だったではないか。
強制転移魔法。
対象を今いる場所から、その意志とは関係なしに別の場所へと飛ばしてしまう、転移魔法の一種。
クロノやユーノとの協力があったとはいえ、かつて巨大な闇の書の闇を地上から軌道上まで
転移させたこともある強力な魔法。
この魔法は次元を超える可能性があるということで、螺旋王に強く警戒され
それゆえに強力な制限がかけられていた。
次元間跳躍が禁止されていることは言うに及ばず、転移可能距離の大幅な短縮、転移可能サイズの縮小
魔力消費の増大、さらには転移精度の大幅ダウンなどがその主な内容である。
このような制限がこの魔法に課せられていることを、シャマルは殺し合いの開始直後に確かめていた。
ジェレミアと出会う前、彼女が次元間通信や次元間転移を試みようとしていたときの話である。
と、このように、本来のスペックが見る影もないほどに殺ぎ落とされていたため
シャマルもよもやこの魔法を使えるタイミングがやってくるとは思っていなかった。
しかし、人生とはわからないものである。
極めて重要なタイミングで彼女にはこの魔法を使う機会が訪れた。
クロスミラージュの策を悟った瞬間、シャマルの頭にこの魔法の存在が突如よぎったのだ。
『グレンの中からカミナを転移させてしまえば、ヴィラルと自分の勝利が決まるのではないか』と。
制限後の転移可能上限は人間一人。
やってやれないことはなかった。
このアイデアを思いついた瞬間、シャマルはすぐさま詠唱に入った。
クラールヴィントを持っていない今、困難な魔法の詠唱には時間がかかる。
その間にヴィラルが押し切られないかどうかが心配だったが、彼は予想以上に善戦した。
タイムリミットの一分、ほぼすべてを費やしても、転移場所のところまで細かい気を回す時間は
なかったから、カミナがどこに飛んだかは分からないが、目の前の勝ちを拾えたことは間違いない。
とにかく、これは、ヴィラルと出会ってから一番の大金星であり、彼女の大手柄なのだ。
しかし、それでもシャマルはやはり沈んでいた。
見張りを自らかってでておきながら、その目は虚ろで、集中力に欠けている。
一体、何が彼女の心をそんなに悩ませているのか。
彼女を悩ませている事柄、それは、彼女のこの戦い唯一の誤算……クロスミラージュのことだった。
六課の仲間が全滅したとき、彼女は身が引き裂かれそうな大きな悲しみとともに、小さな安堵を感じた。
何故なら、仲間がいなくなってしまったということは
今の彼女のことを誰かに話す必要がなくなったということなのだから。
主催者の部下である獣人と共に行くことを決め、この忌まわしい殺戮の宴に参加することにした自分を
仲間に知られる危険がなくなったということなのだから。
だが、かつての仲間は現れた。
シャマルの思いもしなかったような形で。
存在が明らかになったときは、戦闘に没頭し、冷徹を振舞うことで何とかその場を凌ぐことができた。
しかしその実、彼女の内心の動揺は大きかったのだ。
(うかつだったわ。
ケリュケイオンがここにあるってことは、クロスミラージュがあったって全然おかしくはないのに……
もしかしたら、リインが来ている可能性だって……)
リインに今の自分を話す。
考えただけで身震いがしてしまう。
598
:
宴のあと
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:46:08 ID:WEb3o3Uo0
(でも、いつまでも逃げているわけにはいかない。
まだ元の世界にはヴィータやシグナム、ザフィーラ、なのはちゃんやフェイトちゃんがいる。
もし、ここから生きて出られたって、みんなに会ったら私は……
今回のことはそれが早まっただけ。
……だから、私も覚悟を決めよう!!
ちゃんと話して、聞いてもらって……それから……決別するんだ。みんなと。
そうじゃなきゃ、私にヴィラルさんと一緒にいる資格なんてない!!
だから……)
気合を入れるようにシャマルはパチンと自分の頬を打った。
少し強く打ちすぎたのか、森から吹く風が、少しピリピリ凍みる。
緩んだ気持ちを引き締めるにはちょうどいい、とシャマルは思った。
ごくりと唾を飲んだ後、意を決して膝の上のデイバックを空ける。
恐る恐る手を入れて、目的のものを取り出す。
黄色い意匠のついたカード状のデバイス。
ティアナの形見、クロスミラージュ。
「……私に何か御用でも?ミスシャマル?」
「……ちょっと話がしたいと思って」
「話?今更ですか?こちらがあれだけ言っても聞いてもらえなかったのに?
医務局のミスシャマルは優しくて美人で、みんなの憧れだと聞いていましたが
実物はとんだ嫌な女みたいですね」
「……貴方、随分、変わったわね」
「それはこちらのセリフです」
あまりの反応に、シャマルの気勢が殺がれる。
何だか前に見たときよりも、圧倒的に人間らしくなっているように感じる。
そもそも、これはそんなに喋るデバイスだっただろうか?
599
:
宴のあと
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:46:56 ID:WEb3o3Uo0
(で、でも、ここで負けちゃいけない!
どんなに嫌われても、罵られようとも
私は、私は……)
【H-6/温泉/二日目/昼】
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、腹部にダメージ(中)、螺旋力覚醒
[装備]:クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ0/4)
ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式(食料なし)、ルールブレイカー@Fate/stay night
[思考]
基本1:守護騎士でもない、機動六課でもない、ただのシャマルとして生きる道を探す
基本2:1のための道が分かるまで、ヴィラルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝することを目指す。
1:クロスミラージュに自分の心変わりを話す
2:ヴィラルと協力して参加者を排除する。
3:クラールヴィントと魔鏡のかけらを手に入れたい。
4:優勝した後に螺旋王を殺す?
5:他者を殺害する決意はある。しかし――――。
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。また、宝具という名称を知りません。
※清麿に関しては声と後姿しか認識していません。悪感情は抱いてはいないようです。
※清麿の考察を聞きました。必ずしも他者を殺す必要がない可能性に思うことがあるようですが、優先順位はヴィラルが勝っています。
※ギルガメッシュがマッハキャリバーを履いていたことには気づいていませんでした。
【クロスミラージュの思考】
1:シャマルと話をする。
2:カミナの方針に従い、助言を行う。
3:明智が死亡するまでに集ったはずの仲間達と合流したい。
4:東方不敗を最優先で警戒する。
[備考]
※ルールブレイカーの効果に気付きました。
※『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。
※各放送内容を記録しています。
※シモンについて多数の情報を得ました。
※カミナの首輪が禁止エリアに反応していないことを記録しています。
※東方不敗から螺旋力に関する考察を聞きました。
※螺旋力が『生命に進化を促し、また、生命が進化を求める意思によって発生する力』であると考察しました。
※螺旋界認識転移システムの機能と、その有用性を考察しました。
○螺旋界認識転移システムは、螺旋力覚醒者のみを対象とし、その対象者が強く願うものや人の場所に移動させる装置です。ただし会場の外や、禁止エリアには転移できません。
○会場を囲っているバリアが失われた場合、転移システムによって螺旋王の下へ向かえるかもしれません。
※転移システムを利用した作戦のために、ニアの存在が必要不可欠と認識しています。
※他の参加者に出会ったときの交渉はまず自分が行おうかと考えています。
※ルルーシュとニコラスの両方を疑っています。参加者の詳細名簿をどちらかが持っていた場合、そちらが犯人だと思うでしょう。
600
:
宴のあと
◆RwRVJyFBpg
:2008/09/03(水) 22:48:03 ID:WEb3o3Uo0
【???】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:疲労(大)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(簡単な処置済み)、
頭にタンコブ、強い決意、螺旋力増大中
[装備]:折れたなんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
バリアジャケット
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:なし
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:ヴィラル、覚悟しやがれ!……ってあれ?
1:ニアとガッシュは大グレン団の兄弟だ。俺が必ず守ってみせらぁ!
2:チミルフだと? 丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
3:ヴィラルの野郎、ラガン返しやがれ!
4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
5:ドモンはどこに居やがるんだよ。
[備考]
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※シモンの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。
※ヨーコの死に対しては、死亡の可能性をうっすら信じています。
※シャマルを殺し合いに乗っているヴィラルの仲間と認識しました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
※禁止エリアに反応しない首輪に気がつきました。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※ニコラス・D・ウルフウッドこそが高峰清麿殺害犯だと考えています。ただしルルーシュ・ランペルージに関しても多少の疑いは持っています。
※カミナがどこへ転移したかは後の書き手さんにお任せします。
603
:
ネコミミの名無しさん
:2008/09/14(日) 10:04:16 ID:D3uP4WrU0
test
605
:
ネコミミの名無しさん
:2008/09/17(水) 09:52:09 ID:TB4chaVc0
test
608
:
ネコミミの名無しさん
:2008/09/25(木) 00:28:53 ID:Aw5ZyKLc0
あれ?
609
:
◆EA1tgeYbP.
:2008/09/25(木) 13:35:05 ID:vE6MOeus0
すみません後は状態表だけですがさるさんになってしまったので
こちらに投下しておきます
610
:
◆EA1tgeYbP.
:2008/09/25(木) 13:35:29 ID:vE6MOeus0
※ラガンをフル稼働させたため、しばらく螺旋力が発揮できません
※清麿殺害の犯人、『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』を持ち去ったのは、ルルーシュだと考えています。
※ルルーシュ、ニコラス、東方不敗、ヴィラル、シャマルを殺し合いに乗っている参加者だと判断しました。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、空腹、強い覚悟、螺旋力覚醒
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night(回復に使用中)、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式x7(メモ一式使用、地図一枚損失水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)
【武器】:イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)@現実、イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、
ワルサーWA2000(4/6)@現実、ワルサーWA2000用箱型弾倉x2、S&W M38(弾数5/5)、S&W M38の予備弾15発、
COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mmNATO弾)
M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと4秒連射可能、ロケット弾は一発)、
エンフィールドNO.2(弾数0/6)、銀玉鉄砲(玉無し)、水鉄砲、短剣×4本
【特殊な道具】:ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、魔鏡の欠片x2(3つで揃う)@金色のガッシュベル!!
アンチ・シズマ管(3つで揃う)@ジャイアントロボ THE ANIMATION、無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん
【通常の道具】:USBフラッシュメモリ@現実、タロットカード@金田一少年の事件簿、暗視スコープ、単眼鏡、鉄の手枷@現実、
糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、
シアン化ナトリウム、各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
【その他】:マース・ヒューズの肉片サンプル、清麿の右耳、殺し合いについての考察をまとめたメモ、
首輪×3(クロ、アニタ、キャロ)、解体済みの首輪×2(エド、エリオ)、首輪のネームシール(清麿)
611
:
◆EA1tgeYbP.
:2008/09/25(木) 13:36:05 ID:vE6MOeus0
[思考]
基本-1:ねねね達と協力して実験から脱出し、この世界では「堪える」を選んだ者の行く末を見届けたい。
自分は彼らから負を追い払う剣となる。(元の世界でまた国家錬金術師と戦うかどうかは保留)。
基本-2:螺旋力保有者の保護、その敵となりうる存在の抹殺。
1:ジンの仲間と合流。
2:各施設にある『お宝』の調査と回収。 及び螺旋力保有者の守護。
3:ギアスを使用したヴィラル、チミルフへの尋問について考える
4:螺旋王に対する見極め。これの如何によっては方針を変える場合も……。
[備考]:
※言峰の言葉を受け入れ、覚悟を決めました。
※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。
※会場端のワープを認識。螺旋力についての知識、この世界の『空、星、太陽、月』に対して何らかの確証を持っています。
※清麿達がラガンで刑務所から飛び出したのを見ていません。
※ねねね、ドモンの生き方に光明を見ました(真似するわけではありません。自分の罪が消えないことはわかっています)。
※ルルーシュ、ニコラス、東方不敗、ヴィラル、シャマルを殺し合いに乗っている参加者だと判断しました。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に重度の火傷、全身に軽度から重度まで無数の裂傷、疲労(大)、やや強めの罪悪感、明鏡止水の境地
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
1:ジンの仲間たちと合流する
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:カミナを探し、ニアを守れなかったことを謝罪したい。
5:東方不敗を説得する。
612
:
◆EA1tgeYbP.
:2008/09/25(木) 13:36:23 ID:vE6MOeus0
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュ、奈緒のこれまでの経緯を把握しました。
※第三放送は奈緒と情報交換したので知っています。
※清麿メモについて把握しました。
※螺旋力覚醒
※シータのロボットのレーザービーム機能と飛行機能についてスパイクから聞きました。
※シータの持つヴァルセーレの剣の危険性を認識しました。
※ニアをカミナの関係者だとは確認しました。
613
:
◆EA1tgeYbP.
:2008/09/25(木) 13:39:15 ID:vE6MOeus0
以上です。
投下の遅れや一言の断りも無しの投下中断
さらに丸々一晩にも渡る二回目の投下中断など大変ご迷惑をおかけしたこと
心より謝罪します。
大変申し訳ありませんでした
614
:
Over soul
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:17:59 ID:55xSZiMw0
口で言っても無駄だとやっと学習したのか、カミナは無言で腕を振り回す。
言葉にしない分、その拳からは怒りが見える。
もっとも、それは東方不敗に避けやすい攻撃としか写らない。
「支えるもの、支えてくれるものがあってこそ貴様は強くなる。しかし――」
「裏を返せば、貴様は一人では何も出来ない愚か者よ!」
ブチッと、頭の何かが切れる音がした。
それは、きっと事実だろう。
シモンがいなければ今のカミナはいなかっただろうし、これまで出会った者たちがいなければ、自分は生きてはいなかった。
だが、それでもカミナには自負がある。
あいつらの前で胸を張って、引っ張ってきたという自負が。
「……てめぇの言う通りだ。俺はきっと、一人じゃ強がることしか出来ない馬鹿野郎だ」
ガシンッと、ゴッドガンダムが怒りの声を立てる。
胸部中央の装甲が開き、背部の羽状のエネルギー発生装置が展開して日輪のような光の輪を描く。
ゴッドガンダムのカラーリングが、燃えるような灼熱の色に変わった。
「だがなっ! その強がりを支えてくれた奴のためにもな! そのセリフにただ黙っている訳にはいかねぇんだよ!」
これまでは比べ物にならない速度で、カミナの両腕が動く。
相変わらず、どの東方不敗が本物かは分からない。
だから、カミナは極めてシンプルに考えることにした。
――全部、取っ捕まえる!
「……愚か者め」
先ほどよりも、ずっと避け安い攻撃だ。
呟き、東方不敗はカミナの脇をすり抜けて高く飛び上がる。
ちょうどゴッドガンダムの胸部当りの壁に、蜘蛛のようにピタリと張り付いた。
「さあ、捕まえられるなら捕まえて見せろ!」
「てめぇ俺を舐めるんじゃねぇぞハンドォ!」
615
:
Over soul
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:19:01 ID:55xSZiMw0
怒りにかられ反射的にカミナは掌を突き出し、東方不敗はそれをヒラリと上に避け――壁に、火花が散った。
「何っ、だ!」
「ゴッドガンダムが必殺の一つ、爆熱ゴッドフィンガー。超高熱の手で敵を掴み、確実に破壊する技よ」
見れば、ゴッドガンダムの両手は赤く輝いている。
東方不敗はゴッドガンダムの二の腕に着地し、哀れむようにカミナを見やった。
「怒りは、時に強大な力を与える。だがその反面、致命的なほど視野を狭くさせる」
「……っ!」
「貴様は、儂を殺さぬつもりではなかったのか?」
当然、意図して殺そうとした訳ではなかった。
だが、殺しかけたという事実がカミナを硬直させる。
「だから貴様は、阿呆なのだ」
東方不敗はゴッドガンダムの腕を駆け上り、その首を切断した。
■
616
:
Over soul
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:20:55 ID:55xSZiMw0
[soul Gain]
「よう、辛気臭い顔してるな」
「……今度は誰だよ、どこだよ」
既に、何度経験したことか。
目が覚めた時、カミナはそれまでと違う場所にいた。
地平線まで見える、砂と岩だらけの荒野――ジーハ村を出て、すぐに見た光景だ。
見覚えのある光景の筈なのに、カミナにはそこが初めて訪れた場所のように感じられた。
そしてカミナの目の前に一人、初老の男が呆れたように立っている。
「何を悩んでるんだ?」
「何も悩んじゃいねぇよ」
「嘘を付け、顔に出てるぞ」
馴れ馴れしく話しかけてくる男を、カミナは三白眼で睨みつける。
そこでふと、目の前の男に見覚えがあることに気がついた。
だが、具体的な顔と名前が浮かんでこない。
――誰だ?
「どうだ、ここで会ったのも何かの縁だ。俺に話してみないか」
「……まあ、詰まらねぇ話だけどな」
奇妙な、デジャブにも似た感覚に押され、ぽつりぽつりとカミナは話出した。
ジーハ村から始まった、ダイガンザンを奪い取る前夜までの話。
そして唐突に集められ告げられた、バトルロワイアルでの話。
カミナが要領悪く話す言葉を、初老の男はただ静かに聴いていた。
「……俺は、ただ単に怖いのかもしれない」
気がつけば、カミナは普段は絶対に口にしないことまで口にしていた。
「死ぬとか、生きるとかの話じゃなくてよ。そういうもんじゃなくて、俺は膝をついて折れた自分を見られるのが怖いかもしれねぇ。
シモン、ヨーコ、、ニア、クロミラにビクトリーム。俺はさ、俺が折れちまったら、そいつらに顔向け出きねぇ気がするんだ」
いつだって、片意地張って生きてきた。
弱気になったり自信を失くしそうになった時もあるが、そんな時は支えてくれる確かなものがあった。
それでもカミナが折れてしまった時は、その支えてくれる確かなものは何だったのか?
617
:
Over soul
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:22:14 ID:55xSZiMw0
「それだけは、出来ねぇんだよ」
だけどよ、とカミナは続ける。
「折れねぇで何も出来ず、死んじまったら、それはどうなんだ? それも、あいつらに顔向け出きねぇじゃないか」
東方不敗マスターアジア。
あの男がカミナに何を期待しているかは分からないが、何時までも生かしている訳ではないだろう。
圧倒的な実力差を考えれば、東方不敗が本気になっていない今が一番の勝機だ。
だが殺さずの攻撃では、埒が明かない。
「なんだ、簡単な話だろ」
ずっと黙っていた男が、口を開く。
今晩のおかずは何がいいかと聞かれ、ふと口に出したかのように、あっさりと言った。
「殺さず、ぶん殴ってやればいい」
カミナは反射的に人の話を聞いてなかったのかと言い掛けて――止まった。
なぜだか、男の目が怒っていることに気がついからだ。
「無理を通して道理を引っ込めるのが、俺たちグレン団だろうが」
――俺たち、グレン団?
疑問符を浮かべるカミナに構わず、男は続けて言う。
その語気に怒りが混じるのを、男は隠そうともしない。
「そもそも、余計な心配をし過ぎだ。ちょいと自分らしくなさ過ぎるんじゃないか?」
「何だとてめぇ!大体俺のことをどんだけ知ってんだよ!」
「知ってるさ、一番間近で見ていたのは俺だぞ」
618
:
Over soul
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:23:28 ID:55xSZiMw0
男の言葉は意味不明で、カミナはあーっと叫んで頭を抱える。
一方の男は、仕方ないといった風にため息をつく。
よく見ればその口元は懐かしくて仕方ないといった風に歪んでいるのだが、これは本人すら気がついていなかった。
「第一な、折れると思ってるのか」
「……あんだと」
「馬鹿を言え。俺を――俺たちを誰だと思ってやがる」
ふと、男の周りに見知った人影が増えていた。
「お前を支えているものが、そう簡単に折れるものだと思ってるのか?
俺たちが信じる、お前が信じた、おまえ自身が、安々折れるようなちっぽけなものだと思ってるのか?」
カミナは、答えない――いや、答えられない。
男の周りにいる人影に目を奪われ、動けないでいた。
「信じろよ。お前が信じる、お前を」
シモン、ヨーコ、ビクトリーム、そして、ニア。
シモンは少しバツが悪そうで、ヨーコはやっと気がついたかと呆れている。
ビクトリームは相変わらずV字に倒立していて、ニアはそのビクトリームの影に隠れていた。
「おい、お前ら……」
カミナの視線に気がつくとニアは少し申し訳なさそうな顔になり、意を決してビクトリームの前に出る。
それから一呼吸置いて、心配するなとばかりに笑顔を浮かべた。
大丈夫、一緒ですよ。そう言われた気がした。
――ああ、そうか。
――そういう、ことか。
ニアは、死んだ。
理屈も理由も分からないが、なんとなくカミナは理解した。
守れなかったという後悔があるが、目の前で胸を張っているニアを見ると沈んではいられない。
トンッと、男がカミナの胸を小突く。
「さよならじゃない、ずっと一緒さ」
「……ああ」
顔を上げ、男の顔を見る。
結局誰かは分からないが、大切なことを教えてくれた。
それだけで、今は十分だった。
真っ直ぐ――ひたすら真っ直ぐ天を仰ぎ、叫ぶ。
「行くぜ、ダチ公!」
■
619
:
Over soul
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:24:27 ID:55xSZiMw0
[Over soul]
「っ、何だと!」
ゴッドガンダムの首を切り落とし、してから束の間。
これからどうするかと思案する東方不敗が、驚きの声を上げた。
カミナが気絶から目覚めたのか、ゴッドガンダムが動き出す。これはいい。
だが、次の瞬間にゴッドガンダムが黄金色に輝き出したのだ。
「……信じられん、ハイパーモードだと! 気絶している内に、滴る水の一滴を掴んだというのか!」
教えた身であったが、東方不敗はカミナがこの修行で明鏡止水の境地にたどり着くとは思ってもいなかった。
狙っていたのは、怒りのスーパーモードによる不殺の決意を折ること。
折れた骨は、より強靭なものとなって復活する。それを狙ってのことだったが――
「一足飛びに、本当に修行を完成させたと言うのか!」
「うるせぇぞ、ジジイ。まったく、おちおち寝られねぇじゃねぇか」
狼狽した東方不敗に、カミナは身を起こしながら余裕を持って声を掛ける。
つい先ほどとは、まったく逆の構図だ。
「……黙れ、青二才が! そのメッキ、すぐに剥がしてくれる!」
吼え、東方不敗は壁を伝い、蹴り、縦横無地にコンテナ内を駆け巡る。
時に緩急をつけ、フェイントを混ぜ、話術を乗せ、カミナに東方不敗が分身したかのように錯覚させる。
首輪が外れて制限が緩み、コンテナという閉鎖空間だからこそ出来る技。
それが先ほどカミナを苦しめた正体であり――今は、なんの壁にもなりはしなかった。
ひょいとカミナは腕を伸ばし――当然のことのように、東方不敗を掴み取った。
「なんだ、簡単じゃねぇか」
「馬鹿なっ……こんなことが!」
「ま、ちょっと大人しくしてやがれ」
東方不敗を捕まえたことを特になんでもなかったかのように、カミナは次の行動に移る。
つまり、ここからの脱出だ。
東方不敗を捕まえた方とは逆の手で腰元のビームソードを掴み、高く掲げる。
620
:
Over soul
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:26:19 ID:55xSZiMw0
「壁を、切り裂くつもりか」
「馬鹿を言え、振り上げたドリルは切り裂くためじゃねぇ。……天を、衝くためさ」
それはドリルではないという突っ込みは、直ぐにかき消された。
「シモンも、ヨーコも、ビクトリームも、ニアも、死んだっ!もういねぇ!
だけどよ、俺の背中に、この胸に、一つになって生き続ける!」
その口上に、東方不敗は完全に飲まれていた。
目の前の男が、つい先ほどまで青二才と呼んでいた人物だとは到底思えない。
「俺を、誰だと思ってやがる」
頭上に掲げたビームソードが、その形を変える。
黄金色の輝きが収束し、ビームソードへと集まる。
その黄金色の輝きに、緑の輝きが混じる。
黄金と緑の、二重螺旋――それは、ドリルだ。
「俺は、カミナだ! シモンが、ヨーコが、ビクトリームが、ニアが――俺が信じたっ、カミナ様だ!」
光の奔流が渦を巻き、コンテナの天井を削る。
頑丈に作られた特別仕様のコンテナが、軋む。
「必殺――」
そして、カミナがトドメの一言を紡いだ。
「ギガドリルブレイク!」
■
621
:
Over soul
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:27:22 ID:55xSZiMw0
ショッピングモールにある、コンテナだらけの空間。
ドモン・カッシュが去ってからの静寂は、一つのコンテナが爆発することで破られた。
「ったく、やっと出てこられたのにどこだよここは」
「おそらく、ショッピングモールにあったコンテナ群であろうな」
元より切り取られていた頭部は爆風で大きく転がり、ゴッドガンダム自身も余波で酷い有様だった。
カラーリングは元のトリコロールカラーに戻り、全身の間接からは時折に火花が散っている。
その中で東方不敗が軽症で済んでいたのは、流石と言ったところか。
「ショッピングモール……クソッ、ヴィラルたちがどっかに移動するには十分か」
「機体に自身があるなら、今の爆音を聞きつけてこちらに向かってくるかもしれんがな」
普通にカミナと会話を交わす老人に、カミナは訝しげに目を向ける。
先ほどは失われていた余裕が、東方不敗には戻っていた。
「さて、そう言えば修行が完成したら答えてやると言ったことがあったな」
「……そう言えばあったな、まあ話したいってんなら聞いてやるぞ」
実のところ話を聞くのが億劫な程にカミナは疲れていたが、あえて気を引き締めて尋ねる。
本能的に、カミナは予見する。
このジジイ、何か仕掛けてきやがるな。
「その前に一つ聞いておこう。カミナよ、図書館にある転移装置の存在を知っているか?」
「……ああ、知ってる」
会話と東方不敗の動向に注意しながら、カミナは転移装置を思い出す。
転移装置のおかげでグレンを発見出来た訳だが、同時にニアにガッシュと分かれてしまう結果になったものだ。
――そう言えば、クロミラの作戦はダメになっちまったな。
「知っているなら話は早い。儂はその転移装置を使い、我が愛機マスターガンダムの元へ飛ぶつもりだった。
だが、途中で馬鹿弟子とその愛機を思い浮かべてしまってのう」
「……そう言えば、こいつはドモンの奴の相棒だったな」
所々が損傷している上、首無しだ。
本人が見たらさぞ嘆くだろう。
622
:
Over soul
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:28:12 ID:55xSZiMw0
ショッピングモールにある、コンテナだらけの空間。
ドモン・カッシュが去ってからの静寂は、一つのコンテナが爆発することで破られた。
「ったく、やっと出てこられたのにどこだよここは」
「おそらく、ショッピングモールにあったコンテナ群であろうな」
元より切り取られていた頭部は爆風で大きく転がり、ゴッドガンダム自身も余波で酷い有様だった。
カラーリングは元のトリコロールカラーに戻り、全身の間接からは時折に火花が散っている。
その中で東方不敗が軽症で済んでいたのは、流石と言ったところか。
「ショッピングモール……クソッ、ヴィラルたちがどっかに移動するには十分か」
「機体に自身があるなら、今の爆音を聞きつけてこちらに向かってくるかもしれんがな」
普通にカミナと会話を交わす老人に、カミナは訝しげに目を向ける。
先ほどは失われていた余裕が、東方不敗には戻っていた。
「さて、そう言えば修行が完成したら答えてやると言ったことがあったな」
「……そう言えばあったな、まあ話したいってんなら聞いてやるぞ」
実のところ話を聞くのが億劫な程にカミナは疲れていたが、あえて気を引き締めて尋ねる。
本能的に、カミナは予見する。
このジジイ、何か仕掛けてきやがるな。
「その前に一つ聞いておこう。カミナよ、図書館にある転移装置の存在を知っているか?」
「……ああ、知ってる」
会話と東方不敗の動向に注意しながら、カミナは転移装置を思い出す。
転移装置のおかげでグレンを発見出来た訳だが、同時にニアにガッシュと分かれてしまう結果になったものだ。
――そう言えば、クロミラの作戦はダメになっちまったな。
「知っているなら話は早い。儂はその転移装置を使い、我が愛機マスターガンダムの元へ飛ぶつもりだった。
だが、途中で馬鹿弟子とその愛機を思い浮かべてしまってのう」
「……そう言えば、こいつはドモンの奴の相棒だったな」
所々が損傷している上、首無しだ。
本人が見たらさぞ嘆くだろう。
「コンテナの内部だとは分かったが、ゴッドガンダムを使ってもそれを突破することは叶わんだ。
そしてどうするかと悩んでいる所に、お主が飛ばされて来た」
そして、コンテナから出るためにカミナを利用した。
その結果は、見ての通りだ。
東方不敗は、今もゴッドガンダムの腕に拘束されている。
「……カミナよ、貴様は本当に大したものよ」
不意に、東方不敗はしんみりとした表情でそう言った。
はるか遠くを見つめるような、儚いものを見つめるような、そんな表情だ。
それまでに見たどんな表情とも違う顔に、カミナは戸惑いを覚える。
「見事だったぞ……儂の、負けだ」
どう答えたらいいものかと考え――結局、聞えないふりをした。
照れくさいというのもあるし、相手はヨーコとビクトリームの敵。
素直に賛辞を受け止める気にはならなかった。
「そうそう、お主に一つ言っておこう」
引き続き無視しようとして――急激に手に走った痛みに、自分の甘さを痛感させられた。
東方不敗を拘束していたゴッドガンダムの掌、その指の付け根がまとめて吹き飛んでいたのだ。
「人間の手とは違い、所詮はメカの手よ。構造さえ知っていれば、破壊は容易い」
「っ、ジジイ!」
東方不敗はゴッドガンダムの手から抜けて、周囲のコンテナの上に立つ。
腰元にあった、マスタークロス。それが指を吹き飛ばした凶器だった。
「甘いぞカミナ。強大な力を手にしたとしても、それを使いこなせぬようでは死あるのみ。
黒髪の男に引き続き、貴様もそうなる運命なのだ」
「……黒髪の男だと、まさかてめぇが清麿を殺しやがったのか!」
「さてな、名前を聞く暇などありはしなかったからな」
カミナの詰問に、東方不敗はそれがどうしたと言わんばかりに答える。
一方で、カミナは自分の言葉を内心で撤回していた。
清麿を殺したのは、銃を持った人間だ。
目の前の男は、銃なんてものを必要とせず人を殺せる。
――少しでも、気を許した俺が馬鹿だった!
623
:
Over soul
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:29:17 ID:55xSZiMw0
ゴッドガンダムの残った腕で拘束するのは、先ほどの二の舞になる。
ではどうすうかとカミナが考えた所で――唐突に、螺旋王のアナウンスが流れた。
『――螺旋力なき者よ。その愚かさを悔いるがいい――』
その言葉の意味を考える間もなく、コンテナが一斉に爆破を始めた。
カミナは、本当に反射的に東方不敗に何かを叫んだ。
何を叫んだかは、カミナ自身が覚えていなかった。
■
「ヒデェなあ、おい」
コンテナが一斉に爆破した後のショッピングモールで、カミナは呟く。
ショッピングモールは、その様相をすっかり様変わりさせていた。
既にショッピングモールと呼べるような施設は存在せず、辺り一面瓦礫の山だ。
「なんだってあんな強力なもん用意してたんだ、螺旋王は」
コンテナが並んだ一室には、空港と同じシステム――螺旋力に反応する装置があった。
その装置は操作する者にコンテナを一つ選ばせ、残りの選ばれなかったコンテナを灰燼に帰す機能を備えていた。
そしてもう一つ。何らかの強大な、螺旋力以外の方法でコンテナの中身を得ようとする者へのカウンターとしての機能。
それが、今しがたの大爆発の正体だった。
「……流石に、生きてる訳ねぇか」
カミナはゴッドガンダムの胸部――ちょうど、コクピットの出入り口付近に座り込んでいた。
ゴッドガンダムはあの爆発でどこか故障したのか、それともエネルギーが切れたのか、まったく動かない。
「あばよ、ジジイ」
東方不敗が炎に飲まれた瞬間を思い出し、カミナは仰向けに倒れこむ。
ヨーコとビクトリームの仇は、あまりにもあっさりと死んでしまった。
先ほどの激闘とも相まって、なかなかすっきりとはしない。
「好きになれねぇ奴だったけどよ……まあ、忘れないでおいてやるよ」
「行くぜ、ダチ公」
624
:
Over soul
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:30:14 ID:55xSZiMw0
【A-7/ショッピングモール跡地/二日目/昼―放送前】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:疲労(極大)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(簡単な処置済み)、
頭にタンコブ、強い決意、螺旋力増大中、明鏡止水
[装備]:ファイティングスーツ
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:なし
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:あー疲れた。
1:ガッシュとクロミラと合流しねぇとなぁ。
2:チミルフだと? 丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
3:ヴィラルの野郎、グレンラガンとクロミラを返しやがれ!
4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
5:ドモンはどこに居やがるんだよ。
[備考]
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※シモンの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。
※ヨーコの死に対しては、死亡の可能性をうっすら信じています。
※シャマルを殺し合いに乗っているヴィラルの仲間と認識しました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
※禁止エリアに反応しない首輪に気がつきました。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※ニコラス・D・ウルフウッドこそが高峰清麿殺害犯だと考えています。ただしルルーシュ・ランペルージに関しても多少の疑いは持っています。
※東方不敗が死んだと思っています。
※明鏡止水に覚醒しました。
■
625
:
Over soul
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:31:07 ID:55xSZiMw0
「ふう、死ぬかと思ったわ」
バトル・ロワイヤルの開幕を告げた、王の間。
そこで東方不敗はパンパンと服に残る炎を払い、疲れたように呟いた。
所々火傷が残るが、五体満足の上にダメージは少ない。
これなら直ぐに回復出来るだろうと零す東方不敗に、ルルーシュが手を叩きながら近づく。
「ご苦労だったな。火傷のことはすまない、転移のタイミングが中々掴めなくてな」
「いやいや、中々上手いタイミングだったぞ。おかげでカミナの奴もすっかり騙されたであろう」
「これも東方不敗、貴方の演技の賜物だ」
事の真相は、簡単なことだ。
ルルーシュがタイミングを押し計らって転移のためのスイッチを押し、東方不敗を回収したのだ。
当初の予定では、カミナが東方不敗を殺す直前に回収する手はずだった。
だがカミナが明鏡止水に目覚めるというイレギャラーにより、タイミングを見極めなくてはならなくなったのだ。
「しかし、予想通り……いや、予想を超えて上手く行くとは思わなかったわ」
「確かに。カミナというサンプルの熟成、ゴッドガンダムの使用不可、そして死者の発表の違和感も軽減できる。
もっとも、死者の発表に関してはカミナに他の連中と合流してもらう必要があるがな」
ルルーシュ自身も懸念していたことだが、放送でルルーシュ、チミルフ、ウルフウッド、東方不敗の名を告げるに当たって問題があった。
ルルーシュ以外の全員が殺し合いに乗っていることを知られており、ルルーシュ自身もマーダーであることを疑われている。
その危険人物と言える四名が、誰にも目撃されることもなく死んだと放送されれば?
「流石に看破されることはなくても、可能性が疑われることもある」
「石橋を叩いて渡れという言葉もある、予防線は張っておいて悪くはあるまい」
カミナの前で東方不敗が死んだと思わせ、さらに東方不敗が黒髪の男――ルルーシュか、ウルフウッドを連想させる特徴の男を殺したと喋らせる。
この時点で二人の死亡の証言の裏が取れ、少なくとも真相にたどり着く可能性は低くなるだろう。
「まあ、こんな馬鹿げた真相を想像出来る奴がどれほどいるかは疑問だがな」
「まったくだ。さて、儂はそろそろ傷を治しに行かせてもらうか」
首をコキリコキリと回し、東方不敗は部屋の出口の一つへと向かう。
ふと気がつき、ルルーシュは声をかける。
「そちらは、メディカルルームへは遠回りだと思ったが?」
「マスターガンダムを使う。あれの調子も確かめておかねばな」
626
:
Over soul
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:31:56 ID:55xSZiMw0
答え、東方不敗は出入り口付近でチラリとルルーシュを見やる。
「ルルーシュよ、流派東方不敗を習ってみるつもりはないか?
お主の世界のNMFなど、素手で撃破できるくらいにはなれるぞ」
「謹んで、遠慮させてもらおう」
そうかと呟き、今度こそ東方不敗は出入り口の奥へと消えた。
その背中を見送ってからしばらく間を置き、ルルーシュは玉座へと戻る。
そして、グアームとの通信を開いた。
「グアーム、カミナが明鏡止水に目覚めた時と同時に仕掛けられたハッキングの出所は分かったか」
ルルーシュの言葉通り、カミナが明鏡止水に目覚めたと同時にテッペリンは何者かのハッキングを受けた。
現在は沈静化し被害も酷いものではなかったが、情報がごっそりと持っていかれた可能性がある。
『今のところ、外部からとしか言えん』
「アンチスパイラルの可能性は?」
『あるにはあるが、限りなく低いじゃろう。アンチスパイラルが情報通りの存在だとしたら、今更なぜハッキングなどする』
ルルーシュは即座に三桁程の可能性を検討するが、どれも正解に断定するには情報が足りない。
忌々しく、ため息をつく。
「他の同士に不安材料は与えたくない。もう少し情報が集まってから、この情報は開示したい」
『まあ、儂としても特に異論はない。ハッキングは太陽石の爆発で結界が乱れている間だけのこと。
二度も同じことが起こると思えんからな』
それから二、三言同様の状況が起きた時の対応を交わし、グアームとの通信を終了した。
玉座にもたれ掛かり、ルルーシュを天を仰ぐ。
「……まったく、前途多難だな」
627
:
Over soul
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:32:50 ID:55xSZiMw0
【チーム:七人の同志】
(ルルーシュ、チミルフ、アディーネ、シトマンドラ、グアーム、ウルフウッド、東方不敗)
[共通方針]:各々の悲願を成就させるため、アンチ=スパイラル降臨の儀式を完遂する。内容は以下の通り。
1:螺旋王の残した実験(儀式)を続行。真なる螺旋力覚醒者(天元突破)を誕生させ、アンチ=スパイラルを誘き出す餌とする。
2:ルルーシュの指揮の下、頃合を見計らって『試練』となる戦力を投入。参加者たちに意図的に逆境を与え、強引にでも螺旋力の覚醒を促す。
3:投入する戦力は現在のところチミルフ、ウルフウッド、東方不敗の三名を予定。生存者たちの状況により随時対応。
4:試練を与える前に真なる螺旋力者が現れた場合、また別途にアンチ=スパイラルとの接触の機会が訪れた場合には、逐一対応。
5:同志七人の立場は皆対等であり、ルルーシュとチミルフを除いて支配従属の関係にはならない。
6:アンチ=スパイラルとの接触に成功した後は、ルルーシュが交渉を試み、その結果によって各自行動。
[備考]
※その他、詳細な計画の内容は「天のさだめを誰が知るⅢ」参照。
※ルルーシュの推測を含めた実験の全容については、「天のさだめを誰が知るⅡ」「天のさだめを誰が知るⅣ」参照。
※多元宇宙を渡る術は全て螺旋王が持ち去りましたが、資料や実験を進める上で必要不可欠な設備、各世界から強奪した道具などは残っています。
※ルルーシュら実験に参加していた四名は、テッペリンの設備で体力と怪我を回復しました。
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:首輪解除、健康
[装備]:ベレッタM92(残弾11/15)@カウボーイビバップ、ゼロのコスチューム一式@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服 、
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、
毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、
ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
参加者詳細名簿(ルルのページ欠損)、詳細名簿+(読子、アニタ、ルルのページ欠損)
支給品リスト(ゼロの仮面とマント欠損)、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:何を代償にしてでもナナリーの下に帰る。七人の同志の一人として行動。
1:当面は実験場の監視に務め、試練投入のタイミングを見定める。
2:同時に、手持ちの情報を再度洗い直す。
3:螺旋王の擬似声帯によって第六回放送に取り掛かる。
4:他の同志たちの行動にも目を配る。特にウルフウッド、東方不敗を要注意。
5:もし終盤まで生き残り、機会があったとするならば、ヴィラルに対しスザクの仇を取る。
6:アンチ=スパイラルのより詳細な情報が欲しい。
7:謎のハッキングについて警戒する。
[備考]
※螺旋王の残した資料から、多元宇宙や実験の全容(一部推測によるものを含む)を理解しました。
※謎のハッキングについては外伝「かつてあったエクソダス」参照。
628
:
Over soul
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:33:19 ID:55xSZiMw0
【不動のグアーム@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:謎のハッキングの調査
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:首輪解除、螺旋力覚醒、疲労(小)、火傷
[装備]:天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night、ボロボロのマント、マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム
[道具]:ロージェノムのコアドリル×1@天元突破グレンラガン、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!、
風雲再起(首輪解除)@機動武闘伝Gガンダム、ゼロの衣装(仮面とマントなし)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]:
基本方針:現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。アンチ=スパイラルと接触、力を貸す。七人の同志の一人として行動。
0:アンチ=スパイラルの力を得たい。
1:マスターガンダムの調子を見るついでに、傷を癒す。
2:アンチ=スパイラルとの接触を図るため、ルルーシュに賛同。が、完全には信用しない。
3:アンチ=スパイラルを初め、多元宇宙や他の参加者、実験の全容などの情報を入手したい。
4:ルルーシュがチミルフを手懐けられた理由について考える。
5:ドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。
6:しかし、ここに居るドモンが本当に自分の知るドモンか疑問。
7:ジン、ギルガメッシュ、カミナ、ガッシュを特に危険視。
8:カミナに……
[備考]
※螺旋王は宇宙人で、このフィールドに集められているの異なる星々の人間という仮説を立てました。本人も半信半疑。
※クロスミラージュの多元宇宙説を知りました。ドモンが別世界の住人である可能性を懸念しています。
※ニアが螺旋王に通じていると思っています。
※クロスミラージュがトランシーバーのようなもので、遠隔地から声を飛ばしているものと思っています。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。『なんらかの要因』は火事場の馬鹿力であると推測しました。
Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※自分自身が螺旋力に覚醒したこと、及び、魔力の代用としての螺旋力の運用に気付きました。
※カミナを非常に気に入ったようです。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルについての情報を入手しました。
※計画に参加する上で、多元宇宙や実験に関する最低限の情報を入手しました。
629
:
かつてあったエクソダス
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:55:33 ID:55xSZiMw0
初老の男は頭に装着したヘッドセット――小型の脳波通信装置を外し、満足そうに笑みを浮かべた。
同時に、男の体から妖精を思わせる華麗な少女が出現する。
ユニゾンデバイス――使用者と融合することで、内部から術者を補佐する古代ベルカ式特有のデバイスだ。
「やりました!今ので結界内部のデータが大漁ですよ!」
「本当!?……って、これはやっかいね」
「そうなんですか?」
「三重の、それぞれ属性の違う大規模な結界よ。しかも自己修復機能も備えている。
……空間ごと抉り取るぐらいしないと綻びすら出ない訳だ」
「データは『あっち』のアースラにも転送しますね。たぶん成功したのはこっちだけでしょうし」
男の周囲は、蜂の巣を突いたかのような大騒ぎだ。
その喧騒を他所に、男はただ静かに佇んでいる。
「……よろしいでしょうか?」
「ん、ああ」
つい先ほどまで融合していた妖精に話しかけられ、男は少し戸惑う。
無愛想な見かけから、声を掛けてくるとは思っていなかったのだ。
それではと妖精は前置きし、男に話しかける。
「あれで、よかったのですか」
「……ああ、あれでよかったさ」
一瞬何を言っているか分からなかったが、すぐに心当たりが一つしかなかったことを思い出す。
かつて憧れ、その背中を追いかけた人物。本当に久しぶりに会って、まったく印象が変わってなかったことに驚いた。
「――そう、ですか」
「……俺の持論だが、過ぎ去ったものは元には戻らない。だから抱えて生きていくんだ、そいつの分まで」
男の言葉に、妖精はきょとんとした顔になる。
一方の男は、妖精がそんな顔も出来たことに微笑みを浮かべた。
その笑みに気づいてか、妖精が気恥ずかしげに頬を染める。
「お姉さまをナンパしちゃダメー!」
「待て、今のは別にそんなのでは!」
「フッ、ハハハハハハハ」
嫉妬でもしたのか、妖精と同じ顔をした妖精が突撃してくる。
姉と呼ばれた妖精が慌てて訂正を入れ、それを見ていた男があまりの微笑ましさに笑う。
そこに、黒髪のロングストレートの女性と、金髪の同じくロングストレートの女性が近づき初老の男に声をかけた。
630
:
かつてあったエクソダス
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:56:18 ID:55xSZiMw0
「ロージェノムの追跡に必要なデータが浚えたので、私たちはロージェノムの追跡を優先します」
「……そうか」
「そんな、マイスター。中にはまだ人が」
「突入の手段がない以上、私たちがこの場にいて出来ることはないの。
それよりロージェノムが同じことを繰り返さないために確保する方が、被害を抑えることが出来る」
「……そうですけど、中にはお姉さまのマイスターが」
「いいんだ」
納得が出来ないといった感じの妹を、姉が諭す。
黒髪の女はその光景を少し悲しげに見つめ、気を取り直して男に向き合う。
「引き続き、アドバイザーとして協力して頂きたいのですが」
「ああ、むしろこっちからお願いしようと思ってたところだ」
「そうですか……ありがとうございます」
黒髪の女と金髪の女は男に一礼し、作業へと戻っていった。
その場にはむくれる妹妖精と、それをなだめる姉妖精、そして初老の男が残される。
「むー。言いたいことは分かりますけど、薄情ですよ」
「……きっと、彼女たちも信じてるんだろう。中にいる、違う世界でも、仲間だった奴らを」
妹妖精はきょとんとした顔で、初老の男をまじまじと見つめる。
その顔が先ほどの姉妖精とそっくりで、初老の男はまた顔を綻ばせた。
「笑うなー!」
「……そうですね、信じましょう。彼女たちが、エクソダスを成功させることを」
「エクソダス?」
妹をなだめる姉が零した聞きなれない言葉を、男が拾う。
姉は、何かをなつかしむように言葉を紡ぐ。
「あそこから、脱出すること。それを彼女たちはエクソダスと呼び、彼女たちはそれを成功させました」
「……そうか」
631
:
かつてあったエクソダス
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 00:57:17 ID:55xSZiMw0
そこで妖精のような姉妹にお呼びがかかり、男は一人その場に取り残された。
ふと、今自分がここにいる元凶に思いを馳せる。
「言ったぞ、ロージェノム」
かつては敵で、かつては友だった男。
愛した女の、父親でもあった。
「お前が壁となって俺の前に立ちふさがるなら、いつだって風穴開けて突き破る」
違う世界の、同じ仲間だった。
「それが俺の、ドリルだ」
これは、箱庭の外の物語。
既に終わったエクソダスの続きの一端であり――
一人の男の、壮大な物語の蛇足である.
632
:
状態表修正 Gガンダムg補足
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 09:36:28 ID:55xSZiMw0
【A-7/ショッピングモール跡地/二日目/昼―放送前】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:疲労(極大)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(簡単な処置済み)、
頭にタンコブ、強い決意、螺旋力増大中、明鏡止水
[装備]:ファイティングスーツ
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:なし
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:あー疲れた。
1:ガッシュとクロミラと合流しねぇとなぁ。
2:チミルフだと? 丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
3:ヴィラルの野郎、グレンラガンとクロミラを返しやがれ!
4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
5:ドモンはどこに居やがるんだよ。
[備考]
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※シャマルを殺し合いに乗っているヴィラルの仲間と認識しました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
※禁止エリアに反応しない首輪に気がつきました。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※ニコラス・D・ウルフウッドこそが高峰清麿殺害犯だと考えています。ただしルルーシュ・ランペルージに関しても多少の疑いは持っています。
※東方不敗が死んだと思っています。
※東方不敗に修行をつけられました。格闘家としての基礎的なものを習得しました。
※明鏡止水に覚醒しました。
※シモンの死、ヨーコの死を受け止めました。
※ニアが死亡したことをなんとなく理解しました。
※死に掛けた時に出てきた老人が誰か分かっているのか、いないのか……
※ショッピングモールが壊滅しましたした。
※折れたなんでも切れる剣は爆風に飛ばされたか、ショッピングモール残骸の下です。
633
:
状態表修正 Gガンダム補足
◆1sC7CjNPu2
:2008/09/29(月) 09:37:03 ID:55xSZiMw0
【ゴッドガンダム@機動武闘伝Gガンダム】
ドモン・カッシュの愛機であり、第13回ガンダムファイト決勝戦を優勝した機体。
武装はビームソード、バルカン、ゴッドフィンガーとしょぼいものだが、元々ガンダムファイトのための機体なのでこれでいいのである。
モビルトレースシステムにより搭乗者のフィードバックを受けることから、ドモンとかが乗ると常識的なことは忘れた方がいい。
あと個人的にゴッドよりシャイニングの方が愛機という感じがする。
※頭部欠損、片手が破壊された状態です。どちらの手が破壊されたかは次の書き手にお任せします。
※エネルギー切れ、もしくは故障により動きません。
※ゴッドガンダムはショッピングモール跡地に座り込んでいます。
【不動のグアーム@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:謎のハッキングの調査
2:東方不敗に渡す資料を製作中
[備考]
※東方不敗に渡す資料は、ギアスの情報など一部隠して渡すつもりです
634
:
第六回、あるいは“ゼロ”の放送
◆EA1tgeYbP.
:2008/10/07(火) 13:00:39 ID:ITnWLGoY0
――王の玉座。
ほんの一時ほどの間に、新しい主を迎えたその場所で。
新たな主―――盤上の駒から指し手へと成り上がった少年、ルルーシュ・ランペルージ。
いや、その衣装に身を包み「ゼロ」の名前で呼ばれる彼は、少し前までは自らが同じ駒であった者達へとロージェノムの声を借りて語り、騙る。
……これより先は名実ともに殺し合いの舞台は彼ら七人の同志が成果を見守る実験場へと成り代わる。
◇ ◇ ◇
―――これで六度目。
未だに生き延びつづけている貴様達には、ひとまずおめでとうと伝えよう。
力を持って殺し合いを進めるもの、知略を以って強者に取り入り牙を磨くもの。
己が我を張り通し殺し合いを否定するもの、仲間を集め殺し合いに抗おうとするもの。
それぞれの道を歩みつづける貴様達に一つ知らせておかねばならんことがある。
前回の放送より六時間。
残念なことに新たな螺旋力の覚醒が認められなくなった。
貴様達はあるいはこう考えているのかもしれんな。
この仲間と共にあればこのような殺し合いから脱出できる、こいつだけは殺したくない、と。
思うのは勝手だ。貴様達がどう思おうが殺し合いは続けられるのだからな。
だが、そのような停滞は私としても望むところではない。
貴様たちとて少しでも早く元の世界に戻りたいであろう?
そこでだ、現状の禁止エリアに加えてこの放送より12時間の後、この舞台を廃棄することにした。
ああ、貴様達が想像した通りだ。
貴様達の命は自分以外の参加者を殺し尽くさない限りは残り12時間しかないというわけだ。
殺し合いに乗っていたものはこれまで以上に急ぎ、怯え身を隠していたものは穴倉より這い出て、そして仲間と共にあるものは下らぬ思いに惑わされずに殺し合いを続けて欲しい。
さて死者の発表に移る。
とはいえ、あるものにとってはすでに知らせる必要すらないかも知れんがな。
高嶺清麿
Dボゥイ
ニア
シータ
柊かがみ
結城奈緒
怒涛のチミルフ
ニコラス・D・ウルフウッド
ルルーシュ・ランペルージ
東方不敗
以上10名だ。
次に禁止エリアだ。
以上だ。
さてと残りの12時間、貴様達が私にとって満足いく結果を出してくれることを期待しよう。
生き残りが一人もいない、というのは私としてもあまり面白い結果ではないのでな。
生き残った一人と対面するそのときを楽しみに待たせてもらうとしよう。
635
:
第六回、あるいは“ゼロ”の放送
◆EA1tgeYbP.
:2008/10/07(火) 13:01:11 ID:ITnWLGoY0
◇ ◇ ◇
「……で?」
ルルーシュが語り終えるのと同時に不満げな顔をしたウルフウッドは声をかけた。
「どうかしましたか」
その彼にルルーシュはあくまでも慇懃な態度で応じる。
「どうかしましたか、じゃないわボケ。何でわざわざワイがおどれの下らん演説を聞かされんとあかんねん、それもこんな時間に」
―――こんな時間。
現在の時間は放送予定時間の十分前。すなわち今のルルーシュの演説は会場へと届くことなく、ただウルフウッド一人のみに伝えられるためのものであったのだ。
宛がわれた一室にて休んでいたウルフウッド、その彼が急に呼び出されたかと思えば、ルルーシュの用件はただ、いまの演説を聞かせることであった。
彼が不機嫌になる理由は言うまでもない。
「何、万に一つの不具合があってはいけないのでね。会場で放送を聞いたことがある者の意見を聞いておきたかっただけですよ」
「そんならあのじいさんでもいいやろ」
「彼、東方不敗はつい先ほどまで別の用事を片付けてくれていたのですよ」
「……けッ!」
舌打ちを一つするとウルフウッドはきびすを返す。
その彼の背中にルルーシュは声をかけた。
「ウルフウッドさん、今の放送案を聞いて何かおかしなところはありませんでしたか?」
「むかつき具合はあのおっさんとかわらへんわ」
ウルフウッドの返答は簡潔にして合格点を与えるもの。
「お時間を取らせてすみませんね」
「次からはこんな下らんことにワイを呼ぶな、ボケ!」
それだけ言うとウルフウッドの姿は完全に玉座の間から消える。
「……さて」
ウルフウッドの姿が消えるとルルーシュは今しがた語った放送案について考える。
ジンやスパイクといった参加者はこの放送を聞いても脱出に動こうとするはずだ。
その仲間達もそれと同様と判断していい。
そしてヴィラルとシャマル。
現状ただ一組限りの殺人者達、彼らはこの放送を聞きどう動くか……。
(……醜くお互いに殺しあってくれでもすれば愉快ではあるがな……)
まあ、スザクを殺した報いは必ずくれてやる。
今は実験を円滑に進めることだけ考えればいい。
―――そして放送時間が来る。
―――これで六度目。
ロージェノムの声を借りたルルーシュの言葉が会場内に響いていった。
636
:
第六回放送・崩壊序曲――Jacta alea est――
◆vHXqfHd//2
:2008/10/11(土) 20:47:18 ID:pVuCPkfw0
既に実験場の日は高く昇っている。もう間も無く、冷徹にして無常な『放送』が行われる。
傲岸にして無慈悲な『放送』が人々に与える影響は、幾度繰り返されても変わりはしない。
或る者には怒りを。或る者には焦燥を。或る者には無念を。或る者には絶望を。
その精神的作用自体は、何ら変わるものではない。
しかし、間も無く行われる第六回放送に於いて、一つだけそれ以前の『放送』と異なる要素があった。
主催者にして憎むべき敵であった筈の男――螺旋王ロージェノムの逃亡、と言うイレギュラー。
(もっとも、そのお陰で俺はまだしもマシな立場に立ったとは言えるがな)
一つ一つの映像を見つめながら、『代行者』ルルーシュ・ランペルージは放送までの残り僅かな時間を思索に費やしていた。
彼等が『放送』の準備を整えている間に、強力にして凶悪な殺人者達が揃って死んだ。
片や精神の均衡を失った哀れな王女。片や人間としての心を失った無様な不死の人形。
いずれは死んで貰わねば困る連中ではあるが、それにしてもこうもあっさりと死なれると、脱出を目論む人間達にとって余りにも有利過ぎる。
彼女達には、良い捨て駒になって貰いたかったのだ。特に、計画をぶち壊す危険のある人物を、ある程度弱らせて欲しかった。
それは、英雄王ギルガメッシュ。傍若無人にして唯我独尊、傲岸不遜極まりない無茶苦茶な男にして、恐らく最強の『英霊』であるウルクの王。
彼は既に自分の強大な武装を殆ど手に入れ、むしろ鬼札三枚を撃破する可能性も充分ある。何しろ、チミルフが乗るダイガンザンを、この男は一瞬で破壊して見せた。
天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)と言う、実験場のバランスすら壊しかねぬ出鱈目な切り札の力によって。
そんな輩は危険だ。モルモットに簡単に死なれるのも困るが、鬼札を容易に退けるだけの力の持ち主が生き残っているのはもっと困る。
螺旋力の覚醒は、ギリギリの攻防によって促されるものであるのに、圧倒的な力で殲滅などされては、何の意味もありはしない。
よって、ギルガメッシュは総力を結集してでも討ち取らねばならない。この強大過ぎる男をいつまでも生かしておくメリットは本来皆無である。
だが、実際にはそう簡単に、短絡的に彼を殺す訳にも行かない。
彼が菫川ねねね達脱出派にとっての大いなる希望の一だと言う事が、事を紛糾させる元だった。
ダイガンザンを破壊し、大怪球フォーグラーを半壊せしめ、射線上のあらゆる物体を塵に還した英雄王の恐るべき切り札。
幾ら制限が掛かっているとは言え、それ程の力があれば、結界は愚か、会場そのものを破壊しかねない鉄の暴風。
危険ではあるが、それだけの力を放っておく道理があろうか。懐柔出来れば、絶望を打ち砕く為の鬼札となり得るのだから。
つまり、この男を殺すタイミングを間違えれば、脱出不能になったと判断した連中が、絶望に陥ってしまう恐れが多分にあると言う事だ。
彼が死んでも、菫川ねねね達が絶望に陥らないで済む時。それがこの男を殺すべき時だ。
637
:
第六回放送・崩壊序曲――Jacta alea est――
◆vHXqfHd//2
:2008/10/11(土) 20:50:18 ID:pVuCPkfw0
しかし、ギルガメッシュを弱らせる事が出来なかったと言うデメリットを差し引いても、彼女達の死は矢張りルルーシュにとっては大きなメリットだった。
特に、『天元突破』に至り得る有力候補達の無為な死が避けやすくなった事が大きい。
一人目はカミナだ。この男は先刻のやり取りの中で、いよいよ『天元突破』への下地が整ったと言っても良いだろう。
元々『奇跡』の世界でも彼は重要な立役者だった。彼の死が、『英雄』がその力を発揮する重大な切欠になったのだから。
並々ならぬバイタリティの強さも見逃せない。ヴィラル達との戦いと言い、東方不敗との戦いと言い、この男の底力は是非にでも役立てたい所だ。
二人目はドモン・カッシュだ。
東方不敗の弟子である彼の戦闘能力は極めて高水準だ。そして師匠たる東方不敗との因縁は、螺旋力の覚醒に大いに役に立とう。
どうも実験場に於ける師弟激突時の映像等を見る限り、この男は『東方不敗を倒した後の世界』からやって来たらしい。
ならば好都合だ。それだけの実力があるのならば、今一度東方不敗をぶつけたとしても簡単には死なないだろう。
傷だらけではあるが、窮地はしばしばそれを打ち破る活力となる。この男ならばそれを最大限活用出来る筈だ。
実際に、既に実績を挙げているのだから。師弟対決の土壇場で見せた明鏡止水の境地、そして究極秘奥の絶招技。
それこそが、この男が見せた螺旋力の大いなる片鱗。覚醒への前兆と言うべき事象。
生き残りの中で、『天元突破』に至り得る有力候補と言えよう。この男は最大限に利用し、生かしておかねばならない。
そして――。
(忌々しい話だ。まさか事もあろうに、スザクの仇が、あの取るに足りない筈の連中が、こうまで粘りを見せるとは)
ルルーシュにとっては皮肉な話だが、ヴィラル達も無視出来ぬ存在になりつつある。
スザクを殺した後の彼等は、一言で言えば無様な敗残兵の一言に尽きた。誰と戦っても敗北を重ねるばかりで、何も良い所が無い様に思える。
だが、彼等は生き残っている。何度も死んでいて当然なのに、まだ生き長らえている。
最初ルルーシュは、彼等の映像を見て口の端に侮蔑の笑みさえ浮かべていた。同時に、こんな連中に殺されたスザクの無念を思い、怒りを内に抑えてもいた。
しかし上記の事実に気付き、そしてカミナとの決戦の映像を見た後には、憎悪も混じった警戒を抱くに至ったのだ。
(頃合を見てチミルフを派遣し、絶望を嫌と言う程に味わわせてからなぶり殺しにしようと思っていたが、まさかこうまでしぶといとは。
しかも奴の螺旋力はますます増大している様に思える。万が一、と言う事もあり得る。下手に手は出せんか。
奴をアンチ=スパイラルへの供物にすると言うのも、それはそれで良かろう。今は貴様を見逃してやる。だがな、ヴィラルッ!!)
黒き王でもなく、黒き代行者でもない一人の少年が、血が吹き出んばかりに唇を噛んだ。その秀麗な顔を憤怒と憎悪に染めて。
(貴様が覚醒しようがしまいが、或いは他の参加者の覚醒を促す役に立とうが立つまいが、いずれ必ず殺してやる!
スザクを一方的に殺し、また仲間を裏切って自分達だけ幸せになろうとする貴様等二人が生き残ろうなどと、そんな不条理は断じて許さん。
今は休むが良いさ。力を蓄える時間はくれてやる。貴様達にはもうひと働きして貰わねばならないんだからな。
だが、いつまでも安息の時を過ごせるとは思うなよ。この『放送』を聴けば、貴様等は嫌でも動かねばならん。
精々俺達の『儀式』の役に立て。ボロ雑巾になり、その生地が擦り切れるまで戦い抜け! 他の者に殺される事は許さん。貴様達には、俺が必ず断罪を下してやる……ッ!!)
それは、稀代の戦略家の貌でもなければ、冷徹にして非情なる策士の貌でもない。王の貌でも、まして神の貌でもない。
それは、実の兄弟以上の絆を持っていた一人の親友を失い、その怒りに燃える一箇の復讐鬼の貌。未だ精神的成熟に至らぬ、一人の少年の貌そのものだった。
その怒りを理性で押し殺し、少年はその時を待つ。その任務は、冷静でなければ成し遂げられないのだから。感情を、極力殺さねばならないのだから。
今の自分は、怒りに燃えるルルーシュ・ランペルージでは無く、届かぬ高みから冷静に事態を見届ける螺旋王に、成り切らねばならぬのだから。
638
:
第六回放送・崩壊序曲――Jacta alea est――
◆vHXqfHd//2
:2008/10/11(土) 20:52:30 ID:pVuCPkfw0
正午を迎えた。
偽りの『螺旋王』は一つ咳払いをし、淡々と、しかし他人を上から見下ろす傲岸さを以って、放送を始める。
貴様達がこの地に来て、二度目の正午を迎えた。
この六時間の間に行われた闘争は、規模こそ違えども以前のそれに何ら劣る事の無い激闘と言えよう。
どうやらますます以って、貴様達は内なる力に目覚めつつある様だな。
覚醒した者どもは、その力を精々有効活用する事だ。最後の勝利者になるにせよ、私を出し抜くにせよな。
だが、貴様達の思惑がどうであれ――未だ貴様達の力の発現は、私の望む力には遠い。
内なる螺旋の力の覚醒を促す為にも、現状を正しく理解させる為にも――貴様達に、重大な『告知』を行う。
先に死者の名を読み上げぬのは、動揺によって私の『告知』を聞く事が出来なかった、と言う事態を避ける為だ。
今更そんな事で放心に陥る愚者が居るとも思えぬが、それで自失のまま無駄死にされるのも不本意なのでな。
薄々感づいている者も居るかも知れんが、この実験場は、決して永久不変の存在ではない。
つまり、『制限時間』が存在すると言う訳だ。
その『制限時間』が尽きたら、貴様達の生命ごと、この実験場は跡形も無く消滅する事になろう。
私がこの実験場に設けた『制限時間』は四十八時間。
そう。貴様等に残された時間は残り『十二時間』だ。
十二時間と言う時間を多いと考えるか少ないと考えるか。その解釈は貴様達に委ねよう。
だが、最早無駄に出来る時間は多くないのだと言う事は、理解しておくのだな。
さて。時間を無駄にせぬ様、死者の名を読み上げる事にしよう。
先程も言った通り、この六時間で行われた闘争の質は、それ以前に比して何ら劣るものでは無かった。
志半ばにて散った者達の死に様も、実に見事なものだったぞ。
もしその中に貴様達の仲間が居るのならば、その事を誇りに思い、糧とするが良い。想いの力は時として、凄まじい爆発力を生むのだからな。
では、死者の発表を行う。
シータ
高嶺清麿
Dボゥイ
東方不敗
怒涛のチミルフ
ニア
ニコラス・D・ウルフウッド
柊かがみ
結城奈緒
ルルーシュ・ランペルージ
次に、禁止エリアだ。
以上だ。我が忠実にして勇猛な部下たる怒涛のチミルフまでもが、激闘の中に散った。
私にとっては手痛い犠牲だが、貴様達にとっては僥倖と言うべきかな?
だが、例え我が家臣が斃れたからと言って、ゆめゆめ油断はせぬ事だな。
今読み上げた者はいずれも歴戦の猛者。最早、誰がどんな相手を斃そうとも、何も不思議では無いのだから。
繰り返すが、貴様達に残された時間は、客観的に見て決して多いとは言えん。
殺し合いを続け、勝利者になるのも良いだろう。
崩れ行く世界からの脱出を図るも良かろう。
いずれの道を選ぶのか、それとも第三の道を選ぶのか。それは貴様達の自由だ。
だが、くれぐれも忘れるな。事態は確実に、貴様達にとって最悪の方向に流れつつあるのだと。
最早、時を浪費する余裕など、残されてはいないのだと。
さあ、追い詰められた勇者達よ。私に貴様達の限界を超えた底力を見せてみよ。
内なる螺旋の力を解き放ち、絶望に閉ざされた『天』を打ち破って見せろ。
それこそが、私が貴様達に望む事だ。
これが、私が実験場に流す最後の『放送』になる事を、切に願うものだ。
賽は投げられた。滅びの運命に、全力で抗って見せるが良い。
639
:
第六回放送・崩壊序曲――Jacta alea est――
◆vHXqfHd//2
:2008/10/11(土) 20:56:43 ID:pVuCPkfw0
(……そうだとも。賽は投げられた。もうこれで後戻りは出来ん。ナナリーの下に還るか、無様なピエロとして死ぬか、二つに一つだ)
最後の言葉は、参加者に対して向けられた言葉では無い。これはルルーシュ・ランペルージの、アンチ=スパイラルに対するひそかな宣戦布告であった。
(俺達を観察しているアンチ=スパイラルよ。お前達は今頃俺を嘲笑っているかも知れんな。無謀な事をと、呆れ返っているかも知れんな。
だが、俺は滅びの運命など断じて認めない。俺にはやらねばならん事が山程あるんだからな。
あの男を斃し、ナナリーの未来を確かなものにするまで、俺は絶対に死ぬ訳には行かないッ!
その為なら、俺は喜んで外道の道に堕ちてやろう。利用出来る者は全て利用し、後は弊履の如く捨ててやる。
アンチ=スパイラル! お前達もそうだ。身の程知らずと嗤いたくば嗤え。その嘲笑をそっくりそのままお前達に返してやる。
お前達は高みに在って万物を見通す聖人か神のつもりなのだろうが、お前達が居座る岩盤を、俺の手で突き崩してやるぞ。
お前達が絶対者で、俺達が生贄の祭壇に捧げられた子羊だなどと、思い上がるなよ。その思い上がり、必ず後悔させてやるからなッ!!)
アンチ=スパイラルが如何なる存在であるか、彼は殆ど知らないと言って良い。しかし、その本質は何処か『あの男』に似ている様に感じられた。
だからこそ、心の奥底からアンチ=スパイラルに対する敵愾心に近い感情が湧き上がって来るのだ。
自らを無謬の絶対者と認識し、万物を見下す傲慢なる存在。それが現時点でルルーシュがアンチ=スパイラルに対して抱いている認識だった。
理性では、決して敵対すべき相手では無く、最低でも好意的中立を勝ち取らねばならぬ相手だとわかっている。
しかし、彼の心の奥底では、その現実的判断に抗いたくなる気持ちが確かに存在した。どうして、『あの男』と同じ性質の輩に膝を屈しなければならないのか?
その目的はどうあれ、彼等が万物を支配し抑制する存在であり、かつその立場と目的の為なら生命を粗末に扱う姿勢が『あの男』と酷似している時点で、感情的には嫌悪の念しか浮かんで来ないのだ。
そう、本来『天元突破』を実現する駒として利用せねばならない一組の夫婦に対する、異常なまでの殺意と同じく。
640
:
第六回放送・崩壊序曲――Jacta alea est――
◆vHXqfHd//2
:2008/10/11(土) 20:58:11 ID:pVuCPkfw0
かくして再び時は動き出し、崩壊への序曲が奏でられる。果たして最後に勝利を得るのは誰であるのか。
盟友が死んで尚、年齢に似合わぬ不敵さを崩す事無く、惨劇を盗んで喜劇を創らんとする若き盗賊の王であるのか。
自分の存在価値を再び見出させてくれた恩人を喪って尚、物語をハッピーエンドへと導かんとする稀代の天才作家であるのか。
相棒を己が無力によって失い、それでも尚己の意志を貫かんとする、不屈の勇者であるのか。
掛け替えなき相棒の死を受け止め、尚も『やさしい王様』への道を歩むのを止めぬ、小さくも勇敢な魔物の子であるのか。
数多の敗北を味わいながら、泥をもすすって生き延び、何者の干渉も許さぬ安寧を求める人外の夫婦であるのか。
神への復讐を志し、人間に試練を与える事で盟友の事を振り切ろうとする、道を外れた牧師であるのか。
再び闇に堕ちた師の道を今一度正し、今度こそ師を完全に救い出さんと欲する、若きキング・オブ・ハートであるのか。
人類殲滅による地球救済を完遂し、全宇宙の『統制者』にならんと欲する悲しき求道者であるのか。
ただ一人の家族と親友の事を誰よりも想い、であるが為に悪鬼外道の道を突き進む黒き代行者であるのか。
そもそも、数多の屍が折り重なった果てに得られた勝利は、真の勝利たり得るのか。
それを知る者は、まだ居ない。今はただ、崩壊への時が淡々と刻まれるのみであった。
641
:
嘆きのロザリオ
◆vHXqfHd//2
:2008/10/11(土) 21:02:14 ID:pVuCPkfw0
「いや、なかなか見事なものじゃったな。随分と様になっとったぞ。もし儂らがやっとったら、それはそれは様にならなかったじゃろうな」
全てが終わり、ルルーシュが一息ついた時、巨大なアルマジロがぬっと姿を現す。不動のグアーム。螺旋四天王の筆頭格にして、ロージェノムの旧友だった男。
そして、獣人の中で最も警戒すべき人物。だが、不用意に警戒させる訳にも行かない男でもある。ルルーシュはひとまず笑みを作って応じた。
「螺旋王との繋がりが最も深いお前にそう言われたのならば、どうやら擬似声帯は上手く用いる事が出来た様だな」
「ああ、それは問題無い。永年ロージェノムと共に戦って来たこの儂が言うのじゃ。まず、参加者に悟られてはおるまいよ。
儂自身、一瞬本当にあやつが帰って来て、自ら放送を行っておるのではないかと、そう思ってしまったからのう」
グアームは何処か悲しげに、肩を竦めてみせる。盟友たるロージェノムの裏切りは、この老獪な男の心にも暗い影を落としている――どれだけこの男の腹が知れないとしても、それだけは確かだと思われた。
「して、どうする? そろそろ動き時かの? 殺し合いに乗った参加者も残る所、我々の部下だと言っておった若造達だけになったが」
「いや、まだだ。あの男――ヴィラルはまだ役に立つ。奴は奴で不屈の男。まだ優勝を諦めてはいないだろう。
あの男は元来獣人だと言うが、既に螺旋力に覚醒している。或いは、大番狂わせと言うのもあり得るぞ。
真なる螺旋力の覚醒者に何より必要なのは不屈の心だ。その意味では奴にも覚醒の資格はある、と言える」
もっとも、例えそうなったとしても、俺がなぶり殺しにしてやるがな。
一瞬だけ、ルルーシュの眼に昏い意志が宿る。しかしグアームはそれに気付かぬ様子で、うんうんと鷹揚に頷いてみせた。
「成程、それも一理ある話じゃな。じゃが、そろそろ準備はした方が良いじゃろう。今の『放送』で、一段と事態が早まる可能性が高い」
「そうだな……ならばグアーム。実験場内時間で午後二時になったら全員を招集する。もし事態が更に早まった場合は、直接俺から連絡して緊急招集を掛ける。その事を全員に伝えて貰いたい」
「良かろう。そのくらいの事はお安い御用じゃ」
グアームの返事を聞いた後、ルルーシュは二、三度辺りを見回す。その意味を悟ったのか、グアームの表情も少し厳しいものとなった。
「ハッキングの件はどうなっている? 進展はあったか?」
「平行世界のいずれかからハッキングを仕掛けたらしいと言うのには間違いない。
あやつも……ロージェノムもハッキングの類を警戒していたのか、テッペリンの対ハッキング設備は充実しておるからな。大まかな出所ならばわかる。
しかし、それ以上の詳しい事はまだ解明出来ておらん。かなり巧妙な手法でハッキングを行ったと見える」
「……チミルフやアディーネが接触した『奴等』である可能性は?」
「かなり低いじゃろうな。そちらにも探りは入れてみたが、どうもハッキングの出所は『その』世界とは違うらしい。
それに、もし『奴等』だとした場合、何故一向に結界の破壊なり攻撃なりが無いのかの説明が出来ん」
642
:
嘆きのロザリオ
◆vHXqfHd//2
:2008/10/11(土) 21:05:35 ID:pVuCPkfw0
ルルーシュ達の知る限りに於いて、現時点で外敵になり得る勢力は二つある。一つはアンチ=スパイラルで、もう一つは『チミルフとアディーネが接触した』機動六課だ。
アンチ=スパイラルがハッキングをした可能性が限り無く零に近い以上、真っ先に二人が警戒したのは機動六課だった。
チミルフとアディーネの接触と同時期に、ティアナ・ランスターら四名の隊員が謎の失踪を遂げている。この二つの事件を結びつけて考えるのは子供でも出来る。
そして、ロージェノムが遺した対ハッキング設備でさえ追跡し切れぬ巧妙なハッキング手法も、魔法で行われたと考えれば一応の説明はつく。
もし機動六課がハッキングをしたのならば由々しき事態だった。
チミルフとアディーネを完膚なきまでに粉砕した戦女神達ならば、こんな結界など紙切れ同然に吹き飛ばしてしまうかも知れないのだ。
そして結界が破壊されたが最後、ここは火の海となるだろう。アンチ=スパイラルの様に、一時的にでも見逃してくれるとは思えない。
或る意味アンチ=スパイラル以上に恐るべき外敵に、二人は最悪の事態も覚悟していた。
しかし来るべき攻撃が行われぬ以上、その可能性は考慮しなくても良さそうだ。それを知ったルルーシュは流石にふっと息をついた。
「しかし、『奴等』でないとすると一体誰がこんな真似をしたんだ? あの『精霊王』の追跡者達ではあるまい。
そんな技術があるならば、『精霊王』如き小物に後れを取ったりはしないだろう」
「その辺は現時点では何とも言えんな。調査は儂の方で進める。同志達にはまだ、この件については話さん方が良いじゃろう」
結局は、先刻と殆ど変わらないと言う訳か。グアームの意見に頷きながら、ルルーシュはそんな事を思った。
戦いに於いて最も厄介なのは、情報の不足だ。情報無くして勝利はあり得ない。正体不明の敵に備える事ほどに困難な仕事も無かった。
「では、俺はこれで失礼させて貰う。こんな事態になった以上、手持ちの資料を今一度整理する必要があるからな。ハッキングへの対処はくれぐれも頼むぞ」
「わかっておる」
その返事に満足して一旦ルルーシュは彼に背を向けたが、不意に何かを思い出したのか、くるりと踝を返した。
「グアーム。お前はロージェノムと旧知の間柄だろう? お前自身がアンチ=スパイラルに対して知っている事は何か無いのか?
奴等についての情報も、現状では余りに乏し過ぎる。せめてもう少し判断材料は欲しい所なのだが……」
これは本音だった。戦略を何よりも重視する彼としては、情報が喉から手が出る程に欲しい。情報が無ければ、アンチ=スパイラルの意志と目的を探る事も出来はしないのだ。
しかし、グアームの反応は芳しくなかった。
「さあて、の……確かに儂はロージェノムと永年共におった。まだロージェノムが子供だった時からな。
しかし、生憎その時の儂はただのアルマジロに過ぎんかったのじゃよ。
儂がこうして何かを喋ったり考えたり出来るのも、奴と共に悠久の時を過ごして来たからに他ならん。残念じゃが、お主の希望に答えてやる事は出来ん」
「……そう、か」
グアームの返答はある程度予想はしていた。しかし、流石に落胆は隠せない。これで恐らく、新たにアンチ=スパイラルの情報を得る機会は訪れないだろう。
彼等自身が、再びこちらに接触でもしない限り。
643
:
嘆きのロザリオ
◆vHXqfHd//2
:2008/10/11(土) 21:07:09 ID:pVuCPkfw0
「仕方あるまい。矢張りロージェノムが遺した資料を丹念に見るしか無いか。無駄な時間を取らせて済まなかったな、グアーム」
「なに、気にする事は無い。お主の懸念は当然の事じゃ。儂としても、役に立つ事が出来んのは心苦しい限りじゃよ」
「知らないものは仕方無いだろう。お前はお前の任務を果たしてくれれば充分だ。差し当たっては、ハッキングの調査に専念してくれれば良い」
「承知した。難しい仕事ではあるが、何とか尻尾を掴んでみよう」
ルルーシュは今度こそグアームに背を向け、資料室に歩き去って行く。グアームはその後姿を一見すればぼんやりと、しかし実際には複雑な表情でじっと見据えていた。
(やれやれ。あの坊主、頭は確かに切れるが、少しばかり感情を抑えるのが苦手な様じゃの。あの若造達に対する殺意を、隠しきれておらんぞ)
グアームは知っている。彼の親友を殺したのが、あの若造――ヴィラルである事を。
他の四天王にとって、死者などは記号でしかない。監視役を務めていたシトマンドラも、今はまだ感情の整理がつかずそれどころでは無い。
しかしこの老獪な策士はルルーシュ達と手を組む段になった後、彼等の関係者について密かに洗い直していたのだ。
(東方不敗はまだしも、あのウルフウッドと言う若造とルルーシュには爆弾がある。ヴァッシュ・ザ・スタンピードと枢木スザクと言う爆弾がの。
肝心な時に妙な事になって貰っては儂らとしても困るのじゃがな。ウルフウッドは、少なくとも戦いに迷いを見せたりはせんじゃろうが……あの坊主は、どうじゃろうな。
若造達に何をする気かは知らんが、『目的』を忘れて貰っては困るのじゃぞ、ルルーシュ・ランペルージよ)
ゆっくりと歩みながら、グアームは想う。ルルーシュと『奴』は、何処か似ている所がある、と。
それは、冷静に見えて感情を完全に抑え切る事の出来ぬ性分の人間だ、と言う所。
(よもや、とは思うが、万一にでも悪影響があるのでは困る。『奴等』の性質については言わぬ方が良いかも知れんな)
グアームの脳裏に、あの忌まわしい光景が蘇る。天を覆うアンチ=スパイラルの軍勢の威圧感は、当時ただの小動物に過ぎなかったグアームでさえ、戦慄せずにはいられない光景だった。
それは正しく、『世界最後の日』と呼んで差し支えない代物だったのだ。
だが、それでも螺旋族は立ち上がった。グアームもまた、少年から青年へと成長したロージェノムに従い、アンチ=スパイラルとの戦いを見届けて来た。
戦いは、螺旋族が有利に進めていた。戦力で言うならば、『奇跡』の世界でシモン達が用いた戦力とは比較にならぬ程に強大だった。勝利は、目前と思われていた。
しかし――勝利への道は、突如として終わりを告げる。アンチ=スパイラルの反攻によってでは無く、一人の戦士の余りに突然の裏切りによって。
644
:
嘆きのロザリオ
◆vHXqfHd//2
:2008/10/11(土) 21:09:27 ID:pVuCPkfw0
(なかなかやるものだな、螺旋族の戦士ロージェノムよ。我々がこうまで押し込まれるとは思いもしなかった)
何の前触れも無く艦橋に現れた、万物の統制者。その男の姿は虚ろで、そもそも実態を伴っているのかさえ明らかではない。
(しかし、だからこそ危険なのだ、お前達の力は。お前達の進化は、いずれ宇宙を食い潰す事になる。それを何故理解しようとしないのだ?)
――ほざくな、アンチ=スパイラル。俺がそんな言葉で惑わされるとでも思っているのか。有無を言わせず俺達を滅ぼそうとした奴の言葉など、誰が信じるものか!
その青年は、『統制者』に対する怒りを剥き出しにする。しかし『統制者』はその顔に哀れみを浮かべ、静かに首を振る。
(矢張り、聞く耳を持たぬか。ならば、理解らせてやろう。お前達の進化が、一体何をもたらすのかを。
どんなに認めたくなかろうが、お前は見届けねばならない。進化の果てに待つ、滅びの結末をな)
次の瞬間、青年は瞠目する。瞬く間に『統制者』がガンメン並の巨体となり、彼を握り潰さんばかりの巨大な手で、青年を包み込んでしまったのだ。
そして、青年は否応なしに見せ付けられる。開けてはいけないパンドラの箱の中身を。螺旋族の、果て無き進化の末路を。
(見るが良い。これが螺旋の力が引き起こす宇宙の破滅――スパイラル・ネメシスだ――)
玉座に座し、気の無い表情で下界を見下ろす王が居た。その傍には小さき獣と、数多の獣とも人ともつかぬ者達が控えている。
「ニンゲンどもの掃討は半ば以上完遂致しました。ただ、彼奴等の中には地下に逃れ、尚も生き長らえようとする者どもが居ます。如何なさいましょうか?」
配下の報告に、王は何の反応も返しはしない。首に掛けられたドリルに見えるペンダントも、所在無く微かに動くばかりだ。
「……私がお前達に命じたのは、人間どもをこの地上から一掃する事だ。奴等が地上を捨て、日の差さぬ地に無様に逃れるのであれば、追わずとも良い」
漸くに王が反応を示す。一見寛容に見えるその言葉は、しかしある意味単なる絶滅よりも過酷な内容だった。
「だが、奴等が身の程知らずにも再び地上に上がって来るのならば、その時は上がって来た者を皆殺しにしろ。
誰一人この地上に残すな。あの愚かなる種族は地の底で眠るが運命。それを骨身に叩き込むには、見せしめが必要だ。
二度と地上に上がる気を起こさせぬ様、徹底的に殺すのだ。地上は楽園などでは無く、人間にとっての地獄であると理解させよ。
それこそが、地上を支配する種たるお前達獣人の至上の使命だ。誰が支配者であるのかを、その力で以って証明して見せよ」
偉大なる王の言葉に、獣人達の鬨の声が上がる。王は無言で手を振り、猛き獣に出撃を命ずる。その命令により、獣達の咆哮は最高潮に達した。
一人、また一人と退出し、玉座の間に残されたのは、王と小さき獣のみ。王は言葉を発する事無く、静かに玉座に佇んでいる。
不意に、獣が王を見上げて鳴き声を発した。王はその声の方向を見る。その瞳には、何の感情も無い様に見えた。
獣は尚も、鳴き声を発し続けた。それはまるで、王に何事かを必死に訴えているかの様であった。
「……最早、終わった事なのだ」
ぽつりと、まるで死に掛けの老人の様なかぼそい声で王が呟く。その瞳に、微かに感情が宿る。
「そう、全ては終わった事だ。俺はもう、戦士になどなれはしない」
王はドリルを握り、眼を閉じた。それはまるで、罪びとが十字架を手に、懺悔を行うかの如き光景だった。
「俺は、愚かな罪びとだ」
四半刻は経っただろうか。漸く王は、その眼を開く。王の瞳には、悲しみとも無念とも違う、底知れぬ昏さが漂っていた。
いつしか獣の声は止んでいた。しかし、尚も何かを訴えるかの如き凝視までは、止めていなかった。そして、その趣も以前とは微妙に異なっていた。
「俺は決して、自らの『罪』を忘れはしない。だが……」
償う事も、出来はしない。何故なら俺は裏切り者だから。無様に逃げ延びた敗残兵だから。アンチ=スパイラルの操る道化に過ぎないから。
アンチ=スパイラルの示した真実に耐えられなかった負け犬なのだから。
645
:
嘆きのロザリオ
◆vHXqfHd//2
:2008/10/11(土) 21:11:20 ID:pVuCPkfw0
(あの時、儂が言葉を発する事が出来たなら、お主の力になる事が出来たなら、こんな事にはなっとらんかったろうか)
埒も無い戯言を、と己を嘲りながら、老いた獣はそう考えずには居られない。この事態は避けられた筈だと、心の何処かで訴えるものが今でも残っていた。
(のう、ロージェノム。お主の無念と絶望は、儂も良く知っておるつもりじゃよ。
今でもはっきり覚えておる。アンチ=スパイラルの天を埋め尽くさんばかりの大軍団が、儂らの住む街と言う街を焼き払う光景を。
宇宙空間を埋め尽くすアンチ=スパイラルの軍勢は、さしずめ敵が七分に宇宙が三分、と形容出来るくらい、いっそ壮観なものじゃったなぁ。
お主は他の誰よりも強かった。他の誰よりも勇敢だった。他の誰よりも同胞の事を案じていた。アンチ=スパイラルへの対抗心は、他の誰にも負けてはおらんかった。
だからこんな事になってしまったのかのう?
あの最終局面でお主が螺旋族を裏切り、立ち塞がる同胞を悉く打ち倒していったのと同じく、
お主自身が生み出し、手駒として来た獣人達を裏切ったのか? 永年共に過ごして来た、この儂さえも裏切る決意を下したのか?)
螺旋族とアンチ=スパイラルとの全面戦争。それを敗北に導いたのは、誰あろう螺旋王ロージェノムだった。
それは、今の状況と殆ど変わりなかった。彼は余りにも悲惨極まる現実を目の当たりにし、そこから逃げ出してしまったのだ。
一度目の過ちは『スパイラル・ネメシス』と言う、進化の果ての破滅と言う事実に耐え切れなかったが故に。
二度目の過ちは、アンチ=スパイラルの襲来と言う事実に耐え切れなかったが故に、犯してしまった。
それまで共に戦って来た友を見捨て、自分独り裏切ると言う、最悪の形で。
(ロージェノムよ。儂らはそんなにも頼りなかったか? そんなにも信用出来なかったか?
取り返しの付かぬ過ちも、一度だけならばまだやり直しは利くかも知れん。だがな、それを二度も三度も繰り返したら、最早どうしようも無い事じゃぞ。
自分が罪びとであると自覚しているのなら、何故同じ過ちを繰り返す。何故再び、昨日までの友を背中から撃つ様な真似をするんじゃ。
今頃お主は、別の場所で実験の準備を進めておるのじゃろうな。しかし、何度やった所で結果は同じじゃよ。
きっとお主は、また実験の半ばでそれを放棄し、また同志達を裏切る事になるじゃろう。そして、真なる螺旋力の覚醒者など、出ては来んさ。
ロージェノム。お主はいつから、他人の力に依存する様な負け犬に成り下がった?
あの時のお主はそうでは無かった。自分の力に依って立ち、常に自ら先頭に立って戦っておった。だからこそ螺旋族は、お主に付き従ったのじゃ。
だのに、お主と言う男は……!)
646
:
嘆きのロザリオ
◆vHXqfHd//2
:2008/10/11(土) 21:14:23 ID:pVuCPkfw0
情けなかった。これが嘗て、豪放さと勇敢さで皆を引っ張り、螺旋族のリーダー的存在として奮戦していた偉大な戦士の成れの果てだと言うのか。
自分は、そんな情けない男を今まで友とし、主君と定め、報われぬ忠誠と友情を注いでいたと言うのか。
(奴でさえこうまで堕としてしまうアンチ=スパイラルと言う存在……あの細っこい坊主が、その重圧に耐え切れるものじゃろうかな……)
ルルーシュには言わないが、彼はアンチ=スパイラルの本当の恐ろしさを知っていた。嫌と言う程に。
彼等の本当の恐ろしさは圧倒的戦力では無い。敵を如何にして絶望させるか。それを主眼に置いた戦い方を好む事だ。
あのアンチ=スパイラルが、自分達の交渉に本当に応じるのだろうか?
否だ。少なくともグアームの知るアンチ=スパイラルはそんな寛容な敵では無かった。彼等は螺旋族最強の戦士たるロージェノムの心を、完膚なきまでに打ち砕いたのだから。そう、あの『スパイラル・ネメシス』の有様を、嫌と言う程見せ付ける事によって。
螺旋力の発現を目的としなければ交渉出来るか、と言う問題についてもグアームは本音を言えば懐疑的だった。
アンチ=スパイラルは神の如き存在であるが、生憎慈悲を与える神では無く罰を与える神だ。『やさしい神様』などではあり得ない。
圧倒的な力で屈服させれば良いだろうに、わざわざロージェノムの心を砕く方に力を注いだのがその証左だ。
彼等の本性は、慎重にして狡猾極まりない策士。人に絶望を与える破壊の神。
彼等に打ち勝つには、強靭な精神力が不可欠だろう。戦うにしても、交渉するにしても。
(だが、あやつは高嶺清麿とも明智健悟とも違う男だ。胸の内には底知れぬ野心と残忍性を秘め、そのくせ家族への並々ならぬ情愛と激情をも有しておる。
扱いにくい事この上ない小僧じゃが、この際そうした一筋縄では行かぬ輩の方が良いのかも知れぬな。
元々はロージェノムを捕縛する為に連れて来たが、もしアンチ=スパイラルと相対する事になったとしても、あやつならば或いは……)
奴等を出し抜く事も、出来るかも知れない。そんな馬鹿げた考えが老いた獣の脳裏に浮かび、すぐに消えた。
(不本意ではあるが、今はお主に全て託す他に無い。お主が何を考えていようが、儂は少しも構う所では無い。
儂等を利用したければ、存分に利用するが良かろう。それが『目的』の助けになるのならば、喜んで利用されてやる。
だがな、ルルーシュ・ランペルージよ。くれぐれもロージェノムと同じ過ちは犯してくれるな。
よもやとは思うが、儂はもう手放しで誰かを信じる事が出来んからな。
どんな清廉な者も腐敗堕落し、どんな勇猛な男も臆病に成り下がる事がある。それが人間の弱さだ。
奴も、ロージェノムもそれに呑まれてしまった。お主も奴と同じ道を辿ってくれるなよ、黒き反逆の皇子よ)
そこに居たのは、嘗て螺旋四天王として猛威を振るった『不動のグアーム』では無かった。絶望を味わい、老友にも裏切られ、心傷つき果てた、無力な老いたアルマジロが居るだけだった。その後姿は、心なしか小さく思われた。
647
:
嘆きのロザリオ
◆vHXqfHd//2
:2008/10/11(土) 21:16:23 ID:pVuCPkfw0
【チーム:七人の同志】
(ルルーシュ、チミルフ、アディーネ、シトマンドラ、グアーム、ウルフウッド、東方不敗)
[共通方針]:各々の悲願を成就させるため、アンチ=スパイラル降臨の儀式を完遂する。内容は以下の通り。
1:螺旋王の残した実験(儀式)を続行。真なる螺旋力覚醒者(天元突破)を誕生させ、アンチ=スパイラルを誘き出す餌とする。
2:ルルーシュの指揮の下、頃合を見計らって『試練』となる戦力を投入。参加者たちに意図的に逆境を与え、強引にでも螺旋力の覚醒を促す。
3:投入する戦力は現在のところチミルフ、ウルフウッド、東方不敗の三名を予定。生存者たちの状況により随時対応。
4:試練を与える前に真なる螺旋力者が現れた場合、また別途にアンチ=スパイラルとの接触の機会が訪れた場合には、逐一対応。
5:同志七人の立場は皆対等であり、ルルーシュとチミルフを除いて支配従属の関係にはならない。
6:アンチ=スパイラルとの接触に成功した後は、ルルーシュが交渉を試み、その結果によって各自行動。
[備考]
※その他、詳細な計画の内容は「天のさだめを誰が知るⅢ」参照。
※ルルーシュの推測を含めた実験の全容については、「天のさだめを誰が知るⅡ」「天のさだめを誰が知るⅣ」参照。
※多元宇宙を渡る術は全て螺旋王が持ち去りましたが、資料や実験を進める上で必要不可欠な設備、各世界から強奪した道具などは残っています。
※ルルーシュら実験に参加していた四名は、テッペリンの設備で体力と怪我を回復しました。
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:首輪解除、健康
[装備]:ベレッタM92(残弾11/15)@カウボーイビバップ、ゼロのコスチューム一式@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服 、
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、
毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、
ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
参加者詳細名簿(ルルのページ欠損)、詳細名簿+(読子、アニタ、ルルのページ欠損)
支給品リスト(ゼロの仮面とマント欠損)、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:何を代償にしてでもナナリーの下に帰る。七人の同志の一人として行動。
1:当面は実験場の監視に務め、試練投入のタイミングを見定める。
2:同時に、手持ちの情報を再度洗い直す。
3:他の同志たちの行動にも目を配る。特にウルフウッド、東方不敗を要注意。
4:アンチ=スパイラルのより詳細な情報が欲しい。
5:謎のハッキングについて警戒する。
6:カミナ、ドモンを『覚醒者』候補として重点的に監視する。
7:不本意ではあるが、ヴィラルも『覚醒者』候補として慎重に取り扱う。但し機会があれば必ず断罪する。
8:ギルガメッシュに対して強い警戒心。利用価値が無くなったら全力で排除する。
9:アンチ=スパイラルに対するひそかな敵愾心。生殺与奪を握られたままで終わるつもりはない。
[備考]
※螺旋王の残した資料から、多元宇宙や実験の全容(一部推測によるものを含む)を理解しました。
※謎のハッキングについては外伝「かつてあったエクソダス」参照。
【不動のグアーム@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対して……。
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:謎のハッキングの調査を続行する。
2:東方不敗に渡す資料の選別。
3:ルルーシュの招集指令を全員に伝える。
4:ロージェノム……。
5:ルルーシュに対する漠然とした不安あり。
6:アンチ=スパイラルに対する強い警戒心。
[備考]
※東方不敗に渡す資料は、ギアスの情報など一部隠して渡すつもりです。
※現時点でルルーシュにアンチ=スパイラルの情報(特にその『絶望を誘う』性質)を語るつもりはありません。
648
:
嘆きのロザリオ
◆vHXqfHd//2
:2008/10/11(土) 21:19:08 ID:pVuCPkfw0
◇ ◇ ◇
その男は、夥しい数のモニターに映し出される映像を眺めている。その瞳に、特別な感情は見受けられない。
それはまるで、科学者がフラスコの中に収められたモルモットの状態を見るかの様な眼だった。
――若者達よ、健やかに、そして何処までも美しくあれ!
それは、気の遠くなる程の時を自らの罪と戦いながら過ごして来た一人の男が、罪の意識から解放され、全てを終わらせた時に発せられた言葉。
――民主主義に、乾杯!
それは、余りにも愚かしく腐り果てた政治屋達に翻弄され、それでも尚最後まで自分達の信念を曲げなかった男達の、最後の杯。
――その幻想を、ぶち殺す!
それは、『右手』以外に何の能力も持たぬただの少年が、自分の信念と大切な人々を護る為に、渾身の一撃を繰り出す時の言葉。
――うおおおおーっ!! 今日こそ動かしてやるぜぇっ!! 山よ! 銀河よ!! 俺の歌を聴けえぇっ!!!
それは、敵を倒そうとする事を望まず、ただ自分の歌を誰かに聞かせ、自分の想いを伝える事だけを望んだ、一人の自由奔放な歌い手の魂の叫び。
ある世界には、罪を背負い続け、その責任を全うする為にその生命を永らえていた男が居た。
ある世界には、軍人としての規範を守りながらも、最後まで権力に屈せず、反骨と民主主義の精神を貫いた不器用な男達がいた。
ある世界には、記憶を失い、度々悲惨な目に遭いながらも尚、自分の信念を曲げぬ『不幸な』少年が居た。
ある世界には、如何なる規律に縛られる事も拒み、我が道を突き進む異端にして熱き『歌い手』が居た。
649
:
嘆きのロザリオ
◆vHXqfHd//2
:2008/10/11(土) 21:22:51 ID:pVuCPkfw0
「羨ましいものだな」
ぽつりと、男は呟く。
「今の私は、彼等の内の誰が相手でも、肩を並べ共に歩む資格を持ち合わせては、おらぬのだろうな」
偽りの姿を捨て、義兄の呪縛を乗り越えて自らを取り戻した金髪の伯爵の如き責任感と不屈も無い。
今の社会が『最悪な民主政治』である事は百も承知で、それでも『最良の独裁政治』に従う事を拒む鋼の信念も無い。
無謀な戦いと知りながらも、自ら前に進み、皆を助ける事しか考える事の出来ぬ、青臭い愚直さも無い。
ただ自分のやりたい事だけをすると言う自由な精神も、歌を通して誰とでも心通わせたいと言う純粋な熱意も無い。
今の自分には、その全てが無い。それは千年前に、全て捨ててしまったから。
「……矢張り、私の所業は客観的に見れば許されざる事なのだろうな」
今までのものとは別の映像を見ながら、男は自嘲混じりの言葉を発する。
映像の中では、『魔術師』と謳われながら戦争を心から憎む男が、政治屋達を相手取って辛辣な批判を繰り広げている所だった。
――人間の行為の中で何が最も卑劣で、恥知らずか。
それは権力を持った人間や、権力に媚を売る人間が、安全な場所に隠れて戦争を賛美し、他人には愛国心や犠牲精神を強制して戦場に送り出す事です――。
その男のある種過激な思想に同調するか否かは別として、彼の発する言葉の辛辣さは、男にとっても無縁では無かった。
「お前にとっては、今の私の行動も『卑劣で恥知らず』なものに映るのかな? 矛盾の塊と言われた英雄よ」
男は自らの半生を振り返る。崩壊した市街から見つけ出した、顔型のマシン。それを動かしてからの、疾風怒濤の如き戦いの日々。それは、今自分が身を置いている環境とは、まるで正反対だった。
「確かに、昔の私と今の私とでは雲泥の差と言うものだ。私を知る者は、矢張り今の私の行動を許さぬ……そう言う事か」
再び映像が切り替わる。今度は二つの映像に分けられていた。
片や、裏切りに揺れる『盟友』だった獣。片や、浮浪者の様な外貌でありながら、その眼に底知れぬ力を秘める初老の男と『精霊王の催し』の生き残り。
「矢張り、お前達も動くか。この私を止める為に。私の『過ち』を阻止する為に。どうあっても、今の私を認めるつもりは、無いと言う事か」
男の顔に、憤りは無い。むしろ、その顔には笑みさえ浮かんでいる。不敵さと悲愴さを滲ませながら。
「止めたければ、止めるが良い。アンチ=スパイラルは愚か、お前達にさえ私の行動が阻止されるのであれば、私はそれまでの男だったと言う事。
だが、例え今の私がどれ程に卑劣で恥知らずで無能な敗残兵であるとしても、退く訳には行かぬ。
幾度実験に失敗しようと、私は何度でも立ち上がって見せよう。それが今の私に出来る唯一の行動だ。
それが、今の私に残された最後の希望と矜持だ。この悪足掻き、そう簡単に止められるとは思わぬ事だな」
そして、男は嗤う。感情を表す事は久しくなかった。それがどれだけネガティブなものであっても、今の彼にとっては、奇妙に心地良いものだった。
さあ、壁を突き破ってみろ。私は私の最後の誇りの為、全力を賭してお前達に立ちはだかろう。それが――私の歩む果て無き地獄の道なのだからな。
650
:
嘆きのロザリオ
◆vHXqfHd//2
:2008/10/11(土) 21:24:52 ID:pVuCPkfw0
【螺旋王ロージェノム@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:次の『実験』への準備を進める。
1:次の『実験』を進める為、新たな候補者の選別を行う。
2:『エクソダス』組と元の世界の獣人達が自分を狙っている事を察知。自分からは手を出さないが、『実験』の阻止はさせない。
3:何度失敗したとしても、大望の成就を諦めるつもりは無い。
4:自分の『罪』(千年前の裏切りと、今回の裏切り)を自覚。但し贖罪をするつもりは無い。
[備考]
※螺旋王は既に第一の『実験』を放棄しており、それに何らかの関与をする意志を持っていません。
※螺旋王が逃亡した先は、獣人が支配する多元宇宙の何処か。既にその世界の螺旋王と入れ替わっており、『実験』の準備を進めています。
※実験を行うのに必要な道具は、オリジナルと量産品含め、全て持ち去りました。消失の痕跡も残していません。
※螺旋王が残した推測
・アンチ=スパイラルは実験に介入できないのではなく、しないだけ。観察が目的と考えられる。
・実験の成果が現れたとき、アンチ=スパイラルは実験場に踏み込み、人類殲滅システムを発動する。
651
:
獣人と人
◆DzDv5OMx7c
:2008/11/09(日) 23:36:08 ID:we1SabhU0
case1 獣人:アディーネ
月面、獣人の根城テッペリン。
すべてが螺旋の法則に従って作られたその城は、本来真っ直ぐであるはずの廊下も螺旋くれている。
そして今、その螺旋の廊下を進む一人の女がいる。
蠍の尾を持つ女の名は螺旋四天王が一人、流麗のアディーネである。
彼女が歩みを止めたのは、螺旋城内の施設の一つ……武闘場と呼ばれる場所であった。
通常ならば大観衆の中、獣人同士が互いに武技を競い合うのがこの施設の役割だ。
だが螺旋王消失という緊急事態である今、そこに観客はいない。
いるのはコロッセオの中心に佇む一人の獣人のみだった。
円を描く戦場の中心で荒れた息を整えるのは青銅色の肌を持った獣人。
元はアディーネと同じ四天王、名をチミルフといった。
東方不敗と名乗るあの老人と手合わせしたのだろう。
全身から発する闘気は彼女の知るどのチミルフよりも武人としての凄みを放っていた。
だが……
「アディーネか……持ち場はどうした」
こちらを一瞥もせず、声だけで問いかけるチミルフ。
彼女が担当していたのは外部勢力……アンチ=スパイラルに対する警戒だ。
だがルルーシュは『今は真なる螺旋力覚醒者が出現するまで、むしろ変に刺激しないほうが良い』と判断。
よってその任を解かれ、シトマンドラのサポートを言い渡されていたのだが――
「アンタも知ってるだろ、シトマンドラの性格を?
下手な手出しはアイツの誇りを刺激して邪魔するだけさね」
あの年若い獣人は人一倍プライドが高い。
サポートに回ればそのプライドを妙な方向で刺激し、事態をこじれさせない。
アンチスパイラルの尖兵との邂逅、螺旋王の離反、参加者の小僧と手を組む……
ここ数時間でこれだけの異常事態が起こっているのだ。
正直、これ以上の面倒ごとは御免こうむりたい――そう判断したのも嘘ではない。
そう、嘘ではない、が……
「ふむ……ならば久方ぶりに手合わせでもするか?」
元々彼女はチミルフと同じ、武によって功を成して来た女傑である。
故に時にぶつかり合いながらも、盟友として共に歩んできたのだ。
遥か昔にはアディーネとも幾度と無く手合わせしたものだ。
だがその提案に対し、歴戦の女武将は目を伏せる。
「……今はそんな気分じゃないんでね、やめとくよ」
アディーネのその様子にも気にした風は無く、
「そうか」と、言葉少なに背を向け、チミルフは再び巨大な槌を振りかぶる。
そして終わりの無い修練は再開される。
二人の間に残されたのはハンマーが空を切る音のみ。
その音から逃げるように、アディーネはコロッセオを後にした。
652
:
獣人と人
◆DzDv5OMx7c
:2008/11/09(日) 23:37:04 ID:we1SabhU0
* * *
螺旋の廊下に再び足音が響き渡る。
だがその足取りは更に重く、表情に走る苦味は増している。
彼女の脳裏に浮かぶのはチミルフのことだ。
一見しただけでわかった。チミルフはこれ以上ないぐらいに研ぎ澄まされている。
それは強敵を求め、どこか燻り続けてきた彼を見てきたアディーネにとって喜ぶべき事態でもあったはずだ。
――それが自分たちと共に歩んだ栄光を捨て去った結果だとしてもだ。
だが、今の彼は誇り高き武人ではない。
ルルーシュの、ニンゲンの下僕と化してしまったのだ。
一方的な、ギアスという名の暴力によって。
そしてチミルフが武人として尊ければ尊いほど、その在り様は哀れな道化に堕ちていく。
余りにも無様。余りにも惨め。
そしてその姿を否応無く見せ付けられる彼女にとって、それは拷問以外の何者でもなかった。
……そう、アディーネがシトマンドラのサポートに付かなかった最大の理由。
それはルルーシュ・ランペルージへの不信、である。
ギアス。ルルーシュの持つ絶対遵守の魔眼。
しかも事前にグアームから聞いた情報によれば、条件を設定をすることで遅効性の発動も出来るらしい。
『それは後々説明するさ。――では同志諸君! これより『螺旋王捕獲作戦』の全容を発表する!』
まったくお笑いだ。それでよく"同志"だなどと嘯けたものだ。
そんな力がある限り、決して対等などにはなりえないことは貴様が一番知っていることだろうに。
今この瞬間も自分が操られているという可能性は、ルルーシュ以外、誰も否定できないのだ。
自分が自分で無くなる。哀れな人形に成り下がる。
それは、戦場で無双を誇った女傑の胸に消えない恐怖を刻み付けた。
そしてその恐怖は次第にルルーシュに対する苛立ちへと変わっていく。
貴様はチミルフを、獣人を、いや、他でもないあたしを侮辱した。
胸の中で渦巻く靄が全身へと広がっていく。
だが――
「まったく見ていられんのう、チミルフの奴め……」
「!! 覗き見とはいい趣味をしてるじゃないか、グアーム……!」
いつの間にかやってきた顔なじみに顔をしかめ、不快の色を露にする。
チミルフのことを口にするとは、少なくとも闘技場でのやり取りから見ていたのだろう。
だがグアームはそんなことを気にした様子も無く、言葉を続ける。
「あのニンゲンが気に食わんのは分かる。
じゃが……あの小僧は紛れも無い天才よ。
螺旋王への復讐をなすには必要不可欠な人材――」
「わかってるんだよ、そんなことは!」
アディーネという獣人は決して愚鈍ではない。
その理性はあの少年が必要な存在であることを認めている。
しかしだからこそ、苛立ちは消えない。
ルルーシュに対する敵意は、それを跳ね除けられない自己嫌悪となってそのまま自身に返る。
理性と感情が鬩ぎ合い一層、彼女を追い詰めていく。
「ふむ、ルルーシュ・ランペルージ……今や奴は情報と言う力を手に入れた知の化け物じゃ。
特にあの箱庭の中に関してはまさに神に等しい存在といってもいいじゃろう」
グアームはそこで言葉を切ると、懐から"鍵"を取り出す。
怪訝な表情になるアディーネを前にグアームは口の端を吊り上げ、更に言葉を重ねる。
「だが我らが求めているのは王の代わりであって神ではない。
じゃから――"保険"が必要だとは思わんか?」
その笑みは、ただ、深い泥のような陰湿な色を持っていた。
653
:
獣人と人
◆DzDv5OMx7c
:2008/11/09(日) 23:37:25 ID:we1SabhU0
case2 獣人:チミルフ
「はあああああああっ!」
裂帛の気合とともにハンマーが空を切り裂く。
疲労から回復したチミルフは一心に槌を振るっていた。
先ほどの東方不敗という男との戦いは心躍るものであった。
だが同時に自分の"弱さ"を感じ取る結果でもあった。
――認めよう、我が実力はあの老人に遠く及ばない。
さほどのショックも無く、事実をありのまま受け止める。
しかしてチミルフは絶望することも無く修練を続ける。
怒涛の二つ名と慢心を捨てたチミルフは、まるで己を一つの武器とするかのようにひたすらに己を鍛え続ける。
もっと強く、もっと剛く。
武人である自分がルルーシュの役に立つにはこの道を突き詰めるしかない。
先ほどのアディーネの様子が気にならないといえば嘘になる。
だがそれすら振り切って、ただひたすらに心を研ぎ澄ませて行く。
だが視界の端に白い影が映り、視線を上げる。
そこにあったのは孔雀の羽を持つ同僚の姿であった。
「どうした、シトマンドラ」
「あ、ああ……」
歯切れが悪い。
いつも過剰なまでに自信を振りまくこの男らしくもない。
「……チミルフ、お前はどう思う。
この作戦、成功すると思うか?」
シトマンドラの口から出たのは不安を帯びた弱弱しい声色。
確かに賭けというにも分が悪い勝負だ。
チミルフ自身も不安になる気持ちがないといえば嘘になる。
だが彼はそれを惰弱と切って捨てる。
「知らんな。俺は信じるだけだ、我が王を。
そして獣人が優れている種であると存在するためにも、な」
何という矛盾だらけの言葉。
人を頂きに擁き、どうして獣人の誇りを証明できるのか。
チミルフの中には螺旋王ロージェノム……あの男に仕えていた記憶はある。
だがその記憶があったとしても、ギアスによる思考誘導は細かな矛盾を無視する。
ニンゲンがそれほど長生きできるはずがないと言う事実も、
そもそもルルーシュが参加者の中にいるのがおかしいと言う矛盾にさえチミルフは気づかない。
同僚であるはずのこの男が同じ王に仕えていないという明らかな矛盾にすら気づくことは無い。
「そう、だな……我らに出来るのはすべきことをなすだけ、か」
それだけ言い残すとシトマンドラはどこかぼんやりとした足取りで立ち去った。
気を取り直し再び修練に戻ろうとしたチミルフの視界に入るのはシトマンドラとは正反対の黒いシルエット。
十字架を背負ったあの男。
生身でビャコウと互角に戦ったニンゲンの戦士。
そういえば、あの男は……
654
:
獣人と人
◆DzDv5OMx7c
:2008/11/09(日) 23:39:02 ID:we1SabhU0
case3 人間:ニコラス・D・ウルフウッド
足元に転がる吸殻の数を数えるのは10でやめた。
腹減ったら飯食って、眠くなったら寝る――そうは言ったものの現状眠たくもないし腹も減っていない。
パニッシャーの弾丸補充は済み、念願の煙草も手に入れた。
適当にその辺りをぶらついてみたが特に興味を引かれるものも無い。
そう、平たく言ってウルフウッドは暇を持て余していた。
だから普段なら相手しないような、相手の相手でもしようかと思ってしまったのかもしれない。
「……何や用か、ワレ」
目を上げればそこにあるのはゴリラ獣人の姿。
名は確かチミルフと言ったか。それしか知らないし、知りたいとも思わない。
以前の奴ならともかく、どんな事があったのか黒もやしの駒に成り下がった奴になど興味は無い。
だが、
「お前に聞きたいことがある」
「何や、つまらん事やったら――」
「ヴァッシュ・ザ・スタンピードについて詳しく聞きたい」
その口から発せられた名前に、マッチを擦ろうとした手が止まる。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
その正体は人によって作られた、人を超えたもの。
そのコンセプトは獣人に通じるものがある。
戦闘の最中、目の前の男自身から聞いた名前。
生き残りのニンゲンから話を聞こうと思ったが、この状況下では難しい。
また、元の世界からの知り合いであるこの男に聞いたほうが一番いいだろう、とチミルフは判断した。
意外な人物が口にした意外な人物の名前に言葉を失うウルフウッド。
だがそんな彼らの前に新たな来訪者が現れる。
「……ふむ、それはワシも聞きたいところよ。
あの赤外套……どうやらなかなか面白い経歴の持ち主であるようだな」
いつの間にそこにいたのか、東方不敗がウルフウッドの背後から現れる。
その右手に紙の束をいじりながら。
まだ暖かいコピー用紙に書き込まれたのはグアームによってまとめられた参加者の情報の数々。
そしてその紙束の一番上に重ねられているのはヴァッシュ・ザ・スタンピードのものだった。
人のエゴによって生み出された人ならざるもの。
だがその出生とは裏腹に人を愛し、人という種を信じ続けた。
言うなれば、人であり人を信じることが出来なくなった自分とは真逆の存在。
故に東方不敗はその違いが知りたかった。
2人の視線を受け、ウルフウッドは大きくため息をつく。
……ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
ラブ&ピースが口癖の、史上初の災害認定された男。
あの男との縁は奇縁、としか言いようが無い。
敵であり、味方であり、そして――
『――お前には死んで欲しくないんだよ』
思い出すのはいつものバカみたいに笑う笑顔と、あの時向けられた本当に暖かい微笑みだけ。
だから、
「――や」
言葉は口をついて出た。
何かを考える間もなく、息をするように極々自然に。
「あいつは――人間や。
とんでもなくお人好しでアホウな、ただの、な……」
その言葉に万感の想いを滲ませて、それ以上何も言うことは無いとでも言うように。
言外に何かを感じたのか、問いかけた2人ともそれ以上は何も言わない。
そして最初にチミルフが、そして次に東方不敗がウルフウッドの元から去る。
そしてその場に残されたのは十字架を背負った一人の男。
男は自身に問いかけるように、呟く。
「せやから決着をつける……つけなきゃアカンのや」
あの時、人をやめなくて良かったと、彼は思う。
ヴァッシュは人間、彼が信じたのも人間。
であれば立ち塞がるべき自分も人であるべきだ。
決着は人間の手で。
神だろうと悪魔だろうとこの世界に入ることは許されない。
気を取り直し、新しい煙草に火をつける。
漂う紫煙の先に浮かんだのは愛しい女性の面影。
ミリィ・トンプソン。
その表情は悲しみの色を放っている。
だがそれでもウルフウッドの心は揺るがない。揺るぐはずも無い。
何故ならここは男の世界。
ウルフウッドとヴァッシュしかいない、他人を拒絶する灰色の世界。
人間に試練を与える外道牧師こそ我が天命。
彼にとってアンチ=スパイラルの降臨も、ルルーシュの思惑も、世界の命運すらどうでもいい。
彼がこだわるのは最後の瞬間まで人を信じた男との一世一代の大勝負のみ。
「……勝負や、ヴァッシュ・ザ・スタンピード」
ニコラス・D・ウルフウッド。
処罰するもの(パニッシャー)と共に、今はただ、来るべき"勝負"の時を待つ。
655
:
獣人と人
◆DzDv5OMx7c
:2008/11/09(日) 23:40:13 ID:we1SabhU0
case4 獣人:シトマンドラ
モニタ室に戻ったシトマンドラは椅子に深く腰掛ける。
薄暗い闇の中、モニタには残りの参加者たちの様子がリアルタイムで映し出されている。
だが、今の彼にはまるで意味の無い光景のように目の前を通り過ぎていく。
茫洋とした意識の中で彼が考えるのはただ一つ。
"王"のことだ。
シトマンドラは智謀・策謀を何より好む。
だが己自身がトップに立ち、支配するようなやり方ではそれを最大限に生かせないことも理解している。
だから彼の行き着く結論は、一つ。
――やはり自分には王が必要だ。
だが"王"のことを考える時、荘厳な雰囲気をまとった螺旋王のヴィジョンと同時、
どうしても黒髪の少年が玉座に着く光景を幻視してしまう。
その少年はただの人間であるはずだ。それなのに、だ。
「ルルーシュ・ランペルージ……」
その名を持つのは脆弱で、愚鈍なはずのニンゲン。
だが垣間見せた智謀は彼を遥かに上回っていた。
そして自身の反論をことごとく封じられたその瞬間のことを思い返すと、
屈辱に締め付けられると同時、胸が高鳴る自分を自覚する。
それに言葉では説明できない、人を惹きつける"何か"。
王に必要な力――それはカリスマと呼ばれる、"不可能を可能にする"力。
ゼロとして数々の軌跡を作り出した彼は間違いなくそれを持っていた。
そして獣としての本能か……シトマンドラは如実にそれを感じ取っていた。
だから期待してしまう。
自分が今まで見ることの無かった何かを見せてくれるのではないかと。
自分の知らぬ、次のステージへと押し上げてくれるのではないかと。
その期待は止まらない。逸る心を抑えきれない。
嗚呼、何故こんなにも心が躍るのか……!
――憎いのか、まだ慕っているのか。
今だ自分たちを捨てた螺旋王への感情の答えは出ていない。
同様にルルーシュへの感情も答えは出ていない。
今だ下に見ているのか、対等にありたいと思っているのか。
それとも……自らの上に、王として据えたいと思っているのか。
闇の中でシトマンドラは自らに問いかける。
自分が仕えるべき、否、"仕えたい"王は、いったいどちらなのかと。
656
:
獣人と人
◆DzDv5OMx7c
:2008/11/09(日) 23:40:36 ID:we1SabhU0
case5 人間:東方不敗マスターアジア
(――なるほど、そういうことであったか)
ウルフウッドに感じていた親近感。
それは"救い"だ。
自分はドモンに、あの男はヴァッシュに"救い"を求めていたのだろう。
人をくだらないと思いながら、愛着を持つ。
何とも青臭い感情だ。
「フ……あ奴もワシもまだまだ青い、ということか……。
だが、ワシは一足早くそこから抜けさせてもらうぞ」
表情は苦笑から一変し、厳しいものへと変わっていく。
グアームから受け取った資料は何よりも螺旋王の技術力の高さが読み取れた。
彼の世界も相当に科学技術が進歩していたとはいえ、瞬間転移や別次元へ渡るといった技術は聞いた事も無い。
だがしかしそれだけの力を持ってしてもアンチ=スパイラルに対しては逃げの一手を取らざるを得なかったのだ。
不意にまぶたを閉じれば浮かぶのは瓦礫の山。
"理想的な戦争"と称し、人類が起こしてきたガンダムファイトの負の遺産。
アンチ=スパイラルの力それさえあればあの光景を無くす事ができる……
肩を並べ戦えば、すべての平行世界からなくすことも可能だろう。
ああ、それは何と心躍る夢だろうか。
だがその時、胸の奥からせり上がってくる熱に足を止め、咳き込む。
思わず口元に添えた手に付いたのは粘り気のある真っ赤な液体――血だ。
(……くっ、何故今になって……)
会場で兆候すら出なかった持病が何故今更芽を出したか?
その原因はルルーシュたちが先ほど受けた"治療"にある。
獣人はその生態構造上、1日1回は調整槽で調整を受ける。
定期的なメンテナンス……それ故に進行の進んだ病気に対する対策は概念として薄い。
その結果、体力を回復させる際に東方不敗の体を蝕む病魔を加速させてしまったのだ。
そして先ほどのカミナとの一戦はその口火を切る結果となってしまったらしい。
だが、
「……かまうものか」
そう、そんなことは最早些事。
口の中に広がる鉄の味を飲み下し、視線を横に走らせる。
その視線の先にあるのはこちらを見下ろす監視カメラ。
七人の同志……とはいえ所詮は利益だけで寄り集まった烏合の衆だ。
そんな奴らに自らの弱みを晒せばどうなるか、考えるまでも無い。
今の自分が考えるべきはアンチ=スパイラルとの接触のみ。
そもそもアンチ=スパイラルの力を得さえすれば、寿命など大した問題ではない。
そのために螺旋力覚醒者を出すために今は尽力しよう。
どちらにせよ、この実験が成功しなければ自分は、否、自分たちは八方塞なのだ。
(あと少し、あと少し持てばよい……)
それまでならば何としても持たせてみせよう。
アンチ=スパイラルという天元を見据え、東方不敗は再び歩き出す。
一分の迷いも無い、しっかりとした足取りで。
657
:
獣人と人
◆DzDv5OMx7c
:2008/11/09(日) 23:43:31 ID:we1SabhU0
case6 人間:ルルーシュ・ランペルージ
「ふぅ……」
ルルーシュは息をついてモニターから目を放す。
如何に彼が天才とはいえ、肉体がある以上、頭脳を使うことに疲労を覚えないわけではない。
自分の知る世界とは大きく操作系統の異なる機械群相手であればなおさらだ。
だが、ルルーシュはそれでも第3回放送まで何があったかを大体把握していた。
そして情報を把握したその顔に浮かぶのは疲労と――苛立ち。
「本当に許しがたい存在だよ……ヴィラル」
スザクを殺しておいて、のうのうと女と乳繰り合う姿はルルーシュの神経を嫌が応にも逆撫でした。
たとえそれが本人達にとって必死の打算的行動の塊であったとしても、だ。
だがしかるべき罰を与えるにしても、本来の目的を優先するべきだ。
私情に囚われ、本来の目的――ナナリーの元へ帰ることが不可能になったのでは笑い話にもなりはしない。
ルルーシュの前のモニタに浮かぶのは、会場に残された12人の参加者の顔写真。
そしてその横に並ぶのはルルーシュ自身が製作した体力や知力といった彼らの固有ステータス。
それらを眺めながら、彼は考える。
――この中から真なる螺旋力覚醒者、天元突破をなしえるものを出さなければならない。
故にルルーシュは彼ら……贄について思考を巡らせる。
普通に考えれば天元突破に最も近い可能性を持つのはやはりカミナであろう。
螺旋力に最も近しい存在。別世界の螺旋王のいた世界に存在した男。
最も覚醒する可能性の高かったシモンが潰えた今、目覚める可能性は最も高いと言えるだろう。
だが、前も考えた通り本来の"螺旋力"と"真なる螺旋力"は似て非なる可能性がある。
その証拠がガッシュ=ベル、そしてシャマルの存在だ。
元々人間である戦闘機人や調整されたというヴィラルなら螺旋遺伝子を持っている可能性もあろう。
だが異界である"魔界"出身であるという魔物や擬似魔法生命体に螺旋族のDNAが入ってる可能性は……恐らく無い。
しかしその彼らは螺旋力に覚醒している。
これは彼らが通常とは異なる覚醒――"天元突破"に一番近いという証拠ではないのか?
通常と異なるといえば、菫川ねねね、スカーの両名が螺旋力に覚醒めた状況も特殊だ。
彼女らが螺旋力を発現させたのは戦いの中ではない。
ねねねは本を書き始めたとき、スカーは結界に触れたとき。
どちらも戦闘、命の鬩ぎ合いとは程遠い行為だ。
故に考え方を変えれば、"天元突破"する可能性が高いといえなくも無い。
658
:
獣人と人
◆DzDv5OMx7c
:2008/11/09(日) 23:44:26 ID:we1SabhU0
一方で螺旋力が想定どおりのものならば"彼女"が近いのではないか、とルルーシュは考える。
ルルーシュの視線の先にあるのは一際幼く見えるその容貌。
生き残りの中で何の力も持たず、最も弱い少女……小早川ゆたか。
彼女は弱い……体力に関しては平均値にすら届いていない。
だがそれは逆に言えば逆境に陥りやすいということでもある。
その証拠に最も早く螺旋力に覚醒したのも彼女だ。
ならば"天元突破"を更なる覚醒と仮定するならば最も覚醒に近いのは彼女ではないか?
だが戦いの中で目覚めるのは、生存本能だけではない。
純粋な闘争本能――そう仮定するならばドモン・カッシュが最も近い。
一方で、それを野性と考えるならばヴィラルが最も近いだろう。
また、エレメントとチャイルド……
人の想いによって力を引き出すその在りようは螺旋力に一番近いと言える。
事実、4人のHiMEは全員螺旋の力に覚醒している。
ならばHiME最後の生き残りである鴇羽舞衣。
彼女もまた、"天元突破"する可能性が高いと考えることが出来る。
そして真なる螺旋覚醒がまったく方向性が違うというのならば
いまだ覚醒していないスパイク、ジン、ギルガメッシュ……彼らこそ相応しいのではないか。
……つまるところ螺旋力そのものの定義が曖昧な現状では、誰もが天元突破する可能性があるということだ。
やはり新たな情報が入らない限り後発は進みはしない、か。
到達した結論を心の隅に追いやり、放送を終えた会場の状態に移る。
温泉を禁止エリアに指定した今、ヴィラルは彼らに対し最後の侵攻を仕掛けるだろう。
もしも天元突破をするものが出なかった場合、カードを切らざるを得ない。
だが、投入のタイミングには慎重を期さねばならない。
最初の一手を打った時点で放送に載せた偽情報のアドバンテージは消える。
カードを切れるのは一度きり、そして選択肢は今のところ3種。
チミルフ。
ギアスのおかげで3人の、いや七人の同志の内で最も忠実に任務をこなしてくれる。
だが、あの二人にギアスのことが知られてないとはいえ、
確実に裏切らない手駒が手元にあるのと無いのでは安心度が大きく違う。
さらに切れるカードのうち戦闘力が一番低いのも不安要素だ。
ガンメンという機動兵器をに乗ることで底上げを図ることは出来るが、
あのエヌマ・エリシュという一撃が相手では、大きな的以外の何者でもない。
ニコラス・D・ウルフウッド。
生身であればチミルフ以上に働いてくれるだろう。
単身で機動兵器と互角に戦ったその実力……相手にしても引けはとるまい。
また目的が試練となる、である以上反意を抱く可能性も低いと考えられる。
だが……恐らく手加減とは程遠いだろう。
覚醒前に全滅させてしまう可能性すらある。
唯一アンチスパイラルとの接触を目的としていないだけに、そうしてしまう可能性があるのが懸念材料か。
東方不敗マスターアジア。
実力は文句なしに最強であろうし、目的が一致している以上、手加減もするであろうしと申し分ない。
またマスターガンダムを与えればまず負けることは無いだろう。
だが……一番信用が置けないのもまたこの男なのだ。
今一何を考えているか読みきれない。
万が一裏切ればこちらの手持ちのカードでは対処しきれない可能性がある。
そのどれもが一長一短、持ち手を吟味するルルーシュ。
だがその思考を途切れさせるように、来訪者が現れる。
「少し良いかの、ルルーシュ?」
来訪者の名はグアーム。
最も古き獣人であり、ルルーシュを"こちら側"へと誘った張本人。
そして――4人の獣人の中で最も油断ならない相手だとルルーシュは判断する。
「どうしたグアーム? 見てのとおり俺は忙しい。
用件があるのなら手短に済ませてくれ」
事実、やらなければならないことは山ほどある。
螺旋力に関する考察は完璧とは程遠いし、アンチ=スパイラルとの交渉内容もシミュレートする必要がある。
だが、その口から出てきた言葉はルルーシュの手を一瞬止めさせた。
「わしも情報の整理を手伝おう、と思ってのう」
その行動に対し、ルルーシュが思うのは
(――何を考えている?)
疑惑。それ以外に持ちえる感情は無い。
疑いの眼差しを向けるルルーシュに獣人は笑みを返す。
左右に避けた口を大きく曲げて。
659
:
獣人と人
◆DzDv5OMx7c
:2008/11/09(日) 23:44:42 ID:we1SabhU0
「おや、まさか疑っておるのかのう?
お前さんらしくも無い。少し頭を使えば分かることだろうに。
今更協力しないのであれば最初から呼びつけんわい」
グアームの言うとおり、目的が一致している以上、彼らが裏切る可能性は低い。
でなければ最初から俺をこの空間に呼ぶ必要など無いのだから。
少なくとも、アンチ=スパイラルとの交渉まではこちらの不利になることをやるとは思えない。
「どうしても信用できないのであれば、ギアスとやらを使ってこう命令すればよい。
"何をたくらんでいるか洗いざらい話せ"、とな」
グアームはそう言って、今まで合わせなかった視線をしっかりと合わせた。
そのまま数秒の沈黙の後、折れたのはルルーシュの方であった。
「……わかった。手伝ってもらおう」
ギアスは切り札の中の切り札。使うべきときは今ではない。
それに先程のように時間はいくらあっても足りはしない。
何を考えているかは知らないが、その時がくるまで利用するだけだ。
ルルーシュは短い休憩を終え、グアームと共に第3回放送後の情報に目を通し始めた。
だから若いヒトは気づかない。
背を向けた先で獣が哂うのを――
660
:
獣人と人
◆DzDv5OMx7c
:2008/11/09(日) 23:45:38 ID:we1SabhU0
case7 獣人:グアーム
(……そう、"今は"協力するがな)
声に出さずに不動のグアームは呟く。
グアームは思い出す。
彼がまだ獣人ですらなかった時代。
小さく、弱く、ただの獣であった時代のことを。
ロージェノムの肩に乗り、無限の敵に立ち向かっていたときのことを。
そう、不動のグアームは四天王の中で、獣人の中で唯一アンチスパイラルとの面識があったのだ。
肝心の記憶は時の流れの果て、奥底にこびり付くだけになってしまっているが、あのプレッシャーは体が覚えている。
意思すら感じさせない無機質な殺意……あの存在と対話が可能だとはどうしても思えなかった。
さらにグアームはルルーシュのことを信用はすれど、信頼してはいなかった。
基を返せばルルーシュとてこの実験に参加させられたものの一人。
今は元の世界に帰還することを優先しているためその兆候を見せていないが、
アンチ=スパイラルとの交渉が成功した瞬間ならばどうだ?
その瞬間手のひらを返し、我ら獣人に対して牙を剥かないという保障は無いのだ。
故にグアームは"保険"をかける。
アンチ=スパイラル、ルルーシュ・ランペルージの両名に対して。
そしてアンチ=スパイラルに対しての保険はアディーネに託した。
故にルルーシュに対する保険は自分が担当するほかあるまい。
ルルーシュに対する保険……
それは他でもない、自分という疑心暗鬼の種を傍に置いて、ルルーシュの思考を削ることだ。
この作戦、下手をすればルルーシュを追い詰めてしまい、実験の失敗という本末転倒の事態を招いてしまうかもしれない。
だが先程見せた逆境すらチャンスに変える明晰な思考――
あれならば間に合うだろう、とグアームは高い評価を与えていた。
さて、この作戦におけるメリットは主に3つ。
一つは自分という懸念事項を傍に置くことで"獣人に対する制裁"という余計なことを考えさせないようにすること。
二つ、自分の行動如何によってアディーネの動きを隠すこと。
そして3つ目は渡す情報に志向性を持たせること、である。
これによって操作とまでは行かなくとも、思考の方向性を傾けることぐらいは出来るはず……
グアームはそう考える。
それに今のルルーシュは見たところ先程までより幾分か感情的になっている。
会場で起こったことを把握しているグアームはその原因に心当たりがある。
ルルーシュの怒りの視線の先にいるのは鮫の歯を持った男。
異世界で別の螺旋王に作り出された見知らぬ獣人。
(ヴィラルとか言った見知らぬ同胞よ。我ら獣人のためにせいぜいこの男の憎しみを引き出すがいい。
この智謀の魔人はその視線を向けるときだけ矮小な人となる。
そしてその隙に我々は付け入らせてもらうとしようか……)
現在、混沌と化した実験場に残された情報はあまりにも多い。
渡す情報の取捨選択を行うことで、ごくごく僅かながら思考は誘導できるだろう。
例えば"捨"と決めた情報の中に実験場中央……【E-6】ブロックの"異常"があった。
――それは偶然だった。
東方不敗に話した外部からの謎のアクセスを調べていくうちに気づいたのだ。
会場を包む多重結界に穴が開いていることに。
その原因は今から時間前、スバル・ナカジマが命と引き換えに放った螺旋振動の一撃。
その一撃は皮肉にも本来の持ち手が貫けなかった結果をもたらしていた。
存在確立を100から0に、0から100に変えることで転移を果たす螺旋転移システム。
だが螺旋の力の込められた破壊の渦は、その数値を変化させた。
大半は転移して消失したが、3割弱は転移せず結界を直接揺らがしたのだ。
その力、まさに天元突破。
少女の一念は無理を貫き通し、天を突き破ったのだ。
一瞬のことだったので、よくよく調べてみないと気付かれなかった一撃。
これは今のところ、自分しか知らない事実でもある。
それがどんな意味を持つのかは分からない。
だが一つだと意味を成さない綻びも、複数集まれば致命的な傷になるやも知れない。
1000年以上の時を生きた獣人は経験則としてそれを知っている。
それは東方不敗やグアームが持ち得て、知能で上回るはずのルルーシュがまだ持ち得ないもの。
長い時間を生きたものだけが持つ、"老獪"と呼ばれるアドバンテージであった。
661
:
獣人と人
◆DzDv5OMx7c
:2008/11/09(日) 23:45:51 ID:we1SabhU0
それに自分自身が何をしなくても、自分がここにいるというだけでアディーネの動きを隠すことになる。
そう、アンチ=スパイラルとの交渉が失敗に終わったとしても、移動する際に時限に穴を開けねばなるまい。
であれば、『アレ』があれば万が一にでも逃れる可能性がある。
次元移動に耐える力を持つ『アレ』ならば。
螺旋王は、ロージェノムは確かに憎い。
考えるだけもで腸が煮えくり返りそうではある。
だがそれも自分という存在があってこそだ。
自身の命と秤にかければ生存に傾く。
何故ならばロージェノムを倒した後も獣人という種族は生きなければならないのだから。
故にグアームは仮初の王の頭上にダモクレスの刃を吊るす。
(悪く思うなでないぞ、ルルーシュ。
ワシらは生きねばならん。
そう、生き残るのだ、どんな手段を使っても、な……)
――その想いはとてもよく似ていた。
極めて近く、限りなく遠い世界である男が言った言葉に。
だが涙を呑み多のために少を切り捨てた男とは違い、その裏に巨大なエゴを滲ませて。
662
:
獣人と人
◆DzDv5OMx7c
:2008/11/09(日) 23:46:56 ID:we1SabhU0
* * *
――同時刻、螺旋城テッペリン地下
「なんなだい、これは……」
テッペリンの地下……すなわち月の地下に足を踏み入れたアディーネは思わず口にしていた。
背中を汗が伝い、知らず知らずのうちにゴクリ、と唾を飲み下す。
アディーネの目の前にあるもの、それはあまりにも巨大。
彼女は己の目で巨大な"それ"の全貌を見ることはかなわない。
だがそれも仕方の無いことかもしれない。
その物体の大きさは月――ここ、テッペリンが突き刺さる場所と同じなのだから。
これこそグアームの用意した切り札。
単体で次元跳躍能力を持たないが故に、螺旋王から見捨てられた箱舟。
だが次元移動に耐えうる力を持つ超々弩級巨大戦艦。
その舟はかつて――カテドラル・テラ、と呼ばれていた。
【王都テッペリン/二日目/日中(実験場内時間)】
【チーム:七人の同志】
(ルルーシュ、チミルフ、アディーネ、シトマンドラ、グアーム、ウルフウッド、東方不敗)
[共通方針]:各々の悲願を成就させるため、アンチ=スパイラル降臨の儀式を完遂する。内容は以下の通り。
1:螺旋王の残した実験(儀式)を続行。真なる螺旋力覚醒者(天元突破)を誕生させ、アンチ=スパイラルを誘き出す餌とする。
2:ルルーシュの指揮の下、頃合を見計らって『試練』となる戦力を投入。参加者たちに意図的に逆境を与え、強引にでも螺旋力の覚醒を
促す。
3:投入する戦力は現在のところチミルフ、ウルフウッド、東方不敗の三名を予定。生存者たちの状況により随時対応。
4:試練を与える前に真なる螺旋力者が現れた場合、また別途にアンチ=スパイラルとの接触の機会が訪れた場合には、逐一対応。
5:同志七人の立場は皆対等であり、ルルーシュとチミルフを除いて支配従属の関係にはならない。
6:アンチ=スパイラルとの接触に成功した後は、ルルーシュが交渉を試み、その結果によって各自行動。
[備考]
※その他、詳細な計画の内容は「天のさだめを誰が知るⅢ」参照。
※ルルーシュの推測を含めた実験の全容については、「天のさだめを誰が知るⅡ」「天のさだめを誰が知るⅣ」参照。
※多元宇宙を渡る術は全て螺旋王が持ち去りましたが、資料や実験を進める上で必要不可欠な設備、各世界から強奪した道具などは残って
います。
※ルルーシュら実験に参加していた四名は、テッペリンの設備で体力と怪我を回復しました。
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:首輪解除、健康
[装備]:ベレッタM92(残弾11/15)@カウボーイビバップ、ゼロのコスチューム一式@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服 、
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、
毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、
ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
参加者詳細名簿(ルルのページ欠損)、詳細名簿+(読子、アニタ、ルルのページ欠損)
支給品リスト(ゼロの仮面とマント欠損)、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:何を代償にしてでもナナリーの下に帰る。七人の同志の一人として行動。
1:当面は実験場の監視に務め、試練投入のタイミングを見定める。
2:同時に、手持ちの情報を再度洗い直す。
3:他の同志たちの行動にも目を配る。特にウルフウッド、東方不敗を要注意。
4:もし終盤まで生き残り、機会があったとするならば、ヴィラルに対しスザクの仇を取る。
5:アンチ=スパイラルのより詳細な情報が欲しい。
6:謎のハッキングについて警戒する。
[備考]
※螺旋王の残した資料から、多元宇宙や実験の全容(一部推測によるものを含む)を理解しました。
※謎のハッキングについては外伝「かつてあったエクソダス」参照。
663
:
獣人と人
◆DzDv5OMx7c
:2008/11/09(日) 23:48:02 ID:we1SabhU0
【怒涛のチミルフ@天元突破グレンラガン】
[状態]:敗北感の克服による強い使命感、ギアス(忠誠を誓う相手の書き換え)
[装備]:愛用の巨大ハンマー@天元突破グレンラガン
[道具]:デイパック、支給品一式、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!
ビャコウ(右脚部小破、コクピットハッチ全損、稼動には支障なし@天元突破グレンラガン)
[思考]
基本A:獣人以外を最終的には皆殺しにする上で、ニンゲンの持つ強さの本質を理解する。
B:王であるルルーシュの命に従い、ルルーシュの願いを叶える。
0:ルルーシュの臣下として務めを果たす。七人の同志の一人として行動。
1:来るべき試練のときに備え、自己鍛錬に励む。
2:螺旋王の第一王女、ニアに対する強い興味。
3:強者との戦いの渇望(東方不敗、ギルガメッシュ(未確認)は特に優先したい)。
[備考]
※ヴィラルには違う世界の存在について話していません。同じ世界のチミルフのフリをしています。
※シャマルがヴィラルを手玉に取っていないか疑っています。
※チミルフがヴィラルと同じように螺旋王から改造(人間に近い状態や、識字能力)を受けているのかはわかりません。
※ダイグレンを螺旋王の手によって改修されたダイガンザンだと思っています。
※螺旋王から、会場にある施設の幾つかについて知識を得ているようです。
※『怒涛』の二つ名とニンゲンを侮る慢心を捨て、NEWチミルフ気分です。
※自分なりの解釈で、ニンゲンの持つ螺旋の力への関心を抱きました。ニンゲンへの積極的交戦より接触、力の本質を見定めたがっていま
す。(ただし手段は問わない)
※『忠誠を誓うべき相手は螺旋王ではなく、ルルーシュである』という認識の書き換えをギアスで受けました。
螺旋王に対して抱いていた忠誠が全てルルーシュに向きます。武人たる彼は自害しろとルルーシュにいわれればするでしょう。獣人とし
ての誇りは持っていますが、螺旋王に対する忠誠心は失っています。
※夜なのに行動が出来ることについては余り考えていなません(夜行性の獣人もいるため)。
【流麗のアディーネ@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪、ルルーシュに対する不信
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:カテドラル・テラを調査する
2:ルルーシュのギアスに対して警戒する
【神速のシトマンドラ@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:任務に戻る。
2:ウルフウッドや東方不敗が情報を欲したとしても、ルルーシュのギアスに関しては悟られないよう根回しする。
3:螺旋王とルルーシュ、どちらが自分の"王"に相応しいか考える。
【不動のグアーム@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪、ルルーシュに対する不信
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:自身の生存を最優先とする
2:ルルーシュの行動を手伝うと見せかけ、コントロールする。
664
:
獣人と人
◆DzDv5OMx7c
:2008/11/09(日) 23:48:37 ID:we1SabhU0
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:首輪解除、軽いイライラ、聖杯の泥、自罰的傾向、螺旋力覚醒
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night、デザートイーグル(残弾:8/8発)@現実(予備マガジン×1)、
パニッシャー(重機関銃残弾100%/ロケットランチャー100%)@トライガン
[道具]:支給品一式、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、予備弾セット@アニロワ2ndオリジナル
[思考]
基本思考:自分を甦らせたことを“無し”にしようとする神に復讐する(①絶対に死なない②外道の道をあえて進む)。
人間を“試し”、ヴァッシュへの感情を整理する。七人の同志の一人として行動。
1:ぶらぶらする。
2:試練役を買って出る意志はある。が、もやしっ子の言いなりになるんは癪や。
3:売られた喧嘩は買うが自分の生存を最優先。チミルフ含め、他者は適当に利用して適当に裏切る。
4:神への復讐の一環として、殺人も続行。女子供にも容赦はしない。迷いもない。
5:自分の手でゲームを終わらせたいが、無謀なことはしない。
6:ヴァッシュに対して深い■■■。
7:ヴァッシュの意思を継ぐ者や、シモンなど自分が殺した人間の関係者に倒されるなら本望(本人は気付いていません)。
8:チミルフに軽く失望。
9:生きる。
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。
※ヴッシュ・ザ・スタンピードへの思いは――――。
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー)、高速移動、ロボットの使い手と認識しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
※シータのロボットは飛行、レーザー機能持ちであることを確認。
※螺旋界認識転移システムの場所と効果を理解しました。
※五回目の放送を聞き逃しました。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルに関する情報を聞きました。
※螺旋力覚醒
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:首輪解除、螺旋力覚醒、疲労(小)、火傷
[装備]:天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night、ボロボロのマント、マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム
[道具]:ロージェノムのコアドリル×1@天元突破グレンラガン、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!
風雲再起(首輪解除)@機動武闘伝Gガンダム、ゼロの衣装(仮面とマントなし)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]:
基本方針:現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。アンチ=スパイラルと接触、力を貸す。七人の同志の一人として行動。
0:アンチ=スパイラルの力を得たい。
1:マスターガンダムの調子を見るついでに、傷を癒す。
2:アンチ=スパイラルとの接触を図るため、ルルーシュに賛同。が、完全には信用しない。
3:アンチ=スパイラルを初め、多元宇宙や他の参加者、実験の全容などの情報を入手したい。
4:ルルーシュがチミルフを手懐けられた理由について考える。
5:ドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。
6:しかし、ここに居るドモンが本当に自分の知るドモンか疑問。
7:ジン、ギルガメッシュ、カミナ、ガッシュを特に危険視。
8:カミナに……
[備考]
※クロスミラージュの多元宇宙説を知りました。ドモンが別世界の住人である可能性を懸念しています。
※ニアが螺旋王に通じていると思っています。
※クロスミラージュがトランシーバーのようなもので、遠隔地から声を飛ばしているものと思っています。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。
『なんらかの要因』は火事場の馬鹿力であると推測しました。
Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※自分自身が螺旋力に覚醒したこと、及び、魔力の代用としての螺旋力の運用に気付きました。
※カミナを非常に気に入ったようです。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルについての情報を入手しました。
※計画に参加する上で、多元宇宙や実験に関する最低限の情報を入手しました。
※治療のせい病状が加速していることが判明しました
665
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:11:54 ID:0fh9QIOw0
テッペリンの廊下。螺旋状に螺旋くれた廊下をニコラス=D=ウルフウッドは進む。目指すは玉座、つい先ほどルルーシュに呼び出された場所だ。
東方不敗、チミルフの二人と別れてしばらく後、することもなくぶらつきを再開したウルフウッドは突然ルルーシュから大至急玉座へと来るように指示されたのだ。
(――今度は何の用やねん、あのもやしっ子)
歩くウルフウッドの顔には不満げな表情がありありと浮かんでいた。何せつい先ほど呼び出されたときの用事は放送のリハーサルの観客役というものだ。仮に今度の用事もまたふざけたものだったら苛立ちのあまり、あの細っこいボディに一発ぐらい喰らわせかねない。
まあ、ルルーシュもそこまでバカでもないだろう。実際のところ考えられる用件としては「試練」のメンバーに関してあたりだろうか。
「今度は何の用や、もやしっ子」
そう言いつつ玉座の間へと入ったウルフウッドを六対の視線が迎え入れる。
「……何かあったんか?」
空気の違いを感じ取り、瞬時に意識を切り替えたウルフウッドは真正面にいる人物、玉座に座るルルーシュへと問い掛ける。
「シトマンドラ、頼む」
だが、ルルーシュはその問いには答えず、自らの傍に立つシトマンドラへと何か指示を出す。
……ここでようやくウルフウッドは今、この玉座の間にいる同志のメンバーが大きく二種類に別れたことに気がついた。
努めて表情を出さないシトマンドラ、何か苦虫を噛み潰したかのように不機嫌な気配が見え隠れするルルーシュとグアーム。彼ら三人はおそらく何かを知っている。
そうして、待つことしばし。玉座の間にいる事情を把握していない残り4人。東方不敗、アディーネ、チミルフ、そしてウルフウッド、彼らの前にモニターの映像が映し出される。
「――これは今から少し前の『箱庭』の出来事だ」
補足するルルーシュの言葉と共に、モニターの中では真っ赤なガンメンと対主催を志すメンバー達との間で戦いが繰り広げられいた。
ウルフウッドも一度やりあったことがあるスカー。
王ドロボウ、ジン。
彼らがガンメンの気をひく間にガッシュ・ベルが放つ光球が2つ、3つとガンメンへと着弾していく。
666
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:12:32 ID:0fh9QIOw0
―――そして。
「バオウ・ザケルガァアアアアアアアアアア!!」
ねねねの叫びと共にガッシュが放つ黄金色の雷竜がガンメンを蹂躙する。
「――終わったな」
東方不敗が短く呟く。
あの一撃はこの東方不敗をして避けるも防ぐもあたわず、と感じ取った一撃だ。たとえ機械に守られていようともあのような未熟者達に防ぎきれるようなものではない。
これで実験場内の殺人者達は一掃された。とはいってもまあ、あの甘い者達のことだ。殺すとまではいかずにせいぜいが行動不能にする程度ではあろう。
さておき、マーダー達が動けないとなれば次はようやく自分達の出番となる。
東方不敗やウルフウッドはモニターから視線を外すとルルーシュへと向ける、……が。
「……ある意味、終わってくれていればよかったんだがな」
試練役として、まず誰が行くのだ? そう尋ねようとした東方不敗の機先を制するかのようなタイミングで告げられる、やや疲れた感じのルルーシュの言葉。
「……?」
その言葉に東方不敗達は再びモニターへと視線を移す。
するとそこには。
「「 愛 情 合 体 ッ ! 天元突破グレンラガン!! 」」
『勇気だの誇りだの、そんなものはちっぽけだ。愛こそ至高。愛こそ……天下だぁあああああああ!!』
ヴィラルの叫び声と共に人型の機体の全身から碧色の――いや、碧混じりの〝桃色〟の輝きが、天に向かって迸る。
天壌を埋め尽くす螺旋の奔流。大気を巻き込み捻れを成すほどの、逆流。
螺旋力の渦巻き、それ自体が巨大なドリルとなって、空間を穿つ。
空を、天を、大気圏を、月まで届く勢いで、宇宙を制す。
……そのような光景が繰り広げられていた。
「王よ、これは一体?」
「見てもらった通りだ。つい先ほど『箱庭』の中において、計算よりもはるかに早いタイミングで我々が……その、待ち望んでいた天元突破の覚醒が果たされた」
チミルフの問いにルルーシュは答える。
667
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:13:26 ID:0fh9QIOw0
そんなやり取りの合間にもモニターの中では事態は進んでいき、
『ギィイイイイイガァアアアアアアアア!!』
『ラァアアアアアブラブゥウウウウウ!!』
機体、グレンラガンの右腕が高く突き上がり、先端が巨大なドリルと化す。
ドリルは瞬く間に高速回転を始め、唸りを上げ。
「「ドリル――ブレイクゥウウウウウ!!」」
そして、唐突に静止する。
「とりあえず、ここまでが今の状況だ。現在シトマンドラによって会場内の空間は凍結をかけられているが、天元突破者が出てきた以上、凍結それ自体が破られるのも時間の問題だろう」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
そう、ルルーシュが言い切ると玉座の間には微妙な沈黙が落ちた。
何せ待ち望んだ結果というのがあんなモノ、だったのだ。皆どう反応していいのかわからなかった。
「……アホらしい」
そんな中、ウルフウッドはポツリと呟く。
当事者達がどれほど真剣であろうとも、彼らがやっていることは愛の告白をしてパワーアップという三文芝居に他ならない。傍から見ている限りは馬鹿馬鹿しいことこの上ない。
(……まったくだ)
表には出さないもののルルーシュも内心ウルフウッドに同意する。
さらにルルーシュにはもう一つ、この状況を馬鹿らしく思う理由があった。
それは他でもない、天元突破を成したのがヴィラルであるというこの事態そのものだ。
確かに可能性の上だけではヴィラルが天元突破を果たすという事態をルルーシュも考慮していなかったわけではない。しかし、同時にその可能性は極めて低い――それこそ未だに螺旋力の覚醒を果たしていないギルガメッシュやスパイク、ジンといった参加者より――筈だった。
668
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:14:53 ID:0fh9QIOw0
何故ならばヴィラルは改造を受けたとはいえ元々は獣人だ。それが天元突破を果たせるというのなら、ロージェノムの配下に候補はいくらでもいたはずだ。
そう、シャマルという追加要因があったことが天元突破の一因となったのだと仮定しても、配下の獣人全てを使い潰すつもりで試しておけばこのような殺し合いにこのルルーシュや、スザクが巻き込まなければならない必然性があったのかどうか。
(愚かにも程があるぞ、ロージェノム!)
改めてルルーシュはのうのうと逃げ出したロージェノムに対して怒りを燃やす。
「……それでどうするのじゃ?」
あらかじめ何が起きたのかをある程度知っていたが故に立ち直るのも早かったのか、場の沈黙をグアームが破る。
その問いかけの言葉にルルーシュも我に返った。
そう、今はまだ優先すべきことが他にある。
「おぬしがわしらに聞かせた話によると、この場合は逐一対応するとのことじゃったが」
「そうだな……その前にまず、アンチ=スパイラルの動きはどうなっている?」
「前と変わらず、だ。今のところ動きはないね」
「……そうか」
アディーネからの返答を聞きルルーシュは少し考える。
天元突破が成された以上すぐにでもアンチ=スパイラルは動いてもおかしくはないというのが、彼の予想の一つだったのだが……。
(……そうなると、だ)
「ふむ、当てが外れたか?」
「いや、そうでもない。確かに予想していた中の一つは外れたが、ただそれだけだ」
東方不敗からの問いにルルーシュはかぶりを振る。
(ならば次の一手は……)
「アンチ=スパイラルが動かないというのであれば、こちらが動こう」
ややあって、ルルーシュは六人の同志に告げる。
「その前にこの状況下、もっとも困る事態というのはなんだかわかるか?」
「そりゃあ、敵さんが突然気を変えてあたし達に襲いかかって来る事じゃないか」
ルルーシュの突然の問いかけにややあって、戸惑いながらもアディーネが答えを返す。
その答えにルルーシュは苦笑を浮かべた。
669
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:16:35 ID:0fh9QIOw0
「確かにその通りと言えばそうだが、それならばもっと前か、天元突破の時点で動くだろう。この問いの正解はせっかく覚醒した天元突破者が倒されてしまうこと、だ。アンチ=スパイラルが危険視するような存在さえをも滅ぼすようなものがこの会場内にいるという確証を与えてしまえば会場後と俺達主催陣が消し去られることになったとしても何の不思議もない」
「はっ! なんだいそりゃあ。あのロージェノムさえ恐れるアンチ=スパイラル。それさえも倒しうる奴が一体どこのどいつに負けるって?」
アディーネの失笑を無視してルルーシュはモニターを操作する。
画像が変わり映されたのは黄金の青年が螺旋状の剣を振りかざすシーン。
彼の相手を馬鹿にしたような余裕に満ちた表情からはとても彼が戦いの場に身を置いていると考えるのは難しい。
だが、彼が剣を振り下ろすや否や、剣から膨大なエネルギーが解き放たれ、アディーネもよく知るダイガンザン、もっとも正確にはダイグレンという名の戦艦型ガンメンが無残に破壊されていく。
「……英雄王か」
東方不敗が呟いた。この場においては彼とチミルフのみがかの英霊の強さを己が身で感じ取っている。
続いてルルーシュはモニターを操作する。
次にモニターに移ったのは全身に傷を負ったショートカットの少女だ。
彼女は赤と銀に彩られ逆立つ髪をもつ、まさに悪魔と呼ぶにふさわしい相手と対峙する。
一見、先の映像との共通点は見当たらない。ただ一つ少女がその手に握る螺旋状の剣を除いては。
そして、彼女の手の中で剣の円柱が回転し、暴風を引き起こす。
「天地乖離す(エヌマ)――――」
「――――開闢の星(エリシュ)!!」
螺旋を帯びた暴風が全てを消し飛ばしていく。
「…………」
「英雄王ギルガメッシュと、彼の武器たる乖離剣エア。特にエアの威力はあの会場に影響をも及ぼすことはデータ上ほぼ間違いないだろう。しかもそのときのエアの使用者は別人だ。あの武器の本来の使用者、言い換えればあの武器を最も使い慣れているものが全力でその力を振るった時は一体どれほどの威力になるのかは予想もつかん。
ならば、万が一の事態というのは当然想定せねばならん」
670
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:17:06 ID:0fh9QIOw0
今度はルルーシュの言葉に反論するものはいなかった。
「そこでだ。チミルフ、グアーム、東方不敗の三人には会場内に行って天元突破覚醒者たるヴィラルとシャマルの両名。ならびに彼らが騎乗しているガンメン、グレンとラガンを回収してきてもらいたい。」
「……構わんが、いいのか?」
東方不敗は問い掛ける。
何せつい先ほどわざわざ自分達が死んだと見せかけるために一芝居うったばかりだ。それを台無しにしていいのかと。
「ああ、だから東方不敗、あなたに関してはあくまでもバックアップということで。チミルフ・グアームのみで対処しきれん事態。……そうだな、例えばヴィラル達が抵抗して回収が困難、あるいは回収前にギルガメッシュがやってきてその対処に手間取るなどといった事になるまでは表には出ないでいて欲しい。
それから、チミルフに関しては問題ないだろう。なにせ『偉大なる螺旋王』様は死者を蘇らせる事さえ容易いことらしいからな。」
「なるほどな」
ルルーシュの言葉に東方不敗は嗤う。
「もっとも、ヴィラル、シャマルの両名に関しては問題はないだろう。確実に理解しているかどうかまでは知らんが、一応ヴィラルは高嶺清麿の考察を聞いている。殺し合いの途中であれ、真の螺旋覚醒を果たしたものをわざわざ回収しにくるといった事態にも納得するだろう。
そうだな、真なる螺旋覚醒を果たした戦士ヴィラル、褒美としてその伴侶シャマルと共にこの舞台より脱出する権利を与える、とでもチミルフより伝えてやればのこのこ従うことだろう。
まあ、そうした細かい交渉はチミルフ、グアーム二人に任せる」
「ふむ、請け負おう」
「はっ、了解いたしました」
グアームはあっさりと、チミルフは恭しくルルーシュの言葉に同意する。
「東方不敗もかまわんな?」
「無論」
「シトマンドラ、アディーネ、二人は引き続き会場内とアンチ=スパイラル、この二つの監視を続けてくれ。さすがに大きな動きはないとは思うが念のためだ。万が一、新たな動きがあればどんな小さなものでも構わん。大至急知らせてくれ」
「……異論はない」
「わかったよ」
シトマンドラ、アディーネの両者もまたあっさりと首肯する。
671
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:17:31 ID:0fh9QIOw0
「今のところはこのぐらいだな。新しい動きがあれば、それに応じて指示は出す。では、頼んだ通り動いてくれ」
「……おい」
「なんだ?」
ただ一人、指示を与えられなかったウルフウッドが不機嫌な声を出す。
「なんだ? じゃないわボケ。わいはどないしたらええんや?」
「今はまだやってもらうことはないな」
「……は?」
ルルーシュの返答に一瞬呆けたような表情を見せるウルフウッドだったが、それは一瞬の内に怒りに取って代わられる。
先のリハーサルの一件も相まってその怒りは強くなる。
「ふざけんのも大概にせえよ、このもやしっ子! だったらワイは何のために呼ばれたんじゃこのボケ!」
「今はまだ、そう言っただろう? 貴様の出番はこの後、正確に言うと会場内からヴィラルとシャマルを回収してからだ」
「……おどれはワイにないをしろっていうんや?」
ウルフウッド、いやその場の全員が疑問の表情を浮かべる中ルルーシュは言葉を続ける。
「交渉においては圧力も立派な手札のひとつということだ」
「……?」
疑問を浮かべる一同に対し彼はさらに言葉をつむぐ。
「つまりだ、我々の目的はアンチ=スパイラルとの交渉。
だが、向こうからしてみれば今のところ我々に協力するだけのメリットが少ないのも事実だ。今現在、我々の手札は天元突破覚醒者ヴィラルという一枚しかない。交渉が目的であるこちらからしてみれば、例え相手が攻撃に出てきたからといって天元突破覚醒者という札は簡単に切れる札ではないのだ。
故にだ、切れる札が一枚しかないというのであれば札の枚数を増やせば良い」
「つまり……」
「そう、ウルフウッドにはもう少し後になってから試練として会場にいってもらう。天元突破者が二人、三人と出てくるとあっては、そしてこちらの主たる目的が交渉にあるということ……そのためならば覚醒者を排除するだけの意思もあるということを見せれば向こうもこちらと交渉しようとするだろう。むやみに争うだけのメリットはおたがいにないのだからな。
そしてわざわざ天元突破覚醒の場を見せたのはそういうことだ。まあ、あそこまで馬鹿らしい覚醒を果たすものはもう現れはせんだろうが、アレに近い感情の高ぶりは覚醒のきっかけ、
672
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:18:08 ID:0fh9QIOw0
その一つになるかもしれないということだけは頭に入れておいてくれ」
ルルーシュの言葉に今度こそ全員納得した表情を見せる。
「では、全員頼んだぞ」
玉座の間から6つの影が去っていった。
◇
――しばしの沈黙。
自分を残して誰もいなくなった玉座の間の中でルルーシュは視線を落とした後、手元にあるものを見て小さく笑みを浮かべる。
状況は大きく動いた。ろくな予想も立てることはできないが、この状態でアンチ=スパイラルとの交渉はやる他ないという覚悟は決まった。
――ならば、アンチ=スパイラルとの交渉をその主な目的としてきた彼ら7人の同志達、その目的の第一段階が果たされることがほぼ確定した今、ギアスの制御下にあるチミルフを除いた他5名の動向、とりわけグアームに関しては確実に把握しておく必要がある。
確かに東方不敗やニコラス=D=ウルフウッドに関しても警戒をする必要はある。だが、仮に何かたくらんでいるとしてもこの両名がルルーシュが知り得ぬ事実を知っている可能性は低い。そして知りえる情報から動きを予想、知恵比べならばこの二人に負けることはない。
だが、情報という見地から見て6人中唯一ルルーシュを上回っているのがグアームだ。
ルルーシュのもつ情報のほとんどはグアームから与えられたものだ。もちろん、状況が状況だけに与えられた情報に嘘があるとまでは思わない、しかし与えられた情報が全てではない、隠されている情報があることもまた間違いない。
そして今、ルルーシュの手元にはつい先ほど機械から引き出したデータ、とある資料がある。
それはこの月そのものに偽装されている戦艦、カテドラル=テラのものだった。
グアーム、そしてアディーネの二人は未だ隠しおおせているつもりなのかもしれないがこまめに全員の所在をチェックしていたルルーシュにとってアディーネが見せた動き、突然単独で無意味なエリアへと移動したことからカテドラル=テラのことを掴むのはそれほど難しいことではなかった。
(事を成す前から逃げ出す算段か……。ふっ、その用心深さは認めてやらんでもない……。
が、死を覚悟して事を成すという気概で挑まねばならないこともあるということを学んでおくべきだったなグアームよ)
673
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:18:56 ID:0fh9QIOw0
心の内においてルルーシュはグアームを冷笑する。
(しょせんは獣か、成すべきことを成さずに逃げ出した後、一体貴様はどう生きるつもりなのだグアームよ)
自分は違う、ナナリーが平和に笑って過ごせる世界を作るため、そして皇帝に復讐するためならばそのほか全てのものを犠牲にするだけの覚悟がある。
そう、ナナリーが笑って暮らせる世界を作るためならどんなものをも犠牲にするはずだった。
彼の作る世界には欠かせないはずだった少年スザク、それを奪ったヴィラルは先ほど彼自身が言った通り一枚きりの手札であるが故に今はまだ手を出せない。
しかし、他の天元突破覚醒を果たしたものが現れれば、その時はアンチ=スパイラルへの贄として彼自身の手でヴィラルを……。
どの道、すでにヴィラルの運命は決まっている。
アンチ=スパイラルとしてもスパイラル=ネメシスを引き起こしかねない存在となったヴィラルを生かしておくだけの理由はない。
つまり、後はそれ、ヴィラルの運命に幕を下ろすのを果たすのが自分か、アンチスパイラルかの違いでしかない。
とはいえできるものならば彼自身の手で始末をつけたいのもまた事実だ。
(ウルフウッド……貴様には期待しているぞ)
闇の中、少年はただ嗤う。
◇
「……ふっ」
「なんだい急に、気持ち悪いねえ」
通路を共に歩くアディーネとグアーム。
そのグアームが突然浮かべた笑いに言葉通りアディーネは心底気持ち悪そうな表情を浮かべた。
「いや何、少々思い出したことがあっての。まあ、おぬしが気にするようなことではない。それよりもアディーネ、アレのほうはどうなっている?」
「……起動するだけなら今すぐにでも。ただ、あいつに気がつかれないように起動まで持っていくには正直もう少し時間が欲しいね」
アディーネは答える。
674
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:20:22 ID:0fh9QIOw0
アレ、すなわち戦艦カテドラル=テラ。
実際のところその起動だけならばそれほど時間はかからない。だが、そのシステムの一部はこの会場の運営に利用されているのだ。
具体的にはこのテッペリンから会場内への転移システム、図書館に隠してある螺旋界認識転移システム。
これらのシステムの制御の大元はカテドラル=テラの制御システムに依存している。
よってルルーシュに気がつかれないようにカテドラル=テラを起動しようと思えばそれら複数のプログラムから一気にシステムの制御を抜き取り、起動まで持っていく必要がある。
「なるほどな、では引き続き任せてよいか」
「ああ」
それだけ聞くとグアームはアディーネと別れ格納庫、そこにおいてある彼専用ガンメンたるゲンバーの元へと向かう。
「……思惑通り、そうおぬしは思っておるのかもしれんの?」
アディーネと別れ一人になったグアームはにいと、その口を大きく歪ませる。その口から出てくるのはルルーシュへの嘲りの言葉だ。
「じゃがのう……、アンチ=スパイラル。アレはそんなに生易しいものではないぞ? おぬしの頭では及びもつかぬ相手というものも世の中には存在するのじゃ。
確かに天元突破者を作り出すというおぬしの考えは一応今のところ成功しておる。じゃが、あれを相手に圧力をかけるなど言うのは少々身の程を知らなさ過ぎじゃ」
今となってはただ一人、アンチ=スパイラルのことを知るが故にグアームはロージェノムが逃げ出した気持ちも理解できないわけではない。彼がロージェノムに怒りを覚えるのはその逃げ出したということ、それ自体ではなく、彼を置いて自分ひとりで逃げ出したこと、そこに尽きる。
「ルルーシュよ、お主はお主でせいぜいあがくが良い。ワシは一足先に逃げ出させてもらうかがの」
ヴィラルが覚醒したことはグアームにとってはある意味幸運であり、ある意味不幸なことではあった。
幸運な点はヴィラルへの復讐をルルーシュが諦めていないこと。本人は気が付いていないかもしれないが第二、第三の天元突破者を作ろうという考えは当初ルルーシュから聞かされた考えからすれば余分だ。ヴィラルへの復讐心がある限り、彼の目は曇りつづける。
675
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:21:17 ID:0fh9QIOw0
不幸な点はヴィラルをグアームが利用できるだけの余地がゼロになったという点だ。
「まったく……新たに二人も都合つけなければならんとはやっかいじゃのう」
人数の都合。それこそがグアームがルルーシュに隠している最大の秘密だ。
戦艦カテドラル=テラ、最悪、その存在まではルルーシュにばれても構わない。その真の機能を悟られることさえなければルル―シュは単にグアームたちが逃走の準備をしているだけと考えるに違いない。
だが、その真の機能までは決して彼には知られてはならない。
もし、ルルーシュにカテドラル=テラの真の機能がばれてしまうようなことこの状況の全てがひっくり返りかねない。
それはすなわち、カテドラル=テラに搭載されている螺旋界認識転移システム。
その最初の目的は螺旋の戦士達が別次元に潜むアンチ=スパイラルを討つ、その為に搭載されたものだったのだ。
――これはつまり。
十分な螺旋力さえあれば、カテドラル=テラによって別次元に移動できるということだ。
とはいえ、生半可な螺旋力では別次元に移動することは不可能だ。
目安として最低でも図書館の封印を破るほどの量、平均的な螺旋戦士4人分の螺旋力が必要となる。
……逆にいうならそれだけの数の螺旋覚醒者さえいれば、元の世界に帰還することも、ロージェノムの後を追いかけることも不可能ではない。
(ワシは一言も嘘をついておらんぞ?)
グアームは笑う。
確かにルルーシュに協力を要請した際、彼に語ったロージェノムが次元移動に必要な道具を持って行ったために彼を追いかけることは不可能という話は嘘ではない。
何せ獣人には螺旋力がないのだから。
螺旋界認識転移システムが残されていようともそれは彼らにとってはロージェノムを追う役には立たない。ロージェノムが奪っていったのはガンメンに搭載されているものと同じく、獣人でも扱える電力で作動する転移装置の類だった。
そしてもう一つ、ルルーシュによってアンチスパイラルの動向が明らかになるまでうかつに動くこともできなかった。
676
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:22:13 ID:0fh9QIOw0
ロージェノムの逃亡が発覚した直後、グアームがてきとうな螺旋覚醒者を会場内から回収せずにルルーシュ達少数をアドバイザーにするという方法をとったのもこちらが下手に動けばアンチ=スパイラルに襲撃される恐れがあったためだ。
(せいぜいおぬしはアンチ=スパイラルを相手に好き勝手やるが良い)
だが今や、それらの問題は解決された。
今のルルーシュにとっての関心事はアンチ=スパイラルとヴィラルに向いている。
そしてアンチ=スパイラルも単なる螺旋覚醒者程度を引き連れて逃亡するグアームにはそれほどの注意を払いはすまい。
どれほど上手く行くかまではわからないが天元突破覚醒者が出てくるであろう会場内にその注意は向けられるはずだ。
すなわち、これ以上ないほどに上出来な脱出と復讐のチャンスが回ってきた。
(……あまりやりすぎてくれるなよ?)
ウルフウッドへ胸中でそっと呟く。
彼が襲撃するのは後々彼の手ごまとなりうるもの達だ。適当に死にかけたところでルルーシュにばれないように回収して螺旋力を搾り出すエンジンとなってもらわねば困る。
それともあるいは……
天元突破覚醒者の可能性があるものとしてルルーシュが纏め上げた残る参加者のデータ。
その中の螺旋遺伝子の覚醒を果たした何人かをグアームは思い出す。
カミナやガッシュ・ベルといったものたちは強い螺旋力とは裏腹に甘く、愚かだ。
小早川ゆたかや菫川ねねねといったもの達はその螺旋力と裏腹にその戦闘能力は脆弱だ。
こういった参加者を利用することもあるかもしれない。
思惑を胸に獣は進む。
己のために他の全てを犠牲にして。
◇
(……そういうことか)
目の前を歩いていくグアームを前に東方不敗は心の中で納得する。
……人であれ、獣であれ、その瞳に映っていようともまるで気配を発しないものは意識の中に入ってこない。俗に隠行と呼ばれる技術によって東方不敗はグアームの傍らに潜む。
677
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:22:55 ID:0fh9QIOw0
先に会談の最中から感じ取っていたグアームの余裕。
それが気になった東方不敗はこっそりとグアームの後を追尾しその余裕の正体に思い当たる。
(おそらくは宇宙船か、何か……。アンチ=スパイラルの襲撃をも想定済みだとするならば宇宙船艦とでも言ったところか)
そのようなものがあると知れたのは二重に僥倖だ。
一つは、東方不敗自らがアンチ=スパイラルの元に行くことができる手段の確保。
そしてもう一つ。
(ふむ……こやつが戦艦の起動をも視野に入れておるならば、ワシもある程度動く準備をしておかなくてはならんな)
このままルルーシュの指示に従ったままアンチ=スパイラルとの交渉を待つ、などという甘い考えでは気がついたときには彼らの攻撃目標へと成り果てていることは十分考えられる。
(どうせお主もそうなのであろう?)
目の前をある獣人に東方不敗は届かぬ言葉を投げつける。
目の前の獣人がアディーネ以外他の誰にも宇宙船艦のことを語ってはいない以上、いざという時、自分達だけが逃げ出すつもり、自分のために他者を利用し使い捨てるつもりでいることは明白だ。
ならば何を遠慮することがあろうか。
他者を利用しようとするものは己もまた利用されるものであると知るが良い。
交鈔に使える天元突破者とアンチ=スパイラルの下へ移動するだけの手段。
その両方が今や東方不敗の間近に転がっている。
(あと少し、もう少しだ)
目指すものはもう少し。
東方不敗はグアームから距離をとる。
(おぬしは破滅の道をいけ。ワシはワシの道を行く)
最後にそう呟くと東方不敗もまた自らの道を歩みだす。
その先にある未来を見据えて。
678
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:23:27 ID:0fh9QIOw0
◇
(……なあ、トンガリ。おどれは一体どう思っとるんや)
心の中で、ウルフウッドはヴァッシュへと問い掛ける。
先の天元突破の場においての構図、対主催陣とヴィラル・シャマル達との戦いはウルフウッドにとっては特別な意味合いがあった。
片や元獣人と元戦闘プログラム。
片や異能を持ちこそすれどただの人間。
そして
「愛こそ至高。愛こそ……天下だぁあああああああ!!」
愛を叫ぶモノ達と
「バオウ・ザケルガァアアアアアアアアアア!!」
容易く相手、いや全てを破壊し尽くすだけの力を持ちながらも、他者の命は奪わずに戦闘能力を奪い去るだけに留めた甘い者達。
それら全ての要素がウルフウッドの中で一人の男のイメージと結びつく。
「ラーヴ アーンド ピース!!」
争いに満ちたあの星でそんなふざけた言葉を叫びながら数多の争いを何とかして止めようと首を突っ込みつづけた男。
話をするために、その手に敢えて銃を取りながらも、決して誰一人としてその手で命を奪うことなどなかった男。
ヴァッシュ・ザ・スタンピート。
ヒトではない「プラント」の人型の突然変異種という存在でありながら、誰よりも人間らしくあろうとし的その通りに生きてきた男。
結局人間らしくあろうとした彼はこの殺し合いの舞台のさなかにその命を失った。
そして、彼の代わりにこの殺し合いの場において愛を叫び、そのために平気で他者を傷つける人でなき者達がこの舞台における切り札、その輝きを手に入れた。
「なあ、トンガリ。おどれの代わりにワイが確かめたるわ。おどれが本当に正しかったのか。おどれが本当はどんな生き方をするべきだったのかをな」
679
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:24:33 ID:0fh9QIOw0
ヴィラルとシャマルの回収に成功した後、会場内に残されるのは基本的には平和を貫く人間達のみだと考えて良い。
他者を傷つけることがあっても命を奪うことを避けようとする彼らの生き方は、ある意味ヴァッシュ・ザ・スタンピーとのそれと変わらない。
もし仮に残された者たちがウルフウッドに敗北、あるいは勝利したとしても天元突破の輝きを持ち得ないということになれば、それはヴァッシュの生き方が誤りだったことの証明。
あの男がもっと傲慢に自分のために力を振るってさえいれば、より早くこの殺し合いを止めることも可能だったということ、結果的により多くの命を救うことができたということだ。
(そん時はあの世のあいつを思いっきり嘲笑ったる。おまえの人生はこんな下らんやり直しをさせられたワイなんかよりももっと下らんものやったんや)
そして、万が一にも残された者たちが新たな輝きを手に入れるというのであれば、それはウルフウッドの敗北だ。
(そうやな、そん時はおどれに思いっきり謝った後。おどれみたくラーブアンードピースとか叫びながら争いを止めるために戦ってやってもええわ。誰一人として殺さんとな)
――そうして、男は再び会場へと向かう準備を整える。
男が背負うは罪の証たる十字架。
最強の個人用兵装バニッシャーを背負って男は進む。
その先に待つのは新たな血の道かあるいは――。
680
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:35:54 ID:0fh9QIOw0
【王都テッペリン/二日目/日中(実験場内時間)】
【チーム:七人の同志】
(ルルーシュ、チミルフ、アディーネ、シトマンドラ、グアーム、ウルフウッド、東方不敗)
[共通方針]:各々の悲願を成就させるため、アンチ=スパイラル降臨の儀式を完遂する。内容は以下の通り。
1:真なる螺旋力覚醒者(天元突破)をアンチ=スパイラルを誘き出す餌とする。
2:ルルーシュの指揮の下、頃合を見計らって『試練』となる戦力を投入。参加者たちに意図的に逆境を与え、強引にでも螺旋力の覚醒を
促す。
3:投入する戦力は現在のところチミルフ、ウルフウッド、東方不敗の三名を予定。生存者たちの状況により随時対応。
4:試練を与える前に真なる螺旋力者が現れた場合、また別途にアンチ=スパイラルとの接触の機会が訪れた場合には、逐一対応。
5:同志七人の立場は皆対等であり、ルルーシュとチミルフを除いて支配従属の関係にはならない。
6:アンチ=スパイラルとの接触に成功した後は、ルルーシュが交渉を試み、その結果によって各自行動。
[備考]
※その他、詳細な計画の内容は「天のさだめを誰が知るⅢ」参照。
※ルルーシュの推測を含めた実験の全容については、「天のさだめを誰が知るⅡ」「天のさだめを誰が知るⅣ」参照。
※多元宇宙を渡る術は全て螺旋王が持ち去りましたが、資料や実験を進める上で必要不可欠な設備、各世界から強奪した道具などは残って
います。
※ルルーシュら実験に参加していた四名は、テッペリンの設備で体力と怪我を回復しました。
681
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:36:27 ID:0fh9QIOw0
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:首輪解除、健康
[装備]:ベレッタM92(残弾11/15)@カウボーイビバップ、ゼロのコスチューム一式@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服 、
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、
毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、
ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
参加者詳細名簿(ルルのページ欠損)、詳細名簿+(読子、アニタ、ルルのページ欠損)
支給品リスト(ゼロの仮面とマント欠損)、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:何を代償にしてでもナナリーの下に帰る。七人の同志の一人として行動。
1:ヴィラルの回収を待ってアンチ=スパイラルとの交渉を開始する。
2:それまで、手持ちの情報を再度洗い直す。
3:他の同志たちの行動にも目を配る。特にウルフウッド、東方不敗、グアームを要注意。
4:アンチ=スパイラルのより詳細な情報が欲しい。
5:謎のハッキングについて警戒する。
[備考]
※螺旋王の残した資料から、多元宇宙や実験の全容(一部推測によるものを含む)を理解しました。
※謎のハッキングについては外伝「かつてあったエクソダス」参照。
※カテドラル=テラの存在を知りました
682
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:36:58 ID:0fh9QIOw0
【怒涛のチミルフ@天元突破グレンラガン】
[状態]:敗北感の克服による強い使命感、ギアス(忠誠を誓う相手の書き換え)
[装備]:愛用の巨大ハンマー@天元突破グレンラガン
[道具]:デイパック、支給品一式、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!
ビャコウ(右脚部小破、コクピットハッチ全損、稼動には支障なし@天元突破グレンラガン)
[思考]
基本A:獣人以外を最終的には皆殺しにする上で、ニンゲンの持つ強さの本質を理解する。
B:王であるルルーシュの命に従い、ルルーシュの願いを叶える。
0:ルルーシュの臣下として務めを果たす。七人の同志の一人として行動。
1:ルルーシュの命に従い会場内からヴィラル、シャマル、グレンラガンを回収。
2:螺旋王の第一王女、ニアに対する強い興味。
3:強者との戦いの渇望(東方不敗、ギルガメッシュ(未確認)は特に優先したい)。
[備考]
※ヴィラルには違う世界の存在について話していません。同じ世界のチミルフのフリをしています。
※シャマルがヴィラルを手玉に取っていないか疑っています。
※チミルフがヴィラルと同じように螺旋王から改造(人間に近い状態や、識字能力)を受けているのかはわかりません。
※ダイグレンを螺旋王の手によって改修されたダイガンザンだと思っています。
※螺旋王から、会場にある施設の幾つかについて知識を得ているようです。
※『怒涛』の二つ名とニンゲンを侮る慢心を捨て、NEWチミルフ気分です。
※自分なりの解釈で、ニンゲンの持つ螺旋の力への関心を抱きました。ニンゲンへの積極的交戦より接触、力の本質を見定めたがっていま
す。(ただし手段は問わない)
※『忠誠を誓うべき相手は螺旋王ではなく、ルルーシュである』という認識の書き換えをギアスで受けました。
螺旋王に対して抱いていた忠誠が全てルルーシュに向きます。武人たる彼は自害しろとルルーシュにいわれればするでしょう。獣人とし
ての誇りは持っていますが、螺旋王に対する忠誠心は失っています。
※夜なのに行動が出来ることについては余り考えていなません(夜行性の獣人もいるため)。
683
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:37:55 ID:0fh9QIOw0
【流麗のアディーネ@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪、ルルーシュに対する不信
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:カテドラル・テラを調査する
2:ルルーシュのギアスに対して警戒する
【神速のシトマンドラ@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:任務に戻る。
2:ウルフウッドや東方不敗が情報を欲したとしても、ルルーシュのギアスに関しては悟られないよう根回しする。
3:螺旋王とルルーシュ、どちらが自分の"王"に相応しいか考える。
【不動のグアーム@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪、ルルーシュに対する不信
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:自身の生存を最優先とする
2:ルルーシュの行動を手伝うと見せかけ、コントロールする。
3:カテドラル=テラのエンジンとなりうる螺旋覚醒者を見繕う。
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:首輪解除、軽いイライラ、聖杯の泥、自罰的傾向、螺旋力覚醒
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night、デザートイーグル(残弾:8/8発)@現実(予備マガジン×1)、
パニッシャー(重機関銃残弾100%/ロケットランチャー100%)@トライガン
[道具]:支給品一式、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、予備弾セット@アニロワ2ndオリジナル
[思考]
基本思考:自分を甦らせたことを“無し”にしようとする神に復讐する(①絶対に死なない②外道の道をあえて進む)。
人間を“試し”、ヴァッシュへの感情を整理する。七人の同志の一人として行動。
1:もうすこしぶらぶらする。
2:試練役を買って出る意志はある。が、もやしっ子の言いなりになるんは癪や。
3:売られた喧嘩は買うが自分の生存を最優先。チミルフ含め、他者は適当に利用して適当に裏切る。
4:神への復讐の一環として、殺人も続行。女子供にも容赦はしない。迷いもない。
5:自分の手でゲームを終わらせたいが、無謀なことはしない。
6:ヴァッシュに対して深い■■■。
7:ヴァッシュの意思を継ぐ者や、シモンなど自分が殺した人間の関係者に倒されるなら本望(本人は気付いていません)。
8:チミルフに軽く失望。
9:生きる。
684
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:39:35 ID:0fh9QIOw0
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。
※ヴッシュ・ザ・スタンピードへの思いは――――。
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー)、高速移動、ロボットの使い手と認識しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
※シータのロボットは飛行、レーザー機能持ちであることを確認。
※螺旋界認識転移システムの場所と効果を理解しました。
※五回目の放送を聞き逃しました。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルに関する情報を聞きました。
※螺旋力覚醒
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:首輪解除、螺旋力覚醒、疲労(小)、火傷
[装備]:天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night、ボロボロのマント、マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム
[道具]:ロージェノムのコアドリル×1@天元突破グレンラガン、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!
風雲再起(首輪解除)@機動武闘伝Gガンダム、ゼロの衣装(仮面とマントなし)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]:
基本方針:現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。アンチ=スパイラルと接触、力を貸す。七人の同志の一人として行動。
0:アンチ=スパイラルの力を得たい。
1:マスターガンダムの調子を見るついでに、傷を癒す。
2:アンチ=スパイラルとの接触を図るため、ルルーシュに賛同。が、完全には信用しない。
3:アンチ=スパイラルを初め、多元宇宙や他の参加者、実験の全容などの情報を入手したい。
4:ルルーシュがチミルフを手懐けられた理由について考える。
5:ドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。
6:しかし、ここに居るドモンが本当に自分の知るドモンか疑問。
7:ジン、ギルガメッシュ、カミナ、ガッシュを特に危険視。
8:カミナに……
[備考]
※クロスミラージュの多元宇宙説を知りました。ドモンが別世界の住人である可能性を懸念しています。
※ニアが螺旋王に通じていると思っています。
※クロスミラージュがトランシーバーのようなもので、遠隔地から声を飛ばしているものと思っています。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。
『なんらかの要因』は火事場の馬鹿力であると推測しました。
Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※自分自身が螺旋力に覚醒したこと、及び、魔力の代用としての螺旋力の運用に気付きました。
※カミナを非常に気に入ったようです。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルについての情報を入手しました。
※計画に参加する上で、多元宇宙や実験に関する最低限の情報を入手しました。
※治療のせいで病状が加速していることが判明しました
※カテドラル=テラの存在を察知しました。(細かい機能などに関しては未だ理解していません)
685
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:40:11 ID:0fh9QIOw0
◇
彼、彼ら、それ、それら。
その存在を指し示すのにこれらの呼び方は全てが正しく、全てが間違っている。
アンチ=スパイラル、螺旋族からはそう呼ばれる存在。元は螺旋の民でありながらも螺旋の力の進化の果てにある破滅を知って自らの進化、肉体をさえをも封印し、他の螺旋族を統制しつづける道を選んだ存在。
彼はアンチ=スパイラルというただ一つの思念体であり、それらはアンチ=スパイラルという名の螺旋の民を管理するためのプログラムの塊だ。
彼らは進化の先にある破滅、スパイラル=ネメシスからこの宇宙を守るという総意であり、それはそのための単一的なプログラムだ。
そうして今、便宜上彼と呼ぶその存在はとある箱庭の様子を注視する。
螺旋族の元戦士、ロージェノムによって数多くのの世界から螺旋遺伝子を持つ者どもを集めて、行われた殺し合い。
無数の多元世界の中においてただ一つアンチ=スパイラルを打ち破った存在、天元突破覚醒者を自ら作りださんとしたその試みはロージェノムの逃走によって、その幕を下ろした。……はずだった。
「……愚かなる螺旋の者達よ、何を持って螺旋の進化を促す?」
事実、アンチ=スパイラルとしてはロージェノムが逃亡した時点でかの箱庭に残された螺旋の者に対しての興味はほとんど失っていたのだ。
力も数も足りぬ螺旋族なぞ、わざわざ滅ぼしに行くまでもない。
686
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:40:41 ID:0fh9QIOw0
逃げ出したロージェノムに対しても同様だ。
無駄な試みで螺旋遺伝子を持つ者を無駄に使い潰すだけの存在など放置しておいてもかまわない。
だが、ロージェノムの逃亡したあと、わずかな時を経て殺し合いという名の実験は再開された。
――そして。
「……まさかあのような試みで真なる螺旋覚醒が引き起こせるとはな」
驚きとわずかの哀れみを込めてアンチ=スパイラルは呟く。
「ほとほと理解に困る存在だよ、螺旋族というものはな」
放置しておいて構わなかったはずの実験は真の覚醒を果たしうることが判明した時点で一気にその危険度は跳ね上がった。
だが箱庭にいる者達、その数の少なさゆえにあの世界に埋め込んである殲滅プログラムは作動しない。
つまり、あの螺旋覚醒者はアンチ=スパイラル自らが滅ぼさなければならないということだ。
無論、その様子は箱庭に残されし螺旋族どもに見せつける。
それによって絶望を引き起こし箱庭の中の螺旋の力をそぐためだ。
そして、逃げ出したロージェノム。
彼自身は未だ気がついてはいないだろうが、螺旋覚醒を果たすだけの舞台を作り出すことが可能な彼を放置しておくこともできなくなった。
それはあの実験を続けるもの達も同様だ。
いかなる意図があってロージェノムの実験の後を引き継いだのかまでは理解できないが、それでも螺旋覚醒を引き起こすすべを知る者を生かしておくのは危険すぎる。
いや、ロージェノムの逃亡後螺旋覚醒が果たされたことを鑑みれば、その危険度は未だに無知なるロージェノムより高いとさえ言えよう。
――そして最後に後一つだけ確かめることがある。
「はたしてあの螺旋覚醒者は箱庭から抜け出せるのかな?」
真なる螺旋覚醒を果たした箱庭の螺旋族。
だが、その覚醒にはあの特別な箱庭の空間、螺旋遺伝子の覚醒を促す特殊なフィールドもその要因となっている。
わかりやすく言ってしまえば、子供が自転車に乗るときに補助輪を付けて乗っているのと同じ事だ。
687
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:41:23 ID:0fh9QIOw0
だが、真なる螺旋覚醒を果たし、そのまま箱庭の外に出るということはその補助輪を外すということに他ならない。
ただの螺旋遺伝子の覚醒というだけならばめざめた螺旋遺伝子のバランスはそれほど崩れることはないだろう。
だが、真なる螺旋覚醒ともなれば話は別だ。
その圧倒的なパワーを御し損ねればそれはスパイラル=ネメシスには及ばぬとはいえ大きな破壊を引き起こす。その破壊に螺旋覚醒者のからだ自体も耐えられまい。
アンチ=スパイラルの見立てではその可能性はおよそ5割。
「……さて、どうなるかな?」
ロージェノムによって行われた今回の実験。
その真なる観察者としてアンチ=スパイラルはその結果が導き出されるのを待ちつづける。
688
:
始まりは終わりの始まり
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/21(金) 22:47:47 ID:0fh9QIOw0
【アンチ=スパイラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:???
[装備]:???
[道具]:???
[思考]スパイラル=ネメシスをくい止める。
0:真の螺旋覚醒者が箱庭から無事に出てこれるかどうか見極める。
1:出てこれるようなら実験を続けた者達ごと攻撃を加える。その際そのシーンを箱庭に残る者たちに見せつけることによって彼らの絶望を誘う。
2:事が終わったらロージェノムを補足する。
3:一応、箱庭に残る者達の監視は続ける。
689
:
改定
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/23(日) 22:28:59 ID:D23wfd.g0
――そして。
「……まさかあのような試みで真なる螺旋覚醒が引き起こせるとはな」
驚きとわずかの哀れみを込めてアンチ=スパイラルは呟く。
「ほとほと理解に困る存在だよ、螺旋族というものはな」
放置しておいて構わなかったはずの実験は真の覚醒を果たしうることが判明した時点で一気にその危険度は跳ね上がった。
だが箱庭にいる者達、その数の少なさゆえにあの世界に埋め込んである殲滅プログラムは作動しない。
つまり、あの螺旋覚醒者はアンチ=スパイラル自らが滅ぼさなければならないということだ。
無論、その様子は箱庭に残されし螺旋族どもに見せつける。
それによって絶望を引き起こし箱庭の中の螺旋の力をそぐためだ。
そして、逃げ出したロージェノム。
彼自身は未だ気がついてはいないだろうが、螺旋覚醒を果たすだけの舞台を作り出すことが可能な彼を放置しておくこともできなくなった。
それはあの実験を続けるもの達も同様だ。
いかなる意図があってロージェノムの実験の後を引き継いだのかまでは理解できないが、それでも螺旋覚醒を引き起こすすべを知る者を生かしておくのは危険すぎる。
いや、ロージェノムの逃亡後螺旋覚醒が果たされたことを鑑みれば、その危険度は未だに無知なるロージェノムより高いとさえ言えよう。
――だが、動くにはまだ早い。最後に後一つだけ確かめることがある。
「はたしてあの螺旋覚醒者は箱庭から抜け出せるのかな?」
真なる螺旋覚醒を果たした箱庭の螺旋族。
だが、その覚醒にはあの特別な箱庭の空間、螺旋遺伝子の覚醒を促す特殊なフィールドもその要因となっている。
わかりやすく言ってしまえば、子供が自転車に乗るときに補助輪を付けて乗っているのと同じ事だ。
だが、真なる螺旋覚醒を果たし、そのまま箱庭の外に出るということはその補助輪を外すということに他ならない。
690
:
改定
◆EA1tgeYbP.
:2008/11/23(日) 22:30:27 ID:D23wfd.g0
ただの螺旋遺伝子の覚醒というだけならば目覚めた螺旋遺伝子のバランスはそれほど崩れることはないだろう。
だが、真なる螺旋覚醒ともなれば話は別だ。
その圧倒的なパワー、普通の螺旋覚醒とは比較にならないそれを御し損ねればそれはスパイラル=ネメシスには及ばぬとはいえ大きな破壊を引き起こす。その破壊に螺旋覚醒者のからだ自体も耐えられまい。
アンチ=スパイラルの見立てではその可能性はおよそ5割。
「……さて、どうなるかな?」
ロージェノムによって行われた今回の実験。
その真なる観察者としてアンチ=スパイラルはその結果が導き出されるのを待ちつづける。
【アンチ=スパイラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:???
[装備]:???
[道具]:???
[目的]スパイラル=ネメシスをくい止める。
0:真の螺旋覚醒者が箱庭から無事に出てこれるかどうか見極める。
1:出てこれるようなら実験を続けた者達ごと攻撃を加える。その際そのシーンを箱庭に残る者たちに見せつけることによって彼らの絶望を誘う。
2:事が終わったらロージェノムを補足する。
3:一応、箱庭に残る者達の監視は続ける。
692
:
ネコミミの名無しさん
:2009/02/21(土) 10:55:03 ID:DuiLlEbE0
test
693
:
ソング・フォー・スウィミング・バード
◆10fcvoEbko
:2009/03/05(木) 01:11:41 ID:fRJ0ldBs0
ラフィング・ブルが言った。
「泳ぐ鳥よ、お前の体が何でできているか知っているか?」
俺は言った。
「知らねえよ。きっとどこにでも転がってる鳥のフンだろうさ」
ブルが言った。
「泳ぐ鳥よ、お前の魂は何でできているか知っているか?」
俺は言った。
「知らねえよ。きっとどこにでも転がっている綿ぼこりだろうさ」
ブルは言った。
「その答は間違っていて合っている。お前の体は宇宙の全てと繋がっていながら、お前にしかなり得ない。お前の魂は宇宙の全てを含んでいながら、お前でしか有り得ない。それはこの私も、そして誰しも」
「誰かが憎ければ、お前は自分を憎んでいる。誰かを愛していれば、お前は自分を愛している」
俺は言った。
「――――――――――――」
694
:
ソング・フォー・スウィミング・バード
◆10fcvoEbko
:2009/03/05(木) 01:12:22 ID:fRJ0ldBs0
◇
フェイ・バレンタインがヒバップ号の傷んだソファーにだらしなく身を預け無為な時間を過ごしていたとき、その男はいつかと同じようにふらりと戻ってきた。
「なんだ。お前まだいたのか」
長いこと放置されている捨て猫を見たときのような中途半端な興味の声だ。
ずっと忘れていて、見た瞬間になってようやくそう言えばそんなものもあったと思い出すような、程度の低い存在。
目を離せば、すぐにまた忘れられる。
「あら……幽霊かと思った」
「酒を隠したのを忘れたまんまじゃ死んでも死にきれなくてな」
スパイクが掲げてみせたのは確かに赤銅色に鈍く光る酒瓶だった。秘蔵にする程の上物とも思えなかったが、この男がそれを求めるためだけに戻ってきたのは本当らしい。
実際そんな用事でもなければこの場所を訪れることもないだろう。
廃棄寸前で打ち捨てられたのビバップ号は廃屋同然で、修理しようとする者もいない。
空調用のプロペラだけがからからと意味もなく回っている。幽霊と言ったが、それをただぼうっと見ていただけのフェイの方が余程幽霊らしかった。
「手、治ったんだ」
酒瓶はスパイクの右手にぶら下げられていた。
「てっきり義手にでもするのかと思った。ジェットみたく」
「あんな骨董品抱える方が珍しいんだよ、いまどき」
695
:
ソング・フォー・スウィミング・バード
◆10fcvoEbko
:2009/03/05(木) 01:12:48 ID:fRJ0ldBs0
ひらひらと振られた手は再生手術に拠るものとは思えないくらい違和感なく馴染んでいるように見えた。
そう言えば前に会ったときにも義手にはしないと言っていたように思う。
何がどうなってそんな大怪我を負うに至ったのか、フェイは詳しいことを聞かされていない。
ただ、同じ事件に捲き込まれたジェットとエドは命を落としたとだけ聞かされた。それを初めて聞かされたときには面食らったものだが、流石に70日近く経ってもまだ引きずるような仲だったかと聞かれれば否定せざるを得ない。
それきりアインの姿が見えなくなったのが気がかりと言えば気がかりだった。
ともかくちょっとした集団失踪の後、帰ってきたのはやはり一番死にそうにない男一人だけだったという訳だ。
「腹でも減ったか?前は犬みてぇにきゃんきゃん突っ掛かってきたくせに」
それを適当にあしらって姿を消したのはどこの誰だ。何かあればすぐに食べ物に結び付ける。男って本当に馬鹿。
女はそうじゃない。更に大人の女ともなれば、人には言えないことも色々あるのだ。
いちいち、教えてなんてやらないけど。
「あたし、記憶戻ったの」
なのに、唇は勝手に言葉を紡いでいた。視線はいつの間にか反対側のソファーに座っていたスパイクのところにまで落ちている。
「でも、良いことなんて何にもなかった。帰る場所なんて、どこにもなかった。
ここしか帰る場所がなかった」
故郷はなく。家もなく。一方的な知り合いは居てもただ胸が詰まった。
唯一戻ることのできたこの場所も、もうすぐなくなろうとしている。
何も、なかった。
「こんな話を知ってるか」
だからと言って、何故スパイクなんかに話してしまったのだろう。
言葉が勝手に漏れた理由はよく分からなかった。
スパイクとフェイ。二人の何が変わったという訳でもない。
696
:
ソング・フォー・スウィミング・バード
◆10fcvoEbko
:2009/03/05(木) 01:13:25 ID:fRJ0ldBs0
「あるトラ猫がいた。
その猫は世界中をあっちこっち転々としながら百万年生きた。
猫には寿命がなかった。そして何より、その猫は喧嘩が嫌いだった。
あちこちの騒ぎに首を突っ込んでは怒られ、怒られると猫は謝り倒して逃げた。
やがて月日が経ち、ほうぼうに迷惑ばかりかけた猫は事故に遭ってあっけなく死んだ。
最期の瞬間まで猫が考えていたことは、皆が幸せになれば良い、ただそれだけだった」
「……なにそれ」
幼稚というレベルなく、話として成り立ってさえいない。
感想など持てよう筈もない。そんな馬鹿猫の話に、一体何を思えと言うのだ。
「俺はこの話が嫌いだ」
少しだけ、妙な感じがした。
こんな風に、無駄話をするくらい。
落ち込んでいる相手と意味のない会話をするくらいに。
自分やこいつはお節介だっただろうか。
「俺は猫が嫌いだ」
そうして、今度こそスパイクはビバップ号を去った。もう戻ることもないだろう。
二度と、会うこともない。
本当に一人になってしまった。再び固いソファーにもたれ掛かる。
少しだけそのまま眠るようにしていたが、やがてフェイは小さいが良く通る声でぽつりと呟いた。
「……この船いくらで売れるかしら」
上を見るのを止め、取り敢えず煙草に一本火を付けることから始めた。
697
:
ソング・フォー・スウィミング・バード
◆10fcvoEbko
:2009/03/05(木) 01:14:22 ID:fRJ0ldBs0
◇
翼を繋ぐ拘束具から解き放たれたソードフィッシュが迷いなく火星の空を駆ける。
所々塗装の剥げた高速船は風を切るのを楽しむかのように舞う。
その速力を遺憾なく発揮した鳥はやがて小さな町に降り立った。
色の付いた晴天の町を進み、カラコロと鳴るドアベルの付いた一軒の家に入る。
オルゴールの音が止んだ部屋には、生きている女がいた。
「……ビシャスが居なくなったそうよ。長老派は大喜び」
「ああ、知ってる」
いつかと同じ、女にしては低めの、憂いを帯びた声。
墓地でさえない現実の場所でスパイクはジュリアと再会した。
「何故来たの?どうして……来たの」
「約束があったのを思い出した。どっかで自由に暮らそう、ってな」
いつ思い出したかは分からない。
あいつが死んだときか、あいつが命を散らしたときか。
それとも、奴の命を奪ったときか。
「夢でも、見るように……?」
ジュリアはスパイクの方に視線だけを向けていた。
何かを恐れるように、その唇が震える。
「いや」
狂乱があった。
馬鹿騒ぎは眠る男さえも叩き起こし、静かに続く覚めない夢を奪った。
そしていつしか、男は再び眠ることを忘れた。
「夢なんかじゃないさ」
色の違う二つの瞳が、真っ直ぐにただ前だけを見ていた
ADIOS SPACECOWBOY LOVE&PEACE
698
:
副社長は自身が知ることについてしか語らない
◆DzDv5OMx7c
:2009/03/07(土) 02:18:38 ID:5C.6M81M0
――193X年・アメリカ合衆国 イリノイ州 シカゴ
突き抜けるような晴天の下、大きな道沿いのオープンカフェにて
片眼鏡をかけた壮齢の男と首にカメラをぶら下げた幼い少女が向かい合って朝食をとっている。
男の名はギュスターウ・サンジェルマン、15にも満たない少女の名はキャロル。
一見親子のような2人だったが、2人の間柄は上司と部下、記者と助手というものであり、
2人ともニューヤークの地方紙・デイリーデイズ誌の記者であった。
「副社長、凄いですね!」
少女が手に持つ新聞の見出しにはでかでかと『大陸横断鉄道フライング・プッシーフットの先頭車両盗まれる』
『またも王ドロボウの仕業か? ――警察関係者は否定』などといった文字が躍っている。
そう、ここ最近アメリカ全土を一人の怪盗が騒がせていた。
その怪盗の名は――『王ドロボウ』。
予告の前には独特のデザインの予告上を出し、無益な殺生はせず、奇抜な手口で何でも盗み出す。
更に言うならば噂ではまだ年若い少年だという。
まるで幻想小説の中から飛び出したかのような存在。
そして何より凄いのは、調べれば調べるほどその正体が不明になっていく点である。
どこから来てどこへ行くのか……そのミステリアスさもまたキャロルの心を掴んで離さなかった。
「キャロル、"凄い"とはなんだ?」
浮かれるキャロルに対し、沈黙を保っていた片眼鏡の紳士が厳かな顔を上げる。
「"凄い"……とは確かにわかりやすい言葉だ。
だが我々は記者だキャロル。
その凄さをわかり易く、かつ独自のセンスを持って読者に対して伝えなければならない」
「わかってます! 真実は人の数だけ姿を変える、ですよね?」
「そうだ。ではキャロル、お前ならこの記事にどういう見出しをつける?
お前の真実から見たこれはどういう側面を持つかを表してみたまえ」
いきなり振られた無理難題に少女は目を白黒させる。
「えー、ええと……『霞の中に消えたフライングプッシーフット号!
それは王ドロボウの企みか、それとも全米を震撼させるギャングの野望を阻止しようとする神の手か』……とか?」
「――244点」
「何点満点中で!?」
699
:
副社長は自身が知ることについてしか語らない
◆DzDv5OMx7c
:2009/03/07(土) 02:19:41 ID:5C.6M81M0
そんないつも通りのやり取りをする2人。
だが大通りの方から微かなざわめきが聞こえてくる。
しかもそのざわめきは次第にこちら側へと向かってきている。
そちらの方に視線を向けたキャロルはそのざわめきの理由を瞬時に理解した。
そこにいたのは一人の東洋系の女性だった。
肩まで伸びたワインレッドの髪、猫を思わせる切れ長の瞳。
年の頃は10代後半にも見えるし、20代にも見える。
瑞々しさと妖艶さを奇跡的なバランスで実現した存在。
ありていに言うなら絶世の美女がそこにいた。
一流の職人によってカットされたルビーを思わせる美貌にキャロルは思わずため息をつく。
だがギュスターヴはそんな女に対しても、平然とした態度を崩すことなく応対する。
「ふむ、どうやら情報屋としての我々に用があるようだね。まぁ座りたまえ」
そう、彼らの所属するDD新聞社は"情報で金を買う"、情報屋としての一面を持っている。
彼らが本気になれば例え大陸の反対側で起こったことでもゼロコンマ後には知れ渡っている。
……そんな噂がまことしやかに囁かれるほどなのだ。
それを聞きつけたからこそ"彼女"は、最も近くにいたこの男に接触したのだ。
だがさっき不愉快な出来事があったせいで、座って話をするよりもさっさと帰りたかった。
「ふむ、さっき妙に明るい車掌にしつこくナンパされたからさっさと帰りたい?
……とはいえ、それなりに長くなりそうだからね。
貴女の望む情報が……"これ"に関する情報であるならば」
そう言って新聞の一面に記された見出しを指差す。
その指先には『KING OF BANDIT』の文字。
女は大きくため息をついた後、キャロルに一言断りをいれ、優雅な仕草で椅子に腰掛ける。
何気ないその動作も一つ一つが洗練されており、キャロルはますます見とれてしまう。
女は懐からいくらかの宝石を取り出す。
どれも一流の細工がしてあり、キャロルの素人目にも一級品であることがわかった。
「ああ、御代は結構」
だが、それをギュスターヴは軽く手で制する。
その対応に女は訝しげな表情になる。
「……と言ってももちろん只であるわけは無い。
只より高い物は無い……嘘偽り無い情報の受け渡しのためには必要だ」
副社長は更に言葉を紡ぐ。
「あなたも知っての通り、我々は情報を扱っている。
故に今回は"貴方たち"の情報を価値あるものとして認め、それを代償として支払っていただきたい。
そう、例えば"貴方たち"の出会いなどは……どうだろうか?」
その言葉に、女は心底疲れきった表情になる。
だが変人の相手は散々してきているためか、抵抗を無駄だと悟ったのだろう。
諦めがわりに盛大なため息をつき、そして物憂げな表情のまま、訥々と語り始めた。
700
:
それが我の名だ〜actress again
◆DzDv5OMx7c
:2009/03/07(土) 02:20:31 ID:5C.6M81M0
* * *
そこは球体の内側だった。
唯一の足場は宙に浮く円柱。
そしてその壁一面には世界地図が姿が映し出されている。
まるで地球儀の内側のようなそこの名は、BF団本拠地・作戦室。
その中央で壮年の男――十傑集の長、混成魔王樊瑞は思考にふける。
「……」
『地球静止作戦』と呼ばれたBF団史上最大の作戦。
だが、ある男は敵味方共に甚大な被害を出したそれすらも大いなる『GR計画』の前座であったと言い放った。
その男の名はBF団軍師、諸葛亮孔明。
彼らの主であるビッグファイアから全権を任されたという、胡散臭さを塗り固めたような男。
だがしかし、数日前、孔明は姿を消した。
後にも先にも、一切の前触れも音沙汰もなく。
更には時を同じくして、その側近『コ・エンシャク』、
及び十傑集の『マスク・ザ・レッド』と『直系の怒鬼』も突如として行方をくらませたのだ。
この異常事態にBF団は混乱し、GR計画準備の中断を余儀なくされた。
彼らにとって幸運だったのは敵対する国際警察機構でも同様の事態が発生していたということ。
静かなる中条、そして草間大作とジャイアントロボ、
その他、九大天王を含む複数名のエージェントの失踪が確認されている。
だがそれすらも樊瑞にとっては、不安をあおる要因にしかならない。
まるで神の見えざる手によって、突如世界を書き換えられてしまったのかのような違和感……
普段なら馬鹿げていると一笑に付すその考えが、ここ数日の間、樊瑞の頭から片時も離れないのだ。
「――何を考えておる、樊瑞よ」
半透明の足場に現れたのは老人と言っても差し支えない年齢の男。
だが矍鑠とした動作、全身から漲るその英気はただの老人ではないことを物語っている。
男の名は激動たるカワラザキ――BF団創生期からいる最古の十傑集にして、樊瑞らが最も信頼する男だ。
「……あの男がこちらの考えを姿を消すのは今に始まったことではなかろう。
であれば、今は来るべき日に向けて"アレ"を奪い返すことに全力を尽くすべきではないか?」
確かに。、神ならぬ身にすべてを見通すことは出来ない。
人に出来ることは今、最善を尽くすことだけなのだから。
「……そうだな、まずは"アレ"を取り返さねばならんか。
すべては、ビッグファイアのために……!」
見上げた視線の先、モニタに映し出されるのは、黒いアタッシュケースを抱えた赤い髪の少女だった。
* * *
701
:
それが我の名だ〜actress again
◆DzDv5OMx7c
:2009/03/07(土) 02:21:45 ID:5C.6M81M0
あたしは走っていた。そりゃあもう全速前進ってな具合に。
バサバサ自慢の赤色の髪が乱れるし、服には汗が滲むし。
ニーソックスが少しずり下がって来たような気もするけど気にしない。
あたしを突き動かすのはとある本能的な衝動。
生命の危機という、単純極まりない"それ"だった。
「フハハハハハハ! どこへ行こうと言うのかね?」
その声は遥か頭上から。
ごちゃごちゃした町を見下ろす様に走る線路の上。
いい年こいて黒いタイツを被ったオッサンが、列車の上からこっちを見下ろしている。
「――ったく、いい加減しつこいっての……!」
その視線を遮る様にビルの隙間に身を滑り込ませれば、
今度はオートジャイロに乗った全身黒タイツの連中が追いかけてくる。
黒タイツの連中の名はBF団。
冗談抜きで世界征服を狙っている連中だ。
そしてあたしは運び屋なんかをして日銭を稼いでいるしがない女の子。
さて、そんなあたしが何故追われているのかと言うと、
「さぁ、大人しくアタッシュケースを渡してもらおうか!」
なんか怪我だらけの坊主のオッサンから受け取った黒いアタッシュケース。
これを国際警察機構のところまで届けるのが今回のお仕事ってワケだ。
この仕事……危険度が高いのはわかっていたが、“とある理由”があって、二つ返事でOKした。
「誰が渡すか、バーカ!」
毒舌を返しながら、目指すは線路から大きく外れたところにあるマンホール。
下調べ済みのあそこに入ればエージェントとの合流場所まで一直線。
そう、ここさえ切り抜けられれば――!!
「フン……まさかBF団から逃げられるとでも思ったのかね?」
男の声にいやな物を感じたあたしは首だけで振り返り、
そして振り返ったことを後悔した。
「――起動せよ、維新竜・暁!!」
その声を切欠に、大音量を響かせながら列車が変形する。
腕が伸び、首をもたげたそれはまるでゲームに出てくるドラゴンみたいだ。
鉄の塊が軋む音がまるで叫び声の如く、夜空に響き渡る。
あたしは前だけを見て、その場を全力で逃げ出そうとする。
けれど列車ロボットは重そうな見かけとは裏腹に、機敏な動きであたしの前に立ち塞がる。
ヤバイ、と思ったときにはもう遅く、伸びてきたアームにあたしの身体は捕らえられた。
そしてそのまま空高く――ビルと同じ高さぐらいまで吊り上げられる。
「散々手間をかけさせてくれたな小娘」
ロボットの肩に乗る男は苛立ちを隠そうともせず、あたしを睨み付ける。
が、余裕の表れか、マスク越しでもわかるような笑みをその顔に浮かべた。
「だが……我らとて鬼ではない。
貴様が持ち逃げした"GR3"のコントローラーさえ渡してもらえば、
お前は見逃してやってもかまわんぞ?」
普通に考えれば十分魅力的な提案だ。
100%嘘だろうけど、隙ぐらいは作れるかもしれない。
元々雇われの身であるあたしには国際警察機構に協力する義理なんてこれっぽっちもありはしない。
何だろうと指一本動かせないこの状態よりはマシなはずだ。
だけど、
「誰が……誰があんた達なんかに!」
だけど、それだけはありえない。
脳裏に浮かぶのは包帯にグルグル巻きにされたママの姿。
BF団のテロで大怪我を負ったあたしの大切な人。
ママの手術台と入院費用、それに『そいつらの鼻を明かせるなら――』という気持ち。
それが今回の仕事を請けた大きな理由。
だから、BF団だけには屈するわけにはいかなかった。
そしてその答えは目の前の男の最も望む物であったらしい。
「そうか……では仕方がない。予定通り、力づくで行かせてもらうとしよう!
すべては我らが偉大なるビッグファイア様のために!!」
702
:
それが我の名だ〜actress again
◆DzDv5OMx7c
:2009/03/07(土) 02:22:27 ID:5C.6M81M0
少しずつ締め付ける力が強くなる。
徐々にに迫り来る死の恐怖に押しつぶされそうになる。
だけど、視界の隅に映るのはマスク越しでも分かる酷薄な笑み。
こいつらに弱みだけは見せたくないという一欠けらの意地だけで、相手をにらみ付ける。
だけど圧力は次第に増して行き、体中の骨と言う骨が限界を超えるその瞬間、
突如として機械の指が緩み、あたしの身体は空中に放り出される。
でも何てことはない。死に方がちょっと変わっただけ。
酸素不足で朦朧とした意識もそれだけは理解できた。
「いづっ!?」
だけど次の瞬間、全身に走った痛みに無理やり意識が覚醒させられる。
偶然ビルの上とかに落ちたのだろうか……と思いながら周囲を見渡して、
それがまるっきり見当違いだということをあたしはようやく理解した。
光り輝く絨毯みたいな何かが空中に浮いており、あたしはそこに不時着したのだ。
同じく光の絨毯の上に転がるのはさっきまであたしを掴んでいたロボットの腕。
人間で言う肘の辺りがすっぱりと切断され、まるで鏡みたいに綺麗な断面を晒している。
驚きの表情のまま固まる黒タイツたち。
これらが意味するところはただ一つ――第三者の介入。それ以外にありえなかった。
「ふむ……この"レバケン"とやら……悪くない切れ味だな。気に入ったぞ」
そして光の絨毯の先頭、更なる高みにそいつはいた。
月明かりに照らされたのは目も眩むような金ぴかの鎧。
右手には陽炎を立ち昇らせる真紅の剣。両足には水晶をはめ込んだ真っ黒な靴。
華美を極めたその格好の中で唯一みすぼらしく映るのは、背中に背負った黒いバック。
突如として現れた金ぴかの男は、圧倒的な存在感を撒き散らしながら、
だがしかしこっちのことなどお構い無しに自分の剣を一心不乱に眺め回している。
次に話したのは金ぴかの足元――黒い靴から声が聞こえた。
『どうやら北欧神話におけるレーヴァンティンの概念を内包しているようですね。
この持ち主であった"Konatan"には悪いことをしたと思いますが』
「間違えるな具足。すべてのものは元々我の財なのだ。
故に盗人の手から"レバケン"も我が手元に戻ってきただけなのだ」
空気を読まずに暢気に靴と会話する金ぴか。
めんどくさそうに剣をディバックの中にしまう……って、明らかにディパックより長くなかった?
整った容貌に蛇みたいな笑みを浮かべながら、ルビーのような二つの目でこちらを見下ろしている。
「さて……光栄に思うがいい雑種ども。王の問いに答える事を赦す。
このあたりでコソドロを見なかったか?」
『黒髪を逆立てた少年で、年齢は10代中ごろ。格好は黄色いコートと……奇妙な面をつけていることもあるようです』
すかさずフォローをする黒い靴。
なんか慣れてるっぽいなぁ、とかあたしは場違いなことを考える。
けどいきなりすぎる乱入にオトナ連中は大騒ぎ。
「だ、誰だ貴様は!」
「国際警察機構のエージェントか!?」
「誰でもかまわん! 邪魔立てするのなら――」
次々と上がる雑多な声に金ぴかの表情が心底うんざりとしたものに変わっていく。
「聞いているのは我だ。それとも貴様らは王の言葉が分からぬ狗畜生どもか?」
「……どちらにしろ、貴様には関係ないだろう?」
ビルの上から声がかけられる。
そこに居たのはさっきまで列車ロボットの上に立っていたスーツ姿の黒マスクだ。
顔が見えなくても青筋立てていることぐらいは分かる。
が、金ぴかはそんなこと知ったこっちゃないとばかりに不機嫌な視線を向ける。
「ほう、それはどういう意味だ雑種?」
「それは――こういう意味だ、馬鹿めが!!」
いつの間にか列車ロボットが、金ぴかの背後に回っていた。
そう、男が前に歩み出たのは金ぴかの注意をひきつける囮だったのだ。
その作戦は功を奏し、避けようのないタイミングで超重の拳が振り下ろされる。
『Protection』
けど、その拳はあっさりと止められた。
金ぴかの周りに発生したフィールドによって。
「ば……ばかな、アレだけの高出力フィールドだと!?」
驚くオジさん。
確かにアレだけ強力なフィールドなんてあたしも見たことがない。
703
:
それが我の名だ〜actress again
◆DzDv5OMx7c
:2009/03/07(土) 02:23:01 ID:5C.6M81M0
「褒めて遣わすぞ具足。我が魔力の生かし方が分かってきたようではないか」
『……それはどうも、King』
「やれやれ……我からの賛辞を賜ったと言うのにもう少し悦ぶがいい。
しかし――」
こっち側に向き直り、真紅の目であいつらを睨み付ける。
「雑種風情が、随分と不戯けた真似をしてくれたものだな」
男が口を開く。
たったそれだけで周囲の温度が一気に下がったような錯覚を覚える。
絶対零度を言葉にしたら、きっとあんな感じになるのだろう。
「王が直々に判決を下してやろう。身に余る光栄に歓喜するがいい」
金ぴかはディパックの中に手を突っ込むとそれを取り出した。
それは一言で言うなら大きな筒だった。
もっと細かく言うなら、戦車とかロボットについている馬鹿でかい大砲。
明らかにディパックの容積を無視したそれを金ぴかは取り出すと、
まるでおもちゃの拳銃のように軽々と構える。
「――死を賜わす。遠慮はいらぬ、謹んで受け取るがいい」
その顔に浮かぶのは子供のような無邪気な笑み。
あたしだけじゃない。この場に居た全員が理解する。
こいつが息をするように相手を甚振ることのできる、生まれ尽いての鬼畜野郎だってことに。
所詮、圧倒的戦力差がないとそう振舞えないマスクの男などとは――酷薄のレベルが違う。
「か……かかれぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
号令の元、一斉に襲い掛かる黒タイツたち。
だけど、どう見てもあいつらに勝ち目があるようには思えなかった。
まぁ、それを一番理解しているのは、あいつらだったのかもしれないけど。
『――Enormous Cannon、Fire!』
そして、前言どおり判決が下される。
大砲から放たれたエネルギー弾は、列車ロボットをあっさりと撃破。
それどころか、砲撃の余波はビル風を巻き込んで暴風を巻き起こす。
「バ、ばかなぁああああああああああああああああ!!!」
ビルの屋上にいた黒タイツスーツも、オートジャイロに載っていた男たちも。
突如発生した衝撃波に吹き飛ばされ、ビルの側面やコンクリートの地面に為すすべなく叩きつけられる。
――かく言うあたしも、吹き飛ばされないように伏せるので精一杯。
ツルツルしてる割に滑らない不思議素材の光の絨毯のおかげで落ちずにはすんだが。
……かくして事が収まったときその場に立っているのは金ぴか一人だった。
「ふむ……威力は申し分ない……が、やはり好ましい武器ではないな。何より優美さに欠ける」
『……この武器を使うために、複雑な出力調整を行った私の労力は一体……』
「我に尽くせたのだ。それ自体が褒美であろう?」
漫才のようなやり取りを繰り返す2人だがまわりは阿鼻叫喚。
かろうじて生き残ったヤツラのうめき声が耳に届く。
それを聞き取った金ぴかは眉を上げる。
「手心を加えたな、具足」
『当然です。私は"人を守る"という機動六課の使命を"彼"に託されたのですから』
「フン、あれだけの世界を巡り、人の愚かさを見ておいて、まだ下らぬ夢を捨てきれぬか。
――まぁいい。それならそれで使い出はある。
さて、もう一度聞くぞ雑種ども。
その耳障りな呻き声を今すぐ止めれば、我が問いかけに応える栄誉を賜わすぞ?」
相手の状態など一顧だにしない傲慢な態度。
我侭にもほどがある。こいつらだって別に好きで呻いてる訳じゃないでしょーに。
誰も答えない……というか答えられないだろーな、とか他人事みたいに考えてその時。
704
:
それが我の名だ〜actress again
◆DzDv5OMx7c
:2009/03/07(土) 02:23:33 ID:5C.6M81M0
「――少なくとも、我等は会った事がないな」
「!?」
正面、右左の両後ろにそれぞれ位置する三つのビルの屋上。
いつの間にかあたしたちを取り囲むように、それぞれ人影がいたのだ。
向かって正面。12時の方向にいたのは黒いスーツの男。
学者さんが被るような帽子と一緒になった仮面をつけている。
向かって右後ろ。4時の方向にいたのもスーツの男。
ただその顔色は死人かと見間違うぐらいに青白い。
向かって左後ろ。8時の方向にいた3人目は中国っぽい格好をしている。
顔といい体型といい狸を思い出した。
格好だけ見れば金ぴかに負けず劣らずの変態ども。
だが3人が3人とも圧倒的なプレッシャーを放っている。
全身のただが粟立ち、心臓が早鐘を打ったかのように鼓動を早める。
こいつらとは初めて会うというのに確信する。
本能が告げている。コイツらはヤバイ。ヤバすぎる。
「私の名は十傑集が一人、白昼の残月!」
「……同じく、暮れなずむ幽鬼……!」
「十傑集。命の鐘の十常侍なり!」
十傑集。
その単語にさっきの予感が間違ってなかったことを確信する。
直接目にしたのはこれが初めてだけど、どいつもこいつも人間離れした奴らって噂だ。
そんなの3人に囲まれているこの状況……もしかしなくても絶体絶命そのものだ。
だけど金ぴかは心底どうでもよさ気な視線を向ける。
「フン……その振る舞い、"衝撃の"と同類か」
その言葉に3人の気配に動揺と緊張が混じる。
どうやら"衝撃の"とやらと知り合いらしい。
「衝撃大人(ターレン)の知り合いなるか!?」
「BF団ではありえない……
だが先ほどの周囲への被害をわきまえぬ戦いぶりといい国際警察機構のエージェントとも思えん……」
「くっ……貴様……一体何奴!」
「やれやれ……どいつもこいつも『何故? どうして?』と馬鹿の一つ覚えのように。
無知はそれだけで大罪と知るがいい雑種ども。
だから、むざむざ"このような"目にあうのだ」
そう言って指を鳴らす金ぴか。
どういう理屈か、それだけで手の中にあったアタッシュケースの留め金が壊れる。
「え……」
だがそこから出てきた予想外の物に、あたしは言葉を失った。
アタッシュケースの中に入っていたのはただの紙ッ切れ。
その表面にはふざけたデザインでこう書かれていた。
705
:
それが我の名だ〜actress again
◆DzDv5OMx7c
:2009/03/07(土) 02:24:29 ID:5C.6M81M0
『 領収書
巨人の指揮棒(タクト)は確かにいただきました。
HO! HO! HO!
通りすがりの王ドロボウ』
その言葉に、あたしは思わず絶句する。
だってあたしは腕時計型のそれがアタッシュケースに納められるところをこの目で見ているのだ。
BF団の連中も驚いた瞳でその紙切れを見つめている。
だけどただ一人、金ぴかだけは歪んだ愉悦を顔に浮かべて、その紙を拾い上げた。
『King、やはり――』
「そのようだな。やはり間違っていなかったと見える。
このタイミング……、奴はまだ"ここ"にいるとみて間違いあるまい」
訳知り顔でうなづく金ぴか。
いやいやいや、何を言ってるのか全然わかんないし。
「ねぇ、ちょっと、さっきから訳がわかんないわよ! 少しは説明しなさいって!」
「喧しいぞ。少し黙っておれ小むす――む?」
じろりとこっちを見る金ぴか――が、その表情が一変する。
余裕そのものの顔から、まるで鳩が豆鉄砲食らったような顔に。
そしてさっきから放出していた"王様オーラ"とでも言うべきプレッシャーが掻き消えていたのだ。
急に変化した金ぴかの様子にあたしは戸惑う。
だが、次の瞬間、
「ク……クククククククククククククク……
ハハハハハハハハハハハーッハッハッ!!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハーッ!!」
あたしの顔を見て、腹を抱えて爆笑しやがった。
『ああ、まったく……世界は我を飽きさせることはない』とか何とか、意味わかんない。
っていうかいきなり人の顔見て笑い出すとか何様のつもりだ。
そんなに笑える顔をした覚えはない。
ぶっちゃけると――すごいムカつく。
「ちょっと、あんたねぇ……!」
「これを読むがいい。奴らに聞こえるようにしっかりとな」
何かを言おうとしたあたしにさっきの紙切れを突きつける。
突き出された領収書の裏にはまったく同じ筆跡で別の文章が書いてあった。
思わず言われたとおりに読み上げてしまう。
「えーと……
『――続きまして予告状。
神様の怒りに触れて、バベルの塔が崩れる前に、
その中に眠るお宝をいただきます。
休日返上の王ドロボウ』
……って何これ。意味わかんない」
でもあたしが何気なく口にした言葉に十傑集の顔色が変わる。
そして金ぴかは目聡く、その変化を読み取った。
「ほう……貴様らは何か知っているようだな。話して貰おうか」
ガシャリ、という重い音と共に、一歩を踏み出した。
それだけで世界が変質するような錯覚を抱く。
「一度引くぞ! 樊瑞たちの判断を仰ぐ!」
「「……応!」」
躊躇は一瞬。
仮面男の判断に従い、3人の男は撤退。生き残った黒タイツたちもそれに続く。
そしてその場所には金ぴかとあたしだけが残された。
さて、出会ってから1時間もたたないうちに、金ぴかについてわかったことと言えば
とんでもない我侭野郎で、化け物みたいに強い。
そして容赦とか手加減とかそういうのとは程遠い――なんか台風みたいな奴だってこと。
笑い合いながら話した次の瞬間ブチ切れられる可能性だって十二分にある。
でもそう理解しているにも拘らず、
あたしは金ぴかに対してまったく恐怖と言う物を感じられなかったのだ。
706
:
それが我の名だ〜actress again
◆DzDv5OMx7c
:2009/03/07(土) 02:25:15 ID:5C.6M81M0
『追いかけないのですか、King?』
「何、方角さえ分かれば大体の予想はつく。
放っておけば王ドロボウの足止めぐらいは出来るかもしれん。
しかし、よりにもよって"バベルの塔"とはな……
主が席を離れた間に我が物顔で居座るとは……今度の王を名乗るモノは飛び切り度し難い阿呆のようだな……!」
男の顔に紛れも無い怒気が宿る。
「まぁよい――今は、こちらの方が気になるのでな」
が、それを一瞬で霧散させ、金ぴかはこっちに向き直る。
真っ赤な瞳が値踏みするようにあたしを見据えている。
まるで掘り出し物を見つけた好事家のように。
「……ふむ、よかろう」
そして何かに納得したかのように首を縦に振ると、
金ぴかは背中にしょったバッグをこっちに投げてよこしたのだ。
「随分みすぼらしいとはいえ今の我が財を入れる蔵だ。丁重に扱うがいい」
いきなりサイズの違う大砲やら何やらを取り出したバックだ。
明らかに普通じゃないし、ぶっちゃけキモい。
だけど金ぴかは気味悪がるあたしを無視して歩き出す。
「ちょ、ちょっと! 何なのよ!」
「察しが悪いな、付いてこいと言っておるのだ」
その言葉に驚きの声が足元から聞こえる。
『King、まさか彼女を連れて行くつもりですか!?』
「荷物を運ぶのは王の役目ではない。
蔵の財も二流品が多いとはいえそれなりに集まってきた。
そろそろ倉庫番を任さねばなるまいよ」
「ちょっと待て! あたしが着いて行くっていつ誰が決めた!」
「今我が決めた。それ以外に理由が要るというのか?」
まるで自分が言ったら世界がそうであると本気で信じているかのような声。
その態度にあたしは確信する。わかちゃいたけど、こいつ……無茶苦茶自分勝手だ。
小さいころはおもちゃ屋の前で何時間でも抵抗する子供だったに違いない。
……とはいえ結局のところ、こいつに付いて行く以外の選択肢が無い。
空のアタッシュケースを届けるわけにも行かないし、……っていうか今、空中だから他に行き様もないし。
まぁ、何かあいつらが慌てふためく様が見れそうだし。
だから"ちょっとの間だけ"なら、行動を共にすることに別に問題はない。
ただ、気になることが一つだけあった。
「……あんたさ、あたしがこの荷物持って逃げ出すとか考えなかったわけ?」
さっきからの言動を見てれば、こいつがお人よしな訳は無いことぐらい猿だってわかるだろう。
だのにあの時、一切の躊躇なく、黒いディパックをあたしに投げてよこしたのだ。
一応は筋道の立っているこの男の行動の中で、それだけが引っかかって思わず聞いてみた。
「貴様はせんよ――決して、な」
だが返ってきた答えは答えともいえないシロモノ。
金ぴかはあっさりと、理由らしい理由もなく。
太陽が東から昇るのと同じくらい当然のことのようにそう断言したのだった。
……そりゃ実際にやろうとは思わなかったけどさ。
なんか何もかも見透かされているようで悔しいから、隣に立とうとする。
でも、その行動は手で制された。
「まだだな。我の隣に立つにはまだ足りん。
恥じらいも、言葉遣いもまだまだ乳臭さが抜けん。
加えて礼節も気品も、女としての魅力が何もかも欠けている」
失礼なことを一気に告げる。
だが、次の一瞬、あたしは信じられない物を見た。
707
:
それが我の名だ〜actress again
◆DzDv5OMx7c
:2009/03/07(土) 02:25:37 ID:5C.6M81M0
「――が、それは今から身に着ければ良いことか。
我の臣下として……せめて奴ほどには育ってもらわねば、な」
目の前のこの男が、笑ったように見えたのだ。
柔らかく、傲慢なこの男が決してしないだろう表情で。
だがそれを確かめようとしたあたしの視線を避けるように金ぴかは青い絨毯の上を歩き出す。
「ああ……ったく、一体何なのよ……」
『この王と上手く付き合うコツは細かいことを気にしないことです。
気にしだしたら、例え身体が千個あっても足りません』
おいおい、靴にここまで言われるとかどんだけ我侭なんだ、コイツ。
「……あんたも大変ね」
『お気遣いありがとうございます、Lady』
あたしの口から漏れるのは二人分のため息。
靴と妙なところで同情しあいながら、仕方為しに歩き始めた……その時だった。
"……ま、何があっても退屈だけはしないと思うわよ。せいぜい頑張んなさい"
「――え?」
聞いたことがあるようなないような、不思議な女の声があたしの耳に届いた。
だけどその声はビル風の残りに吹き飛ばされ、あっという間に摩天楼の中へと消えていく。
『? どうかしましたか、Lady』
「……あー、なんでもない。たぶん空耳。
あと"レディ"ってのはやめてよね。あたし、そんなキャラじゃないし」
そこであたしは重要なことに気がついた。
「あ、そういえばあんたたちの名前まだ聞いてないんだけど。
……ま、あんたはどうせ呼びやしないだろうけど、一応教えとく。
あたしの名前は――」
「――であろう。知っておる」
言葉を失う。
風に攫われたその2文字は、確かにあたしの名前だったのだから。
振り返り、絶句するあたし向けて男は言う。
「二度は言わん。今度は多元世界すべての貴様に聞こえるよう、その根源に刻み付けておくがいい」
どこかの推理漫画の主人公が推理する時のポーズのように男は顎元に手を当てる。
そして自信満々に、威厳に満ちたその眼で、こちらの瞳を見つめながら言い放った。
「――ギルガメッシュ、それが我の名だ」
"A girl meets Unearthly Overload and extraordinary days……"
ギルガメッシュ エピローグ END
708
:
それが我の名だ〜actress again
◆DzDv5OMx7c
:2009/03/07(土) 02:25:58 ID:5C.6M81M0
だが、
物語は、続く!!
NEXT EPISODE……"バベルの篭城編"
709
:
◆EA1tgeYbP.
:2009/03/08(日) 18:17:38 ID:aYxLYbq20
えーと……試行錯誤した挙句アンスパ部分を抜いてヴィラルのみで再構成してみました。
没SSに送ろうか迷ったのですが一応こっちで仮投下してみます。
710
:
メビウスの輪から抜け出せなくて
◆EA1tgeYbP.
:2009/03/08(日) 18:18:35 ID:aYxLYbq20
――サイコロを振った時、出る目は常に一から六。
仮に何らかの偶然、イレギュラーで賽が斜めに止まろうと、賽の目を一つの面から読み取る以上、その原則は崩れない。
そう、例え何百、何千、何万どれほど賽を振ろうとも零や七の目が出ることなどはありえない。
だから――そう、彼はもっと『待つ』ということを知るべきだった。
――シモン。
――ニア。
――ヨーコ。
――カミナ。
――××××。
――そしてロージェノム。
いずれのピースが欠けようとも、多元宇宙において一度でも「アンチ=スパイラルが敗れた」ということは、ありとあらゆる多元宇宙においてもまた、螺旋の民が滅び去るまで同様の出来事、アンチ=スパイラルの敗北は起こりうるということ。
零や七の目が出ることはありえなくとも、六や一が延々と出続けるという奇跡はその可能性がどれほど少ない物であってもありえないものではないのだから。
だからそう、全てピースが欠けてしまったこの宇宙においてもまた、その奇跡が起きないという保証はどこにもない。
――ただ、その奇跡を見届けるのは、きっと一から賽を振るのを見届けた者達だけの特権だ。
故に今はただ、その奇跡を起こした者達ではなく、その奇跡から取り残された者達をこそ見守ろう。
711
:
メビウスの輪から抜け出せなくて
◆EA1tgeYbP.
:2009/03/08(日) 18:19:02 ID:aYxLYbq20
◇ ◇ ◇
……数日?
……数年?
……数世紀?
例えどれほどの月日が流れようとも、愛する妻や愛しい娘の姿が変わらぬように、二人が自分へと向けてくれる愛情も、逆に自分が二人へと向ける愛情も決して変わることはなく。
日々の中、毎日の暮らしに少しずつの変化はあっても、振り返ってみれば、それは平和な日々というとても平凡な、けれどかけがえのない大事な思い出の一部となっていく。
――そんなある日のことだった。
うううううぉぉぉぉおおおおおおぉぉおおおおお
遠く空の果てから響いてきた叫ぶようなうめくような声とも聞こえる謎の音。
怯える娘を抱きかかえ、不安がる妻の肩をそっと抱き寄せてヴィラルは遠い空の彼方をにらみつける。
例え何が襲ってこようとも妻と娘は守って見せる、そんな決意を胸に秘めて。
「――パパ、怖い」
そんな不安を漏らす娘に彼はそっと笑って見せる。
「大丈夫だ、パパがついているからな」
「そうよ、パパはとっても強いんだから」
自分も感じているであろう不安はそっと押し殺し、ヴィラルの傍らに立つシャマルもそう言って微笑み娘を勇気付ける。
「――大丈夫だよね!? どんなことがあってもパパが守ってくれるよね?」
「――ああ、パパはずっとお前やママを守ってやるからな」
不安がる娘の頭をなでてやりながらヴィラルはそう力強く断言した。
◇ ◇ ◇
712
:
メビウスの輪から抜け出せなくて
◆EA1tgeYbP.
:2009/03/08(日) 18:19:28 ID:aYxLYbq20
……超螺旋宇宙。
アンチ=スパイラルの母星があったその空間は、アンチ=スパイラルが生み出した空間であり、同時にアンチ=スパイラルそのものでもあった。
故にアンチ=スパイラルが螺旋族との闘争に敗れた結果、当然の帰結としてその空間それ自体がアンチスパイラルの後を追って消滅する――筈だった。
……いや、本来の超螺旋宇宙全体の大きさ、実際の宇宙にも等しいまさに無限の広大さから比べると「そこ」はあまりにも狭く、小さく、その意味で言えば超螺旋宇宙は消滅したといっても何ら差し支えないほどの極小な空域。その中をヴィラルは一人漂っていた。
そのあまりに特異な螺旋力のサンプルとして身の安全「だけ」は完全といってもいいレベルに保護された彼の肉体は、ただ一人きり宇宙を漂ってもその生態活動そのものには何ら危機さえ及ぼさず、あまりにも極小ゆえにもはや誰にも干渉することさえ不可能な一人きりの小宇宙の中、一人ヴィラルは夢を見る。
……最後までルルーシュやアンチ=スパイラルといった者達が気が付かなかったただ一つの事実。
――例え本調子ではなかったとしても、天上天下にただ一人きり人類最古の英雄王ギルガメッシュが魔鏡の力を使ってまで放った「天地乖離す開闢の星」の一撃でさえ砕くことができなかったほどに強固だったロージェノムの結界。
その庇護の元に誕生し、同時にただ、そこにいるというだけでその結界さえも揺るがした「天元突破覚醒者」はたしてこれは本当にアンチ=スパイラルにとっては危惧するにさえ値せぬ「ロージェノムの妄想」が生み出した産物であったのか。
『墓穴掘っても掘り抜いて、突き抜けたのなら俺の勝ち!』
かつて最初にアンチ=スパイラルが打倒された宇宙において天元突破覚醒者シモンが言ったこの台詞。
確かに螺旋王ロージェノムの願いは地に這いつくばり、自ら穴蔵に閉じ籠ろうとする、より高みへと昇ろうとする螺旋の基本、上昇の意思とは程遠い物だった。
だが、幸か不幸かその意思は真に「突き抜けた」ものでもあったのだ。
ロージェノムがもとめたのは「アンチ=スパイラルが干渉不可能な世界を創造可能な螺旋力」だった。確かにアンチ=スパイラルが言ったように、そしてルルーシュがそれを認めたようにそんな都合がいい代物など、多元宇宙をいくつ巡ろうとも見つけ出せるはずもない。
しかし、その意思の助けの元で天元突破を果たしたヴィラルが求めたものは、いったいどのような物であったのか。
あの時のヴィラルが求めたものはただ一つ、シャマルと共にあることただそれだけだ。
アンチ=スパイラルが干渉せずにシャマルと一緒に居続けることが可能な世界。
そんな都合のいい世界は――わざわざ創造するまでもなくヴィラルの目の前に用意されていた。
……そう、アンチ=スパイラルの術中に嵌り、彼らのサンプルとして生き続けるという最低最善の道が。
螺旋の力は命の力。ましてやいかに「突き抜けた」物とはいえ、本質的に停滞を望んだ意思の下での螺旋力には安易な平穏こそが最善の道。
戦士としてのヴィラル、シャマルの旦那としてのヴィラルであれば唾棄すべき最低最悪の道であっても一個の生命体のヴィラルにとっての最善であればそれは拒む理由にさえなりえず。
アンチ=スパイラルの力によって心を囚われ、アンチ=スパイラルの技術力と天元突破の螺旋力、二つの力で体を守り、永遠にも等しい時間を楽園という名の牢獄でヴィラルは一人夢を見る。
たった一人で幸せに。
愛しい妻と娘と一緒にあり続ける。
◇ ◇ ◇
713
:
メビウスの輪から抜け出せなくて
◆EA1tgeYbP.
:2009/03/08(日) 18:19:52 ID:aYxLYbq20
――不安な出来事も過ぎ去ってしまえば一つの思い出となる。
空の向こうからわけのわからぬ化け物が襲いかかって来る事もなく、平凡な日々はいつもと変わらず平凡に過ぎ去っていく。
きっと今日という日も後から振り返ってみれば、当たり前のようにすぎた一日として記憶されていくことだろう。
横になった娘は眠気を感じる様子もなく、興奮した口調でシャマルへと今日の出来事を話している。
「――でね、でね、私思ったの! やっぱりパパはかっこいいって!」
照れ隠しに笑ってから優しく娘の頭を撫でてやる。
「パパは、おまえ達を守るためならいくらでも強くなれるからな」
「ホント?」
「ああ、本当だ」
「約束してくれる?」
「ああ、約束だ。パパはずっとお前やママのそばでおまえ達を守りつづける」
「じゃあ、指きり」
ゆーびきーりげーんまん。ヴィラルは娘と約束した。
「……私とは約束してくれないんですか?」
からかうように微笑みかけるシャマルに対してヴィラルは笑って言う。
「もちろん、お前も守って見せるさ」
「じゃあ、ママとも指きりだね!」
……そんなふうにして今日という日は終わっていく。
きっと明日も終わってみれば平凡な一日となることだろう。
……だが、もしも。
そんな言い知れぬ不安が胸をよぎる。
「……どうしたんですか、ヴィラルさん」
そんな不安が顔に出たのか心配そうにシャマルが声をかけてくる。
いや、とヴィラルはかぶりを振った。
「いつまでもこんな日々が続けばいいなと思ってな」
そう言うと、シャマルは笑いヴィラルに向けて言う。
―――続きますよ、永遠に。
【アニメキャラ・バトルロワイアル2nd ヴィラル――――FOREVER WITH……】
714
:
◆EA1tgeYbP.
:2009/03/08(日) 18:21:05 ID:aYxLYbq20
以上です、いや色々と削っただけあって短い短いw
715
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:29:54 ID:SZ0R7Yu.0
また会ったな。
それとも、お前とは初めましてだったか?
まあいい。
なに? またお前かだと?
その中には俺であって俺でないのも含まれているんだがな。まあいい。
今回俺がお前らに話しかけた理由は、ちょっとした後始末のためだ。
語られることのなかった世界の顛末が気になるのだろう?
それを一部だけだが見せてやる。
………もっとも、同じ世界のやつらでも別の多次元宇宙より連れてこられたやつもいて、その辺は少々複雑なのだがな、まあいい。
なに? 少し便利に使われ過ぎだと?
放っておけ。
だが最初に言っておくが、あくまで覗き見るだけだ。
干渉しに行くわけでも救いに行くわけでもないということを肝に銘じておけ。
はっきりいって干渉することは容易いが、俺はなるべく物語には関わらないことにしているんだ。
俺は力を使うことに特に制約があるわけでもないし自分で力を制限をしているわけでもない。
だが、驕るつもりではないが、俺はある程度のことができる力がある。
そんな存在が勝負を決めてしまっては、物語がつまらんだろう?
まあ、成り行き上で世界の一つや二つ救ってしまうこともあるかもしれんが、それくらいは仕方ない。
とにかく俺はファミリー以外のために力を奮うつもりはない、今のところはな。
さて、まずはどの世界について知りたい?
そうだな……まずヴァッシュ・ザ・スタンピード。彼のいた世界について覗いてみることにしよう。
ニコラス・D・ウルフウッドは今回の件にかかわらず死亡しているので彼の死に対する影響は存在しないな。
ミリオンズ・ナイヴズとレガート・ブルーサマーズ、そして殺人集団GUNG-HO-GUNSの脅威は消え去っているようだ。
こいつらがどこで何をしていたかなど、この俺は知らないがな。
716
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:30:41 ID:SZ0R7Yu.0
【Epilogue:TRIGUN】
あの人がすべてに決着をつけに行ってはや三ヶ月。
未だあの人は戻ってこない。
不思議と敗れたのだとは思わなかった。
ただ、いつまでたっても戻ってこない。
どこでなにをしているのか。
どこかふと立ち寄った場所でまたイザコザに巻き込まれているのだろうか。
どこかまた遠い場所で高らかに『地には平和をそして愛しみを(ラブアンドピース)』を謡っているのだろうか。
どっちも簡単に想像がつくし、おそらくはそうなんだろう。
そんな人だから。
「こっちから探しだすしかありませんわよね!
それに、よくよく考えたら、待ってるだけなんて私の性に合いませんわ!」
「吹っ切れましたね先輩!」
笑いながらサイドカー付きバイクに乗ったメリル・ストライフとミリィ・トンプソンは砂埃を上げながら砂漠の中心を切り裂くようにひた走る。
砂だらけの荒涼たる大地が広がる砂漠の惑星ノーマンズランド。
この星の人間はいつまでも折れてるほどヤワじゃない。
717
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:31:08 ID:SZ0R7Yu.0
■
「バナナサンデー」
「ガトーミルフィーユとセイロンティをセットで」
何はともあれ情報収集の基本が酒場にあることは古今東西の常識である。
砂漠の一角にある小さな町にたどり着いた保険屋コンビは、開口一番酒場のマスターに向けてそう告げた。
荒くれ者の集まる酒場であまりに似つかわしくない注文にマスターは一瞬であきれたような表情をしたものの、すぐさま平常心を取り戻し黙々と注文を受け付けた。プロである。
「で、あんたら見ない顔だが、この辺のもんじゃないな」
数分後。領収書と共に注文したバナナサンデーとガトーミルフィーユとセイロンティのセットをメリルたちのテーブルに置きながら、酒場のマスターがそう問いかけてきた。
「ええ、実は私たち人を探していますの」
「人探しねぇ。ま。ここは小さい町だからあんたらみたいによそ者が来ればだいたい耳に入ってくるが。
それで、あんたらの探し人ってのはどんな奴だい?」
「えっとですね、」
探し人の特徴をメリルが告げようとしたその瞬間。
突然にボカーンという爆発音が鳴り響いた。
何事かと酒場にいた全員が音源の方に視線を向けると、バキバキと酒場の壁を突き破って冗談みたいな大男が現れた。
「ゔあ゙ああ゙ぁ゙あ゙、オデはもうおじめいだぁああ!!!」
そして、わけのわからない奇声あげてマシンガンを乱射する大男。
安っぽい末場の酒場はあっという間にこじゃれたオープンカフェに変化した。
逃げ惑う酒場の客。
大男を取り囲むように現れる憲兵。
大男の手にしたバズーカーからチュドーンと発射されるミサイル。
ぶっ飛ばされる憲兵たち。
「…………ははっ」
そんな光景を見て、不謹慎ながら笑いが漏れた。
ドタバタでゴチャゴチャでイザコザ。
あぁ、なんて懐かしい、いつも通りのメチャクチャな日々。
砂だらけの惑星ノーマンズランド。
この惑星では何でも起きる。
いちいち折れてたら、この星では生きてなんていけないのだ。
718
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:31:32 ID:SZ0R7Yu.0
――――はるか遠く――――
「行きますわよ。ミリィ」
「はい、先輩!」
メリルは懐から取り出したデリンジャーを構えると、盾代わりにしていたテーブルの蔭から飛び出し大男に向かって駆けだした。
ミリィも袖口から大口径のスタンガンを取り出しそれに続いた。
――――はるか時の彼方――――
「ねえ先輩」
後方から聞こえる後輩の声にメリルは足を止めず振り返る。
――――まだ見ぬ 遠き場所で――――
「なんですのミリィ?」
「なんだかこうしてると私たち、あの人みたいじゃありませんか?」
ニコニコ顔で告げられた言葉にメリルはふと考える。
なんの利益もないのに、自ら進んで争いの渦中に飛び込んでいく。
ああ、たしかに言われてみればその通りだ。
――――唄い続けられる――――
「バカな事を言ってないでさっさとあの大男を黙らせますわよ」
「はい!」
崩れた天井から照りつける太陽。
どこまでも広がる青空の下、砂と瓦礫だらけの大地の上を走る。
――――同じ人類の歌――――
彼らが愛したタフで優しい日々は、終わらない。
719
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:32:31 ID:SZ0R7Yu.0
■
ねぇ、ヴァッシュさん。
私、あなたにお伝えしたいことが沢山ありますの。
お話したいことが沢山。沢山。
だからきっと。
また、いつか――――。
【Epilogue:TRIGUN 完】
720
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:34:17 ID:SZ0R7Yu.0
■
まったく、たくましいことだな。
とはいえ、ヴァッシュ・ザ・スタンピードが消えた影響は大きいようだ。
なに? 平和になったんだからいいんじゃないか、だと?
……何気にひどいやつだなお前。
まあいい。一時的な脅威が消え去っただけで争いがなくなった訳じゃないんだがな、まあそれもいいだろう。
それに、その平和はあくまで人間目線の話だろ?
この星に生きるのは人間だけじゃない。
そう、この星のエネルギー源たるプラントだ。
その架け橋たるヴァッシュ・ザ・スタンピードが消えてしまった以上、このままではプラントたちは食い潰される運命だろうな。
今後この星がどうなるのかだと?
知るか。そんな事は自分で考えろ。
不親切だと。甘えるな。
言っただろ。これは宴の始末だと。
俺が見せるのは今回の宴が影響した世界だけだ。
新たな資源を見つけたところで、それで発展を遂げるのか、奪い合い争うのかはあの星に生きる者たち次第だろう。
その辺はまた別の物語だ。
721
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:34:47 ID:SZ0R7Yu.0
さて次は何処にするか。
そうだな、衛宮士郎あたりのいた世界にしてみるか。
彼らはバラバラの平行世界からつれてこられているようだな。
さて、それでは誰のいた世界にするか。
言峰綺礼は元からどの平行世界を探そうとも第五次聖杯戦争を生き残る可能性が皆無だった人間だ、彼の死に対する影響は微細だろう。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと間桐慎二も生存率は全体を通しても1/3といったところか。
ランサーやギルガメッシュなどのサーヴァントたちも、聖杯戦争の特性上生存率は低い。
衛宮士郎に至っては生き残るほうが稀有だ。
……となると何処を見てもあまり変わらんな。
まあいい。
次だ。
722
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:35:28 ID:SZ0R7Yu.0
そうだな、それじゃあ相羽兄弟がいた世界なんてのはどうだ?
たしかにラダム側も尖兵たるテッカマンエビル――あぁテッカマンランスもいたか――を失ったが所詮は一兵にすぎん。
それに対して人類側は侵略者ラダムに対抗できる唯一の存在テッカマンブレードが失われた。
この差は致命的なまでに大きいだろう。
都合のいい救世主など現れるはずもない。
ある意味、今回の件で一番危機的状況にさらされた世界なのかも知れんな。
どうなったのか、気になるか?
まあいい。見ればわかる。
723
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:36:06 ID:SZ0R7Yu.0
【Epilogue:TekkaManBraid】
宙をかける二体の機人。
ラダム獣出現の報告を受け、その殲滅のため現場へと出撃しているそれは、テッカマンブレードのデータをもとに連合地球軍が完成させた対ラダム用強化宇宙服。
科学で造られた鋼鉄のテッカマン、ソルテッカマンである。
「しかし、Dボゥイのやつはどこに行ったのかねぇ。
まさか逃げちまったってことはねぇだろうな?」
緑を基調とした鋼鉄の機人、ソルテッカマン1号を操るバルザック・アシモフが愚痴ように隣を並走する青い機人に軽口を叩いた。
「んなわけねぇだろ。あいつが逃げ出すなんてアキがテッカマンになるよりあり得ねえよ」
青を基調とした鋼鉄の機人、ソルテッカマン2号のパイロットであるノアル・ベルースは面倒そうにそう返した。
その言葉にバルザックは、違いない、とにべもなく頷いた。
「………それにな、正直なところ、俺はあいつが消えて少しだけ安心してるんだ」
「安心?」
ノアルから告げられた予想外な言葉に、バルザックが眉をひそめる。
「ああ、自分の肉体が崩壊するまで、肉親たちと戦い続けるなんて。
そんな残酷な運命の環からあいつが抜け出せたんなら、それもいいんじゃないかってな」
どこか寂しげにノアルは呟き、最後にまあアキには悪いがな、と申し訳なさ気に付け加えた。
その言葉を受けたバルザックも思うところがないわけではないのか、少しだけ気まずそうに、うーんと唸りをあげた。
「…………ま。気持はわからんでもないがね。
しかしそうも言ってられんだろ。ラダム獣だけならともかくよ、敵のテッカマンが襲ってきたら俺たちだけじゃひとたまりもないぜ」
現実としてそれは確かなことである。
相手がラダム獣であればこのソルテッカマンでも十分に対抗できるが。
侵略の尖兵たるテッカマンが相手となればそうはいかない。
テッカマンに対抗できるのはテッカマン以外に存在しない。
故にテッカマンブレードであるDボゥイは人類勝利のためには必要不可欠な人間だったのだ。
それが失われた人類の未来は暗い。
「おっと、そろそろ目標ポイントのようだぜ」
ソルテッカマンに備え付けられたレーダーが目標ポイントが近づいてきたことを告げていた。
ノアルとバルザックの二人は無駄な思考を打ち切り思考を切り替え、飛行速度を落とし目標ポイントへと降下を始めた。
724
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:37:27 ID:SZ0R7Yu.0
■
「なん……」
「、だと?」
目標ポイントに到着した二体は目の前の光景に思わず驚愕の声を洩らした。
そこで行われていたのは、余りにも一方的な破壊と蹂躙。
だが、言い方は悪いが、その程度のことであれば、この星ではもう珍しいことでもない。
ラダム獣に殺される人間など、五万と見てきた。
その程度のことでは激昂はすれど、戦慣れしたこの二人の思考が停止することはなかっただろう。
二人が絶句した原因はそこではない。
問題は、蹂躙されているのが人間ではなくラダム獣のほうであるということだ。
あまりにも常識外れな光景。
それはテッカマンやましてやソルテッカマンによるものではない。
何物でもない生身の人間によって、宇宙からの侵略者は一匹残らず駆逐されていたのだ。
「ちっ。当てが外れたか。どうやらこの世界にはいないようだな」
圧倒的な力でラダム獣を蹴散らした黄金の騎士は忌ま忌ましげにそう吐き捨てた。
「だったらとっとと次に行ったらいいんじゃない?
なんかこの世界ボロボロだし。面倒事も多そうだしさ」
その傍らにいた10代後半程度の赤髪の少女がその呟きにこたえる。
だが、黄金の騎士はその言葉を聞いているのかいないのかわからないような態度で、荒廃したこの世界を真紅の瞳で見据えながらつまらなさそうに口を開いた。
「たしかに、この世界は少し汚れすぎだな。
気に食わんな…………これではいささか景観に欠ける」
「…………聞きたくないけど、一応聞いとく。それはつまりはどういう事よ?」
「どのような世界であれ、それは全て余すことなく我の庭だ。
は。そこに巣食う寄生虫など、そんなものをこの我が許すと思うか?」
「だぁー! 予想していた通りの言葉をありがとう!
十傑集だのラピュタ探索部隊だの人造人間だの、行く先々であんたケンカ売りすぎだっつーの!」
少しは付き合う方の身にもなれ、と憤慨する少女。
もう諦めましょう、と何処からともなくくたびれたような電子音が聞こえたが気のせいだろうか?
「たわけ。品のない叫びを上げるな。
ひとまずそこにいる雑種どもからこの畜生どもの詳細を聞いて来い」
ノアルたちの存在なぞ、とうの昔に気づいていたのか。
憤慨する赤髪の少女を軽くいなした黄金の騎士はノアルたちに視線を向ける。
黄金の騎士に促された赤髪の少女が、しぶしぶながらもノアルたちに向かって歩き始めた。
725
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:37:57 ID:SZ0R7Yu.0
「おい、こっちにくるみたいだぞ。どうするんだ、ノアルさんよ?」
「ま。話くらいは聞いてみるさ。
ラダム獣と戦ってたってことは敵ってわけじゃないだろ」
「……敵の敵は味方ってか? だといいがな」
訝しむバルザックの反応は当然だろう。
突然あんな訳のわからない存在を目の前にして警戒しない方がどうかしている。
「それに、知っている気がするんだ」
「知ってるって、何をだ?」
「消えちまたあのバカのことさ。
あいつが一体どこに行っちまったのか。どうなっちまったのか、あいつらは知ってるんじゃないかってな。
ま。なんの根拠はねぇ、ただの勘なんだけどな」
そう言って、向かってくる少女を出迎えるためノアルはソルテッカマンから降り大地に立った。
それを見たバルザックはため息をつきながらも、それに倣いソルテッカマンから降り立った。
「ねぇ、ちょっとあんた達――――」
赤髪の少女がこちらに語りかける。
荒廃した世界。
唯一の希望は行方知れず。
侵略者の脅威に晒された世界の明日は暗い。
そんな絶望ばかりの世界の中で、誰にでもなくノアルは祈る。
願わくば、この少女が幸運の女神であらんことを。
【Epilogue:TekkaManBraid 完】
726
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:38:10 ID:SZ0R7Yu.0
■
………………………………。
…………まあいい。そういうこともあるだろう。
まったく、気まぐれにほかの世界に干渉するなどハタ迷惑な奴らだ。
なに、お前が言うな?
何のことだ?
まあいい。
さて、そろそろ頃合いか。
俺も戻らなければならん。
まだ覗いていない世界もあるが、それはまた別の機会に語られることもあるかもしれん。
俺もあまりファミリーを留守にする訳にもいかんしな。
宴の始末も終わりにしよう。
なんだ、まだ何かあるのか?
俺の世界がどうなっているのかだと?
そうだな。
じゃあ最後に俺の世界を覗いてから御開きにしよう。
といっても俺は戻るだけだから、覗きたければそちらで勝手に覗くといい。
ではな。
727
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:39:03 ID:SZ0R7Yu.0
【Epilogue:BACCANO!】
ぱちぱちと一人手をたたく男がいた。
楽しそうに。
楽しそうに。
ぱちぱちと手をたたく。
自分のために。
自分のために。
誰のためでもなく、自分のために。
たくさん死んだ。
たくさん死んだ。
踊ってしまうほど愉快だった。
歌ってしまうほど楽しかった。
楽しかった。
楽しかった。
楽しかったんだが、楽しみがなくなってしまったのは問題だ。
別の楽しみを見つけなければ。
別の楽しみを作らなければ。
楽しい楽しい舞台だった。
あの舞台を再現しよう。
あの偶然を再現しよう。
あの悪意を再現しよう。
私の名前はコピーキャット。
私はしがない犯罪者。
私は単なる模倣犯。
一つの世界を再現しましょう。
閉じられた世界を再現しましょう。
うまくいったら手をたたこう。
自分のために。
自分のために。
誰のためでもなく、ただひたすらに自分のために。
その前に、邪魔なものは排除しておこう。
728
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:39:45 ID:SZ0R7Yu.0
■
闇酒場『蜂の巣』に現れたのは特徴のない男だった。
認識できないわけではないのに、食事中の客たちは誰も男に注意を向けない。
当たり前のようにそこにいて、誰もが彼を風景の一部としかとらえられず、だれの記憶にも残らない。
そんな男だった。
駆け付けたウェイトレスの案内を丁寧に断った特徴のない男は、店内に入ると誰かを探す様に周囲を見渡した。
そして、カウンターでひとりグラスを傾ける眼鏡の男を見つけると、そこに向かってゆっくりと歩き始めた。
「やあ、久し振りだな、マイザー」
「! フェルメート。なぜ貴方がここに!?」
声をかけられた男、マルティージョ・ファミリーの出納係(コンタユオーロ)マイザー・アヴァーロは突然の来訪者に驚きの声を上げた。
そこに居たのはマイザーと同じく、アドウェナ・アウィス号で不死を得た錬金術師の一人。ラブロ・フェルメート・ヴィラレスクだった。
あの船で別れて以来の約200年ぶりの再会である、驚かない方がどうかしている。
「チェスがいなくなってしまったんだ」
驚くマイザーとは対照的にフェルメートは明後日の方向を見つめながら、独り言のようにそう呟いた。
「チェス、ですか?」
確かにマイザーはチェスとこのニューヨークで落ち合う約束をしていた。
だが、どういうわけかチェスが乗っているのずの大陸横断鉄道フライングプッシーフット号に彼の姿はなく、いなくなってしまったといえばその通りなのだが。
「残念ながら私も彼が今どうしているかは、」
「いや、チェスがどこに行ったのかはわかっているんだ」
「はぁ……?」
要点を得ないフェルメートの言葉に疑問符を浮かべるマイザー。
「私が用があるのはお前さ、マイザー」
「私に、ですか?」
「ああ」
フェルメートがカウンターに座るマイザーにゆっくりと歩を進める。
殺意も敵意も感じさせない、なんでもない歩み。
だが、マイザーは無意識のうちに腰を上げ、距離を取るように後ずさっていた。
729
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:40:20 ID:SZ0R7Yu.0
「チェスがいなくなって私の楽しみが減ってしまった。
だから、新しい楽しみを作らなければならないんだが、それを邪魔をされては困るだろ?」
「フェルメート、貴方は…………!?」
「あの悪魔がいなくなった以上、ヒューイを除けば警戒すべきはお前と田九郎くらいのものだからなぁ。
ヒューイは邪魔をしないだろうが、邪魔をしそうなお前は先に排除しておくことにするよ」
ここで確実にマイザーを片づける腹積もりなのか、もはや悪意を隠そうともしていないフェルメートの言葉にマイザーも覚悟を決める。
見た目温厚そうにマイザーであるが、これでもナイフ使いとしては右に出る者のいないほどの腕前を持ったカモッラの幹部である。
素直に喰われてやる道理もない。
客と店員を巻き込まないよう、どう場所を移すかと考えながら、マイザーが懐のナイフに手をかけようとした、その瞬間。
「――――誰がいなくなったと言うんだ?」
誰もいないはずのカウンターの一席に、あたかも始めからそこに座っていた自然さでグラスを傾ける男が一人。
その男の顔を見たマイザーが声を上げる。
「ロニー!? あなた今までどこに、」
「………………」
マイザーが言葉を言い終える前に、現れた男、ロニー・スキアートはつまらなそうに息を吐いた。
「ふん。消えたか、まぁいい」
言われてマイザーがロニーに向けた視線を戻してみるが、そこには誰もかった。
一瞬だけ目を向けた瞬間に、まるでフェルメートなどという男ははじめからここにいなかったかのように、何の痕跡もなく消え去っていた。
730
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:40:39 ID:SZ0R7Yu.0
「……それで、三日もファミリーを離れて、いったい何処に行っていたんですか?」
「未来の客人を迎えにな。無断でマルティージョを留守にしたことは悪かったと思っているさ。思いのほか時間がかかってしまった」
この男が謝ること自体珍しいが、それ以上にこの男が手こずるような事態があり得ることの方がマイザーにとっては驚きだった。
「……客人? では、あのフライング・プッシーフットに?」
マルティージョの客人としてアイザック・ディアンとミリア・ハーヴェント、そして先も少しふれたチェスワフ・メイエル。
この三人が乗っている予定だったが、誰一人として登場していなかったという、曰くつきの豪華鉄道フライングプッシーフット号。
走行中の大陸横断鉄道に乗り込むなど不可能な話だが、この男ならばありえない話ではない。
「いや、そちらではない。まぁ強ち無関係というわけでもないんだが。まぁいい。
残念ながらそちらは駄目だったのだが、その後始末に時間がかかってしまった」
「はあ…………?」
ロニーの言葉の真意はつかめなかったが、この男に限ってそれは珍しいことでもないのでマイザーはあえて深くは追求しない。
「それよりも、ラブロの奴がなにか企んでいたようだが。
わかってるな。それに関して俺はファミリーに被害がない限りは手を出すつもりはないぞ?」
「ええ、言われなくともわかっていますよ。
もともとフィーロやファミリーの皆を巻き込むつもりはありません。
これはあくまで、あの船に乗っていた彼の同志である私の役割でしょう」
強い決意を持って告げるマイザーの言葉を聞きながら。
すべてを知る悪魔、ロニー・スキアートは未来を一人想う。
欠けてしまったのは人類最強、殺人狂、泣き虫の不良、不死の少年、狂言回し。
始まった悪意はどう影響を及ぼすのか。
狂言回しを欠いた物語がどう回るか。
悪魔にもその結末はわからない。
物語は未知だ。
可能性は無限に広がっている。
天に広がる星のように、可能性の数だけ物語はあり、物語の数だけ可能性がある。
はたして、この未来はどの結末にたどり着くのか。
未来を知らないことにしている悪魔は期待を込めながらひとり呟く。
「まあいい」
【Epilogue:BACCANO! 完】
731
:
宴の始末
◆Wf0eUCE.vg
:2009/03/10(火) 23:41:23 ID:SZ0R7Yu.0
■
なんだ、結局最後まで覗いていたのか?
どいつもこいつもヒマなんだな。
まあいい。
まあ少しばかり面倒なことになってしまったようだが、こちらの問題だ、気にするな。
なに? こんなことをした理由だと?
ただの宴の始末だ。
深い理由はない。
……なに、ひょっとしてお前もヒマなのかだと?
皮肉のつもりか?
まあいい。
なんにせよお前とは、ここでお別れだ。
最後に一つ覚えておけ、物語に終わりなどない。
お前が続くと思えばその物語は永遠に続く。
逆に、お前が終わりだと思えばその物語はお終いだ。
物語とはそういうものだ。
どうせなら続くことを願っておけ。その方が楽しいだろう?
まあいい。今度こそ本当にお別れだ。
もう会うこともないだろうが、もしまたなにか俺に用があるのならば呼べばいい。
気が向いたなら応えてやるさ。
では、またな。
【宴の始末 了】
732
:
異世界からの挑戦状
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/15(日) 12:01:12 ID:Dica/XY20
『神出鬼没の怪盗紳士、今度は警察署から!?』
新聞の一面に踊った一文を読みながら、少女は一人深い溜息を漏らす。
瞼を落とし、瞳を硬く閉じ、放たれた少女の息は、重く、周囲の空気が一気に澱む様な気配さえある。
少女は落ち込んでいた。それはもう、最高にダウナーな気分だった。
「勘弁してよ……もう……」
少女は顔を上げ、今一度新聞へと目を向ける。
勿論、そこに書かれている内容に変化は無い。
似ても似つかない、と言うより性別すら違う想像図が少女をあざ笑うだけだった……。
さて、ではそろそろ少女が肩を落としてこの上なく落ち込んでいる理由を語ろう。
それは、その新聞に載った記事の内容に少女が深く関わっているからに他ならない。
では、どう深く関わっているというのだろう。
まずはそこからこの物語を始めるとしよう。
新聞に書かれている『怪盗紳士』、それは、世界にその名を轟かせる美術品専門の泥棒の名であり、犯行前に予告状を出すという少々古臭い思考を有する者だった。
犯行を予告するカードを美術品の所有者へ送りつけ、わざと警察などを呼び、大胆な犯行に及ぶ。
それは絶対的な自信の表れ。
警察を手玉に取り、いつの間にか目的の品と、そして、絵のモチーフになったものを怪盗紳士が犯行を行った証拠として華麗に盗み出す。それが何時もの怪盗紳士の手口だった。
だが、それがどういうわけか、今回は違った。
目的のものは盗めず、変装は暴かれ、一人の少女に追い詰められる怪盗紳士がそこに居たのだ。
「観念しなさい!怪盗紳士!
アンタの仮面は剥がされたんだ!!」
天性の観察眼と地道な努力で積み重ねた知識を推理力に変え、長年追いかけていた大怪盗棒の正体を見事に暴き、
逃げ道を封じて追い詰めつつ、最後の止めとばかりに重要な証拠をつきつける。
まさに華麗にして鮮やか。
少女の推理は一部の隙も無い完璧なものだった。
怪盗紳士の顔色にも動揺が浮かぶ。
目の前には一人のよく見知った少女探偵。回りを囲む大勢の警察。
流石の神出鬼没の大怪盗である怪盗紳士も、僅かばかりに掴まる覚悟というものを心の奥底に抱いてしまう。
……だが所詮、それは僅かばかりと言っていい程の覚悟である。
怪盗紳士の余裕の笑みは崩れないし、怯まない、躊躇わない。
たとえ全ての策が探偵の推理よって白日の下に晒されようと、怪盗は探偵に白旗を上げる事などしないのだ。
「まだ甘いわよ、フミちゃん。
この程度で怪盗紳士が降参すると思う?」
だが、少女も怪盗紳士に負けず心の強い人間。そんな怪盗紳士の挑発にも同じように動じない。
少女はその類まれなる観察眼で怪盗紳士から決して眼を離そうとはしない。
この何をしてくるかわからない相手に対して用心しすぎると言う言葉は存在しないからだ。
ゆえに微妙な体の動きや、瞳、口、指先まで少女はありとあらゆる可能性を考えて見つめ続ける。
まさか、この状況で逃げられるわけが――、と誰もが思う瞬間に何かが起ころうと、少女は必ず対処できると信じた疑わない。
それが少女に出来る最善手と信じているからだ。
733
:
異世界からの挑戦状
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/15(日) 12:02:15 ID:Dica/XY20
……だが、残念ながら、今回ばかりは少女の想定した事態に収まらなかった、その一言に尽きるだろう。
強烈な破裂音が響いた。
そして、響き渡った耳を貫くような轟音と共に始まった建物全体を揺らす強烈な揺れ。
少女の頭に過ぎったのは『地震』と言う二文字。
それに少女は足元を救われ、気が付けば思わず膝を付いてしまっていた。
「きゃぁっ!」
少女らしい年相応な悲鳴が上がる。
突然の音と揺れに恐怖し、少女は瞳を閉じる。
当然、それを見逃す怪盗紳士ではない。
「フフッ、やっぱりフミちゃんは可愛いわね」
その声と共に怪盗紳士の姿が消えた。
少女は瞼を閉じてしまった為、消えた瞬間を見逃してしまう。
だが、直ぐに恐怖を押し込め瞼をこじ開ける事で、怪盗紳士がどうやって消えたかを理解する。
怪盗紳士は消えたわけじゃない。
ただ普通に逃げただけだ。
建物の壁を外から仲間に破壊させる事で、その穴から……。
少女は落胆した。
だが、少女の冷静な思考はこのまま落ち込んでいる場合ではないと言う警告も同時に発する。
「……ま、待てっ!」
一拍遅れてそう声に出したが、時既に遅く、怪盗紳士は仲間の操縦する輸送機から垂れ下がった縄梯子に掴まり、悠々と空中散歩と洒落込み闇の中へと消えていく。
こうして、少女は追い詰めた獲物を取り逃がしたのである。
◆ ◆ ◆
734
:
異世界からの挑戦状
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/15(日) 12:04:06 ID:Dica/XY20
って、これじゃ、怪盗紳士は逃げた事になってるって?
いやいや、語るべき物語はこれで終わりなわけないじゃないですか。
この後に続くお話もちゃんと用意してますよ。
ここまでは、あくまで怪盗紳士と少女探偵の戦い。
これから先は……、まぁ、読者の皆様の眼でご確認ください……。
◆ ◆ ◆
怪盗はまんまと警察と探偵の前から姿を消した。
それこそ、見事と言わんばかりの手口で……。
だが、現実は探偵にも、その逃げおおせたはずの泥棒でさえもあざ笑う。
「な、なに……あの光は……」
少女の呟きが、目の前の現実を物語っていた。
少女の見た光景は未だ解決の糸口さえ掴めない不可思議な現象。
いや、不可思議な現象と言ってしまっては元も子もないだろう。
あれは、あの出来事は、不可思議などという単純な言葉で纏められるほど優しいものではないのだ。
なぜなら、少女の目に映っているのは、明らかにこの世の常識では決して解き明かせない現象であり、
トリックどころか、推理の取っ掛りを考える余地さえ無い光景。
今現存するあらゆる技術の可能性を考えても起こしえないと断言できる異常な光景だ。
少女が見たもの、それは、闇夜の中、突如現れた金色の太陽が光を伸ばし、怪盗紳士を助けに来た輸送機を文字通り貫くという目を疑う光景だったからだ。
闇夜に紛れるように消えようとしてた巨大な航空機が赤黒い炎を上げてゆっくりと重力に惹かれる様に下へ下へと向かっていく。
その姿は、さながら戦争映画のワンシーンのように、全ての人間に絶望的な圧力を齎した。
『神の裁き』
あの光景をたとえるとして、それが最も適した表現だろう。
怪盗紳士を助けた輸送機から薄っすらと光が伸びたと思ったら、その光は極光となり、輸送機を焼き払う。
それこそ神々の怒りに触れた人間が大地ごとなぎ払われるかの如く圧倒的な圧力を持って。
当然の如く辺りは混乱。
周囲にいた警察官や、自分の事を信頼している刑事、または、事件関係者達がそれぞれ思い思いの言葉を発し、一時は騒然、収拾が付かない状況になった。
当然少女も完全に思考が停止し、その場に固まったまま動けなくなる。
状況を理解しようと視界を広げる事が出来たのは、輸送機が辛うじて海へと着水し、金色の太陽が消えてしばらく経ってからだったのは言うまでも無い……。
そして、物語は再び新聞を前にして落胆している少女の元へ戻る。
735
:
異世界からの挑戦状
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/15(日) 12:05:17 ID:Dica/XY20
幸い、輸送機は人のいない海上に墜落した。
その為、直ぐに海保の巡視船が漂流中の怪盗紳士を捕縛したと言う報告を受ける事はできたが、それ以外の情報は一切無い。
破砕された輸送機の破片からも大した情報は得られず、またその後、あの太陽のような光の目撃情報も皆無。
残された唯一の手がかりは、奇跡的に無傷で生き残った怪盗紳士ただ一人だけなのだが……、少女は既に諦めていた。
なぜなら、あんな出来事、たとえ怪盗紳士がどんなに不可思議な現象を用意しようと再現不可能だと確信しているからだ。
おそらく彼女の話は何の推理の足しにもなら無いだろう。
あれは夢。そうであってほしい。
全てをこの世界の理に則って、様々な不可思議な現象もトリックで説明できると信じている少女だったが、
流石に今回ばかりは、自身の見たあの光景を否定する術を持たず、ただただ思考の渦に埋没するばかり……。
つまりは、これが少女の落胆している理由であり、深い溜息の理由だったのである。
怪盗紳士を実力で追い詰めながら、逮捕は不可思議な現象による奇跡の産物という、なんとも釈然としない結果となり、
加えて、この新聞が伝えているのが事実なら、怪盗紳士も既に警察から逃げ出したらしい。
そして、トリックなどでは証明不可能な異常な光景を目の当たりにしてしまった事実。
その三つが、少女をこんなにも疲弊させ、落ち込ませているのである。
736
:
異世界からの挑戦状
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/15(日) 12:06:02 ID:Dica/XY20
少女は一人、溜息とともに言葉を漏らす。
「……たく、お前が消えてから、なんだか世界がおかしな方向に向かってる気がするよ……」
それは、数年前に行方不明になったある少年へと向けられた言葉だった。
突然消えた居候先の少年。
いずれ帰るだろうと大して心配してなかったのに、二日経ち、三日四日、一週間……。
楽観視できる日数をゆうに超えても帰ってこない。
気付けば、何の音沙汰もなく、一年という歳月が流れてしまった。
当然警察の捜査も行われた。
だが、警察は見事に空振りばかり。
少年と親しくしていた刑事二人も同時期に行方不明になっている為、ただの高校生失踪事件などで収まるはずもなく、
捜査範囲は大規模になる一方だと言うのに、僅かな手がかりさえつかめず、何の進展も得られない状態が続くだけ。
そんな無為な時間が繰り返され、気が付けば三年以上の年月が流れてしまっていた……。
「どういうわけか、お前の代わりにと言わんばかりに私はおかしな事に巻き込まれる回数が多くなってる気がするし……、
気付けば、お前がしたみたいにお爺様のように探偵の真似事をするようになっちゃった……」
少年は帰らない。
いつまで待っても帰らない。
信じて待ち続けている少女を裏切って、少年はいまだ帰らない……。
「わかってんのか?私はまだ中学生だぞ、そんないたいけな女の子に何させてんだよ……、ちょっとは考えろよ……」
少女の声はだんだんと悲しみを含ませ、ついには涙をはらむ。
少女の心は折れる寸前だった。
最初は何かの事件に巻き込まれるたびに、警察の役に立てればという軽い気持ちだったはずなのに、
気が付けば、少女は幾多の事件を解決する立派な探偵の仲間入りをしてしまっていた。
祖父の真似事、居なくなった少年の真似事……。
その程度の事だったはずなのに、今では一部の刑事から多大な信頼を寄せられ、それこそあの少年のように多くの事件に関わるようになっている。
たった一人で……。
「お前がやらなきゃいけない事を、人に押し付けんなよ……」
少女の抱えたものは圧倒的な寂しさと切なさ。
少年の真似事を続ければ続けるほど、自分はいつまでたっても少年の背中を見ているだけだと気付かされる。
そして、気が付けば、一人で犯罪者に立ち向かう自分の姿が滑稽に映り、自分の存在に疑問を浮かべるのだ。
このポジションは私の役割じゃないだろう、と……、自分には荷が重いだけだ、と……。
737
:
異世界からの挑戦状
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/15(日) 12:06:44 ID:Dica/XY20
「あれから何年経ったと思ってんだよ。
美雪お姉ちゃんだってとっくに高校卒業して、今や現役の女子大生だ。
いいか、女子大生だぞ、女子大生。お前が聞いたら泣いて喜びそうな単語じゃん。
だってのに、何で誰にも知らせず、どっか行っちゃってんだよ……」
少女の涙が溢れ、今にも頬を一筋の雫が零れ落ちそうだ。
心の中で押し殺していた感情が一気に決壊し、いつ滝のように泣きじゃくってもおかしくないと感じさせる。
……だが、なぜか少女はギリギリの所で踏みとどまり、決して涙を地面に零さない。
「何で何年も帰ってこないんだよ。何で連絡すらもよこさないんだよ……。
百歩譲って私にはいいけどさ、やっぱ美雪お姉ちゃんには連絡くらいしてやれよ。
美雪お姉ちゃん、お前が帰ってこなくて随分泣いて過ごしてたんだぜ。表にはめったに出さなかったけどな。
わかるか?
私の前でもお姉ちゃん、ずっと何でもない風に振舞って、いつだってお前の帰りを信じてたんだ。
いつだって、お前が帰ってくるって信じて、周りの人間が暗い話題出す度にそれを否定して、いつだって笑顔でいたんだぜ。
けど、時折見せる悲しげな表情を私は見逃さない。いや、違う。見逃さないんじゃなくて、見逃せない。
なぜなら、私だって金田一耕助の孫だからだ。お前だけじゃない。
美雪お姉ちゃんがどんなに隠し通そうとしても、受け継がれた観察眼は容易くお姉ちゃんの微妙な変化を記憶に焼き付ける。
そうして、容易にその心の中を想像させる……」
涙を零さない理由、それは……、少女が探偵だったからに他ならない。
わけもわからず、流れに身を任せるように受け継いだポジションだったが、それでも少女は今の自分がやらなければならない事を理解しているのだ。
少女は守りたかった。
少年が帰ってきたとき、少年の居るべき場所を守りたかった。
少年の代わりになって、少年の過ごしてきた時間を、ただ守りたかった。
それが少女が決して涙を零さない理由である。
少女は決して涙を零さない。
それはもう、長い時間溜め込んだものをこんなところで吐き出せるかと言う、少女の強さと言ってもいいだろう。
「届いてんのかよ、お前に、お姉ちゃんの気持ちが。
届いてないのかよ、お前に、私の切実な声が。
なぁ、頼むよ。
届いてんなら帰って来いよ。
届いてんなら連絡ぐらいよこせよ」
涙の代わりに少女は声を張り上げる。
それは悲痛から生まれたとはいえ、力強く想いのこもった声だった。
「なぁ、頼むよ、そろそろ帰って来いよ……、もう我がまま言わないからさ……、なぁ、はじめ……」
少女の想いの篭った悲痛な叫びが虚空に向かい、そして消える。
返ってくる声は、当然聞こえなかった……。
738
:
異世界からの挑戦状
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/15(日) 12:07:24 ID:Dica/XY20
◆ ◆ ◆
これにてこの世界の幕は閉じられる。
少女はこれからも涙を押し殺し、消えた少年の代わりとなって世界を形作っていく一本の柱となるだろう。
勿論、それは誰かが望んだものでもない。
辞めようと思えば、少女はいつだって自身に与えられた役を降りる事が出来るだろう。
だが、おそらく少女は降りない。
少女は少年の抜けた穴を埋めることを無意識のうちに受け入れ、またいずれその穴に納まるべき少年が帰ってくることを信じて疑わないからだ。
ゆえに、少年が少女の元に帰るまで少女は役を降りず、またこの世界の物語は永遠に綴られていく。
それがこの世界の現実であり、全てなのだ。
残酷なようだが、少女の物語は、まだ始まったばかり……、そう付け加えさせてもらおう……。
……さて、語るべき少女の物語は語り終えた。
ここより先は完全に物語としては蛇足。
しかし、どこか別の世界にとっては、もしかしたら重要になるのかもしれない話し。
覗いてみよう、少女の覗けなかった世界の裏側を……。
挑戦しよう、誰かから届けられた挑戦状に……。
◆ ◆ ◆
739
:
異世界からの挑戦状
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/15(日) 12:07:50 ID:Dica/XY20
あら、刑事さんお久しぶり。
え?こうやって面と向かって話すのは初めてだって?
いいえ、私は何度も貴方の前に立ってるわ。
通行人だったり、被害者の家族や知り合いだったり、容疑者の一人だったり……、そういえば、事件の目撃者として聞き込みされた事もあったわね。
一番最近だと、貴方の同僚の刑事にも成りすましたし……。
あ、やっぱり気付かなかった?あれ、私なのよ。
いつだったか、今みたいにこの取調室で事情聴取だって受けた事もあるしね。
フフ、面白い顔。驚きすぎよ。
毎回貴方は気付かない。それは、私が怪盗紳士だから……。
え?無駄話はいいですって?
ヒドいわね。これでも真面目に話してあげようと思ってるのよ。
なんせ、私だってまだ頭の中を整理できていないんだから。
あまりに馬鹿げた話だからね、私自身も正直どう話していいかわからないの。
だから、こういった前置きも必要なのよ。高揚した気分のままじゃ饒舌になってしまう乙女心、理解してほしいわね。
何、その白けた目は、こんな若くて綺麗な子を前にして失礼じゃない。
って、そういえばまだ私の顔、あの時のままだったわね。
ごめんなさい、このメイク、特殊な溶剤を調合して作られているから、たとえ貴方ご自慢の科捜研でも剥離剤を用意するのに最低三日はかかるわ。
素顔を見せられなくて残念ね。
さて、それじゃ……、まず何から話そうかな。
貴方は何から聞きたい?
今の私からなら、貴方次第でどんなことでも聞きだせちゃうわよ。
勿論、年齢体重スリーサイズは女の子のトップシークレットだから、大人の男なら空気を読んでほしいけど……、フフッ、貴方だったら……。
なんて冗談よ、冗談。何赤くなってるの?ホント面白いわね。
あれ?怒った?
ダメよ、刑事さんがそんなに簡単に挑発に乗っちゃ。
行方不明のあの人達も悲しむわよ。
あら……、今度は落ち込んだ?
ホントに顔に出やすい刑事さんね。
大丈夫よ、あの二人の事は私もよく知ってるわ。追い詰められた事もあるしね。
貴方に出来るのは、あの二人に負けないような立派な刑事さんになる事よ。だから、くよくよしないで頑張りなさい。
って、何かおかしな状況ね。
泥棒に慰められる刑事なんて聞いたこと無いわ。やれやれ、これじゃ先が思いやられるわね。
ま、これ以上イジメても可哀想だし、そろそろ貴方達が一番疑問に思ってることから話ましょうか。
私の身に何が起こったのか、私が何を見たのか……、そこからね……。
◆ ◆ ◆
740
:
異世界からの挑戦状
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/15(日) 12:08:20 ID:Dica/XY20
これより語られるのは、ほんの短い時間に行われた一方的なやりとり。
怪盗紳士が探偵の手から逃れ、輸送機から垂らされた簡易梯子に手を伸ばしてから輸送機が撃墜されるまでの刹那の時間の出来事である。
「流石は怪盗紳士、噂に違わぬ見事なお手並み、いやはや、恐れ入りました」
突然聞こえてきた声に驚き、怪盗紳士は首を傾け、頭上へと視線を滑らせる。
本来頭上にあるのは巨大な輸送機と、月と星が輝く夜の風景だけのはずなのに、そこにはいつの間にか何かが割り込んでいた。
光の無い夜でも判別できるツンツンと尖った黒髪。そして、夜空に映える黄色いコート。
怪盗紳士と同じように簡易梯子を右手で掴み、笑顔でこちらを見下ろす少年が、そこに居たのだ。
「それにしても、紳士って言うからどんな男の人かと想像してたんだけど、まさかこんなに美人なお姉さんだとは思わなかったな。
まぁ、美人というだけで会いに来た価値があるんだろうね、誰かさんに言わせるとさ」
「えっ」と声に出して驚く余裕もなかった。
突然現われた、そう、文字通り突然どこからともなく目の前に現われた少年に、一瞬にして、それこそ魔法のように返す言葉を失わされてしまったのである。
――そんな、いつのまに……。いや、それ以上に、どこから現われて……。
浮き上がる疑問の数々。
だが、それ以上にその少年の持つ不思議な気配が怪盗紳士をただただ混乱させる。
「おっと、驚かせちゃったかな?俺は通りすがりのドロボウ、同業者さ。
風の噂でお姉さんの事を聞いてね、もし良かったら、盗んだ物と一緒にモチーフを盗むって言うお姉さんの愉快なスタンス、
ご教授願おうかなと思ったんだけど……流石にお邪魔だったかな?」
異変、異常、あまりにも異質。
中空で、一歩間違えばこのまま闇の中に落ちて行きそうな気配さえ漂う危険な空間だと言うのに、少年は特に気にした様子もなく自然な笑顔で言葉を紡ぎ続ける。
その姿は、いくら幾多の謎と怪奇を演出し、世の人々を驚かせてきた神出鬼没の大怪盗さえ言葉を失わせ、思考停止させるには十分すぎるものだった。
「本当はもっとゆっくりと落ち着いた場所でお姉さんとお話ししたかったけど、それは単純にこっちのミスだし、仕方ないね」
泥棒と名乗った少年は語るべき言葉を見失わない。
呆然としている紳士をよそに少年は喋り続ける。
「まぁ、今日はお姉さんの綺麗な顔を見れただけでよしとするよ。俺にとっては最高のお土産だね」
世界が目の前の少年色に塗り替えられていくような雰囲気さえ感じられた。
輸送機から垂れる梯子を掴んでから、おそらく一分も経過していないというのに怪盗紳士の中では既に数十分少年と共空中散歩をしているような気分にさえなってくる。
今この瞬間だけは完全に少年のペース。巻き返す余地もなかった。
と、その時、淡々と話していた少年の顔色に僅かばかり怪訝な色が浮かぶ。
「って、あれ、どうやら誰かさんのせいでまた予定が少し狂ったみたいだ。やっぱり時計のネジはこまめに巻かないとだね」
そう言いながら少年は何も無いはずの夜空へと視線を移す。
まるでそこに何かが来るとでも言いたげに。
「もうちょっと時間があるかなぁと思ってたんだけど、せっかちな王様は相変わらず待つ事が嫌いみたいだね。
ホントは迷惑かけないうちに退散しようと思ってたんだけど……これは悪いことしちゃったな……」
少年の言葉の意味が良くわからない。
しかし、そう少年が呟いた瞬間、まさに夢のひと時は唐突に終わりを告げた事を悟った。
――また……何か、来た……。
誘われるように少年の視線を追うと、そこには再び目を疑う光景が広がっており、怪盗紳士を更なる混乱へ導いていく。
金色の、金色の何か……、人、人なのだろうか……、とにかく、金色の人型の何かが、ゆっくりと空を歩いてこちらに向かってくるのが見えたのだ。
「ごめんね、お姉さん。先に謝っておくよ。俺のせいで巻き込んじゃって……」
少年の言葉と重なるように光る人型の何かがこちらに向かって何かを伸ばすのが見えた。
と、同時、少年の姿が視界から掻き消える。『またいつか』と言う言葉を残して……。
それが、怪盗紳士が記憶している最後の映像である……。
741
:
異世界からの挑戦状
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/15(日) 12:08:45 ID:Dica/XY20
◆ ◆ ◆
私のお話はこれで終わり。
どう、楽しかった?それとも退屈にさせた?それより、信じる、信じない、かな?
不思議よね。
まだまだ私達の世界には解らない事がたくさんある。
貴方は彼らを“なんだ”と思う?
宇宙人?未来人?超能力者?それとも別の世界の人かしら。
まぁ、どれでもいいわね。
どうせ、もう貴方は何も聞こえてないのだから……。
おやすみなさい、刑事さん。
ありがとう、私の話を聞いてくれて。
それじゃ、さようなら。
また会いましょう……。
少年が私に残した言葉と同じようにね……。
◆ ◆ ◆
そうして、眠りこけた刑事達を残して部屋から怪盗紳士は消える。
まるで最初からそこには誰も存在していなかったかのように、それはもう綺麗さっぱりと……。
ゆえにこの話もここで終わり。
蛇足ともいえる物語は主人公が表舞台から退場した事で終わりを迎え、これでこの世界において語るべき物語は本当に語り終えたのだ。
この後、怪盗紳士が少年と再会したかどうかなんて当然知らない。
その物語はまだ綴られていないからだ。
だが、怪盗紳士は確かに受け取った。
誰かからの挑戦状を。
それをどうするかは、それこそ彼女の自由でしかない。
そう……、つまりは、彼女の物語もまた、始まったばかり……、それを忘れずに付け加えよう……。
【Epilogue:金田一少年の事件簿 新たな挑戦状が届かぬうちに…… 完 】
743
:
ネコミミの名無しさん
:2009/03/16(月) 13:05:42 ID:KbEeShTE0
金田一エピ読んだけど、ジンが完全に登場しちゃったのが残念。
これまでの流れにある「生きていると思わしき痕跡はあるけど、
ギル様ですら姿を拝めていない」という距離感は大事にして欲しかったなぁ。
ジンを出す必要性が感じられなかったし、「生死不明」となっているなら
そのままで暗黙の了解を貫いて欲しかった。
744
:
異世界からの挑戦状(修正)
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/19(木) 22:23:59 ID:jjYoDi260
>>740
からの本文を以下に差し替えます。
*****
これより語られるのは、ほんの短い時間に行われた一方的なやりとり。
怪盗紳士が探偵の手から逃れ、輸送機から垂らされた簡易梯子に手を伸ばしてから輸送機が墜落するまでの刹那の時間の出来事である。
慣れた手つきで梯子を上り、部下の差し出した手を取って輸送機の中へと乗り込む怪盗紳士。当然疲れなどは微塵も感じさせない。
だが、その表情には疲れとは別の色が浮かんでいるのが僅かに伺えた。
「はぁ〜、あの子が成長していく姿は見ていて可愛いんだけど、
そうそう何度もしてやられるのは怪盗紳士の名声に関わるわよねぇ……」
周りにいる部下のことなどお構いなしに独り言のように呟き、溜息を漏らす。
彼女の口から漏れ出したのは、自信の犯した失態についての反省。
それを弱音混じりに周りに居る部下に聞かせているのだ。
本来なら、信頼する上司の弱音など聞きたくないのが部下の心情だろう。
黙って聞くにしても、心の中では不甲斐ない上司に怒りをぶつけたいと思い、無言で震えていていてもおかしくはない。
もしくは、厭きれかえって次なる職場を探そうか、などと考えている可能性もある。
はてさて、世界的に有名な大怪盗、怪盗紳士の部下はこんな上司の姿を見てどう思っているのだろか。
「ボス、これを……」
怒りも厭きれも浮かべている様子もなく、おもむろに部下の一人が怪盗紳士に一枚のカードを差し出す。
辞職願い?
勿論そんなはずもなく、それは怪盗紳士の仕事をサポートし続けた部下の見せる阿吽の呼吸に他ならない。
「あら、わかってるじゃない」
それを待っていましたと言わんばかりの笑顔で受け取る怪盗紳士。
そこに書かれているのは、怪盗紳士が目星をつけていた次なるターゲットの為に作られた予告状。それを部下は既に用意していたのである。
当然、そのカードを見た怪盗紳士は何時も通りの笑みを浮かべる。
先ほど部下を不安にさせる言葉を発した上司の姿などは何処にもなく、そこには未来永劫変わる事の無い怪盗紳士がいるだけだ。
つまりは、この上司にしてこの部下ありと言うわけである。
双方仕事の失敗など些細なことと割り切り、常に先へ先へと見据えている。
怪盗紳士も、その部下も、たとえ仕事に失敗しようと余裕の笑みを崩しもせず、常に何時も通り。
犯罪行為を繰り返しながら、決して下種な犯罪者に落ちぶれず、仕事にユーモアを持ち込み、美学を持って事に当たる。
華麗にして繊細に、仕事に芸術的な感動を。
それが、世界をまたに掛ける大怪盗、怪盗紳士のスタイルである。
「フフッ、これは次が楽しみね。
あの子が慌てふためく姿が目に浮かぶわ」
次なる獲物と、そこで繰り広げられるであろう少女探偵との騙しあいに胸を躍らせつつ、怪盗紳士は早速次なる計画に思考を移行させる。
ちなみに、まだ少女の前から消えて一分も経っていない。
その思考の切り替えの速さは、さすが怪盗紳士といったところだろうか?
もっとも、次の瞬間に起こった考えれば、そんな思考の移行など無駄以外の何物でもないのだが……まぁ、それは後の祭りという事なのだろう。
745
:
異世界からの挑戦状(修正)
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/19(木) 22:24:59 ID:jjYoDi260
「ボ、ボス!前方に何かがっ!?」
ゆったりと思考の渦に陶酔していた矢先に聞こえた奇声、それはこの輸送機の操縦を任せている部下の声だった。
コックピットから聞こえてきた声に一瞬にして現実に戻される。
だが、状況を確認している余裕はその場に居た怪盗紳士も含め誰一人にも出来なかった。
なぜなら、声が聞こえてきたと同時に、自分達を乗せた輸送機が光に包まれ、直後に激しい炎が窓の外の風景に映ったからからである。
「ちょ、ちょっと!一体なんだってのよ!何が起きたの!?」
突然の事態に流石の世紀の大怪盗も慌てふためく。
それこそ、先ほどの少女探偵の慌てるの姿を未来に思い描いたそのままに。
「わ、わかりません!!突然光が……、光が機体を貫きました!!航行不能!航行不能!!!」
コックピットから聞こえたその言葉を最後に、巨大な航空機はゆっくりと傾き、重力に引かれるままに落下を始める。
目の前に上がる火の手と全身に感じる揺れに逆らえずバランスを崩す怪盗紳士。
その姿に普段の不敵な様子など微塵も無く、芸術的発想を生み出す冷静な思考もこの時ばかりは完全に空回り。
流石の怪盗紳士でも、突然訪れた人知を超えた異常事態に対応する程の胆力は持ち合わせていなかったのだ。
そんな時だ。
そんな驚愕の中に、絶望が浮かぶような惨状の中に、突然“何か”が舞い降りた。
「フン、逃げたか。相変わらず察しの良さだけは一流よ」
746
:
異世界からの挑戦状(修正)
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/19(木) 22:25:31 ID:jjYoDi260
炎の揺らめく中、誰ともわからない声が突然響き、その場に居る人間を硬直させる。
『策的範囲からの消失を確認。既にこの世界を出たようですね。いかがいたしますか?』
「奴が何に興味を持ってこの世界に来たのか見ておくのも一興だ。追うのはそれからでも遅くなかろう」
声は二つ。
尊大な物言いの声と、どこか機械的な音声。
『なるほど、彼なら何らかのメッセージを残してる可能性もありますからね』
「そういうことだ。では怪盗紳士とやら、王の問いの答える権利を授けよう……」
そして、声の主は唐突に彼女の前に現れた。
圧倒的な威圧感と絶対的な力を伴って……。
それは一人の男だった。
勿論、ただの男なんかではない事は一見してわかる。
まず目に付くのが眩いばかりの金色の鎧。
この炎の瞬きを反射しながらも、決して輝きと存在感を失わない金色の鎧だ。
だが、それはこの目の前の男を形容した場合に限り、その金色の鎧ですら男の一部でしかないと瞬時に思える。
男は全てが理解の範疇を超えていた。
ルビーのような二つの瞳と、尊大な物言い、そして、有無を言わせぬ威圧感。
まさに自身を王と称するだけの説得力をその男は存在するだけで放っているのだ。
747
:
異世界からの挑戦状(修正)
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/19(木) 22:26:03 ID:jjYoDi260
「どうした?何を呆けている」
一言一言が炎を揺らめかせ、突き刺すような威圧感を放っている。
その場に居た全員が息を呑み、言葉を発せず固まった。
本来なら、直ぐにでも脱出の為に一致団結しなければならないというのに、そんな当たり前の行動さえその男は一瞬に断絶したのである。
「あ、貴方なの……この炎……、なんでこんな……」
そんな中、一人だけその威圧感に反発する存在があった。
言うまでもなく、このメンバーを取りまとめるボス、怪盗紳士である。
だが、そんな犯罪を芸術にまで昇華する世紀の大怪盗でも、流石に言葉一つ一つに慎重さが伺え、動揺と恐怖が交じり合った感情を隠せていない。
辛うじて声の主へと視線を向けて、その姿を直に見て言葉をぶつけるのがやっとだった。
……だが、次の瞬間、それが強がりにも満たない矮小なものだと思い知らされる。
「黙れ、問うて居るのはこちらだぞ。貴様は我の問いに答える以外の口を開くな」
たった一言、それだけで怪盗紳士は息を飲み、その他の部下と同じように全身を硬直させる。
そして、言われるままに口を閉じた。閉じると言う選択肢以外選べなかったのだ。
『申し訳ありません。Kingは少々苛立っておられます。貴方方自身の為にも速やかに指示に従ってください』
「余計なことを言うな具足。我は苛立ってなどおらん」
機械的な声は何処から?と一瞬考えたが、次の瞬間にはあの赤い瞳で睨まれた為、怪盗紳士はあっさりと思考を手放す。
決して逸らせぬ視線から全てを辿られるかのような錯覚を覚え、言葉と一緒に余計な思考も無駄だと悟った為だ。
こうなるともう、世界に名を馳せた怪盗紳士も一人の無力な女でしかなく、本人もそれを自覚するしかない。
着々と輸送機が高度を下げる危機的状況の中だというのに、彼女は自身の命を捨てる決意を強制的に背負わされてしまったのである。
「さて女、貴様はこの世界でもっとも有名な盗賊らしいな。なら同業についても当然把握していよう
答えよ、王ドロボウと呼ばれる賊に心当たりは無いか?あるなら包み隠さず情報として全てを我に差し出せ」
一方的に王の問いが投げかけられる。
先ほどの言葉流用するならば、この瞬間、怪盗紳士に初めて発言権が与えられた事になるのだが、
怪盗紳士は不用意な発言を恐れ、首を横に振る事しか出来ず、王の問いにまともな解答を示す事が出来なった。
だが、寛容な王はその程度で機嫌を損ねる事はなく、首を振った怪盗紳士の答えをそのままNOと捉える。
それは彼女の瞳から王が全てを察したからに他ならない。
「ほう、知らぬと言うのか、長く傍に居た者の事を。
これはなんと、奴の戯れにしては酔狂な事よ」
女の返答に王が笑う。理解できないのはその場に居る王以外の者たち。
「ならその手に握られたカードを今一度見てみるがいい。
貴様等の愚かしさをその目で確認するのだ」
王はそう言って、ようやく彼女に此度の災厄の原因を示す。
ここで始めて、彼女は自分達に何が起こったのかを悟ったのだ。
「……え?」
促されるままに右手に持っていたカードを見る。
当然、それは先ほど部下から渡された次の犯行を予告する為の予告状だったはずだ。
だが、怪盗紳士の眼がその文面を再び捉えた時には、どういうわけかその内容が変わっており、更なる混乱を呼び覚ます。
「何と綴られている。声に出して読み上げる事を許そう」
まるで夢を見ているような気分になってくる。
仕事上、手品のテクニックを流用して、このようなメッセージカードのすり替えを瞬時に行うなどは怪盗紳士にとっても当たり前の技術。
だが、状況が状況なだけに、それをトリックだと断じ、楽観的に受け止めることが出来なかった。
死に向かって一直線に落ちている輸送機、舞い上がる炎、そして、決して無視できない異界の金色王と謎のメッセージカード。
怪盗紳士の視界に映るのは既に幻想と遜色ない光景だ。
目の前の王から朗読を命じられるのも気付かず、怪盗紳士はその文面を眼で追うことで精一杯だったのも仕方の無いことだろう。
「フン、この程度で動揺か、奴の目利きも落ちたものだな」
頭上から降り注ぐ言葉が自分を嘲っているとわかるのだが、それに反応すら出来ない。
それだけ、この状況が異質であり、今まで培ってきた常識を軽々しく打ち砕き、怪盗紳士の心を疲弊させる。
極めつけは、そのカードに書かれた内容だった。
748
:
異世界からの挑戦状(修正)
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/19(木) 22:26:31 ID:jjYoDi260
『彼の有名な怪盗紳士のお手並み堪能させていただきました
講義の代金は我侭な王との謁見にて代えさせていただきます
HO! HO! HO!
勉強熱心な王ドロボウ』
いつ、何処で、何が、誰が、何を、誰に、誰と……。
意味がわからない。
自分は何?何に巻き込まれた。
ここで一体、何が起きた……。
死が間近に迫っていると言うのに、怪盗紳士の中に渦巻いた幾多の疑問は容易く彼女を価値観を壊す。
墜落する輸送機、燃え盛る炎、異界の王、そんなのは既に視界に入ってない。
だた呆然とした眼差しで、一枚のカードを見つめるだけだった。
「くだらん。たまの余興と思って気を許せばこの有様……。奴も存外に遊び好きだったというわけか」
王の前に崩れ落ちた一人の女。
それを見下ろし、王は興味を無くしたとばかりに背を向ける。
振り返りはしない。
それが王の姿、万人が羨望の眼差しを向ける黄金の王の姿だ。
ゆえに、呼び止められるの唯一王の従者だけ。
『King、彼女をこのままにしておくおつもりですか?』
「当然だ。奴の関心の失せた駒などに興味は無い。
それとも何か?貴様だけでなく我にも手心を加えよというわけではあるまいな」
『いえ、そのようなことは……』
王と従者のやり取りだけが機内に響く。
勿論、従者に王の意向を変えるだけの力は存在しない。
それはもう完全なる終焉を意味した、ある意味定型文的なやり取りでしかないのだ。
「フン、貴様も外で待たせているもう一人の従者も、意見だけは一人前のつもりか。いい加減己の分をわきまえよ、具足」
声だけの従者はそれで押し黙り、今度こそ王は機内を後にする。
後に残されたのは、脱出の機会を失わされた怪盗紳士とその部下のみ。
幻想のような現実は、今この瞬間ようやく終わりを迎えた。
続いて訪れたのは、悪夢のような現実。
劈くような衝撃が走り、数名の生きた人間を乗せた輸送機は、何の救いもなく絶望に叩き込まれた。
◆ ◆ ◆
749
:
異世界からの挑戦状(修正)
◆j3Nf.sG1lk
:2009/03/19(木) 22:27:00 ID:jjYoDi260
私のお話はこれで終わり。
どう、楽しかった?それとも退屈にさせた?もしかして怖い?
まぁ、最初に考えるべきは信じる、信じない、かもね。
不思議よね。
まだまだ私達の世界には解らない事がたくさんある。
貴方は彼らを“なんだ”と思う?
宇宙人?未来人?超能力者?それとも別の世界の人かしら。
フフ、一つだけ言えることは、私は彼らと出会い、何にも後悔していない、と言うこと。
むしろ嬉しいとさえ言える。
だってそうでしょう。
私は世界を揺るがす大怪盗『怪盗紳士』
その世紀の犯罪者が、こんなわかりやすい挑戦状を叩き付けられて黙ってられると思う?
結構負けず嫌いなのよ、私って。
私が助かった理由も、たぶんその辺に……。
まぁ、今更どうでもいいわね。
どうせ、もう貴方は何も聞こえてないのだから……。
おやすみなさい、刑事さん。
ありがとう、私の話を聞いてくれて。
それじゃ、さようなら。
またどこかで会いましょう……。
誰かさんから送られた素敵な挑戦状と同じようにね……。
『追記
貴方が世界の全てを盗めたときに
またどこかでお会いしましょう
王嘘つきの王ドロボウ』
◆ ◆ ◆
そうして、眠りこけた刑事達を残して部屋から怪盗紳士は消える。
まるで最初からそこには誰も存在していなかったかのように、それはもう綺麗さっぱりと……。
ゆえにこの話もここで終わり。
蛇足ともいえる物語は主人公が表舞台から退場した事で終わりを迎え、これでこの世界において語るべき物語は本当に語り終えたのだ。
この後、怪盗紳士が王ドロボウと呼ばれる存在と再会したかどうかなんて当然知らない。
その物語はまだ綴られていないからだ。
だが、怪盗紳士は確かに受け取った。
誰かからの挑戦状を。
それをどうするかは、それこそ彼女の自由でしかない。
そう……、つまりは、彼女の物語もまた、始まったばかり……、それを忘れずに付け加えよう……。
【Epilogue:金田一少年の事件簿 新たな挑戦状が届かぬうちに…… 完 】
751
:
未定
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:48:45 ID:bQZRqflE0
断章――――確かなる現実として必ずどこかには存在しうるだろう架空とも言える不明瞭な世界。
深夜。
一切の照明も点っていない書斎の中、泉そうじろうは黒一色の天井を眺めていた。
常日頃から愛用している作務衣を纏い、髪と無精髭はだらしなくも伸ばしっ放し、痩身はいつにも増して痩けている。
小説家という職業を鑑みれば、締め切りに追われ連日連夜、部屋に篭って仕事に没頭していたのかと推測もできるが、真相は違う。
泉そうじろうは飽いていたのだ。
一人きりとなってしまった人生に、絶望を感じていた。
数年前のことである。
自らが愛してやまない一人娘、泉こなた。
こなたの親友である、柊かがみと柊つかさ姉妹。
高校入学に伴いゆきから預かっていた、姪っ子の小早川ゆたか。
この四人が突如として、謎の失踪を遂げた。
その消息は、未だ掴めてはいない。
仲のいい女子高生グループが同時期に失踪するという、不可解な事件。
この事件は当然のごとく話題を呼び、マスコミの格好の餌食となった。
報道番組でもしつこいほどに特集を組まれ、知人や親族にインタビュアーが殺到。
陵桜学園や鷹宮神社は質問の嵐に見舞われ、そうじろうたちにとっての穏やかな生活は、混沌の極みに達した。
一方で事件はまったく進展を見せず、時が経つにつれ世間もマンネリ気味のニュースに飽き、膠着状態に陥る。
続報はそうじろうの耳にも入らず、家出した娘たちは一向に帰って来ない。
迷宮入り確定の謎を追い求めようとするバイタリティなど、喪失感の重苦に縛られる身に、宿いはしなかった。
――おまえは俺より先には逝かないと思ってたのになぁ。
チェアの背凭れに身を預けながら、そうじろうは楽しかった日々を思い出す。
今は亡き妻、かなたとの青春の日々。生き写しの娘、こなたとの新たなる生活。
男手一人で娘を育て、嫁に出るその日までは父親であろうとした意思が、儚くも散る。
こなたはもう、戻っては来ない。
ゆたかも、かがみも、つかさも。
なぜだか、そう確信できた。
生きていれば何歳になっていたか、とも。
まるで考えられず、想像できず、疑えず。
ああ、これが俺の人生の終着点なんだな、と。
――もう、ゴールしてもいいよね?
そうじろうは誰にでもなく問いかけ、そして答えを得た。
口に錠剤を複数含み、コップに注いだ水道水で流し込む。
コク、コク、コクと……水を飲む音だけが泉家に響いた。
◇ ◇ ◇
752
:
未定
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:49:45 ID:bQZRqflE0
サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが、
それでも俺がいつまでサンタなどという想像上の赤服じーさんを信じていたかと言うとこれは確信を持って言えるが最初から信じてなどいなかった。
などという導入部から始まってはみたものの、このお話は平凡な男子高校生の非日常を描いた物語などでは決してない。
舞台となるのは北の方角に位置する高校ではなく、アニメイト大宮店。今日から俺の勤め先となる、アニメグッズ専門店だ。
俺の名前は杉田。ここでは杉田店員(28)とでも呼んでくれ。誰かに似てる? 気のせいだろ。
さて、初出勤とは言っても配属先の店舗が変わっただけであって、仕事に関しちゃ慣れたもんだ。
上司や先輩方とは早々に挨拶を済ませ、客足も途絶える午後に差し掛かったところで、俺は一息つく。
レジカウンターでぼーっと客の流れを眺めていると、横合いから妙な熱気が伝わってきた。
促されるように横を向いてみると、そこには某熱血漫画家の魂を宿したような暑苦しい形相の男が立っていた。
「どうやら今日も来たようだな……! 見ておけ新人、君は今から伝説を目の当たりにする!」
一昔前の少年漫画で見かけられるようなむさ苦しい頭髪に、バイザー付きのキャップを被ったこの人、アニメ店長の兄沢命斗さん。
その双眸は灼熱のマグマのごとく煮え滾り、一人のお客さんを凝視していた。傍から見ても通報されん勢いだ。
で、その視線の矛先に立っているのが……それはそれは愛くるしい、小学生くらいの体格のお嬢さんだった。
「あの、彼女がどうかしたんですか? まさか挙動不審で万引きの恐れがあるとか……」
「馬鹿なことを言うな。彼女こそは伝説の少女B……! 買い物は堂々するのが彼女の流儀だ」
この店長、常連らしいお客に勝手に伝説などと呼称をつけているのか。はたして許可は取ったんだろうか。
それにしたって、伝説などとは大層な。いくらここがアニメグッズ専門店とはいえ、メディアに毒されすぎだと思う。
「ちょうどいい。杉田店員(28)、伝説の少女Bの今日の購入目標を推理してみろ。当たったら給料五割増しだ」
「マジッスか!?」
即座に俺の脳裏に「キョンのラミカ!キョンのラミカ!」という解答が浮かび上がるが、さすがにそりゃうぬぼれがすぎるってもんだ。
俺の観察眼を頼りにお嬢さんの趣味趣向を推し量るとするならば、そもそもアニメイトなんぞに出向くようなご婦人には見えんのだが。
連れは……金髪と眼鏡の女の子か。片方は外人さんだな。これらの判断材料からどのような答えを模索する杉田店員(28)……。
妥当な線をつくならば、ビーでエルなご趣味の方々……いや、伝説と謳われるくらいだ。
禿や髭に魅力を感じる極めて稀な趣向をお持ちであらせられるかもしれん。
とはいえ彼女がまじまじと眺めているのはコミックスの新刊コーナー……これはただ単に書店として利用しに来ただけか……?
ハッ、そういや今日は新刊の発売日でもある……読めたぜ。杉田店員(28)の名推理に隙はない!
「わかりましたよ店長。伝説の少女Bの購入目標はズバリ、ケロロ最新刊……! これに間違いありません」
今となっては小学生にまで大人気の作品、可愛いもの好きの女子高生が携帯のストラップにするのも頷けるキャラ造形。
おそらく特典の栞を目当てにしている部分もあるのだろう。さあ、山積みの最新刊コーナーに差し掛かるぞッ!
「フッ……青い。青いなぁ新人。お客様の趣味趣向を図るのは店員として大事なスキル……しかしあの伝説の少女Bは一筋縄ではいかないのさ」
負け惜しみですか店長。給料五割増しはもはやいただいたも同然、今さらなにを言われようとも……なっ!?
――伝説の少女Bがコミックスの新刊コーナーをスルーし、アニメDVDのコーナーに移動しただとぉー!?
753
:
未定
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:50:41 ID:bQZRqflE0
伝説の少女Bの購入目標はコミックスではなくDVDだっていうのか。畜生、近頃の女子高生は金持ってやがる!
しかもなんだ、手に取ったDVDのあの厚みは……レジから見てもよくわかる、あれは明らかにDVD-BOX……!
それをなんの迷いもなく、一直線にレジへと運ぼうとしている。これがつわものか……!
「これください」
「3万4550円になりまーす」
(カウボーイビバップDVD-BOXだとぅ――!?)
まさかの渋いチョイスにフロイト先生も爆笑だっぜ! ジェットのお髭に萌える年頃なのか、杉田店員はこんらんしている!
伝説の少女Bは堂々とした挙動で財布から現金を取り出し、店長に手渡した。店長も慣れた手つきで接客をしている。
ぴったり3万4550円。ポイントカードは結構溜めているようだ。そしてレシートを受け取るや否や、
「ありがとうございます」
店長よりも先にありがとうを、満面の笑顔添えで、俺たちに、お与えくださった!
女神ともえんじぇうーとも形容しがたいお客様の愛くるしさに、俺が飲み込んだ言葉といえば「妹にしてぇ」の一言だけだ。
思わず見惚れ、またお越しくださいの定型句を口にすることすら忘れちまったぜ。去っていく背中が恋しくてたまらん。
伝説の少女Bの退店後、店長は一戦終えたような暑苦しい顔つきで、俺の肩を叩いた。
「どうだ新人。彼女こそ、せっせとバイトして溜めたお金で熱心に名作アニメのDVDを買い集めている常連客……伝説の少女Bだ!」
「あれが、伝説……ってぇ、店長。なんでそんなプライベートなこと知ってんですか?」
俺が質問をやると、店長は顔面を汗だくにしながら答えた。
「ほとんど推測さ。だが俺にはわかる。あの金は親の金でもなんでもない、自分が汗水垂らして稼いだ金だと。
そして彼女が高額のDVDシリーズを買い集めている理由も……きっと背後には涙ぐましい情熱の真理が隠れているに違いない。
今回のビバップで18作目だったか。燃えにも萌えにも縛られない、彼女こそはアニメファンを超越したなにかなのかもしれん」
なにやら漫画の読みすぎのようなことを大言壮語しているが、伝説の少女Bが可愛いのでまあ良しとしよう。
しかし、常連か……明日からの勤務がちょっと楽しみになってきやがったぜ。
それはそうと、ここでどうしても気になっている疑問の解消を試みてみるとしようか。
「ところで、どうしてAでもQでもなくBなんですか?」
「…………わからん」
わかんねぇのかよ!
◇ ◇ ◇
754
:
未定
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:51:22 ID:bQZRqflE0
「それじゃあまた明日、ガッコーで会いまショーっ」
「またねーッス」
友達が手を振って別れを告げる。私もまた、手を振って友達の後ろ姿を見送った。
学校からの帰り道、アニメイトに寄り道をして、少し遅い夕暮れ時の駅前を歩いてみる。
道行く人々は疎らで、買い物帰りのお母さんや仕事帰りのお父さんが、自分の家に帰ろうとしていた。
私も、これから家に帰る。おじさんとおねえちゃんが待っている泉家に。
……でもあそこはもう、私の知っている泉家じゃないんだ。
日常に戻ってきて二年半。私は、もうすぐ高校を卒業する。
進路は決めているけど、それを他人に吐露するのが怖かった。
私が進むべき未来は一つしかない。選べるのも一回限り。
失敗が怖いんだと、思う。誰かの励ましが欲しい、って。
今日の帰り道は、なんだか少しだけ物悲しかった。
やっと全部揃ったっていうのに……どうしてこんな気持ちになってるんだろう。
茜色に染まった空を眺めながら、私は――
「やっほー、ゆたか」
――小早川ゆたかは帰り道を歩いていて……そこで私は、私の一番大切な人に呼び止められたんです。
◇ ◇ ◇
755
:
未定
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:51:58 ID:bQZRqflE0
駅前に轟くバイクのエンジン音。もう随分と手に馴染んだグリップを握り、私は探す。
目的の人物はすぐに見つかった。人が疎らだったのもあるけど、あの小さい体は逆によく目立つ。
……なんだかしょげてるわね。あの子、ときどき危なっかしいくらいセンチメンタルになるんだよなぁ。
私はわざとらしくエンジンをふかせ、あの子の視線を誘った。なかなか気づかないので、こちらから声をかける。
「やっほー、ゆたか」
フルフェイスのヘルメットから発せられる声は小さかったけれど、あの子はすぐに気づいてくれた。
うな垂れていた肩が、わずかに持ち上がる。物悲しげだった相貌が、パーッと明るくなった。
顔を見せるまでもなく、私がわかりますか。さすがに付き合いも長いしね……っと。
私はヘルメットを外して、あの子にとびきりの笑顔を見せてあげる。
お姉ちゃんとして、親友として、あの子の支えになってあげるために――いつもそうやってきた。
「……こなたおねえちゃん」
あの子――小早川ゆたかは、私と目を合わせながらぎこちない笑みを浮かべた。
うん、今日のはちょっと酷そうだ。こういうときの対処法も、心得てはいる。
とりあえずは……注意から、かな。
「ゆたか。二人きりのときは舞衣って呼ぶように、っていつも言ってるでしょ?」
「あっ……うん。ごめんね、舞衣おねえちゃん……じゃなくて、舞衣ちゃん」
「ん、よろしい」
私――鴇羽舞衣は、小早川ゆたかの姉としてここにある。
正確には、姉貴分というやつだろうか。
ここでの私は、泉こなた……今はもういないゆたかの従姉と、私は挿げ変わったのだ。
経緯を説明するには、結構な時間を要すると思う。
かれこれ二年半くらいこんな生活続けてるけど、こっちのほうは慣れたなんて言えないし。
名前が変わって、交友関係も変わって、住まう世界すら激変したんだから、あたりまえか。
「今日は買えたの? ゆたかのコレクションもそれでコンプリートだっけ?」
「うん、買えたよ。スパイクさんの出てるやつ……」
学校指定の鞄と一緒にアニメイトの袋を持っているゆたかを見て、私は推察する。
カウボーイビバップのDVD-BOX……また高い買い物だったんだろうなぁ。
せっかくバイトして溜めたお金が、あっという間にアニメに消えるだなんて。
花の女子高生としてそりゃどうなのよ、と思わないでもないけど、私が言えた義理でもないのかな。
学校辞めて、自由気ままにフリーター生活送ってる私に比べれば……なーんて。
756
:
未定
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:52:27 ID:bQZRqflE0
「それじゃ、とりあえず後ろに乗りなさい」
「え?」
「え、じゃないでしょ。顔、峠でも走ってスッキリしたい〜、って書いてあるわよ」
「えぇ〜!?」
知り合った頃から、我慢強い子だなとは思ってた。
その反面、落ち込むときは結構顔に出る。
おかげで世話が焼きやすいってのもあるんだけど……正直、もうちょっとシャキッとしてほしいというのが本音だ。
「で、乗るの? 乗らないの?」
「の、乗る! 乗ります!」
「オーケイ。ほら、ゆたか用」
ゆたけに向けて、ヘルメットを投げてよこす。
二人乗りは規則正しく、交通ルールに遵守して、頭の保護は徹底的に。これ、ライダーの鉄則。
……悩み多き親友を後ろに乗せてかっ飛ばすくらいは大目に見てほしいんだけど、こればっかりは運かなぁ。
「じゃ、行くわよ。しっかりつかまっててね」
「うん……いいよ、舞衣ちゃん」
ゆたかの小さい体が私のすぐ後ろに跨り、恐々と手を回してくる。
スピードを出しすぎると振り落としてしまうんじゃないだろうか、という懸念が頭を過ぎった。
けどそのわりには、腕に込めた力が強い。少し痛いくらいの締め付けを、ライダースーツ越しに感じる。
「……いつもありがとう、舞衣ちゃん」
「あはは……走る前からお礼言うもんじゃないでしょ」
ゆたかとそんなやり取りを交わしつつ、私は愛車を走らせた。
駅を通り過ぎ、町並みに別れを告げ、誰に邪魔されることもなく風を感じられる、峠のサーキットを目指して。
風が気持ちいい。
風だけは、どこの宇宙でも等しく流れるものなんだ。
バイクに乗るようになってからより鮮明に実感した、世界の変化。
だけどそれは、変わらない、ってことと同価値でもあったのだ。
……あれからどうなったんだろう。
私はときどき、二度と戻ることはないだろう故郷への想いを馳せる。
◇ ◇ ◇
757
:
未定
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:53:32 ID:bQZRqflE0
断章――――少なからずあり得る可能性としては不確かだが隣を眺めれば必ずそこに在った世界。
真昼間、空は雲ひとつない快晴であったが日は陰り、世界は暗闇に閉ざされていた。
太陽や月よりも近い位置に、極めて異質、それでいて膨大な規模の惑星が、地球を覆うように迫っていたのだ。
――世界の終わりが近づいているのだと、誰もが実感していた。
数ヶ月前には異常気象が、数週間前には火山噴火が、数日前には大津波が起こった。
それら、星が接近するにつれて齎される災厄の数々。防ぐための儀式は、とうに頓挫した。
あとはただ、滅びを待つばかり。残り幾人かとなった人類全体、そして地球の余生を、彼は日本にある母校で過ごしていた。
「物好きだねぇ。最後の最後まで黒曜の君であり続ける、か……君の想い人はもう戻ってきやしないってのに」
私立風華学園生徒会会議室の窓辺で、神崎黎人は迫り来る巨大隕石――媛星を眺めやっていた。
眉目秀麗な容姿に儚げな印象を纏わせ、しかし黄色い声援を送る女子はいない。
声をくれるのはただ一人、大昔の先祖が式とした、人ならざる者――炎凪ただ一人である。
「凪。そういうおまえは逃げなくてもいいのか? この星はもうすぐ滅ぶぞ」
「逃げる? またまた冗談を。地球が滅ぶってのに、いったいどこに逃げ出すってのさ。宇宙船でも用意してくれるんなら、話は別だけど」
凪は嘲るように言い、神崎の隣に立って星を眺めやった。
黒い影が終わりの予兆として、そこに聳え君臨している。
媛星を返すための儀式――蝕の祭は、HiMEの一角である鴇羽舞衣の退場によって失敗してしまった。
やり直しの機会には恵まれず、そこで地球の運命も決定。終焉への道を、ひた進むだけの時間が流れる。
HiME同志の想いを賭けた闘争劇は、様々なイレギュラーを想定して作り上げられた、磐石なシステムを有しているはずだった。
想い人が被っている場合、HiMEや想い人が不慮の事故に遭遇した場合、想い人がHiMEだった場合、それでも儀式が回るように。
しかし、鴇羽舞衣のケースは違った。
尾久崎晶のチャイルドが討たれ、彼女の想い人であり舞衣の弟でもある鴇羽巧海が消滅した際、天秤が狂い始めた。
鴇羽舞衣が失踪したのだ。
国家機関である一番地が総力を挙げても見つけ出せない、たとえるならば異界の狭間へと。
退場というよりは欠場という言葉が相応しい。十二人の想いの力を賭け合う蝕の祭は、欠員を出し不成立となってしまった。
儀式の勝者として選出されるはずだった水晶の姫も、十一人分の想いの力では黒曜の君の妻足りえず、媛星の回避も望めない。
この世界より鴇羽舞衣が抜け落ち……そして終焉の運命は決定したのだった。
「この世の終わりを因縁の地で迎えるのも、悪くはない」
「詩人だねぇ。さすが、風華の生徒会副会長様は達観していらっしゃる」
「……なぁ、凪」
神崎黎人は、星を見上げながら問うた。
炎凪もまた、星を見上げながら答える。
「僕は……どこでどう間違えたのかな」
「……さぁて、ね」
星は潰え、一つの宇宙の歴史も、ここに閉ざされる。
風華の地に鐘の音が響くときはもう、永久に来ない。
◇ ◇ ◇
758
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:55:39 ID:bQZRqflE0
すっかり暗くなってしまった峠道を、ライトで照らしながら。
私、鴇羽舞衣は小早川ゆたかを乗せ、バイクをかっ飛ばしていた。
人はもちろんこと、対向車も見かけられない静かな道が、爆音で満たされる。
こんなに気持ちのいい夜はなかなかない。思わず自分語りでもしたくなるようなくらい、静かな夜だ。
……そんなところで、ちょいと昔を回顧してみるとしましょうか。
『―― 自らモルモットの道を選ぶとはね。期待はしないが、せいぜい長い目で見させてもらうことにするよ ――』
アンチ=スパイラルがわざわざ私たちに寄越してくれた、帰還のチャンス。
元は螺旋王が所持していたらしい、あの翼竜を模したデザインの飛行機は、私をこの地に誘った。
……風華も媛星も存在しない、平穏な日常。私が住んでいた宇宙とは異なる……ゆたかの故郷に。
あの飛行機は、ルルーシュが解析してなんとか使えるようにはなったのだが、
どうにもシステムのすべてを掌握できたわけではないらしく、使用にもいくらかの制約が設けられた。
生き残ったみんな、それぞれの帰るべき世界を検索して……しかし私の故郷だけは、見つけられなかったのだ。
要するに、帰れなかったのである。
鴇羽舞衣は元の世界への帰還かなわず、放浪を余儀なくされた。
それは、見知らぬ土地で余生を過ごす、という選択肢を招いた。
親戚も友達もいない新天地で生きる道を、私は選んだのだった。
とはいっても、別に選択肢がそれだけだったわけではない。
翼竜型飛行機のエネルギーが尽きるまで膨大な多元宇宙を彷徨い故郷を探す道だってあっただろうし、
私とゆたかが降りる際にはまだ残っていたギルガメッシュについていくという道だってあった。
それらの選択肢の中で、私はゆたかと同じ世界に渡る、という道を選んだのである。
……元の世界に帰ったって、いいことなんかないから。その思いが強かったのも、否定はしない。
仮に帰れたとしても、弟の巧海はもう戻って来ないし、私自身、HiMEの運命に翻弄されて終わりだろう。
それを思うなら、せっかく知り合えた親友と共に今後を歩んでいったほうが、気は楽だ。
どこぞの王ドロボウみたいにいろんな宇宙を旅して回るほどのガッツは、私にはない。
大して話も合わなかった王様に付き従うなんて最終手段にも等しい生き方は、論外だ。
だったら、私はゆたかの隣を選ぶ。それしかない。ううん、むしろゆたかの隣がいい。
というのが、紛れもない私の本心。
けど、私が帰れなかった本当の意味を考えるとなると、実際のところは私の思惑なんてなかったも同然なんじゃ、と考え付く。
帰れなかったという意味では、私だけじゃなく、ゆたかも同じなのだ。
だってここは――ゆたかの帰るべき故郷でもなかったのだから。
759
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:56:12 ID:bQZRqflE0
考察し行き着いた結論を述べると、帰れなかったのではなく、帰ることが許されなかったのだ。
私たち二人をこの虚構の世界に誘った張本人……他には考えられないアンチ=スパイラルが、私たちの帰還を阻んだのである。
私たちが今、存在を許されている〝ここ〟について話そう。
具体的な違いは、泉こなた、柊かがみ、柊つかさの消失である。
この世界に辿り着いてすぐ、私たちはゆたかが居候している伯父さんの家、泉家を訪ねた。
家の主、泉そうじろうさんは何食わぬ顔で私たちを迎え入れ、なにを問いただすこともしなかった。
異常だった。
私たちが数日間失踪していたことについても、私の素性についても、娘の所在についても、まるで言及してこない。
事態を訝ったゆたかが尋ねてみて、私たちはそうじろうさんが持っている認識と、驚くべき現実を把握した。
この世界の私たちは、失踪などしていなかったのである。
螺旋王による拉致も、数日間の不在も、他者にはまるで認知されていなかった。
朝起きて学校に行き、夕方に帰ってきた娘たち……そうじろうさんは、私たち二人をそう認識していたのだ。
ここまでなら、平行世界における単純な時差と捉えることができる。
しかし最大の疑問は、そうじろうさんが私、鴇羽舞衣について言及してこないという部分だ。
……それもそのはず。この世界における私の役割は、〝鴇羽舞衣〟ではないのだから。
この世界における、私の役割。
それはそうじろうさんの娘であり、ゆたかの従姉である――〝泉こなた〟だったのだ。
要するに、そうじろうさんは私のことを鴇羽舞衣ではなく、自分の娘、泉こなただと思っていたっていうこと。
実際そうなのだ。泉家で過去のアルバムやらビデオテープやらを漁ってみたが、そこには幼少時代の私が映っていた。
その代わり、ゆたかの知る〝こなたお姉ちゃん〟の姿はどこにも存在していなかった。
螺旋王の実験に参加していたゆたかの友達は、もう二人いる。
柊かがみと柊つかさ……彼女たちの所在についても調べてみたが、結果は泉こなたと同じだった。
柊家を訪ねてみると、そこには柊いのり、柊まつりという二人の姉妹がいた。
彼女たちは本来、柊かがみや柊つかさの姉に当たるのだというが、揃ってそんな妹は知らないと言う。
柊家の四姉妹は三女と四女を欠いた。いやこの世界では、元々長女と次女しか存在していなかったのである。
いるはずの人物が、最初からいないものとされているおかしな世界……私たちは、これを否定することができなかった。
知ってしまっていたから。
既に、多元宇宙という無限の可能性を知りえてしまっていたから、ここが虚構ではないと断言できてしまうのだ。
さて、ここで『どうして私たちがこんな世界に辿り着いてしまったのか』という疑問について考えてみよう。
あまりにも都合のいい人間関係の改変。あつらえられたような環境。私たちに考えさせるような様々な要素。
これらを踏まえて考え……るまでもない。解答は、アンチ=スパイラルによる干渉。これしか思い当たらなかった。
760
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:56:50 ID:bQZRqflE0
『―― 貴様には俺たちを長期的、かつ特殊な刺激の少ない場所に移す義務がある!! ――』
そもそもアンチ=スパイラルは、私たちをいったいどうしたかったのか。
当初は捨て置かれる運命だった私たちを、アンチ=スパイラルはわざわざ救済してのけた。
ルルーシュのヤケクソ気味の交渉のおかげでもあるが、アンチ=スパイラルとしては温情を働いたわけではなく、譲歩したにすぎない。
貴重とも言える観察対象を、使い勝手のいい鳥かごに閉じ込めておこう――なんてことはない、それがアンチ=スパイラルの心理。
奴らはルルーシュの求めに応じ、『長期的かつ特殊な刺激の少ない場所』として、この世界をあてがったのだ。
もし、私たちがそのまま元通りの生活に戻ったとして。
ゆたかは大変だろう。
彼女の数日間の不在は失踪事件として取り上げられ、しかも同時期に仲のいい友達が三人も行方不明、帰ってきたのは一人のみ。
マスコミの集中砲火はまず免れないだろうし、娘に先立たれたそうじろうさんはショックのあまり自殺してしまうかもしれない。
渦中のゆたかなど、しばらくの間は刺激に溢れすぎた日常を送ることになる。
それはアンチ=スパイラルとしても望まない、ということなのだろう。
私の場合、そういった事件絡みのごたごたは風華の人たちが容易に揉み消すだろうことが想像できる。
が、元の世界に戻ったらまず、私には蝕の祭が待っているのだ。
大切な人を失ったにも関わらず、カグツチを扱えてしまう私はさぞイレギュラーな存在として祀り上げられるだろう。
凪あたりの反応がちょっと見てみたくはあるが、それで実際に蝕の祭の行く末どうなってしまうかは、見当も付かない。
螺旋力のおかげで一番強いHiMEになりました……なーんて、それはアンチ=スパイラル的にどうなんでしょうね。
どちらも等しく、刺激の少ない場所、と言えるような環境ではないのだ。
ここが元からあった世界なのか、アンチ=スパイラルがわざわざ用意した世界なのかはわからないが、都合がいいという点についてはもはや疑いようもない。
私たちは鳥かごに閉じ込められた小鳥として、壮大なる宇宙の意思の監視下で、生を全うするしかないのだ。
暮らしていく分には、不自由も不満もない。
ただ、ここは本当に帰るべき場所とは違う――ということを考えると、私もゆたかも度々ブルーになる。
死んでしまった人たちにはもう会えない、という部分では忠実なんだけど、元々存在しない、となると感慨もまた違ってくるものだ。
『―― なら、さ。悲観せず、とりあえず生きてみましょうよ。鳥かごの中で……二人一緒に。一生懸命! ――』
事実を受け止めて、それでもめげず、私とゆたかは生きる道を選択した。
ゆたかは小早川ゆたかとして、私は泉こなたとして。
アンチ=スパイラルの視線なんかに負けず、精一杯に。
761
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:57:15 ID:bQZRqflE0
決心してからの私たちがどうしたか、についても語っておこう。
まず私、泉こなたとしての鴇羽舞衣は、帰ってきてからしばらくして学校を辞めた。
そうじろうさん――お父さんには猛反対されたけど、そこは我を通させてもらった。
理由らしい理由は、ないのかもしれない。言ってしまえば、私のわがまま。
泉こなたの築き上げてきた人間関係をそっくりそのまま継承して、のうのうと学園生活を送るのが嫌だった。
というよりも、本物のこなたさんに悪いと思ったから、かな。これは気持ちの問題。
ここにいる私は泉こなただけど、生き方くらいは鴇羽舞衣として選びたい。
そう一念発起して、やっていることと言えば気ままなアルバイター生活。
巧海と二人で暮らしていた頃、いろいろやっていたというのも要因なのかもしれない。
やっぱり、自分らしい生き方をするのが一番気楽なのだと思う。
ある程度お金が溜まってから、私はバイクを買った。
免許も取って、こうやって夜の峠を走るくらいにはハマっている。ああ、もちろん無事故無検挙ね。
なんといいますか、自分らしい生き方をしたいという欲求がある一方で、新しい生き方を模索したいと思った次第で。
ああ……あそこでは、シモンを後ろに乗せて走ったこともあったっけ。素人が手を出した結果、酷い事故に繋がったけど。
身につけた教訓を有用にしたかった、ってことなのかな……なつきに影響された部分も、あったんだと思う。
ゆたかについても話しておこう。
あの子はまあ、普段の暮らしに戻っただけなんだけど……こちらに帰ってきてから、アニメ鑑賞という趣味が増えた。
経緯を説明するとすれば、とある驚くべき発見がすべての引き金だったと言える。
ゆたかと一緒にテレビを見ていたときのことである。
『―― ねぇ、舞衣ちゃん。このCMに出てるのって…… ――』
『―― ……はい? ――』
DVDかなにかのコマーシャルに、ルルーシュが出演していた。
声はそのまま、姿形も瓜二つ、だけどそれは実写ではなくアニメ絵で、調べてみるとアニメDVDのCMであるようだった。
関心を持った私たちは、雑誌やインターネット、学校のアニメに詳しい友達から情報を入手して、真相に行き着いた。
――螺旋王の実験に参加していた人たちはみんな、アニメキャラクターだったのだ!
突拍子もないこと言ってると思うし、実際その衝撃たるや疑って然るべきだったけど、本当なんだから仕様がない。
それぞれ制作された年代に差はあれど、実験参加者のほとんどの人間が、この世界ではアニメの登場人物として動いていたのだ。
たとえば、菫川先生は「R.O.D」という作品に。
スカーさんは「鋼の錬金術師」という作品に。
ガッシュは「金色のガッシュベル!!」という作品に。
皆、生き写しのような性格、容姿をしており、各々が独自の世界を築き、物語を成していたのだ。
元の世界でもこれらのアニメ作品があったのかと訊いてみたが、そっちの方面に疎いゆたかはよくわからないと言う。
私も詳しいってわけじゃないけど、少なくとも子供時代にみんなの出てくるようなアニメを見たことはない。
これもアンチ=スパイラルによって捏造された代物なのか、またその意図はなんなのか、答えは出てこなかった。
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:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:58:16 ID:bQZRqflE0
この事実を知ったゆたかは、実験参加者たちが出演している作品を片っ端から集めるという行動に出た。
レンタルで大体済ませられるっていうのに、ゆたかは強情にも買い揃えると言い出し、そのためにバイトを始めたりもしたっけ。
一番最初に手に入れたのが、「宇宙の騎士テッカマンブレード」という作品。
私とゆたかにとっても縁深い人物……Dボゥイが主役を張っていたアニメだ。
内容はとても女子高生が見るようなものとは思えなかったけれど、ゆたかと私は食い入るように全49話を視聴した。
実験場では知ることができなかった、Dボゥイが抱えている確執と苦悩……それらを視聴者という立場で改めて知り、複雑な気持ちに襲われもした。
二人で一緒に「劇場版 天元突破グレンラガン」を見に行ったときなんて、ゆたかが感動で泣き出しちゃったりもした。
それにはアンチ=スパイラルも登場していて、壮絶な最期を遂げたりもしたのだが……本人は今頃どこでなにをしているのやら。
それは生き残ったみんなにも言えることだった。皆が元の世界に無事帰れたと仮定するなら、
ルルーシュやギルガメッシュはもうこの世にはいないのかもしれないし、違った歴史を歩んでいる可能性とてあり得る。
……こういうのを考えるのは苦手だからやめておこう。SFって、難しくてよくわかんないんだもの。
ゆたかのコレクションは、今日買った「カウボーイビバップ」、スパイクの出演作で、全作品コンプリートとなる。
さすがに、私やゆたかが登場しているアニメ作品は発見できなかったけれど……他の世界では、もしかしたら私たちもアニメキャラクターを演じているのかもしれない。
そんな感じで。
私たち二人はそれぞれの道を歩み出し、ゆたかはもうそろそろ高校を卒業するのだが……ああ、そういえば。
この世界にやって来たのは、私とゆたかだけじゃなかった。
もう一人の帰還者についても、ここで話しておこうと思う。
なんの縁か、こんなところにまでついてきてくれた彼――インテリジェント・デバイス、ストラーダについて。
◇ ◇ ◇
763
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:58:54 ID:bQZRqflE0
『どうやら、この地における私の役目は取り上げられてしまったようです。そこで、お二人に最初で最後のお願いをしたい』
帰還してしばらくの間は寡黙を貫き通していたストラーダが、不意にそんなことを言い出した。
クロスミラージュに問いかけていた勇ましい口ぶりとは違う、懇切丁寧な態度で、舞衣とゆたかに乞う。
『私という存在、そしてあなた方が彼の地から持ち出したいくつかの物品。それらは等しく、ここではオーバーテクノロジーと成り得るものです。
行き過ぎた技術は、文明の崩壊を招きかねない。いや、これは言いすぎだとは思いますが……どちらにせよ、もう私の役目は終わったのです』
ストラーダの要望により、舞衣とゆたかは誰もが寝静まる深夜、人気のない山奥へと足を運んだ。
当然それにはストラーダも同行し、二人の肩には感触の懐かしいデイパックが提げられてもいた。
『この虚構のような世界に関しても、ここに誘われたあなたたち二人に関しても、思うところはあります。
彼の地で螺旋力覚醒の第一号となった小早川ゆたか。螺旋力とは異なる想いの力で天元を目指して見せた鴇羽舞衣。
あなたたち二人はヴィラルほどではないとはいえ、アンチ=スパイラルにとっては絶好の観察対象なのかもしれません。
私も含め、鳥かごに閉じ込めておくには最適な組み合わせでもあるのでしょう。だからといって、それを甘んじて許す必要もない』
適当な場所に辿り着くまで、ストラーダは二人と言葉を交わし続けた。
デバイスとして、仮のマスターとして、双方とも大した間柄は築けなかったが、共有している〝想い出〟は移り変わるものではない。
そして、深い山中に足を踏み込んだとき、ストラーダがまた唐突に願う。
『私をこのまま土中深くに埋めていただきたいのです』
舞衣とゆたかは、さすがに承諾することができなかった。
相手はAIを持った程度の機械にすぎない、とはいえ、舞衣やゆたかの価値観から言わせれば、人間の命と重さはなんら変わりなかった。
ストラーダという確かにそこに在る存在に対して、所持者という肩書きを持ち合わせた二人は、選択を――。
「だめ。許さない」
――迫られ、ゆたかは即座に答えを選び取った。
平時の和やかな印象とは違う、あの壮絶なる螺旋の鉄火場を生き抜いた、戦士としての顔を毅然と向ける。
この反応を予想していなかったらしいストラーダは、表情を持たぬ槍の身に、驚きの様相を纏う。
「私は、いろんな人に守られて、今ここにいるの。フリードが私を庇ってくれたとき、強く、思ったから。
……生きていかなきゃ、いけないって。この命を守ってくれたみんなのためにも、精一杯、生きなきゃいけないから」
涙ぐんだ表情で、ゆたかは熱弁をふるい続けた。
受け取る側のストラーダは寡黙な槍へと立場を戻し、その心理を秘す。
主を失い、役目を失い、居場所すら失ったデバイスに、どのような施しを与えるべきなのか。
ゆたかも舞衣も知り得ず、しかし本人の要望どおりに命を埋没をさせ、終わらせることだけは違う、と頑なに信じ込む。
人間の傲慢とも取れる応答に、乞うた側のストラーダは、
764
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:59:39 ID:bQZRqflE0
『……あなたたちは、強いのですね』
少し寂しそうな音声で、本心を吐露し始めた。
『私はマスター……エリオ・モンディアルを失って以降、リュシータ・トエル・ウル・ラピュタに悪用されようとも、一切の抵抗をしませんでした。
我が身はデバイス。人間に使役されて始めて意味を成す存在である。あのような非常時に、独断で民間人と意思疎通を図ることは許されない。
そんな堅苦しい考えが、いつの間にか根付いていたわけです。同僚のクロスミラージュは、〝気合〟による状況の打開を提唱、実行までして見せたのに』
ゆたかと舞衣は、ストラーダという槍についてなにも知らない。
会話を交えようとしても、本人が語ることを拒んできた。
実験場を脱出するその瞬間まで、ストラーダは己の流儀に従い続けたのだ。
そして、非常の時間が終了した今になり、ストラーダはようやく自身の胸の内を曝け出す。
時空管理局機動六課での生活、エリオらとの訓練に明け暮れる日々、日常から戦場に至る自らの生き様を、すべて告白する。
当然、今という現実を生きる辛辣な心境についても。
『羨ましくもあり、悔しくもある。私はなにを成すでもなく、幸運にも生き永らえる道を獲得した。
英雄王と共に旅立ったマッハキャリバーはともかく、クロスミラージュやフリードリヒに合わせる顔がありません。
いえ、だから、と自暴自棄になっているわけではないのです。ですが、あなたたちに進言するには酷な頼みでしたね。
……すいません、しばらく時間をくれないでしょうか? 今一度、一人で考えてみたいのです……これからの、生き方を』
ストラーダは悩ましげに呟き、しかし確かに、生き方を検討すると言い切った。
ゆたかと舞衣はストラーダの意志を汲み、その他の物品を土中に埋めた後、目印として槍の穂先を突き刺し放置した。
『……ありがとうございます。小早川ゆたか。鴇羽舞衣。お二人に……どうか幸福を』
そのまま別れの言葉もなしに立ち去った。
程なくして戻ったそこに、ストラーダは刺さっていなかった。
◇ ◇ ◇
765
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 02:00:34 ID:bQZRqflE0
――ストラーダはどこに消えてしまったのか。今でもその謎は判明していない。
確かなのは、ストラーダが一人では動けないということ。ゆえに、誰かが連れ出したという可能性しか考えられないのだ。
それは数多の多元宇宙を股にかける王ドロボウか、はたまた盗賊を追い回す傲岸不遜な英雄王の仕業か。
アンチ=スパイラルに回収された、という可能性だけは否定したかった。心情的に。
なんにせよ、もうストラーダと会うことはないのだろう。
悲しくはない。だって、ストラーダは確かに生きると言ったのだから。
私とゆたかも……クロスミラージュやフリードリヒに恥ずかしくない生き方をしようと思う。
さて、今となってはいろいろと過去の出来事を、振り返ってみまして。
私は峠を越えた先、海が一望できる崖の辺りでバイクを停めた。
ヘルメットを外し、ゆたかと共に海を眺めやる。
とはいっても、時刻はまだ朝焼けには程遠い。視界は真っ暗だ。
黒一色の海面には引き込まれそうな魅力があり、油断していると崖下へと足を進めてしまいそうだった。
深海よりも澄んだ暗闇に目を奪われながら、ゆたかが不意に言葉を漏らす。
「あのね、舞衣ちゃん。私、小説家になる」
「そっか……ゆたかが小説家にね……」
夢を持つのは良いことだ。私もゆたかも、そろそろ就職を考えたりする時期だしね。
無難に進級して、無難に求人漁って、無難に手に職つけるよりかは、よっぽど若者らしい。
小説家かー。私は文才ないからなぁ……遠い世界だわ。ホント、ゆたかってば志が高い。
いや、待って。
今、さらっと爆弾発言が飛び出したような……って!?
「はぃ〜っ!? しょ、小説家になる〜っ!?」
あまりの不意打ちに驚かされ、私は体を張ったオーバーリアクションで逆にゆたかを驚かせた。
微妙な気まずさが漂う中、ゆたかはほんのり赤面しながら、おどおどと口を開く。
766
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 02:01:10 ID:bQZRqflE0
「うん、あのね。最近、おじさんにいろいろ教わったりして……」
「そりゃあ、そうじろうさんは現役の作家さんだけどさ……だから影響されたってわけじゃないんでしょ?」
ゆたかは、コクリ、と可愛らしく頭を垂れた。
「影響された、っていうんなら……こっち、かな」
示して見せたのは、アニメイトの買い物袋。中身は本日購入したばかりのカウボーイビバップDVD-BOXだ。
「まだ漠然としてるんだけど、別に小説じゃなくてもいいの。アニメでも、漫画でも、絵本や芝居だっていい。私は、自分の手で物語を、ハッピーエンドを作ってみたい」
ハッピーエンド。
菫川先生が口々に語っていた言葉だ。
あの殺し合いの結末は、はたしてハッピーなんて言えたのだろうか……言えるわけ、ないか。
たくさんの人が死んで、たくさんの想いが潰えて、舞台を牛耳っていた支配者は、今もどこぞでふんぞり返っている。
私たちは生き永らえさせられただけ。と現実を鑑みれば、またちょっとブルーになってしまう。
「私、こっち戻ってきてから、みんなの出ているアニメをたくさん見た。
みんながみんなハッピーエンドっていうわけじゃなかったけれど、その生き方は決して作り物なんかじゃない。
Dボゥイさんも、菫川先生も、ルルーシュくんも、アンチ=スパイラルさんだって! 精一杯生きてるんだって……」
ははは……アンスパさんもですか。
ゆたからしいというか、なんというか。
言わんとしていることはわかるけど、まあ……うん。
「……それもいいかもね」
私は、自分の顔が恥ずかしくなるくらいにやけているのを自覚した。
構わず、己の両手首に意識を集中させる。
胸の底から高ぶってくる感情を、顕現させるように。
誰かを想う――意思をこの世へと表出させ、イメージは燃える炎の如く。
軽い熱気が放たれた後、私の両手首に宝輪――HiMEの証であるエレメントが具現化される。
うん、完璧。
こっちに来てからも、私のHiMEとしての能力は失われていない。
力を使うのは久しぶりだけど、身に染み付いた感覚はなかなか忘れないものだ。
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shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 02:02:01 ID:bQZRqflE0
「ま、舞衣ちゃん……」
「うん? どうしたのよゆたか、そんな心細そうな顔しちゃって」
「だって、ここでHiMEの力を使っちゃったら……アンチ=スパイラルさんが怒鳴り込んでくるかも……」
「あー……」
まあたしかに、媛星の脅威にも見舞われていない平和な地球で、こんな異能ひけらかすのはよろしくないだろう。
ただでさえアンチ=スパイラルに睨まれてる世界だし、はしゃいだ挙句、あとでどんなとばっちりが来るかは想像もできない。
……なんて諦める鴇羽舞衣じゃないわよ。明日は明日の風が吹く。それが私のモットーだもの。
「けど、さ。少しくらいなら大丈夫でしょ。そのために、人目のない場所と時間を選んだんだから、さ?」
私はウィンクして、ゆたかに同調を試みる。
堅物のアンチ=スパイラルだって、これくらいは見逃してくれるって、たぶん。
ゆたかは少し疲れた表情を浮かべて、だけどすぐに笑顔を作り直し、頷いてくれた。
少女が過去を顧みて、未来を按じ、夢を語る。
こんな気分のいい日には、空でも飛びたくなるってものだ。
久々に、あの子にも会いたいしね。
「じゃ、いくわよ」
「うん!」
私はゆたかの華奢な体を抱き寄せ、エレメントに宿る炎をさらに高めた。
大きく息を吸い、腹の底から燃焼するようにして、声を発する。
呼ぶ。応えてくれる。我が子に。母の想いに――。
「カグツチィィィィッ!」
◇ ◇ ◇
768
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shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 02:02:53 ID:bQZRqflE0
――舞衣ちゃんと一緒に、飛ぶ。
カグツチの背に乗って、雲の上まで突き抜けて、地球の天井を超えそうなくらい、高く。
傍らの舞衣ちゃんは、私が揺れで落ちないよう、ぎゅっと抱きとめていてくれる。
心地よかった。肌で感じる温もりが、カグツチから感じる熱気が、安らぎに変わっていく。
「あのね、舞衣ちゃん。さっきの話の続きなんだけど!」
「うん!」
羽ばたく轟音、風を切る圧力に負けないよう、私と舞衣ちゃんは声を大きくして言葉を交わす。
「舞衣ちゃんにも、手伝って欲しいの! 私がちゃんとやれるように、傍で見守っていてほしい!」
「オッケー! それくらいお安い御用……っていっても、具体的にはなにやればいいのー!?」
訊かれて、私は答えを返せなかった。
ハッピーエンドで終わる物語を作りたい。この想いは本物だけど、まだ漠然としている。
なにから始めればいいのかも、手探りだった。感情だけが先行している。でも、それが駄目だとは思わない。
みんなに、幸福な結末の素晴らしさを知ってもらいたいから。
悲しみだけじゃない、悲しみの先には喜びも待っているっていうことを、私が知ったから。
――あそこで私たちがやってきたことは、無駄じゃないんだって。証明として遺したいから。
「う〜ん、じゃあさ! これから二人で考えましょうよ! 時間ならまだ、た〜っぷりあることだしね!」
「うん、そうだよね! 私たちの時間は、まだまだこれからなんだよね!」
声を張り上げて、私と舞衣ちゃんは笑い合った。
風が気持ちいい。抱擁の熱が心地いい。実感できる生に幸福を覚える。
こなたおねえちゃん。つかさおねえちゃん。かがみおねえちゃん。
Dボゥイさん。シンヤさん。高嶺くん。明智さん。菫川先生。イリヤさん。
ジンさん。スパイクさん。奈緒ちゃん。ニアさん。ドモンさん。ガッシュくん。
スカーさん。ギルガメッシュさん。カミナさん。ルルーシュくん。
マッハキャリバー。クロスミラージュ。ストラーダ。フリード。
あそこで出会ったすべてのみんなに、私は言葉を送りたい。
小早川ゆたかは、ここで生きています。
今も、これからも……精一杯、生きてみます!
769
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 02:04:41 ID:bQZRqflE0
「そうだゆたか! 約束! だったらアレ!」
「アレ……あっ、うん! アレだね!」
舞衣ちゃんが口に出したアレという単語に、私は当たりをつけた。
確認もせずに、二人でごそごそと荷物を探る。
あそこを発ってから、肌身離さず携帯していたお揃いの水晶を取り出し、見せ合った。
これは、私と舞衣ちゃんが約束ごとをするときの儀式みたいなもの。
Dボゥイさんとシンヤさんが残してくれたクリスタルが、今じゃすっかり指きりの代わりになっている。
「ここじゃ、私はゆたかのおねえちゃんだから。どこまでだってついていくし、どこにだってつれていってあげる!」
「私も、舞衣ちゃんと一緒にいたい! ううん、舞衣ちゃんと一緒にいる! 私たち、ずっと――!」
私と舞衣ちゃんの関係は、言葉では言い表せないものになっていた。
親友とも、姉妹とも、家族とも、恋人ともちょっと違う、不思議な関係。
今さら確かめ合うまでもなく、お互いがそう認め、刻んでいる。
――鴇羽舞衣を。
――小早川ゆたかを。
そうして、天壌の空間を翔るカグツチの背の上、約束は交わされる。
打ち鳴らされた水晶が、チンと優しい音を立てた。
【アニメキャラ・バトルロワイアル2nd らき☆すた with 舞-HiME――――shining☆days START!】
770
:
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:29:23 ID:m8XI02nQ0
それではこれより、ルルーシュのエピローグを投下します。
規制食らったのでこちらで
771
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:30:03 ID:m8XI02nQ0
行動には、常に結果がつきまとうものである。
誰がいかなる行動を取ろうとも、その先には必ず、その行動に応じた内容の結果が存在している。
であればすなわち結果とは、行動の変化によって表情を柔軟に変えるものというわけだ。
二者択一の○×問題にしても、どちらを選んだかによって、正解・不正解に未来は分岐する。
選択肢は二つしかないとも限らない。
三択、四択、時には十択以上にも。
得られた表面的事実は同じでも、抱く感情はまるで違うこともある。
1つ1つの選択が、複雑無数に枝分かれし、大樹を成すのが多元宇宙。
ならば、彼が取った行動の結果は――
◆
――ゼロ。
かつて合衆国日本に姿を現し、世界のあらゆる悪と戦うことを表明した革命家である。
神聖ブリタニア帝国の手に落ちた日本を瞬く間に奪還し、世界最大の国家連合・超合衆国連合を設立。
そして遂にブリタニアとも戦い、勝利を掴んだ英雄である。
今やその影響力は、名実共に世界最大。
小さな島国でデビューを飾ったテロリストは、そこから文字通り世界全国を刈り取ったのだ。
そしてその仮面の男こそが――偽りの螺旋王、ルルーシュ・ランペルージだった。
世界制覇に乗り出したブリタニアを打倒し、妹ナナリーの望む優しい世界を作ること。
自らを捨てた帝国への復讐を果たしたルルーシュは、遂に望む世界を手中に収めたのだ。
そして今、かの箱庭より生還した黒き皇子は、1人玉座へと頭を垂れている。
ブリタニア帝国首都・ペンドラゴン。
その中心に位置する王城の、玉座の間に彼はいた。
身に纏った漆黒の装束は、あくまで仮面の男・ゼロのもの。
かつて世界の3分の1を支配した、世界最強の帝国の長は別にいた。
ふ、と。
自虐的な色を含んだ笑み。
悲痛な気配の宿るそれは、さながらうなだれる様にも似て。
ルルーシュの紫の視線の先には、1人の少女の姿があった。
ブロンドを思わせる輝きの混ざった茶髪。閉じられたまま開かぬ瞳。その身を彩る豪奢なドレス。
彼女こそが、神聖ブリタニア帝国第99代皇帝。
彼女こそが、ナナリー・ランペルージ。
ルルーシュの愛した妹にして、今やブリタニアの頂点に立つ者だ。
「……何を間違ってしまったんだろうな、俺は」
ルルーシュが問いかける。
ナナリーは答えない。
ふっと穏やかな微笑を湛え、微かに首を傾げるだけだ。
一体何を間違ったのだろう。
一体どこで間違ったのだろう。
ルルーシュがブリタニアを倒し、ナナリーを王座に据えること。これが彼の最終目的。
望む世界を作るための地位を、彼女に与えるはずだった。
妹はブリタニア、兄は超合衆国連合。
それぞれがそれぞれの頂点に立ち、平和な世界の実現のため、共に歩んでいくはずだった。
なのに何故、こんな結果になってしまったのだろう。
こんな残酷な結末を、突きつけられる羽目になってしまったのだろう。
いつ間違った。どこで、何を間違った。
ルルーシュの思考は、ゆっくりと過去へとさかのぼる。
772
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:30:56 ID:m8XI02nQ0
行動には、常に結果がつきまとうものである。
誰がいかなる行動を取ろうとも、その先には必ず、その行動に応じた内容の結果が存在している。
であればすなわち結果とは、行動の変化によって表情を柔軟に変えるものというわけだ。
二者択一の○×問題にしても、どちらを選んだかによって、正解・不正解に未来は分岐する。
選択肢は二つしかないとも限らない。
三択、四択、時には十択以上にも。
得られた表面的事実は同じでも、抱く感情はまるで違うこともある。
1つ1つの選択が、複雑無数に枝分かれし、大樹を成すのが多元宇宙。
ならば、彼が取った行動の結果は――
◆
――ゼロ。
かつて合衆国日本に姿を現し、世界のあらゆる悪と戦うことを表明した革命家である。
神聖ブリタニア帝国の手に落ちた日本を瞬く間に奪還し、世界最大の国家連合・超合衆国連合を設立。
そして遂にブリタニアとも戦い、勝利を掴んだ英雄である。
今やその影響力は、名実共に世界最大。
小さな島国でデビューを飾ったテロリストは、そこから文字通り世界全国を刈り取ったのだ。
そしてその仮面の男こそが――偽りの螺旋王、ルルーシュ・ランペルージだった。
世界制覇に乗り出したブリタニアを打倒し、妹ナナリーの望む優しい世界を作ること。
自らを捨てた帝国への復讐を果たしたルルーシュは、遂に望む世界を手中に収めたのだ。
そして今、かの箱庭より生還した黒き皇子は、1人玉座へと頭を垂れている。
ブリタニア帝国首都・ペンドラゴン。
その中心に位置する王城の、玉座の間に彼はいた。
身に纏った漆黒の装束は、あくまで仮面の男・ゼロのもの。
かつて世界の3分の1を支配した、世界最強の帝国の長は別にいた。
ふ、と。
自虐的な色を含んだ笑み。
悲痛な気配の宿るそれは、さながらうなだれる様にも似て。
ルルーシュの紫の視線の先には、1人の少女の姿があった。
ブロンドを思わせる輝きの混ざった茶髪。閉じられたまま開かぬ瞳。その身を彩る豪奢なドレス。
彼女こそが、神聖ブリタニア帝国第99代皇帝。
彼女こそが、ナナリー・ランペルージ。
ルルーシュの愛した妹にして、今やブリタニアの頂点に立つ者だ。
「……何を間違ってしまったんだろうな、俺は」
ルルーシュが問いかける。
ナナリーは答えない。
ふっと穏やかな微笑を湛え、微かに首を傾げるだけだ。
一体何を間違ったのだろう。
一体どこで間違ったのだろう。
ルルーシュがブリタニアを倒し、ナナリーを王座に据えること。これが彼の最終目的。
望む世界を作るための地位を、彼女に与えるはずだった。
妹はブリタニア、兄は超合衆国連合。
それぞれがそれぞれの頂点に立ち、平和な世界の実現のため、共に歩んでいくはずだった。
なのに何故、こんな結果になってしまったのだろう。
こんな残酷な結末を、突きつけられる羽目になってしまったのだろう。
いつ間違った。どこで、何を間違った。
ルルーシュの思考は、ゆっくりと過去へとさかのぼる。
773
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:32:01 ID:m8XI02nQ0
◆
最低最悪の科学者・ロージェノムの実験場――そこから脱した彼が最初に行ったのは、まず情報確認だった。
彼にはC.C.という共犯者がいる。不死身を体現したかのような、正体不明のわがまま娘だ。
ルルーシュには元の世界に帰って最初に、彼女に問いたださなければならないことがあった。
――V.V.とは誰だ?
開口一番の問いがそれだ。
ルルーシュはあの螺旋王のデータバンクで、己の辿るある程度の未来の事象を把握している。
そしてその物語の中に、彼の知らぬファクターが存在した。それがV.V.という少年だ。
あの箱庭にあった情報を真実とするならば、こいつはランスロットのパイロット・スザクにギアスの情報を明かし、
あまつさえナナリーを誘拐するということになる。
これがマオならまだいい。ギアス能力者がギアスの存在を知っているのは当たり前。
だとするならば、その少年は何者だ。何故ギアスのことを知っている。
そいつもマオ同様、C.C.と何らかの関係を持っているのではないか。
彼女と行動を共にしていたのか。はたまた彼と同じギアス能力者か。
少なくともルルーシュの知る盤面の上に、このような駒は存在していない。決して見過ごせるものではない。
当のC.C.自身はというと、一瞬この問いに大層驚いてみせた。
だがやがて観念したのか、静かに白状を始めた。
V.V.の正体を。その恐るべき目的を。
金髪の少年・V.V.は、C.C.よりも後に能力に目覚めた、同じ“コード”の持ち主らしい。
ここで言うコードとは、彼女の持つ魔女の力の総称のことだそうだ。
要するにV.V.もまた彼女と同じく、「不死の身体」と「ギアスを与える力」を有しているということ。
そして既にこの少年は――当時のブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアと契約を結んでいた。
彼はブリタニア王の実兄であった。
おおよそ二桁にも満たぬ外見年齢しかないV.V.は、しかしルルーシュの伯父だったのだ。
コードの能力に目覚めるには、ギアス能力を授けられている必要がある。
彼がどのタイミングでに魔人の力を手にしたのか。それは今となっては定かではない。
だがかつてのブリタニア王家の内乱の折、兄V.V.は間違いなくコード能力に覚醒し、弟シャルルはギアス能力を授けられた。
そしてそのコードの力で、彼らが為し遂げんとした恐るべき計画がある。
それがラグナレクの接続だ。
現在のブリタニアの王城には、“アーカーシャの剣”と呼ばれる遺跡が存在する。
そして同時にこの地球には、それと近似した遺跡が随所に残されているのだそうだ。
後者の遺跡に関してはルルーシュも知っている。正確には、未来の彼が目撃している。
日本の式根島のすぐ近く――神根島と呼ばれる無人島に、その遺跡の1つがあるらしい。
そしてそれら全てを手中に収め、V.V.とC.C.の――案の定、彼女らはかつて協力関係にあった――コード能力を用い、
アーカーシャの剣を起動すること。
それがブリタニアの兄弟の最終目的であり、シャルルが始めた侵略戦争の最大の理由だった。
この行為を、ラグナレクの接続と呼称するのだという。
そしてその行動に伴い、引き起こされる結果は――全人類の合一化。
そもそもアーカーシャの剣とは、「Cの世界」と呼ばれるものに干渉するための端末なのだという。
Cの世界とは、言うなれば集合無意識。
時間、国境、血縁……はたまた生死の境界すら問わず、あらゆる人間の無意識が溶け合ったものである。
シャルルはこれを操作することで、全ての人間の有意識さえも、そのCの世界に取り込もうというのだ。
774
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:32:31 ID:m8XI02nQ0
これは由々しき事態である。
確かに全ての人間が1つとなれば、あらゆる思想は統一され、争いのない平和な世界が実現されるだろう。
だがその世界には平和しかない。
自分と他者の境界を取り払うということは、世界の全員が自分であるということ。
すなわちそれは、自分以外に誰もいない世界と同じだ。
そもそも人は何故平和を求めるのかといえば、大切な人々と共に穏やかで楽しい時間を過ごしたいからである。
ならば、独りぼっちで謳歌する平和に、一体どれほどの価値があるだろう。
皇帝の掲げた理想と計画は、既に構想の段階で、大いなる矛盾を抱えていたということだ。
結局のところ彼の理想は、思い上がった偽善者の大量虐殺に過ぎない。
地球上の全人類が、それを理解してもいない人間に皆殺しにされるのだ。
C.C.の言葉を信用するならば、まだラグナレクの接続までには猶予が残されている。
ブリタニアによる世界制覇が成し遂げられていない今、計画の実行にはまだ遺跡が足りない。
それが全て皇帝の手中に収まるよりも早く、帝国を打倒しなければならないのだ。
さて、改めてルルーシュはブリタニアと戦うことになるわけだが、ここで解決すべき課題が3つある。
1つはシャーリー・フェネットのこと。
1つは枢木スザクのこと。
1つはユーフェミア・リ・ブリタニアのこと。
彼女ら3人のうちシャーリーとユーフェミアは、遠からず自分の戦いに巻き込み悲劇を味わうことになってしまう者。
そして残されたスザクは、このままでは最悪の強敵として戦うことになってしまう者。
未来のビジョンを見たことで把握したこれらのリスクは、可能な限り抑え込まなければならない。
これはC.C.に聞いたことだが、ルルーシュが行方をくらましていた数日間、スザクは何事もなく学園に登校していたらしい。
カレン・シュタットフェルトも同様だ。
つまりあの殺し合いの場にいた彼らは、アンチスパイラルの言葉を借りるなら、自分とは違う多元宇宙の住人であったということ。
もう二度と会えないとばかり思っていた親友が生きていたのは嬉しいが、おかげで対処すべき案件も増えてしまった。
また、ジェレミア・ゴッドバルトの方にも手を打っておきたかったが、
こちらは既にブリタニアに身柄を確保されている。今から手を出すのは難しいだろう。
ともあれそれらの課題を抱え、ルルーシュは行動を開始した。
まず最初に振りかかったのは、シャーリーの問題である。
螺旋の城にて垣間見た未来においては、スザクに撃墜されたところを目撃され、正体を知られてしまうという結果を迎えていた。
戦闘が始まってからという状況を考えると、黒の騎士団の団員に見つけさせるという対処法も厳しいだろう。
であれば、取るべき手段は1つ。スザクに撃墜されないようにするということ。
ここは藤堂奪還作戦で用いることになっていた、対ランスロット戦術を、データよりも先に持ち出すことで対処した。
先のナリタ連山からルルーシュは、ランスロットの戦闘データの分析を始めている。
このデータは次のトウキョウ湾での戦いを経てようやく完成するわけだが、それをそのトウキョウ湾で出すわけだ。
今は未完成の戦術でも、未来では既に完成している。そしてルルーシュは既にそれを見てきている。
少々もったいないカードの切り方ではあるものの、結果としてランスロットを撤退に追い込むことには成功。
ゼロへの憎しみを拭い去ることこそできなかったものの、シャーリーに正体を知られるという事態は回避された。
そしてこの時同時に、ルルーシュを嗅ぎ回っていたヴィレッタ・ヌゥも、戦闘に紛れて始末している。
775
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:33:05 ID:m8XI02nQ0
――未来は変わった。変えることができたんだ。未来を、世界を変える力……俺にはその力がある……!
あの螺旋王の居城から手に入れた未来の情報。
禁断の果実を口にしたルルーシュは、既定された未来を改変することに成功した。
思えばこの瞬間から、彼の増長は始まっていたのかもしれない。
ルルーシュ・ランペルージは勝利したのだ。
ただの一度ではああったものの、軍でもランスロットでもなく、世界そのものを屈服させた。
人知を超えた存在から勝利をもぎ取ったという事実に、ルルーシュは大いに酔い、笑った。
その後、マオなどの細かな事象に対応しつつ戦う中で、彼は2つ目の課題に直面する。
枢木スザクだ。
これは3つの課題の中で、最も慎重に扱わなければならないものでもあった。
なすべきことは決まっている。説得し仲間に引き入れること。
だが、時期が問題だ。
あまり早期に彼を手駒に加えては、式根島でのランスロット捕獲作戦が実行されなくなる。
これがなければルルーシュが神根島に流されることもなくなり、新型KMF・ガウェインを強奪することも難しくなるのだ。
飛行能力と絶大な火力を有したガウェインのスペックは、まさに圧倒的の一言に尽きる。
ハドロン砲の炎で大地を焼き、天空に君臨する漆黒と黄金の巨体は、まさしく神話の魔王そのもの。
とはいえこのガウェインも、単なる遺跡調査のために持ち出される予定のもの。黒の騎士団を動かす大義がない。
故にこの機体は未来情報通り、どさくさ紛れに強奪しなければならない。
だが遅すぎてもいけない。説得の機会がユーフェミアを利用した後では、まず間違いなくまともに話も聞かなくなるだろう。
あの資料の最後に見た、遺跡での対峙がいい例だ。スザクにとってユーフェミアとは、それだけの価値のある存在だった。
そして更に最終手段として、ギアスをかける余地も残しておきたい。
となるとやはりスザクを仲間に引き入れるのは、ロージェノムの資料と同じタイミングに限定される。
すなわち、ランスロット捕獲作戦の瞬間だ。
そしてルルーシュは式根島にて、その作戦を実行する。
ゲフィオンディスターバーで白騎士を無力化し、そのコックピットへと滑り込んだ。
素顔を晒すためだ。
犯罪者ゼロとしてでなく、親友ルルーシュとして説得するために。
憎むべき敵ではなく愛すべき友としてでなら、話を聞いてくれると信じていた。
自分達2人でできないことは何もない。そう信じていたかった。
それが恐らくルルーシュに残された、最後の良心であったのだろう。
ゼロはまだ、スザクにとって決定的な行動を起こしてはいないはずだ。彼だけは味方になってくれるはずだ、と。
だがしかし、少年の抱いた淡い期待は、脆くも打ち砕かれることになる。
――友達だからこそ、君の行いを見逃すわけにはいかない。今からでも罪を償うんだ。
否定。
かけられた言葉は予想の反対。
これ以上罪にまみれる君を見たくない。弁護には僕も協力する。だからすぐに自首するんだ。
ひどく優しい声音をして、スザクはルルーシュを拒絶したのだ。
これは全くの予想外。
本来の歴史とは異なる行動を取った。これで未来を変えられるはずだった。
だが、状況は何も変わらない。しかも正体を知られた分、前よりも不利になってしまった。
何故だ。
何故お前は俺を裏切る。
沸々とルルーシュの胸に込み上げた、理不尽な怒り。
信頼していたのに裏切られた。状況が全く思い通りにいかない。力を手にしたはずだったのに。
怒り狂う彼の視線の先では、なおもスザクが説得の言葉を重ねている。
そして、遂にこの瞬間。
――……お前が……お前が、悪いんだぞ……お前が俺を裏切ったんだからなぁぁッ!!
776
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LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:33:40 ID:m8XI02nQ0
ルルーシュはギアスを発動させた。
唯一支配はしたくないと、願い続けていたいた相手を、その異能で操ってしまったのだ。
“俺の部下になれ”。
憤怒と憎悪の導くままに、吐き捨てたのは8文字のワード。
あらゆる自由と意思は失われ、スザクは忠実な下僕となった。
ルルーシュはその手で愛すべき友を、操り人形へと変えてしまったのだ。
その後スザクは彼に従い、現れたガウェインの砲撃から脱出。
後はあらかじめ用意されていた未来のシナリオのまま、ガウェインを強奪し神根島を脱出した。
この時ランスロットで共に脱出したスザクには、その場に居合わせたシュナイゼル・エル・ブリタニアを抹殺させている。
母の仇の情報を聞き出せなかったのは、残念と言えば残念だが、今はそんなことを気にしてはいられなかった。
どうせ後から戦う皇帝に聞き出せばいい。厄介なシュナイゼルは今のうちに殺してしまえ。
スザクを手にかけたルルーシュの箍は、既に完全に外れていた。
まともでいられるはずもない。何せ唯一無二の親友の人格を、完全に破壊してしまったのだ。
なりふり構う余裕など、全て狂気に押し流されていた。
両の瞳を潤ませながら、ルルーシュはひたすらに笑い続けていた。
不本意な形ではあったものの、スザクの課題をクリアしたルルーシュに残されたのは、ユーフェミアの存在だった。
行政特区日本という形で、限定的に日本人の復権を実現するという方針。
彼女の提唱するこの特区が実現されては、黒の騎士団の存在意義は失われてしまう。
当然未来におけるルルーシュも、これを阻止すべく行動した。
その時ギアスの暴走により、偶然下してしまった命令は、会場に集まった日本人を虐殺しろというもの。
これも人々を煽るという意味では悪くない選択だが、それでは無駄に血が流されてしまう。
今後ブリタニア本国という巨大な敵と戦うことを考えると、戦力の芽を断ってしまうのは旨味がない。
ここはやはり、資料の自分が最初に考案した策を実行することにしよう、と判断した。
スザクにギアスをかけ、歯止めのきかなくなったルルーシュにとっては、
ユーフェミアも日本人も、ブリタニアを倒すための駒に過ぎなかったのだ。
こうして行政特区式典に姿を現したルルーシュは、ユーフェミアとの一対一の対峙に臨む。
本来の歴史同様、彼女はゼロの正体を神根島で知っていた。
故にルルーシュへと手を差し伸べ、共に行政特区を築いていこうと提案する。
だが、その手が握り返されることはなかった。
――さようなら、ユフィ。多分、初恋だったよ。
代わりに返されたのは、狂える魔人の凄絶な笑み。
真紅に輝く左の瞳と、あらかじめ用意していたニードルガンだ。
実銃よりも威力の低いこれを、敢えて自分に向けて撃たせることで、ユーフェミアを「日本人を騙した悪者」へと仕立て上げる。
その後、ゼロが奇跡の復活を遂げてみせ、人心を一気に手繰り寄せる。これがルルーシュの作戦だ。
ユーフェミアはこの命令を忠実に実行、一転して魔女と罵られることとなる。
そして復活したルルーシュにより、遂に合衆国日本設立が宣言された。
こうして多くの相違点を孕みながらも、ルルーシュの現実は未来のビジョンにおける、最後の戦いの舞台へと一歩踏み出したのだ。
777
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:34:16 ID:m8XI02nQ0
皇暦2017年、トウキョウ。
遂にエリア11史上に残る、最大規模の反乱の幕が切って落とされた。
トウキョウ事変である。
既に情報を得ていたルルーシュは、それらを元に反省点を改善し、完璧な指揮をもってこの戦いに臨んだ。
資料通りに戦っていては、最終的にほとんど返り討ちに近い結果を招いてしまうのだ。何もしない方がおかしい。
まず、直接の敗北の要因となったナナリーに関しては、誘拐される前に直接手を打った。
彼女を「ブリタニアに捨てられた皇女ナナリー・ヴィ・ブリタニアだ」と敢えて公表することで、騎士団の保護下に置いたのである。
そして、総督コーネリア・リ・ブリタニアとジェレミア。
これにはそれぞれカレンの紅蓮弐式、スザクのランスロットを割り当てることで対処。
元々データにおける黒の騎士団の劣勢の一因は、ランスロットが暴れ回ったこと、それに紅蓮が早期に撃破されたことにもあった。
そのスザクが自軍に加わり、カレンも撃墜を免れたのだ。進軍効率は目に見えて向上した。
こうしてトウキョウ政庁制圧に成功したルルーシュは、瞬く間にエリア11全土を掌握。
見事日本をブリタニアから奪還し、合衆国日本を立ち上げたのである。
一国の大統領となったゼロは、いよいよ本格的にブリタニアとの戦争体制を整える。
まずは中華連邦へと手をかけ現行政府を打破、圧政と貧困に喘ぐ国民達を解放してみせた。
こうして極東各国との盟約締結に着手し、
ブリタニアとの戦争で散り散りとなっていたたEU諸国とも繋がりを得たルルーシュは、超合衆国連合の構想を発表。
更に裏では、スザクの上官ロイド・アスプルンドと接触し、懐柔することに成功。
強大なブリタニアに立ち向かうだけの国力と技術を、ようやく得るに至ったのである。
当然、決戦に至るまでに時間はかからなかった。
程なくして超合衆国連合は、ブリタニアとの全面戦争に突入。
ルルーシュが長らく待ち望んだシャルルとの対決が、いよいよ実現したのだ。
当然、帝国の戦力も一筋縄ではいかない。 帝国最強の12騎士・ナイトオブラウンズ、更にはV.V.の精製したギアス能力者軍団もいる。
だがここでも、スザク・カレンの両者がいること、また、予期せぬ形でジェレミアが騎士団に加入したのが幸いした。
ロイドの開発したランスロットと紅蓮の改良型・第9世代KMFは、ラウンズの第7世代を遥かに凌ぐ性能を発揮。
更に元は対ルルーシュ用として送り込まれたジェレミアのギアスキャンセラーも、ギアス能力者相手に絶大な威力を誇った。
ここに藤堂の新型・斬月、中華連邦の武人・李星刻の駆る神虎が加わることで、エースパイロットの戦力差は対等となる。
兵隊の力が互角となれば、後は軍師の戦略の出番だ。
既にブリタニア側の指揮官のうち、シュナイゼル・コーネリアは死亡している。となれば戦略面はルルーシュの独壇場。
壮絶な決戦を制したのは、反逆者ゼロの率いる黒の騎士団だった。
逆らう奴らに容赦はしない。命乞いをする敵も皆殺し。味方はとうに、全員ギアスの奴隷に変えていた。
戦乱の果てに、遂にルルーシュは皇帝シャルルを殺害。V.V.をもコード能力者用のカプセルに封印。
世界全土を超合衆国連合の傘下とし、地球上のほぼ全ての国家を統一するに至ったのである。
憎きブリタニアは滅ぼした。母の仇はシャルルから聞き出した。
多くの犠牲を払いながらも、全てをその手に勝ち取った。
ルルーシュはいよいよ、最大にして最後の目的を実行に移す。
これまで厳重に保護していたナナリーに、ブリタニアの王座を託す日が来たのだ。
兄は合衆国を、妹は帝国を。
兄妹2人で力を合わせ、優しい世界を作り出す。その目標の実現の日。
ナナリーがブリタニアの女帝となったその瞬間、ようやくルルーシュの長き戦いは終わるはずだった。
――お兄様……私は、こんな世界を望んでいたんじゃありません!
それを否定されることがなければ。
778
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LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:34:50 ID:m8XI02nQ0
――な……何を言っているんだナナリー! 俺はお前のために、今まで……!
――ごめんなさい、お兄様……でも、こんなのはやっぱり間違っています!
よく考えてみれば分かる話ではあった。
心優しいナナリーが、誰かの犠牲の上に成り立つ世界を与えられて、喜ぶはずもないのだと。
自分のために多くの血が流れたと知って、嫌悪感を示さないような子ではないじゃないか、と。
だが、遂にルルーシュはここに至るまで気付かなかった。
いいや、気付きたくなかったのかもしれなかった。
スザクの心を踏みにじり、破壊してまで得た世界が、否定されるなどということは認められなかった。
であれば自分は何のために、多くの犠牲を払ってきたのか。
何のために無二の親友を手にかけたのか。
今さら否定されてたまるか。
もう戻ることはできないんだ。
自分がどれだけの労力をなげうって、お前のために頑張ってきたと思っている。
どうして大切な人間に限って、自分のことを分かってくれない。どうして思い通りにならないんだ。
許さない。
俺の行動を否定することは許さない。
ナナリーであろうと許しはしない。
――う……うるさい! 黙れ、黙れ、黙れっ!
怒りも露わな視線をナナリーに向けるという暴挙。
憎しみさえも叫びからにじみ出るという暴走。
最愛の妹の存在を、怒り憎むという矛盾。
制御できぬ極大の憤怒と憎悪の中、ルルーシュが投げかけた言葉は。
――お前は黙って、俺の言うことを聞いていればいいんだっ!!
779
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:35:32 ID:m8XI02nQ0
◆
こんなはずではなかった。
全てが後の祭りだった。
激情の皇子が我に返ったのは、命令が実行された後。
あろうことかルルーシュは、閉じられた瞼を強引にこじ開け、ナナリーにギアスをかけていたのだ。
ギアスによる命令は絶対。かけた本人にさえも覆せない。
黙って俺の言うことを聞け、と。
ルルーシュがそう命じた通り、ナナリーは彼に黙って従い続けるだろう。
口も瞳も開くことなく、ルルーシュの声だけを聞き続けるだろう。
ナナリーは完全に壊れてしまった。
愛らしい妹はどこにもいない。ここにあるのはただの抜け殻。
世界で最も愛しい者の姿をした、ルルーシュの痛ましき罪の証。
こうして傍にいるだけでも苦しくて、されど、見放すこともできなくて。
周りを見回してみても、もう自分の側には誰もいない。
敵対する者は皆殺しにしてきた。味方は全員ギアスで従わせた。
唯一魔眼の効かぬジェレミアは、忠義の猛攻の果てに討ち死にだ。
愛すべき親友も妹も、死体同然の操り人形。
もはやこの地上のどこにも、ルルーシュが頼れる人間はいなかった。
望むもの全てを手に入れながら、突き進んできた道程の果てに、たどり着いたのは独りぼっちの地平。
切り捨て、利用し続けてきたその先は、地獄のごとき孤独の世界。
こんなはずではなかった。
こんな結末を望んでいたんじゃなかった。
勝ち続ければいいのではなかったのか。
立ちはだかる障害全てを打ち砕けば、幸福になれるのではなかったのか。
どれだけ後悔しようとも、力の結果は覆せない。
王の力はお前を孤独にする。
かつてギアスを手にした時、ルルーシュが聞かされていた言葉だ。
あの時は深く意味を考えることもなかったが、なるほどこういうことだったのか。
ふ、と。
自嘲する。
己自身を嘲笑う。
全くもって滑稽なものだ。
世界の支配者になったつもりが、結局は未来に踊らされた道化だったということか。
(あいつらならば、どうしていただろうか)
ふと、そんなことを考えていた。
もしもあの世界で出会ったあいつらが、自分の立場に立たされていたら。
ここにいるのがルルーシュ・ランペルージではなく、あの殺し合いを取り巻く誰かであったならば、と。
仮定することに意味はないが、どうしてもそう考えざるをえなかった。
780
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:36:06 ID:m8XI02nQ0
螺旋の王を名乗りながら、逃亡の果てにみっともなく死亡した男――ロージェノムだったならばどうだったか。
恐らくその強大な力でルルーシュ同様にブリタニアを倒し、その後はナナリーを自分の世界に閉じ込めるだろう。
糸色望だったならばどうか。
何だかんだと不平を垂れるうちに周りの部下達がブリタニアを倒し、望まぬ王座に座る羽目になりそうだ。
ニアだったならばどうか。
そもそも最初からこんなことは考えず、ナナリーと2人で静かに暮らす道を選んでいただろう。
ビクトリームだったならばどうか。
……駄目だ。こいつは真っ向からブリタニアに向かっていくだろうが、その先がまるで想像できない。
高嶺清麿だったならばどうか。
多くの血を流すゼロのやり方を捨て、彼なりの平和活動に身を投じ、弾圧され死ぬのが落ちだろうか。
Dボゥイだったならばどうか。
いかなる痛みも苦しみも1人で背負い込み、それこそブリタニアを倒したその瞬間、限界を迎えて事切れるだろう。
スバル・ナカジマだったならばどうか。
その馬鹿正直な性分故に、幾度となく傷つくことになるだろうが、その果てには本当に望むものを手に入れていたかもしれない。
カミナだったならばどうか。
彼ならば仮面すら必要とせず、ブリタニアを打倒できただろうが、果たしてその先世界を治められるだけの頭があるかどうか。
獣人四天王だったならばどうか。
こいつらは論外だ。1人1人の能力は、ゼロを演ずるにはまるで足りない。まず間違いなく、何らかの形で討ち死にする。
東方不敗だったならばどうか。
恐らく自分とまるきり同じ道を辿るだろうが、彼がナナリーに打ちのめされる姿は、どうにも上手く想像できない。
ニコラス・D・ウルフウッドだったならばどうか。
自分と同じようにブリタニアを倒し、1人自分の罪を背負い、ナナリーにも正体を明かさず姿を消すだろう。
ギルガメッシュだったならばどうか。
これまた自分と同じようにブリタニアを倒し、ナナリーを従わせ、そのくせそれがどうしたと平気な顔をするに違いない。
小早川ゆたかだったならばどうか。
良心の呵責と戦場の恐怖、そして指導者のプレッシャーに耐え切れず、志半ばに自殺するだろう。
鴇羽舞衣だったならばどうか。
彼女ほどの力と意志の持ち主ならば、誰からも望まれるヒーロー活劇を展開することもできただろう。
ヴィラルだったならばどうか。
馬鹿正直に自分の正体をナナリーに明かし、彼女に説得された挙句、戦いを放り捨ててもおかしくない。
菫川ねねねだったならばどうか。
自分なりのハッピーエンドを模索する彼女ならば、ナナリーさえも納得させる結末を迎えられただろうか。
ジンだったならばどうか。
やはりその過程は予想できないが、最後にブリタニアという国さえも盗み取り、忽然と姿を消す様だけは見て取れる。
(そして……)
――「ニアがな、山小屋の一件、庇ってくれてありがとうだってよ」
あの飄々とした癖毛の男――スパイク・スピーゲルだったならばどうか。
きっと彼は大人だったのだろう。
痛みを知らなさすぎたが故に。子供でありすぎたが故に。
こうして絶望の闇に沈んだ自分と違い、彼は間違いなく大人だった。
であれば彼ならば、自分とはまるで違う結末を迎えられただろうか。
物言わぬナナリー・ランペルージへと、希望を与えることができただろうか。
いいや、あれはああ見えてどこかお人よしだ。本人は否定するだろうが、少なからず正義漢の一面を持ち合わせている。
そんな人間は長生きしない。
どこかで誰かに騙されて、命を落とす羽目になるのが落ちだ。
ああ、なんだ。結局自分と同じ位置にたどり着く前に、途中でリタイアしてしまうではないか。
考えるだけ無駄だった。そんなことは考えるまでもなかった。
(つくづく俺はあいつが嫌いだ)
改めて再認識する。
不思議と、苦笑がこぼれた。
781
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:36:37 ID:m8XI02nQ0
「――ルルーシュ」
その時だ。
かつ、かつ、かつ、と。
乾いた靴音が床を叩く。
入り口の方へと振り返れば、そこには1人の少女の姿。
「ああ、お前か……何か用か?」
これがC.C.だ。
ギアスの力をルルーシュに与えた、緑髪と黄金の瞳の魔女だ。
彼女はいつだって突然だった。
不躾に、唐突に。
いつだって突然現れて、自分の用件を押し付けるのだ。
もう慣れきってしまったことだ。故に、自然に問いかける。
「なに、そろそろ私との契約を果たしてもらおうと思っただけだ」
無感情に。無表情で。
それが当然だとでも言わんばかりに、さらりとC.C.が言ってのける。
差し出した手のひらに乗せられていたのは、黒光りするピストルの銃口。
「……これで俺に何をしろと?」
言いながら、一応拳銃を受け取る。
「ギアスを持つ者は自身の契約者を殺すことで、そのコードを継承することができる……そして同時に、私達が死ねるのはその時だけだ」
「何が言いたい?」
「死にたいんだよ、私は。この長すぎる孤独の生涯を閉じるために、私はお前に力を与えたんだ」
ああ、そうか。
そういうことだったのか。
彼女もかつてギアス能力者であったと、何かの折に聞いたことがある。
数百年もの遥かな昔、C.C.は多くの愛に囲まれていた。
他者に自分を愛させるギアスで、あらゆる望みを叶えてきたのだそうだ。
だが、やがて分からなくなってきた。
誰が自分を愛していて、誰が自分を愛していないのか。
誰から向けられるのが真実の愛で、誰から向けられるのが作り物の愛なのか、と。
何者からも愛を感じられなくなり、愛した契約者にも裏切られ、魔女となった後には蔑まれ。
「自分が独りでいることに耐えられないから、俺だけにその孤独を背負えと?」
C.C.もまたルルーシュと、同じ痛みを背負っていたのだ。
度しがたいとばかり思っていた彼女が、こんなにも近い存在だったとは。
ああ、その思いには共感しよう。
自分の周りに確かなものは何もない。
その孤独は自分も嫌というほど味わったし、今後も味わい続けていくのだろう。
「だが」
それでも。
だからこそ。
「させないよ、そんなことは」
それを引き受けることは認められない。
彼女だけが孤独から解放され、死して幸せになることは許さない。
スザクを手にかけた狂気と、ナナリーを失った絶望。
それを背負い続けたまま、未来永劫を孤独に生き永らえることなど御免だ。
かちゃり。
金属の音が鳴る。
冷たい銃口の先端は、漆黒の髪の頭部に。
嗚呼、螺旋王よ。自分もお前達を笑えまい。
孤独と絶望に耐えかねた自分は、今まさに自らの手で、逃げの一手を打とうとしている。
アンチ=スパイラルよ。
言いだしっぺでありながら、どうやら自分が最も早く、この実験から降りることになりそうだ。
「待て、ルル――」
「さよならだ――C.C.」
――ばん。
782
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:37:05 ID:m8XI02nQ0
◆
行動には常に結果がつきまとう。
行動が変われば結果は変わる。
しかし、当人にとって最善の行動を選び続けることが、最善の結果を引き寄せるとは限らない。
あえて負け続け、辛酸を舐め続けることで、ようやく見えてくるものもある。
正しい歴史におけるルルーシュ・ランペルージは、幾度となく苦境を味わい続けてきた。
シャーリーの記憶を奪うこと。
ユーフェミアの手を血に染めさせること。
シャルルに記憶を書き換えられること。
この世界では出会わなかった、偽りの弟を喪うこと。
数多の屈辱と数多の悲しみは、絶えず彼の心を蝕み続けてきた。
だがその負け戦の果てにルルーシュは、真に充実した勝利と結末を迎え、微笑と共に短い生涯を閉じたのだ。
ブリタニアを倒し、世界を手にしたこと。そして最期は自ら命を断ったこと。
歴史に残された結果そのものは、どちらの道のりもよく似ている。
しかし勝ち続けたルルーシュは、失う苦しみに堪えかね狂気に堕ち、本当に大切なものを自ら捨ててしまった。
甘やかされた子供は我慢を知らない。思い通りにいかないことには、すぐに顔を真っ赤にして怒る。
稚拙なたとえではあるが、まさしくルルーシュの失敗の原因は、それと同じものだったのだろう。
螺旋王の情報とギアスに溺れ、我こそは全能の存在であると慢心した少年は、それ故に破滅へと追い込まれたのだ。
なまじ恵まれすぎた境遇が、最後の最後で彼を残酷な結末へと叩き落としたのだ。
行動には結果がつきまとう。
一度呈示された結果は、決して覆ることはない。
それがいかなるものであったとしても。
ブリタニアの少年、ルルーシュが選んだ結末は――ゼロ。
【コードギアス 反逆のルルーシュ――――――BAD END】
783
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:37:52 ID:m8XI02nQ0
ルルーシュ・ランペルージは逝った。
これにて螺旋の王が筆を執った物語の、全ての要素が完結したように見える。
月の箱庭に囚われ、それでも屈することなく立ち向かった者達のその後は、これで一通り語られた。
スパイク・スピーゲルは戦いで失った手のひらを取り戻し、愛する者との穏やかな暮らしを掴み取った。
菫川ねねねは元の世界で作家稼業に戻りながらも、またもや面倒事に巻き込まれてしまったようだ。
小早川ゆたかと鴇羽舞衣は、ゆたかの世界に近しくも異なる世界で、新たな日常を歩み始めた。
唯一ルルーシュ・ランペルージのみが絶望に直面し、自ら己の未来を閉じた。
ギルガメッシュの物語に至っては、未だ完結してすらいない。王ドロボウとのいたちごっこの繰り返しだ。
そしてヴィラルはアンチ=スパイラルが滅びた後も、悠久の夢の中に漂っている。
ロージェノムは死んだ。
チミルフも死んだ。グアームも死んだ。シトマンドラも死んだ。アディーネも死んだ。
ウルフウッドも死んだ。東方不敗も死んだ。
スカーも死んだ。ガッシュも死んだ。 ドモンも死んだ。シャマルも死んだ。フリードも死んだ。
カミナも死んだ。クロミラも死んだ。
ルルーシュも生き残った後に死んだ。
スパイクが、ゆたかが、舞衣が、ねねねが、ギルガメッシュが、そしてヴィラルが生き延びた。
物語の結末は、これで全て描かれたように見える。
残された全ての要素に決着がつき、堂々の完結を迎えたように見える。
だが。
まだ、足りない。
足りないのだ。
この物語に残されたファクターの、全てを語り終えたと断じるには、まだある要素が明らかに足りない。
そもそも、もう一度あらすじを振り返ってみよう。
幾多の犠牲を払った参加者達は、遂にカミナとクロミラの駆るグレンラガンによって、見事実験の舞台を脱出。
最後に残された刺客・ウルフウッドを倒し、アンチ=スパイラルとの交渉にも一応成功。
アンチ=スパイラルに与えられた技術により、ようやく元の世界へと戻ることができた。
そこから先は前述の通りだ。
一見すると、全てのエピローグは語られたように見える。
だが、足りない。
よくよく読み返してみれば、この構図からは、ある者の結末が決定的に抜け落ちている。
そう。
――参加者達をそれぞれの世界に帰した後、アンチ=スパイラルはどうなったのか?
784
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:38:37 ID:m8XI02nQ0
ヴィラルのエピソードを読み返してみよう。
天元突破者を手に入れた、この物語のアンチ=スパイラルは、その後螺旋族に滅ぼされたと記されている。
賽を転がしても零や七は出ないが、一から六のうちのいずれかの数字が、延々と連続する可能性は存在する。
どれほどの敗北の世界を重ねても、どこかで螺旋族の勝利する可能性はあるはずだ。
そして彼らの世界では、その可能性が実践された、と。
だが、彼ないし彼女がいかにして倒されたかは、そこには詳細には記されていない。
断片的な文面からは、その要素がごっそりそぎ落とされているのだ。
残されたこのたった1つの要素を語らずして、物語が完結を迎えられるはずなどないではないか。
誰がどのような形で天元突破に目覚め、どのような戦いの果てに勝利したか。
誰がいつどこで何度賽を振り、どの目が連続して出続けたのか。
――否。
それだけではない。
厳密に言えば、この賽のたとえ話からも、ある可能性が抜け落ちている。
この仮定においては、振るべき賽がどんなものかは定められていないのだ。
事前に賽の情報は与えられていない。
であれば、それがどんな材質だろうと、どんな色であろうと自由。
要するに、こういうことだ。
そもそもアンチ=スパイラルを倒したのは、本当に螺旋力だったのか?
問題外の仮定かもしれない。
文面には確かに、アンチ=スパイラルは螺旋の力の前に敗れた、と明記されている。
だが、所詮それは書き手の主観だ。
物語とは、その筆を執った者が思い描いた通りにしか書かれない。
つまりこの螺旋力が、実は作家の思い違いであり、本当は全くの別物であった可能性もありうるのだ。
仮によく似たものが存在すれば。
螺旋力と同じく緑色の輝きを放ち、生命の進化を促す力が存在したとすれば。
そのくせその性質は、実は全くの別物であったとすれば。
まどろっこしい物言いは好みではないだろう。
ではそろそろ、単刀直入に言うとしよう。
――この世界のアンチ=スパイラルを滅ぼしたのは、実は螺旋力ではなかった。
785
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:39:13 ID:m8XI02nQ0
◆
『……何ということだ……』
無明の宇宙の暗黒の中、ぼんやりと浮かぶ漆黒の影。
2つの目と口だけが白く染まったヒトガタが、目の前の光景に頭を抱えている。
信じられない。
頭の悪い感想だが、今のアンチ=スパイラルには、この一言が限界だ。
数多の多元宇宙全てを制する力も、数多の多元宇宙全てより得た叡智も、まるで役に立ちはしない。
いいや、たとえここにいるのがアンチ=スパイラルでなかったとしても、この状況を理解できる者がいるかどうか。
無限に広がる超螺旋宇宙。そこに展開されているのは戦場。
反螺旋種族の大軍勢が、同等の敵性戦力と戦争を繰り広げている。
ただ文章に書き起こすだけならば、さほど気になることでもないだろう。
しかし、それでもありえないのだ。
たった今防衛線を展開しているのは、そんじょそこらの軍隊ではない。
無限に広がる世界の分岐、その全てを支配することすら可能とする、アンチ=スパイラルの大軍団なのだ。
幾千、幾万では語れない。
その数は那由多の彼方すら突破し、無量大数の領域にさえ。
そして今攻め入ってきた敵勢が、それとほとんど互角の物量を誇っているのだ。
それだけではない。
膠着状態にあった戦況は徐々に押され、今や逆にこちらが不利に陥っている。
ムガンが。アシュタンガ級が。ハスタグライ級が。パダ級が。
迫りくる怒涛の大軍団を前に、それらがみるみるうちに蹂躙されていく。
こんなことがありえるものか。
多元宇宙の彼方にも、このような苦境は存在した。
大いなる道程の果て、螺旋に目覚めた青年・シモンの操る螺旋力の魔神――超銀河グレンラガンの活躍だ。
だが、それもあくまで孤高の将。
支える者達がいたとしても、実際に動いていた機動兵器はグレンラガンのみ。
互角の物量戦に持ち込まれ、その上敗北に近づいているなど、まさに前代未聞の事象。
いいやそもそも、こいつらは一体何者なのだ。
それは船だ。
先端に顔が付いているものの、紛れもなくそれは宇宙の船だ。
それならまだいい。かの螺旋族の巨大戦艦――カテドラル・テラと同様の特徴。
だが、似ているのはその一点だけ。
赤、白、黄色、その他諸々。それぞれ多種多様な色に塗り分けられた艦隊は、奴らのそれとはまるで違う。
細かな部分の造形は、螺旋族のそれを大きく逸脱している。
中には複数の機体で合体し、ヒトガタをなす物もある。その形状にもまるで見覚えがない。
今まさに襲い来る侵略者達は、多元宇宙のどの世界にも存在しないのだ。
何より、あれは本当に螺旋族なのか。
確かに緑の光を動力としているが、あの艦隊が操る武器の性質は、螺旋力とは微妙に異なる気がする。
スパイラルの象徴――ドリルを操る機体もいるにはいる。だが、それだけではないのだ。
トマホークを振るう物。拳で殴りかかる物。剣で相手を両断する物。ミサイルの嵐を巻き起こす物。
幾千幾万もの姿形の、あらゆる力が存在している。
果たして螺旋の力とは、これほどまでの柔軟なものであったか。
ひょっとするとここにいるのは、もはや螺旋族ですらない、全く別の存在ではないのか。
『――否』
だが、しかし。
『否否否否否否否否否否否否ぁぁぁっ!』
そんな結論は認められない。
断じて認めてなるものか。
螺旋力と戦うため。そのためだけに身につけた、天下無双のこの力。
それが螺旋力ですらない、どこの馬の骨とも分からぬ力に、そうそう屈してなるものか。
あれは螺旋力だ。
誰が何と言おうと螺旋力だ。螺旋力でないはずがない。
そして。
786
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:40:19 ID:m8XI02nQ0
『我らは負けるわけにはいかんのだ――螺旋の力を操る者共にィッ!』
その螺旋の力にすらも、屈するわけにはいかないのだ。
進化の成れの果て/袋小路の変異/破滅を生む暴力の権化――スパイラル・ネメシス。
起こさせるわけにはいかない。負けるわけにはいかない。
螺旋族は滅ぼしつくさねば。それこそが宇宙を守る道なのだ。
自分達が破滅することは、すなわち宇宙の破滅を意味するのだ。
故に、アンチ=スパイラルは迎え撃つ。
最大最強の戦力で――グランゼボーマで迎え撃つ。
いつからかそこに存在していた、無頼の来客のその頭を。
混沌の漆黒の中に浮かび上がった、巨大な赤きヒトガタを。
鬼神。
まさにその一言こそ、その威容を表すにふさわしい。
巨大。かの者のサイズを表現するのには、もはやその一言すら生ぬるい。
超螺旋宇宙の中心で、漆黒の魔神と向き合う姿は、その体躯とほぼ同等の大きさ。
銀河すらもその手に掴む、グランゼボーマと同等なのだ。
それがいかなる意味を持つのか、もはや言葉で語る必要はない。語ることのできる言葉すらない。
幾度血を浴び続けてきたのだろう。
幾度敵を退けてきたのだろう。
真紅に燃える身体の頂点、その頭部から突き出しているのは、まさしく鬼の五本角。
おぞましくも神々しい。
神のごとき荘厳さと、悪魔のごとき恐ろしさ。
すなわち、鬼神。
『受けよ螺旋族! インフィニティィィィビッグバン――ストオォォォォォームッ!!!』
瞬間、宇宙に激震奔る。
無音の真空空間が、あるはずもない音に鳴動する。
グランゼボーマが掴むのは銀河。2つの銀河を1つに合わせ、その反発が爆発を生む。
まさに天地開闢の力。
三千世界の暗闇を、眩い光輝で照らし出す創世の爆発。
アンチ=スパイラルの持つ最大火力――その威力、まさにビッグバン。
激烈な出力が激流をなし、赤き鬼神へと襲い掛かる。
人も、機械も、月も、惑星も、銀河も、世界の全てを一挙に飲み込み、蹂躙し焼き尽くす必殺の熱量。
耐えられるものなど皆無。避けられるものなど絶無。
人知など当に突き抜けた波濤が殺到し、侵略の鬼を飲み込んだ。
《――■■■■ビーム》
かに見えた。
刹那、激震は重ねられる。
天地創世の紫炎と真っ向からぶつかるのは、新緑に輝く生命の波動。
鬼神の放つ一筋の光条が、インフィニティ・ビッグバン・ストームをも受け止める。
その出力、まさにビッグバン。
そちらがそう来るというのなら、こちらも合わせてやろうと言わんばかりに。
折り重ねられた超新星爆発。超螺旋宇宙を揺るがす猛烈な衝撃。
ビッグバン同士がぶつかったのだ。その余波はもはや言うに語らず。
銀河が消える。銀河が消える。銀河が、銀河が、銀河が。
新たな世界を生み出す光は、その矛先を破滅へと転じる。
『馬鹿な……』
ありえない。
こんなことがあるはずがない。
宇宙に並びうるはずもない一撃が、こうもあっさりと凌がれた。
あらゆる戦闘の過程を省略し、一撃必殺の覚悟で放った攻撃が、ただの一発で無力化される。
787
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:40:49 ID:m8XI02nQ0
『……ああ、そうか……』
ずしん、ずしん、と。
足音が聞こえてくるようだった。
大地なきはずの宇宙を闊歩する、真紅の鬼神の足音が。
『はははは……そうか、そういうことだったのか!』
遂にアンチ=スパイラルは理解する。
半ば強引に解釈する。己自身を納得させる。
これが、これこそが。
我々が最も恐れてきた、スパイラル・ネメシスの発現なのだと。
このおぞましき鬼神の姿こそが、螺旋の進化の成れの果てなのだ、と。
赤き拳が振り上がる。
気付けば、両者の距離には差などなかった。
ひとたびその鉄拳を振り下ろせば、この身は粉々に砕かれるだろう。
ああ、そうだ。
我々は失敗してしまったのだ。
避けねばならなかった破滅の時を、この世界では迎えてしまったのだ。
『見るがいい! これが貴様ら螺旋族の――いや! 螺旋力の行き着く、おぞましき姿だァッ!!』
叫ぶ。
絶叫する。
自らの監視するモルモット達へと。
かの倣岸にして臆病な螺旋の王のもと、箱庭に集められた人間達へと。
気まぐれの果てにそれぞれの世界へと送り、監視を続けていた実験動物達へと。
認めよう。
ここが我らの死に場所だ。
我らは螺旋を倒せなかった。
最悪の瞬間を回避することもできず、無様な結果を晒してしまった。
だが、この結末は他人事ではない。
お前達にも起こりうる未来なのだと。
螺旋の本能の赴くままに、愚かにも進化を続けるお前達とて、最後にはこの道を辿るのだと。
これは警告だ。
その警告のためにこそ我らは果てよう。
どの道抵抗したとて、到底かなうはずもないのだ。
相手はスパイラル・ネメシスなのだから。
この無限の多元宇宙の中、唯一アンチ=スパイラルが恐れる存在なのだから。
自力で倒せる存在など、一体誰が恐れるものか。
最後の瞬間、くわとその姿を睨みつける。
グランゼボーマの頭部へと。
アンチ=スパイラルの本星へと。
吸い込まれるようにして振り下ろされる、その拳をじっと睨みつける。
右の拳を振り上げる、忌まわしき進化の鬼神の姿を。
その名を叫んだ。
それが最期の矜持であるかのように。
宇宙の果てまでも轟かすように、その名をはっきりと絶叫した。
788
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:41:14 ID:m8XI02nQ0
―― ゲ ッ タ ー エ ン ペ ラ ー ! ! !
.
789
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:41:48 ID:m8XI02nQ0
◆
戦いは終わる。
この世界での敗北。
あまねく次元世界のその1つで、アンチ=スパイラルを滅ぼしたのは、螺旋族の力ではなかった。
ゲッター線。
反螺旋族の知りうる世界のどこにも、存在すら観測されていなかった力。
宇宙の崩壊を止めるために、進化を留めようとする彼らとは対照的に。
宇宙の崩壊を止めるために、それを倒しうる進化を加速させる力。
彼らがこの世界に現れた理由は定かではない。
あるいは、かのロージェノムが多元宇宙の扉を開いたことで、異界の門が開いたのか。
彼らの知りえなかった宇宙のファクターが、認識の壁を越えて現れたのか。
いずれにせよ、大いなる敵と戦うために、更なる進化を求めるゲッター艦隊にとって、彼らは敵に他ならなかった。
破綻を恐れ停滞を望む連中など、この宇宙には必要なき種族。
ましてそれが、進化を望む種族を食い潰そうとするならなおさらだ。
故に、制裁を下した。
艦隊の一部を、渦中の螺旋族とやらの星へ応援によこしたが、その戦線も終結しただろう。
であれば、後は立ち去るだけだ。
それなりの力は持っているらしいが、あの星の螺旋族という連中は、未だ彼らの求める水準には達していない。
更なる進化を待つ必要がある。
この宇宙を飲み込まんとする、大いなるうねりに抗いうる進化を。
故に、今は立ち去ろう。
そしてその進化を見届けよう。
来たるべき瞬間を迎えた時にこそ、彼らの戦場へと駆り立てるために。
そしてその艦隊が今、偶然見つけたものがある。
それは人に似た姿でありながら、人にあらざる者だった。
螺旋の星の獣人とかいう存在が、いくつかの機材と共に発見された。
驚いたことに、生きている。
五感の機能全てを停止させながら、未だ生きて宇宙を漂っている。
計測される高エネルギーは、すなわちこれこそがアンチ=スパイラルの言う、天元突破というものか。
あのグランゼボーマの崩壊から生き延びた、その設備の堅牢さには感心する。
だが、中に収められていた獣人には、まるで価値が見出せなかった。
この存在もまた、奴らと同じ穴の狢なのだと。
優れた進化の力に目覚めながら、それを停滞のために使っている。
いかなる事情かは知らないが、己の意識へと引きこもった軟弱者に用はない。
故にその獣人には特に何の興味も見せず、漆黒の虚空へと放り出す。
しかし、獣人を閉じ込めていた機材を見たとき。
《ほぅ》
にやり、と。
かの者の声に滲むのは、笑み。
巨大な鋼鉄の鬼神の顔に、表情が浮かぶことはない。
しかし、その中に潜む何者かの顔は、確かに笑っていたのだろう。
とんだはずれだとばかり思っていたものに、僅かに興味を引くものが残されていたのだから。
機材に一緒に積まれていたのは、資料。あの螺旋王が計画した、進化のための殺し合いの顛末。
その表題を、読み上げる。
すなわち。
790
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:42:16 ID:m8XI02nQ0
《……バトルロワイアル……》
【ゲッターエンペラー@■(■ェ■■!!)ゲッ■ー■■ ■界■■■日】
――To be continued Next "ANIME-CHARA BATTLE ROYALE"...?
791
:
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:42:42 ID:m8XI02nQ0
投下終了。
なんか、もう、色々とすんません
792
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜(修正)
◆9L.gxDzakI
:2009/05/10(日) 14:41:02 ID:/ktMSEpk0
>>773
を以下のように差し替えます。
◆
――おかえり、ルルーシュ。夕べは一晩中どこをほっつき歩いていたんだ?
最低最悪の科学者・ロージェノムの実験場――そこから脱した彼が最初に聞いたのは、そんな言葉だった。
発したのは彼の共犯者。
C.C.という少女である。不死身を体現したかのような、正体不明のわがまま娘だ。
ここに1つ、驚くべき事実がある。
ルルーシュがあの殺し合いに巻き込まれた期間は、少なく見積もっても最低3日。
実際に箱庭に閉じ込められていた2日間と、そこに脱出用の飛行機の調整期間を含めて3日だ。
だがC.C.は、彼がいない期間を1日と断じたのだ。
どうやら自分は元の世界に帰るついでに、最低2日分過去へと遡ってしまったらしい、と認識する。
世界を座標に例えたとして、時間を縦、空間を横とするならば、多元世界間の移動は斜めとなるらしい。
ということは斜め移動のさなかに、縦に当たる時間の推移がついてくるのも、ありえない話ではないということか。
ちなみに、彼がこうして帰還を果たしたことで、世界にはある変化が生じている。
そもそも先の殺し合いの際、その舞台裏でもまた、もう1つの壮絶な殺し合いが展開されていた。
螺旋民族とアンチ=スパイラル一派の全面戦争である。
双方全滅の結果を招いたこの戦闘には、ロージェノムに拉致されたルルーシュを救出すべく、このC.C.も参加していたのだ。
しかし、こうしてルルーシュは帰ってきた。
彼女を戦場へと誘った存在が、この世界へと呼びかける理由が、それによってなくなってしまった。
この瞬間、世界は新たな多元宇宙へと分岐する。
ルルーシュがC.C.の参戦よりも早く帰ってきたことで、「ルルーシュが失踪の1日後に帰ってきた世界」が新たに生まれ、
この世界のC.C.は、「ルルーシュが失踪した後C.C.が戦線に誘われた世界」のC.C.とは、別の人物となったのである。
ともあれそのようなことは、ルルーシュにとっては知る由もない余談なのだが。
閑話休題。
そうして帰還し、C.C.の問いかけにも適当に応じた彼が最初に行ったのは、まず情報確認だった。
ルルーシュには元の世界に帰って最初に、彼女に問いたださなければならないことがあった。
793
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜(修正)
◆9L.gxDzakI
:2009/05/10(日) 14:42:03 ID:/ktMSEpk0
――V.V.とは誰だ?
開口一番の問いがそれだ。
ルルーシュはあの螺旋王のデータバンクで、己の辿るある程度の未来の事象を把握している。
そしてその物語の中に、彼の知らぬファクターが存在した。それがV.V.という少年だ。
あの箱庭にあった情報を真実とするならば、こいつはランスロットのパイロット・スザクにギアスの情報を明かし、
あまつさえナナリーを誘拐するということになる。
これがマオならまだいい。ギアス能力者がギアスの存在を知っているのは当たり前。
だとするならば、その少年は何者だ。何故ギアスのことを知っている。
そいつもマオ同様、C.C.と何らかの関係を持っているのではないか。
彼女と行動を共にしていたのか。はたまた彼と同じギアス能力者か。
少なくともルルーシュの知る盤面の上に、このような駒は存在していない。決して見過ごせるものではない。
当のC.C.自身はというと、一瞬この問いに大層驚いてみせた。
だがやがて観念したのか、静かに白状を始めた。
V.V.の正体を。その恐るべき目的を。
金髪の少年・V.V.は、C.C.よりも後に能力に目覚めた、同じ“コード”の持ち主らしい。
ここで言うコードとは、彼女の持つ魔女の力の総称のことだそうだ。
要するにV.V.もまた彼女と同じく、「不死の身体」と「ギアスを与える力」を有しているということ。
そして既にこの少年は――当時のブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアと契約を結んでいた。
彼はブリタニア王の実兄であった。
おおよそ二桁にも満たぬ外見年齢しかないV.V.は、しかしルルーシュの伯父だったのだ。
コードの能力に目覚めるには、ギアス能力を授けられている必要がある。
彼がどのタイミングでに魔人の力を手にしたのか。それは今となっては定かではない。
だがかつてのブリタニア王家の内乱の折、兄V.V.は間違いなくコード能力に覚醒し、弟シャルルはギアス能力を授けられた。
そしてそのコードの力で、彼らが為し遂げんとした恐るべき計画がある。
それがラグナレクの接続だ。
現在のブリタニアの王城には、“アーカーシャの剣”と呼ばれる遺跡が存在する。
そして同時にこの地球には、それと近似した遺跡が随所に残されているのだそうだ。
後者の遺跡に関してはルルーシュも知っている。正確には、未来の彼が目撃している。
日本の式根島のすぐ近く――神根島と呼ばれる無人島に、その遺跡の1つがあるらしい。
そしてそれら全てを手中に収め、V.V.とC.C.の――案の定、彼女らはかつて協力関係にあった――コード能力を用い、
アーカーシャの剣を起動すること。
それがブリタニアの兄弟の最終目的であり、シャルルが始めた侵略戦争の最大の理由だった。
この行為を、ラグナレクの接続と呼称するのだという。
そしてその行動に伴い、引き起こされる結果は――全人類の合一化。
そもそもアーカーシャの剣とは、「Cの世界」と呼ばれるものに干渉するための端末なのだという。
Cの世界とは、言うなれば集合無意識。
時間、国境、血縁……はたまた生死の境界すら問わず、あらゆる人間の無意識が溶け合ったものである。
シャルルはこれを操作することで、全ての人間の有意識さえも、そのCの世界に取り込もうというのだ。
794
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:05:22 ID:NIXAKoOw0
投下します。
795
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:10:18 ID:NIXAKoOw0
ボクは知らなかった。
ささいで、どうでもいい予定だと思っていたから。
"コタローくん、すぐ帰ってくるよ"――と、ハカセが言ったから。
あの装置の完成で、すっかり気が緩んでいたんだ。
だからボクは、1人でお留守番していた。
"戻ったら一緒にクロちゃんを助けに行こうねハカセ!"
どうして。
ハカセ、ボクにはわからないよ。こんなの、あんまりじゃないか。
どうして一緒に連れて行ってくれなかったの?
あそこにいた他のみんなも、知ってたんだね? ボクだけ除け者にしてさ。
ボクを元の世界に戻すなんて、ひどいよ。
残されたボクはとっても寂しい。
怒りたくても、怒る気がしない。
この別れに、すがすがしさなんてあるもんか!
【"サイボーグクロちゃん"――――天才少年コタロー】
◇
796
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:13:52 ID:NIXAKoOw0
「――これをお渡しするように、と……ハカセは」
剛万太郎ハカセのデジタルレターを受け取ったのは、クロちゃん達がいなくなってから一週間後。
ツーンとふんぞり返りながら、ニャンニャンアーミー5匹が、ごみ捨て場にやってきた。
ボクとミーくんとハカセの家がごみ捨て場にあることを、彼らは知っている。ハカセと縁を切っていたロボットだから。
聞くまでもなかった。アイツらが来るときは、決まって揉め事がついてくるんだ。
嫌な予感がしない奴なんていない。
おそるおそる箱を開けると……中にはレターがあった。
『君に真実を伝えるためだけに、私はこの映像を撮っている』
それには、異世界からのハカセの報告が克明に記録されていた。
クロちゃん達3人に何が起きて、自分が何をしているのか。
ボクとハカセを招いたあの異世界の人たちが何者なのか。
彼らは何を企んでいたのか、その"本当の目的"のことも。
ハカセがボクを元の世界に先に帰すように頼んだから、ボクは無事であること。
そしてボクの他にも、ボクが住む世界に"運ばれた物"があるということも。
ハカセは全てを話してくれた。
『見終えたら誰にもわからないように始末してくれ。出来れば、"あれ"も処分してほしい』
多元宇宙を巻き込んだ大戦の結末がどうなるのか、ハカセにはわかっていたんだ。
敵も味方も関係なく、とてつもない被害だけが残されるだけ。99%の兵が死んでいくと。
だから通信が傍受されているのも承知の上で、メッセージを送ってくれた。
ハカセも死にそうな姿だった。どうすることも出来ないって顔をしていた。
『帰りを待つ皆を支えてあげられるのは、コタローくんだけだ……ワシじゃない。寂しいなぁ』
その日はニャンニャンアーミーを帰し、ナナちゃんにもジムにも話さず、黙って寝た。
次の日、ボクは久しぶりに出かけた。
ボクとハカセの間には秘密の合図がある。"あれ"はきっと、ハカセの昔の研究所に仕舞い込んであるモノのこと。
「こっちだ、ついてこい」
ニャンニャンアーミーはボクの侵入を拒むことなく、いつの間にか案内役になっていた。
素っ気無い態度だが、昨日のことを考えれば、ハカセはきっと彼らにデジタルレターで連絡していたのだろう。
今はニャンニャンアーミーの寝床になっている研究所で、ボクは久しぶりにそれと再会した。
次元移動装置。
ボクたちは一度だけ、自分の住む世界とは違う世界で冒険したことがある。
その砂だらけ異世界から元の世界に帰るとき、ボク達はこれを使ったんだ。
適当に配線を調べてみる。念入りにメンテナンスされた後があった。内部には大量の設計図が散らばっていた。
ハカセがこの世界に送り込んだ物は、おそらくこの設計図の山。
異次元大戦でもこの技術は使われたのかもしれない。
「元々ハカセは、ちょくちょくこの装置を見にきていました。我々アーミーはみんなでガン無視してましたけど」
ボクとハカセは、一度この装置に乗って多元宇宙の狭間に行ったはずなのに、装置は無くなっていなかった。
ということは、ハカセとボクが乗った装置は、これの複製品だったんだろう。
おそらくあのチューンナップもこいつにしてるんじゃないかな……。
「こいつとそっくりなマシーン、何台も作ってましたよ。残っているのはコイツだけですが」
忠誠心を失ったニャンニャンアーミーの目線にもくれず、ハカセはずっと前からメンテと調査をしていたのかな。
たった数時間であの次元移動装置のメンテを行うなんて不可能だし、事実なんだろうけど。
797
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:15:36 ID:NIXAKoOw0
「こんなの、作る、暇が、あるんだったら……少しは、私たち、にも……サービスを……グス」
ボロボロと涙を零すアーミーたちに、ちょっぴり同情しながらも、ボクは何も答えなかった。
アーミーたちはボクと違って、リアルなハカセを目撃した最期の知人。
大切な人の最後の触れ合いを、つまらない形で終わらせてしまったアーミーズ。
彼らにかける言葉なんて、今のボクには見つからない。
ボクは何も言わず、次元移動装置に乗り込んだ。
無論、このマシーンを使うためだ。
次元移動装置があれば、あらゆる世界に飛べる。
辛い過去に会うこともなく、自分が生きている世界。
世界征服を成功させて、世の中丸ごとぶっ壊した自分がいる世界。
ハカセ、ボクはこの装置を始末しないよ。
このまま黙って見てるだけなんて、ボクには出来ない。
この装置で、ボクは"ボク"に会いにいこう。
◇
798
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:18:20 ID:NIXAKoOw0
◇
知ってますか?
世間であなたが何と呼ばれているか。
1人の女生徒と駆け落ちして蒸発した問題教師ですって。
笑っちゃうわ。
普段のあなたを見ている人なら、そんな発想が出るわけないもの。
生徒の失踪に責任を感じて、自分の命を……なんて真似もできないクセに。
早く帰ってきてください。
新井先生、へ組の勤務時間がそろそろ本業のトータルを越えそうです。
みんな期待してませんよ?
期待しているのは、私だけ……ふふふ。ふふふ。ふ……
…………意気地なし。
後ろ向きで、小心者で、勘違いをさせちゃって、嫌いになれない
あなたは、とっても面倒くさい人。
男って馬鹿ね。
【"さよなら絶望先生"――――2年へ組 常月まとい】
◇
799
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:22:18 ID:NIXAKoOw0
「新井先生、糸色先生と――ちゃんは両思いだったの? 」
「糸色先生はそんなタマじゃないわね。彼女は本気だったのかもしれないけれど」
生徒のカウンセラーを幾度もこなしていけば、こんなこともある。
カウンセラーの世間話を逆に患者に聞かせるアプローチ。
私は患者の少年に"あの人"にまつわる愚痴のようなものを、聞かせているのだ。
嫌な気はしない。大事なことは、本人が意欲を持って人と繋がろうとする傾向が現れること。
「ボクもそう思う。だって糸色先生は"みんなが大好きなんです"って言ってたもん」
今日の患者は常連の男の子。世間と認識がズレているわ。
いきなりやって来て"あの人"を遠方で見かけたと言い張るんだから、つい気を許しちゃうわね。
こんなにハツラツとしているのに、あんなニュースを聞けば、悲しみで一杯にもなる。
事件当時に名乗り出なかったから、口から出任せを言ってるのかもしれないのけれど。
でも"あの人"を慕っているには変わりはない。その感情は……きっと真実。
「せんせーは、いつ帰ってくるの? 」
「ノゾム、何か言ってなかったのかよ」
どういうわけか、最近はこの子たちも一緒に話に参加するようになった。
まったく。あなたは本当に無責任。
残されたみんなが、どうしてるかも知らないで。
あちこち徘徊したり、殴ったり、掘ったり、背伸びしたり、謝ったり、怪我したり、描いたり、脱いだり。
……いつも通りだと思う? 時折、涙を流しているというのに。
「新井先生、例えばの話だけど、ボク聞いてもいい? 」
「……あ、えと。何かしら」
「もしもこの世に、全く同じ人間が生きている2つの世界があったとするよね」
「ハイハイ"なんだってー"、"なんだってー"」
「主人公はどっちの世界も同じ人なんだけど、選べるヒロインは1人だけなんだ」
「風呂ーラとBeerンカ? 」
お酒を飲んだら風呂に入れないでしょう。小森さん、発想が古いロトよ。
交くんも呆れるのは勝手だけど、その顔は止めなさい。ギャラ100万$のミステリー調査班長Aになってるわよ。
風呂に入った後ならお酒も飲めるけど、両方とるのは道徳に反しそうね。
「でもメインヒロイン候補A、Bはある日突然いなくなっちゃうんだよ」
「Aルートのヒロインは感情欠落を装った、なんちゃって電波キャラだな。きっと偽名を使った女スパイだ」
「Bルートのヒロインは完璧超人。きっちり束縛できなかったから、諦めて離婚した」
「……問題は主人公も両方いなくなっちゃうんだ」
ぴしり、と私の何かに亀裂が走ったような気がした。
「駆け落ちしたのね」
無意識に言葉が出てしまった。
……哀れね。どこまでいっても、例え話でしかないというのに。
あの報道はただの世迷言。そんなはずはないと信じている。
あたしが、この子の話に"あの人"を重ねていたなんて。
どうしてこんなことを口走ってしまったのかしら。
「本当にそうかな」
私は何も答えない。
こうして今日も日が暮れてゆく。
彼のやってくる日に、奇妙な楽しみを覚えたせいか、私の心は少し変わった。
私の心に染み渡る、悪戯に時間を浪費する寂しさは減った。
「ボクは違うと思う」
でも、それだけ。
私の世界が大きく変わることはない。
私には変えることができない。
「そんなの寂しいよ、先生」
きっと。
◇
800
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:23:45 ID:NIXAKoOw0
◇
ヘッヘへ〜〜どうだい、このタキシード決まってるだろ!?
少林寺を盛り上げるためには、こういう異文化を嗜むことも疎かにしちゃいけねぇ。
みんなで神輿担ぐんなら、もう国だの家柄だの言ってる場合じゃねーんだ。
せっかく叶った少林寺の再興なんだ。もう一回沈むのはゴメンだね。
あのガンダムファイトのおかげで、他国からの入門者がワンサカ来たんだ。
規模がデカくなりすぎたから急遽、俺が師範代だぜ?
あの頭の硬かった連中の仕業とは思えねぇ〜。
だが乗りかかった船だ。大事なのは心と心! 拳で語れば立場を超える!
俺はガンダムファイトでいっぱい学んできたんだからな。
――っとと、いけね。じゃあまた後でな〜〜!
【"機動武闘伝Gガンダム"――――少林寺師範代 サイ・サイシー】
◇
801
:
ネコミミの名無しさん
:2009/05/24(日) 15:30:25 ID:NIXAKoOw0
「ようやく最後の1人が来ましたね」
バタバタとけたたましく響く足音。
ベッドに横たわる私の下に、最後の客がやってくる。
私の夫が絆を交わした、誇りある同盟者。
「おいィ? 随分と遅いんじゃねェかサイ・サイシー! こんな大事な日に遅刻とはな。
俺が許しても、レインの寿命がストレスでマックスになっちまうぜ!? 」
私の右隣のイスで足を組んでいる彼も。
私の左隣で凛と立つながら微笑む彼も。
この日のために世界中から飛んできてくれた。
「ゼハァー……悪ィ悪ィ! レイン、おめでとさん! ハヒィー、ちかりた……」
「シャリーたちが、下で立食パーティの準備を始めてるぜ。チャイニーズ・グルメ、手伝ってきなァ! 」
「あいよガッテン承知〜〜! 」
私と夫の最愛なる子供の誕生。
その祝福のために、夫の戦友4人と、その取り巻きのみんなが、この場所に。
産後の日立ては良好。今日は外出の許可が降りた初日。これほど嬉しいことはないわ。
あの激闘が起こる前は、こんな事になるなんて思いもよらなかった。
「らしくないですね、一番張り切っていた彼が遅刻とは」
「ドモン・カッシュの捜索」
この大切な時に、一番そばにいてほしい人が、いないことも。
「Oh! それは言っちゃならねぇぜアルゴ〜〜あ、Sorryレイン……」
私の夫、ドモン・カッシュが姿を消して何ヶ月たっただろうか。
行方をくらます前日に交わした口付けの感触は、まだ私の唇に残っている。
どこにいるのか、無事なのか、どうして帰ってこなくなったのか。
仲間があらゆる情報網で探しても、あの人を見つけることは出来なかった。
「流派東方……王者(チャンプ)の風は、どこへ靡いているのやら」
当ての無い旅に出たとは思えなかった。
彼と時を同じくして行方不明になったアレンビー・ビアズリーやウルベ・イシカワ。
この偶然を偶然で済ませる人は誰もいなかった。でも、今のところ世間では何も起こっていない。
私の元に舞い込んだモノと言えば――あの人を慕う声。
「――レインさん! サイのアニキが"そろそろ料理が完成する"って! 早く食べよう! 」
あの人の武勇伝が、この子と私と、私の子を繋いでくれた。
何もわからず悲しみに暮れていた日々。
皆が遠慮して私と距離をとっていた中、門戸を叩いたのはこの子だった。
"お姉さん、ドモン・カッシュのお母さんだよね! ……あれ? 奥さんだっけ!? "
都市部から離れた山奥に住んでいると言ったその子は、私の夫に命を救われたと訴えた。
無論、いきなり受け入れることは出来なかった。あれほど探し回ったのだから。
でもこの子の一報は、立ち直る切欠になった。
少年の幾度にわたる来訪を迎える内に、ドモンを探す日よりもドモンを待つ日が増えた。
「来たなァBLACK CAT!? だが落ち着け、まだ慌てる時間じゃない」
世界中を飛び回っていたせいで、私はお腹の子に危うい負担を強いていたのだ。
あのまま無理をし続けていたら、私もこのお腹の子も――。
ドモンが帰ってきたとき、私たちはどんなに悲しい顔で迎えていただろうか。
彼の親兄弟のように、冷たい肌を晒していたかもしれない。
「わかってるさ! ボクたちは"イタダキマス"がReady Go……でしょ!? 」
「いいセンスですね。少年の純粋さが、ズレたユーモラスに息吹を与えている」
ドモンはきっと生きている。
あの人はきっとどこかで、今日も誰かを助けている。
この子のような無垢な少年たちを救い続けているんだわ。
「ありがとう。みんな、私たちもそろそろ行きましょう」
802
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:38:14 ID:NIXAKoOw0
◇
泣く子も黙る王ドロボウ。奪うものは人の心から星の瞬きまで。
ガキの頃はそんな義賊みてーな輩に憧れたもんさ。そんな俺も今じゃ酒に溺れるケチな泥棒だ。
ここにはそんな野郎がウジャウジャいるぜ。
お偉いさんは、この街を皮肉ってこう言うんだ――。
……あぁ!? そうだな。そっから話そう。
いいか? 王ドロボウは何でも盗む。それは知ってるよな。
ある日、どっかの売人が笑って言ったんだ。
"アイツの夢玉が詰まった宝箱は一体どこにあるんだろうな"ってよ。
風の噂を聞きつけて、"そこ"に三流が集まった。
王ドロボウの名を語り、二流が甘い汁を吸おうとした。
巨大なマーケットにしようと、一流が嗅ぎつけやがった。
いつしかこの街は、ドロボウが暮らす集落になっちまったんだ。
でもお誰もここを潰そうなんて考えないんだな、これが。
色々、裏があるんだぜ。噂じゃ花園都市、色彩都市、日出処の王国……盗電団も関わってるそうな。
……ドロボウの都? あんな片田舎と一緒にしちゃいけねぇよ。
あそこに監禁(す)んでたダブル・マーメイドも、この街に引越したみたいだぜ。
やってることは、何も変わらねぇんだけどな。
『王ドロボウの都』なんて、よく言ったもんだぜ。
【"王ドロボウJING"――――送り狼(センディング・ウルフ) ギンジョウ】
◇
803
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:40:03 ID:NIXAKoOw0
◇
「さぁさぁ!この金属で出来た丈夫な糸! 王ドロボウ印が付いたブーメランとセットでどうだい! 」
「王ドロボウが冥界の皇子から奪い取った毒薬。こんな豆粒でも虎はコロリ逝くぜ」
「焼肉王ドロボウの都店、ただいま2時間9分待ちで〜〜す」
「3人の王が聖なる杯で交わす伝説知ってアルか?なんとその1つがここに……」
「百合の香りが染み込んだシーツ、お買い上げアリガトゴザイマー……HEY、お札! YOUちゃんと枚数チェックしてYO! 」
「どんな缶でも一秒で中身を抜き出せる魔法の缶切りだぁ! ドロボウなら時"も"金成りだろぉ! 」
「王ドロボウモデルのコート。今年は深紅と黄のマーブルが彼のマイブームかしら」
有象無象に飛ぶ商人たちの口八丁。今日もドロボウたちの宴は続く。
その馬鹿騒ぎから、少し離れた一画。そこには、この無法地帯で唯一法が適応される酒場がある。
"カシスちゃんに手を出したら死刑"、"カシスちゃんに惚れたら無期懲役"が合言葉。
「ねぇカシスさ〜〜ん、ジンって昔はどんらガキらったの〜〜? あんたも恋の終身刑もらっちゃった〜〜? 」
「カシス様! 私は見たんです! 流れ星みたいに飛んで黄金から逃げる男を! あれは間違いなく王ドロボウなのです! 」
「ハイハイ、それよりツケを先に払ってね」
"心を奪われた"とのたまう自称・愛人。"この目で見た"と自慢げに話す自称・知り合い。
後から後からやってくる客をいなすのを、私はどれだけ繰り返してきたのだろう。
アイツが戻ってくるはずがない、と待ち続けて……もう。待つのに疲れた身の気持ちも考えて欲しいわね。
「カシスおねーちゃん、王ドロボウって本当にいるの? 」
「さぁ、どうかしら……アイスミルクでいい? 」
この獣のほっかりむりを着た少年も、大事なお客様の1人。
去るものは追わず、来るものは拒まず……それがウチのモットー。
村はすっかり大きくなり、私が子供のときとは比べ物にならないほど、広く、高くなっていった。
「――その答えを届けるのが、俺の仕事だ」
「あらポスティーノ、今日は非番(プライベート)かしら」
「さしずめ有給休暇ってとこさ」
何度も親しく接していたわけではないけど……彼とは長い付き合いね。
安いヘルメットに古ぼけたゴーグル、だぶだぶしたドドメ色のコート。世界を駆け回る郵便屋には、とても見えない。
「やっと見つけたよ、おじさん! ボク、王ドロボウにどうしても会いたいんだ」
「生憎、人間は重量オーバーでね、封筒に入るような子供じゃ、将来切手にも載れないぜ」
「じゃあこの手紙! この手紙を王ドロボウに渡して! お願い! 」
手紙、か。そう言えばジンに手紙を書いたことなかったな。
あいつとそんなハイカラなやり取り、もう少ししておけば良かったかな。
「わかった、引き受けよう」
……いいや。違うわ。この後悔は嘘。
私、本当は考えていたの。ただ、動かなかっただけ。ジンを気にかけて、動いた気になってただけ。
ポスティーノなら、絶対にジンへ手紙を届けてくれるだろうから。
"返事がきっと返ってくる"。そんなわかりきった答えを、しなくてもいいやって。
「お姉さんもどう? やろうよ! グリーティング・カードメイク! 」
そうよ、これでもう何度目かしら。
毎日毎日、同じように悩んで糸口を見つけて解釈していく。
でもその糸は使い捨ての勿忘草。だから私は今夜も馳せる。
「あそこのズッコケ三兄弟呼んで来て。皆でまとめて、出してやろうじゃない」
愛する人への、切なる思いに。
「こういうのも、悪くないわね……」
今夜はたまたま『行動が伴った』だけ。
804
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:42:18 ID:NIXAKoOw0
◇
あー……めんどくせー……めんどくせー……。
ケツがかゆいなぁ……身体をかくの、めんどくせー……。
穴掘らなきゃな……掘るの、めんどくせー……。
クソすんのもめんどくせー……息するのもめんどくせー……。
あーそろそろ起きねーと……やっぱめんどくせー……。
なーんにも、できねー……つーかやる気が起きねー……。
めんどくせー……めんどくせー……。
あー……なーんでこんなことになっちまったんだー……?
……ま、いいや。めんどくせー……考えるのもめんどくせー……。
【"天元突破グレンラガン"――――南ドッカナイ村出身 漢 バチョーン】
◇
805
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:45:54 ID:NIXAKoOw0
◇
ピピピピピッピピピッピピッピピピピッピピピピピッピピピッピピピッピピピッピピピッピピ
『大量消失被害における、直接的影響を受けた並行世界、その現状調査結果』
ピピピピピッピピピッピピッピピピピッピピピピピッピピピピピッピピピッピピッピピピピッ
『神行――――エージェント――おそらく単独で――上海――失敗――――――』
『――高校―年生――単独で拉致――糸色―――生徒を捜索し――失踪―』
『――高校――生――糸色望と同じく――――世間は両者を―――――――――』
『糸色望――高校教師――と同時に被害を受け――親しい――接触成功――』
ピピピピピッピピピッピピッピピピピッピピピピピッピピピピピピピッピピピピピッピピピピ
『アレンビ――――ドモン――同世界――ウルベ――世間は――恐怖―――――』
『――――ゲルマン―――死亡――詳細不明――弟と同じく――捜索中に―――』
『――不敗――――単独で拉致被害に――弟子の敗北――地球は崩――――――』
『ドモン――ストップ――と――ガンダム――世間は行方不明――妻と――成功』
ピピピピピッピピピッピピッピピピピッピピピピピッピピピピピピッピピッピピピピピピピピ
『ヴィラルは単独で――現状は大きな変化は無く―――カミナ―働―――――け』
『―ア―――同じく単――グレン団――崩――シモ――フラ―――グ―――折れ』
『――コ――やはり―独――団は暴走――――粉砕――――玉砕――大火災――』
『カミナ――大きな―痛―――チミ――負―る―――アッ――死――恐怖―――』
ピピピピピッピピピッピピッピピピピッピピピピピッピピピピピピピピピッピピッピピピピッ
『シモンは単独で拉致。おそらく人間は獣人に大敗北。当時の関係者に接触成功』
ピピッ!
「……うるせーなー……、おいガキ、それ止めろ」
乾いた大地に、パックリ割れたクレバスの底で、ボクはありったけの事実をデータにまとめる。
クロちゃんたちのように攫われて、殺し合いを強いられた82名の人たち。
彼らが住んでいた世界に実際に飛んで、現在、どうなったのか……調べて『対応』するんだ。
剛ハカセが改造した次元転移装置は、異世界を『横軸』、時間の流れを『縦軸』として移動できるんだ。
ここまで来るのに、色んなことが一杯あった。
ボクが出る幕も無く、前を向いて生きている人たち。
どうにもできず、押しつぶされてしまった人たち
世界そのものが壊れてしまい、その崩壊に飲み込まれてしまった人たち。
どうしたらいいのかわからず、ぼんやりと時間を過ごす人たち。
みんなボクと同じく、去っていった人たちとの思い出を、回帰していた……。
「あー……やっぱめんどくせー……怒る気も起こらねー……」
「おじさん、そんなこと言わないでコレでも食べてよ」
そして今もボクは――今日はシモンくんが誘拐された世界で――調査を続けている。
この世界も、前の3つの世界と同じだった。
核となるメンバーを失った大グレン団は、空中分解を起こして、バラバラになっていた。
ヴィラルが誘拐された世界は、それほど大きな変化は見られないけど、もう少し調べてみないと結論は出せない。
一枚岩だった絆も、些細な穴を衝かれれば、こんなにもあっさりと壊れてしまうなんて……とガッカリする暇はない。
とにかくこの世界は文明が極端に進んでいない世界のためか、生きた敗残兵を見つけるだけでもひと苦労。
「……食べるのもめんどくせー……」
バシャッッ
「あっちぃぃいいい〜〜!? 」
そんな訳でボクは、出来立てのラーメンを、このオジサンの頭にぶっかけてみた。
「てめぇ何しやがる! このバチョーン様の頭に油ギットギトのお湯ぶっかけやがって!」
「あはは、ブタモグラの肉を煮込んで作ったスープだよ。肉のエキスがたっぷり出てるでしょ」
「オマケになんだ、この硬くて太くて長い黄色の糸は! 気持ち悪いったらありゃしねぇ! 」
「でも美味いでしょ? 」
「…………! ん……ま、まぁ……まぁまぁだな」
「ブタモグラって火で炙って焼く以外にも、こんな調理法があるんだ」
この旅もあと少しで一つの区切りを迎える。
それはボクなりの結論、考え、これからの方針を決める上で大事なことだ。
「またご馳走するよ。じゃあねオジサン」
ボクには"避けられない邂逅"が迫っている。
ずっとそれから逃げ続けてはいたけれど、そろそろ真正面から受け止めなきゃいけない。
行こう。
多分、"あそこ"で待ってるんだ。
あの2人は。
◇
806
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:49:19 ID:NIXAKoOw0
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これは
私たちにとっての
現実(リアル)
君にとっては
ただの
ファンタジー?
【????????????――――魔法少女リリカルなのはStrikerS】
◇
青く青く広がる草原の真ん中に、ボクを乗せた装置が降り立つ。
ここはスバル・ナカジマさんの所属する機動六課が存在する。
彼女たちに関係がある並行世界……つまり拉致被害を受けた世界は幾つかある。
スバル・ナカジマさんを始めとした4人の隊員が消えた世界A。
彼女たちの上司、八神はやてさんたちが消えた世界B。
「くると思ってたよ、おばさん。顔を見せるのは初めてかな」
腰まで伸びた金色のストレート。ピッチリとラインが合ったスーツ。
この人はボクを知らないかもしれない。でもボクはこの人を知っている。
「1人の犯罪者が忽然と姿を消したの。これだけ言えば、充分かしら」
最後の1人……クアットロという名の眼鏡っ子が消えた世界C。
この第三の世界に来ることは、ボクにとって自殺行為に繋がるかもしれなかった。
なぜなら『この世界の、この女の人』は、『時を移動する』ことも『異世界へ移動する』こともできるから。
しかし『並行世界へ移動する』――つまり第三の軸を動くことはできない。
「私も遠巻きながらロージェノムの事件を知ったわ。君が知っていることを教えてほしいの」
「やり方がセコイよ。たまたまボクがいた座標の世界で、あんたの仲間、ボクに何をした? 」
ボクの世界旅行は時として危険なことがいっぱいあった。
明らかな外的要素による襲撃(装置の奪取が狙いだったんだろうけど)を、片時も忘れたことはない。
何度かの衝突で、彼らが移動できる『時の軸』と『異世界の軸』がわかったから、逃げ道も確保できたんだけど。
「"赤いおばさん"がいないね?周りに仲間が隠れているのは、わかってるぞ」
「わかってる。だから私は君の善意を全身全霊で優先する。君が今のままをあり続けるのなら」
「そのつもりだから。もう一切干渉するなよ。絶対だからな! 」
偉そうな口を叩ける立場じゃないけど、ボクはボクのルールを破っていたつもりはない。
ボクは並行世界の自分に会いにいったこともない。
ボクは誰かの死を直接的の操作しようとしたこともない。
ボクは"ハンバーグが食べたかったのに、どうしてスパゲティが出てくるの"なんて駄々こねていないぞ。
ボクは寂しさを紛れさせたかっただけ。
ボクのように苦しむ人の悲しみを、和らげたかっただけなんだから!
「――でも、君は、何も知らないほうが良かったのかもしれない」
それなのに。
それなのにどうして? おばさん。
その哀れみの目は何?
おばさんにも、ボクの知らない……
「こちらフェイト、バインドによる拘束を確認。少年を捕獲します」
何かが……あるの?
「今はゆっくり休んで。これは私たちの問題なの」
807
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:49:58 ID:NIXAKoOw0
◇
お嬢さん――いつしか 周りは火の海――♪
もう、よふかし(パジャマゲーム)は――およしよ――♪
よふかし(パジャマゲーム)は――およしよ――♪
【???????――――???????】
◇
『フェイト時空官! こちら第六班ですが、艦隊はもはや修復不可能です! このままでは全滅してしまいます! 』
『こちら第四班! 操縦不能! まさか我々時空管理局の戦力をたかが1人の…ぐぁぁぁぁぁぁ!! 』
『フェイト! そっちが済んだら加勢に頂戴! コイツ、核ミサイルよりタチが悪いからっ! 』
彗星の如く走る閃光に、次から次へと業火の悲鳴をあげて地に堕ちる艦隊。
「勇気ある模倣犯(コピー・ブラックキャット)から挑戦状を受け取りましたので、参上仕りました。
不肖王ドロボウ、時間のくび木にはめ込まれた皆様から、この装置を盗まさせていただきます」
そして赤く赤く燃える焼け野原の真ん中に、しゃんと舞い降りた黄色の詩人。
「あ、あそこでテロ行為をしている暴君と私めは、一切の関係がございませ〜ん。どうぞよろしく」
"そんな理不尽な貰い方して貰ったモノの分は、ちゃんと返さないと"
そう言ったのは私の親友。私たちが掲げた信念でもある。
黒猫の少年は、私たちとは少し違う。直接あそこに招かれた者と、遠巻きの違い。
ロージェノムの件では私たちも遠巻きに終わってしまったけれど。
献身的に尽くす姿に、管理局も大目に見てきた。私たちが率先して周囲をなだめていたから。
「気持ちはわかるけど、この子の悪戯(やさしさ)を0にするのは、過保護すぎやしない? 」
そうこうしている内に、ここまで動く彼の将来に不安を懸念始めていた。
生涯かけて背負わなければならない業を、本当に彼が背負う必要があるのか。
だから私たちは、彼を眠らせて安全に保護し(未来を先読みされている不安もあったが)、事を成そうと――
バシッ
顔。
痛い。
誰……?
「忘れ物だよ」
あれ。
どうして。
バインド、解かれた?
この子……やはりわかっていたの?
こうされる事を?
「欲しくて欲しくてしょうがないんだろ! 」
目をこすりながら、私にぶつかって、落ちた物を観る。
膨大な設計図をまとめた束だった。原始的な結び方でぎゅんと縛ってある。
作りたかったら自分達で勝手に作れ、ということだろうか。
確かに……道理だ。それがこの子の師匠に対する、敬意なのかもしれない。
「ファンタジーなんかじゃない。これもボクにとっても現実だよ。
ハカセもクロちゃんもミーくんもマタタビくんも生きていた」
未来を変えるのは……若者たちの仕事、か。
「ボクはやめないぞ。だっておばさんも、この人も、みんなみんな……」
謎の青年に抱きかかえられながら、あかんべーをする少年。
もう彼に私たちは必要ないのかもしれない。
私たちが私たちの世界で、生き続けるように。
彼は"自分の世界"を自分で選び――進み続けるのだろう。
「生きているんだから! 」
装置が発する光に包まれ、段々消え行く2人。
彼らを。彼らの道を見届けたら。
――私も自分を助けにいこう。
【アニメキャラ・バトルロワイアル2nd Epilogue サイボーグクロちゃん with XXX――――END】
808
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:50:21 ID:NIXAKoOw0
「ようやく雑種にも、あの黒猫衣装の素晴らしさが理解できる時代になったか」
「ねー聞いてる? こいつら全員やっちゃっていいの? あんたにしちゃゴミ掃除なんだろうけど」
『詳しくは後ほどお話します。今は彼らの処理を優先事項に』
【Thank you for Everybody, Thank you for Everything... but, Not all story end? 】
809
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:57:01 ID:NIXAKoOw0
投下完了しました。
タイトルは extra SHOT 『EL FIN 〜人、生、あるいは――未亡人〜』
810
:
ネコミミの名無しさん
:2011/03/05(土) 21:34:33 ID:EQklWcIY0
あげ
811
:
ネコミミの名無しさん
:2013/07/12(金) 04:10:04 ID:Zu0oaLok0
広告に埋もれるのもなんなので上げ
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