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修正作品&試験投下スレ

1ルシファー@掲示板管理人 ◆8hviTNCQt.:2007/06/11(月) 01:23:42 ID:WrdARUbI
本スレ節約の為、修正した作品はこちらに投下して下さい。
また本投下する前に作品の内容や展開に不安がある時の試験投下の利用もどうぞ。

120 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:20:14 ID:M1AUfxZY
「くぅっ」
完全に勢いを殺されたディアスの身体が重力に引かれ地に落ちる。
その着地の隙を逃すガブリエルではない。
すぐさま再度『ディバインウェーブ』をディアスに見舞う。
剣を盾に正面から受けるもディアスは吹き飛ばされた。
傷ついていながらも尚その威力は健在で、正面からハンマーで殴られたかの様な衝撃がディアスを襲う。
十数メートル離れた家屋の外壁に叩きつけられ血を吐き、一瞬意識がブラックアウトする。
朦朧とする頭を振り、霞む視界でガブリエルを捕らえると、自分とガブリエルとの間に1本の矢があった。
その矢がディアスの心臓を射抜かんと闇夜を駆ける。
「ぐぁっ」
なんとか身体を反らして急所を避けたが、左肩に深々とそれは突き刺さった。
「そろそろ無駄な抵抗はやめてデリートされたらどうだ? 
そもそも貴様が戦う理由はなんだ? そこまでして守りたいものなど今の貴様には無い筈だが…」
ボーガンに新たな矢を装填しながらガブリエルがディアスに語りかける。
「貴様も私と同じく愛おしい家族を奪われたのだろう…。そう、フィリアがいない世界に存在価値など無い。
貴様もそう思わないか? 父が、母が、妹がいなくなった世界を憎んでいたのではないか?」
ガブリエルはディアスの過去を知っていた。
情報収集等を司る4機の素体によりディアスをはじめ十賢者と戦った12人の過去は調査されていたのだ。
消せない傷跡である血塗られた過去を思い出しディアスの目が大きく見開かれる。
脳裏に過ぎ去りし日の悲劇がフラッシュバックし、次第に彼の瞳が曇っていく。
父が血飛沫を上げて崩れ落ちる姿。血溜まりに沈んでいく母の姿。
薄れ行く意識の中で垣間見た、妹に容赦なく突き立てられる刃の群れと断末魔の叫び。
そんな光景が鮮明に再生される。
彼はこの出来事がきっかけで故郷であるアーリア村を飛び出した。
その頃の彼だったら、このガブリエルの台詞を肯定したであろう。このまま戦意を失っていたであろう。
だが、今の彼はそうする事はなかった。
手にした剣を地面に突き刺し、身体の支えにしながら立ち上がる。
地から引き抜いた剣を平に構え、眼前の敵に射る様な眼光を放つ。
その彼の瞳には先程の暗雲など無かった。

121 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:21:13 ID:M1AUfxZY
構えを取りながらもディアスの口が言葉を紡ぐ。
「確かに俺は惨劇を止めることの出来なかった己の無力さを呪い、
自分だけ生き残ってしまったという後悔の念に押しつぶされた」
そのまま真っ直ぐガブリエルに向かって駆け抜ける。放たれた矢を僅かに身体そらし回避する。
電光石火の速さで間合いを詰め、どんな相手であろうと打ち貫く刺突を打ち込む『疾風突』だ。
ガブリエルは持ち替えた肢閃刀でその一撃を受け止める。
火花が2人の間で散る中ディアスは更に言葉を続けた。
「世界も憎み、力だけをただ闇雲に求め振りかざした。
それでも、俺の心は晴れなかった。一生このままでも良いとさえ思っていたっ」
肉迫したこの間合いでただにらみ合いを続けるような真似はしない。
ディアスは彼の冴える太刀捌きを象徴する剣技『夢幻』を見舞う。
「だが、そんな俺にレナが手を差し伸べてくれた!」
数合の打ち合いの末間合いが開かれた。その間合いを詰めるべく跳躍しながらも彼の言葉は止まらない。
「クロードが傷つける以外の力の使い道を示してくれたっ!」
跳躍と共に一太刀、降下と共にもう一太刀。X字を剣閃で描く『クロスウェイブ』
彼の怒涛の攻めにガブリエルは防戦一方となる。
「皆が共に支え合うという事を教えてくれた!!」
着地と共に沈む身体のバネを利用して続けざまに剣を振り上げる。
軋む身体が悲鳴を上げるがそれでも彼は止まろうとしない。切っ先が大地と空を断つ一撃『朧』を放つ。
盾にしていた肢閃刀が砕け、ガブリエルの身体に一筋の傷跡を刻み込んだ。
「俺はあいつらがここからの脱出に絶望しない限り、騎士となり守り抜くとっ! 剣となり道を切り拓くと誓ったっ!」
吹き飛ばされたガブリエルの身体が受身も取れずに地面に墜落する。
ディアスは振り上げた剣を上段に構え直し闘気を送り込む。
かつての惨劇の記憶から生まれる負の感情により編み出した剣技『ケイオスソード』
だが、いまやその一撃に暗い感情は込められていない。
仲間の道を切り拓くため己が手を汚す事も厭わない。そんな覚悟が込められた一撃だ。
「これが俺の戦う理由だっ!!」
ディアスの叫びと共に放たれた渾身の一撃がガブリエルに直撃した。

122 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:22:01 ID:M1AUfxZY
「ハァ…ハァ…」
息をもつかせぬ連続攻撃。
負ったダメージが身体に残る中で繋げられるような連撃ではなかった。
(手応えは十分。しかしコレで仕留められていなければ…)
無常にもその懸念は現実となる。
1人の男の怨念を宿した狂天使はゆらりと立ち上がった。さながらその姿は紅い幽鬼の様。
「そうか…。それが貴様の理由か。だが、私もこの世の全てを消すまで止まれんのだっ!」
ディアスに負けじと自らの戦う目的と意志を乗せ『ディバインウェーブ』を撃つ。
回避する余力が無かったディアスはまともに食らってしまう。
「がはっ」
叩きつけられた小屋の窓をぶち破り床に転がり落ちる。
そんな彼に容赦なく追撃するガブリエル。
瞬時に詠唱を完成させ、印を切り呪紋を放った。
ディアスの仲間であるセリーヌ・ジュレスを葬った一撃『スターフレア』で小屋ごと吹き飛ばす。
ディアスは降り注ぐ星光と瓦礫に襲われながらもなんとかそれを耐え抜いた。
瓦礫を押し退け立ち上がった彼の心は未だ屈していない。
その証拠に剣を持つその手は力強く握られている。
「しぶとい奴だ…。だが、コレには耐えられまい」
それはガブリエルの最強の一撃『神曲』
彼の奏でる旋律は例えるならディアスへの葬送曲。
(あれを食らったら流石に死ぬな…)
そんな事を考えていたディアスだが、引くことも臆する事もしなかった。
改めて剣を平に構えると月光をその背に浴び、大地を蹴る。
(俺はこのやり方しか知らない!)
距離は20メートル弱。とても『神曲』の発動を阻める距離ではないがそれでも駆け抜ける。
途端に足がもつれその場に倒れこんでしまう。
精神はまだ戦う事を辞めようとしていないが、身体の方が先に参ってしまったのだ。
そんな姿を見て勝利を確信し、笑みを浮かべるガブリエル。
そして、ガブリエルがその力を解放しようとしたその刹那。
小さな一つの影がディアスの前に躍り出た。
その小さな影がディアスを覆うように青白いドーム状の力場を展開する。
ガブリエルの『神曲』がもたらす破壊の光と青白いドームの光がぶつかり合い爆ぜる。
ディアスはこの小さな乱入者を知っていた。
「お前は、プリシスの…」
彼の前に現れたのは、少し前にガブリエルの前から姿を消していた無人君である。
無人君は自らに備えられた機能『バーリア』を展開し、ディアスの事を守ったのであった。
小さな身体に秘めた力を目の当たりにしたディアスは、限界を迎えていた己の身体を奮い立たせる。
(そう…。1人で勝てないのなら、仲間と共に戦えばいいんだ!)
13人目の仲間といえる無人君の作ったチャンスを逃す事などディアスには出来ない。
「おおおおおっ!」
雄叫びを上げ立ち上がると、ガブリエル目掛けて残りの距離を駆け出した。
ガブリエルが懐からカードの様な物を出して掲げていたが、そんなもの構うものか。
全身を矢としてガブリエルに迫り、その手に持つ剣を深々とガブリエルの身体に突き刺す。
勢いはそのままに二つの身体がもつれ合うように大地を転がった。

123 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:23:24 ID:M1AUfxZY
地面に仰向けになって倒れているディアスを覗き込む無人君。
「ありがとう無人君。お前のおかげだ…」
ディアスはそんな小さな友人に感謝の意を伝える。
無人君はコクリと頷くと一つの方向を向いて静止した。
続けてディアスのマントの裾をクイックイッと引っ張り始める。
「そっちに何かあるのか?」
上体を起こし、無人君の見つめる方向に視線を送る。
(そう言えば、あの方向にはアルベルの奴が行ったきりだったな)
呼吸を整える事ができたディアスは立ち上がると、その方向に向かって歩き始めた。
トコトコとそんなディアスを案内するように無人君も小走りを始める。
その歩みの先には彼の製作者プリシスがいる事を無人君はわかっていた。

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
ディアスが去ってしばたくたった後、一つの影がムクリと起き上がった。
(まさかこの私があの下賎な魔物の様に、死んだ振りをしてやり過ごす事になろうとは)
身に付けた衣装こそボロボロであるが、その身体からは傷が消えてなくなっていた。
ガブリエルはディアスが突っ込んでくる間際にセリーヌのデイパックより手に入れた『リヴァイバルカード』を使っていたのである。
このアイテムは使った後1回だけ復活を遂げる事が出来るようになる代物であった。
何故セリーヌがこのアイテムをガブリエル戦で使わなかったかというと、
このアイテムの対象者は使用者だけであったことが原因だった。そうなると自分しか復活できない。
アリーシャには手渡す暇など無かったし、ジェストーナも途中まで死んでいたものだと思っていた。
加えて自分が1回だけ蘇生したところで、前衛のいない状況では結果は変わらないと判断していたのであろう。
その結果『リヴァイバルカード』は使われる事無くガブリエルの手に渡ってしまったのだ。
(しかし、この屈辱すぐにでも晴らしてやるぞ…)
放置されていたデイパックを拾い上げ、中からハルバードを引き抜くと一人と一体が向かった方向へ歩き出した。

124 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:24:32 ID:M1AUfxZY
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「見逃してやらなくて正解だった……死ねッ! クソ虫ッ!!」
怒りに燃える瞳でプリシスと呼ばれた少女へと迫る。
そんなアルベルの前にアリューゼが立ちはだかる。
「邪魔だ!」
叫びと共に剣を横薙ぎに払う。
所詮相手の獲物は鉄パイプ。
それもフェイト愛用の鉄パイプみたいにガチガチにカスタマイズされている様な代物でもなさそうである。
だから、この一太刀で相手の胴と腰をお別れさせてやれるはずだった。
しかし、アリューゼも数々の武勲を挙げた戦士である。
アリューゼは鉄パイプの腹でその斬撃を受けようとせず、
相手の剣閃に対して平行に手にした獲物を構えると、僅かに角度をつけた。
アルベルの剣閃は、その鉄パイプの表面を滑り狙いから反れてしまう。
横薙ぎに振るった一撃が反れた今のアルベルは、上体が開き無防備になっていた。
その無防備な所に、身の丈以上の大剣を自在に振るうアリューゼの豪腕が打ち込まれる。
「ぐぅ」
やや前屈みになったアルベルの横っ面に鉄パイプを思いっきり叩き込む。
ぶっ飛ばされたアルベルだったが、すぐさま起き上がり未だに燃え滾っている怒りの炎を二人に向ける。
「そうだったな! 手前もグルだったなっ! だったら纏めて潰してやるよ! クソ虫共っ! 『無限空破斬!』」
ディアスと同じく我流で己の剣技を磨いてきた彼も、剣を振るという基本的な動作を一つの技へと昇華させていた。
一見がむしゃらに剣を振っているようだが、地を疾る剣圧は確実に二人を捉えていた。
アリューゼは鉄パイプで同量同圧の風圧を作り出し衝撃波を相殺させた。
プリシスも身軽にステップを踏み、それらを回避。
どうしても避けられない物はマグナムパンチの文字通り鉄拳で叩き落とす。
このままでは互いに体力を消耗するだけで泥仕合になる。
そうなれば人数において不利な自分が押し切られると判断したアルベルは戦力の温存など考えなかった。
『無限空破斬』を飛ばしながらも右手には次の技のために闘気を込め始めていた。
標的2人が『空破斬』迎撃のために足を止めた瞬間に『吼竜破』を撃ち出す。
彼の闘気が作り出すのは6匹の黒龍。
内の4匹をアリューゼに2匹をプリシスへと嗾ける。
更にアルベルは追撃をかけるべく剣を持ち直し飛び掛かる。
向かう先は同じ戦場を共に戦った仲間の仇プリシス。
2匹の黒龍の対応に追われていたプリシスにアルベルの白刃が迫る。

125 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:25:38 ID:M1AUfxZY
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
牙を剥く4匹の邪龍を潰していたアリューゼの視界にプリシスへと飛び掛かるアルベルの姿が映った。
このままではプリシスがヤバイと判断を下したアリューゼは、
まだ残っていた3匹の黒龍を無視してプリシスの方へと駆け寄る。
1匹が左脇腹に喰らい付いて来たがそれも無視。
2人の間に割り込み自らの身体を盾にする。
「ぐああぁぁっ」
背中を切り裂かれたアリューゼに焼けるような痛みが走り、傷口から鮮血が吹き出した。
「アリューゼっ!」
かばった少女が心配そうな瞳をこちらに投げかけてきた。
身体を両断されなかっただけましだが、かといって軽視できるような負傷でもない。
苦し紛れに振るった鉄パイプはアルベルに当たることなく空を切った。
飛び退いたアルベルが剣を振り、刃先についた血を払う。
「随分とそのガキにご執心だな! このロリコン野郎!」
挑発的な物言いのアルベルには構わずプリシスを自分の背後に下がらせる。
逆転の手は無い事は無いが、この相手に通用するかどうか。
奥義であり自分の切り札『ファイナリティブラスト』
不可避の猛進から放つ斬撃と爆撃の二重奏。
重量級のアリューゼの突進を正面から受け止める事は難しく、どこまでも追いすがる猛追からは誰も逃れられない。
だが今対峙している男はその突進を防ぐ術を持っている。
先程見せたこの世に未練を残した怨霊を障壁とする妙な技。
あれを出されたら奥義が切り札には成り得ない。
しかしこのままでは押し切られるのも時間の問題だ。
(一か八か…仕掛けるか)
腰を落とし、足を踏ん張り闘気を解放する。解き放つ力は暴力的な風を巻き起こし周囲の木の葉をざわめかせた。
そんなアリューゼの闘気に触発されたアルベルはニヤリと口元を歪め剣を構える。
「おもしれぇ! ルシファーの言いなりになるようなクソ虫にしては悪くねえ。来いよ! 叩き潰してやんぜ!」
回避するような無粋な真似をする気など無かった。正面から受け止め相手を粉砕する心積もりだ。
しばしのにらみ合いの後、同時に飛びかかろうとした時。
「待て!」
「「ディアス!?」」
彼を知るアルベルとプリシスが異口同音に新たに現れた人間の名を呼ぶ。

126 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:28:00 ID:M1AUfxZY
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
無人君に連れられた先は戦場となっていた。
この場にいる人間を見渡す。
見知らぬ男とプリシスに、対峙する形でアルベル立っている。
「アルベル。コレはどういうことだ? 相手がプリシスだったら少し待てと言ったはずだ」
今まさに飛び掛からんとしていたアルベルが不機嫌そうにその問いに応えた。
「ああん!? しっかり見極めたぜ。このクソ虫どもは殺し合いに乗っていやがる。
その証拠にネルが使ってた武器をあのガキが持ってやがる。大方殺して奪い取ったんだろうよ」
その答えを聞いて驚いたのはプリシスだった。
ジャックから聞かされていた『セブンスレイ』の持ち主の名前を口にするアルベル。
狂戦士と化したアシュトンと戦い、命を落としたネルの名前がアルベルから出てきたのだから無理もない。
しかも、こっちが殺し合いに乗っているなんて言っている。
「ちょっと待ってよ! 私達はそんなつもりなんて無いよ!」
どうやら互いの勘違いの果てに、脱出を狙う者同士で殺し合いをしていたらしい。
なんとか自分達にかけられた嫌疑を晴らそうと声を荒げる。
「けっ! 旗色が悪くなったら今度は懐柔策か? 本当にどうしよもねえクソ虫だな!
ディアス。こんな奴らの言う事なんざ信用できねえ。殺るぞ」
「待てと言っただろ! よく考えろ。二人でまとまって行動している時点で殺し合いに乗っていない可能性の方が高い。
勝ち抜けるのは1人だけというルールだからな」
「互いに利用しあってんだろ? お前が手を出さねえんなら俺1人でも殺るぜ」
「だったら、ここまでボロボロになってでも手を組んでいる必要性が無いだろうが。
どちらかが戦ってる隙に逃げればいいはずだ。
それをしないという事は互いに協力し合っている証拠に他ならない。そうだな、プリシス?」
「うん! そうだよ。この武器は少し前にネルさんと一緒に戦っていた人から貰ったんだ!
その人達アシュトンと戦って、いっぱい人が死んで…それで私…私…」
涙を浮かべながら次々と言葉を繋いでいくプリシスの頭に、ディアスがポンッと優しく手を乗っける。
「落ち着けプリシス。互いの情報を交換する必要もあるだろう。それにお前に渡したいものがある」
そう言うと無人君を抱き上げプリシスに手渡した。
途端にプリシスの表情が明るくなる。故郷にいる頃から共にいた友人と再会できた事に喜びを隠せない。
「無人君!! ディアスが持っていたの?」
「いや、俺もさっき会ったばっかだ。だが無人君が俺をここまで連れてきてくれた。
とにかくあの家で落ち着こう。行くぞアルベル」
「そだねっ、行こっアリューゼ」
完全に蚊帳の外だった二人を伴って、近くの家屋に入っていった。

127 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:29:26 ID:M1AUfxZY
「そうか…そういう経緯でアシュトンは…」
一通り事情を聞いたディアスは少し憂鬱そうに言葉を漏らした。
「私そんなつもり無かったんだけど、今考えるとやっぱりあの声はアシュトンの声だったと思う。
どうしよう…私の何気ない言葉の所為で関係ない人が何人も…」
シュンと気落ちした様子のプリシスの肩に優しく手を置くアリューゼ。
「あの場合仕方がないだろ。なぜか知らないが姿が見えなかったのだからな」
「んなトチ狂ったクソ虫の事なんざ関係ねえ! それよりもディアス。このガキが持ってる技術がどうとか言っていたが当てになるのか?」
先の戦闘の応急処置を終えたアルベルは、ディアスが出がけにそんな事を言っていた事を思い出して彼に訪ねた。
「あぁ、だがその前に…」
ディアスは荷物から紙とペンを取り出すと文字を書き始めた。
『ルシファーは首輪の爆発条件に自分に逆らおうとした時と言っていた。
現に目の前でルシフェルの首は吹き飛ばされた。ここでも下手な言動をすれば俺達もああなりかねない』
「だったらどうしようも出来ねえじゃねえか!」
アルベルがイラついた様子で叫びながら壁を殴る。
「落ち着け。最後まで聞いてからにしろ。この単細胞」
そんなアルベルの様子を見てアリューゼが彼を咎める。先の戦闘のわだかまりが残っているのかアリューゼの口調は攻撃的だ。
普段のアルベルならここで「表に出ろ」といって食って掛かっただろうが、
流石に現状を把握しているのか、チッと一つ舌打ちをしてドカリと座り込む。
自分に全員の視線が戻ったことを確認して新たな紙を全員に見せる。
『ルシファーがどのような手段で俺たちが逆らったかどうかと判断していると思う?
俺は俺達の言葉を盗み聞くような機械か、姿を記録する装置で監視しているに違いないと踏んでるのだが』
『そんなのありそうもないよ? どんなに技術が進んでいてもそんなものをやたらめったら配置してたら、集まる情報を処理なんて出来ないよ』
とプリシス。
『いや、俺達の監視目的なら最も適切なものが全員に取り付けられているはずだ』
そう書いた紙を掲げてディアスは自分の首輪を指差した。
『これにそれらの機械を備え付ければ参加者全員を監視できるはずだ』
そこでアリューゼが割って入る。
『推論を並べているだけじゃ埒が開かん。調べてみようぜ』
紙と共にネルの遺体から回収した首輪をその場にいる全員に見せた。
『んじゃ、ちょっと待ってて。ぱぱっと調べちゃうからさ』
腕まくりをしながらプリシスは荷物からドルメラ工具セットを取り出すと、首輪の解体を始めた。

128 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:30:58 ID:M1AUfxZY
作業はものの十数分で終わった。
中身から出て来たものは4つだった。
液状爆薬のシリンダー。
そのシリンダーは首輪と同様にリングの型をしており比較的柔軟な素材で出来ていた。
中には2種類の液体。それらを隔てるように薄い隔壁が設けられている。
無理やり首輪を引っ張れば隔壁がひび割れその隙間から2つの液体が混ざり合い化学反応を起こし爆発を起こす。
火薬などでは湿気てしまい不発になるかもしれないという配慮だろう。
そしてそのシリンダーから伸びる8本の回路に接続されているのは小さな紅い宝玉。
それには紋章力のようなものが込められていてどんな役割をしているかわからなかったが、
そこから延びる配線から察するに首輪の制御を司る物に違いない。
8本の線はおそらく製作者が首輪を作るときに間違って起動した場合解除するために設けたコードが1本と、
それに気付いた者を欺くためのダミー用の配線7本。
上手く当たりを切ることができれば爆弾は無力化できるかもしれないが、1/8のギャンブルを命がけでやる気にはなれなかった。
その宝玉からは別の配線が伸び、その先端は送受信機と拾音装置に繋がっていて、ディアスの推測を裏付けた。
科学技術の結晶ともいえる3つの部品マイクと、送受信機と、爆弾。
コレだけ小型で高性能な物をプリシスは留学先の地球でも見たことはなかった。
それらを紋章力による信号で制御。
簡単に述べるとそのような構成をしていた。

129 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:32:42 ID:M1AUfxZY
ばらされた部品を眺め終えたディアスがペンを走らせる。
『どうやら盗聴だけで、盗撮の心配はこの首輪に関しては無さそうだな』
『で? コイツは外せるのか?』
アルベルが殴り書いたような字で疑問をぶつけてきた。
『ん〜、今のままでは無理だね。紋章力に関しては私も専門外だし、どんな信号が送られてるかわからない。
それにまだ私達が気付いていない機能があるかもしれないから下手にいじれない。
紋章についての専門知識を持った人にこの宝石を見てもらって、発せられる信号を解析。
その後はその信号を誤魔化すための装置を横から接続して制御を乗っ取る。
続けて爆弾に繋がった回路全部に解除用の信号を流して切断。
最後に爆薬のシリンダー片側に穴を開けて1種類だけ液体を抜き取る。
その後は首輪を無理やり取っても大丈夫だよ。
でも、今は紋章術の専門家もいないし、回線乗っ取り用の機械も無いからお手上げ』
『機械ならなんでもいいのか?』
ディアスもプリシスに質問をぶつける。門外漢の彼にはこの程度の質問しか出来ない。
『この家にあるような家電製品じゃダメ。もっと高性能な演算処理ができる機械が必要だよ』
『んじゃ、機械だけなら目星はあるじゃねえか。コイツをばらそうぜ』
そう書かれた紙と共に無人君を指差すアルベル。
彼も未開惑星出身者だが、フェイトたちと共に行動していた為、
無人君には高度なCPUが積まれているのは容易に想像できた。
そんな彼に青い金属の塊、即ち無人君が剛速球で投げつけられる。
顔面でその直撃を受けたアルベルはもんどりをうってぶっ飛ばされた。
「ダメ! 無人君は私の大事な友達なんだからそんな事出来ない!」
(言ってる事とやってる事が違うだろうが…)
やれやれといった態度でアリューゼが肩をすくめた。
一つ咳払いをしてディアスが言葉を発する。
「紋章術の専門家なら心当たりがある。急いでいたから合流地点を決めれなかったが、
レオン達にはI-8に向かってもらっている。合流するぞ」
ディアスが促すとプリシスも荷物をまとめ立ち上がる。
それと共にアリューゼも立ち上がった。
「まぁ、あの青髪の女が起きるまでの契約だったしな。ついでにまだ報酬を貰ってねぇ」
アルベルも嫌々と言った様子で彼らの後に続く。

130 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:35:01 ID:M1AUfxZY
ここで先頭を行くデイアスが外の異変に気付いた。
人影が一つ、周囲を探るようにうろついているのだ。
目を凝らしてその人影の正体を探る。
背後のプリシスもその誰かの正体を見極め2人はその人物の名前を口にした。
「「ガブリエルっ!?」」
前の二人が止まる事で後ろがつっかえる。
「どうした?」
アリューゼが身を屈める2人に尋ねた。一応前の2人に習って彼とアルベルも壁際に身を屈める。
「敵だ」
「間違いないのか?」
短く応えたディアスにアリューゼが更に問いかける。
「ああ、あいつには説得も無意味だし、奴はこの島の参加者を皆殺しにするつもりだ。先程確かに倒したはずだが…」
「ならどうする? このままやり過ごすのか? それともぶっ倒して行くのか?」
アルベルの質問を聞きつつ、考えをまとめながらディアスはガブリエルを観察する。
先程奴の身体を貫いた傷や、全身に見受けられた傷跡が無くなっている。
どんな手品を使ったかはわからない。
数の上ではこちらの方が有利だが、全員それぞれ疲弊している。
ガブリエルからダメージが完全に消えているか判断しかねるが、先程と違って奴に全力を出されたら勝算は薄い。
ここは首輪解除のキーパーソンであるプリシスと護衛に誰かをつけて逃げてもらうか。
そうまとめた後に口を開こうとしたとき。プリシスが先に言葉を発した。
「私に手があるんだ。少し時間を稼いでくれないかな?
殺し合いに乗ったガブリエルを放って置くともっとたくさんの人が死んじゃうよ。私達で力を合わせてあいつを倒そうよ!」
(確かにプリシスの言う事にも一理ある…。
先程二手に分かれてしまったからこそ首輪の解析が頓挫してしまったわけだし、まとまって行動していた方が良いかもな)
「わかった俺が前に出よう。おそらく奴は俺を探しているだろうし、俺以外の存在を知らないはずだからな。
アルベル、お前は伏兵として伏せていてくれ。俺がやられそうになるか、プリシスの準備が完了した時に隙を作る役目を担って貰う。
アリューゼ、お前の傷では戦うのも厳しいだろうから、プリシスの護衛と手伝いに専念してくれ。
プリシス、お前は首輪解除の鍵を握っている。
約束してくれ、俺達が時間稼ぎに失敗したり、お前の考えていた手が通用しなかったら撤退してくれ」
ディアスの指示にアルベル、アリューゼは頷くがプリシスだけは抗議の声を上げる。
「そんなっ! 私だけ逃げろって? 冗談でしょ?それに1人だけ前に出るって…」
しかしディアスの真剣な面持ちから、彼にそんなつもりがないのはプリシスにも判っていた。
「奴の『ディバインウェーブ』の前には数で攻める事に余り意味は無い。それに、いいか?
俺の知る限りこいつをどうにかできる人間はお前ぐらいしかいない。
そんなお前が死んだら最悪の場合、最後の一人まで殺し合いを続けるしか手はなくなる。
それだけは避けなければならない。だから…わかってくれ!」
プリシスは目を伏せながらもディアスの言葉に頷いて見せた。
「よし、俺が先に出て奴の注意を引きつける。
アルベル、お前は後ろの窓から出てガブリエルの背後に回れ。
アリューゼ、プリシスを任せた。
プリシス、お前を信じている。だから、お前も俺を信じろ。
必ず時間は稼いで見せるし、俺は死なん!」
そう言うとディアスは扉を蹴破りガブリエルの前に躍り出た。

131 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:38:29 ID:M1AUfxZY
続きもあるんですが、首輪考察はここまでなんで区切っておきます。

首輪について:中の構成品は、爆薬、マイク、送受信機、制御用紋章力結晶体(以下結晶体)です。
結晶体は首輪の制御を行う信号をだしており首輪の機能の中枢を担っています。
そこからの信号が途絶えた瞬間に爆弾は爆発する仕組みになっており、仮に術に精通しているものが結晶体の仕組みを暴いたとしても解除できません。
あくまで術師が解析した結果を踏まえて結晶体をハックする装置作らなければ外せないでしょう。
その他に結晶体は首輪の持ち主の生死を判断していますがプリシスはその機能に気付いていません。
また8本の線の内、当たりだけを切断しても、ルシファーの下に配線が切られたという情報が行くのでその場で爆破されるでしょう。

と、話の終わりに備考欄に書くつもりです。
問題が無いかどうかご意見お願いします。

132 ◆Zp1p5F0JNw:2008/09/29(月) 22:39:27 ID:kq8DtZEI
4スレ目>>507からの続きです。

133くそむしテクニック ◆Zp1p5F0JNw:2008/09/29(月) 22:40:10 ID:kq8DtZEI
「それでさ、一応調べたんだけどもうチンプンカンプン。さすがのあたしもお手上げって感じかなー」
プリシスがそう言いながら渡してきたメモ用紙には、首輪の構造に関する情報がびっしりと書き込まれていた。
さすがプリシスだ、と僕は唸る。
「う〜ん…正直僕も自信無いなあ。あんまり期待しないでね?」
消極的な台詞を言いつつも、僕はそのメモ用紙に熱心に目を通していく。こういった会話は勿論、盗聴器を考慮してのものだ。

…死んでしまったのはディアスお兄ちゃんだけじゃなかった。
プリシス達に聞いた放送の内容によれば、セリーヌお姉ちゃんやオペラお姉ちゃんも死んでしまったらしい。
悔しかった。悲しかった。さっきまで泣いてはいたけど、今でもまだ涙が出そうになる。
でも、今はそんな場合じゃない。僕はすぐに泣くのを止めて、首輪の考察を始めた。
僕が役に立てるのはこれ位だ。でも、だからこそこれに全力を注ぐ必要がある。そしてその価値はある!
そう、こういった頭脳労働こそが僕のやるべき事なんだ。
一刻も早く首輪を解除して、これ以上犠牲者が出るのを防がないといけない。

でも、僕の頭にどうしてもひっかかる事がある。
『プリシスは……生き残るために、僕達を皆殺しにするつもりなんだって』
アシュトンお兄ちゃんが言っていたあの言葉が頭から離れない。
勿論、プリシスは僕達を殺そうなんて考える人じゃない。
でも…アシュトンお兄ちゃんだって、どんな事があっても無意味な人殺しをするような人じゃない。
そんな人が、僕に斬りつけてきたのだ。もしも…って事を考えてしまう。

「おい、さっさと頼むぜ。とりあえず次の放送まではここにいるが、そっちが一段落したら移動するからな」
隣りに立つアルベルさんが僕達に言う。
「え?移動するの?」
「ああ。こんだけ暴れても誰も集まって来ねえし、禁止エリアで一部分潰されてるんだ。多分この村にはもう俺達以外の人間はいないだろ」
「確かにそうだろうけど…」
「じゃあ後は頼むぞ。悪いが俺は少し休む。放送のちょっと前に起こしてくれや」

この人は…確かに顔は恐いけど殺し合いにはのっていないらしい。それはレナお姉ちゃんも話してくれたし、何より僕を助けてくれた人だ。
いい人だとは思う。ディアスお兄ちゃんのように、自分の感情を他人に伝えるのが苦手なだけなんだろうと。
分かってる。それは分かっているんだ。だけど…。

プリシス……信じて、いいんだよね?


ったく、やっと落ち着いたぜ。
ここまでほぼ休み無しできたからな…さすが俺も疲れてきたぜ。向こうではガキ二人が首輪をいじってあーだこーだ相談している。
悔しいが、俺にはあーいう頭を使う作業はサッパリだ。
まあガキ共がそれに慣れてるんならそれでいい。俺が無理にそんな作業するこたあねえし、俺は俺の本業である「戦い」に専念すりゃいいんだ。
いわゆる適材適所ってやつだな。
さて、今ん所の問題は…。
部屋の隅で俯きながら座り込んでいるあのレナとかいう女。
ガキ共は立ち直ったようだが、あいつは未だにディアスの死を受け入れられないらしい。ずっと落ち込んだままだ。
俺としてはさっさと腕の治療をしてもらいたい所だが、あの様子じゃ今は出来そうにない。
本来なら無理矢理にでも治療させたいところだが、何故だがそういう気分にならない。
ありゃ、立ち直るのを待つしかねえな。
だが俺にはあいつを立ち直らせる術が分からん。励ませばいいのか?んな事俺にできる訳ねえだろうが。
ここにフェイトやスフレみてーな連中がいればそういう事も期待できたんだが。
ディアスの野郎、厄介な問題残して逝きやがって。
まあ、あいつのお陰で俺が生きているのは確かだ。
それに免じて、当分はガキ共のお守りを引き受けてやらあ。
ただ、首輪を解除するまでだがな。ルシファーと戦う時には、俺は何も気にせず直々にあの野郎をぶっ潰させてもらう。
そん時までは面倒見てやるから感謝しろよ。

ふとアルベルは自分のバックの中身を見る。
咎人の剣。
護身刀竜穿。
鉄パイプ。
この殺し合いでアルベルと会い、そして散っていった者達が使っていた武器。
(こーいうのは柄じゃねえな)
バッグを閉めて再び寝っ転がり、天井を見つめる。
(てめーらの分までルシファーをぶちのめしてやるよ。あの世で指銜えて見てろよ)
そんな事を考えながら、アルベルはゆっくりと目を閉じた。

134くそむしテクニック ◆Zp1p5F0JNw:2008/09/29(月) 22:41:03 ID:kq8DtZEI
【I-06/真夜中】
【アルベル・ノックス】[MP残量:70%]
[状態:睡眠中 左手首に深い切り傷(応急処置済みだが戦闘に支障あり)、左肩に咬み傷(応急処置済み)、左の奥歯が一本欠けている。内臓にダメージ 疲労大]
[装備:セイクリッドティア@SO2]
[道具:木材×2、咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP、ゲームボーイ+ス○ースイ○ベーダー@現実世界、????×0〜1、護身刀“竜穿”@SO3、
    鉄パイプ@SO3、????(アリューゼの持ち物、確認済み)、荷物一式×7(一つのバックに纏めてます)]
[行動方針:ルシファーの野郎をぶちのめす! 方法…はこのガキ共が何とかするだろ!]
[思考1:放送まで寝て疲れを取る]
[思考2:首輪が解除されるまでプリシス、レオン、レナの用心棒をする]
[思考3:レナを立ち直らせたいが…べ、別に心配だからじゃねえぞ、傷を治して貰わなきゃならねえからだ。文句あっか?]
[思考4:レオン達の首輪解析が一段落したら移動する]
[思考5:龍を背負った男(アシュトン)を警戒]
[現在位置:氷川村内民家]
※木材は本体1.5m程の細い物です。耐久力は低く、負荷がかかる技などを使うと折れます。

【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%]
[状態:アシュトンがゲームに乗った事に対するショック、仲間と友人の死に対しての深い悲しみ(どちらも立ち直りつつある)]
[装備:マグナムパンチ@SO2、セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔0/100〕@SO2]
[道具:ドレメラ工具セット@SO3、????←本人確認済み、解体した首輪の部品(爆薬のみ消費)、無人君制御用端末@SO2?、荷物一式]
[行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを打倒]
[思考1:レオンと一緒に首輪の解析を進める]
[思考2:自分達の仲間、ヴァルキリーを探す]
[思考3:アシュトンを説得したい]
[現在位置:氷川村内民家]

【レオン・D・S・ゲーステ】[MP残量:100%]
[状態:左腕にやや違和感(時間経過やリハビリ次第で回復可能)]
[装備:メイド服(スフレ4Pver)@SO3、幻衣ミラージュ・ローブ(ローブが血まみれの為上からメイド服を着用)]
[道具:どーじん、魔眼のピアス(左耳用)、小型ドライバーセット、ボールペン、裏に考察の書かれた地図、????×2、荷物一式]
[行動方針:これ以上の犠牲者を防ぐ為、早急に首輪を解除。その後ルシファーを倒す]
[思考1:レオンと一緒に首輪の解析を進める]
[思考2:首輪、解析に必要な道具を入手する]
[思考3:信頼できる・できそうな仲間やルシファーのことを知っていそうな二人の男女(フェイト、マリア)を探し、協力を頼む]
[思考4:時間があったら左腕のリハビリをしたい]
[思考5:服着替えたい…]
[備考1:首輪に関する複数の考察をしていますが、いずれも確信が持ててないうえ、ひとつに絞り込めていません]
[備考2:第二回放送の内容は把握]
[現在位置:氷川村内民家]

【レナ・ランフォード】[MP残量:30%]
[状態:深い悲しみ、精神的疲労特大]
[装備:無し]
[道具:荷物一式]
[行動方針:………。]
[思考1:ディアス…]
[現在位置:氷川村内民家]

135くそむしテクニック ◆Zp1p5F0JNw:2008/09/29(月) 22:42:12 ID:kq8DtZEI
以上です。お騒がせしてすいませんでした。

136名無しのスフィア社社員:2008/09/29(月) 22:51:38 ID:bd8z6IHw
投下乙!
スレ立て失敗したんで誰かが立てていただけるまで待機状態です

転載する前に1点ほど
レオンの思考の部分で、「レオンと一緒に〜」となってます

137名無しのスフィア社社員:2008/09/29(月) 23:34:20 ID:XDUwBOQ6
         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|          あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|       『おれはルシファーの情報をまとめていたと
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ        思ったらいつのまにか投下が来ていた』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人        な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ        おれも何をされたのかわからなかった
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ        頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \    超GJだとかまとめに書くこと増えたとか
   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ    そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...       イ  もっと恐ろしいスレ立ての失敗も味わったぜ…

超GJなんだぜ!
タイトルとアッールベルは自重しろwww
レオンとプリシスが合流したものの、まだまだ不安材料がいっぱいだなあ
しかしこれで彼らは放送まで行けちゃうんだな
改めてGJでした!
そしてPCからの書き込みが規制されてるため代理投下できなくてすみません……


あと本スレ>>495にあったフェイト・マリア・ソフィアの制限についてどなたかwikiにまとめて下さると助かります
SO3をほとんど知らず、うまく書けそうにないので……

138 ◆O4VWua9pzs:2008/11/01(土) 21:29:11 ID:3vjpar12
Start Up from Prolonged Darkness
の作品全体の誤字脱字の修正と作品に影響のない加筆を加えました

大きな加筆は金龍VSクリフに下記の台詞の追加ぐらいです
「うはははは、楽しいな♪ こんなにも脆弱で、惰弱で、滑稽で、哀れすぎて涙が出てくるよ」
あれほど推敲したのにかなり多かったよスマヌOTZ

139 ◆wKs3a28q6Q:2008/12/04(木) 07:43:32 ID:lmEQykiE
全文を投下するとかなり長くなるので該当箇所のみ修正版を投下させて頂きます
そのためwiki収録が面倒になるので、問題がないようでしたら自分で収録します

140 ◆wKs3a28q6Q:2008/12/04(木) 07:45:10 ID:lmEQykiE
本スレ>>236


「…………」
あれ?
おかしいな……マリアさんの反応が薄い……
今までのギャグと違い、意味は同じだけど異なった単語を引っ掛けたから理解して貰えなかったのかな?
うーん、ギャグは高度すぎてもダメってことか……
よし、今度は分かりやすいようもうちょっとレベルを下げて……
「大切な人の未来を守るためにも、前を未来(見ない)といけませんし」
さあ、笑って下さいマリアさん、僕の渾身のギャグで!
これから辛いことがたくさんあるだろうけど、だからこそ笑わないと!
「…………っ!?」
って、えええええ!?
ちょ、ま、マリアさん!?
何でそんな物騒な物をいきなりこっちに向けるんですか!?
そんな怖い顔をしてないでホラ、スマイル、スマイル……
「荷物を捨てて両手を高く上げなさい」
うわあ、目が本気だあ。
……よく分からないけど、ここは素直に従っておこう。
出会ってまだ1日も経ってないけど、マリアさんは僕の大切な仲間だ。
こんなところで変に揉めたくなんかない。
何であんなに怒っているか分からないけど、とりあえず落ち着いてもらうためにも言う事を聞くのが一番だ。
「は、はい……えっと、これでいいですか?」
荷物を離れた位置に放る。
にも関わらず、依然マリアさんはサイキックガンをこちらに向けて掲げていた。






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






「……何だ、食わんのか」
放送によりルシオもミカエルも生きていると判明して3時間以上が経過した。
放送後に連絡を取り隠れ家に選んだ民家にルシオを招き入れた俺は、現在居間で食事を取っている。
勿論食べているのは支給された微妙な味のコッペパンだ。
民家にあるもので何かを作って(ミランダに作らせて)もよかったが、毒物の類を混入されては困るからな。
「腹が減っては戦が出来ぬ、とまでは言わんが、戦闘に若干の支障が出る。
 俺やミランダに迷惑をかけぬためにも食える内に食っておけ」
そうとだけ言って、再びパンを口に運ぶ。

141 ◆wKs3a28q6Q:2008/12/04(木) 07:47:54 ID:lmEQykiE
本スレ>>277



「動機はともかく、神を信じる気持ちは――」
「……お話が盛り上がってるところ悪いんだけど、話を情報交換に戻してもいいかしら?」
本当ならゆっくり親睦を深めたいところだが、生憎そうもいかないのだ。
確かにミランダはクレス君と私の傷を少しだけだが癒してくれた。
その事で彼女は敵意がないことをアピールしてくれ、またクレス君もミランダの事を完全に信頼するに至った。
私も、正直言ってミランダの事を『殺し合いには乗っていない』と思い始めている。
戦闘の意思があるならわざわざ治療なんてしないし、デイパックの中身を隠そうとするなんて露骨な真似は避けるだろう。
理論的に考えれば、ミランダは白だ。

だが――ボーマンの存在のせいで、未だに私はミランダの事を疑ってしまう。
ボーマンもクレス君を治療した。
そして、爆発する薬品を薬と偽りチェスター君に持たせた疑いが彼にはある。
つまり、『傷の治療をしてくれる=殺し合いには乗っていない』という図式が成立するとは限らないのだ。
勿論ボーマンの件も所詮は『疑いがある』だけであって、黒だと断言はできていない。
黒だと仮定すると不可解な点が出てきてしまうし、白だと仮定してもやはり納得のいかない部分が出てきてしまう。
それらの疑問を解消してくれそうな要素はいくら記憶を掘り返しても見つからないし、当分ボーマンの白黒をハッキリさせることはできないだろう。
この判断に失敗は許されないのだ。確固たる証拠もなく勘だけでは判断を下せない。
ミランダの件も同様だ。
私達の治療をするというパフォーマンスが何ら意味をなさないとすると、ミランダの評価は『保留』となってしまうのだ。
今のところ、彼女を信頼出来そうだという根拠は治療してくれたことぐらいなのだから。
そのうえ、殺し合いに乗っていると思えるような要素もほとんどないときてる。
せいぜいが意固地になって隠しているデイパックの中身くらいか。
何にせよ、ミランダが乗っているのか否かを断言できる根拠はない。
正直言って非常に厄介な状況である。
何とか彼女が乗っているのか判断出来る材料を見つけないと……

そんなわけで現段階ではまだミランダを信頼できないので、牽制のために常にサイキックガンを手元に置いていた。
更に、万が一牙を剥かれても素早く対処できるよう、つま先を立てた片膝立で座っている。
襲われるとしたらどっかりと腰を下ろし油断しきったクレス君の方だろうが、この距離なら体当たりなりなんなりで初撃を妨害することが可能だ。
うっかりクレス君に当てでもしたら大惨事になるので、サイキックガンを使用するのはミランダの初撃を防いだ後、体勢を立て直してからだ。
……勿論、ミランダにサイキックガンを使わずに済むならそれに越したことはないのだが。

「私達はこの村に来る前に神社で一度襲われているわ。放送を聞いてショックを受けた所を襲ってきたりと油断のならない相手よ。
 話し合う気もないみたいだし、容赦なく襲ってくるから気を付けて。特徴は長い黒髪を束ねた髪で、独特の衣装を着ているわ。
 武器は剣と、それから刃先が飛び出すかわったナイフよ」
ミランダが言い出さなくとも、最初から放送の後までミランダの仲間とは合流しないつもりでいた。
というのも、そのアジトに行く途中で放送が始まる可能性があったからだ。
襲撃の可能性が高い場所で放送を聞く行為が如何に隙だらけなのかは、すでに経験済みである。
その放送でショックを受けようものならば、殺してくれと言わんばかりの状態になってしまうだろう。
次の放送を聞き終え、落ち込んだとしてもキチンと立ち直ってから移動するのがベストだ。
無論、ショックを受けないならそれに越したことはないが。

「……どうかした?」
ミランダの表情が、一瞬だけ強張った気がした。
「いえ……何でもありません」
もしかして、殺し合いに巻き込まれる以前の知り合いか何かと特徴が一致したのだろうか?
その辺の事とデイパックの中身については後々聞き出そうと思っているが、まずはこちらの持つ情報から話していこう。
それで何とかミランダの警戒心を和らげ、出来れば自主的にそれらの情報を提供してもらいたい。
(いい加減首輪の解析を始めないといけないわね……そのためには首輪のサンプルがほしいんだけど……)
少しだけ心が逸る。
上手くいけば――ミランダが殺し合いに乗っていなければ――放送の後に5人のチームが結成できる。
そうすれば戦闘や仲間探しを仲間に任せ、首輪の解析に専念することもできるのだ。
(まだ間に合う。まだこの殺し合いは止められる――!)

142 ◆wKs3a28q6Q:2008/12/04(木) 07:49:59 ID:lmEQykiE
また、本スレで指摘されました『キュア・ブラムス』を『キュア・プラムス』に修正したいと思います
指摘ありがとうございました

143 ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:40:42 ID:AVS1QGx.
遅れてすいません、規制されているのでこちらに投下します

144偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:41:22 ID:AVS1QGx.
「…ん?」
森林を抜け、F-3とF-4の丁度協会付近の街道に出た所にそれはあった。
「これは…デイパックですよね?」
道の真ん中に落ちていたのは、参加者全員に配られていたデイパック。
しかし周辺には持ち主と思われる参加者はおろか、遺体も見当たらない。
「誰かが捨てていったんでしょうか?」
「それにしては妙ですね。中には幾つか道具が入っていますし、多少消費しているとはいえ食料品も入っています。捨てていくなら、中身は全部持っていくと思うのですが」
「う〜ん、そうですよね」
中に入っていたアイテムは拡声器とボーリング玉。
確かに武器とは言えないし使い所には困るアイテムだが、このデイパックがある限りは別に持ち運びには困らない。
何より食料品という貴重な消耗品に手を付けていないのが不自然だ。

「まあ危ない物は入ってないし、取り合えずもらって行きましょうか」
「それなら、それはブレアさんが持っていて下さい。包丁だけでは万全とは言い難いですし、何か役に立つかもしれません」
「そ、そうですね」

自分で持っていこうとは言ったが、正直拡声器やボーリング玉如きが一役に立つとは思えなかった。
それに意味も無く支給品を放置している辺りどうも怪しい。
これは罠であり、荷物を拾っていく参加者を狙うために、食料に毒が仕込んであったりする可能性も考えられる。
適当な毒見役も探さなければ。
そしてデイパックを回収した二人が再び歩き始めた時、三回目の放送が始まった。


「ククク…ご機嫌いかがかな、諸君?
今放送を聞いている者は、このゲームの一日目を無事乗り切ったという事になるな。おめでとう。
二日目も、これまで以上に殺戮に励んで頑張って生き延びて貰いたい。期待しているぞ。
また放送の最後には、一つ朗報を発表してやろう。ありがたく思うがいい。
では、恒例の死亡者の発表から行おう…」

耳障りなルシファーの声は嫌でも耳に入ってくる。
クロードは死亡者の中に知り合いがいない事を祈りながら、放送に耳を傾けた。

だがその祈りは叶うことはなかった。

145偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:41:58 ID:AVS1QGx.
『チサト・マディソン』
助けたかった仲間の名前。
救えなかった。間に合わなかった。とうとう誤解を解く事はできなかった。
アシュトンの名前が呼ばれてないという事から考えるに、彼がホテルに着いた時には全て終わっていたのだろう。
チサトさんは最後まで僕が殺し合いに乗ったと思いながら逝ってしまったんだろうか。
そう思うと悲しかった。

『ジャック・ラッセル』
この島に連れて来られて初めてまともに会話した少年。
ちょっと軽そうな所が目立ったが、悪い奴では無かった。あのまま一緒に行動していれば信頼し合える友人になれたと思う。
目の前で死んでしまったジャックの名前が呼ばれているのだから、今更だけど名前を呼ばれた人は本当に死んでしまったんだろうな。
セリーヌさんやオペラさん、ノエルさんも…。

『アーチェ・クライン』
僕が不用意に剣を抜いてしまったせいで、怯えさせてしまった少女の名。
そうか…彼女も死んでしまったのか。
あの時僕がもっと冷静でいられれば、ジャックもアーチェも死なせずにすんだかもしれない。
ごめん、二人とも…。

『ディアス・フラック』
まさか。まさかディアスまで死んでしまうなんて。
僕なんかよりずっと強いあのディアスが。…いや、ここにはあの十賢者だって連れてこられている。
彼らともし一対一で戦えば、彼とて勝つのは難しいだろう。

『リドリー・ティンバーレイク』
ジャックが探していたという少女。本人は否定していたがどう考えてもジャックの恋人、もしくは想いを寄せている人だった。
直接面識があるわけでは無い。だがジャックが大切にしている人なら、彼の分まで彼女を守りたかった。
せめて天国では、ジャックと二人で幸せに暮らして欲しい。



「クロードさん」
放送終了後、俯いたままのクロードにブレアが問いかける。
「知り合いの方がいらしゃったのですか?」
「ええ、まあ…」
随分と落ち込んだ様子だ。
死亡者の内、確かクロードと元々仲間だったのはチサト・マディソンとディアス・フラックの二人だったはず。
それに加え先程の話を聞くに、アーチェやジャックとも会っている。
結構な数の知り合いの名が呼ばれているのだ。

「でも…」
そう呟いてクロードが立ち上がる。
(レナはまだ生きている)
拳を強く握り締めて、「世界と同じ名を冠する剣」エターナルスフィアを持つ。
(それならディアスの分まで、レナを守ればいい。レナだけじゃない。プリシスやアシュトン達、それに他の人達も…!)
仲間を失った苦しみには耐えられた。立ち止まっている暇は無い。

146偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:42:30 ID:AVS1QGx.
「僕は大丈夫です。ミカエルやガブリエルも倒れたようだし、多少は危険も減ったと思います。
それよりも、早くレザードって奴を倒さなければなりません。急ぎましょう」
言ってクロードは歩き出す。
その様子を見て、ブレアは小さく舌打ちした。

(できるならこの時点でマーダーに誘導してやりたかったけどね…)
『共に戦った仲間』如きでは彼を殺し合いに乗せるには弱かったらしい。
やはりレナのように恋人レベルで無いと難しかったか。
まあ、いい。クロードにはレザードを倒してもらわないと困る。マーダーに仕立てるのはその後でも遅くは無い。
(それにしても、ガウェイン・ロートシルトも死んでしまったようね)
レザードをマーダーだという噂を広めるよう言っておいた男。その後すぐ退場するとは、使えない奴だ。
せめてレザードに重症を与えてから死んでいればいいのだが。



放送後クロードの進む速度はかなり速くなっていた。
ブレアの目から見ても、明らかに焦っているのが分かる。
(もう生き残ってる人は、22人しかいない…!)
ゲーム開始から一日が経ち、参加者は既に半分は愚か1/3にまで減ってしまっている。自身の知り合いだって、十賢者以外にも半分近く死亡した。
このままのペースで殺し合いが続けば、明日にはゲーム完遂という事にもなりかねない。
それだけは何としても避けなければ。
(この状況で、僕ができる事は…)
首輪の解除。主催者の打倒。この島からの脱出。ゲームを打破する為に必要な事項は多い。
プリシスのような機械技術も無いし、レオンのように頭の回転がずば抜けて速い訳では無い。ブレアのように主催者に関する情報も持っていない。
そんな自分に出来る事といえば、殺し合いに乗る者―――マーダーを撃破し、他の参加者を守る事だ。
だからまずは、凶悪なマーダーだというレザードを倒す。
その一心がクロードの足を動かしていた。

147偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:43:07 ID:AVS1QGx.
しかし半日気絶していたとはいえ体中に傷を負い、ここまで移動しっ放しのクロードにも着実に疲労が蓄積されていく。
段々と汗の量は多くなり、歩みも遅くなっていった。
「クロードさん…無理は禁物ですよ」
その様子を見て、ブレアがクロードの肩を叩いた。
「随分と急いでいるようですが、少々疲れているのでは無いですか?」
「そんな、僕は大丈夫ですよ」
疲れているのは事実だが、いても立ってもいられない。
アシュトンとの約束もある。何とか無理を押して鎌石村へ向かおうとするクロードだが。
「クロードさん。レザードという男はかなりの強さを持った男です。戦ったとしても苦戦が予想されます。
ましてベストでは無い状態では勝率はさらに低くなるでしょう。闇雲に向かうよりは、体を休めた方が懸命です」
「………」
言われて見ればその通りではある。
コンディションの悪い状態で戦いに挑むのは愚策もいいところだ。
冒険をしていた時も毒に犯されたりした場合はすかさず回復し、治った後で戦いに挑むよう心がけていた。
だからブレアの言う事が正しいのは分かるのだが…。
「しかし、僕が休んでいる間に、またレザードが誰かを襲うかもしれませんし」
「大丈夫ですよ。今は夜ですし、レザードや他の参加者も動くのは控えるでしょう。その間に私達も体調を整えておくべきです」
「うーん…」
クロードは言葉に詰まる。やはり今の内に少し休んでおくべきか?
確かに今の自分は身体的にも精神的にもベストとは言い難い。こんな状態では自分の本来の力の半分も出せないだろう。
レザードの強さは分からない。だがミカエルやガブリエルが倒されている事を考えると、レザードも十賢者並みに強い可能性もある。
レザード以外にも十賢者クラスの力を持つ奴がいるかもしれない。
最悪、そいつらと一対一で戦わなければならないかもしれない。
そういった事を考えると、やはり少し休んだ方がいい気がしてきた。
森の中で休むのもやや不安だが、エネミーサーチもあるし大丈夫だろう。



道を少し外れて森に入り、周辺の木に比べ一際太い幹の近くに二人は腰を落ち着けた。
「ブレアさんは休まなくても大丈夫なんですか?」
既に幹にもたれかかり寝る体勢に入っていたクロードは、立ったままのブレアを見やる。
「二人共眠るのはさすがに無用心ですからね。私はさほど疲れてはいませんし、周辺を見張っています」
「しかし…」
「何かあったらすぐ起こしますから、心配しないで下さい。このエネミーサーチがあれば気炎もすぐに察知できるでしょうし」
クロードから渡されたエネミーサーチを見せながら、ブレアは笑顔で答えた。
「ですからクロードさんはゆっくり休んで下さい。これからの為にも」
「…分かりました。ではすいませんが、少し休ませてもらいます」
言って、クロードは目を閉じる。余程疲れていたのだろう、数分もしない内に寝息が聞こえてきた。

148偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:43:50 ID:AVS1QGx.
クロードが寝静まった後、ブレアはその周辺の見回りを開始した。
一応しばらくはクロードを駒として残しておきたいし、できる事なら味方も増やしたい。
正直な話、クロード1人でレザードを倒せるとは思っていない。
自分も加われば分からないが、できれば自分は非戦闘員として振舞っていたかった。その方が色々と動きやすい。
(この後はこのまま道を北上して鎌石村へ向かうのが妥当だけど…戦力がやや不安ね)
途中にあるホテルで少しでも戦力を補充できれば良いが。
そんな事を考えながら街道に戻ってみたが、エネミーサーチにも反応は無く、参加者は特に見当たらない。
(異常は無い様ね)
そう言えば、先の放送では支給品を新たに配布するとの発表があった。
場所的には、ここからだとE-2の菅原神社が近い。
(しかしクロードには十分な装備と武器があるし、私には特に武器は不要。あまり行く意味はなさそうだけど…)
だがそれを目当てに参加者が集まってくる可能性もある。行けば駒を増やすチャンスになるかもしれない。
(まあ、頭の片隅に入れておく位は…)
そこでブレアは一時的に思考を中断した。
背後の木々の間から物音がする。

(誰か…来る?)

葉を踏みつけるような音が聞こえてくる。
エネミーサーチに反応は無い。敵意が無いのか、まだこちらに気付いていないのか。
すかさず付近の木の影に身を隠し、様子を伺う。

「そっちも気付いているんだろ?出ておいでよ。こっちに敵意は無いよ?」

男の声がする。やがて森の中から、褐色肌の男が姿を現した。
(あれは…確か、ロキという男…)
知略に長け、かつ戦闘力も優れた参加者。性格も掴み所が無く、殺し合いに乗るかどうかは五分五分といったところ。
要注意人物の一角にも挙げられていた。
(どうする…?)
エネミーサーチの反応は未だ無い。少なくとも、こちらを襲う気は無いようだ。
しかし一筋縄ではいかない男だ。敵意は無いにしろ、何かを企んでいるかもしれない。
味方につける事ができれば、対レザードの戦力としては申し分無いのだが。


ブレアがロキの前に姿を現す。
月夜に照らされたロキの笑顔はとてつもなく不気味だった。
…何故なら、その顔面は痛ましい程の傷を負っていたから。
「ああ、ちょっと前に厄介な奴の相手をしてね。命からがら逃げてきたけどこのザマさ」
自嘲気味に笑うロキは、まだ痛むのか顎の辺りを頻りに抑えている。
「それは災難でしたね」
ブレアが返す。
簡単に一言二言会話を交わすが、どうやらロキはゲームには乗らずに主催を倒す事を目標としているようだ。
さて、ここからが問題だ。
この男をいかにして味方に付けるか。
プライドの高そうな男だ。それに、素直に「皆で協力して主催者を倒そう!」と言いそうな性格でも無い。
(そんな男を味方に付けるには…)
やはり『主催者の妹』というカードを使うしかないだろう。
そう名乗れば、脱出を目指す者にとって自分は重要なキーマンになる事ができる。
いくらロキといえど、無視できない存在になるだろう。

149偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:44:45 ID:AVS1QGx.
「なるほど、あのルシファーの妹、ねぇ」
ブレアは、自分がルシファーの妹である事、エターナルスフィアの事などを簡潔に説明した。
聞けば先程フェイト・ラインゴッドと遭遇し、ある程度の話を聞いているとの事。
突拍子も無い話を信じるかが問題だったが、これなら大方の事は信じてもらえるだろうと全て真実を話した。
「でも本当に信じられない話だよねぇ。創造主とかさ」
「それでも、私の話した事は全て本当なんです。どうか信じて下さい」
「ふん、まあフェイトも同じ事を言ってたしね。あまり信じたくはないけどね」
多少は信じてもらえたようだ。
後は情報を提供する代わりに、レザードの討伐を手伝わせなければ。


「ふ〜ん、レザードがね。確かにあいつならゲームに乗るだろうな」
「では、手伝って頂けるのですか?」
ロキは納得した様子だった。これなら味方に付ける事ができるかもしれない。
「でも、返事はNO!」
「な…!?」
腕でバッテンを作って答えるロキ。
「あいにくレザードなんて相手にしてる暇は無いんだよね。悪いけど、今忙しいから」
「忙しいって…」
「そういう訳で、この話は終わり。それじゃーね」
踵を返して背を向けるロキ。
「ま、待って…!」
ブレアは舌打ちする。
こんな展開は想像していなかった。脱出を目指す者なら、自分を仲間にしないという選択しなど存在しないと思っていた。
(くそ、プログラムの分際で、私に逆らって!!)
先程から思考に介入してくるノイズ。それがブレアをたまらなく苛立たせる。
自分も相手も所詮ルシファーの作り物に過ぎない。
それなら作り物同士でも、ルシファーに直接命令を下されている自分のほうが優れているはずなのだ。
何としてもロキを屈服させないと気は済みそうに無い。
(ここまで話したのだから、嫌でも協力してもらうわよ)
バッグからパラライズボルトを取り出しす。
無防備に背後を晒すロキに向かって、ブレアが右手に持ったパラライズボルトを押し当て――

「見え見えなんだよ、バーカ」

150偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:45:21 ID:AVS1QGx.
それは一瞬。まるでブレアが攻撃するのを分かっていたかのようだった。
ブレアがパラライズボルトを押し当てる直前、振り向いたロキがブレアの右腕を掴んでいたのだ。
「なっ…!?」
予想外のロキの行動に僅かだが隙を見せてしまうブレア。僅かに腕の力が緩んだのをロキは見逃さない。
素早くパラライズボルトを奪い取り、ブレアの腹部に押し付けた。
「あああぁっ!」
全身に痺れが走る。手足の自由を奪われたブレアが地面に倒れた。辛うじて口を動かす事だけができた。
「な、何故…」
「少し考えれば分かるさ。お前がゲームに乗ってる事くらいはね」
「なん…だと…?」
倒れ伏すブレアに向かい、ロキは心底楽しそうな笑顔で話を続けた。
「エターナルスフィアだのFD界だのってのは、むかつくけど真実なんだろうね。フェイトも同じ事を言っていたし。
でもおかしいだろ?お前は主催者やFD界の知識や技術を持ちすぎている。実際、前はブレアがフェイトたちを支援したせいで負けたんだろ?
ゲームに乗りそうも無い。むしろゲームを打破するきっかけになる危険性がある」
ブレアからの返事は無いが、ロキは構わず続ける。
「そんな奴を参加者にして何のメリットがある?どう考えてもデメリットしかないんだよ。…『本物』のブレアならね」
ロキがそう言った時、ブレアの表情が明らかに変わった。
「ん?図星かな?まあ少なくともお前は『フェイト達を助けたブレア』とは別人だと思うよ。本物だとしても操られているか…。
そうなればメリットも見えてくる。『フェイト達を助けたブレア』として参加していれば参加者を油断させる事が出来る。
裏で色々やって混乱させたりすれば、争いの火種を撒けるしね。
だから俺は最初から分かってたのさ。お前はゲームに乗っている、ってね」
勝ち誇ったようにブレアを見下ろすロキ。ブレアは怒りの表情で睨み返すが彼は全く動じない。

「えーと持ち物は、何々、パラライズボルト?スタンガンと同じような物か。それと…包丁。こっちには何が入ってるんだ?」
ブレアが落としたバッグを拾い、中身を物色する。
「鉄球と…ん?これは何だ?カクセイキ?なるほどなるほど…声や音を大きくして周辺に流す、ね」
バッグから拡声器を取り出したロキは、「あーテステス」などとマイク部分に向かって囁く。
スピーカーから出た自分の声を聞き、満足そうに頷いた。
「面白そうな物を持ってるじゃないか。使ってみようかな?」
「何をするつもり…?」
「そうだな?『ブレアは偽者だ!ゲームに乗っているぞ!信用するな!』とか叫んでみようか?」
「何ですって…!?」
「そしたらどうなるかな?その辺にいる参加者にはこの声が聞こえるだろうね。そしてお前への警戒心が生まれる…。
そういえば近く仲間がいるんだっけ?そいつに聞こえたらどうなるかな…?
きっと逃げ出して、この事を他の参加者に言うだろうね。そしたらお前はかなり動きにくくなるし、信用も失う…」
「……!」
もう何度目になるか分からない舌打ちをするブレア。
そんな事をされたら、もし他の参加者に聞かれれば非常にまずい事態になる。
もしロキが言うような事を聞かれても全て鵜呑みにする参加者はほとんどいないとは思う。
しかし多かれ少なかれ警戒心を抱かれるだろう。
何より近くにはクロードがいる。せっかく手に入れた駒を失うような事は避けたい。
さらに悪い展開としては、正義に燃える参加者が集まってきて拘束される危険もある。
「く…このクソガキが…!」
思わず感情が言葉が出た。
「ん?クソだって…?空耳かな?主導権を握っている者に対しての言葉とは思えないような単語が聞こた気がするけど…悪いけどもう一回言ってくれないかい?」
それですら余裕で返すロキ。
ブレアの怒りが最高潮に達する。
自分より格下の相手…いや、格下でなければならない相手に主導権を握られているというこの状態。
頭の中がノイズで溢れていくのを必死に押さえ込んだ。

151偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:46:03 ID:AVS1QGx.
「要求は何…?」
「そうだなあ。ルシファーの事もあるけど…取りあえず、お手伝いをしてもらおうかな?」
「手伝い…?」
「そ。お前がレザードを倒そうとしてたみたいに、俺も倒さないといけない奴がいてね」
ロキの頭に、先程の戦闘が浮かぶ。
正体不明のハゲ男…最初は誰だか分からなかったが、最後に喰らった技を見て正体が分かった。
あの息も吐かせないほどの連続攻撃…あれは『ブラッディカリス』――不死王ブラムスの奥義に他ならない。
フェイト達の救援にブラムスが来るのは計算外だった。
ブラムスは本来なら味方に付けておかなければならない人物。しかしあの一件で、向こうからは危険人物と認識されてしまっただろう。
だがロキとしては、ブラムスは何とかして味方に付けておきたい。
自分をフルボッコにした相手と組むのは非常に不本意だが、それを押し殺してでも味方にしておく価値と強さがブラムスにはあるのだ。
(それには、もう一回ブラムスと接触する必要があるからね)
しかし邪魔になるのがフェイト、エルネスト、クラースの三人。
彼からはほぼ確実にゲームに乗っている連中と同等に扱われているだろう。
ブラムスは所詮、話でしか自分がした事を聞いていない。説得は可能だと思う。
フェイトに対しては拷問まがいの事をしようとしたが、お人よしそうだし警戒されながらも説得はできる。
問題は残りの二人だ。あいつらは何があっても自分を信用しようとはしないだろう。
要するに邪魔なので殺しておきたい。
ブラムスから逃げた後、そうする為の作戦を練っていたところでブレアを発見、現在に至る…というわけだ。
ロキの作戦はこうだ。
まずブレアをフェイト達に接触させて、仲間としてパーティーに加えさせる。
主催者の妹な上、『本物のブレア』を知っているフェイトならすんなり仲間に加えるだろう。
そこで不意打ちでクラースとエルネストを殺害。その後で今度は自分が接触すればいい。
「どうだ?簡単だろ?」
協力してくれればブレアの事をバラすような事はしない、とロキは付け加える。
「お前は殺し合いに乗っているんだろ?一応参加者は減るし悪い条件じゃないと思うぞ?勿論、手伝いが済んだ後は自由にしていいさ。俺を殺しにかかってもね」
ロキはあくまで『お手伝い』と言うが、これはほぼ脅迫だった。
事実ロキはそう言いながらも、左手には拡声器、右手にはグーングニルを持ってブレアの眼前に先端を置いている。
「くそ、貴様如きの命令なんて…!」
「あれあれ?そんな事言っていいんですか?使いますよ、拡声器」
「おのれぇぇぇ…!」
青筋が顔に現れる。思えばここまで怒りを抱いたのは生まれて初めてかもしれない。
しかし最初から選択肢は一つしか無かった。
断れば拡声器どころでは無い。目の前の槍が体に突き刺される事だろう。
動けない自分にはどうしようもない。いや、例え動けるようになっても、武器を全て奪われている状態では…。
(おのれ、おのれ、おのれぇぇぇぇぇぇぇあqwせdrftgyふじこlpあshだghhkfd!!!!!!!)

152偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:46:40 ID:AVS1QGx.
「クロードさん、クロードさん」
「ん…むにゃ」
誰かが呼ぶ声がする。意識が朦朧としているが頭を振って無理やり覚醒させ、クロードは目を覚ました。
「少しは疲れ取れましたか?」
「あ、ブレアさん。おはようございま…ん?」
立ち上がったクロードは、ブレアの背後に見慣れない人物がいる事に気付く。
「えっと、後ろの人は?」
「ああ、クロードさんが休んでいる間に出会ったんです。ご心配なく、彼もゲームを止めようとしている方です」
「ロキだ。よろしくね」
「クロード・C・ケニーです。こちらこそよろしく」
ロキと呼ばれた男が手を差し出してくる。クロードもそれに答え、差し出された手を握った。
「早速で申し訳ございませんが…私達はここでクロードさんと別れます」
「ええ?」
思わず素っ頓狂な声を挙げてしまう。
突然別れるなんて一体どういう事だ?しかも今会ったばかりの人間と行ってしまうなんて。
「ど、どうしてまた?」
「実は…先程ロキさんを襲った者がいるらしいのですが…どうも、私の顔見知りらしいのです。私は、その人を止めに行きます」
「だったら僕も」
「いえ。勿論その人も止めなければならないですが、レザードを放っておくわけにもいきません。
ですからクロードさんは、先に鎌石村に向かって下さい。お願いします」
「ブレアの方は俺が案内する。心配ないさ、用が済んだらこっちもすぐ鎌石村へ向かう」
ブレアの表情は真剣そのものだ。
彼女の気持ちは分かる。自分ももし知り合いが殺し合いに乗っていたなら、全て後回しにしてその人を止めに言ってしまうだろう。
ブレアが心配ではあるが、ロキという人も殺し合いには乗っていないようだし、二人なら大丈夫だろう。
こっちは先に村へ向かい、アシュトンらと合流してレザードを倒す為のメンバーを集めておけばいい。
「分かりました。でも気を付けて下さい」
「クロードさんも。お一人で行かせてしまってすいません」

ブレアから返してもらったエネミーサーチを装備すると、クロードは再び走り出した。
アシュトンの誤解を解き、合流する為。
殺し合いに乗っているレザードを倒す為。
知り合いを止めに行くと言う、ブレアやロキと後で合流する為。

それら全てが、偽りであるとも知らず。



「行ったようだね。それじゃこっちも行こうか?」
ロキが言うが、ブレアは答えない。ただ先立って歩き始めただけ。
やれやれと微笑を浮かべその後を歩くロキ。
その手にはパラライズボルトが握られ、ブレアの背中に密着させられていた。

153偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:47:12 ID:AVS1QGx.
【F-04/深夜】
【クロード・C・ケニー】[MP残量:100%]
[状態:右肩に裂傷(応急処置済み、大分楽になった)背中に浅い裂傷(応急処置済み)、左脇腹に裂傷(多少回復)]
[装備:エターナルスフィア@SO2+エネミー・サーチ@VP、スターガード]
[道具:昂魔の鏡@VP、首輪探知機、荷物一式×2(水残り僅か)]
[行動方針:仲間を探し集めルシファーを倒す]
[思考1:鎌石村へ直行 可能ならばアシュトンとアシュトンの見つけた仲間達に合流する]
[思考2:プリシスを探し、誤解を解いてアシュトンは味方だと分かってもらう。他にもアシュトンを誤解している人間がいたら説得する]
[思考3:レザードを倒す、その為の仲間も集めたい]
[思考4:ブレア、ロキとも鎌石村で合流]
[備考1:昂魔の鏡の効果は、説明書の文字が読めないため知りません]
[備考2:ブレアによって1回目の放送内容を把握しました]
[備考3:ブレアの持ち物は基本的な物以外は万能包丁だけだと思っています]

[現在位置:街道を北上中]

【IMITATIVEブレア】[MP残量:100%]
[状態:体にやや痺れ 激しいノイズ、ロキに対する怒り臨界点突破]
[装備:無し]
[道具:荷物一式]
[行動方針:参加者にできる限り苦痛を与える。優勝はどうでもいい]
[思考1:非常に不本意だがロキに協力 ]
[思考2:レザードがマーダーだと広める ]
[思考3:無差別な殺害はせずに、集団に入り込み内部崩壊や気持ちが揺れてる人間の後押しに重点を置き行動]
[思考4:ロキ殺す。マジでぶっ殺す]
[思考5:レナの死をクロードが知った場合クロードをマーダーに仕立て上げる(その場にいたら)]
[備考1:※ルシオ、ルーファス、クリフの特徴を聞きました。
     名前は聞いていませんが、前持って人物情報を聞かされているので特定しています]
[備考2:フェイト達に会うまでは保身を優先し、誤情報を広めるつもりはありません]
[備考3:クロードの持ち物は基本的な物以外エターナルスフィアとスターガードだけだと思っています]

【ロキ】[MP残量:90%]
[状態:自転車マスターLv4(ドリフトをマスター)
顔面に大きな痣&傷多数 顎関節脱臼(やや痛むが何とか修復完了) 神生終了のお知らせ]
[装備:グーングニル3@TOP、パラライズボルト〔単発:麻痺〕〔50〕〔90/100〕@SO3、]
[道具:10フォル@SO、ファルシオン@VP2、空き瓶@RS、スタンガン、ザイル@現実世界、
    万能包丁@SO3、拡声器@現実、ボーリング玉@現実、首輪、荷物一式×2]
[行動方針:ゲームの破壊]
[思考1:ブレアを使ってクラース、エルネストを殺害]
[思考2:1を実行後、ブラムスとフェイトを何とかして味方に付ける。出来なかった場合は…?]
[思考3:ブレアは用が済んだら殺しとく]
[思考4:見つけ次第ルシオの殺害]
[思考5:首輪を外す方法を考える]
[思考6:一応ドラゴンオーブを探してみる(有るとは思っていない)]
[思考7:できれば自転車取り返したいなー]
[備考1:顎を直しましたが、後2時間位は長い呪文詠唱などをすると痛みが走るかもしれません]
[備考2:自分をフルボッコにした相手はブラムスと特定しています]
[備考3:レザードは多分殺し合いには乗っていないだろうと予測(マーダーであるブレアが殺したがっているから)]

[現在位置:北部の街道]

154鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:41:15 ID:URy58WHg
ボーマンは立ち上がると懐から作り置きしていた最後の丸薬である『秘仙丹』を取り出すと一口で飲み下した。
(やはり気休め程度にしかならんか…。死に損ないの癖になんて動きをしやがる。
こんな事なら『破砕弾』を作っておくんだった…)
所々悲鳴を上げる体を無視して構えを作るボーマン。
しかし、対峙している死に損ないと称した男の放つ闘気に思わず後ずさりしてしまう。
その時、
『禁止エリアに抵触しています。首輪爆破まで後30秒』
と、首輪から警告が発せられた。
直ぐに一歩前に踏み出すとその警告は鳴り止んだ。
戦闘に入る前に見た地図と現在位置を照らし合わせると、
今自分はD−5エリアの北部に位置しているのだとボーマンは結論付けた。
(随分派手にやりあったもんだ。こんなところまで来るなんてな…。
アシュトン達はどうなった? いや、しばらくは援軍も見込めんか…。どうする? 
このままやりあってもいいが、決定打となる手札が…)
そこでふと思い出した地図に描いた丸印。
その箇所には開始前に殺されたどちらかに渡されるはずだった支給品が置かれる事になっている。
(まだ、放送からそんなに経っていない…。『バーニィシューズ』を履いている今なら一番乗りも可能か? 
仮に先客がいても逃げ延びれるはず。それに何よりこいつが後を追ってきたのならそいつに対応させればいい。これは分のいい賭けだ)
そうまとめるや否や、踵を返し西の方角へ、鎌石村役場のある方向へと駆け出した。

それを見て驚いたのはクリフである。
まだ、どちらも優勢ともいえない戦況でいきなり相手が逃走をしたからだ。
(いったいどこへ? まぁ、いい深追いは禁物か…。ソフィアの嬢ちゃんも気になるし…。
待てよ…。あの野郎が向かった方向は!)
そう、クリフの考えた通りボーマンの逃走先はまさしく鎌石村役場。
そして、そこにはクリフのパートナーであるミラージュがいるはずの場所。
今も尚戦っているはずであるソフィアの事も気にかかるが、重傷を負っていたミラージュの事も気になる。
深手を負っている状態のミラージュではあのオヤジには勝てない。そんな板ばさみの思考の末クリフは
「くそっ、すまねえ嬢ちゃん。直ぐにあの野郎をぶっ飛ばしてミラージュ連れて帰ってくるからよ!」
とソフィアがいる方向に呟くと逃走したボーマンの追跡を開始した。
放送を聞き逃した彼は知る由もなかった、既にそのミラージュはリドリーの手にかかっていて死んでしまっている事を。
だから誰が彼のこの行動を責める事が出来よう、彼は唯大切な者を守る為に駆け出しただけなのだから。

155鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:42:13 ID:URy58WHg
【D−5/深夜】

【クリフ・フィッター】[MP残量:25%]
[状態:疲労大、全身強打、あばら骨を骨折(これらの傷はソフィアによってある程度緩和しています)]
[装備:ミスリルガーター、閃光手榴弾、サイレンスカード×2]
[道具:エターナルソード、メルーファ、バニッシュボム×5、フレイの首輪、荷物一式×3]
[行動方針:首輪を解除してルシファーを倒す]
[思考1:脱出の手段を見つける]
[思考2:仲間を集める(マリア、フェイト優先)]
[思考3:首輪は調べられたら調べる]
[思考4:鎌石村役場に向かいミラージュと共にボーマンを倒してソフィアの元に戻る]
[備考:第3回目の放送を聴いてません]
[現在位置:D−5北西部]

【ボーマン・ジーン】[MP残量:30%]
[状態:全身に打身や打撲 ガソリン塗れ(気化するまで火気厳禁)]
[装備:エンプレシア、フェイトアーマー、バーニィシューズ]
[道具:調合セット一式、七色の飴玉×2、荷物一式×2]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない]
[思考2:アシュトン・チェスターを利用し確実に人数を減らしていく]
[思考3:鎌石村役場に行き支給品を獲得する。先客がいた場合はクリフの相手をさせ逃走する]
[思考4:菅原神社に向かいながら安全な寝床および調合に使える薬草を探してみる]
[備考1:調合用薬草の内容はアルテミスリーフ(2/3)のみになってます]
[備考2:アシュトンには自分がマーダーであるとバレていないと思っています]
[現在位置:D−5北西部]

156鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:44:05 ID:URy58WHg
■□■□■□■□■□■□■□

(どうして…どうしてなんだよ!?)
チェスターは戦いを続けるソフィアとアシュトンの姿を見ながら立ち尽くしていた。
(あの子の仇を取るって、そう決めたのに!)
だが、彼の心がその行為に対して強く歯止めを掛ける。
頭ではアシュトンの戦っている女の子を金髪の少女の仇として認識しているのに、
健気にも戦い続ける少女の姿を見ていると、あの子は殺しちゃいけないと思考とは別の所が叫びを上げる。
だが、チェスターはその叫びの理由がわからず苦悩していた。
きっとそれは自分の中でとても大切なものだったはずなのに、今のチェスターにはどうしても判らない。
(どうして?)
抱いた疑問の答えを得るべく、少女の動きを目で追い続ける。
そうしてチェスターは気付いた。
少女が常に地面に横たわる緑色の髪をした男とアシュトンの間に立って戦っている事に。
少女は守る為の戦いをしているという事に。そして同時に思い出す。自分の抱いた戦う本当の理由を。
(あの子は奪いたいんじゃない。守りたいんだ。
 俺もそうだったじゃないか。アミィみたいに理不尽に奪われる命があるのが嫌で戦おうとしてたんだよな…。
 失われてしまった命は二度と戻らないから、奪わせない為に強くなろうって決めたのに。
 なのに、今の俺はどうだ? 確かにクロードの奴は憎い。
 奪っていったアイツにツケを払わせてやりたい。でも、その為だけに戦おうとしてた…。
 それって、俺が弓をとった理由だったか? 
 確かにダオスと戦ったのは村の皆の、家族の仇を取りたいからだった。
 でもトーティス村があんな事になる前から俺は弓を握ってた。
 じゃあ、一番最初の理由はなんだった?)
己に対して質問をする。その答えは直ぐに返ってきた。
(俺の属する小さな世界を守りたかったからだ。村を、皆を、家族を、親友の背中を守りたかったんだ! 
 だから弓を取ったのに、何で忘れてしまっていたんだろう…。
 今みたいに憎しみを持って戦うだけじゃ、守りたいモノを守る事なんて出来やしない!
 あの女の子みたいに、俺も大切なモノを守りたい。守らなくちゃいけないんだっ。
 それが、俺の戦う本当の理由なんだから!)

157鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:45:25 ID:URy58WHg
■□■□■□■□■□■□■□

ボーマンさんは大男と殴り合いながら北の方向に行ってしまった。
依然と役立たず(チェスター)は同じ位置で立ち尽くしている。
(まぁ、いいか。そろそろあの子の消耗も限界だろうし、かわいそうだけど殺させてもらうよ)
三度目になる少女に対する突撃。だが無策ではない。
今度はデイパックから取り出した『レーザーウェポン』の形状を変化させ得意の小剣二刀流の構えを取り、その剣には紋章力を込めてある。
多少の紋章術なら切り裂いて止めをさせるはずだ。
少女から放たれる氷の矢をギョロに蒸発させ、残りの距離を詰める。
続けて放たれた火球はウルルンが凍らせた。
もうまもなく僕の剣の間合いだ。
目の前の少女は悪あがきをする様に、再度僕に紋章術で呼び出した炎の魔人を嗾けて来た。
「残念だけど、その攻撃はもう見切っているんだ…」
振り下ろされる巨大な剣を受け流し、炎の魔人を十字に切り裂く。
さぁ、もう僕の間合いだ。苦しまない様に一撃でその首を刎ねてあげるよ。
『プロテクション』
尚も悪あがきを続けるこの女の子の張った防御壁を切り裂く。
僕の斬撃は杖の柄の部分で受け止められてしまったが、構わずそのまま力任せに振り抜く。
吹き飛ばされた女の子は後方の木の幹に激突して尻餅をついていた。
頭を打ち付けてしまったのだろうか、頭から血が流れ落ちている。
「抵抗するから苦しむのに…。いい加減死んでくれないかなぁ!」
尚も震える杖をこちらに向ける女の子に引導を渡すべく、両手持ちの剣に形状を変えた『レーザーウェポン』を振り上げた。

158鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:47:11 ID:URy58WHg
■□■□■□■□■□■□■□

「抵抗するから苦しむのに…。いい加減死んでくれないかなぁ!」
そんな風に叫びながら私に迫る龍を背負った剣士の青年。

嫌だ…。死にたくない。

死ぬのは今でも怖い…。

でも、死ぬ事自体が怖いんじゃない…。

今私が死んじゃったら、ルーファスさんの中にいるレナスさんを守る事が出来ない。

その事の方が自分の死よりも恐ろしかった。

(誰か…、私の事はいいから。ルーファスさんとレナスさんだけは守って!)
私の体はまだ、この青年に杖を向けている。
自分の紋章術は彼には通用しない事を承知で、唯々守りたくて杖を向ける。
ソフィアは少し誇らしかった、いつも泣いてばかりいた、守られてばかりいた自分がこうして誰かを守る為に命を賭けて戦っている事に。
(これもルーファスさんが私にくれた勇気のおかげかな…)
ルーファスから受け取った勇気を胸に、ルーファスからもらった魔道の杖をその手に、彼女はまだ抗おうとした。

「これで終わりだね…さようなら」
凍りつく様な視線をソフィアに送るアシュトン。
そうして、無常にも振り下ろされる白刃は

「やめろぉぉぉぉっ!」

少年の慟哭と共に放たれた矢によって弾かれた。

159鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:49:36 ID:URy58WHg
■□■□■□■□■□■□■□

「どういう…事かな?」
放たれた矢の方角、チェスターの立つ方を振り替えり、
抑揚の無い、しかし、溢れんばかりの怒りを込めた言葉を送るアシュトン。
「もうやめろっ! 俺はこの子に死んで欲しくなんかない!」
次の矢を抜き放ち、その矢を構えながらチェスターは叫ぶ。
「意味がわからないな…。さっき見つけた女の子を殺した連中を殺そうって言ったのは君だよね?」
「言ったよ、言ったけど。こんなにも仲間の為に戦っているこの子が、理由もなくあの子をあんな風に殺したなんて思えないんだ! 
 その子は大切な人を守ろうと必死になっている。俺も最初は力を持っていない人達を守りたかったんだ! 
 けど、どんどん殺されちまって、誰も助けられなくて、目の前で死なれて、俺は次第に殺す奴等を恨むようになっちまった! 
 戦う理由が摩り替わっちまってたんだ。
 その子は俺の理想としていた、なろうとした姿なんだ! 
 親友を、クレスを振り切って復讐の為にここまで来ちまったけど…、漸く思い出せた! 
 その子が思い出させてくれた。俺が戦う理由…。力の無い人達を守る為に! 
 だから俺は! この子を守るっ!」
そんな気迫に満ちたチェスターの独白に対し、先程となんら変わる事の無い冷たい表情でアシュトンが切り返す。
「それで…、僕が納得すると思ってる?」
「思わない…。でも頼む。剣を引いてくれ、でないと俺…」
「どうするの?」
「お前を倒してでも止めなくちゃならない…」
一時でも行動を共にした人間に矢を向ける事をしたくないと苦悩の表情を見せるチェスター。
「そう、わかった…」
「えっ?」
このアシュトンの返答を肯定と取ったチェスターが驚きの表情をあげる中
「最初は何かの役に立つかもしれないと生かしておいたけど、もういいや…、今ここで殺そう。
 よく考えたらクロードの事をゲームに乗ってるなんて言いふらしている奴だもんね、生かしておく理由が無いじゃないか…。
 クロードとの約束は守れなくなるけど、決めたよ。君達は、ここで殺す!」
アシュトンはそう呟くとデイパックより大剣『アヴクール』を抜き放った。

160鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:50:59 ID:URy58WHg
【D−5/深夜】
【ソフィア・エスティード】[MP残量:20%]
[状態:疲労、頭部に傷]
[装備:クラップロッド、フェアリィリング、アクアリング、ミュリンの指輪のネックレス@VP2]
[道具:ドラゴンオーブ、ヒールユニット@SO3(ガウェインの支給品)、魔剣グラム、レザードのメモ、荷物一式]
[行動方針:ルシファーを打倒。そのためにも仲間を集める]
[思考1:レナス@ルーファスを守る]
[思考2:怪我人(クリフとレナス)を介抱する]
[思考3:フェイトを探す]
[思考4:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考5:自分の知り合いを探す]
[思考6:ブレアに会って、事の詳細を聞きたい]
[思考7:レザードを警戒]
[現在地:D-5東部]
[備考1:ルーファスの遺言からドラゴンオーブが重要なものだと考えています]

【チェスター・バークライト】[MP残量:100%]
[状態:全身に火傷、左手の掌に火傷、胸部に浅い切り傷、肉体的・精神的疲労(重度)、
 クロードに対する憎悪、無力感からくるクレスに対する劣等感]
[装備:光弓シルヴァン・ボウ@VP(クレアの支給品)、矢×39本、パラライチェック@SO2の紛い物(効果のほどは不明)]
[道具:スーパーボール、チサトのメモ、アーチェのホウキ、荷物一式]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)]
[思考1:クロードを見つけ出し、絶対に復讐する]
[思考2:リドリーの死の真相をソフィアから聞きだす]
[思考3:ソフィアを守る]
[思考4:今の自分では精神的にも能力的にもただの足手まといなので、クレス達とは出来れば合流したくない]
[備考:チサトのメモにはまだ目を通してません]
[現在位置:D−5東部]

161鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:51:33 ID:URy58WHg
【アシュトン・アンカース】[MP残量:105%(最大130%)]
[状態:疲労微、体のところどころに傷・左腕に軽い火傷・右腕にかすり傷(応急処置済み)、右腕打撲]
[装備:アヴクール、ルナタブレット、マジックミスト]
[道具:無稼働銃、イグニートソード、物質透化ユニット、首輪×3、荷物一式×2]
[行動方針:第4回放送頃に鎌石村でクロード・プリシスに再会し、プリシスの1番になってからプリシスを優勝させる]
[思考1:プリシスのためになると思う事を最優先で行う]
[思考2:ボーマンを利用して首輪を集める]
[思考3:菅原神社に向かう]
[思考4:プリシスが悲しまないようにクロードが殺人鬼という誤解は解いておきたい]
[思考5:チェスターとソフィアを殺す]
[備考1:ギョロとウルルンは基本的にアシュトンの意向を尊重しますが、プリシスのためにアシュトンが最終的に死ぬことだけは避けたいと思っています]
[備考2:ギョロとウルルンはアシュトンが何を考えてるのか分からなくなるつつあります。そのためアシュトンとの連携がうまくいかない可能性があります]
[現在位置:D−5東部]

【レナス・ヴァルキュリア@ルーファス】[MP残量:30%]
[状態:ルーファスの身体、気絶、疲労大]
[装備:連弓ダブルクロス、矢×27本]
[道具:なし]
[行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する]
[思考1:???]
[思考2:ルシオの保護]
[思考3:ソフィア、クリフ、レザードと共に行動(但しレザードは警戒)]
[思考4:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考5:協力してくれる人物を探す]
[思考6:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す]
[現在地:D-5東部]
[備考1:ルーファスの記憶と技術を少し、引き継いでいます]
[備考2:ルーファスの意識はほとんどありません]
[備考3:半日以内にレナスの意識で目を覚まします]

[備考:近くに弾かれたレーザーウェポン@SO3が落ちています]

162鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:53:18 ID:URy58WHg
投下終了です。
久々にバトルをやりましたけど、他の方みたく濃いバトルの描写はどうすれば出来るのでしょうか? 
一瞬の駆け引きとかをもっと濃厚に書きたかったんですが…。
アドバイスと後、指摘などありましたらお願いいたします。

それと、放送を読んでどうしてもクリフにミラージュの死を知らない状態で役場で遺体とご対面ってシーンを見てみたくなり、ちょっと無理遣り気味ですが行ってもらいました。
チェスターは前話から豹変してリドリーを殺した奴を守ろうってなっちゃってますが、行動方針的には問題ないかなと思ってたりします。
ただ今までの話の流れ的にこの二人の行動はツッコミ所あるかなって感じです。
問題ありの様であれば破棄します。

163名無しのスフィア社社員:2009/02/23(月) 02:17:33 ID:L62OeIDM
一応こっちでも・・・さるさんくらったのでどなたか残りの代理投下お願いします
投下終わらないと感想かけないから困る

164 ◆yHjSlOJmms:2009/02/24(火) 20:57:19 ID:IVMvbV82
修正稿が出来ましたので投下↓

165本スレ31と差し替え希望:2009/02/24(火) 21:00:27 ID:IVMvbV82
■□■□■□■□■□■□■□

やれやれ…。
あんなに熱くなっちまって、あの様子だと今度はまた駄々をこねて
「この子の仇を討ちたいんだ! 頼む! 力を貸してくれ!」
なんて言うに決まってる。
まったく、俺の身を隠す絶好の場所だと思ってたんだが、どうもうまく行かないみたいだな。
隣を見やると、アシュトンの奴も呆れて物も言えないって感じの表情でチェスターの奴を見てるしな。
さて、どうしたもんか?
わざわざ危険な所にノコノコと出て行く気なんか無いんだけどな。適当に慰めてさっさと菅原神社を目指したい。
正直こんな女の子を、ここまで穴だらけにして殺してしまう様な奴等とは係わり合いになりたくないってのが本音だしな。
改めてこの少女の亡骸を眺めていると、ふと気になる箇所が目に止まった。
この子の手が、手の甲まで血で真っ赤になっている。
溢れる血を押さえようとしたとしても、手の平が血まみれになるだけで、手の甲までそうはならない。
そう、これはまるでこの子が人体を素手で突き破ったとしか思えない血の痕。
こんなか弱そうな少女がそんな真似出来るのか? 
とも思えるが、十賢者の中には子供の容姿をしたサディケルや、ただの爺さんにしか見えないカマエルってのもいたからな。
見た目だけで判断するのも良くないな。
さて、ここで一つ仮説を立ててみよう。
この女の子は実はゲームに乗っていて、誰かを襲撃し、その戦闘の末この様な状態になったのだとしたら…。
戦った相手も無事には済んでいまい。
つまり、そいつらの支給品を奪うチャンスって事だ。
率先して他の参加者から支給品を奪うってのは、殺し合いに乗っていないというポーズをとっている以上今は出来ない。
だが、この子の仇を取ろうって流れなら、ゲームに乗ってるなんてこいつらには思われないだろう。
それに正直手持ちのアイテムはまだ心細い。
仮にこの子を殺した奴等が元気でも、チェスターやアシュトンを囮にして逃げる事も出来る。
リターンとリスクを考えればリターンの方がでかい。
「なぁ、アシュトン、ボーマンさん…」
ほれ来た。だが、それは俺の望んだ流れでもある。
「あぁ、皆まで言うな。俺もこの子を殺した奴等が許せない。仇を取ってやろう」
「ボーマンさん…」
チェスターの奴め、涙が出るほど嬉しいか。
アシュトンの方は俺の答えに更に唖然としちまっているが、
このパーティーでの意見は決まった様なもんだ、こいつも付いて来ざるを得まい。

166本スレ40と差し替え希望:2009/02/24(火) 21:03:45 ID:IVMvbV82
■□■□■□■□■□■□■□

(今度は同時に!?)
とにかく進行を阻止しなければならない。広範囲の紋章術を選択し、すぐさま発動させる。
『ロックレイン』
迫り来る二人を阻む様に岩の群れによるカーテンを作り出した。
雨霰と降り注ぐ岩石に進軍する足を止め、回避に専念する襲撃者達。
これでしばらくは足止め出来そうだが、このままではいずれ押し切られてしまう。
いくら『フェアリィリング』の効果があるとはいえソフィアの精神力は無尽蔵ではないのだ。
(誰か…誰か助けに来て…!)
つい弱気になり、そんな事を思ってしまうソフィア。
術の効果が切れ、岩石による驟雨から開放された二人が再度こちらに迫り来る。
(くっ、距離を開けないと…)
『アースグレイブ』
砕けた岩石により視界の利かない二人に対し、大地より作り出した巨大な槍を以って弾き飛ばす。
「はぁ…、はぁ…」
ソフィアの精神力は残り僅かになってきていた。
その証拠に彼女の瞳は虚ろになり、あまりの疲労からか肩で息をしている。
(助けを待っているなんて駄目! そうよ。私はルーファスさんと約束したんだから。
絶対に諦めないって。絶対にっ、絶対に二人を守って見せるんだから!)
「今のは痛かったな…。でも、もう満足したよね? いい加減死んじゃえよ!」
龍を背負った方の青年が怒りを露に、双龍のブレスと共に突撃を仕掛けてきた。
回避という選択肢の取れないソフィアは残り僅かとなる精神力を振り絞る。
『ディープフリーズ』
ブレスと自分との間に紋章力によって生成される氷柱を作り出し、炎のブレスを受け止め、氷のブレスを弾いた。
しかし、ソフィアには一息つく間もなかった。
アシュトンは氷柱を切り刻むと、舞い落ちる氷柱の欠片を浴びながらソフィアに斬りかかる。
『プロテクション』
その斬撃をかろうじて受け止めたソフィアだったが、視界に映った光景に思わず叫びを上げてしまう。
「駄目ーーーーっ!!」
そこには、アシュトンに気を取られている隙にクリフへと詰め寄るボーマンの姿があった。

167本スレ42と差し替え希望:2009/02/24(火) 21:06:59 ID:IVMvbV82
■□■□■□■□■□■□■□

『エンゼルフェザー』
賛美歌の様な詠唱を終えたソフィアが紡いだ紋章術は、最上級の補助効果を誇る天使の抱擁。
クェーサー戦の傷と疲労によって鉛の様に重かった体が軽くなるのを感じる。これならば思う存分戦える。
(先ずはあの足の速いオヤジからだっ)
得意のクロスレンジまで距離を詰め、渾身の右ストレートを放つ。
共に繰り出す拳が正面から激突し、その衝撃から砂煙が立ち上った。
(腕力はそんなに自慢じゃないみたいだな、このまま押し切る)
ぶつけたままの拳を力任せにねじ伏せ隙を作る。
(もらった!)
しかし、そこで異変に気付いた、異常な量の木の葉が自分を中心に渦を作りながら舞っているのだ。
『リーフスラッシュ』
舞い散る木の葉が視界を塞ぎ、その隙を突いてもう一人の敵が背後に立っていた。
「しまった」「もらったよ!」
真一文字に薙がれた剣閃に対処しきれない。腕の一本ぐらいは覚悟するかと思ったその時、
『ライトニングブラスト』
こちらの危機を救うべくソフィアが電撃呪紋を放った。
双龍の男は直撃を受けながらも、まだ痺れの残る体で振り返り、手にする大剣を虚空に奔らせる。
「邪魔ぁ、しないでよっ!」
不思議な輝きを放つ刀身が真空の渦を形成し、巻き起こした剣風が風の刃となりソフィアを襲う。
『リフレクション』
回避は不可能と悟ったのか、直ちに防壁を展開するも、全てを防ぐ事は適わずその身を切刻まれてしまった。
「くっ」
いずれの傷も深いものではなかったが、思わず膝を突いてしまうソフィア。
それを好機と見たのかオヤジの方が疾風の俊足で以って彼女に肉薄する。
余りの速さに防御魔法の展開もままならない。忽ちゼロにした間合いから唸る拳を繰り出そうとしている。
「させるかっ!」
側面より迫り体をひねりつつ、打ち下ろし気味の回し蹴りを見舞う。
振りかぶった腕をガードに回し、こちらの攻撃によるダメージを軽減させると、
更にインパクトの瞬間に飛ばされるよりも先にその方向へステップをいれ、ダメージを抑えやがった。
派手に吹き飛びはしたものの、そのダメージは最小限に留まっている様だ。
(ソフィアへの攻撃を阻めたが、あのオヤジやりやがる…)
「大丈夫かっ? ソフィア」
「はい」
彼女を気遣う言葉を送りながらも合図を送る。

168本スレ46と差し替え希望:2009/02/24(火) 21:12:22 ID:IVMvbV82
■□■□■□■□■□■□■□

「あいつら中々やりやがるな…」
ぱっと見ただの女の子と満身創痍の男にこれほどの苦戦を強いられるとは思っていなかったボーマンが呟いた。
その呟きに傍らにいるアシュトンが答える。
「チェスターは使い物になりませんしね…」
(まったくだ。これならあの時引き入れないで殺しておくんだったな…)
「どうしますか? あの大男かなりの怪力でしたよ。勝てない事もありませんが…」
「あの金髪は俺がやる。あっちの紋章術師の方はお前がやれ!」
まさか、強そうな方の相手をボーマンが引き受けてくれるとは思わなかったアシュトンは、
一瞬呆けた様な表情をするがすぐさまその申し出に頷いた。
(どう見てもあの大男は死に掛け…。『バーニィシューズ』を履いた俺の動きについて来れるわけがない。
 格闘戦における速力の優位は俺にある。
 それに炎や雷の紋章術を放ってくる女の子の相手をするにしても、ガソリン塗れの俺ではちょっとした被弾が即命取りに繋がるしな)

「来るぞアシュトン!」
猛牛か何かの様な突進を仕掛けてくる大男の一撃を、ボーマンは交差させた両腕のガードで受け止めた。
大半の勢いを殺した後に半身引き、その腕を掴んで投げ飛ばす。
身を翻し着地の体勢に入ったクリフに対して追撃を仕掛けた。
『首枷』
跳躍と共に空中で脳天を下に、拳を突き出して標的であるクリフにダイブ。
『ビーン・バッガー』
対するクリフは急降下をしてくる相手に対して大地を踏みしめ、闘気を込めたアッパーを放つ。
威力は互角、互いの技の衝撃を受け距離が開いた。
その間合いをいち早く詰めたのはボーマンだ。
瞬く間に拳の間合いまで踏み込んだボーマンが連打を仕掛ける。
『桜花連撃』
間断なく打ち込まれる拳と脚による舞にクリフは防戦一方となった。
そのクリフの防御の中を掻い潜り、一瞬だけ開いた胴に天まで打ち貫くかの如き強烈なアッパーが入る。
「がはっ!」
思わず肺から押し出された空気と共に血を吐き出すクリフ。
そのまま突き刺した腕を振り抜き空中に打ち上げるボーマン。
その後も彼の容赦ない攻撃が続く。
打ち上げて回避が出来ないクリフに対して空中回し蹴りを三連打、
それでも止まらない回転の余勢を生かし、軸を横から縦に変えると、そのまま踵落としを空中で決めた。
地面に叩きつけられたクリフに、尚も一気呵成に攻め立てる。
空を打つ拳より放たれる『気功撃』でダメ押しのラッシュを仕掛ける。
クェーサーにより焦土と化した大地がボーマンの技を受け粉塵を巻き上げた。

169ボーマンの状態表と差し替え希望:2009/02/24(火) 21:13:48 ID:IVMvbV82
【ボーマン・ジーン】[MP残量:30%]
[状態:全身に打身や打撲 ガソリン塗れの衣服を着用]
[装備:エンプレシア、フェイトアーマー、バーニィシューズ]
[道具:調合セット一式、七色の飴玉×2、荷物一式×2]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない]
[思考2:アシュトン・チェスターを利用し確実に人数を減らしていく]
[思考3:鎌石村役場に行き支給品を獲得する。先客がいた場合はクリフの相手をさせ逃走する]
[思考4:菅原神社に向かいながら安全な寝床および調合に使える薬草を探してみる]
[備考1:調合用薬草の内容はアルテミスリーフ(2/3)のみになってます]
[備考2:アシュトンには自分がマーダーであるとバレていないと思っています]
[備考3:皮膚に付着したガソリンは気化しましたが、衣服の方が完全にガソリンを吸っている為火気厳禁 この状態は着替えるまで続きます]
[現在位置:D−5北西部]

170 ◆yHjSlOJmms:2009/02/24(火) 21:37:49 ID:IVMvbV82
修正は以上です。
>>165は修正ついでに誤字 菅の神社 を 菅原神社に訂正
>>166はサンダーフレアをロックレインに変更とそれに伴う地の文の修正
>>167はバーストタックル周りの文を修正
>>168は今一ボーマンがクリフを引き受けた理由が弱かった気がしたので、
火気厳禁の修正のどさくさに紛れてソフィアと戦いたくないと思わせるよう修正
>>169はいつ気化するかわからないので勝手に体のガソリンは気化した事にして、明確な火気厳禁終了条件を設定
少なくなってきたマーダーに弱点残したままってのもあれかと思ったので

バトルの描写は皆さんにお褒めいただいて嬉しく思います。
ただ、マイお気に入りバトルの71話や103話、104話を目指して書いていたので、これらと比べるとどうしても薄く感じてしまったり…。
◆O4VWua9pzs氏の書いてる作品はクェーサーやアシュトンの様な悪役の暴れている時の禍々しさとか、ネルやクリフの戦っている時の絶望的な感じとか、
ジャック、ルーファスが颯爽と現れた時の盛り上がり方とかをやりたいんですが、どうも自分が書くと平坦な印象が残ってしまいます。
◆Mf/../UJt6氏の書いた104話は読んでるだけで何をやっているのか伝わってくる程描写が細かい。
そこを真似てみたいのですが、語彙力のない自分ではどうしても伝えられる描写に限界があって見劣りしてしまう。

まぁ、愚痴ってもしょうがないし問題点はわかっているので次の機会にリベンジするッス

171 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:07:52 ID:fWuyGAv6
(全くよ…気付いてみりゃあこんな簡単な事だったとはな)
ボーマンが分身したのを確認して、クリフはピンを抜いて屈みこんだ。
「4」
ボーマンの分身は確かに見ただけでは判別不能だ。
クリフも最初は見分ける事しか考えていなかったが、そもそもそれが誤りだった。
重要な事は「どのボーマンが本物か」ではなく「ボーマンは何処に向かうか」だったのだ。
「3」
分身は発現してから10秒程度で消える事は先程確認してある。そして、当然ボーマン達が向かう場所はクリフの所だ。
つまり、ボーマンは分身したら「10秒以内に」「クリフのところへ」必ず向かってくる。
その事に気付けば対処は全く難しくはない。
「2」
ボーマン達が4体同時にクリフに向かって突進してきた。何故か白衣を広げているが、どうでも良い。
(走って逃げる奴には使えねえがな、走って来る奴には立派に使っていけるんだぜ)
「1」
タイミングはこれ以上無いくらいに良い。
クリフは全力を込めて跳躍し、持っていた缶を手から放した。クリフの居た場所に4人のボーマンが集まってきている。
1人、白衣を広げていたボーマンがクリフを見上げたが、星空を見上げて跳躍していたクリフの視界には入らない。
(なかなか良い月だ。クラウストロのには劣るが悪くねえ。俺の審美眼に認められるってのは自信持っていいぜ、お月さんよ)
だが、ボーマンが上を見上げるのはクリフの予想通り。見なくても分かっていた。
クリフの下方で閃光が発し、爆音が辺りを包んだ。クリフの投げた閃光手榴弾が作動したのだ。
(やれやれ、やかましい合図だぜ。…だが、ジャンプに釣られて俺を見上げたてめえは、まともに喰らっちまっただろ?)
閃光手榴弾の爆発に巻き込まれた者は視覚、聴覚を奪われ、爆音によるショックで身体が数秒間硬直する。
基本的に殺傷能力は無いが、遥か昔の閃光手榴弾であれば、爆心地の側に居る者が軽度の火傷を負う程度には攻撃力が有った。
そして、クリフの使った閃光手榴弾はどう考えても20世紀の骨董品とも言える代物だった。
無論、投げたクリフ本人は両手で耳を塞いでいたが、それでも爆音は手を突き抜けて、聴覚を軽く麻痺させた。
だがそれでも大した問題は無い。後は一撃を叩き込んでケリをつけるだけなのだから。
光が治まった事を確認するとクリフは地上を見下ろした。
直視していないとは言え、閃光に包まれたクリフの目は明順応を起こしている。
月明かり程度の光源では、数メートル下の暗闇の中は全く見えないはずだが、見下ろす先には4人のボーマンの姿が朧気に見えた。
その内の1人が立ち尽くしたまま何故か燃えている。その炎により姿が浮かび上がっているようだ。

『エリアル・レイド!!』

クリフはエリアル・レイドを放った。狙いは燃えているボーマンより若干離れた位置。
まるで獲物を狙う猛禽類のような勢いで急降下し、一瞬で地面に到達する。
地面に到達した瞬間、衝撃音と共にクリフの足元から破壊エネルギーの衝撃波が発生し、ボーマン達に襲い掛かった。
ボーマン達が一体ずつ掻き消されていく。最後に残ったのは立ち尽くしたまま燃えているボーマンだ。
ショック状態が覚めていないボーマンは身を護る事も避ける事も出来ない。
そもそも攻撃されている事にも自分が燃えている事にも気付いていないだろう。
衝撃波に巻き込まれ、ボーマンは炎に焼かれながら数メートル上空に吹っ飛ばされた。
物理法則に従って頭から落下を始め、受け身を取る事すらも許されず
『ゴシャアッ!』と奇妙な音を立てて地面に激突し、そして崩れ落ちた。

172 ◆yHjSlOJmms:2009/04/23(木) 21:52:06 ID:Xsba9H92
どうもここの修正所常連の◆yHjSlOJmmsでございます。
細かい誤字程度ならwikiのを直接修正しようと思ったのですが、
今後に関ってきそうなフラグをぽろっと入れ忘れたんで使わせてもらいます。

173本スレ219と差し替え希望:2009/04/23(木) 21:54:56 ID:Xsba9H92
説明しよう。何故彼らが3人同時にブーッをしてしまったのかを。
想像して欲しい。彼らの目の前で浮かび上がったデッキブラシから回転し、
地面に対して激しいランデブーを試みたこのドジっ子魔法少女(中身はヅラムス)が軸となるデッキブラシと接していた部分は当然尻。
その部分が上に来てしまえば、万物全てが重力の束縛から逃れられる事は適わず。
スカートが捲れ上がり、まぁ、そのなんだ? 
描写するのもおぞましいので端的に書くと魔法少女の岩石の様にゴツイヒップを覆う白地の布がフェイト達3名とファーストコンタクトを果たしたのだ。
それは正にこの世の地獄絵図。
見たくも無いのにその光景を網膜に焼き付けてしまった一行は、某ラピュタ王が『バルス!』と言われた時と同じ心境なのである。

「ぬぬぬぅ、失敗してしまった」
頭をカツラ越しに摩りながらブラムスが立ち上がった。
事前に被っていた波平のカツラのおかげで怪我をする事はなかった様である。
まさか、彼がこのカツラを初めて被る時に懸念していた『鬘が無ければ即死だった』という事態が現実の物になろうとは誰も予想してなかったのではないだろうか。
「(ドジっ子魔法少女がホウキでの飛翔に失敗。「いたたっ、失敗しちゃった」って光景は王道的な萌えシチュだと言うのに、
 中身がブラムスなだけでここまで酷いものになろうとは…)」
「(そんな事はどうでもいい。
 それよりも、お前の下らん魔法少女談義が原因でこの様な事になっているのだからどうにかしろ!)」
「(無茶を言うなっ! 実はコスプレなんてものは必要ないと告げて激昂でもさせてみろ。
 きっと奴は俺の直腸にあの手に握るイチジク浣腸の中身をぶちまけるに違いない)」
と、中年二人は囁くように口論を開始。
そんな二人を横目に見ながらフェイトがブラムスに歩み寄る。
「ちょっとブラムスさん。それを貸してくれませんか?」
ブラムスの手よりデッキブラシを譲り受けたフェイトはおもむろにそれに跨った。
「待つのだフェイト。その様な平服ではそれを使う事は…」
しかし、ブラムスの懸念とは裏腹にスムーズな浮上を遂げるフェイト。
元々バスケットの優秀選手に選ばれる程運動神経も良く、
ファイトシュミレーターでも似た様なモーションのキャラがいた事が幸いしたのか、フェイトは難なくこのデッキブラシを扱う事が出来た。
「なんと! 何故フェイトは着替えもせずに空を飛ぶことが出来るのだ?」
エルネストの魔法少女理論を鵜呑みにしているブラムスは困惑するばかり。
このままでは自分の直腸に決して入れてはならない劇物が浸入する怖れありと見たエルネストがすかさずフォローを入れる。
「そ、その、ブラムス。言い忘れていたのだが、中には衣装を変える事も無くホウキを扱える天才型魔法少女と呼ばれる存在がいるのだ。
 フェイトがまさかそれとは思わなかったなぁー」
どう考えても後付の嘘八百なのだが、その身に纏う衣装同様純真ピュアな心を持つブラムスは彼の言葉を事を信じた。
これにてエルネストは未知のレッドゾーンへチャレンジ(バブルローション直腸注入)をなんとか回避できたのであった。
「何はともあれ、これで僕が鎌石村に行く必要はなくなりましたね。
 少しでも早くソフィアにあって安心させてやりたいんです。お願いします。
 我侭を言っているのは十分承知です。
 でも、僕を観音堂の方のルートに行かせて下さい!」
飛行テストを終えたフェイトが一同に嘆願する。
「わかった。但しそっちのルートはブラムスの知り合いのレナスですら殺してしまった敵がいる可能性が高いんだ。
 だから、ブラムスと一緒に行ってくれ。戦力は高い方がいいだろう?」
(こいつ…一緒に歩きたくないからと不審者王をフェイトに押し付けたな?)
クラースが提案する中オリジンが冷やかな目でクラースを見つめた。
(それは間違っているぞオリジン)
オリジンの呟きをしっかり拾っていたクラースが、オリジンに対し思念のみで会話を開始。
(ブラムスが言っていた事を思い出せ。奴は優勝することが帰還への最善手と判断したら私達を手に掛けると言っていただろう。
 だが、それは私も同じ事だ。今はこうしてフェイト達と協力していた方が帰還出来る可能性が高いと判断しているだけに過ぎない。
 しかし、私が優勝狙いへと考えを変えた時、ブラムスが近くにいたとすれば…)
(不審者王も考えを変えている可能性が高いと?)
(そうだ。正直ミカエルやロキを素手で圧倒できる相手に勝機は極めて薄いだろう。
 そこで、今の内に危険な方に行ってもらい疲弊してもらった方が都合がいい。
 この場合強者同士で潰しあってくれるわけだからな。

174 ◆yHjSlOJmms:2009/04/23(木) 21:56:09 ID:Xsba9H92
後の細かいところ(時間表記など)は直接wikiを編集しときます。

175 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/24(金) 01:25:25 ID:v0MCebd.
一行程度の修正でここ使っていいものか迷いましたが、
せっかくなので使ってみることにします。
タイトルは
「頼れる相棒,守るべき妻子,愛しき女神の元へ」
これで。

176頼れる相棒,守るべき妻子,愛しき女神の元へ:2009/04/24(金) 01:26:27 ID:v0MCebd.
本スレ258と差し替え希望

(やべぇ…腕が…)
もう何発かガードしていたら腕が持たなかっただろう、という時、クリフのローキックが繰り出された。
反射的にジャンプして避ける。その瞬間、クリフがバランスを崩し、一瞬の隙が生まれていた。
クリフの隙に反応して、ローキックを避けたジャンプから跳び蹴りを放つ。
蹴りはクリフの顔面にクリーンヒットし、クリフが仰け反った。
(チャンス!)
「おぉぉぉっ!!」
両拳のラッシュを仕掛ける。だが腕の痺れが影響し、拳に100%の力を乗せる事が出来ていない。
(くそっ、この馬鹿力が…)
拳では駄目だと判断し、ドロップキックを決めてクリフを吹っ飛ばした。
ボーマンの足に、クリフの肋骨が折れたような感触が伝わってきた。
追撃するチャンスではあったが、先程『桜花連撃』を決めたシーンがフラッシュバックし、それを思い留まらせる。
クリフは桜花連撃をまともに食らっておきながらも、あれだけ高い跳躍から恐ろしい破壊力の急降下で反撃してきたタフネスだ。
腕に力が入らない今、それだけのタフネスを仕留めきれるとは思えない。
そう判断したボーマンは「距離を取る事」を選択した。距離を取ってまずは腕を回復させたい。そしてもう一つ…
ボーマンはクリフが蹴り倒した樹の場所まで走るとボーマン、倒れた樹、そしてクリフが一直線上になるよう位置取りをし
『旋風掌!』
倒れた樹に向かい旋風掌を撃ち込んだ。
旋風掌は樹に生えている木の葉を大量に巻き込み、軌道上にいるクリフに襲い掛かる。
「……!」
クリフが何か叫んでいたようだが、その声は竜巻に阻まれボーマンには届かなかった。
旋風掌がクリフを飲み込んだ事を確認すると、ボーマンはクリフとは反対方向に全力で逃走した。

100メートル程は走っただろうか。
ようやくクリフから離れる事が出来たボーマンだが、それだけでは事態は何一つ好転しない。
(バーニィシューズが壊れるってのは…ちっ最悪だぜ。これじゃ役場には行けねぇ)
役場での支給品入手はもう望めない。
(…アシュトンの方はもう終わったか?)
アシュトンのところに戻れば戦利品を分けてもらえるだろうか?
合流した時はアイテムの交換を拒否されたが、新たに入手したアイテムならばアシュトンも分けないとは言えないだろう。
(…いや、そういや金髪が「仲間を待たせてる」だとかヌカしてやがったな)
だが、きっとボーマンを見失ったクリフは仲間の所へ戻ろうとする。
同じ目的地に向かうとなると、バーニィシューズが壊れた今ではクリフに追いつかれる可能性も充分に有る。
逆に、クリフが戻るところを尾行する事も考えたが、その場合でも気付かれればやはり戦闘になる。
決定打もバーニィシューズも無い状態では、再び戦闘になった場合はこちらの圧倒的不利は明白。
(ここはやっぱ手持ちのカードで何とかするしかねぇな)
ボーマンは足を止めるとデイバッグからフェイトアーマーのカツラ部分と調合セットを取り出す。
(カツラも着けると徐々に体力が回復する、ねぇ。あまり時間は無いが…腕の痺れぐらい取れんだろ)
そう期待をしてカツラを装着する。
アシュトン達にフェイトアーマーの存在を知られたくなかったから装備していなかったが、今なら問題ない。
(アルテミスリーフが約2/3か…殆ど気休めにしかならんが無いよりマシだな)
これで調合用の薬草は底をついてしまうが仕方ない。
普段だったらニーネが、非常時に備えてボーマンの白衣に薬草をいくつか入れておいてくれるのだが
その薬草はこの島には持ち込めなかったようだ。
「ニーネ…エリス…」
つい妻と娘の事を考えたが、いや、とボーマンは頭を振る。
感傷に浸るのは全てが終わってからで良い。今は作業に集中しなくては。

177頼れる相棒,守るべき妻子,愛しき女神の元へ:2009/04/24(金) 01:27:16 ID:v0MCebd.
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クリフの知っている物とは形状が異なるが、確かにソレはバーニィシューズの破片だった。
(野郎の動きが鈍ったのはバーニィシューズが壊れただけだったってか。…くそったれが!…そういや良い蹴りしてたじゃねえか!)
つまりボーマンの足にはダメージなんて無いのだ。
冷静に観察していればボーマンにダメージを負ったような素振が無い事に気付いただろう。
だが、目先の「勝機」に目が眩み、判断力が鈍っていたのかもしれない。
その判断ミスのせいでクリフは無駄なダメージを負い、ボーマンを取り逃がす事になってしまった。
「情け…ねえ……だが」
自らの判断ミスを悔やむと、バーニィシューズの欠片を握りつぶし禁止エリア内に放り投げた。
(バーニィシューズはぶっ壊したんだ。それなら奴が役場に着く前に追い…いや、まてよ…野郎はそもそも何が狙いだ?)
そして、謎が1つ解けた事に刺激され、ようやくクリフは現状を冷静に考え始める。
デイバッグからペットボトルを取り出した。うがいをし、水を吐き出す。
吐き出した水には大量の砂と血が混じっていた。
(あの状況で役場に行く?なわけねえだろ。行ってどうする?)
ほぼ互角の戦闘状態からの突然の逃亡。
慌てたクリフはミラージュの身を案じて追いかけた訳だが、そもそものボーマンの目的は何なのか?
少なくとも、役場方面に逃走したからと言って役場に行くとは限らない。むしろ、行く理由など無いはずだ。
(なら…ミラージュがあの野郎に襲われる心配なんかまず無い…か?)
確かに普通に考えればミラージュがボーマンに襲われる可能性は少ない、いや、皆無に等しいだろう。
実際にはボーマンは役場に向かっていたのだが、第3回放送を聞いていないクリフに、ボーマンが役場を目指す理由は考え付かない。
(考えられるとしたら…奴の有利な場所に俺を誘い込む…これか?
いや、あれは誘ってるような走り方じゃねぇ。明らかに振り切る走り方だった…ちっ、分からねえ)
考えてもボーマンの狙いなど分かりそうもない。クリフは頭を掻きむしると一つ舌打ちをし、余計な事を考えるのを止めた。
(…まあ、野郎の目的なんざどうでもいい。今はミラージュを護りに行く。野郎を見つけたらぶちのめす。それだけだ)
ボーマンが役場に行く可能性などは無いはずだが、他の参加者ならば、いつ、どんな理由で役場に行くか分からない。
ならば、自分のやる事はやはりミラージュを護りに行く事。そう結論付けた。
そして「最悪ボーマンを逃がしてもミラージュに危険は無い」という結論はクリフの心を幾分か楽にさせ、余裕を持たせた。
クリフは時計を取り出して時刻を確認する。とっくに深夜0時を回っていた。
(…放送聞き逃しちまってたか…今はもうD−4も禁止エリアになっちまってるな。
放送内容は、後でミラージュに聞くとするか。…ふっ、さっきとは反対だな)
クリフはもう1度うがいをする。口の中の砂は気にならない程度には落とせた。ペットボトルをしまい、辺りを見渡す。
(野郎が戻ってこないとは限らねぇ。一応不意打ちは警戒しとかないとな)
クリフは辺りを警戒しながら、役場を目指して慎重に移動を始めた。


近づいてくる足音を聞き、まだ破砕弾を作り終えていないボーマンは少し焦った。
(あいつ、こっち来んのか!?仲間待たせてんじゃねぇのかよ?
…どうあっても俺を倒すってのか。チッ、まだ途中だってのに…しょうがねぇな)
足音はボーマンより東南側を、ほぼ西に向かって移動しているようだ。
つまり真っ直ぐボーマンに向かってきている訳では無いのだが、のんびりと作業している訳にもいかなくなった。
ボーマンは急ピッチで締めの作業に入る。
通常よりもサイズが小さくなってしまい殺傷能力に不安が残るが、この際贅沢は言ってられない。
(後は丸めてっと…何とか出来たな。…服も脱いどきたかったが…)
ガソリンまみれの服を着ていると破砕弾の飛び火に対してやや不安が残るし、
同じ理由から、自分の技の1つで炎の闘気を使用する「朱雀双爪撃」が撃てない。
それ故、出来れば脱いでおきたかったが、足音の持ち主、つまりクリフの姿が見え始めた。どうやらそんな暇は無いようだ。
ボーマンは広げた荷物を音を立ててデイバッグに突っ込んだ。足音が止まる。ボーマンの気配に気付いたようだ。

「てめえ、居やがんのか?出てきやがれ!」

クリフの怒号が聞こえる。ボーマンの姿まではまだ確認出来てないようだ。
(ああ、出て行ってやろうじゃねぇか!)
ボーマンはフェアリィグラスを飲み干した。

178頼れる相棒,守るべき妻子,愛しき女神の元へ:2009/04/24(金) 01:28:20 ID:v0MCebd.
本スレ269と差し替え希望

「クェーサーの事は俺にも良く分からねえ。奴との戦いの途中で気を失っちまって、目が覚めた時は奴はもう居なかった」
レザードは1つ頷き、先を促した。
「だがクェーサーの代わりに…て言うのも変だが、俺が起きた時はソフィアがこいつらと戦ってた。
 このオッサンと、龍を背負った男と、後もう1人、ただ突っ立って見てただけの野郎だが、その3人組だ」
「…ソフィアが戦っていた?彼女1人で、ですか?」
レザードは怪訝な顔をした。ソフィアが戦っているという事が信じられない様子だ。
「他に誰が居るっつーんだ!…あ、いや、そういや何でか知らねえがルーファスの奴が生きてたみたいだ。
 俺が起きた時、側に寝ていやがった。…もしかしたらクェーサーはあいつが何とかしたのかもしれねえ。
 今もルーファスが起きてりゃ良いんだが…」
「…なるほど、大体の状況は理解しました。ソフィアの居場所は金龍と戦っていた場所ですね?」
レザードがそう言い、立ち上がったところを
「そうだ、頼むぜ。…あ、ちょっと待て」
クリフが引き止めた。
「…どうしました?」
「さっきの放送内容教えてくれねえか?聞き逃しちまってよ」
「…申し訳有りませんが、私も聞き逃してしまったのです。今貴方に伺おうと思っていたのですが…」
お前もかよ、とクリフは1つ舌打ちをした。
「…そうか。じゃあもう1つ。お前、回復の呪紋って使えねえか?使えるなら1つ頼みたいんだがな。
 俺はミラージュを助けに行ってやらなきゃならねえんだ」
ミラージュの事はクェーサーに襲われる前の情報交換で話していた。
「…ミラージュ?確か鎌石村役場に待たせているという、貴方とソフィアの仲間でしたね?
 ですが、今、ここから向かわれるおつもりですか?」
レザードは眉をひそめる。おそらく禁止エリアの事が引っかかっているのだろう。
クリフはレザードに、禁止エリアの30秒の時間制限について話した。
「そう言う事でしたか…」
レザードは何やら考え込みそうな雰囲気だ。
「考えんのは後回しにしてくれ。で、回復呪紋は出来るのか?」
レザードは我に返ったような表情を見せたが、クリフと目が合うと微笑みを見せた。
「勿論です。では横になり目を閉じていて下さい」
「…悪いな」
クリフは言われた通り、目を瞑る。レザードが再びクリフの側に屈み込む気配が感じられた。
「少し冷えますが、心配なさらず、そのまま横になっていて下さい」
(冷える?何で冷えるんだ?)
クリフがそう聞こうとしたその時、クリフの身体を冷気が包んだ。
冷気の正体が何なのか、考える間も与えられず、クリフの意識は急速に暗闇に落ちていった。


クリフの話を聞き終えたレザードは、男の消火に使ったのと同じ呪文でクリフを凍結させ、彼のデイバッグの中身を確認した。
だが、目当てのドラゴンオーブは入ってない。やはりレナスが持っているようだ。
(まあ、期待はしていなかったがな。
それにしても、この男正気か?ソフィア1人にヴァルキュリアを任せるとは愚作、愚行にも程がある。
考えたくはないが、これではヴァルキュリアが既に殺されている可能性も高いか…?)
レザードが想定していた状況の中でも、今の状況は限りなく最悪に近い。
最悪なのは当然、レナスが既に殺されている事である。だが、今レナスが(クリフが確認した時点では)生きているとはいえ、
ソフィアが1人でレナスを守っているという状況は、最悪の状況と大して変わらないとレザードには思えた。
そして、レナスをそんな状況に陥らせたクリフに激しい怒りを感じていた。

179頼れる相棒,守るべき妻子,愛しき女神の元へ:2009/04/24(金) 01:29:38 ID:v0MCebd.
本スレ277と差し替え希望

ソフィア殺害の前に、ドラゴンオーブだけは何としても確保しなくてはならない。
脱出する際、ドラゴンオーブが有ればソフィアの能力『コネクション』が不必要だという事は
先程ソフィア達を見捨てた時に結論付けたが、逆に言えばドラゴンオーブが無ければソフィアが必要となってしまうのだ。
もしもドラゴンオーブが破壊されているなりなんなりでこの殺し合いの舞台から消失してしまえば、
レナスと共に脱出するには、不本意ながらソフィアに頼るしか無く、殺す訳にはいかなくなる。
「で、2人が死んじまってる場合は、さっき言ってたみたいに、緑髪の男に預けた道具の回収だけで良いのか?」
「…ええ。とりあえずは」
もしレナス、ソフィアが既に殺されている場合は、先程ボーマンに説明した通り
レナスの道具(ドラゴンオーブ)を回収する事を第一に考え、ボーマンはそれに協力させる。
つまり、レナスが生死、どちらの場合でも、ボーマンには利用価値が有るのだ。
むしろ、ボーマンと手を組んだ最大の理由は、この最悪の状況を想定しての事だった。
逆にクリフを殺したのは、今後の展開(ボーマンと手を組む事、ソフィアを殺す事、ソフィア達が殺されていた場合に
彼女を殺した者と一時協力する事)を考えた上で、ソフィアの仲間であるクリフは邪魔でしかないと判断したからだ。
クリフとソフィアに対してレナスとドラゴンオーブ。天秤にかけるまでも無い。
ドラゴンオーブさえあれば、輪魂の呪が使用出来たのだ。換魂の法も使用出来る可能性は高いはず。
ならばレナスが命を落としていても、再び蘇らせる事が出来るはずなのだ。そうレザードは考えていた。

「とりあえず…ねえ。後からアレコレ追加するのは止めて頂きたいもんだがな」
「ご心配無く。せいぜいクリフの道具分の要求を1つする程度ですよ。
 ところで、取引の話はさておき、情報交換を行いたいのですが宜しいですか?伺いたい事が有るのです」
レザードは今の内にボーマンから第3回放送の内容を聞いておきたかった。
話をしやすいよう、少し走るペースを落としてボーマンと並ぼうとする。
だが、何故かボーマンもペースを落とし、前に出てこようとしない。
レザードは振り返り、ボーマンの顔をチラリと伺う。そして前を向き直し、
(ふん…それで警戒しているつもりか?…まあいい。せいぜい役に立って頂きますよ?)
そう考え、ボーマンを蔑むように微笑んだ。


レザードとボーマンが走り去って数分後、クリフの氷像が解凍し始めた。
完全に凍り付いていた身体が元に戻り始め、徐々にクリフの目が開きだす。
クリフは胸を貫かれていたが、体中が凍結して、いわば仮死状態のようになっていた為、その時点では絶命しなかったのだ。
そして今、その凍結は自然と解除された。
(…終わったのか?)
今、クリフの胸には風穴が開き、両腕は砕け散っている。
だが凍結していた事が彼の痛覚を完全に麻痺させていた為、本来襲いかかるはずの激痛は、彼には感じられていなかった。
クリフは起き上がろうとした。が、身体が全く動かない。
胸の風穴、そして両腕から出血が始まっていた。瞬く間におびただしい程の量の血液が流れ出てくる。
クリフは再び冷気を感じ、急激に目の前が暗くなり始め、意識が薄れていった。
(何だよ、まだ終わってねえのか)
それは先程意識を失った時と同じ様な感覚だったので、クリフはまだ治療中であるものだと思い込む。
だが違った。今クリフが冷気だと感じたもの、それは単に出血多量による体温の低下だった。
出血した血液は地面に染み込むが、すぐに飽和状態となり、土の上に血溜まりを作り始めた。
(とっとと頼むぜ、レザード。ミラージュを待たせてんだからよ…)
心の中でレザードに話しかける。
だが、その場所に居るのはクリフのみだ。他には誰もいない。クリフはその事にも、もう気付けない。

クリフの意識は再び暗黒に落ちていく。

先程との決定的な違いは1つだけ。

彼が目覚める事は、もう二度と、無かったという事だ。

180 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/24(金) 01:44:32 ID:v0MCebd.
以上です。

>>176はボーマンがクリフの肋骨が折れた事に気付くように。
>>177はクリフが現在時刻を確認し、第3回放送を聞いていない事を自覚するように。
>>178はクリフがレザードに放送内容を聞くように。
>>179はレザードがクリフを殺害した理由の説明を追加。

それぞれ、このように修正致しました。

181試験投下 ◆A/Fc0qBU16:2009/04/26(日) 23:37:58 ID:6XwNo62o
本スレでパラライズチェックの件出てたので予約に影響でますかな?って
心配もありで、D-5パートは書き上げ前なんですが方向性これでいいかなと思ったんで
E-4パートのみ試験投下さしてもらいます。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
時間はそろそろ1時半をすぎた頃だろうか。
ぴゅろろろろと、言葉にするとかなり奇妙な音を立てて1本の空飛ぶデッキブラシが島を西から東へと走っていた。
地上のどこかで血生臭い争いが繰り返されているとは思えないくらいに、島の上空には満点の星がきらきら主張して
いる。そんな空を背景に年頃の青年と魔法少女を乗せて飛ぶブラシはファンシーな雰囲気を演出しているといっても
過言ではない、きっと。

「…ブラムスさん」
「む?」
「…いえ、ナンデモアリマセン」

前置きも無く唐突に向けられたフェイトの言葉に特に何かを思うでもなく、ブラムスは手の中のものへと視線を戻す。
青い髪が揺れる後ろで典型的魔法少女の装束を纏った男が折りたたんだ地図とコンパスとを眺めた。
夜に強い目はらんらんと輝いて月明かり程度で正確に紙面の図を読み取ることができる。
現在位置はおよそ、E-03からE-04の境界を超えるあたり。
フェイトの運動神経が助けとなっているからか、今のところデッキブラシの運行はこれ以上無いくらいには順調であ
る。

「フェイト、E-04に入る。心して飛ばすがよい」
「アイアイサー」

確かに夜空の散歩はこれ以上にないくらい快適だ。
しかし、デッキブラシの現・操舵主の気持ちはまさに壊れかけのチキンハート。
後ろから筋肉隆々の魔法少女@♂が野太い声で時々声を掛けてくるのが更にフェイトのブレイクンハート(byエルネ
スト)を刺激する。
星をかきわけるかのように疾走する夜風がブラムスの神経を高揚させるのか、興に乗った声で青年へと話しかける。

「うむ、この魔法のデッキブラシというものは実に快適なものだな。またがる柄がもう少し太ければ座るにも安定す
るのだが、この速度と空を行くという利便を思えば素晴らしい代物だ。そうは思わぬか、フェイト」
「ハハハ、ソウデスネ」
「どうかしたかフェイト」
「イエナンデモ」

石化でもしながらデッキブラシのバランスを器用に取るフェイトのMPは違う意味で尽きそうだ。
眼下の光景に目をやる。夜目が利くというのはこういう時便利なんだろうなあとか思いつつ、やっぱり話しかけるの
さえMPを多大に消耗しそうなのでほとんど口を開けなかった。
実際ここに来るまでの1時間弱、フェイトとブラムスに会話らしい会話はない。

「この下にはソフィア達はいないようだ。最も禁止区域となる場所を通ろうという豪胆な輩はそういないだろうがな」
「分かりました。急ぎましょう」

182試験投下 ◆A/Fc0qBU16:2009/04/26(日) 23:38:40 ID:6XwNo62o
少しばかりの落胆を隠しつつ、フェイトが前を睨んだ、それと同時にブラムスの赤い目もまた前方を見た。
一拍置いて、突然視界に赤と白を帯びた光の柱が走る。

「何だ!?」
「うぬ?」

それはあまりに一瞬のことで、フェイトとブラムスは確認のために目を凝らしてももう光はどこにも見当たらない。
だが二人揃って同じ色の光柱を目撃している以上、あれが幻でないことだけははっきりしていた。
大きな魔力や呪文の発現か。二人の考えたものはそう違わない。
ヴァルキリーを倒した敵が交戦しているのか。もしかしたらソフィアが襲われているのかもしれない。
1ブロックは離れていたと見える光の出所を睨んだフェイトは、後ろでごくりと息を飲んだ不審者王に首を捻る。
怖いもの見たさで振り返るガラスの心臓状態の青年に、ようやく真面目な会話が降ってきた。

「あれは…もしや」
「ブラムスさん何か心当たりが」

あるんですか、と続くはずだった言葉の続きが風に奪われた。
まずいきなり風の流れが上から下へと変わる。
変に思う間も与えられずにフェイトの背中にずしっと成人3人分くらいの重さが圧し掛かり、ブラムスのうお!?と
かいう間抜けな叫び声が聞こえた。
さて考えよう。
ここは空中。
そして操舵主は重さでバランスを崩した。
多分成人5人分はデッキブラシの定員を軽くオーバー。

「「「「;8お3yb80くぁ4w3vbーーーー!!!」」」」

声にならん悲鳴を上げてフェイトとヅラと、その他正体不明の三人が重力に従って勢いよく落下していく。
その姿を見届けた人間は、多分いない。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
話は落下地点に戻る。
あんだけの突飛良しのない状況にも関わらず、幸運にも落下地点が木の密集地帯だったために5人はほぼ無傷で生き
ていた。
ただし。

「きゃーーきゃーーきゃーーー!?」
「化け物めっその子から離れろ!!」
「…武器を納めないか、そこの男。私はブラムス、彼女の仲間だ」
「彼女のその状態を見て信じられるか不審者王ーーー!!」
「私は不死者王だ」
「いだだ。一体、何が…ぐっ」
(痛い…うるさい…)

183試験投下 ◆A/Fc0qBU16:2009/04/26(日) 23:39:25 ID:6XwNo62o
ブラシに乗ってた青年はいつかのヅラムス失敗例のごとく頭から地面に突っ込んだせいで近くに念願の幼馴染がい
るのに気づいていないし、その上に緑髪の青年がどっかり乗って気絶中なのを誰も察してくれない。
一歩離れた木の間じゃ、変態仮面から斜め135度にかっとんだ進化を遂げたかつての仲間だった代物にパニックに
陥ってるソフィア。
当然勘違いからそれを助けようとしているチェスターと、向かい合ってるブラムスは落下の際に木の枝か何かを
引っ掛けたらしくせっかく着替えた装束は胸元から裾までびりびりに破れてある意味の地獄絵図を撒き散らしてい
る。その頭には相変わらず一本だけの毛が立派に立っており、ここまで来ても傷一つ付かないヅラは本当にアー
ティファクトなのかもしれなくなってきた。

とりあえずはっきりしているのは。
お前らそこからさっさと離れないと禁止区域になっちゃうよ。

※状態表は略

184不協和音修正版:2009/05/07(木) 08:35:23 ID:/n4GHB0Q
そしてパラライチェック。本来ならばアタリアイテムに思えるが、チサトが装備していなかった事が引っかかる。
もしこれが本当に自分の良く知るパラライチェックだとしたら、装備しない理由が特に思い付かないのだ。
もしかすると、このパラライチェックは自分のよく知るソレの劣化版なのかもしれない。
いや、それかもっと想像もつかない別のモノである可能性もある。
しかし、読み終わった後適当な場所に放っておいたままなのか、デイパックには説明書が入っていなかった。
故に、効果を断言できる日は一生来ないと言えるだろう。
そして、これが呪いやトラップの類だという『最悪の可能性』を考慮すると、『装備してみる』という選択肢は消滅する。
単なる紛い物という可能性があるだけで全幅の信頼はおけなくなっているのだ、ならばもう装備する理由はない。
といっても捨てる理由も特にないので、残しておいて何かの交渉の道具にでも使うとするのが一番だろう。

185 ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 18:42:40 ID:jChTb/WI
ルシオ、洵で仮投下。
リレーする上で繋ぎ易いかどうかが不安なので、その辺を見て頂ければ幸いです。

186君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 18:44:57 ID:.EQpNDhU
 布に包まれてくすんだ灯は、青年から少し離れた場所にあった。
 道を逸れて草地に踏み出す仲間の足取りと地続きに揺れる光源を頼りにする、目の奥が痛みを訴えている。
 圧迫感に近い、それは寝不足で張った肩から伝わるのか、それとも睫毛さえ抜けかねない涙の塩辛さによるものか。
 たあいもないことを全力で考えて息を抜く。重圧にもたつく胸の内を淡白にすべく、尽力する。
 肉体に起因するのではない息の詰まりを抜いた青年は、脚を踏み出す前に短く双眸を閉じ、
「……く、――ぁ」
 きまりわるげに、閉じた口内にふくらむ欠伸を噛み殺した。
 * * *
 食えるだけマシであった食料を腹に入れて、三時間弱。
 三回目となる放送を聴いた洵の、こなれた胃に割り込んだ思いは紛れもない安堵だった。
『アリューゼ。ヴァルキリー。炎使いはミカエルと名乗っていたな。
 俺にとっての壁となりうる輩が、揃って脱落してくれたというわけか』
 戦闘狂同士の潰し合いか、あるいはゲームに乗らない者に返り討ちにされたか。
 ルシオを除けば戦乙女と最も付き合いの長いらしい傭兵が共闘する様を思い浮かべて、洵はかぶりを振った。
 生存者が半数を切ったためか。変更や追加の加えられた情報の山を前にして、無駄な回顧や想像に頭を使いたくない。
 名簿とともに開いていた地図に書き留めた、一気に増やされた禁止エリアの配置と順番に加えて、褒美の位置。
 風格を演出するためにか、どこかで一線を引いて言を紡いだルシファーの意図は、これ以上無いほどに明瞭である。
 ならば、当面の問題とすべきものは。

「プラチナ、っ、……ヴァルキリー」
 放送から先を考えかけた男が耳にしたのは、当面の問題とすべき青年。
 レナスにとって大切な、裏を返せばレナスに大切にされていたエインフェリアの声だった。
 弾かれたように口にした固有名詞から転じて、低く圧し殺した響きで呼んだレナスの代名詞は、だからこそ
付け足した”感が否めない。さりとて、紡がれた単語の重さにこそ差は見られないのだが――
 名簿にない単語を口にしたことが気の抜かりと言わんばかりであるルシオの様子に、洵は興味を惹かれた。
「言っても詮なき話だろうが、あの戦乙女のことだ。
 少なくとも、力で他人を押し退けるように振る舞うことなどしなかっただろう」
 それがレナスでなく、彼女の姉であるアーリィ・ヴァルキュリアであれば話は別に違いないが。
 ルシオの知らぬ、神と人とを“従属”で繋ぐ戦乙女の影を思い返して、洵は障害が消えたことへの快哉を隠した。
 ただ、彼の。レナスにとり大切なはずの青年がみせる煮え切らない態度は意外だ。
「いや、違う。俺は、……そんなことじゃないんだ」
 言語としての体をなさない、自問自答と変わらない言葉つきは、とても大切な者が喪われた者のそれとは思えない。
 促されて手にした名簿も地図からも情報が欠落している。そのくせ得手であるはずの剣を執らない。動かない。
 妹のために修羅となった自身からは想像できない状態に、レナスのために動くだろうルシオは落ち込まんとしていた。
 それゆえに、洵は練れた鋼の剣をいつでも抜けるよう、さりげない素振りで自身の側に寄せておく。
 収束する彼の意志が、自分に対する害意であれば叩き伏せねばならない――と。

「俺はただ、……誰にも。悲しい思いをさせたくなかっただけなんだ!」

 だが、青年がはっきりとかたちにしたのは自責と、言い訳であった。

187君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 18:48:57 ID:nwPGaamk
「それで、ひととおりの自己満足が済めば相手を見捨てるか」
 放送までの時間、ミランダを待ちながら聞いたルシオの来歴を持ち出して、洵は鋭く言を放った。
 夢の中で親しい者の名を呼んだという金髪の青年が今も生きているかどうかさえ、ここにいる二人には知りようがない。
 けれど、洵の控えた名簿によれば、彼の相手。“シン”という参加者は、既に殺し合いの場から脱落している。
「それは――」
「理想のほどは立派だが、この場にいる全員を掬い上げられるわけもない。
 俺が、ここに連れて来られる前……最後に見た戦乙女さえ、それを傲慢と断じ、ロキだけを追ったものだ」
 あの振る舞いの根本にあるものがルシオの仇討ちか、自己満足か義務感か悲哀か、洵には量れなかった。
 それでも、事ここに至れば、彼女の底にあったものがいずれであろうとも構いはしない。
 いなくなったものや取りこぼしたものに思いを馳せるのは、一度だけで、ひとつだけでたくさんだ。
「すまないが、今の俺に、お前を気遣う余裕はない」
 お前も心配していた、ミランダを探しに行く。
 ルシオを、彼の美徳であろう人のよさでもって縛りつつ、洵は腰を上げた。
 ここで彼を殺しても問題はないが、今なお戻らないミランダの去就によっては多対一を強いられる可能性もある。
 彼女の警戒のほどや二心の存在する可能性は、短くとも濃密な不在の時間が示していた。
 手札としての神官にも、戦乙女と懇意であった者にも見切りをつけた男は、卓上を飾る薄布をひといきに抜き取り、
夜闇に目立つランタンの灯をぼかして裏口へと向かう。
「待ってくれ!」
 ルシオが重い口を開いたのは、洵が居間を立ち去ろうとしたのと同時だった。
「――何だ」
 一瞥した青年の瞳に、先刻と変わって強い光が宿されるさまを見た男の眉根が寄る。
「洵。今の話が本当なら、いや……そうでなくても。
 彼女は――ヴァルキリーは。生きてなきゃならなかったんだ」
 訥々とした言葉つきを存外に太い響きで吹き払う、彼の頬には迷いと自責が混交していた。

 * * *

 手短にと釘を差したものの――
 ルシオの話を聴き終えた洵は、難しい表情で床に座していた。
 胡座をかき、片手であごをつまんだ彼の傍にあるランタンには、いまだ灯が点いていない。

「ホムンクルスとオーディンの……成長する神の体が、本質的に同じだと?」

 魔術師連中でも荒唐無稽と言うだろう話を彼が切り捨てないのは、ひとえに自身の見聞きしたものゆえだった。
 アーリィによって器を奪われ、精神体を砕かれたレナスを一時封じた器は、まさしくホムンクルスだったのだから。
「ああ。ロキに殺された俺が生き返れたのも、彼女の力さ。
 成長出来る神になったヴァルキリーは、ドラゴンオーブで破壊された人間界も、神界も蘇らせたんだ」
 だから、彼女がいなければ、すべてがどう転ぶか分からない。

「俺達と同じに、死んでヴァルキリーの中に入ったロキが生きていることにも、最初は驚いた。
 けど、お前が“そこ”から来たって言うなら、納得がいくんだ――」
「俺達は別の時間……おそらく、都合の良い時期から集められたか」

 確かに、自分と同じ時期からやって来たというのなら、フレイは腑抜けていたはずだ。
 主神の“滅”を前にしたはずの女神は、凶行を前にしてなお鏡面のごとく落ち着いた気を湛えていた。
 ゆえに、ルシオの仮説に首肯すると同時に、それよりも一歩進んだところで……洵は唸る。

 彼が気にかけるのは神界アスガルド、人間界ミッドガルド、冥界ニブルヘイムや妖精界アルヘイムといった
世界樹ユグドラシルの枝葉ではなく、根からして別の理で成り立つ世界の存在だった。
 見たことの無い道具、“コミュニケーター”とやら。絹や綿、麻ですらない質感の衣類。獅子戦吼や鳳凰天駆、
といった、系統だっていながら異質な、流派剣技の添え物らしからぬ格闘のすべ。
 そして数ある異質の中でも頭が抜けた、移送方陣の比でない速さを有する空間転移術――。

188君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 18:51:20 ID:yEeCRB.6
 クレスとマリア、二人との戦い以前に殺した男のナイフもだ。あれの有する機構は、神界にさえ存在していない。
 それでも武具のひとつ程度なら、神まで引っ張り込んでゲームを始めたルシファーがどうとでも調達するだろう。
 だが、戦士や魔術師の身につけた技や呪文ばかりは違う。あの血の通い方は、後から付け足せはしない。
 それを見た今なら、あの、“ルシファーを倒した”との言葉にも得心がいこうが――

『ならば、つまり……奴もまた蘇ったのだな。
 如何にしてかは知らんが、時間を渡ることも、俺達に肉を持たせる事も、奴は可能たらしめている』

 それこそが洵の希望を支え、現実味をまとって胸を押し上げた。
 あまりにも今さらな話ではあるが、魂のみの存在となった自分達が、レナスの手によるそれと同じに具現化――
マテリアライズされている時点で、気付くべきであったろうか。
 ルシファーの、物理的な意味にとどまらない強さを。褒美という単語の裏付けを。
 そして、理解している。

「ああ。確かに、由々しき事態だな……」

 ためらいがちに考えを表明する優しい青年が、戦乙女と懇意であろうとなかろうと、利用できる駒に違いないと。
「だが、――今はこのまま放っておいても、ある程度まで人数は減ってくれる」
 だからこそ、彼の外堀を埋めるべく……少し前には言わなかった台詞を、洵は口の端に載せていた。
 本来ならば気色ばむはずのルシオからは、反応がない。それこそが“反応”であると断じて。
「ルシファーとやらは、神界から俺達の魂を実体化した状態で呼び出した、神のごとき輩だ。
 しかし、ヴァルキリーがオーディンと同じく、成長する神となったらしいことはお前の話が証明してくれた。
 彼女が“何処”から来たのかは分からん。だが、奴に……ひいてはロキやラグナロクに対抗出来うる者がいなければ」
 言いかけた剣士はためらうような、あるいは決意を固めたかのような風情で言葉を濁す。
「あの世界に生きる、俺の妹。阿衣に何が起こることか、知れたものではない」
 濁して、今度こそは最後まで言い切った。
「洵。お前、まさか」
 自ら体験した魂の死と、大切な者の死。
 質のちがう喪失を両方体験していた青年は、それゆえに、彼の思うところを察した。

 “貴方の言う“すべて”って、何?”

 すべて。ヴァルキリーが紡いだという言の葉は、数え切れない寄り道や回り道をしたルシオの胸をえぐる。
 そして、洵の指した、すべて。助けてやりたいと思う者に対する感情は、ルシオ自身も抱いていたがために。
「ああ」
 洵の肯定を耳に入れても驚かなかった自身にこそ、青年は衝撃を受けていた。

189君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 18:55:20 ID:AYN4wIao
「俺は、あの戦乙女に借りがある。感謝してもいる。それは事実だ」
 続く、仲間の言葉。彼が戦乙女といかにして出会ったか、思えば聞いたことがない。
「だが、それ以上に。俺は、阿衣の為ならば、命も誇りも惜しいとは思わん。
 ……それを盲目と糺されようが、立つ世界が違おうが、阿衣を大切に思うことには変わりがない」
「あ――」
 みずから認めたように、盲目にして愚直な洵の想いが、ルシオの心の底にあるものを衝く。
 慕うがままに売られると知った彼女の手を引き、夜を駆けたあの日。自分は、彼のような目をしていただろうか。
「神になり得ない俺達が誰かの命を得たければ、自他の命を失うしかあるまい」
 回顧の生んだ間隙に、“皮肉だがな”と付け足された男の言葉が舞い込み、
 瞬間、銀は朱に変わる。廃虚と化した街で、自分の代わりに置いて逝った少女の姿が脳裡をよぎる。
 だからって、私を置いて逝かないでよ。薄れゆく感覚に、それでも突き刺さった言葉は今も鮮やかだ。
 しかし、彼女ならば。すべてを守れた、彼女であるからこそ。
「――そう、なんだろうな」
 青年は、譲れないものへ迷いを見せない仲間に、決定的な、
 返事をした。

 * * *

 あの放送から、およそ15分。
 その間に、ルシオは一夜も過ごしたような錯覚を受けていた。
 だが、それでも生来のカンの良さや、スラムで磨がざるを得なかった“ネズミ”としての感覚は鈍らない。

「こいつは、冗談じゃないぞ」

 首肯ののちに訪れた濃密な沈黙の後に口を開いたのは、洵。
 今後のために、彼から受け取った名簿と地図の書き込みを控えながら、彼はうめいた。
「気付いたか」
「ああ。まるで、貴族の連中がやるネズミ取り――盗賊を捕まえるための罠みたいだ」
 ささやかな褒美である、見せしめの支給品を配置された島の北東部。
 そして、それを目当てに動こうとする者を迂回させにかかる、禁止エリアの位置と発動時間。
 例えば島の東からC-3――安全な場所にある褒美を目指そうとしても、1時の時点で北を、3時で南を行く選択肢が潰される。
 といって、次の放送までに何とか通過できそうなF-6、G-7を目指せば、その時には襲撃側の恰好の的だ。
 島を分断しようという思惑には、これでは誰もが気付いてしまう。
 だからこそ、この流れには簡単に逆らえない。
「これだけあからさまなら、待ち伏せもやりやすいよな……」
 あのミカエルのように、相手を選ばず戦いを求めた輩でも、陣取るべき場所は分かるはずだ。
 ――つまり、まずもって誰もが、殺し合いの構造から逃げられなくなってしまった。
 それどころか、誰かの死が次の殺しを生む泥沼に落ち込む可能性さえ十分である。
「だが、俺達はそれに乗る必要はない。
 激戦で消耗した後に、残りの者を相手どれる保証もないからな」
 むしろ、地と時の利を得ているからこそと、洵が提案したのは傍観であった。
 ここから北東に位置する神社に配置されたデイパックを回収した直後、この村に戻る。
 そこに、回復の力が使えるミランダが戻っていればよし。いなければ自分達に仇なす対象と判断する。
「クレスと、マリアって奴もか。
 同じような事を考える奴は、どこにでもいるみたいだな」
 ルシファーが生きていると知った青い髪の少女が、生き残りを目指して金髪に赤いバンダナの青年と組んでいた。
 後者の特徴を聞くに、ルシオは陽が落ちる前に会ったチェスターの探し人である青年を思い浮かべてしまう。
 彼のように裏表が無い者の仲間らしく、熟睡出来てしまうほど緊張感の無い人間が人を殺せるとは思わないが、
きっと、それを言えばプラチナが。ヴァルキリーもあの時と同じ言質をもつ台詞を紡ぐだろう。
 愚かしい、くだらない。その言葉のひとつひとつに胸を裂かれたものだが、今は、それほどでもない。
 けれども――
「悪い。ちょっと……すぐに、なんとかするから」
 また置いていかれたら、どうしていいか分からない。
 洵の提案に乗り、自身で思考できようが、やはり。回収しきれない感情は積もりに積もって、ついに堰を切る。
『あの時。ロキに殺される前も、こうだった。俺は、成長が無いな』
 未熟さを露呈して、誰に言い訳をするつもりなのか。結局、それは言葉としての形を無くす。

190君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 18:58:21 ID:.EQpNDhU
「……他に。警戒するのはレザードと、ロキだ。
 ヴァルキリーが死んだって、あいつらは彼女の体や魂をどう、使うか。予想できない」
 強引に涙を拭ったルシオは、洵のそれと同質であろう光を、青い瞳へと宿してみせた。

 * * *

 ひとつだけ、洵に告げなかったことがあった。
 アービトレイター。ルシオ自身は銘すら知らぬ英雄の携えた剣が、歩み始めた腰で重さを主張する。
 詰まった吐息を漏らして青年が思うものは、神々の黄昏、ラグナロクにおける世界の破滅と再生の詳細であった。
 死によって人と繋がる戦乙女。オーディンと同質の力を得て、創造の力を手にしたレナス・ヴァルキュリア。
 彼女は世界の破滅に際してすべての人の魂があげる“声”を聞き取り、再びすべての人々を、世界を創りだした。
 洵に出会い、未来にあるものを知った彼の決意を聴くまでは、さほど意識することもなかったが……。

 “ここで戦っても、結局はアスガルド丘陵で魂の死を迎え、彼女にすべてを創られることになる”

 再生に伴う不可避の運命を知ってしまえば、彼はどれほどの衝撃を受けるだろう?
 自分の魂が再構成されると知ってしまえば、彼はどれほどの恣意を想像するのか?
 己に訪れてしまう行く末を知ってしまえば、彼はどれほどの失望を抱くことか――
 “一緒に、生きましょう”。いくら仲間が彼女の見せた側面を知っていても、こればかりは言えはしない。
 世界を創造した戦乙女、レナス・ヴァルキュリア。あるいは、寒村に生きた少女、プラチナ。
 彼女の愛を受けた人間にして、ロキに処分された後に魂そのものを彼女に作られたルシオは、
 しかし、だからこそ、創造によって孤独となった女神を哀しめなかった。

『プラチナが今の“俺”を創ったとして、一体……何が問題なんだ。
 たったの十四で死んだあいつを、俺はずっと忘れられなかったじゃないか。
 優しかったあいつが勇敢な戦乙女になっても、彼女がプラチナ本人でなくても、変わりはなかったじゃないか!』

 ――銀色だったから。
 下界に遺した少女の台詞がよみがえる。
 そうだ。陽光に透きとおり、埋もれ水のごとく清列に流れた紫の髪に、自分は何よりプラチナを視ていた。
 けれども“彼女を好きだ”ということには、今も、あの頃であろうとも、変わりはない。
 最も大切にしたい感情の発露に変化がないと言うのなら、“いちど創られた自分”に、なんの問題があろう?

 “他人のイメージを重ねるなんて、その人に対する侮辱でしかないのは分かってる”

 すべて忘れてしまいたいとまで口にしたプラチナが、
 その手を引いて人買いの手から救おうとした自分の記憶を思い出し、
 創造した“ルシオ”に、あまりに幼かった、あまりに危うかった恋の一幕を、
 最期に彼女を抱きとめた少年の面影を自分に反映させていたとしても、
 創られた事実を哀しむ権利など、彼にはない。

『最初にそうしたのは、他の誰でもない、俺なんだ』

 プラチナとヴァルキリー。
 ふたりの横顔をひとつに重ねていた青年は、年齢に反して滑らかな曲線を描く頬を月光へさらす。
 だから。あごを引いた口の中に反響した言葉の破片を押し隠しながらも、胸中でなぞり固めた。
『だから、今度はもう、泣いたりしない。
 もう一度拒絶されても、イヤリングみたいな奇跡が起きなくてもいい。
 でも。彼女に置いていかれたくない、一緒に生きたい気持ちだけは……絶対に。俺のものだ』
 ややあって、懊悩を諦観でもって締め出したエインフェリアの双影が距離を縮めた。


 ――何事もなかったかのように、夜風は表情を変えぬまま海へと吹き抜ける。
 草に埋もれかねないほどに小さな花は、その腕に素朴な白さがにじむ花弁をさらわれていった。

191君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ(last) ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 19:00:10 ID:AYN4wIao
【E-01/深夜】
【洵】[MP残量:100%]
[状態:腹部の打撲、顔に痣、首の打ち身:戦闘にはほとんど支障がない]
[装備:ダマスクスソード@TOP、木刀]
[道具:コミュニケーター@SO3、スターオーシャンBS@現実世界、荷物一式]
[行動方針:自殺をする気は起きないので、優勝を狙うことにする]
[思考1:出会った者は殺すが、積極的に獲物を探したりはしない]
[思考2:ルシオを利用。彼と共にE-2に向かい、見せしめのザックを入手する]
[思考3:ミランダとの離別を半ば確信。状況次第で殺害も視野に入れる]
[思考4:ゲームボーイを探す]
[現在地:E-1/平瀬村周辺・北部]

【ルシオ】[MP残量:100%]
[状態:軽い疲労、わずかな眠気、焦燥と不安]
[装備:アービトレイター@RS]
[道具:コミュニケーター@SO3、荷物一式]
[行動方針:レナスを……蘇らせる]
[思考1:洵と共にE-2へ向かい、見せしめのザックを入手する]
[思考2:レザード、ロキを警戒。レナスの死体の状態を知りたい]
[思考3:レナスを大切に思う自身に対する諦観。現状は積極的な交戦を選ばない]
[思考4:ゲームボーイを探す]
[現在地:E-1/平瀬村周辺・北部]
[備考]:※コミュニケーターの機能は通信機能しか把握していません。
    ※マリアとクレスを危険人物と認識。名前は知りません。

192 ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 19:01:29 ID:DTqpp/sI
以上で投下を終了します。
既存の話を読ませていただいた上で、洵の参戦時期を決定しました。
Chapter8・Aエンドルートでレナスの復活を見た後、アスガルド丘陵でロキと戦う前を想定しています。
意見や感想、矛盾などがありましたら、忌憚無くお寄せいただけると幸いです。

193 ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 19:11:40 ID:DTqpp/sI
っと、推敲漏れ。
>>189の場面転換後は、“放送より三十分ほど”が正しいです。
あれだけ話して15分とかどんだけ早口なんだよ! ……申し訳ないです。

194名無しのスフィア社社員:2009/05/12(火) 23:51:43 ID:coiikjbM
おおお、投下乙です!
こっちで言えばいいんだよな?
問題は全然ないかと思われます。
禁止エリアについてしっかり考察もされてますし、繋ぎやすさの面でも全然問題ないかと。
感想は本投下までとっておきますね!

あと、一点だけあげるとしたら>>186
>付け足した”
とありましたが、冒頭に“が抜けてる気がします。
改めて仮投下乙でした!

195 ◆cAkzNuGcZQ:2009/06/03(水) 19:59:39 ID:JIjIYVmI
一応完成はしたんですが、話全体の流れに不安があるので、まず試験投下させて頂きます。
不自然な展開だったり矛盾があったりしたらご指摘願います。

196Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:00:39 ID:JIjIYVmI
G−5エリアの山道。辺りは暗闇で視界が殆ど利かない。
唯一の自然光源である月明かりは密集している樹々の葉に遮られてしまっている。
稀にその隙間から僅かに射し込む光は、暗闇に目を慣らしたい人間にとってはむしろ逆効果となり、
余計に暗闇を強調しているかのようだった。

レナとプリシスの2人はランタンを点けてこの山道を下っていた。
『夜道に揺れ動く照明は人を寄せ付ける効果が有る』というのは、
この島でのたった半日だけの仲間、アリューゼがプリシスに教えてくれた事だ。
いや別に2人には誰かを呼び寄せるつもりなどは全く無い。
この暗闇の山道を歩くには、灯りを点けなければ余計に危険であり時間を取られてしまう、というだけの事だった。
一応不意打ちには備えてレナが左耳に魔眼のピアスを装着していたが、今のところピアスは何の反応も示さなかった。

「この辺だよね?レナ」
「そうね…」

もうすぐ最初の目標地点である、G−5エリアの三本の道が合流する地点に到着する。
そこには、半日程前にレナとディアスが見つけた2つの死体があるはずだった。
2人が平瀬村に行く事に決まった後、レナはまず最初にこの場所の死体の事を伝えた。
出来る事ならあのような惨殺死体など何度も見たくは無い。見ないで済むならそれに越した事は無いのだが、
この島からの脱出に繋がるかもしれない“首輪の結晶体”を回収するには
平瀬村への通り道にある彼等の死体は非常に都合が良いのだ。泣き言など言っていられなかった。


「あ…あそこかな…」
しばらく早足で進んでいると、左右に別れる道が見えてきた。倒れている2つの人間らしき物体も視界に入ってくる。
死体はレナが昼間見つけた時のままの姿のようで、周辺の荒れ具合も変わっていない。
2人は立ち止まり、レナがプリシスに話しかけた。
「酷い状態だから、覚悟しておいた方が良いわよ。…こんな言い方もあの人達に失礼かもしれないけど。でも…」
「…ねえ、レナ?――」
レナは言葉を続けようとしたが、死体を眺めていたプリシスがそれを遮って質問をしてきた。
その声は、気のせいか若干震えているように聞こえた。
「――ここで死体見つけたのって、お昼頃って言ったよね?」
「え?…そうよ。最初の放送が終わってから…そんなに経ってなかったと思う」
「…その時から、首が斬られてたの?」
聞かれて、レナはプリシスに死体の状態までは話していなかった事を思い出す。
さっきは、ただ2つの死体がここに有る事を伝えただけたった。
「…ええ…酷いわよね…こんな事をするなんて…」
レナは再び見る事になったこの惨状に気が滅入りそうになる。
と同時に、プリシスの事が気になった。彼等に同情して塞ぎ込んだりはしないだろうか。そう思いプリシスの方を振り向いた。
だが、レナの心配など杞憂であるかの様に、何故かプリシスは死体に向かって走り出したではないか。
「プリシス!?」
プリシスは女性の死体の元に駆け寄ると、屈み込んで死体を調べ始めた。
(…首輪を回収するだけじゃないの?)
首輪の回収の為に死体の首を自分達で切断しなくてもいい、という点でも彼等の死体は都合が良かった。
だが今、どうもプリシスは首輪を回収しようとはしていない。何をしているのか、レナには見当がつかなかった。
「どうしたの?プリシス」
声をかけるがプリシスは返事を返す事無く、もう1人の死体も調べ出し、更にランタンをかざして死体周辺を調べ始めた。
視線を地面に落としながらも時折レナの方向を向くプリシスの表情は、真剣そのものだ。
どうやらレナの声は届いていない様子である。
レナは、極力死体が目に入らないようにプリシスに近付き、もう1度声をかけようとした。

197Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:01:39 ID:JIjIYVmI
プリシスはこの2つの死体を見て、瞬時に昼間発見した夢瑠の事を連想していた。
夢瑠は現在地からほんの半エリア程の距離だけ南に離れた地点で殺されていた。
そう、まるで、この男女の死体と同じ様な状態で。
続けて連想される事はプリシスの最も考えたくない事だったが、
『きっと状況が似ているだけで、夢瑠の事とは関係が無いに決まっている』
プリシスは無理矢理にそう思い、それを証明する為に死体を調べ始めた。
(…そんなことないよね?)
放送後に発見された死体。その1、2時間後に夢瑠達に訪れた惨劇。半エリア程度の距離。
(…まさか…だよね…?)
切り裂かれている男女の身体。切り裂かれていた夢瑠の身体。身体に残る傷跡。
(…この人達も…首輪が無い…?)
切断された首。持ち去られている首輪。
だが、調べれば調べる程、考えれば考える程、両方の出来事は関連しているようにしか思えず、
プリシスの考えたくなかった或る1つの答えが導き出される。
すなわち、彼等2人を惨殺したのもアシュトンである、という答えだ。(首輪を持ち去る理由は不明だが)
プリシスもそんな答えは認めたくはなかったが、それ以外の推論をいくら都合良く組み立ててみても、
これだけの状況証拠の前では“アシュトン犯人説”以外の推論など何の説得力も持たなかった。
「…アシュトン…」
無意識に、呟いていた。
(この人達も…あたしのせいで…)
再び遭遇したアシュトンの狂気の足跡。
ネルと夢瑠の事。レオンの腕の事。アシュトンを恨みながら退場してしまったジャックとアーチェの事。そして今の彼等の事。
その足跡は否応なしにそれらの事を思い返させた。
そして思い返す度に、一度は抑え込んだプリシスの自責の念が少しずつ膨らんで大きくなっていく。
(…あたしのせい…それじゃあ…)
だが今のプリシスには、
(あたしがアシュトンを止めなきゃ!)
泣きじゃくっていた先程までの様な自虐的な考えは無かった。
勿論、自分のせいでアシュトンを人殺しにしてしまった事や
アシュトンが死なせてしまった人達への悲しみと贖罪の気持ちは大きい。
しかしその気持ちよりも勝り、そして彼女の自責の念が働きかけたのは
“どうにかしてアシュトンを止めたい”という前向きな、希望に通じる想いだった。

(でも…止めるって言ってもどうしたらいいのかな…?
 いつもだったら…どうしてたっけ?アシュトンが落ち込んでたりしたら…
 あ、ひっぱたいて励ましてたんだ。いつもならそれで立ち直ってくれたんだけど
 今のアシュトンは『いつも』のアシュトンじゃないんだもんね…
 …ひっぱたいたくらいじゃダメだよね…人を…殺しちゃうくらい…だもん。
 こんな残酷に…何人も何人も。…あたしの為に…あたしのせいで…
 でも…あたしの為にやってるんなら…あたしにしか止められないんだよね!        「――ス」
 どうしたらいいのか…まだ分かんないけど…頑張らなきゃ!アシュトンの為にも…)    「――シス…―リシス」

そしてその想いは少しの間、プリシスを思案に暮れさせる事になっていた。
レナが呼び掛けている事にもなかなか気が付けない程に。

198Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:02:21 ID:JIjIYVmI
「プリシス…プリシス」
「……ほぇ?」
何度目かの呼び掛けで、ようやくプリシスの意識はレナの呼び声を認識したようだ。
振り向いたプリシスの目は、まだ今一焦点が合っていなかった。
「…あ、ゴメンゴメン、なぁに?」
「…大丈夫?何か…あったの?」
「え?…あ、ううん!……首輪。そう、この人達の首輪がどこにも無いんだよ!」
プリシスは妙に慌てた様な態度で、微妙にチグハグな返答をした。
何かを誤魔化そうとしている?レナにはそう感じられた。
だが、プリシスの誤魔化そうとしている事も気になるが、『首輪が無い』という指摘も気になった。
「…首輪が?」
あまり直視したくなかったが、レナは死体を確認してみる。確かにどちらの死体にも首輪が無かった。
昼間はどうだったかと思い返すが、駄目だった。覚えていない。
惨殺されている事自体に気を取られ、首輪にまでは気が回っていなかったのだ。
そもそも昼間首輪が無い事に気付いていたら、この場所でわざわざ立ち止まろうとはしなかったが。
「何処かその辺りに落ちてるんじゃない?」
レナもランタンをかざして辺りを見回してみるが、少し見回した程度では周りに何が有るかまでは良く分からない。
辺りの探索をしてみようと考えたところで、
「…ん、無いと思う。多分首輪は犯人が持ってったんだよ」
プリシスがそう言い、立ち上がった。
「犯人…?こんな事をする犯人がどうして?」
自分達のように脱出を目指している者ならともかく、殺し合いに乗った者が首輪を持ち去っていく必要は無いはずだ。
「…そんなの…分かんないよ…」
プリシスは小さく、悲しそうに呟いていた。
だが小声だった為、レナは聞き取る事が出来なかった。
「え?」
「……ん!何でもないよ!さ、行こっ!」
プリシスは平瀬村の方向へ歩き出した。そのあまりにもあっさりとした様子にレナは疑問を抱く。
(…探さないの…?)
首輪は、脱出する為にはおそらく必要な物なのだ。
確かに今死体には首輪は無いのだから、彼等を殺害した犯人、もしくは他の誰かが持っていったと考えるのはまあ良い。
だが、それはあくまでも推測に過ぎないのだから、もう少し周辺を探してみても良いはずだろう。
なのにプリシスはあっさりと彼等の首輪を諦めてしまっている。
プリシスは“首輪は犯人が持っていってしまいここには無い”と『考えている』のではなく『確信している』ようだった。
「プリシス…――」
レナは思った。プリシスはここで何かに気付き、隠そうとしている。
そして、はっきりとは聞き取れなかったが、先程プリシスが考え込んでいた時に呟いていた言葉。
もしかしたら名前を呟いていたのではないか?レナにある予感と不安が芽生える。
プリシスがレナの呼び掛けに振り向いた。
(この人達を殺した犯人はアシュトンなの?)
レナはそう聞こうとした。プリシスがわざわざ誤魔化そうとする事などはそれ以外考えられなかった。
「――ううん…何でもない」
だが、聞くのは躊躇われた。
『彼等を惨殺した犯人はアシュトン』
その答えはレナ自身が聞きたくない事でもあったから。
「……うん!さ、急ご!レオン達より先に戻ろーね!」
まるでゲームでもやっているかのように言い、プリシスは前を向いて歩き出す。
レナも、胸の中に芽生えた暗い不安からは目を逸らす事にして、プリシスに続いて歩き始めた。

199Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:03:22 ID:JIjIYVmI
余談ではあるが、もし今2人がこの周辺で首輪の探索をしていれば、
もしかしたらディメンジョン・スリップを握ったロジャーの死体を見つけ出せたかもしれない。
だが、2人は探索せずにこの場から離れていく。当然、ロジャーには気付きようも無い。
誰かがロジャーを発見する時はいつになるのだろうか?いや、その時は来るのだろうか?
それはまだ、誰にも分からない。


死体の有った場所からしばらく道なりに進んだところで、レナは地図を出して進路上を確認した。
この場所から目的地である平瀬村に入るルートは、現実的に考えて2つ有る。
1つはF−3を通るルート。
こちらは村から出る、または村へ入ろうとする参加者と出会う可能性が有り、比較的危険度の高いルートだ。
もう1つはH−3北西部からG−3の禁止エリアを掠めるように通過してG−2に抜けるルート。
こちらは一見したところは禁止エリアに阻まれているが、首輪の30秒の制限時間のお陰で通り抜ける事は可能だ。
そして、首輪の30秒の制限時間を知らない人物ならあまり近寄る場所ではないだろう。
つまり、他の参加者が通る可能性は低く、安全性は高いと思われる。
レナとプリシスの2人は事前に、
レオンの『エルネストは村に居る可能性が高い』という推理、
アルベルの『出来るだけ安全なルートで進む』という旨の提案から、
安全性の高いルートであるH−3ルートから平瀬村に向かう事を決めていた。

「ねえ、平瀬村に到着する前に少し休憩しない?村に着いたら…何があるか分からないし」
レナが確認していたのは、進路上で休憩を取り易そうな場所だった。
今、レナはプリシスの事を心配していた。
その理由は、先程の死体を調べていた時と、その場所から今ここに来るまでの間の、
沈痛そうに眉根を寄せて思案に沈んでいたプリシスの様子にある。
いつものプリシスだったら何かを悩んでいる時や悲しんでいる時でも、
先程の様な露骨に思案に沈んでいる姿などは周りに見せようとせず、表向きは明るく振舞おうとするのだ。
だが、今のプリシスにはそんな様子があまり見られない。
それはつまり、感情を取り繕う余裕も無いくらいに肉体的、精神的な疲労が大きい、という事だろう。
他の参加者が集まっていると思われる平瀬村に到着してしまえば、
どんなタイミングで、どんな参加者と出会い、どんな事が起こるかは全く予測出来ないのだ。
出来る事なら、そんな危険な場所に今の状態のプリシスをこのまま向かわせるより、
村よりも安全であるはずの進路上で少しでも休ませて疲労を回復させてやりたい。
レナはそのように考えていた。
「大丈夫大丈夫!休むのはレオン達と合流してからにしよ!」
「…でも…」
「それに、今は時間がもったいないじゃん?はやくエルネストを見つけなきゃ!」
「……そう…ね」
だがプリシスを休ませたい気持ちと同時に、『時間が無く、急がなくてはならない』という気持ちもレナの中に存在していた。
状況は刻々と変化する。いつ仲間達が危険と遭遇してもおかしくないのだから、
今はプリシスの言うように、休んでいる暇を惜しんでも仲間達を探す事を優先するべきなのは間違っていない。
いや、むしろ正しいと言えるだろう。
その気持ちも持っていたレナは、今のプリシスの言葉に自分の提案を通せる意見を持ち合わせておらず、
『プリシスを休ませたい気持ち』と『急がなくてはならない気持ち』
自分の中に在るこの2つの相反する気持ちに、無力感にも似たもどかしさをただ感じる事しか出来なかった。
そして、自分が先程のプリシスの様に沈痛そうな表情を浮かべている事には気付いていなかった。

200Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:04:33 ID:JIjIYVmI
一方のプリシスは、レナが休憩を提案した真意を何となくではあるが気付いていた。
プリシスは目の端でレナを捉える。その表情は明らかに暗い。そして微妙に空気が重いように感じられる。
(やっぱり…心配させちゃったかな?)
おそらくレナは、先程から度々上の空になっていた自分を心配してくれてあの様な事を言い出したのだろう。
ただ、心配してくれるのは純粋に嬉しい事ではあるのだが、
『自分を心配して』と言うのは『自分のせいで心配かけてしまった』と言う事でもあるのだから素直に喜んでもいられない。
プリシスはアシュトンの事を考えるのは後回しにして、重くなってしまっている今の空気を何とかしようと考えた。
別に誰かが決めた訳では無いのだが、前の冒険でもパーティの雰囲気を盛り上げるのは彼女の役目だったのだ。
そのムードメーカーが自身のせいで雰囲気を暗くしてしまっては元も子もない。
(そだ!アレがあったっけ)
プリシスは自分の持ち物を思い出した。『アレ』の思い出話ならレナを元気づけられるかもしれない。
「あ、そだ。レナ、良いもの見せてあげる!」
「…良い物?」
ちょっといきなりすぎたかな?と思いながらもプリシスは自分のデイバッグをまさぐり、
「じゃ〜ん!」
1つの道具を取り出した。
「あ…それ」
「そ、『盗賊てぶくろ』だよ!懐かしいでしょ?」

『盗賊てぶくろ』
他人の持つアイテムを一定確率で盗む事が出来る手袋だ。
成功すればどんなに厳重に守っているアイテムでも気付かれずに盗み取れるが、
失敗すると、何処からともなく聞こえてくる『ブブー』というベタな効果音のせいで必ずばれる。


「本当、懐かしいわね。…持ってきてたの?」
「違うよ。これね、あたしの支給品の中に入ってたんだよ」
「へぇ、こんな物まで有るのね。…ふふ、クロードがよくそれ持って街中走り回ってたわよね」
レナはクロードの姿を思い出した。まだクロードとはこの島で再会出来ていない。
クロードは無事なのだろうか。放送では呼ばれてはいないが、誰かに襲われて怪我をしてないだろうか。
そのような事を考え、ほんの少し、不安で胸がチクリと痛んだ。
「な〜に言ってんの。レナもじゃん」
プリシスがニンマリといった感じの笑顔で言う。
「そ、そんなことないわよ」
あまり突っ込まれたくない話に、思わず顔を赤くして叫んでしまった。
「ね?ね?リンガのクロードとエルネスト覚えてる?」
プリシスは話を広げようとする。1つ面白かった話を思い出したのだ。
「あれよね?クロードがエルネストさんの持ってたバトルスーツを狙って、リンガ中つけ回してたのでしょ?」
レナもその話は良く覚えている。
その時のエルネストは自分をつけ回しているクロードに気付いており、
居心地悪そうにリンガの町中をうろうろと移動していたらしい。
「そーそー。そんで何か変な本に影響されてたオペラがさ、
 『エルは渡さないわよ!クロード!』な〜んて変な誤解しててボーマン先生が大笑いしてさ…」
そこまで喋ってから、プリシスはしまった、と思った。
オペラの名前を出した時からレナの表情が段々曇り出したのだ。
「あっ……えと…ゴメン」
「…ううん、平気よ」
再び暗い雰囲気に戻ってしまった。

201Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:05:09 ID:JIjIYVmI
だがプリシスは悪気があって言ったのではない。
この場を少しでも明るくしようとして言ってくれた事なのだ。それはレナにもよく分かっている。
「…ボーマンさんって言ったらクロスよね」
プリシスの『お姉さん』としては、プリシスだけに気を遣わせる訳にはいかない。今度はレナが話を始めた。
「…クロス?」
「ほら、クロスで首輪にオリハルコンつけた犬が居たじゃない?」
それはプリシスも覚えていた。確か、茶色の雑種犬だ。
「あ、あの犬?可愛かったよね〜♪そだ、思い出した!
 ボーマン先生さ、『犬っころの分際でオリハルコンとは生意気だ!』とか言って盗ろうとしてたっけ!」
「そうそう!結局失敗しちゃって。たまたまそばに居たアシュトンと一緒にその犬に追いかけられて、
 みんな『さすがアシュトンはロクな目に…」
プリシスの顔を見て、レナはハッ、と口に手を当てた。
プリシスの笑顔は先程のレナ同様、徐々に悲しげな、力の無い笑みに変わっていく。
今は『アシュトン』は禁句に近い言葉だった。
「あ…ごめんね…」
「……ううん!い〜んだよ。楽しかった事を話してるだけじゃん!」
「…そうよね…」
「…そうだよ…」

楽しかった思い出話。
そう、かつての冒険は辛い事も有ったが、思い返してみれば楽しかった思い出ばかりが蘇る。
いや、辛かった事だって、今になってみれば笑いながら話せているのだ。
きっと10年、20年と経っても、何十年も経ってみんながヨボヨボの老人になっても、
あの冒険は楽しい思い出として心に刻み込まれていたはずなのだ。
…こんな事に巻き込まれさえしなければ。

今の気持ちを素直に表すかの様に沈黙が2人を包み、笑みは無くなった。
並んで歩いていた2人だったが、プリシスの歩みがやや遅れ始めた。

2人はかつての冒険を思い出して、理解した。
あの冒険の思い出は今、痛みと悲しみに包まれているのだ。
決して傷の有った思い出ではない。つい2日前までは、ただ楽しかった思い出だった。
その思い出を、何故今は思い出すとこんなにも心が痛むのだろうか。
理由は分かっている。
この無意味な殺し合いが仲間達だけでなく、彼らとの思い出や絆までをも傷つけているのだ。
では、何故楽しかった思い出を、こんなにも悲しく思い返さなくてはならないのだろうか。
何故レナが、プリシスが、皆がこんな思いをしなくてはならないのだろうか。
その答えは、2人には出せなかった。
((…え?))
代わりに、2人は気付いてしまった。
((もしかして…ずっと…?))
あの冒険を、今までのように楽しく笑って思い出せる日は、もう2度と来ないのだという事を。
どうしたってレナを人質に取ったオペラを思い出してしまうのだから。
何の躊躇いも無くレオンの腕を切断したアシュトンを思い出してしまうのだから。
こんな事で命を散らせてしまった仲間達を思い出してしまうのだから…

202Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:05:48 ID:JIjIYVmI
その事に気付いた2人は、心が抉り取られたかのような、激しい喪失感を感じた。
それは、仲間の死や裏切りで感じてきたものとは全く別の、今までに経験した事の無い喪失感だった。
その喪失感は瞬く間に胸全体に広がり大きな痛みへと変化する。
全く想定していなかった痛みに不意を衝かれた2人は、思わず泣き出したくなった。声を上げて泣いてしまいたい。

(駄目よ!私が泣いたらきっとプリシスも泣き出すもの。
 堪えなきゃ!私はプリシスの『お姉さん』なんだから!)
レナは涙を堪える為、無意識にまばたきを繰り返していた。
自分がしっかりしなくてはプリシスを護る事は出来ないのだから、泣く訳にはいかない。

(だめだめ!…あたしが泣いたらレナも泣いちゃうよ。
 …我慢しなくちゃ……あたしは…ムード…メーカー…だもん…!)
プリシスは盗賊てぶくろを手に装着すると、後ろからレナに近寄り、スッ、と手を動かしてレナを追い抜いた。
「へへ〜」
プリシスは後ろ向きのまま手に持った短剣を掲げ、レナに見せる。
「え…?何それ?…ってちょっと!?プリシス!?」
レナは自分の腰に手を当てる。無い。腰に挿していた短剣が無くなっている。
するとやはりプリシスが持っている短剣は…
「成功〜♪」
プリシスはレナの方を振り向かずに、そのまま走り出した。
「『成功〜♪』じゃないわよ!ちょっと、待ちなさい、プリシス!」

(ゴメンね、レナ…今は待てないんだ…)
プリシスは泣いていた。
プリシスの泣くまいとする想いとは裏腹に、彼女の喉は強張り、胸は熱くなり始め、涙が溢れてくる。どうしても止められない。
せめてムードメーカーとして、泣き顔をレナに見せる訳には行かなかった。見られたくなかった。
だから逃げる。涙が止まるまで、逃げなくてはいけない。レナに心配させない為に。この場を暗くさせない為に。
それがムードメーカーとしての役目なのだから。

(ごめんなさいプリシス…『お姉さん』なのにあなたを慰める事が出来なくて…)
レナはプリシスが泣いているのに気付いていた。
プリシスは気付かれてないと思っているようだが、彼女の声は涙声で上擦っていた。
それにレナも涙を堪える事が出来ているだけで、プリシスと同じ気持ちなのだ。
いくら誤魔化そうとしても分かってしまう。
そして、同じ気持ちである分、この暗く憂鬱な気分を晴らす方法が無い事にも気付いていた。
どうすればこの気分が晴れるのかレナには分からない。つまり、同じ様に落ち込むプリシスを慰める方法も分からなかった。
(だから、この鬼ごっこには付き合ってあげるね。あなたの気が済むまで…)
「プリシス!待ちなさいってばー!」
レナも走り出した。プリシスを追いかけるのだ。
せめて、この悲しい鬼ごっこが終わるまでは何も気付かない振りをして。
自分に出来る事はそれくらいしか思いつかないのだから。

レナの目にも涙がにじむ。レナはそれをこぼさないように空を見上げた。
樹々の隙間からは輝いてる星々が見え、涙を通して見る星の光は、様々な方向に長く伸びて広がっている。
レナにはそれがまるで、自分の代わりに星が涙を流しているように見えていた。

203Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:06:21 ID:JIjIYVmI
【H-04/黎明】
【レナ・ランフォード】[MP残量:40%]
[状態:仲間達の死に対する悲しみ(ただし、仲間達のためにも立ち止まったりはしないという意思はある)、精神的疲労大]
[装備:護身刀“竜穿”@SO3、魔眼のピアス(左耳)@RS]
[道具:荷物一式]
[行動方針:多くの人と協力しこの島から脱出をする。ルシファーを倒す]
[思考1:プリシスと共に平瀬村を目指す。次の、ないしその次の放送までに鷹野神社に戻る]
[思考2:レオンの掲示した物(結晶体*4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考3:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考4:アシュトンを説得したい]
[思考5:エルネストに会ったらピアス(魔眼のピアス)を渡し、何があったかを話す]

【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%]
[状態:アシュトンがゲームに乗った事に対するショック(更に大きく)]
[装備:マグナムパンチ@SO2、セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔100/100〕@SO2 盗賊てぶくろ@SO2]
[道具:無人君制御用端末@SO2?、ドレメラ工具セット@SO3、解体した首輪の部品(爆薬を消費。結晶体は鷹野神社の台座に嵌まっています)、荷物一式]
[行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを倒す]
[思考1:レナと共に平瀬村を目指す。次の、ないしその次の放送までに鷹野神社に戻る]
[思考2:レオンの掲示した物(結晶体*4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考3:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考4:アシュトンを説得したい]
[備考1:プリシスの支給品は盗賊てぶくろでした]
[備考2:適当なところでレナに護身刀“竜穿”を返しています]

[現在位置:H-04北部〜北西部]

【盗賊てぶくろについて】
・盗賊てぶくろを装備すれば、他人が持つアイテムを盗む事が出来ます。
・盗みを行えるのは、使用者の手が対象者に触れられる距離に居る場合とします。
・盗む事が出来るアイテムは、装備欄か道具欄に表示されている物をランダムで1つとします。基本支給品は対象外とします。
・盗んだアイテムに説明書が残っているならそれも同時に盗みます。
・道具の効力で盗むので、どんなに厳重に守られているアイテムでも成功すれば気付かれる事無く盗めます。
・失敗時には必ずばれます。失敗時の効果音が聞こえてくるかどうかはどちらでも。
・使用者は1人の対象者に1度盗みを試みたら、次の放送までは同じ対象者から盗む事が出来ません。
・成否の確率、成功時に盗めるアイテムは適当に決めて下さい。

204 ◆cAkzNuGcZQ:2009/06/03(水) 20:09:05 ID:JIjIYVmI
以上で投下終了です。
話としては短いのですが、心理描写が上手く書けずに時間を取られてしまいました。
2,3日様子見て、問題点が無さそうでしたら本投下させて頂きます。

205 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 12:49:22 ID:rW5XtX.Y
当初の予定と若干違いますが投下します。

タイトルはネタバレになるので最後に書きます。

206 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 12:50:52 ID:rW5XtX.Y
僕はひたすらに道なりに歩みを進め続けていた。その足が目指す先は大切な仲間との再会の場所鎌石村。
ブレアさんとロキと名乗る青年と別れてからしばし歩き続けていた僕は、E−4とF−4の境目で一度その足を止めた。
このまま道なりに北へと進めば目的地には到着できる。
しかしこのままではアシュトンと交わしたもう一つの約束、仲間を集めるという事が達成できない。
特にアシュトンはプリシスとの再会をとても楽しみにしていた。
今からプリシスを探して鎌石村に辿り着く事は不可能かもしれないけれど、せめて僕達にかけられた疑いを晴らしてくれる仲間は集めておきたい。
このまま鎌石村で合流した時に、もしもアシュトンも仲間を集める事が出来ていなかったら、何のために二手に分かれたのかわからなくなってしまう。
それに正直な所、初対面の人がアシュトンの姿を見て警戒しないなんて思えない。
だったら、ここは僕が無理をするしかなさそうだ。
すっかり忘れていたけれど、僕はジャックの使っていた首輪探知機を持っている。
こいつを使って近くに誰かいないか探してみよう。出来れば1人でいる人よりも二人以上纏まっている人達がいいかな。
少なくとも殺し合いに乗っている人間が仲間を作るとは考えにくいしね。
ジャックがこの機械を見せてきた時に行っていた操作を思い出しながらあれこれと弄ってみる。
僕の不用意な発言の所為で死んでしまったと言っても過言ではない彼の事を思うと心が痛む。けれども、ここで立ち止まってはいけない。
まだここには生きている人達がいて、その中には助けを求めている人だっているはずなのだから。
なんとか動作を始めた探知機のモニターの中心点に光点が一つ、少し離れて二つの光点浮かび上がった。
(多分これは僕の首輪の反応だろう。こっちはブレアさん達だろうな。操作は出来そうだけど他には誰も周りにいないな…。
 もっと広域表示とか出来ないのかな? っと。出来た出来た)
装置側面についたボタンを押してみたところ、中心にあった光点のサイズが一回りほど小さくなった代わりに、
北東に五つ光点が纏まっている箇所とそこから少し離れて一つ、南東方向と北西方向に二つの光点が重なっている箇所が表示された。
(鎌石村からそんな離れてなさそうだし、北東の方に向かってみよう。
 それにもしかしたらこの人達は打倒ルシファーを掲げた大集団なのかもしれない。)
探知機をデイパックにしまい五つの光点があった地点へと僕は足を向けた。

207 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 12:52:58 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「君達はここで殺す!」
そう吼えたアシュトンが大剣を構え一直線にこちらに突っ込んできた。
(クロード? クロードがなんだって? あの口ぶり、アイツはクロードと手を組んでいるのか? 
 それに今の台詞は殺し合いに乗っているって事なのか? 
 くそっ! 訳がわからねぇ。とっ、とにかくアシュトンを無力化しないと!)
湧き出る疑問を振り払い、筒から3本いっぺんに取り出した矢を間髪入れずに2連射する。
アシュトンの機先を制すべく放たれた俺の攻撃は、その長身とは裏腹に軽やかなステップで回避されてしまった。
だが、この程度の攻撃で抑えられる様な生易しい相手ではない事は、こいつの戦いぶりを見ていた俺にだってわかっていた。
撃たずにおいた矢に闘気を送り込み、その矢をアシュトンの足元に向けて打ち出す。
矢が地面に突き刺さると同時に送り込んでおいた気が開放され大地を炸裂させた。
特訓の末に編み出した技のうちの一つ『衝破』だ。
そして、この技の役目は攻撃の他にももう一つある。打ち出した大地の破片でアシュトンの視界を奪う事だ。
この状態なら回避も、迎撃も間に合わないはず。
狙いはアシュトンの右手。武器を持つ事が出来なくなればきっとアシュトンを止められる。
そう思って放った一撃は、大地の破片と破片の僅かな隙間を潜り抜け、狙い通りの軌跡を描いた。
狙いは完璧。確かな手応えを感じた俺だったが、次の瞬間赤い炎が夜闇に瞬いた。
咄嗟にその炎を横っ飛びで回避し、体勢を整え新たな矢を構える。
そこには降り注ぐ破片をその背に受けたアシュトンが立っていた。それも無傷のままだ。
その背中から伸びる紅い龍の口に燻っている炎が見える。
(あの龍の吐いた炎で俺の矢を焼き落としたってのか?)
「へぇ、中々面白い事ができるじゃないか? でも、残念だったね。
 普通の剣士だったら今の攻撃で手傷を負っていたかもしれないけど、
 生憎僕にはこの二人がいるからね。今みたいな攻撃は通用しないよ」
「くそっ」
悪態と共に構えた矢を放つが、アシュトンはその攻撃を切り払った。
「無駄だって言ってるのわからない? さっきみたいに目を眩ましてからの攻撃ならいざ知らず。
 君と僕との実力差じゃ正面からの攻撃なんて当たりっこないよ。だから、おとなしく僕に殺されちゃいなよ!」
今度もさっきと同様にまっすぐに突っ込んでくる。
多分俺の矢を完全に見切っているんだ。確実に捌ききれる自身があるからこその突撃だろう。
(だからって、おいそれと引き下がっていたら、守りたい者なんて何一つ守れやしない。今度こそ、俺は守りきってみせる!)

208 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 12:55:13 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

チェスターが訳のわからない事を言って寝返った時は少し驚いたけど、今のやり取りだけでわかった。こいつは僕の敵じゃない。
確かに矢を狙った所に撃つ技術は高いけど、それだけなんだ。
常に正確な狙い故に、攻撃が来るタイミングさえ掴めれば簡単に見切ることが出来る。
チェスターが新たな矢を構えた。僕の間合いまではまだ遠い。
攻撃を阻む事は出来そうにないけれど、チェスターの視線の先を捉えれば彼の狙いは丸わかりだ。
おそらく彼の狙いは僕の右肩。
攻撃の来るタイミングは狙いを定めてから攻撃に移る時の僅かな呼吸の変化。

まだだ…、まだ来ない。
残りの距離を更に詰める。

そして、残りの距離が僕の間合いまで後数歩となった所でチェスターの呼吸が変わった。

来る!

チェスターの指が矢羽を離すと同時に、踏み込んだ左足を軸に体を捻り回転させる。
僕の左肩を掠めた矢が闇の彼方へと消え去るのを横目に剣を振りかぶる。
回転の勢いと共にフルスイングした『アヴクール』の切っ先が二の矢を放とうとしたチェスターの弓を逸らした。
次の攻撃に移れるのは僕の方が早い。振り抜いた剣を両手に持ち直し、叩きつける様に『アヴクール』を振り下ろす。
だけど、この攻撃は地面を叩いてしまった。やはり使い慣れていない武器だと僅かに振りが遅れるみたいだ。
飛び退いて僕の攻撃をかわしたチェスターが反撃の矢を空中で構えている。
(狙いは僕の左足か。紙一重で交わして着地間際を攻撃するか? 
いや、さっきみたいに地面を砕いてくるかもしれない。なら、間合いをいったん離した方が良さそうだ)
チェスターの攻撃と共にバックステップで距離を開ける。
寸前まで僕の左足があった位置を彼の放った矢が貫いていた。
(予測どおりだ。一気に間合いを…。なっ!?)
僕は驚いた。突如として地面に突き刺さる軌道を取っていた矢がホップアップしたからだ。
薄緑色の闘気を纏ったそれは周囲の空気を陽炎のように揺らしながら地を這って僕に迫ってきた。
「頼んだよギョロ!」
「ギャッフ!(わかった!)」
ギョロが放った火炎弾の狙いは寸分違わずチェスターの矢を捕らえていた。
なのに、その炎は矢に当たる寸前に消滅してしまった。突然の出来事に一瞬回避が遅れてしまう。
なんとか直撃は間逃れたけれど、その矢は僕の左腿を掠めていた。
「痛っ」
掠っただけのはずだったのに、僕の腿には切り傷の様な痕が残っている。
(今の攻撃は一体?)

209 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 12:57:15 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(裏をかいた『鷲羽』でも掠り傷程度しか与えられないか…)
矢に纏わせた闘気を真空に変え、風に乗せて矢を放つ攻撃。これも特訓の中で身につけた技だ。
「ちょっと君を侮ってたみたいだ…。本気で行くよ!」
アシュトンから放たれる気迫が一段と増した気がした。
『リーフスラッシュ』
俺の体を中心に木の葉が渦を作って視界を奪い去った。さっきの金髪との戦いで見せたあの技だ。
(どこから来る? 右か? 左か? せめてあいつの位置さえわかれば…。
 『震天』で手当たり次第攻撃を…。駄目だ。そんなに矢の本数に余裕が無い。そうか! あれを使えば!)
「『衝破』」
左右に一回ずつ『衝破』を使い大地を巻き上げる。
続けて俺はデイパックに手を突っ込んで目的の品を引っ張り出した。
(ボーマンさんから譲ってもらったアイテム。こんなところで出番があるなんて…)
「行けーっ」
取り出したそれを思いっきり地面に叩きつける。
地面に出来た凹凸にぶつかった『スーパーボール』が勢いよく跳ね上がり、そして、さっき巻き上げた大地の破片にぶつかりまた跳ねる。
俺の周囲を跳ね回る『スーパーボール』が木の葉の群れの一角にぶつかると地面や欠片とぶつかった時と異なる挙動を示した。

「そこか! 『紅蓮』」
矢を炎の闘気で包んで撃ち出す俺の得意技が触れた木の葉を焼いて直進する。
『スーパーボール』がぶつかった木の葉に『紅蓮』が当たると同時に俺の周囲を舞っていた木の葉が一斉に消えた。
晴れた視界の先には右の肩口に矢を受けたアシュトンの姿があった。
思った以上に距離を詰められている。すぐさまバックステップで距離を開ける。
「こんなおもちゃで…」
肩口に突き刺さった矢を抜きながら忌々しげに呟くアシュトン。
「悪足掻きをっ! 『デッド・トライアングル』」
アシュトンが目の前で突然消え去った。
そして次の瞬間には俺を取り囲むようにアシュトンが、
(3人!?)
まるで三角形を形作るように出現したアシュトン達が同時に剣を大地に突き刺した。
すると、アシュトンを頂点とした三角形の中が高濃度の魔力で満たされる。
「ぐあああぁぁぁぁっ!」
まるで体が焼かれるような衝撃に意識が飛びそうになる。
漸く魔力の渦から解放された俺は両膝を折り、前のめりに崩れ落ちた。
(駄目だ…。力が、入らない…)
しばらくは今の攻撃のショックで動けそうに無い。
「手間取らせないでよっ!」
冷たい視線を俺に投げかけるアシュトンが剣を振りかぶった。
(クソッ、こんな所で…)
剣を振り下ろそうとするアシュトンが急に飛び退いた。
さっきまでアシュトンがいた位置に複数の氷の矢が突き刺さる。
(この魔法はアーチェ? いや…、アーチェは死んだはずだ…、じゃあ誰が?)
氷の矢が放たれた先を辿るとそこには、さっきまでアシュトンと戦っていたあの娘が杖を構えて立っていた。

210 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:01:06 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(どうして? あの子はあの人と戦っているの?)
戸惑う私はしばらく弓を持った子と龍を背負った男の人の戦いを眺めていた。
弓を持って戦うその姿は、私を何度も守ってくれたあの人の姿に少しだけダブって見える。

木の葉が舞い、大地が砕け、炎が闇夜を駆け抜けた。

二人の戦いはなんとか弓を持った男の子が食らいついていっていると言った感じだった。
けれど、状況は突如として一変する。
龍を背負った男の人の姿が消え、次に姿を現した時には3人になっていた。
突き立てた剣と共に地面に陣が描かれ、その中をここからでも判るくらい凄まじい紋章力が満たしていく。
地に伏してしまった男の子に龍を背負った男の人が歩み寄り剣を振り上げた。
(助けなきゃ!)
その光景を目にした時、頭の中を巡る疑問はどこかに吹き飛んで、代わりに私は強くそう思った。
(あの女の子の仇を取りに来たんじゃないの?)とか(何故仲間同士で戦っているの?)
なんて今はどうでもいいんだ。
(あの男の子は私を助けようとしてくれている。それはつまり、また誰かが私を守ろうとして傷つこうとしているという事。
 役立たずの私を守ろうとして傷つこうとしている。もう誰にもそんな事になって欲しくない…。
 だから私は決めたんだ。変わろうって。守られてばかりいる自分を変えようって)
「『アイスニードル』」
龍を背負った男の人目がけ氷の矢を殺到させる。矢は全て回避されてしまったけれど、なんとか男の子の事を守ることが出来た。
(そうよ。もう、守られてばかりじゃないんだから!)
そんな私の行動が癇に障ったのか、イラついた様子でこっちを睨みつけながら龍の青年は呟いた。
「どいつもこいつも邪魔ばかり! チェスターの次は君なんだから、もう少し黙っててよ!」
剣を虚空に奔らせ印を結び、鋭く巨大な氷の槍を作り出して私の方に打ち出してきた。
(『リフレクション』でなんとか弾かないと)
障壁呪紋の詠唱を始めた所で氷の槍は溶解した。
青い髪をした男の子が放った炎の矢が氷の槍を打ち落としていた。
「言っただろ! その娘は俺が守るって!」
大きく飛び退いて距離を開け、男の子はそう叫んだ。
苛立ちをよりいっそう強くした様子で、私とチェスターと呼ばれた男の子に鋭い視線を送る龍を背負った青年。
そんな彼の背負った龍が青年に声をかける。
「ギャフー」
「そうだね、ウルルン。少し頭に血が上りすぎてたみたいだ。その作戦で行こう」
そう呟いて大きな剣をデイパックにしまうと新たに赤い刀身の剣を引き抜いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

そうだ。ウルルンの言う通りだ。別に正面からぶつかる必要は無いじゃないか。
ウルルンはこう言った。
「ギャフー(頭を冷やせアシュトン。持久戦に持ち込めばいずれ抵抗できなくなる)」
そう、僕はこの剣で牽制だけを繰り返していればいいんだ。
何故かと聞かれれば単純な話だ。紋章術使いと弓使い。この二者に共通して言える弱点は攻撃回数に限界がある事だ。
厳密に言うと剣も刃こぼれ等を考えればその範疇ではあるけれど、矢や紋章術と比べればその差はあって無い様な物だ。
ソフィアっていったっけ? 君は後何回紋章術が撃てる?
僕とボーマンさんを相手にしてた時からずっと戦いずくめだよね? そろそろ限界なんじゃないか? 
そして、チェスター。今何本矢を使った? 確かあの子の荷物から取り出した矢は40本だったよね? 
この短時間で結構な本数使ってたみたいだけど、残りの本数で僕を倒すことは出来るのかな?
このまま僕はこの剣から火炎弾を飛ばし続ければいい。
多少疲れるけど紋章剣技を使うのに比べたらこんなの疲労の内に入らない。
必死に、矢で打ち落としたり呪紋で逸らしたりしているけど、そのままでいいのかい?
僕は別に構わないけどね。君達が抵抗できなくなったらゆっくり殺させてもらうよ。
それが一番疲れなくて済むからね。

211 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:03:49 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(クソッ! アシュトンの奴さっきから剣を振って火の玉を飛ばしてくるだけじゃないか!)
火球自体の速度はたいした事は無いから『凍牙』で簡単に打ち落とせる。
間断なく撃ってくるから反撃のチャンスは中々作れないけれど、こんなのただの時間稼ぎにしかならないじゃないか。
またもや飛ばしてきた火の玉を迎撃しようと、矢筒に手を伸ばしたその時、
俺は残りの矢の本数が心許なくなっているのに気付くと同時に、漸くアシュトンの狙いがわかった。
火炎弾を撃ち落さずギリギリまで惹きつけてから横っ飛びでそれをかわす。
(アシュトンの奴こっちの弾切れを狙って? そういやあの娘もずっと戦っていたけどまだ魔法が使える余力は残っているのか?)
さっきまでは火炎弾の合間に反撃の魔法を撃ち込んでいたあの娘が、今はずっと回避に専念している。
(クソッ、このままじゃ追い詰められちまう)

「キャッ!」
女の子が足をもつれさせて体勢を崩してしまった。その隙をアシュトンは見逃す訳も無く火球を放つ。
(間に合え!)
残り少なくなってきた矢を取り出し、火の玉目掛け『凍牙』を放つ。
しかし、焦って照準をした所為か標的から僅かに上に逸れてしまった。
「しまった!」
女の子は咄嗟にデイパックを盾にしてなんとか直撃を間逃れていた。彼女の荷物の中身が辺りに散らばったがどうやら無事みたいだ。
(もうこっちには余力が残されてない。こうなったら一発もらうのを覚悟で、勝負に出るしかない! 
 一撃で決める為の大技…。やっぱりあれしかないか)
特訓を続けて最近編み出した技『大牙』。
送った闘気で矢を巨大化させて放つあの技ならば、あの剣の火炎弾や炎のブレスでも焼き落とされることは無い。
けど、この技は直ぐには撃てない。送り込まなきゃいけない闘気の量の多さ故、どうしてもタメが必要になってしまう。
撃ち落されはしなくても避けられてしまっては意味が無い。
(どうすればアシュトンの足を止める事が出来る? 思い出せ。戦いの中でアシュトンは何回か足を止めていた事があったはずだ
 あの娘が使った炎の魔人の攻撃の時か? 違う。
 あの娘が使った無数の光線魔法の時か? 確かに足は止めていたけれど違う。
 俺にも出来そうな攻撃で足を止めていた事があったんだ)
アシュトンの戦闘の光景を記憶の中から引っ張り出し、該当するシーンを必死に探し出す。
その最中に飛んで来た炎弾を横っ飛びでかわすが、着地の際に地面を砕いた時にできた出っ張りに躓いてしまった。
追撃の火球が迫ってくる。躓いた時の勢いを利用し、そのまま地面を転がりなんとか回避して体を起こす。
その時だ、探していた光景が脳裏にフラッシュバックしてきたのは。
(そうだ! アシュトンは岩の雨を降らす魔法の時や俺の『衝破』の時に足を止めていた! 視界が塞がれていたからか? 
 多分そうだ。下手に動くよりも迎撃に勤めた方が被害が少ないんだ。
 それにアイツには二匹の龍もいる。事迎撃に関しては他の剣士なんかよりも安全に出来るんだ。
 ならば、視界さえ奪えば『大牙』を叩き込むチャンスは作れる!)

女の子の方をチラリと見やる。着ている服は切り傷や擦り傷でボロボロ。その上息が上がってきている。
(もう一刻の猶予もない。ここで勝負に出る!)

212 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:05:29 ID:rW5XtX.Y
矢筒から3本纏めて取り出して構える。
俺の動きに気付いたアシュトンが剣を振り、炎の弾を飛ばしてきた。
しかし、迎撃している余裕なんて無い。肉を切らせて骨を断つ。多少の怪我でアシュトンを止められるならば御の字だ。
「『衝破』」
火炎弾の脇を掠めるように矢を放った。火の玉の影で少しでもアシュトンにこの矢を気付かれるのを遅らせる為だ。
アシュトンの目の前の地面に着弾。砕かれ巻き上げられる大地の欠片。
それと同時に火炎弾が俺に当たった。さっきのアシュトンから受けた魔力攻撃の時に負った傷が響く。
だけど、怯む訳には行かない。炎により与えられる痛みを省みず、俺は降り注ぎ始めた地面に狙いをつけた。
「『豪天』」
一際大きなかけらに突き刺さった矢に眩い雷光が降り注いだ。
「ギャッ!」「ギャッフ!」
これで、アシュトンも二匹の龍も目を潰されたはずだ。
アシュトンは粉塵を受けて目をつぶっているし、その間を守る為に二匹の龍は暗闇に目を凝らしていた。その最中にあの雷。
(今しかない!)
掴んでいた最後の矢を装填し思いっきり弦を引き絞る。
矢に巡らした闘気を質量に変え、矢を次第に巨大なものに変えていく。
その矢のサイズが槍を越え、そして、大地に根を下ろす大樹の様に巨大になった。
「『大牙』!!」
弦を離し、戒めを解かれた巨大な1本の矢が真っ直ぐにアシュトンへと突き進んでいく。
『大牙』をその身に受けたアシュトンは周囲の瓦礫や木々を巻き込みながら吹き飛ばされた。

「どうだ?」
アシュトンが吹っ飛んだ時に巻き上がった土煙と、夜闇の所為でどうなったかわからない。
手加減をする余裕なんてなかった。もしかしたら殺してしまったかもしれない。
でも、この女の子を守る為にはしょうがなかったんだ。
(クソッ、なんでこんな事に…)
そんな事を考えている時だ、炎の中に吹雪の入り混じった空気の渦が煙の向こうから飛んで来たのは。
それを間一髪でかわして矢を抜き煙の先を見据える。

213 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:08:30 ID:rW5XtX.Y
「今のは結構危なかったよ…。後一瞬気付くのに遅れたら僕はこの剣みたいにバラバラになっていたんじゃないかな?」
そう言って煙の向こうからアシュトンが出てきた。その手に握っていた炎を出す剣は刀身を砕かれ柄だけになっていた。
その柄を放り捨て、デイパックから大剣を引き抜く。
「もう面倒だ…。ギョロ、ウルルン。アレをやるよ。バックアップをお願いね」
そう言うとアシュトンは両手で持った大剣を眼前に掲げ凄まじい量の魔力を放ちだした。
まるで嵐の中にいるかの様な風が巻き起こる。さっきの分身攻撃の比じゃない魔力がこの位置からでも感じられる。

撃たせたらヤバイ。
直感がそう告げている。どんな攻撃かわからないが身を隠すような場所も無いこんな所で直撃を受けたら無事じゃあすまない。
「させるか! 『鷲羽』」
この風に流されること無く、また、龍の炎の息に撃ち落される事のない攻撃を選択する。
「「ギャギャッ、ギャフ!」」
すると、アシュトンの背に生えた二匹の龍の内赤い方が大地に火炎の息を当て無数の瓦礫と粉塵を巻き上げ、
もう一方の蒼い方の龍がそれらを凍らせて即席の氷の盾を作り上げ俺の『鷲羽』を弾いた。

「大いなる創造神トライアよ――」
アシュトンが剣を振り上げる。その剣閃を追う様に蒼白い凝縮された魔力が光の筋を残す。
(責めて、この娘だけでも!)
この女の子はずっと守っていた緑色の長髪をした男を覆う様に抱きしめていた。
俺はこの身を盾とする為にアシュトンとこの娘の間に立ち塞がる。

「全ての敵を滅せよ!! 『トライエース』」

一閃
刀身から蒼白い燐光が迸り、極限まで凝縮した魔力が開放される。
大気がぐらりと歪み、周囲の粉塵や瓦礫、更には焦土の中生き残ることが出来た僅かな木々でさえ飛び散らした。

更にもう一閃
巻き起こる爆風。大気が更にいびつに歪み、よじれ、空間そのものが悲鳴をあげた。

そして最後にもう一閃
一際強烈な魔力の奔流。数百匹の魔獣の咆哮に似た大音響と共に空間、果ては重力すら捻じ曲げるかの様な凄まじく圧倒的な力。
その全てが俺たちに牙を剥いた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「思った以上に疲れるね…。これもルシファーが言ってた制限って奴なのかな?」
『トライエース』を使った疲労からその場に膝を突くアシュトン。
「ギャフ、フギャ(大丈夫かアシュトン?)」
「あぁ、大丈夫だよ。ちょっと眩暈がしただけさ。さぁ、早くあの三人の首輪を回収しよう。
そうしたらボーマンさんと合流しようか。まだあの人には使い道がありそうだからね」
「フギャフフギャー(待て、どうやら技の威力も制限されていた様だ)」
ウルルンの言葉を聞いて顔を上げたアシュトンは、ゆっくりと脇腹を押さえながら立ち上がるチェスターの姿を捉えた。
「そうみたいだね…。でも、もう抵抗する力すら残ってはいないだろうからさっさと済ましちゃおう」
(巻き込まれた瓦礫に当たって、穴でも開いちゃったのかな? 
 あんまり運はいい方じゃないみたいだな。少し親近感を感じるよ)
剣を支えにしながら立ち上がると、その剣を引き摺る様にしてチェスターに歩み寄るアシュトン。
「これでまた一歩、プリシスの一番に近づける訳だね…。フフフッ、待っててねプリシス。僕がもっと首輪を集めてあげるから…」
何かに取り憑かれた様な不気味な笑みを浮かべたアシュトンは、確かな足取りでチェスターへと迫った。

214 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:12:50 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(クソッ、視界がぼやける。腕にも力が入らない。結局俺はこのまま誰一人守り抜く事すら出来ずに死んじまうのか…。
 クレス悪い…。あれだけ大口叩いて別れたってのに、アーチェの仇を討つ事も、この娘を守る事も出来なかった…)
思い返せばここ最近の記憶は後悔ばかりだ。
村を守れなかった事。再会したクレス達の足手纏いにしかなれていない事。
ここに来てから起きた分校での出来事。アーチェの死。
そしてこの女の子の事。
(せめてアシュトンだけは止めないと…。俺がこの娘に持ってきちまった災いだからな…。
 くそっ、俺に力があれば…。何でもいい。俺に力をくれ。この娘を守れるだけの力をっ!)
そう俺は願った。神様なんていないって思っている。それでも祈らずにはいられなかった。
心の底からこの女の子を守りたいとそう思った。その思いを遂げる為強く、強く願った。

そして、その願いが何かを起こした。

先程この女の子のデイパックから転がり落ちていた水晶玉が、俺の足元で赤く眩い光を放っている。
(これは…? あの娘の荷物から出てきた…。一体なんだろう?)
俺はそれに思わず手を伸ばした。触れた途端体に何かが流れ込んで来る。
その瞬間。今まで俺の頭の中にあった微かにしかない、
雲の様に掴み所の無い断片的なイメージが、一つ、また一つと、まるで実体を持つかの様に収束していった。
そう、これは特訓の中で浮かんでいた断片的なイメージ。これを習得できればきっとクレス達の助けになれる。
そう感じ、いつも掴もうとしては霞のように消えていってしまっていたその感覚が、今俺の中に確かに一つの形を成して存在していた。

触れていた水晶玉は光を失い、透明な水晶玉に戻っている。
今の現象が俺に何か影響を及ぼしたのかわからない。
わかる事は唯一つ。俺にはまだこの娘を守れる可能性が残されているという事。

矢を構える。
この技に必要なのは送った闘気が拡散しない様に矢に定着させる事。
そして、それを幾重にも重ね合わせ、ただ一点のみを貫く為に研ぎ澄ます。
そう、どんなに強固な鱗に覆われた龍でさえ、その一撃の下に屠る。
そんな意味を込めたこの技の名前は、

「『屠龍』! ぶちぬけぇええええ!!」

解き放たれた赤き必倒の一撃。
俺の想いの全てを乗せた一筋の光がアシュトンに襲い掛かった。

215 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:15:57 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「フギャー!(やばいぞアシュトン! 避けろ!)」
(出来ない。体が重くて思うように動かせない。『トライエース』の反動?
 違う、もう呼吸は整えられてるし、さっきまでこんなに体が重いなんて事は無かった)
ふと、前を見ると女の子と目が合った。その手に持っている杖が輝きを放っている。
(あの娘の紋章術? 重力操作の?)
「ギャース!(チッ、世話の焼ける宿主だ!)」
「フギャー!(全力で行く、踏ん張れよ!)」
ギョロとウルルンが同時に巨大なブレスを真っ直ぐ向かってくる赤い闘気を纏った矢に浴びせる。
それでもチェスターの放った矢は一向に止まる気配を見せない。二人の吐く炎と氷の渦を受けながらも真っ直ぐに迫ってきている。
体は未だにあの女の子の紋章術で動かせない。だから、せめて二人の応援をしようと彼らを見上げた時、僕は自分の目を疑った。
何故かはわからないけど二人の体が透けてきているのだ。
「二人共もう止めるんだ! このままだと君達が魔力を使い果たして消滅してしまうよ!」
こんな事今まで無かったけど、どう考えても今魔力を使い果たそうとしている事が原因なのは明白だ。
「ギャッ(何寝言を言っている)」
「ギャフッ(お前が死んだらどの道俺達も死ぬんだ。無駄口叩いてないで手伝え)」
「駄目だ、あの娘の紋章術の所為で体が動かないし剣も持ち上げられない」

尚も迫り来る赤い闘気を帯びた矢に懸命にブレスを放ち続ける二人。
それでも勢いを少し落とすのが精一杯。確実に僕らの命を奪おうとそれは迫って来ていた。
「ギャギャ(ウルルン)」
「ギャーフ(そうだな…)」
「どうしたのさ? 二人共?」
僕はいつもと違う雰囲気の声を発する二人に急に嫌な感覚を覚えた。
「ギャッギャギャフン(今まで楽しかったぞ。アシュトン)」
「ちょっと!? ウルルン? 何言ってるの?」
「ギャース(このままでは3人纏めてあの世行きだからな。お前だけでも生きろ、アシュトン)」
「ギョロ!? 何勝手な事を言ってるのさ?」
「ギャフフギャフー(なんだかんだ言って俺たちはお前の事が気に入ってるんだ)」
「ギャッギャー(だから、お前にはもっと生きていて欲しい)」
二人が信じられない事を言っている。僕を生かす為に死のうとしている。
止めなくちゃ、そんな事受け入れられるはずが無い。
「待ってよ! また僕を困らせる様な事を言って! お願いだからたまには言う事を聞いてよっ!」
「ギャー(いいか? これを凌ぎきれたら一旦退け。北西の方角から二人。まだ遠いが近づいてきている)」
「ギャッフ(ボーマンが味方を連れて来たとは考えにくい。『トライエース』を撃った疲労状態でこれ以上の戦闘は危険だ)」
もう二人の姿は目を凝らさなければ視認出来ない程に薄くなっている。
「ギョロ! ウルルン! 話を聞けよっ! 僕達はこれからもずっと3人でっ!」
つい語気が荒くなってしまったけど、二人が思い直してくれるならそんな事構わない。

「ギャフー(生きろよ)」
「ギャース(生きろよ)」

そう言い残し二人は更に吐き出すブレスを巨大にさせた。
僕らに迫る矢は漸く止まり、そして纏わせた闘気を拡散させるように巨大な爆発を起こした。

216 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:25:23 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「これで決まって無ければ…」
もう駄目だ、立っているだけで精一杯だ。血と一緒に残された気力も流れ落ちてるみたいだ。
爆煙の先に人影が蹲っているのが見える。
突如として吹いた夜風が煙を晴らしてくれた。
ぼんやりとした視界で捕らえたアシュトンのシルエットに違和感を覚える。
(何かが違う…。いや、それよりも倒せたのか?)
しかし、どうやら俺の願いはさっき叶えて貰った分で受付が終了したらしい。
フラリと立ち上がるその姿が見えた。でもおかしい。さっきより小さく見える。

完全に晴れた視界のおかげで漸くその違和感の正体に気付いた。
背中の龍がいないのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
突然叫び声を上げたアシュトンが続けて、ものすごい形相で俺を睨んできた。
「殺してやる! 次に会った時は必ず殺してやるっ! 二人が受けた苦痛を何倍にして味合わせてから殺してやるからなっ!!」
怨念の様なものを込めながら呟くアシュトンを中心に霧が発生したかと思うと、ややあってから霧が晴れた。
その時にはあいつはこの場から姿を消していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(なんとか追っ払えたみたいだな…)
チェスターが張り詰めていた緊張を解いた瞬間、急に膝がガクリと崩れ落ちた。
前のめりに倒れる彼を受け止めたのは硬い地面の感触ではなく、
何か別のやわらかい、擬音で例えるならフニャンといった感触だった。
「だっ、大丈夫ですか?」
意識を失いかけていたチェスターはその呼びかけで瞼を再び開けた。
その彼の目に飛び込んできたのは
(特盛りっ!)
何が特盛りなのかは敢えて説明するまでも無い。
「ごっ、ごめん! 大丈夫、大丈…」
慌てて飛び退いたものだからまたしてもグラリときてしまう。
再び倒れようとするチェスターを受け止めようとしたソフィアだったが、
散らばった瓦礫に躓いてしまい、チェスターを支えきる事は出来ず二人仲良く転倒してしまった。

「ホントッ、ごめん。もう大丈夫だから゛!」
意図せずソフィアを押し倒すような形になってしまったチェスター。
そんな彼の眼前に広がった光景は童顔巨乳美少女のあられもない姿。
激しい戦闘の末所々破けてしまっているストッキング。
チラリと白い下着が見える様に捲くれ上がったミニスカート。
そして、先ほど彼を受け止めた豊かな胸。
その周囲の布地はアシュトンの『ハリケーンスラッシュ』やら何やらを受けて白い肌や下着が見え隠れしている。
更に、チェスターは健全な17歳男子である。目を逸らそうとしてもどうしてもチラチラとそれらに目が行ってしまう。
そう、彼は将来的には仲間内から『スケベだいまおう』というありがたい称号を賜る身。
そんな彼の男としての悲しい性がそうさせるのであった。

(イカン鼻血が…)
そして、彼は昏倒した。
ただでさえ脇腹に穴が開いて血が足りない状況だというのに、余計なところからも出血してしまったのだから無理も無い。

チェスター・バークライト享年17歳出血多量にて死亡

【チェスター・バークライト死亡】

217 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:28:08 ID:rW5XtX.Y
○●○●○●○●○●○●○●○●

(ここは…?)
俺はやけに眩しい所に寝転がっていた。
起き上がると鼻からツツーっと鼻血が垂れて来るのを感じ取ったので素早く袖で拭った。
(おかしい、さっきまで夜だったのに…。しかもさっきの女の子がいない)

「チェスターさん」
背後から聞き覚えのある声に呼びかけられた。俺は立ち上がって声の主の方に向き直った。
「お久しぶりです。お元気にしてましたか?」
そう言って礼儀正しい一礼と共に優しい笑顔を俺に向けたのは
「ミント? ミントじゃないか!?」
「はい」
そう、目の前にいるのはサラリと流れるような長い金髪と、聖母の様な微笑みを併せ持つ女の子。
どこからどう見てもあのミントだ。

「どうして死んだミントが俺の前に? 待てよ? もしかして、俺死んじまったのか?」
錯乱する俺の質問に首を左右に振るミント。
「いいえ、チェスターさんはまだ生きていますよ。ただ、近くを通りかかるって話を伺ったものですから。一言挨拶を、と思いまして。
 それと、どうしてもあなたに会いたいという人を連れてきました」
そう言ってミントは俺の視界から外れるように横に移動した。
ミントの背後に隠れていた人物が俺の目の前に現れた。
見間違うはずも無い。アイツの姿がそこにはあった。
ピンク色の髪をポニーテールに纏め、その髪と同じ色をした瞳でいつも挑みかかるように睨んできたアイツだ。

「アーチェ!」
アーチェに歩み寄る。話したい事がいっぱいあった。沖木島では再会して直ぐクロードに殺されちまったから。
だけど急に現れるものだから何を話せばいいかわからなくなっちまった。
よく見るとアーチェは俯いて小刻みに震えている。
そうかそうか。俺と会えてお前も嬉しいのか。こういうところはやっぱりかわいいなと思ってしまう。

「アーチェ…」
ズドム!
呼びかけながら一歩踏み出した俺の顔面にアーチェの鉄拳が炸裂した。

2HIT! 3HIT!
「何よ! 何よ! ちょっとあの娘がかわいいからってデレデレしてっ!」

4HIT! 5HIT! 6HIT!
「そんなに大きいのがいいのか!? 大きいのがいいのかぁー!!」

7HIT 8HIT! 9HIT!
「このスケベだいまおう! チェスターなんかーっ!」
訳もわからず連打を浴びた俺はグロッキー状態。頭の周りをヒヨコ達がくるくると回っている。
「巨乳の角に頭をぶつけて死んじゃえー!!」
10HIT!

アーチェのアッパーカットが俺の顎にクリーンヒット。俺はマットの上に沈んだ。
「しばらくこっち来んな! 行こっ! ミント!」
「あっ! 待って下さいアーチェさん。それではチェスターさんごきげんよう。クレスさんとクラースさんにも宜しくお伝え下さい」
(えっ!? ちょっとミント! この扱いは酷くないっすか?)

そうして俺は、この眩しい真っ白な世界の中で暗闇へと落ちていった。

218 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:31:01 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ってか、待てアーチェ! 巨乳に角なんてないぞ!!」
アーチェに向けて手を伸ばした俺の手は擬音にしてフニュンといった感触のモノを掴んだ。

【チェスター・バークライト生存確認】

次第に覚醒していく意識。今俺の右手に掴んでいるモノの正体を知覚するのに2秒程かかった。

どうやら俺はさっき助けた女の子に膝枕されている状態な様だ。
そして、伸ばした手は彼女の豊かな胸を下から持ち上げている様な格好になっていた。

「キャアッ!」「うわぁ、ごめん!」
慌ててその場から飛び退く俺。しまった。また急に動いちまったら。
「って、あれ? 傷が塞がっている」
「あの…、うなされていた様ですけど大丈夫ですか?」
胸を抱きかかえ、ちょっと涙目になりつつ上目遣いで俺に尋ねてきた。

(何だこれは? 反則だろ…)
「いや! もう! ホント大丈夫だから。それよりも君が傷を治してくれたのか?」
「はい。これを使って」
そう言って彼女はなにやら複雑な構造をした金属の塊を俺に見せてきた。
「もうエネルギーが切れちゃったから使えないけど、まだ痛みますか?」
傷はもう痛まない。服を捲くって確認してみたが綺麗に傷が塞がっている。
(どういった原理か判らないけど、きっとミントの法術を貯めこんでおける道具かなんかなんだろう。っとそれよりも)
「なぁ、君に聞きたい事があるんだ」
突然まじめな顔になった俺にこの娘も表情を強張らせる。
「君言ったよね。金髪の女の子を殺したって。アシュトンから君を守ったけど、事と次第によっては君を…」
殺す。そう続けようとしたが、どうしてもその続きは声に出せなかった。
命がけで守った娘だからだろうか。それとも、ずっとそばにいる長髪の男を守りながら戦っていた姿を見た所為だろうか。
不思議とこの娘が理由も無くあんな惨い殺し方をする訳が無いという確信があった。

少女は目を伏せポツポツと言葉を紡いでいく。
「多分あなたが言っている女の子は私達との戦いで負った傷が原因で亡くなったんだと思います。
 でも、そうするしかなかったんです。でなければ私達は皆あの子に殺されていた…」
「ちょっと待ってくれ! あの女の子に? だって君達はそこの男の人と、
 もう一人の金髪の男の人も含めて3人もいるじゃないか! それがあの子一人に?」
「そうだ! クリフさん! あの人はとても強いからきっと大丈夫だとは思うけれど、やっぱり心配。助けに行かなくちゃ」

そう言ってこの女の子は横たわる男を背負おうとして
「キャッ!」
つぶれた。
「おいおい、大丈夫か? 君の体格でそいつをおぶってくなんて無理だ。
 それよりもさっきの続きを聞かせてくれ。納得できたら俺も手を貸すから」

男の下敷きになったこの娘を引っ張り出して、服についたホコリを払ってやった。
別にセクハラ目的とかそんなんじゃないんだからな。勘違いすんなよ。
「すみません。ありがとうございます。それでは続きですけれど…」
こうして彼女は自分達と金髪の少女との間に何があったのかを俺に話してくれた。

219 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:32:44 ID:rW5XtX.Y
【D−5/深夜】
【ソフィア・エスティード】[MP残量:10%]
[状態:疲労中]
[装備:クラップロッド、フェアリィリング、アクアリング、ミュリンの指輪のネックレス@VP2]
[道具:ドラゴンオーブ、魔剣グラム、レザードのメモ、荷物一式]
[行動方針:ルシファーを打倒。そのためにも仲間を集める]
[思考1:レナス@ルーファスを守る]
[思考2:クリフと合流する]
[思考3:フェイトを探す]
[思考4:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考5:自分の知り合いを探す]
[思考6:ブレアに会って、事の詳細を聞きたい]
[思考7:レザードを警戒]
[思考8:チェスターを信頼]

[備考1:ルーファスの遺言からドラゴンオーブが重要なものだと考えています]
[備考2:ヒールユニット@SO3を消費しました]

【チェスター・バークライト】[MP残量:50%]
[状態:クロードに対する憎悪、肉体的・精神的疲労(中程度)]
[装備:光弓シルヴァン・ボウ@VP、矢×15本、パラライチェック@SO2]
[道具:チサトのメモ、アーチェのホウキ、レーザーウェポン@SO3、荷物一式]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)]
[思考1:クロードを見つけ出し、絶対に復讐する]
[思考2:このままソフィアについて行く]

[備考1:チサトのメモにはまだ目を通してません]
[備考2:クレスに対して感じていた劣等感や無力感などはソフィアを守り抜けた事で無くなりました]
[備考3:スーパーボールを消費しました]
[備考4:レーザーウェポンを回収しました]

【レナス・ヴァルキュリア@ルーファス】[MP残量:40%]
[状態:ルーファスの身体、気絶、疲労中]
[装備:連弓ダブルクロス、矢×27本]
[道具:なし]
[行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する]
[思考1:???]
[思考2:ルシオの保護]
[思考3:ソフィア、クリフ、レザードと共に行動(但しレザードは警戒)]
[思考4:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考5:協力してくれる人物を探す]
[思考6:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す]
[備考1:ルーファスの記憶と技術を少し、引き継いでいます]
[備考2:ルーファスの意識はほとんどありません]
[備考3:半日以内にレナスの意識で目を覚まします]

[現在位置:D−5東部]


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