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日本大陸クロススレ その175

928弥次郎:2022/06/01(水) 22:27:01 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

Part.8 葬儀屋の静かなる日々


 世界は、何年振りかの静寂に満ちていた。その感覚に、シンは少し戸惑いを覚えていた。
 常日頃聞いていたレギオンの声を遮断する道具を与えられたのは少し前の事。
 そして、今日は最終的な処置を施す日であり、先ほど完了したばかりであった。

『気分はどう、ノウゼン少尉?』

 処置室からガラスのはめ込まれた向こう側、オペレーター室にいるブレンヒルトの言葉がマイク越しに届く。
 しばし瞬きをして、耳を澄ませ、それでもレギオンの声が聞こえないことを確認して、シンは返答を返す。

「……とても、しずかです」
『そう、成功したみたいね』
『手ごたえはあったからな。あとは……オンオフできるかだ』

 そして、もう一人分の男の声がする。ルルーシュ・ランペルージという、ブレンヒルト曰く「専門家」の人物だ。
先ほどまで、処置の際にシンと顔を合わせていた人物であった。確か、「処置」の際には彼と目を合わせ---

(……何をしたんだ?)

 その処置の時の記憶が、なぜだかすっぽり抜け落ちている。
 思い出そうとしても、まるで記憶の手がかりさえ浮かんでこない。

『……大丈夫かしら?』
「問題ありません。ただ、記憶が……」
『それについては処置の副作用だ。そうしなければ、君の異能を制御できるように変化させるのは不可能だったからな』
「変化……?」

 その問いかけに、ルルーシュは一つ頷いた。

『そうだ。君の異能に干渉し、変化させ、危険性を取り払った。
 まあ、ここについて長々と説明しても君には理解が難しいだろうが、その際に記憶が欠落しているだけだ』
『ちゃんとそれ以前の記憶はあるかしら?』
「ええ……」

 自分の名前、これまでの経歴、忘れたくても忘れられないこと、忘れないと決めていること。どれもが浮かんでくる。
欠落しているのは、処置の瞬間とそこからしばらくの間の記憶だ。

『なら、あと確認すべきはオンオフの切り替えができるかどうかね。これについては、ノウゼン少尉が意識してやってもらわないと分からないわ』
『何かしらのルーチンを組むのがいいだろうな。スイッチのオンオフを切り替える際に、何か動作をすることで異能を制御しやすくした方がいい』
「ルーチン、ですか」
『ああ。能力を解放する際の、何かしらのスイッチとなる動作だ』
『あなたの場合はあれよね、こう……』
『それに触れるな!』

 ぎゃーぎゃーとやかましくなったオペレーター室をしり目に、シンはベットの上で天井を見上げぼんやりと考える。
 あの時から、自分は変わった。多くの人と知り合い、異能と折り合いをつけ、戦う術を学んでいる。

(でも……)

 やることは変わっていない、そう思うのだ。
 ブレンヒルトとも相談して、探してもらっているのだ、兄を。兄を基にした羊飼いを。
 それをやらなければ、いくら変わっても一歩を踏み出せないと。自分がそこから先に進めないのだと。

 それに、この異能との付き合いもそうだ。きっかけは語るまでもない。
 けれど、これが縁を結んでもいる、とブレンヒルトには言われていることだ。首を覆うスカーフなどその典型例だと。
一番最初に配属された部隊の戦隊長のアリス・アライシュが託してくれたもの。彼女からもらった、大切なものだ。

(ルーチン、これにするか)

 自然とそう思えた。一先ずそれを伝えることにして、シンは声をかけた。




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