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避難用作品投下スレ4

49十一時三十二分/戦舞:2008/09/09(火) 14:32:11 ID:1PXLw4M.0
 
神塚山の北麓、その山道の中ほどに存在するそれは殺戮に満ちた島の中心にありながら、
ひどく場違いな様相を呈している。
黒いフェルトに包まれた、人の身の丈ほどもあるそれを、ぬいぐるみという。
デフォルメされた蛙をモチーフとしているようでありながら眼球以外を黒一色に
染め上げれられたその姿は、ある種の迫力と異様の両方を見る者に伝えていた。

ぱりぱりと黒い雷を纏って屹立するそれを、大儀そうに撫でた女がいる。
命を倦みながら生を渇望する老婆の如き白く濁った瞳孔が、ねっとりと見上げるのは遥か山頂。
この島で最も高い場所に立つ、裸身の巨人が残された片腕を失って崩れ落ちるのを、女はじっと見ていた。

「回れ、回れ、歴史の歯車」

もごもごと、半世紀も前に過ぎ去った少女時代を反芻するように手毬歌を呟くが如き声。
憧憬と羨望と後悔とが均等に交じりあった、吐き気を催すような呪詛の唄。

「袋小路のどん詰まり、まだ見ぬ枝葉の分岐まで」

街角の片隅で、畳一畳分の小さな栄枯と衰勢を眺めてきたような、矮小で傲慢な視野。
丸められた背中が、ふるふると震える。

「水瀬の知らない幸福を、水瀬の知らない災厄を、水瀬の知らない終焉を」

女の名を、水瀬名雪という。
数十、数百に及ぶ生を繰り返す内に磨耗して、生きるという言葉の意味を見失った女である。
相沢祐一という希望と、水瀬という名の他には何も持たぬ。
少女の姿の肉袋に詰められた、しわがれ果てた老婆。
黒い稲妻の一閃をもって砧夕霧の片腕を崩壊せしめた、それが水瀬名雪という女だった。


***


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