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避難用作品投下スレ4

38十一時三十二分/戦舞:2008/09/09(火) 14:27:06 ID:1PXLw4M.0

血煙を払うような風が吹く。
靡く髪と手の刃を銀と閃かせ駆ける、それは人を捨て人を超えた、風である。

「―――中枢体がどこに潜んでいるのか、分かっているのか」

既に再生を始めた、ぼこぼこと粟立つように蠢く巨人の腕を睨みながら光岡悟が問う。

「長瀬は賢しらだが、臆病な男だ」

駆けながら答えた坂神蝉丸が踏みしめる右の足からはぐずぐずと濡れた音がする。
軍靴の革に染み出した鮮血は、未だに止まっていなかった。

「そんな男が、切り札を手の届かぬところに置くはずもない。
 ならば―――最も守るに易く、攻めるに難い場所に篭っているだろうさ」

しかしその声は傷の痛みを感じさせない。
見上げる先には、巨人の影。
力の込められた視線が射抜いていたのはその一点である。
一糸纏わぬ裸体、蝉丸自身が抉った乳房の更に上。
痛みと怒りに震える白い喉笛が、そこにあった。

「……ふん」

鼻を鳴らした光岡がそれ以上何も口にしないところをみれば、蝉丸にも自身の回答が
的外れでなかったことが判る。

「しかし……言うは易し、か」

口の中で呟いた蝉丸が、改めて巨人を見上げる。
片腕を喪い、咆哮を上げる巨躯が身を起こそうとしていた。
山頂の狭い尾根を埋めるように膝立ちになったその巨躯は、見上げなければ
その全身像を視界に入れることすら叶わない。
目指す喉笛は、実に二十数メートルの高みにあった。

「辿り着くより他に、道は無いと知れ」

光岡の怜悧な声。
戦が、再開される。


***


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