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避難用作品投下スレ4

205きみのこえ。(echo)/傷跡の花。(Low Blood Pressure):2008/11/02(日) 15:41:24 ID:vpnn3bro0
 自分は銃を手に取り、奪うための訓練をしている。覚悟だってした。
 それと同時に、無力さを悟り、どうしようもなくちっぽけだということも理解した。
 だが失いつつあるものがある。大切なものを失うたびに、忘れてしまっている。
 命の重さを忘れて、誰か守れるのか。誰かの役に立てるのか。
 好きなリサ、頭を撫でてくれた英二を助けられるのか。
 出来ない。今のままでは、絶対に出来ないと感じた栞は怖くなって、手放したくなくて、必死に手繰り寄せようと足掻く。

「僕は……受け入れることしか出来ない。残酷な事に……でも、栞君はそうじゃない。まだ怒れる。正しく、怒れるんだ」

 英二は調子を変えず、淡々と告げる。しかしその目は何か、希望を見出した目だった。

「何人か、僕の知り合いも死んだ。でもそれだけだ。僕はそれしか感じられなかった。それが僕という愚かな大人の姿だよ。だからこそ、それを刻み付けておくんだ。こんな馬鹿な大人になってたまるか、ってね」

 苦笑する英二。それは変わらぬ己に愛想を尽かし、諦めたというよりも、その姿を演じて見せ付けることが今の自分に課せられた仕事なのだと無言のうちに語る男の姿だった。
 ヘタクソです。英二さん、演技は、とっても下手――
 そんな感想を抱いた栞の口元は陰のない、微笑の形を浮かべていた。

     *     *     *

『……皐月も、死んでしまったみたいね』

 そうだなと応じた宗一の頭には、先程の少女の絶叫が繰り返されていた。
 内容もそうだったが、生の感情をありありとぶつける彼女の声が、ひどく印象に残った。
 横目で見てみれば、それぞれ複雑そうな顔はしているものの、特に誰も、何も喋ることはなかった。
 ……渚を、除いて。

 渚だけは深刻な表情で、しかし必死になって平静を保っているのがありありと見て取れる。
 その瞳からは、今にも涙が溢れ出しそうで……しかし、すんでのところで押し留めている。


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