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避難用作品投下スレ3
453
:
誰が為に
:2008/03/26(水) 16:15:34 ID:we92bBF.0
一本の線が、浩平の頬を伝う。
震えの原因は、怒りから、悲しみに。喪失感で溢れたものへと、変わっていた。
「なのに、もう、いないんだよ。言ってること分かるか? いなくなったんだ。もう、オレは長森に何もできない。できたとして、全部自己満足なんだよ。もう、あいつから、何も聞けないんだ。あいつには、いっぱい、しなきゃいけないことがあったのに」
浩平には分かっていたのだ。芳野が、演技などではとてもできない本気の涙を流しながら、瑞佳を抱いていたから。
何も言わず、言い訳すらせず、浩平のしようとしていることを受け入れようとしている。
そんな奴が、長森を殺すはずがない。長森も、そんな奴じゃなきゃ付いていかない。だって、一番よく知ってるんだから。
そんなこと、とっくの昔に分かってたのに。
やり場のない怒りを、目の前の男にぶつけることで何とか発散しようとしている。
なんて小さい男なんだ、オレは。
だから、浩平は、泣き喚きながらそうするしかなかった。
「責任取れよ」
包丁を捨てる。
カラン、と卑小な音を立ててそれが地面に落ちる。
ゆっくりと、浩平は芳野に向けて歩き出す。
「責任取りやがれよ」
分かっている。こんな行動こそ、まさに自己満足でしかない。
なのに、止まらない。止められない。
ガキだから。聞き分けのないクソガキだからだ。
「長森と柚木がどんだけ苦しんで、どんだけ助けを求めたか、あんたには分かるんだろ! なら、お前もそれを味わえよっ! この……」
――走り出す。
拳にやり場のない怒りを乗せて。
まずは一発、いや、最初で最後の一発を放つ。
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