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避難用作品投下スレ3

179ふたりのうた(後編):2008/01/12(土) 04:03:39 ID:Km9uiEBs0

懐かしい、声がした。

「……くん、彰君」

目を開ければ、冬の陽射しは冷たくて、眩しい。
何日か前に降った雪が道の片隅に寄せられたまま、溶けずに凍り付いていた。
吸い込んだ清冽な空気に、ぼんやりとしていた意識が覚醒していく。

長い夢を見ていた。
長い、嫌な夢だったように思う。
それは目を覚ませば忘れてしまう程度の、儚い悪夢。
今はもう思い出せない、遠い世界の出来事。

見上げれば、空は青く、遠く。
足元に目をやれば、どこまでも赤い煉瓦道が続く。
この道の先には、いつものキャンパス。
歩き出せば、いつもの笑い声。
終わることなんて考えもしない、いつまでも続くはずの時間に繋がる道。

―――だと、いうのに。

「どうしたの、彰君?」

ああ。
これは夢だ。
いつかどこかの悪夢の中にいる僕がみる、悲しい夢だ。
ただの一歩をすら踏み出す前に、僕はそれを喝破する。

懐かしい声。
懐かしい笑顔。
昨日も、一昨日も、その前にもずっと会っていたはずの、懐かしい、たいせつなひと。

陽だまりに咲く小さな白い花のような、あたたかいひと。
そのひとが、微笑んでいる。
それはずっと、たぶんずっと、こころの一番深いところで、誰にも触らせないようにしまい込んできた、
僕の、一番たいせつな笑顔だ。

だからこそ、わかる。
これが夢なのだと。


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