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避難用作品投下スレ3
172
:
ふたりのうた(後編)
:2008/01/12(土) 03:58:35 ID:Km9uiEBs0
「……間に、合ったか……!」
は、と息を吐く。
地面に片膝をついたまま、ぼたぼたと血を吐く隻眼の鬼と視線を交わした、刹那。
浩之の背中を凄まじい衝撃が走っていた。
肺の中の空気が、強制的に排出される。
一瞬の内に顔面が地面を擦り、それでも衝撃を殺しきれずに、首を支点にして転がる。
(そりゃ……こうなる、よな……)
無茶苦茶に上下左右が入れ替わる視界の中、浩之は内心で苦笑する。
あの瞬間、判断に一切の迷いはなく、そしてそこには間違いもまた、なかった。
炎の鳥を触手の中心、本体に向けて放っていれば、あるいは仕留めることもできたかもしれない。
しかしそれは、ほぼ確実に柳川の犠牲を伴う結果だった。
柳川の限界があとほんの数瞬でも先であれば、炎の鳥は躊躇なく七瀬彰であったものに向けて放たれていただろう。
だが、振り向かず疾走する中で、浩之には背後の様子が手に取るように分かっていた。
薄れゆく咆哮は即ち、柳川の体力の終焉を示していた。
ならば、眼前の敵に背を向けるという愚を冒してでもそれを救うのは、浩之にとって当然の帰結だった。
「が……ッ、ふ……」
地面と幾度かの衝突の末、ようやく回転が止まる。
立ち上がろうとして、激痛に視界が歪んだ。
受身も取れず転がるうちに傷めた骨や筋が悲鳴を上げていた。
それでも、触手によって強かに打ちつけられた背骨が持っていかれなかったのは僥倖というべきか、
身を包む白銀の鎧の強度に感謝するべきか。
しかし、
「くそ……動け……!」
受けた打撃は、思いのほか深刻だった。
焦燥の中、浩之は身を起こすこともできず、足掻く。
一撃で殺されることは避けられても、次の攻撃に対処できなければ同じことだった。
轢かれた蛙のように地べたに這い蹲ったまま見上げる少年の視界に、幾本もの触手が映った。
澄み渡る青空を背景に蠢くそれは、さながら世界を侵す悪意そのもののように、見えた。
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