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避難用作品投下スレ3

100素敵な間違い:2007/12/18(火) 22:00:38 ID:Uwgruf260
「お兄ちゃん……祐介お兄ちゃんっ!」
「ちょ、ちょっと……」
 一人で先行しては危険だと有紀寧が止めようとするも捕まえることが出来ず狂乱したようにその『何か』に走っていく初音。
「祐介お兄ちゃんっ、祐介お兄ちゃんっ、祐介お兄ちゃんっ!」

(長瀬さん……?)
 あんな遠目でよく分かったものだと感心するがそれよりもやはり、あの様子では祐介は殺されてしまっているだろう。予想通りと言えば予想通りだが……
 先に駆け出した初音に有紀寧が追いついたときには、物言わぬ骸となっている長瀬祐介の遺体に初音が縋るようにして揺さぶっているところだった。
「祐介お兄ちゃん、返事してよ……祐介お兄ちゃぁん……」
 痛々しい程の涙声で祐介の名を呼びかける初音。有紀寧はそれを黙って見つめていた。

 もちろんかける言葉がなかったからではない。祐介が死んだのが確定した以上行動の決定権は間違いなく自分にある。とは言っても柏木の人間を探すことにはなるだろうが、重要なのはそのルートだ。探していると思わせつつ自分にとって安全な道を確保しなければならない。
 激しい戦闘の起こっている場所にわざわざ足を運ぶ必要はないのだ。それに……そろそろどちらが上なのかをはっきりとさせておかねばならなかった。
 頃合いを見計らうようにして、有紀寧は優しく初音の肩を抱く。

「柏木さん……そんなに悲しまないで下さい」
「でもっ……でも……」
「今は思い切り泣いてもいいと思います……ですけどそのままじゃ柏木さんのことを想っていた長瀬さんもまた、悲しみます。生きなきゃならないんです。長瀬さんが生きていたことを、そこにいたことを証明するためにも」

 それはかつて兄が亡くなったときに有紀寧が自分自身にかけていた言葉だった。まあ一部誇張しているような部分もあるが概ね違ってはいない。
 そう――守らなければならないものがある。兄の残したもの全てを守っていく義務が、自分にはある。それが兄を理解しようとしなかったかつてへの自分の、贖罪なのだから。だから……死ねない。
「ですけど……今は、わたしの胸で」
 後ろから覆うように抱擁する。初音はしばらく震えていたが、やがて声を押し殺すような嗚咽を上げ始めた。身体を、全て有紀寧に預けるようにして。


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