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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】
247
:
煌月の鎮魂歌10 38/43
:2017/08/12(土) 23:06:33
『そうですかしら』
押し返された妖女の頭がぐるりと円を描き、ごつんと音をたてて肩にもどる。くるくる
と巻き上がった革がまた、すましかえった女の妖艶な笑みを形作った。
『あそこにいる二人がいい例ですわ。彼らが、愛の名のもとにあなた様に何をしました?
かわいそうな少年!』鈴の声で妖女は笑った。
『あの子はあなた様を愛していると思っているのですよ、こっけいだこと! 愛というも
のがどれほど危険か知りもせず! かわいいけれど愚かなあの子は、愛しさえすればあな
た様が愛してくれると無邪気に信じているのです。あの私生児もまた、同じく愚かしい愛
の迷妄にとらわれて、あなた様の幸福などみじんも考えない』
「お前は考えているとでもいうのか?」
『ああ、どうかお帰りくださいませ、闇へ、あなた様の継がれるべき世界へ!』
女侯爵の声が熱を帯びた。
『あなた様は誰よりも、何よりも美しくまれな尊き血の君、人間などという不完全な生物
には不釣り合いな、完璧なる生命。狭量なこの人界はあなた様を傷つけ、苦しめるばか
り。どうして苦しみしかないとわかっている場にとどまり、あなた様を決して理解せぬ生
き物のために働かれるのです。苦悩と悲しみにさいなまれながら、人の身勝手な愛に切り
裂かれるあなた様を、どうして放っておけましょう』
頭上に林のように垂れた鉤爪のある手が垂れ下がり、何十本ものしなやかな女の腕とな
ってアルカードに絡みついた。白い頬を撫で、肩をさすり、腰をたどってみだらな仕草で
哀願する。
「だから私の人の部分を殺し、純粋な闇の者とすると?」
『必要なことですわ!』女侯爵は叫んだ。若い処女のように、彼女は泣いていた。美しい
目から透明な滴がいくつも転がり、何十本もの白い腕にからみつかれたアルカードに向か
って、彼女はすすり泣きながら細い両手をさしのべた。
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