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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

246煌月の鎮魂歌10 37/43:2017/08/12(土) 23:05:59
『ご覧くださいまし、この哀れな女を。自らに与えられなかった愛の幻ひとつのために、
わたくしに魂を食い破られても気づきもしなかった。いいえ、気づいていて、歓迎さえし
た。すでに死んだ女への嫉妬の炎がこの女の身も心も焼き尽くし、わたくしのために絶好
の扉を開いてくれた。この女にとって、みずからの嫉妬のためには、愛した男の息子もな
にもかも、絶好の道具でしかなかった。人間の、なんという悪辣さでございましょうね、
若君、わたくしども闇の者でさえ、愛にはもうすこし忠実ですわ』
「お前が私を殺して闇に連れ帰ろうとするように?」
『ああ、わかってくださるのね──』
 嬉しいわ、と女侯爵は歓喜に震え、かっと牙をむいた。美しい女の顔がばりばりと音を
立てて裂け、とげのような歯をおびただしくそなえたひとつの真っ赤な口になった。果物
の皮をむくように顔だったものがめくれあがり、首が伸びた。アルカードは剣をあげて応
じた。妖女の石榴めいた頭部が刃に当たって音をたてた。酸のしずくがシュウシュウと滴
り、踏みとどまるアルカードのブーツのそばを黒く焦がした。
『闇の者は一度愛した相手をけっして裏切りはいたしません』
 そのような状態でもどこでしゃべっているのか、女侯爵の声は嫋々と続いた。
『そして愛する者を愛という美名で縛りあげて自由を奪うことも。ベルモンド家の人間が
してきたことは、結局それではございませんでしたか? 人間にはあなた様を理解でき
ず、あなた様の力と長命と美は、結局は人とあなた様をへだてる壁でしかなかったので
は? いったい何人の人間を、あなた様は見送られました? まばたきの年月で燃え尽き
ていく人間など、あなた様には塵でしかない。なのにその塵が、塵なりのちっぽけで偏狭
なそれぞれの独善と執着心から、愛という名の鎖でよってたかってあなた様を縛る。あな
た様の苦痛など考えることもせずに』
「私が選んだことだ」
 短く答えて、アルカードは剣を振り払った。


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