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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

207 煌月の鎮魂歌9後半 22/24 :2016/07/31(日) 20:29:56
 いちばん安全なのは文字だった。古い本の古い文字、いま自分がいるここからは遠く離
れた場所や、別の世界のことを書いた文字がいい。そこにはナイフを持った恐ろしい狂人
はいない。手足をへし折られ、顔もわからないほど踏みつぶされる女の死体もない。
 かろうじて天井に開いた天窓はほこりまみれで、煤煙とやにですりガラスのように
なっていた。それでも月の光は入ってくる。冷たく冴えた満月は、黄色い電球の濁った
光よりずっと清浄でやさしい。
 昼間の熱気は夜になってもさめず、むっとした空気の中にアルコールと吐瀉物と垢の
すっぱい臭いが入り交じる中で、小さい赤毛の子供は無心に本の中の別世界にもぐり
こんだ。雄々しい英雄たちが人喰いの怪物を退治する世界。美しい人々が行き来し、
神話の動物たちが駆け回り、正義が行われ、悪は罰され、よい人間が幸福を得る世界。
外の世界とはあまりにも違う、あまりにも、正しい世界。
 その正義と理想の物語など、たかが夢だと笑い飛ばすことを、いつから覚えてしまった
のだろう。
 ふと目を開くと、アルカードはまだ静かに語りつづけていた。ただ、上体がわずかに
ゆらぎ、ゆっくり前後にふらついている。やはりまだ、体力が戻りきっていないらしい。
長時間座って話し続けて、疲れたのだろう。
 ユリウスは肘をついて身を起こし、アルカードの腕をとった。
 驚いてアルカードは話しやめ、問いかけるような視線を向けた。かまわず、ぐいと引く。
細い身体はかんたんに倒れて、ベッドの上に転がった。
「余計なことは考えるなよ」
 いらぬ気を回される前に、ユリウスは釘を差した。
「俺はあいにく、しゃべりながら居眠りしかかるような奴を抱くような趣味は持ってない
んでね。そのまま黙って寝ろ。じゃなきゃ、自分の部屋へ行って寝ろ。俺はどっちでも
いい」


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