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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

158煌月の鎮魂歌8 24/29:2016/01/16(土) 18:47:31
 一本の蝋燭に照らされた、石造りの部屋。昔風のベッド。乱れたシーツと、その上に
横たわって目を閉じる、日に灼けた肌のたくましい男。
 男らしく整った顔は静かで、誰かをたって今まで抱いていたかのように右腕を広げ、
濃い褐色の髪は奔放に乱れている。閉じた左目の上には縦に長く傷跡が走っている。何か
楽しい夢でも見ているのか、厚めの唇が幸福そうに微笑んでいる。筋肉の張った首筋に
二つの小さな針で刺したような傷があり、うっすらと血がにじんでいる。
 そしてそのかたわらに、アルカードがいる。
 黒衣のマントを後ろに引いて、何かに祈るようにひざまずき、シーツの上に両手を
組んで、食い入るように男を見つめている。きつく組み合わされた手の中に、何か光る
ものがある。金鎖のついた、ごつい印章指輪。明らかに、彼の細い指には大きすぎる、
金の指輪。
 赤い涙がすべり落ちてシーツに染みを作る。散ったばかりの赤い薔薇の花びらのように。
 声もたてずにアルカードは泣いている。眠る男を起こすことを恐れるように、ひっそり
と、音もなく。内心に荒れ狂う苦痛も悲嘆も孤独も、その身を千にも引き裂かれるほうが
はるかにましであろう、悲しみのすべてを飲み込んで。
 ほんの瞬きの半分ほどの幻視だったにもかかわらず、ユリウスにはそれが過去に現実に
あったことだとわかっていた。誰だ、と口にはしたものの、その男が誰なのかもすでに
理解していた。
「あいつは──俺、は……」
「あなたには関わりのないことです」
 崇光の声は変わらず平坦だった。
「さあ、早く。イリーナももう限界に近い。早く屋敷に戻らなければ、ここで第二陣に
でも襲われたら、抵抗もできないまま潰されますよ」


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