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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】
143
:
煌月の鎮魂歌8 9/29
:2016/01/16(土) 18:36:45
もう一度大声で冒涜的な言葉をわめき、ユリウスは腕をふるった。鞭はまっしぐらに
蛾の群れをつらぬいていき、そこから大きく円を描いてぐるりと全体を包み込むと、
手首のひとひねりでぎゅっと収縮した。輪の中に囲い込まれた怪虫どもは一匹残らず
鞭の輪に締め上げられ、赤ん坊の泣くような声を上げて消失した。わずかな灰がはら
はらと草の上に散った。
「次がくるわよ」
いつのまにかイリーナがそばにきていた。豪華なドレスの少女は爛々と目を輝かせ、
優美だがきわめて冷徹な殺戮者の顔を見せている。彼女もまた兵器として育てられた
少女なのだとユリウスはふいに気づいた──注意深く混ぜ合わせられた血の果てに、
戦いというたったひとつの目的のために生み出され、育てられてきた娘。真珠のような
白い歯をむきだした金髪の魔女に、ユリウスは突然自分でも思っていなかったほどの
親近感を覚え、あわてて打ち消した。
「トト──ゲンブ!」
イリーナのポシェットからのっそり首を伸ばした黒い亀は、重さなど持っていないか
のようにふわりと浮き出ると、みるみるうちに空へ上り、巨大に、もっと巨大になった。
またたきのうちに、森の上に、アメリカ軍が隠していたUFOの母艦と言われれば
信じるようなどでかい楕円形のものが浮かんでいた。
どこかで見たような気がしてユリウスは首をひねったが、気づいて笑い出しそうに
なった。ジャパンで作られた古い映画だ。暇な午後にバカ笑いしながら見た。亀が巨大
な怪獣になって、襲ってきた別の不細工な怪獣と大戦闘をやらかす。まるでマンガだ、
そうじゃないか?
だが目の前で起こっているのは映画でもなければマンガでもない。巨大な黒い聖獣は
空中で重々しく四肢を動かすと、象の何百倍あるかわからない脚を四本いっしょに振り
下ろした。ばきばきと地面が隆起し、焼き払われたあとに生えてきた新しい怪樹の腕が
押し寄せてきた岩と土に飲み込まれるように消えた。さらに上空を飛び回っている炎の
聖獣がまんべんなく炎を吐き散らし、まだぴくついているものを容赦なく灰に変えて
いく。
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