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Awake

1月輪ネタ書いた人:2013/09/20(金) 04:45:08
かなり遅くなりましたが…完成させたので

作品の傾向を……
・ ストーリーラインはゲーム本編をなぞる形で進行
・ イメージとしてはGBAパッケージの艶っぽい作画
・ 前半ネイサン→ヒュー 後半ネイサン×ヒュー
・ カーミラたん大活躍。原作「女吸血鬼カーミラ」(レ・ファニュ著)の設定が入っている(少女に対する
 同性愛癖など)のでもちろん男女間のエチーは無し
・ 軽いガチレズ描写とエチーは未遂ならあり
・ 前の討伐の話が出てくる(ネイサンの両親が命を落とした後の話)
・ 姓名は英語圏だが国教会管下のイギリス・アメリカ両国で偶像崇拝禁止を敷いていた1830
 年前後に、神話偶像があるDSSを使用していることからカトリック教徒とし、DSSカードの
 「ブラックドック」の伝承があるイギリス国内の人間にした。(アメリカのほうがイギリスよ
 り偶像崇拝に関しては厳しいし)
・ 史実を踏まえてやっている所がちらほら。
・ ネイサンが最初は頼りない、でも全編通してピュアっ子
・ ヒューがネイサンに突っ掛るのにはそれなりに正当な理由があるから。だけど本当は頼りがいのあ
 るお兄さんだったりする。
・ ドラキュラ討伐にベルモンド一族でなく、何故彼らだったのかというのを捏造している(ベルモンドと
 は書いてはいないけれど)
・グロ描写アリ

では投下します。

211Awake 18話(6/10):2013/12/23(月) 02:39:23
「では始めます。汝、マウリシウス、父と子と聖霊の名において虚偽の無きよう聖書に手を触れ
宣誓されよ」
 ラテン語で司祭がモーリスに対し宣誓の儀を執った。
町は穏やかでも聖職者の諮問内容が苛烈で無いとは限らない。三人は固唾を飲んで質問を
待った。
だが――
「……これにて諮問は終了とする。答弁に瑕疵を認められず、様態も不審な点が見られぬ。
諸兄弟よ、この者に不明な点があれば発言されよ」
「内容に瑕疵認められず。精神、身体も悪魔に侵食された形跡を認めず」
「同じく」
 諮問は厳しいものではなく、むしろ概要を訊ねられただけで半刻もかからなかったので
ある。

 すっかり拍子抜けした弟子二人だったが、平静を保ちながら答えていたモーリスもまた心境
は二人と同じであった。
 だが、最後の関門を突破した訳ではない。聖別された物をこの身に当てられる儀式が残
っていたからだ。
 聖体拝領や交わりの儀で司祭が、ワインに少し浸したホスチア(聖餅)を三人の口に含
ませた。
 ネイサンはこれで皮膚が焼け、その音と煙が発生し、拒絶する行動が見られれば間違いなく
ヴァチカンに召喚されるだろうと内心、震え慄いていた。
――敵の手に落ちたヒュー、生贄にされかかった師匠、魔が残した爪痕が肉体に現れはしな
いだろうか? 分からない。だけど神よ、生き延びた喜びを俺から奪わないでください。
 その懸念は二人とも感じていた。しかし、三人ともホスチアを拝領した時に何の変化も
見当たらなかった。
奇跡だ、聖寵だと思った。

212Awake 18話(7/10):2013/12/23(月) 02:40:01
 三人はその状況に心から喜び破顔しかけ小躍りしたい気持ちになったが、儀式の妨げと
なるような行為をすべきでないと興奮を静めた。
 そして、最後の交唱を聖職者側と共に唱え全ての儀式が終わった。
 モーリスは概要のみで済み、修道司祭が内容を詳らかに聞くことがなかったのは、過程はど
うあれ、三人が生きて帰って来た事と、言質の取れない予測だが、エクソシストの司祭
――いや、本来はただの司祭ではなく司祭枢機卿の手回しもあったのだろうと考えた。
 ともあれ、最後の関門を通過したことで息子と、恩義ある僚友の遺児の事を思い、今度
は誰一人欠けることなく生還できた事実を噛みしめた。

 それから、祭壇から歩み出た修道司祭に促された三人は、翼廊近くの身廊まで来ると、
彼の合図で聖堂の門扉が一気に開いた。
 開扉した所から徐々に陽の光が差し込んで来た。白亜の身廊を一直線に照らすと、彼ら
の足許まで光の道が煌々と広がった。
 その眩しく皓々たるさまは、人々の脅威を取り除いた英雄の前途を指し示しているよう
な清浄さに満ちていた。
 そして、外に出ると報告の際にはざわめきながらも大人しく待っていた人々も、彼らの
姿を見た途端、割れんばかりの歓声を上げた。
 三人はその様に嬉しくなり、疲れた体と心が癒されるようで握手を求められたらそれに
応え、修道院の前に止めていた馬車までの距離は短くても人々の輪が集い、囲まれ、歩み
は遅々として進まなかったが、馬車に乗り込んでからもその声は聞こえていた。
「師匠、人の喜びはどんな時に見ても心穏やかにするものですね……」
「その通りだ。儂等はどんなに忌み嫌われ、名誉が得られずとも人の世がある限り、魔を
打ち払い続けるだろう」
「ですが、教会で報告した内容で本当にいいのでしょうか? 実際、師匠やヒューが魔手に
落ちかけたとはいえ、お二人の話を詳しく聞けば聞くほど魔性との密な接触を許している
のは明白です。取り様によってはヴァチカン側からの召喚も免れないかと」

213Awake 18話(8/10):2013/12/23(月) 02:41:05
――そして俺自身も。
 
 最功労者であるネイサンが、神や世間、もっとも裏切ってはならないモーリスに対して背信行為
をしているのは自分自身でも理解している、そう思っても、己の倫理に照らしそれらも含
め尋ねずにはいられなかった。
「お前は魔を討伐できるようになったが、職業人としてのハンターにしてはまだまだ甘い
所があるな」
 職業人としてのハンターと区別した意味でモーリスから論を聞いたことが無かったネイサンが訝
しげな表情をして質問した事に、モーリスは諭すように答えた。
「プロであれば過程はどうであれ、相手とこちら側、第三者に対して結果より大きい瑕疵
が無ければ内容を真正直に晒す必要などない。より大きな信用を得たければ口を噤むのは
決して忌避される事ではないぞ」
「師匠。結果はどうであれ、己の名誉と成果のために過程を欺き通すのは、今まで培って
きた力と信用を放り投げるようにしか思えないのです。俺の考えは間違っているのでしょ
うか?」
 不安げにモーリスを見る視線に真っ直ぐさが見えると、その清純さに心が清々しくなる心地
がした。
「いや、その考えは間違いではない。確かに己の力を把握せず戦い方も工夫出来ないうち
に己を偽り過大もしくは過少に見せる事は、他者だけではなく自分に対して物事を不明に
してしまう虞がある。偶然とはいえ荒療治だったが、今度の事でお前たちは状況によって
は無力になる事を理解してそこから立て直しを図り、結果を出せる術を身に付けたのだ。
それは己の能力に金銭と価値を生み出せた事を意味する。お前はもっと己の能力と価値に
自信を持って動け」
 二人のやり取りをじっと静かに見ていたヒューは、ネイサンが自分より重鈍だが堅固な土台を
もって仕事に対し堅実なスタンスで臨んでいる事を理解し、改めて己が生き急いで他者の
理解を強引に得ようとした傲慢さを恥じた。

214Awake 18話(9/10):2013/12/23(月) 02:42:05
――同じ仕事をしているのに俺は嗣子として期待され、なまじ年齢より高い力を持ってい
たが故に目が眩み、認められたいがため早く名声を得たい一心で穴だらけの不完全な意識
で物事に臨んでしまっていた。
考えを聞いたらますます人生を共有したい同志はお前以外には考えられなくなったじゃな
いか。

 軽く頷きヒューは目をつむって微笑んだが、モーリスはこの場に参加している弟子として彼に
も目下の目標を与えた。
「何を以って笑うのかは知らんが、お前は逆に他者と交わり独善を薄めろ。それまでは仕
事でも私事でも突出する事は許さん。角を矯めよ」
 今まさに自分がそう生きようと思い始めた所に、父親から見透かされた様に言われた事
で恥ずかしさのあまり顔を赤らめてしまった。
「……善処する」
「……いい加減、意見を受け入れる事に素直になれ。父子であるから許される事でも他人
であればとっくに愛想を尽かされる態度だ。もっとも、他人に対しては意見された事に表
層的に従い、相手が望む表情で首肯する狡さがあるから性質が悪い。だが、身内に対して
は前より殻に閉じこもらず解りやすい態度で対面するから、本当は嬉しかったりする」
「真顔で言うなよ、恥ずかしい」
「ふ、そう照れるな」
「ばっ……親父! な、な、何を!」
「ははははは」
 モーリスが面白半分にからかっている状況に、ヒューは居心地悪そうに頭を掻いていたが、ネイサ
ンは助け舟を出すかのように話を変えてヒューに問いかけた。
「ところで、帰ったら何をしようか」
「俺とお前の立場は逆転したが、それでもいつもの様に日々を進めるだけだ」

215Awake 18話(10/10):2013/12/23(月) 02:43:16
 そう言ったヒューの表情は捻じくれた嫌味のあるものではなく、日の光が差すような温かい
微笑を持った柔和な顔付きだった。
 それを見たネイサンは改めて何もかもが元に戻ったと思った。ヒューが見せた静かな笑顔に、
遠い少年の日にカルパチア山脈の朝日に照らされ、顔を赤らめながら見つめるほど綺麗で
慈愛に満ちた笑顔を持つ少年だった頃のヒューの姿が重なった。
――少し状況は違うけどな。お前の心が側にある、それだけで日々の姿が違って見えてく
るから不思議なものだ。
「そうか……そう思うなら有難い」
「俺は何があっても、立ち止まらないぞ。生きている限りな。手伝えよ? ネイサン」
「もちろんだ――ありがとう……」
 ふと、意図せずにネイサンは小声で呟き、自分の愛した人の姿を見て幻想ではなく実際に存
在し手に入れた上、共に生きられる事に多大なる喜びと幸せを感じずにはいられなかった。

――帰ろう、故郷へ。二度とこんな危機が起こらないよう祈りながら――

 一行は逗留地に戻り、数日かけて荷物をまとめた後、一路、フランスへ向かい故郷を目
指し、帰途に着いた。

 彼等がこの後どうなったのかは判らない……ただ、公的な記録にその戦いと功績は残さ
れていないため、その足跡は後人に辿られる事はなかった。



――End


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