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【原作】ドラキュラ・キャスバニ小ネタ/SSスレ【準拠】

93 古歌-イニシエウタ-【五ノ歌】18/13 :2011/03/28(月) 00:31:29


 これらの事実を、手の中で消滅するまでのほんの一呼吸のあいだに、生き物は王に伝え
た。王はそのすべてを見、聞き、知った。妻の身に何が起こったかを理解した。幻が消え
ても、彼はしばらく彫像のように凝然と空中を見つめていた。あたかもそこにまだ、妻の
顔と、それを取り囲んだ火、押し合う群衆の紅潮した顔また顔が見えるかのように。
 やがて彼は握りつぶされた首飾の残骸を手から滑りおとすと、ヘクターと小さなジュリ
アの呼び声に背を向け、よろめくように城へと足を向けた。
 そこから先は断片的な映像でしかない。安らかに食卓を囲む自らの民を、愛と尊敬でも
って彼を養っていてくれた人々の住む村は、一瞬にして暗黒の翼に包まれた。湯気をたて
る料理も、子供のおもちゃも、つくろいかけた着物もみな置き去りにされ、風に吹き払わ
れたように村は無人となった。咲きほこる薔薇も沈丁花も吹きすぎた颱風によってあっと
いう間に黒く枯れ果て、塵となって辻に舞った。
 彼は自らの足もとに恐れおののく民を見た。これまで愛情深い主であった王の突然の変
貌に驚き怯え、理解できないまま身を寄せあっている人々の顔を見た。その善良な顔の一
つ一つは、妻の死に熱狂していた人間たちと同じだった。どれも人間、どれひとつとして
変わりはない。炎の中で彼女は死んだ、リサは、リサは……。
 魂ぎる絶叫を遠いもののように聞いた。肉が裂け、甘く新鮮な血と恐怖の香りが濃く鼻
をついた。長く嗅いだことのない芳香だった。人形のように手足が放り出され、豚を捌く
ようにはらわたが地上にこぼれだした。いまだに驚愕と恐怖を貼りつけた首が引き抜か
れ、血しぶきをたてて床に落ちた。
 絶叫と混乱は、徐々に鎮まっていった。気がついたとき、彼は踝まで血に浸る部屋の中
で、五体を引き裂かれた人間たちの死体に囲まれ、唖然と膝をついていた。
 自分が何をしていたのか、何をしようとしているのか、ほとんど考えてもいなかった。
頭はしびれたようになり、白い靄につつまれていた。その中でただ一つ、炎で書かれた文
字として、妻の名前が大きく燃えていた。
 リサ。


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