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【原作】ドラキュラ・キャスバニ小ネタ/SSスレ【準拠】

92 古歌-イニシエウタ-【五ノ歌】18/12 :2011/03/28(月) 00:30:57
 声とともに、銀色のきらめきが飛んだ。誰もが水を掛けられたようにはっとした。子供
に気を取られていたすきに囚人が何かを投げたことに気づいて、刑吏があわてて女をしっ
かり押さえつける。屋根の上で少年はぎくりと身を引きつらせ、あたりを見回した。その
頭上に、黒い翼が大きく広がった。両腕がつかまれ、足が屋根を離れた。
『は、母上!』
『憎んではいけません。人を憎んでは』
 火刑台の上に立ちながら、母はやさしく微笑んでいた。幼い日々、平和な離宮の庭で、
暖かな居間で、静かな寝室で、いつも見ていた笑顔だった。
『あなたのお父君は、あなたに人として育ってほしいとお思いでした。わたしもそう思い
ます。ですから、人を憎んではいけません。あなたがいま見ているのは人のほんの一面に
すぎない。悪も善も、両方を秘めているのが人間なのですから』
『母上、いやです、母上』
 涙声で公子はもがいた。もしものためにとヘクターから渡されていた魔力の結晶から生
まれた怪鳥が、力強い脚と翼で公子の身体を吊り下げていた。嘴には奪い返してきた公子
の剣もくわえている。泥に汚れた頬に涙が筋を引く。
『母上、私、私は──』
『火をかけよ!』
 これ以上しゃべらせてはならないと判断した司教が、大声で命令した。女はすでに柱に
縛りつけられ、脚もとには油に浸された薪が積みあげられていた。松明が投げ込まれ、た
ちまち燃えあがった。裂けたスカートの裾が燃えあがり、炎が立ちのぼった。熱さに近く
にいた群衆が波が引くように下がった。
『母上──母上!』
『アドリアン、──』
 轟炎に囲まれて立ちながら、母はなおも微笑んでいた。その唇が、最後に小さく動くの
を公子は見てとった。その言葉が意識に刻まれると同時に、少年の力は尽きた。
 瞼がおり、視界が暗くなった。ぐったりとなった公子をつれて、影の生き物は燃えさか
る処刑台と歓呼する群衆をあとに、一路、闇の城へとはばたいていった。


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