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【原作】ドラキュラ・キャスバニ小ネタ/SSスレ【準拠】

88 古歌-イニシエウタ-【五ノ歌】18/8 :2011/03/28(月) 00:28:42
 ジュリアとアイザックだけが、長椅子に寝かせられた公子のそばに膝をついていた。ジ
ュリアもまた恐怖に肩を震わせたが、気丈に礼をとり、意識のない公子の額から懸命に血
をぬぐい取ろうとしていた。公子の白い頬にはいくつも痣とすり傷ができ、服はずたずた
に裂けて、あちこちから血が流れていた。剣は長椅子のひじ掛けに立てかけられている。
長い銀髪は泥と血でよじれた束になり、裂けた唇に血の塊が盛りあがっている。
「若君様。若君様」長椅子から力なくだらりと垂れている手を、必死になってジュリアが
さすりなから呼んでいた。
「お父君がいらっしゃいましたよ、若君様。どうぞ気をしっかりお持ちになって、目をお
覚ましくださいまし、若君様、若君様」
「リサは」
 人形のように動かない息子の前に立ちつくして、彼はそれだけを口にした。
「これの母は。リサはどうした。わが妻は」
 黙して動かなかったアイザックが、手にしていたものを主に差しだした。鎖の切れた首
飾の残骸で、石を留める部分がゆがみ、血がついていた。そこで始めて王は、長椅子のか
げに目立たぬようにうずくまる、翼を持った異形の影を見た。彼の弟子たちの術によって
生み出される、魔力の結晶の産物だった。
 手をのばすと、壊れた首飾が掌に重く乗った。影の生き物が靄のように形を崩し、もと
の魔力となって首飾の乗った手に吸いこまれた。血と苦痛と狂気の味が舌の上に広がっ
た。そして混乱と悪意が。叫喚が。声高く叫ばれる神の名が……
 彼は生き物の目を通して世界を見ていた。正確には、それが宿っていた魔力の結晶を通
して。永いあいだ見たことのない昼の世界、太陽の光。行きかう人々。
 妻がいる。たぐいまれな美貌をヴェールに隠し、人々を救うためのものを詰めこんだ篭
を提げ、後ろに息子を連れて、ある家の裏口をくぐろうとしている。あたりに人影はな
い。奇妙なくらいに静かだ。
 だが次の一瞬、静けさは恐ろしい喧噪と暴力に取って代わられる。とつぜん家の中か
ら、武装を固めた兵士の一団があふれ出てくる。
 貴婦人は息を呑むような仕草をしたが、悲鳴もあげず、ただちに踵を返そうとする。だ
が、武装を固めた兵士の無骨な腕ががっしりと細い首筋を掴む。腕をすべった篭が転が
り、薬や乾燥させた薬草の束が落ちる。


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