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【原作】ドラキュラ・キャスバニ小ネタ/SSスレ【準拠】

82 古歌-イニシエウタ-【五ノ歌】18/2 :2011/03/28(月) 00:25:28
「余は醜くなったであろう」
 静かに燃える暖炉の前で、駄々をこねるように彼は何度も妻に尋ねた。始めて彼女がこ
の城に来たとき見た若々しい美丈夫は、いまは皮肉げに唇を曲げた白髪の男となってい
た。なめらかな肌には皺が寄り、美しい手はごつごつと節くれだっていた。いいえ、と妻
はかぶりを振り、荒れた手を愛しげにとって口づけた。
「以前の貴方さまもお美しゅうございました。そうしていまの貴方さまは、以前にまして
お美しゅう存じます」
「世辞はいらぬ。人の目におのれがどう写るかくらい理解している」
「わたしがお世辞など申しあげないのはご存じのはず」
 妻は両手で夫の皺の刻まれた頬を包むと、額と頬と唇に次々と唇をあてた。
「貴方さまの老いは、わたしのために人の恐怖を啜ることをやめられたから。おん自らの
身を支える大切な糧を捨てたがために今のお姿があるのだとしたら、この髪も、お顔も、
お手も、刻まれたものすべてが、わたしを愛してくださることの証し。なぜ醜いなどと見
えましょう。わたしには今の貴方さまが、何よりもとうとく美しいと感じられるのです」
 妻の細い指にさすられ、闇の王は深い吐息をついた。そしていっとき自らの暗い血と運
命を忘れ、人間であったころの単純な喜びを、愛する妻の手と暖炉のぬくもり、美しく賢
い息子、芳しい薬草の香りのする家庭を、目を閉じて味わうのだった。


 穏やかな日々はなんの変わりもなく五年の間続いた。公子は成長し、母ゆずりの美貌に
父の血を引く強靱さと、秘めた魔力を持ち合わせた魅力的な少年になった。はじめは身長
にあまった剣もいつか見事に使いこなせるようになり、学問と鍛錬にはげむかたわら、母
のもとで安らぐときには剣を抜いて、いっぱしの騎士気取りで、どんなことがあっても母
上は私が守ってみせます、と若々しい声で宣言し、母と侍女のジュリアを微笑ませた。
 すっかり若者らしくなったヘクターとアイザックも暇を見つけては姿を見せ、幼いころ
のように、奥方の心づくしの並ぶ茶会の卓を囲んだ。公子は二人の話を聞きたがり、一人
前の廷臣として、父のそばで働くことが許されていることをうらやんだ。ヘクターは公子
をなだめて、それもこれも、いずれ若君によき側近を与えたいとのお父君のご意向なので
すから、といさめた。


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