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【原作】ドラキュラ・キャスバニ小ネタ/SSスレ【準拠】

72 古歌-イニシエウタ-【四ノ歌】14/6 :2011/03/28(月) 00:18:32

 もし、わたしの願いを聞いてくださるのであれば、いつの夜でもいいのです、また森に
いらしてください。そしてこの薔薇を、森の大地の上に置いてください。城の門はあなた
のために開かれるでしょう。家族ももちろん、いっしょに連れてきてかまわないのです。
どうぞ、落ちついてよく考えてから、取るべき道をきめてください。
 言葉を切ると、貴婦人は侍女たちを従えて立ちあがり、銀髪の子をあやしながら、衣擦
れとともに出ていった。茫然として取りのこされた男に、ふたたび、明かりを持った侍女
の一人が近づいてきた。彼女は一言も口をきかぬまま男をもとの門まで送り、外へ出し
た。
 後ろで巨大な扉が閉まる轟音が、男の正気を呼びもどした。ふり向くと、そこにはうっ
すらと霧の漂う森の闇があるばかりだった。手には馥郁と香る白薔薇が露にきらめき、ふ
ところには大きなパンのかたまりとチーズ、葡萄酒の革袋が詰めこまれていた。茫然とし
て顔を上げると、自分があとにしてきた村の入り口が、すぐそこに見えていた。かすかな
薔薇と蜜蝋の香りが、服や髪に染みついていた。

 この話を隣に住む同じような境遇の友人にして聞かせたあと、男は村から姿を消した。
妻も子供たちもいっしょに。
 薔薇はいつまでたっても新鮮さを失わず、汚れきった小屋の悪臭さえ消し去るほどだっ
た、と男は友人に聞かせた。与えられたパンとチーズは家族全員が十二分に食べるまでな
くならず、葡萄酒の袋はいっこうに空になることがなかった。信じようとしない友人に、
男は咲きほこる白薔薇を見せた。真珠母とエメラルドで刻まれたようなそれは、たった今
切りとられてきたかのように朝露にしとどに濡れ、甘やかな芳香を放っていた……
 そのようにして、噂は少しずつ広まっていった。城に招かれ、貴婦人を目にすることが
できるのは、罪がなく、ごく正直で、しかも、どうしようもなく追いつめられている者に
かぎられた。飢えのあまりに領主の森の鹿をひそかに殺した若者は、そのために凶暴な猟
犬に追いつめられ、八つ裂きにされるところを貴婦人に救われた。無慈悲な親に売られ、
娼婦として男の慰みものになる運命から森へ逃げこんだ娘は、明かりを手にした人ならぬ
侍女に迎えられた。食いつめた親から口減らしのために捨てられた子供は、星のように輝
く翅のある妖精に導かれて、鉄と黒曜石の城の大門の前に出た。


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