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【原作】ドラキュラ・キャスバニ小ネタ/SSスレ【準拠】

61 古歌-イニシエウタ-【三ノ歌】5/10 :2010/11/24(水) 22:49:10
 貴婦人は出産の疲労にほとんど喪神しているようであったが、それでも侍女たちの心遣
いにうなずき、微笑を返してしているようである。手の震えをなんとか隠そうとしなが
ら、女は盥から魔性の子供を引きあげた。ここで、この悪魔の子の首をひねって息の根を
止めることこそ、神の御心にかなうしわざではないかとの考えがふと頭をよぎった。
 ああ、そのようなことをすれば、どんな災いがわが身に降りかかることか! しかしこ
の魔物の子がこの世に生まれ落ちることを阻止することが、自分がこの場に呼ばれたこと
の神のご意志でないとどうして言える? 悪魔の子! 怪物の子! どれほど美しく、目
に快くとも、それが地獄の生き物の眷属であるのなら、この場で始末することこそが、神
が自分に求めておられる奉仕というものではないのか?
 だが、そのようなことを実行する暇は、女には与えられなかった。婦人の周囲に集まっ
てざわめいていた侍女たちがうたれたように動きを止め、いっせいにその場に膝をついて
頭を垂れた。まるで風になびく花々を見るようであった。
 同時に、すさまじいばかりの威圧と、それまでとは比べものにもならぬ強烈な畏怖が、
女の身体を金縛りにした。赤子の首にのばしかけた手はその場で凍りついた。
 産着にくるまれ、はや眠たげに目を閉じかけている赤子を、わきから伸びた手がさらい
とった。星々のようにまたたく多くの指輪と、蒼白な皮膚の、王侯の手であった。
 衣擦れの音がさらさらと鳴り、衣装の金糸が薄闇にちらついた。豪奢な黒衣と黄金に身
を飾り、ゆたかな黒髪を垂らした美丈夫が、路傍の石を見るように女を見おろしていた。
 またたきひとつしないその双眸に捉えられたとたん、自分が子供を殺さなかったこと
を、女は心底安堵した。もし殺してなどいたならば、この男、おそらく子の父親であろう
この蒼白の帝王は、泣きわめく女の魂を死よりもさらに悪い運命に放りこみ、二度とそこ
から出しはしなかったことだろう。
「汝か。我が子を取りあげたのは」
 魂そのものをうち震わせる声で王は言った。
「では、受けとれ」
 膝の上に重い革袋が投げ出された。金属のぶつかり合う音がした。
 女がそれをふところにかいこんだのは、欲というより、むしろ恐怖からであった。もし
この報酬を断れば、即座に八つ裂きにされるであろうという考えが真紅のまぼろしとなっ
て脳裏を支配した。王はすでに人間の産婆のことなど眼中になく、息子を抱いて、寝台の
上の妻のもとに歩み寄っていた。貴婦人は疲れ果て、血の気を失いながらも、夫と、生ま
れたわが子に手を差しのべ、輝くばかりの笑みを見せた。


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