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【原作】ドラキュラ・キャスバニ小ネタ/SSスレ【準拠】

52 古歌-イニシエウタ-【二ノ歌】14/17 :2010/07/12(月) 22:32:36



「……貴方さま」
 やさしい声がそう呼びかけたとき、彼は我にもなく幻聴を耳にしたのだと思った。
 娘が城を出たという報告を受けて、どれくらい経ったのかは記憶になかった。いずれに
せよ城の混沌のうちでは時間の流れは意味をもたない。彼自身の記憶も、あいまいになっ
ていた。鬱々とした数日を玉座に座り通して過ごした気もする。かと思うと苛々と立ちあ
がり、意味もなく衝動的な怒りの発作をほとばしらせて、城内の魔物どもを震撼させたお
ぼえもある。
 しかしもっとも頻々として頭に浮かぶのは、ただこの主人のいない精霊界の離宮の庭に
来てひとり座り、世話をする者のない花園と、食物の並ぶことのない石の食卓をぼんやり
と眺めているおのが姿だった。
 それは想像だったろうか、それとも事実だったのか? 実際に自分はそこへ行って、帰
らぬとわかっている鳥を待つように、ただ茫然と座りつくしていたのだろうか? いずれ
にせよいま彼はそこにいて、からの食卓の前で、心なしか元気のない花園の薔薇をうつろ
に見つめていたのだった。そしてその声はやわらかな風のようにやってきて、思わぬ愛撫
を彼の聴覚に与えたのだった。
「ただいま戻りました。遅くなりまして申しわけございません。できるだけ、人に見つか
らぬように歩かねばならなかったものですから」
 長い金髪が流れて頬を撫でた。娘は軽い足取りでそばを通りすぎ、彼の前に膝をついて
両手を取った。
 少し疲れているように見えた。指先は荒れ、頬は泥や枝がかすってできたらしい傷に汚
れていたが、仕事を果たした安堵と満足感が、以前よりもまして彼女を輝かせていた。
「薬は村の教会の、聖母御堂の祭壇に置いてまいりました。なくなった場合の処方と、与
え方を記したものもいっしょに。聖母子像の足もとに、白百合といっしょに重ねてまいり
ましたから、きっと村人たちは、天なる母が村の窮状を救うために、奇跡によってもたら
してくださったと考えることでしょう」
「そなたは、それでよいのか」
 口から出た声は驚くほどしわがれていた。これほど長いあいだしゃべらなかった期間は
絶えてないような気がした。
「薬を置いたのは造りもののマリアではない。そなたであろう。かつて吸血鬼に食われる
ようにと、奴らが差しだした娘が救いをもたらしたのだ。そのことを知らしめずによいの
か。奴らに以前の行為を後悔させてやろうとは思わなんだか」


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