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【原作】ドラキュラ・キャスバニ小ネタ/SSスレ【準拠】

51 古歌-イニシエウタ-【二ノ歌】13/17 :2010/07/12(月) 22:32:01
「そなたを食う怪物のもとにか、娘。そなたは生贄としてここに差しだされたことを思い
出せ。余はいつでも、この瞬間にでも、そなたの血を最後の一滴までしぼり取って、その
瑞々しい身体を枯れ木に変えることができる。余はたわむれにそなたの命をのばした。た
わむれに取りあげることも、簡単にできるのだぞ」
「承知しております」
 さすがに恐怖の色がさっと額をかすめたが、娘はひるまなかった。
「わたしの命は貴方さまのもの、どうぞ存分になさってくださいませ。けれども今は、今
だけは、ただ一度の願いをお聞き届けください。お約束いたします、必ず戻ると。戻りま
したらどのようなあつかいを受けても構いはいたしません、けれども、どうぞ、ほんの少
しだけ、あの村へ薬を届けるしばらくの間だけ、城を離れることをお許しください」
 彼は口を開いた。許さぬ、と一言吐きつけて、そのまま背を向けるつもりだった。
 しかし、その前に、こちらをひたと見つめる娘の視線に出会って、言葉を失った。言葉
を奪われたのだ、闇を統べる王が、たかが小娘のまなざしひとつに!
 娘は闇の王の黒衣の裾にすがり、必死のおももちでこちらを見あげていた。小さな唇は
見えないほどに噛みしめられ、頬は紙のように血の気をなくしている。しかし目ばかり
は、大きく見開かれたその双つの瞳ばかりは、地獄の火をともす闇の王の目に相対してな
お、まばゆい夏の空と澄みきったその輝きに、同じくまばゆく燃えていた。細い首も肩も
手も、木の葉のように震えていたが、片手で握りつぶせそうなその小さい姿に、彼は、ま
ったく言うべき言葉を見失ったのであった。
「……好きにするがよい」
 ややあって、彼の口から出たのはそんな応えであった。長衣の裾をはらって娘を突きは
なし、背を向けて足早に城へとむかう。
「なんでも好きなものを持っていけ。どこへでも、好きなところへゆけ。余は知らぬ。た
かが人間の娘ひとり、失ったところで余に何ほどの損失でもない。戻る必要もない。勝手
に、どこへでも、好きなところへ行ってしまえ」
「貴方さま!」
 何事かを叫びかける娘の声が聞こえたが、もうそれ以上は聞かなかった。彼は城内へ戻
り、扉を閉ざした。暗黒と、静寂と、地の底から立ちのぼる瘴気が闇の王を包みこんだ。


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