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【原作】ドラキュラ・キャスバニ小ネタ/SSスレ【準拠】

48 古歌-イニシエウタ-【二ノ歌】10/17 :2010/07/12(月) 22:30:15
 はじめ、女王のための小離宮のようだった建物は、いまでは居心地のいい、働き者の郷
士の女主人の家のようになっていた。華美な家具や場所を取るばかりの飾りものは片づけ
られ、実用的ですっきりとしたしつらえの品物ばかりが並んでいた。壁の上には金糸銀糸
の綴織のかわりに女主人自らが刺繍した美しい壁掛けがかけられ、長椅子には思わずその
上に横たわりたくなるような、優しげな色合いのクッションが置かれていた。
 飾り気のない食卓の上には焼きたての温かいパンや菓子が並べられ、いつでも誰でも食
べてよいことになっていた。その周りを妖精たちが花にとまる蝶のようにひらひらと飛び
まわり、香草の芳しい香りがいつもあたりにただよっていた。そして女主人その人は、花
園の世話をしているときは咲きほこる薔薇のあいだから、内にいるときは指から糸くずや
紡錘の棒をすべり落として、喜びの声とともに彼を迎えるのだった。
 召し上がってみてくださいな、と差しだされる食物はすべて彼にとっては意味のないも
のだった。彼の食物は血であり、血の中に脈打つ生命力と恐怖とその他あらゆる昏い感情
が彼の身を支えていたのである。それでも彼は食べた。舌は味を感じず、灰のかたまりを
食するも同然だったが、それでも彼はいくつもそれを口に運んだ。娘が目をかがやかして
手ずから差しだす心づくしを、断ることがどうしてもできなかった。
 自分は血をすする魔物だ、闇の王なのだと、娘にわからせてやることは簡単だった。し
かし、こうして花の咲く庭に座り、味のしない菓子と茶を前にして腰かけていることは、
はるか昔に人間であったころの甘い思い出を喚び起こした。それは舌に感じる味よりもは
るかに甘く、芳しかった。妻と向かいあって座り、とりとめもない会話をかわしながら軽
い食事をとるのは、彼が何より愛した習慣の一つだった。
 まるで自分自身に鞭打つように、その当時の幸せをまねたままごとを、ままごとである
と知りつつやめなかった。娘の小鳥めいた話し声に短くあいづちを打ちながら、その場を
離れなかった。あまりにここで長く刻を過ごしてはならぬと、理性が残酷な警告を発する
まで、座りつづけた。


 ある日、娘はいつになく青ざめた顔で彼を出迎えた。
「どうしたのだ。気分でも悪いか。何か無礼を働くものにでもあったか」
「いえ、そうではありません。……この子たちから聞きました。尊いお方、わたしが以前
住んでいた村のあたりで、疫病が流行しているというお話は、本当でございますか」
「そのことか」


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