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【原作】ドラキュラ・キャスバニ小ネタ/SSスレ【準拠】

39 古歌-イニシエウタ-【二ノ歌】1/17 :2010/07/12(月) 22:21:54
【二ノ歌】

 娘がやってきてからどれとほどの時間が経つのか、男は意識しなかった。そもそも時間
というものすら、男にとって意味を持たなくなってひさしい。しかし今は違った。時間は
生きているものの所有物であり、その生きているものがここにいた。
 夕暮れ、男は目覚めるたびにそわそわと歩き回り、すでに流れ過ぎた年月を数えようと
した。刻の砂は掴もうとする指から、あざけるようにさらさらとこぼれ落ちた。生きなが
ら不死となったものは、死んでいるも同然、とそれはささやいた。苛立ち、男は、歯を噛
み鳴らして誰にともなく咆哮した。主の怒りによって城は身震いし、中に住まう小妖ども
はいっせいに身をちぢめた。今にも主の気まぐれな怒りによって五体を引き裂かれるのだ
と信じて。しかし、そんなことはなかった。主は怒り、とまどい、どのようにすればよい
かもわからぬまま、ひとりの娘のことを思っていた。長い金髪を肩に垂らし、静かな青い
瞳で、怖れげもなく吸血鬼の王を見あげた娘。ひとふりの剣を、唯一家系に伝わる品だと
差しあげてみせた娘。なき妻と同じ姿をした娘。
 愛しいエリザベータその人の魂を宿した、娘。
 娘は城外と城内の境界線上に位置する、精霊界に属する土地に住まいを与えられてい
た。万が一にも血に飢えた配下が妙な気を起こさぬように、周囲には魔王の名において、
厳重な封印をほどこしてあった。
 姿も美々しく、気性の穏やかな侍女を数名選んで傅かせた。いかつい土霊に命じて、女
の住処にふさわしく飾った、瀟洒な離宮を建てさせた。内部は黒小人の手になる豪奢この
上ない調度で飾られ、空気の精たちの透明な指でぬいとったあでやかな衣装の靴の数々
が、彼女には与えられているはずだった。魔界の食物が人に与える影響を案じて、娘に
は、人間の世界から取りよせられるだけの贅沢な食物が、日に三度届けられた。
 それだけのことをしておいて、彼はまだ娘に会うだけの勇気をふるい起こせないでいる
のだった。彼、闇を統べる王、魔王と人にも呼ばれ自らも認めた強大な力の持ち主が、無
力な人間の娘に怯えているのだった。
 いくとも彼はみずからの怯懦を嗤った。従者たる〈死〉のいうとおり、娘はエリザベー
タの魂を持っているが、エリザベータその人ではない。たとえよく似た顔と姿をしていよ
うと、とどのつまりはただの人間の小娘にすぎぬ。何を怖れる必要があるのか。いくど自
問しても答えは出ず、娘のいるはずの離宮に足を向けようとしても、そのたびに、何かに
まつわりつかれるように、その歩みはとまってしまうのだった。


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