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【原作】ドラキュラ・キャスバニ小ネタ/SSスレ【準拠】

36 古歌-イニシエウタ-【一ノ歌】5/7 :2010/06/23(水) 23:02:28
 涼やかな声がはっきりと答えた。
「歳は十五になります。──親しい者には、リサと呼ばれておりました」
 男はもはや自分を抑えることができなかった。つかつかと進み出て、娘の前に身をかが
め、垂れた面紗を引き上げた。
 薄闇に、月にもまがう白い顔があった。五月の空を思わせる透明な青色の瞳が、怖れげ
もなく彼を見返した。淡色のゆたかな金髪が細い肩に雲のように垂れかかり、身を飾るも
のひとつない彼女の、唯一の装身具となっていた。
 手を放し、蹌踉と男はあとずさった。ふだん、ほとんど拍動などすることのない胸が苦
しいほど早鐘を拍っていた。耳障りな呼吸音を意識した。どちらも、人でなくなってから
は久しく必要としたことのないものだった。
 耐えきれなくなって男は身をひるがえした。娘は剣を抱いたまま、黄金の髪をいただい
た美貌を無邪気にあげている。態度にも、言葉にも、恐れは微塵もなかった。見捨てら
れ、吸血鬼の餌食となるようにここに置かれたというのに、宮廷の椅子に腰かけるのと同
じように落ちつきはらい、堂々とした貴婦人のふるまいを崩さなかった。
「その娘を城内に入れてやれ」
 立ち去りながら男は命じた。
「瘴気のうすい場所──できるならば、影響のない場所を居室に選んでやれ。望むものが
あれば言うがよいと伝えよ。なんなりと与えようと」
 玉座の間にもどるまで男は足を止めなかった。何かに追われてでもいるかのように男は
玉座に身を投げ出し、両手に顔を埋めた。従者である〈死〉が、そばへ漂ってきた。
 ──主よ。あの娘がどうかしたか。
「あれはわが妻だ。エリザベータ」
 呻くように男は呟いた。
「あの剣はかつて余のものであった……十字軍のために東征する際、彼女の守り刀として
託していったものだ。忘れたことなどなかった……一度として、忘れたことなどなかっ
た。あれはエリザベータ、わが妻の血を引き、わが妻の魂を受けついだ娘だ」
 すでに遠い昔となった日々のことがあざやかに甦ってきた。まだ若い騎士であった彼
に、妻が嫁いできたのも娘と同じ十五のときであった。花嫁の面紗を持ちあげて口づけた
ときの、彼女の薔薇色に上気した頬と幸福にみちた微笑が浮かび、たったいま目にしたば
かりの娘の、なめらかな頬と重なった。


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