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【原作】ドラキュラ・キャスバニ小ネタ/SSスレ【準拠】

33 古歌-イニシエウタ-【一ノ歌】2/7 :2010/06/23(水) 23:00:32
 しかし、刻は復讐するものであった。いつのまにか彼は、おのれが生に倦みはじめてい
ることに気づいた。明日を知らず、昨日をおぼえない生粋の魔とちがって、いまだに人間
性を残していた彼のこころは、流れる刻の永さと無為に、我が身と心が侵食されつつある
のに気づいたのである。
 あたかも、寄せ波によって固い岩が少しずつ削られていくかのようであった。刻は、永
遠の生に凍りついた彼の肉体にうちよせ、魂に満ちていた力を少しずつ流し去っていっ
た。彼は知らぬ間に、出られぬ檻の中におのれを閉じ込めてしまったのではないかと、う
たがいはじめた。
 無為をうち払うために、彼はあらゆることをした。配下の魔物たちに乱痴気騒ぎをさ
せ、ありとあらゆる魔界の愉しみを目の前に繰りひろげさせた。地の底から大哲学者の幻
を呼び出し、亡霊の語る言葉に聞き入った。太古の英雄とその軍団の骸骨をよみがえら
せ、史書にある勇壮な攻城戦を演じさせてみた。神話に語られる恋人たちを見た。魔物ど
もを遣わして人間をさらい、あるいは誘惑させ、気まぐれに幸運と不運を、富と欠乏をふ
り撒いた。それによって人間たちが堕落していく様子を眺め、愉しもうと努力した。
 たしかにそうした遊びは、いっときは心の憂さを晴らしてくれるものであった。人であ
ったころ、尊崇していた神に仕える者どもが、俗人と同様あっさりと、否、俗人以上にた
やすく魔の者の手のうちに堕ちて、破滅してゆくのは心浮きたつものであった。
 しかし、そうした刺激にもすぐに厭いた。人間の目にあまる卑小さにうんざりし、上品
にとりつくろいつつ、下卑た素顔をさらけだす無様に嘔気をおぼえた。このような賤しい
ものどもをいかに堕落させたところで、神にむかって唾することすらできぬと悟った。
 神はあいかわらず手のとどかぬ高みに在り、彼をあざわらっていた。おのれの無力さ
に、彼は歯がみした。いよいよ無残で悪辣な計画を練り、巧妙な仕掛けをもっていくつも
の村を、街を、国をも破滅させた。だが、彼の感じる無力はかわらなかった。神に彼の爪
はとどかなかった。彼の精神はしだいに沈滞に陥りはじめた。
 母の胎内にあったときから魔であったかつての夜の王は永き無聊を戯れで埋めるすべを
心得ていたが、その精髄を奪った彼は、なかばは人の心を残していた。
 人にとって永遠の無為とは罰にひとしい。彼は陰鬱になり、さらに精神の淀みに沈ん
だ。もはや人の愚行も、魔物どもの血なまぐさい騒動も、彼を愉しませなかった。


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