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TSFのSS「魔封の小太刀」

4luci★:2009/09/07(月) 20:12:56 ID:???0
「はぁ……」
 不必要な溜め息を吐いたのはこの数週間で何度目だろう? 抗生物質の点滴と尿道へ直接刺さっていた管のせいと、刀傷のために起き上がれなかった時には、そんなに違和感はなかった。看護士との会話の時だけ、その声が耳に入った場合に感じたくらいだ。
 しかしこうして洗面所の鏡の前に立つとその変わりっぷりに戸惑ってしまう。短かく刈り込んでいた髪は長くまっすぐに背中に達し、細い眉は三日月のように形良く、ちょっと気の強そうな目には長い睫が反り返って鳶色の瞳を守っている。鼻筋は通り高からず低からず、唇はほんの少しふっくらとしている。そして、洗面台が高い……と言うより今の背が低いのか……。やっとシャワーの許可が下りた時には、色んな意味で痛かった。その体型が……。
 どう考えても別人にしか映らないはずなのに……この姿を「玲」だと言う。俺が知っている「玲」の姿とは大違いだというのに。おやじ殿にも涁にも何度も言ったが、結局頭部のMRIを撮られるにいたっただけだった。
「はぁ……」
 その時の事を考えるとまた溜め息が。「男だ」と言えばおやじ殿も涁もハモって「お前は女の子だ」と言われ、「俺」と言えば涁に小突かれた。涁が何度も「わたしと言え」と強要してきたから、一人称を「玲」として使い始めたが、涁には「似合わないからやめろ」と言われるに至っている。
 誰にも信用されないと、自分が間違っていたのかと思ってしまう。ましてや、自分以外の事柄は、全て記憶にある通りなのだから。
 俺が守れなかった魔封の太刀は、入院中色々と事件を起こして各地を巡っているようだった。勿論、刀による殺傷事件ではなく、封印していた魔を次々と解放してそれが人々に憑き事故や事件を引き起こしていた。
 涁からその様子を聞く度に、ベッドで苦々しく思って来たが、今日それが解消される。退院だ。これでヤツを追える。
 パジャマのボタンを外すと、ささやかに出っ張っている乳房が見えた。毎度の事とはいいながら、慣れない。しかしこれは「房」とは言い辛い……。肩口の傷跡を見ながら、シャツに手を伸ばした。
「玲、迎えに……全然成長してないな。でもわたしは構わないぞ。そういうのも好きだからな。しかしブラはしなさい。少しはごまかせるから。あ、着替え続けて続けて」
 頭からシャツを被っただけの、上半身裸の状態の時、おやじ殿が扉を開けてカーテンの脇から顔を覗かせた。俺は元来男だから、男に裸を見られても構わない、が、おやじ殿は女の子だと認識している筈。この状況は明らかにおかしいのではないか?
「……おやじ殿。出てってください」
「イヤ玲。可愛いお前の着替えも手伝わないと」
「普通は手伝いません! 出て行かないならせめてカーテン閉めてください!」
 大声で言うなり手近なものを投げ付けたが、おやじ殿は怯む事無く指先で摘むように受けた。
「減るもんじゃなし、いいと思うんだが」
 いかにも不承不承という感じでおやじ殿は出て行った。
「……はぁ……」
 これから何度くらい溜め息がでるのだろう。


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