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TSFのSS「ウツロナココロノイレモノ…」

1luci★:2008/03/11(火) 12:45:54 ID:???0
 彼が、というより今はもう彼女が、だけれど、目覚め辺りを見回すと、変わることなくコンクリートの天井と壁があった。自分と同じ筈の人物に、心のある人形同然に扱われる毎日が繰り広げられる空間。一番最初に目覚めてから、四方をコンクリートで囲まれたそこだけが唯一生存を許されている場所だった。
 毎夜、飽くことなく工藤は自分と魂を分かつ創られた人形を抱きに現れ、そして去っていく。工藤のもう一つの魂を持つ少女は自分に犯されるという言い難い汚辱と屈辱はにまみれながら、それを甘んじて受け入れる他無かった。ここにいる自分は工藤だと言っても誰も納得などする筈もない。勿論、この部屋から出ていければの話だったが。
 少女は、最初肉体も精神も犯されながらも、賢明に自我を保とうとしていた。いつか逃げ出せるチャンスを伺おうと。しかし、何度工藤が出入りしている辺りを調べてみても、そこには細い筋位しか見つけられなかった。用意周到なことに、工藤が少女を犯す時には必ず手枷を着け自由を奪っていたから、工藤の衣類のポケットを調べる事も出来なかった。
 そして次第に逃げる事が無駄なことだと思い始めていた。親しい友人がいる訳でもないし、本物の工藤がいる世界に「自分も工藤なのだ」と名乗り出ても信じる奴などいないだろう。
 どうにか三十回の目覚めを数えたけれど、それ以降は数えなくなっていた。
「今日はまだ来ないんだ……」
 工藤がいない時間は誰とも話す事が無かった。自然と思う事を声に出して言う習慣が、少女には出来ていた。そうしないと静かさと人恋しさで気が狂いそうになってしまう。
「昼の食事を済ませてから……大体三時間? いつもならくる時間だけど」
 自分の姿形をした男に身体をまさぐられるのは嫌いだった。しかし、いつもの時間に来ないというのは不安をかき立てられてしまう。工藤を心配するからではなかった。仮に工藤が何らかの事故で死んだ場合、誰にも知られずにこの場所で自分も餓死する可能性があるのだ。それを想像するとゾッとしていた。
「遅い、遅い、遅い……」
 始め、長く延びた髪を指先でくるくると弄っていた少女は、やがてスモックの裾を両手で掴み皺を伸ばすように動かしていた。四、五分もするとベッドから立ち上がり、室内をうろうろと歩き始めていた。
 イライラが募り始め扉に背を向けた時、音もなく扉が開いた。少女は外から入る空気が扉が開かれた事を理解できた。そしてその気持ちとは裏腹に嬉しげな表情を見せた。
「ーーあ、あれ? すみません、工藤以外いないと思って、ました……」
「えっ?! あ」
 工藤の声とは違う男の声。急いで振り向いた少女の目に映ったのは、スーツを着た男。年の頃は工藤と同じだろうか。もしくは少し若いかもしれない。少女はその顔に見覚えがあるような気がしていた。
 驚きは少女の方だけでは無かった。男もそうだった。普通なら窓もなくベッドだけしかない部屋にいる少女をおかしいと思うところだろう。しかし彼は狼狽しそこに考えが至らなかった。
「じゃ、じゃあね。突然でごめんね」
 慌てた素振りで背を向ける男を、不覚にも少女は扉が閉まるまで見送っていた。そして再び自分しかいない空間になった時始めて、外に出るチャンスだったと思い返していた。
 予期せぬ出来事が起こったとしても、すぐに対応できると思っていたのだが、実際には何も出来ないでいた自分が恨めしく思えていた。そして、なぜそうだったのかを考えるに、原因の一つとして突然の来訪者にあるのではないかという仮説に行き当たっていた。
「あの男……覚えがあるような、ないような……。『工藤以外いない』って言ってたって事は、少なくとも自分の事を知ってる人だと言うこと?」
 頭の中を整理し、どこであったのかを思いだそうとするけれど、深い霧の中にいるように全く見つける事は出来なかった。それよりも、扉が閉まる前に見た、少しばつの悪そうな表情が、脳内のスクリーンに何度も何度も繰り返し映し出される。それがどういう事なのか、少女は気づかなかった。

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