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801リク投下用

219-801好きなお昼ご飯「オムライス」:2007/01/27(土) 03:37:51
「信じられねえ」
 ぼくが作ったオムライスを見ると、兄さんは思い切り嫌そうな顔をした。
午後3時を過ぎてからやっと起床した彼のためにわざわざ遅い昼食を作った
というのに、そんなことを言われるとは思わなかった。作ったオムライスを
まじまじと見つめて見ても、特におかしいところはないように思える。ケチ
ャップライスを包む卵の上に、ケチャップの赤とマヨネーズのアイボリーが
チェックの模様を描いている、普通のオムライスだ。
「何で? オムライス好きだったよね?」
 ぼくが尋ねると、寝癖がついた髪を気にしながら彼は面倒そうに答えた。
「あのな、マヨネーズをかけたオムライスなんて食う奴いねえよ」
 そう、とぼくは呟くと、出来立てほやほやのオムライスを台所にあるごみ
箱に捨てた。表情は変わらないものの、兄さんがぼくの行動に対して内心慌
てているのが分かる。伏し目がちになっているのは、ぼくに謝罪しようかど
うか迷っているからだ。でも彼は悩んだ挙句、謝らない。それは学校に行こ
うか迷って、結局行かないときと同じ目だった。
「明日は中間試験初日だね。受けないの?」
 オムライスを載せていた皿をスポンジで洗いながら何気なく言ってみるが、
返って来たのは沈黙だった。兄さんはいわゆる優等生というやつで、友人も
彼女も作らずひたすら勉強だけをやっていた。テレビも見ないし、ゲームも
やらない。そんなに熱心に勉強しているわけだから、当然試験の成績は毎回
学年で一番良かった。いつも平均点前後のぼくにとっては信じられないこと
だが、兄さんは試験で毎回満点を取った。そんな彼を何か別の生き物のよう
に感じていたが、ある試験のとき兄さんは世界史で九十七点を取った。毎回
満点だったので珍しいと思ったが、どちらにしろ高得点だ。羨ましいなと考
えるぼくの横で、兄さんは青白い顔をしてその点数を一日中眺めていた。
 兄さんが学校に行かなくなったのは、その次の日からだ。初めは体調でも
悪いのだろうと考えていたが、次第にそうではないことが分かった。彼は家
ではいつも通りに過ごしている。
「また全問正解出来なかったらどうしようって考えてるんでしょ」
「そんなことない。全部合ってて、おれが一番だ。そうに決まってる」
 内容に反して兄さんの声は酷く弱々しい。
「じゃあ明日こそは学校に行くんだね?」
「それは……」
 今日兄さんが遅く起きてきたのは、きっと朝まで勉強していたからに決ま
っている。とっくに覚えたところを、また間違うかもしれないという不安で
何度もやり直していたりするのだろう。その努力をぼくは無駄にはさせたく
ない。
「オムライスは、今から作り直すよ。今度はちゃんとマヨネーズはかけない。
 その代わりぼくにもう一度料理させた代償として、明日はちゃんと学校行
 ってよね」
ぼくが笑いながら言うと、兄さんは途端に情けない顔になった。唇が震えた
ので何か言うのかと思って眺めていれば、結局何も言わずに俯いた。しかし
そのとき、ぼくは兄さんが声もなく「ごめん」と呟くのを見た。彼は何か
を決意したかのように右手をとても強く握っている。


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