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801リク投下用

188-801好きな歌詞「時の旅人」:2006/11/27(月) 03:38:50
イベント前の校舎の雰囲気が苦手だ。
どこもかしこも浮き足立って、少しも落ち着けないし、普段とはちがうテンションがちょっと疲れる。
今は、合唱コンクールの練習にどこのクラスも余念がない。
例に漏れず、俺のクラスも朝・昼・放課後の練習には力が入っていた。
思うように練習できないと言って、泣き出す女子とかもいて正直うんざりしている。
ちょっと青春めいてきた女子たちに、男子連中はドン引きだ。
しかも、下手げに声もかけられず遠巻きにしていたら、あんたたちやる気あんの!? と怒られた。
わけがわからん。

トイレに行くと言って十分間の休憩時間に抜け出し、なんとなく校舎をふらふらしていたら、三組の山本に会った。
山本とは一年の時に同じクラスだった。
その頃は結構気があって、よくつるんでいたけれど、クラスが変わってからはあまり話していない。
けれど俺は山本の、いい感じに力が抜けた空気が好きだったので、懐かしくなって声をかけていた。
そのまま教室に戻ることなく、使われていない視聴覚室に忍び込んで、なんとなく二人で時間をつぶす。
「中村、お前戻らなくていいの? あのクラス女子うるさそうだし」
「そういうお前はどうなんだよ」
「いーの、うちは。イベントは個人の責任において適当に楽しんでくださいね、ってカンジのクラスだから」
「うわーなんだそれ。羨ましい」
心の底から羨んでみせると、山本が唇の端を上げて笑った。
「そういえば、何歌ってるんだっけ、お前のクラス」
ケータイをいじりながら山本が問う。
俺は思い出したくもない歌のタイトルを渋々口にした。
「時の旅人。なーんかさー、歌詞がいちいちくさすぎて、歌うたびに居心地が悪ぃわ」
背中がむずむずするような、そんな感じ。
するとケータイの画面を見たまま、山本が肩を揺らして笑った。
「…笑うなよ」
「ごめん。なんか中村、ホントにイヤそうだから。でも俺、好きだけどな。時の旅人」
「げっ、マジ!?」
思わずおおげさになってしまったリアクションに、けれど山本は思いがけず真剣な眼差しで俺を見る。
その眼差しに射竦められてしまった俺に、ふと目元をなごませて、山本は再びケータイに視線を落とす。
そして、その歌の中のある部分を恥ずかしげもなく歌いだした。
暗くなった曲が再び明るくなるところで、その歌詞の健やかさといい、旋律のあざとさといい、俺がもっとも苦手な部分だ。
山本は余計な力の入っていない、きれいな声で歌う。
苦手なはずなのに、聞きほれてしまった。
山本は曲が盛り上がる直前で歌を止める。
「俺さ、こういう相手が中村だったらいいなって、思ったんだよね」
「…は?」
「俺の傍にいて、生きる喜びを教えてくれるのが」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「泣きたいときはいつも中村のこと考えてる」
何言ってんだお前、とか、泣きたいときって何だ山本のくせに、とか。
突っ込みたいことはいろいろあったけど、なぜか早鐘のように鳴り始めた心臓の音がうるさくて、何も言えなかった。
「じゃ、俺クラス戻るわ。そろそろみんな飽きて大富豪とか始まってるだろうし」
何事もなかったかのように去っていく山本の後姿を、俺はなすすべもなく見送った。
どうしてくれるんだ。
もうこの歌、真顔で歌えねぇ。


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