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801リク投下用

158-801好きな歌詞「旅の宿」1/2:2006/11/12(日) 21:33:26
熱燗徳利の首つまんで「もういっぱいどうだ」なんて、
そろそろ酒量の限界を感じていても断ることはできない。
だが新しくつけたばかりの燗は、思いのほか熱かったのか
俺の猪口に傾けられる寸でに危なっかしく手放された。
顔をしかめながら耳たぶをつまんで指を冷やしている彼の、
頬やら首筋やら腕までも、ほんのり赤く上気して見える。
めっぽう酒には強い人でも少しは酔っているのか、単に湯上りの名残か。
「俺はもういいですから、部長どうぞ」と徳利を注し返す。
これ以上飲んでは、はっきり言っていろいろ自制できる自信がない…いろいろ。
ないというのに、
「おまえ全然飲んでないじゃないか」
片眉を上げて言われて、やはり断ることなどできず、俺は勧められるままに酒を呷った。
ザルな人から見れば全然飲んでないように見えるかもしれませんが、結構ギリギリなんですよね。
そうじゃなくても、先刻の露天風呂で見た裸体が脳裏をチラついて仕方ないのに、
浴衣掛けに項や胸元が妙に色っぽくて、温泉マジックは男にも有効なんだと一人で納得。
風呂が薄暗くてよかった。今、自分の下半身が炬燵に隠れていて本当によかった。
何だかわからないけれどだんだん笑いが込み上げてきて、俺は酔いがだいぶ回ってきたことを、
脳の奥深く遠いところで微かに認識した。
にやにやする俺を、部長が訝しげな目で見ている。
目が合って、見つめあって、ああ、見つめられてる。
なんだこれ。いいのかこれ。
とりあえず神様に感謝しておこう。
窓下を流れる渓流の音しか聞こえない秘湯の宿で、炬燵に入って部長と二人鍋をつついて、
なんて幸福。なんて贅沢。

「これお前にやる」
そう言って部長が、近所の収穫祭のくじ引きで当てた温泉旅館のペア宿泊券を差し出したのが一月前。
「1等じゃないですか、もらえませんよ」
何でご自分で行かないんですかと口にしそうになったが、
部長が離婚調停中の身であることを思い出しとどまった。
「そろそろ紅葉が見頃だろ。彼女連れてってやれ」
彼女などいないと知っていて、まだそんなことを言うんだから。
慣れない一人暮らしと家事調停で心身ともに疲れているところに付け込むようにして、
食事に誘ったり休みの日には家事手伝いと称して遊びに行ったり、
結構わかりやすくアピールしているつもりなんだが、これはわかっていての牽制なのだろうか?
それならそれで、逆手に取るまでなのだが。
「じゃあ、二人で行きましょう」
男二人で温泉なんてといつまでも文句を言っていたが、元来が流されやすい性質の人なので、
助手席に納まらせるのにたいした技も細工も必要ではなかった一月後である。

「あちっ」
これで仕舞いですと仲居さんが手際よく作ってくれた雑炊を口にし、お約束の反応をする部長。
「熱いから気をつけてくださいねって言われたばかりなのに」
もう何がどうなっても可笑しい俺は笑いが止まらず、
舌を突き出したままで恨めしそうな視線を向ける様に腹を抱えて笑い転げた。
そんな俺に対して部長は、笑いすぎだとか、うるさいとか、
多分そんなことを言っているのだろうけれど、舌が邪魔をしてうまく喋れていない。
自分で自分の舌先を見ようと一生懸命目を寄せているのがまたおかしくも可愛らしいと思った。
そんなに熱かったのかと少し気になったので、俺は荒げた息を落ち着かせ
「火傷したんじゃないですか?」
とふらり立ち上がって側に寄る。
見せてくださいと顔を近づけると、部長は少し不貞腐れた態のままベーと舌を出し俺を見上げた。
まったく、いい年したおっさんが何て仕草してるんだろうか。
また笑い出しそうになったけれど、赤く濡れ光する舌先が時折弛緩するようにうごめくのを見て、
思わず息を呑んだ。酔いが回ってぼんやりと重い頭に、それはたいそう艶かしくうつる。


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