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801リク投下用

1番人★:2006/04/08(土) 10:51:29
801リクが出されたらこちらへ。
次の801が回ってくるまで誰でも投下可です。

2「ヨーデル食べ放題」:2006/04/17(月) 22:57:12
「なあ、焼肉行かね?」
疲れのたまった金曜の夜アツシがいきなりそう言い出した。
こいつの行動はいつでも唐突だ。
「いや、いいけどなんで?」
「食べ放題で安い店見つけてさ」
アツシはそう言うと俺の手を引いてさっさと歩き出した。
社内で手を繋いだり抱きついたりするなと何度も言っているのにこいつの脳は覚えようとしない。
 
「焼肉バイキングだぞ!食べ放題だぞ!」
無駄なぐらい嬉しそうにそう言いながら並べられた肉を片っ端から皿に盛る。
疲れて食欲の失せた俺は玉ねぎやらとうもろこし、鶏肉と比較的あっさりしたものばかり取っている。
「あ、ご飯と味噌汁もあるのか」
何気なしにと呟くと、耳ざとく聞きつけて「えー、ビールじゃん!ビール!焼肉にはビール!」と喚きだす。
「ビールは別料金だぞ」
そう言うとがっくりと項垂れた。
 
席に戻って肉を焼く。ひたすら焼く。
「なーなー、フランクフルト。なんか思い出さねえ?」
ニヤニヤしながら焼かれているフランクフルトを箸で指す。バカかこの男は。
真面目に怒るのもバカらしいので箸をパン、と弾き飛ばしてやった。
「あ!箸が!でも大丈夫!箸も割り放題!」
酒も飲まないのに勝手にテンションが上がっている。
焼きあがる端から肉を口に放り込み一人で至福の表情だ。
「いやー、この1週間メシ超減らしてたのよ。絶対お前とここ来ようと思ってさ」
「……ベルと緩めるなみっともない」
犬ころのようなアツシを可愛いと思わないではなかったがつい冷たく突き放してしまった。
取り繕うように焼けた肉を皿に入れてやる。
「サンキュータカちゃん。なーなー、ちゃんと食ってる?」
「食ってる」
「新しく取りに行かなくていいか?」
「残したら料金倍だぞ」
 
散々焼肉を食いまくった後でデザートをこれまた山ほど。
残したら倍額だと言ってるのに食べきれるのだろうか。
そんな心配がバカらしくなるほど見事にデザートを平らげ、意気揚々と伝票を取り上げる。
「今日は奢る。タカちゃんあんま食ってないのに俺に付き合わせちゃったし」
「バカ、いいよ」
「いいから」
 
店を出ると当然ながら外は真っ暗で、春といえど夜はまだしんしんと冷え込む。
アツシとは路線が別なので途中の道で別れようとしたらいきなり腕を引かれて引き留められた。
「なんだ?」
「折角焼肉食ってスタミナつけたんだからうち来いよ。エッチしよー」
「それが目的か!」
「当たり前じゃん。な、どうせ明日1日外出たら公害なぐらいニンニクくせーぞ?丸1日一緒にいようよ」
見事にはめられた俺は手を引かれるままアツシの家へと向かっていった。

36-801:2006/05/25(木) 03:18:23
ゲトさせてもらったので、こちらにもリク書いておきますね

『好きな病』で萌えて下さい

46-801 「好きな病」:2006/05/25(木) 11:36:27
 「しかし、お主はいつも元気そうで結構なことじゃの」

自分の孫ほども年若い医者の厳命をうけ、
今日もきょうとてエッチラオッチラ病院に通って
腰痛、難聴、老眼その他、手のひらに溢れるほどの薬を渡され飲んでいる儂。
そんな午後に、粋な着流しに懐手で悠然と、いや、ニヤニヤと笑いながら、
案内も請わず他人の邸内に突如現れる彼の姿をみたら、そんな憎まれ口も出ようというものだ。
 「ふふん、またそんなに薬を飲んで、あんたも随分上等にできてるもんだねぇ」
 「産まれてこのかた病気ひとつしないお前さんとは、心身の繊細さが違うんじゃ」
彼はこの煩雑な世に生をうけて八十余年、碌に臥せったこともない。
この大天狗のはす向かいに三日遅れてうまれて以来、
どういう腐れ縁のなせる業か共にアイスキャンデーをなめ、
こやつのとばっちりで共に廊下に立たされ、やらしい本を回し読みし、
主席を争い、限りない未来を語り合い、上司に叱られ、水虫に悩み、馬鹿息子に悩み……と、
片時も離れられることなく生きてきた儂が言うのだから、間違いないのだ。
 「お前さんは大方、頭の中身がからっぽじゃから病気も寄りつかんのじゃろ」
 「おいおい、そいつは酷いな。俺も今、立派に病気してんのよ。ほらほら、最近痩せたと思わない?」
そういう顔を見てみれば、若いころから彼は背ばかり高くひょろひょろしていたが、
心なしか頬がこけたようだ。昔から白い肌も血色が衰え、尖った鼻梁が一層鋭さを増している。
 「おや珍しい、どうなさった? ついに肝臓でもやられたのかね」
内心の心配を押し隠した儂の言葉に、彼はニヤリと笑いながら返してきた。
 「それが中々重病でね、どこに行っても治らんからここに来たのよ」
 「儂の掛かっている某大病院の中澤医師に相談してみるかの?
 あれは儂の後輩の富谷君の愛弟子で、大分腕のいい評判も聞こえておるよ」
 「いや、そんな医者には治せんね」
知らずしらずのうちに、儂は肌着のなかに冷たい汗を感じていた。一体、何処が悪いというのだろうか。
こいつももう年だし、破天荒な人生を送ってきた奴だから……。
いやな想像が次からつぎへと脳裏をよぎり、気分が悪くなってきた儂に気づいたのか、
彼がいきなりがっしと両手を握ってきた。昔より骨ばった、意外に力のあるその手。
 「あんただから言うよ、聞いてくれたまえ……」

 「それがさぁ、お医者さまでも草津の湯でも……ってやつでね、俺ぁあんたに
ほの字、ラブラブ、恋の病ってやつなのさ!」

ラブラブ? どっからそんな若者言葉を覚えてきたのじゃ、こいつは。
いやいやそれよりも、何だって? 恋の病? 儂に?
 「そう、だからさ、あんたに特効薬の接吻、いや、チッスしてもいい?
 や、むしろ一緒に住まない? ほらもうお互い一人ずまいで、遠慮する先もないじゃん!」
頭がクラクラしてきた。足腰もふらつき、目も廻る。きっと薬を飲む時間なのじゃ。
そう判断して彼の手をふり解き、台所に向かおうとした瞬間に、
彼の顔面が何故かここ八十余年間の最大記録な大きさで、儂の目に映った。

56-801「好きな病」:2006/05/25(木) 18:34:19
今日も俺は歯医者に向かう。
痛みはほとんど消えていて忘れてしまうほどだけれど、ここで放っておくと後が大変だ、と言われて。
半年ほどかけた虫歯の治療も、もうすぐ終わりを迎えるだろう。
なんとなく、どことなく、寂しいような気がした。

「斎藤さん、どうぞ」

待合室で名前を呼ばれ、治療室へと向かう。
中へ入ると先生が、いつものように柔らかく笑って椅子へと促した。

「こんにちは、具合はどうですか?」

「平気です。もうほとんど痛くなくて、今日は来るのやめようかと思いましたもん」

冗談めかして言いながら診察椅子へ寝転ぶと、ダメですよ、と笑いながら額をつつかれた。
あぁ。
治療が終わらなければいいのに。

「はい、口開けて下さいねー」

言われてはっと我に帰る。俺はいったい今何を思っていた?
戸惑いながらも口を開けて、先生がそこを覗き込む。
…そういえば、この歯医者に通い始めてから俺、凄い一生懸命歯磨きするようになったよな。
だって、臭かったら先生困るだろうし。
…服とかにも、気を遣うようになった気がする。先生に会うから。
もしかして、俺、

「大分いいですね、これなら次回来てもらえば終わりますよ」

ずきん、と胸の奥が痛んだ。
もう会えないんだろうか。虫歯が治ってしまったら。
そんなのは嫌だと思ってしまう俺は、治療を受ける者としては最悪なんだろう。
でも、俺は多分先生のことが好きで先生に会える治療の時間が好きで、つまり、



俺の好きな病気は、虫歯です。
きっとまたすぐに治療に来るんじゃないかと思います。
もしそうなっても、また優しく治してください。

66-801 好きな病:2006/05/26(金) 11:20:21
また引いてしまった…

『ハァ?風邪だぁ?お前、1年に何回風邪引きゃ気が済むんだ、ああ??』
もはや聞きなれた怒声。
「いや、ごめん…つうかさ、今回はあなたのせいっつうか…」
『ハァ?なんでよ?』
「や、この前イキナリ「夜の海が見たい!」とかワケ分かんねぇこと言って
 海行ったでしょ?あれでですよ。」
一晩中車走らせたでしょう。
そういえばあなた、行きも帰りも隣りでグースカ寝てたね。
『じゃあ風邪引いてない俺はなんなわけ?』
俺がコートかけてやったのよ…
「それはまぁバカはなんとやら…」
『…なんだって?』
「な、なんでもないよ!それよりさ、お見舞い来てよ、お見舞い。」
『ええ〜?』
「頼みます〜。おかゆ作って?アイス買ってきて?」
『あ、俺これから飲み会だった、じゃね。』
「えっ!?あ!もしっ!?!?」
切られた…
「あの浮気者!風邪が治ったらおしおきだ!」
…まぁ風邪引いててもできますが。
そんなしょーもない妄想をしてとりあえず寝ることにした。


「起きろ!アホ!」
「いっで!なに…?なんでいんの?飲み会は?」
「………」
黙っちゃって、
「?なんかあったの?」
「〜〜ッアホ!!」
「なっ!?何なんだよもぉ〜なんでそんな機嫌悪い」
全部言い終わる前にむこうが俺にくっ付いてきた。
はぁ…
「嘘なんでしょ?飲み会なんて。」
ピクっと振動が伝わる。
「…お前が来いって行ったんじゃん…」
「言ったけどさ、わざわざ嘘言わなくたって…」
素直に「行く。」って言えばいいでしょ?
「だって…」
かわいいなぁもぉ…
「おかゆ作ってくれた?」
「ん、今作ってるから…」
「アイス買ってきてくれた?」
「うん…」
「ありがと。すげーうれしい。」
なんだかんだ言ったってね、俺のこと心配してくれるんだよね。
なんかあなた優しくなっちゃうし。
これだから風邪引くの、嫌いじゃないんだよなぁ…


「ん?このレシートなに?」
数日後、すっかり全快した俺はテーブルの上の白い紙に目が留まる。
「ハァ?お前のために買ってやったんだろーが!金返せ!」
「………」

まずはおしおきで丈夫な身体を作ることからはじめたいと思います。

76-801 好きな病:2006/06/08(木) 01:22:13
学校を早退するなんて、初めてじゃないだろうか。
正午前の人気のない通学路を一人、俯きながら歩く。
地球を転がす気分で、ひたすら足元だけ見て歩く。
ぐんぐん進んで、進むことだけに集中して、頭を空っぽにしたい。
じゃないと、いつまでもさっきの言葉が繰り返し響くんだ。
何度も何度も繰り返すんだ。耳元で、さっきよりも近くで。

―――キスしたことある?

ない…と短く答えたのは聞こえていただろうか?
それとも答えたつもりで声には出していなっかたかもしれない。
直後に俺は、熱のために卒倒したわけで、定かじゃない。
あの質問はなんだろう。どうしてそんなことを聞いたのか。
何かあったの?
おまえはしたの?したから聞くの?したいから聞くの?誰としたいの?
あいつと、したいの?もう、したの?

そんな勘繰りが拭っても拭っても浮かんできて、打ち消したくて、俺は走り出さんばかりに歩く速度を速める。
だが足が、自分のものじゃないような感覚でもつれ、よろめく。
顔を上げることができないくらい頭が重い。熱が上がってきているのかもしれない。
保険医に言われたとおり、昼休みまで待って担任に送ってもらえばよかったかなと少し後悔する。
家は共稼ぎだから、夕方までは誰もいないし、帰っても一人かと思うと心細くなった。

家へ着くなり、靴にかばんにうわぎ…と玄関から部屋まで脱ぎ捨てていき、着替えることもせずにベッドへ倒れ込む。
寝てしまおう。はやく意識を手放したかった。
だが、妙に頭の奥が冴え冴えとしていて、なかなか眠ることができない。
どうしよう…。
枕に顔を埋める。
どうしよう。
考えまいとすればするほど、その感情から逃れられなくなっていく。
どうしよう。
動悸が大きくなって胸を圧迫する。喉が変な音を立てて、息を吐き出すのと同時に、涙がこぼれた。
俺、あいつが、好きだ。
熱で、感情を抑える柵が壊れたんだと思う。
好きだ、とはっきり気持ちのかたちを捉えてしまった途端、すごいスピードで自分の内が全て「好き」で埋め尽くされていくのがわかる。
あいつが好きだ。
同時に、どうしたらいいのかわからない不安と焦燥。
一度流してしまえば、止めることなどできないとばかりに、次々と涙が溢れてくる。
そう言えば泣いたの久しぶりだなぁ、と思った。
あんまり涙が出てくるから可笑しくなって、少し笑ってしまった。


まさに「泣きつかれて」俺は眠っていたらしい。
目が覚めると、かけた覚えのない布団にすっぽり包まれていて、頭の下と額にひんやりとした物を感じる。
母さんが帰ってきてるんだなと思った。
しかし窓の外の太陽は、夕方には程遠い位置にある。
まだ帰ってくる時間じゃないような…そう思ったが、それ以上は頭が考えることをさせなかった。
一眠りして、さらに熱が上がったような気がする。身体がだるくて、熱くて、息が苦しい。
天井がグルグルと回って見える。耳に膜が張ったように、周囲の音が遠くに響いて聞こえる。
誰か、何か、俺に話しかけている。でもよく聞き取れない。
目だけ動かして、回る世界で探してみる。
俺が見つける前に、ぬ!っと俺の真上に現れたのは、予想だにしていなかった人物の顔。
でも熱にうなされながら、一番求めていたのは間違いなく奴で。
即座に夢だと俺の脳みそは判断した。
だから俺は本能のままに行動を起こした。夢なら躊躇することもない。
手を伸ばして、自分の真上にある顔に、ちょっと触れる。
夢でも、やわらかい頬の感触はわかった。ひんやりと心地いい手触りだった。
そして、ずっと考えて、気になって仕方なかったことを聞く。
おまえはキス、したことあるのかよ…って。

そしたら、真上の顔がニッコリ笑って近づいてきて、目の前の顔になり、俺の視界をふさぐ。
唇に柔らかな感触が一瞬して、離れた。
再び真上に戻った顔が言う。
「今、したよ」
そしてイタズラっぽく笑う。
うれしくて、愛しくて、堪らず両手であいつの首に抱きついた。
耳元で「委員チョ、カワイイ」と囁かれて、何言ってるんだ可愛いのはおまえ…と思ってるうちに、また唇をふさがれる。
今度は強く押し付けられ、舌が唇を割って口腔に進入してきた。
あいつの舌が、俺の歯列をゆっくりなぞり、俺の舌に絡まり、離れて、また絡まり…。
息苦しくて、声が漏れる。鼻に掛かった甘えた声で、普段なら赤面するだけじゃすまないようなものだった。
でも、これは夢だから。
こんな俺の理想以上の展開は、夢じゃなきゃありえない。

だから今は、何をしてもいいのだ。

8萌える腐女子さん:2006/07/23(日) 21:15:22
今回の801リクは、「好きな少年漫画」ということでageます。すみません。

9萌える腐女子さん:2006/07/25(火) 16:38:38
今まで出会った中の最高の漫画、と言っても過言ではない漫画を奴に貸した。
案の定、奴もこの漫画にはまった。
来る日も来る日も、奴はこの漫画の話題を出してくる。

漫画ごときに奴を取られた気がして、なんだか悔しい。
だから俺は漫画を返してもらったとき、奴にばれないようにこっそりと主人公の顔に落書きをしてやった。

そして、この漫画がもう絶版されていることを知った俺は軽く後悔した。

109:2006/07/25(火) 16:40:05
9は7-801の「好きな少年漫画」です。
名前欄に書き忘れてすみませんorz

117-801好きな少年漫画 G/S/美/神:2006/07/27(木) 22:37:42
手の平にこぼれ落ちた数枚の銀貨を見て、バイト君は絶句した。
「じきう、100、えんっ」
「そ。悪いねぇ、うちの店も不景気でさ、昨今」
扇子で口元を隠し、私はほくそ笑んだ。
不景気も何も、大嘘である。
最近歯医者の待合室で、ある漫画を読む機会があったのだ。
美人霊能者が高校生男子を色香に惑わせ、労働基準法
真っ青の時給255円でこき使いながら荒稼ぎをする、という
筋の話だ。うちは古道具を商う店柄、力仕事は必然なのだが、
あいにく私は色男なので力が無い。その点このバイト君、
若さに任せた働きっぷりは見事なもので、しかしこの頃少々
困るようなことになっていたのだ。

彼の目つきが何やら非常にモノ言いたげなのである。私に、
何やら非常に熱いモノを訴えてくるのだ。自意識過剰か、
それにしても身の危険を覚え、だが適当な言いがかりでクビに
出来るほど弁の立つわけでもなく、迷った末に天啓を得て、
この兵糧作戦だ。
もっと割りのいいバイトを見つけて、
「そうして諦めてくれればいいんだがねぇ」

しかし甘かった。甘かったのだ。兵糧攻めを開始して数週間の後、
へろへろになっているバイト君を、私は倉庫に呼んだ。
脚立の最上段に立って戸棚を探り、
「いいかい、上から渡すから、君は釜の尻を下で支えてくれ」
「分りました、店長」
「ギャー!誰が私の尻を触れと言ったよ!」
バイト君が切れた。触るどころか腰そのものにしがみついてくる。
「店長、オレ店長の側にいると、クラクラくるんです。恋してるんです」
いや貧血だろう、などと言ってやる間もなく、バランスを崩して私は
バイト君の上に倒れこんだ。バイト君はくるりと私を抱きかかえ、
そのまま床の上に押し倒す。
「ずっと前から、愛してましたー!」
「何を馬鹿なことを言ってんぐぼー!」
体全体で圧し掛かられる、唇を塞がれる!腕だけはバタバタもがいたが、
「ちょ、あれ、バイト君?」
そこまでが勤労青年の限界だった。興奮のあまり、気の毒にも
失神してしまったらしい。しっかり奪うものは奪ったのだろうが。
でかい図体をどかす力が有るでなし、私はバイト君を胸元に抱えたまま、
しばらくじっと天井を見上げていた。溜息をつく他、仕様がない。
そうとも、仕様がないではないか。

どうにも甘いと分っているのだけれど。
目が覚めたなら、一緒にご飯へ連れて行ってやろうか。
バイト君には、さっさと調子を取り戻してもらう為に。
私の場合はとりあえず、当面は抵抗できるような体力を付ける為に、かな。

127-801好きな少年漫画:2006/08/02(水) 18:23:39
俺の名は和也。俺には双子の兄がいる。名前は達也。
お気付きの通り、俺の両親はあの漫画の大ファンで、双子が生まれた時、狂喜乱舞しながらこの名を付けたそうな。
もちろん兄弟して物心ついたときから野球チームに所属させられていたが、俺は反抗期という名の下に、中学入学と同時にサッカー部への入部を強行した。
だって俺がひねくれるのも仕方ないと思わないか?
好きな漫画だか何だかしらないが、死にキャラじゃん俺。
夢半ばにして、しかも当て馬的扱いで、死んじゃうじゃん俺。
そんな名前を付けられた、俺の身にもなってみろってんだ。
まぁ、甲子園へ息子をやるって夢は、漫画と同じく弟が頑張ってくれているのでよしとしてくれ。

ちなみに、俺たちには兄がいる。我が家では忘れられがちな長男の名は充。
「妥協して和也って名前付けて、弟が生まれたら達也にしようかと思ったんだけど…俺たちは賭けに勝った」
いつか親父が誇らしげに言っていた。
ちなみに、俺たちは犬を飼っている。我が家の駄ミックス犬の名はパンチ。
お手もお座りもろくにしないが、鳴き声が「おんっ」と聞こえる点は評価が高い。
強制的に肥満食を与えられている。

さて、このようにどこまでも周囲の運命を弄ぶ両親ではあるが、ひとつどうしても自分たちだけでは成し得ない設定があった。
お隣に住む幼馴染の可愛い女の子「南ちゃん」の存在だ。
こればっかりは、どこからも調達できないでいる。
左隣の家に孫が生まれるとわかったとき、しっかり「南」で姓名判断をしているおふくろを見たときは、さすがに背筋に冷たいものを感じた。
幸い孫は男の子で、まあ、それを聞いてがっかりしてる親父とおふくろを横目に、俺がほっとしたのも事実だ。
はっきり言おう、こいつらは異常だ。限度とか常識とかが欠如している。
隣に「南ちゃん」なんていたら、考えただけでも迷惑な状況になるに決まってる。


しかし、運命はまことに悪戯好き。
以前から空家だった右隣に、ある日突然表札が掲げられた。
息せき切って親父がそれを報告に来た。
「今度越して来たお隣さん!み・な・みっさんっっっ!!!」
この際、名字でも構わないらしい。
「お父さん調べちゃいましたー!本当の南ちゃんちとは逆の母子家庭で、
 なんとぉお子さんは、タッちゃんとカッちゃんと同じ歳!同じ高校に編入するそうですっ!!」
そして夫婦の喜びの舞が始まった。
「運命ってあるんだな」と人事極まりない長男。
「あ、俺、彼女できたから」お前に任せると、裏切りの発言をする双子の兄。
庭でパンチが「おんっ」と鳴く。
それでもまだ俺は、運命の悪戯ってのを舐めていた。



「もぉ〜!お隣にタッちゃんとカッちゃんがいるなんて、あたしホントに感激ですぅ!」
「おばさんたちも、みなみちゃんが来るのをずっと待ってたのよ!それにお料理も上手で、この煮つけすごく美味しい!」
「あたしぃ、お料理とか大好きで、将来は喫茶店を開くのが夢なんですぅ」
「あら!じゃあお店の名前はやっぱり」
「「南風!!」」

キャーキャーと姦しく騒ぎ立っている台所を、恐る恐る覗き込む兄弟3人。
引越しの挨拶に来たまま、おふくろと意気投合し台所で何やらクッキングを始めているらしいお隣の「みなみちゃん」は、身の丈190はあろうかという巨漢の持ち主で…
「南というより原田だな」
うまいこと言っただろ!と期待の目を向ける長男。
「うちの顧問から聞いたんだけど、柔道でインターハイ出場だってよ」
さすが南ちゃん…と、双子の兄。
そして二人で俺の肩に手を置き、哀れみの視線を向けてきた。
「ま、頑張れ」
って、何を?何を頑張るの?
ちょっと背中押さないで!あいつらに気付かれるから!
ちょっと俺残して去らないで!俺を一人にしないでくれ!兄弟!!

「あら和也いたの」
「カッちゃん!?キャーうっそ!かぁわぁいぃ〜っ!!」

…ええっ!?


テレビから夏の甲子園のサイレンが聞こえてきた。
夏休みは、始まったばかりである。

137-801好きな少年漫画:2006/10/16(月) 02:59:43
 しとしとと降りやまない雨の音が、建物の中にまで響いている。
「六民党に入れますか」
 外の様子に気を取られていたので、それが自分に向けられた言葉だと
理解したのは数秒の後だった。慌てて周囲を見回すと、膝に本を載せた
男が一人、長椅子に掛けている。長い廊下には他に誰も見当たらず、
数匹の金魚が金属棚の上の水槽の中でゆっくりと泳いでいた。
「ああ、失礼。選挙は秘密投票が原則でしたね。人に尋ねて
いいことではありませんでした」
しかし、選挙会場で他に何を話題にしたらいいものか思いつきません、
と男は視線をさ迷わせた。

 知らない顔ではなかった。むしろ毎朝会っているはずの人間である。
同じ停留所で、同じ時刻、同じ経路を辿るバスに乗る。反復運動の日々
の中、待合客のために設けられた軒の下で、通勤鞄を靴元に置き、
警備兵のように立ち尽くしながら、常に泰然とした様子で本のページを
繰っているのがこの男だった。
「同じご町内だったんですね」
 口にしてからしまったと思った。そもそも同じ地域に住む人間を
一ヶ所に呼びつけるのが投票所という場所である。おまけに毎日
同時にバスに乗り込む仲だ。間抜けなことを言ってしまったとちょっと
後悔しながら、男の隣に腰を下ろした。黒いブルゾンの肩やズボンの
裾がわずかに濡れている。おそらく用事を済ませたものの、強まる
雨に帰り時を逸したのだろう。

「それ、いつもどんな本を読まれているんですか」
 紙のカバーの付けられた本を覗きこむと、笑わないでくださいねと
前置きして、男はあるコミックスのタイトルを教えてくれた。いい大人
が吊り革に揺られながら読んでるのが漫画だなんて恥ずかしいで
しょうと照れくさがったが、それには湿った髪の乾く勢いで首を
横振りした。老若男女、国籍を問わず、世代を越えて親しまれて
いる作品だ。所詮は子供向けの単純な代物だろうと敬遠されるかも
しれないが、少年時代に触れたなら、大人になっても忘れることが
できないだろう含蓄と慈愛に満ちている。
「懐かしいな、子供の頃に一度は考えてみませんでしたか。今日
みたいに雨の日だと、この漫画に出てくるような、便利な秘密の
道具があればいいのにと」
「普段から読んでいるせいかな、僕は今でもしょっちゅう考える。
時間を戻して失敗を無かったことにできないかとか、発売日よりも
早く新刊書を読めないかとか」
「分ります。給料日前なら、自動的に料理が現れたりするテーブル
クロスがあれば有難いな」

 今まで見ているだけだった男と和やかに話をしているという事実は
想像以上に楽しくて、嬉しかった。
回る舌は留まる事を知らないくらいだ。
「そうだ、目的地に一瞬で到着できるような道具があったでしょう。
あれは楽だと思いませんか。バス通勤の煩わしさから開放されますよ」
 ふむ、と男は一端考え込んだ。ややしてこちらを見つめ、
「僕は特にそれが嫌だとは思いませんよ。バスを待つ間と
乗っている間、いつもその時間は、今みたいに貴方の近くに
いられますから」
 と言って、はにかむように笑った。その途端に、一気に血が上った。
頬が赤々と染まるのを意識するより早く、ガタンと長椅子から
立ち上がった。
「ま、待っててください。ここで待ってて」
 男の微笑む気配を背に感じ、途中パキラを蹴倒しそうになりながら
扉の開け放たれた室内へとフラフラ歩み寄り、受付を済ませ、
つるつるの投票用紙をくしゃくしゃにする勢いで支持政党等を
書き殴り、投票箱を蹴倒しそうになりながら国民の権利を実行し、
少し落ち着きなさいなと年配の受付女性にたしなめられつつ、自分を
待つ者の所へと舞い戻ると、もう悪天候など何様でもなかった。

その日初めて言葉を交わした男の部屋で幾つもビールの缶を空に
し、六民党が第一政党の座を辛くも死守した現場に立会い、日付が
替わるまで白々と光るテレビを二人で眺めた。その後同じ布団に
くるまるような仲になったかどうかは、内緒の話だ。ただ彼の好きな
ロボットみたいに、押入れに寝床を作られたりするようなことは
なかったとだけ、お伝えしておこう。

14萌える腐女子さん:2006/11/06(月) 21:24:02
本スレ801サンじゃないけどageとくね!
今度の801リクは↓↓↓
あなたの好きな「歌詞・フレーズ」

158-801好きな歌詞「旅の宿」1/2:2006/11/12(日) 21:33:26
熱燗徳利の首つまんで「もういっぱいどうだ」なんて、
そろそろ酒量の限界を感じていても断ることはできない。
だが新しくつけたばかりの燗は、思いのほか熱かったのか
俺の猪口に傾けられる寸でに危なっかしく手放された。
顔をしかめながら耳たぶをつまんで指を冷やしている彼の、
頬やら首筋やら腕までも、ほんのり赤く上気して見える。
めっぽう酒には強い人でも少しは酔っているのか、単に湯上りの名残か。
「俺はもういいですから、部長どうぞ」と徳利を注し返す。
これ以上飲んでは、はっきり言っていろいろ自制できる自信がない…いろいろ。
ないというのに、
「おまえ全然飲んでないじゃないか」
片眉を上げて言われて、やはり断ることなどできず、俺は勧められるままに酒を呷った。
ザルな人から見れば全然飲んでないように見えるかもしれませんが、結構ギリギリなんですよね。
そうじゃなくても、先刻の露天風呂で見た裸体が脳裏をチラついて仕方ないのに、
浴衣掛けに項や胸元が妙に色っぽくて、温泉マジックは男にも有効なんだと一人で納得。
風呂が薄暗くてよかった。今、自分の下半身が炬燵に隠れていて本当によかった。
何だかわからないけれどだんだん笑いが込み上げてきて、俺は酔いがだいぶ回ってきたことを、
脳の奥深く遠いところで微かに認識した。
にやにやする俺を、部長が訝しげな目で見ている。
目が合って、見つめあって、ああ、見つめられてる。
なんだこれ。いいのかこれ。
とりあえず神様に感謝しておこう。
窓下を流れる渓流の音しか聞こえない秘湯の宿で、炬燵に入って部長と二人鍋をつついて、
なんて幸福。なんて贅沢。

「これお前にやる」
そう言って部長が、近所の収穫祭のくじ引きで当てた温泉旅館のペア宿泊券を差し出したのが一月前。
「1等じゃないですか、もらえませんよ」
何でご自分で行かないんですかと口にしそうになったが、
部長が離婚調停中の身であることを思い出しとどまった。
「そろそろ紅葉が見頃だろ。彼女連れてってやれ」
彼女などいないと知っていて、まだそんなことを言うんだから。
慣れない一人暮らしと家事調停で心身ともに疲れているところに付け込むようにして、
食事に誘ったり休みの日には家事手伝いと称して遊びに行ったり、
結構わかりやすくアピールしているつもりなんだが、これはわかっていての牽制なのだろうか?
それならそれで、逆手に取るまでなのだが。
「じゃあ、二人で行きましょう」
男二人で温泉なんてといつまでも文句を言っていたが、元来が流されやすい性質の人なので、
助手席に納まらせるのにたいした技も細工も必要ではなかった一月後である。

「あちっ」
これで仕舞いですと仲居さんが手際よく作ってくれた雑炊を口にし、お約束の反応をする部長。
「熱いから気をつけてくださいねって言われたばかりなのに」
もう何がどうなっても可笑しい俺は笑いが止まらず、
舌を突き出したままで恨めしそうな視線を向ける様に腹を抱えて笑い転げた。
そんな俺に対して部長は、笑いすぎだとか、うるさいとか、
多分そんなことを言っているのだろうけれど、舌が邪魔をしてうまく喋れていない。
自分で自分の舌先を見ようと一生懸命目を寄せているのがまたおかしくも可愛らしいと思った。
そんなに熱かったのかと少し気になったので、俺は荒げた息を落ち着かせ
「火傷したんじゃないですか?」
とふらり立ち上がって側に寄る。
見せてくださいと顔を近づけると、部長は少し不貞腐れた態のままベーと舌を出し俺を見上げた。
まったく、いい年したおっさんが何て仕草してるんだろうか。
また笑い出しそうになったけれど、赤く濡れ光する舌先が時折弛緩するようにうごめくのを見て、
思わず息を呑んだ。酔いが回ってぼんやりと重い頭に、それはたいそう艶かしくうつる。

168-801好きな歌詞「旅の宿」2/2:2006/11/12(日) 21:33:53
俺は目の前の舌先をじっと見続けた。
確かに、ちょっとだけ水ぶくれのようになった部分がある。
痛いだろうな、と思った。どのくらい痛いかな、と考えていた。
無意識に…なんていうのは嘘で、酔ってはいても俺の意識下に行ったことに違いない。
痛みを紛らせられるかな、と思ったのもある。でも大部分は興味だったように思う。
どんな味かなとか、どんな感触かなとか、どうなるのかな…とか。
俺は、自らの舌を尖らせ、引き寄せられるようにして同じそれに触れていた。
患部を突くと、びくんっと部長の身体が強張ったのがわかった。
長いこと外気に曝されていたためか、その舌はひんやりと吸い付いてくる感じがした。
何度か舌先の周りを回りながら、徐々に根元に近付いていくように移動する。
自分が舌を動かすたび、ぴちゃぴちゃと卑猥な音が耳に届き、俺の気分を昂揚させるのだが、
どこかに残っている俺の理性が、なんで抵抗されないのかと疑問を抱き始める。
突き出された舌を舐めあげ、軽く唇で吸いながら、
そろそろ逃げるか突き飛ばすかしてもらわないとヤバイんじゃないかなぁ…などと鈍った頭で考えた。
しかし部長は為されるがままで、さらに舌先を唇の端に移動させると、
抵抗されないどころかまるで誘うように唇が僅かに開かれたのだ。
俺は遠慮することなくその隙間から舌を侵入させ、彼の舌を吸い寄せながら唇を重ねた。
口内を味わいながら奥深くまで探るように、何度も角度を変えて俺たちは交わう。

きっと部長も酔ってるんだな、と短絡的に考えることにした。

そして、このままヤっちゃってもいいのでしょうか?と神様に尋ねた。




結論から言うと、神様の答えは否だったんだろう。
俺は今、薄暗い部屋の中に目覚めたところだ。
夕餉の膳もすっかり片付けられていたが、それらの記憶はないわけで、
まあつまり、飲みすぎたということ。
けれど俺は充分満足だ。
なぜなら、窓から上弦の月が見えるから。
それを眺めている部長の膝枕で、俺は寝ているから。
今日は幸福が多すぎて。幸福は小出しでお願いしたくなったから。

178-801好きな歌詞「友/達/の/詩」:2006/11/14(火) 04:22:32
行き交う人々の中にスーツ姿の君を見つけた。
僕の思い出の中の君は学ランだけど、すぐに君だと分かったよ。
相変わらず君はかっこいいね。爽やかな笑顔もあの頃のままだ。
君に腕を絡ませているのは恋人?それとも奥さん?

あれから何年経ったんだろう。
高校で同じクラスになって、性格も趣味も全然違うのに僕らはいつのまにか意気投合
したよね。
今考えても君と仲良くなれたのは不思議。
いつも一緒にいる僕らを見て、
まわりのみんなからもおまえら変なコンビだよな、とか言われて。
学校帰りのマック、ゲーセン、一緒に服選んだりもしたね。
お互いの家に寄ってお気に入りの音楽聞いたり借りてきた映画見たり…。
楽しかったなあ。

ねぇ、あの日僕があんなこと言わなければずっと一緒にいられた?

手を繋ぐくらいでいい
並んで歩くくらいでいい

そう思ってたのに人の欲望って限りないね。
黙って君の隣にいるだけじゃ満足できなくなって…。

笑われて馬鹿にされても憎めなかった。
きっと僕が追い詰めたんだね。

大切な人は友達くらいでいい
大切な人が見えていれば上出来

今ならそう思えるのに。

忘れた頃に もう一度会えたら
またあの頃みたいに話してくれる?
ほんの立ち話でいいんだ。

今はまだ声を掛けられないけれど。
僕がもう少し大人になったら。

188-801好きな歌詞「時の旅人」:2006/11/27(月) 03:38:50
イベント前の校舎の雰囲気が苦手だ。
どこもかしこも浮き足立って、少しも落ち着けないし、普段とはちがうテンションがちょっと疲れる。
今は、合唱コンクールの練習にどこのクラスも余念がない。
例に漏れず、俺のクラスも朝・昼・放課後の練習には力が入っていた。
思うように練習できないと言って、泣き出す女子とかもいて正直うんざりしている。
ちょっと青春めいてきた女子たちに、男子連中はドン引きだ。
しかも、下手げに声もかけられず遠巻きにしていたら、あんたたちやる気あんの!? と怒られた。
わけがわからん。

トイレに行くと言って十分間の休憩時間に抜け出し、なんとなく校舎をふらふらしていたら、三組の山本に会った。
山本とは一年の時に同じクラスだった。
その頃は結構気があって、よくつるんでいたけれど、クラスが変わってからはあまり話していない。
けれど俺は山本の、いい感じに力が抜けた空気が好きだったので、懐かしくなって声をかけていた。
そのまま教室に戻ることなく、使われていない視聴覚室に忍び込んで、なんとなく二人で時間をつぶす。
「中村、お前戻らなくていいの? あのクラス女子うるさそうだし」
「そういうお前はどうなんだよ」
「いーの、うちは。イベントは個人の責任において適当に楽しんでくださいね、ってカンジのクラスだから」
「うわーなんだそれ。羨ましい」
心の底から羨んでみせると、山本が唇の端を上げて笑った。
「そういえば、何歌ってるんだっけ、お前のクラス」
ケータイをいじりながら山本が問う。
俺は思い出したくもない歌のタイトルを渋々口にした。
「時の旅人。なーんかさー、歌詞がいちいちくさすぎて、歌うたびに居心地が悪ぃわ」
背中がむずむずするような、そんな感じ。
するとケータイの画面を見たまま、山本が肩を揺らして笑った。
「…笑うなよ」
「ごめん。なんか中村、ホントにイヤそうだから。でも俺、好きだけどな。時の旅人」
「げっ、マジ!?」
思わずおおげさになってしまったリアクションに、けれど山本は思いがけず真剣な眼差しで俺を見る。
その眼差しに射竦められてしまった俺に、ふと目元をなごませて、山本は再びケータイに視線を落とす。
そして、その歌の中のある部分を恥ずかしげもなく歌いだした。
暗くなった曲が再び明るくなるところで、その歌詞の健やかさといい、旋律のあざとさといい、俺がもっとも苦手な部分だ。
山本は余計な力の入っていない、きれいな声で歌う。
苦手なはずなのに、聞きほれてしまった。
山本は曲が盛り上がる直前で歌を止める。
「俺さ、こういう相手が中村だったらいいなって、思ったんだよね」
「…は?」
「俺の傍にいて、生きる喜びを教えてくれるのが」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「泣きたいときはいつも中村のこと考えてる」
何言ってんだお前、とか、泣きたいときって何だ山本のくせに、とか。
突っ込みたいことはいろいろあったけど、なぜか早鐘のように鳴り始めた心臓の音がうるさくて、何も言えなかった。
「じゃ、俺クラス戻るわ。そろそろみんな飽きて大富豪とか始まってるだろうし」
何事もなかったかのように去っていく山本の後姿を、俺はなすすべもなく見送った。
どうしてくれるんだ。
もうこの歌、真顔で歌えねぇ。

198-801滑り込みで好きな歌詞「月」(桑/田/圭/祐):2007/01/26(金) 19:21:19
初めて彼に気がついたのは、いつのことだったろう。
バイト帰りの山手線最終電車。
俺は、利用駅の階段に一番近いという理由から、決まって最後尾の車両に乗っていた。
その車両の一番奥に、俯いて、いつも同じ座席、壁に寄りかかるように座っている。
彼を見ない日はない。
暑さの厳しい夏の間も長袖のパーカーを着て、秋も深まる頃にはそれがジャケットへと変わり、
いつでもフードを目深に被って、今思えば、それは周囲の視線を避けるためであったのかもしれない。

彼は、俺よりふたつ手前の駅で降りる。
12駅、時間にして15分足らず。

深夜の車両の奇妙な静寂に溶け込むように、俺たちは、言葉を交わしたことはない。
ただ、彼は席を立つ直前、必ず一度窓の外を見遣る。
そしてそのまま流れるように、向かいに座る俺に視線を巡らせるのだ。
窓から夜空を眺めるように、何気ないようで、しかし確実に。
俺はというと、その一瞬を逃すまいと、瞬きもせず彼を見ている。
そんな、関係と呼べるほどのものもないまま、数ヶ月が過ぎる。

その日は、バイトの送別会だった。
俺は仕事のある時よりもだいぶ早い時間の電車に乗って帰った。
週末ということもあって、車内はたいそう混みあっていたのだが、
人に揉まれながらも俺は、習慣的に最後尾の車両の一番奥に、彼の姿を探していた。
すると、壁際のいつもの席に、彼はいた。
周囲の喧騒をフードで遮断するように、俯いて、身を小さくして壁に寄り添っている。
まさかいるはずはないと思っていたので、驚きながらも彼を見ていると、
いつも降りるはずの駅で席を立たず、次の駅を過ぎても下車することはなかった。
俺はその日は自分の駅でいつものように降りたのだが、何故か彼のことが気になって仕方なかった。
そこで翌日、バイトもなかったので、送別会と同じ時間に同じ駅から電車に乗ってみた。
同じ席に同じ姿で彼はいた。
俺は少し離れた場所に座り、半ば隠れるように彼の様子を窺う。
その日も例の駅で降りる気配はなく、そのまま、俺は彼と共に、山手線を回り続けた。
結局彼が席を立ったのは、俺がバイト帰りに利用する、いつもの終電の時間だった。

そうして俺は、仕事のない日には、彼と共に電車に乗って過ごすようになり、
何故彼が、毎晩山手線を回り続けなければならないのかを考えていた。

ある日、大きくはない荷物を抱きしめるように抱えて座る彼がいた。
いつものようにフードは被っておらず、顔を上げ、ぼんやりと窓の外を眺めている。
彼の唇は微かに震え青かったが、その端だけ血が滲んでいて赤かった。

最終電車の、彼が降りるはずの駅。
彼は動こうとしない。閉まる扉。
窓の外を見ていた視線がゆっくりと動き、俺を捕らえる。
ふたつ駅が過ぎても、俺は目を逸らすことはできなかった。


  君と寝ました
  他人のままで
  惚れていました
  嗚呼…

20あげさせてもらいますー:2007/01/26(金) 23:58:47
9-801ゲトしました。
「あなたの好きなお昼ご飯」でお願いします!

219-801好きなお昼ご飯「オムライス」:2007/01/27(土) 03:37:51
「信じられねえ」
 ぼくが作ったオムライスを見ると、兄さんは思い切り嫌そうな顔をした。
午後3時を過ぎてからやっと起床した彼のためにわざわざ遅い昼食を作った
というのに、そんなことを言われるとは思わなかった。作ったオムライスを
まじまじと見つめて見ても、特におかしいところはないように思える。ケチ
ャップライスを包む卵の上に、ケチャップの赤とマヨネーズのアイボリーが
チェックの模様を描いている、普通のオムライスだ。
「何で? オムライス好きだったよね?」
 ぼくが尋ねると、寝癖がついた髪を気にしながら彼は面倒そうに答えた。
「あのな、マヨネーズをかけたオムライスなんて食う奴いねえよ」
 そう、とぼくは呟くと、出来立てほやほやのオムライスを台所にあるごみ
箱に捨てた。表情は変わらないものの、兄さんがぼくの行動に対して内心慌
てているのが分かる。伏し目がちになっているのは、ぼくに謝罪しようかど
うか迷っているからだ。でも彼は悩んだ挙句、謝らない。それは学校に行こ
うか迷って、結局行かないときと同じ目だった。
「明日は中間試験初日だね。受けないの?」
 オムライスを載せていた皿をスポンジで洗いながら何気なく言ってみるが、
返って来たのは沈黙だった。兄さんはいわゆる優等生というやつで、友人も
彼女も作らずひたすら勉強だけをやっていた。テレビも見ないし、ゲームも
やらない。そんなに熱心に勉強しているわけだから、当然試験の成績は毎回
学年で一番良かった。いつも平均点前後のぼくにとっては信じられないこと
だが、兄さんは試験で毎回満点を取った。そんな彼を何か別の生き物のよう
に感じていたが、ある試験のとき兄さんは世界史で九十七点を取った。毎回
満点だったので珍しいと思ったが、どちらにしろ高得点だ。羨ましいなと考
えるぼくの横で、兄さんは青白い顔をしてその点数を一日中眺めていた。
 兄さんが学校に行かなくなったのは、その次の日からだ。初めは体調でも
悪いのだろうと考えていたが、次第にそうではないことが分かった。彼は家
ではいつも通りに過ごしている。
「また全問正解出来なかったらどうしようって考えてるんでしょ」
「そんなことない。全部合ってて、おれが一番だ。そうに決まってる」
 内容に反して兄さんの声は酷く弱々しい。
「じゃあ明日こそは学校に行くんだね?」
「それは……」
 今日兄さんが遅く起きてきたのは、きっと朝まで勉強していたからに決ま
っている。とっくに覚えたところを、また間違うかもしれないという不安で
何度もやり直していたりするのだろう。その努力をぼくは無駄にはさせたく
ない。
「オムライスは、今から作り直すよ。今度はちゃんとマヨネーズはかけない。
 その代わりぼくにもう一度料理させた代償として、明日はちゃんと学校行
 ってよね」
ぼくが笑いながら言うと、兄さんは途端に情けない顔になった。唇が震えた
ので何か言うのかと思って眺めていれば、結局何も言わずに俯いた。しかし
そのとき、ぼくは兄さんが声もなく「ごめん」と呟くのを見た。彼は何か
を決意したかのように右手をとても強く握っている。

229-801好きなお昼ご飯「タンメン」:2007/04/18(水) 01:49:12
右手に煌めく包丁一降り、左手に構える鍋のフタ。しゃきん、と無意味にポーズを決めてみる。
…どこのRPGのオモシロ装備だよとセルフ脳内ツッコミ入れつつ、鍋ぶたを置いて調理再開。
背後には「いきなり人んちの台所で何やってんだ」とか「昼飯のメニュー決まってたのに」とか喚くのが一匹いるが、とりあえず放置。
俺が、ここで、タンメンを作って喰いたくなった。それが全て。お前の意見と権利なんざ俺の前では塵芥、残念でしたまたどうぞ。
持参のトートバッグから新鮮野菜を取り出し、華麗な手捌きで喰いやすい大きさに切り揃える。
この瑞々しさ、田辺さんちの爺様の家庭菜園に目をつけ、いつかおすそ分けを頂く目的で春夏秋冬お手伝いし続けた甲斐があったというもんだ。おかげで俺、すっかり爺孝行かつ野菜博士。
「野菜ばっかりだと蛋白質不足で死ぬ」なんてわめくから、うずら卵の空き缶を投げ付ける。ふははは、今日は一缶丸々使ってやるのだ。なんて贅沢、なんて至福。給食の八宝菜のうずら卵を最後まで残していた小学生の俺、見てるか?
…そうか、八宝菜もよかったかなと思いつつ、じゅうじゅうと野菜を炒める。程よいところで戻したキクラゲ投入。もやしはシャキシャキ感のために最後の最後まで投入お預け。
だがしかしやはりここはタンメンであろう。主食副食一気に摂取可能、なにより俺が麺類好きだから。そして野菜嫌いなお前もラーメンなら食えるかと…いや、別に何も。
携帯のタイマーをフル活用して麺を茹でる。余熱も考慮して少し早めの湯切り。スープの中に放り込み、炒めた野菜中心の具をたっぷり乗せて完成。
いただきます、と声と手を合わせランチタイム開始。
偶然うずら卵の数がきっちり二等分されてたのが許せないので2個ばかりこっちに搾取した。
最初こそてんこ盛りの野菜に不満げだったが、渋々だったお前の箸の動きが徐々に加速していく。当然だ。俺が手をかけたんだから旨くないわけがない。
全ては俺が旨いタンメンを喰いたいがため。お前の食生活の偏りを憂いて、どうせレトルトのパスタだのグラタンだのであろう昼飯をたっぷり野菜持ってジャックしにきた、なんてことはこれっぽっちもないのである。決して。
 
…ついでに言えばこのデザートのプリンは2個とも俺のために買ってきたんだが、俺は満腹だ。特別に1個、お前が喰う事を許可してやろう。

23萌える腐女子さん:2007/10/19(金) 09:09:21
11-801ゲトしたのでageますね。
「あなたの好きな時間」でお願いします。

24萌える腐女子さん:2009/01/06(火) 17:09:13
本スレ801さんじゃないですがageますね
801リクは「あなたの好きな場所」です

2514-801好きな場所「オフィス」:2009/01/10(土) 02:21:53
ああ…疲れた…。
伸びをすると、全身が軋みをあげる。
目がかすんで、視界がハッキリしない。
今は決算期で、一年で一番忙しい時期だ。
時計は日付を越えようとするところまで迫っているのに、まだまだ書類の山は減る気配が無い。
…まあ、オレが要領悪いだけなのかもしれないけど…
現に同僚達はとっくに帰ってしまっている。
今このオフィスに残るのはオレと…部長の二人だけ。
部長もオレに合わせて残ってくれているんだろう。いたたまれない気持ちになった。
「部長…」「なんだ」
朝は一番に出社してきて、夜は必ず最後まで残る。部長はそういう人だ。
こんな時間だと言うのに、スリーピースのスーツにも、バックスタイルにした髪形にも一片の乱れも無い。
クールビューティって言葉、部長みたいな人の為にあるんだろうな…それに比べて、俺は…
「おい」
気が付くと部長が怪訝な目でこちらを見ている。
「何か用があるんじゃないのか?」
「は、はいっ!その…」
深い藍を湛えたその瞳に射竦められるとどぎまぎしてしまう。
「…今日はもう、帰ってくれてもいいんだぞ」
「い、いえ…もう少しだけ、キリのいい所まで進めたいんです」
「ならば少し休んでこい。…ひどい顔をしているぞ」
部長の優しさが身にしみる。言い方は少しぶっきらぼうでも、本当に部下の事を気に掛けてくれているのだ。
その好意にありがたく甘える事にした。

ふう…
缶コーヒーを片手に、休憩室に入る。
どうも目が乾いて仕方ない。ずーっとPCとにらめっこだもんな…
コンタクト、外すか。今日は眼鏡も持ってきてるし…

「部長、戻りました」
「ああ…… !!」
部長が目を見開いて、オレの顔を凝視している。
え?なんだ?オレの顔、何か付いてる?
部長がこんな風に感情を動かすところは初めて見た。
手にした書類を机に無造作に置き、つかつかとこちらへ歩み寄ってくる。
「君…」
え、何なんだ?オレ、何か悪い事しちゃったかな?あ、あのミスとかあの時の失敗とかバレたとか!?
「その眼鏡は一体どうした」
「……へ?」
頭の中が整理できない。今、部長は、なんて言った?
「眼鏡だ。…さっきまでは、そんなものしていなかっただろう」
「あ、ああ…これは。コンタクトが剥がれてしまって…」
すい、とブリッジに部長の手がかかる。こんなときでも、オレは部長の手の美しさに見蕩れていた。
距離を詰められて、香水の香りが鼻腔をくすぐる。ラストノートの甘く深い香りと、部長の…
…オレは、何を考えているんだ?というか、部長は何をしたいんだ?
「君は…」
部長は、とても切なそうに、笑った。
「君は、どこまで私を困らせたら気がすむんだ」
強く腕を引かれ、部長席の裏に連れて行かれる。そしてそのまま…床に押し倒され、抱きすくめられた。
疲労と驚きと混乱で何が起こっているのか全く理解できない。
でも、この人になら…何をされてもいいと思った。

朝の光で目を覚ますと、オレの上着はきちんとたたまれ、身体には毛布がかけられていた。
さらに机の上にあったはずの書類は全て処理されていた。そして…
部長は椅子をベッド代わりに、眠りについていた。
…この人の寝顔なんてものすごくレアなんじゃないだろうか。
今日も頑張ろう、と思った矢先に腰を鈍痛が襲う。
…今日も仕事にならないだろうな。特に…
こんな部長の下では。


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