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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

4018-569懐いてる×懐かれてる2/2:2006/10/19(木) 10:20:34
「いきしゅん」
くしゃみをして時計を見上げると既に午前二時。八月十二日の丑満時
だ。やたらと活きのいい背後霊を扱いあぐねていると、携帯電話がビリ
リと震えた。会社の後輩がメールを送ってきたらしい。添付されたフォ
トデータを開いた途端、俺は吹き出した。「先輩、愛してまっす」の書
き文字とともに、唇を突き出した後輩の顔が画面いっぱいに広がってい
る。深夜には生者のテンションも上がるのだ。くつくつと笑いを堪えて
いると、バチリと目の前で火花が弾けた。
「誰、そいつ」
いつの間にか正面に立っていた幽霊が、パチリパチリと放電している。
「あのな、こいつは会社の後輩で」
「オレには、そんな顔して笑ったことないくせに。あんた、そいつが好
きなのか?そいつはあんたにさわれるのか。忘れたの、最初にオレに
側にいろって言ったのあんただよね。そいつの方がいいの?
生きてるから?」
「おい待てよ、お前のことは」
「あんたがオレを無視するってのなら!」
ポルターガイスト、いつも戯れに小石を放っているのとは桁違いの力
で、俺の身体は壁に激突した。普段は漬物石一つ手伝わないくせに、こ
の野郎。衝撃に梁や柱がゆらゆらと揺れ、大量の埃が舞う。入居した当
初から掛かっていた「四面楚歌」の額から、バサリと何かが落ちてき
た。幽霊からは興奮が掻き消え、ただ茫然と浮いている。俺は腰をさす
りながらそいつを拾い上げた。
「お前の執着って、もしかしてこれか?」
ボロボロに古びた日記帳だ。マジックで名前の書き込まれた表紙を、
透き通った指がそっと撫でた。

「どうしてあんな所から降ってくるんだ」
「秘密の日記は秘密の場所に隠すものだよ」
近所の寺から、勤行の始まりを告げる鐘の音が聞こえてくる。幽霊と頭
をつき合わせて相談した結果、中身も見ずに、庭で一切合財を燃やしち
まうことにした。おそらくそれで奴は執着とやらから解放され、晴れて
天へと召されるのだろう。寂しいかい、と顔を覗きこんでくるので、サ
ラダ油をぶっかけて即座に点火した。コンマ二秒の速さだ。
「あ、ちょっとひでぇや」
黒々とした煙が立ち昇り、黄ばんだ紙を橙色の火がなめていく。さなが
ら二度目の火葬だ。芋が無いのが残念だ。
「オレは、あんたを残していくのが不安だ。変な後輩に渡したくねえ
し」
「幽霊に焼かれる世話は無いよ。さっさと逝け」
「そうじゃなくて、同じだ、同じだから分るんだよ、あんたは」
ゴオン、と寺の鐘が響く。どうせならと夜明けの太陽が一番照り輝く瞬
間を選んだのだが、正解だったようだ。男の透明な体が光に満たされ、
朝日と一体となる。
「ああああこんな事なら一回くらい取り憑いて鏡の前で一人エッチしと
くんだったあああ」
「さ、最低だ、お前」
悪霊のような断末魔を最後に、幽霊は俺の前から去った。静かに燃え
続けていたノートのページが熱に煽られて捲れあがる。八月の日付が
見えた箇所を、俺は声に出して読み上げた。
「八月十日。独りぼっちで居続けるのは、寂しい。寂しい。寂しい」
なおも言葉の書き連ねられた部分が炭の塊に変わっていく。そんな
ものを書くことで紛らわせると思っていたのなら、あいつは本物の馬
鹿だ。格好つけて自分の感情に背を向け続けていた俺は更なる馬
鹿だ。ああ、でも俺と居た時は、あの野郎、寂しいなどとは一言も言
わなかったな。
「八月十一日。小金が入ったので、明日は好物のフグを食べに行く。
楽しみ」
最後のページを炎が呑みこむ。風に吹かれてチリ、チリと、風鈴が
安っぽい音で鳴いていた。


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