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153エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:47:41 ID:Fc72kk0o
◇◇◇

 破壊精霊の拳に、まずひとりが圧死した。残りの二人ももうすぐそうなるだろう。

(あたしは、また、人を殺した)

 無感動にそう確認する。破壊精霊が物質を壊すごとに思考の域は狭まっていった。
 まるで壊した物質がその分だけ脳を占拠しているようだ。
 白衣を着た綺麗な男性は先の一撃で転がっている。
 抱えていた人物を庇ったせいで、全身を強く打ち付けていた。立ち上がることさえ容易ではないはずだ。
 とりあえずそちらは無視して、フリウはもうひとりの少年を見た。
 特殊な力を持っているのだろう。破壊精霊と対峙してまだ死んでいない。
 とはいえ無傷でもない。体中に裂傷があり、左腕は手首の所から完全に折れている。
 他の骨にも罅くらい入っているかも知れない。
 口許からは血を流しているようだったが、それは口を切っているだけなのか、それとももっと深刻な状態なのか。
 フリウには判別できなかったが。

「関係ないだろう、フリウ・ハリスコー。君はどうせすべて壊すのだから」

 唐突に鼓膜を震えさせる声。我が耳を疑い、ぎょっとする。この声をフリウは知っていた。
 だが、それでもその声は未知のものだ……

「精霊……アマワ!」

 目を見開く。瞼を弛緩させていた分に隠れていたのだとでもいうように、奇妙な姿の精霊は目の前にいた。
 瞬時に狂気が掻き消え、思考が目覚める。
 未来精霊アマワ。存在していない存在。未来において必ず果たされる約束。
 それなのに再会は予期していなかった。それもこんな奇妙な箱庭での再会は。
 ふと、脳裏で閃くものがある。フリウは堪えもせずに、それを吐き出した。

「お前が黒幕! あたしを……仲間を殺させた!」
「それは違う。フリウ・ハリスコー。彼らを殺したのはあくまで君だ。私は関与していない」

 泰然としたアマワの声。本質が定められた精霊には、それ以外の感情はない。
 だからおそらく、それは正しい。
 怒りのやりどころを失い、フリウは再び狂気に埋没した。萎むような声音で、尋ねる。

「何なの……何が目的なの……」
「私の望みは君も知っているだろう。御遣いはその為に有る」
「……疑問を、無くすこと」
「その通りだ。果たして人は疑問の隙間を埋めることが出来るか? 埋めるための心を持ち合わせているのか?」

 首らしき部分を限界以上に捻りながらアマワは疑問を投げかけてくる。疑問しか投げかけてこない。
 フリウは呟いた。淀む感情に任せ、ほとんど譫言のような口調で言葉を紡ぐ。

「あなたには答えた。完全に信じられるものなんてない。人は、独りでは生きられない。でもふたりならきっと信じられる――」
「そう確信を持って言えるかね? 今の君に……」

154エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:50:12 ID:Fc72kk0o
 瞬間、景色が入れ替わった。肌を刺す寒風が頬を撫でる。
 見慣れた風景だった。精霊の住む硝化の森。ハンター業に就いていた彼女にとって、そこは懐かしささえ覚える場所だ。いや――
 フリウは気づいた。ここはただの硝化の森ではない。その最奥。すべての疑問が発生した場所。

「水溶ける、場所?」
「さあフリウ・ハリスコー。かつてのように答えを召喚してみるがいい。君にとって信じるに足るものならば召喚に応じるはずだ」

 それが嬲るように聞こえるのは、彼女が負けを認めているからか。
 恐らくそうだ――フリウは首を振りながら認めた。自分はもう、信じることが出来ない。信じるに足るものをひとつも持っていない。

(サリオン……アイゼン、ラズ、マリオ、マデュー、マーカス、ミズー・ビアンカ……)

 もう会えない彼らの名前。そこにフリウはいくつか名を付け加えた。チャッピー、要、潤、アイザック、ミリア。
 失ったものは、取り返せない。この異界に来て、フリウ・ハリスコーはすべてを失った。
 十分だと判断したのだろう。さほど時間も掛けず、アマワは解答時間を打ち切った。

「フリウ・ハリスコー。君に解答は期待していない。君はもはや……未知を退けられない」
「なら、どうして来たの……」
「それでも君は有効な手段だ。この催しを計画したのも、少なからず君の影響がある」
「あた、し、が?」

(あたしが、原因――?)

 呆然と立ちつくす中、アマワが言葉を進める。

「君は正答をしなかった。だが、今までにない解答でもあった。
 故に私はそれを試すことにした。人は、どこまで人を信じられるものなのか。
 何故、君やミズー・ビアンカを用意したのかといえば、君たちの在り方や解答が正しかったのかを見届けるためだ。だが」

 そこでアマワは言葉を切った。嘲るでもなく、単に疑問を呈するような口調で続けてくる。

「ミズー・ビアンカは死んだ。私に奪えなかった筈の人間が奪えた。
 フリウ・ハリスコーは人を信じ切れなくなった。ひたすらに破壊を求めるようになった」
「……」

 アマワの姿がフィルムを回すように変わっていく。その中にはフリウが知らない人もいれば、知っている人影もあった。
 奪われてしまった人達。フリウ・ハリスコーが奪わせてしまった人達。全員が彼女を責めるでもなく不自然に微笑んでいる――

「やめて! もうやめて――」

 頭を抱えて絶叫すると、存外素直にアマワは虚像を騙るのをやめた。不定形の姿に戻ると、何事もなかったかのように宣告する。

「だから私は君の前に現れたのだ。フリウ・ハリスコー。君の答えが違っていたのなら、私はまた以前の方法に従う」
「……また、無意味なことを聞いて回るの?」

 精一杯の皮肉に、アマワは動じた様子もない。ただ静かに首を振った。

「言っただろう。もはや君に解答は期待していない」

155エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:51:15 ID:Fc72kk0o
「それならもう消えて。壊せないお前なんかに興味なんて無い――っ!?」

 慌てて口を押さえる。だが、それで発してしまった言霊が回収できるわけでもない。

(いま、あたし何て……?)

 壊すことは八つ当たりだと、僅かに残っている意識は理解していた。あくまで甘え。代行手段のない感情の発露の仕方。
 ならば、いまの発言はおかしい。

「……思ったよりも侵食が速いか。ならば端的に言おう。フリウ・ハリスコー」

 動揺するフリウに耳を塞がせる隙も与えず、アマワは致命的な言葉を彼女に突き刺した。

「君は硝化している」

 その単語の意味を、フリウが完全に理解したわけではない。
 だが、分かる。それは敗北であると。
 呆然とするフリウを置き去りにして、アマワは次々と言葉で彼女を苛ませた。

「君は破壊という目的にのみ純化し始めた。かつての殺人精霊のように。
 しかし絶対殺人武器の最後には互いに殺し合うという性質と比べて、君は単独だ。止まることはできない。
 もうひとりの絶対者――フリウ・ハリスコー」

 絶対破壊者。彼女が嫌いだった力の名前。そして現在、何の気なしに行使している名前。
 息をすることも忘れているフリウを、アマワはじっと見据えていた。まるで何かを期待するかのように。

「完全に硝化してしまえば君は無敵だ。誰も君に触れることはできなくなる。
 このまま行けば、君はそう遠くない内にこの島を破壊しきるだろう」
「……あなたの計画もお終いね」

156エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:52:37 ID:Fc72kk0o
 ようやく絞り出したフリウの呻き声に、しかしアマワは律儀にかぶりを振って反応した。

「それは違う。忘れたふりをするな、フリウ・ハリスコー。君が壊した後に残るもの。それがすなわち心だ。
 ゆえに私は君を存続させよう。君が不滅の存在になるその時まで――」

 ゆらめく不定形の影が、消えていく。言いたいことだけを喚き散らして、実在を愚弄しきりながら。
 だが、いまのフリウ・ハリスコーにそれを退ける言葉はない。
 口を突いてでたのは意味のない衝動だった。

「誰が、お前の手伝いなんかっ!」

 そして叫んだ時には、そこは硝化の森でなくなっていた。
 場所は再び瓦礫の山に戻っていた。満身創痍の少年も、地面に倒れ臥している男も、一瞬前となんら変わっていない。
 変わったのはフリウ・ハリスコーという少女の内面だった。
 心の狂気に浸食されていない部分、不毛の地に咲く一輪の花の如く僅かな面積の変化。

(アマワとの契約……)

 アマワは当人が一番触れられたくない物を奪っていく。
 フリウ・ハリスコーはかつてそれをはね除けた。
 だが、いまはどうだ。アマワの言ったとおり、フリウ・ハリスコーは何も信じることが出来ずにいる……

(ならあたしがどんなに壊したって――)

 アマワは奪っていくだろう。かつて彼女が帝都を破壊し尽した折、残ったのは全て奪われた硝化の森だけだった。
 ふと恐怖の念が鎌首を擡げる――ならば破壊は無意味だ。自分は無意味に破壊を振り撒いている!
 浮かんだのは故郷の村だった。彼女が壊した村。償いもできず、ただひたすら憎悪の視線の中で過ごしてきた――

(止まれ――!)

 必死で念じる。だが、無意味だった。
 すでにフリウ・ハリスコーの大部分が奪われている。狂気に没した彼女の体は命令を受け付けない。
 閉門式を唱えることもせず、ただ噎せ返るほどの破壊の中で楽しげに吐息を重ねていた。

(制御……できてない)

 フリウ・ハリスコーは狂っているのだから。
 その事実に凍り付く。
 精霊は常に御せる。かつてひとりの老人が彼女にそう教えてくれた。

(だけど、あたしはあたしを抑えることができなかったよ、爺ちゃん……)

 嗚咽を零そうとしても、泣けない。ただ彼女の表情は狂喜に濡れていた。

(止まって……止まって。止まってってば! 何で言うこと聞いてくれないのさ!?)

 胸中で自分自身を罵る。何度も何度も。
 勝手に動く体が瓦礫に躓いた時、ようやくその願いが届いたのだと思った。
 ガクリと体が傾く――だが、その上を何か光のようなものが過ぎ去っていくのを見て、自分がそれから逃れたのだと知った。
 都合良く、偶然に。

(もう……手遅れ、なの?)

 彼女は絶叫した。だがその声は声帯を震わせず、そして表情も相変わらず楽しげに笑っていた。

◇◇◇

157エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:54:26 ID:Fc72kk0o
「光よ」

 リナ・インバースの囁きに従い、夜闇の中で光り輝く刀身が出現する。
 魔法は使えない。武器は相棒の忘れ形見のみだ。
 おまけに刻印と疲労のためか、具現化した刀身はショート・ソード並みにちゃちなものである。
 警戒して地下を使わずに遠回りをして来たが、リナは事態のほとんど一部始終を見ていた。
 万全の筈だった舞台は完膚無きまでに壊滅した。ベルガーが潰されるところを見て飛び出しそうになったが、何とか自制は効いている。
 あるいは足下に転がるダナティアの首を見た時点で、そんなものは無かったのかも知れない。
 リナの意識は犯人の抹殺にすべて傾倒していた。
 犯人を見つけるのは簡単だった。銀の巨人の傍らに、血塗れの少女が佇んでいる。
 返り血と首をもぐという殺害方法は一致するように思えた。
 だが、今の自分とあの巨人では戦力が圧倒的に違う。
 考えついたのは奇襲だった。
 リナはガウリイほどこの剣を扱い慣れていない。そのため奇襲は万全の用意をして行われた。
 足音を忍ばせ、ギリギリ気づかれない距離まで近づく。
 さらには光が漏れないように刀身をマントで覆い、マント越しに刀身を射出した。
 厚手の布地を突き破り、光の矢が一直線に血塗れの少女を狙う。

 だが、当たらない。運良く躓いて転んだらしい。こちらにとっては不幸でしかないが。
 舌打ちをひとつして、リナはマントを投げ捨てた。奇襲が失敗したのなら、残る手段は急襲しかない。

「メフィスト、待機組に連絡を! ダナティアが殺された!」

 叫び、了承を確認する前にリナは駆けだしていた。
 瓦礫でできた天井開きのドーム。その壁の切れ目にいる少女にリナは接近した。手には再び刀身を具現化した光の剣。
 だが、少女が振り返る方が圧倒的に早い。
 リナの前に巨人が立ち塞がった。破壊精霊は目標を選ばない。戸惑うこともなくリナに拳を打ち込む。
 ベルガー達の戦いを見て、完全な回避が難しいことは分かっていた。
 横に跳んで拳自体をかわし、衝撃波で吹き飛ばされる勢いを利用してドームの中に転がり込む。
 瞬時に体が擦過傷と打撲だらけになったが、代わりに終と合流できた。
 メフィストは、どうやらリナが攻撃されている隙にドームから抜け出せたようだ。
 この場から死なずに離脱できるのは彼だけだっただろう。目論見がひとつ達成できたことに安堵する。

158エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:55:45 ID:Fc72kk0o
「……魔法は?」

 満身創痍の体で、息も絶え絶えに終が尋ねてくる。
 リナは首を横に振った。理解できたのだろう。終の顔に諦観のようなものが浮かぶ。

「大丈夫。勝算はあるわよ」

 呟き、リナは光の剣――異界の魔王の一部であるゴルンノヴァを軽く掲げた。

「時間がないから詳しい説明は省くけど、たぶんあの巨人にもこの剣は通じる。的も大きいしね。
 あたしが巨人の方を抑えるから、あなたはあの巨人を使役してるっぽい女の子をお願いするわ。できる?」

 終はひとつ大きく頷くと、ひとつだけ質問してきた。

「ダナティアが殺されたっていうのは、本当か?」
「……ええ。あっちに死体があったわ」
「……そうか」

 暗い声でそう呟くと、終はこちらを見据えた巨人に向かってふらふらと歩き出した。

「ちょっと!?」

 慌てて制止する。
 だが――すぐに気づいた。歩みを進めるごとにその体が変化していく。人の形はそのままに、肌が鱗へと変じていく。
 やがて折れた腕すら修復し、終は異形の竜人と化した。
 応えるように、巨人がこちらに向かって跳躍する。だが、竜人はそれを無視して下を潜り抜けていった。次の瞬間には血塗れの少女に肉

薄している。
 それを確認して、リナ・インバースも光の剣を構えた。目の前に巨人が着地する。
 さすがに斬り合うわけにはいかないので、後退しながら連続して光の剣を射出するつもりだった。
 だが、巨人の姿が一瞬で掻き消える。

「なっ!?」

 見れば、巨人は再び少女の近くに出現していた。
 終の方が危険だと少女が判断したのだろう。突進してきた終を、不意打ち気味に巨人の拳が打ちすえる。

「終!」

 叫ぶリナの元にも、脅威は迫っていた。
 少女から銀色の糸が一直線に伸び、リナの左腕にからみつく。
 慌てて振り払おうとするが、まるで蜘蛛の糸のようにどこまでも絡みついてくる。すぐにリナはこれに実体が無いことを看破した。
 しかし、それよりも早く念糸の効果は発動していた。左腕の肘関節が一瞬で限界以上の稼働を要求される。

「つっ!」

 魔族すら両断する光の剣で糸を切断するが、千切れていないだけで左腕は使い物にならない。
 さらに糸が伸びてくる。今度の狙いは首だった。これも光の剣で切り払うが、切った部分から際限なく糸は伸びてくる――


・ここまで書いたところで次話が投下されたので凍結と相成ったのですが、この後ベルガーが禁止エリアの近くでまだうだうだやってたシャナの所に飛ばされて何かかっちょいいこと言い残して死んだり、それでちょっとだけシャナが前向きになったり、リナと終コンビが破壊精霊とダンスったり、待機組までいこうとするメフィストとそれを狙撃するパイフウとの心理戦があったりと、書ききれる自信なんざこれっぽちもなかったので凍結で良かったと思います。メフィスト書きにくいし。むしろ書けないし。しかも今見直してたら致命的な欠陥があったし。


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