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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第九章
606
:
崇月院なゆた
◆POYO/UwNZg
:2024/01/30(火) 13:05:13
マイディアが無数の光の粒子となって消えるのを確認すると、なゆたは立ち上がり胸に添えた右手をぐっと握り込んだ。
『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』としての矜持と、三つの世界の命運。
そして、同じ相手を好きになった者同士の想いを懸けた闘いだった。
神奈川県から無理矢理召喚され、アルフヘイムで生き残るために遮二無二闘い続けて。
たくさんの強敵と対峙してきたけれど、マイディアは間違いなく最強の相手だった。
日本ランキング一位のチーム、リューグークランのメンバーだからというだけではない。
単純なランキングの上下のみならず、人間としての力量を見ても、マイディアはかつてない強者であったのだ。
しかし、なゆたはそんな相手に勝った。
勝つということ、それは即ち下した敗者の想いを背負い、受け継ぐということ。
>だから月子先生。死んじゃ駄目だよ……
マイディアの言い残した言葉を、胸の中で反芻する。
エンバースにふたたび大切な者を喪う絶望を味わわせないために。この世界を理不尽な崩壊から救うために。
どんなことをしてでも、生きる。
「……マイディアさん……。
約束するよ、わたし……絶対に死んだりしない。
必ずローウェルを倒して、三つの世界の消滅を防いでみせる。
エンバースのことも……もうこれ以上悲しませたりなんてしないよ。
見てて。絶対に後悔なんてさせないから」
自分を信じ、向後を――想い人を託してくれたマイディアの心に応える。
それが、今のなゆたに出来る最大限の誠意だろう。
だが、それはあくまでなゆたの覚悟であり、実際決意した通りに物事が運ぶとは限らない。
だから。
……サラリ。
エンバースや仲間たちの許へ向かおうと爪先を向けたそのとき、自然に下ろした左の手のひらから、
ごく微かな光の粒子が砂のように零れたことに、なゆたは気付かなかった。
>さっきも言ったが、お前は報いを受けるべきだ。
お前のせいで数え切れないほどの人が……いや、命が奪われた。
イブリースなんかは、今でもお前を文字通り捻り潰してやりたくて堪らないだろうよ
なゆたがエンバースの許へ歩み寄り、合流したのは、他の仲間たちが集合した最後のことだった。
エンバースがダインスレイヴの切っ先をミハエルの喉元に突きつけている。
ミハエルは抵抗しない。このままエンバースに一刀の元に斬り伏せられようと文句は言わない、
とその蒼い瞳が言っている。
「……エンバース」
思わず、小さく名前を呟く。
けれども、エンバースは自らミハエルを手に掛けるようなことはしなかった。
魔剣を下ろし、更に言葉を紡ぐ。
>だが――俺の仲間達は、きっとそういう私刑はよしとしないだろう。
お前はこの戦いが終わった後……法に則って裁かれるべきだとか、そういう話になる筈だ。
この世界の法では解釈出来ない部分が多すぎるし……イブリースの事も考えるとニヴルヘイムの法が妥当か
>……別に裁く法律を絞る必要もねえよ。こいつは3世界に跨って罪を重ねてんだ。
ラスベガスでもこいつに何人も殺されてる。こいつが指揮った魔物に食い殺されてる。
議論すべきは量刑じゃなくて、『どこが』こいつを縛り首にするかってことだけじゃねえか
エンバースの言葉に、明神も同調する。
>止めるなよなゆたちゃん。こいつはこのセンターを自分の理想の決戦場にする、
それだけのためにラスベガスを火の海に変えて、たくさんの人を殺した。
命に対する価値観が根本的にズレてんだ。野放しにすりゃまた同じことをする。
俺はこいつの命よりも、こいつがこの先殺すであろう人たちの命を助けたい
>なゆ…私刑が正しい選択だとは言わない。でも…エンバースを止める権利なんて…僕達にはない…だから様子をみよう
エンバースはいつだって…僕達の予想を超えてきたからね
明神とジョンの言葉に、なゆたは明確な返事が出来なかった。
確かに、罪を犯した者は裁かれなければならない。
今回のことで、アルフヘイムとニヴルヘイム――そしてミズガルズ、三界に住まう多くの生命が喪われた。
その責任がミハエルにあるというのなら、むろんミハエルは自身の犯した罪に相当する罰を受けなければならないだろう。
ただし――
それは“ミハエルが罪を犯していたなら”の話だ。
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