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第三外典:無限聖杯戦争『冬木』
1
:
名無しさん
:2018/11/14(水) 22:54:34
人斬り 真柄無双 偽なる聖剣
大逆の魔槍
聖槍
輝ける/狂えるガラティーン
無限聖杯戦争『冬木』
鋼鉄の航海者 オルタナティブ・フィクション
無名
序列五十九番
アーサー・オリジン
54
:
名無しさん
:2019/05/20(月) 20:16:48
「まあいいか。ここは後回しでも……大体のことは把握できた。実地調査は大事だって先生も言ってたし」
……把握できた、ということは、彼もまたここに至るまでの様々な事情を調査していたということだろうか。
そうなれば彼もまた参加者だ。いずれは敵となる相手ではあった。だが――――
「……ち、ちょっと待ってください」
立ち去ろうとするその背に声を掛けると、ぴたりとその足を止める。
振り向いたその表情には、疑問符が浮かんでいた。
「……あれ、君は……NPCじゃないのか?」
「違います、それよりも……」
どうやら彼は、赤霧火々里を"NPC"の一人として認識していたようであった……それに関しては引っかかるものがあったが、今は重要ではない。
彼の前へと一歩、進む。その進路に立ち塞がるようにというべきか、影を踏むように、とでも言うべきか。
「私に、この聖杯戦争について教えてもらえませんか?」
「……は?」
彼は正しく面食らった表情で、赤霧火々里を見下ろした。
「……いや、君、分かってるのかい。これは聖杯戦争で、生き残るのは唯一人。僕とは敵同士なんだけどな」
「いや、まぁ、はい……」
そして紡がれる声色は、呆れたことを隠そうともしていない。
それは分かっている。だが、どうしても情報は必要だ……何より、これは直感ではあるのだが、彼ならば教えてくれる気がするのだ。
本当に何となく、恐らく理由はないのだろうが。腕を組んで、保健室の扉に凭れ掛かりながら、彼は少しの間思考した後。
55
:
名無しさん
:2019/05/20(月) 20:17:10
「このまま君を突き放すのは簡単だけど……何となく、君は放っておけないな。いいよ、分かった」
「……あ、ありがとうございます!」
「その代わり。条件が一つ」
これにて一件落着……と思っていたところに、そう言われる、それはそうだろう。このままでは彼に得がない。
立てられた人差し指を視線が追いかける。
「君のサーヴァントと、そのクラス、そして"真名"を教えてくれ。君の為に時間を割くんだ、これくらいの情報アドバンテージはもらおう」
サーヴァントの姿と、クラス、真名。何れもこの戦いでは貴重な情報であり、特に真名は……あまり言ってはいけないと、セイバーも言っていたが。
「……分かりました」
背に腹は代えられない――――そう頷いた同時に、セイバーが実体化する。
その蒼色の瞳を訝しげに細めながら、彼のことを見据えていた。それから何か言いたげに、こちらへちらりと視線をやったが、やがて堪忍したように。
「サーヴァント、セイバー。真名を、アーサー・ペンドラゴン」
「……アーサー、あの"騎士王"か!? ……とんでもない強運だな、君は」
面食らった様子で、思わずそう声を上げていた。セイバーはやはり不満気に、その人差し指を口元に立てて、声が大きいと示す。
謝罪のジェスチャーと共に、その強運を讃えられる。自分でも知っているくらいに有名な英雄だ、やはりというべきか、当たり、ということで合っているのだろうか。
「僕はケイ・ミルカストラ。一応魔術師だ、君の名は?」
「赤霧火々里です。よろしくお願いします!」
それから、彼、改めケイ・ミルカストラは、廊下を一度きょろきょろと見渡すと、少しだけ考え込むような素振りを見せた後。
「……とりあえず、図書室にでも行こうか。ここじゃ少し落ち着かない」
「ですね」
気づけば扉の向こう側から聞こえてくる声が、性質の違うものに変わっていた。
お互いに顔を見合わせると、どうやらそれに対して抱く感情は同じようで――――肩を落としながら、歩き出した。
56
:
名無しさん
:2019/05/20(月) 20:17:28
■
「――――というわけで、ムーンセルの英霊システムはこんな感じかな」
それからしばらく、赤霧火々里は、図書室にて、ケイ・ミルカストラより……聖杯戦争について、ムーンセルについて、英霊について、というものを学んだ。
なにか本当に教師でもやっていたのか、教え方はとても分かりやすいもので、すらすらと内容が入ってくる。彼からすると、"師の教え"の一部であるそうだが。
……その間。セイバーは、世界史資料の棚を険しい表情で見つめている。何か探しているのだろうか。
「それで、これらは本来、サーヴァントと同様に、ここに来た時点でムーンセルから与えられる情報なわけなんだけど……なんで知らないんだ?」
「さぁ……」
そうは言われても、分からないものは分からない。そのうち戻るという話だから、あまり重要視はしていないが。
ケイは額に手を当てながら、やれやれと首を振った。疲れはないようだが、訳が分からない、ということらしいが……。
「まあいいさ。続けよう。それで、僕達は……ムーンセル・オートマトンに聖杯戦争へ招待されたわけだが……それ以前。
何故、ムーンセルは……"世界線を問わず"、"無理矢理に"、"無差別に"、聖杯戦争の参加者を集めなければならなかったのか」
――――――――そう、問題はそれだ。
何故私達は、この戦いに招聘されたのか。何故、私達は殺し合わなければならないのか……それだけが、未だに濃霧に包まれている。
生唾を飲み込む。緊張が走る。心なしか、彼の表情も強張っているように見えた……少しだけ間を開けてから、ゆっくりと、言葉が開かれていく。
57
:
名無しさん
:2019/05/20(月) 20:17:41
「結論から言おう。"ムーンセルの外側は、既に消滅している"」
……消滅、している?
理解が及ばなかった。崩壊しているとはどういうことか。荒廃しているだとか、崩壊している、とかならばまだ意味も通じやすい。
戦争だとか何だとか、そういうもので壊れる……いや、それですら信じたくはない事実だが、そもそも、消滅している……つまり、消えているとはどういうことか。
「消えているんだ。一切合切、地球どころか、宇宙すら。この、ムーンセルただ一つを残して」
――――――――ならば、この世界の外側には。
「ああ。"何も存在しない"。ムーンセルは、可能な限り生命を"霊子化"・"回収"し、この世界に"保護した"。
この"世界"には。僕達聖杯戦争の参加者と、"冬木"に暮らす一般人。彼ら以外には、存在しない」
58
:
名無しさん
:2019/05/20(月) 20:18:04
第二話 EXTRA/over the FULLMOON 四節 終
59
:
名無しさん
:2019/06/23(日) 23:53:10
夕暮れの冬木を、間桐凱音は身体を引き摺るように歩いていた。
そうしているのは、おそらくはマスターの中でも、彼ばかりではなかった。ルールを知る者たちの大半は、汎ゆる目的を以てこの冬木の街に息を潜めていることだろう。
(……ただ戦いを待つばかりじゃいけない。決戦のためには、冬期の中に隠された"ゲートを探さなければならない")
或いは、凱音と同様に……決戦のための入り口、"ゲート"を探し。或いは……それを探す者達を、刈り取るために。
とは言え、日が昇るうちに激しく動き回る者達は居なかった。冬木に住む人間達を脅かし、或いは殺害したものには、ムーンセルからペナルティが加えられる。
また、設定されるゲートの位置は、あろうことか個々人によってランダムとなる。そのため、誰かのハイエナとなるという手法もまた存在しない。
これを探し出すために必要な技術は、魔力の探知……僅かに、微かに残る痕跡を見つけ出して、そこから場所を特定する。運が良ければ数分だが、運が悪ければ……。
日が沈んでからの行動は自ずと危険になる……が、制限時間は非常に短い。そのために、可能な限り時間を使いこれを探し出さなければならない。
(俺自身が忙しく動き回る必要がないってのはメリットだ。今回ばかりは間桐の魔術に感謝だぜ……)
路地の裏へと足を踏み込む。少しの暗がりに身を潜めたならば、その指先をゆっくりと空へと差し出した。
……巨大な羽音を立てて、一匹の"蟲"がその指先に止まった。これこそが、彼自身が有する魔術……間桐の使い魔、その中でも"視蟲"と呼ばれる、術者と視界を共有する偵察向きの蟲だ。
これによる情報収集は、他の参加者とは違うアドバンテージだった。既に幾つかの目星をつけた凱音は、順調な作業に口元を歪めて。
「――――――――ムーンセルは、破れた世界から他の世界へ接触し、可能な限りの可能性を回収。その後、"月へと閉じこもった"」
――――――――視界の端の影が、蠢いた。
冷たく背筋を這い登る感覚。脳髄を貫いたかのような粘り付く声。一瞬でその身体が強張って、その影から目を放すことができなくなる。
蛇睨み、という言葉があるが、あれは天敵に睨まれた捕食者、と要約できるだろう。であれば、それは正しく……天敵、人間にとっての天敵に他ならない。
人間を食らう、或いは特攻する、生物としての正しく根本的、基本的な摂理として上位に位置する存在――――それがゆっくりと、影の中から這い出てきた。
息を呑むような金髪灼眼の女。白いドレスと、片手に持った杖が叩く音が、しゃなりと、背筋を伸ばし、礼儀正しく立っているのだ。
60
:
名無しさん
:2019/06/23(日) 23:53:27
「彼はあらゆる可能性の中から、最も相応しいものを聖杯戦争によって選び取り、ムーンセルを託すことを決めた。
マキリ・ゾォルケンの遺児である貴方は……それに何を見出しているのかしら」
「レイ・ヘイグ……!」
彼女の顔には見覚えがあった。忌々しい記憶ばかりであったが、確かに。
危害を加える気がないことは分かっていたとしても、嫌悪感と、恐怖心を抑えることが出来なかった。その身体に、本能以上に刻み込まれているのだ。
まるで親しげに。懐かしげにその瞳を細めることすらしている人外が、余りにも恐ろしかった。いっそ白々しく……事実そうなのであろうが、忌々しくて仕方がなかった。
「だ、だから言っただろ! 俺はあの爺さんとは関係ない! 俺は俺だけの力で出来る、証明してやるって何度も!!」
威嚇するように、大きく叫ぶが、やはりそれは彼にとっても、彼女にとっても、威嚇の範疇に収まるものでしか無かった。
レイ・ヘイグは可愛らしいとばかりにその姿に笑えば、一歩ずつ、ゆったりと歩を進めた。ちょうど彼との間を狭める形であった。口元には、小さく笑みを湛えている。
「――――――――本当に?」
射抜くようにそう言った。
強がっていた睨みつける表情が、完全に恐怖心に染まったのがその時だった。恐怖心から汗が噴き出して、身体の末端が勝手に痙攣した。
「その地震がある? 仮にも、数多の世界から選び出された候補者達の中から、勝ち抜いていく実力と……覚悟が、貴方に?」
近付いていく、近付いていく。それが断頭台の階段のようにすら、凱音は思った。
その手が首にかかるか。腹を貫くか。喉元に牙を突き立てるか。一息に、殺せる位置にそれが立った時――――――――エーテルが弾ける音が、そこに響いた。
61
:
名無しさん
:2019/06/23(日) 23:53:42
一つ、遅れてもう一つ。次に続く巨大な衝突音。ビリビリと空気が振動して、両者の肌に錯覚ではなく伝わってくるほど。
現れていたのは、二騎のサーヴァントであった。
一騎は狂戦士。二メートルを超える大柄な身体を東洋の鎧で覆い、更にそれを超える程に巨大な刀を、正しくレイ・ヘイグへと振り下ろし、一刀両断せんとするところであった。
一騎は槍騎士。狂戦士ほどに大柄ではなかったが、西洋の鎧は全身……顔までを覆い、その手に持った純白の槍が巨大且つ剛力極まりないそれと辛うじて拮抗しているようであった。
「救い手は不要。主殿には確かに"戦乱を勝ち抜く器"が在れり――――人外八卦何するものぞ、そんなものは、俺の刀が切り拓く」
「そうか? 俺にはただのヘタレに見えるけど……人は見かけによらないってやつ?」
狂戦士と言うには、余りにも理知的なものであった。然しながらその在り様は確かに狂っているというに相応しい。その武勇は目前の騎士に勝るとも劣らない。
槍騎士から漏れる声は若い男の声であった。その威圧に一歩たりと怯むことなくその拮抗の中で、何度も純白の穂先を突き立てんとし、それが押し返される。
僅かながら、確かな攻防であった。剛力無双たるバーサーカー、だが技量で言えばランサーもまた負けず。
「……そ、そういうことだよ! 俺は必ず勝ち上がって……お前だって倒してやる。見縊るなよ――――畜生、畜生、チクショウ!」
間桐凱音は、捨て去るようにそう叫ぶと、路地裏の入り口へと駆け出した。
賢い選択であるようだった。それに合わせて、バーサーカーが更にその腕に力を込めれば、ランサーも後方へと飛び退らざるを得なかった。
然しそこはまた歴戦の英雄足る彼は、その槍を構え直して、凱音の背中へと穂先を向けて、その背を追いかけようとしたが、更にそれにバーサーカーが大刀を向け。
「――――――――止めなさい、ランサー」
「……はーいよ、マスター」
それは振るわれることはなく、それを見届けたのであれば、バーサーカーは直ぐ様実体化を解き、霊子へと消え失せるのであった。
レイ・ヘイグは微笑ましいかのように彼を見送った。彼女には思惑があったが……その通りに動かなかったことに、少し嘆息した。
「ねぇ、ランサー。今、私、少し怖かったかしら?」
62
:
名無しさん
:2019/06/23(日) 23:53:59
■
「……お前の思い通りになんてなるか。俺は必ず、勝ち残って……桜を……いや……」
再度、間桐凱音は夕暮れの街を歩いていた。表通り、人々は疎らながらに……殆どが帰路に着くのだろう。
きっとこの中にはマスターも存在するに違いない。見分けは、まあ……付くわけがないだろうが、それでも通りすがる人々一人一人に嫌なものを感じてしまう。
それが気のせいであったとしても、だ。
「……校舎に戻るか。下手に外を出回る必要もないしな……」
危険は徹底的に避ける。決戦の時までに脱落するなど、元も子もない。校舎内、それもマイルーム内はムーンセルが設定した絶対安全圏だ。
当日まで生き残るだけならば、あそこに籠もっていればいい……そう思いながら、歩を進めていた。警戒は、確かに全体へと向けていたはずだったのだが。
彼に衝突する者が居た。どん、という衝撃は非常に軽いものであった。衝突自体も、その腹の辺り程度で小さく……一体何なんだ、と視線を下ろしたのであれば。
「……痛い」
少女だった。琥珀色の瞳に、鈍色の髪……背丈は低く、幼く見える。穂群原学園の制服の上にパーカーを羽織っていることから、学生なのだろうが。
そこにどっしりと尻餅をついて、瞳には僅かに涙を溜めていた。その瞳は確かに凱音の方を見上げて、抗議するような視線を確かに上げていた。
ぐっ、と凱音はたじろいだ……予想外の事態であった。目の前の彼女は、まるで脅威には感じられない。こんなところで時間を食いたくはないと、苦々しげに。
63
:
名無しさん
:2019/06/23(日) 23:54:20
「あーあー、はいはい、ゴメンゴメン。じゃ、俺は……」
そう言ってくるりと反転した。さっさとそこから離脱したかった。面倒事は御免だった。
――――そこに居たのは、忌々しい一回戦の対戦相手。赤霧火々里の姿だった。
「……赤霧ぃ……!!」
ここであったのは偶然だが、一つかかせられた恥を明かしてやろうかと思った。少しばかり痛めつけてやろうかと、蟲を使うことも考えていた。
この街中、大きな事はできないが、少しくらいなら……相手もそう考えているだろうと身構えもしていた。だが、彼女は……その手を上げて、人差し指を立て。
こちらを、指差し。
「――――――――イジメ!!!」
「……はぁ?」
訳が分からなかった。先ず人を指差すな、と思った。
然しその指先が、微妙に自分を指差しているもので無いことに気づき、ゆっくりとそれを辿って、視線を下ろした……そこには。
涙を目に溜めながら、自分の服の裾を掴んでいるパーカーの少女の姿があった。
ああ、なるほど。これはイジメだな――――――――間桐凱音は、妙な納得をしてしまった。
第二話 EXTRA/over the FULLMOON 五節 終
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