したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

なりきりリレー小説スレッド

48君が涙を流すなら、君の涙になってやる ◆r7Y88Tobf2:2016/08/27(土) 05:10:36 ID:p8T3DASU


「……もう、大丈夫です。
 大分落ち着くことができました……」
「うむ、よく頑張ったである。メリー殿」

やがてそのままたっぷり数分が経過した頃、目元を真っ赤に腫らしたメリーが静かに声を上げる。
虎次郎はそれに短く返答を残して、ゆっくりと膝を伸ばし立ち上がった。
メリーもそれを模するように、自らの体を浮遊させ今度は自分から虎次郎と同じ目線に合わせる。

「そういえば、お互いにまだ名乗りを上げただけでござったな……
 どうでござろうメリー殿、今後の作戦会議も兼ねて情報を交換せぬか?」
「はい、そうですね……それに、名簿も見なきゃ……」

そう、やる事はまだ沢山残っている。
彼らはこのゲームが始まってまだお互いの名前を名乗っただけなのだから。
人間と小人、ニンジャと魔法少女――本来ならば決して出会う事がなかったであろう異質な二人。
皮肉にも殺し合いという場において巡り逢い、意気を投合させた。
反乱の意思を掲げる二人の男女は、何も描かれていない白紙にどんな物語を紡ぎ出すのか。
本人達ですら知りえないストーリーの幕開けは、案外穏やかに終わりを迎えたようだ。




【A-1/一日目 朝】
【月影虎次郎@新俺能】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 不明支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:運営を滅し、皆で生還する
1.まずはメリーと情報交換を行う
2.その後余裕があれば同志を集める

※名簿はまだ確認していません
  その為他にどんな知り合いが参加しているのかまだ理解していません


【メリー・メルエット@魔法少女】
[状態]:健康 精神疲労(中) 目元が腫れている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 不明支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:誰も殺さず皆で生き残る
1.虎次郎と情報交換を行う
2.虎次郎さん……信じても、いいかな…

※名簿はまだ確認していません
  その為他にどんな知り合いが参加しているのかまだ理解していません
※制限から普段より魔力の消費が激しくなっています

49闘志、脈々と:2016/08/27(土) 18:09:18 ID:.3ytU0hQ
早朝というにはやや遅い、陽も昇りきった朝の駅

胸いっぱいに吸い込めば心地の良い澄み切った空気は、これから血に塗れた殺し合いが繰り広げられる場所と同じものだとは到底思えなかった
構内は不気味な程に静かで、無人の改札を抜けても警報が作動することは無い。町全体に電気が通っているのかすらも怪しかった
駅のホームに停車したまま、永らく動いた気配のない電車。機器類は未だ生きているのかもしれないが、駅隣の変電所にも稼働の形跡はない

陸続きである以上、このまま線路伝いに歩いてゆけばアリスの支配から逃れられるのかもしれない
しかしそれを阻むのは、彼女等自身の首を絞めつける武骨な首輪。生命に対する冒涜そのものに等しい死の枷であった。

「私達は、一緒に飛ばされてきたみたいだね」
「…オクタヴィアは一緒に来れなかったみたいだけどな」
「心配だけど…でも、オクタヴィアさんなら大丈夫だよ…きっと」

駅に留まる電車の中、シートに寝転がる少女、隋土天子とその親友、隣に腰掛けたルーシー=グラディウス。
ルーシーは無数の参加者達(あるいは敵対者たち)の中から運良く顔見知りと出逢い、
その上こうして行動を共にできることの喜びをありありとその表情に湛えながらぽつりと呟くのであった
対して天子はあまり明るい表情も見せずに、ただ散り散りになったオクタヴィアの安否を想う

厳密に言えば二人は同じ場所に飛ばされて来た訳ではない。転移は完全なるランダム。運営が何かの操作を加えた訳でもなかった
たまたま二人が同じ駅の近くに転移し、あてもなく向かった駅のホームの向かい同士、見知った顔がある事に気が付き今に至るのだ
ルーシーの持つ名簿に隣から視線だけ向けて、気が気でならない表情を浮かべて呟く天子
それは同じく親友であるオクタヴィアの身を案じての事だ。名簿にはそれ以外にも見知った名はちらほらと在ったが

「ところでこの名簿…あまこ、見た?」
「え、何が…?、あ…」

「相良って…ケンさんの知り合いかなぁ?」

それよりも、とルーシーが天子に見えるように参加者名簿を差し出すと、天子は何だよと身を乗り出す
俯せになり、ルーシーの膝の上に胸から上を乗せるような格好になり、名簿を覗き込む。ルーシーの指先は、一人の少女の名を差していた
『相良遥歩』という名前を見て、天子は目をぱちくりと瞬きさせた。相良と言えばこの二人にとって他の誰でもない、

まず連想するのは能力者『相良健一』。ルーシーの友人であり、天子にとってはかけがえのない人物
ルーシーは遥歩が健一の兄妹、もしくは親戚にあたるものとして想像したようで、それで天子に心あたりを聞いてみたのである
ひょっとすると天子なら『相良遥歩』について何か知っているのかもしれないと。ただ、その名を見た当の天子の反応は微々たるものだ。

「ケンに兄妹なんて居たっけ…?あたしは知らないけどなぁ…」
「でも、苗字も一緒だし…」
「ルーシー…苗字が一緒ってだけで親戚だとは限らねーだろ…?」

『相良遥歩』について考察するルーシーの、その膝の上で天子はルーシーの考えていること、それの大凡をの意思を汲み取っていた
ひょっとすると親戚かもしれない、だから何かある前に助けに行こう。それがルーシーの導き出した答えであったのだ

それを承知でルーシーの考えを軽く一蹴してしまう。そんな名など聞いた事も無い。ケンの口からも、一度も発されたことのない名前だ
普段、燃え上がる炎の様な激情家である天子も、今度ばかりはさすがに何にでも飛びつくほどの元気を持ち合わせていない
ただでさえこんな望んでもいない殺し合いに参加させられて機嫌は斜め45度にまで到達しているのに、これ以上余計なことは考えたくなかった

「それはそうだけど…」
「私には何だか…他人のようには見えないけどなぁ…」

一蹴されたルーシーはそんなこと気にも留めずに、参加者名簿と地図とで交互に目を通していた。自分たちのいる場所に印をつけ、コンパスで北を確認
天子の気持ちはお構いなし、とまでは言わないが、実際結構おいてけぼりであったのは互いの温度差の所為なのだろう
ジト目でそれを見上げる天子を尻目にルーシーは顎先に人差し指を当て、首を傾げて唸るのであった



50闘志、脈々と:2016/08/27(土) 18:10:45 ID:.3ytU0hQ
――同時刻 A-1地点――

肉と肉のぶつかり合う、重く鈍い音が鳴り響いた。そしてそれに続く、痛みに呻く声も
舞い散る紅い飛沫、ドサっと大きな音を立てて仰向けに倒れ、傷だらけの身体で額の汗を拭うのは噂の少女
バンドマン風の黒い長袖のTシャツと、ボロボロのダメージジーンズを身に着けた『相良遥歩』であった

「はー…はー…負けた…」
「っしゃァ!勝った!!」

遥歩は深い森林の奥深くにて、肩で大きく息をしながら悔しそうに呟く。額から流れ落ちる汗は拭っても拭っても後を絶たない
それを上書きするかのように両手でガッツポーズと共に勝鬨の声を上げたのは額に鉢巻、黒い長ラン姿の少女、『高天原いずも』である
静かな森にて引き起こされた喧騒、番長対不良の対決は、いずもが番長の面子を見せつける形で幕を閉じた。

「お前…つえーな…くっそぉ…」
「あたしもまだまだ…鍛え方が足りないってワケか…いいよ、もってけこのやろー!」

爆発を放つ鉄拳にボコボコに殴られ、身体中がめきめきと変な軋み方をしているのが分かる
そんな身体で無理矢理起き上がり、デイパックを手に取ればそれを乱暴にいずもへと投げつけた
敗者には当然の義務として、勝者に搾取されるという運命が待っている。遥歩の場合は即座に殺されるという発想に至るほどの想像力が存在しなかったが
いずもの足元に落ちるデイパック。しかしいずもはそんなものには興味ないとばかりに、それを足で自らから引き離すのであった

「え…?いや、いらねぇよそんなモン、それ無いとお前死んじまうだろ?」
「いらねーのかよ!じゃあなんであたしに襲い掛かって来てんだこのクソ野郎!!」

デイパックを取り上げれば死ぬ、と理解しているだけマシと捉えた方がいいのかもしれない
この二人は根本的になにをすればいいのか、このゲームのルールを漠然としか理解していなかった
キレながら突っ込みを入れる遥歩、彼女が襲われた理由も、元を正せば互いのキャラ被りに対する口論から始まるほどに些細である

アリスによるバトルロワイヤルが開始されてそれから一切、この二人はデイパックに手をつけてもいない
ゆえに自分達がどの場所にいるのかも把握しておらず、他の参加者たちの事も一切把握できていなかった
この二人にとってデイパックは食べ物と水程度の認識であり、それほど重要なツールの類は存在していないのだろうと割り切っているのだ
それが原因でバトルロワイヤルはよりいっそう危険なものと成り果てているが、皮肉な事にこの空間には殺し合いの緊張感というものが一切存在していない

だがそれも風前の灯、この静けさが長く続くことはなかった。
二人の意思に否応なく災いを引き起こす”龍”は、既に低く唸りを上げながら二人の少女のすぐ傍へと迫っていたのである

「……」

「……なぁ」
「…んー?…何だよイキナリ…」

暫しの沈黙を挟んで、いずもが遥歩へと口を開いた
デイパックを取り戻し、それを体育座りのまま抱き締めて顎を乗っけていた遥歩は、気だるげにそれに返事
いきなり暴れたせいか少し微睡みの中へと堕ちかけていた。眼を細めながら、遥歩はいずもへと視線を返す

「…そもそもオレ達、何で殴り合ってたんだっけ…?」
「は?何でってお前……―――!!」

だがまぁそんな事は一切、いずもは最早記憶の隅にすら留めていない
いずもの口から飛び出た言葉に遥歩は驚きと、そして呆れの入り混じった表情で怒鳴る
正直余程の理由でもなければいちいち喧嘩の理由を憶えていられない程の頻度で殴り合っているのかもしれない
彼女の残念番長としての伝説を聴く限りは、哀しい事にその説はおそらく正しい
座り込んだままいずもの額を指で差し、反論しようとする遥歩、そしてそれを突っ撥ねようとするいずもであったが

刹那、二人は凍り付いた。

遥歩はまるで猫のように素早く反応し肩越しに背後の茂みを凝視する。いずもの視線も、遥歩と同じ所へと必然的に釘付けになっていた
闘争を重ねる事によって培ってきた経験が、否、人間としての生存本能が”彼女”の到来を告げていたのだ。人類種の天敵である”龍”の到来を
このバトルロワイヤル中、唯一無二の参加者側の龍である彼女の闘気は、その姿が見えずとも信じがたい程のプレッシャーを放っていた
茂み越しにビリビリと伝わる怖気に、二人は息を呑んでその場に視線を向けたまま、立ち上がって少しずつ後ずさる

51闘志、脈々と:2016/08/27(土) 18:11:22 ID:.3ytU0hQ
「感じたか?」
「…ああ」

互いに顔を見合わせれば、聞くまでも無いと察する。これ程までの存在感を醸し出されて気が付かないのは余程の愚か者以外に居ないだろう
月並みな表現だが、全身から冷や汗が噴き出るのが分かる。いずもは空手を思わせる独特の構えで敵を待ち構える
遥歩は父親譲りの、ボクシングのエッセンスの含まれた足技主体の構えで、いつでも先手として鋭いジャブが叩き込めるように右の拳を再び温めていた

「来やがるぜ…!」

汗ばむ拳を握り、構えた。茂みを掻き分けるような音が聞こえ始めたのはそれから少し後だ
二人は目を細めて、殺気の主がいつ飛び出してくるのかなどと考えながら茂みを凝視している
それから待ち続ける事暫し、獣道を掻き分けるようにして林道へといざなわれて来たのは白いゴシック風のドレスに身を包んだ細身の少女であった
少女の名はリラ。龍の眷属の中でも若手の、未だ人間臭さを漂わせている未熟な龍だ

「…ひっ!?」

二人を見るなりビクリと肩を震わせ、小さく悲鳴を上げる。その様子は縁起でも、擦り込まれたような動きにも見えない
その瞳は泳ぎ、怯えきっており、どこか逃れる場所を求めて裸足のまま森を彷徨っていたのだろう、両足には血が滲んでいた

しかし二人が警戒を緩める事は無かった。それどころかより一層警戒を強め、いずもは腰を深く落として先程よりも重くどっしりと構える
遥歩に至ってはフットワークを刻み始め、もはや既に臨戦態勢を通り越して意識だけは”戦闘中”の段階へと進めていた
それは先ほどからひしひしと感じていた殺気と圧力、それらが彼女の身体から発せられているものだということがはっきりと判ったからだ

「……に、人間…なんでっ…こんな、ところに……っ」

そんな二人に気圧されてか、リラは慌てふためき、狼狽えたまま二人を隠すように覆いかざした手を振る
しかし一見怯えた少女のそれと遜色ない、ただそれだけの動作に。
彼女の人間に対する恐怖、そして敵意の明確さが如何なるものかがありありと現れていた

「や、やだ…こないで……っ」
「嫌ぁぁああぁあああっっ!!!」

翳した手の軌道に添って生成される6つの球体。彼女の悲鳴と共にそれらは輝きと熱量を一気に増す
ソフトボール大の小さな光球だが、その一つ一つに生身の人間を根こそぎ消滅させるほどの熱量を秘めていた

それらがいずもと遥歩目掛けて一斉に発射され、ホーミングのような軌道を描いて外角方向から挟み撃ちにする
しかしそれらの軌道のコントロールは乱雑極まりなく、その場に立ち尽くしていただけの二人に掠りもしない
だが侮ってはならない。腐っても龍の眷属の力は、触れた地面を容易く抉り、ただ一撃の下に大軍を下す威厳を秘める
砂塵が舞い上がり、その衝撃で二人はリラから数メートルほどさらに引き剥がされる。傷付いた身体には石礫や木片が霰のように降り注いだ

52闘志、脈々と:2016/08/27(土) 18:12:08 ID:.3ytU0hQ
「うおぉッ!?」
「ちぃッ…!!」

吹き飛ばされてしまわないようしっかりと踏みとどまり、咄嗟に顔を、取り分け眼を覆って破片を防御する
二人にとって僥倖であったのが、相手が錯乱した状態のリラだったということだろう
これが冷静な、それも熟練の龍であれば、今頃二人の首は地に転げ落ち、心の臓は文字通り相手の手中に在った筈だ
人間の要素を色濃く残す未熟な龍の眷属であればこそ、今なお二人の首の皮は繋がっている

リラとて素人ではないが、基本的には外敵との戦闘を好むような性格ではなかった。人間を殺すことに悦びを感じると言うより、怖気ゆえに人を殺めていたのだから。
しかし今度ばかりは状況が違う。ただでさえ龍たちから引き離され、誰の応援も無しに無数の人間たちの下へと放り出された
それも【エウリュデュケ】もなしに、この場にてただ一人生き残れと。今のリラには”心の拠り所”と呼べるものは、何一つとして存在していなかったのである。
そうなれば幾ら臆病なリラとて理解する。この身体を支配する恐怖から逃れるには、人間たちすべてを滅ぼすほかないのだと

リラは魔力の消耗も計算に入れず、処理が追いつくだけありったけの光球を生み出し、遥歩たちの逃げ道を塞ぐ
誘導できぬのなら相手から当たりに来させれば良い。当たらぬなら避けられぬ状況を作ってやればよい。
その数五十、いや百か、否数える事すら困難な数の熱量の塊が3人を囲むかのように、ドーム状に展開されていた
普段のリラには到底不可能な芸当、しかしこれを可能にするのは彼女の生への執着と、恐怖から逃れようとする狂気染みた拘りである

狂える龍を宥め、止める術など存在し得ない。卑小な人間は岩に隠れて丸くなり、荒れ狂う龍の発狂が収まるのを待つしかないのだ
しかしこの二人は人間の中でも特異な存在である。一般的な人間には存在しない、龍殺しにも匹敵する異能の宿主たち

「いきなり現れといて”来ないで”だぁ…?てめーみたいなバケモノ…」
「こっちから願い下げだぜド畜生ッッ!!」

猛る遥歩、それに合わせ鬨の声を上げるいずも。一時的な停戦協定は、無言のうちに固く結ばれていた。共通の敵を目の前にして。
激しい爆発音が二度、連続する。リラのものではない。それが死闘の幕開けを飾る、いわば徒競走の銃声のようなものだった
一人の少女は両腕に燃え盛る炎を纏い一目散に駆けだす、もう一人は地面を蹴って爆発させ、強烈な加速度を経て既にリラへと飛びかかっていた

朝の森にけたたましい激突音が響く。衝撃波が木々を揺らし、無数の鳥たちが宙へと舞った――

53闘志、脈々と:2016/08/27(土) 18:15:04 ID:.3ytU0hQ
【D-8/一日目 朝】

【隋土 天子@旧俺能】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ルーシーと協力し、ゲームから脱出
1.殺し合いなんてまっぴらゴメンだね
2.オクタヴィアの無事を確かめねーと…
3.はるほ…とかいうヤツ、ケンの知り合いなのかな…

【ルーシー=グラディウス@旧俺能】
[状態]:健康
[装備]:妖刀叢雲@境界線
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:天子と協力し、ゲームから脱出
1.隠れるのもいいけど、前向きに行動しなくちゃね
2.オクタヴィアさん、鏡子さん…どうか無事で
3.「あゆむ」だよ、あまこ…

【A-1/一日目 朝】

【高天原いずも@学園都市】
[状態]:健康 全身打撲(軽度)
[装備]:釘バット@厨二
[道具]:基本支給品 鉢巻
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る
1.襲撃者リラを倒す

【相良 遥歩@新生俺能】
[状態]:健康 全身打撲(軽度)
[装備]:ギターケース@旧俺能
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る
1.襲撃者リラを倒す

【リラ@魔竜】
[状態]:健康 不安(重度) 焦燥
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:”不安の種”を取り除く
1.まずは目の前の遥歩を殺す
2.次にもう一人、いずもを殺す
3.それでも不安が拭いきれなければ、手あたり次第全員殺す

※運営によって【エウリュドュケ】を没収されている為、攻撃の命中精度が大きく下がっています
また、心の拠り所を失っているため、非常にパニックに陥りやすい状態となっています

【妖刀叢雲】
持ち主の心の在り方によってその姿と切れ味を自在に変える妖刀。鞘は丈夫で、打撃武器としても使用することが出来る
純粋な持ち主が持てば刀身は澄み渡り切れ味も増すが、淀んだ心であれば刀身は黒く淀み、切れ味も鈍くなる
その刀身に宿った霊体”叢雲”は、今の所その眠りを覚ます気配はない

【釘バット】
厨二能力スレにて【黄金鬼棒】の振るっていた、血染みの付着した釘バット
こいつで頭をホームランすればどんな敵も一撃ちゃ

【ギターケース】
旧俺能スレにおいて、堕天アイドル隋土天子の愛用していたギターケース
自販機やゲーセンの筐体など、四角形の機械に対して特攻を持つ…のかもしれない

54名無しさん:2016/08/28(日) 14:49:28 ID:fc7C2EzE
Aの7、集団墓地。【非在大剣】三条 雪音が目を覚ましたのはその位置であった。
"今からお前らには殺し合いをしてもらう"―――なんと甘美な響きだろう。つまりそれは、好きなだけ血を浴びていいということに他ならない。
あの光景を思い出す。轟音と共に消し飛ぶ首、露になった断面から溢れ出す赤い、赤い、赤い―――――下腹部が熱を帯びていくのを感じ、彼女は恍惚と笑みを浮かべる。
人を愛し、自分すら忘れて人に尽くす。それも確かに三条 雪音であるが、同時に彼女は快楽殺人者であった。そして彼女には"学園の生徒会長"という肩書きがあるが、この世界にそんなものは無い。
であれば、今の彼女は快楽殺人者としてここに存在している。その証拠に白のブレザーではなく黒のチューブトップを着用し、"眼鏡をつけていない"

さて、この素晴らしい戦争を愉しむにしても頭は使わなければならない。
やりたい事をやりたいように、それが彼女の基本ではあるが、ここに集められたのは恐らく自分と同じような異能者達。
例えばこんなに楽しい戦争に乗らず壊してしまおうなんて言う人もきっといるだろうし、それに目を付けられ多数を相手にするのは面倒。
負けるとは思わないが、ただ"愛してやる"余裕が無くなるのは面白くない。

傍らに置いてあったデイパックを開き、そこから名簿を取り出した。

「ニュクスちゃん。あなたは居ないのね。
 二人ならきっと、もっと、もっと楽しかったのに。」

羅列された名前の中からまず探したのは【倫理転生】ニュクスの名、もしくはハイル。しかしそれは無く、肩を落す結果となった。
代わりに刻まれていたのは【殲滅指揮】レナート・コンスタンチノヴィチ・アスカロノフ、【斬撃行軍】真田 隆一、二つの無限の歯車の名だ。
片方は自分が知る限り死人の筈だが、なんらかの異能によって死人を蘇らせたとすれば不思議は無い。
ニュクスはいない。それでも、風は確実に自分の方向へ吹いている―――――まるでこの戦争は自分のために開かれたような、そんな錯覚すらする。

無限機構が望む"大戦争"はこんな規模のものでは断じてない。故に無限の歯車は、ここで回転を止めることは無い。
彼らは恐らく無限機構としてこの戦場から脱する事を目的とするだろう。まずは合流する。そうすれば戦力としてまず負けない筈だ。

しかし彼女は"頭が良い"故に、中途半端に"まともな人間"で有る故に。この二人の戦争狂を全く理解できていなかった。

55名無しさん:2016/08/28(日) 14:52:01 ID:fc7C2EzE


同じく集団墓地にて、大戦争時代の軍服に軍帽、マントを羽織った男―――真田 隆一―――が目を覚ました。
これから殺し合いが始まる事も、首に付いた輪も、その普くが"どうでも良い"。
問題は一つ、死んだはずの自分がここに生きている事。"可能性"にまた生かされたこと。
泣いていた。喚いていた。されど涙が落ちず、声も上げないのは泣いているのが"別の場所だから"。心の臓腑が泣いて喚いて狂っていた。
目の前の、小さな墓碑に口から溢れた吐瀉物をぶちまける。傷は無い。薬にやられた症状だ。

汚れた墓碑に、自分の知る墓碑を重ねた。自分のような捨てられた者を捨てる墓碑。
例えばこの殺し合いが何度も開催されているとすれば、この墓碑はそこで死んだ者達のために立てられたのだろうか。
誰にも記憶される事なく、塵芥のように。ゴミのように、捨てられるように埋められたのだろうか。
だとすれば、どうしようもなく"理不尽"だ、と。普段であれば上がるはずの口角は上がらなかった。

――――――違う。

現状はまさしく理不尽だ。求め続けたはずの理不尽がここにある。
隣人、友人、敵が殺して殺され、可能性が生まれて消える。彼が思い描いた、夢のような理不尽はこの場にてすべて現実になるだろう。
だが、違う。彼が必要としていた理不尽とは、違う。歪だ。不純だ。余計なものが混ざりすぎている。し、そもそもとして下らない規模だ。
無意識に左手が動き出し、腰の軍刀を探し始める。ない。視線を下ろせば、代わりとばかりに転がったデイパックから柄が覗いていた。
引き抜く。露になる漆黒の刀身。刃は両側についており、真直ぐな所謂西洋剣。光を吸い込むような黒は、いかにも唯の剣では無い事を示している。
2、3度振るえば風を切る感触で剣がわかる。その結果、つい前に感じたのは気のせいか、特別鋭い感覚は無い。
4度目、少し力を込めて振るえば―――――

「―――――あぁ」

走る閃光、雷。代償として体にたまる疲労。なるほど、"こういう"物か。
軍刀じゃ無い故に多少使い勝手は代わるが、問題は無いだろう。

今の自分が、否定した可能性に生かされているとしても、だからこそ目的は変わらない。
可能性を殺す。神を殺す。そのための戦争を。神をも殺す大戦争を。
平等で"理不尽"だったあの戦争を。"可能性"に奪われた"あの世界"を。

56名無しさん:2016/08/28(日) 14:53:31 ID:fc7C2EzE
またたった一人、行軍を開始したその時だ。

「真田 隆一ね?」

背後を振り返ればそこには女。真田はこいつを知らないが、こいつは自分を知っているらしい。
羽織ったマントに刻まれた"串刺しの一角獣"。雪音が真田と判断するには十分だった。

「あなたも無限機構の一員でしょう。
 私達が死ぬべきはここじゃない。だから総統と合流して、ここを脱出しましょう。」

真田はこの女とは初対面だが、無限機構の一員であるらしい。自分の所属を知っているということは少なくとも無関係ではない。
だがそれは重要な事じゃ無い。大事なことは

「お前は―――」
         「―――可能性って奴を信じるかい?」

これだけだ。
雪音は問われた意味がわからなかったが、答えは決まっていた。

「ええ、勿論。
 人に可能性があるからこそ美しくて、愛する甲斐があるの。」

人がもしも唯の人形ならば、彼女の心は濡れやしない。
人に可能性があるから、人が可能性を輝かせるからこそ人は美しく、それを形作る赤に狂おしく魅せられるのだ。

「……そうか」

だが――――――

「じゃあ、死ね。」

―――――これは問答でもなんでもない。ただ目の前の存在が自身に反旗を翻すのか、それを確かめただけ。
"可能性"を殺す。"神"を殺す。"信じる奴"も殺す。それだけが自分の存在意義なのだから。
いわば癇癪。もしくは駄々。奪われた最高の幕引きを取り返すために、世界に向かってごねているようなもの。

体制を低くし、剣を構え、獣の如く駆け出した。女に武器は無く、持っているものといえばデイパックのみ。
あの中に武器があるのなら握らない理由は無い。同じ組織に所属しているとはいえ、自分たちは初対面なのだから。
故に彼は敵を無防備だと判断し、それは半分ほど正解であった。実際彼女のデイパックの"中には"武装は入っていなかったから。
剣の間合いに入る。首に一撃、それで終わる確信があった。――――――が

「ふふふっ―――――素敵。
 自分から愛されてくれるのね!」

一筋の"線"が走り、視界が"赤"に染まる。敵の首は繋がったまま。袈裟に避けた自分の体から、血が噴出しているらしい。
その手には無くとも、彼女は武器を持っていた。それが【非在大剣】、自分だけの領域を持つ能力。彼女の第二世界内部の武装は体と同化したものと判断されたのか、取り上げられていないのは確認済みだった。
第二世界から出現した大剣が彼の体を切り裂いたのだ。それだけの事、あっけなく彼は終着点を迎えた――――この世界にて、一度目の。

さぁ、あとはお楽しみの時間。そう昂ぶった雪音はある違和感に気づく。容易に命を断てる程度には切り込んだはずだ。皮一枚で胴体が繋がっているはずだ。
なのにあまりに浴びる"血"が少ない。何人も何人も殺し、浴びてきたからこそわかる。
本当に敵は死んだのか―――その懸念が浮かんだ、刹那。
噴出した血を切り裂き、漆黒の刃が現れ―――――

「――――――っ!?」

寸での判断で体を逸らしたが幸運、正中線上に振り下ろされるはずだった剣は腕を切断するにとどまった。
が、体の一部が無くなり重心が動いたことにより、大きくバランスを崩して尻餅を付いてしまう。
致命的な隙。対する真田には"一切の傷が無く"、刃は雪音の首の直ぐそばに添えられている。

「ま、待って!
 私が悪かったわ。同じ無限機構でしょう、協力すれば……」

真田にはもう、何も聞こえていない。"可能性"を信じた雪音を生かす義理など何処にも無いのだから。
例外は唯一人だけ。同じ"自殺仲間"である、あの男だけだ。

「……可能性を信じてるんだろ?
 最期まで信じて、死ね。」

赤い、赤い、噴水の如く湧き上がる血。"残された"雪音の体は全身にそれを浴びた。







【三条 雪音@新厨二能力 死亡確認】
【現死亡者1名】

57名無しさん:2016/08/28(日) 14:54:35 ID:fc7C2EzE
【斬撃行軍@新厨二能力】
[状態]:健康
[装備]:哭雷刃@旧厨二能力
[道具]:デイパック ランダムアイテムいくつか
[思考・状況]:
基本行動方針:とにかくこの殺し合いから脱出する。手段は選ばない
1."可能性"を信じるやつは殺す
2.殺して帰る
3.とにかく帰る

※まだ名簿を見ておらず、【殲滅指揮】の存在には気づいていません。
※名簿には能力名が【軍刀闊歩】と記載されています。
※デイパックの中身は後の書き手様にお任せします。
※三条雪音のデイパックは集団墓地に放置されています。直接的な武装になりえないランダムアイテムがいくつか入っています。

【哭雷刃@厨二能力】
【聖善嚥下】の所持していた聖剣。
ドバルカインによって打ち出された聖剣の一種で、柄から鞘までの全てに関してが〝黒〟で統一されている『聖剣』。
禍々しい雰囲気などは微塵もなく、むしろ清浄な神聖さすら感じさせるつくりで。鞘からその刀身を抜き放てば闇よりも深く、光すら飲み込んで離さない刃が世界へと顕現するだろう。

能力は『聖雷』
自らの体力を糧として雷を発生させる能力を持ち、放出範囲は最大値で五メートル。斬撃波状にして飛ばしたり、簡単な物であれば形作ることが可能。
放出する際に硬度を持たせることが可能であるが、その場合は通常よりも余分に体力を消費する事が確認されている。
更に、雷撃の出力に比例して剣自体の切れ味も上昇。体力を消費さえしなければ通常の剣と何ら大差は無い。

58名無しさん:2016/08/28(日) 14:55:41 ID:fc7C2EzE
>>54->>57
//キャラクターの死亡が早すぎる等、問題があるようでしたら書き直します

59 ◆r7Y88Tobf2:2016/08/28(日) 15:02:25 ID:p8T3DASU
>>58
//現在位置、時刻表を表記していただけたら幸いです

60red butterfly:2016/08/28(日) 15:12:25 ID:fc7C2EzE
>>59
//すいません抜けてました……
//同じくタイトルも忘れてたのでこれでお願いします
【A-7/集団墓地/1日目 朝】

61前奏:2016/08/28(日) 23:52:21 ID:ObMSgzyI

「動くなよ、このまま腕をへし折っても構わないぞ?」

その男は、かつて世界に戦争を振り撒こうとした男。全世界を引っ掻き回した男だった。
元〝祖国〟の軍人であり、神殺機関の首領にして、無限機構の首魁。言うなれば、〝大悪党〟だった。

「いで、いでででで!! クソがァ、ぶっ殺してやる!!」

「おーおー、威勢がいいのは良いことだ。だが向ける先が少しばかし違うな。丁度いい、一緒に来ると良い、そこで見てるお前さんもな」

「えっ……あっ……!?」

そしてその一部始終を見届けた人物がいた。
その名を有坂大輔と言った。数奇な人生を歩んでいる人間ではあるが、ここにいる二人よりは遥かに健全な一生を歩んでいる少年であった。
不幸な事にも、その少年はこの殺し合いに放り込まれて数刻と経たずにこの二人の対峙に巻き込まれてしまっていた。
隠れてやり過ごすつもりだったが、見抜かれていた……それに動揺した声を上げ、すごすごと有坂が出てくると、満足そうに頷いて黒縄へとレナートは視線を戻した。

「よーし、お前も来るだろう? それともこのまま腕を外して無理矢理引っ張られるか、どっちがいい?」

「ぐっ……く、クソが……!!」

「よし良い子だ、では行くとしようか。あまり外から見られすぎないところがいいな」

握っていたナイフを手離したのを見ると、握っていた腕を解放する。
ぶらぶらと痺れた腕の感覚を取り戻そうと手を動かす黒縄をよそに、大輔へと目配せすると、その付近の建物……タワービルの中へと入っていった。




62前奏:2016/08/28(日) 23:53:06 ID:ObMSgzyI
「さて、先ずは自己紹介から始めようか。俺の名はレナート・コンスタンチノヴィチ・アスカロノフ」
「元軍人で、極悪人だ。お前は?」

レナートが選んだのは、その中でも上の方の会議室だった。ある程度の高さがあっても自分の能力で容易に離脱する事が出来る、というのが理由だった。
そこに二人を座らせ、自分もどっかりと座った。その挨拶は非常に簡素であり、端的であったが、非常に分かり易くもあった。
この中で、大輔はもとより、揚羽よりも遥かに人を〝殺している〟人物……その男は、実に軽やかに、その自己紹介のバトンを揚羽へと渡した。

「……黒縄揚羽」

「素直に言ったな、よし、最後はお前だ」

不機嫌そうに、吐き捨てるようにそう返した。レナートのそれとはまた異なる端的さだった。
それでもレナートにとっては十分だったらしかった。元々経歴も何も関係ない、何もかもを組み込む組織のトップに立っていたが故だろうか。
そして最後に大輔を指してそう言った。そう言われた大輔は、背を伸ばして言葉を少しの間考えて。

「えっと、有坂大輔……です。高校生です、一応、能力者です……はい」

「アリサカ……один-восемь(三八)だな」

「……旧日本軍のライフルですか?」

「おお、よく知ってるな。若いのに感心だ」

「いや……知り合いに詳しいのが一人、いまして……」

畏まってそう言った。レナートが仕掛けた冗談にはそういう風に返す事が出来たが、内心は酷く動揺と混乱していた。
考えてみれば、こんな閉所に誘い込まれたのは最悪だ。逃げる手段は開けた場所よりも遥かに少ない……障害物は多いが、外に出るのにも一苦労だ。
だが、有坂大輔は、この男に〝警戒心〟こそ抱けど〝危険〟である、とは思わなかった。何故だかわからないが、その男には殺意やその類のものを欠片も感じなかった。
それが、レナートをどんなものか分からなくさせた。その旧ソ連の軍服と、その発言もまた大輔を混乱させ、そしてその混乱が大輔を一歩進ませた。

「……あの!」

「なんだ、アリサカ?」

「……貴方は……えっと……その……」

レナートは、自分のデイパックを開いて中身を物色していた。現れるのは一丁の拳銃や食料、地図、そして名簿、
その内の名簿を手を取って、大輔へと向き直る。言葉に詰まる大輔へ、急かす事もなく、言葉を待って。

「……その軍服は、何十年前のソ連の軍服ですよね。けれど、肩に羽織っているそのコートは多分、違うものですよね」
「そんな紋章が書かれている組織、俺は知りません。……単刀直入に言います。さっきの一言じゃ、納得できません」

63前奏:2016/08/28(日) 23:53:47 ID:ObMSgzyI


「大したことじゃないさ、少年」

意を決した大輔の言葉に、真っ直ぐにその瞳を見据えて、そう返した。
実に優し気な口調だった。その瞳は、まるで孫を前にした老人のそれにほど近いものだった。

「俺は確かに何十年も前に戦争に出た。それを忘れられずに、傍迷惑な戦争を繰り返そうとする極悪人」
「それだけの話なんだよ。それ以上でも、それ以下でもない」

自分が極悪人と知っていながら、そう語るその姿は、余りにも極悪人のそれとは懸け離れていた。
まるで少年の心を失わない老人を前にしているような。有坂大輔は、それに圧倒されて……それ以上の追及をする事が出来なかった。
本当に、この男は一切の嘘をついていないと、分かってしまった。無言のままに、ただレナートの事を、見つめることしかできなかった。

「……ようするに、とんでもねえ老害って訳だな? オイ」

その沈黙を破ったのは、黒羽揚羽だった。その歯に衣着せぬいい様に、一切悪い顔をせずに、寧ろレナートは楽しそうに笑った。

「ははは、まあその通りだな」

「それで、その老害様がよぉ――この殺し合いの中、こんな風に俺達を集めて、何を企んでんだ?」

それは大輔も気になるところだった。何が目的で、こんな場所に自分達を集めたのか。
レナート自身も、それを隠すつもりはなかったらしく、その答えはすぐに返ってきた。

「気に入らないと思わないか?」

「……は?」

「気に食わないと思わないか、この殺し合いを企んだ連中が。唐突に俺達の日常を奪い取り、殺しあえと野に放った奴らが」

「……そりゃあ、勿論そうだが……」

「よし、つまりはそういうことだ」

「……は?」

「俺達が殺し合うんじゃない。〝あいつらを殺そう〟」

レナートが提案したのは、対運営という方針だった。無論、大輔も、揚羽も、一度はそれを考えていた。
だが揚羽はあの圧倒的な力を見てその考えを後回しにして、大輔はそれを考え付く余裕も無かった。
それだけの余裕があるのは、制限の掛かっていない、本来のレナートにそれだけの力と、そして何より〝経験〟があったことだった。自分よりも圧倒的な力と対峙する。
そしてそれに対して勝利をもぎ取ること。それは不可能に見えて、不可能ではないことを知っていた。それ故の、冷静さだった。

64前奏:2016/08/28(日) 23:54:20 ID:ObMSgzyI

「何か、案があるってのかよ」

「無論。お前達、名簿は見たな? ……この中に、俺の仲間がいる」

「……お前もかよ」

「その口振りは、揚羽、お前もだな? アリサカ、お前は?」

「はい。知り合いが何人かいます」

「よし、それはそれは好都合だ。先ずはそいつらを掻き集めるぞ」
「恐らく、俺達以外にも運営側へと対抗する勢力も存在するだろう。そいつらも〝吸収〟する。そしてまずは……この鬱陶しい枷を解く」

「出来るってのかよ、そんなことが」

「出来る出来ないじゃない、やるんだ。やらなきゃ俺達は負ける。土俵にも上がれない。戦わなければ勝つ資格すら与えられない」

数多の疑念が二人には湧いていた。然しそれを捻じ伏せるだけの言葉の力というものが、レナートにはあった。
それが何に起因する物かは分からない。だが、何となく、〝この男ならばやれるんじゃないか〟と思わせるだけの力があった。
それは最早ある種のカリスマ、と言えるかもしれない。二つの悪の組織をまとめ上げ、世界に混乱をもたらした力の一端でもあったのかもしれない。

「……分かった、やってやる。だが、やるなら勝つぜ。あいつらの首、必ず落としてやる」

最初に賛同したのは、黒羽揚羽の方だった。
自分達は替えの利く学園都市の歯車、そう認識して、敢えてそういう風に振る舞ってきた。だが何もこんなところで、あんなものに従う必要はないと悟った。
決断は早かった。目の前の男は気に入らないが、あの女たちはもっと気に入らない。必ず、奴らを殺してやるとその心に誓った。

「俺も……俺もやらせてください。色々あったけど、この名簿に載ってる知り合いは、間違いなく友達です。友達と殺し合いなんてしたくない」
「それに、俺には守らなきゃいけない人がいる。その人のためにも俺は生きて帰らなきゃいけない」

能力者高校で起こったこと。色々な事があったし、本当に癖のある人間ばかりだったが、それでも、少なくとも大輔は友達だと思っていた。
友達同士で刃を向け合う、それは有坂大輔にとって酷く残酷な事で、もしもそんな状況に陥ったら間違いなく自分は武器を振るう事は出来ない。
だが、生きて帰らなければならない。自分の大事な人のために……そのために、この理不尽な殺し合いの元を断つと。そう誓えた。

「ここは俺達の死に場所じゃない。ここは俺の死に場所じゃない。俺はもっともっとデカい〝戦争〟がしたいんだ」
「だから、奴等に地獄を見せるぞ。凄惨な殺し合いが見たいなら、望み通りにしてやろう。奴等自身を含めてな」

「そして俺達の手に取り戻そう。腐った、それでいて素晴らしい俺達の日常を」

レナート・コンスタンチノヴィチ・アスカロノフを満足させる戦争は、こんなものではない。
こんなこじんまりとした規模では終わらない。もっともっと狂気的で、もっともっとどうしようもなく、もっともっと凄惨でグロテスクでそれはそれは素晴らしいものだ。
故に戦争指揮者は立ち上がる。何時も通り、老いも若きもどうしようもなく周囲を巻き込んで。〝戦争〟を、其の手に取り戻すために。

65前奏:2016/08/28(日) 23:54:57 ID:ObMSgzyI
【殲滅指揮@旧厨二】
【F-2/タワービル 会議室/一日目 朝】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーPPK(残弾7)@旧厨二
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:立ち塞がる敵と運営は全て殺す。協力できる人間とは協力する
1.必ず運営達を殺し尽くして元の世界に帰還する
2.無限機構の仲間や知り合いがいるな、こいつらと接触できたらいいが……
3.何はともあれまずは勢力を大きくしないとな

※時間軸は新厨二からです

【黒縄揚羽@学園都市】
【F-2/タワービル 会議室/一日目 朝】
[状態]:腕に少々の痛み それ以外は健康
[装備]:不明
[道具]:不明支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:運営連中を皆殺しにする。その為に取り敢えず今はレナートに協力しておく
1.このオッサンは気に入らねえが、今は協力するしかねえ
2.しかしこのブサイクは使い物になんのか?
3.番長や大木もこの世界に来てるのか……

【有坂大輔@能力者高校】
【F-2/タワービル 会議室/一日目 朝】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを止める、その為に色んな人と協力しなきゃいけない
1.このレナートって人は間違いなく悪人だけど信用は出来そうだ
2.この揚羽って人は随分と好戦的に見えるけど、大丈夫なのか?
3.少なくとも一度は高校のメンバーに会っておきたいな


・ワルサーPPK
ドイツ製の拳銃。本ロワでは旧厨二で【流氷の堕天使】が使用していたものの内の一丁が支給された
実際の拳銃弾とは異なり着弾地点の熱を奪う弾丸を撃つことができる
熱を奪うと氷結し、生物の場合氷が打ち抜いた様になる。凍らないもの、例えば火などは熱を奪われるだけとなる
本ロワでは最初から装填されている弾丸以外の弾を使っても普通の拳銃弾として撃ち出されるため注意

66奇妙な因果:2016/08/29(月) 13:58:12 ID:HHhyJOVs

「バトルロワイヤル、ねぇ……いい趣味してるわ、ホント」

タワービル、屋上。
朝日の中、津山涼は一人佇んでいた。
その手には、参加者名簿。

「……それに、なかなかいい面子も揃ってると来た」

名簿に載っている見覚えのある名前に、口元が歪む。

得物や目的など、津山と多くの点が共通するらしい黒百合の生徒会長こと、藤宮明花。
自称、愛のために戦う24歳の痛々しい女、北条豊穣。
そして……『正義の味方』を名乗る少女、水無月水月。

浅からぬ因縁を持つ者や、津山にとっての面倒の原因が、一堂に集まっているのだ。

「フフ……何ともありがたい事ね」

それは即ち、この殺し合いの中で、津山を取り囲む全ての厄介ごとを終わらせられる可能性があるということを示す。

生徒会長を狩れば、勘違いして襲い来る正義気取りの魔法少女の襲撃を。
痛い女を狩れば、不本意に結んだ縁を。
正義の味方を狩れば……津山を苛む、幻を。

そのすべてを終わらせ、安寧と愉悦を取り戻すことができるのだ。
願いを抜きにしても、これだけで殺し合いに乗る理由としては十分と言えるだろう。

「んっ......?何かしら、これ......」

支給品を確かめようと、デイパックを漁ってまず最初に出てきたのは、「ニューシネマ海馬 従業員優待特別チケット」と記された、一枚の紙。
ひらりと裏返すと、「PASSWORD」の単語とともに、十数桁の英数字が並んでいる.......

「パスワード......宝探しでもさせようってことかしら?」

興味深い代物ではあるが、殺し合いに身を投じていることを考えると、きっちりとした武器がほしいところだ。
そんなことを考えながら、デイパックを覗き込み......

「.......!」

思わず、目を見開いた。

67奇妙な因果:2016/08/29(月) 13:58:43 ID:HHhyJOVs
その時。

ばさり。
風を切り裂く音と、突然の首筋への冷感。
そして、刃物のような、僅かな痛み......

「っ!?」

「選びなさい。私の味方になるか、それともここで死ぬか」

津山の背後から響く、少女の声。
ビルの屋上という場所柄、唯一の出入り口である扉にさえ注意しておけば不意打ちをくらうようなことはないだろうと高を括り探知魔術を使わなかったのは迂闊だったか、と内心舌打ちする。
魔法少女への変身も、首筋に刃を添えられたこの現状では、やった途端にスッパリ斬られるのがオチだ。
それに、仮に斬られなかったとしても、今の津山には魔法少女としての力を発揮するための必需品である魔法薬がない。変身を維持できるのは、持って数分と言ったところだろう。
そうなれば、『あの支給品』を使わざるを得ないが......それは、津山にとってあり得ない選択肢だ。
即ち、津山の選択肢はただ一つ......

「.........チッ」

デイパックをその場に落とし、両手をゆっくりと上げる。
文字通り、お手上げ。降参だ。

「あら、意外と物分かりが良いのね。助かるわ」

少し意外そうに、女は首筋から刃を離す。
ゆっくりと向いた津山の視線の先には、翼を持つ異形の白髪の少女の姿があった。
その手には、氷のナイフ。

「貴女......何者?」

翼を持つ少女から感じる魔力は、魔法少女のそれとは異なる。
強いて例えるならば、津山の元の世界に存在する、魔獣の持つそれのような魔力への違和感に、疑問が口をついて出る。

「私?そうね......咲羽 翼音、って事で通して貰えるかしら。貴女は?」

しかし、少女は津山の抱く疑問への回答は返さない。
声色からするに、意図を察しておきながらわざとずれた答えを返している様子だ.......

「.........津山。津山涼よ」

「そう。これからよろしく、津山さん?それじゃあ、行きましょう?」

どことなく愉悦を含んだ意地の悪そうな声と共に、津山の背後を維持したまま、屋上への出入り口へ向かおうとする。
咲羽の笑いが、「悪魔である自身の弱体化する、朝と昼の間をカバーする為の共闘相手を作る」という目的を上手く達成できた事に対するものであることは、今の津山には知る由もないことである。

(この女........!)

そんな内心を押し殺し、津山はデイパックを拾い上げ、扉へと歩く。

津山を戸惑わせ、致命的な隙を作った『あの支給品』。
かつて対峙した、『正義の味方』の装備________『ジャスティス・ガジェットVtoZ』をデイパックに入れたまま。

68奇妙な因果:2016/08/29(月) 13:59:32 ID:HHhyJOVs
【F-2/タワービル屋上/1日目 朝】
【津山 涼@魔法少女】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ニューシネマ海馬のチケット@悪魔、ジャスティス・ガジェットVtoZ@魔法少女
[思考・状況]
基本行動方針:取りあえずは咲羽と共に行動。装備が揃ったらマーダーに転向……?
1.咲羽と行動しつつ、因縁のある3人を探す
2.装備を調達したい。だけどガジェットは使いたくない
3.何なのよ、この女......絶対いつか狩ってやる

※ガジェットを使わずとも魔法少女には変身できますが、魔法薬がないので変身が長持ちしません。

【ニューシネマ海馬のチケット@悪魔】
海馬市に存在し、メモリーという名の悪魔の根城となっている映画館「ニューシネマ海馬」の特別招待券。
無論戦闘には何の効果もないが、裏面に「PASSWORD」と記され、さらに文字列が記されている。
もしかしたら、どこかで役に立つ時が来るかもしれない。
※具体的にどのような場面で用いるかはのちの書き手さんにお任せします。

【ジャスティス・ガジェットVtoZ@魔法少女】
水無月水月が使用していた、いわゆる変身ベルトの「V-ジャスティス・ドライバー」及び、変形、合体、様々な形態変化が可能な4丁自動拳銃型魔導具の「WtoZ-ジャスティス・マグナム」、さらにそれらの運用に必要なカードリッジ5つのセット。
カードリッジにより装着者が魔力を持たずとも使用可能であり、さらにWtoZ-ジャスティス・マグナムを組み替えることで様々な状況に対応が可能な代物。
制限により変身時間は満タンのカードリッジ一つにつき10分間となっており、空となったカードリッジの再使用には2時間のインターバルを置く必要がある。また、カードリッジ一つ当たりの弾数も減少している。

【フリューゲルス(咲羽翼音)@悪魔】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:少なくとも夜までは津山を味方につけ行動。ゲームに乗るかどうかはもう少し考える。
1.幸先は......まあ悪くないわ
2.桜井君を探しましょうか
3.この女も結構面白そうね

※悪魔の特性により、太陽の下では真の姿に変身できず、形成できる氷の大きさも野球ボール大となっています。
また、制限により飛行には普段より体力を消耗します。

69手にしたモノの名は:2016/08/29(月) 16:06:55 ID:Fs7BFa6g
────微かな頭痛を感じながら青年が起き上がったのは、古びた石の中であった。

「……ここ、は………」

青年はおもむろに上体を起こし、目を瞬き、辺りを見回す。……その過程ではじめに彼を襲う感情は、困惑と、そして不安だった。
"ここは何処だ?"己の足が正常に機能する事を確認し、青年は恐る恐る、石の感触の上に立ち上がる。
やがて目が慣れれば、その場は石を重ねて作られた部屋のような物である事に気付いた。

……どうやら、石造りの建物のようだ。部屋を成す石の所々は苔むしている。だが自分が何故、このような場所に?
ボンヤリとした頭で考えるより先に、光の方へと足が動いていた。青年は次に、仄かな光が差し込む、窓らしき覗き穴から外を見てみる。
その先には『何の変哲も無い』街の風景だけが、ただ広がっているばかりだった。

「……え」

そこで彼─────『菊池 建一』は漸く、その違和感に気付く。おかしい。……自分たちの住む世界に在ったはずの、あの重厚な『壁』がない事に。破壊の跡がない事に。
『龍』に悉く討ち滅ぼされた筈の、惨憺たる文明の姿は、今やどこにもなく。電撃的に襲いかかる悪寒に、建一の意識が高速回転を始めた束の間─────

「!………うっ……!!」
「う、ぅ……うわぁあああああああああ!!!!!!!」

建一は、全てを思い出した。
『首輪』の事。あの壇上で宣告された、『殺し合い』の事。
あの記憶がフラッシュバックする。……圧倒的な力の応酬。全てを貫くが如き大槍の姿を、自分はこの目でまざまざと見てしまったのだ。
そして、それを息をするように往なして見せた者の姿も。何も出来ず死に、文字通り虫のように殺されていった者の姿も。
自分はそれに対し、ただ、何をするでもなく────眼前の光景に当惑し、驚愕し、立ち尽くすことしか出来なかった事も。

そんな信じがたい光景が脳内を駆け巡る中でずっと、建一は蹲って頭を抱えることしか出来なかった。その瞳に浮かぶのは──────紛れもなき、"恐怖"。
辺りを見回す限り、自分の得意とする重機の姿も見当たらない。軽妙でありながらも良き補助役であった、"社長"の声も聞こえない。

そう。建一は今、「たったひとりで」この地獄の如き世界に迷い込んでしまった事を、自分自身で気が付いてしまったのだ。
己の非力を誰よりも知るのは────他ならぬ、自分であると言うのに。龍にさえ劣らぬような者たちの殺し合いで、生き残れる筈がないと言うのに。

「う、っ……う、ぅ……」

首に当てられた冷ややかで無機質な首輪の感触が、より焦燥と恐怖を誘う。
無論の事、実際に建一はこの首輪が爆発し、いとも簡単に人が死ぬ光景を見てしまったのだ。……自分もそうなるのか?自分はこれから、どうなるのか?
未来などないのか。眼前に立ちふさがる余りにも大きな暗闇は、何も持たぬ、ただの青年である建一を─────もはや、十分過ぎるほどに叩きのめしていた。

───────だが。
そんな極限状態に置かれた建一が、パニックに駆られて辺りを見回した時。どこまでも冷たい石畳の他に────一つだけ、明らかな異物の上で、建一の眼は留まった。

70手にしたモノの名は:2016/08/29(月) 16:08:14 ID:Fs7BFa6g
「……」

それはただ床に放置された、萎びたデイパックのように見える。だが彼はそれに対し、フラフラと、半ば無意識的に近寄っていた。
それは、本能が"力"を欲した故だろうか。デイパックの中から漲る、圧倒的な存在感のような物を感じ取ったのだろうか。
徐に、彼はパックへと手を伸ばす。それは、縋るような願いだったのか─────建一の瞳は恐る恐る、パックの中へと向けられた

「こ、れ……は……」

その中に在ったのは────ただの剣だった。掴も刀身も刃さえも、全てが真っ黒に染まった、一振りの剣だけだった。
────しかし、その剣は同時に、あらゆる何かが「異常」であるように思えた。
彼は剣に心得など無かった。だがしかし、これを視認した瞬間、彼に対して本能が告げる。……これは明らかに、「剣などではない」ものだと。
剣と言うには余りにも大きな、手に負えぬ物だと、見ただけで、感じただけで理解できる程に。
これは人が触れてはいけないものだと、脳内が警鐘を鳴らし続けているのを感じさえした。

───だが、それでも。
今の彼には、何もなかった。そして何もないままにこの地で足掻き、何もなしに死にゆくのは───たとえ何に手を染めようとも、彼にとっては。
ただ平穏を望む彼にとっては、それが最も「許せない」事であった。─────だからこそ、彼は眼前の得体の知れぬ『何か』を、しっかりと見つめ。

彼は右手で以って、その真っ黒な、深淵を思わせる黒の柄を────ぎこちない動作で握り込んだ。
その瞬間。

「うっ……これは………!?」

その触れた右腕に、握った柄が不意に『沈み込んだ』。

「!!?……ぅ……ぎゃぁああああ!!?うおぁあああああああ!??!」

先程まで確かに固体だったはずの剣は今や、その本性を現したとでも言わんばかりに。黒い気体のような、液体のような────しかし人にとっては、どこまでも恐ろしいモノとなって、『菊池健一』の体内へと『入り込んで』ゆく。
余りの現象に悲鳴を上げ、絶叫する声にも関わらず。剣はただ無慈悲に侵食するように、彼の右腕から、その肌へ染み込むように溶けていく。
何の痛みも感触ももたらさない事が、逆に恐ろしさを倍増させる。自分が知らない内に大切なものを失うことに近い、未知の恐怖が一気に襲いかかる。
そして遂にその黒の刃は、建一の体内へと完全に飲み込まれていき───────

だが、『それだけだった』。

「……え?」

彼はきょとんとしたように、自分の身体を見回す。右腕に異常はない。……身体のどこにも異常はない。……先程まで刃や黒いモノなどを覗かせ、また飲み込んでいた肉体には、先ほどと変わらず傷ひとつない、健全な青年の肉体のままだ。
体調にも異変はない。あれ程禍々しい物体が体内に入り込むのを見たにも関わらず、吐き気や頭痛どころか、少しの異物感すら感じられない。
……精神にも、影響は見られないように見える。彼の、彼の中での名前は『菊池健一』から変わることはなく。ただの青年である建一自身には、何も変化はなく。
少なくともあの剣のような何かが、建一に何かを齎したという実感は、全くもって何処にもなかった。

「……ウソだろ」

まさか。これで終わりなのか。
建一は弾かれたようにデイパックを漁り始めるも、しかしランダムアイテムと言えそうな物は、あの黒の剣だけのように見えた。

建一は、一気に脱力する。……あれ程自分を驚かせておきながら。あれ程自分に、覚悟を強いるような真似をしながら。
その結果はどうだ。……何も、変わらない。弱者には、力を手に入れる権利すらないと言うのか……?

建一はやり場のない感情を込めて、石の壁をドンと蹴る。……その軽い音は、虚しく部屋の中に響き渡り。
やがて建一は、打ちひしがれたように。部屋の床にへたり込んでしまった。

────────
──────
─────

71手にしたモノの名は:2016/08/29(月) 16:09:07 ID:Fs7BFa6g
時を同じくして。建一の居る建物の中にはもう一人の、異質な存在が在った。

「〜♪」

石の壁の通路を歩む人影。ソレは度々光の差し込む窓から外を見つつ、浮かれたように歩んでゆく。
このような殺し合い。陰惨な悲劇に覆われるこの地を────あろう事か鼻唄など歌いながら、至極愉快そうに進む。

その名は、ゼアグライト・オールディ・ルヴィー・マルクウェン。
──────彼女はその金色の目を、これ以上ない、と言う程に喜びに歪める。

「kkk、kkkkkk──────」

その口からは遂にこらえきれぬ、と言った具合に、得体の知れぬ笑いが漏れ出る。
覗き窓から、あの「造られた街」を眺めて─────"ゼオルマ"は、愉悦と狂気に塗れた声を上げる。

「"殺し合い"。────嗚呼、実に素晴らしい響きではないか?矮小な人々が集まり、何の意味もなく争い合い、後に出来るのはただ屍の山ときた!」
「首輪に関しては悪趣味だが────ふむ、あの集会を顧みるに、"知り合い同士"も少なくは無いらしい……」

既に確認したデイパックの中身から名簿を取り出し、幾つかの分類分けされた名前を読み解いてゆく。……その中には、幾つか識った名前もあるようだった。

「……面白い。素晴らしい素材になりそうではないか?……嗚呼、それこそ絶望的な悲劇のな!」

彼女、ゼアグライトは─────言うなれば『そういうモノ』だった。
暇潰しと悪戯を常に考え、他人を玩具のように自分の掌の上で転がすことが大好きな。他人を、自分が望む暇潰しの駒、程度にしか考えぬモノ。
その性格はまさに、このバトルロワイヤルとの親和性は抜群と言え─────他者が脱出や転覆を望む中、彼女は他人を惑わし、騙し、悲劇を創出する─────参加者でありながら、運営にすら近い考えを有していた。

だからこそ、ゼアグライトはむしろ運営を称賛したい程の考えを持ちながら、この造られた世界を、悠々自適に歩いていたのである。

「さて。先ずは何から始めるべきかな─────?」

そうと決まれば、やる事は多い。ゼアグライトが思案にくれながら石の中を歩んで居た時、興味深い存在が、石の奥に見えた。

「──────kkk」

頭を垂れ、挫折したような姿の人間。
この状況に絶望し、最早行動する気力さえ無くなったとみた──────
その光景を見て、ゼアグライトの悪どい戯れの欲求が動き出した。

ゼオルマは徐に、その手から凄まじい大きさの火球を、周辺に五つほど生成する。
それは彼女の能力。ただ中身のない、上辺だけの魔術──────『虚栄魔法』の一、『いんふぇるの』。

その内の一つを、敢えてゆっくりとした速度で、項垂れる人間─────"菊池 建一"の方向へと放った。

─────────
───────

72手にしたモノの名は:2016/08/29(月) 16:09:41 ID:Fs7BFa6g
挫折しかけていた建一は、不意に背中を刺されたかのような、異様な殺気によってその目を見開く。恐怖。冷や汗。そんなものが一気に放出される。
間も無く背中を実感として襲い来るのは、確かなる『熱』と、目に入る『光』───────建一は恐る恐る、背後を振り向いた。

「…………────────!!!!!!」

本能だった。
彼はすかさず床に転がっていたデイパックを持ち、無我夢中の中で石の床を蹴り飛ぶ。
先程まで自分が居た位置に、炎の球がぶつかり、爆ぜたのは─────その数瞬先の事だった。
建一は咄嗟の機転に自分でも驚きながらも、しかしその身をなお襲う恐怖に、口を開けないでいた。

「─────ほう、避けるか。kkk、反応も悪くない───」

何だ。何なんだ、アイツは。
目の前の相手を視界に入れた瞬間に、全身の毛がぞわりと逆立つような感覚に陥る。
こいつはヤバい。周囲に展開された、残り4つの炎の球を視認するより早く、彼は無意識的に、背中を向けてその場から駆け出していた。

「……逃げるのか?……初対面なのだ……ゆっくりと、立ち話程度はするものだろう?」

そう語るゼオルマの声は、内容に比べて遥かに揚々としていて、まるで玩具で遊ぶような口ぶりであった。
それ以上にゼオルマが彼を追うのは────その内に、何らかの力を感じ取ったためであり。
ゼオルマは逃げる建一の背中に向けて、先程よりも遥かに速い速度で二つの爆炎を射出する。

走り行く建一は不意に、猛烈に大きくなってゆく、背中に迫り来る熱を感じ、恐怖にその顔を濡らしながら、必死に逃げ惑う。
やがて建一が石の部屋から出て、廊下らしき空間へ出た瞬間。そのすぐ背後を熱球が通過し、爆ぜた。

『殺される』
逃げながら考えていたのは、常に死の恐怖ばかり。
彼女を視認した瞬間に感じ取ったのは、その圧倒的な悪意が、脊椎の奥まで舐めはいずるように染み渡ってきた事だった。
あの剣といい、この恐怖といい。この状況はただの人間たる建一にとっては、余りにも荷が重すぎるものだったろう。
だからこそ、あの魔術が偽物だという事にさえ、彼は気付かぬままだった。

「それ。次は何処へ逃げる?」

背後から不意に掛かる氷麗のような声に、彼は改めてすぐそばに迫る『死』を実感する。
見ればただでさえ大きな二つの火球を束ね、超巨大な炎球を作り出している所だった。

「──〜〜〜〜ッ!!!!〜〜〜ッ!!!!」

もはや声にさえならぬ叫びを上げ、建一は咄嗟に目に付いた、下に降りる階段────地下室への闇を、転がり落ちるように駆けてゆく。
階段の上で、爆炎が爆ぜ─────地下室全体が一瞬、明るい赤に染め上げられた。

「はあ、はあ、はあ─────!!」

ガタガタと震えながら、建一は道を探すように、闇にさえすがるように、地下室の奥へと進んで行く。
だが、其処にあったのは────無慈悲にも、この牢が終わりと告げる、冷たい無機質な石の壁が、建一の手に触れるだけだった。

73手にしたモノの名は:2016/08/29(月) 16:10:20 ID:Fs7BFa6g

「───────」

「ひっ!」

焦燥に駆られて振り返る。地下室へ差し込む光をバックに、金色の二つの瞳が、哀れにも床へ伏す建一の姿を、これ以上なく無感動に見据えていた。

「───良いのは反応だけか。全く以って───嗚呼、飽きた。」
「力を使って抗うでもない。油断させて不意打ちなどもしない。ただ逃げ惑うだけで何の力もない。やはりとは思ったが所詮はこんなものか。我の見る目も曇ったものだ。世界が変わったとて凡人は凡人、碌な暇潰しにもならん」

金色の瞳の下から、少女は訳のわからない言葉を紡ぐ。それはまさしく建一にとって、死の警鐘のように感じただろう。
彼女はただ、使い終わったオモチャを見るような目で、用済みだとでも言わんばかりの無感情な瞳の下には、いつの間にか一冊の本が開かれていた。

「貴様に何かあるかも、とでも思った我の手違いだった。嗚呼、残念だよ──────だから」

「貴様は、此処で死ね」

放たれる死刑宣告の前に、文字通り建一の身体は、蛇に睨まれた蛙の如く、全く動かなくなってしまった。
死ぬ。死ぬ。───信じられようもない、しかしなぜか事実として諦観できる事実が、建一の前に襲いかかる。

僕は、ここで死ぬのか?────何かの夢か、間違いだろう。
そうでなければ、僕は何のために生まれてきたって言うんだ。
何もせずに。何も分からないままに、ここで終わるのか?

建一の脳内を瞬時に、死という概念が繰り返される。それが実感として、いかなる結果をもたらすかを考える。
繰り返される度に。死がどういうものか、自認する度に。建一は、それに対し─────

『嫌だ』と。
『嫌だ』。『嫌だ嫌だ』『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ』──────

駆け巡るは否定の感情。死への拒絶。……どういう事だろうか。
眼前には、避けようもない死が広がっているというのに。
建一の脳内は、それに対して。『抗いたい』という気持ちばかりが駆け巡っていた。

「『偽装栄光』: 〝ファイアーボール〟────」

ゼアグライトの手の中で、凄まじい炎が生み出される。それこそ、真の魔術。
圧倒的な炎の渦は、目の前の邪魔な人間を、消し去る為だけに生成されたモノ。

その絶望的な輝きを前にして、彼に出来ることは無かった。────無かった、はずだというのに。

「……僕は……生きるぞ────」

建一はその死をもたらす火炎を前にしてなお、それを見据えていた。そうする事しか出来なかった。

「こんな、所で───こんな、奴に────殺され、るもんか────」

それに対する全霊の『拒絶』を向けながら、建一が語り掛けるは、その肉体の『内側』。
今の建一には、確かに『在る』のを感じた。消えたようでいて、それでも己の内に眠る、どうしようもなく大きな力を。
それがその身の破滅をもたらすものだと、自分でも分かっていながら─────建一は、それでも生きなければならなかった。
生きなければ、何もかもが無くなってしまうから。

       プロト ゼロ
「─────〜Proto Zero〜」

異常な熱量と速度を伴い、死の砲撃が放たれる。だが、それが着弾する間際。
建一は、張り裂けんばかりの魂を込めて、無我夢中で叫んでいた。


「死、ん、で───────たまるかぁあああああ────ッ!!!!!!」

74手にしたモノの名は:2016/08/29(月) 16:13:04 ID:Fs7BFa6g

瞬間。
建一の脳に、どこか遠くから。
知らぬ者の声が、這い出るように聞こえてきた。


"━━━━━━━闇  に  触   れ  る か    "
       ニン   ゲン
"       劣   等        "


刹那。建一の前、横、上に、不意に幾つもの真っ黒な『穴』が開いていた。
それはどこまでも深く、どこまでも暗い。地下室の闇の中でさえ判別できるほどに、何よりも暗い深淵の穴。
圧倒的な殺意と共に放たれた炎の球は、しかし建一の身体を焼き焦がす事は、無かった。

全ての穴よりほぼ同時に放たれた、暗い闇の光線────それが、太陽を思わせる炎を黒く染め上げて、消滅させたのだ。

「───────ほう────ほう!」

それを見た金色の瞳の少女は、目を瞬いて、一転してキラキラとした様相を呈する。
一方で、建一は────その状況に困惑しつつあれど、自身が今まさに放った力の正体そのものは、理解していたらしい。

"   力  を    求め  る  か ? ━━━━━━━劣    等   "

彼にしか聞こえぬ声に対して。脳髄を侵食するようなおぞましい声に、彼は明瞭に答えてみせる。

「……僕には、力がいる─────僕が、生きるために……
────────『協力』しろ!」


"  な ら  ば   全  て   を      壊   す  が   善  い   "
"  そ   し    て━━━━━━━━━━  "
                 ライヒ
"   貴様  も━━━━━━  〝帝国〟  を  視る が   いい━━━━━━   "


謎の"声"が響き終わる。────それと同時に、建一の肉体に異変が起きた。
一気に、身体全体に『力』がなだれ込んで行く。それも邪悪な、吐き気を催す如き力。
人の身には大きすぎるそれは、圧倒的な力として、外界へと表出する。
建一の意思など、全く無視して。

「う、う───────」

建一は、苦しむ様にその場に蹲る。
黒い気体の様な何かが、彼の肉体から立ち込め───────

「ぅぅうぁああああぁああああああ、ぁああああああああああああああああ!!!!」

75手にしたモノの名は:2016/08/29(月) 16:13:46 ID:Fs7BFa6g
叫び声と共に、彼の肉体から────堰を切ったかのように、暗い光線が次々と、滅茶苦茶な方向に射出され続ける。
力の奔流。黒い嵐を前にして、ゼアグライトは──────恍惚にも近い表情を浮かべていた。

「……素晴らしい……この力は、まさしく────」

「『闇そのもの』の様ではないか」

この小僧、ここまでの力を隠し持っていたのか。……そして、自覚も無かった様だな。
建一が苦しみながら四方八方へと放つ闇の光線の一つが、ゼアグライトの頬を掠める。
ゼアグライトは眉ひとつ動かさず、冷静にその分析を始めた。

「幾分か劣化はしている様だが───とんだ力を手にした様だな?」

闇を放ち続ける建一の姿を尻目に、ゼアグライトはその場を離れてゆく。

「いや、最後に良いものを見せてもらった。何事もやってみるものだな。うん。」
「命びろいをしたな────次に会うときは、せいぜいその『中身』と仲良くなっておくがいいさ」
「貴様が良い結末を迎える事を、期待して視ているぞ?─────kkk、kkkkkk────!」

そしてゼアグライトは、「くくく」とも「けけけ」とも聞こえる、不気味な笑いを上げながら何処かへ消えてゆく。
さて。見る限り、リチャード・ロウや【指揮者】も居る様だな。
これから、どうしたものか──────かくして、ゼアグライト────"ゼオルマ"の戯れは始まった。

──────────
─────
────

暗く染まった部屋の中で建一が目覚めたのは、それから少し経ってからの事だった。
天から差し込む微かな光は、未だ明るく輝いている。
……闇より暗く染められた部屋の中で、建一は改めて、立ち上がる事を試みた。

しかしその動作は、先程よりも確かに、はっきりとしたもので。
しっかりと地面を踏みしめる。デイパックを肩に背負う。

────先程まで、色々な事がありすぎた。正直、今でも夢なのではないかと思っている。
……だが。

「────やっぱり」

石の廊下に出てから、彼は右腕に軽く力を込める。それと同時に、真っ黒い気体のような何かが、肘の先から立ち込めた。
あれは、やはり夢などでは無かったんだ。─────そして、未だに自分は、この絶望的な世界にいるという事も、変わってはいないのだと、首輪の冷たい感触が、彼を現実へ引き戻す。
……だが、不思議と、それに対する恐怖は、今や感じなかった。

まだ、分からないことだらけだ。
あの少女のこと。この内なる力のこと。剣のこと。この世界そのもののこと。
────もう、あの声は聞こえない。語りかけても、何も帰ってこない。……自分から話しかけておいて、勝手なものだ。

馴染みのものは何もない、この状況でただ一人。……不安と恐怖が、消えていないといえば嘘になる。
だが、彼はそれでも、進むしかないのだ。

「この世界から────出てやる。」

呼び出す事ができるのなら、帰る事も出来るはずだ。
あの世界に。あの絶望だらけでも、それでも見慣れた世界に帰りたい。
あの工事現場に。あの人々に。重機に。社長の声に──────もう一度会うために。

──────まずは、話せる人を見つける事が先決だ。力があったとしても、自分ひとりでは使いこなせるかさえ分からない。
彼は少しばかり出口を探し、建物から脱する。其処は、古びた城の様だった。
木の向こうには、街が見える。あそこならば、誰か居るかもしれないと、彼は歩き出して行った。

そして、何も持たざる青年は再起し、動き出す。
───────この、新たな力と共に。

76手にしたモノの名は:2016/08/29(月) 16:14:58 ID:Fs7BFa6g
【A-4/古城/一日目 朝】

【菊池 建一@ここだけ魔竜世界】
[状態]:健康、微かな決意。
[装備]:黒征剣"ライヒ"(体内)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:この世界からの脱出。
1.何はともあれ、話せる人に会おう。
2.この力……あの剣の仕業なのか?
3.死にたくない
次の目的地……B〜Cの1〜4

※黒征剣の効果により、血の干渉による影響を受けます。
血の干渉は、隣接1マス以内に『龍の眷属』が存在している際に発生します。
※建一は、自力で体内から黒征剣を取り出すことは出来ません。

【【絵空に彩る真偽の導き】ゼアグライト・オールディ・ルヴィー・マルクウェン@厨二能力】
[状態]:健康
     欲望  ディザイア ディストピア
[装備]:『≪希望≫』〜Desire Dystopia〜
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:強い者と戦い、暇を潰す。殺し合いの末の悲劇を見る。
1.さて、どう動いたものかな……
2.見知った顔も幾つか居るらしいが……
3.あの者の最期が楽しみだな。kkkk
次の目的地……特になし

※【絵空に彩る真偽の導き】という能力の本質部分が呼び出されている為、ゼオルマ本人となっています。仮初めの姿で登場させるかどうかは他の方の判断にお任せします
※栄光魔法の使用が不可能となっています。攻撃手段はひとつの場面に5回の、『ディⅡ』を介した偽装栄光のみです。
※虚栄魔法は使用可能ですが、瞬間移動系のものは封じられています。

【黒征剣"ライヒ"@ここだけ魔竜世界】
アジと同じ龍であり始祖十三老の一人、アンシュルスの操る力の根幹。
この漆黒に染められた剣の正体は、『闇という概念』を剣の形に押し込んでいるという、もはや剣と呼べるかすら怪しい代物。
使用者の体内に入り込んで無限の闇を放ち続けるという性質を持ち、アンシュルスを象徴する武装でもあった。
そのためか、微かにその意思が残留しており、度々体内から直接建一へと語りかける。
ただの人間である建一が、龍の武器を扱うことは難しい。彼が自力でこの剣を取り出すことは出来ず、また闇の用途もレーザー状に射出する事しかできない。
さらに使う度に生命力を消費させられるため、使い過ぎることもできなくなっている。

  欲望  ディザイア ディストピア
【『≪希望≫』〜Desire Dystopia〜】
ゼアグライトの持つ、聖遺物と化した魔導書たち。通称:『ディⅡ』
彼女の血が染み渡った代物であり、ほんの一分の栄光の欠片を貯蓄させる事ができる。最大五つまで。
ロワイヤルにおいて栄光魔法の使用は封じられている為、この本を媒介にした『偽装栄光』が彼女の唯一の攻撃手段となる。

77英姿颯爽 ◆r7Y88Tobf2:2016/08/29(月) 17:10:59 ID:p8T3DASU

「えぇ〜っ!?タェンさんってロボットなんですかぁ!?」

辺り一帯に響き渡る声で目一杯の驚愕を示す少女、橘進。
支給品の冷却スプレーを手頃な雑草に噴き掛けながら問い掛ける彼女へ、タェンさんと呼ばれた女性が苦い笑いを返した。

「いえ、厳密にはロボットではなく半人半機で……
 でも、そういう解釈をしてくださっても構いませんよ」
「へぇー……ちょ、ちょっと触ってみてもいいですかっ!?」
「え?……ま、まぁ……」

ワキワキと怪し気に手を動かす橘に一種の危機感を抱く半人半機、タェンティース。
だが橘のいかにも期待していますよといった瞳を前に、嫌ですと断るような残酷な事は彼女には出来なかった。
その結果、何とも言えないこそばゆさと熱烈な視線を味わうこととなるのだが。

「わー…か、感触は普通の人間ですねっ!」
「そ、それはどうも……ふふ、橘様は変わった人ですね」

むにむにとタェンティースの腕を摘む橘は、どうやらご満悦のようでニヤケ気味の笑顔を貼り付けている。
対照的にタェンティースは困惑気味な様子ではあるものの、クスリと控えめな微笑みを向けていた。
ひと時ではあるが、この場が殺し合いの場だと忘れてしまう程軽く、和らいだ雰囲気。


しかし、それはあまりに淡く切ない時間。
現実を呼び覚ますように、激しい破壊音が彼女たちの鼓膜を容赦なく叩いた。


「……、…ッ!」
「タ、タェンさん……」

瞬間、腰に提げていた長剣を引き抜き警戒態勢へと移るタェンティース。
不安げな声を上げる橘に一つだけ目配せをし、視線を重ねたのを合図にするように岩陰へと潜り込んだ。
続けて自身の能力の一端である気配探知を行い、そう遠くない位置に一体の生命体が存在するのを把握する。
とはいえ制限が掛けられているのか、気配探知の範囲は普段よりもずっと狭くなってしまっているが。

「………っ、…」

自然と長剣を握り締める力が強まる。
先程の破壊音を聞くに穏やかな人柄が待っているとは思えず、同時に強力な武器や能力を持っているのだろう。
タェンティースと橘の方針はあくまで運営の打倒。参加者との戦闘は出来るだけ避けていきたい。
しかしここはロクに遮蔽物もない平地だ。あちらが向かってくる場合、接触は避けられないだろう。
幸い自身の支給品は得意分野である長剣故に、橘を護りながらの戦闘も出来ない訳ではない。
意を決し岩陰から身を出さんとする彼女の腕を、何者かが掴んだ。

「……あの、タェンさん」

僅かに眉尻を下げ、肩の震えを隠せないまま橘の視線がタェンティースの瞳の奥を覗き込む。
それは人の感情に敏感であるタェンティースでなくとも、橘の思考は察する事ができるだろう。
制止の声をあげようとする半人半機の前に腕を突き出して、橘は緩く首を振った。

78英姿颯爽 ◆r7Y88Tobf2:2016/08/29(月) 17:11:53 ID:p8T3DASU

「私の能力は……その、”不死”なんです。
 詳しく言うと長くなっちゃうんですけど……とにかく、ちょっと特殊な能力でしてー……
 だからこういうのは、死んでも”大丈夫”な私が行くべきじゃないかなー…って……」
「不死……ですか…?」

普段よりもトーンを下げ自身の能力を明かす橘は、非常に穏やかな笑顔を見せていた。
しかしタェンティースは知っている。その笑顔は、不安と恐怖を押し殺し無理に作られた笑顔だと。
仮に橘の言う能力が本当だとしてもこの役割に適しているのは自分であり、彼女に任せるべきではない。
だからこそ残酷な言葉を浴びせてでも制止しよう。そう決めたタェンティースを前にしても、橘は一歩も引く様子はない。


「橘さん、いい加減に――!」
「私に任せて、タェンさん」


真っ直ぐ、一切視線を逸らす事なく短な言葉を紡ぐ。
相変わらず不安は隠しきれていないが、確固たる信念をこれでもかとタェンティースに伝えていた。
それはまるで、過去の自分を見ているようで――浮び上がるセピア色の情景を前に、静かに長剣を鞘に納めた。

「……分かりました。ただ、危ないと感じたらすぐに逃げてください」
「ふふん、りょーかいですっ!」

ビシッ、という効果音が似合う程に綺麗な敬礼を見せ、デイパックから一丁の拳銃を取り出す。
”黒い鷹”の異名を持つそれのグリップを確りと握り締め、橘の表情は穏やかなものから戦士のものへと変わった。
準備は整った、覚悟も決めた。橘は素早く岩陰から顔を覗かせ、足早に音の方向へと向かう。
タェンティースのまるで懐かしむような視線を背中に感じながら、橘の賭けが始まった。





「……ん、…人影発見……」

暫く道のない草むらを進んだ頃、橘が目にしたのは朝陽を全身に浴びる長身の人間。
男か女かは後ろを向いている所為で判別は付かないが、190cmを優に越える肉体は女性のものとは思えなかった。
そして更に注視してみれば、その人物は片手に日本刀のような得物を持っているのが分かる。
圭一さん達なら詳しいかな?など相変わらず何処か抜けた思考を抱きながら、ゆっくりと足を踏み出した。


その、瞬間。


「やぁ、そこの君は人間なのかな?」
「――っ…!」

此方へと背中を向けたまま、長身の男が質問を投げかけた。
突然の事に息が詰まった。せき止めていた恐怖心が溢れ出し、パクパクと口が開閉する。
だが、答えなければならない。もし答えなかったら――血に濡れた未来が、容易に予想できた。

79英姿颯爽 ◆r7Y88Tobf2:2016/08/29(月) 17:12:45 ID:p8T3DASU

「は、はい!人間です!
 決してUMAの類だったり宇宙人だったりは――」
「そっかぁ!人間かぁ!!僕、人間は大好きだよっ!!」

橘の答えに対し、ようやくぐるりと体を反転させる男。
不気味な程に純粋な笑顔を貼り付ける彼の顔は、橘の目から見ても異常な程に蒼白だった。
明らかに”普通”ではない。これまで数多の怪奇と遭遇してきた橘でさえもそんな感想を抱かせる確かな異常。
大好き、その言葉の裏に何か途轍もなく恐ろしい事が隠されているのだと橘は直感した。
それでもここで引く訳には行かない。ここで逃げる事は、タェンティースに申し訳が立たない。
逃げ出したくなる気持ちを抑え込み、得意の作り笑顔を刻み込んだ。

「そ、そうなんですかぁー!それは光栄ですっ!!
 じゃあ人間が大好きなら、仲間になってくださいよーっ!」
「あはは、うんうんっ!僕は人間を愛してるよ!
 とっても、とーっても愛してるんだぁ……」

会話が成り立っていない、というよりも会話をする気もないのだろう。
興味深そうに橘の顔を爬虫類のような瞳で覗き込み、ギラギラと刀を陽光に煌めかせる。
”玩具”を見つけた子供のように無邪気過ぎるスマイルを見せつけて、男は緩慢に口を開いた。




「だから――君の中身、見せてよ」




橘が異変を感じた時にはもう遅かった。
20mは離れていたはずなのに、距離などまるで元から存在しなかったように男は橘の目の前で刀を振り上げている。
釣られて橘も刀を見上げる。鈍く照らし出される刀身が、嫌に麗らかに映った。


(……ああ、やっぱり……)


スローモーションで迫る死神の鎌を前に、橘は諦観に近い感情を抱いた。
橘自身こういう展開になる事は予想できなかったわけではない。
むしろ、あの男の異様な雰囲気に触れた時点で自分が殺害される未来など予測できていた。
それでも、自分は不死だから。一度ぐらいは死んでもいいと、心の奥底で認めてしまっていたのかもしれない。

橘進という少女の能力は”不死”、否”肉体の作成”だ。
厳密に言えば新たなる肉体を作り出し、元の橘進の魂を注ぎ込む能力である。
故に完全な不死という訳ではなく、当然彼女の霊力が尽きれば実体を作成することは不可能。
だからこそ賭けだった。運営がもしも一度でも死んではいけない”設定”したのならば、自分はもう終わり。
自分を信じてくれた半人半機の事を想い、ゆっくりと瞳を閉ざした。




80英姿颯爽 ◆r7Y88Tobf2:2016/08/29(月) 17:13:22 ID:p8T3DASU


男、7010番は歓喜していた。
元の世界での”制限”が消失し、監視員の目から解き放たれたバトルロワイヤルという夢のような境遇。
生物を嬲り殺したい。7010番の願望にして理想には勿論、彼の天敵である”龍”だけでなく”人間”も含まれていた。
人間の中身がどうなっているのか、死ぬ時はどうなるのか――積み重なった好奇心を止められるものなど、存在しない。

そんな中だ、橘進が目の前に現れたのは。

当然7010番に殺さぬ道理はない。凄惨に、苦しみ悶えさせ殺害する事を決意した。
まずはその両腕を切り飛ばし、次は足を――そして胴体をメッタ刺しにして最後は脳髄を。
考えれば考えるほど”楽しみ”が増えてゆく。自然に溢れた笑顔を隠す事なく、7010番は橘の前へ疾駆した。


「だから――君の中身、見せてよ」


瞬間、天空へと翳した刀を凄まじい勢いで振り下ろす。
人外じみた腕力と常識外れな重量から成される斬撃は、鉄さえも切断するだろう。
それは寸分の狂いもなく橘の腕を刈り取り、7010番の体を血飛沫に染め上げた。




                 ガギィィ――…ンッ!!







瞬間、7010番は大きく上体を仰け反らせ唖然とした表情を浮かべていた。
それも当然だろう。今さっき刀を振り下ろしたと思ったら、逆にその刀が弾かれていたのだから。
仰向けに倒れ込みそうになるのをなんとか踏み止まり、期待と好奇心に濡れた瞳を前へと向ける。
揺れる7010番の視界に映し出されたのは、細身の女性が一本の長剣を振り翳している光景だった。

「――やっぱり、尾行というものは向いていないようです」
「タェン、さん……?」
「っ……!」

マズイ、7010番が刀を持ち直すよりも早く、長剣の剣戟が降り注いだ。
咄嗟に後退するも刀身のリーチの差は大きく、躱しきれずに腹部に浅い斬撃を受ける。
一文字の血を滲ませる腹部を押さえながら、その7010番の顔は満面の喜色に染まっていた。

「あははは!すごい、すごいね君っ!!今のどうやったの?ねぇねぇ!?」
「……あなたに答える道理はありませんよ。
 それと、橘さん……あまり心配かけさせないでください」
「えっ…あ、は、はいっ!申し訳ありません!!」

7010番の問いかけに冷淡な言葉を浴びせ、流し目に橘を咎めるタェンティース。
当の橘はようやく状況を把握したようで、本日二度目の敬礼を決め即座に拳銃を構え始めた。
二対一という優勢から劣勢へと陥りながらも、狂気の塊7010番は心底愉快そうに口角を釣り上げる。

「いい、いいねぇっ!その活きの良さ!!
 お人形さんだとつまらないもんね、僕も殺し甲斐があるよっ!」
「戯言を……橘さん、援護をお願いします!」
「はいっ!タェンさん!」

それぞれの言葉を皮切りに、闘いの火蓋は切って落とされた。
機人と狂人が駆ける。疾走の勢いだけで草木は揺れ動き、次の衝突した斬撃から衝撃波が生じる。
二人の激闘を前にして橘は、静かに”黒い鷹”の嘴を向け息を呑んだ。

81英姿颯爽 ◆r7Y88Tobf2:2016/08/29(月) 17:14:36 ID:p8T3DASU





【G-4/一日目 朝】
【橘進@能力者高校】
[状態]:健康
[装備]:『Black Eagle』(残弾24/24)@新俺能
[道具]:基本支給品 ライター&冷却スプレー@学園都市
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを止め、生還する。
1.タェンティースと共にこの状況を打破する。
2.自分やタェンティースの知り合いを探し、仲間に引き込む。
3.カニさんがいない……

※不死性に制限が掛けられており、新たな実体を作り上げるのに必要な霊力が遥かに莫大になっています。
  その為、このバトルロワイヤルにおいて死亡できる回数は5回以内に限られています。


【タェンティース@境界線】
[状態]:健康
[装備]:勝利王の雷霆剣@聖杯
[道具]:基本支給品 星のかけら@魔法少女
[思考・状況]
基本行動方針:運営の打倒を第一とし、その為に可能な限り同志を集める。
1.7010番を倒す、殺害も視野に入れる。
2.自分や橘の知り合いを探し、仲間に引き込む。

※タェンティース・イルムの状態からの参戦です
※ニアクラウドがどの程度使用出来るかどうかは後の書き手さんにお任せします
※ヘルメスの靴を喪失している為''『イオナ』''のアクセスは意味を成しません


【7010番@魔竜】
[状態]:腹部に裂傷(小) 異常な程の好奇心
[装備]:流星刀@能力者高校
[道具]:基本支給品 不明支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:人間も龍も関係なく殺戮して回る
1.目の前の二人をいたぶり殺害する
2.”車輪”が欲しいなぁ……

※アジの手により龍へと転生する前からの参戦です。その為アジとは面識がありません
※両手の拘束具は外されています、その為本来以上の膂力を発揮する事ができます


【『Black Eagle』】
新俺能のヘルガ・ヘルストリークが所持している自動拳銃。
彼女が故郷にいる元傭兵の職人にオーダーメイドで造ってもらったもので、パーツ一つ一つが彼女に合うように施されている。
しかしヘルガだけにしか扱えないというわけではなく、むしろ通常の拳銃よりも扱いやすい代物となっている。
スライドには大きく目立つように『Black Eagle』という文字が刻まれている。

【ライター&冷却スプレー】
学園都市の小柳=アレクサンドル・龍太の所持品。
ライターとスプレーを併せて使用することで、即興の火炎放射器となる。
しかし火力自体が高くはないため、滅多にこの方法では使用されない。

【勝利王の雷霆剣(アル=マリク・アル=ナーシル)】
聖杯のサラディンが所持している宝石を象眼した直剣。
その電撃的な戦略から〝シリアの稲妻〟とも呼ばれたサラディンの伝承が落とし込まれており、稲妻を剣から発することができる。
しかし視界の中という限られた範囲でしか発する事は出来ず、その上稲妻自体の速度も決して見切れぬ速度ではない。

【星のかけら】
魔法少女世界のいつの頃からか市内に出現する綺麗な石。
5個集めることで一生に一回だけ願いを叶えることができる。
また、使い潰ぶすことでどんな重傷も無傷の状態に回復させる事や、戦線からの離脱が可能。

【流星刀】
能力者高校のアリオが使用する刀。
曰く隕石から作られた刀であり、その威力も凄まじい。
また、相手の防御力に関係なくダメージを与えるという異能殺しに近い性質を持つ。
本来ならば異能を使用し防御した相手に二倍の威力を与える性質を持つが、本ロワでは制限対象。

82拝啓 親愛なる我が王へ:2016/08/31(水) 07:53:18 ID:67H97me2
端的に述べると、彼は焦っていた。
銃と科学の代わりに剣と魔法が発達した国家『キングダム』、そして国を守護する騎士たちの頂点に立つ『円卓の騎士』が一人――――オーレリア・"ガウェイン"・バートウィスル。
キングダムに於いて円卓の騎士とは最高の騎士である証明であり、誰もが憧れ敬う絶対的な象徴である。
若くして円卓の騎士の一人に名を連ね、〝ガウェイン〟の名を継承する。其れは誰にも出来る事ではなく、弛まぬ努力の結果であることはオーレリアも自負していた。
そんな円卓の騎士の一人は今、息を殺し、気配を殺し、ひたすら黙して周囲の様子を窺っていた。人の目がなく自分を取り繕う必要もないからか、表情には焦りが滲み出している。

(ふざけるなよ……っ)

気がついたら知らない場所にいて、知らない人間と殺し合いをしろ。さもなければお前が死ぬ。そんなことを言われて、冷静さを保てる人間ははっきり言って異常だ。
基本的に他人を見下す傾向にあるオーレリアだったが、一方で見知らぬ人間を躊躇なく殺す事が出来るような歪な精神の持ち主でもなかった。
故に彼はまず焦り、恐れ、慄いた。戦うことを恐れた訳ではない、といえば嘘になるだろう。だが鍛錬は誰よりも多く積んできた自信があるし、自らの戦闘能力が劣っているとは思えない。
だがいざこの下らないゲームの参加者と遭遇してしまった時、相手がやる気だったならば、自分は一切の迷いなく相手を殺すことが出来るのか。
何より死の危険に身を晒した時、己の身体は何時も通りに動いてくれるのか、その確証は何処にもなかった。
だが彼も円卓の騎士である。焦りを抱いてはいたものの、取った行動は実に冷静かつ最適な物だった。
現状の確認と、これからの行動方針。必要なのは思考する時間であり、その間だけでも誰にも見つからないようにしなければならない。
森へと放り出されたオーレリアがまず真っ先に取った行動は、隠れることだった。鬱蒼と生い茂る草木の中に身を潜めること、それが彼の最初の選択である。

「…………くそっ」

胸の中に生じた靄を振り払うかのように、不意に吐き捨てられた悪態。咄嗟に彼は右手で口を塞ぎ、周囲に誰かいないかを確認した。
鼻に付く草木の青臭さが鼻腔を刺激する度に、情けない背格好に虚しさすら覚える。きっちりと着こなした赤色の軍服も、この状況では目立つ要因でしかない。
とはいえ脱ぐという選択肢はなかった。幸いにも周囲に人影は感じられず、先ほどの声にも反応を返すものはいない。

83拝啓 親愛なる我が王へ:2016/08/31(水) 07:53:51 ID:67H97me2
再び視線を左右上下に、誰も居ないことを確認すると、デイパックから参加者名簿と地図を取り出した。
そして広げた名簿の中に見知った名前を見つけ、表情が晴れる――――直後に別の名前を見つけ、若干曇ったが。

(王っ!! …………それと根暗)

仕える王の名、そして円卓最強の騎士の名を見つけ、オーレリアは安堵した。
王は実力は勿論上に立つものというだけあって、頭も相応に切れる。ランスロットの名を持つ騎士も、悔しいがその肩書に恥ない実力の持ち主だ。
考えるまでもなく、行動方針は決定した。王もといエドワード・エクセルシアと合流する。これは迷う余地もなく決定事項だ。
問題はもう一方、ランスロットの名を継承するアルトリウス・シルヴェスターである。
彼の実力は本物だ。其れは認めざるをえない事実である。だが同時に精神的に非常に不安定であり、場合によっては王の脅威に成り得るのではないかと、彼はそう疑っていた。
彼の精神は、危うい状態で均衡を保っている。これは同じく精神的に脆弱性を抱えるオーレリアだからこそ、何となくだが察していた。
最悪の事態を想定する。名簿の他の名前に見覚えがない以上、アルトリウスが現状最強の戦力であり同時に敵になる可能性を秘めているとしたら。
エドワードと合流するという行動方針では、些か条件が足りていない――――アルトリウス、ランスロットよりも速く、王と合流しなければならない。
味方であるならば、それで良い。だが敵だったとしたら、一人で止められるほどあの騎士は甘くない。エドワードと可能な限り素早く合流する、其れが最優先事項だろう。

(…………だけど、どうやって?)

地図を広げて見てみる限り、与えられたステージはかなり広い。人一人を見つけるのに、一体どれ程の時間がかかるだろうか。
参加者はランダムで地図上の何処かに飛ばされており、通信手段は一切無い。エドワードが何処に飛ばされ、どのような移動経路を選ぶのかオーレリアには想像が出来なかった。
恐らくエドワードも円卓の騎士の名を見つけた瞬間に、自分達との合流を意識した筈だ。だがだからといって、そう都合良く無意識の内に同じ場所に集まることなど出来やしない。
かと言って何か目印になるような物を残したり、或いは狼煙に類するものを起こせばゲームに乗るつもりの参加者の格好の餌になることは確実だろう。
此処に来て手詰まりとなり、オーレリアは頭を抱えた。頭は決して悪くはない。これでもキングダムの領地を任され、それなりに上手くやってきたのだ。
だが焦りが思考の巡りを滞らせる。その事実が余計焦燥を悪化させていく。悪循環に気付きつつも、其れを止める術をオーレリアは持っていなかった。

いや、待て。オーレリアは気が付く。行動方針は決定したが、現状の確認は終わっていないと。
支給品は地図や食料、そしてランダムに武器等が与えられると主催者は言っていた。どうして今まで忘れていたんだと、オーレリアはデイパックを漁る。
支給品。これがゲームの行方を左右することは、言うまでもないだろう。ここで当たりを引けばゲームを有利に進めることが出来、外れを引けば一気に窮地に追い込まれる。
オーレリアとしては一番の当たりは言うまでもなく剣だろう。能力の発動に必要なのが剣なのだから、これが来ればまず負けはない筈だ。
逆に銃等が来ても、取り扱いに自信がないためむしろ困る。剣であれば自前のものでなくとも能力が発動できるのだから、とにかく刀剣類が来てくれればなんでも良い。
だが剣が与えられているならば、困難にもデイパックを漁らずともすぐに目につくだろう。それはオーレリアも分かっていたが、それでも希望を捨てられずに中身を全部草の中に並べる。
地図。コンパス。筆記用具。水と食料。参加者名簿。時計。ランタン――――そして、これは。

「…………は?」

思わず呆けた声が漏れた。ランダムと言っていたが、それにしてもこれはあまりに無造作にも程が有るのではないか。
オーレリアに与えられたのは、一冊の本だった。頁を捲ってみると、其処には自然と見慣れない機械と文字と数字が躍っている。
なんだこれは。なんなんだこれは。ゲームの内容を告げられ、いきなり飛ばされた時以上に焦っていた。
訳が分からない。支給品がこれ? 冗談だろう。冗談にしても笑えなさすぎる。頁を全て捲り終えても現実は変わらず、オーレリアは表紙の文字へと視線を落とした。

84拝啓 親愛なる我が王へ:2016/08/31(水) 07:54:26 ID:67H97me2
「げっかん、のうぐ…………?」

月刊農具。異国の文字だが、何故か意味は理解出来た。恐らくは魔法か何かの力が加えられているのだろうが、だからといってこれをこの場で有効活用する方法をオーレリアは一切思いつかない。
触ってみれば中々に硬い。どうやら鉄板が仕込まれているらしい。何故雑誌に鉄板が仕込まれているのかは分からなかったが、鈍器としての性能は持ち合わせているようだ。

(……だからって、何になるってんだよ!!)

鈍器になる雑誌。外れだ。この上なく、紛れも無く、疑う余地もない外れの支給品。
たとえ鈍器になるとしても、リーチは皆無に等しい。その上威力も並で扱いづらいとまで来たら、普通に殴ったほうが恐らくマシだろう。
血の気が引いていくのを感じた。王と合流するまでに、誰とも会わない確率は一体どれ程だろう。考えるまでもなく、そんな運良く都合が良いように事が進むとは思えない。
最悪だ。意味が分からなすぎる。これでどうやって戦えと? 何を思ってこんなものを支給したのか、主催者は確実に相当な馬鹿か性格が捻れに捻れたクソ野郎だろう。

(いや、こんなゲーム始めてる時点で両方だろ……)

思考が混乱してきた。全ては月間農具のせいだろう。深呼吸をして、一旦冷静さを取り戻す。
支給品は外れだった。王を探し当てる手段はなく、戦う手段は徒手空拳か雑誌での殴打のみ――――溜息を吐きながら、曝け出したデイパックの中身を再び収納していく。
はっきり言って状況はあまり良くはない。だが絶望し、立ち止まっていては殺されるだけだろう。焦燥感は消えていなかったが、取り敢えず動かなければ変わらないと言う事も分かっていた。
闇雲にでも、探してみるしか無い。それがオーレリアの出した結論だった。参加者の全員がゲームに乗ってるとも思えないし、もしかしたら目撃情報ぐらいは集められるかもしれない。
とにかく動かない事には始まらない。そう結論づけ、立ち上がったその瞬間である。
肩を叩かれた。振り返る。黒いスーツを纏った黒髪の男が立っており――――身体は、無意識に動いていた。
握り締めた拳が、短い呼吸とともに繰り出され――――――――。

85拝啓 親愛なる我が王へ:2016/08/31(水) 07:55:00 ID:67H97me2
騎士として鍛え上げられた拳は、リチャード・ロウを弾き飛ばすには十分過ぎる威力を持っていた。
彼の本職は召喚士、本人が前線に出ることは想定していない。外見からも分かるように彼は細見であり、はっきり言って身体能力は並以下である。
純粋な身体能力ではオーレリアとは比較するまでもない。だがリチャード・ロウの召喚術は身体能力を補って余りある万能性を秘めており、拳がリチャードに届く事はまずないだろう。
少なくとも彼の指揮していた組織の人間は、そう思うはずだ。あのリチャードが、たかが拳撃を受ける訳がないと。
核すら相殺する焔の神、電撃を纏う武の神、触れたもの全てを凍結させる死の神――――人間程度では決して届かぬモノを、彼は従えていた。
そう、拳が当たるはずがない。当たるはずがないのだ――――本来、ならば。

「ぐはぁ――――っ!?」

オーレリアの拳は、リチャードの顔面を綺麗に撃ち抜いた。リチャードに耐えるだけの力がある訳がなく、軽々と痩身は吹き飛ばされていく。
地面に伏して数秒、ぴくぴくと震えた後に顔を擦りながら立ち上がる。攻撃を受けてなお、笑っているのか困っているのか判別がつかない曖昧な表情を崩さないのは流石と言えただろう。
とはいえ痛いものは痛い。恐らくは痣か何かになっているだろうが、現状回復する手段もない。良い反応が貰えるとは思わなかったが、まさかいきなり殴られるとは。

「…………いやはや、結構な挨拶ですね」

距離を詰めることなく、リチャードはオーレリアと向かい合う。下手に近づけば警戒心を煽り、更なる攻撃を受けると判断したからだ。
そうでなくとも今彼はオーレリアから、不信感と戦意の入り混じった視線を向けられてしまっている。リチャードは困ったように笑うと、ゆっくりと両手を挙げた。
何かの予備動作――――ではない。抵抗の意思はなく、攻撃するつもりはないという意思表示。見たところ相手は外人のようだが、恐らくは万国共通で通じるはずだ。
オーレリアの目に、疑念が宿るのを感じられた。何が目的で、どうしたいのかが理解出来ないのだろう。
こういった場合、下手に難しい理由を説くより単刀直入に告げてしまったほうが良いだろう――――少なくともこんなゲームに参加している間は、冷静でなんていられないだろうから。

「攻撃するつもりも、殺すつもりもありませんよ。そうするなら、気付かれる前にやっている筈でしょう?」
「警戒するなとは言いませんがね、ええ……ただ私は貴方に、手を貸していただきたいのです」

手を貸して欲しい。より正確に言うならば、手を組もうというのがリチャードの提案だった。
ゲームに強制参加させられ、リチャードも幸か不幸かオーレリア同様にこの森に飛ばされた。其処まではまだいい、不測の事態と言うのはいつ起きても可笑しくはないのだから。
いきなりこんな物に巻き込まれて冷静さを保てる奴は普通じゃないとオーレリアは考えていたが、リチャードは正しくその典型のような、オーレリアの言うところの異常者だった。
あくまでリチャード・ロウは、冷静さを失わなかった。それどころか直ぐ様自分が打てる手と選べる手を列挙し、数秒後には行動を開始していたのである。

(もっとも、まだ考えあぐねてはいますが……)

まず第一に、今のリチャードには召喚術が使えない。より正確に言うならば、召喚術を行使するだけの魔力が無い。
リチャードの召喚術は魔力有りきであり、魔力があれば途方もない量と質の召喚を行えるものの、魔力がなければそこらの一般人以下の戦闘力に成り下がってしまう。
そして困ったことに、今のリチャードには魔力の回復量に制限がかけられていた。それが主催者手ずからの物なのか、それともこの忌まわしい首輪に依るものかは定かではないが。

86拝啓 親愛なる我が王へ:2016/08/31(水) 07:55:42 ID:67H97me2
いずれにせよ厄介な状況であるということに変わりはない。此の時点でリチャードはゲームに乗ること、そして主催者そのものの殺害、或いは首輪の破壊とゲームの脱出を一先ず選択から外した。
全力が出せるのであれば主催者を直接狙うか、さっさと脱出の手立てを考えて終わりだったのだが、現実はそう簡単にはいかないということなのだろう。
そもそも自分を気付かぬ間に此のようなゲームに巻き込める時点で、主催者側の人間の有する力は常軌を逸していると判断せざるを得ない。
そんな相手にまともに戦いを挑むのは、はっきり言って無謀だ。かといってゲームを生き残れると断言出来るほど、今のリチャードの戦力は充実していない。
だからといって、生存を諦めるというのも有り得ない話だった。元の世界に還り、聖王を呼び戻す。その悲願は何者にも代えがたく、命を賭す等彼にとっては何の弊害にもなりはしない。

だが生き残るのが簡単ならば、そもそも此のゲームは成立しないだろう。
リチャードとしても面倒な事に、名簿に知っている名が幾つかあった。そして何方もが信用ならず、手を組む相手としては最悪に近いと言っても良い。
サイス・エンデュートや霧島レンがいたならば迷わず探すのだが、ゲームのルールに則るならば彼等も殺さなければ生き残れない為、むしろ心の許せる相手がいなかったのは喜ぶべきだろう。
とはいえこのゲームを有利に進めていく最も容易な方法が、他人と手を組むことなのは誰もが理解している筈だ。
終盤はともかく、序盤と中盤の間は誰かしらと共に行動したほうが飛躍的に生存の確率は高まる。リチャードも其れを分かっていたため、開始直後から手を組める様な相手を探していた。
一人ではどうしても生まれてしまう隙も、二人以上でならば埋められる。とにかく魔力を回復する時間が欲しいリチャードにとって、仲間を作ることは死活問題でもあった。

(それも最短で二日で崩壊しますが、組まないよりかは遥かに良い)

手を組んだ場合、最短で二日でそれが崩壊すると判断したのは、単純に与えられた食料の量から計算しての事だった。
与えられた食料は成人男性二日分の量のみ。ゲームがそれ以上長引くようであれば必然的に誰かしらから奪う必要が出てくる。
仮にゲームに乗らず、対主催などを考えているならば食料が死活問題になるのは言うまでもないだろう。
それでも、組まないよりかは確実にマシだ。そうしてリチャードは、オーレリア・バートウィスルを見つけた。

87拝啓 親愛なる我が王へ:2016/08/31(水) 07:56:14 ID:67H97me2
彼の存在に気がついたのは、通りがかりに独り言を呟いているのが聞こえたからである。
その上赤色の軍服は草の中では酷く目立つ。声がなければリチャードも気付かなかっただろうが、一度意識を向けてしまえば発見はそう難しくはなかった。
言葉に耳を傾け、遠くから観察しているとどうやら彼は外れの支給品を引いてしまったらしい。焦っているのは明白で、だからこそ付け入る隙があるとリチャードは見た。

歳相応の精神的脆さを有しておきながら、武人としてはかなりの練度を誇る。手を組むのに、これほどの好条件はそうはいないだろう。
恐らく参加者を分類するならば戦えるものは大きく分けて、武術と異能の二種類の筈だ。リチャードは後者で、オーレリアは前者である。
異能のほうが火力は高いかも知れないが、道具などに頼る場合まず能力の発動すら出来ない。何より武人のほうが体力が多いため、こういったサバイバルでは有利な筈だ。

「勿論ただで、とは言いません。参加者の中に知っている人間がいるので、その情報」
「そして一日分の食料と、私の武器を交換条件に――――いかがでしょうか?」

リチャードは、支給された武器を取り出してオーレリアに見せた。
一見すれば、ただの棒である。しかしリチャードはそれが指揮棒であり、持ち主が誰であるのかも知っていた。
奇妙な縁だが、手に入れたのならば利用しない手はない。幸いにして打撃武器としては、悪くない性能である。少なくとも月刊農具よりかは、遥かにマシだ。
それでもオーレリアの疑いは消えなかった。当然だ。まず第一にリチャードの見た目が胡散臭いし、其処までして自分と手を組みたい理由がイマイチ見えてこない。
それにオーレリアは、リチャードと違って信頼できる仲間がいる。問題なのは何処にいるのかが分からない所であったが、探し回ればいずれは見つかるだろう。

「…………悪いけれど、私には合流すべき仲間がいるので」

「なら、その方達と合流するまででも構いません――――誰かと組んだほうが良いのは、貴方とて分かっている筈です」

オーレリアも、その点については理解している。だからこそ王との合流を急ぎたいのだ。
だが一方で今すぐ探し始めたとして、すぐに見つかる訳がない事も理解していた。その間に出会うであろう敵に関しても考慮していた故に、リチャードの提案は正直に言えば簡単には断れない内容だった。
二人のほうが、生き残れる可能性は上がる。其れは間違いない。人間である以上睡眠も取らないといけないし、その間無防備を晒さないのは絶対に不可能だ。
その点リチャードはあえて攻撃をしないという手によって、自分は安全だと暗に告げていた。信用する材料としては心許ないが、かと言って何の材料も無いよりかは信用出来なくはない。

「それに貴方の身体能力であれば、私が怪しい事をしようとした瞬間に殺すことも出来るでしょう?」

仮にリチャードが敵だったとしても、オーレリアであれば対応が出来る。これは真実であり、同時に嘘でもあった。
召喚獣を呼び出せない今のリチャードならば、武器を持たないオーレリアでも制圧は十分に可能だろう。あくまで魔力が戻るまでは、オーレリアのほうが戦力的には上である。
オーレリアもまたリチャードが何らかの異能の使い手ではないかという疑いを持っていたが、殺る気ならば異能を持っているならばそれこそ肩を叩かずに殺していた筈である。
どうにも得体が知れない男ではあったが、いないよりかはいたほうがマシだと。オーレリアは悩みに悩んだ末に答えを出す。

「…………分かりました。王と合流出来るまで、貴方と組みましょう」
「オーレリア・"ガウェイン"・バートウィスル……よろしく」

「ありがとうございます。リチャード・ロウです、よろしくお願いします」

利用するつもりなのかもしれないが、ならば此方が利用してやるまで――――オーレリアはあくまでリチャードを信用するつもりはなく。
信用されていないぐらいが調度良い、どうせいずれは殺すのだから――――リチャードもまた、オーレリアを生存のための手段の一つとしか見ていなかった。
奇しくも二人は王に仕える騎士同士。虚偽と疑心と欺瞞に満ちた握手と共に、此処に一つの契約が交わされた。

88拝啓 親愛なる我が王へ:2016/08/31(水) 07:57:27 ID:67H97me2
【G-6/一日目 朝】
【媒介召喚@旧厨二】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 不明支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:生存のためには手段を選ばない
1.時間経過とともに魔力が回復するため、魔力の回復を待つ
2.その間は【陽より輝し我が拳】と共に行動し、王とやらを探す
3.魔力が回復した時の状況によって、立ち回りを決める(マーダーか、対主催か、それ以外か)
4.聖王様万歳

※召喚術そのものに制限はかけられていませんが、ゲーム開始時の魔力量がゼロになっています
 また回復量自体に制限がかけられているため、上級以上の召喚獣を呼び出す場合相応の時間がかかります
 回復量の裁量は、その時々によってお任せします

【陽より輝し我が拳@新厨二】
[状態]:健康 疑心
[装備]:指揮棒@旧厨二 月刊農具@魔法少女
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:
1.【魔剣担いし"至高"】よりも先に【騎士王剣】と合流する
2.それまではとりあえず怪しいけど【媒介召喚】と共に行動する
3.能力発動のために、剣が欲しい
4.だが戦闘は極力避けたい

【指揮棒】
旧厨二の【殲滅指揮】が所有していた四十センチ程の指揮棒。
教鞭や馬上鞭の如く、よく撓り、対人において使用しても十分に相手に傷害を負わせるほどの威力を発揮することが出来る。

【月刊農具】
魔法少女の北条豊穣の魔具。本来であればカタログに載っている農具を召喚するための道具である。
しかし正式な所有者ではないため、たとえ魔力があったとしても農具の召喚を行う事は出来ない。
何故か鉄板が仕込まれている為、月刊農具自体が鈍器としての性能を持っている。

89”忠誠心” ◆r7Y88Tobf2:2016/08/31(水) 14:46:02 ID:p8T3DASU


「――…殺し合い、か」


改めて言葉にすると、とんでもない事に巻き込まれたものだ。
殺し合い。能力者の溢れる学園都市でも度々行われているそれだが、今回はその規模が格段に違う。
50人以上ものの人間を一つの場所に纏め、殺し合いを強制させるなど――”魔女狩り”の連中でも不可能だ。
京介自身己の能力には自信があった。それこそ、魔術師の一人や二人程度は相手取れるぐらいには。
だがそれも運営にとってはほんの些細な、或いは皆無に等しい力なのだと、強制的に焼き付けられる。
そうなれば恐らく対運営は非現実的だろう。とすれば、辿る道は一つ。

「白さん、俺は生き残る……。
 誰かを殺してでも、生き残るよ……っ!!」

自然と拳は握られていた。
生涯付き添う事を誓った一人の少女を想い、”覚悟”を決める。
これから自分の行う事は禁忌だという事は知っている。元より、彼女の為ならば京介は殺人も厭わなかった。
行き過ぎた忠誠心は人格さえも捻じ曲げる――誰よりもそれを知っている青年は、一人修羅の道を辿り始める。


目標は決まった、まず確認すべきはデイパックの中に潜っている支給品だ。
まず京介が手にしたのは参加者名簿だ。自分が忠誠を誓う名前が載っていない事を確認し、安堵の息を吐く。
そして次に、京介の視線を釘付けにしたのは”高天原いずも”の名前。
白の為に闇に堕ちる事を決意した京介にとって、その存在は最も倒すべき”正義”であり”悪”であった。

高天原いずもだけは自分が殺さなければならない。
いつしか京介の第一目標は高天原いずもの殺害に変更され、開いた双眸はこれ以上なく燃え上がる。
気分を鎮めるように深呼吸を行い、次に京介がデイパックから取り出したのは二対の小刀だった。
陽炎の如く揺らめく刀身は不思議と見る者を惹き込んで、柄の底から伸びる鎖が双刀の自由を阻む。
まるで自分と白のようだ――離れる事のない小刀を眺め、場違いにもそんな感想を抱いてしまった。

「とりあえず、武器が確保できたのは嬉しいな……。
 これから先、もっと武器が必要になってくるだろうし…――ッ!?」


瞬間、京介の背中に悪寒が奔る。

90”忠誠心” ◆r7Y88Tobf2:2016/08/31(水) 14:46:55 ID:p8T3DASU

半ば本能に任せて横へと転がれば、数瞬遅れで自分が居た場所に稲妻が轟いた。
アスファルトに小規模な焦げ跡を残し、黒い煙を上げさせるそれが攻撃だと気付くのに数刻。
そしてそれを行った人物が居るという事に1秒――京介が顔を上げた頃には、既に”そいつ”は自分を見下ろしていた。

「あ……っ…!」

体中の力を全て両脚に注ぎ込み、もたつきながら近くの電柱の陰に潜り込む。
繰り出された雷の追撃は京介の横を通り過ぎ、激しい明滅を繰り返し音もなく消失していった。

「あら、外しちゃった……貴方、中々疾いのね」
「は…ぁっ、……貴女は、殺し合いに……!?」

電柱から顔を覗かせる形で、突然の襲撃者の姿を視界に納める。
犬のような黒色の仮面を被り、シックなメイド服に身を包む姿から紡がれるのは意外にも年相応な少女のものであった。
だが京介にとっては最悪な状況であることには変わりはない。
コツ、コツと、態とらしく恐怖心を煽るようにゆっくりと距離を詰めていく襲撃者。
今さっき殺し合いに乗る決意をしたばかりだというのに、何故こんなにも怯えているのか――。
京介は自分の心の弱さを呪うと同時に、絶対に生き延びてやるという強い信念が働いた。


「何故…何故、殺し合いに乗ったんですかっ!?」


無意識に京介が発していたのは、そんな在り来たりな言葉だった。
ぴくりと、襲撃者の体が一瞬だけ静止する。だがすぐにそれを切り払うように足音が鳴り始めて。

「そんな事を貴方に教える必要は……」
「俺も!殺し合いに乗ったんですっ!!」

なっ―――と、襲撃者は初めて驚愕とも取れる声を漏らした。
その驚愕は一瞬。しかし、その一瞬を見逃すほど乾京介という人間は愚か者ではない。

「大切な人……いえ、俺が忠誠を誓った人の為に……。
 あの人の為にっ!こんなところで死ぬわけにはいかないんですっ!」

その言葉に嘘偽りはない、正真正銘心からの言葉。
決死の思いで投げかけたそれが伝わったのか、襲撃者からの殺気は既に消散していた。
代わりに流れるのは穏やかな雰囲気。そう、言葉に表すのならばそれは”慈愛”が当て嵌る。
緊張の糸が解れたように盛大な溜息を吐いて、京介は電柱から身を出した。

「そう、貴方も……なのね」
「貴方も……っていう事は、誰かに忠誠を……?」
「ええ、その通りよ。私はその人の為にゲームに乗ったの」

不意に語られる少女からの共感を示す措辞。
京介は彼女の告白に衝撃を受けたと同時、言いようのない仲間意識を覚えた。
自分が白を命を挺して護りたいと思うように、この少女にも護るべき存在が居るのだろう。
そんな思考が巡った途端、京介の心の底から熱いものが込み上がった。
そしてそれは少女も同じなのだろう、京介という”仲間”を見つけて何処か心に余裕を持っている様子だった。

「私の名前は黒野愛里、貴方と同じ付き人……ってとこかしらね」
「俺は乾京介。愛里さん……俺と手を組みませんか?」

気が付けば、京介は極自然な流れでその台詞を発していた。
同じ付き人として見過ごせない何かがあったのか、はたまた愛里という人物を利用する為か。
どちらにしても今し方自分を殺害しようとした相手に協力を持ちかける時点で、京介という人間が知れるだろう。

「……その前に、私の話を聞いてくれないかしら?
 私の主はね、すごく強くて、優秀で……常に私の一歩先を行く方だったわ」

普段よりも饒舌な様子で語る愛里の様子は、僅かながらに活気に溢れていた。
薄い笑いを浮かべまるで遠い幻想を思い返すように、自らの主人の記憶をぽつぽつと蘇らせる。
そんな愛里の姿を京介は穏やかな瞳で見つめ、愛理という存在と共にゲームを生き残る事を決意した。

91”忠誠心” ◆r7Y88Tobf2:2016/08/31(水) 14:47:34 ID:p8T3DASU






「そして、その主の名前は――――”ヘレネ”」
「…ヘレネ?……それって」






その先の言葉は出る事はない。
愛理の手が、京介の胸を貫いていたから。




92”忠誠心” ◆r7Y88Tobf2:2016/08/31(水) 14:48:09 ID:p8T3DASU


「あ…っ、ぇ……?」

理解出来ない、と呆然とした表情を浮かべて穿たれた自身の胸を見下ろす京介。
無慈悲に手を引き抜かれれば噴水の如く鮮血が舞い踊り、京介の体はゆっくりと崩れ落ちた。
白濁する意識の中、ぼんやりとした視界に映し出されたのは自身を見下ろす仮面の少女、愛里。
仮面を被っている為表情は伺えないが、何処か寂寥を感じているような――そんな感じがした。

「そう、私の主は既に死んでしまったのよ。
 貴方と違って私には何も残っていない……だから、私はヘレネ様を蘇らせなきゃいけないの」
「かっ…ひゅ、…ーっ…こふ……」

ああ、なんだ――そうだったのか。
刻々と迫る死のタイムリミットを前にして、京介は奇妙な程に冷静な思考を巡らせる。


自分と同じ境遇だと思っていた黒野愛里という少女は、最初から正反対だったのだ。
いや、正確にはこの殺し合いが始まってからというべきだろう。
主人が帰りを待っている自分とは違い、愛里は唯一心を許せるヘレネという主を喪っていたのだ。
”生きる”事を目的とした京介と、”生き返らせる”事を目的とした愛里。
何処か似ている二人は共通点はあるものの、その性質と生き様は全くの別物なのだ。
死の淵に立ってようやく気が付くとは、なんという皮肉な運命だろうか。

「じゃあね、京介君……貴方みたいな人、嫌いじゃなかったわ」

心を喪った魔法少女の審判が下される。
向けられた指先からは紫電が迸り、明確な死の未来というものを想起させてくれた。
後悔はある、未練もある。結局白の傍に付いて行くという約束も守れず、番長との決闘も果たせないのだから。

(……白、さ…ん…)

乾京介が最後に思い浮かべたのは主人、陽愛白の柔かな笑顔。
ああ、こんな笑顔久しぶりに見たな――…釣られるように京介は笑って、ゆっくりと瞼を下ろした。






顔面が焼け爛れた京介の亡骸を前に、愛里は大きく息を吐いた。
まずは一人、順調だ――あくまで機械的な思考は、もはや感情などといったものは存在しない。
一切躊躇のない動作で京介の支給品を奪い取れば、ふと二対の小刀に視線を注目させた。
鎖銃剣。鎖で繋がれた二対の刀は決して離れることはなく、その本領を発揮してみせるだろう。
今の愛里にはその武器がとても憎らしく、同時にとても羨ましく思えた。

「……、…らしくないわね」

ジャラリ、音を鳴らすそれを両手に携えて足を踏み出す。
乾京介は紛れもなく歪んだ忠誠心の持ち主であった。
しかし黒野愛里という少女はそれよりも遥かに、ヘレネという主人に対して盲信していた。
二人が衝突した時点で心から分かり合えることなど――例えヘレネが生きていたとしても不可能だっただろう。
確定された未来は変えられない。必然を歩く少女の双眸には、無限の闇が広がっていた。









【乾京介@学園都市 死亡確認】
【残り52名】

※京介の遺体は警察署付近に放置されています

93”忠誠心” ◆r7Y88Tobf2:2016/08/31(水) 14:49:25 ID:p8T3DASU





【C-3/警察署付近/一日目 朝】
【黒野愛里@魔法少女】
[状態]:健康 感情の喪失 変身状態
[装備]:鎖銃剣@能力者高校
[道具]:基本支給品×2 不明支給品×3 
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し運営の力を利用して、ヘレネを蘇らせる。
1.なるべく少人数のチームを潰す
2.もしも知り合いと出会ったら真っ向からの勝負は避け、闇討ちを狙う
3.……皮肉な武器ね

※魔法槍ルナ・アクターの召喚は制限されています
  その他にも普段よりも魔力の消費が大きくなっています

94悪食:2016/08/31(水) 23:28:42 ID:.3ytU0hQ
(あのクソ野郎…今度会ったらタダじゃ済まさねぇ…)

零との戦闘から1時間ほど後、ジョシュアは変わらず廃屋の中で、デイパックの中身を広げ、それをまじまじと眺めていた
傷も、疲労もすっかり癒えた。常人を遥かに凌駕する回復スピード、それは彼の能力【暴食のベルゼブブ】の依る所にある
人体の内に潜む潜在的な生命エネルギーを糧に、傷を癒し、身体能力を上昇させる効果を持つナノマシンの効能だ

「…腹減ったなぁ……

(……食料は、今んとこコレだけか)
(この分じゃ1日持たねぇ…一人で来て正解だったな)

しかしジョシュアが仲間達を裏切り、マーダーの道を選ぶ事となった理由も、その一見無敵にも見える能力が一因として寄与していたのだ
すなわち暴食のベルゼブブと比喩されるほどの、アイドル状態での燃費の悪さ。デイパックの中の食料など、1日で喰らい尽くしてしまう事は容易い
事実ジョシュアが広げているデイパックの中身を見れば、パウチに入った食料は既に半分を切ってしまっていた。傷を癒す為にやむなく食べたのだろう
仲間と一緒に行動していれば、いつか必ず能力によるしわ寄せが帰ってくる。仲間の分の食料まで喰い尽くす気はジョシュアには無かった

だがジョシュアの能力を用いれば食用外の物質でも分解し捕食することによって、活動に必要なエネルギーを補うことが出来る
この環境に於いて最大のエネルギーソースは何かと問われれば、それは遺体だ。屍を喰らう事によってエネルギーは補える。ゆえのマーダーだ
逆に闘争を嫌い、何処かに籠るようなことがあればジョシュアの身体はエネルギー不足に陥り、自らの飼う暴食によって内部から食い荒らされてしまうだろう
自らを保つために自らの肉体さえ貪るとは、暴食もなんと憐れな大罪であるか。この罪はジョシュアに殺し合う事を首輪以上に強要しているのだ

(銃はナシ、武器もナシ。手元にあるのはクソみたいに分厚い本一冊、訳の分からないボロ紙……)
(六法全書でぶん殴れってか?随分と舐めた真似してくれるじゃねぇか…至高のアリスさんよ)

だが自分に与えられた戦闘手段は、今の所は肉体と能力を使った近接戦闘に限られている。複数との戦闘はまず勝ち目がないだろう
一人程度であれば右腕を用いた不意打ちで捕食してしまえるだろう。味方を装って近づくのもいい。遠くから狙撃し遺留品を回収するのが最善だが
だが限界はきちんと見極めなければならない。捕食という防御力無視の側面を持つとはいえ、一般的な能力に比べれば破壊力は低い
あまりにも大きなグループに取り入ってしまえばそれだけのリスクが伴う事になるし、出来れば自分がマーダーだと知っている人物は一人も逃がしたくはない
ジョシュアは冷静に淡々と、どのように孤立したターゲットを痕跡なく殺害し、情報の漏洩を防ぎつつ遺体を集めるかという事を熟考していた

(どうやって奴らを殺す…?派手な戦闘は出来るだけ避けたい)
(出会い頭に一撃で殺す、一人の奴に取り入って適度に信頼を得た所で殺す、能力を使って吸収する…)

先程までとはうって変わって、この青年の思考回路は完全にマーダーのそれと化していた
だが殺人衝動のままに無計画に殺しを繰り返すただのマーダーとは違い、狡猾な頭脳を用いて勝機ある敵のみを狙い撃つ
姑息ではあるが最も効果的な作戦であり、単純な戦闘能力はさて置き、マーダーとしては最も厄介な部類の敵であるだろう
同じ越境者達を手に掛けることを思えば、ひどく胸が締め付けられた。しかしニアという存在を守る為には、
この男にとってそれを達成する事は例え何を犠牲にしても、如何なる代償を支払ってでも成し遂げねばならない重大なものであった

95悪食:2016/08/31(水) 23:29:44 ID:.3ytU0hQ
(…どうせ死ぬなら、ニアの優勝が確定するまで生き残ってやるさ)
(あいつさえ助かれば…俺はどうなったっていい、ニアに手を掛けるようなことがあれば…あいつらも殺す)

ニアを残して全員が死に、最後に自分が自決する。これが考え得る最善のケースであった。これ以外の状況はなるべく避けたい
他の誰かが優勝するのは言語道断、ニアの優勝が確実となるまで、自分が先に死ぬことも避けたい。難しい問題だ
ニアを守護しながら、その存在と思惑が露呈しないように細心の注意を払わねばならない。ニアがそれに気づけば、彼女はきっと悲しむ
いや、それどころかジョシュアの想いを否定する筈だ。数えきれない程の屍の上を踏み歩くなど、優しいニアには無理だとジョシュアは踏んでいた

同じ越境者たちを敵に回してまでも、ジョシュアはニアが死ぬことは避けたかった。それが彼の覚悟であり、その身に背負った義務だからだ
だが今の状況を見ればどうだ、ニアを救うどころか自分の身すら守れもしない。手元の魔術書は自らその使い道を語ることは無い
ゆえに力が必要だった。今の自分にでも扱えるような力が

幸いこの付近には警察署があった。警察署であれば十中八九ガンロッカーはある。ガンロッカーがあるという事は、そこに銃があるということ
出来ればライフル。最低でも拳銃は欲しい。防弾チョッキも手に入るだろう。闘いを有利に進めるためにはこれらは必須だ
後は同じ考えを持った者に先を越されていないのを祈るばかりだ。運営によって中身が抜き取られている可能性も考慮しなければならない

(……仲間に俺の動きを知られるのは不味いな)
(マーダーとして動く間は顔を隠しておく必要がある)

ゆえにまずは姿を隠す必要があった。それにマーダーとして顔が知られては、いずれかの勢力と手を組まざるを得ない状況で損をする
廃屋とはいえ、元は人の暮らしていた民家だ。生き残る為に必要な装備を、ここで最低限度整える事が出来る筈だ
当たりを見回すも目ぼしいものはない。しかしふと後頭部に触れた、もたれ掛かっている壁に掛かっている薄手のカーテン
元を正せばただの大きな布だ。姿を隠すにはこれがいいだろう。ジョシュアはそれを掴めば、適当なガラス片を手に取っておもむろに立ち上がるのであった

しばらくして、近くの民家でかき集めた廃材をふんだんに使った装備を身に纏い、ジョシュアはデイパックを背に廃屋を後にした

全身を丈の長い手製のポンチョで覆い、また手製の頭巾を被って顔を見られる可能性を出来る限り低くしてある
また武器として麺棒をガムテープできつく巻き、釘をいくつか貫通させて持ち手に輪ゴムを幾重にも巻いた簡易的なトレンチクラブを作成した
表で打てば錆びた、泥で汚された釘が突き刺さって破傷風を起こさせ、背で打てば単なる打撃武器として機能する
自作装備のクオリティは無いよりはマシ程度、最低限の装備ではあるがこれでようやく丸腰ではなくなった
装備を手に入れた今、戦闘での生存率は各段に上昇した筈だ。まぁ、元が低すぎるというのもあるにはあるのだが

向かうはC-3警察署。銃と防具を求め、まずは署内をひとしきり漁る事に決めた
現在地はおそらくC-5付近、辺りの建物の特徴も地図のそれと一致する。となれば向かうは西である
道中襲撃を受けぬよう建物の影を縫うようにしながら、一人の狩人は西方をただ目指す

96悪食:2016/08/31(水) 23:30:33 ID:.3ytU0hQ
【C-5/一日目 朝】
【ジョシュア・アーリントン@境界線】
[状態]:健康 エネルギー(満) 精神疲労(中)
[装備]:白色の魔導書@新俺能 手製のトレンチクラブ
[道具]:基本支給品(食料:少) 光癇癪×2@境界線 剛力のルーン@能力者高校
[思考・状況]
基本行動方針:ニアの優勝を第一とし、マーダーとなる
1.C-3 警察署へと向かい、装備を手に入れる
2.マトモな武器が手に入るまで、戦闘は避ける
3.現時点でも勝てると分かれば、騙し打ち、あるいは闇討ちで殺害し死体を食べる
4.ニアとの接触は、現時点ではしない

※能力は【暴食のベルゼブブ】とします
※ジョシュアは白色の魔導書の内容を読む事ができません
※剛力のルーンによって腕力がワンランク程度上昇しています
※回復や身体能力向上の度にエネルギーを消費します
 エネルギーが空の状態で丸一日何も食べなかった場合、自己捕食が完全に進行し死亡します

【白色の魔導書】
新俺能のモニカ・アレジャーノ・ラフエンテが所持している白色の魔導書。
光の属性を司り、閃光を飛ばしたり光を起こしたりする事が可能。
だが魔法を放つには詠唱が必要であり、本の内容を解読出来る者にしか扱えない。

【光癇癪】
境界線のムガが所持している手持ち式の炸裂弾。
破裂時に大きな音と閃光を発するフラッシュグレネードのような役割を持つ。
しかし原材料が卵の殻などなので、殺傷能力はほぼ皆無。
逃走や牽制に用いる事が本来の使い方。

【剛力のルーン】
能力者高校の白衣の幼女が使用する力を書き換えるルーン。
中位ランクの魔術だがさほど難しくない上に、効果も強力である。
白紙に最初からルーンが描かれている状態となっており、持ち主の腕力を高める効果がある。
本ロワでは制限対象となっており、腕力の上昇はワンランク程度に抑えられている。

97躍動せよ。 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/04(日) 16:15:34 ID:p8T3DASU

「……っ…!」

青年、月代明日架は静かに緊張を走らせていた。
それはこのバトルロワイヤルというゲームに対して、そして今自分に巻き起こる現状に対して。
頼りない木製のバットを握り締め、目前の”危険”が起こす圧倒的な威圧の嵐に体を震わせていた。

「ほう――立ち向かうか、己が”運命”に」

炯々と見開かれた双眸が見定めるように、鋭い視線を明日架へと注ぐ。
その男の名はツァラトゥストラ――人間という種族でありながら、純粋な力のみで龍を圧倒する人外に等しい存在。
焦茶色の顎鬚を撫で感嘆とも取れる声を漏らせば、静かに自らの拳を明日架へと向けた。

「畏れているのだろう、逃げ出したいのであろう。
 然り、其が人間の性にして本能……されど、汝は未だわたしの前に立っている。
 故に……汝は誇りある敵であり、生き残るに相応しい人間だ」

トン、と。男が一歩踏み出す。
ただそれだけの動作で明日架は自分が突風に晒されるような感覚を覚え、思わずその足を後退りそうになる。
しかし踏み止まる――今ここで退いてしまったら、力だけではなく心でも負けてしまう。
それは、それだけは嫌だ。実力で敵わないのは分かっている、だからこそ心までは折れない。
確固たる意志を持って、月代明日架はツァラトゥストラに睥睨を決めた。

「僕は……終わらせてみせる!この戦いをっ!
 そして一つでも多くの命を救い、笑顔を咲かせてみせる……。
 それが、それこそが!この月代明日架の生き様だッ!!」

バットを握り締める手に力が込められる。
燃え上がる双眸に伴い、全身の震えはピタリと収まり闘志を帯びた。
恐れは抜けない、実力差も覆らない。それでも尚立ち向かうのは、明日架の不屈の精神によるもの。
殺さず殺されずの誓いを掲げ、生者の盾となる”不殺同盟”を率いる長の心は折れる事を知らない。


「……その言葉、どうやら虚言の類では無いな」
「え……?」

98躍動せよ。 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/04(日) 16:16:17 ID:p8T3DASU


穏やかな語調と共に男、ツァラトゥストラが静かに拳を下げた。
同時に場を制圧していた気迫は一瞬の内に消散し、明日架は思わず困惑の色を見せる。
何故――そう言葉にしようとするも、先にツァラトゥストラが口を開いた。

「好いだろう、わたしはおまえを誇り高き戦士と認めよう。
 汝の名はなんという?」
「……月代明日架、です……」
「月代、明日架か……ふ、武人にしては少々鮮やか過ぎる名だな」

最早ツァラトゥストラから戦う気は感じられない。それを理解したのか、明日架もバットを下ろす。
それでも、揺蕩う穏やかな時間に気を抜いたりはしない。
二人の出逢いは決して平和なものではなく、ツァラトゥストラの襲撃により始まったものだからだ。
間一髪、明日架が猛撃を凌いだところで現在に至る――とはいえ、ツァラトゥストラ自身加減していたのだろう。
生体金属の肉体を持つツァラトゥストラは、このゲームにおいても屈指の身体能力を誇るのだから。
無論それは一度対峙した明日架自身がよく知っている。だからこそ、訊ねた。

「あの…何故、僕を殺さないんですか…?」
「野暮な事を聞く男よ。……認めたと、そう言った筈であろう。
 なに、わたしは面倒な性格でな…己自身で確かめなければ、どうも納得いかんのだ」
「……確かめる、というと?」

明日架の問いに、男の眼が細まる。
静かに、されと威厳を持った双眸のままツァラトゥストラは語った。

「わたしは悪とも正義とも別つ事の出来ぬ存在。
 謂わば中立、といったところか……故に、わたしは”試す”のだ。
 汝らがこの戦に相応しい器か、否か……生半可な気持ちで挑もうものなら、その首討ち取らせてもらおう」
「…人を、殺すんですか?」
「無論」

冷淡に告げられる宣言に明日架は歯噛みする。
目の前の男は無差別ではないものの、幾人もの人間を殺害するだろう。
明日架の中でそれは許せない、許してはならない――それ故に、明日架は愚行に出てしまう。

「人を殺すなんて…」
「間違っている、とでも?」

転瞬、ツァラトゥストラの眼光が威圧を以て明日架を貫く。
鋭すぎるそれに思わず明日架はたじろぎ、鼓動が煩いくらいに響いた。

「命を奪うのは生物の性だ。誰しも、何者かを犠牲にしなければ己の命を紡ぐ事は出来ぬ。
 無論わたしも、そして明日架……おまえもだ。それをも否定するつもりか?」
「それ、は……」

今にも身を磨り潰してしまいそうな圧迫感とは裏腹に、男から紡がれるは酷く穏和な声。
しかしそれ故に、明日架は言葉を返す事が出来ない。彼自身、不殺を貫く事の無謀さを知っているから。

「……ふむ、答えは出んか。
 だが汝に言葉を求める事自体可笑しな話だったのやもしれぬな」
「ぼ、僕は……」
「よい。即興の言葉などでわたしを失望させるな明日架よ」

月代明日架という人物は、お世辞にもカリスマが強い人物というわけではなかった。
身に潜む信念こそ何者にも劣らない力強さ、屈強さを兼ね備えているが、人を纏めるのは得意ではない。
むしろ立場などは関係なく、対等という立ち位置に自ら降りて力を合わせる事の方が性に合っていた。
月代明日架は、そういう人間なのだ。


だが、ツァラトゥストラは違う。

99躍動せよ。 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/04(日) 16:16:59 ID:p8T3DASU


数多の兵や民を率い、説き、纏める立場故にその長身から醸されるカリスマは計り知れない。
そしてその一端に触れてしまった明日架は感じてしまったのだ。この男には敵わない、と。
かの【殲滅指揮】や【媒介召喚】にも比肩する程の圧倒的なカリスマが、明日架の心を蝕んだ。

「――それで、其処の者は何時姿を現すつもりだ?」
「…なっ…!」

ツァラトゥストラの視線が自身の背後へと向けられ、明日架も釣られるように其方へ顔を動かす。
明日架自身には”気配”らしきものは感じられなかったものの、違和感のようなものは感じられた。
そう、それは人間のものではない――自らの知り得る言葉で表すのなら、狂獣や怪物の類に近いだろう。
第三者である怪物は数秒の静寂の後、不気味な程に堂々と二人の目の前へと歩み寄った。

「驚いたぞ……気配は遮断したつもりであったのだがな。
 何分愉悦を抑えきれず、ふと気を緩めてしまったのかもしれんな」
「おまえ、人間ではないな……否、”元人間”であったと言うべきか」
「如何にも。我は一度死んだ身、貴様らの言葉を借りれば亡霊に近い存在よ。
 尤も……亡霊というよりも、”英霊”という言葉の方が適しているのだがな」

亡霊、否、”英霊”が血濡れた剣をツァラトゥストラへ向ける。
しかしそれに臆する事なく超人は自らの得物である【不朽不滅の弓】に矢を番え、向き合った。
邪悪に嗤う英霊を他所に、今にも戦いの制止へ入らんとする明日架へ低声を響かせる。

「往け、明日架よ。おまえは関わるべきではない。
 己の目的があるのだろう。この場で時間を浪費するのは賢明ではない」
「……っ…、…わかりました…」
「……名乗り遅れていたな、わたしの名はツァラトゥストラ。
 精々このわたしに認められた命、大切に扱うのだな」
「ツァラトゥストラ……ええ、また…会いましょう」

その言葉を最後に、明日架は踵を返し気配を遠ざけてゆく。
薄れてゆく明日架の気を感じながら、超人の顔には初めて深い笑みが刻まれた。

「ふっ…”また会おう”、か……何処までも面白い男よ」

言って男、ツァラトゥストラは目前の英霊を見やる。
自らと同じく軍を率い民を持つ者なのだろう。死して尚王の威厳を保つ姿は流石と言えよう。

――――二つの王は衝突する。民よ、激震に備えよ。




100躍動せよ。 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/04(日) 16:18:00 ID:p8T3DASU


「……さて、下らん茶番劇は終わったようだな」
「尾行などする輩は下劣な者だと思ったが、存外礼儀正しいものだ。
 だがもう此の戦場に座するはわたしと汝のみ――存分に戦おうではないか」

瞬間、二人の間に訪れるは暴風の如き闘気と殺気。
入り混じるそれらは常人ならば卒倒しても可笑しくない程、濃密過ぎるものだ。

「ツァラトゥストラ、と言ったな……貴様その肉体、造られたものだな?」
「ほう……気が付くか、わたしの肉体は生体金属で造られた生物兵器。
 故に、有り余る力を制御する為この弓でおまえを”試そう”」
「クックッ……ハハハ…ッ!!
 試すだと?随分舐められたものだ…生物兵器風情が、思い上がるな。
 貴様が対峙しているのはパカル王その人物。貴様のその肉体、とっくに分析済みよ」
「そうこなくてはな」

ツァラトゥストラが弓を、ライダーが剣を構える。
身体能力ではツァラトゥストラが遥かに優れているものの、ライダーにはそれを補う程の”宝具”が存在する。
互いに一歩も退かぬ状況。訪れる激闘の予感を胸に、二人の王は己が民の扇動を聞いた。





【A-8/一日目 朝】
【月光官能@旧厨二】
[状態]:健康
[装備]:木製バット@現実
[道具]:基本支給品 W-Phone@能力者
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを破壊し、皆で生き残る。
1.仲間を見つけ、対運営のチームを組む。
2.ツァラトゥストラさん……危険、なのか?
3.レナート、そしてリチャードもこの場に……

※名簿には【月光官能】月代明日架と記されています



【ツァラトゥストラ@魔竜】
[状態]:健康
[装備]:不朽不滅の弓@新厨二
[道具]:基本支給品 木製矢(残数10/10)@現実
[思考・状況]
基本行動方針:参加者を”試す”存在となる。
1.目の前の男を見極める。
2.出逢う者全てを試し、強者を見出す。
3.月代明日架…紛う事なき強者よ。

※月代明日架を認めました。
※不朽不滅の弓を純粋な腕力のみで無理やり使用している状態です。
※『超人の杖』が存在しない為、現段階では自然現象を引き起こす事は不可能です。


【ライダー(黒)@聖杯】
[状態]:健康
[装備]:血と脂に祝福された剣@旧俺能
[道具]:基本支給品 不明支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯の力を奪い取る。
1.ツァラトゥストラとの戦闘。状況が悪くなれば逃走も考える。
2.見知った顔も幾つかいるな……。
3.首輪については解除も考慮に入れている。

※真名はキニチ・ハナーブ・パカルです。名簿には記されていません。
※宝具の使用による負担が大きくなっており、本来ほど長持ちしません。
※『石銘刻む太陽都市(パレンケ・ハラチ・ウィニク)』の使用は制限されています。


【W-Phone】
正体不明(笑)の科学者である"WILD"によって開発された最新式ポータブルデバイス。
正式名称は"WILD-Phone《ワイルド-フォン》"
全機体共通でタッチパネル式の液晶を採用しており右上の横長のON・OFFボタンと左側面の+・-のボタン、
表面下側の□マークのボタンが付いた縦長の四角い形をしている。
この端末には以下の機能が設けられている。

•情報統合ネットワークの閲覧
•現在時刻、アラーム、ストップウォッチ等の時計機能
•天気予報の表示機能
•現在地、方角を表すMAP機能
•ビデオ&カメラ機能
•メモ機能
•近くの相手との通信機能
•ゲーム、ウォークマンなどの娯楽機能

【不朽不滅の弓】
新厨二の【神代の射手】が愛用する名も無き弓。
決して壊れず、朽ちない特殊な木製の弓。長弓と短弓の二つの形態に可変する。
不朽不滅の弓の弦はかなり丈夫で、弦の引き方にコツが必要である。
このコツは不朽不滅の弓固有のものであり、単純な引きではビクともしない。
それは弦だけで熊の首をはねることができるほどに動かず、難解な引き方となっている。

【血と脂に祝福された剣】
旧俺能の×××が所持する手入れが間に合わぬまでに数多を斬殺した狂刃。
元来は光の神によって授けられたモノ。
決して折れず、曲がらず、邪に染まった今も圧倒的な斬れ味を保持している。

101先行不安、行先不明:2016/09/05(月) 23:46:38 ID:nt9fR7G6
「ッあー……クソが、まだ少し痛みやがる」

人気の無い街並みを歩きながら、確かめる様に腕を回して悪態を吐く黒繩の足取りは苛立ちを地面にぶつけるような足音を立てていた。
黒繩の三歩分程後ろに続く有坂は、そんな彼を見つめながら無言で歩く、いつ襲われてもおかしくないこの状況でよくあんな風に無警戒でいられる物だと黒繩に感心しながら。
レナートの言う運営打倒に乗ったは良いものの、流石にそれだけで彼等を信用するに足る訳はない、特に今目の前にいる黒繩と言う男は見るからに好戦的な性格のようで協調性に不安がある、まるで狂犬のような印象のある男だった。

「───つーかよォ」

不意に黒繩に話しかけられ、有坂はギクリとした、彼は振り向かず歩いたままだが、その声は有坂に向けられているのはすぐにわかった。

「有坂ッつったか?テメェなんで付いて来てんだよ、カルガモかテメェは?」
「いや、そう言われても……」

何故か後ろに付いて来ただけで怒っている黒繩の背中に苦笑いを返す有坂、対する黒繩は不愉快ではあるが其処まで取り立てて言うことでも無いらしく、そこでその話は終わった。
彼等が一度レナートの元を離れたのは、運営打倒という目的を果たす為の戦力を補強する為だった。
彼が言ったように、ここに集められた中にも運営を倒そうと考える者は他にいる、彼等と協力出来れば目的に近付ける。
それで、協力者を募るという事に決まった途端黒繩は「心当たりがある」と言い出し、早々にタワービルを出てしまった、それに釣られるように有坂もビルを出てしまい、今に至る。

「…所で黒繩さん、協力者に心当たりがあると言っていましたが」
「あ?……あァ、ま、何処にいるのかまでは知らねェがな」
「───名簿に高天原いずもって奴と、大木陸って奴がいるだろ、そいつらだ」

言われてから、そのような名前の人物が名簿にいたようないないような、隅から隅まで覚えたわけでも無い有坂は、「はぁ」と気の抜けた相槌を打った。

「それで、その人達が味方になると、黒繩さんの知り合いなんですか?」
「…………」

その二人が彼とどのような関係なのかは知らないが、黒繩が協力者になると思っているのなら少なくとも即座に殺しにかかってくる事は無い筈である。
…まあ、彼の様な人間の知り合いとなれば事が穏便に済むとは思えないが。
それにしたって、知り合いかどうか聞いただけでこの反応、問い掛けた瞬間に黒繩はピタリと立ち止まり殺気だった様だ。

「……あの?」
「黙ってろ」

おずおずと声を掛けた有坂の声を遮り、黒繩は一言でその場の空気を張り詰めさせる。
怒気の孕んだ低い声を最後に、街はシンと静かになった。

「気付いてるか?」
「…はい…」

黒繩に遅れて有坂もその気配に気が付いた、静寂が辺りを包んでいるのに雑音のような違和感が、もうかなり近くにまで来ている。
黒繩とアイコンタクトをしてから別々の方向に視線を泳がせる、人影らしい人影はいないのに気配は消えてはいない。
ほんの数秒が何時間にも感じられる緊迫した沈黙を崩したのは、カランと言う軽い小石が転がる音。

その音がした瞬間に動いたのは黒繩だった、物凄い反応速度で音の方向に振り向きながらナイフを投げ付けるその動きに有坂は驚愕する。
それは黒繩の鬼気迫る反応もそうだが、それ以上に、黒繩が反応したその刹那に彼の向いた逆方向から飛び掛かる人影が見えたからだ。

「危な───」

102先行不安、行先不明:2016/09/05(月) 23:47:41 ID:nt9fR7G6

「いッてええええェェェ!!?テメェこのクソガキ……!」
「動かないで欲しい……かな。大人しくしてくれないならこの肩外しちゃうかな」

あれ、これ何処かで見た事ある光景だ。
有坂は押さえ付けられた黒繩と彼の腕を極めている少女を見ながら、デジャビュじみた感覚を感じていた。

「テメッ……ふざけンじゃねェ!ぶッ殺すぞ!!」
「この状況でそんな事が出来るならやってみて欲しいかな」
「ぐッ……有坂ァ!!テメェ何惚けてやがる!!」

突然の事で驚愕し、固まっていた有坂は黒繩の怒鳴り声で気を取り戻した。
デイパックに手を伸ばし武器になる物を取り出そうとしたのを、黒繩の上に乗った少女が視線でそれを制した。
勿論、ただ睨まれたくらいで有坂の手が止まる訳がない、彼女の視線は見た目の年頃の少女の物とは思えない物が秘められており、それに一瞬怯んだ形になる。

「殺し合うつもりはこっちにはないかな、そっちがそのつもりならしょうがないけど」
「…本当ですか?」
「嘘なら、わざわざ抑えつけてないでさっさと殺してるかな」

真実かどうかはわからない、だが彼女の話は尤もな気もするし、何より下手に刺激をする事で黒繩に危険が及ぶ。
有坂は少女の言葉を信じて武器を取るのを止めた、それを見た黒繩も忌々しそうに舌打ちをして抵抗を止める。

「……よし、話は通じるみたいかな」
「はい、俺たちとしても殺し合うのは本意ではありません、避けられるというのならそれに越した事はないですから」
「うん、それは同意見、同じ考えの人に先に会えて良かったかな」

「……おい、そろそろ降りろや」

苛立った口調の黒繩が低い声で呟くと、少女は黒繩に対しては警戒したまま解放する、短時間で同じ腕を同じ極め方をされた黒繩だが、腕自体はなんともないようだ。
ポケットから愛飲しているタバコを取り出すと咥えて火を点ける、それがどうやら慣れた手付きで有るらしく、珍しい黒い巻紙と甘いチョコレートの匂いが広がって、他の二人は眉を顰めた。

「うわぁ……完璧にチンピラかな」
「あァ?喧嘩売ってんのかテメェ」
「ま、まあまあ二人共…」

103先行不安、行先不明:2016/09/05(月) 23:51:35 ID:nt9fR7G6


「───へぇ、じゃあそのレナートって人が今は二人を仕切ってるのかな」
「別に仕切っているという風ではありませんが…」
「利害が一致したってだけだ、俺は下に付いたつもりはねェ」

邂逅から少しして、有坂と黒繩はノラを加えて来た道を戻っていた、その間に簡単な自己紹介と現在の状況など、情報交換も序でに。
ノラはこのバトルロワイアルに巻き込まれてから初めて出会ったのが有坂達だったようで、殺し合いに参加するつもりはないらしい、対運営を目的としている彼等との出会いは幸運だった。
レナートを中心として対運営に向けて動く事を有坂が伝えると、ノラもそれに加わる事を了承した、晴れて同士を増やした彼等は一度タワービルに戻ってレナートに伝える事にした。

「……おい有坂ァ」
「はい?どうしました?」

有坂とノラに続いて少し後ろを歩いていた黒繩、彼が突然思い立ったように立ち止まり、有坂に声をかけた。
声をかけられた有坂は立ち止まって振り向き、釣られてノラも同じく黒繩を振り向く、黒繩は二人が振り向いた頃には既に背中を二人に向けていた。

「あの爺ィにはテメェらだけで報告してこい、俺は一人で行く」
「行く……って、どこにですか?まさか知り合いの二人を探しに?」

返ってくるのは無言、それは肯定を意味していた。黒繩はこの場で単独行動をしてまで知り合いを探しに行くと言うのだ。
突然の事に黒繩以外の二人は困惑を隠せない、何がそこまで彼を執着させるのだろうか?
しかし、それをさせるのは危険だ、先程の事でダメージの残る黒繩が単独行動しては格好の的である。

「一人じゃ危険かな、それに、腕のダメージもまだ残ってるでしょ?」
「そうですよ、知り合いの人が心配なのはわかりますけど───」
「心配なんかしてねェよ」

また有坂の言葉を途中で遮り、その場に沈黙を齎す黒繩の言葉。
ピリピリとした空気が広がり、その中で先に再び会話を始めたのは黒繩だった。

「…別に、心配してる訳じゃねェ……」
「じゃあ、何故…」
「さァな」

歩き出す黒繩、その背中を見つめながら二人は、どうするかを切り出せずにいた。
協力関係である筈なのに、協調性がまるで無い、このまま放って置くと後でどう響くかわからない。
それでも貴重な戦力だ、ここは無理矢理連れ帰ってでも休ませるか、もしくは切り捨ててしまうか。



───あいつらもこの世界にいる、狂った蠱毒壺の中に放り込まれた毒虫だ。
運営とかいう気に入らない糞共を殺す為の協力はしているが、そこに他人を殺さないという約束は無い。

(……別に、ぶッ殺しちまっても構わねェんだろ?)

協力?協力だと?どうしてあんな奴らと協力しなければならない?どうしてこんな絶好の機会に手を取り合う必要がある?
あの糞番長も、大木も、引導を渡してやるにはこれ以上に無いチャンスじゃないか。
それで運営の掌で踊らされているというのなら上等だ、見惚れるようなダンスを踊ってやる。
そうして、精々笑っている間に後ろから刺されるがいい、俺は俺のやりたい事をやるだけだ。

(───俺がブチ殺しに行くまでに死んでんじゃねェぞ、死んでたらブチ殺す)



【F-3/1日目 午前】
【黒縄揚羽@学園都市】
[状態]:腕に結構な痛み それ以外は健康
[装備]:不明
[道具]:不明支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:レナートとの協力関係は続行のまま、大木陸と高天原いずもと戦う為に探しに行く。
1.取り敢えず北に歩く。
2.取り敢えず南に歩く。
3.取り敢えず東に歩く。

【有坂大輔@能力者高校】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める、その為に協力する仲間を集める。
1.黒繩を一人で行かせるのは危険だ、無理矢理にでも止める。
2.そこまで言うなら黒繩は放っておいて、一旦タワービルに戻る。
3.心配なので黒繩に付き添う。

【ストレイキャット(ノラ)@聖杯】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:こんな殺し合いに参加するつもりはない、同じ考えの人がいるなら協力して運営に立ち向かう。
1.言うことを聞かないなら体に分からせる、無理矢理黒繩を止める。
2.もう勝手にすればいいんじゃないかな。
3.しょうがないから黒繩の探索を手伝ってあげる。
※聖杯戦争開始直前からの参戦です。

104希望へと歩み寄るモノ ◆r7Y88Tobf2:2016/09/06(火) 21:48:26 ID:p8T3DASU

「……あーっ、歩くのつっかれたー……」
「もう少しで商店街だから頑張って、あまこ!」

気怠そうに肩を落とし息を吐く天子に、活き活きとした様子でルーシーが激励を送る。
結局あの後、何時までも電車の中に居るのは進展がないという判断に至り南の商店街を目指すこととなった。
とはいえ地図上でも駅から商店街までの距離はそう遠くはなく、1時間ほど歩けばたどり着くだろう。
しかしこの提案には乗り気でなかった天子は、人探しに意気込むルーシーとは気合いの入り方が違うようだ。
己の支給品である小人サイズの短剣を指で弄びながら、何度も欠伸を溢していた。

「オクタヴィア……それと、きょーこ?を優先して探さねぇとな…」
「うん……どっちも大切な友達だから、早く見つけてあげないと。
 それと、遥歩って人も会って確認しなきゃ……、…商店街にいればいいけど」
「あのケンと同じ苗字の奴か……確かにあたしも気になってきたな」

ふと、天子の顔付きが神妙なものに変わる。
名簿に記されていた相良遥歩の文字――相良、というのは紛れも無く彼女の結婚相手である相良健一の苗字だ。
偶然なのか、はたまた必然なのか。どちらにせよこの名前に惹かれるものがある事に変わりはない。
興味本位、というと言い方が悪いが、天子自身胸のつっかえが取れないような気がしてならなかった。
それはただ親近感を感じるから、という理由だけで片付けられるものではない事は天子も知っている。
もっと別な、そして大きな何かが――――

「――天子、見てっ!」
「んぁ?…あ、……商店街?」

ルーシーの指し示す方向へ顔を向ければ、『商店街』と書かれたシンプルな看板が自分たちを見下ろしていた。
どうやらあれこれ思考している内にたどり着いてしまったらしく、先程までの気怠さも今では微塵も感じられない。
様々な出店を見渡しながら歩を進めるルーシーに隣並び、天子は静かに気持ちを切り替えた。

「ここなら食料も見つけられるかもしれないし、拠点も見つけられるかもしれないね……。
 問題は私達以外に誰かいるか…というか、それが目的で来たんだけど…」
「ああ……出来りゃ、話の通じる奴がいいけどよ…――っ!?」

気紛れに背後に視線をやったその時、天子の視界に映し出されたのは拳銃を持った二人組の男女。
天子は自分の目の良さには自信があった。故にその姿を認知した瞬間、気が付けばルーシーの体を物陰へと押し倒していた。
驚愕と困惑に目を見開くルーシーの口を咄嗟に手で塞ぎ、銃弾が飛んでこないことを確認する。
だが、相手は既に此方の姿を認知している――となれば、隠れてやり過ごすなんてことは不可能だ。

「ぷはっ…あ、あまこ……」
「銃を持った奴がいやがる、それも二人だぜ……」
「そ、それって…!」
「ああ、もしかしたら……」


――殺し合いに乗っているかもしれない。


その言葉は口にせずとも、ルーシーには嫌と言うほど理解できた。
手持ちの武器は刀と短剣。戦闘になった場合、まず此方の圧倒的不利は覆せない。
ではどうするか――そんな思考をとっ払うかのように物陰の奥、即ち男女の方向から声が響いた。

105希望へと歩み寄るモノ ◆r7Y88Tobf2:2016/09/06(火) 21:49:09 ID:p8T3DASU


「そこのお二方っ!わたくし達は殺し合いに乗っていませんわっ!
 あなた方がどちらかなのかは分かりませんが、とにかくわたくし達は仲間を集めているんですの!!」
「あー…えと、そーだそーだーっ!!」


纏め役らしき女性からの高らかな宣言と、それに便乗する男の言葉。
周りに外敵が潜んでいるかもしれないというのに大声を上げる様子からは、とても殺し合いに乗った者だとは思えなかった。
しかし、生憎と天子は言葉一つで信じられるような世界で生きてはいない。
牽制にもならない拳を握り締め、不安げなルーシーを手で制し天子は慎重な動作で物陰から顔を覗かせた。

「言葉ではどうとでも言えるだろ?……銃を捨てやがれ。るぅしぃが怯えてるだろ」
「ちょ…あ、あまこ!?」
「……む、確かに無礼でしたわね…謝罪致します。今すぐ捨てますわ」

天子の言葉に納得したと言わんばかりに深く頷き、銀髪の女性が拳銃を地面に置き横へ滑らせる。
迷いのない一連の動作に意外そうに目を見開くも、天子の視線は女性の隣へと向けられた。

「お、おい…いいのか美弥子さん?」
「無論ですわ、アキレスさんも早く銃を捨ててくださいまし」
「は、はぁ……」

アキレス、と呼ばれた男は渋々といった様子で己の得物を乱雑に放り投げる。
緩い放物線を描き落下したそれを目に納めれば、天子も涙の剣を地に落とし無手の状態となった。
言うまでもなくそれはルーシーも同じであり、未だ不安の残る表情でありながらもいつの間にか天子に隣並ぶ形になっている。

「よし、これでお互いに武器は持っていない状態になりましたわね……。
 それに貴女達もお互いを信頼し合っている様子ですし、殺し合いに乗っているとは思えませんわ」
「あたぼうよ!あたしらはこんなゲーム死んでもごめんだぜ…な、るぅしぃ?」
「うん……それに、命っていうのはきっと、こんな形で散らされるものじゃないと思う…」

僅かに視線を俯かせ震えた声で呟くルーシーからは、様々な感情が見て取れた。
憤慨、悲観、恐怖――友人である天子でなくとも、彼女がこの殺し合いにどんな想いを抱いているのか汲み取れただろう。
そしてそれは、天子や美弥子も同じなのだ。ゲームと名を打ち無造作に生命を散らされる現実に何も思わないわけがない。
帰るべき場所が、待っている人間が居る。だからこそ誰もが死にたくないと願っていた。

「立派な思想ですわ。……わたくしも、大切な従者が帰りを待っているんですの。
 こんなところで無様に死んでやるつもりなど毛頭ありませんわっ!」
「あたしもだッ!ケンが頑張ってるってのに、おっ死んじまったら何も残らねぇだろ!」
「……私も、折角出来たお友達を残してなんて……っ!」


「あ、あのー……」


重苦しい方向へ傾きつつある雰囲気に限界が訪れたのか、半ば空気と化していたアキレスが恐る恐る声を上げる。
その際美弥子に睨み付けられた気がしたが気のせいだと割り切り、アキレスは一軒の喫茶店を指差した。

「まずは中に入って、自己紹介でもしようぜ?」

そう言われて初めて、天子達は互いの名も聞いていないことに気がついた。
思わず天子とルーシーは顔を見合わせ、やがて可笑しそうに笑みを浮かべる。
得意気にドヤ顔を浮かべるアキレスへ、美弥子はこの時ばかりは素直に感謝の意を示した。




106希望へと歩み寄るモノ ◆r7Y88Tobf2:2016/09/06(火) 21:49:46 ID:p8T3DASU


「へぇ〜…アキレスさんって、色んな世界を旅してるんですね……!」
「ただの子供っぽいお人ではなかった、という事ですわね……」
「へへ、おうよっ!……って言っても、俺一人じゃなくて仲間とだけどな」

横長のモダンなテーブルにて向かい合い、珈琲を啜りながら語り合う四人組。
どうやら喫茶店というだけはあり珈琲豆も本場のもので、状況が異なれば優雅なひと時となっていただろう。
サンドイッチでもあれば最高なんだけどな……。などと、会話の中心であるアキレスは何処か気楽な思考を持っていた。

「その仲間ってのはどんな奴らなんだ?」
「よく聞いてくれたぜ天子タン!……あー、説明するのは難しいんだけどさ」

不意に掛けられた天子の言葉にガタン、と椅子から立ち上がり喜色を顕にするアキレス。
ルーシーと天子は勿論、美弥子もアキレスの仲間というのに興味を示したのかジッと視線を送っている。
ごほん、と咳払い一つ。アキレスは何時になく饒舌に”仲間”を語り始めた。

「ジョッシュは仲間想いのイイ奴で、ティースタンは大人ぶった子供って感じだぜ。
 ニアタンは……ティースタンを更に生意気にしたような奴で、ジョッシュが大好きなのがバレバレだ!
 イムカタンは頼りになる皆の指揮官って感じだ、……そしてベティは蠍の相棒!」

―――ギィ!

聞き慣れた相棒の声が上がらない事に少し寂寥を覚えながら、アキレスは静かに席に着く。
自分としては最高のアピールであったつもりだったが、どうやら大雑把すぎたようで8割は伝わっていないだろう。
しかしそれでも伝わった2割の中には、よほど大切な仲間なんだろうという当たり前のことが含まれていた。
故に、気になってしまう。今さっきアキレスが語った仲間というのは――…。

「……でも、アキレスさんが言ったお仲間さん達って……」
「…ああ、その通りだぜルーシータン……このクソみたいなショーに参加させられてるんだ。
 いや、ベティは分かんねぇけど!…ま、アイツ等なら大丈夫だと思うけどね」
「そ、そんな楽観的な……お仲間が心配じゃないんですかっ!?」
「心配じゃないわけねーっての」

何処か熱の入った様子のルーシーに、あくまでアキレスは珈琲に目線を落としたまま答える。
え、と思わず言葉を漏らしそうになるのを堪えて、ルーシーはアキレスの雰囲気が僅かに変わるのを感じた。

「ただ……信じてるんだよ、アイツ等はこんなゲームに乗らないし死にもしないって。
 勿論確証はないけどさ…でも、こういう時に信じてやるのが友達ってもんじゃないかね?」
「……それ、は……」

一切澱みなく紡ぐアキレスに、ルーシーは反論の言葉を浮かべる事ができない。
それは単に言葉が浮かばなかったわけではなく、彼の言葉に反論する事が間違いだと認めてしまったからだ。
固く口をつぐみ、顔を俯かせるルーシー。物の弾みで言ってしまった言葉は即ち”仲間を信用していない”と同義のものなのだ。
それを自覚してしまったならば当然凹まない訳もなく、重い雰囲気を醸しながら砂糖たっぷりの珈琲に口をつける。
と、その時。ルーシーの両肩に二人分の手の重みが乗せられた。

「ふふ、アキレスさんに一本取られてしまいましたわね」
「だな……るぅしぃ、あたしがそんな簡単に死ぬような奴に見えるか?」
「見えないよっ!…でも、…もし死んじゃったらって考えたら、すごく怖いよ…」

ふるふると首を振り、今にも泣き出しそうな声で答えるルーシーに天子は苦笑を溢す。
こいつはこんなに弱気だったか?――フラッシュバックする記憶と当て嵌め、ああそうだったと納得した。
そしてそんな時は決まって励ましてやるのが友達、随土天子の役目なのだ。

「大丈夫だ、あたしは死なねぇ。それにルーシーの事も死なせねぇ……だから、安心しろよ」
「……!…あま、こ……」

屈託のない笑顔に当てられたように、ルーシーの沈んだ表情に光が差し込む。
それは言うなれば言葉だけの確証のないものだ。しかし、今のルーシーにとっては何よりも心強く見えた。
目尻に浮かぶ涙を指で拭い、控えめな笑顔を浮かべる。
天子もそれに応えるように満面の笑顔を見せて、それに伴うように美弥子の手拍子が響いた。

「さーて!話もまとまったことですしこれからの方針を決めますわよ!」
「すっかり美弥子タン…じゃなくて、美弥子さんがリーダーなのね……」
「勿論ですわっ!他に誰が務まりますの?」
「あ、あまことかは……?」
「はっ!?いやいや、あたしこういう役無理なんだって!」

ではやはりわたくしですわねっ!――何故だか興奮気味の美弥子の一言で、場が締められる。
恐らく何を言ってもこの人がリーダーになるのだな。と、三人は同時に理解した。




107希望へと歩み寄るモノ ◆r7Y88Tobf2:2016/09/06(火) 21:52:04 ID:p8T3DASU


「では、今言った通りこの場所を拠点にして大きなチームを作りますわよ。
 放送は確か12時でしたわね…その放送を聴いたら、二人一組のペアで同志の捜索に当たりますわ。
 そしてもう一組はこの場で待機し、安全を確保……よろしいですわね?」
「はいっ!」
「おう!」
「了解っ!」

確認を込めた美弥子の指揮に全員が頷き、方針が確定する。
現在の時間は9時頃。定期放送の12時までには約3時間の余裕があり、休憩を摂るには十分な時間だろう。
ペアは例の如く天子とルーシー、アキレスと美弥子の二人一組だ。尤もこれは、天子達の希望によるものだが。

「わたくしたち四人がこうして集まれたのは幸運ですわ!
 このままチームを大きくしてゆき、ゲームを破壊しますわよっ!」
「言われずともそのつもりだぜ。あのアジとアリスとかいう女ども……お灸を据えてやらないとな!」

掲げられる正義の旗は小さい。だが、決して無意味などではない。
旗を見たものが一人、また一人と増えていき、最後は大きな光の集団となるだろう。
バラバラではあるが、この殺し合いで最も協調性のある第一のチームだという事は――事実だ。





【E-7/商店街/喫茶店内/一日目 午前】
【天穹院美弥子@能力者高校】
[状態]:健康
[装備]:緋色のリボン@能力者 ベレッタ90-Two (残弾15/15)@能力者高校
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊、生存。
1.殺し合いに反対する者を集め、この喫茶店を拠点にチームを結成する。
2.ルーシーさん、天子さん……いいお友達ですわね。
3.時間があれば真雄、三橋、橘、大輔の捜索。
4.能力の制限に対する不安。

※能力には制限が掛かっており、制圧火器、対物ライフル、スナイパーライフルの生成は不可能です。
 また、その他の銃器の生成にも精神を消費する為連続での使用は厳しい状態です。


【アキレス・イニゴ・ブランチ・セペダ@境界線】
[状態]:健康
[装備]:デザートイーグル(残弾8/8)@能力者高校
[道具]:基本支給品(食料小消費) モンキーレンチ@学園都市
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊、生存。
1.殺し合いに反対する者を集め、この喫茶店を拠点にチームを結成する。
2.なんだかよく分からないけど、纏まったようでめでたしめでたし。
3.ベティは……いないかな。


【隋土天子@旧俺能】
[状態]:健康
[装備]:涙の剣@魔法少女
[道具]:基本支給品 DOSU@新俺能
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と協力し、ゲームから脱出。
1.殺し合いに反対する者を集め、この喫茶店を拠点にチームを結成する。
2.オクタヴィアの無事を確かめねーと…
3.相良遥歩について気がかり。

※本編トゥルーエンド後からの参戦です。


【ルーシー=グラディウス@旧俺能】
[状態]:健康
[装備]:妖刀叢雲@境界線
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と協力し、ゲームから脱出。
1.殺し合いに反対する者を集め、この喫茶店を拠点にチームを結成する。
2.……信じなきゃ、仲間を。
3.オクタヴィアさん、鏡子さん…どうかご無事で。
4.相良遥歩について気がかり。

※本編トゥルーエンド後からの参戦です。


【涙の剣】
魔法少女のメリー・メルエットが所持する、錆びついた螺子を素材に鍛冶魔法で作った小人サイズの剣。
無色の刀身は水で濡れて水晶のように輝いている。
水の魔力を持ち、刀身から溢れ出る水を自在に操ることが出来る。
剣自体はメリーサイズの為殺傷能力は乏しく、水の操作が要となる。

108音楽のおくりもの ◆r7Y88Tobf2:2016/09/10(土) 23:59:35 ID:p8T3DASU

「……僕が、あの人を死なせたのか……?」

頭を抱え苦悶の表情を浮かべる少年、桐生真雄は静かに会場での出来事を思い返していた。
このバトルロワイヤルの元凶であるアジ、そしてアリスの目の前に立ち反抗を決意した自分。
だがその直後、まるで自分らに見せつけるかのように名も知らぬ女性の首輪が爆発される事になってしまった。
その原因の一端は間違いなく自分であり、結果その惨劇を目の前で見せられ嫌でも思い知らされてしまったのだ。
人が死ぬ光景を、それも自分の目の前で見てしまったのだ。忘れられるわけなどないだろう。

「…………」

首筋の枷にそっと触れる。
指先に伝わるのはひやりとした無機質な感触で、今自分の命が風前の灯だという事を実感させられる。
思わず頭部を失ったヘレネの遺体を思い出し――込み上げられる胃液が喉を焼いた。

「…ダメだ、立ち止まってたら僕も……」

マイナスな思考を振り払うように首を振り、言い聞かせるように独りごちる。
そう、まずはやるべき事がある。ここが何処なのか、そしてデイパックの中身を見なければならない。
しかし、流石に街路の中で呑気に支給品確認などしていたら殺してくださいと言っているようなものだ。
手頃な施設でも見つけて中に入ろう。そう考えた真雄の視界に映ったのは、一棟の銭湯だった。





「翼に進、美弥子に大輔……勢揃いだな……」

銭湯内の休憩所にて、参加者の名が綴られた名簿を開き静かに知人の名を呟く真雄。
三橋翼、橘進、天穹院美弥子、有坂大輔――全員同じ高校の生徒であり、翼と大輔に関しては友人と言える仲だ。
一刻も早く合流したいのが本音だが、彼らも動き回っていると考えるとそれも難しい。
だからといって一人でこの場に留まり再会を望むのは……絶望的だ。

「あー…こういうの、苦手なんだよねー…」

彼の言う”こういうの”、というのは殺し合いの事ではなく計画を立てる事である。
大体流れに身を任せてきたが故にあれこれと考え込むのは好ましくなく、どうにも上手くいかない。
だからこそ真雄の導き出した答えは”気分によって”、というなんとも気楽な考えだった。

「……っと、…楽器…?」

次に真雄がデイパックから取り出したのは、変わった形状をした弦楽器だった。
三味線のような見た目でありながら、その手触りはギターを彷彿とさせる。
一緒に出てきた説明書のような紙に目を通してみると、どうやらこの楽器の名前は《Somnium》というらしい。
キラキラと煌く雲と花の透かし模様は真雄の目を惹き、同時に美しいという感情を抱かせた。
しかし何もただの楽器という訳ではないようで、サイドの部分のカバーを外せば鋭い刃が顔を出す。
一応武器にはなるだろうが取り扱いは難しいだろう。しかし、真雄にとってはこれ以上ない程の当たりだった。

109音楽のおくりもの ◆r7Y88Tobf2:2016/09/11(日) 00:00:29 ID:p8T3DASU


(……これがあれば、僕の能力も使える……!)


桐生真雄の能力、それは音に意思を乗せるというものである。
意思の乗せられた音を聞いた物はそれを受け取り、例えば「切る」意思を持った紙ならば刃物のような切れ味を持つ。
普段は音楽プレーヤーから流れる音を使用していたが、音ならばそれに限った話ではない。
無論自分が演奏しなければいけないというデメリットはあるものの、無手よりは遥かに心強い。
試しにポロン、と音を鳴らしてみる。澄み渡った音色からは余程の高級品であることが伝わった。

なんにせよこれは重要なキーアイテムだ。
丁寧に手元に置き、再びデイパックを漁り出す。
と、真雄の指先に触れたのは、一冊の分厚い植物図鑑と赤色のマントだった。

「……これは……」

植物図鑑に至っては説明書もない上に、その中身も花や草の事ばかり記述されている。
パラパラとページを捲ってみるも最後まで魔導書のまの字も見えず、俗に言うハズレアイテムなのだと理解した。
そしてマント。こちらも一見ハズレのように見えるが、こちらの方は簡素な説明書が付属されていた。

(……おぉ、中々いいな……)

説明書によると、このマントには対象を”隠す”能力があるらしい。
無論それは人間も例外ではなく、これを羽織れば手軽に透明人間が完成するというわけだ。
習うよりも慣れろ。マントを羽織り首元で結んで、姿見鏡の前にひょこっと移動する。

「…お…おぉぉ…!?」

するとどうだろう、鏡には背景が写し出されるだけで女性的な真雄の顔は完全に消失していた。
思わず驚愕の声を漏らしハッと口を塞ぐ。しかし、その動作すらも目の前の鏡は写してくれない。
半信半疑ではあったが実践してみて確信した。この支給品は指折りのアタリアイテムだと。
自分が透明になるなど子供時代の夢であるが故に、年相応に気分を高揚させてしまう。
しかし残念ながら今彼が目の当たりにしている状況は地獄のデス・ゲーム。
折角透明化して燥いでいても、存在がバレてしまっては凄惨な未来が待っている。
取り敢えずマントを羽織った事で身の安全はぐんと上昇した。ならば、行動あるのみ。


「よし、危険が及ばない程度に行動しよう……!」


そう決意するやいなや、手元の弦楽器を拾い上げ銭湯の出口へと早足で向かう。
だがその途中で彼の行き先を阻むように立てられた姿見が、宙に浮かぶ弦楽器を写していた。
慌てて弦楽器をデイパックに仕舞い込む真雄。――すっかり忘れていたが、このマントは被った物にしか効果がない。
透明人間ではなくポルターガイストになってしまうという最悪な結末に至らずに済んだ事を、彼は心から安堵した。

(透明化中は攻撃できない、か……ま、仕方ないか)

新たに発覚したデメリットは大きいものの、やはり透明化に比べればお釣りが出るものだ。
気を取り直して、真雄は緊張と僅かな好奇心を抱きながら扉に手を掛けた。






【C-6/銭湯付近/一日目 朝】
【桐生真雄@高校】
[状態]:健康 隠恋慕により透明化
[装備]:隠恋慕@高校
[道具]:基本支給品 植物図鑑@旧俺能 魔導式六弦琴斧《Somnium》@旧厨二
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを終わらせる。
1.まずは仲間を見つけなきゃな。
2.高校のメンバーと合流したい。
3.首輪の解除法を見つけ出す。

【魔導式六弦琴斧《Somnium》】
旧厨二の【倚斧旋律】、マヤ=フィオレットが所持する弦楽器。
ラテン語で「夢」の名を関しており、三味線のような形状にアコースティックギターと似た素材で作られている。
所々に雲と花を象った透かし模様があしらわれており細かな造形が美しい。
見た目はただの楽器であるものの、精巧かつ頑強に作られており、一級品の音を奏でつつちょっとやそっとじゃ傷もつかないほど。
更にサイドの部分が鋭い刃として形成されており、フィンガーボードを握って振るうことで、斧のように扱える。
刃部分は怪我防止のために普段はカバーで覆っている。

【植物図鑑】
旧俺能のルーシー=グラディウスが所持している植物図鑑。
様々な植物の事が記載されており、分厚い。

【隠恋慕】
高校の病神虚虚虚が所持するワインレッドのマント。
この中に隠れればステルス効果が付与され、周囲から見れなくなる。
しかしあくまで姿を隠すだけであり、気配や足音などは遮断することはできない。

110名無しさん:2016/09/14(水) 15:40:22 ID:M4/OMZk2
【???/1日目 午前】

彼の者は何時だって突然であった。不意に目の前を埋め尽くす絶望の、その色は白い。
白は何色にでも染まるなんて、そんな話は嘘だ。目が眩む程の絶対の純白は遍くモノを呑み、他色の存在など一片たりとて許さないだろう。
純粋故の無垢、無垢故に孕む狂気は誰に理解される事もない。否、理解する事など出来はしないだろう。無垢なる純白に生物は耐えられやしないのだから。
それに比べ純黒のなんと心地の良いことか。何も見えぬ黒の中、何も見る必要の無い漆黒の闇は正しく己のみを見つめる事が出来る。
他を閉ざし自己のみに耽る。臆病の色。さりとて生物は闇を恐れ本質的には求めている。無間の安心感が約束されたその色を。

「……ぼちぼち動き始めたみたいだな。早速おっ始める奴らにチームを組む奴ら……くくくっ、劣等共が無い知恵絞ってるサマは滑稽じゃねぇか」

純白の部屋に備え付けられた大型モニター。それを眺めほくそ笑むのは純白のドレスを身に纏う女性、龍の眷属アジ=ダハーカだ。
モニターに表示されるのは周辺地域の地図と、そこに点在する赤い印は参加者たちを縛る枷が機能している証。
つまりモニター上から赤い印がひとつ消えた時、ひとつの命がこの狂気めいたゲームの犠牲となったという事を意味している。

「しっかし監視カメラまであるとは便利なもんだな。これもお前さんの力なんだろ?」

モニターから視線を外し振り向くアジ=ダハーカ。その先に居るのは勿論このゲームのもうひとりの主催者、アリスと呼ばれた少女であった。
アジの問い掛けにアリスは傾けていたティーカップをソーサーへと戻し、そしてくすりと微笑む。
椅子に腰掛け紅茶を嗜むその姿だけみればただの少女。しかし内面に秘めしモノを直人が窺い知る事など叶わず、龍であるアジですらアリスの金眼に映る世界を見極められずにいた。

「ふふ、『ソレ』では全てを把握する事は出来ないけれど、でもそうでなくてはつまらないわ。
これはあくまでゲームなのだから、イレギュラー要素には期待するものでしょう?
決まりきったレールの上で、ニンゲンたちが只管に殺し合うのを見てたって何も面白くないもの」

大型モニターの脇を固める様に配置された小型のモニター群。そこには各所のリアルタイムの映像が映し出されている。
アリスの力によって生み出された動植物が目となり耳となり、ゲーム会場の至る所で参加者たちを監視しているのだ。
その映像がこのモニタールームに映し出されているのだが、その目は参加者ひとりひとりについて回る訳ではない。つまり敢えて不正を見逃す可能性を作っているという事だ。
しかしアジ=ダハーカにはそれが面白くない。アリスが何のつもりなのかは分からないが、アジにはアジの確固たる目的がある。
アリスの道楽めいた酔狂に付き合ってやる暇も義理もない。参加者たちに付けられた首輪を盾に、ルール通り滞りなくバトルロワイヤルを遂行する事が己の目的への最短距離だ。
誰が死に誰が生き残ろうがアジにとってはどうでもいい事である。危惧する事は参加者が団結して運営に牙を剥く事。勿論ある程度は想定内ではあるのだが、それでもイレギュラー要素や不安要素の発生は喜ばしい事などではない。
自身の目指す頂、その目的の為だけにこのイカれたゲームの主催に与したアジにとって、それ以外のモノは全く見る必要の無い瑣末な事象に過ぎないのであるから。

「……ケッ、まぁお前さんが何を考えてどうしようが別にいいけどよ。
そんかわし私も私で好きにやらせてもらうからな? もし邪魔しようってんならそん時はてめぇでも容赦しねえぜ」
「まあ怖い。怖いわ怖いわ。ふふ、安心してアジさん。私も自由にさせて貰うもの、貴女も好きになさって?
きっと私たち最高のパートナーになれるわ。ね、アジさんもそう思うでしょう? だからいいの。いいのよいいのよ、これでいいの」

釘を刺すようなアジの視線であったが、アリスは微笑みを湛えて受け流す。
そうして徐ろに立ち上がれば右手で円を描くように空間を撫でる。すればそこに歪みが生まれ、喰い破るようにゲートが口を開けた。

「では、ではでは私少し遊んできますので御機嫌よう」
「遊ぶ……? おい、どこに行くつもりだ? てめぇ、まさか参加者と遊ぶってことじゃないだろうな?」

アリスは無言だ。しかしアジに向かって浮かべた表情が、その問いに対する肯定と捉えるには十分過ぎるものであった。
歪む小さな唇を上品な所作で包み隠すも、その細い指に遮られた口角は明らかに嗤っているのだろう。

111名無しさん:2016/09/14(水) 15:41:05 ID:M4/OMZk2
「バカかてめぇは!? 私らが直接ゲームに干渉するなんて、バトルロワイヤルの根本からぶっ壊すようなもんじゃねえか!
あいつらの、私ら主催に対する不信感と敵対心を煽るだけだ! 結束されるのが一番面白くねえのはてめぇもわかってんだろ!?」

アジは激昂する。当然だろう、理不尽なゲームに理不尽に参加させられ、あまつさえそのルールすら運営者側の匙加減によって捻じ曲げてしまおうというのだ。
アジの主張はマトモであり至極正論である。目的が何であろうと、バトルロワイヤルという体でこの様な催しを開催しているのだ。アリスにとってはどうなのかわからないが、アジに限れば遂行の綻びとなるものは看過できるものではない。
参加者ひとりひとりの力でみれば自分に及ぶべくも無いとの確信はあるが、その力が個から群となれば話は別だ。如何に劣等と断ずれども、彼らは無力なる烏合の衆ではないのだから。

「それが何か問題かしら? ふふ、アジさん。貴女の目的はこのゲームを運営するコト?
違うでしょう? ええ、きっと違うわ。だって貴女の瞳はずっと遠くを視ているもの。
だめよだめ。いけないわ、手段にとらわれては。本当に大事なものが視えなくなってしまうから。
それに、さっき言ったでしょう? お互い好きにしましょうって。そんなに怖がっていてはらしくないわ、アジさん。
ふふふ……いいわ。それでも私を止めるのならば……いいのよいいのよ、それでもいいのよ。怖がりさんには『枷』をつけてあげても。
そうすればきっと、きっとルールとやらが貴女を護ってくれるでしょうから」


――ざわ。


部屋の空気が一瞬にして重くなる。まるで重力の井戸の底、ふたりの視線は交錯していたがやがてアジはその眼を逸らした。この世の全てを映していながらそれでいてどこも見ていない様なアリスの金眼に気が触れそうになる。
アジは総毛立つ思いであった。アリスの挑発的な態度に対する怒りではない。まるで無防備な背中、その素肌を鈍く冷えた刃で撫ぜられたような寒気と、恐れ。
何故あんな眼が出来るのだろうか。どう生まれどう生き、どんな思念を持っていればあの様な瞳に至るのか。アジには理解できなかったし理解したいとも思わなかった。

「……チッ、勝手にしろ。そのかわり私に尻拭いさせる様なことになったら、てめぇマジで許さねえからな」

アリスに背中を向け、モニターに視線を戻すアジ。アリスは満足した様にくすりと微笑み、そして口を開けたゲートの、ぽっかりと覗く深淵へと消えていった。
結局アジがアリスの我儘に折れた形になったが、今はそれでいい。アリスの目的は未だわからないままであるが、自身の頂はしっかりと見据えられているのだから。
不要な争いは避け、求められた役割を淡々とこなしていればいいのだ。雌伏する事には慣れている、どんな事でも耐えてみせよう。生き残り、己が理想をその手に掴むその日までは。

「バケモノめ……。至高だか新生命だか何だか知らねえが、支配者気取りで見下ろしてられるのも今だけだ。
いずれ私が全て手に入れてやる……! 全知も! 全能も! 結局は私に全てひれ伏す運命なんだからなぁっ! ククク……ハハハハハハハハハハッ!!」

112名無しさん:2016/09/14(水) 15:42:13 ID:M4/OMZk2
【映画館/1日目 午前】

「先程の映画、二時間半程であったか。既に何処かしらで戦闘が行われていると見るべきであろう。
つまり我々は後発組、より一層の慎重さが求められる事となる。あまり軽はずみな行動は控える様」
「お前のせいでな! ……ったく、おっさんと呑気に映画なんて観てる場合じゃないってのに……ルーシー……」

映画館を後にするふたり。陽光に照らされた木山鏡子は瞼を細めながら友人の名を呟く。
かつて己が命を賭しても彼女と、彼女の世界を護りたいと思った。そしてそれはこの場においても変わらない。
一度死んだ身、それがどうして再び肉体を持ってこの場に現界しているのか確かなことはわからないが、恐らくはあのアリスの力によるものだろう。以前もそうであった様に。
木山鏡子。彼女は自由世界と言われるリベルタスにおいて一度死んでいる。最初に蘇った時はアリスの強力な力により魂が現世に縛り付けられた為だ。そして今回、二度目の復活に鏡子は自分でも驚くくらい冷静であった。
それは自分の為すべき事がわかっているからだ。最初に蘇った時と何も変わらない。大切なモノを護る――自分の存在理由はそれだけでいい。かつてそうした様に、またここでもアリスを斃しそれを為す。

「いつだって護ってやるさ……だから私が見つけるまで、死ぬなよルーシー」

少女の瞳に決意が宿る。絶対に折れる事のない覚悟と、明確で強靭な意志によるそれはたとえどんな事がこの先待ち受けていようとも決して濁る事はないだろう。

「ふむ、その齢にして見事なものだ。どのような半生を辿れば君のような少女がその様な瞳に至るのか、私にはわからないがそれだけ興味深くもある。
だが詮索するのは無粋というもの。今、この場においてはアリスの情報が君から聞けただけでも重畳だ」

木山鏡子の横に並び立つルーラー。その表情は白い仮面の下窺い知ることは叶わないが、感情映さぬその仮面とは裏腹に男の声は確かに人の感情を湛えたものである。
サーヴァントとしてではない現界、自分の為すべき事に戸惑いが無いと言えばそれは偽りである。しかしその意志か揺らぐ事は無い。
彼は人間が好きだ。どの様な愚かさを孕もうとも、同じ過ちを何度繰り返そうとも、それは人間であるが故。自身を含めてそれが人間なのだ。
鏡子から得たアリスの情報に偽りが無いのであれば、ルーラーは至高の存在を看過する訳にはいかない。至高の存在を許せば人類は終わる。今迄築き上げてきたその歴史も、そしてこれから辿る道程も、その先に待つ来るべき未来も。
全てが虚無へと還る。鏡子の話はルーラーにそう確信させるだけの情報であり、何より己が眼で見たあの力はそれを裏付ける確証としては十分なものであった。

「……終わらせるものか。あの運営者を野放しにしては何れ全ての世界でこの様な残酷な茶番が……否、さらなる凄惨が待ち受けていよう。
因果はこの場にて断つ。血濡れた道になろうが、クク……何、私には似合いの道だ。征くぞ鏡子、はじめよう」
「けっ、何いきなりやる気出してんだこのおっさんは。それと、ひとつ訂正してやる。私には……じゃない。私達には、だ」

希望。それは人が未来を望む夢。守るべきモノに抱く望み。高潔な精神に依ったそれは如何なる兵器よりも靭く、如何なる邪よりも尊いモノ。
希望は人を歩ませる。歩んだ先にそれがあると信じているから。見据えていれば見失わぬと信じられる程に眩いモノだから。その歩みを止めるモノがあるとすれば、光を包み隠し道標を喰らう、絶望。

113名無しさん:2016/09/14(水) 15:43:20 ID:M4/OMZk2
「……? 鏡子、待て。何か来る」

歩みを止めるルーラー。鏡子を制する様に口を開く。その視線の先には僅かな、しかし確かな空間の歪みが確認できる。そしてそれは加速度的に大きくなって。

「……っ!! 知っている……! 私はアレを見た事があるっ……!! 忘れもしない……忘れられるもんか……!!」

絶望。それは人の未来を奪うモノ。望むモノを、見ていた光を包み隠し見えなくするモノ。
それは何時だって突然だ。突然に現れて人の明日を奪う。それを前にある者は首を垂れある者は背を向けて、そしてある者は喰われてしまう。
しかし人は知っているのだ。知っていたのだ。ただ自分の目指す光が眩しすぎて、何時だって側にある絶望に気付かないだけなのだ。気付かないフリをしているだけなのだ。
だからそれに直面した時、人は何も見えなくなってしまう。そして人は怒る。その理不尽さに。そして人は泣く。その無慈悲さに。
ぽっかりと口を開けて待つそれに立ち向かう事が出来るのは極僅か、一部の人間だけだ。既に絶望を知り、抗う術とその力を持った戦士だけ。


「――アリスッッ!!!」


歪みは軈て空間に大穴を穿つ。開かれた深淵の窓口――そのゲートから現れたのは紛れもない、このゲーム主催のひとり、アリスであった。
口を開くが先か鏡子は彼の者の姿を視界に捉えた瞬間、その名を吠える様に呼び、そして駆けた。それを制止しようとするルーラーの声は最早鏡子に届いてはいない。

ギィンッ!

木霊する金属音が空気を揺らし、衝撃波となって空間を空間を薙ぐ。長大なアナザームーンを槍の様に構えての突撃は、いつの間にかアリスの手に握られていた漆黒の剣によって阻まれていた。

『随分なご挨拶ね、鏡子さん? お久しぶり、と言っても死んでいた貴女にそんな感情があるのかはわからないけれど』
「うるさい……! 死んでたのはお前も同じだろ!? どうやって生き返ったのかはわかんねーがとにかくもう一回殺してやるよ!!」

鍔迫り合いの中ふたりは視線を交わし言の葉を交わす。必死の形相の鏡子とは対照的にアリスは嬉しそうな微笑みを湛えている。
それが気に食わないとばかりに鏡子は歯軋り、アナザームーンに更に力を加えていく。しかしどれだけ力押ししようとも、その刃とアリスの首までの距離が途方もなく遠いものに感じられてしまう。

「相変わらず気に食わねーツラしやがって……! すぐに吠え面に変えてやる!」
『ふふ、酷い言われよう。貴女こそ相変わらず口が汚くてよ、鏡子さん?
それに勘違いをしているようだから教えてあげるわ。私はあの時死んでなんていないのよ?
貴女たちが殺したのは私と同化したマリアフォキナの魂。次元の狭間に放逐された私の身体はやがて意志を持ち今に至るというわけ。
きっと説明しても理解できないと思うからどうでもいいのだけど。だってそんな事は重要ではないもの』
「ああ……! どうでもいい! 殺せていなかったのなら今この場でこの私が殺してやるだけだ!! そうすれば後はあのアジとかいう女を殺ってこのふざけたゲームも終わりだからなぁ!!」
「くす……おかしいわ鏡子さん。わかっている筈でしょう? 貴女ごときではどうにもならないってことくらい」

アリスが言い終えるや否や鍔迫り合いの均衡が崩れる。黒剣を薙ぎ払う様に振るえばいとも容易く鏡子の身体を後方へと弾き飛ばしたのだ。
互いに一合目であるが鏡子は紛れもなく全力であった。それに比べてアリスは持てる力の一体何割であったのだろうか。猫を撫でる程度、アリスにとってそのレベルでも鏡子たち人間を相手にするのに訳はないのである。

「……鏡子、軽率は控えよと言った筈。我々ひとりでどうにかなる相手ではない事は君が一番よく知っているだろう?」
「ちっ……くしょう……! 悪い……あいつの顔を見たら身体が勝手に動いちまった。
けど、ここで奴を殺るのに躊躇う道理はねぇ……! 手ェ貸せ、ルーラー!」

圧倒的な力の差を見せつけられようとも鏡子に怯んだ様子はない。何時だってそうだ。何時だって何度だって立ち向かっていったのだ。決して折れない心、それこそが木山鏡子最大の武器であり、心に携えた一本の槍だ。
しかしルーラーは躊躇いを見せていた。例の如く仮面の下の表情は見えないが、恐らくは難しい顔をしているのだろう。鏡子とは交換した支給品の槍――ニーズヘグを構えてはいるが、その穂先に戸惑いが見える。

114名無しさん:2016/09/14(水) 15:44:46 ID:M4/OMZk2
「……なんだ? お前アリスを前にして怖気付いたってのか? チッ、ならいい! 臆病者は去れ! 私ひとりでやってやる――」
「そうではない。思い出せ、我らの頸に付けられたこの枷を。これがある限り、我々は奴に勝つ事はできない。
どれだけ優勢に立とうとも、奴の操作ひとつで我々の命は終わってしまうのだからな。
故に一先ずは、この場は冷静になれ。機を待つのだ。我らの決戦は此処ではない」
「くっ……! くそ……!!」

ルーラーの言葉にハッとする鏡子。苦虫を噛み締めた様な表情を浮かべ地面を殴る。激情に任せて首輪の存在を完全に失念していた鏡子は、最初に見せられた首輪が作動した光景――ヘレネの死に様を思い出すと悔しそうにアリスを睨み付けた。

(……しかしどうする? 一先ず退却すると言ってもこの怪物が相手。そう易々と逃がしてくれる訳もない。
奴がこの我々の前に現れた理由はなんだ? 主催である奴らが直接我々に手を下すなどは考えにくい。何か別の目的がある筈)

ルーラーは鏡子とは対照的に冷静であった。退却する方法、アリスの目的。この場における最善策を模索する。その才は死して英霊となって尚健在である。

「……アリス、と云ったな。貴様の目的は何だ? 何故この様な不躾な理不尽を一方的に課し、更には何故我々の眼前に現れた?
よもや直接にその手を下そうと言うのではあるまい? 一体此処へ何をしに来た?」
『いいえ? 直接手を下しに来たのよルーラーさん。本来であればこんな事はしたくないのだけれど、鏡子さんは知ってしまっているから。私を一度は退けた、その結末を。
知っている、というのは面白くないもの。予定調和に胡座をかいてしまっては存在し得る可能性すら閉塞させかねない。
私は知りたいの。かつて私を次元の狭間に突き落としたあの力が、あの意思が真実であったのか。世界の選択が正しかったのか。
だからそれを成し得た事を知っている鏡子さんは邪魔なの。まだ見えぬ可能性に辿り着くには経験は不純物に他ならないわ。
ふふ、貴方は鏡子さんから私のこと聞いているのでしょう? 残念だけどルーラーさんも此処で死んでもらうわ』
「馬鹿な……何を、言っているのだ……!?」

アリスから返された言葉はルーラーが想定していないものであった。主催側がゲームに介入するなどデメリットはあってもメリット等何もないではないか。
普通に考えればその結論に至る筈。アリスの思考も言葉も、ルーラーには全く理解が及ばない。瞬時に理解できた事はひとつ、突き付けられた絶望のみだ。
ルーラーは自身の身体が強張っていくのを感じた。死に対して恐怖しているのではない。この首輪がある以上何も抗うことすら許されず、眼前の絶望を甘んじて受け入れるしかない事実。それに対する怒り。

115名無しさん:2016/09/14(水) 15:45:28 ID:M4/OMZk2
『……自分でも笑ってしまうけれど、私は求めているのよ。だから貴方たちにも、可能性をあげるわ。その為にわざわざ貴方たちの前まで出向いてきたんですもの』

す、とアリスが手を翳す。その直後、鏡子とルーラーの頸に存在した違和感が消えた。ふたりを縛る枷が外されたのだ。
想像し得る事象を遥かに超えた、しかし紛れもない現実。ありえない現状を受け止め、理解するためにふたりは言葉を失った。
それを見てアリスは嗤うのだ。淑女の様に慎ましく、少女の様に無邪気に。

『ふふふ、それで戦えるのでしょう? なら思う存分見せて? 貴方たちが護ろうとしているモノを。貴方たちが希望と呼ぶモノを。
果たしてそれらがこの私の前で真実であり得るのか。可能性として存在できるモノなのかどうか。
このアリスの――三千世界の高みに至り、生まれ出でしその瞬間より未来永劫を過去とした万物の霊長――至高のアリスの眼の前で!!!』

瞬間。世界が反転する。否、視覚的には何も変わってはいない。ただそう感じてしまう程の絶対的な力の奔流がアリスという少女の体内に渦巻いているのがわかる。
それはアリスの周囲の空間を歪ませる程に濃密で、等しく命を持つモノとして疑いを持つ程に禍々しく、そして畏れと憧憬を感じる程に神々しくもあり。


――これが至高《アリス》


鏡子とルーラー。抱いた感情の趣は違えども脳裏を支配する言の葉は同じ。そしてふたりが倒すべき敵を認識し戦闘態勢に移行するタイミングも同じ。

「願ったり叶ったりではないか。なれば今この瞬間を決戦と断じるに些かの躊躇も持たぬ。はじめよう」

穂先を少し下げて腰を落とし、水平にニーズヘグを構えるルーラー。槍兵《ランサー》のクラスに恥じぬ戦闘能力は持っている。
元々の獲物である聖槍と聖杯は現状持ち合わせていないが、それでも彼には虎の子の宝具があるのだ。この様なチャンスを逃す道理はない。

「アリス、変わってないなその慢心は。それがお前の眼を曇らせてるって事をもう一度わからせてやるよ! お前の居場所は私たちのこの世界の、どこにも無いって事もな!!」

鏡子も槍を得物としていたが、ルーラーと支給品を交換した為に手元に構えるのは長剣だ。だが長物の扱いには慣れている。それに彼女自身の槍は折れず曲がらず心の中に。
その意思の槍がかつてアリスの齎す虚無を貫き打ち払ったのだ。大切な友の為、その世界の為に鏡子は三度牙を剥く。己が命に代えてでも喉元に食らいついてみせると。

くす。

アリスが笑みを、その口元を歪めた瞬間鏡子とルーラーは駆けた。そのタイミングは同時。即興のタッグに高度な連携などは求めるべくもない。故に戦闘の中で互いが互いをフォローし合うのがベストだと瞬時に、そして同時に理解した。
彼我の距離を一気に詰めたふたりの刃、その鋒がアリスに届くその時、これも同時だった。ふたりの視界を漆黒が埋め尽くしたのは――。

116名無しさん:2016/09/14(水) 15:46:25 ID:M4/OMZk2
『少しは期待したけれど、やっぱりこんなものでしょうね』

何が起きた? 短時間だが意識を失っていたのだろうか。アリスの声が耳に届けばルーラーは地に伏した自身の身体をニーズヘグを支えに起き上がらせる。
状況を確認すれば衣服が所々損傷している。そして顔に手を当ててみれば仮面が無い。どうやら破壊されてしまったらしい。眉間を伝う温かいモノは額が割れたのだろう。

「何を……貴様、何をした?」
『ふふ、それすらもわからなかったのかしら? 少しだけ力を放出しただけ。殺すつもりでやった訳ではないけれど、貴方は軽傷で済んだみたい』

恐らく魔術に対する抵抗がルーラーを軽微なダメージで済ませたのだろう。それでもアリスの扱う膨大な魔力は人間が使用する魔術とは根本から違うものであり、アリスにとって簡易的な魔力放出でも無力化には至っていない。
鏡子は、とルーラーが視線を動かしたその先。彼女は地に伏しぴくりとも動かない。呼びかけても返事がないことから完全に気を失っているか、あるいは――。

『仮面で疵でも隠しているのかと思っていたけれど、そういう事でもなかったようね? お髭がダンディズムで、ふふ……まるでどこかの世界の独裁者みたい』
「……貴様の想像通り、そのどこかの世界の独裁者が私だ。真名をアドルフ・ヒトラーと云う。まさか異世界の人ならざる者にまで知られているのは流石に驚愕であるがね」
『まぁ貴方が誰であろうと私にとってはどうでもいいのだけれど。ではどうしましょうか、アドルフさん。潔く諦めますか? 元より人間が私に立ち向かうなんてやっぱり無理だったのよ。自刃するなら止めはしないわ』
「戯言を。鏡子が動かないのは好都合、余計な気を割く必要が無いのだからな。貴様は私が、否。我ら最強の独逸第三帝国が此処で幕を引いてやろう!」


「其は永劫の第三帝國《ドイチェス・ライヒ》」


――宝具解放。ルーラーの持つ宝具のひとつ『其は永劫の第三帝國(ドイチェス・ライヒ)』
それは固有結界を展開し、ルーラー自身の心象風景を実像と共に映し出すものだ。今アリスの視界に映っているのは独逸第三帝国が首都、ベルリンの街並みである。
この結界内でルーラーは己の能力が強化されるが、それでもってアリスと直接刃を交える事などはしない。彼には彼と同じ夢を見、志を共にし、その力となる者たちがいるのだから。

『面白い力。すごいわ、街をひとつ再現するなんて。人間でもこんな芸当ができるのね。でもそれでどうするの? まさか死地を自分で選んだ訳でもないのでしょう?』
「ああ……私のでは無く、貴様の死地となる。人間を軽んずる貴様は人の力と、その叡智によって死を迎えるのだ!」


「最終秘術・最後の大隊《ラスト・バタリオン》!!!」


ルーラーは吠えるように叫べば大きく跳躍し、そして着地。空中に? 否。ルーラーが着地したのは『戦艦』の艦橋だ。
アリスの視界を埋め尽くす程に巨大なその雄姿は、世界最大の80cm砲を主砲とし、それを8問備えた計画上の怪物――H45級戦艦であった。
ルーラーを見上げる格好となったアリス。やがてその耳に響くのは夥しい数の、しかし規則正しくリズムを奏でる軍靴が打ち鳴らす行進の足音。
そしてそれを掻き消す様な轟音は、空を埋め尽くす程の戦闘爆撃機の大編隊。国防軍の、独逸第三帝国一国の火力が正に今此処に集結したのである。アリスと云うひとりの少女を斃す、その為だけに。

「さぁ、はじめるぞアリス! これぞ我らが戦争――人を、人類を嘗めるなぁ!!!」

117名無しさん:2016/09/14(水) 15:47:34 ID:M4/OMZk2
ジーク・ハイルの大号令と共に火を吹く銃火器、雨の様に降り注ぐ爆弾、出鱈目な程に巨大な砲弾を吐き出す砲門。独逸第三帝国が、人類史が誇る暴力が業火となりてアリスを包み込む。
凡そ一個の生命体を殺すには過ぎた火力、それはルーラー自身も理解している。決して狂奔した訳ではない、力に溺れそれを振り翳し嗤う男でもない。
判断したのだ、此処で為さねばならぬと。決戦なのだ、人類史の存続を願う。人の未来は人によってのみ選び取られなければならない。人でない彼の者にそれが為されるなど、人類を渡す訳にはいかないのだから。

「……惜しむらくは。私と、我が独逸が未だ存命であったのならば、必ずや貴様のその力を解析し人類の力とする事が出来たのだが……それは最早叶わぬ夢。フフフ、フハハハハハハハハハハ!!」

ルーラーは嗤う。英霊となりて尚人として夢を想う自分に対して。人をやめて尚人類史の糧となる物を求める独裁者に対して。
ルーラーの嗤い声がベルリンの空に木霊する頃、アリスを包み、その全てを食らいつくさんとしていた炎は不自然に消失していた。その残火すら一片と残さずに。

『人の飽く無き欲求、飽く無き欲望。それが生み出すものを人の叡智と呼ぶのなら、やはり人間は愚かと言わざるを得ないわ。
でも、そうね。持たざる者が憧れ、欲するのは当然のことなのかしら? 全てを持つ私には理解できないけれど。
ふふ、理解できないものを愚かと片付けてしまうのは、私の思考も些か貧弱かしら?』

ルーラーの耳に届いたアリスの言の葉は眼下からではない。ルーラーの足場、宙に浮かぶ戦艦を更に見下ろす様にアリスは浮遊していたのだ。
その姿は全くの無傷。信じられない事だが身に纏う衣服にすら損傷が無い。その光景にルーラーは驚愕し、それを隠す事なく面に見せる。正しく人間の表情であった。

「……貴様ッ!? どうやって――いや、それはいい。それは許そう。だが許せぬのは人を、人類を持たざる者と嘲るかッ!!!」

その表情は驚愕から怒りを孕んだものへ。ルーラーがニーズヘグの石突きで足元を力任せに叩けば、彼の周囲に飛行物体が出現する。人類が宇宙へ進出する礎となった――V2ロケットである。

『ああ、ルーラーさんいけないわ。そんなものでは私を斃すことなんて叶わない。所詮は兵器、所詮は道具。
ひとつことのみの為に作られたそれらに意思はないもの。例えどれ程の火力があろうとも意思無きものに力は無いわ。
それは私にとって玩具と何ら変わらない。力とは明確な意思によって為される結果なんですもの』

出現したロケットがアリスに向かって飛ぶことはなかった。理由は明確、ルーラーも瞬時に理解した。破壊されたのだ。ただそれだけの事。
アリスが片手を掲げればその掌に力が収束、漆黒の魔力の奔流は球体を形作る。それはバスケットボール大の大きさでありながら内包するエネルギーは筆舌に尽し難く。
V2ロケットが噴射炎を撒き散らし始めた瞬間、まるで黒い太陽の様なそれから爆発的なエネルギーが放出された。黒き光状となったアリスの魔力は全方位に発射され、国防軍を戦艦をロケットを、そして空を埋め尽くす爆撃機の全てを薙ぎ払った。
焼き払われる英霊たち、火の海と化すベルリンの街並み。轟沈する巨大戦艦とルーラーの眼に映るは正に終末。全てを吞み込み終わりを告げるメギドの火。

『ふふ、ここが結界の中で良かったわ。折角のフィールドが台無しになるところだったもの。
でももうここも壊れてしまいそう。私の力に耐え切れなかったのかしら? それともルーラーさんの命が尽きようとしているから? まぁどちらでもいいわ、同じだから』

燃ゆるベルリンに悠然と降り立つアリス。そしてゆっくりと、仰向けに倒れ伏したルーラーへと歩み寄る。トドメを刺そうというのだろうか。ルーラーはそれに気付いていながらも動くことはしなかった。
最早受け入れるしかあるまい。彼自身の力も、独逸第三帝国の全てを以ってしての結果なのだ。聖杯も聖槍も持たぬ今、自身に出来ることはもう何も残されていない。
あるとすればただひとつ。祈り、願うこと。同じ様に人類を愛するたちが、彼の者を打ち倒しその未来を護り繋いでくれる、そんな希望を――

118名無しさん:2016/09/14(水) 15:48:16 ID:M4/OMZk2
「勝手に諦めてんじゃねぇーーーーーーッ!!!」


声の主は木山鏡子。恐らく戦闘の轟音で目を覚ましたのだろう。地に伏すルーラーとアリスとの間に割り入る様に近接した鏡子はアリスにアナザームーンを振り下ろす。
不意打ちではあったもののアリスは後方へと跳び難なくこれを回避、そして息を荒げる鏡子をその金眼が見やる。

『あら、鏡子さん生きてらしたのね。相変わらず諦めが悪いわ。ひとりで出てきたって何もできない事はわかっているでしょう――』
「黙れ! できるできないじゃない……! お前に言ったってわからないだろうが、やらなきゃならないんだ! お前を殺すまで私は何度だって立ち塞がってやる!
――おいルーラー! お前自分の仲間が諦めてねーのに何でお前が諦めてんだ!? しっかりしやがれ!」
「……仲間……だと……?」

ルーラーは鏡子の言葉に重い半身を擡げれば、己の視界に映るそれに眼を疑った。燃え盛る炎の中ひとつ、またひとつと立ち上がる人影を見れば己が頬を伝うものを止める事など出来はしない。
親衛隊、独逸国防軍――最期は散り散りになってしまったが、確かに彼らとは同じ夢を見ていた。独逸の、ひいては人類の為と同じ希望を抱いていた同胞たちであり――仲間であった。

「おお……オオオオ……! 最早枯れたものだと思っていたが、これ程人間として諸君らと戦えた事を嬉しく思った事はない……!
我が独逸第三帝国が最大最悪の独裁国家であった事は認めよう……! だがそれと同時に、諸君らが居たからこそ……その鉄の意志があったからこそ我が独逸は人類史の誇りであるのだ!
全ては人類史その未来の為に――ジーク・ハイル!!!」

ルーラーの言葉に呼応するかのように立ち上がる英霊たちはその数を増やしていく。しかし皆が皆満身創痍、アリスを相手にまともに戦える状態でない事は明らかだ。
それでも彼らに宿る心は、人類の未来を願うその意思は決して折れてはいない。そして折れぬ人の意思は何よりも強い力となる事をかつて鏡子が証明していた。

『ふふ……あははっ! アハハハハハハハハっ! もう虫の息よ? 全員で掛かってもやられちゃったのに、今更そんなボロ雑巾集めてどうしようというの?
もう刃向かう牙も、立ち向かう力も何処にも残されていないじゃない。人間はそんなに戦うのが好きなの? もう可能性なんて何ひとつ残されていないのに』
「――いや、あるぜ。お前に突き立てる牙も力も、未来を切り開く可能性も! お前は知ってるはずだアリス! 一度その力に敗れたお前はッ!」

鏡子の身体が光を帯び始めるのを見ればアリスの顔から笑みが消える。アリスは知っているから……その光が何なのかを。アリスは見ているのだから……その光が齎した結末を。
その光は意思の光。決して希望を諦めぬと、未来を欲する人の意思の光。鏡子が心に携えた決して折れぬ槍のその刃の輝き。
どこか暖かで淡く、それでいて見るものを安心させるだけの力強さを感じられる光が鏡子のアナザームーンを包み込んでゆく。
アナザームーンは勇者の剣のレプリカであり、それ故元来宿している破邪の力は失われていた。だからこれは武器の力では無い。紛れも無く鏡子の内から湧き出る力だ。否、その光の……力の源泉は鏡子からだけではない。

『これは……このザラついた不快な光は間違い無くあの時の――』

かつてリベルタスにおいてアリスを次元の狭間へと送り返し齎された虚無を打ち払った光。それは人間たちの意思の力が起こした一種の奇蹟であった。
無論それは鏡子ひとりの力ではない。数多の人間たちの意思、明日を願う揺るぎなき希望が共鳴して力となったものだ。
そしてこの場においてもその奇蹟が顕現しようとしているのだ。鏡子とルーラー、独逸第三帝国の英霊たちの願いという名の意思の元。偶然などではない、奇蹟とは人々の想いが願いとなって共鳴し起こる必然なのだから。

「ああ、そうだ! 忘れたとは言わせねぇぞアリスッ!! これが私たちの、人間の願いの力!!」


「――神槍ッ!!! ロンギヌスだぁーーーーーッ!!!!」

119名無しさん:2016/09/14(水) 15:48:55 ID:M4/OMZk2
鏡子の咆哮――刹那、それと同時に『神殺しの神槍ロンギヌス』と化したアナザームーンを構え、持てる力の全てを振り絞りアリスへ向かって投擲する。
よく見ればロンギヌスを形作る光は曖昧であり、リベルタスで起きた奇蹟の時のように完全な状態で現界されていない事がわかる。
恐らくは依代となる人の願いの力、その規模が足りていない、小さ過ぎるのだ。しかしそれでも鏡子はこの一擲を躊躇することはない。死に体ながらも立ち上がった英霊たちの意思を無駄にはできない。
打ち出される様に投げられたロンギヌスは爆発的な速度で以ってアリスへと迫る。アリスは上方へと跳躍する事でそれを回避しようとするも、美しい光の尾を引きながらロンギヌスは何処までもアリスを追尾し、遂に穿つ。
上空で炸裂する光は超新星爆発の如く眩く世界を白く染め上げる。やがてその光が霧散すれば世界は色を取り戻す。在るべき世界、その光景も。

「最早見事と云う他にあるまい……どちらもな」
「ウソだろ……!? 悪い、あんたらの力無駄にしちまったよ……バケモノめっ!」

上空より落下したアナザームーンは在るべき姿を取り戻し大地に突き刺さる。そしてその直上にはアリスが未だ圧倒的な存在感を示しふたりを見下ろしていた。
どうやら先の一撃を左手で受け止めたのだろう。ドレスの左袖だけがボロボロに吹き飛び、掌からは赤い血液が滴っている。
やはり足りなかったのだ。アリスを斃す為にはもっと莫大な力がいるということだ。それこそ人知を超越した、奇蹟の様な力が。
しかしてふたりを見下ろすアリスの表情には焦りも、傷付けられた事に対する怒りすらもない。それどころかどこか悦びを得た様な表情にも見える。

『……血が出ちゃったわ。ふふ、この痛みは本物。やっぱりあの力は嘘ではなかった。
ふふふ……アハハハハハハハハっ! 嬉しいわ鏡子さん! 漸く、漸く確信を得る事が出来たのだもの! でもまだ足りないわ。こんなものではない筈よ。
ふふ、いいわ。一先ずはこれで満足。では御機嫌よう』

アリスはひとり嗤い、そしてひとり何かを得心し再びゲートを開けばふたりの前から姿を消した。突然の襲来、そして嵐の後。鏡子とルーラーは茫然とするしかなかった。
アリスが消えて数秒か数分か。魔力の枯渇によりルーラーの結界が崩壊し、彼らはの景色は再び映画館の前へと姿を戻す。

「……何だってんだ、一体。クソっ……! アリス……! 次は必ずぶっ殺してやる」
「……取り敢えずは、良い。我らだけで太刀打ち出来ぬ事は身に沁みた。そして何をする前に休息が必要だ。暫くはまともに戦えそうにない」
「悔しいけど、私も同感だ……ルーシー、もう少し……待っててくれ……」

鏡子は言葉を紡ぎ終えると倒れる様に地に伏し、そしてすぐに寝息を立て始めた。戦闘中既に限界を超えていたのだろう。暫くは起きそうもない。
ルーラーはやれやれと、自身も疲労で重くなった身体に鞭打ち鏡子を抱きかかえそのまま映画館へと戻り箱の中の椅子へと寝かせ、そして自身も着座しゆっくりと目を閉じた。
ふたりとも外傷だけで言えば致命的なものはないが、精神的な疲労と体力の消耗が激しすぎる。この先の事を考えればこの場で休んでおくのは賢明な判断である。
彼らを縛る枷は外され仮初めの自由を得たふたり。やがて目を覚ませば負傷の治療の為病院を目指し、さらに運営を打倒するための同志を探すだろう。
捕らえられ首輪を付けられた籠の鳥たちが、自由の翼を持つ二羽に対して何を抱くのかはこの時点では誰が知る由もない。

120その先に見るものは:2016/09/14(水) 15:54:19 ID:M4/OMZk2
【映画館/館内シアター 午前】
【木山鏡子@旧俺能】
[状態]:疲労(大) 火傷(小) 打撲(小)
[装備]:『アナザームーン』@境界線
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ルーラーと共闘する。出会った奴は話せそうなやつとは話す。話せないやつは倒す。
ライダーは倒せるようなら倒す。
1.アリス……必ずもう一度斃倒す! でもその前に少しだけ休憩だ。
2.ルーシー……必ず護るから。
3.とりあえずルーラーと協力していくか。
4.あの力……やっぱり幻なんかじゃない。

※アリス戦終結後、消滅する直前の状態です。
※アリスの能力などを知っています。
※ロンギヌスを発動するには少なくとも10人以上の願いを受ける必要があります。
※アリスにより首輪が外されています。

【映画館/館内シアター 午前】
【ルーラー(ランサー)@聖杯】
[状態]:疲労(大) 火傷(中) 打撲(小)
[装備]:『ニーズヘグ』@魔法少女
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:鏡子と共闘する。対話が可能なものとはできるだけ共闘したい。ルーシーと出会っても手は出さない。
1.運営サイドは極めて強大、しかし倒せなばならん。何をしても。
2.ライダー……天蓋……貴様らも来ているのか。
3.今は鏡子と共に行くことしか道はない。信じるしかあるまい。
4.鏡子のロンギヌス……あれは。
5.首輪が無い事が面倒の種にならぬ様にせねば。

※聖杯と聖槍は持っていません。
※『闘争の彼方』は魔力不足で使用できません。
※受肉しています。
※アリスの能力などについて鏡子から聞いています。
※アリスにより首輪が外されています。

『ニーズへグ』@魔法少女
魔法少女である紗奈の魔具
穂先に様々な属性を纏わすことができたり投擲時に手元に戻ってくるといった性能がある。
さらに、これは絶対に壊れない上に戦闘終了時に紗奈の手元に戻る。
だが、地面に突き立てたとき攻撃力を持った魔力を受けると地面から抜かれて紗奈の手元に戻ってしまう。
普段は万年筆となっていて魔法少女のコスチュームを纏う時にも使用する。

「アナザームーン」@境界線
ジョシュア・アーリントンがかつて保持していた剣。
エリュシオンにてかつて代々魔王を討伐し続けていた一族『勇者』の末裔が所持していた破邪の聖剣。…のレプリカ。
科学の発展した自由世界リベルタスにおいて何故か別世界である魔法世界エリュシオンの勇者を複製する計画が過去に実行されており、この剣はそのクローン体に装備させる為に開発されたもの。
外見、性能こそはコピー元まで後一歩といった所だが肝心の破邪の力は備わっていない。
本物の材質を再現することは不可能であった為、それに近い強度を持った特殊合金で代替している。
無限を象った両手剣並みの刀身の長さを誇る太身のロングソードである。
普段は不可視の粒子状態でジョシュアの周りを漂っている。光子転送によって何もない空間から取り出すことが可能。

/タイトル入れ忘れてました

121【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 03:52:50 ID:QYZ6qcAA
歩き続けて約一時間ほど、イムカ達一行は無事病院地点へとたどり着いた。
ニアの体力を考慮し途中休憩を挟みながらであったため予定よりも遅れてしまったが、敵に遭遇しなかったのは僥倖と言えよう。
前方に病院が浮かび上がった辺りで、イムカはふと立ち止まり二人の進行を制した。

「待て二人共、私が先にあの病院に危険がないか見てこよう」
「えぇっ!?……ひ、一人じゃおっかねぇってんですよぉっ…?」
「同意。我々は今や一つの団、独りでの行動は身を滅ぼします。
 指揮を執る者が倒れたら崩壊を招く。それは、宗教においても変わりはないのです」

イムカの突然の提案にニアは勿論、今まで押し黙っていたアルトリアでさえも反対の意を述べる。
ニアの反対は予測できていたもののアルトリアまでも彼女に同意するとは予想外だった。
しかし予定は狂わせない。三人で足並み揃えて地雷原に突入するほど、イムカは愚か者ではないのだ。

「心配するな、仮に何者かに襲われたとしても大方は相手取れる自信がある。
 それでも危なくなった時は……そうだな、その時は君たちを頼ることにしよう」
「了承。貴公の意志の固さは把握しました、余程仲間を大切に想っているのですね。
 無論、貴公の有事の際は必ずや駆けつけましょう」
「ふ、頼もしいな……本当に」

相変わらず無表情で感情の見れないアルトリアであったが、彼女が嘘をつくような人間ではない事はこの数時間の同行で知っている。
取り敢えず自分の背中は任せてもいいだろう。そして、問題のニアに関してだが。

「い、イムカぁ…気をつけてくださいってんですよぉ……」
「当然だ、何が起きても対処できるようにしよう」

流石に状況が状況だと理解したのだろう、普段よりも大分すんなりとイムカの行動を受け入れた。
少しずつだがニアも成長している。その事実が何よりも嬉しく、そしてこれからもその成長を見届けたいと誓った。
ナナカマドを片手に構え、遠くに聳える病院を見やる。他の建物とは異なる雰囲気を醸すそこは、恐らく他の参加者も目をつけている事だろう。

「では、行ってくる」

その刹那、イムカの雰囲気は急変し”将校イムカ・グリムナー”のものとなる。
元の世界では垣間見る事の少なかった変化にニアは僅かに怯え、しかしすぐにその背中を見届けた。
自分もああなりたいと切に願って、ポケットに詰め込まれたエクソダスを固く握り締める。
この御守りが願いを聞き届けてくれるかどうかは分からないが、願うべくはイムカの無事と、そして平穏――




122【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 03:53:45 ID:QYZ6qcAA


「…………」

気配を一切遮断し、慎重に病院へと歩き進めてゆくイムカ・グリムナー。
流石軍のエキスパートといったところか、その姿は見惚れる程に美しくそして様になっている。
もしも場所が場所でなければナンパの一つや二つは起きていたであろうそれも、この場では意味を成さない。
やがて病院の前へと辿り着き、イムカは僅かに安堵の表情を浮かべ再三周囲へ警戒を促した。

――そして、イムカははっきりと”捉えて”しまった。

「…ッ……!」

自分以外の何者かの気配。いや、それは気配というにはあまりに禍々しく微弱なもの。
イムカが知っている言葉で表すのならば最も当て嵌るのは殺気。どちらにせよ、いい感情ではない事は確かだ。
何処にいる?――イムカは全神経を張り巡らせて、一筋の冷や汗を地面に落とした。

と、その時。


「ごめんなさい」


イムカが振り返る事はない。
死の警報を鳴らす本能に従い、その声の正体を確かめる事なく前方へと飛び込んだのだ。
瞬間、自身の上を通り過ぎてゆく白刃と極寒の冷気。文字通り、イムカの背中は一瞬にして凍りついた。

「く――ッ!」

ハンドスプリングの要領で跳ね上がり即座に襲撃者と対峙するイムカ。
片手に握られたナナカマドの銃口は確りと相手の眉間に定められており、一切震えのない辺り流石プロというべきだろう。
しかしイムカの動揺は外見以上に大きい。ナナカマドを向けられても尚、その男は動じた様子もなく次なる攻撃に備えているからだ。
直人ではないという事は理解している。だからこそ、イムカがナナカマドの引き金を引くのにも躊躇はなかった。

「……銃、か……」
「な……っ!?」

眉間と喉、人体の急所である二箇所へと飛弾する光線はいとも容易く男の持つ長剣に弾かれた。
光線銃の威力が低いから、などという理由ではない。男の剣【爆進氷刃】は異能を持つ魔剣だからである。
真正面からの銃は効かない、ならば直接近接し肉弾戦と行きたいところだが剣から荒ぶ吹雪がそれを許してはくれない。
コンマ1秒にも満たない思考の末、イムカが選択したのは光線銃での牽制と後退であった。

出鱈目に放たれる橙色の光線は多くが零を通過し、電柱や看板を貫く。
その内の幾つかは零へと放たれるが、当然ながらそのどれもが彼の一撃の元斬り伏せられた。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、とは言うもののそれは常識の範疇を超えない限りの話である。
銃弾を斬り伏せる生物を前にした時、全ての弾丸は等しく価値がなくなるだろう。


「――掛かったな」


尤もそれもまた、”常識”の中での話だが。

123【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 03:55:10 ID:QYZ6qcAA

零の周囲の影が濃くなる。釣られて上を向けば、そこには猛スピードで落下する巨大な病院の看板の姿が。
初めて零に喫驚の表情が刻まれるがそれも一瞬。咄嗟に振り抜いた長剣で看板を両断し難を逃れる。
それは1秒にも満たぬ時間の出来事だった。――逆を言えば、1秒の隙が出来たという事。

「イヤーッ!!」
「ぐっ…!」

肉薄したイムカの強力な脚撃は零の肉体を容易く吹き飛ばし、体勢を大きく崩させる。
反撃せんと零も長剣を振るうが、この距離ではイムカの方が断然速い。
振るわれたボディブローは勢いよく鳩尾に叩き込まれ、零は空気を吐き出しゆっくりと膝を着いた。

「ど、うし…て……」
「先程の看板か?……簡単な事だ、あの出鱈目な弾道は君を狙ったものじゃない。看板の留め具を狙ったものだ。
 真正面からが通じないならば上から……しかし君はその上からの攻撃も対処してしまった。
 だから最終的に、近接戦闘という賭けに出たのだが……どうやら、私もまだまだ捨てたものじゃないらしい」
「……強いん、ですね……」
「君も、な……」

ふ、と微笑を浮かばせるイムカの後方から漸くニアとアルトリアが大慌てでやって来る。
ナナカマドの銃声を聞いて只事ではないと察したのだろう。イムカが膝を着く相手と相対しているのを見て、ニアは安堵した。

「イムカぁ……っ!」
「そんな泣きそうな顔をするな、少し肝が冷えただけさ。……アルトリア、迷惑をかけて申し訳ないな」
「打消。私は私の思うように行動したのみです。
 その事実に貸しも借りもあらず、よって謝罪は不必要なのです」

言いながら、アルトリア――否、法王アルトリアはダインスレイヴの鋒を零へと向ける。
底無しの闇を孕む双眸は零をの行動を束縛し、反抗を許さないと言わんばかりの威圧を放出した。

「質疑。何故お前は殺し合いに乗ったのですか」
「……俺は、この争いに溢れた世界を……壊すんだ。
 事ある毎に争い事を起こし、理由もない暴力が人々を傷つける……そんな世界は間違っている!
 俺が、俺がこの手で……この世界に調和を齎すんだっ!」
「……調和?」

足掻きとも思える零の決死の叫びは意外にもアルトリアの動きを止め、その鋼鉄の表情を僅かに歪ませる。
世界の破壊。一個人が描くには滑稽で無様な願望だが、法王であるアルトリアにとっては戯言と片付けるには余るもの。
アルトリアの目指す世界。それは零のような破壊のものとは異なるものの、一切の”穢れ”が存在しない世界だ。
参加者の全ての意思が統一され、その中で不要とされた穢れなるものを排除する事で世界はより美しく価値あるものに変わる。

その穢れというカテゴリに納められるのは一体どのようなものか?
答えは無論、自分を含めた人々が”邪”と定めた者である。

イムカとニアは言った。殺し合いに乗ったものは全て、邪悪な者であると。
しかし零は言った。この世界に溢れる人間そのものが、邪悪な者であると。
ここで生じるのは矛盾だ。相反する意見は意思の統一を目指すアルトリアにとって、最大の壁となって立ちはだかる。


勿論、その隙を見逃さない人物が此処には居た。

124【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 03:56:26 ID:QYZ6qcAA

「……! 危ない、ニア――ッ!」
「へっ……?」

瞬間、零の背後から無数の雪玉が展開されニアへと降り注ぐ。
当然ながらニアにそれを対処する術はない。呆けた表情を浮かべる彼女の前へイムカが咄嗟に躍り出た。

「ぁっ…!…づ……っ!」
「い、イムカぁぁっ!?」

右腕で己の顔を覆い盾としたものの、その雪玉はイムカの右腕を瞬く間に凍てつかせてしまう。
全身に伝わる極寒の感触と痛みに気を失いかけるも、ニアの絶叫が鼓膜を叩きイムカの意識を覚醒させる。
ぼやける視界に映し出されたのは、体勢を立て直した零が自身の長剣を手にしている光景だった。

「ニア、アルトリアっ!ここは一旦引くぞっ!!」
「い、イムカぁっ……ごめ、ごめんなさいってんですっ……!」
「後で聞く!……アルトリア!何をしているっ!」

剣を持った相手は実力が存分に発揮できる状態だ。そんな敵と戦えば今の状態では甚大な被害が及ぶ。
そう判断しての撤退指揮であったが、アルトリアは一人ダインスレイヴを構えたまま微動だにしない。
そんな彼女を格好の獲物だと思ったのだろう。零は今にもアルトリアを凍てつかせんと剣を振り上げていた。

「くっ、手間をかけさせる……!」

未だ動かせる方の左手で手裏剣を掴み、ロクに狙いも定めぬまま零へと全力で投擲した。
ダメージを与えることさえ叶わなかったものの、動きを止めるという目的は果たす事はできたようだ。

「アルトリア!撤退だッ!!」

三度目のイムカの指示。それにより漸くアルトリアは我に返り、零の剣戟を弾きつつ戦線を離脱する。
負傷するイムカに付き添うようにニアが隣並び、その後ろでアルトリアが零から飛来する雪玉を打ち落とす。
一種の綱渡りじみた逃走ではあったが、零は追う気がないのか雪玉の雨は意外にもすぐに収まる事となった。
なんのつもりかは分からないが、イムカ達にとっては幸いに他ならない。
病院という目的地からは遠ざかってしまうものの、命が助からなければ意味はないのだから。
世界の破壊者零は遠ざかる三つの背中を見つめ、静かにその場に座り込んだ。


◆◇◆◇◆


「はぁ…っ、…ここまで来れば……大丈夫、だろう……」
「い、イムカぁっ……い、今手当てするから待っててくださいってんですっ!」
「……はは、手当てか」

撤退を初めて約5分後、彼女らは広い住宅街に辿り着いていた。
疲労と負傷の反動がやって来たのだろう。イムカは覺束ない足取りでコンクリート製の塀に手を置く。
ニアが大慌てで叫ぶ手当てという言葉にもイムカは乾いた笑いを溢し、自身の右腕を改めて見つめる。
青白く変色したその腕は一発で異常だと判断できるものであり、治療にもきちんとした器具が必要だろう。
勿論ニアにもイムカにもそのような支給品は配られていない。だからこそ、この傷が治せないのはイムカ自身がよく知っていた。

「ニア、気持ちは嬉しいが今はまだ無理だ。
 病院に行きたいが、先程の奴が陣取っている……なに、この位なんて事はない」
「で、でもでもぉっ…イムカ、すごく苦しそう……」
「……気のせい、さ」

こんな時、嘘をつくのが苦手な自分をイムカは酷く恨んだ。
きっと強がりだということがバレているだろう。ニアが鋭いのは長年の付き合いで知っている。
自分でも無意識にニアから視線を逸らしてしまっていた。罪悪感という、人間くさい感情によって。
そしてその視線の行く先は、先程から一切言葉を発しようとしない法王へ。


「アルトリア、さっきのは一体――」


――どうしたんだ。

イムカが紡ごうとした言葉は最後まで発される事なく、夢想に溶ける。
彼女の言葉を中断させたのは、法王アルトリアその人の凶刃であった。




125【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 03:57:11 ID:QYZ6qcAA


「……か、…ひゅっ…」
「イムカあぁぁっ!!」


ニアの悲痛な絶叫を何処か遠くに感じながら、イムカは腹部にじわりと滲む痛みに意識を遠のかせてゆく。
崩れ落ちるイムカの肉体を見下ろし、アルトリアは一切感情の灯らない様子で淡々と血濡れのダインスレイヴを引き抜いた。

「猛省。私は甚大な勘違いをしていました」

常闇の双眸が泳ぐ。
涙を溜めイムカの体を抱き寄せるニアへ、非情なる”法王”の視線が注がれる。

「浄化。そう、浄化こそが我が使命。貴公らの様相を目にして確信しました。
 私が此処に呼び寄せられた理由はただ一つ。穢れを浄化せよという神からの導きなのです」
「な、何言ってるですかぁっ…!よくも、よくもイムカをっ…!」

アルトリアの言っている事はニアは理解出来ない。するつもりもない。
元よりアルトリアの纏う雰囲気は不気味だと認識していたが、イムカを刺した事で不信は確信に変わった。
エクソダスを両手に握り締め法王の前へ踏み出す。多大なる恐怖に支配されているのだろう、その手は小刻みに震えている。
しかしそれでも尚ニアを奮い立たせるのは、イムカの存在があるからこそだろう。
ここで退いてしまってはイムカが死んでしまう。――その想いが、ニアに勇気を与えた。

「ニアがっ…ニアが、お前なんかやっつけてやるってんですよぉっ!」
「笑止。勇気と無謀を履き違えし者よ、私がこの手で浄化を与えましょう」

振り上げられる大剣。陽光を反射し気高く翳されるそれは、ニアの肉体を容易に両断するだろう。
だがニアは退かない。手中の”御守り”を強く握り締めて、アルトリアの深淵の瞳と真っ向から対峙する。
大気を切り裂き迫る剣戟は、小さな希望を叩き切らんと唸りを上げた。





「――よく言った、ニア」





そして、奇跡は起こる。




126【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 03:58:28 ID:QYZ6qcAA


「なっ……」

アルトリアの凶刃はニアへ到達する事なく、逆にアルトリア自身が仰向けに倒れ伏す形となっていた。
僅かに揺らぐアルトリアの視界に浮かび上がるのは、本来ならば立っているはずのない存在だ。
金色の髪を清風に靡かせて、紫色の双眸を逆光に負けず輝かせるその人物は――


「イ、ムカ……?」


将校イムカ・グリムナーは、ニアの頭に手を置き応える。
髪を梳かすように優しく丁寧に撫でるその様子はまるで、我が子を愛でる母親のように暖かなものだった。

「逃げろ、ニア……出来るだけ、遠く…へ……」
「いや、嫌ですよぉっ!ニアが居なくなったら、イムカは本当にぃっ……!」
「頼むからっ!」

イムカの悲痛な叫びに、ニアは肩を震わせる。
指揮官としての命令ではなく、仲間としてのお願い。
普段イムカが見せる事のないあまりに感情的な言動に、ニアは自然と大粒の涙を溢していた。

「……大丈、夫だ……ここには、アキレスや…タェン、ティース達も…居る……。
 それに、ここで君を死なせたら……ジョシュアに、申し訳が…立たない、からな……」
「イムカ……ニアは、ニアはぁっ…!」

穏やかな笑顔を見せるイムカの顔は、ニアでも分かる程蒼白だ。
それも当然。右腕の凍傷に加えて腹部への大きな裂傷は何処からどう見ても致命的なものだった。

今のイムカは文字通り、吹けば消えてしまうようなか弱く儚い存在だろう。
それでも、ニアの目には何者よりも強い存在に見えた。

「行くんだニア。君は……私の”希望”だ」
「……っ!」

その言葉は、ニアという少女を突き動かすには十分すぎて。
零れ落ちる大量の涙もそのままに、ニアはイムカを真正面から見つめた。


「ニアは――生きるってんですっ!」

.

127【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 03:59:03 ID:QYZ6qcAA
その言葉を聞いてようやく、イムカは心から安心する事ができた。
ぐじぐじと乱暴に涙を拭き走り去ってゆくニア。遠ざかる小さな足音を聞きながら、イムカは目の前の悪と対峙する。
勝ち目はない。彼女の戦いは勝利を目指すのではなく、如何に長引かせるかどうかなのだ。
ナナカマドは握れない、故にイムカは無手の状態で構えを取った。

「さぁ、どうし…たアルトリア、…死ぬ気、で…かかってこい……。
 でなければ、……死ぬのは、君の方…だぞ?」
「不明。何故、自ら死に行くような真似をするのか私には理解できません」
「ああ、理解出来ない…だろう、な……君のような、感情を持たない…者には」

嘲笑を交えたイムカの言葉に、アルトリアはほんの僅かに人形のような表情を顰めた。
自分を否認されるという侮辱を受けて、統一意思の絶対なる指導者が黙っているわけもない。

「打消。個々の感情など不要、我々はただ神の示すままに生きれば良いのです」

言うが否や、アルトリアは全身全霊の刺突をイムカへと放った。
巨大すぎる剣から生み出されるそれは突き刺すという行為だけでも暴風を生み、触れた物を例外なく吹き飛ばす。
無論イムカとて同じだ。例え万全の状態であったとしてもその一撃を耐える事など出来ないだろう。
だがそれは、イムカがアルトリアの刺突を見切れないという決め付けの基での話だ。

超速の刺突をイムカは屈んで回避し、同時に突き出されたアルトリアの腕を力強く掴む。
アルトリアが自慢の怪力でイムカを引き剥がすよりも早く、イムカはアルトリアの懐へ潜り込んだ。
危機を抱いた頃にはもう遅い。競技や遊びのものではなく人を殺す為の背負投げが炸裂する。
固いアスファルトに頭から突き刺さるアルトリア。その衝撃に耐え切れず地面には亀裂が走った。

アルトリアは投げ技という存在を知らなかった。故に、自分が何をされたか理解出来ない。
唯一理解できる事は、無類の膂力を誇る自分が満身創痍の女一人に打ち負かされたという事だ。
アルトリアに湧き上がる熱い感情。自ら不要と称したそれに刺激されたように、再びイムカと相対する。
今度は無言のままに剣を翳し、肉片さえも残さぬ勢いで袈裟斬りを放った。
だがイムカは凶刃が到達する前にアルトリアの腕を掴み、再び自らの体を捻り込むように投げへと転ずる。


メキリと、嫌な音が鳴り響いた。

恐らく今の一撃でアルトリアの左肩が外れたのだろう。
だがその音の原因はアルトリアだけではない。――イムカもまた、左腕が曲がっていた。
しかしそれも当然の事といえよう。凍てついた右腕は使用できず、実質左腕だけでアルトリアの巨体を投げていたのだから。
そしてその左腕も限界が訪れた――両腕を失った今、イムカがアルトリアに抵抗する術はない。

(これが……私の選んだ、”最善”だ……)

ゆらりと立ち上がる聖職者の影を見て、イムカは静かに瞼を閉じる。
次の瞬間振り下ろされたダインスレイヴは寸分違わずイムカの心臓へ到達し、彼女の儚い命に終止符を打った。






「…………」

物言わぬ遺体となったイムカを無感情な瞳で見下ろし、アルトリアは無言のまま踵を返す。
達人の投げを二度も食らったのだ。アルトリアの足取りは普段のそれよりもずっと遅く、また左腕も動かない。
それでも絶命に至らないのは彼女の生命力からなるものか、はたまた狂気じみた精神力からか。
法王アルトリアは歩む。穢れを浄化するために、清き世界の生誕の為に。
血濡れた道を歩む聖職者へ、神はどのような審判を下すのか――――






【イムカ・グリムナー@ここだけ世界の境界線 死亡確認】
【残り51名】

※イムカの支給品は遺体と共にE-3に放置されています

128【最善への希求】 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/15(木) 04:01:21 ID:QYZ6qcAA



【E-3/一日目 午前】
【ニア・シューペリオリティ@ここだけ世界の境界線】
[状態]:健康 深い悲しみ
[装備]:エクソダス@境界線 終願のロザリオ@新俺能
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
1.イムカ……!
2.イムカの願いを聞き届け、生きる。
3.仲間たちと合流。

※本編中からの参戦です。
※終願のロザリオの効果を理解していません。武器としてすら認識していません。


【法王アルトリア@新俺能】
[状態]:背中に打ち身(中) 頭部負傷、出血(中) 左肩脱臼
[装備]:魔刃皇ダインスレイヴ@魔法少女
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:穢れを浄化する。
1.穢れは。
2.全て浄化され。
3.清き世界が誕生するでしょう。

※本編中からの参戦です。
※盾となる物を持っていない為、執行形態となる事が出来ません。
※【爆進氷刃】の言動によりマーダーと化しました。


【爆進氷刃@旧厨二】
[状態]:打撲(小) 鳩尾に痛み(小) 疲労(中) 絶望 悲壮感
[装備]:爆進氷刃@旧厨二
[道具]:基本支給品 不明支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:この世界を破壊する
1.世界の破壊者として、あらゆるものを破壊する。
2.……明日架さん達も参加しているのか。

※不殺同盟を脱退した後からの参戦です
※名簿には【爆進氷刃】吹雪零と記されています
※能力には制限が掛けられており、長剣を抜刀しただけの状態では吹雪は出現しません。
 長剣を振るうことで初めて吹雪が出現するようになっています。
※【爆氷天刃】への覚醒は現時点では不可能です。

129始まりはいつも突然に ◆r7Y88Tobf2:2016/09/19(月) 05:30:17 ID:QYZ6qcAA

「はぁ〜……どうしてこうも人と会わねぇもんかね」

ラジオ局を後にして優に一時間、三橋は宛もなく会場を彷徨っていた。
正確には宛がないというよりも地図を読むのを放棄し歩き出した訳だが、それは然程問題ではない。
彼にとって問題なのはこうして自分が一時間歩いてやっているのに、人どころか雀一匹さえも出向かない事だ。
これではラジオ局での意気込みが無駄となってしまう。一度発散した怒りが有頂天に達するのも、そう遠くないだろう。
そんなこんなで三橋翼は今、バトルロワイヤルという場でありながら退屈していた。

「運営のクソ共は俺が一人で衰弱死するのが見たいのか?なぁ、聞いてんだろ主催者さんよ?
 三橋寂しくて死んじゃうの〜!ってか?笑えない冗談だなオイ」

ブツブツと悪態なのか挑発なのかよくわからない事を呟きながら、右の拳に嵌められた籠手に視線を注ぐ。
この籠手の破壊力は先程の激昂によりよく知っている。三橋自身の体質も相まって、並以上の実力を発揮できるだろう。
だからこそ三橋は自信を持っていた。言い方を変えれば、慢心しているとも言える。
この退屈な時間を凌いでくれるのならば仮に話が通じない相手であろうとも、サンドバッグにでもなってもらえればいい。
そんな単純明快な考えの基、三橋の足が自然と向かっていたのは博物館の方向だった。

手入れのされていないコンクリートには亀裂が入っており、その隙間から所々雑草が顔を覗かせる。
海岸付近からの植物が侵食しているのだろう。それでも、ネズミの一匹も草陰に潜んでいる様子はないが。
あの主催者の事だ、参加者以外の不要な動物は消してしまったのだろうと、三橋は結論づける。
現に三橋の目に映る景色は殺し合いという要素を除けば大変平穏なものであり、動物が住むにはうって付けだった。

そこまで思考したところで思わず三橋は舌打ちを鳴らす。
ありもしない仮定を想像してしまうのは悪い癖だが、どうにも胸糞が悪かった。
もしこの会場が用意されたものではなく、以前は人々が住み活気に溢れていた何の変哲もない街だったら?
答えは簡単だ。アジやアリスはその”活気”を全て奪い去り、平穏な時が流れていたこの場所を地獄の会場にしたのだろう。
三橋の額に青筋が浮かぶ。ふつふつと湧き上がる激情を無理やり抑え込み、デイパックから取り出した水を勢いよく飲み干した。



「いい飲みっぷりじゃのう」


.

130始まりはいつも突然に ◆r7Y88Tobf2:2016/09/19(月) 05:31:11 ID:QYZ6qcAA
瞬間、三橋は全力の籠手を背後へと叩きつける。
しかし当の声の主は紙一重でそれを躱し、口元を手で覆い隠しながら緩い微笑を浮かべていた。

「おーおー、物騒じゃのう……ちぃとばかし気になって声を掛けただけだというのに」
「……お前、いつからだ?いつから俺の後を付けてやがった?」
「んー、『はぁ〜……どうしてこうも人と会わねぇもんかね』の部分からかのう?」
「ついさっきじゃねぇか!……尾行なんて随分いい趣味してるんだな」

ピリピリと殺気を垂れ流す三橋は反面、目の前の女性に対して危機感を抱いていた。
自惚れる訳ではないが、三橋は自分がそれなりに場数を踏んでいると自負している。
当然尾行されていたとしても気配を察知できるだろうし、そうでなくとも違和感ぐらいは抱いても可笑しくはない。
しかし今回は、この女は違う――もしあのまま襲いかかられていたら、間違いなく自分の首は飛んでいただろう。


「まぁまぁそうカッカするものでもないぞ、青年。
 お主が望んだのじゃろう?人と出会いたい、と……その願いを聞き届けてやったのが儂なのじゃ」
「ふざけるなコスプレ女。お前みたいなイっちまってる女なんかチェンジだチェンジ」

軽口を叩きながらバックステップで距離を取り、コスプレ女こと凛音の小太刀の範囲から逃れる。
反して凛音の方は構えらしい構えも見せず、じっくりと見定めるような視線を三橋に浴びせていた。
緊張を巡らせる自身に反し飄々とした様子を見せる凛音に対し、三橋は恐怖よりも先に怒りが沸いた。
何故自分がこんなに警戒しているのに目の前の女は余裕なのか。――その事実が、なんとも気に食わなかったのだ。

「ふむ、まぁお主がその気でなくとも儂がそうなんじゃがのう。
 つまるところ儂も人と出会いたかったのじゃ、……如何せん一人では退屈なのでな」
「……そうかよ、で……俺はその退屈しのぎの相手に選ばれてしまった憐れな子羊って事か」
「ご名答、賢い男は好きじゃぞ?」

クスクスと、またもからかうように笑ってみせる凛音。
彼女にとっては笑うなと言う方が無理な相談なのだろう、先程から一切笑顔を崩さない。
尤もその”遊び相手”である三橋にとっては、何一つ面白いことなどないのだが。

「お前が何処の病院から抜け出した患者なのかは知らないが、生憎俺は遊んでる時間はないんだよ。
 それとも何か?ひとり遊びを教えて欲しいんなら喜んで教えてやるが?」

自身の持ちうる威圧と殺気を乗せ、凛音の済んだ瞳を睥睨する三橋。
一介の不良程度ならその威圧に怯え戦意喪失したであろうが、相手は歴戦の魔法少女だ。
凛音は三橋の返事に大層満足そうに頷いては、パチン!と両手を合わせ重苦しい雰囲気を打ち破った。

「よいぞ、その雲の如く捉えることの出来ぬ姿勢!
 ますます興味が湧いたぞ、さぁ、早く儂と”遊ぼう”ではないか!」
「ちっ……!」

言うがいなや、凛音は腰に携えた一本の小太刀を両手に構えキラキラと瞳を輝かせる。
途端に場を制する凛音の威圧にいつもの軽口を叩く暇もなく、三橋は右腕の籠手を正面に翳した。

「消えやがれっ!!」

ドンッ――!
響く銃声、放たれる銃弾。
それは真っ直ぐに凛音の元へと突き進み、その腹を食い破る。
噴出する血液、穿たれる銃痕。その瞬間三橋は確かに己の勝利を確信した。


「今度はこちらの番じゃな」
「――っ!?」


しかし、その確信はすぐさま裏切られた。

131始まりはいつも突然に ◆r7Y88Tobf2:2016/09/19(月) 05:32:22 ID:QYZ6qcAA


ゆらりと凛音の体が揺れたのは一瞬。神速の速さで肉薄し、三橋の首元を刈り取らんと小太刀が迫る。
常人ならば目で追うことすら難しいそれを本能のみで反応し、咄嗟に籠手で首元を覆った。
間一髪三橋は自らの籠手を盾とする事で死を逃れ、ギリギリと火花を散らしながら拮抗を保つ事に成功する。

「ぐ…っ!!」
「ほう?よもや受け止めるとはのう……これは楽しめそうじゃ」

しかし片手で防ぐ三橋と両手で攻める凛音では、どうしても力の差が生まれてしまう。
目に見えて分かる程に三橋の籠手は押し負けており、持久戦に持ち込めば結果は言うまでもない。
だがそれで三橋という男が諦めて三途の川を渡る準備をするかと問われれば、答えは絶対にNOだ。

「勝手に、楽しんでんじゃ……ねぇぞぉッ!!」
「ぬ……っ!」

気合一閃、サイボーグの怪力から放たれる膝蹴りが凛音の腹部に突き刺さる。
意図せぬ反撃に凛音は思わず苦悶の表情を浮かべ、柄に込めた力を僅かに緩めた。
当然三橋がそれを見逃す訳もなく、凛音の頬へと拳を振るい強制的に後退させる。
しかし三橋の表情は未だ晴れる事はない。
当然だ、自身の怪力を持ってしても”後退させる”程度の成果しか上げられなかったのだから。

「ふむ、重い拳じゃな……魔法少女に匹敵すると言っても過言ではないぞ」
「魔法少女だと?……ああ今理解した、お前ソッチ系の人間かよ。だったら――」

三橋が構える。何かが来るということは、凛音でなくとも察する事が出来ただろう。
しかしそれを理解して凛音はほう、と僅かに声を漏らし、両腕を組んだままさぞ楽し気にその様子を見つめていた。


「――こういうのはどうよッ!!」
「……むっ!?」


そしてそれは、すぐさま驚愕の表情へと変えられる。

凛音が見たのは巨大な槍だった。いや、それ自体は問題ではない。
問題なのはその根源――無手であった三橋の左腕が、突如ぐにゃりと捻じ曲がり槍の形を作り出したのだ。
その異様な光景を前に凛音は驚愕に時間を要する。故に、突き出される巨槍を完全には躱しきれず右肩に裂傷を刻んだ。
所詮肩と侮るなかれ。不意打ち気味の攻撃は肉を深く抉り、迸る激痛に凛音の表情は苦いものへと変わっている。

「どうしたメルヘン女、こういうのを見るのは初めてかい?」
「……驚いたぞ、よもやお主……クリーチャーの類だったとはのう」
「人に向かってクリーチャーなんて失礼な野郎だな……俺からしたらお前の方がよっぽど化けもんだぜ」

軽口を叩く三橋であったが、先程の一撃で仕留めきれなかったのは相当の痛手。
完全なる初見の攻撃なら通じると思ったが、それすらも精々ダメージを与える程度に終わってしまった。
こうなれば相手は既に三橋の能力に対して対処の術を持ち、二度同じことをしようものなら逆に一発もらう羽目になるだろう。
激昂を発散した事が今頃効いてきたのか、不思議な程冷静な思考は三橋の命を繋いでいた。

132始まりはいつも突然に ◆r7Y88Tobf2:2016/09/19(月) 05:33:21 ID:QYZ6qcAA

(真っ向から勝負なんざ論外、……だとしたら、逃げるっきゃないが……)

思考の最中、三橋はふと自分の右手に嵌められた籠手に視線を向ける。
一瞬の逡巡の末に、意を決したように三橋は体勢を立て直す凛音へと一歩踏み出した。
そして踏み出した足を軸に、生み出された凄まじい加速度に乗せられ凛音の元へと肉薄する。
接近戦を持ちかけるか。願ってもない展開に凛音は愉快そうに嗤い、『畦火』を振り上げ獲物を待った。

「……良いのか?」
「ああ、”良いぜ”ッ!」

しかし、凛音の予想に反し三橋は小太刀の範囲に入る直前に急停止しガン・ガントレットを水平に翳す。
銃弾か――!確信した凛音はすぐさま小太刀を下段に構え銃弾への対処へと精神を注いだ。
しかし、それも”フェイク”――翳された籠手から銃弾が発射される事はなく、金属の触手と化した左腕が唸りを上げ襲いかかる。
二重に渡る騙しに対して凛音は意外そうに声を漏らした。
そう、声を漏らした”だけ”だった。

三橋が知る由もないが凛音はかつて何百ものの魔法少女を相手にし、そして喰らってきた。
その中には当然自分よりも実力が上な者も居れば、頭の切れるような者も居た。
しかし凛音はそれを持ち前の判断力と魔法、そして己の剣術で叩き伏せ勝利を奪い取ってきたのだ。
単純に場数が違うのだ。いくら三橋が頭を働かせようとも、凛音は真っ向からその全てを無へと帰すだろう。



しかしそれが”三重”ともなれば話は別だ。



「なに……っ!?」

振るわれた金属の触手は凛音に衝突する事なく、そのすぐ横を猛スピードで通り過ぎてゆく。
思わず疑問の声を上げ触手の先へと視線を移す。しかし、彼女が気づいた頃にはもう遅い。
通過する触手は遥か後方の樹へと巻き付いて、凄まじい勢いで収縮されるそれは高速で三橋の肉体を運んでいった。


「あばよメンヘラ女っ!リベンジマッチは受け付けねぇぞっ!」


高らかな笑い声と共に、目にも止まらぬ速さで木々の奥へと消えてゆく三橋。
サイボーグにのみ許される動きが生じたスピードは、恐らく凛音の身体能力を持ってしても追う事は不可能だろう。
イチかバチかの逃走に成功する三橋を何処か呆けた表情で見つめ、やがて口角を三日月に釣り上げた。

「ふっ、ふふ……ップ、ハハハハハハッ!!
 面白い!面白いぞッ!よもやこの儂がまんまとハメられるとはのう!気に入ったぞ!!」

パチ、パチ――

もう既に姿の見えなくなった三橋へ、怒りをぶつけるどころか賞賛の言葉を浴びせる。
彼女にとって三橋が逃走した事は責めるべき事ではない。むしろ自分相手によく逃げ延びたと称えたいところだ。
認めるべきはその行動力の高さと狡猾さだ、咄嗟に考えついたとて中々実行できるものではあるまい。
惜しいのは種族の違いだ。もしも三橋がクリーチャーではなく人間であったら心から認めることが出来ただろう。
尤も――凛音が勝手にクリーチャーだと思い込んでいるだけで、実際三橋も立派な”人間”なのだが。

事実を知る由もない狂犬は、これから起こるであろう激闘の予感に身を馳せた。
今度こそは仕留めたい。殺したい――如月凛音は今、そんな気分だったのだ。

「さて、次はどんなものを見せてくれるんじゃ?――バトルロワイヤルよ」

双刀の片割れを地に突き刺し、大空を仰ぐ。
陽光の加護を受けるその姿はとても様になっており、幻想の世界の如き美麗さを醸していた。
だが惑わされてはいけない。可憐な花ほど強力な毒を持ち、鋭利な刺を持つものだ。
その幻想に魅せられた者は例外なく――その身に刻むことになる。




133始まりはいつも突然に ◆r7Y88Tobf2:2016/09/19(月) 05:35:26 ID:QYZ6qcAA


「はぁーっ……クソ、無駄に体力消費しちまった……」

無事に凛音から逃げおおせた三橋は、木々を抜け市街地に出ていた。
無茶な動きをしていたからだろうか、その顔色は決して良いものではなく息も乱れている。
元よりサイボーグ特有の動きに人間である三橋が長く耐えられるわけもなく、精々数分が限界だろう。
実際、木々を抜けた矢先体が疲労を訴えて今こうして一本の電柱に寄りかかっているのだから。

「……でもまぁ、命あるだけマシ……ってな」

自分を言い聞かせるように呟けば、よっこらせとおっさん臭い動作で電柱から身を離す。
すっかり失念していたがまだやるべき事はたくさんあるのだ。
先程の狂人のような者ではなく話が通じる人間の捜索。そして、会えるかわからないが知り合いも。
幸先いいとは言えないが、無傷で生還できたのは僥倖。
間違いなく運は傾いている――そうでも思わないとやってられないというのが本音だ。
気を落ち着かせる為のため息を一つ。とぼとぼと覚束無い足取りで歩き出し、その場を後にした。





【G-2/一日目 午前】
【如月凛音@魔法少女】
[状態]:腹部に銃痕(行動に支障なし) 右肩に裂傷(小) 自動回復中 戦闘欲求
[装備]:双刀『畦火』@新厨二
[道具]:基本支給品 手回し充電式ラジオ@境界線
[思考・状況]
基本行動方針:気分次第、死んでやるつもりはない
1.戦闘欲求に従い行動する
2.暇があればメリー・メルエットを探す
3.三橋とはいつか再び戦いたい
4.首輪が邪魔じゃのぅ……

※魔法少女としての機能に制限が掛かっており、普段よりも自動回復能力が格段に落ち、飛行にも疲労を伴います。
※結界魔法『ゲヘナ・ウィッチクラフト』は現状使用不可です。
※三橋翼をクリーチャーだと思っています。


【三橋翼@能力者高校】
[状態]:健康 疲労(中)
[装備]:『ガン・ガントレット改』@境界線
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを台無しにする。主催側も全員殺す。話しても襲ってくるなら他の参加者も殺すか逃げる
1.まずは話の通じそうな人間を探す。話はそれからだ
2.名簿を見る限り何人か知ってる連中もいる。期待はしないがそいつらに会えたらいいかな
3.出来れば戦闘は余裕で勝てるもの以外避けたい
4.凛音とはもう二度と出会いたくない。

※魔法少女というワードを聞きましたがその存在は知りません。

134【必ず最後に――――――】:2016/09/21(水) 01:37:19 ID:fc7C2EzE
息を荒げて、汗を垂れ流し、小人の魔法少女―――――メリー・メルエットは"一人"で飛び、逃げていた。
幸運にも出会えた信用できる相手は隣に居ない。何故か、それは数刻ほど前の出来事。
メリーと月影虎次郎の前に現れたプラチナブロンドの女。運営打倒を目指し同士を集めようとしていた二人であるが、声をかけることは無かった。
その女が、"ゼアグライト・オールディ・ルヴィー・マルクウェン"がどうしようもなく"邪悪"な存在だと感じたからだ。
そしてそれを肯定するように、ルヴィーは巨大な火球を二人に放つ。威力の一切無い虚栄魔法だが、熱、光、相手を脅すには十分すぎる要素を持ち―――――
―――――今に至るように怯えさせ、視界を埋め、逃げるメリーとニンジャを分断する程度は容易であった。



「嗚呼、良い。良い。実に素晴らしい舞台だ。」

一歩、一歩、恐怖を煽るように。虚栄を撒き散らしながらルヴィーは歩く。
生れ落ちた時より膨大な魔力を持つ彼女の暇を潰せるのは強者との戦いと、目の前で繰り広げられる"悲劇"のみ。
いかにもか弱い小人と、男。暇を潰すならこの二人は格好の標的といえた。ふと先ほどまでともに居た小人が無残に死んだと、守れ無かったと知ったならば男はどんな顔をするだろうか。
きっとそれは素晴らしい悲劇。マップの端まで態々来たのもそれが理由。悲劇とは守るべき弱者が死んでこそ成り立ち、得てして弱者とは隅に逃げる。

「うぅ……う……」

一度は止まった涙が、またメリーの瞳から零れだした。安息を与えられ、奪われ、代わりに絶望を植えつけられたのだ。当然だろう。
飛行魔法により虚栄を避てはいるが、魔力はいずれ尽きる物。このまま逃げていても埒が明かないと、それはメリー自身でもわかっている。
纏うエプロンドレスに火球が掠っても、焦げない事にも気づかない程余裕が無いのだ。メリーに立ち向かう勇気など出せるはずもなく。
不安とか細さだけが脳を埋め尽くし、逃走以外の選択肢を消してしまっていた。

「あっ―――――――」

遂に、その時がやって来た。飛行する魔力は尽き制御を失った体は慣性に引かれて、木に正面から衝突しずり落ちる。
赤くなった顔を上げれば、眼前にはルヴィーと、その背後に浮かぶ火球。

「さぁ、幕引きに相応しく鳴くのだぞ?」

指先をメリーに向け、ルヴィーは笑った。



「―――――月影、さん。」




死を確信したメリーの、唇から零れ落ちたのは男の名。涙を受け止めて、拭ってくれた彼の名前。
この地獄の中で、彼は安心を与えてくれた。名前を呼べば、またそれをくれるかもしれないなんて。思ってしまったのかもしれない。
けれどそれが届く先は目の前のルヴィーにだけ。

そのメリーの反応に対して、ルヴィーは笑みを更に強めた。死に際の女が男の名を口にする。なんと良くできた悲劇だろうか。
この火球は虚栄ではない。≪希望≫に込められていた栄光の欠片である―――――欠片でも、小人を焼くには十分すぎるが。
さぁ、断頭台の刃が今にも落されんとしていて――――――

135【必ず最後に――――――】:2016/09/21(水) 01:40:23 ID:fc7C2EzE





ルヴィーは驚きなどとは無縁の存在だった。記憶にある限り数えるほどしかないだろう。
それが、たった数時間で二回も起きた。一度目はあの青年。二度目は今、あの小人が"消えた"事。
あの火球には死体ごと消し去る程の威力は込めてい無い。逃げたのか、そんな力も気力も残っていなかったはずだ。
ならば、何故――――――ふと辺りを見回せば、燃える木の直ぐそばにて。少年が小人を抱えて立っていた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ、やっちまった……」

こいつは、このどこをどう見ても普通な、どころかどう見ても情けないこの男は何だ。"突然現れた"のか。
体制を見るに、小人は逃げたわけではなくこの少年に助けられたようだが。
ルヴィーの魔法の中には当然探査魔法がある。なのに、こんな状況になるまでこの少年を認識できなかったのは―――――

「面白いではないか。これからどう足掻く、貴様。」

期待のまなざしを目の前の少年に向ける。が

(こうするしかないに決まってんだろ!あぁクソっ!!)

少年が取った行動は背を向けての全力逃走。骨があるように見えたのは気のせいか。
興ざめだ。これ以上楽しめそうにもないなら、折角の悲劇を汚されただけである。
≪希望≫により栄光の欠片を、巨大な火球を再展開。汚した分は、精々悲劇を歌って貰うとしよう。
狙う先は足元。直接は当てないが、代わりに着弾した地面が思い切り抉れる。こうして火球に当たれば死ぬと植えつけてやれたなら、あとは虚栄で気の向くまま遊んでやればいい。

(なんで、動いちまったんだ……)

そして虚栄から必死に逃げ惑う少年、早瀬琢磨は激しく後悔していた。
自分の能力は【影-シャドウ-】、気配を消す能力であり、茂みでおとなしくしたままならばやり過ごせたはずだった。
なのに体が動いた。考えるよりも遥かに早く動いてしまった。
他人などどうでもいいはずだ。常に理性で己を支配する事こそが生きるコツだと理解していたはずだ。
今からでも遅くない。こんな得体の知れない小人なんて捨ててしまえばいい。なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに――――――
余計な考えは動きを鈍らせる。今はただどうやって逃げるかだけを考えろと自分に言い聞かせて、早瀬は思考を切り捨てた。

弄ばれているのか、火球の速度は速くない。身体能力の高くない早瀬ですら何とか避けられている。
されどメリーがそうであったように、限界はいずれやってくるのだ。

「―――――ぐっ、あ・・・・・・」

火球が腕を掠める。爆発を起こすことは無かったが、それでも服は焦げ、皮は爛れて肉が露になっている。
そもそも早瀬は既に火球を避けていたわけではなく、触れても何も起きない虚栄であっただけである。
そこにふと本物の攻撃が混じれば、避ける事ができないのは明白だ。

「もう、もういいですっ……あなたまで死んじゃいますからっ!!」

腕の中でメリーが泣きじゃくり、腕の中でもがき始める。ここでメリーを手放した所で二人とも死ぬだけだ。
二人で逃げ切るか、死ぬか。その二択だけ―――――

―――――いや、ある。一つだけ。

思い立った体は直ぐに動き出した。メリーを手から離して、逃がして

「逃げろ!!」

136【必ず最後に――――――】:2016/09/21(水) 01:41:01 ID:fc7C2EzE

叫ぶ。自分がメリーを逃がしてやれば良い。可能性はこれしかない。
背負ったデイパックの中身から二振りの刃を、【森寵七武】を取り出し、構える。
早瀬が何故メリーを見捨てることが出来なかったのか、それは存外簡単な話。
彼が捨て猫を放っておけない人間だから。倒れた女性を放っておけない人間だから。
人を信じることは出来なくなっても、優しさを忘れなかった強い人間だから。
いつのまにか泣き声は止んでいた。後ろを向いて確認する余裕などは無い。
もういいと泣く彼女が素直に逃げてくれたとは思いにくいが、そうだと思う事にした。

「ほう、期待外れではなかったか。」

二刀の切先を、口角を上げるルヴィーに向けた。それを重ねれば、早瀬の手に握られるのは"七武刀"。
弾幕を張られてしまえば一瞬で消し炭、今剣を構えても射程の外。だが、手段はある

「覚悟の決まった良い目をしている。見違えたぞ。」

火球を背後に待機させ、両手を広げ、来いといわんばかりに両手を広げるルヴィー。ならば望み通りにしてやると、早瀬は剣を振るった。
空を裂く音が響き、剣から伸びた七本の枝が姿を変えて。七本の刃が鳥と化しルヴィーを襲う。
本来ならばこの刃鳥は精密な操作を売りにしたものだが、元は他人の持ち物だったそれを完全に扱うことは出来ていない。
ここにくるまでに持ち物の確認は済ませていたが、それでも七匹同時に一点を、首元を狙うので精一杯。

「どうした、これが切り札とは言うまい。次の手は」

そして火球に叩き落される七匹の鳥。だが――――――




(―――――――読み通りだクソ野郎ッ!!)




そう。切り札は"これ"じゃ無い。突如として早瀬の足元で"爆発"がおきる。
【翔靴】 踏んだものを爆破に変換し、上昇気流を発生させる特殊な靴が彼に支給されていた。
爆破の力を全て前方へ、ルヴィーに待機中の魔法は無い―――――当たる!!


「〜All-Veil〜」


重圧。飛翔する早瀬の体に降りかかる圧力。前方へと発生していた推進力は叩き落され、何も切り裂けずに早瀬は地面に転がる。
水だ。水の幕に叩き落されたのだ。詠唱も、待機魔法も無かったはずだ。何故。
答えはただの勘違い。ルヴィーは敵対者の恐怖を煽る為、魔法を見せびらかすように事前に展開していただけでなのだ。本来ならば詠唱も準備も不要なのだ。
体はもう動かなくなっていた。敗北。馬鹿な事をしたものだと自嘲する。だが、彼女を逃がすことが出来たなら。

「悪くなかったぞ。この私に冷や汗をかかせたのだ、誇るが良い
 褒美だ。"貴様を殺すのは後にしてやる"」

ルヴィーが歩き出した先には、逃げたはずの小人がまだそこ居た。
逃がせてなどいなかったのだ。

「……………なんで」
「わたしだけ、逃げるなんて……駄目ですっ!戦いますっ!!」

メリー・メルエットは強い少女だった。泣き虫で、臆病で、それでも他人のために奮い立てるのだ。
涙の剣もない。何も出来ないかもしれない。けれど自分を助けてくれた人を放って逃げる事だけは出来なかった。

「馬鹿ッ!!逃げてくれよぉおおおお!!!」

だが、早瀬を包んだのは絶望。全部無駄だったのか、もうどうしようもないのか。慟哭混じりの叫びが響く。
早瀬の心象を映すかのように、辺りが影に包まれ、太陽が雲に隠されて――――――否。
影はこの辺りだけだ。"空はまだ晴れている"。ならば、これは

「――――――"戦車"」

太陽を隠したのは"戦車"。戦車がルヴィーの頭上に。それだけじゃ無い。

137【必ず最後に――――――】:2016/09/21(水) 01:41:35 ID:fc7C2EzE










「ゴrrrrrルァァァァァ!!!!乙女のラブ☆タンクじゃああああああああああ!!!」





戦車の上には所謂農作業服を纏った金髪ツインテールの……はっきり言ってちょっときつい少女が、"戦車を掴みルヴィーに叩きつける様な体制"で。
ルヴィーも頭上のタンクに隆起させた地面をぶつけて対抗する。ならばと農作業服の少女(24)、北条豊穣通称自称ハベ子が選んだ追撃は――――――拳。
戦車ごと相手の魔法を砕き、叩き潰そうという凄まじく脳筋な方法を選んだのだ。
やがて中心の戦車は上下からの攻撃に耐え切れず爆発。

そして爆風が晴れて――――

「ふざけた格好だが……面白いぞ。」
「このぐらいじゃ潰れねーか☆ だが安心しやがれ、まだ本気の乙女の愛の力(ラブパワー)は見せてやってねぇからよ☆」

―――――ルヴィーは未だ何事も無かったようにたち、北条も同じく軽やかに地面に降り立った。

「おいそこの……影薄。格好良かったぜ☆マイプリンスほどじゃあねぇけどな☆
 (人生の)後輩がこれだけ根性見せたんなら――――――ハベ子ちゃんが後押ししてやんねーとな☆」

138【必ず最後に――――――】:2016/09/21(水) 02:08:49 ID:fc7C2EzE
【A-1/一日目 朝】

【【絵空に彩る真偽の導き】ゼアグライト・オールディ・ルヴィー・マルクウェン@厨二能力】
[状態]:健康
     欲望  ディザイア ディストピア
[装備]:『≪希望≫』〜Desire Dystopia〜
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:強い者と戦い、暇を潰す。殺し合いの末の悲劇を見る。
1.まずは目の前の強者との戦闘を楽しむ
2.そして小人を殺し、小僧を殺し、悲劇を愉しむ
3.あの者の最期が楽しみだな。kkkk

※ゼオルマ本人か仮の姿かは後の書き手さんにお任せします
※13の鐘の詠唱を経た場合のみ栄光魔法が使用可能です
※虚栄魔法は使用可能ですが、瞬間移動系のものは封じられています

【メリー・メルエット@魔法少女】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 不明支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:誰も殺さず皆で生き残る
1.あの、あの服は・・・・・・
2.ハベ子ちゃんさん!!!
3.あの人を倒せたら、虎次郎さんを探さなきゃ……

※名簿はまだ確認していません
  その為他にどんな知り合いが参加しているのかまだ理解していません
※制限から普段より魔力の消費が激しくなっています

【早瀬 琢磨@ここだけ異能力者の集まる学園都市】
[状態]:健康 唖然
[装備]:【翔靴】【森寵七部】
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:出来るだけ安全に脱出……と思っていたが馬鹿やっちゃったので無理ですね。はい。
1.なんだ、あの、ダサ・・・・・・なんだあの人。
2.とにかく救援はありがたい。
3.ここまでやったんだ。動けるようになったら俺も戦ってやる。

【北条 豊穣@ここだけ魔法少女の街】
[状態]:健康
[装備]:戦車(『伐號』)の残骸
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いなんて乗るわけねーだろ☆マイプリンスに顔向けできなくなるわボケ☆
1.この金髪をぶっ飛ばす☆
2.月間農具がないならステゴロじゃああああああ!!!
3.なるべく早く終わらせて、影薄に治癒魔法をかけてやらねーとな☆

【森寵七武@厨二能力スレ】
【森寵七武】が所持していた刀。
刃が湾曲しておらず真っ直ぐな直刀、細い刃に鳥が刻まれた鍔を持たない二対の刀。
この刀の表面にはには四枚と三枚、二本合わして合計七枚の隠し刃が仕込まれておりそれは二本を組み合わせる事により、古来の王が使用した七武刀と変化する。
この七武刀の属性は宿り木。振るう事により刃に宿る刃の斬れ味を持った神鳥を召還。
なお、この神の鳥は異能による効果を受け付けず触れた物を切断するチカラを持つ。
また、出せる神鳥は7羽まで、チカラは鉄に傷をつける程度。操作は障害物が把握出来る距離、位置まで。
本来ならば七羽の操作はそれなりに正確に出来るのだが、早瀬は不慣れなためかあまり複雑な操作は出来ない。

【翔靴@厨二能力スレ】
【鏡心一閃】が所持していたブーツ。通常時と戦闘時によって形が変わる。正確には日緋色の金属板が表面を薄く張られる。金属板は軽く、移動の際でも重さに違和感は無いほど軽い。
『爆破変換』という能力を有しており、踏んだものを爆破し、そのちからを上昇気流に変換することが出来る。爆破自体にダメージはなく、爆発によって衝撃も熱も生じることはない。所有者の意志によって発動される。
少しの間なら飛行も可能だが、その後はオーバーヒートを起こししばらくの間能力は使えなくなる。
能力発動中は、かかと部分に小さな炎の羽らしくものが出ていたりする。読み方はしょうか。

【伐號@能力者スレ】
カノッサ機関の傑機『三真甲』の一機。何らかの異能的方法でデイパック内に収納されていた。
〝傑機〟と書かれた漆黒の装甲が特徴でキャタピラは二股に分かれ、非常に小回りが利く設計となっている。
素材を雷属性を通しやすい物で統一しており、レールガンや電撃弾を発射することが出来る
電撃使いの能力者と合わせれば、さらに強力な兵器となる。
が、弾薬はなく移動の燃料しかなかったため、北条はこれをただの重い物として使用した。
しかも現在は残骸と化しているため、現状ただのデカくて重い鈍器でしかなく、北条も拳での戦闘を好むため使われるかどうかは不明。

139小さな太陽 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/24(土) 15:43:51 ID:QYZ6qcAA

「は……っ!…はぁ、っ……は、…っ……!」

大地を蹴り上げ、住宅街を駆け抜ける青年。
まるで何かに囚われたように疾駆する彼に、明確な目的などはない。
この殺し合いが始まった時点で彼は足を動かしていたのだ。その理由は簡単、”救う”為だ。
今この瞬間狙われている命があるかもしれない。そんな彼、大木陸の行動ははっきり言って軽率だろう。
意味のない体力の消耗は後に響くだろうし、何より開始早々に狙われている存在など極一部でありそれを見つけだすのは無謀の他ならない。
大木自身、その事に気がついていないわけではない。

だが、それでも駆ける。

自分が助けられる存在が一人でも、一匹でも居るのならば。
もしも生きたいと願う者が居るのならば。
やるべき事など、決まっている。

それが大木陸という人間だ。





俺はこの殺し合いの中で、どんな事が出来るのだろう。

我武者羅に走り続ける中で、ふとそんな事を思った。
この場に呼び出されたのは俺だけじゃない。あの強大な主催にも立ち向かったいずもは、きっと誰かを救おうとする筈だ。
そして、黒繩――彼奴は人を殺すことを厭わない、というよりも寧ろ快楽殺人者に近い。

黒繩の生き様を否定する権利なんて俺にはない。所詮俺の掲げる正義の意志はエゴなんだろう。
でも、俺は止める――偽善者と呼ばれても、泥沼のような結末が待っていたとしても。
黒繩だけじゃない。他にもこの殺し合いに乗る人間はいる筈だ。
だから俺は、そんな奴らを止める。例えどんな理由があろうとも、殺しなんてしちゃいけないんだ。
そこに風紀委員も、暗部も関係なんてない――。

「はぁっ……、…げほっ、…は、……はぁ…っ…!」

支給品の短剣――元は大剣だったが――を握り締めて、未来を描く。
殺し合いという場でも、俺の脳は正常に働いていた。描き出された未来は、誰もが笑顔を見せる世界だったから。
まだ、まだ俺は大丈夫。それが分かってとても安心している自分が居ることに気づく。
人間の精神はとても簡単に壊れてしまう。かつて自分がそうだったように、ひょんな事で崩壊してしまうんだ。
だから、自分が……少なくとも今この瞬間は”正義”で居られる事に、とても安心した。


『何たってオレは――この学園都市の番長だからな!!』


蘇る記憶に映し出された背中は、自分よりも小柄なものだった。
それでもあの時の背中は自分より遥かに大きく見えて、何処か遠くに感じられた。
彼奴は俺にとって眩しすぎて、そして手の届かない――俗に言う憧れの存在だったんだろう。
一切臆する事なく不良たちを薙ぎ倒していく番長の姿は、今でも脳の奥底に刻まれている。

今の俺の背中は、小さい。
人一人守れるかどうかすら分からない程に、小さい。

けれど――もし自分も、ああなれるのならば。
この体ぐらい、いつだってくれてやる。




140小さな太陽 ◆r7Y88Tobf2:2016/09/24(土) 15:44:24 ID:QYZ6qcAA


「…は、ぁ……ぇ…?」

気付けば自分の体は仰向けに倒れ込み、大空を仰いでいた。
如何せん走りすぎたんだろう。蓄積された疲労は強制的に体を制止し、足も悲鳴をあげている。
瞬間、大雨のように降り注ぐ反動が体の重圧を何倍にも増幅させたような感覚を呼び起こした。
休憩を挟まなければ暫くは動けそうにないだろう。ふくらはぎが幾度も痙攣しているのが分かる。

――――情けないな。

意気込んだ途端にこのザマとは、失笑すら浮かばない。
今の自分の姿はさぞかし無様なものだろう。意味のない疾走の末、こんな格好になっているんだから。
無理に体を起こそうとすれば苦痛が襲いかかる。現に今も、抑止からなる痛みが体を蝕んでいる。

けれど。

「……こんな、の…認めないぞ……」

自然と俺の体は動き出し、街灯を支えにして起き上がった。
足が震える。思い切り叩いて無理矢理にでも動かそうとするが、すぐにもつれてしまう。
仕方がないからこの短剣を大剣に変形させ、支え棒のようにして歩き出した。
俺に支給された武器はどんな仕組みか、ありとあらゆる剣や刀に形を変えることが出来るらしい。
尤も本来こんな使い方じゃあないんだろうが――そこは、許して欲しいな。

大剣を地面に突き刺し、一歩踏み出す。
何度も何度も、それを繰り返す。

今の自分の歩みは遥かに遅いけれど、止まってはいない。
それはつまりまだ折れていないということだ。案外、俺の意志も脆弱ではないようだ。
三度足をもつれさせたあたりで視界もぼやけてきた。けれどまだ、その歩みは止まっていない。

偽善でもいい、確かな意志を掲げた俺は――――強いぞ。





【G-7/一日目 朝】
【大木陸@学園都市】
[状態]:健康 疲労(大) 意識朦朧
[装備]:ソドラルク(大剣形態)@旧俺能
[道具]:昇華の宝玉@能力者 マジック道具@魔法少女
[思考・状況]
基本行動方針:殺しをする人間を止め、皆を救う。
1.この歩みを止めず、助けを求める人間を探す。
2.いずもやこ黒繩を探し出しす。黒繩の事は止める。

※昇華の宝玉により肉体の回復が速まっています。


【ソドラルク】
旧俺能のオクタヴィアが所持する3m程の刀身を持つ大剣。
この大剣は現実世界に存在する剣や刀に変形させられる。
全長3m以上の大きさの武器に変形した場合、3mまで縮小される。

【昇華の宝玉】
能力者の学生服の少年の右腕に埋め込まれた宝玉。
『祝福』の属性を持ち、手にした者の肉体に絶対性を与え魔力を何倍にも高める効果がある。
単体では効果を持たないが、他の物と組み合わせることで真の効果を発揮する。

【マジック道具】
魔法少女の朝顔小雨が所持するマジック道具。
トランプやコイン、シルクのハンカチなど様々なものが揃っている。
特に異能の力などは存在せず、ただの市販品。

141レプリカ:2016/11/02(水) 20:00:17 ID:ul4a9bPM
剣槍一合、交わる。

エドワード・エクセルシア、清宮天蓋の特性は非常に似通ったものであった。起源をほぼ同じくする以上、当然の話ではある。
ただし、それらの関係は贋作と真作でもあった。贋作は清宮天蓋であり、真作はエドワードだった。
店外は本来では魔術師の域を出ない存在だったが、サーヴァント・ルーラーの外法、『英霊兵』の力を以てその身にアルトリア・ペンドラゴンのコピーを降ろしたに過ぎない。
技術、ステータス、スキル、全てが借り物。その宝具も、自身のものではない。
対して、エドワードこそ真作であった。真なるアーサー・ペンドラゴンより、聖剣の担い手として選ばれ、正統なる聖剣を振るう、真なる騎士の王であった。
天蓋の世界に当てはめるならば、エドワードは伝承保菌者、或いは擬似サーヴァントやデミ・サーヴァント……更に言うならば、現存する『英雄』と呼んで差し支えない。

「……くそっ!!」

「どうした《騎士王》! そんなものか!?」

だが。その力関係は、ほぼ逆転していた。
当然の話ではあった。このロワイヤルに向けた調整が施してあるとはいえ、天蓋はサーヴァントという超常の存在と比較して差し支えない存在なのだ。
対して、エドワードは、特別秀でた戦闘能力を持つわけではない。剣の腕では、ランスロットやガウェインと比較して……いや、そうせずとも平凡の域を出ない。
繰り出される槍撃に対して、選定の剣と化したそれで対応する。『魔力放出』を用いて打ち合うものの、その力の差は歴然であった。
打ち下ろされたロンゴミニアドを、選定の剣を以て受け止める。甲高い金属音が響き、その向こうの贋作の騎士王を睨む。

「俺はそんな大層な人間じゃない……ただ、偶々聖剣の資格を手に入れただけの、凡人だ」

「ならば都合は良いかもしれんな。最果ての槍に滾る叛逆者の殺意、先ずは収めなければ落ち着いて殺し合いも出来ん」
「その血を以てこの槍の熱を沈めてもらおうか、王よ。そして真なる王の座、私に譲って貰うとしよう」

「黙れ贋作、お前に騎士王を騙る資格はなく。その聖槍を振るうことも許されん」

ただ、その性能差へとエドワードは強靭極まりない意思を以て食らいついていった。それこそが騎士王の証であった。贋作には存在しない、王の証明だった。
だが、それすらも嗤うまでに、贋作の力は大きかった。サーヴァントとして最上級のそれの模倣は、着実に打ち合う選定の剣へと傷を入れていった。
数度の交錯。槍と剣という、単純な攻撃範囲の差を埋めながらも、エドワードは肉薄し、接近し、離れ、という銭湯を繰り返す。
確かな『技量』を持った人間同士の殺し合い。高次元の斬り合いは……然し、一旦の終わりを迎えた。

「……選定の剣が……!!」

突き出した聖槍の穂先と、選定の剣の剣先がぶつかり合い、そして選定の剣がそのまま粉砕される。
聖槍ロンゴミニアドの強固さは、エドワードもよく知るところである。故にありえないことではないし、かの贋作の強さを考えれば当然とも言える結末ではあった。
選定の剣は折れた日本刀に舞い戻る。それを握る様は……天蓋には、酷く滑稽に見えた。

「フフ……フフフ……フハハハハハ!!! どうする、剣が折れたぞ!! それで終わりか? それで終わるか?」
「いや、語らずとも。終らせてみせよう。この最果ての槍を前にして、騎士王たるお前は刺し貫かれるが必然だ」

「引導を渡そう、騎士王よ。その心臓を一突きにしてみせようか!!!」

そして、天蓋は高らかに歌い上げた。その口上は勝利の凱歌の代わりであった。そして、その槍をもう一度、エドワードへと向けて、突き出した。
それで終わる、つもりだった。この異常な殺し合いの中で、天蓋は一つ、大切な事を忘れていた。いや……それは、どんな魔術師でも、想定外に他ならないだろう。
その槍を払うものがあった。天蓋が本能的に後ろへ飛び、そして目にしてのは。光り輝く、一振りの剣であった。

142レプリカ:2016/11/02(水) 20:01:18 ID:ul4a9bPM

「……まさか」

「ああ、そのまさかだ」

驚愕に見開いた赤い瞳に、エドワードは頷いた。

「……ありえん。ありえるか、そんなことが、そんなことが!!! 確かに貴様は騎士王だ、それは事実だ、私とて認めている!!」
「だが、だが、こんなことが有り得るか。今、お前の剣は砕き切った。だと言うのに!! その手に握るのは!!」

「――――――"約束された勝利の剣"」

「宝具を……創り上げたというのか……?」

ホムンクルスの白い肌を真っ赤に染めて、清宮天蓋は困惑した。
彼の世界からすればあり得ぬ事であった。騎士王の剣、約束された勝利の剣を、今、此処で、創り上げるなど、そんな事はあり得なかった。
それはもはや魔法の域に達するそれであった。神造兵器を作り上げる……それこそ。贋作には、絶対に不可能な事であった。

「驚く事もあるまい。王に聖剣は付き物だ。そして俺は聖剣に選ばれた者。俺こそが聖剣であり、聖剣こそが俺だ」
「聖剣を持たぬ俺は王ではない。そして、俺が聖剣を握る限り、俺は騎士王に他ならない」

「行くぞ、贋作。その槍、モードレッド卿に返還して貰うとしよう」

今度はエドワードから斬りかかる。然し、動揺しているとはいえ性能の時点で遥かにそれを上回る天蓋。それを見切れない筈は無く、一旦はその槍の柄で止める。
そして、しかし余裕を取り戻した。そう……その剣こそ変わったが。その実力は、変わっていないと。

「ハッハハ……ならば好都合。お前のその聖剣、奪い取ってみせようか!」
「騎士王たる英霊をこの身に宿す私の力、見誤ったな!! 聖剣を握った程度で、私に勝てると思ったか!!」

「いや、勝てる」

エドワードは断言する。そして、天蓋は疑問を浮かべる前に、Aクラスの直感がそれを理解した。その光景を、垣間見た。
そして、同時に聖剣が光を湛え始めた。聖槍にも匹敵する騎士王の剣の輝き……それが、天蓋の顔を照らしていった。

「ま、まさか、貴様……」

「そのまさかだ。喰らうがいい。真なる聖剣の輝き、その一端を以て焼き尽くそう」

全開の一撃は叩き込まない、叩き込めない。此処から、先がある。先を計算に入れるまでの余裕が、エドワードにはあった。
聖剣が光り輝く。聖槍は砕けないだろう。だが……その肉体は、果たしてその力の奔流に。耐える事はできるか?

「――――――チェックメイトだ」

教会を、光の刃が斬り裂いた。

143レプリカ:2016/11/02(水) 20:01:49 ID:ul4a9bPM




「……逃がしたか」

その場に死体も、またロンゴミニアドも残らなかった。
死体が残らないならまだしも、聖槍も搔き消えるという事はあるまい。という事は、という結論に至った。
だが、これだけやりあって再度立ち向かうだけの力も向こうには残されていないだろう、という判断を下し……取り敢えずは、戦闘を終了したと判断する。

「さて……これからどうしようか」

そういえばと、かの贋作は槍以外の物を持っていなかった事を思い出し、数分程度の時間を以てデイパックを回収する。
中身には水と食料以外の物は無かったが、それでも今は十分だろう。
後は、取り敢えずはここを離れた方が良いか。何せ聖剣の一撃は目立つ、教会の天井と壁の一文叩き斬ったのだ、誰かに見られていると考えた方がいい。
荷物を抱えて、教会を後にする。取り敢えず、考えるのはそれからだ、と。



【騎士王剣@新厨二】
【B-6/教会内/一日目 朝】
[状態]:疲労大 魔力消費中
[装備]:騎士の剣@新厨二
[道具]:基本支給品&清宮天蓋のデイパック
[思考・状況]
基本行動方針:円卓の仲間と合流しつつ殺し合いを止める。仲間に出来る人間がいれば仲間にする
1.取り敢えずここから離れることが先決か
2.円卓の仲間達と合流したいところだ
3.あの男はまた現れるだろうか

※振動剣は騎士の剣に変化しました




「はぁ……はぁ、ククク、してやられたな」

騎士の剣によって焼き尽くされる直前。清宮天蓋は、全力の魔力放出を以て、その場から離脱した。
後先を考えずに我武者羅に逃走した結果、辿り着いたのは集団墓地。余りに不吉な結果に、思わず笑いすら飛び出てくる。
だが、兎に角逃げ出せたのは幸運だった。ロンゴミニアドも無事で、負傷は比較的軽く抑えられた。それならば、何とか殺す機会を、また物にできるだろう。
荒い呼吸を抑えて、何とか気配を殺そうとしていた。此処にも誰かいないとは限らない。そして……その想定は。自らの直感を以てして肯定される。


「なぁ、あんた」


「可能性って奴を、信じるかい?」


紅く染め上げられた聖剣と、世界に置き去りにされた"英雄"が。目の前に立っていた。


【清宮天蓋@聖杯】
【B-6/教会内/一日目 朝】
[状態]:疲労大 顔面半分ほどに火傷中
[装備]:聖槍ロンゴミニアド@新厨二
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:精々殺し合いを楽しむ、勝ち残ったら運営も皆殺しにする
1.取り敢えず、今は傷を癒したい
2.騎士王の打倒はその後
3.なんだ……この男は……

※本編終了後からです
※英霊兵としてアルトリアの能力を扱う事が出来ます
※『約束された勝利の剣』は所持していないため使用できません

【斬撃行軍@新厨二能力】
[状態]:健康
[装備]:哭雷刃@旧厨二能力
[道具]:デイパック ランダムアイテムいくつか
[思考・状況]:
基本行動方針:とにかくこの殺し合いから脱出する。手段は選ばない
1."可能性"を信じるやつは殺す
2.殺して帰る
3.とにかく帰る

※まだ名簿を見ておらず、【殲滅指揮】の存在には気づいていません。
※名簿には能力名が【軍刀闊歩】と記載されています。
※デイパックの中身は後の書き手様にお任せします。
※三条雪音のデイパックは集団墓地に放置されています。直接的な武装になりえないランダムアイテムがいくつか入っています。

144悪魔の美酒 ◆r7Y88Tobf2:2016/12/05(月) 02:52:19 ID:d1Paaf0A

「なぁ〜エヴァちゃんよ、いい加減機嫌直してくれって……」
「知らんっ!……あ、あの屈辱は忘れないぞ……」
「屈辱って……たかが肩車だろ?」

街道を歩く二人、否二匹の悪魔。
エヴァとヴェルゾリッチがオンモを退けてから数時間程、彼らは意見の合致のもと協力者の捜索に出ていた。
協力者、と言ってもヴェルゾリッチにとっては同族以外の種族と行動を共にする気はないが、エヴァはそうではない。
運営の打倒を第一とし皆との結束を求める彼女にとっては、種族の違いなど微塵も気にするものではなかった。
ヴェルゾリッチにとってエヴァはこの場で初めて出会った悪魔。その意見を無視することなど、出来はしない。
よってヴェルゾリッチは不本意でありながらも、悪魔以外の種族との結束という選択を取った。

「……にしても、魔法少女ねぇ」

オンモとの激闘の最中では聞き出せなかったが、改めて聞き慣れぬ単語を口にする。
彼の世界、少なくとも海馬市では魔法少女などというワード聞いたことがなかった。
性質的に言えば人間が”契約”なる儀式を行い、常軌を逸した力を手に入れるという後天性の力だという。
尤も、エヴァージェリンは吸血鬼でありながら魔法少女という特殊な例ではあるが。

「私からすれば、魔法少女以外に君程の実力者が居ることに驚きを隠せないな……」
「おいおい……エヴァちゃんが思ってるよりずっとこの世界は広いんだぜ?」
「ふっ、そうらしいな。さっきの大男といい君といい……下手すれば魔法少女より厄介だ」

苦笑交じりに語るエヴァであったが、その心は沈んでいる。

協力者の捜索を行う前、ビルの屋上にてエヴァは参加者名簿に目を通していた。
他に魔法少女が参戦させられている事は予想はついていたが、問題はその数だ。
黒百合学院の生徒会長『藤宮明花』、魔法十二戦姫少女第一位『如月凛音』。
そして他にも『水無月水月』は藤宮明花と親しい魔法少女であると聞いている。
『北条豊穣』に至っては、魔法少女界では知らない者は居ないと称される程の変人だ。

今述べただけでも4名――そしてきっと、自分が知らないだけでもっと多くの魔法少女が参加させられている。
顔も知らぬフリューゲルスを除けば一切知り合いが居ないヴェルゾリッチとは、心の持ち方が違っていた。

「……私は、一体どうしたら……」

それ故に、エヴァの心には迷いが生まれる。

無論殺し合いなどするつもりはないが、凛音などの所謂マーダー気質の魔法少女も多数存在する。
果たして自分はそんな同族を前にして戦う事が出来るのか、一種の不安のようなものを感じていた。
エヴァは自身のメンタルがお世辞にも強いとは言えないことは自覚している。
特にこの殺し合いという状況では、そんなものふとした拍子に折れてしまうだろう。

「おい、エヴァちゃん」
「……なんだ、ヴェルゾリッチ」

そんなマイナスの思考を遮るように、隣並ぶ悪魔からの一声に身を強ばらせる。
視線を合わせるのがやっとという程の身長は、長身痩躯という言葉がよく似合うと心の中で感想づけた。
しかしそんな威圧感たっぷりの容姿とは裏腹に、エヴァの名を呼ぶその声は酷く穏やかなものだった。

「そんなしょぼくれた顔してんなよ、心配しなくとも……お前の事は俺が守ってやるからさ。
 なんたって俺たち、仲間だろ?」
「…………仲間、か……」

仲間、当然の如く紡がれたその言葉が頭の中で何度も反響を残す。
エヴァの世界、即ち魔法少女の世界では各々が敵同士という状況が当たり前で、同盟はあっても仲間というものは早々ありはしなかった。
尤も、彼女の加入しているリブラス・サークルは例外だが……それでも、敵という存在の方が断然多かったのは否めない。
それに加えてこの状況だからか、エヴァはヴェルゾリッチという男を少なからず信頼していた。
勿論不満に思うところもあるが、自身のことを仲間と躊躇いなく断言する辺り傍に置いておいても問題はないだろう。
戦力においても自身と同等かそれ以上――傍目から見ても、この二人は相性のいいコンビと言って差し支えない。

145悪魔の美酒 ◆r7Y88Tobf2:2016/12/05(月) 02:52:55 ID:d1Paaf0A

「いいだろう、ヴェルゾリッチ……君の事を信頼してやる。
 但し変なことをしようとしたら……その、怒るぞ……!」
「へへ、……了解」

変なこと、というのは当然先ほどの肩車のような事態である。
それを加味しての忠告だったのだが、ヴェルゾリッチの飄々とした様子から意図が伝わっているのかイマイチ分からなかった。
随分な曲者をパートナーにしてしまったなと、エヴァは無意識のうちに苦悶の表情を浮かべ額に手を当てていた。

「……ん、下がってろエヴァちゃん」
「なんだ、一体どうし――…!」

不意に立ち止まるヴェルゾリッチの視線の先。そこには、心臓に大穴を穿たれた女性の死体が無造作に転がっていた。
興味深そうに凝視するヴェルゾリッチは勿論、一瞬視界に入り直様視線を逸らしたエヴァでさえその遺体の惨さを理解する。
左腕は完全に折れ曲がり、右腕は不自然に凍てついている。加えて、一番酷いのは心臓部に刻まれた裂傷。

死体遊びを嗜好とする持ち主に殺められたのか、激闘の末に力尽きたのかは定かではない。
どちらにせよこのバトルロワイヤル開始から今刻までの数時間の間、つまりつい最近に死亡したのは間違いないだろう。
もし自分がもう少し早く来ていれば――そんな事を考えても仕方ないと分かっていても、エヴァは自責の念に囚われていた。
だからこそだろう。一度逸らしたはずなのに、再び遺体へと向けられた視線は囚われてしまったように固定されている。


「……一体、誰が……っ!」


やっとの思いで吐き出した疑問の言葉に、目の前の死体が口を開くことはない。
その代わりに口を開いたのは、今まさに隣で死体を鑑定している悪魔だった。

「……フリューゲルス、かもな……」
「フリューゲルス……って、お前の!?」
「ああ、同胞だ……奴は氷を使う悪魔だ。……まさかな…………」

重々しげに告げるヴェルゾリッチの視線は、一切溶ける様子の無い凍てついた右腕へ向けられている。
心臓部への裂傷、そして左腕の骨折だけならば到底犯人など特定する事など出来なかっただろう。
精々刃物を持っているという事ぐらいか――だが、この右腕を見ればぐんと候補が絞られる。

ここまで完璧に右腕だけを凍り付かせられるとすれば、自然とそれに準じた能力や魔法を持っているという事だ。
無論フリューゲルス以外にも氷の能力を持っているという可能性は、十分に有り得る。
しかしヴェルゾリッチは、フリューゲルスが「氷を使う女性の同胞」という事以外一切情報を知らないのだ。
故にその性格や人柄を知らない。この殺し合いに乗った可能性も、否定する事はできないだろう。
問題はそれを踏まえてのヴェルゾリッチの思考だ。……同胞を助けるという使命を捨てる気など、更々無い。

同胞であるエヴァは運営の打倒を、そして未確定ではあるがフリューゲルスは優勝を。
悪魔を救うという信念を貫くのならば、どちらの願望も叶えなければならない事になる。
予期せぬ壁に衝突し、ヴェルゾリッチは思わず顔を顰めた。

「ちぃっ……、……エヴァちゃん、行こうぜ」

悩んでいても仕方がない。
脳を苛む思考から逃げ出すようにそう切り捨て、死体から目を離さずにいるエヴァへ声を掛ける。
当の彼女は一瞬の間を置き「ああ」と短く答え立ち上がったかと思えば、ふと何かを思い出したように足を止めた。
疑問を抱いたヴェルゾリッチが問い掛けるよりも早く、エヴァは真剣な眼差しでヴェルゾリッチの双眸を射抜く。

「ここら辺一帯はアスファルトだ……埋葬はできない。
 だからせめて、黙祷を捧げたいんだ……こんな巫山戯たゲームで失ってしまった命に」
「…………」

その言葉を聞いて、ヴェルゾリッチはまず初めに疑問を抱いた。
何故自身と同じ悪魔でない種族に対してそこまでの情を抱くのか?という、シンプル且つ単純なもの。
ヴェルゾリッチ自身人間や他種族へ敵意はないが、仲間意識や情を抱く事もない。
だからこそ彼にとって今エヴァが取ろうとしている行動は不可解でしかなかった。

「……、…………」

しかしエヴァはヴェルゾリッチの反応を待たずして、一人地に片膝を付き両手を重ね祈るような体勢を取る。
暫しの静寂が場を支配し、悪戯に時が流れる。やがてたっぷり一分ほど過ぎた頃、ようやく顔を上げ瞼を開いた。
エヴァを見つめるのはやはり無惨に殺害された女性、イムカ・グリムナーの生気を失った瞳。
未練を残した視線に耐えかねて、エヴァはイムカの瞼をゆっくりと丁寧に下ろさせた。




146悪魔の美酒 ◆r7Y88Tobf2:2016/12/05(月) 02:53:55 ID:d1Paaf0A


「終わったみたいだな」
「ああ……先を急ごう、ヴェルゾリッチ」

放置されていたイムカの支給品を一通り自身のデイパックへ詰め込み、座り込んでいた体を立ち上がらせる。
電柱に背を預けていたヴェルゾリッチが、エヴァが立ち上がるのを見計らい体を起こした。
この場で初めて遺体を目にした為か、エヴァは何処か疲労した様子に見える。
そんな彼女を気遣ってか、ヴェルゾリッチは態とらしくエヴァの隣へずい、と忍び寄り笑顔のまま覗き込んだ。
厳つい顔面が和やかな笑顔を浮かべる様子は中々に不気味だ。思わずエヴァは眉間に皺を寄せる。
しかしよくよく眺めている内に段々と可笑しくなってきたのか、堪えきれず吹き出してしまった。

「お、おいっ!人が折角元気づけてやろうとしたのに笑うこたぁねぇだろっ!?」
「ぷっ……ははっ!す、すまん……なんだか可笑しくて……!」
「む、俺の顔が可笑しいだとぉ……?
 そんな事言うエヴァちゃんにゃ、こうしてやるぜっ!」
「わ、わっ!?貴様、また…っ!」

いきなり腕を引っ掴まれたかと思えば、そのまま小柄な体をいとも容易く抱え上げられ肩車をさせられてしまう。
つい十分前に注意したばかりなのに懲りずに挑戦する様子は、怒りを通り越して呆れさえも湧いてくる。
しかしそれ以上に、ここが殺し合いの場だということを忘れさせてくれるヴェルゾリッチに対して感謝を抱いた。
尤もそれを口にすることなど絶対ないが、せめて心の中では礼を言っておいてやろう。
何処か偉そうな思考の基ありがとうと、届くはずのない言葉を心の中で反芻させれば小さな悪魔は普段よりずっと高い視線を楽しんだ。



人間と共に戦う事を選んだ悪魔、同族にだけ心を開く悪魔。
似ているようで全く異なる二人の悪魔はきっと、これからもその意思が変わる事はないのだろう。
もしも変わる時があるとすれば、それは――どちらかが、どちらかを喪う時だ。
その時が来るのか、或いは永久に訪れないのか、それを知る者はまだ――居ない。




【E-3/一日目 午前】
【エヴァージェリン=ナイトロード@魔法少女】
[状態]:右足に軽傷(行動に支障なし) 魔力消費(小程度) 精神疲労(小)
[装備]:GGT-209 光線短銃『ナナカマド』@境界線 手斧@学園都市
[道具]:基本支給品×2 レザーアーマー@境界線
[思考・状況]
基本行動方針:運営打倒の方法を探す
1.ヴェルゾリッチととりあえず同行。
2.戦闘は可能な限り避けたい。
3.知り合いとの合流、救出。
4.如月凛音、フリューゲルスを警戒。

※制限により、普段より魔力の消費が激しいようです。


【ヴェルゾリッチ@悪魔】
[状態]:健康
[装備]:サングラス@ここだけ悪魔が侵食する都市
[道具]:基本支給品 祓い煙草@ここだけ悪魔が侵食する都市
[思考・状況]
基本行動方針:強敵との戦いを楽しみつつ、悪魔を助ける
1.フリューゲルスを探し、危ない様子なら助ける?
2.強敵との戦いを楽しむ。できれば、真の姿になれる夜に戦いたい。
3.大男(オンモ)とは、いずれ決着をつけてぇな。


※制限と悪魔の種族特性により、太陽の昇っている間は真の姿(悪魔時の姿)にはなれません。

147其は超越の物語:2017/08/29(火) 16:30:27 ID:fc7C2EzE
一矢。木製の弓より放たれる木製の矢。それは"英霊"にとっては玩具に等しい物であろう。
しかしてこの"不朽不滅の弓矢"も、無名の英雄に握られたものであり、故にそれは英霊へと届きうる。


そう、"英霊"であれば。


蒼天を叩き割る、赤い"爪"。
其の身は日輪。其の羽は白雲。其の"竜"は――――遺物王の"僕"たる"赤き竜"
其の身を震わせれば都市一つを焼き潰す。"まるで超人の仇敵のように"

「―――試してやろう、"人間"」

赤い爪は不朽不滅の矢をただの木矢として叩き潰し、そのままツァラトゥストラへと迫る。
その爪は人薙ぎにして山々を消滅させたという逸話すら持つ。宝具として現界している以上、劣化していることは確かであれど。
それは間違いなく、人の身にて受けられるものではない。
だが、これは期待を以って振るわれた一撃であった。
魔術で構成される存在でありながら、その御技は科学の頂より落ちる。英霊という存在の一つの頂点たる"遺物王"にとって、赤き竜すらも手段の一つである。
"超人"を名乗るのであれば、この程度は超えて見せろ、と。

"超人"の対応は極単純であり―――拳を振り上げるのみ。
全身の血管の赤が高速で巡りだす。それは超人のエンジンが駆動することを意味し
小細工の一切ない、純粋な暴力に対する暴力は―――――確かに日輪を打ち破る。

「王よ、奇蹟を超え科学を振るうものよ!
 おまえは神にも値するのであろう。あの唾棄すべき神にすらも、おまえは届くのであろう!!」

超科学により生まれた存在である超人は、本能にて英霊の真髄を理解する。
古代にて未だ超人すら届かぬ領域の科学を完成させた者。その遺物ですらも、"独裁者の帝国"を打ち破る。
きっと、それは神にも等しい存在である。


「――――試練は終わりか、王。」


一歩、一歩、大地を踏みしめる。拳を握り、一歩、一歩、王の喉下に刃を近づけていく。


「クックック……」

自身に立ち向かう超人を見据える王は、口元に笑みを抑えられぬようであった。

「―――――― アーッハッハッハッハッハ!クッハッハッハッハッハ!!」

昂ぶっていた。滾っていた。その声は―――正しく、歓喜の声であり。

「そうか!!!ここまで、我が子はここまでたどり着くのか!!!
 あの"独裁者"を見直そう。確かに何れ追いすがったやもしれぬ。」

既に分析したと言った超人の性能を直に見て、数字でなく現実として認識しそれは歓喜する。
――――しかして決して、子が親を超えることはないと確信している。あくまで追い縋れど、追い抜くことはない。

「生物兵器風情と言ったな、撤回しよう。
 貴様は我が全てを見せるに足る。
              シレン
 ここに"王"の"遺物"を見せよう―――――十二程度では終わらんぞ?」





      オーシ・ラフン・バクトゥン
『       滅び納めし石の装具       』





金色の光が景色を染める。神々しく、神々しく、しかしてそこに神意の一切はなく。純粋すぎる科学のみによって構成されるその"正体不明"の"正体"。
全長7m、全高2.4m。パカル王の技術の結晶たるこの形状を表す言葉は未だ人の手にない。
ただ、その役割に、今人類が持つ技術を当てはめるのであれば

 ロケット
"宇宙艇"

である。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板