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テスト

1語り(管理人):2017/07/16(日) 20:54:28
文字数確認。NGワード確認。行数確認。
試したいことがあれば此処を使用して下さい。





テストで短編投げても良いのですよ [壁]д・)チラッ

2小閑者:2017/12/03(日) 12:37:01
 高町恭也の精神は年齢に見合わないほど成熟している。
 9年前に士郎は護衛任務中に負った負傷で長期の入院生活を強いられた。折り悪く妊娠・出産、士郎の看病、更には開店直後の喫茶翠屋の運営と桃子も忙殺されていた時期。その時期に高町家を支える役割を恭也自身が誰に言われることも無く自らに課したからだ。
 遊びたい盛りの10歳児。
 元々剣術の鍛錬を日常的に続けていた恭也は同年代の子供と比較すれば自制することに慣れていた。それでも脇目も振らずに家族のために尽くすという経験は確実に恭也を変えた。
 見舞いで顔を合わせる短時間でも朧気に感じていたその変化は、退院後の生活で嫌と言うほど見せ付けられた。自分は恭也にこれほどの負担を掛けたのか、と。
 常に感情を揺るがせる事無く、平常である事。戦闘者として必要な、幼い子供としては異常な在り方。
 その変化は任務中の負傷を『そういうもの』と割り切っていた士郎に後悔の念を覚えさせるには十分なものだった。

 そんな恭也も転機を迎えた。
 穏やかな表情を見せる事が多くなり、控えめながらも声を上げて笑う事すら見かけるようになった。口数は、まぁあまり増えてはいない気もするが、それでも自発的に雑談に参加するようにはなった。
 それが月村忍という女性を恋人として家族に紹介した時期だったため、桃子となのはは単純に『愛の力だ』とはしゃいでいた。
 だが、士郎は2人の間に起きた出来事が一般的な学生が経験する類のものではなかっただろう事が予想出来た。それは2人の纏う空気と、何より恭也の剣士としての質の変化から感じ取ったものだ。
 恐らく、恭也は“死”を実感するほどのギリギリの戦闘を経験し、その闘いに勝利したのだろう。それは恭也の自信となり、余裕となった。
 それでも恭也が慢心する事が無いのは、きっと守る者が増えた事と、父親の入院した時の体験を反面教師にしているからだろう。
 …勿論、あれほどの美人を恋人に持ってイロイロと経験している事も大きいのだろうが。

3小閑者:2017/12/03(日) 12:37:43

 そんな経験を重ねてきた高町恭也と、印象の重なる10歳児。
 在り得る、のだろうか?

 士郎は、容姿など大した問題だとは思っていない。顔の造形など持って生まれたものが大半だ。小学生に見える成人だろうと、壮年にしか見えない高校生だろうと、探せば見つかるだろう。
 だが、雰囲気や印象は経験の占める割合が圧倒的に大きい。
 心の赴くままに奔放に行動する事を抑圧される子供はいる。躾かもしれないし、貧困かもしれないし、虐待かもしれない。だが、それらは自らの意思で行動を制御するのとは別のものだろう。

4小閑者:2017/12/03(日) 12:38:31
 また、医療技術の発達した現代の日本では人の“死”に触れる機会は意外に少ない。

5小閑者:2017/12/03(日) 12:43:52
死にかける

6語り(管理人):2018/03/14(水) 22:57:45
>>5

7小閑者:2018/09/27(木) 00:05:16
時間軸が全く違う話を書いたので、こちらに載せます。
いくつか書けたら時間軸が合うように並び替えて「本編」のスレッドに載せますね。
そこまで書けると良いのですが(汗)

8小閑者:2018/09/27(木) 00:05:56
<SS1>  不意打ち


 中学2年生への進級やクラス替えといったイベントによるざわつきが落ちついてきた頃。
 1年次後期の生徒会役員選挙において会長に就任したアリサと副会長のはやて、書記のすずかが生徒会室で生徒会活動の一環として作成した書類をまとめている横で、なのは・フェイト・恭也が仕事が終わるのを待ちながら雑談に花を咲かせていた。
 因みに、ここ聖祥大附属中学の生徒会役員は他に会計の男子が1名いるのだが、本日は習い事で早々に帰宅している。どうしても役員全員の出席が必要になる行事以外は、アリサ達も家の用事を優先しているので、この日がたまたまこのメンバーになっただけである。
 生徒会室は、一般教室の半分のサイズの部屋に、役員用の事務机が向かい合わせで設置されており、少し距離を離して来客用ソファーの代わりに生徒が使用している普通の机と椅子が向かい合わせで置かれている。来客用の椅子に座って邪魔にならない程度の声量で話をしていた恭也達だが、仕事に一区切りがついたのかアリサ達が一息吐いているのを見て取り、気分転換になるだろうと話しかけた。

「そういえば、お前たちはどうやって役職を決めたんだ?」
「役職?私とはやてのこと?」
「ああ。
 月村が書記なのは手伝いに駆り出されたからだったと記憶していたが・・・」
「あはは、確かに私は生徒会に入るつもりはなかったから、誘われてなかったら役員にはなってなかったかな」
「大多数の人間はそうだろう。そもそも1年の後期に行う選挙に率先して立候補するなんて、こいつらくらいのものだ」
「何よ、文句でもあるわけ?」

 突っ掛かる様な言葉面ほどは棘の無い口調と表情なのは多少なりとも自覚があるのだろう。それでも好戦的な言葉を選択する辺りが如何にもアリサといったところだ。

「感心しているだけだ。
 学校側がシステムとして定めている以上、誰かがやる必要はあるんだろうが、面倒事を背負う訳だからな。大抵の者は敬遠するだろう。
 内申書を良くするとか教師に対する点数稼ぎを対価として考えたとしても、割に合わないと思う者の方が多いのが実情だろう」
「・・・点数稼ぎて。
 いやまあ、そうは言うても、私らも別に奉仕精神ではないんよね」
「ああ、前に聞いた。人の上に立つ練習だろう?
 だから、はやても生徒会長を狙うかと思ったんだがな。たしか、立候補の段階で副会長だったろ?譲ったのか?」
「ちゃうよ。
 立候補前の段階では確かに私も会長希望やったけど」
「じゃあ、何が違うんだ?」
「譲ったんやなくて、勝ったんよ。ジャンケンに」
「勝った?」
「そや。
 アリサちゃんと、来年は役職を交代するのと負けた方が今年の会長になるいう条件でジャンケンして、見事に勝ちをもぎ取りました」

 そう言って、悔しそうな顔をしたアリサとは対照的に、満面の笑みで人差し指と中指を立てた右手を掲げるはやて。

「ビクトリー?チョキ?」
「チョキの方やね」

 苦笑しながら尋ねたフェイトに笑みを悪戯っぽいものに変えたはやてが答えた。決まり手になった2本の指を閉じたり開いたりしてアピールするはやての右手を睨むアリサの顔は平静を装おうとしている努力が見て取れた。つまり、

「バニングス、努力は認めるが顔が引き攣ってるぞ」
「うっさいわね!」
「水泡に帰したな」
「恭也君、からかっちゃ可哀想だよ」
「誤解だ、なのは。ため込まないように適度に発散させようという親切心だ」
「あ、そうなんだ」
「なのはちゃん、恭也君の言う事を無条件に信じちゃうの、まだ治らないんだね」
「え?・・・もう!恭也君!」

 すずかの指摘で正気に返り怒り出すなのはの隣で、全く同じタイミングで同じように表情を変化させていたのはフェイトだ。
 この2人、容姿が良いだけに怪しげな芸能事務所とかに連れ込まれたりしないか非常に心配である。まあ、これでも恭也以外に対しては必要十分な警戒心は持ち合わせているようなので大事に至ることもないのだろうが。

「そもそもバニングスはジャンケンの勝ち負けに悔しがっているが、次の役員選挙で他に会長に立候補する者が出てこんとは限らんだろう?悔しがるのは早過ぎだ」
「・・・何言ってんのよ?仮に誰が何人立候補したとして、私以外にはやての対抗馬になれそうな子なんて居ないわよ」
「左様で」

 自信満々、と言うよりは、自明の理を説く様に説明するアリサに恭也があっさり引き下がった。納得したと言うよりは、議論するほどの事だと思っていないのだろう。

9小閑者:2018/09/27(木) 00:06:40
 実際のところ、アリサもはやても学年内では優秀だ。恐らく、学外を含めても同年代では上位に入れるだろう。立候補する積極性や、生徒をまとめ上げる手腕など、生徒会長として申し分ないと言っても良い。
 ただ、そうは言っても未だ中学生、経験値的には他の生徒と大差はない。
 また、投票する側も観察眼など持たない中学生だ。耳障りの言い選挙公約を並べられれば、ノリと勢いだけで投票する生徒が相当数居ても不思議ではない。
 結局のところ状況次第。
 人の愚かさや汚さといった負の面は社会に出ていないアリサよりは『不破』である恭也の方が分かっていたのだ。

「まあ、アリサちゃんと争わんでようなっただけでも十分やろ」
「そうか」

 恭也の短い返答に、イレギュラーの可能性は承知しているという想いを汲み取って貰えたと察したはやてが小さく微笑んだ。不定期ながらも管理局で働き始めたはやての方が僅かながらもアリサよりも知っていることが多かったということだろう。

「それはそうと、この後どうする?」

 話が一段落したと判断したアリサが下校の予定を全員に尋ねた。いつの間にやら再開していた書類作成が終わったようだ。
 帰り支度を始める生徒会組を待ちながら、なのはとフェイトが顔を見合わせたところで、珍しく口を開いたのは寄り道の行き先に関して滅多に口を出さない恭也だった。

「そう言えば、最近、翠屋に行っていないらしいが何かあったのか?」
「・・・いや、別に何かあった訳じゃないけど」

 歯切れ悪く答えたアリサの様子を窺うように視線を向ける恭也。別に、出禁を食らうような真似をしたのではないかと疑っている訳ではないだろうが、言い淀むという事は偶然行っていなかったという事ではなく、何かしらの敬遠する理由があると解釈したのだろう。
 ちなみに、下校時に制服のままで喫茶店に寄っている、という訳では、勿論ない。一度帰宅してから、再度集合するという事だ。本屋や文具店なら兎も角(それでも黙認されているというレベルだが)、飲食店への寄り道は中学生的にアウトである。
 また、恭也も毎日このグループと一緒に行動している訳ではないので、自分が不参加の日に行っているだろうと思っていたのだろう。実際、1年生の時には何度も女子グループだけで翠屋に行っていたことはあったのだ。

「えっと、恭也君、誰から聞いたの?お父さんかお母さん?」
「高町父からだ。先日、町で捕まった時にな」
「やっぱり、お父さんかぁ・・・」

 間を取るようになのはが尋ねると、特に抵抗する様子も見せずに恭也が答えた。まあ、恭也も尋問している訳ではないので、この程度話が逸れたところで気分を害する訳もない。それよりも、やれやれ、という顔で溜め息でも付きそうななのはのリアクションに若干戸惑うような様子すら見せている。

「問題があったか?」
「ちゃうよ。桃子さんやったら理由も気付いとるやろからな」
「・・・性別の問題か?」
「性別・・・、と言えなくはないかな。恭也は勿論だけど、大抵の男の子は気にならないだろうし」

 はやてからフェイトへと回答者がスムーズに変遷していくことで女子の共通認識であることを察した恭也が視線を彷徨わせたあと、何かに気付いて眉を持ち上げた。

「そう言えば、来週、身体測定があったな」
「漸く気付いたわね」
「早い方だと思うよ、アリサちゃん」

 溜め息交じりのアリサを諫めたのはすずかだ。実際、クラスメイトの男子の大半は、今のヒントでも気付いたかどうか怪しいところだろう。

「度々思うが、この価値観の差は埋め難いものがあるな」
「それは仕方ないよ。逆にダイエットする恭也なんて想像も出来ないし」
「あはは、それはそやね。どっちかっちゅうと、ダイエットに反対する方とちゃうの?」
「別に、健康を害するほどの過度なものでなければ反対まではしないし、余程の肥満体型なら痩せることを勧める。
 勿論、お前達の体型で食事制限を始めたら止めているぞ」

 フェイトとはやてのコメントに答えを返しながらもやはり納得は出来ていない様で、またしても暫く視線を彷徨わせた後、恭也が再び疑問を口にした。

10小閑者:2018/09/27(木) 00:07:21
「そもそも、身体が成長すれば体重は増えるんだぞ。10年後なら兎も角、今気にしてどうするんだ?今の体型が理想という訳ではないんだろう?・・・いやまあ、今が理想通りだと言うなら、それが悪いと言うつもりはないんだが、維持するのは難しいと思うぞ」
「いやいや、最後のフォローはいらんて」
「うん、流石にもっと大人っぽく・・・、あれ、ひょっとして恭也君は今くらいが」
「俺の意見を挟むな。俺の女の好みなぞ俺自身把握しとらんわ」
「え〜〜・・・」
「あはは・・・。でも、なのはの言う通り、もっとスタイルは良くなりたいよね」
「むう、フェイトちゃんはもう十分スタイル良いのに・・・」
「そ、そんなことないよ?」
「そやねぇ、なのはちゃんも中2の平均位には育って来とるけど、フェイトちゃんは今からでもグラビアに出られそうな膨らみ具合やからなあ」
「ちょっ、はやて!?」

 恭也の前で何言い出すの!?と言わんばかりに驚愕と羞恥に赤らめた顔でフェイトがはやてを睨みつつチラチラ恭也の反応を窺うが、既にこの手の話題はちょくちょく出ているので恭也は無反応だ。
 恭也の反応に苦笑しつつ、からかっていたはやて自身が話題を修正する。

「まあ、恭也さんの言う事もわからんではないんやけどね。でも、いくら理屈が正しいて理解できとっても受け入れられへんねん」
「むう。分かっていた事ではあるし今更でもあるんだが、やはり、この手の話は互いに歩み寄れんな」

 分かり易く顔を顰める恭也に少女達が苦笑を漏らす。ファッション誌を熟読する恭也など想像も出来ない。
 まあ、体重に関しては余程太っていなければ一般的な中学生男子であっても痩せたいという願望など、そうは持たないだろう。

「そうは言っても、あんただって理想像くらいあるんじゃないの?もっと筋肉が欲しいとか」
「まあ、な。肉体面で言うなら、全力を出しても壊れない身体は欲しいところだな」
「え・・・?全力出すと壊れるの?」

 ある種物騒な願望を口にする恭也に、スプラッタな光景を想像してドン引きするアリサ。
 その様子を苦笑に止めて見せたなのはではあるが、恭也の回答には不満の声を上げた。

「う〜ん、でもそれだとちょっとニュアンスが違うよね?恭也君の場合、かっこよくなるためとかじゃないし」
「そうだよね。
 恭也にとって筋肉は戦うために必要なものだけど、女の子にとっての体重は絶対では・・・、えと、生死に関わるレベルで必要にはならないから、・・・う〜ん、真剣みが違う、のかな?」

 ダイエットを軽んじるような言い回しになった瞬間、眼光が鋭くなったアリサに、慌てて言葉を選び直して顔色を窺うフェイトに、荒く鼻息を吐き出しながらアリサが応じる。

「女の子にとってダイエットは真剣勝負よ!・・・まあ、死活問題じゃないのは認めるけど」
「そうだね。
 恭也君が練習に取り組む姿勢は、中学生のダイエットとは違うよね。職業、それも世界のトップモデルのレベルかな?」
「むう・・・」

 アリサとすずかも参加こそしていないが、何度か恭也達4人の鍛錬を見学している。魔法の練習という、地球人にとっては心躍る風景の中で、地味さ故に埋没していてもおかしくないはずの肉体鍛錬が何の遜色もなく印象に残っているくらいには、苛烈かつ鬼気迫る鍛錬だった。

「真剣さの度合いって言うよりは、方向性だよね。生きるためとか生活のためじゃないことにどこまで真剣に取り組めるかっていう。
 う〜ん、やっぱりわかってもらうには男の子が気にする容姿関連じゃないと・・・」
「どうしたの?なのは。何だか、ずいぶん拘ってるみたいだけど」
「だって、何だか悔しいんだもん。
 私達がこんなに身体測定に不安でドキドキしてるのに、恭也君だけ平然としてるなんて不公平だよ!」
「なんだその謎理論は?ようは、道連れが欲しいのか?」

 憤慨しているなのはに呆れたように恭也がツッコむが、はやて達は静かに視線を逸らした。なのはの発言内容の理不尽さは自覚しながらも、心情的には応援したくて援護射撃になる様な例を探しているのだ。

11小閑者:2018/09/27(木) 00:07:53
「あ、そだ。
 背の高さならどうかな?男の子って結構気にしてるよね?」
「まあ、気にする男子は多いわね。個人差有りそうだけど」
「いやいや、大半の男の子は気になるらしいで。まあ、体重とちごて食事を増やす方向やから、行動的には正反対やけどね。私らで言うと胸の大きさやな」
「うう、いつも思うけど体重と胸でしなきゃいけないことが反対なんておかしいよぉ」
「元気出して、なのはちゃん。
 お姉ちゃんの話では、腹筋を鍛えると代謝が上がって脂肪が付きにくくなるし、ウェストが絞れて胸が強調されるらしいけど・・・」
「忍さんの話なら有力だね。
 美由希さんも剣術で鍛えてるから、なのはも一緒に頑張ろう!」
「お姉ちゃんと同じレベルなんて無理だよ〜」
「えっと、ごめんねフェイトちゃん、さっきの確かにお姉ちゃんから聞いたんだけど、お姉ちゃん自身はあんまり運動とかしてないんだ」
「あ、そうなんだ」
「まあ、胸を大きく言うても筋肉付けたいんとはちゃう、単純に脂肪付いたら良いんかもよう分からんからなあ。効くと信じてバストアップ体操に取り組むしかないんちゃうか?」
「あんた達、思いっきり脱線してるわよ?」
『あ』

 アリサのツッコミで我に返る4人。
 蚊帳の外にいる恭也は何をしていたかと言えば、いつの間にか窓辺に立って夕日に染まるグラウンドにいる運動部員の様子を眺めていた。
 これは、気まずさを誤魔化していたという訳ではなく、単なる暇潰しだ。
 この5人と行動すると、恭也にとって興味が無いどころか理解出来ない話題になることは多々あるため、内容によって理解しようと聞き入るか、話の邪魔をしないように他事を始めるのが最近の恭也の対処法になっていた。

「えっと・・・、それで恭也君、どう?」
「ん?何の話だった?」
「あ、素で忘れられてる・・・」
「あはは、えと、恭也君もやっぱり背が高くなりたかったりするの?」

 黄昏るなのはをフォローするようにすずかが問い掛けると、なのはを突くこともなく僅かに黙考した後、恭也が答えた。

「特には思わないかな」
「そうなの?」
「背の高さは”特徴”でしかないからな。背が高くても低くてもメリットとデメリットがあるから無いもの強請りにしかならん」
「あんたそれ、結局剣術でしょ!?
 因みに、高い場合のデメリットと低い場合のメリットは?」

 ツッコみつつも問い掛けるアリサ。
 剣術に限らず、背が高い=身体が大きければ膂力が大きく攻撃の威力が上がり、低ければ逆に下がる。
 そんな一般的な考え方は予想がついたため、逆パターンを聞いたのだ。

「メリットとデメリットが表裏だからな、分かり易い点で言うなら攻撃の対になる守備だ」
「・・・ああ、大きいと当たり易いって事?」
「単純ではあるがな。
 尤も、躱し易いという事は懐に潜り込み易いという事でもあるし、攻撃範囲が広いという事は敵を近づかせない事も出来る。
 結局は特徴をどう活用するかでしかない」
「恭也、また話が逸れてるよ」
「俺に言われてもな、話を振ったバニングスに言ってくれ」
「フェイトが私に厳しい・・・」
「え!?」
「冗談よ。
 でも、恭也、さっき答えてたじゃない。どっちでも良いって。
 そうよ、決着したから話題を変えたのよ!」
「いやいや、今思い付いた言い訳にしか聞こえへんよ?
 まあ、恭也さんの答えは予想通りではあんねんけどな」
「そりゃあ、恭也君は背が高いから言えるんだよ!」
『え?』

 不満そうななのはの言い分に全員が疑問を返すと、なのははキョトンとした顔で首を傾げた。
 本気で言っているなのはに、どう答えたものかと考えを巡らせる4人がチラチラと恭也の様子を窺っているのは、いくら事実とは言えども言い回しによっては傷つける可能性があると思ったからだ。
 いくら本人が背の高さを気にしていないと言っているとはいえ、流石の恭也でも見栄を張っている可能性があるんじゃないかと疑ってしまったのだ。
 言い淀む4人を尻目に、恭也が気にする素振りも見せずに当然の様に返答した。

「今頃何を言っとるんだ、なのは。
 4年前から俺の背丈はほとんど変わっとらんだろうが」
「・・・え?」

12小閑者:2018/09/27(木) 00:08:28
 宣言通り、全く気にした様子もなく恭也が現状を端的に口にすると、またもやなのはがコテンと首を傾げた。
 そう。恭也は転移してきた当初の150cm半ばからほとんど背が伸びていなかった。少女達5人の中で最も背の高いフェイトが追い付いてしまっており、なのはでも5cmとは離れていなかったりする。
 恭也曰く、身体が成熟する前に筋肉を付け過ぎたため骨の成長を阻害したのだろう、とのこと。
 普段通り、淡々とした口調だったが、その時は感情を押し込めているのか気にしていないのか判断が付かず、からかうように話を振ったクロノを含めてハラオウン家の食後の団欒を沈黙が支配したのはフェイトの記憶に新しい。
 とは言え、成長を阻害するほど鍛えていなければ、闇の書事件がどう転んでいたか分かったものではないし、そもそも、そんな『たら・れば』を口にしたところで現状が変わる訳でもない。そして、変えられない上に恭也の価値観からすれば些末事に分類される事柄に恭也が執着するはずもなかった。
 尤も、恭也以外からは異論が出る可能性は十分にある。今のなのはがそれだ。但し、異論の内容は誰の想像からも斜め上の方向ではあったが。

「どういう事?恭也君、背、高いじゃない」
「・・・ちょっと待て。本気で脳みその状態が心配になってきたぞ。
 お前、昔は目線を合わせるのに見上げていただろ?それがほとんど変わらなくなったのに気付いてないのか!?」
「え・・・、あれ?そう言えば、初めて会った頃はもっと見上げてた様な・・・」

 記憶を探る様に視線を彷徨わせたなのはは、思い当たった事実に今更ながらに驚きの声を上げて立ち上がる。

「えっ!?嘘っ!?ちょっと待って!」
「『ちょっと待て』は俺が言いたいセリフなんだが。
 お前、本気で気付いてなかったのか。って、こんな狭い所で駆け寄るな」

 駆け寄ったなのはは、左右の手を恭也の両肩に置き、息がかかるほどの至近からその瞳を真っ直ぐに見つめると改めてショックを受けて驚きの声を上げる。

「あっ!ほんとに目線があんまり変わんない!?どうして!?前はもっと高かったのに!」

 余程、動転している様で、なのはのセリフが凄く酷い。
 流石に傷付いたんじゃないかと4人の視線が恭也に集まるが、至近距離でなのはと向かい合っている恭也の顔はいつも通りの仏頂面だった。

「俺が伸びずにお前が伸びれば、身長差が無くなるのは当たり前だろう。
 それにしても、固定観念と言うのか先入観と言うのか分からんが、思い込みが強過ぎるだろう」
「え、えぇ・・・。
 だって、恭也君は凄く大きくて、ずっと見上げてて・・・」
「そこまでショックを受けることか?
 ・・・まあ、良い機会だ。しっかり認識を更新しておけ」

 そう言った後、静かに見つめる恭也の眼差しを動揺を鎮めながら受け止めるなのは。
 本当に、近い。
 出会った頃は恭也の肩ほども背丈が無かったため、こんなに近づいたら見上げるのも大変だったのに。
 以前から変わらない吸い込まれる様な深い漆黒の瞳がこんなに近い。
 あの頃は遠くて、不意に訪れた機会に勝手に身体が反応したあの一度きりしか触れた事の無い唇も、こうして少し背伸びをすれば、ほら

「なのは」
「ヒョワーッ!?」

 アリサに名前を呼ばれた事で我に返り、大きな奇声を上げながら飛び退くなのは。
 夕日に照らされていても赤面していると分かるほど深紅に染まるなのはを、あわや親友のキスシーン、と言う場面を見せられて薄く染まった頬を引き攣らせたアリサが睨みつけながら詰め寄っていく。

「神聖なる生徒会室で生徒会長である私が在室してるこの状況で!
 しかも!
 その目の前で!
 堂々と不純異性交遊とは良い度胸してるわね!」
「フジュッ!?ちちちち違うよ!?未遂だよ!?まだ何もしてないよ!?」
「語るに落ちてるわ!未遂ってことは遂行する意思があったってことでしょうが!!」
「今のは言葉の綾なんですー!!」

 窓際でなのはへの追及がヒートアップしていく中、先ほどのシーンを見て真っ赤になった頬を両手で抑える様にして席に着いたまま目を泳がせているすずかを置いて、いつの間にか廊下側に避難してきた恭也に歩み寄りはやてとフェイトが不安そうに問い掛ける。

13小閑者:2018/09/27(木) 00:10:11
「えっと、恭也さん?
 状況的に無いとは思うんやけど、念のために聞くで?
 なのはちゃんに決めたん?」
「分かってて聞くな。決めるも何も、あの時の返事を違えるつもりはない」
「そ、そっか。
 ・・・でも、さっきはアリサが声を掛けてなければ、あのまま、その、なのはとキス、してたよね?」
「そう、だな。
 ・・・認めたくはないが、確かに危なかった」
「油断してたの?確かに私もあの流れでなのはがキスしに行くとは思わなかったけど」
「いや、なのはが突拍子もない行動に出ることがあるのはあの時学んだから、途中まで警戒はしていたんだ。
 ただ、直前まで本当に何の素振りも見せなかったし、あまりに真っ直ぐ見つめられたからな・・・。直前に思わず目を逸らした自覚はある」
「おうふ・・・。
 恭也さんを怯ませるとは、なのはちゃんの眼力半端ないなぁ」
「しかも恭也に対して不意打ちに成功するって・・・。
 未だに模擬戦の勝率が2割に届かないのに一発勝負で勝利をもぎ取るなんて、流石はなのは」
「一瞬の好機を見逃さんと確実にものにするとか、天性のスナイパーやなぁ。
 しかもあれ、計画とか計算やのうて、直感とか本能やんな」
「うん。なのは、魔法なんかもそうだけど、理論も理屈も十分備わってるのに無意識で感覚にも頼ってるから、偶に本人も気付かずに論理を飛躍させて最適解を叩き出す事があるよね・・・」
「もっと別の場面で発揮してくれ・・・」

 恭也の呻き声は、アリサに詰問されてしどろもどろになっているなのはの声に紛れて消えていった。




おわり



あとがき
本気で遅くなってしまって申し訳ありません。まだ読んでくれる人がどの位居るのかわかりませんが(汗)、折角書いたので投稿します。
短話が書きたくて後日談を始めたのに、妙に続く展開になってしまっていたので、話をぶった切って別の時間軸にしました。でも、あんまり短くない(汗)

先に書くと結末が予想されそうだったので、ここに前提条件を載せます。
・なのは、フェイト、はやては小4の時に恭也に告白しています。
・恭也は3人とも振っています。
 理由は、(自己評価が低いため)自分と結ばれても相手が幸せになれるとは信じられないため。ただし、蓼食う虫も、の諺の通り、価値観は人それぞれなので、10年後の二十歳になった時にその気があればもう一度声を掛けてほしい。勿論、一度振っているのでその間に他の男と付き合っていたとしても、それを理由に拒絶することはない。寧ろ、積極的に他の男と比較してほしい。
・恭也的には闇の書事件が吊り橋効果になっていると考えているので、ほどなくもっと良い男に目を向けるだろうと考えています。
・恭也自身は3人の事をとても大切に考えており、護る対象としています。

14小閑者:2018/10/11(木) 00:19:59
<SS2> 暗器


 なのはのキスがアリサのファインプレーで未遂に終わった後。
 無意識に行った自身の行為を自覚させられたなのはが熱病に浮かされたように真っ赤になって目を回していたため、危なっかしくて出歩けないという事で生徒会室で雑談を延長することになった。
 女が3人集まれば姦しいとは言うが、当然の様にはやて達も例外ではなく、恭也が居るという話題的な制約がありながらも途切れる事無くトークに花を咲かせていると、話題が変わるタイミングでふと気づいたといった様子ではやてが恭也に話を振った。

「そういや、恭也さんに聞きたい事があったんやった。
 なあ、恭也さんて服の上から見て、身に着けてる物の形や大きさが分かるんよね?」
「ん?・・・まあ、それなりにな」
「てことは、女の子のスリーサイズとかわかるん?」
「・・・え?」

 はやての言葉に反応したのはアリサだった。いや、声を出さなかっただけで、すずかも目を見開いて驚いている。

「バニングス、必要があって身に着けた技能だ。ゴミくずを見るような眼差しで俺を見るのは止せ」
「・・・本当に疚しい理由じゃないでしょうね?」
「疚しさで括られると、方向性こそ違うが公衆の面前で曝け出せるものではないと言う意味では同じになる。
 だから、止せと言うに。
 方向性が違うと言っただろう。性的なのものではなく暴力的なものだ」
「・・・暴力?」
「ああ。
 ・・・胡散臭そうに見るなよ。
 暗器、・・・ええと、拳銃やナイフと言った武器を隠し持っていないか、もっと言えば、何処にどれだけの数、何を隠しているか見破らなければ、自分自身と護衛対象を危険に晒すことになるからな。そのための技能だ」
「ふうん。
 ・・・まあ、非常識具合からすれば、確かにあんたならではの説得力はあるわね」
「・・・納得するのは兎も角、貶める必要はないよな?」
「ほんじゃ、どん位の精度か試してみよか」

 漸くアリサが矛先を収めたところで、ニヤリとした笑みを浮かべたはやてが再び蒸し返した。

「はやて、どう考えてもこの話題を掘り下げても誰も幸せにならんぞ・・・」
「まあまあ、ここはさっきの未遂事件のペナルティとしてなのはちゃんに尊い犠牲になって貰うちゅうことで、目測したスリーサイズをいざ発表!」
「!?!?」

 突然、人身御供に祀り上げられたなのはが真っ赤になりながら驚きのあまり声も上げられずに両目を大きく見開きはやての方を勢いよく振り向いた。しかし、そんななのはの慌てぶりを意に介さずはやてが笑みを崩す事なく視線を転じると、やれやれとばかりに小さな溜め息を吐いた後に委細承知と言う様に軽く頷いた恭也が口を開いた。

「そうだな、75・54・77、といったところか?」

 恭也の口から出てきた3つの数字に数舜固まった後、なのはは涙目になりつつか細い声を絞り出す。

「そ、そんなに大きくないかな・・・」

 静寂に包まれる部屋の中で『どうせ間違えるんなら小さめに言っときなさいよ!』と心の中でツッコみつつ静かに顔を逸らすアリサとそれに続くすずかとフェイト。そんな3人の視界の端に、赤面しつつ肩を震わせるはやての姿が。
 一瞬、笑いを堪えているはやてがなのはに追い打ちをかけようとしているのでは?という疑いが3人の脳裏を掠めるが、流石にはやての性格はそこまで悪くはなかった。というか、はやて的にはそれどころではなかった。

「ホンギャーーー!!」
「うわ!?
 ・・・びっくりした〜、はやて、いきなり・・・ああ、さっきのスリーサイズ、はやてのか・・・」
「芸人の振りを無為にする訳にもいかんだろ」
「だだだだからって、ドンピッ!?
 あ、や、いいいいくらなんでも寄せ過ぎやろ!?」
(ああ、ドンピシャだったんだ)

 恭也だったらもう何でもありか、と悟りを開きつつある3人と、敗北感に打ちのめされている1人と、自業自得ながらもパニックに陥る1人。
 そんな少女達から視線を外した恭也はポツリと独り言ちた。

「本当に適当だったんだが・・・
 信じないだろうなぁ・・・」

 その呟きは、誰の耳にも届かなかった。




おわり


※スリーサイズは資料が無いので、適当に開いたエロゲHPに載ってたヒロインから引用したものです。


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