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雑談
53
:
小閑者
:2017/09/19(火) 21:43:21
第19話 悪夢
全身に軽度の、そして右腕、及び右足に他より症状の重い火傷
右耳の鼓膜の破裂
右側の肋骨が3本骨折、2本に皹
多数の打撲、打ち身、擦過傷
過度の運動による糖分、蛋白質、その他の栄養素の欠乏。つまりは疲労。
「あいつの非常識さには慣れてきた積もりだが、それでも信じ難いな…」
「うん、7階級差の敵と戦って“この程度”で済んだなんて、誰も信じないよね。多分、遭遇して直ぐに逃げ出したって言っても疑われるんじゃないかな」
シグナムとの戦闘による恭也の負傷の診断結果を見たクロノが零した感想にエイミィが同意した。
戦闘中に意識が途切れた時点で戦いには負けているが、エイミィの言葉通り五体満足で生きている事自体が異常事態だ。
逆に止めを刺されなかった事自体はそれほど特異な事ではない。ヴォルケンリッターがこれまでの蒐集活動で殺害を避けていた事とは関係なく、本来なら7階級も格下の敵とは塵芥と同義なので態々止めを刺すような手間を掛ける魔導師は少数だ。今回はフェイトが後に控えていた事も根拠を補強している。
尤も今回の戦いを見る限り、恭也を相手にした者は、彼を脅威と認定して止めを刺しに来ても不思議ではないので、魔導師ランクを覆す事が良い事ばかりとは限らない訳だ。
「それもあるが、これだけ負傷しながら、決定的な戦力低下に繋がるような傷が無い。
骨折の痛みを無視するのは簡単な事じゃないが、あいつなら体力さえ回復すれば平然と戦線復帰する。骨折したのは例の高速行動の前のはずだしな」
「…あ〜、確かに」
「困ったものね」
その程度の感想で済んでしまう辺り、恭也の非常識度に対する共通認識はかなり浸透しているようだ。
現在、艦船アースラの会議室の一室には艦の首脳陣が集まっていた。先の戦いの事後処理がひと段落して反省や方針の確認を行うためだ。
恭也がシグナムと交戦を始めた後、暫くすると別の次元世界でヴィータを発見した。
闇の書を携えている事からこちらが本命であると推測し、捕縛のためになのはが出撃するがヴィータを追い詰めたところで仮面の男の横槍が入り失敗に終わった。
しかし、エイミィが悔しがる暇も無く駐屯地である海鳴のハラオウン邸に設置した管理局と同レベルの防壁が組まれているシステムが、クラッキングを受けて即座にダウンさせられた。
通常であれば有り得ないその事態に対してエイミィがすぐさま対処に乗り出せたのが、自分の中の常識という価値観を覆される事に慣れてきたお陰かどうかは不明だが、短時間でシステムを復旧させる事に成功。だが、時既に遅く、補足できたのは結界内で寄り添って座り込む傷だらけの恭也と気を失ったフェイトの姿だった。
試験運行中だったアースラが現地へ急行して2人を収容し、即座に治療を行えた事で大事に至る事は無かったのが不幸中の幸いと言えるだろう。
リンカーコアから魔力を吸収されたフェイトが意識を取り戻したのと入れ替わるように今は恭也が眠りについている。
正確に表現するならば、疲労と負傷で何時気絶しても不思議ではないほど体力を消耗しているはずの恭也が全く眠らなかったため、治療に託けて魔法で眠らせたのだ。
勿論、恭也が治療を拒絶していた訳ではないし、起きていたからといって治療できない訳でもない。実際、恭也の傷は鼓膜の再生も含めて治療が終了している。だが、蓄積した疲労を回復するには睡眠は不可欠と言ってもいい。
恭也に眠りの魔法を掛けた時、アルフがなにやら慌てていたため何か問題を抱えているのかと少々気にはなった。
だが、クロノと同様に疑問を持ったフェイトが問い掛けても、アルフは言葉を濁して明言を避けていた。アルフが主であるフェイトに対してそんな態度を取る事は滅多に無い事を知っているだけに余計に気になったが、フェイトに無理強いする積りが無い様なのでクロノにはどうにもならなかったのだ。
流石に致命的な問題を隠しているという事は無いだろうから、何か恭也が個人的に困るような事を知っているのだろうか?
無いとは思うが、おねしょが治っていなくて医務局のベッドを水浸しにしていたら、指を指して笑ってやろうとクロノは心に固く誓っている。
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