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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

463小閑者:2019/01/25(金) 22:02:45
15.結末(その2)


「・・・正直、この誘導弾はヒット出来ると思ってたんだ」
「年明けにやった集団戦の回避行動を解析しただろ?」
「あー、うん。やっぱり予想はされてたか・・・」
「で、裏を掻くパターンまで想定した?」
「まあねぇ。
 君自身がさっき『知られたくない技を模擬戦で使うな』と言っていたろ。君が人に見せる技は『見せてもデメリットが発生しない場合』か『隠すまでもない場合』のどちらかだろうとは僕も思っていたんだ。
 回避技能は見られれば対策を立てられるから思いっきりデメリットになるはずだから、それを見せたのは裏を掻く手段があるんだろうと予想した。
 そうして、何パターンかの回避行動とその対応策を想定して挑んだ結果がこれな訳だ」

 そう言って内心を隠す事なく不貞腐れた表情のクロノが睨み付けるモニターには、単発とは思えないほど鋭く複雑な軌道を描くクロノの誘導弾と、一見するとその誘導弾が貫通している様にさえ見えるのに実際には掠りもしていない恭也が縦横無尽に空間を駆け巡る姿が映っていた。
 クロノは映像を一時停止させると、疲れた様に溜め息を吐き出してから続く言葉を口にした。

「まさか『隠すまでもない』方だったとは・・・」
「俺としては『当たり前だ』と言いたいんだがな。そもそも、お前が見たフェイントなんぞ極一部だろ。しかも、プログラムされたゲームの敵キャラじゃないんだから、お前の反応を見て対応を変えるのは当然だろうが。
 序に言うなら、格闘技のフェイントとしてはまだまだ初歩の領域を出てないから、そういう意味でも『隠すまでもない』ぞ」
「・・・そう、なのか?」
「無論だ」
「うわぁ。
 ・・・?いや、でもそれ御神流が基準じゃないのか?」
「それはそうだろうな。俺の中に他の基準は存在せん」
「・・・ふぅ、ちょっと安心した。いや、勿論、油断が拙いのは分かってるぞ?」
「左様で。
 そう言えば、ミッド式の魔導士としてはお前みたいに武術まで習得してる奴は珍しいんだったな」
「皆無とまでは言わないけどね。管理局の局員に限定すると更に割合は小さくなる。尤も、僕の技量が『習得してる』と言える自信はあまり無いよ。近頃はそのなけなしの自信も消失してきたし」
「実力評価は過大でも過小でも意味は無い。過度な自信は身を滅ぼすぞ」
「君はホント容赦無いよな」
「ところで、武術を習得していない大多数の局員は近接戦にもつれ込まれたらどうするんだ?少数とはいえ、犯罪者側にベルカ式の魔導士が居た事だってあるんだろ?」
「近接戦闘を磨くよりは、『接近されないように立ち回る訓練』の方が先だな。
 ただ、武術まで手を出すのは相当先かな。最後まで手を出さずに前線を退く人も少なくない」
「やっぱりその程度か・・・
 逆に聞きたいんだが、魔法文明圏では魔導士と対峙した一般人は格闘家であっても諦めて投降してしまうと聞いたんだが、本当なのか?純粋な体術を研究されていないのは仕方ないんだろうが、流石にそれはどうなんだ?」
「銃火器なんかで武装してない一般人が諦めるのは、流石に責められないぞ。彼我の戦力差を把握せずに突撃するのは蛮勇でしかない。
 ただ、僕は詳しくないけど魔法を組み込んだ格闘技なんかはあったと思うよ。代表的なところだとストライクアーツ、だったかな?」
「さっき言ってた『局員以外の武術を修めた魔導士』か。
 とは言え、防御魔法が使えると、どうしても純粋な回避には力を注げないだろうからな。必要が無い、と言う意味で」
「嘆かわしい、か?」
「・・・いや、そう言いたくはあるがそれが勝手な言い分だという自覚はある。
 俺だって、生まれた時から魔法が使えていれば、それを主体にしない理由はなかっただろうからな」
「理解を示して貰えると・・・あれ?」
「なんだ?」
「いや、地球では質量兵器、えと、銃火器が発達してるだろ?それなのに敢えて剣術で対抗する手段を確立した君の一族なら、仮に魔法文明圏にいたとしてもやっぱり剣術で対抗していたんじゃないかと・・・」
「・・・言われてみれば、そんな気がするな」

 流石に魔法の補助無しに空を飛んだり駆けたりは出来ない筈なのだが、何かしらの手段を編み出しそうな得体の知れなさがあるのがクロノにとっての御神流への、或いは恭也個人への印象だ。尤も、正面からの突破力は御神流の一面でしかない事を考えれば、空を駆ける必要すら無いのかもしれないが。

464小閑者:2019/01/25(金) 22:04:02
 詮無い事かと気持ちを切り替えるために制止させていた画像を再生させたところで、素朴な疑問を覚えたクロノはそのまま恭也に問い掛けた。

「これ、僕の目で捉えられる動きって事は、スピードじゃなくって技能で躱してるんだよな?」
「そうなるな」
「フェイント無しでスピードだけで躱す事も出来るのか?」
「今のところ、一対一であれば問題無いだろうな」
「・・・複数人なら被弾する可能性があると?」
「躱す空間が無ければ詰むからな。飽和攻撃と言うか、俺の逃走距離をカバー出来る範囲の『面』を弾丸で作れるだけの人数が居れば被弾する」
「そりゃあそうだろうね。理屈通りだよ。序に言うなら、『面』さえ出来れば人数は関係ないじゃないか。
・・・あれ?こないだフェイトが、フォトンランサー・ファランクスシフトを躱されたって落ち込んでなかったか?」
「・・・ああ、あの時の。
 あれは惜しいところまで行っていたんだが、弾幕にムラがあったんだ。範囲外に逃げられる事を危惧して効果範囲を広げたんだろうが、弾数が変わらんから反比例して密度が下がった。その隙間に滑り込んだだけだ。
 どうせやるなら、躱せない密度にするべきだったな」
「それが出来ないから苦労してるんだと思うんだけど・・・。いや、多少密度が下がっても躱せるものじゃないとツッコむべきか、元々発動してから逃げようとしても範囲外まで逃げられる程に発動速度は遅くない上に範囲も狭くない魔法だった筈だと言うべきか・・・」

 対恭也用に特化させてしまうなら、威力を落として範囲と密度を上げるのが正しいのだろうが、そうしなかったのはフェイトなりのプライドだったのだろう。

「ところで、さっきは複数人が相手でもフェイントだったら対応出来るような言い方だったけど、飽和攻撃が来たらフェイントじゃあ躱せないんじゃないのか?フェイントって、正確には『躱す技術』じゃなくて『的を絞らせないための技術』だろ?」
「そうだな。
 だが、目で追える程度のスピードの相手に飽和攻撃など心理的にそうそう選択しないだろう。特に、魔導士の常識とプライド的に、攻撃魔法も使ってこない上に銃火器ですらない原始的な凶器を振り回しているような相手に全力など出すまい」
「いや、そもそも初遭遇の敵と対峙したら相手の手の内が分からないんだから、魔導士でなくても普通は様子見から始めるだろ」
「それもそうか。
 仮に保有魔力量が豊富であっても有限である事に違いはないから、一人で弾幕を張れる奴でも出合い頭に無駄遣いになる可能性の高い弾幕打ちをしてくる事なんてそうそうはないと」
「だけど、躱され続ければ直ぐに意地になって全力出してくるだろうから本当に最初だけじゃないか?」
「初手から全力で仕掛けてこなければ、距離を詰めるまでの時間は得られるから単独の相手なら問題ない。
 複数だとしても、人数と技量にも因るだろうが、何人か沈めれば弾幕を張ること自体が出来なくなるだろうからそれで十分だろ」
「・・・本当に君は初見殺しとしては凶悪だよな」
「そうでもないだろ。逆に多少人数を減らされても弾幕が張れるほどの人数や技量がある集団が相手なら、逃走せずに対峙した時点でアウトだし」
「それでもだ。
 相手の陣容が分かるほど接近出来る事も、しておいて『逃走』を選択出来る事自体もおかしいからな?」
「後は、俺の戦闘方法が知れ渡っていて最初から弾幕を張ってくるとかな。
 まぁ、これに関しては、広範囲に高威力の攻撃魔法を無差別にばら撒く様な自己顕示欲が肥大した実力者という腹立たしい奴も居るかもしれんから俺の知名度に関係なく油断は出来ないんだが」
「可能性を論じ始めると身動き出来なくなりそうだけどな。それに知名度に関しては難しい所だ。隠蔽にも限界はあるし、知名度そのものは抑止力の効果もあるからね。
 それに、『距離を詰める事』と『制圧する事』がイコールで結べると言い切れるのは君くらいなものだよ。短期決戦になるから後回しにされた者でも戦闘中に君の特性に気付けるかどうかすら怪しいし」

465小閑者:2019/01/25(金) 22:04:32
「それも言い過ぎだろ。近接戦闘を鍛えてる者が居れば変わってくるし」
「気軽に言うが、クロスレンジで君を相手に時間を稼げる魔導士が今までに居たか?」
「立ち回りにも因るだろうが、ちゃんと居るぞ。
 今まで会った中で言うなら、アルフ、シャマル以外のヴォルケンズ、あと猫の使い魔のリーゼ・・・格闘の方」
「ロッテな、リーゼロッテ。それにしても一人として人間の魔導士が選ばれないとか。・・・フェイトでもダメなのか?」
「距離を取ることを優先すればいい線行くだろうし、せめて一撃離脱に徹すれば可能性もあると思うんだが、あいつ最近足を止めて打ち合おうとするんだ。
 心意気は買ってるし将来性は十分あるんだが、現時点ではまだ及第点は付けてやれんな」
「・・・そうか、相変わらず厳しいな」
「戦い方の問題だ。
 魔導技術は門外漢だから伸び代までは分からんが、現時点でも十分な技能があるだろう?それを身体能力と合わせて駆使すれば、現時点でも俺を圧倒することは可能なはずだ」
「う〜ん・・・、圧倒は難しいんじゃないかなぁ?
 そう言えば、さっきは聞き流してしまったけれど、一般的に魔導士にとっての『全力』と言えば面制圧より一点集中だって事は分かっているよな?」
「ああ、勿論だ。
 まあ尤も、俺にとってはそれもプラス要因なんだよなぁ。良いのか、こんなに優遇されてて」
「・・・ああ、そうか。さっきの話に戻る訳か。
 でもまあ、それを優遇とは言わないだろ。驚くほど狭いニッチにビックリするくらいジャストフィットしてるとは思うけど。
 威力を落としてまで範囲が広くて密度が高い魔法を用意する物好きはいないだろうしなぁ・・・。可能性としてはその場で魔法を組み上げるくらいか・・・」
「他に用途が無いだろうしな」

 シールドやバリアジャケットを貫通して敵にダメージを与える、そこまでいかなくとも相手の魔力を削るためには、範囲を狭めたり弾数を減らしてでも威力を上げる必要がある。余程の実力差がある場合は例外として、それが魔導士同士の戦闘におけるセオリーであり、魔導士に挑む非魔導士がほとんど居ない現状では魔導士全体の一般論になっている。
 更に、一点に集中させたとしても威力が不足すれば効果が無いから、威力を上げるためにも『溜め』が必要になる。そんなものは恭也どころか一般の魔導士であっても当たってはくれない。となれば高威力魔法を当てるためには、前段階で敵の態勢を崩すための溜めの短さに比例して威力の小さい魔法を駆使する必要がある。例を挙げるならなのはがディバインシューターやアクセルシューターで相手の態勢を崩してからスターライトブレーカーで止めを刺すのと同じだ。
 尤も、それらは『一般的な魔導士なら防御するしかない密度やスピードの攻撃』程度であり、余程上手く運用する方法を確立でもしなければ恭也には効果が無い。なのはがアクセルシューターで恭也を捕らえられず苦労しているのも、まさにこの点である。

466小閑者:2019/01/25(金) 22:05:11
 まあ、なのはの魔法は先程の『余程の実力差がある場合』の例外に該当するためディバインバスターどころかアクセルシューターですらも標準的な魔導士ランクの武装局員を制圧出来てしまうのだが。
 因みに、はやてはデアボリック・エミッションをはじめとする広域攻撃魔法を得意とする訳だが、発動までの時間で範囲外まで逃走されるか逆に接近されて制圧されるため、恭也との相性は最悪と言える。少なくとも、誰かの補佐が無ければ模擬戦が成立しない。まあ、はやての場合は相性以前に単独戦闘に致命的に向いていないのだが、それは彼女の魔法の特徴であり用途の差だ。攻城兵器と対人兵器を比較しても優劣など付けられるものではない。

「ところで、まだ続けるのか?映像は決着直前まで来てるぞ」
「おっと、いつの間に」
「って、巻き戻すのかよ」
「『巻き戻す』?・・・ああ、早戻しの事か」
「呼び方なんぞどうでも良い。本気で夕飯に間に合わんな、これは」
「諦めてくれ。長引いてるのは悪いとは思うけど、元々、夕飯はこっちで済ます予定だったろ。こんなに模擬戦が短く済むとは想定してなかったんだし。
 で、話を戻すけど、今回は結局『スピードで躱す』方はやらなかった様だけど、そのスピードで動く場合でもフェイントとか使えるのか?」
「・・・?当たり前だろう?何故、使えない可能性があるんだ?
 アースらの武装局員相手だとフェイントと認識して貰えなかったから、相手は選ぶことにはなるが、『使う』『使わない』は有っても『使えない』では話にならん」
「やっぱりなぁ、恭也に限って仮に使えなかったとしても使えないまま放置、なんてある訳ないか。
 どうしてこんなことを聞いたかと言うと、補助魔法に高速行動を可能にするものがあるんだけど、使った場合に何の妨害も受けてないのに制御しきれずに障害物に激突する事例が多くてね」
「そんなものと比較されてもな。
 まあ、使い勝手を知らんから、音速の10倍のスピードで飛翔する戦闘機でコンクリートジャングルを縫うように飛ぶのと同等の難易度だとか言われれば、一方的に『未熟』と断定するのもどうかとは思う。だが、それなら逆に、制御しきれない魔法を使用する事自体に対して『愚か者』という評価になるな。
 少なくとも、敵前で自身の肉体が制御下に無い状態に自ら陥るなど、正気とは思えない」
「窮地に陥った時に一縷の望みに掛けて、って事が意外とあるんだ」
「それならまあ、分からんでもない。単独行動中であれば、打開策を講じるのも自分自身だからな。『賢人であれば閃く良案』など都合良く出てはこないだろう。
 『博打を打つ前に打つべき手』が尽きれば、方向性こそ違えども次に打つのが博打になるのは俺とて変わらんよ」
「勿論、僕だって変わらないさ。だからこそ、『博打を打つ前に打つべき手』を日頃から少しでも多く用意出来る様に励むのが重要なんだと思ってる。
 っと、画像も合った事だし、次に進もうか」
「やれやれ・・・」




続く


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