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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

435小閑者:2018/05/20(日) 14:10:32
 突出して秀でた能力を持たないオーソドックスタイプの魔導師の戦術は、バリアやシールドで敵の攻撃に耐えながら撃ち合う事を前提としている。別に一カ所に留まり続ける訳ではないし、回避行動も取るのだが、誘導弾は何かに着弾しない限り追い続けてくるし、直射型の連弾は躱しきれない範囲をカバーする弾数を備えている。完全に躱しきる事を前提にするのは現実的ではないのだ。
 これは、訓練レベルが低いという訳ではない。極一部のAAAランク以上の魔導師と比較することが間違っているだけだ。
 現代の魔導師戦を端的に表すなら、一対一の戦いにおいてバリアの強度を上回る攻撃力を持つ相手には勝てないと言うことになる。
 それが大抵の魔導師が持つ常識であり、魔導師ランクを覆すのが非常に困難な理由はここにある。
 攻撃力の高い者は防御力も相応に高いので、隙を突いて一発逆転という訳にはいかない。相手の攻撃は防げず、こちらの攻撃は通用しないという図式になるのだから、その結果が常識として定着するのも当然だ。
 そして、恭也はその常識を悉く覆す。

 紙切れ同然の防御力。
 射程こそ短いものの、防御を無効化する攻撃技能。
 躱せるはずのない攻撃を躱す回避能力と、短射程を補う移動技術とスタミナ。

 せめてもの救いは、あくまでも刀での攻撃なのでAランク相当の攻撃魔法よりも破壊力が低い事、と思われがちだがこれは誤認だ。
 刀の斬撃とは『壊す』のではなく『斬り裂く』ものだ。どれほど柔軟な物でも変形させず、どれほど脆弱な物でも欠損させる事無く、刃の触れた箇所を境にして分断する。それが日本刀による斬撃の理想の一つだ。岩を砕きはしないし、斬りつけた相手を吹き飛ばす事もないのは理念の違いなのだ。…勿論、魔法の使えない文明で発展した流派だからこその理念ではあるのだろうが。
 何より勘違いしてはいけないのは、防御を無効化した時点で人体を殺傷するのにそれほど大きな破壊力は必要ないという点だろう。
 シールド越しの『徹』による斬撃は、金属の刃ではない分、骨を断ち切る程の威力はないが、肉を斬り裂く事は出来る。外骨格ではない人体であれば、眼球や頸動脈など即死には至らなくとも極度の戦力低下や重傷を負わせる事は出来るのだ。

「しかし、それなら尚更、魔導師相手の模擬戦が必要になるんじゃないのか?」
「不要と言うつもりはない。単に行動パターンを見直したいんだ。
 折角、任意の空間に必要なタイミングで足場が作れるのに、『地面よりも高い位置に立てる』だけではもったいないからな」
「え?え〜と、それってどう言う…?」
「例えば、垂直に作った足場を蹴れば急激な方向転換にもなるし、上下逆さまになれば自由落下よりも速く下へ移動できる」

 恭也の作る足場は『任意の三次元空間に生成した平面力場』だが、魔法的な要素を上げると『材料が無いのに生成出来る事』と『空間に固定出来る事』の2点だけで、それらを除くとただの平たい円盤だ。『術者を円盤上に固定する』だとか『重力方向を制御して円盤に着地させる』だとかいった便利な機能は組み込まれていない。
 材質としては、形状が変形するほど強く踏み込むと術式が壊れて消滅してしまうので、金属よりはガラスに近いイメージだろう。当然、盾にして後ろに隠れるには不安でいっぱいの代物だ。
 『魔法で作りだした物質』と言うには、有り体に言ってショボイ代物ではあるが、だからこそ扱い初めて1日2日という期間で実戦に使用するなどという暴挙に出てもシグナムを驚かせる程度の結果は示す事が出来たのだ。

 日本の剣術は、基本的に平地で対峙している敵を想定して成り立っている。樹木の生い茂る地域などでは違ってくる可能性はあるが、そういった障害物の多い環境では振り回す事を前提にした刀のような武器を選択しないだろう。
 そういった意味でも、壁や樹木といった障害物を足場にした戦い方まで鍛錬に取り入れている御神流は特殊だ。
 そんな流派を修めた恭也だからこそ、ぶっつけ本番に近いような僅かな期間で三次元的な機動を行い刀を振るうなどという非常識な事が出来たのだろう。
 仮に、恭也の保有魔力と魔法適正に余裕があって『足場の生成』ではなく『飛翔』を選択していたとしたら、シグナム戦ではまともな戦いにはならなかったはずだ。あるいは、それは『人外レベルの運動能力を持つ恭也でさえ』と言うよりは『地を駆ける戦い方を極限まで突き詰めて鍛えた恭也だからこそ』と言うべきなのかもしれないが。
 ただし、そんな流派であり、それで鍛え上げた恭也であってもデバイス『不破』の機能を十全に活かせているとは言えない、と言うのが恭也の弁だ。どこまで使い倒したら納得するのやら。


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