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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

173小閑者:2017/09/17(日) 15:25:38
第16.5話 共感



 艦船アースラで境遇を語り終えると同時に心労で倒れた恭也を残し、リンディに送られて高町家に帰宅したなのはは、深夜になっても眠れずにいた。

 いくらリンディに送って貰ったとは言え、普通なら間違いなく叱られる時間帯に帰宅したにも関わらず、母・桃子が注意を促すに留めていた事を考えれば自分は余程酷い顔をしていたのだろう。
 食欲も全く湧かず、「寝る前に食べたお菓子でお腹がいっぱいだから」という苦しい言い訳にも、母は疑問を返す事無く頷き、今日は風呂で体を暖めて早めに寝るようにと勧めてくれさえしたのだ。
 だが、母の気遣いに心の中で感謝しながらベッドに潜り込んでも一向に眠気が訪れる様子はなかった。戦闘による気分の高揚など当の昔に消え失せているし、高い集中と極度の緊張による疲労は間違いなく体に蓄積されていると実感できるが、それでも目が冴えてしまっていた。
 理由もちゃんと分かっている、恭也の事が気になっているのだ。

 リンディには恭也の事はアースラスタッフに任せて今日はゆっくり休むようにと言われている。なのはにも今の恭也にしてやれる事が無い事は分かってるが、だからといって感情を納得させる事など出来る訳ではない。
 ただ、なのは自身も自分の感情を測りかねている部分があった。倒れた恭也が意識を取り戻す前に帰宅したため、恭也の体を案じている積もりになっていたが、親友のアリサが風邪で倒れた時と違う気がするのだ。
 そこまで進めた思考をなのはは意識して停止させた。その先は何かとても怖い事のように思えたのだ。
 次にヴィータ達を捕捉出来るのが何時になるか分からない以上、常に万全の体勢を保つべきだ。
 意識が脇道に逸れないように、その建前に縋り付いて眠りに付こうと目を閉じていると、両の拳を血に染めて、感情を噛み殺す様に歯を食いしばり、力の限り壁を殴りつける彼の姿が鮮明に脳裏に蘇った。


 気が付くと母に抱きしめられていた。
 不思議に思って母の顔を見上げると、ほっと胸を撫で下ろしながら優しく微笑んでくれた事に心の底から安堵した。母の肩越しに家族3人の姿も見えた。
 聞いてみると、自分の悲鳴が聞こえたので駆けつけたら、泣きながら縋り付いてきたのだそうだ。言われて漸く、母の胸元が濡れている事に気付いた。広がり具合からすると、かなり長い間泣き続けていたのだろう。
 流石に恥ずかしくなって俯くが、まだ離れる事は出来なかった。柔らかな胸に包まれて髪を撫でられていると安心できた。
 父や兄姉ではなく母に抱きついていると言う事は、きっと帰宅後の自分の様子を心配して部屋のそばに居て、真っ先に駆けつけてくれたのだろう。夜間の鍛錬に出かけている時間帯に父達が居るのもきっと同じ理由からだ。そう思い至るとまた、涙が溢れた。
 先程なのはが怖くなって目を背けようとしたのは、恭也はこんな存在を永遠に失くしてしまったという事実に思い至ろうとしていたからだと気付いた。

 家族を失くしたという点ではフェイトも同様だが、プレシアはなのはの目から見る限り「母親の姿」からかけ離れていたため実感が湧かなかった。打ちひしがれるフェイトの姿に心を痛めはしても、それがどれほどの辛さなのか想像しきれなかったのだ。
 だが、恭也の家族はなのはも知っている。厳密には桃子との再婚前であるため共通の家族は士郎だけで、恭也にとって美由希は従兄弟なのだが、その2人を通してその先の家族がイメージできる。そのイメージが合っているかどうかはともかく、イメージを持った事で恭也の境遇に共感することが出来てしまった。


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